法制審議会 民事訴訟・民事執行法部会 第10回会議 議事録 第1 日 時  平成15年12月19日(金)  自 午後1時00分                        至 午後4時05分 第2 場 所  法曹会館「高砂の間」 第3 議 題  民事訴訟法及び民事執行法の改正要綱案の取りまとめに向けた議論のためのたたき台(2)について 第4 議 事  (次のとおり)               議         事 ● 定刻が参りましたので,民事訴訟・民事執行法部会第10回会議を開催させていただきます。   本日は,定例どおりのスタートでございますけれども,この会場の都合によりまして,終了時間は午後4時までに終了しなければならないということになっておりますので,よろしくお願いしたいと思います。          (委員・幹事の異動紹介省略)   それでは,早速本日の議事に入りたいと思いますが,本日の議事の進め方等につきまして,○○幹事から御説明をお願いいたします。 ● それでは,まず資料の確認でございますけれども,事務当局の方から事前に部会資料8「民事訴訟法及び民事執行法の改正要綱案の取りまとめに向けた議論のためのたたき台(2)」という資料をお送りしております。前回までの御議論を踏まえまして,幾つかのところで前回の資料の変更を加えたというものでございます。本日,この資料に基づきまして御議論いただければと思っております。   それから,この資料で一部,訂正がございますので,申し訳ございませんが修正していただければと思います。   8ページでございますが,下の方に(9)「裁量移行」というところがございます。こちらの方が(9)ではなくて,(10)の誤りでございますので,申し訳ございませんが訂正をお願いいたします。   それから,本日の席上配布資料でございますけれども,まず事務当局の方から参考資料6といたしまして,「刑事事件関係書類等を対象とする文書提出命令制度に関する論点メモ」というのをお出ししております。これは,従来中間試案にも書かれていた論点をほぼそのまま記載したものでございますけれども,改めてメモという形でお出しいたしまして,本日,御議論いただければと思っております。   それから,最高裁事務総局家庭局の方から,履行命令の実情等につきましての資料をいただいておりますので,こちらもまた該当のところで御説明をいただければと思います。   それから,○○委員の方から,12月19日付で「扶養義務等に係る金銭債務についての間接強制」と題するペーパーもいただいておりますので,またこれもその箇所で御説明いただければと思います。   以上が資料の確認,御説明でございます。   もう1点,事務当局の方から御報告がございます。これは,民事訴訟法等の一部を改正する法律等の施行日の関係でございます。「民事訴訟法等の一部を改正する法律」,それから「人事訴訟法」,それから「担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律」,この部会に関係する三つの法律でございますけれども,これらの法律の施行日を定める政令が12月9日の火曜日に閣議で決定されました。これらの政令につきましては,12月12日に公布されております。   ちなみに,施行期日は,この三つの法律とも来年の4月1日でございます。   政令の番号でございますが,「担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律」が政令509号,「民事訴訟法等の一部を改正する法律」が510号,「人事訴訟法」が512号でございます。   また,司法制度改革推進本部が提出しまして成立いたしました仲裁法につきましては,その施行日が来年の3月1日というように決まっております。   以上が事務当局からの御説明でございます。 ● それでは,部会資料8に関する審議に入らせていただきたいと思います。   まず,第1の「民事訴訟法関係」から審議に入りたいと思いますが,1の「民事訴訟手続の申立て等のオンライン化」と,2の「督促手続のオンライン化」,この二つの項目について御審議をいただきたいと思いますので,まずまとめて御説明をお願いいたします。 ● 第1「民事訴訟法関係」の1,それから2でございますけれども,この部分につきましてはパブリックコメントの結果,あるいはこれまでの御議論の中でも基本的に御了承をいただいている部分かと思っておりますので,今回の資料も前回の資料と基本的には変更はございません。   変更点は次の2ページでございますけれども,1の(4)のところでございます。インターネットを利用した申立て等の内容の書面への出力というものでございます。   この記載の趣旨でございますけれども,申立て等がインターネットを利用して行われるということで,裁判所のコンピュータのファイルに記録されるわけでございますが,ファイルに記録されました情報がそのまま訴訟記録というようになるものではない,これを書面に打ち出すことにいたしまして,その書面をもって訴訟記録とする,こういうようなことでございます。一般の民事訴訟手続等につきましては,なお書面によって提出されるものが多いということになろうかと思いますので,やはり訴訟記録としての一体的な管理,こういう観点からいたしますと,こういうファイルに記録された情報を書面に出力して,これをもって訴訟記録として扱うということが相当ではないかというように考えられるわけでございます。したがいまして,閲覧等の問題につきましても,ここの(注)にありますとおり,これを原本として取り扱って,この閲覧若しくは謄写又はその正本等の交付につきましては,この出力した書面をもって行うということでございます。   なお,これに関連して更に変更点がございますが,督促事件は,手続全体のオンライン化を図るということでございますので,いわばファイルに記録された情報がそのまま訴訟記録となるというように考えております。 3ページの(3)でございますが,「督促事件記録の閲覧・謄写等に代わる措置」,すなわち督促事件記録につきましてはその記録された情報が訴訟記録ということになるものですから,この情報に係る閲覧及び謄写については最高裁判所規則で定めるところにより,これに代わる相当と認める措置を講ずるということになっているわけでございます。   具体的な内容は,この(注)にありますとおり,プリントアウトした書面を閲覧する方法等が考えられるということでございます。   そういうことで,先ほどの2ページの(4)でございますけれども,「申立て等」の後で括弧して「督促手続を除く」と書いておりますのは,今言ったような趣旨でございます。   なお,3ページの(2)の(注2)に記載しておりますが,督促手続でございましても,適法な督促異議の申立てがされますと,訴訟に移行するということになるわけでございますが,そのような場合には,先ほど申し上げました一般の民事訴訟手続と同様に,それまでの支払督促など電磁的にされた部分も書面化するというようなことが相当ではないかと考えているところでございます。   民事訴訟手続等のオンライン化,それから督促手続のオンライン化の点につきましての変更点は,以上でございます。 ● それでは,第1の1「民事訴訟法手続等の申立て等のオンライン化」及び2「督促手続のオンライン化」につきまして,御議論いただきたいと思いますが,このうちの1の「民事訴訟手続等の申立て等のオンライン化」につきましては,2ページの今御説明のあった(4)の「インターネットを利用した申立て等の内容の書面への出力」のところが新たに前回の資料から加わったということでございます。その内容は,要するにインターネット等を利用した申立てであった場合には,その情報を紙に打ち出して,それを訴訟記録に編てつし,その紙そのものを原本として取り扱うということが新たに加わったところでございます。   2の「督促手続のオンライン化」につきましては,基本的に前回の資料と変わっておりませんが,今の3ページの上の方の(注2)の点だけが,先ほどの2ページの(4)との関係で資料として変わった点でございます。   以上でございますが,御質問,その他,何か御意見があれば承りたいと思います。私の認識としては,もう基本的には前回の部会でこういう方向で結構であるという御意見をいただいている上に,ただ具体的に細部について2ページの(4)のところ,及び3ページの上の方の(注2)のところが前回の資料から少し詳しくなったというように認識しております。どうぞ御意見,あるいは御質問がありましたらお願いいたします。 ● 一つだけお伺いしたいのですが,1の(4)のところですが,これは記録に編てつするというときに,当事者が書面にするのですか。 ● それは,裁判所の方で出力するということです。 ● 裁判所の方で全部コピーしてとじてくれるということですね。分かりました。 ● 何点か細かいことも含めて質問をさせていただきたいのですけれども。ちょっと再確認もあるのですが。   この1の「民事訴訟手続等の申立て等のオンライン化」というのは,これは現在の法律からいくと民事訴訟法だけが対象になっている……,民事訴訟法に基づく申立て等というのですかね,それが対象になっているので,例えば,民事執行法上の強制執行なんかの申立て等は,これではカバーされるわけではないという理解なのかと。ちょっと途中の段階では,民事執行手続とか家事事件とか行政事件とかというのも対象にするようなくだりがあったかに記憶しているのですけれども,結局民事訴訟法の範囲に限定するということなのかというのが第1点です。   それから二つ目は,こういうインターネットで申立てをした場合に,果たしてちゃんと裁判所に到達したのかどうかというところの確認を,例えば,現在は,訴状については裁判所に控えを持っていけば受領印を押していただけるということで確認ができるわけですけれども,あるいは,郵送であれば配達記録か何かで確認ができるわけですけれども,インターネットのときはその到達したのかどうかという確認は,どのようにできるのか,制度的にどのようになるのかなということ。これが2点目です。   それから3点目は,例えば,民事訴訟,訴状などは結構添付書類があったりしますね,代表者の資格証明をつけなければいけないとか,相手方の会社の登記簿謄本をつけなければならないとか,あるいは訴状を提出する段階で既に甲号証が幾つかついたりするということもあるかと思うのですけれども,こういう添付書類の扱いはどうなるのだろうかということです。   それから4点目は,今回追加された原本は結局紙なんだよという2ページの(4)からいくと,将来的にオンラインで何か閲覧する制度というのはやはり非常に難しくなるということなのか,あるいは,督促手続の方はまだデータが原本になるわけなので,可能性としてはオンラインでの閲覧という余地もあるかなとは思うのですけれども,そのあたり,ちょっとお考えを……。 ● 第1点目は,これは従来の説明と変わっておりません。1ページの(注2)にありますとおり,「民事訴訟法又は非訟事件手続法を適用し,準用し,又はそれらの例によることとされる他の法律に定める」手続もオンライン化の対象になるということでございますので,その点は従来どおりでございますので,おっしゃられましたような民事執行法等のものも,この民事訴訟法を手当てすれば入ってくるということでございます。   2番目以下は,最高裁の方で,いかがでしょうか。 ● 最初に,送っていただいたものについて,それが届いたかどうかということをどのように確認できるのかという点については,これはいずれにしても恐らく法制度上の問題ではないのだろうと思うのです。今,受付印を差し上げているとかそういうのも含めて。ですから,あとはシステムの作りとの関係で,基本的にはパソコンでただ送るとかという雰囲気のものというよりは,一定の画面に基づいて,それにしかるべく入力等していただくことによって,申立てをしていただくというような形になると思いますので,その画面に基づいて入力して送っていただいて,それで全体の作業が済んだということになれば,それで届いたということが強く推認されるようなシステムになるだろうというようには思っております。   あとは,本当に非常にそこが心配で,ひょっとしたら回線の関係その他で届いていないこともあるかもしれないというような場合には,何らかの形で通常の取扱い的な部分を含めて照会をしていただくとか,そういうことかなと思いますけれども,ちょっと技術的な部分は私も今十分知識を持ち合わせておりませんので,またそのあたりは今後少し詰めさせていただきたいと思っております。   あと,3点目について,民事訴訟の場合には書証とかその他いろいろ添付書類等があり得て,そういうものはどうするかという御質問だろうと思うのですけれども,ここも厳密にどの範囲までどのようにオンライン上の手当てができるかということについて,まだ確定しているわけではありませんけれども,おっしゃるように大部の書証があるというような場合に,それをオンラインで送っていただくというのは非常に困難な問題で,もともとコストパフォーマンス的にも非常によくないのではないかというように思いますので,そういうたぐいのものはこれまでと同様に,むしろ紙ベースで申し立てていただくという方が,お互いにいいのではないかというように考えております。   最後の,今回この資料の中でも2ページの(4)のところで,基本的には打ち出した書面を原本とするというような仕組みにしていただいているということを含めて,将来の展望というようなことなんだと思いますけれども,この点も私ども内部でいろいろ検討はしてきたわけですけれども,やはり裁判手続,特に訴訟手続を考える場合には,行政手続とは違って連続性,継続性,あるいは,手続が積み重なる,期日で考えても何期日にもわたってやっていく,その間の手続の実態を考えると,関係する当事者,裁判所がやはり共通の資料を見ながら各期日で手続を進めていくという実態を考えた場合には,現段階でそれをすべてデータで管理してデータに基づいて裁判をやっていくというのは非常に困難が伴い,時期尚早ではないかという感じがしております。あるいは,今も御指摘いただいたように,特に訴訟の場合には,やはり証拠の問題,書証を中心とするなどといった問題もありますので,その辺を踏まえたときには,やはり記録はどうするのかというように突き詰めていくと,そこは紙ベースの方がまだ裁判の場合にはなじむのかなというように考えておりまして,将来的にそこがどうなるかというのは,また今後の技術の進展等の問題もあるかもしれませんが,今の段階では訴訟についてこういうように制度を作っていただいた方がよろしいのかなという感じがしております。   