法制審議会 国際裁判管轄制度部会 第7回会議 議事録 第1 日 時  平成13年12月11日(火) 自 午後1時30分                        至 午後4時20分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題    (1)ヘーグ裁判管轄・外国判決条約策定作業に関する今後の対応ぶりについて    (2)ヘーグ裁判管轄・外国判決条約に関する主要な問題点について 第4 議 事 (次のとおり)               議         事 ● 定刻になりましたので,始めさせていただきたいと存じます。           (委員の異動紹介省略) ● それでは,資料の説明をお願いいたします。 ● 本日の資料について御説明申し上げます。  まず,資料27でございますけれども,「ハーグ条約交渉に関する意見」というものでございまして,社団法人電子情報技術産業協会の方から,この条約案についての御意見をいただいたものでございます。  それから,資料28は,「ハーグ国際私法会議の民事及び商事に関する裁判管轄及び外国判決に関する条約案についての意見」という題名のついているものでございまして,これは日本労働組合総連合会からいただいたものでございます。  それから,席上に本日配布した資料29というものがございますが,これは「「民事及び商事に関する国際裁判管轄権及び外国判決に関する条約」現行案に関する意見」というものでございまして,日本弁理士会の方から,現在の条約案につきまして御意見をいただいたものでございます。  それから,資料番号がついておりませんけれども,本日,席上に二つ紙を置いていただいております。一つが,「米国の立場について」というもの,それからもう一つが「質問事項」と書いてあるものでございまして,これは本日の審議において使わせていただこうと思いまして置かせていただいたものでございます。 ● それでは,本日の審議に入りたいと存じますが,その前に,事務局の方より現在の状況につきまして,それから本日のこの部会での審議等について御説明があるということでございますので,よろしくお願いいたします。 ● 前回,あるいは前々回の部会におきましても,今後のこの条約案の審議の進め方につきましては,ヘーグ国際私法会議の第1委員会が開催される予定であり,その時期については2002年の早い時期ということになっている旨,御説明申し上げていたわけですけれども,アナウンスがございまして,その日程につきましては4月の22日及び23日ということになりました。恐らく,内部の意見の検討がおくれている国等から,先に延ばしてほしいという要請があったのに応じて,延期になったものと思っております。  そういうことになりましたので,国際裁判管轄制度部会の次回の会合は,3月12日の火曜日に開かせていただき,その会におきまして4月の第1委員会への対処の方向性についての最終的な御議論をいただきたいと思っております。  本日は,昨日,アメリカの代表団が参りまして,非公式な協議を行っておりますので,この点についての御報告をさせていただきまして,これを踏まえて,前回も議論いただきましたけれども,全体の方向性につきましてもう一度御意見をいただければと思っております。  それから,それを終えました後,時間の許す限りということになるかと思いますけれども,配布させていただきました「質問事項」という紙につきまして御説明をさせていただきたいと思っております。この「質問事項」という紙につきましては,いろいろな論点につきまして事務局の方で考えたことを書かせていただいたものでございますけれども,本日,席上で配布するということになってしまいましたので,いきなり御議論をいただくということも難しいことかと思っております。そこで,本日につきましてはとりあえずの御感触だけでもお聞かせいただき,この紙の末尾に意見提出期限ということで記載しておりますけれども,平成14年,来年の1月末までに,別途書面なり,どのような方法でも結構でございますので,御意見をお寄せいただければと考えております。 ● 前回も条約に対する米国の態度というのが問題になっておりましたので,昨日行われました米国との協議について,まず御報告をいただきたいと存じます。  進行の便宜上,○○幹事には,こちらの席にお移りいただきたいと存じます。  それでは,昨日の協議について,御報告をお願いいたします。  (「民事及び商事に関する裁判管轄及び外国判決に関する条約」に関して行われた米国との間の非公式協議の結果について説明があり、条約策定の方向性についての議論が行われた。) ● それでは,次に「質問事項」につきまして御説明をお願いしたいと思います。 ● それでは,私の方からこの「質問事項」という紙について,順に説明をさせていただきたいと思います。  まず,この「質問事項」という紙について御議論いただく問題意識につきまして,ちょっと簡単に申し上げておきたいのですけれども,今,いろいろ御審議いただいていることというのは,先ほども御説明しましたとおり,今度の4月の第1委員会で議論される予定の,この条約に関する審議の進め方--手続面が主になるわけですけれども,この点についての御審議をいただきたいということでお集まりいただいているわけでございます。4月の第1委員会において我が国としてどのように対応するかということについて考えるためには,コンセンサスがとれる範囲での小さな条約にすべきであるという意見,あるいは99年草案と同規模の条約を作るべきだと主張する意見,この二つが大きなラインとしてある中で,結局どのような大きさの条約を考えたらいいのかということについて検討を加えておくことがどうしても必要になるのではないか,このような問題意識があるところでございます。特に条約の大きさにかかわるような点,また99年草案を前提とした条約を考えるとしましても,電子商取引,あるいは知的財産権の問題等、そのままというわけにはいかない点が多々あると思いますので,これらの点も含めまして,どのような方向性でいくのかを考えるための前提として,御意見をいただきたいと思っているところでございます。  そのような問題意識を踏まえて,何点か事務局の方で考えた問題を,問い立ての形でまとめたものがこの「質問事項」の紙ということになります。  まず,問1ですけれども,BtoBの合意管轄のみを対象とする条約案を作成するメリットがあるかということでございまして,この点については前回の部会においても余り実務的には魅力を感じないというような御意見をいただいたところでございますけれども,コンセンサスが得られる範囲はBtoBの合意管轄の部分のみなのではないかとする意見も一部にあるようでございますので,御検討いただきたいということで問題提起しているところでございます。  現状においては,合意管轄については①から⑦に書かれているような問題点があって,そのために合意管轄についても当事者の予見可能性を害している部分があるということで,この点を解決するための条約を作成するメリットがあるのではないかということでございます。  ①は,法域によっては,合意管轄先の国と,紛争又は当事者との間にリンクが全くない場合に合意管轄の効力を否定するという国があるのではないかという懸念。全くの第三国,当事者あるいは事件の性質と関係ない第三国を指定したような場合の管轄合意の効力という問題でございます。  ②は,法域によっては,管轄合意がされていたとしても,フォーラム・ノン・コンビニエンスの法理によって,合意管轄先の国の管轄が否定されることがある。これは,フォーラム・ノン・コンビニエンスと合意管轄の効力の関係について不統一があるのではないかという問題でございます。  それから,③は,合意管轄によりカバーされる紛争の範囲について異なる判断が下される可能性があるのではないかというものでございます。これは,例えば契約関係にある当事者間において,その契約に基づかない請求がされたような場合に,契約の中にある管轄合意の効力がどのように扱われるのかという点について,異なる考え方,あるいは法の不統一があるのではないかということでございます。  ④と⑤は,どちらも専属的管轄合意にかかわる問題ですけれども,どのような管轄合意が専属的というふうに考えられるかという点について,異なる考え方があるのではないかというものでございます。あるいは,専属的であることの立証責任をどちらの当事者が負担するのかということについての法の不統一があるのではないかという問題もあるものと考えられます。  それから,⑥は,管轄合意の方式的な有効性の問題につきまして,国内法の不統一があるというものでございます。  ⑦は,管轄合意の実質的有効性の問題について,特に合意管轄先の国以外の国がどこまで判断することができるのかという点についての明確なルールがないのではないかというものでございます。  このようにいろいろな問題があるということを前提とすると,合意管轄のみを対象とする条約というものを作成しても,それはそれで明確性又は予測可能性が増すというメリットがあるのではないかというような意見がありますので,この点についてお考えをいただきたいということでございます。  