法制審議会 国際裁判管轄制度部会 第1回会議 議事録 第1 日 時  平成13年2月13日(火) 自 午後1時32分                       至 午後5時07分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題 「民事及び商事に関する裁判管轄及び外国判決に関する条約準備草案」に対する意見(案・その1)について 第4 議 事 (次のとおり) 議        事               (開会宣言の後,事務当局から次のように法制審議会令の改正等につき説明がなされた。) ● 中央省庁等の改革に伴いまして,平成13年1月6日に法制審議会令が改正されました。その主な内容は,審議会は委員20人以内で組織するものとすること,部会委員は廃止するものとすること,特別の事項を調査審議するため,臨時委員を置くことができるものとすること等でございます。  また,今後の法制審議会につきましては包括的な諮問を廃止し,諮問事項を個別具体的なものへ移行するとともに,部会の常設化を解消し,部会を個別の諮問ごとに設置することとされております。  このような前提のもとに,平成13年1月12日に開催されました新しい法制審議会の総会におきまして,渉外的私法関係に関する従前の包括的な諮問,これは諮問第16号でございますが,この諮問が撤回されまして,新たに国際裁判管轄及び外国判決に関する諮問が行われますとともに,その調査審議のため,この国際裁判管轄制度部会を設置することが決定されたわけでございます。  なお,新しい諮問事項は,  ヘーグ国際私法会議において,民事及び商事に関する管轄,外国判決の承認及び執行に関し,条約の作成のための審議が行われているところ,同条約の内容は我が国の国際民事訴訟法制に大きな影響を与えるものと思われるので,同条約の内容,その批准の要否,批准を必要とする場合の国内法整備の要否,国内法整備が必要とすれば整備すべき事項の骨子に関して,御意見を承りたい  というものでございます。  本日の会合は,このように新しく設置されました国際裁判管轄制度部会の第1回会合でございます。引き続きよろしく御審議のほど,お願いしたいと考えております。 (部会長に場準一委員が互選,指名された後,部会長代理に櫻田嘉章委員が部会長から指名された。) ● ○○でございます。ただいま,部会長から部会長代理ということで新部会の議事の取りまとめをするようにということでご指名をいただいたわけでございます。甚だ至りませんが,よろしくお願い申し上げます。  本来であれば,部会長が議事の取りまとめをされるというのが筋だろうかと存じますが,実質的には国際私法部会,特に小委員会の審議を継続するということでございまして,その意味で私が僭越ながらお引き受けいたしました次第でございます。本部会の任務は,御承知のとおり時節柄極めて重大でございますので,不行き届きではございますがよろしく御協力をお願い申し上げます。  それでは,早速議事に入らせていただきたいと存じます。  ヘーグ国際私法会議作成の民事及び商事に関する裁判管轄及び外国判決に関する条約準備草案について御審議をこれからお願いしたいと存じますが,進め方といたしましては,まず事務局の方から,前回小委員会が開催されました平成12年12月5日以来の本件条約案に関する状況,並びに今後の予定について報告があると伺っております。  また,本件条約草案について,各界から御意見をいただいているところでありますので,そのうち日本弁護士連合会からいただいた意見書について,これを中心的に取りまとめられました○○委員がこの場におられますので,御説明をいただければと存じます。  次に,この間,2回にわたり行われました本件条約草案に関する会合に出席されました○○幹事に,それぞれの会合について御報告をお願いします。そしてその後に,資料1に基づきまして本件条約草案の検討をさせていただきたいと存じます。  進行の便宜上,○○幹事にこちらの席の方にお移りいただきたいと存じます。  それでは,条約草案に関しまして,状況並びに今後の予定について事務局から御報告をお願いします。 ● それでは,私の方からこの準備草案に関する状況,予定について,国際的な状況に関する説明を申し上げたいと思います。  ただいまの資料の説明にもございましたとおり,前回の小委員会が開催されました12月5日以降,2回の会合が開催されております。  一つが12月12日から15日まで,バーゼルで開かれました非公式会合でございまして,その報告が資料4ということになります。また,2月1日にジュネーブにおきまして,知的財産権の側面に関する専門家会合ということで,1日だけ開催されました。これは,従前WIPOと共催をするということでヘーグ国際私法会議が行うことを予定しておったものがこの形になったのですが,結局WIPOの方では共催を受けませんで,最終的にはWIPOが開催する国際私法に関係するシンポジウムに接続して,同じ場所であるジュネーブでヘーグ国際私法会議が単独でこの条約についての会合を開催するという形で行われたものでございます。これについても,後ほど○○幹事の方から御報告をいただけるものと承知しております。  今後の予定ですけれども,今月末,2月26日から3月2日まで,従前から予定されておりましたこの条約準備草案についての電子商取引に関する専門家会合が開催されます。従前,4日間程度を予定しておりましたけれども,現在の予定では2月26日から3月2日まで,1週間行うということになっておりまして,また電子商取引にかかわることだけではなく,保全処分であるとか,activity basedの問題であるとか,他の条約との関係の問題,あるいは知的財産の問題等,電子以外の問題についてもこの場を使って話し合うということが挙がっておるところでございます。  それから,前回までにはまだそれほど明らかでなかったのですが,非公式会合の進みぐあい等々に応じまして,更にもっと条約全体についても非公式会合が必要だということで,4月23日から25日まで,エジンバラにおいて更に前回のバーゼルと同様の非公式会合が開催されるということが予定されております。  6月の外交会議につきましては,まだ具体的な日程は連絡を受けておりませんけれども,それが開催されることは間違いないと思われまして,時期的な問題も考えてこの4月の会合以降,更に会合が持たれるということは,恐らくないのではないかと予想しているところでございます。  一方,政府コメントでございますが,小委員会のときに御説明したかと思いますけれども,2月1日が期限の政府コメントの提出というものがございました。こちらに関しましてはまだ提出しておりません。ただオランダからの情報によりますと,先週の段階ではまだどこの国も提出していないと聞いております。現在のようにいろいろな論点について議論されている状況を踏まえて,2月1日という期限がそれほど厳格には守られていないという状況でございます。我が国としましても,提出を考えて検討していたところでございまして,本日,席上にお配りした「コメント骨子(案)」程度のところまでは一応準備をしているところでございます。期限の関係が若干柔軟に考えられるような状況になったものですから,本日の御審議をいただく部分も踏まえた上で,最終的に提出していきたいと考えております。ただ,期限的な問題との関係で,本日も条約準備草案全部を検討することまでは予定していないところもございまして,御議論いただけないところもあるかと思いますので,御覧いただいて,何か御意見等ございましたら,今週末ぐらいまでに当方まで,どんな方法でも構いませんので御連絡をいただけると幸いでございます。 ● それでは,今後の部会の進め方について,○○幹事からお願いいたします。 ● それでは,新しい国際裁判管轄制度部会の今後の進め方でございますが,その点につきまして私の方から簡単に御説明いたします。  この点につきましては,差し当たり日程的には本日とそれから3月13日,4月17日の予定でお願いする予定でございます。ただ,エジンバラでの会合などの非公式会合等も踏まえて検討する必要もあろうかと思っておりますので,事務局としてもう1回,5月に御審議をお願いしたいと考えているところでございます。この点につきましては,改めてまた御連絡いたします。  本日の審議の進め方にもかかわるところでございますが,本日は国際裁判管轄制度部会としてこの条約準備草案に対する意見を出すということで,原案として資料1を提出させていただいたわけでして,本日がその前半でございます。差し当たり16条までということになりますが,この点について従前からの連続性で申し上げますと第二読の第1回目ということでございます。それから,次回,3月13日に17条以降につきまして同様の資料をお出しして,第二読の第2回目の御議論をいただきたいと思っております。先ほど申しましたとおり4月までに一通りまとめる予定でございましたが,恐らくいろいろな議論がまだ尽くせないところがあろうかと思いますので,この4月にもう一度,残された課題について御議論いただいた上で,最終的に5月以降取りまとめたいというのが事務局の考え方でございます。この点につきましてもまた,もし御意見等がございましたら頂戴したいと思っております。 ● ただいまの事務局の説明につきまして,何か御質問等がございましたらお願いいたします。--ございませんでしょうか。  それでは,またお気づきの点はその都度おっしゃっていただくことにいたしまして,○○委員の方から,日本弁護士連合会の意見書について御説明を賜わればと存じます。 ● もう少し早くお出しして,席上配布ではなくて,事前に配布されるようにしたかったのですけれども,なかなか難しい問題でまとまらないために,つい遅くなりまして申し訳ありませんでした。  日本弁護士連合会としては,昨年の8月に法務省の方から非公式の意見を出していただきたいという要請を受けまして,8月の終わりにワーキング・グループを組成しました。日弁連のワーキング・グループの委員は,国際訴訟をたくさん担当されておられる方を名指しでお願いしまして,このようなワーキング・グループをつくりました。  ワーキング・グループのメンバーは,意見書の一番最後,47ページに出ておりますけれども,このような弁護士の方々にワーキング・グループの委員として御就任していただき,この条約案の検討を行いました。  先ほど申し上げましたように,去年の8月にこのワーキング・グループを組織したわけですけれども,以後,昨年中は月に2回のペースで第一読会,第二読会ということで進めてまいりまして,それとともに報告書のドラフトもつくりつつやってまいりました。今年に入りましてからは,間に合わないということで,1月は毎週この委員会を開催しまして,それで現在お手元にあるようなものができ上がった次第です。  この問題,いろいろな問題を含んでおりまして,条文によっては日弁連のワーキング・グループの委員の方にアンケートを出しまして,それについてどのように考えるかとか,そういうアンケートを出したりしたのですけれども,その面でも大体において意見が分かれるということがございまして,この問題の難しさを浮彫りにしております。今後法務省の方で御意見をまとめられるということですけれども,その際にも,そういったようにこの部会の中でも意見が分かれるかと思いまして,非常に取りまとめは難しいのではなかろうかと考えております。  日弁連の意見書の各論はさておきまして,大体どのような観点からこの意見書をつくり上げたかということだけ申し上げますと,一つは○○幹事が書いておられましたように,いわゆる欧米の過剰管轄,これをいかに制限していくかという面が一つあります。それからもう一つは,我が国の判決がいかにスムーズに外国において承認・執行してもらえるか,これを確保していく必要があるという点を一つの視座としてつくっております。  それから,もちろんこの部会においても多々説明されておられますように,アメリカ的なコモン・ローの国と,それから大陸法系との国との調和を図っていかざるを得ない,つまりアメリカ抜きで条約をやっても,かなり意味が薄れるというところから,その調和を図っていかざるを得ないという観点からつくっております。  それからまた,本条約案は,消費者契約とか,あるいは雇用契約とか,そういうものも含んでおりますので,社会の中のいろいろなグループ,企業とか消費者,被用者,労働者等,いろいろなグループが関与しているわけですけれども,これはどれか一つに偏ることなく,グループの利害調整といいますか,利益を相互に考えて,その間の利益を調整していくという観点からつくっております。  あとは,本条約が批准された暁には,我が国の民事手続法に改正を加えざるを得ない面もありますけれども,そういう面も国際的協調の面からやむを得ないといいますか,進めていくべきではなかろうか,そのような基本的視点に立っております。  更に,ミックス条約的な構成についても賛成しているというところでございます。  各論はまた別の機会にするとして,総論としては以上でございます。 ● それでは,引き続き,先ほどの事務局からの説明にもございました12月にバーゼルで行われました非公式会合,並びにこの2月1日にジュネーブで行われました知的所有権に関する専門家会合について,○○幹事に御報告をお願いしたいと思います。 ● それでは,20分ぐらいで御報告させていただきます。資料4と資料12,それと参考資料の1が資料となります。  まず資料の4でございますが,昨年,スイスのバーゼルで開催されました会合でございまして,これはヘーグ事務局からも人が出てきました正式な非公式会合でございます。  議論されましたテーマの大きなものは,2ページ目の真ん中あたりに書いてありますが,activity basedの管轄をどうするか。これは,現在の草案の6条を書き直すということであります。それから,消費者保護の管轄と労働者保護の管轄,これはそれぞれ7条,8条の問題であります。それから最後に,他の条約との関係というので,条約の草案ですと最後の方になりますけれども,37条あたりの問題でございます。これはヨーロッパの国々にとってはブラッセル・ルガノとの関係で重大な問題でありまして,かつその他の国にとりましても,彼らが勝手なことをしないようにということで関心を持っているところであります。非常に内容が難しゅうございまして,なかなか議論が進まないところであります。この四つの点を主として議論したのがこのバーゼルの会合であります。  それから,資料12の2月に開催されましたジュネーブの会合,これは知的財産権に限るということで,全体として五つぐらいの問題がございます。それについて,順次,どういう議論がされているかを簡単に御報告したいと思います。  まずは,大問題でありますactivity based管轄の問題であります。これは,資料4の方の3ページ以下のところにまとめておりますが,昨年10月のワシントンの会合で,少し小グループをつくってたたき台をつくろうということがございまして,それに基づいて紙がつくられ,それをもとに議論がされました。基本的に大きな問題としましては,3ページの上3分の1よりちょっと後ぐらいに書いてあります。そしてアメリカから見ますと,ここで議論しているのは対人管轄の問題であって,法廷地と被告との関係の問題だというふうに考えられているのに対して,大陸法の国から見ますと,対人管轄という概念自体が明確には法律がございませんで,むしろ裁判管轄というのは法廷地と請求権の問題だというふうに考えられております。そして,その二つをうまく組み合わせないと,両者とものめるような条文にはならないという基本的な問題の所在が明らかにされまして,その二つを組み合わせるにはどうしたらいいかということで議論がされました。  