法制審議会 国際裁判管轄制度部会 第11回会議 議事録 第1 日 時  平成15年6月24日(火) 自 午後1時30分                       至 午後5時00分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  ヘーグ国際私法会議「裁判所の選択合意に関する条約草案」に対する日本政府コメント(案)について 第4 議 事 (次のとおり)               議         事 ● それでは,定刻となりましたので,第11回法制審議会国際裁判管轄制度部会を開会いたします。          (委員・幹事の異動紹介省略)   それでは,本日の議事に入らせていただきます。   まず,事務当局から,配布資料につきまして御説明をお願いいたします。 ● それでは,配布資料を御説明いたします。   まず,資料番号39として配布させていただきましたものが,事務当局が作成いたしました,ヘーグ事務局からの照会に対する日本政府のコメント案でございます。そして,今回の部会での御審議の結果を踏まえて修正しましたものを,ヘーグ事務局に対して回答する予定としております。   資料番号40として配布させていただきましたものは,電子情報技術産業協会からの意見書でございます。これは,平成14年12月25日付,すなわち第1回の非公式会合の結果を受けて提出されたものでありますが,基本的に合意管轄に特化した条約を作成することに対する意見書でございますので,配布させていただきました。 ● 本日は,部会資料39「ヘーグ国際私法会議「裁判所の選択合意に関する条約草案」に対する日本政府コメント(案)」につきまして御審議いただきたいと存じます。   なお,本日は,コメント案につきまして一通り御議論していただく必要がございますので,場合によっては時間を延長することもございます。あらかじめ御了承いただくようお願いいたします。   それでは,まず,事務当局の方から,コメント案についての御説明をお願いいたします。 ● それでは,部会資料39「ヘーグ国際私法会議「裁判所の選択合意に関する条約草案」に対する日本政府コメント(案)」を説明させていただきます。   まず,コメント案作成の方針につきまして御説明いたします。   本コメント案は,基本的に前回の部会の審議結果を中心として作成いたしました。   もっとも,前回の部会におきましては,条約草案の多くの条について御指摘をいただきましたが,特別委員会の開催が決まっていない現段階において余りに多くの事項についてコメントすることは得策ではなく,我が国として重要と考える事項に絞って簡潔な意見を提出する方がよいのではないかと考え,また,ちょうだいした御意見の中には,当該御意見で日本政府のコメントを取りまとめることが現時点では困難ではないかと思われるものもありましたので,条約草案についてのコメントは,項目を絞るとともに,1ページの一番下の段落になりますが,「なお,このコメントに掲げていない事項につき,特別委員会においてコメントを追加することがあり得ることを留保する」という一文を入れております。   なお,この点に関しまして,ヘーグ国際私法会議事務局にコメント照会の趣旨を確認いたしましたところ,ヘーグ事務局からは,本条約草案を基礎とする12月の特別委員会の開催の可否が最重要論点であり,条約草案の内容については,無論個別的な論点に対するコメントでも構わないが,基本的には条約草案の政策的内容に関する重要な論点について重点的に記述してほしく,すべての国家は,今回の照会に対する回答にかかわらず更にコメントする機会が保証されている旨の回答を得ることができましたことを,あわせて報告させていただきます。 それでは,コメント案の内容の御説明に移らせていただきます。   コメント案1ページの「特別委員会の開催について」におきましては,本条約草案を基礎として12月に特別委員会を開催することにつき,日本政府は賛成と回答する旨記載しております。   そのことの根拠を,以下,御説明申し上げます。   まず,前回の部会でも紹介されました非公式作業部会における検討結果にかんがみれば,B to Bの合意管轄以外の管轄原因を盛り込んだ条約を作成することはフィージビリティーがないと考えられます。ゆえに,仮に裁判管轄及び外国判決の承認執行につき何らかの条約を作成しようとするならば,本条約草案を基礎とする以外には考えられず,本条約草案を基礎として特別委員会を開催することにつき賛成することが妥当であるという結論に至ると考えられます。   しかし,仮にB to B合意管轄のみの条約につき全く実益がないと判断するならば,必ずしも特別委員会の開催に賛成することが妥当であるということにはならないと思われます。しかし,この点につきましても,世界的な条約であれば,たとえB to Bの合意管轄のみの条約であったとしても,その点に関する予測可能性は世界的に明らかとされるところであり,そのことには十分意義があると思われます。   以上により,本条約草案を基礎とする特別委員会の開催の可否につきましては,賛成すべきと考え,コメント案を作成いたしました。   ただし,これまでの外交会議等に対する日本政府の対処方針にかんがみれば,包括的に裁判管轄についての規定を置く,いわゆる「大きな条約」が,たとえフィージビリティーの観点からはその作成が困難であるとしても,なおそれが望ましいと日本政府が考えていることには変わりがないことを示すために,なお書といたしまして,この条約をベースとしていずれ大きな条約が作成されることを強く希望する旨,記載しております。   続きまして,「「裁判所の選択合意に関する条約草案」についてのコメント」につきまして,各論点ごとに御説明申し上げます。   まず,コメント案に記載された事項を御説明する前に,応訴管轄について御説明申し上げます。   前回の部会におきまして,応訴管轄については訴訟競合の問題も発生せず,条約の対象とすることも可能であり,管轄原因として加える方向で検討すべきではないかという意見があり,全体としても余り御異論はなかったかと思われます。しかし,それにもかかわらずコメント案にその旨を記載しなかったわけでありますが,これは以下の理由によります。   応訴管轄についてのこれまでの条約の経緯を見ますと,1999年条約案の段階では,いわゆるグレーの管轄原因であったとしても,応訴管轄が成立する場合にはホワイトリスト管轄原因となる規定でありました。   しかし,本日お持ちいただいているかと思いますが,部会資料22の23ページ又は23の23ページ若しくは部会資料24の25ページの注の152を御参照いただきたいのですが,これは2001年条約案についての解説になりますが,その2001年条約案の作成段階におきましては,グレーエリアの管轄原因に基づく訴訟を被告の応訴によりホワイトリスト管轄に基づく訴訟とすることは適切ではないとの点に関して各国のコンセンサスが得られたため,2001年条約案においては,そのような応訴管轄の規定は削除され,原告がホワイトリストの管轄原因に基づき訴訟を提起し,被告がそれを争わなかった場合,判決の承認執行段階で被告が判決国の管轄について争うことを禁止する規定となりました。   このような経緯にかんがみますと,グレーエリアの管轄原因をホワイト化する応訴管轄の規定を設けることは,そもそもコンセンサスが得られるとは考えにくく,また,合意管轄のみの条約草案において2001年条約案のような規定を置く実益も乏しいと考えられます。   以上の理由により,応訴管轄については,日本政府コメント案においては言及しないことといたしました。   では,コメント案に戻りまして,まず,2ページ,「(1)条約の適用範囲について」に関しまして御説明いたします。   ここには,条約の適用範囲に関する条約草案の1条に関しまして,4項のブラケットを外して,条約草案に4項を挿入すべきことを記載しております。   仮に4項を削除した場合,1条3項の事項について,それが論理的に前提問題となるすべての訴訟判決は条約の適用範囲から外れるのか,それが訴訟において抗弁として出された場合にそのような訴訟・判決が条約の適用範囲から外れるのか,それらを本問題とする手続が条約の適用対象外となるだけで,その意味では1条4項の挿入・削除は条約の実質的内容とは関係がないのか,以上三つの解釈が可能となりますので,規定が不明確となります。   また,前二者の解釈,すなわち,それが論理的に前提問題となるすべての訴訟・判決が条約の適用範囲から外れるという解釈,又は,それが訴訟において抗弁として出された場合にそのような訴訟・判決が条約の適用範囲から外れるといった考え方を採用する場合には,1条3項(a)号の自然人の地位及び能力や(j)号の法人の有効性は,通常の事案においては,常に論理的には前提問題となるため,それらの事案が条約の対象外とされ得ることとなり,結局,条約の対象となる事案が過度に少なくなるのではないかと危ぐされます。   ゆえに,そのようにすることは政策的観点から妥当でないと考えられ,そうであれば,規定を明確化するためにも4項は挿入すべきであると考えられます。   ただし,具体的に何を3項に記載し,何を2項に記載すべきかについては言及しておりません。これは,具体的にどのようにすべきかにつき,現時点において日本政府としての見解を決定することは困難であると判断したためであります。   具体的には,前回の審議会での御議論におきまして,1条3項の(b)号から(d)号までの事項につき,B to Bの合意管轄のみを対象とする条約中に記載することが真に適切であるか検討する必要があるとの御意見もあり,この点につきまして引き続き検討する必要があると思われます。   また,(f)号の海事につきましても,前回の審議会において,条約の対象としてもよいのではないかとの御意見もありましたが,この点につきましては,現在,照会中であります。   また,(k)の知的財産権については,2点が問題となっております。   まず,現在の条約草案では,知的財産権の侵害訴訟等につきましては条約の対象となっておりますが,この点に関しましては,本日部会資料40として配布させていただきました意見書などを御参照いただきたいのですが,条約の対象とすることには反対であるとの意見もあり,なお検討を要すると考えております。   また,著作権をどのように扱うかに関しましても,前回の審議会においては,条約の対象とすべきとの御意見もありましたが,条約の対象外とすべきであるとの意見もあります。   この知的財産権の点につき,これまでの外交会議等に対する日本政府の対処方針といたしましては,知的財産権について侵害訴訟も含め専属管轄とすべきことを主張しておりました。このことにかんがみれば,B to Bの合意管轄のみを対象とする条約であるとしても,条約の対象外とすることもなお検討すべきと考えられますので,いずれにいたしましても,この論点につきましても,現段階において日本政府としての見解をまとめることは困難かと思われます。   その他の点に関しましても,具体的な条約の適用範囲につきまして,現在,明確にコメントすることはできないと判断し,具体的な記載は行わなかった次第でございます。   では,続きまして,2ページ,「(2)裁判所の選択合意の要件について」に関しまして説明させていただきます。   この点につきましては,B to Bの合意管轄のみを管轄原因とする条約となってしまった以上,できる限り各国法の統一を行うべきではないかと基本的には考えております。   そこで,まず,裁判所の選択合意の方式要件についてでございますが,さきに述べた価値判断に基づくならば,3条の「only」の文言は挿入すべきということになると考えられます。   なお,3条の規定につきましては,前回の審議会におきましても,(c)号,(d)号の要件につき,不明確であるため,削除を求めるべきではないかという御意見がありましたが,この点についてはコメント案には掲げませんでした。これは,いわゆるヨーロッパ・ルールにおいて同様の規定があるからでございます。ブリュッセル規則については23条1項に,ルガノ条約においては17条1項にそれぞれ同様の規定が置かれております。この点につき,(c)号,(d)号の方式が,現在,ヨーロッパにおいて有効と考えられていることにかんがみれば,削除を求めて,これらの方式を無効とする規定を置くことは困難であると考えられ,特段のコメントを付しませんでした。   続きまして,実質的有効性,成立要件について御説明いたします。   裁判所の選択合意の実質的有効性については,コメント案におきましては,「どの国の法律によって判断するかについての規定を設けることを特別委員会で議論すべきである」とのみ記載しております。   裁判所の選択合意の有効性に関しましては,前回の部会の御議論でも,規定を設けるべきであるという点ではコンセンサスが形成されていたかと思われます。そして,具体的な提案内容といたしまして,非公式会合においてヨーロッパ諸国からの参加者及び我が国から御参加いただいた○○幹事が御提案された,管轄合意につき選択された裁判所の属する国の実質法によるという国際私法規定を設けるべきという御意見も前回の部会でちょうだいしたかと思います。   しかし,現在,我が国におきましては,通説・判例としては法廷地法説が採用されております。この法廷地法説は,管轄合意につき選択された裁判所の属する国の法律という国際私法規定を設けるさきに述べた考え方とは異なり,訴訟が現に係属した国の法律によるという考え方であります。   この点につき,判例といたしまして,最判昭和50年11月28日民集29巻10号1554頁がございますが,この事案は,アムステルダムに専属合意管轄を行ったにもかかわらず訴訟が日本に係属した事例であり,このアムステルダムの専属合意管轄の有効性を判断するために法廷地法たる日本法上の基準に従ったものでございます。仮に非公式会合における提案を採用するといたしますと,オランダ法によって判断することになります。   さらに,我が国においては,この点につきまして,法例7条によって決定される準拠法を合意管轄の有効性の判断に適用すべきであると考える学説もあります。この学説におきましては,通常,契約条項中に合意管轄条項が挿入されている場合には,当該合意管轄条項につきましても,契約を規律する準拠法によって判断すべきとされます。   以上のような日本の学説状況にかんがみれば,現時点におきまして日本政府としての見解を確定することは困難であり,ゆえに,現在のコメント案においては,この点について具体的な規定を提案することは,行っておりません。   裁判所の選択合意の要件につきまして,最後に,2ページ目の最後の段落の「なお」以下の点につきまして御説明いたします。   実質的有効性の判断と締約国の国内法上の事物管轄権に関する規定との関係についてのコメントを,ここでは記述しております。   当事者が専属的合意管轄をしておりましたが,それによって選択されていた裁判所が,国内事物管轄に関する規定の法律に基づきまして他の裁判所に移送することは,4条3項により可能であると考えられます。しかし,移送先の裁判所の下した判決につきまして,他の締約国に条約上の承認執行義務が発生するか否か,現在の規定では必ずしも明確でないと考えられ,その旨を記載しております。   この点に関しましては,当事者がある国の裁判所に専属的合意管轄を行った以上,その国に条約上の排他的な裁判管轄権行使の義務が発生すると考えられ,そうであれば,その国の他の裁判所が下した判決であっても,締約国に判決の承認執行義務を課すことが妥当であると考えられるため,その旨をコメント案に記載いたしました。   次に,(3),(4)として記載されております,判決の承認執行の点につきまして御説明いたします。   まず,「(3)判決の承認・執行に関する送達要件(7条1項b号)について」に関しましては,これまでの外交会議における日本政府の対処方針との平仄も考え,7条1項(b)の末尾に,「,又は送達が送達実施国法に反して行われた場合」という文言をつけ加えることによって,あくまで送達実施国法に従った送達が行われた判決についてのみ,締約国に承認執行義務を課すべきである旨の内容を記載しております。   現在の条約草案のように,送達実施国法に従わなくても,被告の実質的防御権を保障する送達であればよいとするならば,例えば日本にいる被告に対して外国から直接郵便送達が行われた場合に,それは日本の秩序を害する送達であるにもかかわらず,そのことを根拠として承認拒絶をすることができないこととなります。仮にこのような判決に承認執行義務が課されるとするならば,そもそも外国への送達につき,当該送達実施国法を考慮する実際上の利点がなくなりますため,送達実施国の秩序は害されやすくなります。そのような事態は,ひいては国際的な送達秩序を害することとなります。以上のような結果は望ましくないと考えましたので,その旨を記載いたしました。   「(4)非専属的合意管轄に基づく訴訟と他の訴訟の競合(7条2項)について」に関しまして御説明いたします。   この点につきまして,コメント案には,現在の7条2項では規定が不明確である旨を記載し,かつ,政策的観点から2点の提案をしております。この点につきましては,コメント案の6ページにある別添の図に沿って御説明いたします。   まず,7条2項(a)号につきまして説明いたしますが,設例1を御参照ください。   (a)号に関しましては,文言をそのまま読むとするならば,後に係属した訴訟--この図で言いますとB国訴訟ということになります--について,先に係属した訴訟--この図で言いますとA国における訴訟ということになります--がペンディング,係属中である場合についてのみ承認執行の拒絶をできるとされております。