法制審議会 国際裁判管轄制度部会 第2回会議 議事録 第1 日 時  平成13年3月13日(火) 自 午後1時30分                       至 午後4時48分 第2 場 所  法務省第一会議室 第3 議 題 電子商取引に関する専門家会合(第2回)概要報告         「民事及び商事に関する裁判管轄及び外国判決に関する条約準備草案」に対する意見(案・その2)について 第4 議 事 (次のとおり)               議         事 ● 定刻になりましたので,始めさせていただきたいと思います。  それでは,早速本日の審議に入らせていただきたいと存じますが,その前に,本日の予定につきまして御説明申し上げたいと思います。  本日の進め方といたしましては,まず事務局の方から,前回部会が開催されました2月13日以降の本件条約草案に関する状況,並びに今後の予定について御報告があるというふうに伺っております。続きまして,2月26日から1週間行われました,本件条約草案に関する会合に出席されました○○幹事に御報告をお願いする。そしてその後に,資料13に基づいて,本件条約草案に関する意見についての検討を行うというふうに進めたいと存じております。  進行の便宜のため,○○幹事にこちらの方の席にお移りいただきたいと存じます。  それでは,2月以降の状況について,○○関係官の方から御報告をお願いいたします。 ● 私の方から,2月13日以降新しく入った予定等について,簡単に御報告いたします。  まず,6月に行われます外交会議の方ですけれども,正式に通知がございまして,日程としては6月6日から22日まで,2週間半の予定で審議を行うということになりましたが,最後の21日と22日については,一般的な事項,将来ヘーグ国際私法会議として何をするかという点についての議論を行うというふうになっておりますので,この本件条約の関係では,6日から20日まで,ほぼ丸2週間かけて審議を行うということになるかと思います。そして,その一般事項の方としましては,御案内の証券決済の準拠法の関係の議題についてを取り上げ,それについて検討が行われるものと思われます。  それから,前回にも御報告したと思いますけれども,エジンバラで更に非公式会合を開くことになっておりました。当初4月23日から25日ということで予定が入っておりましたが,今回のオタワの会合でもう1日増やす,26日まで行うというアナウンスがございました。以上でございます。 ● 政府コメントに関する状況につきまして,○○幹事の方からお願いいたします。 ● 私の方から,前回も御議論を少しいただきました政府コメントの取扱いについて説明したいと思います。  前回,御議論いただきました政府コメントの案は,その後,若干御意見いただいたところで修正をしておるわけでございますが,本日に至るまでまだ日本政府として提出をしておりません。と申しますのは,現在,ヘーグの方からの情報ですと,提出している国はスイスのみということでございまして,この後予定があるとされているのは,これも情報によりますと韓国のみのようでございます。正直なところ,ほかの条約の案件に比べますと,政府コメントを提出する国は非常に少ないというように思われるわけでございまして,恐らくその理由は,この条約の現在の準備草案についてかなり流動的な面があって,政府コメントとしても出しにくいということがあろうかと思っております。私どもといたしましても,そういった趣旨も踏まえて,現在,提出自体は控えて動向を見ているというところでございます。ただこの点は,条約の審議の現状から見ますと,ある程度提出する国が少ないこと,あるいは提出自体がおくれることというのもやむを得ないところだと考えておりますが,差し当たり今日の御議論なども踏まえまして,恐らくいろいろな意味で期限としては4月ころだと思いますので,更に情報は収集したいと思っておりますが,既定の方針に従っておよそ4月ごろに提出するということで対応したいと考えているところでございます。 ● それでは,続きまして電子商取引専門家会合につきまして,資料15に従いまして○○幹事に御報告をお願いいたします。 ● それでは,私の方から御報告申し上げます。  全体で40分ぐらいということでございますので,30分ぐらいで御報告をして,足りないところを補足,あるいは御質問いただくということにさせていただきたいと思います。  この会合は,電子取引の専門家を集めまして,パネル形式で最初2日間ほどいろいろと問題点の指摘をいただいたということですが,実質的に意味がございましたのは,後半の会合におきまして三つのワーキング・グループに分けて行った議論でございます。消費者契約,これは7条です,それから不法行為10条,6条の義務履行地管轄とactivity based juris-dictionというものを統合するという,その三つのワーキング・グループに分けまして,現在の条文の手直しをする,特に電子取引の観点から見て,それだけではないのですけれども,手直しをするということをし,具体的な成果として幾つかの文書ができてきましたので,そのことをここでは中心として御紹介したいと思います。  資料にたくさん別紙がついておりますが,消費者契約については別紙の4,それから不法行為については別紙の5,activity based jurisdiction と義務履行地管轄の統合につきましては別紙の7と,それから別紙12もその前段階のものでありますが,そちらの方が詳しいものですので,4,5,7,12という紙を使って御報告したいと思います。  今申しましたように,全体としてはそのように進められたわけでして,そのことは資料の15にそれぞれどういうことがあったということの概要は紹介されていますけれども,必ずしも前半の方はまとまりがある話ではなくて,いろいろと問題点が指摘されて,特に例えば不法行為につきましてはインターネットを通じた不法行為について,行為地はどこなのかということが特に問題としてありまして,サーバーがあるところなのか,それともキーボードをたたいたところなのかということで,損害発生地あるいは侵害発生地の方は,これはインターネットのアクセスできるところというので,それはしかし広がり過ぎるという議論はありますけれども,しかし現在の条文ではそのように,一遍にいろいろな国で侵害が起こるということについては一応の共通理解があるようですが,行為地につきましてはなかなかどこという議論がしにくいのではないか,といった議論がございました。  しかし,なかなかそういう議論があって話が進まないものですから,とにかく6月の会合でできる限りコンセンサスができるところを広げたいということから,特にデッドロックになっているようなところを取り上げて議論をするということでありました。  特にアメリカはそのことを強く言っていまして,この条約が一部アメリカの中ではもはや見通しはないといいますか,死んだというふうな認識もあるようであって,そこを6月で余り合意ができないようだと,それこそ先の見通しが立たない。ですから何とかそうならないように妥協を図っていく必要があるのじゃないかと。つまり,アメリカが言っているのはヨーロッパ側に妥協しろと言っているのだと思いますけれども,そういったことを随分,夜に何回か会合があったのですけれども,そういうところで強く言っておりました。  今の三つの点を中心に申し上げますが,ちょっと忘れそうなので,資料15の10ページ,保全処分についても幾つか議論がなされ,それから知的財産権についても若干の変化がございましたので,それを先にお話をしておきたいと思います。  保全処分については,既に議論をここでもしていただいておりますけれども,2項と3項による管轄,2項は財産所在地,3項は属地的なものならばいいというものですが,そういった規定が判決の執行とつながっていないものですから,ミックス条約においては意味がないのではないかということは,これは相当共通の理解が得られたのではないかと思います。当初,この条約はダブル条約をつくるということを建前に進んでまいりましたので,その際には書き切っておくということに意味があったわけですが,ミックス条約になった以上は,承認・執行とつながっていない条文はもはや要らないのではないかというわけであります。  そういうことで,2項,3項は削除しようということは--もちろん,みんながそう思っているというふうに必ずしも調査をしたわけではないので分かりませんけれども,その方向ではなかろうかと思います。1項は,このまま置いておいていいのではないかと。それから2項も,仮につながらなくても,どこの国でも認めるのであれば,別の章立てにしてでも置いた方がいいのじゃないかという議論がございました。  しかし,日本としては1項についても問題があるという認識があるということを特に指摘しまして,日本は23条の(b)で,判決の執行義務を負わせているところについて問題だと思っているので,もし23条(b)を削除するということになると,13条の1項についても執行とつながらなくなりますので,したがって13条は全部削除したらどうかということを申しました。それに対して,若干の国は同じような意見を持っているということを言っていたと思います。どこの国だったかというのは,直ちに分かりませんが,そこにまとめてあるところではフランス,スイスも執行まで義務づけるのは行き過ぎじゃないかということを考えているようでして--11ページのところに書いてありますけれども--ただそうは言っても,13条はやはりあった方がいいと。日本も,別に全部切り離した上で置く,13条の1項,2項を置くということについてまで反対するというわけではないのですけれども,しかし論理的には全部削除じゃないかということを議論したわけでございます。  それから,知的財産権についてでございますけれども,これはアメリカが紙を出したというのが大きなことでございまして,別紙の3であります。  アメリカは,これまで国内の議論が錯そうしていて,ポジションを明らかにしないできたわけでございますけれども,これが今年の2月23日に出されたポシション・ペーパーでございます。最初のところで,侵害訴訟についてもバリディティーに関する訴訟と切り離すことはできないと。ただし2番目のポツのところで,前提問題としてIPの問題が起こる場合には,それは専属管轄にしなくていいと。非常に分かりにくいことを書いていまして,これはアメリカの代表にも確認したのですが,少なくとも最初のポツのところはイギリスと同じポジションだということのようでございまして,もし専属管轄を置くのであれば侵害事件も専属にすると。ただアメリカは,そもそもミックス条約では専属管轄なんて条文は要らないという立場ですので,あくまでもそれは,仮に置くとすればということのようであります。  文章の方を御覧いただきますと,難しい問題が起こるところについては条約の適用範囲外にするということも示唆をしておりまして,2ページ目の一番最後のところは,このIP問題が解決できなければアメリカは条約に入らないということを言っているので,アメリカとしては重大な問題だという認識を示しております。こういう紙が出て,ただその議論はほとんど時間がございませんで,次のエジンバラにおいてもう一度議論するということになろうかと思います。  ということで,主たる話に入らせていただきたいと思います。  まずは資料別紙の4を見ていただきながら,消費者契約についてでありまして,この資料15ですと4ページ以下,(3)以下のところの議論であります。  これは,ニュージーランドの弁護士が議長をしたセッションであります。今までと違いまして三つのワーキング・グループに分かれましたので,私はactivity basedのグループに出ているので,このグループには出ていません。それはしかるべき方に出ていただいたわけですけれども,最後に全体で議論をしましたので,そこで紹介されたところは私も認識をしておりますが,あとのところは資料15の紙は出席をしていただいた方におつくりいただいたものであります。  別紙4の紙はどういう構造になっているかと申しますと,基本的には構造全体は動かしていないのですけれども,幾つかの点を書き込んで変わっているということであります。  まずは,消費者を自然人にするかどうかということについて,「ナチュラル」という言葉が括弧書きで入っています。これを反対する国はなかったのだろうと思うのですけれども,それを括弧なしで入れるところまでは踏み込んでいませんが,この法制審議会でも指摘いただいた点については問題があるということは認識されているということであります。  現在の条文では,消費者の定義といいますか,消費者が自己の営業又は専門以外の問題で契約を締結した者を消費者と言っているわけですが,それはやや分かりにくいというので,7条1項の1行目から2行目にかけてですが「concludes a contract for personal,family or household purposes 」という書き方に変えてはどうかと。これはコンセンサスができたようであります。  さらに,7条1項の後半部分に unless clause というのを入れたらどうかと。これは括弧書きでございますけれども,セルフ・アイデンティフィケーションと言われている問題でございまして,自分が消費者でないと名乗った人と取引をしたのに,実は消費者であったというときに,消費者がこの7条の管轄を使えるかというと,それは使わせないようにしようと。ただ,一切使わせないというのじゃなくて,ここにありますように,ビジネスの側が次のことを立証した場合ということで,消費者がそういう契約をしたのだということを知らなかったか,あるいは知らなかったことに合理的な理由がある場合ということだと思いますけれども,そしてもしそのことを知っていたら契約には入らなかっただろうということを立証した場合には,この7条の管轄で被告にされることはないというわけであります。