細かいことは,議論のところでもし必要があればということで,その二つを組み合わせるとどうなるかという,現在の最も新しい--その後,若干議論はされましたけれども,しかしまとまった形では最も新しいものが参考資料1でありまして,この資料4ですと7ページのところにあります二つの案,第1案,第2案というものでございます。  この第1案というのは,アメリカ寄りの考え方に基づくものでありまして,参考資料1の2枚目の紙を見ていただきますとグラフが書かれております。いきなりこういうグラフを見てもすぐには分からないと思いますが,y軸の方に裁判と被告,court-defendantconnectionと書いてありますけれども,アメリカ的な対人管轄の軸を置き,他方,x軸の方に法廷地と請求権との関係というものを置く。それぞれ関係が深ければ問題ないわけでありまして,管轄があるということですが,関係が薄くなるとないということになるというわけであります。  このグラフの右上の部分をくっきり切り取るような条文ができれば,両者納得できるということでございまして,そのことをアメリカ的に見ると,下に書いてありますような条文になるのではないかと言っているわけであります。二つあって,一つは「原告の常居所地国において」という条文が入っていますが,これは実はアメリカはここの部分は反対をしておりますけれども,原告が訴えることができるのは(a)と(b)を兼ね備える場合,すなわち被告による活動があるということと,かつ請求と法廷地が十分に密接に関係しているということ,もう一つあると思われるのが,被告の活動の方がずっと大きい場合,大きければ請求権との関係が薄くてもいいというのが2の案であります。ですから,これで分かるかと言われると極めてあいまいでありまして,アメリカ的には個々のケースで判断していけばいいということでしょうが,大陸法の国から見ますとあいまい過ぎるのじゃないかという問題があるところであります。  他方,ヨーロッパ的な考え方を主にしたものが,同じ参考資料1の最後の紙,これは表題のところには書いてありませんが,下の方にA.Bucherと書いてありますように,スイスのBucher教授による案でございます。契約履行地管轄というものを発展させて,アメリカの言うことも含めるとこうなるのじゃないかということで,出発点が異なりますけれども,目指したところは同じというものであります。  どういうものかと申しますと,柱書きのところにありますように,次の要件を備える場合には契約義務の違反に関して,又は契約の特定履行若しくはそのことの救済を求めて契約上の訴えをすることができる。どこでできるかというと,原告の常居所地国の裁判所にできると。以下の要件というものは,当該国において被告又はその代理人等が,契約上の物品又はサービスの提供義務を履行するために行為した場合。これがa)です。b)は,商業的若しくは専門的行為をプロモートし,又は契約の締結を勧誘することを目的として行為する場合であって,当該訴えの基礎となる契約がこれらの行為に基づくものである場合。c)として,被告が,その国にかかわっており,かつ所在することを示すような契約交渉の一定部分をした場合ということになっております。c)については,問題というか,ちょっとあいまいかなと思いましたが,a)とb)は大陸法的なものを出発点として,アメリカのものに少しでも歩み寄ろうとするものであります。  いずれにしましてもこの両案はまだまだ差が大きくて,考えているところは同じだとしても,表現ぶりについては結局二つをまぜるというわけにいかないものですから,どちらをもとに書いていくかという問題は残ると思います。  そういうのがこのバーゼルでさんざん議論されたわけでありまして,具体的なケースでどうかということをめぐっても,随分議論がされました。しかし全体としてはまだまだ違うということを発見するプロセスでして,お互いに重なり合うところをうまく見つけようということでは必ずしもまだないという,これは戦術なのか何かよく分かりませんが,容易には妥協の歩み寄りは示さないという国が,特にアメリカとフランスでございます。EUの国の中でも相当色合いか違うように思われましたけれども,一番大陸法的な考え方に固執するというのはフランスでございました。それが,簡単でございますがactivity basedの話であります。  それから次に,消費者を保護する管轄について7条があるわけですが,7条自体は,アメリカも7条の1のaなんていうのはactivity based管轄なんだということで,アメリカにものめるということを言っているわけですが,全体としては特に合意管轄を全くだめだと言っているところが,特にe-コマースを考える立場で,大企業ならともかく,小さな企業が参入するに当たってハードルになるようなことはやめてほしいということから,何とかそこをクリアしたいということがあります。  その打開策として,四つの案。これは,ニュージーランドの弁護士のGoddard という人,結構アクティブな人ですが,彼が従来から言っていたものでありますが,それを文書化して全体に披露したというものであります。  これは,資料4に戻って8ページの上の方に第1案から第4案まで書いてございますけれども,一番簡単なのはこれはあきらめるということだけれども,それはよくないとすれば,第2から第4の考え方があるというわけです。しかし第2は実際には非常に難しそうでありまして,自国の消費者については合意管轄を有効とするという宣言を認めているということで,自国の消費者を保護しないことは勝手だということを認めましょうということですが,なかなかこれは消費者政策上難しい話です。ですから,実際には第3案,第4案ということになるわけですが,第3案は合意管轄がない限り条約上のホワイト・リストの管轄規定は消費者が原告の場合には適用する,逆に消費者が被告になるような場合には,その常居所地国の管轄しかホワイト・リストには載せないというものでありまして,合意管轄条項は消費者が原告であるときだけホワイト・リストにする,あとは何も書かないわけです。書かないということは,グレーにしておくというわけです。第4案は,それに加えて,合意管轄条項がない場合において,7条1項,これはせっかくアメリカものめると言っているものですから,それが具備されているときには消費者の常居所地国の管轄をホワイト・リストに載せるというものであります。  これは,なかなか考えられた案だとは思いますけれども,いろいろと議論がありまして,まだまだ留保云々というには早過ぎる段階ではありますけれども,しかし7条についてはオプト・インかオプト・アウトかという議論もされたりもしました。全体としては,第3案,第4案,いずれかでいいのではないかという意見が相当に見られたところであります。  次でありますが,似たような議論が第8条の労働者保護の管轄についてもございました。9ページになりますが,これについても第1案から第3案までのもので,これも第1案は適用除外をするということですので,第2案,第3案というものが議論をされました。  これも,さっきの消費者保護についての第3,第4と並行的なものでありまして,こちらの場合には第3案をヨーロッパの国としては支持すると。これは,労働者について保護をする8条1項の管轄をホワイト・リストにするということですが,アメリカはこれは全然だめだという立場でございまして,これは何かサッカー選手の名前が出ていましたけれども,要するに労働者にもいろいろあって,そういう強い労働者も同じように保護しなければいけないのかということとか,あるいはソフトウエアの開発についてはだれがどこでどう働いているかということに使用者側は無関心だということを言っていまして,オンライン上で成果があらわれれば報酬を払うとしているので,そういう場合において8条1項のような管轄が認められることは困るといったことを言っておりました。ですから,消費者保護に比べますとこの労働者の問題については,もしかすると第1案になるのかなという感じを受けたわけであります。要するに適用除外ということです。  それから,37条の他の条約との関連についてでありますが,これは私も説明できない話でして,だれか数学者か何かを呼んできた方がいいのじゃないかと思うような話です。組合せがやたらにありまして,どうもブラッセル・ルガノの国の人たちほどの熱心さをもってしてもよく分からない問題でありまして,私にはよく分からない点が相当ありました。  これについて,ヘーグ事務局に分かりやすい紙を出せということをワシントンの会合でみんなが言い,しぶしぶ事務局は,ではつくりましょうと言ったのですが,実際には十分な資料はできておりませんで,つくり始めたという姿勢は見せたというだけで,全く網羅的ではないのです。網羅的でないと意味がないのですね。分かりやすいだけでは何の意味もなくて,完全に網羅的な絵がかけて,これとこれはこっちの条約が勝ち,これとこれはブラッセル・ルガノが勝つとはっきり線が引けないと条文ができない話なので,まだまだだめです。これはもうヨーロッパの国々は繰り返し集まって議論をしているようでありますが,いまだに彼らの方からの紙は出てきません。御案内のように,ブラッセル条約もルール化といいますか,規則化されてまだ施行はされておりませんが,その方向でありますから,条約という書き方ではなくて,それ以外のものも含む書き方をすることになりますが,そういうのが現状であります。  日本国としては,出てきたものにおいて日本国が困らないかという観点からチェックするというのでいいのかなと思っていますが,これでいいかどうか御議論いただきたいと思います。もちろん,日本が入っているワルソー条約とかその改正条約の優先問題というのは日本国の問題でありますけれども,多くはヨーロッパの問題という認識であります。  それから,資料12になりますが,これがつい先ごろ,2月1日にジュネーブで開催されたものであります。ここでは,従来会合には来ていなかったような人たち,日本からも特許庁,文化庁の方々がいらっしゃって,議論がされました。中心問題は12条の4項,5項,6項というもので,出発点は12条の4項において特許侵害訴訟を専属管轄にするかどうかということであります。従来,イギリスが最も専属管轄化を主張し,日本もそういう意見があるということは言っていた問題でありますけれども,今回新たにオーストラリアがイギリスと全く同じ意見だということを言い,また中国もそれと同じだと,要するに専属管轄にすべきだという議論をしておりました。日本も,そのスタンスで発言をしたわけであります。  他方,イギリス以外のブラッセル・ルガノ諸国は,ブラッセル・ルガノの方では特許侵害訴訟は専属管轄になっていないものですから,それとの整合性の観点から,そうではないと,これは一般の侵害事件と変わらないはずだという主張をしたわけであります。  イギリスが随分長く説明をしておりまして,要するに特許侵害事件ではほとんどの場合に特許無効の抗弁が出てきて,そこでの判断と,特許登録国における特許の有効・無効の判断とがずれるということは,特許についてはとても受け入れられない,要するに排除する広さと侵害になる広さとが違うことになっては困るというわけであります。また,特許の有効・無効についての国内の体制において,通常裁判所でない裁判所に管轄させるという国から見ても,受け入れにくいのじゃないかということを指摘しておりました。  理論的な問題としてBucherさんが随分言っていましたけれども,このレジュメですと2ページの上の方になりますが,特許侵害事件も仲裁でできるのじゃないかと,アービトラビリティーがあるのじゃないかということを彼は言い,そのアービトレーションでできるようなものなのにどうして専属管轄にしなければいけないのか,それは仲裁との関係で不整合ではないかということを言っておりました。  ただ,これも議論はあり得るところであります。特許の有効・無効まで仲裁人が判断できるのかということについては,日本ではできるという方もいらっしゃいますが,できないという意見もあるようでありまして,要するに当事者間限りだからいいじゃないかと言うか,いや,それでもいけないと言うかの問題ですが,そういう議論を出されても結局同じような問題に帰着するのじゃないかと思います。  そういう話が主でありまして,商標についてはアメリカでは登録を要件にしていないので,12条4項の前半部分は適用されないということの確認とか,要するに著作権と同じように扱えばいいという議論がございました。  それから,著作権については,これは各国の実体法が条約で相当に統一されているので,余り問題はないのじゃないかという意見が相当にあったところでありまして,著作権の訴訟についてどうしても専属管轄でなければいけないという意見は,イギリスもそうは言っていないところであります。経団連からはそのようにおっしゃっているペーパーが出ておりますが,余りそういう意見はございませんでした。  その程度でございまして,最後にジュネーブの会合でオタワの会合をどう進めるかという議論がありまして,議長はドイツから出ていたのですが,ドイツの議長,あるいはドイツのフロアにいた方の政府のお役人からは,何か具体的な提案が出ないとこれ以上空中戦といいますか,紙なしで議論をしても余り議論は進まないのじゃないか,だからどんどん紙を出していこうということで,議長はだれか紙をたくさん出してくれる人はいないかということを言ったのですが,直ちにそれが火をつけまして,フランスは既に99年10月の案があるのだから,我々には出発点があると,それをもとに議論すればいいので,新たにペーパーが必要だという議論はおかしいじゃないかということを発言し,他方アメリカは,直ちに,99年10月の案はコンセンサス・ベースで採択されたものではなくて,多数決で採択されたので,とてもそれを出発点にはできないということで,新たに組み直しが必要だと。アメリカにとっては非常に現在の99年10月の案は分かりにくくて,全体を見直す必要があると言っておりまして,前途多難ということが最後によく示されたわけでございます。  以上でございます。 ● ただいまの○○幹事の御報告につきまして,何か御質問等ございましたらお願いいたします。 ● 1点感想と,それから1点質問ですけれども。  まず,感想の方を申し上げますと,資料4の5ページの下から四つ目のポツですが,米国が「activity basedの管轄をホワイト・リストに入れないのであれば,普通裁判籍としてのactivity based管轄(18条2項(e))もブラック・リストから外すことを求めることになろう。」と。これは,私,前々から一番危惧しておったところでございます。現状のところ,正にコンセンサスではないと,投票で決まったというお話のとおり,アメリカがドゥイング・ビジネスで普通裁判籍を認めている,ここからよくもブラック・リストに入ったものじゃないかと,私はむしろ驚きの念を持って去年の案を見ていたところですが,これがここに戻ってしまうということになると,最悪かなというふうに思っています。特に経済界のコンサーンというのは,米国に子会社を持っているだけで,その子会社経由で普通裁判籍のベースとしてのドゥイング・ビジネスありというのを必ず米国側の原告が言ってくるといった場合に,そういう主張に対して争うということ自体が非常に大変である,場合によってはそれでキブアップしてしまうという実務的な判断があります。このactivity basedで普通裁判籍が認められてしまうというのは,大変不都合かと思いますので,これがブラック・リストに入っているということは大変よろしいのじゃないか,米国の過剰管轄に対しての歯どめができたと思っています。一方,これをホワイト・リストの中で,請求権に関連づけたドゥイング・ビジネスというふうに限定するから,しかしそれは限りなく広く認めろと,このアメリカの案を受け入れない限りブラック・リストからは外すと,こういういよいよ行き着くところに来たかなというふうに受けとめています。