法制審議会 民法(相続関係)部会 第14回会議 議事録 第1 日 時  平成28年10月18日(火)自 午後1時29分                       至 午後5時10分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(相続関係)の改正について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○大村部会長 それでは,定刻になりましたので,法制審議会民法(相続関係)部会の第14回会議を開催させていただきます。   まず,最初に本日の配布資料等につきまして事務当局の方から御説明を頂きます。 ○堂薗幹事 それでは,本日の資料について御説明いたします。まず,事前に部会資料14,「今後の検討の方向性について」と題するものをお配りしているかと思います。それから,本日,席上に配布した資料として参考資料7と8がございます。こちらは,いずれもパブリックコメントの結果をまとめたものでございます。参考資料8の方を御覧いただければと思いますが,意見募集につきましては167件の団体あるいは個人の方から御意見を頂きまして,法制審における他のパブリックコメントと比べましても,非常に多くの意見を頂いたところでございます。参考資料7につきましては,各検討事項に関する賛成,反対の状況や主要な指摘などをまとめたものでございまして,参考資料8がその概要をポンチ絵1枚にまとめたものでございます。   なお,部会資料等におきましても,何々の意見が大勢を占めたですとか,何々の意見が多数を占めたなどと表現ぶりを若干変えているところでございますが,この点についてもちろん厳密な区別ができているわけではないんですけれども,基本的な整理といたしましては,パブリックコメントに寄せられた意見の数だけで,そういった表現にしているわけではございませんで,何々の意見が大勢を占めたというような場合には,数的にも過半数を優に超えておりますし,また,業種別等の観点から見ましても,基本的に満遍なく賛成意見なら賛成意見が多数を占めているような場合に,大勢を占めたという表現を使わせていただいておりまして,そこまでいっていないような場合については,賛成意見が多数を占めたという表現を用いているということでございます。   それから,パブリックコメントに寄せられた意見そのものについては,皆様にお配りはしていないんですけれども,本日,ファイルにまとめたものを持参しておりますので,適宜,御参照いただければと思っております。   資料についての御説明は以上でございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今,御説明がございましたけれども,パブリックコメントの結果を取りまとめていただいておりますので,本日はこれを踏まえまして今後の検討の方向性について皆様から御意見を頂きたいと考えております。お手元の部会資料14に,「今後の検討の方向性について」という表題が付いたものが配布されているかと思いますけれども,この中が第1の「配偶者の居住権を保護するための方策」から,第5の「相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」まで,五つの項目に分かれております。それぞれ,パブリックコメントの結果の概要から話が始まりまして,今後の方向性について一応の考え方が示されているという作りになっております。これを五つに分けまして,第1から順次,事務当局の方から御説明を頂いた上で,意見を頂くということをお願いしたいと思います。   まず,最初が第1の「配偶者の居住権を保護するための方策」ということになります。これにつきまして事務当局の方から御説明を頂きます。 ○大塚関係官 では,第1の「配偶者の居住権を保護するための方策」について部会資料の御説明を申し上げます。   1の「配偶者の居住権を短期的に保護するための方策」,いわゆる短期居住権からまいります。(1)の「パブリックコメントの結果の概要」を御覧ください。まず,遺産分割が行われる場合の規律ですが,こちらにつきましては一部に反対意見はございましたけれども,内容としては現在の判例実務を反映したもので,配偶者の居住の安定に資するとして賛成の意見が大勢を占めたところでございます。もっとも,短期居住権の消滅請求につきましては,中間試案の規律では他の相続人が単独でできるとしておりますけれども,これに賛成する意見があった一方で,配偶者以外の相続人の持分の過半数によることとすべきであるという意見も複数寄せられたところでございます。なお,短期居住権の創設自体には賛成をしつつ,配偶者以外の相続人等にも認めるべきであるという意見もございました。   次に,配偶者以外の者が無償で配偶者の居住建物を取得した場合の特則ですが,こちらにつきましても一部に反対意見はございましたが,全体としては賛成意見が大勢を占めたところでございます。もっとも,この場合の短期居住権の存続期間,中間試案におきましては例えば6か月間と記載をしておったところでございますが,この期間につきましては,このとおりの6か月間が相当であるとの意見があった一方で,残された配偶者が高齢の場合には速やかな転居が難しいということなどを踏まえて,例えば1年間とすべきではないかといった意見も頂いているところでございます。   次に,(2)の「今後の方向性について」でございますが,このようなパブリックコメントの結果を踏まえて,今後は,例えば中間試案の考え方を基本として,指摘された問題点を中心に検討を進めていくということが考えられるところではございますが,この場で御議論いただければと思います。   次に,2の「配偶者の居住権を長期的に保護するための方策」,いわゆる長期居住権についてでございます。(1)の「パブリックコメントの結果の概要」ですが,長期居住権の創設につきましては,配偶者の居住権保護の観点から賛成するという意見が相当数,寄せられました一方で,例えばそれほどのニーズが見込めない,財産評価が困難である,新たな紛争を招くおそれがあるなどとして反対する意見も相当数,寄せられたところでして,賛否が相当拮抗しているという状況にございます。これとは別に,長期居住権の内容そのものがいまだ明確ではないのではないかということを指摘される意見もございました。なお,第三者対抗要件を登記のみとすることにつきましては,賛成意見が多数を占めたところでございます。   次に,パブリックコメントで御指摘のあった個別の問題点に移りますけれども,まず,アの成立要件についてですが,特に遺言による長期居住権の設定につきまして,遺産分割方法の指定がされた場合には,配偶者が長期居住権の取得を放棄できずに,長期居住権の取得を強いられることになりかねないのではないかといった御意見ですとか,あるいは配偶者が長期居住権の取得を希望するけれども,他の相続人が反対をしているといった場合には,審判によって配偶者に長期居住権を取得させるということよりも,配偶者に共有持分を取得させた方がむしろ適切ではないか,よって,このような場合に長期居住権の設定を認めるのは,特に問題が多いのではないかという指摘も寄せられたところでございます。   次に,イの「長期居住権の財産評価方法について」でございます。パブリックコメントにおきましては,財産評価方法が不明確であるといったことを反対の理由に挙げる意見が相当数あったところでございます。他方で,これは第11回部会で検討された案でございますが,これと同様に建物賃借権自体の評価額は0円とした上で,「賃料相当額×存続期間」をベースに算定することを提案する意見も寄せられたところでございます。これに加えまして,長期居住権が必要費等の負担を配偶者がするという権利であることなどを考慮しまして,例えば「賃料相当額×存続期間×0.8」とすることなどを提案される意見も寄せられたところでございます。この財産評価の関係につきましては,後ほど(4)におきまして別途,具体的な検討を加えているところでございますので,また,御説明申し上げます。   次に,ウの「長期居住権の買取請求権について」でございます。この買取請求権を認めるか否かというところにつきましては,例えば予期に反して短期間で長期居住権が不要となった配偶者を保護するために,賛成するという御意見があった一方で,争いとなった場合に裁判所での審理が複雑困難化するおそれがあるのではないかという理由の下に反対される意見もございまして,賛否が分かれたところでございます。   今後の方向性につきましては,このように長期居住権の創設自体について賛否が分かれておりまして,反対意見も相当数あることを踏まえますと,例えばでございますが,長期居住権創設のメリットを減殺しないように配慮しつつも,問題点を軽減する方向で検討を進め,その上で判断するということも考えられるところでございますが,この点につきまして,是非,御意見を頂戴できればと思います。   続きまして,(4)の財産評価方法についてでございます。財産評価方法としましては,基本的なものとして,アの計算式を今回,御提示申し上げているものでございます。計算式としては,長期居住権の評価額=建物の賃料相当額×存続期間,そこから中間利息額を差し引くと,こういったものでございます。この計算式は,長期居住権を賃借権類似の法定の債権と位置付けていることを踏まえまして,その財産的価値を存続期間中の賃料相当額ということで,賃料総額として評価をするものでございます。計算式では先ほども御意見があったとおり,権利自体の価値は0としておりますけれども,この点は算定方法そのものの簡素化の視点に加えまして,相続税の課税実務上,一部の例外を除いては借家権について相続税を課さない扱いがされていることを参考にしたものでございます。   また,長期居住権の存続期間を終身とする場合には,例えば配偶者の年齢を基準として算出される平均余命の年数を用いることを想定しているところでございます。このような算定方法ですと,基本的には当該建物の適正賃料額を目安として評価額を算定することができ,比較的簡明ではないかとも考えられるところでございます。ただ,長期居住権は対抗要件あるいは費用負担,更には消滅原因などの点で賃借権と異なる点もございますので,算定に当たりましては,これらの差異を考慮する必要があるものと考えられます。   次に,イの「協議による設定の場合」でございます。遺産分割協議で長期居住権を設定するという場合には,必ずしも法定相続分を前提に分割をする必要はないと考えられますので,先ほど述べました計算式が必ずしも必要ではないということになります。また,相続人間で法定相続分を前提として分割することとされた場合におきましても,長期居住権の評価は相続人間の協議で定めれば足りることになりますが,その場合には先ほど述べました計算式を参考にすることが考えられるところでございます。   次に,ウの「遺言による設定の場合」についてでございます。一般に,被相続人は遺留分を侵害するのでない限りは,自由に財産処分ができますことから,被相続人が配偶者に長期居住権を取得させる旨の遺言をする場合には,原則としてはその価格を評価する必要はないものと考えられます。もっとも,ほかに遺産分割の対象となる財産がある場合,あるいは相続開始後に配偶者以外の相続人から遺留分減殺請求がされた場合には,長期居住権の価格評価が必要となりますので,その場合にはアで申し上げた価格算定方式が必要になる場合があろうかと考えます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   第1の「配偶者の居住権を保護するための方策」につきましては,今,御説明がございましたように,いわゆる短期居住権と長期居住権との二つに分けまして検討してまいりましたけれども,このうちの短期居住権についてはパブリックコメントにおいて賛成する意見が大勢を占めたのに対して,長期居住権の方につきましては,賛否が拮抗している状態であるということで,長期の方につきまして幾つかの問題点,特に財産的な評価方法についての考え方を整理して御説明を頂いたと理解しております。   短期,長期のそれぞれにつきまして,今後の方向性について提案がされておりますけれども,本日は皆様から広い視点からの御意見を頂戴いたしまして,御感触を伺った上で次回以降,それぞれの問題について具体的な提案を事務当局の方からお願いするということにさせていただきたいと思います。必ずしも方向性について賛否を明らかにするという形でなくて結構ですので,広く御意見を賜れればと思います。   短期,長期,どちらでも結構ですので,御意見を頂ければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。いかがでしょうか。 ○水野(紀)委員 では,短期について一つ質問させていただきます。短期の場合,判例で認められているから不要だというパブリックコメントがあったようですけれども,確かに使用貸借と認定して居住権を保護する判例が固まっております。そして,配偶者以外の場合にも使用貸借だと性質決定するのが現在の判例ですが,短期賃貸借を配偶者について立法することになりますと,配偶者以外の場合,例えば長男がずっと一緒に住んでいたような場合については,どのような波及効果が考えられるでしょうか。   また,長期居住権の方ですが,こちらについては本当に雑な感想になるのですけれども,一言申し上げます。西欧諸外国の場合は,配偶者の居住権は,一般に婚姻の効果か夫婦財産制の一環として,自動的に婚姻中から付与される扱いになっております。そして,その家族の居住権の存在を見込んだ形で様々な取引が動いているわけですが,日本の場合にはそうではありません。基本的には登記が主になっていて,かつ不動産売買のときに関与する公証人慣行もなく,私人が勝手に登記を行いますから,反対意見の多くは,長期居住権が取引の邪魔になることを危惧しておられるように思います。   ただ,家族法学者としては,どちらの方向性がいいかといいますと,配偶者や家族の居住権は大切なものだと思います。配偶者や子どもたちの家族の生活が営まれている住居は,居住権が自動的に配慮されなければならないという欧米風の方向へシフトできれば,その方がいいのではないでしょうか。今回も家族の居住権より取引安全が重視されるという,日本の常識からのリアクションが大きかったわけですけれども,むしろ家族の住まいになっているところを取引の対象にするときは,居住権の危険に配慮しなくてはならないという方向にシフトする可能性はありうるように思います。そのような発想をいくらかでも入れていただける可能性はあるのでしょうか。 ○堂薗幹事 まず,短期居住権の点でございますが,この点は以前にも御説明したことがあったかもしれませんけれども,事務当局といたしましては,配偶者のみを対象としてこのような新たな規律を設けますので,従前の判例で保護されていたもののうち,配偶者については,こういった制度が新たに設けられることによって,当事者の合理的意思としても使用貸借契約を更にそれに付け加える形で締結する意思までは認められなくなるのではないかということで,配偶者については従前の判例の対象外になるのではないかと考えております。これに対し,それ以外の相続人につきましては,従前の判例と同じように一般的な当事者の意思といたしましては,従前から建物に無償で居住していたという場合に,遺産分割が終了するまでの間は引き続き無償での使用を認める意思であっただろうというところは,変更がないのではないかと考えているところでございます。   それから,長期居住権のところで配偶者の居住権の保護と取引の安全をどう調和させるかという御指摘かと思いますけれども,この点は確かに今回の中間試案の考え方,配偶者の居住権に限って特別な保護を致しておりますので,そういった意味では,これまでの制度にない特殊なものという理解はできるかと思いますけれども,他方で,長期居住権を第三者に対抗するためには必ず登記が必要であると,通常の建物賃貸借とは違って占有だけでは駄目で,きちんと明確な形で公示がされた場合に限って第三者には対抗できるという形にしておりますので,そういった意味では,取引の安全にも一定の配慮をしつつ,配偶者の居住権も保護するという形にはなっているのではないかとは考えているところでございます。 ○大村部会長 水野委員,よろしいですか。   そのほか,いかがですか。御意見あるいは御質問等でも結構でございます。 ○石栗委員 長期居住権の財産評価の方法についてですが,通常,遺産分割をする場合には不動産は鑑定をするんですけれども,その場合,長期居住権の負担のある不動産を取得することによる遺産の取得額というのは,鑑定額マイナス長期居住権の評価額ということになるんでしょうか。 ○堂薗幹事 そこはかねてから問題があるところではあるんですけれども,基本的にはそのように考えております。ただ,そうしますと,建物を取得する人がリスクを負ってしまって,不利益を受けるのではないかという問題はあろうかと思いますけれども,そこで,どちらについて,あるいはその両者についてそういったリスクを考慮して一定割合を減額することにしますと,長期居住権の価格とそれ以外の建物所有権部分の価格の合計額が建物全体の価格になりませんので,全体として遺産の額が減ってしまうという問題がありまして,そこは一定のリスクはあるんですけれども,基本的にはそうせざるを得ないのではないかと,先ほど石栗委員の方が御指摘になったような計算にせざるを得ないのではないだろうとかと考えております。   そこも今回の中間試案のパブリックコメントの中でも,特に建物所有者と配偶者の間で長期居住権の設定について争いがあるような場合にまで,審判で認めるというのは相当ではないのではないかという意見も出されておりますので,そこは適用範囲を見直し,例えば争いがない場合に限って長期居住権を認めるとか,そういった修正をすれば問題は少なくなると思いますし,その辺りについて今後,検討していきたいと考えているところでございます。 ○石栗委員 よろしくお願いいたします。 ○大村部会長 よろしゅうございますでしょうか。 ○増田委員 細かいことはさておき,長期居住権については持分を取得する場合と比較して,どちらが有利なのだろうかということをもう少し検討してみるべきではないかと思います。今回の資料に沿って長期居住権の評価額というのを考えてみると,存続期間が平均余命となっていますので,仮に70歳女性を例にとると平均余命が19.81になるので,それをライプニッツ方式で中間利息控除すると12.085,これは現在の法定利率ですので,民法が改正されるともう少し高くなるはずです。これを前提に,仮に賃料を月10万として計算しますと約1,440万です。1,440万を出せば同程度の不動産の持分の多くを確保できるのではないか,とも思います。   確かに持分の場合だと,ほかの人の持分について賃料を支払わなければなりませんが,それは不動産全体の賃料ではなくて,持分に相当する分だけです。しかも,共有物である場合には将来的に投下資本の回収ができるという形になります。長期居住権だと,買取請求権が認められるかどうかというのは今後の検討なんでしょうけれども,認められたとしても,それほど高い金額になるはずはないので,投下資本を回収することはまずできないだろうと思います。という点を考えると,本当に配偶者のためになるのかどうかというのは,今後,十分に検討すべきだろうと考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○堂薗幹事 その点については,パブリックコメントでも意見が出されたところでありますので,検討させていただければと思いますけれども,こちらで,従前,考えていたのは持分を取得させる場合との比較でいいますと,そもそも論といたしまして,遺産分割というのは遺産共有状態を解消するというところに大きな目的がありますので,相続に起因して共有関係が生じた場合に,それをそのままにして,共有状態を一定期間継続させるというのがそもそも相当なのかという問題は,あるのではないかと思っております。   