これは,実際何かコンピュータを売るような場合に,あなたは消費者ですかと,直接には聞いていないようですが,その聞き方をどうするかというのは随分議論がありましたが,消費者と言われたときに,そのことがどんな効果を持つのか消費者に分かるはずがないということで--どういうふうに聞けばいいのかという議論はかなりありましたが,それはこの条文ができた後のビジネスの側が受け止めることだと思いますけれども--実際パーソナル・ユースかビジネスなのかと聞いて,ビジネス・ユースの方がやや安い価格を提示しておいて,消費者もビジネスだといって買わせるという実務があるようでございます。ある意味ではこういうことを考えると,少し安くなるというのは合理的なのかもしれませんけれども,消費者自らが消費者の利益を放棄することによって少し価格が安くなるということですけれども,そういったことまでは認めることになるだろうと思いますけれども,本来はビジネス側がだまされたというときに,それを救おうということのようであります。  2項は,現在の1項の後半部分を2項に独立させているわけでありますけれども,何が変わっているかというと,これもunless以下がついていて,そこで除かれているものは消費者が自分向けにというか,その国向けに宣伝があったことをきっかけとして外国に買い物に行くという場合もあるじゃないかという話であります。インターネットを見て--前の条文は,その国に向けられた契約があって,そして消費者が自分の国ですべての契約に必要な行為をした場合ということが入っていたわけですけれども,そうでないような場合についてはこれを除こうということだと思いますけれども。そのことをネガティブに書いているのですね。今まで,すべての行為をその国でとらなければいけないと書いていたのをひっくり返して,「AとBがあるような場合を除いて」という書き方で,AとBが他の国で契約を締結した場合を書いたということであります。  それから3項は,その国に向けられたビジネス活動ということについて,次のものを含むということで,日本から見ますと,後でactivity basedのところでも申し上げますけれども,promotion, solicitationならまだいいのですけれども「negotiation of a contract 」というのが入っていて,契約交渉をしたということもこの活動に入ると。ただこれは消費者相手で,かつ消費者の常居所で行っているのでいいかなとは思いますけれども,実はこれはac-tivity basedの方とつながっていて,一部の人たちはactivity based jurisdictionで全体をカバーできるような条文にしたいということまで考えていますので,そういう言葉遣いがとられているのかもしれません。  ただ,そうは言っても3項のbのところで,事業者側がビジネスをやっている国の消費者と契約を結ぶということを避けるために必要なリーズナブル・ステップスをとっていたことを証明した場合には,その国に向けたビジネスということはならないということで,例えばA,B,Cという国を市場として事業をしていたところ,Dという国の消費者が申し込んできたときには,Dは排除するというつもりであると。ところが,それをC国に住んでいると偽ったりして取引を申し込んだときに,それに応じてしまったような場合に,そのことはちゃんと書いてあるし,質問もしてあるし,その質問に対して消費者がうそを答えているということで,それが例えばリーズナブル・ステップスだとしますと,そういうA,B,C国にだけ市場を限るような合理的な手段をとっているのにもかかわらず,何らかの作為でD国の消費者と取引をしてしまったと。インターネットでビジネス活動をしていますと,D国で見えていることは分かっているわけですが,D国は市場としないつもりであったということがはっきり示せれば,D国での訴訟の被告にはならなくて済むということを定めているものでありまして,それは正に電子取引の業界の方の主張を取り入れたところであります。  それから,4項ですが,消費者を被告とする訴訟については,消費者の住んでいる国でのみ訴訟ができるということが,現在の3項にあるものですが,それが4項となっているわけです。そうすると何も変わっていないように見えますが,大きな変更点がございまして,「under this Convention 」という言葉が入っていまして,これを入れることによりまして,例えばビジネス側が専属的合意管轄条項を入れているような場合には,その合意管轄に基づいてビジネス側が訴訟を起こすということは禁止されないことになって,グレーになるというわけです。前の条文ですと,それ以外はできないと書いてありますので,合意管轄をしていても,消費者の常居所地国でしか訴訟ができなかったわけですが,新しい4項によって,この条約上は--ということは,要するに被告となる消費者の常居所地国で裁判をしなければホワイト・リストにはならないのですけれども,グレー・リストとして別の地で起こすことまでは禁止しないということで,これはアメリカその他,合意管轄条項の有効性を認めろと言っている国の主張を取り入れたということであります。しかし,これは大きなポリシーのチェンジだというので,従来の条文を支持する国は反対しておりますけれども,そういう変更が加えられているわけであります。  更に5項は,合意管轄を一定の場合認めるということを言っているわけです。aとbは従来からあるものだと思いますけれども,cは,本来契約を締結したときには一国内にみんないたことから条約の適用外だったところ,後になってどちらかが国を変わって,国際的な状況になってしまって,前は有効だった合意管轄が今やだめになっているというような場合を救おうということで,契約締結時に両当事者が同じ国に住んでいて,その国の管轄を認めている,かつその国の法律に反しないというような場合には,その合意管轄は認めましょうということでございます。  それから,更にdは,これは括弧もついていませんけれども,消費者が常居所を有する国の法律に従って消費者を拘束する契約ができる,合意管轄ができるという限度ではそれを認めるということであります。  さらに,25条bis というのを入れるというのが重要な点だと思われますけれども,これは判決の承認のところでもう一つ調整をしましょうという条文でありまして,例えばどういう状況かというと,実際に会議で例に挙げられていたもので申しますと,ドイツの消費者とアメリカの事業者が契約をする,アメリカの事業者の方がインターネットか何かでドイツの消費者向けに物を売るというような場合ですけれども,その契約の中に,アメリカの裁判所を専属管轄とするという合意条項があったという場合に,ドイツの消費者はドイツでも訴訟はできますということですが,しかしアメリカとしてはそういう判決は拒否できますということを書いているものであります。ドイツではその合意管轄は無効でアメリカは有効だということが前提ですけれども,そういう形でドイツから見ればアメリカで執行されないような判決をもらっても意味がない,そうであれば完全にアメリカの言い分だけとっているというふうになるわけですけれども,条文をつくった人たちによれば,ドイツで訴訟をさせないということはないという点で妥協を図っている。アメリカもドイツでの訴訟をされることには甘んじて,その上でしかし執行は拒否するような形でしか保護されないといいますか,主張は通っていないということで,痛み分けだということのようであります。  以上のように,今見ていただいてすぐに全部明快によく分かったというわけにはいかないと思います。実際アメリカが読んで,こんな複雑なことになってしまってはだめだと,これは説明できないということを言っていますが,ただつくった側からすれば,そこを何とか細い道を通るとこういうことになりますということの条文だと思います。けれども,このままいくかどうかはまだ分からないところです。  以上,消費者でちょっと時間がかかりましたが,あと二つ急いでやりたいと思います。  次は,別紙の5で,資料15ですと6ページ以下のところであります。  これは,ちょっとスタイルが違いまして,10条についてのこういう議論がありましたということを書いた紙であります。  議論としましては,冒頭に申しましたけれども,インターネット上の行為地,行為がどこで行われたのかということをローカライズするのは難しいという認識があるというわけであります。それに対して,結果発生地の方は--結果発生地といいますか,injury,侵害の発生地につきましては,専ら問題はエコノミック・ロスをどう考えるかということで,これは条文上は入っていないということを繰り返し言われておりますけれども,しかしそこは必ずしも一義的に明確ではないものですから,もっと明確にしたらいいじゃないかという議論があったということが紹介されております。  それと関連して,10条2項において,独禁法上の請求等について10条1項bの適用を除外するということでありますが,これはアメリカは,とにかくこれが入っていると絶対だめだということを言っていて,方向としてはどうなったかといいますと,独禁訴訟,反トラスト法の問題は条約の適用外とするということで,条文で言いますと1条2項に書き込むということであります。ただ,それ以外のことも10条2項には書いているわけですけれども,そのことをこの形で書くか,あるいはさっき申しました10条1項bのinjuryの説明のところで,エコノミック・ロスは含まないということをはっきり書くか,二通りのやり方があるかと思いますけれども,少なくとも独禁法の問題については適用外とするということで大方の支持を得たようであります。  それから,10条3項についてはこの別紙5のペーパーには書いていないのですが,日本としてはこれは問題と考えているという指摘を行い,イギリスもそうだということで,要するに損害のおそれがあるということで訴訟されることが歯どめがきかなくなるのではないか,どこの国でも訴訟が起こされてしまうおそれがあるのじゃないかということを言ったわけです。もちろん,訴えの利益とかほかの訴訟要件で訴訟自体は却下されるということはあろうかと思いますけれども,それはしかし,すべて各国の訴訟法にゆだねてしまうということになりますので,そのような管轄をホワイト・リストに置くということはいかがなものかということであります。  それに反対する意見はもちろんありまして,ドイツを始めとして,インターネットの世界では差止めこそが大切で,この3項は是非必要だと。かつ,3項がなくなると,実は13条1項に影響するというのですね。13条1項は本案管轄地で保全処分ができると書いてあるので,しかもそれは,ホワイト・リストの本案管轄でなければいけないので,インターネットで何か侵害されそうな場合にとめるというときに,10条3項の本案管轄があるということで13条1項の保全処分をとると。しかも,これは23条,日本は反対していますが23条のbで世界中で執行できるということですから,それでとめられると。これが大切なんだという主張もございまして,直ちに3項削除ということにはならないだろうと思います。  それから,各国とも大きな関心を持ったのは10条4項でありまして,これはヨーロッパのブラッセル条約の解釈として出てきたシェビル判決というものを取り入れ,かつそれを少し修正したものであるわけですけれども,ブラッセル規則にもない規定でありますし,こんなことまで書く必要はないのではないかと。かつ,こういう例えば訴訟類型として各国での訴訟をまとめてやる,特に被告が,被害をこうむった当事者が常居所を有する場合に,世界中の損害について請求できるということを認めていない国にとっては,こういう書き方が,ネガティブに書いてあるのでそこまで義務になるかどうか私も定かではありませんが,仮に義務となるとすれば,そういう訴訟類型まで認めなければいけなくなるとするのは問題だということで,全体の雲行きとしては4項は削除ではないかという印象を私は受けました。  それから最後,activity basedの管轄につきましての説明ですが,別紙の7と別紙の12であります。実は,これは時間的には別紙12の方がワーキング・グループで最後の瞬間に出てきたものです。  これは,議長が一生懸命--議長はスイスのブハーという教授ですが,昼休みも食事もしないでタイプを打って持ってきたわけです。にもかかわらず,アメリカが紙を出してきました。非常に短いことを書いている紙,別紙13を出してきて,それまでずっと議論していたことは何を聞いていたのだというような紙なんですが,それを出してきました。全体会議に出さなければいけないという直前に出してきた紙なものですから,アメリカが主張しただけでは多分まとまらなかったと思いますけれども,EUの代表がこれを入れようと,かつ,別紙12は引っ込めて,従来の6条とこの別紙13をジョイントした紙にしろということを言いました。資料15の説明ではEUにとっても6条のままの方がいいということではないかということですが,それだけなのか,あるいはアメリカを怒らせないことがとりあえずは大切だと考えたのか,それはよく分かりませんが,とにかくそうやってできたのが別紙7であります。  ですから,そういう意味では別紙7は非常に簡単な紙で,1項が6条のまま,2項がアメリカの主張どおりということです。しかしこれはorがいろいろくっついていまして,組合せが非常に複雑になっています。ですから,条文としては余り出来はよくないのじゃないかと思いますけれども,かつ日本だけじゃなくてオーストラリアなんかも言っていましたが,ネゴシエーションをしている地,契約のネゴシエーションをした地をもって管轄地とするということについては管轄原因として不十分なのじゃないか,ヨーロッパの企業と日本の企業がアメリカで契約の交渉をしたからといって,アメリカで訴えられるというのはどんなものかということを言ったのですが,活動としては同じだということを強く主張する国もあり,これが入った条文になっております。  それから,電子取引の関係で重要なのは別紙7の3項で,その国で契約の締結,あるいは履行を避けるような合理的なステップをとった場合には,これを適用しないということで,電子取引において,これは消費者相手ではございませんけれども,一定の合理的な手段をとっているということをもってこの管轄を避けることができるようにという条文になっているわけであります。  