法制審議会 民事訴訟・民事執行法部会 第3回会議 議事録 第1 日 時  平成15年6月20日(金)  自 午後1時03分                       至 午後4時42分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  公務文書の文書提出命令についてのヒアリング         民事執行制度の見直しに関する検討事項についてのヒアリング 第4 議 事  (次のとおり)               議         事 ● 定刻が若干過ぎましたので,ただいまから民事訴訟・民事執行法部会第3回会議を開催させていただきます。  まず,簡単に本日の会議の議事と配布資料についての御説明を○○幹事からお願いいたします。 ● 本日の議事につきましては,前回,公務文書の文書提出命令につきましてのヒアリングを実施したいというように申し上げたところでございます。ただ,事前に事務当局の方からの説明の紙をお送りしたと思っておりますけれども,前回の御議論でも,やはり民事執行制度の在り方について今後議論を進める上で,民事執行の今の現状,実情というものがどのようになっているのか,あるいはこの民事執行制度の利用者の意見というものを聴くといったことが相当ではないかということがございましたが,そのような御議論なども踏まえまして事務当局の方で考えた次第でございます。そこで,従前の説明と違いまして,急遽の議事の変更ということで大変申し訳なく思っておりますけれども,本日,民事執行制度につきましても関係の方々からお話を伺うという機会を設けさせていただいた,こういう次第でございます。  続きまして,配布資料の確認でございますけれども,本日はすべて席上配布資料だけでございます。  まず,事務当局からでございますが,部会資料3でございます。「最低売却価額制度に関する諸外国の制度について」というものでございます。こちらの方は,前回,事務当局の方から口頭で御紹介しました諸外国の制度,それから委員・幹事の方からいろいろ御指摘あるいは補足していただいた点などをまとめたものでございます。今後,最低売却価額制度に関します御議論の際の参考にしていただければということでございます。  続きまして,公務文書の文書提出命令につきましてのヒアリングの関係で,本日,お話しいただきます関係機関の方々から,席上配布資料をいただいております。  まずは,最高裁判所事務総局民事局の方から,「文書提出命令申立事件の新受・既済件数等」という資料をいただいております。  次に,法務省刑事局からでございますが,「刑事確定訴訟記録法の保管記録等の閲覧(謄写)状況」という資料がございます。  それからもう一つ,法務省刑事局長名で,東京地方検察庁検事正あての回答がございます。これが,いわゆる被害者等に対する不起訴事件記録の開示についての通達でございます。  それから,パンフレットがございまして,「犯罪被害者の方々へ」ということで,検察庁の方でお作られましたパンフレットを資料としていただいております。  続きまして,日本弁護士連合会の方から,「刑事記録等一律除外規定の民事訴訟に与える影響と今後の対応について」という,6月20日付の資料をいただいております。  それから,新聞のコピーでございますけれども,調書の非開示をめぐります新聞報道,これが2枚つづりのものと1枚のものというもので,合わせて3枚でございます。  以上が文書提出命令の関係で,関係機関の方々からいただいた資料でございます。  なお,民事執行法関係につきましてもお話を伺う方々から資料もいただいておりますけれども,こちらの方は休憩の後,民事執行法の関係のヒアリングをする際に席上配布いたしたいと思っております。  あと,もう1点御報告がございます。今回の御議論に関連します,今の通常国会に提出しております法案の関係でございます。  「担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律案」でございますけれども,去る6月13日に衆議院法務委員会で一部修正の上,可決の採決がされております。その修正につきまして,簡単に,口頭で恐縮でございますけれども申し上げたいと思います。  第1点は,「抵当権に対抗することができない賃貸借により,抵当権の目的たる建物を使用収益する者であって,競売手続の開始前より使用収益する者又は強制管理若しくは担保不動産収益執行の管理人が競売手続の開始後にした賃貸借により使用収益する者(以下「建物使用者」という。)」というようになっておりますが,「その建物の競売の場合において,買受人の買受けの時より6か月」,原案では3か月になっておりましたが,これが修正によりまして6か月というようになっております。「6か月を経過するまでは,その建物を買受人に引き渡すことを要しないものとする」という点が第1点でございます。  この6か月の猶予期間の定めでございますが,これは買受人の買受けのときより後に,この建物を使用したことの対価について買受人が建物使用者に対し相当の期間を定めてその1月分以上の支払を催告し,その相当の期間内に履行がない場合には,適用しないものとすること。6か月の明渡猶予を認めておりますけれども,その使用の対価の支払を催告して,履行がない場合にはこれが適用されないというのが2点目でございます。  それから,この明渡猶予期間が延びたということとの関係で,引渡命令の申立てをすることができる期間も修正されております。すなわち,引渡命令の申立てをすることができる期間は,買受けの時に建物使用者が占有していた建物の買受人にあっては,代金を納付した日から9月とするものとすることというようになっております。すなわち,先ほど言ったような占有者がいる建物を買い受けた場合においては,この引渡命令の申立ての期間は9月だというようになっております。  以上のように衆議院法務委員会で修正の上,可決ということになっております。  なお,まだ現在のところ衆議院本会議で可決されてはおりません。  以上,関係の法律案につきましての御報告でございました。 ● それでは,公務文書についての文書提出命令制度の運用状況について,ヒアリングを行いたいと思います。  公務文書についての文書提出命令制度の運用状況につきましては,昨年の8月2日に開かれましたこの部会といいますか,当時は「民事・人事訴訟法部会」と言っておりましたが,その部会の第9回会議におきまして,最初の御報告をさせていただいたところでございますが,平成13年法律第96号による民事訴訟法の一部改正が施行されたのが平成13年の12月1日でございますので,それから数えるとちょうど1年6か月余りが経過したことになります。本日も,前回のヒアリングに引き続きまして,最高裁判所事務総局民事局,法務省刑事局,法務省大臣官房訟務部門,それから日本弁護士連合会の方々から御説明をいただく予定になっております。本日は,日本弁護士連合会からは,○○参考人と○○参考人にお越しいただいております。お忙しいところをどうもありがとうございます。どうぞよろしくお願いいたします。  順番でございますが,ただいま申し上げました最高裁判所事務総局民事局,法務省刑事局,訟務部門,それから日本弁護士連合会という順番で御説明をお願いしたいというように思います。  それでは,最初に最高裁の○○幹事からよろしくお願いいたします。 ● それでは,配布いたしました「文書提出命令申立事件の新受・既済件数等」という資料に基づきまして,簡単に御説明したいと思います。  公務文書に関する改正法が施行されました平成13年12月1日から,本年の4月末日までの1年5か月分について整理したものをこの表に掲げてございます。  この表の一の1及び2につきましては,これは公務文書に限らず,すべての文書を対象にした文書提出命令申立事件についての一般的な傾向ということでまとめてございます。  これにつきまして,1の「新受件数」を御覧いただきたいと思いますけれども,これまでで4,148件の申立てがありました。始まりが12月ということで,1年間というスパーンで見る場合には,平成14年の欄を見ていただければお分かりかと思いますが,1年間で2,955件,3,000件近い申立てがあったことになります。  また,1か月ごとで見ますと,右の方ですけれども,大体二百数十件程度で推移しているといったことが分かるかと思います。  次に,2の「既済件数」の方ですけれども,これは終局結果ごとに分けて記載しております。認容・却下・取下げ・その他に分けておりますけれども,一般的にいいまして各裁判所においては,基本的には事案に応じて適切に処理されているというように思われますが,単純に認容と却下のみを比べれば,却下の方が多いというような形になろうかと思いますけれども,例えば,取下げにつきましては,文書提出命令が申し立てられたことによって所持者が任意に提出するという場合もございます。そういうことも考えられるところでありまして,こういったものも含まれているだろうというようには思われるところです。また,その他につきましては,例えば,文書提出命令の申立事件が終了する前に本体事件が円満に解決するといった場合なども含まれておると思いますし,明示の却下決定がないままに事件が終結して,法律上は黙示の却下といった場合についても,その他として報告されているということがあると考えられます。  続きまして,3の「文書提出命令の対象が公文書であった事件について」,これにつきましては既済になった事件について,これについては御関心も高いということで特別な形で調査をしているところです。  (1)が既済件数でございますけれども,全文書の既済のうちの公務文書に限定して抜き出したものでございますけれども,公務文書については全体に比べますと件数がそれほど多くないことから,ある程度の期間を見る必要があろうかというようには思っているところです。その意味で,例えば,平成14年の数字を御覧いただきますと,164件中,認容が35件,却下が42件となっております。また,取下げが39件,その他が48件と。取下げ,その他については先ほど言ったような部分もあろうかというようには考えているところでございます。  その下の米印の部分につきましては,公務文書のうち,刑事事件関係書類,それから少年事件関係書類が対象であったものを抜き出して掲げているところです。この部分につきましては,御承知のとおり民事訴訟法の220条4号ホでは包括除外ということになっておりまして,改正法施行の前に申し立てられたまま処理がされたというような場合もあろうかと思われるところです。  続きまして,次のページに参りますが,(2)の公務秘密文書につきましては,これは改正法で公務文書について220条4号ができて以降,統計をとってまとめているというところでございます。法の223条3項では,公務員の職務上の秘密に関する文書について,220条4号のロに掲げる文書,すなわち「その提出により公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるもの」に該当するかどうかということにつきまして,当該監督官庁の意見を聴くということになっております。その結果を見ますと,監督官庁に意見を聴いたものにつきまして,その判断のうち,4号ロに該当するとしたものが全部で18件,それから該当しないとしたものが31件というようになっております。また,4号に該当するかどうかの判断のために必要があると認めるときは,裁判所はいわゆるインカメラの手続をとることができるということになっておりますけれども,これについては3件の実施,これは下のイになりますけれども,ここで3件実施されたと報告を受けております。  なお,この結果につきましては,認容が1件,却下が1件,取下げが1件という結果になっているところです。  続きまして,下の方の二,三になりますけれども,この部分については最高裁事務総局刑事局及び家庭局がそれぞれ調査した結果でございます。  二の方が,平成12年の11月から本年4月まで,全国の高等裁判所,地方裁判所,簡易裁判所におきまして犯罪被害者保護法第3条に基づく公判記録の閲覧謄写の実施状況,これを延べ数でまとめたものでございます。結果は,被害者等に公判記録の閲覧謄写をしていただいた事例が1,442件,閲覧謄写していただかなかった事例が27件という結果になっております。  最後に三ですけれども,これは少年関係の事件で,平成13年12月から14年12月までの,全国の家庭裁判所における少年の保護事件の記録の文書送付嘱託を受けた場合の対応状況ということになっております。全国の家庭裁判所における記録の送付嘱託を受けた場合の対応状況につきましてはこのとおりでございますけれども,この7件を除いては問題なく記録の裁判所への送付が行われているということができようかと思います。  なお,ここでは記載しておりませんけれども,平成13年4月施行の少年法の改正によりまして,少年犯罪の被害者等が損害賠償請求権の行使等のために記録の閲覧謄写を申し出れば,原則として閲覧謄写ができるようになっております。少年法5条の2となっております。これにつきましては,平成15年3月31日までの2年間で,申出があったのが1,096件。この中で約98%に当たる1,074件で記録の閲覧謄写がなされているところです。したがいまして,必要な記録は,少年法に基づいて当事者において入手することが可能でありまして,民事事件の裁判所において直接少年事件の記録を入手しなければならない事件というのは,多くはないのじゃないかというようには思っているところです。  以上が,裁判所の方で文書提出命令申立事件の状況ということで取りまとめたものの御説明でございます。 ● 質疑の方は,一通りの説明を終わってからまとめて行いたいと思いますので,よろしくお願いいたします。  それでは,続きまして法務省刑事局の○○関係官からお願いできますでしょうか。 ● 今日は何点か資料の方を提出させていただきました。前回,昨年にも調査状況を御説明したところでございますが,今日はその後の経過も踏まえて,追加して御説明したいと思います。  まず,刑事関係記録につきましては,文書提出命令の4号からは除外されておりますけれども,これはもう先生方御承知のとおりでございまして,刑事手続の目的で,かつ強制的な権力でもって収集した証拠である,その内容が関係者の名誉,プライバシーに非常に深くかかわって,そのものと言っていいと思いますが,そういうものでありまして,それぞれにつきまして関係の法律で開示の手段,手続でありますとか要件が定められているというところでございます。  実際の閲覧状況でございますが,まず2枚紙の表を見ていただきたいと思います。1枚目は,刑事確定訴訟記録法上の保管記録の閲覧謄写状況ということでございます。ここに書いてありますのは,裁判が確定した事件の記録について,刑事確定訴訟記録法で閲覧の手続が定められておりますので,その利用状況ということになります。かなり細かく数字が書いておりますが,一番分かりやすいのが真ん中よりちょっと上のところですが,③の「閲覧等許可件数」のところを見ていただければと思います。  これを見ますと,平成12年が閲覧請求が1万7,283件,これに対して許可が1万7,211件。それから,平成13年が1万7,862件で,許可が1万7,783件。14年が2万158件で,うち2万24件を許可。15年が,これは今年の3月末まで3か月分の統計でございますが,5,067件中5,045件を許可しているという状況でございます。したがいまして,おおむね90%程度は許可になっているというように思われます。  刑事確定訴訟記録法上は,原則開示に応じるということになっておりますが,ただ前科調書でございますとか身上の関係部分というものについては,やはり高度のプライバシー性があるということで,開示にはなかなか応じられないところがあるということを御理解いただければと思います。  それから,2枚目に四つ表がございますが,一番上が確定記録,これも先ほど申しましたのと同じ対象物ですが,裁判所からの送付嘱託の受理・処理件数ということでございます。これも平成12年,13年,14年,15年と,年間でいえばおおむね1,500件あるいは1,600件程度の受理に対して,1,400から1,500件程度についてはすべて送付ということになっておりまして,おおむね90%程度は開示というか,送付に応じているという状況でございます。平成13年12月に民事訴訟法が改正になったその前後において,特段有意な差はないというように思います。  それから,2段目の表でございますが,今度は不起訴記録の取扱いについてということになります。不起訴記録につきましては,前回も御紹介がありましたけれども,刑事訴訟法47条で,こちらは原則的に不開示という取扱いになっております。ただ,ただし書がございまして,必要性,相当性が認められる範囲内では開示できるという規定になっております。  不起訴記録につきまして,まず裁判所からの送付嘱託につきましては,平成12年,13年,14年,15年とありますが,おおむね50%から60%程度の割合で送付にすべて応じている。それから一部送付というのが30%強ということになろうかと思います。したがいまして,合わせますと80から90%ぐらいというところでございますのと,先ほど申しました民事訴訟法の改正の前後でも,特段その取扱いに変化はないのかなというように思っております。  それから,前回も御質問がありましたが,その下の弁護士会からの閲覧請求に対して,裁判所からの送付嘱託の場合すべて送付の割合が比較的低いのではないかという御質問もございました。