法制審議会 国際裁判管轄制度部会 第10回会議 議事録 第1 日 時  平成15年5月27日(火) 自 午後1時30分                       至 午後5時00分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  ヘーグ国際私法会議非公式会合の審議概要及び「裁判所の選択合意に関する条約案」の内容について 第4 議 事 (次のとおり)               議         事 ● それでは,定刻となりましたので,第10回法制審議会国際裁判管轄制度部会を開会いたします。           (委員・幹事の異動紹介省略) ● それでは,本日の議事に入らせていただきます。  まず,事務当局の方から,配布資料について御説明をお願いいたします。 ● それでは,資料の確認をさせていただきます。  今回の部会におきましては,資料番号35から38までの4点の資料を新たにお配りいたしました。  まず,資料番号35番は,3回にわたる非公式会合の結果として作成された裁判所の選択合意に関する条約草案につきまして,非公式会合に参加されていらっしゃった○○幹事にまとめていただいた報告書でございます。  次に,資料番号36番は,本年3月28日にプレリミナリー・ドキュメントとしてヘーグ事務局より公表された「裁判所の選択合意に関する条約草案」でございます。  資料番号37番は,その仮訳になります。  資料番号38番は,ヘーグ国際私法会議事務局からの「裁判所の選択合意に関する条約草案」に関する照会の文書でございます。内容に関しましては,後ほど,これまでの経緯などとともに御説明いたします。  最後に,事実上のものといたしまして,外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約の英文と和訳の対照されたものを,本日,席上にてお配りしているかと思います。これは,非公式作業部会の作成した条約草案が,いわゆるニューヨーク条約,お配りした条約を一部参照して作成されているため,便宜のため配布させていただきました。  本日配布いたしました資料は以上でございます。 ● 当部会につきましては,第9回が平成14年5月14日に開催されて以来,1年以上部会が開催されておりませんでしたので,従前の経緯,並びにこの1年間でどのような動きがあったかにつきまして,事務当局より御説明をお願いいたします。 ● それでは,引き続き御説明させていただきます。  民事及び商事に関する裁判管轄権及び判決の承認執行に関する条約につきましては,2001年6月に外交会議第1部が開催され,条約の実質に関しましては第2委員会におきまして議論が行われましたが,コンセンサスベース若しくはニアコンセンサスベースで,コンセンサスが得られたところについてのみ確定するという方法で行われたため,多くの点において,2001年の外交会議においては意見はまとまらずに終わりました。この点は,本日お持ちいただいているかと思いますが,資料22番,23番にあります外交会議第1部第2委員会の議論概要及び暫定条文案にも反映されているかと思われます。  結局このような議論の方法を採用せざるを得なかったのは,例えばdoing business管轄につきどのように考えるかといった論点にあらわれますように,裁判管轄に関しましては大陸法系諸国と米国との間で基本的な考えに大きな隔たりがあることに起因するかと思われます。  そして,第2委員会における議論の紛糾を受けまして,第1委員会は,外交会議第2部を2002年末以降に延期すること,及び,その次の第1委員会において,条約を成功させるための前提条件の検討,すなわち合意に達するための考慮要素,交渉の方法,交渉のスケジュールといったことを検討することを決定いたしました。  この第1委員会の決定を受けまして,2002年4月に再び第1委員会が開催されました。そこでも,1999年草案をベースとした包括的な条約を志向するEU,オーストラリア,そして我が国などと,管轄原因を企業間の合意管轄及びphysical injury tortに関する管轄のみに範囲を限定して,いわゆる小さい条約の策定を志向する米国との対立がありまして,その対立を調整した結果として,次の三つの事項がこの第1委員会において決定されました。  1点目は,2003年6月までに開催される特別委員会に提出する条文案を事務局の責任においてまとめること,そして,その作業を助けるために非公式作業部会を設置することが決定されました。  2点目といたしましては,その特別委員会を基礎として,外交会議を2003年後半に開催することが決定されました。  そして3点目といたしまして,非公式作業部会は,まず,合意管轄,普通裁判籍,応訴管轄,支店管轄,physical injury tortに関する管轄,信託に関する管轄及び反訴管轄といった,いわゆるコアエリアと呼ばれる,合意が得やすいであろうと考えられていた裁判管轄原因並びに外国判決の承認執行に関する規定を出発点として,その上で条約の対象とする裁判管轄原因を広げていくという作業手順を踏むべきであることが決定されました。  そして,その決定に基づき設置されました非公式作業部会におきましては,2002年10月,2003年1月,そして2003年3月の計3回の非公式会合を経まして,その成果として,資料36番にあります「裁判所の選択合意に関する条約草案」を取りまとめました。  しかし,その内容は,コアエリアと呼ばれる裁判管轄原因についてすら案文を作成することはできず,結局,合意管轄と外国判決の承認執行についてのみ規定するものとなっております。これは,締約国の多い条約を目指す以上はコンセンサスが確実に得られる点のみを規定し,その他の裁判管轄原因,二重起訴の取扱いといった各国の意見の対立が激しい点を条約から除外せざるを得なかった結果であると考えられます。  そして,2003年の4月,一般問題特別委員会におきまして本条約草案についての報告が行われました。そして,この本条約草案についての議論におきましては,他のいわゆるコアエリアの管轄原因も含めて管轄原因を合意管轄以上に拡大するのは困難であり,仮にそれを行うとすれば膨大な時間がかかること,そして取引実務界では合意管轄に基づく判決が他国で承認執行されることへのニーズが非常に強いこと,更には仲裁に関するニューヨーク条約--これは本日席上配布させていただいた資料にある条約でございますが--が果たしている役割にかんがみれば,合意管轄のみの条約を作成することもまた非常に価値があるのではないかといった,条約草案について肯定的な主張がされ,同条約草案を,一定程度,評価する国家が多数であったとの由でございます。  しかし,同条約草案を基礎として特別委員会を開催することにつきましては,委員会の場で即断することを留保する国もありましたので,同委員会は,この条約草案を基礎として特別委員会を開催することの可否を各国に照会し,その点について多数の支持が得られた場合には,2003年秋までにヘーグ事務局において各国の意見を取りまとめた上で,2003年12月に特別委員会を開催し,その後に外交会議を開催して条約を採択することを決定いたしました。  そして,資料38にありますように,現在,ヘーグ国際私法会議事務局より日本政府に対して照会が来ております。照会の内容としては2点ありまして,非公式作業部会の結果まとめられました「裁判所の選択合意に関する条約草案」を基礎として12月に特別委員会を開催することの可否について,第2点目として「裁判所の選択合意に関する条約草案」の内容について,それぞれコメントを求められております。  今回の部会におきましては,まず,この合意管轄条約草案について○○幹事から御報告をいただき,この条約草案について一通り御議論いただきたいと考えております。その上で,次回の部会におきまして,いわば二読の議論をしていただき,ヘーグ事務局からの照会に対して我が国が回答するに当たって留意すべき事項の最終的な御指摘を賜りたいと考えておりますので,どうぞよろしくお願いいたします。  事務当局からの,これまでの経緯等に関する説明は以上で終わらせていただきます。 ● それでは,実質的な審議をお願いしたいと思いますが,まず,ヘーグ国際裁判管轄条約非公式会合における審議概要と,非公式会合の成果として提示されております合意管轄条約草案につきまして,○○幹事より御報告いただきます。  それでは,お願いします。 ● それでは,御報告いたします。  事前の時間割では,休憩までの間を使ってよいということでございましたが,必ずしもそのような時間配分がちゃんとできるかどうか分かりませんけれども,少し丁寧に御報告をさせていただきます。  私の資料は資料35でございますけれども,そのうちの1ページと2ページは既に経緯として説明がございましたので,3ページの条約案の全体についてというところから御報告申し上げたいと思います。  この非公式会合は,十数人の個人の資格で参加するという形で集まった人たちで行われたものでございますけれども,幾つかの国,日本もきちんと相談してきましたし,アメリカ,ヨーロッパはそれぞれちゃんとした方針を相談の上で来たようでございます。ただ,そうでない専門家もおりまして,全くその場限りの意見を言っていた方もございます。いずれにしましても全体としては,そういう発言について,どこの国が何を言ったということは後で言わないという前提で議論を進めたものであります。  場所はヘーグの事務局の建物の中で行いまして,事務局は随分と資料提供等サポートしておりました。  議長はデンマークのフィリップという弁護士さんですが,古くからヘーグ国際私法会議に関係されている方であります。  いきなりこの条約自体に入る前に,全体としてもう少し申し上げますと,今までもう10年近く議論してきて,非常に難しいという認識でございまして,特にアメリカは,もはやのめないということが明確に幾つかの点についてはあるようでございまして,自分たちが現在フェアであると考えて行っているものをブラックリストに載せることについては決してのめないと。それから訴訟競合ですが,複数の訴訟が競合するような場合に,アメリカではフォーラム・ノン・コンビニエンスという形で,裁判官に与えられた裁量の範囲内で行っているわけですが,それをリジッドなルールで,先に係属したものが原則優先し,その将来の承認執行可能性を考えてといったドイツ法的な処理は到底のめないと,同じ事件が国内で係属した場合と外国で係属した場合に,外国の方をよりきちんと処理するというのはアメリカにとってはできない相談であるということでございまして,その両者から,特に後者の点から,複数の管轄原因を条約の中に置くこと自体がもやは不可能であって,複数の管轄原因を義務的なものとして置くとどうしても訴訟競合が起こるので,それでその義務を解除する必要がありますから,どちらかを優先させることを認める規定,あるいはそのことを義務づける規定が必要になりますが,その規定の仕方について,のめないということなんですね。  そうしますと,従来言っていたホワイトリストですが,ホワイトリストには一つしか載せない,ブラックリストもないということでございます。  それで,何をホワイトリストにするかということについては,先ほどの経緯の御説明でもありましたけれども,ニューヨーク条約が仲裁の分野で非常にうまくいっていると。裁判所がカウンターパートとして使われないとすれば,それは面白くないといいますか,それが使われるようにしたらどうかと。ニューヨーク条約が仲裁において果たしているような役割を,裁判所を使う紛争解決についても,その条約を持つことによって実現しようという,これは特にアメリカが随分繰り返し言っていて,これだけでもすごく意味があるんだと繰り返しておりました。  ヨーロッパは--日本もそうですが,それは現在でもそれほど問題はないし,そこについてあえて条約を作ることがこのプロジェクトの終わり方として意味があると強く言えるかというと,それは相当に疑問があるということは言っておりましたけれども……,まあ言ってみても仕方ないことですが,しかし,プラスの評価だからそこにすごく意味があるというのではなくて,仕方ないからそこでとりあえずこの条約案としてはまとめましょうというのがアメリカ以外の国のスタンスでありまして,ですから,私は,派遣していただいて,議論してきましたけれども,力及ばず,このようなものになってしまったことは非常に残念でございますし,申し訳ないと思っております。  というのが全体のイントロダクションでございます。  それで,3ページでございますが,この条約案は全体で五つの章からできておりまして,これはもとの大きな条約の場合と同じでありまして,条約の適用範囲等を書いたものをイントロダクションとしておいて,直接的な裁判管轄と,それを受けた判決の承認執行規定を置き,その後に幾つかの一般条項,最終条項を置くと。それから,最後に附属書として判決の確認書のモデルがついておりますけれども,これは,使う,使わないは自由であるという前提のものでありまして,ただ,そういうものを使えばお互い便利だと,要するに手続が早く進むのではないかということから,使う場合にはこのようなフォームを使えばよいというのでついているものでございます。  主たる内容は,専属的な管轄合意がある場合に,一定の要件を具備すれば--方式とか,実質的成立要件とかの要件ですが,それを具備する限り,管轄を肯定する義務を負うと。そういう意味でホワイトリストなのですが。それで,他の国はその同じ事件についての手続は開始しないと。ですから,一つだけの国が管轄を持つことになる。というのが一つの柱であります。  合意管轄といってもいろいろな種類があり得るわけでありまして,ここでは,その中で,一つの裁判所を専属管轄とする合意だけです。非専属的合意管轄とか,あるいは複数の国,AとBとCだけで訴えを起こしてその中から選べるというような形の合意,そういうものはすべて除かれておりまして,それは,先ほど申しました訴訟競合の発生を避けるということから,ホワイトリストはあくまでも唯一の管轄がある場合だけということになっています。  しかし,判決の承認執行においては必ずしもそこにこだわる必要がないというか,一応処理はできるということから,専属か非専属かを問わず,合意管轄に基づいてなされた判決は,一定の要件を具備する限りその効力を認めるということになっておりまして,やや非対称といいますか,直接的に裁判する場合は非常に狭いですけれども,判決の承認執行はやや広くなっております。  その後のペーパーに書いてあることはもう既にお話をしました。  3ページの下の方ですが,合意管轄条約として,既にヘーグ国際私法会議においてもかつて作成されたことがございますが,そういったもの,あるいはその他のモデルというか既にあるものと比べて,この条約案の特徴というのが幾つかございます。  第1に,消費者契約とか労働契約についての合意管轄は適用対象の外に置くということでございます。ほかにも適用範囲外にされているものがございますけれども,しかし,あえてこの二つを特に申し上げますのは,ヨーロッパの国々の間で適用されておりますブラッセル条約,あるいはブラッセル規則,それからルガノ条約という法的枠組み,条約その他規則がございますけれども,そこにおいては,消費者契約・労働契約においては,消費者保護及び労働者保護の観点から事前の合意管轄は原則無効,ただし消費者及び労働者に有利な合意だけ,例えば消費者側が選べる裁判所をふやすとか,あるいは紛争発生後の合意,そういうものは例外になっていますが,原則として,合意管轄をすると消費者・労働者は付合契約的にそれをのまされてしまうということから,合意管轄を無効にしているわけですが,アメリカにはそういう考え方はございません。日本も,裁判例を見る限り,そのような保護を与えた例はございません。むしろ合意管轄条項どおりの判断をした例はございますけれども。そういう違いがあるものですから,その点は除くという形で,ヨーロッパではだめということで結構だし,アメリカでは認めるということで構わないということができるようにしております。  2番目の点は,これも既に申し上げましたけれども,専属的な合意管轄がされている場合にだけ,締約国の管轄を認める義務が発生するということにしております。  3番目の点はもう既にお話をしましたが,判決の承認執行については,非専属的な管轄合意による判決も対象とすると。  4番目の点は,これは後で少し詳しく申し上げないと分かりにくいことかもしれませんが,合意管轄の実質的有効性についての準拠法の規定は置かないということでございます。