それに比べますと,支払督促の方は,これは基本的にはかなり行政手続的な面を多く持っているもので,1回で書面審理で特段の書証等もなく判断をする,こういう手続ですので,そういう意味合いからすると,データ自体を記録と扱っていくということの親和性は非常に高いかなと,こういうように思っているところです。 ● ○○委員,よろしゅうございますか。 ● はい。 ● ほかに何かございますでしょうか。   それでは,ないようでございますので,部会資料8のこの部分については,実質的内容は御了承いただいたと受け取らせていただきます。   今後,ここで御了承いただいた実質的な内容に従いまして,法律事項と規則事項をどう振り分けるかということも含めまして,事務当局と最高裁との間で更に協議を進めながら法整備を進めていくということにさせていただきますので,どうぞよろしくお願いしたいと思います。   続きまして,3の「文書提出命令」に入りたいと思います。これにつきましては,先ほど御説明がありましたように席上配布資料がございますので,○○幹事から資料の御説明をお願いいたします。 ● 刑事事件関係書類等を対象とします文書提出命令制度につきましては,前々回,民事訴訟における利用状況について御議論いただきましたし,前回は刑事法の学者の先生から刑事訴訟法等との関係についてお話を伺ったところでございます。   それを踏まえまして,今回の資料はこれまでの論点を整理したものでございますけれども,基本的に先ほど申し上げましたとおり,中間試案に掲げた論点とそれほど変わるものではございません。   論点の一つ目は,利用状況についてどのように考えるかということでございます。ヒアリングの結果,それからパブリックコメント手続において寄せられた意見をも踏まえて,刑事事件関係書類等の民事訴訟における利用状況についてどのように考えるかということでございます。   従来も申し上げておりますとおり,統計的には大部分の数の開示が認められているというものもあるわけでございます。ただ,この部会でも弁護士会の方から御意見がありましたとおり,開示されない例といたしまして,例えば,実況見分調書,それからアルコール検知等の客観的な証拠でも出ていない例があるといったような御指摘もありましたし,供述調書,例えば,交通事故のような場合ですと事故当時のいわゆる新鮮な記憶の下での供述というものを得たいのだと,あるいは,強姦の事件等で被害者に供述させるというのは酷である,こういったような場合等があるのだというような御指摘もございました。   また,目撃証人の特定のために,目撃者の供述調書等が必要になる,こういったようなことも挙げられたわけでございます。   こういった御意見,御指摘に対しましては,例えば,客観的な証拠については最近の取扱いでは開示が可能ということになっているのではないか,あるいは,供述調書については本当にその必要性というものがあるのだろうか,例えば,被害者の供述については代理人が陳述書を作成するといったような,そういう対応も可能ではないか,あるいは目撃者の特定というような問題というのは,記録の開示ということとは少し違った観点の問題ではないかといった御意見,御指摘もあったところでございます。   それから,論点メモの2番目は,刑事事件関係書類等の特性ということでございまして,こういった試案で掲げられているようなこの書類の特性,それから開示に伴う弊害についてはどのように考えるかという問題。   それから,3番目は,刑事事件関係書類等の開示については,刑事訴訟法等において自己完結的に定められているということとの関係について,どのように考えるかという問題があるのではないかと思っております。   この問題につきまして,特に刑事訴訟法等の開示制度との関係につきましては,前回刑事法の学者の方々からお話を伺ったところでございます。   ○○大学の○○参考人の方からは,刑事訴訟法の開示制度というのは一般的な公開に関するものであると,こういった御理解のもとで,民事訴訟において文書提出命令の対象となるかどうかというのは問題が別であると,民事の裁判所が必要性,あるいは,民事訴訟の進行等を勘案して,最終的に判断することを認めるのが相当ではないかといったような趣旨の御意見があったところでございます。   また,○○大学の○○参考人の方からは,刑事事件記録の特徴について御意見をいただいております。特に,刑事手続の中では強制力をも行使して,証拠というものを収集し得るのだと,またそういう刑事事件に限って利用されるということを前提として,証拠ですとか情報の提供に応じるのだといったようなことがあるのだと,またこの刑事事件の記録ということになりますと,非常にプライバシーに深くかかわる,特に我が国の刑事司法の特徴として,非常に緻密な事実認定をしている,あるいは,量刑事情について身上ですとか経歴等にわたって非常に詳細に調べるのだと,あるいは,少年の保護事件の記録につきましても,少年ですとか家族の個人的な秘密に非常に深くかかわっているといった御指摘がございました。   そのようなことから,刑事記録の開示に関する判断は,直接的にその制度の実施に責任を負っており,かつその判断を最も的確に行うことができる立場のある者に委ねるのが相当ではないか,こういった趣旨の御意見があったところでございます。   簡単な論点メモでございますけれども,これまでのここでの御議論を踏まえまして,本日,更にこれらの点につきまして御意見をいただければと思っております。 ● 本日の部会資料8では,文書提出命令についてはその要否についてなお検討するという1行でございますし,また参考資料6では,中間試案の際の論点を整理したものにとどまっているということで,なぜこういうことになっているかといいますと,前回のヒアリング後の審議がまだ十分なされていない,ここで今日御意見を聞いて,具体的な提案をしたいということで,資料としてはそういうことでございますので,どうぞ御意見でも,あるいは,御質問でも賜りたいと思っております。どなたからでも結構ですので,お願いいたします。 ● 今日,具体的な議論があるというのを十分認識しておりませんでしたので,とりあえずの簡単な意見ですけれども,日弁連の考え方からすると,この三つの質問に対する答えはかなりはっきりしておりまして,1についていえば,相当数利用できないものがある実情はあることは間違いないということが従来の審議で明らかではないかと思います。   それから,○○参考人からも御指摘があったように,窓口で,最初から無理だと言われて請求をしないというものもあるというような実情もあろうかと思います。いずれにしても日弁連の詳細な個別事例について,指摘もさせていただきましたけれども,そういう実態があるのは間違いないと思います。   2番についていえば,これは刑事事件関係書類の特性というのはあると思います。ほかの情報に比べて,非常にプライバシーとか名誉にかかわるものが多いということが分かりますし,それから捜査への支障といったものも十分考慮しなければならないということは分かるわけですが,それは除外事由の問題であろうというように思います。しかも,現行の法制度自身が,こういう捜査への支障等については特別の規定を置いているわけですね,監督官庁の意見を聴取して,その意見に相当性があるかないかというのを裁判所が判断する,そういう第一次的判断権は十分尊重した上で判断するということですから,不適切な判断がなされるということはないだろうと,またもちろん即時抗告で変更するということもあるわけですし,そういう意味では民事の裁判所がこれを判断するとしても,おかしくはない,できるのだと思います。   それから,法律関係文書については従前から刑事記録も対象になっておりまして,民事裁判所が刑事訴訟法47条でしたか,の要件の有無を実際審査しているという実績もあるということで,問題はないのではないかと。   3番目については,従前も指摘させていただきましたが,公文書については一般的な開示制度として情報公開法がありまして,そちらの対象になると。他方,民事訴訟についての証拠等については,文書提出命令がある。こういう整理になっているわけですから,それとパラレルに考えて,別の開示制度があると--ちなみに情報公開法からは,この刑事関係書類は除外されているわけで,それは制度として別に刑事確定記録法等の開示制度があるということで除外されているわけで,一般情報開示制度としてあるということで除外されているわけなので,そういった制度の組立て方とパラレルに考えてみるに,刑事関係記録をこの刑事訴訟法等があるからといって文書提出命令から除外しなければならないという理由はないというように考えております。 ● 今,○○委員がおっしゃった三つの点が,今日のほかの委員からも御意見を賜りたいところでございますが,第1は刑事事件関係書類等の民事訴訟における利用状況がどういうものであるか,これは事実関係の問題で,前々から見方が違っているところでございます。   それから,第2に刑事事件関係書類等の特性というものをどう見るかということで,これは前回のヒアリングで○○参考人の方からかなり強調がなされたところでございます。   3点目が,刑事訴訟関係における各開示制度というものと,民事訴訟法の文書提出命令との関係をどう調整するかという,この3点が中心になろうかと思いますが,ほかの委員の方から,もし御意見があればお伺いしたいと思います。 ● ちょっと私の方から申しますと,特に1の利用状況につきましては,先ほど申し上げましたとおり,こういうような例もあると言われたパターンですと,客観的なもの,それから供述調書の問題,それから目撃者の特定の問題といったようにいろいろな分類の仕方はあるとは思いますけれども,そういったような御指摘があったかのように理解しております。そういう点でも,もしそういう供述調書の取扱い,本当にその必要性があるのかどうか,あるいは,目撃者の特定ということについてはどうだろうかとか,そういったようなことにつきましても,御感触なり御意見などいただければと思っております。 ● ○○関係官,もし御発言があれば……。 ● 1番目の利用状況につきましては,従前から御説明を申し上げているところでありますけれども,今,○○委員の方から御指摘があった点,あるいは,前回の○○参考人からの御指摘があった点に関連しまして,窓口での取扱いがどうかという問題がございます。私どもも,個々の窓口で何をどのように言っているかということまでは把握はできないわけでございますが,例えば,前科も含めて,身上も含めて全部見たいのですがと,こういう御依頼,御請求があった場合には,当然それは幾ら何でも無理ですよと,あるいは,無理な場合がありますよということは,その段階で言うことはあるだろうとは思っております。その段階で,それならそれは外して結構ですと,自分が本当に見たいのはこの部分ですからということで言われる方もいらっしゃるでしょうし,いや,どうしても全部欲しいのだということで請求をされて,こちらで,検察庁の方で決定をするという場合も当然あろうかと思います。ですから,そういう場面が絶対ないかと言われれば,それは否定するつもりはございませんけれども,そこはそういう趣旨でやっているということを御理解いただければと思います。   それから,もう一つ利用状況に関して申し上げれば,これまでるる○○委員の方からも御指摘がありまして,利用できない場合もあるのだというお話がありました。私どもも各検察庁からの相談等に乗ることもあるのですが,一つは,なかなかどういう場面で,どういう必要から何が利用したいのかということについての意思疎通が十分でない場合が実際には多いのではないかというように考えております。昨今の被害者保護の動き,それから現在のこの法制審議会での御議論も踏まえて,私どもも民事訴訟で本当に必要な場合には使っていただくことを柔軟に考慮しなければいけないという考え方には立っております。また,各庁から御相談がある場合には,そのようにお話をしているつもりです。   ただ,実際のやりとりを聞いておりますと,弁護士さんから,あるいは,裁判所の方から御依頼が来るときには,そういったなぜ必要かという点をなかなか言っていただけないことがあるものですから,こちらも必要性の判断にかなり苦慮することも多いように思われます。この問題は,一刀両断に決められるような話でもないのかなというように思っておりまして,こういう事情でどうしてもここが必要なんだということが分かれば,それに応じてかなり出せる範囲も違ってくる部分があるのではないかというようには思っておりますので,そこは現場の方でよく事情を聞いて,誠実に対応するように今後とも努力していきたいというようには考えております。   続けてよろしゅうございますか,今の点以外で。 ● はい,もしおっしゃることがございましたら……。 ● それからあと,2点目の刑事事件関係書類等の特性等の問題でありますけれども,これも従前からここでいろいろ御審議いただいているとおりでございまして,さほどつけ加えるところはございません。   一つ,○○委員からおっしゃられた点で,民訴法の220条3号の法律関係文書に当たるときには,既に裁量権の逸脱の範囲について民事の裁判所が判断をしているのだから,一般的なものについてもできるではないかという御指摘がございました。ここはもう民訴法の先生方の方がお詳しい話ですので,私からあえて申し上げるまでもないとは思うのですが,この部分につきましては,実際には非常に困難な問題を実務上惹起しているのが実際だというように私どもは認識しています。法律関係文書が,特に私人間ではなくて公文書の場合に,どこまでを含むのかという前提問題もさることながら,これが法律関係文書に当たるとされたときに,どこまでの開示・不開示の判断が裁量権の逸脱に当たるのか当たらないのかという問題については,幾つかの下級審の裁判例等もございますが,なかなか微妙な判断をされていることが多いというように私どもは感じております。幾つかの裁判所は,これはもう支障はないのだから,検察官が不開示と判断したのは逸脱だということで判断を示された例もあるわけですが,ただ実際には,なかなかそこは必ずしもそうとは言い切れない場面がございます。   例えば,今年ですが,金沢の裁判所で出た裁判例,それから高裁で即時抗告の判断が出された例というのがございまして,これは過激派の事件の捜査がございまして,逮捕・勾留をした結果,結局不起訴処分に終わったという事件がございました。その逮捕・勾留が違法・不当だということで国家賠償訴訟を提起されたというものでございます。   原審の金沢の裁判所は,その中で文書提出命令を認容する決定をされまして,これは3号の法律関係文書として命令を出されたわけですが,逮捕状,あるいは捜索差押えの疎明資料として使用された各所の企業でありますとか,公務所に対する照会書,あるいはその回答書を出すべきだという決定を出されたわけです。