法制審議会 民法(相続関係)部会 第18回会議 議事録 第1 日 時  平成29年2月28日(火)自 午後1時30分                      至 午後5時22分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  民法(相続関係)の改正について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○大村部会長 それでは,定刻になりましたので,法制審議会民法(相続関係)部会第18回会議を開催いたします。   まず,議事に先立ちまして関係官で新しい方がいらしておりますので,自己紹介をお願いいたします。 ○宇野関係官 法務省民事局付をしております宇野と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○大村部会長 ありがとうございます。どうぞよろしくお願い申し上げます。   次に,配布資料及び資料について,事務当局の方から御説明を頂きたいと思います。 ○神吉関係官 関係官の神吉の方から配布資料の御説明をさせていただきます。   まず,本日の配布資料でございますが,事前送付の部会資料18,「遺産分割に関する見直し等(中間試案の第2・三読)」と題する資料,それから,贈与税の特例に関する国会審議の抜粋をしたもの,こちらを事前に送付させていただいております。また,本日,机上配布の資料といたしまして,浅田委員から御提供を受けました資料といたしまして,「可分債権の取扱い(相続預金)等に関する意見③」と題する資料を頂戴しておりますので御確認ください。 ○大村部会長 ありがとうございました。   本日はただいま御説明がありました部会資料18「遺産分割に関する見直し等」に基づいて御審議を頂くことを予定しておりますけれども,南部委員が早退をされるということで,最初に発言したいとの御希望を伺っておりますので,南部委員に御発言いただいてから具体的な審議に入りたいと思います。 ○南部委員 ありがとうございます,御配慮いただきまして。1時間ばかりで早退しなければなりませんので発言させていただきます。   第2の「遺産分割に関する見直し等」の3の仮払い制度等の創設についてでございます。これにつきましては,仮払い制度の創設ということで,16ページ,17ページです,甲案と乙案の2案を提案していただいております。甲案はまず家庭裁判所に申入れを行うことが必要となります。これは一般的に私たちが,なかなか,これは使いづらいのではないかいう思いはありますが,しかし,相続人の申立てによって生活費が必要であると裁判所に認められた場合には,一定額の支払いが認められるということで,預貯金を払い戻す必要に迫られた場合には有り難い制度かと感じます。   また,乙案は家庭裁判所への申入れを経ずに払戻しができるということで,これは私たちにとって利便性が高いのですけれども,払戻額の問題がございます。預貯金債権額の一定程度ということで,更に限度額が定まっているということになりますので,例えば遺産分割が長引けば厳しくなるかなということも感じられます。そのため,できましたら,甲案,乙案の両方の併用ということも是非,御議論いただけたらと思っております。手続が現行より複雑化せずに,私たち一般人にとって使いやすくなる制度に是非していただくように今後の御議論をお願いしたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございました。   今日は資料は四つに分かれておりまして,今,御指摘いただいたのは「仮払い制度等の創設・要件明確化」の部分でございます。甲・乙の両案が出ているけれども,どちらか一方ということではなくて両方を並存させるということも検討していただきたいという御要望として承りました。この点については後ほど,皆様の御意見を頂きたいと思います。   以上が具体的な検討に入る前の案件でございますけれども,以下,この資料に基づきまして4項目の検討に入ります。最初が1ページの「配偶者保護のための方策」,その次が8ページの「可分債権等の遺産分割における取扱い」,そして,今,話題になっておりました16ページの「仮払い制度等の創設・要件明確化」,最後が,36ページの「一部分割の要件及び残余の遺産分割における規律の明確化等」という項目でございます。1項目ずつ御説明を頂きまして,皆様から御意見を頂くということで審議をしてまいりたいと思いますけれども,二つ目の「可分債権等の遺産分割における取扱い」が終わった辺りで休憩を入れようと思っております。   ということで,まず,最初に「配偶者保護のための方策」につきまして,事務当局の方から資料の説明を頂きたいと思います。 ○神吉関係官 それでは,関係官の神吉から部会資料18につきまして御説明させていただきます。   本日はお手元の部会資料のとおり,全部で39ページとなっておりまして,御議論いただくべき論点が多数ございます。事務当局からの説明はポイントを絞って簡潔にさせていただこうかと思っておりますが,説明が不十分な点があれば,遠慮なく御質問いただければと思いますので,どうぞよろしくお願いいたします。   それでは,早速,1の「配偶者保護のための方策」につきまして御説明させていただきます。   まず,ゴシックの提案部分ですが,甲案につきましては第15回部会におきましてお示ししたものと同じで,特に変更はございません。また,後ほど詳しく御説明いたしますが,乙案が今回,初めてお示しする案でして,一定の贈与等が行われた場合には,持戻し計算をしないという規定を設けたらどうかということを提案するものでございます。   それでは,補足説明の部分につきましても簡単に御説明させていただきます。   まず,甲案につきましては,持戻し免除の意思表示を推定するものですが,そのような推定規定を設ける根拠をどのように考えるべきかということを記載しております。基本的には,相続税法上の贈与税の特例を設けた趣旨に関する説明内容等を踏まえますと,婚姻期間が20年以上の夫婦の間で居住用不動産の贈与が行われた場合には,当該贈与を行った被相続人としては,当該居住用不動産については持戻し計算の対象としないという意思を有している場合が多いのではないかと考えられます。   また,今回の諮問の趣旨にも示されているとおり,高齢化社会の進展等の社会情勢に鑑みますと,配偶者の死亡により残された他方配偶者の生活に配慮する必要性が認められるところ,贈与税の特例の対象と重なる長期間婚姻関係にあった配偶者間の居住用不動産の贈与につき,民法上も一定の措置を講ずることは配偶者の生活保障をより厚くするものと言えます。このように本方策のような贈与等が行われた場合に,持戻し免除の意思表示を推定する規定を設けることは,一般の経験則に合致するとともに,高齢配偶者の生活保障を図るといった政策的観点からもその合理性が認められるものであって,経験則及び政策的観点の双方から,その立法事実が根拠付けられるものであると言えるかとも思われます。   5ページに移りまして,乙案の内容について補足して御説明いたします。乙案は一定の贈与が行われた場合に,持戻し計算をしないという規定を設けたらどうかという提案をするものでして,第15回部会におきまして委員の先生方から御指摘,御提案がありましたので,その内容を反映させたものでございます。   もっとも,乙案につきましては贈与等を行う時点における被相続人の意思を前提としないものでございますので,贈与税の特例に関する説明をそのまま引用することは困難となります。そういたしますと,高齢配偶者の生活保障という政策的な理由のみでこれを根拠付ける必要があるところ,そのように考えると,どうして一定の贈与が行われた場合に,持戻し計算をしないという方法で高齢配偶者の生活保障を図る必要があるのかという疑問が生じることとなりまして,目的と手段との間の関連性,相当性について適切な説明を施すことができるか,なかなか,難しいのではないかと思われます。   また,乙案を採用いたしますと,被相続人が居住用不動産を生前贈与したいが,遺産分割においてはこれを特別受益と扱ってほしいという意思を有していた場合に,これを実現することができず,その意味では,乙案は被相続人の財産処分権を制限する意味合いも有することになりますが,そこまでの効果を認めることに合理性があると言えるか,疑問があるようにも思われます。   また,6ページの3の「配偶者の相続分の引上げについて」ですが,第14回部会において配偶者の相続分の見直しについては,パブリックコメントにおいて反対意見が多数を占めており,中間試案の方向性自体について国民的コンセンサスが得られているとは言い難い状況にあるとの御説明をさせていただきました。その点につきまして,委員等から「配偶者の相続分の見直し」の甲案については,婚姻期間中に増加した資産について清算を行うという基本的な考え方に合理性があるのではないか,また,婚姻後増加額の算定の困難性が指摘されているが,同様の制度を採用している他の国を参考に,指摘されている問題を解決することは考えられないのかなどの指摘がありましたので,フランス,ドイツの法制について事務当局が調査しました内容を記載しております。   その内容につきましては,口頭での説明は割愛させていただきますが,要はフランスにおきましては,これまでも委員から御指摘いただいているとおり,公証人制度の存在によるところが大きく,我が国とは前提条件が大きく異なること,また,ドイツの法制については中間試案の乙案と類似しているところ,これは正しくパブリックコメントにおいて反対が多かった相続分を一律に引き上げるというもので,いずれもなかなか採用が難しいものと思われます。   以上,1の「配偶者保護のための方策」につきまして御説明させていただきましたが,本日は,特に部会資料1ページのゴシック部分の甲案,乙案のいずれを採用すべきかの方向性につきまして,御意見を頂戴できればと考えております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今,お話がありましたけれども,甲案,乙案,二つの案が出ておりまして,それぞれの根拠についてどのように考えるかということを御説明いただいたものと思います。それと中間試案に至るまで議論しておりました配偶者の相続分の引上げに関する問題について,なお,検討の余地はないかという御指摘があったのを踏まえて,一定の検討をした結果が6ページ以下に書かれているということも御説明があったものと了解しております。甲案・乙案の当否ということを中心に御意見を賜れればと思います。どなたからでも結構ですのでお願いを申し上げます。いかがでございましょうか。前回,この問題をやったときに乙案のような考え方もあるのではないかという御指摘があり,それを踏まえて乙案を掲げて事務当局の方で検討した結果について御説明があったわけですけれども,いかがでしょうか。 ○中田委員 私は甲案でいいのではないかと思います。乙案については御指摘のような根拠付けという意味で弱いということと,それから,効果がやや過大であるという印象がございます。他方で,甲案の根拠について,今回,詳しく検討していただきまして説得的だなと思いました。ただ,経験則という言葉の使い方が私にはよく理解できていませんで,聞けば持戻しの対象としないと答えるだろうというのを経験則というのかどうかがよく分からないのですが,こういった場合には定型的に意思の推定が可能であるというように理解いたしまして,それを経験則と呼ぶのであれば,そういうことだろうと思います。この案ですと,更に推定を覆す事実の認定による解決の余地もあって,それは具体的妥当性を図り得る余地を残しているということで,よろしいのではないかと思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。説明の言葉遣いにつきましては,更に御検討いただくということにいたしまして,基本的には甲案の方向でよろしいのではないかという御意見として承りました。   そのほかの委員・幹事の方々,いかがでございましょうか。 ○窪田委員 今,中田先生から御説明いただいたとおり,甲案は今回の資料で説得的に説明がなされているのではないかと思います。特に相続税法との関係で,こう基礎付けることで制度も全体として非常にきれいに落ち着きが認められるということなのかなと思います。 ○大村部会長 そのほか,いかがでございましょうか。なお,乙案を検討すべきではないかという御意見がありましたら,是非,伺いたいと思いますけれども,いかがでございましょうか。あるいは甲案・乙案の当否ということに限らず,どちらの案にしても生ずる問題というのもあろうかと思いますが,そうしたものも含めて何か御指摘があればと思いますけれども。 ○石井幹事 今回の案ですと,いずれも対象は居住用不動産であると書かれているわけでございますけれども,前の居住権のところでも議論のありましたように,例えば一部が居住の用に供されていて,残り部分は居住以外の用に供されているといったような場合に,対象となる居住用不動産の範囲はどの部分かという点について,事務局としてイメージを持っておられるのであれば,差し支えない範囲でお伺いできればと思います。 ○神吉関係官 お答えさせていただきます。居宅兼店舗であった場合どうなるかというご質問になるかと思いますが,その点につきましては,部会資料15の20ページの(注8)で検討を加えております。詳しくはそちらをご覧いただければと思いますが,少なくとも居住用部分につきましては,この推定規定は当然働くのだと思うのですが,その余の部分についてまで及ぶというかどうかということにつきましては,居住用部分にこの規定が及ぶということを前提にその余の部分についても事実上の推定が働くと考えるのか,それとも,別途,検討を要するのかということにつきましては,不動産の構造や形態,また遺言の趣旨などによって判断が異なり得る可能性はあるかなと。   ただ,一方で持戻し免除の意思表示というのは,一般に遺贈とか贈与された財産の全体について認められるかどうかが問題となりますので,一部について免除の意思表示が認定され,一部について認定されないという判断が実際にできるかどうかというのも,慎重に検討をする必要があるものと思われます。 ○上西委員 そのときの部会資料でも御紹介があったかと思うのですけれども,税法の世界では居住用部分がおおむね90%以上の場合に全て居住用不動産として扱うことになっております。税法の場合はあくまでも課税上,要件を厳しくしておかないといけないということがあるので,90%基準が設けられていると理解しております。実際,対象となる家を考えた場合,元々,1階でお店をしていて,2階が居住用という場合なども,今回の居住用不動産の対象になるかと思います。何らかの形で居住用不動産を定義する場合,税法ほど要件を厳しくしない方がよいと考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。非常に有益な指摘として承りました。居住用不動産の範囲をどのように画するかというのは,石井幹事の御指摘もありましたけれども,居住権の方とも関わってまいりますので,全体として最後はケース・バイ・ケースとならざるを得ないのかもしれませんけれども,一定の指針のようなものを更に考えることができるのであれば,考えていきたいと思いますが。 ○増田委員 前回は乙案を提案したのですが,当時気になっていたのは,居住の保護を考えるのであれば,相続開始時に居住していなくても適用されるというのは不自然ではないかということでした。ただ,意思表示という構成をする以上,甲案でやむを得ないかなと今は思っております。その点で確認的な質問なんですけれども,甲案で適用される居住というのは,他方,つまり受贈者,受遺者側の居住という意味でいいということですね。 ○神吉関係官 お答えいたします。今回の提案におきましても,「配偶者の一方が他方に対し,その居住の用に」という形で記載しておりまして,この「その」というのは「他方」に掛けているということになりますので,基本的には受遺者又は受贈者の居住の用に供しているものと考えているところでございます。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。ありがとうございます。   そのほか,いかがでございましょうか。 ○水野(紀)委員 遺産分割の持戻し免除の意思表示の推定規定という話とは少しずれてしまいますので,躊躇しながらですが,一言だけ申し上げます。日本の離婚法は自分の離婚意思に基づかずに離婚を強制されないという1点でだけ,配偶者保護や婚姻保護を図ってきたところがございます。離婚しないまま長期別居になっている不和な夫婦のケースで,夫名義の居住用不動産に妻子が住んでいた場合に,夫がそれを嫌がらせで売却してしまい,妻子の居住が危うくなってしまうことが,判例の事案でも間々,見られます。   離婚給付も諸外国に比べると非常に低額ですので,そういう意味では,家族居住権の保護という全体の枠組みの中では,このような配偶者の,つまり,所有者の意思だけにその正当性を係らしめるという形で議論することには,やや,ためらいがあります。本当はそういう場合の家族居住権まで視野に入れた上で全体像を説明する方がいいように思うのですが,ここで何らかの画期的提案とか具体的な提案はもっておりません。ここまでいろいろ議論をした末,持戻し免除という点でだけ議論を絞ってくださっていますので,あえてそれに反対するつもりもございません。ただ配偶者や家族の居住権保護という意味では,日本法はとても貧弱であるのに,今回の改正がそういう現状を追認することになりはしないかと危惧するとともに,大枠ではもっと改善されるべき根本的な問題が横たわっているという問題意識を持っておりますので,そのことだけ,申し訳ございませんが,一言,発言させていただきます。 ○大村部会長 ありがとうございました。本提案には御賛成だという前提での御発言と伺いましたけれども,配偶者の居住の利益の保護については,この場面以外にもたくさんの場面があろうかと思いますけれども,これを行うことによって,そういうものが封ぜられるということではなくて,それへの第一歩として位置付けられるかと思います。それから,政策的観点というのも短期的な政策というよりも,高齢者あるいは配偶者の居住の利益が重要になってきているという大きな流れとして捉えるならば,また,この先の展開もありうるのではないかと思いつつ,御意見を承りました。   そのほか,いかがでございましょうか。 ○西幹事 すみません,また,前回の話の繰り返しになってしまいまして,大変恐縮ですけれども,居住用不動産だけに限るという限定を付された理由について幾つか述べられているのですが,どうも今一つ納得できないところがありますので教えていただければと思います。配偶者相続分の「一律」引上げには反対だというのが恐らくパブリックコメントの大勢だったと理解しておりますが,一律引上げに代わるものを考えるのであるとすれば,居住用不動産に限定しない方が素直なのではないかという気がいたします。   今回,2ページの下のところから居住用不動産に限定する理由が書かれています。①では,その他の財産も含めるとすると配偶者以外に与える影響が大きいということが書かれていますけれども,配偶者以外の相続人にとって特に都心であれば一番重要な財産こそ不動産だと思いますので,むしろ,居住用不動産の方が影響が大きいのではないでしょうか。   ②では居住用不動産以外の財産の贈与については持戻し免除の意思表示を有しているとは限らないと,一概には言えないと書かれていますけれども,一般の感覚では贈与したものは持ち戻すものだということ自体,むしろ,認識していない人の方が多いように感じます。つまり,上げたら上げたで相続はまた別だと思っている人も多いように思います。③のところでは,今は9割ぐらいの人が持ち家を有していると書かれているのですが,今,全世帯では表によりますと60%強が持ち家,高齢者の世帯が9割ぐらい持ち家ということが分かります。今は6割くらいの人しか持っていなくて,あと30年後に9割に達するとは,時代背景を考えると必ずしも言えることではないように思いますので,今の高齢者世帯の状況のみを基に制度設計するということでは数十年後はどうなのかなという気がいたしました。   それで今一つ納得できなかったのですけれども,もう少し前回から申し上げたことを繰り返させていただくと,配偶者の居住用不動産の保護というのは居住権保護のところでも検討されていますので,今回,甲案でも乙案でもどうも居住権保護と重なるというか,趣旨の違いが説明しにくいところがあるように思います。利用権ではなく所有権として与えるという点は完全に違うのですけれども,ただ,目的と効果はそれぞれ一部,通じるところがあると思いますし,特に乙案のように,相続開始のときにおいて居住の用に供していたという限定が付きますと,より居住権保護に近付いて,その違いが見えにくいということがあると思います。   更に一概には言えませんけれども,持ち家の夫婦よりも恐らく借家住まいの夫婦の方が他方配偶者の死後の生活保障の問題というのは深刻になるように思いますので,この観点からも,持ち家の場合に限定するというのがどうもまだ納得できないところがあります。もう少し居住権保護とのすみ分けとか,あるいは持ち家の場合に限る決定的な理由というのがあれば教えていただきたいと思います。 ○大村部会長 西幹事の御意見は,居住用不動産に限らずに,こうした制度を導入したらよいのではないかという方向の御考えに立った上での御質問ということですね。 ○西幹事 はい。もちろん,限定するのでも構いませんけれども,その理由が居住権保護との関係で今一つ納得できないということです。 ○神吉関係官 御説明させていただきたいと思います。