ここは相当もめまして,合意管轄条約の核になる規定で,合意自体が有効かどうかという話ですから,そこについての判断基準を明確にしないのでは意味がないではないかということを随分議論したのですが,合意管轄条約に限ったにもかかわらず,結局意見はまとまらず,規定は置かないと。ただし,先ほど御紹介のあった仲裁判断についてのニューヨーク条約にあるような規定を一部参照してコピーしてくるということはいたしましたが,私から見ると,ニューヨーク条約より少し分かりにくくなっているといいますか,よりあいまい性の程度が高いといいますか,不明確さが大きくなっているように思います。  5番目の点は,純粋な国内事件について自国の裁判所を指定する合意は有効だといったことは,これは条約でわざわざ定めなくてもよいということから,国内法に委ねるということですが,しかし,そのような場合の判決は承認執行の対象にしましょうということにしています。他方,純粋な国内事件で,ただし外国の裁判所を指定しているという点だけ外国的な要素がある事件についてどうするかと。これは特に中国の方が,中国ではそういう合意は認められないということをおっしゃったものですから,それを義務から外すような規定になっております。  最後のポツですが,合意管轄以外には関係がない場合というのはちょっと分かりにくいですが,要するに,例えばニューヨーク州の裁判所を指定しているのだけれども,事件はニューヨークとは全く関係がない,ただニューヨーク州の裁判所を指定している点だけで関係があるような場合には,ニューヨークの裁判所としてはその管轄を認めないということをすることができるという留保を認めると。留保しない国はウエルカムでいいのですけれども。これはアメリカが言っておりまして,ニューヨークは特別ですが,それ以外の州の裁判所はそういうのは迷惑だと。アメリカは,陪審とか,タックスのペイヤーではないとか,そういう観点から,そういう人に来てもらうのは困るという考えも相当強いようでございまして,それは留保で処理するということになっております。  さっきの中国の言っていた純粋国内事件の話と今の話とで処理の仕方が違うのは,必ずしも説明はしにくいのですね。ですから,中国の方も留保でもよかったのかもしれませんが,今の条文案では,全体から中国の問題については除くという形で,すべての国が使えるようにし,アメリカの問題については,そういう同じ懸念を持つ国は留保しなければいけないということになっております。  あと条文の説明でございますけれども,全体としてそれほど長い条文案ではございませんし,幾つかの規定は既に2001年の外交会議のときにつくられたものをそのまま持ってきておりますので,それほど目新しいということはないのではないかと思いますけれども,ただ,そこがかえって,合意管轄条約に限ったのにもかかわらず,大きな条約であった規定をそのまま無批判に持ってきているといいますか,合意管轄になったのだから少し考え直すということがもしかしたら必要だったかもしれないというところも入っているように思われますので,そこは,日本がコメントを出すとすれば,言っていただければいいのではないかと思いますけれども,重要なところを中心に御説明申し上げたいと思います。  まず,前文でありますが,これは余り毒にも薬にもならないとは思いますけれども,しかし,考え方として,国際的な取引の促進,投資の促進ということを目的としていて,だからB to B,ビジネス・ツー・ビジネスの合意の有効性を保証すると。それで,そのような判決の承認執行を円滑化するということを特に書いておりまして,そのことによって,さっきの労働者契約とか消費者契約を除くというのは,困難なことを回避するというだけではなくて,目的にはならないといいますか,目的から外されるということにしております。  このコメントに書いてありますのは細かな話で,私にはちょっと英語がよく分からなくて,「business」だと,アメリカ合衆国政府が当事者になる場合に困ると。それで「commercial」ならよいというのは,そこがちょっとよく分からないのですが,そのようなことがあって,ここで「商取引」と訳している部分について,「business」ではなくて「commercial」がよいといった意見がございました。  1条でございますが,1条の1項は,この条約の全体の方針として,民事又は商事に関する裁判所の選択に関する合意に適用するものだと。  それで,「civil and commercial matters」なのか「civil or commercial matters」なのか,andかorかというので,アメリカは要するにcivilという言葉がないといいますか,ないわけはないと思いますが,法律上の概念としてははっきりしないので,andだと困ると強く言っておりまして,orとなりました。どう違うのかよく分かりませんし,適用範囲がandとorで変わるとは私は思いませんけれども。従来の条約で「民事又は商事」というのはよく出てくるフレーズで,ヘーグ条約,幾つか別の事項についての条約で出てきますけれども,andとorと,両方あるようですね。  2項,3項が除外事項でございまして,3項を受けて4項があったりするという構造。5項も除外ですか。このあたりの切り分けが必然的かと言われると,ちょっと困るのですが,今までの経緯と,重要性の観点から,幾つかの場所に分けて規定しているというわけでございます。  まず,2項では,先ほどから申し上げておりますように,消費者契約と労働契約の事件は除くということにしておりまして,この消費者契約の定義の仕方とかについては--労働契約はそもそも定義がなかったと思いますけれども--前の2001年の条約案から持ってきたものでございます。ブラッセル・ルガノ・ルールではどうなっているかということは既にお話をしました。4ページに書いてあることはそのような説明を書いているものであります。  それから,3項のほとんどは2001年のときの外交会議の結果到達した合意案で,いっぱい括弧がついていますが,その中から適宜引っ張ってきたものでありまして,(a)から(h)まではほとんどそのまま持ってきております。ですから,これが今申し上げたようなこと,要するに不法行為責任とかそういった問題も含まれている条約--今回,別に不法行為事件を含まないわけではございませんけれども,条約の適用範囲が広いときの除外事項としてはしっくりきても,ここの場合にはしっくりこないというように見えるものもございますし,更には例えば倒産とかの事項を除くというのはどういうことなのかと。そのことと,例えば「自然人の地位及び能力」を除くということは,何か種類が違うことのようにも思われますが,しかしそのまま持ってきたのが,これであります。  変わっていますのは,一つは(f)でして,(f)は従来,海事ということを書いていただけなのですけれども,合意管轄に関しては,船荷証券条約で日本も--何年のバージョンに入っているのか,多くの国が入っているバージョンに日本も入っておりますが,その条約において,船荷証券条約において運送人の責任を軽減する特約は無効だという規定があって,その後,運送人の責任の軽減の方法として合意管轄を使うという例があって,その効力はどうかということについて幾つかの国で裁判例がございまして,そこが必ずしも統一されていないということから,運送契約,海上物品運送について除くということは必要かもしれないけれども,海事全般について除く必要は必ずしもないのではないかという意見がございました。しかし,逆の意見は,海事については海の専門家もたくさんいて,それはそれで大きな分野であって,利害関係者がちょっと違うものですから,その人たちに従来,除くということで相談してきていないので,今更除外を小さくして,海上物品運送契約以外の海事は入ることになりますと,今度またそちらに意見聴取をしたり相談したりしなければいけなくなるということで,それは反対意見もございまして,両者が括弧書きになっております。  それから(k)でありますが,(k)は特許・商標等の知的財産権についてでございます。これについては,実はこの(k)だけではなくて,本当は(i),(j),(k)というのがセットなのですけれども,2001年の条約ではこれは専属管轄の規定として置かれていたものでありまして,例えば不動産については不動産の所在地国の専属管轄という形で規定されていて,知的財産権についてはその中でいろいろ議論が対立していました。その専属管轄にする範囲についてどうするのかと対立しておりまして,この条約においても,専属管轄ですから,合意管轄を無効とするとかいう扱い方もあり得るわけでありますけれども,しかしそこまでは書かないで,除外して,各国の措置に委ねるといいますか,無効だという国もあれば,あるいはその範囲が違う場合も,ここに書かれている除かれた範囲については自由に,無効とする範囲を決めてもよいとなりますので,面倒は避けるというのがこの条約案の基本ポリシーですから,核になる合意管轄のところをきちんと決めておくことに意味があるということからすれば,そういう問題が起こるところはすべて除きましょうということで,このようになっています。  ただ,アメリカは,特許・商標はよいけれども,それ以外の知的財産権の表示の仕方についてなお調整できていないと。特に著作権関係の,特に権利者のようですが,権利者側から,何とか条約の適用範囲にしてもらえないかという意見もあるようでございまして,しかし反対側の当事者も多分いるはずですから,それについては少し考えさせてくれということで,この(k)については,規定が,知的財産権のところは追って定義をするということで終わっております。  そのほか,表現ぶりが少し違うとかいうことはございますけれども,大体3項はそういうことであります。  ただ,4項において,この3項に書いた事項であっても,それが前提問題としてだけ生ずる場合には,判断してよいといいますか,合意管轄を有効とし,その有効とされた合意管轄に基づいて裁判所が判断することは妨げないということを書いております。これは,従来から,特に特許について,侵害訴訟ならば専属管轄にしなくてよいではないかと,要するに特許の有効性自身を争う訴訟については特許付与国の専属管轄だとしても,特許侵害訴訟は不法行為の一つとして扱ってもよいではないかという意見があり,ただ,そのときに,しかし有効性の抗弁が出たらどうするかということから議論が紛糾していたわけですが,ここでは,そのような形の抗弁として出てきたような場合には有効・無効の判断をできるということにしております。ただ,従来から意見が分かれているところですし,決着もついていないところですので,これについては括弧書きになっています。  ただ,判断できると言っている側も,このただし書にありますように,それは当事者間の効力にすぎない,対世効のあるような判断ができるわけではないということは当然のことで,書くまでもないのかもしれませんが,こういう条項でそういう懸念を排除するために書いておこうということのようでございます。  ただ,これで入りますと,多分,日本の特許侵害訴訟を外国でやりましょうという合意管轄ができて,その外国が日本の特許を無効だとかいう判断をし,その判決は執行しなければならない,あるいは承認しなければいけないということになりますので,国内の裁判所についても普通にはさせないことを外国の裁判所にさせてよいかというのは,日本としては問題がありそうに思います。もちろん,最高裁で,特許阻害にはなってもいいという扱いのようでありますが,しかし,正面から有効・無効ということまでは最高裁も認めていないので,日本の裁判所が特許についてそういうことを言うことはできないと考えられますので,そこがちょっと日本としてもバランスが悪くなるおそれがあるかなというふうに思います。  それから,5項,6項,7項は2001年の条約案そのままなのですけれども,特に5項について申しますと,5項は,仲裁についてはこの条約は関係ないということを書いているわけですが,さっきちょっと申しました3項の(e)の倒産の話と,仲裁の話と,ほかとちょっと種類が違うのではないかという点ではむしろ似ているので,要するにこの二つは似ていて,なぜ倒産の方が3項であって,仲裁だけは5項で特に書いてあるのかということについては,整合性といいますか,規定ぶりの一貫性からはやや問題があるようにも思います。  なお,以上で1条は終わりなのですけれども,2001年条約案では1条の後に--これは事項的適用範囲ですが,その後に地域的適用範囲という規定があったのですが,今度の合意管轄の条約案では,地域的適用範囲という問題は特定の条項だけが関係するし,それが,個々の条文ごとに見ていかなければいけませんが,必ずしも同じ範囲である必要はないということから,問題になりそうなところで書いていくということで,統一的な地域的適用範囲の規定はなくなっているのです。ただ,前から,合意管轄についてはその中でも特に規定が置かれていましたので,考え方自体はそう大きく変わったわけではないと思いますけれども,条文としては一つの条文が丸ごとなくなっているというわけであります。  2条に移らせていただきますが,2条は幾つかの言葉の定義をしておりまして,まず「裁判所の選択合意」ということについて,これは,複数の当事者が特定の法律関係に関係して,その当事者間に生じた,又は生じるであろう紛争を解決するために,一つ若しくはそれ以上の国の裁判所又は一つ若しくはそれ以上の特定の裁判所を指定する合意と。国を指定するか,裁判所をいきなり指定するかは両方含むわけですが,この定義自体は,専属と非専属とを両方含む言葉だというわけです。  その上で,「専属的な裁判所の選択合意」というのは(b)で規定しておりまして,一つの国の裁判所又は一つの特定の裁判所を指定し,他のいかなる裁判所の裁判管轄権も排除する裁判所の選択合意を言うと。特に専属と言っていなくても,一つの国の裁判所又は一つの特定の裁判所を指定していれば,それは専属的なものとみなす,別段の合意がない限りそうみなすということになっております。  (c)は「判決」でして,これは前の条約と同じでありますが,名称を問わないということで,広目に規定してあるというわけです。  それから,2項は,法人等ですね。社団又は財団等について,当事者の常居所という言葉が出てくる場合に,どこにその常居所があるのかを,こういう国にあるものとするということを書いております。  これは,しかし,2001年条約では,普通裁判籍がここにあるという形で定義されていたものでありまして,本条約において法人等の常居所が問題となる状況とは全く違う状況であるにもかかわらず,このように四つ並べて,私の見方では,どこにもあるといいますか,特に設立準拠法と業務の中心地,(b)と(d)が違ってくるという場合はよくあることであります。デラウェア州法人でニューヨークが本拠地とか,ケイマン法人で日本でやっているとか,そういうものはあるはずでございまして,普通裁判籍としてはそれでよいとしても,この条約でそれがぴったりくるのかどうかは,なお検討が必要かなと思います。  この四つがどう違うのかという話は,2001年の条約案までのところで済んでいまして,結局どう違うかは説明できないという以上はございませんで,国によってどうしてもこの言葉がよいというところを全部入れてしまっているのが,この表現ぶりであります。(b)は明らかにはっきりしますけれども,(a),(c),(d)がどう違うかということについては必ずしもコンセンサスはないのではないかと思われます。  3条に移らせていただきますが,3条は,裁判所の選択合意が方式上どういう場合に有効なのかということについての規定であります。  これは,実は2001年の条約案でもこの種の規定はございましたが,今回特に議論になったのは,個々の表現ぶりはほぼそのとおりであるけれども,書面によった場合とか,あるいは電子的な手段で後の参照の用に供し得る情報を残す他のすべての通信手段によった場合とか,あるいは(b)で,口頭によって,後でそれが確認されているような場合とか,あるいは当事者に通常遵守されているような慣行,あるいは,当事者ではなくて,業界ではそれが通常遵守されていて,そのことは知っているはずであるというような慣行,そういうものを並べているわけです。  