したがって,18条2項の(e)のブラック・リスト,これを死守していただきたいなと思っております。これが感想というか,コメントです。  それに関連しまして,今,御説明のあった今日いただいた参考資料1でございますけれども,第1案と第2案の説明があるのですが,第1案の説明の前提としての考え方かと思うのですが,1と2という考え方が説明されております。1は活動が例えば米国であれば米国にドゥイング・ビジネスがあるということを要件としているようですが,この2は,国外での活動,すなわち米国でドゥイング・ビジネスが一切なくても,米国において効果を生じさせることを意図し,その効果が発生することが合理的に確実であるときには,これは管轄を認めるという考え方。いわゆる,これは管轄の考え方ではなくて,サブジェクト・マター・ジュリスディクション,すなわち法律の実体法の域外適用理論そのものに読めるのですけれども,そういうことでございましょうか。ここの位置づけはどういうことでございましょう。これは質問ですが。 ● 域外適用の議論に非常に似ている議論であることはおっしゃるとおりだと思いますけれども,アメリカは,消費者契約については7条1項のa)はこういうものでございますね。ですから,被告自身はその国にいないのだけれども,その国に向けた活動,ターゲットとしてやっているという場合には,その人との関係で関係づけられるということを考えているわけで,あくまでも対人管轄として,こうであれば大丈夫ということを書いているのだと思います。  他方,大陸法から見れば,請求権との関係でも十分だというふうに言えるのじゃないかとアメリカからは見えるわけですが,ですからあくまでも対人管轄,あるいはここで言う裁判管轄の問題だというところはみんな認識した上で議論をしております。 ● 消費者の場合には,消費者保護という特殊の理由があるわけですけれども,こういうビー・ツー・ビーの場合においても,こういうふうに議論が行くことを我々は恐れています。  ただし,この考えは第1案には入っていないのじゃないでしょうか。この考えと第1案との関係でございますが,そこはどうなっていますでしょうか。  第1案の第1行は,「原告の常居所地国である締約国において被告の何らかの行為」があるという形で,フィジカルな行為があると,単なる効果ではだめだというふうに読めるのですけれども。  上の説明の2は,効果理論を言っているということで,2が第1案に入っていないのかなというふうに,ぱっと読んだときに理解したわけですが。  その方が有り難いのですけれども。企業で管轄問題まで効果理論といったら,一体この条約は何だろうというぐらい希薄なものになってしまうかなと思います。 ● 今の○○委員の発言に即して言うと,いずれもminimal activityになっています。あるいはone act でもいいということなのかもしれませんけれども,被告のactivityというのを,当該締約国で受けるactivityを問題にしているという意味では,単なる効果理論とは別に,一定の限定を付すためのアイデアとしてかぶってきているのかなという感じがするのですけれども。  ただ,one act でも構わないという意味では,非常に希薄でも構わないというふうに考えているのかもしれません。 ● one act は必要なんだけれども,極めてミニマム・コンタクトであっても,この説明の第2文の意図とか効果とか,いわゆる効果理論的な色彩が強ければ管轄を認めると,そういうことなんでしょうか。  それにしても,これだと米国とワン・コンタクト,ミニマム・コンタクトもないというようなことが現実の実務の世界ではほとんど考えられないということで,このドゥイング・ビジネスによる管轄の広がりという形で過剰管轄の抑制というのは,相当程度水泡に帰してしまうに近いかなとは思っています。  ただ,ブラック・リストが消えなければそれでも一定の成果はあるが,このブラック・リストが消えてしまったら,もう全く米国の過剰管轄に関する問題については,今回の条約は結果的に無意味に近いなというような受けとめ方を私はしています。 ● この資料4の5ページから6ページのところにかけて具体例が挙がっていまして,結構時間をかけて議論されたところなんですが,スウェーデンの買主が1回だけアメリカを訪問して,アメリカ法人の機械メーカーのところに行って,そこで契約を締結したと。それに従ってアメリカ法人がスウェーデンに機械を送ったのだけれども,スウェーデン側がお金を払わないというときに,アメリカで訴えることができるかということについて,アメリカは構わないというわけです。これは1回しか訪問していないけれども,もう十分関係があると言っています。  他方,大陸法側から見ますと,これはだめだということで,特に契約締結しているじゃないかというようなことは,そのことはもう既に禁止管轄の方に挙がっている問題で,カウントできないと。そうすると関係は十分じゃないという議論をしています。ですから全くアメリカに行かない場合についてまで管轄を認めるかどうかということはちょっとあれですが,少なくとも1回行ったということについては……。そこでさえ議論が分かれるということではありますけれども。 ● 分かりました。 ● ほかに,何かございませんでしょうか。 ● 6ページの3番目のポツで,今の例で契約締結地がカナダだったらどうか。これは管轄はないとアメリカも言っているということなので,そこは何か管轄の根拠,被告,人との関係で管轄の根拠が必要だと言っているようです。 ● ほかに,何か御質問はございませんでしょうか。  それでは,まだおありになるかもしれませんが,具体的に議論の中でまた出していただきたいと思います。  本件条約草案の検討に移りたいと存じます。  進め方といたしましては,事務局と○○幹事に全体を通した説明をしていただき,これに対する質疑を行うという方法をとりたいと存じますが,よろしゅうございますか。  それでは,事務局の方からお願いいたします。 ● それでは,私の方から資料1について簡単に御説明したいと思います。  まず,この「意見」と称するペーパーの趣旨でございますが,冒頭の(注)にございますように,この国際裁判管轄制度部会における検討の結果に基づいて,この条約草案に対する意見として作成する趣旨のものだというふうに考えておりまして,今後ももちろんいろいろな形で各国の議論が深まり,更に国内においても検討が行われるわけでございますが,この「意見」というのもそれらを踏まえて随時修正していき,いずれにしろ先ほど申し上げました予定で申し上げますと,5月なりの最終的な外交会議の前の国際裁判管轄制度部会において御了解いただいたものを,部会としてまとめるということでお願いしたいと思っております。  もっとも,もちろんこれは条約の採択にかかわるものでございますし,更に申し上げますと外交にかかわるものでございますので,性質上余り詳細なものとすることは難しいのかなと思いますし,また表立って公表するという性質のものではなかろうと考えております。ただ,いずれにいたしましても6月の外交会議に向けて作成されます政府の対処方針のもとになる資料として,意見を提出していただければと考えております。  それでは,第1の「総論的意見」でございますが,これはここに書いたとおりでございます。基本的な考え方をまとめたものでございます。  続きまして2ページ,「各条項についての意見」で,各論でございますが,全体を通じて御説明させていただきます。  第1条につきましては,受け入れることができるということで書いてございますが,基本的に受入れが可能かどうか,それから留意する点,あるいは受け入れることができないのであればその理由などを書くというのを基本的な方針としております。ここにつきましては,原子力損害を適用除外の対象とするか等,更に議論がございますし,○○幹事の御説明にもありましたように,この後いろいろな形で最終的に適用除外という方法で妥協するかという事項も幾つかございます。また,国内の意見でも,知的財産権については最終的には適用除外ということも視野に入れるべしという御意見もございますので,そういった点も踏まえて,これは最終的にまた御検討いただきたいと考えております。  第2条については,受け入れることができるとしております。  第3条についても同様でございますが,常居所の概念を維持するかどうかについては,バーゼルの会議でも御議論があったようでございますし,特に自然人について複数のレジデンスがある場合について,プリンシパル・レジデンスという考え方でよいかという御議論もございますので,これについて注記する趣旨でございます。  それから,ちょっと順番が逆になって恐縮ですが,とりあえず注をつけておりますけれども,最終的な意見としては,注釈的な注を除けば,こういう「なお検討する」というのはなくなって,結論だけが残るということでございます。  第4条は,いわゆる合意管轄に関するものでございます。国内法との一定の整合性が問題になろうかと思われますが,基本的には受け入れることが可能ではないかと考えております。(注)では,管轄権の不行使,手続の停止については,これは前者が恐らく却下,後者が手続の中止というのが素直な読み方のようにも思われますが,いずれにしましても国内法整備の段階で検討すべきテーマではないかと考えております。  5条は,基本的に受入れ可能ではないかということでございます。  それから,6条以降でございますが,6条につきましては従来から指摘されておりますように,幾つかの点についての問題がございますが,金銭債務の履行地が管轄原因とならないといったことを改めて確認することができるのであれば,受け入れることはできるのではないかということでございます。それから,本条が特にデジタル・コンテンツのような電子商取引において機能するかという問題がございますが,事業者間の契約につきましては,基本的には合意管轄で対応するのが適当ではないかという趣旨でございます。  (注)の1にございますのは,6条の契約のスキームそのものにかかわるものでして,ただいまの○○幹事の御報告にありましたように,バーゼルの非公式会合でも議論されましたように,この6条の取扱いと9条の取扱いをどうするかというのは,今後大きなテーマになろうかと思っております。その意味では,基本的にアメリカ的なactivity basedの管轄の考え方と,この6条を融合させることというのも,それによって多くの国にとって受入れ可能なものとなるのであれば,積極的な対応というのは十分考慮すべきだと思われますが,ただいずれにしてもその場合には,明確な規定であることが必要ではないかということでございます。  それから,2番目は金銭債務との関係の注でございまして,特別委員会における審議の経過を踏まえますと,金銭債務の履行地は管轄原因から除かれているという認識でございますが,その点はこの条約準備草案の文言上は必ずしも明確ではございません。  この点につきましては,報告者は,本条に基づく管轄は,当該契約全体から見て主たる債務,すなわち引渡しとサービスの提供の履行地,あるいは提供地を問題としているというふうに考えているようでございまして,契約を構成する債務ごと,例えば代金債務で考えるというようなことはしておらないようでございます。したがって,これを前提とすれば,本条に基づく管轄は,物の引渡しの履行地国には認められるが,代金債務の履行地国には認められないということになると思われます。この点についての確認が必要ではないかということと,仮に確認が得られたとしても,金銭消費貸借契約のように,金銭の提供自体がサービスに該当すると考えられるような場合には,この履行地がサービスの提供地として管轄原因とされる可能性もございますので,これが管轄原因から排除されるべきことを明確にする必要があるのではないかという指摘でございます。  金融法委員会等からもこういった御意見をちょうだいしておりますが,他方で,本日いただきました日弁連の意見では,むしろそういったものも含めてもよいという趣旨の記載もございますので,この点についても御議論いただきたいと思います。  それから,7条はいろいろ御議論はございましたが,基本的には受入れ可能ではないかということでございます。ただ,本条第1項は,ウェブサイトによる電子商取引の場合に,事業者の予測可能性を損なうおそれがあると考えられますので,いわゆるディスクレーマーを用いて相手方を限定し,合理的な努力をした場合には,パラaに当たらない。これは,昨年12月に指摘した点でございますが,directed to という要件を満たさないということを規定上パラaの中で明確にすることが適当ではないかということでございます。  それから,(注)1は前回私の方から簡単に指摘したのですが,仮にディスクレーマーの効果として本条第1項により消費者の常居所地国で訴えを提起しなくてもよいとした場合に,6条が原則規定として適用される。そうするとこの場合は履行地国で訴えを提起することが必要となる一方で,専属的合意管轄ができない。したがってその場合はどうなるのだろうかということの疑問を提示したわけでございますが,ディスクレーマーが有効に機能している限りは,要するに仕向地国が合理的に限定されるわけでございますので,そういう技術的な対応もきちんとしている限りにおいては,現実の履行地は事業者の意図した仕向地国に限定されるということになります。したがって専属的管轄合意を用いなくても事業者側の予測可能性の範囲にとどまるということは言えるのだろうと思います。ただ,更にその上で専属的管轄合意を認めるべきかどうかについては,引き続き検討するテーマではないかというのが(注)2でございます。ただ,この点は,EU諸国の基本的な消費者保護の考え方とは抵触するということについても十分留意して,今後の方針を定める必要があろうかと考えております。  第8条は,基本的には受け入れることができるのではないかと考えておりますが,この点については労働関係団体になお意見照会中でございますので,その意見等も踏まえてまた改めて対応を決める必要があろうかと思っております。  それから,第7条につきましても,消費者団体の方にも意見をお願いしておりますが,この点についても引き続きそういった意見をお聞きしていきたいと考えております。  第9条は,やや分かりにくい点がございますが,第9条についてはブラケットのない案を支持するものとするということで,継続的商業活動の概念は認めないということでございます。ブラケットの中に入っている部分全体を落とすということでございます。  ただ,ブラケットの案を受け入れざるを得ない,仮にそういった状況になった場合であっても,継続的な商業活動の意味を可能な限り明確にし,特に電子商取引において,単にホームページを開設して受け身な活動をしているものが当たらないようにする規定ぶりとする必要があるという点でございます。  (注)1は,直接関連性についてももう少し限定的なものにすべきではないかという意見を踏まえたものでございます。  (注)2は,特別委員会のレポートに記載されているところでございますが,独立の法人格を有する100%子会社は,そのことのみによっては「被告の支店,代理店,その他の営業所」の定義には該当しないが,被告の代理人として置かれているような場合には該当し得るとされております。それから,継続的な商業活動を行う「その他の方法」には,100%子会社,特定国において商業活動を行うための道具として被告が用いている団体は該当するとされておりまして,基本的にはここにございますように,かなり実質的な判断を求められているというところではないかと考えております。  