法制審議会 会社法制 (企業統治等関係)部会 第3回会議 議事録 第1 日 時  平成29年 6月21日(水)   自 午後 1時31分                          至 午後 5時34分 第2 場 所  東京地方検察庁総務部会議室 第3 議 題  会社法制(企業統治等関係)の見直しについて 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○神田部会長 それでは,予定した時間になりましたので,法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会の第3回目の会議を開催させていただきます。   皆様方には,本日も大変お忙しいところ,お集まりいただきまして誠にありがとうございます。   それでは,まず最初に事務当局から参考人の御紹介をお願いいたします。 ○竹林幹事 参考人の御所属等は議事次第に記載させていただいているとおりでございますが,本日は「取締役の報酬等に関する規律の見直し」の審議の関係で櫛笥様に,「D&O保険に関する規律の整備」の審議の関係で石丸様及び土屋様に,参考人として御参加いただく予定でございます。   石丸様及び土屋様は本日途中からの御参加となります。どうぞよろしくお願い申し上げます。   なお,本日は,稲垣委員,川島委員,成田幹事は御欠席でございます。天候の関係で遅れていらっしゃる委員の方がいらっしゃるかと存じます。   また,人事異動の関係で本日より民事局付の青野が関係官として参加させていただきます。どうぞよろしくお願い申し上げます。 ○神田部会長 ありがとうございました。   それでは,続きまして,いつものように本日の会議の配布資料の確認をさせていただきたいと思います。   事務当局からお願いいたします。 ○竹林幹事 本日は,お手元に議事次第,配布資料目録,部会資料といたしまして3及び4,参考資料といたしまして10から14までと委員名簿を配布させていただいておりますので,御確認ください。   不足のものなどございましたら,係の者までお申し出ください。   なお,参考資料14は,本日御欠席の川島委員から御提出いただいた御意見でございますので,御参照いただければと存じます。   また,部会資料3は,前回の配布資料を再度配布させていただいているものでございます。   配布資料の説明は以上でございます。 ○神田部会長 ありがとうございました。   配布資料,よろしゅうございますでしょうか。   それでは,本日の審議に入らせていただきたいと思います。   本日も5時半までを予定とさせていただきまして,3時半頃に15分間程度の休憩を取るということを考えた上で御審議をお願いしたいと思います。   本日の審議の内容は,お手元の議事次第に記載のとおりであります。   まず,「役員に適切なインセンティブを付与するための規律の整備に関する論点の検討」ということですけれども,それに加えて前回の積み残し部分がありますので,今御説明ございましたとおり,部会資料3のうち前回積み残した部分についても本日御審議をお願いすることを予定しております。   ただ,参考人をお招きしていることとの関係で,順序としてはややジグザグになりますけれども,最初に「役員に適切なインセンティブを付与するための規律の整備に関する論点の検討」について,「取締役の報酬等に関する規律の見直し」と,それから「D&O保険に関する規律の整備」という順番で審議をしていただき,その後,前回の積み残し部分に一旦戻ります。それが終わった後,最後に「会社補償に関する規律の整備」の審議をお願いすると,こういう順番で進めさせていただきたいと思います。   ということで,まず,「取締役の報酬等に関する規律の見直し」の審議に入りたいと思います。お手元の部会資料4の第1につきまして事務当局に説明をしていただき,その後,参考人としてお越しの櫛笥参考人に御説明というかプレゼンテーションをしていただきたいと思います。   それでは,事務当局からの御説明をよろしくお願いします。 ○邉関係官 それでは,部会資料4,「第1 取締役の報酬等に関する規律の見直し」について御説明いたします。   現行法の取締役の報酬等に関する規律に対しては,お手盛りを防止するという趣旨からしても見直しを検討すべき点があるのではないかという指摘や,取締役の報酬等を取締役に対し適切に職務を執行するインセンティブを付与するための手段として考え,そのような手段として適切に機能するよう規律を見直すことを検討すべきであるという指摘,近時これまでには余り見られなかった新たな内容の取締役の報酬等が見られるようになってきていることを踏まえて規律を整備する必要があるという指摘などがあるところです。現行法の規律に対するこれらの問題意識を考慮しながら,1以下で具体的な見直しの案について御議論いただきたいと考えております。   「1 報酬等の内容に係る決定に関する方針」は,取締役の報酬等の内容に係る決定に関する方針を定めているときは,報酬等に関する議案を株主総会に提出した取締役は,株主総会において,方針の内容の概要並びに議案が方針に沿うものかどうかについての判断及びその理由を説明しなければならないものとすることについて,どのように考えるかを問うものです。   ここでは,「方針を定めているときは」としているとおり,指名委員会等設置会社以外の株式会社において,方針を必ず定めなければならないこととなることまでは想定しておりません。また,この方針には,総体としての取締役の報酬等の内容に関する方針,例えば最高限度額と取締役の員数との関係についての方針等も含まれることを前提としております。   2ページ目,「2 当該株式会社の株式又は新株予約権を報酬等とする場合」の「(1) 定款又は株主総会の決議によって定めなければならない事項」は,指名委員会等設置会社以外の株式会社において,当該株式会社の株式又は新株予約権を取締役の報酬等とする場合に,定款又は株主総会の決議によって定めなければならない事項,これを見直すことについてどのように考えるかを問うものです。   具体的には,(注1)のとおり,報酬支払請求権を現物出資財産として給付させることによって当該株式会社の株式を交付することや,いわゆる相殺構成により当該株式会社の新株予約権を交付することを予定して金銭を報酬等として付与する場合には,当該株式会社の株式又は新株予約権自体を報酬等として付与する場合と同じく,会社法第361条第1項第3号の適用があるものとすることについてどのように考えるか, (注2)のとおり,当該株式会社の株式又は新株予約権に関して,会社法第361条第1項第3号の適用がある場合に定款又は株主総会の決議によって定めなければならない「具体的な内容」をより明確にすることについて,どのように考えるかを問うものです。   (注2)に関しては,仮に「具体的な内容」を明確にすることにする場合のイメージを,4ページ目,補足説明2(2)ア及びイとして記載しておりますので,これらについても御意見等があれば頂戴したいと考えております。   なお,株式報酬を付与する場合には,一定の業績目標等の達成を条件として株式を交付すること,交付を受けた株式を一定期間他人に譲り渡さないことを約することを条件として株式を交付すること,一定の事由が生じた場合に交付を受けた株式を株式会社に無償で譲り渡すことを約することを条件として株式を交付することなどが行われているかと存じますが,その場合におけるその条件は,(2)アの(ウ)に該当することになるものと整理しております。   5ページ目,2「(2) 株式を報酬等とする場合における金銭の払込み」は,当該株式会社の株式を取締役の報酬等とする場合において,当該株式に係る会社法第199条第1項の募集をしようとするときは,募集株式と引換えに金銭の払込みを要しないこととすることができるものとすることについて,どのように考えるかを問うものです。   このような見直しをすることとした場合には,有利発行規制,当該株式の発行による資本金の額等への影響,資本充実の原則といった観点からの整理が必要になるものと思われますし,また,このような見直しをすることについては,不当な経営者支配を助長することになるのではないかというような懸念などもあり得るところかと存じますので,その辺りも含めて御議論いただければと考えております。   なお,本文は,「当該株式会社の株式を取締役の報酬等とする場合」についてのものであり,会社法第199条第1項の募集一般において,募集株式と引換えに金銭の払込みを要しないこととすることができるものとすることまでを念頭に置いたものではございません。   6ページ目,「3 取締役の個人別の報酬等の内容に係る決定の再一任」は,取締役会設置会社において,定款の定め又は株主総会の決議によって取締役の個人別の報酬等の内容に係る決定を取締役会に委任した場合には,取締役会は,当該決定を取締役に委任することができないものとすることについて,どのように考えるかを問うものです。   いわゆる,代表取締役に対する再一任は,取締役会による代表取締役に対する監督に不適切な影響を与える可能性があるものであり,禁止することが相当であるという考え方がありますが,再一任を禁止することまでは必要でなく,再一任している場合には,その旨を事業報告等により株主に開示することで足りるのではないかという考え方などもあるところです。   7ページ目,「4 事業報告における開示」は,公開会社における事業報告の内容のうち,取締役の報酬等に関する事項を見直すことについて,どのように考えるかを問うものです。   「例えば」として,(1)から(5)までの項目を掲げておりますが,各項目の内容については,それぞれ,補足説明1から5までにもう少し具体的に記載しております。   7ページ目,補足説明1では「報酬等の内容に係る決定に関する方針の概要等」として,例えば,株式会社が取締役の報酬等の内容に係る決定に関する方針を定めているときは,当該方針の決定の方法,当該方針の内容の概要並びに当該事業年度に係る取締役の報酬等の内容が当該方針に沿うものかどうかについての取締役会(指名委員会等設置会社にあっては報酬委員会)の判断及びその理由を事業報告の内容に含めなければならないものとすることが考えられるとしております。   補足説明2では,「会社法第361条第1項の株主総会の決議の日及び当該決議の内容等」として,例えば,会社法第361条第1項の株主総会の決議の日,当該決議の内容及び当該決議が二以上の取締役についての定めであるときは,当該定めに係る取締役の員数を事業報告の内容に含めなければならないものとすることが考えられるとしております。   補足説明3では,「取締役の報酬等の種類ごとの総額」として,例えば,当該事業年度に係る取締役の報酬等について,報酬等の種類及び種類ごとの総額を開示することとし,その種類は基本報酬,業績等連動報酬,株式,新株予約権等,賞与,退職慰労金及びその他の報酬等の7種類とすることが考えられるとしております。   補足説明4では,「当該株式会社が職務執行の対価として交付した株式があるときは,その内容の概要等」として,例えば,当該株式会社が職務執行の対価として交付した株式があるときは,その内容の概要等を事業報告の内容に含めなければならないものとすることが考えられるとしております。   補足説明5では,「取締役の個人別の報酬等の内容」として,例えば,取締役の個人別の報酬等の内容を事業報告の内容に含めなければならないものとすることが考えられるとしております。これに関しては,代表取締役への再一任の実務を前提として,少なくとも代表取締役の報酬等の内容については,事業報告の内容に含めなければならないものとすることが考えられるという指摘もあるところです。   御説明は以上となります。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,続きまして,本日参考人としてお越しいただいております櫛笥参考人からプレゼンテーションをお願いしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。 ○櫛笥参考人 ウイリス・タワーズワトソンの櫛笥と申します。   参考資料11と書かれた資料に基づき説明をさせていただきます。少し分量が多くなっておりますけれども,事例や参考情報としてのページもかなり多くなっておりますので,15分程度で御説明をさせていただこうと思っております。   我々の資料の整理の趣旨ですが,欧米の状況として実際にどのような経営者報酬プラクティスがあって,それに対して株主がどのような意見表明をしているか,ここをまず整理させていただいた上で,日本における検討の着眼点ということで,株主関与の在り方について,実務を通じて思うことを少し整理させていただいたということです。   まず,最初の欧米の状況,プラクティス及び株主意見表明の在り方ということで,3ページ目,4ページ目辺りになりますけれども,3ページ目は欧米のプラクティス,4ページ目は欧米における株主意見表明の在り方ということで,それぞれ1枚ずつ表で整理をさせていただきました。相当に概括的なものですが,まず3ページ目は,欧米におけるプラクティスの概要としまして,アメリカと,欧州につきましてはイギリス,フランス,ドイツの3か国について簡単に整理をしております。   表を縦に御覧いただいて,まずよく外に出しているデータを用いて報酬の構成と水準について見ていきますが,アメリカが一番業績連動報酬比率が高く,イギリス,フランス,ドイツは,固定報酬に対して大体2倍ぐらいのウエイトの業績連動報酬が入っているということです。   この四つの国の中では,アメリカの中長期インセンティブの割合が突出しており,欧州各国は大体固定報酬と同じ額,あるいはそれより少し多い割合のウエイトがあるというところです。水準については,これは売上高1兆円以上企業のCEOの中央値ですが,一番上の表のグレーのハイライト部分で示されているような数字がデータとしては出てきます。   次にその中長期インセンティブプランの中身ですが,欧米では単純な株式報酬ではなくて,業績条件等を加味して,いわゆる一定年数経過後の業績の状況あるいはTSRという株式価値の増分の状況を評価に絡めて数を変動させたりしています。これをパフォーマンス・シェアとかユニットとか言うわけですが,こちらが主流だということです。特にイギリスでは,ほぼ全ての主要企業がこのようなプランを入れています。ドイツだけは少し異なっていて,株式報酬の付与に関する諸規律が厳しいということもあり,中長期のキャッシュプランが主流になっていますが,全体としてはパフォーマンス・プランと呼ばれるものが一般的な中長期インセンティブとなっています。   更にプロセス面,報酬委員会の状況に目を向けてみますと,この四つの国では報酬委員会の設置が概ねマストになっています。ドイツはSupervisory Boardに報酬決定権があるわけなのですが,非業務執行役員の関与の下に決めるプロセスが存在しているという点はどこも同じです。   開示につきましては,各国で独特の差異もありますし開示項目の分量も多いため,ここでは細かい解説は割愛しておりますが,よく知られているように,日本とは較べものにならないくらいのかなり充実した情報開示があるところです。アメリカですとProxy Statement,ほかのヨーロッパ諸国はAnnual Reportに報酬に関する開示のパートが設けられております。   続きまして4ページは,これらのプラクティスを踏まえて,実際に株主意見表明の在り方について,どのような枠組みがあるかということです。   表の縦のところで,まずSay on Pay関連ですが,大きく報酬の方針に対する意見表明というものと,報酬制度の実行状況に対する事後的な意見表明,この二つの枠組みに分かれているという整理になります。   アメリカは,事後的な報酬制度の実行状況に対して,会社の制度運用の結果や報酬委員会の判断の結果の良し悪しについて,法的には最長3年ごとに一度でよいとしても,実質的には毎年の頻度で,株主が勧告的に投票するということになっています。   イギリスでは,事後的な勧告的投票の枠組みが古くからあるのに加え,事前の報酬の方針に対しても,3年ごとの拘束力ある決議が求められるようになっています。   フランスは少し近年厳しくなっており,特に来年からは新しい法律に基づき,報酬の方針に対する事前の意見表明も事後の実行状況の意見表明も,基本的には拘束力ある決議として取り扱われるようになりつつあります。   ドイツは,逆に事後のSay on Payというのはなくて,事前の報酬の方針に対しての勧告的投票の枠組みがあり,これは株主の求めに応じてやるという制度となっております。   これらの制度については,細かくいろいろ動きがあります。フランスとドイツについては,SRD,株主権指令などと訳されていることが多いですが,これが今年の3月に可決されたことに伴い,更に一定の方向にそろっていくということになるのだろうと思います。イギリスについては,Brexitとの関連でSRDをどこまで踏まえるのかという話もありつつ,一方で,独自の議論が進んでいるというのが現状です。   あと,上のSay on Pay関連以外のところで,株式報酬に対してはそれぞれの国の法律で独立の取扱いがされていると認識しておりまして,アメリカもヨーロッパも,基本的には役員だけではなくて,全対象者分に対する株主総会議案,事前の承認が必要という認識です。   また,少し間接的にはなりますけれども,報酬委員会が必ずある前提で,その委員の任免あるいは委員長の任免について意見を投じるという枠組みもあります。   5ページ以降は,参考としまして,アメリカとイギリスを掘り下げる形で事例を出しております。機関投資家ごとにいろいろなガイドラインがあるところですが,国ごとのガイドラインを詳細に開示しているISSのものを並べてみたものが5ページ以降ということになります。   まず,アメリカ,5ページですけれども,報酬制度の実行状況に対する事後的な意見表明,拘束力の無いアドバイザリーボートとして,基本的にはペイ・フォー・パフォーマンスの関係に著しい不整合がある,あるいは報酬慣行に著しい問題がある,あるいはコミュニケーション不足というところで,反対推奨をするというところです。   6ページは,同じように事後のアドバイザリーボートの続きということで,表に書かれているようなポイントも意見表明の対象としているということです。   7ページは株式報酬について,ここには明記していませんが,幹部だけではなくて従業員分も含めプラン全体についてのガイドラインという立て付けになっています。アメリカの特徴はオムニバスプランとしての承認ということで,議案の中に今後発行し得る様々な種類のいわゆる株式報酬の器を全て想定して書いておいて,以後は承認の範囲内において,委員会の裁量で適時にプランを実行できるようにするという形が一般的です。   ガイドラインには確認すべきポイントがいろいろ書かれておりますけれども,例えばプランのコストという点ではShareHolder Value Transferという基準があり,価値がどのくらい対象者に移転するかについて,一定の判断基準に沿って良い悪いを判断しています。更にはBurn rateということで,議決権の希薄化についても一定の基準に沿ってチェックするということが明示されています。   8ページは,報酬委員の任免に係るガイドラインの内容です。誰が報酬委員なのかについては当然開示もありまして,9ページ,Aflac社のCompensation Discussion and Analysis,その中のCompensation Committee Reportがその例となります。非常に短い行ですが,ポイントとしましては,最終的に制度の運用が妥当であったと判断したということを,委員氏名と共に宣誓するような開示が必ず付されるということです。具体的な判断の経緯,審議の内容等については,CD&Aの報酬制度全般の開示の中で少し書かれることもあります。   続いて10ページ以降のイギリスです。イギリスでは先ほど御説明したとおり,報酬の方針に対する事前の拘束力ある決議,バインディングボートがあり,報酬制度の実行状況ということで,アメリカのSay on Payと同様に事後の意見表明,アドバイザリーボートがあります。   まず10ページは報酬の方針についての判断基準を整理していますが,基本的には報酬のフィロソフィー,ポリシーといった,委員会判断の基軸はこうあるべきというような考え方が列挙されています。最近のイギリスの議論の特徴として,10ページの表の一番上から2行目ぐらいにありますが,報酬制度の複雑性に対するネガティブな見方が急速に広がってきたことに伴って,単純な制度,分かりやすい制度を求める世論の状況があり,それがガイドラインにも反映されています。   11ページ,報酬制度の実行状況に対する判断基準ということですけれども,やはりPay for Performance関係がどうなのかが基本です。いわゆる報酬の額と業績について,母集団におけるそれぞれの相対的な位置付けがおおむね一致しているのかどうかを見て良し悪しを判断しているということです。   12ページの株式報酬については,アメリカと同じような形になっていますが,イギリスでは前述のとおり過度に複雑でないものというようなことがポイントに挙げられたりしています。あとは価値の希薄化の問題,あるいは議決権の希薄化の問題,これについてのチェックも行なわれています。   13ページ,報酬委員長に対して反対推奨を実施することがあるというポイントも挙げられています。   14ページは,イギリスでGSK社の報酬報告書, Remuneration Reportの中における,報酬委員長のステートメントです。このような声明を出すことが法律で義務付けられているわけなのですが,前年度,報酬委員会として報酬制度をどのように実行して,報酬の方針をどのように見直したのかについて,委員長氏名を明記して,いわゆる宣誓のようなものが行われています。こういったプロセスのあり方も踏まえて,良し悪しを株主が判断するという実務となっています。   以上が整理になるわけなのですが,アメリカとイギリスについては,現在,規制関連の議論に動きがございます。アメリカのトランプ政権への移行,イギリスのBrexitの影響で,報酬関連規制の方向性が少し変わってきておりますので,注意的に資料を用意したのが15ページになります。   2016年以前の状況ですと,一番進んでいるイギリスをアメリカが追随する形で,報酬に関する妥当性判断のあり方を規律付けていこうという動きがありました。現状,特にアメリカはトランプ政権移行後,一部の採択済みの規制はそのままになる見込みなのですが,これから採択されようとしているもの,具体的にはPay for Performanceの開示であるとか,いわゆる株式報酬のヘッジについて開示させてけん制するというもの,あるいは一旦支払った報酬を後で会社に返納するクローバック条項の義務化については,少し規律付けの実現可能性が下がっているというのが現状です。一方で,イギリスについては逆に更に強く規制強化の方へ流れているという状況になっております。  具体的に,まず16ページの表はトランプ政権前のアメリカにおける議論ですが,四つある規制案のうち,ペイ・レシオの開示,これは従業員平均給与とCEO報酬の比率を開示して,Internal Equity,内部公平性のアンバランスをけん制しようという規制ですが,こちらは何らかの形で制度がスタートすると見られておりますが,下の三つについてはちょっと分からなくなっているという状況です。   17ページはBrexit後のイギリスにおいて,政府がいろいろなことを言い出しているということです。基本的には,やはり格差の拡大をけん制する目的で,経営者報酬に対していろいろな引き締めを要請しているということとなります。これは,投資家団体の方もいろいろなことを言っておりまして,特にInvestment AssociationであるとかLGIMは,近年,分かりやすく複雑でない報酬制度を推奨し始めているというところです。   更に最近の動きですと,18ページですが,いわゆるBEIS,イギリスの経済産業省のような政府機関ですが,ちょっと過激なコメントもありまして,長期インセンティブプランはできる限り廃止するべきであるというような提言をしたりしています。具体的には,株式報酬をなくせということではなくて,基本的に業績評価に基づく報酬額の決定は毎年行なった上で,その一部を株式によって繰り延べる形のシンプルなものが望ましいのではないかというような提言になっています。あとは,事後的な拘束的決議は不要という考え方を述べたりもしています。