法制審議会 刑事法(性犯罪関係)部会 第7回会議 議事録 第1 日 時  平成28年6月16日(木) 自 午前 9時58分                       至 午前11時08分 第2 場 所  東京地方検察庁総務部会議室 第3 議 題  1 要綱(骨子)第一,第三及び第四について         2 要綱(骨子)全体について         3 採決 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○隄幹事 予定の時刻になりましたので,ただ今から法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会の第7回会議を開催いたします。 ○山口部会長 おはようございます。   本日は,御多忙中のところお集まりいただき,ありがとうございます。   本日,小西委員におかれましては,御欠席と伺っております。   まず,初めに,事務当局から資料の御説明をお願いいたします。 ○隄幹事 本日配布しておりますのは,資料34です。前回までの会議における審議の状況を踏まえ,事務当局において作成した要綱(骨子)の修正案です。   内容につきましては,後ほど事務当局から御説明をさせていただく予定です。   また,いつものとおり,前回までの配布資料を机上に置かせていただいております。 ○山口部会長 ありがとうございました。   それでは,審議に入りたいと思います。   本日は,まず,前回までに事務当局に検討をお願いした点などにつきまして,事務当局から検討結果の御説明を受けた上で,更に審議を行いたいと思います。   具体的には,要綱(骨子)第三の「影響力を利用して」という表現について,被害者に向けられた具体的な利用行為が必要であるようにも読めるため,より適切な表現ができないか,要綱(骨子)第四の強姦罪等の非親告罪化の適用範囲をどのようにすべきかという点について,検討をお願いしておりましたほか,要綱(骨子)第一の処罰対象となる行為について,「性交等」とした上で,括弧書きで定義を置いている点につき,より端的で明確な表現ぶりがないかという点についても御検討いただいていたものと思います。   それで,まずは,事務当局から,検討結果について御説明をお願いしたいと思います。 ○加藤幹事 御指示の点について説明を申し上げます。   本日お配りいたしました資料34を御覧いただきながら,お聞き取りください。   また,従前の要綱(骨子)は,お手元の資料1に付いておりますので,そちらも必要に応じて御覧ください。   前回までの部会における委員・幹事の皆様からの御指摘・御意見を踏まえて,事務当局において,諮問に係る要綱(骨子)を再度検討いたしました結果,本日の配布資料34のとおり,3点について一部修正するのが適当であると考えるに至りましたので,その修正内容及び理由について説明いたします。   まず,要綱(骨子)第一の修正についてです。   要綱(骨子)第一においては,処罰対象となる行為を「性交等」とし,括弧書きを用いて,「相手方の膣内,肛門内若しくは口腔内に自己若しくは第三者の陰茎を入れ,又は自己若しくは第三者の膣内,肛門内若しくは口腔内に相手方の陰茎を入れる行為をいう。」と定義することとしていました。   この点につき,第4回会議において,構成要件の明確性の要請を踏まえつつ,より端的な用語で表現することができないかという御意見がありましたので,これを踏まえて事務当局において検討を行いました結果,要綱(骨子)修正案第一のとおり,「性交,肛門性交又は口腔性交」と表現した上で,これらを合わせた略語として,「性交等」を用いることとするのが適当であると考えるに至ったものです。   これは,従前の要綱(骨子)第一の意味内容を変更する趣旨の修正ではなく,これまで説明をしてまいりました意味内容を維持したまま,より適切な表現を用いようとするものです。   要綱(骨子)修正案第一の案文に即して,具体的に説明します。   まず,従前の要綱(骨子)の括弧書きにおいては,その前半部分で,「相手方の膣内,肛門内若しくは口腔内に自己若しくは第三者の陰茎を入れ」る行為を記述し,「又は」以下の後半部分で,「自己若しくは第三者の膣内,肛門内若しくは口腔内に相手方の陰茎を入れ」る行為,すなわちこれまでの議論の中では,便宜上,「挿入させる行為」などと呼んでいた行為を記述しておりました。   修正案では,これらの行為のうち,膣内に陰茎を入れる行為を「性交」,肛門内に陰茎を入れる行為を「肛門性交」,口腔内に陰茎を入れる行為を「口腔性交」と表現しています。このような表現を用いることにより,行為者が,自己又は第三者の陰茎を相手方,すなわち被害者の膣内等に入れる行為のほか,被害者の陰茎を自己又は第三者の膣内等に入れる,いわゆる「挿入させる行為」をも含むものとして,過不足なく表現することができるものと考えております。   より具体的に申し上げますと,現行刑法177条は「女子を姦淫」と規定しておりますところ,この「姦淫」とは「性交」を意味し,また「性交」とは一般に男女が性器を交えること,すなわち膣内に陰茎を入れる行為をいうものと解されております。しかし,同条では客体が「女子」に限定されているため,男性が主体となって,女性の被害者の膣内に陰茎を挿入する行為のみが処罰の対象となると解されています。   これに対し,今回の要綱(骨子)修正案においては,「十三歳以上の者に対し,……性交……をした」という構成要件としており,客体の性別を問わないものとしておりますことから,「性交」との文言で,男性が女性の被害者の膣内に陰茎を入れる行為だけでなく,男性の被害者の陰茎を女性の膣内に入れる行為をも当然に含むものとして表現できていると考えています。   同様に,「肛門性交」及び「口腔性交」についても,被害者の肛門内や口腔内に陰茎を入れる行為だけでなく,被害者の陰茎を肛門内や口腔内に入れる行為をも含むものとして表現できているものと考えています。   また,修正案においては,誰の陰茎を誰の膣内等に入れるのかについて限定していませんので,被害者に第三者と性交等をさせる場合をも含むものとして表現できていると考えています。   なお,これまでの議論においては,口腔内に陰茎を入れる行為を「口淫」という言葉で表現することも多かったのですが,この言葉は必ずしも口腔内に陰茎を入れる行為に限らず,もう少し広い意味,例えば女性器を舌でなめる行為などについても使われる場合があることから,従前の要綱(骨子)の内容を明確に示す意味では,この「口淫」という言葉ではなくて「口腔性交」との用語が適切であると考えたものです。   