法制審議会 国際裁判管轄制度部会 第4回会議 議事録 第1 日 時  平成13年5月15日(火) 自 午後1時30分                       至 午後4時50分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題 「民事及び商事に関する裁判管轄及び外国判決に関する条約準備草案」に対する意見(最終案)について         裁判管轄外国判決条約エディンバラ非公式会合概要報告         ヘーグ国際私法会議第19通常会期に向けての論点について 第4 議 事 (次のとおり)               議         事 ● 定刻になりましたので,国際裁判管轄制度部会を始めさせていただきたいと存じます。  最初に,資料の説明をお願いいたします。 ● 私の方から,本日の資料について御説明申し上げます。  まず,事前に送付した資料としまして,資料番号18の「「民事及び商事に関する裁判管轄及び外国判決に関する条約準備草案(1999年10月30日特別委員会にて採択)」に対する意見(最終案)」を配布させていただいております。これは,これまでずっと3回にわたって御議論いただいてきた意見を,最終的に取りまとめたものでございます。  資料番号19は,4月に行われました「ヘーグ国際私法会議・裁判管轄外国判決条約エディンバラ非公式会合概要の報告」でございます。  それから,本日,席上にて配布させていただいたものとしまして,資料番号20で,これは日本労働組合総連合会からいただきました,本件条約の第8条についての御意見でございます。  あと,事実上のものとしまして「ヘーグ国際私法会議第19通常会期に向けて特に御議論いただきたい論点」という表題をつけましたペーパーを配布させていただいておりまして,またこの論点の後ろに英文の提案,実際の提案に用いるドラフトが6ページにわたってございますけれども,これは○○幹事に作成していただいたものでございます。以上でございます。 ● 早速本日の審議に入らせていただきたいと存じますが,進め方といたしまして,まず資料18に基づきまして,本件条約草案に対する意見を取りまとめたいものと考えております。その後に,資料19に基づきまして,エディンバラ会合に出席されました○○幹事に,会合の報告をしていただく,そして質疑応答をお願いしたいと存じます。  残りました時間につきましては,本日配布いたしました論点・提案についての御議論をいただければと存じておりますのでよろしくお願いいたします。  進行の便宜のために,○○幹事にこちらの席の方にお移りいただきたいと存じます。  それでは,資料18の意見案について,御議論をいただくということになりますが,まず事務局の方から,全体を通した説明をしていただき,これに対する質疑を行うという形でお願いしたいと存じます。 ● それでは,私の方から,本日の御検討いただきます「意見(最終案)」につきまして,簡単に御説明申し上げます。  この「意見」は,前回,4月の当部会におきまして御議論いただきました意見の第二次案について,前回の御議論を踏まえて更に書き直したものでございます。特に書き直した点につきまして下線を付してありますので,その下線が付してあるところについて,順を追って説明していきたいと思います。  まず,第3条ですけれども,常居所の概念につきましては,とにかくこの点につきましては原告が訴訟提起をすることができる管轄を確保するためには明確性が重要であるというような御議論でございましたので,それを明確な規定とすることが適当であると。常居所については,必ずだめだということではございませんけれども,他の条約等において用いられている各国の定義の食い違いの問題があるということを前提に考えるという趣旨でございます。  具体的な提案等も出ておりますけれども,これについて,例えばプリンシパル・レジデンスであるとか,その他の案についてどちらがよいというところまでは言及しておりません。また,個別の条ごとの検討というものについては,必要であるという指摘にとどめてございます。  次に,第6条でございますけれども,契約に基づく管轄につきまして,金銭消費貸借契約に基づく貸金返還請求訴訟の管轄について御議論がございました。この点につきましては,これを入れていく方向がいいのか外していく方向がいいのかという点につきまして両論ございまして,当部会としても特にどちらがいいというところまでは言わずに,全体の御意見としましても,明確にするということが一番大事であるということについてはコンセンサスがあると思いますので,そのような形で書かせていただいております。  次に第8条でございます。第8条につきましては,特段この場で御議論があったわけではございませんけれども,第8条のパラ2につきましては,第7条におけるパラ3と同じ問題がございます。この点は,条文の規定ぶり等からも明らかなところであると思いますので,その点につきまして第8条の方にも書くということにさせていただいたものでございます。  なお,第8条につきましては,本日,日本労働組合総連合会から御意見をいただいておりますけれども,これについても基本的には了承できるということでございますので,これも踏まえてこういう御意見でよろしいのではないかというふうに考えております。  次に,第10条でございます。10条につきましては,下線を引いておりますけれども,変更した点は「経済的損失又は経済的派生的損害」の前に,「被害者の得べかりし利益等の」という文言を挿入した点でございます。これは,当部会で意見を取りまとめるに当たりまして,日本法上の損害の概念とのつながりというものを明らかにしておいた方がいいのではないかという考えに基づいて挿入したものでございます。  第11条は信託でございますけれども,この点につきましてはずっと注のままになっておったところでございますけれども,信託協会からは意見がないという意見をいただいているところでございますし,日本弁護士連合会から若干御意見ございますけれども,基本的なスタンスとしては受け入れることができるということだと思いましたので,一応このように書かせていただいております。  それから,第13条の保全処分でございますけれども,この点は全面的に書き直しておりますけれども,これは当部会でも○○幹事などからも御指摘いただいたところでございます。もともと,こういう13条のスキームというものの解釈としましては,現状の第13条の解釈としましては,パラ1はホワイト・リストである,パラ2,3については,この規定に該当しない保全処分の管轄は禁止される,裏からのブラック・リストであるというふうに解釈するということが前提となるかと思いますので,その点についての意見というものを明確にした上で,ホワイト・リストにならないという前提の場合にはどうかという意見を「ただし」以下で書いたというものでございます。  次に,第17条ですけれども,第17条の「また」以下につきましては,先ほど第13条の方で意見を改めたところがございますので,そことの調整も含めて書き加えたというものでございます。  第18条につきましては,「これを禁止しない場合には,別件訴訟を提起することによる濫用のおそれという問題が生ずることになる。」という表現を加えてございまして,従前,そこについては「削除するまでのことはない」という表現にしておったところでございますが,当部会の意見としてまとめる上で,「削除するまでのことはない」という表現等も若干適当でない部分もあるかと思いましたので,表現を改めたものでございます。基本的スタンスを変えるような意図はございませんで,基本的なスタンスとしては客観的併合というものが禁止されることになったとしても,それは受け入れることができるという方向であるという趣旨でございます。  それから,第18条の5のところで「その他」以下に「本条及び本条約の他の規定によって」という文言を加えてございます。この点につきましては,本日席上に配布させていただいた○○幹事作成の提案ともかかわるところでございますけれども,denial of justiceの問題につきまして,ブラック・リストの例外だけではなくて,本条約全体のいわゆるセーフガード的な規定として考えるということも可能ではないかということで,「本条約の他の規定」というものを加えたということでございます。  第37条でございますけれども,いわゆるdisconnection であるとかconnectionの問題として論議されているところ,具体的にはブラッセル条約,あるいはブラッセル規則との関係について問題になっているところでございまして,ずっと注にしておいたところでございます。  ここを注にしていた趣旨は,現在の草案でももちろん第1提案,第2提案,第3提案という形で案があるわけですけれども,今後も,特にヨーロッパ側から具体的な提案が出るというような見込みもあるということで注にしておったところでございますけれども,現時点においてもそういう案が出ていないというような状況も踏まえまして,一応基本的なスタンスとして書いたものでございまして,一つ目のdisconnection の規定を設けるという問題というのは,抵触の問題であって,後の方の取り込みの問題というのは,実際にはこれまでに配布されている事務局作成のペーパー等では,両方が一緒になって議論されているところもあるのですけれども,後者の問題というのは特に問題を複雑にするので適当でないというところを明らかにしているところでございます。  disconnection の問題の方につきましては,更に検討が必要であると考えておりますけれども,基本的に,特にブラッセル規則との関係ということになりますと,ブラッセル規則に加入する国がヘーグ条約に入るときには,ブラッセル規則に入っている国はすべて加入するということが想定されているということですので,それを前提とした場合には,更に両者の条約の適用の関係というものを調整する規定を考えることができると,すなわちヘーグ条約の方で管轄をとってならないとされている場合で,逆にブラッセル規則上は管轄をとるべきであると,ホワイトであるというような場合の調整の問題,あるいはこちらのヘーグの条約の方でホワイト・リストになっていて,管轄をとる義務があるのだけれども,ブラッセル規則の方では管轄することにならないとなっているような場合,双方の規定を精査する必要がありますが,あり得るということを前提としまして,これを具体的にどう調整するのかということは,ブラッセル規則の国がすべてヘーグ条約に入るということを前提とした場合には,その調整をする可能性があると,この点については更に検討が必要であるということでございます。  最後に,38条から40条までの解釈の統一の点でございますけれども,2の点につきましては,前回の部会で最高裁判所の方から御指摘をいただいたところでございますので,この御指摘を踏まえてこのような書き方をしたということでございます。以上でございます。 ● それでは,早速「意見(最終案)」につきまして御意見をいただきたいと存じます。  特に,今回,下線が引かれました部分につきましては前回とは少し異なっておりますので,まずこの点について御議論いただきたいと思います。 ● まず,全体的な構成についてお伺いしたいのですけれども。  前にも一度申し上げましたけれども,これはこの文書が名あて人の名前が書いてないので,一体この部会がだれに対してこの意見を申し述べているのかということがよく分からないわけですね。たしか前回お聞きしたときには,法制審議会の総会に出すのだということだと理解しておるわけですけれども,そうであるとすると,今度,各論的意見の方が非常に簡略過ぎて,これで法制審議会の総会の方がいろいろ判断できるのかというような問題があると思います。もし,法制審議会の総会あてに出している意見であるとすれば,各論的な意見のところは結論だけではなくて,もう少し,日弁連の当部会に対する意見書がそうであるように,結論と理由というふうに分けないと,非常にこれは法制審議会の総会の方でも議論のしようがないのではないかと,そういうふうに思っております。  それと,もし各論の方が,私が考えましたのは,むしろ各論の方はヘーグでの交渉団について,この線で交渉してくださいという,そういうお願いをするということだったら分かると思うのです。交渉団の人は十分に理解されておられますから,こういうふうに結論だけでもよろしいのかと思いますけれども,そのあたりの趣旨がはっきりしないために,コメントしてくださいと言われても非常にコメントしづらいわけです。ですから,私が考えますには,これは法制審議会の総会あての意見書であって,第2の各論についてはむしろヘーグの交渉団に対して,次の線に従って交渉されることを依頼いたしますというような,そういう構成が一番いいのではないかというふうに思っております。 ● まず法制審との関係ということになりますが,一応建前としては法制審議会があって,下に部会というものがあるという形で,何らかの形で部会から法制審議会総会の方に上げるという手続は必要だろうと思いますが,今のところ考えておりますのは,これは手続上外交会議前に法制審議会の総会を開いて御承認をいただくということは現状では不可能だと思いますので,部会としてこの条約草案について,このように意見を取りまとめたということで,報告という形にしてはどうかというふうに考えております。  2番目に,名あて人の点ですが,これに関連する問題ですが,このスタイル自体は若干表現は違いますが,基本的には対処方針に近いスタイルになっております。そういう意味で,御指摘がありましたとおり,いわばこれは名あて人ということになりますと,この日本国を代表してこの会議の交渉に臨む,その代表団に対する意見というふうな位置づけになるのではないかと考えております。 ● よろしゅうございますか。 ● はい。 ● では,そういうことを前提として御議論いただければと思います。  順次,特に下線の部分につきまして,何か御意見ございませんでしょうか。例えば,3条については先ほどの御説明があったと思いますが。--よろしゅうございますか。  それでは,それ以外の点につきましても御意見ございましたら……。 ● 18条の表現なんですけれども,今回訂正になりました「なお」以下のところで,「これを禁止しない場合には,別件訴訟を提起することによる濫用のおそれという問題が生ずることになる。」。ちょっと意味が,通して読んでもよく分からないのですけれども。文章として,ですね。どういう御趣旨……。  文章がちょっとよくないのではないかという気がするのでございますが。 ● これは,なお書き以下は,実は書かなくてもいいのですね,本当のことを言いますと。なお書き自体は全部書かなくたって,基本的にはこのままでいいと。  ただ,インプリケーションですね,つまりこの18条パラ1を受け入れることができるということの意味は,一方では今認められている可能性がある客観的併合というのは禁止されるよと,それがまず第1点ですね。  第2点目は,しかしこれは正にこの部会で前回たしか議論になったと思いますが,仮に国際裁判管轄の場面で客観的併合というものを認めた場合,つまりサブスタンシャル・コネクションがない場合にも認めたというような場合になれば,これは逆に管轄をとるという形で濫用されるおそれがあると,そういう御指摘がございました。したがって,短く書いたものですから,その両方の異なることがまとまっているわけですが,確かにつながりが悪いことはそのとおりでございます。 ● もしそういう趣旨であれば,後段の「これを禁止しない場合には」の「別件訴訟」と言うと,併合しないで別の訴訟を起こすという意味になってしまうので,この書き方ではちょっと意味が逆になるだろうと思うのです。ですから,仮にその趣旨で書くのであれば,「これを禁止しない場合には,管轄地と無関係な請求までも併合提起されることによる濫用のおそれ」とか,そういう形の言い方でないと,「別件訴訟」と言うと客観的な併合をされて,同じ訴訟の中での請求という意味ではなくて,別の訴訟という意味になってしまうので,逆の意味になってしまうと思うのです。ですから,今おっしゃる趣旨であれば,そういう本来管轄地と無関係の請求をあえて併合して提起することによる濫用のおそれとか,そういう言い方をするべきではないかと思うのですけれども。 ● 御指摘の趣旨を踏まえまして,表現の方は検討させていただきます。書いた趣旨は,刑事の別件逮捕みたいなイメージでございますので。 ● 「別件請求を併合する」とか,そういう言い方ならいいのですけれども,「訴訟」と言うと全く別のプロセスという見方になってしまいますので。 ● 御指摘ありがとうございました。  ただいまの点以外につきましても,ございますでしょうか。 ● 内容にわたってしまうのですが,その後の5項の緊急管轄の点についての御提案がございますけれども,これは前回もちょっと議論がありましたけれども,今回,後で○○幹事の方から御説明があるのだろうと思いますけれども,非公式会合の報告なんか見ますといろいろ反対もあるようなんですけれども,我が国としてもこういう形で提案することは,もし通った場合にはある意味では両刃の剣的なところがありますが,著しく正義に反するとか,正義の拒否,裁判の拒否になることというのは国によって解釈が違う場合があり得るので,我々がこの間議論したような真っ当な場合というか,我々が想定しているような場合以外のものについてもそういうふうにとらえられかねない。  例えば,戦時のもとでの強制労働の事件とか,従軍慰安婦の事件とか,日本の裁判所に持っていったのでは実質的に裁判が拒否されるからアメリカで起こした方がいいのだとか,そういう形で使われるという,そういうことも考えても入れた方がいいのだという御判断ならいいのですけれども,むしろそういう形で我が国の国民なり企業なりが相手方の言っている正義に振り回されて,外国で本来的には管轄がないところで起こされるのも甘受してもいいのだというところまでの認識なしに提案するのはどうかなという気も,多少懸念があるのですけれども,そのあたりはどうなんでしょうか。 ● 私から答えるのがいいのかどうか分かりませんが,おっしゃるように一般的な書き方をして提案することについては,他の国からもいろいろと懸念が表明されていますし,日本としてもおっしゃる点があるかもしれませんので,今日御提案しようとしているものはちょっと変えたものにしております。もう少し具体的な状況を示して,今日御議論いただきたい論点という,番号がついていない文書ですが,その後ろの方の紙です。その点は後にしたいと思います。  もう1点だけ。おっしゃった例の中に,人権にかかわるような事件については,既に18条3項があって,それはやってもいいということにしちゃっているのですね。ただし,それは承認・執行義務がないので,従来どおりやられてしまうことについては認めているというのが現状でございます。それを超えての話を日本は言おうとしているので。 ● 人権についてそういう問題があるでしょう。人権を持ってこられるとある程度しようがないところがありますけれども,それ以上に自分なりの正義というのは皆さんお持ちでしょうから,国によって。その正義の拒否だと言われてしまうと,とりあえずそれが正義かどうかというのを外国で争わなければいけないことになるのかということが,多少懸念されるということです。  前回は,我が国の国民が裁判が拒否されるような状況があってかわいそうではないかというものを想定してやりましたけれども,そういう名のもとに外国の法廷に引きずり出されちゃうということも十分考えられるので,そちらの懸念の方がむしろ大きいのであれば,もともと反対が多いようなことであれば,あえて入れるまでもないという考えもあり得るのではないかなと思ったのです。 ● この括弧書きの中の例はあるいは要らないかもしれませんし,それから対処する必要があるかどうかはなお検討を要するとか,もう少し緩めた方がいいかもしれません。 ● そこは,我々というより,むしろ○○委員とか○○委員の方のお考えをお聞きしたいと思いますが。 ● これは実質的な議論に入っていくことになると思いますので,後で一度お話しいただいた上でこれに戻りまして,もう一度お考えいただくというふうにさせていただいてよろしゅうございましょうか。 ● はい,結構です。 ● では,この点につきましてはまた後で御議論いただいた上でということで,ちょっと留保させていただきますが,それ以外の点につきまして何か御意見はございますでしょうか。下線を引いていない部分につきましても,御意見があれば承りたいと思います。  特に,今の段階ではよろしゅうございますか。 ● 前回,私が消費者契約について伺ったので,何かその点についてお考えになったかなという気がするのですけれども。  今でなくても結構です。 ● 余り後の方で全部蒸し返されるということになりますと好ましくございませんので,もしこの段階で議論ができるのであればお願いしたいと思いますが。 ● 自然人に限るというままでいいのかという疑問を呈したと思うのですけれども。  案の原文では,自然人に限るとは書いていないですね。本当に実態がよく分からないので,どういうケースが出てくるのか分かりませんけれども,取ってしまって,後で困ることはないのかという疑問だったわけです。 ● 前回,○○委員の方から,たしかNPOの話だったと思いますが,そういう場合も消費者として考えられていいのではないかというお話があったことは認識しておりますが,基準の明確性といった場合に,やはり自然人というのは日本の消費者契約法も消費者という場合には個人というふうにしておりますので,なじみやすいかなと。つまり,基準が明確であるということと,それから消費者契約法の場合にも個人として定義しているという2点を考慮しまして,またこれが仮に個人に限らない,法人,いろいろなものを含むということになりますと,じゃNPOだけかという話に当然なりますね。株式会社だって場合によってはというふうなこともあり得るかもしれない。そういうわけで,基準の明確性というもの,つまり特別に保護するための管轄を認めている規定ですので,できるだけ基準が明確な方がいいという観点から,このようにさせていただきました。 ● そういう提案をするわけですね。自然人に限るという提案を,日本としてするわけですね。 ● これは,実は後から議論するエディンバラ会合のペーパーがございますが,そこで既に「ナチュラル・パーソン」という言葉が出ております。したがいまして,多分積極的に提案するというよりも,それに反対しないという形になるのではないかと思いますが。 ● よろしゅうございますか。 ● はい,結構です。 ● ほかの点,ございますでしょうか。  特にございませんようでしたら,この資料18を部会の意見として考えさせていただくということでよろしゅうございますか。--それでは,そうさせていただきたいと思います。後で御議論いただく1点を除きまして。  それでは,先ほどお話のございましたエディンバラ会合の報告をお願いいたします。  4月にエディンバラで行われました条約に関します非公式会合の報告を,○○幹事にお願いしたいと思います。 ● それでは,資料19に基づきまして御報告申し上げますが,別紙の1から9というものがございますので,そのうち関係するところで関係するところを申し上げますので,その条文を見ていただいた方が分かりやすいのではないかと思います。  この紙は,どちらかというと項目別にはなっていますが,項目の中につきましては時間的な流れになってしまっておりまして,必ずしも見ていただくのには分かりにくいかもしれませんので,前回もそのような御報告の仕方をさせていただきましたけれども,でき上がったところから逆に見て,こうなったという説明をさせていただきたいと思います。  今回の会議におきましても,前回のオタワと同じように幾つかのグループに分けて議論をするという方針がとられました。ただ日本からは二人しか参加しなかったものですから,三つ同時に動いた場合もございまして,必ずしも完全にフォローできているわけではございませんが,しかしそれぞれについてはもちろん全体の会合で,どういう経緯で,どういうことになったかという説明はございましたので,個別のグループに参加していないところについても御説明はできるはずであります。  グループの一番大きなものはactivity-based jurisdiction でありまして,資料19の2ページのところの(1)であります。この(1)の説明が,6ページの3行目まで続きますけれども,これについてまず御報告申し上げたいと思います。  これにかかわる資料といたしましては,別紙の2,3,4であります。  議長はスイスのブハー教授でございまして,彼はオタワでできた案については必ずしも自分自身で納得していないところがあって,別紙2という紙を出してきまして,要するにオタワでやったときには従来の6条という大陸法的な条文にactivity-based jurisdiction をただくっつけると,オーバーラップがあっても仕方がないという条文になっていたわけですけれども,そうではなくて,別紙2の--一番分かりやすいのは,別紙の2の中の3と書いてるところだと思いますが,何とか二つの考え方をミックスした条文にしたいということを案として出されました。しかし,それについては最初から,この紙の検討に入ること自体ができませんで,これは違うだろうといいますか,オタワのときの議論はこうではなかったというので,もちろん議論の出発点はオタワでできた前回の,ただくっつけただけの条文をもとに議論しましょうということになりました。  それについてでありますが,資料19の2ページ目のところの下から二つ目のポツですが,ドイツはもともとこのactivity-based jurisdiction に反対だと,それは従来から言っていることですが,オタワのは二つつなげただけで,むしろ義務履行地管轄ということをきちんと考えるべきだということを言いました。だから,細かい話はしたくないというのですが,activity-based jurisdiction の議論に入りたくもないということでありました。  ただ,全体としてはそうもいくまいということで,前回も申しましたけれどもアメリカとしては18条2項e)で,ゼネラルな形のactivity-based jurisdiction を放棄する以上は,スペーシフィックな形のドゥイング・ビジネスというか,activity-based jurisdictionを入れてほしいと,そうでなければ国内はとても説得できないということを強く言っておりますので,それをどう考えるかということでございました。  で,その方向で議論をするということが全体の雰囲気でありまして,アメリカは3ページのところの一番最初のところに書いてありますけれども,確かに現在の条文というか,オタワでできた条文のパラ1とパラ2は重複しているけれども,別に構わないということであって,むしろそういう考え方を不法行為の方にも及ぼしたいということで,これは後からまた申しますけれども,不法行為の方にもにも同じような考え方を入れたいということでございました。  全体的な話としてはそうでございまして,3ページ目の真ん中あたりの(ロ)と書いてあるところからが小さなグループでの議論でありますが,ドイツはそこでも同じようなことを言っておりましたけれども,幾つかかいつまんで申しますと,さっきの重複するという意見については,イギリスも別に構わないと。確かに,管轄というものはそもそも重複するものだということからしますと,それは構わないわけで,EUもそのこと自体は問題とならないということでありました。  ドイツは,入れるのであれば別紙の2のブハーの紙の3案のような,一緒にまとめたらどうかと。日本も,確かに6条の現在のオタワの1と2は,経緯を知っている人には仕方がなかったということが分かりますが,初めて見る人には全然異質なものが並べてあるだけで分からないのではないか,むしろくっつけて,初めて見る人にも分かるような管轄原因にしたらどうかということを発言したのですけれども,EUも確かにそれは価値があるかもしれないと言ってくれましたが,しかし無理だというのが結論でありまして,ブハーの紙の第3案はおよそ内容が変わってしまっていて,出発点にもならないということで,韓国はフィジカルなコンビネーションではなくて,ケミカルにくっつけてしまって,そういう方がいいのではないかということも言ったのですが,そうはなりませんでした。  ですから,別紙の3がむしろここでの議論でありまして,別紙の3はほとんど変わっていないわけです。activity-based jurisdiction のグループから,全体に対して結果として出された紙ですので,御覧になっていただければ分かりますように,余り変わっておりません。基本的な構造は変わっていないわけです。  何が議論されたかと申しますと,2項について幾つか言葉について問題があるというので,一つは frequent or significant activityというものが非常にあいまいであると,ですから二つの基準が使われていて,orでつながっているわけですからどっちでもいいというわけにはいかないのではないかということで,アイルランドはsignificant はいいけれども,fr-equent but insignificant ではだめだということを言ったわけであります。  それについて,しかしfrequentというのとsignificant というのは,量的基準と質的な基準であって,どっちかでいいというわけにはいかないのではないかという韓国--韓国は割と整理する発言をよくしてくれまして非常に助かったのですが,アメリカもそうだということで,1回のactivityでもsignificant ということがあるし,significant なactivityであればfrequentでなくてもいいということで,両方の基準が必要だということを言っていました。  フランス語圏からは,frequent activity というフランス語はないということを言ったわけでありますが,そういう応酬があったわけであります。  それからもう1点,相当議論に時間が使われましたのは,activityと,それから契約締結と,それからそこから生ずるクレームとの関係ということ,「因果関係」と4ページのところに書いてありますが,それであります。従来のオタワの議論は,activityからいきなり請求権が出てくるような書き方になっていまして,そうすると何かした行為に関係する請求権しかできないのかと,これはしかし契約の管轄ではないかということからしますと,間に契約が一つ入って,その契約に関するものはいいというふうに書くべきではないかという議論でございました。4ページの真ん中の(C)のところのオタワⅡ案が書いてあります。まず,activityにダイレクトにリレーテッドしたクレームであることと。  それを変えたのは,activityに,ダイレクトリーに関係した契約に基づく請求権というふうにしてはどうかということです。ただこれは,これによってかえって管轄が広がるのではないかということであります。