これは,件数的に相当弁護士会からの閲覧請求と異なるということと,裁判所からの送付嘱託の場合,往々にして一括してその記録全部を送付してくださいという場合があるわけでございます。そのときに,やはり検察庁として,はい,どうぞと全部出せるかどうかというのは,一応全部記録を見なければいけませんが,先ほど申しましたように前科の記録でありますとか身上の関係記録でありますとか,どこまで応じられるかということをチェックしなければいけませんので,そういった意味でかなり弁護士会からの請求とは違ってきている面がある。他方で,弁護士会からの請求は,件数的にかなりの部分は交通事故の損害賠償請求で実況見分等について,定型的に照会をいただくというものがございますので,そういったものについては特段プライバシー等の侵害のおそれというのは低いということになりますので,許可率が高くなるのではないかなというように思っております。  今申しました,3段目の不起訴記録の弁護士会からの閲覧請求につきましてですが,これも大体見ていただきましたらお分かりのとおり,おおむね90%台で推移して,すべて許可ということになっているところでございます。これも,民事訴訟法の施行前後で特段の変化はないように思われます。  それから,一番下の段の被害者あるいはその代理人である弁護士さんからの閲覧請求につきましての数字がここに書いてあるとおりでございまして,これもおおむね95%から98%程度は許可になっているという理解でございます。  しばしば問題にされますのが,不起訴記録の取扱いの問題でございますが,これにつきましては,先ほどお配りした資料の中で,刑事局長の通達というものがございますので,それを御覧いただければと思います。  これは,平成12年2月時点で,東京地検の方からこの取扱いについての照会がございまして,そのときに刑事局の方で再度また検討して,こういう考え方で運用してはいかがかということで各庁にお配りしたというものです。別紙の方を見ていただきますと,第1が運用の実情と見直しの必要性ということでございまして,ここで述べられておりますのは,犯罪被害者の問題というのが社会的関心が非常に高まっていて,これまで以上に弾力的な運用を行うのが相当でしょうと。第2の具体的指針というところに書いておりますが,証拠の必要性をまず検討する必要があって,当該証拠が代替性に乏しくて,その証拠なくしては立証が困難な場合には応じることもあるでしょうと,それから開示の対象となる証拠ですが,これも代替性の部分,あるいは相当性の部分ともかかわるわけですが,客観的証拠については比較的そういった代替性が認められないことが多いだろうと,実況見分調書はその典型になりますけれども,それに限らず,鑑定書などもその中に入りますし,あるいは交通信号のサイクル表などもそういったものに入るわけで,そういうものは認めてよいでしょうと。  これに対しまして,供述調書になりますと,相当程度関係者の生活状況の中に踏み込むということもございますし,まず証人尋問で対応できる部分も当然あるのだろうということで,こちらは原則としては閲覧謄写にはなかなか応じにくい。ただ,絶対に供述調書が開示されないかというと,それはそういうことではなくて,その時々の必要性,あるいは中身の相当性に応じて考えていくことになるのだろうということが書かれております。  それから,3番目に主体につきましてはそれほど申し上げるほどのことではないのですが,被害者からの照会のほかに,裁判所からの文書送付嘱託についても必要性を考えて,きちんと応じていく必要があると。  一番下の4の開示による弊害の防止ということが書いてありますが,やはり開示に応じるのが相当だと思われる文書であっても,なかなか実際の事案ではこれを開示した場合にどういう事態になるかということを検察庁としては相当程度心配せざるを得ないのが実情でございます。私どものところにも,各地検の方からいろいろと相談が来ますけれども,そういった中で,本当にこれを出してまた新たな紛争をもたらさないだろうかというようなことも考えながら,できる限り円満な解決ができるように運用していこうという相談をしているところでございます。  今の回答書の方はこの程度にいたしまして,あともう1点,今日,パンフレットを配らせていただきました。これは,検察庁と申しますか,私どもの方で被害者向けにどういう刑事手続の流れになっているのか,それから被害者の方はどういうことができるのか,どういうサービスを提供しているのかということをなるべく分かりやすく御説明しようということで作成したものです。かなりの部数作成して,検察庁等に置いて自由にお持ち帰りいただくというようにしております。  この中で,例えば,記録の関係で申しますと18ページのところで,不起訴記録の閲覧について,こういう必要がある場合は閲覧ができますよということを申しております。  それから26ページに,公判中の記録の閲覧やコピーの制度について,どうなっているかという記載をしております。  その次の28ページのところでは,少年事件の記録の取扱いがどうなっているかということについて記載しております。  あと,34ページに確定記録の閲覧についてどうなっているかという記載をしております。見にきたければ来てくださいというのではなくて,私どもとしてはこういうことができますよということを被害者の方にも積極的に知っていただこうという工夫をしているところでございます。以上でございます。 ● それでは,続きまして法務省大臣官房訟務部門の○○関係官からお願いできますでしょうか。 ● 訟務部門からは,口頭で御報告させていただきます。  初めにお断りですけれども,以下で御報告させていただく内容は,この5月に訟務部門の各局に報告を求めて集計した結果ですけれども,漏れがないわけではありませんで,数字の正確性には欠けることがあり得ます。したがって,この報告は,国又は行政庁が当事者となっている訴訟に当部門が関与したもので,平成13年12月1日以降,文書提出命令の申立てが係属していたものについて,その概要を御紹介する程度のものであるという点を御了承いただきたいと思います。  それでは,本案訴訟の内容によって大まかに分類して御報告させていただきたいと思います。  まず,租税関係事件からですけれども,租税関係事件につきましては文書提出命令が合計21件申し立てられておりまして,そのうち5件が却下されており,そのほかは決定がなされていない状況です。  次に入管事件,入国管理関係事件ですけれども,合計12件が申し立てられており,2件が却下,1件が取下げ,1件が本案訴訟の請求放棄による終了,その他は決定がなされていない状況にあります。  その他の行政事件についてですけれども,公務員の転任処分に関するもの,あるいは車両運送事業免許に関するものなどがありますけれども,いずれも決定がなされていない状況にあります。  続いて民事事件でございますが,いわゆる戦後補償事件に関するものが3件申し立てられております。このうち2件は,全部又は一部認容されており,1件は決定がなされていない状況にあります。  今申しましたのは文書提出命令申立てが認容された文書ですが,具体的にどういうものかと申しますと,戦争中我が国において強制的に労働に従事させられたと主張する朝鮮人労働者の未払賃金の供託書,これが認容された文書でございます。  その他の民事事件については,国有財産に関するもの,郵便貯金に関するもの,独禁法違反審判事件の記録の提出を求めるもの,国立大学病院の医療過誤に関するもの,社会保険の診療報酬に関するもの,労災補償保険に関するもの等多種多様でございます。今申し上げたものの中で,公正取引委員会に対し独禁法違反審判事件の記録の提出を求める申立てがございまして,これは一部認容されましたけれども,現在抗告審に係属しております。  また,労働基準監督署長に対し,労災補償保険法に基づく遺族補償年金等支給請求事件に関する事件記録の一部の提出を求める申立てが認容されております。  最後に,国家賠償請求事件に関する文書提出命令申立てのうち,刑事事件関係書類について申し上げますと,合計9件の申立てがありまして,そのうち7件が却下されており,1件が一部認容されており,1件が決定がなされていない状況にあります。  今申しました一部認容された事案でございますが,申立人から被疑事件の逮捕状請求書など数十点に及ぶ文書提出命令の申立てがなされたものです。この事案につきましては,申立人は民事訴訟法220条の1号,3号後段,4号に該当すると主張しましたところ,原決定は1号と4号の該当性は否定しましたが,3号後段のいわゆる法律関係文書に該当するとしました。その上で,刑事訴訟法47条ただし書に該当するか否かの検察官の判断が合理性を欠くというべき特段の事情が認められるとして,一部認容が決定されました。要するに,3号後段に該当するとし,刑事訴訟法47条ただし書の検察官の判断が合理性を欠くといって一部認容の決定をしたものです。  これに対しては,国が即時抗告をしましたところ,抗告審は,検察官の判断に合理性を欠く特段の事情は認められないとして,原決定を取り消し,申立人の申立てを却下する決定をしております。  すべての事案を御紹介することはできませんけれども,平成13年12月1日以降,認容決定がされた事案のうち,当部門で把握しているものについては,今申し上げたものがすべてでございます。  訟務部門からは,簡単ですけれども以上でございます。 ● それでは,引き続きまして,最後になりまして大変恐縮でございますが,○○参考人と○○参考人からお願いできますでしょうか。 ● 前回,昨年の8月2日にアンケート結果等を含めまして一度御報告をさせていただいておるのですけれども,その後の経過等も踏まえまして,日弁連の方から報告をさせていただければと思います。  それでは,早速報告に入らせていただきますけれども,一昨年の6月27日に民事訴訟法の一部を改正する法律というものが成立しまして,公文書について私文書同様に一般に提出義務が課されるようになってから,早2年の月日がたとうとしております。このような経過の中で,公文書提出命令制度の積極的利用が着実に進められている状況にあるようなのですけれども,ただ先ほどの改正法の中では,刑事記録等の一律除外規定というものが盛り込まれまして,現在においても刑事事件の犯人に対し,被害回復を求める損害賠償請求訴訟や住民訴訟,あるいは株主代表訴訟と,後で詳しく申し上げますけれども刑事記録が重要な証拠となる裁判においてもこれが利用できない状況がいまだに続いております。しかしながら,改正法の審議におきましては,法務大臣より刑事確定記録の閲覧謄写請求はほぼ全件許可されており,不起訴記録等も含め,文書送付嘱託あるいは23条照会制度によりほぼ9割以上照会あるいは嘱託に応じているという答弁がなされておりまして,これが既存制度によって刑事記録の利用が可能なことが一律除外規定を導入する一つの大きな理由として掲げられていたところでございます。  国会におきましては,改正法の附則において,既存制度の運用状況等を勘案した上,3年後に改正法の見直しを行うことが確認をされておるところでございますが,日弁連としては昨年8月に申し上げましたとおり,23条照会,あるいは文書送付嘱託,あるいは刑事確定記録法に基づく確定記録の閲覧,あるいは犯罪被害者保護法3条に基づく公判記録の閲覧謄写手続といった既存制度の中で,どのような開示状況が行われているかについてのアンケートを引き続き行っておりました。これにつきまして報告をさせていただければと思っております。  まず最初に,アンケート結果ですけれども,アンケートの前提となる調査状況からまず申し上げます。  調査状況としては,別紙につけさせていただきました。前回同様,全国の弁護士,各単位会の弁護士あてに刑事記録の開示状況等についてアンケートにお答えいただきたいという形で調査を行ってまいりました。いかなる種類の刑事記録が必要になったかについては,判決の確定した確定記録,公判記録,捜査がなされているが起訴がいまだになされていない起訴前記録,そして捜査がなされたが不起訴に終わった不起訴記録の四つに分類をいたしました。そして,開示請求の際に用いた方法と請求先とを確認した上で,開示の可否について提示してもらいました。一部不開示ないし全面不開示の場合につきましては,不開示理由とそれによる不都合についても示してもらうことといたしました。  各弁護士に対するアンケート依頼は,昨年の1月中旬,6月末及び12月末の3回に分けて行い,それぞれに対応する形で1月中旬の呼びかけに対しましては2月1日から5月29日まで,6月末の呼びかけに対しましては7月2日から24日まで,12月の申入れに対しましては平成15年の1月10日から4月2日までの間,それぞれの単位会の弁護士より回答が寄せられました。  回答者の構成ですけれども,ここには書きませんでしたが,北は旭川から南は沖縄まで,全国満遍なく回答を返してくれたように,集計は私が担当したのですけれども,思います。回答数は,本日の段階で734件に上っておるわけですけれども,今回はこのうち集計作業が可能であった627件を前提に,調査結果及び傾向について検討していきたいと思います。  刑事記録の開示を要した理由の傾向等につきまして,まず御報告いたしますと,12ページの方に添付させていただきました図Aは,民事事件において刑事記録の請求を要した理由とその請求対象となった記録の相関関係を示したものであります。請求を要した理由の中で最も大きな比率を占めるのは,前回8月に報告をさせていただいた際と同様,交通事件における被害者による損害賠償請求における場合というのが一番多うございまして,全体の56.6%を占めます。それに続いて多いのが,交通事故以外の刑事事件について,被害者が加害者に対して起こした損害賠償請求事件ということで,全体の28.3%を占めます。  これらの事件の中には,殺人事件の遺族のほか,傷害,強姦等の身体への侵襲を伴う重大事件の被害者や,窃盗,横領,背任といった経済事犯の被害者による事件等も含まれております。  このように,全体の傾向としては刑事事件に直接かかわる形で提起される損害賠償請求事件において刑事記録が必要となるケースが多いようでございますが,このほかにも株主代表訴訟や住民訴訟,国賠訴訟といった行政関係の訴訟,更には労災,離婚,保険金請求--これは生命保険の請求なんですけれども--等,刑事事件の開示を要する事案というのは非常に多岐にわたっておりまして,中には株主総会決議取消訴訟においてこれを要求したという事案まで見受けられたところでございます。  次に,対象刑事記録との関係で見ていきますと,全般に確定記録の請求が多いようでございますけれども,同時に不起訴記録の開示請求もかなり数に上っておりまして,全体の34.1%を占めております。殊に,交通事故における損害賠償請求事件での請求件数を見ていきますと,確定記録とほぼ同数,149件,41.9%という数字がございまして,当該事案においては確定記録と並んで不起訴記録の請求が多く行われている状況がうかがわれます。  12ページの図Bは,各記録を請求するに当たっての請求先についてまとめたものです。全体の8割強が検察庁あての請求でして,先ほどの不起訴記録,あるいは確定記録,いずれも検察庁の方で保管されますので,そういう意味では平仄が合ってくるということになります。裁判所あての請求に関しましては,公判記録の請求がほぼすべてを占めていることからも明らかなとおり,その大部分が2000年に制定された犯罪被害者保護法3条に基づく公判記録の閲覧謄写請求であるものと思料されます。  次に,刑事記録の開示状況ですが,13ページの表1は,開示請求の回答について対象刑事記録ごとにまとめたものでありまして,表2は,請求方法と開示請求の回答との相関関係について示したものです。表3は,この両者の内容を掛け合わせたものということになります。  開示請求の回答に関しましては,日弁連の会員が特定し,請求した請求対象記録がすべて開示された場合を全面開示,そのうち一部分しか開示されなかった場合を一部不開示,すべてについて開示を拒絶された場合を全面不開示というように定義し,それぞれで数字をとっております。  以上を前提に,まず表1を見ていきますと,注目すべきは請求件数の全体のうち,全面開示の件数が260件,全体の41.4%にとどまっていることであります。このことは,日弁連の会員が刑事記録を開示請求した場合,一部か全部かはともかく,6割近い数字の中で開示が拒絶されている場合があることを示しておりまして,前述の法務大臣の答弁と現実との乖離があるのではないかというところがうかがわれるところでございます。特に,起訴前記録及び不起訴記録の不開示状況というのは顕著でありまして,起訴前記録,不起訴記録の不開示件数は,それぞれ41件,161件でありまして,不開示率はそれぞれ87.2%,75.2%という数字となっております。  次いで表2を見ていきますと,刑事確定記録法に基づく閲覧請求の方が,ほかの方法により開示請求した場合に比べて全面開示率が高いことがうかがわれ,犯罪被害者保護法に基づく公判記録の閲覧謄写についても,41.4%を上回る一方,文書送付嘱託による開示請求の場合については,当該方法に比して利用頻度が高い割に全面開示率が低い状況がうかがわれます。特に,弁護士法23条の2に基づく報告請求の場合よりも開示率が低いというのは注目すべきでありまして,先ほど法務省の方からも御報告があったかと思うのですけれども,23条照会の場合については実況見分調書に絞り込んで開示請求をしている場合がありますので,その辺で開示率の違いというのが出てきているのかもしれないなというように思われるところでございます。  