この点につきましては,今も遺産に伴う共有状態を解消しないことによって,二次相続とか,三次相続が起きた場合に,非常に持分権者が増えてしまって,権利関係が複雑になることから,いろいろな問題が生じているという面がございますので,その辺りとの関係でそれぞれ,メリット,デメリットはあるのではないかという点がございますし,共有状態のままにしますと基本的には共有物分割請求をされた場合には,共有物の分割がされるということになりますので,その辺りで配偶者の保護が十分といえるかという問題はあろうかと思いますので,その辺りのメリット,デメリット,長期居住権の場合との比較を整理した上で,更に引き続き検討させていただければと考えているところでございます。 ○増田委員 共有関係を存続させることが不適当だと,通常,言われるのは,複雑な権利関係を生じることが理由ですよね。しかし,長期居住権がある場合も,この問題は解消されず,複数の関係者が一つの物件に関与することになって,やはり複雑な権利関係が生じると考えられます。要するに,仲のよくない人が一つの物件を共有するのと同じように,仲のよくない人が貸主と借主という関係になっても,紛争が継続するということになりますので,その辺り,今後の課題なんですけれども,よく考えていかないといけないなと思っている次第です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   大きな観点から,今,御意見を頂いたと思いますが,他の委員・幹事におかれましても,全体としてどうかという御感触等をお聞かせいただければと思いますが,いかがでございましょうか。 ○水野(紀)委員 重ねて発言して申し訳ありません。ただ,昔の証言だけでございますが,平成8年の婚姻法改正要綱を議論したときも,寸前に高裁で非嫡出子の相続分の意見が出ましたので,慌てて入れることになりましたが,そのときの議論は今のように完璧に記録が残っている時代ではございませんので,私の記憶で御紹介いたしますと,配偶者の居住権を何とかしなくてはならない,それだけの手当はした上で平等にしようという議論が行われました。   ただ,この評価の問題で,一方ではそれは完全に無償とすべきだという,配偶者であればずっと使用貸借として居住権が在るべきであるという議論に対して,それは余りにも過大ではないかという議論が行われて,そして,過大だという議論は今回,御提案のように本当に市場価値でという算定案が出ました。そうなりましたら,一遍に配偶者に居住権を認めることの意味がほとんどないし,全くなくなってしまうという反対論が出まして,結局,その手当をする間もなく平等化だけを入れるという,そういう議論の流れでございました。   算定をすることによって,市場価値で算定すること,0.8掛けも出ておりますけれども,もっとぐっと低くするということでないと,なかなか,意味はないという当時の議論の流れでございましたので,今回も恐らくそういう反応はきっと出るだろうと,御提案のようだと出るだろうと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。先ほどの論点とは別の論点ですね。分かりました。   ほかにいかがでございましょうか。 ○西幹事 まとまりのない話になってしまいますが,2点申し上げたいと思います。今回,パブリックコメントの中の御指摘にもありましたように,資料では2ページの(2)のアのところにありますけれども,配偶者居住権というものができたために,要らないのに与えられてしまって,かえってほかの遺産,例えば現金などがもらえなくなって困るという配偶者が出てきてしまいますと,配偶者のために作ったはずのものが配偶者のためにならないということになりますので,そういうことがあまりあってはならないと思います。また,以前から指摘されていることのように思いますが,今までは登記簿上は子どもと共有状態でも何となく無償で住めていたのが,配偶者居住権というものができて居住の利益が金銭評価されることによって,かえって配偶者の実質的,実感としての取得相続分という点では切り下げになるということも,あり得る気がします。   他方で,先ほど水野委員の方からも少しお話がございましたけれども,ヨーロッパではそもそも配偶者居住権というものが婚姻成立の段階から離婚のときまでずっと保護されていて,その延長線上に配偶者の死亡による相続のときの居住権というものが出てくるわけです。日本のように離婚のときの居住権の保護などもない中で,急に相続の場面でだけ配偶者居住権の保護というものを入れたとき,果たしてなじむのか,慣れていないのに使いこなせるのかという問題もあるように思います。国民が慣れていない状況の中で,遺言による設定を認めるというようなことになりますと,そもそも,使う方も使い方がよく分からないし,使われる方も分からないということになるのではないでしょうか。ただ,水野委員がおっしゃったように長期的に見ると配偶者の居住権を保護するという方向が求められていると思いますので,何らかの形で過渡的な段階というものを用意できないのかと思いました。   過渡的な段階として適当なものが直ちには思い付かないのですが,例えば今回は遺言による設定なども全て認めるということになっていまして,個人が自由に使える一つの権利を新設するということになりますけれども,そうではなく,例えば配偶者の方から相続人あるいは受遺者に対して請求できる権利を有するというような形で,裁判所によって認められることによって,初めて権利が発生するというような。もちろん,法的には問題があるということはよく分かりますけれども,何らかの過渡的な段階を少し用意していただくという方向は考えられないのかなと思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   弊害が生じないようにという御指摘と,それから,婚姻中も含めて居住の保護を図るという大きな流れの中で,それに向けての制度を考えていただきたいと,こういう御指摘だったかと思います。 ○堂薗幹事 検討させていただければと思いますが,確かにパブリックコメントの意見にもありましたけれども,配偶者の意思に反して長期居住権を取得させるというような事態が生じないようする必要があるというのは御指摘のとおりだと思います。中間試案の考え方ですと,特に遺産分割方法の指定という形で長期居住権の設定がされた場合に,長期居住権部分だけを放棄することはできないということになろうかと思いますので,その辺りについては慎重に検討する必要があるといいますか,そういった事態が生じないような手当を講ずる必要があるのではないかという問題意識を持っておりますが,更に今回の中間試案とは異なる過渡的な制度については,こちらとしてはまだ全く検討できておりませんので,時間も限られておりますが,そういった制度設計が可能かどうかについて検討はしてみたいと思います。 ○沖野委員 確認をさせていただきたいのですけれども,配偶者が長期居住権は不要だというときに,直ちに買取請求というのはできないんでしょうか。 ○堂薗幹事 買取請求権を認めた場合に,その要件をどうするかとかいうことになってきますので,例えば,その取得の当時から事情変更があったことを要件としますと,御指摘の場合は要件を満たさないということになるかもしれませんし,放棄がされた場合に,買取請求権を使うということも考えられるとは思いますが,そもそもの問題として,こういった買取請求権のような重い制度を入れることについては,懸念を示す意見もありますので,そこら辺をどう考えるかということだとは思います。 ○沖野委員 長期居住権の点ですけれども,これを導入するのは生涯の居住確保のためであり,しかも積極的な経済的負担なく,将来の賃料負担とかをせずに,相続の際に,その部分を込みにした形である程度考慮をして,生涯の居住は確保できるという制度を新たに用意するということですので,私はそれは非常に意義のあることだと考えております。パブリックコメントは賛否が拮抗しているということですけれども,反対という中身は,むしろ問題点というか,もう少し,この辺りを配慮できないかということで,乗り越えるのがおよそ困難ではないのではないかと,もう少し,検討してはどうかと思っております。   それから,持分を認める形で共有にする方が望ましければ,それは,それが排除されるわけではありませんので,そういった現在利用可能なものに加えて,もう一つの道を用意するということで評価していくべきではないかと思います。そういたしますと,問題として残りますのは,遺言で遺産分割方法の指定として,これが使われたときです。今までこういう制度がなければより明確なといいますか,持分になっていたか,あるいは何ももらえないかだと思うんですけれども,そのときの問題とされる点については,例えば買取請求権の制度を工夫することによって,不要であるなら直ちに消滅させると,完全な所有権にしてしまって一定の経済的対価で清算するということがあり得るのではないか。   これ自体は確かに長期居住権を入れたことによって,長期居住権なんて要らないのにというので一つ要らないものをもらう可能性が増えるのはそうですが,それは他の不動産ですとか,物でも同じ状態で不必要なもの,本当は欲しいものではないものが来たときに,何らかの手法,その後の交渉なり,あるいは第三者への売買により換価してしまうなどといった手法が後に控えているというのが今でもあるんだと思いますので,それに近いような制度を用意することで緩和できるのではないかと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほか,いかがでございましょうか。 ○潮見委員 私も沖野委員がおっしゃったところと基本的に同じことを考えておりました。長期居住権という制度を設けるということについては一つの選択肢が加わるわけですから,積極的に使いやすいように制度化する方向へ向けて進んでいっていただければと思うところです。恐らくいろいろ疑問が出ているのは,私が理解している限りでは,一般の市民の方々に対する情報が不足しているといいますか,この制度を使った場合に,どういうふうな形で遺産分割がされ,それぞれがどういう遺産をどのぐらい取得するのか,長期居住権とは異なる構成,例えば共有構成や,あるいはリバースモゲージという手法を採った場合にどうなのかというようなことを,遺留分減殺でおやりになったように,こういう枠組みで,このような例であるとこうなる,別だとこうなりますという形で示すと,普通の方にも分かりやすいようなものをお示しするのがいいのではないかと思うところです。   それと併せてといえば,ここから先が質問を兼ねてなんですけれども,そうなりますと,先ほどから問題になっている基本的な財産評価方法というのがかなり大きな意味を持ってくると思うんです。水野委員がおっしゃっていることにも関わるのですが,この数式は基本的に財産的な価値というものを前提として立てておられる。それはそれで相続人間の遺産の公平な分割というところでは意味を持つのかもしれませんけれども,公平というところにそうした財産的な評価だけで全てを盛り込んでいいのかというところもありますと同時に,ここからが質問なのですが,この式というのは家庭裁判所の審判における裁判官を拘束する,そういう公式として想定されておられるんですか。それとも,これは一つの指針といいますか,ソフトロー的なものであり,今回,算定式が分からないとか,こういう算定方法の提案をしたいとかいうような意見があったものだから,それを踏まえて,そのような指針的なものなるものという趣旨で立てられているものでしょうか。   併せて1点,お願いなのですが,これとは全く別件ですけれども,長期居住権を審議される際に,できれば早い時期にどういうふうな形で登記がされるのか,あるいは登記制度というものがどうなるのかというのを示していただければ有り難いなと思っているところで,最後は,お願いでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   一番最後の点はメニューを一つ付け加えるとして,そのメニューの中身を明らかにせよという御意見の一環として伺うということにしまして,御質問があった点についてお願いします。 ○堂薗幹事 その点につきましては,潮見委員が言われた後者の方で考えておりまして,当然,この数式のようなものを何か法令で規律するとか,そういうことは一切考えておりませんが,こういった見直しをする以上,事務当局としては基本的にこういうことを想定しているという基本的な考え方は,お示しする必要があるのではないかということでございます。最終的には,審判などで争いになった場合には,鑑定等に基づいて裁判所が判断するということになろうかと思っております。 ○水野(有)委員 今の件について,そういうお考えであればお聞きしたんですが,最終的な判断を裁判所でするためには,時価でいいかどうかは決めておいていただかないと,時価となると,結局,取引でどのように評価されそうかということの予想になってしまいますので,例えばこういう算数になりますと挙げているものが時価とかけ離れた場合,裁判所はどう考えていいのか,それとあと,水野(紀)委員もおっしゃったようなこの制度の趣旨自体をむしろ無償で配偶者を保護するという面もあるということも考慮するとなると,全くきっと評価方法は変わってくるのではないかと思うので,裁判所は多分,何か方向性が決まれば,それとか条文とかで決まれば,それを前提として判断は多分できる,ないしはさせていただくのだろうと思うのですが,方向性がもしいろいろな方向を向いているものがいろいろ出ているものを判断するとなると,なかなか,難しい面も持っているということも御理解いただいた上でお考えいただければなと思いますので,よろしくお願いいたします。 ○堂薗幹事 御指摘の点は,長期居住権の制度趣旨をどう捉えるかというところによるように思われますが,先ほど水野(紀)委員から御指摘がありましたように,今回お示しした考え方というのは,純粋に長期居住権について賃貸借と同じように適正賃料額を出して,それで評価を決めるというものでございますので,長期居住権なので少し減価をするとか,そういったことは考えておりません。したがいまして,通常の適正賃料額について争いになった場合に,評価をしていただくものと同じような形で評価をしていただくというのが,こちらとしては想定しているところということになります。 ○水野(有)委員 今の点で,水野(紀)委員の御意見に関するコメントは理解できたのですが,多分,時価評価になりますと一般的にはリスクがあると下がるのだと思います。ですから,今は時価評価という御見解,そうだとすると,正直,両方が下がると,それだけを別々に評価すると,全体評価とそれぞれ別個に評価したものの和が変わるということがもし本当の時価だと生じうるような気もするのですが,その辺りについては。 ○堂薗幹事 その辺りは先ほども石栗委員の方からも御指摘がありましたが,そういう面があることは間違いないんですけれども,現段階でこちらで考えているのは,そこのリスクは評価をしないで計算をせざるを得ないんじゃないかというものです。ただ,そこは今後,パブリックコメントの結果を踏まえて,どういった場合に長期居住権の設定を認めるかという辺りを考えていきたいと思っているんですが,それとの関係で場合によっては問題点が少なくなるような形にもなり得るのではないかと思います。御指摘は非常によく分かりますので,その辺りも含めて検討させていただければと考えております。 ○水野(有)委員 ありがとうございました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   技術的な評価の問題と,それから,一定の幅がある場合に,方向付けの原理みたいなものがあるのか,ないのかというようなことが話題になっているかと思いますけれども,その点でも結構ですし,他の点につきましても更に御意見があれば伺いたいと思います。 ○中田委員 パブリックコメントに対する回答の傾向というか,御質問なんですけれども,そもそも,どうして配偶者の居住権を保護するかということの理由として,高齢の配偶者の保護とか,配偶者の潜在的共有持分の保護とか,夫婦の同居義務の延長とか,使用貸借の拡張とか,いろいろな説明の仕方があると思うんですけれども,理念についての意見というのはあったでしょうか。 ○大塚関係官 その点については,出された御意見の趨勢を網羅的に申し上げることは,現時点では難しいところがございますが,中間試案のように婚姻の予後効のような形で根拠付けることについて理解を示す意見もあった一方で,また,別の考えを提示されることもありましたし,更には,離婚法制も含めて手当を考えるべきではないかといった大きな視点からの御意見もありましたので,それは様々な御意見があったということになろうかと思います。 ○大村部会長 中田委員,よろしいですか。 ○中田委員 ありがとうございました。 ○浅田委員 まとまった考え方はないわけですけれども,本件にも関係しますし,ほかのものにもそうですけれども,このような制度設計を考える場合に,この制度を立案したときに,それが社会生活ないしは家庭生活にどういう影響を及ぼすのかということを考えておかなければならないと思いました。先ほども,この制度が導入されたときに,いつ,どうすればいいのかというようなことの意見がありました。私も個人としては非常にその必要性を賛同するものであります。   例えばこの長期居住権というのは,要件として分割協議とか遺言とか,贈与契約ということがありますので,そういう要件を満たす限りにおいて派生する選択肢が増えるという,そういうものであるわけです。なお,決して一概に押し付けられるものではないとは理解しておりますが,ただ,沖野委員からもありましたように,遺言という場合には一定,押し付けられるということもあり得,ただ,それを買取請求権でどうまた補填するかというふうなこともあろうと思います。   そういう制度の選択肢があるとして,それぞれの選択肢に対して人々がどのように向き合うのか,又は技術的な又は具体的な工夫としてどういう対応をするのか。例えば遺産分割協議をするにしても,例えばその人の生活パターンからすると,多分,5年後には老人ホームに入るから全部は要らないとかいうふうなパターンもあろうと思います。そういうのが認められるのか,認められないのかとか,そうした場合の評価がどうなのかということもあろうかと思います。そういう選択肢を一度,概括して見てみた上で,それで,人々の生活がどのように変化するのか,それが制度の理念と整合するのかどうかというようなことが求められているのではないかなと思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   買取請求権をどうするのかということで,大分イメージが違いますでしょうし,それから,適用範囲,どのような場合に限るのかということでも違ってくるかと思います。それを全て組み合わせて,こうなるというのを提案するのはなかなか難しいところがございますけれども,幾つかのパターンを定めて,制度イメージというのをもう少し明らかにし,影響をはかってはいかがかというのが複数の方の御意見かと思いますが,そのほかに何か御意見はございますでしょうか。事務当局の方はよろしいですか。   それでは,第1点につきましては,今,頂きました御意見を踏まえまして,今後の議論の基本的な方向性を次回以降に改めてお示しいただき,具体的な御提案を頂くということにさせていただきたいと存じます。   この第1点につきまして,すなわち「配偶者の居住権を保護するための方策」につき,今までの議論とは別に何か特に御発言しておきたいということがございましたら伺いますけれども,よろしいでしょうか。   では,第1点につきましては今のように進めさせていただくということにいたしまして,第2点の「遺産分割に関する見直し」に進ませていただきたいと存じます。資料でいいますと4ページになりますけれども,この部分につきまして事務当局から御説明を頂きます。 ○下山関係官 それでは,関係官の下山から「第2 遺産分割に関する見直し」について御説明させていただきます。   まず,パブリックコメントの結果についてですけれども,「1 配偶者の相続分の見直し」について,そもそも,配偶者の相続分を引き上げる方向で見直すことについて,その立法事実が明らかでないこと,被相続人の財産形成に貢献し得るのは配偶者だけではなく,配偶者の相続分のみを一律に増加させることは相当ではないこと,一律に配偶者の相続分を引き上げるのではなく,遺言や寄与分制度など,他の方法による方が妥当であることなどを理由として反対する意見が多数を占めていると,こういった状況でございます。   