法制審議会会社法(現代化関係)部会 第17回会議 議事録 第1 日 時  平成16年1月14日(水)    自 午後1時30分                          至 午後4時18分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題 代表訴訟について 第4 議 事 (次のとおり) 議    事 ● 予定した時間が参りましたので,第17回会社法(現代化関係)部会を開催いたしたいと存じます。本日は御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   本年は,この会社法現代化のための作業が山場といいますか,一番重要な年になりますので,昨年にも増して,なお一層の御協力のほど,よろしくお願い申し上げます。   さて,本日の会議では,前回に引き続きまして部会資料15につきまして御審議をお願いいたします。前回は,この部会資料15の1と2について御審議いただいておりますので,本日は,「3 株主代表訴訟の原告適格の見直し」につきまして御審議いただきたいと存じます。   それでは,早速本日の審議に入りたいと存じますが,この「3 株主代表訴訟の原告適格の見直し」の部分につきまして,事務局から改めて説明をしていただきます。お願いいたします。 ● それでは,資料15の3につきまして,前回の説明と重複いたしますけれども,改めて概略の御説明をいたしたいと思います。   原告適格の見直しに関する論点についてですが,一つが,(1)の行為時株主原則の導入の当否という問題でございますし,もう一つが,(2)の株式交換・株式移転,それ以外の場合も含めまして,現行法のもとで何らかの形で途中から原告適格が喪失するという事態についての手当ての要否という問題でございます。   まず,(1)の行為時株主原則の導入は,御承知のとおり,現行の6か月間の保有期間という要件に代えまして,訴訟の原因となった行為時点における株主であるということを要件とすべきかどうかという問題でございます。この場合の株主が,その後株式を手放すなどして株主でなくなった場合はどうなるかという問題はさておきまして,とりあえず行為時点に株主であったということを提訴の要件とすべきであるという御意見についてでございます。   平成13年の議員立法の際の当初案では,基本的にこれに類する提案がされていたところでございますけれども,衆議院の法務委員会における審議の過程におきまして,与野党の協議のもと,現行法のような形での修正,すなわち,この点の要件については見直しを行わないという修正が図られて今日に至っているということは御承知のとおりでございます。現時点で見直しの当否を検討するに当たっては,このような経緯を踏まえつつ,平成13年の改正後における代表訴訟の実情等から,現時点でこのような立法をすべきような事態が生じていると認識するかどうかというところがまず大事なのではないかと思われるところでございます。与野党における国会での修正の議論ということを踏まえた上で,政府として法案を提出するに当たっては,それなりの重要な立法事実--平成13年時点での議論の際とは異なる立法事実--というものが現時点で生じているということを言わないと,なかなか難しいのではないかという気もいたすところでございます。   次に,株式交換・株式移転による原告適格の喪失の見直しの点でございます。   株式交換・株式移転制度の導入の時点で,当初より問題視されていた点であろうと思われるところでございますが,現在,下級審の裁判例におきましては,代表訴訟の原告株主が株式交換・株式移転によって株主たる地位を失った場合には,その原告適格を失うという判断がほぼ定着しつつあるところでございまして,それについての立法論的な批判も強く展開されていることは御承知のとおりでございます。   この立法上の手当ての要否を考えるに当たっては,株式交換・株式移転が,現行法のもとでは少なくとも株主総会の特別決議を経て行われているということをどのように考えるか,あるいは,その組織再編行為自体について反対であれば,株式買取請求権というような保護--この保護は代表訴訟と直接かかわるものではないですけれども--の制度が存在しているということをどのように考えるか,更には,代表訴訟の継続中に,会社が当該訴訟の対象となっている役員に対する損害賠償請求権を他に譲渡したという場合の代表訴訟の帰趨の取扱いともある程度関連する問題のようにも思われますので,その点についての考え方の整理をしていただく必要があろうかと思われるところでございます。   いずれにしても,何らかの形で株主たる地位を失ったという場合における立法上の手当ての在り方,手当てが必要だとした場合のその在り方としては,幾つかの方向性が考えられるわけでございまして,それを②,③,④で順不同で並べさせていただいているところでございます。   ②は,株式交換・株式移転の場合に限られるわけですけれども,この場合には,原告株主に代わって株主となる完全親会社が当然に原告適格を承継するという立法上の手当てを行うというものでございます。これは,提訴中の代表訴訟が原告適格の喪失によって却下され,終了してしまうということの訴訟経済上の不利益を避けるため,かわりの株主が当該訴訟を追行するということを当然のこととして確保しようとする場合には考えられる手立てということになります。法制的にはすっきりしているところではありますけれども,ただ,原告となる完全親会社に熱心な訴訟追行を期待することができるのかどうかという事実の問題に照らして,その評価が分かれるところではないかと思われます。   ③は,いわゆる2段階あるいは多段階の代表訴訟を正面から認めることとするものでございます。この議論は,適切代表の考え方を踏まえて,より抜本的な解決を図ろうとすれば,一つの到達点であろうかと思われるところでございますけれども,要は,2段階にとどめるのか,3段階以上の何段階かまで--あるいは延々とかもしれませんが--多段階を認めるのか,認めるとした場合に,どのような親子関係にあるもの,あるいは関連のあるものについてのみ認めるのか,100%であるのか,51%であるのか,その中間であるのか,そのような要件の整理について,ある種決めの問題になるわけですけれども,御議論をちょうだいせざるを得ないところでございます。   仮にこの③の抜本的な解決が図られるということになりましても,現在考えられる問題の幾つかの場面はこれでは救えないということになるわけでございます。例えば,株式併合,株式消却の場合はそうですし,また,組織再編で対価の柔軟化が図られるとした場合には,対価のいかんによっては,この③では救われないということになるわけでございます。   問題は,このような場面において,特に株式併合とか株式消却を念頭に置いて御議論をいただければよろしいかと思いますけれども,原告適格を失わしめるということを当然視するのかどうかということでございます。当然視しないということでありますと,提訴時点に原告であれば足りるというような決めを打ってしまうのか,あるいは,原則はとにかく株主であることが必要であるとしながらも,一定の場合に,株主たる地位を失ってもなお株主である者と同じように扱うというような例外的な手当てを講ずるのか,こういう問題になるわけでございます。   ④は,③とは別にそのような手当てを講ずるかどうかという問題でございます。③の手当てを講ずる場合であっても,あるいは講じない場合であっても,同様に問題となるところでございます。③の手当てを講ずる場合には,④は,要するに,親会社等の株主にはならなかった株主についても原告適格の維持を図ることとすべきかどうか,その要件は何かということでございますし,③の手当てを講じないこととした場合には,親会社株主になったか否かにかかわらず,手当てをすることの当否ということが問題となるわけでございます。   ②から④までにつきましては,代表訴訟の原告適格の取扱いにとどまらず,およそ会社関係の訴訟一般について,株主として提訴した者が提訴後に株主でなくなった場合にどのように取り扱うかという問題があるわけでございます。ただ,例えば決議関係の訴訟であれば,決議時点において株主であった者ということで原告適格を固定することに合理性があるとしても,代表訴訟の場合には必ずしもそうではないという整理もできるのかもしれないというところでございまして,他の訴訟における原告適格の取扱いも視野に入れつつ,議論の掘り下げをお願いしたいという次第でございます。   さらに,資料15の1の「いわゆる「訴訟委員会制度」等の方策の導入」の一番最後のところで,「株主総会の特別決議により株主代表訴訟を取り下げることができるものとする」というような考え方の当否についての議論をいただく予定でございました。これは,例えば,株式の併合が,現行法のもとでは格別の要件なくして特別決議によって実現し得ることとされていることにかんがみ,もし株式併合によって株主ではなくなったという場合には原告適格が失われるということもやむを得ないという整理をすることとした場合には,更にこのような方向での検討があり得るかどうかという問題でございます。これは,訴訟を早期に,明確な基準をもって終わらせるということに大きな立法上の必要性があるとすれば,考え得る手段の一つかもしれないということで,御議論をちょうだいできればと思います。   差し当たり,説明は以上でございます。 ● ただいま事務局から説明していただきましたが,この「3 株主代表訴訟の原告適格の見直し」全体につきまして,何か御質問ございますでしょうか。--よろしいですか。   それでは,各項目について御審議をお願いしたいと思います。   まず,3の「(1) いわゆる「行為時株主原則」の導入」の点につきまして御審議いただきたいと思いますが,この点をどう考えるかということにつきましてはいかがでしょうか。先ほど,国会における審議の事情等の説明もありましたが。   ○○委員,何か御意見ございますか。 ● この行為時株主原則につきましては,この前にお願いいたしましたように,是非導入していただきたいと思っているわけでありますけれども,先ほど○○幹事から御説明のありました,平成13年の国会においてこの提案が取り下げられていると,そしてその後の立法事実というのはないのではないかということから攻められますと,正におっしゃるとおりだろうと思うのですけれども,そもそもその国会においてこの提案が修正されたということの理由というのを,もしお分かりだったら教えていただきたいと思うのですけれども。議員立法ですから難しいのかもしれませんけれども,お願いいたします。 ● いろいろ議論があったというふうに私も聞いております。詳細についてはもちろん定かではないのですけれども。   一つ議論になったのは,主観的なものを要件にするというところで,かえって争点が増えるというような議論が,一応,公式にはされたというふうに聞いておりますけれども。 ● そういうことのようですが,○○委員,その点につきましては何か御意見ございますか。 ● これはそういうことなのかどうかも,私,分からないのですけれども,恐らく,全体の中での与党と野党との関係の中で,できるだけ議論のある項目を削っていこうという中で早期成立を目指した,そういう妥協の産物ではないかという気もしているものですから,この立法段階における状況というのが正であったという理解ではなくて,そもそも行為時株主の方が筋ではないのかと,こう思うものですから,平成13年以降の変遷に限定することなく,そもそもどちらが筋なのかというところから御議論していただければと,そう思います。 ● その点はおっしゃるとおりだと思いますが。   この問題につきまして,ほかの委員・幹事の方,何か御意見ございますでしょうか。 ● 議論を混乱させてしまうと申し訳ないのですけれども,例えば,(2)の問題の解決を図るに当たって,提訴時に株主であれば足りるというような整理を究極においてはするという選択肢もあり得るわけでございます。それが法制的に合理的かどうかは別にしてですけれども。そういたしますと,提訴時よりは行為時の方がよいのではないかという議論も出てこないではないと思われますので,(2)の方の手当ての在り方いかんによってはまた戻り得る議論でもあるのかなという感じもしているところでございます。   もちろん,(1)での議論というのは,行為時に株主でさえあれば提訴時に株主でなくても構わないという議論を当然に含んでいるものではないのですけれども,(2)の方については,株主でなくなっても原告適格を失わないという結論を導こうという御意見もかなり強くあるところでございまして,(1)についても,その議論のいかんによっては,行為時に株主であれば,その後株主でなくなった者についても当該行為に係る代表訴訟を行わせていいという極論もあり得なくもないとも思われるところでございまして,関連して御議論いただければよろしいかと思います。 ● ○○委員,どうですか。 ● 御指名いただきまして。   確かに,今,○○幹事が御指摘の点は出てき得る論点だと思いますが,ただ,それはむしろ逆に,行為時株主であれば代表訴訟を提訴できるという形の方の議論と結びつくという,そういう御理解ですね。   私自身は,これについては両方の考え方があるように思いますが,一応やはり現行法の在り方でいいのではないかと思っております。立法事実の変化というのもないというのは,これは明らかでありますし,まず抽象的な理屈として考えますと,やはり株主代表訴訟というのは株主の共益権の行使でありますので,特にどの時点の株主ということではなくて,現在の会社にとってプラスになることを株主の資格にある者が訴えを起こすという理屈から考えますと,どちらかといえば行為時株主原則をとらない方が株主の共益権という性格づけからは妥当ではないかと。会社の現在の損害をなるべく回復させるべきであって,特に,提訴資格を導入してしまいますと,古くて重大な事件が結局見逃される可能性があり得るということになりますので,まず理屈の上では行為時株主原則は要求しない方がいいのではないか。仮に原告株主の主観的事情を考慮するのであれば,担保提供の制度が一応用意されているというように思います。   ただ,より問題なのは,先ほどの国会でも議論があったという実際上の理由の方が大きいように思っておりまして,仮に行為時株主原則を導入したとしましても,それによってそういう訴えを起こす株主を制限する効果というのは余り大きくないのではないかという感じがします。