その結果,6ページのこの設例1に掲げましたE2の時点におきましては,先訴であるA国の訴訟は既に係属中であるとは言えず,その結果,B国の判決の執行を拒絶することができないかのようにも条文案は読むことが可能ではあります。しかし,政策的に考えますと,先訴が係属中か否かによってそのように区別することは望ましくないと考えられます。ゆえに,この点につき,A国判決の確定後もB国判決の執行を拒絶できることを明確に表現すべきであると考え,コメント案を作成いたしました。   また,7条2項(b)号につきまして説明いたしますが,設例2-1,2-2を御覧ください。この(b)号におきましては,非専属合意管轄に基づく訴訟の判決について,judgement rendered,すなわち既にされた判決と矛盾する場合に承認執行の拒絶ができると規定されております。しかし,この規定の中に,矛盾する判決の確定の先後が要件として規定されているか,すなわち,先に確定した判決と,後から確定した非専属合意管轄に基づく訴訟の判決が矛盾する場合,後から確定した非専属合意管轄に基づく訴訟の判決の承認執行を拒絶することができると規定しているのか,あるいは,ある一時点をとりまして,確定している複数の判決があれば,たとえ非専属合意管轄に基づく訴訟の判決が先に確定していたとしても,その承認執行を拒絶することができるのか,必ずしも明確ではないと考えられます。   若干説明が抽象的過ぎたかと思いますので,具体的にどのように問題となるか,設例2-1,設例2-2に沿って御説明いたします。具体的には,コメント案4ページ3段落目以降の記述の点が問題となります。   まず,設例2-1におきまして,E2の時点において,B国は自国の確定判決の存在を根拠として,非専属合意管轄に基づくA国判決の執行を拒絶できるのか,不明確となりますし,そもそも,仮にE1の時点において,A国判決の執行がB国において求められた場合に,B国はどのような対応をとるべきか,明らかでないと考えられます。ただし,この点につきましては,必ずしも,どのように考えるべきかにつき,具体的提案は行っておりません。   次に,設例2-2におきましても問題は生じると考えられます。A国訴訟もB国訴訟も非専属合意管轄に基づく場合,E2の時点において判決の承認執行を求められたC国は,A国判決の執行の拒絶はできないのか,それとも,A国判決の執行についても,B国判決を承認執行する限りにおいて拒絶することができるのか,一義的に明らかではありません。そして,この点につきましては,仮にC国がE1の時点にA国判決の執行を求められたとすれば,条約上の義務としてA国判決の承認をしなければならないにもかかわらず,B国におきまして後から訴えが提起され,かつ,後から判決の確定したこのB国判決により,そのような条約上の義務がE2の時点においては消滅しているということとなるとすれば,それは妥当でないと考えられます。ゆえに,コメント案にはその旨記載しております。   以上の訴訟競合の点につきまして,いかなる訴訟競合の処理が望ましいかにつき,より詳細な具体的提案を行うことも考えられますが,現時点におきましては,そのような事項につき,日本政府としての見解を決定することは困難であると考えられるため,今回のコメント案においては,そのようなものは掲げておりません。   最後に,5ページに記載しております「(5)損害賠償判決の承認(11条)について」に関しまして御説明いたします。   損害賠償判決の承認に関しましては,コメント案におきましては,2001年条約草案33条2項と同趣旨の規定を挿入すべきである旨記載しております。これは,判決の承認執行を求められた国にとって「極めて高額」と評価することができる外国判決については,その「極めて高額」な部分につき承認しなくてもよいということを認める規定でございます。判決の承認を求められた国の基準に従って,そのように「極めて高額」と評価される損害賠償につきましては,それをそのまま承認しなければならないとすることは,やはり承認を求められた国の公序に反するのではないか。言い方を変えますと,懲罰的損害賠償と「極めて高額」と評価される損害賠償は,それほど差異がないのではないかということが考えられます。ゆえに,懲罰的損害賠償について判決の承認執行義務を課さない以上,「極めて高額」と評価される損害賠償につきましても,「極めて高額」と評価される部分につき承認執行義務を課さないことが妥当であると考えられ,コメント案を作成いたしました。   以上で,事務当局からの日本政府コメント案についての御説明を終わります。 ● それでは,日本政府のコメントに盛り込むべき内容につきまして御審議をお願いしたいと存じますが,部会資料39のコメント案に基づきまして,各項目ごとに順次審議したいと存じます。   まず,コメント案1ページ,「特別委員会の開催について」,これが一番重要であろうと思いますが,本条約草案を基礎として,本年12月に特別委員会を開催することの可否につき,御意見をいただきたいと存じます。いかがでございましょうか。 ● この点につきまして,前回の部会では,たしか○○委員から,冷静に考えれば,この合意管轄だけの条約を作ることにもそれなりの意義はあると言っていいのではないかという御発言をいただきまして,それを踏まえてこのようなコメント案の原案を作成させていただいたのですけれども,席上にお配りしております資料40,同じ経済界の電子情報技術産業協会というところから出されたものでございますけれども,この意見書では,B to Bの合意管轄の条約を作ることは我が国の企業にとってはむしろデメリットの方が大きいのではないかという指摘,これは知的財産権に限ってということなのかもしれませんけれども,そういう御指摘もちょうだいしておりますものですから,もう一度,この辺,どう評価すべきなのかということについて,まずは○○委員から口火を切っていただければ非常に有り難いと思っております。 ● 前回,私の意見としまして,特別委員会の開催は賛成であると。大きな条約を現時点でギブアップするのは大変残念だけれども,現実的にこれだけ長くやってきて結果を出さないとまずいだろうと。それから,結果は意味があると,こういうことを申し上げたのですが,私の属している日本経団連の経済法規委員会のメンバーに,基本的にはその考え方を全部照会しまして,その中では,経団連の経済法規委員会の企画部長の名前で私の意見に御賛同いただいて,経団連としては当初予定されていた広範な条約を目指すべきと考えますが,現状では新草案の検討を進めることが妥当であると考えます,このことについて関連の資料を同封したので,御意見のある方は御連絡くださいという形で投げまして,その中で,明確に,条約採択に向けて特別委員会を開催することの賛否と考え方ということで,A案,B案と。   A案は賛成,B案は反対するということでございまして,A案の考え方は,最小限度の条約と言えるが,たとえそうであっても,本条約で規律されることにより解決される事件も少なくないはずである,したがって特別委員会を開催して条約採択を目指すべきであるとするという考え方ですと。B案は,余りにも条約の射程範囲が狭く,また,米国等他国の裁判所を合意するケースが多く,メリットが少ないとする考え方であると。このA案とB案を明確に提示いたしまして,その上で,日本経団連としてはA案に賛成です,御意見がありますかということでやったのですが,結論的には,積極的に賛成であると言ってくださった会社さんがあるし,あとはもうお任せということで消極的賛成ということですけれども,反対とかそういう意見は一切来ていませんので,この考え方が経団連の経済法規委員会では総意を得ているということでございます。   それから,前回の平成14年12月25日のこの電子情報技術産業協会の御意見というのを私も読んで,正直申してよく理解できないと申しますか,知的財産権に関して,侵害で,管轄合意がないにもかかわらずとんでもない国に訴えられるというリスクに対しては,我々も大変な危ぐを持っていますが,いやしくもB to Bで冷静に判断する企業があえて合意した,その合意に従う気はないというような,合意したのだけれどもそれを日本国の裁判所がけってほしいという余地を残したいという,こういう発想法というのは,正直申し上げて,私は企業法務を33年やっていますけれども,納得できません。B to Bでは,合意したら守ると,これはもう世界中大原則でございまして,それは何も最終的な契約書にならなくても,契約の途中でも合意したことは変えないということで複雑な商取引が構築されるわけでございまして,ましてをや,厳密な要件に従って合意したのを否定するという考えをベースにして--各論では傾聴すべき点があると思いますけれども,どうもその根幹の精神がよく理解できない。これは平成14年の若干古い意見ではございますが,そういうことになりますと,正直申し上げて,その根本のところにはコメントのしようがないというような印象を持っています。 ● ほかにございますでしょうか。 ● 私の方は裁判所ですので,特にこの政策にどうこうということはないのですけれども,今のままで何も合意がない状況に比べれば,少なくとも合意管轄に基づく管轄を認めるかどうか,あるいはそれに従ってされた外国判決を承認執行するかどうかについて一定のルールがあるということは,裁判する側としても望ましいことでありますし,できれば,今回御提案がありますように,合意の効力についても判断基準が何らかの形で合意されるということは,国際的に同じ形での判断がされるという意味では,法的安定性とか判決の安定性という意味で非常にプラスだと思いますので,今回の特別委員会の開催には賛成という立場の今回のコメントには賛成したいと思います。   それから,知的財産権の関係で,今,○○委員からもございましたけれども,この資料40の関係は今回初めて見たものなのですけれども,書いてあることは私もちょっと理解できないところでございまして,この電子情報技術産業協会の構成企業はどういう企業かというのは私も詳しくは知りませんけれども,恐らくプログラムとかそういったものの関係の企業のお集まりだろうとは思いますけれども,一つは,そういう知的財産権の分野で,WIPOとか,あるいは別の著作権関係の国際委員会などで何らかの統一的な実体法的あるいはこういう管轄に関しての交渉が行われていて,近いうちに何らかの合意が行われるというような事情であれば,そういうところでの合意にフリーハンドを残す上で除外してほしいというような提案があるなら,それはそれで一つの考え方だと思いますけれども,そういう事情がないにもかかわらず,こういう形で反対するということであれば,これは要するに現状と同じ状態を放置した方がいいということでしょうけれども,それは,先ほど○○委員からありましたように,ビジネス上で合意管轄したにもかかわらずそれを守らなくてもいいというのはおかしな話です。   また,日本企業として,この電子情報技術産業協会に属している企業さんもあるかもしれませんけれども,コンテンツを中心に,著作権関係,特にアニメの関係とかミュージックの関係とか,そういった形でこれから国際的な企業展開をしていこうというのが,文化庁さんも含めて日本のそういう企業の基本的な姿勢だろうと思います。例えば,東南アジアとの関係で,契約で使用許諾契約をするということは十分考えられますし,そういうときに,例えば,東京地裁を専属的合意管轄という形で契約に定めたにもかかわらず,タイとかインドネシアとかで逆に提訴されてしまうというようなことであれば,日本企業がこれから展開する上でもデメリットだろうと思います。現に,この間,最高裁で判決がございましたけれども,あのウルトラマンの関係でタイの方で逆提訴のような形で訴訟を起こされたという事件がございましたけれども,ああいったことが現に行われているわけですので,そういうときに,日本企業としてはむしろ,契約条項の中で専属的な合意管轄で合理的な,例えば日本のアニメであれば東京地裁というような形で管轄の合意をした場合に,それを相手方が守らなくてもそれはいいんだというような選択をしているのであれば,この資料40のお考え自体ちょっと不合理な考え方で,理解できないというふうに思います。 ● 特別委員会を開くことが望ましいというお考えをお伺いしたわけですが,それ以外のお考えはございませんでしょうか。 ● 私も,原則として特別委員会を開くということに賛成します。   確かに,この資料40の電子情報技術産業協会が言っているように,数量的に言えば,例えばアメリカと日本の関係を言えば,アメリカの企業の方の力が強くて,アメリカの方に管轄を持っていかれてしまうということは数量的には多いかもしれないとは思います。ただ,両当事者の話し合いで決めることですので,特に日本に関連が深い契約であれば,例えば日本に合弁会社を作るとかいうことであれば管轄も日本にされることが多いわけですから,そういう意味から言って,B to Bの合意管轄に限った条約であっても,やはりそれは日本にとっても意味があることだと考えます。   何よりも,これはもう10年以上かけて国際的に議論しているわけですから,それで何の結論も出ないということは,関連する当事者全員にとって余りよくないことで,やはり小さな条約であっても,それをスターティングポイントとできるわけですから,そういう意味で,今回,このようなB to Bの合意管轄に限った条約であっても,特別委員会の方に持っていくというのは意味のあることだと思います。   ただ,ここの一番最後のところでもって,もうB to Bの合意管轄だけに限ってしまっていますけれども,応訴管轄については先ほど御説明がございましたけれども,そのほかのものを,まだこれから,特別委員会は今年の終わり,そして外交会議は来年という話ですから,その間に何とかもう少し広げる努力ができないものかなというふうには考えております。余りにもB to Bの合意管轄だけに限るのではなくて,もう少し何とか広げられないものかというふうには考えております。 ● 私も,基本的にそれで結構かと思いますが,今,○○委員から言われた点,少し広げるという点からすると,一番最後,もっと大きな条約に行くように「強く希望する」というふうになっていますけれども,そこがなお書になっていて,委員会の開催に賛成か反対かということから言うと「なお」なのかもしれませんが,ちょっと弱いので,「更に」とか何とかぐらいに,まあ表現の問題ですが,少し気持ちを込めた方がいいのではないかというふうに思います。 ● 今の○○委員の御意見に賛成いたします。もっと強く書いた方がいいと思います。 ● 私も,最後の点については申し上げたいと思っていたのですが,ここに書いてあることは,この条約を基礎としてというふうに--まあ英語でどう表現されるか分かりませんが,この条約は非常に特化して,専属管轄だけを対象にしてしまっていますので,これは基礎にはならないと思うのですね。   むしろ,今までの10年の交渉経緯からしますと,アメリカさえ除けば相当な国でミックス条約はできるのではないかと思いまして,実際,その会議の場では,ロシア人形というか,入れ子状態の,日本でもそういう細工物がありますが,大きな枠があって,内側に小さいコアの条約があってもいいけれども,大きいところを合意できる国はそちらを合意し,どうしてもコアのところしか無理であるという国はコアのところだけ合意すると。要するに,複数の,最低二つですが,二つの条約をつくって,ミックス条約と合意管轄条約をつくって,両方やってみるというやり方もあり得ると思うのですね。この条約を広げるのは構造上難しそうなので,むしろ,言うとすれば,ミックス条約も捨ててしまわないで,交渉可能な国で--アメリカは多分そういう言い方をするのは嫌うと思いますが,妥結可能な国ではつくってみたらということを考えてはどうかと。   ただ,これはもちろん,コメントを求めているのは,この非公式会合の案をもとに開くのはどうかということですから,余り詳しく言うのはどうかと思いますけれども,この表現ぶりでは,日本は具体的にどうしようと言っているのかというのが分からないように思いましたので,少し御検討いただければと思います。 ● 特別委員会の開催につきましては,積極的な御意見のみ伺いました。否定的な御意見はございませんか。   それでは,特別委員会を開催するという方向についてはお認めいただいたものと考えまして,ただ,このコメント案の表現その他について,何か御意見ございますか。--これでよろしゅうございますか。最後の点については,ただいま○○幹事の方から御指摘がございましたけれども,よろしゅうございますか。 ● 第2,第3パラグラフに理由が書いてあるわけですね。開催に賛成するという。御異論がないということはこれでよろしいということらしいのですけれども,この理由に限定されるものではないだろうということは最後に留保しているからいいとは思うのですが,このような理由でよろしいかどうか,ちょっと御意見を聞きたいなと思っていたのですけれども,よろしいでしょうか。 ● いかがでしょうか。 ● これは,少し前に一度,委員各位に御意見をお伺いしたことがあるんですよね。いろいろな点で。そのときにいただきました御意見を参照させていただいて,まとめて,こういうふうに書いたものだと思っておりますけれども。 ● 特に御意見がなさそうですので。   では,こういうことで,特別委員会をこのような趣旨で開催するということにつきまして御承認いただいた,方向として御承認いただいたということで,次に参りたいと存じます。   