また,甲案,乙案の個別の提案につきましても,いずれも賛成意見よりも反対意見の方が多数という状況でございます。   まず,甲案につきましては,夫婦が別居している場合など配偶者の具体的な貢献が認められない場合であっても,被相続人の純資産額が増加していれば,配偶者の具体的相続分が増加するなど,この制度は,配偶者の貢献を実質的に評価して,相続人間の公平を図る制度には必ずしもなっていないという,こういう御指摘がございました。加えて,婚姻後増加額の算定が極めて困難であり,特に配偶者以外の相続人が適切にこれを主張・立証することは,事実上不可能ではないかといった御指摘や,婚姻後増加額の算定をめぐって紛争が極めて複雑化,長期化するおそれがあることなど,実務上の問題点を指摘して強く反対するという意見が多数寄せられております。   次に,乙-1案についてでございますが,こちらは当事者の意思を根拠とする点において合理的であるとの御意見も頂きましたが,他方で,届出の有効性について被相続人や配偶者の意思能力の有無が問題とされ,紛争が複雑化・長期化するおそれがあること,また,当事者の意思によるのであれば,遺言や相続分の指定など現行の制度によれば十分であること,この制度によりますと,各相続人の債務の承継割合も変化するため,相続債権者に予期せぬ不利益を与えるおそれがあることなどを理由として,これも反対する意見が多数を占めている状況でございます。   最後に,乙-2案につきましては,簡明であるということで中間試案において御提案した三つの方策の中では最も賛成する意見が多かったものですが,一定期間の経過のみを要件としているために,夫婦関係が破綻しているなど配偶者の貢献が認められないような場合であっても,配偶者の法定相続分及び遺留分が増加することとなり,相続人間の公平を害するという御意見がございました。また,このような結論を回避するために適用除外事由を設けるということになれば,この案の利点であった簡明性が減殺されてしまい,紛争の複雑化,長期化を招くことにもなると,こういった点から反対する意見が多数という状況でございます。   なお,第2の1の(2)の(注3)において,配偶者が兄弟姉妹とともに相続する場合には兄弟姉妹に法定相続分を認めないものとする考え方を提案しておりますが,この考え方につきまして,賛成する御意見も複数頂いてはおりますが,兄弟姉妹の法定相続分を一律に否定する必要はなく,遺言によって全財産を配偶者に相続させることも可能ではないかといった御意見や,仮にこのような場合に兄弟姉妹に法定相続分を認めないこととすると,それぞれ兄弟姉妹がいる夫婦が順次死亡した場合に,夫婦のうちの後に死亡した者の兄弟姉妹が夫婦の全遺産を相続するという結果になってしまうが,これは不当ではないかということで,反対する意見も複数といった状況でございました。   今後の方向性についてでございますけれども,このようにパブリックコメントにおきましては,中間試案の考え方の基本的な部分や制度設計について,根本的な疑問を呈する意見が多数寄せられたところでございます。したがいまして,中間試案の方向性自体についてもなかなか国民的なコンセンサスが得られているとは言い難い状況にあると,また,賛成する少数の御意見の中でも,中間試案において御提案した甲案,乙案の各方策のいずれが妥当であるかというところについては意見が分かれていると,こういった状況になっております。   配偶者の相続分の見直しというのは国民生活に与える影響が極めて大きいことからすると,この法改正を行うためには,内容について国民的なコンセンサスを得ることが不可欠であろうと考えられます。しかしながら,パブリックコメントの結果を見ますと,今後,この点について検討を進めたとしても,なかなか,国民的なコンセンサスを得るということは難しいのかなという状況にあると考えております。今回はこの点についての皆様の御意見を頂戴できればと存じております。   次に資料の7ページ,「可分債権の遺産分割における取扱い」について御説明いたします。パブリックコメントにおきましては,可分債権を遺産分割の対象とすることに賛成する意見が大勢を占めておりまして,積極的に反対する意見は見当たりませんでした。他方,遺産分割の対象となる可分債権に預貯金債権以外の債権を含めることについては,相続人間の公平を理由として賛成する意見も複数寄せられましたが,これを肯定してしまうと,調停が複雑化,長期化するおそれがあるとして,反対する意見の方が多数でございました。なお,この点につきましては,預貯金債権以外にも例えば契約に基づく債権については遺産分割の対象に含めるべきであるとの御意見も頂戴しております。   次に,遺産分割終了までの間の可分債権の行使を原則として認めるか否かについて,これを認める甲案と認めない乙案との間では賛否が拮抗した状態でございます。   甲案に賛成する意見は,相続人の資金需要に柔軟に対応することができること,当該相続人の具体的相続分を超える権利行使がされた場合には,遺産分割の際に調整すれば足りること,乙案において検討されている仮払いなどの制度を適切に設計することができるか疑問があることなどを理由とするものでございます。他方,乙案に賛成する意見は,遺産分割における処理が簡明になり,債務者の負担も軽減されること,甲案では遺産分割前に可分債権を行使した相続人の無資力の危険を他の相続人が負担することになって相当でないこと,甲案を採用した場合には仮処分の制度を設ける必要があるが,保全処分において具体的相続分を疎明するのは当事者にとって負担が重いことなどを理由とするものです。その他,現時点においては,甲案,乙案のいずれに賛成するとも言い難いが,いずれにせよ,制度を設計する際には債務者や相続人などが不当に不利益を受けることがないように慎重な検討が必要であると,こういった御趣旨の御意見も複数頂いております。   なお,乙案を採用することとした場合には,仮払いの制度を設ける必要があるとの意見が多数を占めておりますが,具体的な制度設計については様々な御意見が寄せられているというところでございます。また,この点に関して,預貯金管理者の制度につきましては,これに賛成する御意見も複数頂いた一方で,この制度は預貯金管理者本人や当事者などにとって負担が大きいなどとして,反対する御意見も複数寄せられました。なお,この論点につきましては,現在,被相続人の預金債権が相続の開始により当然に分割されるかどうか,この点が正に争点となっている事件が最高裁大法廷に係属していることから,具体的な制度の枠組みについては,最高裁の当該判断を踏まえた上で検討されるべきではないかと,こういった御意見が複数寄せられております。   そこで,今後の方向性についてでございますけれども,パブリックコメントの結果によれば,可分債権のうち,少なくとも預貯金債権については,これを遺産分割の対象に含める方向で検討を進めることが相当であると考えられるところです。他方,遺産分割の対象となる可分債権に預貯金債権以外のものを含めるか否かについては御意見が分かれており,また,可分債権の範囲を一定の範囲に限定するとしても,その対象を預貯金債権だけに限るのは相当でないと,こういった御意見も寄せられております。このようなことを踏まえると,遺産分割の対象に含める可分債権の範囲については,引き続き慎重に検討を進める必要があるものと考えております。また,遺産分割終了までの間の可分債権の行使の可否につきましては,甲案に賛成する御意見と乙案に賛成する御意見とが拮抗しており,それぞれについて問題点の指摘がございました。このような点を踏まえますと,現時点において,その方向性を一方に定めるということは難しいのかなと考えております。   以上によれば,今後はパブリックコメントで指摘された問題点を中心に,更に検討を進めることが相当であると考えております。もっとも,中間試案の考え方は預金債権等の可分債権が相続の開始によって当然に分割されるという現在の判例の考え方を前提としているところ,先ほど申し上げた現在最高裁大法廷に係属中の事件における最高裁の判断は,この部会における議論の前提に影響を与える可能性がございます。こういった点を考えると,この論点につきましては,最高裁の当該決定を待った上で,その内容を踏まえて検討を進めるのが相当であると考えられますが,この点についても皆様の御意見を頂戴したいと存じております。   次に資料の9ページ,「一部分割の要件及び残余の遺産分割における規律の明確化等」について御説明いたします。一部分割の要件の明確化につきましては,現行の実務において行われていることを明文化するものであって,争いのない部分を優先的に解決することで紛争の早期解決につながるとして,賛成する御意見が多数を占めております。もっとも,一部分割の要件を民法上,明記いたしますと,預貯金など資産価値のある遺産のみについて遺産分割がされ,他の遺産は放置されることも考えられ,一部分割が濫用されるおそれがあるなどといった実務上の問題点を指摘する意見も複数寄せられております。   残部分割における特別受益及び寄与分の取扱いに関する規律,これは中間試案本文(1)の②から⑤までの規律ですが,これにつきましては,当事者に将来の残部分割における特別受益と寄与分にまで配慮して遺産分割協議をすることを期待することは困難であることから,特に③と⑤について,これに反対する御意見が多数を占めておりますが,残部分割における調整を例外的なものとするという中間試案の考え方については,賛成する御意見も複数ありました。   遺産分割の対象財産に争いのある可分債権が含まれる場合の特則,本文の(2)ですが,これにつきましては紛争の早期解決に資するとして賛成する意見が多数を占めております。ただ,このような審判をしても,争いのある点について結局は民事訴訟により解決が必要となるのであるから,余りメリットはないのではないかなどとして,反対する御意見も複数寄せられている状況です。また,これらの特則につきましては,可分債権の遺産分割における取扱いと関連するものであって,遺産分割の対象に含まれる可分債権の範囲を預貯金債権に限定することとした場合には,事実上,この特則を活用すべき場面は少なくなるのではないかといった御意見も寄せられております。   今後の議論の方向性についてですが,この論点について積極的に反対する御意見が少なかったことなどを考えますと,今後も中間試案の考え方を基本としつつ,パブリックコメントで指摘された問題点などを中心として検討を進めるのが相当であると考えております。特に一部分割がされた場合における特別受益や寄与分の取扱い,これにつきましては各種の問題点の指摘がされているところ,今後も慎重に検討する必要があるものと考えられます。   なお,この論点につきましては,可分債権を遺産分割の対象に含めることとした場合に,遺産分割をめぐる紛争の長期化・複雑化を回避するための一方策として検討されてきたという経緯から,可分債権の遺産分割における取扱いと密接な関連性を有していると考えております。そのため,この論点につきましても,可分債権の取扱いに関する最高裁の決定を待った上で,検討を進めるのが相当であると考えられ,この点につきましても御意見を頂戴できればと存じます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   第2の「遺産分割に関する見直し」につきましては,ただいま御説明いただきましたように三つの項目に分けて検討しております。そのうちの1の「配偶者の相続分の見直し」につきましては,複数の案を提示いたしましたけれども,どれに対しても反対が多かったというお話でした。それから,2,3につきましては基本的な考え方については賛成が多いが,ただ,2の場合には対象の範囲,それから,甲案,乙案という選択肢のうちのどちらを採るかということについて意見が拮抗しているということでございました。この2と3につきましては,最高裁の決定が待たれるということでもあり,それを見てから更に検討したいというのが事務当局の御説明であったかと思います。   三つございますけれども,性質上,2と3が関連いたしますので,まず,1につきまして御意見を伺いまして,その後,2と3につきましてまとめて御意見を伺うということにさせていただきたいと思います。まず,1の方につきましてお願いいたします。 ○沖野委員 むしろ,質問です。1についてはいずれの案についても反対の方が多かったというおまとめなんですが,総論賛成,各論反対ということなのか,つまり,配偶者の相続分を広げるようなルートあるいはその具体的な財産状況などを反映するようなルートなりを入れるという,見直しの必要性はよく分かる,しかし,技法としてはいずれも難があるということなのか,そもそもの点でそのような必要はないという意見なのか,それはどうでしょうかというのが一つです。   もう一つは,甲案ですけれども,甲案の最大の問題として指摘されているところは,実務上の問題点とされる婚姻後の増加財産の評価の仕方が非常に難しいと,それがかえって紛争を招き,紛争自体を長期化させるという御懸念が一番,ここでも示されています。私もその点は問題だろうと思っており,取り分け,一方当事者が亡くなっていますので難しいと思うんですが,他方で,同様の制度はほかの国でも採用しているものがあると伺っていますので,他国ではどうしているのだろうか,そのような問題を解決する方法があるならば,甲案の問題点はかなり減殺されるということがありますので,例えばパブリックコメントの中で,こういった方法があるというような御示唆なりはなかったのだろうか。それから,更に言うと,諦めるにはもう少し考えてからの方がよろしいのではないかというのは,今の点から思っているところであります。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○下山関係官 第1点の御質問に対するお答えですが,まず,そもそもの総論として配偶者の相続分を見直すという方向性自体について反対という御意見の方が多いという状況でございます。というのは,立法事実がそもそもないのではないか,例えば昭和55年に配偶者の法定相続分を引き上げましたけれども,その時点から比較して,更に現在,また,引き上げなければならないという事情が本当に何かあるのかといった御意見や,本当に配偶者が一律に財産の形成に貢献していて,それを相続分に反映させなければならないといった事情があるのかといった御意見,また,このように配偶者の相続分だけを見直すということは,時代のすうせいに逆行しているのではないかといった御意見などで,そもそも,配偶者の相続分を上げるという方向性自体について反対であるという御意見が多数という状況でございます。また,先ほど申し上げたように各論自体についても,いずれについても賛成よりも反対の方が多く,また,甲案,乙案のいずれについても反対であるという御意見も多数であったと,こういった状況になっております。御質問の2点目につきまして,甲案については,例えば計算方式が複雑ではあるけれども,例えば一定の計算,エクセルとか,そういった計算表のようなものを配布するといったことで対応があるいは可能なのではないかという御意見はありました。ただ,諸外国の法制と比較した上で,できるのではないかという御意見まではなかったように記憶しております。 ○大村部会長 沖野委員,よろしいでしょうか。 ○沖野委員 本当は自分で調べなければ,あなたはどういう資格でここに来ているのかと問われそうなのですけれども,何かエクセル表の中には,これとこれは婚姻後に増加したものだということが分かるものだけででも対象として算出するとか,そんな方法があるのかなと素人的には思ったのですが,調べた方がいいのではないかなと思います。総論のところで非常に反対が大きいとすると,それは一層問題だと思います。ただ,総論も甲案と乙案とでは少し総論的な方向も違う面がありますので,もう少し考えてはどうかというのが基礎にあるものですから,今のような質問になりました。 ○大村部会長 沖野委員,今の甲案と乙案とでは方向が違うということと,先ほどのもう少し検討した方がいいというのは,どちらかというと,甲案の方向でなお考えてみた方がよろしいのではないかと,こういう御趣旨でしょうか。 ○沖野委員 パブリックコメントの中身を見ますと,その辺りであればむしろ家族制度の在り方として,受け入れられる余地があり得るように思ったものですから,私は従来は必ずしも甲案に賛成していたというわけではないのですけれども,見いだすとしたら,その辺りはまだあるのかなという感覚を持っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。御意見として承ります。   そのほかにいかがでございましょうか。 ○潮見委員 配偶者の相続分を見直せという立法事実はないのかもしれませんが,ただ,今回の諮問等では幾つかの意見にも出ていますし,正にここの部会でもいろいろ議論してきましたけれども,婚姻中の夫婦が共同で形成した財産というものについて,それをどのように相続の場面で処理するのか,現行制度はそれをきちんと反映していないのではないか,何とかしなければいけないのではないかという立法事実はあったのではないかと思います。また,配偶者が高齢になって,その配偶者にとっての生活保護という要素を相続制度の枠組みの中で考慮しなければならないのではないかという立法事実もあったのではないかと思います。   特に後者は先ほどの長期居住権等にも関わってまいりますが,そうなってきた場合に相続分の引上げということについてはやめましょうと,甲案も乙案もやめましょうというのは,いかがなものでしょうか。ここでこのように決断するのは,それはそれで構わないとは思いますけれども,当初議論の出発点になった事柄について,今回の相続制度の見直しを考える場面で何も対応しないということで大丈夫なのかなと思います。例えば,先ほどの夫婦共同財産の清算という辺り,あるいは婚姻後の増加分の考慮というようなことを別の枠組みで何らかの形で考慮していくような方向にルールを持っていくことはできないのか,例えば遺産分割の際の考慮要素としてでも,せめてこういうことも考慮要素,しかも重要な考慮要素として入れるという辺りを書き込むとかできないのでしょうか。あるいは,高齢配偶者の生活保障ということが問題になるということであるのならば,先ほどの夫婦共同財産の清算もそうなのですが,相続分の引上げなんてよろしくないと言っている意見を拝見したんですけれども,そこでは,寄与分制度の見直しで対応するのがいいのではないかとか,あるいは寄与分制度の枠の中で考慮できるのではないかというふうな意見も出ているものですから,寄与分制度について今回の中間試案のところでは全て落としましたけれども,むしろ,第1ラウンド,第2ラウンドで議論してきたような,そういう方向を何らかの形でいかす観点から考えていくということも,ある意味では今回の諮問に対するお答えということではあってもいいのではないかと思います。   もちろん,それを踏まえて現行制度も例えば寄与分とか,遺産分割の基準ということで十分であるということであるなら,それをそれとして,この部会として示せばいいことでありますから,落としてしまうのは惜しいというのはありますけれども,落とすのであっても,せめて,その部分については検討をお願いしたいなと思うところです。 ○堂薗幹事 御指摘を踏まえて検討させていただければと思います。こちらとしても中間試案で挙げた甲案,乙案を基本的にそのまま維持するような形で要綱に盛り込むというのは,難しいのではないかというのがまずありまして,正直,ここの論点について検討している過程で,我々としては万策尽きたという印象を持っておりましたが,今,いろいろ御示唆も頂きましたので,その辺りを踏まえてもう一度,検討させていただければと思います。どうもありがとうございました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   最後の方で出た何らかの方策につきましては,この問題もそうですし,それから,先ほどの長期居住権の問題についても併せて,何らかの方向性を示すことがなおできないかということについて,事務当局でさらに御検討いただければと思います。 ○八木委員 要望という性格の方が強いのですけれども,配偶者の相続分の引上げという部分は,先ほどの居住権の部分の保護とあいまって,多分に政策誘導的な性格が強いのだろうと思います。