法制審議会 民事訴訟・民事執行法部会 第9回会議 議事録 第1 日 時  平成15年12月5日(金)  自 午後1時00分                       至 午後5時08分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  文書提出命令制度についてのヒアリング         民事訴訟法及び民事執行法の改正要綱案の取りまとめに向けた議論のためのたたき台(1)について 第4 議 事  (次のとおり)               議         事 ● 定刻が参りましたので,民事訴訟・民事執行法部会第9回会議を開催させていただきます。          (委員・幹事の異動紹介省略)   それでは,本日の議事に入りたいと思いますが,今回は9月19日から10月20日までの間に行われましたパブリックコメントの結果を踏まえた最初の御審議をお願いするという機会でございます。   まず,本日の議事の進め方等につきまして,○○幹事から御説明をお願いいたします。 ● まず,資料の確認でございますけれども,事務当局の方から部会資料7「民事訴訟法及び民事執行法の改正要綱案の取りまとめに向けた議論のためのたたき台(1)」というものを事前に送付させていただいております。本日,文書提出命令制度につきましてお話を伺った後で,この資料に基づきまして御審議いただければと思っております。   席上配布資料でございますけれども,これからお話を伺います○○大学の○○参考人の方から,「刑事事件関係書類等の取扱いについて」という題のレジュメをいただいておりますので,これを席上にお配りしております。   それからもう一つでございますけれども,○○委員の方から,「扶養義務等に係る金銭債権についての間接強制」という題の書面をいただいております。これも,後に間接強制のところを御議論いただく際に御説明いただければと思っております。   本日の議事でございますけれども,まず刑事事件関係書類等の文書提出命令制度関係につきまして,刑事法を専門とする学者の方からお話を伺うこととしたいと思います。本日,お話を伺いますのは,○○大学法学部教授の○○参考人,それから○○大学法学部教授の○○参考人でございます。   それぞれお二人から,15分から20分程度の説明をしていただきまして,その説明の後に委員・幹事の方々からの質疑応答の時間を,これも20分程度とるということを予定しております。   その後,パブリックコメントの結果も踏まえて作成いたしました先ほどの部会資料7に基づきまして,御審議をいただきたいと思っている次第でございます。 ● ただいま○○幹事からも御説明がございましたように,刑事訴訟法の観点から,刑事事件関係書類等と文書提出命令制度との関係につきまして,刑事法学者の方にお越しいただいて,御意見を伺うというのが本日の最初の予定でございます。   本日は,今,御紹介がありましたように,○○大学法学部教授の○○参考人と○○大学法学部教授の○○参考人,お二方には大変お忙しいところを当部会までお越しいただきましてありがとうございます。このお二人の参考人からの御説明をいただいた後で,せっかくの機会でございますので,若干の質疑の時間をとらせていただきたいと考えております。   御説明をいただく順番と時間でございますけれども,まず○○参考人,続いて○○参考人の順番で,それぞれ15分から20分程度の御説明をお願いしたいと思っております。   それでは,最初に○○参考人からよろしくお願いしたいと思います。 ● それでは,私の方からの御説明をさせていただきたいと思います。   時間が限られておりますので,早速中身に入らせていただこうと思います。   「はじめに」ということで,私は,もう四,五年前になるかと思いますが刑法学会のワークショップでこの問題を取り上げたときのオーガナイザーをやりまして,その後,更にシンポジウムといいますか,分科会で情報公開に関係してこのテーマについて報告を担当したという経緯があります。   また,私を代表として共同研究のグループを作りまして,主に刑事確定訴訟記録法でありますけれども,その問題についてコンメンタールもその成果として作成したという経緯がございます。   以下,ちょっと刑事記録関係の大体の法制度のお話をした後,どのように見ているかというお話をしたいと思います。   以下,刑事確定訴訟記録法という長い法律でございますので,「記録法」と省略させていただきます。   それから,これは法務省の訓令でありますけれども,記録事務規程というのがあります。これは「規程」と略させていただきます。記録事務規程は,法務省のホームページに出ております。   最初に,今日話をするようにと言われたテーマと若干関連は外れるのですけれども,最初に,私たちが研究会をやっていた中で感じたことについて,刑事事件関係書類等の利用状況についてどのように見ているかというお話をしたいと思います。   法務省の刑事局の方でお作りになった資料で,刑事確定訴訟記録法関係での保管記録等の閲覧・謄写状況というものの数字が出てきております。これは古い資料では学会にも提供されていたのですけれども,新しい資料がお手元に配られたようでありますが,これについて私たちがどのように見ているかということだけお話ししたいと思います。   これを見ますと,閲覧請求のうちのほとんどは許可されていて,一部不許可とか不許可という数は非常に少ないということであります。これは,閲覧請求を受けたものについては保管検察官の方で大体この御要望に応えているのだというような見方が一つあります。しかし,これは,現場でのやりとりといいますか,検察庁に赴いてみて,記録を見せていただきたいというように言ったときに,どのようなやりとりがなされるかということを踏まえて考えますと,これは保管記録事務をしている検察事務官の方が閲覧請求人に対して,そんな供述調書なんか見せられませんよというように窓口で規制されて,したがってこれとこれだけに限定してくださいと言われて,そしてその閲覧請求の内容を変更して,その結果こういった数字が出てきていると私たちは思っております。あえて一部不許可処分を下さいとか,不許可処分を下さいという方は,これはよほどその後,刑事確定訴訟記録法には準抗告を準用する不服申立て手続がありますが,これをやろうと思う方々だけでありまして,ほとんどの方は,その窓口での指導に従って閲覧請求の中身を変える,したがって統計上は閲覧請求はすべて許可されているように一見すると見えるのではないかというのが私たちの見方です。   これは確定後の記録だけでありますけれども,そうではなくて,まして不起訴事件記録とかにおいて窓口でどんな対応になっているかというのは,その文脈で考えることも可能ではないかな,そういう見方もできるのではないかなというように思っております。これは,私たちそういう研究をやってきたグループの見方ですので,必ずしも客観的ではないかもしれませんけれども,そういったことはかなりの割合で行われているだろうと思います。このことを,数の評価,現状の評価のときに一つ念頭に置いていただければと私は思います。   続きまして,それでは刑事事件関係書類等の特性・特質ということについてお話をしたいと思います。   刑事事件関係の書類というのは,プライバシーとか,それから犯罪を行った人の更生を妨害するおそれとか,非常に名誉に関する事項などがかなり濃密に含まれている情報でありますので,それについては非公開にする方向の要請というものが働くわけです。   また,他方では,刑事事件といいますのは強制処分というものもなされまして,場合によっては刑罰としては生命も奪われるという可能性も秘めた処分がなされ得るわけですので,この人身の自由と権限行使といいますか,国家権力の行使との関係には非常に緊張関係をはらんでいるという,そういった情報が含まれているわけです。それについては,非常に強い権力の行使がなされますので,その行使が適正になされているかどうかということをチェックするためには公開すべきだという,こういった形での要請が働く,そういう記録,情報だと思っております。   ただ,刑事訴訟法上は,アメリカ法の影響を受けているわけですけれども,刑事訴訟法の53条1項では,だれでもが閲覧目的を問われることなく,確定後の訴訟記録については閲覧することができるという規定になっておりますので,公開方向での法的な決断といいますか,立法者の決断というものはそこにはあるのだろうというように解されると思っております。   大体,どんな記録が刑事事件で問題になり得るのかということをお話をしたいと思います。   次のページの<参考>というところに掲げた図,もっと作図をうまくやればよかったのですが,一応このようになるのではないかと思ったものを掲げておきました。   一応手続の進行とともに,①,②,③と進んでいくというように御覧になっていただければよろしいかと思います。   捜査段階における書類,これが現用記録,非現用記録というように分けましたけれども,現に今用いられている捜査中の記録と,それから既に捜査が終了して現在は使っていない非現用記録という形で分けてみますと,現用記録というのは現に捜査機関が保持している,捜査のために用いている記録であり,それから捜査が終結して,起訴されればこれは②の段階以降に進むわけですが,起訴されませんとこれは不起訴記録という形になります。   不起訴記録になりますと,これは先ほど申しました記録事務規程にございまして,不起訴記録として検察官が引き続き保管するという形になっております。ただ,これについては全く法律に基づいた閲覧請求等はできない形になっております。訓令で運用されている部分であります。   それから,もし起訴されますと②の段階,「公判段階における書類等」のところにあるわけですが,一応上の図と整合するような格好で,収集した証拠のうちの一部は証拠採用されるという形で公判段階における訴訟記録に編てつされるということになります。この図は,かなりいろいろなものを省略しておりまして,もちろんこれとは別に,被告人,弁護人側が集めた書類とかがあるわけですけれども,ちょっとその問題は除いて,話を分かりやすくするためにそこに掲げております。   そのほか,公判段階におきましては公判調書などがどんどん手続の進行とともにそこに編てつされていくという形になります。   一方,捜査機関が収集した証拠のうち,必ずしも裁判所に提出されないもの--済みません,不提出の「提」という字が間違っておりますので,御訂正いただきたいと思います。--こういう形で残る。この書類については刑事訴訟法47条とか49条,あるいは犯罪被害者保護法--これも略称です。--3条の対象になるという形になるかと思います。   確定後の書類になりますと,これは裁判書も含められた形でこれで確定していくと。ここで出てきております裁判所不提出記録は,これもまた法律の対象の記録ではなくて,規程の対象のものになります。   この証拠採用されたもの等のいわゆる訴訟記録は,これは刑事訴訟法53条や刑事確定訴訟記録法の対象となって一般閲覧が可能になるということになります。逆に言いますと,点線部分のものは閲覧対象にはならないということになります。   このようなことで,問題点ですが,私たちの研究会で共通に持った認識としては,刑事法にまつわる記録の保管,保存,開示,公開という制度は,まだ十分なものとはなっていないというように思います。とりわけそれを痛切に感じますのは,これは全く別の話ですけれども,保管記録というものがそもそも検察庁において保管されている,これは民事裁判の場合と比べて刑事事件の一方当事者である検察官が,なぜその後も裁判記録を保管しなければいけないのかというところに基本的な疑問がある。それはどういうことを意味するかというと,結局閲覧請求があったときに,第一次的な判断権者は刑事事件の一方当事者の検察官が行うということになっているということであります。   これは,民事訴訟との関係でいきますと,例えば,捜査段階での違法が争われるような訴訟が民事裁判で行われている場合には,その記録について第一次的に閲覧を認めるかどうかということを判断する人たちが一方当事者になるということで,果たしてそれが適正なものであるかどうかというところに疑問が出てくる可能性があると思います。   それからもう一つは,不服申立て手続との関係ですけれども,実は先ほど申し上げました手続の流れに従った記録の中で,閲覧請求者が不服申立てをできる,法律上認められているのは,実は③の確定した後のもので,犯罪被害者はちょっとまた別になりますけれども,基本的には確定後の書類だけで認められるということになります。しかも,刑事手続上の準抗告が準用される格好になっております。逆に言いますと,裁判所不提出記録やあるいは不起訴記録というものは,これは全く法律上の保管記録にはなっておりませんので,不服申立て手続というものは法律上用意されていないということになります。したがって,それを開示するかどうかというのは,保管している検察官の裁量によるというのが現行の法制度だと思います。   特に民事事件との関係でいいますと,実はこの確定した後,一定程度保管期間が過ぎますと,その事件の記録というのは刑事参考記録という形で,一つは更に保存されます。これは長期にわたって保存されるのですが,いわばこのアーカイブ,民事判決原本を保存する問題と同じような形なんですけれども,文化遺産,歴史的な遺産の性格を持つものが刑事参考記録に指定されるということになっております。しかしこれも,保管するのはだれかというと,法務大臣の命令によりますけれども,実際保存されている場所は検察官であります。したがって,それを閲覧を認めるかどうかというのも,これもすべて検察官に委ねられておりまして,しかも不服申立て手続はないということになっております。   先ほどちょっと言及しましたけれども,刑事事件の記録の取扱いについてはまだ整備が十分ではないと思っているのは,特にこの文化遺産として保存する部分については,民事事件の記録を国立第二公文書館に保存しようとしている状況と比べると,かなり問題があると私たちは考えているということであります。   大体の制度の概要を早口で申し訳ありませんけれどもお話ししましたけれども,つまり申し上げたいのは,法律上の制度として請求が認められるというものは非常に限られているということと,それから不服申立て制度がそれについているというものは更に範囲が限られているということになります。不起訴記録,裁判所不提出記録は全く法律上の閲覧対象にはなっていないというのが,刑事法上の現状だということを申し上げたいと思います。   さて,最後に,刑事訴訟法や記録法の規定を見ますと,これは閲覧目的を問わない,いわば一般公開制度を専ら定めているものというように考えられます。したがいまして,例えば,民事訴訟において文書提出命令の対象になるかどうかという問題とは,思想を異にしていると思います。あくまでも一般公開の閲覧が原則で規定されておりまして,正当事由のある閲覧というものは,これはまた別に規定されているという格好に,例外的に規定されているような法制度になっていると思います。これは意見ですが。   したがいまして,民事訴訟において証拠の必要性等を判断する場合においては,やはり最終的には当該民事訴訟の進行等を勘案して,かかる民事裁判所が判断することが妥当ではないかと思います。さらに,刑事法上の閲覧あるいは開示と言われる制度は,あくまでも一般閲覧の方が中心でありますし,それから法制度としても十分に現状で整備されているとは思わないということを付言しておきたいと思います。   他の省庁が取り扱っている記録,あるいは,所持している情報と,例えば,プライバシーの問題とか職務の執行とか,刑事裁判への公正さへの影響とか,いろいろ考慮しなければならない要素というのはありますが,他の省庁が保持している情報と比べて別異に取り扱う必要がどれだけあるかということについては,それほど根拠があるようには思えないということを最後に申し述べたいと思います。   早口で申し訳ございませんけれども,不明な点は御質問していただければと思います。 ● それでは,引き続きまして○○参考人の方からよろしくお願いいたします。 ● ○○大学の○○でございます。専攻は刑事訴訟法でございます。   本日は,発言の機会をいただきましてどうもありがとうございます。私の方は,特に準備した書面はございませんで,誠に恐縮ですが純粋の口頭主義で,それを徹底してやらせていただきたいと思います。   現在,この部会におきまして刑事手続関係書類,以下「刑事記録」というように申しますけれども,それに対する文書提出命令の在り方について御審議が行われているとお聞きしております。私の場合は,研究者としては以前に刑事の証拠開示,ディスカバリーの問題について立ち入った勉強をしました際に,刑事手続の過程で収集作出される様々な資料の扱いについて,若干考えたことがございます。また,現在,司法制度改革推進本部の裁判員制度・刑事検討会の委員として,刑事証拠開示の範囲が現在よりも拡充される方向で制度設計が行われているということとの関係で,開示された資料の目的外利用,その取扱いの在り方という観点から,この問題について若干考える機会がございました。他方で,実際に刑事の記録を取り扱うといった刑事実務の経験はございませんので,本日は専ら研究者として,主として制度論的な観点,特に,刑事手続と民事手続の司法制度としての調整という観点から,御審議の参考となるかと思われる幾つかの点を述べさせていただきたいと思います。   なお,先ほど○○参考人から,刑事の記録につきまして詳しい御説明がありまして,若干の重複はございますけれども,ただ現在の刑事の制度についての理解ないし評価についてはいささか異なるところもございますので,そのようにお聞きいただければと思います。   最初に,刑事記録の特徴を幾つか指摘させていただきたいと存じます。   なお,これにつきましては,単に刑事事件であるということから来る特徴だけではなくて,諸外国に比べますと我が国の刑事司法の在り方,特に固有の運用の在り方から来ているところもあるように感じております。   まず,刑事記録の第1の特徴は,当然のことながら,刑事の記録というのは刑事手続のために収集・作出されるものであって,そのために御承知のとおり強制力の行使を含む様々な証拠収集手段が認められているという点であります。刑事手続におきましては,先ほど○○参考人のお話にもありましたとおり,刑罰という最も厳格な法的な制裁手段を適正に,かつ誤りなく科するということが要求されております。そのために,被疑者,被告人だけではなくて,一定の刑事事件に関係した関係者のプライバシー等にも配慮しつつ,事案の真相を相当詳細に解明することが求められておりまして,これに必要な証拠資料を収集するための様々な手段が認められて,場合によっては対象者の意に反する強制の処分も認められる,そういう仕組みになっております。   民事訴訟との対比でいいますと,刑事手続におきましては,捜査機関による捜索・差押え,あるいは,関係者の出頭要請と取調べということが認められておりまして,実際上,こうした手段によって事案の真相解明に必要な,非常に広い範囲での証拠資料が収集されているというのが実情でございます。   なお,単純に証拠と申す場合でも,必ずしもこれは刑事公判で証拠調べの対象となるものに限定されず,手続の過程で収集された資料を広く指すことにいたしますけれども,いずれにしても非常に広範な情報が取得される。   それから,供述の強制的な獲得手段である証人尋問の制度は,もとより民事・刑事両方の手続で行われているわけですけれども,刑事訴訟では,民事訴訟と比較して証言を拒絶できる範囲がより制限されておりまして,刑事手続におきましては民事訴訟では入手できないような供述も収集できるという仕組みになっております。   それから,特に証拠ないし情報を提供する側にとりましては,刑事手続に必要であるからこれに限って利用されるということを前提にして証拠や情報を提供し,あるいは,これを受忍しているという側面があるということも,事実としては指摘できるかと思います。   次に,刑事記録の特徴の第2は,正に刑事記録に含まれている情報内容の固有の性質,性格にあります。すなわち,刑事記録はそもそも通常の行政機関の政策決定,あるいは,日常生活とはちょっと違って,犯罪という一般に人の不名誉な事柄に関するものである上に,人に対する刑罰権の行使の資料として用いられるということから,結果は極めて重大で,その取扱いが関係者すべての利害に深くかかわるということになります。また,これは日本の特色でありますけれども,事実認定のために証拠収集が相当徹底して行われ,例えば,犯人がそこにいたという証拠だけでなくて,それを裏付ける周辺の事実とか証拠を精査するということが一般的でありまして,このような徹底した捜査と緻密な事実認定は,「精密司法」と呼ばれているところであります。   さらに,我が国の刑事手続の構造上,証拠収集,それから審理の範囲が,犯罪構成要件該当事実の存否,内容だけでなくて,量刑その他処遇決定のための資料にも広く及んでおります。つまり,要件事実だけでなくて,的確な量刑を行うために,その人間の身上,経歴,その人の人となりなどを詳しく調べるということにならざるを得ない形になっています。