それは前と変わりませんけれども,問題は,「は」とするか「のみ」とするかで,これは「only」を入れるかどうかなのですが,この違いは,「only」というのを入れますと,これよりも軽い要件しか定めない国内法はだめになりますが,「only」を入れませんと,少なくともこれは有効にしなさいということで,より軽い要件,例えば一切方式要件は課さない,口頭の合意でもよいというやり方が,もしあるとすれば,それも構わないということになるわけです。  それをどちらをとるかについて,2001年条約案では「のみ」という言葉はなかったのですけれども,より軽い方式を認めるという明確な判断があったわけではなかったために,今回,それが相当,非公式会合では議論がありまして,狭い条約なんだからここぐらいは統一してはどうかということでいうと「のみ」が入ると思いますし,更に,方式要件というのはやはり二つ意味があって,一つは当事者の保護になると。要するに心して合意管轄をするといいますか,書面とかいうことを要求しているということ。それから,裁判所の側で合意のあるなしを判断するときに,証拠がはっきりしていて判断しやすくなるということはあるのですが,その価値を--これよりももっと軽いというのは,ほとんど方式がないぐらいに軽いものだと思いますけれども,そのようなことにしてしまってよいのかということが実質的な判断の違いでありまして,日本は今のところ,民訴法では書面性が要求されていますし,国際裁判管轄としては,昭和50年の最高裁判決で,しかし紙はあったケースで,船荷証券に一方の署名があったというだけのことですが,それでよいと言っていますけれども,ここに書いてあるほど軽いもので今のところはよいと言ってはいないので,日本国については余り懸念--懸念というか,これより軽くしなければいけないというニーズはない。とすれば,「のみ」を入れておいた方が,日本の裁判所としては分かりやすいといいますか,日本の当事者の保護にもなるということかなと思います。それは私の単なる私見でございますが。  それから,4条以下が裁判管轄権の条文になります。  4条は,1項を少し読ませていただきますと,  当事者が特定の法律関係に関係して生じた,又は生じるであろうあらゆる紛争について,締約国の1つ又は複数の裁判所が裁判管轄権を有する旨の専属的な裁判所の選択合意をしたときは,その締約国の当該1つ又は複数の裁判所は裁判管轄権を有する。ただし,その裁判所が,その合意が無効であるか,失効しているか,又は履行不能であると判断した場合はこの限りではない。  これは,ちょっと今読んでいて,この日本語ですと誤解を招きそうといいますか,2行目の「締約国の1つ又は複数の裁判所」というのは,「1つ又は複数」は「裁判所」にかかっているのですね。そうでないと,先ほどから言っている専属管轄に限っているという話にならない。日本語としてどういう表現になるのか,ちょっとすぐには分かりませんが,その趣旨であります。それは先ほどから,非専属性が入ると困るということをそこにずっと書いております。  そのことは,政策判断としてそのことをはっきり書いていれば,とりあえずは--判断はともかくとして--よろしいのですが,問題はただし書でありまして,これが実質的有効性についてのことなのですが,方式要件は3条の条文でありますから,それを見て決めると。ところが,合意について瑕疵がある,例えば詐欺であったとか錯誤があったとか,そういう主張,あるいはそういう問題が生じたときにどのように判断をするかという点についてであります。  これは,今日お配りしているものの9ページのところの第1パラグラフといいますか,「1項は,「合意」が無効等である場合」というふうに書いてありますけれども,この最初の方で書いているのは,行為能力があるとかないとか,あるいは強行法の適用で問題となると。要するに,何らかの強行法規があった,例えばフランチャイズとか,あるいは代理店とか,企業間であっても弱者側というのがあるわけで,それに合意をのませているようなものについて無効だという法律があったときにどうなるのかということについては,とりあえずここでは入らない。それは除いてという,そういう前提の議論だったように思います。ただ,そこが明確にはなっていないかもしれません。しかし,能力につきましては,そもそも1条の3項(a)で能力は除外になっているので,これは各国でやるしかないということなので,自然人の能力はそうなのですが,法人の代表者について権限踰越だという問題は除外事項には挙がっていないので,これをどういうふうに考えるのかということは問題になるように思われます。その前提としては,今言ったようなことで,ここではそういう議論はなかったのですけれども,条文を見ますと,法人の代表者の権限がないから合意が無効だということもこのただし書で読むほかないのではないかと思います。  それから,次の合法性の点について。これも,消費者契約・労働契約が無効になるという話は,もう既に御紹介しましたように適用除外なのですが,あるいは純粋な国内事件について外国裁判所に専属管轄を与える合意,これも,先ほど,中国が言ったルールと言ったのですが,これについても5条の(b)で義務を外していますので,それで更に承認執行義務を外しているということですが,それら以外の強行法規との関係については,この4条1項ただし書で処理するほかないのではないか。ほかには条文がないんじゃないかと思うのですね。一時期は,公序という規定を置こうという,あるいはmanifest injusticeとかunreasonablenessとか,そういう規定を置こうという話もありましたが,それはなくなっていると思いますので,ここで読むのだろうと思います。  次は内容の話ですけれども,このただし書が定めていますように,合意が無効か,失効か,履行不能であるということなのですけれども,そもそも2001年条約案では何も書いていなかったところ,今回の狭く絞った条約においては何も書かないわけにはいかないだろうということで,幾つかの意見がございました。  一つは,9ページの下の方に(ア),(イ)と書いてあるのがそれですが,一つの意見は,合意管轄条項により指定された裁判所の所属国の国内法といいますか,実質法によるということにしてはどうかというわけであります。パリの裁判所に合意すると言えば,フランス法によってその合意の実質的な要件,詐欺・錯誤等について判断をしていくというルールにしてはどうかと。これは,合意管轄で指定された国の法律を適用するという国際私法規定を置くということで,この点,国際私法の統一を図るということになります。他方,それに対して,そうではなくて,問題を判断する裁判所がそれぞれ自国法を直接適用するか,あるいは自国の国際私法で指定された法律によるか,それは自由にすればよいと,その方がよいのだという意見の対立であります。もちろん,(ア)の方が,より国際的なルールの統一には進みますが,しかし,そのような指定された裁判所の所属国の実質法によるというルールを今まで適用していなかった国にとっては,新しいルールを受け入れなくてはならないというハードルになるわけであります。  これは,私はその場では(ア)をやるべきだと言っていた者の一人なのですが,重要性は,10ページのところに書いていますように,もしこれを各国の自由に任せてしまいますと,一つの同じ合意について,選択された裁判所から見るとそれは無効だけれども,他の裁判所から見ると有効だということになりますと,当事者はどっちにも行けないといいますか,さっきパリの裁判所といったので,パリに行くと,フランスとしてはそれは無効ですと言われて,では日本で提訴すると,その合意は有効だからフランスへ行くべきだということになってしまいかねないわけでありまして,それは法の間隙に落ちるといいますか,透き間に落ちてしまうし,逆の場合には訴訟競合になるわけで,まずいではないかということを言っておりました。  さらに,ニューヨーク条約を今日席上配布していただいておりますけれども,ニューヨーク条約のつくりとしては,仲裁合意の実質的有効性は2条3項に書いてあって,これが同じなんですね。今の4条1項の規定ぶりと同じで,その合意が無効であるか,失効しているか,または履行不能であると認められる場合を除き,その仲裁の合意を有効とするということになっておりまして,同じだからよいではないかという議論があったわけですが,ただ,仲裁については,ニューヨーク条約では5条の(1)の(a)において,外国仲裁判断の承認執行の場合には,「第2条に掲げる合意の当事者が……無能力者であったこと又は前記の合意が,当事者がその準拠法として指定した法令により若しくはその指定がなかったときは判断がされた国の法令により有効でないこと」というので,合意の有効性について準拠法を書いてあるのですね,その5条(1)項(a)の方では。そこでは,だから,当事者は準拠法指定ができますということと,指定がなければ判断がされた国の法令だという規定ぶりになっています。そうであれば,そのことの反射として,2条3項に書いてある無効,失効,履行不能も同じ準拠法で判断するということになるのではないか,そうでなければ,またつじつまが合わなくなる,という解釈をとるべきではないかということを言い,そうであれば,ニューヨーク条約は,そのような手当てのないこの条約よりはきちんと書いてあるということになるではないかということを主張したのですが,それは一つの解釈で,そういう解釈をとるとばかりは言えないといいますか,ほかの解釈もあり得るところであるし,という主張もありました。イギリス,日本,それから欧州委員会から来ていた人は,そのようなことでできるだけ明確にすべきだと言ったのですが,反対が,特にアメリカはそれに反対していたのですけれども,ニューヨーク条約の解釈は必ずしもそのようには統一されていない。「これに対して」というところに書いたところですが。  それから,アメリカでは,とはここには書いておりませんけれども,アメリカの判例では,その点について判断を求められたそれぞれの裁判所が自分の法廷地法で判断していたり,あるいは自分の国の国際私法で判断したりしていて,そのことをこの条約で変更させるということになると批准国を減らすのではないかというわけです。だから,規定は全く置かないか,置くとしても法廷地国際私法によるというぐらいでおさめるべきだと。  アメリカは,ここにも書いておりますが,現行法のルールを変更しようとすると必ず敗者ができる,それは避けるべきだと言っていて,アメリカは何も変えるつもりはないということを強く言っていまして,何も変えないで通る条約じゃないとだめだということから,それは規定できないということでした。それは,ほかの国から見れば,それじゃアメリカは全く何もしないで自分の判決を承認してほしいというだけじゃないか,条約に乗るルートがつくられればいいじゃないかと言っているにすぎないのではないかということになるわけですが,そのことは別に否定はしていませんでしたね。それでみんなハッピーじゃないかと。ウィンウィン・リザルトにしましょうと言っているのですね。だれも敗者をつくらないようにしようと,みんながハッピーな状態になる,何も痛い思いをしないで済む方法がよいのだというポリシーだったようであります。  しかも,仮に,こういう国際私法のような,要するに当事者の準拠法指定を認めて,それがなければ指定された国の法律と,先ほどのところはちょっとそこは丁寧には書いていませんでしたけれども,そういう国際私法の規定を置くと,そこで指定された法律が余りにひどいといいますか,適用結果が,詐欺とか,ほとんど認めなかったりする法律の適用になってしまうと,それを排除する公序規定がまた要るじゃないかと。公序規定をまたそれで置くと,しかしアメリカは自国では公序規定はほとんど発動しないと言っておりましたが,アメリカの裁判所は公序という規定はめったなことでは発動しないので,そうすると,もう少し使いやすい,さっき言いましたunreasonablenessとかinjusticeとかいうことを置いてもらわなきゃ困ると。それをすると,またヨーロッパが,それは余り不明確でよくないと。ということになるものですから,結局妥協で,ニューヨーク条約もそうなんだからと。で,私が申し上げたような解釈は一つの解釈にすぎないということで,無効か失効か履行不能かということだけを規定したものになっております。  なお,「履行不能」というのは,法的には有効だけれども,実際はそこに行っては裁判できないというような場合ということで,戦争中のイラクに行くといった場合のことを挙げておりました。  それから,次の11ページのところに(あ),(い),(う)と書いていますが,これはさっきとは違う分類で,裁判所の選択合意の実質的有効性が問題となる局面というのは三つあると。それは,一つは,これから自分で裁判しましょうという局面,指定されたので指定された国が自分でやりましょうというときと,指定されなかったにもかかわらず提訴があって,却下しなければいけないかどうかを判断するという局面と,それから,判決がされた後,承認執行が問題となるという局面。その三つにおいて,(あ)と(い)においては,無効,失効,履行不能というのでよいけれども,(う)の場合,既に判決されている場合には,履行不能というのはちょっと変かなということで,この条約でも,履行不能という場合を抜いた形になっているはずです。注の20に書いています。そうだと,本当は(あ)の場合もそうかなというふうに思いますが,(あ)には履行不能が一緒にくっついています。  これが多分一番大きな問題ではないかと思いますけれども,4条の2項に移りますと,これは,国内事項には踏み込まないという趣旨のもので,自国で自国の裁判所を指定しているような場合に,条約で有効だとか無効だとかいうことはないだろういうことになっています。これは既に前の条約でもあったもの,位置は全然違うところにありましたが,あったものであります。  それから4条3項ですが,この事物管轄権と言っているのは,ちょっと日本の言葉としていいのかどうか分かりませんけれども,アメリカが言うsubject matter jurisdictionはこの条約は決めていないのだというものであります。ほかの国から見ればそれは当然だろうということなのですけれども,そこは分からないと。subject matter jurisdictionを規定しないと言いながら専属管轄があったりするのは変だとか,前から話がかみ合わなかったところでして,アメリカから見ると確かにそうかなと思いますので,別に困るわけではないので,このように書いております。  それで,アメリカは,締約国の国内の管轄配分にも影響を与えないということを書いてほしいということだったのですけれども,そこまで書いてしまうと,何か勝手なことをするつもりかという……,まあ,すぐには判断できなかったからだと思いますけれども,それは括弧書きになっております。特に何かすごく大きな対立があったというわけではなくて,問題が起こるかもしれないので括弧ということだけにしております。  それから5条でありますが,5条は「選択された裁判所の優先」というので,専属的合意管轄がありますと,選択されなかった国の裁判所は,次の場合を除いて管轄権を行使せず,又は手続を停止するということになっておりまして,それが,(a)で,合意が無効か失効か履行不能である場合,それから(b)は,両当事者がその国に常居所を有し,裁判所の合意の点を除き,他のすべての紛争に関する要素及び当事者の関係がその締約国に関係している,これは中国が言っていた条項です。それから,選択された裁判所が管轄権を行使しない場合と,この三つの場合だと。  (a)については,先ほどから言っていることと同じ問題がございます。  なお,この(b)の適用について,私ども--私だけじゃないですが,意地悪なことを言っていて,外国裁判所が合意する条項は無効だと中国では言っているけれども,では準拠法も外国というふうにしたらどうなのかということを聞いたのですけれども,それは十分に答えがなかったのですね。単独ではだめかもしれないけれども,両者相まっていいということになると,しかし両方とも当事者が左右できることなので,おかしいのではないかとも思いますけれども,そこまではこの条約には書いておりません。  それから,12ページの,「日本には」と書いてあるところですが,日本にはこのような限定はないと思われますけれども,しかし,(b)が置かれますと,日本人同士で,事案も全部日本絡みで,しかし外国の裁判所を指定しているような場合について日本で提訴されたときにどうするのかと。これは,次に定める場合を除き,普通,日本だと訴えを却下するということになるわけですけれども,次に定める場合に該当したときにどうするかは書いていないのですね。