法制審議会 少年法・刑事法 (少年年齢・犯罪者処遇関係)部会 第1分科会第1回会議 議事録 第1 日 時  平成29年 9月22日(金)   自 午後1時08分                          至 午後3時01分 第2 場 所  東京地方検察庁総務部会議室 第3 議 題  1 刑の全部の執行猶予制度の在り方について         2 自由刑の在り方について         3 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○隄幹事 ただいまから法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会第1分科会の第1回会議を開催いたします。 ○佐伯分科会長 本日は御多忙のところお集まりいただきましてありがとうございます。   部会の第5回会議において分科会の設置が決定されましたが,その際,各分科会長並びに各分科会に属すべき委員及び幹事の人選につきましては部会長に一任されました。これを受けて井上部会長において人選を進められ,委員である私が第1分科会の会長を務めることとされました。議事が円滑に進みますよう努めてまいりたいと思いますので,皆様方の御支援,御協力のほど,よろしくお願い申し上げます。   議事に入ります前に,前回の部会,第5回会議以降,部会の幹事に異動がございましたので御紹介いたします。   小西康弘氏が幹事を退任されまして,新たに滝澤依子氏が幹事に任命されました。田野尻猛氏が幹事を退任されまして,新たに保坂和人氏が幹事に任命されました。新たに吉田智宏氏が幹事に任命されました。幹事の異動は以上です。   次に,第1分科会第1回会議の開催に当たりまして,当分科会の出席者について御説明いたします。当部会を構成する委員,幹事として青木和子委員,今井猛嘉委員,加藤俊治幹事,橋爪隆幹事,福島直之幹事が選任されております。あわせて,当分科会の事務当局としての役割を担っていただく構成員として,今福章二幹事,大橋哲幹事,隄良行幹事,保坂和人幹事が選任されております。以上の方々が当分科会を構成する委員・幹事となりますが,大橋幹事におかれては本日,所用のため欠席されています。   また,当分科会には必要に応じ,分科会長であります私の要請により,構成員以外の委員,幹事,関係官に御出席いただくことができることとされております。本日は御欠席の大橋幹事に代わり,小玉幹事に御出席をお願いしています。   それでは,異動により新たに幹事になられた出席者の方に一言,自己紹介をお願いいたします。 ○保坂幹事 9月11日付けで東京地方検察庁から異動してまいりました保坂でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○佐伯分科会長 次に,事務当局から資料について御説明をお願いいたします。 ○隄幹事 本日,資料として,1-1「主要国における少年事件の手続・処分の概要」,1-2「主要国における施設内処遇の概要」,1-3「主要国における執行猶予・宣告猶予制度の概要」,1-4「主要国における起訴猶予に伴う再犯防止措置の概要」,1-5「主要国における若年成人に対する刑事事件の手続・処分の特則の概要」,1-6「諸外国の制度概要」,資料2「統計資料1」,資料3「刑の全部の執行猶予制度の在り方(検討項目案)」,資料4「自由刑の在り方(検討項目案)」を配布しております。これらの資料はファイルにとじずに平積みしています。配布資料に不足がある方はいらっしゃいますでしょうか。   なお,前回までの部会の会議における配布資料はファイルにとじて机上に配布しております。   配布資料2,3及び4については後ほど御説明いたしますので,ここでは諸外国の制度等に関する配布資料1-1ないし1-6について御説明いたします。   諸外国の制度等の概要については,既に部会の第1回会議において,資料6として「諸外国の制度概要」という一覧表をお配りしていたところですが,事務当局としては,その後,これらの国の制度について一層の調査を進めました。今回,その調査の結果を資料として取りまとめましたので,本日以降の議論の参考にしていただくため配布させていただきました。   資料1-1から1-5は,米国のニューヨーク州,カリフォルニア州,イギリス,フランス,ドイツ,韓国における制度について,事務当局の調査により判明した限りにおいて,各制度ごとに概要をまとめたものです。資料1-6は,これらの内容を一覧表に取りまとめたものです。既に,部会の第1回会議の資料6として「諸外国の制度概要」を配布していたところですが,その後,諸外国の制度について一層の調査を進めた結果,一覧表の内容を一部更新しましたので,今回改めて資料1-6として配布いたしました。資料1-1から順に説明いたしますが,適宜,資料1-6も併せて御覧いただきながらお聞き取りください。   概要を御説明します。   まず,資料1-1は「主要国における少年事件の手続・処分の概要」をまとめたものです。いずれの国でも,少年については,成人の刑事手続と異なる手続・処分が設けられておりますところ,刑事手続において少年として扱われなくなる年齢は,ニューヨーク州の16歳,韓国の19歳の他は,いずれも18歳とされております。   また,ニューヨーク州,カリフォルニア州,イギリス,韓国においては,一定の重罪を犯した少年について,一定の要件の下で,当該事件を,成人事件を扱う裁判所で審理することができるものとされております。フランス,ドイツについては,基本的に,少年事件は少年のための裁判所で扱われることとされておりますが,少年のための裁判所において,少年に拘禁刑を言い渡すことが可能です。また,いずれの国においても,少年の性格や生活環境等について,専門機関による調査が行われる制度が設けられております。   次に,資料1-2は「主要国における施設内処遇の概要」についてまとめたものです。資料1-6の一覧表には,1枚目の下の部分に記載がございます。   まず,ニューヨーク州では,拘禁刑の受刑者について,行刑法により,日曜日及び祝日を除き,毎日8時間を超えない範囲で作業に従事させることができることとされております。また,各受刑者には,社会化と更生に最も資すると考えられる教育プログラムが提供されることとされております。   次に,カリフォルニア州では,刑法において,拘禁刑の受刑者は,州当局の規則で定めるところにより,できるだけ多くの時間,作業をすることが要求されております。また,受刑者は,割当てのあった課業に従事することが義務付けられており,これには教育,プログラム受講等が含まれております。   続いて,イギリスでは,拘禁刑の受刑者について,行刑規則により,1日10時間以内の有用な作業を行うことが要求されております。また,全ての刑務所において教育を提供しなくてはならないこととされており,また,特別な教育上の必要を有している者への教育及び訓練には特別な注意を払うとともに,必要な場合には,通常は作業に割り当てるべき時間帯に教育を行うこととされています。   次に,フランスでは,拘禁刑の受刑者について,行刑法により,刑務所長等が提案した活動の少なくとも一つに参加する義務を負いますが,その活動には,作業,職業訓練,教育,スポーツ等が含まれております。   続いて,ドイツでは,自由刑として拘禁刑が設けられており,ドイツ連邦の行刑法において,受刑者には,割り当てられた作業に従事する義務があります。また,受刑者は,余暇時間においても,授業,通信教育,訓練活動,集団討議等の活動機会が与えられておりますし,中等教育未了者に対しては,中等教育と同内容の教育が作業時間中に提供されております。   最後に,韓国では,自由刑として懲役,禁錮,拘留が設けられており,懲役受刑者は,刑法により,定役に服務させられるほか,行刑法により,自身に賦課された作業その他の労役を遂行しなければならない義務があることとされております。また,刑務所長は,受刑者が健全な社会復帰に必要な知識及び素養を習得するように教育をすることができ,義務教育未了者に対しては,教育を行わなければならないものとされております。   次に,例えば,ニューヨーク州やイギリスでは,若年者について,自由刑を執行するために収容する施設として特別の収容施設が設けられており,ニューヨーク州では,男性について,16歳以上21歳未満の者のための収容施設が設けられているようですし,イギリスでは,18歳以上21歳未満の者は,若年犯罪者施設に収容されることとされております。   続いて,資料1-3は「主要国における執行猶予・宣告猶予制度の概要」についてまとめたものです。このうち,刑の執行猶予に相当する制度については,資料1-6の一覧表2枚目に,宣告猶予に相当する制度については,一覧表3枚目に記載がございます。   まず,刑の執行猶予に相当する制度については,ニューヨーク州を除いて,カリフォルニア州,イギリス,フランス,ドイツ,韓国に存在しております。これらの国の刑の執行猶予は,いずれも保護観察に付し,あるいは遵守事項等の一定の義務を賦課し得ることとされており,裁判所は,対象者が執行猶予期間中に再犯に及んだ場合や賦課された一定の義務に違反した場合に執行猶予を取り消し得ることとされております。   イギリス,フランス,ドイツでは,対象者が執行猶予期間中に再犯や一定の義務違反に及んだ場合,裁判所は執行猶予を裁量的に取り消すこととされておりますが,イギリス,ドイツでは,賦課する義務の修正・執行猶予期間の延長等の措置を段階的に講じることができるとされ,フランスでは,執行猶予を取り消す際に,全部だけではなく,一部のみを取り消す等の措置を採ることが可能とされております。   韓国には,執行猶予期間中に故意に犯した罪で禁錮以上の実刑を言い渡され,判決が確定した場合に,執行猶予の言渡しが効力を失う旨の規定があります。   また,カリフォルニア州,イギリス,ドイツにおいては,再度の刑の執行猶予を制限する規定は存在していませんし,フランスでも,例外的な場合を除き,再度の刑の執行猶予を言い渡すことが法律上認められております。   次に,宣告猶予に相当する制度については,資料1-6の一覧表3枚目に記載のあるとおり,ここに掲げるいずれの国にも存在しております。各国において,その名称や制度の詳細は様々であるものの,いずれにおいても,いわゆる刑の宣告猶予に相当する制度として,裁判所は,一定の刑の言渡しを猶予した上で,一定の期間を定めて保護観察や一定の条件を賦課することとし,その間に対象者が再犯や条件違反に及ぶなどすれば刑が言い渡されますが,条件違反等がないまま期間を経過した場合には,刑は言い渡されないこととされております。   また,ニューヨーク州,カリフォルニア州には,いわゆる判決の宣告猶予に相当する制度もあり,ニューヨーク州における制度は,裁判所が有罪認定をせずに訴訟を延期し,その間,被告人に条件を付すことを可能とするもので,訴訟の再開がないまま一定期間が経過すれば,訴追は却下されたものとみなされます。   他方,カリフォルニア州の制度は,一定の薬物犯罪について,被告人が有罪を認めている場合,被告人に薬物プログラムの受講を義務付けて,判決の宣告を猶予することができるというものです。   次に,資料1-4は,「主要国における起訴猶予に伴う再犯防止措置の概要」をまとめたものです。資料1-6の一覧表には,3枚目の下の部分に記載がございます。