先ほども申しましたように,いったん契約という媒介を通しますと,そこから出てくる請求権は全部入るということになりますので,広がるのではないかという発言もありましたけれども,それはそうであるべきだといいますか,契約の管轄ということを考えるとすればそれでいいのではないかということに,全体としてはなったと私は理解をいたしました。条文としても,このままそこは変えましょうということになっております。  それから,ネゴシエーションのところに括弧書きが別紙3のところではつきましたけれども,これは日本が従来から言っていたことで,売り込みに来たとかいう,片方が積極的で片方が受け身というのではなくて,お互い対等の立場で無関係の地といいますか,お互いたまたま会ったところで契約交渉をしたというだけで,そこでの管轄が生ずるのはおかしいではないかということで,そういう意見もあるので,とりあえず括弧にしましょうということになりました。  それから,金銭債権についてでありますけれども,新しい4項というものを入れるべきかどうかという議論であります。これは,前回のオタワのときにも若干議論があり,日本の言ったとおりではありませんが,そこは問題だという国が幾つかあったからでありますが,これは何を言っているかと申しますと,金銭の支払いというactivityだけしか関係する行為がない場合には適用しないという条文ですけれども,ただし--ただし書をつけるかどうかが問題ですけれども,ただし,双方がお金を支払うような場合は除くといいますか,その場合には適用していいと,だけど物の引渡しに対する代金の支払いのようなactivityについては,それは除きましょうという案であります。これは,当初から議論があったところですが,アメリカはそもそもそういう区別はアメリカにはないと,金銭だからといって当然に除くという考え方はないので,それは余り賛成ではないようでしたけれども,オーストラリアは強くこのことを言っておりまして,一応括弧書きで書いておきましょうということになっております。  なお,この関係で,パラ1につきましては,金銭支払債務は入っていないというのが,グッズでもないしサービスでもないというのが多くの国の認識で,その発言に対して,いや,自分は違う解釈をしているという国はありませんでした。日本も,そういう解釈であれば,少なくとも1項については問題ないと思っていますので,そこはそういう確認といいますか,明示の確認ではありませんが,することができたわけであります。  そのことの全体会議における説明というのを,5ページの前半のところにまとめて書いておりますけれども,今申し上げなかった点を申しますと,アメリカはパラグラフ1につきましても,なおイン・パートなんていうのはデュー・プロセスとの関係で問題となるということを言っております。それから,パラグラフ4につきましては,少なくともパラグラフ2の関係では専らfrequent or significant activityかどうかで決まる話であって,頭から区別してしまうというのには賛成できないということでありました。  フランスは,それに対してそもそも言葉遣いが分かりにくいといったことの発言がありました。  以上,別紙3ができた経緯,あるいはその中で議論された点であります。  続きまして別紙4でありますが,別紙4は不法行為の事件の管轄規定でありますけれども,これもactivity-based jurisdiction のグループで続けて議論がされました。この中で,先ほどもちょっと触れましたけれども,アメリカがコントラクトの6条におけるパラ2のようなものを加えたらどうかということを言いました。それが別紙4の2項であります。ほとんど同じつくりでありますけれども,被告がfrequent or significant activityに従事している国において不法行為をしたという場合において,不法行為請求の管轄があると。ただし,それはactivityから生じた請求でなければいけないということでありますけれども,それを入れようというわけであります。  これについては,もちろんパラグラフの1の方で全部カバーされているはずだということでありますが,さっきと同じ話でありますが,重なったって構わないではないかというわけであります。  ただ,更に3項というもの,これもアメリカが提案したもので,これもさっきの契約事件においてもセーフハーバーを設けましょうという6条のパラグラフの3と同じ話でありますが,その国に向けた活動を回避するというためのリーズナブルなステップスをとっているような被告である場合には適用しないということで,思いもかけないところで不法行為をしたとされることを防ごうというわけであります。こういうのをアメリカは入れたいということでありました。  これについては,当然予想されるところでありますが,2項については分かりにくいという議論がありますし,3項につきましては,そもそも不法行為においてそのようなセーフハーバーを設けること自体,おかしいではないかという議論がございました。損害を与えてしまった以上,向けているつもりはなかったといっても,それはそうはいかないという議論があるところであります。  もう一つ,4項は,日本が不作為についてはいろいろなところで訴えられてしまうおそれがあるということで言っていたところでありますが,これも前回よりはトーンダウンですが,括弧書きに入りまして削除の方向に少し動いたというわけであります。  そのほか,ちょっと正確にオタワのときの条文とすぐには比べられないのですが,少なくとも競争法違反のような条文は全部抜けまして,あれはほとんど適用がないからということになっています。「may occur 」が今の4項との関係で括弧書きに入ったというわけであります。  続きまして別紙の5に基づきまして禁止管轄。資料19の6ページのところに移らせていただきます。  このブラック・リストを決めております18条につきましては,このページの冒頭にアメリカとしてはパラグラフ2のe)は非常に国内的にはショッキングであると,そういうものをアメリカはのもうとしているのだということを高く売ろうといいますか,そういうことを発言をしております。  アメリカは,パラグラフ1に反対なんですね。もともとアメリカは,ブラック・リストと言っていたのであって,ブラック・エリアとは言っていないということを従来から言っていて,これははっきり困るというものだけ書けばいいので,あいまいな規定を置くべきではない,訴訟を長引かせるだけだということであります。  で,general doing business,3番目のポツのところですが,フランスはこれもアメリカの18条の2項e)がグレーになるのであれば,原告の住所地等,国籍もそうだと思いますが,再検討したいということを言っております。  日本は,別紙の5のようなものを提出しまして,御議論いただいた子会社,それから関連会社というのもつけ加えましたけれども,subsidiary or other related entityの所在だけで管轄を認めるということはできないようにしましょうということと,それから先ほどのde-nial of justice で裁判の拒否になるような場合には適用しないということにしたいという条文,この段階ではこのようにいたしました。  それについてですが,全体会議ではなくて,小グループでの会議に移されまして,これはこの18条のためにつくったグループですが,続けて小グループの方の議論になりますが,まずは子会社の関係につきましては,その小グループの議論においては,そもそも18条2項は,現在問題となっている特定の国にそういう管轄原因があって,それが過剰管轄として問題だと言われているものを挙げているのであって,仮定的に,こういうのも困るではないかという形で言われても困ると,そういうリストではないのだというのが小グループでは大勢でございました。日本は,子会社だけで管轄を認められて困っているのかとか,アメリカのactivity-based jurisdiction の関係のことを言ったわけですが,しかしそれだけでアメリカも管轄を認めていないだろうと,本社の営業活動を認定してやっているのではないかということで,そのグループではだめだったわけですが,全体会合では賛成してくれる国もございまして,7ページの(ハ)の(a)ですが,子会社等の存在をブラック・リストに加えるということについて,ドイツ,オーストリアから,18条2項というのは柱書きのところでon the basis solely of one or more of the following 何とかということになっていて,組合せでもだめだという条文になっているので,18条2項e)プラス18条2項k)でもだめだということには意味があるのではないかということを言っていました。これは,日本は実はそうは思っていなかったのですが,確かにそういう意味はあるのかもしれないということで,もちろんアメリカはそんなことは実際に問題にならないということを強く言っていましたけれども,全く先ほどの小グループでの議論で言う,現実にそれだけで管轄を認められる国があるのですかというだけでだめということにはならないかもしれません。ですから,望みはまだあるということであります。ただし,全体がそうだから入れましょうというふうには,まだなっておりません。  それから,denial of justice につきましては,6ページに戻りますけれども,下の方ですが,日本としては例えばと設例を挙げたわけです。外国で交通事故が起こって,ひき逃げ,加害者が不明だと,だけど不法行為地だから管轄があるけれども,ひき逃げなんで公示送達しかできない。そのときに,後に日本で加害者の財産があるということが分かった場合に,日本で財産所在地をもって管轄原因にできるかということは,これは18条2項a)で禁止をされているわけですが,しかしそれしかないと。なぜかというと,不法行為地で行われた公示送達による裁判というのは,この条約の28条の1項d)で,「訴訟を開始する文書又はこれに類する文書が,被告に対して十分な期間を置き,かつ,防御の準備をすることができる方法で通知されていない場合」に当たるので承認できないのではないかと。そうすると,どうしようもなくなってしまって,それは困る。そういう場合には例外にしたいということを言ったのですが,そもそもこの例がちょっとまずいというか,日本の解釈と違っていまして,多くの国は,公示送達だって28条1項d)には入ると,合理的な公示送達ならばいいのだというのですね。そう読めるかどうか。現実に知らしめなければいけないのかどうか。日本は,118条2項で公示送達だめと書いてある頭があるからちょっと思い込みがあったのかもしれませんが,相当数の国,少なくとも小グループの国ではそうだそうだということで,そこは必ずしもこの例に--例を挙げると例の中に入り込んでしまってなかなか出られないのですが,承認できるはずだという議論と,それからもう一つの議論は,28条は拒否することができると書いてあるのだから,そういう場合に日本はすればいいではないか,承認してしまえばいいと,それは条約は禁止していないと言われまして,なかなか……。  それ以外の例はどうかというので,ほかの国にもいろいろ考えていただいたのですが,例えば時効で,日本で準拠法になる法律では時効が完成していないけれども,本来管轄がある国の法律は時効が完成している,日本に来れば訴訟ができるのに管轄地は訴訟ができない,そういう場合に日本は憲法違反と言うのかと言われて,すぐには答えられないというので,要するにこの点についてはもう1回提案し直すので,少なくとも28条の解釈が違っているということが分かったのは非常に有り難かったということで,とりあえず再提出ということで引き取っております。  そういうことで,今日後で,再提出するとすればこんな案はどうでしょうというのを御提示したいと思っているわけであります。  禁止管轄につきましてはもう一つ大きな問題がありまして,パラグラフ1につきまして,従来といいますか,現在の99年10月の案ではthat Stateとthe dispute との間のサブスタンシャル・コネクションということがない場合はだめだと言っていて,これを前提に先ほども議論がありましたけれども,客観的併合はだめになるのではないかということであったわけですが,dispute との間では関連がないものまでくっついてきているのでだめかもしれないということですが,これはドイツがdispute だけではなくて「or the defendant」というのをつけたらどうかということを言い,イギリスはむしろdefendant とState の関係の方を書いたらどうかということを出してきました。  これは,彼らが本当に何を問題にしているのかということについては十分な説明はございませんでしたけれども,日本としては,それは別にいいことですねといいますか,客観的併合は私は決して賛成ではございませんが,反対することもない,あえてだめにする必要もないので,特に不法行為なんかについて,さっきの10条の規定ですね,幾つかの国で名誉毀損があった場合なんていう話の場合が特に。それを入れましょうということで,これは書き方をどうしましょうというのは問題になりましたけれども,これ自体困るという国はございませんで,むしろドイツ案ですが,どちらかというのでいこうということで,少なくとも小グループはまとまりまして,その案が口頭での説明でしたけれども全体会議でもあり,それについて反対する国はございませんでした。もちろんアメリカは,パラグラフ1自体の存置は反対なんですけれども,置くとすればというふうな改正自体に反対するということはございませんでしたので,その方向になる可能性はあります。以上が18条です。  それから,別紙6は保全ですけれども,資料19の7ページの下の方に常居所の議論がございますので,ちょっとこれに触れてから。  これは別に条文案はございませんが,ニュージーランドから「ハビチュアル・レジデンス」という言葉は異なる考慮をする必要があるので,「プリンシパル・レジデンス」ということでしたらどうかと。これは既に前から御説明しているところですが,複数の住所がある人についてはプリンシパル・レジデンス,多くの人は一つしかないので,わざわざハビチュアルと言わないで,普通にレジデンスと言ってしまうということであります。  これは既に日本でも議論していたところでございますので,日本からは条文ごとの検討,3条の改正には反対しないけれども,ほかのところを全部変えてしまっていいかどうかはもう少し慎重に考えたらどうかということを申しました。  フランスは,プリンシパルというふうに言うと,余り使われていない概念ではないかという話がありましたし,プリンシパルかどうかを国籍を用いて決めるなんていうことになると困るのではないかというか,それもあって,完全に大丈夫かどうかについては一応留保を示しておりました。  それから,13条の保全に移らせていただきますが,これは別紙6であります。  この保全につきましては,結論的に申しますと日本が何年も前から,当初から言っているとおりになりましたので,非常にハッピーな結末でございまして,保全の命令を23条から削除するということ,23条は判決の定義でありますので,それが別紙6の4であります。それに伴って,そうするともうホワイト・リストに入れるということの意味は全くなくなりますので,13条は削除するということになります。13条を削除すると,17条というクレー・リストに13条本則なんて書いてある,これも要らなくなるのでそれも削除すると。これは別紙6の1と2であります。  