それでも却下してよいのか,どうするのかはブランクになっているのではないかと思われますので,そこをそのまま放っておきますと,裁判官によっては,こう書いてあるのだから管轄権を行使すべきだとおっしゃる方もあるかもしれないし,いやいや日本は別に却下の義務がないだけなので,やはり却下しましょうという方も出てくるかもしれない。それは,ちょっとばらばらになるのは好ましくないのではないかなと思いますので,何らかの措置が要るかもしれません。  6条は「暫定的保全措置」で,合意管轄条項があっても,保全措置はいずれの国の裁判所でも求めることができる,必要なところで求めてよろしいという規定でありまして,前からある規定であります。  ただ,「provisional and protective measures」というものが何を指すのかよく分からないという意見があって,「on an interim basis」でしょうか,「暫定的なものとして」というものを加えるようにしております。日本では,仮差押え・仮処分は,求められればできるということになります。  第Ⅲ章は,承認執行の規定であります。  今のようなこと,もう既にお話ししていますように,専属的な合意管轄の場合にしか管轄の義務はないのですけれども,承認執行の場合については,裁判所の選択により指定された国の裁判所が下した判決は,ここで言う,さっきの定義,裁判所の選択合意というのは非選択的なものも入るということなので,その場合も対象にして,この章に従って他の締約国において承認され,又は事件によっては執行されると。  ただし,その承認執行は次の場合にのみ拒否できるということで,(a)から(e)までを挙げております。この(a)から(e)までも前からあるものとほぼ変わらないのですが,ただ,(a)は必ずしもチェックは,今回の場合は合意管轄のチェックだけですので,先ほどから申していますように,無効と失効がここに書いてあるというわけであります。  そのほか問題なのは(b)だと思いますが,(b)は,手続を開始する文書又はこれに類する文書が被告に対して十分な期間を置き,かつ防御の準備ができる方法で通知されていないことという送達条件を書いているのですが,前の2001年の条約案のときに,ここは日本がオランダを何とか説得して一緒に提案してもらって,14ページのところにありますが,「[,又は[適用される国際条約][通知が実施された国の国内法]に従って通知されていない場合。]」というものも,括弧つきではありますけれども入っていたのですが,今回はそこまで書かなくてもということで,負けております--負けておりますというか,入っておりません。これは,日本の最高裁判決では,日本法に反する送達がされた事例で,それだけではだめだということを言っているものがございまして,私も,送達についてやり方を決めている以上,特に送達条約と条約で取り決めた方法があるにもかかわらず,それに反したやり方をされても実質的にちゃんと伝わっていればいいということでは,条約のエンフォースメントになっていない,罰則とは言いませんが,条約の規定が守られることを担保するためには,そこをとらえて,判決を承認しないという扱いも必要かなと思いますので,そこはあってもいいんじゃないかなと思います。  それからもう1点,これは特に議論なく落ちてしまったのですが,14ページの同じパラグラフの後半部分に書いておりますけれども,「もっとも,被告が判決をした裁判所において出廷し,かつ,通知の点を争うことなく手続を進めた場合はこの限りではない。ただし,判決をした裁判所の法律が通知の点を争うことを認めている場合において被告が争わなかったときに限る」という,送達の瑕疵を治癒する規定が今回は抜けておりますが,それはあった方がいいだろうと。これは日本でも,応訴した場合はよいという規定で短く書いていますが,同じ趣旨だと思いますので,あった方がいいのではないかと思います。  それから,(c)はいいと思うのですが,(d)は,承認執行を求めた判決国が,承認執行国から見ると基本的な手続原則に反する手続で判決をしているというような場合ですが,これは従来から中国が反対していた点です。今回はフランスがそれに賛成--これはフランスと書いていますが,フランス人のヨーロッパ委員会の人だと思いますが,済みません,そこはフランスと書くのはちょっと書き過ぎかもしれませんが,他の締約国に対する不信感の表明は書くべきではないということですが,そういう国がなければ別に問題ない規定なので,そういうことを言うこと自体,ちょっとどうかなと思いますが,括弧書きになっています。  それから2項は,1項があらゆる場合の拒否事由だったのですが,2項の方は,その中でも特に専属的な合意管轄ではない場合の--1項は専属と非専属全部含んでいますが,2項は非専属的な合意管轄の場合だけ。この場合には,さっきから言っていますように,訴訟競合が起こりますので,そのことに対処した拒否事由を入れておきましょうということで,(a)では,既にある訴訟係属と矛盾する判決で,そちらの既にある方が早いと,それでその訴訟係属が外国であれば,その外国の判決は将来承認執行できる場合に限るということです。(b)の方は,訴訟係属との抵触ではなくて,判決との抵触で,既にされた判決と矛盾する場合には拒否をできるということで,専属的な場合には起こらないことですが,非専属的な場合には起こるので,それを書いております。これも,ほぼ同じようなものが2001年の条約案からあったものであります。  3項,4項,5項もほぼ前からあるものでありまして,書いてあることはそれほど大きな問題ではございません。  それから8条ですが,8条も,前の2001年の条約案の29条1項とほぼ同じでありまして,どういう文書を提出するのかということで,その2項のところで,承認執行を求める申立てに,この条約に附属するフォームを添付することができるという,「できる」という規定なので,使いたくなければ使わなくてよいのですが,使いたければ,最後に書いてあるものを添付してくるということになります。  それから9条ですが,9条は,手続について,2001年条約案よりはすっきりし,かつ,余り意味がないといいますか,迅速にせよという訓示規定にとどまっております。  それから訴訟費用についてですが,これも前からあった条文を分かりやすくしただけでありまして,無償でというのもなくなっています。日本としても受け入れやすいのではないかと思います。特に,これは企業間紛争になったので,よいのではないかということだったと思います。  11条は損害賠償なのですが,懲罰的損害賠償についてのかつての33条の1項と3項を持ってきたというものです。  2項では何が書いてあったかといいますと,2項は,懲罰的損害賠償ではないけれども高過ぎるとかいうものも拒否できるということを書いていたのですが,アメリカから,それは非常に不明確だし,当事者が選んでその法廷地に行ったのだから相場が高過ぎるというので拒否をすることは不当ではないかということを随分言いまして,削除されたのですが,私も含めてそれに反対だった側は,でも公序規定というのは別に当事者の方ではなくて,秩序の保護なので,当事者が選んだかどうかというのは関係ないのではないかと言っていたのですけれども,どうも何か相当強硬でございまして,議長は削除ということで決着をつけたかったようでございまして,削除になっております。  ただ,これがどうしてもひどいということになれば,私は,ここではなくて,ちょっと戻って7条の公序規定がありますから,7条1項(e)で拒否はできるだろうと思っていますので,徹底抗戦はいたしませんでした。  12条が,判決を分けて承認執行できるという規定で,これは前からあったもので,その中で,分かりやすく,必要なところだけ取ってきたというわけであります。  それから,和解についても同じです。13条はそのとおりであります。  14条は,内国人待遇の規定にしたということだったと思います。内国人待遇というときの定義がよく分かりませんが,国籍と常居所では差別をしないということであります。それだけで,国内的にいろいろな必要があれば,それは全部内国の人と同じようにしなければいけないということになります。  15条は,アメリカが言っておりました,自国と関係ないんだけれども,裁判してくださいと来るような場合の規定でありまして,それは留保するということであります。そもそもアメリカは,合意が不合理な場合には拒否できるようにしたいということが当初の希望だったのですが,それはフォーラム・ノン・コンビニエンスを導入するようなことになるので,それは困るということで,結局この留保を認めるということで決着がついたところであります。  16条は,中国の条項の5条の(b)をバックアップするといいますか,それの承認執行の局面における支障をなくすといいますか,これがないと,中国ではだめだといっても,外国でやってきたものを中国が承認執行しなければいけなくなりますから,それの留保は宣言しろということになったわけであります。  19条は,本当は重要な規定で,ブラッセル・ルガノ・ルールとの関係づけの規定ですが,これは依然として責任ある条文は出さないということを言っておりまして,いまだに出てきておりません。  ということで,大体時間となりましたので。 ● ただいま○○幹事の方から条約草案につきまして詳細な御説明をいただいたわけですが,ほぼ休憩の時間になりました。実質的な条約草案に対する御審議は,この休憩の後にお願いしたいというふうに考えております。よろしくお願いいたします。           (休     憩) ● それでは審議を再開させていただきたいと存じます。  本合意管轄条約草案の内容並びに草案を基礎といたしました特別委員会の開催の可否について,御意見をお伺いしたいと思います。  まず,○○幹事の御報告並びに管轄条約案の方向性等の総論につきまして,御質問,御意見等ございますでしょうか。逐条的な検討につきましては,総論的な議論を終えた後に行いたいと思いますので,よろしくお願いいたします。 ● 大変素朴な疑問なのですけれども,アメリカがこの条約の作成において何らかの譲歩を強いられるということは本当にあるのでしょうか。もしないのであるとすれば,アメリカの現行法を条約にするだけということになってしまうのではないかというような懸念を持ったのですが。まだ詳しく検討しておりませんので分かりませんが,何となくそういう感じがしておりますので,この点について何か御意見をいただければと思います。 ● 先ほど申し上げたことですが,アメリカは自分だけが譲らないというのではなくて,みんな譲らなくてもよいと,みんなが乗れるところで分かりやすくできればそれでよいのではないかと言っているのは確かでございます。ただ,条約の義務づけはかかるわけですから。で,フォーラム・ノン・コンビニエンスで本当は拒否しようと思えばできますよね。合意管轄があって自国が指定されていても,便宜じゃないというので裁量的にその裁判をよその裁判にさせるとか,そういうことがあり得るので,それができなくなりますから,全然譲らないわけではないと思いますけれども,しかし余り譲ることはないようにしたいというのは確かであります。 ● 先ほどの○○関係官の説明の中で,ほかの国が割とこの今出ている案に賛同というか,そういうようなふうにも伺ったのですけれども,○○幹事の御説明ですと,やはり日本がEUと,あるいはほかの国と一緒にいろいろ反論を唱えたとかいうこともありますけれども,ほかの国の動向というのはどんなところなんでしょうか。 ● 先ほども申しましたが,個人の資格で出てきている人たちなので,必ずしも国ということではないかもしれませんが,それと私の主観が入りますので一方的な見方かもしれませんけれども,しかし,フランスは人を送ってきておりません。これは,フランスはこんなものは嫌だと言っているということは間接的に聞きました。話に入ってコミットするのも嫌であるということのようであります。ですから,来た人は前向きな人が来ているので,その雰囲気で合意ができたから,だからいけそうだというのは,やや違うかもしれません。ドイツは来ていますが,しかし最後のときは来ませんでしたので,それも何らかの意味があるのかもしれません。ヨーロッパ委員会から来ている人も,できるだけ控え目に,どうしてもやらなければいけないところだけしか言っていなかったので,余りコミットしたくないということなのかもしれません。もともとヨーロッパの国々は,アメリカがよほど譲歩するのでない限りは必要ないと言っていたわけですから,それでアメリカも譲歩しないと言っているわけなので,じゃあ意味がないですねというのが,今までの経緯からすると,普通の考えられる対応です。  しかし,我々,要するにヨーロッパでもアメリカでもない国々がヨーロッパと同じでよいかどうかは,もう一段考えなければいけないかもしれませんけれども,そんなにお友達がいないグループといいますか,要するにブラッセル・ルガノのようなものがない国々がどう出るかは,また別の考慮が必要かもしれませんね。  ヨーロッパの雰囲気は,今の私の感じでは,そんなようなことであります。 ● 4月に一般問題特別委員会が開催されまして,お手元にお配りしております,事前送付させていただいたものですが,ヘーグ事務局からの照会が行われるその前提となる委員会の会議が行われたわけですけれども,その会議の席上では,ECの代表部も出てきて意見を述べられたようなのですけれども,私どもの大使館の方から得ている情報では,アメリカだけではなくて,ECも,こういうヘーグ事務局からの照会をするに当たっては,現在のテキストに基づいて特別委員会を招集してもよいか否かという点に絞って意見照会をするべきだという意見を述べたというふうに報告を受けております。ですから,ECが2001年に戻って,大条約をこのヘーグ国際私法会議で続けてやっていこうという気持ちは薄れているのかなという感じを受けます。これは,結局は,ほかの事項について合意を達成するためには,もう既に非常に長い期間,この条約の検討が行われているわけですけれども,更に今まで行われたのと同程度かあるいはそれ以上の膨大な時間が必要で,そうしたとしても果たして合意が成立するのかどうか分からないという,そういう判断があるのではないかと思います。ただ,だからといって批准するかどうかはまたこれは別の問題だろうと思います。とにかくこの検討作業はもう終わらせたいということではないかと思います。 ● 1年前の議事録をちょっと読んで思い出してみたのですが,大きな条約がまとまるかどうかという瀬戸際のところで,B to Bの小さい条約にするという案が浮上してきたけれども,どうですかという質問で,皆さん意見を出したと思うのですけれども,基本的に,せっかくここまでやったのだから大きな条約でまとめたいという一般論のほかに,アメリカの過剰管轄に一定の歯どめを課す,一世一代というか,ここでチャンスを逃したら恐らく私が生きている間はそういうことは二度と実現しないだろうと思いましたので,そういう思いが非常に強かったものですから,軽々にB to Bの小さい条約に行くというのは戦略的におもしろくないということで,どちらかというと意味が小さいというようなことを申し上げたのですが,冷徹な国際間の力関係から考えて,結局アメリカを無視して物事が進まないということを素直に受け入れて,現状で考えた場合,B to Bの裁判管轄の条約で意味はないということはないですね,やはり。正に○○幹事のお話の冒頭にありましたように,仲裁に関してはニューヨーク条約というのが昭和36年からありまして,私は,国際取引の契約をつくったり書いたりする新入社員のときから,仲裁に関してはあるのに何で裁判に関してはないんだということで逆に奇異に思っていたわけでございまして,B to Bの裁判に関する条約も,大多数の国,主要国が入ってくるのであれば,それなりに意義があるんじゃないかなというふうに思います。  その際に,商取引というのは競争であり,力関係でありますので,どちらの国のフォーラムを選ぶかということで,仲裁であれば結局は取引当事者間で,例えばインドネシアとフィリピンの国があって,どうしても自国を譲らなければ,じゃあ三国にしましょう,シンガポールにしましょうということを容易になって,三国で信頼できる仲裁地を選んで,仲裁機関も,営利団体とは言いませんけれども,ある程度そういう近隣国とか各国の主要な契約の紛争の解決団体になるということでセールスプロモーションをしている国も多いわけでございますよね。したがって,そういう形で重要な契約がシンガポールで解決されたり,もちろんロンドン,それからニューヨーク,例えば大量のLNGがオーストラリアから日本へ来ているのですけれども,あれはニューヨークのUNCITRALで仲裁でやったんですよね,アドホックで。  