法制審議会 国際裁判管轄制度部会 第5回会議 議事録 第1 日 時  平成13年9月11日(火) 自 午後1時30分                       至 午後4時52分 第2 場 所  法曹会館「高砂の間」 第3 議 題 裁判管轄等に関する条約採択のための第1回外交会議の結果について 第4 議 事 (次のとおり)               議         事 ● 定刻になりましたので,始めさせていただきたいと存じます。           (幹事の異動紹介省略)  それでは,資料の説明をお願いいたします。 ● それでは,私の方から,本日の審議で用いさせていただきます配布資料について,簡単に御説明させていただきます。  資料21ですけれども,「裁判管轄等に関する条約採択のための2001年6月の第1回外交会議の結果」ということでございまして,この6月に開催されました第19通常会期第1部の報告を○○幹事にまとめていただいたものでございます。  それから,資料22及び資料23ですけれども,今回の外交会議の結果を踏まえて作成されましたInterim Textというものでございまして,今後これをもとに検討していくということになりまして,22の方が英文,23の方が仏文ということになります。  資料24は,表題は「2001年6月6日から20日の外交会議第1部第2委員会の議論の結果概要」となっておりますけれども,これは英文,仏文テキストを和訳したものでございまして,仮訳ということで,これも○○幹事に作成していただいたものでございます。  資料25ですけれども,これは6月の第19通常会期第1部の第1委員会において配られましたワーキング・ドキュメントでございまして,この外国判決条約に関する決定内容となっているものでございまして,後ほどの説明のときに使わせていただくものでございます。  あと,資料26ですけれども,これは第19通常会期の第2委員会の方で配布されましたワーキング・ドキュメントのナンバー97というものでございまして,これも補足的に使わせていただくものでございます。以上でございます。 ● 本日の審議に入ります前に,既に御案内を差し上げております本日を含めて3回にわたって開かれます部会の審議の計画等について,事務局の方から説明があるということでございますので,お願いいたします。 ● 引き続きまして私の方から,今後の審議等に関しまして簡単に御説明させていただきます。  まず,ヘーグ国際私法会議での本件の裁判管轄,外国判決条約についてでございますけれども,これまでも御報告しておりましたとおり,今回のこの条約の審議につきましては,第19通常会期第1部を6月に開催し,当初の予定では第2部を本年末,あるいは来年初めに開催するということになっておったわけでございますけれども,このテキストを見ていただいてもお分かりになりますとおり,非常に問題点がまだなかなかまとまっていないというような状況であるということで,非公式会合をこれまで第19通常会期の前に重ねて開催して,何とかいろいろ問題点をまとめていこうということでやってきたけれども,このままの方法で進めていてもまとまらないというような観点で,当初の予定どおり本年末,あるいは来年初めに第2部を開催することは難しいという結論に達しまして,とりあえず今後の進め方としまして,今後の作業をどのように進めていくかということに関して更に別の機会に検討を進めていくことが必要であるということで,その最終的な結論としましては,先ほど御説明しました資料25の内容になりますけれども,2回目の外交会議の開催時期としましては2002年の終わりまでは無理ということで,2003年以降に開催する,その前に第1委員会という形で今後の本件条約の作業をどのように進めていくかということについて,早くても来年初め以降に開催して,その検討を行っていくというような決定がされました。  以上のような状況でございますので,これに対応するためにどうしていくかということになりますけれども,当部会において,今回は6月に開催されました第19通常会期の報告と,これについての質疑応答をいただきまして,その後10月と12月に予定させていただくことを御案内差し上げましたけれども,10月と12月において,今度の新しいテキストについての重要な論点についての審議を行い,更にまだ具体的予定は決まっておりませんが,来年1月以降に開催されると予想されます第1委員会において,進め方についてどのように対応していくかということについての方向性について御議論いただければということで考えさせていただいております。  また,今回の報告につきましては,1999年の準備草案に対する意見を本部会で取りまとめる際に御意見をいろいろいただきました諸団体にも,必要があれば御連絡をするということにさせていただきまして,更に御意見がいただければ,それについては参考にさせていただくことを考えております。 ● それでは,本日の審議に入りたいと存じます。  本日は,資料に基づきまして,6月のヘーグ国際私法会議第19通常会期第1部に出席されました○○幹事に,会合の報告をしていただき,質疑応答をお願いするということになります。内容が多岐にわたりますので,幾つかの部分に区切って御報告と質疑応答を行うことにいたしたいと存じます。  進行の便宜上,○○幹事にはこちらにお移りいただきたいと存じます。 ● それでは,資料21を中心にして,もちろん条文の方がもとですが,報告させていただきたいと思います。  今,お話がありましたように,今日全部を一応こなすということでありまして,重要な点は五つぐらいの点かなと思いますけれども,それ以外にも御指摘があれば承りたいと思いますので,すべての条文を幾つかに区切って御説明し,その度に質疑をしていただくということで,まずは1条から5条までということですが,しかし全体像を最初のところで御説明しなければなりませんので,先に1条から5条までの前に全体のことをまず御報告したいと思います。  ただ,この資料21はいろいろな目的を持って作っていたので,この秋に学会報告があったりするものですから,例えば4ページの一番上の2行は,これは学会報告のためにつけたもので,これは本来ここでは削除しなければならないもので,「以上のような状況を踏まえ」の2行は削除していただきたいと思います。そういうことを考えるのじゃなくて,ここでは御報告をし,御審議をいただくということでございます。  全体像ですが,既に御存じのように99年の10月にそれまでの何回かの特別委員会を経て条文案を作ったわけですが,アメリカが特にそれでは到底外交会議の基礎にはできないということを強く言い,日本も,そういう国があるのに無理やり行うのもいかがなものかということで,日本だけではありませんが,中国,韓国等とともに,急いで,予定どおりに2000年の秋に外交会議を開くことに消極的な意見を言い,それが2000年5月にその方向で修正をするということになりまして,その結果妥協がいろいろとあったようでございますが,私は行っておりませんが,2回に分けて外交会議を開く,1回目はコンセンサス又はニアコンセンサスの部分だけ確定をし,半年ぐらいおいて2回目で通常の多数決の方式で決定をするということで,2001年の6月にその第1回を開くということで,これがこの6月に開かれたものでございます。  しかし,そういう方式をとりますと,ここで言っておけば必ず条文としては残るということになりますので,それまでの議論において負けていた案--日本も含めてですが--は,すべて一応出しておくということをどの国もそういう行動パターンをとりまして,したがいまして多くの議論が蒸し返しになりました。どうしても下りなければ,それは括弧つきで残さざるを得ない,コンセンサスができていないということですから。その結果,2ページ目の真ん中あたりに書いてありますが,総量で,99年の案は17ページでしたが,今度は38ページになっていると。これは,字数で申しますと1万2,000字のところが2万4,000字,更に注が201ついていまして,注までカウントしますと4万8,000字と分かりやすい数字になっていまして,1万2,000字が4万8,000字の資料になった。学術的には非常におもしろい資料なんですが,外交交渉としては非常にまずいのではないかと思います。  いずれにいたしましても,そういう案が今回できました。それが第2委員会という,サブスタンスをする委員会で6月20日までの議論でそのようになってしまったものですから,6月21日から21,22日と開かれました第1委員会で,それをどう扱うかを議論いたしましたところ,結局2ページ目の真ん中あたりにある①,②,③の三つの決定事項ということで,このような案になってしまっては2回目を予定どおり2001年の暮れから2002年の初めに開くというのはもうできないと。2番目は,したがってどういうふうにそれを進めていくか,サブスタンスでなくて交渉の方法,まとめ方,スケジュール,そういうことを議論するために,先ほども御紹介がありましたが2002年の1月ぐらい,これは決定しておりませんが,それを開催しましょうと。それで第2回目の外交会議は,これは日本も幾つかの国もフィックスしてはどうかと,おしりをはっきりさせないとだらだらしてしまって,モメンタムが失われるというようなことを言ったわけですが,しかしネガティブな決め方で2002年中には開かないということだけ決めて,2003年に開くとは決めていないので,アメリカは従来からコンセンサスができるまで無期限にサスペンドしてもいいと言っていましたので,その案も含めて,その意見も否定しない形でこの三つが決まったということであります。  したがって,しばらく時間ができたということではありますけれども,何が大きな問題かというのは,2ページの下の五つの点であろうと思います。  第1は,これは根本的な話ですが,アメリカが憲法に基づいて自国の管轄権のルールとして行っているactivityに基づく管轄というものをどう扱うかでありまして,今まではホワイト・リストとしてそれを契約事件,更には不法行為事件の管轄の中にも入れてくれということを強く言っております。後からまた条文のところで御説明いたしますが,契約事件についてはまだしも,不法行為については相当に問題で,まだまだ理解が得られていないというところであります。  2番目の消費者契約について,これをどういうふうなルールにするかということについて,ヨーロッパはブラッセル条約--今度「規則」になりますが,その中に既にこの種の規定を置いていて,かつ,そこでは合意管轄を否定するという形になっているわけですが,特に合意管轄の関係でどうするかというのが問題であります。合意管轄を一定の条件つきで有効とするかどうか,してしまえばヨーロッパから見ればそこは活用されて,すべては合意管轄に流れてしまうということになりますので,ただ根本の消費者の常居所地に管轄を認めるという点については,アメリカのactivity-based jurisdictionに近い考え方なので,そこで何か企業が活動したのだから,そこで訴えられるということになるので,原則のところはいいのですけれども,合意管轄のところが相当に問題ということであります。  それから3番目は,知的財産権の訴訟で,特に特許権の訴訟について侵害事件も含めて専属管轄にするかどうかという問題であります。従来そこだけだったのですが,著作権についてもいろいろな意見がございまして,全体として態度決定ができないと,日本もそうでありますが,幾つかの国はこうしろという意見を出しましたけれども,大きなアメリカとかイギリスとかはまだ検討中ということで,方向性も出ていないということであります。  4番目が,第1番目のactivity-based jurisdictionに関係するのですが,ここではドゥイング・ビジネスという表現をしておりますが,普通裁判籍としてドゥイング・ビジネスの管轄を認めること,要するにビジネスと関係ない訴訟についても管轄を認めるというルールについて,ブラック・リストに載せるというのが99年の案でございましたけれども,それをやめてほしいとアメリカは言っていて,それをやめるのだったらフランスも国籍に基づく管轄を復活させろとか,ドイツも財産の差押えについての管轄をブラック・リストから削除してくれとか,ああ言えばこう言うというか,そこまで言うならこっちも言うぞということでございました。  最後の5番目で,他の条約との適用関係ということですが,これはブラッセル・ルガノ,特にブラッセル条約の際には--来年の3月から「ブラッセル規則」ということになるようですが,それとの関係で,ヨーロッパの中で従来うまくやってきたことが,この条約ができることによって阻害される,あるいは不明確になってしまうということでは困るということで,きれいに切り分けたいということですが,しかし外から見ればといいますか,ヨーロッパ以外から見れば,外の国との関係で一定の約束をしていることが中では違うということで,第三者に変な影響を与えては困るということで,条文案さえ出ていないという問題であります。ヨーロッパについては大問題であります。こちらはこちらの立場からチェックするということになるのじゃないかと思っておりますが,そういう問題であります。  以上の五つの点が重大な問題であります。  3ページのところに書いておりますのは,今日資料でワーキング・ドキュメント97というのを資料26で配っていただいておりますけれども,今言ったような問題を個別に打破していくといいますか,それぞれに落としどころを見つけて条文を作っていくということはもちろん本筋ではあるわけですが,それは相当難しいし,そこを押し切って作ってしまうと,最終的に条約に入らないということになってしまうと何をやっているか分からないということなので,ミックス条約という仕組みをうまく活用して,難しい問題はとりあえずグレーエリアに押しやってしまう,ホワイト・リストを小さくする,ブラック・リストも小さくすることによって,それぞれの国が言っていることが重なり合う部分だけうまく切り取って,そこだけを条文化すると。ただ,それで終わってしまうのは何なので,このワーキング・ドキュメント97に,最初のところにステージ1,ステージ2,ステージ3と書いてありますが,まずはそうやって,今の段階でコンセンサスがあるところだけを条文化すると。具体的にどうなるかというと,これは資料21の注の6のところに書いておりますが,第1段階としては,被告の常居所地国の普通裁判籍と,合意管轄と支店所在地管轄と反訴管轄だけ,これだけをホワイト・リストにして,あとはグレーにすると。ブラック・リストからもさっきのドゥイング・ビジネスの管轄は削除するということであります。  この案は,今回そうしたらどうかという提案ですから,第1回目の外交会議でそうしてしまって,そして第2回目の外交会議までに,もう少し増やせるところがあれば議論しましょうと。第2回目の外交会議でコンセンサスができて,これはみんなで付け加えようということになれば,それは付け加えたものとして条約を採択する。