法制審議会 国際裁判管轄制度部会 第6回会議 議事録 第1 日 時  平成13年10月9日(火) 自 午後1時36分                       至 午後4時45分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題 民事及び商事に関する裁判管轄及び外国判決に関する条約に関する今後の対応ぶりについての検討 第4 議 事 (次のとおり)               議         事 ● 定刻を過ぎましたので,国際裁判管轄制度部会を開かせていただきたいと存じます。  最初に,資料の説明をお願いいたします。 ● 私の方から,本日事前に配布させていただいております参考資料につきまして説明させていただきます。  参考資料の1番の方は,ピックアップしました条文,第4条,第6条,第7条,第10条,第12条,それからあとはactivity-basedということで何ケ条か比較したものにつきまして,対照表として,本日の議論の参考とするために作成したものでございます。  それから,2番の方は,第7条の消費者契約の部分につきまして,若干シミュレーションをしたものでございます。 ● それでは,本日の審議に入ります前に,事務局の方より,現在の状況と本日のこの部会での審議等について,御説明があるということでございますので,お願いしたいと思います。 ● 私の方から,引き続きまして若干御説明申し上げます。  前回の法制審議会が9月11日にございましたけれども,その直後に,EUの方から,この裁判管轄及び外国判決条約の審議に関して打合せをしたいという打診がございまして,これに応じて○○幹事と○○関係官にブラッセルの方に出張していただきました。  協議の情報を私どもの方で受け取ったところによりますと,アメリカの方は対立のない点からなる小さな条約としてこの条約を作成していくという方向性があるようですけれども,逆にEU側の方は,現在の条約の内容を基本的に維持する方向ということでございまして,この両者の方向等も考えますと,今後の本件条約の審議がどのような方向になっていくかということについて,かなり流動的な部分もあろうかということでございます。  ですので,まず今回,参考資料としまして条文の対照表等をお配りしたところでございますし,前回の法制審議会の部会におきましても,来るべき第1委員会での審議に備えて,現在の条約案の各条文についての検討を行っていくということを申し上げたところでございますけれども,まず我が国として,大きな方向性としてどのように対応していくのかということについて,先に御議論いただいた方がいいかということで,若干予定を変更しまして,まずそちらの議論をしていただくということにさせていただきたいと思っております。 ● それでは,条文についての御議論をいただきます前に,方向性について御議論いただくということになりましたので,便宜上○○幹事にこちらの席の方にお移りいただきたいと思います。  (「民事及び商事に関する裁判管轄及び外国判決に関する条約」に関して行われたEUとの間の非公式協議の結果についての説明があり,方向性についての議論が行われた。) ● それでは,次に具体的に条文について御審議をいただきたいと思います。  本日,予定しておりますのは,問題のあります条文のうち,4条の管轄の合意,それから6条,10条,これは契約,不法行為で,特にactivity-based管轄との関係でございます。それから,第12条の知的所有権の問題。この三つの論点について御議論いただいて,もし時間がまだございましたら,引き続き13条,23条A,これは保全処分の問題。それから第27条A,応訴管轄の問題を取り上げたいと考えておりますのでよろしくお願いいたします。先ほどの方向性もお考えの上,御議論をいただければ幸いに存じます。  それでは,具体的に4条からお願いいたします。 ● それでは,まず第4条につきまして,私の方から御説明というか,議論を提示させていただきたいと思います。  第4条は,管轄合意の条文でございます。本日,配布させていただきました変遷の紙も一緒に御覧いただければと思いますけれども,今回の6月の外交会議での議論におきまして,若干条文が増えたところがございます。  増えたところとしましては,一つはパラグラフ1の,特に大きく変わったのは末尾で,ブラケットに入っておりますけれども,Whether such an agreement is invalid for lack of consent云々という部分。それから,新しい方の条文のパラグラフ3,Where a defendant expressly accepts jurisdiction云々という部分。それから,パラグラフ4,これもブラケットに入っておりますけれども,The substantive validity of an agreement conferring jurisdictionという部分。それから,パラグラフ5も加わっているわけでございます。  このうち,パラグラフ3自体は第5条の応訴管轄の条文がなくなって,承認・執行の方に移動しましたので,その関係で入った条文でございますので,この部分は除いて考えていただければと思いますけれども,その他の部分につきましては,ちょっと御議論をいただければと思っておるところでございます。  今の条文の構造を若干説明させていただきますと,パラグラフ2の部分というのが管轄合意の形式的な要件,有効性についての問題を対象としている部分でありまして,これは条約上すべてこれを定めているということになるわけでございますけれども,今回の外交会議におきまして,その他の法律的な問題について,どこの法律で規律されるべきかという問題が提起されまして,一つはパラグラフ1のWhether 以下の文言,もう一つはパラグラフ4の二つの提案がなされて,両方がブラケットに入った状態になっているわけでございます。  その実質的有効性の問題ですけれども,具体的には詐欺,脅迫による管轄合意の取消無効の問題,あるいは当事者の無能力の問題,こういったものについては何によるかというと,national law including its rules of private international law と書いてあるパラグラフ1,あるいはパラグラフ4で申し上げますとin accrdance with the applicable law as designated by the choice of law rules of the forum ということで,その法廷地の国内法で準拠法ルールを含むものによって定まるというような形で整理されているところでございます。  外交会議における議論においては,公共的な目的に基づくような制約についてどうかということで,更に議論がございまして,つまりパラグラフ5の理解になりますけれども,これについてはそのときの整理されているものによりますと,例えば契約の種類に基づいて制限される国内法に基づいて管轄合意を制限するかどうかと,例えばフランチャイズという契約に基づいて制約するかどうかということについて,パラグラフ5の理解としては,そういう制約を課してはいけないのだというような理解が,そういう理解が一つ示されていたところでございますし,契約の当事者の個性,例えば中小企業が契約を結ぶといった場合の管轄合意を結ぶ点についても,国内法では制約できないというようなことを言っている議論がございました。  問題は,そのほかの場合が更に問題なのだということでございましたけれども,そもそもまずこのような形式的有効性は条約に基づくとしまして,実質的有効性を国際私法を含む国内法によるという決め方,更に公共的な目的に基づく制約について,今のパラグラフ5はある程度国内法に基づく制約というものを制限する形になっているという理解のようですけれども,そもそものポリシーの問題としまして,どこまで国内法が制約することができた方がいいのかどうかというような点について御意見をいただければ,御議論いただければと思っております。 ● それでは,具体的に4条の御指摘の点について御議論いただきたいと思いますが,まず実質的有効性を国際私法を含む規定によります国内実質法によるという点でございますが,この点はどのようにお考えでございましょうか。 ● ちょっと補足をさせていただきます。  この条文を張り付けていただいているところの1項の下から2行目のor duress の後に括弧が必要で,これは例示をしておりまして,lack of consent かincapacityかというのが二つ対立しているのですが,この部分を採用しますと,この2点だけについて準拠法で考える。  他方,4項をとるとそれに限らず,もうあらゆるsubstantive validityの問題,そこを公序違反という一般的な条項でもいいし,さっきおっしゃったフランチャイズで,消費者なんか,弱い立場の者を保護するなんていうのも全部制限できるというのが4項。  5項の最初のところをとると,消費者と労働者に関するもの以外は一切できないことに,国際私法に介入するといいますか,あるいは準拠法に介入するといいますか,この条約をのんだ以上は,実質的な有効性を制限できるのは7条,8条,12条のときだけにしてしまうというのが5項。その三つの対立かなと。  その基本になる実質的有効性は,準拠法によるという点についてはコンセンサスがあると思うのですけれども,その上でどこまで認め,どこまで制限するかということの対立かなと思います。 ● ただいまの補足によりまして,かなり論点は明らかになったのではないかと思いますが,いかがでしょうか。この辺,御意見いただきたいと思いますが。  実質的有効性については準拠法によると,これはコンセンサスがあるからこの点は特に問題にはならないということですね。 ● いや,御異論があれば……。 ● これについて,まず……。 ● 最後の5項の選択肢は,それをこの条約で決めてしまおうという意味で,実質法の規定なのかもしれません。 ● さっき○○幹事から御説明あったように,第1項の最後の文章と第4項は,どちらかをとるということになるわけですね。 ● 恐らくそうだと思います。 ● そうであれば,やはり先ほど例示として挙がっていた代理店保護とかフランチャイズ保護,そういったものが例の7条,8条みたいに消費者とか労働者とか,そういう例外がない以上は代理店保護法等の国内法による保護を認めるのではなくて,やはりそういうものは条約でもって統一的にやろうという方が正しいのではないかという意味で,4項はなしにして第1項の最後を残すというのがよろしいのではないか,そのように思いますけれども。  それと,あとさっき3項はもう取り上げなくていいようなことをおっしゃったのですけれども,何か3項というのもおかしな規定なんで,この3項は要らないのではないかと思うのですけれども。というのは,これは明示に当事者間で裁判所の前で合意すればいいということなんですけれども,これは効果としてはグレーであったものをホワイトにするという意味ですから,なかなかそこまで裁判をやっているときに分からないと思うのですけれども,そういう意味で何かそういう非常に大きな効果が結びつくのを,ドメスティックなことをやっている弁護士が一体どこまで理解しているかという面がありますので,3項というのはちょっと違和感を覚えるわけです。 ● 3項は,先ほど○○関係官から御説明がありましたように,この条約にもともとあった5条の応訴管轄の規定を削除したのですね。しかし,その応訴管轄の中でもあえてここまで合意を文書でしているような場合まで,ホワイト・リストから除く必要はないのではないか,合意管轄とのバランス上,そういう場合にはホワイト・リストにしていいのではないかというので入ってきた規定でして,それを気がつかずに紙で出してしまう弁護士さんがいらっしゃるかもしれませんが,それはしかし合意管轄も同じかもしれないので……。とにかく,おっしゃるような問題は起こり得ますけれども。 ● 確かに,今の3項の規定は,御説明は5条との関係で出てきたという経緯は分かるのですが,こういうふうに置く以上は,結局これは訴訟が係属後の合意ということで,しかも裁判所の面前でやったということで特別にほかの要素を余り考えなくて,一般的に有効性を認めたと,ここに置く以上は読むことになりそうなんですが,そういう理解でいいのですか。 ● 裁判所の面前というか,ビフォアというのが書いていますが,その前提の条文です。 ● 基本的に管轄の合意にいろいろ問題があるとすれば,それは一般には紛争が生ずる前に,訴訟提起前にしている場合にいろいろ問題があるというわけでしょうから,この場合はそういう意味ではこういう形の例外規定の仕方がいいのかどうか,よく分からないのですが,内容的にはそんなに問題はないように思うのですけれども。  ○○委員の方は,これはだめという……。 ● 説明が十分でなかったかもしれないのですけれども,通常の訴訟をやっている場合に,弁護士同士で管轄については争うことなく合意しましょうよということで書面を取り交したとすれば,正にこの場合に当たるわけですけれども,その効果として意外な効果が含まれていて,グレーをホワイトにしてしまうという,ちょっとびっくりするような効果が出てくるという不意打ち的な面があるのではないかというような気がしましたので,余り好ましくないなと,そういうふうに思った次第です。 ● 27条Aという規定が5条の応訴管轄のかわりに入ったのですけれども,その27条Aは,こうこうこういうことをしていると,もはや承認・執行の段階で判決国の管轄を争えませんという条文で,ホワイトになっているわけではないけれどももはや争えなくなるという意味では,思わぬ効果があると。知らない人から見ると思わぬ効果かもしれないのですが,それも入っていて,それはしかし,いろいろなことが書かれていますが,結局は管轄を争うことなく本案について手続を進めたと,十分分かっていながら進めたという場合ですから,それがそういう扱いを受けるならば,4条3項のような場合には合意管轄並みの扱いをされても仕方がないという,そちらとのバランスもあるのではないかと思いますけれども。 ● 今のところは○○幹事が言われたとおりで,結局応訴管轄の議論をしたときに,むしろ不意打ちの話が出てきたのは,このジュリスディクションをコンテストしなかったらホワイトになってしまうではないかと,それは不意打ちだという話だったのですね。では,明示的に受け入れますと書面で出したときはもういいではないかと,そういう文脈で出てきた条文だろうと思います。 ● よろしゅうございますか。 ● 先ほど○○幹事のおっしゃった最初の方の点ですが,フランチャイズ保護のようなものは国内法で認めない方がいいというのは,日本法が現在そういうものを持っていないからですね。これからも持たないでしょうか。そうであれば,日本としてはよく分からない外国の法律で,代理店保護とか何かで合意管轄は無効だなんていう法律が出てきて,それで合意管轄をせっかくやっているものが執行の段階でだめになる,管轄として認められないなんていうことは迷惑な話ですから,1項の末尾のような条文にしておいてもらった方がいいというのは確かにそうでしょうが,今後もないのかどうか。  民訴の議論のときに,国内管轄の議論で少し議論はありましたね。あれが入らなかったのは,日本としては消費者保護とかも要らないと。消費者保護は除かれると思いますが。 ● 私は事情を知りませんが。 ● 日本の裁判例では,労働事件でもハワイの裁判所に行けといって訴えを却下したものが最近ありますから。個別的雇用事件でも。ですから,そういう意味では余り合意管轄の制約で保護してあげようという発想がないお国柄なのかなと思いますけれども。 ● 私の理解では,消費者保護法ではその発想はないというふうに理解しています。これは,我々もいろいろ専門家の話を聞いたり検討したのですけれども。  それから,客観的な学識経験等はありませんが,現場の要求だけを申し上げますと,なるべく合意管轄を統一ルールでしていただいて,それでもうおしまいと,各実体法によるという概念に戻してしまうと魑魅魍魎の世界になると。国によっては全く思わぬ物の考え方があるわけでございますので,せっかく条約化するのであれば,なるべく例外は狭く,要するに合意を無効にする事由というのは客観的に条約で認められたものだけにするというのが有り難い。発想としては,○○幹事と全く一緒です。 ● 質問したいのですが。  1項をとるか4項をとるかというときに,このlack of consent というものの内容なんですが,これは例示としてfraud とduressが入っていますけれども,このほか国によっては約款で決めると,あるいは保護契約で決めるとコンセントがないという理由で合意がないということにする国がないとは限らないと思うのですが,そういうものは入れずに,いわゆる詐欺,脅迫,あるいはそれに準ずるものだけに限るという,そういう御趣旨なんでしょうか。そこをはっきりした方が対策が立てやすいと思いますが。 ● この条文の提案者は,限りたいということであえて……。だから,これは多分条文にはならないですね。ならないですが,注意書きで書いているのだと思うのです。  おっしゃるようなlack of consent と書いただけの場合に,約款はおよそだめという国があるのであれば……。ありますか。 ● いや,分からないです。もう少し何かほかの理由で,これより広がる--これというのは詐欺,脅迫,それに準ずるもの以外のものでそういうのが出てくる可能性はないのかなと思いまして。 ● 私が前回お配りした紙で,「非良心性」とか訳されているunconscionability というのをどうするのだという話は出ていましたね。それは,おっしゃったように約款とかを使っていて,かつ,内容が一方に極めて有利だという場合には,合意の有効性を認めないということであれば,おっしゃるような使い方ということですね。  しかし,そのことにunconscionability という言葉を使われると,多分日本としてはのめないし,ですからうまい表現がありますでしょうか。明確にできるだけしたいと,合意の有効性ははっきり分かるようにしたいという場合の言葉遣いとして,もう少し書き込むべきだと。もうこの段階ですから,具体的にこういうのがいいと言わないと話にならないと思うので,もしあれば御指摘いただきたいと思います。  合意管轄はどちらに転んでも入りそうな条文ですので,非常に重要な問題だと思います。 ● 質問ですが,この1項の最後の文章のnational lawであるとか,4項のapplicable lawというものは,先ほどは実体法というような御説明だったのですが,それぞれの国の訴訟法も含めて考えていいのでしょうか。その辺はどうなんでしょう。  余りないと思うのですが,多くの場合は先ほどから議論されているfraud にしろduressにしろ,そうした意思表示の瑕疵のようなものは,結局は訴訟行為の特殊性を考えるとしても,実体法を類推適用して考えるということになるのでしょうけれども,場合によっては要件の規制の仕方がだんだん進んできますと,訴訟法独自の規制として各国の民事訴訟法規の内容として管轄の合意に関する要件なり,あるいは取消しなり無効の要件のようなものが規定される可能性もあると思うのですけれども,その辺はいかがなんでしょうか。 ● よく分かりませんし,お答えするものもありませんが,この国際私法も含むルールで決めましょうということで,その国はあらゆる何法を準拠法としている合意であっても,こういうものは許さないとか,そういうことを決めて,国際私法を凌駕する規定ですね,そういう意味で国際私法の規定だと思うのですね。