まず,ここに記載しているものは,いずれも制定法に根拠が明示されている代表的な措置に限られており,運用によってのみ行われているものは対象としておりませんので,その点には御留意ください。   まず,ニューヨーク州,カリフォルニア州には起訴猶予に伴う再犯防止措置に相当する制度は,法律上見当たりません。他方で,イギリス,フランス,ドイツ,韓国には,起訴猶予に伴う再犯防止措置に相当する制度が明文で規定されており,いずれにおいても,訴追官が自ら,一定の期間を定めて対象者に条件を付するなどして訴追を猶予し,その期間内に条件違反があれば訴追が行われるなどという制度が設けられております。制度の対象事件を見ますと,例えば,フランス,ドイツでは,明文上,対象事件が軽罪以下の事件に限定されております。また,韓国には,家庭内暴力,児童虐待,少年事件に特化した制度が設けられております。   次に,資料1-5は,「主要国における若年成人に対する刑事事件の手続・処分の特則の概要」についてまとめたものです。資料1-6の一覧表にはこの点の記載はないので,御留意ください。   ニューヨーク州とドイツには,若年成人についてその他の一般成人と異なる特別な手続・処分が規定されているので,御説明します。   まず,ニューヨーク州においては,若年成人に当たる犯行時16歳以上19歳未満の者は,通常の裁判所において,基本的に成人に対する刑事手続の対象となります。ただし,裁判所は,一定の重罪等以外で有罪認定をした後,被告人である若年成人が過去に有罪判決を受けたことがない場合や,過去に有罪認定されていても,その者に前科の負担を負わせず,4年を超える不定期刑を科さなくても正義に反しないと考える場合等には,被告人である若年成人について,その有罪認定をなかったものとすることを宣言した上で,併せて4年以下の拘禁刑を言い渡すことができます。そのため,当該若年成人は刑を言い渡されるものの,有罪判決を受けることがなかったと扱われることとなり,このような判決が資格制限事由とはなりません。   次に,ドイツの制度について御説明いたします。ドイツでは,若年成人に当たる犯行時18歳以上21歳未満の者は「青年」と呼ばれ,少年裁判所において審理されることとなります。そして,裁判所は有罪認定の後,当該青年の精神的成熟度が行為の時点で少年のそれと同等であったと判明した場合,又は当該行為の性質が少年非行のそれと同等であったと判明した場合には,当該事件について,少年刑法,つまり少年事件に適用される刑法の規定が適用されることとなります。青年の事件に少年刑法が適用される場合には,青年は,少年の場合と同様に教育処分,懲戒処分,少年刑の適用を受けることとなります。他方,青年の事件について,少年刑法が適用されない場合には,一般の成人と同様の刑罰法規が適用されることとなりますが,終身自由刑の緩和,資格制限規定の緩和など,緩和措置規定が設けられております。 ○佐伯分科会長 ただいまの説明につきまして,何か御質問等はございますでしょうか。   よろしいでしょうか。   それでは,審議に入りたいと思います。初めに,審議の進行についてですが,本分科会は部会審議を効率的に進めるため,論点表の大項目2に掲げられた論点のうち,「刑の全部の執行猶予制度の在り方」,「自由刑の在り方」,「若年受刑者に対する処遇原則の明確化,若年受刑者を対象とする処遇内容の充実,少年院受刑の対象範囲及び若年受刑者に対する処遇調査の充実」並びに「社会内処遇に必要な期間の確保」の四つの論点について専門的・技術的な検討を加え,考えられる制度の概要案等を作成するとともに,検討課題を整理することが役割とされています。   そこで,まず今回と次回の2回程度にわたり,当分科会が担当する論点について,1巡目の議論,意見交換として,それぞれの論点に関係する従来からの制度,運用,あるいはこれらに対する評価・問題点等を把握しつつ,各論点に掲げられた制度や措置の意義,在り方などについて,大づかみの議論から入ってまいりたいと思います。   検討の順序ですが,論点表に掲げられた論点のうち,まず,刑法に係る論点である,「刑の全部の執行猶予制度の在り方」,「自由刑の在り方」,「社会内処遇に必要な期間の確保」について議論を行い,その後,「若年受刑者に対する処遇原則の明確化,若年受刑者を対象とする処遇内容の充実,少年院受刑の対象範囲及び若年受刑者に対する処遇調査の充実」について議論を行いたいと思います。ただし,論点相互に関係のある事項に及ぶ場合には,他の論点に関して適宜御発言いただいてよろしいかと存じます。   このような検討の進め方でよろしいでしょうか。 (一同異議なし)   それでは早速,「刑の全部の執行猶予制度の在り方について」の検討を行いたいと思います。   初めに,事務当局から,「刑の全部の執行猶予制度の在り方」に関する資料の説明をお願いいたします。 ○隄幹事 本日,「刑の全部の執行猶予制度の在り方」に関する資料として,配布資料2「統計資料1」,配布資料3「刑の全部の執行猶予制度の在り方(検討項目案)」を配布しております。   まず,「統計資料1」について,御説明いたします。この資料は,執行猶予,特に保護観察付き刑の執行猶予に関する統計をまとめたものです。   まず,1-1は,平成19年から平成28年までの通常第一審事件の有期懲役又は有期禁錮の言渡人員数や,そのうちの執行猶予言渡人員数などをまとめたものです。平成28年6月から刑の一部の執行猶予制度が開始されましたので,平成28年の統計には,一部執行猶予言渡人員数も記載しております。   1-2は,執行猶予言渡人員に対する保護観察付き執行猶予言渡人員の割合について,昭和32年から平成27年までの推移をグラフ化したものです。   1-3は,平成19年から平成28年までのいわゆる4号観察の終了事由別の終了人員数をまとめたものです。   「刑の執行猶予取消し」の欄のうち,「遵守事項違反」には,保護観察中に更に罪を犯したものの,その犯罪について捜査中,公判中又は判決言渡し後確定前のものが含まれております。   次に,配布資料3の「刑の全部の執行猶予制度の在り方(検討項目案)」について御説明いたします。「刑の全部の執行猶予制度の在り方」については,「若年者に対する刑事法制の在り方に関する勉強会」取りまとめ報告書において,刑の執行猶予が言い渡された者に対する社会内処遇を充実させるための刑事政策的措置として,保護観察付き刑の全部の執行猶予の猶予期間中の再犯であっても,一定の要件の下で,再度の刑の全部の執行猶予を言い渡すことができる仕組みを導入すること,再度の刑の全部の執行猶予を言い渡し得る刑期の上限を「1年以下」から引き上げること,執行猶予の取消しの要件を緩和すること,執行猶予期間中に罪を犯して公訴提起された場合であっても,執行猶予期間が経過すると執行猶予が取り消せなくなるため,このようなときに執行猶予を取り消すことができる仕組みを導入すること,が考えられると記載しています。   お手元に配布しました配布資料3「刑の全部の執行猶予制度の在り方(検討項目案)」は,これらの勉強会報告書の記載や,部会での御意見,過去の法制審議会における改正刑法草案に係る議論などを踏まえて,飽くまで分科会における意見交換の御参考としていただくため,検討項目の案を事務当局において作成したものです。もとより,検討項目がこれに限られるものではありません。   検討項目の案の趣旨を御説明いたします。   「刑の全部の執行猶予制度の在り方」につきましては,現行の刑の全部の執行猶予制度の運用状況と問題点の有無・内容を把握しつつ,考えられる制度の具体的内容を議論するのが適当であると考えられますので,まず初めに,「現行制度の運用状況と問題点」を記載しました。   そして,次の「考えられる制度の概要」として,「若年者に対する刑事法制の在り方に関する勉強会」取りまとめ報告書に記載されている四つの措置を記載いたしました。もちろん御議論の対象をこれらに限る趣旨ではございません。   一つ目の「保護観察付き刑の全部の執行猶予中の再犯に対する執行猶予を可能にすること」につきましては,刑の執行猶予を言い渡す者について,保護観察に付することが改善更生・再犯防止に有用と考えられる場合があります。そこで,保護観察に付することが必要かつ適当な事案について,保護観察を活用しやすい状況を整えるため,初度の保護観察付き執行猶予の猶予期間中の再犯について,再度の刑の全部の執行猶予を可能にすることを検討しようとするものです。   この保護観察付き刑の全部の執行猶予中の再犯に対する執行猶予を可能にすることは,改正刑法草案においても示されていました。   その際の法制審議会刑事法特別部会での議論においては,「保護観察制度を採用した刑法の一部改正の際には,保護観察を不利益処分とみる空気が強く,当時までは実刑になっていた者が保護観察づき執行猶予の対象となるという政府の説明もあって,現行法は,そういう者に再度の執行猶予を許すのは不適当であるという考え方に立っており,裁判の実務も,初度目の執行猶予の際に保護観察を付けることは慎重である」との指摘があった一方,保護観察を不利益処分とだけみるのは適当でない,初度の執行猶予の際でも必要のある限りなるべく保護観察が付けられるようにしておくのが望ましい,保護観察中に再犯を犯した者でも,更に保護観察を継続することによって更生を期待し得る場合もあるなどという意見が支持されたというものでした。   二つ目の「再度の刑の全部の執行猶予を言い渡し得る刑期の上限を引き上げること」につきましては,社会内処遇を充実させるための刑事政策的措置として,執行猶予中の者に対して,1年を超える刑の言渡しを行う場合であっても,事案に応じて,再度の刑の全部の執行猶予によって社会内処遇の継続を可能にするため,再度の刑の全部の執行猶予を言い渡し得る刑期の上限を「1年以下」から引き上げることを検討しようとするものです。   三つ目の「執行猶予の取消しの要件を緩和すること」につきましては,一つ目と二つ目に記載したような執行猶予について柔軟な措置を可能にする一方で,執行猶予取消し等の心理的強制による再犯防止の担保機能が低下することのないよう,執行猶予期間中における保護観察の遵守事項の遵守を強く促す等のため,例えば,再度の刑の全部の執行猶予について,「情状が重いとき」に限定することなく遵守事項違反により執行猶予を取り消すことができるようにするなど,執行猶予の取消しの要件を緩和することを検討しようとするものです。   四つ目の「執行猶予期間中の再犯について,執行猶予期間経過後であっても一定の条件の下で取り消し得るものとすること」につきましては,執行猶予期間中に罪を犯して公訴提起された場合であっても,判決の確定前に執行猶予期間が経過すると執行猶予が取り消せなくなるため,猶予期間の満了に近づくにつれ,執行猶予取消し等の心理的強制による再犯防止の担保機能が低下するおそれがあることから,このようなときに一定の条件の下で執行猶予を取り消すことができる仕組みを導入することを検討しようとするものです。   このような仕組みとしては,改正刑法草案においても,執行猶予者の地位を著しく不安定にしないよう,執行猶予期間中に刑事訴追が開始されることを条件として,執行猶予期間経過後であっても執行猶予を取り消し得る旨の規定が示されていました。   