表3は,表2の分析結果を記録ごとに更に精緻化したものでございます。  続きまして,14ページの表4は,具体的にどの記録が原因で一部不開示あるいは全面不開示なっているのかというものを検討するために作成したものです。  この表4を見ていきますと,被告人,被疑者の供述調書の不開示の事案が210件,それ以外の第三者の供述調書が不開示になっている事案が223件であり,一部不開示ないし全面不開示の合計件数366件と比しても,また他の記録と比較しても突出していることが言えます。  表5は,表4とは別の観点からそれぞれの記録について開示請求を行った場合にどの程度開示がなされているのか,それが確定記録である場合とそれ以外の場合とでどの程度の差があるのかを検討するために作成したものでございます。これによると,第三者,被告人,被疑者を問わず,不起訴記録の供述調書は85%から90%の幅の割合で不開示とされている状況がうかがわれるほか,不起訴記録の鑑定書及び死亡診断書に関しても実はかなりの高率で不開示とされている場合がうかがわれるということでございます。いずれもほぼ80%ということになります。いずれも確定記録においてはかなりの高率で開示がなされている状況にありますので,不起訴記録に対する請求であることが大きく影響しているものと思料されます。  一方で,実況見分調書に関しましては,確定記録とそれ以外の記録であるとを問わず,かなりの高率で開示されている状況にありまして,確定記録で96.1%,不起訴記録あるいは公判記録等でも80%をちょっと上回る,こういう状況です。  最後に起訴前記録に関しましては実況見分調書も含めまして総じて不開示率が高いということが注目されます。全体の傾向として言えるところは,確定記録よりも公判記録,起訴前記録,不起訴記録の方が不開示になりやすく,供述調書は不開示になる可能性が高いということでございます。そして,両方が重なると更に開示率が下がるということになります。  また,1番に関連しまして鑑定書や死亡診断書といった客観的証拠に関しましても,不起訴記録の場合には開示率が低くなるという傾向がうかがわれます。  以上の点につきましては,昨年8月2日においての報告においても認められた傾向でして,前回の際は272件という,アンケート件数の中で認められた傾向であったのですけれども,それが3倍の600件程度のアンケートということにはなるわけですが,事例が集積した現段階においてもなお同様の傾向が確認できたことは注目すべきであるというように日弁連としては考えております。  最後に,日弁連としての意見ですが,そもそも前回の報告でも申し上げましたけれども,弁護士の実務感覚としては,確定記録以外の刑事記録について開示請求を行ったとしても,ほとんど全面開示がされない,開示がされる場合というのは極めて少ないように思っているのが実情でして,開示されても実況見分調書が限度との印象が以前からあります。そして改正法の審議において,先ほど申し上げました法務大臣答弁がほぼ9割以上の嘱託あるいは照会に応じているという答弁に対しましては,実態と大きくかけ離れているのではないかというように思っておったところなのですけれども,今回,3回にわたるアンケート調査により数字的にもそれが裏づけられたのかなというように考えております。  被疑者死亡の事案,特に典型的なところでは交通事故における加害者・被害者双方が死亡した事案などの場合が考えられますけれども,このような事案においては刑事事件が不起訴で終了しまして,その記録が不起訴記録として検察庁内に保管されることとなるわけでしょうけれども,捜査に際して作成される実況見分調書や現場の状況を示す写真,更には死亡診断書や鑑定書といった客観的資料が事件実態を把握するための唯一の資料である場合も数多く見受けられます。しかし,残念ながら現在これらの資料は民事訴訟の場において開示される可能性というのは,先ほどのアンケート結果を前提とする限り,極めて低いのではないかというように考えられます。  一方,供述調書に関しましては,事件の実態把握という点で有益であるのみならず,事件直後に作成されたものであるということとの関係で,事件当事者や目撃者の法廷での供述について信用性を検証する上でも重要な意味を持つ場合が多いように考えられます。さらに,加害者が自らを利するために,刑事事件において捜査機関に対して行った供述と異なる供述を民事訴訟で行ったのではないかと伺われる事案も実は数多く見受けられるところでして,今回アンケートに答えてきた弁護士の中でも,そういうことを指摘している弁護士が数多くおったわけですけれども,供述変遷の有無を確かめるという意味でも,供述調書の記載というのは重要な意味を持つ場合があります。ところが,これについても極めて開示されにくいというのが現状です。  この点,不開示の理由につきましては,今回のアンケートでも不開示により生じた不都合と合わせて情報収集を行っております。各機関より明示されたとされる理由の中で最も多いのは,プライバシーとのバランスという話で,これ自体は理解できない話ではないのですけれども,後述のとおり訴訟進行に深刻な影響が生じる場合もあり,柔軟な対応が望まれるところです。  このほか,前回も報告したとおり習わしであるという不可解な理由が述べられている場合等もありまして,その辺で非常に納得がいかないという声なども見受けられたところでございます。  詳しくは,17ページの表6にまとめさせていただきました。非常に字が小さくて見にくくて大変申し訳ないのですけれども,詳しいところはこちらの方を見ていただければと思います。  前述のとおり,刑事記録の開示請求は,刑事事件の被害者,あるいはその遺族により提起される損害賠償請求事件においてなされる場合が多く,当該訴訟の当事者は民事訴訟といういわば最後の手段を通じて自らの損害回復を図っているものと思料されるところでありますが,硬直化した実務運用がこのような訴訟における真実発見と被害者救済を妨げるおそれがある現在の状況は,極めて理不尽ではないかというように考えられます。  実際,不開示により生じた不都合の中には,目撃者の人証申請が住所が分からないのでできないと,結局そういうことで敗訴してしまったという事例や,あるいは相手方の住所が分からず,そもそも訴訟を提起することができなかったという事案,PTSD等の問題で,現場再現が不可能であるにもかかわらず,実況見分調書等の必要資料が出ず,立証に支障を来してしまった事例等,訴訟進行に深刻な影響が生じた事案等も見受けられました。また,交通事故に関連して,各当事者の車のスピード,信号灯の表示といった事故当時の周辺状況がいずれもよく分からないため,過失認定に支障を来したとする回答例は,1件2件ではなくて非常に多数に上っております。このような状況が発生する根底には,刑事記録について提出の義務が存せず,いわば各機関の裁量によって開示・不開示が判断されていることが大きく影響しているものと思われます。  供述調書に関しましても,不起訴記録で開示されている事例というのもあるようでして,開示されている事例と開示されていない事例の基準というのがどこに置かれているのか,これがいま一つよく分からないところでございます。  以上のような状況の中で,改正法における刑事記録一律除外規定に関しては,撤廃の方向で検討されるのが相当ではないかというように日弁連としては考えております。  最後に,新聞を本日お配りしておりますけれども,供述調書に関しましては2002年の9月8日に供述調書の--5月9日付の新聞で,捜査報告非公開は違憲ではないかという損害賠償請求訴訟が提起される状況があったようでございまして,こういう事件が起こっていることからも分かるように,不起訴記録の供述調書というのは開示されないというのが一般的な傾向のように思われます。 ● 補足で1点だけ。  不起訴記録に絞りまして,特に交通事故の事例なんかを前提に考えますと,今回,法務省の方からも御報告がありましたように,全く供述調書についても不開示にしているわけではないのですね,日弁連の調査でも,一部出ている事例があります。ただ,今,○○参考人の方からも申し上げたように,どういう基準で出したり出さなかったりしているのかというのは,たしか去年も法務省の方で御説明をされるというようにお聞きしていたのですけれども,今回出されました平成12年の資料,供述調書は原則として基本的には出さないと,ただ時々の必要性に応じて,その相当性を判断して出すか出さないか検察庁の方で判断しますということだけですので,本当にこれは弁護士として実務に携わる,あるいは裁判所にとっても,何がどういう基準で出たり出なかったりするのかというのが分からないという実情にあるという点を,1点だけ御報告しておきたいと思います。やはり裁判所の司法審査を受けて,相当性,必要性について判断を受けるべきではないかというのが一貫した日弁連の意見であります。 ● 公務文書についての文書提出命令制度の運用状況につきまして,関係の4機関から一通り御説明をいただきました。そこで,ただいまの御報告につきまして御質問等があると思いますので,お願いしたいと思います。その際に,どなたにお聞きになりたいかということを明示して御質問していただければ幸いでございます。どなたからでも,どうぞお願いをいたします。 ● 最高裁判所の統計についてお尋ねしたいのですが。  先ほど,2枚目の少年事件を例にとりますと,この少年事件の文書送付嘱託に応じた件数と応じなかった件数という分け方になっているのですが,確認的な意味ですが,応じた件数というのは,これは要求があったものを全部出したものと一部出したものが両方あるのか,そういうふうなカテゴリーはないのか,そこだけちょっと教えていただけませんか。 ● 応じた件数の中には,一部というものも含まれているということです。 ● どのぐらいが一部でどのぐらいが全部というのはありますか。統計として。 ● 今,詳細は分かりません。 ● ○○参考人に確認なんですが,調査の対象なんですけれども,最高裁と法務省の方は何年の事件という形で数字が上がってきているのですが,日弁連の方は申請をした時期という観点からは,そこはオープンにされているわけですか。何年の事件かという観点から,申請時期が限定されていないと,大体何%かというところの比較がしにくいように思うのですけれども,そこは時期の限定なしにアンケートを求められたのかどうか。これは確認です。 ● 申請時期については,アンケート集計をお願いした時期というのがありますのと,それからあと,一律除外規定のその後の,制定された以降の運用状況を見たいということでお話をしておりますので,平成13年度以降という形にはなるのだろうと思うのですが,具体的にいつ幾日という話を,日にちで,アンケートを見ていただいたら分かるとおりでして,答えてくださいという聞き方はしておりません。 ● 法務省刑事局と弁護士会双方にお聞きしたいのですが,統計のとり方の問題なんですけれども,法務省の刑事局でいうと,例えば,不起訴記録の弁護士会の閲覧,その部分を見ますと,すべて許可,あるいは一部許可という表現を使っておられますが,そうしますとこれは開示する方向に重点が置かれたような統計のとり方になっていますね。一方,弁護士会の方を見ると,不開示及び一部不開示という表現になってきますと,開示しない方向にポイントが置かれているような数字のとり方かと思うのですね。したがって,こういうのは読む方にとって非常に混乱する統計のとり方かと思いますので,これはむしろ一本化するような統計のとり方の方が正しいのではないかと思うのですが,いかがでしょうか。 ● では,まず刑事局の方から。 ● すべて許可,それから一部許可,不許可と,こう書いていますのは,要するに判断といいますか,結果を表示する際に,申請者がAとBとCと,この書類を見せてほしいと,こう言ってこられたのに対して,三つとも開示しますと言ったのか,Aだけ開示しますと言ったのか,全部駄目ですと言ったのか,多分答えはその三つになるのだろうということでこういう記載をさせていただいているので,どっちの方が都合がいいかということでやっているのではないということと,それからこれはかなり事件数的にも大変多くなっておりますので,全国の担当者,事務官において機械的に繰って精査をして出してもらっている,そういう統計のとり方でございますので,よろしく御理解いただきたいと思います。 ● 日弁連の方,もしお答えになることがありましたらどうぞ。 ● 日弁連としても,基本的に表現をしようとしておるところは,先ほど法務省の担当の方がおっしゃられたところと同じでして,書きぶりとして一部不開示というように書いてありますけれども,結局法務省の方でおっしゃっておられる一部開示と内容としてはイコールであると。ただ,我々として知りたかったところは,この9割以上全面的に開示しておりますよというお話がありましたので,実際開示の場合というのがどのぐらい本当にあるのだろうかというところを見たかったので,こういう聞き方,いわば書き方になっておるというところでございます。 ● 双方見比べて理解するということであればいいのですが,どちらかの資料を見て,どういうようにこれを理解するのだろうかということになってくると,私は先ほど言ったような混乱が起きはしないかということ。それから,法務省なり日弁連なりの立場によって意見が違ってくることになりはしないか,こういうふうなことを危ぐするわけですから,その辺のところをお聞きした次第であります。 ● 法務省刑事局の方にお伺いしたいのですが,基本的なことなんですが,閲覧請求件数とか,あるいは送付嘱託の受理件数等のこの件数というのは,文書ごとの件数ではなくて,複数文書をまとめて1回来れば1件というようにカウントされているのかどうかということと,それから一部不許可とか一部送付の内容には,複数文書請求された場合に,A文書は許可するけれども,B文書は全体的に不許可にするというものも一部不許可というようにカウントされているのかどうか,あるいはもう少し一部不許可とか一部送付の内容の中に,一文書の一部は開示しているけれども,残りは不開示にしている,そういう形での一部不許可,一部送付がどの程度なされているか,その辺の統計があるかどうか。ちょっといろいろ申し上げましたが,お願いいたします。 ● まず,受理件数のカウントの仕方ですけれども,これは申請者から書類なり何なりで請求が来た通数ということになります。確定記録であれば,確定記録の閲覧請求書というのが出てまいりますし,裁判所からは送付嘱託書というのが一本で参ります。その中に,もちろん一つの文書を出してほしいというものもありますけれども,そうではなくて,この記録,一件記録全部出してくださいというものもありますし,もうちょっと選って,10点出してほしいと,こういう御依頼もあります。それに対して,全部不許可というのは文字通り全部不許可になるのですが,一部不許可,あるいは許可というのは,先ほども言いましたようにA,B,C三つあるうちでA,Bはお見せしますけれども,Cは申し訳ありませんというのもありますし,それから1通の中で,例えば,供述調書の中で住所とか年齢とか,そういう部分はマスキングをして,中身は見ていただいて結構です,こういうものもあります。そこは区別を実はしておりませんので,統計的に大体どれがどのぐらいということまではちょっと私どもも把握はしておりません。 ● ほかにいかがでしょうか。 ● もう1点,済みません。法務省刑事局にちょっとお尋ねしたいのですが,一つは簡単なことなんですが,今日いただいた資料の中で,刑事局長通達でしょうか,回答ですね,これが東京地検の検事正あてになっていますが,全国に対して大体こういう対応を既に出しているという理解をしてよろしいのかが1点。  それからもう1点は,この文書で大分具体的にどういう文書にどう対応するかというのが大分分かってきているのですが,これが統計を見ますと,今の議論にありました,いただいた統計の閲覧状況の2枚目には,一部送付,一部許可としかなくて,文書ごとにどういうふうな扱いの統計になっているかの数字が出ていないのですが,これは数字がないのでしょうかというのが二つ目の質問であります。昨年の8月2日にこの点がたしか少し議論になって,明らかにできればというようなお話があったように記憶しているものですから,お願いいたします。 ● まず第1点目ですが,刑事局長の回答書は,東京地検検事正あてに回答したものですが,これと同じものを全国の検察庁に送付しておりまして,これに従ってやるということになっております。  それから2番目に,確かに個々の文書の種別に応じてどのぐらいの開示がなされているかということという問題がありますけれども,ちょっとこれにつきましては私どもも統計をとっておりません。もう記録自体が非常に膨大なものになっておりまして,それを個々的にというのはちょっと難しいというのが実情です。  前回,どういうものをどういうふうな扱いをしているのかという御質問がございましたので,これは私どもの内部的な文書ですけれども,ある程度具体的に考え方を示したものがございましたので,今回ここに出させていただいたという次第です。 ● ほかにはいかがでしょうか。 ● 私から,質問というわけではないのですけれども,新聞記事の点で若干だけ補足をさせていただければと思っております。  見出しがこういう書かれ方をしておりまして,私も必ずしもこの事案の詳しい経緯について承知しておりませんし,この事案の中身について踏み込むのも適当ではないというように思っておりますけれども,1点だけちょっと補足をさせていただきますと,この事件では,当初実況見分調書等についての閲覧の申立てがあって,それについてはそのまま見ていただいたという経緯があります。