さらに,括弧書きの定義を置かないこととしたことに伴い,括弧書きの中に書き込まれていました「相手方」という文言を用いる必要がなくなりましたので,この際,刑法176条の強制わいせつ罪と同様の構文として,「十三歳以上の者に対し,暴行又は脅迫を用いて性交,肛門性交又は口腔性交……をした」という表現を用いることとしております。   以上が要綱(骨子)修正案第一についての説明です。   次に,修正の2点目として,要綱(骨子)第三の罪の修正案について説明します。   第5回の会議において,事務当局から要綱(骨子)第三の罪の「影響力を利用して」という文言の意義につき,「18歳未満の者に対する監護者の影響力が一般的に存在し,かつ,その影響力が遮断されていない状況で,性交等を行ったことをいう」旨の考え方を説明いたしましたところ,複数の委員から,「影響力を利用して」という表現では,被害者に向けられた具体的な利用行為が必要であるようにも読めるため,文言を工夫した方がよいのではないかとの御指摘を頂いていました。   そこで,事務当局において検討しましたところ,要綱(骨子)修正案第三のとおり,「現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて」と修正するのが適切であると考えるに至ったものです。   なお,この修正は,従前の要綱(骨子)第三で示そうとしていたことを,より適切な表現に修正したものでございますので,第5回会議で申し上げた考え方や意味内容を変更するものではなく,「十八歳未満の者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて性交等をした」とは,「18歳未満の者に対する監護者の影響力が一般的に存在し,かつ,その影響力が遮断されていない状況で,性交等を行った」ことをいうものです。   このほか,要綱(骨子)修正案第三の二において,冒頭に「十八歳未満の者に対し,その者を現に監護する者であることによる」としておりますのは,要綱(骨子)第一の修正に合わせて,構文を整理したものです。   それから,修正の3点目ですが,要綱(骨子)第四,すなわち強姦罪等の非親告罪化に関する時間的な適用範囲についてです。   この点については,第5回会議において,事務当局から,次のような考え方について御意見を伺ったところです。   すなわち,要綱(骨子)第四の趣旨が,告訴をするか否かの判断をしなければならない被害者の負担を軽減するというものであることに鑑みますと,改正法施行前の行為についても,非親告罪として取り扱うこととするのが適当であると考えられます。   もっとも,改正法施行前に,既に法律上告訴がされる可能性がなくなっている場合については,一旦,告訴がされる可能性がなくなり,その結果として起訴される可能性がなくなった被疑者の地位の安定性を考慮し,また,その当時の法に従って意思表示をした被害者の意思をも尊重して,非親告罪化しないこととするのが適切であると思われます。   そこで,改正法施行時において既に告訴がされる可能性がなくなっているものを除き,改正法施行前の行為についても新法を適用し,非親告罪として取り扱うこととするのが適当であるとの考え方を御説明したところです。   第5回会議においては,この事務当局の考え方について,御意見・御指摘を頂き,その御議論を踏まえて,事務当局において更に検討しましたが,第5回会議において申し上げた考え方によることが適当であると考え,また,この内容は,経過措置に関する内容ではありますものの,関係者にとって重要な内容であることに鑑みますと,この点についても,要綱(骨子)に明示した上で,御審議いただくこととするのが適当であると考えるに至りましたので,その旨を要綱(骨子)修正案の第四の三として追加することといたしたものです。   具体的には,要綱(骨子)修正案第四の三において,「一及び二に係る規定により非親告罪化がされる罪であって,改正規定の施行前に犯したものについては,改正規定の施行の際既に法律上告訴がされることがなくなっているものを除き,改正規定の施行後は,告訴がなくても公訴を提起することができるものとすること。」としております。   ここで,「法律上告訴がされることがなくなっているもの」というのは,いずれの告訴権者においても法律上もはや告訴をすることができなくなったため,告訴がされる可能性がなくなっていることを意味するものです。具体的に申し上げると,一つ目として,全ての告訴権者の告訴が取り消されて,更に告訴をすることができないような場合のほか,二つ目として,被害者本人が死亡し,かつ,生前に告訴をしない意思を明示していたため,刑事訴訟法231条2項に規定する親族がいるものの,同項ただし書の規定により告訴をすることができない場合,三つ目として,刑法229条ただし書の場合,すなわち,わいせつ又は結婚目的の略取・誘拐の罪で,被害者が犯人と婚姻した場合においては,婚姻の無効又は取消しの裁判が確定した日から6か月が経過したときは告訴の効力がないとされておりますところ,改正法施行の時点でその期間を経過しているときなどは,この「法律上告訴がされることがなくなっているもの」に当たると考えられます。   他方で,単に告訴権者が告訴の意思を有しない場合や告訴能力を有しない場合などについては,法律上告訴の可能性がなくなっているわけではありませんから,この要綱(骨子)修正案第四の三にいいますところの「法律上告訴がされることがなくなっている」場合には当たらないものと考えています。 ○山口部会長 事務当局から要綱(骨子)の修正につきまして御説明を頂きました。修正についての御意見は後ほど承ることといたしまして,まずは修正に関する御質問がございましたらお願いしたいと思います。   いかがでございましょうか。 (一同発言なし) ○山口部会長 特によろしゅうございますか。   それでは,続きまして,この修正部分に関する御意見がございましたら,お願いしたいと思います。 ○宮田委員 要綱(骨子)第四の三の適用範囲の部分でございます。遡及をさせるべきではないという意見です。   明治41年法律第29号の刑法施行法4条には,「刑法施行前旧刑法又ハ他ノ法律ノ規定ニ依リ告訴ヲ待テ論ス可キ罪ヲ犯シタル者ハ刑法ノ規定ニ依リ告訴ヲ要セサルモノト雖モ告訴アルニ非サレハ其罪ヲ論セス」という規定がございます。   この解説書「刑法施行法評釋」(遠藤源六 明治大学)62ページには,「けだし,(一)告訴を待って論ずることは,告訴の有無にかかわらず処断するよりも犯人に利益なること,(二)告訴を待って論ずべき罪を犯したる者は告訴なき場合には法律上始めより罪とならざる行為をなしたるものと異ならず,故に新法においてこれを罪とするも,その施行以前の行為に遡及せしむるは不穏当なることの二理由による。そもそも,法律は特別の明文あるにあらざれば,その施行以前の行為に及ばざるを原則とす。