法制審議会 国際裁判管轄制度部会 第18回会議 議事録 第1 日 時  平成17年7月27日(水)  自 午後1時30分                        至 午後4時35分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題    「管轄合意に関する条約」について 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ● それでは,定刻となりましたので,第18回法制審議会国際裁判管轄制度部会を開会いたします。  本日の議事に入らせていただきますが,まず事務当局から配布資料について御説明をお願いいたします。 ● それでは,配布資料について御説明させていただきます。  今回は,席上配布資料がございます。それから,事前送付させていただいた資料に一部差し替えがございます。資料番号65から67までが事前送付させていただいたものでございますが,65が先般の外交会議の最終日に採択されました条約を含みますヘーグ国際私法会議の今回の外交会議のファイナルアクトでございます。  それから,66-1と2でございますが,これは席上に差し替えをさせていただいておりますけれども,いずれも○○幹事にお作りいただいたものでございまして,今回採択されました「管轄合意に関する条約」の仮訳でございます。66-1がクリーン版で,66-2が外交会議にかけられた草案との異同を示す見え消し版でございます。若干,事前送付させていただいた後に字句の修正を○○幹事がされましたので,差し替え版をお配りさせていただいている次第でございます。  それから,67でございますが,これは英語の方のでき上がった条約と条約草案との異同を示す見え消し版でございます。これも○○幹事にお作りいただいたものでございます。  最後に68でございますが,今回の外交会議の「管轄合意に関する条約」の審議結果の報告書でございまして,1枚目にありますように,これも○○幹事にお作りいただいたものでございます。この後,この報告書に沿いまして,○○幹事から外交会議の経緯,それから結果の御報告をいただく予定にしておりますので,よろしくお願いいたします。  配布資料の御説明は以上でございます。 ● ありがとうございます。  本日は,本年6月14日から30日にかけまして開催されました外交会議における議論の概要及び結果につきまして,外交会議に御出席いただきました○○幹事から御報告いただきたいと存じます。その後,質疑を挟みまして,条約が採択されたことを受けた今後の方針等について御議論いただきたいと存じます。なお,3時を過ぎましたら,切りのよいところで15分程度の休憩を挟みたいと考えております。○○幹事の御報告は休憩を挟んでさらに続けていただくことになる可能性もございますので,よろしくお願いいたします。  それでは,外交会議におきます議論の概要及び結果につきまして,○○幹事より御報告いただきます。○○幹事,どうぞこちらの方にお移りいただきたいと存じます。  それでは,どうぞよろしくお願いいたします。 ● それでは,できるだけ3時までには終わるようにいたしたいと思います。資料68の報告書に基づきまして御報告させていただきます。適宜条文等をごらんいただければと思います。  今回は,ヘーグ国際私法会議として第20回目の外交会議ということになったわけでございますが,そこで1の(1)に書いております○○幹事以下の方々と私が出席させていただきました。  会議全体としては2つ大きなテーマがございまして,1つは,第一委員会,一般問題の方で,それの主題は,ヘーグ国際私法会議の規定といいますか,会議自体の組織規範の変更でございまして,それはヨーロッパ連合が国際私法事項について管轄を有するということになったことに伴って,EU自体を条約の締約国とすると。ただ,そのように特定しては書けないので,そのような機関を示す一般的な表現をして,そういう地域的な組織については,締約国というのではなくて,メンバー国になれるということの改正でございまして,それも相当議論がございまして,このメンバーの中にはそちらにも随分時間をとられた人たちもいらっしゃいます。私は幸いにもそちらには余り関係しておりませんでした。  第二委員会のテーマが2つ目の大きなもので,この条約の採択でございました。結論から申しますと,6月30日の午前11時から平和宮の法廷で使用している部屋で署名式を行ったのですが,その同じ日の午前2時過ぎにやっと最終的に第三読会が終わるということでぎりぎりだったわけですが,非常に最後まで細かい議論を積み重ねておりました。  2のところになりますが,今回,日本としては,前回御議論いただいた対処方針を踏まえまして,幾つかの点を達成したいということで参ったわけでございますが,大きな点の3つについて,ほぼその所期の目的は達したのではないかと思っております。  1つは,この1ページの2の最初のところですが,管轄合意により選択された裁判所であっても,審議の遅滞を避けること等のため,他の裁判所に移送することができるということが明記されました。ただし,そのような場合の扱いがここには書いてありません。実は他の締約国は,そういう移送があった場合にはもはや訴えを却下しなければいけないという義務は負わないということで,訴訟競合になる可能性はあるといいますか,その条文は削除されたのですが,8条5項の方は残りまして,一定の条件のもとに,移送先の判決も承認執行の義務があると。ただ,一部大きな例外としては,その移送に対して適時に反対した当事者がいたような場合には,条文のとおりに申しますと,その者に対しては承認執行するに及ばないといいますか,しなくてもよいという条文になっております。ですから,いろいろな点で妥協の産物ではありますけれども,後でもまた詳しく申しますが,少なくとも移送について,移送ができるということと,その判決の承認の道は残るということは確保されたと思っております。  2番目は,その承認執行拒否事由として,承認執行を求められている国に所在する被告への送達等が送達に関する基本原則と相容れない方法でされた場合がその一つとして拒否事由になるということが確保されたということでございます。これは「公序違反になるような場合」という表現ぶりも途中の過程ではあったわけですが,最終的には「送達に関する基本原則と相容れない方法でされた場合」ということになりました。これの意味は,要するに非常に些細な技術的な違反のような場合には,それを理由に拒否するということは認めたくないと。他方,主権の問題もあるという国もあるわけでございまして,その送達についての基本的な考え方が国によって相当違うものですから,その送達を国家の裁判所が行為として行っている国への配慮としての妥協としてこのような言葉遣いになったわけでございまして,少なくとも日本について言えば送達条約の10条のb号とc号は拒否しているわけですから,それについては基本原則に相反するということで,そういった方法がされた判決は拒否できるだろうと思います。送達条約の10条のa号についてはまた御議論いただきたいと思います。  3番目は,懲罰的損害賠償の扱いでございます。これにつきましては,11条1項というところに条文が置かれましたけれども,そこでは従来の形とは随分変わった形になっておりますが,懲罰的損害賠償に限らず,賠償を命じられた金額が現実に被った損害を填補するものを超える場合には,拒否できると読める条文になったと思っております。  以上の点が大きな点ではなかろうかと思っております。  以下,条文に沿いまして御報告をさせていただきたいと思います。  この条文は,会議に臨んだ者としてはこの方が分かりやすいということで前の条文でまとめているわけですが,最終的には現在の条文で見なければいけないので,原則としてここに書いてある条文番号は,さっきの中にももう既にちょっと混乱がございましたが,「新」と書いていないところがあったりしますが,「新」と書いてあれば新しい最終条文で,書いていなければ,前のといいますか,昨年の特別委員会で採択された条文の番号ということです。ですから,見え消しになっている66-2とか67を見ていただくと,前の条文はどうだったかというのは,消されている方で分かるということでございます。項目を申しますと,分かっていただけるのではなかろうかと思っております。  まず,1条の2項で,特別委員会の案では,括弧書がついていた部分があったわけです。それは,いつの時点で当事者が同一の国に居住し,その他の要素も含めてすべてその国だけに関係しているということを判断するのかという問題についての,要するに時間的な要件についてでございます。これは,そういうことでなければ国際的な事案になると。そういうことでなければというのは,当事者が同一の国に居住し,その他の要素も含めてすべてその国に関係しているのでない限りは,国際的なものになるわけですから,そのことをいつの時点で判断すればいいのかということです。合意が締結された時点とするという考え方は,これは当事者から見れば,その段階で条約の適用があるかどうかが分かった方がよいということからそのような考え方があり,他方,その手続の開始の時点というのは,今度は裁判所の側から見れば,昔のは何年前か分からないわけですから,事案によっては相当前の時点で管轄合意がされたときにどのような状況であったかを審査しなければいけないというのではなくて,手続の時点で見ればいいという方が裁判実務としては非常に分かりやすいわけで,そちらの考え方もあり得たわけです。日本は,両方でドメスティックな場合だけドメスティックにするという立場で,これは,アメリカ・ヨーロッパも当初はそのような考え方だったのですが,それに対していろいろ反対する国々もあり,ロシア・エジプトはorでよいと,どちらかがドメスティックであればドメスティックだと,それから手続開始のみといったのはウクライナ,それから合意締結時というのは中国,そういったいろいろな意見が出て,結局はここは書かないということで決着しました。このことは最悪の結論かもしれませんけれども,みんなが乗れるという点では,あり得る解決です。しかし,このようなことになったものですから,例えば我が国では,国際性がある管轄合意だということで条約に従って管轄を認めて訴訟をしていたのに,基準時について日本とは違う解釈をとる国で,同じ事件について国際性がないということで条約を適用しないで国内法に従って管轄を判断してしまうということで,結局その訴訟が競合するという場合も起こり得ますし,訴訟しないということには多分ならなくて,基準の適用の仕方が逆になるというケースも出てくるのではないかと思います。  次に2条についてでございます。2条は条約の適用範囲に関することでございまして,1項は特に変更はございませんでしたけれども,2項に幾つか付け加わったり,条文の書き換えがあったりということでございました。結局それはp号というところまでいってしまって,分かりやすい簡潔な条約にしたいと言っていたにもかかわらず,最初から非常に数が増えてしまっておりますが,最初のf号のところ--新しいものでf号とg号です--で,海上の旅客・物品運送という条文だったのですが,そこを「海上」というのを削除するということと,それからそれ以外に海事関係のうち,管轄合意を認めることに適当でないと考えられたものを除いたということであります。すべての国がそう考えたというよりは,そういう考えから削除を主張した国が相当あったものを除いたと。ですから,例えば曳船契約とか海難救助の契約とかについては,アメリカでは曳船契約についての合意管轄が最高裁の判例になっているケースがあるものですから,それを完全に除いてしまう必要はないという意見があり,他方,そういうものは除いた方がいいという意見があり,結局そこは緊急時の曳船及び海難救助については除くという,それで本当に理由がすべて説明できるのかというと分かりませんが,そのような除外事項が加わっております。日本は,このうち船主責任制限については,コレクティブ・プロシーディングズではないかといいますか,全体的に処理しなければいけない手続なので除いた方がよいという主張をしておりましたので,少なくともそれは入ったということになります。  それから,全く新しいものとしてj号とかk号が入っています。これは,「自然人による又は自然人のためにする人身傷害についての請求権」と,それから「有体物に対する損害についての不法行為請求権であって,契約関係から生ずるものではないもの」というものが除外に入りました。これはロシアが随分強く言っていたところでございまして,多くの国もこれは除いてもいいだろうということになったのは,本条約の適用対象が管轄合意で,しかも多くはBtoBという企業間のものを念頭に置いておりますので,理論的にはもちろん人身傷害について後で管轄合意をするという可能性はなくはなく,それを除外する理由は必ずしもないのかもしれませんが,どうしても嫌だという国がいるのであれば,削除してもそれほど条約の実質的な内容を大きく削るということにはならないだろうという判断があったものと思われます。日本,私どもはそのように考えておりました。ここで「人身傷害」と書いてある点について,慰謝料請求も含むのかというのは,日本からも確認の発言をし,含むということになっています。これは翻訳の問題かもしれませんが,そのようなものも含む意味での不法行為についての損害賠償請求権でございます。  それから,新しいl号になった前のi号でありますが,不動産について,従来賃貸借はどうするのかというのがペンディングになっておりましたけれども,これはヨーロッパの条約といいますと,現在では多くの国では規則になっていますが,それにおいては賃貸借も専属管轄が場合によってはあるということから,それも除くということで,括弧書が取れて,中が残ったということでございます。  知的財産権につきましては,新しい条文でいいますとn号とo号の2つに分けて置かれております。