すなわち,婚姻制度の優位性をどう強化していくのかという部分だと思うのですけれども,現在の社会情勢からすると,婚姻制度の優位性は更に強化して保護する方がいいのではないかという立場なのですが,ただし,大変厳しい評価が多いものですから,何とか骨格でも残していただけるような,あるいはせめて居住権の部分だけでも残していただくような,そういった工夫を是非,お願いしたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   御意見として承り,検討していただきたいと思います。   そのほか,いかがでしょうか。 ○西幹事 先ほどの潮見委員のお話にもありましたけれども,立法事実があることは否定できないと思いますし,今回の立法の理念自体は私は非常に正当なものであると考えます。配偶者の婚姻中の貢献の考慮と,死後の生活保障,この二つの理念については恐らくパブリックコメントで今回,反対と言われた方の中でも多くの方は,その重要性は理解されていると思います。ただ,それを相続という場面において行うことが適当かという問題意識を持っている方が多いのではないでしょうか。今回,パブリックコメントの女性,男性の比率は分かりませんけれども,私は女性ですので女性という観点から見ましても,最近の立法の方向性には疑問も感じます。   まず民法学者として申しますと,疑問の1点目は外国法との比較という観点です。恐らく今,日本の配偶者相続権は諸外国の中で最も強力,最も手厚く保護されていると思います。夫婦財産制との関係がありますので,全体として見ると最終的な実質取り分はそれほど多くないのですけれども,日本の民法はパンデクテン方式ですので,夫婦財産制と相続が近くにない構造になっています。相続の部分だけを見ますと,日本は異常に配偶者相続分が大きい国ということになりますので,そういう観点からも相続分をこれ以上,引き上げるということは避けた方がよい気がいたします。   2点目は,女性としてどう思うかということですけれども,今回の法案で配偶者を保護するのはどういう方法かというと,夫より長生きしなさい,長生きした結果,こんなにたくさんもらえることになるんですよ,夫より先に死亡した場合は報われませんけれども,と恐らくこういうことになるのだと思います。実際,一般的には女性の方が長生きですので,一応妻の保護にはなると思いますけれども,それで保護されるのは主に配偶者の老後の生活保障の部分だと思います。婚姻生活中の貢献というのは,死なないと評価されないものなのか,という疑問は残ります。配偶者が生きている間には評価されず,死亡したときに初めて評価されるということになりますと,妻としては配偶者が死んだときに自分も高齢になっているのに,そのときに大金を与えられても,正直,使いにくいかもしれません。   それよりは,むしろ婚姻中に何らかの形で自分の自由に使える,夫の許可を得ないで使える財産を与えられた方が有り難く,保護されていると感じるのではないでしょうか。これは,今回の相続法制の見直しの枠の中の話ではないと思いますけれども,例えば現在,配偶者に与えられている2,000万円の贈与税の控除額をもう少し増やすとか,何らかの形で生前の財産移転というものを促してもらった方が,女性の立場からしてみれば有り難いと感じます。   それとも関係しますけれども,3点目です。日本では,何かにつけて女性の保護とか,配偶者の保護と言われると,すぐ相続分を上げればよいという形で,何でも相続に持ってこられる傾向にありますけれども,それを続けていると,今回は昭和55年改正から30年以上たっていますけれども,更に30年後には,今度,配偶者の相続分も5分の4にしようかという話になるのかもしれませんので,これ以上,いつも相続で何とかしようというのは,そろそろ,見直した方がよいのかなという気がいたします。 ○大村部会長 ありがとうございます。   配偶者の権利,利益を保護するというところは,原理として多くの支持は得られるであろうけれども,しかし,それをどのように実現するのかという方策で考えたときに,相続法の中で処理するのには限度があるだろうという御意見だと伺いました。   ほか,いかがでございましょうか。 ○沖野委員 西幹事に伺いたいのですが,相続分をこれ以上,引き上げる必要はないということと,それから,むしろ,婚姻法制を含めた検討の方が,あるいは婚姻法制の方での検討が望ましいというときに,先ほど申しましたように甲案と乙案では大分,問題意識は共通するとしても技法の方向が違うということで,甲案の方は西幹事がおっしゃるような関心に近い面を持っているのかなと思いながら伺っていたのですけれども,そういうことはないのでしょうか。 ○西幹事 私がお答えすればよろしいのでしょうか。 ○大村部会長 お願いします。 ○西幹事 そうかもしれません。ただ,甲案は実際上難しそうでも,財産分与の応用版としてやるのであればできないわけではないという御指摘はもっともだと思いますが,個人的には少し煩雑すぎるかなと…。私が先ほど申し上げたのは何か新しい法制を作るということであれば,かなり労力が掛かりますので,むしろ,贈与を行いやすくして,配偶者へ贈与すると税制面で優遇しますよとか,そういう現行民法の大きな枠組みを動かさず,少し柔軟性のある制度で生前の財産移転を促すということを考えてもよいのではないかということです。 ○大村部会長 沖野委員の御趣旨は,甲案は夫婦財産制の清算なので,婚姻法のレベルでの問題がたまたま相続法制に入っているということにすぎないのではないかという御指摘だったと思います。   乙案も先ほど沖野委員から御質問が出ましたが,外国法制がどうかという問題はありますけれども,夫婦財産制の清算について相続分の増加という簡易な方法を採用している国もありますので,それは理屈の上ではあり得ると思います。ただ,西幹事がおっしゃっているのは,相続法がどこまで夫婦の財産関係を背負うことがよいのかを考えなければならないという御意見だと伺いました。   ほかにこの点につきまして。 ○山田委員 西幹事の御意見に賛成の部分が多うございます。夫婦財産制と相続でどのように配偶者が貢献も含めて確保するかというのは,セットで抜本的に時間を掛けて検討していただければ幸いだと思っております。   もう1点,西幹事が御指摘された中で私も非常に共感するのは,我慢して頑張っていれば相続のときに報われるからねというのは,これはおかしいのではないかと思います。生前,夫婦で話し合って,あるいは介護等の問題についても家族兄弟間で話し合って,こう分担しましょうという中で,それぞれが納得して応分の分担をしながら前向きに生活していくのが望ましいのだろうと思います。相続のときに報われるからねというのは,ふたをあけてみないと分からないことであり,なおかつ,その時点では自分も高齢で,相当,エネルギーの枯渇しているというような状況です。家族の中で親族間で話し合って物事を解決して,合意の中で推移してきた事柄であれば,ある意味,契約法理等で解決でき,相続の法で手当てしなくてもいいというような問題も多かろうと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   西幹事の御発言について事務当局の方から御発言があるということですので,どうぞ。 ○神吉関係官 西幹事にお伺いしたいのですが,御発言の御趣旨は相続ではなくて,贈与の方で処理できるような法制も考えるべきではないかという御発言だったと理解しております。ただ,生前贈与につきましては特別受益であるということで,遺産分割の場面で持戻し計算をされることもあろうかと思います。現行法のもとで贈与の方に誘導していく政策として,先ほど西幹事からお話がありました相続税法における贈与税の特例というものがあるかと思いますが,これは20年以上の夫婦の場合については居住用不動産の持分又は全部を贈与した場合には,2,000万円の控除があるという制度であろうかと思いますが,具体的にお伺いしたいのは,そういった贈与税の特例などを使った生前贈与があった場合については,遺産分割の場面で持戻しの免除の黙示の意思表示があったと,そういった形で理解できるのかどうかという点をお伺いできればと思います。そこが,持戻しの免除の黙示の意思表示があったとは理解できないとすると,最終的な遺産分割の場面で,修正されてしまって,最終的な取り分がなくなってしまう,生前贈与するメリットが余りなくなってしまうのかなという気がするのですが,その点についての民法の考え方というのがどうなのかなというのが,私も判例とかを調べてみたのですが,余りなさそうなので,一般的にどう理解したらよろしいのか,お伺いできればと思います。 ○大村部会長 何かあれば。 ○西幹事 持戻免除の意思表示があったとみなすというのは可能なのではないかと思います。そこに,例えば10年以上の夫婦の場合は,などの条件を入れることも可能かもしれません。配偶者に贈与するときは持戻免除の意思表示を必ずするようにというアドバイスをすることもできると思います。そうすることによって,遺産分割の場面で修正されてしまう可能性を減らすことはできます。残る問題は恐らく遺留分のところで出てくる問題で,持戻免除があっても遺留分算定のときには算入され,減殺の対象になり得てしまいますので,それを避けたければ,例えばフランスのように,配偶者のために特別の自由分を設けることも考えられます。配偶者に上げた場合には,遺留分算定の基礎から除き減殺されないというような制度にすることも考えられます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   この第1点は大分長くなりましたけれども,ほかに何か。 ○潮見委員 直前の山田委員の御発言,西幹事にも絡んでくるのかもしれませんけれども,一言だけ申し上げたいことがあります。おっしゃることはごもっともだと思います。話合いで生前に解決するということができ,また,そこに契約法理というものが機能するというのは非常に望ましい世界だと思います。問題は,生前にそのような取決めとか話合いとか,いわゆる契約なるものがうまくいかなくて,それが相続の世界になだれ込んだときに,そこで配偶者あるいは法律婚をどのように保護するのか,どの程度,保護するのかにあって,このことが正に問われているのではないかと思います。その問題を抜きにして,生前の問題としてこれを処理するのが望ましいというだけでは,この問題は私は話がつかないと思います。   確かに,生前の問題と,それから,相続の制度の枠組みを全体的に考慮して,全体的にいい形で処理するというのはこれでいいと思うんですが,ただ,今,申し上げたようなところで考えていました場合には,生前の問題も含めて議論しましょうということになると時間は掛かりますし,時間を掛けて慎重にやればいいのかもしれませんけれども,問題は現在の時点でも一杯生じているわけであって,それを処理するための相続制度という枠組みをどのように考えるのかということ自体は,私は独立に取り上げることに値するものではないかと思うところでございます。   そうした中で,配偶者の相続分をどうするかという形で扱うのはちょっと変であるとか,誤解を招く,あるいは比較法的に問題があるというのは,それはそれとしてわかりますが,今回の諮問は相続制度の中でいかにそれをルールとして構築していくかというところを考えているわけでありますから,まずは相続制度の部分について意見を出し合っていくというのが個人的には望ましいのではないかと思う次第です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   相続法の中で何ができるのか,やるべきことがあるのではないかということをこの場では考えるべきではないか。より大きな問題は様々な形で残ると思いますけれども,やれることからやるべきではないか。こういう御意見だと承りました。   ほかに,この第1点につきまして,いかがでしょうか。山田委員,何か御発言はございますか。 ○山田委員 潮見委員の御指摘はごもっともでございます。感想めいたことということで発言させていただいたんですけれども,寄与分制度についての再検討も含めて相続の場面で何ができるかということで,ない知恵を絞らせていただきたいとは思っております。   それとあと,なかなか,甲案が難しい背景としては,フランスの公証役場に行けば,どう財産が形成されてきたということが家族にとって分かるというようなお話を伺ったところでございますけれども,日本では,なかなか,そういう措置もなく,一方,若い家族などは収入共同,経費共同,それぞれであったり,これからは変わっていく部分もあろうかとは思います。また,地域によって,それぞれの事情も違うと思うので,法制度として何ができるかについて,背景的なところに目が向く次第です。  生前に贈与の制度を使ってほしいと言いたいんだけれども,なかなか,言えなくてという御相談を受けたりすることもあるものですから,そういう環境が醸成されればいいなという思いも込めて先の発言をさせていただきました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   第2の1につきましてほかにございますか。 ○金澄幹事 甲案,乙案の両方とも全部残して検討するのかということについては異論がございます。実務の観点からしますと,相続は分かりやすく国民一般に,誰も経験することですので,きちんと分かりやすく単純明快であるということが必要だと思うのです。けれども,甲案は相続分の計算が非常に難しいことになってきて,パブコメでも皆さんがおっしゃっているとおり,不可能に近いのではないかという御意見もある中で,比較すれば甲案よりも乙案の方が分かりやすく,かつ,ある程度,問題点はあるにしても検討していく価値はあるのではないかと思います。甲案は理念としてはよく分かる部分もございますけれども,分かりにくく複雑すぎるという問題点があるので,実務をやっている立場からいたしますと,これを採用するとほとんど全ての事件がもしかしたら裁判所に来なければいけないような事案になるのではないかという懸念がございます。そういう中で考えますと,甲案も乙案と同じようにこれから検討課題として残すということではなく,配偶者の相続分について検討をするためにどちらかを残すというのであれば,乙案の方を残して検討した方がいいのではないかと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   パブリックコメントの結果を見て,第2の1については諦めようかという方向が,当初,事務当局の方から出されておりましたけれども,なお,もう少し頑張るべきではないかという意見が複数の委員・幹事から寄せられたと思います。そのときに一定の絞込みをしないと,検討が難しいのではないかという御意見として,今の金澄幹事の御意見を承りました。甲案にするとしても,大きな貢献だけを捉えてくるような部分的な制度で,より単純化されたものは考えられないのだろうかということを,沖野委員は先ほど示唆されたように思いますけれども,そんなものも含めて,より簡明な案で何か更に考えられるものはないかということをもう少し考えたいというのが皆さんの御感触かと思います。特に今,ここでまとめる必要もないのですけれども,そんなところで先に進ませていただいてよろしゅうございますか。御発言がなければ先に進ませていただきたいと思いますが,いいですか。ありがとうございます。   それでは,第2の2と3につきましてまとめて御意見を頂ければと思います。いかがでございましょうか。 ○浅田委員 2の可分債権に関しましては,パブコメ前の審議において私どもの方から何回か,御意見を申し上げたところでございます。今回は最高裁大法廷の結論を待つという方向が提示されていると理解しております。申すまでもなく,司法と立法というのはまた別のものでございますので,大法廷の結論があったからといって,立案がそれに引きずられなければならないということではないと思います。必要性,有用性,妥当性の観点から,この審議会において議論すべきだとは思っております。   ただ,司法の判断ということも重要なものでありますし,また,当該司法判断の中で,相続法以外の可分債権に関する規律の判断であったり,本審議では取り扱わないかもしれない判断がなされるかもしれないところだったりすることも併せて考えますと,大法廷の結論というのは重要な考慮要素だと理解しております。それらを考えますと,この審議に関して最高裁における判断を待つという点について異論はないと考えます。ただ,これまでの審議で述べましたとおり,銀行界として非常に対応を検討すべき多い論点でございますので,事務当局におかれましても,これまでの審議やパブコメに対する意見で述べられたものについては,引き続き検討いただければ有り難いと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。貴重な御意見として伺いました。   ほかにいかがでございましょうか。議論しなければいけない点はたくさん残っているのですけれども,今,浅田委員からも御指摘がありましたけれども,前提に係る部分について重要な判断が下されるかもしれない。もちろん,立法する際に,それを上書きすることはできるわけですけれども,我々が考えている前提が変われば,我々の考え方も変わるかもしれないということかと思います。浅田委員の方からは,そういう意味で最高裁決定を待った上で,しかし,ここで適切な議論をするべきだという御意見を頂いたと思っております。   そのほか,いかがでございましょうか。少し待ってみようということについては,なかなか,意見が出にくいかと思いますけれども,大法廷は大法廷,我々は我々でやるという意見もなかなか言いにくいところもあろうかと思います。浅田委員の御発言が全体の雰囲気を代表しているようにも思いますけれども,何かほかに特別な御発言がございましたら承りたいと思いますが,いかがでございましょうか。   では,この点につきましては今の御発言に代表されるような議論の状況であると認識いたしまして,先に進ませていただきたいと思います。   次でございますが,次は第3の「遺言制度に関する見直し」ということになります。項目が四つございますが,一括して御説明を伺いまして,一つずつ順番に御意見を伺っていこうと思います。まず,事務当局の方から御説明をお願いいたします。 ○満田関係官 それでは,関係官の満田の方から部会資料の「第3 遺産分割に関する見直し」について御説明させていただきます。ページとしましては11ページからになります。   まず,1の「自筆証書遺言の方式緩和」につきましてですが,そのうち,全文自書の緩和につきましては偽造及び変造のリスクを懸念して反対する意見も相当数ありました。ただし,それは緩和によって遺言者の負担を軽減することができ,遺言の作成促進にもつながるとして賛成する意見があり,こちらの方が多数を占めております。なお,財産の特定に関する事項を自書以外の方法で記載した全てのページに同一の印の押捺を要求することの要否につきましては,偽造等を防止するために必要であるとの意見と,形式不備による無効の危険が増すことを考慮して不要とする意見とに分かれました。   続きまして,加除訂正の方式緩和につきましては,賛成意見が出されました一方で,偽造・変造の懸念があること,加除訂正の場合も含めて署名及び押印の双方を要求するものとした方が分かりやすいなどとして反対する意見もあり,賛否が分かれました。   以上のとおり,自筆証書遺言の方式緩和に関する方策のうち,全文自書の緩和につきましては賛成の意見が多数を占めたところであり,今後も中間試案の考え方を基本として検討を進めるのが相当と思われます。これに対し,加除訂正の方式緩和につきましては,偽造又は変造のリスクが高まるとして反対する意見が相当数寄せられたところ,全文自書の緩和と併せてこれを行うとすると,そのリスクがより高まるおそれがあることも考慮しますと,場合によってはこの段階で断念することも考えられます。これらの方向性についてどのように考えるか,御意見をお伺いできればと存じます。   続きまして,資料の12ページ,2の「遺言事項及び遺言の効力に関する見直し」について御説明いたします。   まず,「パブリックコメントの結果の概要」を御覧ください。(1)の「権利の承継に関する規律」のうち,①の遺言による権利変動にも対抗要件主義を採用することに関しましては,中間試案に賛成する意見が大勢を占めまして,これに反対する意見は少数でございました。