したがって,刑法施行以前においては,告訴あるにあらざれば罰せざる行為を刑法において告訴の有無にかかわらず罪とし論ずる旨を規定するもこの規定をもって刑法施行以前の行為を論ずることあたわざるはもちろんなり。故に,本条の規定は理論上当然のことにして,特にこれを設くる必要なきがごとし」と記載があります。   確かに,刑法施行法は,現行法には関係ない法律で,今回,直接適用されるものではありませんが,この規定の趣旨は,今の解説にあるように,法の一般原則の確認でございます。   この要綱(骨子)修正案の非親告罪化の規定は,このような「遡及するべきではない」という考え方とは合致しないものと思います。   また,憲法の教科書などを見ますと,訴訟条件について憲法39条の適用はないけれども,その精神を尊重して,被告人の不利益を避けるべきだという意見は,かなり強いものと考えています。   例えば,ちょっと古くてすみませんが,橋本公亘先生の憲法の教科書では,事後法の禁止について,「犯罪の実行行為の後に訴訟法が変更された後であっても,その変更が一般的に言って被告人に格別の不利益をもたらすものでないときは,もちろん立法前の犯罪の裁判に適用できる。訴訟法の変更が被告人に不利益をもたらすものであっても,その不利益が限定されており,被告人の有罪判決を容易にするような性質のものではないときは,また右と同様である。憲法39条前段後半の規定は,本来実行行為の後に制定された刑罰実体法規で処罰されないことを主とするものであるから,右のように考えることができる。しかし,訴訟法の変更が重要なものであって,被告人に対して容易に有罪判決をもたらすような内容であるときは,前記条項の精神から見て立法前の犯罪の裁判には適用できないと解すべきである」との記載があります。   昭和25年4月26日の最高裁判決の上告理由を制限した刑訴応急措置法の規定については,憲法39条の類推はないとしていますが,この判決文の中には,「憲法39条の趣旨を類推すべき場合と認むべきではない」としているだけで,「類推すべき場合がある」ということは決して排除されていません。   公訴時効の変更について,刑法6条の適用を認めていない裁判例もありますが,認めた裁判例もあります。最高裁の昭和42年判決は,これを認めているもので,訴訟条件についてはおよそ遡及しないという考えはとるべきではありません。   過去の刑法改正において,非親告罪化については不遡及とされている例があることは,事務当局から御紹介いただいております。これは法律の制定によって大きな価値判断の変更があった,例えば憲法改正などのような大きな価値判断の変化に伴ったような場合には,非親告罪化を遡及させていないという御説明を頂戴しましたが,今般の改正は性犯罪についての枠組みを大きく変えて国民の価値観の変更を求める,そのような大きな改正ではないのでしょうか。   このような改正の趣旨全体を考えれば,不遡及と考えることが妥当なのではないかと私は考えます。 ○小木曽委員 告訴が処罰条件であるから,この改正法案も実体法の変更と同様,遡及は許されない,分かりやすく言えば,今回の法改正によって,それまで告訴がなければ裁判にならなかったものが裁判になるわけですから,これは新たに処罰根拠を定めた法改正,すなわち実定法の改正と同様である,したがって遡及は許されないという解釈は,もちろんあると思います。   他方で,犯罪行為自体は既に処罰されることになっていて,ただ,被害者の意思を尊重するという政策的な目的から,告訴がなければ裁判が開始されないことになっている。このようにしたのが親告罪制度であると解することもできると思います。   仮に,今,御紹介がありましたように,前者のように解したとしても,この法案を遡及適用すると憲法39条に違反するとまでは言えないということについては異論がないとすれば,あとは立法政策の問題ということになるのだろうと思います。   では,その立法政策に合理性があるかということになるわけですけれども,今回の改正の趣旨,すなわち立法政策の目的が被害者の負担の軽減にあるとすれば,その負担はできるだけ早く軽減するのがよい,したがって,この改正を遡及的に適用するという政策判断にも合理性があるという解釈も成り立つと思われます。 ○池田幹事 宮田委員御指摘の点については,そのような考え方も成り立つだろうとも思われます。ただ,小木曽委員からも御指摘がありましたように,親告罪の規定は告訴がなければ公訴を提起することができないという文言になっておりまして,公訴権行使を制限する手続規定であるとも理解することができます。   手続規定については,法改正があった場合は新法適用が原則であると考えますと,先ほど御紹介いただいた刑法施行法の規定につきましても,そのような特別の規定を置かなければ原則どおり新法が適用されるが,それは事柄の性質に反し適切でないという立法政策上の判断に基づいて,敢えて設けられた特則であると理解することも,可能ではないかと思われます。   そうだとすれば,本件についても,新法を適用すべきかどうかというのは,法改正の趣旨に即して考えることが許される問題だろうと思います。そして,被害者の負担を軽減するというのが,今回の非親告罪化の趣旨であるとするならば,その必要性は施行の前後を問わず存在するものであり,新法適用を妨げる理由はないのではないかと思われます。   もちろん,そのことにより被疑者の地位が著しく損なわれる,悪化するという事情があれば話は別だと思われます。ただ,これも,処罰され得る地位にあるということについては法改正の前後を通じて変更がないのでありまして,新法を適用することによって,その地位を著しく悪化させるということにもならないと思います。   したがいまして,新法の適用が許されないとまでは言えないと考えます。 ○加藤幹事 事務当局から,宮田委員の御意見について,御発言中に引用されていた文献がございましたので,その点について若干補足して申し上げます。   宮田委員からは,遠藤源六先生の「刑法施行法評釋」についての御紹介があったのですが,この刑法施行法についての趣旨を述べた文献として他のものもまたございます。当時の司法省民刑局が編さんした「刑法施行法参考書」という文献によりますと,刑法施行法4条の趣旨について,告訴を訴追条件と考えれば,理論上は刑法施行法4条の規定とは反対の結論となる,つまり,旧法下で親告罪とされていた罪を犯した場合も,新法において非親告罪とされたものは,非親告罪として取り扱うとの結論になるという考え方を示した上で,この刑法施行法4条を設けた趣旨については,しかしそのような取扱いは,被害者の予期に反して厳しすぎることになるきらいがあるなどと説明されているものと承知しております。   