これにつきましては,その中身が,ある人がそこに住んでいたかどうか,実際に生活していたかどうかという,そういう問題でして,そこで電気を使っていましたかとか,電話を使っていましたかという,そういう話なわけですが,裁判所はそれは出すべきだと,客観的なものなのだという御判断をされたわけです。   ところが,捜査機関側にとってみますと,なかなかそこは,そういうものだから問題がないとはとても言えないところがありまして,例えば,回答していただいた,協力をしていただいた電話会社,電力会社,あるいはそれに携わった捜査機関と,それから問題となっている団体の人たちとのことを考えると,そういった内容だからといって直ちに実名の入った文書をそのまま出すわけにはいかないという問題がございます。そういったことで,即時抗告をして,高裁の方ではそこは認めていただいたといういきさつがございます。   ただ,私どもでよく感じるのは,そういうようにうまく主張ができる場合であればいいわけですが,実際にはなかなかそれを主張すること,理由を説明すること自体が非常に秘密を開示してしまうことにほかならない場合があると。よくありますのは,刑事事件で共犯事件がございますが,だれが最初に自白してしまったのかということが関係者の間ではものすごく大きな利害関係を生み出すということがあるわけですが,それはなかなか当の御本人,あるいは,その組織の内部では,明らかにするともうそれこそ生死にもかかわってしまう。そういう問題がありますからといって,不開示とすること自体が,この人の調書はそういう意味で出せないのですかということで,それがまたばれてしまうということにもなりかねませんので,そういう問題をはらんでいるということを御理解いただきたいと思います。   3号文書についても,そういった問題があるわけですが,一般的に刑事事件記録ということになりますと,どういうことになるのだろうかと。刑事事件記録の中で,法律関係文書ということで民事訴訟にとりわけ提供する必要性が高いと言われているものについては,そこまで御判断されるのはやむを得ないのかなという考え方も当然あるわけですが,一般的に,法律関係文書ですらないものについて,そういう御判断をされることが適当なのか,またそういう捜査の秘密にかかわることの中身に入ってしまうことがうまくいくのだろうかという危ぐを非常に抱いているところでございます。   それからあと,3点目の開示制度との関係ですが,先ほど○○委員がおっしゃったように,確かに公文書について情報公開制度があり,なおかつ民訴法の文書提出命令制度がある,両者が並立しているというのはおっしゃるとおりでございます。ただ,考えなければいけないのは,情報公開制度はその情報公開を請求する人の側にどのような理由があるのかということに全くかかわりなく,だれでも開示を請求できるというものでごさいまして,逆に言うと開示をする人の側にどういう正当理由があるのか,あるいは民事訴訟でこれを使う必要があるとかないとかということは,判断の対象になっていないわけでございます。   それに対して,刑事訴訟手続の中では,それについての判断を踏まえて開示・不開示を決定するという仕組みになっているわけで,そこを私どもは従前からどのように考えるのがいいのか,あるいは,それについて重畳的に設けるのは整合性を欠くのではないかということを申し上げてきているところです。   例えば,確定記録との関係でいえば,正当理由があるかないか,要するに見たいと言われる方に,例えば,民事訴訟で使用する必要があるのかどうか,あった場合には当然開示の方に判断が振れるわけですが,更にほかの諸要素も考慮して判断をする,場合によっては準抗告で裁判所の御判断を仰ぐ,最高裁まで判断がいくという仕組みになっている。それから,不起訴記録については,そういったことも判断した上で,保管者が判断するわけですが,逆に言うと刑事手続の中ではそれに対する不服申立て手続をあえて置いていないという仕組みになっている。そこで,更に同じ内容を包含する問題について,民事の裁判所で重畳的に御判断いただくというシステムは,どうなのだろうかという問題意識でございます。   あともう1点,ちょっとこれは理論的な問題というよりは,御報告ですけれども,以前,弁護士会の方からこの席上で配布された新聞記事の事件がありました。交通事故で,検察庁が書類を開示しなかったので民事訴訟で負けたということで,逆にそれが違憲,あるいは違法であるということで国家賠償請求を提起されたという新聞記事を配布されました。その後の状況ということで,私の方から国家賠償請求については一審は請求棄却になりましたという御説明をいたしました。それから,民事訴訟の方では,全然不開示というわけではなくて,供述の相反部分については開示をいたしましたという御説明をしました。   その事件について,最近またいろいろ動きがありましたので,ちょっと補足だけさせていただきたいと思いますが,これは民事訴訟,それから国家賠償訴訟,両方とも控訴審に現在移っておりまして,審理がなお継続しておるということでございます。   民事訴訟の方ですが,今度は要するに目撃者的な立場にいる人たちが--少年なんですが--3人ほどいて,その人が民事の法廷で証言したことと,検察官に対してしゃべったことが違うということで,検察庁はその相反部分をお送りしているわけですが,今度は取り調べた検察官が悪いのだということで,その検察官を民事の法廷で証言させるという事態になりまして,つい先日,その証人尋問が実施されたという状況でございます。   結局どういうことになったかというと,その取調べ検察官が,一体刑事事件の中でどういう取調べをしたのだということを聞かれるといういきさつでございます。別に無理な取調べをしたとか,そういう話ではなかったわけでございます。   その話を私ども聞いていて,結局民事で書類を使うということがどういうことなのかというと,この問題について関係のあるものは全部出しなさいというようにどんどんエスカレートしていくことが非常に多いという印象を受けたということでございます。要するに,これについてプラスの証拠,あるいは,マイナスの証拠があるかないか,とにかく刑事の方から出してもらいたいということが言われるわけです。一定程度はこちら側で応じるわけですが,更にそれについて,ではどうしてこういう話になっているのだ,どうしてこういう証拠になっているのだ,この点は刑事の中ではどう調べたのだということで,次にまたいってしまう。   本来,不起訴事件で,かつ取調べ状況というのは正に捜査の中の話になってしまいますので,公にはしないわけでございますが,事がそういう深刻に民事の方で争われているという事情を考慮いたしまして,担当の検察官も証言に応じたといういきさつでございますが,実際の扱いの現れ方というのは,そのような結果を生じているということも御紹介したいと思います。 ● ほかに何か御意見ありますでしょうか。   それでは,この刑事事件関係書類等を対象とする文書提出命令制度の在り方につきましては,運用に関する点も含めまして,若干今日御議論いただきましたので,この御意見を踏まえまして,更に事務当局の方で検討し,その見直しの要否等につきまして次回の機会にもう少し具体的な考え方をお示しさせていただくということにさせていただきたいと思いますが,よろしゅうございますでしょうか。   それでは,続きまして4ページの「その他」でございます。   (1)の「管轄の合意」と(2)の「債権者に対する仮執行宣言付支払督促の告知方法」という二つでございますが,これはいずれも前回の資料と変わっておりません。前回の部会で,既にこの原案の方向で取りまとめさせていただくということについて大方の御了承をいただいていると私は認識しておりますが,何か,今回この「その他」にある「管轄の合意」と「債権者に対する仮執行宣言付支払督促の告知方法」につきまして御意見があれば,お聞かせいただきたいと思います。--よろしゅうございますでしょうか。   それでは,次の議題に移らせていただくことにいたします。   続きまして,部会資料8の第2「民事執行法関係」でございます。   まず,1の「少額債権のための債権執行制度」につきまして,御議論いただきたいと思います。○○幹事から御説明をお願いいたします。 ● それでは,御説明いたします。   第2「民事執行法関係」の1「少額債権のための債権執行制度」でございます。   前回の資料からの大きな変更点については,一つ目は,この手続の迅速化を図るということのために,裁判所書記官の権限としたという点が大きい点の一つでございます。   それからもう一つは,配当が必要となった場合など,地方裁判所の通常の債権執行手続に手続を移行させる手続,これを少し具体的に明らかにしたというものでございます。   (1)の「少額債権のための債権執行制度の創設」,それから(2)の「少額債権のための債権執行制度を利用できる債務名義」,このあたりは特に内容的に変更はございません。   (3)でございますけれども,今申し上げましたとおり,裁判所書記官の権限とするということにいたしますので,アにありますとおり,少額債権のための債権執行は,裁判所書記官の差押処分により開始するものとするというようにしてございます。   裁判所書記官が発するものでごさいまして,命令ということは裁判官による裁判を前提とした言葉でございますので,「差押命令」ではなくて,「差押処分」というようにしたものでございます。   イでございますけれども,差押処分の申立ての相手方,いわば裁判所でいえば管轄に当たる部分でございます。ここにありますとおり,「差押処分の申立ては,少額訴訟に係る債務名義の作成に係る簡易裁判所の裁判所書記官に対してするものとする」ということでございます。従来は「受訴裁判所」という表現を使っておりましたけれども,裁判の段階で非常にアクセスしやすい身近な簡易裁判所で訴えが起こせる,それをいわば進めまして,執行段階においてもアクセスに便利な裁判所で行う,こういう思想を貫きまして,債務名義を作成した簡易裁判所,すなわち訴えを提起した簡易裁判所の裁判所書記官が扱うというようにするものでございます。   次に,(4)でございますが,「執行裁判所」でございます。これは,(注)にありますとおり,例えば,執行官が行う処分に関しましても,執行官とは別に,執行裁判所というものが定められているわけでございます。これは,5ページの一番下にありますとおり,裁判所書記官が行う執行処分に関する事項について,不服申立てを受けたりとか,あるいは,その手続に協力したりする,こういう趣旨で執行裁判所というものを定めるというものでございます。   次に,6ページに参りますけれども(5)の「差押処分」でございます。   差押処分は,先ほども説明いたしましたとおり,名前が「差押命令」とは言えないということで,「差押処分」にしているわけでございますが,その内容ですとか差押えの効力,その発生時期等につきましては,原則として差押命令と同様のものとするというものでございます。   なお,ここに差押禁止債権の範囲等につきましても,差押命令と同様のものとするとなっておりますが,この範囲の変更につきましては,後で(6)のところで御説明するところでございます。   次に,イでございますけれども,差押処分の申立てについての裁判所書記官の処分に対する不服申立てでございます。   現在は,差押命令の申立てについての執行裁判所の裁判につきましては,執行抗告が可能とされております。そこで,これと同程度の,同様の手続保障を確保する必要があろうかと思っております。そこで,裁判所書記官の処分でございますので,まずこれに対しては異議を申し立てることができると,そしてこの異議の申立てについての執行裁判所の裁判に対しては執行抗告をすることができるものとするということで,現行法と同等の手続保障を図るというものでございます。   なお,(ウ)にありますとおり,執行停止も必要かと思われますので,そういう制度も置くということでございます。   次に,(6)でございますが,「差押禁止債権の範囲の変更」でございます。   こちらの方は,この差押禁止債権の範囲の変更を一体だれがするのかという問題でございますが,この範囲の変更は執行裁判所がするというのが今回の案でございます。やはり差押禁止債権の範囲の変更ということになりますと,その性質上困難な判断を伴うということが考えられるわけでございますので,これは裁判所書記官の判断ではなくて,執行裁判所の判断に委ねるのが相当ということで,執行裁判所の権限としているものでございます。内容的には,現行法の差押禁止債権の範囲の変更と同じでございます。   続きまして7ページでございますが,(7)が「転付命令等のための移行」でございます。   すなわち,簡易裁判所の裁判所書記官には転付命令の発令の権限はないというのが従来のここでの御議論で御了承いただいたところかなと理解しております。そこで,転付命令等が必要になる場合には,地方裁判所の債権執行の手続に事件を移行させるという必要が出てくるわけでございます。そのための申立てでございますけれども,例えば,転付命令等の申立てを簡易裁判所の裁判所書記官に対してするというようなことも考えられるかもしれませんけれども,もともと転付命令等を発令する権限がないものにその申立てをするというのもおかしな話でございますので,ここでは転付命令等の発令を受けるために,通常の債権執行の手続に事件を移行させる旨の申立てを裁判所書記官に対してするというようにしてございます。すなわち,このような移行させる旨の申立てがあった場合には,裁判所書記官は事件を地方裁判所の手続に移行させなければいけない,こういうような仕組みにしてはどうかということでございます。   なお,「移行」という言葉でございますけれども,「移送」という言葉が現在あるわけでございますが,この移送は,例えば,裁判所から裁判所というように同じ種類の主体の間で事件を場所的に移動させる,こういうようなときに使われているものではないかと理解しております。ここでは,異なる主体の間で,つまり裁判所書記官から今度は地方裁判所,また手続が少額訴訟の債権執行の手続から通常の債権執行に移るということでございますので,「移送」という言葉ではなくて,「移行」という言葉を使わせていただいているというものでございます。   この移行先でございますけれども,やはりこの簡易裁判所の所在地を管轄する地方裁判所ということにしております。