それから,この第6条と第9条のいわば妥協としての案については,先ほどのバーゼルの会合の御報告にもございましたように,参考資料1などに基づきましてまた改めて御議論いただければと思っております。  第10条は,第1項については基本的に受け入れることができるのではないかということでございますが,ただ合理的予見性についての制限というのがこれで十分かどうかということについての検討は必要ではないかという点。更に第2項については,現在の競争法違反についての抑制的な態度というのは受け入れることができ,むしろこれを削除すべきとする提案には反対するという,これは国内の経済界の意見を踏まえたものでございますが,そういうスタンスでございます。  (注)2は,レポートでの注釈を指摘しておりまして,間接的損害の発生地は損害発生地に当たらないという指摘がございます。  それから,第3項,第4項というのも,これもいろいろ御議論がございます。第3項については,削除が相当ではないかという意見が国内的には強いと考えておりますし,第4項の第1文についても同様の御意見がございます。これらは,いずれも主として知的財産権の侵害事件との関係で議論されておりますので,その点も含めて引き続き検討するということでございます。  それから,電子商取引と不法行為の関係,例えばディスクレーマーで限定できるのかどうかという問題,更には著作権の侵害をどうとらえるかということもございますので,これも引き続き検討課題ということでございます。  第11条は,これは要件として不明確な点などもございますが,正直なところ余りまだ議論されておりません。この点につきましては我が国において恐らく最も利害関係を有するであろうと思われます信託業の団体の方に意見照会をしているところでございます。  それから,第12条,非常に御議論のあるところでございますが,第1項及び第3項については受け入れることができるのではないかというところでございます。ただ,本日お出しいただきました日弁連の方の御意見では,第1項につきましても範囲の限定の指摘等がされているところでございます。第2項につきましては,法人の従属法の決定基準いかんによって設立準拠法になったり本拠地法になったりということで,複数国が管轄を有することになり得るため,専属管轄の趣旨に適合しないという指摘がされておりますので,この点につきましては削除もやむを得ないのではないかということでございます。  (注)1は,従来から御議論のあるところでございまして,知的財産権の侵害事件についての取扱いでございますが,単に専属管轄にするかしないかという発想から離れて,登録国の管轄を認め,更には普通裁判籍による管轄と合意管轄と応訴管轄を認めるという方向を国内的にもいろいろと指摘をされているところでございますので,これらについては今後の検討課題としております。  それから,直接ここには書いておりませんが,著作権につきましても,登録されていないということで,第4項から明示的に外されているわけでございますけれども,これをどう見るかということでございます。同様に専属管轄と考えるべきかという問題が残されております。  それから,(注)1に関連しますと,登録国以外の裁判所が侵害訴訟の管轄を有する場合における権利無効の抗弁の取扱いについてなお検討するということで,これも経済界を中心とした御意見に指摘されているところでございます。この点につきましては,次回,22条でフォーラム・ノン・コンビニエンスについて検討する機会もございますので,またその機会も検討の場にしたいと考えております。  保全処分につきましては,これはあくまで管轄を定める13条そのものについては,基本的には受入れ可能ではないかと。ただ,第1項は承認執行の対象になっているわけで,その点については受け入れることができないということを,いわば先取りして注で触れております。  それから,仮に全体として承認執行の対象にしないのであれば,この13条に置くというのもいかがなものかという点がございますので,13条を例えばまとめて別の章にする等の問題もあろうかと思います。更に,第3項そのものについての必要性というのも御議論があろうかと思っておりますので,(注)の1に指摘しております。  第14条,それから第16条,これらはいずれも被告の管轄の利益の問題,あるいは手続保障の問題,更に要件の不明確性というような点もございまして,国内的にも特に知的財産権のような場合にこれが使われた場合の問題点という指摘もございます。これらについては,これまでの御議論も踏まえまして,削除するのが適当ではないかという指摘をさせていただいておりますが,14条につきましては日弁連の方からは,比較的好意的な御意見をちょうだいしております。  第16条につきましては,受け入れることができるのではないかというのが,この「意見」の案の内容でございます。 ● 若干,私の方から補足させていただきますが,第6条のところで,1のところに「確認の上」となっておりますけれども,これは確認を条件としてというような趣旨でございます。  それから,3ページのところでレポートのページが引用されているのですが,これが間違っておりまして,48ページから50ページというのが正しいところでございます。訂正させていただきます。 ● 本来であれば,直ちに○○幹事の方から御報告をいただくということになるわけでありますが,ここで15分間休憩を入れさせていただいて,その後で○○幹事の方から御意見をいただいて,それで議論をさせていただきたい,こういうふうに考えます。よろしくお願いいたします。  それでは,15分間休憩させていただきます。           (休     憩) ● 審議を再開させていただきたいと存じます。  ○○幹事の方からは,特に今申し上げることはないということでございますので,早速具体的な審議,逐条的にお願いしたいと存じます。  それでは,ただいま御報告がありましたように前半ということでございますので,1条から順次御審議をお願いしたいと存じます。 ● その前に,この意見書の構成といいますか,名あて人といいますか,これはだれになるのかなと思いまして。  それとともに,先ほどちょっとありましたように,ヘーグ国際私法会議に対して日本政府の意見として出す,そのドラフトをつくっているものなのか,あるいは単にこれは法制審議会向けのこの部会からの意見書になるのか,その辺,ちょっとスタンスをお聞かせ願えたらと思います。 ● この意見そのものは,冒頭申し上げましたようにこの審議会自体は法務大臣の新しい諮問に基づいて設置されたものでございますので,そのテーマとして採択の際の意見も求めているわけでございます。したがいまして,この条約について採択する際についての,形式的に申し上げれば法制審議会の国際裁判管轄制度部会から諮問した法務大臣にあててということだと思いますけれども,基本的には法務大臣というよりもむしろその後の政府の対処方針のベースになる意見をこの部会から述べているということになると思います。 ● そうしますと,むしろ政府のヘーグ国際私法部会についての意見書のドラフトをつくって,その上にカバーレターみたいなものをつくる方が適当なのではないでしょうか。 ● そういう意味では,この後の手順とすると,政府の対処方針というのはもちろん外交会議に臨む前に作成して確定させるわけで,そのもとになるものだという位置づけだと思っております。  それと,これは先ほど申し上げましたようにいわば外交政策の問題になりますので,いろいろな意見を踏まえて最終的に政府としての対処方針を定めなければいけないものだと思いますので,その際の基本的な資料という位置づけだと思います。ただ,それはこの部会の性質上重要な資料を出すということだろうと考えております。 ● そうすると,当部会としてはあくまでも法制審議会に意見を出して,そして法制審議会が法務大臣か何かにまた意見を出して,法務大臣の方で国際私法会議の方に意見を出すと,そういう形になるのですか。 ● 対処方針につきましては,これは外交ですので外務大臣しか出せないものでございます。6月の外交会議ということで考えますと,それに向けて法務省としての意見を外務省に言う,そのための法務省での意見,法務大臣の方での意見の取りまとめについて,法務大臣の方から法制審議会の方にお伺いしていると,形式的にはそういう形になるかと思います。  先ほどお配りしたコメントの方は,これは外務省の方で最終的に取りまとめるものについて,事実上ここにいらっしゃる委員・幹事の皆様に御意見をお伺いしている,こういう趣旨でございます。 ● 法制審議会内部のことで申し上げますと,改めて総会に上げるということは,そこまでは不要かなと思っておりますので,部会として取りまとめたものを,先ほどのように法務省の意見として形成する上の資料として出す,部会として出すということかと思います。 ● そうしますと,資料1はこの部会から法制審議会あてということでよろしいわけですか。 ● はい,名あて人はそういう意味では審議会ということで結構だと思います。 ● それにも関連するわけですけれども,第1の「総論的意見」のところに,先ほどちょっと申し上げましたような,○○幹事がお書きになっているような欧米諸国の過剰管轄を抑制していくとか,あるいは我が国の判決の承認執行がされることを確保するとか,そのような点も触れたらよいのかなと思いました。 ● その点はよろしゅうございますね。ありがとうございました。  では,全体にわたりまして何かほかに御意見がございますでしょうか。  ございませんようでしたら,1条から御意見をお願いいたします。  第1条,「事項的適用範囲」。これは,いずれ5月にも検討されるということでしょうから,今お気づきの点を挙げていただいたらと思いますが。--よろしゅうございますか。  では,これはまたお考えいただくということで,2条。これも一般的な条項でございますが。 ● 1条の(注)のところを最終的に外していくということだとしますと,原子力損害についてどういう態度をとるか,議論をしておいた方がいいと思うのですけれども。  私は除外にしてもらった方がいいと思っておりますが,それは日弁連の方のおつくりになった資料の11のところでもそのような御意見になっております。具体的に条約の名前も挙がっていますけれども。  ただ問題は,1条の2項に原子力損害,ニュークリア・ライアビリティーというふうに書けば,それでみんなが納得してくれるのか。その部分は何を意味しているのかということをはっきりさせるとすると,パリ条約,ウイーン条約にある非常に長い定義,私も内容はよく分からない核物質がどうのこうのということが書いてあるわけですが,そういうものも含めた形で書かなければいけないのか。私は,条約としてはニュークリア・ライアビリティーと書いて,その意味はそういう条約で言われているものと同じだというコメントがどこかで公に,正式な解説の中に盛り込まれるという形でいいのではないかと思っておりますけれども,ちょっと何か御意見をいただければ対処がしやすいかなと思います。 ● 原子力損害につきまして,ただいまのような御意見がございましたが,いかがでしょうか。 ● 日弁連も同じような意見で,意見書に書いてありますように,現状としては日本はこれらの条約に加盟していないため,余り変わりはないかもしれませんけれども,やはり将来的なことを見て,これは除外した方がよいという意見です。  それで,除外の仕方も,全く今○○幹事がおっしゃったような,そういう程度で簡単にした方がよろしいのじゃないかと思います。 ● ほかに御意見ございませんでしょうか。そのように注ではなくて,具体的に除外するという方向で考えると。 ● 明確にするために申し上げますと,ウイーン条約,パリ条約に日本がもし入るのであれば,37条で,そちらが優先しますから関係ない話になるわけです。日本は当分入らないという前提で除外しておくという意味はどこにあるかというと,国内で自由に専属管轄を決められると,施設国の管轄だけだということを国内法で将来つくれる余地を残しておくというところに本当の意味がある。もしそれをつくらないのであれば,現在の考え方としてはやはり損害発生地の管轄が認められてしまうことになってしまうので,ほっておくと余り意味がないのですね。しかし,将来そういう立法をするかどうかはまた別の場での議論でしょうから,将来の立法の手を縛らないというだけの意味です。 ● ヘーグ会議の方ではいかがですか。 ● アメリカは,一度一緒に提案してくれたのですけれども,そのほかの韓国その他,似たような状況にある国はまだ無関心でして,もう少し説明して理解を得なければいけないと思っております。 ● 関連したところで,この条約の見通しは。 ● 今,御指摘がありましたウイーン条約については,議論の対象にはなっておりますけれども,この時点で批准の可否についてどうということは申し上げにくいと思います。そういう意味で,○○幹事が言われたような状態を前提として御検討いただくのがいいと思っております。 ● 最終的には5月にお考えいただければと存じますが,もしそれまでに御意見がなければ,そのように考えるという方向で御検討いただけますでしょうか。  では,その点はそういうことで,ほかに1条についてございますでしょうか。私,少々早く飛ばしてしまいましたけれども。  ございませんようでしたら,2条でございます。--よろしゅうございますか。  それでは,更に問題の多い条文が並んでおりますので急ぎまして,3条「被告の普通裁判籍」。これは,常居所についてはなお検討するということでございますが。 ● 常居所について,前にも御報告をしたところでありますが,「ハビチュアル」という言葉を外して,ただレジデンスということにし,複数レジデンスがある場合にはプリンシパル・レジデンスなどにするというアイデアが既に出ております。バーゼルでは議長がこのことに簡単に触れておりますけれども,私はその案の方がいいのではないかと思っていますが,それに賛成してよろしいかどうかということを具体的にお聞きしたいと思います。 ● いかがでございますか。特に賛成して何か困るということはないだろうと思うのですが。 ● 実際に適用する場合には,そういう手掛かりがあった方が手助けになりますので,このままよりはむしろそういう形で解釈の手立てが条文上明らかになっている方が,やりやすいというふうに考えます。ですから,○○幹事の御提案には賛成したいと思います。 ● この点は,もし明らかにできるのであればその方が望ましいと思いますが,そういうふうに考えさせていただいてよろしゅうございますか。 ● ○○幹事が言われたのはもう一つ意味がありまして,「ハビチュアル・レジデンス」という言葉は使わないということになっているわけですね。だったら,複数のときにどうするかという点について,一つガイドラインをおっしゃった方がいい。  あるいは,○○委員がおっしゃったのは,そちらの方で御賛成なんだろうと思いますが,私も前の方のハビチュアル・レジデンスというコンセプトを使わないという方がよろしいのじゃないか,○○幹事のでいいのじゃないかと私も思います。 ● これはきっと更に御議論があると思いますので,そういう方向でお考えいただくということでよろしいと思います。  4条の合意管轄でございますが,これもここに書いてございますように,いろいろ問題はあるけれども受け入れることができるということですけれども。 ● 先ほどの消費者契約と雇用契約のところでいいますと,心配しなくてもいいのかもしれませんが,両方ともなくすという案も出ていますね。この条文をなくしてしまうということを考えると,消費者とか雇用者という点から見ると,管轄合意のところで交渉力が非常に違っておる場合には有効としないという条項が前の条約に入っていましたけれども,それを少し考えておく必要があるのじゃないかと。7条,8条がそのままで残るのならそういう形で保護されますけれども,それがなければ,前にも議論がありましたように,合意管轄の古い条約の中にあったような条項を考えておく必要があるのかどうか。  