これは,旧法で親告罪であった罪については被害者の意向を尊重するという趣旨であると受け取ることが可能でありまして,そういった趣旨で,このような規定が設けられたと考えているようでございます。   これに対して,今般の強姦罪等の非親告罪化につきましては,この改正自体が被害者の精神的負担を軽減するために行うというものであり,その趣旨に沿って改正後の規定の適用範囲を定めるとすれば,刑法施行法と必ずしも同様の取扱いとする必要はないと考えたというものでございます。 ○山口部会長 ありがとうございました。   ただいまの点につきましても,ほかの点につきましても結構でございますが,修正部分についての御意見がございましたら,お願いしたいと思います。 ○齋藤幹事 今の点とは全く関係のないところでして,事務当局の皆様には既にお伝えさせていただいたのですけれども,この要綱(骨子)第一の強姦罪の改正につきまして意見をお伝えさせていただきます。先日ヒアリングにいらっしゃいました浅野先生から,修正前の要綱(骨子)第一の強姦罪の改正の文面を読んで大変びっくりされたというお話がありましたけれども,それは,一般の人にも読んで趣旨が分かったということだと思うのです。先ほど,要綱(骨子)修正案の表現について,挿入させる行為に関しても当然に含むものとして表現しているという御説明があったのですけれども,法律に精通していない私のような者の見方としましては,最初に出された要綱(骨子)の書き方と同じ内容がこの修正案で酌み取れるかというと,なかなか酌み取れないということが実情でございます。もし社会に広報する際ですとか,この趣旨について御説明する際に,この点について丁寧に説明をしていただけると,法律に精通していない私どものような者にも,趣旨が分かるのではないかと思いますので,その点についてだけお願いできればと思っております。 ○加藤幹事 承りました。 ○今井委員 要綱(骨子)第三の修正案についてですが,賛成する見地から一言申し上げたいと思います。   前回の会議でヒアリングを行いましたけれども,そこで被害者の方々,支援する方々からの非常に厳しい経験を聞かせていただきまして,私たちも認識を深めたところだと思います。要綱(骨子)第三の罪というものは,そういった背景を条文化するものだと思いますが,この度,より適切な形になったと思います。   つまり,監護者が18歳未満の者に対しまして,従前からその被害者等に対して成育過程から様々な不正な影響力を行使しており,具体的な行為を行った際には,その対象者の自由な性的自己決定ができないというような状況が,この改正において視野に入れられている事例群だったと思います。   そのことに適切に対処していくためには,従前の,「影響力を利用して」という文言も,考えられたところではありますが,先ほど事務当局からも御説明がありましたように,具体的な利用行為がないということによって,そういった事例が処罰されないというのは,今回の改正の趣旨にも反するものだと思いますので,私は前にも申しましたが,「影響力があることに乗じて」という言葉の方が適切だと思います。この点をもう一度申し上げたいと思います。 ○佐伯委員 要綱(骨子)第三について,私も,以前「利用して」というのは,ちょっと適切ではないのではないかと申し上げまして,今回の修正,「乗じて」という修正で適切であると思います。 ○橋爪幹事 要綱(骨子)第一の罪につきまして,若干意見を申し上げたいと存じます。   私は以前の部会におきまして,修正前の原案につきまして,性交等の意義については,その具体的な内容に関する定義規定を置くことが,処罰範囲の明確化という観点からは是非とも必要であるという旨を申し上げました。   今回の修正案におきましては,括弧書きが省かれ,定義規定は置かれておりませんが,その代わり行為類型が具体的に規定されておりまして,処罰範囲の明確性という観点からは問題はないと考えております。   この点につきまして,より具体的に申し上げたいと存じます。   先ほど事務当局から御説明がございましたように,性交という概念は現行法における姦淫と基本的に同義に解すべきでありまして,陰茎の少なくとも一部を膣に挿入する行為と解すべきことにつきましては,恐らく異論がないと思われます。   さらに,前回のヒアリングでも議論になりましたように,男性の性被害につきましても性差を考えることなく同様に保護すべきという観点からは,修正案における「性交をした者」とは,膣内に自身の陰茎を挿入した男性の行為だけではなく,逆に,男性を脅迫するなどして,男性の陰茎を自身の膣内に挿入させた女性の行為も含むと解釈すべきであるように思います。「性交をした者」という表現からは,やや違和感があるかもしれませんが,修正案が現行法と異なり,被害者をあえて女子に限定していない以上,このような解釈は当然に導かれるものだと思われます。   いずれにしましても,陰茎が膣内に挿入された状態に至ることが性交の本質ということになります。そして,このように性交という概念を,陰茎を身体に挿入した状態という観点から理解する以上,肛門性交という概念も,肛門内に陰茎が挿入された状態に至る行為であること,また,口腔性交も同様に,口腔内に陰茎が挿入された状態に至る行為であることが一義的に明らかになっていると思われます。   したがいまして,例えば陰茎を唇に押し付けるような行為,あるいは異物を挿入する行為等につきましては,これに該当しないことが明らかです。   このような意味におきまして,修正案は,実質的には定義規定を置いているに等しい実態がありますし,解釈論上も混乱が生じないと思われますので,これに賛成したいと存じます。 ○角田委員 今の要綱(骨子)第一についてなのですけれども,私は結論として,この修正に賛成なのですけれども,齋藤幹事がおっしゃったように,法律について詳しくない人が読むと性交の定義というのをどのように考えるかという問題はやはりあると思いますので,その辺のところの丁寧な説明というか,その解説を社会に向かってする必要があると思います。   その点では,法律家の考える性交というものと一般社会の人が考える性交というのは必ずしも同じではない。その点からは,修正前の案の方が,前も私は申し上げたのですけれども,素人に分かりよいということはありますので,これとこれは同じですよと言われても,そうですかとなかなかならないところがあるのではないかと思いますので,その辺はやはり注意深くあるべきでないかと思っております。   全体として,賛成ということではあります。 ○山口部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでございましょうか。   今回の修正部分につきましては,御意見は大体以上でよろしゅうございましょうか。   それでは,修正部分についての御議論はこの程度にさせていただきまして,修正後の要綱(骨子)全体について,まとめの御審議を頂きたいと思います。   