このような我が国の刑事司法の現在の在り方自体の当否につきましては,刑事訴訟法の世界でもいろいろな議論があるところでありますけれども,このような事情から刑事記録というのは,いわば個人情報の固まりのようなものになっておりまして,関係者の名誉,プライバシー,いわば個人の知られたくない利益といいますか,知られたくない権利に深く関係するという特徴があります。   なお,少年の事件の場合には,成人の事件と異なりまして,家庭裁判所の審判に付されるわけですけれども,御存じのとおり少年審判は非公開,その記録,これは「少年保護事件記録」と申しますけれども,それは少年の改善更生,情操保護の要請から,さらには緻密な調査を実施する家庭裁判所に対する一般の信頼保護という要請から,特に秘密性が高いものでございます。少年保護事件の記録は,法律記録と,それから社会記録というのからなっておりますけれども,特に社会記録といいますのは,家庭裁判所調査官が調査した内容ですけれども,少年やその家族の個人的な秘密にわたる事項がほとんどでありまして,極めて秘密性が高くて,少年の審判における付添人ですら閲覧のみで,謄写は認めないという運用が一般的だろうかと承知しております。   以上,申し上げましたとおり,刑事手続においては,一つは非常に強力な証拠収集手段がある,それから刑事において必要とされる資料,情報の内容が今述べたようなものであるということの二つが合わさって,通常は関係者以外には知られないはずの秘密にわたるような事柄に関する証拠資料が多量に収集されているということになります。   このような事情に基づいて,刑事記録の内容等にかんがみまして,一方で事案の真相を解明するという公益上の要請と,他方で被疑者・被告人,あるいは,関係者の名誉,プライバシーの保護の要請を踏まえて,刑事手続の内部において,その世界の内部において刑事記録の取扱いについて,私から見るといずれも目的合理的と考えられる様々な規定が置かれております。   やや重複になりますが,まず捜査中や不起訴とされた事件の記録につきましては,刑事訴訟法の47条により,原則として開示が禁止されております。しかし,法律上,公益上の必要その他の事由があって,相当と認められる場合には,保管者の判断によってこれを開示することができる,こういう制度になっております。   次に,公判進行中の記録につきましては,弁護人に閲覧・謄写権がありますが,被告人には公判調書について,弁護人がないときに限って閲覧することができるというようにされております。それから,検察官は,取調べを請求する予定の証拠書類につきましては,あらかじめ弁護人に閲覧する機会を与えなければならないとされておりますけれども,請求を予定していない証拠については,この限りではないということになっています。この点につきましては,刑事の証拠開示の問題としてこれまでいろいろな議論がなされてきたわけですけれども,現在,司法制度改革推進本部の検討会で,刑事裁判の充実・迅速化を図るために,準備手続の整備とともに,一定の範囲で証拠開示を制度として拡充するということが検討されております。ただ,この検討の中でも,開示による支障の有無については慎重な考慮を要するということが留意されておりますし,また開示された証拠資料を,刑事公判の準備という本来の目的外に使用することは,原則としては,やはり適当でないという方向で検討が行われております。   それから,先ほど○○参考人が説明された確定後の記録につきましては,刑事確定訴訟記録法が種々の規定を置いております。   この法律は,裁判の公開の趣旨を補充するものとして,国に対して一般的に確定記録を原則として開示するということを要請しておりますけれども,同時に裁判所や検察庁の事務への支障ですとか,関係者の名誉,プライバシーなどを害するおそれ,あるいは,公序良俗を害するおそれなど,それぞれ合理的な立法政策的な判断に基づいて様々な制限事由が認められております。また,確定記録の開示の可否は,第一次的にはそのような判定を行うのに最も適切な立場にあると考えられる保管者である検察官が判断して,更にこれに不服がある場合には,裁判所に準抗告を申し立てることができるというようになっております。   それから,秘密性の高い少年保護事件の記録につきましては,やはりそれを扱っている家庭裁判所の許可によって閲覧・謄写が認められるということにされております。   以上が刑事の記録についての現在の扱いでありますけれども,このような特徴を踏まえまして,刑事記録を民事手続で文書提出命令などの方法によって強制的に使用できるというようにした場合には,恐らく次のような問題点が生じることが考えられます。   一つは,犯人の改善更生の障害ですとか,関係者の名誉,プライバシー等の保護に値する個人情報を開示してしまう,そのことによって侵害するということがあると思います。刑事記録は,先ほど申したとおり関係者の私生活に関する事柄について,広くかつ相当深い内容のものが収集されますので,これが公にされるという場合には,今言ったような懸念が出てくるということになろうかと思います。   第2に,刑事記録を開示することによりまして,進行中の捜査や公判に影響を及ぼす可能性があります。それから,いったん不起訴になった事件でありましても,再度捜査をする可能性がありますし,また,確定した場合でも再審の可能性はありますし,それに影響が考えられないわけではない。更に重要なのは,刑事手続に限って使用されることを前提に,刑事事件であるからこそ証拠の提供に応じていたという者にとっては,これが民事で利用されるかもしれないということになりますと,捜査・公判への協力をちゅうちょするという可能性がありまして,これは将来における刑事手続における事案の真相解明と,捜査の実効性にかなり深刻な支障を生ずるおそれがあるのではないかというように考えます。   それから,刑事では様々な観点から記録の開示についていろいろな規律を行っているわけですけれども,刑事では開示されない資料が,民事手続を通じて強制的に利用できるということになりますと,制度としては,これは刑事手続における規律をすり抜けることになりまして,刑事の規律の意味を失わせる可能性がある。他方で,刑事記録を開示して,民事で利用することを無制約に認めると,民事では制度として本来は予定されていない手段を与えた結果になって,今度は逆に民事の規律をすり抜けることになるのではないかというようにも思われます。   以上,刑事記録の特徴と刑事の世界内部における扱い,それから,その趣旨について御説明してまいりましたけれども,しかし,民事手続において刑事記録を利用したいという場合が現にあるということはもとより否定できないと思います。とりわけ,記録の中には,刑事記録にしか存在していない,代わりのない,代替性のない場合には,民事裁判での使用の必要性というのは高いというように思います。   この場合,現在,刑事記録が民事手続で全く利用できないわけではございません。皆様御承知のとおり,通常は民事裁判所からの文書送付嘱託がなされて,これに保管者である検察官又は裁判所が応じるという方法が現にございます。また,先に述べましたとおり,不起訴事件の記録を含む公判提出前の記録につきましては,公益の目的その他正当事由があって相当な場合は,保管者の判断により開示することが許されております。その運用に当たりましては,これは平成12年の法務省刑事局長回答で,相当柔軟な対応をするようになってきていると私は認識しております。   また,現に進行中の公判記録につきましては,犯罪被害者に対する配慮という立法目的で制定された平成12年のいわゆる犯罪被害者保護法によりまして,刑事裁判所の許可によって一定の範囲で正当な理由がある場合,具体的には損害賠償請求や保険金の請求等に資するために,被害者側に開示される道が立法で講じられております。   さらに,確定記録につきましては,民事訴訟における利用の必要性をも保管検察官が考慮して,開示の可否について判断がなされるようになっております。   それから,平成12年に改正された少年法でも,被害者等の申出があれば,家庭裁判所の許可によって審判記録の閲覧・謄写が現に進行中であってもできるということにされております。   これらの制度を概観しますと,これらについては開示の可否を判断する者を最も適切かつ合理的な判断ができる立場にある者にしているものと私は理解しております。   以上のとおり,民事手続における刑事記録の利用につきましては,全く不可能としているのではなくて,刑事手続において民事手続上の必要性や関係者のプライバシーの保護等の種々の要請を総合考慮して,支障のない範囲で利用できるということにしているわけです。現状において,仮に,これでなお利用できないと判断された刑事記録につきましては,もとよりそれは個別の事案の具体的な事情でありますとか,民事訴訟での必要性の程度にもよると思いますけれども,やはり現にそれは支障があると言わざるを得ない部分ではないかと思います。   最後に,せん越ながら制度の在り方全般についての意見を述べさせていただきますと,現在の民事訴訟で,刑事記録が文書提出命令の対象外とされている現状につきまして,規定上,刑事を特別扱いするものではないか,あるいは,民事が刑事に劣後するのはおかしいのではないかといった,そういう印象を持たれる可能性があるかもしれませんけれども,事柄はそういう問題ではないだろうと,これは同じ一国の司法制度の中で,いずれもが優位するわけではない,同格の二つの司法制度をどのように合理的に調和させるかという,そういう問題であろうかと思います。もし仮に,単純に刑事記録を文書提出命令の対象にした場合には,先ほど述べましたとおり,刑事手続の中で既に民事上の必要性をも考慮して開示の可否を判断しているのでありますから,これに関する最終的な刑事の世界での判断を,制度として民事裁判所が覆せると,つまり比喩的に言いますと,民事裁判所が刑事裁判所の上級審であるかのような,そういう制度の形になりかねません。また,公訴提起前の刑事記録につきましては,刑事事件においても保管者である検察官の開示の可否について,裁判所が判断する仕組みになっていません。これはそれなりに理由のあるところだと思いますけれども,民事裁判所がその上級審であるかのような判断をするという結果になりかねません。こういう制度自体が,民事と刑事の両者の調整の制度の在り方として合理的なものとは言えないと私は考えます。   結論といたしましては,刑事記録の開示の可否に関する判断は,直接的にその制度の実施に責任を負っており,かつ判断を最も的確に行う立場にある者に委ねるのが適当であって,刑事記録については,刑事の側が最終的に判断を行うこととするのが適当なのではないかと思います。もちろん,刑事記録につきまして民事訴訟で必要になったときには,刑事の側に対して記録の送付を求めて,刑事の側では当然ながら支障がない限り,できる限りその必要性を尊重して協力すべきであるというのが望ましい在り方だと考えております。その際には,判断者に的確な情報を提供するという意味で,民事の側においても,刑事の側でそういう適切な判断がしやすいように,民事手続上の必要性というものについて,十分な説明がなされるということが望ましいだろうと思います。そういう説明があれば,保管している者は他の部分等を考慮して,的確な判断ができるということになると思います。こういう意味で,刑事と民事を対立的に位置付けるのは適当ではなくて,むしろこれは,両方の司法制度の相互協力関係と位置付けて,調整をするのが穏当なやり方ではないかと思っております。   以上でございます。御静聴ありがとうございました。 ● ただいま,お二人の参考人から,刑事訴訟法の観点からの刑事事件関係書類等と,文書提出命令制度との関係につきまして一通りの御説明をいただきました。刑事法学者の方々から御意見を伺う機会というのはなかなかないことでございますので,この機会にただ今の御報告,御説明につきまして何か御質問等がございましたら,どなたからでも結構ですので御発言をいただきたいと思います。 ● ○○参考人にお伺いしたいのですけれども,現在の民事訴訟の文書提出命令制度では,法律関係文書等の規定がありまして,刑事記録が除外されているのは一般義務化された4号の方ですので,法律関係文書であれば刑事訴訟関係記録も当然対象になっているわけですし,これは改正前の民事訴訟法でもそうでありまして,そちらを経由すれば刑事関係記録について民事の裁判所が提出義務の存否について判断をしているわけですね。その辺はどのようにお考えでしょうか。 ● 私も民事訴訟の文書提出命令それ自体について,あるいは,法律関係文書は確かに昔からあった枠組みだったと思いますけれども,それについて民事訴訟法の解釈をする立場ではありませんけれども,確かにおっしゃるとおり,事案としては刑事関係文書が法律関係文書に当たると,当たるけれども,しかし,判断の対象とするかどうかについては,主として保管している者の判断内容を尊重するような趣旨の裁判例があったと思いますけれども,私の先ほどの全体の制度の説明からすると,この部分はやや整合しないところがあるのはそのとおりなのでありますけれども,しかし,法律関係文書に当たる--私,この解釈についてはもちろん皆様方の方が御専門でありますから,確たることは言えないのですけれども--刑事記録一般がすべてこの法律関係文書に当たるということにはならないのではないかと思いまして,私の先ほど述べた事柄は,やはり刑事事件記録一般についてまで,法律関係文書と同じ程度まで民事訴訟の利用に供されるべきであるとまでは言えなくて,先ほどるる御説明しましたような多様な事柄を考えなければいけませんので,やはり一般論としては,全体の大きな制度としては,捜査・公判への支障の有無ですとか,あるいは,関係者のプライバシーの保護などのそういう問題を民事の裁判所が的確にすべて判断できて,ということにはならないのではなかろうかと,そのように思っているところでありまして,ただ法律関係文書の概念につきましては,詳しいことは,昔勉強しましたが忘れてしまいましたけれども,今はそのように思っております。 ● ほかにいかがでしょうか。 ● ○○参考人にお伺いしたいのですが,恐らく検察官は刑事事件の一方当事者であるというのはかなり極端な表現をされていると思います。それで,制度的な問題として民事の確定記録との比較などをなされておったと思いますが,要するに制度的な問題として判断機関というのが第三者的なところで判断されるようなところを考えれば,それは○○参考人も同じかもしれませんけれども,刑事・民事とか,その当事者の個別の事件で考えるとそれはどっちがどうだろうかということになるのですが,第三者的に中立な判断ができる機関みたいなものが考えられるとしたら,それはそれでいいということになるのでしょうか。   どうも検察官に判断させる今の体制を前提にして,特に事件を考えていくと,確かに民事訴訟での記録の公開の要請というのは一般的にその事件でどうのというよりも,むしろそれを取っかかりにしてとかいうようなことで別事件になってくる,そのために使いたいとかいうようなことが多いかと思うのですが,そこら辺の判断は別に検察官でなければいいかと,そういう制度枠組みを民事の裁判所が直接するのではなくて,裁判所ということでもいいでしょうが,そこをあまり具体化しなければいいのかということなのですが。ちょっと,判断権者がどこかの問題でかなりぶつかっておられるみたいな印象を持ちましたので,そこら辺,折り合いをつけるようなことは考えられませんかということなのですが。 ● 質問の趣旨をちゃんと理解できているかどうか分からないのですが,そういう意味でお答えになっているかどうか分かりませんが,私が申し上げたいことは,特に確定後の記録につきましては,現在検察官が保管・保存する制度になっています。まず歴史的には,これは戦後の改革のときに裁判所が保管・保存するのか検察官が保管・保存するのかということで検察庁と裁判所との間で決着がつきませんで,結局刑事訴訟法53条はどこが保管・保存するのかということはぼかした規定にしている。結局それがずっと続いて,従来裁判所に検事局というのがありましたので,そのまま検察庁がずっと事実上持っていたという形--事実上というか,法律によらずに持っていたという状態が続きました。そしてそれが,刑事確定訴訟記録法ができたときに,合意ができまして検察庁が保管・保存するというシステムになっている。   このことの当否はさておくといたしまして,極端な言い方で「刑事事件の一方当事者が」と申し上げたのは,まだ保管記録のときにはいいのですが,結局,保管期間というのは最短で3年とかで切れますと,廃棄されるかそれとも保存されることになります。ところが,どの記録を保存してどの記録を廃棄するのかという判断は,全くこれは基準がありません。結局検察庁の内部でやっていることです。   それから,刑事確定訴訟記録法上はあくまでも刑事参考記録というものと,再審保存記録というものは,これは法律に明記されていますが,これ以外に,法務省の内部の訓令で,規程によって検察官の判断によって規程10条によって保存するシステムになっております。これは全く外からはうかがい知ることができません。つまり,検察官が必要だと思えば残している,それを自由に内部で利用しているという制度になっています。   先ほどちょっと極端に申し上げたというのはどういうことかというと,これは学会でも申し上げたのですが,結局,いろいろな事件で,つまり検察庁の内部では自由に保存して使っているような形の運用になっている,それに対して,外からアクセスできない。逆に言うと,個人情報保護からいうと,自分の事件にかかわる記録が廃棄されているのか保存されているのかすら,その関係者に伝わらない現行の制度になっているという,そういう問題意識があったものですから,そういうようなちょっと極端な言い方になりました。   判断権者との関係ですが,私自身はもちろん第一次的に保管している人がそこで判断する方が望ましいと思っておりますけれども,その場合に,現行の制度がたまたま歴史的な偶然から検察官が持っているというような格好になっているところに一つの問題点があるということと,それから今の民事訴訟法の規定でいきますと,全く訴訟関係記録,法律文書ではない,あるいは,利益文書ではないものについては全く聖域になってしまっているので,一方で先ほどの問題意識とか現行制度の問題を踏まえていくと,全くそこを聖域にしていていいのか,つまりこれが確定してから30年たっても100年たってもその状態がずっと続くという制度になっているものですから,それを全くの聖域にしてしまうのはやはりおかしいので,事件が確定してある程度たてば,それはプライバシーの問題とか社会復帰,改善更生とかという判断要素が減ってくるわけですから,それはやはり民事裁判所でやるということでいいのではないか,つまり最初から聖域にしてしまう--第一次的には判断権者はあるとしても,全くの聖域にしてしまうというのはやはり問題ではないかということを申し上げたかったということです。 ● ○○参考人,もしよろしかったら……。 ● ○○委員の御質問の趣旨がちょっとうまくつかめていないかもしれませんが,まず○○参考人がおっしゃった当事者という表現は,これは法律の用語では正に刑事裁判をやっている検察官と被告人の話であろうかと思いますので,民事訴訟での記録の利用とはあまり関係がないのではないかと私は思っています。   それから,特に問題になっている不起訴記録,それから,確定記録については,検察官は刑事裁判の当事者として保管しているわけではありませんし,公判中は被害者について公判の記録は正に公判審理を担当している刑事裁判所が判断するということになっておりまして,あまり検察官が当事者だという話とは関係がないのではないかと思っております。   それから,刑事記録,不起訴の記録,それから,確定記録を検察庁が保管することになっているのは,やはり刑事確定訴訟記録法を制定するときにそのようにされたわけでありますけれども,その趣旨は,正に刑事の事件の記録が検察官による裁判の執行でありますとか,証拠品の扱いですとか,受刑者の扱いですとか,要するに検察の事務に不可欠でありますからその事務に必要なところに合理的に考えて保管しているというように制度設計がされているのだろうと思います。   それから,不起訴記録についてはやはり検察官が不起訴処分にしましたので,検察庁に置いてあるということで,これをどこか裁判所に持っていくという合理的な理由はあまり考えられない。つまり,現状の制度はそれなりに合理的にでき上がっているであろうと。   私が先ほど言いたかったことは,要するに今も文書送付嘱託というような形で刑事の方で,刑事の記録の性質もかんがみ,他方で民事の必要性も相当考慮して,いろいろ3段階,不起訴記録,公判記録,確定記録の段階で,運用又は法制度として随分と配慮をしている状況で,かつ,先ほど来申しました刑事記録の性質から,単に文書の内容を読むとか,それだけではそれが外に出ていって民事の証拠になるかもしれないといった場合の弊害等について,恐らく判断できない,様々な複雑なことを考慮しなければいけない要素がありますので,それにもかかわらず民事裁判所が文書提出命令とかいう形でそういう判断がされることになると,両者の制度の調整がやや無理があるのではないか,むしろ刑事の方の判断に委ねた方が穏当なのではないか,そういうことであります。 ● ほかにいかがでしょうか。 ● 趣旨が分かりにくかったと思いますけれども,お聞きしたかったのは,要するにどこに保管されるかということよりも,どういう手続で判断していくべきなのかということ。   というのは,感じたのは,民事の確定記録を大学で預かっておったときに,結構閲覧請求が来たのですね。そのときに答えるのが,ごまかしみたいなことですが,まだ整理がついていませんから見せられませんとかいうようなことでやったのですが,的確な判断なんかできようがないのですよ。保管しておるだけなんですよ。そういうことを考えたときに,どこで判断するべきなのかというのを,保管されておる場所ではなくて,何かもうちょっと,正確に言えませんけれども何か第三者的に正確に判断できる機関とか,あるいは,今の刑事記録の保管の態勢が悪いのかとかいうようなところをもうちょっと考えてみたいなと思いましたので……。 ● ほかにいかがでしょうか,御質問等ございますでしょうか。 ● 刑事記録の特徴については,先ほど○○参考人から御説明がございまして,恐らくそれぞれ国の法制が具体的には違うと思いますが,おっしゃられたような刑事記録の特徴,特質はかなり共通性があるものではないかと考えますが,今まで私も個別的な情報として外国のこの問題についての情報を得なかったわけではありませんが,もし基本的な考え方とか,具体的なことはもう時間の関係で結構ですが,基本的な考え方などで我が国と同様の考え方をしている--欧米ということで限定していただいて結構だと思いますが--のか,それとも,そこはかなり違った考え方も制度として存在しているのか,そのあたりについて両参考人から御教示をいただければ幸いと存じます。 ● それでは,両参考人,どちらからでも結構ですのでお願いいたします。 ● すべての国が分かっているわけではありませんので,知る範囲でということで。   日本のこの刑事訴訟法53条は,やはりアメリカ法の影響が非常に強くて,公判廷とか訴訟記録というのは非常にオープンにすべきだという形での決断がその当時あったようです。ただ,その意味ではアメリカ法では証拠開示の問題も絡んできますけれども,日本の現在のやり方と比べてかなりオープンにされていると思います。これは,もちろん私の専門分野ではありませんけれども。   基本的な考え方は,開示のところは非常に緩やかにして,ただもちろん名誉毀損とかプライバシーの侵害というところのいわゆる一般的に得た情報を公表するところで絞るというか,そういうような制度であるように私は見ました。   ただ日本の場合,面白いのは,結局ドイツ法的な検事局というのが裁判所の中にあって,そしてその分かれた検事局のところで結局訴訟記録がそのまま残っていったという,こういう展開がありますので,非常にそこら辺は他の国の制度が分かるわけではありませんけれども,そういうところに違いがあるのかと。   それで,詳しくは知りませんけれども,ドイツではもっとやはり情報は限られている,外に出てこないというように思います。雑駁で申し訳ありませんけれども。 ● 私も,諸外国のそれぞれの刑事記録を詳しく点検したことはございませんけれども,先ほど意見陳述の中で最初に述べました点があるいは重要かと思います。つまり,例えば,アメリカは,刑事事件はほとんど陪審,争いになる場合は陪審裁判でありまして,これは日本と違って記録なんていうものはほとんど……。それから伝聞法則がありますので,公判記録というのは,これは証人尋問やっているその記録だけで,それから捜査の記録の方も日本と大分違っておりまして,大量の書面が捜査段階で作成されるというようなことは基本的にあまりないのですね。したがって,大分記録というもののイメージ自体が,少なくともアメリカとは大分違うであろうと。   外国では,恐らく,アメリカの場合は民事の方の訴訟で刑事の記録を何か使おうという状況がずっと少なくて,むしろ民事の方により完備された資料収集の手段があったりして,そっちの方が普通に使われているのではなかろうかと思います。   しかしアメリカは,ちょうど日本の捜査段階に当たるグランドジュリーの,大陪審の記録というのは,これはかなり厳重に秘匿されておりますし,それから,捜査機関の作成したもの,資料収集したものについては,一種のワークプロダクトというような考えで,やはり原則としては不開示となっていると思います。   それから,恐らくフランスは附帯私訴の制度であって,附帯私訴のメリットというのは刑事の資料をそのまま民事裁判で使えるということでしょうから,そっちの方がうまく働いているのかなと。   ドイツは,○○参考人がおっしゃったとおり,こっちは伝聞法則はありませんが,直接主義ということで,やはり書類それ自体は原則として公判では証拠にならないと。記録は裁判官と弁護人は自由に読めるということになっているわけですけれども,民事裁判所は恐らく刑事の方に送付嘱託というようなことをするのだと思いますけれども,やはりこれも,正に刑事事件でございますので,本来の目的の方が遅延してしまうとか,あるいは,関係者のプライバシー保護の観点から,必要な場合には記録の送付を拒否し得るというようになっているようでございます。   要するに,大分刑事記録というものの量といいますか,内容が,ちょっと諸外国と違って独自なところがありまして,単純に比較はできないのではないかというのが私の印象であります。 ● ほかに,何か御質問,御意見等ございませんでしょうか。 ● ○○参考人に伺いたいのですが。   最初に○○参考人の方から,刑事事件の関係書類の利用状況についての統計的数字の評価が出てまいりましたけれども,この点について○○参考人,御感想で結構ですから。 ● 私は,○○参考人と違って実際に自分で記録を閲覧に行ってというところまでは,そういう実証的なことはしておりませんけれども,私が拝見させていただいた数字からいいますと,民事でそれなりの必要性があって,どうしても不可欠である,先ほど言いましたとおり,非代替性,代わりがない,恐らく交通事故なんかの実況見分調書とか死体検案書とか,そういうものについては,どの段階でもほとんど広く利用が現にもう認められているというように理解しております。あとは,先ほど言った刑事の特徴から,何か必要性があると民事の方で言われた場合でも,恐らく個別の事情で判断がなされて,これはやはり他の利益があるので難しいというように,もし健全な判断がされているとすれば,それはやむを得ないところだろうと思います。   私の理解では,いろいろな数字を見せていただいたところでは,必要性が十分示されれば,刑事の方はそれを受けて的確な判断をしているのではないかというのが私の評価でございます。 ● ほかにございますでしょうか。   ほかに御意見,御質問がないようでございましたら,文書提出命令に関する事項につきましては,本日はこの程度にさせていただきたいと思います。   なお,部会資料7の第1の3に「文書提出命令」がございますけれども,本日のヒアリングの内容を踏まえて,この点についての審議は事務当局の方で更に検討した上で,またお願いしたいと思います。   それでは,本日は大変お忙しい中を御出席いただきましたお二人の参考人に対しまして,厚く御礼申し上げます。どうもありがとうございました。   それでは,部会資料7についての審議に入らせていただきたいと思います。   本日は,資料の順番どおり第1の「民事訴訟法関係」から審議に入りたいと思います。   1の「民事訴訟手続等の申立て等のオンライン化」,2の「督促手続のオンライン化」,それから4の「その他」につきまして,まとめて御説明をいただきたいと思います。○○幹事からよろしくお願いいたします。 ● それでは,部会資料7でございますけれども,第1「民事訴訟法関係」の1・2,それから4ページでございますが4の「その他」までにつきまして簡単に御説明いたしたいと思います。   まず,1の「民事訴訟手続等の申立て等のオンライン化」,2の「督促手続のオンライン化」の部分でございますけれども,基本的にこちらの方の内容は,中間試案と変わっておりません。この点につきましては,パブリックコメントの結果を見ましても,おおむね賛成意見であったと理解しております。   なお,若干変わっているところがございます。まず3ページの(4)でございますが,「インターネットを利用してする処分の告知」,裁判所の方から告知を受ける者に対するもの,これはインターネットを利用してすることができるというものでございますけれども,実質は中間試案と変わっておりません。債務者に対する処分は従来どおりとするというように,(注)で記載してございます。   なお,中間試案では,本文で「債権者に対する処分」というようにしておりましたけれども,実質は変わっておりませんが,この点表現が変わっておりますのは,こういった債権者への限定といいますものをどのようなレベルの立法で規定するのか,なお事務当局の方で検討したいというだけでございます。実質は全く変わっておりません。   それから,(5)でございますけれども,「インターネットを利用してする処分の告知の到達時期」でございます。この点,試案では,(注)で「なお検討する」としておりましたけれども,今回,その内容を記載しております。   まず,アでございますけれども,こちらの方は行政手続のオンライン化法と同じように,「告知を受ける者が使用するコンピュータ中のファィルに記録がされたとき」としてございます。このようなことにいたしますと,具体的には,このページの一番下の(注1)にございますとおり,例えば,その告知を受ける者が裁判所のシステムのファイルにアクセスして,当該処分に係る電子データをダウンロードしたときに到達したものとみなされるというようなことになろうかと思います。   ただ,この点につきましては,こういったような方法だけということにいたしますと,効力の発生の始期を,告知を受ける者の意思に委ねるということになりまして,相当でない場合もあるのではないかというように思われます。そういったような御指摘も,パブリックコメントの中でされていたところでございます。   そこで,アのような,こういう到達時期のほかに,イとして,別の到達時期のみなしというものも書いております。   ここでは,まず債権者に対するものに限っております。また,その債権者の同意があるということを要件にしております。そういう要件のもとで,いわば発信主義というものを採用しているというものでございます。   具体的には,裁判所が使用するコンピュータにその処分を記録する,その債権者に対しましては,例えば,お知らせするものがありますと,こういったような趣旨のメールを発するということが考えられるわけでございます。処分そのものをメールで出しますと,これはいろいろなセキュリティーの問題が出てくるものですから,そういう趣旨のものを発するということが考えられるわけでございます。   そうしますと,そういう同意があるということでございますので,発信主義,そういう通知を発したときに到達したものとみなすということにしても問題はないのではないかというように思われるところでございます。   ということで,ここにつきましては,到達時期としましてアのほかにイといったような方法も認めてはどうかというものでございます。   オンライン化の関係は,中間試案と変わっていますところはそれだけでございます。   次に,4の「その他」,「管轄の合意」の点,それから「債権者に対する仮執行宣言付支払督促の告知方法」,この2点でございますけれども,いずれもパブリックコメントの結果を見ますとほぼ賛成意見ということでございましたので,中間試案のとおりとしております。この点は変わっておりません。   簡単ですが,以上でございます。 ● それでは,1ページからでございますけれども,第1の1「民事訴訟手続等の申立て等のオンライン化」及び2ページの2「督促手続のオンライン化」,この二つにつきましては,今,○○幹事から御説明がありましたように,1の方につきましては中間試案から変更した点はなく,2の「督促手続のオンライン化」につきましては,3ページの(5)の告知の到達時期につきまして,中間試案では(注)になっていたものを,ア,イというように少し具体化したという点が新たに加わったという点だということでございます。これらの点につきまして,御質問でも御意見でも結構ですので,どうぞよろしくお願いいたします。   それでは,特にないようでございますので,1と2のオンライン化関係につきましてはパブリックコメントの結果を見ましてもほとんど賛成する意見でございました。このオンライン化関係について,資料7に記載した実質をもとにして法整備を更に進めていくということにしたいと思いますが,それでよろしゅうございますでしょうか。--どうもありがとうございました。   それでは,4ページの4「その他」でございます。   この(1)の「管轄の合意」と(2)の「債権者に対する仮執行宣言付支払督促の告知方法」についてでございますが,こちらの方もパブリックコメントの結果を見ますと反対意見はほとんどないという状況でございました。したがいまして,これにつきましてもこの原案の方向で取りまとめさせていただくということでよろしゅうございますでしょうか。--ありがとうございました。   それでは,次の議題に入らせていただきたいと思います。   次の議題は,部会資料7の第2「民事執行法関係」でございます。   まず,1の「少額債権のための債権執行制度」につきまして,まず○○幹事から御説明をお願いいたします。 ● それでは,1の「少額債権のための債権執行制度」でございます。   このような少額債権のための債権執行の手続を簡易裁判所で行うことができるようにする,こういう制度を創設するということにつきましては,パブリックコメントの結果でもおおむね賛成であったと理解しております。それで,これにつきましても基本的には中間試案と内容はあまり変わっておりません。すなわち,債務名義につきましても(2)にありますとおり,「少額債権のための債権執行制度を利用できる債務名義は,少額訴訟における確定判決等の少額訴訟に係る債務名義とするものとする」としてございます。少額訴訟ということで身近な簡易裁判所で簡易・迅速に債務名義が得られる,国民の司法へのアクセスという観点から,そういった利便性を権利の実現の段階においても高めることがいいのではないか,こういう考え方に基づくものでございます。   次に,(3)でございますけれども,今申し上げましたような趣旨,考え方からしますと,この執行裁判所につきましても,少額訴訟の受訴裁判所,裁判をしたその裁判所でそのまま執行の手続もすることができる,このようにするのが相当ではないかと思われるところでございます。   なお,(注)でございますけれども,試案では,債務者の利益を保護するために,債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する簡易裁判所への移送につきまして,なお検討するというようにしてございました。この点につきましてパブリックコメントの結果を見ますと,賛成意見もあったわけでございますが,他方で,移送を認めますと遅延につながる可能性があるのではないか,あるいは,債務者が債権執行における管轄裁判所について明示をされるというのであれば,それを前提に少額訴訟手続に同意しているのであるから,移送は不要ではないか,こういったような意見も見られたところでございます。   この点につきましては,先ほど申し上げました今回のこの少額債権のための債権執行制度の創設の趣旨,すなわち,簡易・迅速に身近な裁判所で執行手続が受けられる制度ということに照らしますと,債権者の方のそういうメリットを優先させるということでもいいのではないかと考えられるところでございます。そこで,今回のこのたたき台では,(注)でございますが,移送をすることができるものとはしないということでどうかという形で御提案させていただいております。   それから,(4)でございますけれども,「少額債権のための債権執行制度における執行裁判所の権限」,今,「執行裁判所」となっておりますが,これは(5)のところで裁判所書記官の権限ということになれば,それは「裁判所書記官の権限」ということになるわけでございますが,この権限の範囲につきましては,パブリックコメントでも賛成意見が多数であったと理解しております。したがいまして,この内容につきましても基本的には変わっておりません。   ウでございますけれども,転付命令等の申立てにつきまして,試案では,地方裁判所の方に通常の債権執行手続を申し立てるというようにしておりましたけれども,今回のたたき台では,移送するというようにしてございます。これは,例えば,既に差押えがされているという場合に,いったんその差押命令,あるいは,裁判所書記官ということになりますと処分ということになるのかもしれませんが,そういうものの申立てを取り下げて,改めて地方裁判所の方にそういうものも含めて申立てをするということになりますと,その間にいったん差し押さえられた債権の保全というのがどうなるかという点も問題になろうかと思います。したがって,そういうことも考えまして,今回のこのウでは,転付命令等の申立てがあった場合にも,事件を地方裁判所に移送するということにしてはどうかという形で提案させていただいたというものでございます。恐らく,今のような趣旨から申しますと,現実的には差押えの申立てと転付命令の申立てというのは同時にされるというケースが多いかと思われます。そのような場合には,こういった移送にのってくるのではなくて,実際には,併せて地方裁判所に申し立てるというようなことになるのではないかと思われるところでございます。   それから,次に(5)でございますけれども,「裁判所書記官の権限化」でございます。   この点につきまして,パブリックコメントの結果を見ますと,両方の意見が出されていたところでございます。すなわち,手続の簡易迅速化を図るためには,このような手当ても必要である,それから,現在の執行実務の実態,裁判所書記官というものが原則的にいろいろな準備をしているというような実態からしても,裁判所書記官の権限化には合理性があるのだという意見がございました。他方,司法作用を裁判所書記官の権限としてよいのかといったような意見もあったところでございます。   このように,パブリックコメントでは両方の意見があったところでございますけれども,先ほど申し上げました今回の制度の創設の趣旨というところに照らしますと,やはり単にこの手続を簡易裁判所で行うことができるということにとどまらず,その手続の簡易迅速化というものもなるべく実現を図った方がよろしいのではないかと思われるところでございます。そこで,理論的な御意見はございましたが,取り扱う債権というものが少額であること,それからまた,パブリックコメントの結果にもありましたとおり,現在の執行の実務に照らしますと,これを裁判所書記官の権限といたしましても,問題が生ずるということは考えられない,こういうことを踏まえまして,今回のこのたたき台では,裁判所書記官の権限とするということでどうかという形で御提案をさせていただいているというものでございます。   当然,この点につきまして裁判所書記官の権限とした場合には,その処分に対する不服申立ての手続も設けて,現行法における手続保障というものを維持する必要があると考えております。不服申立てにつきましては,そういう方向でなお検討したいというのが(注)の趣旨でございます。   それから,(6)「その他」でございますが,そのほかに少額債権のための債権執行制度について検討すべき点はあるかという形で書かせていただいております。今回,全く新しい制度を作るということになりますものですから,ここのたたき台に書いた以外に,ほかに検討すべき点があればこの機会にお伺いしたい,こういう趣旨でございます。 ● この「少額債権のための債権執行制度」につきましては,パブリックコメントにおきましてもおおむね賛成の意見が得られたということでございますので,○○幹事からお話がありましたように,この資料は中間試案とあまり変わっておりません。   ただ,幾つか,今御説明があったような点が変わっております。例えば,5ページの(3)の(注)のところとか,あるいは(4)の転付命令の申立て裁判所というような点がパブリックコメントの意見を踏まえた変更点ということでございます。そのような点を中心に,少し御意見をいただければと思います。どなたからでも結構ですのでお願いいたします。   転付命令を,前回のところでは地方裁判所に申し立てるというように考えていたものを,今度はそういう場合にはもう少額訴訟の簡易裁判所に申し立てたものを地方裁判所の方に移送すると,事件を移送するということにしたという点はいかがでしょうか。 ● 質問ですが,この場合に移送というのはどういう趣旨の移送になるのでしょうか。今まで,転付命令に関する限り,職分管轄というのかよく分かりませんが,その管轄が地方裁判所だという前提で,それ自体は中間試案と変わらないと思うのですが,このウというのをあえて入れるということは,何か特に親切というか便宜のために,特別な,注意的なことでこういうような制度,移送を設けると,そういう趣旨なんでしょうか。その趣旨がよく分からなかったものですから。 ● 実質でございますけれども,既に,例えば,差押えの申立てが先にされている,その後で転付命令の申立てが仮に出たというような場合ですと,そういう転付命令の申立てが出れば,それはもう地方裁判所の方で判断していただく。そういう際には,差押えの事件の方も併せて見ないとなかなか転付命令の方の審理も難しいということがございますので,差押えの事件の方も転付命令の申立てと併せて地方裁判所の方に事件を移す,こういう趣旨でございます。 ● そうすると,同時にやることが多いのであまり議論する必要ないのかもしれませんけれども,仮に,まずは差し押さえて,その後転付命令だというときについては,利用者としてはやはりそれ自体は地方裁判所の方に申し立てると。 ● 転付命令の方は,こちらの方は簡易裁判所の方に申し立てるということを考えております。 ● 基本的にはそっちに行くと。 ● はい。その上で,差押えと併せて地方裁判所の方に移すと。   先ほどは,先に差押えの申立てがある例を申し上げましたけれども,仮に,差押えと転付命令の二つの申立てが同時にされた場合でも,そのままでしたら事件は両方とも移るということになりますけれども,現実問題としてはそういう場合には,あえて簡易裁判所に二つの申立てをして,事件を移してもらうよりは,二つとも地方裁判所の方に出すのが通常だろうと,そういうことでございます。 ● (3)の執行裁判所の土地管轄に関係してお伺いしたいのですが,先ほどのお話の中に,少額訴訟に応じているのだから一応そこと被告との関連性があるのではないかというような御説明があったと思うのですが,そういうものは時間の経過によって相当薄れていくということはあり得ることだと思いますので,仮に,そのような考え方をとるのなら,一定の確定の期間制限のようなものを設けないと,確定判決によって最低10年間は執行可能ですので,そうなりますと10年後までそこと関連性があるというようなことになるというような説明が,本当にうまくいくのかどうかというような気がいたしますので,この期間がいいのかどうかは別として,民事訴訟法上支払の猶予期間として3年が上限と定められているということなどを勘案して,何らかの期間制限と,確定後3年とか4年とかいうような期間制限をつけないと,債務者が転居した場合等のことを考えますと,少し問題があるのかなという気がするのですが。 ● 先ほどは,債務者が少額訴訟手続に同意しているという,そういう意見があったということで,パブリックコメントの結果として御紹介したわけでございます。そういうことも一つの理由としては考えられるわけでございますけれども,先ほど申し上げましたように,今回のこの(注)でございますが,どちらかといいますと今回のこの制度創設の趣旨,より簡易迅速に身近な裁判所で執行手続を受けられる,こういった債権者のメリットというものを優先させようというような趣旨からしますと,それをいつまでの期間--期間によってそういう債権者のメリットというものも薄らいでいくではないかというような御議論はもちろんあろうかと思いますが,そういった制度趣旨からすると,やはりそこで簡易に債務名義が得られた利便性を,権利の実現の段階まで及ぼしてもよろしいのではないかという趣旨でございます。 ● ほかに,御指摘ございますでしょうか。 ● ほかに御指摘等ないようであれば,更に事務当局に若干御検討をお願いできないかという趣旨で申し上げたいと思うのですが。   それは,正に(6)の「その他」という部分で,その他に検討すべき点があるかということと絡むのですけれども,この制度を導入された場合に,これはそれこそだれが担当するかという話は別に置いておいて,基本的には少額訴訟に係る少額債権というものの債権執行ですので,99%なのか95%なのかよく分かりませんけれども,大部分のものは本来簡易裁判所で担当するという性格になじむものなのだろうと私どもも思っております。   ただ,よく考えてみますと,訴訟で考えた場合には,民事訴訟法には18条という規定が御承知のとおりございまして,簡易裁判所は相当と認めるときは訴訟の全部又は一部をその所在地を管轄する地方裁判所に移送することができると,こういう規定がございまして,これは恐らくその趣旨として,先ほど来○○幹事も強調されている簡易裁判所の簡易・迅速な裁判の実行という,そういう意味合いからして,その簡易裁判所と地方裁判所との役割分担というような,そういう組織的な意味合いも含めて,本来簡易裁判所で担当するのに必ずしも相当ではない,それなりに時間もかかりそうだ,手間もかかりそうだというような事件について,その簡易裁判所のある場所の地方裁判所に送っていいだろうと,こういう発想なのかなというように思っております。   それと同じようなことが,この執行の場面でも出てくるのかどうか,真に必要なのかどうかというあたりはもう少しよく吟味をしていかなければならないのかなと思っておりますけれども,例外的にそういう場面もあり得るのかなという感じもいたしますので,今回の制度についても,この民事訴訟法の18条と同じような意味合いのシステムを作っておいた方がよいのかどうかというあたりの御検討をお願いできればと思っております。 ● 今の,簡易裁判所から地方裁判所への裁量移送につきまして,何か御意見ございますでしょうか。 ● 執行裁判所で執行事件を担当している者の立場から,考えているところを申し上げておきますと,簡易裁判所の少額債権のための債権執行というもののイメージとしては,そのほとんどが,恐らくは給料債権,預貯金の債権の差押え等,あるいは,場合によっては建物賃料の差押えというようなものもイメージできると思いますが,比較的定型的な処理に親しむもので,問題がそれほど大きくはない,あるいは,少ないというものがほとんどだろうと思われます。しかし,金銭債権一般に対する執行というのは,必ずしも数は多くはないのですが,かなり難しいのもありまして,例えば,他人名義の預金債権を押さえるための発令要件はどういうものがあるのか,主張立証がどうなるのかというような問題もありますし,もともと差押債権の特定ということについては,債権者と第三債務者の利害が対立する問題なのであります。債権者としては,債務者と第三債務者との間の法律関係というのは必ずしも把握しておりませんし,またできないという実情にもあるわけで,できるだけ包括的に差し押さえて,緩い特定で差押命令をもらいたいという要請があるのですが,そうすると逆に第三債務者にとってみますと,その債権が自分の債務者に対して負っている債務が,差押命令の対象であるかどうかの判断,差押えの効力の有無,範囲ということについて,緩やかであればあるほど判断がしにくいという状況になって,できるだけ個別的な特定を求めたいという状況が第三債務者の側にはあるわけです。   執行裁判所としては,両者の利害得失というようなところを考えまして,これまで幾つかの事例の積み重ねによって落ち着きのいい運用を考えているわけですが,これを具体的にどういう範囲で特定するかということについて,たまには困難な判断を強いられるような事例もないわけではありません。ですから,そういう少数の事例ではありますけれども,そういう事例があることを考えておきますと,やはり民事訴訟法18条のようなシステムを残しておく方が,地方裁判所と簡易裁判所の連携の関係でも有用ではないかというように考えますので,その点をよろしく御検討していただくようにお願いいたします。 ● ほかに,今の点について御意見ございますでしょうか。   それでは,その他の点,特に先ほどの裁判所書記官の権限化,これはパブリックコメントでも両様の意見があったところでございますが,この問題も含めてその他の点について御意見を伺いたいと思います。 ● 別の話ですが,よろしいでしょうか。金銭債権の範囲についてお伺いしたいのですけれども。   継続的給付に係る債権の差押えについて,最近の将来債権譲渡の範囲についての最高裁判決の影響で,どのぐらい先まで差し押さえられるかというところについて,現在下級審の判例が動揺しているのかなという印象を持っておるのですが,これが仮に,非常に広がっていくと,10年でもいけるというようなことになっても,なおそれも対象とするというようなことで,この少額執行の制度は,そういう継続的な給付に係る債権の差押えも含むと考えてよろしいのかどうかという点。今のは裁判所書記官の権限化との関係も若干あるのかもしれませんが。それと,もう1点は,ちょっとマニアックな議論なんですが,振替社債はこれには含まれないと考えてよろしいのでしょうか。振替社債になりますと,有価証券という物の問題ではなくて権利の問題に近づいてきて,完全に債権執行に近づいてきていると思うのですけれども,そこはもうやはり難しいので外しておくということになるのでしょうか。 ● 継続的給付の差し押さえられる対象となる金銭債権の範囲を限定するかどうかということにつきましては,今回の制度では特段制限を加えようということは考えておりません。そのあたりで難しい問題が生じた場合に,先ほどのような裁量移送の制度を設けるかどうかというところで対応するかどうかというところを判断するということになろうかと思います。   また,振替社債を対象とするかという問題ですが,現行法では,規則で「その他の財産権」ということで整理されており,今回は金銭債権のみを差し押さえることができるということを考えておりますから,外れるのではないかと考えております。 ● ほかにいかがでしょうか。 ● 裁判所書記官の権限化の件でもよろしいでしょうか。 ● どうぞお願いいたします。 ● 様々な民事手続の場面で裁判所書記官の権限化の話というのは出てまいりまして,御承知のとおり支払督促に関してもいろいろな議論の経緯があって現在のような形になったわけだと思います。   権利の確定そのものと区別いたしまして,私は権利の実現の具体的な態様に関してはかなり政策合理的に考えてよろしいのではないかと思っている次第であります。先ほどの御説明にもございましたように,執行債権の性質,それから執行対象債権をどういうものとするか,このあたりが一番基本的なところだと思いますし,それプラス執行を担当することになる,ここでそのような考え方が示されている裁判所書記官の力量といいますか,そういったことを総合的に判断して決すればよろしい問題で,そのように考えますと,現在ここに提案されているような制度の基本的な骨格を前提にしたときに,パブリックコメントの結果では意見が分かれているということでしたけれども,私は裁判所書記官の権限とするという方向で検討を進めてもよろしいのではないかと思います。 ● 同じく裁判所書記官の権限化の問題ですが,裁判所書記官の権限としないことを望む理由というのは,具体的にどういうことなのかということをむしろ知りたいと思います。それよりは,やはり執行実務の中で,今お話がありましたように相当裁判所書記官の力量が高い,しかも執行関係の裁判所書記官の著作などを見ますと,相当知識もあるというようなことなどから見ると,よほど裁判所の判断を要するという部分以外の部分において裁判所書記官が関与し,執行するという権限があってもいいのではなかろうかと思います。   ましてや少額債権の執行ですから,利用する側の利便,迅速化という点を考えても,現実問題として裁判所書記官の権限化を認める方がいいのではなかろうか,こういうように考えます。 ● 今,御意見いただきましたけれども,パブリックコメントの結果では両様意見が分かれているということを先ほど御説明いたしました。慎重な意見といいますのは,やはり債権執行というのは司法作用であるということ,あるいは,先ほど来お話が出ていますけれども,差押債権の帰属ですとか適格性といったような法的判断を伴うというようなこともあるのだと,そういったような意見があったということでございます。 ● 裁判所書記官の権限化につきまして,弁護士会の方,何か御意見ございますでしょうか。 ● パブリックコメントの意見のほかに,特段この場面では意見はございません。 ● ほかに,何か御意見ございますでしょうか。   それでは,これまでいただきました御意見を踏まえまして,更に事務当局におきまして検討させていただきたいと思っておりますが,それでよろしゅうございますでしょうか。--それでは,そのようにさせていただきたいと思います。   引き続きまして,部会資料7の第2の2「不動産競売手続」の(2)の「剰余を生ずる見込みのない場合の措置」,(3)の「差引納付の申出の期限」,それから(後注1)の内覧制度,(後注2)の入札期間中の取下げの制限,この4項目につきまして,まとめて議論していただきたいと思います。○○幹事から資料の説明をお願いいたします。 ● それでは,資料の6ページの2「不動産競売手続」でございます。   まず,(1)の最低売却価額制度でございますが,資料では「なお検討する」とだけ記載させていただいております。この点につきましては,パブリックコメントでも様々な意見があるところでございます。A案,B案,C案ということで三つの案を提示したわけでございますけれども,それぞれの案につきましても更に事務当局で詰めた検討を行いたいと思っております。そういう点で,まだ具体的な記載ができていないのは大変申し訳なく思っておりますけれども,次回以降に検討しました結果をお示ししたいと思っているところでございます。   次に,(2)でございますけれども,「剰余を生ずる見込みがない場合の措置」でございます。   この点につきましては,パブリックコメントの結果でも異論はなかったと理解しております。したがいまして,実質は中間試案と変わっておりません。若干,表現ぶりでございますけれども,少し直したというだけでございます。   それから,イのところでございますけれども,現行法のほかの証明の事由と同じように,1週間以内にこういう同意を得たことを証明しなければならないものとするということを書いているだけでございます。   それから,(3)の「差引納付の申出の期限」でございますけれども,この点につきましてもパブリックコメントでは異論がございませんでしたので,中間試案のとおりで変わっておりません。   それから,(後注1)の方の内覧制度でございます。内覧制度につきましては,パブリックコメントの結果では反対意見が多く見られたというものでございますので,今回ではこの「パブリックコメントの結果では,反対意見が多く見られたが」というようなものを挿入して記載したというものでございます。この点につきましては,事務当局としまして,もし今日御意見をいただけるのであればお聞かせ願いたいと思いますが,なお引き続き検討したいと思っているところでございます。   それから,(後注2)でございますけれども,取下げ制限の点につきましても,この点はパブリックコメントでは両方の意見があったところでございます。賛成意見といたしましては,裁判所の多数,一部の弁護士会,宅建業の団体,弁護士等のグループ,こういったところから賛成意見をいただいておりまして,反対意見といたしましては経済界,銀行協会,弁護士会,大学,個人等々,こういったところからいただいております。数としては,反対意見が多かったというように理解しております。   この反対意見の内容を見ますと,当事者間の合意による解決というものを優先すべきではないか,あるいは,最終的にはこの取下げ制限というのは最高価買受人の一人の利益を保護するものにすぎないのではないか,すなわち,それ以外の,結局最終的には入札に負けてしまう人はいずれにしても同じような損失をこうむるということでございますので,最終的には最高価買受人一人の利益を保護するものにすぎないのではないか,こういった意見があったところでございます。   そこで,確かに賛成意見が言われていますように,競売市場の信頼性を高める,こういう意見はあるわけでございますけれども,パブリックコメントの結果を見ますと,あえて現行法を変える,そこまでの強い必要性があるのかどうか,慎重に検討すべきではないかと思われるところでございますので,今回は中間試案では本文に挙げておりましたけれども,後注という形にしまして御意見を伺いたいと思っているところでございます。   なお,仮に,取下げの制限をする場合には,同じように執行停止文書の提出につきましても制限を加える必要があるのではないかと考えております。それが(後注2)の(2)のところでございます。   アにありますとおり,第39条第1項の第4号又は第5号の文書につきましては,現行法でも取下げと同じ扱いということになっておりますので,恐らく取下げを制限するのであれば,同じような制限になるのではないかと考えております。   それから,イの第7号,第8号の文書でございますけれども,この文書が提出されますと執行停止がされる,そうしますと入札の受付ですとか,あるいは,開札期日の開催が不可能ということになってしまいまして,実際には売却実施命令を取り消す運用がされているということでございます。したがいまして,状況は取下げと同じということになるものでございますので,この期間中に第7号の文書が提出された,あるいは,第8号の文書が提出されたという場合には,その効果,効力というものを制限するというようなことが考えられるのではないかということでございます。 ● それでは,(2)の「剰余を生ずる見込みのない場合の措置」と,(3)の「差引納付の申出の期限」につきましては,今の御説明のようにパブリックコメントではほとんど異論がなかったところでございます。○○幹事からお話がありましたように,資料も表現ぶりが少し変わっているというだけでございます。   (後注1)の内覧制度と(後注2)の入札期間中の取下げの制限につきましては,パブリックコメントにおきましては先ほどの御説明のとおり,ある程度反対意見があったことから,これを(後注)という形にしたものでございます。その点も含めて御議論いただきたいと思いますが,4項目ありますので,資料の順に,まず(2)の「剰余を生ずる見込みのない場合の措置」と(3)の「差引納付の申出の期限」,この二つあたりから御質問あるいは御意見があれば伺いたいと思います。   よろしゅうございますでしょうか,この点は中間試案と変わっておりませんので,こういう方向で取りまとめさせていただければと思いますが。--それでは,そのようにさせていただきたいと思います。   次に,(後注1)の内覧制度につきまして御議論をお願いしたいと思います。御質問でも結構でございますので,どうぞどなたからでも御発言をいただきたいと思います。 ● 担保・執行法制部会も終了いたしましたが,そこでも言っておりましたので,ここでもこの内覧制度を拡大するということについてあまり賛成できないという意見を述べておきたいと思います。   個人が売却する場合でも,第三者に賃貸しているというようなときには,その賃借人の同意なしに勝手に内覧させるというようなことはできないわけでございますが,競売になったときになぜ賃借人は見せなければいけないのかということについて,どうも説明ができないのではないかというように思いますので,パブリックコメントも反対が多いようでございますが,ここでだれも反対しないというのもまずいかなと思いまして,あえて一言申し上げました。 ● ほかに,よろしゅうございますでしょうか。   それでは,この(後注1)の内覧制度につきましても,パブリックコメントの結果や今の御意見を踏まえまして,事務当局で更に次回にどういう資料を出すかお任せいただきたいと思いますが,よろしゅうございますでしょうか。   それでは,最後に(後注2)の入札期間中の取下げの制限でございますが,これについてはいかがでしょうか。双方の合意による解決という点に重きを置くのか,それとも買受申出人の利益ということに重きを置くのかというようなことで考え方が分かれるところかと思いますけれども,何か御意見ございますでしょうか。 ● 取下げを認めること自体についてはそれほど抵抗はないのですけれども,やはりその間,お金を寝かしてしまった人たちの保護ですね,取下げがあってお金を寝かしてしまったり,あるいは,保証料を払った人の保護というのは全く考えなくていいのかどうかというのは,また別の問題ではないのかという気が私はしておりまして,やはり何らかの保証を積んで買受けの申出をした人に対しては何らかの手当て,例えば,損害の補償が必要なのかなと。申立人と債務者の都合で取り下げるわけですから,そこについてはもう少し配慮が……。取下げを認めるとしても,なお保護というのを別の道で探るということはあり得るのではないのかなという気がしております。 ● ここの取下げ制限につきましては,いろいろな考え方があろうかと思います。ただ制度として,どういう理念で作るかということだと思うのですけれども,あくまでも取下げを認める,それからやはり当事者といいますか,債権者,債務者の方の任意の合意による解決を優先するという考え方で制度を作るということになれば,ある意味では入札する人もそれを前提として入札するのだということにならざるを得ないのかなと思っておりまして,そういう点では,今,○○幹事がおっしゃられましたような,そういう金銭的な解決というものも制度としてはあるとは思いますけれども,なかなかいろいろ複雑なことになるのかなという気もしておりまして,基本的な理念というものを考えると,取下げを制限するかしないのかの選択肢となるのではないかと考えております。 ● ほかにいかがでしょうか。   