ですから,それも含まれるのではないでしょうか。  法廷地法によるというルールになりますと,法廷地法にはこんな厳しいことが書いてありますということも,このルールでも読めるのではないかと思いますけれども。 ● ちょっと確認したいのですが,そうすると実質法ではなくて,法廷地の手続法中にこういう問題についての規定があれば,もちろんそれも含むということですか。 ● ですから,それも実質法として存在するのではないでしょうか。 ● もちろんそうですけれども。手続法ですね。 ● それがどういう場合に適用されるかによるのだと思いますけれども。ですから,仮に日本で何か民訴の中に条文を入れたとして,それがどういう場合に適用するのかは民訴の先生方も議論されないと思いますが,国際私法的に見れば,外国法を準拠法とする合意のときはどうするのですかという問題がありますね。その扱いと同じように扱うのだと思いますけれども。 ● ただいまのお二人の方が発言されていた点ですけれども,「国際私法の規則を含む国内法による」という表現は,実質法を適用してもよいし,抵触法によって解決してもよいと,その優先順位は裁判所にお任せするという御趣旨なんでしょうか。「を含む国内法」というこの意味は。 ● いきなりそのままから見た国際私法の位置づけとは理解しないのですが。 ● 各国にお任せすると。 ● はい,そこは触れていないのではないでしょうか。  いずれにしても,この1項の表現ぶりと4項の表現ぶりが違いますね,国際私法のあたりが。そうするとまだラフな条文なんですね。ですから,これはいずれかの形に統一をして,かつ,もう少し言葉遣いも議論することになると思いますので,具体的な表現ぶりについて御示唆いただければと思いますが。 ● 先ほどのlack of consent の問題と,今の点について,何かいい表現がございますでしょうか。 ● つまり,どちらをとるとしてか,それを決めないと……。 ● 4項がいいという御意見はなかったように思いますが,これはよろしいでしょうか。 ● ポリシーの問題として,一番いわば国内法の介入の範囲を狭くするという意味で,このlack of consent or incapacity の問題だけ国内法で扱って,あとはすべて条約で決めてしまうという,そういう意見がいわば多数と考えてよろしいのでしょうか。  仮にその立場をとったときに,ちょっとこれは確認なんですが,公序違反というのが働く余地は,国際私法上あるのでしょうか。  つまり,具体的なインキャパシティーとかそういうもの以外で,ある種の管轄の合意が国内法の公序に反するという場合に,国内法の公序に反するという理由で無効にすることも条約上禁止されるというのか,それともおよそ公序に反するような内容を,条約の義務だからといって実現することは原理的におかしいというのか,国際私法の考え方なんですけれども,公序というものは入ってくる余地があるのかどうか,ちょっと御意見を伺うことができればと。私がとんちんかんなことを言っているのかもしれませんが。 ● 私が考えているのは,前にディナイアル・オブ・ジャスティスで正義の拒否になるような場合でも,仕方なく条文に従うのかどうなのかというところで,そこはもしかしたら何とかなるかもしれないし,あえて言わないと。それの位置づけは,もし入れるとすれば公序規定ですね。条約上これは義務づけられているのだけれども,しかしその結果が公序に反する場合には条約に従わなくていいということで,準拠法の条約の中に入っているはずのところ,これには入っていないので,一般には無理なのではないのでしょうか。  ホワイト・リストであれば,有無を言わさず管轄行使をされ,有無を言わさず執行はしなければいけないと。  執行のところでは公序が入っているので,あるいはそこで何かできるかもしれません。 ● 公序がだめだということになると,公序を具体化したのが強行規定だから,結局公序をもし入れるとなると,4項のようなものと区別がつかなくなってしまいますね。 ● 4項なら入るのですね。 ● 前にも申し上げたことがあるような気がするのですけれども,この管轄合意というのは非常に単純なんです。そちらか,こちらか,第三国と。これだけのことで,書面でやる明確な合意とかいうことがありさえすれば,ですね。そこに公序を持ち込まれると,また先ほど申し上げましたようにめちゃくちゃになってしまうということで,できたら単純化してほしい。もちろん,消費者保護,これをどうするか,その点だけは別ですけれども,BtoBの話で,こんな単純な,どちらかか第三国かというだけのことについては,なるべく単純化してほしいと。一般論の難しい議論は別にして,この問題に関してはそういうのが私の認識であります。そういうのがベースにあっての話で,公序一般論ではありませんけれども。 ● 趣旨はあれですが,このfraud かduressの話だけがこのlack of consent の問題だけだというと,ちょっとやはり問題なんで,申込みをして,申込みを受けた方が沈黙をしていると,それが承諾にみなされていまうかどうかとか,管轄の合意があったものとみなされてしまうかというような問題も,恐らくこの法律でいかなければいけないので,例示で挙げられているのが限定みたいにされると,恐らくちょっと問題なのかなと。だけど,限定列挙ではなくて例示で,その種の問題も意思表示の問題だからというので入るのだったら構わないかなと思いますけれどもね。  for example と書いてあるのだから,その種の問題も入るのかな。  それで,第1項の末尾に付け加えている案というのは,英米法の人が言った提案なんですか。 ● いや,それは覚えていません。この問題点を整理して置いただけで,だれかの提案というのではなくて,ワーキング・グループができて……。まあ,英米法的な人がたくさん入っていたかもしれませんけれども。 ● ○○委員は,1項でいいという御意見ですか。 ● いや,○○委員の意見を前提にした場合ですけれどもね。 ● 実体法の話では,シャリア法ですか,イスラムの。あれで権利は無効にするというのが国によって強い弱いがあって,その解決方法として国内のジュリスディクションを管轄の外にして,今,サウジアラビアの大企業は資産をいっぱい持っていますので,そうした場合に,当事者は明らかにアラブ法リスクをレンダーがとるのであると金利がちょっと高くなるので,リーズナブルなものにするためにはその辺合意すると。当事者は合意しているのですけれども,実は本当にその合意が有効かどうかという,シャリア法上ですね,というところに従って,また国際間の問題も判断するというと,またこのリスクは高まってしまうのですけれどもね。インターナショナル・ファイナンスでは,その辺のところについては,もうこの合意は有効だという前提で物事をやっているのですけれども。  例えばこういう話があるのですけれども,せっかく条約ができるのであれば,エンドースしてほしいなと,こういうことです。 ● ちなみにニューヨーク条約に何と書いてあるかということですが,仲裁合意があったら仲裁合意を尊重しなければいけないという条文の中で,「締約国の裁判所は,その合意が無効であるか,失効しているか又は履行不能であると認める場合を除き」と書いているだけなんですね。これで動いているのです。これは多分,何法によるかという議論は準拠法によって決めるということなんでしょうが,相当広いですよね。どんな理由であれ無効か履行不能か失効かですから。ですから,これは今の中では4項に近いのではないのでしょうか。これは古い条約ですが,モデルとしてはそういうものがあってということです。 ● そうしますと,オプションとしてはやはり1項でいく方がいいというふうに方向としてはお考えということでよろしゅうございますか。  それでは,ここで休憩をとらせていただきたいと思います。           (休     憩) ● それでは,時間になりましたので再開させていただきたいと存じます。  4条は終わったということで,6条と10条の契約,不法行為の管轄について御審議をお願いしたいと思います。  それでは,○○関係官,お願いいたします。 ● それでは,次に第6条と第10条について若干御説明させていただきます。  まず,現在の第6条,第10条の条文につきまして,おさらい方々簡単に御説明させていただきます。  本日の参考資料の第6条の部分をまず見ていただきたいのですけれども,現在の第6条につきましては,Alternative AとBがございますけれども,Bの方は99年草案をそのまま載せたものでございますので,Alternative Aの方について御説明させていただきますと,Alternative Aにつきましては,パラグラフ1の方で,まずaction in contractについての訴訟を起こす場所として,frequent[and][or]--ここは両方ブラケットがついておりますけれども--significant activityがコンダクトされた場所,それから,[and][or] significant activityがdirected into された場所に起こすことができるというような条文になっておりまして,これはエジンバラ草案のパラグラフ2と対照しますと,これの,has engaged in frequent or significant activity となっている部分を更に細かく書き分けたという形になっております。  さらに,Alternative Aにつきましては,パラグラフ1のprovided that ということで,更に条件節がかかっていて,based on a contract directly to that activity ということになっておりますけれども,これはエジンバラ草案のパラグラフ2の一番末尾のところと同じ内容になっております。  