これは,もっと分かりやすくは,別紙12のa)の最後のところで,こちらの方は,この規則はエレクトロニック・フォームのインフォメーションの提供とか,オンラインの無体物のデリバリーには適用しないということですが,電子取引については6条の義務履行地管轄は全部除くという考え方が,電子取引の関係者はその方がましだということのようでありますし,条約としても適用範囲が狭くなるだけのことですので,それでいいのじゃないかということであります。  それから,日本で随分議論しておりましたpayment obligation,支払義務については,別紙7ではもちろんそういうことは分からない状況ですが,別紙12を御覧いただきますと,a)のVariant 3のところで「except the payment obligation 」というのが入っております。ただしこれは,代金支払いの場合の支払地は含まないというわけで,消費貸借契約についてはどうやら含むという趣旨のことになっていまして,日本としてはこの「except the payment obligation 」フルストップの方がいいのじゃないかということは申しましたけれども,多分オーストラリアも同じことを言ったと思いますが--違うかもしれませんが,少なくともそこは問題があるということは議論がされているわけです。ただアメリカは,金銭の支払いも一緒だと,どこも何も変わらないということでありまして,それを取り除くことについては反対のようでありました。  以上でありますが,ちょっと1点だけ,この別紙12の3行目の後ろから4文字目と3文字目で「in which」とありますが,これは「if」でないと話が通じませんので,「if」に直していただければと思います。これは前の条文を直し忘れているところであります。 ● 大変複雑な問題が出てまいりましたけれども,ただいまの御報告につきまして,何か補足いただくことはございますか。  なければ,どうぞ御議論いただきたいと思います。 ● 消費者契約のところですが,従来からEUとアメリカの対立という構図のようなものがあるのかなと思っていたのですけれども,今回の妥協案というか,折衷的な考え方についてのEUの姿勢というのは,いかがでございますか。 ● 大きなポリシーの話は直ちには分からないのですけれども,大きな対立があったのは合意管轄についてだけですね。前半部分のactivity basedはアメリカも言っていて,それについては非常にいいと言っていたものですから,合意管轄についてEU全体としてどうだったか分かりませんが,もちろんヨーロッパの国からはこれじゃ何もならないという反発はございました。アメリカの言うことだけを取り入れて,ヨーロッパの方の言うことは聞いていないというふうに映っているようであります。 ● もう一つ,最初にお話のございました知的財産関係のアメリカのスタンスというのは,ちょっといま一つよく分からなかったものですから,もう少し何か付け加えてお話を……。 ● この紙については一言も説明はされませんでした。ただ配られただけなんですけれども。特に聞きにいって,イギリスと一緒かと言ったら一緒だと言っていたので。全然そう読めないところがあるのですけれども,そうだと言っていました。 ● なかなか理解するのも骨が折れますね。 ● 別紙4のこの案というのは,これはどこの代表が出したというか,これは最終的なもの。 ● はい,ワーキング・グループでつくって,それを全体の会合に出して,説明があり,かつ批判もあったという紙であります。とりあえずはワーキング・グループの中では,いろいろかぎ括弧つきではありますけれどもまとまったということだと。  前から何とかしようと言っているニュージーランドの弁護士さんがつくったものでございます。 ● 今後の私どもの方の議論の進め方にもかかわるところですが,この後,またエジンバラで非公式会合あって,そこでの議論は今回のオタワでの会議の出されたペーパーがもとになって議論されていくと理解してよろしいのですか。次の法制審の議論としても,このペーパーをある程度素材として議論をした方がよろしいかどうかという点はいかがでしょうか。 ● そのためにつくっているというふうに認識しています。とにかく何らかの紙がないと,6月の会合はうまくいかないだろうということで,それまでにできる限り紙をつくってということだと思います。 ● そうすると,エジンバラではまた新たなる問題点というのも。 ● エジンバラの会合のアジェンダはまだ来ていません。今日,概要だけEメールで来ていましたけれども,アジェンダはもう少ししてから送るということです。しかし会議場にはワーキング・グループの部屋は幾つかとってあると言っていましたし,事前とか途中の夜の食事の会なんかでも,とにかく分けて,少人数にしないと話がまとまらないと。全体でやったのではいつまでたっても話ができないので,少人数にして紙をつくっていきましょうということです。  今日は報告しませんでしたけれども,彼らはブラッセル規則との関係が大問題なので,それを何とかしたいと。もしかすると,彼らにとってはそれが最大の問題かもしれません。 ● 付随的な問題かもしれないのですけれども,不法行為というか,あるいは消費者の問題とも絡むと思うのですけれども,先ほどのお話で,損害のおそれというところですね。  それは多くの国がそれでは広がり過ぎるので問題だと,しかしドイツが重要な規定であるというようなことを言ったという御報告だったと思いますけれども,これは想像するに,この場合特に差止めのような場合を考えると,不法行為と言っても,例えば不当な宣伝とかいうような問題じゃないかと思うのですね。そうすると,それに関してEUでは,最近のEU指令を見ますとかなりそういう国境を越えるような宣伝行為などの差止めという問題について,各国で協調すべきであるという指令が出ているわけで,何かそういうことを背景にして論じているのかなという感じがしたのですが,今の問題はドイツだけが指摘していることなのでしょうか。 ● ドイツだけかどうかはちょっと分かりません。ドイツが随分熱心に言っていたという印象がありますけれども。  私はその指令というのは知らないのですが,インターネット関係。 ● 特にインターネットということではないのですが,そういう消費者の利益を保護するための差止訴訟について,特に団体訴権などを前提としての指令なんですけれども,そういうものについて各国のハーモナイゼーションが必要だという指令が98年あたりに出ているのですね。そういうこととも関連がかなりあるのではないかという気がしたのですけれども。 ● 私も,日本でも管轄を認めると思うのですけれども,しかし条約でホワイト・リストに入れるかどうかという話と,そこまでやってしまうとちょっと心配じゃないかということなんですが。 ● いや,私は別にその御意見に反対だという趣旨ではございません。そういう背景があるのではないかということです。 ● 全体像が分からないのに,確認みたいなことばかり言いますが,別紙4の25の2の最後のところの2行目に,〔entered into before the dispute arose 〕という括弧書きがありますが,この括弧書きは単なる明確性をねらったものなので,もし括弧書きがないとしても要するに紛争発生後の合意という意味にとってしまうのだという趣旨じゃないのですね,これは。恐らくさっきの説明では。そうなってしまうのですか。 ● いや,紛争後の合意であれば当然いいのですね,5項で。 ● 紛争後に指定された裁判所以外の裁判所の判決。 ● ですから,そこが実際に問題になるという趣旨だと思いますけれども。  要するに,5項のaで,紛争発生後の合意管轄は,これはホワイトですから,それが承認されるのは当たり前なので,その前に締結されたものが問題だということを明確にしようかどうかということ。 ● そうですね,分かりました。 ● 確認ですけれども,今までこの99年10月の条約案,これをベースに日弁連なんかも意見書を出してきているわけですけれども,今おっしゃった消費者契約とか不法行為とか義務履行地,それはもう99年10月の案より離れちゃって,今日お配りいただいたようなもの,それが今討議の対象になっているということでいいのでしょうか。 ● 非公式会合は,すべての国に招待状を出していますが,すべての国が来ているわけではないのですね。韓国もオタワに来ていなかったのですけれども,そういうところから見ますと,外交会議でこんな紙が出てきますと,何だと言うと思うのですね。ですから,この紙の出し方をどうするかは,どこかの国の意見として,あるいは複数の国がサインして,共同提案という形で出していくのだろうと思いますけれども,あくまでも建前は99年10月の案であることは間違いありません。しかし実質的にはそれではうまくいかないと,特に6条なんて絶対うまくいかないという認識が一般的なので,条文を離れていくというのはもはやとめられないといいますか,そういう状況にあるだろうと思います。 ● よろしゅうございますでしょうか。クラリファイしなければいけないことが大分ありそうでございますけれども。 ● 先ほどの,○○委員の方からの御指摘にもかかわるところですが,もちろん条約準備草案が現時点のヘーグ国際私法会議としての一定の案としては存在しているわけですので,それがベースになることは間違いないのですが,今の○○幹事の御報告にありましたように,今挙がっているような案が,妥協案としての候補として非常に有力なものとして今後も最終的にエジンバラの会議を経た上で出てくる可能性は強いわけですので,次回はこれにかかわる点について議論しておいた方がいいのかなと思います。 ● 恐らく,出てきたときにどのような対応をしていいかということを考えておく必要はあろうかと思います。  それでは,まだ内容についておありになるかと思いますけれども,時間の方もございますので,とりあえず次に進ませていただきたいと存じます。 ● その前に,一応別紙のそれぞれについて,もしどこの国の案かというのを一つ一つおっしゃっていただければと思いますが。 ● それでは,私の方から説明させていただきます。  別紙の1はドラフト・アジェンダで,事務局作成でございます。  別紙の2でございますけれども,これも事務局が作成したこのアジェンダについていたアネックスということになります。  別紙3は,御説明がありましたけれどもアメリカ作成のインテリム・ポジションでございます。  別紙4は,消費者契約に関するワーキング・グループの議長であるゴダードが起案したそのグループのプレナリーへの報告ということになります。  別紙5は,不法行為のグループのグループとしての全体会議への報告でございまして,議長はドイツのシュルツでございます。  別紙6は,その全体会議の場でこの不法行為に関する意見として,オーストラリアの代表が出したものでございます。  別紙7は,activity based jurisdiction の検討を行ったワーキング・グループの全体会議への報告。  別紙8が,全体会議において,この点についてオーストラリアが出したペーパー。  別紙9以下は,activity basedのワーキング・グループの中で出てきたペーパーでございまして,別紙9はそのワーキング・グループの議長であったスイスのブハー教授の作成。  別紙10が,これに対する答えということで,アメリカの代表であるブランドがつくったもの。  別紙11は,イギリスのボーモント教授がつくったもの。  別紙12は,ブハーがつくったものであって,別紙13はアメリカ代表がつくったものでございます。  別紙14は,事務局が作成したものでございます。  以上です。 ● そういうことでございますので,次回ぐらいにもう少しまとめた形で出せれば御議論いただくということになろうかと思います。  それでは,本日の本来のテーマであります条約草案に対する意見でございますが,資料13でございます。これは,前回御審議いただきましたものの後半部分ということになっております。  資料13の「意見(案)」につきまして御議論いただくことになるわけでありますが,進め方といたしましては,まず事務局の方から全体を通して説明をしていただいて,これに対する質疑を行うという形で審議を進めたいと存じますが,それでよろしゅうございますか。  それでは,資料13につきまして御説明をお願いいたします。 ● それでは,私の方から資料13に基づきまして簡単に説明したいと思います。  ただいま御報告がありましたように,オタワでの会議というのでかなり流動的な部分が出てまいりますが,今回御議論いただきます17条以降は,比較的そういった面での議論が少ないところでございますので,今回は各条ごとに,特に注で問題点を幾つか指摘しておりますので,ここのあたりを中心にして御議論いただければと思います。  それでは,まず17条からですが,17条については基本的に受入れ可能ということでございますが,ただ本条の趣旨が,管轄権の行使が禁止されている場合を除く,除いて国内法に基づいて管轄を認めることができるものとするという趣旨に,果たして規定ぶりとして即しているのか,とりわけ13条の2パラ,3パラのように,管轄権の行使を禁止しているというふうに読めないものまでも含めるような書きぶりでいいのかという点は,これは以前も指摘したところでございますが,そういう問題があるということでございます。ただ,特に13条がどうなるかということにかかわるものでございますので,そちらとの関係がある問題でございます。  それから,18条は,禁止される管轄原因ということで,この条約にとっても非常に重要な内容を持つものでございます。18条第1項及び第2項については受入れ可能,特に第2項(e)については,基本的にはこれを削除するという方向での議論が今後も行われるということが予想されるわけですが,先ほど申しましたように,差し当たり現時点での案としては,この条約準備草案ということでございますので,第2項(e)について削除すべきとする提案に対しては,現時点では反対するという考え方でございます。