この点につきましては,裁判所へのアクセスというものの便宜を図るためにこういう制度を設けるということからいたしますと,債務者の普通裁判籍の所在地の地方裁判所ではなくて,つまり通常の債権執行の管轄裁判所ではなくて,当該簡易裁判所の所在地を管轄する地方裁判所とするのがよろしいのではないかということでございます。   次に,イの移行の効果でございますけれども,移行した場合には,ここにございますとおり,差押処分の申立て,あるいはアの申立てがあったときに,それぞれ地方裁判所の方に差押命令の申立てがあったものとみなされますし,また転付命令等の申立てがあったものとみなされるということでございます。したがいまして,この移行の申立てをする際には,この転付命令,譲渡命令,売却命令,管理命令等の中で,一体どの命令を求めるのかということをはっきりと明らかにした上で,移行の申立てをしていただく,そういうことでこの移行の申立てがあったときに,その具体的に明らかにした転付命令等の申立てがあったものとみなすというものでございます。   それから,イにありますとおり,既にされた執行処分は地方裁判所の債権執行の手続においてされた執行処分とみなすということになりますので,例えば,既に差押処分がされているという場合には,これは地方裁判所で差押命令がされたというようにみなすというものでございます。   次に,(8)の「弁済金交付」でございますけれども,弁済金の交付はこの手続の中で行うということでございますので,アにありますとおり「裁判所書記官は,弁済金の交付をすることができるものとする」としてございます。   また,弁済金の交付につきましては,現在では執行異議ができますが,執行抗告はできないということになっておりますので,これと同様の制度にするというのが(8)のイでございます。   次に,8ページの(9)の「配当のための移行」でございます。   従来の御議論では,配当は地方裁判所の権限とするというように考えておりますので,そのために,この手続の中で配当が必要となったときは事件を移行するというものでございます。   移行先でございますけれども,基本的に,差押処分が一つだけされているという場合には,この簡易裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の方に移行するということになります。   差押処分が競合する場合というのがあるわけでございますけれども,例えば,二つの簡易裁判所の裁判所書記官による差押処分が競合して配当が必要になったと,A簡易裁判所の裁判所書記官とB簡易裁判所の裁判所書記官の差押処分が競合して配当が必要になったという場合には,A簡易裁判所の所在地を管轄する地方裁判所,あるいは,B簡易裁判所の所在地を管轄する地方裁判所,このどちらかに事件を集めて,1か所で配当するというのが合理的になることがございます。そこで,今回の部会資料では,そのどちらの裁判所に対してでも移行することができるというようにしてございます。選択肢が二つあるという形にしてございます。   ただ,最高裁判所規則の手当てによりまして運用上どちらかの裁判所に決まるようにするということが十分考えられるのではないかと思っております。これが括弧の中の趣旨でございます。   現行の民事執行法144条3項におきましても,差押命令が競合した場合には,他の裁判所に移送することができるとだけ規定しておりまして,どちらの裁判所がどちらの裁判所に移送するのかというところは法律上明確に規定されていないわけでございます。ただ,最高裁判所規則におきまして,先に送達された差押命令を発した裁判所に事情届を出すこととされていることから運用上はそちらの裁判所に事件が集まるということになっているわけでございまして,そういうようなことを考えますと,法律の規定上はどちらの裁判所にも移行ができるという形にしておいて,あとは最高裁判所規則以下の運用に委ねるというのが相当ではないかというように考えられるところでございます。   これが差押処分と差押処分とが競合して配当をしなければいけない場合でございますが,差押処分と差押命令が競合してやはり配当しなければいけないという場合もございます。この場合も,その差押処分をした簡易裁判所の所在地を管轄する地方裁判所に移行してもよいし,差押命令を発した執行裁判所の方の手続に移行させてもよいのではないか,また,その後は先ほどと同じように扱えばいいのではないかということでございます。「簡易裁判所の所在地を管轄する地方裁判所又は差押命令を発した執行裁判所における」というのはそういう趣旨でございます。   それから,最後に8ページの(9)が誤りで(10)でございますが,「裁量移行」でございます。   これは,事件によりましてはなかなか難しい事件,簡易裁判所で扱う事件としては難しいものがあるのではないかという指摘があるものでございます。例えば,差し押さえるべき債権の特定というものが非常に困難なもの,例えば,契約関係が不明確な請負代金債権等があるのではないかというような御指摘もあるところでございます。そこで,こういったような裁量移行というような制度を設けることが考えられるのではないかということで,今回このような形で提案させていただいているというものでございます。 ● 1の「少額債権のための債権執行制度」につきましては,前回までの御審議におきまして,こういう少額債権のための債権執行制度というものを創設するということについてはおおむね御異論がなかったと思いますし,またこれを裁判所書記官の権限とすることについても強い反対はなかったように思います。そこで,今回の資料は大分膨れ上がっておりますけれども,以上のことを前提といたしまして,手続の全体にわたって少し細かく概要を記載するという内容になっているために,5ページから8ページにわたってかなり詳しい内容になっているわけでございます。   そこで,今日の御審議は,5ページの(1)と(2)につきましては大体御了承いただいていると思いますので,(3)から(10)までの御審議をいただきたいと思います。その際,(3)から(6)まで,5ページと6ページにつきましては前半に御議論いただき,それから(7),(8),(9),(10)につきましては,その次に御審議いただくように順序をつけた方がいいかなというように思っております。   そこで,これは全く新しい制度でございますので,前半と後半に分けて御審議をいただきたいと思いますが,まず前半につきまして何か御質問あるいは御意見があればちょうだいしたいと思います。 ● 一般的な御質問ですが,6ページの(5)のイに,裁判所書記官の処分に対する不服申立てとして異議の制度が書かれているわけですが,この異議というのは執行異議なんでしょうか。   つまり,この場合の裁判所書記官は執行機関として位置付けられているというように理解してよろしいのか,それとも民事訴訟法121条の異議ということなのでしょうか。 ● これは,執行機関としての位置付けと考えております。 ● ほかに何か……。--よろしいでしょうか。   それでは,7ページ,8ページの範囲で御質問なり御意見があればどうぞお願いしたいと思います。 ● 移行概念についてお伺いしたいと思います。   移行の概念は,恐らく督促手続における移行概念をベースにお考えになったのかなというように拝察するわけですが,督促手続における移行は,督促異議の申立ての当然の効果として,裁判所書記官の処分行為を含まずに当然に移行するという構成になっていると一般に理解されていると思います。転付命令等のための移行の場合には,これは執行債権者の申立ての効果として移行の効力が生じるという仕組みになっていると理解しておりますが,もう一つの方の配当のための移行の場合は,これは裁判所書記官の訴訟行為,処分に基づいて移行がされると構成されているというようにしか読めないわけです。どうもこの二つの移行という概念が入っておりまして混乱しているような気がするわけでして,当事者の申立てを必要とするかどうかは別として,私は何か(9)の方の配当のための移行の場合においても,配当の必要が生じた段階で事件が簡易裁判所の所在地を管轄する地方裁判所に移行し,その後,法144条3項の仕組みで移送がなされることによって,配当手続が一つの裁判所でされるという仕組みにした方が,技術的にややこしいという御批判はあり得るのかもしれませんけれども,やはり移行概念というものを余り混乱させるのがいいのかどうかという観点から,そのように考えたらいいのではないかなという気が若干しております。   それから,(10)の裁量移行につきましても,これを仮に設けるとしても,これを移行と位置づけるのは,今申しました趣旨からしてどう見ても納得できないわけでして,移送という形で議論すべきであろうと。そうなると,主体としては執行裁判所ということになろうかと思いますが,そのあたりについて,事務当局の方はどのようにお考えかお伺いさせていただければと思います。 ● 「移行」と「移送」の概念の整理につきましては,御指摘も踏まえて,まだこちらの方でも整理しなければいけないかなと思っておりますけれども,とりあえず我々の方としては,先ほど申し上げましたように「移送」というものは,例えば,裁判所から裁判所というものであって,今回は,手続から手続,違った手続に移るというものを広い意味で「移行」という言葉を使っているということでございます。   そういう中でも,いろいろなパターンのそういう移り方があるというのは御指摘のとおりでございまして,そういうものをきちんと概念整理ができるかどうかは,なお検討してみたいと思っております。   裁量移行につきましては,なお検討するということで抽象的な表現にしておりますが,その裁量移行の主体といいますか,それをどちらにするかということにつきましては,なお今後検討したいと思っております。 ● 一つだけ確認しておきたいのですが,配当は裁判所書記官にはさせないというのは分かるのですが,そのときに,執行裁判所の制度があるわけですね。それとの関係で,分かりやすいのは執行裁判所でやったらという感じがするのですが,そこをなぜ地方裁判所に持っていくのかというのが,どうも最初のところは簡易裁判所で全部処理します,そして弁済金までは簡易裁判所でというのは分かるので,配当になったときは地方裁判所ですよと。ところが,裁判所書記官の権限とした途端に簡易裁判所というものが浮き上がってきてしまうのですが,その点はどう理解したらよろしいのでしょうか。 ● そこは,採り得べき選択肢としてはいろいろな考え方があり得ることではないかと思います。ただ,配当のための移行ということで,やはり原則的には債権執行というのは地方裁判所で行うという原則をここでは貫いていると。あちこちでいろいろな原則を使っているというように言われるかもしれませんけれども,配当等のための移行についてはそういう原則を貫いて,配当の実施,つまり通常の債権執行の手続にのっかるということで,ここは地方裁判所としております。ただ簡易裁判所で行うこととすることができる手続は,基本的には裁判所書記官の権限にするということでございますが,その手続の中で裁判所書記官の判断ではちょっとというようなところは,執行裁判所としての簡易裁判所で判断する,そういった事項ごとに考えているということでございます。 ● ちょっと分かりにくいかなと。 ● 理論の問題もありますし,それから裁判官や裁判所書記官の人員の配置等の問題もありまして,原則をあちらでは立て,こちらの原則も立てて,こういうことになっているということだけは御理解いただきたいと思います。更にこれは検討させていただきます。 ● (7)のイに関する質問ですけれども,移行すると簡易裁判所の裁判所書記官のした差押処分が,今度は地裁の執行処分とみなされるということなのですが,その場合,それは地方裁判所の差押命令というようにみなすのかどうかなんです。それに対して,実際にそんな例があるかどうか知りませんが,不服申立てをする場合に,先ほど問題になった異議の仕組みになるのか,それとも従来のように執行抗告の仕組みになるのか,そこを教えてください。 ● ここは,移行されますと差押命令というようにみなされますので,執行抗告の対象になるというように考えております。 ● ほかにいかがでしょうか。 ● 先ほど,○○幹事の御質問の趣旨を更に確認するというようなことですが,この裁判所書記官に対する移行,特に(9)の「配当のための移行」,若しくは導入されるとすれば,(10)の「裁量移行」の話になろうかと思いますけれども,これは裁判所書記官の一種の処分行為のようなものがあるという前提でよろしいのか,移送で考えれば,移送は裁判所の決定という裁判がなされて,それが受移送裁判所を拘束するわけですが,例えば,(9)の「配当の移行」でどちらか一方の裁判所に移行させた場合に,それが拘束力を持って,受けた裁判所から他の裁判所には移送はできないとか,何らかの効力が生じるとか,そういうことになるのかどうかという点をちょっと確認したいと思います。 ● 移行がされました後でも,更に裁判所間の移送というのはあり得るというように考えております。   また,移行というのは,裁判所書記官の一つの処分ではないかというように考えております。 ● 先ほどの○○幹事の御質問の中で,配当のための移行もいわば当然移行のような形に整理すべきではないかというお話がありましたが,配当なのか弁済金交付なのかということは,最終的にその手続を実施してみないと分からないということがございます。債権の届出をしてもらったら実は少なかったというような場合,配当期日は指定したのだけれども実は弁済金交付だったとか,弁済金交付だったのに実は配当だったというような場合は多々ございますので,当然移行と仕組んでしまいますと,明確性に欠けるのかなというように思っておりまして,やはりそこはいったん裁判所書記官が処分をするということにした方が,手続としてはより明確になるのではないかということで,今回このような御提案をさせていただいているということでございます。 ● 実質,今,○○関係官からお話しいただいたこととかなり共通しているのですけれども,最初に○○幹事からお話があったときには,裁判所書記官というあたりも踏まえていただいて,これは支払督促のところの移行というような御指摘をされたのかなとも思いましたけれども,私は当初この案を見たときには,必ずしも支払督促というよりは,むしろ少額訴訟とかそういうたぐいの手続の中でやはり移行という制度が設けられていて,要は少額訴訟という手続と通常訴訟という,やや毛色の違う手続の間を動かすものとして移行というような概念が出てきていると。手形訴訟なんかも同じようなことだと思うのですけれども。   