という形で物事が処理されているのですが,一方,仲裁というのは一回限りなものですから,どうしても,厳密な証拠法則に基づいて審理してほしいとか,それから,審理の過程において,もし本当の瑕疵になったら,控訴したいと思ってもそれでおしまいになってしまうので,取引の内容によっては裁判にしたいという需要もあるわけです。  その場合に問題というのは,要は多数の国はこの条約に調印して,かつ三国,国際間取引で,今言いましたように日本とオーストラリアの取引をアメリカのニューヨークの裁判所で受けてくれるかとか,フィリピンとニューヨークの取引を日本の裁判所は受けてくれるのかというような,この15条に書いてある裁判管轄の制限の問題なのですけれども,まず,日本はどう考えるのかということを裁判所の方にお聞きしたい。  それから,○○幹事にはアメリカの姿勢をちょっと伺いましたけれども,ヨーロッパとかほかの国はどういう姿勢なのか,他国間の商取引に関連して自国の裁判管轄を専属合意にされた場合に,そもそもその国において受ける姿勢なのかどうか,その辺のところについて是非お聞かせいただきたいと思います。 ● 日本の裁判所に,例えば今のフィリピンとインドネシアの取引で,契約の中に,これに関する紛争は東京地裁を管轄とするという条項があったときに,受けるかという話ですが,余り実務的にそういうものが来たことがないのと,ちょっとこの場の記憶の限りで申し訳ないですけれども,私の記憶の限りでは,そういうものについての上級審の裁判例,最高裁の裁判例というのはまだないと思います。  ですから,どういうふうに考えるかという話になると思いますけれども,民事訴訟法の場合には合意管轄で--もちろん国内法の管轄の話ですけれども--ありますので,その場合には,特に当事者間で合意をして東京地裁にというときであれば,一応その管轄については認めて審理することになるのではないかというふうに……,まあ,私の法廷に来ればそういうふうになるのではないかと思いますが。 ● ほかの国のことについては十分には知りませんけれども,イギリスは広く認める国として,準拠法がイギリス法だけでも管轄を認めるという国ですので,合意管轄についてそれほど制限しないのではないかと思うのですけれども,ほかの国は日本と同じで,そんなに来てくれるという経験がないので,そのような懸念も余り持っていないので。  アメリカは来るんじゃないかと思っているのではないかと思うのですけれども,そういうアメリカの態度に対して,しかしヨーロッパの多くの国は,それはけしからんという方向だったのですね。使ってもいいではないかと。ですから,そういうことから見ると,自分のところに来ればやってあげるのにアメリカはやらないというのはちょっといかがなものかということかなと思いますけれども。  済みません,ちょっと詳しいことは分かりません。 ● よろしゅうございますでしょうか。  ほかに,全体の問題につきまして,何か御意見,御質問ございますでしょうか。 ● 先ほどの○○幹事の御報告ですと,この非公式作業部会の宿題といいますかテーマは,B to Bの合意管轄以外に,応訴と被告の住所地と反訴と信託,支店,それからpysical injury等々という,そういうものが必要最小限のものとして検討課題になったわけですけれども,そのうちB to Bについてだけ条約案ができたわけで,その理由として,先ほどの○○幹事の御説明によりますと,訴訟競合の問題という非常に厄介な問題を招かないようにするにはホワイトの管轄は一つにしなければいけないということだったというお話で,それはなるほどと思ったのですが,応訴までだめになったというのはどういう理由なのでしょうか。  というのは,論理的には応訴で訴訟競合が起きないとは言えないと思うのですけれども,実際は,訴訟競合が起こる場合というのは,一方当事者がA国に訴えて,相手方はそこでその管轄を争いながらB国で別訴を起こすというのが普通なので,応訴はしないはずで,応訴管轄が生ずるということは,訴訟競合の問題は普通は考えなくてもいいのではないかと思うのですけれども,応訴も検討の対象外になった経緯を教えていただければと思います。 ● 非公式会合での審議の過程では,途中までは応訴は入れられるんじゃないかということだったのでございますが,それは事後的な管轄合意と区別がつかないということなのですが,しかし,最後で入らなかったのは,時間かもしれません。  要するに,3月に会合をやったわけですが,本来6月にも予定されておりまして,冒頭に,特に日本,私どもから申し上げたのですが,そもそもこれは6月に特別委員会を開くという予定で任務を受けているのに,6月にもう一回やって審議しようというのはそもそもおかしい,今回でやめるべきだというのを強く言いまして,それで,できるだけやめましょう,これで終わりにしましょうという言質をとって議論を始めて,最後の日はぎりぎりでワーッとつくっていったので,とにかくその段階では--要するに,途中では議論があったのですが,それを除くという合意ではなくて,最後のまとめる段階でもう一回思い出さなかったといいますか,入れましょうという話だったのに思い出さずに,これでまとめてしまって,とにかくおっしゃる委員会が4月に開かれるということは分かっていたので,そこにまとまったものを出さないと話が始まらないではないかと。場合によっては1年先とか何かという話があったので,それはひどいというので,急いだということがあるのではないかと。  私も応訴管轄は何とか入れられるのではないかと思いますので,必要があれば,そこは日本のコメントとして入れていただければよろしいのではないかと。大きく崩すことなくできそうだと思いますけれども。 ● 全体的な問題につきましてはよろしゅうございますでしょうか。  それでは,時間の方もございますので,続きまして,逐条的な検討をお願いしたいと思います。  まず,第1条の「適用範囲」の規定に関しまして,御質問,御意見がございましたら,お願いいたします。 ● 余り実質的な問題でないかもしれませんが,2項と3項ですが,2項は,「次の事項には適用されない」というふうになっていて,3項は,「手続には適用されない」というふうになっていますよね。前のやつは,手続,全部一つになっていて,手続の分については,中に立てば仲裁手続というのが入っていたのが,3項になった途端に,手続でなさそうなものについても全体に手続というふうになったというのは,何か実質的な理由がありましたか。単なる言葉だけの問題なのでしょうか。 ● それほど実質的な理由はないと思います。  ただ,2項を作るときに,契約という言葉なので,「……に関する手続」というのは変だろうということはあったように思いますけれども,おっしゃるように何らかのことがあってこうなったというふうには私は認識していません。  だけど,整理が悪いというのはおっしゃるとおりなので,最後までこれでよいのかどうかは,今後,検討が必要ですね。2項をつくったのもぎりぎりでした。2項は本当は3項の(a),(b)だったのですが,それは幾ら何でもちょっと異質じゃないのかというので,最後の方で2項をつくったぐらいですから。  仲裁も前は中に入っていましたよね。それは2001年の外交会議のときに外に出したのです。そうやってだんだんと整理していますが,しかし趣旨は変わらないですね。 ● 1条の3項の(k)の知的財産権の関係なのですけれども,「その他の知的財産権」という形で,追って定義するということになっているのですが,これは質問というよりもお願いなのですが,結局,法定の権利という形でどういうものを認めているかというものについても,各国,日本の場合には意匠権とか実用新案権とかそういうものがありますけれども,そういうものとして何を認めるかも国によって違いますし,それ以外の,例えば日本で言えば著作権とか,そのあたりはまだいい方ですね,不正競争防止法上の権利とかああいうものを知的財産権ととらえるかどうかについても,またパブリシティー権なんかもそうですけれども,そういうものを含めるかどうかについて,国内法でも,外縁については,いろいろ諸説あり得るところですので,そこら辺は,その国の知的財産権が問題になったときの外縁ができるだけ分かるような形の条約案の方が望ましいのですけれども。ただ,それぞれ国によって,別表みたいにつけるのが一番いいのですが,そういう条約というのはなかなか難しいのでしょうから,できるだけ外縁が分かるような形での定義というのをお願いしたいというふうに思います。  それから,そこの,前提問題として生ずる場合にはこの限りでないということなので,今の○○幹事の御説明ですと,特許権侵害訴訟などの中で抗弁として特許無効が出た場合は,それはここの中に入らない,要するに前提問題だということだと思いますので。それで,「ただし,そのような手続において下された判決は,その当事者間においてのみこの条約に基づく効力を有する」と。日本法的な形で言えば,特許無効が抗弁で出て,無効・有効という形であったとしても,最終的には,主文で認められるのは差止めの可否,あるいは損害賠償の支払いの可否ということですので,それはその当事者間においてのみこの承認執行の問題ができるだけ。ですから,その問題は,我々の前提ですと生じないことになると思います。ただ,国によって,もしかして中間確認の訴えのような形で特許無効というようなものを主文に掲げることを許すような国があったりすると,そこら辺は当事者間であっても嫌なことだろうと思いますので。日本の場合には,そういう中間確認の訴えみたいな形で来ても,それは特許庁の審決と取消訴訟でやることだからということで,もともと,仮に地裁で中間確認の訴えの提訴文が来ても,それはもう却下するだけの話ですので,そういう心配はないのですけれども,そういうのを出してくる国があり得るとすると,ちょっと嫌な問題が残るかなという感じはするのですけれども。 ● 定義をできるだけはっきりさせる方がいいに決まっていますし,これは適用範囲の問題ですから不明確では困るのですけれども,確かになかなか難しいというのは分かるのですけれども,日本にある知的財産権の中で何については除き,何は残した方がよいという線引きの何らかの基準はあるのでしょうか。登録があるかないかで分けるのがいいのか,しかし,それも一つの徴憑にすぎないし……。  御判断としては,著作権は別に特別問題はないのでこの条約のカバーに入れるべきだというお考えですか。 ● 個人的には,著作権は国際条約も整っていますし,著作権までは入れることを積極的に考えていいと思います。  ただ,日本法で言えば,不正競争防止法上の話とか,権利とか,あるいはパブリシティー権とか,そのあたりについては控えた方がいいのかなという感じはしますけれども。 ● ヴァリディティーという問題があるんでしょうか。有効性。(k)はすべて有効性についてなんですね,除いているのは。パブリシティー権の有効性というと分かりにくいのですが,確認判決で権利があることの確認を求めていることは,これは有効性を認めているのだと言えば,あるいは言えなくもないのかもしれませんが,普通はそういう形で問題になるわけじゃないですよね。 ● 登録されない権利の場合には,有効性・無効性というのも存否の話になってしまうんですよね。ですから,そこで有効・無効だけで絞るのであれば,著作権も有効・無効の話じゃないからということで除外しても,日本法の環境で考えれば除外してもいいですよ。  あとは,著作権について有効・無効という判断はあり得ないわけですから,要するに,そういう著作物と言っているものがあって,それが著作物であって著作権があるか,あるいはその著作権が原告に帰属しているかどうかという,要するに権利の存否と権利の帰属の問題という形にはなるのですが,それは有効・無効の話とはちょっと別なんですよね。  ただ,それが著作物かどうかということを理由にしての著作権の存否というものは,それが有効・無効という形で国際的に考えられているのだとすれば,それがちょっとどうなのかなという……,まあ,確かに入れた方がいいのかなという気はしますけれども。 ● 今の○○委員の,入れる,入れないというお話ですけれども,知的財産権の中に入れるという意味ですよね。 ● ええ,まあ。 ● ということは,条約から除くということですか。でも,validity of copyrithtsとかいう話になるのですが,それは……。 ● 侵害訴訟と同じですから,この対象から除くというふうな方がよろしいかと思います。済みません,ちょっと混乱して。  要するに,帰属の問題とペアになってしまうものですから,それと独立に有効・無効の話にならないので,ですから,やはり登録される権利に限定して有効・無効は考えるという方がいいと思いますので,ちょっと前後で混乱して申し訳なかったのですけれども,「その他の財産権」というのはできるだけないという形の方がよろしいんじゃないかという気がします。日本法で言えば,有効・無効というのが独立して判断されるのは,特許,商標,実用新案,意匠,そういう工業所有権四法だけだと思いますので,そこに対応するものを掲げておいていただければいいんじゃないかなという感じはします。著作権も含めて,あとは,あるなしの問題と帰属の問題というのがそう区別できない形になると思いますので。それについて,ですから,専属的合意管轄で著作権の問題について行ったときに,契約の片方の人がどういう権利を持っているかというものと,そういう権利があるのかという問題はもう裏腹になりますので,そこはやはり画一的に処理した方がいいと思います。  ちょっと最初の言い方と混乱して済みませんでした。 ● 4項の方ですが,前提問題としては判断できるということについては,これはよろしいのですか。  私が最初の時間で申し上げたときには,日本として普通の日本国内の裁判所にもそれはさせないのではないかと思っていたのですが。 ● いや,それは恐らくすることになると思います。  例えば,日本で日本法人同士がアメリカの特許権に基づく差止めの訴訟を起こしておりまして,そうすると,準拠法はアメリカ特許法の問題になりますので,そのアメリカ特許法の中で攻撃・防御,侵害訴訟の中での攻撃・防御の中に防御方法として特許無効というものが認められている以上,そこはアメリカを準拠法にする以上は,それを含めて日本の裁判所で審理することになるだろうと思いますけれども。 ● 有効であれば別に向こうの公定力に触れることはないのですが,無効だということもあり得るという前提で判断するということでございますか。 ● 無効の場合には,ただ,それは理由中で,無効だから請求は認めないという形になるわけです。 ● しかし,キルビーの最高裁判決はそこまでは言わなかったわけですよね。 ● キルビーは国内法の話ですから。 ● ですから,国内の裁判所にさえ……。 ● いや,国内の裁判所ですから,有効・無効というのは独立の抗弁としては認めないけれども,それを権利濫用という形で言うことは許しますよということですので。ですから,それまでは,権利濫用という形で--迂回みたいな形ですけれども,そういう形ですら抗弁として認めなかったものを認めるようになったという意味では,国際水準に近づいたというとおかしいのですが,アメリカ法的な解決ができるようになったというふうに思っています。  それに,キルビー判決自体は,日本特許法の問題としてそういう侵害訴訟の争い方ができるかという話ですので,それを明文で認めているようなアメリカ特許の侵害訴訟の場合に,それはできる,できないというのは,もう準拠法の解釈の問題になると思いますけれども。手続法の問題というよりは,むしろ実体法で抗弁権を認めているわけですから。 ● 私が申し上げた例は日本特許について外国で裁判になった場合なのですが,日本特許について日本で裁判になったときでさえ,裁判所は迂回,今おっしゃった権利濫用の形でしか判断していないわけですよね。にもかかわらず,外国の裁判所が無効だと正面から言って,だから請求を認めないと。その既判力が日本に及ぶとすると……。 ● それは当事者間の侵害訴訟としての既判力だけですので,それは構わないと思います。その間に権利濫用という言葉をかませたか,かませなかったかによって,それが日本で承認されるか,されないかという結論を左右するほどのものではないと私は思っていますけれども。 ● 私が申し上げたのは,日本の裁判所でさえ遠慮しているのに,外国には遠慮しなくてよいというところで……。 ● 遠慮というよりも,むしろ遠慮していないんです,実は。