行為時株主原則を要求したとしても,議員立法のときの当初の案のように主観的事情を要求するということになりますと,まずその主観的要件の方の認定で非常に争われて,そこのところで訴訟が長引いてしまって,迅速に訴訟を終結させるということにはつながらないおそれがありますし,それから,責任を追及しない,他の取締役の監視義務を争うという形で争えば,行為時株主原則があっても,事実上,他の取締役の責任を追及するという形で争うことが可能になりますから,原告株主の主観的事情などでチェックしていく,代表訴訟が濫用的に行われるのをある程度セーブするという目的は余り果たせないように思いますから,仮に導入しても余り意味がない,場合によるとかえって訴訟を遅延させるおそれがあるという意味では,導入することは余り望ましくないのではないかと考えております。 ● 問題点の包括的な御指摘をいただいたように思いますが,ほかに御意見ありますか。 ● 私も,基本的にはこの3の(1)は現行法のままでもよろしいのではないかという点で○○委員の御意見に賛成なのですが,ただし,必ずしも変えてはいけないというほどのものでもないのではないか。確かに,考え方としては,この行為時株主原則というのは一つの考え方であると思うのですね。せっかく国会でいろいろ議論されて改正を行わない旨の修正が行われたのにもかかわらず,もう一度提起するには,何か新しい事情がなければという御説明を今いただいたわけですけれども,正にその新しい事情として,次の(2)において,見直しをすると。むしろ6か月保有期間の要件というものではなくて,行為時に株主であり,かつ訴えを提起するまでの間に株主であり続けるか,あるいは,自分の意思ではなくて株主の地位を奪われてしまった者,というような立法を仮にするとしましたら,あわせて(1)の方も考え直す余地があるのかどうかという,こういう順番で検討することはあってもいいのではないかという感じがいたします。   それから,3の(1)の行為時株主原則のことを仮に議論するとしました場合には,その要件の立て方いかんということが非常に重要になってくると思いますので,やはり悪意・重大な過失ということでいくのか,それとも,主観的ではあるけれどももう少し別の要件の立て方をしないと現実に困ることにならないかとか,そこら辺は,もしも取り上げるとなった場合には慎重に議論した方がいいと思っております。 ● むしろもうちょっと後でこの問題は議論した方がいいのではないかという御意見かと思いますが,何かほかに御意見ございますでしょうか。 ● ちょっと御参考までに,実情といいますか,今,部に32件ほど株主代表訴訟が係属しておりまして,実際に後から株を取得して起こしたのではないかと見られるのはどれぐらいあるかをちょっと聞いてみたのですけれども,これは正確かどうかは分からないのですけれども,3件程度ですね。ですから,前回お話ししました親族間紛争型とか内紛型というのは,そもそももともとの株主が起こしていると。やはり,そういう傾向のある事件というのは,例えば新聞紙上等で騒がれた会社の問題行為があって,その後に株主が株を取得して代理人を頼んで起こしてきているという事件が3件程度。   ですから,ここは,確かに理論的にはいろいろ考え方があるのだろうと思いますし,どちらがということはないかと思いますが,裁判所で見ていますと,先ほど○○委員が言われた,この要件の認定のために訴訟が遅延するかというと,この要件ぐらいであればそこまではいかないのではないかという気はいたします。どちらかというと,全く情報を持っていない株主が原告になってきますと,訴訟のときに--前回から申し上げていますとおり--事実関係をきちんと整理して出してくれれば,裁判所は評価はある程度スピーディーにできると思いますので,そのあたりのところで,もともとの株主ですと会社のことをよく知っていて,いろいろな資料も出してくれやすいというぐらいの差はあるかなとは思いますが,まあ決定的なものはないかなと思っております。 ● それでは,○○委員の御提案もありますので,(2)の議論を終わってからもう一度,時間が許せばでありますけれども,議論するということで,とりあえず(1)の問題は以上ぐらいでよろしいでしょうか。   それでは,(2)の方が非常に問題が多いと思いますので,(2)の方に入らせていただきますが,先ほど事務当局から御説明がありました①から④まででありますけれども,まず,一応①ですね,「立法上の手当ての要否」,これはまあ総論ということですので,①に絞って,もし①で立法上の手当てが必要だということになると,②から④でそれぞれの案の利害得失はどうかという話になると思いますので,まず①について,立法上の手当てが必要かどうかといったような点について御議論いただければと思いますが,いかがでしょうか。それでよろしいですか。   それでは,まず①の点につきまして,ここに米印で幾つか考えられる論点が並んでおりますが,これに関係して,あるいはこれと関係ない点でも結構ですが,御意見いただけますでしょうか。 ● やはり,①の点につきましては,立法上の手当ては必要な段階に来ているというように考えます。   米印の一つ目ですけれども,特別決議で株式交換・株式移転はできますけれども,だからといって株主代表訴訟を起こす権利がそれによって奪われるということではおかしいわけでございまして,代表訴訟は一株主でも起こせるという単独株主権でございますから,これは理由にならないと思います。   それからまた,単独株主であっても反対株主による株式買取請求権で離脱できるではないかということですが,離脱できるということと,これはおかしいから自分でもって訴訟したいという発言権の行使とは別物でございますから,反対株主の株式買取請求権があるからといって認めなくてもよいということにはならないと思います。   一番問題なのは三つ目の米印かと思いますけれども,この和歌山地裁の判決それ自体が具体的事案において非常に不適切であったとか,そういうことではないかもしれないのですが,考え方としてはかなり大きな問題を含んでいる--これは○○委員もそのようにお書きになっていらっしゃったところだと思いまして,私も全く同意見でございます。一般論として,このような取締役に対する損害賠償請求というような,どの株主であっても代表訴訟を提起できるような,そういうものについて,会社として,代表取締役が行うのか取締役会で行うのか知りませんが,それを勝手に処分してしまえるという理屈は成り立たないわけでございまして,そういう意味で少し再検討が必要な項目であろうかと思いますから,このような判例があるから,したがって立法上の手当ては要らないということにはならないと,こういうことだと思います。 ● ちょっと名前が出ましたので,最後の点だけ申しますと,この和歌山地裁の事件というのは,要するに取締役に対する損害賠償請求権を預金保険機構が取得したという事件なのですね。ですから,これは非常に特殊な事件でありまして,この判決も言っておりますけれども,適切な対価を得て会社が損害賠償請求権を譲渡したのであれば,それは会社に損害がなくなるわけですから,当然,株主代表訴訟は棄却か却下になると。そもそも会社の請求権を行使する必要がもうないわけですからね。だけれども,そういうケース,適切な対価を得て会社が取締役に対する損害賠償請求権を譲渡するというのはどういうケースなのかと。この事件は預金保険機構があれしているわけですから,とにかく不良債権額に匹敵するものをつぎ込んでいるわけで,ですから,それはもう取締役に対する損害賠償請求権に匹敵するものを会社につぎ込んだわけですね,預金保険機構は,間違いなく。ですから,これは会社は間違いなく十分な対価を得て譲渡したのですけれども,ほかにどういう……,取締役に対して幾らの請求権があるのか,それから,取締役に幾らの資力があるのかというのは普通分からないわけですから,適正な対価で譲渡するということは普通はあり得ない。もしあるとしたら,せいぜい損害保険の請求権代位ぐらいで,それ以外はちょっと考えられないのではないかと。だから,これはめったに起こらないことであるというふうに考えた方がいいのではないかと私は思っておりますが。   この立法上の手当ての要否につきまして,○○委員はいかがでしょうか。 ● 立法上手当てをするかどうかの必要性についてはまた御議論いただきたいのですけれども,裁判所で下級審の判決がそうなっているから立法上の手当てということでありますけれども,立法上の手当てをしていきますとまたいろいろな問題が出てくるという中で,そもそも下級審の判決というのがおかしいのだということで,そうではないような解釈がとられるべき案件であっただろうという気が強くするものですから,東京地裁等でああいう判決がどういうふうに,具体的な事案ではなくて,一般的にどう考えられるのか。裁判所でこれから全部こういうのは救ってあげようとおっしゃるのであれば,それでもいいだろうと思うのですけれども,そういうのが不可能だということであれば,実質上こういうふうに手当てをして,こういう株主の権利を保護すると。会社の理由,会社の判断でもって,株主が関与できない,単独株主として拒否権がない中で権利がなくなってしまうというふうなことについては,これはやはりあってはならないということだと思いますので,解釈上無理だということであれば,立法上手当てをするということには賛成であります。 ● ほかの委員・幹事の方,いかがでしょうか。 ● 私も皆様の驥尾に付したいと思うのですけれども,この立法上の手当てのそれぞれの必要性についてまず言えば,現状の下級審判例がまずいというのは,これは多分大部分の方がそういうふうに思っていらっしゃるのではないかと思いますし,特に大和銀行のときなどはジャーナリズムの方でもかなり批判されて,司法制度そのものに対する不信,更には,そういう問題が予想されるのにそういうちゃんとした手当てをした立法をしなかったのがいけないという形で,立法する法務省というか,我々に対する批判もジャーナリズムでは加えられているようでありますので,ここはやはりきちんと対応しておくべきかなと思います。   三つの米印の最初の点でございますけれども,株主総会の特別決議が株式交換や株式移転で必要とされていることとの関係をどのように考えるかという問題の投げかけですが,これが具体的に特にどういうことを聞きたいのかがちょっとよく理解しにくかったのですけれども,仮に,株主総会の特別決議でやっているのだから,それは株主が決めたことであって,したがって,それに従うのは当然だと,その効果として代表訴訟の原告適格を失ってもやむを得ないのだという理由だとすると,それはちょっと違うのではないかと。あくまで,まず本当に,とにかくあのようなことになりますと,結局,事実上責任の追及が不可能になってしまうわけでありますので,それはいわば免責の効果に近いことになるわけですけれども,266条に規定されました免責の要件に比較しますと,これの要件は違う。さっき,最後にちょっと○○幹事が,株主総会の特別決議で訴えを終了させることができるかということを論じてほしいということをおっしゃったのですけれども,私は,それは事実上免責を認めることになりますので,それと同じことを単に特別決議でやれるというのはやはり問題だと思いますので,まずその点から言って,この問いかけは適切な問いかけではないように思いますし,さっきの最後の○○幹事の点についても,私は反対であります。   あと,もう一つは,株主総会で株式交換・株式移転を決めるといっても,原告適格をなくす目的で株主総会はそういう判断をしているわけではないのでありまして,株主が果たしてそこまできちんと理解してそういったことを認めているかというと,必ずしもそうではないわけですし,もともと組織変更することに賛成しているだけのことでありますので,そこから事実上原告適格を失わせるところまで持っていくというのは,やはりもう一段階の問題があって,直ちに結びつけて考えることはできないのではないかと思います。   更に言えば,残念ながら,日本の現在の一部大企業の株主総会の実情等を考えれば,事実上経営陣が株主総会のリーダーシップをとるような体制になっていることは事実ですので,そういうこともあわせて考えますと,こういうことがあるからといって原告適格を失うことを正当化するというのは難しいのではないかと思います。   二つ目の,株式買取請求権が存在するという点については,これは先ほど○○委員が御指摘になったとおりであって,これはアメリカでも議論のあったところですけれども,合併等において,株式買取請求権があるから,それ以外に,例えば不公正な合併条件の合併について株主が文句を言えないかというと,そうではないわけでありまして,文句を言うためには自らの株主の資格を失わなければいけないということを要求するのはやはり酷でありまして,株主がその株主の地位にとどまったまま,そういう会社の不正な行為について異議を申し立てることのできるチャンネルを設けるべきだと思いますので,二つ目の米印も理由にならないと思います。   三つ目の米印については,先ほど○○委員がおっしゃったとおり,あの事件では,結論的に,むしろ預金保険機構がそのような処理をした方が株主にプラスになることは明らかでありますし,RCCなんかがやったときもそうだと思いますけれども,そういう場合の特殊な事例であって,一般的にこれをもって会社の経営者が請求権を譲渡したりして処分することによって代表訴訟で責任追及する道を絶つことが可能になるという理解をするのは問題であろうと思います。さっき申し上げました事実上の免責効果をもたらすようなことになってしまいますと,免責の要件と比較して,単に代表取締役の判断などで請求権を譲渡するだけでそういった代表訴訟等の可能性が全くなくなるということになるのは,正に事実上の免責を認めることになって,免責の要件との比較でも,そういうことは直ちには言えないのではないかと思います。 ● この①の米印は,事務局が理論武装のために聞いておきたいということのようですが。 ● 私の個人的な極論かもしれませんけれども,この立法上の手当ての要否のところでどうしても分からないなと思うのが,今,○○委員からも,司法制度が今信頼を失墜というお言葉がありましたけれども,果たしてそういうレベルにまでいっているのであろうかと。   