居住用不動産に限定する理由として,部会資料では様々なものを掲げておりますが,理論的には2ページの②の理由というのが一番大きいのではないかなと考えております。相続税法における贈与税の特例の立法趣旨の説明からすると,居住用不動産を生前贈与した場合には,通常は持戻し免除の意思表示を有していることが多いだろうとは言えるかと思うんですけれども,そのほかの財産を贈与した場合に持戻し免除を有しているかどうかというのは,これまでの説明からすると果たしてよく分からないだろうと思われます。   先生の御意見のように,もしかしたら被相続人としては,そういう意思を有していたのかもしれないとは思うのですが,そこは民法の建前からすると違うのではないか,民法は基本的に持戻し免除の意思表示を有していないということを前提として,被相続人がそれを表した場合には持戻し免除をするという建付けをしているかと思います。民法を改正して,生前贈与があった場合は原則として全て持戻し免除をするんだと,ただし,被相続人が別段の意思を示した場合にはこの限りでないというような制度とすれば,そこまで含めて全部改正をするということであればあり得るかと思うんですけれども,なかなか,そこまではコンセンサスが得られるのは難しいのではないかなと思われます。そのようなことを考え,また,これまでの立法の説明からすると,持戻し免除の意思表示を推定するとしても,居住用不動産に限るのが相当なのではないかということで,居住用不動産に限った提案をさせていただいているというところでございます。 ○垣内幹事 甲案が導入された場合の影響について,制度趣旨との関係で少し教えていただきたい点がございまして,と申しますのは,今回の御提案は乙案も含めてかと思いますけれども,基本的には相続税法上の贈与税の特例というものを非常に強く意識して,要件設定等がされているものかと思われます。ただ,税法上の特例というのは,適用するか,しないかのいずれかであって,20年というのはかなり一義的にそれを分けていくということになると思うんですけれども,甲案のように被相続人の推定的な意思のようなものに基礎の一端を置いている制度を考えた場合には,被相続人の意思が19年,婚姻から経ったところで贈与した場合と,21年たったところで贈与した場合とで,180度違うというようにはなかなか考えにくいところかと思われますので,そう考えますと,20年が経過していないものに関しても,この制度の類推ですとか,あるいは事実上,何かそういった意思が推認できるといったような考え方というものが出てき得るのかなという感じを少し持ったんですけれども,その点について何か御検討されているところがあれば,お教えいただければと思います。 ○神吉関係官 御回答させていただきます。垣内幹事の御指摘のとおり,21年目に行われた生前贈与と18年目,19年目[m1]の生前贈与とは,それほど違わないのではないかということは正しくそのとおりかなと思っておりますので,このような制度を設けることによって,18年目,19年目に仮に生前贈与した場合についても,事実上の推定が及びやすくなるということは,そういった効果はあろうかと思っております。ただ,一方で4ページに税法上の現在の贈与税の税率を記載しておりますけれども,かなり高い税率が課されておりますので,1年,2年待てばこういった控除があるにもかかわらず,18年目,19年目にあえてするという人がどこまでいるかという問題はあろうかなと思っております。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。ありがとうございます。 ○窪田委員 先ほどの西先生の御意見を正確に理解しているかどうか分かりませんし,また,今の段階でこういう問題提起をすること自体が適当かどうかもよく分からないのですが,西先生の御意見は恐らくここで示されている持戻し免除の話を居住用不動産以外にも広げましょうということよりは,むしろ,ここでの持戻し免除という話が,相続分の見直しというのがどうも見送られそうだという経緯の中で扱われたということを踏まえた上で位置付けられるものだとすると,何で居住用不動産に限定されるのか,もっと一般的な方法はないのかという問題提起だったのかなと私自身は理解しております。   その上で,ここから後,本当に今の段階でこういうことを問題提起することが適当なのかどうなのか分からないのですが,確かに甲案,乙案とも相続分の見直しについてはパブコメの状況を見ていても非常に厳しそうな状況があるとなったことをふまえ,中間試案では積極的には取り上げられていなかったのですが,寄与分についての見直しをもう一度検討するという可能性はないのだろうかという点です。今の段階で,そういうことを申し上げるのが適当かどうか分からないと申し上げましたけれども,中間試案の段階では寄与分についての見直しは相続人以外の者に限る検討,相続人ではない者の貢献に限って,この問題を取り上げていたということがあります。   確かに法制審で寄与分に関しては,非常に消極的な意見というのもありましたし,そうした状況の中で,配偶者の療養看護型であるとか,より一般的な寄与分の見直しは見送られたという経緯があります。ただ,一方では,恐らくあの段階では相続分の見直しの中で,事実上,そうしたものを反映させることが可能なのではないかということが前提となっていたのではないかという気がいたします。仮に相続分の見直しということを完全に見送るとなった場合に,寄与分の方は見送ったままで改めて検討しなくてもいいのかという点が問題となる余地があるように思います。恐らく西幹事の問題提起を正面から受け止めようとすると,それぐらいしか選択肢がないのではないかという気がしたものですから申し上げた次第です。ただ,かなり法制審もすでに終盤となっておりますので,今の段階でこうしたことを申し上げて,改めて絶対に検討してくださいという趣旨ではなくて,少し考えてもらう余地がないだろうかという点をお尋ねする趣旨の発言だと御理解ください。 ○堂薗幹事 御指摘は非常によく分かるんですが,御指摘のように寄与分で手当てをするということになりますと,どういう形で配偶者の寄与を考慮しやすくできるのかというところが非常に難しいところでございます。少なくとも現行法ですと,配偶者として通常期待される程度の貢献を超える場合に寄与分が認められるということですので,配偶者の通常程度の貢献が長期間に及んだからといって寄与分の要件に該当することにはならないように思われます。現行の寄与分制度では,その点がネックなのではないかということで,中間試案の甲案のような考え方もお示ししたところなんですが,実務的にワークする形で実質的に配偶者の貢献を考慮するのは難しいというところがございます。   ただ,先ほどの西幹事の御意見にもございましたように,ここで居住用不動産に限定しておりますのは居住用不動産,そういう非常に価値のあるものを贈与したということであれば,それは特に配偶者の貢献に報いるという趣旨が強いのだろうと。しかも,居住用不動産というのは正に生活の基本となるものですので,配偶者の生活保障という観点からも,贈与者の意思としては本来の法定相続分より多く与える趣旨だったのだろうと。そのような経験則が成り立つのではないかいうことで,この場合に限っているわけですが,居住用不動産でなくても同様のことが言えるのであれば,先ほどと同じような形で,この規定を根拠に事実上の推定を働かせるという解釈があり得るのではないかというようにも考えております。今回の方策は,配偶者の貢献を実質的に考慮するのが難しいので,それに代わるものとして,被相続人の意思を根拠に実質的に配偶者の取り分を増やすような形にできないかということで検討したものです。   寄与分についても,更に検討はしてみたいと思いますが,要件を緩和するとしても,具体的にどのような形で緩和するかというところは,なかなか難しいなという印象を持っているところでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。外縁の明確なものを取り上げて,できる範囲で制度化しようということでお考えいただいたと思っております。その上で,先ほどの垣内幹事の御発言もありましたけれども,また,今の堂薗幹事の御発言にもありましたけれども,仮にこういう制度ができるということになりますと,これを基礎にして先ほど西幹事がおっしゃったように,一定の場合にはそもそも持戻し免除の意思があったと考えるべきではないかという解釈が広がってくるということも,期待できるかもしれないと思います。西幹事の御発言の中には,もう一つ,持ち家保護ばかりでよいのかというご意見,これは西幹事が以前からずっとおっしゃっていることもあろうかと思いますけれども,この点についても今のような形で実質的な配慮を及ぼしていくというのがこの案の考え方かと理解しております。   ほかに何かございますでしょうか。 ○八木委員 相続分の単純な引上げというものはなかなか困難だということで,対案として配偶者保護のための案を出されたと思うんですけれども,私は相続税法上の規定を民法でも確認するということに大きな意義があると思います。基本的に賛成です。書かれているところでありますけれども,2ページに立法事実の根拠付けとして,経験則と政策的観点ということが書かれていますが,特に政策的観点について高齢配偶者の生活保障を図るという点が挙げられているんですけれども,なぜ,そうしなければならないのかという点がここだけだと分かりにくいので,更に強調される方が一般には受け入れられやすいのかなと思います。意見です。[m2] ○大村部会長 ありがとうございます。今の点も含めまして,説明は十分に分かりやすいものを工夫していただきたいと思います。   ほかにいかがでございましょうか。   それでは,御意見を踏まえて甲案をベースに更に細かい点について御検討いただくことにしたいと思います。説明については,本日,ご指摘がありましたように,この先の展開を阻むことがないような形の説明を工夫していただくということにさせていただきたいと思いますけれども,今日のところはそれでよろしゅうございますでしょうか。ありがとうございます。   それでは,次の項目に進ませていただきます。「可分債権等の遺産分割における取扱い」ということで8ページ以下になりますけれども,事務当局の方からまず説明を頂きます。 ○下山関係官 それでは,資料の8ページからについて御説明させていただきます。   本部会資料の2「(1)遺産分割の対象に含まれる債権の範囲等に関する規律」の甲案及び乙案は,中間試案における甲案及び乙案にそれぞれ対応するものとなっております。他方,丙案ですが,これは平成28年12月19日の最高裁決定によって判例が変更され,預貯金債権が遺産分割の対象に含まれることとされたことを前提とした上で,遺産分割の対象に含まれる債権の範囲等については規律を設けず,他に相続を原因として債権を取得した場合についての対抗要件に関する規律,これのみを設けるものとする案となっております。なお,これに伴い,従前は甲案及び乙案の中で記載していた債務者その他の第三者に対する対抗要件に関する規律,これは別に(2)として記載しております。以下,順に御説明させていただきます。   まず,「遺産分割の対象に含まれる債権の範囲等について」ですが,平成28年12月19日の最高裁大法廷決定は,従前の判例を変更し,預貯金債権が遺産分割の対象に含まれるとの判断を示しました。本決定は,ある可分債権が遺産分割の対象に含まれるか否かを検討するに際し,当該債権を遺産分割における調整要素として遺産分割の対象に取り込むことの必要性及び相当性,当該可分債権の内容及び性質や,その発生原因となった契約の性質等を考慮して検討を加えているものと考えられます。そして,このような視点は,立法論として遺産分割の対象に含まれる可分債権の範囲を検討するに際しても参考になるものと思われます。   中でも,当該債権を遺産分割における調整要素として遺産分割の対象に取り込むことの必要性や相当性は,このような可分債権は,これを遺産分割の対象に含めることにより,遺産分割における調整要素として機能することを期待することができるとともに,紛争の複雑困難化を招くおそれが少ないという点で,遺産分割の対象に含めるべき可分債権の範囲を検討する上で重要な視点であると考えられます。   この点に関しまして,預貯金債権以外の可分債権で遺産分割の対象に含めることが考えられるものとしては,売買代金債権,貸金債権,賃料債権などの契約に基づく債権や,不法行為に基づく損害賠償請求権,不当利得返還請求権などが考えられますけれども,これらの債権は一般にその存否及び金額が争われることが少ないとは言えず,また,確実な支払いが見込めるとも言えないものであって,遺産分割における調整手段として有用であるとは必ずしも言い難いものと考えられます。   また,可分債権を広く遺産分割の対象に取り込むことによって,特別受益や寄与分による調整が可能となり,相続人間の公平を図ることができるという一方で,その存否及び金額が争われることが類型的に多いと考えられるものまで遺産分割の対象に含めることについては,本部会においても,遺産分割事件の長期化を招くおそれが大きいとして反対する意見もあり,パブリックコメントにおいても同様の懸念が示されたところでございます。   また,本決定におきましては,預貯金債権が遺産分割の対象となる根拠について,普通預金債権及び通常貯金債権と定期貯金債権とでは,異なる理由付けがされているものと解されます。そして,これ以前の判例におきましても,相続財産に属する株式,投資信託受益権,国債等について遺産分割の対象となる旨の判断が示されておりますが,その理由付けはそれぞれ微妙に異なっております。このように,判例におきましては,相続財産に含まれる権利が形式的には可分であると考えられるものにつきましても,その権利の内容や性質,その権利の発生原因となった契約内容等を子細に検討した上で,当該債権が相続の開始により当然に分割されるものであるか否か,ひいては遺産分割の対象となるか否かといった点を判断しているところでありまして,こういった要件を一般化,抽象化して法律上の要件として定立するということは,かなり困難であるものと考えられます。   以上によれば,今回の見直しにおいても可分債権一般を遺産分割の対象に含めることはしないことが相当であると考えております。   また,本決定を前提にいたしますと,相続財産に属する債権につきましては,形式的,観念的には相続開始時における各相続人の法定相続分相当額を算定することができるものにつきましても,当然に分割されて遺産分割の対象になるもの,また,当然に分割するのは相当ではなく,各相続人の準共有となり,遺産分割の対象とはならないものと,こういったものに分かれることと考えられますけれども,現時点において,遺産分割の対象財産に含まれるのか否かの判断基準を一般化,抽象化して法規範とすることは,困難であると考えられます。仮にこの点を立法化するのが相当であるといたしましても,更なる判例の集積,学説による理論的検討が成熟した段階で,再度,検討するのが相当ではないかと考えているところです。そうしますと,今回の法改正においては,遺産分割の対象に含まれる可分債権の範囲等については特段の規律は設けないこととすることが考えられます。   なお,仮に丙案を採用することになるのであれば,預貯金債権以外の可分債権一般につきましては,現行法と同様に,相続開始と同時に当然に分割され,個別に権利行使が可能であるとの扱いをすることで足りるものと考えられます。   他方,預貯金債権につきましては,相続開始後遺産分割終了までの間,これを行使することができなくなる相続人の不利益を回避するために,遺産分割終了までの間,権利行使を認めることも考えられるところです。もっとも,預貯金債権を遺産分割の対象に含める趣旨が,その現金類似性に着目し,遺産分割における調整機能を果たすことに期待することにあること等に鑑みますと,遺産分割終了までの間,預貯金債権の行使を原則として禁止することには,相応の合理性があるものと考えられます。そういたしますと,預貯金債権の行使を遺産分割終了までの間,原則として禁止することとした上で,相続人の資金需要に対しては,後ほど御議論いただきます仮払い制度,これによって対応することも考えられるところでございます。これらの点について御意見を頂ければと存じております。   次に,「相続人が相続を原因として債権を取得した場合の規律」について,(2)の部分につきましては,中間試案から大きな変更はございません。ただ,中間試案におきましては,相続人が遺産分割により法定相続分を超える割合の可分債権を取得した場合を念頭に置いて規律を設けておりましたが,本部会資料におきましては,この規律の適用場面をこのような場面には限定しておらず,相続人が法定相続分に基づいて債権を行使する場合であっても,相続人の範囲及びその資格を明らかにする書面を交付することを要求することとしております。   その理由といたしましては,このような規律を設けた趣旨というのは,相続による債権取得の場面では,債権譲渡の場面と異なって,債務者は通常相続人が誰かということを知らないということにありますけれども,このような事情は相続による債権の承継があった場合一般に妥当するものであるという点を考慮したことによるものです。また,債務者が一定の書面を示された場合に,その場でその内容を検討するのは困難であるということから,この点については書面の交付を必要とするということにしております。   説明としては以上でございまして,以上の点について御意見を頂戴できればと存じます。 ○大村部会長 ありがとうございます。従前,甲案,乙案を検討してまいりましたけれども,これまでにもこの部会で御紹介がありました最高裁判決が出ております。我々としても,この判決の内容を見た上で,更に検討するということにしていたところでございます。今回は,この判決についての一定の理解を示していただいた上で丙案が新たに提案されており,それについての御説明を頂いたと理解しております。   この点につきましては,浅田委員の方から資料を出していただいておりますけれども,まず,御発言を頂くということでよろしいでしょうか。 ○浅田委員 ありがとうございます。本日は,昨年末の最高裁大法廷決定を受け,可分債権の遺産分割における取扱いに関して,今後の審議の方向性を検討する場であるとのことですので,少々,お時間を頂戴しまして私どもにおいて作成し,お手元に配布させていただいた青いペーパーに従って意見を述べさせていただきたいと思います。   結論から先に述べますと,私どもの意見は相続の場面における預金債権の重要性に鑑み,預金債権の遺産分割における取扱いを明確化することが望ましいということです。参考までですが,平成29年1月に内閣府が取りまとめた平成27年度の国民経済計算年次推計では,平成27年末の家計の資産残高2884.4兆円のうち,現金を含める数値ですが,現預金は920.2兆円となっており,土地の682.5兆円を超え,大きな割合を占めています。預金はこれほど国民経済上,重要な資産ですので,国民に分かりやすく,かつ明確な立法が必要だと思われます。   それでは,お手元の「可分債権の取扱い等に関する意見③」という資料を御覧ください。1枚おめくりいただき,2枚目はさきに結論を述べた意見に関するものでして,3枚ものです。3枚目は明確化を求める理由としての現時点における実務上の課題を記載しているものです。   まずは2枚目にて説明いたします。これまでの経緯は御認識のとおりでございますが,可分債権を遺産分割の対象とすることで,相続人間の実質的公平を図るものとの命題の下,甲案,乙案等を検討してきました。そして,この命題の下,公平な分割を円滑に実現するという観点も加味し,これまでの法制審議会における議論において,支払免責の考え方を含む預金の円滑な払戻しの実現方法など,各種方策についても明確化の方向で検討されてきたものと認識しています。すなわち,ここが重要なポイントと考えているものですけれども,これら議論の過程において実体的な法律関係や分割手続における権利関係についても検討し,議論を重ねたことで立法提案分のみならず,解釈論においても一定の明確化が期待でき,立法後の円滑な遺産分割の実現を可能とする土台ができてきたと認識しております。   このような議論の中,最高裁大法廷に預貯金債権の遺産分割制に係る案件が係属したとの報に触れ,一旦,その判断を待ってから,今般,本論点を改めて検討する運びになったわけです。今般の最高裁大法廷決定は,預貯金債権に係る遺産分割制を肯定し,また,遺産分割までは単独行使できないと判示しています。これは結論において乙案と同じものを評価でき,すなわち,乙案の方向性を最高裁としても支持したものと言えると思います。ただ,残念ながら具体的な紛争事案解決のための法的判断のみを求められるという裁判所の役割からの制約で致し方ないものでありますけれども,当該最高裁大法廷決定では,結論は明瞭である一方で,実務運用面では不分明さが残っており,実務上の課題が生じたのも事実です。例えば鬼丸判事の補足意見にもありますとおり,相続関係後の入金分を念頭に具体的相続分の算定の基礎となる相続財産の価格をどう捉えるかという課題を含め,別途,御説明します3枚目のような課題が生じています。   これら実務課題については,もちろん,私どもを含めて実務担当者において,克服するための努力をすることが求められておりますけれども,現実問題としては,その克服には時間が掛かるものと思われ,他方で,相続案件は待ってくれませんから,相続人間における公平な相続の円滑な実現が達成されるまでには相応に時間を要することになってしまわないかと考えます。かような危惧を前提にいたしまして,また,これまでのこの審議における議論の積み重ねを想起したとき,正にこれまで議論してきたことを基に,また,冒頭に申し上げた預金の重要性に鑑み,例えば乙案をベースとして最高裁大法廷決定やその補足意見を踏まえつつ,明文化することが正に公平性の円滑な実現の最も近道ではないかと考えます。   