k号とk-bis号だったので,同じ分かれ方ですけれども,まずは新しいn号の方でいいますと,従来の言い方で言う工業所有権に関するものについての有効性の問題は除きましょうと。それ以外に,さらにそういったものの侵害についても除く。ただし,その権利に関係する当事者間の契約について侵害訴訟が提起され,または提起することができる場合は除くということで,ライセンス契約が当事者間にあるような関係におけるその侵害については,除外から除外するといいますか,そちらの方は含むと。ですから,純粋に見知らぬ者同士の侵害事件については除くということになりました。これを除く必要があるのかどうかは議論の余地はあろうかと思いますが,そもそも著作権についても除けと言っていた国もあったわけでございまして,いろいろな意見の中でここで落ち着いたということであります。  それから,2条3項ですが,これは前提問題と言われていたものです。この「incidental question」というのはよく分からないというので,「preliminary question」と,同じようなものだと思いますが,同じ言葉を使って訳すわけにもいかないので,とりあえず「先決問題」と訳しております。その言葉遣いを変えるということと,それから,さらになお分からない,要するに目的としてではなくというだけではよく分からないということの主張があったものですから,この第2文が加わりまして,特に,第2条第2項で適用除外の対象とされた事項が訴訟の目的ではない場合において,その事項が防御方法として主張されたからといって,その手続が条約の対象外となるわけではないということを説明的に書いたという条文になっております。ですから,この「特に」以下が入ったから第1文に書いてあることに加えて何かが変わったのかということはないのではないかと思っておりますけれども,それは解釈次第ではどのように解釈されるかよく分かりませんが,入ったいきさつは分かりにくいということにこたえてのものでございました。  それから,主権免除等についても若干,新しく国連で採択された主権免除条約の言葉遣い等を参照しながら,若干手を加えたということがございます。それはここには書いておりませんけれども。  次に3条につきまして,管轄合意の第三者に対する効力ということがいろいろと議論され,議長の整理として,管轄合意に拘束される当事者間の訴訟に第三者が参加した場合の第三者との関係は,条約によってはカバーされない。それから,管轄合意を行った者の地位が第三者に移転する場合の移転の条件は,条約とは違う,移転に関する準拠法の問題だと。それから,管轄合意の当初の方式の有効性は,いずれにせよ第3条によって規定される。そういった,これだけ見るとちょっと分かりにくいかもしれませんが,第三者が加わったときにどうなのかという議論についての結論の部分だけをここに書いております。次のAとかBとか書いてあるところは省略いたします。  もう一つ,専属的管轄合意の定義で,読めるのか読めないのかということが問題になったのが,その一方の当事者が訴えを提起する場合についてだけ専属だということを書いているような合意はどうなのかということも議論になりましたが,これは入らないという議長の発言があり,それが了解されたということでございます。  次に3条b号ですが,「専属的なものとみなす」ということで,これは推定規定の方がよいという意見もあったわけですが,原案どおりみなし規定ということになっています。ですから,ここは特に申し上げることもございません。  c号について,方式について書いてあるこの条文が最小条件なのか,最大条件なのかと。それもちょっと分かりにくい表現かもしれませんが,議長の発言をまとめた方が分かりやすいと思いますけれども,c号の方式要件を満たす合意である限り本条約が適用され,締約国がこれに上乗せの要件を加えて,それが満たされていないから駄目だなどということは許されないという意味では最大限である。他方,これよりも緩やかな方式でされた合意を認めるということは別に構わないけれども,それは条約の適用外のこととして国内法上やることを妨げないということであって,自由だけれども,承認執行は保障されないという性格のものだということであります。  また,条文の言葉として,「証明されなければならない」と。書面かその他の記録が残るような通信手段で締結された場合はそれでいいのですけれども,締結自体はそうでない方法,例えば口頭でされて,後にそれが記録される,あるいは証明されるという,その証明の方法はここに書いてあることなんですが,書面か記録が残る方法で証明される。これについて,これは手続法的な言葉であって,それは避けた方がよいと。もっと実体的といいますか,合意自体がどうでなければならないのかということを言っているわけだからということで,結局,「documented」という言葉になりまして,これは日本語としては困るということは内々には言っていたのですが,中国は構わないと言っていて,それを何と訳すかが難しかったのですが,「記録」という,中国語は「記載する」とかと言っていたと思うんです。漢字で書いてもらったんですが,それは日本ではちょっと使えないなと思った記憶があります。とにかくそのようなことになりました。ちなみにですが,一方だけがメモを残して,「私はメモをしていました」というだけでは駄目ですということも確認的に発言がございました。  4条は飛ばしまして,5条についてであります。5条は,条約の基本的な条文の一つで,まずは合意された裁判所が裁判をするということを決めた条文ですが,その3項で,先ほど冒頭で申し上げましたところでございますが,専属的管轄合意により特定の裁判所が選択された場合であっても,それは移送してよいという条文になりました。これについては,ここに書いていますように,当事者の合意が尊重されるべきであって,移送されたりするのは意図に反するという反対意見もあったわけでございますが,移送については義務的な移送もあるので,常に当事者の意思を尊重できるわけではないという指摘もあり,結局移送するのはよいということにし,しかし,ただし書で,裁量的な移送の場合には,「当事者の選択にしかるべく配慮すべきものとする」と訳していますが,due considerationを与えるみたいな条文だったと思います。しかもそれについては「shall」ではなくて「should」を使うということで,その趣旨は,必ずしも義務ではないといいますか,した方がいい,「due consideration should be given」という言葉に英語ではなっています。フランス語版では必ずしもそうは読めないんですが,どうも英語の感覚でも「due」と言っておけば「shall」でも義務的な要素はないという説明もありましたが,それは危ないので「should」にしてくれということにいたしました。くどいのですが,このことが日本で遅滞を避けるための移送のようなことをするときに,それがdue considerationを条約上した方がよいと書いてあることが裁判実務にどう影響するのかはよくわからないところで,しなくてもいいんですが,頭からしないと決めてかかるのも条約の趣旨には反するので。しかし,普通は合意管轄であれば,裁判所は少しはそのことは考えてはいらっしゃるのではないか。そうであれば,今までどおりでよいという説明ができるのではないかと思っております。  それから,新しい6条は選択されなかった場合の義務についてでございます。資料68に沿ってやると言いながら自分では条文の方を見ているので変なことになっていますが,資料68に書いてある6条というのは前の6条で,前提問題に関連する場合の訴訟の中止を規定しておりました。これは資料66-2の「削除」と書いてある右の四角の中にあった条文ですが,特に知的財産権について有効性の訴訟を外国でやっているような場合に,それがちゃんと裁判できるまで訴訟を待つということを妨げるものではないという規定だったのですが,そのことは結局何も書いていないのと同じなので,削除でよいということになりました。この前提問題に関しては,できるだけ簡潔にしたいといいますか,できればもっとすっきりさせたいという側からの働きかけが随分あり,結局削除でございます。しかし,削除されても結局同じことだとは思います。妨げるものではないわけですから,訴訟中止をするのであれば,それが国内法上できる国であればするということについては変わらないと思います。  特別委員会の案の7条で,新しい6条になっている規定が,選択されなかった裁判所の義務でございます。柱書については,既に前回,起草委員会の案のところでも御紹介したところでございますが,当事者変更の場合もあるので,当事者がという書き方はしないようにするといいますか,そういう言葉遣いは避けるということがそのまま受け入れられました。  それから,7条a号については,日本から,合意が無効である場合というのは,当事者の能力がないということを理由に無効である場合も含むことを明記した方がいいのではないかと発言いたしましたけれども,これは前から日本はしているわけですが,それは書かなくても分かるというので,レポートに書けばよいということで,そこは退けられました。しかし,議事録には残っておりますし,レポートでもその点は明らかに書くということで,日本が考えていることは実質的には通っていると思います。  c号については,これは言葉遣いを変えた。こういうところで随分時間を取ったわけですが,結局は「明らかな不正義をもたらすような場合には」という言葉は,「非常に重大な」というのではなくて,「明らかな」という言葉にするとか,そのほかの若干の字句修正があったということで,趣旨は余り変わっていないです。d号についても同じでございます。  e号ですが,e号の中に特別委員会の案では括弧が付いていて,選択された裁判所が裁判管轄権を行使しなくても,法律上移送されたような場合には,選択された裁判所が裁判管轄権を行使しない場合には当たらないようにするといいますか,要するに,大阪地裁が選択されて東京に移送されたような場合でも,条文から見ると大阪地裁は管轄権を行使していないのですけれども,東京でやっているのだったらいいということにするかどうかが問題だったわけですが,そこは駄目ということで,括弧は全部やめて,選んだ裁判所が裁判管轄権を行使しなければ,他の国は却下等の義務は負わないということになりますので,裁量移送であれ,義務的移送であれ,同じ国であっても,選んだ裁判所以外の裁判所が訴訟をやっている場合に,他の締約国が同じ訴訟について管轄を認めて裁判を始めてしまうということは止められないことになってしまいました。これが,さっきの5条3項b号と,それから実はもう一つの8条5項,その3つがセットで議論され,セットで妥協の道が探られて,痛み分けといいますか,ですから,日本のように移送先で裁判をやっていればいいじゃないかといった国の主張は,新しい条文でいうと6条で,前の条文でいうと7条ですが,e号のところでは負け,しかし8条--前の条文では9条ですが,承認執行のところでは勝つということになって,due considerationをgiveするだけでいいので,移送のところでも勝っていますから,一つの条文だけで議論していたら話がまとまらないので,ほかとセットにして,こっちとこっちで全体でパッケージでこうしましょうというので,最後は妥協ができたということでございます。取引の材料を増やして,成立させたということかなと思います。  その経緯についてはここに書いてあるところでございますが,その3行だけ読みますと,移送された場合の手当ては7条では行わない。だから,その訴訟の停止や訴えの却下の義務は負わないけれども,承認・執行の段階ではその手当てをするということで,承認執行義務はあると。ただし,後で8条のところで言わなければいけませんが,ただし書が若干付いているというものでございます。  それから,保全については,特に大きな修正はございません。  今の8条で,前の条文では9条だったのですが,この辺,特別委員会の案とは違いまして,前はいきなり第3章の最初の条文に拒否事由等が書いてあったのですが,新しくできた条文は,第3章の最初の条文である8条は一般的なことを書いて,新しい条文の9条,10条,11条,12条もそうかもしれませんが,拒否事由を列挙していくという仕組みになりました。ですから,別の条文にあったものが新しい8条に移ってきているということがございます。9条の最初に書いてある専属管轄を除くという議論もありますが,そういうのは採用されなかったので,特に申し上げなくてもいいかと思います。  新しい9条a号は,拒否事由の中の一つで,新しい条文の6条のa号と全く同じで,裁判管轄合意が無効であるという場合の中に無能力による無効も含むということを明記するかどうかで,日本は明記した方がいいという意見だったわけですが,それは分かるので,レポートで書けばよいということになりました。  それから,承認執行拒否事由の新しい9条c号のⅱで,送達についてですが,c号のⅰが実質的な保護を与えられている場合で,ⅱの方が,実質的ではなくて形式的といいますか,国家の主権等との関係,法律違反等の関係でございます。それについて,最終的には承認又は執行を求められた国にいる被告に対してその国の文書の送達及び告知に関する基本原則に反する方法で通知がされた場合ということになりました。これは「public policy」というのでは使いづらいという意見が相当強くて,かつ,それだと別の条文のe号でも読めてしまうというところもあるので,日本としては,前のよりは今の方が少しはいいだろうと思っています。「公序」よりは違う言葉遣いで,送達・告知に関する基本原則違反ということが明記された現在のものの方がいいのではないかと思っていますが,最初のところで申しましたが,この趣旨は形式的な瑕疵や些細な瑕疵を理由とする承認執行拒否を防ぐことにあるということでございます。  