そして,執行猶予期間中に犯した罪に対して刑事訴追があった場合,執行猶予期間の満了から取消しのときまで執行猶予者がいかなる地位にあるかについては,法制審議会刑事法特別部会での議論の中で,執行猶予期間の満了によって一旦刑の言渡しの効果は消滅するが,執行猶予の取消しによって復活するという考え方や,公訴提起によって執行猶予期間が延長されるという考え方が示されましたが,第5回の部会で配布した改正刑法草案の解説においては,「本項による取消しの裁判が確定すると,猶予期間の経過によっていったん消滅した刑の言渡の効果が将来に向かって復活することとなる。」と記載されておりますように,前者の考え方が採られました。 ○佐伯分科会長 ただいまの御説明に質問,あるいは,この段階でほかにも検討項目があるのではないかといった御意見のある方は挙手をお願いいたします。   ないようですので,当面は配布資料3の検討項目案に沿って議論を進めることにさせていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。 (一同異議なし)   では,「刑の全部の執行猶予制度の在り方」について意見交換を行いたいと思います。   配布資料の「刑の全部の執行猶予制度の在り方(検討項目案)」には,「1 現行制度の運用状況と問題点」,「2 考えられる制度の概要」の順番で記載されており,意見交換も,この順番に行いたいと思います。   まず,考えられる制度を議論いただく前提として,「現行制度の運用状況と問題点」から意見交換を行います。御意見,あるいは検討の前提としての御質問でも構いませんが,御発言のある方は挙手をお願いいたします。 ○加藤幹事 運用状況ということですので,実務の立場から口火を切らせていただきます。   先ほど説明のあった資料2の「統計資料」とあるものの1-1という表を見ますと,平成28年度においては,有期懲役あるいは有期禁錮の言渡しがなされた事案5万5125件のうち,3万3740件,すなわち61.2%が刑の全部の執行を猶予されております。平成27年においても同じく60%を超える割合となっているようです。さらに,残りの刑の全部の執行猶予が言い渡されていない事案の中には,当然,前科が存在するなど執行猶予の要件を欠くためにその言渡しをすることができないという事案も含まれていることからいたしますと,執行猶予の言渡しが法律上可能な事案については,より高い割合で刑の全部の執行猶予が言い渡されている状況にあると考えられます。   これを前提にしますと,少年法における少年の上限年齢が仮に18歳未満となった場合,これまで少年院送致あるいは保護観察とされていた18歳や19歳の者についても,多くの者に対して刑の全部の執行猶予の言渡しがなされるということが予測されます。そういった者については特にですが,そうでない者についても,刑の全部の執行猶予が言い渡された者が社会内で自立した生活を送るということを可能にするためには,社会内における処遇・教育を充実させることが必要であろうと考えられます。そして,そのため,刑の全部の執行猶予を言い渡される者を保護観察に付することが改善更生,再犯防止に有用と考えられる場合が多々あると考えられるところです。   しかしながら,保護観察付き刑の全部の執行猶予の方を見てみますと,先ほどの統計のとおり,執行猶予者全体のうち約1割程度です。こういった数字だけを見ますと,十分にこの保護観察制度が活用されている状況にあるといえるかどうか疑わしいのではないかとも考えられます。   そこで,執行猶予制度の在り方を検討するに際しましては,保護観察付き刑の全部執行猶予の活用といったものを念頭に置くべきではないかと考える次第です。 ○橋爪幹事 ただいまの点に関連しまして1点,質問を申し上げたいと存じます。   今,加藤幹事からもございましたが,執行猶予者全体のうち,保護観察に付された者は全体の1割弱で推移しておりまして,必ずしも十分に活用されていないような印象を持っております。なぜ保護観察が十分に使われていないのかについて,質問させていただきたいと存じます。文献の中には,保護観察を付けてしまうと,執行猶予期間中に再犯を犯しても再度執行猶予を付けることができないことから,裁判官の方が保護観察を付けることについてちゅうちょすることが多いという指摘が一般的に見られるのですが,本当にそういう状況があるのでしょうか。もちろん具体的なデータはないと思うのですけれども,現場の感覚として,このようなちゅうちょをお感じになる場合が多いのかという点につきまして,福島幹事でしょうか,裁判所の方から御意見をいただければと存じます。 ○福島幹事 量刑の判断というのはケース・バイ・ケースの判断の側面がかなり強いものでございますから,なかなか一般論を申し上げることは難しいということは御理解いただきたいと思いますし,保護観察付きの執行猶予とすると再度の執行猶予を言い渡すことができなくなるということをどのように評価するかというのも,個々の事件ごとに,あるいは裁判官ごとに,いろいろな考え方があるのではないかと思うところです。   もっとも,橋爪幹事からも言及がありましたように,例えば裁判官の執筆した論文などを見ますと,保護観察には,公的機関が保護監督し改善更生を援助するという対象者にとって利益な面がある一方で,再度の執行猶予を受けられない,あるいは遵守事項違反で取り消される可能性があるという不利益な面もあるという評価になっていることが多いのではないかと思いますので,現場の裁判官の多くも,保護観察にはこのような利益性,不利益性の両面があるということを踏まえて判断しているのではないかと思われます。   ただし,その利益性,不利益性のどちらに重きを置いて考えるのかということについては,これまた裁判官によって,恐らく様々な意見があり得る,あるいは事案によっても異なるのかなと思っているところでございまして,裁判官一般にこういう考え方があるとなかなか申し上げにくいところでございます。   その上で,最後に申し上げると,法務省で行った「若年者に対する刑事法制の在り方に関する勉強会」において,角田教授が,今,橋爪幹事が御指摘のような御意見を確かおっしゃっていたと思います。角田教授自身もその場でおっしゃっていたように,保護観察にするかどうか,これは裁判官においてかなり考え方に幅があるところではありますけれども,実務家の中で,角田教授のような御意見をおっしゃる方がいるということについては,我々としても,そういうお考えも実務における一つの考え方としてあるのだろうという意味で,特に違和感は感じなかったところでございます。 ○今井委員 先ほど加藤幹事の方から,保護観察付き刑の全部の執行猶予の活用ということが提示されまして,私も,対象者の年齢を下げる際にはそれが大変重要な問題だろうと思っております。それは理論的にもそうでありますし,実務的にもそうだと思っておりますが,今,お二人の意見も聞いておりながら,頂いた資料を拝見しておりまして,例えば統計資料の1-3を見ますと,保護観察の終了事由別の人員の表がございます。この中で,刑の執行猶予の取消しを拝見いたしますと,遵守事項違反という数に比較しまして,執行猶予中,保護観察中の犯罪等によるその取消しという数は非常に多く,逆に言いますと,遵守事項違反による終了というものは約1割程度なのだろうかという気がしております。   刑の執行猶予中で保護観察中に最終的に犯罪等を犯して取り消されるということになった方は,恐らく多くの場合はその前に遵守事項違反等があって,保護司さん,保護観察官から警告などを受けているのではないかと思うわけでありますけれども,そういった理解によりますと,この遵守事項違反による取消しの数はやや低いのではないかなと,実務を知らない者としては考えるのですけれども,実際どの程度,あるいはどのような事案において,遵守事項違反により刑の執行猶予の取消しが行われているのか,お分かりであれば,イメージを膨らませるためにお教えいただきたいと思います。 ○今福幹事 遵守事項による執行猶予の取消しは,保護観察所長の申出を受けて検察官が請求し,裁判所が決定することでなされます。保護局からは,どの程度の遵守事項違反がある場合に執行猶予の言渡しの取消申出を行っているのかについての運用と実情につきまして,実務の立場から申し上げたいと思います。   まず,運用についてでありますが,一般的に「その情状が重いとき」,といいますのは,保護観察を継続しても本人の改善更生を望み得ないような場合をいうとされておりまして,裁判例においてもおおむねそのような運用がなされているものと承知しております。保護観察所長も,遵守事項違反があった場合でも直ちに取消しの申出を行うということではなくて,上記裁判例等を踏まえまして,遵守しなかった遵守事項の内容,遵守しなかった理由,そして保護観察所長が実施した指導監督の内容とそれに対する対象者の対応,また,遵守事項を遵守しなかった後の改善更生の意欲及び行状の変化,さらに,遵守事項を遵守しなかった後の環境の変化などを慎重に考慮した上で,「情状が重いとき」に当たるのかどうかを判断し,当たると判断した場合に限って取消しの申出を行っている,そのような運用としております。   どの程度の遵守事項違反があれば申出を行うのかについての実情について申し上げますと,保護観察所長の申出を受けて執行猶予が取り消される事例も多数ございます。一方で,保護観察官や保護司による繰り返しの指導にもかかわらず遵守事項違反を繰り返す事案ですとか,保護観察当初から保護観察官との接触を避け続けている事案などについて,裁判所が「情状が重い」とは認めずに請求を棄却するような事例があるものと承知しております。近時の例を二つ申し上げます。   一つ目ですが,更生保護施設に入所した対象者で,特別遵守事項としまして,「更生保護施設の規則で禁じられた無断外泊及び飲酒をしないこと」という特別遵守事項が設定されていたにもかかわらず,入所の翌日から過度の飲酒や無断外泊を繰り返し,その都度,保護司や保護観察官による指導がなされていたものの改善がなされず,その後行われた保護観察官による質問調査の中で,執行猶予が取り消され得ることも含めた厳重注意を受けまして,対象者は遵守事項を遵守する旨誓約したものの,その2日後にはまた過度の飲酒と無断外泊をして更生保護施設から退所勧告を受け,入所から約1か月半後に退所したという事案がありました。これは棄却の事例であります。   二つ目でありますけれども,保護観察開始後一度も出頭せず,住居を変更したのにそのことを保護観察所に告げず,その後,保護観察官が戸籍等をたどって対象者の住所を探り当てまして同住所に面接に赴いた際には,他人のふりをするなどして面接に応じず,結局,保護観察開始後,対象者が別件で捜査機関に勾留されたことでようやく所在が発覚した,その所在が発覚するまで約10か月間,所在を明らかにしていなかったという事案がございました。そういった点において,裁判所が「情状が重いとき」に当たらないと判断して請求を棄却した事例があると承知しております。   請求棄却がなされますと,保護観察所において残りの期間の保護観察を実施していくことに当然なるわけでありますが,保護観察官の指導に従わなかったから申出をしたわけですけれども,その請求棄却がなされますと,指導に従わなかったり,今後,既に信頼関係が損なわれた状態であるため,保護観察そのものがより一層困難になると,そのような実情にございます。   こうしたことから,保護観察所長としては,先ほど例として挙げましたような遵守事項違反があり,保護観察を続けることや,それによって改善更生を望むことが困難と考える事案であっても,「情状が重いとき」に当たるとまでは言い切れないと判断し,引き続き保護観察の枠組みの中で実施可能な範囲での方策を試みているというのが実情でございまして,結果として問題が改善することなく再犯に至ってしまった事例もあると承知しております。 ○青木委員 今のと関連するかどうか分かりませんけれども,今の刑の執行猶予の取消しの中で,やはり犯罪というのが非常に多いわけですけれども,犯罪といってもすごく軽い犯罪から重い犯罪まであって,特に累犯というか,同じような再犯を行う方のような場合に,犯罪自体はすごく軽微なものであっても,取消しになってしまって,結果として実刑の期間が非常に長くなるというようなケースもあるのではないかと思うのですけれども,大ざっぱで結構なのですが,この犯罪によって取り消されて実際に実刑に服する期間はどんな感じなのでしょうというか,もちろんケース・バイ・ケースだとは思うのですが,一旦とにかく保護観察,執行猶予になっているわけですから,元々の刑はそれほど重いわけではないと思うのですけれども,それによる実刑の期間というのがどの程度の感じなのか,感覚として,ちょっと実刑期間が長くなりすぎるという感覚なのか,当然そうなっても仕方がないという感覚なのか,ちょっと抽象的で申し訳ないのですが,そこら辺はいかがでしょうか。 ○隄幹事 執行猶予が取り消されたときの,元の刑の刑期が大体どの程度かというふうな御質問ですか。 ○青木委員 それプラス,その後の犯罪の中身ですね,例えば軽い窃盗であったとしても,前の刑が取り消されてしまって,結果として相当程度長く刑務所に入るというケースがあろうかと思うのですが,感覚的にそういうものというのがどのぐらいあるのか,あるいは,それが問題と感じられるような事例があるかどうかという点についてはいかがでしょうか。 ○隄幹事 統計的なもので調べられるかどうかも含めて,そこは調べた上でまたお答えさせていただければと思います。 ○青木委員 もう1点,質問よろしいでしょうか。今のお話で,遵守事項違反があったとしても,いきなり取消しではなくて,いろいろ手を尽くしてというお話があったのですが,法律上,執行猶予者について警告をして,という形にはなっていないかと思うのですけれども,それとの関係は,例えば警告をして期間を区切ってというような形にすれば,よりやりやすくなるとか,やりにくくなるとか,そこら辺の感覚はいかがなものでしょうか。 ○今福幹事 今,御案内のように,警告の制度は保護観察処分少年に対する制度としてございまして,今の保護観察付き執行猶予の対象者に対してはございません。先ほど述べた請求棄却になったような事案で,保護観察にきちんと乗っていない人について,改めてもう1段乗せて指導していくに当たっては,いろいろな工夫が必要になると私どもは考えております。例えば,これまで以上に問題点が明確になってきたわけですから,それに合わせた特別遵守事項を付加するなどして,それに焦点を当てた指導をするとか,もちろん本来の更生意欲を高める上での集中的な指導に努めるとかというような形での,いわゆるケースワーク上の工夫を重ねてやっているというところでございます。 ○青木委員 警告の制度があったらやりやすいとかということではないのですか。要するに,警告をして期間を決めて,守らなければとはっきり法律で決まっている方がやりやすいのか,それがない方がいろいろできていいのか,そこら辺はどうなのでしょうか。 ○今福幹事 この場で一概には申し上げるのが難しいところがございます。いずれにしましても,枠組みはどうあれ,まずは先ほど申し上げたようなケースワーク上の運用に努めているという状況でございます。 ○橋爪幹事 雑駁な感想を申し上げますが,仮に事前の警告がなければ取り消すことができないという制度になりますと,何をやっても警告を受けなければ取り消されないことになりますので,執行猶予が持つ心理的強制の効果が薄まってしまうような感じもしますので,警告がなくても一発アウトという余地を残さないと,執行猶予が持つ心理的強制効果を担保できないような印象を持った次第です。 ○佐伯分科会長 それは制度の作り方によりますかね。警告を必須のものとするかどうかという話でしょうか。 ○橋爪幹事 はい。 ○佐伯分科会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○橋爪幹事 感想めいたことになってしまい恐縮ですが,執行猶予制度につきましては,私を含めて研究者は,自由刑の弊害を回避して社会内処遇によって改善更生を図るというプラスの側面を強調する傾向があるわけでございますが,執行猶予という制度が,言わば取消しのリスクという心理的強制を与えて,その威嚇によって再犯防止を担保するという機能を持っていることも重要であると思います。この二つのベクトルのバランスという観点が今後の議論においても重要ではないかという感想を持った次第でございます。   すなわち,執行猶予の適用範囲を拡張する,緩和するという議論も必要だと思うのですが,同時に,逆方向の議論,すなわち,状況によっては執行猶予の取消要件を修正する余地もあるわけですので,両者のバランスをとった議論が重要であるような印象を持った次第でございます。 ○佐伯分科会長 1については取りあえず,このぐらいでよろしいでしょうか。   それでは,2の方に移りまして,「考えられる制度の概要」で,まず最初に「保護観察付き刑の全部の執行猶予中の再犯に対する執行猶予を可能にすること」について御議論いただければと思います。具体的には,その当否,それから,可能とする場合に回数制限を設けるか否かなどが問題となるかと思いますので,意見交換をお願いいたします。御意見がある方は挙手をお願いいたします。 ○加藤幹事 先ほど申しましたように,私は保護観察付き刑の全部の執行猶予の活用というものを念頭に置くべきではないかと考えますので,可能な限り保護観察付きの執行猶予を活用しやすい制度にすべきではないかと考えます。   その観点からしますと,先ほど御指摘のあったように,再度の執行猶予に付し得ないということになっている点が,最初の執行猶予を付けるときに保護観察に付する妨げとなっているという事情があるのであれば,その事情を取り除くこと,すなわち,保護観察付き執行猶予中の再犯に対する更なる執行猶予を可能とすることというのは,十分検討に値する制度ではないかと考えます。この点は,裁判所による量刑の幅を広げるという意味もあるわけでありまして,処遇の個別化あるいは多様化という観点からも,検討されるべき方向性ではないかと考えます。 ○橋爪幹事 私も同じ意見でございます。保護観察を付けた場合であっても,再度,刑の執行猶予が可能になる方向で,刑法第25条第2項ただし書の見直しについても,この部会において検討する必要があると考えております。もちろん,一旦保護観察を付けたにもかかわらず,それが功を奏さず再犯を犯したわけでありますから,再度の執行猶予という寛大な処分がどこまで相当かという問題はあると思うのですが,少なくとも一定の要件の下におきましては,再度執行猶予を付す余地を認める余地がないか,検討することが有益であるように考えています。 ○今井委員 私も今の2名の方とほぼ同じような意見を持っておるのですけれども,刑法第25条第2項ただし書をどのようにか修正することによって対応をより柔軟にするということを考える際には,次の2点も視野に入れた方がいいだろうと思います。   第1は,今後,保護観察中であった方の執行猶予を更に可能にするようにした場合,社会内処遇に課される課題といいましょうか,期待というものがより大きくなるだろうと思います。ですから,保護観察でありますとか社会復帰支援の施策を現状以上に充実していくということが何よりも必要だろうと思いますけれども,これは第3分科会のテーマなのかなと。ですから,その辺りはこの分科会と第3分科会とが密接な連携を持って制度設計をしていく必要があるだろうと思います。   それから,もう一つの留意事項と私が思いますのは,刑法第25条第2項ただし書に関連して,従前の改正刑法草案におきましては,再度の刑の全部の執行猶予は1回に限るとされていた点を踏まえた制度設計が必要だろうということです。保護観察に付されていた方が更に罪を犯してまた執行猶予にする,保護観察を付けるというときに,通常は何度もそういうことをしていてはいけないだろうということで,1回に限って,先ほど警告という話もありましたけれども,もう二度とするなよという趣旨で,1回に限るという制度枠組みが採られたのではないかと思いますし,より正確に申しますと,犯罪を犯したときの不利益性を十分に認識しているから1回でいいのではないかという判断もあったかもしれません。これは今後のここでの大きなテーマになろうかと思いますけれども,個別の対象者の方の属性,環境等を踏まえてきめ細やかな対応をしていくということになりますと,必ずしも回数制限というものが論理的に出てくるかどうか分かりませんので,この辺りは従前の意見をもしも事務当局が御存じであれば御開陳していただいた上で,議論を深めていった方がいいかなと思っているところです。 ○隄幹事 現行法が再度の刑の全部執行猶予を1回に限っている趣旨につきましては,再度の刑の全部の執行猶予制度の導入の際に,その運用如何によっては刑政を弛緩させるおそれがあると考えられたことから,猶予期間中,必要的に保護観察に付することとされ,また保護観察付き刑の全部の執行猶予を受けて,その猶予期間中に再び罪を犯した場合には,執行猶予によっては改善更生を図り得ないことが明らかになったものと考えられることから,保護観察付き刑の全部の執行猶予の猶予期間中の再犯の場合には,再度の刑の執行猶予を言い渡すことができないものとされたとされております。 ○佐伯分科会長 今の御説明,あるいはその他の点につきまして,何か質問,御意見等ございますでしょうか。   それでは,もし御意見があれば,また元に戻っていただくことも可能ですので,取りあえず次の「再度の刑の全部の執行猶予を言い渡し得る刑期の上限を引き上げること」について,その当否,引き上げるとする場合にどこまで引き上げるのかなどについて,意見交換を行いたいと思います。御意見がある方は挙手をお願いいたします。 ○橋爪幹事 1点,質問をしてもよろしいでしょうか。刑法第25条第2項は,1年以下の懲役,禁錮の場合に限って再度の執行猶予を可能にしているわけでございますけれども,1年というのは相当短いような気がいたします。最近では懲役1年とか懲役10月といった判決は余り目にしないような印象があります。そこで,1点,実務家の方に質問したいのですけれども,本来ならば再度執行猶予を付けたい事件でありながら,量刑評価としては懲役1年を上回ってしまうことから執行猶予を付けられない事件が実際に存在し得るのか,また,どのような種類の事件にそのような印象をお持ちかにつきまして,もしよろしければ何らかの実務的な御感触なりをお聴かせいただければと存じます。 ○加藤幹事 私個人の経験するところに加えて,若干の想像が入りますが,考えられることとして申し上げてみますと,例えば,既に異種前科があって保護観察付き執行猶予中であったという者が,その後,重大交通事案を起こしたというような場合など,起こした事件単体で考えると執行猶予相当であると考えられるんだけれども,異種の前科があり,既にそれが執行猶予中であるという場合が一つ考えられるのではないかと思われます。   