法制審議会 少年法・刑事法 (少年年齢・犯罪者処遇関係)部会 第1分科会第2回会議 議事録 第1 日 時  平成29年10月17日(火)   自 午前9時59分                          至 午後0時02分 第2 場 所  法務省1階東京保護観察所会議室 第3 議 題  1 自由刑の在り方について         2 社会内処遇に必要な期間の確保について         3 若年受刑者に対する処遇原則の明確化,若年受刑者を対象とする処遇内           容の充実,少年院受刑の対象範囲及び若年受刑者に対する処遇調査の充           実について         4 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○隄幹事 それでは,予定の時刻になりましたので,ただいまから法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会第1分科会の第2回会議を開催いたします。 ○佐伯分科会長 本日は御多忙のところ,お集まりいただきましてありがとうございます。   本日,福島幹事におかれましては,所用のため欠席されておりますので,福島幹事に代わり,吉田幹事に御出席をお願いしています。どうぞよろしくお願いいたします。   次に,事務当局から,資料について説明をお願いいたします。 ○隄幹事 本日,資料として,配布資料5「受刑者に対する処遇について」,配布資料6「社会内処遇に必要な期間の確保(検討項目案)」,配布資料7「統計資料2(刑の一部の執行猶予に関するもの)」,配布資料8「統計資料3(仮釈放に関するもの)」,配布資料9「若年受刑者に対する処遇原則の明確化,若年受刑者を対象とする処遇内容の充実,少年院受刑の対象範囲及び若年受刑者に対する処遇調査の充実(検討項目案)」を配布しております。   これらの資料は,ファイルにとじずに平積みしています。配布資料の不足がある方はいらっしゃいますでしょうか。   配布資料5につきましては,自由刑の在り方及び処遇内容の充実等の検討の前提として,現状を把握しておくことが有益と考えられることから,受刑者に対する矯正処遇などについてまとめたものであり,大橋幹事から御説明いたします。   なお,配布資料6から9までについては,後ほど意見交換の際に御説明いたします。 ○大橋幹事 それでは,お手元の配布資料5について御説明を申し上げます。   1ページ目,まず,「懲役受刑者・禁錮受刑者の処遇について」の左側,「懲役受刑者・禁錮受刑者の収容状況」を御覧ください。   平成28年の新禁錮受刑者数及び平成28年末の禁錮受刑者の収容人員については,前回御説明をしましたとおり,懲役受刑者と比べて少数にとどまっているのが実情でございます。「新禁錮受刑者の罪名」は,そこにありますとおり,重過失致死傷1人,自動車運転過失致死傷55人となっております。   続いて,平成28年末の「禁錮受刑者の刑期別人員」を御覧ください。   刑期については,1年を超え3年以下の者が全体の68%を占めております。懲役受刑者に比べて禁錮受刑者は,比較的軽い刑期のものが多いといえます。   次に,「新禁錮受刑者の年齢別人員」を御覧ください。   全年齢のうち,30歳未満の者は20人で全体の36%を占める一方,65歳以上の者は5人で9%にとどまっております。新懲役受刑者と比べますと,新禁錮受刑者につきましては,30歳未満の若年層が比較的多いといえます。   続いて,右側の「矯正処遇の実施状況」を御覧ください。   禁錮受刑者は,作業の義務はありませんが,平成29年7月末日現在で87.3%が作業に従事しております。禁錮受刑者の行っている作業の内容につきましては,懲役受刑者の内容と大きな差はございません。懲役受刑者について,就業していない者が7.4%おりますが,これは,閉居罰執行中,休養中,保護室収容中などの理由により,この日就業していなかった者でございます。   刑事収容施設法上,禁錮受刑者と懲役受刑者は,互いに分離して処遇することとされておりますが,分離を行わないことが適当と認められる場合には,居室外に限り分離を行わないことができるとされておりまして,同じ工場で作業を行うこともございます。   また,禁錮受刑者が作業に従事した場合には,作業報奨金が支給されるほか,作業上,死亡・負傷するなどした場合には,所定の手当金が支給されることになります。支給の基準等は,懲役受刑者と同一でございます。   続いて,一番右側の「特別改善指導の実施状況」を御覧ください。   