それから,新しい9条g号で,前は国際条約に従って承認された判決がという言葉遣いがありましたが,そういうものは日本も反対しておりましたけれども,それはすべて削除されまして,他の国の裁判所の判決が承認執行されているような場合にも,そのことと矛盾する判決の承認執行は拒否できるということが定められております。ここでいう他の国というのは非締約国も含むということになりますので,そこのところで条約外の国が顔を出す。その限度でしか出さないということになりました。  といいますのは,先へ飛びますが,ついでに申し上げておきますと,7ページの11条と書いてあるところで,今の条文ではなくなった条文ですが,前の11条の条文で,非締約国の判決であっても,それがもしその国が締約国であれば合意管轄を尊重しなければいけなかったような場合にもかかわらずした判決については,その判決は承認してはいけない。なかなか説明するのが難しいですが,起草委員会では,何人かの関係者も同じ意見ですが,一番時間をかけた条文だったのですが,あっさり削除されました。他の国との関係のことまで書くのはいかがなものかと,要するに締約国と非締約国との関係までこの条約でコントロールしようということなので,それはやり過ぎだという意見があり,ばっさり削られました。ですから,第三国との関係でいうと,今の9条のg号で判決が承認されてしまえば,そちらが勝つということになるわけであります。その国がいかに合意管轄を無視していても,締約国がそちらの判決を承認するということを決めてしまえば,そちらが勝つということになります。  それから,新しく8条の方に移った条文の中で,8条には下線がいっぱい引かれていますが,これは前の9条から移ってきたということでそのように表示されていますけれども,この中で全部が変わったわけではなくて,大きな点は,さっきの8条5項で,移送が行われた場合の承認執行について,それも承認執行しなければいけないと。ですから,「第5条第3項(b)により許されているところに従い,選択された裁判所から事件の移送により同一の締約国内の他の裁判所で下された締約国の判決についても同様に適用する。ただし」--これはb号がいらないですね。翻訳がちょっと間違っています。どこを皆さんが御覧になっているかによりますが,資料66-2の4ページの8条5項の中の「第5条第3項(b)により」と書いてある(b)は,日本も削除せよと言って,これは合理的な理由だと,特に反対はなくて,一般に多くの国がそうだと同じ意見でしたけれども,5条3項による移送というのは2つあって,a号とb号とあるわけですが,そのいずれによって移送された場合でも同じだということなんですが,もしかしたら他のところも直さなければいけないところがあるかもしませんが,とりあえず今のところだけ申しますと,そういう移送によってされた判決も承認執行の対象となると。「ただし,選択された裁判所が事件の他の裁判所への移送について裁量権を有している場合には,もとの裁判所において移送に対して適時に反対をした当事者に対しては,その判決の承認及び執行を拒否することができる」ということで,さっきのdue considerationを与えるという,あそこではそれだけでよかったんですけれども,そこでちゃんと反対をしておくと,他の国に行ったときに,その者に対しては判決効が及ばないような扱いをしてくれる可能性が残るということが書かれております。  これについて最も理論的にヘーグにいる○○さんが説明いたしまして,要するに何を言っていたかといいますと,この「against a party who objected to the transfer」というふうに,承認執行を特定の当事者についてだけしないという扱いは,判決効を主観的に分断するということを予定しているようだけれども,日本ではそういうことはおよそ考えられない。承認をするのなら全部するし,しないのなら全部しないので,だから日本としては,こういう条文ではあるけれども,できれば,「against a party」ではなくて,もし当事者が反対したら承認執行しなくてよいということにしてほしいと言ったのですが,それは当事者の公平ということを考えていっている条文なので,そうはいかないという反論があったわけです。ちょっと後で必要があれば補っていただければと思います。  ちょっと表現が適当ではなくて,ここでは,だから一方に対してしなくてよいと言っているんだけれども,他方に対しては承認しなければいけないので,結局どっちかしかなければ,全部承認せざるを得ないというのが日本の立場だということですね。ですから,ここに書いてある中で,「関係でも判決を承認執行しないとの扱いをすることができる旨」レポートに書くというのは,そうではなくて,逆ですね。「関係でも承認執行する」ということにしても条約違反にはならないですねということの確認をしたという。後で,もし必要であれば補足していただきたいと思います。  10条の前提問題,新しい言葉で言うと先決問題です。またここでこのように時々条文番号が元に戻って合ってしまうという場合があるので,ここでは新と言わなくても済むということになります。この条文は,先決問題としてされた判断の効力についての承認執行でありますが,まず大原則としては,除外事項について先決問題としてされた判断は承認執行の対象にならないと。なお,後で申しますが,2条2項に加えて21条という条文が新たに加わって,宣言によって除外事項をつくれることになりましたので,最終条文では一緒に書いています。いずれにしても,除外事項を先決問題として判断した場合のことであります。それについて,大原則はそうだと。  10条2項で,除外された事項に関する判断に基づいてされた判決があるという場合には,その限りで,その判決自体を拒否してもよいということにした。ただし,著作権等を除く他の知的財産権の有効性についてされた判断については,判決全体の承認及び執行を拒否し又はそれに関する裁判を中止させることができるのは,限定的にするということで,その判断が,知的財産権を生ぜしめた法の所属国においてその事項について権限を有する機関の判決又は決定と抵触する場合と,その国において,その知的財産権の有効性に関する手続が係属している場合でなければ,日本の判決が有効であることを前提にされた例えば損害賠償請求とかライセンス料の支払命令で,それがその特許は無効だから,そのこと自体を拒否したいというときには,この3項a号かb号かをちゃんとしておかないとできない。日本でちゃんと無効の判決をもらっておくか,あるいはその手続を開始しておく。そうしておけば,前提問題としてされた判決を取りあえずはブロックできるということであります。  これは,知的財産権だけが扱いが違う理由が私は論理的には必ずしも分かっていないんですが,ほかの事項であれば簡単に全面的に拒否できるにもかかわらず,知的財産権についてはそこはそうはさせないという政策的な違った扱いがされております。  4項は,これは21条はまだ御説明しておりませんが,締約国が自らそれは困るという事項を除くことができるわけですけれども,そうやって除外した事項に関する判断に基づいて判決がされているという場合には,承認執行を拒否できるということで,10条の2項と基本的には同じことが書かれていると思います。  それから,報告書で言いますと7ページの最後の和解というところですが,新しい条文でいうと12条になりますけれども,これは言葉遣いだけです。英語だと,こんなものはないので分からないというのを随分主張し,結局裁判所の和解で,かつ英語だけでは絶対誤解を招くというので,英語の方の条文にはフランス語を括弧の中につけて置いておくということで,アメリカもやっと納得したと。これは起草上の問題だと思います。  それから,提出文書に関して,特別委員会でも,あるいは最後の条文でも,どちらも13条の問題ですが,これはそれほど大きな変更はございません。証明された写しだとか,若干の修正はございますけれども,特にはございません。あえて重要かなと思われるのは3項についてでございまして,この条約には末尾にFORMというのが付いておりまして,資料66-2には付いておりませんが,英語の方に付いてございますが,翻訳していないんです。資料65の18ページ以下にはRECOMMENDED FORMというのが載っておりまして,判決の承認執行を外国にしていく場合に,円滑にやってほしいし,当事者はそういう利益があるし,裁判所としてもそういう書面が付いてくると分かりやすいということから,その場合にはこういうフォームを使ったらどうかというものとして,事務局がというか,ヘーグ国際私法会議が推薦し,かつ公表するフォームとしてのものでありますけれども,そういうものが作られました。これにはアメリカなどは随分熱心で,前々からこれには随分と力を入れているわけですが,これはちょっと分かりませんけれども,日本としては,これはそういうことをしたい国があればしてもよいというだけなので,このことは別に日本の実務には何ら影響を与えないと。裁判所の職員がこれを発行する義務を負うわけではないし,日本国としてそういう扱いはしない。もしこれを出すとすると,なかなか大変なことになっていまして,どんな事件でどんな管轄原因でどうのこうのといっぱい書かなければいけないので,なかなか責任を持って書ける体制を整えるには大変かと思いますので,よほどそのことが重要だという政策判断がない限りは,なかなかできないことかなと思っております。というのが3項です。  4項は,公文書等の話で,公用語の翻訳の問題でございます。  新しい条文でいうと,14条は変わりないです。  それで,前の15条が新しい11条になっていまして,これも冒頭に申しました重要な点の一つであります損害賠償についてであります。これは,繰り返すまでもないかもしれませんが,要するにアメリカは,懲罰賠償はもう仕方ないけれども,懲罰賠償でないもので非常に高額なものについてまで他の国がそこを削ってくるということには非常に反対し,しかしアメリカ以外の国は,懲罰的損害賠償でないからといって,異常に高額のものまで承認執行義務を負うのは危ないということで,その両方を規定していたわけでありまして,アメリカは懲罰賠償でないところは削除せよということを強く言っておりましたけれども,結局それは実現しませんで,しかし書きぶりは変えるというのがこれであります。ですから,前の15条の1項,2項を1つにまとめたということになりますが,「判決が,当事者にその被った現実の損失又は害悪を補償するものではない損害賠償(見せしめとしての又は懲罰としての損害賠償を含む。)を与えるものである場合には,その限りにおいて,その判決の承認又は執行を拒否することができる」ということで,懲罰賠償等は例示でございますので,実損額の賠償とは到底言えないと承認執行国が判断すれば,ですから,これをだれがどうやって判断するのかの基準が何も書かれておりませんので,実際には承認執行国が判断する。このことはオートノマスなノーションなんだという説明で,分かったような,分からないようなといいますか,そうやって結局はばらばらになるということでもあるわけですが,そういう説明はされましたけれども,実際には承認執行国の判断で,異常に高い,それはおかしいという場合には削れるというのがこの条文で読めるということでございます。  なお,もしそうであれば裁判所としてはいつも実損額賠償なのかどうかをすべてのケースで見なければいけなくなるということになりかねないわけですが,それについては「sniff test」と言われているものを用いるのだというのがコンセンサスでございまして,そのことをこの9ページの4行目の「なお」書きのところに書いておりますけれども,原則としては,判決内容の再評価はしない。しかし,一見してちょっとおかしいのではないかという場合にだけ審査をする。その場合に,「actual loss or harm」のコンペンセーションになっていなければそれは拒否するということで,ただこれがそんなにうまく進むのかどうか分かりませんけれども,そういうことにするんだということをちゃんと公式レポートにも書けということで収まっております。とりあえずはそういうことであります。  それから,新しい17条になったところですが,前後して申し訳ないんですけれども,保険あるいは再保険の条文が入ったということであります。これは前からここで御紹介し,御議論いただいているところでございますけれども,アメリカが再保険を引き受けている外国の保険会社に,アメリカの判決の承認執行の可能性がないというか,確保されていない以上,供託をしておけということを強要しているようなのですが,みんなが条約に入れば,承認執行が確保され,その供託金の制度がなくなるのではないかという期待から,保険業界が随分と熱心にこのことを働きかけていまして,その関係の方もオブザーバーで参加されていましたけれども,このような条文になりました。それは,「保険又は再保険契約に基づく手続は,その保険又は再保険契約がこの条約が適用されない事項に関係しているとの理由によってこの条約の適用範囲から除外されることはない」と。要するに,原子力損害にせよ,あるいは海事にせよ,元の事項については条約の適用外であっても,それをカバーする保険についてはそのこととは関係なく適用範囲に入る可能性がある。宣言で除外するという手はなくはないですが,そうでない限りは条約に入るということであります。  また,2項の方も念のための規定で,判決の承認執行は,損害填補をしたものが次のものに関する損害填補になっているということをもって拒否事由とはされないということで,特に重要なのはこの11条が適用される可能性がある損害賠償の支払ということで,懲罰賠償についての保険についても保険契約あるいは再保険契約の部分は条約の適用範囲になるということを明記したというわけであります。これはなくてもそのように解釈されるのではないかとも思われますけれども,先ほど申し上げた事情から,書くことが大切ということでありました。  前の16条bisだったわけですが,16条については特に議論はなく,そのまま採択されています。  ちょっと飛ばしまして,19条以下であります。