また,かねて指摘されるところでは,累行性のある犯罪の場合に,本人もその犯罪からの離脱に努めているという過程で,たまたま偶発的に次回の犯行に至ったといったような場合,これが二度目の執行猶予に適する事案かどうかは,それ自体,相当問題でありますが,そういった場合もあり得るのではないかという指摘があるということを承知しております。裁判所のお立場からはまた別の御意見があるかもしれません。 ○佐伯分科会長 福島幹事,もし御意見がありましたら。 ○福島幹事 なかなかお答えしづらいところでございまして,この点について裁判官の中で共通の認識があるわけでもない状況でございます。本当はこれは再度の執行猶予にしたいんだけれども,年数の上限があるためにできないんだというのがどういうものかということについて,裁判官の間で議論することもなければ共通認識もないというのが正直なところでございます。ですので,私の立場から,こういうのが実はみんな困っているんですよねというようなところはなかなか申し上げにくいことを御理解いただければと思います。 ○佐伯分科会長 もし弁護士のお立場で,こういう事件ということがございましたら,いかがでしょうか,青木委員。 ○青木委員 統計的なことはおよそ分からないですけれども,すごく感覚的なところで言うと,昔は結構,覚醒剤事案で再度の執行猶予というのがあった気がするんです。ただ,それが覚醒剤事案全体に対して量刑が恐らく重くなった結果,再度の執行猶予は言い渡されなくなったのではないかという気はしています。それで,罪種によって社会内処遇がふさわしい事案というのがあって,覚醒剤がそうかどうかというのはまた別の問題としましても,そういうものについて,言渡し刑期としてはある程度重いものではあるけれども,社会内処遇がふさわしいというようなものを,適切に社会内処遇にするということをするためには,再度の刑の全部執行猶予の言渡し刑期の上限を上げるということは有用なのではないかと思います。   それに関連して,もしそこでその上限を引き上げた場合に,再度ではなくて初度の方の執行猶予とか,あるいは一部執行猶予についても,場合によっては社会内処遇がふさわしいという人について,3年以下と決まっていることによって落ちこぼれているものもあるかもしれないので,そのバランスとの問題もありますし,初度の執行猶予とか一部執行猶予についても上限を見直して,そういう意味で裁判所の裁量の幅を広げると,それによって社会内処遇が適切な者については,より社会内処遇で立ち直りを図るということができるようになるのではないかと思います。 ○加藤幹事 青木委員,福島幹事からも御指摘があったのですが,元々この問題は執行猶予が再度にわたるという場合ですので,当然,最初のときよりは情状が悪いことが多いわけで,先ほど申し上げたのも,事例としてそのようなものが考えられるという点を申し上げましたが,それぞれの事案が個別に執行猶予に適するのかどうかという点は当然,個別に考えなければいけない事案であろうと思います。そういう意味では,元々1年以下のものに限られているのも,比較的狭い範囲のものに再度の執行猶予を適用しようとしたという最初の立法の考慮もあったと考えられ,その辺りのバランスは当然,考えていかなければならない問題であろうと思いますので,そこは付け加えさせていただきます。 ○今井委員 今の加藤幹事の御説明で,私が伺いたかったことは大分お答えになっているのですけれども,先ほど青木委員がおっしゃったことは私もとても大事だと思います。個別の被告人といいますか,対象者の方を見て,どのような状況でどのような罪を犯したのかということで社会内での具体的な処遇を決めていくというのは,それは理想だろうと私も思うのですけれども,とはいえ条文を見ますと,1年というふうに法定刑の上限で区切ってあるというところからスタートせざるを得ないのが現状かと思います。今,加藤幹事の方からも少し御説明があったように思うわけですけれども,この1年とされた当時の趣旨,それが,今までいろいろな方からも,犯罪者の置かれた状況というよりは犯罪の持つ重大性,悪質性ということの一つの評価基準として1年とされたという御説明があったわけですけれども,当時の議論を改めて確認させていただき,それが現状の犯罪情勢あるいは量刑事情を踏まえてどこまで妥当するのかに応じて,アプローチしていくのがよいのではないかと思っている次第です。 ○隄幹事 再度の刑の全部の執行猶予を言い渡し得る刑期の上限が1年以下とされている理由,あるいは趣旨につきまして御説明しますが,当時の考え方としましては,刑期が1年を超えるような悪質,重大な罪についてまでも再度の執行猶予を与え得るものとするのは,刑罰に求められる応報及び一般予防,特別予防の観点から適当でないと考えられたことによるものでございます。 ○佐伯分科会長 当初のそういう立法の趣旨が現状に合っているかどうかという点については,また検討が必要かと思います。 ○福島幹事 意見というよりはお願いという形になるのですが,一つ目の「保護観察付き刑の全部の執行猶予中の再犯に対する執行猶予を可能にすること」と共通の話なのですけれども,実際に裁判を運用する立場から申し上げますと,仮に制度を見直すのであれば,見直しの趣旨といいますか,あるいは見直しによって新たにどういう事件を対象にするのか,あるいはまた判断の基準なり要件なりというのをできるだけ明確にしていただきたいということでございます。そこが曖昧なままですと,運用する側としてはちょっと困ってしまうというところがありますので,今後検討されていく際には,見直しでどういう事件を対象として想定するのかというようなところについても,具体的に御検討いただければというお願いでございます。 ○佐伯分科会長 その点についてはまた,この場で検討したいと思います。   それでは,三つ目に移りたいと思います。「執行猶予の取消しの要件を緩和すること」についてです。このことにつきまして,具体的にその当否,要件を緩和する場合にどのような要件にするかなどにつきまして,意見交換を行いたいと思います。御意見のある方は挙手をお願いいたします。 ○青木委員 意見というか,考え方というか,基本的に拘禁は最後の手段であるということで考えると,イギリスとかフランスのように,段階を踏んで取消しができるような制度というのが一つ,考えられる制度なのだろうと思います。ドイツも入っていましたかね。ですので,先ほど御紹介いただいたような制度の組み方というのを全体として検討してみるべきではないかと思います。   実際に保護観察がよく機能するためには,保護観察を受ける,先ほど利益性と不利益性という話がありましたけれども,本人が利益に感じるというか,自分にとってそれが役に立っていて,立ち直るために非常にいいことであると思えて,自ら積極的にそこに関われるというのが本来の理想なんだろうと思うんです。そういう意味で言うと,一つ,執行猶予が取り消されてしまうという威嚇の下で守らせるというのもあるでしょうけれども,きちんと守っていれば早く元に戻れるという方向での保護観察の充実というのですか,そういう方向も検討した方がいいのではないかと思います。   そういう意味で言いますと,保護観察期間について,今は執行猶予期間全部に保護観察が付くことになっていますけれども,それを一部に限るとか,あるいは一定の幅の中で短縮できるとか,諸外国の制度にもそういうのがあるようですし,改正刑法草案では,原則として3年に限っていたようですから,そういう制度も併せて考えて,執行猶予の取消しの要件緩和という方向ではない形の方向を検討するということも必要なのではないかと思います。 ○今井委員 今の青木委員の御発言と矛盾するものではないのですけれども,その前提としてというのでしょうか,あるいは並行してというのでしょうか,先ほど今福幹事の方からも御説明があったのですけれども,遵守事項違反についていろいろと,先ほど伺った二つの事例でも相当なものだと思うわけですが,なかなか現場の御苦労というものが分かりまして,情状が重いという判断をするにいくまで相当な積み重ねがあるということを私も理解いたしました。   そうしますと,まずは,遵守事項というのは本当に重大なもので,当人にとって改善更生に資するものだということをきちんと感知させるような制度というものも作りつつ,それから,青木委員が言われたようなステップ・バイ・ステップのこともよいのかなと思いますので,まずは遵守事項違反による執行猶予の取消しというものを,もう少し本来の趣旨に沿った運用ができるようなこと,それは要件の緩和になるのかもしれませんが,これの検討も決して捨ててはいけない選択肢だろうと思った次第でございます。 ○橋爪幹事 1点,資料について確認をしたいと思います。統計資料の1-3でございますが,遵守事項違反についての取消しの数が出ておりますけれども,下の※2を見ますと,「犯罪」の項目は,実刑が確定したことによって取消しになったものという限定がございますので,猶予期間中に犯罪を犯したけれども判決確定に至っていないという事件はこれに含まれていないと思うのですが,このような事例が遵守事項違反として処理されている可能性はあるのかにつきまして,質問したいと存じます。 ○今福幹事 御指摘のとおりでございまして,統計資料の1-3にあります遵守事項違反による取消しの中には,再犯がなされて,一般遵守事項のうちの更生保護法第50条第1項第1号には,「再び犯罪をすることがないよう」「健全な生活態度を保持すること」という遵守事項に違反したとして取消しがなされているものが多く含まれているものと承知しております。その数ということになりますと,現在,正確な数値を把握しておりませんけれども,飽くまで実務感覚として申し上げますと,遵守事項違反による取消しのうちの9割程度は,そのような再犯に及んだことを理由とする一般遵守事項違反での取消しではないかと考えております。 ○福島幹事 先ほどと同じ趣旨のお願いになるのですが,ここの要件を仮に見直すのだとすると,刑法第26条の2は取り消すことができるという規定になっております。どういう見直しをするのか,しないのか,現時点では未定だとは思いますけれども,仮に,「若年者に対する刑事法制の在り方に関する勉強会」の報告書で触れられているように,例えば「情状が重いとき」というところを外すということになりますと,遵守事項違反があった事案のうち,どの事案を取り消して,どの事案を取り消さないのかということについて,要件がなくなるといいますか,基準がなくなるというようなことになります。実際に制度を運用する立場からすると,例えば遵守事項違反の事案は基本的に全部取り消すのだというのであれば,その旨を明確にしていただければと思いますし,仮に選別するというのであれば,どういう事案は取り消して,どういう事案は取り消さないのかということについて,どういう事案を想定するのか,どういう基準にするかということも是非御議論いただいて,明確にしていただきたいと思います。 ○加藤幹事 福島幹事の御指摘もございましたが,そもそも論点の柱が要件の緩和でございまして,「若年者に対する刑事法制の在り方に関する勉強会」の報告書にあるように,情状が重いときという要件をまるっきり外してしまうということも考えられますし,それとは別の要件を立てるということも考えられるのだろうと思いますので,そういった点も含めて御検討をいただければと思います。   また,青木委員の御指摘に対して,1点だけ,当然御存じのこととは存じますが,指摘をさせていただきますと,現行の保護観察付きの刑の全部の執行猶予についても,例えば刑法第25条の2第2項にございますように,保護観察については仮解除といった制度がありまして,成績良好の場合には,それ相応の措置が採られるという制度も織り込まれてはいるという点を念頭に置いていただきたいと存じます。 ○青木委員 仮解除は承知しているのですが,この間,保護観察所に行ったときに,仮ではなくて,やはり少年と同じように完全にというのがあった方がやりやすいようなお話もあったので,そういうことも含めて検討したらと思います。   取消しについてですけれども,これも先ほど御紹介いただいた諸外国の制度の中にはあるようですけれども,執行猶予全部の取消しではなくて一部の取消しというようなものもあるようですから,状況によって一部取消しというようなことができるようにするとか,あるいは一部執行猶予という形を採るのか分かりませんが,いずれにしても全部の期間が実刑に戻ってしまうというのではない形というのも検討の余地はあるのではないかと思います。 ○佐伯分科会長 それでは,第4の「執行猶予期間中の再犯について,執行猶予期間経過後であっても一定の条件の下で取り消し得るものとすること」という点につきまして,現時点で御意見等を伺いたいと思います。御意見のある方は挙手をお願いいたします。 ○今井委員 意見といいますか,これは事実の確認ということなのですけれども,刑法第26条関係です。この刑法第26条を見ますと,第1号で,「禁錮以上の刑に処せられ」ということですので,そういう犯罪が執行猶予期間中に犯罪として確定したという理解であり,これが最高裁の判例でもあるわけですけれども,そういたしますと,執行猶予期間が満了期に近づいてくるときに犯罪的な事象を起こし起訴をされたという場合でも,期間の満了までに判決が確定しなければこの条件を満たさず,刑法第26条による必要的取消しができなくなってしまう。これは,今日ずっと話しておりますが,執行猶予,あるいは広く社会内処遇ということの意義ですね,警告的な意味を持ち,善行に努めなさいということ,遵守事項等を守らないと,また戻るんですよということの警告的な機能,自発的な啓発的機能が損なわれているのではないかと思うわけですけれども,そういった事態に直面されて現場でお困りの事態がどの程度あるのか,お分かりであれば,まず教えていただければと思います。 ○加藤幹事 お尋ねは,実際に起訴はしたけれども,執行猶予中の再犯があったけれども,起訴が遅れた,あるいは確定が間に合わなかったということで,実際には執行猶予の取消しに至らなかったという事例がどのくらいあるかといった趣旨でよろしゅうございましょうか。 ○今井委員 はい。 ○加藤幹事 手元に統計のある分野ではないので,正確にお答えすることが困難なところなのですが,制度上,犯罪の発覚に一定の時間が掛かる,あるいは捜査に時間が掛かる,公判に時間が掛かる,判決があってから確定までには一定の時間が必要だということでありますので,御指摘のような執行猶予期間中に再犯に及んだけれども確定前に執行猶予期間が切れてしまったということ,それそのものはしばしば経験する事態であると申し上げることができます。 ○橋爪幹事 前の部会の際にも申し上げましたけれども,執行猶予の取消しにつきましては,期間中に再犯を犯したという事実が決定的でありまして,判決の確定,それ自体は重要ではない気がいたしますので,期間内に判決が確定したことを要件とすることには実は十分な合理性がないような気がいたします。ただ,その反面としまして,無罪推定原則が及んでおりますので,判決が確定するまでは無罪の推定が続くわけです。したがって,判決確定を待たずに本人にとって不利益な処分を科すことが正当化できるかという問題も出てくるように思います。再犯を犯したことが重要であっても,その事実は判決確定によって初めて確定する,という事情をどのように評価するかについては理論的な検討が必要であるように思います。   その関係で1点,実務的な状況について質問をしたいのですけれども,判決が確定しなければ執行猶予は取り消されないことから,場合によってはいたずらに裁判の遅延を図ったり,あるいは,余り理由がない上訴を繰り返すという事態が実務では生じていると伺ったことがあるのですが,これがもし本当であれば,余り好ましくないように思われます。なかなか質問しづらいところでございますけれども,そういう状況が実際にあるのかということにつきまして,恐らくお立場によって印象も違うと思うのですけれども,もしよろしければ印象などをお伺いできればと考えております。 ○加藤幹事 御指摘のような事態がどの程度発生しているかということについて統計があるわけではないし,証拠関係とか弁護の御方針などは様々ですので,そもそも一概にはお答えできないのでありますが,参考となるものとして申し上げれば,改正刑法草案についての議論の際にも,御指摘の弊害については議論の中で指摘がなされていたと承知しています。少なくとも現行法上は,裁判の確定時期によって執行猶予が取り消されるかどうかが決まりますので,執行猶予期間中に罪を犯して公訴提起がされた場合に,裁判の遅延を図る,あるいは理由のない上訴をするということによって裁判の確定を遅らせて,その結果,執行猶予の取消しを免れるということは,実際にあるかどうかは別として,制度上は可能になってしまっているということは言えるのだと思います。その点が問題になるのではないかと認識しております。 ○青木委員 今の,執行猶予期間中の再犯について,経過後も取り消し得るという話についてですけれども,仮に裁量的にも含めて取り消すことができるとした場合に,取消し前の執行猶予期間,保護観察が付いているわけですけれども,先ほどもありましたように,保護観察というのは,もちろん本人にとって利益な部分もありますけれども,不利益処分という側面があって,刑の執行ではないにせよ,刑罰を受けていたに等しいような状況を過ごしているわけです。それで,目一杯それは務めた後に取り消されて,実刑に服するということになると,それは実質的な二重処罰になるのではないかというようなことも考えられるわけでありまして,取消しの場合,全てそれは関係する話ですけれども,執行猶予期間満了後に取り消して,もう1回ということになると,さらにそれがはっきりする形になるので,二重処罰ではないかということに対する何らかの手当てが必要なのではないかと思います。   先ほど申し上げたような,例えば実刑になる期間を何らかの形で緩和するなり,場合によっては,実刑期間のうち,ちょっと思い付き的な話かもしれませんが,仮釈放を認める期間について,どの時期に認めるかというのを一般とはちょっと違う形にして,中できちんと務めていれば早く出られるようにするとか,何らかの手当てをして,二重処罰の禁止に当たらないかという批判に対して答えられるような制度にするべきなのではないかと思います。 ○保坂幹事 事務当局として御発言の趣旨を確認したいと思います。今の青木委員の御提案というのは,執行猶予期間中の再犯について期間内に確定しなかった場合にも執行猶予を取り消せるというスキームを導入する場合だけのことなのか,それとも一般的に保護観察付き執行猶予が取り消された場合のことなのか,後者は今でも起きているわけですが,いずれでしょうか。 ○青木委員 それは今,問題としては同じような問題はあるけれども,今検討した方がいいと申し上げたのは,一旦,猶予期間が終わってしまって,その後,確定しましたと,それを遡って取り消せるという話ですよね。そういうことになるとなおのこと,全部やっているわけですから,期間を終わっているわけですから,二重処罰という批判はよりしやすいのではないかと思うのです。 ○保坂幹事 保護観察期間をフルに終えているからということですか。 ○青木委員 そうですね。そういうことで,だから,ほかのことについてももちろん同じような問題はあると思いますが,今申し上げたのは,特にその場合ということです。検討課題としてあるのではないかということです。 ○佐伯分科会長 ほかにはいかがでしょうか。   それでは,一通り検討項目案記載の項目について意見交換を行いましたけれども,そのほか,刑の全部の執行猶予制度の在り方について,現時点で御意見がある方は挙手をお願いいたします。 ○青木委員 改正刑法草案では,執行猶予の言渡しに当たって資格制限の排除というのを言い渡せることになっていたかと思います。社会復帰ということを考えますと,この資格制限というのが相当影響してくることが多いので,必要的ではなく裁量的に排除を言い渡せるという制度は望ましい制度ではないかと思いますので,それも是非,検討の中に入れていただきたいと思います。 ○佐伯分科会長 青木委員が御指摘の点を今後の検討課題に加えたいと思います。   それでは,「刑の全部の執行猶予制度の在り方について」は,1巡目の議論を行いましたので,本日の意見交換としてはこの程度にとどめまして,次の論点に移りたいと思います。   次に「自由刑の在り方について」の検討を行いたいと思います。初めに,事務当局から,「自由刑の在り方」に関する資料の説明をお願いいたします。 ○隄幹事 本日,「自由刑の在り方」に関する資料として,配布資料4「自由刑の在り方(検討項目案)」を配布しております。「自由刑の在り方」については,「若年者に対する刑事法制の在り方に関する勉強会」取りまとめ報告書において,現行法の自由刑のうち,懲役刑については,作業が刑の内容とされているところ,作業は受刑者の改善更生に重要な役割を果たしているものの,受刑者の特性を考慮すると他の矯正処遇が適している場合にも,一定の時間を作業に割かなければならず,より個人の特性に応じた矯正処遇を実施することには限界があること,禁錮刑については,一律に作業の義務付けを行うことができないものの,受刑者によっては,本人の改善更生にとって作業が有用な場合があること,そこで,懲役刑・禁錮刑を一本化した上で,その受刑者に対し,作業を含めた各種の矯正処遇を義務付けることができることとする法制上の措置を採ること,が考えられることなどを記載しております。   配布資料4「自由刑の在り方(検討項目案)」は,これらの勉強会報告書の記載や,部会での御意見,過去の法制審議会における改正刑法草案に係る議論などを踏まえて,飽くまで分科会における意見交換の御参考としていただくため,検討項目の案を事務当局において作成したものです。もとより,検討項目がこれに限られるものではありません。   検討項目の案の趣旨を御説明いたします。   「自由刑の在り方」の「考えられる制度の概要」については,「若年者に対する刑事法制の在り方に関する勉強会」の取りまとめ報告書に記載されているのを参考に,「懲役刑及び禁錮刑を一本化した上で,作業を含めた各種の矯正処遇を義務付けることができることとする」とされております。もちろん,これに限る趣旨ではございません。   次に,検討項目について御説明いたします。自由刑の在り方は,大変大きな論点であり,議論の進め方自体にも様々な考え方があるものと思われますが,検討項目の大きな柱として,「(1)懲役刑及び禁錮刑を一本化すべきか」,「(2)自由刑を一本化した場合の処遇内容をどのようにすべきか」という2つを記載いたしました。すなわち,まず,現行制度である懲役刑と禁錮刑という区別を存置すべきか,それとも一本化すべきかという刑罰の大枠について議論した上で,一本化した場合に,その処遇内容をどのようにすべきかについて議論を進めてはどうかという趣旨です。   (1)の「懲役刑及び禁錮刑を一本化すべきか」につきましては,まず,現行の懲役刑と禁錮刑との区別がなされていることの意義を踏まえつつ,懲役刑及び禁錮刑を一本化する意義について検討するのが適切ではないかと考えられます。