刑事事件については不起訴になって,それに不服だということで検察審査会の申立てがなされて,検察審査会は不起訴相当ということでこちらとしては終わったわけです。被害者の方が民事訴訟を提起されて,この中で捜査報告書とか供述調書が開示されなかったということで書かれておりますが,ここでもよく読むと分かりますが,目撃者の人の供述内容が検察官の調書と法廷で違うのじゃないかというような話が出たということがございまして,その点で再度検察庁の方に開示の請求というか,送付の嘱託がございました。検察庁の方でそれを踏まえてよくよく検討しまして,矛盾した供述の点,その点を抜き出してというか,要旨という形で,ほとんどそっくりそのままなんでしょうけれども裁判所の方には提出したという経緯がございます。したがいまして,そこは何も出さないという対応をしたということではなくて,本当に必要な部分についてはできる限りの対応をさせていただいたというように記憶しています。  ただ,被害者の方は,なかなか納得をいただけておらなくて,今度はこの捜査を担当した検察官が目撃者を脅迫したのじゃないかと,それからうその調書をとったのじゃないかということで,その検察官を職権濫用とかで告訴をされたり,こういう非公開が違法・違憲だということで国賠訴訟になったと,そういうような経緯だというように記憶しておりますので,ちょっと御参考までにということです。  先ほどちょっと申しそびれたのですが,記録の開示につきましては,私どもも非常に神経を使わなければいけませんで,見せてほしいと言われる弁護士さんなり被害者の方のお気持ちは非常によく分かるのですが,他方で見せたことによる様々なトラブルというのが実際には発生しているところです。確定記録になりますと,ある程度原則的に見せなければいけないというところがありますので,開示をしていくわけですが,そうしますとその調書を持ってその人のところに押し掛けていった例とかいうのもありますし,それからこれは調書とは全く関係ない話なんですが,交通事故の被害者の方が,刑事処分について不服だということで,たまたま何らかの形で目撃者の所在というのをお知りになって,その人の家のところに何遍も行って,何か大変なことになって,目撃者の方が引っ越しを余儀なくされてしまったというような様々なトラブルが現実にございます。検察庁は常にそういうはざまの中で判断を迫られていると,そういう問題が起こらないように対応せざるを得ないということがございますので,ちょっとつけ加えさせていただきます。 ● そのほかに何かございますでしょうか。  私の方から1点,よろしゅうございますか。  刑事局の,今日通達を配布していただいたのですが,この通達は,先ほどの質問にもありましたように東京地検だけではなくて,他の全国で同じ扱いということを言われましたけれども,これは,例えば,送付嘱託をする裁判所とか,あるいは弁護士会の方にも同じものは行っているのでしょうか。それとも今まではそれは開示していなかったのでしょうか。この通達自身のことについて。 ● この回答書全文は,それほど外には出していなかったと記憶していますが,不起訴記録の取扱いについて,この平成12年の時点でかなり弾力的に運用しますということは,当時記者発表もしたように記憶しておりますし,それから概略的な部分はホームページにもたしか記載していたというように思っております。  細かい話になりますと,被害者の方にこれを細かくお見せしてもというところがあって,そこまでは載せておりませんが,先ほどのパンフレットにも概略のところを書いてある,こういう状況です。 ● 日弁連の方にお伺いしますけれども,日弁連の方は弁護士会から照会をする場合に,こういう基準があるということは御存知の上で照会しているということでしょうか。 ● 皆さん知っています。 ● 知っているわけですね,分かりました。  ほかに何かございますでしょうか。せっかくの機会でございますので,御質問がありましたらどうぞ。 ● 1点だけよろしいでしょうか。  基準については当然事件を手がけている弁護士は皆さん知っていますので,最初から出ないものについては申請しないというのがほとんどの申請の実情です。  それから,現場の検察官の方と日々弁護士としては折衝することが多いわけですね。現場の,特に被疑者の人の供述,あるいは被害者の方の供述について話しますと,検事さんの方ではほとんど読み上げてくれるケースもあるわけでありますよ。別にプライバシーでも何でもない,双方がこう言っていますよということで。じゃ,それをコピーくださいというと,いやこれはちょっと基準に照らして……ということで,コピーは出せないけれどもほとんど読んでくれるというような……。それがいいのかというと,やはり別の評価だと思うのですよ。出せるものが出ないという実情は,ほとんどの弁護士会が経験していることですので,何度も言いますけれども,きちんと裁判所の判断を受けられるようなシステムに変えていただいても,法務省,検察庁の方にとっても実際はそんなに問題ないのじゃないかなと,現場の検事さんの方が困っていらっしゃる場合も,そういう意味でも逆の意味で困っていらっしゃるケースもあると思います。多いと思います。 ● 先ほど○○委員から御発言がありましたのは,刑事局の方の資料と弁護士会の資料と,一見して随分印象が違うではないかという御質問だったと思います。また○○委員からは,日本弁護士連合会のこの資料について,もう少し時期的な点がはっきりならないだろうかという御質問があったわけでございますけれども,私どもこの問題について審議する上で,やはり事実がどうなのかということをきちんと全員共通した理解の上に立って,新しい制度を作るなり見直すなりしなければいけないと思いますので,この点についてなお御工夫していただく可能性はありますでしょうか。日弁連の方,いかがでしょうか。御検討いただけますでしょうか。 ● はい。 ● それでは,その点どうぞよろしくお願いいたします。  ほかに何かございますでしょうか。 ● これはお願いなんですけれども,先ほど訟務部門からの御報告は口頭で,資料は出ていないわけですけれども,いろいろ法務省の訟務部門で全体を掌握するというのは難しいとか,いろいろな問題はあるのだろうと思うのですけれども,お差し支えなければ,先ほどの口頭の部分だけでも後から文書にして出していただければ有り難いと思います。 ● そういたします。 ● そうですか,どうぞよろしくお願いいたします。  ほかに御意見,御質問がないようでございましたら,公務文書の文書提出命令制度については,この程度にさせていただきたいと思います。  前回及び今回のヒアリングによりまして,公務文書についての文書提出命令制度の運用状況がかなりはっきりしてきたように思います。制度の見直しの要否に当たりましては,更に御審議を続けさせていただき,そのためにまた追加して出していただく資料がありましたら,是非御協力をお願いしたいというように思います。  今日はお忙しい中,特に○○参考人と○○参考人にはこの会議にお出ましいただきまして大変恐縮でございました。ありがとうございました。  それでは,ここで休憩にしたいと思います。資料を配布したいというように思っておりますので,ちょっと長めに休憩をとらせていただきたいと思います。           (休     憩) ● 審議を再開いたします。  後半は,民事執行制度の見直しに関する検討事項について,関係諸団体の方々にお越しいただいておりますので御意見を伺いたいと思っております。  本日,お越しいただいておりますのは,やまと債権管理回収株式会社執行役員の○○参考人。全国銀行協会からは,みずほ銀行次長の○○参考人,及び融資部調査役の○○参考人,それから東京地方裁判所執行官の○○参考人にお越しいただいております。4人の方々には,本日は大変お忙しい中,当部会までお越しいただきましてどうもありがとうございます。せっかくの機会でございますから,御説明を伺った後,委員・幹事の皆様方から御質問なり御意見を賜りたいというように思っております。  御説明をいただく順序でございますけれども,まず○○参考人,それから○○参考人,○○参考人,○○参考人,この順番でお願いしたいと思っております。  それでは,早速でございますけれども,やまと債権管理回収株式会社○○参考人からよろしくお願いしたいと思います。 ● 済みません,時間がなくて,直前にあわててメモということで書いてきました。順序も中身もとんちんかんなところがありますけれども,今日は最低売却価額制度についてということで意見を述べてくださいということなので,それを中心に,たしか15分ぐらいということでお時間をいただいております。  まず最初に,私自身は二十三,四年不良債権の回収ばかりやっておりまして,ちょうど民事執行法が生まれたころから回収専門にやってきました。二十三,四年の間に私自身の手で手がけた民事執行事件,これは動産,債権,不動産,仮差押えとか仮処分とか,1,000件は超えております。一応経験だけは豊富なつもりでおります。それではよろしくお願いいたします。  メモに従って1番,民事執行法が設立されたときに,このころは不動産の競売市場が今より物すごい狭い社会でございました。このころは暴対法もありませんでしたし,いわゆる暴力団がのさばっていたときで,競売に参加する人も非常に限られていた,ちょっとそれ寄りの競売ブローカーばかりだったのですね。この民事執行法制定の前は,旧競売法で競売事件をやっていたわけですけれども,御存じのとおり競売場には普通の素人はおっかなくて入れない,私も1回入ったことがありますけれども,取り巻いて,素人は入れないのですね。それで,彼らが談合で順番に札を入れる権利を持っていて,次の事件はおまえ,次の事件はおまえと決まっていて,そういうような競売事件をやっていた。それでは幾ら何でもまずいので,期間入札にしようかと,こういうことになった経緯があります。  そのころは,窮地に陥った債務者を,そういう競売を通して担保不動産を低価格で食い物にされちゃう,こういうような時代であったので,たしか○○さんという有名な判事さんが民事執行法を主に手がけられたと聞いていますけれども,この方が最低売却価額を,実際彼から私は聞いたのですけれども,時価の1割下げて売れば,業者も買えるし素人も買えるし,それ以上はもう下げない,要するに裏社会の食い物にされないようにしようと,こういうことで最低売却価額というものを決めたと聞いております。  現在は,環境が全く変わっておりまして,この競売市場に参加してくる方々というのは飛躍的に増えまして,あるいは競売情報誌とか,皆さんも御覧になったことがあると思うのですけれども,こういうのがたくさん出ておりますし,一般の不動産業者も競売を通して物件を仕入れようと,こういうことでインターネットもありますし,それから物件の閲覧室に行けばお分かりになるのですけれども,毎日アルバイトを雇って,朝から晩まで物件をコピーしているのですよ。そうやって,物すごいいろいろな業者の目を通して入札に参加してくるわけですから,全く最低売却価額そのもので線を引く意味がどこにあるのかというのが今の状況だと思います。  それから,米印についてですが,最低売却価額だけでなく,いわゆる執行妨害とか何とかという問題,よく採り上げられますけれども,これはひとえに大手銀行ですね,特に中小はまだ結構回収を頑張っておるのですけれども,大手銀行というのはほとんどやったことがない。一時私も○○にいたことがあるのですが,ほとんどそういう能力,ノウハウ,実績,競売やること自体が銀行の恥だというぐらいのことを考えているところでございまして,いわゆる銀行といえども貸金業者ですから,抵当権をつけて,それを回収するための管理する手法とか,そういうことができていない。これがひとえに不良債権を増長させているというか,ほっておかざるを得ない状況で,これがもうすべての基本問題じゃないか,こういうようにとらえております。  それから2番,「最低売却価額制度と執行妨害は基本的に無関係」。これは,何か最低売却価額が執行妨害を歯止めして価額維持しているとか,そういう論議が何かあるように聞いておるのですけれども,実は全然別問題,執行妨害というのは一つの問題ではありますけれども,最低売却価額とは全然問題が違う問題であると私は考えております。  先ほど申しましたように,いろいろな方が競売に参加してくる中で,最低売却価額を定めて今は売却に出しておりますけれども,だれも買わなかったらそれはマーケットがもっと低いのですね,最低売却価額が高かった。もしだれか,何人かが参加してきたら,これは最低売却価額を決める必要はない。いずれにしても必要ないのですね。  それで,この(1)の執行妨害の方法というのは大体大きくわけて三つありまして,立ち退き要求型--私が勝手にこういう名前をつけているのですけれども--要は居座って立退料くれという,100万円とかその程度の話のいわゆる悪質化した不動産業者とか,ちょっとチンピラ的なところの方が多いのですけれども,そういうのがかなり多い。それから,「転売買受け型」と私は言っていますけれども,大きなビルなんかを占有して,自分たちが占拠しているのだと見せて,しかも権限もちゃんと賃貸借契約結んでやって,落としたら承知しないぞというような形をとって最低売却価額をどんどん下げて,最後に自分たちが落として,落とした後占有者が出ていって,補修してまじめな方に高く売る,こういうような,これが一番金額が大きくて本格的な占有の仕方なんですけれども,そういうやり方とか,あるいは債権回収目的で競売になっている不動産を所有者から安く買って,どうせ取られちゃうのだからいいだろうと安く買って,それを第三者に賃貸して転貸するとか複雑な形で賃料を回収していくとか,こういうやり方ですね。  それから,この執行妨害というのは,先ほど転売買受け型と御説明しましたけれども,これは不動産が動くので物すごい巨額な利益を彼らにもたらすのですね。従来,暴力団の資金源というのは伝統的で覚せい剤とか売春とか風俗産業とかであったのですけれども,今は警視庁のある方に聞くと執行妨害が一番資金源となっている,一番じゃないかと,こういうことを言っている方もいらっしゃいました。いずれにしても,そのぐらい執行妨害が横行しているということです。  それから,(2)番は「競売市場への豊富な参加不動産業者」。これは,先ほどから私が御説明しているように,今は昔と違って物すごいプロの不動産業者が参加してきますので,価額についてとやかく裁判所が言う問題じゃないだろうと,こういうように思っております。  3番,「最低売却価額がもたらす弊害」。これは,むしろ弊害ばかりが目立つところでございまして,まず(1)の68条の3,この3回アウトルール関係が多発しておるのですけれども,これは特に地方の物件とか山林とか,リゾート地,こういうようなのが特に目立つのですけれども,鑑定手法の問題があるのですけれども,とにかくこれは極端なんですね,最低売却価額が,例えば,5億円で出て,私なんか見るとこれ300万円で売れるかどうかというやつがいきなり5億円で出て,これが3回幾ら半分半分にしてだって1,000万円にもならない。それで,これ以上続けても売却できる見込みがないとかということで取消しにしちゃうのですね。売却できないという不動産はないのですよ,価額の問題であるわけですから。こういうことで,最低売却価額があるがゆえに,長期にわたって売却に付されて,最終的に取消しになっちゃう,こういうのが物すごくあるということです。  私どもは,それに対して非常に苦労をしておりまして,競売を申し立てて最低売却価額が出ると,これはもう高くてとてもだれも落とさないということになると,私どもが落としちゃうとか,あるいは裁判所に上申書を出して,鑑定書をつけて,実例はこんなものですよと,1,000万円もしないものを何で5億円で売るのですかと,こんなようなことで上申書で最低売却価額をがんがん下げてもらうというような工夫とか,あるいは買いたいという人を探すので,これも大変なんですけれども,探して,あんた幾らで買う,その人が1,000万円で買うよと,じゃいいよ1,000万円で売るからと。最低売却価額が3,000万円だとしますね,1,000万円で売るよと。その人に,しようがないから3,000万円で入れてもらうのです。それで,私ども配当3,000万円でもらったら2,000万円返してあげますと,こういうような契約を結んで,競売の場を通じて売却に付すというようなことで,かなりこれは私どもやっております。ほかのサービサー会社でもこういうことをやっているところがあると聞いておりますけれども,ただ何でこんなことまでやらなければいけないのだというように感じております。  それと,(2)番の「執行妨害に利用されるケース」。これも,最低売却価額があると売れないとかいう状況が続く中で,必ずと言っていいほど--賃料等がとれる物件ですよ,更地なんか街宣車を置くという程度の話で余り大したことはないのですけれども,いろいろな形で執行妨害が発生していくのですね。ですから,競売に出したら早期に売却するということが一番大事なことだと考えております。  逆に,最低売却価額を物すごく安くするというのもあるのですね。こう言っては何ですけれども,ビルを占拠している変な方たちが,私が現況調査報告書と評価書と物件明細書を見ると,どうしても執行官の方が何かうまく取り入れられちゃって,それから価額も評価人にうまく下げさせて,それで物件明細書に,さも補修費は共益費だと書かしちゃっているのですね。