前の条文でいうと18条以下になりますが,新しい条文ですと19条です。このあたりから宣言という話になってきまして,新しい条文の19条は裁判管轄権を制限するという宣言でありまして,これは前からあったものですが,管轄裁判所としては選ばれたけれども,それ以外に自国と関係ないという場合には,そのような訴訟はしないという制限はできますという,逆ドメスティックな場合といいますか,自分とは関係なくて,要するに裁判も税金で運営しているので,他の人たちのために使わないという判断をするのであれば,それはできるということであります。  それから,新しい20条は,承認執行の場合に,今度はここが本当のドメスティックな場合で,自国に全部関係しているにもかかわらず他の国を選んだという場合に,そういう判決の執行はしないということが言えるということであります。これも前からあったものです。  それに加えて21条で,前の20条ですが,特定の事項についての宣言。起草委員会といいますか,非公式会合で条文化の話が出ていたものが取り入れられたわけですが,「国は,この条約を特定の事項に対して適用しないことに強い利益を有している場合には,その事項に対してこの条約を適用しない旨の宣言をすることができる。この宣言をする国は,その宣言が必要以上に広範に及ぶことがないように,かつ,除外されるその事項が明確かつ詳細に定義されるように確保しなければならない」ということで,アスベストについてカナダがずっと言っていたものですが,カナダはアスベストについてきっとこの宣言をすると思います。他の国についてはよく分かりませんけれども,若干の国は天然資源等について,あるいは投資についてに言っておりました。  ただ,そういう宣言をしますと2項の適用があって,相互主義で,その限度ではその国を締約国とは見ないという扱いをするということであります。それがネガティブな方の以上の除外をしていくような宣言です。  新しい22条は,逆にこの条約の適用を広げていこうという宣言で,非専属的な管轄合意に関して相互的な宣言をできますという規定であります。これはアメリカ,オーストラリアから提案があったもので,取引実務では,非専属的な管轄合意も金融等若干,幾つかの分野では行われているところであって,それが全部外されるというのではなくて,それはオプト・インの方式で,それを望む国の間ではこの条文を適用を広げていってもいいではないかという形です。これは,特にECの第一のリアクションは,それはアメリカが前にそうではない発言をして,専属的に限られないと困ると言って今のになってきているのに,今になって何だということを常々言っておりまして,感情的ないきさつの上から言うと,勝手じゃないかということにはなりますが,別に他の国に害悪を及ぼすわけではないので,これを入れることはけしからんということにはならなくて,結局それは認めるということになりました。これによってタイトルも変えるというところまでいきました。タイトルについては,しかし,変えなくてよいという意見が相当強くて,1回目の議論では変えないということだったんですが,事務局長が,この条約を売り込むにはない方がよいという発言をおずおずとし,その言い方がいかにもかわいそうな感じだったので,みんないいかというのでタイトルも変えるということになりました。国際機関としては,汎用性の高い条約をつくったという,実利が取れるかどうかはこの22条をどのように使っていくかということになると思いますけれども,そのようなことから入った条文でございます。  それから,新しい24条は,これはほかの条約でもやっていることですが,運用の評価などについての規定を新設したというか,この条約においては初めて置いたということであります。  新しい25条は,特に変更はございませんで,アメリカ等,不統一法国の扱いなのですが,地域経済統合組織というものとの類似性が,アメリカ合衆国とヨーロッパ連合とは違うわけですが,似ているところもあるので,そこは違うということを4項に入れることによってはっきりさせるというのがこれであります。  新しい26条は,日本国にも関係する話で,よその国も全部関係あるのですが,自らの問題として関係がある話で,26条は,前は非常に複雑な条文になっていて,今でも複雑に見えるかもしれませんが,書きぶりは非常に分かりやすくなったと私は思っております。要するに,ヨーロッパが,自分たちには害が来ないように,自分たちの観点からだけ書いていたのをもう一回見直して,一般化して,しかもヨーロッパも救われるという形にしたものでありまして,1項から4項まで,5項もそうですが,すべて形式が同じような形になっていて,1項は違うんですが,1項は大原則で,「この条約は,締約国において効力を有する他の条約と,可能な限り両立するように解釈しなければならない」ということで,2項以下で,「この条約は,他の条約の当事国でないこの条約の締約国にいずれの当事者も居住していない場合であっても,締約国において効力を有する他の条約に影響を与えるものではない」と,要するに影響を与えるものではないという書き方をずっとしていっているわけです。3項は,「この条約は,この条約を適用することが,この条約よりも前に締結され,ある締約国において効力を有するいかなる条約上その締約国が非締約国に対して負っている義務と相容れない場合には,その締約国による当該他の条約の適用に影響を与えるものではない」等々,一々読んでいても意味が今すぐ直ちには分かりませんが,要するに3項は,前に締結された条約には影響を与えないと言っているんです。その3項の第2文は,それを改正したものにも影響を与えないと。だけれども,新たに矛盾するような改正をしてはいけませんということを書いているわけであります。  4項は,締約国において他の条約に基づいて判決の承認執行を行う場合に,この条約は他の条約の適用に影響を与えないといった趣旨のことを書いております。  それから,特定の事項に関する条約というのはたくさんあって,日本もそういうものに入っておりますが,それに関しては5項が適用されまして,この条約が裁判管轄権又は判決の承認若しくは執行を規律する他の条約の適用に影響を与えないことを宣言することができるということであります。これは,それを宣言しなければいけないということによって一般的に分かりやすくしましょうということですので,日本ももし条約に入るのであれば,日本にとってこの5項を使わなければいけないような条約については,宣言をしておくということになろうかと思います。もちろん,これは宣言ということで本当にうまくワークするのかと。契約を結ぶ人が一々ハーグ会議のウェブサイトなどにアクセスして,どこかの国が特定のものを宣言しているかしていないかを見ていかなければいけないということなので,よほどリーガルサービスが一般的に提供されている国でないとなかなかそこまではしないかもしれませんが,そういう国であれば,あるいはちゃんとそこまでするだけの配慮をした契約を結べば,できるということになるわけであります。  あとはそれほどないと思いますが,新しい条文で27条とか28条,29条,30条,このあたりは,ですからヨーロッパが自分たちは今後どうなっていくのかということをにらみながらいろいろ言い,それに対してロシアなどが自分たちにも何とか共同体というのがあって,それとの扱いが違うではないかということを延々と言い,随分時間を取ったところでありますが,基本的には,これでは困るというところはそんなにはないのではないかと思っております。  新しい条文の32条は,前にはいろいろな条文の宣言のところに書いてあったものを全部まとめて,どういう宣言をいつどこでどのような方法でするかといったことをまとめた条文であります。  34条は,通知についていろいろな条文に出てくるものをまとめた条文でありまして,最後に整理したということであります。  以上,若干記憶が定かでないところあるいは混乱したところもありまして御迷惑をお掛けしましたけれども,最後のところに書いていますように,これは11年間かかった条約で,非常に難航し,「まだやっているのか。もう終わったんじゃないのか。大分たったと聞いたけれども」といろいろなところで言われましたけれども,形を変えて何とか管轄合意条約としてまとまったということであります。もちろん,それまでしてきた議論が全く無駄というわけではなくて,少なくともこの管轄合意条約をつくるに当たっては,いろいろとお互いのことが分かっていって議論が活性化したということで,分かり過ぎて条文が複雑になったということはございますけれども,一応まとまったということでございます。  条約の趣旨としては,仲裁に関するニューヨーク条約と並ぶものとして,何とか同じような役割を果たすものにしたいということでつくられたわけでありまして,アメリカは特にそのことを言っていて,「ニューヨーク条約は非常に簡単な条約なのにうまく動いているではないか。こんな難しいことをいろいろ議論するのはおかしい」と何度も言っていましたけれども,私どもとしては,今ニューヨーク条約をつくればこうなる。あれは昔やったからあんなもので済んでいるので,それは50年前,日本が入ったのは70年ですから,条約は56年ですか,よく覚えていませんが,その条約と全く同じレベルでつくれというのはおかしいんじゃないかという議論を何回もいたしましたけれども,それと同じような役割を果たせるかどうかというのは,今後,特にアメリカ,ヨーロッパがどのように評価するかということにかかっているのだろうと思います。  日本だけ先に入るというのは考えられないと思いますけれども,ただ,一つだけあえて付け加えますと,これは何箇国で発効するかという議論がありまして,31条なんですが,2箇国で発効することになっていまして,これはおかしいという議論をしていました。要するに,ここは元は3だったのですが,事務局が2でいいかという提案をし,これは話ができていたと思いますが,アメリカがすぐに賛成,ECもすぐに賛成と言ったものですから,さすがにロシアが,だったらこの場で議論しなくてもいいじゃないか,多国間条約なんだから3以上でなければおかしいとまともな議論をしていまして,それは一理あったのですが,しかし2で機能はするということと,それから2でもECが入ると25ですから,ですから,1足す25で26の国で効力を一遍に発効しますので,そういう点では2でいいんじゃないかということになりました。ですから,どういう国が入るかによって全然様子が違ってくると思いますので,それぞれのとげはいっぱい抜いて,抜き過ぎたかもしれませんし,それでも残っているのかもしれませんし,抜き過ぎて意味がない条約になっているかもしれませんし,ちょっと私,主観が入ってしまっているので,私自身は何とも評価できませんが,今後日本がこの条約をどう評価していくかというのを是非御議論いただきたいと思います。  以上でございます。 ● ありがとうございました。  99年草案から見ますと,随分変わり果てた姿になった条約のように見受けられますけれども,ただいま○○幹事に御報告いただきました外交会議におきます審議の概要,採択されました本条約の内容につきまして,御質問,御意見を賜りたいと存じますが,ちょうど時間の方も3時でございますので,休憩前に是非何か御質問がございましたらお受けいたしまして,ございませんようでしたら,休憩を挟んで御議論いただきたいと存じておりますが,いかがでございますか。--休憩ということでよろしゅうございますか。  それでは,15分間休憩させていただきます。           (休     憩) ● それでは,審議を再開させていただきます。  先ほど御報告いただきました内容につきまして,御意見,御質問がございましたら,承りたいと存じます。よろしくお願いいたします。 ● 純粋な質問なんですけれども,1つは,今の○○幹事の報告書の7ページの上のところで,新しい8条5項の関係で,3行目に,5条3項a号による移送とb号による移送とで区別せずにいずれの場合もという書き方になっていまして,英文の方ですと,5条3項という書き方になっていて,訳文の66-1とか66-2ですと,ここの条文は3項(b)だけ書いてあるのですが,これは誤訳ということでよろしいんでしょうか。 ● 先ほどそういう修正を申し上げたつもりだったんですが,そうです,これは間違っています。8条5項に「第5条第3項(b)」と書いてあるのは,「(b)」は要らないと。 ● 分かりました。それと同じ場所なんですけれども,これは質問というか,ちょっと御意見を伺いたいところなんですけれども,その後の「if a party objected」というところの文言について,アメリカやECからの意見でこのままの文言になったという御説明で,この片方にだけ片面的というのは解釈上おかしいんじゃないかという御指摘がありましたけれども,実務家から見ると,こういう片方,要するにアメリカとかECが言っているような適用の仕方というのは,むしろ実務的というか,是認できるところがありまして,例えば,具体例で考えれば,日本の会社とアメリカの会社が東京地方裁判所を管轄合意しておきながら,日本が被告になったときに,実はうちは本社は長野だから長野地裁に移送してくれと。アメリカの会社は反対したにもかかわらず長野に移送されてというときに,それで棄却になったときは,それに基づく再訴禁止効とか,そういう関係でいやいや長野に持っていかれたのだからしようがないということで,それは働きませんというのは,それはそれで分かるんですけれども,逆の立場として,自分のわがままで,本来東京と言っておきながら長野まで持っていかせて,しかも敗訴したと。損害賠償を払えと言われて,そういう状況であったにもかかわらず,アメリカが,例えばイギリスに財産があるのに,そのときにこの条文があるから執行判決の対象にならないと自分で求めて,その結果墓穴を掘ったような被告側が言えるというのはおかしいんじゃないかなと。ですから,「a party」という言い方の方がむしろ健全な解釈ではないかという気がするんですけれども。