かぎ括弧つきのoverall connection云々という部分については,アメリカから更にこれを入れた方がいいというような提案があったところでございます。  Alternative Aは更にバリアント1と2と分かれておりますけれども,これはactivityの内容につきまして書かれている部分でございまして,これもエジンバラ草案のパラグラフ2の中で,activityの中身がプロモーティングであるとかネゴシエーティングとかいうものが入っていたものについて,更にバリアント1の方は細かくいろいろ中身を限定していく方向で書かれているというところでございまして,バリアント2の方は,もうちょっと簡単に書いてあるもので,バリアント2の方がアメリカ,バリアント1の方がヨーロッパという大まかな方向であったわけでございます。  このAlternative Aというのは,もともとの99年草案における案文と,そのactivity -basedの管轄の考え方を融合させる目的のものでございますけれども,このバリアント1の方のパラグラフ2のサブパラグラフc) のthe performance of a contract by supplying goods or services as a whole or to a significant part ということで,ここに現実の履行地の管轄を取り込んでいるという形になっております。  パラグラフ3につきましては,これは消費者の第7条の方でも出てきました議論ですけれども,ディスクレーマーを念頭に置いた規定ということになりまして,taken reasonable steps to avoid entering into or performing an obligation in that Stateということで,ディスクレーマーをつけて契約に入ることを避ける方法をとった場合については,適用除外するという書き方になっているところでございます。  なお,バリアントAのパラグラフ2のb)のところの最後のところに,金銭債務に関する例外の条文が書き込まれております。現在の条文についてはこういう構造になっているところでございます。  また,第10条の方に行きますと,これもactivity-basedとの融合の関係が問題になっている条文でございまして,やはり10条の参考資料の方を見ていただきますと,こちらは現在の草案と99年草案がある程度相似しているところでございまして,パラグラフ1についてはdelictsのところがブラケットに入っている以外は,99年草案のパラグラフ1と同様でございます。  99年草案のパラグラフ2は,反トラスト法違反についての損害賠償の特則が設けられていたものでございますけれども,これは反トラスト法違反自体を適用除外とするということでございますので,この部分はなくなっております。かわりに,現在の草案のパラグラフ2というものは,activity-basedの管轄と融合させるという目的で,新たな条文が入っているというところでございまして,これも先ほどの第6条の文言,これはどちらかと申しますと第6条のエジンバラ草案のときの文言に似た形になって,パラグラフ2が挿入されています。  第6条との関係はどうなっているかということについては,参考資料の一番最後についております「activity-based jurisdiction のパターン」という対照表がございますが,この10条のパラグラフ2と6条のパラグラフ1と2のこの上下の対照を見ていただければと思いますけれども,構造としましてはどちらも同じ形になっておりまして,action in tort,不法行為上のアクションについてfrequent or significant activityにengaged inした国において訴訟を起こすことができるという形になっているところでございます。  やはり第6条のパラグラフ1の最後に入っているoverall connectionと同じ文言が,こちらにも入っているという形になっております。  現在の草案のパラグラフ3は,やはり6条の方にも出てきましたディスクレーマーに対応する文言,それから第4項,第5項は,これはもとに戻りまして99年草案のときの条文をそのまま引いている形になっておりまして,現在の草案のパラグラフ4は,かつての99年草案のパラグラフ3に対応するものでございまして,これは不法行為の起こるおそれのある場合の管轄の問題。現在の草案のパラグラフ5,99年草案のパラグラフ4については,損害地の管轄の特則を定めたものでございます。  現在の6条,10条というのは,このようにactivity-basedの管轄との融合を図ろうとした形になっているわけですけれども,特に本日御議論いただきたいと思っております点は電子商取引との関係でございまして,電子商取引上の契約あるいは不法行為についていろいろ問題があるということはずっと議論されているところでございますけれども,今の条文の形等を考えまして,一番原理原則と申しますか,そもそも電子商取引が行われて契約が行われたり不法行為があったりした場合の管轄の在り方として,どこで訴訟をするのが合理的なのか,それは証拠がたくさんあるとか,あるいは当事者の便宜,利益,いろいろな利益衡量で決まる問題のはずなんですけれども,そういうもうちょっと文言を離れたというか,原理原則の部分で,今の形で電子商取引の場合に合理的な解決が得られているのかどうかという点を特に念頭に置いて御議論をいただければと思います。 ● 6条の契約,10条の不法行為について,いずれも同様の問題が出ておりますので,御審議いただきたいと思います。 ● 問題提起の補足をさせていただきますと,もちろん今の案というのは99年草案から始まってactivity-basedというのを入れていったという点で,それ自体としてどうかという御議論はもちろん御意見等聞かせていただければと思います。こういう融合の仕方では困るとかいいとか,これならまあいいとか,いろいろあると思いますので。  それからもう一つは,仮にこのようにactivityを入れているというのは,これは二つの法制をどうやって統合していくかという問題でしょうが,もう一つ,いずれにしても問題になるのが縦の糸といいますか,電子商取引において既存のルールを適用していった場合にこれでいいのかどうかと。例えば,リーズナブル・ステップをとったときにはいいとか,そういうふうなことで対処しようとはしているわけですが,本当にそれでいいのかどうか。電子商取引--つまり,ここでうまくいかないということになるからこそ,逆に言うと合意管轄ぐらいの条約しかつくれないという議論も出てくる余地もあるわけですので,そこのいわば2点,御意見を聞かせていただければと思います。 ● それでは,お願いいたします。  activity-based jurisdiction については,従来から御議論いただいたところだと思いますので,こういう形になったということでよろしゅうございますか。 ● 今,御説明があったように,activity-basedのjurisdictionが6条と10条と,それから9条にも出てまいりますけれども,そのようにアメリカを引き込むために一生懸命努力しているわけですけれども,こういうふうにいろいろ6条,9条,10条と出てくると,何かだんだん区別する意味がなくなってくるような感じがしまして,将来的には一つの条文になってしまいかねないというか,そういう心配があります。それで,activity-basedは9条だけに入れて,6条,10条には入れないというようなことが非常に魅力的に聞こえるわけです。  結局,6条も9条も10条も,何か一つの条文にくくられてしまうと,そもそも義務履行地でスタートした6条が,何だかわけが分からなくなってしまうわけで,そういう意味でそのようなことに非常に魅力を感じているような次第です。 ● この前の外交会議では,9条の議論はなかったのです。アメリカの人にも,6条と10条で一生懸命やっているけれども,それよりは9条の方が日本としては,もちろん難しいけれどもどちらがのみやすいかというと9条の方がまだましだということを申し上げたのですが,でも彼らの会合に臨む対処方針は,きっと6条と10条に同じ条文を入れようということで臨んできたようで,それをずっと下ろさずにきていました。  9条は,これは時間がなかったということですね。 ● 9条は,例の子会社の話はやったのですが,activity-basedの話はブランクのままでした。 ● 我々商社では,いわゆるドゥイング・ビジネスということを大変気にしていまして,新入社員からそういう意識を徹底するわけですけれども,そのときには正におっしゃったとおり,支店の延長ですね,それからパーマネント・エージェント,それからスポットのエージェント,どこまでいったらその国によってドゥイング・ビジネスとみなされるかということで,実務は全くそのとおりです。ドゥイング・ビジネスという発想をとっている国における商活動ということについての物事のとらえ方は,全くおっしゃるとおりです。ですから,そういう発想からくる管轄というのは,極めて分かりやすいと私も思っております。  今ある条文というのは,正に妥協に妥協を重ねてきたと。 ● 9条の方はまだ出ておりませんので,6条,10条を前提とした場合に,どのようにお考えかということをお聞かせいただきたいと思いますが。 ● 今の御議論というのは,もちろん当然のことながらブラック・リストで一般的なドゥイング・ビジネスというのは載っているという前提で,この9条にactivityを統合する文の方が分かりやすい,そういう前提の議論ですね。確認だけです。 ● 一般的な在り方についてはまだ御議論おありかと思いますが,特に電子商取引との関係でどのように考えるか,この点はいかがでございましょうか。 ● 重ねて申し上げますと,仮にactivity-basedの要素を9条に集中させて,6条と10条からはactivityを除くということになった場合,結局99年草案の方に戻っていくわけですね。つまりこの6条でいうと,現在のAlternative Bですね。10条の方は,もともと余り変わっていないわけですけれども,現在のパラグラフ2がなくなる以外は大体一緒という形になるかというのがイメージだと思いますが,その世界の中で,例えば電子商取引というものを考えていった場合に,これでいいかという,そういうことですね。  つまり,プレイス・オブ・パフォーマンスというのがダウンロードした場合どうなるかとか,いろいろあると思うのですけれども,その辺,ちょっと実務のこともよく分かりませんし,大体の御意見を伺うことができればと思っております。 ● コメントをいただく前にいろいろ申し上げるのもどうかと思うのですが,6条の方で99年草案になっても現在の3項に当たるようなものは必要なんだろうと思うのですが,この3項と10条3項も似たような条文ですが,私が感じるところでは6条はともかく,10条はこれではだめなのではないかというふうに思ってる人が多いのではないかと思うのです。  というのは,10条の方はもう既にだれかに被害を与えてしまっていて,そのつもりはありませんでしたと言えば済むのかというと,それはそうではないでしょうということで,もっと厳しく絞らないとだめだろうと。  ただ,そうはいっても全然絞らなくていいかというと,今度は,では電子取引というか,インターネットを使ったような場合にどこで損害が起こるか分からないと言われると,ビジネスによくない影響を与えるかもしれないと。何かセーフハーバーとか言っていましたけれども,大丈夫というところを設けてあげたいのだけれども,これはちょっと甘過ぎるのではないかというふうに言う人がおりましたし,私もそうかなと思うのですが,だから同じような横並びではだめなのではないかと思うのですけれども,どうでしょうか。 ● 大変分かりやすい表をつくっていただいておりますので,ただいまの御意見もあわせて議論いただきたいと思いますが。 ● 6条3項と10条3項の関係につきましては,今,○○幹事がおっしゃいましたように,6条の方は契約をこれからしようというときの話ですので,まだ分かるのですけれども,10条については,結果として確かにその国で著作権違反とか,あるいは名誉毀損とか,そういう被害を現に生じさせているわけですので,事前にそういう手段をとっていたからといってそこで訴訟ができなくなるというのは,非常に不合理だと思いますし,今,○○幹事がおっしゃったとおりで,10条については3項を置くというのは不適当ではないかというふうに私も思います。 ● その場合,10条の方では何も配慮は要らないと,1項だけでいいのかということですが。2項は削除するとして。 ● この場合,電子商取引のときにはやはりどこでもダウンロードできたり,どこでも閲覧できたりしてしまうのですけれども,およそそういうものだということで活動していただくしか,ちょっとしようがないかなというふうに……。そうしないと,それでは被害者の側から訴訟を起こすと考えたときに,その場合にはどこで入力しているのかとか,どこにサーバーを置いているのかとか,そういうところで,それではそこまで行って訴訟を起こさなければいけないのかというのも,被害者にとって酷なことになるだろうという気がするものですから。  今,不法行為の関係でも,例えば著作権なんかの場合には国ごとに許諾したりとか,そういう形でのビジネスが行われていることは承知しているのですけれども,その場合にはA国,B国の関係では権利を持っているけれどもほかでは権利持っていなくてということは,逆にそういうのを前提にして管轄まで決めてもいいのかという問題がありまして,とにかくインターネットで載せる以上は,世界的な許諾権だけはしようがないのではないですかという形で,むしろそちらの方からビジネスの前提を変えていただくという方がむしろ合理的ではないかなという場面もありますし,実態としてどうなのかというのは,今ちょっと著作権違反と名誉毀損ぐらいしか考えなかったのですけれども,その二つを考えただけでも,あまり不法行為者側を有利にするような形での制限は考えにくいかなという感じがするのですけれども。  6条の場合には,契約の話ですので,そういう前提で契約するかしないかというのは,相手方も選択の自由があるわけですから,それはそれでいいのですけれども,不法行為の場合には,被害者の側で選択してそういう関係に入るという関係にありませんので,幾ら発信者側が仕向けについて知っていたからといって,それはやられた側にとっては,それは全然自分はあずかり知らないところですよというふうな形にならざるを得ないのではないかなと思いますが。 ● 10条の方ですが,仕方がないとおっしゃるかどうかですが,これはミックス条約なので,管轄を狭くする分には構わないということから,行為地の方は人間がいて行為をして,それが行為地の管轄はいいのだけれども,損害発生地の方は,物理的なけがとか物の損壊とか,その地だけがホワイト・リストの管轄で,名誉毀損とかはルールを置かないと。それはグレーエリアにしてしまって,それは各国でいろいろな国内法をこれから考えていけばいいので,ホワイト・リストとしておくのは従来型の不法行為だけ。そうすると,大体国境を越える場合ですから製造物責任とか,飛行機の墜落とか,そういう事故だけのルールにしてしまうというのは,ミックス条約ならできるのですが,ただ書きぶりも難しいとは思いますけれども,そのように要するにEビジネス,Eコマースには影響を与えなくしておくというのも一つの手ではないかと思うのですが,いかがでしょうか。 ● そういう書き方はできるかもしれませんが,その場合にはEコマース全体を別の条約にするというならまだ分かるのですけれども,今の名誉毀損とかそういう形については,身体毀損とか財産毀滅の場合とは違うのですよという形で書くことによって,それはEビジネスを区別するためにそう書くのだというのは,ちょっと目的と手段とがきちんと合致しているのかなという疑問があるのですけれども。 ● ですから,新聞による名誉毀損も除かれてしまうし,インターネットを通ずる場合だけではなくなるのですけれども,それでもやはり名誉毀損とかの損害発生地は,それについては議論があり得ますよね。その人が住んでいる地なのか,名誉はそれぞれの地にあるのかと,いろいろな考え方があり得るので,それが解釈の分裂を招くということも一緒に避けると,別々の目的を持つことになりますけれども。 ● そうですね,名誉毀損の場合には,例えば外国で報道されていて,日本にいる人が感情を害したからそこが損害地かという問題と,例えば日本の首相の悪口が書いてあるアメリカの雑誌が日本の読者のところまで現に送られてきたではないかという場合と,やはりちょっと違うような感じはするのですけれどもね。ですから,あまり類型的に全部ほうり出しちゃうというのは,Eコマースの関係を除くためだけに不法行為類型としてほうり出しちゃうというのが適切かどうかというのは,ちょっと今の段階では過剰過ぎるような気もするのですけれども。  確かにEビジネスの場合,不法行為の話になると,今の著作権のほかに商標権とかそういう形での不法行為が出てくるので,著作権の場合にはまだ全世界共通で同じものについて生じるのでまだいいのですが,商標の場合には,同じ商標でも国によって持っている人が違うというようなすみ分けができている分野もありまして,非常に面倒くさい話がいろいろ出てくるものですから,そういう形で不法行為の類型でグレーに置いてしまうというのも一つの考え方かもしれませんね。今,○○幹事がおっしゃったように。 ● Eコマースについては,関係機関の意見は聴取されておりますでしょうか。 ● 今回の報告書を,前の99年草案についての意見をいただいた関係団体には送付して,もし意見があれば連絡をいただきたいという形で,締切を11月末に切ってありますけれども送っております。 ● 今,検討しているのですけれども,Eコマースもちゃんとタスクフォースをつくって検討しているはずです。経済界の代表ということでは,私ではなくて,むしろそちらの意見を待っている状況です。 ● 経済産業省の方で,商標法と不正競争防止法の関係では,Eコマースに対応できるような条文の改正を今準備しているのですけれども,それは実体法の話なので,国内のインターネット取引なら全然問題ないのですけれども,ただその場合,発信地が外国だとかいう場合がどうしても出てくるので,そこの実体法の書き方と管轄の問題がどうなるのかというのは,必ずしも整理した形での議論は,まだそちらの準備の場面でもされていないというふうな印象を受けています。 ● Eコマースにつきましては,そうするとどういう御意見をもとに御議論いただければよろしいのでしょうか。 ● 今の,インターネット上の不法行為,特にインターネットの場合が問題なのだろうと思うのですが,商標にしても名誉毀損でも,インターネット上でそういう不法行為が行われた場合に,結局さかのぼって考えた場合に,どこで訴訟を行うのが一番当事者にとって合理的で,予測可能性があって,証拠が一番あるのかというふうに考えた場合には,どこになるのかというのが一つ疑問があるのですけれども,いかがでしょうか。 ● 行為者として予測をどっちがすべきかという話であれば,載せる側はある程度載せるときに覚悟した上で載せなさいという命題は立てやすいと思うのですけれども,載せられた側,要するに名誉毀損文章なんかを載せられた側が,それが日本で自分があけたら載っていたと,友人があけたらやはり載っている,みんな見られる状態になっているというときに,それでも日本で起こせませんよというのは,ちょっと酷ではないかなという感じはするのですけれどもね。  