そういうような位置付けもあって,今回のこの手続というのも,簡裁で行われる少額訴訟の債務名義による少額債権執行というものと,地裁の通常の債権執行というものとの間に一定の手続的な性格の相違というものも見いだせるというあたりのことを踏まえて,そういう一種異なる手続の間を動かすものとして移行という概念を事務当局の方は御工夫されたのかなというように思っておりました。   そのような意味合いも含めて,(10)の「裁量移行」のところについては,またそういう移送・移行というような概念のレベルの問題と主体をどうするかというレベルの問題は,切り離して考えることも十分できるのかなというようにも思っていまして,少なくとも私どもとして,裁量で事件を動かすという場合に,裁判所書記官が行うのは適当ではないのではないかというような御意見があるということであれば,そこに固執するというような強い気持ちを持っているわけではございませんので,そのあたりについては一言ここで申し述べたいと思います。 ● 一般に,差押えと転付の申立てを同時にする場合がかなり多いと思うのですが,その場合に,もちろん本来の筋道としては地方裁判所に申し立てるということだと思いますが,簡易裁判所にそのような申立てがあった場合には,どのような扱いになるのでしょう。 ● 基本的には,この手続ですと移行という手続が間に入りますので,その分時間が余計にかかってしまいますから,直ちに転付命令の手続をとってほしいという債権者には,本来的には地方裁判所に申し立てていただいた方がより適切ですので,恐らく簡易裁判所の窓口指導で,直接来られた方に対しては,それは地方裁判所に行った方がいいですよということで,地方裁判所に申立てを促すということは運用としてはあるのかなと思います。   ただ問題としては,それでもどうしても簡易裁判所でやりたいという人もいるでしょうし,郵送で申立てをする方もおられると思いますので,そのような場合にどうするかということがあるのかと思いますが,そのような場合に同時申立てがあった場合には,必ずまず移行させなければいけないという規律にするのか,それとも移行させるのか,まず差押処分を先にかけてしまうのか,そこも裁量に委ねるのだという両方の考え方があるのだと思います。その場合に,恐らく差押処分を先にすべきか,それとも移行を先にすべきかというのは,移行に要する時間,距離的な問題もあるでしょうし,手続の問題もあるでしょうから,そこは時間によってかなり差異はあるのだと思うのです。ですから,そこはそういうような時間がかかるかどうかというのは,そのケースによってばらばらでございますので,そこは裁量に委ねた方が適切な運用が期待できるのではないかというように私どもとしては思っているのですが。   ですから,そういう形にするのであれば,特段何も規定を置かなければ,そういうような形になるのではないかと思っていますが,そこは御議論があるところだと思います。 ● 先ほどの○○幹事の御発言に対して,ちょっと私の考えたところを申し上げたいと思うのですが。   少額訴訟や手形訴訟における移行も,これは移行申述の効果として当然に裁判所の処分を要さずに移行するという建前になっているわけでして,それは先ほど督促異議による訴訟への移行と,この仕組みはその限りでは同じだと。つまり,主体の問題とは別に--主体の問題といいますか,裁判所側の機関がだれであるかということとは関係なしに,そういう仕組みがとられているわけでして,そういうことからすると,やはり私は移行というのはそういうものだというように民事訴訟法として一貫しておいた方がいいのではないかという気がいたしております。   そして,先ほど○○関係官の方からお話がありましたように,どうも配当の場合の当然移行というのは難しいということになれば,もうここは思い切って移送だというように仕組んでしまうということも,私はよろしいのではないのかなという気もいたしております。 ● 今の○○幹事のお話を伺っていて,ちょっとよく分からなかったのですけれども,少額訴訟の場合,通常手続への移行というのは民事訴訟法373条ですが,373条は被告の申述に基づく当然の移行と,それから裁判所の判断による移行,3項にございますが,特に3項4号は,「少額訴訟により審理及び裁判をするのを相当でないと認めるとき」の裁量的な移行というのが認められているので,これは裁量というか移行する必要があると判断したときですけれども,私は○○幹事が言われるように373条3項の移行にこの(9)は似ているのかなと思っておったのですけれども。 ● 失礼しました。私は3項を完全に見落としておりましたので……。移行概念が前から変わっていたということですね,失礼しました。 ● ほかに何かございますでしょうか。 ● 今の話題になっている移行と,それから不服申立てとの関係ですが,差押命令に対する執行異議,あるいはそれに対する執行抗告が出ている場合に,移行すべき事由が生じたときにどうするかということですが,その場合,移行してしまいますとその執行異議とか執行抗告が宙に浮いてしまうような感じがしまして,もしそれが適当でないとすれば,そういう差押処分に対して不服申立てがある場合には,移行はしないのだということを明らかにしておいた方がよろしいのかなという感じがしたのですが。 ● その点に関しては,恐らく現行法のもとでも同様の問題はあると思われます。通常の訴訟の場合でも,付随的な申立てに対して抗告がなされたような場合もある。そのような場合に,移送の申立てがあった場合にどういうような処理をすべきなのかというところでも同じような問題があるのだと思うのです。   通常の場合は,抗告になりますと記録が全部抗告審に送られてしまいますので,恐らくもとの裁判所で何らかの手続をすることはできないのだと思うのですが,民事執行や人事訴訟法などでは,抗告事件については,抗告事件の記録だけ送付すればいいというような手続になっているところでございますので,そのような場合にはもとの裁判所で移送の決定もできるのではないか,それと同様に移行の決定もできるのではないかいうことを前提にどのような手続にすべきかということはあると思われます。   その場合に,当然何も規律を置かないということになりますと,移行の決定も可能だということになると,その効果としてどうなるのかということになりますが,恐らくその事件自体は移行の効力で別の裁判所に移るのだと思うのですが,不服申立ても併せて移るのかといいますと,それはやはり不服申立ても別の事件なので,そこはそのままの抗告審で継続して審議されるのだろうと,その抗告審の審議が終了したら,手続としては,もとの事件は別の裁判所に移っていますが,抗告審の裁判の効果は移った裁判所の方に戻るというようなことも考えられるのではないか。   これは,現行法のもとでもある解釈問題ですので,そのような考え方でよいのか,それともこの場合に限ってはそういう扱いには問題があるのかというところを御議論いただければというように思っております。 ● それは,移行の効果として,先ほど御説明があった既にされた執行処分が債権執行の手続においてされた執行処分とみなされるということですので,移行された瞬間に,裁判所書記官がした差押処分は地裁がした差押命令となるわけですね。   それに対して不服申立てがされているときに,簡易裁判所が執行異議裁判所として審理しているというのは,地裁の差押命令に対して結局簡易裁判所が執行異議の手続を扱っているということにならざるを得ないのではないかというように思いますので,それは適当ではないのではなかろうかというのが,私の印象だったのですが。 ● そういうことであれば,そこはもうむしろ制限するような何らかの規律を置かなければいけないということになるのかと思います。 ● 先ほど○○幹事が御質問されたことに関係しますけれども,この転付命令等のための移行の申立ての場合の移行の効果の発生時期はどう想定されていらっしゃるのでしょうか。今の御判断ですと,この場合もやはり移行の処分というものを想定されていると。 ● その場合も,移行の処分というものを想定しておりましたので,その処分の効力が発生したときというように考えておりました。 ● その時期は,具体的にはどう判断されることになるのでしょうか。 ● それは,裁判所書記官が移行の処分をして,それが告知されたときと考えております。 ● 現実に移行されたとき。その時点で,イの効果がすべて発生するという理解で議論することが必要だということでございますね。 ● ほかにございますでしょうか。   それでは,こういうようにさせていただきたいと思いますが,この少額債権のための債権執行制度につきましては,今回,資料が従来の資料から見ると非常に詳しくなりましたので,たくさんの御意見をいただきましたけれども,私どもとしてはこの(1)から(6)までの範囲では御了承いただいたというように思っております。特に御意見いただきましたところは,移行をめぐる様々な問題ではないかというように思っております。   したがいまして,今回いただきました様々な御意見を踏まえまして,事務当局の方で更に十分検討させていただきたいと思っておりますが,そういうことでよろしゅうございますでしょうか。--では,そのようにさせていただきたいと思います。   それでは,ここで休憩をとりたいと思います。             (休     憩) ● 時間でございますので再開させていただきます。   先ほど,少額債権のための債権執行制度について御審議いただきましたけれども,何かそれについて特に御発言があれば承りますが。 ● どうも私,先ほど移行概念についてドイツ法的な頭が残っていて恐縮いたしました。本来申し上げたかったところがそれで飛んでしまいましたので,ちょっと補足させていただきたいと思います。   移送については民事訴訟法22条1項によって,「確定した移送の裁判は,移送を受けた裁判所を拘束する」と,こういうことになっておりまして,移送は裁判所の判断によって他の裁判所を拘束する,こういう仕組みになっておるわけですが,今回の移行のうちの転付命令等についての移行については行く場所が決まっておりますので,特に問題はないと思うのですけれども,(9)の方の配当のための移行については,移行先の裁判所としてどこに送られるかという点については選択の余地があるということに一応,最終的には規則でそれが一つになるというお話でしたが,法文上は行き先が複数あって,その中から一つが選ばれるという仕組みになるといたします。   そこで,なぜ裁判所書記官の処分が行き先を決めて,その行き先である裁判所を拘束するのかという問題がやはり出てくるのではないかなという気がするわけでして,基本的に私の理解が間違っているのかもしれませんが,22条1項の趣旨は,やはり裁判所間の権限分配問題について,本来は他の裁判所,審級の関係以外については基本的に他の裁判所を裁判所の判断は拘束しないという前提に立ちつつ,それの例外として22条1項があるというように,これもまたドイツ法的な頭で恐縮ですが,そう考えていたのだろうと思うわけでして,そういたしますとなぜ裁判所の判断ではない判断が,受移行裁判所を拘束するのかということについて,何かもう少し理論武装が必要なのかなということを一番申し上げたかったのでございます。 ● この部分につきましては,先ほど申しましたように事務当局の方で更に検討させていただきますので,よろしくお願いいたします。   それでは,今日は先ほど申しましたように4時でこの会場を明け渡さなければいけないということでございますので,次に進ませていただきたいと思います。   次は部会資料8の第2の2「不動産競売手続」についてでございます。これにつきまして,まず御説明をお願いしたいと思います。 ● まず,(1)の「最低売却価額制度」でございますけれども,こちらにつきましては大変恐縮でございますけれども,なお事務当局の方で検討中でございまして,今回の資料でも具体的な提案というものがまだできていないという状況でございます。   それから,(2)の無剰余の場合の措置,それから(3)の差引納付の申出の期限,それから(後注1)の内覧制度につきましては,前回の資料と変更はございません。内覧の制度につきましては,前回のこの部会でも現状維持の御意見があったところでございます。これまでのこの部会での御意見等も踏まえまして,なお検討させていただきたいというように思っております。   (後注2)の取下げ制限でございますけれども,この問題につきましてはパブリックコメントの結果反対意見が多かったと認識しております。また,現実にも入札期間中に一部弁済等の理由によりまして取下げもあるというような御指摘もあるところでございます。   こちらの部会では,やはり入札をした者の保護を図るべきであるという御意見もございましたけれども,そのようなことを踏まえまして,今回の改正ではこの点については見送るということではどうかということで提案させていただいております。 ● それでは,9ページの(2)の「剰余を生ずる見込みのない場合の措置」と,(3)の「差引納付の申出の期限」につきましては,前回までの御議論でこの部会としてはこの内容で御承認いただいたというように私は受けとめております。前回の資料と全く同じでございますので,それでよいかどうかを御確認いただきたいと思います。   続いて申しますと,(後注1)の内覧制度につきましては,これも前回の資料と変わっている点はございませんけれども,もし何か御意見があれば承りたいと思います。   (後注2)の入札期間中の取下げの制限につきましては,これはいろいろ御意見があったところでございますけれども,取下げを制限するのではなくて,今回は競売の当事者である債権者や債務者の保護という点を考えまして,取下げを制限しない,従来どおりにしたらどうかというのが原案の考え方でありますけれども,これにつきましてこういうことでよいのかということについて,御意見をいただきたいと思います。どなたからでも結構ですのでお願いいたします。   御意見がなければ,こういう方向でこの部会としては取りまとめさせていただくということでよろしゅうございますでしょうか。--それではそういうようにさせていただきます。   最低売却価額制度の見直しにつきましては,更に次の機会にまたお諮りさせていただきたいというように思います。   それでは,次に10ページの3と4を一緒に御説明お願いいたします。 ● 3の「執行官による援助請求」のところは,ここは従来御了解いただいているところと認識しております。資料も変わっておりません。   4の「裁判所内部の職務分担」のところでございます。こちらにつきましても,資料は基本的に変わっておりません。カの配当表でございますけれども,前回御説明申し上げましたとおり,ここの配当表の作成といいますのは,配当表に記載する中身自体は執行裁判所が定めると,その定めたものを裁判所書記官が記載する,こういう意味での作成というように申し上げました。