ですから,間に権利濫用という言葉が入っただけの話ですから。日本の裁判所では,もう特許無効の抗弁と実質的には同じ審理をしておりますので。それはもう類型的に特許無効は権利濫用だという形で,それ以外の事情を考慮した上で,特許無効だけれども権利濫用にならないというパターンはないということになっていますので。 ● この1条で議論するのがいいのかどうか分からないのですけれども,今,既判力というお話が出たのですが,私の理解では,外国判決の承認といったときのその承認する効力というのは,日本で言う既判力とは限られないのであって,当該判決をした国において,その判決について認められる効力を承認するのであるというように一般に考えられていたのではないのでしょうか。  そうしますと,多分,日本では争点効のようなものは迂回路で信義則違反で認める例があるものの,正面からは認められておりませんけれども,そういうものを認める国があったとしたときに,例えば特許の無効について,当事者間では無効なんだという効力が判決主文に掲げられなくても,理由中の判断について認められるという国があると,それを承認するということは,その効力を承認するということになってしまうわけですけれども,それでもいいのでしょうか。 ● 実は,アメリカの場合は事実上それに近いことになっているようで,当事者間で,別の事件でも,同じ特許について有効・無効を蒸し返したときには,むしろ裁判所侮辱的な意味でそれは許されないという処理をしているようですので,蒸し返しはできないというようなことです。  ですから,そういうところまで--今の外国判決の承認というときに,その場合には,承認の問題と,それから日本で別訴が起きたときに外国判決の存在というものをその訴訟の中でどう考えるかという問題になりますので,承認の問題とはちょっと違うのかなというふうには思いますけれども。ですから,その場合は,やはり理由中の判断なんだからというふうにするのか,そういう国を選んで,そこで応訴して,そういう判決をしてしまったのだから,あとは訴訟上の信義則的な意味で,それは日本で蒸し返しができなくてもしようがないじゃないですかという言い方をするかですね。そういう形にはなると思いますが,いきなり承認の効力の範囲がどうかという話ですぐ来るかどうかというのは,ちょっと分からないですね。その辺は,判決の承認の意味というのがどういうものかということについて,私はそういう基本的知識が深いわけではないので,その程度しか申し上げられませんけれども。 ● 私も日本の学説の多数説が何であるかはよく分かりませんけれども,承認されるのは基本的にはその判決国の効力だけれども,およそ日本には存在しないような効力まで承認しなければならないということはないだろうと思います。そこは何と説明すれば……,公序に反すると言うか,あるいは部分承認だと言うかはともかくとして,困りますよね,わけの分からぬ効力が日本に及んでいると。ですから,そこは適宜切ってもいいのだと思います。  ただ,条約はそこは何も書いていなくて,7条の4項というところで,判決国において持っている効力以上の効力を与えてはいけないという,逆の方はいけませんよと言っているのですね。だから,そこは,そのある効力が生ずることを前提に争ったのに,別の国に行ってもっと大きな効力になるのは困ると。ですが,その逆のことは書いていないので,それは条約の義務づけがかかっていない,そう考えてよろしいんじゃないでしょうか。わざわざ7条4項があって逆の場合は何も書いていないことの意味としてですね。 ● 全体的なことはもう今更,繰り言ですから言わないことにしまして,この第1条の中に,適用除外の中で,海事とか海上物品運送契約というのが括弧の中に入っていますけれども,これはやはり国際的な取引が非常に多い分野ですので,(f)は削除していただくような方向でお考えいただければというふうに思います。  日本の判例の中でも,かつて東京地裁に来た事件,これは船荷証券か何かに書いてあったのはアムステルダムの裁判所だからということで却下した事件があったかと思いますけれども,こういう船荷証券で流通するようなものは,やはり国際的な関係で合意管轄というのがあり得ると思うのです。ほかのは,それは国内的な公序に関係する部分が随分ありますけれども,海事だとか海上物品運送が括弧の中に入っていること自身,ちょっと私もなかなか理解できないことなので,そういう方向で努力できるかどうかということなのですが。 ● 御趣旨は分かります。そういう議論もありました。国際取引で合意管轄が使われている局面が海事も相当あるだろうと。  ですが,今まで,条約の適用範囲外ということでずっと来ているものですから,海事関係の方々は無関心というか,安心しているというか,何というのかよく分かりませんが,とにかく彼らもこれに注目していませんし,相談もしていないのです,各国の政府関係者が。特にアメリカはそうなのですが。一度,入れるか入れないかというときに,その関係の方がすごくたくさん会議に来て結構困ったということがあって,それで除きましょうということになったのですけれども。  しかし,それで全部削除とまではいかなくて,海上物品運送契約だけにとどめようと言っている趣旨は,それでも広げていったらどうかと。ただ,この条約との関係については,やや面倒くさいことがあるので,そこまで入れ込んでしまうと,別の条約があればそこが優先ですから,それはいいのかもしれませんけれども,そこは触らないようにした方がいいんじゃないかと,それでも触らないようにした方がいいんじゃないかというのが,この案です。  ○○委員のは,どちらも削除ですから,もう一つの案ということになりますけれども。  御趣旨は分かります。今言ったような問題があるということだけです。 ● 今の点について,ほかの方,何か御意見ございますでしょうか。 ● ここに原子力責任というのが入っていて,これは日本がずっと言っていて,不法行為の裁判管轄権が損害発生地国になってしまうと,原子力責任については困るというので……。ただ,多くの国は条約に入っているので全然関心がなかったのですけれども,条約に入っていない日本としては,日本で事故が起こってよその国に被害が及んだときに,よその国で裁判されるのではなくて,日本で裁判をしないと,原賠法との関係でいろいろなことがうまくつながらなくて困るということを言っていたのですが,この合意管轄条約になったときになお必要かというのは,これは,日本が言っていた手前,日本としても合意管轄だけなら要らないですと言ってもいいかなと思ったのですが,あえて言うこともないかと思って言わなかったので,残っているのですが,これが残っているのは変な気もするので……。  日本が当初言っていたのは,不法行為管轄の関係で言っていたので,それがなくなった以上,要らないとも言えるかなと思いますが。 ● 今の○○幹事のお話,それから○○委員のお話,両方に関係があるのですけれども,この3項で適用されないということになるということはどういう意味かというと,要するに,この条約が規律する統一的なルールには乗らないというだけのことですよね。つまり,例えば海事なり原子力責任について--原子力責任の合意管轄なんていうのがあるのかどうかよく分かりませんけれども,仮にあったとしたときに--海事の方はあると思いますけれども--そういう合意管轄がされた場合に,その管轄の合意に提訴された裁判所が従う義務があるのかどうか,あるいは,その判決の承認を求められた国がそれに応じなければいけないのかどうかは各国が決めればいいと,統一ルールはつくらないという,そういう趣旨と理解してよろしいのですね。  そうだとすると,○○委員,やはり統一ルールとして海事もこの中に入れてしまった方がいいのでしょうか。 ● 今の趣旨がちょっと分からなかったのですが,この条約は次の事項に関する手続には適用されないというわけですよね。これは除外リストですね。だから,これから外すということは,この条約が適用されるということではないですか。 ● ですから,この条約が適用されますと,この条約が定めているルールに全部のっとって日本も従わなければいけないということになるわけですが,それがいいのか,それとも,海事については特殊要因があるから各国がそれぞれ自由にできた方がいいんじゃないかというのでこれが入っているようなのですけれども,この海事を除くという考え方は。 ● いや,それは私は前者の意味です。海事について,これは後からの4条以下のそれにもよりますけれども,海事について国際的な条約の枠組みに乗っかっていいんじゃないかという,そういう趣旨です。 ● 1条関係はそれでよろしゅうございますでしょうか。 ● この「反トラスト又は競争法上の請求」というのは,アメリカは,反トラスト法を除くことは合意しているのだけれども,「競争法」というここの表現がまだ検討が完了していないという,そういう意味でございますか。 ● そうです。アメリカはこんな言葉は使わないと。  それから,不正競争防止法との関係で誤解を招くのではないかということもございましたけれども。 ● 一時,アメリカは,とにかく3倍賠償とかを避ける手段として,特にディストリビューターとかディーラーとの契約について仲裁条項で国外に出してしまって,独禁法の適用を排除するなんていうこともはやったことがあるんですよね。そういうことは許さないよという,そういう意味でしょうね,きっと。  要するにこれは,そういう合意管轄を現状どおりだと。ここで括弧に入れてですね。したがって,独禁政策にかかわるのに勝手に合意管轄をするかどうかを認めるかどうかというのはアメリカという国が決めると,そういうことですよね。  理解,違っていましたか。 ● 結果的にはそうなりますけれども,そこまでの議論があったわけではなく,むしろこれを入れろと言ったのはアメリカ以外の国で,それは前の大きな条約だったときに,そういうものまでも民事的な性格があるといって適用を要求されると困るので……,要するに判決承認執行義務が出てきますから……。 ● 承認執行の義務を負いたくないから……。 ● ええ,それのために外そうとしたのですね。  それで,今おっしゃったようにアメリカがこれを使うという発想は当初はなかったのですが,でも,結果的に,今の状況で読めば,おっしゃることにもつながるかもしれませんが,しかし,それはほかの国は知らん顔できる,ただ,アメリカで活動している会社はそうはいかないですけれども。そういう効果も出てくるかもしれません。 ● 要は現状維持にしたいと。どちら側から見ても現状維持になると。 ● それはなりますね。 ● そういうことですね。 ● ですから,これは,大きな条約のときに除こうとした趣旨と,この合意管轄のときに除くという趣旨が変わってくる可能性を,それぞれについて本当は検討しなければいけないのですが,そこが必ずしも十分ではないように思います。 ● これはB to Bの管轄についての条約ですから,少なくとも3項の(b),(c),(d)はどうも関係なさそうだという意見は出した方がいいということになりましょうか。 ● それを残せと言ったのは私なのですが。議長は除こうと言っていたのですけれども。  でも,前文にはそのことが書いてありますけれども,1条の1項を見ると,「民事及び商事」としか書いていないので,これも民事だろうと。家族法はここではっきり除かないと除けないではないかというので,残した方がいいということで残っているのですが,B to Bという頭がある人は,おっしゃったとおりなんです,これはおかしい,こんなのをわざわざ書くことはないということになります。1条1項と前文の3行目と,どっちが勝つかということだと思いますが。 ● この第1条の規定というのは,承認執行の方にもかかっていて,そこでも意味があり得るということがあるわけですか。  だけど,7条は,選択合意により指定された締約国の裁判所が下した判決に限られているわけですよね。そうすると,そこでだけ扶養義務とか何かが出てくることも考えにくいと思うのですけれども。 ● いや,私が申し上げた趣旨は,1条1項では家族法も全部入るので,1条3項の(b),(c),(d)で家族法を除くということを書く必要があるのではないかということなのですけれども。 ● ただ,その前に1条2項の(a)で,B to Bでないと適用されないということが書かれてしまっていますから,その次の3項で(b),(c),(d)が出てくるというのは何となくおかしいような感じはしますけれども。 ● ○○幹事に伺いたいのですが,今,御議論の中でおっしゃったのは,英語で言うcivil or commercialの中には,○○幹事の御指摘になりました(b),(c),(d)も入るという,こういうお考えで言われているわけですね。だから,考えようによっては,英語やフランス語のcivilあるいはcommercialにはfamilyの問題は入らないという理解もあるのだろうと思うのですね。日本は人事と民事を区別しないのが普通のようなのですけれども。前の人事訴訟手続法も,書いていないのは民事訴訟に戻るんですよね。だけれども,どうでしょうか,ブラッセルなんかで考えても,向こうの方の,まあこれはEUの考え方自体がいいとは思いませんが,やはりcivil,commercialと言ったときには純粋の民訴であって,family mattersというのは,Familiensachenというのは入ってこないんじゃないかと。  もしそうだとしたら,○○幹事の御指摘になりましたところは,別の側面からも何か問題があるのかなと。例えば,議長がそれを除こうと言われたときには,そういうのを背景にして言っていたのではなかろうかと,こういうふうにも考えますが,そのあたりは現場ではどうだったのでしょうか。 ● ブラッセル条約でもこれは除いて,要するに条文を置いておりますし,今,手元にあるのはブラッセル規則ですが,夫婦財産制,遺言,相続は除いています。それから,2001年の条約案,もっと広い条約のときも除いていまして,必ず入るかどうかは分からないが,入る可能性があるということから,はっきり除こうということだったので。  それで,今,部会長がおっしゃったのと,○○幹事がおっしゃったのは,ちょっと意味が違うと思いますが,○○幹事のお話の方を言うと,1条2項(a)は,これはあくまでも消費者契約を除くと言っているだけなので,それが直ちに夫婦財産契約まで除けるかどうかは,それは出てこないのではないかと思うのですが。 ● もう1点なんですけれども,この4項は括弧で囲われているわけですが,仮に4項をなしにすると一体どうなるのかということなのですけれども。  ○○幹事の御報告ですと,いわば当たり前のことだということになるというふうにも読めるような御報告なのですけれども,当たり前だとすれば,3項の方も2項の方も,前提問題としてならやれるということになるのか,あるいは,4項を削ってしまえば,前提問題としても,2項のものも3項のものもだめだと,適用除外になると考えるのか,どちらになるのでしょうか。 ● 私が当然の規定だと言ったのは4項のただし書の部分だけでありまして,4項の本文については,規定を置くと置かないとでは違ってくるだろうと思います。  しかし,4項が3項全部を対象にしているのは,特に深くは考えていなくて,3項の(k)を特に意識してのことなんですけれども。  それで,もし4項が全部なくなりますとどうなるかというと,特許の有効性とか,あるいは不動産の物権とかにふれた部分についてはこの条約に乗らないので,そこは,承認するとしても,この条約に基づく承認ではなく,各国法の自由な承認ということになりますし,そこだけは拒否するという扱いも,条約上の義務がかからないわけですから,除外事項のままですので,そこは除いて承認ということになります。ただ,さっきの,ライセンス契約の違反で求められた損害賠償請求について特許無効と判断することを前提に,認めないという既判力をどう受けとめるかのときに,全体として切り離せないですよね。特許無効と言ったところだけ外して承認をすることはできないので,そうすると,全体として条約に乗らないという扱いになるのかもしれません。そういう条約の適用範囲外のことを判断した結果の判決だということです。 ● 今の○○幹事の御発言に関連して質問なのですが,そのように4項がない状態の条文案を想定しますと,法人について有効性等を前提問題として争った瞬間にもう条約には乗らないとしますと,B to Bで当事者が一定の見解を訴訟において主張,あなたは存在していないと主張することによって,常に条約に乗らない可能性が,この条文案だけからだと,出てくるのではないかとも思われ,そうだとすると,結局,当事者が訴訟において何を主張するかによって,条約に乗るか乗らないかがすべて変わってきてしまうという結果になるのかと理解しているのですが,その理解が正しいか間違っているかにつきまして,御意見をよろしくお願いいたします。 ● 当事者が持ち出すか持ち出さないかで判断が変わってくるというか,条約の適用範囲内になったり外になったりするのは確かにおかしいように思いますが,それは,4項を除くときには3項の書きぶりを少し工夫するでしょうかね。ただ単に除けばよいというのではなくて,除いた以上は--今,私が申し上げた物権の話だってちょっと変ですし,前提問題としては一応判断していますよね。明示的に言わなくても,契約が有効だというのは,法人の代表者の権限があり,また,その法人自体も有効,だから判決を書いているということになると,全部判断しているということになってしまいますから,そこは行き過ぎだろうと思いますので,何らかの書き方が必要になるのかもしれません。 ● 今の御発言もありましたけれども,別の意味でも,4項がないと,特許のものもそうなのですけれども,やはり疑義が出ますので,そこは是非4項は置いていただきたいと思いますけれども。  今,相続とか遺言の関係なんかも,例えば特許権とか著作権などが財団に遺贈されたような場合に,その事態が前提問題になりますので,そうすると,特許とか著作権ビジネスの前提として,著作権が遺贈によって会社なり財団に移転しているかどうかというのが前提問題として出てくる事案が多いので,それが除かれているのだということになると,ちょっと困るという感じはしますね。特に著作権は,死後50年とか75年とか,そういう話になりますのでね。 ● 4項にずっと一貫して反対しているのはイギリスですので,イギリスが折れれば大きな反対はなくなるのですけれども。私は,日本についてもイギリスと同じかなと,似た面もあるのかなと思っていたのですが,ないということであれば,安心して……。入れる方が多数説ではあると思います。 ● なかなかいろいろ問題が出てくるようでありますが,時間の方もございますので,よろしゅうございますか。  1条関係はそういうことで,次回にもまた御議論いただくということで,次に第2条関係,「定義」でございますが,この点について,御意見,御質問ございましたら,お願いいたします。 ● ○○委員と休み時間に話をちょっとしたのですけれども,専属的な合意管轄にしたとき,その裁判所が受けてくれるかどうか分からないという危険がある,リスクがあるときには,経済界としては,そこが拒否したときには二次的にはこことか,一次的にはA国だけれども,A国で拒否された場合にはB国だというような書き方をしたときに,それが専属的な合意になるのかどうかなのですが,もしビジネスの世界でそういう需要があって,そういうことが起こり得るのであると,それがこれに当たるのかどうかというのを裁判所として判断を求められるようなことが多いのであれば,そこはどうなのかという,議論の中でそういう話が出ているのかどうかを教えていただきたいのですけれども。 ● そのタイプは全く出ていません。順位をつけての,しかし一個一個なんですね。それは出ていません。それは,趣旨から言うと別に訴訟競合にならないので,この専属管轄,条件付専属管轄なのかもしれませんけれども,そこは出ていないですね。 ● そうすると,それを書きっ放しで,解釈で各国の裁判所で考えてくれと言われると,どのあたりまで拒否されることを前提にしないといけないのか,要するに,東京地裁で却下されても,その後,専属的合意について合意管轄がないというのは,やはり確定までしないとだめなんだろうと思いますけれども,そのあたりは多少取っかかりでもあった方が,適用する側とすれば有り難いのですけれども。条文案に書けないとしても,何らかの議論の跡が残っていた方が有り難いと思います。 ● 思いつきで,今初めて聞いたのであれなのですが,しかし,もっと複雑な条件をつけるつけ方だってあり得ますよね。訴訟が半年以内に終わらない限りは次へ行くとか,取下げはこういうふうにしなければいけないとか,いろいろ書いておいて……。 ● 少なくとも一審の裁判所で拒否されたら次へ行くというぐらいの合意はしていることはあり得ると思うんですよね。 ● ですから,そこがよいということを書くためには,条件付でもよいと書くと,非常に複雑なことを書いてもよいことになって,それは迷惑ですよね,みんな。みんなというか,2番目の裁判所というか,合意に反して提訴を受けた側からすると。そうすると,何でもよいというのでよいかどうかは分からないので,書きぶりといいますか,規定を置くとすると,相当詰めなければいけないのですが,レポーターのコメンタリーで書くのならば書けるかもしれないので,それは問題提起はした方がいいかもしれませんね。 ● まあ,その程度だと思いますね。  裁判所としてはもちろん,一番シンプルで,1個しか書いていないのに限るの方が楽なんですけれども,まあ,ビジネスとしてそういう要請があって現に出てくるのであれば,手当てをしていただきたいということですが。 ● 私が申し上げたのは,そういうふうなことまでの難しい議論になりかねないので,いやしくも条約の締約国になって,かつ,拒否をしなかった,宣言しなかったら,各国が第三国同士の紛争についても裁判を受理する義務というのですか,拒否しないという何か逆のお墨つきとか,安心のもとになるような国際間の合意ができないでしょうかという……。 ● 私が今お聞きしていて心配したのは,要するに合意の効力については各受訴裁判所の判断ですので,ちゃんとした合意のつもりで書いても,目指したところでは受けてもらえないということが十分あり得ますので,そういうことをおもんばかって,予備的,三次的な合意をすることがあり得るとすれば,ちょっとその効力はどうなのかなと思ったものですので。 ● 今の○○委員の御発言ですけれども,この条約案ですと,4条で,専属管轄があったときにはその国の裁判所は裁判管轄権を有するということで,受理しなければいけないという形になってるわけです。あと,方式については3条に規定があるわけですが,この方式も非常に広いという御説明でしたけれども,それでは担保されているとは言えないのですか。 ● それで担保されているという解釈かどうかという質問なのですけれども。  それで担保されておって,各国が締約国に署名して,批准したら,逆に裁判所は受理しなければいけないと,そういう法的な国際法上の義務が生じるという理解でよろしいのですか。 ● ええ,この規定は前の条約のホワイトリストを受け継いでいるものですので,管轄行使は義務だと。それで,そこに裁量を入れたいとかいうアメリカの主張は排除して,もし嫌ならば明確に留保をしなさいと。しかもその留保は,何でも裁量でやるというのではなくて,自国と関係が合意管轄の点しかない場合には拒否ができるというのだけは許しましょうとなっているので,その限りでは明確にしようとしているのですが,ただ,実質的有効性については漠とした書き方をしているので,そこがやや不明確かなという問題はあります。 ● あくまでも自国に全く関係のない第三者の国の係争で,アメリカと同じ理由なのですけれども,そういう紛争が例えば東京地方裁判所にどっと来たら,今でも忙しいのに,そういう理由では拒否できないと,そういうことになりますか。 ● 拒否宣言をしておかない限りは,できない。 ● 分かりました。いや,そこがはっきりしているのであれば……。 ● 今,仮に日本と韓国の間の取引でニューヨークとか何かというのを書いているのがあるとすれば,それは考え直した方がいいかもしれないわけですね。アメリカが拒否宣言をするとすれば不明確になりかねないということで。 ● 分かりました。いや,それのアシュアランスがあるのであれば,更に拒否された場合の規定というのは,実務上余り考える必要はないと思いますけれども。  あとは,いわゆる不可抗力だけですね。 ● 基本的に,個別の合意の効力について拒否されたときに云々ということで,二つ以上書く必要が余りないのであれば,それはそんなに議論する必要はないと思います。 ● ないと思います。ただ,現実には,この間も,イラク法でイラクで仲裁という石油の取引が,現実にイラクで仲裁は不可能だということで,ロンドンにしましたけれどね。それは事後的に当事者間で合意で移しましたが。 ● 実務的に余りおそれがないのであれば,そこは裁判所の方は特に構いません。 ● ただいまの2条関係,ほかにございませんでしょうか。 ● 2条2項の関係ですけれども,先ほど,○○幹事からの御報告の中で,これはもともとあった規定ではありますけれども,合意管轄に限ったときに,これだけ四つも,何でもいいような常居所でいいのかという御指摘がございましたけれども,その点,ほかの委員・幹事の皆様方,いかがでしょうか。 ● 何かございませんですか。 ● 「常居所」という言葉がどこに使ってあるかと見ると,第5条に出てくるんですよね。第5条の(b)で,「両当事者がその締約国に常居所を有し,裁判所の選択合意の点を除き,他のすべての紛争に関する要素及び当事者の関係がその締約国に関連している場合」というのは,これは例の中国の主張で入ったということですけれども,これを当てはめるときに困るんじゃないですかね。こういうふうに設立準拠法の属する国と業務の中心地がある国が異なる場合があり得るわけですけれども,正にこの(b)に当てはまるのかどうか。困る場合が出てくるんじゃないかと思いますけれども。 ● 2項というのは,(a),(b),(c),(d)のどれか一つでもあれば,その国に常居所があると見るという規定ですよね。  ですから,先ほどの5条(b)は,2条2項を前提とすると,中国にとっては非常に都合がいいといいますか,非常に幅広に拒絶ができるようになるということを意味するのだと思います。 ● 広くなってしまいますけれども,その方が,要するに設立準拠法が中国法であっても,あるいは本店が中国でも,業務の中心が中国でも,それは中国の企業だと中国が言うのであれば,そうですね。  ほかにも4条2項というのがあって,これはドメスティックな場合の定義なのですが,これも,今申し上げたように,自国の企業としての範囲を自国としては表記したいという国には都合がよい規定です。  難しいのは,この2条の2項をどれかに絞るとなると,これはまたもう一回パンドラの箱のような話になって,内容さえお互いに理解できない状況で並んでしまっていて,先ほど申し上げましたように,同じことではないかといっても,いや,自国ではこういう言葉を使っていると。要するに「本店」というのは,法律上そういう概念がある国は「本店」と言えばいいのですが,そんな概念がないというと,事実上の概念で中央統轄地とか何かそういうことを言わなければいけなくなる,それだけのことなのですが,それでさえ困ると言っていたので,いいのかなと思いつつ,しかしこれを議論すると大変だなということなのですが。 ● ただいまの点,いかがでございますか。 ● 私は前々から言っているのですけれども,こういうものをhabitual residenceと言うこと自体がおかしいと思っているのです。 ● 今の中で,法人の登記をした場所というのは,普通は(a)の中に入るという感じなのでしょうか。 ● ええ,私はそうだと思っています。登記簿上の本店という意味だと思っておりますけれども。 ● これがそういうことですか。  そうではない本店もあり得るわけですか。 ● それは,中央統轄地とか,業務の中心地という……。 ● では,特に「登記」と書く必要はないということですか。 ● これはstatutory何とかじゃなかったでしたっけ。ちょっと済みません。 ● 分かりました。どうもありがとうございました。 ● 翻訳が,だからそこはのみ込んで書いているのですが,statutory seatと書いています。 ● さて,2条につきまして,ほかに御意見がなければ,続きまして第3条に移りたいと思いますが,3条の「方式の有効性」の規定につきまして,御意見,御質問ございますでしょうか。 ● 方式の有効性につきましては,裁判所としては,やはり「only」は入れて置いていただきたいと思います。要するに,証拠が何でも出していいということでは非常に困りますので,やはり最低限--まあ,これでも広過ぎるかなと思いますけれども,書面に限るというのが一番いいのですけれども,方式は法定のものに限るということにしていただきたいと思います。 ● これは,条約を批准したら民事訴訟を改正するというお考えなんでしょうか。それとも国際間だけにこういう考え方で,国内は従来どおり書面ということになるということですか。 ● ちょっとまだ批准のことまで到底考えられないのですけれども。 ● (c)と(d)というのは,これは本当にフォームの問題なのですか。それとも,何となく黙示意思みたいなことになってしまわないですかね。要するに,書面でもなければ,その他後に残らないようなものとは別のものなので,例えば,管轄権の合意の提案の申込みも含んだ申込みをして,相手方が沈黙していたと。だけど,一定時間の沈黙も承諾とみなされるという慣行があったと。それで,そうすることによって管轄権の合意ができてしまったと,こういう場合に,フォームだけは慣行に従ってとかいうようなのはどんな意味があるのだろうかと。それは,(a),(b)があるわけですから,それとは違った慣行なんだろうと思うのですね。 ● 今おっしゃった例は,沈黙が承諾になるという話は,これは実質的な有効性……。 ● そうなんです。だから,フォームだけ取り出して云々ということはどんなことを意味するんだろうかと。  もう一つ言うと,usageまでいいのだったら,これはもう実体の問題まで踏み込んだ規定を置かないと,やはりおかしいんじゃないかなと。このフォームだけについてusageのことを問題にするというのは,やはりちょっと何か異様な感じがする。 ● まあ異様かどうか,3条は,方式に関してだけ有効だという規定ですから,それは方式だけなのですが,(a),(b)以外のものではだめかというと,それでは困るという人たちがいて,それで(c),(d)が入っているのですが,それはどういう場合かというのは,例えば電話のような方法で,あるいは--(b)と(c)にならない方法ですから,そのような方法でそういう業界ではやっていて,今更,それは方式としてはおかしいなんていうことを言われると困ると言っているようなのですが,ただ,それが本当に裁判所の合意管轄として認められている実績があるのかとか,そうなると,ちょっと私はそれ以上のことは分かりません。  しかし,これは随分前から入っている規定で,今更,という点ではありますけれども。 ● (c),(d)とかは本当は削っていただいた方が有り難いのですけれども。  あと,この合意は,事前合意に限らず,事後合意も含むという趣旨なのでしょうか。 ● ええ,それは,そのことは書いていないので,入るはずですけれども。 ● 国内法上の民訴法で言う合意管轄の場合は,提訴時になければいけないというのが一般的な理解ですので,その国内法的な理解からすると,事後的な合意管轄というのはちょっと不自然というか……。そうであれば,「事前又は事後の合意」というふうに書いていただいた方が明確だと思うのですけれども。 ● 事後と出てくるのはどこでしょうか。 ● 事後ももし入るのであればです。要するに,提訴後に合意した場合でも構わないということであれば。 ● 提訴後になると,今度は応訴管轄との関係で切分けをどこかでしなければいけないわけですよね。 ● そうです。ただ,応訴と違って,事後的に書面で,例えばここを専属的な裁判として他には起こさないというようなこと,もう起きてしまった以上ここでやりましょうということを事後的に契約する場合もないわけではないと思うのですけれども。 ● いや,私が事後と申し上げたのは,紛争発生後という意味の事後なのですけれども。 ● それはもちろん入ります。そういう意味ではなくて,提訴後。 ● 提訴後になると,先ほどの応訴管轄の話が……。 ● ですから,それは応訴管轄の話が主体だと思いますけれども,もし応訴管轄を認めない,ここから外してしまうのであれば,事後的に合意をした場合というのを全く除外してしまうというほどのことでもないのかなと思ったのですが。  ○○幹事がおっしゃるように,もし応訴管轄も認めるという形になったときに,応訴管轄を置いて,応訴したときに,ほかの裁判所に一切管轄を主張しないというところまで応訴した側は言っているわけではないので,そういう意味では,非専属的な合意をした場合と管轄合意をした場合とは,状況が同じではないと思うのですけれども。 ● よろしゅうございますか。--では,その点もまた御検討いただくということで。  それでは,4条,5条の裁判所の選択合意の実質の規定につきまして,御質問,御意見ございましたら,お願いいたします。 ● 9ページの解説のところで書かれているのですが,結局一番想定されているのは,合意が有効か無効かというのは詐欺や錯誤等合意に瑕疵があるような場合を想定しているというふうに書いてありますね。そうだとすると,詐欺とか錯誤等,真実の合意がなかった場合,その理由で無効とかそういうふうな形にすると趣旨ははっきりすると思うのですが,そうすると,やはり,先ほど言われたように,そこから抜ける部分があるからだめだと,それでニューヨーク条約と一緒にしてしまおうということになるのでしょうか。  はっきりさせようという意味で言うと,これが主として想定されているというふうな形にすれば比較的分かりやすいんじゃないかなと思うのですけれども。 ● 今おっしゃったのは9ページの真ん中あたりのところだと思うのですが,ここについて議論の経緯がちょっと混乱していると思うのですね。会議の場で何度も紆余曲折があってのことですので,私のまとめ方も十分でなくて,自分の考え方が大分入っているのですが,要するにlegalityといいますか,合法性というのですかね。合法性の問題というのはどこで取り上げるんだというのはずっと議論はあったのですが,最後できたのを見ると,載っていないわけで,それは今のところはここしかないのですね。それは別の条項を置くという話もあったのですが,それは主として消費者契約とかのことが言われていて,それを除くということになったのです。しかし,さっき言った代理店の保護とかという感じのものはどこで読むのかというのは残ってしまった。  同じことはニューヨーク条約でもあるはずですよね。仲裁条項を制限するような国内法があったときにどうなるのかという。それも何も書いていない。読むとすれば,2条3項の無効・失効というところで読むしかないのだろうと思うのですが。まあ,今の条文は非常に,何でも読める条文になっているので,そこは全部入ると言えるのですけれども。  私が言っていたように,準拠法指定を認めて,認めていないときは指定された国の法律によると書くと,今度は,別の法廷地の強行法としての弱者保護規定はどうなるんだというのをまた考えなければいけないので,事によると結構大変なところ。これは非常に,何でも入る,それで,どこによるとも書いていないので,自国法のものが入ってくることもあるし,準拠法でやる場合もあるでしょうし。 ● 一般条項的に。 ● そうなってしまっているのですが,しかし,私は,合意管轄条項でそこがいい加減だったら意味がないじゃないかというところを言ったのですが,でもニューヨーク条約はうまくいっていると言われると……。 ● 4条の2項で,常居所地国が持っている管轄権の場合に,常居所地国の判決は7条の承認執行の対象になるというのが前提ですか。  つまり,1項の規定は適用がないというふうに言っていて,1項は管轄権があるんだと,こう言っているわけですから,素直に読むと,この管轄権を持っていますよという規定は適用がないというふうに,2項の場合,なりますよね。 ● 持っていないとなるか,この準拠法の規定は適用されないと言っているわけです。 ● とにかく1項の規定は適用がないわけですね。ノーマルには,1項で管轄権を持っている国の判決を7条で承認するというわけですから,1項が適用ないと,では,どういう……。 ● だから,7条はそうは書かなくて,「裁判所の選択合意により指定された締約国の裁判所が下した判決」と書いたのは,4条2項も含むという趣旨です。  これは,先ほどの繰り返しになりますが,要するに,国内事件なのに条約によって管轄が認められるということはないだろうということで,どんな基準にするかも,それは自由でしょうということなのですけれども。  そこが本当に表現できているかと言われると,それは確かに……。 ● 5条の(b)ほどは純国内的ではないですよね。4条の2項というのは。 ● そうですかね。係争物は外国かもしれないということですか……。ああ,そうですね。 ● ちょっと別な話なのですが,この履行不能の場合と,あとは3項の「事物管轄に影響を与えるものではない」ということの関係なのですが,たまたま合意された裁判所がそういう管轄を国内的に有していないような場合ですけれども,例えば東京家庭裁判所を合意するとかいうふうにしたときですね。そういうものは,例えば,そこに提訴されて,管轄違いで移送されて,移送された裁判所が判決をしたときに,承認執行で言う合意された裁判所がした判決ということになるのかどうかなのですけれども。入口はもちろん,合意された,例えば東京家裁であったにしても,移送して別のところ,例えば東京地裁に行ってしまうわけですよね。あとは,これは余りないと思いますけれども,合意された裁判所が統廃合でなくなってしまったとか,別のところに,銀行の支店ではないですけれども,統合されてしまったような場合は,統合したところがやれば,やはり承認執行の関係では指定された裁判所がやったということになるのだろうとは思うのですけれども,そこら辺はどういう議論があったのかなと思ってですね。 ● 正確にどんな議論があったかは思い起こせませんけれども,まずは意思解釈の問題ですよね。東京家裁でしか嫌で,移送なんて絶対嫌だという固い意思があれば,それはだめだと思いますが,日本国でやりたいんだ,東京でやりたいんだというぐらいのことで書いたのであれば,それはいいということなんでしょうけれども。 ● 結局,意思解釈の問題が出てくるので,どの準拠法で意思解釈をするのだという問題はどうしても抜けないですよね。さっきの沈黙の問題もそうだし,結局,実質の問題をどこの法律で決めるかというのはやはりどうしても残るので,このままでは多分いけないだろうなと。何らかの形で実質の問題に触れることは必要なんだろうなというふうに思います。 ● そういうふうに考えている国も相当あると思いますので,それは議論としては弱くはないのですが,ただ,アメリカはそれに乗れないので,アメリカ抜きでやるかということまで考えるかどうかだと思うのですが。中途半端なものに入ってしまうとかえって困るという懸念もありますよね。ですから,そこは御検討いただきたいのですけれども。 ● それから,これはもう5条にも入っているのですか。 ● はい,4条,5条。 ● 私も○○幹事と同じぐらい意地が悪いのかどうか知りませんが,さっき同じことを,外国法を準拠法として合意した場合はother elementsに入ってくるのかと思ったのですけれども,大体,常居所国にすべての要素が集中しているというのは,どの時点のことを言っているのですか。合意の時点なんですか,訴え提起時なんですか。 ● これは中国の言ったとおりに書いたということ以上のことはないです。そうですね。そこはどうにでも読めますね。日にちは書いてないですね。中国にはちゃんと助け船を出して,この5条だけじゃだめでしょう,後ろの方にもちゃんと置いておかないとと言ったのは,私も含めてですが,ほかの国が教えてあげたのですけれども。 ● まだいろいろ御議論がおありだと思いますが,また次回もございますので,少しお考えいただいてということで,6条につきましても,これも,もし御意見がございましたら次回にお願いしたいということで,残りました7,8,9条,この外国判決の承認執行に関する規定につきまして,御質問,御意見をいただきたいと存じます。--特に何かございませんでしょうか。  ○○幹事の方から,何かございませんか。 ● はい,特に。 ● 7条2項なのですけれども,これは非専属的な合意の場合だけの拒否事由ですけれども,(a)では,係属しているという状況があるという場合,つまり先に係属していたというのが要件になっているわけですが,(b)では,既にされた判決ということで,判決時で分けられていて,そうしますと,後に係属した事件が先に確定して,その後に,先に係属していた事件が確定した場合は,一体(a)と(b)の適用関係はどうなるという整理になっていたのでしょうか。 ● この条文は,もともと最初の段階では,専属的合意管轄の場合しか承認執行規定は置けないでしょうということで進んでいたのですが,しかしそれじゃひどいのでちょっと広げてみましょうということで広げることにして,そのときに,ではこの2項のようなことも必要だろうということで,これは2001年の条約にほぼ同様の規定があったのを取り入れてきたので,それ以上の議論はしていないのです。ただ,2001年条約案よりは少し詳細に書いてあるといいますか,2001年条約案では,(a)が自国の訴訟との抵触しか書いていなかったのですが,第三国の訴訟との抵触まで広げたというところが芸が細かいところだと思っておりまして,それを広げたがために今おっしゃったようなことが起ってきたとすれば,考えてはいなかったのですけれども,しかし,それで本当に困ったことが起きるのかどうかは,私はいま一つよくまだ分からないところなのですが。 ● 実務上で,前にも御紹介申し上げましたけれども,通知の点なのですけれども,7条の第1項の(b)でございますけれども,「被告に対して十分な期間を置き,かつ防御の準備をすることができる方法で通知されていない場合」ということで,中南米では,知らない間に敗訴判決が出たということは何回も経験がありまして,公示催告ですか,外国の法人ですから,勝手に公示催告なんてやって,こっちは読んでいない,気がついたら敗訴で強制執行,そこからスタートするというのが非常に困っているのですけれども,ここら辺のところは,「十分な期間を置き,かつ防御の準備をすることができる方法で」という現状のこの文章,○○幹事がいろいろ配慮されて主張された文章が抜かれても,今の条文で,そのような場合には承認執行を拒否できると考えてよろしいでしょうか。 ● ええ,これは公示送達を除く趣旨で,現実の送達がきちんとないといけないという趣旨です。  ただ,それが実質的にちゃんとあればよいというところで,でも形式的に法律に反しているときはどうしますかというのが,先ほど私が申し上げたことなのですが。 ● この1項(b)についての○○幹事の報告書の14ページの二つの問題点の御指摘について,従前日本が主張していたものが落とされてしまったということもあり,もう一回,今回意見を出すときに,そこは盛り込むべきだという主張をすべきかどうかということを御検討いただかないといけないと思うのですが。今回,まだもう一回ありますけれども,何か御感触をごく簡単に伺えれば有り難いと思います。 ● いかがでしょうか。 ● これは余り親切に書いていないので何ですが,日本の最高裁判決というのは,日本の弁護士さんが外国の弁護士さんから頼まれて手渡しの送達を自身が行ったということで,それは送達条約にもやってよいとは書いていないことであって,それ自体は違法だと最高裁は言った事件ですけれども,ただ,その事件では応訴していたので,それは治癒されたのですが。 ● これは,できれば書いていただきたいと思いますけれども。  そうでないと,結局当事者の立場からしても,被告側は2回チャンスを持つことになりまして,応訴しておいて,勝てばいいし,負ければもう一度,手続違背ということで執行判決の段階で蒸し返しができるということになりますので,原告側からすればたまったものではないということになりますし,裁判所としても,後で蒸し返しで,結局もう一度,執行判決の段階でこの瑕疵を問題にし得るという状況のまま応訴してきた人間が来たときに,実質審理をする価値があるのかどうかというところで,裁判所も困るというところがありますので,いったん応訴をした以上は,そこはもう瑕疵なしという形に明文上も分かるような条文を置いていただく方が,原告の利益にもなりますし,裁判所としてもそれは実質審理をする上で安心してできますので,そうしていただきたいと思いますけれども。 ● 今の点は,二つの問題にすると後者の方ですよね。応訴の点ですよね。 ● 応訴して,瑕疵が治癒するというところです。 ● もう1点の方の,法律に反した送達だけれども,あるいは条約に反する送達だけれども,ちゃんと被告は分かったし,時間も十分あったと,その場合に拒否事由にするのかしないのかということなのですが。 ● ちょっと余り……,その時々という話になってしまうので,法律に違反したものはだめというふうに書いてしまうのも一つの割切りだという気はするのですけれども。まあ,個別の事案で,そのときに分かっていたじゃないかとか,そういう話になると,確かにそういう分かっていた人間でどうして後からということはあるのですけれども,余り個別事情で判決の有効性があやふやになるよりは,少なくとも法律に違反した形で手続していた以上はしようがないなという方が,むしろ割切りとしてはいいのかなという感じがするのですけれども。 ● アメリカから単純にレジスタードメールで来るというやつなのですけれども,それは今の議論ではどういうふうになりますでしょうか。アメリカでは,送達が十分できないときには内容証明のレジスタードメールでもいいのだという補充的な送達が認められているわけですね。アメリカの法ではオーケーと。ただ,日本の送達としては不十分なはずなのですけれども,実務は,それを争っても五分五分で負ける可能性が高いので,もうあきらめて応訴しているのですけれども,この今の条約案ではこの問題はどういうふうに整理されますでしょうか。 ● 何もない現在の条文ですと,その通知が,読める言語でというか,アメリカなら多分大丈夫でしょうが,ちゃんと読めて,時間があってということであれば,よいということになると思います。 ● 実際は英語であれば読めるのですけれども,アラビアからでアラビックだったら読めないかという,そういう解釈になるのですか。 ● そうですが,防御の準備をすることができる方法というのが,何語で書いてもよいという,相手方次第だということになるんじゃないでしょうか。  ただ,先ほど私が申し上げた,法律違反かどうかという点については,日本は送達条約の拒否宣言をしていないので,それは有効なんだと思います。裁判例では,だめだと言っているのがありますよね。 ● よろしゅうございますか。  それでは,まだいろいろと御意見,御質問おありになろうかと思いますが,逐条的にはこのあたりにいたしまして,続きは次回にお願いしたいと思いますが,問題は,本年12月の本合意管轄条約の基礎とする特別委員会を開催してよいかどうかということでございますが,この点について,御意見,御質問ございましたら,お願いいたします。--この点も次回までに十分にお考えいただきまして,御意見をいただきたいと思います。  予定しておりました本日の議題につきましては大体御意見をいただけたかと思いますので,本日はこの程度といたしまして,次回,6月24日に議論を更に深めていただきたいというふうに考えております。  それでは,今後の日程につきまして,事務当局の方から説明をお願いします。 ● それでは,事務当局の方から,今後の日程に関しまして御説明いたします。  今,○○委員からも発言があったかと思いますが,今後の日程といたしましては,6月24日,1時半から,第11回当部会を開催し,本日の御議論に引き続きまして,ヘーグ事務当局からの照会に対する我が国の意見を取りまとめるための御審議をいただきたいと考えております。  次回の部会には,本日の御議論を踏まえて,ヘーグ事務局に提出すべき我が国のコメントの原案を作成いたしまして,事前にお送りしたいと考えております。その関係で,この条約案につき更に御意見がおありの場合には,事務当局にできる限り早目にコメントをお出しいただければ幸いでございますので,どうぞよろしくお願いいたします。  なお,つけ加えて申し上げさせていただきますと,仮にヘーグ事務局が本条約草案を基礎とする特別委員会の開催を決定した場合には,特別委員会は12月の初旬に行われますので,その約1か月前に当たる11月11日に,特別委員会の対処方針を決定するための本部会を開催することを予定しておりますので,どうぞその点もよろしくお願いいたします。 ● 今の11月11日のことは,まだ,そもそも各国がどういう意見を出すかにかかっていますので,もしも特別委員会が開催される場合にはそれで場所を確保してございますという趣旨にすぎませんので,それを御理解いただければと思います。  今日は,長時間,どうもありがとうございました。 ● それでは,熱心な御審議を賜りまして,どうもありがとうございました。これで閉会とさせていただきます。 -了-