次に,条約草案の内容に関するコメントにつきまして御審議をお願いしたいと思いますが,コメント案の2ページの「(1)条約の適用範囲について」に関しまして,御意見をお伺いしたいと思います。   コメント案によりますと,例えば条約草案の1条3項(k)に規定されている知的財産権の有効性など,個々の事項に関する言及はされておりません。その理由は,個々の事項をどのように扱うかということに関しましては様々な見解があり,現時点においては日本政府としてのコメントを取りまとめることは困難であると思われるということでしたが,この点に関する御意見,もしございましたら,お願いしたいと思います。いかがでございましょうか。 ● 知的財産権の件に関しましては,確かに従前,私も,前の大きな条約のときには,侵害訴訟も含めて専属管轄が望ましいというようなことを申し上げました。ただ,それは,これから決めるという場合であれば,専属管轄の方が利用者としても裁判所としてもやりやすいだろうということで,そういう意見を申し上げたわけですけれども,そういう大きな条約の可能性がないということになった場合には,既に最高裁の判決でも出ておりますけれども,侵害訴訟も含めて,専属管轄ではなく,普通の不法行為の裁判管轄に基づいて国際管轄が決まるというような形で我が国も,ほかの主要国も恐らく同じような解釈だと思いますけれども,そういう形にならざるを得ないと思いますので,その場合には,侵害訴訟の場合に何も決めなくても同じような結果になってしまうという意味では,合意をすれば合意管轄に基づく管轄が認められるというだけでもビジネス上はメリットがあると思いますので,侵害訴訟も含めて,入れるという方が望ましいだろうとは思うのですけれども。   ただ,これは,我が国が特に意見を言っても,ほかの国との意見の中で決まることですので,今の段階で言うほどのことではないということであれば,特別委員会の場でそういう方向で検討するということにしていただくということでも結構だと思います。   それから,その場合,侵害訴訟と効力の問題とは分けるということでこの草案もできておりますけれども,前回申し上げましたとおり,有効・無効の点については,確かに合意管轄で決められることではないのでというのは分かりますけれども,それはやはり,産業政策にかかわるような形で国自体がその権利の付与を決めているような,我が国で言えば特許権・実用新案権・意匠権・商標権と,そういう形で,国自体が有効・無効を決める,あるいは付与するかしないかを決めているという権利については,そのようなことが言えると思います。   ただ,そうではなくて,著作権のように,無方式で発生するということで,その効力いかんについて国の機関が判断することを前提としていないような権利については,除外規定の上でほかの特許権と同じように扱うのは不適切だろうと思います。特に著作権などは,侵害訴訟なんかの場合に,有効・無効,要するに著作物かどうかというものと,著作物であったとしてもその権利がだれに帰属しているかという点が,非常に同じような形で,同じレベルでの判断ということになって,特許権のように,国から付与されている権利で権利の存在自体をある程度前提とした上で侵害訴訟を行っていて,その効力を否定するのは例外的な形での抗弁だというのとはまたちょっと違う話になりますので,そこではやはり区別する実益というか,法律上区別する理由はあるだろうと思っています。 ● それ以外,この点につきまして何か御意見ございますでしょうか。 ● この政府案は,一番最後の段落のところで,3項については細かい議論はしないということで書いてありますけれども,それはそれでいいと思います。   確かに,この3項に掲げられていることは,今,○○委員からもありましたけれども,もう少し精査する必要があるのではないかということで,特に,前回,(f)の海事のところが問題になりましたけれども,海事はずっと昔の案から,こういうふうに「海事」と書いてあるわけですけれども,では船と飛行機でどう違うのだろうと思いまして。船にせよ飛行機にせよ,B to Bの契約,いろいろな契約,ほぼ似ているわけですよね。つまり,建造契約から始まって,それのファイナンスの契約,リースかチャーターの契約,それから抵当権設定契約とか保険を付保する契約とか,非常に似ているわけですけれども,それで特にこの海事だけが挙げられていて,航空機の方は何も書いていないというのは,どの辺に違いがあるのかなと,これは余りよく分からなくて,そもそも海事といった場合,今のようなB to Bの契約まで含んでいるのかどうか,それも余りよく判然としないということもありますので。   ただ,海事の場合には,聞くところによりますと,バルティック海の海運同盟の制定フォームか何か,そういうものが非常に発達していると。それで,そういう制定フォームの中ではほとんど仲裁にしているということは聞いたことがありますけれども,それにしても,海事は特に載っていて,航空機の方は何も書いていない,その辺の原因がどこにあるのかよく分かりませんので,やはり,この3項にどういうものを盛るかはもう少し,特にB to Bの合意管轄に限った場合にどういうことを入れたらいいのか,入れない方がいいのか,その辺はこれから十分検討する必要があるのではないかというふうに思っております。 ● ちょっと追加したかったのですが,4項についての政府案,これは私も賛成いたしまして,4項の規定は是非とも置いていただきたいと思います。4項を削除した場合には,こちらのコメントでも指摘されておりますように,もともとB to Bの訴訟であっても,契約の効力としての契約をした人間の行為能力とか,あるいは法人が当事者であれば,法人がそのときに能力があったか,設立されていたかとか,そういうものが前提問題として議論されるということが十分考えられますので。それと,前回申し上げましたように,その法人自体が,あるいは遺言などによって設立されたような財団の場合には,それ自体の効力が前提になることもありますので,そういうものが入るか入らないかとか,4項がなくなると非常に不明確になってしまいますので,明確にするという意味で,やはり4項は残していただきたいと思っております。   あと,これは私の個人的な希望で,このコメントに入れるというのは難しいと思いますので,特別委員会で場合によっては追加していただくことが可能であれば,お願いしたいという点がございます。   それは,前回からの議論,大きな条約のときの議論で,例えば不動産に関する所在国とか,知的財産権の効力に関する登録国とか,そこに専属管轄にするかは別として,少なくともそういう国が管轄を持っているということについては,ほとんどの人には争いがないと思いますけれども,そういう国について専属的な管轄の合意をいたしまして,その結果,判決が出たときに,例えば登記をしろとか,あるいは無効であるとか,そういう場合にはその国だけで完結してしまいますので,承認執行の問題は生じないとは思うのですけれども,仮に,そういう登記請求権がないとか,その理由ではその特許権は無効ではないとか,そういう棄却判決が出たときに,例えばほかの国で別の訴訟を起こして--まあ侵害訴訟でもいいのですけれども,侵害訴訟を起こして--この特許は無効であるというときに,専属管轄合意で,登録国でそのものについて無効ではないという判断が出ているときに,それを前提として,一事不再理効というか,そういうものについても承認執行義務があるというような形にしていただくと,ほかでの再訴,ほかの別訴での争点の蒸し返しを防ぐという意味で,多少は裁判上は実益があることなのですけれども。   だから,そういう形で,今までの審議の中で,審議の対象をふやすこと自体,時間的に難しいということであればしようがないのですけれども,もし可能であれば,話題にするぐらいのことはしていただければ有り難いと思います。 ● そういう議論は余りなかったのですけれども,この条約は,そこは別に禁止はしていないので,日本国としてそのような扱いをしたければ,条約の範囲外ですから,再訴,同じ争点についての争いをさせないと,そういう扱いをするかしないかは日本の問題なのではないかと。 ● ですから,そういう意味ではグレーになってしまうわけですよね。   例えば,登録国で無効ではないという判決が出て,それが当事者間の管轄合意に基づく裁判としてそういう判決が出たというときには,よその国でもうそれについての蒸し返しは認めないよと,そういう意味での承認執行についてホワイトとすることができれば,多少はプラスになるのかなと思ったものですから,そういうことがもし可能であれば,議論していただければと思っただけです。 ● ちょっと確認をさせていただきたいのですが,登録国であり,かつ,当事者が専属管轄として合意した国,その二つの要件を満たす国という場合ですよね。 ● ええ,そういうことです。 ● それはオーケーだと仮にしますと,登録国でないのに専属管轄をした国があって,その国が他の国の特許を無効だと言ったとしますよね。それはだめと。 ● いや,そこまでは考えていません。 ● それはだめですよね。 ● それはだめで結構です。   登録国であれば,大体そこに管轄があるということはだれでも分かっているわけですね。例えば不動産の場合には,不動産の所在国に管轄があるということはだれでも大体は認めていますよね。それにプラスして,その当事者がそこでいいと,専属的な合意管轄の国として合意したというときに,そういう状態で判決が出たにもかかわらず,それがこの判決の対象でないから,別の訴訟をやるときに前提問題としてまた蒸し返しが認められるということに今ではなっていますけれども,そこまでのことをしなくても,この機会に一緒にできるのであれば,そういうものぐらいは蒸し返しを認めないということを,ホワイトで承認執行義務を--まあ,執行ということはないですから,事実上,承認義務だけになりますけれども,そういうことが合意できれば,それはそれでプラスではないかなと思ったものですから,ちょっと申し上げた次第です。 ● 実際的なお考えとしてはよく分かるのですが,ただ,専属管轄というのは,当事者がしたいから専属管轄になったりならなかったりするのではなくて,やはり国の政策とか主権の問題があってのことですね。そうしますと,結局,おっしゃるところは専属管轄の考え方がやはり入っていて,専属管轄の国でやった以上はそれは認めたらどうだということだろうと思うのですが。ですから,そうしますと,専属管轄規定を入れろという話と相当近くなっていまして,専属管轄プラス合意だとは言うものの,合意だけではだめなわけですから,そもそも合意で専属管轄を動かせるかというと,動かせない。 ● ですから,動かす必要はないんですよ。専属であるということは合意ができないにしても,少なくとも幾つかの専属国の中に登録国が入るということ自体はだれも争わないと思うのですね。 ● ですから,ミックス条約のときも,専属管轄の規定の侵害訴訟以外の点ではほとんどコンセンサスができていたので,それぐらいは入れろという主張になるのかなと思いますけれども,今のところはそこは……。構造が変わってくるということになりますから。 ● そうですね。   ですから,ちょっとおまけ的な意味で入るのであればということで,そのためにまた非常な労力,時間がかかるということであれば,もうあきらめざるを得ないですけれども,今の登録国とか不動産所在国の点については前の条約のときにほとんど合意ができかけていたようなことでしたので,そこプラス専属管轄合意まであれば,そこの判決ぐらいは蒸し返しを認めないということの合意がもしかしたら得られるのではないかと思ったものですから。 ● 論理的にはあり得るとは思いますけれども,非公式会合ではそこまではしなかったということです。 ● 先にお伺いすべきだったかもしれませんが,コメント案で,今の(1)の最後から2行目の「さらには条約の対象としても差し支えないか」と,ひねった表現になっているものですから,素直に読むと,これはですから,差し支えがあったらどうするという考え方で書いておられる文章なんでしょうか。ちょっと教えていただきたいのですが。 ● 今,そういう御指摘をいただいて,表現を更に考えなければいけないかなという気もいたしましたけれども,ここでは,まず,2項に記載して前提問題としてもだめにするというものにするのか,3項に残して--4項は残せという趣旨ですから--前提問題ならばいいというふうにするのか,あるいは,もう3項にも載せないで,そのもの自体が対象になっているものについても全部ホワイトにしてしまうのか,その三つがあり得るわけですけれども,その三つについて更に一つ一つの事項について細かく検討する必要があるということを述べたいという趣旨でございます。 ● 「差し支えないか」ではなくて,単純に,2項からも3項からも削除するという,そういうことですか,結論は。 ● そういうことになります。   あるいは,先ほどの御議論を伺っていて思いましたのは,その2項なり3項なりに更につけ加えるべきもの,これはどちらにも挙がっていないけれども,つけ加えるべき,例えば航空機とか,そういうことも一応留保しておかないとまずいかなというような気もいたしまして,そこは更に検討させていただければと思います。 ● 表現をちょっと検討していただけると有り難いのですが。 ● この(1)の点に関しまして,私,この電子情報技術産業協会の方と面談をさせていただきまして,若干の情報がありますので,それに基づき,皆様に御意見をお伺いしたいのでございますが。   この知的財産権に関しましては,もともと日本の対処方針は,専属管轄とすべきとしておりまして,そのことの重要なメリットないしは理論的根拠といたしまして,知的財産権に関する法規については外国法の適用を考えない,すなわち特許権であれば登録国において裁判管轄を一元化し,その登録国が自国法を適用することを世界的に保障する,このことが専属管轄化することのメリットないしは理論的根拠の一つとして考えられており,そのような観点にかんがみれば,知的財産権に関しまして,仮に侵害訴訟であったとしても,登録国以外の国で訴訟が起こる場合には,見えない権利であり,各国において保護範囲等も変わってきますから,余りなじみのない外国法を適用する可能性が発生してしまう現在の条約草案は問題であるとも考えられますが,その点につきまして,御意見をお聞かせ願えればと考えております。いかがでしょうか。どうぞよろしくお願いいたします。 ● その点は,先ほど私も申し上げたとおりでして,これから作るというときに専属管轄にしたいというのは,それは希望としては分かりますよ。それが一番やりやすいというのは分かるのですけれども,もう大きな条約がつぶれてしまった以上は,それでは合意管轄をしなかったときにどうなるかという話ですけれども,その場合には,もう不法行為と同じように,どこの国でも起こされてしまうと。そのときの準拠法は何かという問題はまた別の話で,恐らく準拠法については,例えばアメリカ特許であればアメリカ特許法だし,日本特許であれば日本特許法だろうとは思いますけれども,それにしても,どこで起こせるかということについては,外国でも起こせるし,現に日本でも,日本企業同士でアメリカの特許権に基づく差止訴訟というのは提起されておりまして,それは裁判所でも管轄があるものとして扱って審理をしている例がございます。   それから,そういう合意をしなかったときにはそういう状況になりますよということを,そういう分析なしに--これから白紙から決めるときにどうしましょうかという話のときに専属管轄がいいというのは,業界の希望でもありましたし,裁判所もそれが一番楽というか,便宜ではあったのですけれども,それが壊れてしまった以上はもうしようがないわけで,この電子情報技術産業協会というのは,そういう解釈論として現在どういう状況になっているかということの分析なしに,いつまでたってもかつての実現できなかったわがままを言っているだけの議論ですので,余りこの意見に対して時間を割く必要はないと思っておりますけれども。 ● ほかに,この点について何か御意見ございますか。 ● この(1)ですが,4項について,日本は,残した方がよい,全体について適用した方がよいということなのですが,もともとこれは専属管轄規定があったところの,かつ,特に知的財産権について置いていたもので,もしかすると,そのときから,本来は(a)から(h)ぐらいまでについても同じように規定を置くべきだったのかもしれませんが,置いていなかった規定です。   それで,今回は適用除外の条文の中に4項が置かれまして,私も頭の切りかえが完全にうまくできていないので,まだ十分に整理できたことは申し上げられないのですが,何か意味が違ってきているのではないかなと思いまして,この規定がなくても別に全然困らないのではないかなと。   結局,除外するかしないかだけですので,裁判するかしないかはそれぞれの国の勝手でして,合意管轄があるときに法人の有効性が争われるけれども,それも裁判してしまう,外国法人ですが,それは問題なくて,しかし,そこのところは条約の範囲外なので,承認対象にはならない。仮にそこの争点について何か判断を求められて,確認の判断をそれについて与えたとしても,それは条約外。もちろん,前提問題としてであれば,主文のところには出てこないので,とりあえず問題にならないという扱いがなされるだけで,余りこだわらなくてもいいのかなと思いました。   かつ,4項についてはイギリスのように問題にしている国があって,例えば,(k)号の中に侵害というのを入れたって,条約の範囲が狭くなるだけで,専属管轄にするわけではない,専属管轄にすることに全然合意はしていないので,どうするかは締約国の勝手ですので,グレーになってしまうだけですので,意味合いが大分違ってきているのではないかなと思うのですね。