いわゆる事前と事後の挟み打ちで拘束的決議にしようとする流れが欧州全体であるのですが,報酬の水準も含めた実行状況に関して事後的に否決をしてしまうと,少し運用の安定性を害するというところが懸念としてあるようで,そこは慎重になるべきだという意見のようです。   19ページは,イギリス以外のEU加盟国に対するSRDの話ですが,このペーパーの対象とした国で言うとフランスとドイツになりますが,Say on Payの法制義務化ということで,基本的には事前の報酬の方針に関しては拘束力ある決議を,最低でも4年に一度の頻度ではやるべきではないかということ,あるいは,事後の報酬制度の実行状況につきましては,これはアドバイザリーボートとしてどこの国もやるべきだというようなことが言われています。これを受け,今後2年以内に各国において法制化されていく見込みになるものと見ております。   以上が大分駆け足になりましたが,主要欧米4か国の状況の整理です。   20ページ以降,日本における検討の着眼点ということで,実務を踏まえて,少し株主の意見表明の在り方に関わる部分で気がついたところをコメントとして整理をさせていただきました。日本も含めて簡単に比較表を作ってみたのですが,それが21ページの下段です。   株主の意見表明のスタイルというものを,かなり乱暴にはなりますけれども,五つの要素ぐらいに分けています。事前と事後で分けたときに,まず事前の金額規制という枠組みがあって,これが日本の報酬規制の中心となっているということと思っております。次の株式報酬規制については,欧米では報酬規制とは別の,プラン単位での包括的な事前規制が置かれています。日本でも,過去はストックオプションが,役員報酬決議ではない,新株予約権の有利発行という事前規制の形だったわけで,会社法以前の状態は欧米と同様の形であったと認識をしておりますが,現在は役員報酬として金額規制に内包されている形かと思われます。その他,日本には枠組みがありませんが,今,欧米の株主の意見表明の在り方で御説明をしたような報酬の方針に対する事前の意見表明があります。部会資料で使われている会社法上の「方針」という表現ともしかしたら多少意味が違うのかもしれませんが,欧米では報酬のポリシーとか報酬フィロソフィー,哲学と呼ばれていて,報酬委員会の判断の大枠として置かれるようなものです。また,事後の意見表明としては実行状況に対するものがあり,これも日本にはない枠組みです。それに報酬委員長の任免を合わせ,要素としては合計で五つぐらいあるのかなと。   報酬制度と株式報酬で大きな特徴をつかまえますと,まず報酬制度に関して,欧米では,制度設計や運用上の判断というのはある程度報酬委員会に任せるという前提があるのだろうと思います。その上で,実行状況の妥当性,いわゆる事後的な妥当性のチェックと報酬委員の任免,これも事後的な意見表明の一つになると思いますが,この枠組みを基本としているということかと思います。その上で,近年ではあらかじめ報酬委員会等の判断の基軸となる報酬の方針を事前承認に服させることで,更なる株主統制を加えようとする流れがあると見ることができます。   株式報酬に関しては,特に株主とのコンフリクトが大きいという認識が背景になっているのかもしれませんが,欧米では報酬規制とは別に,議決権の希薄化,価値の希薄化を焦点に,全対象者分について事前承認に服させているということになっています。   一方で,日本ですけれども,取締役報酬予算としての事前の金額枠の承認というのが主な規制の枠組みになっていて,事後的な意見表明の機会というのは,限定的ということになります。株式報酬につきましても,飽くまで報酬決議の範ちゅうとして,報酬予算と制度の中身について,取締役,役員部分についてのみ承認が行われているということかと思います。   このような違いを踏まえ,22ページと23ページに課題認識ということで,飽くまでも着眼点の例として示しています。まず金額規制が中心となっていることについて,企業が実務上どのようにこれを捉えているかというと,金額枠の説明責任を最初から慎重に考慮しつつ報酬制度を検討していくということは余り無くて,最終的に出来上がった制度について,過去の承認済み報酬枠との関係から,今回新たに承認を得なければいけないところはどこかという確認の際に,金額枠への意識が始めて出てくるというのが実状かと思います。基本的には,ペーパーでも御指摘が既にありますように,一旦上限額を決めると予算範囲内の運用を続ける限りは株主意思を聞く必要がないという意識になりますし,逆に予算を超えない限りはある程度自由にできるという感覚を持つのが自然ということになると思います。   また,株主の意思表明が及ぶ範囲は,親会社単体かつ役員のみの報酬額ですので,仮に報酬の相当性について意見表明をするといった場合に,どこまで現実的に意味があるのかという論点もあると思います。これは,いわゆる取締役会の在り方がそもそも各社各様だということや,また,例えば持株会社体制をとっている場合に,結局持株会社の役員報酬にしか一般株主は意見表明できないというところなど,基本的には連結グループ全体の経営にインパクトを与える重要な業務執行者に対してインセンティブの相当性を判断したいと考えられるところ,会社の経営体制によっては,そこまで届かないケースがあるということだと思っています。   あと,株式報酬についても,1号,2号,3号で言いますと,大体1号で金額の枠を取った上で,3号で具体的な内容を記載するというのが実務となっていて,1号部分については財産上の利益として流出し得る部分を枠として取るということなのですが,株式報酬については特に,役員の方が実際もらう報酬の額と,いわゆる会社のコスト,財産上の利益というのが全く違うわけです。そうしますと,結局同じ会社コストでも,固定的に払われるものなのか,変動報酬として動き得るものなのかというのは総会の場では一切分からない。もちろん専門家が見れば分かる話なのですが,ぱっと見は分からないと。ですので,相当性という場合に金額を一律に規制の対象とすることにどこまで意味があるのかなというところは,少し疑問に思っている部分です。   あとは,これは日本特有の問題ですけれども,財産上の利益の測定のベースになるのは会計基準ですが,株式報酬の会計基準について,まだ日本はストック・オプションに関するものしか存在していません。比較的最近新しく出てきた信託プランについては,これは従業員の会計基準を援用する形で適用されているということですし,昨年から始まるようになった現物株式報酬についての会計基準も存在していません。   こういう中で,規制の対象となる金額の同質性といいますか,一貫性や制度的担保の余りない中で金額の承認をするということに対する,少し違和感めいたものがあるというのが実務上の感覚です。   またそもそも,今御説明いたしましたとおり,欧米については報酬予算の承認という形の金額規制をしている国というのは余り見当たらないのかなと。もちろん,上限規制ということで幾つかルールを置いている国もあります。例えばフランスですと,公営企業の場合,社長の報酬に45万ユーロの上限を付していたり,あるいはグローバルの金融機関に対する報酬規制として変動報酬の基本報酬に対する比率を例えば200%までにするとか,そういう個人別のものは存在しますけれども,一定の範囲のエグゼクティブをグルーピングして,その報酬総額の予算に対して株主の意見を得るという実務は存在しないという認識をしています。   したがって,いろいろな点を考えると,この金額規制,しかも単体ベースの規制というものにどのような意義があるのか,報酬の相当性という文脈で規制の在り方を考えていく場合に,金額規制というものがかえって企業や株主の判断をゆがめることにつながらないかというのが問題意識としてはあります。   次に,23ページの株式報酬ですけれども,株式報酬規制の問題点としては,現状取締役報酬規制として株主総会で議案が出てくるというところかと思われます。本来でいうと執行役員とかグループの役員に付与するものもありながら,そこに対する希薄化等の情報というのは,出さなくても議案としては適法という状況で,IR的にきちんと情報を議案に補足する会社もありますけれども,実務上は出さない事例もかなりあるのだろうと。そうすると,株主の価値移転とか議決権の希薄化という文脈では,本体の取締役分として切り取られた部分しか出てきていないというのが実状です。   その上で,その限定的な情報をベースに,例えば成熟企業で言えば10年間で同じプランを継続したときに5%を超えないという基準に基づき投資家が賛否を判断している実務があるなど,少しちぐはぐな状況になっているのが現状かなと思っています。   したがって,株式報酬については,包括的に全対象者をカバーするということがもしかしたら必要かもしれないなというのが1点目です。  2点目としては,特に価値の希薄化に関わるところですが,現物株式の付与につきまして株主が知りたいのは,どのくらいの経済的価値が移転するかであるところ,現物出資構成による公正発行の方法を採る限り,払込価額が常に価値の算定基礎となるということになりますので,業績条件などの報酬制度の内容に基づいた経済的価値というものを測定できないという論点もあります。これは,現状日本基準でやるかIFRSでやるか,会計基準によっても大分変わってきてしまうところで,実務を支援する我々としても,そういう余り制度設計上本質的ではないところのメリット・デメリットを整理してお客様に提供せざるを得ないような状況というのが現状起きています。この点は,無償発行をもし可能にできるのであれば,その方がすっきりはするのかなと思います。   説明は以上になります。ありがとうございました。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,全体を二つの部分に分けて御議論をお願いしたいと思います。資料で申しますと1と2ですね。それについて議論をしていただいて,その後,3と4ということにしたいと思います。具体的には,1が「報酬等の内容に係る決定に関する方針」についてということになります。2が,この株式会社の株式又は新株予約権を報酬等とする場合ということになります。この二つにつきまして,御質問,御意見をどなたからでもお出しいただければと思います。   なお,ただいま頂きました櫛笥参考人のプレゼンテーションについての御質問や御意見等がありましたら,これも併せてお出しいただければと思います。どなたからでも,いかがでしょうか。 ○古本委員 ありがとうございます。   まず,部会資料に記載されております取締役の報酬等に関する規律についての問題意識についてでございますけれども,それ自体は私どもとしても理解できないものではないと考えてございますが,現行規律を見直す必要性があるとは考えてございません。役員報酬のインセンティブ化を進めていこうというときに,これに逆行するような規制強化になるのであれば,新たな規律を設けることには慎重であるべきという立場でございます。   まず,金銭報酬に関して申し上げますと,報酬上限額をもってする取締役会への委任と代表取締役への再委任,これは私どもにとりましてはもう何十年も続いている実務であり,すっかり定着したものになってございまして,これを変更するということになりますと,総会運営含め,実務への影響は極めて大きいものがあるということについて十分御理解を頂きたいと思います。   それから,株式報酬についてですけれども,会社法の361条の1項の1号から3号に基づき,1号と2号,あるいは1号と3号という組合せで総会決議を得るという実務慣行が定着してございます。部会資料では,実務において規律が緩やかに運用されていると指摘されておりますが,現行実務が今のように行われているのはそれなりの理由があることでもありますし,また,今のプラクティスが会社法361条の現行の規律の範囲内にあるということは,皆さん御案内のとおり,最高裁の判例でも確定されていると理解してございます。したがって,規律を強化するということであれば,現行実務により生じている問題点を明らかにしていただいて,それに対する改正と実務への悪影響,これを比較衡量するような形で御検討いただきたいと思います。   それから,インセンティブ付与としての役員報酬についてでございますけれども,コーポレートガバナンス・コードにおきましても経営陣の報酬にインセンティブ付けを行うべきだとされておりまして,現在各社で様々な取組を行っているところです。こうした中で新たな規制を導入するということになりますと,各社においてインセンティブ報酬を導入する上での手続が重くなり,政府の政策,企業の動きと逆行することにもなりかねないと思っております。したがって,インセンティブ付けについては,各社の工夫に委ねることとしていただきたいと思ってございます。   今申し上げたのは,規律を見直すべきかどうかという問いに対する私どもの総論的なコメントでございまして,部会資料で提示されている1番と2番についてもそれぞれ若干コメントを申し上げたいと思います。   まず,「1 報酬等の内容に係る決定に関する方針」についての御提案につきましては,取締役が提出した議案について取締役会が定めた方針に沿うものかどうかを説明するということがポイントなのかというふうに思うわけですけれども,取締役会が定めた方針をまず正しいものとした上で,提示された報酬議案がそれに合致するか否かを重視しているようで,印象論かもしれませんけれども主客が転倒しているような印象を受けております。現行実務のように,総会で上限枠を決定して,その配分については取締役会がその方針を定めて決めるという方が適切ではないかと思います。   また,現実的に考えましても,取締役会が自ら定めた方針に沿わないような報酬議案を総会に提出するというようなことは起き得ないと思いますので,こういう規制を入れても,説明のための説明になるだけのように思われます。   したがって,実務から見ますと,ここで提示されているような新たな規律の導入については,本当に必要なのかなという受け止めをしております。   部会資料のこの部分について2点確認させていただきたいと思います。   まず一つは,ここで記載されている報酬等の内容に係る決定に関する方針についてです。指名委員会等設置会社以外の会社については,現行制度上は会社法施行規則で定められた方針を記載するかどうかを選択できるということになっているのですけれども,今回ここで示されている方針というのは,それに置き換えてこういう方針を規定することを想定しているのか,それとも追加する形でこういう方針もあればこういう方針も採用可能ですというふうに考えておられるのか教えていただきたいと思います。   もう1点は,監査役設置会社などが資料に記載されている新たな方針を定めない場合,部会資料では方針を定めるか定めないかは強制しないことが前提になっており,定めた場合にはこうしなさいと,こういう御提示がなされているわけですけれども,定めない場合にはどうなるのかということを確認させていただきたいと思います。つまり,個々の取締役への具体的配分の決定を取締役会に委任する手続ですけれども,総会で説明すべき事項等について,従来どおりの方針で従来どおりのやり方をするということが許されるのかということを確認させていただきたいと思います。   それから,「2 当該株式会社の株式又は新株予約権を報酬等とする場合」についてのこの新たなお考えについてですけれども,まず,(1)の「定款又は総会の決議によって定めなければならない事項の見直し」につきましては,今申し上げましたとおり,会社法の361条の1項の1号と3号又は2号と3号といった組合せで総会決議を採る実務が定着してございまして,3号の「具体的な内容」を今以上に明確化する必要があるのかということについては疑問に感じております。むしろ,「具体的な内容」を明確化していきますと,柔軟な制度設計ができなくなって,結局はそれを採用しようという企業が減ってしまうというようなことになりかねないのではないかと思います。   例えば,ストック・オプションについて申し上げますと,部会資料の5ページ目の上の方の,イの(イ)のcですけれども,「当該新株予約権を行使できる条件」というのがございます。これを総会決議の対象とした場合に,会社として業績達成条件などをストック・オプションの条件としたときには,後で経営環境が変わったり,為替ですとか市場の環境が変わって条件をある程度修正する必要があると思ったときにも,それができないということになってしまうのではないかと思います。   また,株式報酬に関して書かれておりますアの(ウ)「取締役に対して当該株式を交付する条件を定めるときは,その条件」,これを非常に具体的に規定する場合も同じような懸念が生じるのではないかと考えてございます。   また,(2)の金銭の払込みを要しないこととするための新たな規定でございますけれども,私どもの感覚では相殺方式での現在の実務で特段の不都合は感じておりませんで,このような新たな規定を導入する少なくとも実務上の必要性は余りないと感じてございます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   御質問があったように思いますけれども。 ○竹林幹事 ここで書かせていただいている方針でございますが,今規則で定めている方針をある意味上乗せするといいますか,もう少し包括的なものとして予定しているということでございまして,ちょっと置き換えるという言い方が適当なのかどうかという点はございますけれども,もう少し広い方針として今ある方針も含めたものとして考えているということでございます。   また,定めない場合でございますけれども,こちらにつきましては,資料上は特段の説明等が必要にはなってこないということになろうかと思いますが,上場会社におかれましてはコーポレートガバナンス・コード等の関係でこういった方針等を定めていらっしゃることが一般的かと思いますので,上場会社等におかれましては議案を提出されるときに御説明いただくことになろうかと考えております。 ○古本委員 承知しました。 ○神田部会長 それでは,ほかにいかがでしょうか。たくさん論点というか,項目があると思うのですけれども。 ○小林委員 どうもありがとうございます。小林でございます。   今,古本委員の方から企業の全般的な感覚についてもお話しいただいているので,ちょっとそれに若干付随するところということになるのですけれども。私どもの感覚としては,この規制を会社法に改めて入れることはやはり必要ないのでは,というふうに思っております。   まず,それぞれの部会の資料に対して若干のコメントをさせていただきますけれども,第1の取締役の報酬等に関するところの1の報酬等の内容の決定に関する方針でございますが,もうお話もありましたとおり,これはCGコード等でも一定の対応がなされているということで,上場企業については確かにそういう若干の意味合いがあるのかなというところはございますが,非上場の企業につきましては元々不特定多数の株主ではない,あるいは非常に関係者,株主自体が限定されるということが多い,中小企業は多いということもございまして,元々このような判断とか理由とか関係性のその報酬に関する説明をすること自体に余り意味がなく,むしろ企業負担が増えるだけというふうに考えます。   元々非上場の会社とはいいましても,多くの会社では報酬に関する方針に近い内容のものは存在するというふうには考えています。先ほどありましたように,もうちょっと包括的にと,その方針を説明すればというようなお話があったのですけれども,むしろこういう非上場企業については,説明義務を課せばむしろ方針はないという方向に行ってしまう,そういう懸念がございまして,むしろ考え方が後退する可能性があるというふうに考えております。   そうすると,今この会社法361条のところにある総会議案で報酬の内容を制定あるいは改定事由を会社側が説明するときに,このような説明を一律に求めますというような言い方になってしまいますと,非上場会社の実務をむしろ混乱させてしまうことになりかねないのではないかなということが私どもの懸念として一つございます。   それから,2番でございますが,株式会社の株式又は新株予約権を報酬等とする場合の総会等の決議によって定められなければならない事項のところでございますが,問題意識としてやはり株主に,もちろん一定の内容を決議していただくというようなことは当然必要だとは思うのですけれども,やはり取締役の報酬の相当性というようなところですね,例えば社外取締役の活用とかも含めまして,取締役会にやはり一定のところの判断を任せる方がずっと合理的なのではないかというふうに考えております。そうすると,やはり今,法定されている以上の細かい規律を定める必然性には乏しいのではないかなというふうに考えております。   例えば,元々昨今のガバナンスといいますか,この方面に積極的に取り組んでいる企業では,例えば株価連動とかの株式等の報酬については,経済的な仕組みとか固定報酬の比率とか,その目的とか効果あるいはそういう見込みのものというものを株主に説明しようとはされているのですけれども,でもそのことは非常に重要なことなのですが,この会社法の総会の例えば,定款はもちろんですけれども,総会の決議を採ろうとすると,結局技術的なところで非常に細かく規律することになると,やはりかなり技術的な説明を詳しく行わなければならないということになるので,むしろ株主にとっての分かりやすさを欠いてしまうので,説明するとすればそういうところではない,むしろ目的あるいは効果の方だろうというふうな感覚からしますと,そういう意味で今の法定以上のところを改めて規律する必要はないのではないかなというところはございます。   それから,(2)ですが,株式を報酬等とする場合における金銭の払込みなのですけれども,非上場の会社からの観点からすると,ちょっとこれは賛成しかねるかなというところがございます。元々,これは当然上場,非上場とか,そういう制限がないので非上場にも影響があるところなのですけれども,非上場企業の場合,株式の公正価値をどのように評価するのかというところは元々問題がございますが,考え方の問題として,職務執行の対価として支払われる報酬ということもございますので,株式を報酬として無償交付できるということになりますと,こういう会社については報酬と資本が一体的なレベルということになると,実を言いますと,議決権の問題とかもあって支配権に関わる問題に発展しかねないという懸念を持っております。   すなわち,株主構成が限定される特に中小企業におきましては,その支配権の拡大や移転とか,そういうところで元々経営陣とその他の株主の間で争いが起きやすいということがございますので,元々株式報酬自体もどうかということがあるのですけれども,更にはそこを進んで無償交付できると言われると,ここは非常にリスクが高いなというところが懸念されるところでございます。   上場企業等でも比較的規模の小さい会社においてもそのような問題が起こり得るのではないかというところは,中堅・中小企業の方ではございまして,一足飛びに無償交付まで進む必要はないし,今の法的構成でも,もちろんこの問題がないわけではないのですけれども,改めてそこまで進める必要はないのではないかというのが今の感覚でございます。意見として以上でございます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○前田委員 今回の報酬規制の見直し全体を通じての基本的な考え方として,指名委員会等設置会社以外では報酬規制にお手盛り防止の機能を持たせることは最低限必要だと思うのですけれども,それを超えて,監督とか動機付けというような機能をどこまで持たせるかは,先ほど来御意見がありましたように,各社それぞれにいろいろなやり方があると思いますので,基本的には強制をせず開示で対応するのが望ましいのではないかと思います。ですので,初めの1のところの決定に関する方針につきましても,指名委員会等設置会社以外では義務付けまでは必要ないのではないかというように思います。   そして,2につきましては,金銭報酬の形を採っておきながら,実質は株式あるいは新株予約権を与えるという仕組みは,やはり株主から見るといかにも分かりにくい仕組みだと思いますので,実態に合わせて,3号報酬として内容を定めるべきこととするのが良いと思います。   そして,株式報酬というようなものを認めるのがいいのかどうか,これは今の開示の部分が充実するのであれば,無理にいきなり株式を渡すというような制度を作る必要性は乏しいのかもしれませんけれども,分かりやすさの点から言えば,一旦金銭の形で渡して実質株式にするというような形をとるよりは,できることならばいきなり株式を渡せるような制度ができれば望ましいと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。 ○田中幹事 取締役報酬の決定に株主総会をどこまで関与させるべきかという問題と,株式報酬の問題の2点について,それぞれ意見を言わせていただきます。   まず,株主総会の関与をどこまで認めるかというのは難しい問題で,様々な報酬体系の選択肢がある中で何が望ましいかという判断は,経営判断に属する事項になるので,株主自身がよく判断するということが難しいという面があるかと思います。   そういう点も含めて,現在,我が国ではガバナンス・コードの制定等を通じ,報酬についてのベストプラクティスを形成していく過程にあると思いまして,その中で,強行法規としての会社法が,例えば株主総会の決議事項を広げるとか,あるいは決議事項の中身を変えるといった規制強化を図ることは,ひとまずは慎重になった方がいいのかとも思います。また,会社法において,例えば勧告決議についての規律を入れることはもちろん技術的には可能だとは思いますけれども,これまでそういったものの例がないものですから,なかなか法制化しにくいという面がある一方で,ガバナンス・コード等を通じ,勧告決議をコンプライ・オア・エクスプレインベースで普及させていくということも可能ではないかと思います。   それから,もし勧告決議でなく拘束力のある形の総会決議を要求するということになりますと,どうしても,法律の要件を満たすかどうかというところに実務の関心が向かいがちになって,非常に防衛的な形の議案になり,必ずしも株主の望むとおりにならないのではないかという懸念があるかと思います。   一方,現行法の下で,報酬総額の上限を決議するということが果たして必要かつ有益な規制なのかというのは確かに問題があるのですけれども,他方で,この規制を単純に外して,ほかに何も規制を入れませんと,株主の権限が今よりも狭められてしまうということになりますから,これもそう簡単ではないと思います。したがいまして,決議事項に関しては,現行法の下でベストプラクティスの形成を期待するということが,今のところは良いのではないかと思います。他国と比べて,役員報酬に関して余り社会問題になっていないという,そういう現実からしても,それでいいのではないかという印象を持っています。   その次に,株式報酬についてですけれども,私は,現在の実務でも余り問題は生じていないよというのは恐らくそのとおりかなとは思いつつも,やはり,現在は法律に株式型の報酬について明示的な規律がないため,既存のルールを組み合わせて処理しているというのが若干分かりにくいという面があると考えまして,株式型報酬については361条に規定を追加するとか,あるいは新設の条文でもいいのですけれども,株式型報酬について明確な規定を設けるということはあり得るのではないかと思います。   その際に,現在のような相殺構成や現物出資構成によらずに,株式をそのまま出すということを認めるというのが分かりやすさの観点から好ましいと思います。その場合に,労務出資の禁止との関係がどうなるかということがあるわけですけれども,これについては既に新株予約権を報酬(ストック・オプション)として用いる場合は,少なくとも既に提供された役務の対価部分については,資本に振り替えることが許容されていますので,これと同じ処理を株式についても適用するということであれば問題ないと思っています。   そうした上で,報酬として株式を直接渡す場合には,交付する株式の数や内容,あるいは譲渡制限が撤廃されるための条件その他の条件の概要などについて総会決議をとることを要求し,かつ,同じ内容の規制が,相殺構成とか現物出資構成の形をとる場合にも及ぶということを明確に規定するのがいいと思います。現行法ですと,相殺構成をとる場合には,金銭報酬と取締役会決議による新株発行又は新株予約権の発行という形を組み合わせると,必ずしも,報酬として交付する株式又は新株予約権の内容について株主総会の承認が必要ないということになりかねないわけですけれども,実務は,その点は株主に配慮して相殺構成にするときでも交付する株式あるいは新株予約権の内容について株主総会決議をとっていると思いますので,そういう実務の状況を法律上もルール化するということにすれば問題ないのではないかと思っております。   それから,先ほど非上場会社において生株をそのまま出すことを認めると,オーナー経営者にただで株式を渡すような濫用が起こるのではないかという御意見もありましたけれども,これについては現在も相殺構成にすると同じ問題が起きるということから,必ずしも株式を交付するという形を禁じる必要はないのではないかと思います。   ただし,この株式型報酬については,有利発行規制との関係を考える必要がありまして,ちょっと詳しくはここで述べる時間がありませんけれども,私は,株主総会において,株式であれ新株予約権であれその公正価値を評価して,その公正価値が株主総会で定めた役員報酬額の範囲に収まっていれば有利発行規制にはかからないというふうに考えておりまして,逆にいえば,現行法の下でも,例えば新株予約権についてその公正価値を評価しないで,不確定額報酬の形で新株予約権を発行するときには,やはり有利発行規制が及ぶというふうに考えております。これは,実際上,非上場会社では新株予約権については公正価値を評価することができないと私は思っておりますので,非上場会社では有利発行規制が及ぶというふうになると考えております。   ですから,もしこの株式型報酬について明示の規定を入れるのであれば,今申しましたように,新株予約権の公正価値を評価して,それが株主総会で承認された確定額報酬の範囲に収まっていれば,そのときだけ有利発行規制にかからないという形でも整理がされるのがいいと思っております。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○神作委員 ありがとうございます。2の(1)とそれから(2)について御発言させていただきます。   株式を付与する場合について,法律構成として相殺方式ですとか現物出資方式等があり得るけれども,実質的に報酬に該当する場合には,株式について具体的な内容,資料では4ページの下の方にございますけれども,当該株式の数の上限等々,所定の事項についてディスクローズをさせるということは必要であると思います。したがって,(1)には基本的に賛成したいと思うのですが,それと(2)とを併せて読んだとき,少し心配になりますのは,株式を無償で報酬として交付することができるとすると,例えば資本の額の計算をどうするか,会計処理等々いろいろな問題が生じますけれども,そのような問題に加えてガバナンスの観点から,やはり私は議決権が付与されるということが,もし株式を無償で報酬として交付するときの前提として,議決権も一緒に与えるということだとすると,ガバナンスの観点から濫用と申しますか,不健全に利用される危険があるのではないかという気がいたします。   田中幹事は先ほどの御発言の中で相殺方式でも同じことは起こると言われましたけれども,確かにそのような面はありますが,やはり株式の報酬において金銭の払込みを要しないとすることによって,それに拍車がかかるのではないかという懸念がございます。   そこで,諸外国で株式を報酬として付与するときに議決権についてはどのような取扱いをしているのか,無議決権にしているのか,あるいは議決権の行使については何か別の工夫ですとか仕組みを用意しているのか,特に後でまた一旦付与した株式が返還されるというような場合に,株式に議決権が与えられ,役員等が議決権を自由に行使できるということになると,ガバナンスの観点から先ほど述べたような懸念があるわけでございますけれども,諸外国において株式を報酬として付与しているときに今のような問題というのは意識されているのか,あるいはどのような対処がなされているのか,御教授いただければ大変有り難いと思います。 ○神田部会長 ありがとうございました。   今の最後の御質問について,櫛笥参考人,もし御存じの点があれば。 ○櫛笥参考人 はい,簡単に知っている範囲で御回答させていただきますと,まず,株式報酬については業績条件があるものとないものに分けて考えるといいかと思います。業績条件がないものというのは,いわゆるプレーンな株式報酬でして,名称としては譲渡制限付株式とか,この類いのものになります。この場合は,議決権については特に停止をしないケースの方が多いですね。譲渡制限期間中も議決権も配当受領権もあって,きちんとした株主として権限,権利を行使できるという形が多いと。   ただ,やはり資本政策上の問題でそこを配慮しなければいけない状況の場合もあるかと思うのですが,これはちょっと全ての国について私は分かっていないのですが,アメリカですとやはりクラスシェアを使うことが多くて,いわゆる報酬目的で議決権をなしにしたBクラス,Cクラスのシェアを設定して,デュアルストックとして運営をしていくみたいなプランはよく見られるところです。もちろん,そういったことができる会社,できない会社はアメリカでもあると思いますが,できる会社はそのようなことをやったりするケースをよく見ます。   業績条件が付いている方は,後で業績未達の場合に返すということになりますので,正に不当な議決権を事前に与える可能性があるというのが懸念されるところなのですが,ここはガバナンス上はやはりそのようなものが望ましくないということで,例えばISS等ではアメリカでもイギリスでも肯定的に判断しない旨がガイドラインの中に示されていて,どちらかというと業績の帰趨が分かったときに決まった株数を出すという事後発行型の株式報酬の方が好まれているという実務はあります。ですので,名称で言いますとパフォーマンス・シェア・ユニットであったり,あるいはストック・オプションに業績条件を付けるパフォーマンス・ストック・オプションであったり,このようなものが一般的だということになります。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   取りあえず,そんなところでよろしゅうございましょうか。ほかにも,もしほかの国等を含めて御存じの方がいらっしゃったら教えていただければと思います。   それでは,次の御意見として,沖委員,それから尾崎委員の順でお願いしたいと思います。 ○沖委員 ありがとうございます。参考資料の10を提出させていただいておりますので,そちらを御覧いただけますでしょうか。   これは,今回報酬の論点に関する私どもの考え方をまとめたものですけれども,この中で3ページから6ページまで,こちらに今の会社法の報酬に関する規定の問題点をまとめております。その上で7ページに基本的な視点を置きまして,あと8ページ以降に改正案を述べたものであります。   既にお目通しいただいているかと思いますので,今日はちょっと8ページから御説明させていただきたいのですけれども,具体的には,今のこの361条1項のいわゆる3分法は,見直しを考えてみてはどうかということをまず提案しております。現行法ですと,確定報酬,不確定報酬,非金銭報酬という3分法ですけれども,実はこれは1号の決議で全て2号,3号の決議もなしに株式報酬や新株予約権も含めてですけれども,出せるという構成になっております。しかも,1号の確定報酬で支払った金銭報酬を新株予約権等について払い込ませるという構成を採った方が,税務上も扱いが明確になるといいますか,あるいは見方によっては有利なような規制がされていますので,これはさすがにおかしいのではないかと。本来,総会で明確な決議あればあるほど,その効果も好ましいといいますか,安定でなければならないのですけれども,その辺りがやや会社法の規定と不整合になっている部分があるということになっています。   そこで,改正案としましては,お手盛りの規制の趣旨は維持しまして,インセンティブに関して,インセンティブの内容についても株主や投資家の期待,関心が非常に強いということを考えまして,やはり全ての報酬について報酬等の内容は基本的に決議事項とするということにしてはどうか。あと,金額・株数等の上限によるか計算方法によるか,これはどちらかを選んで決議事項とする,そういうような提案をさせていただいております。   この報酬等の内容でありますけれども,9ページと10ページに書いておりますが,報酬プランというものを導入してはどうかということです。これは会社法研究会でも提案され,議論されたものを一部修正して採用したものでありますが,これを報酬ミックスの構成要素について,その概略を決議事項にしてはどうかということであります。   その趣旨としましては,やはりインセンティブの面についても株主の関心が強いことであることとか,あるいはそういった決議をすることによって株式報酬や新株予約権について,よりその発行を安定的にできるような,そういった効果を認める規定を置くこともできるのではないかということを考えております。   ただ,この内容は,やはりインセンティブ報酬の内容が極めて複雑で専門的でありますことから,概略として,その概略の程度は各社に委ねざるを得ないと思います。ただ,対象になる株式数や算定方法を具体的に決議した場合は,後で言いますような株式報酬等に関する規定の効果を認めることができるというふうにしてはどうかと考えております。   ところで,今回の部会資料におきまして,法務省の方から,議案に関する方針の説明,報酬の内容に関する説明義務を課してはどうかという提案がされております。そういった方針を提示するかどうか,その内容をどのようにするかは各社の判断ということだと思いますが,上場企業につきましてはコーポレートガバナンス・コードでインセンティブも含めた方針の策定義務が原則としてあるということになっていますので,それと対比させますと,ある程度やはり議案の内容にインセンティブの面を反映させることができる効果は認められるのではないかというふうに考えられます。他方で,私どもの報酬プランでは,その内容は概略ということにならざるを得ませんので,その差はかなり近づいてくるといいますか,似たような機能を持つことも考えられると思いますので,どちらが良いかは是非御議論を頂きたいと思うのであります。   次に,株式報酬の点について御説明したいと思います。こちら11ページと12ページを御覧いただけますでしょうか。   今回の部会資料では,株式を報酬等にする場合の金銭の払込みにつきまして,199条1項の募集をする株式と引換えにする金銭の払込みを要しないとすることについて提案がされております。私どもも,これが必要であると考えております。これは,199条1項3号の財産に労務出資が含まれないという,その扱いを変更するものではなくて,株式報酬のいわゆる無償発行を別の制度として認める趣旨と位置付けてはどうかというふうに考えております。   そこで,4ページの②という部分を御覧いただきたいのでありますけれども,現行法下の株式報酬で事前交付型と言われるものでは労務出資が認められないことから,金銭報酬債権を現物出資するという技巧的な構成がとられております。この構成の仕方については,取締役の任期が上限でも2年なのですから,それを超える期間に対応する報酬債権が果たして現物出資の対象になる確定性や適格性を有するかという疑問も提起されているところです。そこで,こういった問題点を解決するためには,株式報酬の発行を端的に認める規定を置くべきだと思います。   先ほど申し上げました報酬プランで株式数の上限や算定方法まで具体的内容が決議されている場合は,この株式報酬の発行を認めていいという考え方です。ただ,この報酬プラン自体は試案でありますので,こういったものを採用しない場合も同じ要件の下で株式報酬の規定を置くことを是非検討していただきたいと思います。   また,株式報酬の発行による希釈化についての株主の関心が高いということを考えますと,株式報酬の制度に基づく発行については,事業年度ごとに発行済株式総数の一定割合による上限を定めた方が良いのではないかと思います。こちらにつきましては,11ページの①の(b)のところに記載してございます。その割合については,大企業から中小企業の規模に応じて100分の1から10分の1のような数字が考えられると思います。   次に,有利発行規制ですけれども,こちらは12ページにこれについて提案をしてございます。ここで有利発行の規制については適用除外にしてはどうかと。その理由としましては,株式報酬による希釈化といいますのは,これは既存株主から取締役に対する価値の移転でありますので,そういったことを考えますと,これは報酬規制による株主総会の承認と上限規制によることで十分ではないかと,そのような提案をしております。   次に,④の会計処理でありますけれども,こちらは現行法下の株式報酬では現物出資される報酬債権相当額を資本金等として計上し,役務提供額を対象期間について合理的に算定し,費用計上にするという扱いをしていると思います。これを改正しまして,端的に取締役の役務提供の対価として合理的な金額で資本金等を増加させることを提案しております。   この場合,取締役等のサービスそれ自体は信頼性が高い方法で貨幣価値に換算するということが困難ですので,結局この対価は株式の時価によって測定するというほかないのではないかと思います。この場合の資産性については議論があると思いますけれども,ストック・オプション会計基準におきましても,企業が,従業員等が提供するサービスを消費していると,その費用を計上して資産性も認めていると,相手方勘定として純資産性を認めるということが参考になると思います。ただ,我が国の現行のストック・オプション会計基準は株式報酬まで対象にしていませんので,新たな会計基準の制定が必要になってくる可能性があると思います。   なお,事後発行型の株式報酬ですね,パフォーマンス・シェアと呼ばれるものにつきましては,報酬内容を決定した時点と株式が発行される時点とでは,報酬期間に応じて3年程度以上のタイムラグが起きると。この間,株価も変動するということだと思います。この場合,通常の新株発行を考えましても,募集事項の決定日と払込期日までの間,期間には特段の制限はなく,この間に株価の変動がありますが,長期間経過後に決定した払込金額によって資本金等を増加させるということが認められております。このことについて,特段の不都合があるという指摘は見ておりません。そこで,私どもの提案では,報酬内容を決定した時点での株価で取締役等のサービスの貨幣価値を測定すると,これは資本金等の増加額,費用認識額とするという考え方も成り立ち得るのではないかということで提案をさせていただいております。   ここの③でありますけれども,あとストック・オプションですね,これも株式報酬と同じ考え方によりまして,金銭の払込みを要せず,行使可能とし,現行法下における1円ストック・オプションのような技巧的な構成をしなくてもよいものにしてはどうかということを提案しております。   次に,②の(a)のところですけれども,このストック・オプションとして発行される新株予約権については,有利発行規制を及ぼさないということも提案しております。この点,部会資料では,新株予約権の公正価値を上回る額を361条1項1号の額として定めることが有利発行規制の不適用の要件とされていることが指摘されております。この公正価値をストック・オプション評価モデルで計測するということだと思いますけれども,結局のところ,その額が会社が提供を受けるサービスの評価額と等しいとみなしているということだと思いますので,あえてこの同号の額を定める必要はないものとして提案させていただいております。   ただ,先ほど非公開の会社につきまして,田中幹事の方からこういった点について問題があるという御指摘もありましたので,この点は是非御議論いただきたいところかと思います。私からは以上であります。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,尾崎委員,それから安永幹事の順でお願いします。 ○尾崎委員 どうも御指名ありがとうございます。   私が意見を言う前に,神作委員から言われてしまったわけですが,結局議決権が伴ってしまった新株の無償交付となってしまう点でどうかなと。募集株式の発行のところでは,主要目的ルールであるとか,一定の資金調達目的と支配権の争いのルールが出来ているわけですが,もし株式報酬が無償交付までいってしまいますと,払込みのない議決権株式が突然一方の方に与えられてしまう,これを株式報酬という言い方をするかどうかはともかくも,そういう形で与えられることを結果として見る限り,やはり支配権のゆがみということについて何らかの手当てをワンセットとして入れておく必要があるのではないかと思います。   先ほど小林委員の方からも最初に言われたわけですが,私もそのとおりかなと思います。取り分け非上場の会社などで,つまりこの制度の適用範囲が画定されておりませんので,そういったところで株式報酬という方式で,それも無償交付というのはどうなのかなということをずっと思っていたもので,先ほどのプレゼンテーションにおきましても,議決権の絡みが聞こえてこなかったもので,そういう支配権との関係で海外はどうかなと,全く同じ疑問を持っていたもので,今,御説明があったことで,なるほどと思ったわけです。   やはり,その点もう少し手当てしながら,今大きな問題は,株式報酬というものの与え方を現行の規律の枠の中でやっていくという実務があるとしても,古本委員からも御説明があったわけですが,それをもう少し見やすく分かりやすく,見える化していくということが求められていると考えます。先ほどの沖委員の御提案というのも正にそういう形での新しい規律というか,それを御提案されたと思うのですが,そういった点で,実務はこれで回っているのだからいいというわけではなくて,やはり見やすく,分かりやすく,そして,そこに発生しがちな問題というものを少し想定して,押さえ込んでいくというか,濫用のところは,ちょっと話が変わりますが,株主提案権のところでも濫用防止というのがセットであった方がいいのではないかというふうなことがあったと思うのですが,株式報酬というインセンティブ報酬の在り方についても,インセンティブを高めていかなければいけないとする点は,これは私も賛成なので,そのときに制約になってはまずいのですが,やはり想定される濫用というのはあるとするならば,それについての何らかの手当てをしておく必要があると思います。   その手当ての仕方は,手続規制なのか開示規制なのか,どちらの方をやっておけば押さえ込めるのかということで,先ほどからあるように上限金額を決めておけば,それが果たしてどれほどの意味を持つのかと。報酬決定の金額の上限方式というのは昔から批判があるところですが,株式報酬を例えば少なくとも1号と3号という形で決めるとするならば,1号という形で金額が決まって,そして3号でこれぐらいの株式が渡るのだという情報が提供される,相殺形式であれ何であれ,それが少なくとも株主さんにさらされるという手続規制というのはあると考えます。   そういう手続でなかったとしても,何らかのスキームが示されることが,やはり今はインセンティブを与えるか与えないかというのは基本的に株主さんが決めるという仕組みになっているように私は理解しているわけですが,みんながウィン・ウィンになるにはそういう株主さんの決定というところにある一定の情報を提供して,そして決めていくという方向になるべきだと思います。   したがって,私はこの無償で発行するという部分については,少し躊躇を覚えて反対というのでしょうか,そういう感じがしております。その理由は,濫用の危険というか議決権のゆがみということについてちょっとよく分からないというところがあるということです。   それと,報酬の相当性が判断できるような制度に変わっていれば,今の決め方,上限を決めるというやり方は放棄してもいいのかもしれませんが,果たして相当性を判断できる仕組みというのか,また,株主さんが本当に相当性を判断できる能力を持っているのかどうか。ともかくいろいろなそんな問題がありますので,そこができないならば今の規制のところのいわゆる1号の方式を中心とした立て付けで,そして,そういう手続は1号と3号を踏んで,こうこうであるというふうな形で株式報酬の決定の仕方を手続規制として明確にするということが望ましいのではないかと考えます。 ○神田部会長 ありがとうございました。   それでは,名札をたくさん上げていただいていまして,安永幹事,青委員,梅野幹事,藤田委員,三瓶委員,加藤幹事の順でお願いしたいと思います。 ○安永幹事 経済産業省でございます。発言の機会を頂きまして,ありがとうございます。   事務局にお願いをして,参考資料13という形で資料をお配りいただきました。時間の関係もありますので,詳細はそちらを御覧いただければということで,ポイントだけ御説明をさせていただければと思います。   コーポレートガバナンス改革を進めるという観点から,政府全体として,中長期のインセンティブ報酬の導入ということを推進しておりますので,会社法の見直しもこうした実務を後押しするという方向で進めていただければと考えております。   