弁護士会の方は,何かこの点について御意見ございますでしょうか。 ● 既にこれまでの部会の中でも述べてきたところでございますけれども,この問題は合意による取下げによる終了という便宜をいつの時点まで認めるかということが実務上は重要な問題でして,ただ期間を少し前倒しにすれば調整がとれるのだろうとも思うのですが,前にも指摘させていただきましたように,この時期に債務者サイドで強力に動きがあって,非常に高い金額での任意売却が成立するということもありますので,現段階であえて現行制度を制限するというところまでの必要性を,実務上は私としては感じないという状況でございます。 ● ほかにいかがでしょうか。   それでは,この点につきましても今いただきました御意見を前提に,更に事務当局の方で考えさせていただくということにさせていただきますが,よろしゅうございますでしょうか。--ありがとうございました。   それでは,今の4項目についてまとめますと,「剰余を生ずる見込みのない場合の措置」と,それから「差引納付の期限」につきましてはおおむねこのような方向で取りまとめることにつきまして御了承をいただいたものとして理解させていただきます。   それから,(後注1)の内覧につきましては,パブリックコメントやこれまでの議論を含めまして,反対の意見もありましたことですから,事務当局においてなお検討させていただくということにさせていただきたいと思います。   それから,(後注2)の,今の入札期間中の取下げの制限につきましては現行法のとおりでいいという御意見と,現行法では入札に参加する者の利益が十分に保護されていないのではないかという両様の意見がここでも表明されたこともありまして,パブリックコメントの結果も踏まえて,更に事務当局の方において検討させていただきたいと思っております。それでよろしゅうございますでしょうか。   それでは,ここで休憩をとりたいと思います。             (休     憩) ● 審議を再開いたします。   審議の後半は,まず部会資料7の第2の3「執行官による援助請求」,4「裁判所内部の職務分担」でございますが,これについて併せて御審議をいただきたいと思います。○○幹事から資料の説明をお願いいたします。 ● まず,7ページの3「執行官による援助請求」でございますが,執行官が執行裁判所と同様に,官庁又は公署に対して援助を求めることができるものとするという,この点につきましてはパブリックコメントでも反対意見はございませんでした。したがいまして,中間試案どおりということにしてございます。   続きまして4の「裁判所内部の職務分担」でございます。   この点につきまして,(1)「裁判所書記官の権限とする事項」でございますけれども,パブリックコメントの結果を見ますと,一部の事項につきまして幾つかの異論があったほかは,基本的には試案に掲げた事項につきましては賛成意見が多かったというように理解しております。そのようなことを踏まえまして,今回,この資料を作らせていただいておりますけれども,若干中間試案を検討しました結果,少し項目を付加しております。   その一つが,アの費用予納命令でございます。この費用予納命令につきましては,原則として民事執行に要する費用の額の確定につきましては,現在,裁判所書記官の権限とされているわけでございまして,この費用予納命令も,この費用の計算事務の一環として位置づけることもできるのではないかと思われるところでございます。   それからまた,現実の運用では,ある程度定形化された金額の予納を命じているというような実情にございます。   また,今回破産法の改正が検討されているところでございますけれども,この破産法の改正案におきましても,特別調査期間に要する費用の予納につきましては裁判所書記官の権限とされる予定でございます。   そのようなことを踏まえまして,今回の資料では,この費用予納命令につきましても裁判所書記官の権限としてはどうかという形で提案させていただいております。   次のページのウの物件明細書でございますけれども,パブリックコメントでは,物件明細書につきましては異論はございましたけれども,その結果を見ますと現実の執行実務の実態,それから,手続の迅速化というところから賛成する意見というものがございました。このように物件明細書の作成を裁判所書記官の権限といたしましても,恐らくこれまでと同様に,裁判官との協働関係は変わらない,こういう意見もあったところでございます。   他方,物件明細書の情報資料としての重要性から見て,慎重に考えるべきだといったような意見もあったところでございます。そこで,このようなパブリックコメントの結果も踏まえつつ,検討しました結果,やはり手続の迅速化を図るという必要があるのではないか,しかしながらそれと同時に,情報資料としての機能が損なわれないような,そういった手当ても併せてする必要があるのではないかと思われるところでございます。そこで今回の資料では,物件明細書の作成につきましても,これを裁判所書記官の権限としつつ,この(注1)でございますけれども,このような措置をとることを最高裁判所規則において手当てをするということでどうかということを提案させていただいております。   (注1)でございますけれども,物件明細書におきます裁判所書記官の判断と,それから最低売却価額の決定の際の裁判官との判断が異なった場合にどうするのかという問題でございます。   ここにございますように,物件明細書に記載された事実等と最低売却価額の決定の基礎とされた事実等とが異なる場合には,例えばでございますが,執行裁判所はその旨及びその事実等を最低売却価額の決定において明らかにする,またそういったことが物件明細書と併せて公開されるような措置を講ずる,こういうことでどうかというものでございます。このような措置をとるということにいたしますれば,先ほど申し上げましたような情報資料としての機能というものが損なわれないというようにも考えられるところでございます。   それから,エでございますけれども,中間試案に加えまして売却決定期日の指定も裁判所書記官の権限にしてはどうかというように提案してございます。売却決定期日の指定につきましては,現在の実務におきましては,売却実施命令と同時に指定しているという実態がございますので,売却実施命令を裁判所書記官の権限として,手続の迅速化を図るということになりますと,この二つを併せて裁判所書記官書記官の権限とするというのがよろしいのではないかということでございます。   なお,仮に,裁判所書記官がこの期日を指定したとしましても,執行裁判所の方が後からそれを変更することは可能でございますので,ここで裁判所書記官が決めたことが最終的なものになるものではございません。   それから,カの配当表の作成でございますけれども,この作成の意味につきましては,(注2)に書いてあるとおりでございます。この作成については,配当表に記載すべき債権の額,執行費用の額,配当の順位及び額,そういう記載すべき内容については執行裁判所が定めるというものでごさいまして,そういうものを配当表に記載する,そういう意味での作成を裁判所書記官の権限としてはどうかということでございます。   次に,(2)の不服申立てでございます。   現行法のもとで,ただいま申し上げましたような今回裁判所書記官の権限としてはどうかという事項につきましては,執行異議ができるとされておりまして,執行抗告はできないということになっております。これは,手続の遅延を防ぐ,あるいは,遅延目的の濫用的な不服申立てを防ぐ,こういったような機能があるものと思われますけれども,この趣旨は,こういった事項を裁判所書記官の権限としても,そういう要請というものは変わらないのではないかと思われます。そこで,こういった裁判所書記官の処分に対する不服申立てにつきましては,1週間以内といった不変期間をつけるものもありますけれども,執行裁判所に異議を申し立てることができるというようにいたしまして,これに対する更なる不服申立ては認めないということでよろしいのではないかと考えております。   執行裁判所の判断が,現在は当初の決定の段階,それから執行異議の段階というようになっているわけですけれども,このような形にしますと執行裁判所の判断が1回のみということになるわけでございますが,やはり不服申立てを受けて判断をする,そういう意味での判断,審査というものを1回やれば,手続保障としては十分ではないかと考えられるところでございます。   なお,不服申立てを認めるのに伴いまして,執行停止も認める必要があろうかと思いますので,それぞれのところでその趣旨の手当てをしてございます。   なお,費用予納命令につきましては,金銭の支払に関するものでもございますし,破産法でも確定しなければ効力を生じないという形で検討がされているということでございますので,そのような形にしております。   配当表の作成につきましては,9ページのウでございますが,新たな不服申立ての手続は設けないという形にしております。これは,その内容に不服がありますれば,配当異議によることができますので,今回,ここで特別に新たな不服申立ての手続は設けないというものでございます。ただしこの場合には,その後の(注)にありますとおり,民事訴訟法上の異議が出せるということになるわけでございますが,現実には配当期日においてこの異議を述べなければいけないということになろうかと思いますので,このような不服申立てを認めましても,濫用的な申立てがされるというようなことはあまり想定されないのではないかと思われるところでございます。 ● それでは,「執行官による援助請求」,及び「裁判所内部の職務分担」につきまして御審議をいただきたいと思います。   執行官による援助請求につきましては,パブリックコメントにおきまして,今御説明がありましたように反対意見は全くございませんでしたので,この資料についても中間試案と変わっていないということでございます。   裁判所内部の職務分担につきましても,物件明細書等につきまして一部異論がございましたけれども,おおむね賛成の御意見をいただいたと思いますので,この資料は裁判所書記官の権限とする事項についてより具体的に列挙しておりますし,また今まで検討していなかった不服申立てにつきましては,今度新たにその詳細を具体的な案で示しております。そこで,その御審議をお願いいたしたいのでございますけれども,まず,3の「執行官による援助請求」についての御審議をお願いしたいと思います。御質問でも結構でございますが,御意見等ございましたらどうぞおっしゃっていただきたいと思います。   もし御意見がなければ,原案の方向で取りまとめさせていただくということにさせていただいてよろしゅうございますでしょうか。--それでは,そのようにさせていただきます。   次に,「裁判所内部の職務分担」についてでございます。これについて,どなたからでも結構ですので御意見いただきたいと思います。 ● 物件明細書の裁判所書記官の権限化について,若干述べさせていただきたいと思います。   執行上の各種手続の裁判所書記官の権限化の総論的な方向性についての問題につきましては,弁護士会等は既にパブリックコメントに関して意見を表明済みのところでございます。今回のたたき台で,新たに物件明細書等の作成につきまして,8ページの(注1)におきまして,物件明細書と最低売却価額の決定過程とが異なる場合に,その違いを明らかにするとともに,その旨公開する措置というものが提案をされておりまして,これまでにない精緻な不服申立てないしその権利の判断に関する詳細な規定が置かれたということを大変評価をしたいところでございます。   しかしながら,この点につきまして先般日弁連内の委員会で審議をいたしました。確かに物件明細書に権利確定効がないこと等から,これを裁判所書記官の権限とすることに理論的障害がないという側面があるということは,もとより否定するものではございません。しかしながら,弁護士会,特に全国各地からその会の実情を持ち寄った形での意見交換の中で,物件明細書に引受けとなる権利と消滅する権利との記載がされているということに対する権利の事実上の振り分けに寄せる期待,信頼というものが強く主張されたところでございます。   確かに,(注1)のように仕組むことによりまして,物件明細書の作成を裁判所書記官の権限とすることを前提にいたしまして,最低売却価額の決定過程を記載することによっても,最終的には執行裁判所の判断というものが読み取れるようになるわけですが,この点につきまして説明をしたところ,各地の弁護士からは,一つは現在の執行裁判所の作成する物件明細書の記載の仕方等にばらつきがあり,標準化が徹底しているとは言い難いという指摘を前提といたしまして,このような現状で物件明細書を裁判所書記官の権限とすることに対する不安を指摘する意見,それから更に,この新たな制度に対してですが,弁護士等の専門知識を有する者であればともかく,物件明細書と最低売却価額の決定過程を表明した意見とが食い違うような場合,例えば,買受人はどちらの記載を信用すればいいのか,判断に迷うことにもなるのではないかという意見も出たところでございます。   このような現状における指摘を踏まえますと,(2)のところで不服申立てを容易なものとして仕組むことといたしましても,一般人の参加を広く求めていこうとする競売手続として,物件明細書の作成権限を最低売却価額の決定過程の公表によって権利の存続,消滅の判断に違いが生ずることを前提とする,言ってみれば簡明とはなかなか言い難い手続に仕上げることには,現段階ではやはりちゅうちょを覚えるという意見が多かったことを報告させていただきます。   もとより,裁判所書記官の権限化という裁判所内部の合理的要請に水を差すものではなく,総論としては理解をするところではございますが,やはり権利の帰趨の実情にかんがみ,その判断がその後の通常裁判所におきまして権利の存否が争われた場合に最大限尊重されているという実務を踏まえますと,現行制度を維持することに賛成する向きが多かったということを指摘させていただきたいというように思います。 ● 今の○○幹事からの話,裁判所としては重く受けとめさせていただきたいと思いますが,一,二点,こちらの立場から補足させていただきますと,まず物件明細書の標準化の問題でありますけれども,これは以前にこの審議会で御紹介したことがあったと思いますけれども,5つの地裁の裁判所書記官による物件明細書の標準化の研究がされ,それが公表されまして,実はこれはまだ全国的には施行されておりません。東京地方裁判所におきましても今年の9月から試行的に施行した段階でありまして,まだ全国的には行き渡っておりませんが,これから徐々に普及していくものと思われますので,その点について全国的な標準化,あるいは,その物件明細書の詳細説明というものを裁判所で用意いたしましたので,それと併せて読んでいただくと非常に分かりやすい物件明細書の作成が可能になってくるのだろうと思います。それが第1点です。   もう1点は,物件明細書の記載と最低売却価額の決定の判断の過程に食い違いがあった場合の措置についての○○幹事の御意見ですけれども,それはそのとおりだと思いますが,これは制度として,もし万一違った場合の手当てとして置くものでありまして,現実問題としてはこういうことが起こることは,ほとんどないと言っていいと思います。物件明細書の作成については,これまで同様,裁判官も最低売却価額の決定に当たっては十分なチェックをいたしますし,その信頼は揺るがないような形での運用を心掛けていきたいと思いますので,その点も御理解をいただきたいと思います。 ● 私は,この(注1)に書かれたことについて,やはり○○幹事がおっしゃったようなことで,利用者側からすると疑問が残るのではないかという意見を持っております。つまり,どっちを信用していいか分からないということですね,簡単に言えば。   確かに,今,○○委員のおっしゃったように,こういうことはほとんどないのだと,前からの説明でも裁判所書記官の権限ということで問題ないのだという説明の際に,既に裁判所書記官もそれなりにかかわって,あるいは,裁判官は裁判所書記官と相談してこのような形で物件明細書を現に作っているので,今度裁判所書記官の権限としても,実際上行っている検討の仕方はあまり変わりがないという,そういう御説明だったと思っておりまして,そうなると,あえてこの(注1)のような仕組みを制度として設けるというのはいかがなものかという疑問が残るということであります。   もし裁判所書記官の権限とするのであれば,そういうことですっきりすればいいので,あるいは,むしろ権限化した上で物件明細書の記述を,単に引き受けられるとか消滅するとかいう結論だけを書くのではなくて,今でも疑いのある場合にはそれなりの記述があるかと思いますが,そこを充実させるという措置で,物件明細書の内容としてそう単純に権利関係があるかないかというのは,その事件については判断できないのだということが明示されればよいのであって,(注1)のような書き方でもし制度を作るとなると,利用者としては迷惑になるし,競売手続に対する信用性というものを失わせるのではないかというように感じます。 ● ちょっと確認させていただきたいのですが。   ○○委員のお考えは,物件明細書の作成を裁判所書記官の権限にすることは賛成な上で,しかし,この(注1)のようなことは要らないというお考えというように承ってよろしいですか。 ● そうですね。 ● 今,(注1)の点についていろいろ御指摘をいただきまして,最初の○○幹事の御説明でも,(注1)の部分は最高裁判所規則事項になるのではないかというようなお話でしたのであえて申し上げますと,私どもといたしましても,基本的にはこういう(注1)のような事態はまず生じないだろうと。ですから,これは万一のときの一定の保障策みたいな,そういう位置付けなのだろうと思っております。   いずれにしても,そういう保障策として具体的な中身,今,①,②ということで書いていただいていますけれども,最終的にそこをどう固めていくかというあたりについては,弁護士会を始めとして,御関心ある方の御意見なんかを十分踏まえて考えていきたいと思っているのですが,今私どもが基本的に考えているのは,どちらにしても今お二人の委員・幹事から御指摘いただいたような,一般の方が見て,かえって誤解をしかねないとか,どっちが本当なのかかえって混乱をしてしまうとか,そういうような心配のないようなものにしていこうと思っております。   具体的には,先ほど○○委員から御紹介いただいた,今現に進めている物件明細書の標準化の中でも,一般の方がそもそも物件明細書自体を少しでも内容を分かりやすく御理解いただくために,簡潔な説明,読み方とかそういうものを含めて,説明みたいな部分を少し重視して,分かりやすくしようと,そういうことを考えていますので,もしこういう制度が入ってくれば,そういう中で十分注意喚起を図るということも可能になってくると思います。   それから,実際に②で言っている物件明細書と併せて公開するという,ここのイメージについても,そういう紛れのないような形でうまく一体化を図るというようなことは十分可能なのではないかと,要するに併せてとじてしまうとか,付記してしまうとか,いろいろなそういう運用上の工夫も十分可能だろうと思っております。ですから,いずれにしてもその辺は極力そういう御心配のないような措置を具体的にとっていきたいと考えている点は,改めて強調させていただきたいと思います。 ● 別の問題ですが,よろしいですか。   配当表の作成についてですが,今までにお聞きした方がよかったのかもしれませんが,(注2)がわざわざついていますので,執行裁判所が書く内容については定めるということで,本当に裁判所書記官の権限とされたのはどこなんだろうかということなんですが,どこがどう違ってくるのかというのがちょっと気になりまして,今までとあまり変わらないのではないか,書くことだけが裁判所書記官の仕事であれば今でもやっているということになりますし,何かちょっとそこら辺,具体的にお教えいただければと思います。 ● 今の点はおっしゃるとおり,いわば配当表という正にそういう書面を作るというところだけを裁判所書記官の権限とするということでありまして,それは今やっていることと変わらないといえば変わらないというようにも思われますけれども,今,法律上の制度としてはそういう事実上の作成の部分も裁判官の職務権限となっているというところを変えるということでございます。 ● よろしゅうございますか。   ほかにいかがでしょうか。売却決定期日の指定というような点については,いかがでしょうか。 ● 物件明細書の作成につきまして,(注1)につきましていろいろ御意見をいただいたところでございます。先ほど来,利用者が混乱するのではないかというような御疑問も提示されているところでございますけれども,併せて公開されるということの具体的な方策につきましては,先ほど○○幹事のお話がありましたとおり,今後更に検討がされるものと思いますけれども,制度としてどちらを信用してよいのかということになりますれば,それは,例えば,異議が出ますればそれは執行裁判所が判断するということになるものですから,恐らくそれは最低売却価額の決定における判断を利用者としては信用するのではないかと思いますし,それぞれの記載の意味が分かった上でもなおどちらか分からないというような方がいらっしゃるとすれば,それはある意味では裁判所における,窓口における相談ですとか,そういったような問題になってくるのかなと思っておりますので,いずれにいたしましても(注1)の②の措置も含めまして,利用者の側に混乱が起きないようなことにする,あるいは,仮に,こういう制度が作られるとすれば,手続はこのようになっているのだということの周知徹底,そういう問題にもなろうかとは思っております。