それが一つで,だからどうしろという話はちょっとすぐには出てこないのですが。   もう一つはただし書ですが,この条項が入った場合,もしかすると,このただし書が意図せざる効果をもたらすかもしれないなと思いまして。   例えば,ある国では争点効という形で主文には出てこないけれども,実質的に争われたものについては判決国に及んでいると。それを承認する,例えば日本が承認執行するときに,このただし書の条項,それは効力は当事者間では承認しなければならないのだという意味になりますと,例えば日本の特許が問題となっているライセンス訴訟で,日本の幾つかの特許が並んでいて,そのうちの幾つかは無効だという前提でそのライセンス料を認めなかったとしますと,その争点について,日本の裁判所が,当事者間の争いに限っては拘束されるのかということですが,これはされない方がいいのではないかなと思うのですが。   4項のこのただし書がそのような解釈を生むとすれば,問題かなと。   その理由は,さっき申し上げたような経緯でここに入ってしまったので,そこの整理がまだできていないように私は思うのですが。 ● ただし書が,今,○○幹事がおっしゃるような形で読まれる可能性があるとするのであれば,私もちょっとそれは問題だろうと思いますので,ただし書を削除することを検討した方がいいと思います。   ただ,○○幹事がおっしゃったように4項の趣旨が前の条約案とは違ってきていますよというのはそのとおりではございますけれども,4項がないとグレーになってしまうという意味では,裁判する,しないというのは確かに自由なのですけれども,ただ,承認執行の問題がありますので,これを落としてしまうと,被告の側でわざと,理由がないにもかかわらず,有効・無効の形で抗弁を出すと,それによって例えば本国において承認執行されることを容易に防止することができるということになってしまいますので,そういう単なるホワイトとしての承認執行を免れるためだけの手段として,この前提問題として除外になっている特許権の有効性とか,そういう形を争点として後で蒸し返す,あるいは企業の設立の無効などを言うということを招きますし,容易に承認執行がホワイトから外れてしまうということでは,企業の行動としてもそういう形で簡単に外れてしまうということを前提にして管轄の合意はしていないだろうと思いますし,判決が不安定になるという意味では裁判所としてもやりにくいという点がありますので,趣旨が変わるのは分かりますけれども,そういう趣旨であっても,あえて4項というのは残していただきたいと思います。 ● 私も○○委員と全く同じように感じていまして,本来,B to Bの専属的な合意管轄はホワイトにするということの例外が3項,それのまた例外が4項ですので,3項を置いてしまいますと,3項に入るものが問題になれば,ホワイトだったものがグレーになってしまうので,そうさせないようにするためには4項を置いておかないと,せっかく日本で裁判をしても,その結果が例えばアメリカとかでホワイトとして承認されるという保証がなくなってしまいますので,やはり4項は置いておくべきなのではないかと思います。   それから,ただし書ですけれども,今,ただし書を置くと予想せざる効果が生じはしないかという御指摘を○○幹事はなさったのですけれども,前回の部会でも,私,申し上げましたけれども,そもそも外国判決の承認というのは,その当該国が持っている判決の効力をそのまま承認するのが原則型だというふうに一般には解されておりますので,先ほど○○幹事が指摘された争点効などがある国であれば,その国の判決を日本が承認する場合は,何か特段の説明ができない限りはそれを承認することになるのではないかと私は思っておりまして,そうであれば,別段,このただし書があるからといってプラスアルファになることはない。むしろ,このただし書の意味するところは,私が思っていましたのは,物によっては対世効的なものがあり得るので,そういうものはないのだと,あくまでその当事者に限られるので,ほかの第三者との間で問題になるときには一切考慮する必要がないということを明確にするという意味に読めますので,それは置いておいた方がいいのではないかと思っていたのですけれども。 ● もちろん,対世効がないということをはっきりさせるのが主たる目的であることは確かなのですが,私が申し上げたのは,3項に挙がっている事項が問題になった判決は,しかし全体としては例えばライセンス料の支払いだったりする判決ですから,4項がなくても,全体としてこの問題が少しでも出てくればそれは条約から外れるということは多分なくて,これに関する部分が条約の対象外になっているだけで,4項が入りますと,前提問題の部分についても当事者間では効力があるということの意味が相当強くなるのではないかと思うのです。ですから,さっきの,ライセンス契約の中に日本特許が幾つかあって,その日本特許についての前提問題ですから,アメリカならアメリカの裁判所でやったときに,この部分は有効,これは無効というような判断をしていって,その判断がアメリカでは次の訴訟でも拘束するとしても,日本では全く拘束されては困るのではないかと思うのですが。   要するに,確かに判決効は判決を言い渡した国の効力を認めるのが原則ではありますけれども,日本にない効力まで認める必要があるのかということについてはこの条約は触れていないという理解なのです。もともとのミックス条約でも,どういう効力を認めるのかについては明文では置かないという理解だったと思うので,ある特定の訴訟についてだけ争点効が日本に入ってきているといいますか,当事者間に日本にはない効力が及んでいるという状態は,そこは大丈夫なのかどうか。私は,大枠としては,といいますか,最大限判決言渡し国の効力が日本に入ってきて,そのうち,日本にないものとか,日本から見るとちょっと公序に反するようなところは切っていって,少し小さめにして承認をするということが許されると思っています。それで,今の前提問題としての日本特許の無効とかという問題については,日本には全く効力が及んでは困るのではないかなと思いまして。   だから,4項は前提問題になるときしか問題にならなくて,結局は,そのことの効力があるということしか意味がない規定になっているのかもしれないなというのが……。済みません,この間からずっと考えているのですけれども,よく分からなくて,わからないまま今日になってしまって申し訳ございませんが,ちょっと心配だということです。 ● よろしゅうございますか。 ● では,コメントするまでまだもう少しありますので,そこは更に事務局の方でも考えてみたいと思います。何か特段の御意見がございましたら,また別途個別に御意見をちょうだいできればと思います。 ● それでは,ただいまの点は一応そういうことにしまして,続きまして,コメント案の2ページの「(2)裁判所の選択合意の要件について」について御意見をお伺いしたいと存じます。   まず,そのうち,選択合意の方式要件につきまして,コメント案におきましては,各国法の統一をすべきであるというふうにされておりますが,この点はいかがでございましょうか。 ● 裁判所の立場からすれば,そういう合意ができれば大変有り難いことだと思います。そうでないと,このコメントでも御懸念がありますように,いろいろな国で管轄の合意についての効力がその判断をする法律の違いによって違ってくるということであれば,非常に安定性を害することになりますので,そこは,もし合意ができるのであれば,適用される法律を統一するという努力をしていただければと思っています。 ● よろしゅうございますでしょうか。 ● 確認なのですけれども,せっかく合意しても,(c),(d)というのは大変広くて,問題であるという,そんなような意見が前回あったのですが,冒頭,それにもかかわらず,ヨーロッパルールなので,(c),(d)についてはそのままで特段の意見を出さないと。まあ,将来留保することは構わないのでしょうけれども。   ということと,私自身は必ずしもそう考えないのですけれども,経団連に諮ったこともあって,(b)でさえも広いのではないかという意見も一部ありまして,日本の慣行だと,要はB to Bの合意は書面できちっと合意したことだけでいいのではないかという意見も一部にはありました。この辺について,最終的に--意見は後でも意見交換できるということで,原案でも構いませんけれども,その辺は改めて皆さんの御意見を伺いたいのですが。 ● 裁判所の立場からすると,(a)だけにしていただきたいというのが本当の本音でございまして,(b)が入っているだけでも,今御指摘がありましたように大変なのですが,(c),(d)まで入ってしまうのは,そういう慣行があるかどうかから証拠調べしなければいけないというので,ますます困ってしまうのですが。今,ヨーロッパの方の条約では入っているからしようがないということだったのですが,ヨーロッパの場合には,一応同じような水準の国ですし,同じような法律の体系の国ですから,そんなに突飛な慣行というものは考えていないのだろうと思いますけれども,今回の条約がどのぐらいの範囲になるか分かりませんけれども,国によってはどんな形の合意をする慣行があるのかというのは全く想像もつかないのですが,今までの非公式会合,あるいはヨーロッパでもいいですが,ヨーロッパではどういうものが慣行として一般に考えられて存在するのか,あるいは,これから,ヨーロッパ以外の形で,アジア,アフリカでどういうものが,非公式会合の中で,こんなものもいいだろうということで,合意の上でこういうことになったのか,もし実例として挙がったのであれば,御紹介いただければ大変有り難いのですけれども。 ● これはずっと従来から入っていて,日本も問題にしていなかったものですから,問題にすれば,あるいはヨーロッパ側も,必要なんだという例をどんどん挙げてきたかもしれませんが,アメリカも含めて問題にしていなかったものですから,十分な例は聞いておりません。ただ,何か特定の業界では,少なくとも(c)については必要なんだというようなことを言っておりましたけれども,十分な,お示しできるようなものはございません。 ● 今の(c),(d)の点に関しまして,欧州司法裁判所の判決が何件かあるようですが,結局,調べ切れたのが1件ですので,それを御紹介させていただきます。   本件事案は,ドイツ企業,この企業が船舶所有者で,そのドイツ企業が所有する船舶を,フランスに本拠を置く企業に対して定期傭船契約をした事案でございます。   先に請求が何かを言っておきますと,そのドイツ企業からフランス企業に船舶賃貸借された船舶を使い,そのフランス企業はどうもライン川を使っての土砂の運搬をしていたようなのですが,その土砂の積卸しの作業の際に船に対して損傷を与えてしまったため,ドイツの企業がフランスの企業に対してその損害賠償を求めたという事案でございます。   本件の3条(d)と同様の規定の関係なのですが,そもそもの定期傭船契約自体が口頭によって行われておりました。その後に,ドイツの企業,船舶所有者側から契約の確認書が--その確認書の中には合意管轄条項が記載されていたわけなのではありますが--フランスの会社の方に送付され,ただ,フランスの会社の方は特段の応答をしなかった,ただし異論も何も述べなかったという事案でありまして,かつ,その船舶賃貸借の賃料に関しましても,ドイツの企業からフランスの企業の方へ請求書を定期的に送っておりまして,その請求書の中にも,合意管轄条項が一応,もともと請求書にプリントされていたようなのですが,入っておりまして,その合意管轄条項の記載された請求書をフランスの方に送り,そのフランス企業は当然のようにお金を払っていたと。   それで,その損害賠償に関して訴訟になったときに,そのドイツ企業はヴュルツブルクに本拠を有するのですが,合意管轄によってヴュルツブルクの裁判所に管轄合意をするということが書いてありましたので,ドイツ企業はそこに提訴したところ,フランス企業側としては,方式上有効ではないということで,管轄を争った事案であります。これは1997年2月20日の判決ですので,いまだブリュッセル規則ではなくブリュッセル条約が適用されている事例でありますが,そのブリュッセル条約の17条1項に関しまして,今申し上げたような契約の確認書が送りつけられただけ,かつ,請求書が常にドイツ企業側から送られていて,その中にプリントされていただけのような場合であっても方式要件は充足するということが判断されたようでございます。   もう少し調べれば,この1件以外にも何件か出てくるのかもしれないのですが,今のような事例が,正に国際取引分野を規律する慣習に従っており,当事者がその慣習を知り,また知り得べきであった場合として方式上の有効性が認められたという判例としてあります。ただ,これ以上のことは調べ切れておりませんので,あくまで参考までにということで紹介させていただきました。 ● 今の事例などを紹介していただくと,確かに結論においてはそうなのかなというところもあろうかと思うのですけれども,○○委員も言われたとおり,ほかの国も含めて,特に欧米以外のところも含めて,慣習に従ったといったような場合について,果たしてそれが適切に判断できるのかとかという問題は非常に大きな問題になると思います。特に,我が国にそういったものが,第三国同士でこの(c),(d)というような専属管轄の方法がとられたというようなところが争われた場合というのは,非常に認定も困難になってくる,時間もかかるだろうというところもあります。   やはり,そういう意味では,今まで議論にならなかったという点はあるのかもしれませんけれども,この特別委員会で問題提起なり意識化をするというような方法で何らかの明確化を図るということはやっていただいてもいいのではないかとは思っておりますし,できれば(c),(d)を除くなり,(b)をどうするかという問題はありますけれども,そういったところも視野に入れながら,何らかの発言なり指摘をしていただくということはできないでしょうか。 ● 私も,個人的には,(c),(d)というのは確かに,的確に判断できるのだろうかという疑問を感じないわけではなくて,ヨーロッパの人たちは自分たちの間だけのことしか考えない嫌いがあるので,それでブリュッセル・ルガノ条約に入っているものをそのまま放り込むくせがあるのだと思うのですけれども,ただ,これは2001年の外交会議のときにも,日本も含めどこの国からも指摘をしないで,したがって,非常にたくさんのブラケットがある条約草案であったにもかかわらず,これだけはブラケットがついていないのですね。それを今更言うというのは--言うのは○○幹事なので,幹事がやってくださるということであればいいのですが--日本政府からのコメントとして書くことまで必要でしょうか。それとも,そこは今までの10年間に敬意を表して,特別委員会の席上で口頭で恐る恐る問題提起する程度でよろしいかどうか。   その辺,○○幹事のお考えはいかがでしょうか。 ● いや,それはいろいろな経緯もあろうかと思いますので,無理やりにでもとは言いにくいのですけれども,何かの機会にということも含めて考えていただければ,それはそれで有り難いと思うのですが。   ほかの方は,そんな形ではいかがでしょうか。 ● コメントに付するまでのことは難しいのかもしれませんけれども,ただ,以前のときは大きな条約ですから,その中では比重が小さかったのですが,今回,管轄合意だけの問題になったときに,その合意の効力をどうするかというのは,条約の中の比重としては非常に大きくクローズアップされてきたものですので,その重みが違ってきているという意味では,従前言わなかったではないかというものに対しては,それはやはり,今度は中心的な問題になってしまったのだからということで,何とか多少,口頭でもいいのですけれども,問題提起をしていただければ,あるいは確認として,慣行としてこういうものを考えているんだというような合意程度はして,事実上の確認程度はしていただければ有り難いと思いますけれども。 ● 別に私は,知らん顔して,申し上げるのは何ともないですから,過去の経緯は経緯として,申し上げますが。   この今の点は,「のみ」とするか,「は」とするかのところで調整可能で,ヨーロッパも,「のみ」とするとだめになりますから,困るのですが,「は」としておいて(a)と(b)だけにするというのは,ヨーロッパはそこまでやってもいいし,日本だって場合によってはやっても構わないのだけれども,少なくとも(a),(b)は有効にしてくれということで,その(a),(b)でないものでも有効としたときに条約に乗るかどうかという点は,これは乗るのではないかと私は思いますけれども。ちょっとそこは解釈がどうなるか分かりませんが。   ですから,もしそういう御意見が相当あるのであれば,「のみ」とすべきであるという点をこの意見の中から除いておいた方がかえってよいかもしれないですが,ヨーロッパに対しても,「のみ」で(a),(b)だけにしろとか,あるいは(a)だけにせよというのを今更言うのは相当に困難を強いることになるので,難しいようには思いますけれども。 ● その点は,(c),(d)の事例がどのぐらい想定できるかによりけりなので,(c),(d)の事案がほとんどないということであれば,(c),(d)を残して,「のみ」の「only」を入れておいていただいた方が有り難いと思います。逆に,(c),(d)のような形で入ってくることは十分可能性として多いのだということであれば,「のみ」を落としても(c),(d)を削るという方がいいのかもしれませんし。