第3項については,原告が締約国に常居所を有する場合に限定するということで,この第3項はいわゆる人権訴訟についてもいろいろと御議論のあるところでございますが,少なくとも第3項については一定の限定として,原告が締約国に常居所を有する場合に限るということではいかがかということでございます。これは,経団連,経営法友会等の意見に出てきているところでございまして,第3項についてもかなりの問題意識が示されているところであります。  (注)1は,第1項の取扱いということですが,第1項は従来からの説明ですと,新たな過剰管轄の規定が設けられた場合のための一般的な規定として設けられているというふうに考えられているわけですが,アメリカはブラック・エリアではなくてブラック・リストにすべきであるという観点から,第1項の削除を提案する可能性があるわけでございまして,これに対する対応について検討する必要があるということであります。一定の過剰管轄への押さえとして置いておく意味があろうかと思われますが,この点についても御議論いただければと思います。  それから,緊急管轄の規定を設けるものとするかどうかについて検討する必要があるということで,これも実質的な関連性がない場合であっても,平成8年6月24日の最高裁判例のように,とにかくその国でないと訴えを提起できないというような,裁判の拒否になるような事情があった場合には,管轄を認めることができるかどうかという議論でございます。ただ,これにつきましては,あいまいな基準で管轄を認めるということに対する一定の危惧というのも示されているところでございます。  (注)の3は,第2項の禁止される管轄原因に,「当該国における被告の子会社又は関連会社の存在」を追加すべきかどうかについて検討する必要があるということで,こちらは日弁連の提案に係るところでございます。これもactivity basedの管轄についての議論の一つとして,最終的にブラック・リストとしてこういったものを掲げておくという意味は十分考えられるわけでございますので,9条,activity basedの管轄との関係で御議論いただければと思っております。  それから19条。こちらは基本的に受入れ可能と考えておりますが,各国の国内法制との整合性の問題もあるので,必ずしも置いておかなければならない条文ということではなくて,削除することも差し支えないという考え方を示しております。この点は,我が国は管轄については職権調査事項ということなので特段問題ございませんが,例えばオーストラリア,ニュージーランド,アメリカなどは,国内法との関係で,こういった条文について反対をしているところでございますので,必ずなければならないという条文ではないだろうということでございます。  20条につきましても,これも同様の手続的な規定でございますが,20条1項については受入れ可能,20条2項,3項につきましてもブラケットを外しても特段差し支えないだろうというところでございます。3項につきまして,保全処分のことが記載されておりますが,これも最終的には13条の帰すうにかかわるところでございます。ただ,保全処分に関する手続の在り方としては,第1項の例外としても特段問題ないだろうという趣旨でございます。  それから,21条は訴訟競合で,こちらもかなり議論のあったところですが,受入れ可能という考え方でございます。従来からありますように,「予想される場合」というのはどのような場合か,それから「合理的な期間」とはどの程度の期間かということについて,一定のクラリファイをしておく必要があるかなというところでございます。  (注)1は,従前第4条で指摘しましたように,却下あるいは中止というものと対応するのかどうかというところでございますが,これはいずれにしても国内法の問題でございます。  (注)2は,いわば3パラの場合の事後的な問題については特段規定されておらないわけですが,恐らくこうなるのではないかということでございます。  それから,第22条は,管轄権を行使しない例外的な状況ということで,この条項自体,いわゆるフォーラム・ノン・コンビニエンスの問題については受入れ可能であるということでございます。  この(注)は,従来から御議論のございます知的財産権の侵害訴訟について,登録国の専属管轄という立場に立たない場合,その場合には登録国が必ず審理をするというわけではございませんので,特許の侵害訴訟で例えば権利無効の主張が出た場合に,どのように取り扱うかということが問題になるわけでございます。経済界からの御提案では,権利無効の主張について,登録国が判断することができるような仕組みをつくってはどうかということも指摘がございまして,仮にそういったものを考えるとすると,一つのヒントになるのは22条のように,一方の裁判所が--一方といいますか,侵害訴訟の提起された裁判所が判断を差し控えて,その間,当事者が登録国の方でこの問題について争う手続を開始するということを命ずるという方法が考えられるわけでございますので,そういった関連も含めて,この条文について考えておく必要があるだろうということでございます。ただ,仮にそういった条項を考えるとしても,22条とは恐らく趣旨も異なるところでございますので,知的財産権の侵害訴訟の方の条文を新たに設けるというのが一つの考え方ではないかと思います。  それから,23条,これは第3章からでございますが,23条につきましては,a)については受入れ可能,保全処分に関するb)については従来どおり基本的に削除するということでございます。この点については,先ほど御報告もございましたように,幸いこの方向に進みつつあるようでございます。  24条は,第3章の適用から除外される判決ということで,この条項は受入れ可能ということでございます。  25条の承認又は執行される判決につきましても,これも従来からの指摘のあるところでございます。25条については,上訴の可能な判決というのは上訴審の判断によって覆される可能性があるので承認・執行の対象から除外すべきであるという,従来からのスタンスでございます。  それから,この提案が認められない場合には,第4項の延期可能ということを根拠にして,上訴の可能な判決を承認・執行の対象としない現在の自動承認の国内法制を維持することができるかどうかについて,確認しておくということを指摘しております。  (注)は,1の提案の具体的な内容として考えられるものの指摘でございます。  26条は,承認又は執行されない判決ということでございますが,こちらは受入れ可能と考えております。  27条以下は,若干手続的な内容がございますが,27条については基本的に受け入れることはできる。ただ,承認・執行を求められた裁判所が,判決をした裁判所の事実認定に拘束されるということを規定しておりますので,この場合の実務上の問題点については一応検討しておく必要があるだろうということでございます。特に,例えば判決において事実認定が全く記載されていないような場合,どのようなことになるのかということも差し当たり検討の対象になろうかと思っております。  それから,28条は,これも従来からの御議論のあったところでございます。送達が被告の所在する国の手続に反する場合に,承認・執行を拒絶することができるかという点は,明確にはされておりません。そこで,被告が所在する国の主権を害するような方法による送達等については拒絶事由とすべきであるという考え方から,「送達が実施国法に反して行われた場合」を拒絶事由として加えるべきであるという,これはかねてからの日本の提案の説でございます。  その他については,基本的に受け入れることができると考えられるということでございます。  (注)は,日弁連の提案にあったところでございますが,21条との関連でこのようになると思われるわけですが,この点について指摘した内容でございます。  それから,29条は手続的な提出文書の問題でございまして,基本的に受入れ可能ということでございますが,翻訳文の提出については,日弁連の方からは,常に権限のある者による翻訳文の提出を要求するかどうかという指摘がございます。ただこの点につきましては,仲裁のニューヨーク条約ですとか民訴条約は,一定の書面を要求しているわけで,ラポラトゥールの報告書でも,これらと同じように,例えば民訴条約のような程度までは求めないということは述べているわけですが,一定の資格が必要というのが原文の趣旨だと思われますので,そういった観点から,日弁連の御提案のようなことでよいのかどうかという点も検討の対象になろうかと思っております。  30条は,受入れ可能ということでございます。  それから,31条の手続の費用については,これは従来御異論のなかったところですが,そもそもこの条文が何を対象としているのか,この条文自体は承認・執行のところに入っておりますので,判決の承認・執行手続における手続費用のみを対象としているのかどうかということの確認が必要だと思われることと,仮にそうだとしても,今日参考資料として配布しております民訴条約,あるいは国際援助条約との関係で見ますと,民訴条約,国際援助条約,いずれもこういった条項とともに,執行を無償で行うということの認許を可能とするということをセットで規定しております。現在のこの外国判決の条約についてはそのような条項がないということでございますので,その点についてどう考えるのかということは,これは国内法制の整備との関係でも十分検討しておく必要があろうかと思われますので,その点を指摘しております。  法律扶助については,現在の我が国の法律扶助制度が民事法律扶助法のもとで,日本国民と我が国に住所を有し適法に在留する者に適用を限定しており,これとの調整の問題がございますので,引き続き検討させていただきたいと考えております。  それから33条,34条については受入れ可能と考えております。  35条も,この条文自体は相互主義のもとで公正証書の承認・執行をすることの宣言を認めるという考え方でございますので,基本的には受入れ可能であるということでございます。第3項にはブラケットがございますが,公正証書を和解と同視するという趣旨で,準用することが可能かどうかという点が御議論として考えられるところでございます。  それから,和解につきましては,我が国の裁判上の和解における和解調書の作成が,この条文の「認可」に当たるということを確認しておく必要があるだろうということでございます。  (注)は,その他一定の当事者間での合意に基づく解決,あるいは請求の認諾といったものがこの条項に含まれるかどうかということについての検討の必要性を指摘したものでございます。  それから,第4章以下は一般規定でございまして,37条についてはこれも非常に大きな御議論のあるところですが,正直なところ,ブラッセル規則との関係で更に検討が行われると思われますので,それを待つしかないかなと考えております。  それから,38条から40条までは解釈の統一に関する規定で,この点も38条第1項については従来から例もございますし,比較的問題は少ないというふうに思われるわけで受入れ可能というふうにしておりますが,こういった国際的な解釈適用の統一性確保の必要性はもとより認められるわけですが,果たしてそのための方法として,38条2項,39条,40条,特に専門家委員会が条約の適用や解釈について,当事国や裁判所に勧告するという方法を規定しているわけでございますので,こういった方法が適当かどうかということについての検討は必要かと思われますので,その点を指摘したものでございます。  資料の内容は以上のとおりでございます。 ● ただいまの御報告につきまして,全体について何か御質問ございますでしょうか。  もしないようでございましたら,ここで休憩を入れさせていただきまして,3時10分から再開させていただきます。その後は,前回のように逐条ではございませんで,一定の固まりに分けまして御議論をいただきたいと考えております。  それでは休憩いたします。           (休     憩) ● 再開させていただきたいと存じます。  先ほど,資料13に基づきまして御説明をいただきました条文の数も大変多うございますので,必ずしも逐条ということではございませんで,幾つかのブロックに分けて御議論いただきたいと存じます。  第1番目に,17条,18条を一まとめにし,第2番目に19条,20条,それから3番目に21条,22条,4番目に23条から28条,5番目に29条以下というようなぐあいに分けまして御審議いただきたいと思います。  それでは,17条,18条につきましてお願いいたします。 ● 18条2項のeですが,これがどうなるか一つポイントだと思うのですが,削除しないという方針が基本的だと。私は,基本的にはそれでいいと思うのですが,ただ今回のオタワの議論でいきますと,ただし書の書き方自身が,例えば別紙のアメリカの13を入れたり,あるいはほかの案が出てくると大分変わってくるのじゃないかと思うのですが。そこらあたりも考えておく必要があると思うのですが,それはいかがでしょうか。ただし書の方ですね。 ● どういうふうにアメリカが言っているかということをまず御紹介しますと,オタワでの最初の日の夕食会で,activity basedの議論をしろとアメリカが言ったのに対して,18条2項eをどうするつもりかということについて,私は言いませんでしたけれども,ほかのヨーロッパの人がはっきり言えということで迫りまして,アメリカのその代表は,オフィシャルな立場として,activity based jurisdiction が活動に直接関係する場合について,ホワイト・リストに載せられるのであれば18条2項eは飲むと。そのセットでならば議会にアメリカの中で説明できると。どちらかが欠けるというか,activity basedの方が十分でなければ,eは削ってもらわなければいけないと言っています。  じゃ,activity basedの方の妥協案をつくりましょうという話になりまして,その切り分けは,18条2項eは活動に直接関係する場合を除くということで,アメリカの案といいますか,activity based自身はそれが入っていますね。 ● そういう形でeのところが変わったということになるわけですか。ただし書のところで。 ● ただし書は,ですからこのまま。 ● このままでいいのですか。 ● 当該活動と関係しない訴えについて起こすことがいけないと言っているわけですので。  ただ,日本のマレーシア航空はこれじゃないかということがあるので,それは別に日本は判例を変えてもいいと思ってるのであれば問題ないのですが。 ● 関連はしていませんね。 ● していません。しかし,あの判決を高く評価するアメリカ人もいるので。  もう1点,18条1項はそれで構わないということですが,日本の客観的併合による管轄というのが,この18条1項の締約国と紛争との間に実質的な関係がない場合ということで,客観的併合される側の方ですね,本来管轄がないもの,そういう紛争と日本との間の実質的な関係がないとされますと,これはブラックだということになってしまうのですが。ですから,私はブラック・リストにしておいた方が安全かなと思うのですけれども。ですから,まずはその懸念があるかどうかを検討する必要があるのじゃないかなと思うのですけれども,いかがでしょうか。 ● この点は,従来から客観的併合についてどう取り扱うかということが,特に不法行為との関係では議論されていたわけですが,今まで余り表に出さないといいますか,そういう形で進めてきていましたので,先生の御指摘のようにもう一つのあらわれ方とすると,18条の1パラのようなものが残っているとシャットアウトされる可能性をつくるわけですので,それを逆にどうするかという目で1パラを見ていただく必要はあるかもしれません。 ● ただ,客観的併合はちょっと条文の書き方が非常に緩やかで,ほとんど同種の訴えとか,そういうものであればみんな認めるという形になっていまして,実務的には,例えば追加的に訴えの変更の追加というような形では関連性がないから許されないというようなものでも,最初から持ってくればいいのかというような形になってしまうのですよ。そういう意味では,後からの追加的併合のときには許されないようなものを,最初から持ってくればいいというように今の条文は読めるのですけれども,そういうことが国内ならともかく,国際管轄でそこまで保護しなくてもいいのじゃないかというふうに……。  訴えを起こす側は必要かもしれませんけれども,我々受ける側としては,これまで持ってこなくてもという感じはするのですけれども。無理に,客観的併合を認めないと保護に欠けますよとまで言わなくてもいいのじゃないかなという感覚は持っているのですけれども。 ● それは,特段の事情論か何かで処理できるということ。 ● もともと全く関連性がなくて,我が国で言う客観的併合の同種の訴えとか,そういうことでしか関連が束ねられないようなものを,一緒に訴えることができるというふうに無理にしなくても,そう保護に欠けることにはならないし,そういうものまで持ってこられると,かえって裁判所としても困る場合もあるのじゃないかなという感じがするのですけれども。 ● この18条1項のようなところで見てみると,この条約では日本として何を求めるのかということによると思うのですね。18条の1パラがあることによって,特定の国の過剰管轄を抑える最終的な安全弁として置いておくというふうに考えれば,それは逆に,日本が今のお話にありましたように一定の緩い要件で実質的な関連性がなくても認めるようなものはある意味では捨てる覚悟もせざるを得ないのかもしれませんから,そこの政策の決め方だとは思うのですけれども。 ● そうすると,この条約で今議論になっているような方向でも構わないということになりますか。 ● いや,そこはもちろん御議論いただきたいところですけれども,実務上どうしても客観的併合を使えないと,国際的な訴訟で不便が生ずるというのであれば,それは2パラで一定のリストの答えがあるわけですから,それで我慢するという考え方ももちろんあるでしょうし,そこはちょっと,正に政策かなという気もします。 ● 私ども,当事者ではないので推測になってしまうのですけれども,我々が裁判所から見ている感じでは,日本でそういう緩い形で一緒に審理をできなくなるという不利益よりは,むしろそれを入れることによって外国でそれまで一緒にされちゃう,被告になってしまう不利益の方が避けるべき比重が大きいのじゃないかという気がしますので,むしろそこは置いておいて,制限した方がいいのじゃないかという感じはいたしますけれども。  そこは,当事者の委員の方が詳しいだろうと思いますけれども。 ● ○○委員,何か御意見ございますか。 ● 起こす方としても,やはりそういう原則的には被告の方の利益のこともありますから,私は○○委員の意見に賛成なんですけれども。やはり余り広く客観的併合を認めるのは,ちょっとどうかという感じはしますね。 ● 日弁連の御意見の一番最後,45ページからのところで「その他の問題点」ということで,関連事件の客観的併合による管轄を認めることの当否ということで議論されています。これについては広く管轄原因を認めることが必ずしも我が国にとって利益となるわけではないということと,客観的併合を認める国は必ずしも多くないということで,規定を設けることを強く主張するまでの理由はないという御意見ですね。そういう意味で,ここを余り強く意識して1パラのようなものを落とすかどうかというのは,ちょっとまた別のといいますか,そこまでは考えなくてもいいということなのかもしれません。 ● 私が申し上げたのは,従来,国際民訴でいろいろ書かれているものの中では,客観的併合がいけないという議論はなくて,主観的併合はまずいじゃないかという議論はございますけれども,客観的併合としてはしょせん日本まで来なければいけないのだから,ただ関連するようなら一緒にやればいいじゃないかということであったわけなものですから。  そこを例えば一番明確にするためには,そうなるかどうか分かりませんけれども,日本が仮にこの条約を批准するときに,国内のグレー・エリアになってしまいますから,グレー・エリアを書き切るという国内法をつくるとした場合,そのときに客観的併合の管轄は書かないということでいいのかどうかですけれども。そこまでの決断ができれば,何ら問題はない。それは,日本は非常にヨーロッパ的ですということですね。請求と法廷地の関係を重視していますと。  従来は必ずしもそうではなくて,客観的併合の規定があるものですから,最高裁のマレーシア航空判決以降の言い方もアメリカ的ですね。被告との関係で管轄を言っているので,請求の関係は言っていないのですね。三つ,当事者の公平裁判,適正,迅速とか言っている基準は。それはすべてこのあたりに意識のもとがあって,請求との関係は余り考えないような管轄の考え方が日本法の中にあるのじゃないかと思うのですが,そこをあえてここで変えた方がいいということになるかどうかが分からないなと思っているのですけれども。 ● なかなか難しいバランスの問題だと思いますが。 ● 被告の住所地で起こす場合についてはある程度広くてもいいのかなとは思うのですけれども,何らか別の原因で一つの請求が認められるときに,客観的併合でそれに,それが認められた原因がないものまでくっつけてこられるというのは,前から議論はございますけれども単にダミー的に一つ付け加えてそこに持ってくる,客観的併合をとるために,本来起こすつもりのないものまで付け加えるという形が出てきちゃうので,被告の住所地に起こすとき以外についてまで,余り客観的併合を認めなければいけないということは,そんなに実務的にはないのじゃないかという感じがするのですけれどもね。  被告の住所地以外で起こされたときには,結局その請求との関係ですので,証拠がそこに多いとか,そういうことですけれども,客観的併合で同種の請求だからとくっつけちゃう,そこに別に証拠があるわけでも何でもないというのもくっついてくるということで,被告の便宜から見て,A請求についてはそこに証拠があるから防御のためにそこでやるのはしようがないという場合でも,B請求についてはそうじゃないという場合もありますので,被告の住所地以外では,どっちみち防御しなければいけないのじゃないですかというようなのは,余り当たらないのかなという感じがしているのですけれども。 ● これは,そうするとどういうふうに。 ● 私は別に。議論をしていただければそれで結構です。 ● 1パラは,アメリカは反対しているというふうに承知していますので,最終的にそれをどう対応するかということであると思いますし,今の点はもうちょっと検討課題として置いておいた方がいいのかなという気がいたします。  それともう一つは,全く実質的関連性のないような客観的併合というのがどの程度あるのかというのも,気にはなるところではあります。このブラックではねられてしまうような客観的併合というのが。 ● 不法行為の10条4項がどうなるかにも関係ありますけれども,例えば出版物を出版して,いろいろな国に頒布されているというときに,日本もその頒布されたうちの一つですと。それで日本で名誉毀損が生じている,あるいは著作権侵害が生じているときに,それは客観的併合はできると思うのですが,例えばアメリカで出版されて韓国で生じた損害についての紛争,それが日本と関係があるかと言われると,同じ物は売られていますけれども関係があるかどうか……。  この読み方ですね,締約国と紛争との関係がありますかと言われると,ヨーロッパの国はないと言うと思うのですね。ないからだめですと。それでいいかどうか,というか,今おっしゃったのは,それは韓国のは韓国でやればいいじゃないですかと,まとめてやりたいなら被告の住所地でやればいいじゃないですかということですね。その考え方は一つの筋道だと思うのですが,日本はどうも客観的併合で日本で全部できますと従来の考え方では言えたのじゃないかなと思うものですから。それを変えるのか,あるいは従来からそうでしたとおっしゃるのか分かりませんが。 ● 民事訴訟学の方ではどのようにお考えですか。 ● 国際民訴ではないのかもしれませんが,民訴学者の書いたものでは,ぼんやりとそういう点は疑問だと書いたものはあったはずですね。契約の事件のときに,全く関係ない不法行為。国内の管轄でさえ,これは大正15年のときに広くしたわけで,それは国内はそれでいいのかもしれないというか,国内でさえ多少問題はあるのですが,まあ国内は何とかなるわけですが,国際的には疑問ではないかというのは,民訴系の先生の書いたものの中にはなかったわけではありませんので,本当にそういう事件が出てきたときには,民訴系の人はやはりおかしいと言ったかもしれません。  ただ,○○幹事が言われるように,政策論だと言われるとちょっと分からなくなりますけれども,18条1項を最終的にどうするかは分かりませんが,客観的併合を国際的な場面でも強調すべきだと言っている民訴の人は,余りいないとは思います。 ● 先ほど○○幹事から出た議論に関連して,私としてはこの一般論としての18条の1項の問題と,さっきの不法行為でいろいろな場所で損害を受けた,しかしもとの行為は基本的に同じなわけですね。例えば出版物による名誉侵害。その場合の被害者の保護の必要性ということを考えると,そちらはまた別に考える必要はないのだろうかという気がするのですけれどもね。  そちらについては,あるいは訴訟物をどう考えるかにもよって,また違ってくるのじゃないですかね,扱いが。必ずしも被害が生じた国ごとに別だということにならないようにも思うのですけれども。  そうすると,この18条1項は,もしそれに適用されるとしても働かないということになってしまうのですね。 ● ただいま,種々の問題点を御指摘いただきましたけれども,これはやはりもう少し考えていただきたいところでございますので,また機会がありましたらもう一度御議論いただきたいと思います。  それでは,17条,18条につきまして,ほかに何かございませんか。 ● 3項に,「原告が締約国に常居所を有する場合に限定するものとする。」という,これは趣旨は私なりに理解して合理的だと思うのですが,恐らく3項の規定を利用するのは難民のような人たちがいるのだろうと思うので,難民の常居所というのはなかなか確定するのが難しいと思うので,もしこれを入れるのであれば,難民についてはやはり「居所」とか「現在地」というのを入れておかないと,3項を利用するのは一体だれだということになってしまうのじゃないかなと思います。 ● そういう点は,何か……。 ● 多分この条件を入れられたのは,カリフォルニアで起きているような戦後補償のことを念頭に置かれているのではないかと思うのですが。 ● 全く関連のない国の人が,そこで過剰に管轄を認めているので,そこで訴えを提起するということはおかしいと。そういう意味では,今,○○委員が言われた提案の趣旨は……。 ● 要するに,ヨーロッパのユーゴスラビアとかいうような状況を考えてきた場合に,その人たちは恐らく難民としての地位をもってこの規定を利用する可能性が高いので,もしやるのだったら難民の規定を入れないと,この3項を利用する人はかなり限定されてしまうということです。 ● これは,特定のケースを想定しておりますので,今のような御提言も含めて,もう一度考えてみます。それを入れても,別に趣旨に反することにはならないと思いますので,また考えて見ます。 ● 今,3項まで御議論いただいたわけですけれども,17条,18条はそれでよろしゅうございますか。  それでは,次の19条,20条について,一括して御審議いただきたいと思います。  これは,余り問題ないのじゃないかと思いますけれども。--よろしゅうございますか。  一読でございますので,また御議論いただくことがあるかもしれません。  それでは,次の21条,22条について,御審議をお願いいたします。 ● (注)2で指摘した点は,今まで余り明示的には意識されていないようでもあるのですが,こうなるという理解でよろしいのでしょうか。こういう訴訟競合の場合。  進めた後どうなるかということは書かれていないのですが,それは当然判決がそちらの方が先にできるわけですから,これは管轄権の不行使ということで,多分却下ということになりませんでしょうか。 ● 多分そうだと思います。これは,要するに後始末をきちんとしたい国が国内法でつくることは妨げないということですね。ここだけじゃなくて,停止しなければならないというところも全部同じです。