ですから,アメリカ,ECがどういう理由で反対したかも分かりませんけれども,その考え方の方がむしろ健全ではないかなという感じがしたんですけれども,どんなものでしょうか。 ● アメリカやECが言っている理屈は,その人が負けた場合に反対した人はかわいそうだというか,そこだけ救えばいいので,それ以外のところについてまで及ぼす必要はないということで,当事者の正義を見ているわけですが,ただ,実務的立場で,このメンバーは私以外は皆さん裁判官なので,皆さん方のお考えでは,日本はそういう主観的な既判力の及ぼし方というのはないということでおっしゃっていて。 ● その点なんですが,私もよく分からないんですけれども,「against」というのが,承認の場合はちょっとさておき,執行について言うと,今,○○委員がおっしゃったとおりのことになるんじゃないですかね。それから,承認と執行を両方を視野に入れると確かに変なんですが,執行だけ考えれば,「against」という言葉をそれを受けるものという形で言えば,今,○○委員がおっしゃったとおりではないかと思いましたけれども。 ● 前提としては,ここは承認執行とワンセットになっているものですので,特に日本の場合にはこれは自動承認ということになっているもので,そこでその判決効を,特に既判力のことを考えた場合に,一方当事者についてのみ既判力が生ずるというのは,ちょっと特に自動承認との関係で問題があるんじゃないかということは,我々として気にしていたところであります。 ● 承認の関係でも,既判力のことを考えればそうなんですけれども,実際のところは,敗訴判決を受けて,他国で執行するときのことを考えれば,さっき挙げた例であれば,被告側が自分の有利なところに管轄合意があるにもかかわらず裁量移送でそっちに求めておいて,それで負けて,かつ外国での条約に基づいての承認義務も免れるということであれば,必ずそういう申立てをするという濫用になることは明らかですし,そういう解釈を公権的にする必要はないんじゃないかなと思うんですけれども。 ● これは,ですから,まだレポートは書けていない段階なので,私もよく勉強してから,さっきも混乱して書いたりしていましたので,「may be refused」というのは,これは条約ですから,そこの義務は負わせないということを書いているだけではあるんですけれども,本当にアメリカ,ヨーロッパが言っていたような観点から言いますと,日本が言っているように本当にやってしまっていいのかというのは,要するに日本はそういう場合に承認執行してしまうと言っているんです。東京ならいいけれども,長野は嫌だと言ったのに,長野に行って負けましたと,その人に対する判決も執行してしまいますよということですね,日本は。--日本じゃなくて,要するにパリならいいけれども,リヨンは嫌だと言っていた人が。 ● 普通の場合は,ですからその場合は恐らく承認だけですね。執行判決の場合は普通はないだろうと思うんです。ですから,要するに原告の側は自分が選べるわけですから,どこか自分が選んだ裁判所から選んでいないところに持っていかれてしまうわけですね,裁量で地方裁判所に。ですから,普通の場合は原告の意に反したところで行われてしまうわけです。そういう意味で,日本の解釈で不都合が現実に生ずるとすれば,そういう不利な状況に置かれたにもかかわらず勝ったというものを,それなのに,頑張ったのに,条約の対象にしてもらえないのかという状況は,やはりおかしくないかなと。 ● さっきの話で,日本は承認執行するんですよね。 ● だから,そういう状況のときに,それは外国でそうなったときの話で,日本がそうなったときです。日本でそのようになったものを,例えばイギリスに財産があるから,イギリスに承認執行してくださいというときに,日本でそれはしなくていいというものでしょうといった形になる可能性はありますね。そのように日本の,要するに判決裁判所もそういうつもりで判決しているという公権的な解釈というのは,ちょっとおかしくないかなという感じで言っているわけです。もちろんそれは外国で承認執行を受けるはずですから,日本でした裁判について日本で承認執行ということはあり得ないので,それは全然問題ないんですけれども,外国でも同じ利益状況に恐らくなるだろうと思いますので,それは日本でそういう形で苦労して賠償しろという勝訴判決を持ってきても承認してやらないよという話であれば,日本で同じような形で勝ったものも外国ではそういう執行判決をもらえないよという形になりかねないということで,ちょっと危惧があるということを申し上げているだけです。ですから,直接日本で判決したものが日本で云々ということになるわけではないのは十分分かっていますけれども。ですから,実際の形で出たときに,両方の既判力云々という形で事件として出てくるわけではないので,出てくる場面のことを考えれば,「a party」という言い方で,反対した当事者との関係でというだけであれば,要するに移送に賛成した人は,賛成した結果自分に不利な結果が出たって,それはしようがないでしょうという言い方はそれで十分成り立つのではないかという感じがしたものですから,それが既判力が一方だけという理由でおかしいという形の公権的な解釈は余り示さない方がいいんじゃないでしょうかということを申し上げただけです。別にこの場で答えていただかなくても結構でございます。 ● よく分からないんですけれども,先ほど○○委員の挙げられた例の場合,確かにそれで移送の関係で自分で申立てておきながら負けたら,これを持ち出すというのはおかしいと,それはよくわかるんです。ただ,この規定自体は,そういう事案の場合に対象外になると言っているのではなくて,承認執行を求められた国の判断で拒めると言っているだけなので,そういう○○委員のような利害関係の判断というのを踏まえた上で,承認するかどうかを決めればいいという形にならないんでしょうか。 ● 「a party」というのはそういう形で,今言ったように,反対した当事者との関係でだけという形で,両方のペアではなくて,それぞれと考えれば,私が今挙げた例では,被告は拒めないわけですね。ですから,そういう意味で,それを考えた上で裁量でという○○幹事のお考えではなくて,私の考え方であれば,その場合には,被告は長野に移送することについては反対しないどころか,むしろ恐らく職権発動も促すような形で長野へ持っていってくれと言ったあげく負けているわけですから,そういう人との関係ではもう拒絶する余地がないという読み方,「a party」の「a」のところを強調すれば,その方が普通の読み方というか,実務的には妥当な読み方につながらないでしょうかということを申し上げているんですが。 ● ○○委員のおっしゃることはごもっとものように伺っていたのですけれども,現行の民事訴訟法の承認というものを形式的に考えますと,先ほど○○幹事が言われたように,ある人との関係で既判力が及んだり及ばなかったりするという分断的な扱いにはなっていないから,それを形式的に当てはめると,この条文だと変な形になるというのは,ある面そのとおりかと思うんですけれども,これは新しい条約なわけですから,条約上,今の民訴法の規定とは違う扱いにするという政策判断,立法もできてもおかしくはないのかなという気はいたしますので,○○委員がおっしゃるような形も,どういう国内法整備が必要なのかよく分かりませんけれども,何らかの形でやろうと思えばできるんじゃないかなと思います。解釈でやるとすれば,自分で移送を申立てた者が負けたときには,承認執行されないという,それはおかしいというのはおっしゃるとおりだと思いますので,それはその承認執行が拒絶されるはずなんだけれども,それは,そういうことを主張すること自体が信義則に反するから拒絶されないとか,もしも規定を設けないとすれば,そのように考えるのかなとちょっと思ったんですが。 ● 判決について,両方から承認執行を求められるということはないので,実務的には一つ,勝った人間が承認してくれとか,執行判決してくれということになるわけです。ですから,承認執行を求めてきた側の人間が移送に反対していない場合というか,相手方が反対していない場合には与えますという条文だという読み方をしてしまえば,それはそれで既判力が片方にだけということにはならなくて,どういう場合に承認執行義務を負うかというだけの話だとすれば,片面的に承認しろとか,片面的に執行しろとかという話ではなくて,その事件では必ず片方の申立てしかないわけですから,そういう読み方をすれば,それはそれでも構わないんじゃないかなという感じがするんですけれども。 ● ちょっと議論がかみ合っていないと思うんですけれども,執行はおっしゃるとおりだと思うので,それは○○幹事がおっしゃられたとおりで,執行については○○委員がおっしゃるとおりだと思うんですけれども,○○幹事が言われているのは,承認の方は訴訟法上自動承認なので,外国で判決が確定した段階で自動的にその事件について承認されるか,承認されないかが決まるので,ある人が申立てたからとか,それは関係ないという扱いになっているわけです,民訴法の今の規定解釈上は。だから,そこを変えなければいけないんだろうと思うんです。 ● そうです。その次の事件が来たときにその既判力を及ぼすか,再訴禁止を及ぼすかという意味でそうですけれども,その前から自動的に承認効はあるんですと考えればそうなってしまいますけれども,そこは具体的な今言った不都合を承知の上でそこまで言う議論ではないような気がするんですけれども,今の自動承認が片面的になるという議論は。今のは,この条約を変えろとかという話ではなくて,解釈の話としてという限度での意見を申し上げたことになりますけれども。 ● 8条5項の話になっていますが,ちょっと別の問題になるんですけれども,○○幹事の資料68の報告書で言いますと7ページ,8条5項についての説明の最後の部分から,下から2行目なんですけれども,先ほどの御説明のときに,この報告書自体に書かれている「判決を承認執行しないとの扱いをすることができる旨公式レポートに記載することとされた」というのを,これは逆だとおっしゃられて,「判決を承認執行することとしても条約に反しない旨公式レポートに記載することとされた」ということに訂正されたと思うんですけれども,2つちょっと気になることがありまして,そのように直されると全体の段落の文章の流れが合わなくなるというか,つまり日本は「if a party objected」に置き換えるように求めたということですので,objectすれば全体の承認執行が拒絶されるという条文にすべきだと言って,議長からは,その解釈運用に当たっては日本の指摘するような方法とならざるを得ないという発言があったということですので,直される前の方が流れとしてはぴったりくると思ったのが第1の疑問です。   もう1つは政策的な疑問でございまして,現実問題として,例えばアメリカのニューヨーク州の裁判所を専属管轄裁判所にするという合意ができて,ニューヨークで日本の企業がアメリカ側に訴えを起こされましたと。ところが,アメリカが裁量移送というかフォーラム・ノン・コンビニエンスでテキサスに移送しましたと。日本の企業はテキサスへの移送に反対したけれども,それが受け入れられずにテキサスに移送されてしまいましたと。その結果,日本にとって非常に不利な判決が出てしまったというときに,直された後の承認執行することとしてもよいということになってしまうと,この日本企業は承認執行されてしまうわけで,それはその途中の段階で日本が提案した「if a party objected」に置き換えるのと逆の結論になるわけです。あるべき姿としてはまとめて事件として承認執行しないという扱いにすることもできるというのだったら政策的に非常によく分かるんですけれども,承認執行してしまうというのは踏んだりけったりということになるんじゃないかなとも思いまして,その2点について御教示いただければと思います。 ● それを承認執行しなければならないのはなぜかと言いますと,「may be refused」は「only against a party who objected」なので,objectedしなかった人に対してはrefuseしてはいけないという承認義務があるんです。そこを守るためには,前の方に書いてあるように,日本はオール・オア・ナッシングですと,全部認めるか,両方の人に対して認めるか,両方に対して認めないか。日本としては,両方の人に対して認めないようにしたいのだけれども,どうかと言ったら,そうはいかないと言われて,であれば日本としては両方認めるしかなくなりますので,そういう扱いにしかならないんだけれども,それでいいかという発言をしたという経緯になります。ですから,話がこっちへつながってはいないように見えるかもしれませんが,要するにオール・オア・ナッシングしかないんだというところについて,それは確かにそういう国もあるかもしれないという理解はあった。だけど,そのことを生かしてくれているわけではなくて,だったらそういう国は,全部やるというか,両方に対して承認執行してしまうしかないという結論になるということ,日本は確かにそう発言したと思います。 ● 私からも。○○幹事の方からおっしゃっていただきましたので,ここの○○幹事の報告書の「議長からは,実際の解釈運用に当たっては」というのは,これは現在の最終案の解釈運用に当たってはという趣旨だと思います。それで,元々外交会議に行く前の段階では,とにかく移送された場合には,移送先の判決については承認執行義務があるということが我々の対処方針であったわけでしたので,ある意味では,それは反対した人との関係とか,そういうことを問わないで,とにかくどちらの当事者に対しても承認することとするというのが対処方針であったといいますか,元々のこちらの立場であったわけです。ただ,どうしても反対した人に対してもそれを及ぼすのは問題だというのが,外交会議に行ってからの非常に強い意見としてありまして,しかも「against a party who objected to the transfer」というこの最初の案がもうかなり幅広く受け入れられてしまったわけですので,条文上,元の立場といいますか,反対いかんにかかわらずとにかく承認執行義務が生ずるといった案に戻すというのはちょっと難しいだろうと。