○○幹事の今までのやりとりからすれば,(c),(d)が出てくる事案というのは希有な事例だろうと思いますので,そういう意味であれば,「only」を落とすぐらいであれば,「only」を残していただいて,(c),(d)もしようがないから入れるという方が,現実的に取引というか,どちらがいいかと言われれば,「only」の方が大事だと私は思いますけれども。   その点は,例えば○○委員などは取引の上で業界の慣行とかいうような形で主張されるということはあるのでしょうか。経済取引の場合で。 ● 慣行として,両当事者が了解,納得すれば,その場で,紛争が起きてからでも,書面で合意しますね。書面で合意できないというのは,慣行の解釈に争いがあるときですので,やはり(c),(d)というのは余り好きではないですね。何でも事後的に,紛争が起きてから合意することはあります。 ● 情報が十分でないので申し訳ないのですが,何か特定の業界についてが問題らしくて,一般的なビジネスでよくあるとかいう話ではないんだそうです。特定の業界では,書面なしでやっていて,今更それをだめだと言われると困るというのがあると聞きました。 ● だけど,そういたしますと,1条の3項で海事は除外ということになれば,特定の業界はなくなってしまうのではないですか。 ● 海事だけなのかどうかということは,そこは,海事はありそうな分野なのですが,あるいは石油の取引とか何とか,そういう電話でやったりなんかしているような業界なのかもしれません。ちょっとそこはよく分かりません。済みません。 ● そういう大きな資源関係であれば,今言いましたように必ず書面で合意しますし,もとの資源国政府との契約に引っ張られてどうのこうのという,孫契約ぐらいで確かに決め切れていないといった場合にもめるといった場合には,紛争が起きてから合意します。やはり慣行の解釈については争いがあるからです。 ● 今の御議論を整理してみますと,コメント案の(2)の第2段落の「したがって」以下,方式要件についてですけれども,日本としてベストなのは,「only」のブラケットを外して,かつ,(c)と(d)を削るということなのですけれども,それはとても言えそうもないというのが○○幹事のお話でございますので,選択肢としては,「only」をブラケットから外すという今の原案のようにいくのか,それとも,(c),(d)を削るように求めて,そのかわり,「only」はつけないで,「場合は」という形にするべきだというふうに提案するか,どちらかということになるのかなと思うのですが,どっちがいいのかというのは,(c),(d)の比重がどの程度あるかにもかかっていますので,特別委員会で少しその点を議論--どっちみち「only」をベースに議論はされることになると思いますので,そこで議論をされる中で,どちらの方が日本にとって得かということを考えて,得な方の提案を○○幹事からしていただく以外にないのかなという感じを受けたのですけれども,いかがでしょうか。 ● 「only」を外してしまうと,(c),(d)を削っても,onlyではないけれども慣行を通じて合意があったのだという話で,結局は落っこちない話になってしまうんですね,いずれにしても。ですから,結果として同じことになってしまうので,それであれば,慣行以外のものについての書面でない合意というのを持ち込ませないためだけでも,やはり「only」を残していただいて,原案のとおりの方がまだましという感じがいたしますので。 ● ただ,「は」にして(a),(b)だけにしますと,日本としては,(c),(d)はだめという扱いはできるので。   ですから,問題になるのは,承認執行のときに方式上十分だったかという点が争いになったときに,あるいは慣行を調べるということになりますが,そこは,しかし,そこでは争いは--争えなくはないですかね,7条1項(a)で,選択合意が無効であったというところであるいは争いになるかもしれませんけれども。 ● (c),(d)が残っても,やはり「only」があった方がいいのではないかと,感覚的な,実務的な勘からすると,「only」があった方がいいのではないかなという気がいたします。 ● ただ,日本の現行法は(a)ですよね。国内では当面(a)で書面性というのは残るのだろうと思うのですけれども,国際的なときだけ余りに違うというところは確かにあるので。   両方,御懸念の点はよく分かりますので。 ● 内容にかかわることではないのですけれども,条約の読み方として,管轄の合意を定めた条約で,こういう場合には方式上有効とするというような3条のような条項を置いた場合に,「only」と書けば趣旨が明確で限定列挙だという趣旨は分かると思うのですが,たとえ「only」を外したとしても,やはり限定ではないかというふうに読まれる可能性は多分あると思いますので,もし例示列挙にするという御提案ということであれば,例えば「at least」とか,「including, but not limited to」とかというような文言を加えた方が,条文上は明確になるのではないかと思いますけれども。 ● おっしゃるとおりで,ですから,大きな条約のときはこの細かいところまで行っていなくて集約されたものですから,これはどうなんだという話になって,「only」をつけたらどうかということが出てきたので,それで,反対側を除くだけではなくて,「at least」とかをつけるというのは意味がある提案になるかと思いますけれども。 ● 今,○○委員からは,(c),(d)を外して「at least」にするぐらいなら,「only」にした方がいいという,この原案どおりという御指摘をいただいたのですが,○○委員はその点はいかがですか。 ● 過去の経緯はあっても,過去,我々は,大きな条約の締結とか,アメリカの過剰管轄とか,大変ないろいろなことを考えていて,かつ,大きな方向転換で,小さな条約に詰めて議論をしようとしているわけですから,そんなに引け目を感じることはなしに,単純に,(c),(d)については,今度はなるべくたくさんの国が入って,そのかわりB to Bの管轄合意に対象を絞ってやりましょうと言っているわけで,たくさんの国が入ってくるからにはこの慣習の問題というのは非常に重みが違ってくるわけですから,当然ここに,結論は出さなくてもいいけれども,その点については議論の要があるというぐらいのことは言ってもよろしいのではないですか。いかがでしょうか。 ● では,そんなような形で少し案文を書き直させていただきますので。 ● それでは,一番最初のところでかなり時間をとったわけですけれども,少し休憩をいただきたいということでございます。よろしくお願いいたします。            (休     憩) ● それでは,いささか忙しいので,申し訳ございませんが,選択合意の実質的有効性につきまして御審議をお願いしたいと思います。   2点,御意見をお伺いしたいと存じますが,まず,コメント案の2ページ,下から5行目,「また」以下の点についての御意見をお伺いしたいと思います。   この点につきましては,先ほどの事務当局からの説明によりますと,現時点において我が国の見解を決定することは困難であるため,コメント案では,具体的な提案はせずに,特別委員会においてこの点を検討すべきであるということでございました。   非公式会合において提案されておりましたのは,管轄の合意において指定された裁判所の所属する国の実質法によるという国際私法規定を設けるという考え方でありますが,我が国におきましては,先ほどの説明にもございましたように,通説・判例の採用しております法廷地法説,それから,法例7条を適用して契約準拠法によるとする有力説もございます。   そこで,この問題につきまして我が国といたしましては具体的な提案を行うことは可能かどうか,また,その前提として,選択合意の実質的有効性の準拠法についてどのように考えるべきかについて御議論をお願いしたいと存じます。   これらの点について御審議をお願いしたいと思いますが,いかがでございましょうか。 ● 今でさえ統一されていないのに,余計ややこしいことを言うことになるかもしれませんが,法廷地の国際私法に任せるか,あるいは統一するための国際規定を設けるかということですけれども,方式については条約の中で直接定めているわけですよね。こういう場合に有効だというふうに定めているわけです。実質的成立要件についても,結局一番問題になるのは,前にも問題になったと思いますが,詐欺とか錯誤なんかの場合にどうするかということですから,方式と同じように,詐欺とか脅迫,これから後が問題となりますが,その他不適切な方法で得られた合意は効力を有しないと,そういうふうに3条的に,問題となるようなやつを条約に直接書いて,そしてそこの不適切な方法とかいうのが,unreasonableとか何とかいうのでまただめになるかもしれませんけれども,そっち側の方で,つまり,準拠法によるのではなく,実質的に書き込むと。方式については準拠法でやっているのではなくて,条約の中で書き込んでいるわけですから,そちらの方でやる方が,もういろいろ対立があるし,もっとすっきりした解決ができるのではないかと思うのですが。それができないからそうなっているのだと言われると,申し上げる術がありませんが。 ● 今の点は,しかし,4条1項のただし書の,無効・失効・履行不能について準拠法を書かずに書いていることと余り違わないかもしれないですね。 ● それをもう少し書き込むということにして,それの解釈でやると。国際私法を通じてやるのではなくて。 ● 分かりました。要するに3条の方式と同じように。 ● ええ,3条と同じやり方をすると。大分違いますので,難しいかと思いますが,ひとつ,新しくなったことだし。 ● ちょっと違うことですが,日本の判例・通説で法廷地法説であるにもかかわらず,私が勝手に言ったのは,立法論ですから,それは承知の上で言ったわけですが,それをもしかするといずれ出すかもしれないとしますと,このコメントの(2)の第1パラグラフにおいて,有効性についての判断が各国で異なり得ることになり,それはよくないとお書きになっていることと矛盾しますよね。ですから,こう書いてしまうと,法廷地法説以外の統一ルールを何か考えるべきだということにつながると考えてよろしいのですか。その点では,判例が仮にそうであるとしても,もう立法論としては変えようということは含んでいるというか,常に暗示していると解釈してよろしいのでしょうか。 ● いや,そこまでの意図はありませんで,そこで,「できる限り」という言葉を入れているわけでございます。日本としてどこまでが「できる限り」なのかよく分からなかったものですから。 ● 今,○○幹事のおっしゃったように,法廷地法説のままですと,もちろん受訴裁判所として管轄合意の対象となった裁判所としてやる分には,別にそれはどれでも構わないのですけれども,その判決が行われた後の承認執行の問題とか,二重に別の国で後訴,要するに後で別訴が起きたときに判断が分かれてしまうということで,どちらを優先するのかという話になってしまいますので,もし管轄合意の対象になった裁判所の所属国の法律という形で合意ができるのであれば,立法論というか,そういう考えからすれば,そういう形の統一をしていただくというのが一番安定性はあるだろうと思います。ただ,これから国際会議で決めてどういうふうにしましょうかというときの話としては,最高裁判決をそれほど考慮する必要はないのだろうと思っております。 ● いかがでしょうか。 ● 今の○○委員の御指摘をなるほどと思いながら聞かせていただいたのですが,ただ,他方で,今の法廷地法説というのは,裁判所にとっては便利なんですね。日本で訴えが起こされれば日本で決められる。それを○○委員がいいとおっしゃっていただくのであれば,それでもいいのかなと思うのですが,管轄合意で指定された裁判所の所属国ということになりますと,そちらの法律がどうなっているかというのをまた調べて判断しなければならなくなるわけですけれども,それでいいということでよろしいわけですね。 ● 管轄合意国というのは,日本でやる場合には日本になるわけですよね。今の話は,外国の判決を承認執行するときに,そこの国の合意に従って判決され,審理がされたかどうかという問題のときの問題ですよね。要するに,管轄合意の対象となった裁判所の国の法律ということであれば,日本が合意されていれば日本法でやればいいわけですから,我が国の裁判所でやる分には法廷地法と同じことになるのだろうと思いますけれども。 ● 日本が当事者間の管轄合意で合意された裁判所になっていれば,そしてその合意に基づいて日本に訴えが起こされていれば,それはおっしゃるとおりなのですけれども,例えば,アメリカが合意されていて,その合意が無効であるとして日本の裁判所に訴えを起こしたと。これは最高裁の昭和50年の判決の事件はそういう事件でございますが,その場合は,日本の裁判所に訴えが起こされているのですけれども,管轄の合意が有効だったかどうかはアメリカ法で判断しなければいけないということになるわけでございます。   それから,アメリカでその合意に基づいて指定された裁判所で判決がされた場合に,その合意が有効かどうかをまた日本に承認執行が求められたときに判断する場合に,それは合意自体が有効ではなかったんだという主張を被告となった側がした場合には,アメリカ法を参照して判断しなければならなくなると。   今の最高裁の判例ですと,一切合切日本法ですから,そこの点は,○○幹事の御提案によると,多少裁判所の御負担は増えることにはなると思うのですけれども。 ● 昭和50年の最高裁判決は,オランダの専属管轄合意があったケースですけれども,オランダ国が管轄を認めることが条件だと言っているんですよね。ですから,それは単純な法廷地法説ではなくて,ただ,その事件でどれほどオランダ法を調べたかは分かりませんけれども,最高裁は明確にそれが条件だと言っているので,その点ではむしろ累積適用かもしれないので……。 ● 今,○○幹事から御指摘のあった点ですけれども,外国法だから適用するのが難しいという問題と,適用すべき法律が区々になってしまうからという問題とはちょっと別の話で,外国法だから難しいというのは,一般的に渉外事件の場合はみんなそうで,この管轄合意に限った話ではないので,その中の仕事がちょっと減るだけの話ですので。   それよりも,管轄合意ということで日本に持ってこられた事件を,我が国で審理をして,判決をして,まあ審理をしている途中でも,判決をしたというときでも,よその国に二重起訴された,あるいは,この判決をよその国に承認執行を求めていったときに,日本でその合意管轄を瑕疵のない意思表示による合意であると我々が判断して審理してやった判決を,それを全然違う形で,否定するような形で,別のところで二重起訴されたり,判決を承認してもらえなかったりという事態が起る方がむしろ困るのではないかということで,実質的な,合意された裁判所の所属国という形の方がいいのではないかというふうに私としては思っておりますけれども。 ● もう1点,○○関係官から御紹介した有力説でございますが,これは○○教授とか○○教授の見解ですけれども,管轄合意というのは,管轄合意だけの合意をすることもありますけれども,普通は一個の大きな契約の中に管轄条項が入っていると。そうだとすれば,契約全体の準拠法指定がされているのであれば,まあ分割指定をしていれば別ですけれども,合意管轄だけの分割指定をしていなければ,法例7条で定められる,契約全体で指定された準拠法に従って当該管轄合意が有効かどうかも判断するのがいいのではないかという見解でございますが,それについてはどのように考えるべきでしょうか。 ● 最高裁判決の読み方次第だとは思うのですけれども,こういう条約がなくて,今の状態で持ってこられたときにどう考えるかというときには,今御紹介があった説というのは,私は個人的には支持したい見解だと思うのですけれども,ただ,これから決めるというときにどこをどういうふうにするかという問題はまたちょっと別な話だろうと思っていますけれども。 ● ちょうど○○幹事が非公式会合で御提案された,あるいはEUの方も御提案されたようですけれども,その見解というのは,契約全体から見ると,管轄合意についての特別の分割指定をしているものとして取り扱うというのに近いわけでありますけれども,日本の有力説というのは,逆に,むしろ契約全体の準拠法で考えるべきだという考え方であり,これは必ずしも通説にはなっていないようですけれども,そういう考え方も一理はあるのかなとも思ったりもするのですけれども,契約実務に携わっておられる○○委員,○○委員,あるいは○○幹事はいかがでございましょうか。 ● その前に,私も似たようなことを疑問に思うのですが,実務の方でどうなっているかということをあわせてお伺いしたいのですが。   要するに,契約準拠法の合意というのがしにくくて,かわりに管轄の合意だけをする,結果として法廷地の法律を準拠法として使うようにしたいという,そういう業界があると聞いておりますが,ということは,今,○○幹事がおっしゃったようなことと逆のことになるのですよね。実際どうなんだろうかと。   論理的に言えば,契約全体の準拠法の合意があって,管轄の合意があってと,両方あることになると思うのですけれども,論理的には一方ずつのものもあるわけですね。管轄の合意がなくて準拠法の合意だけがあるとか,準拠法の合意がなくて管轄の合意だけがあるとか。実際はどういうことで動いているのかよく分かりませんので,そのこともあわせて御教示いただければと思います。 ● ○○幹事のおっしゃられたように,いろいろな契約がありますけれども,例えばライセンス契約とか合弁契約とかいろいろな契約がありますけれども,そういう契約ですと,その契約について,準拠法も定めれば,管轄も定めるというのは,これは非常に一般的ですね。