それは非常にEコマースをやりにくくするではないかという言い方は分かるのですけれども,一つはそういうことは覚悟の上でEコマースというのはやるべきだということでコンセンサスが得られるのであれば,それは一つの考え方だろうという気がするのですけれども。 ● 例えば,製造物責任なんかの場合,製品というのは世界中流通して,どこで事故が起こるか分からんという場合があるわけですね。これを損害発生地という前提で考えると,今の10条1項のパラグラフBでも予測可能性というのは要件になっているわけですね。問題は,だからEコマースの場合には予測可能性というのは世界中どこでも見られるではないかと,だから結局これが要件として働かないのかどうかということなんだろうと思うのですね。  もともと不法行為地になぜ管轄を認めるかというと,やはり先ほど○○関係官から申し上げたとおり,さかのぼって考えると被害者救済とか証拠収集の便宜とか,更に加害者の予見可能性とか,そのぐらいの要素だと思うのですね。最後の予見可能性の要素は,あるといえばあるのですが,逆にそのまま形式的に適用すると悪影響が出なければいいなと,そういう問題なんだろうと思うのです。 ● ここら辺の管轄がどうあるべきかという論点自体については,基本的にはむしろユーザーの方々がどういう管轄制度を仕組むのがいいかということを十分踏まえて決めていただければ,裁判所側は,あとはいつも申し上げて恐縮なように,定義ができるだけ明確になっていれば,我が国の裁判所の方とするとそれで対応していくということになるのだと思うのです。ただ,今の議論を伺っていても,特に契約の方だとある程度Eコマースのどういう成り立ちでどういうふうに契約が結ばれるかというイメージが大体みんな一定しますので,話しやすいと思うのですけれども,不法行為の分野については,やはり著作権あるいは名誉毀損というものを念頭に置くのか,それともEコマースの製造物責任を念頭に置くのかというので,かなり発想にずれが生じるのではないかなという感じがするのです。だから,もしそこを本当に詰めた議論をする必要があるというのであれば,ある程度そういう類型をつぶしていくようなアプローチが必要なのかどうか,あるいはそういう類型ではとてもつぶし切れないし,条文にもならないと,そこはやはり包括的に漠とした規定で今回は置かざるを得ないのだということであれば,最大公約数的な部分でどの程度まで,この程度だったら名誉毀損でも何とかなるし,製造物責任でも何とかなるというような漠とした規定を置くしかないというような感じになるのではないかと思うのです。  例えば,名誉毀損で考えた場合に,では10条3項みたいな規定を盛り込むとしても,避ける合理的な手段という部分として実際何が想定できるのかというのは,契約だとディスクレーマー的な発想でそこはうまくのると思うのですけれども,名誉毀損をする場合に,ディスクレーマー的な発想というのは確かにおっしゃるとおりなかなかのってこないのではないかなという感じもするのです。製造物責任だったら,それは契約の場合と同じような発想で,場合によるとあり得るのかもしれないという感じもするのですね。ある程度そこら辺を明確にして議論しないと,なかなかかみ合わないのではないかなという印象がございます。 ● 類型論ができれば,それにこしたことはないと思うのですが。  ただ,要するに10条3項というのは確かに契約の場合と違って,もともと契約の場合は合意管轄でできるわけですから意義が違うというのは○○幹事が言われたとおりで,3項の場合も働く場合と働かない場合がある。10条3項が働く類型と働かない類型のものがあるということはそのとおりだと思うのです。仮に,例えば働く10条3項みたいな規定が射程距離は少ないにしてもあった方がいいかどうかという点については,いかがでしょうか。すべての類型の不法行為でこれが機能する規定ではないかもしれないけれども,機能する場合もあり得るわけですね。 ● 具体的にどんな場合があるか想定できないので,御説明いただければもう少しイメージがわくのですけれども。 ● もともと名誉毀損とかそういう場合には,多分その人の名誉を毀損しようと思ってやっているわけではないでしょうから,という理屈はあると思うのですが,他方,このウェブサイトはこの人向けですと,この地域だけに限定ですとか,そういうふうな形で何か商品の広告をしているという場合がありますね。その場合には,やはりそれ以外の,つまりどこ向けのサイトかということを示していることが何らかの影響を持つかどうかですね。 ● 製造物責任なんかを念頭に置いた場合ですか,今おっしゃっているのは。そういう形で,商品について例えばインターネットで流したと,それについてどこかの国で買った人が製造物責任発生したと。名誉毀損なんかでも,限定することによって,今言われたようなことがあり得るという発想ですか。 ● 物自体に何か欠陥があったという,要するにフィジカルな世界に戻って何か事故が起こったという場合ではないと思うのですね,イメージとしては。一種の名誉毀損なり,著作権侵害でもいいのですけれども,そういった場合,バーチャルのところだけで不法行為がいわば完結してしまうというイメージですけれども。 ● 名誉毀損の場合は想定しにくいのですけれども,今の著作権とか商標とか,不正競争防止法とか,そのたぐいになりますと権利というのは国ごとに成立しておりますので,音楽ビジネスの話なんかもその仕向け国を制限していますよという形であれは,ある程度合理的に働く場合もあり得ると思います。  今の商標の場合も,同じ商標,著名商標であっても地域によって持っている人が違うという場合がありまして,例えばよく御存じのものだとバドワイザーというビールがございますけれども,あれはヨーロッパの方では,チェコの企業が押さえている商標で,あとアメリカ,日本などでは例のアメリカ企業が押さえているわけですけれども,そういうように同じ商標でも地域によって違うということであれば,ヨーロッパ向けのビールのインターネット販売なのか日本向けなのかということが,画面上で,自国語で書いてあれば別ですけれども,英語なんかだと分からないわけですね。そういうのが分かれば,それはその商標権違反とか,不正競争防止法違反の問題というのは,言いがかり的な訴訟は,これは実体法の問題になってしまいますけれども避けられますし,訴訟の関係でも変な形にはならないという気はいたしますけれども。  あとは,音楽コンテンツの配信が一つの許諾を受けている範囲を超えてしまうと,今の著作権侵害という不法行為の問題になってしまうのですけれども,それもビジネスと非常に密接に絡んでいるという意味では,今言ったようなディスクレーマーがあることで,実体的な意味も入ってきちゃうのですけれども,有効に働くという余地はあると思います。  ですから,名誉毀損についてだけちょっとやりにくいとは思いますけれども,商標等の取引絡みで出てくる不法行為に関しては,意味がないことはないという感じがいたしますけれども。 ● ただいまの点,よろしゅうございますか。 ● 製造物責任が電子商取引,インターネットを通じて起こるというのは,どういう場合でしょう。 ● 例えば,ソフトウェアをインターネットで販売して,インストールしたところ,ウィルスに感染していてデータが全部消えてしまったと。例えばそういう場合。  私の問題意識からいえば,さっきの物理的な損害というときに,ソフトウェアが消えたとか,ハードディスクが読めなくなったというのは,物理的な損害になるのかどうか。だから,そういう定義をいろいろ考えないと,限定するとしても難しいと思います。 ● 確かに今の例は非常にいい例で,余り考えなかったのですけれども,不法行為になり得るでしょうし,物理的という形の制限--とにかく人が行って他人のコンピュータのハードディスクを初期化してしまえば不法行為なんでしょうから,それをウィルスでやってどうして物理的損害ではないのですかというと,なかなか確かに説明は難しいような感じがしますけれどもね。 ● 私がとにかく申し上げているのは,全然解決にはなっていないのですが,条約としては解決になるので,とりあえずそこを切り抜けることが少し意味があるかなと。残るところの,昔のような不法行為についてはルールができるわけですから,それはないよりかはいいかなというだけなんですが。 ● 契約については,その特定の類型で外すということはあり得ない。不法行為だけ考える。 ● 契約でEコマースという定義は非常に難しいと思うのです。どこを電子的にすればEコマースになるのかが非常に区別しにくいし,区別しても使いやすくないのではないかと思うのです。ですから,不法行為の方もEコマースで制限するのではなくて,起こり方とか,生命身体の毀損とか,そういう書き方で押さえることはできないかということ。 ● 不法行為と契約で違った配慮をしなければいけないのは賛成なんですね。やはり契約の方は,インターネット,Eビジネスの場合はかなりの部分ファクスによる契約の締結とか,それからテレショッピングの契約と,かなり似通った現象で説明できると。パフォーマンスの履行の問題で,ソフトウェアのダウンロードの場合は特殊かなという気はしますけれども,まあ対応できないことはないように思いますが,不法行為はやはり難しいと思います。だから,そういう類型で外すというのは,確かに一つの方向であると思いますね。 ● ちなみに,ブラッセルの規則では何の手当てもしていないのです。それで,彼らは別にそれで何も問題起こっていないと。  そのかわり,ECの裁判所があるので,いずれそこで判決が出るだろうということで済ませられるのですが,こちらの場合はそうはいかないので,やはり危ないところはルールをつくらない方がいいかなということです。 ● 確認ですけれども,不法行為の類型化というところで,それはフィジカルなもの,フィジカル・インジュアリーと言うのかどうか分かりませんが,それに限定するという形で,いわば伝統的な不法行為だけを対照にした規定をホワイト・リストに置いて,そのほかの部分,つまり新しくEコマース的なもの,その不法行為はいわばグレー・エリアの世界にするというアプローチについて,積極的に賛成される方というのはこの部会の中であまりいらっしゃらないと考えてよろしいですか。 ● 私もそう思っていますけれども。もちろん,積極的ではないですけれども,仕方がないから賛成と言っている。 ● 積極的に曲がったことをしないという意味ではいいのですけれども,今の身体損傷とか,そういうものについてはある程度条約をつくっても,どこで損害が起きて,大体行為地と恐らく損害発生地は同じところになるでしょうから,余り条約がないと考えている管轄が別になってしまうということではないのだろうと思うのですね。そういう伝統的な不法行為については。そうすると,余り条約をつくる意味というか,積極的意味は,固いけれども乏しいというか,固い規定だけれども冒険していない規定ですね。  とりあえずそういうふうにしておいて,あとはEコマースについてのいろいろな取引とか事例とか,裁判例とかが蓄積された段階で,ホワイトにできるものはしていけばいいという考え方は,一つの考え方かもしれないと思います。  あまり状況が分からない段階で,ホワイトとかブラックとかは怖くてできないという感じは確かにいたしますけれども。 ● そうしますと,ただいまの段階ではやむを得ないと。 ● 一番最初に○○幹事の方から,10条3項の位置づけについて問題提起がありましたけれども,これもない方がいいとは言えないし,あったら何かのときにセーフガードみたいにして使えるかもしれないのでという,そういうことですかね。 ● 取引絡みに関しては,使える余地があると。 ● そうすると,activityのところは別として,現在の草案のパラグラフ1とパラグラフ3は受入れ可能と。  今,ここですぐ結論出すわけにはいきませんが,今のところはそんなにシリアスには問題がないというふうに理解してよろしいでしょうか。 ● さっきおっしゃったようなホームページに,これは何向けですと,あなたの住所を入れてくださいといって,入れて,次のページになって本当の画面が出てきて,商標が出てきたりいろいろな記事か出てくると。そういう仕組みにしておけば,この3項でおっしゃっているのに合うのではないかということであれば,それは1項のb)の予見可能性のところでも読めると思うので,3項があるのはむしろ危ないのではないかなと思うのですが。 ● どういう場合。 ● ですから,さっきの名誉毀損なんかにも使えてしまって,これは日本向けですと言いながら簡単に英語版がすぐ出てくるようにしてあって……。  もちろん,1項のb)の解釈も難しいとは思いますけれども,これもリーズナブルの要件が入っていますから。そこ以上に3項は危ないように私は思うのですが。 ● いろいろ両方あり得ると,10条3項を残すとどうか,両方の意味があるように思うのですが,ただ契約との場合との違いなどを考えますと,同じような文言で同じような仕組みでここに残しておくというのは,ちょっと問題があるかなという気がするのですけれどもね。  私自身は,あるいはなくても本質的にそれで不当な結果になるような,管轄が広がり過ぎるような場面は10条1項のb)のところの解釈で何とか対応できるのではないかという気もするのですけれども。 ● 私は,3項を削除した上で,先ほどの物理的な損害というふうに限ってしまうことによって切り抜けようというアイデアなので,そうするともう3項は要らなくなる。 ● もし,限らないという前提で考えた場合はどうなんですかね。 ● さっきおっしゃったように,6条と余り似ているところがかえって問題で,よほど詳しく書き込むならともかく,と思いますが。 ● そうすると,これはまたもとに戻るような感じがするのですが。 ● 先ほど○○委員が最初の方におっしゃった,被害者側から見て,被害者がなるほど自分のところで訴えられることができなくても仕方がないと思うぐらいのがなければいけないと思うので,被害者が自分向けでないことを知っていながらあえて手を出したとか,何かそういうルールならまだいいと思うのですが,ちょっとバランス感覚が……。 ● その辺は,具体的にどうするかというのはなかなか難しいところかと思いますが,これは更に御検討いただくということで。 ● とりあえず,今日のこの部分については,要するに6条3項と同じ形での10条3項を設けるのは適当ではないという,そういう理解でよろしいでしょうか。性質が違う以上,これを置くとしても何か別のより強いものにするか,あるいは全くとってしまうかという,そういうことですね。 ● それでは,12条を御審議いただきたいと思います。 ● 12条につきましては,特に知的財産権にかかわる部分について御検討をお願いできればと思います。条文は,第12条の変遷ということで紙がございますけれども,パラグラフの1から3までは知的財産権とは関係のない部分でございますのでおくといたしまして,パラグラフ4以下でございますけれども,現在の草案のうちAlternative Aの方につきましては,99年草案でブラケットに入っていたrevocation or infringementの部分がブラケットがとれた形になって,全体はブラケットがかかっておりますけれども,そういう形になって一つの案となっていると。  また,パラグラフ5というものが付け加わっておりまして,これはアンレジスタードマークにつきまして別のルールがつくられている,形としてはinfringementが入っているという部分では一緒でございまして,パラグラフ4と5いずれにつきましても,Alternative Aについては侵害訴訟を登録国の専属管轄,アンレジスタードマークの場合は権利が認められる国の専属管轄とするという形になっております。  あと,今の前提問題として,権利の登録の有効性が問題となる場合につきましては,パラグラフ6の規定がございまして,99年草案では単にincidental questionsという形になっておったわけですけれども,今回の草案ではパラグラフ6のところでincidental questionの内容につきまして定義がされているところでございます。  内容はどういうふうになっているかと申しますと,最初の文章ですけれども,incidentalquestionsで生じる場合について少し詳しく書いてあるというところでございます。  具体的には,Paragraphs 4 and 5 shall not apply where one of the above matters arises as an incidental questions ということで,その各項に掲げられた一つの事項が専属的な管轄権を有しない裁判所における手続において前提問題として生ずる場合,という形になっております。  このような形になっているわけですけれども,特に御検討いただければと思いますのは,登録の有効性が前提問題として生ずる場合というのは,侵害訴訟の場合もそれ以外の訴訟,ここでも御議論いただきましたけれどもライセンス契約に関する訴訟,相続において問題となる場合もあり得るところでございますけれども,侵害訴訟については登録国の専属管轄として,その他の場合については通常の管轄ルールによるという形に,この条文ではなっているわけですが,その場合,その理論的な根拠というものはどのように見出すことができるのかという問題でございます。  登録の有効性が問題となった場合に,各国の特許権等の内容判断に微妙な差異があるということが理論的な根拠になるというような指摘がありましたけれども,もし,これを根拠として専属管轄を正当化するということでございますと,侵害訴訟とその他の訴訟の間に差異はないはずでございます。外交会議における議論においても,ずっと侵害訴訟においては類型的に登録の有効性が争われることが多いということが指摘されていたわけですけれども,これは理論的な部分というよりは実際的な部分のように思われるのですが,これ以外,あるいはこの点を理論的な根拠として取り上げることができるかというような点について御意見をいただければと思います。 ● ただいまの点,御意見お願いいたします。 ● 登録の有効・無効と侵害訴訟とをペアにして,あとほかの訴訟と区別できるのかという御質問でしたけれども,理論的にきちんとした説明が侵害訴訟についてできるのかという問題を別にしても,実務的にはそこで線を引くというのは非常に実際的な話だと思います。  というのは,一つは登録の有効・無効というのは,それは対世的なものですので,これが登録国でなければできないというのは,それは十分コンセンサスがあろうかと思いますけれども,侵害訴訟の場合も必ずその侵害訴訟の中で有効・無効を争えるという形で,我が国の場合は判例だけですけれども,もっと実定法で定めているという国がむしろ普通ですし,およそ特許権等の権利というのはそういう形で侵害訴訟で使うということ自体は,権利の内在的な目的で,それでなければ権利の意味がないわけですから,経済的な排他的独占権自体がその権利の内容ですけれども,それは何によって担保するかといえば,侵害訴訟を提起できるから担保されているわけで,そういう権利の内容に内在している本質的な機能なんですね,侵害訴訟というのは。  それに比べると,ライセンスで有効・無効とか,あるいは契約の経緯の帰属の関係で,今おっしゃった相続の関係だとかで帰属が問題になっているときに有効性が云々というのは,それはあくまでも普通の私人間の法律の紛争の前提としてのものですので,そこは単なる事実認定の問題に近いようなもので,そこが問題になる事案というのは実際上もほとんどありませんし,あと仮にそれについてライセンス料とかそういう帰属の問題で,その前提として判断したと,権利内容として判断したからといって,それが他の有効・無効の関係とか侵害訴訟の他の手続に,事実上でも影響するということはちょっと考えられないというのが一般的な知財に関係する人の常識だろうと思いますので,そこは区別して,一応この形で条文にできるのであれば,そんなに問題はないのだろうというふうに思います。  