実際問題としてどういう形になるのかちょっと分かりませんけれども,その点をお聞きしたいと思います。 ● 今の前提となる点ですが,7条,8条で書いてある消費者契約,労働事件を適用除外にしますと,それは自動的に4条の適用はないですから,それで大丈夫ではないでしょうか。 ● その場合に,交渉力に非常に違いがある場合には,有効性が否定される場合があるというのが,前の条約の管轄条項の中にありましたね。 ● 1971年の条約は,消費者契約,労働契約も含んでいるわけですね。もし7条,8条を1条の方で除外してしまいますと,そういう懸念がある二つの場合,典型的な場合は,合意管轄は少なくともホワイト・リストではなくなるので,それで救われる。  それに更に加えてもし入れるとしますと,大企業と小企業のようなことを考えているようになると思うのですが,それを入れてしまうと非常にあいまいになるのではないかと思うのですが。 ● 何か手当ては要るようには思うのですが。  先ほどの議論を聞いていますと,7条,8条をのけてしまうという案はそれほど実際上は強くないということでしたら,余り考える必要はないのかもしれませんが。 ● 8条は除外ということは十分あり得ると思っていますけれども。  適用除外の方に書いてしまえば,今おっしゃった懸念はないのではないでしょうか。 ● そうですね,適用除外で外してしまえばね。明文で。 ● よろしゅうございますでしょうか。 ● はい,結構でございます。 ● それでは5条ということでございますが,「応訴管轄」。  これも,今までの御議論では特に問題はなかったところと存じますが,いかがでしょうか。  それでは,次の第6条,「契約」でございますが,契約につきましていかがでございましょうか。一番問題がありそうなところで,御議論いただきたいと存じます。  金銭消費貸借契約について,日弁連の方では,これは含めてもよいというお考えだと先ほど伺ったわけですけれども。 ● 金銭消費貸借について,特にこの条文の適用を否定する理由はないのではなかろうかということで,第6条の適用を否定すれば,単に金銭消費貸借契約については普通裁判籍とか,ほかの管轄原因になってしまうわけですけれども,特に第6条を積極的に否定する理由はないのではなかろうかと。  金銭消費貸借契約といっても,多分問題になり得るのは国をまたがった消費貸借契約ですが,普通金融機関がやるときは必ず合意管轄か何か入っているのでしょうから,むしろ私企業同士が消費貸借をするというような場合でしょうけれども,そういった場合に,やはりサービスの一種と考えて,そのサービスの全部又は一部が提供された国,その国の管轄をこの第6条に従って認めても,別に支障はないのではなかろうかという意見です。 ● 今の御指摘の点につきましては,いかがでございましょうか。 ● 金融法委員会の意見はその逆でございますが,あるいは合意管轄ができるのだから,それでやるべきであって,何もしない人について義務履行地でただ口座がある国で,それだけの関係しかない場合というのが,そもそも取引の実態からして私は存じ上げないのですけれども,仮にある国の口座に返すと,そこはしかしその口座があるというだけの関係しかないような場合に,そこで訴えられるということはややおかしいのではないかということですけれども。  実際にどうなんでしょうか,第三国の口座を指定して,そこに振り込ませるなんていうことがあるのであれば,そこで訴えられるか訴えられないか。 ● 恐らく,先ほど申し上げましたように金融機関が絡むときは合意管轄を決めているでしょうから,まず問題にならないと思います。ですから,多分あり得るのは,私企業,普通の製造業とかその他の企業同士の消費貸借とか,そういうものになるのかなと思うのですけれども。そうであれば,多分資金が要るところにそういう口座があって,そこに払い込まれるのでしょうから,通常の場合ですと金を借りた人の方の普通裁判籍と同じになるのでしょうけれども,そうでなければ,第三国みたいなところに送るのであれば,その第三国で資金需要があるから送ったのでしょうと思われる。そういう面からいうと,その国で起こされてもやむを得ないのかなという考えです。 ● この点について,経済団体に私どもの方で説明に行った際にも,金融機関にいらっしゃった出席者の方からは,金融サービスのようなものは除いていいのじゃないかと。金融機関の立場から見たら,恐らくそうなるのかなという気もします。  先ほど,○○幹事の御説明にもありましたように,履行地という概念が恐らく非常に希薄になって,多分電子商取引などに出てくる問題と同様の問題が起こり得るのかなというところもありますので,大勢としてこの点については金銭消費貸借は除く,いわゆる金融サービスは除くということであれば,いずれにしても明確にすることで一定の解決は見るのかなと思っております。どうしても入れるべきということであれば別ですけれども,明確化して,外れるなら外れるで明確にしてくれということであれば,そういう解決方法があるのかなと思っていますが。 ● (注)のところに出ているような問題点についてもいかがでございますか。  1のところの考え方というのは,一体どういうものを具体的に……。 ● (注)1は,先ほどの参考資料1にございますようなactivity basedの管轄と,この6条を融合させるというアイデアが示されておるのですけれども,正直なところ,果たして融合できているのかどうかというのは疑問もございます。恐らく今後6条も9条も,今のままで維持する維持しないというよりも,そこをどう改めるかという議論が活発に行われるというふうに思えますので,今日御提出いたしました参考資料1についても,先ほどの○○委員のようにコメントをいただければ幸いでございます。 ● 弁護士連合会の意見で,基本的な方向としては米国を無視しては妥結できないだろうと,activity basedの管轄を認めざるを得ないだろうという見通しのもとでやると,例のブラック・リストで現状のドゥイング・ビジネスだけでは普通裁判管轄にならないよという,あれを死守するというのが第一なんですけれども,それに加えて,どうせ抜本的に妥協を図るのだったら,弁護士連合会の言うとおりに子会社の存在自体は,これはブラック・リストですよというふうにつけ加えてもらったらいいなと。  これは,恐らく弁護士さんも企業の立場を代弁して訴訟等をいろいろやった経験から出た意見と私は推察しているのですけれども,私も全く同感でございます。 ● その点は,○○幹事の方で翻訳をつくっていただいたピーター・ナイさんのレポートの方にも,子会社だけでは管轄原因にはなりませんよということは書かれていると思いますので,それはやはり法人格否認の理論とか,あるいは代理権を持っているとか,それに何かプラスアルファがない限り,子会社の存在だけではならないという説明だと思いますので,ピーター・ナイさんのレポートの趣旨にも沿っていると思うのですけれども。 ● 日本弁護士連合会の,今日いただいたものの24ページの下から3行目に書いてあるのですけれども。 ● 6条から大分離れますが,activity basedは結局6条も9条,あるいは10条まで含めて横に貫くような議論なものですから構わないかと思いますけれども,子会社ではだめであるというのは,確かにナイさんのレポートにもありますが,しかしその子会社が分身とか架空会社に近いようなもの,どういう場合かというのは分かりませんが,例えば取締役が相当部分共通していて,100%株式を持っているというような場合としますと,日本の会社の子会社というのは結構そういう場合があるのではないかと思うのですけれども,そういう場合にはブラッセル・ルガノ条約のもとでも管轄はあるとされる…… ● ですから,子会社の存在だけではだめですよということで,正に法人格が否認されるような実体がなければだめなんですよと。子会社を道具として,親会社自身が行動しているという,そういう事実なしに,子会社が存在するということだけをもっては管轄の原因にはなりませんという,そういう意味かと理解していますが。 ● 正に,今,○○委員のおっしゃったとおりで,100%子会社であっても,現実には取締役会とか株主総会を開いていないとか,実質がない,単にオルター・イーゴウとか,法人格否認とか,そういったものが適用されるような,正にブランチと同視し得るようなものであればしようがないと思うのですけれども,それは逆に言えば,子会社であること自体,それ自体でもって管轄を認めることにはなりませんよと。それにプラスアルファがあって初めてそういった法人格否認の理論とか,そういうものが適用されるという意味で,子会社の存在だけではブラック・リストに載せるということは可能ではなかろうかと思ったのですけれども。 ● それは,独立性のある子会社の存在ということ。 ● そうですね。 ● ブラック・リストで子会社であるということだけではというのは,国籍だけではとかと同じじゃないかということなんですけれども。国籍だけでは判断しない,子会社だけでは判断しないと。それに加えて,activity basedというのが個別で入ってしまいますので,このactivityの実体が立証されない限りは,原則として管轄には属しませんよと,そういうことを明確にすることを引換条件にして妥協を図るしかないかなという,そういう考え方でございます。  子会社で,正に独自のオペレーションを非常に広く展開している子会社があっても,その子会社の存在自体でもって基本的にはドゥイング・ビジネスをやっているという形で原告からチャレンジした場合に,事実上反証責任が親会社側に来てしまって,子会社を本当に独立して,インデペンデントに運営しているのですよということを立証しないと米国では負けてしまうというのが,これは実情でございます。  反証するためには,結局親子会社間の資金の流れ,人事の異動,ボーナスの送金の問題,税金を払うこととか,企業としてはそう軽々に社外に出したくないような情報を全部裁判所に出さなければいけない,それとのトレードオフで,これをやらない限りは事実上子会社があるということだけで管轄では負けるというのが,これは実態です。こういう実態に基づいての話でございますけれども。 ● 御趣旨はよく分かりました。 ● 今後の方針として○○委員が言われるように,18条のブラック・リストの方をがちっと固めるという御方針であれば,それはまた非常に参考になると思います。今,私が申し上げましたのは,妥協案についての参考資料1について御議論いただければということもあるのですけれども,もうちょっと更に大きな視点に立つと,○○委員のように,この後,恐らく妥協を迫られた場合にどこを死守するのかということについても御意見をいただければと思います。 ● 実際には全部つながっておりますので,どのようにデザインしていくかということですね。 ● 18条につきましては,次回また改めて6条,9条も含めた形で御議論いただきたいと思います。 ● では,その点は少しお考えいただくということでよろしゅうございますでしょうか。  ほかに,この6条について御意見ございますでしょうか。 ● 第6条の1のところに書かれている金銭債務の履行地が管轄原因とならないということは,ちょっと意味がよく分からないのですけれども。  6条の文言では,「物の引渡しに関する事項」と言っていますので,日弁連の意見書では,物の引渡しに関する事項というのは,物の引渡しと対価関係にある代金の支払請求及び物の引渡しに関する本来の履行義務が転化した損害賠償請求,こういったものも含まれるのではなかろうかと考えまして,こういった請求権に基づく訴訟も,物の引渡しの一部又は全部が行われた国でもって起こすことができるというふうに考えているわけですけれども,ここに書かれている金銭債務の履行地が管轄原因とならないというのは,物の引渡しの対価たる代金の支払債務,そういうことをおっしゃっているわけですか。 ● 実質は,日弁連が書かれたのと同様でございまして,物に関するというのは,当然のことながら物の引渡し,それから恐らく損害賠償請求権も同様ですし,代金債務も同様です。  ただ,代金債務の決め方は,金銭債務としての代金債務履行地の問題ではなくて,契約の目的物の提供地,履行地になるという構造をとっているという,その説明をずっとしているわけですので,やや迂遠でございますけれども,実質は日弁連のお考えと同様でございます。 ● 金融機関というのは,必ずその辺のところを契約できちんと書くということでお話があって,実際問題,そういう裁判所の規定等書かないのは事業会社のやり取りだというお話があったのですけれども,事業会社でも最初からお金を貸すときに,それは必ずきちんと書きます。けれども,一番あるのは,準消費貸借,要は物を売り込んで相手方がお金を払ってくれない,仕方がないので代金債務ということじゃなくて,改めてお金を貸した形にしようという形で,延べ払い条件にするといったときには,従来の商取引の流れで来てしまうので,そこでいわゆる管轄の規定だとか,いろいろなことをやらないで,単純に延べ払いの条件だけを書くということは,これは間々あります。  ただこの場合に,今のお話だと,そもそも金銭債務じゃなくて物の引渡しに関連した管轄の考え方によると,こういうことでございますね。  そうしますと,ますます実際に適用されることというのはあるのだろうかと。金銭債務で,契約書がないということが。ということは確かにありますね。 ● 今の場合は,契約を新たにやり直すというわけではない。もしやり直すとしますと,前のは引き継がない,物の引渡し地の管轄は引き継がない可能性があると思うのですけれども。 ● 更改という日本法の考え方を,現地のビジネスマンがどこまで意識しているかという問題でございまして,単純に売買契約があったのだけれども,それに基づいた支払いがなされないというと,売買契約じゃなくて,延べ払いの契約書を改めて結ぶ,こういうことはよくあることです。それを法的にどう評価するかというのは,別問題かと思いますが。  そのときには,いわゆるガバニングローだとか,ジュリスディクションのところについては,往々にして入れないというのが実態かと思います。  ただその場合にも,基本的には普通裁判管轄でお客さんのところで訴えるということしか恐らく想定していないと思いますので,余り裁判管轄という観点からは実益のない議論かなと。 ● そうすると,これはどういうふうに考えれば……。 ● このかなり長い注を書いた趣旨は,基本的には金銭だけを目的とするようなといいますか,要するに契約で物の引渡しと代金債務が対価関係にあるような場合は,いずれにしろ先ほどのように損害賠償も含めて金銭関係も含まれるということで解決を見るのだろうと思いますが,金銭消費貸借のように,金銭だけを目的としているような場合には,従来の議論は,履行地という考え方が非常に希薄になるので,それでは管轄を認めるにはふさわしくなかろうということだと思うのです。  今,○○委員が言われましたように,準消費貸借ですとか更改のように,前の売買契約との関係で一定の連続性といいますか,同一性が問題になるようなところは,ちょっと解釈として難しいかなという感じはしますけれども,基本的には金銭の消費貸借のように,金銭を返還するようなことだけを目的とするようなものについては,少なくとも履行を前提とした,履行されたということを前提としております6条の適用からは,外すことを明確化してはどうかなというつもりでございます。  ただ,日弁連の御意見のように,あるいは含めるということもあるのであれば,引き続きまた検討を要するかと思います。 ● いずれにしましても,かなり限定されたものになるわけですね。 ● もともと6条自体がかなり限定されたところに生まれたものだと思いますので,その辺をきちんとすれば,今,○○委員から御指摘がありましたように,恐らく合意管轄ですとか被告の普通裁判籍で基本的には解決できることではないかと思います。 ● そういう趣旨で明確化しておくという必要性があるということでしたら,明確化するということになろうかと思いますが,それも不要であるという御意見はございますか。 ● 明確化はやはりしておいた方が,後から解釈する上では大変有り難いと思いますので,金銭消費貸借を除くということであれば,それはきちんと書いていただいた方が有り難い。  あと,金銭消費貸借だけなのか,信用供与的なものはどちらに入るのかというのが,ちょっとこのペーパーでは分からないのですが。例えば,いわゆるカードの場合とか,クレジットカードの場合の信用供与とか,そういうものについて,物の引渡しに関係してそういう信用供与が行われたときに,その信用供与を行った者と受けた者との関係では物は介在しているわけではないのですけれども,そういうものは引渡しとの関係でどうなるのかというのと,あとは信用供与自体が金銭消費貸借と同じように考えていいのかどうか,ちょっと分からないところなので教えていただければと思いますが。 ● カードのような場合は,割賦販売法のような発想でやった場合にどうなるかという問題はあると思いますけれども,物の代金として支払われるというのであれば,前者の方といいますか,この条約の6条の方が前提としている範囲なのかなと思いますが。その点は○○幹事,いかがでございましょうか。 ● 要するに,物とサービスしか書いていないものですから,そして今やだれもこれがいいと思っていない段階で,それについてしかし意見を求められているのはこの草案についてであるし,かつ一応これがスタートラインになるわけで,検討は必要かと思いますけれども,どちらに含まれてどうなるのかというよりは,やはりこういうものは除いた方がいいのじゃないかという形で意見をまとめていただいた方が,対処はしやすいのじゃないかなと思うのですけれども。 ● もし金銭消費貸借を除くということであれば,そういう信用供与も除くという方が明確でいいのじゃないかとは思うのですけれども。 ● 金銭消費貸借の金銭の返済地は除くということですね。返済地であるだけで管轄は認めない。 ● 保証をしたとか,先ほどのカードで買ったというような場合であれば,代金決済をカード会社が代理払いをするという契約をするわけですけれども,それを消費貸借契約ととらえるか,そうじゃないというとらえ方をするかというのは,国内でもいろいろな契約類型があるので何とも言えないのですけれども。 ● カード会社とカードホルダーとの関係は,契約はありますよね。 ● そういう意味では,余り実益にはならないのかもしれませんが。  金銭を受け取って保証だけする場合とか,そういう場合もありますので。  国際取引の上で,金融機関がそういう信用供与するときに,合意管轄の定めをしないということは普通はありませんよということであれば,余り実益がないことなので,そこまで求める必要はないのかもしれません。 ● 商社は,そういう信用供与やっていますね。 ● やっていますが,おっしゃるとおりその辺を書かない,手当てしないケースは,最初から信用供与しているときにはないですね。途中からなってしまったというのが該当するというのが……。 ● 似たような話は,ファイナンス・リースといいますか,そういったリースの場合にも起こり得ますね。 ● では,これはどこまで考えるのかということで,ちょっと詰めていただいた方がよろしいかと思います。 ● 今のような点は,問題意識としてよく分かりますので,こちらで検討させていただきます。 ● それでは,そういうふうにお願いいたします。  6条について,ほかにございませんようでしたら,7条の「消費者契約」に参りたいと思います。いかがでしょうか。  これも,基本的には第7条は受け入れるというスタンスでございますが。 ● 日弁連で意見を申し上げていますのは,まず消費者については自然人に限られるということを明確化すべきではないかという点ですね。  あと,3項のところで合意管轄を一定の場合認めているのですけれども,これが非常に分かりにくい。つまり,3項のa)の方は,その合意が紛争発生後のものですから,これは消費者の方が起こす場合であれ,企業の方が起こす場合であれ,3項のa)はすべての例外になっていると思われるのですけれども,3項のb)の方が,これが非常に分かりにくい。「消費者に他の裁判所に訴えの提起を許す内容である場合」というのが非常に分かりにくいので,これが果たして第2項に優先するのかしないのか,そのあたりが非常に分かりにくいので,このあたりを明確化すべきではないかということを言っております。 ● 最後の第2項との関係でいいますと,第2項は消費者が被告の場合,3項のb)は消費者が原告の場合ですので,相互は関係しないということではないかと思うのですけれども。  単に「他の」と書いたのは分かりにくくて,消費者に本来与えられている管轄地に加えて,合意管轄で更にプラスアルファを与えたようなものまで禁止する必要は,この条文の趣旨からしてないだろうということで書いているだけでありますけれども。 ● この「他の裁判所」というのは,1項で言っている裁判所という意味でしょうか。 ● いや,3条とか,要するに被告の普通裁判籍とか,応訴管轄とかに加えてと。不法行為であれば,不法行為地管轄に加えて。 ● 1項の裁判所はどうなんですか。 ● 1項の裁判所も,もちろん入ります。しかし,消費者に全く不利にならないような合意ということでございます。そういう合意をしている場合に,ホワイト・リストにしないという手はないだろうというぐらいのことで,どれほど例があるのか分かりませんけれども。 ● 今,○○幹事は3項b)は消費者が訴えを起こす場合とおっしゃいましたけれども,普通合意管轄というのは,専属的でなくて選択的に書くのであれば,この三つの裁判所どれでも起こせますよという形で書くので,どちらが原告になるか,それは関係しない書き方で書くのが普通なんですけれども。 ● そういう書き方は許されないということですね。企業側が起こすときに,7条2項以外のところを加えるような合意管轄は禁止しようと。 ● そうすると,7条2項は3項b)よりも優先するということ。 ● 3項b)は,消費者に訴えを提起することを許すということですから,片面的な合意管轄を予定しているのですね。消費者はa,b,c,d。a,b,cは当然訴えることができて,dを新たに加えましたと。だけど,企業側はdでは訴えられない。a,b,c,でも訴えられなくて,とにかく7条2項のところしか訴えることができないという,極めて片面的な合意を前提にしているのですけれども。 ● 多分,そういうのは実務的に非常にレアケースじゃないかと思うのですけれども。普通は,契約書の条項に管轄の規定を入れまして,この契約に基づく紛争はどこそこに起こすことができると,そういう書き方にしますから,どちらが原告というのは書かないわけですね。 ● そういうものはだめであるということなんです。 ● それは,全部がだめ。 ● 全部だめと。起こす場合に7条2項と一致していれば,そういうものだけはいいと。でも,それは合意で有効というよりは,むしろ7条2項で有効になっていると。 ● その辺を,そういう説明を聞かないとこれだけからは分からない,そういう意味なんですけれども。 ● 今の説明ですと,そういう片面的じゃない形でa,b,cと書いていたときに,そういう片面的な合意じゃないので合意自体が無効だということで前提を欠くことになるのか,それとも消費者側からの追加として訴えるときには有効だけれども,企業側からは使えないという形で,受訴裁判所の方でどちらが原告かによって区別して適用するのかというのがちょっと分からないところがあるのですけれども。  そういう議論は,今までは。 ● ないです。そういう議論はございません。 ● そこは共通の理解ができるようでしたら書いていただいた方が……。どちらかということでブランクになっていると,出たとこ勝負というか,受訴裁判所の判断次第になってしまいますので。 ● つまり,3項はa)とb)と書いてありまして,a)だったら総合的に書くわけですね。つまり,「この紛争に関する管轄裁判所は東京地方裁判所にする。」,それで終わりで,どちらが原告になろうが関係ないわけですね。ところが,同じ項の中にa)とb)と,b)の方はそういう御説明を聞かないと,とてもそこまで分からないわけですね。 ● ブラッセル・ルガノに多分入っている規定で,私は今ちょっと資料を持っておりませんが,彼らはそれをやっていると思うのですが。  今,○○委員のおっしゃったような例も,あるいはコンメンタールの中には書いてあるのかもしれませんけれども。 ● それとともに,これは8条の雇用契約の第2項のiiですね。これと同じことだと思うのですけれども,なぜか書き方が違っておりまして,このあたりも統一して書かれるべきではなかろうかということですけれども。 ● 各条で,幾つか例えばこれは明らかに漏れているのじゃないかと思われるところもございますし,7条と8条も,8条を見ると大体意味がよく分かるのですけれども,7条だけ見ると意味がよく分からないという状態で,バランスがとれていない点もあります。条文自体について細かい点も日弁連の方から御提言いただいていますから,最終的にはそういった点も外交会議で提案していくということは考えられるのじゃないかと思います。 ● 7条についてはよろしゅうございますか。 ● 結論的にはどういう……。まだ,これから5月に決められるということですか。ディスクレーマーについて現場の要請が非常に強いのですが。 ● ディスクレーマーについては,次々回の4月にまとめてと思っておりますが,とりあえずの考え方とすると,今あるaですね,directed to というふうに書かれているところに,ディスクレーマーの内容をどう書くかというのは問題ですけれども,ディスクレーマーがある場合はこの限りでないといいますか,そうならないということを明記するという方向が多分一つのアイデアとして考えられるだろうと思っております。  ディスクレーマーの内容としてどういうところまで盛り込むのかというのは,この後の非公式会合等にもよると思いますけれども,基本的にはディスクレーマーでdirected to の要件を満たさないようにするということを条文上明記するという方向が考えられるのではないかと思っております。 ● ディスクレーマーで要求されるような要件を満たすのである場合,いっそのこと合意管轄を電子商取引に限っては認めるというところまで踏み出すかどうかという,そこはいかがでしょうか。 ● これは,(注)2にもかかわるところで,基本的にはディスクレーマーの効果によって,少なくとも仕向地を限定することは可能だと思われますし,仮に虚偽の事実で消費者が相手方になり得たとしても,それはまた別に,それを阻止するといいますか,管轄が広がることを阻止することは考えられるのではないかとは思っております。  ただ,それとは別に,更に消費者契約についても電子商取引の場合は合意管轄を認めるかどうかということは,ここはまたちょっと国内の意見も更にいろいろ伺う必要があるだろうと思っております。ただいずれにしてもこの(注)のただし書に書きましたように,EUの姿勢というのは恐らく合意管轄を消費者契約には認めない方向をかなり強く主張するのではないかと思っておりますので,最終的にはその点についてどうするかというのはなかなか難しい,多分最後に残された論点になるだろうと思います。 ● 消費者団体の方の意見の照会というのは,いつ。 ● これは昨年しておりますけれども,まだ御意見をちょうだいできておりませんので,できる限り4月までにはいただいて,それも踏まえたいというふうに思っております。 ● 合意管轄については,現在の条文はブラック・リスト化されているわけですが,これをグレーにするということは,先ほど御紹介したように,そういう考え方はあるわけです。それにしておけば,やりたい国はできますが,その判決が承認されるとは限らない。そのあたりが落としどころかなと思いますけれども,それはいかがでしょう。完全にホワイトにしろとおっしゃるのかどうかということです。 ● そういうことではありません。恐らく民間の産業界の要望は,ディスクレーマーが(注)1の対応で基本的には満足だろうというふうに思いますが,2の議論がどこまで突き詰められるかということについてお聞きしているというわけです。 ● ディスクレーマー自体は,この条文の中に入れるということですか。 ● 日本としてどう臨むかですけれども,もちろん基本的には明確化した方がよいと思いますので,差し当たり入れ込む案を日本としても用意した方がいいのではないかと思うのですが。 ● その辺,もし入れるのでしたら,何か具体的な案を考えていただかないといけませんね。 ● 4月には,事務局としてそれまでの非公式会合の議論を踏まえて,一般的にディスクレーマーと考えられるものを抽出して,案を用意したいとは思っております。 ● 今のところ,directed to の解釈ということになっているのですね。 ● 7条2に書きました趣旨は,「規定上明確にすることが適当であると考えられる」というふうに書きましたけれども,これは最終的にどうなるかは別として,少なくとも日本としては規定上明確にする,つまりパラaに書き込むということでやりたいという趣旨ではありますので,その予定で4月には一定の案を出したいと思っております。 ● ディスクレーマーについては,それでは具体的にいずれ御提案いただくということで,そういう方向であればよろしゅうございますか。 ● 一つ伺いたいのですが,日弁連の方は合意管轄について,特に電子商取引の場合一定の範囲で許容してもよいのではないかということが11ページに指摘されておりますけれども,これは特に一定の要件というのは大体どういうものをお考えになるのか,もし何かございましたら,と思いますが。 ● 分かりました。ちょっと今は持っておりませんので。 ● それでは,7条と関連するということでもありますけれども「雇用契約」。 ● これは,昨年から労働関係団体の方に意見を求めておりまして,これも近々意見を伺えるというふうに聞いておりますので,改めてその段階でまたお願いしたいと思います。 ● それでは9条でございますが,「支店[及び継続的商業活動]」。ブラケットのない案を支持するということでございます。 ● ここは,当面の対処方針としては,国内的な意見として1,2という順番でよいのかなと思っておりますが,先ほど申しましたように,この9条がそのままの形で維持できるかどうかというのも必ずしもはっきりしないところがありますので,先ほどのように9条と6条とを融合させるかということについても御意見をいただければと思いますし,あるいはむしろここではなくて,18条で勝負しろということであれば,また後で御意見をいただければと思います。 ● この点について,度々○○委員から御意見をいただいているわけですが。 ● 資料4の5ページですが,○○幹事の報告の中の下から3番目と2番目のところで,これも予想された議論がされているなと思ったのは,「activity based管轄を認める場合には,法廷地に原告の住所があることを要件とすべきである。そのことによって,技巧的な解釈により管轄を認めることを防ぐことができる」というふうに大陸法諸国が言ったのに対して,その次のアメリカは「原告の住所の存在を要件とすることには反対。原告の住所は管轄判断に当たって何らの関係もないはずである」と。  これは,実は現実に米国の州によっては,例えばPLについて過大な損害賠償を認める法廷地があるということになりますと,そこに原告がいようといまいと,被告はそこの州に子会社を持っているということだけでフォーラム・ショッピングをするという形がございます。