それであれば,結論的には当初の立場とはかなり違ってしまうんですが,日本にとって,特に承認の分断という,民訴の理論上はかなり難しいものを克服するのだったら,むしろ承認執行の義務を,しなければいけないという範囲を弱めるという点では,当初の立場とはかなり大幅に違うんですが,それだったらむしろ「if a party objected」という方がまだいいかもしれないということで,一応提案はしてみたんです。ただ,これが最終的には受け入れられなかったということで,結局その「against a party who objected to the transfer」に戻ってきたということになりました。  ただ,その解釈としては,先ほど○○委員がおっしゃいましたとおり,承認は双方に対して承認だとしても,執行の部分はagainst a partyでできるという解釈もあるのかもしれませんけれども,承認執行というものをワンセットとして考えた場合には,少なくとも他方に対しては承認執行義務があって,他方はmay be refusedですから,そういう点では承認義務がある方に合わせて,両方に承認執行するとしなければ,条約違反になってしまう。双方に対して承認執行しないということになりますと,これは条約違反になるものですから,承認執行をワンセットとするのであれば,先ほど○○幹事の方が口頭で申し上げましたような承認執行することとしても,条約に反しないということになるんじゃないかなと考えると,それが大体の経緯でございます。 ● 1つの判決について,片方の当事者には承認するけれども,片方の当事者には承認しないということをしてくれと私は言っているのではなくて,もともとのif a partyみたいな言い方をすると,当事者のうちの片方が反対の意思を表明していればもう必ずリフューズの余地が出てしまうといった解釈をするよりは,むしろ事案,事案で,1つの判決についてそんな片面的ということは考えないにしても,反対をした,objectionを出した者に対して不利益な判決が出た場合には,それについては双方に対して承認執行はしないけれども,反対した人間が勝ってしまったという場合であれば,双方に対して承認執行したっていいじゃないですか。先ほどのテキサスの例であれば,そういう不利な状況であったにもかかわらず日本企業が勝ったというときであれば,別に日本企業は,自分は反対したんだけれども,別に日本で承認執行してもらっても構わないわけです,そういう不利な状況下で勝ち取った給付判決について。そういう意味では,againstというのはアメリカ企業に対してもagainstだということであれば,その人は反対ではなくてテキサスにやってくれと言ったわけですから,そういう形での運用ができるというような解釈の余地を残しておいていただきたいということを申し上げたんですけれども。 ● 承認の関係で言えば,反対した人に不利な判決だったとしても,これは勝った人に対して承認しないというわけにはいかない。 ● 両方にしないということはできるんじゃないですか。 ● いや,それは「against a party who objected」ですから,objectしない人に対しては承認義務があります。 ● only againstですから。 ● オンリーですよね。だから,両方にしろということですか,そうすると。ただ,先ほどの御説明ですと,両方にしないということにしたいということをおっしゃられなかったですか。 ● 両方にしないというふうに,「if a party objected」とすることも提案したんですが。 ● でも,それが駄目になったわけですから,結局はそうすると,両方に対して必ずするということになるわけですか。 ● はい。少なくとも承認に対しては,両方に対して承認しなければいけないということになります。 ● 執行の場合も,それでは,別にそういう形でagainstを考えても構わないわけじゃないですか。 ● 承認が,双方に承認はするけれども,執行についてだけはそれと切り離して一方に対してできるかどうかというのは,またもう一つの議論かと思います。 ● その場合であっても,別に双方に対して承認しなければいけないということはないと……。 ● 「承認及び執行を拒否することができる」と書いてあるので,どっちか片方だけ拒否しても構わないんじゃないんですか。つまり,承認を拒否しながら執行を認めるということはあり得ないわけですけれども,承認は自動承認だからしようがないとして,執行だけ拒否するということは別にこの条文に反することにはならないんじゃないんですか。 ● ですから,条文のぎりぎりでやればいいんですから,それはできると思います。ずっと日本から言っているのは,日本国の国内法として,分断はできないという前提で議論をしているだけで,日本法として,執行においては分断はよいということであれば,それは条約上許されているのですから……。 ● あとはもう日本法の解釈でやってくれということですか。 ● ええ,そうだと思います。 ● それはそういう形で日本法の解釈でやってくれということであれば,それは結構なんですけれども,今御説明で,そういう解釈の余地が条約上ないといった形での説明をされるのは,現実からちょっと反した結果を招くような感じになるのでということを申し上げたわけなんですけれども。 ● 仮にそういう日本法の解釈によってそのように執行もしてしまうのだとしても,それは条約には反しないということだけ確認させていただいたということですので。 ● 日本法の解釈は日本法の解釈で,教えていただかなくても結構だと思いますので。 ● 26条についてちょっと,これは今後のといいますか,扶養義務の条約にもこのフォーミュラは結構使われてくるのではないかと思って,それでちょっとお尋ねしたいんですが,これの6項になりますが,6項のa号とb号は「かつ」で結ばれるわけですね。 ● それはちょっとはっきり分からないんですが,多分そうですね。「かつ」でしょうね。 ● これは,このように理解してよろしいのでしょうか。この6項の言っていることは,例えば,ドイツとフランスの間の判決の承認執行が問題となっている場合で,当事者の少なくとも一方が例えばスイスに居所を持っている場合には,この条約が例えばEUの理事会規則に影響して優先するということでよろしいですか。逆の場合にはEUの理事会規則の方が優先するということですね。 ● そうです。外の人がいるにもかかわらず,中のルールでいくというわけにはいかないと。おっしゃるように,「or」とか「and」とかは最終段階で全部除いたんです。流儀がどうのこうのとかということで,確かにちょっと分かりにくくなっているところがあります。今のところも,「and」がないと分からないですね。はい,どうもありがとうございました。 ● 今,「or」とか「and」が除かれたとおっしゃったんですけれども,今ぱっと見たら,24条はandが付いているみたいで。 ● もっと正確に言った方がいいかもしれません。論理的になければいけないところは残すという区別をしつつ,削除したんです。 ● これは明確にしてa号とb号を分けて,だけど,b号の方は「as concerns」になっているから,これは付けなくても文章として成立するから,「and」を付けなくても構わないと思ったんじゃないですか。ただ,日本語にするときは,場合,場合と並列するから,多分「かつ」と入れてあげないといけないんだろうと思います。 ● フランス語と英語と流儀がちょっと違う,人によっても違うんでしょうね,セミコロンで結んでいくときのやり方が。私も完全に納得したわけではなかったんですが,幾つかのところは除き,ここはなければ分からないというところは入れたのは確かで,おっしゃるように,では日本語のときに同じようにしていいかというと,そこはもう一考必要です。ありがとうございました。今のところはあった方がいいと,ないと分からないですね。24条はどっちでもよさそうな条文ですけれども。 ● ほかにございますか。 ● 資料68の9ページ,例の損害賠償のところの○○幹事の説明書きのところで,原則的には判決内容を再評価しない,しかし例外として「sniff test」をすると。「sniff test」というのは,多分これは空港などで麻薬取締犬がくんくんとにおいをかぎ回る,あれのことだろうと思うんです。ですから,麻薬取締犬が黙って通り過ぎてくれればテストをクリアしたことになると思うんですけれども,立ちどまってワンワンとほえ出せばテストをクリアできなかったということで,荷物を開けろということになると思うんですけれども,そういう理解でいくと,同テストをクリアしたものについてのみ,「actual loss or harm」の審査を行うというのは,ちょっと逆ではないかと思ったんですけれども。 ● 意味は逆ですね。それでひっかかったものですね。そうですね。今ちょっとよろしゅうございますか。私はこれで本当にいいのかなというのが分からなくて。といいますのは,この中には要するに公序に近いものがあるわけです。公序違反かどうかは職権だということからすると,額は低いし,一見してよさそうだったから通しましたといっても,それは程度問題ですね。1万円の損害しか与えていないのに,100万円だと100倍の損害賠償ですから,100万円は大したことはないといっても,元から考えればひどいわけで,それは懲罰でしょうということもあり得るんじゃないかと思うんですが。ですから,どのようにこのにおいをかぐかは,非常に実務上どの程度にすればいいのかという基準が明確にこれでは示せないと思うんです。はっきりしているのは多分,当事者が言わなかったからといって,裁判所は何もしなくていいわけではない。公序あるいは基本原則に関係する以上は,当事者を越えて見なければいけないとすると,これも,日本は今もこうしているんですと言えれば一番いいんですけれども,どうなんでしょうか。 ● 自分で執行判決をしたことはなくて,上告事件で流れてきたものをちょっと見たことがある程度の話になりますけれども,実際上は,英語ぐらいならいいんですけれども,言語によっては,当事者の方が自分に有利なところだけ訳文を出してくるというのが普通ですので,相手方から指摘がないときに,それを全部職権で読んで,そこまで見ろというのは,実際上は難しいです。相手方の指摘があれば,それについて答えろとか,そこについての相手方が訳文を出すとかという話になるんですけれども,外国判決といっても,長いものは長いですし,それはちゃんとした訳を出せというとそれなりにお金が掛かることですので,それは○○委員などがよく御存じだと思いますけれども,それを必ず裁判所は職権で見ないといけないから全文必ず訳文を付けろとはなかなか言えない状況でございますので,指摘がない場合は,なかなかちょっと実務的には難しいなという感じでございます。  どうでしょうか,○○委員。 ● それも,当事者主義で,どこまで相手方に出させるかによるんじゃないんですか。 ● 被告欠席という手もありますね。にもかかわらず,懲罰賠償金を見過ごしたではいけないはずですね。ですから……。 ● 理論的にはそうなんですけれども,実務的にはなかなか難しいという感じがします。 ● それからもう一つ,今11条2項の方の説明はなかったんですけれども,11条2項の方で,「手続に関する費用及び支出の補償を含むものとして機能しているか否か」ということが入っているわけです。ですから,例えば5,000万円の損害賠償のオーダーが出たとして,実損は1,000万円ぐらいだと。そうすると,残りの4,000万円はこの費用及び支出の補償を含むかどうか。そういうものを見るということなんだろうと思うんですけれども,その場合に,弁護士報酬とか,そういうものはこの費用及び支出の補償に入るんでしょうか,入らないんでしょうか。 ● 入るんだろうと思って聞いておりましたけれども,もともとアメリカは,この点は考えてくれと言っていて,アメリカの制度趣旨が,アメリカは弁護士費用は当事者負担であって,それを相手方に持たせるということの機能もアメリカの損害賠償制度というのは果たしているんだと。そのことを全く考えないで高過ぎると言うのはおかしいではないかということを言っていたのが投じられているので,そこは考えてはあげるんでしょうが,考えても弁護士費用として高過ぎるというのはまたあるかもしれませんけれども,今の例ではやや高いんじゃないかと,5倍になってしまうのは高いと思いますが。 ● ありがとうございました。 ● ほかに御意見,御意見はございますでしょうか。○○委員。 ● 前から連邦国家のことを私は気にしていたんですけれども,たしか今回条文が2つほどありまして,28条と25条ですか。これは,連邦国家の場合はこの条約に,例えばアメリカの場合だと,ニューヨークとカリフォルニアは入るけれども,イリノイは入らないとか,そういう宣言ができるということが28条になっていて,そうすると,入った州と入らなかった州で,いわば日本との関係では相互主義になるという理解でよろしいんでしょうか。 ● アメリカでは憲法上それができるかどうかは分かりませんが,少なくとも多分中国についてはできると思います。香港,マカオと大陸とが一緒に入るか,一部だけ入るかというのは多分できて,入らなかったところの判決を承認する必要はないと思います。ただ,アメリカはできるかどうかは分かりません。それは要するにその国のつくり方によるんじゃないでしょうか。 ● よろしゅうございますか。  ほかに御質問,御意見はございますでしょうか。 ● 先ほど説明をちょっとし忘れまして,留保なんですが,前の28条,11ページに留保という項目だけ前にあって,それは結局置かれなかったのです。置かれなかった趣旨は,留保ができないということではなくて,留保はできるという趣旨でございまして,条約法条約上,留保禁止する規定がない限りできるということをわざわざ,ロシアは強く主張しましたので,この条約は留保ができる条約だということでございます。