法制審議会 民事訴訟・民事執行法部会 第8回会議 議事録 第1 日 時  平成15年11月7日(金)  自 午後1時00分                       至 午後4時42分 第2 場 所  東京地検会議室 第3 議 題  「民事訴訟法及び民事執行法の改正に関する要綱中間試案」に対して寄せられた意見について         金銭債務についての間接強制に関するヒアリング         刑事事件関係書類等の民事訴訟における利用状況等について 第4 議 事  (次のとおり)               議         事 ● 定刻が参りましたので,民事訴訟・民事執行法部会第8回会議を開催させていただきます。   本日は,定刻どおり午後1時からのスタートでございます。   議事に入ります前に,本日からこの部会に御参加いただく方がいらっしゃいますので,ここで御紹介させていただきます。          (委員・幹事の異動紹介省略)   それでは,本日の議事に入ります前に,最高裁判所の方で検討を進めておりました三つの規則,第一は民事訴訟規則及び執行官の手数料及び費用に関する規則の一部を改正する規則,第二に民事執行規則等の一部を改正する規則,第三に専門委員規則,この三つの規則が成立したようでございますので,この点につきまして○○幹事から御説明をお願いしたいと思います。 ● それでは,一言御報告をさせていただきたいと思います。   今,○○委員の方からもお話をちょうだいいたしましたように,主に昨年の法制審議会で御議論をいただいていた民事訴訟法,あるいは,民事執行法の関係で,民事訴訟規則,民事執行規則,それから専門委員規則というのがこの10月29日の裁判官会議で成立いたしまして,官報公告は11月12日予定ということで,来週の水曜日ですのでまだ公告はされていないという状況でございますけれども,成立いたしております。   ちなみに,一緒に去年の民事・人事訴訟法部会の方で御議論いただいていた人事訴訟法の関係の人事訴訟規則等も同じような形で成立いたしまして,官報公告の予定も同じというように伺っております。この法制審議会の議論の中で,あるいは,それ以外に,いろいろな形で最高裁判所規則につきまして御意見等をちょうだいいたしまして,誠にありがたく思っております。   なお,規則本体につきまして,官報公告されますけれども,特に御用命等あれば,遠慮なく私どもの方にお伝えいただければ,またお届けするなどさせていただきたいというように思っておりますので,どうぞその点もよろしくお含みおきをお願いできればと思っております。 ● それでは,議事に入りたいと思います。   御承知のように,9月12日の本部会で取りまとめました民事訴訟法及び民事執行法の改正に関する要綱中間試案につきましては,9月19日から10月20日までの間パブリックコメントに付しました。本日の部会は,そのパブリックコメント終了後の初めての部会ということになります。   そこで,まず本日の議事の進め方等につきまして,○○幹事の方から御説明をお願いしたいと思います。 ● それでは,まず配布資料の説明からさせていただきたいと思います。   本日は,事務当局からの事前発送資料はございません。席上配布資料でございますけれども,まず参考資料の4がございます。「「民事訴訟法及び民事執行法の改正に関する要綱中間試案」に対して寄せられた意見の概要」でごさいまして,パブリックコメントの結果をまとめたものでございます。   いただきました意見は,この冒頭にございますとおり36通でございます。全体としてはかなり大部なものになりますので,恐縮ではございますけれども事務当局の方でその概要をまとめさせていただいて,本日の資料とさせていただいたというものでございます。もし個別の意見につきまして,あるいは,原意見の内容について知りたいというような御希望がございますれば,事務当局の方までお申し付けいただければと思っております。   次に,参考資料の5がございます。刑事事件関係書類等の民事訴訟における利用状況につきまして寄せられました意見の概要,これを事務当局の方で整理させていただいたものでございます。   刑事事件関係書類等の文書提出命令に関しましては,中間試案でも幾つかの論点が示されたわけでございますけれども,そのうち,現在の利用状況についてどのように考えるのかという点につきまして,本日御審議いただければと思っております。その際の参考にということで,この寄せられました意見を整理したというものでございます。   以上が事務当局の方からの席上配布資料でございます。   それからもう一つ,日本弁護士連合会の方から,「刑事記録不開示が民事訴訟に及ぼす具体的な影響について(具体的な事例を中心に)」という資料をいただいております。これも,先ほどの論点にかかわる資料でございますので,またそこで御審議いただく際に御説明をいただければと思っております。   以上が資料の説明でございます。本日の議題でございますけれども,事務当局といたしましては,まずこの参考資料の4に基づきまして,パブリックコメントの結果の概要を報告をさせていただければと思っております。   その後でございますけれども,金銭債務についての間接強制につきましては,これまでもこの部会でも様々な御意見があったわけでございます。そこで,この金銭債務についての間接強制について,関係団体等からお話を伺いたいと思っております。   まず,NPO法人Winkの理事長でいらっしゃいます○○さん,それから,弁護士の○○さんの方から,それぞれ御説明をいただきまして,さらに質疑応答の時間を設けたいというように考えております。   その後,休憩をとりまして,休憩終了後に参考資料5,それから,日本弁護士連合会の方からいただきました資料に基づきまして,刑事事件関係書類等の民事訴訟における利用状況についての御審議をいただければと思っております。 ● それでは,今日の予定は今御説明がありましたように,大体三本立てで進ませていただきたいと思います。   最初に,パブリックコメントに対して寄せられた意見の概要について,御報告をしていただくことにいたします。先ほど既に説明がありましたように,36通というたくさんの意見をいただきまして,それを報告していただくのに時間がかかるということでございますので,どうぞよろしくお願いいたします。 ● では,お手元の参考資料4に基づきまして説明をさせていただきます。   初めにお断りさせていただきますけれども,パブリックコメントには多岐にわたって詳細な意見が寄せられております。時間的な制約や,紙幅の関係もあって,その意見の内容を簡単に整理させていただいておりますので,意見の要約の内容,表現等,不十分な点もあるかと思いますが,御了承いただきたいと考えております。   また,この参考資料は大変に大部なものとなっております。詳細については後ほど御覧いただくことといたしまして,説明に入らせていただきたいと思います。   まず,参考資料4の表紙を御覧いただければと思いますが,先ほど説明がありましたように,パブリックコメントの意見の総数は36件でございました。意見の提出者の内訳を大まかに申し上げますと,裁判所関係,これは各地方裁判所及び各高等裁判所,各家庭裁判所,地方検察庁関係から2件,日弁連,単位弁護士会や弁護士グループから6件,経団連,経営法友会,日本労働組合総連合会,日本司法書士会連合会,全国銀行協会,全国地方銀行協会,全国宅地建物取引業協会連合会,日本不動産鑑定士協会,その他不動産鑑定士個人の方から1件,また大学関係者から3件,その他大学に在学する個人の方から4件,意見をいただいております。さらに,大学教授や弁護士を含むグループの方から1件,執行担保法制に関する研究会ということでグループ名で1件,その他金銭債務についての間接強制関係について6件,裁判所内部の職務分担関係について1件ということになっております。   それでは,具体的な中身ということで,試案第1「民事訴訟法関係」の1「民事訴訟手続等の申立てのオンライン化」につきまして説明をさせていただきたいと思います。   まず,(1)に掲げておりましたインターネットを利用した申立て等を認めるものとするとの考え方につきましては,これに賛成する意見が圧倒的多数でございました。このインターネットを利用した申立て等を認めるに当たっては,データの漏えい,消滅,改ざん等がないよう,万全のセキュリティー対策を講ずるべきであるとするなどの意見が寄せられております。   (2)のインターネットを利用した申立て等の到達時期につきましては,行政手続と同様に,裁判所が使用するコンピュータ中のファイルに記録された時に到達したものとみなすとする点について,特に異論はございませんでした。   なお,到達の成否について,申立て等をした者が容易に確認できるような手段をシステム上講じるべきであるという意見が複数寄せられました。   (3)のインターネットを利用した申立て等をする者においては,氏名又は名称を明らかにする措置をもって署名押印等に代えなければならないとする考え方につきましても,同様に異論はございませんでした。   なお,この具体的な措置の内容につきましては,情報の改ざんを防止する観点から,電子署名を要求することが相当であるという指摘がございました。   続きまして5ページに移りますが,2「督促手続のオンライン化」でございます。   (1)のインターネットを利用して取り扱う督促手続の地理的範囲の拡大をするとする考え方につきましては,賛成する意見が圧倒的多数でございました。この考え方につきまして,地理的範囲の拡大については債務者に対する手続保障の点を配慮すべきではないかという御指摘がございました。   (2)の支払督促その他最高裁判所規則で定める裁判所書記官がする処分について,電子データにより作成するものとする考え方については異論はございませんでした。   また,(3)の督促事件記録が電子データで作成された場合における当該部分の閲覧等の請求について,最高裁判所規則で定めるところにより,これに代わる相当と認める措置を講ずるものとするとの考え方についても,特に反対する意見はございませんでした。   この閲覧等の点については,セキュリティーに十分配慮しつつ,裁判所に出向くことなく閲覧等が可能となる仕組みを検討されたいなどの意見も寄せられました。   また,(4)のインターネットを利用して債権者に対する処分の告知を行うものとする考え方や,(注2)に掲げております債務者に対する処分の告知の方法を従来どおり書面の送付やファクシミリを送信してするなどの方法によるものとすることについては,特に異論がございませんでした。   なお,(注1)に掲げております債権者に対する処分の告知の方法や,その効力の発生時期につきまして,裁判所の方から,処分の効力の発生の始期を債権者に委ねるような告知方法は,手続の安定の要請からは相当でなく,何らかの手当てをすべきであるとする意見や,経済界の方からは,社会的コンセンサスが得られるような告知方法を採用すべきであるなどの意見が寄せられました。   オンライン化関係につきましては以上でございます。 ● 続きまして,3「文書提出命令」でございますけれども,資料の9ページでございます。   (1)の改正民事訴訟法施行後における刑事事件関係書類等の民事訴訟における利用状況につきましては,肯定的な見方,否定的な見方の双方の意見に分かれている状況でございます。   まず,肯定的な意見について御紹介をいたします。地方検察庁の関係や経済界の方からは,開示されないと言われているケースの中には,開示請求の範囲が不適切であったり,開示の必要性に関する疎明が不十分な場合などがあるのではないかとの御意見や,現実に不開示になっているというような事例は,関係者の名誉やプライバシーの侵害,当該刑事事件や関連事件の捜査・公判,さらには将来の刑事事件一般の捜査・公判への不当な影響等の弊害がある場合に限られているのではないかとの意見が寄せられております。   裁判所からの御意見でございますけれども,これは各庁から寄せられた個別の意見のうち主なものということでございますけれども,まず開示の対象は従前よりも拡大しており,早期に開示する方向で運用が定着しつつある,民事訴訟で利用する必要のある刑事事件関係書類等は,大部分が開示されて,利用可能な状況になっていると思われるという意見や,株主代表訴訟や住民訴訟についても,記録の送付嘱託の際に開示を求める書類等につきまして,その必要性が具体的に明らかにされたならば,嘱託を求められた裁判所において適切な判断が行われるのではないかとの意見や,現行制度を基本にしながら,関係者のプライバシーや安全などに配慮しつつ,できるだけ民事裁判の利用に供することができるように改善していくのが適当であるとの意見が寄せられております。   他方で,9ページの一番下から10ページにかけてでございますけれども,現在の利用状況について問題点を指摘する御意見も寄せられているところでございます。   労働組合の方からは,労働事件に関連して,不払残業や労災事故の態様,あるいは,会社の関与の程度といったものに関する文書が把握できていないという意見が出されております。   弁護士会等からは,特に起訴前記録,不起訴記録,供述調書について依然として開示されていないとの意見が出されておりまして,民事訴訟の適正・迅速な審理の観点から問題があるという意見が出されております。   具体的な不都合例につきましては,特に交通事故の事案を問題視されているものが多いようでございます。この点については,休憩後の御審議の際に,また詳しく御紹介をさせていただきたいと思います。   また,いわゆる犯罪被害者保護法における閲覧等の申出をすべき者の範囲などについても問題があるとの意見が出されております。   裁判所の個別意見においてでございますけれども,民事訴訟において必要な刑事事件関係書類等が関係者の名誉・プライバシーの侵害や捜査・公判等の支障等を理由にして開示されなかったり開示が遅れたりする場合があるなどという指摘もございます。   司法書士会からは,個別の事件において開示が不十分な場合があるという意見が出されております。   大学関係からは,開示しない場合については,その理由が重要なのであって,開示ができない理由を明確にすべきであるという意見をいただいております。   続きまして,資料の12ページ,(2)の刑事事件関係書類等の特性に関するものでございます。この点につきましては開示の弊害に関しまして次のような意見が寄せられております。   まず,地方検察庁関係からでございますけれども,刑事事件関係書類等を別の目的で公にされ得るということになりますと,捜査に協力して供述してきた関係人の信頼を裏切って,適正な刑事司法の実現のための不可欠な協力が得られなくなるおそれがあることなどが指摘されているところでございます。   また経済界からは,銀行が捜査協力において提供する情報に関しまして,一定の配慮がなされないと,任意の捜査協力に支障が出るとの懸念が表明されているところでございます。   裁判所の個別意見でございますけれども,例えば,開示すると国民の捜査・公判への協力が困難になる刑事事件関係書類は確かにあるのではないか,刑事事件関係書類等の民事訴訟における利用が制限されるのはむしろ当然のことではないか,刑事事件関係書類等が民事訴訟でも使用されるということになりますと,関係者が損害賠償請求訴訟等の民事訴訟への影響を慮って,捜査段階の供述調書の作成や,公判段階における証人尋問や被告人質問等において,事実をありのままに述べなくなるおそれがあるのではないかとの意見が出されております。   大学関係からでございますけれども,関係者のプライバシー等の保護には十分な配慮がされるべきであり,それらを著しく害する場合には,民事訴訟における審理状況や証拠価値には関係なく,不開示とすべきであるとの意見も出されております。   このような意見に対しましては,13ページでございますけれども,主に弁護士会の関係から,開示による弊害の有無及び程度というものは各書類により異なるのではないか,例えば,プロテクティブ・オーダーなどの開示を防止する制度を設けて,当該民事訴訟以外にその利用を認めないで,それに違反した場合は,例えば,損害賠償や過料などの制度を創設することによって,弊害を防止することができるようなことを検討すべきではないか,適正な民事裁判の実現のための証拠収集は尊重されるべきであって,争点の範囲に限定すれば,関係者の名誉やプライバシーの侵害もかなりの範囲で抑えられるのではないかなどとの意見が出されております。   裁判所の個別意見におきましても,例えば,将来の捜査・公判等の協力が困難になるおそれがあるというような抽象的な弊害の可能性だけで開示しないという扱いをすることは相当ではないのではないかとの御意見や,開示の対象となる物件や,事案の性質等を考慮して,関係者の名誉やプライバシーに十分配慮しつつ,適正に開示の範囲を限定したり制限したりする運用によって,弊害を幾分かは解消できるのではないかなどとの意見が出されております。   大学の関係の方からは,関係者の名誉やプライバシー等に重大な侵害を及ぼさない場合であっても,開示されていないのではないかという意見があったということが紹介されております。   続きまして14ページ,(3)の刑事訴訟法等における各開示制度と文書提出命令制度との関係についてでございます。   これにつきましては,中間試案で,現行法を維持するというアの考え方と,民事訴訟の受訴裁判所が一定の要件の下に刑事事件関係書類等の提出を命ずることができるものとするイの考え方の大きく二つをお示しして意見を問うたところでございますけれども,この点につきましても意見が分かれている状況でございます。   まず,15ページにかけてでございますけれども,経済界,検察庁,裁判所の多数意見,司法書士会及び大学の関係の一部につきましては,アの現行規定を維持するという考え方を支持しておられます。   その理由として挙げられているものをかいつまんで申し上げますと,例えば,刑事の捜査,刑事訴訟手続に具体的に精通していない民事訴訟の受訴裁判所が,提出義務の有無について判断するのは相当ではなく,最もこれをよく理解している保管者が一元的に判断することとすべきである,現行法の運用で不都合は生じておらず,現行法を改める理由に乏しいのではないか,刑事手続上の証拠開示等の代替のために,文書提出命令を利用しようとするおそれがあるのではないか,記録の開示により,現に関係者の名誉や生活の平穏を害するという弊害が生じてしまうと,結局刑事事件関係者の捜査・公判への協力が得られないことになり,捜査・公判等に支障が生ずるのではないか,民事訴訟において,少年事件における非行事実と直接関係のない保護者の供述調書や少年の生育歴などというものが開示されるおそれがある,という点が指摘されております。   なお,他の公文書との取扱いとの均衡をどう考えるのかという点につきましても意見を求めたところでございますけれども,これにつきましては,刑事訴訟法等におきまして民事訴訟に利用することの必要性をも考慮して,開示の可否を判断することとしている点で,これとは別個独立の観点から文書提出命令制度を構築しようとしても,結局は関係者の利害保護,捜査等の適正の確保等と,これらの開示により図られる利益等の調整について,実質的に重複した判断を行わざることを得ない,そうすると刑事事件関係書類等のみを他の公文書と異なる取扱いをすることには,なお合理性があるのではないかとの意見が裁判所や検察庁及び大学の関係の方から出されております。   他方,弁護士会の関係,あるいは,裁判所の少数意見,大学及び労働組合の方からは,現行法を見直すべきであるとの考え方を支持する意見が出されております。具体的には16ページ以下でございます。   