ところがさきに申しましたように子会社があってそこで管轄を争うとなると,またそういうこと自身が大変な訴訟になって,負けるリスクも高いというようなことで,現実はそういう問題があります。正に日本も,それからほかのヨーロッパもそういうふうに思っているのですけれども,仮にアメリカ流にactivity basedで,そこの州とか場所に被告が活動しているとみなされて,原告がそこにいないにもかかわらず訴えるのはフリーパスということに関しては,現場では大変割り切れないものを持っているということですね。  現実に,個別の取引のactivityは例えば原告の住所等でやっているはずじゃないかと。ところが,そこの裁判所はニュートラルで,必ずしも外国人に対して厳しくないと思えば,外国の企業に対して厳しい裁判所に行ってフォーラム・ショッピングするというのがありまして,その辺のやり取りでactivity basedの管轄を仮に認めるにしても,最低限そこに原告の住所があるということぐらいはつけ加えたいという,大陸法諸国の,ヨーロッパの言い分というのは,我々としては非常によく分かる。ただし,これもまたアメリカの考え方で言うと,全く受けられないと。ちょっと感想じみた話ですけれども。  これが,仮に受けるときに反対条件で,ブラック・リストに普通管轄にしないとか,法人の存在自体をもって管轄の根拠にしないとか,仮にここでactivity basedの管轄を認めるのであれば,少なくとも原告がそこにいることというような反対条件が頭の中ではさっと出てくるのですけれども,交渉のことを考えると,果たしてこれをアメリカが受け入れるかどうかというような問題意識があります。 ● おっしゃるように,妥協ができるかどうかの問題はあるのですけれども,アメリカについても,アメリカとしては原告の住所は関係ないけれども,それを入れることに反対は本来はできないはずで,より狭める方ですから,ホワイト・リストは狭くすることについては文句はないはずではないかと。日本も含めて,それは是非必要なんだということであれば,狭いところで妥協しましょうということは十分あると思います。ただ,なかなかうんとは言わないと思いますけれども。 ● この条約の交渉のスキームからいうと,そうなると……。しかし,アメリカ人の法律家にとっては,十分にピンと来ないことは一切受け入れないという,その範疇じゃないかとお見受けしたのですけれども。  現にそういうことが起きているということですね。 ● 正確な話じゃないですけれども,アサヒメタルケースというアメリカの連邦最高裁の判決があって,製造物責任の事件ですが,実際に最高裁まで行ったのは台湾の企業と日本の部品メーカーとの求償訴訟だったものですから,管轄は却下,否定しました。けれども,もしあれが被害者が日本の部品メーカーを訴えていたら結論は違っていたのじゃないかということを書いているコメントもございまして,そうということは原告の住所のあるなしで,実際には影響を与えるかもしれないということは考えているようでございますので,本当に全然影響がないのかというと,アメリカでも少しはあるのではないかと思います。 ● 話が拡散して,後の方なんですけれども,例の戦争中の強制労働に基づく訴訟というのは,それが更にいってアメリカ外の,東南アジアでも中国でも,どこにいても,世界中原告がどこであっても,被告がアメリカにドゥイング・ビジネスがあるということの1点でもって訴えられている形で今裁判は動いています。その辺のところがあって,その辺についての考え方の変更はしないというのですか,そういう考え方に対するおかしいというのは,アメリカの司法制度に対するチャレンジだとか,こういう受けとめられ方をされてしまうのですよね。これが現実です。  ただ,場合によっては欧州諸国とで連携して,賛成票を投じると,もしそういう案が欧州を主体に出るのであれば,原告がいるということを条件とするということがもし案として通るのであれば,日本としては賛成すべきじゃないかと。日本が単独で言って通るかというのは,非常に難しいと思いますけれども。 ● 大陸法諸国も,そういうふうには何とか協力するのじゃないでしょうか。 ● 参考資料1に出しましたような,というか,バーゼルの会議で行われたものが英米法と大陸法の妥協点として融合しているとはちょっと言い難いのだと思うのですけれども,第2案のような,基本的には6条を基礎とするけれども,しかし一定のactivityという要素を含めるような考え方というのも,妥協の方法としては一つの方法だと思われますので,そういうことも視野に入れるといいますか,そういう目で第2案のようなものも,こちらの方で案として出せるか分かりませんけれども,少し考えて,一定の考え方をまとめておきたいとは考えております。 ● この辺はかなり難しいところかと思いますので,少しお考えいただくということで,できるだけアメリカの過剰管轄を制限するという方向をとるということでお願いいたします。  9条はそれでよろしゅうございますでしょうか。  ございませんようでしたら,10条の「不法行為」をお願いしたいと思います。  この(注)1の検討するというのは。 ● 日弁連の御意見もあったと思いましたが,合理的予見性という程度で果たして足りているのか,損害発生地というのは後にも響きますようにいろいろな意味で拡散する危険性がございますので,合理的予見性以外に,もう少し一定の関連性を要求するような考え方もあるのではないかという趣旨でございます。 ● 1項については,そういうことでよろしゅうございますか。 ● injuryの意味が前から問題になっているのですけれども,意味がなかなか分かりにくいというか,例えて言えば,テレビが発火して家が燃えたとか,そういった損害というのは入るのだと思うのですけれども,そういう趣旨がどうもはっきりしない。ただし,派生的な,結果的損害というか,そういうものは除かれるけれども,そういったテレビが何か不都合があって発火して家が燃えたような,家に対する損害ですね,そういった一次的な損害は含むということなんでしょうけれども,その辺がどうもはっきりしない。その辺をはっきりすべきではなかろうかという意見です。 ● (注)2では,とりあえず特別委員会の報告の点を記載しておるのですけれども,御意見を伺っても,損害のうち間接損害とまでは言えないのかもしれませんけれども,一定の経済的損失のようなものがどうなのかというような点の御疑問がございますので,ここもちょっともう少し……。  これはクラリファイしていくということなのかもしれませんが,ちょっと対応を考えた方がいいのかなと。(注)の2は,単に注記しただけでございますので,もう少し対応ぶりを考えた方がいいのかなと思います。 ● 今の○○委員からの御発言にもありましたけれども,直接損害というのと間接損害の意味がよく分からないのと,もう一つは12条の関係で知的財産権関係をどういうふうにするかという問題とも絡んでくるのですけれども,仮に12条の方で侵害訴訟が専属管轄にならないということになりますと,10条で読まれるということになるのですが,そういう知的財産権のような,損害としては逸失利益しか考えられないようなものが,これは直接損害と言うのか,派生的な経済損害と言うのか,そのあたりは議論の上でどういうお考えになっているのかが分からないということです。  それともう一つ,前回も申し上げましたけれども,知的財産権関係の場合には登録があってもなくても,これは今回のアンケートで経済団体からも指摘している団体が幾つもありますけれども,当該国での経済的な独占権,そこを離れて損害というものを観念できないのじゃないかというふうに思いますので,仮に専属管轄という形での規定ができないのであれば知的財産権関係の損害というのは,登録すべき権利であれば登録国に生ずるものとみなすとか,そういう形の条文にすることは考えられないかと。  著作権の場合でも,結局はどこの国での侵害かということで,その国での権利ということになるのだろうと思いますけれども,ただ著作権の場合には著作者人格権というか,そういう精神的な損害的なものもあるので,その場合に同じように考えられるのかという点が若干嫌な問題はあるのですが,いずれにしても原告がいるところが損害発生地だというような形での解釈ができるようだと非常に困る。特に,知財関係の場合は困ると思いますので。 ● ジュネーブの知的財産権の会合でも,その議論はあったのですけれども,多くの人たちは,知的財産権の侵害の場合にはa)とb)は多くの場合一致するだろうということで,損害のことを考えなくても行為の方を見れば一致しているはずだということを言っていました。しかし日本からは,インターネットを通じた商標とか,著作権侵害なんていうときにはあいまいじゃないかということを申しましたけれども,基本的には行為の方で特定できるということを多くの国は考えているようでした。 ● ちょっと懸念しているのは,例えばアメリカ企業が日本での特許権を持っていて,日本で侵害されたことによってもうけ損なった,その逸失利益というのは日本市場での損害ですから,日本で発生したというふうに私は考えますけれども,人によってはアメリカの本社がもうけ損なったのだからアメリカが損害発生地だというような言い方をされると,本当に困ってしまうのじゃないかと。 ● そうですね,一般的な問題として。 ● 慰謝料的な形の場合には,名誉毀損的な場合で考えると,そういう考え方も十分成り立ち得る場合がありますので。 ● 知的財産権の問題との関係では,これはまだ少し検討の余地があるように思いますが。 ● 10条の3は,3項,4項だけじゃなくて1項も含めて,全体として10条との関係を考えた方がいいということにしておいた方がいいですね。 ● そうですね。 ● 3項,4項に限らず,もともと損害の定義自体にもかかわりますので,ちょっと(注)の3はやや不十分だと思います。  基本的に受け入れることができるというのは,一定の限定は更に必要かもしれませんけれども,損害発生地と不法行為地という考え方自体は受け入れることができるということでございますので,損害の内容ですとか予見可能性の絞り方の問題についてはもう一度検討ということでございます。 ● 具体的に何を考えるかによって,かなり違ってくるのですね。  これは,どのように詰めていけばよろしいでしょう。 ● 12条との関係で,先取りして恐縮ですけれども,12条の(注)1にございますように,もちろん専属管轄にすべきかどうかという議論はあるわけですが,その考え方とは別に,国内での意見で御指摘の強い知的財産権の侵害訴訟についての特別の裁判籍という考え方,登録国の管轄を認めるという考え方を,どこまで練れるかどうか分かりませんけれども,アイデアとして考えておきたいというふうに思って(注)の1を書いておりますけれども。  ただ,それとは別に,損害の問題はもっと広い意味で経済的な派生損害を含むかどうかという議論がありますので,10条は非常に難しいというか,難問だとは思っております。ただ,少なくとも知的財産権との関係では,独立の条として考えることはできないかと,事務局としては考えております。 ● そのような方向はこれまで考えられたことがあるのでしょうか。 ● いや,ちょっと分かりません。 ● 恐らく,今までは専属管轄にすべきかどうかという御議論だけで,ジュネーブでも専属管轄説の立場の国がややふえたということのようなんですが,いずれにしろ非常に対立するところだと思います。しかし一定の妥協案として,第12条の(注)1のようなもの,これは国内の意見も当初の専属管轄説から普通裁判籍による合意管轄,応訴管轄は認めてもよいのではないかという意見が大勢を占めてきていると理解しておりますので,その意味では登録国に管轄が侵害訴訟について認められる特別裁判籍を設けるというアイデアは,かなり検討に値すると思っております。 ● 普通裁判籍の中でも,被告住所地というのは結構だと思うのですけれども,ほかの形の9条とか14条,16条などが入ってきては困るという指摘がありますが,それは確かにそのとおりだろうと思いますので,そのあたりのところは御検討いただければと思います。 ● 不法行為については,まだ詰めるべき問題があるようでございますが。 ● 第2項に関しましては,これもよく入ったなという規定なんですけれども,これも最後まで行けそうなんでしょうか。見通しはいかがでしょうか。  損害発生地を,これを管轄にしたのであれば,米独禁法違反については域外適用に基づいて外国企業,法人に対する訴訟はもう自由自在ということに対する,少なくとも相当大きな歯どめになるという規定でございますけれども,これに対するアメリカの抵抗のぐあいはどうでしょうか。 ● 予想のとおりですが,アメリカにはたくさん独禁関係だけの専門の弁護士がいて,彼らにとってはここしか関心がなくて,とても受け入れられないということを随分前から言っております。 ● このことのゆえに,条約を結局全体に承認しない,若しくは条約に加盟しないというような,ブレーク・ポイントになるような話でございましょうか。 ● 担当者としては,これではとても国内を説得できないという言い方をしております。 ● 一方では,イギリスとかドイツとか,そのほかの国は,行き過ぎた米独禁法の域外適用に対して,いわゆるそれに対する反対立法というような規定までつくっておりまして,日本は反対立法というのですか,そこまではいっていないというようなのが現状で,そういう中でやはりこの2項についても我々としては是非頑張っていただきたい。一言で言うとそういうことなのですけれども。 ● 先ほどと同じで,別にブラック・リストにする規定じゃないので,狭くするだけで,アメリカのやることまではとめないということで,アメリカが納得すればそれでよろしいのでしょうけれども。 ● ブラックではないとすると,従来どおりやって,先ほど申しましたように最近の企業の場合にはほとんどアメリカに財産がありますので,その財産を押さえておしまいということなので,アメリカの反対というのが本当に突き詰めて考えると絶対かという見極めが必要かなと思いますが。  やはり,あるということは,行き過ぎた独禁法の域外適用に対する一つの大きな抑止効として期待できますので,そういう意味ではぎりぎりの見極めをしていただきたいなと思いますけれども。 ● これもまた争点になるわけですね。  では,そういうことでよろしゅうございますか。  では,そういう方向で考えるということでしょうが,これは相手があることですから難しいかもしれません。  「信託」は,これはまだ意見照会中ということで後日に留保するということですが,「専属管轄」の点についてはいかがでございましょうか。  第1項については,日弁連の方で何かお考えでございましたね。 ● これは,もう議論でも出ているかと思いますけれども,物権に関する部分は入れておいて,賃貸借に関する部分は除いた方がいいのではなかろうかということです。  それから,あとは英米法の考え方である「in rem」という言葉が入っているのですけれども,こういうのは大陸法の国にとってはなかなか分かりにくい言葉なので,むしろ混乱を招くのを防ぐために削除した方がいいのじゃないかということです。 ● ここは,第1項については,基本的に受け入れることができるというふうに書いておりますけれども,日弁連の方の御意見にあるように,12条の1パラについて,ここは報告などを読みましても物権そのものの問題と,それから賃貸借は一種の各国の法廷地の強行法規の適用を根拠とするような書き方をしていて,やや立法の趣旨が異なるところがあるのかなと思っております。けれども,賃貸借についてどうかということについては,今まで,少なくとも我が国では議論されておりませんでしたので,もしこの点について御意見があれば伺いたいと思います。  