まれに,合意ができないときはあえて書かないということもありますけれども,非常に例外的です。そういう意味から言うと,やはり準拠法説というのは結構意味があるのではないかと思います。管轄の合意も入っているので,それだけ切り離して,ほかの法律で,つまり,準拠法の指定は別にあるにもかかわらず準拠法の指定国と管轄の裁判所の所在する国とが違った場合ですけれども,それだけを切り離すというのはやはりいかにも不自然に思えますよね。ですから,そういう意味では,やはり準拠法説というのは非常に自然というか,素直というか,そういうふうに考えます。   それで,仮に準拠法の指定がなければどうするかということですけれども,そうなると,やはり先ほど来議論のあったように法廷地法によるのか,あるいは,先ほどの管轄の合意がなされた裁判所の所在する国の法律によるか,そのいずれかになるかと思いますけれども,今の段階では恐らく決め兼ねるので,とりあえずはこの政府案のドラフトに書いてあるような書き方でやっておくのがいいのではないかと考えます。 ● 契約書に準拠法の一般的な規定があるという前提が成立した場合には,管轄合意の有効性・無効性についても同じ準拠法が適用されるという理解で運用している例が通常であろうと思います。   それからもう一つは,やはり契約意思の問題として,一般的な契約準拠法の合意があって,管轄の合意がまた別途ある場合において,管轄の合意について特別の準拠法規定がないという場合には,やはり当事者の意思としては,一般的な,契約全体についての準拠法が裁判所選択の合意についても適用されると理解している例が多いのだろうと思います。船舶関係なんかでちょっと特殊な例があるのかもしれませんけれども,一般論としてはそういうようなことではないかと思います。 ● 私が申し上げたのは,指定先の国の法律によるということそのものを申し上げたわけではなくて,むしろニューヨーク条約の5条の1の(a)にあるものを進めて,合意のところにも持っていくべきだと申し上げたので,資料35の10ページの上の方にもそこのところについての説明をしている部分があるのですが,35の10ページの一番上のフルパラグラフですけれども,その後半のところにありますように,「ニューヨーク条約をもう一歩進めて,裁判所の選択合意により管轄を認める場合にも,また,裁判所の選択合意を理由に指定されていない裁判所が管轄権行使をしない場合にも,明示的に同じ国際私法規定によって」と。その同じというのは,そこに書いてあるように,まずは当事者自治で,当事者が準拠法を指定していれば,それ,していなければ,指定された国の法律によるということを申し上げたので,そうしますと,さっきのは別に対立的なことではなくて,そのような国際私法ルールで統一できればいいのではないかというふうに思います。 ● 確認させていただきたいのですが。そうしますと,同じ資料の9ページの記載は誤りなのでしょうか。 ● 9ページは,そこは落としてしまってというか,実は,NBLの方に出していただくときにそこは修正していまして,9ページの下から4行目の(ア)のところですよね,そこに,「当事者の指定した法によることとし,そのような準拠法指定がない場合には」という言葉を挿入する必要がございます。どうも申し訳ございません。 ● 裁判所としては,とにかくどこか決まっているということが大事なので,今のような御趣旨であれば,管轄として指定された国の法律でなくても,要するに当該契約についての準拠法としての合意があれば,その準拠法により,もしその準拠法の合意がなければ,管轄として指定された裁判所の所在地の国の国際私法によって定まる契約の意思解釈についての適用されるべき準拠法によって,要するに契約の効力と同じ形での準拠法によって合意の効力も判断するということでも,それは法廷地法よりはまだ決まるという意味で,よろしいのではないかと思いますので,そこはどちらでも,とにかく決まっている方が有り難いということでの意見とさせていただければと思いますけれども。 ● 管轄合意の準拠法については,訴訟法の立場からは○○先生のような見解も最近は提示されているわけですけれども,従来は,これは訴訟行為なんだから法廷地というふうに訴訟法の先生方は考えてこられたと思うのですけれども,今のここの場での全体の議論としては,契約準拠法の指定があればそれにより,それがなければ管轄合意で指定された裁判所の所属国法でどうかという意見が比較的多いように思いますけれども,その点,○○委員,○○幹事,いかがでございましょうか。 ● 私は法廷地法説だったのですが,二,三人の私よりは十歳以上若い世代の民訴学者と話をしましたら,そちらは契約の準拠法ないし指定された国の法律と,そういう説でして,もう世代的に違ってしまったのかなと思っていますので。   私自身はどう考えるかというと,まだ法廷地法説をとりますけれども,民訴学会全体からいくと,もうそういうのは少ないのかもしれません。多分,それほどの抵抗はないのだろうと思います。 ● ○○委員に伺いたいのですが,その場合,準拠法の指定があった場合というのは,当事者自治を前提にしてということで,明示の指定の場合に限るのですか。要するに,普通は黙示の指定まではオーケーといいますよね。ですから,それでもいいのかということなのですが。 ● その場合は,明示の指定でないと,先ほどのところの条項と絡んできてしまうと思いますけれども,あそこで「only」と入れてしまうのであれば,契約書上明示しておいていただきたいという感じ,そこは合わせる必要があるのではないかと思いますけれども。 ● ○○委員,その場合でも,よくほかの条約にもあるのですが,明らかに,正に疑いの余地なく,これだというような手掛かりがあれば,それでもよいというような指定の理解の仕方はあるんですよね。 ● もしも契約準拠法を基準にして合意の効力も考えるのだという話になって,そのときに,契約準拠法は必ずしも明示的に書いていなくてもそうなんですよという話になったときには,先ほどの「only」のところをどうするかというところにまた戻ってきてしまう可能性はあるのですけれどね。明示的な書面の合意という中に,そういう契約書全体の中で,それは,それを「only」の中の,それを慣習だと言ってしまう。まあ,(c)だとか(d)だとかいう話としても解決はできるのかもしれませんけれども,そっちとのリンクは必要だろうとは思いますけれども。 ● もう少し言いますと,疑いの余地なく当該場所の法律を選んだと思われるという手掛かりは,通常は管轄の約款なんですよね。 ● もちろん,そういう約款があれば一番いいのですけれども--そういう約款があって準拠法が決まっていればという意味ですか。 ● 準拠法がなくて,管轄地の合意があるという場合。だから,これはちょっと堂々めぐりになっているのですけれども。 ● その場合に,合意された管轄地を準拠法だというふうに普通の人は考えているということであれば,先ほど○○幹事がおっしゃったように,明示的に準拠法があればそれによるし,それがなければ指定された裁判所の国の法律によるというふうに,黙示にそういうふうにしているのだという……。 ● それはいいのでしょう。要するに明示でなければ困るとおっしゃったところの趣旨は。 ● そういうことです。それはもちろん,そういうふうに決めれば,そちらの方が優先すると思いますけれども。 ● それはまた更に進んだ立法論でございますが,ほかの国もみんな説得するとすれば,ニューヨーク条約にある言葉を採用したらどうかということだとしますと,そこは書いていないのですね。明示か黙示かも分からなくて,「当事者がその準拠法として指定した法令により若しくはその指定がなかったときは判断がされた国--それが指定された国ということになりますが--の法令により有効でないこと」という書きぶりなので,行くとしてもせいぜいそこまで。それも困ると言っている国があるわけですから,更にこれに明示とかいうのを加えるのは更に大変かなと思います。 ● ニューヨーク条約の今の条項でも,ないよりはずっと,裁判所としては有り難い条項だと思いますので,その方向で御努力いただければ有り難いと思います。 ● それでは,皆さんの全体の御意見としては,ニューヨーク条約の5条1項のような規定を設ける方向で更に特別委員会で議論すべきだという程度のことは政府のコメント案として盛り込む方向で更に検討するということにさせていただくということでよろしゅうございますか。 ● では,そういうことで,ありがとうございます。   それ以外の点について,特に何かございますでしょうか。   そういうことでございましたら,選択合意の実質的有効性に関しまして,コメント案の2ページの下から3行目,「なお」以下の点につきまして御意見をお伺いしたいと存じます。 ● この点は,前回,私もちょっと申し上げた点なのですけれども,履行不能の場合とも関係するわけですけれども,ニューヨーク条約の場合のように,仲裁の場合には,自然人の,その人の知識・能力に基づいて仲裁人として指定しているわけですから,その人が拒否したり,あるいは死亡していたりとか,そういう場合はもう絶対的に履行不能ということで判断が明確にできるわけですけれども,裁判所の場合には,そういう形で履行不能とかそういうことも分からないわけです。特に事物管轄との関係では,我が国でも来年からそうなるのですけれども,例えば特許侵害訴訟なんかの場合は,今は横浜とか名古屋でも地裁で起こせますけれども,来年からは東京地裁,大阪地裁の専属管轄になります。   そういうときに,そういう国の事物管轄と違う形の訴訟合意,要するに管轄合意をしているときに,それを履行不能というふうに考えるのかとか,指定された裁判所で裁判の拒絶がされたというふうに考えるのかどうかというのは,この条約では非常に不明確で,横浜と書いてあるけれども,これは改正後の民訴法だと東京になるから東京に起こしましたよということでいいということになるのか,あるいは,それではだめだけれども,とりあえず横浜に起こして,横浜の方で職権で移送されてしまえば,それは一応起こしたところが移送した上だから,それは合意された裁判所がずっとやったのと同視するという形でオーケーになるのかとか,そこら辺のところもよく分からない状況になっていますので,ここで一つ横浜の例としてコメントしていただいておりますけれども,履行不能の場合とか,拒絶された場合とか,そういうところとも絡んできますので,事物管轄とか,あるいは事後的な形で,裁判所の統廃合とか,行政区画の統廃合に伴って裁判所の管轄が動いたような場合にどうするのかという点については,もう少し明らかなような形で議論をしていただければと思います。   ニューヨーク条約の場合の,そういう仲裁人というような自然人の場合とはちょっと違って,裁判所の場合には,やはり国の機関ですし,そういう管轄が動いたり,裁判所自体の管轄が後から法律で動くということが十分考えられますので,そこの扱いが不明なままですと,裁判所としては,自ら裁判をする場合も,あるいは承認執行を求められた場合も,ちょっと対応が,解釈として分かりづらい点が出てき得るという懸念を持っております。 ● 裁判所の見解としてはそういうことのようでありますが,それでよろしゅうございますか。 ● 重要な契約は,この点も配慮して詳しく見ますね。したがって,条約でコンセプトが明らかになってくれると,契約を書く手間が省けていいです。 ● この点は確かに非公式会合でも十分に議論していない点ですので,是非指摘していただければと思いますが。 ● では,そういうことでこの点はよろしくお願いいたします。   それでは,外国判決の承認執行の問題に移りたいと存じます。   まず,コメント案の3ページの「(3)判決の承認・執行に関する送達要件(7条1項b号)について」につきまして御意見をお伺いいたします。   コメント案によりますと,被告が送達の瑕疵を本案裁判所において争うことができたにもかかわらず争わなかった場合を除き,送達実施国法に従ったものでなければ承認執行義務が生じないようにすべきとされておりますが,この点はいかがでございましょうか。 ● 私は,もとの方のままでいいのではないかと考えていますが。   といいますのは,被告に対し十分な期間を置いて,防御の準備をできる方法で通知されている,しかし実施国法に反しているというと,結局は送達実施国法いかんによって決まってしまうわけで,統一がとれないという面が一つと,特に送達実施国が非常に厳しい規定を置いているという場合には,十分な期間でちゃんと伝わっているにもかかわらず,だめだということになるので,日本からの送達でも厳しい規定を持っているところでは実施国法に反していたらだめだということになるので,そっちの方も考えると,実施国法に従って送達を行うというのは,十分な期間を置いて,かつ,防御の準備をすることができる方法でなされている場合であってもだめだということになるわけで,少し厳し過ぎるのではないかと思います。 ● ○○委員の御指摘もなるほどと思わないでもないのですけれども,ただ,この問題というのは,○○委員もちろん御承知と存じますけれども,送達というのも国によってかなりやり方が違っていて,アメリカなんかは当事者がやるというのが原則で,郵便で送りつけてくる,あるいは弁護士やその依頼を受けた者が直接手渡しをするという,裁判所の官吏とか,日本のようなきちっとした送達の手続をとらないで訴状を渡す行為で直接渡す,それを送達と取り扱っているわけですけれども,日本を始めとする大陸法諸国はそれは送達とは認めないわけでございます。この問題が民訴条約とか送達条約でも問題になっているところで,日本は民訴条約にも送達条約にも入っているわけでございまして,それとの整合性の問題,それから,一種割合シビアなのは,それはそれぞれの主権に関する問題であると一般には考えられているということからシビアな問題になるわけで,アメリカのやり方をブロックしたいという,そういう考え方が出てきている。   それで,日本はこれまでの対処方針では,ヨーロッパ諸国とともに,こういう規定を設けるべきだという主張をし続けてきたわけでございます。それを変更すべきなのかどうか。変更するとすれば,今回は合意管轄ではないかというのが一つのエクスキューズにはなろうと思うのですけれども,いかがでしょうか。 ● ○○委員,何か御意見ございますか。 ● おっしゃるとおり,合意管轄ということは,もう取引先で契約関係に入っている。その会社と紛争して,送達されるときにはもうその前にいっぱいいろいろなことがあるんですよね。したがって,そういうときに米国流にレジスタード・メールで送られても,十分な期間の余裕があれば,この表現で実害はありません。というのが私の受けとめ方です。   もし,あるということであれば,○○委員,どういうケースがありますか。 ● 送達条約に必ずしものっとっていなくても,そういうときはもう応訴してしまうという意味ですか。 ● 現実に,そもそもこの合意管轄でなくても,米国でドゥーイング・ビジネスをしているような大企業の場合にはもう応訴してしまうのですけれども,それについては考え方に差があって,赤の他人から突然レジスタード・メールで--本来,主権を侵害したではないかという議論はあるのですけれども,合意管轄をするということは,契約関係に入って,突然,不法行為とか,債権侵害だとか,それこそ知的財産権侵害ということで赤の他人から訴えられるわけではないわけですよね。取引先から訴えられるわけです。取引先から訴えられるときに,ある日突然訴えられるということはないんですよね。その前にずっと紛争状態があって,どうしても解決できない,そろそろ訴えてくるかなと思ったら訴えてくるというのが実務なものですから,日本の送達に関する法律に反して行われて,アメリカのレジスタード・メールでもオーケーと,こういう考え方で来ても,現実の被害はありませんと。ただ,それを,今言った主権論で踏まえて,どういうふうに日本の意見を形成するかというのは別問題ですけれども,弊害はないというのが私の実感であります。 ● 確かに主権の点では,これは応訴すれば治癒されるということなので,それほど強い主権ではないというか,利害ではないのは確かですが,問題は,応訴しなかった場合の非常に例外的な状況で,異常な状況かもしれませんが,契約をした覚えもない,合意管轄をした覚えもない,しかし何か変な送達が来て,放っておいてよいかどうかということ。放っておいて出なかったときに,その判決が,しかし,条約上,時間的にも内容的にも分かったはずだと,送達の点では争えないということになるのかどうなのかということなので,そこはそれほど深刻ではないかもしれませんが,しかし,送達についてやり方を決めている法律の顔が立たないのではないかというのが一番の理由だと思います。ここにも書いていますが,「法の遵守という観点から」というのはそういうことかなと思いますけれども。 ● ○○幹事のおっしゃったところでちょっと気になったことで,実際,この原案のようにやったら困りますか。逆にこっちで,このとおりやられても困らないというお話だったと思いますが。 ● これは非常にアメリカとかを縛ってくれる案ですよね。したがって,もとの案で私も意見はないのですけれども,ほかの配慮で抜いて困るかといって,それで困りもしませんと申し上げているわけです。合意管轄に関しては。 ● 困る,困らないという点は,多分に事実認定で,企業規模とか国際訴訟の経験の多寡によってかなり違うのではないでしょうか。現状ですと,ヘーグ条約にのっとった送達ですと,裁判所から茶封筒でちゃんと特別送達で来ますし,翻訳もついていますから,ごくごく中小企業でも,自分の地位がどういう状態にあるかというのは認識しやすいのですけれども,やはりアメリカの法律事務所の封筒で書類が郵送されてきたという状況における状況認識とかなり実態としては違っているように思われます。 ● ○○委員に逆の方での質問なのですけれども,例えば,日本の企業が東南アジアなどの企業と取引をしていて,日本の東京地裁を管轄裁判所として合意したときに,後々,東南アジアの本国の方に承認執行を求めようと思っているときに,そちらの方で非常に複雑な送達手続の規定があって,そちらを守らなければ,後でそちらで承認執行されるかどうか分からないということで困るというようなことは取引上ないのでしょうか。 ● 東南アジアは,個人的には体験ありませんけれども,フランスのICCの仲裁のケースなのですけれども,せっかく完全にパリで勝訴したのですけれども,エジプトへ持っていって承認執行しましたら,何だかんだと10年近く結局執行できないと。実務的にはそういう話があります。 ● そういう国はどんな規定を設けてもうまくいかないのかもしれないのですけれども。 ● おっしゃるとおり,中小企業の方とか,アメリカに事務所を持っていたりオペレーションをしていない,しかしアメリカと取引しているといった場合に,アメリカを合意管轄にして,訴訟が送達されたといった場合,考え方が分かれまして,先ほど申し上げましたように,B to Bは規模の大小は余り関係ないはずだ,合意したからには,というのが基本ではありますけれども,別の発想があるのかと,そういう問題点はありますね。   中小企業に限らないのですけれども,そこら辺のところについて,いろいろと,例えばアメリカの3倍賠償のコンセプトが嫌いだとか,いろいろな理由で日本で対抗訴訟すると。一方,アメリカの訴訟はなるべく後送りにしたいとか,そういうタクティックと申しますか戦略をやっているような複雑なケースもないわけではないということです。ただ,アメリカでも財産を持っていると申しますか,逃げられないといった場合には,余計なことをしないで,いやしくも合意したのだからさっさとやると。弁護士を立てて,30日以内に答えろといったら,60日に延ばしてくれと言えば,lawyers courtesyで,はいと言って延ばしてくれるわけですよね。というのが,実務ではありますけれども。   これは,要するに,アメリカの過剰裁判のことを意識して,簡易送達に歯どめをかけるということに日本国としてどこまで出すかという政策論なので,一企業の立場としては正直言ってどうにでも対応しますから,あとは政府としてどう考えますでしょうかという議論かと思います。 ● そういたしますと,これで特に問題はないというふうに考えてよろしゅうございますか。 ● 問題ないというのは,○○委員の御意見に対しては問題があるのでは。 ● やはりつけない方がいいというのが私の意見ですが,ほかの方がもとのままでいいというなら,あえて反対はいたしません。 ● 当然のことながら,抵抗に遭うということですよね。 ● 難しいのではないかと思うので。 ● 難しくて,むしろ総意で抜けということになる可能性は高い。それは分かります。ですから,その辺は,言ってみるだけ言ってみるというような位置づけにならざるを得ないのではないかと思いますけれどね。このままつけても。 ● では,次の問題といたしまして,コメント案の4ページの「(4)非専属的合意管轄に基づく訴訟と他の訴訟の競合(7条2項)について」につきまして,コメント案におきましては,規定の内容を明確化すべきであるというふうに書かれているわけですが,この点につきまして御意見をお伺いいたします。   図を見ながらお考えいただきたいと思いますが。 ● 前回も○○幹事から御指摘があった点で,条文が非常にシンプルですので,途中で追い越したりとかいう場合にどうするのかということは条文上は全然分からないということで,裁判所としては,そういうときに二重起訴されたときにどうするかとか,あるいは,承認執行をするときに,していいのかどうかという話のときに,非常に技術的に判断に迷うところになりますので,そこはできるだけ分かるような詳細な規定にしていただきたいと思います。   ただ,条文としてすべての場合を網羅するような形の条文というのは技術的にも難しいということであれば,非公式会合で議論した内容を何らかのコメントとして外に出すような形でもいいのですけれども,余り解釈が区々に分かれないような形での配慮をしていただければというふうに思っております。 ● よろしいでしょうか。   特に御意見ございませんようでしたら,そういう方向で考えるということでコメントを書いていただくということでよろしいでしょうか。 ● ○○幹事に1点お聞きしたいのですが,この非専属的合意管轄に基づく訴訟の競合の場合の2の(b)の関係ですが,(a)と違って,「同一当事者間の訴訟物を同じくする手続」という限定がないのですが,(b)の「判決が承認又は執行を求められた国又は他の国で既にされた判決と矛盾する場合」という規定は,これは当然,「同一当事者間の訴訟物を同じくする手続」で出された判決という趣旨なのか,あるいは,承認執行を求められた国がどういう場合に矛盾していると考えるのかは解釈にゆだねられているという趣旨なのか,その辺,何か議論があったかどうか,教えていただきたいのですが。 ● これについて細かな議論はしておりません。2001年案の28条の1項(a),(b)をほぼそのまま持ってきたのではないかと思います。そこでも,(a)の方には同一当事者間で同一訴訟物というのが入っていて,判決の方では入っていない。ただ,そちらでは「incompatible with」という言葉を使っていて,それを示しているのではないかと私は思っておりますけれども,明確ではないのは確かです。ただ,同一当事者間の同一訴訟だけに限って,(a)の場合だっていいのかどうかは,条約ではそれだけに限っているのは,まあ中核的なところですから,それでいいのかもしれませんが,理論的には,少しずれていても二つの判決というのは困る場合もありそうですね。しかし,そのことを考えて(b)を違う表現にしているわけではないと思います。ですから,どちらかに統一してちゃんと規定すべきだというのはあり得る見解だと思いますけれども。 ● 今の点ですけれども,(b)の方はもう既に判決がされているわけですよね。ですから,判決もいろいろあると思うのですけれども,対世効のある判決というのもあり得るわけなので,対世効のある判決が既にされていて,それと矛盾するようなものですと,同一当事者間の同一訴訟物ではなくても,やはり承認するわけにはいかないという場合があるのではないでしょうか。それで(b)は何も書いていないのかもしれないと思ったのですけれども。   例えば具体的には,これは1条のセッティングの仕方にもよりますけれども,先ほど来の御議論ですと,特許の有効・無効は専ら特許登録国でやるのだと。それで侵害訴訟は別の国でもいいということになりますと,別の侵害訴訟の判決の承認執行が求められたのだけれども,そのときに,その侵害訴訟のもととなった特許の有効性について登録国の方で裁判をしていて,それがもう確定していて特許無効の判決が確定していたと。特許無効判決が確定しているのに,その侵害訴訟の判決で承認執行を求められたときは,それは拒絶できますという意味を(b)だと持たせられるのかなと思ったのですけれども。 ● それは初めて聞く議論なので,議論はしていないと思います。   ただ,そうだとしますと,1条4項のただし書のところはやはり相当問題になりますよね。先ほど私が申し上げたところですが,当事者間ではその判決は有効だと言っていることとどういう関係になるのかは……。 ● 1条4項のただし書は,「当事者間においてのみこの条約に基づく効力を有する」ので,7条で矛盾していれば,承認されないという効力を当事者間においても有するのではないですか。 ● そんなふうに読めるんでしょうか。   「shall have effect under this Convention」と言っているのですけれども,当事者間では,払えという判決が出てしまえば,その払えという点については有効だと。要するに,日本では無効とされた特許なのに,外国では有効だとされて,それに基づいてライセンス料を支払えという判決が出た場合の話ですが,ここはどう読むということでしょうか,今おっしゃった点で言うと。 ● その判決自体は有効なんだけれども,もう特許無効が確定してしまっているから,ほかの国では承認されないと。7条の方の規定でですね。 ● 7条2項(b)で承認自体を拒否ということですか。執行自体を。 ● 7条2項に関しましては非専属合意管轄についてのみを対象としておりますので,その意味からはそれほど矛盾がないような気もするのですが。すなわち,現在の条約案を基礎とすると,専属合意管轄に基づく先ほどの侵害訴訟についての一定の損害賠償等の判決であれば,7条2項とは関係がありませんので,承認されることになるとは思いますが,7条2項はあくまで非専属合意管轄を対象とした条項でございますので,その観点からは,例えば非専属合意管轄で,特許の例でいえば,侵害訴訟で一定の金額の判決が出たとしても,対世効のある有効・無効の判決がほかで確定していて,それと矛盾・抵触する場合には承認を拒絶することができる,そういった帰結になるのかと思うのですが,いかがでしょうか。 ● 専属か非専属かは必ずしも関係しないように思いますけれども。 ● この条文自体は非専属の条文ですよね。   ですから,今,○○幹事がおっしゃった例は,専属の場合でも同じような問題が出てしまうのですけれども,専属の場合には,こちらの条文ではなく,むしろ公序良俗的なところで承認執行を拒否するしかないだろうと思います。国内法で言えば再審事由に当たるようなものが明らかなのに承認執行するのかという問題になりますので。 ● もしそれが公序で処理できるのであれば,非専属の場合も公序で処理できるので,この条文は要らないと。 ● だと思いますけれども。   今の例はちょっと極端な例ですけれども,やはり,もとの特許が後から対世的に無効になったときまで,それを見過ごしてされた金銭の賠償請求の支払いを命ずる判決の執行をしなければいけないということにはならないのではないか,それはむしろ承認執行するべきではないというのが,やはりどの国でも同じ合意になるのではないかと思うのですけれども。 ● 今,○○委員は,特許無効判決の確定を見過ごしてされたというふうに言われましたけれども。 ● 見過ごしてというか,要するに結果的には見過ごした形になるわけですね。特許無効の場合には遡及効がありますから。 ● 分かりました。 ● ただいまの点はそれでよろしゅうございますか。 ● そこでもし公序を使えるとしますと,このコメントで問題にされているような状況も,変なことが起これば全部公序違反だということですよね。 ● 公序というのは余り即さないような気がするのですけれども。   結論的には,今,○○幹事が出された例で承認執行しなければいけないという人はいないだろうと思うのですけれども,それをどういうふうに理屈づけするかで,今の例が仮に公序で読めないのであれば,何らか,その基礎となった無体財産権,知的財産権について,対世的に,登録国で無効とされた場合は除くとかいう条項を入れてもらった方がむしろいいのかもしれませんけれども。承認執行を拒める場合としてですね。 ● 御趣旨の確認なのですが,それはもちろん専属合意管轄についてもということですよね。 ● そうです。 ● そうすると特許には限らなくて,会社の有効性とか,土地の所有権とか,いろいろなことが出てきますね。そうするとちょっと難しくなる。 ● 一番明白な場合なものですので,登録国で特許が対世的に無効になって,全く登録自体がなくなってしまっているにもかかわらず,それに基づく損害賠償だけを承認執行しなければいけないというのは,おかしい気がします。もともとの権利自体,国が確認的に与えるものではなく,創設的に与える権利ですので,それがなくなってしまうというのは,ちょっとほかの場合とは違うだろうと思うのですね。それがほかの場合と--そんなのを入れると公序良俗が広くなってしまうということであれば,何らかそこを手当てする必要が確かにあるのかもしれません。 ● 今の民訴法の解釈としては,公序なんでしょうか。○○委員がおっしゃるように,それでもなお承認すべしという人は多分いないと思いますが,規定でどこかを使うとすれば公序しかないのかなという感じがいたしますが,○○委員,○○幹事,いかがでしょうか。 ● 事前に考えたことはないのですが,○○委員が言われたように,再審事由ですよね。もとのものが消えてしまったという。しかし,それが公序に結びつくかと言われると,余り考えたことないのですが,最後になければ,最後のときに使うのが公序ですから,それはそうかなと思いますが。もっとエレガントなのを作るべきなのかもしれませんが,今のところは思いつきません。 ● 議論をますます複雑にするのかもしれないですけれども,今,専属合意管轄というか,B to Bの合意管轄の話をしているのですから,例えばライセンス契約をしてロイヤリティーの支払いを求めて,ライセンシーの方が特許無効を争っているとか,そんな例になるかと思うのですね。普通の侵害訴訟ではなくて。そうなると,よく,そういったライセンス契約には特許不争条項なんか入っていまして,特許の有効性をライセンシーは争わないとか書いてありますし,その条項自体が果たして公序良俗違反かとか,そういう問題は別にあるかと思うのですけれども,それにもかかわらず,ライセンサーの方からロイヤリティーの請求をして,そのロイヤリティーの請求が認められたと。ところが,登録国でもってそれが無効になったと。そうすると,さっきの特許不争条項みたいな,そういった関係も出てまいりますし,では,当事者間で争わないで,その特許の有効性を認めてロイヤリティーを支払うという約束をしていた以上は払うべきではないかと,そういう議論もあり得るのではないかと思います。 ● 実際の侵害訴訟の例を御紹介しますと,国内の場合には,侵害訴訟の場合には,もとの権利が無効になった場合には再審事由に当たるということは,これはだれも承認していることですし,最高裁ももちろんそういう形で再審事由に当たると言ったこともあります。   それに対してロイヤリティーの場合には,不争条項が入っている場合もありますけれども,仮に入っていない場合であっても,その前提問題としての有効・無効について,結局払えという判決が確定したけれども後から無効が確定したというときに,それが再審事由になるのかというと,形式的には再審事由には当たらないだろうと思っています。   というのは,侵害訴訟の場合には,もとになった権利についての行政処分という形できちんとそこはもう読めてしまうのですけれども,ロイヤリティー契約の場合には,そういう形で条文にすぐ当てはまらないだろうと思いまして,詐欺,錯誤になるのかということですけれども,特許の場合には,一定の場合には無効になり得るというリスクを負った権利であるということを考えた上でB to Bの場合は特に契約をしておりますので,その場合も,とにかく無効の審決が確定するまでの間は,見せかけだけの権利であるかもしれませんけれども,ほかの人を排除して事実上市場を独占できたではないですか,それに基づくメリットがあったのではないですかということで,それはロイヤリティーを払ったのは捨て金ではないのですね。ビジネスの上でも。   そういうこともあるので,ロイヤリティーの場合には必ずしも再審事由にならないと考えておりますので,一番シビアな形で出てくるのはやはり侵害訴訟の場合だけだと思います。 ● ちょっとさっきの議論の関係で一つ。   7条の1項と2項の関係というのがよく分からなくなってきたのですが,先ほど来の議論で,二つの判決の既判力が抵触するような場面でそれが果たして公序かどうかは確かに余り議論されていなかったようにも思うのですが,もしそれが公序だということで,1項の方でその場合に承認を拒絶できるというふうに考えるとすると,2項の位置づけというのがよく分からなくて。   2項は,専属的ではない合意に基づく判決を承認するかどうかの問題で,この場合は恐らくほかの国でも訴訟ができるはずであるからということで,承認執行の範囲は狭くていいと,拒絶できる場合を広くすると,こういう趣旨だと思うのですが,その場合に,特に2項の(b)の判決が矛盾するという場面はどういう場合を想定されているのか。何かもう少し,既判力自体が抵触しない場面であっても,ある意味では論理的に矛盾するような判決について執行を拒絶できるという趣旨なのかなとも,先ほど来の議論を読んで1項と2項の関係を詰めていくと,なるのですが,その辺はいかがでしょう。 ● 非公式会合での考え方は単純でして,1項の方は専属管轄だから一つしか裁判はない,だからこれは要らないのだけれども,非専属管轄だと,全く同じ民事の普通の契約で複数の事件が起こるかもしれないと。それぞれの裁判所は義務として裁判をしなければいけないとなっているので,それを解除してあげないといけないので,その義務を解除してあげるために,非専属的な場合には2項が必要だという議論で来ているわけですが,今ここでお話をされていて分かったのですが,これは専属管轄でも除外事項との関係では矛盾・抵触は起きるということをおっしゃっているわけですよね。それは全然考えていなかった話なので,それはどこかでコメントしていただくと,分かる人には分かる論点ではないかなと思います。ですから,1項の場合にも同じものがあるのだということだろうと思いますが。 ● 先ほどから話題になっている侵害訴訟と特許の無効の問題は,有効・無効の関係は今の案では除外事項になっていますので,それの判決との関係ということにもちろん確かになると思いますが。 ● そうすると,これはどのように整理するかということもコメントに入れることになるのですか。