これまで要綱(骨子)に従いまして,項目ごとの審議及び修正案に対する審議等を行ってまいりましたが,審議をまとめるに当たりまして,全体を通じての御意見をお伺いしたいと思います。可能な限り,修正後の要綱(骨子)についての賛否を明らかにされた上で,御発言をお願いいたします。 ○森委員 私は,修正案を含めた要綱(骨子)に賛成するものでございます。   私は,検察官として,性犯罪の捜査・公判の実務に携わってまいりましたけれども,その中で性犯罪の被害者が受ける精神的なダメージというものが,いかに大きなものであるかということを実感してまいりました。また,現行法の下で処理に苦慮する事案もありました。   この部会では,こうした経験に照らしまして意見を申し上げてきたところですが,修正部分も含めて,この要綱(骨子)のとおり法改正が実現すれば,捜査・公判実務の現場から見ましても,性犯罪の罰則の在り方として,良い方向に進むものと考えております。 ○塩見委員 私も,要綱(骨子)につきましては,全体として,修正部分も含めて賛成いたします。   全体ということで最後にお聞きして申し訳ないのですけれども,要綱(骨子)第一の罪と第三の罪の関係を確認頂ければと思いまして,質問させていただきます。   13歳未満の者に対して影響力に乗じて性交等を行ったという場合,要綱(骨子)第一の罪の後段と,要綱(骨子)第三の罪の二の関係について,要綱(骨子)第三の二の罪が成立すると考えるのか,要綱(骨子)第一の罪の後段,13歳未満の者に対し性交等をした者とされるのかという点,それから,18歳未満の者に対して監護権者等が暴行により,かつ,影響力に乗じ性交等を行った場合,要綱(骨子)第一と第三の罪の関係がどうなるかという点について,事務当局のお考えを確認できればと思います。 ○隄幹事 御質問の趣旨は,要綱(骨子)第一の罪と第三の罪の関係,罪数関係ということでよろしいでしょうか。   要綱(骨子)第三の罪は,強制わいせつ罪,要綱(骨子)第一の罪等を補充する趣旨で設けようとするものでございます。したがいまして,仮に,ある行為が外形的には要綱(骨子)第一の罪と要綱(骨子)の第三の罪との双方に該当するように見られる場合については,要綱(骨子)第一の罪のみが成立するものと考えております。   ただ,実体法的には,そのようになるかとは思うのですけれども,訴訟法的な観点から見ますと,要綱(骨子)第三の罪で処罰されることもあり得るものと考えております。 ○塩見委員 ありがとうございました。 ○井田委員 私は,大きく三つの視点から,この要綱(骨子)の全体を評価してみたいと思います。   三つの視点というのは,一つはマクロ的な観点,もう一つは,ミクロ的な観点,それから三つ目は言わばその中間の方法論的な観点です。   まず,マクロの観点から申し上げると,今の現行刑法典の性犯罪処罰規定は,1907年にできて以来,実に100年以上の間,そのまま基本的に変わってこなかったということがあります。この間,ものの考え方も随分変わりましたし,人間関係の在り方も変わって,時代環境も非常に変化しているにもかかわらず,そのままであった。諸外国はどんどん法改正してきましたので,その動きからも取り残されて,古色蒼然としたものになってしまっております。   それが今回かなり大きく手を加えられ,時代にマッチし,また国際水準にも合致したものになることは,やはり歓迎すべきことではないか。これが大きな目で見た評価です。   ミクロの目で見たとき,私が特に今回の改正で重要性が高いと思うのは,個別的な五つの点です。第1に,現行規定の中にある男女の性差ないし性別に基づく格差が解消されることです。   第2に,現行法においては,性犯罪が,特に重い類型である強姦罪と,少し軽く評価される強制わいせつ罪とに二分されているのですが,その間の合理的な区別,線引きが可能とされることです。   第3に,強姦・準強姦,あるいは強制わいせつ・準強制わいせつと,法的には完全に同視できる犯罪を新たに類型化することができたのも非常に重要なことだと思います。   第4に,性犯罪を非親告罪化し,訴追・立件が国の責任だということを明確化できたということも,大きな前進であろうと思われます。   第5に,性犯罪の保護法益は,形式的には性的自己決定の侵害であり,実質的には自己決定の侵害によって侵される身体的な内密領域として私は理解していますが,その法益としてのウエイト,重要性の高さを立法上はっきりと示すことができたことです。   このように個別的な5点の変化を見たときに,これにより良い方向への改正が可能になると考えられるわけです。   そして最後に,刑事立法の方法論について一言すれば,これは刑事立法に限らないのでしょうが,様々な方向からの要請があり,また,いろいろな利害の対立があって,それが相互にぶつかり合う領域になっているわけです。そうした領域において,一つの立場だけを採用して,一面的に極端に走ったような規定を設けるのはやはりよろしくない。異なった方向からの要請をうまく調和させ,良いところに落ち着かせることが求められています。今回の要綱(骨子)は,ある立場からすれば,まだ微温的であり不徹底であるということになるのかもしれません。おとなしめに見えるところもあるのかもしれません。しかし,私としては,いろいろな要請をうまく調和させたものになっているのではないかと考えております。   以上のところから,全体として要綱(骨子)は良いものに仕上がったのではないかと考える次第です。 ○宮田委員 私は,反対の立場から意見を申し述べさせていただければと存じます。   3点ございます。   まず第1点です。法定刑の範囲内で宣告刑が収まっているにもかかわらず,刑の下限の引上げが行われる,あるいは強姦強盗などについては上限が重くなります。そのように刑罰を重くするということが本当に正しいのかどうかという問題でございます。   平成になってからの法改正は,確かに強盗致傷罪については刑が下がりましたけれども,併合罪加重についても,個別構成要件では自動車運転過失致死傷についても刑が上がっておりますし,あるいは危険運転という類型で,過失犯のいわゆる故意犯化を行ったりしています。   実は先日,私的な席で,ある高名な裁判官が,「俺は本当に正義を行っているのか。こんな万引きを繰り返しているような人を,俺は常習累犯窃盗で刑務所にぶち込むために裁判官をやっているのかと時々思う。」とおっしゃいました。   財産罪の法定刑は重すぎるのではないでしょうか。あるいは,犯罪態様をもっと類型化して規定をすることが必要なのではないでしょうか。言い渡し可能な刑罰についても,死刑と懲役・禁錮と罰金と,自由刑や罰金刑についての執行猶予があるだけという,このような刑罰体系で本当によいのでしょうか。