その具体的な理由といたしましては,まず刑事事件関係書類等のみを他の公文書と異なる取扱いをする合理性に乏しいのではないか,捜査の必要性を拡大解釈して運用がなされる危険が避けられないのではないか,刑事事件関係書類等についての刑事訴訟法等における開示制度と文書提出命令制度とは,その趣旨,目的を異にするものであって,それぞれの制度において開示の是非が判断され得るものであるということは,他の公文書についての情報公開法の開示制度と文書提出命令制度の関係と同じである,との御意見が寄せられていたところでございます。   次に,仮に,現行法を見直す場合において,どういう方策が考えられるかという(注1)についてでございますけれども,民事裁判所が独自に開示の相当性を判断するものとするという①の考え方を支持する意見もございましたけれども,刑事事件関係書類についてもその保管者の開示に関する第一次的判断権を尊重し,裁量権の逸脱の有無に限定して民事裁判所が審理・判断をするという,②の考え方を支持する意見が多数でございました。   次に,刑事訴訟法等における法体系との整合性に関する(注2)の①につきましては,弁護士会の方から,趣旨・目的を異にするので問題はないとの意見が出されております。   次に,民事裁判所の判断の合理性が確保することができるのかという(注2)の②の問題でございますけれども,検察庁の関係からは,開示した事実によって,その事実を最初に捜査機関に供述した者が誰なのかということを当然に知られてしまうことは,民事訴訟において開示を求める者にとっては関心外のことであったとしても,関係者にとっては公にされたくないということは決して少なくないのではないか,このような機微にわたる事情というのを裁判所に対して説明するということは,実際問題として困難を伴うとの意見が出されております。   大学の関係の方からは,限られた資料の中で民事訴訟の受訴裁判所により判断をすれば,証拠としての価値などの事情が優先されて,関係者のプライバシー等が優先されない事態が生じる判断がされるおそれがあるという意見がございました。他方,受訴裁判所と保管者との間で,刑事事件関係書類等の保管者が合理性を欠く特段の事由を証明する手続を設ければ,合理性を確保することができるのではないかとの意見もございました。   弁護士会の関係の方からは,刑事事件関係書類につきましても保管者から意見を聴取する,あるいは,インカメラ手続を適切に運用することによって,民事訴訟の受訴裁判所の判断の合理性を確保することは可能であるとの意見が出されております。   最後に,イの(注2)の③に掲げた論点,これは刑事の裁判所の判断と民事の裁判所の判断のそごに関するものをどう考えるのかという点でございますけれども,家庭裁判所の方から,民事訴訟の受訴裁判所が上訴審でもないのに家庭裁判所の判断を裁量権の逸脱として判断するのはおかしいのではないかという意見が出されています。   他方,弁護士会の関係からは,民事訴訟において開示の対象とする文書を利用する必要性というのは,民事訴訟の全資料を持ち,民事訴訟手続を遂行する受訴裁判所において適切な判断をなし得るのだから,むしろ刑事の裁判所では合理的な判断ができないとの意見も出されております。   また,刑事訴訟法等における各開示制度と文書提出命令制度とは別個の制度であるので,刑事手続等の裁判所における開示不相当の判断と,民事訴訟の受訴裁判所の判断が抵触するということは制度上やむを得ないという意見もございました。   続きまして,19ページの(後注)でございます。自己利用文書についての見直しの必要性に関するものでございますけれども,この点につきましては労働組合,弁護士会の関係から,見直しについて賛成意見が出されております。   他方で,経済界からは現行法の運用で足りるのではないかということで,見直しに反対する意見が出されております。   また,大学の関係や弁護士の一部からも,最高裁判所の決定の動向や,これを踏まえた具体的な運用状況を,なお見守りながら検討すべきであるとの意見もございました。   次に,資料の21ページ,4「その他」でございます。   (1)の管轄の合意の電子化でございますけれども,これについては賛成の意見が多数でございました。   22ページの(2)の債権者に対する仮執行宣言付支払督促の告知方法でございますけれども,これにつきましては,寄せられた意見のすべてが賛成ということでございました。   民事訴訟法の関係については,以上でございます。 ● 続きまして,第2「民事執行法関係」について御報告させていただきます。   まず,1「少額債権のための債権執行制度」についてでございます。   (1)は,簡易裁判所におきましてこの少額債権のための債権執行制度を創設するという方向性について御意見を求めたところでございます。   これにつきましては,経営法友会,弁護士会を始めといたしまして,賛成意見が圧倒的多数という結果でございます。裁判所の内部でも,賛成の庁が47庁ということで,圧倒的多数ということでございます。   その賛成する意見の補足といたしましては,まず司法書士会の方から,身近な裁判所としての簡易裁判所の機能充実は今後も推進すべきであるとの御意見が寄せられておりますし,また大学関係の方から,いわゆる独立簡易裁判所においてこの制度が定着するためには,人的・物的施設の拡充が必要であるとの御意見も寄せられております。   この(1)の少額債権のための債権執行制度の創設について,反対の意見は広島弁護士会と高地裁2庁ということでございますが,その補足の意見といたしましては,地方裁判所の本庁や支部と併設された簡易裁判所が受訴裁判所であるのであれば,この制度の創設により利便性が向上するとは言えないため,内容が不十分であるとの意見が寄せられております。   続きまして,(1)の(注)でございますけれども,少額債権のための債権執行制度を利用できる場合であっても,なお地方裁判所における通常の債権執行手続も利用できるものとすることはどうかということの意見を求めたところでございますが,こちらに対しては特に反対する意見はございませんでした。   その理由といたしましては,債権執行の管轄の原則が地方裁判所である以上,その利用を拒む理由はないとの御意見や,少額債権のための債権執行制度の中ですべてが賄われるものではないので,地方裁判所における通常の債権執行手続の利用を認めるべきであるとの御意見が寄せられております。   続きまして,少額債権のための債権執行制度の(2),少額債権のための債権執行制度を利用できる債務名義を少額訴訟における確定判決等の少額訴訟に係る債務名義とするものとするということについて御意見を求めたところでございます。   こちらにつきましては,まず,(2)の本文の案,少額訴訟における確定判決等の少額訴訟に係る債務名義に基づいてこの制度を利用できるものとするとの案に対しましては,特段の反対の意見はございませんでした。賛成意見を寄せられた団体等は,こちらに掲げられておりますとおり,経営法友会,日弁連,東京第一弁護士会等でございます。   その理由といたしましては,少額訴訟について簡易迅速に司法制度を利用できるようにするという観点から,訴訟から執行までの一連の手続を簡易裁判所で行うことができるようにするということは,当事者の利便に資するのではないか,また,一般市民が紛争額に見合った経済的負担で,迅速かつ効果的な紛争解決を求めることができるようにした少額訴訟の趣旨からすれば,少額訴訟で取得した債務名義についても,従来のように通常の地方裁判所ではなく,より身近な簡易裁判所で強制執行をすることができるようにするとの制度を創設することは,少額訴訟の趣旨に合致すると,このような御意見が寄せられております。   さらに(注)でございますが,少額債権のための債権執行制度を利用できる債務名義として,少額訴訟に係る債務名義以外に,どのような債務名義が考えられるか,若しくは,少額訴訟における確定判決等の少額訴訟に係る債務名義に限定すべきかどうかという点につきまして意見を求めたというものでございますが,これにつきましては,少額訴訟に係る債務名義に限定すべきであるとの意見も多数寄せられておりますが,それ以外の債務名義にも認めるべきであるとの複数の意見も寄せられております。   まず,少額訴訟に係る債務名義に限定するべきであるとの意見でございますが,経営法友会からは,濫用防止の観点から,少額訴訟に係る債務名義に限定するのが相当であるとの意見や,また,大阪弁護士会からは,執行手続は原則として地方裁判所で行うべきものであり,少額訴訟に係る債務名義以外の債務名義について拡張することは避けるべきであるとの意見も寄せられております。   また,裁判所からは,少額訴訟に係る債務名義に対象を限定することに賛成である,そもそも債権執行は地方裁判所で一括して処理をすることが効率的であり,現実にも簡易・迅速に処理されているという実態を述べられた上で,これを少額とはいえ,何の限定もなしに,すべての規模の簡易裁判所で行うものとすることはリスクが大きい,債権者・債務者・第三債務者のいずれにとってもデメリットの方が大きいのではないかとの意見が寄せられております。   さらに,大学関係者からは,簡易裁判所には多数のいわゆるサラ金・クレジット会社を原告とする貸金訴訟が係属しているケースが多いので,このような実態に照らすと,少額訴訟に係る債務名義以外に,簡易裁判所において執行手続を行うべき債務名義は考えられない,そのような必要性はないのではないかという意見が寄せられております。   他方,少額訴訟に係る債務名義以外の債務名義につきまして寄せられた意見としては,次のようなものがございます。   まずは,第一東京弁護士会からは,将来的に簡易裁判所でされたすべての債務名義に拡張することも考えられるというような意見が寄せられております。   また,司法書士会からは,少額訴訟手続で作成された債務名義に限定する理由はなく,簡易裁判所の事物管轄の範囲までは認めてもよいと考えられるが,過渡的に今回は少額訴訟手続で作成された債務名義についてのみ導入することは考慮に値するとの意見が寄せられております。   また,大学関係者,一般の方から,差押限度額を設けることを前提に,簡易裁判所で成立した調停調書に基づく少額の金銭債権に関しても,簡易裁判所での債権執行を認めるように検討すべきであるという意見が寄せられております。   さらに,一般の方からは,簡易裁判所の設備を考慮すれば,少額訴訟に係る債務名義に限定するのが合理的であるが,手続の運用を踏まえてその範囲を拡大するという方向が妥当であるという意見や,少なくとも,執行証書については濫用の危険性が多いため,これを含めることは相当でないという意見も寄せられております。   続きまして,資料26ページ,(3),少額債権のための債権執行制度における執行裁判所を少額訴訟の受訴裁判所とするものとすることについてでございます。この(3)につきましては,特段の反対意見というものはございませんでした。賛成する意見の中の補足といたしましては,制度を創設するものとした場合の執行裁判所は,少額訴訟の受訴裁判所とするとしても,地方裁判所への裁量移送を認めるべきであるとの意見が寄せられております。   続きまして,(注)でございます。債務者の利益を保護するための移送制度というものを設けることについての可否についてでございますが,こちらの方は賛成意見が多数でございました。   賛成意見の理由としては,被告,債務者が債務名義が作成される以前の段階で,本来管轄を有する裁判所とは異なる裁判所での強制執行を予定されていることの認識を有する機会が与えられなかった場合に備えまして,債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する簡易裁判所の移送の制度というものも併せて定めるべきであるという意見や,現行法上,債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所が執行裁判所とされていることとのバランスを考えますと,債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する簡易裁判所に移送することができるようにすべきであるとの意見が寄せられております。   他方,反対の意見もございまして,裁判所の一部や大学関係者から,移送は遅延につながる可能性がある,少額訴訟は被告の同意を必要とする手続であり,同意をした以上,移送を考える必要はないのではないか,ただし,その同意の際に,併せて,債権執行においても当該裁判所が管轄裁判所となることを明示する必要がある,このような条件を整備すれば,移送を考える必要はないのではないかという意見も寄せられております。   続きまして,28ページ,(4),少額債権のための債権執行制度における執行裁判所の権限でございます。今回の中間試案では,執行裁判所の権限を金銭債権に対する差押命令の発令と弁済金交付というものに限るものとしておるところですが,こちらにつきましては,経営法友会,日弁連,第一東京弁護士会等弁護士会,司法書士会等を始めとして,賛成意見が圧倒的多数でございました。   その理由といたしましては,少額訴訟に見合った手続の簡易迅速性を高めた債権執行制度とする観点からは,ある程度手続をスリム化するということが相当であり,換価手続等を除くことは望ましいのではないかとの意見,民事執行手続は,その困難性や利害調整の複雑さのために地方裁判所の管轄とされてきたことからすれば,簡易裁判所が行う債権執行手続の権限の範囲については,簡易裁判所という性質に対応して差押命令や弁済金の交付に限定されるべきであるとの意見,また,独立簡易裁判所の人的配置からも,この程度の簡易化をすることがよいとの意見が寄せられております。   賛成意見の補足といたしましては,裁判所の一部から,配当等の手続については,配当となるか弁済金交付となるかが一義的に明確ではなく,高度の判断を要する場合もあることから,弁済金交付も含めて地方裁判所で実施することも考えられるのではないかという意見も寄せられております。   (4)の(注)でございます。こちらの(注)は,転付命令を例にいたしまして,少額債権のための債権執行制度における執行裁判所に認められていない換価手続の実施を望む債権者としては,当初から,又は改めて通常の債権執行手続を地方裁判所に申し立てた上で,その手続の中で当該換価手続を申し立てればよいということを明らかにしたものですが,このような手続とすることについては賛成意見が多数でありましたが,司法書士会が反対意見を寄せております。   賛成意見は,経営法友会,日弁連等から寄せられておりますが,その補足意見といたしましては,銀行預金等の差押えを想定すれば,転付命令についても簡易裁判所で処理することに利便性があるとは思われるが,被転付適格が問題となる事例もあるので,権限の範囲から除くとすることは相当であるということでございます。   また,これは,更に新たな制度の御提案でございますが,転付命令については改めて債権執行事件を地方裁判所に申し立てるのではなく,簡易裁判所への申立てをいったんした上で,少額債権のための債権執行事件を簡易裁判所から地方裁判所に移送するという制度を設けることも考えられるのではないかとの御意見が裁判所の一部から寄せられております。   さらに,(4)のイのように,差押えが競合した場合に地方裁判所に移送する関係上,転付命令の発令を望む場合は,当初から地方裁判所に執行を申し立てるべきであるとの意見も寄せられております。   これに対しまして司法書士会が反対意見を寄せており,転付命令の発令についての権限も簡易裁判所に認めるべきであるとの意見でございます。   続きまして,(4)のイでございます。差押えが競合し,又は配当要求があったため配当を実施しなければならない場合には,地方裁判所に移送するものとすることについてですが,この点については特に反対するという意見はございませんでした。   賛成意見の補足といたしましては,権限を差押命令の発令と弁済金交付に限定し,配当の場合に地方裁判所に移送することにより,執行手続が分属することになるが,実際に少額債権のための債権執行手続の円滑な運用を実現するためには,簡易裁判所における債権執行手続をできる限り複雑にすべきではないということから,イに賛成するというものです。これは日弁連の御意見です。   また,将来的に簡易裁判所の充実が図られた時期に,簡易裁判所の権限とすることを検討すべきではないかという意見も寄せられております。 イの(注)でございますが,配当を実施しなければならない場合に,どの地方裁判所に移送すべきかどうかという点でございます。こちらにつきましては,少額債権のための債権執行と,通常の債権執行の競合というものがあり得ますので,移送すべき地方裁判所は補足説明で示されているように,通常の債権執行であれば管轄を有すべき地方裁判所又は最初に差押命令を発した地方裁判所とすべきであるとの御意見が寄せられております。   最後でございますが,31ページの(5),少額債権のための債権執行制度の手続を裁判所書記官が行うものとする考え方を示したものでございます。こちらはかなり意見が割れているところでございますが,この点につきましては,経営法友会や第一東京弁護士会,裁判所の一部は賛成ということでございますが,日弁連や大阪弁護士会等が反対ということでございます。   賛成意見でございますが,まず,手続の簡易・迅速化を図るために必要な手当てであるし,また執行実務の実態から見て,何らかの支障が生じるとは考えにくいとの意見が経営法友会から寄せられております。また,執行手続を裁判所書記官が担っている実態からすると,裁判所書記官が行うものとすることに合理性があるという意見も寄せられております。さらに,裁判所書記官は,裁判官の補助としての認識が強いが,執行は裁判所書記官の判断で十分に行えるものもあるから,裁判所書記官を積極的に活用すべきであるとの意見や,裁判所書記官の個々の判断能力の格差については,研修等により解消することができるのではないかとの意見が寄せられております。   この賛成意見の補足意見でございますが,手続の簡易・迅速化を図るための手当てとして,裁判所書記官の権限を拡大する方向性には賛成であるが,地方裁判所での債権執行や不動産執行における職務分担とも関連するため,なお検討する必要があるのではないかとの御意見や,裁判所書記官が行うものとする場合には,不服申立てを工夫する必要があるとの御意見が寄せられております。   他方,これについての反対意見でございますが,まず,債権執行という司法作用を裁判所書記官の権限とすることには慎重であるべきであるとの日弁連の意見が寄せられております。   また,債権執行といえども 差押債権の帰属,適格性など,権利関係に関する重要な法的判断を伴うものであり,これを誤った場合の債務者等に与える影響が重大であるから,現行法と同様に,裁判所の判断とすべきであるとの御意見や,制度の簡易・迅速化は望ましいが,裁判所書記官が手続を主宰する制度は避けるべきであるという意見,裁判の性質を有する差押命令を裁判所書記官が行うことは,民事執行制度だけではなく,民事訴訟制度にもかかわることであり,手続の簡易・迅速化という理由だけでは正当化できないのではないかとの意見も寄せられております。少額債権のための債権執行手続につきましては,以上でございます。   続きまして,2「不動産競売手続」に入ります。   まず,(1)「最低売却価額制度」でございます。最低売却価額制度につきましては,まず現行制度のとおりとするA案と,利害関係者の同意がある場合には,最低売却価額に達しない買受けの申出を認めて,売却が実施された結果,最低売却価額に達しない価額で落札されたときは,差額分の債権は消滅するものとするB案,最後に最低売却価額ではなく参考価額を定めるものとした上で,第一順位の抵当権者の申出により,参考価額に達しない買受けの申出を認めないものとして,更に買戻権のようなものを認めるものとするC案の3案を掲げております。   その中では,ほとんどの意見が最低売却価額制度については現行制度のとおりとするA案に賛成するものであるという結果でございまして,続いてC案,最後にB案という結果でございました。   