ですから,従来のヘーグ条約には留保ができないという規定があったと思いますけれども,それがない条約だという点だけちょっと補足させていただきます。 ● ○○委員。 ● 今の御説明なんですが,留保ができるというのは,どこを留保ができるかというのは,限定がないわけですか。 ● 私は条約法条約の解釈は正確には存じませんが,条約の本質的なところを全部外してしまう留保までできるのかどうかという議論でしょうか。 ● つまり,国によってばらばらに留保したら,果たして統一的な条約と言えるかどうか分からなくなってしまうんじゃないかと。 ● それはそうすると分からなくなるんですが,しかし,ロシアがしたいと言っているのは,非金銭的な判決については承認執行したくないと言っているので,そういう留保をしてくることはあり得るし,それはできるという前提です。 ● それは,一つの条文について留保するんですか,それとも条文の中の個別の留保も許すと。 ● あり得ると思います。特定の条文は我々の国は適用しないという留保もあり得るかもしれませんし,ロシアが今言っている例は,非金銭的判決はこの条約の適用のないものとするというので,全部の条文を特定の種類の判決には適用しないということだと思うんです。 ● それでは,もう御意見,御質問がございませんようでしたら,この条約についての御質問,御意見はこれで閉じさせていただきたいと存じます。  それでは,条約が採択されましたことを受けまして,今後の方針等でございます。事務当局の方に御説明をお願いいたします。 ● この条約は,先ほど○○幹事からの御説明にもありましたように,1994年から作業が始まりまして,はや10年が経過しているわけでございます。我が国としましては,この条約の検討作業の開始時点から,当初は国際私法部会において御審議を行っていただいており,またその後平成13年の法制審議会制度の改革に伴いまして当部会が設立され,当部会で従前の国際私法部会での御審議を引き継いで御審議をいただいてきたわけでございます。多くの委員,幹事の方々が最初からこの御審議に加わってきていただいたわけでございまして,長年の御尽力の結果,この条約には相当我が国の主張も取り入れられたと思いますので,そういう条約ができ上がりましたことをまず御礼申し上げたいと思います。  それで,今後の方針なんでございますが,実は当部会は平成13年の諮問第48号というものに基づいて設置されているわけでございます。その諮問48号をちょっと読ませていただきますと,「ヘーグ国際私法会議において,民事及び商事に関する管轄,外国判決の承認及び執行に関し,条約の作成のための審議が行われているところ,同条約の内容は我が国の国際民事訴訟法制に大きな影響を与えるものであると思われるので,同条約の内容,その批准の要否,批准を必要とする場合の国内法整備の要否,国内法整備が必要とすれば整備すべき事項の骨子に関して,御意見を承りたい」というものでございます。つまり,諮問自体は,条約がどうあるべきかという対処方針についての今までいただいていた御審議のほかに,批准の要否や,批准を必要とする場合の国内法整備の要否などについても御意見を承りたいという諮問になっているということでございます。  そこでどうするかということでございますが,この条約は,先ほど○○幹事からも御説明がありましたように,当初は民事・商事に関する国際裁判管轄法制全般を対象とする壮大な全世界統一条約ということでプロジェクトが始まったわけで,この諮問第48号が出されました平成13年の時点においてもまだその状況に変化はなかったわけでございます。ところが,その後,第1回目の外交会議が開催されて,そういう壮大な条約をつくれるという見通しがもろくも崩れさったわけで,そこで大きな事情変更が生じたわけでございます。その結果,先ほど御報告いただきました管轄合意条約という,非常に狭い範囲の条約としてこの条約ができ上がったわけでございます。今後仮にこの批准の要否とか国内法整備の要否というものを当部会でご検討いただくとしますと,これまた相当の年数が必要になるのだろうと思います。と申しますのは,この条約を批准するとすれば,先ほども○○幹事からの御報告の最後にお話があったわけですけれども,ヨーロッパやアメリカなどの主立った国々も同じように批准をして加盟するという状況がなければならないと思うんですけれども,アメリカにとっては非常に都合のいい条約ですので,すぐ批准に動くということはあり得ると思いますが,ヨーロッパがどうするかというのは,これは予断を許さないといいますか,今後どのように動くことになるのか,全く分からないような状況でございます。したがいまして,下手をすると,ヨーロッパの対応がずっと決まらないためにこの部会がいつまでたっても終わらないということにもなりかねないわけでございます。  そこで,○○委員,それから○○委員とも御相談させていただいたのですけれども,諮問第48号自体はこのような諮問なのでございますけれども,当部会で引き続いて批准の要否を検討するとすると,さらに非常に長い期間が掛かるかもしれない,その終わりが見えないという問題が起きますので,その旨を法制審の総会に御報告して,法制審議会の総会の御了承がいただけるのであれば,それをもって当部会における審議を終了させるということにしてはいかがかと考えております。  私からの説明は,以上でございます。 ● ありがとうございました。  それでは,ただいまの事務当局の説明のとおり,本部会におきます審議は本日をもって終了とし,本条約の批准の要否等についての検討はしかるべき時期に別途行うべき旨を法制審議会総会へ報告するということで,よろしゅうございますでしょうか。--よろしゅうございましたら,法制審議会への報告の内容につきまして,事務当局に案を配付していただきたいと存じます。           (「諮問第48号に関する審議結果報告案(案)」配付) ● 報告案(案)は,ただいま配付したばかりでございますので,事務当局の方に読み上げていただきたいと存じます。 ● それでは,私の方から読み上げさせていただきます。 諮問第48号に関する審議結果報告案(案) 1 条約採択に至る経緯 (1)ヘーグ国際私法会議における経緯  ヘーグ国際私法会議において,1994年に「民事及び商事に関する裁判管轄及び外国判決に関する条約案」についての検討が開始された。同条約案は,民事及び商事に関する国際裁判管轄の一般的かつ広範なルールと,外国判決の承認・執行のルールを定めようとするものであった。ところが,同条約案については,いったんは1999年10月の特別委員会において草案が作成され,2001年6月の外交会議に付されたものの,いくつかの重要な論点につき,各国の意見が大きく対立したため,その採択には至らず,2002年4月に開催された一般問題特別委員会において,多くの国の賛成が得られる事項に範囲を限定した小規模な条約を策定するという方針に変更された。その後,数回にわたって非公式作業部会が開催された上で,2003年12月と2004年4月に特別委員会が開催され,その審議・検討を経て,「専属的管轄合意に関する条約草案」が作成された。同草案を基に,本年6月14日から30日まで開催された外交会議において審議が行われ,同日,「管轄合意に関する条約」(以下「本条約」という。)が採択されるに至った。 (2)我が国における経緯  「民事及び商事に関する裁判管轄及び外国判決に関する条約案」については,ヘーグ国際私法会議において検討が開始された当初から法制審議会国際私法部会小委員会が審議を行っていたが,法制審議会制度の改革に伴い,平成13年1月12日開催の法制審議会第132回会議において,同日発せられた諮問第48号を受けて,国際裁判管轄制度部会(以下「本部会」という。)が設置され,同小委員会を引き継いで審議を行うこととなった。本部会は,平成13年2月13日に第1回会議を開催し,その後,ヘーグ国際私法会議において特別委員会や外交会議が開催されるのに合わせて,その前後に,合計18回の会議を開催した。本条約についての日本政府の意見や対処方針は,全て本部会における審議の結果を踏まえて作成されたものである。 2 本条約の内容  本条約は,専属的管轄合意がされた場合における国際裁判管轄についてのルールと,管轄合意に基づく判決の承認・執行についてのルールを定めたものである。  すなわち,本条約は,専属的管轄合意に関しては,専属的管轄合意により選択された裁判所が,合意が無効である場合を除き,国際裁判管轄権を有すること(第5条),他方,選択されなかった裁判所は,合意が無効である場合等の例外的場合を除き,国際裁判管轄権を有しないこと(第6条),選択された裁判所が下した判決については,合意が無効であった場合等の例外的場合を除き,他の締約国において承認・執行がされること(第8条,第9条)を定めている。また,非専属的管轄合意に関しては,これに基づく判決を承認・執行する旨の宣言を締約国がした場合に,当該締約国の裁判所が非専属的管轄合意により選択された裁判所として下した判決は,同一事件につき他の管轄権がある国の裁判所の判決が存在しないこと等の要件を満たすときには,同様の宣言をした他の締約国において承認・執行されること(第22条)などを規定している。  本条約の英仏正文及びその仮訳は,別紙のとおりである。 3 意見  諮問第48号は,「ヘーグ国際私法会議において,民事及び商事に関する管轄,外国判決の承認及び執行に関し,条約の作成のための審議が行われているところ,同条約の内容は我が国の国際民事訴訟法制に大きな影響を与えるものであると思われるので,同条約の内容,その批准の要否,批准を必要とする場合の国内法整備の要否,国内法整備が必要とすれば整備すべき事項の骨子に関して,御意見を賜りたい。」というものである。  しかしながら,諮問事項のうち,本条約の批准の要否,批准を必要とする場合の国内法整備の要否,国内法整備が必要とすれば整備すべき事項の骨子については,次の点を考慮し,本部会において継続して審議を行うのではなく,後日,場を改めて検討することが相当であると考える。 ① 本条約の批准の要否を検討するための前提条件が調うまでにかなりの期間を要すると見込まれること。  本条約は,管轄合意に範囲を限定して国際裁判管轄及び判決の承認・執行の全世界的な統一ルールを定めようとするものであるため,ヨーロッパ諸国及び米国を含む主要国が本条約を批准しなければ,その意義が乏しいものとなってしまう。したがって,主要国の動向を見た上で批准の要否を検討する必要がある。  ところで,本条約の作成プロジェクトは,これに参加したヨーロッパ諸国や我が国にとっては,当初は,一般的かつ広範なルールを定める条約を作成することによって,米国による裁判管轄権の行使を適正な範囲に制限し,かつ,米国におけるような極めて高額な賠償を命じる判決の承認・執行を制限することをも意図するものであった。それが当初の計画どおりに完成すれば,国際裁判管轄についての成文法規を有しない我が国にとってはもとより,既に域内統一ルールを有するヨーロッパ諸国においても,批准する価値が高いものであった。ところが,本条約は,管轄合意に範囲を限定してルールを定めたものとなってしまった上,極めて高額な賠償を命じる判決の承認・執行の制限に関する規定をめぐっては採択に至る直前まで議論が紛糾し,結果として,各国において解釈を異にする余地を残した内容の規定となってしまった(第11条)。したがって,ヨーロッパ諸国が本条約を批准するかどうかは明らかでなく,我が国における本条約の批准の要否の検討は,ヨーロッパ諸国が批准に動くことが確実となった段階で,開始することが相当であると考えられる。  他方で,本条約については,他のヘーグ条約におけるのと同様に,報告者による解説書が作成される予定になっており,この解説書は,本条約を評価し,解釈する上で重要な資料となるものであることから,各国も解説書を見た上で批准の要否の検討作業に取り掛かることになるものと予想される。しかし,解説書の作成作業については,他のヘーグ条約の先例に照らすと,その完成・公表までにかなりの期間を要するものと考えられる。  したがって,本条約の批准の要否等の検討を本部会において引き続き行うとした場合には,具体的な検討作業に着手するまでに数年間にわたり本部会を休眠状態に近い状態とさせておくことになりかねない。 ② 本部会における審議が既に長期間にわたっていること。  本部会における審議は,国際私法部会小委員会において審議されていた期間を除いても,既に延べ18回,約4年半の間にわたっている。本部会において,諮問事項にある本条約の批准の要否,批准を必要とする場合の国内法整備の要否,国内法整備が必要とすれば整備すべき事項の骨子について,継続して審議を行うとすれば,上記①の事情に照らし,更に大幅に審議期間が長期化する事態を避けることができない。こうした結果は,本部会が設置される契機となった法制審議会制度の改革の趣旨に必ずしも沿わないと考えられる。  なお,我が国は,平成8年の現行民事訴訟法典の制定に当たり,ヘーグ国際私法会議において,既に「民事及び商事に関する裁判管轄及び外国判決に関する条約案」について検討が行われていることを理由として,国際裁判管轄に関する規定を設けなかったという経緯がある。しかしながら,各国間の深刻な意見対立の結果,本条約は,管轄合意に対象を限定した小規模な条約にすぎないものとなり,その他の管轄合意に関する全世界的なルールが近い将来に策定されるという見込みは失われた。したがって,今後は,我が国としての国際裁判管轄全般に関する規定の整備の検討にできる限り早期に着手する必要があると考えられる。  以上です。 ● ありがとうございました。  ただいま読み上げられました報告案の内容につきまして,御意見がございましたら承りたいと存じます。 ● 2点あるんですけれども,1つは,これによって諮問48号に関する関係では,これは部分答申のような形になるのでしょうか。