第3段階として,その後例えば5年後に見直しの会合を開く,更にその後も定期的にホワイト・リストあるいはブラック・リストを増やしていく,グレーエリアを減らしていく,要するにハーモナイズしていくということですが,それができるところから順次やっていきましょうというプロセスの提案がこのワーキング・ドキュメント97でありますが,そういう案はあり得る方法ではないかと思います。  これについて,提案したのはアルゼンチン,オーストラリア,ニュージーランド,ノルウェーでありまして,この提案があって基本的には幾つか留保--もちろん日本も留保が必要であるということを言ったわけですが,基本的にはそういう方向もあり得るのではないかといったのが,アメリカ,韓国,日本でありまして,いずれもヨーロッパ以外の国ですが,ヨーロッパはどういう反論をしたかといいますと,3ページの本文の後半部分のところに書いてありますけれども,そういう条約では,ある国の人に言わせると,せっかくこのチャンスを逃すと,アメリカからactivity-based jurisdiction を奪うことができない,このチャンスを逃すべきじゃないとか言っていましたが,そういうことから意義が小さくなってしまうのじゃないか,ですから99年案の線は崩すべきじゃないと。  さらに,これはヨーロッパの中の事情でありますけれども,彼らは対外関係については統一的な行動をとるというのが,私も詳しくは知りませんがアムステルダム条約の規定等から出てくるようでして,ただこの条約は,その前から交渉を進めているので,完全にはそのようにはしないけれども,注の8に書いてありますが,基本的な対処方針は全体で決めて,大きな変更は直ちにはできない仕組みになっているようでして,ワーキング・ドキュメント97について一定のポジションを示すということは,そういった手続を経なければできないので,今回は意見は言えないということでありまして,ヨーロッパも絶対困るというわけでは必ずしもないのではないかと思いますけれども,今言ったような反応を示しておりました。  ですから,こうなるかどうか分かりませんし,これでは意味がないというのも確かに一つの立場でありますので分かりませんが,そういう方向の議論もあったということは御紹介する価値があるのかなと思います。  以上が,まずは概要についてであります。 ● それでは,ただいま御報告いただきました点につきまして,何か御質問,御意見ございますでしょうか。  全般的な問題でございますので,もしなければ後でも結構でございますので……。  それでは,次をお願いいたします。 ● それでは,1条から5条までについて,個々の点,議論があったところ,コンセンサスができたところ,それから対立が残ったところというのをピックアップして概要を御説明したいと思います。  まず第1条ですが,これは民事及び商事というものの中でも幾つかのもの,例えば身分の問題とか相続とか,あるいは海事事項,そういうものは除くということになっていたわけですが,それに加えて,今回,反トラスト法又は競争法上の請求,原子力責任,保全処分,不動産に関する物権,法人の有効性,そういったものについても除外したらどうかという議論がございました。  この1条のところでは,まずは二つだけ御紹介しますが,あとは専属管轄のところで御説明した方がいいかと思いますので,二つだけここでは申し上げますが,まずは反トラスト法上の請求等についてですが,これはもともと不法行為の管轄のところで,99年の案では損害発生地に経済的な損害が生じたところというのを含めしめると,管轄が思わぬところに生じてしまうことがあるかもしれないので,そういったものは損害発生地の管轄は認めない,ですから反トラスト法違反又は経済的損失を加える共同謀議を原因とする損害については,損害発生地管轄を認めないことにしていたわけですが,しかしアメリカにはたくさんこういう分野だけで活動している独禁法の弁護士がいて,その人たちから見ると,条約は自分たちの手を縛るだけの条約ということになってしまうので到底のめないと言っていて,そこで方法としては従来の99年案の10条2項を削除するということが考えられるのですが,削除するだけですと,今度は損害発生地管轄がホワイト・リストになってしまうということになりますので,それは困るので,除外というところで,従来どおりアメリカがやりたいなら禁止はできないけれども,それの判決を管轄権ある裁判所のしたものと見るかどうかは国内法次第ということであったわけです。ただ,適用除外にしてしまいますと,ブラック・リストにもかからないということになりますから,ドゥイング・ビジネスの管轄を仮に18条でブラック・リストにしても,独禁法関係の訴訟は自由にできるということになりますので,削除するということの意味,ブラック・リストにもかからないということをのまなければいけないということですが,そういう案が今出ております。  ただそれは,実質的にはそれでいいというのが大勢でありまして,特にそれは困るという国はありませんで,ただ表現の仕方が消費者保護法違反とか不正競争法違反とか,そのようなものも入るような表現ぶりになっては困るということから,これでいいということにはなりませんでしたけれども,方向としては削除というのが一応のコンセンサスではないかと思います。  もう1点,原子力損害については日本とアメリカが削除してくれという提案をいたしまして,これにはイスラエル,英国,フィンランドなんかは賛成してくれたのですが,EUの中ではかつて議論があったようでありまして,多くの国はこの分野での特別の条約に入っている,パリ条約とかウイーン条約と言われるものがあるのですが,そういうものに入っているということもあり,またこれを除外してしまうと,その特別の条約でカバーされないちょっと周りの問題といいますか,条約の適用範囲から外れるけれども,しかし原子力に関して生じた問題が完全に外れてしまうということになってそれはまずいという議論もあったようでありまして,なお賛成というわけにはいかないということから,括弧つきで規定されたということであります。  この二つの点は,いずれもコンセンサスはできておりませんが,どちらかというと後者の方が,より内容にわたってコンセンサスがないということであります。  条文にいっぱい注がついているのは,同じ括弧がついていてもタッチが違うものですから,どういう趣旨の括弧かというのがいっぱい書いてあるためにたくさん注がついているのですが。  それから,第2条で領域的な適用範囲についてでありますが,これについては国内事件にはこの条約は適用しないということを,同じ国に常居所を持つ当事者の事件については適用しないという形で規定していたのですけれども,ただしそうは言っても合意管轄とか専属管轄,それからフォーラム・ノン・コンビニエンスなんかについては,適用が全然ないということになりますと,他の国での承認・執行も条約外の問題になってしまうことになりますので,それは困るので,これも合意管轄で申しますと,合意管轄はそれでも入る,同じ常居所を持つ人たちの間の問題でも,合意管轄があったからそこで裁判しましたという場合には,条約上ホワイト・リストの管轄として認めましょうと,要するに適用除外にはしないということですが,そういうことを規定していたところ,フランスから,そうすると純粋な国内事件についても外国の裁判所を専属管轄とするという合意まで認めなければならなくなってしまう点が問題だと,だから国際的な性質を有する場合という限定をつけなければならないのではないかという議論がありまして,中国はそれに賛成ということだったのですが,イギリス,日本,韓国は,国際性と言われると途端にあいまいになってしまって,合意管轄が必要としてる明確性が失われるのじゃないかということで,これも括弧つきということになりました。  それから,3条の普通裁判籍につきましては,これは前の当部会でも御報告をしたところでありますが,非公式会合の過程で,ハビチュアル・レジデンスという,常居所というものを用いない規定の仕方の方が明確でいいのじゃないかという議論がありましたけれども,それを具体的に日本,ニュージーランド,アメリカ提案という形で出しまして,それが5ページのところに抜き出している条文ですが,単にレジデンス,これは「居住所」と訳していますが,それがいい訳かどうか分かりません。とにかく「レジデンス」という言葉を使って,それがある国に管轄があると。通常の人は一つしかレジデンスがないので問題ないのですが,それが複数あるという人については,主たるレジデンスがある国,主たるというのも決めにくいという人は,もう両方が普通裁判籍,どちらかで訴えられても仕方がないと。一つに絞る必要は管轄ですからないと。だからイーブンのものが三つあれば三つ並ぶと思いますが,非常に例外的な場合だと思いますけれども,そういう人については複数の普通裁判籍を認めるという規定になります。  それについて,いいじゃないかという意見もございましたけれども,やはり常居所の方が従来からなじみがあるとか,あるいは複数あるという点について本当にそれでいいのかどうか,なお検討を要するということから,コンセンサスには至りませんで,括弧つきということになっております。もちろん,これをレジデンスということに直しますと,いろいろなところ,ハビチュアル・レジデンスを前提にしたような規定は直さなければいけないことになりますが,とにかくこの部分についてどうするかはなお決まらないということであります。  それから4条は,合意管轄の規定でありまして,これ自体はさっきのアルゼンチン等のワーキング・ドキュメント97の提案でもこれを残そうといったぐらいに,もう既におおよそのところはコンセンサスがある条文なんですが,今回の外交会議では,実質的有効性の問題についてどうするかという議論が相当の時間を使ってありました。  どういう問題かと申しますと,国内法で代理店を保護するために,代理店との関係で,あるいはフランチャイズの関係で合意管轄をしていても,無効だという国内法を持っていたり,あるいは公序良俗に反するような,あるいは権利濫用に当たるような,フェアネスとかリーズナブルネスとか,そういった要件で,一定の場合,合意管轄を無効にできるのかどうかという問題で,99年の案では,7条,8条,12条に抵触する場合はだめだけれども,そうでなければ次のものはホワイト・リストだと書いているものですから,国内法で勝手に制限できないのじゃないかとも読める,それでは困るのではないかということで,これはワーキング・グループも作られて議論がありまして,最低限コンセンサスができたのは,詐欺とか錯誤,あるいは行為能力,それからアンコンショナビリティ,何と訳すのか非良心性--これは「英米法辞典」ですが。そういう問題について,合意がちゃんとできているのかという問題については,抵触法によって準拠法を決めて,その準拠法で判断する,条約上そのものを全部オーケーとするわけではないし,条約上いいかどうかを決めるわけでもなくて,それは準拠法に委ねる,そこまではいいだろうというのが合意ができましたので,そのことだけ書いたらどうかという案と,それからもう少し広く,実質的有効性という形で,それは国内法によるということを書いてはどうかという案とに分かれて,それは選択肢で括弧がついて規定されております。まず,そういう問題がございました。  それから,5番目でありますが,これは応訴管轄であります。応訴管轄も内容について,この応訴管轄が自分の国にはないという国はなかったですし,恐らくどの国にもあるのだろうと思いますが,しかしこれをこの条約の中に入れておくと,グレーエリアの管轄原因で裁判所が管轄を認めそうな事件において,被告が争っても仕方がないというので黙って本案に争っておりますと,そのでき上がった判決は応訴管轄による管轄ということで,ホワイト・リストになってしまう,それは当事者にとってはサプライズではないかということで,わなに陥ると。だからそういう場合でも,しょせん争ったら負けるに決まっているという場合でも,ホワイト・リストにされないために,一応抗弁を出しておきなさいということを強要することは何ら問題ないじゃないかという意見と,それはおかしいと,認められっこない提案を必ず出しておけということは要求するのはおかしいじゃないかということから,やはり5条をこのまま置いておくのはふさわしくないということがあり,5条は削除ということでコンセンサスができまして,そのかわりに判決を執行するときには問題ないようにする,しかし今言ったような問題を避けつつ問題がないようにするために,27条Aという条文を判決承認・執行のチャプターにおきまして,7ページのところにありますような条文を置くということで,次の四つのことがすべて満たされた場合にはもはや管轄権は争えない,判決国の管轄を承認・執行の段階では争えないことにしましょうということで,それは裁判所はホワイト・リストの管轄があるのだということを原告がちゃんと主張した,黙ってやったのじゃなくて主張したということと,それから他の国内法に基づく管轄は,あわせて主張していない,ホワイト・リストだけを主張したと。それからcが,裁判所はともかく国内法に基づく管轄はあるということは言っていない,それから被告は管轄を争っていない,そういう要するにホワイト・リストの管轄を原告が言って,裁判所はそれを認めたというふうに読めるような場合だけを,しかしホワイト・リストにするわけじゃなくて,管轄をもはや争えないといいますか,判決国の管轄は争えないということを条文として置きましょうということになりました。  これも説明すれば分かりますが,この条約をざっと見て,どうしてというのは簡単には分からないことになっていまして,ミックス条約ということがよほど頭に入っている人でないと分からない。ほかにも出てきますけれども。ですから,技術的にはそれでいいのだろうと思いますが,本当にこれでいいのかどうかは分かりません。  以上,5条までです。 ● 1条から5条まででございますので,質疑応答をお願いいたしたいと思いますが,順次1条からお願いいたします。 ● 第1条の3項というのがかぎ括弧で入っておりまして,その中に仲裁合意に反する裁判所を承認・執行する義務はないというようなことが入っておりまして,これは新しいものですので,本来27条か何か,承認・執行されない判決とか,そちらの方に入れるべき事柄ではないかと思っていたのですけれども,1条3項のところに新しく入っているようですので,ちょっと御説明をお願いできたらと思います。 ● これは大変重要なことかもしれませんが,従来から仲裁との関係は様々な形で議論があって,日本もそういうことを言ったことがあるのですが,仲裁との関係を言い出すと切りがないということで,最初の2項のg)で,仲裁関係は除くと言っていること,それからニューヨーク条約等は当然優先されるということから,言わずもがなだという意見が大勢だったと思うのですが,やはりしかし,今おっしゃった1条3項のような規定を置いておく方がより分かりやすいのではないかという意見があって,かつ,中には置かないとそうならないかもしれないという,要するに仲裁合意に反する判決まで,例えば27条だか28条だか,外国判決の拒否事由の中に挙がっていませんから危ないということで,入れようじゃないかという議論がございました。