まず,A案についての意見でございますが,A案は経団連,経営法友会,日弁連や第一東京弁護士会等の単位弁護士会,また裁判所や全銀協,不動産鑑定協会,各大学等,幅広い層から支持されております。   A案に賛成する意見でございますが,まず,執行妨害が根絶されない状況の中で,最低売却価額を下回る価額での入札が認められれば,反社会的勢力が執行妨害を行うインセンティブを高めてしまうことになる可能性があるとの意見や,最低売却価額制度の持つ不当な安値落札の防止機能は重要であり,廃止することは相当ではないとの意見が寄せられております。また,現行の最低売却価額制度は担保不動産の価値把握の市場指標として実務慣行上重要な役割を担っており,現行制度を維持すべきであるとの意見も寄せられております。さらに,不動産競売市場は,不完全なデフォルト市場であり,執行妨害が存在するなど,通常の不動産売買とは異なり,市場原理が機能していないから,市場原理を欠く競売市場の機能不全を補う代替制度として最低売却価額制度は必要であるとの意見等が寄せられております。   他方,B案の考え方について賛成するとの意見が,一部の裁判所と一般の方から寄せられております。   最後に,C案に賛成するという御意見は,裁判所の一部と司法書士会,宅建業協会,学者等のグループ等から寄せられております。C案に賛成する意見といたしましては,最低売却価額を参考価額とすれば,投資家等の自主判断を尊重し,市場原理を阻害することもなく,その流通性はかなり高まるとの意見や,学者等のグループからは,執行妨害集団としては買い受けようとする価額が最低売却価額を下回ることになる程度の威嚇をしておけば,確実に入札不調をもたらすことができ,その上で債務者と結託して,物件を任意で安く自分たちに売り渡す旨の恫喝を債権者に行い,物件の取得後に市場価額で転売すれば巨額の不当利益を得ることが可能になり,最低売却価額を維持することが逆に弊害をもたらすとの意見が寄せられております。   続きまして,各案につきましての個別的な意見でございますが,まずA案に掲げた考え方について寄せられた意見でございます。   経団連からは,いわゆる三点セットの提出の迅速化を図る方策を検討する必要があるという意見が寄せられております。   また,最低売却価額制度の見直しが必要とされている問題につきましては,評価制度の在り方を見直す観点から検討すれば解決できるものであり,最低売却価額制度そのものに根差した問題ではないとの意見が寄せられております。   また,日弁連からは,売却困難な物件は,最低売却価額制度が存在するために売却できないのでなく,もともと物件それ自体が市場性の極めて乏しいものであることが売却できない原因であるから,競売手続における物件評価が市場価格を反映しているか否かについては検証が必要であるとしても,最低売却価額制度の存在が不動産競売制度の機能不全を招来しているものではないとの意見寄せられております。   他方,B案の個別意見ですが,まず,ア,利害関係を有する者の同意があれば最低売却価額に達しない買受けの申出を認めるものとするという考え方でございますが,こちらにつきましては,複数回売却を実施しても売却されない場合に限り併用することも考えられるとの意見や,執行妨害対策の観点から,一定の下限額を担保権者から指定することを認め,それ以下の価額による売却を許可しない,又は市場の実勢価格を著しく下回る価格での売却を許可しないなどの方策も考慮すべきであるとの意見が,全銀協から寄せられております。   さらに,全銀協からは,同意をするかどうかの判断については次のような三つの制度上の手当てについても考慮すべきであるとの御意見が寄せられております。   まず,少なくとも複数回の売却手続の結果をもって行うものとすること,また,1回目の売却手続で落札されない場合,2回目の売却手続に入る前に所有者から同意の申出があった場合には,担保権者が同意をするかどうかの判断を行い,下限価額を提示した上で売却手続を進めるべきではないか,最後に,民事執行法第68条の3のように,3回売却を実施した後にこの2番目に述べました手続を進めるものとすべきではないかというような意見でございます。   他方,B案のアに掲げた考え方について寄せられた否定的な意見がございます。   こちらの方は,まず多くの債権者の同意を得るのに時間を要し,競売手続の迅速化がかえって阻害されるおそれがあるため,実効性,迅速性について期待できないとの意見が複数寄せられております。   また,同意を得ることが必要となる最低売却価額で売却されれば配当又は弁済金若しくは剰余金の交付が受けられるすべての者,これを確定することに不確実性があるのではないかとの意見も寄せられております。   さらに,利害関係人等に同意をするか否かを判断するための機会を十分与える必要があると考えられるが,その分,競売手続が遅延するような制度設計をしてまで最低売却価額以下の買受けの申出を認めるメリットがあると思われないとの意見も寄せられております。   そのほか,最低売却価額の決定に対しては執行異議の申立てが可能であり,全く入札者がない場合には,その価額が一定程度下がるということが通常であるから,あえてB案を採用する実益はないのではないかとの意見も寄せられております。   続きまして,B案イ及び(注2)に掲げた考え方について寄せられた意見でございます。B案の(注2)は,売却が実施された結果,最低売却価額に達しない価額で落札されたときは,落札価額と最低売却価額の差額分の債権を消滅するものとする考え方でございます。こちらの考え方について,複数の否定的な意見が寄せられております。   まず,売却が円滑に進まない理由が最低売却価額と適正な価格との乖離にあるのであれば,評価制度の在り方の見直しによってその乖離を解消していくことが先決であり,債務免除措置は債務者の利益を害することにはならないのだろうが,法的倒産手続でない単なる財産換価手段にすぎない競売手続において,債権者に実体法上の権利の放棄を求める仕組みには疑問があるとの意見が,経営法友会から寄せられております。   また,落札価額と最低売却価額の差額分の債権消滅の実体法上の位置付けは極めて不明確で,物件の所有者が物上保証人の場合には一度消滅した債権が物上保証人の求償権という形で再び復活するという複雑な法律関係になるなどの問題があり,このような技巧的な制度設計までして改正を行う立法事実があるとは思われないとの意見が,日弁連から寄せられております。   また,学者等のグループから,かなり詳細な否定的意見が寄せられております。   まず,本来,債務免除措置は,ノンリコースローンの性格に由来するものであり,アメリカにおいても,債務者に対する保護措置であると考えられていないのではないかということです。   次に,不動産は,債務全体の担保の一部に過ぎず,落札価額が参考価額を下回ったときに,他に資産がある場合であっても,落札価額分の債務を免除するのでは,債権回収は成り立たない,抵当権の設定自体に債務免除リスクを伴わせるということとなると,抵当権金融制度自体がリスキーなものとなり,金融の収縮,必要資金の資金の借出しの停滞という経済の根幹の窒息につながりかねないということです。   3番目に,市場価額を大きく割り込むような執行妨害が発生するのは,例外なく債務者が執行妨害集団と結託して,怪しげな占有者を物件に導き入れる場合に限られ,およそ債務者の協力がない執行妨害は想定できないのは執行実務の常識であり,しかも保護に値する善良な債務者がいたとしても,債権回収の常識では,市場価額を当然に下回る競売手続に移行する前に,任意での高値売却が実現するよう,債権者に対して真摯に協力するのが普通であって,競売段階に至るような債務者では,残債を正当に減額することに利害関心を持ち,以降の債権回収に協力する姿勢を示す者は通常想定し難い上,仮に,競売段階においても善良な債務者がいたしても,もし他に資産を持たないのであれば,債務免除があってもなくても,当該物件の売却額を超えての弁済は不能であるから,債務免除措置により債務者の利益を増大させることにはならないということです。   4番目として,最低売却価額を参考価額にしようとする抵当権者は,最低売却価額であっては高すぎて1回目の売却での落札は困難であると考える人たちである場合に限られるが,高すぎると思ったから参考価額を選んだのに,その高すぎる参考価額では落札されなかったときに,まさに担保価値に比べて高すぎる評価に応じて自動的に債権の放棄を迫られるのでは,全く筋が通らないということです。   5番目に,債務者が執行妨害者と結託している以上,執行妨害の程度を高めるように競売手続の中で振る舞わせれば,不売による手続遅延を何とか避けたいと切実に考える債権者が,債務免除とセットになった参考価額を選ぶ可能性を高めることができ,その結果,残債務の弁済のために,他の資産からの弁済の可能性を排除して,債務者は膨大な不当利得を得ることができるから,不正な執行妨害を助長することになるのではないかということです。   最後に,債権放棄を条件に,最低売却価額未満でも売却することができる選択制とすることは,債権者にこの選択をちゅうちょさせるだけでなく,市場価格から乖離した不適切な評価をかえって温存・助長することとなりかねないということです。   このような御意見でございます。   最後にC案でございます。C案は最低売却価額でなく参考価額にするという考え方でございますが,こちらについて寄せられた肯定的な意見といたしましては,参考価額を著しく下回る落札等に対しては,担保権者等には増価競売を認めること,所有者保護の観点から,売却許可決定に対する執行抗告等の運用を含めて具体的に検討すればよいのではないかとの意見が寄せられております。   他方,このC案ア及び(注1)に掲げた考え方についても否定的な意見が複数寄せられておりまして,最低売却価額ではなく参考価額とした場合には,買受希望者に情報を提供するだけであるから,わざわざ執行裁判所において時間や費用をかけて参考価額を決める実益がなく,手続を複雑にするだけで,執行の迅速化につながらないし,参考価額の位置付けが不明確であるとの意見が経営法友会,日弁連等から寄せられております。   また,C案をとれば競売市場がブラックボックス化し,新たな執行妨害,競売妨害の発生を誘引することとなる結果,競売市場が不動産取引に精通したごく少数の業者に占められ,市場自体が縮小してしまう懸念が大きいとの意見も寄せられております。   続きまして,C案のイでございます。こちらは第一順位の抵当権者の申出で参考価額に達しない買受けの申出を認めないものとすることができるという考え方ですが,この考え方について寄せられた肯定的な意見といたしましては,学者等のグループから,第二順位の抵当権者以降の抵当権者も,少しでも高い落札額を目指す点で,第一順位の抵当権者の利害と完全に一致しているのであるから,最低売却価額制度を原則とするのであれば,例外である参考価額制度を選ぶ権利は,第一順位の抵当権者のみに与えるのが適切であるという意見が寄せられております。   他方,このような考え方については,否定的な意見も複数寄せられております。   まず,当該第一順位の抵当権者が参考価額を下回る被担保債権しか有しておらず,参考価額以上で売却された場合に,第二順位の抵当権者の配当が受けられるような場合に,第二順位の抵当権者には参考価額に達しない買受けの申出は拒むことができないとすることは,合理的とは言えず,第一順位の担保権者の同意というだけでは,後順位の債権者の債権回収方法を左右できるとする合理性に乏しく,保護が不十分であるとの意見が,経団連,経営法友会,日弁連等から寄せられております。   また,参考価額に達しない買受けの申出をする権利者として,競売手続の申立債権者が含まれていないため,申立債権者の意図しない価額での買受けの申出が認められる可能性があり,申立債権者の利益が損なわれることになるとの意見が寄せられております。   最後に,C案のウでございます。これは買戻権を認めるものとする考え方でございますが,これにつきましては,買受人の地位が著しく不安定なものとなり,落札価額が低く抑えられ,申出をするための一定期間は競売手続が遅延するなど,競売制度に対する信用性を損なうとの意見が複数の団体から寄せられております。   また,担保権者は,抵当物件の売却によって配当を受けることを目的としているのであって,抵当物件の所有権を欲しているわけではなく,抵当権の被担保債権を金銭で回収する日本の債権回収システムと合っておらず,債権者の債権回収システムの再構築を伴うものとなってしまうのではないかとの懸念を表する意見,債務者が落札価額を超える価額での買受けの申出をすることができるものとしているが,そもそも支払ができなくなった債務者がそのような申出をする機会は実際にはほとんど想定できず,保護策とはならないのではないかとの意見が日弁連から寄せられております。   最低売却価額制度につきまして,A案からC案についての意見の概要は,以上のとおりでございます。   さらに,この最低売却価額制度につきましては,(後注)といたしまして,最低売却価額が適正な市場価格を反映していない場合があるので,評価制度の在り方を見直すべきであるとの指摘があり,そのような指摘に対する方策についてはなお検討するということで,意見を広く求めているところでございます。   これについて寄せられた意見といたしましては,買受けの申出がなかった後の最低売却価額の変更手続において,申立債権者の意見も参考聴取するという法規上の手当てを検討すべきであるとの意見が,経営法友会から寄せられております。   また,評価事務の改善についての方策の結果を見た上で,必要であれば最低売却価額の見直しについて検討すべきであるとの意見が,連合から寄せられております。   また,不動産競売手続の円滑化を図るためには,基準地価格,取引事例比較法を主体とした現行の評価制度から,収益還元法等,物件の適正な価額評価が行われるような評価制度にすることが重要であるとの意見が,地銀協から寄せられております。   また,競売不成立の事例,評価人の評価額のデータベース化や,不動産取引や地域事情に精通した宅建業者を評価人として活用することが考えられるとの意見が,宅建業協会から寄せられております。   さらに,日本不動産鑑定協会に所属する不動産鑑定士を主体として構成される全国競売評価ネットワークでは,今まで全国でまちまちであった評価書式,評価基準の全国標準化を実現しているところであって,東京,大阪などではインターネットを利用した全国競売市場を実現しつつあり,同ネットワークは競売市場における有効需要を拡大し,不良債権の早期処理,債権回収率の向上に寄与しているところであるとの意見が,不動産鑑定協会から寄せられております。   また,現在の評価制度については,積算価格に偏りすぎており,このため,評価額が高めとなる傾向にある,積算価格のベースとなる公示地価等が高止まり傾向にある,公示地価等は更地価格を求めるためのもので,土地・建物一体としての収益還元法を取り入れておらず,収益性を反映していない,投資判断となる収益価格等の情報が評価書に盛り込まれていない,公示地価を基礎に算出した価額に単に競売市場性減価を施す安易な価額算出になっているなどの問題が現在の評価制度にあり,これらの問題についてはDCF法による収益還元評価により評価を行うことで是正することが可能であるという意見が,複数寄せられております。   また,不動産の評価方法も収益還元方式,とりわけ投資理論を活用したDCF方式を主要な評価基準とするものが主流となりつつあり,従来の原価法を中心として評価した最低売却価額が,投資用物件やゴルフ場等の大型物件においては実勢価格と乖離しているから,民事執行規則第29条の2を見直し,取引事例比較法を採用することが困難な場合においては,収益化還元法を主要な評価手法とし,原価法を補助的な評価手法とすべきであるとの意見が,大学関係者の方から寄せられております。   最低売却価額制度については以上でございます。 ● 続きまして,中間試案第2の2「不動産競売手続」の(2)「剰余を生ずる見込みのない場合の措置」についてでございます。資料としては41ページになります。   差押債権者に剰余が生じない場合であっても優先債権者の同意があるときは売却を実施することができるものとするとの考え方につきましては,賛成する意見が圧倒的多数でございました。   反対する意見におきましては,優先債権者の同意が得られるかが疑問であるという内容のものが寄せられております。   なお,優先債権者の同意につきましては,債権届出書の提出の際に,その有無を記載するものとすべきであるとの意見や,差押債権者の立証事項とすべきであるとの補足意見が寄せられています。   (注1)の,最低売却価額で優先債権の全額の弁済を受けられる債権者以外のすべての債権者の同意を要するとの考え方につきましても,優先債権者のすべてではなく,1名以上の同意で足りるとの意見もございましたが,賛成意見が多数でございました。   (注2)の,最低売却価額が手続費用及び優先債権額の見込額と同額である場合に,優先債権者の同意なしに売却を実施することができるとの考え方につきましては,反対する意見はございませんでした。 ● 続きまして,(3)「内覧制度」でございます。   競売不動産の占有者の有する占有権原が,差押債権者等に対抗することができない場合だけではなく,対抗することができる場合であっても,その占有者の同意なく内覧を実施することができるように,内覧制度を拡充することについて意見を求めたものでございます。これにつきましては,経営法友会,宅建業協会,学者等のグループから賛成意見が提出されておりますが,他方,連合,日弁連や大多数の裁判所,司法書士会,全銀協等から反対意見が提出されております。数としては反対意見の方が多いような状況でございますが,意見は分かれているところでございます。   まず,この内覧制度を拡充する考え方に賛成する意見でございますが,理由といたしましては,落札価額を通常の取引価格に近いものとするなど,不動産競売手続の実効性を高めるためには,買受希望者に不動産に関する情報ができる限り開示されることが必要であるとの意見,物件の内覧は,入札するか否か,価格査定にも影響を及ぼす等極めて重要なことであり,完全な物件の内覧を実現すべきであるとの意見が述べられております。   他方,これに反対する意見でございます。43ページの下の方になりますが,理由といたしましては,内覧制度は執行官による現況調査とは異なり,占有者の私生活や事業活動に著しい影響を与えるものであり,危険が極めて大きく,買受人に対抗できる占有者の利益を重視すべきであり,改正後の民事執行法の下においても,当該占有者が同意した場合は内覧を実施することが可能なのであるから,そもそも内覧の可能性自体が閉ざされているわけではないのではないかとの意見が,連合や日弁連から寄せられております。   また,内覧制度は,債務者への取立て強要,適法な占有権限を有する者のプライバシーの侵害,談合の温床となる等の危険があり,新民事執行法施行前の段階での制度の見直しは時期尚早であり,施行後の運用状況を見極めた上で検討すべきであるとの意見が,複数の団体から寄せられております。   また,差押債権者に対抗することができる賃借権者が存在する場合の任意売却においては,必ず賃借人の同意を得て内覧しているという実情があり,競売制度において占有者の平穏や事業活動を犠牲にしてまで内覧権を認める合理性がないのではないかとの意見が寄せられております。 ● 続きまして,中間試案第2の2「不動産競売手続」の(4)「入札期間中の取下げの制限」についてでございます。   入札期間中は,不動産競売手続の申立ての取下げを認めないものとするとの考え方につきましては,賛成する意見と反対する意見とに分かれております。   参考資料4の45ページにありますけれども,賛成意見として,広島弁護士会,裁判所の多数,宅地建物取引業協会連合会,資産評価研究会第一分科会の意見が寄せられています。   反対意見としましては,経営法友会,日弁連,東京第一弁護士会,大阪弁護士会,全銀協,日本大学法学部,北陸大学法学部等の意見が寄せられております。   