それとも,48号に対しては,もうこれですっかり答申を終わったというのかどうかという点です。  それからもう1つは,一番最後の国際裁判管轄全般に関する規定の整備に早期に着手する必要があるという点は私は結構だと思いますけれども,このことと,この条約についての解説書等が完成するまでには相当の期間かかるということとの関係はどのように考えておられるのかという点をちょっとお話しいただけますでしょうか。 ● まず第1点ですけれども,部分答申か全体についての答申かということですけれども,全体についての答申と考えております。つまり,批准の要否等についても意見を承りたいという法務大臣の諮問ですけれども,現時点で意見を述べるのは相当でないという意味で答申をしているということでございます。それで一回法務大臣に返して,またしかるべき時期に諮問をし直してくださいという趣旨でございます。  それから,第2点目ですけれども,本条約の批准の問題と,我が国としての国際裁判管轄全般に関する規定の整備の問題とが部分的に関係することはそのとおりだと思うのですけれども,どのように検討を進めるかということにもよりますけれども,この条約が対象としているのは合意管轄だけでございますので,ほかの多くの管轄原因については何らこの条約は触れているものではありませんから,むしろ1999年の条約草案などを参考に,我が国においてどう取り扱うべきかということを検討することができるのだろうと思いますので,この条約の批准の問題と国際裁判管轄規定の整備とが同時期に行われなければならないということでは必ずしもないのではないかという気はいたします。つまり,先に国際裁判管轄規定を設けた上で,合意管轄については,この条約を批准すべき状況になったときにまた検討を行って,必要があればいったん定めた,国際裁判管轄ルールのうちのこの条約にかかわる部分を直すということもあり得るのかなとは思っております。 ● ほかにございますか。 ● 1ページ目の経緯のところについて,これは残る文章ですので,少し,事実を必ずしも反映していないように読めるところがございます。一番大きな問題は,「2001年6月の外交会議に付されたものの,その採択には至らず」という文章がありますが,というのは,当初から2回の外交会議が予定されていて,2001年6月では採択する予定はなかったので,「採択に至らず」というのは,ちょっと書き過ぎというか,ちょっと正確ではなくて,要するに2回に分けて外交会議を開催するとされたものの,第1回の会議を開いてみたところ,余りにも意見の対立が大きくて,第2回目の外交会議の開催のめどが立たなくなったというのが実態で,だからその打開策をどうするかというので,最小限のところからやっていきましょうと言って,本当に最小限になってしまったのが現実ですので,そのことが反映されるような文章に少し変えていただければと思います。  ほかのことでもよろしゅうございますか。 ● はい。 ● 内容の意見にかかるところについてですけれども,私も,今,○○委員がおっしゃったように,諮問第48号との関係でいいますと,そもそもこの諮問48号が予定していたというか,期待していた条約はできないことが分かったというか,今回,もしかしたらばっと広がる可能性が最後の最後あったかもしれないわけですが,それもなく終わったわけです。ですから,この合意管轄条約を幾ら検討してみても諮問に答える答申は出せないので,そこは何か一つちゃんと書くべきなのではないかと思うんです。したがって,その検討はそれ自体時間が掛かるというのも書いていただいても結構だし,いろいろ問題があるというのも書いていただいて結構なんですが,諮問48号をどうするかということからすると,およそそれとは違って,これでは回答になりませんと。だからといって,これは予定しているものが,条約をどうするかということの聞き方なので,ですから,そこはずれてしまったので,新たに検討しなければいけませんねというのが骨格ではないかと思うんです。そういうつくりにするとすると,余りにも条約を悪く言っているところがあるかなと思うので,もう少し短くしてもいいのではないか。といいますのは,特に11条のことをお書きになっていらっしゃいますけれども,11条は多分そんなには,今度の合意管轄条約では核の条文ではなくなっていて,前の条約は,不法行為があって,製造物責任もあり,そういう条約の中の懲罰的損害賠償とか,異常に高い賠償だったので問題となりましたが,今度は契約の合意管轄の条文なので,余りここに焦点を当てたような評価が適当かどうかというのはやや疑問ですので,もう少し短めにしていただくといいかなと思いました。  それから,検討に数年かかるというのも,それは予想の問題になりますから,「数年」とまでは書かなくても,「相当の期間を要する」というのでいいかなと思います。  以上です。 ● 今の○○幹事の御指摘の点,私も同感でございまして,この損害賠償の規定というのは,そこそこリーズナブルというか,妥当な規定じゃないかなと。特に当事者が契約で合意してやったことであって,それは管轄だけではなくて,例えば損害賠償の予定とか,そういうクローズもBtoBで合意した話でございますので,今の収れんしたような条項というのは,私はそこそこ妥当な規定じゃないかなと,余りネガティブな表現を入れる必要はないんじゃないかなという気はいたします。   それから,ついでに申し上げますと,諮問に対する結果報告書の扱いとは別に,ちょっと御質問があるのですけれども,いずれにしてもこれだけ長期間やった国家間の交渉の結果,1つのこういう結果が出たわけでございますので,これに対する国と申しますか,法務省の説明責任というんですか,もしくはここまで来たということについて各界の理解を得ることについて,どのような手順とか行動を考えておられるか,その辺をちょっと教えていただけますでしょうか。 ● 現時点で法務省として何かをしようということを考えてはいなかったんですけれども,恐らく,今までもそうなんですけれども,○○幹事にそれぞれの節目節目の時点で仮訳をつけた論文をお書きいただいておりますので,今回も外交会議が終わって条約ができたという大きな節目ですので,○○幹事が論文をお書きくださるのではないかと期待していたところでございます。 ● よろしゅうございますか。 ● ですから,それは個人としてのあれで,法務省からの解説とか説明というのは一応予定しないということですか。 ● 恐らくは,部内誌には出張者による報告書を書くことになりまして,それをどこかの雑誌が転載してくれる可能性があるかどうかという問題にもなるのですけれども,これは条約なものですから,国内法整備ということになると我が方の問題として表立って動けるんですけれども,条約自体は第一次的な所管は外務省にあるものですから,それを批准するとなったときに国内法との関係で問題になるということでこの法制審議会で議論していただいているという整理なものですから,そこはなかなか難しい面があるのかもしれないと思っております。 ● ほかにございますでしょうか。○○委員。 ● つまらないことですけれども,1ページ目の真ん中辺に「同日」とあるのですけれども,これで分かるのでしょうか。 ● 同日というと30日を指すと読むんだと思っていたのですけれども,どのように変えたらよろしゅうございましょうか。 ● もう一度「30日」と書かないで,「14日から30日まで開催された」というので,「同日」が最後の日を指すといった約束事があるならいいけれども,どうも私は「同日」でいいのかなという,それだけのことです。 ● それでは,「最終日に」とか,そういう表現に改めるようにしたいと思います。それから,今まで御指摘いただいた点も,さらに部会長・部会長代理と御相談させていただいて,御意見を踏まえた形になるように直したいと思います。 ● ほかにございませんでしょうか。--それでは,本日予定しておりました議題につきましては,御意見をいただけたかと存じますので,この程度にさせていただきます。  法制審議会総会への審議結果報告案の内容は,先ほどいただきましたご議論の結果を最終的なものといたしまして作成いたしますが,その文言につきましては部会長と私と事務当局にお任せいただくことを御了承願います。  本部会は,法制審議会総会において審議結果報告案が了承されれば解散することとなる運びでございますが,本当に4年半という長期間にわたりまして御熱心な御審議を賜りましてありがとうございました。  最後に,○○委員と部会長から,閉会に当たり,ごあいさつがございます。  まず○○委員にお願いいたします。 ● 所管部局を代表いたしまして一言お礼を申し上げたいと思います。  先ほども幹事の方から御紹介申し上げたとおり,この条約は非常に難しいテーマについての条約でございまして,始めましてからいろいろと紆余曲折がございました。しかし,今日まで10年掛かってようやく一つの小さいとは言えまとまりがある条約をここに見ることができたわけでございます。我が国の対応ぶりにつきまして法制審議会での議論をお願いしたわけでございますけれども,法制審議会の当初の部会,それからこの特定の条約についての部会を通じまして,先生方に大変ご熱心なご議論もいただきましたし,貴重な幾つかの示唆もちょうだいして,それで今日まで我が国としての対応がとれたものと大変感謝申し上げているところでございます。  特にこの条約につきましては,○○幹事がラポルトゥールになられて,全体について非常に大きな役割を果たされたわけでございますし,またこの部会においても非常に熱心に御説明をいただいたわけでございます。○○幹事にも改めて御礼を申し上げたいと思います。  部会長,部会長代理におかれては,大変難しいハンドリングを要する場面が多かったわけでございますけれども,そのときどきにおいて大変上手にやっていただいたのも,また今日ここまでに至れたということだったと私どもも深く感謝しているところでございます。  条約そのものは,やや幹事が当初非常に熱心だった余り,この条約について若干ネガティブな表現をし過ぎたところがあると私自身も感じたところでございますけれども,一つのまとまりをつくっていただいたわけでございますが,ただ,私どもも当初,法制審議会全体の声も,あるいは社会的にも,我が国としてそろそろ国際裁判管轄全体のルールというものについて歩みを進めるべきであるという御意見を聞いていたわけでございまして,今後は,先ほど申し上げましたように,それに向けて少し手続を進めるべき時期に来ていると感じているわけでございます。  これも一つの大きな土台といたしまして,また更にさまざまな御審議をいただく機会もあろうかと思います。その節はまたどうぞよろしくお願いしたいと存じます。  簡単でございますけれども,長い間本当にありがとうございました。 ● それでは,最後に部会長のごあいさつをお願いいたします。 ● それでは,簡単に一言だけごあいさつをさせていただきます。内容につきましては○○委員がすべておっしゃいましたので,私は単に先生方に感謝を捧げるという謝辞のみを5分間ぐらい述べさせていただきたいと思っております。  この部会の委員・幹事各位におかれましては,それぞれ御本務に誠に御繁忙であられたことと思います。にもかかわらず,永年にわたって会議には御精勤をいただき,貴重な御意見をもって審議を深めてくださいました。これこそは,本部会が何がしかの役割を果たし得た,その最大の理由にほかなりません。何よりもまずこの点につき,各位に心より御礼申し上げます。  この国際管轄制度を主題とする会議に関しましては,先ほど○○委員からのお話もございましたように,審議会改組以前の国際私法部会小委員会の時代より,○○委員には座長役をお願いしており,長年にわたって議事運営のご苦労をお掛けしてまいりましたところ,その円滑な運営に御腐心をいただき,まことに感謝でございます。   また,○○幹事には,特別委員会への派遣から始まり,ヘーグ国際私法会議の起草委員会での御大役との関連で,事前の調整・協議にも幾度となく国境を越えて精力的に従事され,また本条約の報告者の1人としての重責を担うなど,国際的合意の形成に向け,本部会の枠を越え,多大な貢献を果たしてこられました。連続10年を超えるのではないかと思いますが,その長期にわたる御献身を思うとき,これに感謝するには果たしていかなる言葉を選べばよろしいのか,事実迷わざるを得ないように思っております。  また,事務当局の法務省に関しましても,各担当部署において,○○幹事を初め,歴代の各幹事及び関係官は,この会議のため深夜まで準備作業に忙殺されることが少なくなかったようですし,特に緊急の場合は国際電話会議に訴えるなどして,各位からいただきました御意見の可及的な実現に御苦労しておられましたことを仄聞いたしております。御承知のような困難を乗り越え,本条約の採択にまでこぎつけることのできました今回の外交会議における日本代表各位のご活躍ぶりは,先ほどの審議から既に明らかでございましょうが,これはひとえに○○委員以下の民事局各位並びに現地駐在の日本国大使館の強力な御支援あってのことと承っております。  この部会における審議は先ほどのご決定に従いまして本日をもって終了となりますが,この場においてこれまでに承りました各位,各方面の貴重な御意見や御指導の数々は,今後もこの問題に関連する日本独自の法整備に当たり,誠に有意義な資料として適宜活用されていくことになろうかと確信いたしております。その意味から申しましても,委員・幹事の皆様方の本部会に対する御協力には重ねて御礼を申し上げねばなりません。  最後になりましたが,必ずしも十分ではない私,部会長に対しましては,永年にわたりまして温かい励ましを常にいただいておりましたことにつきまして,特に個人的に感謝申し上げたいと思います。  以上をもちましてごあいさつとさせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。 ● ありがとうございました。  それでは,これにて閉会といたします。どうもありがとうございました。 -了-