そのかわりに,22条bis という新しい条文を置いてはどうかと。これは承認・執行とかかわりませんで,分かりやすく書いてあるといいますか,こういうことについては管轄を認めてもいいのだと,may order ですから,書くまでもないような規定なんですが,しかし私も不勉強でよく知りませんでしたけれども,幾つかのコモン・ローの国では,イギリスなんかは制定法で書いたのか判例で書いたのかちょっと忘れましたが,もうそれにはとらわれていないようですが,ライダックでしたかレイダックでしたか,そういう判決があって,財産所在地であるということだけで管轄権を行使できないという,他の国の裁判のために保全だけやっておくということについてはだめだという判例を引きずっている国があって,そういうことを変えたいということを言っていました。それは,変えるのはそれぞれの国のことでしょうと,条約でやっていく必要はないのではないかということ,もちろんそういう意見もありましたけれども,そういうことも考えて,そういう国で保全処分できないというのも他の国の債権者から見ると困るわけですから,22条bis のような規定を置いて,それはできるということにしてはどうかというわけであります。2項ですかね,妨げるものではないというわけであります。  いずれにしましても,この保全については義務はなくなりましたので,いいかなと思っております。  それから,disconnection の話がずっと大きな問題としてはございまして,資料19の8ページのところですけれども,これはいまだに結論はなしであります。スウェーデンが現在EUを代表している国なんですが,いろいろ議論をしているけれどもまだ合意がないというわけであります。EUの中がはっきりしないと何も議論ができないですから,具体的な話にはなっておりません。  それから,Consumers とWorkers という話で,これは別紙の7です。別紙の7は,内容的には細かな違いはございますが,基本的にはゴダードが,ミックス条約の隙間をうまく使って合意管轄を認めたいというアメリカと,そういうものは絶対困るというEUの間をとった案をつくったわけですが,そこからふみ出すことはできていないです。その最大の問題は,非常に複雑で分かりにくいという批判で,これはもういろいろな国が言って,アメリカは特にこんな難しい条文はアメリカの法律家には分からんということを言っていましたけれども,そこは私はソフィスティケートされたいい案だと思っているのですが。  ただ,そこをもう少し分かりやすくするというので,そこが本当は日本にとっては困ることになのかもしれないのですが,どうするかというと25条bis という条文で,消費者の常居所,あるいは労働者の常居所地で行われた裁判を承認しないという宣言をできると,ただしその条件は,それに反するといいますか,4条の合意管轄の要件には合致していなければいけないのですが,合意管轄がある場合には消費者あるいは労働者の常居所地でなされた裁判は承認・執行しないという宣言ができるという条文を置いて,宣言に係らしめようという案であります。  前回の案は,自国がそれを認めるか認めないかという形で,別にアクションとしてはなかったのですけれども,今回の案はそこを明確にするために嫌だったら宣言をしなさいということになりました。日本にとってどうかと申し上げたのは,そうすると決断を迫られるわけでして,この宣言をするのか,するとすれば消費者よりは企業をとる,ビジネスをとるということを決めなければいけないわけでありますので,そういう問題を抱えることになります。しかし,それは分かりやすいのでその方がいいという考え方もあるかもしれませんが,今ではその案が出てきているというわけです。  それからもう一つのことは8条,要するに労働者についても同じような考え方でいこうということで,8条削除ということには今のところはなっていないということであります。  それから,資料9に基づきまして知財の関係のことについてお話を申し上げたいと思いますが,これは方向としましては,これはちょっとまとめ方が違うのですけれども,考え方を書いているような紙ですね,別紙の9は。この注の4という番号がついているところにありますように,インフリンジメントについても登録国の専属管轄にするということです。これは,アメリカがそうしてほしいということを言い出しまして,大きくそっちへ動いたというわけであります。  この審議会でも,当初からマルチラテラル・パテント・エンフォースメントとかいって,いろいろな国のパテントのエンフォースをアメリカが一国でやってしまうということが懸念としてあるということを申し上げていたにもかかわらず,アメリカは自分で,そうではなくて,ばらばらにしたいということを言ってきて,その本旨はよく分かりません。そういう意見が知的財産関係の専門家から出てきて,その方向の態度決定ということになったわけであります。前回,オタワのときに紙だけ配っていましたが,そのとおりになったというわけであります。  これは,EUもそちらになったということで,フランスは反対のようですが,専属管轄でいくというわけであります。  AIPPIは,これは特許の関係の国際的な専門家のグループですが,最終的な結論は削除だったと思いますけれども,専属管轄に賛成というのではなくて,条約から適用除外をするということだったと思いますが,今のところ除外ではなくて,入れて,かつ,侵害訴訟も専属管轄ということであります。  このincidental question につきましては,ちょっと私はよく分からないのです。これは,各国でそもそも考えたことが違うということが相当あります。ここにまとめて書いてくださっていますけれども,特許についての特別な裁判制度があるかどうかというようなこととも関係しますし,非常に錯綜した議論がありまして,どうもまとまりというものはないように思われました。  それから商標についてですが,商標も,これは特許と同様に扱うということで,このunre-gistered trademarkという,アメリカのものも,これも専属にするということですかね。その方向で,アメリカは,自分のところのだけ外国でやられては困るということなんでしょうが,そのようでありました。  それから,著作権についても議論がありましたが,著作権についてはこれは従来のままですね。shoud not be exclusive jurisdiction over copyrights ということであります。ちょっとこの辺はまとまりがございませんが……。  以上が個別のテーマで議論がされたところであります。全部をカバーしたわけではありませんが,基本的な重要なところは議論がされたということであります。で,外交会議に向けて方向づけがなされたということです。  それから,外交会議の手続の話が少しございましたけれども,事務局としてはもう少しきちんと決めたかったようですけれども,これは夕食会のようなことをやって議論したのですが,もうばらばらの意見で,難しいところからやるか簡単なところからやるか,管轄からやるか承認・執行からやるか,もういろいろな議論が出てきて,何も決まらなければどうするか,きっとそこは原案つくってアジェンダ案で出してくるのだろうと思いますが,必ずしも1条から,頭からやっていくということにはならないのだろうと思います。1条なんていうのはいきなりはできない,2条もいきなりはできないのかもしれないので,どこからやるか,ちょっと分かりません。  それから,条約の構造という話がありまして,これは幾つかの国が,アメリカ,スイス,ニュージーランド,今日はお配りしていないようでありますが,条約の組み直しをしたらどうかということで,一番出してきたのは承認の規定を前にするとか,アメリカはそういうことを言っていましたけれどもそういう話とか,スイスとかニュージーランドはもう少し論理的に並べたらどうかと。訴訟競合なんていうのが管轄に入っているわけですが,ちょっと違うだろうということで,その辺を分けたらどうかと。これは全体が決まらないとなかなか話はできないところだろうと思います。  それから,最後の11ページですが,アメリカが承認・執行するときに,何か要するに送達条約におけるアポスティルというのですか,定形的な文書化をして,そこに書き込んで,それを判決にくっつけて出してもらうとすごくうまくいくのではないかと,そして何を書くのかというモデルフォームをつくってきて,意見があったら欲しいということを言っていました。これは悪いことではないと思いますが,しかしだれがどうやってもらうのか,日本のことを考えますと,しばらくたってから来られてもなかなか書けないことがあるかもしれませんので,具体的な議論は全然しませんでしたけれども,何かあればと思います。  以上,長くなりましたが……。 ● なかなか大変なようでございますけれども,ただいまの御報告につきまして,個別の論点の方はまた出ておりますので,ただいま御報告いただきました点で確認したいということがございましたら御指摘いただきたいと存じます。 ● 今の御報告ですと,侵害訴訟の専属管轄化というのはアメリカがそちらに回ったということで,現実味を非常に帯びてきたということですけれども,最終的な見通しとしてもそちらに行きそうというところまでお考えなんでしょうか。 ● 見通しはなかなか……。今までも見通しは誤っていますので申し上げたくはないのですが,個人的に一言だけ申し上げてよろしいでしょうか。  私は,特許とか著作権の法律の適用関係の方がはっきりしていないわけですね。例えば,ビジネス特許などを考えますと,それを使っていた場合に,どこかの国の特許法がそれに適用されるかもしれないわけですね。その特許に入るときには自分の特許法を適用しているわけですから,その国に専属管轄だと。で,管轄があるわけですね。そうすると,そこの判決は執行義務が生じてしまうのですね,この条約ですと。それはしかし,法の適用としてはおかしいではないかということを言いたいかもしれないけれども,それは言ってはいけないことになっていますね,この条約は。そういう意味で,準拠法の決め方が余りに違うというか,まだはっきりしない分野において,判決の方だけきちんとしてしまうとかえって危ないかなというふうに今は思っております。  こういう方向になってくると,逆に今度はほかの心配が出てくるので,もしそれが心配であれば,本当はエクスクルードしておいた方が,まだ執行はしませんよと言えるかもしれない。なかなか難しいですが,少なくとも義務はなくなるので。というふうに今は思っています。専属の方向でいくというふうな,雰囲気としてはそうです。 ● よろしゅうございますでしょうか。ほかの点につきましてございませんでしょうか。  それでは,休憩をさせていただいて,その後で各論点について御議論いただきたいと存じます。           (休     憩) ● 再開させていただきます。  今までの説明,並びに御報告を受けまして,具体的に国際私法会議の外交会議に向けまして,幾つかの論点を御検討いただきたいと存じます。  事務局の方より,論点メモを作成していただいておりますので,まず○○関係官の方から,この論点メモについて御説明をいただきたいと存じます。 ● 私の方から御説明いたします。  資料番号がついていない形で,「ヘーグ国際私法会議第19通常会議に向けて特に御議論いただきたい論点」という題名になっている紙でございまして,本日,議論に資するために配布させていただいたというものでございます。この紙に従いまして,特に「意見」の方で若干積み残している点であるとか,あとエディンバラまでの非公式会合で出た案についての更なる検討,あるいはどのような形で中身を提案していくのかという点について御議論いただければと思います。  この「論点」について説明申し上げますけれども,まず一つ目のポツですが,「意見」の方でもございましたけれども,常居所の概念につきまして第3条の方でこの概念を用いないこととしたときに,ほかの条は別途検討した方がいいということでとどめておいたところでございますが,この点についてどのように考えるかという点でございます。一応こちらで検討したところでは,他の条の常居所についても同様に,その概念を用いないというような形ではどうかという形で問題提起をさせていただいております。この点につきましては,条約全体の連結の概念というものは,普通裁判籍というものが中心となっているので,これを中心に統一されていた方が望ましいのではないかと。また,常居所という概念を避ける理由というのは御議論いただいたところですけれども,ほかの条約等における各国の定義の食い違いというものの影響を受けないようにするということで,それを例えばプリンシパル・レジデンスであるとか,ほかの概念を用いても,その実際にどこになるかということを考えた場合に,常居所と書いていたものと大きくずれるということをもともとは想定していないことなどを考えますと,ほかの条についても統一的な,同じ概念に置き換えるという方向の方が望ましいのではないかという形で問題提起をさせていただいているところでございます。  二つ目のポツでございますけれども,エディンバラ会合の第6条,本日配布しました資料19の別紙の3になりますけれども,これのパラ4,ブラケットに入っておりますけれども,金銭債務に関して特別の規定を設けているところでございますが,この点につきましては当部会の意見の方でも,金銭消費貸借に基づく貸金返還請求訴訟の管轄ということで明確になることが望ましいということになっているところでございますけれども,この管轄についてのパラ4のような規定につきまして,第6条の適用の有無が明確となるという観点から,支持していく方向でよいかということで問題提起させていただいております。エディンバラでの会合の報告にもありましたけれども,パラ1の方に金銭債務の履行地が含まれないということは共通の理解があると思われますけれども,ただここでの御議論でも度々出ていたところでございますが,金銭消費貸借の場合に,金融サービスの履行,サービスの方へ読み込める可能性があるのではないかという疑問もありますので,この点については更なる明確化ということが必要かとも思われますけれども,とりあえず金銭債務の履行地というものについてはパラ1の方には含まれないということが共通の理解があるということでございますけれども,パラ2の方ではそうとは言えないということになっております。  パラ4の文言につきましては,ちょっと分かりにくいところもあると思いますが,The pr-eceding pragraphs do not apply to situation where the sole relevant activity is the payment of moneyとなっておりまして,activityに着目した形の条文になっております。そうしますと,パラ1の方にactivityという文言は全く出てこないわけですから,この文言だとしても,パラ1との関係というものは不明確な状態になっております。  また,パラ4の中では,このパラ4の除外this exclusionというものが,両方向が金銭債務の履行である場合は除くというような形になっておるわけですけれども,これは正に金銭消費貸借契約のような場合ですが,このパラ4に基づくと,そのパラ1,パラ2のエクスクルージョンがどのようになるのかということは必ずしもはっきりしないというところもございます。  このような問題もあるのですが,少なくとも明確化をしていくというような観点で,パラ4のような規定を置くと,置くとしてどのような規定を整理して持っていったらいいのかというような点について御議論をいただければと思います。  