といいますのも,完全子会社となる会社の取締役が明らかな違法行為をして代表訴訟を提起されているという事態で,例えば株式交換が行われて訴訟が却下されたという場合においては,ここにある株式交換無効の訴えが提起される,あるいは○○委員がおっしゃっておられましたように,親会社の取締役が親会社を代表して代表訴訟を提起しないという不作為について,今度新たに親会社の株主となった者が代表訴訟を提起して,その不作為に基づく,保有している子会社株式のある意味目減り的なところについての損害というものを追及していくという,そういう訴訟が提起されたときに,それを裁判所が無残にも,ほとんど,ビジネスジャッジメントだとか何とかという理由で次から次へと訴えを棄却していくという事例が現実に起きているというのならば,それは司法制度の信頼が失墜しているということが言えるかもしれませんけれども,現実に,私の知る限りにおいては,そういう例はないはずではないかと。   去年9月のりそなホールディングスの大阪地裁の判例も,あれは子会社の取締役の善管注意義務違反というのがそもそもないといったような理由で蹴っているわけで,明らかに子会社の取締役が違法行為をやっているような場合に株式交換が行われた場合,これについて株式交換無効の訴えとかが提起されて,それが門前払いを食らったような例というのは,今のところは恐らくないのではないかというふうに理解しておりますので,そういう例が実際に出れば話は別であると思いますけれども,今この段階で司法制度の信頼が失墜しているというような評価をするのは,私はいかがなものかという気がしておって,それは,第一審における訴訟の手続の訴訟費用の問題,勝訴すればもらえたはずのものがもらえなくなってしまうといったことで,それがけしからんとおっしゃられるなら,それは分かりますけれども,トータルで見たときに,果たして立法上の手当ての必要性,今の状況がけしからんという状況はどの点をとらえて言うべきなのかということがちょっとよく分からないと思っているのですけれども。 ● 司法制度の信頼が失墜しているかどうかという議論になりますと,ちょっと当部会の範囲を超えるような気もいたしますが。 ● やはりそれは非常に深刻な波紋を呼んでいるというように認識すべきことだと思います。これだけ下級審が相次いでいるそれぞれの一つ一つに皆非常に苦々しい思いが周辺に広がっているのが事実だと思いますけれども,全国レベルでこの問題性を最も明らかにしたのは,やはり大和銀行事件であったと言わなければいけない。あれがなぜ和解で解決したのか,その理由ですね,やはりそれを想像するだけの気持ちというものを立法官もきちっと持つべきだと私は思います。単に訴訟費用の問題でしょうという,その訴訟費用の問題一つがいかに重いものかということを想像する力もなくて我々は立法すべきではないと思います。 ● 私が申し上げたかったのは,仮にそういう事件,株式交換無効の訴えみたいなものが実際に起きた場合に,日本の裁判所はそれを簡単に門前払いするようなことはなかなかできないのではないかという,そういう観点から申し上げたわけなので。 ● 合併無効の訴えだって,ほとんどなかなか認められないのが事実です。 ● これはいろいろ立場があって,議論になるのでしょうけれども,①の前二つの米印に関しては,○○委員や○○委員がおっしゃいましたように,少し方向がずれるということは確かだと思います。とりわけ,例えば,そういうやや下降気味の銀行が上昇気流に乗るためにいろいろと株式交換・株式移転等を利用するということがこの四,五年行われましたけれども,その経営判断には賛成だから私は当該株式移転の決議には賛成すると,しかし,子会社化する現在自分が株を持っている会社の取締役の責任追及訴訟はずっとしたいと,こういう場合に,訴訟をするために反対するというのはちょっとおかしいと思うのですね。やはり,株式移転という会社の基礎の変更についての会社の方針は支持するけれども,しかしながら,特定の取締役が以前に行った任務懈怠責任,とりわけ重大な違法行為に基づく損害賠償責任については白黒はっきりさせたいと,そして少なくとも子会社の監査役はその訴え提起をしなかったと,そういう状況の中で,放っておけば親会社がする可能性がないという場合に,やはりその者に訴訟追行を認めないとおかしいという意味で,いろいろな理論的なあれはあるでしょうけれども,株式移転に賛成だけれども取締役の責任を追及しないということが矛盾する行為だったら,この米印の設例は合理的な質問だと思うのですが,矛盾しない場合が相当数あるだろうというときには,やはり方向性が違うので,こういう問題もあるけれども,クリアできると。これは,裁判所に対するどうのこうのの問題とは異質の問題ではないかなと私は感じました。 ● 今の司法手続の信頼云々ということを深く議論するという趣旨で発言するわけではないのですけれども,訴訟手続の問題でございますので,そういう観点から考えてみますと,一般に民事訴訟法で,原告の資格が喪失した場合に直ちに却下判決になるということを防ぐために訴訟承継の制度があるわけでありまして,それは51条,50条,あるいは法定訴訟担当ですと124条1項5号ですか,こういった規定によって,訴訟担当の資格者が資格喪失したときにいったん中断して,訴訟代理人がついていれば中断しないのですけれども,後任者が定められるまで中断して,あるいはそれができない場合には受継の申立てをすると,そういういろいろな手続があるわけですけれども。ですから,この代表訴訟というものが,そういう手続にもし乗っかって,原告株主の資格が株主の意思によらずに失われたときにも何らかのそういう受継の手続ができるという訴訟構造になっていれば,言われているような司法不信とかいう問題は起きないのではないかと思うのです。   ただ,こと代表訴訟に関して申しますと,受継するのは結局は親会社なんですね。ですから,親会社,これは子会社と別法人ですけれども,現実的には親会社の取締役が子会社の取締役を兼ねていたりするというケースが多いですから,実際に会社が訴訟を起こさないから代表訴訟を起こした,ところが,親会社の意向で株式交換によって株主の資格が失われた,それによって受継するのが親会社しかいないという状態になりますと,やはり原告側としても親会社に受継してもらう意図は毛頭ないでしょうし,また客観的に見ても,親会社が受継しても果たしてどれだけ真剣な訴訟をやるかということは,これはなかなか期待できないということですから,やはり代表訴訟については民事訴訟法上の受継手続がうまく機能しないという点が,今,○○関係官がおっしゃったような問題の一面ではないかと思うのですね。   ですから,そういう意味では,この当事者適格の承継,これは訴訟承継主義に今立っていますので,原告株主が株式交換で資格喪失したときに当事者適格は引き続き継続するのだという解釈論はなかなか決め手がないというような感じがいたしますので,立法化するとなるといろいろなもろもろの問題が出てまいりますけれども,民事訴訟法上の受継手続がなかなか生きないということと,株式交換によって資格喪失した場合に当事者適格が継続するということについて解釈論上の決め手がないというようなことを考えてまいりますと,やはり何らかの形で会社法の問題として立法化した方が,訴訟に対する信頼といいますか,そういうことも含めて妥当ではないかなというのが私の感じでございます。 ● 私も,今の○○委員,それから○○委員が御指摘になった点とほぼ同じわけですけれども,さっき○○関係官が,株式移転・株式交換無効の訴えを提訴すれば,それを裁判所が門前払いするようなことはないだろうとおっしゃったわけですけれども,○○委員がおっしゃったように,代表訴訟を継続するためにはまず株式移転無効の訴えを起こさなければいけないということ自体がちょっとおかしいわけでありまして,株式移転については適当だけれども代表訴訟を終わらせることは妥当でないという考えの株主だって多いわけでありますし,そのような無効の訴えを起こせるような場合というのは,ある意味で言えば代表訴訟を終わらせるという,かなり主観的に悪意が認められるような株式移転・株式交換でないと,株式移転・株式交換無効の訴えという形で代表訴訟の道を開くというのは難しい,そもそもその無効の訴え自身がなかなか認められないということになると思いますし,それ以外の争い方でも,直接代表訴訟で争っていたのに比べるとかなり原告株主にとっては争いにくくなっていくということは事実ではないかと思います。   ○○委員御指摘のように,訴訟制度全体として見て,本当に--理屈としては,○○関係官がおっしゃったような別の手段もあり得るかもしれませんけれども--全体として見て,本当に株主がどれだけ違法な会社の行為を争う可能性を実質的に担保できるかという点で見ると,原告適格を失うというふうに言ってしまいますと非常にやりにくくなる,難しくなるということは否定できないと思います。   あと,せっかく今まで代表訴訟を起こして訴訟をやってきたのを無にするということ自体が,特に大和銀行みたいに,第一審判決が出て裁判所の判断もいったん示されているわけでありますが,それを控訴審の段階で無にする,場合によっては上告審の段階で無にしてしまうという,従来,せっかく裁判所が訴訟制度の中で努力をしてそういう一種の訴訟状態というものを形成してきたのを無にしてしまうということ自体もったいないというか,訴訟制度,司法制度としてむだなわけでありまして,そういうものをむだにしない仕組みをやはりつくっておく,なるべく効率的に,そういった,仮に会社の違法行為があればそれに対する是正措置が行えるような体制をつくっておくのが望ましいのであって,論理的には一応道があると言っただけでは問題は解決しないのではないかと思います。 ● 私は,この問題については,むしろ本来であれば○○委員のおっしゃるように法解釈の問題で対応できたはずぐらいの明確な問題だろうと思うのですね。それを裁判所の方が第一審であのような形で連続して否定しているということ自体が司法制度に対する疑念を生んでいるぐらいなのではないかと思うわけですけれども,それを見てそのことを認識して,ここでこれだけ議論しながら,株式交換自体の無効を争うことができるであるとか,親会社の取締役の責任を追及する余地もあるということで,立法府がここで何の立法手当てもする必要はないと判断したら,そのことがもたらすまた司法制度への不信といいますか,法律への不信といいますか,立法機関への不信というものは非常に大きなものがあるのではないかというように思います。 ● 今までの各委員の御意見は,ほぼ例外なく,株式交換・株式移転等の組織再編の効力は株主の多くが賛成しているので,それはそれとして,しかし,それによって株主代表訴訟の原告適格が失われるという結果をもたらせるのはおかしいのではないかと,もしそういうことなのであれば立法上の手当てが必要であるということでは大体意見が一致していると思いますが,そういうことで,具体的な--まあ,これはもう全然解釈がおかしいので手当ては要らないんだという方もおられるのかもしれませんが,恐らく皆さん,そうではないのではないかと思いますので--立法的な具体的な方策の議論に入ってよろしいでしょうか。 ● ①の方で,手当ての要否については必要であるという御判断をいただく場合に,どの場面において必要であるかということについて議論を御整理いただいた上で,②から④まで,あるいはそれ以外の論点についての御議論をちょうだいしたいと思います。   すなわち,従前は,株式交換・株式移転において子会社となった会社の株主であった者が親会社の株主になったという事態を前提に議論がされている場面が多かったと思われるわけですけれども,株式併合・株式消却の場合はもちろんのこと,合併等の対価の柔軟化が図られた場合には,要するに原告株主が会社とは縁が切れた存在になるという場面が多々生じてまいるところでございます。これらについても手当てを加えるのか,あるいは親会社株主となった者についてのみ手当てを加えるのか,このいずれかによって随分法制度の在り方が違いますし,適切代表という点についての考え方も大きく異なってくるところでございます。その辺りを重々念頭に置きつつ御議論をちょうだいしたいと思う次第でございます。   それから,もう1点,これは今御議論いただく必要はないのですけれども,①の米印の三つ目に関連して,代表訴訟が提起された場合に当該損害賠償請求権は会社において処分することができないものなのかどうかということについては,現代化に当たって議論を整理せざるを得ないと思います。適正な対価であれば処分することができ,そうでなければ処分できない,処分は無効であるとかいうようなことは,なかなか--解釈で賄うということになればそうなのですけれども--非常に整理が難しいものですから,少しここは学界での御議論をちょうだいしたいと思う次第でございます。   ②から④までにつきましては,株式交換・株式移転で親会社株主になる場合についてのみ手当てが要るのか,そうではなく一般的に要るのかということについて,議論を明確に区分した上で御議論をちょうだいしたいと思います。 ● まず,○○幹事が指摘された最初の点はいかがでしょうか。つまり,完全子会社となる会社について株主代表訴訟が起きていて,その会社が完全子会社となったことによって,完全親会社になった--つまり,完全親会社の株主としては権利関係が続いているという状況だけを念頭に置いて,原告適格が失われないという何らかの手当てがされるべきなのか,それとも,金銭を交付されてしまったという場合について,そういう株主関係が全くなくなった場合についても原告適格は依然として続くという,そういう立法的手当てをするということなのかという問題でありますが,この点につきましてはいかがでしょうか。 ● 具体的に立法の方向を考えたときにといいますか,そもそも解釈で考えた場合もそうなのですけれども,いろいろな方向が重なってあるのではないかという感じがいたします。そのうちのどこを解釈に任せておいて,どこは立法的な手当てするのかと,こんなふうに判断していった方がいいのかなというように現在は考えております。   つまり,株主であった者が意に反して株主資格を奪われた場合の問題という整理の仕方も一つにはできます。