それから,問2ですけれども,第7条の消費者契約のところでございまして,この点につきましては,現在の条文案でも選択肢のaからcということで案文が示されているところでございますけれども,これらの選択肢は,特に消費者契約における管轄合意の有効性の問題について鋭い意見の対立があることから,統一ルールを定めない方法で妥協を図ろうとして提示されたものであるということでございまして,結局,消費者契約における管轄合意の在り方という問題が,対立の激しい点として残っていると言えると思います。今後の進め方として,そういう対立の激しい問題点は削っていく,条約の範囲から外していくという方法が一つ考えられるのではないかと思うのですけれども,その方法として次の3通りのオプションを提示させていただきまして,このうちのどの方向がよいだろうかという点について御検討いただきたいと存じます。  一つ目は,問題は「管轄合意のある」消費者契約の問題だというふうにとらえまして,「管轄合意のない」消費者契約については,消費者常居所地国の管轄という考え方を維持しつつ,「管轄合意のある」消費者契約についてはグレー化するというものです。この場合は,下にちょっと書いてございますけれども,「管轄合意がない」消費者契約については,消費者が事業者を訴える場合,あるいは事業者が消費者を訴える場合,いずれの場合につきましても,消費者常居所地国が管轄権を有することになり,「管轄合意がある」場合の消費者契約については,すべてグレーということになるかと思います。  このように考えますと,管轄合意をすることによって条約の適用を排除する,いわば条約の不適用の合意のようになるわけですけれども,そのような重大な意味を持つ合意の効力というものについて,条約の中で統一しておく必要はないのかという点も考え得るところでございます。合意の効力を認めるかどうかということそもそもについて,管轄合意の効力を認めるかどうかということについて,各国の考え方が異なっているということからすると,この点について統一することもまた難しいかもしれないというふうにも考えられるところでございます。  それから,二番目としましては,消費者契約すべてを条約の対象外とするということも考えられると思います。これは非常に明確な切り口になろうかと思いますけれども,逆に消費者契約の裁判管轄・判決の承認執行の問題については,すべて現状が維持されるということでございまして,世界的に消費者保護が重要な政策としてとらえられている中にあって,このような方向が政策としてもつのかという点が一つ問題になるかもしれませんし,現状維持ということになりますと,ブラック・リストの適用もないということも考慮に入れる必要があるかと思います。  それから,三つ目のオプションは,管轄合意のある消費者契約について,選択肢cというものが条約案にございますけれども,これをリファインしていくことによって妥協の成立をあくまで模索するとするものでございます。もともと選択肢が三つある中で,cが,この条約のミックス条約という構造を生かして,ホワイトとできる部分はホワイトとし,合意ができない部分についてはグレーとするというような形をとろうとして練られたものでございますので,これを更に進めていくということで何とか解決するということも選択肢の一つとしてはあり得るかと思います。  この選択肢に基づきますと,ホワイトになる管轄というのは,管轄合意が消費者常居所地国を指定しているとき,あるいは消費者が管轄合意に従って事業者所在地国で訴訟を提起したとき,あるいは付加的管轄合意がされた場合の消費者常居所地国というような形で整理できるかと思いますけれども,このような管轄合意がされる場合というのが実際上どれだけあるのかというような点,それから,条約の条文でさえ非常に複雑で分かりにくいものになっているのを更に複雑化させるようなことでいいかどうかという点も考慮に入れていただければと思います。  問3でございますが,これは第6条に関係するところでございますけれども,契約の履行地を管轄原因とすることは,インターネット環境においては問題があるとの意見があるがどう考えるか,また,解決策はあるのかということでございます。  古くて新しいというか,この点については99年草案の成案後に電子商取引の問題が出てきたときから問題になっている点でございますけれども,特にディジタル・コンテンツをウェブ環境上でダウンロードするというような場合の履行地というものをどのようにとらえるのかが問題となっていたものと考えられます。第6条については,activity-basedの管轄の考え方をどんどん盛り込んでいって,activityの広がりをディスクレーマーに対応した条文で押さえるというような形になっていったところがございますけれども,情報産業業界の意見からすると,そのようなディスクレーマーによる対応でも十分ではないということのようでございます。  逆に,activity-basedの条文自体が危なっかしいというような方向が出てきますと,もとに戻って「契約の履行地」というものが使われるということにもなりまして,また,「契約の履行地」を管轄原因として,この条約に残すということを考えた場合には,もとに戻ってディジタル・コンテンツのダウンロードの問題というものが出てきますので,この点についてお考えいただければと思っております。  問4でございますけれども,10条の不法行為の点でございます。不法行為につきましては,前回の部会でも御議論いただいたところでございますが,どのような場合を想定するのかという点について,若干御議論の中身がそろっていなかったような点も見受けられましたので,整理できるような形で改めて問題提起をさせていただいたものでございます。  特に問題になる場合として,二つ大きくあると思います。一つ目が,インターネットが介在した,つまりインターネット環境における不法行為。二つ目が,著作権侵害の問題。著作権を特に取り上げたのは,これは知的財産権についての侵害訴訟についても専属管轄とすべきであるとの方向で主張していくということを前提とすると,特に,登録に基づく知的財産権の侵害訴訟について,専属管轄を主張するということを前提とすると,10条で問題になるのは著作権侵害であろうということで書いたことでございますので,そのような前提に立たないとすると著作権に限った問題ではないわけですけれども,そういう知的財産権の侵害の問題と,二つに大きく分けられるのではないかと思います。  問題意識としましては,インターネットを介した場合の問題というのは,行為地あるいは損害発生地がどこになるのかがよく分からないというような問題だと思います。一方,著作権侵害の問題というのは,インターネットが介在する場合としない場合と両方あり得ると思いますけれども,この著作権なり知的財産権の侵害が不法行為の条文に当てはめられたときに起こる問題というのは,インターネットを介したものに限られるのかどうか,あるいはインターネットとは関係なく,知的財産権であることによって生じる別の問題があるのかどうかというあたりについて,整理いただければと思いまして,若干の事例をa,b,c,d,c1,c2,あるいはd1から3ということで書かせていただきましたけれども,このような事例を念頭に置きながら,そのあたりの問題の所在について整理いただければと思っているところでございます。  なお,著作権侵害事件の管轄国につきましては,権利の根拠となる法律の属する国,あるいは普通裁判籍,応訴・合意管轄,この四つを認めるべきではないかというような考え方が,事前に配布しました電子産業協会からの御意見にもあったかと思いますけれども,このような考え方も出ているということでございます。この問題についての考え方の整理として,著作権の属地性というものを強調いたしますと,著作権侵害行為は著作権の根拠法の国でしか行われないと,逆に損害発生も原則としてその国であると,そういうふうに考え,その点が強く確保されれば,不法行為の規定に著作権侵害,あるいは知的財産権侵害を当てはめた場合にも,結果は異ならないというようなことも考えられるのではないかと。もし,このように知的財産権特有の問題があって,それがそのように解決できるのであれば,解決の方法としてそのような規定の当てはめを明確化するということも考えられるのではないかということで問題提起させていただいておるものでございます。  問5でございますが,第10条の不法行為の条文については,今のようなインターネットの問題,あるいは知的財産権侵害の問題があるということでございますけれども,それを除外する方法としまして,同条の適用対象を製造物責任によってフィジカル・インジャリーが発生する場合に限るというアイデアについてどのように考えるか。また,ほかに除外する方法についてのアイデアはあるかということで,問4に続く問題として掲げさせていただいております。  ホワイト・リストとブラック・リストのバランスをとるという観点から,18条パラ2e,いわゆるゼネラル・ドゥイング・ビジネスの禁止を、製造物責任によるフィジカル・インジャリーの場合に限るというような提案も一部にあるところでございます。  問6は,18条パラ2eについてでございますけれども,この条項についてあくまでも原案を維持すべきかどうかという点でございます。この点は,何度にもわたってこの部会においても死守するべきだという御意見をいただいているところでございますけれども,もともとそのような条約がない現状から比較しますと,ブラック・リストを設けること自体が一歩前進であるということからすると,この点について何らか条約の受入れ可能性,各国の受入れ可能性を高めるという観点から,妥協を目指すということは考えられないのかどうかということでございます。  