1項にしても,いつまで停止するのかとか,あと何も言ってこなくなったらどうするのかということをやはり国内法で書かなければ,日本としてはまずいのじゃないでしょうか。 ● この点は,いずれにしろ管轄権の不行使,手続の停止という概念で整理されていますし,恐らく国内法の整備がどうしても必要になる条項だと思われますので,ここから先は要するに国内法の世界で,却下するなら却下するということを明示した方がいいということだろうと思います。 ● 22条の規定の場合,より適切な裁判所というのは,締約国には限定されないのですか。  「かつ他の国の裁判所が管轄権を有し」という場合,これは「他の国」の中には締約国だけじゃなくて,非締約国も入る。 ● 非締約国もよかったと思いますけれども。 ● ナイの報告書では,「他の締約国の裁判所であってもよいのはもちろんのことである」とありますね。 ● 2条の地域的適用範囲の1項のcの場合,21条,22条となっていて,裁判所が要するに純国内的事案であっても21条,22条の適用はあるという規定なんですけれども,c号を見てみると,裁判所が「他の締約国の裁判所において判断すべきであることを理由として」と,ここでは締約国になっているのですね。 ● 整合性がとれていないのじゃないかということですね。 ● クラリフィケーションだけの問題じゃなくて,もっと締約国に限定しなければいけないような理由があるかなと。2条の方で。 ● 直ちには分かりません。確かにずれているようにも思いますけれども,本来この2条の1項で挙げられている説明としては,4条,12条,21条及び22条の後に書いていますね,それは要らないのじゃないかという議論もありまして,それは不親切だから書きましょうという程度で当初書いたのだと思うのです。そのころに,あるいは22条の方には締約国という議論もあったと思うので,それを書いてそのままになっているのかもしれません。これは,限定しようという趣旨ではないはずですので。 ● そうすると,22条の方を少し……。 ● 22条1項cの,「締約国の」というところが要らないのではないかということです。 ● これは,少し全体の条文の整合性を考えて。 ● 経緯の方を確かめてから……。 ● 整合性の問題ではなくて。本当はよく分かるのですよ。内容的な問題です。 ● ちょっと戻るようで恐縮ですが,21条の関係で,追い抜いた方が判決をしたときに,追い抜かれた側の判決ができなくなるだろうという,今,○○幹事からの御説明だったのですけれども,これ21条の2項と3項と一緒に読むと,3項で追い抜いた場合は,結局順番が2項みたいになってしまうわけですから,追い抜いた側の判決が要するに執行の要件を満たす,確定した場合にはできなくなるということになるのじゃないですか。  追い抜いた側が,ただ単に一審判決しただけだと,追い抜かれた側は別に2項と同じ状態になっていると。単純に前後関係があるときの,後ろの側は前の側が判決確定するまでは何をやってもいいわけですから,ひっくり返った場合だって同じでしょう。 ● ですから,確定した場合。 ● 確定した場合の話ですね,これは。その場合は,やはり2項と同じ,2項で読むという形……。ですから,3項でひっくり返った場合には,2項にも適用あるという形で読めるのであれば……。 ● 要するにこの条約自体が。 ● 読めるような形の規定を置いていただければいいのかと思うのですけれども。 ● 2項の適用じゃなくて,準用ということ。「2番目」というところを変えなければいけない。 ● 3項によってやったときには2項,相互の裁判所の関係が1項,2項での前後関係がひっくり返るみたいな形になるという読み方が,今の条文のままでちょっとできるかどうか分かりませんけれども。そうでないと,整合性がとれないと思いますので。  今のままで読めますよという方もいらっしゃるのかもしれませんけれども。 ● 今の関係の,先ほどの御説明では国内法の問題なんでしょうけれども,もう一つの方は却下されるということだったのですが,必ずしも却下,つまり訴訟物が完全に同じならそうなんでしょうけれども,そうでない場合もこの1項の表現からすると含まれるようにも思うのですけれども。  何か説明を見ても,同一の訴訟原因というのはかなり広くとらえられていますね。しかも,「求める請求にかかわらず」というようなふうになっているものですから,その判断を尊重して,ある別の訴訟物について審理するというようなことになるのかもしれなくて。 ● 2項の場合には,訴訟物が違っても先に確定してしまえば,「管轄権を行使してはならない」となっているものですからね。それから見ると,できなくなってしまう。 ● 2項からすると,そういう訴訟物が違っても一切管轄権を行使できないということになるのですかね。それでいいのですかね。 ● ただ,我が国は旧訴訟物理論が細か過ぎますので,このぐらいでもいいのかもしれないという感じはしますけれども。  外国での訴訟物のとらえ方がどのぐらい大ざっぱなのか,そのぐらい細かく分けるのかというところが分からないので,この条文で各国でどういう読み方をなさるのか,むしろ教えていただければと思いますけれども。 ● 承認予測という考え方は,ある種の既判力の抵触といいますか,それを前提にしているのだと思いますので,ここの条文自体は承認予測説に立っているというわけですから,訴訟物が異なるような場面というのを想定するのが,条文上はそういうふうに読めるのですけれども,そこが何か前提としていいのかという議論のようにも思いますけれども。 ● 我が国とかドイツみたいにすごく細かくするというのが,世界的に見て一般的だとは思えないのですけれどもね。 ● 日本からは「既判力」という言葉を使った条文提案をしたのですが,それは退けられまして,もっと分かりやすく書けというのでこうなっていまして,このナイとポカールのレポートですと例が挙がっていまして,契約事件で,契約違反に基づく損害賠償請求訴訟と,逆の側の提起する当該契約の不実表示による取消確認請求訴訟,これは同一の訴訟原因であるということで,それは競合するということなんですが,それはそれでよろしいのですか。取消確認請求というのがよく分からないのですけれども。  第1項の最初のパラグラフですけれども。 ● 確かに,訴訟原因は同じ事実じゃないかと言われたらそのとおりなのですけれども。  我が国の場合は,既判力が余りに狭いので,再訴については訴訟上の信義則のような形で,同じ当事者との関係ではもうできなくしようという形である程度判例理論はできてはいるのですけれども。ですから,そちらで言う信義則上の再訴禁止というのは,厳密な意味での既判力よりも相当広い,ここで言えば同一の原因事実で,かつ,そのときに一緒に提起することが可能であったし,普通の人ならそうするであったようなものであれば,というような形にはなりますけれども。 ● ただ,この21条をそのまま厳格に当てはめますと,今の取消しが棄却されて,契約が有効ですという判決が出たときに,契約違反に基づく損害賠償請求訴訟は却下しなければいけなくなっているように読めてしまう。それは変ですよね。 ● そうですね。やっている間だけやらなければいいということなんですか。先行の判決が確定した後で,それを前提にして,矛盾しないように第2国でやればいいということを言っていることなんでしょうか。 ● 念のために伺いますけれども,この場合は,実務上は裁判所間の連絡というのはどういうふうになるのですか。 ● 国際的な場面ですか。 ● そうです。最初の受訴裁判所と,それから第2の受訴裁判所,別の国ですね。その間でそれぞれ係属したというとき。 ● 電話しようとかいう議論がありましたけれども,すべて日本は反対しました。 ● それは全部書面ですね。 ● 書面もしない。 ● 要するに,当事者が基本的には告知をするだろうと。 ● 当事者が言わない限りは。 ● まず,競合しているかどうか自体が分からないですね,当事者が言わない限りは。 ● 分かるようなシステムは導入しないのですか。 ● これは,「当事者の申立てにより」ということを入れるかどうかという議論はございますけれども。 ● 3項は入っていますね。 ● 3項は,いわば再開する場合ですから,これは多分申立てがないとできないのだろうと思いますけれども,1項のような場合は,当事者の申立てがなくても,おっしゃるように競合しているかどうかということについては非常に分かりにくいのだとは思いますけれども,建前からいうと二重起訴というのはやはり職権調査ということなんだろうと思います。ただ,実際上は当事者が,当然同じ当事者でやっているわけですから,そのことを言うだろうということになるだろうと思います。 ● 国内法では当事者が言わないと分からないですからね。国内法では職権調査事項なのですけれども,これと重なる訴訟があるかというのは,全国に触れ回っているわけではないので。 ● そうすると,「合理的な期間内に」というこの判断は,当事者が別の国に出している訴訟の訴訟関連書類のコピーを提出するという形になるわけですか。 ● 相手方が,それはまだ合理的な期間が経過していないじゃないかという関連で,そこで進行についてまた入り口論みたいなことになってしまうと思うのですけれどもね。  嫌なのは,追い抜く側は遅いじゃないかといって追い抜いたけれども,追い抜かれた側はそうは思っていないというところに……。向こう側も,やはり判決するのだと思いますからね。そういう場合にどうなるのかというのが,嫌な問題として残るのですけれどもね。 ● そうしますと,第2項の「管轄権を行使してはならない」という禁止も,ほとんど意味がない。 ● ただ2項は,要するに確定してしまえばしようがないけれども,確定するまではどんどんできちゃう。 ● これは,1項で止めておくのですね,まず。止めておいて,2項で向こうが確定して,それが書類にされれば,これはもう訴えを却下するという意味ではないかと思いますけれども。読み方ですが。 ● 承認可能な判決だと思えば止めるし,そうでないと思えば自分もやるぞということになる。 ● 承認可能であれば却下するというのが本来の,日本法化する場合にはそうだと思いますが,ただそれもおっしゃるように言わなければ分からない。 ● 要するに,21条の2項は,日本は反対していますけれども,この前提としては承認・執行の要件を満たすという判決というのは,必ずしも確定はしていないのじゃないですか。この原案によると。 ● そうです。確定性は要件になっていません。 ● ここは,さわらないで来ているということで……。  ただ,国内法の段階で一番難しいだろうということは認識しているところですが,そもそも「訴訟原因」という用語を使っているということ自体からして,国内法を考える上では非常に難しいところだと思います。  しかし,今更変えられないところで……。 ● 今まで,非公式会合では一度もそういう議論はしていないということです。 ● この基本的な発想というのは,日本と訴訟制度が一番近いドイツの考え方を承認予測説でとっているわけですから,ドイツの考え方というのが一番ヒントにはなるのだろうとは思うのですけれども。 ● 何か振り出しに戻ったようなところがございますけれども,これも少しまたどういうふうに対応するかということをお考えいただくということになろうかと思います。  21条,22条は,それでよろしゅうございますでしょうか。  それでは,23条から28条という問題について御審議をお願いいたします。 ● 先ほどの25条の説明のところで,(注)の1の「前二項の規定は,判決が判決国において上訴の対象となっている場合又は上訴を求める期限が経過していない場合は,適用しない。」とだけ書いたのですが,「適用しない」というのはちょっと不十分といいますか,むしろ執行力がない場合でもできるようになると読めてしまいますので,意味を申し上げますと,「前二項の規定にかかわらず,判決が判決国において上訴の対象となっている場合又は上訴を求める期限が経過していない場合は,承認執行しない。」というふうに御理解いただきたいと思います。 ● 第3章のところでございますが,何か御意見ございますでしょうか。 ● 今まで出ていなかった点ですけれども,26条について,26条は「承認又は執行されない判決」ということで書いてあるわけですけれども,例えば仲裁合意に反してなされてしまったような判決,そういったものがどうなるのかなということで,果たして仲裁合意があるときには管轄は認められないというのが諸外国でも認められたルールなのかどうか分かりませんけれども,これはどうすべきかなと,ちょっと疑問がありましたので。 ● その点は何か議論は。 ● 仲裁は,いつも何度も顔を出しながら,それはこの条約と関係ないというのではねられていて,今おっしゃった点は,それは拒否できると私は理解していますけれども。  有効な仲裁合意があって,それに反する,仲裁合意に反して管轄を認めた国があって,その判決が下ったという場合ですね。そのことは,例えば26条の問題なのか,あるいは承認・執行要件,28条の問題なのかもしれませんが,そこに挙がっていないわけですね。ですが,それはできるというふうに思いますが。  済みません,25条2項に戻って申し訳ないのですが,この本文で書いていることですが,承認・執行の対象としない国内法制を4項に基づいてできるかということですが,私は4項のもとでは延期するということしかできないので,止めておくと,必ず止めておきますという法制ならできますけれども,「承認執行の対象にしない」とまで書いてしまうと条約違反と言われるのではないかと思うのですけれども。 ● 今言われた,止めておくということの意味は,どういうことですか。 ● 止めておくというのは,この条文ですと裁判所で個々の事例で止めるということができますということですね。ですが,国内法として常に我が国は訴訟を止めますと,そういう国内法をつくることはできると思うのですが,それを承認・執行の対象外と書くと,それはちょっと書き過ぎかなと思うのですが。  要するに,日本の裁判官向けに,そういう訴えは止めなければならないという国内法をつくるということですから。 ● 却下はできないけれども,停止決定しかできませんよということ。