賛成する意見は,不動産競売手続の信頼性を確保するため,あるいは,不動産競売市場を活性化するために,入札期間中の取下げを制限するべきであるということをその理由としております。   他方,反対する意見としては,不動産競売手続の開始後においても,当事者間の合意による解決を制限するのは債務者にとって酷であるとの意見や,買受人が決まっていない段階では,買受希望者の利益よりも債権者の利益を重視すべきであるとの意見がございました。   また,通常の不動産取引においても,契約締結に至らない場合には,不動産の調査費用は購入希望者が負担するのが一般的であるし,複数の競争者がいる場合には,契約に向けた努力が徒労に終わることもあるから,不動産競売手続であってもこれと別異に取り扱う必要はないとの意見もございました。   なお,補足意見としまして,最低売却価額を参考にして任意売却がまとまるという案件が少なくない実務の現状を考慮すべきであるとの意見も寄せられました。   続きまして,中間試案第2の2(5)「差引納付の申出の期限」についてでございます。資料では47ページになります。   買受人が,売却代金から配当を受けるべき債権者であるときは,売却許可決定が確定するまでの間,差引納付の申出をすることができるものとするとの考え方につきましては,賛成意見が多数であり,反対意見はございませんでした。   賛成意見は,主に,差引納付の申出を売却許可決定が確定するまですることができるものとしても,競売手続を遅延させるものではなく,配当手続を簡便にする趣旨や,買受人の利益の観点から,その機会を広げることが妥当であるとの意見でございました。   続きまして,資料48ページ,中間試案第2の3「執行官による援助請求」についてでございます。   執行官は,執行裁判所と同様に,民事執行のために必要がある場合には,官庁等に対して援助を求めることができるものとするとの考え方でございますが,これにつきましても賛成意見が多数であり,反対意見はございませんでした。   賛成意見としましては,執行官の判断によって直接官庁等に援助請求ができるものとすることによって,迅速かつ適切な執行を実現することができるとの意見がございました。   続きまして,資料49ページ,第2の4「裁判所内部の職務分担」についてでございます。   まず,(1)の「民事執行手続の職務分担の見直し」についてでございますが,民事執行手続の更なる迅速化を図るため,現在,執行裁判所の権限とされている事項のうち,一定の事項を裁判所書記官の権限とする方向で,裁判官と裁判所書記官の職務分担を見直すものとするとの考え方につきましては,賛成意見が多数ございました。   賛成意見としましては,手続の迅速化を図り,債権者の権利の実効性を高めるため,現在の実務運用上,裁判所書記官が原案の作成等を行っているものについては,その性質上裁判所書記官の権限とすることに弊害等があるものを除き,職務分担の在り方を合理的に見直すことが相当であるとの意見がございました。   また,執行手続は,裁判所書記官の判断で十分行えるものであるとの意見もございました。   なお,補足意見としましては,将来的にドイツの司法補助官に類似の制度を設けるべきであるとの意見もございました。   反対意見としましては,裁判官と裁判所書記官の職務分担の在り方を見直すことよりも,裁判官の増員を図ることで問題を解決すべきであるとの意見がございました。   続きまして,資料50ページ,(2)の「民事執行手続における裁判官と裁判所書記官との具体的な職務の分担」について,手続を開始・終了させる等の性質を有する事項,実体的要件の存否について判断して,権利の得喪・変更を生じさせる性質を有する事項,不服申立てに関する事項については,裁判官が行わなければならないものとするとの考え方についてでございますが,これにつきましては,賛成意見が多数であり,反対意見はございませんでした。   なお,補足意見としましては,裁判官の権限とする事項として中間試案に掲げた具体例のうち,民事執行法第47条第4項の続行決定,あるいは,第68条の3の売却の見込みがない場合の手続停止処分につきましては,民事執行手続の開始・終了に係る事項ではないので,裁判所書記官の権限とすることが考えられるとの意見もございました。   また,中間試案の本文に掲げた事項以外のどのような事項について裁判官が行うものとするかについて検討するものとするとの(注)につきましては,民事執行法第60条の最低売却価額の決定,第57条の現況調査命令,第64条の2の内覧実施命令について裁判官が行うことが相当であるとの意見が寄せられましたほか,過料や罰金に関係する事項については裁判官の権限とすることが望ましいとの意見も寄せられました。   続きまして,資料51ページ,(3)「裁判所書記官の権限とする事項」についてでございます。(2)の裁判官が行わなければならないものとする事項以外の事項のうち,配当要求終期の決定,物件明細書の作成,売却実施命令,代金納付期限の指定,配当表の作成について,裁判所書記官の権限とするものとするとの考え方につきましては,様々な意見が寄せられました。全体的には賛成意見が多数でございました。   少し細かく申し上げますと,これらの事項のすべてに賛成する意見も多数ございましたが,物件明細書の作成を除いて賛成する意見も一定数ございました。   また,売却実施命令を除いて賛成するもの,物件明細書の作成及び配当表の作成を除いて賛成するものもございました。   賛成意見の内容としましては,現在でも執行手続の大部分を裁判所書記官が実質的に担当しており,特に問題も生じていないことから,これらの事項を裁判所書記官の権限とすることは,手続の迅速化の趣旨から妥当であるとの意見や,裁判官と裁判所書記官との適切な協働関係が築かれている現在の状況からすれば,不都合は生じないとの意見がございました。   また,裁判所書記官の権限とすることにつきまして問題点を指摘する意見としましては,物件明細書の作成につきまして,競売不動産及びその権利関係をめぐる事実認定と法的判断を含み,買受希望者の誘引及び意思決定に決定的な作用を及ぼすものであるから,司法作用に類似するものとして,裁判官の職務になじむものであるとの意見,最低売却価額の決定や引渡命令の発令など,権利関係について重要な基礎資料となるという面や,買受希望者にとって重要事項説明書に相当する重要な情報源であるという点から考えて,裁判官の職務とすることが相当であるとの意見がございました。   また,現行法を改正する理由に乏しいとの意見もございました。   このほか,売却実施命令につきまして,慎重に検討すべきであるとの意見がございましたほか,全般的な意見としまして,裁判所書記官が一定の法的素養を有していることは否定しないが,職務分担の在り方を考えるに当たっては,その能力の問題ではなく,権限と責任が職務の前提となっている必要があるとの意見もございました。   なお,その他の意見としましては,物件明細書における適正敷金額の記載のような微妙な判断を要する事項については,裁判所書記官が作成する物件明細書に記載することは相当ではないから,敷金額については,賃貸借契約で合意された敷金額をそのまま記載するような運用に改めるべきであるとの意見がございました。   裁判所書記官の権限とすることに反対する意見としましては,先ほど(1)でも申し上げましたけれども,裁判官の増員を図ることで問題を解決すべきであるとの意見がございました。   中間試案の本文に掲げた事項以外の事項について,裁判所書記官の権限とすることを検討するものとするとの(注1)につきましては,必要性に応じた変更に柔軟に対応できるよう,法律に「その他民事執行規則で定める事項」との規定を置いて,規則で具体的に定めるべきであるとの意見のほか,売却決定期日や配当期日の指定,最低売却価額の決定についても裁判所書記官の権限とすることが考えられるとの意見もございました。   (注2)に掲げました,裁判所書記官の権限とする事項の不服申立ての在り方につきましては,不服申立てについては現行法と同様の手段が確保されるべきであるとの意見や,簡易・迅速に行える手続を検討するなど,不服申立ての方法を工夫する必要があるとの意見,あるいは,現行法どおり,民事訴訟法第121条の裁判所書記官の処分に対する異議で十分であるとの意見が寄せられました。 ● 最後に,後ほどヒアリングを実施することになります,金銭債務についての間接強制についてでございます。54ページになります。   まず(1)の,扶養義務等に基づく金銭債務について間接強制を認めるものとする考え方について意見を求めたところでございますが,こちらにつきましては賛成意見が多数ではございますが,日弁連等から反対意見も寄せられております。   賛成意見といたしましては,扶養義務等に基づく金銭債務は,通常少額の定期給付債務であるから,不履行のたびに直接強制の方法によるのでは,実際に金銭の支払を受けるまでに相当な時間と費用を要し,債権者の手続的負担が定期金の金額に比べて不相応に重くなるが,その権利実現が債権者の生計維持に不可欠なものであるため,間接強制の方法により債務者の任意履行を促す方が効果的な場合があり,消費貸借契約に基づく貸金債務のように,濫用のおそれが少ないという意見が,弁護士のグループから寄せられております。   また,反対意見の理由に対する意見でございますが,まず,間接強制を認めると,債務者の感情的反発を招くことはあるとは思われるが,これは直接強制の方法による場合も同様であり,間接強制の方法によることを認めないことの理由にはならないのではないか,また,任意に履行しない債務者の反発をおそれるよりも,債権者のための履行確保の手段を増やすことが必要ではないかとの意見,直接強制の方法により債務者の給料を差し押さえると,債務者が勤務先に居づらくなり,辞職又は失職するおそれがあり,債権者にとっても不利益になる場合があるとの意見,また,養育費についての債務者の多くは男性であり,男性の平均年収から考慮しても,収入が低くて払えない者の割合は高くなく,むしろ払いたくないから払わない,払わないでも不利益がないならそれで押し通すという,そういう実情ではないかとの意見,養育費が支払われていないのは,既に債務者と子の関係が断絶しているケースであることが通常であると思われるが,直接強制の方法により,断絶していた債務者と子の関係が改善されたという例があり,間接強制の方法によることを認めても同様な効果が期待できるのではないかとの複数の意見が,弁護士のグループから寄せられております。   これに対して,反対する意見といたしましては,日弁連や大阪弁護士会等の単位弁護士会,裁判所の一部等,大学関係者から寄せられております。   その理由といたしましては,金銭債務の損害賠償の範囲を限定した民法第419条第1項の趣旨からして問題があるのではないか,扶養義務等に基づく金銭債務の保護の必要性は理解できるが,実体法や家事手続法で適切な保護方策を考えるべきであり,義務の性質上,自発的な履行を重視すべき扶養義務等について,意思を強制する間接強制の方法を採用することは,更に紛争を拡大化,深刻化させ,有害無益ではないか,また,新民事執行法による扶養義務等に係る定期金債権を請求する場合についての特例及び財産開示手続の運用状況を見た上で,改めて検討するのが相当ではないかとの意見が寄せられております。   また,実態面として,扶養義務に基づく金銭債務の不履行は,資力があるのに支払を拒否するという事例よりも,債務名義の成立後に債務者の収入が減少するなど,資力がなく支払えないという事例が多いのではないかとの意見が寄せられております。   また,この反対意見の補足意見としましては,協議や審判の際に,実質的に違約金的な条件を付したり,履行状況の調査及び履行勧告制度,履行命令,金銭寄託などを活用することを考えるべきであるという御意見や,養育費の履行確保については,民法における養育費負担義務の明示,簡易に債務名義を取得できる養育費支払命令制度,養育費立替払制度の創設などの別途の改正で実現すべきではないかとの御意見も寄せられております。   次に,(1)の(注1)でございます。扶養義務等に基づく金銭債務以外で,間接強制の方法によることを認めるべきであるという債務はあるかということでございますが,まず,扶養義務等に基づく金銭債務に限定されるべきであるという意見が経営法友会等から寄せられております。   また,いわゆるサラ金などの金銭債務については,あらかじめ利率等にリスク分が含められていることからも,間接強制の対象とすべきではないという意見が,連合から寄せられております。   また,間接強制は1日の遅延につき金幾らというように,使い方によっては過度に強力な手段となり得るのであって,資力のない債務者は一層窮地に追い込まれるおそれ,制度の濫用のおそれがあり,扶養義務等の金銭債務以外の他の金銭債務についても認められるべきではないとの意見が,日弁連から寄せられております。   また,別個の類型の債務として,労災,交通事故,介護などに基づく損害賠償金で定期金賠償の方法をとるものについて,間接強制の方法によることを認めるべきであるとの意見が連合から寄せられております。   また,未払賃金債務は,労働者の生活を維持するために不可欠なものであり,その額が少額であることが多く,直接強制の方法によれば時間及び費用の点で手続的負担が重いので,間接強制による方法を認めることが相当であるとの弁護士のグループからの意見も寄せられております。   続きまして,(1)の(注2)でございますが,将来分の定期金についても間接強制の方法によることを認めるべきかどうかという点でございます。これについては意見が分かれております。   そのような将来分の請求についても認めるべきであるという考え方について,賛成の意見としては,期限到来分のみについて間接強制を課したとしても,不履行をしている債務者に対しては任意履行を促す効果が図れるとは考えにくいとの,第一東京弁護士会からの意見が寄せられております。   また,第一東京弁護士会は,併せて,債務者の資力については,将来的にどう変遷するかについては予測が困難な面があり,間接強制金の算定などについての判断の困難の程度を考慮すれば,1年程度の将来分に限定して間接強制を課すことが相当であるとの意見も寄せられております。   他方,(注2)に掲げた考え方について反対する意見としては,日弁連等の意見がありますが,その理由としては,新民事執行法によって既に期限が到来したにもかかわらず履行されない場合に,期限未到来の将来の定期金債権についても債権執行することが認められており,これを超えて債権者を保護すべき必要性は高くないとの意見が寄せられております。   続きまして,(2)の間接強制の決定の取消しの制度を設けるべきものとするとの点についてでございます。これは,賛成する意見も多数でございますが,なお反対する意見もあるところでございます。   賛成する意見といたしましては,履行する意思はあるが資力がないために事実上履行することができない債務者にとっては,過酷な結果となる場合があるので,このような手続を設けるべきであるとの意見が寄せられております。   他方,反対意見といたしましては,もしこのような規定を設ける場合には,むしろ債務者に資力があるということを間接強制の発令の積極要件とすべきであるとの意見が日弁連等から寄せられております。   また,債務者の資力がないと認めるときは,間接強制の決定を取り消すことができるものとしているが,無資力の要件というものは必ずしも明確ではない,養育費等の債務が不履行になる実情にかんがみると,不払の事実だけで間接強制を発令し,その取消しにつき債務者に無資力を証明させることを求めるのは,債務者に過度の負担を負わせることとなるおそれがあるとの意見が家庭裁判所の一部から寄せられております。   最後に(注)でございますが,債務者に資力がないことが明らかである場合は,間接強制の決定をすることができないものとする,そもそも発令要件とする規定の要否について意見を求めたものでございます。   これについても,賛成する意見,反対する意見双方ありますが,賛成する意見としては,債務者に資力があるということを間接強制発令の積極要件とすれば,債権者の手続負担が重くなると考えられるので,明らかである場合に限定することが相当であるとの意見が第一東京弁護士会から寄せられております。   また,規定を設ける場合には,債務者に資力がないことが明らかである場合を具体的に列挙すべきであるとの意見が,経営法友会から寄せられております。   他方,反対意見としては,要件判定のための資料の収集が問題であり,取消しの制度で債務者の保護は十分であるから,このような要件は不要ではないかとの意見が寄せられております。   最後に,第3「その他」の部分でございますが,こちらは経団連から,通常執行の時間帯の拡大について,社会全体のライフスタイルが夜型に変化していることに対応し,現行法上,裁判所の許可が不要な通常執行は,平日の午前7時から午後7時までとなっているが,例えば,午後9時まで延長することを検討すべきであるとの御意見が寄せられております。   大変長時間になりましたが,パブリックコメントの意見の結果の概要についての御報告は以上でございます。 ● 多少お時間をいただきましたけれども,先ごろ実施いたしました中間試案についてのパブリックコメントに対して,寄せられた各界の意見の御紹介をしていただきました。   お聞きになりましたように,項目ごとに賛成・反対の意見の分布,それから主要な理由等が,多分,目でフォローすると同時に耳でお聞きいただくことによって,大変よく御理解いただけたのではないかと思っております。中間試案に対してどういう意見が寄せられるのかということ,私ども大変興味を持って,関心を持って注目しておりましたけれども,予想される意見,それからこれはちょっと予想外だったなという意見が出てきたのは,皆様今お聞きになったとおりでございます。   この資料は,今後我々のこれからの審議に大いに参考にさせていただくということにさせていただきます。この機会に,意見を寄せられた各界の方々に厚く御礼を申し上げておきたいと思います。   この資料の個々の意見についてではなくて,この資料全体について,何か概括的な御質問があればお伺いしておきたいと思いますが,何かございますでしょうか。   それでは,今日の2番目の問題ですけれども,金銭債務についての間接強制について,関係団体等の方々にお越しいただき,御意見を伺うという予定にしておりますことは先ほど申し上げたとおりでございます。本日は,NPO法人Wink理事長の○○さんと,それから弁護士の○○さんに,お二方大変お忙しい中を当部会までお越しいただきました。本日はどうぞよろしくお願いしたいと思います。   それから,せっかくの機会でございますので,お二方から御説明をいただいた後で,若干質疑の時間をとらせていただきたいと考えております。   御説明をいただく順番と時間でございますけれども,まず○○参考人,それから○○参考人の順番で,それぞれ御説明をお願いしたいと思っております。   それでは,まずNPO法人Wink理事長の○○さんの方から,どうぞよろしくお願いしたいと思います。 ● 皆さんこんにちは。NPO法人Wink代表の○○と申します。自己紹介から簡単にします。   私自身が,母子家庭です。シングルマザーで,二児の子供を育てています。今,8歳と高校1年生の子供がいます。私は,実は二度離婚していまして,養育費はもらっていません。正確には今まではもらっていません。先月から確保しました。その辺もこれからお話ししようと思っています。   私たちのNPO法人Winkの活動ですが,団体の理念としては,子供の健全育成のための大人世代の責任の全うということを提案しています。大人が,大人としての責任を果たせていなかったり,親が親としての責任を考えられないところがおかしいのではないかということを活動の理念にしています。