刑法全体について,見直さなければならない時代が来ているのではないでしょうか。   先ほど井田委員が,刑法が世界遺産になってしまうのではないかという御発言をされましたけれども,それは刑法全体についての問題なのではないかと思いますし,刑罰を重くするということではなくて,別な方策も考えられるべきではないかと考えるのです。   特にこの刑罰を重くすることについては,私は要綱(骨子)第一の類型については,肛門性交,口腔性交,性交させる行為という,今まで強制わいせつで罰せられていたものが,強姦と同じ刑になるというだけではなくて,強姦と一緒に刑の下限が5年まで引き上げられるということで,二重の重罰化が図られるということに対しては,強く反対意見を述べざるを得ません。   第2の点です。重罰化のメッセージが国民に与える影響がプラスのものだけなのだろうかという疑問点です。   私は保護司をやっておりますし,更生保護施設の評議員等という形で更生保護に関わってきている者です。更生保護施設の多くは,近隣住民からの反対で,性犯罪者や殺人のような重罪,あるいは薬物犯罪を犯した人を受け入れるなと言われ,そのように運用されています。   また,性犯罪は,保護司が最も預かることを嫌がる犯罪の類型です。   罰則を重くすることで,性犯罪を犯した人は社会から排除されるべきだという誤ったメッセージが伝わり,今のような傾向に拍車が掛かっては困ると思います。   性犯罪は,犯罪を犯すことからの回復のためには,その人の考え方,生活態度,あるいはその内面に抱えている心の傷などに対して修正し回復を図っていくことが,最も必要な犯罪類型です。このような人たちに対してこそ社会の受入れ先が必要だということは,強調しすぎてもしすぎることはありません。しかしながら,受入れ先もないし,そもそも被害者の御意思ということで仮釈放も付きません。これで本当に,性犯罪を犯した人たちの円滑な社会復帰が図れるのでしょうか。刑務所の中だけではできないのだ,しかも刑務所で今やっていることは十分ではないのだという前回ヒアリングでの中村先生の御指摘については,私は強調しすぎてもしすぎることではないと思っています。   三つ目です。前回のヒアリングで,中村先生や浅野先生からは,性犯罪を始めとした暴力犯罪や薬物犯罪などの罪を犯す人には性虐待の被害を過去受けてきた方が多いという御指摘がありました。   私どもが弁護活動をするときに,被疑者・被告人には過去に性被害,性的虐待の経験があるという主張をしても,ほとんど顧みられておりません。   今回,この部会でヒアリングが行われ,性被害というものが,犯罪傾向まで生み出してしまう,例えば,大きな暴力衝動,あるいは薬物依存といった非常にゆがんだ形で,性被害者の行動を規定してしまうことがあることが明らかにされました。性被害が極めて大きな,人生,あるいは心の傷を残すことがヒアリングで明らかになったわけですから,罪を犯した方に対して量刑を考えていく際の一般情状として,そういうものがもっと顧みられてもよいのではないでしょうか。あるいは,受刑現場での対応として,そのような虐待を受けた人に対する特別な配慮を行う,あるいは,その方たちを社会に復帰させるときの,更生保護などのプログラムなどにおいても特別な配慮を行っていくというようなことも必要なのではないかとも考えた次第です。   刑罰を重くしても,そのような体制が整わなければ,結局は,その性犯罪を行った人が同じ犯罪を繰り返すことが避けられないのではないかという危惧を持つものでございます。 ○角田委員 今回の主要なテーマに関しては,私は一定の進歩があったということですから,大変喜ばしいことだと思っております。   長いこと,実はこの問題は当事者を中心にして,社会の周辺部に追いやられて,なかなか日の目を見ることがなかったテーマだったと思うのです。   それが今回ようやくにしてというか,無形文化遺産になる寸前のところで,百何年経っているのですか。私は1907年に建った建物とかを見る度に,例えば奈良ホテルがそうなのですね。刑法と同じなのだとか,つい思ってしまったりするくらい,この1907年の今と全く体制の違う時代にできた,特に性に関する刑法というのが放置されていたということは,私は関係者にも大いに責任があると思うのですね。   そこに非常に問題があるということを誰が一番初めに言い始めたかといいますと,その犯罪の被害に遭って,不当な扱いを受けてきた主として女性たちだったのです。非常に長い間小さな声だったのですが,いろいろな犯罪被害者の運動一般とも連携することができて,ようやくここのテーマになったことは大変私はうれしいと思っております。ただ,小西委員の意見にもありましたように,これは問題解決の一歩にしかすぎないということで,積み残された課題がたくさんありますので,そのことについてどういう形か分からないですけれども,引き続き関心を持っていただいて,検討の対象にしていただきたいと思っております。   それから,私と宮田委員で,同じ日弁連から派遣されていて,いつもほとんど違う意見を述べているのだということで,そういう認識をされていると思うのですけれども,先ほど宮田委員がおっしゃった刑法全体について見直さなければいけない時期に来ているのではないかということについて,私も全くそのように思っております。   このように1907年に作った刑法,あちこち時代の要請に合わないということ,継ぎ接ぎだらけのことをやっていくと,きっと全体として統一的な考えに貫かれた刑法というのにはほど遠くなっていくのではないかと思いますので,私も,今がその時期かはともかく,少なくとも全体的に,近い将来に見直すということも考えていただいていいのではないかと思います。   それから,最後になって宮田委員といろいろと意見が一致するのですけれども,重罰化だけでよいのかという点については,私はやはり犯罪の原因がどこにあるのかということを,刑法以外の他の社会科学等,あるいは医療等でも研究されておりますので,そういう知見も含めて,社会全体としてどうしたらいいのかということを考える必要があると思います。   加害者への対応について,検討会でのヒアリングでもそうでしたし,医療的な対応等々が非常に日本では小さいのですけれども行われておりますし,諸外国ではそういう知見もあるようですので,そういうことを含めて犯罪をなくすにはどうしたらいいのかということ,つまり社会的な対応策ということも,今はここでの議論の対象にならないのでしょうけれども,今後私どもが考えるときには視野に入れる必要があると思っております。   