そういう点も含めまして,(注1)というのが,もし仮に,できるとしましても,実際の執行の場面において混乱がないようにするということは,必要なことかなと思っております。   先ほどの○○委員の御意見にもありましたとおり,こういったことが起きるということはまずないと思われるところでございますけれども,制度的な担保としては,こういうものがある。また,そういうことがあることによって,現実問題としては判断にそごがされないような,裁判所書記官と裁判官との協働作業というものがされるようになるだろう,そのような意味もあろうかと思いますので,事務当局としては(注1)のような方向で検討を進めさせていただければとは思っております。 ● 結局,今の実務では,どうも裁判所書記官が現況調査報告書等の資料に基づいて事実関係を整理し,それに基づいて起案し,そして裁判官が確認し,必要な修正等を行って完成させている,これの具体化ということにお聞きしてよろしいのでしょうか。 ● 恐らく,実際の運用としてはそうなるというように理解しております。 ● ほかによろしゅうございますでしょうか。   それでは,「裁判所内部の職務分担」につきましてはアからカまでありますけれども,特に物件明細書の作成につきましては若干の御意見をいただきました。物件明細書については少し慎重であるべきだという御意見がありましたと同時に,しかし,物件明細書の全国標準化というようなものも図られており,実際に裁判官と裁判所書記官の判断が食い違って(注1)のような事態が生ずることはほとんどないであろうというような御意見も賜り,またそうであればということでしょうか,この(注1)のようなものは要らないと,ただ物件明細書を裁判所書記官の権限とすればいいという御意見も賜りました。   そこで,そういうことになりますと,今最後に○○幹事が言われましたように,原案の物件明細書の作成については裁判所書記官の権限とするという方向で,そして(注2)につきましては,これは「例えば」と書いてございますので,具体的な姿としてどうなるか,更に最高裁判所の方に検討していただいて,また次回に資料を出させていただくという形にさせていただきたいと思いますが,それでよろしゅうございますでしょうか。--それでは,そのようにさせていただきたいと思います。   続きまして,今回新しく不服申立てにつきまして少し細かに検討したのが8ページの(2)の不服申立てについてでございます。これは,ア,イ,ウというように事柄の性質によって不服申立ての種類といいますか,必要な場合,必要でない場合,どのようにするかということの仕分けをしたということでございますけれども,この点もこの原案のとおりに検討を進めさせていただくということでよろしゅうございますでしょうか。一応確認をさせていただきたいと思います。   先ほど御意見がなかったものですから,御同意は得られたものと思いましたけれども,念のために今確認をさせていただきました。   それでは,9ページの第2の5「扶養義務等に係る金銭債権についての間接強制」について御審議をいただきたいと思います。   資料の説明をお願いいたします。 ● それでは,資料の9ページの5の「扶養義務等に係る金銭債権についての間接強制」でございます。   この間接強制につきましては,パブリックコメントの結果を見ますと,日弁連等の反対意見はございましたけれども,賛成意見が多数であったと理解しております。また,給料の差押えによって,例えば,債務者が勤務先に居づらくなってしまう,こういったような場合があるというような指摘も弁護士のグループから出されておりました。先のヒアリングでも同様の指摘がございましたし,養育費等の債務者が,払えるにもかかわらず払わない,こういった例が多いとの指摘もあったところでございます。   そのような指摘を踏まえますと,この間接強制の制度というものを創設する必要性,ニーズというものがあるのではないかと思われるところでございます。   今回の間接強制でございますけれども,(1)にありますとおり,扶養義務等に係る金銭債権についての間接強制ということで対象を限定しているわけでございます。これは,扶養義務の特殊性に着目しまして,そこに限定してこういう制度を設ける,こういう趣旨でございまして,従来,御議論がございましたとおり,こういった債務名義につきましては,債務名義の作成時におきまして一応資力があるということが前提とされている,そういった特殊性が認められるところでございまして,少額であることといった特性のほかに,今言ったような,正にこの扶養義務等に特有のそういう性質を考慮して,今回この範囲に限定して間接強制の制度を認めてはどうかということでございます。すなわち,この債務は,やはりほかの金銭債権とはかなり性質が違うということに着目した制度という趣旨で,今回創設をしてはどうかと考えているところでございます。   そのように考えますと,この間接強制の決定の要件,(2)のところが非常に大きい問題になってこようかと思っております。中間試案でも,いわゆる資力要件が非常に大きい問題であると理解はされておりましたけれども,特に,例えば,資力がないというのは一体どういうことを指すのか,無資力の意味が非常に大きい問題になろうかと思っております。今回,ここの資料で提案させていただいております案は,支払能力を欠くために債務を弁済することができないという場合のほかに,その債務を弁済することによって,その生活が著しく窮迫することを立証したときというような場合を入れております。すなわち,支払う能力はあるけれども,弁済によって,ここの(注)にありますとおり,最低限度の生活も維持できなくなるような場合,こういう場合にまで間接強制を認めるのは,いわば少し行き過ぎではないかということで,そういう場合には間接強制をすることはできないというようにしているわけでございます。   無資力の点,抽象的には今申し上げましたように最低限度の生活も維持できなくなるような場合ということでございますけれども,具体的な運用といたしましては,これはまた裁判所の方の解釈・運用に委ねられるということになろうかと思いますけれども,一つ参考になるかと思われますのは,例えば,従来養育費等の算定の場面におきましては,分担能力の有無というものを問題にするといったような考え方もございました。これは生活保持義務があるような債務者につきましても,最低生活費以下の生活を強いることはできない,こういったような考え方があったわけでございます。   こういう考え方のもとで,養育費における分担能力の有無を判断するというようなことになりますと,基本的には,例えば,総収入から職業費というものを引きまして,可処分所得というものを出す,可処分所得というものから特別経費というものを引きまして,基礎収入というものを出す,またその基礎収入が生活保護基準の額,こういうものを上回っているかどうかというところで分担能力の有無というものを判断する,こういう考え方が一つあり得たわけでございます。   ここで言う総収入につきましては,基本的にはこれまでのこの考え方のもとではフローとしての収入といったようなものが基礎とされていた扱いではなかったかと理解しております。したがいまして,例えば,無資力という要件の中で,そんなにぜいたくでもない居住用の不動産というものを所有してはいるのだけれども,フローはほとんどない,こういうような場合に間接強制ができるのかどうかという点が問題になろうかと思います。これは,最終的には裁判所の解釈・運用ということになろうかと思いますけれども,今申し上げましたような養育費における考え方などがもし参考になるとすれば,そういう場面では基本的にはフローの収入を考慮して最低生活以下の生活になるかどうかで,分担能力を決めていたということも,ある意味では参考になるのかなとも思っているところでございます。   いずれにいたしましても,今回の(2)の案では,本当に支払能力がないということのほかに,支払能力はあっても,やはり一定の場合には間接強制までは認められない,そういう点で直接強制はできるけれども間接強制まではできない,こういったような場面もあるのではないか,こういうことで間接強制の特性といいますか,そういうものを考慮して,間接強制をすることができる場合を少し限定している,こういう趣旨の提案でございます。   このような要件を課した上で,こういったことにつきましては債務者において立証すべきものという形にしております。これは,冒頭で申し上げましたとおり,扶養義務等に係る債務についての債務名義につきましては,その成立時において一応資力があったということが前提とされていること,またやはりその債務者の資力というのが債務者側の事情ということだと思われますので,そういうことから考えますと,やはり債務者側に立証させることが合理的ではないかと思われるからでございます。   他方で,試案では,無資力であることが明らかである場合に却下することができることとするように提案をしたわけでございますけれども,ただ仮に,明らかではないからとりあえず発令するというようにいたしましても,後で出てきますような決定の取消しの制度,それから,執行停止の制度を設けますと,とりあえず発令してもすぐに取消しの申立てがされて執行停止がされるということにもなりかねません。そうしますと,結局,とりあえず発令するという意味はあまりない,かえって手続が複雑になってしまうとも考えられるところでございます。そういうことで,(2)では,債務者側に立証責任は負わせるけれども「明らか」という要件は外している,そういうものでございます。   それから,(3)と(4)でございますけれども,間接強制の決定の取消しの制度を設けるという点につきましては,パブリックコメントでも賛成意見が多かったと理解しておりますので,こういったような制度を設けるという形にしております。   ただ,ここの(注2)にございますとおり,取消しの申立てをいたしましても,その取消しの決定が効力を生ずる,決定が告知されたときまでの間の間接強制金の発生というものは,止めることはできないのではないか,決定においてそれまでの間の間接強制金をいわば取り消すといったような遡及的なことは難しいのではないかというように考えられるところでございます。そこで,申し立ててから決定までの間の間接強制金の発生を止めるということが必要になる場合もあろうかと思われますので,(4)にありますような執行停止の制度を設けてはどうかということでございます。   最後に,(5)でございますけれども,将来分の扶養義務等についても間接強制を認めるかどうかという問題でございます。   この点につきましては,パブリックコメントの結果を見ますと,単位弁護士会,あるいは,大学の方からは賛成意見が見られましたけれども,個人からは反対意見もございました。また,単位弁護士会の御意見では,1年程度の将来分に限定するのが相当だと,こういった意見もいただいたところでございます。先の担保・執行法の改正におきまして,将来分についての差押えというものも認めたということになりますと,仮に,間接強制という制度を導入いたしました場合に,こちらの方は将来分について一切認めないというようにするのは相当ではないのではないかと考えられます。そこで,今回この資料では,間接強制の場合でも将来分について間接強制を認めることができるということにしておりますけれども,ただ間接強制の場合には,やはりいろいろな事情の変更という場合があり得ますので,一定の期間分に限るのが相当ではないかと考えられるところでございます。そこで,(注)では,その期間の選択肢として1年又は6か月といったようなものを掲げさせていただいたというものでございます。以上でございます。 ● それでは,「扶養義務等に係る金銭債権についての間接強制」について御審議をいただきたいと思いますが,この項目につきましては,パブリックコメントにおきまして反対意見もございましたけれども,扶養義務等に係る金銭債権に限って認めることについて賛成する意見の方が多数でございました。したがって,今回の資料では,「扶養義務等に係る金銭債権についての間接強制」とした上で,中間試案の内容をより具体的なものにしたというのがこの資料でございます。前回のこの部会では,ヒアリングを行いまして,この点について御意見も伺いました。その際には,このような制度の創設を求める意見が述べられるとともに,こういう制度を作ったことに伴う弊害を危ぐする意見も併せて述べられたところでございます。そこで,本日はその際に述べられた意見をも踏まえて御審議をいただきたいと思っておりますが,まず○○委員の方から席上配布の資料をいただいておりますので,○○委員の方から御説明をいただいて,その後意見を伺いたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。 ● ただいま,事務当局から詳細な御説明をいただきまして,大分理解が私自身も深まったのですが,席上に出させていただきましたとおり,部会資料7の間接強制の問題について,意見を述べさせていただきます。   これは,本件では扶養義務等に係る金銭債権について,不払の事実があって,これの理由がいろいろあるというのが前回のヒアリングでもいろいろ出ましたが,これを放置するということはやはり社会的にもまずいだろうということは私も理解はできております。   問題は,どのように放置をしないで何かよりいい手を打てないかということで,こういうお話が出てきたと理解しておりますが,特に身分関係などを扱っております家事事件の特質からいって,総合的な判断を必要とする場面とか,それから画一的処理になじまない場面というのがあるように思っております。   家事事件というのは,御承知のとおり当事者といっても家族の利害,感情,それから,過去の歴史,その他を全部ひっくるめて紛争になるということが事実上多くございまして,これを細かく分析した上で,総合的に判断して結論に導くという場面が結構多いものであります。そうなりますと,当然画一的な処理をするというのはあまりなじまない領域であろうかと思っております。   本件で問題になっています扶養料についても,民法879条は扶養権利者の需要,扶養義務者の資力その他一切の事情を考慮して扶養料を定めるとなっておりまして,やはり考えなければならないことがたくさんあるのではないかと思っております。   では,これがいったん決まった場合にどうなるかということなのですが,決まった場合でも,その後も当事者間の関係が切れないというのが家事事件の特質であります。例えば,扶養料が問題となる子供のある夫婦は,離婚した後でも子供の監護,扶養料の支払,面接交渉などをめぐって接触があります。しかもその関係は,子供が成年に達するまで,場合によっては一生続くということになります。   家事事件の当事者というのは,生活の様々な場面で感情や利害が対立する関係にありますので,今言ったような,一回結論が出たとしても,画一的な処理がしにくく,総合的に当事者の関係をとらえないと問題の解決を誤るおそれがあります。この点で,金銭の支払を命じた審判などがいったん出て,それの執行が問題になったとしても,通常の場合のように金銭の回収だけを切り離して制度として組み立てていいかは問題があるところで,一概には言えないのではないかというように思っております。   そこで,例えば,家事審判法15条の6は,御承知のとおり履行命令を定めておりますが,「家庭裁判所は,審判で定められた金銭の支払その他の財産上の給付を目的とする義務の履行を怠つた者がある場合において,相当と認めるときは,権利者の申立により,義務者に対し,相当の期限を定めてその義務の履行をなすべきことを命ずることができる」と,二度「相当」という言葉が出てくるわけです。相当性の判断を家庭裁判所に求めております。これの理由の一つには,今言ったようなことがあるのではないかと思っております。   この相当性の判断に当たっては,義務者の義務の不履行の程度,理由とか履行能力,生活状況,健康状態などが考慮されているというように通常言われております。権利者側の収入とか資産,生活状況まで考慮すべきかについては,そういう意見もあるけれども適当ではないという意見もあるように聞いております。   部会資料では,この点について間接強制による方法を認めているわけですが,その導入には慎重な配慮が必要でありまして,部会資料でも随分御考慮いただいているとは思いますが,特に強制執行の一方法としての検討が必要なことはもちろんですけれども,家事事件の特質を考慮した立法がなされるべきだと考えております。これが総論的な部分です。   2番目に,間接強制の決定の要件についてですが,債務者に資力がない場合又は生活が窮迫する場合を除外するのは賛成ですが,その立証責任は債務者ではなくて債権者に負担させるべきではないかと考えております。そもそも間接強制は,間接強制金を課して債務者を心理的に圧迫して履行を促すものであると説明されておりますが,資力のない者に対して間接強制をすることは,無駄な心理的圧力を債務者に課すことになり,執行手続上も無意味であるだけでなくて,債務者にとっても過酷であります。その意味で,手続を開始するに当たって,債権者にその開始要件の立証を促す実質的な理由があるのではないかというように考えております。   先ほど申し上げた履行命令も,義務者が正当な事由もないのに定められた財産上の義務を怠って,その義務を履行することが事実上可能な場合に,相当な期限を定めて行われております。現行法では,履行する資力がなくて履行ができない場合には,相当でないことになると理解されています。   さらに,間接強制の要件を考える場合に,確かに相当性の判断,いかなる間接強制金をどのように課すかということは裁判官に与えられておりますが,開始要件についても相当性の判断が必要ではないかというように考えております。債務名義が審判又は調停調書であれば,先ほどの家事審判法15条の6に,ここに記載したような第2項を設けて,履行命令とセットで間接強制を命じることで対応ができるのではないか,これも一つの方法であると考えております。命令に従わないときは,支払を命じた金額の何とか倍,これ10なのか1なのか,0.5なのかという問題はあるのですが,何とか倍の範囲内で相当と認める一定の額の金銭の支払を命じると,例えばこういうようなことも考えられるのではないかと。   もともと家事審判法は,履行勧告,履行命令,それから,命令に反したときの過料の制裁というのがセットで定められました。家事審判法28条1項に,10万円でしたか,過料の制裁がございます。これは,履行命令についての一種の間接強制であるというような説明もものの本にはなされております。これは,今の条項が入れば,1というのは当然なされるべきだというように考えます。   債務名義が判決の場合には,新しく制定された人事訴訟法38条,39条に履行勧告,履行命令に関する規定がありますので,これに同じものを置くという対応ができると思います。   一番問題なのは執行証書の場合ですが,これは今申し上げた様々な事情を考慮する場面がないから,間接強制は執行証書の場合は認めないという扱いをするのも一つの考えですが,あるいは,民事執行法の33条に執行裁判所を家庭裁判所とする特則を置いて,ほかの同様な今のような規定を家事審判法や人事訴訟法に設けるというようなことも考えられるかと思います。   いろいろな方法が考えられると思いますが,家事事件の方から着目した立法を考えてもいいのではないかという趣旨でございます。   それから,決定の取消しと執行停止については,特に御意見ございません。   最後に,定期金債権についての間接強制ですが,将来分の定期金について間接強制を認めることについては,私の意見としては消極的であります。期限到来分の不払について間接強制金を課すことが,過去分ばかりでなく将来分の支払を促す効果もありますし,それでいいのではないかと思っております。   仮に,将来分につき,間接強制を認める定期金の範囲を考えるとすれば,債務者に反省を促す時間を与える意味で,6か月分でいいのではないかという意見を持っております。   最後に申し上げることは,定期金の範囲の検討は大変重要なことでありますが,これと同時に,過酷な執行とならないように,課される間接強制金の総額についても御検討をいただく必要があるのではないか,特にさっきもちょっと申し上げましたが一定の限度を設けてもいいのではないかという意見であります。   以上,長くなりましたが,意見を申し上げました。 ● ほかにいかがでしょうか。   今の○○委員のお考えは,中間試案には全くなかった考え方でございまして,執行裁判所を全部家庭裁判所に統一しようということが背後に含まれていたと思いますが,こういうお考えについても,どうぞほかの方の御意見を賜りたいと思います。 ● パブリックコメントが終わった後で,今ごろなんだと言われるかもしれないのですけれども,一言言わせていただきたいと思います。   