その中に,今回お話しする養育費に関する活動というのが一つ入っております。   この養育費の活動に関しては,実は10年計画というものを団体で持っておりまして,今年から強化して取組みをしています。今年と来年は,支援者の啓発というところに力を入れています。応援してくれる人をたくさん増やしていこうということで活動しています。   これまでの活動としては,実は去年の秋に,『僕らには親が別れても愛される権利がある』という書籍を作りました。養育費の実態調査を行って,それを一冊の本にまとめて発売しました。4月には,この報告シンポジウムというのを行いまして,養育費の「いくひーちゃん」というキャラクターを作って,「パパ・ママ払ってね」ということで運動をしています。   もともとWinkというのは,97年の12月からインターネットに母子家庭共和国というシングルマザーのためのポータルサイトを立ち上げまして,その活動をきっかけに始まっています。今は母子家庭の支援というよりも,子供たちの健全育成を守ろうということで,親子コンサート等をやったり,こういう養育費の活動をしたりということをしています。   実は,この秋には「パパに聞きたいこと」という,私が作詞したものに○○さんというミュージシャンが曲をつけてくれまして,来年にはそれをCD化して,お父さんたちに会えない子供の気持ちであったり,養育費をお金としてとらえるのではなくて,愛情というようにとらえて,なぜ払ってくれないのというストレートな気持ちではないのだけれども,なぜ会えなかったりとか,別れてしまうと夫婦の関係というのは終わるのだけれども,親子の関係というのは終わらないよねということを訴えていきたいということで,そのような活動もしています。   今お話ししたように,Winkの活動というのは,養育費を単に母子家庭の経済的な問題とかお金の問題としてとらえているのではなくて,養育費問題とか面接交渉権を通して,大人が親としての責任をきちんと全うできない社会にすごく疑問を感じて取組みをしています。ですので,うちの関連サイトには,父子家庭共和国というお父さんの父子家庭を応援するサイトもあるのですが,この養育費問題は,お母さん側だけの問題としてとらえているのではなくて,父子家庭の問題としてもとらえています。子供を置いて出ていった親が,離れている子供にどのように責任を果たしていくの,どのように愛情を伝えていくのという問題としてとらえています。   今日は,当事者の意見をたくさん持ってきました。この養育費の不払の問題点ですが,私は,払えない親ではなくて,払わない親と,それをしょうがないよねと許す世間の風潮にすごく問題があると思っています。来年から民事執行法が変わりますが,それによって果たして強制執行は増えるでしょうか。私は,実は増えないだろうと思っています。なぜならば,強制執行までするのは難しいと考えている当事者が非常に多いです。それプラス,そこまでしなくてもねという世間の風潮が,すごく強くあると感じています。   ちょっと投稿を持ってきたので読み上げます。     強制執行は最後の手段だと思うが,離婚するのに多大なエネルギーとお金と時間を使った後に,また多大なエネルギーとお金と時間を使うのかと思うと気が重い。手続ももっと簡素化すべきだし,少なくとも調停や裁判で決まった場合だけでももっと強制力を持ってほしいと思う。手続のややこしさと,強制執行にかかるエネルギーの大きさに,強制執行をあきらめる人も多いのではないかと思います。   キーワードが「あきらめる人が多い」というところだと思います。   次にもう一つ。     今現在の法律では,強制執行はとても敷居が高く感じます。それは,養育費に対する意識の低さから来ているような気がします。例えば,借金をして支払わなかった場合,多くの人が強制執行されてもそれは当然だと思うでしょうが,養育費に関しては払わなくてもいいものという考えが余りにも広がりすぎていて,強制執行しようものなら,まるでこちらが何か悪いことをしているかのごとく言われることもあります。私も支払が滞った場合,強制執行したいと思っているのですが,今の風潮の中で強制執行するのはかなりの勇気が必要です。   もう一つ。     養育費算定表に基づいて収入に見合った額に増額してほしいと要求したところ,マスコミで記者職を得て支局長という立場にある元夫でさえ,7割以上は払っていないのだから払っているだけましなどと開き直る始末です。   これは,「今の風潮では無理」というのがキーワードです。   実は,Winkでは,今,「自分でできる養育費強制マニュアル」というのを春に出版しようと思って,私自身が執筆中です。この本の中で,来年からの法律改正に向けて,私自身が強制執行までの道のりをルポルタージュしてみました。もう離婚して15年たつので,相手の居場所から分からなかったので,居場所探しからしました。探偵のようなことをして,相手の居場所を突きとめて,そして強制執行のために送達証明を送りました。送ったときに,相手から謝罪文が届き,そしてこの9月から養育費が5万円ずつ支払われるようになりました。これから調停を行って,私は金額を問題にしているのではないので,相手にその5万円という金額が無理がないのかとか,今後の面接交渉を含めた親子関係の作り方について調停を行って話合いをしようと思っています。   自分で手続をやってみて,確かに手間と労力というのはすごくかかると思ったのですが,当事者の方がお金がすごくかかるとか労力がすごくかかると思っているほどではないなと,自分でできると感じたのでマニュアルを書いているのですが,やはり当事者の方の多くは,投稿にあるように,強制執行は弁護士費用もかかるし時間もかかるしで大変だと思っていますね。ですので,法律が変わっても,そこまではやれないという意見が多いです。   そのほかに,サラリーマンじゃない場合は全く意味がない,自営の場合にはどうするのというような投稿が多数寄せられています。   私の別れた夫も,払えない人ではなくて払わない人でした。私も支払が半年ぐらいで滞ったときに,履行勧告をして,履行命令をしました。それでも払われないときに,私自身も家庭裁判所に相談したのですが,そのときに相談窓口で言われたことは,やはりないところからはとれないし,弁護士費用もかかりますよということで,私はそのときに,15年前ですが,養育費を一度あきらめています。   何度も言うようですが,私は養育費というお金が欲しいのではなくて,我が子に対する責任を放棄した親に,親としての責任の全うというのを教えてあげたいなと思っています。もちろん一方的ではなく,そのために話合いの機会を持つということもすごく大切だと思います。   確かに反対の声にあるように,不景気でリストラされて払えないなど,お金がなくて払いたくても払えない人というのは確かにいると思いますが,すごく少数だと思っています。払えない人は,減額の調停をすればいいのであって,払えないからといって逃げ隠れするのは大人の行為でしょうか。そのあたりを考えてもらうためにも,必要な制度なのではないかなと思っています。   また,面接交渉との関係ですが,親子関係を悪化させるのではないかという反対意見もあるようですが,これは確かに絶対に起こらない問題だとは言い切れないところで,私もちょっと心配はあるのですが,ただ,基本的には子供の権利を守るための法律であるという大人としての理解ができれば,争いは起こらないと思うし,そこは法律が決まってから当事者が考えていくべきことなのではないかなと思っています。この法案がきっかけで壊れるのではなくて,もともと壊れている人たちは,最初から壊れていると思います。   また,面接交渉との関係というのは,確かに「子供に会えないお父さんたちの会」というのがあるように,対立するところなのですが,私にとっては卵が先か鶏が先かというすごく愚かな闘いをしているようで,どちらが先でもいいと思っています。どっちかが進めば,両方を考えるきっかけになるのではないかなと思っています。また,そうなっていかないと,子供たちが救われないのではないかなと,すごく強く思っています。   養育費をもらっている人,滞ってから1年未満の人を対象に,書籍の出版のためのアンケートと聞き取り調査をしました。人数は100人と,そんなに人数の多くないものだったのですが,もらっている人が76人で,そのうち1年以内に滞って困っている人を除くと26人でした。もらうための努力をしていますかという質問に対して,努力しなくても払われていると答えた人がたったの26人です。もらっている人76人中の26人です。もらっている人の半数以上が,何らかの努力を続け,いつ滞るか分からないという非常に不安な気持ちを常に持っています。   私は,基本的には養育費を強制されなくては払えない親がいるということがとてもおかしいと思っていて,離婚して子供がいる場合には,縁切りではなくて,そこから新しい関係を築いていかなければならないと思うので,それを考える何かのきっかけがすごく必要だと思っています。   今回の法案というのは,そのきっかけ作りになるのではないかなと思っています。きっかけというのは,四つあります。一つは,払えない親がきちんと払えないわけを連絡して,減額調停を起こす等のきっかけ。二つ目は,払わない親が親としての責任をきちんと考えるきっかけ。三つ目は,もらいたくないと思っている養育親が,子供の権利として考えなければならないのだなと思えるようなきっかけ。四つ目が,世の中の人が離婚後の養育費はこんなにも払われていない現状を知って,払わないのはおかしいよねと思う風潮を作るきっかけ。強制執行までされないと払えない人というのは,はっきり言って人間として終わっているのではないかなと思っていまして,厳しいようですが,私の別れた夫も強制執行までしなくてもその手前でちゃんと考えるきっかけを持ってくれました。そこまでやらないと払えないという人は,もう人としての基本的なところがないのだと思います。だから,そこまで考えなくてもいいのではないかなと思ってしまうのが正直なところです。   最後に,当事者の投稿から法律を作っている皆様への期待のメッセージを,一つお届けします。     民事強制執行法改正に期待しています。私はシングル7年目,11歳の男の子がいます。養育費は,離婚調停で取決めしたにもかかわらず,おやじが糖尿で入退院を繰り返していて医療費がかかるという理由で支払を拒否され,調停調書の養育費の項目を赤線で消したものに捺印させられました。家裁を通してほしいとの言い分も聞いてもらえず,家裁でできるのは増減額の調停だけ,全額となると示談なんだよなどと言われ,離婚まででエネルギーが尽きた私は,その調書に捺印してしまいました。それ以来,7年間養育費は一度も支払われていません。     お父さんが亡くなって1年近くたちますが,先方からは誠意ある申出も送金もないという状態です。7月に決まった民事強制執行法の一部改正に期待を持っています。養育費を将来分にわたって強制執行できるようになるのですよね。また,支払期日が遅れた場合に,制裁金(?)が科される制度も検討されるとのことで,とても期待しています。我が子のためにも是非力になってください。   どうもありがとうございました。 ● それでは,引き続きまして○○参考人から御説明をお願いしたいと思います。 ● 大阪弁護士会の○○です。平成4年から家庭裁判所の調停委員をやっておりまして,本日の問題と関連するのはそのことと,それから大阪で14年から小規模管財,東京で簡易管財という形でスタートいたしましたが,大分遅れましたが大阪でもそれを始めまして,それと個人再生,そのあたりの弁護士のメンバーへの普及といいますか,裁判所と一緒に本を作ったりいたしまして,普及すると。その後メーリングリストでそれぞれの質問に答えるという,そういう仕事をしております。   そういう中で,養育費それから強制執行云々ということにもかかわることでございまして,そういう経験を踏まえまして意見を述べさせていただきます。   扶養義務の履行という形で債権の表現がされておるのですが,一番分かりやすいのが養育費ですので,養育費ということで説明させていただきます。   今回の議論の経過,若干見てみまして,今回問題になっているのが養育費のための間接強制なのか,金銭債権についての間接強制のための入りやすいドアとしての養育費なのかということがまず考えられるわけです。つまり,後の方ではないかと思うわけです。現在の家事審判法でも履行命令が出まして,それに対しては10万円以下の過料の制裁が出されることが可能でありまして,履行命令までの例は聞くのですが,過料の方の例はほとんど聞いたことがない。これも間接強制といいますか,間接強制ですと債権者に入りますので,それは若干違いますけれども,金銭支払をペナルティーとして命ずるということでは同じことでありまして,これが私の知る限り,この過料というのは全く利用されていないのではないかと思います。間接強制が養育費にとって有効だということなら,これがもっと利用されているのではないかと思います。   それと,今回の間接強制がもし認められると,執行裁判所は家庭裁判所になると聞いておりますけれども,そうすると家庭裁判所が履行勧告,履行命令という制度と,間接強制の執行裁判所という両方を持つということになる,履行命令というのは相当と認めるときには出すとなっておりますし,過料の規定にしましても正当な理由なく払わないときは過料の裁判をするとなっておりまして,一種の裁量の幅があるわけです。それに対して,間接強制には,家庭裁判所に裁量の幅が与えられるのだろうかと,立法ですからどうにでもなるという理屈はありますけれども,強制執行の分野で執行裁判所が出すか出さないかを裁量でできると,債務名義がありながらできるという制度ができるのだろうかと。もし裁量の幅がないということになりましたら,家庭裁判所はどうやってこれを運用していくのかということが心配になるわけです。   養育費という債務関係といいますか,非常に特徴のあるものでありまして,むしろ一回給付の金銭債務なら間接強制というのがやりやすいかもしれないのですけれども,どうも養育費はやりづらいのではないかと,つまり養育費が間接強制に向いていると言われていますけれども,むしろ向いていないのではないかと思います。養育費というのは毎月数万円から10万円程度のものが毎月発生して,十数年ぐらい続くというのがまれではない,ほとんど二十歳までということを想定しますと,10歳未満の子供さんについて決めるとなると十数年ということになる。支払うべき養育費の適正な額というのは,その時その時の権利者,義務者の子の状況によって変化する,つまり養育費の額というのは必要性と可能性で決まってくるというのが原則であります。   家庭裁判所に変更の申立てをすることができますが,これは理論的には,過去にさかのぼってすることができると,申立てより前にさかのぼるということも,理論的には可能だという制度になっておるはずです。   それで,養育費について間接強制を導入すべきという意見,これは弁護士の中でも相当賛成意見がございます。ただ,そういう意見を聞いてみると,間接強制の効果はそんなに大きいとは思わないのだけれども,少しでも武器が多い方がいいと,いわば鉄砲の弾は少しでも多い方がいいということであります。ただ,立法で制度を作る以上,権利者と義務者の両方に目配りをする必要があるわけでして,養育費を払わないのは非常にけしからんことですけれども,だから義務者を撃つ武器をどんどん増やせばそれでいいというわけではないと思います。   外国の法制では非常に厳しい,養育費というものの不払に対して非常に厳しい法制度が珍しくないと聞いておりますけれども,少なくとも今回,間接強制の提案をされておりますけれども,例えば,身体拘束までするというような提案がされているわけでは当然ございませんので,その辺の義務者の状態といいますか,義務者にも目配りをした制度が必要ではないかと思います。   そこで,義務者にとってどうなのか,間接強制というのが過酷ではないのかということを考えてみたわけです。今回の制度で,資力がないことを証明して間接強制の取消しを求めることができるというものが用意されておるのですが,実際の場面を考えますと,資力のない義務者はどうせ払えないのだから,間接強制を命じられてもそれも払えないのだから,わざわざ取消しの申立てをする,そういう行動に出るだろうか,実際には出ないのではないかと思います。   それから,もし取消しの申立てをしたとして,間接強制が出た途端に取消しの申立てをすれば別ですけれども,間接強制が出たときには資力がなかったから放っておいて,相当期間たちまして資力が出てきた,あるいは,就職して収入も出てきたと,それで今更ということで,ただその時になると間接強制金が非常にたまっている,これはかなわんということで取消しの申立てをしたとすると,過去にさかのぼって取消しが認められるのかと。これは養育費本体は理論的には可能なはずなんですが,恐らく間接強制金については執行という性格上,過去の分を取り消すというのはそぐわないのじゃないかと。そうすると,たまったものはたまりっぱなしということになってしまう。   ちょっと設例で考えてみたのですが,私,金銭債務の間接強制というのがどういう決め方をするのかというのがよく分からないので,不履行だと1か月金何円という定額で決めるのか,あるいはパーセンテージで決めるのか,金銭ですから一部の不履行というのもあるでしょうから,恐らくパーセンテージで決めるのではないだろうかと思いまして,一応年利20%の間接強制を命ずるという事態を想定いたしました。20%というのは利息制限法にも配慮しまして,15%を1.46倍,利息制限法の遅延損害金の制限パーセントでいきましても21%少しいきますので,20%というのはその範囲内に抑えております。   これで,14歳未満の子供さんが二人おられて,片方の義務者の年収が900万だと,それから権利者の年収が150万だという事例を考えますと,「判例タイムズ」の1111号に掲載されました養育費の算定表,これによりますと月額12万です。普通,これは夫から妻に払うという例が普通ですので,権利者・義務者というより夫・妻と言った方が分かりやすいと思いますが,夫の年収が900万,妻の年収が150万,それで子供さんが二人とも14歳以下であるとすると月12万だと。月12万で,年20%の間接強制金というのは,1か月2,000円なんです。2,000円で効果があるかどうかというお考えも当然あるでしょうが,一応は2,000円です。これが10年間全く払わなかったとします。10年間ですと,未払の養育費のトータルは12万の10年分ですので1,440万になります。   それから,1か月2,000円の間接強制金,これは1か月分ごとにそれについて1か月2,000円ずつ発生する。その次の月も12万についてもまた1か月2,000円ずつ発生する,こういう計算になりますので,これのトータルが1,452万になります。つまり,10年間ためていると,20%の,わずかといえばわずかかもしれませんが,20%の間接強制金を命じても,未払養育費トータルを超える間接強制金のトータルになる。これだけのものを抱え込んでしまうわけです。   この時点から払い始めましても,間接強制金に全部充当されますので,法定充当の問題がありますので,元本に充当されずに,恐らく間接強制金に充当されますので,元本の不払状態というのはいつまでも解消しないという,一種の--ためた方が悪いといえば悪いのですが--アリ地獄状態になってしまいます。   これが5年間だとどうなるかといいますと,半分ぐらい,元本の半分ぐらいが間接強制金の累積額ということになります。これが年20%とした場合の話です。   今までの法制審議会での議論でも,こうなると破産に追い込まれるではないかというお話があるわけですが,それで破産で免責になればいいのですが,今回の破産法改正案で養育費が非免責債権になりましたので,破産しても全く救済されません。間接強制金が非免責債権の中に入るのか入らないのか,これは立法のことですからどちらにも決められると思いますが,養育費本体は非免責だけれども間接強制金は免責でいいよというように分けるというのも可能なのかどうなのか,そぐわしいのかどうなのかという気がいたします。