しかしこれは,あえて反対することではないと思いますが,必要かどうかという議論だけではないかと私は思っております。  日本としては,あった方がよろしいのでしょうか。 ● そうですね,はっきりさせるためには。 ● そうすると,ここだけにあればいいのかどうか,もっといろいろなところになければいけないということになるのか。 ● いや,ここにあればいいと思いますけれども。 ● ほかにございませんでしょうか。 ● 今の仲裁のところですけれども,非常に対立が激しかったと思います。アメリカの方は,ニューヨーク条約に対して影響を全く与えたくないと,この条約で仲裁に関することを規定して,もし影響を与えるというふうに読めるとすると,要するに仲裁ローヤー・コミュニティーに対して説明するのが大変だと。アメリカはg)の完全除外でいいというふうな意見だったと思います。 ● 追加ですが,これをここだけ置きますと,例えば既にある仲裁判断に反する判決なんていうのは,承認・執行しなければいけないかどうか。これだけではだめですね。そのときも,仲裁合意がもとにあるのだから,それに反するということになるのだという説明はもちろんありましたけれども,28条の1項a)とかb)は「判決に矛盾する場合」としか書いてないために,かつてはここにも仲裁判断に反する場合とか書いてはどうかという案がありましたが……。  それは,今申し上げた合意に反するというので,仲裁判断に反する場合もやめると,そういう御意見でしょうか。 ● 私は,最初は26条か28条か,そういうところに入るのかなと思っていたのですけれども。そちらの方が分かりやすいかと思いますけれども。 ● 質問ですが,どういう事項が仲裁合意できるかどうか,独禁法の問題とか証券取引法,そういうところ議論があると思いますが,それはこれでいくとどういうふうにして決まることになるのでしょうか。 ● 有効な仲裁合意に反する場合と読むのでしょうけれども,「有効な」を何法によって決するかということは何も決めてないですね。 ● 仲裁の合意のところですけれども,今,○○幹事が言われたように,確かに有効な仲裁判断の存在が判決の承認・執行手続の拒絶事由になるかどうかということはニューヨーク条約に規定していないわけですね。したがって,第1条の適用除外規定からもそれは明確ではないから,だから規定を設ける必要があるという立場から,スイスとかイギリスとか,そういう国から承認・執行のところで明示的な拒絶事由としていくという提案のワーキング・ドキュメントが出されたわけですけれども,それに対してアメリカの方が,反対だという態度をとったと。つまり,余り余計なことは書きたくないと。合理性があるかどうか分かりませんが,政治的な面があるのかもしれませんがそういう立場をとったということです。 ● ただいまの点,よろしゅうございますか。  それでは,仲裁以外の点について,1条,何かございますでしょうか。  ないようでございましたら,2条をお願いいたします。--ございませんでしょうか。  それでは,また後で時間がありましたらお願いするということで,3条。  それでは,4条。裁判所の選択でございますが。 ● 4条の合意の実質的有効性のところで先ほど御説明がございましたが,詐欺,錯誤,行為能力,非良心性となっていますね。例えば,付合契約的な,交渉力の非常に違うので押しつけになるようなものは除くという趣旨なのか,それとも非良心性というふうなところの中に入っているというのか,どちらの認識でしょうか。 ● これは,それ以上突っ込んだ議論はなくて……。  これは,英米法的な概念ですよね,大陸法上の概念ではないですね。今おっしゃったような問題は,英米では含まれるのですね,この非良心性と訳されたものの中に。 ● 入り得ると思います。 ● 本当にすべての人が同じように考えて,その範囲を考えて議論したのかどうかはよく分からないです。 ● 今の御質問の補足でございますが,こういう表でワーキング・ドキュメントが出まして,後でコピーを差し上げてもいいと思いますが,Formal validityとかEffectivenessの問題,それから,public policy issuesとか,いろいろな項目を分けて,そしてどこに入れるかと,そういう議論をしています。 ● では,後でまた……。  4条,よろしゅうございますか。 ● 3条に戻りますけれども,何か3条で新しくハビチュアル・レジデンスにかわってレジデンスを基礎に考えようということのようですけれども,その下に書いてありますように,これに対する反対論として,「常居所概念が持つ継続性・関連性を重視する意見」というのがありますけれども,確かにこのように単に居住だけを要件として見ていく場合に,今度18条の管轄禁止原因の方にテンポラリー・レジデンスというのが入っているわけですけれども,これと,複数の国に居住している場合と,そのあたりはどういうふうに議論されているのでしょうか。 ● 今回,18条2項i)をどうかしようと,それとの関係でどうかしようという議論はございませんでしたけれども,非公式会合においては,3条をレジデンスにするのであれば,18条2項i)は削除したらどうかという意見がございました。分かりにくいということですね。  ただ,3条2項が入ったとしても,テンポラリー・レジデンスでいいということにはならないはずだと。すごくたくさん,世界じゅうにテンポラリー・レジデンスがあって,どこも主たるレジデンスがないという人がいるとすれば,それはそうなってしまいますけれども,極めて珍しいということだと思います。 ● よろしゅうございますか。  それでは,5条について御議論をお願いいたします。応訴について新しい対応が出てまいったわけですけれども。--特に何かございませんか。 ● 私からお伺いしたいのですが,イシュー・プリクルージョンというのでしょうか,何か民訴の中で日本で管轄についてはそういう発想はとらないのじゃないかなと思うのですけれども,新しく言われた27条Aというのは,抗弁を切断するといいますか,そういう主張を言わせない形で,実際上間接管轄があるという結果を導こうとしていることが,日本法になじまないとなると困ると言わなければいけなくなると思いますが,条約だし,構わないと裁判所あるいは民訴の先生がそうおっしゃっていただければ,内容的には私は構わないと思っているのですが。分かりやすいかどうかはともかく,仕組みとしてどうかという問題なんじゃないかと思っております。 ● 承認・執行段階では既に管轄を争えないということで,こういう基本的な条文を新しく作るということ自身は納得できるのですけれども,それではその前の方の本体の訴訟の場合に,前の案ですと最初の実質的な本案について陳述するまではできるという反対解釈からみると,それ以降は出せないというふうに読めたのですが,今度はこの条文を取ってしまうと,本体の方の訴訟ではどういうことになるのか,その辺の議論はどうなっているのでしょうか。 ● それは,二つ考え方がありまして,もう完全に国内法に任せてしまう。いつまで管轄を争えるのか任してしまうという案と,それから現在の新しい5条は,管轄を争う権利は少なくとも最初の本案についての抗弁を提出するまではあるのだということを条約上決めましょうと,そこではミニマムに国内法を統一しようという考え方と,二通りあります。  日本は,あってもなくても同じかなと思いますけれども,ほかの国でいきなり管轄の争い,もうできませんと言われるのは困るというのであれば,そういうことがどこかにあって,あるいは条約で国内法に踏み込む,各国の国内法に踏み込んだ条約ということも考えられるのではないかと。  私,個人的には,余り国内法に踏み込むようなことは考えない方がいいのかなと思っているのですが,いかがでしょうか。 ● 分かりました。確たる意見があるわけじゃなくて,理解はできました。 ● また,いずれこれについての態度を決めなければならないことがありますので,お考えいただきたいと思います。 ● 27条A,先ほど御紹介がありましたが,先ほどの御説明で,これを置かないとわなになってしまうという説明はよく分かったのですが,逆に言うと,27条Aの書きぶりですと,原告とすればグレーの管轄原因がある場合であっても,まずホワイトの方を言っておかないと不利益になるという意味では,やはりそういう戦術的なものを片方の当事者に求めるという点は同じというところがありますね。  それともう一つ,ほかの国の裁判所はちょっと分からないですけれども,我が国の裁判所のときに,c)の国内法に基づく他の管轄原因,要するにグレーの管轄原因を有することを裁判所が決定しなかったことということなんですが,必ず裁判所の側で被告の側からの申立てがない,要するに争うというような形のものがないときに決定をする,そういうことを今の実務では少なくともしていないわけですけれども,そういう手続が明示的に何らか意識しなければいけないような運用というか,民訴の改正になるのかもしれませんけれども,そういうことになる必要が,今読んだだけですけれども,あるじゃないかという,そういう危ぐがちょっとするのですけれども,その辺はどんなものなんでしょうか。 ● 私もよく分からないのですが,c)のところが裁判所に御迷惑をかけるということはない,しなければしないで構わないので,むしろ最初の御指摘のあったb)が,幾つか管轄原因があるのに,当事者としてはホワイトだけしか言ってはいけないといいますか,下手に付け加えておくとマイナスに働くと,それは逆のわなかもしれないですね,おっしゃるように。それはそうかもしれません。 ● いずれにしても,どちらの態度をとってもわなが設定されちゃうという点では同じというところはあるのかなと思いますけれども。 ● 今の点の先取りになるのかもしれませんが,19条の2項に,管轄の原因について当事者からリクエストがあれば,判決としてそれを宣言しろとか,そういう条文が多少入っているのです。これも日本,ほかの国も反対したと思いますが,括弧書きに入っています。  それから,27条Aの思想というのは,多分あとで承認・執行の段階で被告があれはホワイト・リストじゃないよということを争えないための要件を書いている,そういうことですので,○○幹事が言われたように,c)の方は今の実務のまま何も判断をしなければ,それはc)の要件を自動的に満たすことになると思います。したがって,原告の方が明示的にホワイト・リストだと主張して,ほか何も言わずに,被告も何も争わなかった,そういうときには被告は後の段階になって争えませんよと,そういうことの要件を書いている,そういう規定だと思います。 ● どうもありがとうございました。 ● 1条から5条まで,これでよろしゅうございますか。  それでは,次の6条,よろしくお願いいたします。 ● 6条は少し大きな規定なので,独立して御説明申し上げたいと思います。  最初の大きな問題点の一つになっているところでありますけれども,従来は新しい条文で選択肢Bになっているものが99年の案でございました。これは,大陸法的な履行地管轄をアメリカが単なる履行地では足りない,履行予定地はだめだという議論から,全部又は一部の履行がされた地という形で絞り込むということでできた,つまりアメリカも乗れるのじゃないかというのでできた条文でありましたけれども,やはりアメリカは,基本的に自分たちの考え方,いわゆるactivityというものに着目した管轄ルールにしたいということを主張いたしまして,これはいろいろな議論があったわけでありますけれども,特にスイスが,それを取り込んだ形で,と言ってもむしろactivity-based jurisdictionをもとにして,大陸法の履行地管轄をそのactivityの一つとして位置づけるという形でくっつけた条文にしてはどうかと。この直前の案では,単に二つの案をつけただけですが,それは余りだというので,融合させようというのが選択肢Aの方であります。  選択肢Aでまとまれば,選択肢Bはもう要らなかったはずですが,選択肢Aの中で更に大陸法対アメリカの対立があって,そういうのが嫌だというならBは削除しないぞというので,要するに99年案は残しておくべきだというので,選択肢Bも残ったというために,長くいろいろと書いてある条文になっているというのが全体像であります。  ですから,選択肢Aがどういうふうに結びつけているのかというのが問題なわけですが,これは1項で全体的なことを書き,3項はEコマースのことを念頭に規定しているので,その両方は選択肢Aの中での共通規定で,2項については二つに分かれているわけです。  まず,スタートラインは1項で,次の場合には契約に関する訴えを提起できるということで,その場合というのはa)とb)ですが,frequent--「or」か「and」かがまた問題なのですが,frequent [and][or] significant activityがその国であったか,あるいはその国に向けてfrequent[and][or] significant activityをしていたという場合に,その活動から生じた契約についての請求はできますというのが1項の基本線であります。  それが極めてアメリカ的だということになるわけですが,そこまで妥協はするのだけれども,しかし2項を置いてactivityを制限するというのが大陸法のアイデアでして,選択肢Aの第1案が大陸法的なんですが,活動というのはa),b),c)三つだけですと,しかも三つそれぞれ厳しく限定するということで,まずはプロモーションだと。プロモーションは,「その種の契約の締結のための被告の商業的又は専門的な事業の継続的かつ重大な」,「促進」と訳しますが,プロモーションの場合だけ。b)は,中心は交渉ですね。ネゴシエーションが中心ですが,「その種の契約の交渉のための被告の継続的な所在」に対して,その契約の少なくとも一部がその国で履行された場合に限るとして履行地管轄を入れていて,更にその履行は非金銭的な履行だけですと。又は金銭貸借と通貨売買は更に除くということですが。要するに,交渉を継続的にそこで行っていたという場合であり,かつ履行も行われたと。交渉だけでは足りない。日本は交渉だけではだめだというのを随分言ったので,それも取り入れられた形で,交渉プラス履行ということです。  それから,最後のc)は,これは純粋な履行でありますが,「物又はサービスの全部又は重大な部分の供給による契約の履行」。これは,選択肢B,99年案を短く書いたということと同じかもしれません。  それに対してアメリカが言っている第2案,差し替え案としての2項は,活動とは契約の促進,交渉及び履行を含むというだけで,それ以上は書かない。そのことによって,将来いろいろ判例ができてくることを妨げることはしないようにしましょうというのが基本的な態度であります。  そういう議論の中で,あと2点だけ付け加えるといたしますと,金銭の支払について,従来日本での議論でいろいろなところからの御指摘もあったわけですが,物の引渡しでもサービスの提供でもないということの確認を求め,そうだということになったわけでありますけれども,それは選択肢Bをとるときに物の引渡し,サービスの提供に当たらないということになるのですが,選択肢Aにおいては,活動ということを言っているので,特に第2案になりますとすべて入り得る,金銭の履行も入るということになりますし,それから第1案のc)では入りませんけれども,b)の中には履行--ですから交渉地であり消費貸借の履行地,あるいは通貨売買の履行地,これは入るということになります。