今,説明にありませんでしたけれども,ほかの著作権とかいうものも同じような形でというなら,7項とかそういうところに書いてありますけれども,それは広く合意ができればそれにこしたことはないという感じはいたしますけれども。  あと,8項に,裁判所に特許庁を入れるというのは,これは管轄の問題としてはちょっと考えにくいのですけれども,御説明のコメントの方にも書いてありますけれども,確かに有効・無効とかそういうのが特許庁の審決とか,あるいは受理・不受理とかいう形の行政手続で決まる場合も,日本の場合ありますし,裁判所と特許庁との分業というのは国によって違うところがありますので,あとの管轄というのも承認の関係とかそういうことを考えて載せた方がいいという考えがあるのであれば,それはあって邪魔になるわけではないので,あればあるということで,一応この案で構わないのではないかという感じがいたします。 ● ただいま,御意見ございましたけれども……。 ● 要するにAlternative Aがいいということですね。Bではなくて。  要するに,infringementもexclusive jurisdiction だと,そういうことですね。 ● Aでいいと思います。 ● そして,侵害訴訟で判断される特許の有効性というのは,別に対世効はない,当事者限りですね。 ● 理論的にはそうです。 ● 理論的にはそうなんだけれども,そこは……。 ● アメリカなんかでは,一応それに反することをもう一回別の侵害訴訟で言うことは,裁判所侮辱的な意味で制限されるという効果はあるようですけれども,理論的にはあくまでも当事者間ということになります。 ● 説明としては,考え方としては特許権の有効性を争う訴訟はいかなるものでも専属的管轄だと,侵害訴訟は一つのいわば侵害訴訟の衣をかぶった有効性を争う訴訟だからと,そういうことですね。だから専属にすべきだ,そういう理解ですね。それ以外のincidentalに出てくるものは,原則に戻るといいますか,そういうことですね。 ● 理論的には,確かに有効性の訴訟と侵害訴訟のところで線を引くのが一番理論的ではあるのです。ただ,実際上の機能としては,侵害訴訟というのは必ず権利の内在的な意味として,必ず有効性・無効性と一緒の形で使われている意味では,権利として予定されている訴訟だと言ってもいいという感じがしますので。 ● 逆に,もう一本論理を貫徹させるとすると,incidental question で出てくる場合も含めてすべて専属だと。 ● それは,かえって使いにくくなると思います。  例えば,日本企業同士がアメリカの特許権の売買をしたとか,それについてのライセンス契約をしたということで,その有効性云々ということで,最終的には金の問題なんですけれども,それを一々アメリカまで持っていかなければいけないのかというと,ちょっとそういうものについて実益が乏しいのではないかという感じがいたします。 ● 今の場合でも,その特許が無効だと突然言い出すこともあり得ますよね。 ● それはあります。 ● それでもライセンス料の支払いの問題なんだから判断してしまえるというお立場ですね。 ● そうです。それ以外の形で,要するにライセンス契約が解除されたから,あるいは無効だから,だからおまえがやっているのは特許法違反だという形であれば,侵害訴訟の形になってくるでしょう。だから,ライセンスが切れたかどうかということ自体が実際の紛争であっても,形として侵害訴訟の形をとれば,その場合は専属管轄になりますから,ですから訴訟の当事者の意識で,そういう侵害訴訟という形で相手方--要するに緩和しているもの自体をとめたいと,要するに第三者に影響を与えるような形での効力を求めたいということであれば,それは専属管轄にさせていいけれども,金の問題として当事者間で話するだけであれば別でしょうというのは,一つの経済的な活動の指標としては意味があると思うのですけれども。  ですから,理論的にどこでなければいけないということは言えないと思います。ただ,侵害訴訟まで専属にできるということについては,非常に実務的にはメリットがあることですけれども,そこの外まで専属にするということについては,ほとんどメリットは考えられないというところはあります。 ● 質問させていただきますが,ライセンス料の支払いを求めたところ,被告側が,いや,もともと特許は無効ではないかと言ったと。そのときに裁判所は,確かに無効だと,だから支払わなくてよろしいという判断もできるということですね。 ● それは,そういう契約をしませんと,そういうことは考えられない。 ● それはそうですが,日本の裁判所がアメリカの特許でアメリカ法上有効とされているものを無効としてもいいというのが,このincidental question 。 ● それは構わない。例えば,普通はそういう契約はしませんけれども,無効になった場合,無効になることが明らかなものであれば,その段階で支払う,要するに対価を支払わなくてもいいとか,解除できる,そういう特約を仮に--そういう契約はありませんけれども,実際は。したときに,その前提として日本の裁判所で有効・無効を判断したところで,それはライセンス契約のために判断するだけのことで,その判断はほかのアメリカの例えば侵害訴訟とか,そっちの有効・無効の訴訟に影響するという意識はほとんど……。 ● あまり影響しないと書いてあるので,影響はしないのでしょうけれども,他の国のそういった登録された権利の,一応有効・無効を前提問題にしたということになりますけれども,それは侵害訴訟においてではないので構わないと。 ● そんなに抵抗はないと思いますね。それは,普通に外国の財産の相続鑑定とか,そういうものと同じことですので,よその国のことはよく分からないということは……。国際私法,渉外事件一般の話ですので,それ以上の知財での特殊性というのは,今の契約関係のトラブルに関しては表に出てこないので,特別扱いする必要はないと思います。 ● 委員・幹事に登録所の方がいらっしゃらないので分かりませんが,日本の特許が外国で同じようにされても,日本の特許庁は構わないと思う。 ● 思いますよ,それは。それは,当事者間で契約の中でどういう形になろうと,だからそういう判決が出たからこれが無効だとか,こちらの侵害訴訟に何らか影響するというふうな意識は,実務家としては全然ないと思いますね。 ● いろいろ教えていただきたいのですが,最高裁の判決で,あれは侵害訴訟だったと思いますが,直接には無効だとは言わないで,無効であることが明らかな権利に基づく権利主張は信義則に違反すると。 ● あれは,ですから侵害訴訟であることを前提としての判決です。 ● 侵害訴訟においては,建前としてはできないわけですね,正面から。 ● そうですね,だから言い方をちょっと裏から書いた。実際は,向こうの抗弁を認めたのと同じ。 ● しかし,正面からは言えない国であるのにもかかわらず,外国のライセンス訴訟においては言われても構わない。 ● ライセンス訴訟の場合は,もう余りそこで言われた判断がほかの訴訟に影響するという意識は……。 ● 国内でもそうなんですか。国内のライセンスの契約。 ● 全体そうですね。全くそこは当事者間で,どういう判決が出たから特許侵害訴訟が起こせなくなるとか,そういうことはないだろうと思いますし,逆に今のライセンス料であれば,現在特許権者でない人であっても,例えば他人の物の売買なんかもそうですけれども,訴訟起こせるわけですから,そういう権利者でもない人が関与している訴訟をどういう判決が出るか,そんなものは権利の内容とは関係でしょうということもできると思います。ですから,実務的にそこは支障があるとは思えないのです。  侵害訴訟については,専属管轄化する意味はありますけれども,できなければできないでしようがないですけれども,できた方が便利なところはあります。それ以外のものについては,むしろユーザーがかえってそこまで訴訟を起こしに行かなければいけないという不利益の方が大きくなってしまうだろうという感じがします。 ● ただいまの御議論で,こういう形でいいということでございましたけれども,よろしゅうございますね。  それでは,まだ何かございますでしょうか。 ● 著作権は。 ● 著作権は,これに入っていないという形ですね。著作権は入っていないということでよろしいのだろうと思うのですけれども。  著作権については,自然発生的にできちゃうというところと同じものについて各国でできてしまうということがありますので,多少ほかの工業所有権とは違うところがありますので……。 ● 12条については,ただいまのような御議論でよろしいということでしたら,一応,本日の予定されたものは終わったのですが,あと何かございますか。 ● 次回ですけれども,12月に予定しておりまして,先ほどお話がございましたとおり,全体の方向性についてどうかということについても,御議論いただきたいと思いますし,あと今回参考資料として配りましたけれども,検討いただかなかった第7条,あるいは保全処分の問題であるとか,あと18条の2項e)のゼネラル・ドゥイング・ビジネスの問題について等,ある程度大きな問題について更に御検討いただきたいと思っております。  若干流動的なところがございますけれども,第1委員会が1月に開催されるということである場合には,それにどのように対処するかということについて,いろいろ御議論を参考にさせていただければと思っております。 ● それでは,次回は12月11日ということでございますので,よろしくお願いいたします。  どうも長時間ありがとうございました。 -了-