ですから,養育費というのは他の立法分野でもいろいろ出てきますので,関連法制の目配りというのも十分していただきたいわけです。   今回の民法・民事執行法の改正で実現しましたのが,給料債権等に対する将来分の差押え,それから,扶養料債権については差押え可能な範囲を拡大するということが実現いたしました。それから,財産開示もこのために使えるものでありまして,できました。私は,是非やってほしかったのは,むしろ扶養料債権に一般先取特権を与えるということをやってほしかったのですが,これは実現しませんでした。これがもし実現すれば,差押競合の場合を想定した差押禁止範囲の縮小といいますか,あれはやる必要はないわけでして,こちらの方が優先します。   それから,小規模管財なんかの現場で,破産管財人が配当するときに,電気・ガス・水道というのは,これは民法310条の先取特権がありますので,配当すべきお金がわずかのときでも100%払います。電力会社,ガス会社といういわば大資本には100%払います。ところが,そこで未払養育費債権の届出がありましても,債務名義がありましても,これはサラ金の債権も同じですから,そこで支払が0.何パーセントだったり,金額と平等の案分してしか払いません。一般の先取特権の中にこの扶養料債権というのを入れておいていただければ,こういうときに満額の支払ができるということになります。   それから,個人再生の場合でも,一般の先取特権がついておりますれば,再生債権ではありませんので,カットの対象にもならないということになります。   先ほど,養育費が非免責債権になったということですが,それとの関係でちょっと問題がありまして,私は非免責債権にすることは大賛成でして,これでほぼ問題が解決できたのかなと思っておりました。ただその後気が付きまして,つまり破産宣告後,あるいは,手続開始決定後の将来の扶養料債権,養育費債権というのは,破産債権・再生債権なのか,私は破産宣告前の分だけが破産債権だと思っていたのですが,どうも有力な学説ないし法務省の参事官の御意見はそうではないと,全部が破産債権であり,全部が再生債権であると。大阪の倒産部の意見もそうでございます。そこで個人再生の申立てをすると,将来の養育費を全部中間利息を控除して現在額を出しまして,ほかの債務とトータルして3,000万を超えると,だから個人再生の利用はできないよというケースが実際に出てきております。   それも困るというのですが,もっと困るのは,非免責債権になりますけれども,今度改正される破産法,あるいは,個人再生でも,現在化されるということは変わっておりませんので,将来分まで含めたすべての養育費が現在の債権に引き直されます。そうしたら間接強制金が認められた場合,それをもって間接強制の申立てをされたらどうするのだと,全額について間接強制を認めるのかという,何か曲がりくねって迷路に入って,出口がどこにあるかよく分からないという,そういうことになります。ただこれは,私は将来分というのは,破産債権ではないと思いますので,そう解すればこういうことは起きないわけですが,そういう問題がございます。   いろいろややこしいことを申し上げましたが,養育費を払わせるに何が有効なのかという,これが一番肝心なところでございます。全く資力のない義務者に払わせることはできない,これは抽象論はそうなんですが,ただ家庭裁判所の現場では,養育費の支払が月1万円というのを決めることもあります。その時点での,あなた幾ら払えるのだと聞いて,どうしようもないと,1万円でも仕方がないからともかく決めておけば払ってくれるだろうというので,1万円と決めることもあります。もちろん2万円ということもあります。1万円,2万円というのはおよそ払えない人というのはいないと思うのですね。だから,全く資力のない義務者というのは抽象的になりますけれども,実際には少しなら払えるはずなんです。ただ,そういう人に払わせるというのは難しいのですが。   それは別としまして,把握できる資産がある,あるいは,給料のある義務者に支払わせるということは,これは現行法でも強制執行でできます。直接強制でできます。把握できる資産がないという人が問題なんです。ただ,今まで払われていない人が非常に多い,率が多い,家庭裁判所の調停で決められた場合でも5割が払われていないという統計をお聞きしております。   実際にこう言うと酷なんですが,払ってもらえない人が,例えば,弁護士に依頼する,司法書士に依頼する,それから,そこまでしなくてもうるさく相手に対して電話をかける,そういうことをやっているのだろうかと。私はやっていない方が非常に多いのではないかと思います。気持ちは本当に分かるのです。払ってもらって当然というか,子供のための養育費ですから,払ってもらって当然のものを払わない,それをそういう相手に電話をかけること自体嫌だと,何でそんなために自分がわざわざしなければいけないのだと,だからそんなもの,いわばあれこれすること自体が自分が傷つけられるという気持ちをお持ちだというケースがしばしばあろうかと思います。ですから,何もしていないではないかというのは非常に酷な話なんですが,ただ何もしなければ向こうが払わないということが多いのも事実でして,そのためにはせっかくリーガルサービスセンターとかそういうのもできるわけですが,何とかそういう手助けをする者,弁護士ないし司法書士ないしもっと他の機関でもいいわけですが,手助けをできる機関のところまでその方に来ていただく,そこの窓口まで来ていただく,何とかそれができないか。強制執行,債権執行の費用というのはそんなに大してかかりませんし,弁護士ないし司法書士の手間は大してかかりません。それから,何もいきなり給与を差押えしなくても,本人あてに弁護士名でレターを出す,払わなければ差押えしますよと出すということで多くの場合は払ってきます。もちろん払ってこなければ,実際に差押え,給料のある方はすればいいわけですから。   大阪の家庭裁判所と話していまして,家庭裁判所の所長の方は,家庭裁判所のすぐ出たところに弁護士会の分室を作れと,相談所の分室を作れと,そこで家庭裁判所に来た人がすぐにそこに相談に行けるというようにしてくれということを強く言っておられまして,まだそれはできておりませんけれども,私もそういうものができれば一番いいかなと思っております。   そこまではできるだけのことをしたいし,できなければいけないと思いますけれども,例えば,直接強制がありますよと,つまり差押えがありますよということを弁護士会ないし司法書士ないしそういう取立代行機関といいますか,お世話をする機関が本人に督促をする,それでも払わない,実際に差押えをしてみても取れない,かつ払わない,そういう人に間接強制の命令を出しても払うかというと,それは望みは非常に薄い。そのときに,どういうパーセンテージの間接強制を出せるのか。先ほど申しましたように,払わないのが悪いといえばそうなんですが,長期間滞納すると20%という金額であったとしても,非常にたまってしまう,累積してしまうということになるわけで,そういうことを考えると余り高いパーセンテージは出せない。もちろん間接強制金に利息制限法の適用はない,恐らく貸金業法の適用もないでしょうから,非常に高率の命令を出しても違法ということにはならないと思いますけれども,実際上そんなに高額・高率の命令というのは出せない。そうなると,受け取った方のショックというのもそれほどでもないことになってしまうのではないかと。そういういろいろな問題があります。   本当は何とか払う,払うということで親としての責任を果たしたという充実感を持ってもらう,そうなるのがベストなわけですけれども,間接強制でそれを命ずるということがなかなかプラスになるとは思えないわけです。非常に難しい制度,養育費に組み合わせるのが非常に難しい制度ではないかと思います。 ● どうもありがとうございました。   金銭債務についての間接強制に関する事項につきまして,ただいまお二人の参考人の方から大変興味のある話,あるいは,法律的にかなり難しいと感じられる話をそれぞれお伺いいたしました。せっかくの機会でございますので,ただいまの御説明につきまして何か御質問等がございましたら,どなたからでも結構でございます。挙手をしていただければと思います。 ● ○○参考人,私も,家事調停を経験している者の立場から,お話を興味深く,あるいは,同感しながらお聞きいたしました。確かに養育費をめぐる諸問題というのは,○○参考人がおっしゃったような問題を抱えていると私も思います。   調停委員の立場から言うと,まず養育費を決める段階から非常にエネルギーを尽くしての努力をいろいろしているわけですし,また一応合意して調停条項を作ったからといって,本当に履行されているのかどうかという問題をいつも考えております。2年,3年後に本当に払っているのか,泣き寝入りされているのではなかろうか,そういう思いを抱きながら私たちは調停をやっているわけですが,確かにお話のように払わなくても仕方がないとか,それをまた家庭裁判所に持ち込むと自分自身が惨めになったり,批判されるのではないかという思いを,本当にたくさんの方が抱いていらっしゃるのではないか,そういうことが履行率3割とか4割と言われるように低い数字になっているのではなかろうかと思います。これは感想ですが。   そこで,先ほど○○参考人が,この間接強制の関係に絡んで四つの考えるきっかけということをおっしゃいましたが,まさにそのとおりだと思いますが,しかし現実にこの四つの考えるきっかけをどのように具体化していかなければならないか,その辺をお聞きしたいと思うのですけれども,どのように具体的にお考えになっているのでしょうか。 ● 弁護士さんのお話にもありましたように,もらえない側だけに鉄砲を増やしてどうするのかというのも確かにあるのですが,もらう側が努力をしていないかというと,私は当事者の意見をここにいる誰よりも一番たくさん聞いていると思います。努力をしていないかといえば,みんな努力しています。ただ,持てる鉄砲は,現在ではすごく少ないと思っています。そういう意味で,きっかけをまず法律というところで作っていただいて,それをどのように生かしていくのか,使っていくのかというのは,当事者である私たちが考えるべきことだと思っています。Winkの活動というのが,そこで生きてくると思って頑張ろうと思っています。 ● ほかにいかがでしょうか。 ● ○○参考人にお伺いしたいのですが,面接交渉権の関係で,面接交渉権というのは家庭裁判所の中で,調停の中で,あるいは,審判で明確に定められる例は一部だと思われますが,そのあたりの実情はいかがでしょうか。   それと,これが履行されないときに,履行勧告・履行命令ということがなされている,そのあたりの実情はどうか。   それから,もし養育費で間接強制をすることができるということになると,面接交渉権をもう少し権利として当然確立して調停の場なりでしっかり決めるという方向に流れていくと思うのですが,そのあたり,どうお考えになりますか。   それからもう一つ,きちんと面接交渉権が決められた場合,それを何らかの事由でどうしても履行できない,履行したくないということになった場合,これについても間接強制という強制手段が,現行法では理論的にはできると思うのですが,実際にはやられていないと思いますが,それを進める流れにつながっていかないか,そのあたり,ちょっとお考えをお伺いできればと思います。 ● 私も調停委員の経験が長いのですが,弁護士の調停委員というのはほとんど遺産分割の事件なんかが配てんされまして,夫婦関係とか婚費とか,そういうのも若干やりますけれども,私は面接交渉そのものの事件というのは自分で調停委員で体験したことはございません。ただ,家庭裁判所の大きな議論の一つは面接交渉でして,しかもそれが,これは権利なのか権利じゃないのかというところでして,たしかこれはいわゆる実体法的な権利ではないと言われているのではないかと思います。ただ,審判で面接交渉を命ずることはもちろんあるわけでして,そうなれば審判で義務として命じられたということになりますから,今回の改正後の民事執行法のところで間接強制の申立てがあったときに,理論的に蹴ることができるのかなと,何かどうも蹴るという理屈が立つのかなという気がしておるのですが。   それと,面接交渉というのはどうも難しいなというのは,こういう話であります。今回の人事訴訟法の改正で,子の監護に関する処分を訴訟の中でできることになりましたが,子の監護に関する処分というものの中には面接交渉も入っておるわけでありまして,そこでそういう形でそれを附帯処分として付けた人事訴訟が出てきて,そこで家庭裁判所調査官が関与するときにどうするのだと,面接交渉での家庭裁判所調査官の関与というのは,これは常に調整的要素でありまして,事実関係を調べて,会いなさい,会わなくていいというのを決めるというようなことは,面接交渉に関してはできないと。これは,お互いの関係を調整して,うまくいくかどうか,いくようにして会わせる,会う,どういうペースを作るのかという,それが家庭裁判所調査官の仕事であって,それが人事訴訟の段階の調査官の仕事としてはできないと。前に家庭裁判所調査官の方とお話ししていて,それは確かにそうだと思います。   だから,そういう面接交渉という一番権利義務で切り分けがしづらい世界ですので,そこへ間接強制を持ち込むというのは非常に困ったことになるのではないかと思いますが,たださっき言いましたように審判で命ずるということだってもちろんあるわけでして,そこから先の理屈は,間接強制と適合しないという理屈が出るのかどうか,そこが出にくいのではないかという気がしております。 ● ○○幹事,よろしゅうございますか。   ほかにいかがでしょうか。 ● せっかくの機会ですので,○○参考人に一つだけお伺いしておきたいのですが。   直接強制ができる,給料の差押えができるので,その方法を充実して,あるいは,相談窓口を充実すれば何とかいけるのではないか,それはそうなんだろうと思います。直接強制をかけて,駄目なときに間接強制が効くかという問題もあろうかと思いますが,今,前提にしているのは,なるべく直接強制をかけずに何とか済ませる道はないのかという形で間接強制を考えているのだろうと思っているのですが,そういう必要性はない,要するに直接強制でいけるときはそれを考えればいいので,間接強制というのは一歩下がるというような感じになりますから,そこのところをどうなんですか,全然要らないというのか,ひょっとしたらあり得るかもしれない,要するに,鉄砲を増やすようなことで,増やしたらいけないのかどうかというのが,どうも余分なものということになるのでしょうか。そこをちょっと教えていただければと思いますが。 ● 私がやったことがあるのは,給料のある義務者でして,それもちゃんとした会社の方でして,それに対しては,滞りましたので,弁護士からの催告書といいますか,そういうものを出すと,それで普通のレターで出して,効かなければ次に内容証明を出すという,そのあたりで払ってもらえるようになりました。また,期間が長いものですから,あるときまた滞った,また手紙を出す,そういう形で払ってもらえるようになりました。だから,依頼があったからいきなり差押えを出すわけではありません。   もちろん,給料差押えができるということが前提なんですけれども,ではその場合に,そういう弁護士なり司法書士なり,そういう取立て役といいますか,そこから,払わなければこういうことになりますよという形で催告するというのと,ある日ぽんと間接強制,ペナルティーだという命令の紙が来るというのと,どちらが効果があるかなと。間接強制の命令が来ても,それでも払わなければ,ではその次にどうするというときに,差押えをするか,その前の催告でやるかとかいうことを考えますと,どうもそこに間接強制が挟まっても--給料があるという前提ですが--余り意味がないのではないかと。   もっとも,払わないやつにペナルティーとしてたくさん払わしてやれと,この間接強制金をつけて,という,それが狙いだというなら別ですけれども,そういう直接強制をやるぞということをバックとして催告して払ってもらえるということで,十分進むのじゃないかと思います。 ● 間接強制の場合なんですが,この間接強制を採用する場合にどういう手続にするか,決まっているわけではありませんが,金銭債務について支払えない者に間接強制をするわけにはいかないというのが通常の認識ですから,常識的に考えれば間接強制を認める場合には,審尋を行わなければならないものとして,ある日突然間接強制の命令が届くということはないようにするのだろうと思います。ですから議論をする場合には,常識的に考えれば,多分そういうことになるだろうということを踏まえて御議論していただいた方がいいように思います。 ● ほかにいかがでしょうか。 ● 先ほど○○参考人が言われたところをちょっと懸念するのです。間接強制制度を制裁金みたいにという制度だと。これは,逆から言うと,どうも間接強制でも支払わなければまた直接強制しなければならない,こういう不便さがある。そのときに,○○参考人が言われたもっと確実に取れる制度が先ではないか,あるいは,養育費の制度,養育費とか監護費,あるいは,面接交渉,実は婚姻法の改正のときに,今滞っているけれども,これをきちんとやればもっと啓蒙できるのではないかという気がするのです。例えば,5年後離婚とか。こちらの方は今考えているのでしょうか。 ● すごく考えています。民法の改正が必要だと思っていて,離婚するときにまず取り決めなければいけないのは,親権というよりも子供の権利,子供が別れた後にどのようにされていくのが幸せなのかというところを考えると,やはり養育費と面接交渉権を話し合う場を持つというのがすごく必要だと思っています。ただ,そこまで行くのがすごく遠いので,段階を追いながらでいいのかなと思っています。 ● そこで,例えば,経験があるところで,どうも見ていますと家庭裁判所がもう少し丁寧に調停をやるとか,カウンセリング,養育費について,ということはやられているとか,そういう実感はありましたか。 ● ありません。はっきり言って済みません。ですので,当事者も,うちのような相談窓口に実際に相談に来ます。弁護士さんに行くとすごくお金が高いと感じていたり,家庭裁判所に相談しても,養育費はなかなか取れないねといって終わってしまっていたりとかする,そういう経験をしている人が実際に多いです。 ● ○○参考人,そのために確実な方法として,先ほどの先取特権という制度はどうなのですか。 ● 先取特権が認められれば確実とまでは言えないわけでして,ただやはり実体法上に優先権をつけていただくというのはいろいろな場面で確実といいますか,確保できる。配当的な場面では非常に強くなる。それがないために,むざむざほかの債権と平等に扱わざるを得ないというようなことが起きてしまう。だからそれは,なぜ今回もそういうのが取り上げられなかったのかなと思います。   それから,先ほどの家庭裁判所での相談,家庭裁判所と限らず裁判所での相談というのは非常に裁判所サイドとして答えるのが難しいところがありまして,弁護士の費用が高いという説明をされるのは困るのですけれども,そんなに高くはないはずなんですが,ただ逆に裁判所サイドとしては,弁護士さんに行けばほとんど安く,このぐらいでやってもらえますよとは言えないのですね。弁護士のところに行って,それは弁護士もいろいろいますから,非常に高いものを請求されるというのはあり得るわけでして,ですから裁判所の相談というのはどうしても限界がある。それを考えると,本当に裁判所の構内にいわば弁護士会の相談所が,場所を借りて開くと,それは弁護士が相談を受けるのだということなら,弁護士は自分の裁量で,自分の責任でアンサーしますので,非常にうまく機能すると思うのですが,裁判所での,特に家庭裁判所の家事相談というのがものすごく充実しているのは全くそのとおりなんですけれども,そういう弁護士とのドッキングとか,そのあたりになると非常に難しい。