日本で,金銭の履行地は困ると言っていたことからすると,認められたような形には読めますけれども,完全に除外をしてしまうということにはなっていないというのが,金銭の支払についての扱いであります。  それから,最初にちょっと触れましたけれども,3項,これはまだ括弧書きがついておりますが,インターネット取引のようなもので,特に履行が有体物を送るのじゃなくて,データを送るというような場合には,どこに送っていいのか,送り主の方がよく分からないということがあるので,履行が予期しない地で行われるということは困るので,またそれが分からないようだとビジネスが阻害され,それでは困るということを考慮して,被告がその国で契約を締結し,又は履行することを避ける合理的な措置をとっていた場合には,今言った活動による管轄は認めないという規定を置くということであります。これは,オタワで2回電子取引関係に特に重点を置いた会合を開きましたが,そこでさんざん議論があって,ただテクノロジー・ニュートラルな表現というので,いろいろなテクノロジーが発展してくれば使わなければ合理的じゃないと言われると思いますけれども,今何をしていいのかよく分かりません。どこまでそれが合理的なのかは書いていませんけれども,そういった規定を置きましょうというのが提案され,括弧書きで置かれているというのが現状です。  以上が6条についてです。 ● それでは,ただいまの点につきまして御審議をお願いいたします。 ● 大変恐縮ですけれども,先ほどの27条Aのことで,19条の定めがあるということで,今御指摘があったので,特に反対とか賛成とかいうわけじゃなくて,実務的な点からちょっとだけ御確認のために指摘だけしておきたいのですけれども。  27条Aのような形での書きぶりになりますと,裁判所として実務的には恐らく原告側とすれば主位的にはホワイトの管轄原因,予備的にはグレーの管轄原因という形の主張をしてくるだろうと。そういう形で出てきたときに,必ず相手方がホワイトで争わない場合を除けば,裁判所としてはそれがホワイトで認めるのかグレーで認めるのかという点については,19条での申立てがあれば判決の中でということになるのでしょうけれども,いずれにしても決定なり判決なりで,後から承認・執行の関係での別の効果が出てくるのであれば示さざるをを得ないことになるのですけれども,その場合に,早い段階で決定をして,それに対して独立の不服申立て方法を定めるのか,その方が恐らく,もしホワイトで認められないのであれば訴え自体を取り下げるとかいう,その場合もあるので,訴訟経済的には利益だろうと思うのですけれども,そうでなくて,最終的に判決で書けばいいという話になりますと,結論には不服はないけれども,ホワイトではなくてグレーで認められたことに不服があるというのが上訴の利益になるのかとか,そういう問題が起こってくるのですが,そういう形でホワイトかグレーか,手続法等で裁判所の側で決定して,それに対して独立の不服申立て方法を設けるというような形で手当てをせざるを得ない,国内立法的にですね。というところは,御指摘だけしておきたいと思います。 ● ちょっとお聞きしたいのですけれども。  第1案,第2案の「ヨーロッパ側」というような表現,アメリカはよろしいのですが,「ヨーロッパ側」というのはヨーロッパの各国がいわば統一行動をとったという意味で理解してよろしいのでしょうか。 ● 彼らは,15か国ですか,EUがコーディネートして行動していますので,当然そうです。 ● 何かほかにございませんでしょうか。大変大きな問題でもありますので。 ● 今の○○委員の御質問に対して,大体どこまではっきり決めているのかは,外からは見にくいです。ワーキング・グループとかで議論をしているときに,イギリスは相当にアメリカの言うことをのんでもいいじゃないかということを言い,かつ,そういう案を出してくるのに対して,ドイツはとんでもないということを言って,ヨーロッパの中で意見が相違しているというのが繰り返されましたので,細かいところではどこまで譲るかは決まっていないと思います。  ただ,ここは絶対譲らないというのではなくて,アメリカが入るのだったらある程度は譲ろうじゃないかというところは決めてきたようでした。  ですから,選択肢Aをまとめたのはスイスですけれども,Aでは絶対だめだとは言わなくて,ワーキング・グループに入って議論をして,そこでのめる案にするために--そうすると第1案がどんどん厳しくなって,ここまでだったら譲れるという形になったというのが私の印象です。 ● 何かこういうのを見てくると,単純多数決で,普通ヘーグ国際私法会議では1票差とか2票差とかいうのもありますけれども,大体大差がつくと。多数決で決まったのが条約案になるわけですが,単純多数決であればヨーロッパ各国が1票を持って,ヨーロッパの国数が圧倒的に多いわけですから,アメリカが幾ら反対しようともそれはもうお構いなしで,どんどん事はヨーロッパベースで続いていくわけですね。だけど,今度はコンセンサスでやろうというからには,そういうアメリカを抱き込まないような形での条約を作らないということを恐らく意味している。  他方で,ヨーロッパはヨーロッパで,理事会の枠ができて,その枠の中で共同行動をとるという大きな枠があるということになってしまうと,最も望ましいのはアメリカとEUとの間で,バイラテラルなトリーティーを作ってもらって,そこに第三国も入ることができるのだと。ヘーグ国際私法会議というのはそういう場を提供する,第三国がそのバイラテラル・トリーティーに参加できるような場を提供する,そういう機関になってしまうということになってくるわけです。  それはそれで,いいか悪いかはともかくとして,一番早道だろうと。まず最初にEUの中で態度決定をして,ここだけ譲れないところと妥協できるところ,そこですり合わせてもらってアメリカと交渉して,とにかくここまでは譲れるというところが,実は本当はコンセンサスができるのはその部分なんだろうなというふうに考えるわけです。  一番知りたいのは,もしそういうことをやらないのであれば,EUの中ではどの程度の枠が設けられたのかということを知ろうと思うのですが,カウンセルのドキュメントを見ましても,実はその後も発展があったようですね,7月か何かに。理事会の決定がどうもあったようで,対処方針のようなものが何かあったようなんですが,その後の展開の在り方というのをもし御存じでしたら教えていただければ,ここで議論するのももう少し違った視座で見ることができるのじゃないかと思うのですが。 ● 7月というのは,この会議が終わった後ですか。それは全然知りません。  知りませんが,彼らはこの会合が終わった後に,秋から議論をするから,そのときには時々は日本の意見も聞くからねと言いにわざわざ来ましたけれども,それは分かりません。 ● 第1案のところですが,アメリカの方から見ると,アメリカは第2案を出しているわけですが,1案のa),b),c)は先ほどそれでいくとなればどんどん厳しくなっていくという話だったのですが,特に2案をアメリカが仮に譲って1案に近づく場合の一番障害になりそうなところは,1案のa),b),c)のうちどれだというふうにお考えでしょうか。 ● それは,すべて反対しているのか分かりませんけれども,c)は基本的には大丈夫なはずですね。a)とb)でいろいろな言葉を重ねて使われたりするのは……。  アメリカの本音は,何も変えないで条約対応したいわけですね。ですから,こんな条件つけられたら考えなければいけなくなって,それは州の裁判官が考えるということは多分しないだろうから,それは困るということなのじゃないかと思いますけれども。  およそだめだと,制限するのは。だからc)もだめで,選択肢Bもだめなのか,そこはちょっと分からないのですが。  もしそこで第2案になってしまうと,アメリカの言うがままで,非常に漠然としたものをホワイト・リストにするということですから,これはヨーロッパはのめないでしょう。日本はどうか分かりませんが。ですから,そこはどこで妥協するつもりかは見えないですね。  さっきのアルゼンチン等の四つの国のワーキング・ドキュメント97は,選択肢Bの方でおさめる,ここだけ書くと。そこは重なっているのじゃないのということを言っているのを,アメリカはもっと広げろと,全部ホワイトにしろと言っているものですから難しいですね。 ● 第6条,よろしゅうございますか。  特に新しい情報もないようですので,それでは第7条。 ● では,第7条。これも独立して一つの項目として御説明申し上げたいと思います。  消費者契約については,ブラッセル条約で一定のルールがもう既に決まっていて,譲れるところがヨーロッパには少ないということがあり,またアメリカも,ドゥイング・ビジネスをずっとしていっている国で,それで訴えられるのだったらそれは仕方がないというので,不思議に全体としては大丈夫なところなのですけれども,合意管轄のところがネックになっているということでありまして,そこをどう打開するかというので,デンマークから留保を認めてはどうかという案があり,それについては,しかし自分の国の消費者を守らないという留保をするということは極めて難しいので,むしろ守りたい側が留保しろとか,そういう,効果としてはどちらも同じ話だと思いますけれども,政治的な困難という点ではとても自分の国の消費者だけは守らないなんていうことは言えないということを,アメリカは強く言っていました。  また,留保を認めますと,各国ばらばらになるということを認めてしまうので,それはよろしくないという批判もあり,またこれはドイツが言っていることですが,9ページの上の方に書いてありますけれども,仮にある国では企業に消費者取引でも合意管轄を認めると,したがってそれに反した判決は承認・執行しないということになりますと,企業誘致の誘因になるのじゃないかと,そういうこともあってハーモナイズさせるべきだということが言われました。  そういう議論があってワーキング・グループが作られて,しかしそこではどれか一つに絞るというのじゃなくて,すべて言われたことを条文化してこいというのがワーキング・グループの任務ですから,いっぱい選択肢がついた条文案を出してきた,それを修正したのが現在の第7条ということになっております。  これを個別に御説明するよりは,11ページ以下のところに何が変わったかということを項目別に書いてありますので,順次御説明したいと思います。  まずは,消費者の定義として,99年の案では「自己の営業又は専門以外の目的で契約を締結した原告」ということになっていたのを,商業的な以外のという言い方だったのですが,よりポジティブな表現で,「個人的,家族的又は家事的」,personal,family or household purposesですね,householdを「家事」と訳しているのですね。そういう表現に変えましたということで,これはそれでいいのじゃないかということになったと思います。どこかの案にも,UNCITRALかどこか忘れましたが,どこかにもそういう言葉が使われているようでして,それでまとまったと思います。  それから,2番目の項目ですが,電子取引のように対面取引でないと,相手方が消費者かどうか分からないまま契約をしてしまうことがあって,それで後になって実は消費者で,消費者の常居所で訴えられるということはちょっと驚くということなので,そのような場合にはこのルールは適用されないようにするために,ただし書を1項につけましょうということで,「ただし,当該相手方が--相手方というのは企業の方ですが--消費者が主として個人的,家族的又は家事的な目的のために契約を締結しようとしていたことを知らず,また知るべき理由もないこと,及び仮にそのことを知っていたならば契約関係に入らなかったであろうことを証明した場合には,この限りでない」。ということは,この条文は適用されなくて,一般の契約事件として扱われるというただし書を置こうという提案がございました。  これが括弧つきになっているのは,確かにそれも一つの考え方であるけれども,仮にこういう主張がされたときに,知らなかったということを言われたときに,消費者がそれを覆す立証をすることは極めて難しい,どの程度証明責任を転換するかが問題だと思いますけれども,知っていたはずだということを消費者側が言うことは難しいので,これだと消費者保護にならないのじゃないかということから反対という意見もあって,括弧書きがついているということであります。  一つの製品について値段を変えておいて,消費者だったらちょっと高い,消費者でなければちょっと安いというふうにしておいて,消費者に選ばせる,消費者でないと言わせるとか,そういうことをするのじゃないかとか,いろいろなことが言われましたけれども,それもしかし消費者が選んだことだということなのかもしれませんが,とにかくだまされたときに企業側が困るということを言っておりました。  それから,3番目の項目として,消費者が他の国において契約の締結に必要な手段をとった場合というのは,2項の原則は,消費者が常居所を有する国において,又はその国に向けて,相手方,相手企業側が契約の促進,交渉を含む活動をしたと,それから契約ができて,その契約に基づく請求という場合には,消費者の常居所地国で訴訟ができますという規定ですが,それにただし書をつけて,消費者が他の国において契約の締結に必要な手段をとったこと,a)のような場合には,例外にしましょうと。これは99年の案にあったのです。これは,スモール・ショップ・エクセプションとかいって,外国からの観光客が来て何か買い物をしたというような場合に,すべて他の国においてやったのだったら例外にしますということなんですが,どんな宣伝をしていても,そうやって宣伝に乗ってきた消費者だとしても,それでも契約締結に必要な手段を全部とった場合には,消費者の常居所地では訴訟できないことにするという案に,更に加えて,b)というのをつけましょうという提案があったというのが正しいところで,それは消費者が当該他の国に所在する間に物又はサービスが提供されたと,履行もそこで行われたということも条件にしてはどうかと。  これが加わりますと,消費者が買い物に来て,後で自宅に送ってくれと言われたら,もう例外はなくなるのですね。ホテル業なんかだといいのですが,大きな物を売るなんていうときに発送まで請け負ってしまうと消費者の常居所地で訴えられるということになるわけですが,そういう要件が必要だという国と,いや,それは今言ったような例外が狭くなってしまうのは困るということで,コンセンサスができていない点です。  それから,4番目は7条3項で,これはEコマースのことでありますが,相手方がある国に常居所を有する消費者と契約を締結することを避ける合理的な手段をとったことを証明した場合には,その活動は,その国に向けてしたものと解してはならないと。