なお,もう少しお時間を頂きまして,お手元資料の3枚目を用いまして,最高裁大法廷決定を受けた実務上の課題について簡単に御説明させていただきたいと存じます。   まずは預金債権の位置付けとして,準共有か可分債権か,又はそれ以外の性質を有する債権かということであります。なお,この区分に関しては可分債権,不可分債権以外に学説では共同債権の区分等が提唱されている議論がありますけれども,ここではこの区分で話させてください。   預金契約の地位は,準共有と,本決定では明記されている一方で,預金債権については補足意見や意見にて準共有とあるのみですので,法廷意見では不分明と存じます。今回の部会資料では準共有とのことですが,これまでの議論によると,この法的評価については意見が分かれ得るように感じます。この結果,被相続人が負っていた債務と相続預金との相殺の可否,相続に対する債権者が相続預金に対して差押えをすることができるのか,また,その対象は相続持分なのか,預金債権なのかといったところが実務上,課題となってきます。現に,私が所属する銀行には大法廷決定後に相続預金に対する差押命令が来ましたが,当該命令を発した裁判所も,その差押えが金銭債権の差押えか,その他財産に対するものなのか,特定せずに発したという事例が生じています。   次に,②に書きました相続開始後の入金の取扱いです。最高裁大法廷決定では,預金債権は1個の債権として同一性を保持しながら常に残高が変動し得るものであり,これは預金者が死亡した場合でも異ならないと判示しており,相続開始後の入金も預金債権となることを明示していますが,その際の入金分についてはどのように取り扱われるか,さきの鬼丸判事の補足意見のとおり,判然としません。また,ここも最高裁で多数,補足意見で触れられていますが,葬儀費用や生活資金等の緊急の資金についてどうするかです。この点は次の論点でも議論されるので割愛します。更に最高裁大法廷決定の射程として,定期預金が含まれるのかといった点も不分明であり,実務上の課題となっています。   お時間を頂きありがとうございます。あと,仮払い制度についてもは意見がございますけれども,ここでは私からは以上であります。 ○大村部会長 ありがとうございました。2ページ目の最後のところにもありますけれども,明文化が必要ではないかという御意見として伺いました。   その他の方々,この点につきましていかがでございましょうか。御質問等も含めて頂戴できればと思いますが。 ○窪田委員 ごく形式的なことなのですが,前半部分で最高裁決定を受けて基本的には債権の範囲についてむしろ規律しないというのは,あり得る選択肢なのだろうと思います。ただ,その上で仮払い制度の規定を置くとすれば,その中では預貯金債権とかということを前提として,それについての規定を置くということになりますよね。その部分はそれでもいいのかなという気もいたします。一方で,預貯金債権についての規律を置かないで,仮払いの部分でだけ出てくるということに特に問題はないのか,それについては大丈夫でしょうか。 ○大村部会長 後の点にも関わっているかと思いますけれども,今の段階での御説明を頂いておいた方がいいのではないかと思いますのでお願いします。 ○堂薗幹事 確かに仮払いのところで,甲案であれ,乙案であれ,制度を設ける場合には,当然の前提として預貯金債権は遺産分割の対象となるということが法律上も明らかになるのだろうと思います。甲案の場合は家事事件手続法の特則として書くということになりますので,民法上は必ずしも明らかにはならないということかもしれませんが,仮に乙案のような制度を設けるということになりますと,恐らく民法に規定を置くということになりますので,そういった意味では,乙案を採用すれば民法上も預貯金債権が遺産分割の対象となることが明らかになるのではないかと考えております。 ○大村部会長 今の堂薗幹事の説明は,仮払いの規定を置くことによって預貯金債権の取扱い自体は一定程度,明らかになるのではないかという御説明だったかと思いますけれども,窪田委員はむしろ何か齟齬が生じないかというニュアンスで発言されましたか。 ○窪田委員 ご説明はあり得るのだろうという気はするのですが,ただ,一方で預貯金債権についてだけ規定を置くと反対解釈されるのではないか,だったら,規定を置かない方がいいのではないかということとの関係で全く問題はないのかなという点が,気になったという趣旨です。 ○堂薗幹事 遺産分割の対象となる債権について,どういう基準でその範囲を画するのかというところを明確にするのは,その要件設定が難しいのではないかと思います。他方,預貯金債権が遺産分割の対象となるということを正面から書くと,それは反対解釈のおそれがあるということなのではないかと思うのですが,仮払いのところで書く分には,少なくとも預貯金債権が遺産分割の対象となるということが前提になるわけですが,それ以外については何も述べていないということになりますし,飽くまで裏から書いているにすぎませんので,表の部分については何ら明らかにしていないということになるのではないかということで,今回の部会資料ではそのような形にしているところでございます。 ○大村部会長 窪田委員,よろしいですか。 ○窪田委員 ちょっとだけ補足させて頂きます。私自身も預貯金債権以外の債権については,当然,分割承継されるというようなことを規定するのは,やめたほうがいいだろうと考えております。今後もまた例外が広がっていくかもしれませんから,いまの時点で可分債権についての原則を規定することは避けた方がよいと思います。ただ,そうは言いつつも,預貯金債権というのが多分,遺贈の中で占める位置というのはすごく大きいことも確かです。それに関してほぼ明確なルールが判例によって示されて,そして,今回の仮払いの仕組みをそれを前提として書いているんだということになると,反対解釈の危険性はあるのかもしれませんが,預貯金について明示的な規定を置くというニーズはそれなりにあるのではないかという気がいたします。ただ,絶対に設けろというほど確証を持って発言しているわけではありません。その点だけ意見として申し上げておきたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○浅田委員 反対解釈の御指摘がありましたので,部会資料であれば13ページでありますけれども,意見を述べさせていただきます。基本的には先ほど述べたとおりでありますけれども,そういう解釈の問題が出てくるということは認識しておりますし,ゆえに法制度上,難しいという点も理解するところではあります。しかし,繰り返しになりますけれども,預貯金債権における重要性というのが,債権法のときにも出てきたときのような国民に分かりやすい民法という観点からも,民法に明確化するということは意義があるのではないかということであります。   その上で,技術的な話というのは私の能力を超えるところでもあるわけですけれども,例えばこれが契約実務であれば,民法にそぐわないかどうかは別として,これらに限らない,というような書き方で限定解釈されないような書き振りというのはあり得る話だと思います。考えるに,債権法の改正の場合においても,新しい用語というのが出てきたと思います。インターネットというような言葉も,初めて出てきたと私は認識しているわけなんですけれども,ゆえに必要であれば,そのような表現振りというのは考え得るのではないのかと思った次第であります。是非とも御検討いただければと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほか,いかがでございましょうか。 ○窪田委員 1点だけ補足ということになりますけれども,恐らく預貯金債権は遺産分割の対象となるとか,そうしたかたちで書くと,その例外の話というのが大変問題になると思うのですが,相続における預貯金債権の扱いということで,仮払いまで含めた上での一つの規定として置くのであれば,比較的容易に,預貯金債権についての独立の規定という位置付けもできるのかなという気もします。これは御検討いただけたらということですが,それをお願いしたいと思います。 ○浅田委員 単にテークノートしていただきたいということなのでありますけれども,先の債権法改正の案には預貯金という言葉が3か所,3条あると思います。その技術的な方法の一つとしては,預貯金の特則ということを集めて章か節か款か分かりませんけれども,こうすれば反対解釈リスクというのも,技術的には克服可能の余地もあるのではないかと思います。 ○大村部会長 預貯金について明確化するのが望ましいのではないかという御意見が出ております。事務当局の方からは次の仮払いのところで規定を置くとすれば,それによって一定程度は明らかになるのではないか,そうでない形で書くと,どこまでを認めるかという問題について不安定な要素を残すことになるという趣旨の御説明があったかと思います。両方の立場があろうかと思いますけれども,他の皆様の御意見を伺えればと思いますが,いかがでございましょうか。 ○増田委員 今の質問には対応していないんですが,今回の御提案の甲案,乙案というのは,現行法でも判例上預貯金は遺産分割の対象となるということを前提とした上で,一般的な可分債権についての御提案という理解でいいわけですか。 ○堂薗幹事 今回の甲案,乙案は,中間試案の甲案,乙案をそのまま再度取り上げたものです。もちろん,中間試案でも,預貯金に限定すべきだという御意見もございましたが,それ以外の可分債権も含めて甲案,乙案という形で出させていただいておりましたので,それを今回の部会資料でももう一度お示ししたということでございます。 ○増田委員 とすると,判例が預貯金以外にどの程度の射程を持つかということは,まだ,確定していないし,この判例を読んでも実はよく分からないところがあって,預貯金債権の法的な性質よりもむしろ現金類似の機能に着目したような書き方になっているのをどう読むか,性質論で射程を見るか,機能から射程を見るかによっても変わってくるという状況なので,一般的な規定を置くということは難しいのではないかと考えると,丙案になってくるわけなんですけれども,本来は預貯金だけを取り出して規定を置くかどうかというところに議論は集約されるのかなと思います。私は基本的に仮払い制度を置けば,その制度の前提として預貯金は遺産分割の対象になるということ解釈上は明らかだと思っていたんですが,窪田委員の御発言を聞きまして,預貯金債権の処理に関する特則みたいなものをまとめて設けるような形で対応するのがよりよいように思いました。 ○堂薗幹事 検討させていただきます。 ○大村部会長 そのほか,いかがでございましょうか。 ○西幹事 感覚的なことで大変恐縮ですけれども,先ほどの預貯金債権についての規定を民法に置くかということについてです。906条もそうですけれども,遺産分割の基準からして非常に日本の民法家族法は抽象的な規定が多く,それが問題になっている箇所がたくさんあるにもかかわらず,その抽象性のよさがそれなりに理解されて,そのままになっているという現状の中で,預貯金についてだけ規定が入るというのは非常に違和感があります。   恐らく債権譲渡の場合には,不法行為に基づく損害賠償請求権の債権譲渡がどうなのだということは,余り考える必要はないかもしれませんけれども,相続の場合には預貯金債権もありますけれども,被相続人が加害行為によって死亡するということもありますので,不法行為に基づく損害賠償請求権の相続というのもない話ではないと思います。そういう意味で,債権譲渡の場面における預貯金債権の扱いと,相続の場面における預貯金債権の重さというのでしょうか,問題として占める割合のイメージというのが違うのではないかという気がいたします。仮払い制度と併せて家事事件手続法の中に規定をおくのは分かりやすいと思いますけれども,民法の中に入ると突出した印象を与えるように思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。浅田委員,窪田委員,増田委員からは預貯金の特則を考えるべきではないかという御意見でありましたけれども,西幹事は相続編に預貯金に関する特則を置くのには違和感を覚えるということですね。   そのほか,いかがでございましょうか。他の委員・幹事,いかがでございましょうか。全体として先ほど増田委員が整理してくださいましたけれども,預貯金をどうするかということがここでの中心的な争点ということかと思います。皆さん,実質としては預貯金について一定の扱いがされるということは前提とされつつ,それをどう書くかということについて,複数の見解が出ていると理解しておりますけれども,それらと違う御意見もあれば,もちろん,是非,おっしゃっていただきたいと思います。かつ,今の点についてどうするかということも御意見をお持ちの方は,是非,御発言を頂きたいと思います。いかがでしょうか。 ○水野(有)委員 質問なのですが,丙案は遺産分割の対象となる預貯金債権だけのことをおっしゃっているのか,一般の可分債権のこともおっしゃっているのかをよく聞き漏らして理解できていないのですが,どちらなのでしょうか。 ○堂薗幹事 丙案は一般の可分債権,不法行為に基づく損害賠償請求権ですとか,不当利得返還請求権が遺産分割の対象になるかどうかということも含めて民法上に規定は設けないというものです。逆に言いますと,現行の判例どおりの運用を前提としたものということになります。 ○水野(有)委員 対抗要件に関しての規定は,一般の可分債権と預貯金債権と両方を対象としたものを設けるという趣旨で書いていらっしゃるか。そういう理解でよろしいのですね。 ○堂薗幹事 はい。 ○水野(有)委員 どうもありがとうございました。 ○大村部会長 ほかにいかがでございましょうか。 ○堂薗幹事 ただ,対抗要件のところで,特に(2)の②は遺産分割によって法定相続分を超える割合の持分を取得した場合の規律になりますので,基本的には遺産分割の対象となるものを前提としたものという理解です。 ○窪田委員 今の②の部分なのですが,法定相続分の持分を取得した場合というのは,遺産分割によって取得する場合ももちろんあると思うのですが,遺言によって取得する場合も含まれるということでよろしいでしょうか。 ○堂薗幹事 それは遺言の方で別途規律を設けておりますので,今回の部会資料にはありませんが,遺言の方は遺言書を交付して通知するとか,そういった規律を設けることを前提としておりますが,ここは飽くまで遺産分割を行う場合という前提でございます。 ○大村部会長 ほかにいかがでございましょうか。どういう規定を置いたら,その後どういうことになるだろうといったことも含めて,検討する必要があろうかと思いますけれども,そうした点につきましても御意見や御指摘があれば承りたいと思います。 ○石井幹事 甲案,乙案については,部会資料にもございますとおり,可分債権一般を幅広く遺産分割の対象としてしまうと,遺産分割事件の処理が複雑になるといった弊害があるというのは従前から指摘されておったところであり,これについては4のところの一部分割等を活用するといった方策も併せて検討されていたところですけれども,全ての事案において一部分割を活用することで円滑な解決が図れるかというと,必ずしもそうでもないように受け止めております。今回,大法廷決定が出まして,この部会でも遺産分割の対象に含めるべきであると特に主張されていた預貯金債権については,これが遺産分割の対象に含まれることが明確にされたところでもありますので,甲案と乙案と比較すると,丙案を採るということには一定の合理性があるのではないかなと考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   いかがでございましょうか。先ほど西幹事から御発言がありましたけれども,西幹事はここで言われている丙案であれば,それはそれでよろしいという御意見だということですね。 ○西幹事 はい。 ○大村部会長 丙案でよろしいという意見と,より明確に預金債権を表から書いていくべきだという御意見とございますけれども,いかがでございましょうか。御発言は特にございませんでしょうか。   では,事務当局から意見を伺いたい点があるということなので,お願いします。 ○堂薗幹事 今の御意見を踏まえますと,いずれにしても不法行為に基づく損害賠償請求権や不当利得返還請求権は遺産分割の対象に含めないということでは,概ね御意見が一致しているのではないかと思うんですけれども,そこで,従前,事務当局から問題提起させていただいた点として,相続開始前に相続人が被相続人に無断で預貯金を払い戻してしまったというような場合には,被相続人はその時点でその相続人に対して不当利得返還請求権を取得することになるのだと思いますが,それが当然分割ということになりますと,多額の特別受益を持っている相続人が相続開始前に払い戻したような場合に,結局,特別受益による調整がされないという問題が生じるのではないかと思います。   その点を何らかの形で克服しないと,丙案を採るのは難しいのではないかという気もしているのですが,その場合に被相続人が払戻しをした相続人に対して有する不当利得返還請求権は当然分割であるとしても,それとは別に,例えば相続人間で不当利得による調整をするとか,あるいは何かほかの方策でその点の問題点を解消するとか,そういった解釈上の工夫をすることにより,先程の問題を解消できないだろうかということで,いろいろ考えてはみたところなんですが,これといったものは見当たらない状況でございます。その辺りについてもし何かお考えなどがございましたら,是非,お聞かせいただきたいなと考えているところでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。今の問題につきましては,そういう問題が出てくることはあり得るわけで,出てくれば何らかの形で対応するということになるのだろうと思いますけれども,制度を作った趣旨が生かされるような解決が図れるだろうかというのが事務当局の方からの問題提起であったかと思いますけれども,何か御示唆等があれば頂戴できればと思いますが,いかがでございましょうか。 ○中田委員 今,生前に特に受益相続人が預金を払い戻した場合の問題の御指摘だと思うんですが,仮にその人が被相続人から預金について贈与を受けていたんだとすると,それは特別受益というような形で考慮されることになるのではないかと思うんです。下ろしてきてくれという委任を受けて,行って下ろして,現金で持っていたら,まだ被相続人の占有が及ぶということで,それも遺産の対象になる,あるいは分別管理していたら,それも対象になるという理屈は成り立ちそうなんですが,勝手に自分の口座に入れてしまうと駄目だということになる。それから,更にそもそも無断で下ろしてしまったら駄目だと。そうすると,贈与の場合は対象になるのに,無断で取ってしまうと対象にならないとは,何かバランスがよくないという気がします。   それで,何らかの手当が必要だと思うのですが,今,堂薗幹事がおっしゃったような相続人間の不当利得というのも一つかなという気もしますが,それでうまくいくのかどうか。損失が生前の段階で認められるのかというような問題もあるかと思います。ただ,ほかの方法も余りぴんとこないんですけれども,例えば頼んだ場合であれば,預金の代わりのものが残っている,その変形物を遺産の対象にするというようなことも考えられますが,それも波及する問題が多いかもしれない。もう一つ考えられますのは,相続人間で合意によって遺産分割の対象にすることができるのだとすると,勝手に下ろしてしまった人が合意することに対して拒絶することは,信義則上,認められないというような理由で,遺産分割の対象に最終的には入れるというようなことも考えました。どれも課題があるとは思うんですけれども,何らかの解釈によって結論的には今のような問題についての手当をすべきだし,できる可能性があるのではないかなと思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。幾つかの場合を分けて,かつ幾つかの可能性について御示唆を頂いたと思いますけれども,ほかに御意見あるいは御感想等がございましたらお聞かせいただければと思いますが,いかがでしょうか。 ○石井幹事 問題意識は理解できるところがございますけれども,生前に特定の相続人の方が預金を下ろしていたかどうかということについては,誰がそういう引出しをしたかという自体が争われることも少なくありません。特定の方が下ろされているということが明確であることを前提にすれば,今,お話しいただいたように何がしかの制度あるいは規律を組むことはできるかもしれませんけれども,実際の紛争の場面を念頭に置くと,不当利得の形で処理をせざるを得ないのかなというような感じもしているところでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほか,いかがでございましょうか。 ○水野(紀)委員 プリミティブな質問で恐縮ですが,恥ずかしながら伺います。債権が遺産分割の対象になったことになりますが,債務の方はそのままが法定相続分どおり,帰属するという前提ですね。そうすると,預貯金債権とか,売掛代金債権でもいいですけれども,そういう債権を3人の息子が相続して,そのうち,1人だけがまともな商売人で,あとの2人は借金だらけの放蕩者だというときに,全ての債権をまともな相続人に遺産分割で帰属させたとします。そして,債務のほうは三等分ということになりますと,相続債権者は,被相続人の下にあったときには随分と貯金もあるし,売掛代金債権もあるし,大丈夫だと思っていたのが,いきなり,3分の1だけしか取れないということになるのでしょうか。 ○堂薗幹事 原則は多分,そうなるんだと思います。要するに相続人の財産と相続財産を分離するために,そういう場合は財産分離を使うですとか,そういったことが必要になるのではないかと思います。 ○水野(紀)委員 財産分離を使って手当をするしかないということですか。 ○堂薗幹事 基本的にはそうなるのではないかと思います。ただ,相続財産に属する債権についても,法定相続分を超える部分について対抗要件が必要だということになりますと,対抗要件を備える前に差押え等をすれば,そちらの方が優先するということにはなりますが,それができていないような場合には財産分離等を使うほかはないのではないかという印象ですけれども。 ○神吉関係官 まず,前提を確認させていただきたいと思います。水野委員のただ今の御質問の前提として,特に遺言も何もなくて法定相続分は3分の1ずつだけれども,当事者が勝手に遺産分割協議で1人に積極財産を集中させるという遺産分割をしたらどうなるかという話でしょうか。 ○水野(紀)委員 はい,つまり,今までは全体として日本は遺産分割の手続が公的に設計されず,全部,無限定に相続人である私人に任されていて,そこで取引社会とのつじつま合わせを法定相続分でやってきたようなところがあるわけです。債権債務は常に相手方があることなので,判例は法定相続分でという形で回してきたわけですが,大法廷で債権については変更されました。遺産分割で分けるときに,債権という遺産だけがその対象外になるというのは,もちろんおかしなことですから,今までの実務に無理があったというのは分かるのですけれども,おかしいといえば債務も遺産分割の第一段階で清算されるのが本来ですのに,そちらはそのままになります。これまで債権も債務もどっちも対外的には法定相続分によるという形で,構造的不備をかかえる日本法を何とか回してきたのですが,債権の方がこうして形を変えたときに,債務の方の手当は考えなくていいのかと,漠然と不安になったということです。 ○神吉関係官 私の質問の趣旨としましては,遺言があって特定の相続人に全て積極財産を承継させるとした場合には,相続分の指定が10,0,0にされたということで,債務についても恐らく10,0,0で帰属するという形になるのではないか,平成21年の最高裁の判例からするとそういう帰結になるのではないのかと考えております。一方で,遺言は特になくて法定相続分は3分の1ずつなんだけれども,勝手に遺産分割協議で1人に寄せるという協議をしたら,どうなるのかという話であれば,そもそも,そのような遺産分割協議ができるのかという話はあるのかなと思うのですが,仮にできるとしてもそれが詐害行為に当たる可能性はあり得るのではないかと思われます。少なくとも遺産分割審判ではそのような遺産分割はできないだろうと思います。 ○水野(紀)委員 できないというのは,債権者が詐害行為取消権を使うからでしょうか。 ○神吉関係官 飽くまで相続分が3分の1ずつなので,それに基づいて分割をするというのが遺産分割の審判なのではないのかなと私は理解しておるのですが。 ○水野(紀)委員 遺産分割協議でしたら可能ですね。 ○神吉関係官 協議で債権者を害する目的で1人に集めるという話になれば,先ほど申したあげたとおり,それは詐害行為になり得る余地はあるのではないかなと思います。 ○水野(紀)委員 詐害行為にはもちろんなり得る余地はあると思いますが,そうすると,相続債権者としては,詐害行為取消権を使って対抗するしかないということですね。 ○神吉関係官 若しくは財産分離という制度を用いるということもあり得るかと思います。 ○水野(紀)委員 分かりました。 ○大村部会長 ほかにいかがでございましょうか。水野委員の今の御発言は,だから,当然分割にせよという話ではないわけですね。 ○水野(紀)委員 というわけではないのです。判例変更もあったことですし。ただ,遺産分割が債権を取り込んだときに,債務について何か手当はできないものだろうかと考えたのです。財産分離か,あるいは詐害行為取消権という使いにくい手段で,相続債権者が能動的に自衛をしないと救われないのではなく,相続債権者を巻き込むような何らかの手続を遺産分割の中に入れることはできないのだろうかと思ったものですから。難しいことをお願いしていることは十分分かっていますので,今回,それが無理だということでも,もちろん,致し方ないと思います。債権者としては,債務者の責任財産をあてにせずに,あらかじめ個別財産に担保を付けて自衛すると言うことにならざるを得ないのでしょう。 ○増田委員 先ほどの話に戻って,相続開始直前の引出しの問題なんですけれども,結論的には遺産分割の中で解決するのは難しいのではないかと思っております。なぜかというと,まず,基本的に被相続人に対する返還請求権,被相続人の引き出した人に対する返還請求権というものが成立するかどうか,成立したとしてその金額はどうかについては,具体的な事実関係により様々でして,そこがまず確定しないという問題があり,また,それを家事手続の中で確定するということは実際にはできず,民事訴訟によらねばならないという問題もありますし,権利者側もそれを遺産に戻せと主張する相続人ばかりではない,つまり,行使するかどうかというのは,それぞれの相続人の選択による要素が極めて強いということもある。   そうなってくると,実際に行使して一定分を取り返したとしても,それを更に遺産の中に入れて配分するという甲案的発想は,紛争の実体とはずれがあるのではないかと思いますし,乙案的に全員で共同行使するということになると,全員の足並みがそろわない場合もかなりの事案であり得るわけです。ということになると,結論的には行使したい人が行使する,自らの責任で不当利得なり,不法行為の成立要件について主張立証を行うという立て付けでしか,解決しようがないのではないかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今の問題につきまして,更に御発言があれば伺いたいと思いますが,いかがでしょうか。   それでは,今の点につきましては幾つかの御意見を頂きましたので,更に事務当局の方でどういうことが考えられるのかということにつき,検討していただくということにしたいと思います。その前に議論しておりました丙案を出発点として,更により明確に預貯金について書き込むということを考えるかどうかということにつきまして両論がございましたので,これにつきましても両論があったことを踏まえて,さらにご検討をいただきたいと思います。浅田委員,何かございますか。 ○浅田委員 繰り返し申し訳ありません。明文化を求めるという理由として繰り返しになりますけれども,今日,配ったペーパーの2ページの特に①,相殺と差押えというところについては,私は立法的な手当というのが必要ではないのかと思っています。   特に差押えに関しては持分の差押えということが実務上,どう回収までいくのか。このまま通常の解釈でいくと,恐らく持分の差押えというのは取立てができないと思われますので,民事執行法161条1項によるのでしょうか。譲渡命令ないしは売却命令ということになったとして,現行の下でそれを実践すると,それによって銀行の預金の一部について譲渡するというのはどういうものか,よく分かりません。こういう方向での実務運用を確立していくという方法はあるのかもしれませんけれども,少なくとも,しばらくの間の混乱というのが少なくともそれで考えられるところです。そのために民法でないとしても何らかの,民事執行法でもいいんですけれども,立法化というのがよいのではないかというのが一つです。   相殺に関して言いますと,これも一般解釈に委ねるところが多いと思います。ただ,考えてみますに,相殺適状が相続開始前に発生すれば,相殺の遡及効によって相殺ができるという考え方に合理性はあるかと思います。一方で,相続開始後に自働債権の期限が到来するなどして相殺適状が生じた場合には,相殺が本当にできるのかどうかという解釈問題がなかなか難しいと思う方向に働くのではないかと思います。   この点は,相続又は本テーマではないと言われるのかもしれませんけれども,相続がなければ相殺ができるという状況で相続が発生した場合において,準共有だという大法廷決定の解釈ないしは丙案における解釈により,相殺ができなくなってしまうというのは,いささか合理性を欠くということになるのかなとも思いますので,この審議における議論で解決できるかどうかは別として,明文化するか,または,この場における議論によって解決できればより明確なルール作りになるのではないかと思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。御発言がございますか。 ○中田委員 2点あります。ただいまの浅田委員の御発言の中で,預金債権について準共有であるということを前提の議論を組み立てておられまして,それは調査官の解説の中でも出てくるところでございますけれども,法廷意見自体には,これも浅田委員が前におっしゃったとおり,預金債権の準共有とは言っていないので,準共有という法理にあまり捉われてしまうと,かえってうまくいかない可能性があるのではないかと思いました。   もう一つは,先ほど増田委員の御発言の中で,開始前の引出しの場合に被相続人の返還請求権がどういうものか,余りはっきりしないではないかとおっしゃったのは,趣旨を誤解しているかもしれませんけれども,理論的には委任している場合であれば受任者に対する受取物の引渡請求権であり,勝手に下ろされた場合であれば不法行為又は不当利得による請求権だと思います。ただ,恐らく増田委員のご趣旨は,そのような理論的な問題というよりも,事実として証明できないのではないかというようなことであるかもしれず,そこは大変よく理解できます。 ○大村部会長 ありがとうございます。今,中田委員は2点について触れられましたけれども,一つは明文の規定を置くということにつきまして,複数の委員から賛成の意見が出ておりますが,どの程度の明文の規定を置くかということも一つ大きな問題になるのだろうと思いますので,その点も含めまして事務当局の方で更に御検討いただきたいと思います。それから,先ほどの引出しの議論につきましては理論上の整理と,それから,石井幹事もおっしゃっていましたけれども,実際上,使うときにどういうことになるのかということも併せて検討する必要があるという御指摘を頂いたものと思いますので,その点も含めて更に御検討いただきたいと思います。何かございますか。 ○水野(有)委員 今の中田委員が最初におっしゃった最高裁の読み方なのですけれども,法廷意見が準共有とまで言っているかどうかのところが私もきちんとよく理解できなくて,それと関連して14ページの一番下の段の「なお」以下の部分のところが私は読み込めていないんですが,これは遺産分割が成立した後も,例えば遺産分割でこの人とこの人の2分の1ずつとしたときも下ろせないと書いてあると読んでよろしいのでしょうか,複数の人がいれば。それとも遺産分割前は下ろせないということが書いてあるのかが読み切れなかったのですが。 ○堂薗幹事 遺産分割後も2分の1,2分の1で分けたのであれば,その2人の同意がないと払戻しはできないのではないかということです。 ○水野(有)委員 そう読んでいらっしゃるのですか。あの最高裁決定はそう読むというふうな御理解なのでしょうか。 ○堂薗幹事 そこは確かに中田委員が言われるように,法定意見の中で明確には書かれていないわけですが,ただ,補足意見,特に共同補足意見などを前提にすると,そういう理解になるのではないかと考えております。もっとも,そこはいろいろ議論が分かれ得るのかもしれません。 ○水野(有)委員 ありがとうございました。 ○大村部会長 ありがとうございます。最高裁の判決の理解については,いろいろな見方があろうかと思いますけれども,それも踏まえて説明の方を更に調整していただきたいと思います。   この第2点につきまして,これで今日のところはよろしゅうございますでしょうか。ありがとうございます。   増田委員,ご発言がありますか。どうぞ。 ○増田委員 次は3へ行くんですよね。すみません,今,2の(1)が終わったという理解だったのですけれども,2の(2)の①について違和感があるんです。対抗要件というのは,普通,相続のような法定の原因で包括承継がなされるというときには不要であり,対抗要件なくして誰に対しても対抗できると一般的には言われていると思うんです。不動産についても法定相続分どおりの持分取得であれば,対抗要件を経ずして誰に対しても対抗できるとされています。そこで何で債権だけ法定相続分どおり,取得しても対抗できないようになるのかというのがよく分からないわけです。   確かに債務者としては,誰が債権者でないと分からないではないかということかもしれませんが,それは対抗ではなくて,当該債権の債権者であることの証明の問題だと思うんです。債権者であることが証明されなければ,請求者が何者か,分からないのに払うことはできない。これは理解できますが,それを対抗力というのは,一般的な用例から考えて疑問があります。   債権譲渡なんかの場合は,債務者対抗要件の通知がなければ,債務者は元の債権者に払うことになるんだけれども,相続の場合には払う相手はいない,もし対抗力という言い方をするならば全く払う相手がいないということになって,対抗力がないのだったら遅延損害金の発生はその間停止するのか,その間は履行遅滞に陥らないのかなどという議論があり得ます。①に関して対抗できないという表現については違和感があります。 ○堂薗幹事 この点については,基本的には債権譲渡の債務者対抗要件の規定を参考にしてこういう形にしているわけですが,債務者対抗要件のところも対抗要件という言葉は使っておりますが,対抗することはできないと規定上はなっておりますが,一般にはいわゆる対抗要件を定めたものではなくて,債務者に対する権利行使要件を定めたものという理解だと思いますので,ここでは,それと同じような趣旨で対抗という言葉を使っているということでございます。   実際には,増田委員の方で言われたように,債務者としては本当にこの人が債権者なのかどうか分からないので,その点をきちんと証明してもらわないと権利行使はできませんという趣旨ですので,飽くまで権利を行使するための要件であって,相続開始前から既に履行遅滞に陥っているのであれば,このような証明をしなくても,当然,遅延損害金は発生するという前提でございます。そういった意味で,この表現がどうなのかというところはありますが,ここでは,今のような趣旨でここに記載させていただいたというところです。   ただ,こういう形で①と②を分けるということになりますと,①の部分については今も実際上は契約においてそういった特約があるか,あるいはそういった特約がない場合でも契約当事者間の信義則等を根拠として,資料の提供を求めるということがされているのだろうと思いますので,①の部分を法律に盛り込む必要があるかというところは要検討であるという印象を持っているところでございます。 ○浅田委員 ①に関して銀行界でまとめた意見ではございませんけれども,論点が出ましたので私の意見を申し述べたいと思います。確かに,対抗するという言葉が適切かどうかという議論については,先ほどの論点があるかと思いますけれども,その趣旨として,これらの一定の証明といいましょうか,そういう一定の書類の交付等がなければ債務者に対して主張することはできないという仕組みにすること自体は,実務上一定の明文化の要請はあると思っております。   もちろん,現行法の下でも銀行実務において約款でも書いておりませんし,そこはいろいろな事例に応じて信義則も含めて実務運営しているところでありますけれども,例えば普通預金を想起したときに,解約権の行使も含めた払戻しの主張がなされたときに,その請求時において適法な請求かどうかが,遅延損害金の発生時期との関係で大きな実務上の論点になっております。この論点が生じる一番大きな原因というのは,目の前に現れた相続人と称する方が,そういう資格を持っていらっしゃるのかどうかということが確知できないというところがありますので,そういうことを民法典において明確化するということは,それなりの意義があると思います。 ○大村部会長 ありがとうございました。表現の問題を含めて,更に御検討いただくということで引き取らせていただきたいと思いますが,増田委員,よろしいですか。それでは,そのようにさせていただきます。   少し時間が掛かってしまいましたけれども,ここで10分ほど休憩いたしまして,3時半に再開したいと思います。           (休     憩) ○大村部会長 それでは,再開したいと思います。   16ページの3の「仮払い制度等の創設・要件明確化」という部分につきまして,事務当局の方から御説明をいただきます。 ○神吉関係官 それでは,関係官の神吉の方から仮払い制度等の創設につきまして御説明させていただきます。   仮払い制度につきましては,今回の部会で初めて具体的な提案をさせていただくものでございますので,複数の案を提示しております。委員等の皆様から様々な観点から忌憚のない御意見を頂戴できればと考えておりますので,どうぞよろしくお願いいたします。   まず,16ページ,17ページのゴシック部分につきまして簡単に御説明させていただいた後,各案の考え方につきまして詳しく御説明させていただこうかと思います。   まず,甲案ですが,こちらは裁判所の判断を経て仮払いを行うという考え方でして,現行法上も家事事件手続法200条2項で審判前の仮分割の仮処分という制度がございますが,その要件を一定の資金需要がある場合に緩和することができるか,また,どのような要件の下で緩和すべきかという点で二つの考え方を示しております。また,乙案は裁判所の判断を経ないで預貯金の払戻しを認める案でして,その理論構成,法的効果に応じて乙-1案から乙-3案まで三つの考え方を示しております。   それでは,18ページ以下の補足説明を御覧ください。本最高裁決定によりまして,預貯金債権につきましては原則として遺産分割の対象となり,共同相続人の単独での権利行使は認められないこととなりますが,本最高裁決定の共同補足意見においても指摘されているとおり,共同相続人において被相続人が負っていた債務の弁済をする必要がある,あるいは被相続人から扶養を受けていた共同相続人の当面の生活費を支出する必要があるなどの事情により,被相続人が有していた預貯金を遺産分割前に払い戻す必要があるにもかかわらず,共同相続人全員の同意を得ることができない場合に,不都合が生ずるおそれがあります。   現行法上,このような場合には家事事件手続法200条2項の仮分割の仮処分を活用することが考えられます。もっとも,家事事件手続法の仮分割につきましては,仮分割の仮処分の前提といたしまして遺産分割の調停又は審判の本案が係属しているという,いわゆる本案係属要件が要求されておりまして,また,同条第2項は共同相続人の急迫の危険を防止する必要がある場合に仮処分ができるとしており,その文言上,厳格な要件を課していることからいたしますと,立法により,遺産分割における保全処分につきましては本案係属要件を撤廃すること,また,仮分割を必要とする類型を踏まえまして200条2項の要件を緩和することが考えられます。こちらが甲案となります。また,更には裁判所の判断を経ないで預貯金の払戻しを認める制度を設けることも考えられます。こちらが乙案となります。なお,甲案と乙案につきましては内容的には両立し得るものであり,その両方を採用することも可能となります。以下,詳しく御説明いたします。   19ページを御覧ください。こちらは本案係属要件の要否について論じてある箇所でございます。本部会におきましても,これまで本案係属要件を廃止することの当否につきまして議論してまいりましたが,一定の仮払いさえ実現すれば,その後の遺産分割につきましては相続人間の協議で終えることができる場合も多いと思われること,また,理論的に見ても遺産分割につきましては他の家事事件手続法上の手続とは異なり,調停や審判によって初めて相続人に権利義務関係が生じるわけではなく,相続開始という事実により,法定相続分又は指定相続分に応じた相続財産に係る権利義務関係は既に生じており,その意味では,遺産分割に係る保全は,民事訴訟を本案とする民事保全に近い性質を有しているとも言えることなどからいたしますと,本案係属要件を不要とすることも考えられるところでございます。   もっとも,他の審判前の保全処分については,本案係属要件が要求されていることとの平仄に加え,遺産分割の調停の申立て自体は書式も家庭裁判所のホームページに掲載されており,また,申立費用も1,200円と低額であり,また,提出すべき添付資料につきましても,審判前の保全処分と本案とでさほど差異はなく,本案係属要件を要求したとしても当事者に過大な負担を課すわけではないと考えられることからすると,現行法どおり,本案係属要件は維持すべきとも考えられるところでございます。この点につきましては,いずれもあり得るように思われますが,どのように考えるべきか,その方向性につきまして委員の皆様から御意見を頂ければと思います。   次に,部会資料の20ページ以下に記載しております甲案につきまして御説明させていただきます。甲案は家事事件手続法200条2項の仮分割についてその要件を緩和し,比較的容易に仮払いが受けられるようにすることを目指したものとなります。どのような要件の下で緩和するかにつきましては,幾つか考え方があり得るように思われますが,費目で限定するという考え方を甲-1案といたしまして,また,費目及び請求権者で限定するという考え方を甲-2案といたしましてお示ししております。   なお,仮分割がされた場合における本案における遺産分割につきましては,民事事件における保全と本案訴訟との関係と同様に解することができるものと考えられ,原則として仮分割により申立人に預貯金の一部が給付されたとしても,本分割においてはそれを考慮すべきではなく,改めて仮分割をされた預貯金債権を含めて,遺産分割の調停又は審判をすべきものと考えられまして,具体的には(注3)で記載しておりますように処理することになると思われます。