賛成する意見の主な理由ですが,遺言の内容を知り得ない第三者の保護ですとか,遺産分割の場合と区別すべき理由はないというものがございました。他方,反対する主な理由としましては,対抗要件主義をこの遺言の場合に採用した場合には,相続開始の事実を知った相続人の債権者がいち早く法定相続分を差し押さえるなどして,遺言の実現が妨げられるというような不都合を指摘するものもございました。   続きまして,②の債権を取得した場合の対抗要件の具備についてでございます。こちらについては,その方法として遺言執行者や相続人から通知を要求することとする中間試案の考え方に賛成する意見がほとんどでありましたが,可分債権に関する最高裁の判断を見た上で,再度,検討すべきであるという慎重な意見も一部寄せられました。もっとも,中間試案の考え方に賛成する意見の中におきましても,相続人全員による通知に関する部分につきましては,債務者保護の観点から相続人全員による通知が必要という意見が寄せられた一方で,遺言の内容に反対する相続人については,その協力を得ることは難しいのではないかなどとして,権利を取得した相続人による,より簡易な通知方法を検討すべきとの意見も複数寄せられたところでございます。   そこで,今後の方向性についてですが,中間試案の考え方を基本としながら,パブリックコメントで指摘された問題点を中心に,引き続き検討を行うのが相当と考えております。   続きまして,(2)の義務の承継に関する規律及び(3)の遺贈の担保責任に関する規律についてでございますが,これらについてはいずれも賛成する意見が大勢を占め,これに反対する意見は僅かでありました。これらについてはパブリックコメントの結果も踏まえまして,中間試案の考え方を要綱案に盛り込む方向で検討を進めたいと思っております。これらの方向性につきましても御意見を頂ければと存じます。   続きまして,13ページを御覧ください。3番の「自筆証書遺言の保管制度の創設」の部分です。この点につきましては,遺言書の紛失や隠匿の防止につながり,遺言書の有無の検索が可能となることで相続人の利便性も向上するなどとして,賛成する意見が全体としては多数を占めましたが,他方で,システム構築のため,多額のコストが掛かるほか,紛争防止効果にも限界があるとして,反対する意見も相当数あったところでございます。また,賛否を留保した上で,保管機関の選定や運用面の様々な論点につきまして,更なる検討を求めるという意見もございました。   次に,パブリックコメントで指摘された個々の問題点ですが,まず,保管業務を行う公的機関につきましては,全国に相当数存在し,利便性がある一方で,遺言者のプライバシー保護も確保できる機関として法務局が相当との意見が最も多く,これに続いて公正証書遺言の保管実績のある公証役場を挙げる意見が多かったというところでございます。このほか,利便性が最も高いことを理由に市区町村役場が望ましいとする意見も寄せられましたが,これに対してはプライバシー確保や秘密保持の観点から,問題があるという反対意見もあったところでございます。   また,公的機関が保管することにより,利用者が遺言の有効性について誤解するおそれがあるという指摘が相当数あり,その対応策として保管手続を行う際に遺言書の形式的要件,日付ですとか押印等のチェックをし,無効であることが明らかなものについては,保管を拒絶すべきであるという意見も寄せられたところでございます。   このように,自筆証書遺言の保管制度の創設については,反対意見もありましたものの,制度の創設に期待する意見も多く,制度の具体的内容について更なる検討を求める意見も相当数寄せられました。そこで,今後の方向性,方針ですが,自筆証書遺言の保管機関を具体的に選定するとともに,パブリックコメントで指摘された運用上の問題点を中心に制度の具体化に向けて引き続き検討した上で,最終的に制度創設の是非を判断するのが相当と思われます。この点についてもお考えをお伺いできればと思います。   最後に,14ページの4番,「遺言執行者の権限の明確化等」についてでございます。   まず,(1)の遺言執行者の一般的な権限等に関しましては,賛成する意見が大勢を占めまして,遺言執行者の一般的な権限を明確化すること自体に反対する意見はございませんでした。もっとも,この中間試案の考え方に賛成する意見の中でも,遺言執行者の法的地位をより明確にすべきであるとの意見があり,また,その一般的な権利義務の内容についても様々な指摘がございました。更に通知義務の有無及び範囲につきましては,相続人だけではなく,受遺者もこれに含めるべきであるとする意見など,多数の意見が寄せられたところでございます。   そこで,今後の方向性についてですが,パブリックコメントの結果を踏まえまして,中間試案の考え方を基本としながらも,そこで指摘された問題点を中心に引き続き検討を行うのが相当と考えております。   続きまして,(2)の「民法第1013条の見直しについて」ですが,結論としましては乙案に賛成するとの意見が多数を占め,甲案に賛成するとの意見は少数でした。なお,甲案,乙案のいずれについても反対するという意見も一部寄せられました。この結果を踏まえますと,今後の方向性としましては乙案を基本として検討を進めるのが相当であると考えております。   (3)の「個別の類型における権限の内容」の「ア 特定遺贈がされた場合」についてでございますが,これについても結論としては中間試案の考え方に賛成するという意見が大勢を占めましたが,より権限を具体的に明確化すべきであるという意見も複数寄せられたところでございます。今後につきましては,中間試案の考え方を要綱案に盛り込む方向で検討を進めるのが相当と考えております。   更にイの「遺産分割方法の指定がされた場合」でございますが,これについても結論としては基本的には中間試案の考え方に賛成する意見が大勢を占めました。ただし,個別の権限については様々な意見が寄せられました。   具体的に申しますと,まず,対抗要件具備行為に関する権限についてですが,不動産を含め,遺言執行者の権限とすることに賛成するとする意見が多数を占めましたが,これに反対する意見も複数寄せられたところでございます。   特定物の引渡権限については,こちらについても,原則としては遺言執行者の権限としないという中間試案の考え方に賛成する意見が大勢を占め,こちらに反対する意見は僅かということでございました。   預貯金債権の行使権限につきましては,預貯金の行使権限自体を遺言執行者の権限とすることについては,これに反対するという意見はございませんでした。ただし,その範囲については預貯金債権に限って行使権限を認めるという考え方と,それ以外の例えば投資信託等の金融商品についても,広く行使権限を付与すべきであるという意見が分かれたところでございます。   そこで,遺産分割方法の指定がされた場合の遺言執行者の権限の今後の方向性についてでございますが,遺言執行者に行使権限を認める権利の範囲については様々な意見が寄せられており,引き続き慎重な検討を要するものと考えられますが,その方向性自体については多数の賛成が得られましたので,中間試案の考え方を基本としつつ,パブリックコメントで指摘された問題点を中心に,引き続き検討を進めるということが相当であると考えております。   (4)番の「遺言執行者の復任権・選任・解任等」についてでございます。   まず,パブリックコメントの結果についてですが,中間試案の考え方に基本的に賛成する意見というのがこちらも多数を占めたというところでございます。もっとも,個々の規律の内容については,中間試案の考え方と異なる意見が複数寄せられました。少し具体的に説明しますと,まず,復任権,辞任,権限喪失等の規律についてでございますが,一部について復任権を行使した場合や,一部の辞任や一部権限喪失した場合につきましては,遺言執行者の権限の範囲が不明確となり,取引の安全を害するおそれがあるということで,これに反対するという意見がございました。その関係で,遺言執行者の権限の範囲を明確にする規律を設けるべきという意見が複数寄せられたところでございます。また,遺言執行者の一部辞任や一部の権限喪失につきましては,むしろ,こういう場合には全部を辞任させたり,全部の行為の権限を喪失ないし解任させる方が合理的ではないかという意見もございました。   そのほか,遺言執行者の選任や解任の申立権者につきましては,現行法と同様,遺言の実現によって間接的に利益を受ける者についても認めるべきであるという意見も複数寄せられたところでございますし,遺言執行者の欠格事由についても,これを定めるべきという意見も少数ながら寄せられたところでございます。   そこで,今後の方向性についてでございますけれども,基本的には中間試案の考え方を基本としつつ,パブリックコメントにおいて指摘された問題点を中心に,引き続き検討を進めるというのが相当であると考えております。以上,遺言執行者の権限についても,今後の方向性について御議論いただければと存じます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   御意見を賜りたいと思いますが,四つに分かれておりまして,多岐にわたりますので,まず,1の「自筆証書遺言の方式緩和」について御意見を伺いまして,そこで,一旦,休憩を挟ませていただきたいと思います。まず第3の1につきましては,全文自書についてはこの方向で検討してはどうかということが先ほど御説明にありましたけれども,加除訂正の方式緩和は反対が多いのではないか,なかなか,難しいのかもしれないという御説明だったかと思います。これらにつきまして御意見を頂ければと思いますが,いかがでしょうか。特に御指摘,御意見等はございませんでしょうか。   加除訂正の方式緩和について,この段階で断念することも考えられるという方向性についての説明もありましたが,さらに考えた方がいいのではないかという御意見がありましたら伺いたいと思います。ほかの点でももちろん結構です。 ○沖野委員 もう少し考えるといっても選択肢がなくて,先ほどの甲案,乙案であればもう少し工夫できないか,その余地があると思うのですが,この問題は,印鑑はなしにするけれども,別のものを加えるとかは考えられませんので,やりようがないのではないか。そうだとすると,こう賛否が分かれる中でリスクが高まることは確かだと思いますけれども,それでも,意思として署名まで書いていれば,こうではないかということを重視するのか,それは押印すれば済むことであるし,取り分け,国民意識としてリスクが高まることへの懸念も相当数示されているのであれば,そこの見直しはやや時期尚早として,ここでやめてしまうか,どちらかしかないのではないかと思われます。私は事務局の御提案でよろしいのではないかと,断固としてという感じではなく,そう自信があるわけではないんですけれども,事務局の御提案でいいのではないかと考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   工夫の余地が乏しいのではないかと,結論を先延ばしにしても余り変わらないという御趣旨かと思いますが,ほかにはいかがでございましょうか。 ○大塚関係官 御提案の趣旨を若干敷衍させていただければと思うのですが,私どもは正直なところ,断念が望ましいということを考えているわけでは全くなくて,二つのメニューを今回,考えており,全文自書の緩和の方が非常に大きな見直しになるのであろうと考えているところでございまして,その中で,こちらの加除訂正方式の緩和まで二本立てでやってしまうところまで踏み込んでもよいのかどうか,それによって偽造変造のおそれは一つだけをやるよりも強まるという面はどうしても出てきてしまうので,そこまで踏み込んでよいのかどうかというところが躊躇としてはあると,他方で,加除訂正につきましても,それも含めてやってしまってもよいんだという賛成意見も,それなりに頂いているところでもございますので,ここですぱっと切ってしまうというところにも,やや躊躇があるというところがございましたので,御意見を頂戴できればと,こういった趣旨でございました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   補足の説明を頂きましたけれども,何か皆様の方から御意見等があれば承りたいと思います。いかがでしょうか。次回の資料から直ちに落とせということでは必ずしもないけれども,どうしてもこれをやろうということでもないというまとめでよろしいですか。あるいは第1点の,全文自書の緩和ということと絡めた形で,全文自書の緩和自体が一定のリスクを抱え込むことになるので,更に緩和するということについてより慎重に考えるべきではないかというのが事務当局の説明だったかと思いますけれども,全文自書の方についても御意見があれば伺いたいと思いますが,よろしいですか。事務当局の方から何かありますか。   それでは,御説明について特に大きな御異論はなかったということで,今日のところは引き取らせていただきたいと思います。   残ります第3の三つの項目につきましては休憩を挟んで,更に御意見を承りたいと思います。3時40分まで休憩ということにさせていただきます。           (休     憩) ○大村部会長 それでは,時間になりましたので再開させていただきたいと思います。   先ほど第3の遺言制度の見直しのうちの1まで御意見を頂戴いたしましたので,2の「遺言事項及び遺言の効力に関する見直し」のところから,引き続き御意見を頂戴したいと存じます。この2につきましては,遺言による権利変動にも対抗要件主義を採用するということにつき,反対意見等もございましたけれども,全体として中間試案の考え方に賛成するという意見が大勢を占めているということで,その線で更に検討するということでよろしいかという御説明があったかと思います。何か御意見がありましたら承れればと思います。いかがでございましょうか。この点も御発言はございませんでしょうか。何かありますか。 ○沖野委員 その方向で,つまり中間試案の考え方を基本に,指摘された問題点に取り組むということで結構だと思います。 ○大村部会長 ほかにいかがでしょうか。   では,方向性については特に御異論がないということで,これにつきましては更に検討するということで進めさせていただきたいと存じます。   その次は第3の3の「自筆証書遺言の保管制度の創設」ということでございます。これにつきましては,先ほど資料についての訂正がございましたけれども,訂正された内容を基に御意見を頂戴できればと思います。賛成意見が多数であるけれども,反対意見も相当数あった,保管機関の在り方を具体化するということについて,意見等があるというお話であったかと思います。これにつきまして何かございますか。いかがでございましょうか。   それでは,この点につきましても特別な御意見はないということで,先ほどの御説明の線に沿って,今後,更に検討を続けたいと思います。   4番目の「遺言執行者の権限の明確化等」についてでございますが,遺言執行者の権限を明確化するということ自体については賛成が多かったということでありますけれども,具体的な問題については幾つかの問題があるということでした。1013条につきましては,甲・乙両案を示しておりましたけれども,乙案に賛成する意見の方が多かったということが先ほどのお話でございました。また,個別の類型に関する権限の内容につきましては,どこまでのものを認めるかということにつき,意見の分かれがなおあるということだったかと思います。この点につきましてはいかがでございましょうか。特にございませんでしょうか。   第3の遺言制度の見直しということにつきまして,特段の御意見を頂いておりませんけれども,何か全体を通して御指摘等があれば承りたいと思いますが,いかがでございましょうか。 ○水野(紀)委員 自筆証書遺言の簡易化と,それから,今度,保管制度を創設するというのは,今度の法制審でいきなり議論に入ってきたことで,ワーキングチームなどでの審議の結果もなかったので,何となくどきどきしているというのが私の本心なんですが,今度のパブリックコメントで指摘されたところでなるほどと思ったんですが,保管機関を具体的に考えて,保管機関でやれることというのをもう少し吟味していただくことによって,私のどきどき度合いは下がるような気がいたします。   つまり,自筆証書遺言というのは,母法の場合にはほとんど公証人がみんなチェックしていますので余り危なくないわけですが,自筆証書遺言で書きやすいぞということになりますと公正証書と違いますので,いろいろなものがたくさん出てきかねない,しかも簡易化されるということになると出てきかねないんですが,保管機関のところである程度,何らかチェックができるということになりますと,安全性も高まるような気がいたします。そのチェック内容についてどきどき度合いが下がるような御検討を頂ければと思います。つまり,ここで形式的要件のチェックなんかが上がっておりましたけれども,私が念頭に置いておりましたのは本人確認です。本人確認をそこでしていただくということが入るか,入らないかで大分違ってくるだろうと思いますので,その点を,つまり,本人がそこに来られられないような場合は,公正証書遺言に流すということの方がよいかと思いますし,そこが入らないと,偽造変造の可能性がすごく高くなると思いますので,よろしくお願いいたします。 ○大村部会長 ありがとうございます。   先ほど事務当局の説明の中でも,その点についての御指摘がありましたけれども,うまく制度を仕組むことができれば意味のあるものになるかもしれないということで,そこのところを具体的にという御指摘として伺いました。   そのほか,いかがでございましょうか。 ○中田委員 今の御発言との関連でもあるんですが,弁護士会でかつて同種のことをやられたんだけれども,うまくいかなかったということがパブリックコメントで出ております。もしできれば,どういうふうな制度で,どのようにうまくいかなかったのかということを調査できれば,今後の制度設計に役立つのではないかという感想を持ちました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今のような御指摘がありましたので,可能な範囲で調査をしていただければと思います。何か弁護士の先生方,今の点についてございますか。 ○山田委員 複数の弁護士会で内容はそれぞれですが,手掛けたことはあるやに聞いております。やめた理由もそれぞれだと思いますので,不正確な発言より,取りまとめた上で御紹介できればと思います。大阪弁護士会の点は,増田委員。 ○増田委員 私も正確な情報をつかんでからにしたいと思います。 ○大村部会長 分かりました。今の点も含めまして,弁護士の先生方の御協力も得て,もう少し調査をするということにさせていただきたいと思います。   そのほか,いかがでございましょうか。 ○西幹事 時間があるようでしたら教えていただきたいのですが,遺言執行者の権限のところで,預貯金債権の行使権限なども入っていますけれども,先日,施行された成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律によって,成年後見人が成年被後見人の債務を弁済するために預貯金の払戻しを受けたり,一定の場合に一定の死後事務ができる明文規定がおかれたように記憶しています。それと遺言執行者の権限との関係は特に問題にならないという理解でよろしいのでしょうか。 ○堂薗幹事 基本的には成年後見に関する民法の改正部分は,後見人が行うことができる死後事務の範囲を明確にしたものですが,改正前も一定の特別な事情がある場合に,本人の死後に成年後見人が一定の行為をすることができる場面はありましたし,そのような場合に成年後見人が預貯金を引き出せるという場面もあったということだろうと思いますので,そこは今回の改正によって新たに生じた問題ということではなく,基本的には改正法に規定する要件を満たしていれば,基本的には管理している財産を引き継ぐまでの間は,成年後見人の方で引き出すことが可能になるということだろうとは思います。 ○大塚関係官 御指摘の点に関しては一概には言いにくいところでございまして,というのも,時系列を含めて立体的に考える必要がどうしても出てきてしまいます。