この懲役刑と禁錮刑を一本化すべきかという点につきましては,過去に,いわゆる改正刑法草案に関する法制審議会刑事法特別部会において,既に相当の議論が行われておりますので,後ほど,その過去の議論の概要を御説明いたします。   次に,(2)の「自由刑を一本化した場合の処遇内容をどのようにすべきか」につきましては,仮に自由刑を一本化するとして,現行法上行われている作業の意義・位置付けと,各種指導の意義・位置付けを踏まえつつ,一本化した自由刑において,作業及び各種指導を義務付けるかどうか,作業あるいは各種指導のみを行う余地を認めるかどうかなどが検討の対象になるのではないかと考えられます。そして,この点と関連して,作業及び各種指導を刑の内容とすべきかという点も検討することになると思われます。   (3)の「その他」は,他の事項について検討すべきものがあれば,併せて御議論いただきたいという趣旨で記載しております。 ○佐伯分科会長 ただいまの御説明に,質問や,この段階でほかにも検討項目があるのではないかといった御意見のある方は挙手をお願いいたします。   よろしいでしょうか。   それでは,当面は配布資料4の検討項目案に沿って議論を進めることにさせていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。 (一同異議なし)   では,「自由刑の在り方」について意見交換を行いたいと思います。配布資料4の「自由刑の在り方(検討項目案)」には,「1 考えられる制度の概要」,「2 検討項目」が記載されており,「考えられる制度の概要」として記載されている内容の賛否は,検討項目として挙げられている項目に係る議論によると思われますので,意見交換は,まずは検討項目として挙げられている2つの項目について順番に行いたいと思います。   それでは早速,「懲役刑及び禁錮刑を一本化すべきか」から意見交換を行いますが,ここで,先ほど事務当局から提案がありました改正刑法草案に関する法制審議会刑事法特別部会における議論の概要を説明していただきたいと思います。 ○隄幹事 改正刑法草案に関する法制審議会刑事法特別部会における議論の概要について,御説明いたします。   現行の懲役刑及び禁錮刑を一本化すべきかについて,改正刑法草案に関する法制審議会刑事法特別部会での議論を御紹介するため,第5回部会の際に,「改正刑法草案の解説(抜粋)」を配布しておりますが,改めて,議論の概要を御説明いたします。   この特別部会においては,自由刑の在り方について,大きく分けて,政治犯及び過失犯に対する特別の自由刑としての禁錮を存置すべきであるとする禁錮存置論と,懲役及び禁錮を単一の拘禁刑に統合すべきであるとする単一刑論という二つの立場から議論がなされました。これらの立場は,特に,禁錮という特別の自由刑を規定することによって破廉恥でない犯罪に対する国の評価を明らかにする必要があるかどうか,及び,そのような特別の自由刑を設けることが今後における一般的な行刑の発展にとって障害となるかどうかという二つの点において,見解を異にするものでした。   懲役と禁錮との区別を維持するという禁錮存置論の立場からは,次のような意見がありました。   まず,犯罪に対する国の評価という観点から,犯罪のうちにも,政治犯その他の確信犯や過失犯のように,破廉恥でない動機から犯され,あるいは犯罪の実行においても人間として尊敬に値する態度のうかがわれる場合もあるのであって,刑法及び刑事司法が行為責任を原則とし,それぞれの犯罪に対する道徳的評価を明らかにすることによって一般国民の正義感を維持するものである以上,いたずらに抽象的画一主義に陥ることなく,刑の種類においても,犯罪に対する基本的評価の差を明らかにする必要があるという意見,破廉恥でない犯罪に対して禁錮その他の特殊な自由刑を規定し,犯人の名誉感情を顧慮するという考え方は,我が国だけでなく西欧諸国の法的伝統及び国民感情に深く根ざしているという意見などがありました。   また,行刑の発展という観点からは,政治犯や過失犯を犯す犯罪者の多くは,性格的にも一般の犯罪者とはかなり異なっており,行刑においてもこれに対する特別の配慮が必要であり,この点を全て行刑担当者の裁量に委ねるのは人権保障の上からも好ましくないだけでなく,行刑上の分類がまだ十分に発達していない現状を前提とすれば,立法及び裁判の段階における言わば第一次的分類として,懲役と禁錮との区別を存置しておくべきであるという意見などがありました。   なお,これらとは別の観点から,政治的見解の表明又はストライキに対する制裁としての強制労働を禁止するILO第105号条約との抵触を避けるため,作業の強制を伴わない刑として禁錮刑を存置しておく必要があるという意見もありました。   次に,懲役と禁錮を単一の拘禁刑に統合しようとする単一刑論の立場からは,次のような意見がありました。   まず,行刑の発展という観点から,受刑者の個性に応じた科学的分類を中心とする処遇を発展させ,開放あるいは半開放処遇,作業以外の教育的・医療的処遇方法などを大いに取り入れてゆくのが理想であるが,定役又は作業の賦課を伴うかどうかによる懲役と禁錮との区別が維持されることになれば,分類処遇の発展が阻害されるだけでなく,懲役受刑者の処遇が従来どおり作業中心のままにとどまるおそれがあるという意見,懲役の場合,改善更生のための手段として作業以外の処遇が適する者にも,常に必ず作業を課さなければならず,反面,過失犯についても,作業に矯正教育の手段としての効果が認められる場合があるのに,禁錮の場合,その意に反する作業を課することができないこととなるので,対象者に対して矯正の効果を上げることができず,処遇内容を固定化することになり,分類処遇を困難にして,矯正全般の発展の妨げになるという意見,刑事施設においては,作業しないことがかえって苦痛であり,禁錮受刑者の大部分が請願作業に従事しているという現状からみても,労働強制の有無という点で懲役と禁錮とを区別する意味はなくなっているという意見などがありました。   また,犯罪に対する国の評価という観点から,破廉恥な犯罪かどうかという観点から懲役と禁錮とを区別し,作業を強制することができるかどうかでその内容に差を設けるのは,労働を軽視する思想の表れであるだけでなく,懲役受刑者に対して破廉恥の烙印を押し,その改善更生への努力を妨げるおそれも大きいという意見などがありました。   そして,禁錮存置論に対する指摘としては,破廉恥かどうかという判断は,時とともに変わるので,立法において区別しようとすれば,その区別はある程度画一的あるいは恣意的なものにならざるを得ず,現行法においても,内乱と外患とで刑の種類を区別することに十分な根拠があるとは考えられないという指摘,刑事裁判において,裁判官が禁錮を選択するかどうかという方法で道徳的な評価をすることは著しく困難であるという指摘,懲役と禁錮との区別は,一般国民の間では,必ずしもはっきり理解されておらず,一般国民にとっては,どういう犯罪を犯したか,刑務所に入れられたかどうかということが問題であるという指摘,政治犯の観念が曖昧である,あるいは,政治犯だけを対象に考えれば,宗教上,芸術上等の確信に基づく犯罪との間にアンバランスを生ずるという指摘などがあったほか,行刑における分類は,犯罪を犯すに至った受刑者の動機,その責任感情をも十分に考慮して分類が行われるし,しかも,精神医学,心理学,社会学,教育学等の専門家が協同して分類するものであるから,動機が破廉恥かどうかだけによる裁判官の区別よりも合理的であるという指摘などがありました。   なお,ILO条約との関係では,禁錮を存置しなくても,条約が禁止するような労働の強制を行わないことは十分に可能であるという意見や,労働は全ての人が当然のこととして行っているところであり,刑務所での労働が通常の労働と同じ性質のものであれば条約の趣旨に反しないという意見などがありました。   また,単一刑論に対する指摘・反論としては,裁判規範である刑法としては,まず,責任に対する評価という観点から懲役と禁錮とを区別すべきであるという指摘,懲役と禁錮の区別を存置するとしても,それぞれの刑の内容は行刑の目的に照らして合理的に定めることができるのであるから,これによって将来における分類その他の処遇の発展が阻害されるわけではないという反論などがありました。   このような議論を経て,法制審議会においては,懲役と禁錮の区別を存置することとする改正刑法草案が取りまとめられました。 ○佐伯分科会長 ただいまの説明に御質問等のある方は挙手をお願いいたします。   よろしいでしょうか。   では,このような過去の議論も踏まえまして,「懲役刑及び禁錮刑を一本化すべきか」について,具体的には,「懲役刑と禁錮刑との区別がなされていることの意義」や,それも踏まえた「懲役刑と禁錮刑とを一本化する意義」について意見交換を行いたいと思います。御意見がある方は挙手をお願いいたします。 ○橋爪幹事 私個人の意見を申し上げますと,懲役,禁錮の区別は余り意味がないのではないかという印象を持っておりまして,両者を一本化する方向で検討することに十分な意義があると考えております。   2点申し上げます。第1点ですが,先ほど御説明がございましたように,現行法の懲役刑,禁錮の区別につきましては,破廉恥犯と非破廉恥犯の区別に対応するものという説明が一般的でございます。確かに改正刑法草案の時代には,そのような罪質の区別が重要であるという議論があったことは承知しておりますが,それから数十年が経過いたしまして,現在の刑法理論では,この両者の区別が重要という理解は一般的ではない気がいたします。もちろん犯行に至った動機といったものは,具体的な非難可能性を判断する上では重要な観点ではございます。しかし,それは犯罪類型という観点から画一的に判断すべき事柄ではなくて,個別の行為者の心情に従って,個別的に判断すべき事柄であると思いますので,この犯罪は破廉恥犯,この犯罪は非破廉恥犯という類型的な区別を存置することには余り意味がないという印象を持っております。   もう1点でございますけれども,現在の処遇の現場でございますが,恐らく禁錮刑の受刑者はそもそも,ごく僅かであると理解しておりますし,かつ,その多くが自ら申し出て作業を行っていると理解しております。このような現状であるならば,あえて禁錮刑といったものを存置することには,余り実益がないような印象を持つ次第でございます。   1点,その点を確認したいのですけれども,現在,禁錮受刑者がごく僅かであって,多くの者が作業を行っているという認識が正しいのか,実際の禁錮受刑者の処遇の現況につきまして,御説明いただければと思います。 ○小玉幹事 御質問の点につきまして,簡単に御説明いたします。まず,平成28年末における禁錮受刑者の収容人員,これは119人となっておりまして,懲役受刑者が4万8908人であるのに比べますと,全体に占める割合は0.2%にとどまっております。また,平成28年に新たに確定した禁錮受刑者は56人となっておりまして,懲役受刑者が2万406人であるのと比べますと,全体に占める割合は0.3%になります。続きまして,新たに確定した禁錮受刑者の罪名でございますけれども,重過失致死傷が1人,自動車運転過失致死傷が55人となっておりまして,大部分が交通関係事犯者となっております。   