こんなのおかしいじゃないかというケースもあるのですけれども。  じゃ,何でそんな最低売却価額を落とさせたかというと,すぐにだれかに落としてもらって,自分たちの補償金とか補修費とか,その落とした方から取り立てようというためにわざと最低売却価額を下げさせているとしか考えられない,こういうような事例もあります。  (3)番は「不動産の劣化」。いずれにしても,昔は右肩上がりの不動産が上がっていった時代と違って,どんどん今下がっていますし,その中で不動産もデフレ資産の中でかなり劣化していると。これは最低売却価額の見直しなんてやっていると半年もかかってしまうのですね。中には早いところもありますけれども。こういう中で劣化と執行妨害を発生させる余地を作ってしまっている,こういうことにもなるわけです。  4番。「内覧は100%実施すべき」。これは当たり前の話ですけれども,家を買う人で中を見ないで買う人というのはほとんどいないと思うのですね。これも何回競売やっても売れないやつを,これは破産管財人が管理している物件だったのですけれども,管財人と業者と我々と一緒に内覧を実施したのですよ,ちょっと地方だったのですけれども。内覧実施して,買いたい方ということでチラシ配って見にきていただいたら,最低売却価額が3,4回繰り返されて,最終的に1,500万円で,もうこれ以上裁判所は売却実施しないと宣言されていた物件を,私的内覧を実施したら2,700万円で売れた,こういうようなこともあります。いずれにしても,内覧することによって評価がある程度確定できますので,これは絶対やるべきだと思っております。  それから(2)「債権者,所有者に買戻権を付与」。これは,どうしても債権者がその売却価額に不満だということであれば,買い戻させてもいいじゃないかと,こういうように考えております。安値防止という意見もありますけれども,安値防止というのは私の方も最近10回ぐらい入札したのですよ,要するに保険掛けるというのか,余り安く売られては困ると。でも,やはり私どもで落とせたケースはありません。それだけ参加者が多く,まあまあ市場価格で売れているということだと考えております。  雑駁ですが,以上です。 ● それでは,質問は後でまとめてさせていただきますので,引き続いてヒアリングを続けさせていただきたいと思います。  全国銀行協会の○○参考人と○○参考人からよろしくお願いいたします。 ● 本日は,全国銀行協会という形で意見を述べさせていただきたいと思います。  本日は,こういった形で意見を述べさせていただく機会を設けていただきまして誠にありがとうございます。お手元の方に1枚物,簡単でございますがレジュメを用意させていただいておりますので,これに沿った形で意見を述べさせていただきたいと思います。  先ほど,サービサーの方から御意見をちょうだいしたわけですけれども,私ども銀行といたしましては,担保権者としての立場から御意見述べさせていただくことになりますので,今お伺いした御意見とはかなり内容的にも異なった意見になるかと思います。  まず,競売の担い手についてでございますけれども,一部には,現在銀行,金融機関はバルクセールとか,あるいはサービサーの方に回収を委託したりして,ほとんど自らは競売をやっていないのじゃないかというふうな誤解をされている向きもあるようでございますけれども,そういうことは全くございませんで,ほとんどすべて銀行が自ら競売を手がけておる,そういう意味で銀行自身というのは競売の担い手にほかならないというように考えております。  続きまして,本題の最低売却価額制度についてでございますけれども,まず結論的には私どもといたしましては,最低売却価額制度というのは極めてうまく回っておって,これを廃止するというのには反対であるという結論でございます。  以下,理由を申し述べさせていただきます。  まず,2の(1)のところでございますけれども,現在の最低売却価額制度につきましては,裁判所の御努力などもありまして,うまく稼働しているという印象でございまして,特に都市部では1回目の売却率が約80%というようにも言われておりまして,2回目では大体売れておるということのようでございます。  一方で,地方における売却率につきましては,30%とも言われておりますけれども,これは地方における競売市場自体がかなり閉鎖的,あるいは未成熟であるということであるとか,あるいは単に需要が少ないであるとか,あるいは物件の性格であるとか,こういった点から売却率が低下しているものだと思われます。  実際の例といたしましては,最低売却価額制度が1,000万円といたしまして,1回目で売れなかった物件につきまして2回目で評価人の評価が800万円になったところ,2回目実際に競売にかけたところが1,050万円という1回目より高い値段で売れたというふうな事例もあると聞いております。要するに,評価基準を見直すということでよりうまく機能していくということではないかと思われまして,最低売却価額制度自体を問題にするといった問題ではないのではないかと。  逆に,最近新聞でも載っておりましたけれども,相続税に代えて国家に物納された土地,これについて財務省の方で政令を改正しまして,従来は最低売却価額の公表というのはなかったのだけれども,それを始めたと,そうしたところが従来の落札率,昨年4月から11月で57%から44.3%程度だったものが,改正後の今年1月は64.6%,4月は75.1%,むしろ最低売却価額を設けたことによって落札率がはね上がっているというようなことも聞いております。こういったデータに基づきましても,最低売却価額があるから落札率の低下を招いているという認識は間違っているのではないかというように思っております。  さらに,最近は鑑定評価方法の標準化の努力といったものが,その方面の方々によってなされているというようなことも聞いておりまして,今回の「金融法務事情」の最新号にもそういった記事が載っておりましたけれども,そういうような努力がされておるということで,最低売却価額制度は今後ますますうまく機能していくのじゃないかというように思っております。  それから,レジュメの(2)の方に参ります。  最低売却価額の機能といたしまして,不当に廉価な落札を防止する,こういう機能がやはりあるのではないかというように思っております。  まず,A)のところとB)のところ,両方一緒にして意見申し述べますけれども,現在の私どもとしましては,最低売却価額制度を廃止すれば,担保権者としては実務上大きな支障が生ずるというように考えておるわけですけれども,まず競売市場につきましては,確かに従来よりはより開かれた市場というようになってきてはおるのだとは思いますが,一般の不動産流通市場と比べれば,やはりまだ完全な競争市場というには至っていないのではないかというように思っております。そうした市場の中で,価額について一定の歯止めとして機能しているのがこの最低売却価額制度ではないかというように思っております。仮に,この制度が廃止されるというふうなことになりますと,不当に廉価な落札であるとか,あるいは反社会的勢力による競売妨害を助長するといった弊害が出てくるのではないかというように思います。  具体的に予想されるケースを申し上げますと,居座りであるとか,あるいは反社会的勢力をうかがわせる看板を掲出するとか,そういった執行妨害行為によって一般の方々の買受申出を排除しておきまして,そこで息のかかった者に不当に廉価で落札させるというふうな行為を助長させるのではないかというように考えております。  現在の最低売却価額制度のもとにおきましても,競売妨害の事例は存在するわけですけれども,最低売却価額制度が大きく下がらない限りは,不当に廉価な物件の取得というのは起こらないわけですけれども,万一最低売却価額が廃止されるということになってしまいますと,そういう執行妨害が行われて,息のかかった者にたちどころに廉価で落札されてしまうという意味では,執行妨害がより容易に,かつ確実に行えるといった問題が生じてくると思っております。  それから続きまして,レジュメのC)の方に参ります。  最低売却価額制度が廃止された場合には,金融機関の担保に対する信頼が低下して,担保評価をより厳しく見直さざるを得ないといった弊害が生じてくるのではないかという点でございます。金融機関の担保物件の売却の方法としましては,お客さんに御協力いただいて任意売却する方法,それから競売といった方法があるわけですけれども,任意売却につきましては,余り安い値段であれば銀行としては担保権を解除しないで売らないというような選択ができるわけですけれども,一方競売においてはそういった選択肢はない代わりに,最低売却価額制度というものが設けられておって,銀行としてもそれが一つの担保の価値に対する信頼感ということになっているわけでございます。これが外れてしまうということになりますと,銀行の主に不動産担保に対する信頼が低下して,担保価値の把握というのをより厳しく見直すといった反作用が出てくるおそれがあるというように考えております。  それから,D)の方に参りますけれども,最低売却価額制度廃止による今まで申し上げたような弊害除去策として,所有者であるとか債権者に買戻権を与えるというふうな施策が提案されているようでございますけれども,これについても適当とは言えないというように考えております。  理由といたしましては,まず債権者に買戻権を与える方でございますけれども,債権者としてはそうやって買戻しをしたとしても,その物件をまた再び処分しなければいけないというふうなことになってまいりまして,これは余分な時間とコストがかかるというだけのことだと思われます。  それから,所有者に買戻権を与えるといったことにつきましても,買取資力がなければ買戻しはできないわけでございまして,金融機関が融資をすればいいじゃないかというふうなお話もあるようですけれども,確かに物件については一度競落されたものですからきれいな物件になっているわけですが,金融機関としては対象の物件がきれいだから必ずしも融資できるというわけではなくて,結局所有者の弁済資力と総合的に判断して初めて融資ができるというふうなことになるわけでございます。そうすると,所有者に買戻権を与えたとしても,本当にそれがうまく機能するのかどうか,大変疑問であるというように思っております。加えまして,こういった買戻権というのが与えられるとすると,当初の買受人としては買戻権が行使されるまでの間というのは非常に不安定な立場に置かれるということになるのだろうと思いまして,そうするとますます一般の買受人というのが参入しにくくなるというふうな弊害があるのではないかというように思っております。  続きまして,次の最低売却価額の機能といたしまして,適正価格を提示して買受申出の指針を与えるという機能があると考えております。万一,最低売却価額制度が廃止されたということになりましたらば,現状におきましては買受人にとっては三点セットが用意されて,それを参考にして最低売却価額を重要な基準として入札価格を決定しているというふうな状況にあるところが,これを廃止されますと,そういった重要な基準がなくなる。そうしますと,一般の買受人にとっては,言ってみれば競売市場はブラックボックス化してしまうのではないか,そうすると従来より入札に,より高度な価格判断が必要となって,一般の方々が競売に参加する機会をより阻害していくのではないかというように懸念しております。  そういうふうなことに仮になったとしますと,より閉鎖的な市場ということになってしまって,先ほど(2)のところで申し上げたように不当に廉価な落札であるとか,あるいは反社会的勢力による妨害等のおそれもむしろ高まってくるというように考えております。  先ほど,財務省の物納された土地について,最低売却価額を公示したところが売れ行きがよくなったというふうなことを申し上げましたけれども,ここも同じようなことでございまして,実際最低売却価額が公示されているということでもって一般の入札がやりやすくなるという性格があるということは見落とせないところだと思います。  それから,B)の方に参りますけれども,最低売却価額制度は廃止して,そのかわりに参考価格というのを裁判所が示せばそれで足りるのではないかというふうな意見もあるやに伺っておりますけれども,この点に関しましては,買受人にとってみれば,裁判所がこれ以下の価格では売らないという価格としての最低売却価額を示していると,これが買い手にとっても安心感につながっているのではないかと思いまして,これが単なる参考価格ということでありますと,結局その価格を上回ろうが下回ろうが,現実の落札には何ら影響がないというふうなことになってしまって,そうしますと買受人にとっての現在の最低売却価額のような価格の信頼性というのが今に比べると薄れてしまうという問題があるのではないかというように考えております。  それから,最後4番目でございますけれども,現在の最低売却価額のその他の機能といたしまして,金融機関で一度競売の申立てをして最低売却価額が決定されましたと,その後に物件を任意売却に切り替えたりであるとか,あるいはバルクセールに切り替えるとか,そういった形での処分に切り替えるということも間々あることでございますけれども,その場合に,任意売却であれば任意売却価格の指針,バルクセールであればバルクセールの価格の指針として,この最低売却価額というのを有効に利用させていただいているということがございます。これがなくなりますと,指針としての金額がなくなってしまって,途中で切り替えた案件について再度評価をしなければいけないといった問題が生じてきまして,評価も金融機関側と,それから所有者側と,両方で評価しなければ,なかなか金額的には折り合いが見つからないといったような不経済な事態が生ずるおそれがあるというように考えておりまして,その意味からも最低売却価額というのは現在の運用で十分機能を果たしているのではないかというように考えております。  ざっとこういった理由によりまして,銀行界といたしましては担保権者として実務上支障が非常に大きいというように考えておりますので,最低売却価額制度の廃止には反対でございます。  私からの発表は,以上にさせていただきます。 ● ○○参考人の方から何かございますでしょうか。 ● 若干加えますと,ほとんど言い尽くしておるのですけれども,冒頭にありましたように私ども銀行の者が競売についての申立てにタッチしていないというのは,一応50年代のことはあったのかもしれませんけれども,少なくとも60年代,あるいはいわゆるバブルの崩壊後,このときにおいてはもうほとんど銀行においてやっておりまして,職員という立場でもって競売の申立てができますので,いわゆるナーバスな相手であればちょっと弁護士を頼むことはありますけれども,私も含めて何人かの人間がうちの銀行でも実際に競売の申立てをやっておりますので,件数としては相当な件数が,各銀行で集積されていると思います。  それと,さっきの話にもつながりますけれども,いわゆる全国競売評価ネットワークというものが,3月ですかに結成されまして,実際に東京とか大阪の大都市のみならず,地方においてもなかなか評価がうまく実勢に反映しないということの反省も込めて,いろいろな評価人の方々が今情報の共有化を目指しております。あわせて,特に名古屋地裁を中心に始まった収益還元法ですか,これについても各評価人グループの中で導入についての検討もなされているように聞いていますので,やはりいろいろなところで運用上の,言ってみれば適正さをクリアアップするということを各方面でやっているところでございます。  それと,先ほどのことにもつながりますけれども,最低売却価額自身があくまでも所有者の権利というか,所有物件を売るについては高く売るというか,廉価で売られては困ると,つまり少しでも高く売って債務を減らしたいという気持ちなわけですから,その部分をどうしても看過してはならないと思います。ですから,競売の入札期間中に,これは取下げを認めないと,だから第三者によっての競落をどんどん進めるべきだという議論もあるのですけれども,一方で,例えば,自宅を持っている個人がいる場合なんかに,これはどんどん自宅を売られるという状況は,これはちょっと見逃し得ない話だと思いますので,やはりその辺も含めると,所有者という不動産を処分される側の立場ということを考える必要もあると思います。あわせて,最低売却価額というものが機能するがゆえに,いわゆる無剰余なり,あるいはまた超過売却について透明性のある判断が出るわけなんですけれども,この数字を取り払ってしまうと,正に今の競売制度が足許からなくなってしまうというぐらいな重要な問題だと思われます。 ● それでは,引き続きまして東京地方裁判所執行官の○○参考人からよろしくお願いいたします。 ● 本日は,このような場所で執行官に発言の機会をいただきまして,大変感謝しております。早速御説明させていただきたいと思います。  まず,レジュメに従って執行妨害の事例,これについてですが,まず,なぜ執行妨害が行われるのかということ,これは何らかの金銭的な利益を得ようとして行うわけであります。これは時間的に遅らせることでそういう利益も得ようということですが,結局は金銭的な価値に絡んでいると思われます。  不動産競売手続では,売却を遅らせる目的で執行妨害が行われる場合もあります。これは,不動産競売手続で執行抗告とか執行異議を提起して時間を稼ぐとか,執行官が行う現況調査手続で調査に全く協力しないとか,占有認定を混乱させるような資料を提出する,それによって現況調査報告書の提出を遅らせるというような目的ものもあります。  