こうした中で,この参考資料13の2ページにかけて(2)から(4)まで三つの論点を提起させていただいております。   (2)は,報酬の種類によって会社法の適用が異なる点を整理して実務に分かりやすい規律にしてはどうか,その際に,どこまで定款や株主総会で決めることを求めるかについては任意の報酬委員会の活用あるいは開示ルールの見直しなどと併せて検討してはどうかというものです。   それから,(3)は,役員への株式報酬は金銭報酬債権の現物出資であるという現在の解釈を,立法的に手当てして見直すということも考えられるのではないかというものです。   それから,(4)は,子会社の役職員に対し親会社の株式の付与を行いやすくするために,子会社による親会社株式の取得規制を見直すということを検討できないかということです。こういった点を提起させていただきました。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。 ○青委員 青でございます。   今回の見直しに関しまして,「2 当該株式会社の株式又は新株予約権を報酬等とする場合」の「( 1 ) 定款又は株主総会の決議によって定めなければならない事項」についてコメントをさせていただきます。   現在,コーポレートガバナンス・コードを始めとして全体として,取締役へのインセンティブ付けを強化していくことが非常に重要な課題として位置付けられていると考えております。それを実現していくために,株式報酬制度を使いやすく,かつ,進めやすくしていくということが大切なことではないかと思います。   その場合に,報酬金額の水準,付与される株式の価値の水準もかなり高くなっていくであろうことと,株式報酬の付与あるいは新株予約権の報酬としての付与がこれから増えていくであろうということを考えますと,その規制の在り方について必要な見直しを行うことが大事であろうと考えております。   そこで,株式報酬に関しましては,現在実務上行われている相殺構成についてはかなり技巧的であるという面があり,今後株式報酬の金額も増えていくであろうことを踏まえますと,株主に報酬の内容について十分に理解してもらうことも重要になると思いますので,可能であれば直接株式を発行するという制度を整備することが,分かりやすくて良いのでないかというふうに考えております。   ただ,そのときに,株主総会で詳細な具体的内容の決議を要求するということが行き過ぎますと,企業が株式等を報酬として付与することについてマイナスの影響を与えるという面があると見込まれます。したがって,付与の条件等株主総会で決めなければいけない内容は,ある程度概略にとどめるという形とし,一方で,株主が経済的な面についてはきちんと把握できるということを確保しつつ,株式報酬の詳細の決定は取締役会に委ねるというのが一つのスタイルではないかというふうに考えます。   それから,職務の正当な対価として発行していただくということが必要だと思われますし,ほかにも不当な目的での付与でなく,正当な対価としての付与であるということも必要になるかと思われますので,そうした意味で,例えば提供される労務の価値と付与される株式や新株予約権の価値がどういう関係にあるのかというようなことを含めまして,開示を中心に整備していくということが方向性として考えられるのではないかというふうに考えております。   それから,先ほどから出ておりますように支配権をゆがめるという点については,こちらも非常に憂慮すべき点だと思っておりますので,金銭の払込みを不要とする場合につきましても,例えば現行の主要目的ルールだけで本当に十分なのかどうかという点,新しい規律が必要ではないかという点について検討することも重要ではないかと思います。   あと,1点確認なのですけれども,金銭の払込みを要しないとする場合に,現在の会社法の2章8節の株式の募集手続に関する規律,具体的には,例えば210条の差止めの訴えですとか,206条の2の支配株主の異動を伴う新株発行規制を通じた不正発行への歯止めなどについては現行どおり適用するという前提での御提案ということかどうかだけ教えていただければと思います。よろしくお願いします。 ○神田部会長 ありがとうございました。 ○竹林幹事 資料につきましては,募集株式の発行規制は現行のとおりかかるという前提で作らせていただいております。 ○神田部会長 ありがとうございました。 ○梅野幹事 ありがとうございます。   先ほど,部会資料の10について沖委員より説明がありましたが,若干補足をさせていただければと思います。   まず,私どもがこの提案をした趣旨でございますけれども,基本的には株式報酬を始めとするインセンティブ報酬を使いやすいものにするということを意図しております。特定の形態の報酬,参考資料10の2頁にも記載させていただきましたが,これのどれかを推すというものでも,どれかにバイアスをかけるというものでもなく,どの方式を採るにしろなるべく使いやすいものにしたいという考えに立っております。そういった意味では,中立的な制度として御提案申し上げております。   また,従前のお手盛り防止という趣旨に加えて,株主の意思を反映するようなことができないかという観点から,361条1項1号で報酬プランを定めるとしていますけれども,そういった株主意思の反映といった考え方を取り入れてはどうかと考えている次第です。ただし,プランの内容について,詳細に定めることを想定しているわけではなく,どの程度定めるかについては各会社の判断に委ねるという点は沖委員が説明したとおりです。   さらに,この制度をあらゆる会社において採用すべきかというのは,業績連動報酬の必要性や濫用の危険という観点から問題意識を持っております。参考資料10の11ページに記載しておりますけれども,対象会社の範囲は要検討であり,有報提出会社に限定することも考えられますし,ベンチャー企業等におけるニーズもあるというような観点もございます。   また,可能であればなのですけれども,先ほどタワーズワトソンの方からの御発言がありましたけれども,取締役だけではなくて,子会社役員,従業員についても広げる余地がないかという問題意識を持っております。ただ,その点については今日お配りした資料に直接考え方を述べているわけではございません。   あと1点,御説明しておきたいのは,有利発行に関する考え方です。部会資料の6ページ辺りを拝見しますと,部会資料として,有利発行については,株式会社が受ける経済的価値と募集株式の公正価値が見合っているかどうかで考えていくというアプローチだというふうに理解しました。新株予約権に関する238条3項1号で,金銭の払込みを要しないこととすることが当該者に特に有利な条件であるときといった定めがございますが,多分そういう方向の規定を考えられているのかなというように理解しております。   私どもとしては,無償構成といいますか,役務の対価と公正価値が見合っているかどうかという考え方については,その対価性がはっきりしない場合もあるということでいろいろな御意見もあって,結局のところ実務では,相殺構成による場合が多いというように理解しております。   しかし,正直申し上げて,相殺構成の場合でも,結局のところ会社には払込みがなされないわけですから,相殺構成というのは分かりにくい,技巧的であるというところがございます。私どもとしてはむしろ有利発行の実態を真正面から見詰めて対処すべきではないかということを考えております。つまり,有利発行がそもそも懸念する株式の希薄化という点は,金額ベースということではなくて株数,希釈化ベースで考えた上で,その上限について決議をしていくといったアプローチは採れないのかという観点です。   ただし,参考資料10の11頁に,大会社で100分の1といった例を出していますが,大会社の規模によっては100分の1でも大変な規模になってしまいますから,飽くまでこれは括弧付きの形で書いておりまして,そういう数の上限をかけることによって濫用等の危険,あるいは希釈化の危険を低下させていくことはできないのかという問題意識に立っております。   また,資本金をどうするかという問題もあります。こういったパフォーマンス・シェア等を扱っている実務家に聞くと,最近の事後交付型のパフォーマンス・シェアの場合は,当初段階でコストを確定できないというのが採用される会社によっては障害になっているという話がございます。そういった観点から,先ほど沖委員から御説明しましたように,株式を発行することを決定する時点と,実際に発行される時点の間にタイムラグがあっても,当初の価格を使って経費を計上した上で資本に振り替えるといった構成が可能にならないかといったことを検討したいと思っております。   この辺は素人なので余りはっきりしたことは申し上げられませんけれども,IFRS等では事後交付型の場合であっても当初付与時の公正価値を用いるといったアプローチが用いられているようですが,そのようになるべく使いやすい形で持っていくことができないかというようなことを考えている次第です。もちろんこの問題については会計の専門家に委ねる必要があるかと存じます。   長々と話しましたけれども,以上でございます。ありがとうございました。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,藤田委員,三瓶委員,加藤幹事,野村委員の順で。 ○藤田委員 ありがとうございます。   部会資料4第1の2のところに記載されている提案の関連で少しお話しさせていただきます。   今回の提案は,基本的にストック・オプションの利用の実態に即した規定にするというよりは,ストック・オプションを導入するため株主の承諾を取る上でどういうことを説明して,何について承諾を取るかということについての提案なのだと思います。業績連動報酬を導入することの妨げになる規制強化はいけないという一般論はよく分かるのですが,他方で,投資家サイドから見ると,業績連動報酬としての性格が分かるような説明をしないでストック・オプションを導入することが妨げられるから不便だといった批判は共感が得られないと思います。説明をすべき中身が余りにもおかしいことを要求しているというのだったら話は別なのですけれども,現在と違うことを要求されるのは規制強化だから反対だといった議論はするべきではないような印象を持っています。今回の規制の趣旨は,今言ったようなものなのだと思っているからです。   その上で,現在の報酬の規制の性格については,先ほど櫛笥参考人から非常にいい表現で説明していただいたと思うのですが,要するに報酬の予算の枠取り決議になっているということで,そういう捉え方をすると,業績連動報酬について決議をしても必要十分な承諾が取れたことになっていないのではないかというのが事の本質だと思います。   ストック・オプションの現行法の扱いとして,補足説明に載っているような相殺構成は技巧的ということを超えて,業績連動報酬であるという本質に反するのですね。業績連動報酬なのに確定金額の金銭報酬であるという決議をするということですから。このように非常におかしなことをしているのは,予算の枠取り決議という性格の報酬規制の中に業績連動報酬を無理やり入れることから出てきているゆがみであり,その現れの最たるものということになるのだと思います。   そのようになってしまったのは,これまでの経緯から多少仕方がないところもあって,90年代の後半にストック・オプションが使われ出した頃に,ストック・オプションというのは会社から財産が出ていかないのでただであるかのような認識が持たれているのではないかという疑念が学界から出された,オプションの公正価値をきっちり認識しないまま,会社からお金が出ていかないので問題がないというふうな意識で濫用されたのではないかという批判があって,ストック・オプションの公正価値がうるさく言われるようになった。しかし,そのときに逆にオプションの公正価値が示されればよいと考え,それを予算の枠取り決議という性格の報酬規制の中で位置付けてしまったせいで,公正価値さえ示せばあとは問題ないのだということになってしまい,本当に重要な業績連動報酬の本質についての承諾ということが問題視されなくなってしまったというのが,現在こうなっている原因なのだと思います。   もちろん,役員報酬について株主の判断によるべきかという根本まで問えば,諸外国も必ずしもそうなっていない,少なくとも会社法上そうなっていない国もあるわけで,そこまで遡ればいろいろ議論は出てくるのですが,仮に役員報酬について株主の承諾を得るというのであれば,株主に分かりやすく,かつ,報酬の性格を反映したような説明がなされ,承諾を得るということは基本なのだと思います。   ここまでが一般論なのですけれども,ではどうすればいいかということについて,御提案いただいている考え方も悪くない面もあると思うのですが,私は全体的に違和感をいろいろ持っています。   端的に言うと,業績連動報酬で新株予約権を与えるときに,3号の決議を必ずし,その中で決議事項を充実させ,かつ,4項で相当とする理由の説明がされるという作りなのですけれども,問題は2点ほどあります。現在の立て付けのままで仮に3号で決議を要求し,その上で4項の説明をしますと,結局額の相当性に近いことが説明の内容となってしまうのではないかというのが第1の懸念です。3号というのは,こういう場合のみならず,業績連動報酬のみならず,例えば役員に土地を差し上げますというふうな形で報酬とする場合にも適用があるような条文ですが,そのときと業績連動報酬とは全然違った説明にならなければいけないと思うのですね。   そういったことを考えると,3号の規定を修正しそれに伴う4項の相当とする理由の説明を合わせるというのが本当にいい方向なのか疑問な気がします。5ページに掲げられているいろいろな事項ももちろん重要なことかもしれませんが,それに加えて,株主の承諾を取る場合の重要なポイントは,インセンティブ報酬のメカニズム及び報酬全体のパッケージの性格でして,どういうカテゴリーの人にどういう形でどういうインセンティブを与え,どういう利益を与え,その限りでどういうリスクを負わせるのかということをはっきりさせること,そしてその場合には,金銭報酬との割合といったことも重要な考慮要素として効いてくるわけですが,3号の内容ということからはこういうものは落ちてしまう。そうすると,そもそもこういう枠組みでいいのかなという疑問が出てきます。3項の内容プラス4項の説明という方式にちょっと疑問があるというのはこういうことです。   第2の問題点は,株式や新株予約権を付与する業績連動報酬だけが問題かということで,3号にこだわるとそこだけが特殊な説明が必要になるのですけれども,2号の報酬を工夫して業績連動にする場合も同じような問題はあるはずで,やはり説明すべき事項が欠けるのは同じだと思うのですね。だから,そういったことも考えると,やはり3号の充実とそれと連動した4項の説明というのはちょっと目的を達成する手段として適切ではないような印象を持っています。   では,どうすればいいのか。なかなか難しいのですが,例えば,現在の提案ですと,報酬決定の方針は決めても決めなくてもいいということになっているところ,業績連動報酬を与えるのであれば,これを決めなくてはならないとして,その上で,どうしてそれに沿っているかという説明をさせる,業績連動報酬を採用する以上はどういう方針で報酬の与え方をしているのかを明示させた上で,問題の業績連動報酬が,その方針に応える内容になっているのか理由を説明させる,その説明の中で先ほど私が申し上げたようなことが説明されるようにした方が素直な作りになるかもしれません。この辺りは,技術的なことなのですけれども,何をどういう形で説明させたいか,それが及ぶ範囲はどういう報酬かということとの関係で本質的だと思いますので,お考えいただければと思います。   ちょっと長くなりましたし,その他の点はもう技術的なことですから余り深入りしないつもりですが,労務出資の禁止とか有利発行規制との関係は,田中幹事と近い感触を持っております。既存株主との利害調整との関係は報酬決議で一本化して,それをクリアしている限りにおいて有利発行規制等はかぶせないという方向が適切かと思います。   労務出資の方は,既存株主との利害調整と債権者保護と両方関係しているということもあるのかもしれませんが,まず第一に,現在の資本充実原則というのが現行法上どういう位置付けにあるのかというのが問題です。資本金の額というものをどれだけ債権者保護のために重要な数字と位置付けているのかという理解がまずあって,会社法の下では余り意味は持たされていないのかもしれない。しかし,仮に意味を持たせると考えるにしても,株式等を報酬として無償で与える場合には,資本金を上げない,報酬額として決められた額についての資本金・資本準備金の増額をしないというふうにすれば,債権者の関係でも問題はないことになります。私自身は資本金額を上げてもそれほど深刻な問題があると思っていないけれども,資本の額の持つ意味を重視し,心配だというのであればそうすればいいだけだというふうに思っています。   非上場会社の話については,懸念は理解できるのですが,これが無償発行固有の問題なのかというと,そうではないところでもいろいろ起きる話がここでも起きているという性格の話で,制度の導入を反対するという理由になっているのかやや疑問があります。   議決権の件も,別に取締役会決議だけでただで発行できるようになるわけではなく,少なくとも株主総会決議は普通決議ですけれども必要です。報酬決議という形はとるのですけれども,報酬という形で役員に株式を与えることになりますということは明示しなければいけない。そういうふうに総会決議がされた上での話ですので,どこまで深刻にこれを問題視すべきか微妙な気がします。支配権の争いのある場合であっても,株主の承諾があれば支配権の争いに影響のある決定をしていいという考え方が現行法の基本だと思いますし,買収防衛のための株式発行の許容性をめぐる主要目的ルールというのも,株主の承諾を取った発行には基本的に当てはまらない。そうだとすると,この問題についても,本当に問題なのか考え方を整理する必要はあると思います。もちろん,業績連動報酬として配られた株式について,議決権行使できることについて,積極的に望ましいと思っているわけではないのですけれども,これを支配権の争いの問題やガバナンスの公正との関係でどこまで問題視するかは,発行手続として何が要求されるかということのバランスも注意しなければいけないという印象を持っています。 ○神田部会長 ありがとうございました。 ○三瓶委員 ありがとうございます。   まず最初に,私は機関投資家株主の立場からお話をさせていただきたいと思います。そして,大前提にあるのが投資対象として考え得る大体時価総額100億円以上の上場企業が対象というイメージです。   まず,役員報酬の制度についての方針開示ですね,ここについて,例えば現状では何か不都合があるかとかいうことでいきますと,現実問題としては非常に開示が乏しいので突っ込みようがないというか,疑義が生じにくいことです。これは国内の発行体企業の情報開示を比較したときに余り大差がなく,どこをどう突っ込んだらいいかなということが一般的にあるだろうと思います。   ただし,国際比較をしたときには,著しい差があります。先ほど冒頭でウイリス・タワーズワトソンの方に御説明いただきましたけれども,海外での開示はページ数にしても相当割いてありますし,相当細かいです。これを見てから日本の会社の開示を見ると,情報の少なさにびっくりします。そのぐらい差があります。   先ほど申し上げたような対象企業であれば,この1,2年特に株式報酬の制度が変わってきています。そのときに,適時開示でまず説明があります。この適時開示資料の説明が一番詳しいです。ところが,その後,株主総会があって,株主総会で最終的に決議されるわけですけれども,株主総会での議案はびっくりするほど簡単になっています。大体その直後に有報が出てきます。有報の開示は,当初の適時開示の一部を使ったような形ですけれども,それほど詳しくない。アニュアルレポート又は統合報告書をその後に発行される企業が,昨年であれば300社くらいありますけれども,そこでグラフ化して説明するとかいうことがごくごくまれにありますけれども,それはもう任意ですから,どこまで開示されるかというのは発行体企業次第と,そんな状況です。   適時開示でかなり詳しく説明されているから,それを追っかけて見ている機関投資家はいいかもしれませんが,株主総会のときに一つのワンストップで全て判断する内容を知りたいという方からすれば,非常に内容は乏しいというのが現状です。   例えば,私が今まで見てきた中で最も報酬についての開示が進んでいるなという会社2社について見ると,やはり非常に面白い,面白いというか発見があります。その2社のうちの1社は,適時開示ではすばらしく丁寧に説明しているのですけれども,総会通知議案等では説明に行数が割かれていなくて簡単です。なので,その適時開示で示されているような考え方は恐らく伝わらないと思います。   もう1社のベストプラクティスに当たる会社の方は,相当な情報があります。先ほどの会社法第361条第1項第1号に関連すると思いますけれども,例えば月例報酬の総額が何年の株主総会で幾らに決まった,例えば12億円というふうに総額が決まっていて,賞与の限度額が10億円と決まっていますというのは書いてあります。ただし,その情報から,例えばどのくらいの業績の達成度だからこのくらいもらって妥当なのだろうということが分かるかというと,分かりにくいです。   その会社の場合は,月例報酬の限度額は15名の方が対象で12億円です。その年度に支払われている比率を限度額で考えると69%です。一方で,賞与の方,賞与の総支払額の達成度は総額に対して98%になっています。ところが,その中身は通常の計算式があって支払われる賞与だけで見ると実は総枠の59%なのです。ただ,特別その年皆さん頑張ったなということで特別賞与というのが上乗せされて総額の98%になっています。これで妥当性を判断できる情報開示になっているのか,ということです。月例は69%,ところが計算どおりに支払った賞与は限度額の59%。ところが最終的に支払われたのは98%だったと。業績の達成度はどうだったのかというのは,ここからは見てとれないので,達成度評価から出てくる妥当性の判断ができるかというと,できません。   これに比べて,欧米では例えば業績のクライテリアがあって,それをどれだけ達成したから最終的にこういう評価になりますというのがグラフになって示されたりしながら説明されるので分かります。   ここから言えることは,少なくとも事後的にその制度設計がどういうふうに機能しているのかと,業績の達成度等と照らし合わせて正当だと思えるような支払になっているのかというのが分かる開示が是非とも欲しいというところです。   逆に言うと,制度設計の段階でそれを株主総会に諮らなければいけないかというと,その時点ではなかなか判断はつかないかもしれません。実際に欧米の例を見ても,年々どんどん制度は進化というか変わってきています。それは,後から検証していった結果,当初もくろんだ,又は制度設計の意図に合ったような結果が出ているかというと,必ずしもそうなっていないということです。   先ほどいろいろ株式報酬についてもお話があったので,これについてもちょっと述べたいと思います。日本で今,急速に導入が始まっていますけれども,そこで導入されている種類は主にRSと言われるリストリクテッド・シェアというのとあとPSPと言われるパフォーマンス・シェアの2種類だと思います。ただ,ここで,先ほど藤田委員がおっしゃっていましたけれども,制度設計全体の大きな話をしてもらわないと,どういう意図でこのRSとPSP,本来趣旨が違いますけれども,導入したのかというのが分からなくなります。   例えば,海外でこういった株式報酬を支給する主な理由というのは三つあると思います。一つは,株主と経営陣とのアラインメントです。株を持つことによって下がっても上がっても株主と経営陣が同じ感覚を持つ,そして経営陣に何を期待されているのか,何に反応して株価が下がった,上がったと,そういうことをもっと理解してもらうという部分です。それと人材の確保,特に欧米では引抜き等がありますから,人材のリテンションのために株式を与える。もう一つは,業績貢献にもっと前向きになってもらうためのインセンティブです。   こういった三つある中で,今,日本で株式報酬を投資家が非常にうるさく言う理由の一つは,一番最初に申し上げた点です。ここは,欧米とのスタートラインが全然違うのです。欧米で経営陣を見たときに,経営陣がどれだけ自社株を持っているかといったときに,既に相当持っています。相当持っている中で,今度更に渡すかどうかという意味でパフォーマンス・シェアがありますけれども,日本の場合は,全然持っていないことが多いです。