中間試案に出す前に,この議論がどうしてこの部会で扱われるのかということについて,家事審判法あるいは人事訴訟法かもしれませんけれども,そういう債務名義を作る段階でできる議論もあるでしょうと。執行の段階でやれる部分もあるでしょうということから,当部会でその限度でできることをやってはどうか,こういう考え方で今進んできているのだというように理解いたしております。   今までのヒアリング等を通して感じたのですけれども,まず生活に直結する債務ですから,確実な履行を得たい,これはもうだれも間違いないところなんですけれども,非常にこれは今の○○委員の説明にもありましたけれども,継続的に債権が生じていく,それである程度の債権者・債務者間の信頼関係というのがつながっていかないと意味がない。強制執行に非常になじみにくい。先ほどの御説明では,給与債権の差押えがされたら会社を辞めてしまって元も子もなくなってしまうのではないか,こういう部分がある。非常に難しいものなので,そのためには何があるかというと,まず債務名義を作るときに,いかにして任意の履行を得る方法をとっておくかということがまず中心にないといかんのだろうと思うのです。   あまり家事債務のことはよく知りませんけれども,普通の貸金だ売買代金だというときにも,和解というのがよく行われますけれども,これは金額が争われているから和解をするというよりも,債権者がいかに強制執行を使わずに任意の弁済を受けるかという部分が非常に多いのですね。そのときの工夫として,今多くの和解事件でなされているのは,債務が1,000万だとすると1,000万の債務は確認してもらいますよと,そのうちの700万については分割して弁済してもらいますよと,700万無事に弁済を受けたら,残りの300万は免除しますよ,ただし700万の支払が滞るようであれば,その1,000万の残額全部を一時に支払ってもらいますよと,その上,支払が終わるまで損害金を払ってもらいますよと,その損害金は今時だと10%ぐらいを債権者が要求する事件はしょっちゅうあるのですけれども,そういう任意の履行に向けた努力というのがものすごくされているのですね。   ところが,この家事債務というのは,これもちょっとやりにくい要素がありまして,一つは貸金だ売買代金だみたいに債権が決まっていればいいのですけれども,これは非訟的なものですから,額を幾らにするかというところからの紛争がある。それから,性質としては将来給付的なものなのですね,そうすると判決で通常の債権をやる場合には年5%とか6%とか,これは最初から付けることができるのですけれども,こうした扶養義務の金銭債権についてそういうのは,できないとは言いませんけれども,付けにくい性質のものだなというところがあります。   その非訟性とのかかわりで,今前提としているのは払えるのに払わない債務者というのを前提としているのですけれども,それがどのぐらいあるのかということなのです。そもそもは,ほとんどの事件は小さなパイの分け合いなんですね。婚姻費用なんか考えてみますと,今まで一世帯でやってきた費用を二世帯分にして,別に収入が増えるわけではないのに,それをどうにかして分けようと,こういう世界なものですから,そういう意味では任意の履行というよりも,その債権額を決める段階でかなりぎりぎりのつばぜり合いの上に決まってくるというところがあるわけです。   それから,この債権は実質は分かりませんけれども,恐らく和解とか調停で債務名義ができ上がる部分が多いのではないかと思うのですけれども,そのときにどういうことが期待されているかということなのですけれども,それは両方が生活を著しく落とすことがないように,また扶養料であれば子供が一応の生活ができるように,そういう金額をとことん追求して,そのための資料を得てこの債権額が決まるわけですね,月額幾らという形で。そうすると,今度はそれに対して,それを任意に履行してもらわなければ困りますよという手段としては,あまり今のところたくさんとってない。やろうと思えば和解や調停でやれば,遅れたときには支払済みまで年5%でも10%でも払いますよと,あるいは,無理かもしれませんけれども本来の婚姻費用の分担は8万円ですよと,ただし期日までに任意に5万円を支払ったときにはその余の部分は強制執行しませんよとか,いろいろなやり方があるかもしれないのですね。そういう努力が今のところはあまりなされている例を見ないなと,そういう状況にあるだろうと思います。   それで,これを強制執行で,今ある直接強制の方法でどれだけ事件が来ているのかなというのがちょっと心配なんですけれども,必ずしも多くないのではないかという気がするのです。それはどこから来ているかというと,先ほど言いましたような継続的な関係なんだ,最低限の信頼関係は維持されていないといかんのだと,強制執行で元も子もなくしてはいけないのだといういろいろな制約のある債権なものですから,直接強制を使いにくいのかなと。そういうところへ,今度間接強制というのを持ってきたときに,どうなるのか。それは,例に出されている支払能力があるのに支払わない人に対しては効果があるかもしれません。ただそれは,数としてはあまり多くを期待できないのではないか。   一番まずいことを考えると,そもそもの債務名義を作るつばぜり合いの段階で,支払わなければ間接強制金が増えますからといって少額で納得させられたのでは,これは本末転倒なんだろうと思うのです。そうすると,何かもう少し間接強制の規定を作ることで有益なんですよと,ヒアリングは確かに行いましたけれども,そこまでのものが得られたのかなという心配がちょっとあるのですが,この辺についてほかの方々の御意見を聞かせていただけたらありがたいと思っております。 ● 法律の専門家ではない,労働者という感覚でちょっと素人的かもしれませんが。   今の○○委員のところで,実際の問題解決で家庭裁判所が果たす役割というのは非常に重要だと私どもも思っているのですけれども,その判断で長期的な関係を重視すると,これも非常によく分かるのですが,では本当にすべての長期的関係を,極端に言うと先の生涯の関係まで含めてすべて家庭裁判所が調停を含めて面倒を見るというのも,これも私はおかしな話だと思っていまして,一定の権利関係の確定を含めた部分のところでできて,場合によってはそれで離れているということもあり得ると思っていますし,前回たしかヒアリングのときも,やはり正直言ってその当事者自身がそこにいるということ自身が非常に過酷であるというような状況もあるわけですね。だから見通しが,ある程度収められる段階で,そういうことを一生懸命家庭裁判所で御苦労されてそういうものを収めようというときに,ただそれをすべて全部パッケージというか,見通した上で,その中でいわゆる間接強制的なものに,例えば,過料のような形で代えるというのは,やはりちょっとこの間の議論というか感覚と,ちょっと外れているような感じを一応私は持っております。   細かい法律の話はできませんけれども,どうも勤労者あるいはジェンダーを含めた部分でいろいろ話をして,そのような時の流れというのを感じております。 ● 全く思いつきですけれども。2年ぐらい前でしたでしょうか,「判例タイムズ」で強制執行の特集みたいなものがありまして,強制執行の段階で債務名義の再構成とでもいうようなことを考える必要があるのではないかというような論稿が,たしか○○さんだったと思いますが,あったのですけれども,間接強制というのはもちろん債務名義があるという前提で,それを執行するということなのですから,審尋がなされてもそこで和解をやるとか何とかという審尋ではないことは,本来の場合はそのとおりだと思うのですけれども,今のお話を伺っていると,間接強制の申立てがなされて,そして債務者も審尋で呼び出されて,そこで何らかの話合いのような機会を考えるというような規定みたいなものを置けば,正に債務名義の再構成というのでしょうか,再調整というようなことも考えられるし,差押えをされれば企業側に知れて職を失うとか,あるいは,再婚している奥さんが,そういうところまで来れば一応説得できるとか,というようなことで,和解的なものができれば実効性が上がるというようなことも考えられるかと思うのですが。   要するに,間接強制というのはもう執行するだけの手続というようにしないで,少し手続を債務名義の再調整のようなこともできるような手続に変えられないかなというように,全く原案とは違いますけれども,思います。 ● また新しい提案が出てきて,どうしたものかなと思っておりますが。   どうぞ,ほかに御意見ありましたら。 ● 今,いろいろな意見を伺いましたが,私は従前から申し上げているとおり,原案のこの方向で考えるを進めるべきだと考えており,その考えは今でも変わっておりません。   ○○委員の書面を拝読しまして,確かにこういう特質があること自体は非常によく分かります。しかし,もろもろのことはすべて債務名義の作出,あるいは,調停・審判であればその変更のレベルの話であって,それと切り離した形で執行というものを考える以上,執行そのものはやはり迅速かつ実効的に行うというのが筋なのではないかと思います。また,執行が迅速・実効的になされるということがあってこそ,フィードバック関係にあるのだと思いますけれども,初めて債務名義作出のプロセスでも真に履行できる範囲で額が決まっていくということが担保されるのではないかと。どうせ直接強制なんかできないだろうということでたかをくくって,払えない額で約束をする,絵にかいた餅しか作れないということでは困るのではないかと思います。   これに関連してですが,相当性の判断を要求すべきではないかというお話でございますが,実質的な考慮としては非常によく分かるわけですけれども,より執行債務者に影響の大きい直接強制,例えば,端的に言えば賃金の差押えなどをするような場合は,より相当性の判断が必要になってくるように思います。しかし,債務名義があるところで,なおそこで相当性の判断をするというのは,もう一回その債務名義の作出段階に戻る話になってしまうのではないかという気がいたします。   以上のようなことから,本日出てまいりました資料7の原案の方向で考えるということで,私はよろしいのではないかと思っております。 ● ○○委員のおっしゃったことにかなり賛成です。それで少し御紹介申し上げたいのは,今日家庭局の方もいらっしゃっていますので,もし具体的に情報をいただければということで御紹介申し上げたいのは,手元にあります「家庭裁判月報52巻1号から」という資料がありまして,その中に,例えば,平成10年の履行命令の新受件数が43件で,そのうち命令が出たものが7件,却下が2件,取下げその他が31件と。これは平成元年からずっと数字が出ておりまして,大体似たような数字になっております。   こういうところから見て,今ある履行命令の制度も,このような実態があると,特に今申し上げました非常に多い取下げその他というところは,その内容がどのようなものなのか,場合によっては当事者双方を呼んで和解的なことがなされているのかなとも想像しております。ちょっとそのことを申し上げておきます。 ● 家庭局という話が出ましたけれども,お答えいただける範囲でお答えいただけますか。 ● 今,○○委員,あるいは○○幹事の方から御指摘いただいた家事審判法にある履行勧告,履行命令の制度の関係でございますけれども,基本的な性格として,これは強制執行の制度ではなくて,一種家事審判,家事調停の特殊性を踏まえた人間関係調整的な要素を持った制度ではないかというように考えております。そういう申立てがあった場合に,御指摘がありましたように調整的なことを行って,任意の履行を促すというようなこともあって,取下げの中にはそういうようなことで何らかの解決を得たというものもあろうかと思っております。   ただ,そういう場面での調整的な制度と,これまでこの部会で御議論いただいてきた扶養義務等に係る金銭債権についての強制執行としての間接強制の問題というのは,一つ別の問題だろうというように思っておりますので,部会資料にあります強制執行の問題としての間接強制の問題と,家事審判における履行確保の制度というのは,ちょっと別の問題としてお考えいただくのがよろしいのではなかろうかと思っております。 ● 養育費に限って申し上げますと,やはり不払によって権利者の方が相当生活的にも,子供さんを抱えているわけですから,相当生活的に困っているというような事情だとか,あるいは,義務者の方で,支払能力があるのに何らかの理由によって,嫌がらせ的なものでしょうが払わないというような実態を見ますと,このまま放置するわけにはいかない,だから何らかの形で執行面で整備すべきではないかという基本的な認識は,私はあります。そういう意味でいうと,この間接強制の仕組みというものは十分考えてしかるべきだと思います。   ただ,仕組みとしてはこの間接強制の制度を作ったとしても,実際の面で果たしてうまく運用されるかどうかという点に,いささかちょっと,感想的ですが危ぐを感じております。それは相当性の問題でもあり,支払金額を幾らにするかというような,これは裁判所の解釈・運用ということになるのでしょうが,その辺で普通の執行関係とは違って,家事関係は非常に複雑な要素,特徴を持っているだけに,果たしてうまくいくのかなという危ぐはあります。   先ほど,○○委員も意見を述べられたように,家事事件について個別的な事情があるし,歴史もあるし,感情的な問題もある,そういったものが非常に複合した特殊な事情があるものですから,実際に仕組みがあったとしても,それを運用するというときにいろいろな問題が出てくるのではなかろうかという,これは感想ですが,そういう危ぐを持っております。   それからもう1点,家事審判法の過料の制裁の関係ですが,確かに不払については実務的にもまず履行勧告を出すのですが,その後の履行命令,それから過料の制裁という部分が実際的にはどうもうまく活用されていないのではないか,私はそう考えているのです。そうしますと,過料の制裁部分,これは履行命令についての一種の間接強制というように見られているようですから,この部分をもう少し活用することも必要ではないかと。だから,段階的に言うと,不払をする,履行勧告を出す,それがどうしても履行されないといったときに,まず過料の制裁をやる,それでもなおかつ不払が続くような場合に,初めてこの間接強制という考え方も出てくるのではなかろうかということで,非常に幅広く,総合的に物を考えていくということを建前にするならば,いきなり間接強制ということは,先ほど申し上げましたようにいろいろな問題があるだろうというように懸念するものですから,そういう段階的な考え方もあっていいのではなかろうかと思います。 ● 2点,申し上げたいと思います。   私は,やはり基本的な考え方としては原案の考え方に賛成であります。この問題は,強制執行の問題として考えればいいのであって,それをあえて,○○委員の御提案にありますような履行命令といわば一体をなしたものとして構成するとか,そういうことはかえって裁判に対する信頼を失わせる原因になるのではないかと,ちょっと極端な言い方をいたしますとそういう気がいたします。もちろん,当事者が自発的意思で権利の内容や実現の方法を調整すること自体は構いませんけれども,この段階でまだ制度的に調整しようというのは,基本的な考え方としてどうかなというのが第1点であります。   それから,決定の要件についても,先ほど原案の考え方は特に資力ですとか生活の窮迫などについて債務者の側に立証責任を負わせるという考え方であるのに対して,○○委員のお考えですと債権者の側にその点についての立証責任を負わせるということですけれども,ここも私は原案の考え方の方が合理的だと思います。一緒に暮らしている場合であればともかく,そうでないわけですから,そうなると結局どういう資産があるのかとか,あるいは,どういう生活をしているのかというようなことを債権者の側であらかじめ調査をして,裁判所に対して立証できる程度に事実等を収集するという負担を負うことになるのではないでしょうか。   間接強制を直接強制と比較した場合の長所というのは,いろいろなものがあると思いますが,一つは,私は執行対象財産を特定しないで権利の実現が図れるというのが,機能としてあるのではないかと思っております。ところが,今のようにこういう財産があります,こういう豊かな生活をしています--豊かでなくてもいいのですけれども,ほどほどの生活をしていますというようなことを調べてこいと,それで立証しなければ駄目だよということになりますと,結局間接強制が持っている重要な機能のうちの一つというのは失われてしまうのではないかという気がいたしまして,その点からもやはり問題があるのではないかと。   もちろん,場合によって過酷な執行にならないかということを心配する必要がある,その点は全く同じでございますけれども,その点を十分考慮した上で,扶養義務等に係る金銭債権というように執行債権を限定しているわけで,それ以上に更に債権者の側の負担を加重するというのはいかがなものかという感じがいたします。 ● ほかにいかがでしょうか。 ● 先ほどの話とは全く違いまして,ちょっと法律的なことになると思うのですが,この間接強制を認めた場合,間接強制金というのでしょうか,制裁金の責任対象の話といいますか,今年成立しました民事執行法152条の3項,つまり給料を4分の1ではなくて2分の1まで差し押さえられると。この規定は適用があるのでしょうか。あるいは,扶養義務の範囲内では適用があるとか,その点は何かお考えがありましょうか。 ● そこは,間接強制金の部分は適用がないのではないかと考えております。これは,履行を確保するために特別に課されたものですので,その趣旨からは外れるのではないかと考えております。 ● ただ,扶養義務の範囲内では充当というのでしょうか,消滅しますね。 ● 損害賠償請求権としての性格のものが入るかどうかというのは,解釈問題としてあるとは思うのですが,純粋に間接強制金の部分であれば,入らないのではないかというように考えております。 ● 差し押さえられるものが給料債権ぐらいしかないというように考えると,そうするとむしろ通常の債権執行でいった方が執行できる範囲が広く,2分の1まで押さえられるわけですね。間接強制金の執行だと2分の1まではいかない,4分の1までしか執行できないというお答えだったのではないかと思うのですが。 ● 間接強制金は扶養料債権そのものではないわけですから,そちらで強制執行しようとすれば通常の範囲にとどまるのは当然で,しかも扶養料債権の方は依然として残っているわけですから,そちらも執行すれば半分までいくと。両方併せてできるわけですから,何の問題もないのではないでしょうか。 ● それはそうなのですが,わざわざそういう場合,間接強制を使うよりは,扶養料に対する債権執行やった方がたくさんとれるというような気がするのですが。 ● たくさんといっても,もともと債権でとれるものは変わらないわけですから,間接強制分はその上に上乗せされるわけですから,トータルでとれる額は間接強制後に直接強制した方が増えるということは当然の結論ではないでしょうか。 ● それはそうですが,ただ執行に時間がかかるというわけですね。 ● それは,要するに間接強制を選んだ場合には,いずれにしても間接強制で債務者が払わなければ直接強制に移行せざるを得ないわけですから,当初から予想される範囲内のことではないでしょうか。 ● 分かりましたが,私とすれば間接強制金についても2分の1まで執行ができると,ただし扶養料の額を超える部分は別としてということも考え得るのではないか。 ● 扶養料は扶養料でまた別途残っているわけですから,間接強制金そのものは扶養料の性格はないわけですし,そもそも2分の1までというのは,扶養料が生活保持義務で自分の生活水準を下げてでも払わなければいけないという,そういう性質の債権だから2分の1まで最初から広げてしまおうということですから,制裁金として課された間接強制金についてはそういう性格はないわけですから,これは通常の範囲にとどまるというのは性質上当然のことではないかと思われます。 ● 決定の取消しの「事情の変更があったとき」ということの意味ですけれども,これは間接強制の決定の要件が欠缺するに至ったときという意味なのか,あるいは,そこまで至らない場合も含むのか,仮に含むとすれば,その段階で,要するに事前にではなくて事後に調整する機会というものもあり得るのではないかと思うわけです。   8万のうち6万ぐらいしか払えないというような事情があるのだというような場合,払えなくなったのだというような事情がある場合のことなのですけれども,そうしますと間接強制の怖いところは,強制金がどんどんたまっていくのが怖いなというところですが,そこを押さえられる手当てを講じておけば,履行命令前置主義的な考え方をとるというのは,やはり本末転倒で,むしろ債務者の方が腰を上げて調整をしてもらうという手続をとらざるを得ないような状態に持っていくのが筋ではないかというように考えます。 ● ○○委員とほとんど同じなのですけれども,債権者の方は債務名義を持っていますので,債務者としてはもし支払能力がないということであれば,例えば,養育費減額の調停の申立てをして,一種の反対名義を取得することを前提にするのが正当な方法なのではないかと思うのですね。