要するに,インターネットで物を売ったりするときに,Aという国の人には売らないつもりのサイトであった。そして,そのAという国から注文が来ても,注文を受けないような合理的な手段を尽くしていたと。あなたはどこの国の人かと聞いて,Aと答えたら売らない,そういう仕組みにしていたのにうそをついて,B国だと言って,しかも有体物だとそれでA国に送ったのなら知っているはずですが,電子的に履行すると分からないということから,そういう合理的な手段をとっていた場合には適用しないという例外を作りましょうというのが,新しく加わった3項であります。  以上が細かな修正ですが,大きな問題は合意管轄についてでありまして,合意管轄について幾つも選択肢があるわけですが,まず選択肢Aというのは従来の例外,要するに合意管轄が事後的にされた場合と,それから付加的に消費者の常居所地以外にも,あるいは条約で認められるところ以外にも更に付け加えて管轄を認めるような,消費者にとってより有利な合意管轄である場合ということに加えて,消費者の常居所地国法上有効である場合を認め,かつ,その判決の承認・執行についても承認・執行国が合意管轄に反して消費者の常居所地で下された判決の承認・執行を拒否する宣言をするということを認めるという案です。  それから,選択肢Bには,第1案,第2案があって,宣言する内容が逆転しているのですけれども,選択肢Bの第1案は,合意管轄は有効としておいて,消費者保護管轄が優先する場合にはその旨の宣言をしろという条文。逆に第2案の方は,合意管轄は無効だと言っておいて,それを認める場合には宣言をしろというもの。  それから,最後の選択肢Cが最も本当はスマートなんですけれども,事前の合意管轄が存在すれば,それはホワイト・リストになるけれども,それに反する消費者の常居所地管轄を禁止するわけではなくて,それはグレーエリアになる。要するに,ミックス条約ということを完全に理解し,それをうまく利用するという案で,普通の人には分からない案ですが,最も巧みな案です。普通の人というのは,初めて見る法律家も含めて,どうしてこうなるのというのは簡単には分からない案です。  そういうことで,留保を避けようとすれば選択肢Cのようなことが考えられるわけですけれども,分かりにくいということは前から言われているところでありまして,アメリカはとにかく分かりにくいと言っていました。これは,どこでおさまるかがよく分からないという状況にあるわけであります。以上です。 ● それでは,御審議をお願いいたします。  大変複雑なことになっておりますので,お分かりにくいかと存じますけれども。 ● 日本はどれがいいという……。 ● 日本は,特にどれがいいということではなくて,むしろ常居所地法を準拠法として判断するというアプローチはやはりよくないという話が本部会の場で,つまり外国法を調査して研究してという,多少固有の問題ではあるわけですが,つまりそれをちゃんとやらなければ直接管轄行使の段階で間違えれば条約違反になってしまう,そういうのはやめてほしいと。  それから,留保ということになると,やはりこれは政治的な問題があって,結局どちらからいくにしろ避けたいと。というと,今ぱっと見た感じでは,もちろん条文自体は洗練されてはいませんが,C案というのは留保がなくて,常居所地法も出てこないので,これを何とか生かすことができればグレー化できると。  もちろんこれは,後でまた御審議をお願いしますが,コア,スケルトン条約にするということになれば,とりあえずはコントラバーシャルな管轄は第1ステージで下りるわけですから,そういう議論をしなくて済むわけですが,仮に消費者契約の管轄を何らかの形で条約の適用範囲に取り込むということになった場合にはどれがいいかという,理屈というよりもむしろポリシーといいますか。つまりもともと取らぬタヌキの条約ですから,この条約というのは。今は何もない状態ですから,ダメ元ですから,できるだけグレーが広がったって一部でもホワイトがあれば前進だと考えれば,Cのような案でもおかしくはないと思います。 ● ほかに何かございませんでしょうか。  ぱっと見て,なかなか議論いただくのは難しいかもしれませんけれども。 ● 非常に分かりにくいのですけれども,これは選択肢Bの第1案,そこでもって,これは原則管轄合意を認めましょうということで,例外として加盟国が宣言できるということで,その宣言の内容のところにまずa)のところでもって管轄合意が紛争を発生後に締結された場合。これはよく分かるわけですけれども,その後に「本条若しくは第3条に規定された裁判所以外の裁判所に消費者が提訴することを認める限度においてのみ管轄合意を尊重する」ということが書いてあって,そうすると本条に規定された裁判所以外の裁判所に消費者が提訴することを認めると言っているわけなので,ちょっと日本語で非常に分かりにくくて,つまり7条2項で消費者が自分の住所地で起こせるよと言っているわけですけれども,この宣言をした場合に,消費者が自分の住所地で起こせるのかどうか,非常に分かりにくくて,この日本語だけ読むと,「本条に規定された裁判所以外の裁判所」と言っているわけなので,起こせないように読めるのですけれども,英文の方をちょっと私の事務所にいるアメリカ人の弁護士に聞いてみたら,そういう趣旨ではなくて,これは追加的に,つまり2項でいう自分の住所地で起こすそれ以外に,プラス更にほかの裁判所に起こすことができるということだそうですので,それは注の60のところに2行目に,「この管轄合意は,第2項に定める管轄を排除するものと扱われず」という,この注とも一致するわけですけれども,ちょっと第1案の6のa)の日本語だけ読むと紛らわしいのですけれども,もし訳を若干変えるとすれば,「この条若しくは第3条に規定された裁判所以外の裁判所にも」とか,「も」とか何か入れれば少しは分かりやすくなるのかなと思っているのですけれども。 ● 条文の趣旨はおっしゃるとおりで,確かに「も」を入れるとよいというか,入れないと誤解を招く表現だと思います。 ● この条文の内容自体は宣言の形をとっていますが,99年草案と同じで,99年草案でもa)号が--これは直接管轄の形で書いていますけれども,紛争発生後にエンターしたアグリーメントか,それから付加的な合意,その場合には管轄の合意にしていいと書いてあったわけで,正にこのバリアント1の思想というのは,5項で原則従としておきながら,もとの99年草案と同じ形にできるという,そういう条文だと思います。 ● よろしゅうございますでしょうか。  それでは,次の条に移りたいと思います。 ● それでは,続きまして8条は全然議論がされていませんで,問題状況は,もし置くとすれば7条と似たような問題なんですけれども,7条とは違う問題としては,そもそもこれは民事及び商事ではないと言っている国もあるようですので,もしかすると全体を違う理由から置かないと,難しいから置かないというのじゃなくて,民事及び商事というところで引っ掛かっているということで置かないということもあり得るという点が違うかもしれませんが,いずれにしても7条の議論が済むまでは8条の議論をしていないという状況であります。  9条と10条の2か条について御説明申し上げたいと思いますけれども,まず9条は,支店の管轄でありますが,これについても全体としてactivity-basedの管轄がどうなるかということが引っ掛かってはいるわけでありますけれども,アメリカは9条に入れるということはやめて,作戦としては6条と10条を主戦場として闘うということのようであります。私は,アメリカの人には9条に入れた方が分かりやすいのじゃないか,日本としても9条の方がどっちかというと乗りやすいかもしれないということは言ったのですが,いや,やはり6条と10条がということでいくことにしているということでありました。  その問題とは別に,もう1点,この報告書に書いてありますように,子会社が存在する場合はどうかということについて,どうしてアメリカが言ってきたのかよく分からないのですが,アメリカも一緒に言ってきて,日本が言っている案,一緒の共同提案にしようということを言ってきまして,「前項の適用上,法人は,その法人が被告の子会社であるとの一事をもって「支店,代理店その他営業所」とはされない。」という規定を置こうという提案をいたしました。これについては,共同報告書でもそのように書いてあったところでありまして,内容自体には問題と言っている国はないのですが,ただこれにオーケーと言ってしまうと,違う何か別の思わぬ効果が生ずるかもしれないという慎重な発言もあって,コンセンサスというふうにはならなかったということであります。  それから10条でありますが,10条の不法行為について,かなり議論がありまして,デリクトとかいう言葉は英語じゃないとか,スコットランドはこれは英語だと言うとか,いろいろありましたが,削除しろとか,日本語では訳しようのない話ですけれども。大きな問題はやはりactivity-basedの管轄の問題でありまして,彼らは何を具体的に考えているかというのを報告書の13ページに具体例というので掲げていますが,外国で製造された銃がアメリカで販売されて,アメリカの居住者がこれを買ってカナダで狩猟をしていたと,それが暴発して損害をこうむったというときに,アメリカで訴えたいというのですね。製造物責任の加害行為というか,瑕疵ある製造をしたのは外国,どことは言っておりませんが外国で,事故が実際に発生したのもカナダ,アメリカは単に物が売られた,それからアメリカ人が買ったということの関係なんですが,それでも不法行為管轄をアメリカに認めろと言っていて,これは日本も含めて,損害発生地に管轄を認めるという発想とは違うので,それを受け入れるということについては相当に大変でありまして,契約責任以上にこれには乗れないといいますか,反対だという意見が相当に表明されました。これは,正にアメリカはドゥイング・ビジネスの管轄を認めようと言っているにほかならず,ここでも言ったようですが,フランスはブラック・リストをここに潜り込ませようということには到底乗れないということを強い調子で言っておりました。  結局,これは最初に申しましたように一つの国でも下りなければ括弧書きになるということから,括弧書きになったというものであります。  それからもう一つ,電子取引,取引でなくてもインターネットを使ったいろいろな活動が行われるようになったことに対応して,行為地の概念がよく分からないと。あるいは,結果の発生場所ということについても,限界がなくなる,そういうことからインターネットを通じたそのような活動が萎縮してしまう,こういう管轄を認めると。そこで,そうならないように何か規定を置いてはどうかと。業界団体も来ていたわけですが,いろいろな発言が出まして,ただ具体的にどうしろということについては必ずしもいいアイデアはなくて,結局6条とか7条であったようなものと似ているわけでありますけれども,3項という条文を置いて,前二項の規定--2項が入るかどうか分かりませんが,もし2項が削除されれば前項の規定ということになると思いますけれども,その不法行為地管轄の規定は,「被告がその国で活動すること又はその国に向けて活動することを避ける合理的な手段をとっていた場合には,適用しない」という規定を置こうということでございました。  ただこれは,契約なんかと違ってより反対が強いように思います。人に損害を与えておいて,そのつもりはなかったと言えば管轄がなくなるというのはちょっとおかしいのじゃないかということで,それについてはより反対が強いようであります。  それから,行為とか損害のおそれとか,あるいはいろいろな国で損害が起きたときに,損害発生地の一つにしか管轄を認めないようにするという99年案の3項,4項で,今の案では4項,5項になりますが,それについても若干の議論があっただけでありますけれども,少し議論がありまして,日本は3項削除,それから4項についても削除案もあり,3項,4項はいずれも実質的な議論はありませんでしたが削除案があったということから括弧書きがついたということになっています。  11条もついでに申し上げますが,11条は信託の規定で,ほとんど実質的議論はありませんで,ただ信託法を持っている国からより明確化する案というのが出てきまして,それを盛り込んだというのが11条であります。以上です。 ● 9条,10条,11条について,質疑応答をお願いいたします。 ● 9条の不法行為の損害発生地の管轄なんですけれども,従前,派生的な経済損害がここで言う損害に当たるかということで,事前には当たらないというような非公式会合での説明だったということだったのですが,外交会議ではこの点について,何らかのやり取りはあったのでしょうか。 ● 専らactivity-basedの関係で議論になったものですから,とりあえずうちの方としては,損害の概念がはっきりしないのだからレポートにはっきり書いてくれということだけは言いましたけれども,それで議論になるということはなかったです。  それから,今のactivityのところですけれども,アメリカはなぜ行為地のアクトというのでだめかというところの説明として,例えば危険な製品の販売促進活動をしたこと自体がアクトに当たるからいいじゃないかとヨーロッパ側が言ったら,アメリカの方は,いや,アクトの概念自体は実質法的な概念なので,アメリカの不法行為法だと市場への商品導入自体はそういった不法行為じゃないから,そこはactivityしかないのだと,だからactivity-basedの管轄を認める必要があるのだとか,もちろんそれに対して反論もありましたが,そういうふうな議論もしました。  それから,電子取引の方は○○幹事から言われたとおりで,いろいろな新しいルールが必要になるけれども,どうやっていいか分からないというふうにアメリカが言って,いろいろなオブザーバーとしてインターネットの関係の団体が次々と意見表明をしたのですが,みんなこれは分からないからもっと時間が欲しい,時間かないから分からない,そればかりで,そういう状況で,それに対していつになったら分かるのだという,そういう嫌味を言う人なんかいて,ちょっとそういう状況で全然まとまったものはなかったです。 ● 今の点で付け加えますと,小さな条約にするというときに不法行為地管轄も入れるとすれば,物理的な損害発生地の管轄だけのルールにしたらどうかということは議論がございました。電子取引はあきらめて。これはホワイト・リストですから小さくてもいいということです。 ● 6条の契約についてヨーロッパもactivity-basedの管轄権の基礎に歩み寄るようなものを提案しているようにも見えるのですが,この不法行為に関してはかなりかたくなで,認めないということなんですけれども,それはまずどの点に理由があるのでしょう。 ● これは,大陸法的には不法行為地管轄じゃないと。 ● というか,これになるともうほとんど原告が間接的な経済的な損失,エコノミックロスだけとらえていくと,結局実際には原告の住所地にほとんど一致してしまうということが問題なんでしょうか。  契約の場合には,必ずしもそうならないと思うのですけれども。