それから,買受希望者を断念させて入札させないためのもの,これは結局買ってから自分が利用できるようになるまでに大ごとだと思ってしまえば,買受希望者は断念して入札をしないわけですから,売却自体が流れて,また再度売却にかけるまでの時間を要するということになると思われます。  それと,この関係でいうと,テナント利用などでかなりの収益物件であれば,占有者の関係者が最低売却価額の2割の保証金を積んで,高額な入札申出価格で申し込んで最高価買受人になると,しかし代金を納めないで流してしまう。次の売出し期間までの何か月かの間に,高額な賃料を稼ぐというようなことで,売却を遅らせることで利益を得るための執行妨害というのもあります。  先ほどのやまと債権管理回収株式会社の方もおっしゃっていましたけれども,最低売却価額を低くする目的とか,立退料目的ということもあります。これは,そういう転売を目的とする業者から話を聞いたことがあるのですけれども,現在一般の買受希望者がかなり多いものですから,第三者占有等でない,きれいな物件については一般のそういう転売目的とした業者は高値でなければ落札できないということもあって,人気のない,占有者のいるような物件を安く購入しているのだと,それで占有者と話をつけて立ち退かせて,高く転売する,こういうことが実際に行われているようです。これがもっと激しいというか,暴力団関係者等になれば,自己競落目的で占有して,買受希望者にもう暴力団関係者が占有しているのだから,とても一般の人は買受けできないよというのを誇張して,そういうことを広く見せて,安い価格で結局自分たちが落札するという手口もあるようです。  現在,この最低売却価額というハードルがあるので,ある程度の金額を払わなければ落札できないという状況にありますけれども,これがなくなれば,かなりの低額でそれら暴力団関係者の思いのとおりになってしまう可能性は非常に高いと思います。  それと,また現在東京地裁なんかでの売却率を見ますと,80%近くありますけれども,大体7割から8割は入札がある物件です。20%か30%の物件については,札が一つも入らないという物件があります。これは,現在は売却率が高い状況ですのでこのような状況ですが,これが,最低売却価額が高いから入札しないのか,占有者等との関係で入札を断念したのか,この辺のところは明らかではありませんが,最低売却価額が高いからというだけの理由ではないというようには思われます。  続いて,明渡・引渡執行の場面での執行妨害はどんなものかというと,所有者,債務者,占有者,これらが執行を免れる目的で執行妨害するような場合,これは結局は債務名義ができているわけですから,これは明渡訴訟をまたやり直すにしても,いつかは出されるということはあるのだろうとは思うのですが,ある程度の長い期間,自分でまた使用することができるという,そういう直前の執行を免れる目的で執行妨害を行うような場合があります。これは債務名義の名あて人ではなくて,第三者占有を主張して,そういう占有を作り出す,偽装するような場合です。  それから,一般に言われている立退料目的。これは占有者が使う手口でしょうけれども。  それから,先ほども言いましたように利用することを目的とした執行妨害ですね,先ほど1回自分が最高価買受人になって,期間を延ばすために2割の保証金を捨てても時間を稼ぐというように言いましたけれども,これは転貸して賃料をその間稼ぐという,そちらの方が2割の保証金よりも高ければ,そちらを選択することも,どちらが利益になるかということを考えれば,それは明らかだと思います。  具体的な妨害の例を申し上げますと,執行裁判所や執行官が把握できない,潜在化した,巧妙化した執行妨害というのが出ております。これは,前にも民事訴訟法学会で話をしたところですが,執行官の現況調査が終わった物件で空き家の競売物件にピッキング等でかぎ開けをして,そこを不法に占拠して,知人等を住まわせる。それで立退料を請求したと。これは,3年間で500件ぐらいという話でした。  それと関連して,今のいわゆる占有屋がどういう状況で占有しているかというと,昔のように高い立退料は請求しない,安い立退料で数多く占有しているのだと,薄利多売の方式で儲けている。これは,高額な立退料を請求すると,落札者が払えなかったり,紛争が長引いたり,摘発されたり,いろいろなことがあることから,そういう立退料を低額にして,受け入れやすい状況で立退料をもらっている,こういう数はかなりの量だろうと思われます。先ほどもおっしゃっていましたけれども,警察の方では暴力団の今の資金源は競売物件が多いのじゃないかというような話でしたけれども,多分通ずるところがあるのだろうと思います。  それと,執行官が,ではどういうことで占有認定をしているかという,占有認定を困難にさせている例の方に入りますけれども,動産執行,明渡・引渡執行,保全処分執行,現況調査に共通なんですが,まず占有認定の資料としては,外形的な占有の徴表,これは表札,マンション等の入居者の案内板の表示,看板,郵便受けの表示,郵便物のあて先の表示,ガスの開栓表等の表示,こういう外形的な占有の徴表を見ます。建物の内部においては,そこに存在する客観的な占有の徴表,例えば,郵便物のあて先の表示,公共料金の領収書の名義人の表示,こういうもので判断します。また,そういうもので分からないような場合,ライフラインの調査をかなり積極的にやっておりますので,電気,ガス,水道の契約者の調査,これをやっております。それと,もちろん占有者と面接できれば,占有者の陳述をもちろん資料とします。それだけではなくて,近くの管理人とか近隣者等から占有者に関する情報も得ます。それから,申立人から占有者等の交渉の経緯等を情報としてこちらの方に聞いて,それを参考にすることもあります。引渡執行の場では,物件明細書とか現況調査報告書等も利用して,占有認定を行っております。  ただ,こういうことをしても,占有者が不明な場合,分からない場合というのはあるわけです。特に,占有自体を隠そうとした場合には,占有者が不在で,外形上の表示は一切ない,室内の徴表も出さないということになって,占有者がだれなのか分からないという場合,これはあり得ます。いろいろな債権者からの上申書等を出してもらって,ある程度の推定はできるのですが,そういう不明な場合というのは作られた場合には結構あり得ます。  あと,使用者が使っているのは分かるし,だれなのかも分かっているのだけれども,その人が占有主体なのか占有補助者なのか,だれかとの共同占有なのか,この区別がはっきり分からないような場合,使っている人がそういうことを主張しなかったり,だれから借りているとかいうことを主張しなかったり,そういう契約書等の呈示をしなかったような場合,これが本当に占有主体なのか補助者なのか不明の場合があります。  外国人ホステスさんが多数居住しているような,寮で使っているような場合もあるのですが,これは明らかに占有補助者だというように思われます。ただ,それらの方がだれから借りているのか,たれが管理しているのか,これはほとんど教えてくれませんし,本人たちも分かっていない場合もありますので,そういう場合には結局補助者として占有していれば分かるのだけれども,だれが本当に管理しているのか,占有しているのかが分からないような場合があります。  それから,正常な占有を偽装しているような場合,これは警察関係者からの情報,最近の情報なんですが,最近はきちんと体裁を整えた,法人登記されたフロント企業が前面に出てきていると,背後の暴力団になかなかたどり着かないということをおっしゃっておりました。これは執行官も同様で,現況調査時に占有者の背後関係まではなかなか調査できないということがあります。これが恐らくそういう資金源に結びついているのだろうとは思うのですが,何か怪しいなと思っても,なかなかその背後にいるものが何なのか,明確に分からないような場合がございます。  それと,また最近特に多いのですが,所有者がぐるになって執行妨害するような場合,これは意図的に所有者が進んでやっているのじゃなくて,そういうように協力せざるを得ない状況に追い込まれての場合もあるとは思われますが,全く乗っ取られてしまうというような状況ですね,そういう場合には所有者に照会をしても,きちんとした賃貸借契約書が出てくる。これは通常の,何らおかしくもない賃貸借契約書が出てくる。賃料全額前払いとか,昔の高額な保証金とか,譲渡・転貸可とか,こういう契約書ではなくて,通常の,普通の賃貸借契約書が出てくる。これは所有者が協力していますので,同じような,占有者からも所有者からも同じような通常の賃貸借契約書が出てきてしまう。そうなってくると,なかなかこれがおかしな賃貸借で占有者がおかしいというところには,なかなか踏み込めない状況にあります。  それと,昔と違ってやはり相当向こうも研究していますので,債権回収目的であるというようなことは一切出しません。ですから,なかなか分かりにくくなっております。そういう関係で,潜在化しているし巧妙化してきているという状況にあると思います。  続きまして,占有認定以外の事由によって執行妨害はどんな例があるかということですが,これはまず身寄りのない高齢者,病人等を居住させている場合。これは,現実に関西の方であったようなのですが,建築途中のビルを老人ホームにするといって宣伝して,老人ホームに入らないかと持ちかけて,複数の老人から高い保証金を取って入居させていると,そして占有の肩代わりをさせて,実際にそこに老人たちを住まわせているということで,結局これは明渡し等の場面で問題になるのですが,これら入居している老人をどうやってほかのところに行ってもらうと,その先がはっきりしない間は明渡断行手続がとれないという状況になります。これは,執行官としては法律に従って明け渡せですから,明渡しの強制執行,断行を行ってもいいのですが,多分今そういう身寄りのない老人を建物から出して路上に放ったままにしておいて,強制執行が完了したということで,債権者は喜ぶかもしれませんが,多分一般市民の方,国民の方からは執行官の執行に対して,それはちょっと非常識だろうということになるのだろうと思います。そういう面で,こういう場合は非常に時間がかかるし,次の転居先を確保しなければなかなか執行できないという状況にあります。  それと,東京でもあったという話なんですが,断行期日になったら,前はそういう人がいなかったのですが,車いすに乗った人を何人かそこに待機させて,あと不当に病人らしい者が寝ている,こういうものがいるから今日は断行できないから延期してくれというようなことを言って,断行期日の引延ばしを主張したという例があったようです。そういうことで,なかなかこの身寄りのない高齢者,病人等を居住させている場合というのは,今のいろいろな状況で執行官が一番困っている分野の執行妨害になります。  続きまして,登記を利用している場合,これは古典的なことなのですが,更地上に建物を建てたり,物置小屋や屋上にプレハブ等の簡易構築物を立てて,件外建物として登記をしてしまう,増築部分に区分所有登記をしてしまうというようなことが現実に今でもあります。これは,これに対抗するほかにいい対抗策が恐らくないから,今でも十分に執行妨害の機能を果たしているということになるのだろうと思います。  続きまして,目的外動産を搬入したり残置している場合。これは,産業廃棄物を土地上に運び入れたという例がありますし,大量の動産類を運び入れたという例もございます。あと,化学薬品等の危険物等をそのまま放置していったという例もあるようです。これは,処理にかなりの時間とお金がかかるので,そういう意味でいうと間接的な執行妨害であろうというように思います。  ほかに,いろいろな動物類の放置というのもあるのですが,これは時間の関係で省略させていただきます。  占有者等が直接的な妨害行為を行う場合,これは本当に例はいっぱいあるのですが,占有者から暴行を受けた事例,これはかなりありまして,私自身も現場でゴルフクラブで追い回されたということもありますし,突き飛ばされるぐらいはいつでも覚悟の上でやっていますので,そのぐらいは通常あるというように思っております。  それから,大型犬の放し飼い。これは入口の近くに鎖でつないでいるのですが,入口から入るところにはその犬がいるとか,室内に大型犬を放し飼いにしている。いろいろ執行官も,雨も降っていないのに傘を持っていったりとか,ジャーキー持っていったりとかいろいろ考えるのですが,なかなかそういうのでおとなしくなってくれる犬ではないので,大変であります。  これは現実に東京地裁で去年あったのですけれども,断行臨場時に債務者がホワイトガソリンをかぶって引火したという事案があります。執行官が入ってすぐ火をつけられたので,火が回ってしまったのですけれども,債務者自身も死ぬことはなかったという状況です。  今,新聞にはそれほど出ていないのですけれども,当初は明渡しの債務者が自殺をしたという記事が結構新聞に出ていたと思うのですが,最近そういう例は結構あるのですが,新聞の方で取り扱わなくなったのか,それほど目にしなくはなりましたけれども,断行時に自殺体が発見された例というのは何件もあります。したがって,非常に執行官としてもこういう債務者,占有者の対応がだんだん難しくなってきたなと,昔は,こんなことしたらおれ自殺するぞとか,こういうのは言葉で言っていても,今は本当に自殺してしまうという状況なので,これは相当に対応が難しくなってきたなというように考えております。  あと,執行妨害は以上のところで終わりにして,時間もそれほどないので,動産に対する強制執行,この関係に移りたいと思います。  まず,動産執行の対象ですけれども,これは対象としては民法上の動産,それから民事執行法122条1項で規定されている動産ということになります。したがって,動産であっても登録又は登記された自動車とか建設機械,工場財団を組成する動産は対象外になりますので,動産執行ではできなくなります。  では,実際にどういうように動産に対する強制執行を行っているかというと,まず債権者が判決等の債務名義を持って執行官室に動産に対する強制執行の申立てをしてきます。執行官は,原則として債務者方に一人で臨場します。このときに,債務者がどんな人なのか分かりませんので,常に緊張感を持って,本当に何年たっても最初の現場に一歩入るときにはかなり注意をして入っております。  実際にいろいろな在宅者がおりますけれども,そういう人を説得して室内に入って,中を確認して,差し押さえられる動産があるかどうかを判断しております。  こういうことをして,中に入って確認するのですが,約90%ぐらいは執行不能で終わっているというのが現状です。東京地裁で,平成13年で91%ぐらい,平成14年で90%ぐらいですから,大体90%程度が執行不能に終わっています。ですから,今の状況では任意弁済を促す効果と,債権者の税務上の償却が目的になっているのかもしれないのです。  不能がこれだけ多いということは,別に執行官が職務怠慢で押さえていないというわけではないので,その辺の要因について若干説明させていただきます。  これは,差押禁止動産,民事執行法131条1項で,債務者等の生活に欠くことができない衣服,寝具,家具,台所用品,畳及び建具,これらは差押えができないことになります。あと,現金については生活費を換算して,現金21万円は差押禁止というようなことが法律上定めがあります。  では,東京地裁での実際の実務の運用はどうかというと,これは差押禁止動産というものを運用改善をして,かなり動産類を差押禁止動産にしております。これは,広げ過ぎじゃないかという批判もあるかもしれませんが,平成3年にそういう運用改善をしました。これは民事訴訟法学会でも質問が出されて,その辺について経緯をという話だったのですが,いろいろ調べたら,執行官雑誌という雑誌の28号に,平成8年当時の運用改善にタッチした執行官がこの経緯を書いております。簡単に申し上げますと,具体的な差押禁止動産については,そのときの社会経済情勢によるのだろうと,現在は生活水準が上がってきているという状況もあるし,それから中古の物が流通するような状況に今ないということで,そういうことを勘案してそういう基準を定めたようです。生活水準が上がってきているというところには,生活保護を受けている人がそういうものを持っていいと認められているような動産については差押えすることができませんので,そういうところが参考になって,そういう禁止動産が定められているのだろうと思います。  そうすると,一般の家庭にこれら以外の差押え可能な動産というのはほとんどないことになります。どんなものなのかというのは,ちょっと今省略しますけれども,私の家にあるようなもので,それ以外で押さえられるものを自分で探せといったら,ないと言わざるを得ないですね。  それから,これに絡んで言いますと,受付窓口で動産差押執行の手数料が安いので申立てを拒んでいるのではないかという批判もあるように聞いておりますけれども,東京地裁では,建物の明渡執行と動産差押執行,同じ建物内にある差押執行場所にした動産差押執行を同時に申し立ててくる場合には,単に残っている,引取りがない,価値のない目的外動産を処理したいためだけに動産執行の申立てをするような場合には,それはもう建物の明渡執行の申立てだけで,目的外動産は全部処理できるというように御説明をしておりますので,それで別に回収しようということでなければ,必要性が少ないという話をして,そういう動産執行の申立てをしないという例はありますけれども,執行官自体が動産執行を受付拒否していることは全くありません。  