その趣旨がもう少し分かるように,括弧の中に「執行裁判所が定めた債権の額……等を記載した書面」という形にしているだけでございます。   それから,物件明細書の点につきましては,(注)にありますような措置を講ずるものとするかどうかという点につきまして御議論があったように理解しております。基本的に裁判所書記官が判断に迷うということになりますれば,これは裁判官と協議をするというのは当然のことであると思っておりまして,したがいまして現実問題として双方の判断が異なるということは想定し難いわけでございます。しかしながら,万一の場合に備えたこういう措置というものは,やはり考えておくということが相当ではないかと考えております。   前回の部会でも,かえって混乱するのではないかといったような意見もあったように理解しておりますけれども,そういったことがないように,具体的なこの措置の内容につきましては,最高裁判所の方で検討を進めていただきたいというように考えているところでございます。   それから,不服申立ての点につきましては,基本的に資料のところも変わっておりません。   配当表のところでは,配当表の作成につきましては新たな不服申立ては認めていないということでございますけれども,民事訴訟法の規定によりまして異議が出せるわけでございます。   ただ,ここの11ページのイの(注)にありますとおり,この異議の事由は裁判所書記官が執行裁判所の定めた配当の額等を書面に正確に記載していないということに限られますし,実際には配当期日において異議を出すということが必要になってまいりますので,現実問題としてはこの異議が出るということは余り想定されないのではないかというところでございます。 ● それでは,10ページの3の「執行官による援助請求」につきましては,これまでの審議でこのような内容で部会の意見として取りまとめさせていただくことについて,御異議がなかったというように私は理解しております。それでよろしゅうございますでしょうか。--はい。   4のところでございますけれども,今御説明のように,10ページの(注)の点が前回議論があったところでございますけれども,この点は最高裁判所規則等で適宜対応していただくということを考えまして,部会資料としては前回のままでお出ししております。この点につきましても,今回御意見があれば承りたいと思います。   それから,(2)につきましては,これは前回の資料のとおりでございますが,これについてももし御意見があれば承りたいと思いますが,いかがでしょうか。 ● 物件明細書の作成を裁判所書記官の権限とするということにつきまして,前回の部会におきまして物件明細書と最低売却価額の決定過程に食い違いが生じた場合の措置として,この10ページの(注)のところに記載されていることについて意見を申し述べさせていただきました。   前回申し述べさせていただいたのは,物件明細書の記載に関する標準化の観点と,それから仮に,(注)のような食い違いが生じた場合の措置を講ずるとした場合に,注のような手当てを要するという場合に,買受人等が権利判断がまちまちになっていることについての明確な判断ができるのかということから,心配な点を述べさせていただきました。   しかし,前回の部会におきまして,○○幹事から,執行裁判所としてその点に関する明確化の努力をされるようなことについての御意見を承りました。   そういった審議の経過を弁護士会に持ち帰りまして,弁護士会の中で小規模の検討会で事実上審議をしましたところ,関係者の中からは,物件明細書と最低売却価額決定過程の食い違いがあっても,その判断が明確にできるというのであれば問題はないのではないかという意見が多くを占めたところでございます。反対論も見られなかったということがございました。正式な審議というのは来年1月中旬にあるわけでございますけれども,先ほどのような明確化の努力,それから全国的な標準化の努力をすること,そしてそれらを規則によって準則化するということを行っていただけるというのであれば,前回の部会で述べました懸念というものも払拭されるのではないかというように考えられます。したがいまして,ここに提案されております(注)の部分につきましては,そのような御指摘,規則化の努力等を踏まえますと,反対する理由はないのではないかというように現段階では考えております。 ● ほかにいかがでしょうか。ほかの点でも結構でございます。 ● 配当に対する不服申立てのところですけれども,この御提案によると裁判所書記官が執行裁判所が定めた額を正確に記載していない場合には,民事訴訟法121条の異議になると,正確に記載していて,裁判所が間違った場合には配当異議になるという理解かと思うのですが,裁判所書記官が正確に記載したかどうかというのは,当事者にどうやって分かるのでしょう。 ● 配当表を配当期日に作成することになりますので,当然に出頭している関係者については閲覧ができるということになると思います。 ● その場で裁判所が何らかの判断を口頭でするので,それを裁判所書記官が記載したかどうかが分かるということですか。 ● 書いたものは当然に見せるということになりますので,裁判所が言ったことと今見せてもらった配当表に書いてあるものが違えば,当然その場で違うのではないかという話にはなるだろうという趣旨でございます。 ● そうすると,実質的にはこれは調書の記載と同じようなことという理解でよろしいのでしょうね。 ● その関係で,気が早い話ですが,カの部分のところ,仮にこれを条文化したときのイメージというのはどうなるのでしょうか。今のようなお話ですと,「執行裁判所は,裁判所書記官に命じて配当表を作成させなければならない」というようなイメージになるのかなという気もするのですけれども。 ● まだ条文化につきましては,我々も検討を進めているところでございますけれども,先ほど御説明したような実質が明らかになるような方向で検討を進めていきたいと思っております。   ちょっと,この段階ではそのぐらいしか御説明できなくて申し訳ございません。 ● ほかに何かございますでしょうか。 ● 物件明細書の作成の実情について,若干だけ補足させていただきます。   物件明細書の作成等に関して,各裁判所において物件明細書を含む3点セットのインターネット公開につきましては,今日現在既に東京,大阪の裁判所のほかに,福岡,札幌,それから水戸地方裁判所,この5庁でインターネットで公開しております。この12月から1月にかけて,ほかの3庁でも相次いでインターネット公開をすることを予定しております。   そういう状況の中で,各庁におきましては,さきにこの部会で紹介させていただきました5庁の裁判所書記官による物件明細書の研究に基づいた物件明細書の作成というものが,前回○○委員の方から御紹介がありましたけれども,東京地方裁判所では既にやっておりますし,公開しているほかの5庁のうち3庁の裁判所では,既にこのような研究に基づいた物件明細書の作成を始めております。   そのほかの裁判所でも,インターネット公開のスケジュールに合わせて,今そのような分かりやすい物件明細書ということで研究をし,このような作成を目指して検討している最中である,そういう方向で今動いているということを申し添えたいと思います。 ● ほかに何かございますでしょうか。   なければ,「裁判所内部の職務分担」につきましては,このような原案の方向で取りまとめさせていただきたいと思いますが,よろしゅうございますでしょうか。--それでは,そのようにさせていただきます。   次に,最後の審議事項になりましたが,部会資料8の第2の5です。「扶養義務等に係る金銭債権についての間接強制」について御審議をいただきたいと思います。まず○○幹事から,資料の説明をお願いいたします。 ● 今回の資料でございますけれども,前回の部会でもいろいろとこの制度につきましては御意見をいただいたところでございますけれども,基本的に強制執行制度の一環としての制度ということで,全体的な枠組み自体は前回の案と変わっておりません。そういう中で,この制度が合理的なものになるようにしてはどうかというように考えているものでございます。   前回も申し上げましたけれども,今回,この間接強制制度というものを設ける際の範囲を限定する趣旨としては,やはり扶養義務の特質というものに着目している,すなわち少額であるということのほかに,扶養義務の場合には債務名義作成当時において資力があるいうことを前提に作られている,こういうことを前提に,今回のこの制度の範囲を限定しているということでございます。   ただ,この制度がやはり適切に運用されるような必要があるのではないかというように思っておりますけれども,どの程度の額,間接強制金の額がどの程度になるのかということにつきましては,おおよその感覚についてこの部会でも共通の認識というものが持てるようになるのが望ましいのではないかというように考えております。   そのことが,12ページの上の方,(注2)の間接強制の決定における間接強制金の額についての注でございます。   すなわち,現在,例えば,非代替的作為義務の場合には,かなり高額の間接強制金が課せられるというようなケースもあるわけでございます。例えば,子供の引渡しということになりますと,1日2万円とかいうようなことが定められることもありますし,通行妨害の禁止,妨害してはならないといったような義務の場合ですと,これは債権者側の事情にもよりますけれども,例えば,1日20万円とか,そういったようにかなり高額の例もあるように聞いております。   ただ,今回の養育費のような場合には,扶養義務等の場合には,恐らくそこまでの高額の金額というのは想定されないのではないかというようにも考えております。もちろん,これは養育費等の額にもよるわけでございますけれども,この部会でお話を伺いました○○参考人のお話ですと,例えば,月12万円の養育費で年利20%の間接強制金をかけるということになりますと,10年間全く養育費を払わないということになると,間接強制金の額が元本を超えることになり,○○参考人のお話ですと,これは相当大きな負担であるといったような御認識であったと理解しております。   この年利20%が果たして大きいのかどうかというのはまたいろいろ御議論があろうかとは思いますけれども,仮に,先ほど申し上げました非代替的作為義務とは違って,今回のこの扶養義務等の間接強制については,それほど高額にはならない,あるいは,高額にしてはいけないというように考える場合には,それは一体どうしてそのように考えるのかと。例えば,間接強制の決定の考慮要素につきましては,一般的に(注2)に書かれているようなことを考慮要素として決めるとされているわけでございますけれども,この要素をどのように判断して,そういった金額がセーブされるということにつながっていくのかということにつきまして,もし御意見をいただければと思っております。   これまでの間接強制金の額の議論につきましては,例えば,非代替的作為義務の中でも,債務本来の実現こそが目的である,こういう場合には損害額と無関係に債務の履行の強制に実効的な額を定めればよいと。しかしながら,損害賠償によっても十分満足できるのだ,こういうものについては損害額を一応の基準とするというようなことが考えられるといったような御意見もあるわけでございます。   そうしますと,例えば,金銭債権の場合には,もし仮に,損害賠償ということになりますと,その損害は,民法上原則として法定利率という形で定められているわけですけれども,そういったようなことも一つ考慮要素になるというようにも考えられるのではないかと思われます。   なお,では間接強制金の上限というものが果たして法律で決められるのかどうかということでございますけれども,これはそもそもケース・バイ・ケースで裁判所の裁量によって定められるというような性質のものでございますので,なかなか上限を法律で決めるということにつきましては,難しい問題もあるのではないかと考えております。   そういうことで,(注2)に関しまして,この制度がもし仮に設けられた場合に,間接強制金の額についてはどのように考えたらいいのかという点について,御議論いただければと思っております。   それから,(2)の「間接強制の決定の要件」につきましては,特に変更はございません。債務名義の作成時に資力が確保されている,あるいは,債務者側の事情というようなことからしますと,債務者に立証責任を負担させるのが合理的ではないかと考えられるのではないかと思います。   それから,(3)の「間接強制の決定の取消し」でございますけれども,(注2)でございますが,取消しの効力が及ぶ範囲についてどのように考えるかということで,この点を御議論いただければと思っております。やはり手続の安定性を重視いたしますと,遡及効を認めないということも考えられるわけでございますけれども,資力要件を欠く者の保護をより重視するということになりますと,遡及効を認めるということが考えられるわけでございます。   その場合,仮に遡及効を認めた場合に,一体どこまでさかのぼれるのか,過去の分の取消しを認める場合,どこまで取り消せるのかということでございます。一つの考え方としましては,申立て時までさかのぼってはどうかというような考え方もあろうかと思いますし,また,あるいは資力要件を欠く状態になったときまでさかのぼるということも,選択肢としてはあるのかもしれません。   ただ,資力要件を欠くに至ったときまでさかのぼるということになりますと,仮にそれまでの間,申立てまでの間に払われた間接強制金がある場合に,それを返還請求できるのかどうかという問題が起きてこようかと思います。仮に,これを返還請求できるということにいたしますと,取消しの申立てがない段階で債権者としては安心して間接強制金を受領することができない,いつ返還請求されるかどうか分からない状況で受領するということにもなるわけでございます。   逆に,返還請求することができないということになりますと,間接強制の決定があると,間接強制の決定に従って支払った者は返還請求をすることができないということになるわけですが,決定があるにもかかわらず支払わなかったという人の方が,かえって得をしてしまうということになってしまうのではないか,決定に従って払った人が逆に損をしてしまうというのはどうかというような問題もあろうかと思います。   そもそも申立て時までさかのぼるというようなことのほかに,更にその前までさかのぼるということになりますと,申立てをしようと思えばできたにもかかわらずこれをしなかった者を,本当に保護する必要があるのかどうかという点も問題になろうかと思います。   