平成28年に出所した禁錮受刑者に対する特別改善指導の実施状況につきましては,大部分が交通関係事犯により収容されておりますので,主として交通安全指導と被害者の視点を取り入れた教育が実施されております。また,「その他の処遇の実施状況」に関して,施設内で使用できる物品の内容や医療,外部交通については,懲役受刑者と差異はございません。   続いて,2ページを御覧ください。   ここでは,禁錮受刑者を比較的多数収容している市原刑務所の処遇の概要を説明いたします。市原刑務所は,収容を確保するために通常必要とされる外塀等の設備が設けられていない我が国を代表する開放的施設でもあります。   資料の左側を御覧ください。   市原刑務所は,交通事犯をじゃっ起した執行刑期4年未満の成人受刑者を収容する施設でございまして,かつ,心身に著しい故障がなく,早期に開放的処遇が可能と見込まれる受刑者が収容されております。   本年9月1日現在で,収容定員500人のところ,収容現員は188人,収容率は38%となっており,収容現員の内訳は,懲役受刑者151人,禁錮受刑者37人となっております。   市原刑務所では,受刑者は,刑期の大半を準開放寮及び開放寮と呼ばれる居室で集団生活をすることになりますが,禁錮受刑者は特定の区画に集めることとして,懲役受刑者の居室と分離しております。   他方で,準開放寮及び開放寮につきましては,お風呂,トイレが共用であり,また,図書室,談話室などが設けられております。ここでは刑名により使用時間帯に差異を設けるなどの取扱いは行ってはおりません。   最後に,左側下段の「処遇上の差異等」につきまして御説明申し上げます。   禁錮受刑者についても作業に従事することが前提とされておりまして,工場や改善指導についても刑名による区別はしておりませんので,先ほど申し上げた居室スペースの部分を除き,差異はございません。   なお,禁錮受刑者が作業することを希望しない場合におきましては,市原刑務所での処遇になじまないものと考えられますので,他の施設に移送することとしております。   資料の右側に,「市原刑務所における処遇の段階と収容居室」が記載されておりますので,御確認ください。   続いて3ページ,「少年刑務所における処遇について」を御説明申し上げます。   少年刑務所の処遇については,本部会の第3回会議において,東京矯正管区第二部長から概要を説明しておりますので,内容が重複する点は御容赦願います。   まず,少年刑務所は,全国に6施設,北から函館,盛岡,川越,松本,姫路及び佐賀に設置されておりまして,少年受刑者又は26歳未満の成人受刑者を収容しております。   これら6施設の収容状況について,中段に記載しておりますが,新たに確定する少年受刑者が少数であることもあり,少年刑務所に収容されている少年受刑者はごく少数にとどまっているのが実情でございます。   また,26歳未満のY指標受刑者の収容割合は,施設ごとに差異がございます。   少年刑務所には,J・Y指標以外の受刑者が収容されておりますが,これは年齢が26歳に達した場合であっても,矯正処遇の連続性などの観点から引き続き同一の刑事施設において処遇することが適当と認められる場合があること等によるものです。   続いて,「少年刑務所における特色のある矯正処遇の例」といたしまして,御承知のとおり,少年受刑者につきましては,その特性に応じた処遇として,個別担任制,矯正処遇の実施に関する配慮,家族関係の維持及び改善,学習機会の付与を行っているところでございます。また,函館,川越及び佐賀の各少年刑務所につきましては,総合職業訓練施設に指定されておりまして,全国から適格者を集めて,専門的な職業訓練を実施しております。   さらに,松本及び盛岡の各少年刑務所におきましては,近隣の高等学校の協力の下,高等学校の通信制課程に受刑者を編入させる取組を行っているほか,松本少年刑務所におきましては,地元の中学校の分校が設置されておりまして,1年間の中学校教育が実施されております。   右側下段に,川越少年刑務所における少年受刑者処遇の内容が記載されておりますが,本部会の第3回のヒアリングで触れられておりますので,説明を省略いたします。   続いて,4ページを御覧ください。   「高齢受刑者・障害のある受刑者に対する処遇について」を御説明申し上げます。   最初に,資料の左側に記載の「高齢受刑者の収容状況」について御説明いたします。   