また,結末がどうなのかというのを聞かれたりとか,そういうところについては非常に裁判所の相談というのは難しいし,これ以上踏み込めないというところが随分あります。 ● 補足説明にも書いたことですけれども,給料債権の差押えというのは,やはり債権者としてもためらってしまうことがあるとの指摘があるのですけれども,その辺の何か実情とかをお聞きになったことはございますでしょうか。○○参考人に,もしそういうことがあれば,お聞かせ願いたいと思います。 ● 実際に,来年からの改正法については,私はすごく小さな一歩と話をしているのですが,当事者は強制執行までするかといえば,できないという意見が多数です。それはどうしてかというと,私が先ほどお話ししたように,まず世間の風潮,私が今回強制執行までやって本を書くよと言ったときに,私の周りでさえ,そこまでやるのという意見がたくさんありました。そういう風潮があるのが一つ。   あとは,そこまでやってしまったときに,相手の会社での立場がなくなってリストラされたら元も子もないですよね。そういう意見もあります。相手の立場を心配したら,そこまではできないよねという意見が多数です。ですので,私はこの法律が施行されても,実際に使える人というのがどのぐらいいるのかなとちょっと思っています。 ● ○○参考人に伺いたいのですが,○○参考人は最初払えるのに払わないという親がいて,それを許す世間の風潮が問題だとおっしゃっていました。実はパブリックコメントの中にも,払えるのだけれども払おうとしないのだ,そういう人が多いのだという意見と,そうではなくて,資力がないから払わないのが普通なのだという意見と,両方あるのですね。これは○○参考人に調べろというわけではないのですけれども,それはこちらで何とかしないといけないと思うのですけれども,実感としてどうなんでしょうか,払えるけれども払わないという親の方が多いという,つまり親としての責任を果たそうとしないというところが最大の問題だというようにお考えなんでしょうか。それとも,果たそうとしても金銭的に果たせないという親もかなりいるのだという実感をお持ちなんでしょうか。 ● 払わない人がすごくたくさんいると思っていて,やはり逃げ隠れしたりとか,うそをついたりとかして払わないという事例が非常に多いと思っています。払えないときには,さっきも私がお話ししたように,ごめんね,払えないのといって交渉するのが人間の基本だと思うので,それができないのがまた一つおかしいと思っていて,そこが私が言っている大人世代の責任の全うがないのかというところですね。 ● それに関連して,払わない人というのは何か理由があるから払わないということなんでしょうか。長期にわたって払うわけですから,何か面倒臭くなって払わないという程度のことなのか,その辺のところはどのように理解されていますか。 ● もちろんあると思います。日本の離婚制度というか,離婚時の離婚の仕方というのがすごく下手な人が多いなと思っていて,そこで感情がこじれたりとかしたものがずっと長引いていて,大人同士の感情というのは本当はもうそこで置いておいて,子供のためにというように考えていかなければいけないことができないと思っているのですね。ですので,こういう法律改正が進むことによって,そのことを考えるきっかけを,風潮を変えたりすることによって少しずつ作っていけるのかなと思っています。 ● もう1点,離婚のときに親権者で争うときがありますね,中には親権だけ--特に女性ですが,親権が自分の方に来れば,養育費はもらわなくてもいいと,あるいは,離婚さえ成立して,子供も自分の方にと,そのような考え方を持つ女性が結構いるのですが,そういう女性のことについてはどのようにお考えですか。 ● 私たちの会員にもいます。それははっきり言って間違っていると思っています。もらわなくていいのはあなたであって,子供はそうは思っていないと思うし,子供はお金がもらいたいとかというよりも,お父さんの愛情が欲しいとすごく強く思っていると思います。だからそういう場合には,お子さんはどうでしょうねと聞くのですけれども。それは間違っていると思っています。 ● 大変充実したヒアリングが行われたと思います。本日はお二人の参考人の方から,金銭債務についての間接強制のお話を伺わせていただきました。   時間でございますので,ここで休憩に入りたいと思います。             (休     憩) ● それでは,審議を再開いたします。   休憩後は,今日の3番目の議題でございますけれども,刑事事件関係書類等の民事訴訟における利用状況等についての審議をお願いしたいと思います。   最初に,○○関係官から御説明をお願いいたします。 ● 席上にお配りいたしております参考資料5につきまして,最初に簡単に御説明をさせていただきます。   これは,刑事事件関係書類等の民事訴訟における利用状況等の紹介事項,試案の(1)の点でございますけれども,これについてパブリックコメントに寄せられた意見等を更に類型化した上で整理をさせていただいたというものでございます。今後の審議の参考にしていただければと思っております。   第1「刑事事件に係る訴訟に関する書類」と,第2「少年の保護事件の記録」ということで分けておりますけれども,その第2の少年の保護事件の記録につきましては,現時点の利用状況という観点からは,今回のパブリックコメントにおきましては特段の御意見は寄せられていなかったものですから,第1のところを中心にして御説明をさせていただきます。   第1の「刑事事件に係る訴訟に関する書類」でございますけれども,公訴の提起前,公判係属中,裁判確定後という各段階に,まず区別をさせていただいております。     1の「公訴提起前」,これは不起訴処分がされた場合も含むものでございますけれども,これにつきましては,第3回の部会で,法務省刑事局から御提供いただきました平成12年の法務省刑事局長回答に基づく運用指針をどのように見るかというのがポイントではないかと考えております。   現在の運用指針の趣旨をかいつまんで申し上げますと,被害者等が民事訴訟等において被害回復のため,損害賠償請求権その他の権利を行使するために必要と認められる場合において,客観的証拠であって,かつ代替性がなく,その証拠なくしては立証が困難であるという事情が認められるときに,弾力的な運用を行うというものでございます。   これに関しまして,全般的な意見として寄せられたものを最初に整理をしております。   まず,検察庁,捜査機関側の方からでございますけれども,今申し上げたような指針にのっとりまして,まず代替性の乏しい客観的な証拠を中心に,弾力的に開示を行っているという点と,裁判所からの嘱託,あるいは,弁護士会からの照会に当たっての実務上の問題点として,民事訴訟における利用の必要性というものが必ずしも明らかになっていないということによって,現場の判断としては厳格にやらざるを得なくなっているようなことがあるということが指摘されていようかと考えられます。   これに対しまして,弁護士会等からは,これから申し上げるような内容を含む書類が開示されなかったために不都合が生じているという御意見がございます。資料の5の2ページでございます。そこにアからケまでというようなことでございますけれども,ヒアリングの時の参考資料を検討させていただいておりますと,多く寄せられているものとして,大きな類型として二つございます。まず一つは目撃者がいるかどうか,あるいは,目撃者の氏名及び住所といった人定に関する事項が分からなかったという話でございます。もう一つは,特に供述調書の中に書いてあるところの関係人の供述内容について開示がされなかったので困ったというような声が多いというようなことでございます。   その他のものにつきましては,例えば,被害者の身上・経歴に関する事項,そこで整理しているものとしては エでございますが,例えば,飲酒検知に関する記録でありますとか,不起訴処分の理由--これは検察官の評価でございますけれども--というものや,死体検案書などというものが挙げられているようでございます。このような御意見を簡単に整理をさせていただいております。   裁判所の御意見でございますけれども,2ページの下の方になりますが,これは先ほどのパブリックコメントの方でも御説明いたしましたように,各庁において出された個別の意見のうちの主なものとして挙げられているということでございます。一方で民事訴訟で利用する必要のある刑事事件関係書類が大部分開示されて,利用可能な状況になっているという御指摘もありますけれども,そこにありますように,開示がされなかったり,開示が遅れたりする場合が多いとの意見もございまして,見方はいろいろ分かれているというようなことでございます。   その他,一番下でございますけれども,労働組合からの御意見というのもございます。   3ページでございますけれども,ここでは具体的な問題として2点挙げてございまして,第1点につきましては,最初の白い丸印の証拠の代替性という基準をどのように考えるかという問題,そして同じページの真ん中あたりでありますけれども,開示を受ける者の範囲をどのように考えていくかという,大きく二つの点が考えられます。   最初の,証拠の代替性の基準でございますけれども,ここは特に供述調書の開示を求めるという場面について問題になるものだろうと思われます。先ほど御紹介した平成12年の基準によれば,供述者が死亡した場合等を除きましては,原則として開示は消極ということになるものと考えられますが,この点については,まさに証人申請が可能である,そういう意味では代替性がある場合であっても開示すべきであるという考え方について,どのように考えるのかという点がこれから御議論いただくべき点であるというように考えております。   もう一つの,開示を受ける者の範囲についての問題でございますけれども,この点につきましては,例えば,株主代表訴訟の株主というような,被害者以外の者から開示の請求があった場合にどのように取り扱うかという点で,これは平成13年の改正法を御審議いただいたときの国会審議の段階から議論があったところでございます。この点について,仮に,先ほど申し上げたような指針には合致しないといたしましても,刑事訴訟法47条の解釈・運用としてどのように考えていくかという点について,御議論をいただければと思っております。   続きまして,2の「公訴提起後」でございます。これについても,今申し上げましたように,公訴提起前と同様の開示を受ける者の範囲という御意見が寄せられているところでございます。ここにつきましても,例えば,犯罪被害者保護法の要件には該当しない場合であっても,民事訴訟の受訴裁判所から文書送付嘱託があった場合等において,その運用の在り方をどう見るのかという点が問題になり得ようかと思います。   もう1点は,時期的な問題でございまして,例えば,刑事の被告事件について公判が係属中である,こういう場合においても民事訴訟において利用するということを目的として,その公判記録が開示が求められた場合に,民事の裁判所と刑事の裁判所との関係としてどう考えていくかという点についても問題になろうかと思います。   続きまして,4ページの最後の「裁判確定後」のところでございますけれども,この点については,パブリックコメントでは保管検察官の立場から御意見が寄せられておるところでございます。後ほど○○委員の方からまた御説明いただけるかと思いますけれども,本日,お配りしております弁護士会の方のペーパーにおきましては,確定記録について,弁護士法に基づく照会で開示を求めたけれども拒絶されたというような事例があるようでございます。   今申し上げたように,刑事記録の中でも多少類型化が可能であると思われるところでございまして,今後の御審議の参考にしていただければと思います。   資料の説明は以上でございます。 ● 本日は,日本弁護士連合会から「刑事記録不開示が民事訴訟法に及ぼす具体的影響について(具体的な事例を中心に)」と題するペーパーを席上配布でいただいております。これについても御説明をお願いしたいと思いますが,○○委員,お願いできますか。 ● それでは,説明させていただきます。   この部会で,先に日弁連のアンケート結果を御報告させていただきました。当初は627件分報告させていただきましたが,その後,改正法の施行前後であるかどうかということを調べまして,8月の部会で追補版というので御説明をさせていただきました。   当初の件数は627件あったわけですが,そのうち時期についてのアンケート,再調査の回答は371件ありまして,そのうち185件が法改正後に請求を行ったという事例であります。その事例の中から幾つかを抜き出していただきました。   今,○○関係官から,これから御紹介する例について既に要領よくおまとめいただきましたので,その類型に大体当てはまるものでございます。お読みいただければ分かるところでありますが,ざっと説明させていただきます。   CASE1というのは,捜査中なんだけれども,2年たっても終わらないということで,訴訟を起こしておりまして,実況見分調書について文書送付嘱託を申し立てたのですけれども,捜査中だということで出なかったということで,訴訟の手続の進行が事実上停止してしまった,こういうケースです。   CASE2は,今言ったのはいずれも交通事故ですが,2番目は交通事故で不起訴になったケースです。実況見分調書のみが文書送付嘱託,あるいは,検察官に対する不起訴記録の開示請求で出てきているわけですけれども,この目撃者について,いたのは間違いないのですが,供述調書が開示されなかったということです。ですから,連絡先,名前についても分からないということで,証人に呼ぶこともできないということで,事故態様が明らかにできなかったと。それから,治療費すら払わないので,仮差押えをしようとしたというケースですけれども,加害者がどういう状況にあるかということも分からなかったために,給与の差押えもできなかった,こういうケースです。   CASE3も,不起訴のケースで文書送付嘱託等で請求をして,実況見分調書は出ましたけれども,目撃者の供述調書その他が出ないということで,事故態様が十分明らかにならなかった,被告本人と実況見分の責任者の証人尋問はしたのですけれども,事故から長い間時間が経過していたということで,当事者としてはその証言の信用性について疑問があったのですけれども,十分に立証活動ができなかった,結果は敗訴だった,こういうケースです。   CASE4は,これも交通事故で不起訴になったケースで,これは弁護士法による照会をしたということで,一部開示はあったようですけれども,目撃者,被疑者の供述調書が不開示になったということで,このケースも目撃者が誰かということが分からないということで,証人申請もできず,事故態様の詳細が最後まで分からなかったということです。   さらに,直接その後回答者に問い合わせたところ,そのために加害者に有利な35%という過失相殺がされたというように聞いております。   5番目も同じようなケースですが,不起訴で,被疑者,目撃者の供述調書等が弁護士法23条照会で出てこなかったということで,同様のことですね。目撃者自体が分からないと。   CASE6,これは保険会社の代理人が請求したケースですが,不起訴になって,やはり目撃者の供述調書等が出ない,証人尋問ができなかったというケースです。   CASE7は,これは刑事事件の判決が確定したということで,その記録の中の目撃者の供述調書を弁護士法で照会したということですが,出てこなかったと。それで目撃者は分かったのだろうと思いますが,記憶が薄れているということで,目撃証言の証拠価値がなかった,事故当時の鮮明な記憶を記載した目撃者の供述調書が出ていればよかった,こういうケースです。   CASE8も,交通事故の不起訴記録で弁護士法23条照会,それから検察官に直接請求をした,実況見分調書のみが開示されたと。このケースでは,信号が赤か青かが争点になった,目撃者がいるということは分かっていたわけですが,調書が出なかった。実況見分調書に目撃者の名前はあったようですが,住所が書いていないということで,証人申請ができなかったというケースであります。   CASE9,これも交通事故で,不起訴記録で,弁護士法23条請求で,供述調書が不開示。これも,双方が青信号だったと,こういう双方の主張が食い違っていたわけですが,加害者が法廷で述べたのだろうと思いますが,その加害者の供述の信用性をチェックするために,加害者,被疑者の供述調書が必要だったのですが,これが開示されずに,立証活動に支障が生じた,こういうことです。   CASE10も不起訴の記録で,これは保険会社の代理人が請求したケースで,弁護士法23条照会で,実況見分調書は出たけれども目撃者の供述調書等が出ないということで,目撃者の特定ができない。名前が実況見分調書に書いてあるのだけれども住所がないということで,そしてこれは飲酒が問題になったようですけれども,飲酒の検知をしていなかったケースのようで,飲酒に関してどういう供述がなされていたかということを供述調書で知りたかったわけですが,これが分からなかった,こういうケースです。   CASE11は,これは加害者が死亡していて,飲酒状況が問題になったケースのようですが,不起訴になっているということで,⑤番で刑事確定記録法による閲覧・謄写請求とありますが,これはアンケート回答者の誤解で間違いだと思います。不起訴記録なのでこれはあり得ないので,アンケートにはこう書いてあるのですが,記載間違いだと思います。   このケースの場合は不起訴なので,もう記録は廃棄済みだったということなので,これは制度ができても出てこないという別の問題であるケースでございます。   12番は,交通事故で不起訴で,アルコール検知に関する記録,これが具体的に何かというと,検知管で検知をしたその結果の記録ではないかと思いますけれども,出てこなかったということです。飲酒免責の可能性が高いというように損害保険会社の代理人は考えたわけですけれども,確証が得られないということで,やむなく保険金を払った,こういうケースです。   13番も交通事故で,これは加害者の代理人が請求した不起訴記録で,裁判所が調査嘱託を検察庁にしたけれども拒否されたということで,これはオートバイの暴走事件のようで,加害車両が暴走車を避けることができずに衝突した事故であると。不起訴の記録は,検察官は被害者の暴走を理由に不起訴にしたと推定されたわけですけれども,この不起訴処分理由書を請求したけれども出てこなかったので,無過失の立証ができなかったということで,和解をせざるを得なかったというケースです。   その次が,交通事故以外ですけれども,CASE14は,学校での児童の死亡事故です。遺族の代理人が請求をした,不起訴記録,死体検案書を弁護士法23条照会,それから文書送付嘱託で求めたということです。で,⑨にありますが,これは児童が学校内で発病して死んでしまった,その経過が問題になったケースのようですけれども,死体検案書が開示されないことから,分からなかったと。   その次は,ちょっとこれはアンケートから文書をまとめる人が間違いをしたことでありまして,「法的手続をとることが困難」ではなくて,これは提訴されていますので,文書送付嘱託をしているわけで,法的整理が困難な状況になっているという,主張が十分できないというケースです。この誤記は,アンケート結果をまとめた人の間違いです。訂正をお願いします。 CASE15は,これは嘱託殺人ではないかという問題。保険金目的の嘱託殺人ではないかということが問題になったケースで,保険会社の代理人が請求をしたわけですが,捜査中であるということで文書送付嘱託に対して開示拒否がされたということで,死亡状況が分からない,死体検案書すら出てこないということで,死亡状況が分からない。ただ,死亡に至るまでの経過は極めて不自然だった,保険会社としては嘱託殺人ではないか,保険金目的の殺人事件ではないかというように考えたわけですが,それは出てこなかったために立証できず敗訴した,こういうケースです。   