また,例えば,資力要件を欠くような状況になったのは今から10年前ですとか,かなり昔の時点にまでさかのぼって主張された場合に,一体どこまでさかのぼるのかといったような問題もあろうかと思います。そういった点を含めまして,この点について,取消しの効力が及ぶ範囲について,御議論いただければと考えております。   (4),(5)につきましては,前回の部会資料と変わっておりません。   また,将来分につきましても,資料につきましては前回の分と変わっておりません。1年又は6か月ということでいろいろな考え方があり得ようかと思いますので,この辺につきましても御議論いただければというように考えております。 ● それでは,資料の説明の続きといたしまして,今日席上配布資料として家庭局の方から,「履行命令の実情」と「金銭債務に関する履行勧告の実情」の資料が出ておりますので,これを○○関係官から御説明をお願いしたいと思います。 ● 前回の御審議におきまして,履行命令の統計についての提供の御要望があったというように聞きましたので,資料を準備させていただいた次第でございます。   まず,資料1は履行命令件数について,制度創設後の事件数の動向であります。   この数値は,履行命令事件の既済件数であり,履行命令の対象は,対象となるもの全部,すなわち金銭の支払その他の財産上の給付を目的とする義務の履行を含んだ数字でございます。したがいまして,金銭給付だけに限定されたものでも,扶養義務だけに限定されたものでもございません。   履行命令制度は,昭和31年の7月1日から施行されたものでございます。翌32年から既済件数は増えておりますが,その後減少し,最近では年間50件程度で推移しているところでございます。   また,既済の内訳はそこの表にございますとおり,ここ数年は取下げその他の部分が多くなっております。   次に,資料2の関係でございますが,これは金銭債務に関する履行勧告の実情を紹介したものでございます。実務上,履行命令の前に履行勧告が行われているということから,この履行勧告の実情についても参考までに御紹介させていただきたいと思います。   資料2は,いずれも金銭債務に関する履行勧告についての数字でありまして,この件数も既済件数であり,金銭債務について限定はしておりますが,扶養義務に限定しているものではございません。   まず,表1は履行勧告がされた件数の最近10年間の推移でございます。先ほどの資料1の履行命令の数と比べると,かなり多い件数になっておりまして,その件数自体も年を追うごとに増えているという状況でございます。   表2は,履行勧告を行った後の履行状況について整理したものです。これは平成14年の数字でございますが,履行勧告の結果,全部又は一部が履行されたことが明らかなものが,両方合計して約55%になっている,履行されていないもの--その他というのは履行されたかどうか明らかでないというものも含んでおりますけれども,それが約45%となっております。   表3は,平成14年の全部の履行がされなかったものについて,権利者の意向を整理したものでありまして,その内容はしばらく様子を見るというものが最も多く,約70%となっており,次いで強制執行の申立てをするとするものが約16%となっております。以上でございます。 ● これについての御質問は,審議の中でお願いしたいと思います。   続いて,部会資料につきまして議論をしていただきたいと思いますけれども,重点は先ほど○○幹事から御説明がありましたように,間接強制金をどうするかということ,それから取消しの効力の及ぶ範囲をどうするか,さらには最後のところの将来分の定期金の範囲というようなことになるかと思いますが,それに限らず御議論いただきたいと思います。   これまでの部会の審議では,こういう制度そのものを設けることはどうかという点についてももちろん御議論がありまして,非常に慎重にすべきだという考え方と,いや,この際扶養義務については大事だから,この間接強制を導入すべきだという意見とありまして,どちらかというと,この制度を設けることが望ましいという意見の方が多数であったと思います。そういうことを前提といたしまして,今のような点を御議論いただきたいと思います。これがクリアできなければ,やはり駄目だということになる,そこのところはまだ我々の前にオープンでございますので,自由に今日は御議論いただきたいと思います。   最初に,○○委員の方から席上配布資料をいただいておりますので,まずこの御説明からお願いしたいと思います。 ● 前回の部会でも○○委員のペーパーを提出させていただいて,こちらの意見を述べさせていただきましたので,また繰り返しになるのは誠に恐縮ですけれども,もう一度述べさせていただきたいと思います。   その後も弁護士会内でいろいろ議論がありまして,その結果も踏まえてペーパーを作成いたしました。   1と2については,前回述べたことですので省略させていただきます。   3ですけれども,この履行命令制度との関係というのをもう一度考えていただきたいということです。履行命令制度は,一種の間接強制であるということは従前から指摘されているとおりですけれども,そして「相当と認めるときは」という要件があって,その中身についてはここに書いてありますような義務の不履行の程度,理由,履行能力,生活状況,健康状態等を考慮した上で発せられるとなっておりまして,これがこの債務の特性,人間関係債務といいますか,家族関係債務といいますか,そういうものの特性,あるいは,さらには間接強制の従来言われている補充性というものを考慮したものではないかと思うわけです。   ということで,この現在の法制度というのは扶養料等の履行強制,間接強制は,この要件のもとに履行勧告,履行命令で行うというようにしているわけでありまして,これとは別の要件で民事執行法の間接強制の対象とするというのは,この従前からある法制度の趣旨に反するといますか,整合性を欠くのではないか,こういう指摘があるわけです。したがって,本来,この履行命令制度,一種の間接強制であるとされている履行命令制度の改善としてされるべきではないかと。少なくとも,この制度を経てもなお履行ができないという場合にやるのでなければ,現在この制度として運営されてきている履行命令制度という,家事審判法に規定されたこの制度を無視することになるのではないかというように考えられるわけなので,その点はもう一度御考慮いただきたいということです。   次に4は,間接強制を金銭債務について導入する場合の問題点をもう一度認識していただきたいということで,①は従来言われている補充性,この議論は当然念頭に置かなければいけないということです。②は,従前から申し上げている不合理な結果をもたらすということです。   確かに,心理的に強制して払わせるというのは,一つの仕組みとしてその目的は正しいと思えるわけですけれども,それで結果がすぐに実現すれば,恐らくその制度はそれで合理的な制度として働くのでしょうけれども,しかし,債務者が支払わなかったり支払えなかったりした場合に,今も指摘がありましたけれども,本来の債務の数倍とか数十倍とか数百倍とか,あるいは際限のない金額に膨れ上がるという,こういう結果があるわけで,これは非常に不合理な結果なので,そういう段階で更に間接強制金を課していく,つまり払わないのに更に課していくというのは,制度として無意味ではないかというように思われるわけです。そして,債務者にとって過酷な結果をもたらしますし,債権者がそういう莫大な--莫大なといいますか,多くの金額を取得する根拠というものもあるのかという問題もありますし,それから利息制限法や出資法の趣旨に照らして,公序良俗に反するというような議論もあり得るし,それから違約罰ということを考えますと,やはり違約の内容との均衡もとれなければいけないということで,この辺の問題意識は共通にできるのではないかと思うのですけれども,そういうことからいって5に書きましたように,資力の要件はもちろん重要ですけれども,その上限を何とか設けられないか,それから不合理な結果を除去するという手当ても必要ではないかということです。   この上限で括弧書きに書きましたのは,現行の民事執行法172条1項が,遅延の期間に応じて間接強制金を課すという方法をとっていますから,それに応じた上限となれば,率の上限。それから,もう一つの方法として,一定期間内に履行しないときには一定の金額を支払うことを命ずることができるという方法による強制というのが規定されておりますので,そういう場合はもともとの債務との関係で何倍,どの程度であればいいかという決め方が必要ではないかということです。   それで,このたたき台に即して(1)の(注2)について,一つの案でございますけれども,最初にここにかぎ括弧で書きましたような,債権者の受ける損害,あるいは不履行の態様,履行の難易,不履行継続による債務者の利益等を考慮するという172条1項の「相当と認める」というその判断の考慮要素というのを法文に書くことによって,一つのそういう歯止めがかかるといいますか,合理的な判断を保障することになるのではないかと。そして,上限を画 するという意味で,ただし書ということでこういった書き方があり得るのかなと。この率とか倍率を考える場合は,先ほど来御紹介のありました民事法定利率とか利息制限法とか,出資法の規定というものを一応参考にされるべきではないかと思います。   最後に,この取消しの効力の問題で,今,○○幹事からの御説明があった件ですけれども,これは私は前から申しているように,事情が生じた時期にさかのぼるべきだと。つまり,資力要件がなかったというのに間接強制金を課したという結果になっているということが分かったことになるわけなので,その場合については当然そういう間接強制金がなくなる措置をとるべきではないかと思うわけです。   既に支払っている場合というのは,通常は資力があったということになると思いますので,取り消されない,返還を求めることはないということになると思うのですが,特別の場合で無理をして,例えば,サラ金から金を借りて支払った,本当は何も資力がなかったというような場合には,本来の債務の支払が実現されているのであれば,取り消して返還をするということも理屈としてあっていいのではないかと思います。   それから,米印の部分は,この間接強制を取り下げた場合にはどうなるのか,これもちょっとお考えをお聞かせいただければということです。 ● それでは,御意見を承りたいと思います。どうぞ御自由にお願いいたします。 ● 今,家庭局から資料が出たので,これを見ますと家事審判法が施行されてから,急激な10年ぐらいで履行命令の既済,申立てもでしょうけれども,結局減っていると。そして更に,命令が出る率が多かったにもかかわらず,このあたりになるとだんだん少なくなっている。だから,逆から言えば,ひょっとしたらこのあたりの履行命令の使い方とか,そういうことについて何かこのような結果が生ずる理由が……。例えば,これほど急激に変わるわけですから,調査されていると思うので,そのあたりを明らかにしていただきたいと思います。 ● 申し訳ございませんが,減少した理由についてきちんと調査しているところがございません。   それで,一般的に言われていることとして若干御紹介いたしますと,やはり昭和30年代は制度がスタートした当初なので,いろいろ履行勧告と一緒に履行確保制度としてスタートしたところでありますので,それが履行勧告の活用という状況が一方であって,それとの兼ね合いで履行命令の方の利用が少なくなってきているのではないかというようなことを指摘するところはございます。   それから,他方で一般的に履行命令が余り利用されていない理由として言われているところでは,これも当事者の意識の問題ですので正確な情報としてあるわけではありませんけれども,一つには履行命令における過料の額が低額で,強制力として十分ではないといったことや,履行勧告でそれなりに精一杯のことはやっているというようなことから,履行勧告をした上でもなおこれが奏効しなかった場合には,やはりもう強制執行にいくしかないというように当事者の方で選択されているのではないかといったことが言われているかと思います。 ● それとの関連で,今度は「履行勧告がなされたが全部履行されなかったものについての権利者の意向」というのが表3でありますが,これについて,しばらく様子を見るというのは,当事者が資力や何か考えてこういうのが出ているのかどうか,履行勧告まで出てこういう結果というのは。そのあたりはどうなのでしょうか。 ● この統計でとっているのはこういった項目まででございますので,しばらく様子を見ることとなった動機が,そこまではちょっと正確に把握はしておりません。   もちろん,この履行勧告の過程で,双方の事情をいろいろ聞いた上で,調整しながら進めていきますので,その中で資力がないような,実際上はなかなか払えないのだなというような事情で,しばらく様子を見るかというような例は,中にはあろうかと思います。 ● 家庭局の方で,今のような御指摘を踏まえて,もう少し調査をしていただくということは可能でしょうか。 ● 調査というと,どういった点の調査になるのでしょうか。 ● 履行勧告につきましてはその後の履行状況等が出ていますけれども,履行命令についてはどうなのかとか,履行命令後についてはどうかとか,そういうようなことは調査はできるのでしょうか,できないのでしょうか。 ● 履行命令が出た後の状況というのは,払われたか払われてないかとか,そういったようなことでしょうか。   結局,裁判一般に共通する話かと思いますが,裁判をした後の状況の調査ということになりますと,当然,当事者の協力の問題などかあるかと思いますので,ちょっと今この場でどういったことが可能かということはお答えできないかと思いますけれども,また少し考えさせていただきたいと思います。 ● ほかに何かございますでしょうか。 ● 間接強制金の額の件ですがよろしいでしょうか。   この資料にも,それから○○委員御提出のものにもありますように,額を決定する際に,ここに掲げてあるような要素を考慮して定めると,相当な額を定めるというのは,これは当然のことかと思いますが,それにつけ加えて,上限を法律上定めるということについて,○○委員の先ほどの御説明ではそういうことを考えるべきであるという御意見がございましたけれども,私はそこはちょっとどうかというように疑問を持つ次第であります。   