というのも,例えば,相続開始後に遺言が迅速に見つかっており,なおかつ,遺言執行者が直ちに業務を開始している場合であるのか,あるいは遺言があるのかないのか分からない場合であるのか,あるいは特に問題なく分割協議が進んでいる場合であるのか,それによってそれぞれ展開が違ってくると思います。   初めに申し上げたような場合ですと,既に遺言執行者が業務を執行している限りは,死後事務としてそこに後見人がしゃしゃり出てくる余地は,余りないのではないかという感じがいたしますし,元々,相続財産である限りは相続人,有効な遺言があるのであればその遺言に書かれた方がその財産を承継するわけですので,その引継ぎがされているのであれば,基本的にはその方たちによって,成年被後見人であった被相続人の債務の支払等々がされるべきという立ち位置になるかと思います。それができない場合,例えば,相続人となる方との連絡がとれない場合にどうすべきかというところで初めて,成年後見人であった方による死後事務の問題が出てくることと思いますので,その前提がどのようになっているかを踏まえて,個別に検討する必要があるのではないかと現時点では考えています。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。   そのほか,いかがでございましょうか。   それでは,第3の遺言制度の見直しにつきましては,基本的には事務当局から御説明があったような方向で,更に検討を進めるということにさせていただきたいと存じます。   次の第4の項目,「遺留分制度に関する見直し」に入らせていただきます。この点に関しては,3点と(後注)がございますけれども,説明は一括して伺いたいと思います。事務当局の方からお願いいたします。 ○神吉関係官 それでは,関係官の神吉から第4の「遺留分制度に関する見直し」について御説明をさせていただきます。   まず,「遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直し」に関するパブコメ結果ですが,減殺請求権の行使によって生ずる権利を原則,金銭債権とする点につきましては賛成する意見が多数を占めましたが,必ずしも現行法の問題点を解決することにはならない,あるいは中間試案の考え方を採用すると,むしろ,より問題が大きくなるなどとして反対する意見も複数寄せられました。また,受遺者又は受贈者の意思表示により,遺贈又は贈与の目的物による弁済を認める制度の創設については,いずれの案も反対という意見も相当数ありましたが,甲案と乙案で比較すると甲案に賛成する意見が多数を占めました。なお,甲案につきましては当事者間で不要な不動産の押し付け合いになるのではないか,また,訴訟法上の問題点があるのではないか,受遺者又は受贈者が現物返還の意思表示を出すことにより,遅滞責任を免れるというのはおかしいのではないかなどの意見が寄せられております。   そこで,今後の検討の方向性ですが,引き続き減殺請求権に物権的効力を付与している現行法の規律を見直し,これを原則として金銭債権化する方向で検討を行った上で,その検討結果を踏まえ,最終的に見直しの是非について判断することとするのが相当であるように思われますが,この点につきまして委員の皆様の御意見をお伺いしたいと思います。なお,先ほども申し上げたとおり,甲案と乙案で比較いたしますと甲案がパブコメにおいては多数意見ではあるものの,一方で,様々な問題が指摘されていることから,本部会資料では甲案を採用した場合の訴訟の流れにつきまして,パブコメ期間中に事務当局において検討しておりましたその整理を御説明させていただき,委員の皆様の御意見をお伺いできればと思います。   そこで,(4)の甲案を採用した場合の訴訟の流れにつきまして御説明させていただきますが,具体例に基づきまして御議論いただいた方が分かりやすいかと考え,部会資料に記載のとおり,設例を用意させていただきました。   事例といたしましては,被相続人が相続人Yに対し,全財産である3筆の土地及び現金を遺贈又は生前贈与し,ⅩがYに対して減殺請求をしたというものです。土地A及びBの価額に争いがあり,Xの計算によれば遺留分侵害額は1,000万円となり,また,Yの計算によれば遺留分侵害額は600万円となり,YはC土地による現物返還の意思表示を行いました。また,裁判所は審理の結果,遺留分侵害額はXの主張どおりであると認定した上で,現物返還としてC土地を返還させ,その余については金銭での支払を命ずるのが相当であると判断したものといたします。   この場合,裁判所といたしましては部会資料に記載のとおり,㋐当初の金銭請求に対応する給付判決,また,㋑遺留分権利者の返還すべき財産の一部を金銭から遺贈等の目的物に変更し,その目的物の内容を定める形成判決,そして,㋒形成判決が確定することを条件とした給付判決,この三つの判決を行うことが当事者の希望に最もかなうのではないかと考えられます。   この場合に,当事者にどのような請求をどの段階で立てさせるのかが問題となりますが,特に問題なのは㋑の形成判決をするためには,受遺者又は受贈者に反訴を提起させる必要があるかという点でございます。判決をするためには,それに対応した請求を立てる必要があるというのが従来の考え方でございまして,形成判決をするために反訴を提起させる必要があるということになろうかと思いますが,部会資料にも記載のとおり,このような考え方を前提とすると,本訴,反訴,反訴に対する反訴と三つの訴訟が継続するのが遺留分減殺請求訴訟のスタンダードの形態になるということになりまして,手続としてやや重すぎではないかというのが問題意識としてございます。   そこで,これらの点を考慮いたしまして,裁判所は受遺者又は受贈者が現物返還の意思表示をしたという事実を主張した場合には,金銭債務の全部又は一部の支払に代えて,返還すべき遺贈又は贈与の目的財産の内容を定めることができるなどの規定を設け,受遺者又は受贈者に別途,請求を立てさせることなく,裁判所が形成判決することを可能とする措置を講ずるということが考えられるように思われます。   他方,㋒の給付判決につきましては,同じように法律上の根拠を設けて,当然に給付を命じることができるようにすることも考えられますが,そこまでする必要はないのではないか,その点については当事者の意思に委ねるべきではないかとも考えられます。三読目以降でも改めて議論していきたいとは思いますが,今後,手続の詳細を検討するに当たって委員の皆様の御意見,御感触をこの段階で御教示いただければと思います。   引き続きまして,2の「遺留分の算定方法の見直し」につきまして御説明させていただきます。   まず,生前贈与の範囲に関するパブコメの結果でございますが,反対意見も相当数寄せられたものの,中間試案の考え方に賛成する意見が多数を占めました。なお,限定すべき期間につきましては,中間試案の考え方に賛同する意見におきましても慎重に議論すべきとの意見が多く,10年程度が相当ではないかとの意見が複数寄せられました。   今後の方向性ですが,部会資料に記載のとおり,遺留分減殺請求の制度を第三者に対するものと相続人に対するものを一つの制度として包含する現行法の規律を前提にする以上,相続人間の公平を徹底させ,第三者の法的地位の安定性を考慮する必要はないという考え方を採用することは必ずしも相当ではなく,いずれの要請も踏まえた調和のとれた制度とするのが好ましいように思われ,引き続き相続人間の公平の要請にも配慮しつつ,相続開始前の一定期間に限定するという考え方について検討を行っていくのが相当であると思われます。   一方,減殺の対象に対する規律につきましては,パブコメにおきましても賛否が拮抗しており,中間試案の考え方を採用することに消極的な意見が多数寄せられたことや,合理的な制度設計をするためには各種の調整規定が必要となり,遺留分に関する計算がより複雑化するおそれがあることなどを考慮いたしますと,この点の見直しにつきましては,この段階で断念することが考えられるように思われます。また,遺産分割の対象財産がある場合に関する規律につきましては,パブコメにおきましては中間試案の考え方に賛成する意見が大勢を占め,積極的に法定相続分説に賛成する意見はほとんどありませんでした。そこで,今後の検討の方向性といたしましては,中間試案の考え方を基本といたしまして,引き続き検討を行うことが相当であるように思われます。   また,3の「遺留分侵害額の算定における債務の取扱いに関する見直し」につきましては,基本的には中間試案の考え方に賛成する意見が多数を占めましたので,今後の方向性につきましても中間試案の考え方を基本としつつ,引き続き細部についても検討を行うのが相当であるように思われます。   また,そのほか,4の(後注)の点でございますが,部会資料に記載のとおり,(2)の負担付贈与や不相当な対価による有償行為がある場合の遺留分の算定方法につきましては,引き続き検討を行っていきたいと思いますが,(1)の遺留分権利者の範囲につきましては,遺留分権利者の範囲から直系尊属を除くという考え方に反対する意見も相当数寄せられておりまして,必ずしも十分な立法事実の調査ができているわけではないことからいたしますと,今回の相続法の見直しにおきましては,あえて今後の検討対象として残す必要はないのではないかとも考えられます。以上,遺留分につきましてはたくさんの論点がございますが,委員・幹事の皆様の忌憚のない御意見を頂戴できればと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   三つの項目と,それから,(後注)がございますが,一つずつ進めて,(後注)は最後の3とまとめて扱わせていただこうと思います。   最初の「遺留分減殺請求権の効力及び法定性質の見直し」という点についてでございます。減殺請求権の行使によって生ずる権利を金銭債権化するということについては,賛成の意見が多数を占めたけれども,では,その後,どう制度を仕組むのかという点につきまして,甲案,乙案が提案されておりました。甲案,乙案には,いずれの意見もあるようですけれども,甲案に対する賛成の方が多かったということでございます。これにつきまして,甲案については訴訟がどうなるのかということが従前から非常に大きな懸案事項でございましたが,資料の18ページ以下に一つの考え方が提案されているかと思います。この点も含めまして第4の1につきまして,まず御意見を頂ければと思います。いかがでございましょうか。 ○増田委員 今の遺留分減殺請求権の訴訟構造をどうするかということにつきましては,我々でも検討を進めておるところでございまして,まだまだ,粗っぽいところはありますが,今日は試みに現在の検討状況をお話ししたいと思います。   まず,基本的な訴訟がどのようなものとなるかということなんですが,協議が不調になった場合,減殺者側が起こす本訴は金銭請求とします。事前の交渉において減殺者が目的物について受け入れて協定がなされ,残る争いは評価だけだという場合には,目的物の登記又は引渡しプラス金銭という請求になることもあり得るわけですが,基本は金銭請求とします。これに対する受遺者側の反訴ですけれども,少しひねりまして,代物弁済の承諾請求としてはどうかと考えております。これは受遺者の申出の実体法上の意味が代物弁済の申出であると考えているからです。   これが出たときにどうなるかというと,裁判所が当該代物弁済の承諾請求が相当であると判断した場合には,本訴では評価額との差額の認容をし,反訴で代物弁済の申出の承諾を認容するという結果になります。ただ,その場合に目的物の登記や引渡しについては原告は債務名義はとれませんから,債務名義をとろうと思えば訴えの予備的追加的変更をして目的物の登記,引渡し請求を行うということになろうかと思います。   それで,一つの問題として,代物弁済の承諾請求権というのが債権法には存在しないことがあります。債権法上の代物弁済は債権者の同意を要する契約であり,かつ,目的物の履行がなされて,初めて債権が消滅するということになっております。ただ,この場合はもともと遺贈ないし贈与を目的とする減殺請求権が形を変えただけだと考えられることから,相当な物である限り,減殺者側は承諾義務を負い,金銭債権は判決確定で消滅するという理解でおります。つまり,通常の債権法上の考え方とは,その辺が少し異なるということになります。他の問題点として,代物を受遺者側が特定した物に限定することについて,その物が相当でない場合のリスクを受遺者側に負担させるということはどうかという疑問がかつてこの部会でも呈されていたと思いますが,この点は予備的請求を追加することによってリスクヘッジが可能であると考えられます。   あと,問題点として,反訴は意思表示を求める給付訴訟になります。ただ,それが判決確定により,所有権を移転するという形成力を付け加えることができるのか,要するに給付訴訟なのか,形成訴訟なのかという話ですが,これは現行法下でも給付訴訟で法律関係の変動を認める類型として詐害行為取消訴訟がありますので,それは問題はないのだろうと考えております。   こういう考え方にしている背景としては,遺留分減殺請求訴訟の性質上,処分権主義,弁論主義に服するのが相当であり,形式的形成訴訟というのは都合が悪いと思われることがあります。遺留分減殺というのは特に公益的要素もありませんし,原則として裁判所が後見的に判断する必要もないだろうと思います。例外的な話は後でしたいと思います。更には目的物の選択というのは当事者がするべきであって,少なくとも裁判所が少ない情報の中から目的物を選択して判断するということは難しいし,当事者にとって予測可能性のないものの所有権が移転されるという可能性もあって妥当ではないだろうと思います。   この点,遺産分割との権衡というのが以前,指摘されておりますが,受遺者・受贈者が全くの第三者である場合も想定される遺留分減殺においては,遺産分割とは異なりまして,それまで生活していた人たち中での物の利用状況というものもなく,裁判所が遺産分割と同じような基準で目的物を選択するということは難しかろうと思います。   反訴の必要性につき,必要かどうかという点が今回の資料では指摘されておりますが,抗弁が出ても反訴がないということになりますと,裁判所は金銭債権の成否しか判断できないと思います。ということになりますと,今回の資料に出ている例でいくと,400万円の認容ができるだけということになろうかと思います。この場合,別訴で原告側が後に物を引き渡せとか,移転登記手続などの請求は可能だと思いますが,棄却された部分は裁判所は当該物の移転が相当であると判断したものではあっても,それは理由中の判断になりますので,後の訴えを拘束しません。民訴法114条2項みたいな特別な規定がない限りは,理由中の判断だけで後訴に対する拘束力まで期待するのは無理だろうと思われます。   それで,抗弁が認められた場合の目的物の所有権を確定させるために反訴が必要だと考えています。今回の資料で,反訴は煩雑であることを前提とする記載がありますが,実務的には反訴というのは既に訴訟が係属している当事者間で行われるわけですから,送達といっても当事者が指定した送達場所に送れば足り,多くは当事者が裁判に出てきたときに反訴状を受け取るだけの話です。それは大した負担ではないだろうと思いますし,印紙代に関しても本訴の訴訟物の価額の範囲内ということになりますので,反訴固有の貼用印紙は基本的には要らないように思っております。   あと,残るのは裁判所が目的物を不相当と判断する場合があるのかどうかです。一般的には価額についての判断を基本とすべきだと思いますが,そもそもその物自体が不相当と判断される場合があるか。一つは減殺対象の財産の順位,現行1033,1035条の新しいものから古いものという原則を残すかどうかという問題なんですけれども,新しいものを出さずに古いものを渡すというのは妥当ではないだろうと思います。これは明文での立法ということも考えられると思います。   そのほかになると一般条項的になってしまいますが,例えば換価が容易なほかの遺贈等の目的物を持っているにもかかわらず,換価の難しいようなものを渡すとか,渡せばそれだけで十分に遺留分に足りるものがあるにもかかわらず,持分で代物弁済をする,つまり共有状態が発生するような形で渡すとか,あるいはこれは不相当でないとの考え方もあると思うんですけれども,減殺者の生活基盤になっているような資産があるにもかかわらず,あえて嫌がらせ的に別のものを出す,というような場合が考えられるのではないかと思います。ただ,この辺は固まった話ではありません。   あと,さらに検討すべき事項がありまして,猶予期間,熟考期間,あるいは遅滞の発生時期,すなわち遅延損害金の発生時期など,まだ,これからの検討課題と考えております。   基本的な構造については以上ですので,また,皆さんの御批判を賜りたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   基本的な考え方を御承認された上で,手続の組み方につきましての御意見と,それから,問題の指摘を頂いたと思っております。今の点について何かございますか。 ○堂薗幹事 御指摘の点は,具体案が固まった段階で,その詳細を含め検討させていただければと思いますけれども,幾つか確認をさせていただければと思います。代物弁済の承諾請求という話ですが,基本的には裁判の確定で目的物が定まるという話だといたしますと,基本的には今回の部会資料で取り上げた考え方を前提にしますと,要するに目的物の選択権が受遺者側あるいは受贈者側にあるということではないかと思います。   原則として受遺者側が選択できるんですが,不相当な不要なものだけを押し付けたような場合にどうするかという問題はありますけれども,そういうものがない限りは,それで裁判所は相当なものと認めて,それを目的物として承認すると,それによって金銭債権が消滅し,現物の返還に代わるということなのかなという感じもしますので,そういった意味で,あえて代物弁済の承諾請求という形にしなくても,受遺者側に選択権を認めるということでも対応可能なのかなという感じもしますので,もし,そこは何か違いがあるのであれば教えていただければと思います。それから,反訴がないと反訴についての既判力等が生じないというのは,御指摘のとおりだと思いますが,ここで我々が考えていたのは,特に反訴を提起したものとみなすと書けばより正確なんですが,反訴の提起行為がなくても反訴がされたのと同じように取り扱って,したがって,そこでの判断については既判力が生じるし,形成力も生じるという前提です。   我々としては,相続法制については,できるだけ分かりやすくという御意見が非常に強かったので,なるべく,本訴,反訴,さらにその反訴ということにならないように工夫をしてみたというところではありますが,特に実務上,そういった形で反訴を提起させて問題ないということであれば,この点については実際に反訴してもらうということでも問題ないだろうとは思いますので,その辺りの実情についても引き続き御意見をお伺いできればと考えているところでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今の段階で増田委員の方から特に何かございますか。 ○増田委員 こちらもなお検討を進めたいと思います。 ○大村部会長 分かりました。ありがとうございます。   事務当局からの御説明と,それから,増田委員の御発言とがありましたけれども,これらにつきまして御意見を賜れればと思いますが。 ○山本(和)委員 増田委員の御提案は,今,口頭で聞いて十分ついていけないところがありましたので,また,正式な御提案があれば若干のコメントをしたいと思いますが,ただ,受贈者の方に選択権を認めて,ただ,それに対して一定の歯止めをかけるというお話だったんですが,歯止めのところがうまく書き切れて,受贈者と減殺請求権者のバランスがとれるような要件がうまく書けるかどうかというところが,そこを原提案は裁判所の非訟的に裁量の委ねているということなんだろうと思いますけれども,そこの要件がうまく書けるかというのが一つの問題かなとは思いました。ただ,それはまた正式な御提案があるだろうと思います。   