ですから,少なくともちょっと株を持ってみて,株主がどういう感覚で株を保有しているのかを同じ気持ちになってもらうという最初の段階にあると思います。   そういった,どういう意図があって株式報酬のいろいろな種類があるものを選択したのかということも説明する開示がないと,非常に分かりにくくて,いわゆる攻めのガバナンスということで後押しをしたい部分があるわけですけれども,それは難しいなと思うところです。   そういうことからすると,先ほどの一番最初のポイントだと思いますけれども,報酬等の内容に関わる決定に関する方針を説明しなければならないというところは,是非ともしていただきたいと思います。これは,コーポレートガバナンス・コードにも書かれていますけれども,経営者に受託者責任というものを課しているということですから,公正・合理的な説明をする義務があるんだと思います。   最後に,無償発行の議論もいろいろありました。無償発行については,いろいろな委員の方が懸念を表明されましたが,私もその懸念を共有しています。ざっとそんなところです。 ○神田部会長 ありがとうございました。   それでは,加藤幹事,野村委員,柳澤委員の順でお願いしたいと思います。 ○加藤幹事 ありがとうございます。   2点ほど意見を述べさせていただきます。   1点目は,1に関することなのですが,株主総会による関与の在り方が問題になっているわけですけれども,事前と事後のバランスというものを考える必要があるということであります。つまり,報酬の内容が非常に複雑化していけば,株主総会が具体的かつ詳細な内容を決定するということはやはり不可能で,望ましくないと思います。しかし,だからといって,つまり事前に株主に意思を表明する機会を与えるということには限界があるわけですけれども,事前及び事後を含めて,そのような機会を株主に与えないというのも,やはり望ましくはないように思います。例えば,事後的にどのような理由でどういった内容の報酬が付与されたのかということについて株主が知る機会があり,例えば役員の選任などの決議を通じて意思を表明するというようなサイクルが回る仕組みがいいのかなという気がしております。   そういった観点から,1の提案に関連して,現在の株主総会の決議の方法について改善の余地があるように感じております。例えば月額報酬の改定の件と株式報酬の件は別の議案として決議がされているわけであります。しかし,本来,取締役などに対する報酬はパッケージとして考えるべきであって,なぜ別の議案にする必要があるのかという点について疑問があります。もちろん,実務では,株式報酬を導入する際に,月額報酬との関係について株主総会参考書類の中で説明がなされています。1の提案の趣旨というのは,全体のパッケージの中で,個々の種類の報酬の妥当性について株主が意思を表明する機会を明示的に保障することにあるのかなと思います。1の提案が実際にうまく機能するかどうかについて既に問題の御指摘がありましたが,パッケージ全体と個々の種類の報酬の関係について株主に意思表明の機会を与えることも事前の株主総会の関与のあり方の一つの方策なのかなという気がしております。   2点目は,株式報酬の特則のようなものを設けるべきかという問題についてです。私も田中幹事がおっしゃったような,361条の2みたいな株式報酬を対象とした別の制度を設けた方がすっきりするのかなという印象を持っております。これに対しては,支配権のゆがみなどが生じるのではないかという問題が指摘されていますけれども,お話を伺っていますと,結局支配権のゆがみの問題は,どういった条件で株式を付与するかという話とどういった時期にその株式を付与するかという点が二つあるように思います。これらの問題が生じる可能性があることは募集株式の発行の場合も同じで,前者は有利発行,後者は公正発行と言われてきた問題です。   付与の条件という点では,先ほど藤田委員と田中幹事がおっしゃったように,取締役全体に対してどれぐらいの額の株式報酬が与えられるということを株主総会が承認していれば足りると考えるのか,それとも個々の取締役がどれだけの,結局新株予約権や株式が付与されるのは個々の取締役なわけであって,個々の取締役に対して相当な額の株式報酬が与えられているかということまで承認が必要と考えるかによって,制度設計の仕方が異なってくるように思います。   付与の時期の話につきましては,これは不公正発行の話かと思いますけれども,株式報酬を付与する際にプランの詳細がある程度は具体的に決まっていれば,それほど懸念する必要はないようにも思います。この両者につきましては,全株式譲渡制限会社で特に問題になるわけですけれども,全株式譲渡制限会社では有利発行かどうか問わず,必ず株主総会の特別決議が必要となるわけですから,全株式譲渡制限会社では仮にこの株式報酬の特則を設けたとしても,相殺構成ではなく株式報酬の特則を設けたからといって濫用が増えるということにはならないと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,野村委員,柳澤委員に御発言いただいて,休憩を取らせていただきたいと思います。 ○野村委員 ありがとうございます。   2点でございますが,まずやはり1の方の報酬,特にインセンティブ報酬についての内容をどのように株主総会で諮るのかという点に関してでありますが,やはり今回の法務省の方の御提案というのは,これまでのお手盛り防止に関する361条の枠組みの中で何らかの形でインセンティブ報酬についても明らかにできる方策はないかという,ちょっとやや小出しな感じがしておりまして,私自身としてはやはり真正面からインセンティブ報酬についての規律付けというのを考えていただくことが必要なのかなというふうには思っております。   それは先ほど藤田委員がおっしゃったのですけれども,インセンティブ報酬というのは何も金銭以外のものの形だけを採るわけではなく,ほかの方策というのもあるわけでありますから,インセンティブがどのような形で付与されていて,それにしっかりとコミットするということが明らかとなるというような形のプロセスがどこかで構築できればいいなというふうに思っております。   したがって,今の御提案よりも,もう少しインセンティブ報酬の枠組みに即した形での規律付けを御検討いただきたいというのが1点目でございます。   2点目の方は,先ほどから出ております株式の金銭の払込みを要しない形での報酬の付与の話でございますが,これについては様々な懸念があることはもう既にこの場で共有されているかと思いますけれども,実はその懸念のポイントというのは事前交付型と事後交付型のところにあるんではないかなというような感じがしまして,要するに,金銭の払込みをしないということによって,これまでの技巧的だった例えば金銭の支払をしてから払い込んだことにするみたいなことが回避できるというのはメリットだとは思うのですけれども,この道を開くことによって,いわゆる事前交付型のインセンティブプランが使えるという形になったときに,ややこれが本当に必要なのかなというところが懸念されるということでございます。   というのは,事後交付型の場合には,基本的には自分でパフォーマンスを上げて,それでもらえるという形ですから,インセンティブは専らパフォーマンスを上げることだけに照準が合うという形になるわけですけれども,事前交付型ですと先にもらってしまって,枠組みとしては奪われないように,没収されないように頑張るんですというのは確かにそうなんですが,ほかのインセンティブも働いてしまいまして,例えば議決権が認められるのであれば議決権を取りあえずその期間中活用したいというインセンティブであるとか,あるいは増資が可能だということであって,前払費用としての形で増資ができるということだとすれば,その増資のために取りあえず報酬の名を借りてもらっておきましょうというようなインセンティブが働いてしまうということに対して,歯止めを十分かけられるかどうかを検討した上で御議論いただいた方がいいのかなというふうには思っております。   ですから,枠組みとして,インフラとしての会社法として,金銭の払込みを要しないという形での株式の発行形態というのを許容するにしても,それを使うときにどのような形の使い方が許容されるのかということをセットで御検討いただければ有り難いなと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。 ○柳澤委員 発言の機会を頂きまして,ありがとうございます。   投資家の視点から2点,役員報酬等に関する規律の見直し及び株式又は新株予約権を報酬等とする場合に定めなければならない事項の見直しに関して,コメントをさせていただければと思います。   まず,役員報酬等に関する規律の見直しにつきまして投資家としての捉え方ですが,役員報酬はガバナンス上の重要なチェック項目の一つと位置付けておりまして,インセンティブとしての機能を報酬体系の枠組みの中にどのようにビルトインさせているのかという観点において,企業の持続的な成長と中長期的な企業価値創造に基本的に連動しているものと理解しております。   コーポレートガバナンス・コード補充原則4の2①にも示されていますが,「経営陣の報酬は持続的な成長に向けた健全なインセンティブの一つとして機能するよう,中長期的な業績と連動する報酬の割合や現金報酬と自社株報酬との割合を適切に設定すべき」との考え方は,企業評価の面から見ても重要なポイントになってきますので,こうした報酬体系の在り方がどのような方針に基づいて決定されているのかに着眼点を置いて分析を行うようにしています。   基本的に,報酬体系は,企業の経営戦略との関連性の下で整合的に設計されるべきものと認識しておりますが,報酬内容をどのような方針に基づいて決定しているのか,そこに根ざす決定方針はそれぞれの企業が採り得る経営戦略と密接なつながりを持って形成されていると想定しています。   したがいまして,報酬内容の決定に関する方針,それ自体を株主の決議事項とするのは必ずしも適切とは言えない可能性があり,株主総会で報酬議案が提出されている場合には,企業側から決定に関する方針の内容の概要及び報酬議案がその方針に沿うものかどうか,判断と理由を説明しなければならないという説明義務としての規律付けを行うことが望ましいと考えております。   なお,報酬の決定方針と議案との関係につきましては,株主総会でその適合性を説明するということに加えまして,必然的に任意で記載がなされるのかもしれませんが,株主総会参考資料の報酬議案の説明におきましても,報酬の決定方針との関係について記載を義務付けるといった点は検討しておく余地があるように思われます。事業報告における開示案の方では,飽くまで当該事業年度の報酬内容と方針との関係が記載されることになりますので,報酬議案との関係とは異なる記載となりますから,例えば施行規則での取扱いや解釈等も含めて,何らかの形で株主総会参考資料に決定方針と議案の関係を説明するよう義務付けておくといった対応については,検討する意義があるのではないかと考えております。   次に,株式又は新株予約権を報酬等とする場合に定めなければならない事項の見直しについてですが,基本的に具体的な内容をより明確にしておくことが望ましいと考えておりまして,部会資料の内容に関して特段の違和感はございません。投資家として報酬議案を精査する際の着眼点に照らしてその趣旨を鑑みましても,記載内容についてはおおむね整合しているものと受け止めております。   報酬議案の一般的な評価ポイントとしては,誰に何をどれだけ与え,どのように機能するかといった議決権行使助言会社ISSによる例示が簡潔な整理と言えると思いますが,報酬体系の枠組みとして価値の希薄化等も含めて,その経済的な意味合いを把握することが主眼になると認識しております。   こうした観点も踏まえて,具体的にどのような見直しを行っていくかという方向性に関しましては,御説明いただきました参考資料10「新しい報酬規制」の5.改正の具体案(1)報酬規制(361条)について及び(2)報酬プランの導入①,②に記載された項目内容をベースに対応を進めていくことで検討していただければと考えております。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,ここで15分間の休憩を取らせていただきたいと思います。今この部屋の時計で言いますと42分ぐらいを示しておりますので,15分後の3時57分辺りに再開させていただきたいと思います。よろしくお願いします。           (休     憩) ○神田部会長 それでは,再開させていただきます。   1と2につきまして多くの方から貴重な御発言をいただきまして,ありがとうございました。私の手元で事前に考えていた進行予定より既に1時間以上遅れておりまして,ちょっと進行が悪くて申し訳ないのですけれども,多くの方から意見を出していただきたいということもありますので,悩ましいところではあります。  参考人としてお越しいただいている方々の御事情等もございますので,3と4の議論は後回しにさせていただきまして,部会資料で申しますと第2に当たるのですけれども,先にD&O保険に関する規律の整備の御審議をお願いしたいと思います。事務当局から冒頭御紹介ございましたとおり,石丸参考人と土屋参考人にお越しいただいております。本日はお忙しいところどうもありがとうございます。   部会資料4の第2につきまして,事務当局から説明をしていただき,その後で石丸参考人と土屋参考人に御説明というかプレゼンテーションをしていただくということで進めさせていただきたいと思います。   それでは,事務当局からの御説明をお願いします。 ○邉関係官 それでは,部会資料4の10ページ,「第2 D&O保険に関する規律の整備」について御説明いたします。   第2は,D&O保険に係る契約に相当するものを,役員等賠償責任保険契約と定義しまして,これに関する規定を設けることについて,どのように考えるかを問うものです。   D&O保険は,既に我が国でも上場会社を中心に広く普及していると指摘されているところ,会社法上,株式会社がD&O保険に係る契約を締結することに関する定めは存在せず,株式会社がD&O保険に係る契約を締結するためにどのような手続等が必要であるかについての解釈は必ずしも確立されておりません。   D&O保険には,役員等として優秀な人材を確保するとともに,役員等がその職務の執行に伴い損害賠償の責任を負うことを過度に恐れることでその職務の執行が委縮することがないように役員等に対して適切なインセンティブを付与するという意義が認められるところですので,会社法にD&O保険に係る契約に関する規定を設け,当該契約の締結により生ずることが懸念される弊害に対処するとともに,当該契約を締結するための手続等を明確にして,D&O保険が適切に運用されるよう必要な規律を整備することが考えられるところです。   仮に,規定を設けることとした場合のその内容に関しては,1以下において御議論いただきたいと考えております。   まず,「1 役員等賠償責任保険契約の内容の決定」では,役員等賠償責任保険契約の内容を,取締役会設置会社においては取締役会の決定事項とし,それ以外の会社においては株主総会の決定事項とすることについてどのように考えるか,としております。   続いて,「2 事業報告における開示」では,株式会社が当該事業年度の末日において公開会社である場合において,役員等賠償責任保険契約を締結しているときは,当該契約に関する事項を事業報告の内容に含めなければならないものとすることについて,どのように考えるか,としております。   取締役の全員がD&O保険の被保険者となることが現在の実務では通常であるという構造上の利益相反性や,役員等賠償責任保険契約の内容は役員等の職務の適正性に影響を与えるおそれがあることなどを考慮しますと,本文記載のとおりに株主に対して役員等賠償責任保険契約に関する事項を開示する必要性が高いものと思われます。   また,いわゆる株主代表訴訟担保特約部分の保険料については,役員が負担するというのが従来の一般的な実務であったと理解しておりますが,ここで議論している役員等賠償責任保険契約について,従来の一般的な実務とは異なり,この特約部分に相当する部分に関して役員が負担しなくてもよいという規律とする場合には,役員が一切の経済的負担をせずに株式会社が役員等賠償責任保険契約を締結することができることにもなるために,不相当に過度な内容の役員等賠償責任保険契約を締結する懸念が高まるとも考えられるところですので,開示による一定の歯止めを設けることが重要であるとも思われます。   開示項目としては,例えば12ページの補足説明1に記載のとおり①から⑧までに掲げる事項が考えられると思われます。役員等賠償責任保険契約に関する事項を開示することについては,濫訴を誘発することになるといった指摘等もあるところですが,開示項目によってそのような弊害が生ずる懸念の程度は異なり得るものと思われます。開示項目ごとに開示することが適切かどうかについて検討することが重要であると考えられます。   (注)は,仮に,役員等賠償責任保険契約に関する事項を事業報告の内容に含めないものとする場合には,株式会社が締結することができる役員等賠償責任保険契約の内容について法律で制限する必要があるという考え方もあり得ることから,記載しているものです。仮に,株式会社が締結することができる役員等賠償責任保険契約の内容について法律で制限する場合には,どのように制限すべきかについても検討する必要があると思われます。   最後に,「3 利益相反取引規制の適用除外」では,役員等賠償責任保険契約のうち,取締役又は執行役を被保険者とするもの及び取締役又は執行役が受けた損害を会社が補償することによって生ずることのある損害を填補するものについては,利益相反取引規制を適用しないものとすることについて,どのように考えるか,としております。   これらの契約が間接取引に該当すると考える場合には,13ページ,補足説明2の①及び②に記載するような規制が適用されることになるところです。しかし,D&O保険には,役員等として優秀な人材を確保するとともに,役員等がその職務の執行に伴い損害賠償の責任を負うことを過度に恐れることで,その職務の執行が委縮することがないように役員等に対して適切なインセンティブを付与するという意義があることに鑑みると,株式会社にとって利益になる側面もあるといえ,先ほど御説明した10ページ目の「1 役員等賠償責任保険契約の内容の決定」や11ページ目の「2 事業報告における開示」の手当てがされるのであれば,ここまでの規制の適用は必要ないとも考えられるところです。御説明は以上となります。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,続きまして,石丸参考人と土屋参考人からプレゼンテーションを頂きたいと思います。よろしくお願いします。 ○石丸参考人 すみません,進行の方を御配慮いただきましてありがとうございます。   参考人として日本損害保険協会から参りました石丸と申します。   それでは,私の方からはお配りしています資料の参考資料12,こちらの方で述べさせていただいております意見について発言させていただきたいと思います。   まず,資料としては今の参考資料12,「会社役員賠償責任保険(D&O保険)に関する規律の整備」に関する意見というふうにさせていただいているものでございます。   それでは,本題に入らせていただきたいと思います。   まず,意見の論旨としましては,今御説明にありましたD&O保険の契約内容等の法定開示義務化,これについては反対の意見ということになります。また,同じく部会資料の方で示されております(注)ですね,こちらの方にあります開示内容に含めなかった場合においてD&O保険の契約内容を法律で制限すること,こちらにつきましても反対の立場でございます。   理由に関しましては,書面の方で述べさせていただきましたとおり3点挙げさせていただいておりますけれども,最初の2点,これが開示義務化,これに直接的に反対することに関しての理由となります。もう1点,3点目に示させていただいた部分につきましては,実際に開示がなされたと仮定した場合における弊害に関して述べているという位置付けになっております。   それでは,各理由についての説明に入らせていただきたいと思います。   まず,1点目でございます。D&O保険の存在によって役員のモラルハザードが生じている事実がないといったところでございます。恐らく,D&O保険の開示の必要性というところにつきましては,D&O保険の契約の存在自体が会社に対する役員の利益相反行為を招くというような問題意識があるということと,過剰な補償内容の契約を締結することによって役員のモラルハザードを惹起するということを抑制する効果を目指して論議されているものというふうに認識しております。   一方で,D&O保険契約につきましては,90年代当時から導入されているのですけれども,約款自体,ここに適切な免責事由,特に法令違反を認識しながら行った行為等に起因する損害賠償請求等は免責としているというような免責事項が設定されておりまして,モラルハザードを排除する仕組み,対応策,こういったものは既に講じられているというふうに考えております。   一方,実態面でございますけれども,販売開始から約20年経過しておりまして,上場企業の約9割以上,これはD&O保険に加入していると言われている現状におきまして,現実問題としてD&O保険によるモラルハザードは生じていないというふうに認識しております。   こういった理由から,開示規制につきましては,その必要性・正当性を裏付ける事実について慎重に検証を行う必要があるというふうに考えております。加えまして,モラルハザードの抑止という目的と照らして,法定開示の義務化という手段の妥当性・必然性については慎重な検討が必要であるというふうな考えでございます。   続きまして,2点目でございます。海外諸国では,ごく一部の例外を除き,法令による開示義務が課されていないとしている点でございます。我々の方でも,海外の事例というものを調査しました。この結果,実際に義務化,これを規定化しているというところにつきましては,米国のニューヨーク州,ここだけというところになってございます。こういったところから,ごく一部の例外を除いて,D&O保険契約に関する法定開示義務を課しているケースはないというふうに見ております。   開示規制自体は,グローバルスタンダードではなく,仮に日本で開示規制を設けた場合,国内企業にとっての過度な規制になるということであるとか,海外企業との不公平感,こういったものを生む可能性があるというところを懸念しております。アメリカの例を見まして,ニューヨーク州1州のみで,その他の州が追随していないというところを鑑みますと,開示規制の必要性ということ自体は顕在化していないのではないかというふうにも考えております。   続きまして,資料の裏面にまいりまして,3番のところでございます。   開示規制によって企業にとって実務上の弊害が生じるおそれがあるとしたところでございます。ここにつきましては,冒頭でお話しさせていただきましたとおり,直接的な理由というよりは,実際に開示義務が課されたといったところによる実務上の弊害というところを述べさせていただいております。   大きく3点入れさせていただいているのですけれども,1点目,濫訴や訴額・和解額のつり上げを惹起する懸念があるというところでございます。こちらについては,部会資料の方でも記載がございますとおり,やはりこういったものが開示されることになることによりまして,濫訴及び訴額・和解額のつり上げといったところはやはり考えなくてはいけないのではないかというふうなところでございます。これによりまして,D&O保険を当て込んだ訴訟請求というところが増加すると,やはり保険料を含めて社会的コストが上がっていくと。ひいては,契約者である企業にとって不利益になるのではないかというふうに感じております。   続きまして,2点目でございます。こちらについては,グローバルスタンダードに沿った保険の運用の阻害につながる懸念というところでございます。   さきに述べさせていただきましたとおり,海外においてはごく一部の例を除きまして開示規制が行われていないという実態を踏まえると,こういった規制がなされることによりまして,グローバルスタンダードに沿った保険運用とならないというような懸念及び保険そのものの発展を阻害するということによりまして,企業にとっての保険活用の可能性を制限するおそれがあるというところでございます。   そもそも,D&O保険の契約内容というのは,業態・規模,これだけではなくて,顧客層でありますとか株主構成,経営課題及び会社政策,過去の訴訟履歴,その他会社の固有の状況といったところ,複雑な要素を含めて個別に判断しているものでございます。