例えば貧困の結果,教育の機会がなくなったということと,犯罪との関係というのはかなり明らかではないかと思いますし,それから性暴力犯罪についても,適切な育ちが保障されなかった,つまり自分自身が被害を受けたということで保障されなかったということで,大人になって,今度は加害者に転化するという事例は別に珍しいことでもないようですので,そういうことを含めて,もっと広い社会的な視野を持って考える必要があるのではないかと思っております。   それから,これは最後なのですけれども,確かにこの会議は刑法の改正を議論しているわけなのですけれども,私は検討会のときも,それから今度の法制審のこの委員会も非常に違和感を持っていることがあります。   それは,委員や幹事の構成がこのように刑法の専門家に偏ったものでいいのだろうかということなのです。ジェンダー・バランスの問題もありますけれども,刑法の問題といっても,要するにこれは社会の問題の一部なので,刑法の人が中心になるとは思うのですけれども,刑法・刑訴法の学者以外にも,もっと他の関連する分野の人が委員・幹事として入る必要があるのではないかと思っております。   私はこういう委員会に出たのは初めてなので,私の偏見から言えば,このように偏った委員構成の会議をやってどうするのだろうかというのは非常に率直に思ったところですので,今後このような形で研究会なり行われるときは,もう少し広い視野で委員を選任された方がよいのではないか,その方が社会の要請に,より良く応えることができるのではないかということを思いまして,このことは最後にどうしても一言言わせていただきたいと思って待っておりました。ありがとうございました。 ○武内幹事 私も修正された要綱(骨子)全体について,賛成の立場です。   ただ1点,性犯罪の非親告罪化について若干の心配もあることから,一言申し述べさせていただきます。   強姦罪等が非親告罪化することによって,告訴をするかしないか,あるいは一旦なした告訴を維持し続けるかどうかということについて,被害者の方が思い悩む負担というのは確かに軽減されると考えます。   とはいえ,非親告罪化以降は,告訴を取り消すという選択肢が性犯罪の被害者の方からなくなるという点も事実です。   もとより被害者の積極的,かつ明確な拒絶に反して捜査あるいは公判が継続されるということは,実務上考え難いのでしょうが,それでも告訴の取消しができなくなったことによって被害者の方が捜査の過程,あるいは公判の過程で,これまでとは違った側面での様々な精神的な負担を受ける場面も,これから想定されるかと思います。   そういった形で,せっかく改正された刑法によって,性犯罪被害者に対する新たな二次被害が万が一にも惹起されることのないよう,弁護士あるいは専門家によるサポートが,これまで以上に重要になってくるのではないかと思います。   私ども弁護士会の人間としても,それだけの体制を整えられるよう努力していく所存ですけれども,今後は国あるいは社会によって,性犯罪被害者に対する支援の潮流がより強まっていき,適切な施策が講じられることを強く希望します。 ○小木曽委員 私も全体として賛成の立場ですけれども,長年の懸案であった問題について,保護法益自体を捉え直すということを確認しつつ,その認識の変化に応じた実体法の改正を提案しているという点に意義があると思います。   被害者を女性に限らないということですとか,行為態様の多様化,それから要綱(骨子)第三類型の創出,非親告罪化など,一定の前進であると考えますが,他方で,暴行・脅迫要件を始めとして,いろいろとまだ不満があるという向きもおられると思います。   しかし,性犯罪への社会の対応を考える際には,法令,その法令も刑法や児童福祉法があるわけですが,そのような法令が負うべき役割,実務に携わる方々が負うべき役割,更には社会の構成員がその意識を変えるという意味で負うべき役割といったものがあるのではないかと思います。   それぞれが手を携えて初めて,不幸な犯罪を防ぎ,罪を犯した者にはその責任を問い,被害に遭った人々には,そのダメージを可能な限り回復するという方向に進むことができるのではないかと思いますし,当然誤判のおそれは可能な限り低くするべきです。併せて,先ほどから御指摘ありますように,再犯予防に何が効果的であるのかということについても継続的に検討されていくべきであろうと思います。今回の法改正が,そのような継続的な議論の契機となることも期待したいと思います。 ○木村委員 以前にも申し上げましたので重ねてで恐縮なのですけれども,要綱(骨子)第三の罪についてです。   これまで十分対応できなかったものについて,このような類型を作ったというのは非常に強力な武器になると思いますので,意義は非常に大きいと思います。   ただ,監護権者以外,例えば教師であるとか,コーチのような立場の人であるとか,そういうような方の影響力に乗じた行為という事例も決して少なくないですし,やはり被害も非常に重大なものがあると認識しておりますので,現行法ですと恐らく準強姦とか準強制わいせつを中心に議論することになるのかもしれないですけれども,今後はそういう点も少し視野に入れて,立法も含めてお考えいただき,検討する機会があれば非常に有り難いと思います。 ○齋藤幹事 被害者支援の立場から少しだけお伝えさせていただければと思うのですが,私は,被害者支援に携わる中で,同じ加害者から同じように性的に侵襲されて,しかし,挿入された場所が膣だったか肛門だったかの違いで罪が違うということを,大変疑問に思っておりました。そうしたことなどが今回,話し合われて,そしてこのように改正の提案が出されたということに対して,良かったと思っております。   他方,要綱(骨子)自体には賛成なのですけれども,これまで被害者の被った被害が正しく検討されていたのか,正しく把握されていたのかというと,被害者支援や心理の専門家としては,多々,疑問が残ります。今回,暴行・脅迫の要件ですとか,性交同意年齢ですとか,18歳未満の時効の問題ですとか,法制審議会の部会での議論になることのなかった点は幾つかございますが,今後今回の改正をきっかけに,そういった点も含めて,被害者の受けた被害がどういったものだったのかということが正しく認識される社会になっていくということを願っております。   また,他方,宮田委員も角田委員もおっしゃっておりましたが,性犯罪の加害者であるとか,その他薬物等,アディクションの加害者であるとかに関しましては,再犯を防ぐという意味で医療や社会とは連携を欠かすことができないものだと思いますので,そういった再犯を防ぐという意味での加害者へのシステムの構築ですとか,被害者支援のより一層の充実といったことが,これを機に,これまで以上に社会で考えられていくことを願っております。 ○北川委員 今回,非親告罪化ということとともに,要綱(骨子)第三類型という新たな犯罪類型が設けられたことによって,家庭内において児童が性的な虐待を受けるということについて,ある意味,早期発見され,そして適正な処罰が図られていくことを期待しています。   