それから,最後の問7でございますが,知的財産権全般を適用対象から外すという考え方については,どのように考えたらよいかということでございまして,特に専属管轄の規定全般について,このような規定をこの条約に置くこと自体,問題があるのではないかという意見もあることを前提としますと,知的財産権も含む専属管轄の規定全般を条約の適用対象から外すというような考え方もあり得るというところでございます。また,知的財産権の問題についていろいろといただいている御意見や御懸念の多くは,管轄の問題が整理されることによって解決されるものではなくて,準拠法あるいは実体法の不統一の問題というものを背景としているということからすると,その切り口を変えまして,知的財産権に関してその管轄の問題,あるいは準拠法の問題すべてを取り扱うような条約というものを別途作成するというような方向で,この管轄の条約の適用範囲から外してしまうというような考え方もあり得るのかなというところでございまして,この点についてもお考えいただきたいということでございます。 ● 今日,このように突然見ていただきまして,御意見いただくというのはなかなか難しいかと思いますけれども,質問事項はいずれも今後の条約の方向性を占うという点では重要な点かと思いますので,問ごとに御議論いただければと思います。  まず,問1の点ですが,BtoBの合意管轄のみを対象とする条約案を作成するメリットがあるかという点でございます。いかがでございましょうか。 ● ただいま,問ごとにというお話でしたが,その前にちょっと前提として一つお尋ねしたいことがあります。  前回までの流れといいましょうか,大方の御意見からしますと,やはり従来の路線を維持すると,一部の国がこの条約に参加しなくてもこの条約の枠組みでいくということが多分大方の御意見だったように受け取っているのですけれども,二つの選択肢というのは考えられないのでしょうか。  一部の国が抜けても従来型の条約を締結すると。この条約に参加できない国との関係では,その国が提案あるいは受け入れる可能性のある合意管轄,プラス,フィジカル・インジャリーの関連,それだけでその国との間のバイの条約を考えるという,そういうオプションは全く考えられていないのでしょうか。 ● 今の御指摘というのは,実は非常に大事な御指摘だと思うのですが,つまり包括かスモールかというのは,相互に排他的か,二者択一かという議論なのかどうかということですね。つまり,時間的な流れとしては,最初はスモールで,だんだん,いわば二段ロケットじゃないですけれども,内容を増やしていく。とりあえずは小さく始めて,アジェンダには掲げておいて,電子取引の様子を見ながら次に--という,そういうステップも考えられるので,つまり合意管轄プラスフィジカル・インジャリーのみにするのか,それとも段階的なステップの第一段階になるのか分かりませんが,いずれにしてもこういった合意管轄なりのスモール・コンベンションについてのメリット・デメリット,あるいは問題点とか,一応検討はしておく必要はあるのだろうと思っております。  これは,伝え聞いた情報ですが,ロシア人形というのですか,大きい人形に中に小さい人形が入っている,ああいう形のいわば包括的な条約の中に小さな条約があるような条約にしたらどうかと,それをオプションとして,小さなところに入る国と全部入る国と両方あると,そういうふうな意見も一部にあるようですので,必ずしも排他的な話ではないので,合意管轄なら合意管轄でどのようなニーズがあるのかどうかというのは,政治的に,当事者間の力関係とかいろいろな問題があると思いますが,とりあえず理論的に,言っていることはそんなに的外れなのかどうか,そういうことですね,合意管轄にこういう問題点があるので今のところこれこれこういうふうな解決するためにこういう条約を作るメリットがあるという意見が現にあり得るわけですから,それについて我が国としてどう思うかということについて一応御意見を伺っておきたいと,そういうことでございます。 ● それでは,問1について御意見お願いいたします。 ● ⑦の具体的なルールの内容はどういうふうにお考えなんでしょうか。要するに,提訴を受けた国が,何らかの法律--どれを準拠法にするか問題ですが--で,実質的有効性を判断する。実質的有効性という意味は,いろいろあり得ますけれども,詐欺とか脅迫という問題だけなのか,あるいは不当な力関係で行われたということ,それから公序違反とか,それも含むのか。それを更に承認執行するときに,もう一回審査することができるとするのかできないとするのか,できるとするときに何法を適用するのか,それについて今のドラフトにも書いていないのですね,この問題は。合意管轄だけの条約にするときにはこれも書こうということで,この質問になっているのでしょうか。 ● 質問をしたところというのは,いろいろこういう問題がもし問題としてあって,それを解決することに理論的にも実務的にもメリットがあるということであれば,そのような問題に関する規定を置くことにより,合意管轄自体の予測可能性というのは非常に高まるということがあるので,仮に条約の範囲と合意管轄を中心とした小さいものにする場合であっても,そのようなメリットを条約を作っていくインセンティブとすることが考えられないかというのが問題意識ということで,確かに今の条文案でもそこまでのことは検討されていないわけですけれども,ただ99年草案の当時に比べれば,現在の条文案というのは実質的有効性をどこの国の準拠法で判断するのかという点については踏み込んでいるところですので,その点について一定程度でも予測可能性が高まるような条約案の作成があり得るかどうかということをお聞きしたいということでございます。 ● 今,○○幹事からも御指摘がありましたけれども,我々裁判所から見ますと,これはもう包括的な条約にするかスモールにするかという問題以前の問題として,今までのヨーロッパ型のものでやるという場合であっても,合意管轄を根拠にして訴訟を起こされたときに,管轄合意の効力を,準拠法をどこにするかとか,あるいはそういう訴訟能力の関係でどういう形で効力を判断するかというのは,やはり問題がありますので,今まではそこまでは言いませんでしたけれども,実際のところ裁判所に来たときには,やはり,合意管轄の効力をどうするのかというのは,スモールにするかどうかという問題とは別に,やはり問題があることはあるので,そこは仮にヨーロッパ型になったとしても,こういう点についてはできるだけそういう規定が置けるのであれば置いて,我々日本の裁判所が適用するときに,どこの裁判所に来ても同じような形での適用ができるようにしたいし,企業の方々からすれば,外国に行ったときにも同じような形で判断を受けられるような形の管轄の合意をしたいということがあるでしょうから,これはビッグかスモールかという問題とはまた別な話として,やはりこういう要請はあるのだろうと思います。  もちろん,全く条約がないよりは,合意管轄についてだけでも条約があった方がいいですかと言われれば,それはないよりはましでしょうということは申し上げますけれども,それは大きいか小さいかという問題とは別の話として,こういうものははっきり決められるものなら決めていただきたいという気がいたします。 ● 私が言わんとしたのは,要するに①から⑥までは比較的内容がはっきり,どちらに考えるかはっきりする。⑦に踏み込みますと時間を要するのですね。合意管轄だけの条約の策定を検討しようと言っている一部の意見は,一つの理由として,ここしか時間的にできないのじゃないかということを言っているので,じゃ小さくしましょうと言った途端に,そこは深く掘りましょうというと,結局時間がかかってしまうことになりかねない。  もちろん,今ある条文のどれかをとればそれでおさまるということならば,例えば4項とかあるいは1項の一番最後の文章とかがそれを決めているわけですが,例えばこんな条項ということですね。 ● 要するに,この話というのは仲裁合意の有効性だとかと非常にパラレルな問題であるわけですね。そうすると,今非常に成功している条約としてニューヨーク条約というのがあって,ニューヨーク条約の2条3項で正に合意が無効であるか失効しているかとか,そういうことを一応,裁判所に仲裁合意があるにもかかわらず訴えられたときに,これこれこういう場合を除き仲裁に付託すべきことを命じなければいけない,そういうふうな規定がありますね。これは,正に実質的有効性の問題について合意が無効であるか失効しているかとか,そういうことだけしか判断できないというふうに読むのかどうか分かりませんが,つまり一つのモデルとして,ニューヨーク条約というのがかなり意識されていると,だからそれに沿ったような形で実質的有効性について別の裁判所に管轄合意がされているにもかかわらず,この裁判所に訴えられた場合にどこまで判断できるかという問題を,できるだけ解決してはどうかという提案だと思います。  もちろん,それが難しいことは難しいわけで,ただ,では手当てしなくても難しさがなくなるわけではないでしょうから,できる範囲でということだと思います。 ● よろしゅうございますか。特にこの点について,何か御意見ございませんでしょうか。 ● ○○委員から非常に実務的な観点から御意見いただいて,どうもありがとうございました。私どもの方も,つまり大きな条約か小さな条約かという問題だけで見るのは正しくないというのは御指摘のとおりなんですが,ただこの話が,そもそも合意管轄のみでは全くメリットがないかという,だから大きい方がいいという,そういう議論の中ででも使われることがあるものですから,そういう意味では個別に見ていけば今まで見過ごしていたけれども,BtoBの合意管轄の条約というのは,外見ほどやさしくないかもしれない。ですから,そういう意味では小さくてもやる意義があるということが一応確認できれば,それはそれでいいのかなと私は思っております。 ● その場合は,⑦も詰めてということですか。 ● それはもう,今後の……。 ● 正確なこの場の空気を伺った方がよろしいのじゃないかと思うのです。要するに,仲裁でしたら仲裁地というのがあるので,その法律か,あるいはそこの国際私法か結構はっきりするのですが,合意管轄ですと,もちろんどこかの国の法律があるわけですけれども,違う国に係属するわけですね。そのときに,外国の裁判所の法律で決めるというのは,相当抵抗がある。やはり自国法でやりたいということになりかねなくて,そうすると訴えるところを選べば,ある国では有効だけれども,他の国なら無効とされるから訴追できるとかなってしまうのですね。もちろん,当事者の合意があれば,その法が最初に来れば,そういう場合が一つありますが,それがない場合にどうするかというときに,ものすごく困ってしまうのですが,そこは何かいい解決策が……。  現在の条文案ですと,法廷地法によると言っているので,ばらばらという意味だと思うのですね。受けたところが自分の国の--法廷地そのものじゃなくて,法廷地の国際私法とか飛ぶかもしれませんが,結局自分のところに来たように考えているので。 ● これは,正にばらばらでもルールははっきりしている方がいいと思えば,それはそうなわけですし,手続問題として法廷地で判断するという考え方は,一つの合意の仕方であると思います。 ● 99年草案の形であれば,これがなくてもいいということでよろしいのでしょうか。今,そこまで詰める方がいいというお話でしたけれども。  それでは,いずれにしてもその点また御議論いただくことになろうかと思いますが,それでよろしゅうございますでしょうか。そういう問題点があるということで。  では,問1につきましては,これも仮定の話だったわけですけれども,問2の方に移りたいと思います。  第7条につきまして,消費者契約に関する条項について,次のどの方法が適当かということで,三つばかりオプションが挙がっておりますが,この点はいかがでございましょうか。 ● できれば,3のオプションで,選択肢をリファインするというのがいいとは思うのですが,ただここに出ているリファインの仕方でいきますと,反対しているところがこのリファインでいいと考えるかというのは非常に難しいかなという気もするのですが,そこはどうなんでしょうか。これで,外せと言っている国がうんと言うかなというと,うんと言わないようなリファインの仕方のような気がするのですけれども,どうなんでしょう。 ● 管轄合意をもっと尊重せよというところからすると,消費者の常居所地国でないものでも有効とせよというところが含んでいるとすると,cはそれは外さないということになるわけですね。 ● 思想としては,選択肢cというのは,管轄合意の効力を認めるが,争いがあって,管轄合意の指定先が消費者の常居所地国でないなどの理由によって争いがあるような場合についてはグレーにしていくということですので,もしその訴えが提起された国において管轄合意を有効と認めるような考え方をとっていれば,それはグレーになるということを一応確保するという形での妥協ということになろうかと思います。  ただ,確かに複雑ですので,本当にそうなるのかどうか,そもそも条文を見ても分からないかもしれないとか,そういう問題はあろうかと思います。 ● アメリカも,こういう形なら受け入れるという見通しがあるということでしょうか。  (米国との間の非公式協議の結果に基づき、第7条に対する米国の対応についての議論が行われた。) ● この問題は,正にどこまで条約に取り込むかという話と連動した話ですが,基本的な方向性としては,多分③とかいう方向になるのじゃないかと思っていたのですけれども。  つまり,合意管轄の効力というものを消費者契約の場合に全く認めなくていいかどうかという問題についてどう考えるかによるのだと思います。 ● 要するに条約の対象外とするということと,グレーにするということは意味が違って,対象外だと18条も適用されない,グレー化の場合は18条は適用されるのですね。だから,消費者契約について,仮にほかの条文が幾つか入るのに,18条で禁止されている過剰管轄までいいのですというのは,ちょっとバランスが悪いので,適用除外ではなくて,例えば6条に消費者契約は除くと書くだけで,条約には入っている。そういう意味なんでしょうか。 ● 正に○○関係官が,最初にこの②のオプションとしてブラック・リストも適用されないというオプションですという説明を多分したと思うのですが,したがって正に○○幹事の御意見というのは,この②についてはそれじゃだめだという御意見ですから,そういうことであればそれを前提に固めていくということだと思います。 ● 「グレー化」とは言わない方がいいですね。 ● 今,②案について御説明があり,また,③案がいいという御意見がございましたけれども,①案についていかがでございましょうか。こういうものは考えられないということでしょうか。 ● 若干補足させていただきますと,①とか③もそうなんですけれども,せっかくこれまで消費者契約について議論をしてきたというような点も踏まえて,ホワイトにできるところはホワイトに残していこうという発想で,できるだけホワイトに残すということで考えたオプションであると考えているのですけれども,①の場合の管轄合意がない消費者契約というものにしましても,③の場合で管轄合意の効力の認められる場合を書くということにしましても,実際にホワイトにできそうな部分というのが実務上そんなに多くあるのかどうか,実際に消費者契約というものを考えた場合に,そもそも管轄合意がないものというのがどれだけあるのか。  あるいは③の方でいいますと,③でホワイトにできそうな内容を持つ管轄合意がどれだけあるのかというような,実際上の問題というのもあろうかと思っていまして,やはり合意がないものとあるものと分けるとか,あるいは妥協案を作るとかいうようなことをしていくと,いろいろ理論上の線引きをしていく上で問題が出てくる可能性があるわけですけれども,そもそも実際上そのような必要性が余り……。つまり,実務上そのような契約形態が余りないということだと,それだけ汗をかいても実際には使われない条文になってしまうということでは,余り汗のかきがいもないのかなということで,そういう観点からもこのオプションのありようについて考えていただきたいと思っております。 ● にわかにこういう案が出ておりますので,なかなか対応が難しいのじゃないかと思いますけれども,何か御意見ございますでしょうか。 ● 簡単なのは①ですが,書き方として,例えば具体的には4条においてBtoCの合意は除くと合意管轄条項の中に書いて,7条の方で合意管轄がない限りというので上の方に条文に出して書くということですね。ただ,先ほど○○関係官がおっしゃったことからすると,合意管轄がないような消費者契約があるのかということですが,それはしかしなくはないでしょうし,かつ場合によっては日本として国際的な消費者契約では合意管轄は無効だという国内法を作るとか,あるいはそういう判例法が確立するとかいうことはあり得ますよね。その場合には,7条の本文の方が生きてくるわけで,それは意味なくはないのじゃないかなと。  確かに③は,非常に巧みなんですけれども,余りに巧み過ぎて,これは要するにミックス条約のことがよく分かっていないと理解ができない話なので,それは法律の条文としては複雑過ぎるかなと。  それから,余り消費者契約について厳しく合意管轄を制限すると,業者が仲裁条項を入れるようになるのじゃないかと,それについて,私は当然というか,私の感覚では,それはニューヨーク条約で全部有効になってしまうのじゃないかというふうに思っていたのですが,消費者契約については、ニューヨーク条約上無効だと,あるいは適用されないと考える国もあるようです。商事のみに留保している国はそう言えるかなと私も思わなくもないのですが,しかしそうでない国までそう言っているという情報もあり,それは当然だと言っているやに聞いています。私の聞き方が十分じゃないかもしれませんが,そこを一緒に考えておかないと,余りここだけきれいにしても,仲裁の方が全く抜けていると余りやりがいがないというふうに思うのですが,日本ではどうなんでしょうか。  消費者契約で,仲裁合意は,そもそも出発点としては無効ということはまずなくて,ニューヨーク条約も多分適用されると考えているのじゃないでしょうか。 ● 消費者契約と仲裁ですが,いかがでしょうか。 ● 消費者契約で,仲裁条項が入ったそういう契約というのは余り見たことがないものですから,国際的なものはもちろんですけれども,国内的なものでも,余り私としては見たことがないのですが,○○委員などは御覧になったことはないですか。 ● 大体,商事ですね,仲裁というのは。 ● 仲裁は,ある程度お金がかかりますので,そういう個人の消費者との契約でそういうものをむしろ置きたがらないのじゃないかという気がするのですけれども。 ● 業者の方は,訴えてほしくないわけですから,お金がかかるのは全然構わない。 ● 業者は,自分が訴えられることは余り考えていない。自分がメリットのあるところで,自分が訴えることしか考えていませんのでね。 ● ただ,消費者契約では業者側が訴えなければならないようなへまな契約はしないと言われていて,お金は必ず取ると。商品が悪かったり,物が届かなかったりすることはあり得ても,お金の取りはぐれで訴訟を起こさなければいけなくなるような取引はしないと言われているので,訴える側は消費者側だという,そういう仕組みにするでしょうと。そこでADRとか何かで簡単にできる仲裁を置くとか,あるいは日本の現行法では合意管轄は書面でなければいけないのに,仲裁はなぜか現行の法律のもとでは書面性が必要とされていないので,そうすると仲裁の方が有効とされる可能性が高いですね,国内取引の場合。具体的には私も知りませんが。 ● ニューヨーク条約との関係は,またこれ別途検討しておく必要があろうかと思いますので,そういうことも視野に入れながら考えていただきたいということでございます。  ほかに,この第2問につきまして御審議いただくことはございませんでしょうか。  いずれまた,3月に御審議いただくかもしれませんが,今日はこういうことで,意見提出の方法もあるという御注意がありましたので,よろしくお願いいたします。  それでは,これでちょっと休憩を入れさせていただきます。20分から再開させていただくということで,よろしくお願いいたします。           (休     憩) ● それでは,時間が参りましたので,再開させていただきたいと思います。  早速でございますが,次の問題ということで,問3でございます。  契約の履行地を管轄原因とすることは,インターネット環境では問題があるとの意見があるが,どう考えるか。また,解決策はあるかということでございます。この点,いかがでございましょうか。  先ほど,契約の履行地については○○幹事の方から概念がはっきりしていないということの御指摘がございましたけれども,これをインターネットとの関係でどう考えるかということでございます。 ● インターネットの場合,やはり契約履行地が問題となるのはディジタルコンテンツ関係の場合が典型だろうと思うのですけれども,結局その場合には,ここに書かれているようないろいろな問題か出てくるわけで,解決策はといえば,その場合には契約履行地についてはここだというふうに書くしかないですね。書かないでおけば,結局分からなくなってしまうということなので。  ディジタルコンテンツに限って言えば,その場合,どこに決めるかと決めれば済む問題なので,ここでなければいけないということについて国によってすごく意見が対立するということは余りないような気もするのですけれども。少なくとも,契約履行地だけの概念を当てはめるときどこにするかについて,ですね。 ● それも一つの解決ですが,無理やり契約履行地をその場合にまで確実にしなくてもいいという解決策もあり得て,そうすると「有体物の引渡し場所」とか,そういう書き方にしてしまって,「サービス」もやめてしまって,有体物の引渡し場所だけというのは一つの解決策かなと思います。 ● それも一つの解決策だろうと思います。 ● 今,二つ出ましたけれども,○○幹事が言われた有体物の引渡し場所だけということになると,インターネットに限らなくて,もうちょっと多く切ってしまうことになるわけで,一つは電子商取引との関係,インターネット環境での問題について,やはり履行地に基づく管轄というものをどこか定めておいた方がいいというふうに,実務あるいは理論的に考えるかという点も一つあろうかと思いますし,それが難しいといった場合に,どのようにインターネットの場合を除くのかということで,固いところだけホワイトにするという考え方からすると,切ってしまえばそれでいいというのも一つの方法かもしれませんし,いろいろオプションとしてはあり得るかなというふうに思います。 ● 私も,やや切り過ぎたかもしれないので……。  サービスも,拠点を設けて提供するサービスだと履行地とか,あるいは人が移動して,何かサービス貿易協定なんかでいろいろなモードとか言われているものの幾つかですが,人が移動して行うサービスの場合は移動した先とか,何かそういう書き方はできるかもしれない。国境を越えて,こちらから操作してサービスするようなものは除くというようなこともできるかもしれません。 ● そうすると,インターネットについては特に何か考えるということなのですか。一般的にと。 ● この種の管轄じゃなくてもいいのじゃないかと思いますが,それはどうなんでしょうか。  そもそも,契約の履行地の管轄というのはすごく大切なものなんでしょうか。 ● 結局,何でそもそも契約の履行地というのが管轄原因として適当だったのかという,そこから始まる議論だと思うのですね。つまり,典型的には物の履行される場所というのは物の欠陥がある場合であれば,その物があるところが一番証拠があるとか,サービスだって,例えばビルの清掃みたいに場所に結びついたサービスもあるでしょうし,アドバイスみたいに,どこで履行されたって問題ないようなところもあるでしょうし。ですから,ある意味ではもともとあった問題が,インターネットとかそういうものを契機に顕在化してきた話なのかなという気はしているのです。  ただ,ここでの議論というのは,あるべき管轄を全部考える必要はなくて,正にこれだけは承認執行の原因と認めてもいいなという,いわば成熟したものだけをホワイト・リストに高めるという,そういう文脈で見た場合にどういう切り口があるかという,そういうことだと思っております。 ● そういう点から見ますと,義務履行地というのはやはりはっきりしているところとか,そういう場合はいいのですけれども,証拠があったり証人がいたり。ないのに,無理に義務履行地を一般的に考えて,そこを義務履行地として管轄を認めるということはしなくていいので,はっきりしている場合だけ,そこを,言葉として「義務履行地」を使うかはともかくとして,別の表現でもいいのですが,無理にインターネットについて例えば義務履行地というのをどこかと決めて管轄を認めなければならないということはないように思います。 ● そうすると,特にここで問題をはっきりさせる必要はないということ。 ● いや,はっきりさせる必要はあるわけですが,今日はとにかくいきなり質問事項をお配りしての話なので,一応の大体の思いつきでもいいですから,何でも御意見を伺って,あと1月末と書いてありますが,一応書面で,後でこういう考え方もあるなということについて提案がいただけましたら,と考えております。そこに正に目的があるわけで,今日は一応問題意識というものを説明させていただいた上で,御感触みたいなものをこの場で適宜伺えれば幸いだなと,そういうスタンスでございます。 ● 今の○○委員の御発言なんですが,ちょっとよく分からなかったのですが,そうするとインターネット環境の場合には何も書かなくていいと,そういう御意見なんですか。履行地について。 ● はっきりとして,いわゆる義務の履行という言葉を使っていいのか知りませんが,それについて明確に一つはっきりした場所というのが決められないのなら,無理にインターネットについて義務履行地管轄を何らかの形で一つ,さっきも言っておられたように,例えばサーバーの所在地とか何とかというの,そういうのを無理に決めて管轄を明文としてホワイト・リストに載せる必要はないのではないかと。 ● ということは,一般の場合と同じように考えろということですね。 ● そうですね。 ● 特に特別な条文を置かないで,普通の履行地。だから判断が分かれるということは当然に前提になっているということですね。 ● そうです。 ● そういう御趣旨なんですか。履行地には含めないのじゃないのですか。 ● だから,ホワイト・リストには入らないということ。 ● 履行地に含めない。 ● そうです。 ● どっちから書くかですけれども,外す方を書くのか認める方を書くのか,認める方を書いた方が分かりやすいのじゃないですかね。もちろん,切り過ぎることになるかもしれませんけれども。  先ほどおっしゃった,電話で助言をしますなんていうのは,電話を受ける場所がどこか分からないので余り意味がないですね。  こういうインターネットのダウンロードの話をしているときは,モバイルのパソコンを持って旅行中にダウンロードしたらどうかとか,そういう話をしているので,同じことは別にインターネットでなくても,電話でもこういうことは従来からおっしゃるようにある問題だと思います。 ● そういう御意見が出ておりますが,これはもう少し詰めていただく以外にないですね。 ● もちろん,御意見を踏まえてもう一回……。  今日,この場で出していただいた意見,それから今後書面等で提出していただいた御意見を踏まえまして,3月に部会をやりまして,4月にヘーグで第1委員会がございますので,今やろうとしている作業というのは,3月の部会に出すたたき台といいますか,対処方針の原案を作るための参考資料をいろいろ集めたいと,そういうことでございます。 ● ほかに,この点について何か御意見ございますでしょうか。  特にないようでしたら,また意見書等におきまして御意見をいただきたいと思います。  それでは,問4に参りまして,10条,不法行為でございます。  現在の条文をそのまま適用すると問題があると思われるのは,次の二つと考えてよいか。1がインターネットを介した不法行為,2が著作権侵害。これはインターネットを介しない場合も含むということでございます。  想定事例が幾つか挙がっておりますので,そういうものを参考にお考えいただきたいと存じますが,いかがでございましょうか。  では,事例の説明をいただきます。 ● この事例ですけれども,問題意識としましては先ほども申し上げましたけれども,特にインターネットを介していない著作権侵害で問題になる場合があるのかないのかというところに一番の問題意識があるのですけれども,事例として掲げたものは,まずaのインターネットのホームページに他人の名誉を毀損する文章を掲示したというのは,これは著作権の問題じゃなくて名誉毀損の方の問題として,ただインターネットを介しているということ。  bは,国境をまたがって販売されている雑誌に他人の名誉を毀損する記事を掲載したということで,これはインターネットも介在していないし,著作権侵害でもないものでございます。  c1ですけれども,インターネットのホームページに他人の作品を自己の作品と偽って掲示した。これは,一応想定としましては,インターネットを介して著作権を侵害する行為をしたと。  c2は,コンピュータ・プログラムの一部を無断で利用して作成したプログラムを,インターネットを通じて配布をしたということで,これも同じ形ですけれども,著作権の中身として,伝統的なもののほかにプログラムの場合と,普通のというか,伝統的な著作権の侵害とで,中身が変わってくるということがあるかもしれませんので,両方掲げておいたということでございます。  それからdですけれども,dは1が国境をまたがって販売されている雑誌に,他人の作品を自己の作品と偽った記事を掲載したということで,これはインターネットによらないで著作権の侵害をしているものでございます。  dの2も,日本のアニメーションのキャラクターを無断で複製した商品を東南アジアの数か国で販売したと。若干,具体的になっているところがございますが,それは余り意味がないのですけれども,これもインターネットによらないで著作権侵害をした場合。  d3が,コンピュータ・プログラムの場合ということで,dというのは著作権をインターネットによらないで侵害した行為の場合。  現在の10条の条文ですと,これらの不法行為の当てはめの問題で問題になるのは,損害発生地国の管轄,あるいは行為地国の管轄,両方あり得るかもしれません。特に,損害発生地について,行為的な予見可能性というテストが入っていますけれども,それが有効に働くのかどうか,それからあと10条の後ろの5項の方で,損害発生地国の管轄を限定している部分,これらについての適用においてどのような問題があるかどうかということをお考えいただいて,それでどういう場合に,特にインターネットを介していない著作権侵害の場合に問題があるのかどうかというあたりを整理していただければということで,この事例を書かせていただきました。 ● これは,実際にモデルがある事例でしょうか。 ● いや,全く頭の中で考えたものでございます。 ● 例えば,dの2などは実際の裁判例で争われている事案ではあるのですけれども,このdの1から3までの,要するにインターネットを介しない著作権侵害の場合には,大体普通の知財関係の法律家の判断とすれば,不法行為地と損害発生地というのは一致するはずなので,ですからそんなに問題はないだろうと思うのです。ですから,もしそこについて疑念があるようでしたら,今回の資料27の電子情報技術産業協会さんの方の御提案の5ページの下の方にありますけれども,被侵害権利所在地,侵害行為に対する適用法を持っている国が損害発生地なんだというような形で,これは条文にまでしなくても,何らかそういう公式コメントのような形で決めておけば済む話ではないかと思うのですけれども。  例えば,例で言いますと,この中のdの2のキャラクターを,日本の著作権法によるキャラクターですけれども,例えば東南アジアのタイで売ったというときには,タイの著作権法で条約等によって保護されているところの著作権が侵害されるわけですから,あくまでも侵害発生国はタイというふうに法律的にも考えられますし,あと経済的な意味でも,要するにタイで売る,タイで自分が売って,あるいは自分がライセンスを与えて,そこで入ってくるべき収入を失ったというのですから,失った市場というのはタイということになりますので,そういう意味ではそんなにインターネットが介在しなければ難しい問題にはならないのじゃないかと思いますが。  インターネットを離れて,著作権法独自の問題があるのかと言われると,そんなことはないのじゃないかという気がするので,その場合は不法行為地イコール損害発生地という形でとらえることは可能だろうと思います。 ● そうすると,問4の②の方は。 ● ②の方は,問題にならないと思います。仮に,ほかの国の方に同じような御質問をして,違う答えが返ってくるとちょっと困るのですけれども,恐らく一致するだろうと思いますので,そうであれば何らかの公式なコメントなりを注みたいな形でしておいていただければ,それで済む問題じゃないかと思いますけれども。 ● そうすると,問題は問4の①ということになりますね。 ● 問4の①は,今言った名誉毀損の問題もありますし,あと知財の関係でもあるのですけれども,商標権の侵害とか,そういう問題ではそれぞれ同じマークが国によって違う商標権者があったりするものですから,その辺では実際上は嫌な問題が出てくるわけです。  先ほどの商標権の場合も,やはりその商標権のある国が損害発生国だといったときに,行為地がどこかという問題はあるのですけれども,それは損害発生地としてはその国ということでいいのだろうと思いますけれども,ただどこからでも見られるわけですから,要するにそこに対して売っているという,そういうアクションがないのに,単に見られるからそこの商標権侵害になるのですよという言い方ができるのかという問題はありますけれども,損害発生国がどこかという点での疑問は,商標の場合はないと思います。  ただ,名誉毀損の場合には,国ごとに,自分のタイでの名誉が毀損されたとか,中国で名誉毀損されたとか,韓国で名誉毀損されたと,そういうふうにばらしていいのですかという問題はありますので,あくまでも人格の問題なので,その人がいるところが損害じゃないですかという言い方がされてしまうと,本当に自分がいるところが損害発生地だから,自分のいるところで起こしていいじゃないですかという議論を認めていいのかという問題になってしまうのですね。 ● 今の関係ですが,よく自分でも分かっていないところがあるのですが,つまりウェブから見られるという,いわばアクセス可能な状態にするという行為自体が侵害行為になるかどうかというのは,そもそも実体法の問題なのかどうかということなんですね。 ● 実体法の問題として裁判権があって,その国でやった結果どうなのかと。要するに,見られる国だったらどこでも起こしていいじゃないですかというときに,その国の法律で見たときに,仕向け制限してあるからいいかどうかとかいう話は,そこの裁判所が決める話なので,実体的にどうなのかというのは,それぞれの国で,例えば日本で商標権侵害とか不正競争防止法侵害というのは--その場合に外国でサイトに載せたものについても日本で見られれば侵害なんですかというのは--日本法の解釈の問題なんですよ。それは,日本の裁判所でそれを解釈するのかアメリカの裁判所で解釈するのかというのを,今ここで議論しているので,実体法の問題と管轄の問題というのは一つ別な話だろうと思うのです。  それが,どこまでが商標権侵害とかいうのは,それは国で勝手に決めていいのですよ。あとは準拠法の問題で,それをどこの国の裁判所で決めるかという問題なので。 ● つまり,管轄の原因としての侵害行為というのか,管轄の見地から独自に決めるべきものだというにしても,そこはやはり何かある種の実体法的な物の考え方がどうしても反映せざるを得ないのかなと。つまり,独自に決定すると言いながら,そういう気がしまして,そこのところ,伝統的な不法行為の場合にも,同じ質の問題があったはずだと思うのですが,やはりこれもインターネットという場合には,それがより明らかになってしまう,そういうふうな理解でいいのでしょうか。 ● 実体法でどこまで侵害になるのかという議論自体は,新しい問題なので余りきちんとした議論がされていませんし,コンセンサスが出ていないと思うのですね。ですから,今現に経済産業省の方で,商標権侵害とか不正競争防止法なんかをインターネット絡みでどう改正したらいいのかというのを私的な勉強会レベルで議論しているのですけれども,その議論の中でも,まだ全然始まったばかりということで,問題の所在もよく分かっていないという状態なものですから,実体法的にこういう形の,ここまでは侵害行為ですよというのから来て,それでは管轄の原因としての不法行為地,損害発生地を決めましょうよという議論を,インターネットの場合にはなかなかしづらい。