こういったことから,同業他社や異業種の同規模の会社というところと比較するための定量的・定性的な基準というのは存在していないというところから,こういったものを一律の物差しで測ることはできないというふうに感じておりますので,法律による開示義務化にはなじまないものであるというふうに考えております。   続きまして,3点目でございます。企業の経営課題や経営的関心に関する情報が流出する懸念というところでございます。   先ほどお話ししましたとおり,D&O保険を契約する際,これにつきましては経営戦略及び経営上の懸念事項,こういったところを考慮した結果,判断がなされているものでございます。このため,D&O保険契約を開示するということによりまして,自社が水面下で進めているような経営戦略,あるいは重要な業務執行上の秘密というところが外部に推測されるおそれがあるといったところを企業側は恐れて,本来であればD&O保険の見直しであるとか補償拡大を行うところ,こういったおそれが原因となりまして十分な手当てを行わず,結果として思い切った経営判断ができなくなるといった事態も懸念しております。   ひいては,日本企業の競争力低下や役員のなり手不足,こういったところにもつながってくるおそれがあるというふうに考えております。   以上が私から申し上げたい点でございます。発言の機会を頂きまして,ありがとうございました。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,このD&O保険の部分,具体的には部会資料4の第2の部分につきまして,皆様方から御質問,御意見をお出しいただければと存じます。   なお,参考人の方からの今のプレゼンテーションについての御質問等も併せてお出しいただければと思います。 ○中東幹事 貴重なお話を聞かせていただいてありがとうございます。   結論から申し上げますと,部会資料4の第2の「どのように考えるか」という御提案については,全て積極的に取り入れることについて賛成という意見でございます。   この立場から3点申し上げたいと思うのですが,これまでと違って会社が保険料を一部あるいは全部を負担しようという場合には,やはり利益相反の要素を考えなければならないと考えております。もし内容について規制をしないのであれば,やはり一定の開示が必要になると考えております。と申しますのも,取締役会で決定するとした場合でも,通常であれば役員等の全てが対象となるでしょうから,取締役会の承認等だけでは利益相反が完全にクリアされるとは言えないからです。   第1点目として,モラルハザードについては,お教えいただきましたように現時点で生じていないとしても,これから一部の,あるいは全部の保険料を会社が負担することを認めることになった場合についてのことは未知でございますので,本来の在るべき枠組みになるべきだと思っております。   第2点目として,弊害についてでございますが,本当に弊害があるのかなと正直なところ思っておりまして,御説明いただいて申し訳ないのですが,確かに幾つかの点についてなるほどと思うところもございましたが,かといって全ての事項を開示してはいけないということにはならないと思えます。そういう意味では,株主あるいはマーケットのチェックが可能となるようにしつつ,他方で,弊害をどのように抑止するのかを意識して,何を開示事項とするのかについて,この部会としては議論を尽くすべきだと考えております。   第3点目でございますが,ニューヨークの事業会社法が唯一の例だったという御説明でございましたが,ニューヨークはワン・オブ・ゼムではなくて,非常にステータスがあるというか,洗練された会社法を持っている州であると考えております。そういう意味では,ニューヨーク州法を設立準拠法にしてニューヨーク証券取引所に上場している会社も少なからずあるわけでございますが,そういった会社について不都合が生じているのかと疑問を感じます。御説明いただいているようなことが本当にニューヨークで設立した会社に生じていることをお教えいただいてこそ,確かに弊害があるのだなということが理解できるとも思えます。逆に,ニューヨークで設立しても大丈夫だということをお聞きすると,むしろ弊害はそれほどないのかなと,むしろ何を開示事項にすべきなのかをしっかり詰めた方が良いと,こういう考えでございます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。 ○古本委員 ありがとうございます。   D&O保険につきましても,やはり長年にわたって既に多くの会社が契約しており,実務で完全に定着した保険であると認識してございます。ということもあって,正直申し上げて今回の話はやや唐突感を持って我々としては受け止めております。   特に,資料の補足説明で書かれている内容が,企業の実感からいたしますとD&O保険をややネガティブに捉え過ぎているのではないかと思います。もちろん,皆さんはよく御存じだと思いますけれども,会社にとってのD&O保険の機能,利益としては,三つくらいあるのではないかと思います。   まず1点目は,巨額に上り得る責任負担の危険に役員個人がさらされないための環境を整備することによって優れた人材を確保すること,これが1点目だと思います。それから2点目は,過失に伴って役員に発生し得る損害賠償責任,このリスクをカバーすることによって役員が適切にリスクテイクしつつ職務を執行するための環境整備という機能がございます。それから,3点目といたしましては,万一役員の注意義務違反によって会社に損害が生じてしまった場合でも,会社として保険の範囲内で確実に損害の回収ができるという機能,利益があると認識しております。   モラルハザードについてでございますけれども,まず,1点目としては,先ほど御説明があったとおりD&O保険でカバーされるものは限定されており,主に経営判断ミス等の過失に起因する損害賠償責任がカバーされるということであって,犯罪行為ですとか法令違反,これを認識しながら行った行為,こういった悪質な場合は,カバーされていないということがあると思います。それから,2点目といたしましては,やはり大企業にとっては事業活動における取引金額などと比較しますと,金額的に非常に限定された保険に実態は限られているということでございます。したがって,D&O保険の締結がモラルハザードにつながるといったような懸念は,私どもの実感としてはないということを申し添えておきたいと思います。   現実的にも,これは既に一昨年の「コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会」の報告書,「法的論点に関する解釈指針」においても,会社がD&O保険を締結できるということは当然の前提として整理されていて,そこでは保険料のうち代表訴訟担保特約,ここに係る部分の保険料についても一定の手続を経ることによって会社が負担できるということとされています。これを受けまして,国税庁もそのような手続を踏んだ場合には,役員報酬とはみなさないという通達を出すというところまで来ておりまして,こうした状況を受けまして,少なからぬ企業がもう既に保険料の全額会社負担に踏み切ったというふうに理解しております。   先ほど申し上げた解釈指針では,社外取締役全員の同意などの手続を採るということになっておりますけれども,これが利益相反性を考慮してのものというふうにされておりますので,私どもとしては,2に記載されているような開示がないと利益相反の問題があってD&O保険契約の締結自体が問題なのだと言われると,何といいますか,今更という感を禁じ得ないというところでございます。D&O保険をめぐる実務は今申し上げたような状況にありますので,新たな規定の導入というのは必要ないという立場でございます。   仮に,会社法に何らかの明文規定を導入する必要があるということであったとしても,例えばアメリカのデラウェア会社法には,会社は広くD&O保険を締結できるというような非常にシンプルな規定がございますけれども,そういったもので対応していただけないものかと考えております。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○小林委員 小林でございます。ありがとうございます。   私どもの方も,企業実務の感覚といたしましては,やはりもう既に,今もお話ありましたけれども,経産省の解釈指針とか国税の通達というようなもので実務上やはり特段問題なくワークしているところに,先ほどもちょっとありました,今更こういうところで規制を入れるということは規制強化にほかならないという感覚でございます。   元々この部会資料もインセンティブの付与のための規律ということなのですけれども,ネガティブな規律ということなのかもしれませんが,やはりこれが役員へのインセンティブ付与機能を有するものとして,取締役等の職務執行から生じる,不可避的に生じるリスクをカバーするということであれば,会社の経済的損失をカバーして企業価値を維持するためのものという前提からすれば,これにあえて今回のような提案がなされること自体,違和感が相当にあるというところでございます。   元々,今現在販売されているD&O保険の付保内容自体も部会資料のこの範囲よりもかなり広い部分を付保されている場合が多くて,結果的にこれを,例えば保険料とかが区分けされて払っているわけではないですから,むしろこれ以上に広い部分を開示しろということに多分なってしまうということもありまして,そういう意味ではやはり受け入れ難い内容になってしまうのかなという意識を持っています。   開示についてはもちろんそういう意味で,いろいろな意味での委縮効果がございますし,濫訴の危険というか,むしろマイナス要素の方が大きいというのが実務的な感覚でございますので,本来目的としている保険の趣旨から別な形で,言わば逸脱した使い方を外部の方がしてしまうというようなこともあり得ると考えております。また,保険そのものは第三者を害するということではなくて,保険会社といわゆる私企業との間の取引で,この保険の内容の前提としているリスクそのものが極めて高度な経営判断に関係するものを含んでいるということになりますから,その保険料は何だと聞かれたときには,その裏側にある非常にたくさんのもろもろのものを実は説明しなければ分からないということになりますと,それを説明せよというに等しい状況になってしまいますので,私どもとしてはやはり非常にそこに違和感を感じるところでございまして,そのような感覚を持っているということを意見として申し上げます。 ○神田部会長 ありがとうございました。 ○北村委員 ありがとうございます。   私自身は,D&O保険について規制を設けることについて賛成の立場でございます。ただ,D&O保険そのものについてネガティブな感覚で規制強化するという意味ではありません。既にこの保険が我が国で販売されるようになってから20年以上経過しておりますし,欧米諸国でもD&O保険を会社が導入することについての規定が設けられています。D&O保険についての規定が日本の会社法になければ,この保険契約の締結の法的性質は何だということになり,これは会社法356条1項3号の間接取引だから利益相反取引についての規制は役員の責任に関する規定を含めフルセットでかかることになると思います。こういう状況になっておりますので,新たにD&O保険に特化した,それを導入するためのルールを設ける,そして,現在の利益相反取引規制の特則,つまり利益相反取引についての規定は適用されないし,責任に関する規定も適用されない,こういうルールを設けることは合理的であろうと考えております。   D&O保険について既に経産省が解釈指針を示され国税庁がそれに依拠した税務上のルールを採用しているということでございます。しかし,例えば経産省の解釈指針では社外取締役が過半数の委員会の同意を得るとか,社外取締役全員の同意があればいいとか,こういうことが書かれているのですけれども,それは現在の会社法の機関決定のプロセスからは逸脱しており,それが裁判規範として果たして合理的なものかどうかはまた議論の余地があると思います。その意味では,最初からD&O保険に特化した,利益相反取引の亜流のような規制を設けるということに賛成でございます。   モラルハザードの問題にどのように対処するのかは,実際よく分からないところがございますが,それについてはモラルハザードに対処した保険約款をどのように作っていくかという問題なのだろうと考えております。   最後に,開示の問題でございますけれども,どういうことを開示するのか,ニューヨーク州だけは開示が要求されてほかの州は開示が求められていない理由がよく分からないところではございますけれども,全く開示しないでいいのかということについては,少し議論を掘り下げる必要があろうかと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。それでは,松井(智)幹事,それから安永幹事の順でお願いします。 ○松井(智)幹事 今,北村委員の発言もそのとおりだと思っておりまして,損害保険の商品が公になるかどうかということと,現在の役員がどういう権利義務関係に置かれているのかということは別問題だと思います。もしこれが利益相反取引だというふうに整理されるのであれば,その社外取締役だけでこの導入を決めてしまいますと,利益相反の事前手続を得ずに行ったものとして取引の有効性が問題になりますし,これをそのまま承認してしまった取締役に任務懈怠責任が生じるおそれがあるわけでありまして,損害保険会社の顧客である会社側に迷惑が掛かっている状況であるというふうに理解をいたしますと,そこを明確にするということと,この商品の柔軟性といったことをどう担保するかということはまた別の問題だと思います。   それで,商品の柔軟性と開示の関係でありますけれども,例えば役会であるとか事業報告であるとかいった形での開示に,非常にクリティカルな部分を開示したくないであるとか,重要な事業決定と共に枠を変更するというようなことがあったというときに,ここを必ずしも全て開示しろというようなことまで,この法律を変えていく上で全て義務付けるということまでをする必要があるかどうかというのは,これはまた別に考えればよいことで,取締役の責任という面からは,こちらの役会での利益相反類似の手続ということに御理解いただけないかと思います。 ○神田部会長 ありがとうございました。 ○安永幹事 経済産業省でございます。先ほども御紹介しました参考資料の13でも意見をお出しさせていただいており,また,先ほどから解釈指針の話も議論に出てきておりますけれども,やはり実務に相当定着してきているという実態がございますので,少なくともそうした実態の制約になるような方向は避けた方がいいのではないかということで,そこは御配慮いただきたいと思いますし,特に開示の議論につきましては,目的との関係,実態に及ぼす影響などを含めて,慎重に御検討いただきたいと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○沖委員 ありがとうございます。   この役員等賠償責任保険について,明文の規律を入れるかどうかという,この問題が提起されている背景として,代表訴訟担保特約の部分ですね,この部分についての会社による保険料負担,これが一般的にできないと考えられていたのですが,このたびの経産省の解釈指針であるとか,これを受けて税務上の損金算入が可能になったということが背景にあると思います。そのことを背景に,保険金額が高額化しているという指摘もあります。   そもそも,この代表訴訟担保特約部分の会社の保険料負担については,その有効性について争いがあったところ,経産省の解釈指針で明確に一定の手続をとればこれは可能であると言ったことの意義は非常に大きいと思いますけれども,これは分かれていた見解のうちの一つを採ったということですので,この際,やはり会社法で明確な規定を置いて,この代表訴訟担保特約部分の保険料負担も有効であると,その他の懸案についても明確な規定を置いて,そのことを通して一層の保険利用を促すことと商品開発も促すということが望まれるのではないかと考えております。   その際,会社法の利益相反規定,これも適用除外とすることについても賛成であります。   ただ,開示の点ですけれども,これは理論的に見ますと,全取締役が被保険者になるということから,利益相反性の問題が取締役会決議だけでは完全に解決できないということになるかと思いますので,理論的には何らかの開示が必要だと思います。ただ,何を開示するかというところで,この保険金額をもし開示してしまいますと,これが一覧表にして恐らく公開されるというようなことも出てくると思いますので,これは代表訴訟の提起を考える株主とか,あるいはその方面に強い弁護士から見ますと,それを見た上で代表訴訟を起こすかどうかを考えるということが当然考えられるわけです。   しかし,代表訴訟というのは,飽くまで会社の利益になるかどうかという観点で,これを起こすかどうかを決めないといけないのですけれども,実際問題として,一定限度の相当の報酬の支払が保障されている中で,D&O保険の内容が開示され,報酬の回収可能性を判断しやすくなることで,個人的な報酬を目当てにして代表訴訟を起こすという方向に動くことは,これも否定できないことだと思いますので,この保険金額を開示することが必要かどうか,その他の開示をどの程度まで行うことが必要かどうか,これは慎重に検討する必要があると思います。   あわせて,これは代表訴訟について一層の濫用防止対策や会社の利益にならない訴訟,そういったものについて合理的な制限措置が可能かどうか,これも併せて見合いで考える必要があるのではないかと考えます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○梅野幹事 この12ページの1から8までの各事項をどの程度,どの範囲で開示するかというのは,確かにいろいろな要素を考えた上で考えなければいけないだろうと思っております。特に,理由付けとして,ある意味リスク情報としても機能する情報であるから,多分これは保険金額,保険料等についてだと思いますけれども,これを開示することは株主のメリットになるといったような趣旨の記載があったように思いますが,本来,これを開示するのは利益相反回避という目的のために開示するのであって,そのための開示という点に限定して考えるべきで,余りこういった要素を考えるべきではないだろうと過去にもいろいろ意見が出ていましたけれども,私もそのように思います。   やはり,こういった保険料というのは会社と保険会社との間の交渉で様々な要素を経て決まってくるものなので,それが開示された場合,特に市場に対するネガティブな情報としても受け取られる可能性が多いので,そういった意味からこの開示については慎重に考えるべきだろうというふうに思っています。   ただ,一方,ちょっと私が先ほどの沖委員とまた考え方が違うところがあって,果たしてこれが濫訴につながるのかどうか,本当にそうなのかというのは少しよく考えてみる必要があるのではないかと。例えば保険金額が開示されたとして,一時的に若干のぶれというのはあると思うのですけれども,既にもう9割以上の上場会社でこの保険が利用されているという前提があり,それはもう株主は皆さん分かっていることなので,その上でプラスアルファの情報が開示されたからとして,果たして本当に濫訴になるのかというのは,ちょっとよく分からないなと。   もちろん私は実務家なのでミクロ的な観点からしか見えないので分かりませんけれども,例えば代表訴訟に関して言えば,勝訴判決にしろ和解にしろ,取締役から会社に払われる金額はD&O保険の対象ですけれども,852条1項の,要するに勝訴株主が会社に対して弁護士費用を請求できると,その金額については私の理解ではこれはD&O保険では担保されていないところだと思うので,結局訴える株主サイドから見れば,そこがどれだけ出るかということが大事な場面もあるのだと思うのですけれども,そこがカバーされていない以上,余り保険金額の多寡によって訴えるか,訴えないのか決まってくるというわけではなくて,むしろ,その案件がどれほど社会的に注目されているか,あるいは重要であるかといった観点から代表訴訟というのは起こってくる場合が多いのかなと思っていて,もちろん中小企業なんかの場合は,違う場合もあると理解していますが,そういった意味からこの弊害の分析については慎重に考える必要があると。ただし,飽くまで利益相反回避のためにどの範囲の開示が必要なのかという観点から考えるべきではないかというように思っている次第です。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。大体よろしいでしょうか。それでは,どうもありがとうございました。   審議の対象を,休憩前に途中までいったところに戻らせていただきたいと思います。具体的には部会資料4の第1に戻っていただいて,ページ数で言いますと6ページから9ページになると思いますが,3と4,3が「取締役の個人別の報酬等の内容に係る決定の再一任」,4が「事業報告における開示」,これらにつきまして既に事務当局からの御説明は済んでおりますので,皆様方から御質問,御意見をお出しいただきたいと思います。なお,休憩前の1,2の項目についても,まだ発言する機会がなかったとか追加での御発言等がおありの委員,幹事の皆さんは是非御発言いただいて結構でございますが,主として3と4について御意見を頂ければと思います。どなたからでも結構です。いかがでしょうか。 ○古本委員 ありがとうございます。   この3と4ですけれども,やはり私どもから見ますと,3の再委任を不可とすることと,4の「(5)個人別の報酬等の内容」の開示につきましては,反対の立場でございます。   再委任については,再委任自体が現行の規定に合致しているということは先ほど申し上げましたように判例でも認められておりますので,いかにもお手盛りだというような議論だけではなく,法改正の必要性とそれによって生じる実務への悪影響というところをしっかり比較衡量していただいた上で議論していただくべきと思ってございます。   また,申し上げるまでもありませんけれども,再委任を受けたからといいまして,代表取締役がでたらめに個別の報酬金額を決められるというわけでもないわけでありまして,当然ながら合理的な金額にすべきという善管注意義務を負っております。また,実態的にも多くの会社では,先ほど来出ておりますけれども報酬の額ないし算定方法に関する決定の方針というものを定めておりますし,更には具体的な計算式なども定められていることが多いと理解してございます。つまり,再委任があるからといいまして社長,代表取締役の恣意が大きく働いているということはなくて,そこは非常に限定的だというのが実態だということを申し上げたいと思います。   再委任できないとなった場合の問題は,次の個別報酬の開示とも同じですけれども,やはり個人の報酬金額が広く知られてしまうおそれがあるという点にあると思います。取締役会で個別の金額を決定しようということになりますと,各役員の報酬額,これは事務局その他,社内でもかなりの人の目に触れることになります。非常に現実的な話で恐縮なのですけれども,そういうことが実際に起きてしまいます。さらに,同じ役位の役員でも,業績評価によって金額に差をつけるというようなことになりますと,その評価も知られてしまうということになります。さらには,議事録に記載をすれば,株主からの閲覧請求で外にも漏れていくという懸念もございます。   会社におきましては,従業員につきましても執行役員につきましても,本人の業績の評価ですとか報酬というものは本人と上司が知っているということでありまして,会社の中で業務執行取締役についても同じようなことを配慮しているということを御理解いただきたいと思います。   それから,「事業報告における開示」,4番の方ですけれども,同じ話でございまして,やはり個人別の報酬等の内容の開示にはプライバシーの観点から反対であります。欧米の場合は,経営陣の報酬は非常に高額であることを背景に個人別の報酬の開示が当然必要だとされておりますけれども,我が国の場合は,事情が全く違うと思います。   それから,実際の現行の開示制度の下でも,有報ベースではありますけれども1億円以上のものは報酬金額が開示されています。ということは,結局は1億円に満たないレベルの金額報酬の実数を出すか出さないかと,こういう問題になるわけで,では具体的にその数字を知って本当に何が得られるのかというところが我々からすれば疑問であるわけです。   