また,(注4)にも記載しておりますが,仮分割による支払いと金融機関との関係ですが,仮分割により特定の相続人に預貯金の支払いが行われた場合,第三債務者との関係では有効な弁済として扱われ,本分割において異なる判断が示されたとしても,第三債務者が行った弁済の有効性が事後的に問題となる余地はないものと思われます。   続きまして,甲-1案につきまして御説明させていただきます。甲-1案の基本的な考え方ですが,共同補足意見でも示されているとおり,預貯金を払い戻す必要がある場合としては幾つかの類型があり得るところ,甲-1案は相続人が預貯金を払い戻す必要があると思われる典型的なケースとして,被相続人の債務の弁済,相続人の当面の生活費の支出に加え,被相続人の葬式費用を類型として書き出し,このような資金需要があると認められる場合にはその支出が相当と認められる限り,家庭裁判所が仮払いの仮処分を命じることができるとすることを提案するものであります。なお,後ほどの議論とも関係いたしますが,相当性の審査におきましては,仮払いによる預貯金の取得により,申立人が自己の具体的相続分を超えて,財産を取得する蓋然性が高くないか否かを審査することになると思われます。   引き続きまして,各要件について御説明いたします。   まず,①の相続財産に属する債務の弁済についてでございます。こちらは典型的な資金需要として考えられるものでございますが,例えば被相続人の医療費,入院費,光熱費等の公共料金,固定資産税等の税金などがありまして,これらの弁済のために仮払いを認めるということが考えられます。なお,仮払いの必要性及び相当性の判断につきましては,個々の事件における裁判官の判断によるものと考えられますが,他の共同相続人が負担すべき債務の弁済をするためにも仮払いを認めるのか,また,自己の法定相続分を超えて仮払いを認めることもできるのかなど,幾つか問題点があるように思われます。この点につきましては,23ページの(注1)及び(注2)に具体的に記載しておりますが,後ほど皆様から御意見を頂戴できればと思います。   次に,②の葬式費用の弁済についてでございます。こちらも実務上,しばしば,仮払いの必要性が高いと指摘されるものでございまして,葬式費用とはその社会,その時代において相当と考えられる儀式を行って死者を埋葬等するのに直接に必要な費用であり,棺,葬具,葬祭場の費用などがこれに当たるものと考えられます。なお,葬式費用の負担者につきましては,学説,裁判例上,様々な見解が示されており,個別具体的な事案によって異なり得るものと思われますが,喪主である申立人が負担するということであれば,その相当性の審査も申立人の法定相続分の範囲内か否かという観点で審査することになりますし,例えば被相続人が自己の葬式の準備,手配を行っていた場合など,相続財産から支弁するということであれば,先ほど述べた被相続人の債務に準じて取り扱うことも考えられます。   また,共同補足意見でも指摘されているように,相続人の生活費を支弁する場合にも仮払いを求めるニーズがあるものと考えられます。ところで,このような規律を採用いたしますと,被相続人の生前にその扶養等を受けていなかった相続人も,自己の生活費を支弁するために仮払いを求めることができることとなりますが,特に法定相続分の少ない相続人が請求権者となることによって,過払いとなるリスクも少なくないことから,ゴシックにおける提案において「〔 〕」で示させていただいているとおり,金額の条件を設けるということも考えられるかと思います。   次に,甲-2案ですが,これは甲-1案をベースといたしまして,生活費を支弁するために仮払いを認めるのを,被相続人から扶養を受けていた者又は配偶者に限定するという考え方であります。被相続人から扶養を受けていた者につきましては保全の必要性が特に高いと認められること,また,配偶者は2分の1以上の相続分を有しており,過払いとなるリスクはさほど大きくないと考えられることなどを考慮いたしまして,この場合には金額の上限を設けないということも考えられるかと思います。   以上,甲案につきまして御説明させていただきましたが,家事事件手続法200条2項の規律を緩和して,一定の場合に仮払いの要件を緩和すべきか否か,また,緩和するとしてもどのような要件設定が適当か,また,仮払いの必要性及び相当性の審査につき,どのように考えるべきかなどにつきまして,委員の皆様から忌憚のない御意見を頂戴できればと思います。   引き続きまして,乙案についても御説明させていただきます。甲案は,家事事件手続法200条を改正し,保全処分の要件を緩和することを提案するものですが,裁判所への保全処分の申立てを常に要することとすれば,相続人にとっては大きな負担になるとも考えられ,また,パブリックコメントにおいても裁判所の判断を経ることなく,金融機関の窓口において預貯金の払戻しを受けることができる制度を設けるべきとの御指摘も多くありました。そこで,一定の場合に相続人が金融機関の窓口において,遺産に含まれる預貯金債権を行使又は仮払いを受けることができることとする制度について提案するのが乙案となります。   その理論構成及び法的効果につきましては,様々な考え方があり得るように思われますが,今回の部会資料におきましては三つの考え方を示しております。後ほどそれぞれ詳しく御説明いたしますが,乙-1案は,相続開始により準共有状態となっている預貯金債権の一部について法律上,準共有状態を解除し,相続の開始により当然に分割されることとするものであり,基本的にはその精算を予定していないもの,また,乙-2案は,本来は全員で権利行使をしなければならない預貯金債権のうち,その一部については各相続人単独で権利行使できるものとし,また,その権利行使をした者は,その権利行使をした預貯金債権を含めて遺産分割の対象とする旨の合意をしたものとみなし,本案の審判において実質的にその精算を行うことを予定しているもの,また,乙-3案は,家庭裁判所の判断を経ていないものの,その効果については仮分割の保全処分がされた場合と同様の効果を認めるものとなります。   相違点を改めてまとめますと,乙-1案が権利行使後の精算を予定していないのに対し,乙-2案及び乙-3案はその後の精算を予定している点,また,乙-2案は実体法上の権利行使を認めているのに対し,乙-3案は飽くまで仮払いにすぎず,実体法上の権利行使ではない点がそれぞれの相違点ということになります。   それでは,各案について順に見てまいりたいと思います。   まず,乙-1案ですが,基本的な考え方は,被相続人の死亡により共同相続人間で準共有の状態になっているものと考えられる預貯金債権のうち,一定割合については法律上,準共有状態を解除し,その部分については本決定による判例変更前と同様の状態となる,すなわち,その部分については法定相続分の割合で当然分割され,各相続人は他の共同相続人の同意を得ることなく,単独で権利行使することができることとしてはどうかという提案であります。   なお,準共有状態を解除する割合,額についてですが,本最高裁決定の趣旨を踏まえますと,立法により預貯金債権の一部について準共有状態を解消するとしても,おのずとその範囲は限定的に解する必要があるといえ,例えばということでありますが,今回の提案ではその範囲を各預貯金債権の2割とし,かつ上限を100万円としております。   この乙-1案の問題点としては,1個の預貯金債権を当然分割となる部分と準共有となる部分とに切り分けることになるため,利息等の関係で預貯金債権の一体的な処理が困難になるほか,差押えの場面でも前者については通常の債権差押えになるのに対し,後者については準共有持分の差押えとなると考えられ,その手続が分離するなど法律関係が複雑になるおそれがあるといった問題点があるように思われます。   次に,29ページ,30ページの乙-2案につきまして御説明させていただきます。乙-2案は預貯金債権のうち,一定額については各相続人の単独による権利行使を認めるものとしつつ,その権利行使をした者は,権利行使をした預貯金債権も含めて遺産分割の対象とする旨の合意をしたものとみなし,本案の審判において具体的相続分を超えて権利行使をしていた場合には,代償金債務又は不当利得返還債務が発生するような審判を行うことを予定しております。   すなわち,本決定によれば,預貯金債権は共同相続人による準共有となっており,単独での権利行使は認められることになりますが,他の共同相続人に重大な影響を及ぼさない限りは単独での権利行使を認め,小口の資金需要に対応できるようにする方が便利であると考えられることから,預貯金債権のうち,一定額については相続人の1人が単独で権利行使をすることができるようにするものであります。   なお,31ページのイの「金額による上限額の算定方法について」ですが,こちらについては幾つか考え方があり得るところですが,例えば預貯金債権の口座ごとに上限額を定め,これを合算するという考え方,また,金融機関ごとに上限額を定め,これを合算するという考え方,また,預貯金債権全部を対象として上限額を定めるという考え方などがあり得るように思われます。最もシンプルな考え方は,口座ごとということになりますが,この点につきまして皆様から御意見があれば頂戴できればと思います。   また,先ほども御説明したとおり,乙-2案には精算のルールを設けることを予定しております。すなわち,本来は遺産分割の対象ではないものについても,当事者の合意がある場合には遺産分割の対象に含めることができることから,乙-2案の後段においては,当該権利行使をした相続人は,当該権利行使をした預貯金債権も含めて遺産分割の対象とする旨を同意をしたものとみなすこととし,各相続人の権利行使によって,その具体的相続分を超える預貯金の払戻しがされた場合には,本案の審判において代金債務又は不当利得返還債務を発生させることとし,実質的にその精算を行うこととしております。   なお,権利行使をした者の同意を擬制することにつきましては,本来は権利行使できないにもかかわらず,専ら権利行使者の利便を考慮して権利行使させるものであることから,遺産分割における精算の義務を課したとしても特に不利益を課すことにはならず,十分に許容性があるものと考えられます。なお,先ほどの中田委員の御指摘とも関係するところではございますが,理論的に問題があろうかなと思っている点を33ページの(注3)にも記載いたしました。本来は遺産の対象ではない財産につきまして合意で遺産分割の対象とすることができるとしましても,遺産分割当時,当該財産が費消され,消失していたとしても,合意さえあれば遺産分割の対象とすることができるかという問題はなお残るように思われますので,この点につきましても皆様から御意見を頂ければと思います。   続きまして,34ページの乙-3案につきまして御説明させていただきます。乙-3案ですが,基本的な考え方は家庭裁判所の判断を経ないで仮払いを認めるものということでございますが,その効果としては家庭裁判所の保全処分に基づき,仮払いがされた場合と同様の効果を認めるものであります。この点につきましては,一般に裁判所が保全処分として仮地位仮処分を行う場合には,被保全権利の疎明のほか,保全の必要性として争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるため,これを必要とするときという厳格な要件が設けられております。これは被保全権利の存否について当事者間に争いがあるにもかかわらず,これがあることを前提とした権利行使を認めることになるため,債務者の利益を害する危険性が高いことなどを考慮したものであると考えられるところであります。   もっとも,預貯金債権につきましては,その存否及び額については当事者間で争いが生ずる余地は少ないことから,乙-3案のように各相続人による仮の権利行使を認める範囲を相当程度限定すれば,裁判所の判断を経なくても本案たる遺産分割において,その権利が認められる蓋然性が相当程度認められ,申立人に具体的相続分を超える権利行使を認めることとなる危険性は一般に低いものと考えられます。   また,本決定では従前の判例を変更した理由の一つとして預貯金債権が現金類似の性質を有しており,具体的な遺産分割の方法を定めるに当たり,その調整に資する財産を遺産分割の対象とする必要があるというある種,政策的な理由を挙げており,かつ現に従前の判例を前提とすれば,各相続人がその法定相続分に相当する部分を自由に権利行使することが認められていたことなどに照らせば,別の政策的観点から保全の必要性を緩やかに認めることも許容されるものと考えられます。そして,相続の場面では相続人が被相続人から扶養を受けていた場合など,被相続人の死亡に伴い,相続人が早急に資金を調達する必要が特に高い場合や葬儀費用の支出など,一定の金銭の支出が必要となる場合が類型的に認められることなどに照らすと,ごく一定範囲の預貯金債権に限り,保全の必要性を法律上擬制し,裁判所の判断を経ずに仮払いを認めることも,一応の合理性があるものと考えられます。   乙-3案は,このような観点から家庭裁判所の判断を経ないで預貯金債権の一部につき,仮払いを認めるものでありますが,現行法上,ほかにこれと類似の制度は見当たらないことから,このような制度を設けることが可能かどうかにつきましては,なお,慎重に検討する必要があるものと考えられます。   最後に,3の「預貯金管理者の制度」につきまして御説明させていただきます。預貯金管理者の制度につきましては,これまでこの部会におきましても預貯金管理者を裁判所が選任することができることとする制度について検討を行ってきたところでございますが,相続人の資金需要に対しては先ほど御説明いたしました仮払いの制度を設ければ,相当程度,対処することが可能であるように思われること,また,この制度を採用いたしますと,預貯金管理者及びこれを監督する家庭裁判所に負担が掛かるおそれがあることや,預貯金管理者に対して報酬を支払う必要が生じることなど,制度を設ける上で懸念や課題が指摘されていることからいたしますと,まずは1,2で検討した仮払いの制度等を設けることで問題を解決できるかどうかを検討すべきであり,それでもなお問題が解決できない場合に改めて検討することとしてはどうかと考えているところでございます。   以上,長くなりましたが,3の仮払い制度等につきまして御説明させていただきました。 ○大村部会長 ありがとうございました。   仮払い制度を設ける必要があるだろうということを前提にして,甲案と乙案という二つの案を提示していただいております。御説明の中にもありましたけれども,甲案・乙案は両立も可能なものとして出されていると理解しております。別々の制度ですけれども,相互に関連するので,全体としてどういう制度を作るかということが問題になろうかと思いますので,甲案・乙案を併せて御議論を賜りたいと思います。それから,最後にありました預貯金管理者制度については,差し当たり,仮払い制度の方を先に考えようという御提案がされておりますけれども,これについてももし何かございましたら御意見等を賜りたいと思います。どの点からでも結構ですので。 ○浅田委員 この点についても先ほどの規律の明確化と裏腹の関係にありますので,少しお時間を頂きたいと存じます。   まず,事務当局におかれましては,従来,銀行界が検討を求めていた仮払い制度に関し,今回,詳細な検討と具体的な提案を策定いただきまして感謝を申し上げます。ただ,言い訳から始めなければならないわけですけれども,銀行界としてはこれまでの実務の前提,根本を変更する最高裁決定が出て,当該決定下での実務運用を開始してからまだ日が浅いこともあり,具体的な仮払い制度を考えるに当たり,十分な議論が煮詰まっているわけではありません。今般,事前に頂戴した部会資料を基に銀行界で急ぎ,意見集約を行ったところでも様々な意見があるところであります。ただ,少なくとも本日,この論点を考えるに当たっての銀行界としての考え方はおぼろげながらも見えておりますので,この考え方を意見として述べさせていただいた上で,各制度についてこれまで寄せられた要望につき,幾つか述べさせていただきたいと存じます。   まず,そもそもの考え方でありますけれども,少なくとも最高裁大法廷決定の,遺産の分割が終わるまで払戻し請求はできない,というメッセージを真正面から受け止める必要があるというのが私どもの共通認識であります。そうしますと,我々金融機関としては全相続人の同意なくして払戻しをしない,すなわち,相続人間の公平を害するような払戻しは原則,してはならないということを求められているのではないか,と感じているところです。このような捉え方をしたとき,仮払い制度とは相続人間の公平を図る観点から,必要であるものに限って行うものではないかと考えております。このような考え方から,仮払い制度における甲案,乙案それぞれに意見を述べます。   まず,甲案につきましては,裁判所において相続人の公平性という観点から判断がなされるという方向性に異論はございません。もっとも,相続人間の公平の観点から必要な仮払いを全て裁判所にて行うというのも,相続人の立場からするとややもすると過剰な面もあるということも確かだと思います。そこで,少し考えさせる面もあるものの,乙案のような裁判所外での仮払い制度を検討いただくことについても異論はございません。   そして,今回,御提示いただいた具体案たる乙-1案から乙-3案については,総論をいえば,銀行業務の明確化の要請に対し,相応の御配慮を頂いているものと理解しております。ただし,いずれも金融機関側に一定の負担を課すものである一方,必ずしも相続人の公平に資する払戻しに限定されるわけではない点について,いささか再考の余地もあるようにも思われます。そこで,法制度の場面では難しい側面もあるかもしれませんけれども,一方で,弁済の当否の明確化,ひいては弁済の有効性を担保しつつ,例えば資金使途が真に相続人間の公平に合致するような場合には,銀行において払戻しができるといった制度を設ける余地はないものか,もう少し御検討いただければと存じます。   以上が総論的な銀行界としての考え方です。   続きまして,個々の御提示案についての意見を少し述べたいと思います。   まず,乙-1案については銀行実務に照らし,対応が困難であるとの意見が銀行界から多数ございました。補足説明にもございましたように,複雑化するということもございますし,全ての預金債権を分割されたものと,それから,準共有のものと分けなければならないということになりますけれども,これでは預金種別によらずに一律,かような管理を求められるということになりまして,国民及び金融機関にとって管理が複雑となり得ますし,また,遺産分割終了後においても全ての預金口座について,かように分別して管理し続けるということは実務上,かなりの負担となります。   次に,乙-2案を飛ばして先に乙-3案について述べますと,そもそも,仮に権利を行使するというのが銀行窓口で行われるのが,どうも想像しにくいという点から慎重な意見が多くありました。   最後に,乙-2案について述べます。どの預金から払戻しを行うべきかという選択の場面における設計次第では,銀行側に大きな負担が掛かることも想定されるといった意見も寄せられています。   以下,部会資料31ページの上の方,イに①から③まで書いてございますけれども,それぞれについて申し上げたいと思います。   まず,乙-2案の①,すなわち,預金債権(口座)ごとの案でございますけれども,これにおいては通常の個人顧客においては普通預金口座と定期預金口座の両方を持つことが多く,顧客によっては複数の営業店にまたがって,更に多数の口座を保有していることもあります。①の口座単位案では,そのような複数の口座ごとに仮払金額の確認や支払い,その後の管理をしなければならず,金融機関の負担も大きいと言えます。また,③案,預貯金債権全部を対象とする案は,他の金融機関における払戻しについての確認義務が金融機関に課されることを想定しているのであれば,およそワーカブルと言えないのではないかと思います。   すると,②案,金融機関ごと案が最も金融機関にとって応じやすいということになりそうです。それでも,複数ある預金口座のうち,どの口座から支払いに応じるべきなのかという問題が残ります。また,そもそも,一定の金額,また,一定の割合についてその必要性,つまり,資金使途を問うことなく,法定相続人に預金債権の払戻し権限を認めるという設計自体が,先の大法廷決定の趣旨に合致しているのかという問題も残るところであります。また,仮にとりあえず,限度額まで下ろしていこうという行動を誘発するという制度となれば,事案をいたずらに複雑化してしまうのではないかと,若干,感じるところであります。   今後とも,この乙-1案ないし乙-3案について審議が進められる中で,参考にしていただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。甲案・乙案それぞれについて御意見を頂きましたけれども,特に乙案について考えるときに31ページで上がっている金額による上限額の算定方法について,銀行の考え方をお示しいただいたものと理解いたしました。上西委員,どうぞ。 ○上西委員 甲-1案と甲-2案がいずれも費目というのが入っております。その中に,相続財産に属する債務として,弁済期が到来しているものに限るとあります。まず,最初に確認なのですが,相続開始時点でと考えてよろしいでしょうか。あるいは申立て時点でよいのでしょうか。例えば相続開始時点で確実なものとして,22ページにありますように固定資産税等があります。また,賦課決定されて期限が到来したものとして住民税や事業税もありますが,更にその後に,つまり,相続開始の後に申告納税で行う準確定申告とか,相続税申告の租税債務についても,この申立ての対象になり得ると考えてよろしいのでしょうか。 ○神吉関係官 御説明させていただきます。相続税というのは個々の相続人に掛かってくるものですので,「相続財産に属する債務」というこの文言からすると相続税の支払債務というものは入ってこないというのが素直な読み方かなと思っております。ただ,相続税の支払債務というものも含めた方がよい,資金需要として特に高いということであれば,そこも特出しとして書くということも考えられなくはないかなと考えているところでございます。 ○上西委員 是非,検討課題にしていただきたいと思います。大法廷決定の補足意見のところで,「預貯金を払い戻す必要がある場合としてはいくつかの類型があり得るから,それぞれの類型に応じて保全の必要性等保全処分が認められるための要件やその疎明の在り方を検討する必要があり,今後,家庭裁判所の実務において,その適切な運営に向けた検討が行われることが望まれる」とあります。   相続の開始後に発生する一番の多額になるものは相続税なんです。今回の決定によりまして,預貯金の払戻しが原則,認められずに分割財産になるとどうなるのか。また,乙案の方になった場合は,あくまでもここでは例えばとなっているのですが,金額が100万円,50万円,50万円とあるように,到底,多額の相続税の納税には及ばない金額だと思われますが,そうなるとどうなるか。自己資金で納税するか,借入れを起こすことになりますが,それもできない場合でしたら延滞税が課税されることになります。こうした新たな事態が生じますので,租税債務については広く検討された方がいいのかなと,要望として申し上げておきたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。費目として租税を加えた方がいいのではないかという御意見として伺いました。 ○増田委員 公租公課を入れる必要があるという点は,上西委員のおっしゃるとおりだと思います。   それで,別の質問なんですけれども,①の相続財産に属する債務というのは,今,弁済期については申立時でいいと言われましたが,発生原因は相続開始前にないといけないのか,つまり,こういう表現だと普通はそう読めるわけですが,いかがでしょうか。 ○神吉関係官 具体的に何を想定されておっしゃっているのかというのが,我々は分からないので何とも言いようがないんですが,基本的にはそういう理解でいいかと思います。つまり,発生原因自体は相続開始前に生じているものということだろうとは思うのですが,例えばほかにどのようなものがあって,それも捕捉する必要があるということになれば,表現振りを改めて考えるということになろうかと思いますので,そこを教えていただければと思います。 ○増田委員 それでは,費目の中に相続財産の保存管理費を入れていただきたいと考えております。発生原因が相続開始前のものに限らないということであれば,相続開始後に例えば不動産が損壊したとか,あるいは定期点検の費用が必要だとか,そういったもの,つまり,相続財産に対する共益的費用と考えられるものについて,これは遺産分割が完了するまでは,財産的価値を基本的には保全しておかなければならないという要請に対応するものだと考えられますので,そういったものについては加えていただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。それは御検討いただくということで,御意見として承りました。   そのほか,いかがでございましょうか。 ○山本(和)委員 甲案について2点,コメントですけれども,第1に19ページに書かれてある本案係属要件の問題です。これは非訟家事の部会以来,議論のあったところで,私の理解では非訟家事では基本的にはオール・オア・ナッシングで,全ての保全処分を一体として考えてどちらかということを議論し,最終的には調停申立てを含めると,調停申立ても本案係属要件を満たすというところで決着が付いたということだと思いますが,その後,国際裁判管轄の部会のところでは,もう少し保全処分ごとに考えることができるのではないかと,考えるべきではないのかというような意見もかなり出され,しかし,結論的にはその部会のミッションとの関係で,そこまでは検討できないということで結着したと理解しております。私自身は個々の保全処分ごとに,この本案係属要件というのが本当に必要かどうかということを考えていく余地はある,そういう意味では,一定のものについては本案係属要件は外すという可能性はあるのだろうと思っています。   具体的に,今回のものは19ページに書かれてある①,②の理由で基本的には,なぜ,本案係属要件が必要かというと,ここに書かれてあるような家事事件については,一定の具体的な権利義務が形成される蓋然性というものが,本案の調停審判の申立てによって初めて認められるという考え方によっているのだろうと理解しています。   ただ,遺産分割については協議による分割というのがありますので,必ずしも調停等が申し立てられなくても,その権利関係が形成される蓋然性がある場合というのはあり得るようにも思いますし,それから,ここでの問題は後の方にも書かれていますけれども,仮分割した結果と最終的な本分割の結果が矛盾する,抵触するということができるだけないようにするということも,本案係属要件の趣旨かと思いますけれども,それは必ずしも本案係属がなくても,別の裁判所でも保全の中で考慮できる,後で相当と認めるときという要件でそれは書かれていますけれども,できることではないかと思っています。そういう意味では,必ずしも本案係属要件,この場合は必然的なものではないのではないかとは思っています。   ただ,そう考えると,ここに書かれてある理由は遺産分割における保全処分に一般的に妥当する,つまり,200条2項も本案係属要件を外すのかという議論につながってくる部分があるような気がしまして,私個人は外してもいいのではないかという気もしているのですけれども,そこまでやるのかどうかというのは問題で,もしやらないとすればどこでディスティンギッシュするのかということは,問題になるのかなとは思っています。   それから,第2点は先ほど申し上げた相当性要件というのが甲-1案,甲-2案ともに相当と認めるときという要件が入っていて,22ページに書かれてある22ページの上のほうの「なお」という段落で書かれてあることによれば,この相当性というのは,結局,自己の具体的相続分を超えて財産を取得することとなる蓋然性が高くないか否かの審査であると書かれていて,確かに私もこのような要件は必要だろうと思います。   ただ,これも200条2項でも必要ではないのかと思うんですが,これは,ただ,200条2項の方は,それは明示的には書かれていないんです。本案係属要件でそれを代替しているという見方もあり得るのかもしれないですけれども,先ほど申し上げたように本案係属要件というのは,必ずしもここで書かれてあることとパラレルなものではないのではないかと思っていまして,その関係をどう捉えるのか,ここだけに相当性要件というのを置くのがいいのかという問題と,それから,これが要件の内容なんだとすれば,相当と認めるときというのは余りに抽象的な要件の書き方になっていて,もう少しスペシフィックに書く必要があるのかなと。相当と認めるときというのは,裁判所の要するに裁量に委ねたと文言としては読めるわけですけれども,ここに書かれてあることからすれば,それは趣旨としては必ずしもそういうことではないように思いますので,書くとすればもう少しスペシフィックに書くということが必要かなと思っています。   それから,乙案についてもしよろしければ,乙案は基本的には実体法の問題だと私は思っているのですが,その関係で乙-3案というものが,ここでの整理の仕方は保全処分と同じような効果を認めるんだけれども,それを保全処分を経ないでできるのかという問題設定の仕方のように思いますけれども,私は必ずしもそう捉える必要はないのでないのでないかと。   先ほど浅田委員から乙-3案というのは,仮にその権利を行使することができるということについての違和感が銀行界にはあるというお話だったんですが,ここで言いたいことは恐らく仮にその権利を行使することができるということではなくてというか,そう表現しなくても権利は行使できると,相続人と金融機関との間では権利は確定的に行使されると,ただ,そこでなされた弁済あるいはその財産というのが将来,遺産分割の対象になりますよということを言いたいのではないかと思っておりまして,そうであるとすれば,そういう一定の権利行使を遺産分割前に認めて,しかし,その財産も遺産分割の対象になるように法律で決めているということだけなのかなと思っていまして,必ずしも保全処分の効果を保全処分なしに認めるという問題の設定の仕方をしなくてもいいのではないかと。   そういう意味では,これも実体法の規定の問題であって,乙-2案は実体法の規律を当事者の意思,相続人の同意というものによって基礎付けているということだと思いますが,単に法律でそう定めるということだってあり得るのではないかと,実質的な根拠は乙-2案のところで書かれているとおりだと思いますので,その実質的な根拠があれば法律でその部分も遺産分割に含めるという効果を帰属さす,そういう効果を認めているんだという説明をすれば足りるような気がしまして,そういう意味では,類似の制度が見当たらないから慎重に検討するという,そういうことをいう必要は,私は必ずしもないのではなかろうかという感じがしています。   ただ,いずれにしても,その場合にはその対象は,私は,ですから,そういう意味では,法定のものと裁判所の判断によるもの,裁判所の判断によるものも甲案にあるように費目とかで非常に限定されたものと,更に200条2項に規定されているようなより一般的なものと,3層,3段階の規律になるのかなと,仮に甲・乙の両方を設ければ。そうすれば,乙案というのは要になる部分ですので,その必要性が非常にある種,高いというか,定型的にその必要性が認められる,裁判所の個別的判断を経ないでも,その必要性が認められる部分に限られるということになるのかなと思っていまして,そういう意味では,31ページの先ほど浅田委員が議論されていたところは,私自身は③になるのではないかという感じがしていて,つまり,相続人がいろいろな金融機関に預金を分散している結果として,多くの金額を相続人は権利行使できると。   一つのところに1億円を預けている場合と,10個の銀行に1,000万ずつ預けている場合とで,相続人が処分できるのが10倍違うというのは,なかなか,制度として正当化するのは難しいのではなかろうかという感じがしておりまして,ただ,金融機関の方はそれで対応が大変になるという御指摘はごもっともで,ただ,31ページの(注)に書かれてあるような対応,金融機関の側は申告に従って払戻しをすれば,そこで効力は確定的に認められるとすれば,対応は可能なのかなという感じもしないでは,この辺りは,しかし,金融機関の実務は分かりませんのであれですけれども,私はそこはかなり限定的に制度は作る必要があるのかなという印象は持っているということです。 ○大村部会長 ありがとうございました。甲案につきまして家事事件手続法の200条第2項まで含めて3層とおっしゃっておられましたが,そういう視野で問題を捉えるべきだという御指摘をいただいたものと理解しました。それから,先ほど浅田委員が御指摘になった上限額の算定方法について,別の考え方を採るべきではないかということだったかと思いますけれども,事務当局で,今の御意見について何かありますか。 ○神吉関係官 山本委員からの御指摘で,甲案の相当性について,もう少しスペシフィックに書けないかという御指摘を頂いたところかと思います。この点は,部会資料23ページの(注2)の記載とも関わるところですけれども,(注2)記載の内容として,場合によっては法定相続分を超えて仮払いを受けることもできる場合もあるのではないか,事案によっては相続分を超えた支払いを認められる場合もあり得るというところで,「相当性」という抽象度のやや高い書き方で提案をさせていただきました。この点につきましては,相続分を超えた仮払いは認めない,飽くまで具体的相続分の範囲内でしか仮払いを認めませんということが確定的に皆さんの間でコンセンサスがとれれば,そういったスペシフィックに書くという考え方もあろうかと思います。この辺りの皆様の御意見も併せてお聞かせ願えればなと思っております。 ○山本(和)委員 よろしいですか。確かにおっしゃるとおりで,23ページ(注2)のところはそうで,ただ,全体的に見れば,結局,それによって他の相続人に当該相続人の信用リスクを転嫁しない形でできるというところが言いたいことなのかなと思っていまして,それを相当という抽象的要件ではなくて,もう少し何か明確に書けないかなというぐらいの問題意識だと理解していただければと。 ○堂薗幹事 ただいまの点につきましては,200条2項でも同じような問題があるのではないかと思うんですが,ここでいう相当性の要件は,被保全権利の疎明に相当するようなものではないかと思います。そういった意味で,仮に具体的相続分を超えるようなものであっても,代償金の支払が確実に履行されると,要するに相殺権の行使等により確実に履行されるということであれば,被保全権利の問題は余り生じないのだろうと思いますので,他の規定において,ここでいう相当性の要件については被保全権利の疎明のところで読んでいるということであれば,ここでもあえてその要件を規定しなくてもいいのかなという印象も持っているんですが,その辺りはいかがでしょうか。 ○山本(和)委員 私もそれはそう思っていて,ただ,一般的には本案係属要件がある程度,民事保全にいう被保全,非訟の場合には権利がないという前提ですから,後から形成されるという前提なので,本案係属要件によって権利形成の蓋然性を担保して,そこで一種の被保全権利が吸収されるというような理解が採られている,ただ,先ほど申し上げたように厳密にはというか,そこはだからずれているような印象を私も持っていて,本案係属要件だけでは吸収できない,ただ,被保全権利はいろいろな保全処分の家事の保全処分では明確に書かれていないということだと思いますので,そこは解釈に委ねられているのだとすれば,ここも解釈に委ねるということは立法的にはあり得るかなとは思っています。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○浅田委員 先ほど山本委員から31ページの(注)の③に関する御指摘の中で,金融機関としての負担という問題が出ました。その点も踏まえて逆に質問という形でお尋ねしたいんですけれども,先ほど私は③に関して,他の金融機関における払戻しについての確認義務を金融機関に課すということを想定しているのであれば,およそワーカブルではないと申し上げました。確かにこの案というのは非常によく考えられた案であると思います。非常に明確,要は単純な,払戻請求者に対する確認義務のみを負って,その説明の真偽については調査義務を負わないということであるのであれば,私の個人的な意見としてはワーカブルなような感じもいたします。ただ,例えばどう見てもほかの金融機関でも払戻しを受けているだろうというときとか,または,100万円といってもその実態を知っていた場合に,すなわち,本当は既に100万円の払戻しを受けているだろうという情報があった場合とか,調査義務とか注意義務とかいうものの射程というのが多分,判例法理等によって広がっていくということを多分,我々銀行界としては恐れると思っています。   何度も申し上げて,この議論について深く詰めたというわけではありませんけれども,確認義務を負う内容と,それから,調査義務を負わないという意味合いというのがもうちょっと詳しく明確にならなければ,この案というのは不安な材料になっているということもありまして,調査義務を負わないということの意味合いについて,現在,検討されている点があれば,御教授いただければ有り難いと思います。 ○堂薗幹事 この点は,まだ,(注)で書いている限度ですので,こちらも十分に詰めて検討できているわけではありませんが,ここで考えているのは,基本的には相続人の申告どおり,要するに相続人の方で20万円をほかの金融機関で行使しましたということであれば,それを前提として,例えば上限が50万ということであれば,30万の限度で払えば,それで免責されると。仮に実際には50万,上限ぎりぎりまで他の金融機関で払い戻していたとしても30万の弁済は有効で,その点については準占有者の弁済のように過失とか,そういった点を問題にせずに申告に従って払えば免責されるという前提で考えております。そういった規律を設けた場合でも,その後にどのような解釈がされるかというのはまた別の問題としてはあるかと思いますが,一応,ここでは他の金融機関で行使しているかどうかというのを金融機関に判断させるというのは酷だろうという前提ですので,そこについての調査義務は基本的には一切負わず,申告を信じて弁済すれば弁済としては有効だという前提で考えているところではあります。 ○浅田委員 1点だけ,すみません,いろいろ,疑問はあるわけですけれども,一つの典型的な例として例えば窓口に来た相続人は,そんな払戻しをしたことがないと言っていると。ところが,違う相続人が,嫌がらせか,はたまた,うそをついているということかどうか分かりませんが,銀行に対して,あいつは幾らを下ろしたと,文書で言ってきたとか。そういう両方から銀行は異なる申入れを受けることがあるわけですけれども,つまり,銀行が悪意だった場合に,この調査義務を負わないということがどういう意味合いになるのか,免責が図られるのかどうかということについて御意見がございましたらお聞かせいただけますか。 ○堂薗幹事 そこは,更に先の問題になるかとは思いますが,他の相続人から通知があった場合については,別途規律を設けるという考え方もあると思いますし,他の相続人としては,それを防止したいということであれば,逆に払戻しを禁止する保全処分の申立てをして,それを止めない限り,銀行としては免責されるという考え方もあるでしょうし,そこはいろいろな考え方があるのではないかと思います。その点については,まだ十分に詰めた検討はできていないという状況です。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。 ○窪田委員 まだ,甲案,乙案自体についてはどういう立場がいいのかということも固まっていない段階なのですが,乙案について少し質問させていただければと思います。乙-1案ですが,17ページのところを見ると,「この場合においては,当該権利行使をした相続人は,当該権利行使をした預貯金債権も含めて遺産分割の対象とすることに同意したものとみなす」ということが入っているのですが,この部分は本当に必要なのかなというのを少し疑問に感じております。つまり,乙-1案ですと当然の分割承継というのは一部に取り込んでしまいますので,改めて遺産分割の対象となる財産にするということに一定の仕組みが必要なのですが,乙-2案の方は別にその部分は修正せずに単に権利行使を認めているということですから,別に遺産分割の対象から外れている財産となるわけではないのだろうと思います。   そうだとすると,むしろ,単独で権利行使をすることができるということだけを規定するということもできるのではないのでしょうか。ただ,その上で精算について,特に具体的相続分を超えるような形で権利行使をしてしまった場合,不当利得返還請求権を認めるとか,そうしたことは必要なのかもしれませんけれども,遺産分割の対象とするための同意というのは別になくても,現在の預金債権についての判例を基礎とする法律関係,そして,ここでの仮払い制度の前提ともなっている法律関係を前提とすれば,不要なのではないかという気がいたします。   それからもう一つ,実は山本和彦委員の先ほどの御発言と重なるのですが,そのように理解した場合,実は乙-2案と乙-3案というのは,それほど本質的な差はないのではないかという点です。つまり,遺産分割の対象とはなるけれども,その部分について権利行使は一旦は認めるということを別に仮払いだと言ってもいいし,実体法,権利行使だと言ってもいいし,そのような理解に立つと,乙案というのはもう少し整理ができるのかなという気がいたします。質問と意見と半ば混ざったような形ですが。 ○神吉関係官 乙-2案の後段は要らないのかどうかというところは,この点は現行法上の解釈としてよく分からないところではあります。遺産分割の対象になる財産があって,例えば共同相続人の一部が自分の持分を処分した場合はどうなるのかということだと思うのですが,文献などでは,それは遺産分割の対象から外れるとした上で,その後にどう処理するのかということについては,それは不当利得で処理すると書いてある文献もありますし,一方で,それは具体的相続分で考慮すると書いてある文献もありますし,そこは余りよく分からない,定説というものが見当たらないという状況にあるという認識でいるところであります。この点につきましては,むしろ,ほかの先生方から,実務上,どうしているかということがあれば,教えていただけると非常に有り難いのですが,いかがでしょうか。 ○窪田委員 別に実務上のことが分かっているわけではないのですが,一部の権利行使をしたとしても,例えば不動産についての持分を処分したとしても,それによって当該不動産が遺産分割の対象となる遺産から外れるわけではないですよね。それと同じというか,あるいはそのときにも同じように遺産分割の対象となるという意思表示をしないと,ここでいう遺産分割の対象となる財産というのは,遺産分割の前提としてみなし相続財産として計算される基礎財産という意味なんですが,その財産であるということは別に否定されないのではないでしょうか。   権利行使を認めるということと,それを切り離していいのではないかというのは,実は以前からあった甲案,乙案でも,甲案というのは正しくそういう考え方だったわけですよね。