例えばアメリカが例で出した猟銃のような場合には,大体原告の住所地というのに道が開かれてしまうのだろうと思いますね。  他方,もう一つ疑問があるのは,ブラッセル条約で製造物責任の事件というのは,どう取り扱われているかということなんですね。確かに製造物責任は不法行為の管轄権の平面でとらえられていて,ドイツの車に欠陥があって,イギリスで買ったイギリス人がドイツでドライブしていて交通事故に遭ったという場合に,現在イギリスの病院で加療中であるというような場合には,やはりブラッセル条約ではイギリスでは訴え提起できない,やはりドイツでやらなければいけないということなんですね。  それで構わないというのであれば,それはそれで構わないのですが,製造物責任は製造物責任で固有の管轄権の基礎のようなものを考えることができるのではないかと思って。もしアメリカがこのような製造物責任の例だけを挙げて不法行為地に関する管轄権を広げようというのであれば,それなりの管轄権の基礎を考え得ないではない。私は,ブラッセル条約だけでも,それで十分な解決になっているとも思えないので,それは何らかの歩み寄る余地があるのではあるまいかと思うのですが,しかしこれも,ヨーロッパ自身がないと言えばそれだけの問題なんで,何ともこれ以上のことは言えないのですけれども,どうもこの例だけから考えると,何かそれなりに理由がありそうにも思えるなという印象は受けます。 ● 今の点というのは,エコノミック・ロスから持っていくのですかね。それとも,何か私もちょっとはっきりしませんけれども,危険な商品の販売促進活動というのをするわけですね,マーケットのところで。カナダの猟銃の例でも。例えば,副社長が何回かアメリカを訪れて販売活動にエンゲージしたと,それはactivityだと,てもそれ自体不法行為じゃないと。だけど管轄の原因として,activityとすれば十分だと,そういうイメージなんじゃないかという気がするのですけれども。 ● それが,多分その場で恐らくエコノミック・ロスも生じているのじゃないかなと,不法行為の場合。そういうふうに私は考える。  もしそうだとすると,どうして10条の場合は6条と異なって,もう少し歩み寄るようなactivity-basedの何か管轄権の基礎について,ヨーロッパの方から提案がなかったのかなと思っています。 ● それはフランスが非常に強硬でして,契約の場合には予測可能性がありますね,管轄合意をすれば。不法行為の場合には予測可能性ないので,どうしても過剰管轄にならざるを得なくて,フランスの中小企業はふるえ上がっていると。これはブロッキング・ポイントだという,そういう発言をしていました。 ● ある意味では,この事例みたいなものを考えますと,準拠法で言う市場地管轄に対応するようなものだと思うのです。そこの市場に向けて販売活動を行ったのだから,製造物責任で事故が発生したときには,そこの管轄を損害発生地でなくても認めると,そうすると市場向けにやっているのだから,予測可能性は必ずしも損なわれないというふうに考えることもできるのじゃないかと思うのですがね。 ● 先ほど,私が9条でやってくれた方が分かりやすいといったのは,正にその点でして,支店はないけれどもその国で活動をやっていて,契約責任か不法行為責任か,それも請求権の作り方次第なんで,何らかの損害が出たと,それではそこで訴訟されても仕方がないではないかと,支店がなくても。そういう話ならば理解可能と。乗れるとはとても言えませんが,日本としても分かるけれども,不法行為の,しかもそのときには不法行為請求しかだめで,10条でいくときは。契約上の請求というのは6条だと,それで本当にアメリカはいいのですかと。  原告が訴状を書くときに,不法行為上の請求か契約上の請求かと分けて書くなんて,きっと考えていないと私は理解しているので,アメリカの訴訟では。それを二つの条文に分けてしまって,アメリカも困るのじゃないかと言ったのですけれども,とりあえず今は二つに分けて……。  結局,同じ条文を二つ置けば,同じことは実現できますよね。アメリカとしては。やりたいことは分かるのですが,乗りにくさの点では何か10条の方が抵抗がある。  今の猟銃の件は,10条1項ではカバーできないのはどんな例なんだとさんざん言われて出してきた例ですから,それはそれでくっきり大陸法ではだめで,アメリカならいいという例になっているのじゃないかと思いますが。 ● 1点,確認したいのですけれども。  ○○幹事が最初におっしゃった適用除外の関係で,独禁法があったのですけれども,従前の99年10月の案には,ここの不法行為の損害発生地国の管轄を独禁法違反には適用しないという規定があったわけですけれども,その規定は今回落ちているわけですけれども,これはもうコンセンサスで削除されたということですか。 ● 先ほど申しましたように,1条2項の表現ぶりについては,なおコンセンサスはないものの,アンタイトラストの問題を除くという点についてはほぼコンセンサスがあるということで,10条の2項をなお残せという意見は既にないという状況です。 ● そのほかに何かございますでしょうか。  もしございませんようでしたら,ここで休憩を入れさせていただきたいと存じます。           (休     憩) ● それでは,再開させていただきたいと思います。  次の条,お願いいたします。 ● 12条からですが,12条は専属管轄で四つの事項について専属管轄を定めていたわけですが,まずそのうちの物権関係の問題が専属管轄であるということについては,それ自体は異論はないのだと思いますが,原案では不動産賃貸借についても専属管轄にして,更にブラッセル・ルールには,そこの6か月を超えるとかいう条件をつけていますので,それと同じことをこちらにも盛り込めというのが幾つかのヨーロッパの国々から提案がございまして,それに対して,ヨーロッパの中でもドイツなんかは賃貸借は必ずしも専属管轄でなくていいと。日本もそう言いましたけれども。  さらに,そもそも不動産の訴訟も全部適用除外にしてはどうかという案もあり,様々なものが--ですから,適用除外との関係では全体が括弧に入り,それから6か月以下とかいうのが入るかどうかについては括弧がつくと,そういった条文になっております。  次に,法人の有効性等の訴訟についての専属管轄,これは法人の準拠法の属する締約国の専属管轄というふうにしていたわけですが,これはそもそもこの条文を作るときに,設立準拠法主義をとる国と,本拠地法主義をとる国,法人の準拠法をとるということについて二つの考え方があって,「設立準拠法」と書くわけにいかなかったということでこういう規定になったのですが,しかし結果においてこんなふうに規定してしまいますと,専属管轄が重複するとか欠落するということになってしまうおそれがあるものですから,むしろこれは削除した方がいいと。これについては,これはコンセンサスとは書いてありませんが,大勢はそうだろうと思います。最初の不動産の問題よりは,こちらの方がより強く削除のアイデアがあります。  3項は,従来からよく分からない規定なんですが,余り問題もなく……。登記登録の問題ですね,行政の事件じゃないかと思うのですが,特に議論はございません。  最大の議論がございましたのは,知的財産権に関する4項,5項,6項に関する問題であります。これは,特許等とそれから著作権,工業所有権と著作権に分けてそれぞれ議論をした方がいいという議論があり,そういう方向で議論がされたわけですが,しかし冒頭,全体としてなお結論を出すにはそれぞれの国がポジションがなお決まらないと,日本も含めて態度は未定だという国が多い問題でございましたので,そもそもコンセンサスはあり得ませんし,結論は出ておりません。  何が議論の中心かといいますと,選択肢AとBの対立。と言っても,ちょっと入り組んでいて分かりにくくなっておりますけれども,特許の侵害事件について登録国の専属管轄とするか否かということで,専属管轄にすべきだというイギリス等を中心とする国々は,EUもそう言っていましたが,まとまってきているのかもしれませんが,従来はイギリスが強く言っているのですけれども,専属管轄という意見は,侵害事件では有効性の問題が前提として争われることになって,その有効性の問題は国家の公権的な判断にかかわっていくので,他の国で判断をすることはふさわしくないと。それから,特許の有効性とか保護範囲の問題も,各国様々で判断しにくいと。それから,無効の主張を抗弁として出せるのか,あるいは別訴とするのかについても国によって違うと,そういうことから一括して全体を専属管轄にしてはどうかという主張がありました。  他方,スイス,フィンランド,ギリシャ,ノルウェー,それらの国々はその必要なしと,非専属管轄でいいということでありまして,その理由は,被告にとって都合のよい被告の常居所地での裁判まで禁止する必要はないではないかとか,あるいは実務では,仲裁でも特許の侵害を扱っていて,これはそもそも仲裁でできるのかどうなのかは本当は問題だと思いますが,実際にはそうやっているというのがスイスが随分言っていまして,それを前提に,裁判においてだけ専属管轄にするのはおかしいという議論がございました。要するに,そういうことで議論がまとまっておりません。  それから,ライセンス契約をめぐる紛争の前提問題として特許の有効性が争われるような場合にどうするのかということについては,それは構わないと。前提問題として扱うときには,どの国でも扱えるという国がほとんどでありまして,ただ「前提問題」という言葉を使うと不明確になるので,もう少し考えた方がいいということでありました。  それから,著作権,著作隣接権については,従来は一般事件と全く同じでよろしいということだったのですが,それ以外にも,それを含めて五つぐらいの意見が出てきております。一つは適用除外。二つ目は報告書の15ページにございますが,一般事件と全く同じ。3番目は裁判管轄については規定は置かないで,承認・執行の段階で,承認・執行国で適用される法律と異なる法律に基づいてされた著作権についての裁判は,執行を拒否できるようにするというアイデア。それから,承認・執行義務を外国判決はTRIPSとかの一定のミニマムな保護水準のある国に限定する,そこでされた裁判だけに限定するという留保を認めるという案。それから更に,著作権も専属管轄にすべきだと。これはオーストラリア,中国。日本からもそういう国内では意見がございましたけれども,そういったアイデアもありました。そういうふうに,今や著作権についてもいろいろ意見が出てきていて,よりパラエティーに富む状況になっているということになります。  それ以上の細かいことは,今の段階では申し上げてもせんなきことかなと思いますか,業界団体もいろいろ意見を言いましたけれども,これも先ほどの不法行為のところと同じで,問題だということは言うわけですが,ではどうするということついてはなお検討するということでありました。以上,12条だけ。 ● それでは,12条につきまして御審議をお願いいたします。 ● 知的財産権の関係については,侵害訴訟を専属管轄化するか,一般の不法行為と同じ形にするかというのは,どちらも理屈としてはあり得ることですけれども,ちょっと一つだけ質問したいのは,要するにこの知的財産権分野の訴訟だけを条約の適用から今回除外しちゃおうというような形での意見とか,そういう動きとかというのはある程度あったのでしょうか。見通しとして,そういう形にするという見通しなのか,A案にしろB案にしろ,いずれかの形で条約の中で取り込んで議論していこうという意見が強かったのかだけ,ちょっと教えていただきたいのですが。 ● 今,ちょっと不明確だったかもしれませんが,適用除外というのは一つのアイデアです。ですから,A案もB案も全体に括弧がついておりまして,それから1条2項のところに知的財産権というのが……。 ● 見通しとしては,どちらの方が数的というか,見通しとしてどんな感じなんでしょうか。A案,B案,どちらかというのはいいのですけれども,少なくとも適用除外になる可能性というのはある程度あるのでしょうか。 ● いや,分かりませんけれども。アメリカの代表に個人的に聞いたところによると,少なくとも著作権の分野の人たちは,適用除外になるとがっかりすると言っていました。何とかルールがあった方がいいと言いながら,しかし自分たちが困ることは困るというだけですが。  報告書16ページの「選択肢A」と書いてあるすぐ上のところに,知的財産権を全部,それから著作権等を全部,又は特にインターネットを通じた著作権侵害だけを--いろいろなアイデアがあるのですが,とにかく条約の適用範囲から外すという案については,アメリカの著作権団体は反対と。 ● ほかにございませんか。中身については,またいずれ御議論いただくということで,それでは次のところ,お願いいたします。 ● 保全処分であります。これは,もちろん国際事件でも重要な問題で,知的財産権なんかでも問題が生じるし,一般的にも問題なところでありますけれども,そもそもミックス条約において承認・執行の対象とならないような規定ぶりがあった前の99年案については,要するに管轄だけ決めて承認・執行しないところが出てきたり,承認・執行の対象になっていないところがあったりしたところについて問題だということを言い,また日本としては外国判決の承認・執行の対象として,外国の保全処分を入れることにはネガティブだということも表明し--日本が最もネガティブだったようですが,この点については--いろいろな議論がございましたが,保全処分をそもそも承認・執行対象から外すという点つにいては,17ページの下の方に書いてありますが,日本,英国,ドイツ,ニュージーランド,デンマーク,オーストリア,イタリアと,そういう国々は外してよろしいということでしたけれども,本案管轄裁判所のした保全処分であれば,それは承認・執行すべきだという案も相当にあり--スイス,オーストラリア,スペイン,フィンランド,フランス。  アメリカは,どっちだとは言わなかったわけですけれども,本案管轄裁判所の保全処分のうちの仮差押えに相当するものだけは承認執行の対象にしてもよいということを言っていました。  アメリカは,そもそもいろいろなタイプのものがあって分からないじゃないかということで,そういうこともあり,自分たちの知っているものがいいのじゃないかということを言っています。  また,13条を保全処分の適用除外にしてしまうと,1条2項に書いてしまうことについては,18条のブラック・リストもかぶらなくなるということになると,保全処分について,例えば原告の国籍に基づいて命ずるなんていうことができてしまうので,それは困るということからいろいろと検討されまして,一つは除外とするというアイデアで,それもどういうものを除外するかは意見が分かれると。protective and provisionalとするのか,またprotective or provisionalとするのかさえ意見が分かれるということです。  それから,13条に規定を置くという点についても,先ほどの意見の分裂から,本案管轄裁判所があるところでは保全処分ができるというホワイト・リストの管轄を置き,それは当然承認執行されるということにするアイデアと,そういうものはそもそも承認執行とは切り離してしまうと。