この原案については,私自身はそれほど大きな違和感は感じないわけでありますけれども,今,堂薗幹事が言われたところの反訴というのを必ずしも求めずに,その主張だけ,あるいは反訴の提起を擬制して判決をするというところ,これは(注3)にも書かれていますように,民事訴訟の基本原則とされる処分権主義の例外ということなんですが,ここで書かれてある煩雑だという訴訟経済ということの抽象的なこれだけで,民事訴訟の基本的な原則を脇に置くことができるのかというのは,もちろん,立法でやれば憲法に違反するとは私も思いませんので,できるといえばできるんだろうとは思うんですけれども,説明としてはもう少しもしこれをやるのだったら工夫は必要かなというのを1点,感じました。   それから,具体的な規律の仕方として9ページの真ん中辺り,「そこで」の段落のところで二つぐらいのことが書かれていて,反訴の提起を擬制するのか,それとも事実の主張に基づいて裁判所が内容を定めることができると,端的に書くのかということだろうと思います。若干の違いが私はあるのではないかと思っていて,途中で受遺者の側が現物返還をやめたいと思ったときに,反訴の提起だと訴えの取下げ,恐らく反訴の取下げということになるのだろうと思います。   その場合は,相手方の同意が本案に入っていれば必要ということになるのだろうと思うんですが,前者のような規律をした場合,途中でやめたいといったらどうなるのかというのがはっきりしない。そもそも,やめられないのか,あるいはその意思表示をしたという事実の主張を撤回すれば,裁判所は定めることができなくなるという理解も可能だと思うんですが,主張の撤回というのは一方的な意思表示,一方的なあれでできると思いますので,相手方の同意というのは要らなくなって,かなり審理をした段階でやはりやめますということになるということはどうなのかというような気もいたします。いずれは,この辺りは具体的な規律を考える際には問題になってくるのではないかなと思いますけれども,少し規律の違いが出てくる可能性があるので,引き続き御検討いただければ。   私が感じたのは大体以上です。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○堂薗幹事 特に最後の点は,こちらも検討していなかった点でございますので,御指摘を踏まえて検討したいと思います。どうもありがとうございました。 ○増田委員 1点だけ。裁判所が相当でないと認める場合という類型については,実はいろいろ考えているけれども,大変難しい問題です。ただ,私はだからといって非訟にする必要はないと思っていて,借地借家関係の訴訟における正当事由とか,立退料の算定も処分権主義,弁論主義でやられているわけですから,ここで規範的な要素が入ってきたところで,手段の基本構造までいじる必要はないのではないかという基本的な理解に立っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○垣内幹事 まず,1点,増田委員の御説明に関しての御質問で,大体,大要は理解できたように感じているんですけれども,御説明の途中で代物弁済の承諾請求の反訴がなかった場合の取扱いについて,少し触れられていたように思うんですけれども,反訴がなかった場合に現物返還がされたことを前提にして,18ページの1項に相当する主文が書かれることがあるというような御趣旨のことを言われたように承ったのですが,そういうお話だったでしょうか。 ○増田委員 そういうつもりだったんですが。 ○垣内幹事 その場合は,協議が成立しているという状況を想定されているということでしょうか。 ○増田委員 要は反訴がなければ反訴がなくてそのものが相当であれば,実体法上は承諾がある状態になっていると。 ○垣内幹事 私が承諾請求について御説明を伺って理解したところでは,意思表示の請求ですので判決確定によって意思表示が擬制されて,それによって初めて現物返還の効果が生じ,金銭債権が消滅するというようなものかと思っておりましたので,そうすると,もし反訴の提起がなければ,協議が成立していれば別だと思いますけれども,判決確定によって強制執行されていない以上は承諾の効果も生じない,実体法上はそういう請求権があるかもしれませんが,しかし,意思表示を実際にしていないわけですので,そうすると,その場合は御説明のようにならないのかなという疑問を少し感じたところで,これはまた,細部の検討の際にと思います。   あと,そちらの方については,私も今日,初めて御提案を伺ったところで,どの程度,結局,受遺者等の側の選択権を手続上,どういう形で尊重するかというところで,これは優れて実体法的な問題かなと感じておりますけれども,今日,お示しいただいた事務局の方で御説明のあった御提案については,山本和彦委員がおっしゃったように私も大筋でこういう手続が想定されるのではないかと考えております。   幾つか念のための確認ということなんですけれども,まず,第1点といたしまして,ここでの御説明は専ら減殺を請求する側が訴訟を提起して,それに対して現物返還が主張される場合というのを想定しているわけですけれども,減殺権者の方が訴訟は提起していないんだけれども,現物返還したいと。その目的物を定めてほしいと義務者の方で考えることはあり得るわけですが,その場合には受遺者等の側で別訴というか,そういう独立の一種の形式的形成訴訟を提起するということを別途,想定しておられるという理解でよろしいのかというのが第1点でありまして,第2点は,これも言わずもがなのことの確認ということになるかと思いますけれども,19ページの第3段落,「そこで,これらの点を考慮し」というところで示されている規定の案ということで,「受遺者又は受贈者が現物返還の意思表示をしたという事実を主張した場合には」とありますけれども,ここに「主張した場合」という言葉がありますが,この主体は飽くまで受遺者又は受贈者ということであって,例えば減殺請求をしている側が訴訟外で受遺者が現物返還をしたいと言っていると,そういう事実があるということを訴訟上,事実の主張としてしたとしても,この規定が発動されることはないという理解でよろしいのかどうかというのが第2点でございます。   それから,もう1点,これも細かい話になるかと思います。先ほど山本先生が言われた点とも若干関連するかもしれませんけれども,現物返還の主張がなされた後に,C土地でいいということで両者の意向が訴訟の中で合致するというようなこともあり得るかと思いますが,その場合には協議が成立するということになるかと思いますので,恐らくこの規定に従った形での形成判決ということにはならないのかなとも思われますが,その辺り,規定上,どういう形で表現するかといったことも若干細かいことですけれども,あるのかなと思いまして,その3点についてお教えいただける点があればお願いしたいと思います。 ○堂薗幹事 まず,第1点目ですが,受遺者側から目的物を特定してもらいたいという場合は,当然,みなし規定は適用にならず,別訴として訴えを提起していただくことが必要だろうと思います。ここで書いてあるのは,飽くまで抗弁的に反訴を提起する場合の規律という前提でございます。   それから,減殺請求権者が現物返還の意思表示が訴訟外であったと主張することによって,この規律の適用を認めるというのは,処分権主義の観点から非常に大きな問題だろうと思います。このみなし規定は,訴訟の中で現物返還の抗弁を主張する場合には,受遺者側の通常の意思としては反訴の提起を含むものであろうということで,そのような場合にあえて更に反訴という訴訟行為をさせる必要はないのではないかという程度のものですので,それによって当然,この規律が適用になるということは考えていないところです。   それから,協議が成立した場合は,このみなし規定のようなものはありますが,飽くまで訴えの提起がされたのと同じような扱いをしますので,逆に言うと,協議が成立すれば,その点について裁判所が目的物を定めるその利益はなくなったということになりますので,その場合には裁判所が定めるということにはならないのではないかということで考えております。 ○神吉関係官 1点目について確認と補足ですが,受遺者等の側から目的物の確定訴訟の形成訴訟を起こすことはできる,中間試案においてもそのように整理をしておりますが,それとともに債務不存在確認訴訟も併せて起こさないと,金銭部分については既判力で確定しないかと思いますので,通常は現物返還の目的物確定訴訟とともに債務不存在確認訴訟も併せてセットとして提起することになるのかなと,思っております。   3点目の御質問で,合意した場合なんですけれども,合意して実際に物として返還されたのかどうかということとも関連するのかなと思うんですけれども,実際,物として返還されたということであれば,債務の一部が消滅したという規律になるんだと思うんですけれども,されていない場合に,合意だけある場合に請求権が残っていると考えるのかどうかということは,また,検討していく必要があるのかなと思っているところでございます。   一応,事務当局の回答としては以上なのですが,あと,事務当局の方から,委員・幹事の皆様の御意見を更にお伺いしたいのは,資料の20ページ目の(注2)で書いてある点なのですが,金銭債務につきましては裁判所の判決確定により消滅するという規律を採った場合ということですが,口頭弁論終結時におきましては金銭債務は消滅していないという形になりますので,一応,形式上は,この事例によりますと更なる600万円の金銭債務は残っているという位置付けになりますので,600万円分の主文が更に必要かどうかというのが悩ましいなと思っております。ただ,この点につきましては,資料でも最高裁の判例を御紹介しておりますが,もちろん事案としては若干異なるんですけれども,最終的には判決の確定によって消えるようなものについては,主文に掲げる必要はないと考えて整理してよいのかどうかというところで,よいということであれば,それが抗弁と位置付けられないのか,反訴の提起によってそれが本訴の請求権を消滅させる抗弁だと扱っていいのか,どういう理論的な整理をしていいのか,私もまだ整理がついてはいないんですけれども,その辺りについてのもしお知見があれば,教えていただければなと思っているところでございます。 ○垣内幹事 その点は,私自身は(注2)で御説明いただいたところはもっともかなという感じがして思っておりまして,しかし,裁判実務上,主文の書き方等については専門家の裁判官の方々の御感触もあるかと思いますので,そちらの方で違和感があるということはもしかしたらあるのかもしれません。私自身は,判決が確定して既判力等を生ずるのは,確定したらそうなる,ということであり,そのときにおよそ意味を持たないようなことをあえて書いて,表現上もその方が分かりにくいというような主文の書き方がより適切かというと,そうではないかなとは感じるところであります。   その前のところの御説明についてですが,協議が成立した場合は,中間試案ですと協議が整った場合には金銭債務は消滅するという整理であろうと思いますので,その場合は主文は金銭請求権は減縮されることになるのではないかと理解しております。それから,もう1点,別途債務不存在確認請求を併せてするということは,もちろん,考えられるかと思いますけれども,しかし,債務不存在確認請求が強制されるわけでもないと考えますと,目的物の特定だけを求める訴えというのも理屈としては考えられるような感じがいたします。その場合には今度は減殺請求者の方から金銭請求をしていくという訴えを提起することが考えられるところで,これは正に反訴型の例といいますか,権利抗弁型の例といいますか,資料で想定されている事例の場合には反訴の提起も必要ないとなれば,必ず同一の手続で審議判断がされるということが保証されるということになりますけれども,そうではなく反訴構成にした場合には分離が可能かどうかという問題が別途生じます。さらに,別訴が可能だという場合には,それに対して金銭請求の訴えが提起された場合に併合しなければいけないのかとか,反訴でなければ駄目なのかといったような問題が訴訟法的には生じてくるところかなと感じておりまして,その辺りは私自身も引き続き考えてみたいと思っております。 ○山本(和)委員 (注2)は全く私も同意見で,ここに書かれてある二つの選択肢で単純な600万円の支払ということを命じてしまいますと,判決が確定した後,請求異議の訴えを起こさないと判決の執行力を潰せなくなりますので,それは恐らく全くナンセンスだと思いますし,判決が確定しなかったことを条件にというのは,結局,この判決が確定すればこの主文は無意味になりますし,確定しないというのはこの判決が取り消されることを意味していますので,その場合も無意味になるので,全く意味のない主文だと思いますので,私はこういう主文を掲げるべきでは恐らくなかろうと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今の点について何か補足的な御発言があれば伺いますが。 ○堂薗幹事 先ほどの垣内先生の御指摘で,当事者間で協議が成立した場合ですが,当事者間で協議が成立すると目的物はそれで確定するということなんだと思うんですが,別途,金銭請求がされている場合に幾らの範囲でそれが消滅するのかというところが争いになり得ると,そこについては争いがあるのであれば,金銭請求の中でそこは判断されるということになるのではないかと思います。 ○大村部会長 事務局が出されている案と,それから,増田委員からは,出発点のところで受贈者,受遺者の選択をより重視する案が出されているかと思いますが,事務局の今日の御提案でいった場合にどうなるのかということにつきまして,細部はなお残っておりますけれども,ここに書かれている説明は受け入れられる説明ではないかという御意見が多いように思いますけれども,何かございますか。 ○山本幹事 増田委員の御提案につきましては,また,少し具体化した段階で検討させていただければと思います。事務局から御提案いただいている甲案については,理論的にいろいろ難しい問題があるようですが,裁判実務上の観点からは,裁判所が返還すべき現物を定めるという余地が認められているということにより,裁判所がどれを選ぶのかというところについて,当事者の主張立証がかなりされることが予想されるわけでございます。   そうしますと,審理が非常に複雑化して,長期化してしまうのではないかといった懸念が裁判の現場からは多く意見として寄せられているところでございます。この点,現行法では,後で共有物分割の手続が必要にはなりますが,甲案では,返還すべき物の選択に関する不服により上訴がされる可能性もあること等を考えると,トータルとして本当に早くなるのかといった観点も含めて検討する必要があると考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   最も実質的な点について,今,御意見を頂いたと思いますけれども,ほかに委員・幹事の御発言はございますでしょうか。 ○中田委員 御質問になるかと思うんですけれども,御検討いただいた三つの主文で,C土地の所有権はどのようなメカニズムでXに移転するんでしょうか。取り分け,2番目の形成判決によって形成される内容が何かということをもう少し具体的に教えていただければと思います。   関連してですけれども,3番目の給付判決を求めるか,求めないかは自由にしてもいいんだという御指摘があるんですが,仮に三つ目の給付判決を求めないで,最初の二つの判決だけがある場合の法律関係はどうなるのかです。そのときに当事者が協議によって移転したらどうなるのか,更に対象を変更したらどうなるのか,その辺りをお教えいただければと思います。 ○神吉関係官 事務当局から主文例として掲げている2の(1)の関係を御説明いたしますと,基本的に事務当局の整理といたしましては,この形成判決が確定するとC土地の所有権がXに移転すると。それによってYの債務が一部消滅すると,そういった前提で考えております。   それから,登記の話でございますが,登記を特に求めなければ形成判決によって目的物の所有権だけが移転することになろうかと思います。そして,遺留分権利者の方が後ほど登記が欲しいと思った場合には,当事者間で協議をするか,協議ができなければ別途,所有権者がXであって登記を寄こせという訴訟を起こすことはできるのではないかなと,一応,そのようには考えておりました。 ○中田委員 ありがとうございました。   そうすると,2の(1)のC土地と定めるということの中には,判決確定によって600万円の金銭債務が消滅し,かつC土地の所有権が移転するという内容まで入っているということですね。それを最終的にはもう少し明確に表すと理解してよろしいでしょうか。 ○神吉関係官 それを主文でどう書くかというのは,また,検討していきたいと思いますけれども,一応,法律上,そこは明確になるような形で考えていく必要があるのかなとは思っております。 ○中田委員 分かりました。そうすると,所有権は判決確定によって移転しているという理解ですね。 ○神吉関係官 そうです。甲案の原案についてはそのような理解でおります。 ○中田委員 分かりました。ありがとうございました。 ○大村部会長 よろしいですか。   そのほか,いかがでございますか。 ○水野(有)委員 いろいろ,御説明をありがとうございます。もう少し教えていただきたいんですが,金銭債権が反訴ないし被告の抗弁によって物に変わる部分があるとなりますと,例えば第三者が差押えしたときとか,破産したときなどはどのようになるようなことを今のところ,御想定されているのでしょうか,御教示いただけると。 ○堂薗幹事 基本的に所有権移転については,当然,給付判決のところで移転登記を求めるということが……。 ○水野(有)委員 すみません。私の質問が特定していなかったかもしれません。申し訳ありません。この訴訟が出る前に遺留分減殺請求だけが存在する時点で,それが実体的には金銭債権として発生しているのが前提で,ただ,後に何かに変わることがあるかもしれない権利ということでございますね。実体権のそれが差し押さえられた場合に,もうちょっと言えば,完全な金銭債権となるのか,それとも後に変わり得るものとして残るのかということを御想定されているのか,破産とか差押えがあったときに,そこを,すみません,質問が特定していなくて。 ○堂薗幹事 要するに金銭債権の差押えがされた場合。 ○水野(有)委員 そういうことです。 ○堂薗幹事 検討したいと思いますが,基本的には,飽くまでも遺留分権利者の方には返還物について選択権がなくて,受遺者側で選べるという,要するに受遺者側で現物で返せるというところに意味があるわけで,金銭債権はそういった意味ではまだ不確定な状態にあると考えておりますので,差押え自体はできるんだと思いますが,その後,その性質が変わった場合にも差押えがあるので,そちらの方が優先して必ず金銭で払わなければいけないということにはならないようにする必要があるのではないかと考えております。要するに,この場合に発生する金銭債権は一般の金銭債権ではなくて,一種の停止条件ないし解除条件付きの金銭債権として,すなわち停止条件等が付着したものを差し押えたことになるではないかと考えているんですが,ただ,そこは破産の場合を含めて非常に難しい問題はあると思いますので,こちらでも十分検討したいと思います。 ○水野(有)委員 よろしくお願いいたします。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほかにいかがでございましょうか。 ○垣内幹事 先ほど協議に関するやり取りをさせていただいたときに,私が後から考えてみますと,協議というものの内容についての理解が若干ずれているところがもしかしたらあったのかなという感じを持ちました。と申しますのは,普通に訴訟外で協議で全て解決するという場合には,ある目的物を現物返還の対象として特定し,それが幾らの債権債務関係を消滅させるのかということについても,併せて合意の上で決めるということが考えられるとともに,そうではなくて,これが幾らに相当するかについては争いがあるので,残額は幾らか出るだろうけれども,しかし,これについては現物返還の対象とする,というだけの協議ということも考えられるように思いまして,試案で言っている協議というのはどっちの意味だったのだろうかということが,両方の意味にとり得るのかもしれないですけれども,まずあり,そのことと併せて訴訟の過程で主張のやり取りの中で,そういう意思の合致ができたときに,しかし,それは目的物についてだけのことであって,金額には争いがあるというものが試案に言っている協議に相当すると考えるのか,しないのかということによっても,また,整理の仕方が変わってくるのかなと思われます。   