それは,実務的にはそんなに変わらないだろうと思うのですけれども。 ● それは,やはり国内法の整備が必要になる領域だということになる。要するに,今のような対象にしないという条文では抵触する可能性がある。 ● 今のこの文章ではそういうふうに読めてしまうので,ちょっと書き過ぎかなと。  少人数の会合ではありましたけれども議論をしたときも,日本としてはこれに反対だけれども,もし受け入れざるを得なければ,国内法として「常に止める」と書くかもしれないけれどもそれでもいいかと。それは仕方がないと彼らも言っていたので,そこまでかなと思っていたのです。 ● ほかの点でもよろしいですか。  28条ですが,一つは,28条は要するにこれに該当すると拒絶することができるということになっていて,拒絶する義務はないと,ナイ,ポカールも書いていますね。それで,管轄についてはないのをやってはいけないということになるわけですから,そうすると118条の場合は要件ですから,全部欠いておるのは承認・執行してはならないというのが日本の今の立場だと思うわけですが,そこの点が大分違うことになるのじゃないかなという点が一つ。  それからもう一つは,その点に関連して,先ほど日本の立場として前からも出ていますように,最高裁の判決もあって,1の(d)ですが,被告に対して十分な期間を置いて防御の準備をすることができる方法で通知されていることに加えて,自国の,実施国法に違反している場合にはだめだという方にしろという形を言っていますが,私としては,(d)で十分な期間を置いて防御の準備をすれば,実質的にそれでカバーされるのだから,承認拒否事由としてまで挙げる必要はないのではないかという気がしております。  ただ,今のように「できる」ということなら拒否事由として挙げておいて,場合によれば承認してもいいし拒否してもいいという形にするのなら,その問題は別に挙げてもいいということになるのかもしれません。 ● まず最初の,「できる」というふうな言葉遣いと「しなければならない」と書くのとどう違うかという点ですが,私はこれは条約ですので,国と国の約束なので……。 ● だから,今の118条のままでもいけると。 ● はい。 ● 承認・執行にフェイバラブルな態度を条約はとっているわけですから,それは国内法で,そういうことができるのだったら承認拒絶できますよと,こういう違反があったときに,というふうにやはり書くのが条約としてあるべき姿で,むしろこの26条のように,やっちゃいかんよと,こう言っているのはこの条約のミックス条約としての性格でこうなっているだけの話で,基本的には28条の言い方じゃないとおかしいと思う。 ● それは,このままで個別の裁判官が,いや,私としてはいいと,このぐらい目をつぶろうというのができるということですか。 ● それは,場合によってはあり得ることはあるのです。それは,子の保護条約でも成年の保護条約でもそうなんですよ。承認しちゃいかんということはないよと,それは必ずコメントがつくのですね。場合によっては子供の福祉に反するようなものでも承認できるのかと,こういうことになるのですけれども,やはり「できる」という表現なんですね。それは,場合によって非常に純国内的な事情で,公序的な発想で排斥したいというような事由もあるから。 ● 今の○○委員の御意見ですと,日本の国内法としてもこの28条に相当するような事例については拒絶することができるという書き方をしろという訳ではないのですね。 ● そうじゃないです。 ● 条約だからこうなっていると。それを受けて,国内法でこの場合は拒絶する,承認できないと書くのは構わないわけですか。それはまた,条約の趣旨に反するわけですか。 ● それは構わないでしょうね。承認することができるというので。条約がしていいというのだから,しますよと。 ● いわばこの条約は権限を与えていて,その権限の中で,今の118条のような制度を維持して締約国との間でも使うということ自体は,この条約が否定しているというふうには考えておらないのですけれども,そういう理解でよろしいですか。 ● そうです。118条を置いてもいいということだと。 ● それで,理解としてはよろしゅうございますか。  ○○委員は,裁量的な要件といいますか,そういうものであってはならないということなんでしょうか。 ● 条約の趣旨からすれば「できる」で,だからやはり少し118条そのままという体制は具合が悪いのじゃないかなという気がしないでもないので,そこでお聞きしたわけです。 ● 条約だから,必ずしもこうでなければいかんということではないのじゃないでしょうか。 ● 油濁損害賠償補償法の2条というのがあって,これはもとの条約の文章が分からないのですが,少なくとも国内法化するときには,「次に掲げる場合を除きその効力を有する」というので,裁量の余地はないようになっているのですね。私もそうすべきだろうと思うのです。そこで裁量を認めてしまうと,非常にあやふやになって,なじまないように思いますが。  それともう1点,さっきの送達の点ですが,今の点で義務的に書くとしますと。 ● ○○幹事自身が書いておられますように,要するに送達実施国法の中身いかんによっては,外国からの自国民に対する送達はだめよというふうに書けば,それは十分な期間と準備の機会があってもだめということになってしまうわけで,そこまで厳しくやる必要があるのかなということです。 ● 一般的に認められた国際条約に反するようなものはだめという書き方もあり得ると思いますね。 ● それはあり得ると思いますね。 ● そこで言うのは,送達条約とかを念頭に,しかし条約の名前は挙げないで書くのじゃないかと思うのですが。 ● 実施国法ということになると,少しきつくなり過ぎる。 ● 完全に国内法に任せるのはやや危ないというのは,確かにそうかもしれません。 ● ブラッセル条約の方では,27条は,裁判はいずれかの場合には承認されないとなっているわけですけれども,そちらの方でつくるときにはこういう表現になったというのは,何か理由があったのでしょうか。 ● 分かりません。 ● ブラッセル条約の場合は,ヨーロッパ国内でイギリスでは承認するけれども他の国では承認しないことだってあるのだというようなことが,EUの中でそんなこと許されると私は思えないのですね。だから,ブラッセルがこの問題について,ブラッセル条約がそういう書き方をしているから,ヘーグ条約でも同じでなければいけないという理由はない。 ● 同じでなければいけないというのじゃなくて,恐らくモデルになっているわけだろうから,このときにこういう表現をとるということになったのは何かお考えがあってのことかという趣旨なんですけれどもね。 ● ナイ,ポカールのレポートでは,裁量を与える趣旨だとわざわざ書いているので,広く認めてくれる国があっても,ほかの国は反対しませんということのようですね。 ● 権限を与えられても,別に国内の制度としてどうするかの問題ですから,もちろん考え方はあると思いますけれども,承認・執行というのが裁量で決まるというのは,少なくとも従来の考え方とは国内法的に相入れないわけで,ですから裁量を認める趣旨であっても,それを受ける国内法としては義務的にするということで問題ないと思います。 ● ○○委員がおっしゃったのは,この(d)との関係で,裁量的になるとこういうのがどうかという,そういう御趣旨だったと思いますが。 ● この提案しておりますような送達実施国法に反する場合という提言は,これは日本だけですか。 ● フランスが一度同じことを言ったことがあります。 ● フランスは,条約違反。 ● どっちだったか忘れましたけれども,そういう発言があったので,一緒じゃないかと思って。 ● 他の国の支持は余りない。 ● 余り意見はないですね。言いっ放しです。 ● 何かほかにございますでしょうか。  29条のところで,日弁連の意見書がこれについて検討する必要があると書かれておりますけれども,これは。 ● 御趣旨はよく分かるのですが,我々の方はむしろ承認・執行を求められる側なのですけれども,ですから外国判決を日本に持ってこられたときには,例えば我が国ではそういう正式な訳ができる人が少ないという,そういうものであればあるほど正式のものが欲しい。  例えば,英語なんかの場合には間違っていれば分かるのですけれども,アラビア語とかスワヒリ語とか,要するに正式の通訳がいない言語ほど裁判所には分からないというところがありますので,日弁連の方は外国で執行するということをお考えでそういう御要望があるのは分かりますが,我々は外国の判決を持ってこられたときに,自分が全然分からないもので,それで正式な資格のある人じゃない人の訳がついていては,ちょっと怖くて承認・執行ができるのかという感じがしますので,余り緩めるのはどうかという感じがします。日本での執行判決のことを考えると。 ● 「権限のある者」と書いてあるわけで,権限のある者というのは一体どういう人なんだろうということですね。よく,国によってはオフィシャル・トランスレーターみたいな,そういう資格があって,その人でないとここに言う「権限のある者」に当てはまらないということになると,例えばそういったオフィシャル・トランスレーターの数が非常に少ないとか,そういった場合にもう動きがとれなくなるわけですね。  この「権限のある者」が,例えば一定の弁護士ならいいとか,そういうふうに広くなっていればいいのですけれどもね。例えば,弁護士であって,問題となっている言語の使われている国で勉強をしたことがあるとか,そういった要件でもってここの「権限のある者」とか,そういうふうに広げられればいいのですけれども,そうでないと非常にこの「権限のある者」というのがものすごく人数が限られていて,仕事が殺到して,翻訳ができるのに何か月も待たないといけないとか,そういう場合であっては困るなと,そういうことです。 ● 実務的には,例えば日本で,その国にある日本大使館の領事部などで,例えば代理人が訳したものについて,このとおりであることを公証するとかいう,そういうスタンプをもらうということは行われていないのでしょうか。 ● そういうのは聞いたことないですけれども,たとえそれがあったとしても「権限のある者による翻訳」とは言えないのじゃないかと思うのです。ただそれは,サイン証明だけだと思うのですね。 ● 例えばドイツなんかでは,判決は分かりませんけれども,以前は国際免許というのは認めていなかったのですが,ドイツに行ったときに運転しようと思いますと,日本の免許証を自分で訳しまして,日本の領事館に持っていって,それは確かに正訳ですというスタンプをもらって警察に持っていって,仮免許証みたいなものをもらうのですけれども。ですから日本の領事部でそういう扱いをしているのであればある程度カバーできないのかなという感じがちょっとしたのですけれども。実際にそういうサービスを外務省がしてくれるのかどうか分かりませんし,最終的には承認・執行する裁判所の側の判断になってしまうことではあるのですけれども。 ● 結局,ここの「権限のある者」というのが一体どういうものか,そういったオフィシャル・トランスレーターのような,国によって認められた資格があるのかどうかとか,そういうことによるかと思うのですね。 ● 今おっしゃっているのは,29条の1の(d)のあたりのこと。 ● そうです。 ● 原文を見ますと,単にqualified と書いてあるので,「権限ある」というのはちょっと日本語の訳し方が妥当でなかったかもしれませんが,qualified なら御理解いただけると思うのですが,いかがですか。 ● qualified もいろいろな解釈があり得るかと思うのですけれども,やはりqualifyする主体が国であれば,国によってそういう資格を認められた者でしょうし,自分でそういうふうに,私はqualify していますというふうに証明してもいいのであれば,例えば私はアメリカに留学しました,何年向こうにいましたから英語は十分に理解していますとかいうことでいいのかどうかですね。  日本には,オフィシャル・トランスレーターという資格はないですね。 ● 御承知だと思うのですが,英米関係の証拠法上は,要するにエキスパート・ウィトネスというのがありますね。あれもやはりこのqualification でエキスパートかどうか,証言能力があるかどうか決めておりますけれども,それなんかにも翻訳能力というのがあるのかなという感じがいたしますけれども。だから,今おっしゃった中に,そういうことをちょっと言っておられましたね,それが国家資格であるかどうか,そこまで要求されているかどうか,あるいは国際バカロレアみたいに,国際的なものが要るのかどうなのか,それは確かに問題だと思うけれども,何か議論はありましたか。 ● いや,これは私の理解では各国法に任せられているので,それが何を要求するかはそれぞれ違うのじゃないかと。 ● 先ほどの領事館と申しましたが,フランスだと地区裁判所つきの翻訳官の日本語訳がないとだめで,免許証は発行してくれないですから,やはり国々で国が認めた翻訳官というのは--官という言い方はおかしいですけれども,qualify された人とは違うと思うのですね。 ● ナイ,ポカールの報告書によると,「翻訳文が要求される場合,資格ある者によって翻訳されたものでなければならないが,外交官若しくは領事館又は宣誓した翻訳者による証明は必要ない。」と。割合に緩やかな感じですね。 ● 民訴条約のように,外交官若しくは領事館又は宣誓した翻訳者による証明は必要がなくて,そこまでの程度は要求しないということで,あとはですからこの「資格ある者」というのが我が国においてどのような対応ができるのかということを,直接クラリファイするまでのことがあるかどうかということはあると思いますけれども,そこが決まればいいのだと思うのです。  ただ,日本にそういう制度がない,対応するものが直接的にはございませんので,あとは国内法の決め方という理解ができれば,要するに一定の能力のある者ということでよろしいですかね。 ● 日本で執行する場合の外国判決については,これは何か弁護士さんが日本語に翻訳されて,正に正訳したとか何とか書いて判こを押して,それを信用するかどうかですね。 ● 英語とかならまだいいのです。