不動産に関するものといっても,日弁連の御意見にもありますように,不動産に関する売買代金の支払いを求める訴訟とか,そういったものまで含まれるかどうかというのはかなり疑問があるところですので,その辺を審議の過程で明らかにするというのは十分考えられるかなと思いますが,賃貸借そのものについてどうかという点については,従来余り議論されていなかったと思います。 ● in remの方は,別の言い方ができるということになりましょうか。 ● これはドラフティングの話ですので,それは考えられると思います。 ● 今の,フランスの原文ではdroit reelsとなっていて,ちょっとin remとはニュアンスが違うのですね。これは,○○幹事がおっしゃるように,ドラフトの段階で調整されるだろうと思いますが。 ● 賃貸借の点は,ヨーロッパは比較的これを入れることに積極的だったと私は理解していたのですが。 ● これはブラッセル・ルガノがあるので。 ● そういう意味で,ブラッセル・ルガノで基本的に一定の適用範囲についての解釈はでき上がった上で言っておられるのかなと思うのですけれども。 ● そんなにたくさんケースがあるわけではないですね。 ● むしろ日本は,制限的に考えるようになっているのじゃないですか。何かヨーロッパの裁判所の判例か何かがあって,ドイツ人とフランス人がギリシャか何かの別荘に関して云々とか,何かそんな事件があったのじゃないですか。 ● そういうケースがありますね。 ● そういうケースがあったために,むしろブラッセル・ルガノ条約を制限的に,賃貸借の方は狭めていこうという,何かそういうふうに読んだのですが。 ● そうですね。 ● ただし書は,そういった解釈を踏まえたものだったと考えておりますけれども。  そういう意味で,12条1パラは基本的に今のヨーロッパの考え方がそのまま反映されているのじゃないかと思っておりますが。 ● ただし書の要件が,今度は変わったのじゃないでしょうか。これでブラッセルと一緒ですか。たしか,先ほど言われたようにもう少し狭くなっているのじゃないでしょうか。 ● そうすると,ブラッセル・ルガノよりも更に限定的に一定の管轄の範囲が認められているという理解になりますか。 ● でしょうね。よく覚えていませんが,たしかそうだと……。 ● 12条によりますと,専属管轄になってしまって,4条も排除されるわけですね,合意管轄も。ですから,賃貸借関係の争いというのは,むしろやはり賃借人と賃貸人との間の紛争で,非常に人的な面が大きいと思うので,合意管轄まで許さないとか,あるいは必ず不動産がある土地でやらないといけないというのは,ちょっと行き過ぎではなかろうか,そういう意見です。 ● このただし書では,やはり不十分であると。 ● そうですね。 ● これは,ブラッセル条約の方の状況をちょっと見ていただいた方がいいのかもしれませんね。もしそういうふうに制限されているということでしたら,そういうふうに日弁連のおっしゃるような形にするということについて,抵抗はないかもしれません。 ● 9月にあった小人数の会合では,ヨーロッパの方も賃貸借はなくてもよいということは言っていました。ただ,フランスは来ていませんでしたけれど。 ● では,ちょっとその辺は考えていただいて,2項の法人の問題ですが,これは既に問題があって削除するということも差し支えないというふうになっておりますが。  これは,法人の従属法の決定基準が決まらないということですね。 ● はい。そこは国によって統一できていないので,そうすると専属管轄が複数出てきたりすることになって困ると。 ● この点に関しまして,日弁連の方のワーキング・グループで話していたときには,これがなくなると例の代表訴訟で,取締役にたまたま外国の人がいたりすると,外国で日本の代表訴訟が起きてしまう。そういうのは困るのじゃないかという議論が出て,代表訴訟もやはり専属管轄にすべきじゃないかと,そういう意見です。 ● 私も日弁連の会合でいろいろお伺いして,いつも違うわけではないだろうと。ですから,設立準拠法を従属法とする国から見ても,本拠地国を従属法とする国から見ても,それが一致する場合にはそこを専属管轄にすればいいではないかという御議論があって,それは有力な反対意見,要するに完全除外してしまうのじゃなくて,本拠地も設立準拠法国も一致している場合があれば,その国に代表訴訟も含めて専属管轄を持たせるということはあり得る道かなと思いますけれども。 ● 日弁連の方でお考えなのは,結局この規定は残すという方向ですね。 ● そうです。 ● 法人の従属法の問題はどのようにお考えですか。 ● 今,○○幹事がおっしゃったようなのが一つの案ですし,あるいは逆に,意見書に書いてあるように,いずれの国においても否定されてしまうとなくなってしまう,そうなると緊急管轄の規定が要るのかなと,そういう意見ですけれども。 ● 代表訴訟はどういうふうに書けばいいのでしょうね。 ● 代表訴訟は,もともと現行法でも専属管轄ですから,確かに外国で起こすということは想定しにくい。損害賠償請求だとは思いますけれども,多分政策的には専属管轄といいますか,本店所在地でふさわしいのだろうと思いますけれども。  ですから,整理すると,一つはこれは一応差し支えないということですが,削除される方向が9月の会議で示されていましたので,それならそれでいいのかなというところなんですが,むしろ維持するといいますか,削除には消極の姿勢で臨むかどうかという問題と,あとはこの場合に代表訴訟がどうかということについてどうするかという,二つの問題があると思います。代表訴訟は新しく出た問題ですので,少しこちらでも検討させていただきたいと思います。 ● この規定ぶりでは,結局無効・有効に係る問題。 ● もともと設立の無効ですとか,一定の合一確定の必要がありそうなものを前提にしているのだと思いますので,損害賠償請求である代表訴訟はどうかという議論はあり得るかと思いますけれども,ちょっとそこは検討させていただきます。 ● では,そういうことでお考えいただくということをお願いします。  3項,これはよろしゅうございますか。  問題は4項でございますが。 ● 4項は,先ほど申し上げましたように次にこの点を扱う段階で,(注)1についてと,それから2もある程度22条の方の議論にもかかわるかもしれませんが,差し当たり一定のアイデアはお示しできるようにしたいとは思っております。 ● この問題は,先ほど出た問題とも絡んでいますので,特に何か御意見ございましたら今の段階で伺っておきたいと思いますが。 ● 侵害訴訟の権利関係の効力が分かれちゃうということなんですけれども,これは既に我が国では国内訴訟でも同じ問題が出ておりますので,そのこと自体,困るということにはならない。人的範囲で絞っていけば,侵害訴訟の中で無効の抗弁を認めるということも対応はできるというふうに思いますし,理論的にも説明はできるだろうと思います。  逆に,無効の抗弁だけは別訴を起こさなければいけないという話になりますと,非常に被告からの引き延ばしに使われるということが考えられますので,これは幾つかの団体からもありますけれども,その場合には提訴期間を限定するとか,そういった手当てをしないとまずいだろうというふうに思っています。 ● この間ジュネーブであった会合では,22条のフォーラム・ノン・コンビニエンスの規定を手直しして,訴訟を一時中止をしておくということも考えられるということは,ヨーロッパの方からも言っていました。  ただしかし,それは相当時間がかかりますね,一般に無効の審判が確定するまでに。 ● 例えばドイツなどは,無効訴訟といって別の訴訟でいきなり高裁段階で起こせますので,日本に比べると早いのですが,日本の場合はまず特許庁で無効審判を起こして,その結論を待ってまた取消訴訟を東京高裁に起こして,それに対して一応理論的には上告可能になっていますので,早くても2年ぐらいかかってしまうということになります。 ● 常に訴訟をとめておいて待つべきだという規定になると,また今度は動きがとれなくなって,かえって困るということですね。 ● それもありますし,現に必要であれば侵害訴訟の中で判断する場合でも,やはりある程度時間がかかりますのでそれはしようがないのですけれども,一番困るのは,侵害訴訟で負けが見えた段階で,本国の側でそういう無効確認訴訟というようなものを起こすと。ですから侵害訴訟の関係の審理が進んで,終わりの段階で苦し紛れに起こすという形の濫用が懸念されるのじゃないかと思うのです。そういう意味では侵害訴訟の提訴があって,半年とか3か月以内に起こさなければだめですよという考え方もあるのですけれども,ただそれは被告の側にすれば,侵害訴訟で勝つつもりなのに,最初からそんなことはできるかということがあるので,なかなかそれも難しいところだろうと思いますので,ちょっと書きぶりには注意が要るなという気はしております。 ● 何か,具体的にお考えいただくことはできますか。 ● むしろ6項で,前提となる有効・無効は侵害裁判所の中で判断できるという形の方がいいのかもしれません。余り中間的な形で,無効の抗弁だけを別訴で起こすということにしますと,ちょっと手続が複雑になり過ぎますし,結局原告にも被告にも非常に手数をかけるということになりますので。 ● この点,ほかに何かございますでしょうか。  では,これも少し全体として考えていただくということにしたいと思います。  ブラケットの部分,5,6はよろしゅうございますか。 ● この点,国内の意見は先ほど申しましたように基本的にできる限り登録国,登録国を原則としつつも一定の範囲でここに書いてありますものを認めるという方向です。したがって最終的な意見としてまず専属管轄から要るかどうかという議論はあると思いますけれども,差し当たり(注)1の内容を含め,なお検討するという方向で一定のアイデアを求めるということでさせていただきたいと思います。 ● ジュネーブで専属管轄説の国が多少ふえたということですけれども,まだ全然多勢に無勢という状況なのでございましょうか。 ● ブラッセルが18のうちのイギリスが抜けていますが,17はもうそれで固まっておりますので,なかなか……。 ● それでは,時間も来ておりますので,とりあえず13条でございますが,「保全処分」。これは,基本的には受け入れるということで,(注)の問題があると。 ● 日弁連の方は受け入れないと,反対の意見を出しております。これは,従前から議論があったとおりで,保全処分というのは執行する国で出せばいいのじゃないか,保全処分というのは国によってまちまちで,どういう担保を出させるか,あるいは担保を積ませないで,単に書面というか,保証状みたいなもので出させるところもあるでしょうから,そうであればそのようなものを持ってこられても困るわけで,特に執行を求める国で保全処分をとらせるということで,原告の方に不当な不利益を強いるものでもなかろうということから,反対という意見を出しております。 ● この点につきましては,承認執行の問題はおっしゃるとおりだろうということが,日本政府の従来からのスタンスですが,裁判管轄自体を認める,国際的な保全処分を認めることはあり得るところだろうとは思われます。ただその場合に13条に置くというのはいかにも誤解を招きやすいですので,○○幹事から言われておりますように,新しい章を別のものとして立てると。要するにホワイト・リストにのっかるようなものではなくて,単なる保全処分の管轄のみを,こういうときにこの裁判所に国際的なものについても保全処分ができるという権限だけを書くというやり方は,恐らく今の日弁連の御意見とバッティングするものではないのじゃないかと思っております。 ● ほかに御意見ございませんでしたら14条でございますが,これは削除ということで。前回も大分最後の方に申しましたので削除で問題ないということで御意見いただいたわけでありますけれども,日弁連の方は必ずしも削除でなくてもいいというお考えでございますか。 ● そうですね,こういうふうに要件を絞ってやっていけば認めてもいいのじゃないかということですけれども。 ● この点につきましても,特に知的財産権の侵害訴訟の関係で14条あるいは16条がいろいろな使われ方をするのではないかという御意見もあるようですので,日弁連の御趣旨も積極的にこれがお勧めということではないのかなと思っています。基本的な方針としては消極方向ということで,一定のコンセンサスはあるのではないかと考えておりますけれども。 ● では15条,16条。  16条も削除するのが適当であるということでございますが。 ● 15条と12条の関係が分からないのですけれども。専属管轄に違反する場合には反訴が許されないという読み方だろうと思うのですが,そうであれば,そういうふうに条文上明確にしておいた方がよろしいのじゃないかと思いますけれども。 ● そうですね,ここは12条とそれから4条との関係も問題になるわけです。日本民訴のように,専属管轄には優先しないけれども合意管轄には優先するとか,いろいろなバリエーションがあり得ると思うので,御指摘のとおりの問題はあるかと思っております。  この点については必ずしもはっきりしていない点がございますので,以前議論したことはあったと思いますが,また……。 ● また改めて検討させていただくと。  16条は削除ということでございますが。少なくともグレー・エリアにとどめるのが適当であるというスタンスでございますが。--よろしゅうございますでしょうか。  時間の方が大分超過しておりまして,いろいろと御議論いただいたわけでありますが,今後もまだ機会がございますので,積み残しの問題は次回,あるいはその次に御議論いただくというふうにしたいと思います。 ● 最後に,「コメント骨子(案)」について簡単にもう一度御説明いたします。  お手元にあります「コメント骨子(案)」というのは,最初に説明いたしましたように2月に出すコメントの案でございますけれども,基本的にはコンセンサスが得られているものをⅡで書いて,それからⅢで議論のあることについては紹介するというスタンスで書かれております。Ⅱの点のコンセンサスが得られているのではないかとこちらで思っておりました点も,必ずしもそうでないような点もあるように思われますので,その場合はⅢの方で,国内の議論の紹介にとどめるということも十分考えられると思います。最初に申し上げましたように,この点については基本的にはコンセンサスが得られたところを現時点で述べるというつもりでございますので,今週中に御意見いただければ,それを踏まえたものとしてつくりたいと思います。 ● 最後に,事務当局にヘーグ国際私法会議でそのほかに行われる予定の作業等について,簡単に御報告をお願いいたします。 ● ごく簡単に。  この部会は,諮問にもありますとおり,ヘーグ国際私法会議の案件を扱っておりますので,それに関連するものとして御紹介させていただきます。  前回の小委員会のときにも御紹介申し上げましたけれども,1月15日から19日まで,証券担保の準拠法に関する作業部会が行われまして,神田教授と早川助教授に御出席いただきまして,一応条文案を作成するところまでいきました。見通し的にも大分ファースト・トラックということが現実的にあり得るような状況でございまして,今後の日程については恐らく6月の外交会議の際に議題として取り上げた上で,特別委員会等を経て採択すると。一番早い時期に採択ということになりますと,場合によってはこの外国判決の関係で予定されている2回目の外交会議,すなわち今年末,あるいは来年初めに行われることが予定されている外交会議で一緒に採択するということも視野に入っているというような状況でございます。  それから,今年の3月に子の奪取条約の運用特別委員会がございます。こちらには○○幹事の方に御出席いただく予定になっております。 ● それでは,本日は大変長時間ありがとうございました。会議はこれで終了いたします。 -了-