三つ目のポツですけれども,エディンバラ会合の消費者契約の点につきまして,第7条,第25条bis の規定,複雑な規定ということで御紹介があったところでございます。別紙で申しますと7,あるいは別紙8も御参照いただきたいところでございますけれども,別紙7の第7条のパラ5,それから第25条bis というものの構造について整理いたしますと,ここに書かせていただいたように,まず専属的管轄の合意がない場合とある場合ということで分けて,もともと消費者契約の中に専属的な管轄合意がない場合というのは,第7条に基づく管轄というのはホワイト・リストのものとされて,承認・執行義務が生じると。逆に,専属的管轄合意がある場合において,またこれを更に二つに場合を分けまして,これはパラ5のdですけれども,消費者の常居所地国の方が専属的管轄合意の効力を認めるバインディングであるとしている場合には,管轄合意された国の管轄というものはホワイト・リストとなって,管轄合意された国以外の管轄は禁止されるという結果になりますし,消費者の常居所地国法が専属的管轄合意の効力を認めていない場合には,もとに戻りまして,第7条に基づく管轄が認められるということになりますけれども,この7条パラ2に基づく管轄については,25条のbis の規定によって,この宣言によって承認・執行しないことができると,すなわち7条パラ2に基づく原告の常居所地国を原因とする管轄についてはグレーとなるというような構造になっているところでございます。  このような構造が前提となっているわけですけれども,この方向というものは当部会の意見の総論の方にございましたけれども,妥協の見込みのない部分をグレー化するという方向性には合致していると,あるいは宣言に係らしめるということで承認・執行を拒否することができる場合というものが明確になっているという方向で,肯定的に見るということも考えられるわけですが,一方で,宣言をするとして,その内容を定めるのに困難な政策判断を迫られるというような問題があるということで,慎重に考える必要があるのではないかということですけれども,このような方向について御議論をいただければと思います。  なお,これにつきましてはエディンバラの別紙8のフランスの提案というものもございまして,こちらの方は宣言の中身となっておりまして,宣言をした国--専属的管轄合意があっても,第7条の管轄に基づく判決の承認・執行を行うと,すなわちその合意の効力を認めずに,第7条の消費者を保護するような管轄に基づく判決の承認・執行を行うという宣言をできることとして,その宣言をしている国の間同士でのみ消費者を保護する管轄に基づく判決について,互いに承認・執行義務を生じさせるという形になっております。このような25条bis についての代替案も出ておりますので,これも含めて御意見をいただければと思っております。  次に,もう一つエディンバラ会合の関係では,知的所有権の関係で,特に侵害訴訟について,登録国の専属管轄とするという方向のドラフトがつくられているところでございますけれども,別紙で申しますと別紙9になりますが,この点については条文としてパラ1の方で特許,商標もそうですが,侵害訴訟を専属管轄とするということにしながら,パラ2の方でincidental questionの場合には適用しないと,incidental questionについてここに書いてあるような定義をしているところでございまして,この実際の知的所有権グループの中での議論,これの中でも実際にincidental questionとなる場合の例として,例えば特許等のライセンス契約に関する訴訟において,特許等の有効性が争われる場合というものが挙げられたりしておったわけです。ただ,そういう例を考えますと,特許等の有効性の範囲ということで技術的問題が争点となると,侵害訴訟を専属管轄とするという趣旨の中には,特に侵害に当たるかどうかということも含めて,各国の特許法なりの構造を前提とした技術的問題というものが数多く発生する可能性があって,それというのはそれぞれの特許法制を持っている登録国において判断されるのが適当であるというような理由が挙がっていたところもございまして,そうしますとライセンス契約に関して特許の有効性の範囲が争われた場合でも,登録国において審理を行った方が適当であるというような場合も考えられるということにもなるわけですけれども,一つ割り切りの問題として,侵害訴訟において実際に特許の有効性を争われる場合というのが非常に類型的に多いという,そういう現実的な問題を考慮して,今のようなライセンス契約の問題と侵害訴訟の問題というのは,線引きをして別に扱うということで割り切って,そのような結論にするということで妥当と考えてよいかという点について御意見をいただければと思います。  最後の2枚目の方の二つのポツは,後ろについております○○幹事に作成していただいた具体的提案と関係するところでございますけれども,一つはdenial of justice ,先ほど来御議論いただいているところでございますが,この点について18条のブラック・リストの方ではなくて,独立の条を設けるということに関する提案はどうかということでございます。このブラック・リストにこのdenial of justice の問題を設けることについては,ブラック・リストに穴をあけるという観点からいろいろ反対が強いところでございますので,これを18条と切り離して,条約全体のセーフガードの規定のようにして置くということに関してどうかという点でございます。  それから,28条パラ1に加えることを主張する拒絶事由として,「意見」の方でも送達が送達実施国法に反して行われた場合というものを入れるべきであるということを従来から主張してきているところですけれども,この主張に対しては,結局送達実施国法で,例えば極端な例を申し上げれば,外国から送達を受けた場合というのは承認・執行しないというような形の国内法を作成することも可能ではないかと,つまり各国が勝手に送達を無効とするような国内法を作成するおそれがあって,そうしますとこの条約の仕組み自体が壊れてしまうというような批判がなされているところでございますので,どういう場合に承認・執行が拒絶できるかということを限定していくという観点から,○○幹事に作成していただいた提案の5ページ目の方で申しますと,「国際条約その他の国際文書に適合する方法で通知されなかった場合」というような書きぶり,あるいは「送達が実施された国が当事国である国際条約又は国際約束に照らし有効な送達方法とされない方法により行われた場合」とすることはどうかということで提示させていただいております。特にその後半の方のことを考えた背景としましては,我が国の送達条約の第10条a,第10条というのは,この条約は送達条約が名あて国が拒否を宣言しない限り,次の権能の行使を妨げるものではないという条文で,そのパラaで,外国にいる者に対して直接に裁判上の文書を郵送する権能という条文がございますが,これについて拒否宣言をしていないという事情がございまして,その趣旨については郵便による直送が送達として有効であることを認める趣旨ではなく,郵便による直送が我が国の主権を侵害することにならないというにすぎないというような意見の表明をしているというような事情がございまして,これを前提に,郵便による直送がされた場合の判決の承認・執行を拒絶することをし得るようにするような文言ということも考える必要があるのではないかという観点から,この後半のような文言も考えてみたところでございますので,この点についても御議論をいただければと思います。 ● 英文の御提案につきましては○○幹事が作成されておりますので,これにつきまして○○幹事の方から御説明をいただきたいと存じます。 ● 簡単に,6ページ分の資料について御説明申し上げたいと思います。  最初の紙は,本条約をnuclear liability には適用しないようにするという提案でありまして,その理由は,既に御議論いただいたところですが,この分野についてはパリ条約,ウイーン条約というものがあって,いずれもオペレーターの国の専属管轄にしていると。それは,原子力法というものの特質性からその方がイフェクティブな被害者救済というのができると,それと,かつ加害者側にとっても責任集中とか,責任制限とか,国によってはですが,そういうメリットも享受できるということからそうなっているということと,それからそれらの条約に入っている国はいずれにしても37条というディスコネクション・クローズが入ればそうなることは保障されているので,わざわざ1条にそのことを書く必要はないのだけれども,そうでない国,要するにそういう条約いずれにも入っていない国,日本を含むわけですが,そういう国にとっては国内法で何らかの措置をとるというチョイスを残す,何もしなければ結局同じことなんですが,国内法上措置をとることの余地を残しておく必要があるということを書いております。  これは,フランスも従来から何回か言っていまして,フランスはEUの中のグループの会合でも随分言っているらしくて,ドイツの人に詳しく聞いたのですが,そのときはいつもこの37条があるのだからといってつぶされているようですが,ですから37条が使えない国,フランスは使えるので,あの中のグループで言っても余り支持は得られないのですけれども,外から見ればそういう関心があるということです。  それから,2枚目の紙は不法行為で,これは第3項で先ほどもう既にその方向で括弧書きになっていたところですが,事前差止めで,まだ損害が起きていないときに損害のおそれがある地における訴訟の管轄についてですけれども,これは下手な英語ですのでこういうところで何ですが,しかしそのまま出してしまうかもしれないので,もし間違いがあれば,変だというところがあれば後でも結構ですので是非御指摘いただきたいのですが,訴えの利益でカバーされるでしょうと,全くレベルが低いということであれば。ただし,管轄としては肯定するということになりかねなくて,そうすると訴えの利益について甘く判断をしてしまう国の判決は執行しなければいけなくなるといいますか,効力を他の国が認めなければいけなくなるということですので,そういうことに係らしめるといいますか,訴えの利益の要件で,しかも他の国で,しかも条約でバインドされていないような要件で救われるというだけでは心配なので,管轄もないようにしたらどうかと。もちろん,他の国の執行というのがどれほど現実的かということは問題になりますけれども,いずれにしてもそういうことです。  それから,3枚目の紙は16条についてでございまして,これは第三者の引込み訴訟の管轄ですが,こういう条文がもし残ると,条約上の義務の程度がバランスを欠くことになる,日本はそういう管轄がもともとないので,これは16条は義務としては書いていないのですね,そういうことができるという規定になっていて,できると書いていながら,しかしやれば承認・執行義務が他の国に生ずるという形になって,やや変わった規定になっているのですが,ですから完全にホワイト--ホワイトなら管轄行使も義務なんですが,そこまではいっていない条文で,当初からその問題はあったわけですけれども,できたら削除してほしいという提案であります。  それから,18条は先ほどから申し上げましたところですが,子会社と関連会社で,理由づけは前回のエディンバラでの議論を取り入れて,2項の他のアイテムとのコンビネーションで管轄が認められるというようなことがないようにしたいので,これを置きたいという理由にしております。  それから,5枚目の紙は,これは今も御議論いただきたい論点の中にも入っておりましたけれども,承認・執行の拒否事由の中で,送達について国際条約その他の類似のものに反するような送達がなされた場合ということにしてはどうかということです。これは,最高裁の判決で,前にもお話ししましたけれども,日本の弁護士さんが外国の裁判所のために手渡しの送達をしたという例があって,最高裁は,それは直ちに118条2号の要件を欠くのだけれども,その事件では応訴しているので救われるということを言っているものがございまして,ですから傍論になりますが,その傍論部分を生かすという意味ではこうかなということであります。ただ,さっきの10条a)との関係では,これは救えないということになりますけれども。  最後の紙は,denial of justice について,前回のエディンバラで初めて本格的に議論をしていただいたわけですが,そこで出たいろいろな懸念,一つの作戦の失敗は,18条の中でずっと提案をしてきたから,18条は義務づけの規定ではないかと,そこに穴をあけるとは何事かという,イギリスが一番典型ですが,およそ聞く耳持たんと,それはやめておいた方がいいということを言っていて,考えようとしなかったので,18条から外して,全体の例外としてはどうかというのが一つの点で,もう一つはやはりdenial of justice と書いたのではいろいろな意味があるので,ここに書いているのはa)とb)のような場合ということですが,1項は,この条約はいかなる規定も次のような場合に管轄権行使をすることを妨げるものではないということで,どういう場合かというと,一つは,条約若しくは国内法によって,その事件について管轄を有するあらゆる国の裁判所が,リーズナブルな期間内に判決を下しそうにないということが明らかである場合。もう一つは,他の国でなされた判決が承認・執行の要件,それは条約かあるいは国内法か,その条件を満たさないことが現実に生じていて,かつ,他の国の裁判所がした,その裁判所は管轄要件は満たしているという国がした裁判所の判決が,やはり合理的な期間内に下される見込みがないということ,そういう場合には管轄権行使をしても構わないということで,その合理的な期間内ということについての定義を置くと。これは,一定期間であって,それ以上待っていると,その管轄権を行使しないまま待っていると,裁判の拒否を禁ずる憲法に反する結果となるような,そういう場合と。ですから,リーズナブルな期間はどのぐらいかというのは,各国の憲法によるということになるわけであります。  それから,3項は本当にそうなるかどうか私もよく分からないのですが,1項,2項で構わないと言っているのは,典型的には18条の場合ですし,もう一つは専属的合意管轄を他の国でやっている場合,他の国を専属管轄とする合意をやっている場合に,しかしそこの判決はこういう状況だからということなんですが,12条は専属管轄を決めている条文ですので,その専属管轄を決めている国の判決が日本に及んでこないからといって,裁判をやってしまうというのはやややり過ぎかなと思うので,12条はやめておこうということを書いております。この辺についてはちゃんとした議論がなされたようにも思われませんので分かりませんが,一応そういう案であります。御議論いただきたいと思います。  更に説明に書いてあるのは,日本は憲法32条でこういう規定がありますと,これというのは場合によっては憲法違反になり得るということですが,これは私の同僚の憲法の先生に,一人だけですがお伺いして,そうだとおっしゃっていただいたので……。これは紙自体もお渡ししましたので,本当にそうかどうかは分かりませんが,少なくとも一人の憲法学者はそう言っているということです。  あとの説明は,従来から申し上げているところです。以上です。 ● それでは,早速ただいまの二つの説明に基づきまして,「論点」について御議論いただきたいと存じますが,順次参りましょうか。  