16番は株主代表訴訟で,薬害エイズ事件に係る刑事事件の進行中の公判中に,株主代表訴訟の関係で文書送付嘱託を申し立てた,それに対して開示が拒否されたということで,刑事事件進行中の公判中の資料の入手が困難なまま訴訟が進んで,真相解明が不十分なまま,結局和解により決着せざるを得なくなった,こういうケースです。   第3は全く別の類型でございますが,強姦事件で2件掲げてあります。   CASE17は,強姦事件に絡んで犯行を再現しなければならないということで,これは不起訴になったケースですけれども,強姦事件の被害者の代理人が民事訴訟の中で文書送付嘱託で開示を求めたということです。この結果,実況見分調書,現場指示部分は抹消されていたようですけれども,それと犯行再現調書,これは写真のようですけれども,これは出てきたけれども,特に被害者の供述調書が出てこなかったということで,民事事件の中で被害者が具体的な供述をするというのは大変な精神的苦痛をこうむるわけですけれども,調書が出てこなかったために問題が生じた,こういうケースです。   CASE18も同じようなケースですけれども,やはり不起訴事件で,文書送付嘱託で求めたところ,被疑者の供述調書等が出てこなかったということです。このケースでは,被害者がPTSDの状況にあって,警察では調書で犯行状況を再現したようですけれども,被害者本人が法廷で具体的な証言を強いられてしまったという,こういうケースです。   アンケート結果ですので,非常に情報が限られておりますので,不十分な部分があろうかと思いますが,以上です。報告させていただきます。 ● ただいま○○委員から,刑事事件の記録の開示が受けられなかったことによる不都合について,アンケート調査に基づく結果を詳細に御紹介いただきました。中間試案の取りまとめ前におきましても幾つかの具体的な例につきまして,相当この部会でも議論を深めたわけでございますが,ただいま○○委員から御紹介いただいたような幾つかの典型例を念頭におきながら,試案の(1)の刑事事件関係書類等の民事訴訟における利用状況等を中心に御審議をお願いしたいと思っております。また,必要に応じて(2)の刑事事件関係書類等の開示による弊害に関する点についても御議論いただければと思っております。どなたからでも結構ですので,御発言をお願いしたいと思います。   今の○○委員の御説明に付随した質問でも結構でございますので,刑事関係書類の民事訴訟における利用状況ということについて,更に審議を深めたいと思っておりますので,どなたからでもどうぞ,御質問なり御発言をお願いしたいと思います。 ● ○○委員から御説明いただきました個別の事例につきまして,どの事件かというのが私ども全く分かりませんので,反論のしようもないということを前提に,ちょっとだけコメントをさせていただければと思います。   まず,それぞれの事件,事案がいつのものかという問題がございまして,従前御説明しておりますように,検察庁の取扱いもここ数年でかなり変わってきているという状況です。例えば,死体検案書でありますとか実況見分調書とか,それからアルコール検知等について,そういう客観的な証拠については,不起訴記録であってもかなり応ずる方向に転換をしておりますので,恐らくは,現在であればそういうものについては開示できるのではないかというように考えております。   それから,二つ目に,最後の方に強姦事件の関係で,ちょっと状況が私どもよく分からないのですが,17番とか18番で被害者が証言をするのが困難な事案で,にもかかわらず調書が開示されなかったという事情が書かれておりますが,いずれも不起訴になっているのですね。強姦事件で,事件が認められるのに不起訴というのは普通は余り考えられないわけでありまして,そこはちょっとどういう事件かという前提が分からないと何とも申し上げにくいというのが直感です。   もう一つ,よく分からないのは,被害者の供述でありますとか再現ということを問題にされておられるみたいですが,これがどうして調書でなければいけないのかというのがよく分からない。被害者のお話であれば,弁護士さんが事情をお聞きになって,書面をまとめられるなり写真を撮るなりという方法はあって,それでどうして足りないのかという問題があって,逆に,供述調書が出ればなぜ証人尋問をしなくていいのかという問題もあって,ちょっとその辺のいきさつがなかなか腑に落ちない部分もあるところであります。   それから,前半で目撃者の供述が得られなかったというのが幾つかございまして,ちょっとそれぞれの状況が分からないのですが,まずここで書かれているのは,記録が開示されれば全部分かるはずだという,そういう前提で書かれいるのですが,それは実は私どもで見ていると,記録が出てもほとんど関係がないというのがかなりの部分あることが多いのですね。したがって,余り開示拒否による不都合というところと不開示との因果関係が本当にあるのかしらというのがまず一つあります。   それからもう一つ,ここにるる記載をされているところで,先ほども御紹介がありましたけれども,弁護士からの照会とか,あるいは,弁護士法23条照会で来ているときに,状況とか理由とか,あるいは,必要性ということを詳しく教えていただけるということは現実にはほとんどないところです。これは,先般あるところで,弁護士とのやりとりの中であった事例なんですが,いわゆるDV法の保護命令の申立てをしたいので,加害者というか,だんなさんの記録を開示してほしい,こういう話があったのです。しかもそれは,前科とかあるいは身上・経歴の部分を開示してほしいのだと,前に起こった傷害事件とかは記録を持っているから,そんなのは要らない,こういう御主張だったわけです。何でそんなところが要るのですかと,うちは別に協力することにはやぶさかではないけれども,そう簡単に出せる問題ではないですよねという話をしていたのですが,弁護士の方からの御回答は,そんなことは言う必要はないのだという一点張りの回答で,うちもどうするのかということで相当悩まされたという経緯があって,もう少し必要性なり個別のピンポイントのところを言っていただければ,協力できる余地があったのではないかと思われることが,かなり現実にはあります。   それから,あともう一つ,CASE4のところで,証拠の標目だけでも教えてほしいということを言われたけれども,得られなかったというお話がございまして,これはちょっと証拠の標目ということで何を想定しておられるのかというのがよく分からないのですが,これはむしろ証拠開示的な,要するに刑事訴訟手続における証拠開示でリストを出す出さないということで,時々,弁護士の方といろいろ交渉することがありますので,そういうことで言われているようなところがあって,いわば証拠がどういうものがあるのかという,証拠あさり的なところの印象を検察庁が受けた可能性はあるのではないかというように思います。   もう一つ,ちょっと五月雨で恐縮ですが,CASE7で言いますと,これもちょっとよく分からないのですが,判決が確定した事件についてということですので,恐らく確定記録についての対応ではないかと思われるのです。そうすると,目撃者の供述調書が裁判に出ていたとすると,これが開示が拒否されるというのも余りそんなに問題はない,開示自体に特段の問題がなければ,余りそういう問題はないのではないかという気がしているので,どうしてこういう経過になっているのかというのがよく分からないところであります。   前半部分の幾つかの問題でありました目撃者を特定できるかどうかという問題があって,実はこの点については私どもごくまれに相談を受けて悩むことがあるわけですが,一つは目撃者の問題というのは証拠開示の問題というか,文書提出命令とか記録の開示の問題とは少し違う問題ではないかと思っています。といいますのは,記録そのものを見る見ないということと,目撃者がいるのかいないのか,どこに連絡すればいいのかということとはかなり隔たりのある問題で,供述調書を見るということとはかなり性質が違うことなのだろうと思っています。   検察庁の方では,必ずしも統一的にどう対応するかということを決めているわけではないと思いますが,個別の事案で目撃者が,仮に,決定的な目撃者がいて,非常にその証言が大事だという場合には,やはりそこは検察庁も相当考えていただけるとは思います。それは具体的な事案でありますので,どうだということはなかなか言えないのですが,例えば,私の知っている事案でも,目撃者の人に検察庁からわざわざ依頼をして,民事の裁判に協力してやってもらえないかと,その関係でそちらの名前を教えてやってもいいかどうかということで,かなり積極的にアプローチをしたケースが現にありました。それは,検察庁側で勝手にどんどん教えるというわけにもいきませんので,その目撃者の方なり,それから事案の内容なりをよく考えて検討しなければいけない話であろうと思っておりますので,一概に目撃者についていいとか悪いとかという,そういう白黒みたいな話ではないということを御理解いただければと思っております。 ● ○○委員,何かございますか。 ● コメントというか,反論の機会を……。申し訳ございません。   アルコール検知の件と,死体検案書の件につきましては,私の今持っているデータでは,これは平成14年の2月から8月にかけて請求をしたというケースのようです。   それから,強姦の事件はいずれも不起訴ではないかということですが,刑事事件で不起訴になったからといって強姦事案なり,あるいは,それに近い不法行為事案がなかったわけではなくて,不起訴になったからこそまた民事訴訟が起こるということがあるのではないか,そういう指摘は弁護士会のどこかの報告書にもあったと思いますけれども,そういうことで不起訴になったから民事上何も問題ない,裁判になるはずのない事件だということは言えないと思います。やはりそれなりの事情があって,事実関係があって,提訴がされているのだろうと思います。   それから,そのケースで,おっしゃるように被害者自身の陳述書を弁護士が取って出せばいいという御指摘かもしれませんが,しかし,法廷での,やはり刑事事件で捜査したときに事件に接近した時点で捜査機関に供述しているというのは,それなりの信用性があるものですし,せっかくそういうものがありながら,そういうものを使えない,それによって基本的には法廷で具体的な供述を迫られるのが,特にPTSDのような場面では非常に深刻な問題を生ずる,こういうことだと思います。   それから,目撃者について,目撃者の供述調書,これは実際見てみなければ証拠価値があるかどうか分からないという御指摘ですが,しかし,それは目撃者がいるから調書が作られているわけなので,当然民事訴訟の当事者としてはそれを入手して検討しなければいけないわけなので,全部が取るに足らないものであれば,恐らく調書も記録としてないのではないかと思うので,それはちょっと御主張としてどうかなというように思います。   あとは,先ほどの証拠の標目ですけれども,これは要するに供述調書が出てこないので目撃者が分からないので,せめて標目だけでも見せてよと,そこから特定する手掛かりがあるかもしれないということのようでございます。   それから,あと目撃者の件は,調書の開示とは別の問題ではないかということですが,それ自体はそうかもしれませんが,実際の問題としては,結局交通事故なりの事件の訴訟の代理人としては,やはりその供述調書があるのだからそれを入手したい,それで立証したいということだと思うのです。調書も駄目であるし,しかし,証人申請という手段があるのだけれども,調書が出てこないので証人申請すらできない,こういう構造として問題を指摘しているものと理解していただきたいと思います。 ● ほかにいかがでしょうか。   先ほど,○○関係官から参考資料5について御説明をいただきましたけれども,この資料に関してでも結構でございます。何か御質問なり,あるいは,御意見があれば承りたいと思います。 ● たまたま○○関係官がいらっしゃっているので申し訳ないのですけれども,この資料5の1ページに書かれてある意見といいますか,考え方の趣旨について,先ほどの御発言との関係でちょっと確認をさせていただきたいと思いますが。   「全般」と書いてあるところの最初の黒ポツのところの2行目で,「代替性の乏しい客観的証拠を中心に」というような一つの判断基準があるということでございますけれども,先ほど○○委員の御紹介いただいた,例そのものは別として,ややそれを抽象化して申しますと,例えば,目撃者については当事者側も把握していると,その人を証人として申請して法廷で証言させようとすれば,それは不可能ではない,ただし先ほどのお話ですと,いわば事故に非常に接近した時点での,しかもある程度客観的信頼性のある供述という意味では,調書のようなものが出れば非常にいいのだと当事者は判断しているというような類型の証拠といいますか,事件といいますかですが,それはこの「代替性の乏しい客観的証拠」というような概念に照らしたときに,何か一般的にはそれはこう考えられているとかというようなことがもしございましたら,教えていただければ大変ありがたいと思います。 ● 前に御説明したかと思いますが,平成12年の刑事局長回答の趣旨は,先ほど御紹介がありましたとおりなんですけれども,一つの大きな切り分けの柱として,代替性の有無ということをかなり強く意識して頭の整理をしているところであります。   これはどういうことかというと,基本的にこの対象となっているのは不起訴記録ということになっていて,それは刑事訴訟法で原則として不開示だということが法律上の切り分けとしてできております。それは,もろもろの趣旨があって,あえて繰り返しませんが,法律上そういう前提ができている。しかしながら,非常に必要性の高い場合には,やはりある程度の協力をして開示に応ぜざるを得ない場合もあるでしょうと。どういうことを考えるかということなんですが,ある事件でも事故でも構わないのですが,それがあったというときに,刑事事件としてどうそれに対処するのかということで警察なり検察庁なりあるいは裁判所も含めていろいろな手続が組み合わさって立てられている。他方で,民事訴訟でどうするかということで,別途それはいろいろな訴訟活動が行われていくのだろうというように考えているわけでございます。   そうなったときに,本来的に民事訴訟は民事訴訟の中でそれぞれの証拠収集手段というものが整備されていて,また裁判所においても,それを証拠を獲得する手続が設けられているわけでございまして,その中で証人尋問をするとかいうことができることに一応なっているわけです。そのときに,刑事で一定の記録がありますというときに,それがあればそれを使えればいいではないかと思われるのは心情的には分からなくはないわけですけれども,やはりこちらはこちらで一定の刑事という目的のために,場合によってはかなりの強制力を用いてでも証拠を収集していくということになっておりますので,それを民事にもそのまま使えるようにするには,やはり相当の高い必要性というものがあって初めて許されることなんだろうと,それが刑事訴訟法47条の趣旨に現れているところなのだろうというように考えてきたわけです。そうなったときに,切り分けの一つの考えとして出たのは代替性の有無というところであったわけで,民事の手続の中でその事象を見たときに,どうしてもここの中では収集できないような証拠が刑事の方で持っていかれてしまってもうありませんというときには,もうそれはある程度刑事の方から持ってこざるを得ないと思われましたので,そういう代替性のないものについて応じましょうと,こういう頭の整理です。   そうなったときに,例えば,実況見分調書でありますとか,あるいは,信号のサイクル表でありますとか,死体検案書--先ほどの話ではどうも請求先は警察のようでしたので,警察で拒否されたのかなと思いますが,検察庁ではまた違う対応かもしれませんが,ちょっとそれは置いておいて,そういう頭の整理をしております。   供述調書については,その証人となるべき人が基本的にいる場合には,それは民事訴訟の手続の中で本来的には手順がとられて,手続がとられ得るものだろうというように考えられますので,そこは基本的に不開示にしております。それは,裏返して言えば,供述というのは非常にセンシティブな部分が多いということも裏の支えとしてはあるわけです。   かつ,供述に応じていただけるということ自体が,非常に現代社会においては関係者に大きな負担をかけているという部分があって,刑事事件でどうしても必要だからということで応じていただけている部分が,それがそのまま,あったら便利ですねということで民事で使っていただけるということでは,そもそも刑事でも,それなら協力しないということになってしまいかねないという危ぐ感を持っているからであります。   その代替性の判断において,そこはいろいろな考え方というか,個別の事案において考えられますので,例えば,ある対象の方が亡くなったりとか,あるいは,完全に記憶を失ってしまったとか,あるいは,先ほどお話がありましたPTSDでとても証言ができないというような場合には,これに応じる余地は十分あるというように私は考えております。PTSDの事案がどういう場合であったかということは分かりませんけれども,本当に全く証言ができないという場合には,相応の協力をしてしかるべきだと私は思っておりますし,現場の検察庁から御相談を受ければ,そのような回答をするだろうというように考えております。ですから,そこはむしろそういう事情があるということを御連絡なりしていただければ,検察庁はそこは十分考えるのだろうと思っています。   他方で,刑事事件の方が事件に近くてフレッシュだからということで,こっちの方が証拠価値が高いので出してほしいという御主張もあろうかと思いますが,ただそれも物によりけりで,非常に時間がたって記憶がかなり減退してしまった,分からないというのであれば,そこは検討の余地はあろうかと思いますが,一般的に1年たったから前の時の方が重要なんだ,だから出すべきだという話であれば,もう供述調書,捜査中のものというのはおよそそういう部類に当たるということになってしまいますので,そこまでの必要性がこちらとしては高いとは考えていないという状況でございます。 ● ほかにいかがでしょうか。   この刑事関係事件の記録を民事訴訟でどのように使えるかということは,前回の民事訴訟法の改正,文書提出命令についての改正も,新しい立法ができたり,あるいは,今の御紹介がありましたように,検察庁あるいは警察の実務の運用も変わってきたりなどしておりまして,今回の改正でもそれをどうするかということが今までの問題でもございましたけれども,今日これで結論を出すということは考えておりませんので,今日はこのぐらいの御意見を承ったということにさせていただいてよろしゅうございますでしょうか。   それでは,今日の予定していた審議はすべて終了いたしましたので,○○幹事の方から次回の部会についての事務連絡をお願いいたします。 ● 次回でございますけれども,12月5日でございます。場所は,法務省の地下1階の大会議室でございます。   次回の予定でございますけれども,冒頭にパブリックコメントの結果を御紹介しましたので,そのパブリックコメントの結果も踏まえまして,要綱案の取りまとめに向けた事務当局の方からのたたき台を,全部の範囲をお示しできるかどうかというのは分かりません,可能な範囲でそういうたたき台を示して御審議いただきたいと考えております。   それから,本日,この利用状況につきまして御審議いただきました文書提出命令の関係でございますけれども,中間試案の中でもそのほかにも論点を挙げております,例えば,刑事手続との関係をどのように考えたらいいのかという問題がございます。そういうことも含めまして,なお文書提出命令の関係につきましては審議を継続していただきたいと考えております。どのような形で具体的に御審議いただくかどうかというのは,また少し事務当局の方で検討させていただきたいと考えております。 ● そういうことで,次回は12月5日の午後1時から,第9回の部会を開催させていただきたいと思います。   本日は少し時間が早うございますけれども,充実した部会の審議ができたと思っております。どうもありがとうございました。 -了-