それからまた一つには,株主と取締役の間の関係というのは間に会社を挟んでいますが,しかし,実質上委任関係にあるというように見ることができると思うのですが,間に入っている会社をどのように解するのかということで,これは法理論的にも随分難しい問題になることは承知しておりますけれども,仮に,○○先生がおっしゃったように,会社という器はコップのようなものであって,対外関係を議論するときには大きなものとして登場するけれども,内部関係を考えるときには脇に置いておいてもいいぐらいのものなのだという考え方をとるとしますと--と言いますと,そういう法人論やら何やらにかかわってくるわけですが--基本的に委任関係である,そして株主は取締役とそういう信頼関係に基づいていろいろ任せているという関係にある,そういう債権債務関係が基本にあるというふうに考えますと,委任者といっても,その委任者の奥にもう一つ委任者がいるのではないか,委任者に委任した人はどうなるのかという,そっちの方へさかのぼっていく方向と,委任・受任関係の中の受任者というけれども,受任者が更に委任した先の受任者ともとの委任者との関係はどうなるのかという,そういう両方の方角があって,それによって要件・効果の立て方も違ってくるのではないかななどというように最近は考えています。   しかし,ここら辺のところは,今すぐに立法的に手当てをするというところまで法の理論的な分析が十分にみんなのものになっているのか,熟しているのかという問題があるという点が立法化に当たって悩ましいところになるかというように思いますけれども,少なくとも株主であった者が意に反して株主の地位を失うということの手当てという形でいけば,何も株式交換・株式移転の場合を除いて,一般的にそういう格好で手当てするというのが,今,一番コンセンサスのとりやすい,立法化しやすい手法なのかな,したがって,他のものについても立法的手当てをした方がもちろん改善には違いないのですが,もう少し解釈論に任せておく状況を続けながら,様子を見ながら,立法的な手当ては将来の,次の課題にするということもあり得るのかなというように思っております。 ● 現行法の問題ですけれども,合併の場合は正に同じ問題が起きるわけですね。消滅会社の株主が提起していた場合に,存続会社の株式をもらうということになりますから,原告適格を失うと。その場合の手当てとしては,現行の民訴法124条1項2号で,これは受継の手続というふうに規定していますよね。だから,正に今,株式交換と株式移転と同じような事情がそういう意味で生ずるような場合について,合併について手当てをしているというこの民事訴訟法の立法の背後にある考え方,それとの整理というものはどうなるのかなというような感じもするのですが,この辺のところはどうなんでしょうね。だから,そういう意味で,先ほど○○幹事が言われたとおり,合併とか株式消却あるいは併合とか,そういう並びの中で,全体的な制度の整合性という点から見ると,ほかの制度との並びというものも十分考えていく必要もあろうかなということを感ずるのですけれども,この辺のところの整理というのは,事務局としてはどのような整理でこの問題点を出されているのかなというあたりがもし分かりましたら,ちょっと御説明をお願いしたいと思いますが。 ● 代表訴訟が提起されている場合において,当該会社を当事者とする合併が行われた際の受継関係がどのような取扱いになるかということは,民事訴訟法自体は直接には手当てをしていないというのが私どもの理解でございます。   したがいまして,民事訴訟法と商法とを重ねて見たときに,代表訴訟については,合併によって消滅会社について起こされていたものが当然に存続会社の方に--まあ債権は移行するわけですし,たまたま株主も現在は存続会社の方に取り込まれるものですから--引き継がれるというような理解がしやすいというだけでございまして,法律の手当てがされているわけではないですし,それは終了してしまうという解釈も十分成り立ち得ると思っております。 ● 今まで持っていた株式と違う株式を与えられるという局面では全く同じなんですよね,合併の場合が。だから,そこの整理というものもあわせてやらないと問題の整合性はとれないだろうという,その限度での指摘なんですけれどね。 ● 私も,狭い意味で,ここに議論されていることと合併・併合・消却の場合とは少し局面が違うので,統一的な規制をするのもいいのかもわからないけれども,当面は株式移転・株式交換だけに限定して,それについてある程度成案を得たときに,そういうものを併合・消却にも及ぼす必要があるかどうかと,そういう議論をした方が……。まず総論として全部一緒かどうかと言われたら,きついなとも思いました。   その理由としてありまして,株式併合あるいは株式消却の場合も,会社の行為によって株主の地位を失いますけれども,ゼロになるわけではないというか,株式併合を極端にやって経営者側だけの人が残るという株式併合もありますが,それはまた先ほどの合併無効とかと同じような局面の議論ですから,通常の株式併合でたまたま若干名の者が金銭による対価の払戻しで株主の地位を失ったという局面を念頭に置けば,他の株主もいるわけですから,その他の株主が参加する余地があると。つまり,実質的に訴訟追行すべき株主がゼロになるかどうかということが一つ大きな違いになるだろうと。   それ以上の違いは,株式移転・株式交換も,子会社の株主となるべき株主の者が親会社の株主になるけれども,その子会社となった取締役の責任追及に利害関係を有するわけですね,株主関係として。それが間接かどうかで,③のような多段階代表訴訟を一般的に導入すべきかどうかという議論もありますが,少なくとも,親会社の株主であるということによって子会社の取締役で,その株主としては子会社の株主になったときに責任追及して,損害賠償とともに健全性を確保したいと思っていた,そういう株主間の間接的かもわからないけれどもつながりがあるけれども,株式併合・消却,更には金銭その他の株式以外の対価で会社から無関係になった者については株主関係が一切解かれているわけですね。つまり,いったんこういう形で会社と無関係になった場合には,正義感はあるかもわからないけれども,経済的関係は一切なくなるわけですね。そういう者に訴訟追行をさせていいのかどうなのか。親会社の株主については,間接的というべきか,むしろ直接というべきか,ここは解釈の分かれ目でしょうけれども,株主としての何らかの経済的関係があるから訴訟追行をさせてもいいと。ただ,無関係になった者に追行させていいのかとなると,これは大きな問題ということで,その意味で,株式併合・株式消却,金銭を対価とする合併とこの局面とは違う。それと議論の単純化という観点。つまり,形式・実質両面から,ともかくここに書いてあることをまずさせていただくと有り難いなと思うということですが。 ● 最後におっしゃった点で,非常に大きな問題だから最初に考えておいていただかないと困るのではないかというのが○○幹事の問題提起だと思うのです。つまり,任意に株式を譲渡すれば全く関係なくなるわけですね。それは原告適格を失うと。これは皆さん認めておられるのでしょうが,それは任意に売ったからなのか,それとも,もう株主資格がないのだから,そういう者には適切代表という点から不適当であるということであれするのか。もし前者であれば,つまり,任意に売ったから,意に反して株主資格を失わされた者ではないからというのであれば,キャッシュアウト・マージャーの場合でも原告適格を続けていいという考え方が出てき得るわけですけれども,後者の適切代表の点から問題があるのだということであると,もうそれはやめさせるべきだという,非常に大きな分かれ道になりますので。 ● 私も,二つ言いましたけれども,後ろの方だけは非常に微妙な問題だと思うのです。プラス,他にも,経営側と実質一緒,あるいは被告取締役と利害が相当緊密な関係である株主以外の株主がいるのが常態というのをベースにすれば,前提にすれば,そういうこともあわせて少し異質のものかなというふうな理解をしたということですが。 ● もし,もう株主資格がなくなった,全く親会社の株主でもなくなった者には,適切代表の観点から,そんなのに訴訟させてもどうせ何するか分からないといいますか,そういうものだということであれば,そういう株主,原告株主であった者は,ここに書いてあるように,せいぜい株式買取請求権の中で,損害賠償を取れたと仮定した場合の金銭をよこせという請求ぐらいしかできなくなる,もう株主代表訴訟の原告適格はなくなると扱われても仕方がないと思うのですが,本当にそれでいいのかというのが一つの重要な論点だと思います。 ● 正にそのことを私も申し上げたかったのですけれども,株主は自らの意思で株主の地位を喪失したわけではなくて意に反して奪われたという要件と,投資が間接的であれ何であれ継続しているというのと,二つの迫り方があるわけですね。両方とも重なった場合により救済すべきであるという気持ちを皆が抱くのは当然なのですが,しかし,果たしてそれが両方そろわなければいけないのか。むしろ,片方ずつであっても,あるいはどちらか一方であれば救済する必要があるかどうかという,こういう問題だろうと思うのですね。私自身は,多様な道のそれぞれについてまだまだこれから議論をしていかなければならないという,そういう留保つきですけれども,当面,一番皆のコンセンサスの得られやすいのは,意に反して株主の地位を失ったということ一本だけでいいのではないかというふうに申し上げたわけです。したがいまして,株式併合ということになりますと,確かに一部の株主は残るでしょうという点ですが,たまたまその株主代表訴訟を起こしていた株主について言えば,あなたが持っていたのは99株だったから,100株:1株に併合したから,あなたはもう出ていきなさい,株主ではなくなったという場合に,やはり大和銀行事件と同じような状況が生じ得るわけですね。したがいまして,その要件一本が一番いいのではないか,両方の要件を求めるのはちょっと求め過ぎではないかという意見を申し上げたわけです。 ● ほかの委員・幹事の方はどうでしょうか。もうキャッシュアウトされた者について原告適格を認めるべきなのかどうか。○○委員は,認めるべきだという御意見のようですが。 ● 心としては,確かにそういうキャッシュアウトされた方にも認めた方がいいような気はするのですが,しかし,認めたとしても,その方が代表訴訟で勝訴しても経済的利益は全く得られないということになるのではないかと思うのですね。そういうようなのを本当に認めるのがいいのか,そういう方々はもっと別な方法で保護した方がいいのではないかという気もしないわけではないという印象を持ちます。   それともう一つ,実は,株式併合あるいは株式消却の無効というのは現在は特に訴えの制度がないわけですから,したがって,原告適格があるかどうかというところで,株式併合・株式消却の無効を同時に主張して原告適格があるのだと言い続けられるという点があるわけですけれども,ところが,今度の合併対価等の柔軟化でキャッシュアウトされると,その点で合併無効とかそういうのをいったん起こさなければいけない,ここのところは,少なくとももう少し簡単に争えるようにする--今日のテーマとは違うかもしれませんが,やはり無効を争って原告適格があるという主張をしやすくしてやる必要が柔軟化との関係であるのではないかという,そういう印象を持ちました。 ● キャッシュアウトされた場合に組織再編自体の効力を争うということになりますと,またちょっとさっきの問題に戻ってしまうのですが,○○委員の御意見とは別で,キャッシュアウトされた人には別の救済を考えるべきではないかという御意見かと承りました。   ほかの委員・幹事の方,いかがでしょうか。 ● この問題については,私ども,株主代表訴訟制度研究会で意見をまとめたときも大変分かれた点でありまして,私も両方の考え方は十分あると思うのですけれども,私個人としては,○○幹事と同じように,やはり実質的な株主としての利益がある者が代表者の資格を持つと。ただ,親会社の株主になったという形でリモートになった場合は,形式的には株主でないかもしれないけれども,実質的な株主の利益が存続しているということで原告適格をそのまま維持できるというのが,まあ実質的には妥当かなと思っております。   それで,その場合,今,○○幹事がおっしゃったように,キャッシュアウトされたような人がどういうふうに争う道をなお残すかというのは考える必要があって,それは既に,例えば,今,キャッシュアウトの合併の場合は,合併無効がいわば形成訴訟だとされるところから出てくる問題なので,恐らく仮の地位を認めてやるような手当ては必要になってくるのではないかと思います。   ただ,もう一つの論点として,さっき○○幹事が御指摘になった行為時の問題と少しかかわってくるところがあって,従来,学説は,例えば検査役選任請求権とか帳簿閲覧請求権などについて,請求権を行使した時点では必要な少数株主要件を持っていたけれども,その後,訴訟の継続中に会社の行為によって必要な少数株主要件を下回ることになってしまった場合でも,なお訴訟で検査役選任を争う地位は残るというふうに通説はたしか理解してきたと思いまして,さっき○○幹事が指摘されたのは,そういうふうに,権利を行使した時点で地位があればその権利を行使できるという実体法上の解釈をとることによってこの問題にアプローチすることもあり得るのではないかということを多分示唆されたのではないかと思うのですけれども,代表訴訟に関して言えば,やはりさっきの適切代表の問題等を考えると,私は,○○幹事と同じような考えでよろしいのかなと。ただ,それをやると非常に細かい解釈問題が出てきますので非常に難しいことになりますけれども,それは解釈に譲ることにして,規定としては,それが直接問題になる株式移転や株式交換等のところに特則を置くという形で立法していけばいいのではないかというふうに思っています。 ● これはなかなか議論が分かれそうですね。ちょっとにわかには全員一致の結論は出そうにありませんが。 ● 訴訟法の先生がおられるわけではないので……。原告適格の一般的な考え方からすると,これは何らかの手当てをすべきだという気持ちは,マスコミならずともよく分かるのですが,どうしたらいいか分からないというのが普通の考えだと思うのですね。原告適格が,給付訴訟においては権利者に与えられていると,それで特殊な場合には第三者が当事者適格を持つと。