さらには,現状の開示からも,社内・社外それぞれについて人数及び総額が示されておりますので,おおよその金額は推定可能でありますし,歴年のデータを調べれば報酬の総額も平均額のトレンドについても容易に知ることができると,こういう状況になってございますので,開示することによるメリットとプライバシーの侵害とを比較いたしますと,やはり後者に配慮すべきであるということで反対の立場でございます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。 ○小林委員 どちらかというと,今,古本委員から上場企業一般の話ということだったのですけれども,中小企業実務の方からちょっとお話をさせていただきますと,まず,個人別の報酬等の内容に係る決定の再一任ということですけれども,これは取締役会設置会社というところで書いてございまして,これはもう当然に中小企業がたくさん含まれるものでございますけれども,中小企業の場合,取締役の報酬といっても実態としては使用人兼務部分の労務の対価が圧倒的だということもございまして,現実的なことを言いますと,代表取締役の再一任自体に合理性があるというふうにちょっと考えております。   ここが再一任できないとなりますと,こういう企業におきましては,仕事自体は取締役みんなでやっているというようなこともございまして,元々近親者で占められている場合も,ないしは近親者でなくても非常に近い関係者で占められている,そういう取締役会というのは普通にございますから,個別の報酬額を,少なくとも取締役会ということでも,別に事務局とかいうレベルではなくても,それを明らかにするというのは非常に人的な関係に影響するということは間違いなく言えますので,ここは非常に中小企業の実態からしますと問題が大きくて,とても賛成できない内容になります。   それから,事業報告における開示も,これは計算式等ないしは考え方についてはCGコードでの開示というのはもう既に大分出てきているというところもあって,今はいろいろ皆様が考え方を開示して,その説明をするということはあるのですけれども,この資料では,事業報告ですから公開会社という概念でくくられております。上場企業だけではございませんし,また,有価証券報告書の提出義務のない会社も当然多く含まれておりまして,これまた非常に中小企業が多く含まれると考えておりまして,元々事業報告の開示自体,内容を増やすことは非常に負担感が大きいということと,先ほど申し上げた事情を前提にいたしますと,これは先ほどの話は取締役会ですから取締役同士の話ですけれども,株主数の少ない中小企業ということになりますと,株主構成との関係で言いますと,やはりかなりここに大きな問題がございまして,総額,委任ぐらいまでは仕方がないと思うのですけれども,個別報酬の開示というのはとても耐えられない内容であるというふうに考えておりまして,この点からも反対でございます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。 ○松井(智)幹事 1と2のところの議論の続きみたいな感じになるのですが,休憩を挟む前に加藤幹事が少しおっしゃっていたのですが,特に株式等の業績連動型の報酬について,199条ではなくて例えば361条の2のような形で株式について決議を採るというような形を採った場合,報酬について各個別の取締役がどれだけの株式を受け取ることになるのかということが,その決議の内容として明らかになるということが前提になっていると思うのですけれども,そうだとすると,9ページにあるような,9ページの3の1行目ですが,報酬の種類及び種類ごとの総額を開示するという,この案の前提の部分が,もうここが業績連動の株式,新株予約権等については外れるという,そういう認識で考えるべきだと思っていて,今お二人の御発言にあったんですけれども,現金での報酬に関することとは別に,これに関してはそのような方向でいくことが株主と取締役の利益のアラインメント等との関係で望ましいというふうに考えているということです。 ○神田部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○加藤幹事 ありがとうございます。   1点目の代表取締役への再一任の可否について意見を述べさせていただきます。取締役会が個々の取締役の報酬の決定を代表取締役に再一任をすることが,個々の会社の事情によって合理的な場合があるという御意見がありましたが,確かにそのような場合が存在するのかもしれません。しかし,そのような場合には,株主総会の決議の段階で代表取締役に個々の取締役の報酬の決定を一任するということまで決議すべきだと思います。最近,招集通知などを調べているのですが,金銭報酬の決議の仕方について各会社にかなりのバラツキが見受けられます。例えば,報酬委員会を設置して,その諮問に基づいて取締役会が個々の取締役の報酬の内容を決定するとまで書く会社もあれば,取締役会が決定するということすら書かないで,ただ単に総額決議をするとしか書かない会社もあるわけです。   株主総会が総額決議をした上でどういった過程で個々の取締役の報酬が決定されていくかということも株主にとっては重要だと思います。ですから,会社ごとに総額決議に従ってどのような形で個々の取締役の報酬を決定するのかということについて,もちろん余り詳細な評価の基準などを株主総会に出すことは経営戦略の観点から問題があるということは承知しているのですけれども,少なくとも最終的に誰が決定するのかということくらいは決議事項としてもよいように思いました。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,梅野幹事,田中幹事の順で。 ○梅野幹事 4の「事業報告における開示」について,こういう問題意識があるという観点から発言させてください。直ちに事業報告の内容をどうこうせよという立法提言というわけではございませんが,ホールディング会社,完全親会社等において,取締役が親会社,ホールディング会社と事業会社の取締役を兼務しているような場合,事業報告によっても,その事業子会社から受け取る報酬がよく分からないという問題があるといった認識を持っております。   念頭に置いているのは上場企業等でございますけれども,これについては,参考資料11のタワーズワトソン様の資料の22ページに記載されている問題意識と共通するところがあると思います。   まず,こういった兼務取締役について,親会社である完全持株会社の取締役と子会社である事業会社の取締役との報酬の在り方について,どう決めるかというのは,多分各社ばらばらであって,一律のやり方があるわけではないと思います。必ずしも,ホールディング会社における職務と子会社である事業会社における職務との比率によって決めているわけではないのではないかということが問題意識の1点目です。   また,当然のことながら,親会社だけに事業報告の開示義務がかかるので,子会社からどれだけ払われているかは分かりません。しかし,親会社株主が報酬等の議案を判断する際には,やはり子会社を含めてどれだけ支払われているのかということが関心の高い事柄なのではないかと思っております。お手盛り防止という意味でも,そういった関心はある程度理由のあることかと思います。   そういった点から見ると,先ほども御指摘がありましたけれども,有価証券報告書においては,主要な連結子会社の役員としての報酬等を合わせた連結報酬等について1億を超えた場合は,開示されるという規定がございます。また,会社法,会社法施行規則自体にも,社外取締役については当該親会社等又は当該親会社の子会社等の報酬と併せて開示するという規定になっていて,単体だけを見ているわけではないというように思われます。今後事業報告とか有価証券報告書等の一体化といった議論が出てくるかと思いますが,その中でおいおい考えていけばよい今後の課題なのかもしれませんが,そういったグループ会社全体からどの程度の報酬を得ているかということが,やはり株主や投資家から見ると重要な事項になっていくのではないのかという問題意識を持っています。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。 ○田中幹事 報酬の開示規制に関しましては,諸外国と比較するとどう見ても見劣りがするので規制を強化すべきとの見解がある一方で,諸外国において問題になったような,役員報酬が巨額化して,投資家株主だけではなくて一般国民からも非難が起きているといった事情が,日本では少なくとも今のところないということから,規制の必要性は低いのではないかと,いずれの見解にも理由があると思います。   そこで,私としては,規制不要論に十分配慮しつつ,それでもこの程度の開示の強化はできるのではないかというところを二つほど提案したいと思います。   一つは,先ほど来問題になっている再一任の可否についてですが,それについては公開会社の事業報告で開示されている,取締役の報酬決定の方針というのを少し拡張しまして,報酬の決め方そのものを開示させることにする。具体的に言うと,個人別の報酬の決定を取締役会に一任したときに,取締役会が自分で決めているのか,それともどこかほかの機関に再一任しているのか。もし,再一任しているのであれば,それはどこであるかと,そして再一任を受けた人ないし会議体が,どういう形で個別の報酬を決めているのか。例えば,取締役会で決めた算定式に基づいて決めているのか,それともそれもなく決めているのかとか,そういうことを開示すればいいのではないかと思います。なお,この提案は,公開会社についてのものであって,非公開会社では,このような開示規制も不要であると思っています。     個人的には,取締役会で取締役報酬を代表取締役に再一任するという実務は,少なくとも上場企業ではもうそういうことはやめた方がいいと思っています。それは,正に先ほど古本委員がおっしゃったように,報酬は上司が決めるという考え方を前提に,取締役の上司は社長であるという,そういう考え方に基づいた実務であって,それは,経営者に対するモニタリングを重視するという現在のコーポレート・ガバナンスの基本的な価値観に合わないのではないかと思います。ただ,その点についてもし,お手盛りの弊害が必ずしも顕在化していないということから,実体的な規制を課さないのであれば,せめてこの点の開示はさせてもいいのではないかと思います。   そういう規制は,非公開会社では余り必要ないと思います。非公開会社については先ほども議論がありましたように,実態上オーナー経営ですので,取締役会が個別の報酬を決めると言ってみても余り現実性がないと思います。これについては,個々の取締役の報酬額が余りあからさまにならないようにしてもらいたいという実務の考え方を受け入れてよいと思います。   さらに,もう一つ付け加えれば,上場企業ないし公開会社については,個別の報酬額の決定を社長に一任している場合には,そのようにしても取締役会の監督機能が損なわれないと考える理由を開示させると,そういうのがいいのではないかと思っています。   それから,もう一つは,株式型報酬,特にストック・オプションの開示でして,これは先ほども指摘があったと思うのですけれども,ストック・オプションを交付すると,そのときの公正価値でもって報酬額が決まって,あとは毎年の報酬額は会計原則に従って,公正価値を期間で割ったものが開示されるという形になっているわけです。これは先ほど藤田委員もおっしゃいましたけれども,ストック・オプションは確定額報酬であるという考え方が余りにも徹底してしまったので,とにかく最初に付与されたものが報酬で,その後はもうどうなっても余り関係ないというか,そういう形になっていると思います。そのために,オプションがその後どういうふうに行使され,その結果,役員はどれだけもらったのかが,報酬の開示としては必ずしも開示されていないという,そういうことにつながっていると理解しております。これについては,ストック・オプションを確定額報酬と整理すること自体はいいのですけれども,そのことと,実際にオプションがどのように行使されのかについて,なるべく株主に分かりやすいように開示するというのは分けて考えることができるはずであり,後者について,もう少し分かりやすい開示をさせるのがいいのではないかと考えております。 ○神田部会長 ありがとうございました。   では,藤田委員,野村委員,前田委員の順でお願いします。 ○藤田委員 今,田中幹事がおっしゃったこととほとんど重なってしまうのですけれども,再委任の件について,従来判例でそういうやり方が認められてきたというのは,現行法の規制の趣旨を予算の枠取りであるというふうに理解して,専らそれだけが規制目的なのであれば,その枠内でどう分配するかは全く御自由にということになるはずだからということで容認されてきたということです。   したがって,それ以外の考慮,例えばインセンティブなどを考えると,こういう決め方には望ましくないシナリオはあり得るわけです。余りいい比較ではないかもしれませんが,かつて某公共放送団体の会長が理事に就任した方の辞任届を事前に提出させて預かったことが非難を浴びたことがありましたが,業務執行者を監督すべき取締役会メンバーの給料の分け方は全部監督されるべき業務執行者の一存で決めますというのは,会長が辞任届を預かるのと本質は似ているところがある,少なくともそういうふうに見られる余地はある。これについて全く違和感がないというのは,結局,社長とその他の取締役の関係を,従業員の上司と部下の関係の延長であるかのように考えることに慣れてしまっていて,それが投資家にどう見えるかという意識が希薄なのだろうなというふうに思います。   ただ一定の枠内で報酬決定を一任することに合理性がある場合がおよそないというわけでもないかもしれない,あるいは従来の慣行を急に全面的に改めるというのが無理だというのであれば,枠を決めた中で,その枠の中での再配分の仕方について代表取締役に任せるという決め方をした場合には,それに関して具体的に決議させるといったことが落としどころとしてはいいのかもしれません。その際,どこまで決議事項にするのか,再一任する理由を書かせるのか,誰が決めるかまで書かせるのかといった辺りについては,もう少し考える必要があるかと思いますけれども,ただ再一任というのは全く問題がなく,何の弊害もないというのは,今回なぜ報酬について再検討しているかということを考えると難しいのかなという気がします。   最後に事業報告について,結局一番気にすべき点がプライバシー的な観点なのだとすると,最終的にどこまで開示させるべきかじっくり考えなければいけませんけれども,プライバシーの観点からの配慮を加えても開示できることは,幾らかはある。例えば,先ほど田中幹事が言われたようなストック・オプションなどについての重要な情報というのがまだ,現状では十分出ていないところがある。発行後の行使状況を含めてですね。そういったものを示していくといったことなどは現状の改善としてできる。別に個人として誰が幾らもらっているかを知りたいというわけではなくて,報酬が適正であるというのは,高過ぎるという観点からだけではなくて,予定したようなスキームとしてきちんときっちり払われているかということも含んでいるので,それを確認するために開示を求めているのです。そういった観点からもう少し開示事項については中身を精査して考えたいと思います。 ○神田部会長 ありがとうございました。 ○野村委員 ありがとうございます。   私も,基本的に今,藤田委員がおっしゃったみたいに,監督される人が自分で報酬を決めて,それをセレモニーのように封筒か何かに入れて,あなたの報酬はこれですよというのをやるのが本当にガバナンスとしてどうなのかという問題はやはり避けて通れないと思います。他方において,例えば取締役会全体で全員の報酬についてみんなで議論するということがはばかられるという御意見も日本的にはあるのかなという感じはしないでもありません。   そういうところでちょっと気になりますのが,監査等委員会設置会社における監査等委員会の関与の仕方というものについてやや気になるところがございまして,現在は361条の6項で株主総会で取締役の報酬等が審議されるときについては,監査等委員会において意見を言うかどうかについての審議が行われる形になっていますので,当然報酬についても一定程度そこで社外取締役の人たちがモニタリングをするというか,チェックをするという仕掛けが存在しているというふうには思います。   しかし,この361条の方が,かねてから議論されていますようにお手盛り防止の議論のままでありますので,総額に変更がない限りはそのチェックが働かないという,働いたり働かなかったりするというような,そんな仕掛けになっているような感じがします。そうだとしますと,例えば代表取締役に再一任するのであれば,それに関しては監査等委員会設置会社においては監査等委員会の何らかのチェックが入るというような仕掛けづくりというのもあってしかるべきなのかなというような感じがします。これはもう今,藤田委員がおっしゃったように何らか形で仕掛けの合理性を追求していくか,あるいは開示にいくかは別にしても,せっかく監査等委員会設置会社において報酬についても一定程度のコミットがあるという中で,361条6項とリンクさせておいたままでいいのかどうかということについては御議論いただきたいなと思います。 ○神田部会長 ありがとうございました。   前田委員,柳澤委員の順でお願いいたします。 ○前田委員 この再一任の問題は非常に難しいところだと思います。配分の決定について,報酬規制に監督の意味を持たせるのであれば甚だ問題だということはよく分かる一方,配分の決定は会社・取締役間の利益衝突はありませんけれども,取締役間では利害対立があり得る非常にデリケートな問題ではないかと思いますので,再一任を禁止までするのは行き過ぎではないかというように思います。その代わり,再一任のやり方をどうするか,今,野村委員がおっしゃられたような工夫もあり得るところですし,先ほど田中幹事がおっしゃったように,最終的に誰がどのような形で決めるのかということまで開示をさせて,開示の方は充実させるべきだと思います。それとともに,先ほど藤田委員,加藤幹事がおっしゃいましたように,そもそも再一任が認められるためには,取締役会に決定を委任するという,もとの株主総会決議が再一任を認める趣旨のものであることが理論的に必要なはずだと思いますので,それを明確にするために,取締役会への委任の決議の段階で,再一任を認めるかどうかを明示して決議するということは検討すべきではないかと思います。 ○神田部会長 ありがとうございました。 ○柳澤委員 ありがとうございます。事業報告における開示に関して,投資家の視点から簡単にコメントをさせていただければと思います。   部会資料で掲げられた開示項目の内容につきましては,有価証券報告書で記載事項とされているコーポレートガバナンスの状況の役員報酬部分と重複する内容も含まれておりますが,現行の有価証券報告書が提出されるタイミングが株主総会後となるスケジュールを鑑みますと,総会前の段階で報酬に関する体系的な開示がなされるという環境が整えば,議決権行使に当たっての議案精査を進める上で有用な情報提供の機会になり得るものと認識しております。   特に,役員報酬の個別開示につきましては,有価証券報告書の記載では連結報酬等の総額で1億円以上の役員に限って開示することは可能ですが,事業報告書上の開示を検討するに際しては,役員全般に対するインセンティブ付与の実態を的確に把握するという視点に立って,より踏み込んだルールが適用されることを期待したいと思っております。   なお,開示内容に関わることではありませんが,企業が設定している報酬体系全般についてその概要と枠組みを把握したいという企業評価上のニーズからしますと,開示の対象範囲は必ずしも取締役に限定せず,執行役や監査役も含めて開示されることが望ましいのではないかと考えています。   例えば,固定報酬と業績連動報酬の割合やインセンティブ報酬の有無や付与の仕方といった報酬ミックスの設計について取締役や執行役,監査役といった機能に照らしてそれぞれがどのような構成を採っているのか,投資家として役員報酬体系全般の枠組みに関する情報として理解を深めておくべき領域でもあり,また,報酬の決定方針との関連性を有する部分とも位置付けられますので,改めて体系的な見地から整理していただければと考えております。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。 ○青委員 コーポレートガバナンスの改革をしっかりと進めていくという観点から考えますと,現実に実務として受け入れられるかという点もある程度考えなければいけないかもしれませんけれども,基本的には取締役会が有効に機能するような形で進めていくことが重要ではないかと考えております。   その観点から言いますと,取締役会が取締役を監督,評価して,そして報酬を決定するというのが本来的なところではないかというふうには思う次第であります。取り分け,経営トップに対してどのように評価し,報酬を決定するのかというところが重要になるかと思います。   それと,先ほどから出ておりますように,現実に実務として受け入れられるかという点に関しては,報酬の決定については原則としては取締役会で決めるというのが一番だと思いますけれども,どうしても再委任をすることが必要であるということであれば,少なくとも先ほどから出ておりますように株主総会において再委任を許容する旨を決定することが必要ではないかとも考えられますし,あるいは,その取締役会が自己の責任でもって再委任をするということであれば,その再委任が正当であるかどうかということについて取締役会がモニタリングできるという仕組みが必要ではないかと考える次第です。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○三瓶委員 多くの議論がもう出ていますので,簡単に申し上げます。   まず,再一任については,再一任は本来はすべきではないというふうに考えております。あと,4の開示の内容(1)から(4)については是非開示していただきたい。ただ,(5)とあと3の個人別の報酬に関してですが,昨今は株主提案でも個人別の開示というのが出てきたりしますが,ここは注意していただきたいのですけれども,必ずしも例えば欧米とか又は多くの機関投資家の全てが個別開示を求めているということではないです。特に,こちらのタワーズワトソンの資料の25ページにはCEO報酬の国際比較がありますけれども,この全体像を把握している投資家は大抵,日本については個別報酬の個人ごとの開示を必要としないという意見がほとんどだと思います。   ただ,こういうことを踏まえていなくて,一般的に透明性が高ければいいというふうに考えている投資家は,単純に開示できるものだったら開示してほしい,又は国際比較でどこかの国で開示しているのだったら日本も開示したらいいと,そういう形になります。なので,そういうことを踏まえて,我々がどう考えているかというと,日本における報酬水準が現状のアメリカの15分の1くらいですかね,という状況では,個人別の開示というよりも先ほどからの議論がありますとおり,4の(1)から(4)というところ,こちらの開示の方が先決であるということだと思います。   そして,一方で,その透明性を高くアピールする意味では,先ほどの再一任というのはない方が,より明確だということです。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。 ○櫛笥参考人 すみません,ちょっと個別開示について,実務の観点から何点か申し上げておきたいなと思いました。   個別開示については,現状,日本では1億円以上の場合に有報で開示されるのみです。一方で,諸外国につきましては,例えばアメリカですとトップ5であるとか,高額な報酬を得ている業務執行役員は概ね個別開示が必要となっています。   ただ,この個別開示についてはいろいろ反省の理論も諸外国でよく見られているところで,個別開示をして,株主の評価にさらすことで報酬の上昇を抑制するという当初の意図は果たされていないという分析はかなり多く出ています。Unintended Consequencesというような名前でよく記事になっておりますけれども,個別開示の結果として,企業の水準競争が起こり,かえって報酬水準が上がっていったという反省があるということは,一つ付け加えさせていただきます。   また,一任のところについては特に意見として思い付くものはないのですが,事業報告の開示を進める場合には,先ほど御意見が幾つか出ておられたと思いますけれども,開示の金額自体をどうやって捉えるかは論点かと思います。こちらは,今の有報における報酬開示にも同じ問題があると思っていますけれども,現状の会社コストベースの金額開示のみだけだといろいろ誤解を生むと思っております。