切り離してしまうとすれば,条文を置くとしてもホワイト・リストを規定するチャプターではなくて,それとは別の,1か条だけの独立のチャプターを作って置くということならば考えられなくはないというアイデアもありました。  さらに,英米法系の国の中で,イギリスはいいのですが,それ以外の幾つかのコモン・ロー諸国の中には,本案管轄裁判所があれば保全はできるけれども,差押え対象物とか保全処分の対象事項が国内にあるだけでは,保全はそもそもできないという国があって,そういう国の国内法を変えさせたいので,それができるということを書いてくれということが,これは随分強力に言われまして,それはその国の勝手であるということで,条約で決めるのは変じゃないかと,それは承認執行と結びつく必要はないということなんですが,しかしそういうことをここに置くのはいかがなものかということがありましたけれども,そういう意見もあって,それに基づく規定も置かれております。そういうのが入っていると,余計何のことがよく分からないかもしれませんが,そういうものも含めて様々な案が書いているというのが13条の現状であります。 ● 13条,保全処分についてお願いいたします。--特にございませんか。  それでは,次のところをお願いいたします。 ● 14,15,16条,更に18条ぐらいまで説明したいと思います。  複雑な訴訟というので,被告が複数である場合の規定か,あるいは第三者に対する請求について規定が置かれておりまして,日本としては一度はこんなものができるはずがないと思って余り議論せずに行ったところ,ババッと条約案ができちゃってあわてたということでありますが,さすがに最終的には削除ということでコンセンサスができました。  ただ,反訴管轄だけは,これは問題ないだろうということで,ただアメリカは反訴管轄の規定を置くと,事物管轄がない裁判所にまで反訴の管轄を認めなければいけなくなるのかとか,ちょっとそんなことまで決めているわけではないという他の国の説得にもかかわらず随分こだわりまして,そういう注意書きを書こうと。事物管轄がなきゃいけないなんていうことを書こうという修正がされ,15条のただし書がついていますが,それ以外には基本的に変わっておりません。  それから17条の議論,引用条文のところは多少議論がありましたが……。  問題は18条でありますが,18条で最初の論点は,18条1項を置くかどうか,1項は紛争--「又は被告」というのを入れるかどうかはまた一つの議論ですが--と,実質的な関連がない場合にはブラックだというアンブレラというのでしょうか,一般的な条項を置いて,2項で例えばこんなものはだめですという形でリストアップすると。これは,そういう場合には非限定列挙,例示になるということですが。  それに対して,1項を削除して2項を限定列挙として置こうという二つの考え方があって,アメリカはブラックエリアではなくてブラック・リスト,前から言っているじゃないかというので1項削除。アメリカも今はそうですが,一時はアメリカも1項は要ると言っていたと思いますけれども,この6月の段階では要らないということを言っております。  それに対して,特に反対しているのはEU,スイス,カナダでありますが,ミックス条約においては18条1項が極めて重要で,他の国がどんな管轄権を持っているか知らないし,これから出てくるかもしれないので,そういうものをとらえるためにはこれが要ると。紛争との関連だけじゃなくて,これはドイツが提案したと思いますが,又は被告と。アメリカのことを考えてあげているのだろうと思いますけれども,他の実質的な関連がないときという形で置こうという案であります。この二つで,どちらになるかであります。  それから,禁止管轄原因が複数あるときには,0.2足す0.3足す0.5足す0.1なら1.1になっていいじゃないかとか,そういう足し算ができるかどうかについて,原案では一つ又は複数の事項に基づく,それだけではだめだと書いてありますので,それについてこの部分を削除して,累積すれば一定の関連が生まれるという余地を残そうというのがアメリカの提案でありますが,それに対してこれは是非必要だという他の幾つかの国との対立がございます。  これがどちらになるかによって,日本が主張,今回いたしましたけれども,当該国に被告の子会社とか関連会社がある場合ということについて,それだけで管轄を認める国はないじゃないかという反論に対して,それも入れておかないと,累積して何かブラック・リストのどれかと被告の子会社をあわせて管轄があるとされたりすると困るから,そういうものも,どこにもそんなルールを認めていないとしても規定しておくべきだという議論とがあり,どっちをとるかはこの「一つ又は複数」という言葉が入るかどうかによって大分左右されることになると思いますけれども,そこについて議論があるということであります。  それから,具体的な項目におきましては,アメリカのドゥイング・ビジネスの管轄,最初に申しましたがe)ですね。18条2項e)をアメリカは削除しろと言い,これはとんでもないと,これは条約全体のバランスを崩してしまうということから,反対という対立がございます。これは,アメリカは一時は18条2項e)が入るのだったら6条とか,前の方の条文にactivity-based jurisdictionが入るというバランスでなければ困ると。これを削除してよければ前も削除してもいいなんていうことを言っていましたが,今回はそういうことははっきりは言いませんでした。前はactivity-basedは入れろと,こちらは削除しろという,最大の主張をしていたところだと思います。  それから,その他のブラック・リストに加えるかどうか議論のなった点,加える方は,先ほど申しました当該国における被告の子会社又は関連会社の所在地,それから当該国における関連する刑事訴訟の存在,そういうものを追加したらどうかと。それから,アメリカはそれ以外にも,原告による一方的な管轄の指定とか,それから当該国のおける被告の居所の所在又は滞在,それから紛争を生じた契約の当該国の署名,そういうものを削除しろということを--e)が一番大きな問題ですが--しています。いずれにしても,そういう一言があれ括弧がつくということですから,そういうものには全部括弧がついております。  それから,18条の最後の点で,国際人権侵害等に係る例外の例外といいますか,ブラック・リストから外すという例外の書きぶりについて議論がされました。99年の案では,国際刑事裁判所規程を引用したり,あるいはそこの言葉遣いそのままを持ってきたりがあったわけですが,この条約自体まだ未発効だし,すべての国が国際刑事裁判所の規程の締約国とは限らないので,それとは切り離して規定を置くべきだということから,集団殺害,ジェノサイトとか,人道に対する罪又は戦争犯罪ということにするのか,あるいは国際法上の重大な犯罪ということにするかというので,並んでおりますが二つとも入れるか,更にどちらかにするかというのが議論があるということであります。  いろいろな議論があるという程度で,以上です。 ● 14条から18条までですが,14条から17条につきまして,何かございますでしょうか。大体削除その他が入っているわけですが。--よろしゅうございますか。 ● 意見ですけれども,全般的にアメリカの考え方を入れると,御破算とは言いませんが,仕切り直しのような話になっているのですけれども,企業の立場で見て,最も今,現状で私が今回の案を見た結果,やはり18条2項e),ドイツとかオーストリアとかフランスが反対している,頑張っているここだけに最大の意味があるというように受けとめています。  アメリカが,要するにホワイト・リストにおけるactivity-basedについて柔軟な姿勢と,それとバーターにするというのですが,反対でございまして,契約におけるactivity-basedの場合に,もともと管轄の話は契約で処理するわけですね,企業同士の話については。確かに不法行為のこととかそういうところでは,非常にあいまいなactivity-basedで弊害効果が多いのですけれども,それよりも何よりも,いわゆるアメリカの過剰訴訟で一番困るのは,ここのe)項,すなわち普通管轄としてドゥイング・ビジネスがあれば,争いとは全く関係がなくても,いわゆる管轄が成立するということになると,日本の他企業で,前にも申し上げましたように米国で広義の意味でのプロモーションも含めて,ドゥイング・ビジネスをしていない会社なんてないわけですね,極論を言うと。そうすると,世界中のコンプレイントを持つ人はアメリカに行って訴えればいいのだというベースになるということですね。これは現実にも,例のPOW訴訟でも起きていますし,この過剰訴訟の根拠というのが,activity-basedの普通管轄と。要するに,取引とか関係のない者がアメリカで訴訟を出してしまうというところ,またそれをプロモートする成功報酬で事件を請け負う人たちが世界中にあちこちいて,事件を買ってくる。そして米国で訴訟を起こすという,非常に頭の痛い話の根幹はここにあるので,ここを是非今後ヨーロッパと連携してがんばってほしいなというのが,私の正直な感想でございます。 ● 今おっしゃったところは非常に重要な問題だというふうな認識は,私どももしておりますが,一方では,○○幹事の報告書に書いてありますけれども,このアメリカのドゥイング・ビジネスの管轄の思想ということは,あるフォーラムで利益を得ている人は,そこで応答すべき責任があるという,そういう根本的な思想に基づいているらしいのですが,それはだから向こうからすれば決して過剰な管轄ではなくて,非常に変更することは難しいということは会議のところでも言っていた話なんですね。  これは,また後で次回か次々回には出てくる話ですが,結局現状というのは何も制約がなくて,要するにこの条約の判決の承認執行を促進するという部分と,それから過剰管轄を禁止するという部分のうちの両方無いわけですね。要するにスケルトン条約の発想というのは,いわばその内のせめて一つだけでも,つまり判決の承認執行を促進するという部分だけでもというところだけ一歩前進じゃないか,そういうことなんですね。ですから,ここで正にブロッキング・ポイントになれば,それはブロックはされますが,先には絶対進まない可能性があるということで,また次回以降,いろいろ御意見を伺いたいと考えております。 ● グレーにすれば,話は進むと思うのですけれども。グレーということは,現状どおりということですね,そこが一番頭の痛いところで,最終的に高度な判断をするときはそうなるでしょうけれどもと。  それから,積極的に禁止するときの理由というのは,利益を得ている云々というのは,結局当該取引に関してはよく分かるのですけれども,全くイレラバントなドゥイング・ビジネスを理由にして,世界中どの原告でも訴えられるというのは,そういう考え方は,アメリカはそういう考え方になっているのはいいのですけれども,こういう条約の場で,いわゆる他国との接点を議論しているわけですから,その辺のところについてやはり突き詰めた議論をすべきじゃないかなと思うのですが。 ● 注の7のところで,小さな条約にするという案で日本が留保したうちの一つは,これを外すということはまだそう簡単には乗れないということです。  注の30のところの,これを削除すれば,ホワイト・リストのドラフティングがファシリテートされるという意味は,これを削除すればあちらもおろすという意味なんでしょうかね。それは勝手な言い分だと思います。 ● 18条は大変問題が多いとは思いますが,ただいまのところはそれでよろしゅうございますか。  それでは,次の19条から22条まで,お願いいたします。 ● このところについては,余り大きな問題はございませんで,19条は管轄のチェックをするということについてでありますけれども,先ほど5条との関係で御議論があったところで,これには日本だけが反対と。とんでもないということを言ったのですが,ほかの国は別にだめとは言いませんで,そういう申立てをすれば--そういうというのは管轄の点について判断を示してくれと言えば,「しなければいけないとき」にはなっていませんが,これはしなければいけないということだと思いますが,そういう規定を置こうという案が出ております。  それから,20条は省略をして21条,22条でありますが,これは多少の言葉の上の手直しがあった以外には,抜本的には何も変わっていないですね。これは,依然としてさわるとこわれるガラスのようなものだという扱いで,多少の言葉遣いの違いが出ていただけだと私は記憶しております。以上,簡単ですが。 ● それでは,19条から22条までについて。 ● 質問ですけれども。19条の関係で,ホワイトかグレーかという点について申立てがある場合に,裁判所の方でホワイトかどうかというのを判断するとしたときに,その判断と,承認執行を求められた外国の裁判所の判断との関係はどうなんでしょうか。全然拘束することにはならないのですか。 ● 拘束しないのですね。 ● 拘束しないにもかかわらず,要するに参考意見として求められればつけなければいけないと。 ● そこがおもしろくないという意見は,韓国もそんなことを言っていたような気がしますが,拘束力がないのに判断が課せられるというのはおかしいと。 ● よろしゅうございますか。  では,23条から36条までお願いいたします。 ● 23条から36条までが,外国判決の承認執行に関する部分であります。  まず23条で,どういうものを判決として対象にするかということについて,日本を始めとして保全処分は入らないことにしてはどうかという意見があって,それに対応した規定が置かれております。単に99年の案から保全というのを除きますと,23条の本文の書き方が全部だと書いてありますから,除くためには除くと書かないといけないのじゃないかという議論があったように思います。  それから,24条。これは前からある条文で,そのまま確定と。  ここから先は,結構確定した条文,確定と言っても2回目の外交会議で覆せないかというと,多分そんなことはないと思いますが,ほぼ決まったというところが多くなります。  25条ですが,25条で「既判力」という言葉が従来から使われているということについて,これでいいのかという議論がありました。「ファイナル」という言葉はどうかとか,逆にむしろ問題じゃないかと。逆に直截に「判決国においてその判決が効力を生ずることを妨げる通常の上訴その他の審査に服していない」ことということで規定してはどうかということで,その方が分かりやすいのじゃないかということから,「既判力」という言葉をやめる案が,別案としてくっついております。25条2項で,承認されるためには既判力を有しなければならないというのを,「判決国において効力を生じたときから,効力を有する限りにおいて承認される」というような規定で,「既判力」という言葉を避けましょうという条文になって,この段階ではこれで一つの別案ができたということになります。  