ただ,それだけに,既に多くの委員の方々がおっしゃいましたように,被害者に対する支援,ケア,そちらの方に非常に今後は期待されるところが大変大きくなってくることだと思いますし,また,非親告罪化に伴い生じ得る被害者の精神的な負担ということについて,被害者の方々が司法過程に関係するということについてケアや配慮がどんどん必要になってくることかと思いますので,そういったところの実際的な今後の動きに期待をしております。 ○山口部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでございましょうか。   大体よろしゅうございますでしょうか。   それでは,本日御欠席の小西委員からも,修正後の要綱(骨子)についての意見書が提出されておりますので,最後に事務当局から御紹介をお願いします。 ○隄幹事 小西委員の意見書を読み上げます。   現在,事務当局より示されている要綱骨子(案)については,不足な点があるが,性暴力に関して,被害の現実に即さない現刑法から新しく一歩踏み出したことを評価したいと思います。2,3意見を述べた上で,案に賛成します。   第一,強姦の罪(刑法177条)の改正について。   女性,男性,またどのような性的アイデンティティを持つ人にも,性暴力被害があり得ること,その容態は多様であること,その被害の結果は深刻であることが踏まえられていることが必要だと考えますので,第一,強姦の罪の改正には原則的に賛成します。ただし強姦という名称は適当でなく,「性的侵襲」「性的侵入」等の名称が適当であると考えます。   ほかに「強制性交の罪」という案もあったと思いますが,性交という行為に焦点を当てるのではなく,人の極めてパーソナルな領域への侵襲が許されないという点に焦点を当てるべきであるという考えから,「性的侵襲」「性的侵入」を推したいと思います。   なお,今回は「暴行又は脅迫を用いて」という条件やその解釈はそのまま残されています。これが多くの性暴力被害者を潜在化させる要因となっています。将来的に,さらに,「同意のない性的侵襲」にも刑法の適用が可能になるような改正を望みます。   第三,監護者であることの影響力があることに乗じたわいせつな行為又は性交等に係る罪の新設について。   この罪が新設されることは大きな意味があります。子どもに対し親の立場にある者の「影響力」がいかに大きいか,当事者のヒアリングでも示されたと思いますが,そのような被害を受けた人は,多数存在します。新設には大いに賛成ですが,ただ,性的虐待の被害の実情から考えると,少なくとも,教師についても,同様の罪を設けるべきだと考えます。   今回の改正は第一歩ですが,更に検討が必要と考えます。   第四,強姦の罪等の非親告罪化。   賛成します。性犯罪はほかの暴力犯罪と同じく人権を侵す暴力行為であり,特殊視することなく同じように扱われることが基本的に必要だと思います。しかし,非親告罪化する場合には,司法の過程での傷つきが深くなるようなケースが生じることが危惧されます。非親告罪化を行うのなら,司法過程の中での被害者支援,司法過程に参加できるようになるための精神的社会的な被害者支援をより強化することが必須であり,それを保証する政策,対応が必要です。非親告罪化と同時に被害者支援の大幅な強化が必要なことを,何らかの形で示すことを強く希望します。   上記のほかの第二から第七に関しては案に賛成します。   以上,小西委員からの意見書を紹介させていただきました。 ○山口部会長 ありがとうございました。   それでは,これで議論は終結し,部会としての意見の取りまとめに入りたいと思います。   諮問第101号は,「近年における性犯罪の実情等に鑑み,事案の実態に即した対処をするための罰則の整備を早急に行う必要があると思われるので,別紙要綱(骨子)について御意見を賜りたい」というものであり,その別紙として,要綱(骨子)が付されておりましたが,この要綱(骨子)につきましては,本日,事務当局から修正案が提出されました。   具体的には,要綱(骨子)第一及び第三について修正がなされ,要綱(骨子)第四の三が追加されました。   ここで,資料34として本日配布されました要綱(骨子)修正案を部会における取りまとめの対象とし,これを単に要綱(骨子)と呼ぶこととしたいと思います。   そこで採決の方法でございますが,要綱(骨子)第一から第七は,それぞれが密接に関連するものであり,これらを一体として諮問されたことに鑑みまして,要綱(骨子)第一から第七までを一括して採決の対象とさせていただきたいと考えておりますが,よろしゅうございましょうか。 (一同異議なし) ○山口部会長 ありがとうございました。それでは,そのようにさせていただきます。   では,採決に入らせていただきます。   要綱(骨子)第一から第七に賛成の委員の方は挙手をお願いいたします。 (賛成者挙手) ○山口部会長 次に,反対の委員の方は挙手をお願いいたします。 (反対者挙手) ○山口部会長 それでは,事務当局から採決の結果を報告していただきます。 ○隄幹事 ただいまの採決の結果を御報告いたします。   賛成の委員の方14名,反対の委員の方1名,出席委員総数は,部会長を除きまして15名でした。 ○山口部会長 ただいま報告がございましたとおり,要綱(骨子)につきましては,挙手されました委員の賛成多数で可決されたと認めます。   諮問第101号につきましては,配布資料34の事務当局による修正後の要綱(骨子)を,部会の意見として総会に報告することに決しました。   この決定は,部会長である私から総会に報告させていただきますが,報告につきましては,慣例として,部会長に一任願うということでよろしゅうございましょうか。 (一同異議なし) ○山口部会長 ありがとうございました。それでは,そのようにさせていただきます。   これで当部会の審議は終了となります。   昨年以来,充実した審議を重ねていただきまして,誠にありがとうございました。委員の方々から,既に御指摘がございましたように,明治以来の日本の性犯罪の罰則に関する規定としては,ある意味で画期的なものが部会の結論として出されたのではないかと思います。   これまでの皆様の御尽力,御協力に心より御礼を申し上げます。ありがとうございました。   なお,本日の議事につきましては,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を作成し,公表することとさせていただきたいと思いますが,よろしゅうございましょうか。 (一同異議なし) ○山口部会長 それでは,そのようにさせていただきます。   それでは,これで散会とさせていただきます。どうもありがとうございました。 -了-