例えば,現金のプランについては会社コストと役員の方が実際にもらう額は最終的には常に一致するわけですが,株式報酬については,会社コストともらう額の間にかなりの攪乱があるところです。会社コストのみの開示だと,中長期の報酬であるので,毎年度のコストとしてどう認識するかが報酬額に影響を与えてまいりますし,あとは株式報酬の詳細な中身によっても,いわゆる公正価値,バリュエーションが変わってきますので出方が違ってきます。   ここを欧米の実務がどのように対応しているかということなのですが,実は報酬水準の開示というのはかなり多元的な概念がございまして,会社コストとしての開示がありながら,例えば株式報酬についてはいわゆる実現可能価額,リアライザブルペイなんて呼ばれたりしますが,要は今受給を受けた場合にどのくらいの価値になるのかが併せて開示されるような対応もあります。また,実際に支給した額,リアライズドペイの情報を所得申告書上の金額として補足開示する対応もあります。ですので,ちょっと株式報酬,中長期報酬のところは多元的な水準概念が存在していますので,情報として何を開示するかというのは非常に重要です。   あと,日本における事業報告の開示といいますと,やはり報告会社のみのものになりがちですが,先ほどから申し上げている会社法上の報酬規制の問題とも関連しますが,連結報酬のような概念の開示でないとやはり実態を把握するのは難しいと。特に,持株会社の場合には当然ですし,使用人兼務の役員の場合にも使用人部分としてインセンティブ報酬を払っているケースについてはその実態が出てこないと。ですので,開示を進めていくということであっても,意味のある情報とするためには,包括性に配慮した形で開示する金額の範囲を定めないといけないと思っております。   あと,プラスしまして金額の開示だけではなくて,当然報酬制度全体がどのようなコンセプトから成っていて,その結果どのような評価をしてこうなったかということと併せ持った開示ではないと,金額だけが独り歩きをしてしまって,ミスリーディングになる可能性が懸念としてあります。   あと,最後ですが,実は個別開示という文脈で言うと,業務執行役員の個別開示に先立ち,非業務執行役員の報酬開示という論点があると思っています。結局今は独立性,客観性の高い場所で業務執行役員の報酬をきちんと見ましょうというのがコーポレートガバナンスの要請で,報酬委員会を運用しているケースが多いと思いますが,そこで実際に監督をする方の報酬をどうチェックするかについては余り議論されていないという気がします。この点,諸外国がどうなっているかというと,金額は高くはないのですが,全員分が個別開示になっているという事実があることは付言をさせていただきたいなと思います。要は,非業務執行役員の報酬額については,直接株主がモニタリングをする実務が定着しているということです。若干コメントをさせていただきました。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,先へ進ませていただきたいと思いますけれども,よろしゅうございますでしょうか。   本日の部会資料4としてのうちの,第1と第2の審議は一応終了したということにさせていただきます。そこで,前回の資料なのですが,積み残し部分の御審議をお願いしたいと思います。前回の資料というのは部会資料3になります。「株主提案権の濫用的な行使を制限するための措置の整備に関する論点」の検討ということなのですけれども,前回積み残し部分として,その第3というものがありますので,まず事務当局に説明をしていただきます。よろしくお願いします。 ○堀越関係官 それでは,部会資料3,7ページ,「第3 その他」について御説明させていただきます。   まず,第3の「1 株主提案権の行使要件の見直しの要否」では,取締役会設置会社における株主の株主提案権の行使要件のうち,300個以上の議決権という要件を引き上げるべきかどうかについて,どのように考えるかとしております。   近時の株主提案権の濫用的な行使事例や株主提案権が導入された昭和56年当時と比較して投資単位が減少していることを踏まえ,株主提案権を行使することができる株主の範囲が広くなり得ることが懸念されており,株主提案権の行使要件のうち300個以上の議決権という要件を引き上げるべきであるという指摘がされております。   しかし,300個以上の議決権という要件を引き上げることは,株主が多数存在する大規模な会社における個人株主による株主提案権の行使を過度に制限してしまうことになるおそれがあると考えられます。   また,300個以上の議決権という要件が,近時の株主提案権の濫用的な行使事例を生じさせた原因であるかは明らかでないことから,当該要件を引き上げるべきか否かについて,株主提案権の濫用的な行使を制限する観点から検討することは相当でないとも考えられます。   さらに,株主提案の数や内容についての措置を整備することとした場合には,近時の株主提案権の濫用的な行使事例の問題は相当程度解消するとも考えられます。   そもそも我が国においては,株主提案権の行使を受けた上場会社の数は50社程度にとどまっており,依然としてその数は少ないという指摘もございます。   したがって,これらの事情も踏まえて,取締役会設置会社における株主の株主提案権の行使要件のうち,300個以上の議決権という要件を引き上げることが適切か否かについては慎重に御議論いただければと存じます。   第3の「2 株主提案権の行使期限の前倒しの要否」では,株主総会の日の8週間前までという株主提案権の行使期限を前倒しすべきかどうかについてどのように考えるかとしております。   招集通知を法定の期限より早期に発送している上場会社等においては,招集通知を印刷し封入することなどに要する期間のみならず,株主提案権の行使を受けた後に,その適法性を検討し,議案を作成することなどに要する期間も考慮すると,株主提案権の行使の期限である株主総会の日の8週間前から招集通知の発送までの期間が短くなるので,株主提案権の行使の期限を前倒しすべきであるという指摘がされております。   しかし,例えば定時株主総会を6月より後に開催する場合には,計算書類等の作成や監査に必要な期間に時間的な余裕が生ずる結果として,株主提案権の行使の適法性の検討等に要する期間にも時間的な余裕が生ずることとなると考えられます。   また,株主提案の数や内容についての措置を整備することとした場合には,株主が提案することができる議案の数が制限されることなどから,株主提案権の行使の適法性の検討等に要する期間も短縮することができることとなると考えられます。   さらに,株主は株主提案権の行使時に株主総会の日を正確には知らないのが通常であるので,8週間前を更に前倒しした場合には,株主側に及ぶことになる不利益にも配慮する必要があると考えられます。   したがって,これらの事情も踏まえて,株主総会の日の8週間前までという株主提案権の行使期限を前倒しすることが適切か否かについては慎重に御議論いただければと存じます。事務当局からの説明は以上です。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   この部分について御質問,御意見を頂きたく思います。なお,前回審議をいただいた部分である,第1,第2の部分につきましても,前回発言することができなかった御意見等がありましたら併せてお出しいただいても結構です。いずれにしましても,「第3 その他」というタイトルにはなっていますけれども,今,事務当局から説明のあった点について御質問,御意見をお願いしたいと思います。 ○古本委員 ありがとうございます。まず,1番目の株主提案権の行使要件の見直しの要否なのですけれども,この行使要件のうちの300個以上の議決権,慎重な検討を要するということになっておりますけれども,やはり現実的に考えますと,これは株主提案権の濫用を抑止するという意味ではかなり大きな影響のある部分ではないかと思いますので,廃止又は引上げですね,基準の引上げを御検討いただきたいなと思います。   規模の大きな会社について考えますと,議決権300個といいますと,恐らく1%の更に100分の1にも満たないというようなレベルの数字になることもあると思います。金額的にも,時価で言いましてせいぜい数千万円程度というところではないかと思います。数千万円といいましても,株式を保有していなければいけないのは基準日だけでありますので,実務の感覚からしますとこれは現実的なハードルは相当に低い状態になっているのではないかと思います。   我々の問題意識といたしましては,株主提案権に基づいて提案をする株主は,提案の内容について何の責任も問われないということです。そういうものが出てきても,会社としてはコストを掛けて検討し,それを書類の中に入れていかないといけないと,こういう問題がありまして,そういうことが許されるのは,やはりある程度コストが自分の痛みとしても返ってくると,ちょっと考え方はそれで正しいかどうか分かりませんけれども,1%というのであれば何となく理解できるような気がするのですけれども,300個というのが一体どこから出てきたのだろうかと。それが,今現実に妥当なのかどうかということはもう一度前向きに御検討いただきたいなということであります。   第1回目にも申し上げたと思いますけれども,この300個という,こういう数字の規定の仕方というのはここだけだと思いますので,この在り方が妥当なのかどうなのかというところにやはり疑問を感じているということでございます。   それから,もう一つの行使期限の前倒しの要否のところでありますけれども,ここについても是非前向きに御検討いただきたいなと思います。現実問題といたしまして,期限の直前,この8週間前直前になって提案権を行使されますと,会社といたしましては総会の準備,これはスケジュール的に大変厳しいものになります。ですので,これが前倒しされますと,招集通知の早期開示にも対応しやすくなるという利点もございますので,この点もよろしく御検討いただきたいということでございます。   部会資料最後のページの中ほどといいますか,「しかし」のところにありますけれども,6月より遅く総会を開催すれば対応に支障がないのではないかといった趣旨の記載がございますけれども,7月とか8月とかに総会を開催するということにいたしますと,年度が始まってから4か月,5か月たっても役員の選任が行われないと,実務の執行体制が固まらないという問題が生じてしまいますので,7月総会といったものを前提にした議論は現実に合っていないのではないかというふうに思います。   それから,部会資料で,その次に,株主は総会期日を知り得ないので提案権の行使が一層困難になる,これは期間が延びれば延びるほど困難になるという趣旨だと思いますけれども,現実には8週間前であるのと10週間前ないし12週間前であるのと,どれほどの差があるのかなという気がいたします。   ということで,この提案権の行使期限の前倒しにつきましても,これは総会資料の電子化における書面送付の期限の設定とも絡みますので,そうした関連でも御検討いただけないかと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。 ○野村委員 今の御発言の中で300個の話がございましたが,私は今回の改正の趣旨は,濫用的な株主の提案権を防止することであって,現在提案されていることの中で濫用的ではないものについて,その提案自体を抑制するということが立法の目的ではないと思いますので,濫用的な事柄が数と内容によって十分確保できるのであれば,現在極めて少額な出資者の人たちがある一定数集まって合理的な提案をされていることを妨げるようなことはしない方がいいんではないかなと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○小林委員 小林でございます。   先ほどの古本委員の議論とほぼ,理由というか実態は同じところでございますが,やはりこの300個要件については廃止ないし引上げを求めるものでございます。   濫用的な問題というところをもちろん前提にした議論に近いところではあるのですけれども,現実,株主総会の実務というところで見ますと,やはり非常に限られた時間でたくさんの株主からの質疑を受けたり,あるいは現実の合理的な提案についてはもちろん審議するということはあるわけなのですが,先ほどの古本委員からの御指摘もありましたように非常に低い議決権の比率の方が提案するということになりますと,実際に私どもとして重要なのは,これが一定数,相当数の賛成票を集められるかどうかというところが事前に全くスクリーニングなしに出てくるのは本当に良いのかというところがございます。そういう意味では,1%というのは一つの目安ではないかなと思います。   例えにはなりませんけれども,別に国会でもやはり例えば衆議院の20人とか参議院で10人とかいう法案の提案権の縛りがあって,これってよくよく考えても5%くらいですし,余り例えにはならないかもしれませんけれども,マンションの管理組合みたいにこういう全体の合同の話をするときでも,標準規約では議決権の2割とか,そういうふうな,5分の1とかいうふうな基準が付けられております。どちらかというともう率だけで切っていただかないと,やはり非常にいろいろな規模の会社があるということを考えると,定型的な処理にとってやはり支障が出ることも現実にはあるというふうな認識からいいますと,そういう意味での基準があって本来しかるべきなのではないかなという気がしております。   もう一つの提案権の行使については,元々基準日から3か月というところで考えたときに,株主提案がされて,実際最後の総会というよりは,それより前に議案を決める取締役会というのは招集通知の発送スケジュールとか考えるとして1か月半ぐらいまでに普通やらなければいけない。これは決算とか何とか全然関係なくて,早くに株主総会をやろうとすればそれを前倒しするということになると,実際には提案を受けてから取締役会までは検討して,それを決めるまでの日程はほとんどないという現実がございます。   そうすると,内容がかなり熟度の高い内容であれば別ですけれども,非常に熟度の低いもの,ないしは数が多いものというような現実があると,そこのコミュニケーションを提案された株主とさせていただく必要があるという観点から見れば,やはり一定の時間が必要だということと,先ほど申し上げた現実に議案として取り上げるかどうかという取締役会までのスケジュールを考えると,やはり今の全体の3か月という範囲の中では8週前というのは非常に短いという感じでございまして,やはり10週なり12週というようなところまでという期限を入れていただきたいなと思います。   これと直接関係ないですけれども,実際にそれに当たる事務局の苦労というのは大変なものだというのはもう現実に提案された会社の方皆さんおっしゃっていますので,働き方改革ではございませんが,一定のやはり時間が欲しいというところは実務的な要請としてはございますので,そういう意味での丁寧な対応をさせていただくという意味で,お時間を頂戴できるような検討をしていただきたいというところでございます。 ○神田部会長 ありがとうございました。 ○沖委員 ありがとうございます。   株主提案権の行使期限の前倒しですけれども,私も1,2週間程度の行使期限の前倒しを検討する必要があるのではないかと考えております。まず,総会準備のスケジュールの観点から申しますと,招集通知が会日の2週間前という発送期限がありますが,これが1週間程度以上早期発送され,この期間は拡大している現状にあると思います。ほかに通知等の決定,印刷に必要な時間を考慮しますと,株主提案権の対応のための時間というのは相当に限られてくると思います。この間に,提案の適法性の法律的検討,取締役の対応,さらに,提案に問題がある場合の提案者との間での交渉等をこなすというのは非常に厳しいと考えます。   もし,会社が株主提案を不適法として拒絶した場合には,提案株主としては議案要領記載の仮処分命令等の申立てで対応することになりますが,過去の判例を見ますと,抗告審の判断が出る段階では招集通知の印刷が終了してしまっていると,そういう事例もありますので,司法審査の期間を十分に確保するという観点からも,可能であれば行使期限を前倒しすることが望ましいと考えます。   なお,部会資料の中で指摘されております7月総会の可能性ですが,これが実務上行われるようになったとしましても,監査法人の監査やこれに対応する社内の経理担当者の負担を軽減する効果はあるとは思いますが,総会担当者や役員の負担を果たしてどこまで軽減するのかという疑問は残ります。総会当月と前月の担当者の負担というのは相当のものですので,その中で株主提案に対し適切に対応するということはかなり厳しいので,その環境整備の必要性は高いと思います。   なお,株主総会資料の電子提供制度を採用した場合,アクセス通知としての招集通知の発送期限は1,2週間前倒しするということが検討されていると思います。これを実現する場合には,これに応じて株主総会の株主提案権の行使期限も1,2週間程度前倒しする必要があるのではないかと思います。   他方,提案株主の側から見ますと,定時総会の開催日というのは期末に固定された基準日や前年の総会日からある程度その時期の予測は可能ですので,1,2週間これが前倒しされたとしても対応は可能ではないかと思います。したがいまして,1,2週間程度の前倒しの方向で前向きに検討する必要があると思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○三瓶委員 議決権行使の実務の面から,行使する側からちょっとお話をします。   まず,この資料の中で年間50社程度にとどまっておりというのがあるのですが,確かに全体からすると数は少ないかもしれません。ただ,当該1社について議決権行使をするときに,時間配分的には株主提案の方に8割ぐらいの時間を掛けることになります。というのは,会社提案というのはある種毎年の繰り返しのものもあるし,大体予想の付く範囲なので,どういう方針で向き合うかというのは大体の方針があります。ただ,株主提案についてはどんなものが来るか分からないということと,根拠が余り定かではないというようなこともありますので,これは一つ一つかなりチェックするのに時間が掛かります。そういう意味で,たかが50件といっても,その50件に割く時間配分を皆さんが予想しているとすれば,実際のところは,意外に思われるところがあるのではないかなということです。   そして,そのとき何が起こるかというと,特に今,平均で外国人株主が30%ぐらいいるようですけれども,基本的に日本語ではなく英語で議決権行使をすることになります。発行会社側が英語で発信してくれていればまだいいのですけれども,そうではない場合に議決権行使助言会社等の英訳を待って,議決権行使の手続に入ります。そうするとスタートが1週間ぐらい遅れます。そこで,ただその議決権行使助言会社も大変ですから,株主提案について全訳はしません。非常に簡潔にエッセンスだけを訳します。   そうすると,真っ当な議決権行使助言会社が真っ当な英語でさらっとエッセンスだけ述べるととてもそれらしくなります。そうすると,それだけを見て判断するとなるほどなと株主提案に納得するのですけれども,原点に返ってどういう理由で提案しているのかを見ると,ここは判断が随分変わることがあります。というのは,そもそもほかの議案との関係で矛盾しているとか,又はその会社の機関設計上矛盾があるとかいうことがだんだん見えてきます。なので,現状では多くの株主提案を受けた会社に関しては,議決権行使は非常に危なっかしい状態で行われている可能性が否めないというのがあります。   だからといって,その制限をどういうふうにしたらいいかというのは非常に難しいのですけれども,結果的に十分に考慮していないような提案をしていることもよくあるので,そうした株主提案が300個という低いハードルでできてしまうのは適正なのだろうかとは思います。   あと,株主提案には定款変更議案というのが多いのですけれども,定款変更議案について,その中身が本来取締役会決議事項であるものとか,又は業務執行に関わる内容ではないかというような具体的で細かいことが随分あります。これを定款に全部入れるのかと。そうすると,経営判断が随分制限を加えられるので,ここについてはそもそも議案として適正かどうかという判断の根拠として,取締役会決定事項であるとか業務執行に関わることとかいうことは考慮する余地があるのではないかと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○青委員 まず,提案権の行使要件の方でございますけれども,そちらに関しましては濫用防止という観点から別途数や内容の制限についての検討が進んでいるということからいけば,行使要件のところで個人の株主が建設的な提案を行う機会を減らすような方向性に進むことになってしまうというのは,基本的には避ける方が望ましいのではないかと思われます。   加えて,行使期限の前倒しという観点につきましても,こちらも濫用防止のための数の制限等々を考えていくということでいけば,現状との比較という意味でいけば,行使期限の前倒しというのは必ずしも行う必要はないのではないかと考える次第ではございます。   ただ一方で,招集通知あるいはアクセス通知をより早期に発送するということを求めていくということにして,招集通知の準備期間が必要だということであれば,むしろその情報を早く提供するという,そういうプラスの意味があるわけでございますので,そうしたことをセットでということであれば,一定の提案権の行使期限の前倒しは致し方ないというか,あり得る話かなというふうに思う次第であります。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。 ○松井(智)幹事 すみません,今の点,ちょっと私,前回の資料を手元に持っておらず,どんなふうになっているのか,ちょっと事実関係の確認ができないのですけれども,Notice&Accessの制度を取り入れた場合に,招集通知が前倒しになるというところまでの御指摘は頂いたのですけれども,それと連動して取締役会における議案の確定の日程というのも1週間程度早まって,その検討の時間が1週間程度短縮されるということであれば確かに大変かなと思うのですけれども,その点がどうだったのかということがちょっと確認できなくて,すみません。 ○沖委員 当然アクセス通知を発送するためには少なくとも議題を決めないといけないのですけれども,その際,株主提案が出されていれば,それを採用するかどうかで議題が追加になるわけですから,そのアクセス通知発送までには少なくとも当該株主提案の議題を受けるかどうかですね,これを決めないといけないということですので,その検討の期間がやはり1,2週間前倒し,余分に取る必要があるのではないかと,そういう意味で申し上げました。 ○松井(智)幹事 すみません,役会の日程は変わらず,そこからの事務作業が短縮された結果,招集通知発送が早まるということであれば,恐らく議案確定までの時間のリードタイムというのは余り変わらないのかなというふうに思ったということです。 ○神田部会長 ありがとうございました。   よろしゅうございますでしょうか。ほかにいかがでしょうか。   ちょっと前回も株主提案権については若干時間が不足ぎみだったかもしれませんけれども,一通り御発言は頂いたということでよろしゅうございますでしょうか。どうもありがとうございました。   それで,本来であれば部会資料4に戻っていただいて,これから「会社補償に関する規律の整備」という第3について事務当局からの説明,そして皆様方に御審議を頂くべきなのですが,既に予定の時間を超えておりますので,本日はこの辺りとさせていただきまして,部会資料4の第3については次回に回させていただきたいと思います。   それでは,次回の日程等について事務当局から御説明をお願いいたします。 ○竹林幹事 次回は7月26日水曜日午後1時30分から午後5時30分まで,法務省の大会議室におきまして,会議を開催させていただく予定でございますが,本日の積み残し部分がかなり大部となりまして,また,社債の管理の在り方の見直しについても併せて御議論いただきたいと考えておりますので,次回は少なくても30分程度お時間を延長させていただくことになろうかと考えております。恐縮ですが,どうぞ御理解のほどをお願いいたします。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   次回はそういうことで延長させていただくかもしれませんので,申し訳ありませんけれども,よろしくお願い申し上げます。   それでは,本日は以上で散会いたします。どうもありがとうございました。 -了-