御承知のとおり,禁錮受刑者には作業の義務はありませんが,刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律第93条におきまして,禁錮受刑者が刑事施設の長の指定する作業を行いたい旨を申し出た場合には,作業を行うことを許すことができるとされておりますが,平成29年7月末日現在で,禁錮受刑者134人中117人,割合にしますと87.3%が作業に従事しております。   なお,同法上,作業の実施義務以外の違いとしまして,禁錮受刑者と懲役受刑者は,互いに分離して処遇することとされておりますが,一方で分離を行わないことが適当と認められる場合には,居室外に限りまして,分離を行わないことができることとされております。 ○加藤幹事 自由刑の一元化に関する問題につきまして,先ほど説明があったように,改正刑法草案に関する審議段階で,賛否いずれからもその根拠は語り尽くされているといった感もございますが,今日における犯罪情勢,犯罪者の実態ですとか,刑政の在り方などを踏まえてもう一度見てみますと,再犯防止というのが今日の大きな政策課題となっていて,その意味で特別予防というものを重視すべきであるという要請が強いということは言えると思われます。自由刑の在り方を検討するに当たっても,犯罪行為に対する応報としていかなる刑が適切であるかという視点,これは基本だと思われますが,加えて受刑者の改善更生を十分に視野に入れて検討すべきではないかと考えられます。また,外国法制について,冒頭,説明がございましたが,主要国においては自由刑の単一化をしている国が多いという世界的動向にあるようでもございまして,これらの各国における実情も,そのまま鵜呑みにするということではなくて,参考に入れて検討すべきものではないかと思うところです。   処遇の問題として申し上げれば,例えば若年受刑者の改善更生を図るためには,それぞれの特性に応じた矯正処遇を行うことが重要であるということは言うまでもないわけですが,現在も,少年刑務所においては,ほぼ作業を行わせることなく,教科指導を行うという取組がなされていると聞きます。しかしながら,懲役刑については,刑法で作業を行わせると定められておりますことから,そのような取組には一定の限界があるとも認識されておりますほか,ほかの例で,高齢受刑者あるいは障害を有する受刑者などについて,刑期のほとんどを各種指導に充てたり,作業以外の矯正処遇を重点的に行う対象者を拡大するなど,受刑者の特性に応じて作業以外の矯正処遇を今よりも柔軟に行えるようにするという視点で検討する必要があるのではないかとも考えるところでございます。   もう一つ,禁錮受刑者の中にも,本人の改善更生にとっては作業が有用な場合もあると考えられますので,このような観点からも,懲役と禁錮という区別が今後もなお必要かという観点について議論を進めていただきたいと存じます。 ○今井委員 今の加藤幹事の御意見とほぼ同じでございますが,先ほど御紹介がありました改正刑法草案に関する法制審議会刑事法特別部会における両論を伺いますと,理論的にはどちらも今でも成り立ち得るのだろうと思いますけれども,その中で御紹介がありましたように,破廉恥犯,非破廉恥犯というのは,対象者の入口での選別機能というのがあるかもしれませんが,刑罰が持つべき目的が,過去に行った違法行為に対する応報とともに,将来よき市民として社会復帰するように特別予防に資するように遇することにあることは,否定する論者はおらないわけでございますので,そういった特別予防の観点から言いますと,破廉恥か非破廉恥かによって何か有意な差があるわけではないだろうと思います。そこで,そういった処遇をするためには,懲役刑と禁錮刑という入口での区別はさほど重要ではなく,刑事施設に入った後にどのような処遇をするか,その中には,次の項目になろうかと思いますけれども,作業でありますとか指導というものをその人の自由を剝奪するということの過程の中で義務付けて,させていくということの方がより重要だろうと思いますので,結論として,自由刑の単一化の方向で検討すべきだろうと思っております。 ○佐伯分科会長 それでは,検討項目(2)の「自由刑を一本化した場合の処遇内容をどのようにすべきか」という点について,御意見を伺えればと思います。検討項目案には「作業の意義,位置付け」,「各種指導(改善指導及び教科指導)の意義,位置付け」,「作業及び各種指導を刑の内容とすべきか」が挙げられており,具体的には,作業及び各種指導の意義,これらを義務付けるか否か,作業及び各種指導を刑の内容とするのか,それ以外の位置付けとするのかなどについて,意見交換を行えればと思いますので,御意見のある方は挙手をお願いいたします。 ○加藤幹事 まず,作業についてですが,現行の行刑上,作業は矯正処遇の中心となっております。規則正しい勤労生活を維持させる,社会生活に適応する能力の育成を図るという目的ですとか,作業を通じて勤労意欲を高め,職業上有用な知識や技能を習得させるなどという目的もありますことから,改善更生,社会復帰を促進する上で,作業は重要な処遇方法だと考えられておりますし,現実にそのように機能していると認識しております。   また,刑務作業が処遇の重要な内容でありますことは,平成15年に行われました行刑改革会議においても御指摘をいただいたところです。そのような作業の処遇における重要性に鑑みますと,これを受刑者の意思によって免れることとするのは適当とは考えられませんので,作業に適する受刑者に対しては,これを義務付けることは当然必要となるのではないかと考えているところです。   他方,各種指導につきましても,第3回部会のヒアリングにおいて,東京矯正管区の職員からも説明がありましたとおり,薬物依存離脱指導ですとか,性犯罪再犯防止指導など,様々なプログラムが開発され,実績を積み重ねているところでありまして,改善更生あるいは社会復帰を図る上で重要な処遇方法になっていると考えられます。また,受刑者の中には,学力の不足によって社会生活に支障があるという者も少なくなく,特に若年受刑者にとっては教科指導に重点を置いた処遇を行うことが社会復帰の観点からも重要です。そのような各種指導についても,受刑者自身が自発的な意思に基づいてこれを受けることは,当然,重要でありますが,他方で,その実施を専ら受刑者の意思に委ねるということは適当ではなく,改善指導等が必要な受刑者にはこれを強く働き掛けるためにも,法的に義務付けることが必要なのではないかと考えております。   さらに1点申し上げますと,位置付けという問題からいたしますと,現行法上,受刑者の大半は,懲役受刑者が占めているという説明があったところです。作業を義務付けるとして,その義務付ける根拠が何であるかということは,一見,理屈の問題のようにも思われますが,矯正の現場においては,何ゆえその作業が義務付けられているかということが,受刑者を始めとする現場に与える影響ということも考慮しなければならない点でございますので,その点にも留意して検討をお願いできればと考えております。 ○橋爪幹事 1点,質問がございます。現行法における作業と各種指導の義務付けの根拠でございます。現行法におきましては懲役刑と禁錮刑の区別がございますので,作業というのは懲役の刑の内容であると,したがって,懲役刑の受刑者については義務付けられているけれども,禁錮刑の受刑者については義務付けられていないと,これは刑法の解釈から自明だと思います。   これに対しまして,各種指導の義務付けの根拠が問題となるわけでございますけれども,刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律の第84条におきましては,受刑者には矯正処遇として作業を行わせ,並びに指導を行うと定められておりますので,これは懲役刑,禁錮刑の区別を問わず,全ての受刑者に対して矯正処遇として指導の義務付けを正当化していると理解しております。まず,このように同法の解釈としましては,禁錮受刑者についても指導の義務付けが行われているという理解でよいのかについて,まず確認できればと存じます。また,これが正しい場合でありますが,このように,禁錮受刑者については作業は義務付けられていないにもかかわらず,指導を受けることは義務付けられているということの正当化の根拠につきましても,この機会に御教示をお願いいたします。 ○小玉幹事 今,御指摘がありましたように,刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律において受刑者に対する各種指導は義務付けられているということでございます。その趣旨でございますけれども,懲役刑や禁錮刑の執行に当たりまして,受刑者をどのように処遇するかということは,行刑法に委ねられていると考えられるところでございますけれども,その改善指導などを受けることにつきましても,受刑者の改善更生の意欲の喚起及び社会生活に適応する能力の育成を図る上で重要でございまして,刑事政策的にも妥当と考えられることなどから,同法におきましては,これを受けることを義務付けたものと考えております。 ○橋爪幹事 そうしますと,懲役刑における作業というのは,刑の内容を構成している。それに対して,指導を受ける義務というのは,これは懲役,禁錮の刑の内容それ自体ではなくて,改善更生,社会復帰を図るという自由刑の本質,あるいは機能から必然的に導かれ得る側面と考えてよろしいでしょうか。 ○小玉幹事 各種指導が刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律で義務付けられている根拠は,先ほど申し上げたとおりでございますので,基本的には今,橋爪幹事がおっしゃったような理解でよろしいのではないかと考えております。 ○橋爪幹事 ありがとうございます。少し思うところを申し上げますと,私も,作業と指導とは矯正処遇の重要な2本柱であると思うのですが,作業は刑の内容であるが,指導は刑の内容ではないという切り分けが正当化し得るかということにつきましては,更に検討が必要であろうと思います。   さらに1点申し上げますと,飽くまでも刑罰には制裁という側面が必要だと思います。作業を科すことが,それが制裁であり応報であることは説明が付きやすいと思うのですけれども,指導を受けることが,制裁といえるのかという点につきましては,刑罰の本質との関係で,議論が必要ではないかという印象を持ちました。 ○佐伯分科会長 まだ議論はあるかもしれませんけれども,そろそろ予定した時間になっておりますので,今日の議論につきましても,更に御意見があれば,また次回,伺うということで,本日の審議はこのくらいにさせていただきたいと思います。   今後の予定につきまして,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○隄幹事 今後の予定について申し上げます。次回の第1分科会の会議は10月17日火曜日,午前10時から,場所はこの建物の1階にある会議室で行います。 ○佐伯分科会長 本日の会議の議事につきましては,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を公表することとさせていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。 (一同異議なし)   それでは,そのようにさせていただきます。   本日はどうもありがとうございました。 -了-