その間,一時停止しておくというようなことは考えられますけれども,要件のところでこれを入れてしまって,それに代えてしまって本当にいいかどうかというのは問題ではないかなと思いました。 ● 前から申し上げておりますけれども,私どもとしては,やはりこの金銭債務について間接強制をすること自体の不合理性ということをもう一回考えるべきではないかと思うのです。それは間接強制,心理強制によって簡易に実現させようという目的はいいわけですが,しかし実際問題として,それから出てくる結果がどういうものなのかということを考えたときに,債務額の何倍もの間接強制金が債権者に支払われる,生ずるということの結果が,果たして正当なものと言えるのかどうかということがありますし,過酷な結果が生じてしまうということがあるわけですね。   それから,これはやはり実質的に罰金の制度なので,そういう意味でも非常に債務者に与える心理的な問題というものも考えなければいけないということで,決して合理的な制度ではないと思うわけです。   そういうことからいって,いわゆる強制執行としての民事執行法に間接強制として金銭債務について間接強制の制度を認めるということ自体,やはり相当に慎重になるべきだろうと思うわけです。   それから,結局は今審議しているのは扶養料等の履行確保をいかに実現するかという観点でございますから,これについて間接強制それ自体にあまり期待はできない。○○委員もおっしゃったように,払えるのに払わないという人に限って意味があるかもしれませんが,それ以外のところでは今申し上げたような副作用が相当出てくるというようなことで,やはり履行確保ということを考えるなら,呼び出して説得をするとか,あるいは,弁護士が内容証明郵便で催告できるようなことを考えるとか,あるいは,強制執行の手続について支援システムをちゃんとするとか,そういうことも考えなければいけないのではないかと思いまして,そして家事審判法に履行勧告,履行命令という制度があって,それが先ほど来出ているように,履行命令というのはどのように使われているかも分かりませんし,それを実効あらしむるためにいろいろな方策はあり得るのではないかというようなことを考えますと,やはりそこの制度の中で考えてみるのが先ではないかと思うわけです。   そういうことを考えますと,○○委員の意見のように,履行命令の制度の中に実質的な間接強制を組み込むというのが一番合理的な制度ではないかなと思うわけです。   それから,先ほど来申し上げている金銭債務に対する不合理な制度ということを考えると,その弊害を除去するためには資力要件ということは当然考えなければなりませんし,そういう意味で○○幹事がおっしゃったように,直接強制ができる場合であっても間接強制はできないということがあっていいでしょうし,それは認めるべきだろうし,それから○○委員がおっしゃったように,この上限,席上配布資料にもありますが,やはり上限を決めておかないと非常に不合理な結果になる。   それから,取消しで遡及しないと10ページの(注2)にありますけれども,やはりこれは遡及していいのではないか,そういう債務者にとって非常に過酷な結果が残ってしまう,こういうものから解放するということは考えるべきなので,そういう意味では遡及ということも考えなければいけないのではないかと思います。 ● いろいろな議論が出てきたものですので……。   結局,一番大きいところは原案では当然これは強制執行の制度と,そういうところから議論が始まって,それを今扶養義務等に限定するという,こういう議論で来ているわけですけれども,果たしてそういうものを履行命令のようなこういう制度というようなもので仕組むのかどうかというところがそもそも一番基本的ところかなと思っております。   まず,本当にこういう強制執行という形で設けるニーズがあるのかという点につきましては,これはやはり支払えるにもかかわらず支払わない人がいるというのは,これはいろいろなアンケートの調査結果によってもかなりの割合の人がいると私どもは考えているところでございます。そういう点で,何らかの形でこういうような制度というものの必要性があるのではないかと。   それからまた,いろいろな意味での濫用というところで,払えない人には間接強制を課してもしようがないというところからしますと,当然そこは資力の要件として,強制執行という制度にしましても,そこは詰めて,きちんとした制度設計をしなければいけないということで(2)のような要件を付しているところでございます。   あとは,結局そういった強制執行のような形にした場合に,相当と認めるときといったような,そういったいろいろな事情というものを考慮すべきなのかどうか,あるいは,審尋という過程を使っていろいろな和解的なことができるのかどうか,あるいは,債務名義の作り直し的な,そういう機会というものをやるのかどうかという問題はあろうかと思います。ただ,そういうような実際的なニーズというものを,本当に制度として仕組まなければいけないのか,それとも,やはり強制執行の実効性を高めるといったようなところから制度を設けた上で,あとは運用といいますか,そういったものも十分に期待できるというところで考えた方がいいのかというところは,大きく判断が分かれるところではないかと思いますけれども,強制執行というような制度を仕組んだ上で,そういったようなものを制度的に付加するというのはなかなか難しいのではないかという感じもしております。   かといいまして,本当にこれを家庭裁判所の履行命令の延長線上の制度としてしかできないものかどうか,本当にそれでいいのかどうかというのは,これまでのここでの御議論,あるいは,ニーズといったものから考えますと,やはり濫用を防止するように要件のところで縛った上でそういったような最終的には強制執行の制度を設けることがこれまで出てきたニーズ,あるいは,御議論に沿うのかなと事務当局としては思っております。 ● 相当性云々という○○委員の御意見に対して,○○幹事が反対の御意見を述べられて,私も○○幹事の意見に同感なんですが,どれだけ過酷執行原則が日本で承認されているか,禁止原則が承認されているかどうかよく分かりませんが,過酷執行でないことを要件として,執行開始を--開始要件としてないことを積極的に債権者側が主張立証して初めて執行開始できるというようなことは,あまり考えにくいのではないのかなと。一般論として考えにくいのではないかと思います。   例えば,差押債権の範囲の変更にしても,これは債務者の申立てがあって初めてもうちょっと差押禁止範囲を広げてくださいというようにできると仕組んでいるわけでして,そういうところから考えましても,なぜ当初から債権者の側が過酷執行ではないことまでも言わないと執行開始できないのかというのは,これは基本的に執行の一般論にかかわる問題でして,この部分だけなぜそうなのかというのは説明が難しいように思います。   それから,○○委員から,過酷な結果をもたらす,こういうのは金銭債権にはなじまないというようなお話がありましたが,金銭債権以外のものであって間接強制金が非常にたまってしまって過酷な結果が生ずるということは,それ以外の場合にもあるわけですね,なぜこの場合だけそれが特に取り上げられなければいけないのかという点について,まだ説得的な御意見を伺っていないように私は思います。   それから,履行命令の中で解消すべきだという意見もございますが,例えば,審判なり調停の中で,物の引渡しというものを一方当事者に命じた場合において,履行命令の制度があるから直接強制ができないというような議論はないわけですね。ということを考えますと,やはり履行命令ですべてを解消するというのであれば,そこまで徹底しないとおかしい,なぜ金銭だけはそういう履行命令の中でしか間接強制的なことができないのかというのは,やはり考えなければいけないと思うわけです。ということで,私はやはり原案に基本的に賛成です。   ただ,総額という点については,やはり何らかの規定を設けて,安全弁はやはり設けておくべきだろうと。間接強制金の上限というのを何らかの形で設けておくという点については賛成ですが,基本的に原案に賛成です。   それから,過酷という点ですが,間接強制金がたまった場合の問題ですが,これは債務者だけの問題ではなくて,一般債権者の問題でもあるということをやはり注意しておかなければいけないのかなと思っております。先ほどの○○委員の御質問に若干かかわるのかなと思いますが,とりわけ破産した場合において,一般債権者がそれだけ迷惑をこうむるわけですね,果たしてそれがいいのかどうかという点は,少し議論していただければと思っております。 ● ほかにいかがでしょうか。 ● せっかく家庭局の方が見えているので……。   家事審判法が制定されて以来,履行命令とか履行勧告とか,こういうものがどのような変遷をしているのか,統計とかあれば……。   さらに,その時代時代でそれぞれが発令が少なくなったり取下げが多かったりとか,理由があれば,そういうものを出していただければかえって分かりやすいかなという気がするわけです。そういうものはあるわけですか。 ● 大変申し訳ございませんが,今日はちょっとそういう資料を持ち合わせておらないものですから,またその点については事務当局の方と御相談いたしまして,必要なものは準備するようにいたしたいと思います。 ● あと一つ。私としては,担保・執行法制部会の内容は直接見ていないのですが,例えば,ホームページとか,いろいろな資料とか,そういうのを見てみますと,そこでは金銭債務についてはどうも間接強制の方を用いないというようにいったん決まったように見えたのですね。ですから,ここで急にまた出てきて,そのときに扶養料について出てきた場合,やはり扶養料の特殊性ということになれば,もう少し扶養料のことで先ほど家庭局でお願いしているというところ,どうも間接強制を金銭債務に認めるという前提で考えていれば,いろいろなそごが出るだろうと。あとは,子供のためというのがどうも離れていってしまうのかなと,間接強制という言葉の中でね。そのあたり,どうやって整合性を持つのかなと思っているわけです。 ● 担保・執行法制部会でいったんやめたというように決定したととられている点については,ちょっと担保・執行法制関係の方……。私はそうではないと思っておりますが。 ● 私の記憶では,そこまで詰められなかったということではないかと思います。少額の金銭債権の実現のために何らかの手段が必要で,間接強制も一つの有効な手段ではないかという議論が一方で有力にあり,他方で,しかし,特に間接強制金が非常に高くなったり,あるいは,これは私はその議論には承服しないのですが,利息制限法のようなそういう規律との関係で整合性がないという,特に民法の立場の議論が他方でありということで,意見の一致が見られなかったということであると思うので,金銭債権について間接強制がなじまないということを部会として判断したということではないと思います。 ● それでオーケーだということを認めたわけではなくて,詰められていなかったわけですね。 ● というように私は認識しておりますが。 ● ほかに御意見,ありますでしょうか。 ● 二つだけ,ちょっと補足させていただきます。   履行命令の数ですけれども,平成14年度の「司法統計年報」では54件です。先ほど,○○幹事の方から古い時期,もう少し前の時期の数字をいただきましたが,変わっておりません。履行命令54件が事件で,命令が12件,却下11件,取下げ31件です。   それから,もう1点だけ最後に申し上げますが,先ほど減額申立てで対応すべきだという御意見いただきました。それは前からそういう批判があるのは承知しているのですが,一回決定した債務名義の内容を変更するという減額請求申立てをどう判断するかという問題,これは直接強制のできる範囲にも影響があるわけですね。これと,直接強制とは異なる執行方法である間接強制をどの範囲で認めるかというのは,これは判断が違ってもいいのではないかと思っております。   さっきちょっと御説明が事務当局からもありましたが,直接請求できる範囲の判断と,間接強制を課すか否かについて違ってもいいのではないかと思います。なぜならば,間接強制を金銭債権について課すか否かは,それが功を奏するどうかといった合目的的な判断が入ってもいいのではないかと考えているからです。理由は先ほど申し上げたとおりです。 ● 最後おっしゃった点は,だれも否定していないのであって,だからこそ例外要件が認められているわけですね。そこはどなたも争っておられないのではないでしょうか。単に,それを債権者の側から積極的に言わなければいけないのかどうかというだけの問題なんだろうと思います。 ● 減額申立ての問題を申し上げているだけです。今は減額申立てをすればいいではないか,本来それをすべきだという御議論だったのですね。 ● それは両方あるわけですね,功を奏さない場合については間接強制の開始もないし,その場合について扶養料の本体自体を減額するということもありますが,ただ扶養料の本体の減額は将来に向かってだけだという相違は確かにあると思いますが。 ● いろいろ御意見が出ましたけれども,更にこれは大変重要な問題だと思っておりますので,時間の関係もありますけれども,御意見を今まで賜らなかった方で是非とおっしゃる方,いらっしゃると思います。どうぞ。 ● 是非というわけではないのですが,基本的に今までいろいろ意見を聞かせていただきまして,資力があるのに払わない人がいるというところまでは皆さん共通していると思うのです。そのときに,直接強制の方法でいったらいいではないかというのが普通の考え方になろうかと思いますが,それに加えて間接強制の良さみたいなものがどこにあるのだろうかということで,表に出さないで処理ができるところがあるというようなことで進んできているかと思います。基本的には,私はそれが必要な人がいればいいかなぐらいの感覚でしかないのです。   ただそこで,制度を組み立てたときに恐ろしい事態が起きないようにしておくべきだろうということなのですね。間接強制金がどこまでもいってしまって,どうにもならんとかいうようなことではなくて,間接強制が効く場合には皆いいなということなんですが,それが効かない場合の対処を常に考えておかないといかんと思うのです。直接強制でいったらいいところを,間接強制が良さがあるからといってそれに応じればいいのですが,そこで終わればいい制度だなということになるのですが,実際にはそこから先にどういう弊害が起きるのだろうかということが大事なところになろうかと思いますので,制限の問題かもしれませんけれども,そこのところを,あとは債権者に任せていいのか,間接強制を使える場合というのに何か限定がいるのか,ちょっとよく分からないので,債権者にとって便利だから債権者が好きなように選べばいいということになるのか,あるいは,要件設定をして,こういう場合は間接強制にいけますよというようなことになるのか,そこのところ,まだ判断がつきかねるということなのですが,お聞きしておいて,どうしてもないといかんというところはまだ分からないということであれば,いい人もいるのかなというぐらいの感覚でしか今のところないのですが。 ● ほかに何かございますでしょうか。 ● この段階で非常に自分の知識の不十分さを露呈して申し訳ないのですけれども,1点お伺いしたいのは,間接強制のいわば沿革といいますか,基になったフランスのアストラントの関連で聞いた話では,フランスでは金銭債務についてもアストラントというのは適用できるのでしょうけれども,その中でも扶養義務についてはアストラントが適用されていないというか,利用されないという話も聞きましたので,ひょっとしたらそのあたり,扶養義務というものが間接強制になじまないという面が何かあるのではないかというような気がしますので,その点,知識をお持ちの方がいらっしゃいましたらお教えいただければというように思います。 ● 私どももアストラントの制度があることは承知しております。扶養義務であまり利用されていないということにつきましては,私どもも承知しておりませんので,もし詳しい方がいらっしゃれば,むしろ私どももお聞きしたいと思いますけれども。 ● これは,むしろ○○幹事にお願いして,少し調べていただくのが最も適当ではないかと思いますが。 ● アストラントのことにつきましては,私もそれほど胸を張ってよく知っていますというわけではないのですが,一つ御参考までに考えられることは,フランスにおきましてはこういう養育費については少額なものを債権者がもともと婚姻関係にあった相手方から取り立てるのはなかなか大変であるということで,公的基金が立替払いをしまして,それで債務者から取り立てております。そういう制度が設けられておりますから,アストラントに頼る必要はあまりないということだと思います。   その関連で,私は若干危ぐしますのは,この間接強制ができたことで,本来であれば債権を履行するのに非常にコストがかかるような,しかしながら非常に債権者の生活維持のために重要な債権について,間接強制があるから,だから公的基金による立替払いなり,あるいは,取立ての代行なりという制度が作られないという方向にならないようにということ,これを願っております。 ● ほかに何かございますでしょうか。   それでは,そろそろ時間でございますので,今まで伺っていた限りで今日の取りまとめをさせていただきたいと思いますけれども,扶養義務等についての金銭債権についての間接強制につきましては,こういう制度を設けること自身について非常に慎重な意見が一方ではあると同時に,しかし,この場の雰囲気としては,こういう制度が必要ではないかという意見の方が強かったように思います。その際に,家事審判手続にあるような支払の履行の勧告というような制度を前置する,あるいは,それに連結していくという考え方,あるいは,間接強制で債務者の審尋を必ずするわけですけれども,その審尋の際に,債務名義の再構成をするというようなお考えも示されましたけれども,どちらも従来の執行制度から見ると,それはかなり大きな飛躍になるのではないかというように私自身は考えておりますし,そういうお考えがかなりの方から示されたように思います。   ただ,もちろんこの履行義務の強制執行を迅速に,権利の実現を早くやらなければいけないということは当然でありますけれども,だからといって執行裁判所は,ほかの直接強制と同じようにぎりぎりやっていけばいいというものではなくて,ここで示された最大の危ぐは,そのことによってこれが劇薬的な効果を発揮して,債務者に対する過酷執行になっては困るという,そういう危ぐだったと思います。したがって,現在でも執行裁判所は,例えば,差押禁止物の変更をするとか,差押債権の範囲を変更するというときには,「債権者と債務者の生活の状況その他を考慮して」という裁量的な範囲がそこに既にうたわれているわけでありまして,間接強制のところにはそういう言葉はありませんけれども,今度この制度を取り入れる場合には,当然に債務者に対して過酷執行にならないように,過酷執行というのは非常に抽象的な概念でございますけれども,そういうことにならないように,要件をどのように絞り,金額の上限を定めるならどういう定め方があるのか,あるいは,取消しなら取消しをどのように仕組むのか,遡及させるのかどうかということもすべてこの原案には一応考慮した原案として定められておりますので,今日の御意見を含めまして更に検討させていただいて,もう少し詳しい案を次回にお示しして更に御議論をいただくというようなことにさせていただきたいと思いますが,それでよろしゅうございますでしょうか。--それでは,そのようにさせていただきます。   それでは,これで本日の審議事項はすべて終了いたしました。○○幹事から,次回の部会についての事務連絡をお願いいたします。 ● 次回でございますけれども,12月19日,2週間後でございます。場所は法曹会館の高砂の間でございます。   今回に引き続きまして,要綱案の取りまとめに向けまして,本日の議論をも踏まえまして,たたき台の(2)を示して御審議いただきたいと思っております。今回,御審議いただけませんでした文書提出命令関係等につきましても,次回以降に御審議していただく予定にしておりますので,よろしくお願いいたします。   それから,もう1点でございますけれども,来年のこの部会の日程といたしまして,1月16日のほかに,更に1月9日に予備日をとっているところでございます。ただ,ちょっと事務当局の方で取りまとめがおくれている部分もございまして,もう一つ1月23日の金曜日につきましても予備日として確保させていただきたいと思っております。もし1月23日金曜日が開かれる場合には,法務省大会議室,本日と同じこの会議室を予定しておりますが,そこは改めて決まり次第,別途正式には御連絡をする予定でございます。そういうことで,一応16日のほかに9日,23日と3週連続の予備になっておりますけれども,場合によっては三つのうちの二つということになる可能性も高いのではないかと思っておりますが,来年のスケジュールにつきましては,決まり次第なるべく早急に御連絡したいと思っておりますので,どうぞよろしくお願いいたします。 ● それでは,次回は12月19日,場所は法曹会館高砂の間ということでございます。どうぞよろしくお願いいたします。   本日はどうもありがとうございました。 -了-