それから,上訴に服している判決についての扱いについて,従来は4項で,承認執行は延期できるという規定だったのですが,日本から,延期だけじゃなくて,「又は拒否できる」としてくれと言って,これは時間がなかったのです。反対する国はきっとあったと思いますが,議論がなかったので,そういうふうになれば入るという今回のルールに従って入ったということになりました。通るかどうかは,何の保証もありません。  それから26条ですが,26条はほぼ従来の原案のまま通ったということです。  27条も,これもコンセンサスでこのままいくと。さっき御指摘のあった,判決裁判所が管轄権について判断していても,27条でもう1回審査するということになるわけであります。27条Aは,5条との関係で既にお話をしたところであります。  28条は,承認拒否事由で重要なところかと思いますけれども,大体のところは拒否事由についてどの国も余り考え方が違わないのですが,2点,c)とd)については相当議論がありました。  c)は,手続の基本原則に反していると。それが当事者の公平で独立した裁判所で審理される権利,それを認めないような国の判決はだめということについて,中国から,それは困ると。自分の国がそうだとはもちろん言いませんが,それは困ると。それは,この条約を作る前提,これがあるからこの条約を作ろうとしているのに,そういうことをあえて書くというのは変じゃないかということであります。ベラルーシだけが賛成しましたが,他の国は何も言いませんで,括弧書きになっております。  それから,d)について,ちょっと条文が長くなりましたけれども,日本がごちゃごちゃ言ったというのが大きな原因ですが,従来被告に十分な期間を置いて防御の準備ができる方法で通知されていない場合はだめだけれども,それさえされていれば送達の点はそれでいいと言っていたところ,それだけではなくて,又は適用される国際条約とするか,あるいは通知が実施された国の国内法にするか,それは議論があるとしても,そういった法律に従って通知されていない場合も拒否できるということにすべきだという議論をし,これは韓国が一緒に提案してくれましたけれども,スイスは賛成してくれたのですが,これはやはり当事者の利益と違う観点から拒否を認めるということになるので,受入れ難いというアメリカ,デンマーク,ルクセンブルグ,オーストリア等の反対もあり,括弧書きにとどまったということがありました。  それとは別に,うまくいった方の提案は,その後のただし書の方で,被告が送達の瑕疵をちゃんと争わずに手続を進めたと,それは管轄を争う場合も含んで,瑕疵について争わないで手続に応じたような場合には,もはや後になって送達に瑕疵があったということはできなくしようという,これは日本の民訴の規定そのままですが,それを提案,これはオランダと一緒に提案しましたところ,これはうまくいきまして,コンセンサスで入ったと。ただし,「もっとも」以下をつけなさいという案,これもそういう指摘があって,それも入ったのですが,これはそういうことを判決をした裁判所の法律が通知の点を争うことを認めている場合において被告が争わなかったときに限るという,これはそういう国もあるかもしれないということからですが,そういう規定を入れましょうということになりました。  それから,公示送達について,私もよく分からないと御報告をしていたところですが,確認を求めまして,ノーティファイドされたというところには公示送達は入らないと理解しているがそうかと言ったところ,これはアクチュアル・ノーティスである必要があるということから,公示送達はだめであるということの,これは共同報告者から回答があり,それに対して異論がなかったということで議事録に残ったはずであります。  それから,29条は,原案,99年の案のままコンセンサスを得て入れられました。  それから30条について,承認執行手続を迅速にしろという規定について,これは言ってもせんないことですが,いろいろ議論があって,国内法上利用可能な最も迅速な手続というふうにしたらどうかとかいう提案があり,しかしそれは内国民待遇とか最恵国待遇の規定というふうに読まれてしまうのでおかしいとかいう反論があって,いずれにしてもこんなことを書いても余りしょせん精神規定なのじゃないかということから,しかしそういう意見もあったので,結局,両方の案が残ったということであります。  それとは別に,承認執行の判断について,少なくとも1回は上訴できるようなことを各締約国に求めるというか,義務づける規定を置こうという案もあり,これは多くの国がそうだと思いますけれども,国内法にそこまで介入することを置くことはいかがなものかという判断もあったのですが,結局それも括弧書きで残ったということになります。  31条は,訴訟費用の担保の免除でありまして,本体訴訟といいますか,外国判決の承認執行訴訟について,締約国に常居所を持つ者に対して訴訟費用の担保を命じてはならないというのであれば,そこでしかし判決が--25ページの2番目の点ですが,そういうことで免除された承認執行が行われたところ,実はその判決は,例えば詐取された判決だということが判明して,承認執行を認めないという判決になってしまったと,そうすると訴訟費用の担保を提供していないので,勝った被告が訴訟費用の執行を求めに外国にまで行かなければいけなくなってしまうではないかと,それについても無償にしてはどうかという提案をいたしました。これは,ここで御審議いただいてそうなったということでありますが。  それはしかし,話が非常にややこしい話で,考えようとしない人たちは何のことか何も分からないと思いますが,考えていた人たちの中でも,そんなことがどれほどあるのかとか,いろいろ言われました。結局括弧書きでは入ったと。会議の場では注にしようということだったのですが,最終案では括弧に入っていました。  それから,法律扶助についての32条ですが,これはアメリカが法律扶助は州との関係もあり削除してくれと。日本も,実は本当のことを言えば困っているのだということは何も言いませんでしたけれども,そういう国があるなら削除したらどうかということで,賛成しましたけれども,中国,アルゼンチンも賛成しました。そうはいかんというヨーロッパの国々もあり,全体として括弧をつけるということでおさまったわけであります。  33条,損害賠償について,新たな論点として制定法上のみなし損害とか,25ページのしたから2行目のところ,「損害内証」と書いてありますが,「損害賠償額の予定」です。損害賠償額を予定しているような場合に,それから更に「等」と書いてありますように,判決債権に対して生ずる法定利息等についてどう扱うのかという質問がアメリカからあり,クラリファイしてくれというのがありまして,報告者からは,その種の損害賠償がてん補的なものであるのか懲罰的なものであるのかによって分かれると,それはそうだろうと思いますが。という説明がございました。  それから,極めて高額なてん補賠償という点について,これは報告書の趣旨が不明確だったのではっきりさせようということで,報告者の方から説明があって,異議なくそうだと言われたところですが,どうやって極めて高額かどうかを決めるか,どうやって決めるか,何を考えるかということについて,それは事案によって異なるので,判決国の事情だけじゃなくて,承認執行国の居住者が判決債権者であるような場合には,承認執行国の事情も考えていいというふうに読むのだという説明がございました。ですから,この条文では33条2項a)で,「判決国に存在する事情を含むすべての事情」と書いてある,含むなんだから承認執行国に存在する事情も考えていいのだという話でありました。  それから34条で,前から部分的な執行ができますという選択肢Aが前からある条文ですが,そういう条文だったところ,そうすると部分執行もできると書いてあるということは,一部はだめだから全体の執行を認めないという扱いもできると読めてしまうのではないかと報告書で書いてあるために,それでは困るので,そういう場合には部分執行はしなければいけないということにしようという提案があって,それが具体的な条文としては選択肢Bです。いずれかの場合には,部分的な承認執行が「認められる」と書いていますが,これは当事者からすればそういうことができるという趣旨だと思いますけれども,部分的な承認執行が申し立てられている場合,それから一部だけ承認執行ができるような場合,部分的に満足を受けている場合,これは全部「or」ですね。のいずれかの場合,そういうときには部分執行ができますという規定にすることについて,そこを明確にしようという提案であったと思います。  それから35条,公正証書で,これも従来日本は公正証書は国によって制度自体の運用が違うだろうし,よく分からないので,こんなものは判決と同じようにできないと強く言っていたところで,その方向になっていて,かつ,ただしお互い承認執行したいのであれば相互にできるという条文だったところ,それを逆転させろという案が出て,嫌だったら嫌だと言えという,同じなんですが,どちらが言わされるかということですが,そういう案が出てきまして,選択肢Aは前のままです。承認したい人は宣言しなさい,選択肢Bの方が嫌だったら宣言すると。選択肢BプラスX条ですかね,選択肢Bではできると書いておいて留保を認めるということですが,いつもこの条文のためだけにラテンノータリー・パブリックという団体が来ていましたので,いろいろと画策したのじゃないかと思いますけれども,そういうことです。  36条,これはコンセンサスで,裁判上の和解はそのままの扱いです。以上です。 ● 23条から36条まで,条文数は大変多いわけですが,御審議いただきたいと思います。  特にないようでしたら,37条以降。 ● 一般規定のところで,若干重要な問題がございます。  一つは,既に五つの問題の一つと申しましたが37条の他の条約との関係をつける規定でして,これはいろいろアイデアはあるものの,決め手がない,別添の1という形でいろいろついておりますけれども,アメリカが出してきた別案1というのは,アメリカは相当考えてきたのじゃないかと思いますけれども,これはこの条約の締約国が締約国である,又は締約国になる国際条約等であって,この条約により規律される事項に関する条項を含むものには影響を与えないと。  もっとも,当該国際条約等が第18条の規定により認められない法廷地を定めている限度で,それはそちらが負けてこの条約が勝つという,この条約は当該国際条約等に優先するとして,そしてそういう規定はブラッセル・ルール規則にも適用するということを置いてはどうかということを言っております。  これは,単純だからこれに値するということだと思いますが,報告書の27ページのところに書いてありますように,EUとしては何を求めているかというと,原告がEU域外の本条約締約国に常居所を有する場合において,被告がEU中にいて,原告はEUの外にいるという場合に,EU域内での訴訟において合意管轄,応訴管轄についてはブラッセルの方が優先する。それから,保険・消費者保護,個別労働契約,これは保護管轄規定があるのですが,それについてはその方が勝つ。それから,訴訟競合についてもブラッセル・ルールの方が勝つ,そういうことが実現されるようなルールが必要なんだということであります。  それからもう一つ,42条が大きな問題でありまして,42条の提案として,バイラテラリゼーションをしたらどうかと。この条約は作るのだけれども,それは単なるモデル条約みたいなもので,いずれか2締約国か,それぞれ当該2締約国の間でこの条約のもとでの条約関係の効力を生じさせることを確認する宣言を寄託することを条件として,その効力の発生日にその2締約国の間でだけこの条約は有効になる。それで,仲良しになりたい国をそれぞれ探すということです。  これがもし入りますと,前の1971年の条約と同じような仕組みになるわけですけれども,そういうことを出してきております。  最後に1点だけ。別添のⅢというところに,これはアメリカが出してきたものですが,この条約の承認執行をするときに,判決だけ持ってこられて翻訳をつけられただけでは分かりにくいので,フォームをつけてこいと,つけてくることもできるということにトーンダウンはしていますが,それで管轄についてどう判断したかとか,そんなことをいろいろ書き込んで,それを持ってきたら判断しやすいじゃないかと。ただ,これを原案では裁判官が書くということだったのですが,それはとんでもないということで,しかも書いても拘束力がないわけですから,それは書記官,裁判所職員と訳しておりますが……。  また,これは使うか使わないかも,今のところオプションのような条文になっていると思いますけれども,何か提出文書の中に29条2項に括弧がついた条文があって,この条約に附属するフォームを添付することができるということにして,括弧書きで置いているわけです。以上です。 ● 残りの条文ですが,37条,42条並びに別添のⅢということが特に御報告になったわけですけれども,この点について何かございますでしょうか。  それでは,特になければ中身についてはまたいずれ御議論いただくということで,報告の方はこれで終わりにさせていただきたいと思います。  最後に事務局の方から,6月の通常会期におきます裁判管轄,外交判決条約以外の案件についての決定事項等について,報告がございます。 ● それでは,時間の関係もありますので手短に申し上げます。  6月の外交会議では,第1委員会の方で,今後ヘーグ国際私法会議において扱うべき案件についての議論が行われまして,主なところを申し上げたいと思います。  まず,子の奪取条約に関係する部分で,面接交渉権の問題について,特別委員会を開いて,新たな議定書等を作成するのはどうかという議論がございましたけれども,この点については時期尚早であるということで,検討のための特別委員会を開催するかどうかの決定は先に延びることになりました。  扶養義務の関係でございますけれども,この点につきましては,1999年の4月に1回特別委員会が開催されておりますけれども,その委員会での審議を踏まえ,この分野における包括的な条約を作成するための特別委員会を開催するべきだということになりまして,その時期としましては,2002年末か2003年初めということになっております。  それから,間接保有構造による証券決済の準拠法の問題でございますけれども,これにつきましては,今年の1月に作業部会が開催されまして,一定の議論が行われているところでございますけれども,これを正式な議題として取り上げまして,来年の1月に特別委員会を開催し,早いスピードで外交会議を開催した上で,条約として採択することを目指すということになりました。  あともう一つ,司法行政共助関係の条約の運用特別委員会でございます。事務局の方より2002年の後半に,電子手段への対応を含む司法行政関係の条約,具体的には送達条約,それから証拠収集条約,認証不要条約の3本でございますけれども,これらの条約の運用に関する特別委員会を開催してはどうかという提案がございまして,そのとおり採択されました。以上でございます。 ● それでは,長時間ありがとうございました。これにて閉会いたします。 -了-