もし,協議の場合に金額まで含めてでなければ整ったとは言えないのであり,金銭債務が消滅するとも言えないという立場を仮に採ったとしますと,判決を目的物を特定する場合でも,金額も含めて何か形成するということを考えなければいけないようにも思われまして,取り分け,受遺者等が別訴を提起した場合に目的物だけを特定する主文を書くのか,それによって幾ら幾ら消滅するということまで主文ないし理由中になるのか分かりませんけれども,何らかの形で明示することを要するのかといったような問題も,先ほど御指摘の債務不存在等々が別途,必要かどうかというところとも絡めて検討する必要があるのかなという感じを持ちました。 ○堂薗幹事 ありがとうございます。   私が先ほどお答えしたのは,基本的には目的物を定めるだけの合意もできて,金銭について争いがある場合は,裁判所で判断してもらうということもあり得るのではないかという前提ではありましたが,そこも含めて検討させていただければと思います。 ○大村部会長 ほかにいかがでしょうか。   御意見は,今日,御提案いただいたものをベースに,更に細かい点について詰めていただくとともに,増田委員の案も更に特定した形で次回以降,この問題を検討する際にお出しいただき,併せて検討するということかと思いますけれども,それでよろしゅうございますでしょうか。ありがとうございます。   それでは,この点につきましては,そのように扱わせていただきます。   第4で残っております次の項目は,2の「遺留分の算定方法の見直し」でございますけれども,この点につきましては,生前贈与の範囲につきましては期間をどうするのかということについて慎重に検討すべきだという意見が多かった,それから,22ページの「遺留分減殺の対象に関する規律」,これは法定相続分を超える部分を減殺の対象とするという考えを示したわけですけれども,これにつきましては賛否が拮抗していて制度設計が難しいのではないか,このような指摘がされたかと思います。   この2の項目につきまして御意見を賜れればと思います。いかがでしょうか。特に御指摘等はございませんでしょうか。   それでは,3と4についても併せて御意見を伺いたいと思います。3と4につきましては,第4の(1)の遺留分権利者の範囲について,直系尊属を除くという考え方,これは必要性がないという意見も寄せられているということで,これを積極的に支持する意見は必ずしも多くないという指摘がされております。この点を含めて,3,4についても御意見を賜れればと思います。その前の2についてのなお御意見があれば併せて伺いたいと思います。いかがでございましょうか。格別の御意見はないということで,ここに示されている方向を基本として,更に検討していくということでよろしゅうございますでしょうか。ありがとうございます。   それでは,最後の「第5 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」ということになりますが,これにつきまして事務当局の方から御説明を頂きます。 ○小川関係官 関係官の小川から,「第5 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」について御説明いたします。   まず,パブリックコメントの結果の概要を御報告いたします。相続人以外の者の貢献を考慮するための方策を設けることにつきましては,被相続人の療養看護などに努めた者等の保護を図る必要があるなどとして,その方向性に賛成する意見と,現行法上も一定の範囲では不当利得返還請求権等の成立が認められる場合があり,他方,このような方策を講ずると相続に関する紛争が複雑化,長期化するおそれがあるなどとして,これに反対する意見に分かれておりまして,賛否が拮抗している状況にあります。   それから,(2)の見直しの方向性につきましては,乙案に賛成する意見が比較的多かったものですが,甲案に賛成する意見も相当数ございました。乙案に賛成する意見は,被相続人の療養看護等を行う者は親族に限られないものであり,乙案によれば内縁関係にある者なども対象に含めることができるなどを理由とするものでした。他方,甲案に賛成する意見は,請求権者を限定しないと,本方策が本来,想定していないような者を含め,相続人が広く第三者から金銭請求を受けることになり得るため,相続をめぐる紛争が複雑化,長期化するほか,相続人が不当な請求を受けるおそれがあることなどを懸念するものでございました。   その他,請求権者の範囲及び寄与行為の態様につきましては,いずれも限定を加えるべきではないとの意見,反対にそのいずれにおいても限定を加えるべきであるとの意見,甲案又は乙案を基礎としつつ,請求権者の範囲又は寄与行為の態様について一定の変更を加えるべきであるとの意見など,多様な意見が寄せられました。   それから,2の「パブリックコメントで指摘された個別の問題点等」ですが,中間試案の考え方に賛成する意見においても,複数の相続人がいる場合の負担割合について法定相続分においてその責任を負うとすると,相続人が具体的相続分がなくても金銭債務を負担することになり,相続人の利益が害されることになって相当でないですとか,請求権に係る時効・除斥期間について,中間試案で挙げています相続開始を知ったときから6か月間又は相続開始のときから1年とするのは,短すぎるなどの問題点を指摘するものがございました。   以上を踏まえまして,今後の方向性についてですが,本方策の方向性に賛成する意見が相当数ありまして,特に個人から寄せられた意見については賛成が多かったものですが,中間試案の考え方には賛成できないとする意見の中にも,本方策のような規定を設ける必要性があること自体については理解を示すものが複数あり,これに反対する意見は相続をめぐる紛争の複雑化,長期化に対する懸念が主たるものであったことなどに照らしますと,パブリックコメントにおいても立法の必要性についてはある程度の理解が得られたものと考えられます。また,中間試案の考え方は貢献をした者を遺産分割の当事者とするのではなくて,相続人に対する金銭請求を認めることとし,金銭請求を認める場合の要件について請求権者の範囲又は寄与行為の態様による限定をすることで,相続に関する紛争の複雑化,長期化を避けることを意図したものでありましたが,遺産分割の当事者に含めないこととした点については,問題点を指摘する意見は少ないものでありました。   他方で,本方策に反致する意見は,相続人以外の者の貢献については遺産分割手続と別の手続で判断することにするとしても,金銭請求を受け得る相続人の立場からすると,金銭請求の有無や金額が確定するまでは遺産分割について検討又は判断することが困難になるとして,本方策に係る金銭請求の有無や金額が確定するまでの間,事実上,遺産分割手続が停滞することなどに懸念を示すものであり,こうした意味では,中間試案の考え方を前提としても,なお,紛争の複雑化,長期化に関する懸念を払拭することはできなかったものと言えます。   こうしたパブリックコメントの結果を踏まえますと,今後も中間試案の考え方に対して寄せられた問題点の解消に向けた検討を行い,その検討結果を踏まえ,最終的に見直しの是非について判断することが相当であるように思われます。この点について御意見を頂ければと存じます。 ○大村部会長 ありがとうございました。   相続人以外の者の貢献を考慮するための方策として,甲・乙両案,甲案は請求権者の範囲を限定する考え方,乙案は貢献の対象となる行為を限定する考え方ということであったわけですけれども,このような方策を設けるということ自体について賛否が拮抗している,設けるとした場合に,甲案なのか,乙案なのかということについては,乙案が比較的多いけれども,甲案を支持する意見もあるというのが現状であるということでありました。賛否両論が拮抗しているという場合の否定論は,先ほどの配偶者の相続分の見直しと共通のところもあるのですけれども,紛争の複雑化,長期化に対する懸念というのが中心的なものである,そうすると,必要性についてはある程度の賛成意見があるのではないかというのが事務当局の認識だろうと思います。そこで,問題点を解消することができるかどうかを更に検討し,最終的に見直しの是非について考えるという方向がここに示されているかと思います。   この問題につきまして御意見を賜れればと幸いに存じます。いかがでございましょうか。 ○米村委員 法律論の外側からですけれども,先ほどの配偶者の相続分の見直しのところで反対がそれなりに多かったということと,この点を重ね合わせて考えますと,多様な現実に対して相続法がどう応えてくれるのかというところは,非常に強い関心があると思いました。多様な現実に対応しようとすると,紛争が長期化,複雑化するというのは,ここに参加させていただいてよく学んできたことでございますが,是非,問題点を解消して着地点をよい形で見付けていただきたいと思います。残された人の生活の保障であるとか,実質的な貢献であるとか,療養看護に対して相続法がどう応えてくれるのかというのは広く社会的関心のあるところでありますので,是非,何かそれに対して応えていただけるものであってほしいと強く願っております。コメントのみで失礼いたします。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今のような御意見を頂きましたけれども,他の委員・幹事,いかがでございましょうか。この問題はなかなか意見が割れている問題でもありますので,是非,委員・幹事の御感触をもう少し伺えればと思いますけれども,いかがでございましょうか。 ○中田委員 パブリックコメントの結果に対する分析を御説明いただきたいんですけれども,賛否が拮抗しているという結論ですが,甲・乙のいずれにも反対というのが随分多いように思われました。詳細版の168ページに出ていますけれども,拮抗しているというのは,甲案に賛成という意見,プラス,乙案に賛成する意見に対して,いずれにも反対する意見が大体同じぐらいだということだと思います。ただ,甲案の立場に立って乙案に反対という人も,乙案の立場に立って甲案に反対するというのもあるようですね,意見分布を見ますと。そうすると,甲案について見れば甲案を支持するというのは比較的少数で,乙案についても乙案を支持するというのは相対的に少数だという,こういう認識に立ってよろしいんでしょうか。 ○堂薗幹事 そこは,この結果をどう分析するかというところだと思うんですが,まず,制度創設の必要性自体についていいますと,甲案であれ,乙案であれ,どういう制度設計をするにしても,このような制度は必要であるという前提なんだろうと思いますので,そういった意味では,少なくとも見直しの方向性については御賛同頂いているのではないかと。その具体的な制度設計についていろいろ意見があるのではないかという理解をしております。   それに対して,甲・乙ともに反対という意見の中には,先ほど中田委員からも御指摘がありましたが,そもそも,こういう見直しの必要はないという意見と,それから,見直しの必要性はあっても,甲案,乙案のどちらも制度設計としては不相当であるという意見があるかと思いますので,ここは厳密に分析できているわけではないんですけれども,事務当局の認識としては見直しの方向性自体について賛否が分かれており,なおかつ,具体的な制度設計については甲案と乙案を比較しますと,乙案の方が賛成が多いというような整理をしているというところでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   先ほどの配偶者の相続分の見直しについての意見分布をどう評価するのかということとも関わる問題かと思いますけれども,先ほど第2の1については反対が多いけれども,諦めずにもう少しやってみましょうかというところで一応,落ち着いたように思います。第5についても今の中田委員の御発言の中には,反対が多いという評価も可能なのではないかという含意もあるように思いますけれども,それでもなおもう少し検討するということは考えられるように思います。その点につきまして御意見を頂ければと思います。いかがでございましょうか。 ○潮見委員 検討を進めていただくことについては,別に止めようとするつもりは毛頭ございませんが,私もある特定の立場を前提にしているのかもしれませんが,今後の方向性のところで,本方策に反対する意見ということで手続面での煩雑さを強調してまとめられているように,私には見て取れました。他方,先ほど中田委員がおっしゃられた甲案,乙案のいずれにも反対というところに出ている意見をざっと見たところでは,確かにそういう手続面での煩雑さ,長期化に対する懸念ということももちろん示している意見は多々ございますが,他方で,私や増田委員もそうだったと思いますけれども,この間,いろいろな形で発言をさせてもらってきていた契約的な処理だとか,あるいは不当利得とか,事務管理とか,準事務管理とか,そうした制度を使って対応が可能であるのではないかとか,そういう御意見も多々含まれているように感じ取りました。   そういう意味では,今後の方向性のところのまとめ方自体に対して,私は若干の不満があります。その辺りをある一定の方向に誘導しているのではないかという懸念もなくはありませんが,今申し上げた意見も出ておりますので,検討に当たりましては先ほどから少し出ているような,あるいはここの意見にも出ているような今回の方向を更にどう育てていくのか,あるいは寄与分とかも含めた形で,その辺りをどう調整していくのかということと並べて,こういう反対の意見で出てきている別の制度を使って処理してはどうかという,過去に出ながら中間試案では消された意見が出ている以上は,もう一度,俎上にのせていただきたいと思うところもないわけではありません。その部分も含めた形で,今後,更にこの点について検討していくということであるならば,私はそれに賛成したいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今の御意見は,先ほどの第2の1の配偶者の相続分の見直しについての御意見とも関連すると思いますけれども,相続法の外で何ができるのか,相続法が何を担うのかということをどう考えるのかということに関わっていると思います。あちらの問題について更に諦めずに見直すのと同様にこちらも見直すとして,その際にはもっと別の手段もあるかもしれないということも含めて検討していただきたいという御要望だと承りました。 ○堂薗幹事 検討させていただきます。 ○大村部会長 ほかにはいかがでございましょうか。この第5につきまして,他の委員・幹事,御発言はございませんでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,今,頂きましたような御注意を踏まえて,これについても今の段階ではなお諦めずに検討を続けてみるというのが皆様の御意見だということで,取りあえず,まとめさせていただきたいと思います。   以上でございますが,これから,今日,示された今後の検討の方向性について,皆様の御意見を頂いて更に具体的な検討をするということになろうかと思いますけれども,今日の議論を終えた段階で何か御発言があれば承っておきたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○潮見委員 1点だけ,確認。先ほどの遺留分のところでのことで第4の部分ですが,1の「遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直し」,この部分です。確認だけなんですが,今日は甲案を中心に,そして,甲案の場合に問題として指摘されてきた訴訟構造,それをどのように考えたらいいのかということについて少し膨らませた御説明というのを頂戴したと私は伺っているんですが,今後の方向性ということを考えた場合に,三読ではこの部分については基本的に甲案をベースに,これから議論を進めていくというところまで今日の議論というは踏み込んでおるのか,乙案はここでやめるのか,あるいは何かのときには残しておくけれども,甲案をベースに少しもんでいこうというようなことなのかということだけ,もしお考え等があれば御教授いただきたいと思います。 ○堂薗幹事 基本的には,乙案に対しましては現行制度で指摘されている問題点がかなり残るのではないかという御意見が多く,確かにそういう面はあるのではないかというところがありますので,もちろん,甲案が駄目だった場合に最終的にどうするかという問題はありますが,まず,こちらとしては甲案をベースに,更に増田先生の方から御提案いただいたような考え方も基本的な方向性は同じだと思いますので,そこを検討した上で,それで御了承が得られるような案が出れば,そちらの方がいいのではないかと考えているところです。 ○潮見委員 ありがとうございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほか,全体にわたる御発言はございませんでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,今日,頂きました御意見を踏まえまして,次回以降,更に検討を続けてまいりたいと思います。   そこで,最後になりますけれども,今後の日程等につきまして事務当局の方から御説明を頂きます。 ○堂薗幹事 それでは,今後の予定でございますが,次回以降は本日の御審議の結果を踏まえまして,もう一度,論点ごとに,そういった意味では三読ということになろうかと思いますが,中間試案の第1から第5までのそれぞれの論点について御審議いただき,その上で要綱案の取りまとめに向けた御審議を頂ければと考えているところでございます。   次回の日程につきましては御案内のとおり,11月22日(火曜日),午後1時半からを予定しております。次回は配偶者の居住権を保護するための方策について御審議いただければと考えているところです。次々回以降の予定でございますが,可分債権の取扱いにつきましては,最高裁決定が出た後に御審議いただいた方がいいのではないかということでございましたので,順番としては最後にさせていただきまして,次々回,12月20日(火曜日)には遺留分制度の見直しを取り上げさせていただき,その次の1月24日には遺言制度の見直しを取り上げさせていただければと考えております。   2月以降の日程については,正式にはこれから御連絡することになるかと思いますが,2月は28日(火曜日),3月も28日(火曜日)を予定しております。2月に遺産分割に関する見直しを取り上げ,3月に相続人以外の者の貢献について取り上げさせていただき,ここで三読を終了ということを考えております。   4月以降の日程につきましては,現時点は未定でございますが,基本的には第3火曜日に行うことを予定しておりますので,日程の確保等につきまして御配慮いただけますと幸いでございます。   次回もどうぞよろしくお願いいたします。 ○大村部会長 今,口頭で御案内がございましたけれども,日程につきましては11月は22日,12月は20日,そして,年が改まりまして来年1月は24日,ここまでは既に御案内済みということでございます。それに加えまして,2月が28日,3月が28日ということで,次回以降は三読ということになりますが,この5日間を御予定おきいただければと存じます。   順序につきましても,今,御説明があったとおりでございますけれども,第1から第5の順番ではなくて,第2の遺産分割に関する見直しにつきましては,先ほどの御議論に従いまして,後の方の回に繰り下げさせていただく。そして,今日,御議論いただいて,なお,技術的な問題がかなり残っていると思われる第4の問題を早い段階でやるということで,次回が第1の配偶者の居住権,その次が第4の遺留分制度の見直し,そして,第3の遺言制度の見直しに進み,第2の遺産分割に関する見直しは2月で,3月が相続人以外の者の貢献を考慮するための方策,こういうことでしたね。   ということでございますので,どうぞ,御予定の方をよろしくお願いいたします。   このスケジュール等につきまして何か御質問等はございますか。よろしゅうございますでしょうか。   それでは,このように進めさせていただきたいと存じます。   本日も活発な御議論を頂きまして誠にありがとうございます。   これをもちまして,本日の第14回会議を閉会させていただきます。   ありがとうございました。 -了-