代表訴訟もその例ですけれども,すべて実体法上の権利義務関係で根拠を持って与えているわけで,その実体法を離れて,当事者適格は存続させるようにしようとか,与えることにしましょうといっても,それを基礎づける実体法的な地位がない状態で与えるというのは,ほとんど例が……。ほかの権利者以外が原告適格を持つ場合というのはいろいろありますけれども,訴訟担当が訴えられる場合はいろいろあって,訴訟法の世界ではここは触ってはいけないというぐらい難しい領域だと--いろいろなパターンがあって--言われていますが,いずれにせよ,実体法的な基礎があった上で,政策的に,あるいは立法で付与すると。何もないところに適格だけ認めるということがないわけですね。だからこそ,訴訟承継主義で,原則は権利が移転すれば原告適格は移転する,そして法定訴訟担当については特則が置いてあって,その適格者の実体法上の地位が移った人にまた第三者としての適格が移ると,こういう基本的な仕組みになっている訴訟法の世界の中で,こういう場合,まあいろいろな場合を広くとらえると,およそ会社と無関係になった場合でも適格は認めるべきではないかという話そのこと自体は分かるのですが,では一体これまでの一般的な原告適格の理論とか理屈とか,ほかの制度との関係でどういう説明が可能なのか,あるいはどういう規定を置いたらそんなことができるのかということすら容易に想像ができにくい話なので,今日別に結論が出るわけではないでしょうけれども,何らかの非常にドラスチックな手当てをするとなると,訴訟法の原告適格の考え方一般にも重大な影響を与える大きな問題になるだろうと思いますし……。私,これを見て,多段階の代表訴訟はともかく,それ以外のことで何らかの手当てをしようと思ってもいい案がないというふうに書いてあるのではないかと,立法上の手当てはした方がいいのではないかという声が強いのはよく分かっているけれども,多段階代表訴訟以外は,なかなかこれまでの理屈との関係で説明がつくようないい案がないなというようなことを自白しているような資料ではないかなと思いますので,どういう手当てをどういう理屈ですれば,訴訟法学者も含めて一般的な理解が得られるのかというあたりのことをここで議論していただけるといいかなと思います。 ● ただ,ここでの議論というのは,さっき○○委員が言われたように,意に反して株式を持っていたのが奪われてしまうのですね。そういう状況というのは従来のケースでそんなによく考えてきたことなのかという問題はあるのですね。 ● 今,○○委員がおっしゃったとおりですが,私ども研究会の意見書にも書きましたように,判例も,一定の問題については解釈で,いわば株主の地位が実体法上残っているということで原告適格の継続を認めているわけですね。それと同じように,実質的に株主の地位にあるということを立法的に書いておけば,それを前提に,訴訟法理論に従って,いわばまだ株主の地位にある人であるから訴訟を継続することができるということはあるわけで,現にドイツの組織変更法の25条2項は,その意味でそういう訴訟継続ができるようにするために--あの場合は合併等に関してでありますけれども--株主の地位にあるとみなすという規定を置いているわけで,日本でもそれと同じような扱いができないことはないと思いますし,ある意味で言えば一種の当事者恒定主義を部分的にそういう形で導入するということはあり得るわけであって,私どもの研究会で民事訴訟法の先生方の御意見も伺って,そういうことは必ずしもおかしくはないという感触をいただいたわけでありまして,民訴理論が壁になって全く不可能だと考える必要はないのではないかと思っております。 ● 民訴理論が壁になって不可能だと言うつもりはなくて,実は,私が昔やった会社更生法で,こういう特殊な当事者適格が残るという規律を今回の改正で置きましたので,そういうことができることはできるのです。現に日本法でもあります。それは,会社更生手続中しか認められない特殊な債権者間同士でやる債権の確定訴訟の当事者適格が会社更生手続が終わった後も残るという明文の規定を置くことによって,普通はそこで当然終了しそうなものを残したというケースがありますので,それはできるのです,やれば。ただ,それをやるときには非常に重大な決断をしたなということを思い出して。非常に迷いましたし,本当にそういうことでいいのかと。そのときに実質考えたのは,やはり,適切代表制というのか,訴訟追行行為は権利義務の処分行為ですから,一般的には認められない当事者適格を存続させて処分行為をその人に任せていいのかということだったのですが,そのとおりで,できることはできるのです。 ● 1点だけですが,先ほどの,意に反して資格喪失したという要件に加えて,キャッシュアウトの場合も含むかという問題について,私も自分個人の見解が固まっているわけではないのですが,ほかのところでいろいろ議論したりした結果,今回,合併対価の柔軟化とかそういう形で緩和されるという要綱試案になっているわけですが,そういうことにした場合に,キャッシュアウトの部分は原告適格の承継から除くということにいたしますと,株式交換・移転制度が設けられたときにこういう問題が起きるということは余り予測していなかったのが実情だったと思うのですが,今回も,キャッシュアウトの方法が代表訴訟をやめさせる方法に使われるという,そういう意図的なものは恐らくないだろうと思いますが,ただ,もし仮にそういうことが起きるとすると,予測できないでもないということですから,合併対価柔軟化を設けたがために代表訴訟の方もそれに伴って狭められるという影響が起きた,この立法はどうだったのかという問題が後で起きやしないかということを留意して検討した方がいいのではないかという意見も出ておりますので,その点だけちょっと指摘させていただきたいと思います。 ● 私も,今の○○委員の御指摘とほぼ同じことなのかもしれませんが,キャッシュアウト・マージャーが認められた場合ですと,恐らく100%子会社にするための手段として,既に100%の兄弟会社を持っていれば,キャッシュアウト・マージャーを利用して100%子会社にするということは十分考えられますし,100%の空の箱をつくって,そこでキャッシュアウト・マージャーをしてしまえば,必ずしも親会社の方に株主を収容する必要性が出てくるのかどうかという問題もあり,そうなりますと,キャッシュアウト・マージャーという制度ができると株式交換の利用度が減ってしまうという可能性も出てくるのではないかと思います。そうなりますと,むしろ問題はキャッシュアウト・マージャーの方に収斂してくる可能性もありますので,先ほど来の○○幹事あるいは○○委員の御指摘はもっともだと思いますけれども,多少慎重に検討した方がいいのではないかと思います。 ● これは非常に議論が分かれていて,このままでは結論はどうも出そうにありませんが,先ほどの○○幹事の2点目の点ですね,損害賠償請求権を譲渡した場合の手当てをやはり改正法では書かざるを得ないのではないかという御指摘ですが,私は,そんなものかなという気がするのです。   というのは,たしか和歌山地裁でも当事者は争っておりましたけれども,通常の場合はそんな不確定な債権を譲渡するわけがないんだと。この和歌山地裁の場合は,とにかく物すごく金をつぎ込んでありますから,これはもう十分な対価をもらったことは事実なのですが,幾ら取れるか,幾ら賠償請求権があるかは普通は分からないわけで,それを譲り受けるというのはおよそまともな経済行為として行われるとは私は思わないのですけれどね。だから,わざわざそんなことに条文を置くというのは,そんな必要ありますかという気がちょっとしたのですけれども。 ● ○○幹事のおっしゃる第2点目の問題について言えば,譲渡できないということはあり得ないと思います。全株主が合意すればできるという結論になるのではないかと思います。ただし,その全株主というときに,多段階代表訴訟であるとか,あるいは代表訴訟を起こせる方をいろいろな形で広げた場合の問題というのはやはり出てくるので,そういう意味では,もう泥沼のような問題であり続けるということかと思います。   したがいまして,どうしてもこの問題をはっきりさせたいと思ったら,やはり,総株主の同意があれば責任を免除できるというあの規定そのものから見直しをせざるを得ないのではないか。したがいまして,私自身は,もしそれに手をつけるとすればですよ,手をつけるのがいいのかどうかということは別ですけれども,理論的に考えれば,黙示の合意があればどんどん進んでいけるような制度設計に切りかえるしかないのかなぐらいのことを思いましたけれども,しかし,そのあたりはあいまいにしておけば,だれも譲渡しないと思います。したがいまして,手を触れないまま置いておけばよい。もしもこれが,代表取締役限りで譲渡できるとか,取締役会決議で譲渡できるとか,特別決議があれば譲渡できるということになれば,これはまたそういう意味で免責する手段として使われることがはっきりしてくるので,またどういう要件を立てるのかけんけんがくがくやらなければならないということになるかと思いますけれども,放置しておけば,○○委員がおっしゃるようにほとんど使われないでしょうから,整理する必要はない,あとは解釈問題に任せておくということでいいのではないかと思います。 ● おっしゃるとおり,これは前提問題としては代表訴訟が起きているかどうかとは関係ない話なんですね,取締役に対する損害賠償請求権を譲渡できるかどうかという話は。おっしゃるとおり,株主全員一致の同意があればできますよという,それは恐らく異論ないと思うのですけれども,よろしいですか,その点は。   まあ,キャッシュアウトされた株主についてどう扱うかは両方からかなり御意見をいただきましたので,結論はちょっと無理だと思いますので,それはそういうことだったということにして,先に進みたいと思いますが,ちょうど切りのいい時間になっておりますので,ちょっと休憩をしてはどうかと思いますが,よろしいですか。   それでは,休憩いたします。            (休     憩) ● そろそろ再開してもよろしいでしょうか。  それでは,次に,もし何らかの立法上の手当てをするといたしますと,どういう手当てが考えられるかという点の御審議をいただきたいと思います。この資料には②から④まで挙がっておりますが,順次,これについてどう考えるかという点について御審議いただければと思います。   ②についてはいかがでしょうか。先ほど,会社が原告適格を承継するということについてはいろいろ問題があるという点は○○委員から御指摘がありましたけれども,この②のような案が考えられるのかどうかですね。 ● 先ほどの私の発言の続きになりますけれども,結局,現行法でも,124条1項5号の訴訟担当に代表訴訟が当たるか当たらないかの問題もありまして,もし当たるとすれば中断ということで,その場合には,文言上は同一の資格を有する者が受継するということになっていますから,結局は親会社ということになりますし,仮に法定訴訟担当には代表訴訟は当たらないということになりますと,124条1項5号は適用がないことになりますけれども,その場合には,この(参考)に書いてあります51条で受継の申立てを原告がやるということになってまいります。そうすると,その場合も結局は親会社が受継するということになりますから,そういう意味では,この②の部分は現行の民事訴訟法でも同一の取扱いになるという感じがいたしますから,必ずしも立法上の手当てをする必要があるのかどうかという問題も一つありますし,それから,先ほど申し上げたように,親会社が受継したときに果たしてどれだけ充実した審理をするか,訴訟追行をするかということは,一般論としてやはり期待できるかという疑問がありますので,この②は,立法する意味というのがどれだけあるか,甚だ疑問ではないかというふうに思います。 ● 確かに,解釈論としてもどうも……。親会社が承継するという議論がないではないようなのですけれども,おっしゃったように,むしろ問題は,親会社が承継して一体何になるのかという原点だと思いますが。 ● ○○委員と同じでありますけれども,恐らく現行法の解釈でも,当事者承継主義のもとの判例によりますと,被承継人たる原告株主も訴訟当事者として完全親会社に対して訴訟引受けの申立てができるというのが判例ですので,それに従えば,もう現行法で,単に自動的に完全親会社が訴訟の受継をするか,それともいったん原告株主が訴訟引受けの申立てを行うことによって受継させるかというだけの違いですので,これは立法しても余り意味がないと思います。実質論から言って,正に今,○○委員がおっしゃったとおり,その次の問題の方が大事だと思います。 ● 正に御指摘のとおりなのですけれども,実質論として意味がないというレベルであればいいのですけれども,承継させるべきではないという政策判断はないというふうに確認させていただいてよろしいかどうかでございます。つまり,③以降のような手当てを講ずるとした場合に,親会社も訴訟追行権があるという実質は維持されてしかるべきかどうかということもあわせて御検討いただければ幸いでございます。 ● その点も例の研究会でも若干議論したのですけれども,万が一,完全親会社自身がやる気がある親会社であった場合に,それが訴訟追行してはいかんとまで言う必要はないように思いますし,それこそ,先ほどのRCCの事件みたいに,本当に場合によっては受け継いだところが本気でやる場合だってあり得ないわけではないわけですから,ですから,それは否定する必要まではない,ただ,従前の現行株主にも原告適格を残すと。したがって両方が原告適格を持つことになりますので,その間の調整の問題がまた次に出てくることにはなりますけれども,とにかく完全親会社が原告適格を持たないという必要はないと考えています。 ● 全く同意見でございまして,結局,立法しなくても,この民事訴訟法の規定で完全親会社が当事者として行うことはできるということは残ると思いますので。むしろ,従来の原告株主に当事者適格の継続を認めれば,共同訴訟という形になるかどうか,その点の立法を行うかどうかの方が大事な問題だと思います。 ● 念のためというだけなのですけれども,もしも先ほど議論いたしました行為時株主原則を導入しますと,その場合の親会社は原告適格はないと,こういう形にはなるのでしょうね。 ● そうですね。最初から株式を持っていたかどうかという問題はありますけれども,持っていなければ……。 ● だから,3の(1)のような立法は慌ててしない方がいいのかなということに関係するかどうかということだけで,ちょっと今思っただけです。 ● では,②につきましては,積極的にこういう立法をする意味はないけれども,しかし,別に完全親会社となったものの訴訟追行権を否定するという立法もする必要はないと,これが大体コンセンサスだというふうに考えてよろしいでしょうか。   それでは,時間の関係もありますので,先へ進ませていただきまして,③でありますが,③につきましてどう考えるべきか。いわゆる多段階代表訴訟という非常に大きな問題ですが。   この点につきましても,まず○○委員は,何か,例の研究会の議論でも結構ですので。 ● 今日はつらいのですけれども,私自身もこれは非常に迷っている問題であり,研究会でも非常に意見が分かれたところなのですが,最低限の多段階というか,二重代表訴訟は認めるのが妥当ではないかという意見が強かったと思います。私どもの書いたものにも少し書いてございますけれども,比較的多い意見としては,親子会社関係が存在する場合で,つまり,これについて,100%か,過半数という意味での親子会社かというのはちょっと意見が分かれますけれども,親会社の所有する子会社株式の価値が親会社の資産の20分の1を超えるような,ある程度重要性があらわれるような場合については,少なくとも二重代表訴訟は認めるべきではないかという意見が強かったと思います。ましてや100%子会社の場合であれば認めるべきだというのが支配的な考え方だったかなとは思います。 ● 要件の定め方というのは,もし認めるとしたら非常に難しい問題があることは事実だと思いますが。   ほかの委員・幹事の方,いかがでしょうか。 ● あくまでも別法人でございますので,多段階代表訴訟というのは認めるべきではないということでありまして,親会社の取締役等の不作為を訴えていくことで必要にして十分だろうと,こう思います。③については反対ということです。 ● ○○委員から,圧倒的多数というお話があったのですが,少数意見を申し上げるのもちょっと気が引けることは気が引けるのですが,私も,③の多段階代表訴訟を認めることについてはもう少し慎重であるべきだという考えを持っております。   と申しますのは,現代におきましては,やはり会社グループのコーポレートガバナンスをどういうふうに設計するかというのは非常に重大な問題でありまして,代表訴訟が提起されていたときに株式交換等が行われるという場合は別ですけれども,そういう問題がない場合も含めて,初めから多段階代表訴訟という制度を定めてしまいますと,企業が企業グループのコーポレートガバナンス,要するに全体のグループ設計をする場合についてのバイアスを与えてしまう,事前のインセンティブにおかしな影響を与えてしまう可能性が非常に強いと思われるわけでありまして,特に,事業部制をとるか,それを子会社という形で成績等を明確にするかというような判断というのは,これは合理的な一つの判断なはずでありまして,代表訴訟のリスクが高いか低いかということで選ぶものでは本来ないと思うわけであります。しかし,こういうものが出てきますと,代表訴訟のリスクというのは企業にとっては非常に大きいものだと思いますので,組織選択に対する非常に大きな影響を与えてしまうということで,ですから,私は,100%も含めて,慎重であるべきだというふうに考えております。 ● これも大きな論点だと思いますが。 ● 私も,もちろん,可能であればこちらの方も立法した方がいいという意見です。   要件の定め方については,やはり親子会社関係ということを要件にするのであれば,この親子会社が完全親子会社なのか,形式的な過半数持株支配なのか,それとも実質的な支配基準なのかと,いろいろございますけれども,親子会社であるということを一つの要件に加えるとすれば,親会社の一株主以上に,つまり親会社の株主であれば訴訟ができるというように要件を定めるべきなのかなと最近は考えておりますが,いずれにしてもコンセンサスが得られることであれば非常に結構なことだと思いますし,もしこれがコンセンサスを得られなくても,非常に必要なケースにあっては裁判所が解釈で認められるような,そういうようなものとして考えていきたいというように思っております。   それとは別に,いずれにしましても,この(参考)のところに書かれていることなのですけれども,これは別途考慮していい話なのではないかというように思います。 ● これもどうですかね。皆さんがこれを設けることに異論がないということであれば,細かい要件を詰めていくということになるのですけれども,ほかの委員・幹事の方,いかがでしょうか。今までの議論は,この③の適否につきまして意見が分かれておりますけれども。   反対の方は,もうこれ以上詰める必要はないということなのでしょうけれども,賛成の方は,もうちょっと,その上どういう要件のもとに,どうやってすべきかという議論をしたいということだと思いますが。 ● 私も,あえて反対というわけではないのですけれども,一昨年10月に書面を出させていただいて,そのときにこの多段階代表訴訟に類似したことをちょっと書いたのですが,このときの発想としては,完全子会社の機関設計を簡素化するという問題との関係で,完全子会社であるという理由で機関設計を簡素化するということであるとすると,それとのバランスという意味で,こういった親会社株主が子会社の取締役の責任を追及する代表訴訟,それを,あのとき書いたのは,少数株主権として認めるというような,制度上のバランスをとるという発想で実は提言したことがあったのですけれども,現時点で考えますと,一つは,有限会社型機関設計を選択するという別途の問題との関係でバランス上こういった制度を認める必要もあるのではないかという気持ちが非常に強い面があるのですが,ただ,反面,先ほど○○幹事がおっしゃったように,会社経営あるいは組織設計に影響力が非常に大きいという面もありまして,また,その要件についてどのように考えるかという問題もございますので,やはり現段階では,むしろこの(参考)に書かれたような,親会社にはっきりとした内部統制システム構築義務を課すというような立法化をして,その開示の充実を図るということをもって,今回は多段階代表訴訟まで踏み切るということはちょっと慎重にした方がいいのではないかという気持ちに現在は傾いているのが偽らざるところであります。 ● いかがでしょうか,ほかに。 ● 私も,理論的には,一般的な親会社,少なくとも完全親会社の株主にこういう多段階代表訴訟制度があればいいなと思います。ただ,現行法制度をベースにするときに,いわゆる企業結合法というか,親子関係に係る実体的制度がほとんどないところで,取締役の損害賠償責任を追及する制度だけをきちっと決めることに何か,いかんとは言わないけれども,違和感がないわけではありません。その意味で,(参考)にあるところをもう少し正面から議論することが健全かなと思うことと,それから,本来こういう場合,完全親会社の場合にはそれ以外の子会社の株主がいないということですので,親会社の取締役が子会社の株主として株主権を行使しなければならないけれども,その行使することはほとんど期待できないではないか,だから多段階代表訴訟が必要だというのは一つの論理だと思うのですが,現行法のもとでは,親会社の監査役と取締役の権限も少し整理する必要があるのかと。少なくとも子会社については,まずは子会社の監査役が子会社の取締役の責任追及訴訟を提起するのが原則になるわけですね。それに対して,株主が代表訴訟を提起するのですが,その株主が親会社の場合,形式的に当然に取締役なのか,あるいは274条ノ3,この前の11年の改正で少し緩やかになりましたけれども,これをもう少し実質化して,親会社の監査役に責任追及訴訟を提起させるということも,これも大同小異だと思いますから余り強く言うつもりはないのですが,形式論理からすると,そこら辺も含めて,親会社が親会社の内部で,親会社の株主でないところが適切に子会社の取締役をチェックするスキームも考えた上,それとの関連で親会社の株主にどのような権利を与えるかという議論をしないと。その意味で,別な意味で,理論的にややいびつかなと思いますので,私も,将来的には③,とりわけ,「完全」を取った親会社の株主に,要件はともかくですが,多段階株主代表訴訟制度を認めるのが,将来の方向性としては考えるべきだと思いますが,今日とか1回2回の議論でどうなるのかなという意味では,特に反対とは申しませんけれども,積極的にこうしようというのではなしに,そういう論点を整理する前段階として,(参考)をもう少し事務当局の方で膨らますようなことをお考えいただけないかなというふうに思います。 ● いかがでしょうか。ほかに御意見ございますか。   どうも今まで意見を述べられた委員・幹事の方々の御意見では,できればあった方がいいという感じがある方の方が多数かと思いますが,しかしながら,○○委員が端的におっしゃったように,これだけ突出して定めることはバランスを失するのではないかとか,それも含めまして慎重な御意見の方がむしろ多いのかなという気がしますが,そういう理解でよろしいでしょうか。   (参考)のようなことにつきましては,これは皆さん,積極的だというふうに考えてよろしいでしょうか。   ○○委員も,この③の(参考)につきましては何か御意見ございますか。 ● 今,そもそも,親会社自身についても内部統制システムを構築しなければならないなんていうことは法律にはないわけですよね。そういう中で,子会社等も対象とする内部統制構築義務を一般に課するというふうなことは過重ではないかと。これも会社の判断,会社としての内部統制をどの程度にするかというのは会社として判断すればいい問題だろうと思いますので,それが子会社を含めた管理の中で一般的な善管注意義務違反に当たっているかどうかというのは解釈でやっていけばいい問題であって,法律で内部統制システムを構築しなければならないとか,子会社を含めた中でそこまで規制するのは過重ではないかと思っております。こうすることによって,かえって内部統制にかけるコストが異常なものに……,企業というのは非常にまじめですから,法律でやれということになると,とことんまでやる,1,000社にわたる子会社について,すべての設備投資なり100万円を超える投資案件は全部親会社に持ってきて監査するとかいうようなことになりかねない。ということになると,何のために子会社運営をして臨機応変に事業をやっていっているのかということの,木を見て森を見ないようなことにもなりかねない。これは会社の自治に任せて,実際に問題が起こったときには,さっきの親会社の取締役の子会社を含めたところでの日々の管理でありますとか,そういうところに問題がないのか,そして代表訴訟を提起するべき案件について提起しないのは問題ではないかという訴訟の中で,善管注意義務一般の問題としてとらえていってほしいと,そういうふうには思います。 ● この(参考)の文言そのものをまたいろいろ考えた上で膨らます必要があると思いますが,ただ,親会社が子会社をどのように管理しているか,そして,そのときに親会社の取締役と監査役がどういう権限というか機能分担をするのか,そこら辺が親会社の株主に分かるようなシステムがなければ,子会社管理についての親会社株主の親会社取締役に対する責任追及訴訟が絵にかいたもちになりますので,私が先ほど申しましたのは,一応そういうふうに言われる,法人格は別だから,親会社の取締役が子会社の取締役の責任追及をしなかった場合には親会社の取締役に対して親会社の株主が責任追及すべきだというのが一つの本筋だと思いますが,それに実効性があるような形のスキームがないのなら,場合によっては,それを誘導するためにと言うとまた怒られるかもわかりませんが,多段階代表訴訟もややいびつだと思いますけれども,いびつなものでも仕方がないというような議論にもなりますので,そこら辺はもう少し,内部統制システムと言われると委員会等設置会社の言葉と一緒ですから,全くそれと同じようなことになると,やや重過ぎるという議論があるかもわかりませんが,健全な会社だったら会社自治でこういうような話ができますから,親会社の経営陣ないし監査役が子会社をどのようにコントロールしているかを,少なくとも親会社の株主に開示する,そういうスキームは必要だろうということ,それをベースにどこまで実質的なことをするかという,そういう担保手段がないと,やはり③の本文にあるような意見が強くなる。しかし,やはりこれについていろいろ意見がありましょうから,少なくとも,まずは(参考)のところを出発点にしてというのが先ほどの趣旨だということで,少し補足説明させていただきます。 ● 具体的な話になりますと,(参考)の部分につきましてもいろいろな御意見があるかと思いますので,これはこの場ではなかなか詰められない問題ですので,適当な場でなお検討を続けていただければというふうに思いますが,③につきましてはそんなところでよろしいでしょうか。とりあえず,多段階代表訴訟という形ではなくて,別個,○○委員が言われたような方向で少し具体的な工夫の余地があるかということを検討してみるということでいかがでしょうか。--よろしゅうございますか。   それでは④,これが先ほど来の議論ですと非常に重要な論点になってきているように思いますが,株式交換・株式移転に限るかどうかは別にいたしまして,こういう組織再編におきましても原告適格が喪失しないという立法上の手当てをすることの当否ということでありますが。これは,キャッシュアウトされたものにつきましては,どうするかというのは先ほども議論がありまして,もう既に議論が分かれておりますので,一応キャッシュアウトの方はさておき,親会社の株主資格は続いているという場合を念頭に置いてまず御議論いただきたいと思いますけれども,いかがでしょうか。   従来の御議論では,○○幹事もこちらの方は賛成であるという,さっきの御発言はそういう趣旨だと受け取りましたが。 ● この手当ては必要だと思いますので,これについては賛成です。 ● 実質につきましては,先ほど,○○委員も賛成という御意見だったと思うのですが。 ● ①と④はどういう関係になっているのでしょうか。 ● 一応,①で立法上の手当てが必要だということになったときの一つの案として④ということなのではないでしょうか。ドラスチックにいくと③という選択肢もあり得たわけですが。 ● ④でキャッシュアウトの場合をとりあえず除いて考えることとした場合には,要するに,親会社株主については,提訴後にそのような立場になったことをもっては原告適格を失わないということになるわけですが,訴訟では訴訟当事者としてそれなりに処分行為を伴ってまいるわけです。例えば,和解ですとか,あるいは請求を変動させる行為,特に,請求の拡張ですとか,そういったことをいろいろ考えなければいけないとは思うのですけれども,一応そういう論点を視野に入れつつ,この限度でということでよろしければ,更に詰めてみたいと思います。 ● 何か,こういう措置をとった場合の問題点というのは,株主代表訴訟研究会では,○○委員,そちらの議論はありましたでしょうか。 ● 今,○○幹事が御指摘になった点についてということでしょうか。 ● いや,この④全体について。 ● ④については,読んでいただければ分かるのですけれども,正に先ほどのキャッシュアウトを除くかどうかということによって,まず範囲が変わってくる。これは二つ目の米印に関係してくるところでありますけれども。まあ最低限,株式交換・株式移転によっても原告適格が失われないようにするという点では,これは一致のあった点であります。   細かいことを言いますと,提訴後なのか,場合によっては,一部の意見は,会社に対して請求していればというような意見もあって,更にそれを前に倒していくと,先ほど○○幹事が御指摘のような行為時までさかのぼるのかもしれませんけれども,まあ普通はこういった特例を認める,それこそさっきの○○委員御指摘の,一体どこまで民訴的に説得できるかということともかかわってきて,せっかく訴訟を起こしてある程度の訴訟状態を形成したものをむだにしないという訴訟法的なことをも考慮すると,最低限認められるのは,やはり提訴後であれば原告適格は失わないという点では,少なくともそれは認めるべきではないかということで一致したところであります。   あとは,株式交換・株式移転のほかに何を加えることができるか。それこそ株式消却まで含まれることになると,一種のキャッシュアウトまで含むことになりますので,ですから,なお株主としての地位にあるものとみなすという規定を置くのを一体どのところまで置くかということで,これは考え方が分かれてくる。もう一つは,同じ問題は単に代表訴訟問題だけではなく他の会社訴訟にもあるのではないかということになりますと,決議取消訴訟その他の,いわば共益権の行使としての会社訴訟についても同じような規定を設ける必要があるかどうかというのが次の課題として議論になったということであります。最低限固いところでいけば,株式交換・株式移転について,そういう提訴後についてはなお株主としての地位にあるものとみなすという規定を入れるのが望ましいのではないかということだったわけです。 ● 代表訴訟以外はどうなんでしょうかね。完全子会社となる会社について決議取消しの訴えを提起していたのがですね。こういうのは……。そこの株式交換・株式移転があっても原告適格は喪失しないというのを限定列挙で置いていくとなると,どこまでかという話になってくるわけですよね。 ● 規定の仕方にもかかわるだろうと。 ● 何か抽象的な規定を置くのであれば,そういう決議取消しの訴えまで含まれるような立法になってしまうのかもしれませんけれども,この辺はどう考えるべきかという問題はあるかと思いますが。   何か御意見ありますでしょうか。 ● やはり,自分の意思が加わっていないのに地位を失うということは世の中にそんなにあるわけではないですね。かつ,株主についても,従来の会社法のもとでは余りそういうことはなかったのではないかと思いますが,最近いろいろ手段がふえてきていると,これをやはり前提に考えなければならないのではないかということが一つあります。   そうしますと,③の場合であれば,株主代表訴訟以外の会社関係訴訟の原告適格について余り多重というようなことは考えなくていいと思うのですが,④のようなアプローチをしたときには,実際にどの程度需要があるかということは別にしまして,考え方としては,ちょうど決議取消しの訴えを起こしていたと,それでもうそろそろ勝訴判決が出そうになったところで株式交換が行われたというような事例だってあり得なくないわけですから,やはり,すべて会社関係訴訟の原告適格に広げて考えた方が理論的には筋が通っているのではないかという感じがいたします。   それから,2番目の問題で,株式交換・株式移転以外にどこまで広げるかということなのですけれども,やはりキャッシュアウトということ自体余り安易に認めるべきではないということをまず前提に私は持つわけですけれども,少なくとも,例えば株式併合であれば,もう既に,これはできるということはしっかり認められている話でありますし,また,今後,キャッシュアウト・マージャー等々を広く認めていくということになると,問題は一層深刻になるわけです。したがいまして,先ほど○○幹事がおっしゃいましたように,救済を得たとして,それが後どのように自分の利益となるのかという問題を考えると,継続的な投資の部分が間接的にもない場合の救済というのは確かに難しいのですが,しかし,④のようなアプローチ,かつては原告適格が確かにあった者が,その後,自分の意思によらずにその地位を奪われた場合,時間的な経緯を考えた場合のかつての状況を考えれば,実体法上原告適格は必ずあったということを頼りに,やはり広げていった方がいいのではないかというふうに私は考えます。 ● ほかの委員・幹事の方,いかがでしょうか。   確かに,決議取消しで……,まあ,総会招集手続の瑕疵とか何とかで決議取消しだと余り意味はないのかもしれませんが,何か計算書類の,それこそ違法な計算書類であるというようなことで決議無効の訴えを起こしていたなんていうときは,それは原告適格が続いた方がいいのかもしれませんね,確かに。   こういう原告適格が喪失しないという措置を設けた場合についての問題点等,技術的問題点でも結構でなのですが,何かございますでしょうか。   ○○委員,いかがでしょうか。何か,この点について御意見ございますでしょうか。 ● ちょっとそこはありません。 ● 現時点でちょっと私の記憶が不正確なものですから,もし間違っていたら訂正していただきたいのですけれども,原告適格の問題は,代表訴訟の場合には訴訟係属中は株主資格を持っていなければいけないという意味では正に原告適格の問題なのですが,決議取消し,あるいは会計帳簿閲覧とか,そういった訴訟の場合には,提訴あるいは権利行使したときに株主であれば要件を満たす,それで原告適格はもう充足される,その後株主の地位を失ったときには訴えの利益の問題になるという整理もあるいはあり得るのではないかという気がするのですが,原告適格と訴えの利益の問題と二つあると思いますので,これは訴訟の類型ごとに一回整理して,立法化に当たって考える必要があるのではないかという点が一つ。   もう一つは,これは訴訟の範囲の問題なのですが,株式交換・株式移転に限るかどうかという問題なのですが,もしこれに限定して原告適格が継続するという明文規定を設けますと,当然,反対解釈あるいは類推適用という問題が出てまいりますので,やはり,原告適格を継続させるという立法化をするのであれば,どういう範囲が合理的に継続するということを明文化した立法にしないと,後々解釈問題が起きるという気がします。そういう意味では,株式交換・株式移転に限らず,例えば合併とか,あるいは更に広げて,原告株主が100%株式を失う,例えば株式全部の消却とか,100%減資とか,そういう100%全株主が株式を失うという場合まで広げて規定するか,その辺を工夫しませんと,反対解釈なのか,あるいは類推適用なのかという解釈問題が起きる気がしますので。私の気持ちでは,株式交換・移転に限るということも一つの考え方ではあると思いますけれども,むしろ,全株主の株式が100%失われる,それについて原告株主の意思に反しているという場合を包括的に定めるという方がかえって明確にはなるのではないかという気持ちを現在は持っています。 ● 確かに二つ大きな問題がありまして,一つは,株主代表訴訟以外の訴訟をどこまで含めるものにするかという問題と,それから,おっしゃった,典型的にはキャッシュアウトですね,キャッシュアウトの場合を含めるかという問題がありまして,キャッシュアウトの方につきましては,先ほど議論が分かれていることは分かっておりますので,これは一応事務局で考えていただいて,キャッシュアウトを含めると著しくこれが複雑になるのかどうか,そうでもないのかという問題が一つあります。まあ,それはとにかく議論が分かれているわけですから,一応キャッシュアウトの場合も含めて検討はしてみる必要が,もしキャッシュアウトを含めたらどういうことになるのかということをやる必要があると思うのですが,株主代表訴訟以外の訴訟についてどこまで含めるべきかということについては,もうちょっと方向をはっきりしていただきませんと,事務局も検討できないと思いますので,この点に絞って御意見をいただければと思うのですが,株主代表訴訟以外についてどこまで……,もう会社関係訴訟全部というふうにするのかどうかですね。あるいはもうちょっと絞れるのか。 ● 一般の解釈として,決議取消訴訟の場合には,原告適格という意味で言えば,決議時あるいは提訴時に株主であれば,事後的に株式を失った場合には訴えの利益の問題になるという理解でいいのかどうかですね。あるいは,検査役選任請求であれば,これはもう検査役を選任して次の手続というものがありますから,そういう場合には原告適格は継続して持っていなければならないということになるような気がするのですけれども,もし原告適格が継続するものであれば株主代表訴訟と同じ問題が起きるということだと思いますが,提訴時あるいは決議時あるいは会計帳簿閲覧請求時,そういう時点で株主資格を有していれば原告適格としては認められる,その後失った場合には訴えの利益ということであれば,特段の立法的手当てをしなくてもその問題は解決するということになりますので,そこを整理するのが先決のような気がするのですが。 ● いかがでしょうか。 ● 持株要件,例えば10分の1を持っていなければならない場合に,自分で売り払った場合と,新株発行などがあって,そのために10分の1でなくなってしまった場合と,両方ございますね。後者の場合については既に判例もあったのではなかったかと思いますけれども。 ● 研究会のときにそれを調べてみたのですけれども,判例は残念ながらないようです。ただ,学説はほぼ一致していて,持株要件をそういうような新株発行などで下回ってしまった場合であっても,請求したときに持株要件を満たしていればそれでいいというのは,ほぼ通説,異論はないような感じでした。ただ,残念ながら判例でそのような考え方をはっきり述べたものはちょっと見当たらなかったと思います。 ● 会社法上の訴えについては全然素人なのですが,原告適格の一般論は,これは本案判決の要件ですから,判決時になくてはいけないというのは,それが常識的なことだと思うのですね。   ただ,個別の訴えの原告適格の形式的に見れば喪失が,原理原則の本案判決の要件だから判決時になくてはいけないということの例外を認めるべきかどうかということは解釈論としてはあると思うのですが,原告適格という以上,管轄ではありませんから,訴訟要件で,最後までなかったら棄却判決になるだけの話で,本案判決はできないと。   ただ,代表訴訟と違うと思うのは,○○委員も言われましたけれども,給付訴訟ではないのですね。給付訴訟だと,権利の処分行為を訴訟過程を通じてやっているようなものですから,当事者適格の継続というのは実質的にはよく分かるのですけれども,会社法上の訴えで,確認訴訟,形成訴訟の類型のもの,特に形成訴訟については,実体法上の形成権があるわけではないですから,ある時点であればいいというわけではないとはいえ,実体法上の形成権の行使というのは,形成権行使のときに適格を持っていればいいということで,非常に分かりやすいですね。そして,訴訟上行使しなくてはいけない形成権ですから,形成訴訟は少し引き伸ばされた形成権の行使だという感じはしますけれども,それでも,まあ形成訴訟なんだから,ある一基準時であれば,後でそれが失われてもいいのではないかという解釈に結びつきやすい。給付訴訟はそう言いにくいという差があって,個々の訴訟の類型ごとに解釈論がいろいろあり得るのだろうとは思いますが,しかし,物の出発点は,原告適格は判決時になければ却下判決になるだけだということですね。 ● おっしゃるとおりだと思います。確かに学説はその点余り詰めて書かれたものはなくて,結論しか書いてないのが多いので,どこまでそういった,今,○○委員が御指摘のような点を考えているか分からないところがあるのですけれども,中で,例えば,株式買取請求権を行使して,その後で株主資格を失ったような場合については,もう既にいったん請求権として発生してしまっていて,株主であり続けることは原告適格の要件になっていないというような解釈もあり得るところで,多分そういうような考えで認めているものもあるのかなと思いますけれども,ただ,原告適格として株主であり続けなければいけないと解釈されるものについては,○○委員がおっしゃるとおりの問題があるというように思います。 ● 確かに,新株発行無効みたいな形成判決は,完全子会社となる会社の,あんなにあいつらが株主だと言ってるのはおかしいんだというのは,これはやはり続けさせないとおかしいような気はしますね。だから,形成訴訟のかなりのものは,やはり続くということにしておかないと,株式交換等をやったからぱっとなくなると言っていいものではないような気がしますね。株主代表訴訟よりもっと直接株主の経済的利益にとっては大きな問題かもしれませんのでね。 ● あともう一つ,学説でそういうふうに要件がなくなってもいいと言っているのに多いのは,少数株主の持株要件が提訴した後で下回った場合を主に考えているのが多いものですから,ですから,さっきの,正に現在特に問題になっている株式交換・株式移転みたいに,いったん提訴したけれども,後から自分の意思によらずに持株要件を下回らされたような場合が多いので,それを考えての学説の議論だったのかなと。ですから,すべて自分で株式を売り払って持株要件が下がっているような場合まで考えているわけではないし,持株要件が下回った場合と,完全に株主でなくなった場合とで同じかというようなこともあると思いますので,これは細かく考えていくといろいろ分かれていくのかなという気はします。   