それと,無剰余差押えの禁止,これは差押えできない要因の一つですけれども,手続費用を弁済して剰余を生ずる見込みがなければならないということですので,今,執行費用としては鍵開けをしなければ一,二万円,あと鍵開けをするようであれば開錠技術者とか立会人の日当等も含めて二,三万円の手続費用がかかりますので,それを超えるような評価額の動産でなければ差押えができない。  あと,換価性のない動産の差押えは禁止されています。これは130条,取消しができるという規定の裏返しなので,積極的には差押えをしないという取扱いをしているということです。  では,換価性のない動産というのはどんなものなのかというと,これは一般的に経験則上,評価額が低額の動産を売却することが今不可能で,又は困難であるというような状況に照らして,そのような動産は差押えをしないというようにしております。東京地裁では,一つの動産の評価が5,000円以下のものについてはそういう取扱いをしております。  それと,もう一つ,要因の一つとして買受市場の狭さ。これは,以前は道具屋さんという職種の方々がいたのですが,これはどういう人たちかというと,差押物を債務者が買い受けることができませんので,その場で,債務者がいるところで差押物を買い受けて,債務者に少し高めに買い戻させて利益を得るというのが道具屋さんです。ですが,今はそういうことで差押えがかなり減っておりますので,これを業とするような,差押動産の買取専門者が今はおりません。したがって,わずかながらに差し押さえたものは,債権者側が買受人を探したり,自らが買い受けたりしております。非常にこの辺でいうと,私も差押えは厳しくする方の執行官ですけれども,なかなか売却に回しても売れないで,何回か売却期日を開いても買受人が出ないので取消しをしてしまうというような状況が何回かありました。  続いて3番目,執行官による援助請求の必要。先ほど,全国の執行官が非常に願っているといった病人とか身寄りのない高齢者等が居住しているような場合の関係なんですが,現在執行法6条1項において,執行官は,直接警察上の援助を求めることができる規定になっております。ところが,そういう官庁等に対して直接そういうことができるのはこれだけであります。したがって,先ほどの社会福祉事務所等に執行官が行っても,なかなか相手にしてもらえない。東京23区でかなり取扱いが違うので,親切にしてくれる区もありますし,門前払いの区もあります。結局そこで困ってしまうのは,実際にそういう引取先が見つからない場合には,引渡執行,明渡執行ができない,不能とせざるを得ないというような状況です。これは,執行官としてもいろいろ足を運んでそういう社会福祉事務所とか介護施設へお話をしに行って説得するのですが,なかなか生活保護法7条等によって,要保護者,親族の申請がない限り応じられないとか,そういう形式的なところで跳ね返されているのが実情です。  これから高齢化社会になれば,多分高齢者の世帯というのは,執行妨害を除いてもかなり頻繁に起こってくる可能性が高くなると思われます。現状のままでこういう明渡し,引渡執行が,そういう方がいっぱいいるときに,執行不能として終了していっていいのか,確かにそういう生活保護のところでそういう施設の空きがあっていつでも入れるかというと,そんなことはなくて,多分順番待ちでなかなか厳しいものだろうと思います。ただそういうことが門前払いではなくて,執行官からもそういう話を聞いてもらえるような,そういうような法整備ができれば,幾らかでも一番執行官が問題としている問題点が解決されるのではないかと思っておりますので,是非ともこの辺のところを御検討していただければ有り難いと思っております。 ● 今までのところ,参考人として来ていただきました○○参考人,○○参考人,○○参考人,○○参考人の4人の方からお話を伺いましたけれども,本日,席上に配布資料として配られておりますのが○○幹事のペーパーでございます。それで,引き続きまして○○幹事の方から御説明をお願いしたいと思います。 ● それでは,お手元の「最近の執行妨害の様相」というペーパーに従いまして,手短にお話をさせていただきたいと思います。もう参考人の方々から執行妨害の手口等についてはかなり詳しい御報告がありましたので,重複しない範囲で述べさせていただきたいと思います。  執行妨害についての手口は,今まで御報告いただいたとおりなんですが,私が執行現場等で感じております特徴的なこととしては,○○参考人からもありましたけれども,最近は摘発を恐れているためか,また妨害排除の保全処分を受けるためか,手口が大変陰湿化,巧妙化,外から見えない形になっております。しかしながら,全く正常な賃借権を装っているのでは札が入ってしまいますので,長期化させて利用利益を得るために,かなり不穏な占有であって,どうも正常ではない,しかし妨害的な兆候をつかまえるだけの証拠が集まらない,こういうことをやっているようです。そうしますと相当期間札が入りませんので,その期間物件を占有できる,それで利益を得られる。そして,万が一2回目,3回目のときに札が入りますと,この札入れをした人は業者であるとか,場合によっては一般の人が参入している場合には一般の個人になる。この人たちが買受人となった後に,実は本格的ないたずらが始まるという傾向が強いように思います。  この事件の手口のポツの中段あたりに,室内にスプレーでペンキを吹き付けられる。これは非常に単純な手口なのですけれども,関東近県ではかなり横行している手口でして,買受人があらわれて引渡命令が出ますので,簡単に引渡しを受けられるはずなんですけれども,引渡命令を受けた買受人等に,大変丁寧な文書を出しまして,自分は出なければいけないのかもしれないけれども何がしかのお金を払ってくれというようなことを言って,そんなに高額じゃないのですけれども,請求をほのめかす。買受人は,権利のない人にお金を払えないと拒否いたしますと,何日かたって行ってみると,中が大変汚損をしている。こういうことがかなり広がっております。これが噂になりますと,この手法は気をつけろということになります。そして,こういう人たちが占有している物件には札入れをするなということになります。このあたりが非常に大きな彼らの商売の場であると。  その二つ上の○○総業管理物件,これも名うての占有妨害企業ということで有名になっているところが,相当程度荒っぽい妨害をするわけですけれども,これもメジャーになってまいりますと,関東近県で知らない者はいないというぐらいの妨害占有をすると。入っていくときからかなり乱暴な入り方をしますし,買受人に対しても相当程度,占有を解除する際に多額の立退料を要求する。  これも,有名になってまいりますとだれも札を入れません。その間,大変な利益を得ますし,これが札を入れなくて困るのは,先ほど申し上げましたけれども買受人がどんどん最低売却価額が低下していく抵当権者に更なる低い価格での任意売却を持ちかけるということができますので,局面局面で何度も凌ぎができるのですね。利用利益は享受できるし,価格が下がっていく抵当権者に任売を持ちかけることによって安い価格で売買するという意味で利益が得られる。そして,買受人が現れたときにも,買受人に占有を解除する対価として立退料を迫る。これはチャンスとして何回もある,こういうことが実は商売になっているというところでございます。そのようなことの手段として,ここにある件外物件を建てる,それから単純に明渡しを拒否する,そのほか動産を使ってなかなか執行をできないようにする。これは登録しなければならない車両等の動産の撤去というのはなかなか難しゅうございますので,こういうこともやる。いずれにしても,中心に占有がございまして,陣地をとっておけばあといたずらは何でもできますので,占有をしておいてその後いたずらをする,買受人を困らせる,抵当権者を困らせる,こういうことが彼らの手としてあるわけでございます。  手口,困った状況というのは具体的に出ましたので,最低売却価額制度との関係で,2という項目で考えられる問題点をまとめさせていただきます。  先ほど,最低売却価額制度と執行妨害と理論的関連があるかどうかということが○○参考人の方からお話がありましたけれども,私は関係があるかどうかというよりは,事実上どう関連していくか,どうやって競売市場が変容していくかという観点だけから申し上げますと,あくまで予想でございますけれども,まず撤廃をされますと,占有を背景に妨害をしていて,いろいろなところで儲けようとしている妨害者層,背後に暴力団等があるわけですけれども,この人たちが活性化をして安い札入れを目論みます。そのために何をするかというと,やはり保全処分の摘発を受けないような形にして一般の買受けを威嚇しながら,入札がなければ自分たちが大変安い値で所有権取得できます。ここで転売益が生まれることは間違いない。しかし,競争入札がありまして,安い札入れを目論んでいろいろ牽制したのだけれども,ほかの人に入札をされてしまった。このときにどうするかというと,これは占有を背景として多額の立退料をまた買受人との間で交渉するに違いない。このときに,買受会社が法的手続を果敢に行い得る非常に強い法務スタッフを持っていればいいのですが,今問題とされている内覧をして,情報開示して,活性化した,開かれた競売市場という理念の中には,そういうところもあるけれども,一般の人も自由に札入れしましょうと,こういう理念で成り立ってきているはずでありますので,このときに一般の人が,たまたま買い受けたときに占有妨害に遭ったときにどういう被害に遭うかということになりますと,大変心配なところであります。これが1点でございます。それが(2)でございます。  そして,買戻権を与えるという提案があったかに思いますけれども,買戻権を与えるという提案について私が心配な点が一つございまして--一つというか,結構あるのですけれども。いったん買受人が代金を全額納付いたしまして所有権を取得するのだが,妨害的占有がついていて明渡しが受けられない。こうなりますと,買戻し期間は所有権を再び失う可能性がありますので,費用をかけて占有排除はできない状態になる。そうすると,妨害物件の占有者に対して,自分が確定的所有権を取得すれば,これは弁護士さんに頼んだり強制執行費用をかけて排除すると思いますが,その期間,買い戻されるかもしれないと,恐らく費用をかけるのが,費用だけ無駄になる可能性がありますのでかけないのじゃないか,そうなりますと妨害者側は恐らく債務者側を取り込んで,債務者の買戻権を自分の手中に置いて買受人との間で強烈な交渉をするだろう,そして安値プラスアルファの若干の値で買い戻すだろう,ここで一つ利益が得られる。仮に,資金づけができなくて買戻しに成功しなくても,更に占有解除するときに,対価を得ようとする。この意味で,妨害者側が債務者の買戻権を自分の手中に収めるという意味で,相当程度手段を得てしまう可能性がある,この点が心配な点でございます。  雑駁でございますが,以上でございます。 ● それでは,これから質疑に入りたいと思います。4人の方,それから○○幹事の御説明を含めまして,今日は民事執行に関する実情等について御説明をいただいたわけでございますので,この機会にどうぞ,どんな点からでも結構でございますので,参考人に対する更なる御説明をお願いしたいと思います。どなたからでもどうぞ。 ● 念のためにお伺いたいのですが,その前に,いろいろと実情をお知らせいただいてありがとうございます。  ○○参考人にちょっと念のためにということになろうかと思いますが,最低売却価額が適正に決まったとしても,やはりもうこんな制度は要らないとお考えでしょうか。どうもお聞きしておったら,適正な価格がつけられていないのではないかという側面があろうかと思いますが,もしそこで適正な価格がついたとしても,こんな制度はやはり採るべきでないということ,多分そうだろうとは思うのですが,ちょっと御説明いただければ……。 ● 価格というのはマーケットが決めるものだと。そのために,参考価格とかいろいろな意見はありますけれども,いずれにしても買いたい人が値段をつけるべきものであって,じゃ運用方法で評価がいいのならいいじゃないかというお話ですよね,ですけれども,それは評価人によって,評価の仕方によってかなり不動産の場合は違うので,その手間暇をかけること自体,もう意味が全くない,意味がどこにも見出せないというのが私の感覚なんですけれども。そういう感じです。 ● ほかにどうぞ。 ● 同じく○○参考人にお伺いしいのですが,先ほど○○参考人がおっしゃられた現場の状況とか,新しい民事執行法が制定されて,競売の市場が随分変わってきたということと,今マーケットでかなり競争が活性化しているということについては,私も認識は同じなんです。ただ1点,制度に対する考え方はちょっと違いまして,やはり一般の人の参入が当初恐らく撤廃されるとかなり活性化するのだが,結局妨害者側が強くて一般の人は駆逐されるのじゃないかと心配をしているのですね。なぜ心配なのかというと,やはり引渡命令で排除できると言いつつも,かれらの妨害の手口にありますように,一般の人との交渉の駆け引きの力が圧倒的に違うわけです。ある意味でいえば,代金を全額納付したのだけれども,なかなか明渡しを受けられないという,明渡しを受けるのが劣後していますので,その時点で更にお金を積んでいろいろな法的な手続をやる能力は恐らくないと思うのですけれども。  そこで一つ,これは○○参考人の御意見をお伺いするようになるのかもしれませんけれども,一般の人が,先ほどのお話を伺っておりますと○○参考人は長けておられて,1,000件以上も執行事件を手がけておられたということなので,それはいろいろなプレッシャーがあっても排除できるのだろうと思うのですが,そうなると一般の人というのは恐らくそれだけの能力はないのじゃないかと思うことと,大変僣越な言い方ですけれども,競争が仮に成立するとしても,強い業者だけ,暴力団と対決できるだけの業者が残ってしまうのかなと思うのですけれども,そのあたりはいかがでしょうか。 ● おっしゃるとおり,究極的には私は対抗というのは民事執行法55条とか,あるいは保全法の仮処分等々がありますけれども,自ら自己競落して,所有権を持って対抗しないと完全な排除はできない,こういうように考えておるのです。ですから,そこら辺を抵当権者自ら,貸金業者自らができる能力がなければ,貸金業はやめた方がいいと,きちんと回収できないわけですから。それが実態なんですね。  もう一つの御質問の話,普通のアマチュアの方は参入できないのじゃないかと。これははっきり言ってできませんね,今の状況では。もしできるのであれば,更に法改正を重ねて,物件明細書に書かれたものはもう債務名義化されて,完全なものに,要するに権利確定して,裁判所が排除してその方に鍵を引き渡すと,そこまでの制度にしなかったら,素人の方は手を出さない方がいい,こういうように思っております。 ● 競売の実態を知らないものですから,参考人の方々のお話,御意見について関心を持ってお聞きしました。ありがとうございました。  そこで,いろいろお聞きしたいのですが,立場によってこんなに御意見なり見方が違うのかなということと,執行の現場が非常に,我々の予想以上に深刻である,下手すると執行不能になるのじゃないかというような懸念さえ抱かせるような状態であるということで,驚きを持ってお聞きしました。  そこで銀行協会の方にお聞きしたいのですが,先ほどの○○参考人のお話の中に,要するに昭和54年度に民事執行法を創設した時代とは今は全然変わっているのだと,いわゆる競売の制度の実態が実際はもう相当に変わっているのだということと,要するに価格というものはマーケットが決めるものだということを強調されておりますが,それについてもう少し銀行協会側の御意見をお聞きしたい。銀行協会は,その制度を廃止することによっていろいろな弊害が出るということをおっしゃっているわけですから,もう少しその辺のところをお聞きしたいと思います。 ● 競売市場が完全な競争市場だということでありましたらば,それは最低売却価額をなくして,そこで出てくる価格が適正であるということも言えてくるのかなというようには思いますけれども,現状確かに昔に比べれば参加者も増えて,かなり従来よりも開かれた市場ということにはなってきているのだろうと思いますけれども,まだまだ一般の不動産流通市場よりは完全な自由な競争市場というのには届かない。  逆に言いますと,今度最低売却価額をなくすと,今度は先ほどお話にありましたようにますます参加者は減ってくるのではないかというように思っておりまして,そういうふうなことになりますと,ますます完全に自由な競争市場ということからはもっとかけ離れてくるというようになりますと,今度はそもそも完全に自由な市場であったからこそ,そこで出てきた価格が適正であったというふうな前提が崩れてくるというように考えております。 ● つけ加えますと,価格が読めないということになると,実際にはすし屋に行って「時価」と書いてあるのと同じようなものでして,実際に食べた後で幾ら請求されるか分からないということではだれも行かないわけですけれども,同じ観点で,一定の価格に対する可能性というか,あるいは予測がつくということから始まって,価格についての適正とか,あるいはまた入札価格を決めるという判断になるわけですけれども,その最低売却価額をなくすことになってしまえば,実際にそういう判断もできない,それは相当目を持った人しか参加できないという市場の狭小化があるという部分もあると思います。 ● ○○参考人にお聞きしたいのですが,業界の中ではどういう意見が多いのでしょうか。 ● 最低売却価額のことですか。それほど,私,いろいろな方と討論したことはないので分かりませんけれども,想像するに,銀行協会とか割と保守的なところは,価格があれば安心感があるということから,漠然と多分存続論が強いのじゃないかと思うのです。私どもみたいに本当に実態的に処理できると考えているものは,そういうものがあるからこそおかしくなってしまうというように考えている。割と逆の考え方じゃないかと思うのです。 ● ほかにどうぞ。佳境に入っておりますので,どうぞもう少し……。 ● 最低売却価額につきまして,○○参考人と銀行協会の方にお伺いしたいのですが,これは,例えば,競売を申し立てる者が最低売却価額制度を選択的に利用できるという,そういう制度を利用してもいいし利用しなくてもいいしと,こういうことが仮にできたとしたら,それはそれでも別に構わないと,何か考えられる弊害みたいなものがあるでしょうか。ということなのですが。 ● それは債権者が判断すればよろしいかと思うのです。ただ,世の中全体の話をさせていただくと,そうすると大きな金融機関が流動化を先送りしてしまうということになるので,日本経済全体からしてみると,余りよくないのじゃないかと。それから執行妨害も入る余地ができるから,余り私個人的には最低売却価額制度の存続はよくないと思っておりますが。 ● 銀行協会の方は,何かお考えがあったらどうぞ。 ● 選択制を導入する場合に,だれに選択権を与えるかということがあるわけですけれども,仮に,担保権者に与えていただくというような,そういう選択制を採用するということになりました場合に,いわゆる権利が与えられるのだから別に構わないではないかというふうな考え方もあるかもしれないのですが,ただやはり現実問題としては,実際にその運用というのが問題になってくるところだと思いまして,じゃどちらを選択するかといったときに,金融機関に対する社会的非難というか,圧力がかかってくるというふうな懸念が予想されるということがございますのと,それから最低売却価額制度について選択しないで,結果として非常に廉価な落札がなされてしまったという場合に,今度は所有者であるとか債務者の方であるとか,そちらから非難が来るというような弊害も予想されるところでございます。  実際に競売申立てするに当たって,入札状況についてもあらかじめ予測して,最低売却価額の要否を判断するというのはなかなか実際問題としては困難なところもあるのではないかというように思っておりまして,現状金融機関としては最低売却価額制度については先ほど申し上げたように大変有益な制度だというように考えておりますものですから,仮に,選択制が導入されたとしましても,まず間違いなく最低売却価額を採用したいというような方向に働くのではないかと思います。  それから,非常に具体的な制度設計という点からしましても,1個の不動産に複数の抵当権がついているというようなケースがほとんどなわけですけれども,そういう場合に,第一順位抵当権者だけに選択権与えたらいいのかとか,そういう制度設計面でもかなり難しい部分があるのかなというように考えております。 ● 済みません,もう一つ。  最低売却価額制度じゃなくて,今度動産執行の方でちょっと執行官の方にお伺いしたいのですが。  実は,今回のこの議論の中に,少額債権執行というのが一つのテーマになっているのですが,そのときに,企業側の中には,要するに債務名義の金額が小さいときには債権執行よりも動産執行の方が現実的なのじゃないかという議論があったのですけれども,今のお話からすると,90%が執行不能だという現実を見ますと,やはり余り動産執行をもっと簡便化するという議論は,そう意味があるようには思えないと,そんなような感じでしょうか。 ● ○○参考人,お願いできますか。 ● 先ほど,差押禁止動産の範囲がすごい広いという話をしまして,そのような生活保護者と同等に扱うのではなくて,やはり債務者は自己の責任財産を引当てにして弁済する義務を負っているのだから,まずはそちらを返してからの方が先決じゃないかという考え方も多分あると思うので,それは平成8年のときもそういう議論をして,しかしやはり最低限度の生活を保障する必要もあるのだということで広めの禁止動産になっておりますので,多分ここを狭めるという運用がこれからできるかというと,債務者が日常の生活に大きな影響を及ぼすことになるので,苛酷執行と言われる可能性が高いですから,なかなかそこでの解決は難しいのじゃないかなというように思っています。したがって,そうですね,我々も不能で終わらせることを目的としてやっているわけではないので,運用でなるべく差し押さえられるものを押さえたいとは思っていますが,実際のそういうことが,禁止動産の範囲が広いことを考えれば,現実的ではないのかなという気はしております。 ● 先ほど,○○参考人から一番最後の方で,内覧は100%実施すべきであるというような御意見がありましたが,それについて,現状はどうで,どこに問題があるのかというようなことを承りたいのと,それに関連して執行実務を担当されている○○参考人から,何か御意見があればと思いますので,よろしくお願いいたします。 ● 現状ですけれども,御存じのように内覧できないで競売していくと,一部執行官保管になったものが何かの状況で見せてもらえるとかということは聞いたことがあるのですけれども,基本的には100%見られない。中には,調子いい業者がいて,何だかんだ言って中を見て,それで価格を決めて札入れるとか,そういう工夫をして中を見てやっている人もいますけれども,そのほかの人は全然見られない。ですから,先ほど私的内覧を実施したら競売の最低売却価額,1,500万円で売れなかったものが2,700万円で売れたと,こういうことになって,見られないものはやはりそのリスクをマイナスして札を入れるしかないということでありますから,相当価格も下がってしまう。それでは抵当権の換価とは言えないのじゃないかというように思っております。 ● 実際,今,法改正で内覧が実施されるということで,執行官の方としては今具体的にどのように内覧を運用していくかということで,細かな検討をしております。いろいろな弊害もあるのではないかという意見もありましたけれども,執行官としては前向きに,内覧の実施に向けた具体的な検討を進めております。  ただ,そういう執行妨害的なとか,あと談合のおそれとか,そういう弊害の部分については何らかの方法で対処できるのだろうと思うのですが,本当に東京地裁の場合,人気物件があればもう70通札が入る,希望者は恐らく100名を超えるだろうと,そういうことで内覧希望者が100名いたときに,それをどうやって実際に内覧させるかということに関しては,相当難しい問題だなというようには認識しております。 ● 今度,法改正,内覧ということですけれども,ただ条件があって,一部たしか執行官保管と占有者の承諾があった場合という,そういう理解なんですけれども,ちょっと非常に中途半端で,かえってよくないのじゃないかと感じているのですけれども。 ● 今のは,個人的な御意見ということですね。 ● はい。 ● 内覧につきましては,差押債権者に対抗できる占有者以外については全件実施ということであったかと思います。そして,内覧というのは,恐らくイメージとしては一定の日時に占有者に立ち会ってもらって,一堂に希望者が参集して中を内覧する,こういうイメージだろうと思います。ここで心配されるのは,先ほど○○参考人からありましたように,かつて期間入札を導入するに至った事情が,やはり談合・威迫等が行われて,一般の入札希望者を排除しようということが行われたことがもう一度ここで行われる危険性がある,これを運用でどうやって排除するかということが大変心配されるところだろうと思います。  これは,今,裁判所や執行官等で大変緻密な手続の準備をされているということなので,その努力を期待したいところなのですが,私一つ心配なのは,内覧の段階ではまだ買受人でも何でもないのですが,占有者に対して明渡交渉の準備作業のようなことをされるのじゃないかという心配を持っておりまして,その点も秩序維持等で,占有者のプライバシーに対する配慮,それから動産の紛失・毀損等に対する配慮,こういったことを是非慎重な手続の中に盛り込んでいただきたいというように思っております。 ● 今のは,運用に対する御注文ということでよろしいですね。  ほかにどうぞ。 ● 内覧以外の点でもよろしいでしょうか。  ○○参考人にお話を伺いたいのですが,現状の不動産競売市場というのをどのように認識し,その中で最低売却価額制度をどのように位置付けられるかというそのお話の御趣旨は私なりに理解したつもりでございます。今日いただいたレジュメの一番下に,買戻権付与という1項がございますが,これについて質問させていただきたいと思います。  諸外国でもこのような例があるというようには伺っておりますが,先ほど伺いました非常に豊富な経験からして,どのぐらいの期間というのが相場というように考えたらよろしいのかというのをお伺いしたいと思います。  言うまでもなく,買受人にとっては自己の所有権を早めに安定させたいという要請が働き,他方では所有者を保護するという点では長めにしたいと,しかし長くすればするほど恐らくいわゆる取り戻されるという意味で普通のマーケットではなくなり,低価格化をもたらすのではないかという,非常に難しい判断ではないかと思うのですが,御経験を踏まえて,もし何かこのぐらいの期間がよろしいのでかという御意見がありましたら,是非お伺いしたいと思います。 ● 債権者,所有者と一応書きましたけれども,所有者とか債務者ということは多分ない,かなり少ない例じゃないかと思うのです。債権者ですと,差引計算ができますので,それこそ1週間もあればいいのかもしれませんけれども,一応次順位とかの配当がある場合とかあるので,やはり1か月から2か月程度,2か月はちょっと長いのじゃないかなという感じがします。 ● ○○参考人にお聞きしたいのですが。  いろいろ執行について御苦労されているのがよく理解できました。一番最後におっしゃった執行官による援助請求の問題,これは関係機関の運用的なもの,そういう段階ではもうないのだと,要するにそれぞれの法改正をして,制度化しなければ,実際に執行はできないような状況になっている,だから援助請求にこたえるような制度化を図ってほしい,こういう趣旨ですか。 ● まず,警察上の援助についても求めることができるので,それに応じてくれるかどうかは,これは執行官とその警察との今までの長いそういうお願いをして,実に今うまく運用しているので非常に感謝しておるのですけれども,多分すぐにはそういうことは無理だと思うので,こちらから,執行官から何か働きかけができるようなきっかけをつくっていただければ有り難いなというところです。 ● そうしますと,例えば,福祉なら福祉関係の法律の改正というようなところまでは難しいけれども,現場の福祉なら福祉関係の協力,運用によってできるかもわからないと,だからその辺のところをしっかり考えてくれと,こういうことですか。 ● 具体的に言えば,今挙がっている要保護者については,本人か親族,そういう申請が必要だというようになっているのですが,それを執行官の報告でそういう申請と同様に扱ってもらうとか,そういうことができれば有り難いなというように思っております。 ● ほかにいかがでしょうか。  それでは私からちょっと……。○○参考人と刑事局にもちょっとお伺いしたいことがございまして。  ○○参考人の,前提としている競売のイメージといいますか,そういうものについてちょっとお伺いしたいのですが。  最初に民事執行法の制定のことを言われましたが,旧法から新民事執行法に移る際に,○○さんなどが盛んに言っておられたのは,やはり普通の人も競売に参加できるという,それが理想だということだったと思うのです。今日もそういう話をいただきました。それで,買受人が値段は自由に考えてつければいいと,だから最低売却価額は弊害の方が多いという御趣旨だったと思いますが,その最初の方の,一般人がだれでも競売に参加できるという理想と,○○参考人の考えている競売というものが,そういう一般人がだれでも参加できるような競売を考えているか,やはり買受人が自由に値段をつけるといっているところの買受人というのは,ある程度専門的な業者とか,かなり知識を持っている人だけを考えているのか,その辺のところが,話の前の方と後の方が,私の聞き方が多分悪かったと思うのですが,つながっていないような気もしますので,その点について御説明をいただきたいということです。  それから刑事局に突然あれなんですが,今日いろいろ執行妨害の話をたくさんの方から聞かされまして大変心配になってきましたのは,こういうものを放置しておいていいのかということだと思うのです。今国会に出ております執行妨害についての刑法の改正,執行妨害罪の改正等もありまして,今後どういうようになるのか,我々もう少し安心していられるのかどうかというような見通しを,ちょっとお話ししていただかないと,日本の執行妨害ってそんなに深刻な状況なのかというイメージだけが一人歩きすることになっても困るなと思っていますので,何か御説明を追加していただければというように思っております。 ● 基本的には,だれでも参加できる競売制度が一番理想であると,それは思っておりますけれども,ただ現実的にバブル崩壊して,非常に社会的に失業率が高くなっている社会不安の中で,悪質化している人がかなり多い。その中で,特に業種的には一番多い不動産業者,それとあと闇の勢力というか,そこら辺が執行妨害をもって資金稼ぎができるというところに着目して彼らが来ているわけです。根本的に,この世界に参入しても金にはならないのだということをみんなでやり遂げることによって,彼らはここに入り込まなくなる,こういうようにしていかない限りは,現実的には不動産業者,いわゆるプロの業者しかこの世界には参入できないのじゃないか,こういうように考えております。 ● 私,余りこの分野での知識を持ち合わせていないのですが,大まかなところで承知しているのは,検察庁,それから警察もそうなのですが,ここ数年そういう執行妨害対策というのが非常に強く意識されていて,相当件数の検挙が行われているというように聞いております。罰則も非常に積極的に適用されていますが,今般,刑法改正も提案されていると。  実情がどうかという点につきましては,私すぐには持ち合わせておりませんので,必要であれば次回に御報告させていただくか,あるいはもっと専門家がこちらに来るようにするか,また検討させていただければと思います。 ● その刑事摘発等のお願い等をさせていただく立場から,今の御質問に関連しまして若干お話しさせていただきたいと思います。  今日,豊富な執行妨害の手口が報告されたと思います。私のペーパーも,急遽取りまとめたものなんですけれども,冷静に振り返ってみますと,この手口というのをこのまま並べますと,何かやられっぱなしのような印象を受けて心配になられるというのは確かにそうだと思うのですが,これは手口を抽出しただけでございますので,これに対する対策としては,民事では民事執行法上の保全処分がありますし,刑事では強制執行妨害処罰関係の法令による適宜の告訴・告発ということも大変積極的に取り組んでいただいております。特に,住専問題を受けまして,平成9年に警察庁に金融不良債権担当参事官室が設けられて,更にサービサーの中でも警察との協力関係を定める条文もたしか入っていたかと思いますけれども,こういったことで反社会勢力が占有することによって行っている執行妨害に対する取組みも積極的になっているように思います。ただしかし,ここでそういう課題といいますか,難しいところは,買受人が所有権を取得して入ってみたところ傷がついていたというときには,もう行為者はいなくなっておりますので,このところで更に時点をさかのぼってだれがやったかというのを探し当てていくことはなかなか難しいところがございます。しかし,それも今回の担保・執行法制の改正の中で,占有者不明の保全処分であるとか,保全処分の中で先ほど安全なものは何かということで,占有があらかじめ排除されているものを買受人が買うのが一番安全なものですから,その保全処分の要件の間口が大変広がっておりますので,制度整備としては大変充実をして,今般の改正が実現すればの話ですけれども,そういうように期待をしておるところでございます。 ● ほかに何か御質問ございますでしょうか。--よろしゅうございますか。  それでは,特に御質問もないようでございましたら,民事執行制度の見直しに関する事項につきましては,本日はこの程度にさせていただきたいと思います。  今日は,4人の参考人の方に大変お忙しいところをお越しいただきまして,どうもありがとうございました。  それでは,最後に事務当局から今後の予定につきまして若干の事務連絡をお願いしたいと思います。 ● それでは,次回の予定でございます。次回は7月18日の金曜日でございます。開始時間ですけれども,いつもと違いますので御注意をお願いいたします。午後2時30分から開始いたします。午後2時30分から午後5時の予定でございます。場所は法務省の第1会議室,今日と同じでございます。  中間的な試案のとりまとめに向けまして御審議をいただきたいと思っておりますので,よろしくお願いいたします。 ● それでは,次回は7月18日の2時半という開始時間になりますので,御注意いただきたいと思います。  本日の部会はこれにて終了いたします。どうもありがとうございました。 -了-