ですから,外形的に管轄の関係で決めておかなければ,結局は実体法の解釈によって受けた裁判所が全部含めてごちゃごちゃに決めてしまうという形になってしまうのじゃないかという懸念はあるのですけれどもね。 ● その場合には,先ほどの契約のときと同じような議論なんですが,そもそも不法行為において,行為地とか損害発生地が管轄原因として適当だと思われているのはなぜかというところから考えてみた場合には,ウェブを経由の不法行為の場合にはどういうふうに考えればいいのでしょうかね。  やはりこれも,証拠がある場所とか,そういう思想でもともと行為地とか--あるいは予見可能性というのが入ってくるのだと思いますが,そういう何かいろいろな要素が複合して多分今のルールができているのだと思うのですが,それをもう一回分解した上で,何か考えていかないとだめなのかなという気はするのですが。 ● 契約の場合は,そういう人と契約しなければいいという,そういう前提があると思うのですよ。不法行為の場合には,損害発生地以外でどこでとるのですかというときに,不法行為地とか,被告所在地というと不法行為をした人のいるところですけれども,そういう形でやると,不法行為をするつもりの人は,要するに裁判を起こしづらい国で流してしまえばいいのだという話になってしまう。そうすると,私は裁判を起こしづらい国に行きますからという話になれば,そこに訴えを起こすのかという,行為地はそこだという話ならそこに起こすのかという話になってしまいますので,そうすると不法行為の関係ではやはり損害発生地を無限定にするのがどうかと思いますけれども,やられた側からすると,被告の普通裁判籍だけでいいのですかという問題は,意図的な不法行為に対しては多少考えなければいけないところがあるのではないかという気はするのですけれどもね。 ● 意図的なところで切るかどうかが一つの切り方だと思うのです。今の条文は,予見可能だったらもうだめと言われているので,そうするとインターネットだと全部予見可能ではないかとなってしまうわけで,ですから見ることができるけれどもねらっているわけではないという場合には,損害が起きても,起きてもと言うとものすごく引っ掛かりますが,それは管轄原因にはならないということはあり得るのではないかと思うのですけれども。  確かに実体法と違うのだけれども,結局不法行為という概念を使ってしまっているので,管轄はありますと,だけど本案では勝てますよと言われても,世界じゅうで勝つための相当のコストを払わされるのはたまらないということがここでの問題でしょうから,インターネットだけについて意図まで要求するかどうか……。 ● 要求するというわけじゃなくて,ですからかわいそうな場合がありますよということ。典型例を言っただけです。 ● 要求しないと,今の10条の1項bというのは,損害発生地で予見可能であった場合と書いてある。それでは全然保護されないですね。加害者側は。  もちろん,人の悪口を書いている人を保護するのじゃないのですが,まともなビジネスをやっていて,商標を使っているとか著作権,ある国では持っている著作権を使っている場合まで,訴訟に応じなければいけなくなるかもしれませんと言われると,まともなビジネスができなくなるのが困るということでしょうから,そのまともな人を守れるようなルールは必要なのじゃないでしょうか。 ● 名誉毀損だけちょっと違う感じはしますね,そういう意味では。 ● 名誉毀損というのも,また報道機関が公人を批判したりするとなかなか難しい。 ● ホームページに掲載したら,もう全世界でも損害の発生は可能だね。それはなかなか難しい。  それだけ大きな影響力があるのだから,そのぐらいはしようがないといって割り切るか。幾ら何でもそれはひどいじゃないかと考えるか。 ● 繰り返しになりますが,これもしょせんはホワイト・リストと言い切っていいかどうかという話だとすると,もし疑義があるのであれば,例えば次の問5と関係する問題ですが,いわばオーバーキルになるかもしれませんが,物理的な損害だけで限定していくとかですね,不法行為のホワイト・リストの管轄を。という理屈というのはあり得るでしょうか。それとも,やはりインターネットもカバーするような形で,一つは故意の場合,管轄原因としての具体的要件を要求するとか,そういった方法で何とかインターネットを取り込んでいくのか,それともやはり現段階では切り落としてしまうのがいいのかという,その辺のところの見極めだと思うのですよ。現時点でもし議論をするとすれば。つまり,完璧にこれだというルールはなかなか作れないと思います。 ● この電子情報技術産業協会の法務・知的財産権総合委員会の意見の出だしもそう書いてあるのですけれども,民間の企業なんかの本音は,要は世界各国いろいろな法制があって,他国になかなか信頼がおけないとか,裁判制度とか法制ということについてそういうような気持ちを持っているというのがありまして,この条約の大前提は,日本は,この国とこの国は入っていいけれども,この国は入ってきてもらっては困るのですよと言えないのですね。 ● それは分からない。2か国化するというアイデアもなくはないので。 ● いや,今の議論では。そこは,実は言外にいろいろな議論をしているときにそれがありまして,一つはアメリカ等を中心とする過剰管轄に対して何とかしたいという気持ちも一つありますけれども,もう一つは,裁判制度が必ずしも信頼が置けないとか,法制が予測のつかないような判断をするというような国がこの条約の当事者になれるということが前提だとしますと,未確定とか流動的な分野,確定的でないところについてはホワイト・リストに入れることについては,真剣に考え出すと非常に怖い,懸念だという,これが本音でございます。  これは,ほかの場でも我々聞いて,最初はこういうことについて必ずしもこういうインフラ的な条約について協議とかコンサーンというのがなかったのですけれども,いよいよ近づいてきたなということで真剣に考え出すと,この問題が出てきしまうというのが実態でございますので,それがさっき言われましたように,この条約に入る国を限定できると,納得した国だけで,欠席裁判でむちゃくちゃやらないとか,一方的なホームタウン・デシジョンをしない裁判制度と,我々が信任する国だけが当事者になるというオプションがあるのだったら別ですけれども,ないとすると,どうしても流動的な分野についてのホワイト・リストというのは,相当制約的にしていただきたいというのが皆さんの恐らく本音の総意じゃないかと思います。  そういう意味からいうと,このインターネットの話に関しては,確かに条約にこれだけ注目を浴びている分野を取り込まないということに関しては残念だという気持ちはしますけれども,結論が出ようのない問題を強引にホワイト・リストに入れるというのは,ちょっと難しいかなというふうに受けとめています。 ● インターネットをやめて,従来型の伝統的な不法行為で足りるという見解は,私もいいと思うのですが,ただ加害行為地の場合はどうなんでしょうか。損害発生地の方は物理的な,フィジカルなインジャリーの場合ですが,加害行為地の方は,キーボードたたいたところというのかもしれませんが,それが住所地でないところでやっていましたというときに,それは加害行為地だから管轄があると言っていいかどうか。10条1項のbだけに限定をつけるのも,一つのアイデアかなと思うのですけれども。 ● 今の御意見ですと,加害行為地,例えばさっきおっしゃったように携帯で持っていきますね,パソコンを。それでそこで打って,その場所が加害行為地というふうにお考えになるわけですか。 ● 住所地では訴えることができるわけですから,それよりかプラスもう一つという意味ではそれでいいかなと。分からないですけど。 ● 今の点ですけれども,フィジカル・インジャリーの場合に限るといった場合に,それを損害発生地国の部分だけに限るというのか,そういうフィジカル・インジャリーが生ずるような場合の行為地についてもホワイトにして,そうでない類型の不法行為については,そもそもホワイト管轄を認めないというような整理というのもあり得るところかと思いますが,そういうもののところでも,アイデアとして書いたのは,若干今の点が不明確ですけれども,それは二つのオプションとして,つまり損害発生地国の管轄を限るという限度のものとして考えるのか,行為地も含めてホワイト管轄を限るということで考えるのかという,2種類の考え方があり得ると思いますので,そこも念頭に置いてお考えいただければと思います。 ● 問4の①の方の趣旨は,結局これについて問題があるということになれば,条約をこのように修正するという趣旨ですか。 ● インターネットについて,仮にそういう問題があってホワイト・リストに載せないということになった場合,オール・オア・ナッシングじゃなくて,何かやはり載せると。その場合に,いわば切り口として,正に製造物責任によってフィジカル・インジャリーが生ずるようなパターンに限定してホワイト・リストを考えた場合はどうかと,そういう切り口が一つでして,これは多分切り過ぎているかもしれないし,あるいはそうでないかもしれない。あるいは,ほかの切り口がもしあるのだろうかという,その辺りのところについての御意見を伺わせていただけないだろうかというのが問4でございます。 ● 問5も関連しておりますので,一緒にお考えいただきたいと思います。10条を適用すると問題がある事例を除外する方法として,同条の適用対象を製造物責任によってフィジカル・インジャリーが発生する場合に限るというアイデアがあるが,どのように考えるか。