私としては,決議取消訴訟や決議無効確認訴訟のようなものは,少なくともそういう原告適格の要件については,筋としては代表訴訟と同じ問題ではないかと。そして,意思に反して,実質的な持株の利益があるような場合について,例えば株式交換・株式移転については,決議取消しや決議無効確認については入れるのが本来は筋だと思います。あとは,立法するときの手当ての大変さというか,立法当局の方がどこまでやれるかという話だろうというふうに思っています。 ● 単なる疑問だけですけれども,無効確認であるとか不存在確認の場合は,いずれにせよ構わないですね。株主でなくなりましても。 ● 完全にですか。 ● どうなんでしょうか。株主であることが要件になっているのですかね。 ● 無効確認はそうですよね。ただ,それも訴えの利益の問題があり得るというのが○○委員のおっしゃった問題で。   決議取消しの場合は,やはり株主であることが……。 ● 決議取消しであるとか,新株発行無効の訴えとか,合併無効の訴えとか,そういうものは株主であることが要件になっているからこの問題が出てきていると,こういうふうに整理すればよろしいですね。 ● そういうことです。 ● そうしますと,株主代表訴訟以外でも,相当のものはやはり含めるべきだという点では,方向としてはそういうことですが。 ● ちょっと確認なのですけれども,まず,代表訴訟にしても,決議取消訴訟にしても,これは訴訟物は純粋に形成権であったり会社の損害賠償請求権であったりして,株主の請求権ではないので,そこは単純に当事者適格の問題として考えればいいと思うのですけれども,例えば株主の取締役に対する違法行為差止請求権というのが訴訟物になっているような場合,これはあくまでも株主の請求権なので,自分が株主であり,違法行為を差し止めるということさえ主張すれば当事者適格が認められて,後株主でないとかいうことは,単に請求棄却になるかどうかという,そういう本案の問題なのでしょうか。それとも,途中で株主という資格を失ったら,単に本案として請求が棄却されるのではなくて,株主でなくなったのだから訴えが却下されるという問題なのか。私は,どちらかというと,そういう株主の請求権という形で立てられるような場合には,むしろそれは本案の問題になるので,途中で株主資格が失われても,それで原告適格の継続とかいうような議論が必ずしも即出てくるのではないんじゃないかなとも思われるのですが,そこら辺はどうなのか,ちょっと私も素人といっては何ですけれども,よく分からないところなので,質問なのですけれども。 ● 差止請求権というのはどういうものなんですかね。 ● アメリカでは,差止めでも二つ種類があって,直接訴訟とされるものと代位訴訟とされるものがあって,日本の272条はアメリカで言えば代位訴訟と理解されていますから,だから,むしろ訴訟物は会社のかわりに行使しているという理解もあり得るかなと。アメリカ法の沿革から言えばですね。それに対して,新株発行の差止めなんかはむしろ直接訴訟の可能性があり得るかなという気もします。 ● いずれにせよ,差止めも,ここでは原告適格は喪失しないという処理をしないと困る問題のような気はしますけれどね。   そうしますと,意見の大勢としては,④を株主代表訴訟以外にも相当広く拾って原告適格が喪失しないという処理をすると。それから,キャッシュアウトの場合をどう扱うか,これは非常に大きく意見が分かれておりますので,これも一応は,キャッシュアウトされたものを認めた場合どういう問題になるかということをもうちょっと事務局で詰めてもらうと,そういう理解でよろしいでしょうか。 ● 済みません,今のおまとめで全く異論はないのですが,若干,キャッシュアウトのところで,先ほど,私,箱をつくって合併するというような話を申し上げましたが,ちょっと見てみますと,株式交換それ自体,対価の柔軟化が認められているということですので,そういう点ではもう完全に離れてしまう,株式交換といっても親会社の方に収容しないというケースがあるということを考えれば,なお一層深刻であるということをつけ加えさせていただきたいということと,それと,ケースがどうなるのか分かりませんが,合併の対価の算定の段階で,例えば,大がかりな債権放棄みたいなことを会社が行っていて資産がかなり劣化しているという状況の中で,株主代表訴訟の中には,最近,その債権放棄自体が善管注意義務違反ではないかという形の訴訟も起こっているわけですけれども,そういうようなことについて,一応ペンディングにして,それで,訴訟の結果,もしその部分がかなり大がかりな形で会社に戻ってくるのであれば,その対価の算定のところで改めてその点を補てんしてほしいというような要望を持っている株主がキャッシュアウト・マージャーに応じるというような場合があれば,やはり一応訴訟継続したまま決着は留保するというようなケースもあり得まして,そういう場合は,先ほど○○幹事がおっしゃっておられましたけれども,全く利害関係がなくなるかというと,必ずしもそうではないというケースもあろうかと思いますので,是非御検討をお願いしたいというふうに思います。 ● 先ほど,行為時株主原則については議論が終わってからもう一度ということだったのですが,この点につきまして,今までの(2)の議論を踏まえまして,何か御意見ありますでしょうか。行為時株主原則の導入の可否ということにつきましては。   ○○委員,何か御意見ございますか。 ● ④のような立法を行ったからといって,必ずしも行為時株主原則を取り入れた方がすっきりする問題ばかりでもなさそうですね。先ほどの議論によりますと。例えば,株式交換・株式移転をした親会社自身が後から加われるか加われないかというような問題にもかかわってきますので,特にメリットがないというふうにもだんだん思えてきました。 ● 何か,行為時株主原則について,補足的な御意見はございますか。 ● 行為時株主原則のところは内部でも議論はしてみたのですが,意見はちょっと分かれましたけれども,これは私の個人的な意見で見ますと,ほとんどの事件は行為時に株主なのですね。例外的なのが出てきているという,それが果たして本来株主代表訴訟が予定しているような株主代表訴訟であれば,行為時株主原則にこだわる必要はないかなとは思うのですが,本当は実体の訴訟でそういうものをもう少し分析してみた方が実務的にはいいのかなと。いわゆる濫訴的なものがそうだということであれば,やはり行為時株主原則というのも一つあるのかなという気もしますし,素朴な感覚としては行為時株主原則というのは非常に分かるような気がいたします。これは実務をやっていた感覚としてですけれども。   ただ,これは理論的に言いますと,確かに,○○委員に整理していただいたとおり,必ずしも行為時に限定するのはどうかというのは非常によく分かるのですけれども,現実に出てくる訴訟をもう少し分析しなければいけないだろうとは思いますけれども,何となく,実感としては,行為時株主原則がいいなという意見が大きかったように思います。反対の説も十分ありました。裁判所の中は当然意見は分かれていますので。 ● 何か非常に争点が増えるような気はするのですが。行為時といっても,本当にその行為時なのかとか,いつばれたんだとか,そういういろいろな争点が出てきて,かえって……。国会でもその点を問題にしたのかもしれませんが,争点が増えるという点はどうもあるのではないかという気が私もするのですが。 ● そこは,私たち実務家からすると,きちんとした株主代表訴訟であれば,事実さえきちんと出してもらえれば,かなりの部分は評価の訴訟なものですから,本当にその事実があったかどうかということが争われるというようなのは余りないように思えるのですね。ただ,資料を持っているのが会社であったりしまして,その資料がストレートに出てこないものですから。資料がどんどんストレートに出てきて事実が集まれば,少なくとも株の取得時というのは客観的にすぐ認定できますので,あとはその時点の認識だとか,事実経過のところに出てくるのですけれども,先ほど言いましたように,ほとんどの訴訟が行為時株主でやっているものですから,さっき言った例外の問題点というのは余り検討していないというところは実務的には言えると思いますが。 ● それでは,特にこの(1)につきましては,(2)の意見を踏まえても,先ほど来行われた議論と特に変わったところはないということかと思います。   そうしますと,一応,今日予定した議論はこんなところなのですが,なお何か,つけ加えて御意見ございますでしょうか。 ● 今日は,議論の順序として,3のところから始まったわけですけれども,実は,3の問題も,1の,訴訟委員会制度をどうするかという,いわば株主の利益に合致するような訴訟を認めるかどうかという問題と連関していて,ここの部分の構成いかんによっては,かなり広く原告適格を認める方向に傾く,あるいは2段階訴訟も含めてですね,そういう方向になる可能性もあるので,これは正にこのペーパーに統一的に並べられているように,その点の連関性もやはり意識しておく必要があるのではないかなということを感じました。   それから,このまとめとして,④なんかのところで,原告適格を喪失しない立法上の手当てをするといった場合にいかなる場合を対象にしてやるかということで,企業再編に限定するのか,あるいはその企業再編の中でも株式交換・株式移転というものに限定するのか,それとももっと広く,消却から何から全部というような,その広がりの程度の部分については,今日の議論はどういうことに集約されたんだろうかというあたり,ちょっとその辺,○○委員の方で整理していただければ。 ● これは,キャッシュアウトの場合につきましては意見が非常に分かれておりますので,もう一度,もしキャッシュアウトの場合にも原告適格が継続するということにした場合にどういう問題が起こるかということにつきまして,なお技術的な問題もありますので,事務局で検討してもらうと。もうキャッシュアウトについては原告適格は継続しないと決めることはしないということです。 ● 企業再編という前提の中で,企業再編を超えて,株式消却とか合併とか,いろいろな問題が提起されているので,そういう広がりをどこまで含めた上で原告適格について立法していくかと。先ほど○○委員の言われたみたいに,意に反してというような場合はすべて同じではないかという御議論もあったので,そうすると非常に広がりますよね。ですから,そこのあたりのところの議論の本日での議論の方向というのは……。 ● 排除しないで,一応検討してみるというふうに私は認識していたのですが。 ● 本当に一言だけなのですが,先ほどの行為時株主の問題で,○○委員がおっしゃるようにいろいろなケースを分析して,それを前提に考えるべき問題だと思うのですが,ただ,さっきも○○委員がおっしゃったように,行為時株主で起こされるというケースは恐らく閉鎖会社が多いのではないかと思うわけです。それに対して,一時,代表訴訟がいろいろ起きたときに大変問題になったのは,新聞に何かに不祥事の記事が出まして,それを知って株を買った株主が,甲1号証としてその新聞記事だけを出して代表訴訟を起こすと,そういうようなケースが幾つか見られまして,こういうことが起きるとすれば,行為時株主に限定する方がよろしかろうという議論があったと思うのですが,ただ,現状を見てみますと,閉鎖会社は別にして,上場企業のケースを見ますと,不正行為などがあって,それが判明して会社の損害を回復する必要があると見られるのが数年たってからというケースも多々あるかと思いますので,数年たった時点でたまたま株を買った株主が,そういった判明したことを知って責任追及の資格を持つと,これに何ら支障はないのではないかという気がいたしますので,そういう意味では,行為時株主だけが適切代表とまでは言えないのではないか。そういう意味では,現状の,制限をしないという考え方で維持してよろしいのではないかなというふうに考えております。 ● そうなんです。行為時株主といっても,いろいろな例があり得るので。 ● 今のに関連してつけ加えさせていただきますと,アメリカでも行為時株主原則については随分議論があって,批判もあり,例えば有名なALIのコーポレート・ガバナンス原則を見ますと,確かに行為時株主原則はとっていることはとっているのですけれども,行為時株主原則を満たした株主から株式を取得した者は代表訴訟を提訴できると書いてあるのですね。そうしますと,それに引っかからないのは,新株が後で発行されたのに応じた場合ぐらいでありまして,カナダもかつては行為時株主原則をとっていたのを廃止しておりますし,実際,採用してみても必ずしも期待するほどの機能は果たしていないという面はあるし,更に,行為時株主原則といっても,どういったものとしてそれを具体的に規定するかによってもまた変わってくるという感じがします。 ● 私どもも,実務上は,そういう代表訴訟をあえてしたいという人には,上場会社であれば,行為時の株主を募って原告にして弁護士が訴えるということをやっているわけですから,濫訴防止になるということにはならないとは思っているのですけれども,先ほど言いましたように,やはり筋論というのは,事が起こってからあえて株を買って,会社と事を構えてやろうというふうな訴訟が適切代表ということになるのかということからすると,やはり疑問を抱かざるを得ないということで,行為時株主にするからといって濫訴が防止できるとは思っておりませんけれども,筋論はやはり行為時株主だろうと,繰り返させていただきます。 ● ほかに御意見ありますでしょうか。   まあ,この点につきましてもかなりはっきり議論が分かれておりますので,そういうものとして認識させていただきます。   本日御審議いただきたかった点は大体以上で尽きているのですが,よろしいでしょうか。   それでは,これで本日の審議は終了させていただきたいと思いますが,事務局から連絡事項がございます。 ● 本日は誠にありがとうございました。   次回は,2月4日の水曜日,次回からはまた,申し訳ございませんが,午後1時からお集まりいただきたいと思います。場所は20階の第1会議室でございます。   次回には,現在事務局で鋭意取りまとめ中の意見照会の結果の報告などをさせていただく予定でございますので,よろしくお願いいたします。 ● それでは,本日の部会を閉会させていただきます。本日は長時間にわたり大変熱心な議論を賜りました。どうもありがとうございました。