先ほどのアラビア語なんかは……。 ● アラビア語でも,同じやり方ですね。 ● その場合は,弁護士さんでなくて,だれがやるか。 ● 弁護士さんではないかもしれませんけれども,それが一見変であればやり直しを命ずる。  あるいは,裁判所が頼んだ別のだれかにやらせるということもあり得るのですか。 ● それは,今のところは鑑定みたいな形で費用を予納させる方法がないので,現行法ではそういうことはやっていないです。 ● 刑事手続では,通訳が。 ● あれは国で。 ● ですから,同じようなことが考えられないわけではない。 ● 民事の場合は,職権で鑑定というのは実際上はできないのですよ,費用の問題があるから。 ● これは,要するに国内法で対応すればいいということ。 ● 今の御議論を踏まえて,また国内法の段階で考えていきたいと思います。 ● ほかにございますでしょうか。 ● 31条については,先ほども御説明したところですが,ほかの条約との関係でいくと,どうもここは余り議論されていないようなんですけれども,これだけではなくて,外国との関係で取り立てることが無償でできるという制度がワンセットでないとバランスが悪いのかなというところもございますので,少しそれについて御議論いただければと思います。 ● 31条について,何かございませんでしょうか。 ● 31条のコメントの①の点は,確かにこれは条文が抜けているみたいですね。次の条文には,ちゃんと「承認又は執行手続において」というのが入っているのに,ここに入っていないのはやはりおかしいのでしょうね。だと思いますけれども。 ● 2番目は,同じようなヘーグの条約の中で,こういう担保の提供についての条文とあわせて,担保の提供をさせないという条文とあわせて,例えば民訴条約ですと18条で,「各締約国において,権限のある当局により無償で執行を認許される。」と。訴訟費用の負担を定める裁判について,権限のある当局により無償で執行を認許されるということで,取立てを容易にするルートを決めておりますので,仮に担保の提供を認めないというのであれば,こういった条項が少なくとも民訴条約にはあるということとのバランスをどう考えるかということだと思います。  ラポラトゥールの報告書も,民訴条約17条については指摘をしているのですが,18条については特段書いてなくて,そこでどういう考え方だったのかというのは,必ずしもはっきりしないところでございます。  制度として,18条のような制度とワンセットの方が,担保の提供を認めない以上はいいのかなと,少なくとも今までの条約との関係では適当ではないかというふうに思うのですが,いかがでしょうか。 ● 論点がぴったりなのかどうか分かりませんが,当初の案では,ホワイト・リストの中に執行判決請求訴訟については執行国に管轄があるという規定があったのですね。今はないのですが。もしそれが入れば,ホワイト・リストとして執行されるのでしょう。費用について。  執行判決訴訟について,執行国なんていう規定は要らないのじゃないかというので消されたのですけれども。  今おっしゃったのは,執行請求訴訟においてかかった費用を他の国で執行していくということですね。それを条約にするには,管轄規定だけを置くというのが一つの考え方。 ● それは一つのやり方ですね。そこで決めてしまって,そこからしか取れない。 ● 取れないというか,ホワイト・リストだから,そこでかかった費用はどの国も認めるというか,そういう執行をしていく。 ● その執行をしていった場合の,その手続費用はどうなのかということについてまでは,それだと触れられない。  訴訟費用の判断について,更に執行していく場合がホワイト・リストで執行されても,その執行手続の費用の問題まではその条文では入らなくて,18条で無償でというのが入っていますので。 ● そうすると,31条を1項にして,2項に民訴条約18条のような規定を置くのが一番分かりやすいというわけですね。 ● 31条は,そういうことでよろしゅうございますか。 ● 今のナイ,ポカールのレポートの31条に関するところの最後のところ,私,ちょっと今日は原文を持っていないのですが,翻訳によると,「担保の提供が求められる可能性が全く除去されるわけではなく,担保提供は原告が締約国と何らの関係も有していない場合に限定されるのである。」と。原告が締約国に何らの関係もない場合には,担保提供を求めてもいいというように読めますけれども。  いかなる締約国もという意味ですか。非締約国に住んでいる者には構わないと。 ● そういう意味です。  この点,いずれにしても最後の外交会議のときのテーマだと思いますので,また改めて最終的に案を出すまでにもう一度検討いたしますが,基本的には条約との相互の整合性のような点も考慮した方がいいのかなと思っております。 ● 最後というか,6月に条文を提案すればよろしいのじゃないかと思います。 ● では,まだ一読でございますので,問題点が明らかになるということがまず第1かと思います。  いろいろと今日問題が指摘されておりますので,またこれは引き続き御審議いただくことになるわけですね。 ● 今日までの点で,一通り,例えば解釈の統一のようなところとか,まだ本当に最後の最後にならないと十分議論できないところもあるのだと思いますが,差し当たり今日までのところをまとめて,それとは別にオタワの会議での状況も踏まえて,4月にはかなり突っ込んで議論をした方がいい点について案を提示し,最終的に5月の段階でこういった形での対処方針のもとになるような考え方を整理したものをまとめて出すと。その段階では,基本的には注というもので留保するようなことは極力しないということにしたいと思っております。 ● そういう段取りで今後御審議をいただくということになります。  ほかにございますか。 ● 36条と38条から40条までについて,もし何かございましたら御意見いただければと思いますが。  和解のところは,基本的にこの条項自体は受入れ可能だと思われますが,どこまで含まれるかという点について,もし御意見いただければということと,38条から40条までは今まで余り検討していないところですので,これについての御議論もいただければということでございます。 ● ちょっともどって,33条ですけれども,日弁連のレポートに指摘してあるのですけれども,高額な賠償の場合,例えばアメリカで何ミリオンという判決が出たと。それは,日本で,日本の基準を用いたらどのぐらいになるのかということだと思っていたのですけれども,このナイさんのレポートによりますと,むしろ日本でアメリカの基準を適用してどうなるのかというふうに書いてあるので,それはちょっと私ども今まで理解していたことと違いますので,その点はどうなんでしょうか。 ● 私の理解では,アメリカの普通の判決に比べて高過ぎるじゃないかと。 ● では,日本の裁判所は,アメリカの基準を使って日本で判断すると。 ● というのが本来のこの規定の趣旨だったと思うのですが。そうでなければ,もし日本の基準を当てはめてしまいますと,実質的再審査を完全に認めるということになってしまいますので,それはしないということではないかと思うのですが。 ● でも,アメリカの基準を用いたとしても,やはり再審査じゃないですか。 ● その限度ではそうです。 ● 「判決国に存在する事情を含むすべての事情」というのは,確かに非常に不明確ですね。すべての事情というところに着目すると,日弁連のような考え方も十分出てくるのじゃないかと思いますけれども。  この条項の理解は,今,○○幹事が言われたようなものだということでよろしいのでしょうか。 ● 私はそう思っていましたけれども,よく分からない。 ● 以前,第一読会で議論したときも,若干○○委員が言われたような趣旨でこの条項を考えていたことがあるのですが,ですからここはどういうものかということがはっきり決まれば,それはそれでいいのだろうと思いますけれども。 ● 余り大したことではないのですが,33条1項が「限度で承認される。」ということになっているのですが,報告書によると,ほかのところは承認・執行と両方使っているのですが,ここでは承認されるのだけれどもしかし中身は執行もできるとたしか書いてあったと思うので,それなら条文の中に「執行」も入れたらいいのではないかと。そういう気がしないでもない。 ● 33条は,それでよろしゅうございますか。 ● おっしゃるように,「執行」を私も入れるべきだと思いますね。 ● 先ほど,○○幹事の方から指摘されました点については。 ● 38条から40条までの解釈の統一のところというのは,従来全く議論がなかったように記憶しておりますので,38条の第1項は極めて当たり前といいますか,特段問題のない書きぶりだと思うのですが,39条とか40条のように,まだこれはブラケットに入っておりますけれども,最終的にはこの条文もブラケットを外されて出てくると思いますので,こういった勧告というような方法がいいのかどうかという点も御議論いただければと思います。 ● この点はいかがでございますか。 ● これは,会議でも余りまだ議論されているというところではないですね。 ● 最初のころは議論もありましたけれども,その後は全然。 ● この案も,かなり暫定的なものだというふうに考えてよろしいですね。 ● 39条,40条は全体が括弧書きですね。 ● 日弁連の方の書類の44ページにありますけれども,私は○○幹事が出された御趣旨は,日弁連の方の44ページにも書いてありますけれども39条の第1項,結局どなたがこの書類を提供するのかという,そういう意味で外務省の方々のお仕事が増えることに反対をした方がよいということでお出しになっているのかと思っていたのですけれども,今日の書類を拝見しますと,勧告,リコメンデーションという,それが気にかかるという御趣旨でしょうか。 ● 謄本の送付のようなものについての手続的なことをどうするかというのは,もちろん問題としてあると思いますが,勧告をするということが裁判所との関係でどうかという点は,気にはなるところではございます。 ● それについては,ナイほかの報告書の方に一応の説明がありますね。言い訳が。私は,これはある意味ではシンボリックな,理想主義的な内容ですし,実際にやるかどうかはまだ幾つもの選択肢が残されているので,多分あっても悪くはないと思うのですね。現に,ウィーン売買条約でも,最終的には各国で自由に解釈できるというようになっていますから,今後の進展次第でまだ幾らもチャンスがあるので,たくさんのオプションを残しておかれた方がよろしいのではないかと思います。 ● これは,裁判所の方も御意見あるかと思いますので,またその点は,今日でも,改めてまた別の機会にでも結構ですけれども,伺いたいと思います。 ● もし裁判所の方で何か御意見ございましたら,お伺いしておきますが。 ● 解釈について,勧告を求めるのは,だれが求めるのですか。当事者が何か申し出てやるのか,裁判所が分からなくなったから教えてくれというのか,どっち。 ● 40条1項は,紛争当事国の共同要請又は締約国の裁判所要請。だから,当事者はできない。 ● もうちょっとこの手続の内容がはっきりしないと,全く海のものとも山のものともというところがあるのかもしれませんね。 ● いろいろな言い方はあるとは思うのですけれども,これまでのヘーグ条約でももちろんレビュー・スペシャル・コミッションというのはやっていたわけで,それでもやはり実質的には勧告みたいなことをやっていたので,それで不十分で,わざわざこんな39条,40条みたいなことを言わなければいけないような特段の理由があるのかということですね。 ● WTOのパネルまでは考えていないわけですね。 ● 当初の紙にはありました,そういうのも。それはとてもだめだというので……。  それでも40条なんかは相当踏み込んでいると思いますが。  これ,「締約国の裁判所」というのが抜ければ,それほど問題はないように思うのですけれどもね。共同提案ですから,嫌ならしなければいいので。裁判所が勝手にするというのを認めるかどうかは,それは大きな問題かなと思います。 ● もしこういうのを認めると,これ自体については独立の手続を考えないと。 ● これは規則をつくると書いてありますから。 ● それがどうなるかによって,かなり違ってくるのでしょうね。 ● 提案の方もそうなんですけれども,勧告の相手方に裁判所が入っているというので,ちょっとこのあたりは……。個別の事案についての勧告というと,ちょっとやはり抵抗がありますね。 ● これは,やはり裁判所に要請するということを受けているのじゃないかと思いますけれども。それがなくなれば,後ろの方もなくなると思います。 ● こういう問題についての解釈の統一は確かに必要だと思うので,これは○○委員が言っていた子の保護だとか成人の保護なんかの関係については,こういう話はどうだったのですか。 ● もちろん,レビュー・コミッションを設けるという規定はあります。 ● そういうふうに考えていくと,何か司法行政的なものも含めて,こちらも枠組としてはこういう方向に動いているのじゃなかろうかという感じがしますけれどもね。  だから,裁判所に御検討いただくときには,何かそういう流れが一つあるのだけれども,日本としてどうするかという点を含めて御検討いただければ有り難いと思いますけれども。 ● もちろん,レビュー・コミッションの規定なんかは,この裁判所が云々なんていう規定はないので,恐らくこれは要するにブラッセル条約にできるだけ近づけるために,ヨーロッパの裁判所に持っていくシステムに類似のものをつくろうとしているからこんなことになるのだろうと思いますけれども。 ● 裁判所の方にも御意見伺うことにして,いずれにしてもこれは最後の段階までブラケットに入ったままでいくとなると,対処方針としても余り明確なものがつくれないと思いますので,一定の方向性といいますか,考え方だけを示す程度で臨むほかないのかなという気がしております。 ● ただ,裁判所を入れるのは困ると。 ● 今日はそういうような御意見だったと思うので。 ● まだ,あるいは積み残した問題があるのかもしれませんけれども,時間が参りましたので,本日はこれで終わらせていただきます。  どうも長時間ありがとうございました。 -了-