また,他のアイデアはあるかということでございますが。 ● 問5と問4が関係するということの意味は,論理的にはブラック・リストはブラック・リストだけで別に適用範囲を限定しなくて,本当にだめなものという形で,製造物責任に限らず一本立ちできるだろうと思うのですが,ここで言う関連性というのは,要するにブラック・リストに載せるということは非常に重い意味を持つとすれば,条約の適用範囲がホワイトについてこれだけであればブラック・リストもこれだけあると,そういう意味でのバランスを考える国もあるので,それで仮にできるだけ多くの国が条約に入った方がいいという観点から,妥協案を考える場合には,ブラック・リスト,わずか限られた領域であっても残るということでも満足できるかどうかというのが問いなんです。  つまり,民事事件一般についてのブラック・リストじゃなくて,ある種の訴訟類型についてだけのブラック・リストと。でも,ないよりはましという考え方がとれるかどうかということです。 ● いかがでございますか。製造物責任について,例えばフィジカル・インジャリーが発生する場合に限るという限定の仕方ということでございますが。 ● ある国で,不法行為管轄が生ずるぐらいの損害を与えた場合であっても,その事項だけの管轄があって,それがホワイトだと。だけど,それ以外の請求は一切できませんと書くわけですね。でも,そうするとそれよりもっと軽い活動しかしていないにもかかわらず,ゼネラル・ドゥイング・ビジネス認めますということは,あり得ることになりますね。  条約で禁止しているところ,条約外で許されてしまうところ,グレーで許されてしまうところとのバランスが何か悪くなってしまいそうで,これが禁止されているのだったらもっと軽いものは全部だめだと関係づければいいのですが,そんなことは考えなくて,ここだけがだめということになったと考えるのは,余り何か説明としては変な感じがするのですけれども。  (米国との非公式協議の結果に基づき、10条に関する米国の考え方についての議論が行われた。) ● 今直ちに,いい解決策をお考えいただくというのは難しいかもしれませんが,ほかに何か御意見ございませんでしょうか。  ないようでございましたら,一応お考えいただくということで,次の問いに移りたいと思います。  問6ですが,18条パラ2eについては,原案を維持するか,それとも何らのか妥協は可能かという,非常にクルーシャルな問題でございますけれども,この点はいかがでございますか。  18条パラ2eは,維持すべきであるということでよろしいでしょうか。もちろん,それが望ましいことはそのとおりなんですが。  では,特に御意見ございませんようでしたら,これはお考えいただくと。正に一番の問題点でございますので,そういうことにいたしまして,問7でございます。  知的財産権全般を適用対象から外すという考え方について,どのように考えるかということですが,これは説明は先ほどしていただいたのでよろしいでしょうか。 ● 外すのも一つの選択と思いますけれども,ただこの「外す」という書き方をするときに,外す対象の知的財産権が何かというのをはっきり書けるのかという気はするのですがね。そうすると,加盟国それぞれからリストでも出してもらって,うちの国はこれだ,うちの国はこれだという形で書くような形にせざるを得ないし,それであっても例えば我が国の中でも,知的財産といったときに何が入るかというのは定義がないですし,しかも実定法上の根拠がなくてもパブリシティー権とか,ひどい人は馬の名前までだとかいう人もいるぐらい,ノウハウもそうですし,そういう形でどこまでになるのか分からない。よほどきれいな書き方,よほどきちんと書かないと,本来きちんとした形の権利としてみんなが承認しているところの特許権とか実用新案権とか,そういうきれいなものは退けてあるけれども,何だかよく分からない変なものだけ残ってしまって,かえって何のために除いたか分からないようなことになりかねないという気がするものですから,もし除くとなれば範囲は明確にする必要があるのじゃないかなと思います。それは,技術的な点からの意見でございますけれども。  あと,外すのがいいかどうかという話については,外してしまえば今と同じ,全部がグレーになってしまうだけの話なんですけれども,特に問題があるのかどうかというと,特に早急に問題があるとは思いませんけれども,それではどこで作るのですかというと,恐らくWIPOとか,そういうところでまた協議はすることになるのでしょうけれども,全くないのとどっちがいいかと言われると,決まっていた方がいいことはいいので,もし外さないで議論ができるのであれば,ないよりは入っている方がましという感じはいたしますけれども,それでもし条約自体が空中分解してもいいのですかと言われると,そこは,そこまでは言いませんよということにはなるのだと思うのですけれども。 ● アメリカで言うトレードシークレットというのですか,それが知的財産権ということと不法行為訴訟と,非常に微妙なところがありまして,登録を要する権利ということにした場合でも,またその登録の範囲とかで,現実はなかなか難しい問題があるというふうに承ったのですけれども,この案に関しまして。  特に,アメリカがそもそも当事者にならなければ身もふたもない話なんですけれども,仮に当事者になって18条2項のeのゼネラル・ドゥイング・ビジネスの禁止が入ったとした場合に,アメリカの知的財産権の重視というプロアテントと,その流れの中でトレードシークレットとかを非常に重視することで,何も根拠がなくて,第三国でビジネスをしていたら,突然トレードシークレットを侵害されたといってアメリカで訴えられるというのを経験もしていますし,そういうところからいうと,知的財産権とは何であるかというのが確かに難しい問題かと思います。 ● そうすると,全体としては適用対象に含めておくというふうに考えるという方向でお考えでしょうか。 ● 入っていた方がいいだろうと思いますが,もしどうしても除く必要があるのであれば,外縁は明確にして除いてほしいということです。 ● この知的財産権の外縁を明確にするのは難しいのじゃないかという御指摘をいただいたのですけれども,その点,感触として,例えばいろいろ国によって出入りがあるかもしれませんが,例示列挙するなり何らかの方法で,最低ここまでは知的財産権ですよというのを輪郭を描いていくというようなことは,相当難しいという御感触でしょうか。それとも,努力すれば何とかできるという感じでしょうか。 ● ですから,登録されている特許権とか商標権とか,そういうものは限定して除くと,その理由とすれば,そういうものは例えばWIPOで協議する方が適当だからという言い方で,そういう典型的なものだけ,登録をするそういう典型的なものだけ除いてしまうというなら,それはそれでいいのだろうと思いますけれども,何だか分からないけれども知的財産権はみんな対象としませんよという書き方は,非常にまずいのじゃないかと。 ● ただ,登録で切り分けるという話になりますと,著作権の問題が出てきてしまうのですが,著作権はかなり典型的な部類かなと。 ● 著作権は,トレードシークレットなんかに比べればましですから,著作権ぐらいはいいのだろうと思いますけれどもね。  ただ,性質的にいえば普通の不法行為と違うけれども,そんなに違いはないので,どちらかというと自然権的な権利に近いので,国家から付与するというか,そういう色彩の権利じゃないので,そこまで別に考える必要があるのかなというふうには……。外縁がはっきりするし,ある程度共通認識がある権利という意味では,著作権はその中に入りますけれども,性質論からいうとちょっと違うような気がする。著作権までは道連れでいいのですけれども,それ以外の何か登録されないトレードマークとか,ノウハウとか,トレードシークレットとか,何か分からないものまで全部外してしまうと,そういう外したものがどうなるか分からない,行方が分からないようなものになってしまいますので,ちょっと嫌だなという感じがします。 ● 不法行為なんでしょうから,トレードシークレット侵害だというのは。 ● 不法行為は不法行為ですけれども。不法行為でいっちゃうとみんな不法行為になってしまうのですね。著作権なんてみんな不法行為なんですけれどもね。客体の権利が何かというだけの話なんで。 ● 本来,著作権は10条では除くと書いただけで規定はないわけですね。不法行為に入っているという前提で今の条文はできているわけですから。 ● 今のところは,かなりざっくりと決まってしまいそうな感じがしますが。  何か伺っておくことはありますでしょうか。--よろしいですか。  それでは,一応用意されました質問事項と申しますか,そういうものはお考えいただいたということになろうかと思います。  これにつきましては,先ほど御説明がありましたように,意見を提出していただきたいということで,1月末日までに提出ということが書いてございますので,よろしくお願いいたします。3月に対象方針と申しますか,4月の会議に臨むに当たっての態度と申しますか,立場を決める際に大きな問題となろうかと思いますのでよろしくお願いいたします。           (今後の部会開催予定について略) ● それでは,長時間ありがとうございました。本日はこれで終わらせていただきます。 -了-