それとも,問題があるということだけを指摘すると。 ● 現時点では,細かい提案までこの部会で決めていただいて提案するのは恐らく時間的に難しいと思いますけれども,今日の御議論は非常に有益だと思いまして,除外事項については2項と同じような世界というのが専属管轄であっても生じ得るので,その点についての手当ても考える必要があるということぐらいはとりあえずのコメントとして出しておいて,日本も特別委員会が開かれるまでの間に何かいい提案ができるかどうかを考えて,ヘーグ事務局の方にも考えていただくということでいかがでしょうか。 ●,それでは,今のところはそういうことでお願いをいたします。   次に,コメント案の5ページの(5)でございますが,「損害賠償判決の承認(11条)について」に関しまして,コメント案におきましては,2001年条約案33条2項と同趣旨の規定を設けるべきというふうにされておりますが,この点につきまして御意見をお伺いしたいと存じます。 ● 質問なのですけれども,特に○○委員に質問ということになるのですが,実際の実務上の必要性として,B to Bの場合に,3倍賠償は別ですけれども,それ以外の形でアメリカで「極めて高額」な損害賠償が出るということはあるのでしょうか。個人が原告の場合は,名誉毀損とかそういうことが非常に大きいのは分かるのですけれども。   それともう一つは,こういう形で入れた場合に,日本で行った判決が,例えば中国とかそういうところで,物価水準の違いだけを理由にして,物価水準の違いからすると「極めて高額」だからということで,一部について承認執行してもらえないということもちょっと懸念されるかなと思うのですが,そういう心配は,取引の当事者としては余りしなくてもいいよという心配なのでしょうか。我々の単なる懸念であればいいのですけれども。 ● 実は全く同じ意見を私も持っています。   「極めて高額」という主観的なのを予測可能性を高める条約に入れることがそもそもというふうに,若干違和感をもともと持っていました。ただ,前回の大きな条約のときにここまで議論しなかったということもあるのですけれども。またまたさっきと似たような議論なのですけれども。   その上で,おっしゃるとおり,逆に日本の判決を執行するときに,物価水準が違うとか,ああだこうだ言って執行が将来できなくなるということも相当懸念されますね。現実問題として。   一方,米国で大きな敗訴判決を受けるのは二つパターンがあるのですが,一つは,3倍とか懲罰的賠償でとんでもない金額になると。これはもともと排除されているのですけれども,もう一つはクラスアクションですね。無数の原告を対象にして,一定の業界のユーザー全部の損害だと言われてとんでもない金額になる。この話なのですけれども,これはちょっと立場によって答えが変わってきます。米国にステークと申しますか資産を持って事業活動をしている人は逃げられないわけですよね。日本に持ってこられて,向こうでやられてしまいますから。それから,貿易をしていたら,その貿易債権を押さえられたらおしまいなので。そうすると,そういうクラスアクションで負けてしまった金額が極めて高額であるということで,日本でもう一回チャレンジしたいというような企業の方というのは,アメリカでステークを持っていない企業の方ですね。そういうことのためには一定程度役に立つかもしれないという程度なのですけれども,それ以外の企業については余り意味のある話ではなくて,逆に日本企業がほかの国で執行するときに足かせになって,エクスキューズになってしまうということもあるので,pros and consがあって,私の印象としては,どちらかというとconsの方が大きいかなというようなイメージを持っておりまして,日本政府の意見としてこれを入れるのは,正直申し上げまして,余りサポーティブな気持ちにはなれない話です。 ● 今の点についてですけれども,私はちょっと違った意見を持っておりまして,やはりこれはここに書かれているように主張していいのではないかと思っております。   「極めて高額」というのはB to Bであり得るかということなのですけれども,あり得るのではないかと思うのです。例えば,ある機械を売買したというような場合に債務不履行でもってやられるという,非常にプロダクト・ライアビリティー的なケースでもって,陪審か何か使われて極めて高額な損害賠償,それはなきにしもあらずというふうに考えます。   それから,さっき物価水準のことをおっしゃいましたけれども,私の理解はちょっと違うのですけれども。懲罰賠償とかは,判決国ではなく,執行国の方の基準で認められるてん補賠償を認めようということだと思うのですけれども,「極めて高額」の方は,あくまでも執行国ではなく,判決国の方の基準でもってやるということだと思うのです。ですから,そういう意味で,さっきおっしゃった,中国に持っていって物価水準ではねられるということはあり得ないのではないかというふうに考えています。 ● 今の最後におっしゃった点は,2001年条約案の注の174というところに書いてございまして,これは,もともとのドキュメント番号の11では,判決国の裁判所の基準に従って極めて高額かどうかを決めると書いていたのですが,注174では,判決をした裁判所の基準のみに基づいて判断されるべきだということを意味するものではないと言っていて,必ずしもそれだけではなくて,受入側の承認国の基準もあり得ると。それは,債権者がどこに住んでいる人なのか,あるいは企業なのかということも関係があって,承認国に住んでいるような場合には承認執行を求められた国の基準がより重要になると言っているので,この日本のコメントは,一方的に「承認を求められた国の基準に従って」と書いているところはちょっと強過ぎるかもしれませんが,そのことは必ずしも排除されていなかったのではないかと思います。   ついでにもう一つ。私も,これはない方が--日本というのが国際的に見てどれぐらい高い国かということですが,結構高そうな国ではないかと思うので,日本からあえて言う必要はない。もっと高い,めちゃくちゃなのが出てくるかもしれないアメリカのことさえ気をつけておけば,その判断で大丈夫なのであれば,日本から言わなくてもよいかなとも思いますけれども。 ● 裁判所の立場からすると,承認執行を求められたときに,3倍賠償とか懲罰的損害賠償とか書いてあれば,その判決自体から分かるから,非常に判断しやすいのですけれども,アメリカの水準から言って高額過ぎるのではないかという形で損害賠償の認定額の蒸し返しのようなことをされてしまうと非常にやりにくいというところが一つございます。   今,○○委員の方からクラスアクションの話がありましたけれども,B to Bのクラスアクションというのは余り考えられないということと,およそアメリカに資産がないような企業に対してクラスアクションが起こされるということは余りないだろうと思いますので,そういう余り実害がないのであれば,裁判所の方の技術的な見解というか立場から言っても,ない方が有り難いし,東南アジアなどのことを考えて,経済界の方で,ない方がいいというのであれば,その意見に賛成したいと思っております。 ● まず,極めて高額な賠償というのが,B to Bで,ないのか,あるのかということですけれども,私は,○○委員がおっしゃられたように,B to Bでも,日本では考えられないような超高額な損害賠償というのはあり得ると思っております。   これはなぜかというと,懲罰的賠償という制度はそれぞれの州法によって決まっている制度で,例えばカリフォルニア州は懲罰的賠償というのがあるのですけれども,ミシガン州にはございません。しかし,私が15年前に留学していたときは,ミシガン州の判決の賠償額の高さはカリフォルニア州に勝るとも劣らないと言われていまして,ロサンゼルスのロイヤーはデトロイトで訴訟をするのが非常に好きだということが言われていたぐらいでございます。   もともとこれはヨーロッパが一番最初のときから主張しているのですけれども,つまり,懲罰的賠償と名前がついた場合はもちろん拒絶する,ドイツも最高裁の判例がございますし,日本もあるわけですけれども,そうでない場合はなかなか公序で拒絶できないのだけれども,しかし非常に巨額な判決が出ることがあるから,それを拒絶できるようにしたいというニーズなので,ですから,B to Bでも巨額の判決が出るということは,B to Cに比べれば少ないと思いますけれども,その否定は絶対できないと思います。   これは,私の理解するところでは,これまで日本は一貫して対処方針にこれを盛り込んできたところで,そこはヨーロッパとも歩調を合わせてきたのだと思うのです。その理由は,アメリカにとってだけ都合のいいような条約はつくらせないということがあったと思うのですけれども,合意管轄だからそこを変えていいのかどうか。恐らくこれが最終的にアメリカがうんと言って条約に盛り込まれる可能性は低いと思うのですけれども,ここで合意管轄だけの条約になったから引っ込めてしまっていいのかどうかというのはもうちょっと議論する必要があるのかなという気がいたしますが。 ● 前提の,さっきの舌足らずのことを正確にもう一回繰り返しますと,クラスアクションに関してはB to Bもないわけではないのですけれども,これはどういうことかというと,例えば独禁法でユーザーの企業からクラスアクションを提起されるということが--具体的に言うと企業を代表した弁護士からですけれども--ありますけれども,それはやはり不法行為ないし不法行為類似の訴訟であって,B to Bの合意管轄で,これはないですね。したがって,先ほど,結果として巨額の金額になるというやつの一つのコンサーンであるクラスアクションは,おっしゃるとおり余り懸念すべきものではなくて,基本的には,陪審裁判で損害額は陪審が認定するという形で,外国企業に関してはどうしてもアンチ外国企業という点からゆがむリスク,そこに絞られるのではないかなと思います。   その場合でも,今申しましたように,企業によっては立場が変わると。アメリカでステークを持っているところにはしょせん意味のない議論なので,それよりも,日本企業として外国にエンフォースメントが確実にできる方がいいという立場の企業と,そうではなくて,ステークはなくてビジネスだけやっているという企業にとってはそのリスクの問題があるので,無条件に受けないという規定がいいというふうに,恐らく立場が割れると思います。 ● 私,なかなか頭の切りかえができなくて,○○幹事がおっしゃった,従来日本が主張してきたというのは,不法行為の管轄もある条約において主張してきたので,今回,それがなくなったので,考え直すということはあり得るということと,もう一つ,公序が発動できないかもしれないとおっしゃった点については,私は,ひどい場合には発動できると思いますので,それは留保しておいた方が,会議で言うかどうかはともかく,日本の記録としては,公序の発動もあり得るという見解があったということを記録しておいていただきたいと思います。 ● 公序を発動できればいいのですけれども,そうするためには,Explanatory Noteか何かに書かせなければいけないのかなという感じもしますけれども。 ● ○○委員が先ほど懸念された,賠償で金額が高くなるケースというのは,不法行為ケースですか,それとも契約のケースですか。 ● もちろん契約の債務不履行ですが,プロダクト・ライアビリティーを契約でやってくるような場合ですね。つまり,非常に高価な機械を売ったと。その機械がちょっとmalfunctionしたというような場合ですね。 ● たまたま契約の直接の当事者なのですけれども,その使用の仕方は,やはり不法行為ですよね。懲罰的賠償というのは基本的には不法行為だけですよね。 ● ですから,債務不履行でやってきて,それと同じように巨額の賠償額が認定されたという場合ですね。 ● そうすると,この点につきましては,更に事務局の方で御検討いただいて,どういうふうにされるかということですね。 ● 両論の御意見がございましたので,もう少し,ほかの省庁さんの御意見も伺わなければなりませんから,ここは事務局の方にお任せをいただいて,最終的にどうするかというのは政府全体として考えさせていただくということでよろしゅうございましょうか。 ● それでは,コメントに書かれております事項につきましては一通り御議論をいただいたわけでありますけれども,コメントに書かれていない部分について何か御指摘がございましたら,お伺いしたいと思いますが。 ● 経団連に諮ったこともありまして,会員企業の方から,5条の(b)について,例の純粋国内事件について外国裁判所を専属管轄とするのは中国は困ると言っていることに対して,ヨーロッパ諸国と同じなのですけれども,純粋国内でも性格によっては外国の裁判所がいいということもあり得るという認識の上で,本来,当事者の意思が尊重されるべきものであるから,かつ,その締約国の国内法に抵触する場合とつけ加えるのはどうかという意見が,一部経団連の経済法規委員会の企業から出されていますけれども,これについては,私の理解では,余り意味のある意見ではないと。なぜならば,もともとこれは基本的に小さい条約で,みんなが合意する範囲内でやって,中国は国内法があるから合意できないと言っているときに,条約は純粋国内事件でもオーケーということに原則して,中国だけに例外を認めるということを許すということをわざわざすることもないだろうというふうに思いますが,この理解でよろしいのでしょうか。 ● この5条の(b)は,留保条項にすることはもちろんあり得るとは思いますけれども。アメリカの言ったことは留保条項になっていて,中国はなっていないという扱いは必ずしも合理的には説明できないので,両方あり得ると思いますけれども。ですから,これは困ると,ハードルを高くして,そうしたいのであれば,言わせるということも,政策的にはあり得る。   私が懸念するのは,要するに,中国に進出している日本企業で,資本は半分は日本なのに,常居所は中国ではないかと言われて中国の国内事件にされてしまうということでよろしいのか。よろしいというか,現状はそうなんでしょうし,中国は変えるつもりもないし。   どうも,非公式会合の雰囲気は,中国に入ってほしいというのがみんなの考えで,中国がおっしゃることは結構通すという雰囲気だったものですから,ちょっと時々しかおっしゃらないということもあり,それでこういうことになっているので,必ずしも合理的な説明はつきにくいところかなと思いますけれども。 ● よろしゅうございますか。   それでは,その他の点について何かございますか。 ● この条約はWTOなんかと違ってどこの国でも入れるというか,多分WTOだと一定の水準を満たさないと入れないとかありますけれども,この条約はどこの国でも入れるということがありますので,そうなると,よく話なんかに聞きますと,東南アジアの国なんかでは裁判官が饗応を受けて判決が出てしまうと。そういうところも入ってくると,それを日本で執行しないといけなくなるのかとか,そういうこともありますので,先ほどの7条の1の(d)にかぎ括弧で入っていますけれども,[承認又は執行を求められた国の基本的な手続の原則に反する手続によって判決がされたものである場合]と。そういうような,裁判官が饗応を受けて判決を出したようなのがこれに入るのかどうか,これも余りよく分からないのですけれども,何かそういう面での歯どめが要るのではないかというふうに考えます。 ● ほかに何かございますでしょうか。   ないようでございましたら,本日予定されました議題につきましてはおおむね御意見をいただけたかと存じますので,本日の御審議はこの程度にさせていただきたいと思います。   ヘーグ国際私法会議事務局の照会に対するコメントにつきましては,本日の御議論を踏まえまして原案を修正いたします。日本政府としてのコメントでありますし,他省庁との協議等も必要となりますことから,最終案につきましては,部会長・事務当局にお任せいただくことを御了承いただきたいということでございます。   それでは,今後の日程等について,事務当局から御説明いただきます。 ● 本日は,時間を延長して,長時間にわたり熱心な御議論をいただき,非常に有益だったと思います。どうもありがとうございました。   今後のこの条約に関するスケジュールでございますが,これは現時点ではまだ何も決まっていないわけでございますが,各国がヘーグ事務局の依頼に応じて意見を出すと思われますので,その意見の結果を取りまとめて,恐らく秋ごろまでにはヘーグ事務局から何らかの,各国の意見照会に対する回答状況についての連絡があるのではないかと思います。   仮に各国の大半が本条約草案に基づく特別委員会の開催に賛成いたしますと,12月1日から特別委員会が開催される予定でございますので,その場合には,日本政府としても特別委員会についての対処方針を決定する必要が出てまいります。まだそうなるかどうかは分からないわけですけれども,一応,そういう事態が生ずる場合に備えまして,11月11日の火曜日の午後1時半から部会を開催できるように場所だけは確保してございますので,とりあえず11月11日の火曜日は部会が入るかもしれないということで,あけていただければと存じます。   いずれにいたしましても,ヘーグ事務局から連絡が参りましたら,部会長・部会長代理と御相談させていただいてスケジュールを立てまして,速やかに各委員・幹事に御連絡を差し上げたいと思いますので,どうぞよろしくお願いいたします。   本日は,どうもありがとうございました。 ● それでは,本日の部会を閉会させていただきます。本日は,長時間御熱心な御審議を賜りまして,誠にありがとうございました。 -了-