もちろん,裁判所が実際に定める際に,○○委員の御提出の資料にありますような利息制限法だとか出資法だとか等のことについても考慮に入れること自体は決して不合理なことではありませんし,またそれも重要な判断要素かと思いますが,例えば,民事法定利率というもので法律上の上限とするというということになりますと,これは金銭債務一般の不履行についてのものでありますから,これが上限になるというのは,なぜそれが間接強制の強制金の上限として法定されるのかということに関しては,必ずしも合理的説明にならないと思いますし,実際上も,場合によっては実効性が乏しいとか,硬直化したものになるとか,そういうことがあるかと思います。   それから,利息制限法ですとか出資法の,これも運用上の判断材料とすることはともかくとして,趣旨としてはやはり利息も含めて契約自由の原則があって,しかしそれをあるけれども債務者の困窮につけ込んで高利をとることがおかしいという政策判断で法制度として設けられているものですから,これを法律上の間接強制金の上限とするということも,やはり問題があるのではないかと。   そういたしますと,今言ったような法律上の各種の制限だとか,あるいは,資料に掲げてありますような実質的な考慮要素,こういったものを踏まえて,裁判所が相当な間接強制金の額を決定するという制度が一番合理的ではないかと思います。 ● この扶養的な金銭債務について間接強制をかける,それで効果があるということですので,その前提に立って考えますが,判決,審判等で決まる場合,恐らく多くは毎月25日限り10万円を支払えみたいな形になるだろうと思います。それについて間接強制をかけるというのは比較的今までのこのスキームで大体分かってきたのですが,和解・調停との関係をどうするかという点をちょっと考えてもらえないかなという気がしているのです。こういうペナルティーを課すことが,任意の履行につながりますよということをいわば立法でメッセージするわけですから,そうすると債権者の方としても和解・調停の場合に,事前にペナルティー的なものを決めてくださいという要求が出てくるだろうと思うのです。   それから,債務名義を作る和解を担当する裁判官,あるいは調停委員会,そこでもこれが任意の履行を促す意味合いを,ペナルティーを課することが意味を持つということになりますと,様々な形で和解条項,あるいは調停条項の中で工夫をするのではないか。例えば,期日に支払わなかったときには年10%の割合による遅延損害金を付加して支払います,あるいは,扶養料は9万円だけれども,期日に任意の履行をしなかったときは1万円を付加して支払います,あるいは,扶養料は10万円だけれども,期日までに任意に9万円以上の額を支払ったときには,当該支払った額をもって扶養料とする,こういう合意も考えられるかもしれない。そういう様々な工夫をしてくる例が出てくるのではないか。   その場合に,この間接強制との関係はどうなるか。恐らくは,和解条項あるいは調停条項の中で約束された扶養義務分はどれかというのを探すのだろうと思うのですね,そうすると10万円であるとか9万円であるとか分かるわけですね。それについて間接強制を課するのだよと,こういうことに,今の条文だとそういうことになってきそうだと思うのです。   ただ,考えてみると,債務名義を作る段階と,それから間接強制をかける段階で,どちらがどういう事項を判断できるかということを考えてみますと,恐らく調停条項を作る場合,和解条項を作る場合というのは双方の収入金額が幾らで,それから,例えば,ローンがあって月々幾らで,いつまでの支払期限があって,それから子供の就学状況がどうなってと,こういうのは大抵は把握している中で和解条項が作られる。間接強制の方になると,これはここでいろいろな支払と,それによる損害とかいろいろ考慮要素を作るのだけれども,余り多くの情報を把握できずに間接強制金を定めることになるのではないかという気がしまして,それとこれとは違う,約束ですからね,違うことは非常によく分かるのだけれども,そういう点を考えてみると,任意の履行を目指して違約の場合の違約金等を定めている場合には,間接強制に御遠慮いただく部分があってもいいのではないかと。ただそれは,扶養料の債権というのは将来に長くつながる問題もあるでしょうから,和解をするとき,あるいは調停をするときに,将来分まで全部見越してというのは無理かもしれない。一定の,例えば,3年とか5年とか,そういう期間は当然予測した上で違約の合意をしているのであれば,その期間は,例えば,3年間とか5年間,そういう違約の約束がある債務名義については,この間接強制の申立てをすることができないとするか,何かそういったような形の工夫の仕方というのはないのだろうかということを考えるのですが,いかがでしょうか。 ● ほかにいかがでしょうか。 ● 今のお話を伺っていてちょっと思ったことなのですが,そのような債務名義の場合,その債務名義に基づく直接強制はどうなるのでしょうか。できないということになるのでしょうか。   今のような,例えば,10万円なんだけれども9万円まで払ったら残りの額は払わなくていいというような和解あるいは調停条項ができたときに,直接強制はできるわけですね,それで。 ● 10万円について,できるのでしょうね。大きい方の額に。不履行になっていますから。 ● そういう工夫があった場合に,間接強制は控えるべきであるというお話でしたが,直接強制はできるという前提ですか。 ● もちろん,そうです。 ● 今,額の問題と,それから調停や和解の場合の債務名義の場合に間接強制が一定期間できないというお考えが示されましたけれども,取消しの遡及効につきまして何か御意見があれば承りたいと思っておりますが。 ● 同じような問題は,審判での扶養料の支払を命ずる審判を将来事情の変更によって変更するということがあるわけですが,その場合も遡及効でもって先の審判の効力を変更するというようなことは,私の理解が間違っていれば別ですが,考えていなかったのだろうと思うのですね。そうすると,その場合にも同じように扶養義務者の資力というのが変更の一つの重要なファクターであり,その場合には減額をするわけですが,なぜこの場合に限って遡及効があるのかというのは,なかなか説明が……。同じような考慮に基づく制度でなぜ遡及効を認めるということになるのか,認めるとしたら,それについて何かもっと積極的な理由が必要なのではないかなという印象を持っております。   それから,少なくとも申立て時にさかのぼるというような議論も考えられなくはないのですが,執行停止制度というのをそのために一応設けていること,原案では出ているわけでして,それに加えてというあたりがまたもう一つ,やはり何かもう少し理論武装が必要なのかなという印象を持っております。 ● 幼稚な質問で恐縮なんですが,今の取消しの関係で,執行債権額の返還を認めるとした場合に,本来の執行債権額相当額も返還するという前提で議論になっているのか,それともそれはもう充当だか相殺だかでなくなって,余分に取った分について返せという問題なのか,どちらなんでしょうか。 ● 間接強制金についてと。本来の債務は,当然,それは返還は必要ないということです。 ● 結論としては○○幹事と同じ結論です。やはり同じような状況に係る条文として,民事訴訟法117条があるのではないかと思うのですが,定期金で給付を納めていたのを事情変更によって裁判所が事後的に変更すると,そして,たしかこの民事訴訟法を立法する際に,基準時をどこにするかということはかなり議論がされたのではないかというように承知しておりますが,最終的に変更の訴えの提起日以後に支払期限が到来するというところに限定したのは,それが遡及するということに,事情変更があった時点に遡及するということにしてしまうと,やはり法的安定性を害すると。既に本来的には請求権が発生しているのにもかかわらず,それを変更してしまうというのは,当事者間の権利関係の安定を害するということであったというように承知しておりますので,同じような考慮はやはりここにも働くのではないかと。やはり遡及するとしても,この取消しの申立ての時点が限度になるのではなかろうかというように考えます。そして,そうだとすれば,まさに○○幹事がおっしゃったとおり,執行停止の制度を作ることとの関係がどうなるのだろうということがやや疑問になるということであります。 ● 今の○○幹事と○○幹事がおっしゃられた論点ですけれども,やはり本来的に実体法上ある債務と,この間接強制金というのはやはり違うというように考えているわけです。間接強制金それ自体は,さっきも述べましたようにそれ自体を債権者が取得する利益といいますか,理由はないわけなので,それはやはりそういう不合理状態を解消するという,別の考慮でなしにするということはあっていいのではないかということなんですが。 ● それを言ってしまうと,もう間接強制制度のすべてが……。私人に間接強制金を受け取るという権限を与えていることの根幹がもう間違っているということになりかねませんので,ほかの現行法上の間接強制について,これは全く不合理な制度だと言っているのに等しいように私はお伺いしました。   それ以外に,なぜ受け取る根拠がないかというと,私は必ずしもそうではないというように,扶養料の場合については特に間接強制金を受け取る根拠がないとは言えないというように考えております。というのは,基本的にこの扶養料というのは,正に扶養権利者の生活保障としての意味合いを持っているわけでして,それを遅延があった場合における損害というのを法定利息でくみ尽くせるようなものでは私はないと思います。ですから,この点については○○幹事が先ほどおっしゃったとおりだというように考えております。   したがいまして,やはりこれは扶養料を支払えないことによって,人によっていろいろですが,非常に困窮して,金銭には換算できないような損害を受けるというような扶養権利者も当然いるわけですので,そういうことを考えると,受け取る根拠がないというように軽々には言えないのではないかなと考えております。 ● ほかにいかがでしょうか。 ● 今のお話でいきますと,例えば,間接強制を扶養義務について導入する場合,今まで履行勧告や履行命令があって,審判でなされたものも事情の変更でという制度が全部あるわけですよね。それと同じようにするのだったら,今回間接強制入れる理由がなくて,特に扶養義務について間接強制だったら,それなりの新しい工夫をすべきであって,扶養料について,先ほどの履行命令とか履行勧告の時代ごとの流れも把握した上でいけばよろしいので,結局何か間接強制を金銭債務について何でも導入するという前提で今の意見が出ているとすると,今回の法改正の方向とは違うのではないか,やはり独自に考えるべきではないかと思っております。 ● 今の論点は非常に重要だと思います。非常に的外れなことなのですけれども,一般の金銭債務だけではなくて,正しく扶養義務にかかったところだというところで間接強制をとるかという議論をしたと理解しています。それで,○○委員の例で,資力要件を欠くのに間接強制金を課したまま放置することは妥当ではないから,さかのぼることを考えるべきだというお話だと思っているのですけれども,文脈からいくと,本当に執行停止も含めて,それから間接強制で資力がないということについて,要するに債務者が立証するということのところで,最初でやる,そして特段の事情が変更したというときには,当然そういう手続がとられて,むしろそのまま何もしないで放置されたというのを考えると,ちょっと私素人ですから何なんですけれども,ちょっと余り考えづらいのですが。 ● 私は,扶養料に限ってこういうことを導入すべきだと申し上げているつもりでしたので,仮に○○委員の御発言が私を名あて人とされているのだったら,ちょっと全く誤解に基づくものではないのかなという気がいたします。   前回,○○関係官からお話があったと思いますが,欧州の一部の諸国では,国が扶養料を立替払いして,国税徴収法に相当するような手続で国が扶養義務者に対して求償権を行使していくというような仕組みがとられているわけです。それはなぜかというと,これは特に未成年の子供の扶養料が中心だと思うのですが,これはやはり未成年の子供が権利者である扶養料債権は,単なる私的な債権ではもはやないのだと,つまり子供を育てていくことは国の宝を育てていくことだという思想があるのだろうと思うのですね。年金がこんなに危ない時代ですから子供をしっかり育てていただかないと困るわけでありまして--今のは冗談ですが--やはり扶養料債権というのはとりわけ未成年者の扶養料債権というのはそれだけ強い意味合いを持っているというのは多くの国で認められているわけでして,私はそういうことを根拠にして,今回扶養料に限って,間接強制を金銭債権の中でもそれに限って導入すべきだというように考えております。   それと,もちろん扶養権利者の生活保障ということが重要であるというのはもちろんですし,その考え方は,以前にも申し上げたかもしれませんが,今年の9月に法制審議会で決定された破産法等の改正要綱においても,扶養料債権というのは非免責債権だとされているということが,そういうことで全法秩序的にもそういう方向に動いているのだろうというように考えております。 ● 大変申し訳ございません,また発言をなさりたい方がいらっしゃると思います。私の司会が不手際で,前半にちょっと時間をとり過ぎまして,この大事な問題,また議論が尽くされていないという認識でございますけれども,当部会に与えられている検討時間がそんなにたくさん残っているわけではございません。それで,事務当局に私の方からお願いしたいわけでございますけれども,今日ちょうだいいたしましたいろいろな御意見を踏まえまして,およそどんな案が考えられるかということを検討した上で,できれば委員・幹事に個別的に御連絡をして御意見をいただくというようなことも含めて検討していただきまして,次回にこれを取りまとめさせていただくということにさせていただきたいと思いますが,事務当局にはそういうことをお願いしまして,そういうことで今日はよろしゅうございますでしょうか。--それでは,そのようにさせていただきます。   では,次回の部会について事務当局の方から御連絡をお願いいたします。 ● 次回でございますけれども,来年につきましては1月9日を予備日という形で設定しておりましたけれども,1月9日につきましては開催しないというようにさせていただきたいと思います。したがいまして,次回は1月16日でございます。場所は今日と同じく法曹会館でございますが,開始時間がいつもと違いまして2時半からとなっておりますので,御留意のほどお願いいたしたいと思います。   次回は要綱案の取りまとめに向けまして,本日までの議論も踏まえまして事務担当者としての素案というものをお示ししたいというように思っておりますので,よろしくお願いいたします。 ● それでは,本日の部会はこれにて終了いたします。どうもありがとうございました。 -了-