遺産分割の対象となる遺産だけれども,権利行使はできる。それと同じだけなのだとすると,わざわざ,ここで何か先祖返りのように,一旦,預金債権については当事者の意思表示も不要で,遺産分割の対象の他の遺産だとルールが形成されたのに,改めて権利行使はできると。そこの部分については,改めて全員の同意があって初めて遺産分割の対象となる遺産となるのだというような構成を採る必要はないのではないかなという気がいたします。ただ,前提が分かっていない,あるいは誤解があるのかもしれませんが。 ○堂薗幹事 確かに乙-2案は,中間試案の甲案でやろうとしていたところと似たようなところがあるんですが,ただ,遺産分割の対象になるといった場合は,基本的に分割時に分割の対象となる財産のことをいうのだろうと思いますので,そういった意味で,弁済でなくなっているものについては遺産分割の対象財産から外れてしまうのではないかというのが前提としてございます。先ほどの不動産の共有持分を処分した場合も,判例によれば,新たな共有者と他の相続人との関係は,基本的に共有物分割の方で精算し,残ったものだけが遺産分割の対象となるということだとすると,持分を処分した場合も最終的な分割の対象となる財産からは外れてしまうのではないかと思います。ただ,御指摘のとおり,具体的相続分を計算する上で,その算定の基礎となる財産には入るのかもしれないんですが,実際,相続開始後に持分の一部が処分された場合に,その後の遺産分割においてそれがどのように取り扱われるのかというのが必ずしも実務上はっきりしていないのではないかというところもございまして,その辺りも含め,更に考えていきたいと思っております。 ○窪田委員 よろしいでしょうか。おっしゃる趣旨が分からないわけではないのですが,処分されてしまったものは遺産分割の対象にはできないということであれば,当該権利行使をして消えてしまった預貯金債権も含めて遺産分割とすることに同意するというのは,何かある種の論理矛盾に陥っているのではないかという気もします。むしろ,ここで言いたいことは,遺産分割の前提となる計算をした上で具体的相続分も導いて,しかし,それを超えて権利行使してしまった場合には不当利得返還請求権なり,償還請求権を認めるということに意味があるのだとすると,ストレートにそれを規定すれば足りるのではないのかなという気がするということです。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○村田委員 先ほどの山本委員の御発言に関連して,2点,申し上げたいと思います。  1点目は費目の点です。甲-1案でも甲-2案でも費目に着目しており,そうした考え方というのはあり得る視点だとは思うんですけれども,この制度において,費目にどれほどの意味があるのかということは,本案との関係を検討する上で整理しておくことが必要ではないかと思います。費目のうち,例えば,葬式費用とか公租公課といったものは,本来,遺産分割の対象ではありませんので,遺産分割の本案の中では考慮する必要はないものですが,ここで提案されている制度の中では,これらの費目も保全の必要性の一要素として考慮することとされています。ここで,これらの費目を保全の必要性の例示にすぎないと整理するのであれば,遺産分割を本案とする保全処分としてこの制度を位置付けることについて特に違和感はないのですけれども,そうではなくて,これらの費目をこの制度の枠組みを決めるものとして特出しすることによって,この制度は葬式費用を払わせるための制度なんだ,あるいは公租公課を払わせるための制度なんだと整理するのであれば,この制度は本案と大分ずれたものになって,遺産分割を本案とする保全処分というよりも,ある種,遺産分割とは別の世界の特別な制度という位置付けが色濃くなり,本案との連続性という点が今一つ理論的によく分からなくなってくるように思うんです。それから,それに関連して,例えば葬式費用ですと,本来的な負担者は誰かとか,実際,幾ら掛かるのかとか,それが相当かとか,そういったところまで保全手続の中で本格的に確定しないといけない[m3]となると,緊急の資金需要に対応するという制度設計とかなりぶつかる面が出てくることになりますので,そういう意味からも,費目というのをどこまで全面に出すべきかというのは考えるべき点があるのではないかと思います。   それから,2点目の方は先ほどの山本委員の意見とややぶつかるのかもしれないんですけれども,相当性の要件についてです。相当性の要件について,具体的相続分を超えないかという辺りをより明確に打ち出すべきではないかという考え方はもちろんあろうかと思う一方で,具体的相続分を超えそうかどうかというのを全事案において常に明確に考えろと言われると,これまた,判断の迅速性を阻害するところがあるということは容易に想定されるわけです。遺産総額が非常に大きくて,申立てで求められている額が非常に小さい場合には,仮に多額の特別受益があったりしても,本案で代償金の支払を命じるなどして何とでも調整できるのではないかという事案だってあると思うんです。そういうときにまで必ず具体的相続分の算定をかなりの程度まで念頭に置いて審理しなければならないということになると,疎明の範囲によるのかもしれませんけれども,なかなかつらい部分もあるかなという気がしていまして,相当性の要件について,どの程度,裁判所の裁量を認める要件にするのかというところは難しい点があるのかなと思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。理論上の問題と併せて,実務的に困難が生ずることがあるのではないかという御指摘を頂いたと思います。何かお答えはありますか。 ○神吉関係官 補足して御説明いたします。甲案で費目を特出しして書いているわけですけれども,費目を限定しないことも考えられるのではないかという御指摘かと思います。この点はなお検討したいと思いますが,200条2項と要件の差を付けるところをどう説明できるのかということにかかってくるかと思います。200条2項は,現行は急迫の危険を防止するためというかなり厳格な文言を置いていますけれども,それを緩和するところとして,こういった費目であれば,急迫の危険がなくてもいいのではないかというところで,幾つか費目を特出しさせていただいたというところであります。   また,なぜ,①,②,③という形で分けて書いているかというところなんですけれども,ここは相当性の審査の内容がそれぞれで少し異なるのではないかという問題意識がございます。すなわち,具体的相続分を超えて仮払いを受けられるかどうかというところとも関連しておりますが,相続財産に属する債務については,ほかの相続人も負担すべきというところもあると思うので,そういった場合には相続分を超えた支払いを受けられることもあるだろうという考え方もありうると。また,葬式費用については,被相続人が手配していた場合には同じように考えることもできるし,喪主が手配するという話であれば,③の自己の生活費と同じレベルで考えるべきということで,中間的なものとして位置付けられるだろうと。   一方で,生活費についてはその人の生活費という話なので,相続分を超えることは基本的に許されないだろうと。そういったところで,相当性の審査においてグラデーションがあるのではないかというところで,①,②,③という形で要件を分けて,最初は提案させていただいたというとこであります。もっとも,先ほど来御説明しているとおり,そもそも,相続分を超えての支払いを認めるかどうかというところについては,もしかしたら御異論があるかもしれないので,その辺りも御意見を頂ければと思っているところでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○垣内幹事 甲案に関してなんですけれども,まず,本案係属要件に関しては先ほど山本委員からも御指摘がありましたけれども,私自身も基本的には当該保全処分の性質ごとに個別に考えるというアプローチはあり得るものなのだろうと考えております。ただ,ここも山本委員の御発言と重なりますけれども,ここで書かれている御説明で区別するのだとすると,先ほど200条2項一般の場合も当てはまるのではないかというお話がありましたが,遺産分割以外の局面でも例えば財産分与とか,婚費の支払いとかいった場面でも当てはまる部分があるような感じもいたしまして,なぜ,この場合の仮払いだけがそうでない取扱いになるのかというところについて,なお,少し説明を加える必要があるのかなという印象を持っております。   そのこととも関係するんですけれども,どうもこの制度の基本的な理解として,保全処分というのは基本的には権利者に,今,保全処分をしなければ何か害が生じるので,本案を待たずに迅速に処理するということかと思いますけれども,そういう発想と,それとは別に,元々,預金債権については当然分割の対象で一定額が使えるようになっていたという背景を踏まえて,何か合理的な理由があるのであれば,遺産分割を待たずに使えてもいいではないかといったような預貯金に特有の発想から,このような制度を設けるというようなことも考えられるのかなと思っておりまして,そうだとすると,これは本案という話とはかなり独立の特別の制度だということですから,必ずしも本案係属要件とは連動しないというような理解にもなるのかなという気がしております。   そのこととも関係いたしますけれども,甲案における必要性の要件の内容に関して,いろいろな理解の幅があり得るところかと思いまして,今日の資料でも23ページのところで,相続財産に属する債務の弁済に関して,他の相続人が負担すべき債務の弁済も含めてよいかどうかということが論点として提示されておりますけれども,例えばこの点について,それも含めるというような解釈を採った場合には,これは権利者に害が生ずるからというよりは,何か,それが便宜であるので合理的に理由があれば,どんどん,認めていいという制度であるという色彩が濃くなるのかなと思われます。   そのこととも関係しまして,今,甲-1案でも甲-2案でも必要がある場合という要件が掲げられているんですけれども,ここで指摘されている必要というのは,当該行為をする必要,例えば債務の弁済とか,葬式費用,葬式ですと葬式を強行するということかと思うんですけれども,保全的処分的な発想からいったときに,生活費については恐らく支弁がなければ生活に困るという伝統的な保全処分の考え方からいっても説明しやすい事例なんだと思うんですが,葬式費用とか,相続財産に属する債務の場合に,例えば相続人が無資力であって,預貯金を下ろさなければ払えないというような場合ですと,必要性というのは説明しやすいところがあるのかなと思われますが,別途,別に支払うことはできるんだけれども,元々,相続財産に関係するものなので,相続財産に属する預貯金から払うことが便宜ではないかというようなことであったとしますと,必要性という面では何か2段階,間接的な必要性というようなところがあるようにも思われますので,その辺りの基本的な制度の位置付けと申しますか,性格の理解をどうするのかということも一つ重要な論点なのかなという感じがしております。 ○神吉関係官 その点に関連してですけれども,伝統的な保全の必要性の理解については先生がおっしゃるとおりだと思うんですけれども,自分の生活が非常に困っていないと葬式費用の仮払いを認めない方がいいのか,それともその仮払いを認めた方がいいのかという実質的な価値判断だとは思います。実質的な価値判断からすると,いずれもあり得るかと思うのですが,債務の弁済とか,葬式費用については自分がぎりぎりの生活をしていなくても,仮払いを認めてもいいのではないかというところが実務上,あるのではないかというところで,事務当局としてはこういった案を出したところではあります。 ○増田委員 今,村田委員や垣内幹事は非常にやわらかくおっしゃったと思うんですけれども,私もこういう制度を作ることに反対するわけではなく,むしろ有意義だと思うんですけれども,遺産分割手続の保全処分としての枠は超えているのではないかと思います。遺産分割の保全処分というのは,遺産分割請求権を被保全権利と基本的に考えるわけだろうと思います。民事保全と違って,それほど厳格なものではないのかもしれませんが,そこでいう保全処分の目的は,遺産に属する財産が他に処分されたり,何らかの形で価値を毀損するような行為を防止するといったことが基本であって,部会資料の①,②,③のようなものとは少し性格が異なるのだろうと思います。   要は,この場合の保全の必要性というのは,他の相続人や第三者による遺産分割請求権の侵害の可能性,蓋然性ではなくて,当該債権を帰属確定以前の早期に行使するという必要性であり,性質からいえば賃金の仮払いに似たようなものであろうかと思います。現在の遺産分割の手続に付随する保全処分という枠からは少し性格が異なるように思いますので,別途,何らかの実体法上の根拠を作るとか,あるいは裁判所の許可を得て権利を行使するという家事で言えば別表第1パターンの非訟手続を新たに作るとかいうようなことも,考えられていいのではないかと思います。 ○堂薗幹事 確かに①や②を遺産分割の保全処分との関係でどう基礎付けるかというのは,なかなか難しいところがあるんですが,若干,こじつけにはなるかもしれませんけれども,例えば,相続財産に属する債務ですと,他の相続人の分も弁済しなければ,場合によっては,財産分離など,遺産分割とは別の手続が開始される可能性もあって,そうなると,自分が承継した相続債務についてはきちんと弁済した人についても,結局,遺産分割の手続をすることができずにほかの清算手続がされることによって,自分が欲しい遺産を取得することができなくなるということが考えられます。あるいは,葬儀費用につきましても,ここは解釈上,いろいろ争いはあるのかもしれませんが,一般的な考え方からすると,被相続人の葬式については遺産全体について先取特権があるということになりますので,その支払をしませんと,結局,自分が欲しい遺産が換価されるということにもなりかねませんので,そういった観点から,遺産分割を円滑に行う,遺産分割の対象となる財産の換価を免れるという目的のために,①や②についても保全の必要性を認めるという考え方は,あり得るのではないかとも考えているところです。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。甲案にしましても乙案にしましても,新しい制度を作るにあたって,すでに存在するものと接合する形で考えておられるということかと思いますが,しかし,従前のものと違うのではないかという御指摘が出ているというのが今の議論状況かと思います。乙案につきましても,説明ではなくて制度を作ってしまえばいいのではないかという御指摘もありましたけれども,確かに,制度は法律を作ればできるわけですけれども,根拠を問われたときに既存の制度と関連付けて説明することが一定程度は必要だろうという発想で説明がされているのだろうと思っております。御指摘がたくさんございましたので,それらを踏まえた形で更に調整が必要ですが,本日,更にこの甲案・乙案につきまして御意見を伺えれば,伺っておきたいと思います。   それから,今まで伺ったところでは,基本的には甲案・乙案ともこうした制度を作るということ自体については反対の御意見はなく,制度を作るということは認めた上で,その内容をどうするかという御発言をされているように思いますけれども,賛否につきましても何かございましたら伺えればと思います。 ○石井幹事 乙案は裁判所の関与を経ずに仮の支払いを受けられるというところで,非常に利便性が高い制度だと思っておるんですけれども,乙-2,乙-3案については,後にその精算が予定されているというところで,若干,懸念しているところがございます。といいますのは,後に清算するといっても,誰が幾ら仮払いを受けたのかということが明確になっていないと,その点に関して当事者間に争いがある場合には,精算のための手続が非常に紛糾してしまって,この制度を設けた意味が減殺されるおそれがあるように思います。また,仮に,遺産分割の審判の中で精算をしても,その前提となる事実関係について,これと違う判断が後に訴訟でできるというようなことになりますと,遺産分割の結果が覆ってしまいます。そのため,誰がいくら仮払いを受けたのかが後で明確になることが制度的に担保されていないと,円滑に制度を運用することはなかなか難しいのでないかなという気がしておりまして,その辺りについても,今後の検討課題としていただければと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。では,その点につきましても検討していただくということにさせていただきたいと思います。 ○中田委員 この問題は,銀行が預金約款の中で何か対応するという方向の御検討も頂いてもいいのではないかなという気もしているんですけれども,仮に預金約款の中に対応措置を設けたとして,乙案がそれを妨げるということにはならないと理解しておりますけれども,そういう理解でよろしいでしょうか。 ○堂薗幹事 乙案のような規定を設けたとしても,それと矛盾しないような形で,別途約款などで規定するということは問題ないと思いますので,そういった理解でよろしいのではないかと考えております。 ○村田委員 今の点に関連して,先ほど石井幹事からお話のあった点と今の話とが少し絡むかと思うんですけれども,乙-2案,乙-3案のような形で,いつ,誰に,どういう根拠から幾ら払ったかというのが記録化される必要があるというときに,そのような記録化を相続人に期待するというのは現実的に難しいところもあるのかなと思いますので,裁判所の立場からすると,そういう記録は金融機関でしておいていただけたら有り難いなと思うわけです。ただ,それは金融機関に相当の御負担をお掛けすることになると思いますし,約款をどう整理するのかという議論にもなり得ると思いますので,迅速な支払を認めるがために,制度全体として,かなり大がかりなインフラ整備が必要になる部分もひょっとしてあるのかなと,その辺りも気になるところではあります。 ○浅田委員 一言だけ申し上げます。具体的にどれぐらいの負担になるのかという話はまだ検討しておりませんので分かりません。ただ,負担になるということだけ御承知おきいただけたらと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほか,いかがでございましょうか。 ○石栗委員 乙-2案と乙-3案というのは,いずれも実体的な権利行使として預金の払戻しを受けることができるという提案のようですが,そうだとすると,遺産分割の時点では,既に実体的な権利行使をしてしまった部分については,預金債権がなくなっているということだと思うんです。それについて遺産分割の対象とするという合意をしたという説明をされていますけれども,一般的に言われている「遺産分割の対象とする合意」というのは,遺産分割の時点で存在する財産を対象とするものですので,ここでいう合意というのは一般的に言われている「遺産分割の対象とする合意」とは違う性質の合意を意味するものだと思います。 そのような合意があった場合の処理としては,既に実体的に権利行使された預貯金債権は権利行使をした当該相続人が取得したものとして,各相続人の取得分を算定するということは,特別受益があった場合などには通常行われるところですけれども,既に実体的に権利行使された額が当該相続人の具体的相続分を超えている場合に,主文において,他の相続人への代償金の支払いを命じるということまで想定されているということになりますと,特別受益などでは行っていない既に存在しない財産の取得を主文に表示するというだけでなく,さらに,そのことを理由に代償金の支払という新たな権利義務関係を設定するということになりますので,なかなか,難しい問題もあるような気がいたします。今後の御議論では,その点も含めて御検討いただけると有り難いかなと思います。  次に,実務では,葬儀費用というのは非常に争われる部分でして,領収書がなく,支払の有無自体が争われるものもあれば,支払額が相当だったかどうかということが争われる場合もあるんですね。ですから,今までお話が出ていたと思うんですけれども,支払うべき葬儀費用の額を迅速に判断することは非常に難しいことだと思いますし,甲案の方であれば相続人全員が当事者になることが想定されていると思いますので,これらの点が審理の中で相当程度争われることもが予想されますから,そうしたことも踏まえて,規律の仕方についても御検討いただければと思います。 ○神吉関係官 前者の点についてのみお答えいたしますが,乙-2案の後段の同意をどのように考えるべきかというご指摘かと思います。この点については委員から御指摘いただいたとおり理論的に問題になりうるかと思い,33ページで当事者の同意を根拠とすることについてどう考えるべきかということで,(注3)で記載しております。本来の遺産の対象ではない財産について,合意で遺産分割の対象とすることができるかという問題,これは恐らく判例上,クリアされているんだと思うんですけれども,更に御指摘のとおり,財産が費消されて消失している場合にも,同意でクリアできるのかという話があるかと思います。   この点について特に明確に論じた文献とか,判例は見当たらないところですので,どう考えるかというところだと思うんですけれども,前者が同意で当事者の財産権の処分として許容している以上は,後者も一応,クリアできるのではないかなと思っているところであります。ただ,飽くまで遺産分割というのは遺産分割時にあったものを分ける手続であって,それ以外には駄目ですよという考え方ももちろんあるかとは思いますが,ただ,そうすると精算ができないという結論になりますので,それでもやむなしといえばいいとは思うんですけれども,その点の実質論をどうすべきなのか,精算すべきだとなったときにどういう理論構成を採るべきなのかというところで,もし,お考えがあれば御教示いただければと思います。 ○石栗委員 今,申し上げたのは,通常の「遺産分割の対象とする合意」は,遺産分割の時点で既に費消された財産を遺産分割の対象にしたり,そうした財産を遺産分割で取得したことにする代わりに代償金の支払いに応じたりするということまで扱うものではないので,通常の「遺産分割の対象とする合意」とは異なる意味まで膨らませて考えないと,この提案でいうところの合意を理解することはできないのではないでしょうかということです。 ○神吉関係官 ただ,その同意をどこまで含めるのかというところですけれども,自分の利便のために専ら権利行使をしたものですので,そういった精算の義務を課すということを含めて,代償金債務を負わせるといったことも含めて同意させたとしても,そこは特に問題ないのではないかなとは思っているところではあります。 ○石栗委員 そういう制度設計をされるのであれば,それはそれでやむをえませんが,そこで用いられている合意という言葉は,これまでの遺産分割の実務で用いられていた「遺産分割の対象とする合意」とは性質の異なる合意であることを明確にしていただければということは申し上げさせていただきたいということです。 ○神吉関係官 分かりました。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○堂薗幹事 乙-3案の方なんですが,乙-3案は仮分割の仮処分がされた場合と同様の効果を生じさせるという前提ですので,飽くまで弁済を受けても仮のものとして取り扱い,遺産分割ではその預金はまだあるものとして審判をするという前提に立っております。ですから,乙-2案と乙-3案の違いは,金融機関の支払が実体法上,弁済として有効なのか,あるいは仮分割でされた場合のように飽くまで仮のもので,遺産分割の審判においては,まだそれがあるものとして判断をするのかというところに違いがあるということでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでございましょうか。 ○水野(有)委員 今の3案なのですけれども,あるものであることを前提として審判をするといっても,金融機関との間では支払いは有効なわけですよね。ということは,預金債権が現実には存在しないのですよね。預金債権は例えばAさんが取得すると審判した場合の法律効果というのは,具体的にはそこの金融機関に行ってくださいといっても,もちろん,くれないわけですから,結局は代償金に転嫁させないといけないという御趣旨ということでよろしいのですよね。そうなると,結局,最終的な効果が乙-2とどう違うのかがよく分からないなというところが率直な疑問なのですが。 ○堂薗幹事 ですから,やろうとしていることは,結局,乙-2も乙-3も変わらなくて,最終的には過払いになったら精算をするということなんですが,仮に甲案のような形で仮分割の仮処分をかなり柔軟に認めるのであれば,それがされた場合と同様の効果にして,主文においても同じ取扱いをした方がむしろ分かりやすいのではないかということで,乙-3案は考えたものですので,そういった意味では,実際には支払ってなくなっているものを遺産分割の対象とするというところはございますが,ただ,そこは甲案でも,あるいは現行法の下でも同じような問題が生じるのではないかということでございます。 ○大村部会長 水野委員,よろしいですか。更にあればどうぞ。 ○水野(有)委員 技術的なことですので結構です。 ○浅田委員 先ほどの村田委員の記録化を金融機関でして頂けると有り難いという御指摘について,先ほど一言だけ反応してしまったんですけれども,もうちょっと詳しく申し上げます。実際に,銀行内部の議論の中で,誰が幾ら払ったのかということの確認手段ということをどう記録化するかということが議論の俎上になったことはあります。ただ,これは非常に技術的に難しい問題だと思っています。   大きく分けて多分,二つのやり方があると思いまして,一つはどこかに情報を集中するということだと思うんですけれども,銀行ということであれば,結局,全国にある各銀行において,相続人と称する人が預金を下ろすということをどのように情報収集するかということになると思いますけれども,これは多分,システム的にもほぼ不可能な話だと思っております。また,守秘義務という銀行に課せられた論点からしても,クリアすべき問題も非常に大きいと思っています。   二つ目は,お札方式的な方法で誰かが下ろしたら,誰かが何かを発行して,それで,バウチャーのように回していくというのも考えたわけですけれども,それは誰が発行するのだろうとかを考えたときに,なかなか,難しいと思っています。必要性は感じるところでありますけれども,実務運用という観点から見たときには非常に難しい課題があるかと思います。したがって,もし,あるとしても先ほど議論の俎上に上がりました31ページの(注)のところでも議論がありましたように,結局は免責というところで,それが確実なものとして確保されればという前提付きでありますけれども,支払いがなされて,その後の処理というのは,もちろん,紛争の可能性を含む制度になるわけでありますけれども,相続人間で調整してもらうぐらいしかないのではないかというのが私の今の考え方であります。御参考までに申し上げました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   ほかに第3の項目につきまして御発言があればいただきたいと思いますが。 ○水野(紀)委員 非常にいろいろと御苦労いただいているのですけれども,基本的にこの問題は,遺産分割手続の中における,その途中の管理の問題なのだろうと思うのです。フランスだったら公証人が,あるいはドイツだったら遺産裁判所などが,遺産の管理をしながら債権債務の整理をしていきます。そして,そのような中立的な強力な権限をもつ主体が,相続人全体の対立を超越する形で監督していて,その主体がこういうことをやるのですが,その一部がここで問題になっていて,ところが,日本法にはそのような主体による手続きがすこんと抜けていますので,これまでのように相続人同士が対立する遺産分割紛争の中で,相続人の自己主張の中に,落とし込んでいくことになると,構造的な難しさが出てくるのだろうと思います。   日本法は,清算や管理を伴う遺産分割手続きを私人である相続人に任せてしまっていますので,そのお陰で随分と社会としては安上りに付いているわけですが,それゆえに生じる大変な部分もあるわけで,そこを銀行に少し助けてもらおうかというのでは,銀行も悲鳴を上げられるだろうと思います。そういう構造的な問題をどのように解決するかというのは,私に知恵があるわけではないですけれども,これまでの経緯からいいますと,日本法のそういう構造の問題は,相続人が一定のリスクを抱え込んで私人で処理し,そして,銀行から引き出したときにきちんと証明書をとっていないと,その人が損をするとか,何か,そういう形で制度を組んでいくしかないでしょうか。本当にきちんと争う,遺産分割審判までいけば,確実なルートで,家庭裁判所が今,抱え込んでおられるよりも更に大変になるかもしれませんけれども,その確実なルートに乗せて保全でやれば安全,という道も作っておいて,そうではない限り,私人ですごくリスキーにやるという枠の中で,どこかで妥協点を見付けていかざるを得ない問題なのだろうと思います。   すみません,具体的なアイデアではなくて感想でございます。つまり,そういう全体構造の中で,今,あるものの枠の中でどこからやっていこうかというと,必ずどこかで矛盾が出る問題だろうと理解しております。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○村田委員 今の水野委員の御発言に関連して,本質的な問題に全て答えられる話ではないとは思うんですけれども,大法廷決定を受けて現行法の保全でどういう対応ができるかというところの一つのアイデアとしては,家事事件手続法200条1項の方の財産管理者の選任をすることによって相続債務の弁済ですとか,そういったところに対応できる部分も相当程度あるのではないかという考え方もありますので,現行法のそういう制度でどこまで対応できるのか,それで足りない部分についてどういう制度が必要なのかということも頭に置いて検討する必要があるのかなと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。200条2項との関連につきましては先ほど御指摘がございましたけれども,1項の方も含めてという御指摘として承りました。   そのほか,いかがでございましょうか。この甲・乙両案につきましては,正面からの反対があったわけではないと認識しておりますけれども,実際に動かしていくということになると生じてくる問題が幾つもあるということで,それについて一定の見通しを付けるということが必要かなということが分かったように思います。更に御発言があれば伺いますが,いかがでしょうか。   では,この点につきましては今のような理解に立ち,更に検討していただくことにいたしまして,本日の最後の検討項目に移りたいと思います。最後は36ページになりますけれども,「一部分割の要件及び残余の遺産分割における規律の明確化等」という項目でございます。事務当局の方から説明を頂きます。 ○下山関係官 それでは,部会資料の36ページからの部分について御説明させていただきます。   まず,ゴシック体の部分につきましては中間試案から特段の変更というものはございません。一部分割の要件及び残余の遺産分割における規律の明確化という論点でございますが,これは,元々,可分債権一般を遺産分割の対象とすることに伴う不都合を軽減する目的で検討を開始したという経緯がございます。それで,仮に前記2の論点におきまして丙案を採用することとした場合には,このような規律を設ける必要性というのは相当程度減少するものと考えられます。   また,パブリックコメントにおきましては,一部分割を明文で認めることによって基準が明確になるとして,これに賛成する御意見があった一方,これを明文化することによって,預貯金等の資産価値のあるもののみが分割され,田畑など財産的価値の低い遺産については放置されるなど,濫用的な一部分割が助長されるおそれがあるのではないかなどとして,これに反対する意見というのも複数寄せられたところです。これらの点を考慮いたしますと,仮に2において丙案を採用することとする場合には,本方策のような規律は設けないこととすることも考えられるように思われます。   次に,ゴシック体の②から⑤までについてでございますけれども,残部分割においては特別受益及び寄与分の規定を原則として適用することができないこととする旨の規律につきましては,パブリックコメントにおいても特に③及び⑤の規律につきまして,相続人間の協議によって一部分割が行われる場合には,将来の残部分割における特別受益及び寄与分に配慮した協議をすることは事実上,困難であることから,残部分割においてこれらを原則として考慮することができないこととすれば,不合理な結果を招くおそれがあるという意見など,反対する意見が多数でございました。これらの意見等を踏まえますと,仮に一部分割に関する規律①を設けることとする場合であっても,③及び⑤につきましては設けないこととすることが考えられるところです。   また,パブリックコメントにおきましては,一部分割の段階では遺産全体の範囲や評価が未確定であるため,特別受益や寄与分による調整を一部分割の際に十分に行うことは困難であって,むしろ,これらの調整は残部分割において行われることも多いとの御指摘がございました。仮にこのような運用が多いというのが事実でございますれば,残部分割において特別受益及び寄与分の規定を原則として適用することができないこととする規律を設けることは,このような実務運用を困難にすることになるものと思われるため,②及び④の規律を設けることの相当性についても,慎重に検討する必要があるものと考えられます。   次に,(2)の特則についてでございますけれども,これは遺産分割の対象に不法行為に基づく損害賠償請求権など,その有無及び金額が争われる可能性が高い種類の可分債権を含めることとした場合に,これによる遺産分割の遅延等の弊害を可能な限り防止するために検討したという経緯がございます。したがいまして,仮に2において丙案を採用し,可分債権一般を遺産分割の対象に含めないこととする場合には,この手当も不要であるものと考えられます。以上の点について御議論いただければと存じます。 ○大村部会長 ありがとうございます。一部分割に関する規定が必要なのではないかということで検討してきたわけですけれども,本日の2の「可分債権等の遺産分割における取扱い」で丙案を採用するということであれば,これを置く必要性というのは低いのではないかというのが基本的な御趣旨かと思いますが,この点につきまして御意見があれば伺いたいと思います。 ○増田委員 可分債権についてどのような考え方を採るかにかかわらず,一部分割は明文で入れていただきたいと考えております。元々,遺産分割の事件の長期化については,かねてより非訟家事部会においても問題にしてきたところですし,その長期化を防ぐべきであるということについては異論がないものだと思われます。また,今回,預貯金が当然分割でなくなったということによって,かりに仮払い制度が設けられたとしても,早期に遺産分割を行う必要性は高まったと考えられます。   そのような中で一部の遺産につき,争いがあることによって全体が遅延し,一部についても確定しないということであれば,当事者にとっても相当程度の大きな負担になります。現在でも一部分割は理論上,可能であるという見解もございますけれども,裁判所の一般的な運用としては原則として遺産の全部を明らかにし,争いのない遺産の範囲を確定した上で遺産分割を行うということになっておりますので,御存じのとおり,遺産分割の審判をする前にいろいろな訴訟を起こしたりしなければならない場合もあるわけです。そのようなことを防いで,遺産分割の事件を早期に解決するためにも,一部分割をして争いのある部分については,後ほど訴訟の結果を待って判断するというようなことは考えられていいと思いますし,明文の規定を置くことになれば,裁判所においても,そういう運用を安心して行えるということになるのではないかと考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。可分債権の取扱いにかかわらず,一部分割の規定は置いた方がよいという御意見と伺いましたけれども,①から⑤までございますけれども,①の原則のところのほか,個別の点については,増田委員,何かお考えがもしあれば。 ○増田委員 ②以降の方は削除した方が使いやすいように思います。それは個別の事案ごとに審判の場合には裁判所により判断されれば足りることであり,調停や協議の場合は当事者間において,残すかどうかということは決めるべきことかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。原則規定のみを存置すべきだという御意見ということで承りました。   そのほかの委員・幹事の方々,いかがでございましょうか。 ○石井幹事 全体として今回,提案されている①から⑤までの案につきましては,部会資料にあるような問題点というのがあろうかと思いますし,遺産分割の対象になる可分債権の範囲について預貯金債権に限定するという考え方を採るのであれば,この一部分割についての規律を明文化するという必要性自体もさほど高くないのかなとは思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。明文化の必要性は余り高くないのではないかという御意見ですけれども,今,両論が出ておりますけれども,ほかの方々,いかがでしょうか。 ○村田委員 増田委員がおっしゃるように,一部分割について根拠を与えるという意味において,特に①の部分を規定するのは,それはそれで確かに意味のあることだろうとは思うんですけれども,他方で,一部分割と全部分割というのがあって,そのどちらかを明確に意識して遺産分割事件を処理しなければならないとなると,現実には少し厳しい面もあるのかなという気がいたします。実際の遺産分割事件では当事者主義的運用というのがかなり行われていて,遺産分割の対象財産について当事者間で合意がとれると,神様の目からするとほかに遺産があるのかもしれないんですけれども,そこには触れないで,当事者が合意した財産に限定して遺産分割をやりましょうということで手続を進めていきます。そのため,本当は全部分割ではないのかもしれませんけれども,そこには余り関心を払わないということで進める事件というのも相当程度あるわけで,この規定を置くことによって一部分割がやりやすくなるという面もある一方で,そういう合意をベースにしてやっていっているある意味の柔軟な運用が抑制される面もあるのかなとも思うと,厳しいところもあるかなという感じがいたします。 ○大村部会長 ありがとうございました。   そのほかの方々,いかがでしょうか。②以下の規定について,これを特に置かないということについて反対はないのですけれども,①の原則規定を置くことをプラスと見るか,弊害があると見るかというところで意見が分かれているかと思いますが,何かございましたら,是非,伺いたいと思います。 ○堂薗幹事 1点,御意見があればお伺いしたいところがございます。①については,従前から,遺産の範囲について争いがある部分については分割の審判をせずに,争いがない部分についてのみ分割の審判をして,それで,事件としては終了させると。争いがある部分については訴訟などでそれが確定した段階で,再度,遺産分割の申立てをしていただくということを考えておりまして,そういった意味では,現行行われている一部分割とは異なる面があるのではないかと思います。このように,相続人間で遺産該当性について争いがあるからということで申立てがあるにもかかわらず,その部分については,その段階では分割しないという審判をすることについて手続法的な観点から見た場合に,問題がないかどうかという点につきまして,もし御意見がございましたら,お伺いしたいと思っているところでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。いかがでしょうか。 ○垣内幹事 先ほど当事者主義的運用というお話もありましたけれども,当事者が申立てを維持しているにもかかわらず,遅延するおそれがあるという理由で却下してしまうというのは,かなり異例の扱いであることは間違いないだろうと思っておりまして,そういう意味では,問題がないとは言えないような感じが私はしております。従前,議論されていたように可分債権等の取扱いとの関係で,どうしてもそういった必要性があるということであれば,それはやむを得ないという政策判断はもしかするとあり得るのかもしれませんけれども,一般的に今の①のような形での規定ということになりますと,これはかなり突出した制度という感があるかなというのが私自身の個人的な印象です。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○増田委員 38ページのところでは,却下することを想定していると書かれています。適法な申立てがあるにかかわらず,一部を却下するというのは異例の制度かなと思いますが,却下ではなくて遺産分割はしない旨の審判もありうると考えます。従前から遺産分割禁止の審判というのは行われていたわけですけれども,あれも多分に便法的なところがあったように思われるわけで,この場合には禁止するということではなく,分割しないという判断を示すことで,現在は分割しないけれども,不適法ではないということを表示するというのはありかなと。確かに異例と言われたら異例ですけれども,遺産の範囲が確定すれば改めて分割を申し立ててくださいねという意味のメッセージを含めて,分割しない審判というのはありうると思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほかの方々,もし,今の点につきまして御意見がありましたらお願いいたします。   では,今の御意見を踏まえて事務当局に更に御検討いただくということで,①を残すかどうかということにつきましては,なお,検討するということにさせていただきたいと思います。ほかはよろしゅうございますでしょうか。それでは,この点につきましては今のように取扱いをさせていただきます。   最後になりますけれども,今後の日程等につきまして事務当局の方から御説明を頂きたいと思います。 ○堂薗幹事 それでは,次回の日程でございますが,既に御案内のとおり,3月28日(火曜日)の午後1時半からを予定しております。次回は相続人以外の者の貢献,中間試案でいいますと第5を取り上げるほか,これまで御議論いただいた論点のうち,要綱案の全体的な検討に入る前に,更に詰めた検討を要する事項というのが幾つかあると思いますので,そのうち,準備ができたものを2,3取り上げて部会資料に載せ,それについて御議論いただくということを考えております。今のところ,長期居住権の財産評価に関する問題や,遺言がある場合の義務の承継に関する問題を取り上げることを考えておりますが,それは今後の検討状況次第というところがございますので,その点は御了承いただければと思います。次回の場所でございますが,次回は法務省20階の第1会議室になります。次回もどうぞよろしくお願いいたします。 ○大村部会長 ありがとうございました。   次回の予定は今,お話があったとおりでございますので,どうぞよろしくお願い申し上げます。   本日も長時間にわたりまして熱心な御検討を頂きまして誠にありがとうございました。これで閉会させていただきます。 -了-