それでは,先ほど積み残しておりました問題を先に片づけるということで,18条関係についてまず御議論をいただきたいと思います。  denial of justice について,独立の条を設けるということにつきまして,いかがでございましょうか。先ほどは,どちらかといえば消極的な御意見がございましたので,この点について御議論いただきたいと存じます。 ● ○○幹事の御提案の条文案の2項,憲法上の裁判を受ける権利の否定になるような場合とおっしゃっていましたけれども,今の○○幹事,あるいはその御意見をお聞きになった憲法の先生,それは日本国民以外の外国人の場合でも同じだとおっしゃるのでしょうか。 ● そこは「何人も」ですよね。 ● たまたま外国に居住している外国人が,日本の裁判所に起こしていた場合でも同じような判断が,日本国憲法上の判断でということなんでしょうか。 ● そこはちょっと分かりません,それは憲法の解釈ですね。 ● もしこういう御提案が受け入れられると,今の当事者の問題として私先ほど言いましたけれども,我が国の裁判所がそういう外国人からの訴えが来たときに,それが我が国,あるいは当事者の憲法でもいいですけれども,そういう憲法上の,あるいは正義の拒否になるかどうかという判断を迫られるという意味で,多少難しい局面が出てくる--むしろそういう難しい局面があるような事件を持ってこられるのではないかという懸念が多少あるのですけれども。 ● 他の国の裁判とおっしゃいましたか。 ● 他の国の当事者が日本に。本来的な管轄のところでは,ちゃんとした裁判が受けられないのでと。 ● 日本国憲法の解釈の問題ですね。 ● という,そういう形になるにしても,いずれにしてもですね。憲法の解釈は別としても,そうすると他国,本来的な裁判所で,本来的な有効な救済が受けられるのか受けられないのか,うちで管轄とる場合であれば,よその国の司法制度をある程度あしざまに言わなければいけないわけですけれども,あしざまに言わずに,肯定していいのだろうかという疑問のある国もないわけではないのですけれども,そのあたりでちょっと嫌な事態も起こり得ないわけではないかなと。  今は憲法のことで御質問しましたけれども,憲法のことを離れても,多少そういう疑問はないことはないのですけれども。 ● 今の,○○委員からの御質問と関連するのですけれども,この2項のコンスティテューションというのは,それぞれの国の憲法という御提案ですね。そうすると,各国の憲法の内容によって,例えば国籍が考慮されてしまう可能性というのは出てくるかもしれないのですが,それはこの条約全体の構造との関係で特に問題ないでしょうか。 ● 私は,そこは余り考えておりませんでしたけれども,国際法一般的な議論として,ある条約を受け入れるときに,憲法違反の義務は受けないという条文を入れることが結構あるようなんですね。特定のことを書かないで,憲法違反になるような場合には,そこまでの義務は負わないということを一般条項として入れるという例があるようですが,それは結局国によって義務のレベルが違ってくるということですね。個別に書かないわけですから。それと同じ程度に違ってくるというのは確かだろうと思います。  そもそも裁判の拒否なんていうことは,構わないと言っている国には全然適用されない条文ですから,却下が義務になりますし,非常に広く裁判の拒否をとられる国では相当広くやってしまうということになるわけですね。それは,性質上そうなのではないかと。  要するに,公序条項だと思っているので,ある国から見れば受け入れられないものは受け入れなくていいという条文にしてはどうかということです。 ● よく分かりました。もう少しスペシフィックの問題としては,各国の憲法上,自国民とそうではない者と違う扱いにしている可能性が,あるかどうか分かりませんけれども,もしあるとすると,自国民については裁判をしてやるけれども,他国民については同じ条件であっても裁判はしないということになる可能性もあると思うのですけれども,それはこの条約の全体の構造,ちょっとはっきりは覚えていませんけれども,国籍を考慮しないという点とは特に抵触しない。それよりもっと上の次元の話だから,構わないということなんでしょうね。ということですね,今の話は。 ● きっとそこまでの統一は,この条約は目指していないのだろうと思うのですけれども。フォーラム・ノン・コンビニエンスの適用なんかでは,国籍で差別してはいけないとか,そういうことはありますが。 ● 2項の英語が,私,ちょっとよく分からないのでして……。  と申しますのは,without exercising jurisdiction は,これはやはり主文なり副文に主語が,エクササイズする主語があり,一致しているからwithout の次に何もないからですが,この裁判所も国もという言葉もどこにも出ていないので……。  それともう一つ,without exercising jurisdiction over the disputeというのは,実はwaiting にかかっているのだろうと思うのですね,意味としては。だけど,しかしwhich という副文の中に入っているから,そういうふうには読めないのです。  英語の同僚の先生か何かに相談された方がいいのではないかと思いますけれども。私も自信はありませんが,このままだとちょっと具合が悪い。 ● 確かにそうかもしれませんね。 ● 非常に理論的で,緻密に,苦労してつくられた条文だということでは感服するところなんですけれども,第1点としましては,我が国の憲法論との関係で,いろいろ御相談もされて,憲法論的にこういう意見も成り立つのではないかというような御指摘をいただいたわけですけれども,我が国政府としての意見として出すということになると,なかなか憲法論のところで,ここは間違いなくこうだというようなプレゼンテーションがしにくい部分もあるのかなというような,そういう気もしないわけではございません。そういう意味で,一般論としてどこまで今回工夫されたような形でこの管轄の除外規定を設けることができるのか,あるいは他国からの理解を得られるのかというあたりについては,先ほどのエディンバラ会合のときの話の展開を見ても,こちらの方のアプローチで進むのが得策なのかなというあたりについては,ややいかがなものかなという感じもいたします。  逆に言うと,ここでこういう規定が入らないと我が国の憲法上問題があるというふうに言い切ってしまうと,もしこの規定が入らないと,後で非常に自分の首を締めるようなことになってしまわないのかなというような感じもしないわけではございません。ですから,ある意味ではエディンバラで具体的な事例を出していただいて,その例はたまたま必ずしもこの議論をする際には適当な事例ではなかったということかもしれませんけれども,やはりこういう事例であれば,明らかにどこの国でも問題になって,それでほかのいろいろな規定はともかくとして,やはり管轄を積極的に行使する必要があるのではないかというような,何かコンセンサスが得られるような事例が考えられるのかどうかというあたりがここの勝敗の決め手になるのかなと。具体的にどういう事例があるのかというのが今思いつかなくて非常に恐縮なんですけれども,そういう感じがいたします。 ● 今の御意見というのは,例えば2項に関していいますと,コンスティテューションというものを言及せずに,いわば例外規定として明確化すればどうかと。つまり,各国の憲法には言及せずに,いわば緊急管轄みたいなものを認めるための要件を具体化すべきではないか,そういう御趣旨でございますね。 ● 一つの考えられるアプローチとしては,そういうアプローチがあると思うのですね。あるいは,コンスティテューションという表現ぶりを使っていくにしても,理由づけにおいて,我が国においてこれがないと憲法違反になるというようなプレゼンテーションをされるのかどうかというのも,一つの議論すべきところかなというふうに思います。 ● 今,○○幹事がおっしゃった点,result in a denial of justice にしてしまえば,憲法のところはすっ飛ばしても意味は通じるのですけれども,そういうと主張として弱いかなというか,どれほど困っているかということが分かってもらえないかもしれないということなんですが。  本当に困っているかどうかという問題ですが,これが通りにくいのは,ブラッセル・ルガノでもほかの条約でも,こういう条はないのですね。なくてもやっているわけなんで,今まであなたたちがやっているのは問題ではないですかということになって,これはちょっと受け入れられないと言われることは十分あるのですね。では,困っている例が具体的にあるのかと言われると,ちょっとないので,そういう点では確かに通りにくい話ではあります。 ● 今の点につきましては,事務局としては正に憲法の解釈で,世界じゅうのどの国でも管轄権がない場合にというか,裁判所に行使してもらえない場合に,世界じゅうのどの人に対しても日本の国の裁判所が裁判機能を行使するのが憲法上の要請かということはないと思いますから,そういう点も含めて,確かにプレゼンテーションの問題,ある意味では憲法に反するというのは便利な主張ではあるのですけれども,プレゼンテーションのやり方も踏まえて検討したいと思います。 ● 少なくともこの主張は,やはりしていくということですか。 ● 一応,意見はエディンバラ会合で各国の様子を見たわけですから,仮に主張していくとしても,プレゼンテーションを考えると,そういう趣旨でございます。 ● 御議論いただいて,これは子どもの日につくった案というものですので,私個人の案で,一幹事が言っている案です。 ● 1項のa)とかb)にall other statesとかanother state とありますけれども,これは締約国の意味ですね。 ● ここは悩んだのですが。 ● すべてを含む。 ● どこかで判決がとれるのであれば,かつ,それが効力を持つのであれば,別に構わないと。だから,コンベンションだけではなくて,its national lawと書いてあるのはそういうことを含んでいるつもりなんですが。 ● そうすると,in accordance with this Convention or its national lawというふうに書いてあるのは,its national lawというのは,別にコンベンションを認めているグレー・エリアのことではなくて,純然たる国内法というような意味で言っておられる。 ● ですから,全く条約に入っていない国に管轄があるという場合なら,入れても構わないのではないかと。 ● およそどの国においても,ということですね。 ● ですから,ネガティブの方が言いやすいかもしれません。 ● 要件をチェックするのは大変ですね,はっきり言って。 ● 度々恐縮ですが,もしこれがないとどうしても困るという御意見がなければ,特にこの規定はそんなに頑張る必要もないかなという気はしております。ですから,これがないとどうしても困るという御意見があるかどうかというのを,今,私どもとしては教えていただきたいと思いますが。 ● 積極的にこのような規定を主張するという必要性があるとお考えかどうかですね。今,伺っていると,どうも皆さん消極的な御判断のようですけれども。  特にそういう主張をすべきであるという御意見がなければ,これは「意見書」の方も先ほどのところに戻りまして変えさせていただくということになりますが,それでよろしゅうございますでしょうか。--では,そのようにさせていただきます。  そうすると,一つ懸案は片づいたわけでありますけれども,「論点」の方の最初の方に返りまして,順次御議論いただきたいと思います。  常居所の概念の点でございますが。--御意見,ございませんでしょうか。 ● 資料18の2枚目,先ほど○○関係官の説明された第3条のアンダーライン部分の一番下のところですが,「個別の条ごとに検討する」と。それに対してこちらの「論点」の方では,用いないということで統一的に対処されると。その両者の不整合はないのでしょうか。 ● 「意見」の方の3条ですが,個別の条ごとということで書いてあるわけですけれども,その先に個別の条ごとの検討として,要するに常居所の概念の適否というか,それを明確にするという点と,そのこととは別に,ほかの条ではどうかということが論点としては別ですということを「意見」の方では書いているわけでして,その先のほかの条ではどうかという点については,選択肢としては例えば適用範囲の点については違う連結点をとるとか,あるいは弱者保護的な,消費者あるいは労働者の管轄についてはやはり常居所を維持するとか,いろいろオプションがあるわけですが,その中では統一的にするというのはどうかという形で考えているところでございます。 ● そうしますと,統一的な表現としてはどういう表現を考えられるかということについての御提案はございましょうか。  資料では,フランスが反対しているという説明がありましたけれども,これについてはどういうふうにお考えになっておられるでしょうか。 ● まず,「意見書」の方の常居所という概念自体は,これは要するになぜネガティブな,つまり用いないことにするかというと,そこに書いてあるとおりほかの条約でいろいろ常居所の概念があるからだと。そういう理由からであって,ただそこで押さえようとしている中身自体がそんなに変わるものではないと。例えば,「ドミサイル」というのがブラッセル・ルガノにありますが,それとも近い概念なんだろうとは思うのですが,しかしだからといって「ドミサイル」という言葉を使うわけにもいかない。したがって,言葉の問題としては,何をどういうふうに言おうとも,この条約独自の概念として決まるわけですから,ここでやろうとしていることは,既存の条約の影響を受けない概念にすると,したがって同じ言葉は使わない,そういうことになるかと思います。  したがって,それが例えばプリンシパル・レジデンスであっても構わない。問題は中身の話で,中身自体は定義規定がない以上は,結局は抽象的な独自の概念だということだけしか分からないということにはなろうかと思います。お答えになっているかどうか分かりませんが。 ● ありがとうございました。 ● 「常居所」という言葉を使うとか使わないかは別として,仮に「プリンシパル・レジデンス」という言葉を使ったとした場合に,そのことがディスコネクション・クローズの中で用いられる可能性はありますか。  それと,ブラッセル・ルガノのドミサイルというものと,どういう関係に立つのかということが問題になるような形でディスコネクション・クローズが登場すると,それでかなり決まってくるような,結局「プリンシパル・レジデンス」という言葉を使っても,これは限りなくルガノに近い,ドミサイルに近いというような点で把握されてしまうというようなことになって,私はディスコネクション・クローズはシリアスにいろいろな提案があったのだろうと思うのですが,見ていないのですが,それがどういう内容になるかというのはかなり影響をこの概念に与えるのではないかと。この条約それ自体ではなくて。じゃないかなと思っているのですけれども。 ● ヨーロッパの国から見ればそうです。本当は,ブラッセル・ルガノのドミサイルを使ってもらえれば一番整合性がとりやすいに決まっていますが,それはそうでない国から見るととんでもない話なので,これはこちらで使わせていただくと。どういう言葉を使っても,これはこれの概念,向こうは向こうの概念なので,そこを書くのは難しいという話がずっとあるのですね。ですから,それがあるからこれがどう変わるということはないのではないかと私は思っておりますけれども。 ● ディスコネクション・クローズがどうなるかというのは,結局具体的な提案が出てこない状況であったという状況ではあるのですけれども,ただ条約としてブラッセル規則とかいう特定のものを指し示すような形で規定をつくるというのは,他の地域でも同じような条約ができる可能性も排除するわけにもいきませんし,余り適当ではないということにもしなるとすれば,やはり一定の条約との文言の調整というところまでディスコネクション・クローズに書くというのは,余りちょっと現実的でないのかなという感じもいたします。むしろ,全部の締約国がこの条約に入っているような場合に,この条約のホワイト・リストをある程度,条約上管轄をとらなければいけない場合を限るとか,ブラック・リストをどう考えるとかいうような形で,こちらの条約から何か言うとかいうような内容で考えるのではないかなというふうに考えているところです。 ● 今の点,原則的には○○関係官の言ったとおりだと思うのですが,相手がブラッセル・ルガノだということなので,必ずしも言及せずに済ませられるかという問題はあると思います。  その場合に,例えば管轄の行使,直接管轄権の行使のレベルでは,ドミサイルがブラッセル・ルガノにある人はブラッセル・ルガノと,ドミサイルがブラッセル・ルガノの圏内にない人は国内管轄のルールということになりますね。そこで問題は,承認・執行の段階で,過剰な国内管轄もブラッセル・ルガノのいわば国内管轄で,相互間で承認されてしまいますね,そこをヘーグのこの条約のブラック・リストで押さえるというふうにアプローチをとるとすれば,つまりヘーグのこれがプリンシパル・レジデンスかどうか分かりませんが,例えばヘーグのコネクティング・ファクターであるレジデンスならレジデンスというものを,ヘーグの締約国になっている国の国民については,このヘーグ条約のブラック・リストをブラッセル・ルガノの国全域に適用するという形で保護を図らないと,相互乗り入れする場合の話ですが,いけないのかなという気はしております。 ● そうすると,どの管轄原因が抵触する可能性のある管轄原因なのかというのを,ちょっと見ないと。 ● そういう検討はまだ全然されていない。 ● 提案がないです。 ● それでは,そういうことに注意しながら対処するということになろうかと思いますが,それでよろしゅうございますか。--ありがとうございます。  またお気づきの点があれば,後で御議論いただいても結構かと思いますが,更に第6条の問題でございます。別紙の3を中心にお考えいただきたいと思いますが,いかがでございますか。 ● 議論していただくために。  金銭債権については,別紙3の4項の2行目のprovided that 以下がなければ,日本が前から言っている消費貸借契約を含んで,あらゆる面で金銭の支払地というのは意味がないと,管轄上は意味がないということになるわけですが,それをそうではないと,両方がお金の場合,ローンのような場合には支払地というのは管轄原因になるという条文で,ただし1項についてはそれはもう除かれているということであると,2項の問題で,アメリカは反対しているわけですが,ホワイト・リストですから,アメリカの言うとおり基本的にはとるけれどもあるところだけはちょっとグレーにしてくれと。だから,全然通らない意見ではないはずで,アメリカも絶対にのめないというわけでもないはずなんですけれども。  ですから,議論としては,このままの条文で2項との関係で少しは意味があるということでよしとするか,あるいは消費貸借契約の場合も全部除いてもらった方がいいのかどうかですね。  金融関係の方々に聞くと,金融の関係で合意管轄がないということはないので,余り関心がないということをおっしゃっていたので,それほどシリアスではないかもしれないということですが。 ● 前回の御議論で,○○委員の方で少しお話があったと思いますが,いかがですか。 ● ○○委員から……。 ● これをはっきりしていただければいいと思いますので,そういう意味でパラグラフ4が入るということについては,特に反対するものではありません。ただ,さっき○○関係官がおっしゃったように,activityと言っていますけれども,第1項にactivityという言葉はないわけで,むしろ3項とか4項で言っているpreceding paragraphsというのは,単に2項のことだけ言っているのではないかなという,そういう気がします。  ですから,例えば3項も4項もThe preceding paragraphsと複数になっていますけれども,paragraph 2 does not apply と言うか,それの方が○○幹事が御説明になったシチュエーションに合っているのではないかなと思いますけれども。  つまり,パラグラフ1では金銭の支払いは除かれているということであれば,このパラグラフ4のThe preceding paragraphsと複数になっているのを,paragraph 2と変えれば,その説明にも合っているということになるのではなかろうかと,そういうふうに思います。 ● ○○委員に振ってしまったのは,この間申し上げましたように,金融関係でジュリスディクションとか書かないことはないものですから,興味がないというのは全くそのとおりで,かつ,我々トレーディングをやっている会社でも,与信行為を伴う支払いは最初から必ず書きますという意味では金融と基本的には一緒で,そういう意味で大した興味はないということで,○○委員の方が,むしろ弁護士会の意見の方が意味があるかなと,そういうことでございます。  両刃の剣の問題が出るから,自分でも答えが出ていないので……。 ● そこをお伺いしようかと思ったのです。  ほかに御意見ございませんかでしょうか。  それでは,これは具体的になかなか難しいところかと思いますが,支持すると。明確であればいいという形で処理させていただくということで,よろしゅうございますか。--では,そのようにさせていただきます。  あと,消費者契約との関係でございますが。別紙の7ないし8。宣言の問題。 ● 消費者契約の専属的管轄合意に関する部分につきましては,前にも同じようなことを申し上げているのですけれども,今回のこの「論点」にまとめていただいている中で,宣言に関する部分については私ども裁判所としても特段異存はないと思うのですが,ただそもそもの前段階の,ここで記載されている中の(2)の(a)という部分ですね,専属的管轄合意の効力を消費者の常居所地国法が認めているか認めていないかという,そこの判断によって,正に管轄がホワイト・リストになるのかあるいは禁止されるのかという,天国か地獄かという,そういう決定的な差が生じてしまう,こういう方向性で議論がされているとすれば,これは決して裁判所側だけではなくて,当事者側にとってみても,果たして消費者の常居所地国法でそういう合意管轄の効力が認められているのかどうかというのは,とても一義的に判断のできるような問題ではないのではないかと,むしろ入口のところで相当この論点をめぐって紛糾してしまうような事態が多々考えられるのではないかと。  例えば,我が国のことを考えてみても,我が国は一応制定法国ということなんでしょうけれども,ここの点について明確な法律が必ずしもあるとは言えない上に,いろいろ判例などでいろいろなシチュエーションに応じて判断が下されているというようなことを踏まえた場合,果たして日本において専属的管轄合意の効力が認められているのか認められていないのかということについて,どういうふうによその国は判断するのだろうかというのはなかなか難しい問題ではないかという感じもしますから,日本が逆に,よその国がこの点についてどう考えているのかというのを判断するのも難しいのかなという感じもするわけです。そういうことを考えると,管轄の決定的なファクターとして,ある国が効力を認めているかどうかというところから入っていくこと自体が非常に厳しい問題ではないかなというふうに,改めて感じております。 ● 今の点でございますが,別紙8の方にいわば代案といいますか,これはフランス提案で,同じ問題を扱っている条文がございまして,これは要するにこの条約に入るときに,7条の管轄,つまり専属的管轄の合意があろうとなかろうと,とにかく7条の管轄は常に承認するという意味での宣言をするかしないかを最初に決めてしまう。もし宣言をしないで入った場合には,この7条の管轄というのは承認・執行の対象にならない。いかなる意味においても。つまり,ある意味では条約が二重化するわけですが,そういうアプローチが示されております。  つまり,先ほどの御指摘との関連からいいますと,消費者の常居所地国法によって,どういう場合に承認・執行されるかされないかということを判断する必要はなくなるという意味では,御趣旨に沿う提案になるかとは思います。 ● 今,御説明いただいた点については,確かに承認・執行の場面においては宣言という形で,その宣言自体が難しいという問題をさておけば,明確性の観点からは非常に分かりやすいことになると思うのですけれども,そもそも一番最初の管轄を行使すること自体が禁止されるのかどうかという,そこの点についてはやはり解決は図られていないのではないかと思うのですね。だから,そこの段階から問題指摘をする必要があるのではないかなというふうにも思うのですが。 ● 今の点は,この条文,どのテキストをベースにするかによると思いますが,プレリミナリィ・ドラフトの方の書きぶりですと,はっきりはするわけですね。日本の国内法がどうかという問題は直接には出てきませんので,条約のルールで決まると。 ● 今おっしゃった,明確ではないというのは,日本でどう対処するか明確ではないわけですね,今のところ。条約に入るときに,そこを何も決めないで入れるか。要するに,グレー・エリアだといって済ませることができないのではないかと思うのです。ですから,もし入る場合どの程度書くか,実施をイメージするかで,消費者の問題,あるいは労働者の問題ということについて,その段階ではやはり決めなければいけないのではないかなと思うのですけれども。 ● 今,○○幹事が言われるような形で決まるということであれば,しかも日本がどうするかというレベルの問題ではなくて,国際的にそれぞれの国がそういう形でこの論点についての自分の国の判断基準というものを決めるということであれば,裁判所側とするとそれは何も問題はないと思うのですね。それにのっとって,管轄があるかないかというのを判断していけばいいわけですから,それでいいと思うのですけれども,それを決めるというためには,正に今この宣言をするかどうかというところで,宣言をするのが非常に困難な政策判断を迫られるという形で指摘されているのと同じような問題が,やはり出てくるのではないかなという危ぐも,私どもとするとあるわけです。だから,そこがどうなるかというのが非常に不安を感じるところなんですけれども。 ● 別紙8のフランス提案のような形であれば,他の国がどういう立場なのかははっきりするわけですね。私は,別紙8の問題は,自分がどうするのかこれでは決まらないので,ですから実施法で,自分のことは自分で決めなければいけないと。他国については相互保障みたいな形でやるというのが別紙8ですから。 ● 私の理解が,今お話を伺っていて不正確かなという感じがしたのですけれども,フランス提案というのは,決して承認・執行の場面のみならず,最初の管轄行使の段階からそれを宣言にかけるのだと,こういう理解でよろしいのですか。  例えば,(2)の(a)で書かれているところの管轄が禁止されるという形で処理される部分については,承認・執行のレベル云々は別にしても,基本的にその国とすると,まずはそういう管轄を行使してはならないという意味での規範性を持たされるのかなという感じもしていたのですけれども,そのあたりは余り考えなくてもよろしいのですね。 ● これは,結局どのテキストをベースにして考えるかという,そういう話で,今おっしゃられたのは,正に別紙7のテキストを前提としての御議論でございますね。ですから,別紙7というのは一定の場合に専属的管轄合意の効力を認めるという案ですから,逆に認める場合には管轄権の行使は禁止されるという,そういう論理的記述になるわけですが,プレリミナリィ・ドラフトの方,一番もとの草案のときの案は……。 ● 草案まで戻れば,確かに。 ● 先ほど申し上げたのはそういう趣旨でございまして,つまりこのフランス提案と7条の構造というのは,多分排他的だと思うのです。つまり,7条というのは正に常居所国を通して専属合意の管轄をまず直接管轄レベルでは認めると,他方,直接管轄行使の段階では,その常居所国法で専属的管轄の合意が認められなかったという場合に,7条の常居所地国の裁判所で出された判決,これをほかの国が承認・執行する段階になって承認・執行できるというオプションを認めたと。つまり,承認国となる国の方から見て,自分の目から見れば専属的管轄合意は有効なんだと,確かに常居所地国法の裁判所はそうでないという前提でやったかもしれないけれども。だから常居所地国法でなされた裁判というのは,承認国から見た場合には専属的管轄合意に反したというインプリケーションがあるので承認拒絶ができるという,そういうオプションを認めているわけです。  フランス提案というのは,これは完全にオール・オア・ナッシングの提案ですから,つまり宣言をした国というのは常に7条の管轄は承認しないとだめだと,仮に合意か何かされて,合意された裁判所以外の裁判所である常居所国法の裁判所が判決をした場合でも,宣言をした国は必ず承認しなさいと。  逆に,宣言をしない国は,これは一切7条の管轄に基づく裁判と判決には承認しなくていいと,その限度において完全グレー化されてしまうということだと思います。 ● 「論点」という紙の中の(2)の(a)とか(b),それだけを見ていると,どうしても消費者の常居所が専属管轄合意を宣言して認めますよとかいうのではなくて,法律が認めているかどうかという点が多分最初の議論で,それをチェックするのは非常に難しい。宣言するかしないかは,恐らくホームページでも見れば宣言国と非宣言国というのは分かるからいいけれども,個々の法律の内容はチェックするのは難しいし,それからもう一つは,こんなに一律にフランスの代表のように,この条約のカバーする消費者契約について管轄の7条のというふうにいくのかなという,やはり消費者契約でも個々に規律する法律の内容いかんによって,やってもいいという消費者契約もあるだろうし,やってはこれは絶対だめだというのもあるだろうし,そんなに一律にこの消費者契約にカバーされる契約が,一律にこれは認めるとか認めないって,そんなに簡単にいくものだろうかという疑問がどうしても残ってしまうのですね。 ● この議論の前提として,日本と,特にヨーロッパ,フランスとかドイツとかなり前提が違うのではないかと思うのですよ。つまり,民事訴訟法でフランスとかドイツは消費者相手の管轄合意,そもそも専属的だろうと何だろうと基本的に無効というふうにしているわけですね,そこが出発点ですから。日本の場合は,そういう議論も改正の際にありましたけれども,そこまで行かずに,しかも専属的合意を完全に無効だと言っているわけではなくて,移送できるというような形で処理をしているので,そういう意味で非常にほかのヨーロッパから見れば分かりにくいということは,今,○○幹事がおっしゃったとおりだと思うのです。ですから,この議論の前提として,この(1),(2)とあって,(a),(b)というふうに分けているわけですが,むしろ専属的よりも何よりも,かなりの国はそもそも消費者を相手とする合意を禁止しているという,その枠組みもあるわけですから,ちょっとこのままでは,我が国としては分かるとしても,外国,ヨーロッパとの関係で理解がなかなか得られないのではないかというような危ぐを持つのですけれども。 ● そうすると,これはどのように考えていけばよろしいかということですが。 ● 別紙7の方の第7条の,特に今問題となっているパラ5のd,これがまず常居所国法を通すという意味において分かりにくい,使い勝手が悪いという御批判があったわけですが,恐らくこれは単に見通しでございますが,これまでの議論の経過からしますと,この条文が結構有力な形で提案されて採用される可能性はあるのではないかという気はしております。  これはまだ分かりませんが,かなり複雑な構造の条文ですし,25条bis ともなじむわけですから,つまり日本の裁判所がその管轄権を行使するとき,このときはいわば自分の国内法に従って専属的管轄合意を認めるかどうか決めればいいわけですね。つまり,自分の常居所国地として。問題なのは,要するにほかの国でされた判決を承認・執行すべきかしないかという,そういうときの話でございますね。 ● 限定はされない気がするのですけれどもね。条文づらを読む限りでは。そういう場合が多いとは思いますけれども。 ● もし問題があるとしたら,何かこう直せばいいとか,そういうのがあれば一番いいのですが。 ● 恐らくここでの議論でも,あるいは今までの意見の中でも,対処方針の中でも,今回3時前にまとめていただいている「意見」の中でも,この点については,そもそも論の点から各国において管轄合意の効力を認めているかどうかということを管轄のメルクマールとすることについては問題であるという点は,一致していたのではないかなというふうに理解しているのですけれども。 ● もちろん,「意見書」は基本スタンスでございますから,むしろそれ後にこれが出てきた場合にどうするかということで,もちろん出発点は「意見書」の方でございますが,一応この案についての御意見というものを伺っておきたかったということでございます。 ● 多分こういう提案が出てきたのは,ヨーロッパのように消費者相手の管轄については国際的,専属的合意管轄についてはネガティブな国と,それからアメリカのようにどちらかというとポジティブであったり,あるいは日本も一応今はグレーですけれども,そういう禁止しているものがないという観点ではポジティブな国がありまして,そういう間のコンセンサスが絶対に得られないのではないかという見通しがあると。他方で,こういった合意を認めてほしいというのは,ヨーロッパ内部でも産業界は非常に強い意向を持っていますので,またアメリカでも消費者団体とかいろいろございますから,非常にコンセンサスが絶対,国際的な局面で得られにくいだろうという前提で,としたらば,こういうふうな妥協案を出すしかないのではないかというので25条bis のような形が出てきたと思うのですが,先ほどのお話ですと,例えば裁判所が懸念するところは,要は外国の当該専属的管轄合意の効力を認めているのか認めていないのかが分からないというところですね。  他方で,宣言というのが承認・執行のところだけについてできるとなっているわけですけれども,例えば各国が管轄の合意,自国が専属的管轄合意の効力というものを認めているかどうかということをクリアにする,それは宣言という形かどうか分かりませんけれども,そこのところが守られれば,この折衷案でもいいということなのではないでしょうか。 ● おっしゃるとおりだと思います。 ● その合意が困難な政策判断であるのは間違いないですが,それは多分承認・執行の25条bis の宣言でも同じだけの政策判断を迫られますので,とするならば,自国が専属的管轄合意の効力としてどういう考えを持っているかということについてクリアにする,宣言という形かどうか分かりませんけれども,そういったものが入っていればこれは受け入れられるということでよろしいのでしょうか。 ● 今日,この「論点」を読ませていただいた最初の感覚も,宣言は非常に難しいだろうなというのは法務省側の御指摘のとおりだと思うのですけれども,仮に宣言に引っ掛けるのだとすると,承認・執行のところだけというよりは,そもそもの最初のところからかけていただくのが筋なのかなと,こういう感じがしていたのですけれどもね。 ● そういうふうな形で対処するというのは可能であると。  今,問題点がかなりはっきりいたしましたので,その辺を考慮しながら対処するということになりますでしょうか。 ● はっきり消費者が当事者となる場合は,専属管轄合意はだめだと言っているのは分かりやすいのですが,その中間というのもあるような気が……。  権利濫用になるような場合はいけないけれども,ある場合にはいいなんて言っている国ももしかするとある。そうするとすごく大変で,そんなことを宣言に書かれても分からないので,難しいと。 ● おっしゃるとおりだと思うのですね。逆に言うと,それが宣言されていないとすると,今言われたような場合,受訴裁判所とするとどう判断するのかというのが,そのまま生で起こってきて,当事者も全く予測可能性がないということになってしまうので,非常に難しい問題を正に含んでいると思うのです。 ● これは,全体的な問題にもかかってくるかと思いますので,問題点を指摘する,その上でどうするかということを検討するという形にさせていただいた方がよろしいかと思います。  では,そういうことで考えさせていただくということでよろしゅうございますでしょうか。具体的にどうなるか,ちょっと分かりませんが,そういうふうにさせていただきます。  では,次の点,お願いいたします。これは,特許,商標の侵害訴訟の関係,それからライセンス契約ですね。 ● ライセンス契約崩れの紛争の場合には,まず特許等の有効性が問題になる場合というのは余りございませんので,そう心配することはないのだろうと。我々が訴訟を取り扱っている関係からいいますと,まずライセンス関係の訴訟というのは圧倒的に数が少ないということと,それからライセンスの関係での紛争の場合には,ライセンスの当事者は,自分がライセンスを受けた,そういう権利を無効だろうというふうに言う,あるいは無効の形でそういうアクションを起こすということはまず普通ありませんし,そういうことをしてはいけないということは契約上書いてあります。ですから,そういう意味で,そういうことはまず余りないだろうということ。  あと,契約崩れの場合には,大体合意管轄の定めがまず例外なくありますので,そういう合意がある以上,そこの裁判所でやらせるのが当事者としても不利益になるわけでもないし,契約の関係で特許の範囲というのが決まったとしても,それは侵害訴訟で決められたというよりは,よその国の権利であってもそんなに懸念するような影響はないだろうというふうに思いますのと,あとは権利の効力の範囲が問題になって,これがライセンス契約の範囲かどうかというのが争いになった場合には,まず普通は権利者側から普通の侵害訴訟という形で訴訟提起されますので,そういう意味で専属管轄の方に流れていくだろうと思うのです。その中で,被告側の方で,いや,これはライセンスを受けた,許諾の中に入っているのだという形での争い方になるということですので,まずこういう場合について契約ベースでの契約の効力が争いになっている場合の前提問題について,専属管轄にしないという形で,特に差し支えはないだろうと思います。 ● 産業界の実感も全く同じでございます。結局,ライセンスというのは特許の有効性とか範囲とかの一種の係争,とまでは言わないですけれども,係争とビジネスと紙一重でございまして,それがセットにしたのがライセンス契約でございまして,したがって通常はライセンス契約の中に特許の有効性の不争条項というのを入れる。時々,独禁法上非常に強い人が弱い人に無理やり不争条項を入れたとかいうことが,場合によっては問題になることがあるのですけれども,これは極めて異例な独禁法上の問題があるようなときだけでございまして,通常はそういうことでございますので,単なる侵害のケースとライセンス契約とは大分局面が違う,本質的に違うなという感じを受けております。 ● 御意見ありがとうございました。  それでは,これは問題がないということで……。 ● ちょっとお詳しい方に。  別紙9の最初のページの2のところに,incidental question の定義が書いてあるのですが,こういう定義で日本としても問題はないと言っていいのかどうかなんですけれども。  例としてのライセンス契約はいいでしょうというお話は伺いましたけれども,あとどのぐらいのカバレッジがあるのか,私にはよく分からないのですが。 ● ○○委員,何か……。 ● 余り契約の中での定義を経験しているわけではないので,そこまでちょっと自信がないのですけれども。 ● ○○委員は何か御意見ございますか。 ● ちょっと思いつかないのですけれども。これで不都合がある事例というのをちょっと思いつかないというだけでございます。 ● それでは,時間の方も大分来ておりますので,最後に郵便による送達の問題ということでございますが,この点はいかがでございましょうか。 ● 非常にいろいろと御工夫をいただいた案で,○○幹事につくっていただいたのは非常にシンプルで,別案として2ページのところにのっけていただいているのはやや複雑なんですけれども,やはり送達条約の10条という,そこが我が国の場合には,これも私は全然よく分からないのですけれども,非常に複雑な対応をとっているようで,直送をすること自体は,我が国の主権は侵さないのだけれども法的な効力はないというようなことを公的な解釈として述べていて,拒否の宣言までには至っていないというような,そういうような対応を政府としてはしているということのようですので,我が国としてこういう提案をしていただくということであれば,やはりそこを踏まえた形の表現ぶりにしていただくのが一番ベターかなという感じはいたします。  そういう意味で言うと,確かにちょっと詳し目ですけれども,2ページで言うところの後者の方が,より問題となっている場面が含まれやすくなっているかなとは思うのですが,これでも若干まだ我が国の立場がこの中で救済されるかどうかというのは微妙なところがあるのかなと。あえていえば,ここの日本文で言うところの「国際条約又は国際約束に照らし有効な送達方法」という部分について,この条約や国際約束の枠組みの中で,その当事国において有効とされる方法というような部分が更に加わると,きっと英文にすると非常に複雑になるだろうなと危ぐするところなんですが,実質はそこまで入らないと,我が国が今選択している道はカバーされないのかなという感じがいたします。 ● 私が10条a)について理解しているのは,拒否宣言していないことは必ずしも承認の段階で有効なものと認めるとまでは意味していないと,10条a)の拒否はしていないということの意味は。そこを言っているだけですね。判決で,裁判例,幾つか下級審のしかありませんが,郵便送達,直接はだめですと言っているのは,専ら民訴法の規定の解釈としてだめだと言っているので,このin the light of the international conventionではないような判決だと思っているのです。これが,ですから現在の日本のものをあらわしているかというと,必ずしもそうではなくて,むしろ直接に日本法に照らしてだめなものはだめといいますか,要するに送達実施国法によるというものが本当の日本の立場かなと思うのですが。 ● もともと裁判所の人間ですから,本来判例にのっとった話をできるだけ申し上げたいと思うのですが,私も今,この外国送達に関する部分を所管している立場におりまして,いろいろと関係省庁からお話を伺ったりすると,判決レベルの話はさておいても,一応我が国のこの問題についての,言ってみれば政府としての見解のようなものもあるやにも聞いているので,そこら辺との形で,果たしてダイレクトにどんどん直送されたものについて,それを条約上承認・執行オーケーよというような位置づけにして,バッティングしないのかどうか,むしろそこら辺が心配だというあたりなんですけれども。 ● もう少し複雑になる方がいいのか,あるいは明確にする方がいいのかということですが。 ● そういうしがらみがない世界というので,国際条約違反と書いた上で10条a)の拒否宣言を今からすると,一緒にするというのが一番分かりやすいと思いますけれども。 ● 確かに,一種の決めの問題なのかなという感じもしますので,そういう意味でもうそこはオーケーよと,我が国として今後はこの条約の枠組みで構わないのだというふうに決めてしまえば,それまでの問題なのかもしれないとは思いますけれども。 ● あるいは,この条約に入るときに拒否宣言をするということが考えられる。 ● 根本的な解決になるかもしれませんね。 ● そうすると,オプションはございますが,何とか対処できるということで……。  この条文につきまして,何か変更した方がいいということまではお考えではない。 ● むしろ関係省庁が最終的にそこをどう考えるのかなというふうに思っていたところですけれども。 ● では,そういうことで検討させていただきながらということですね。 ● 貴重な御意見をいただきました。例の宣言の意味するところも含めて--あれは,もともと承認拒絶するための伏線としてやっている話ですから,送達条約の文脈では主権侵害とは見ないですけれども,すべての法律関係においてそう見ないと言っているわけではない,そういう宣言だというふうに理解していますので,御指摘を踏まえた上で条文案をもう一度練ってみたいと思います。 ● 一応「論点」とされたものは御審議いただいたわけでありますけれども,その他の点について,特に何かございますでしょうか。  ございませんようでしたら,この「論点」についてはこれで閉じさせていただきまして,最後に,本日,取りまとめていただきました「意見」並びに来月ヘーグで行われます外交会議につきまして,事務局より御説明をいただきたいと思います。 ● 本日,3時前に取りまとめていただきました「意見」につきましては,途中でも御説明申し上げましたが,法制審議会の総会の方には報告するという形をとらせていただきまして,実際にはこの「意見」というものは実際の問題として来月行われます通常会期における対処方針を政府として策定する上で,非常に大きく参考にされるということが見込まれるというものになるかと思います。実際にも,出張者,これから申し上げますけれども,その方で十分に念頭に置いて対応するということになろうかと思います。  次の外交会議の日程ですけれども,前にも申し上げたかと思いますが,6月6日から23日まで,ヘーグにおいて行われます。第19通常会期ということになりますけれども,今回変則的に第19通常会期自体を2回に分けて行うということになっておりますので,ファースト・パートということになっております。  出席者につきましては,○○委員が団長という形で,あと○○幹事,あるいは○○幹事,あるいは私,その他ほかの関係省庁からも御出席があるかもしれませんが,これが代表代理という形で出席させていただきます。 ● あと1点だけ。外交会議の方は,この外国判決の承認・執行のほか,いわば将来の作業計画に関する部分がございまして,そこは昨年5月に一般問題特別委員会というものが開かれまして,そこの勧告に基づき,将来の作業計画として二つプライオリティーがあるテーマとして,扶養義務に関する新条約,それからもう一つは証券振替決済に関する準拠法,その二つがプライオリティーあるテーマとして多分今度の総会で承認される見込みとなっております。以上,報告でございます。 ● それでは,大変お忙しい中,長時間ありがとうございました。これで本日の会合を終わらせていただきます。 -了-