御承知のとおり,刑事施設に収容されている受刑者は,全体的に減少傾向が続いておりまして,60歳以上の年末収容人員についても平成22年をピークに減少しておりますが,その減り方が相対的に少ないということから,全受刑者に占める割合は一貫して上昇しており,平成28年の年末収容人員では,全体の19%が60歳以上になっております。   また,65歳以上の新受刑者数につきましては,人員,割合ともに上昇傾向が続いており,平成28年については,全体に占める割合が12.2%となっております。   続いて,資料の右側の「精神障害等のある受刑者の収容状況」を御覧ください。   新受刑者のうち,精神障害等があると診断された者の数は,人員・割合ともに上昇傾向にございまして,平成28年については,全体に占める割合が14.3%となっております。   なお,統合失調症,発達障害,覚醒剤後遺症等は,「その他の精神障害」に含まれております。   続いて,高齢受刑者又は障害のある受刑者に対する処遇について,具体的に採られている措置等の内容の説明を申し上げます。   5ページの上段を御覧ください。刑事施設では,個々の受刑者の状況に応じて適切な処遇を行えるよう,環境整備や日常生活上の配慮を行っております。   資料の左側の「特殊性を踏まえた処遇の実施」の欄を御覧ください。   身体機能の低下等により,一般の受刑者の生活行動についていけない受刑者につきましては,これらの受刑者から構成される集団を編成し,刑務作業の時間を短縮したり,軽作業を行わせたりしております。   また,日常生活に介助等が必要であり,作業を実施することが困難な受刑者につきましては,刑事施設の病棟に収容したり,病状に応じて医療刑務所に収容して,必要な医療上の措置を行っております。   資料の右側,社会復帰の欄でございますけれども,高齢受刑者や障害のある受刑者につきましては,社会復帰に向けて必要な支援や指導を在所中から実施していくことが重要となるところ,刑事施設に社会福祉士等の専門スタッフを配置し,社会福祉関係機関の協力の下,健康管理の重要性や社会福祉制度等を理解させるための指導を行っております。   また,高齢又は障害を有する受刑者に対し,在所中から,社会福祉に関する知識や社会適応力を身に付けさせることを目的とした社会復帰支援指導プログラムを,拘置所等の一部の刑事施設を除いた全国の刑事施設において実施することとしております。   6ページでございますけれども,「刑務所PFI事業の概要について」を御説明申し上げます。   民間資金を利用したPFI手法を活用して運営する刑事施設として,平成19年4月に美祢社会復帰促進センターの運営を開始しまして,その後,同年10月に喜連川社会復帰促進センター及び播磨社会復帰促進センター,同20年10月に島根あさひ社会復帰促進センターの運営を開始しております。   いずれのPFI事業におきましても,どのような受刑者を収容対象とするかにつきましては,事業契約で定められており,収容開始時の年齢については,美祢社会復帰促進センター及び島根あさひ社会復帰促進センターにつきましては20歳以上,喜連川社会復帰促進センター及び播磨社会復帰促進センターにつきましては26歳以上とされております。   これらの施設では,一般の刑事施設とは異なる特色のある処遇も行われておりますので,その概要を紹介致します。   資料の下段を御覧ください。   職業訓練等につきましては,民間事業者の提案により,多様な種目が行われており,全受刑者が受講する訓練として,ビジネスマナーを習得させるビジネススキル科,パソコンの初歩的技術の習得を行わせる情報処理技術科などが行われております。   各種の教育プログラムにつきましては,認知行動療法に基づくものとして,回復共同体プログラムや反犯罪性思考プログラムなどが実施されております。   そのほか,島根あさひ社会復帰促進センターでは,盲導犬パピー育成プログラムなど動物介在療法なども導入をされております。   配布資料5の説明は,以上のとおりでございます。 ○佐伯分科会長 ただいまの御説明につきまして,何か御質問等ございますでしょうか。 (質問等なし)   それでは,審議に入りたいと思います。   初めに,本日の審議の進行についてですが,前回の会議では,論点表の大項目2に掲げられた四つの論点のうち,「刑の全部の執行猶予の在り方」と「自由刑の在り方」について,1巡目の意見交換を行いました。「自由刑の在り方」については,意見交換の途中で会議を終わりましたので,本日は,まず「自由刑の在り方」について,前回に引き続いて意見交換を行い,その後,「社会内処遇に必要な期間の確保」及び「若年受刑者に対する処遇原則の明確化,若年受刑者を対象とする処遇内容の充実,少年院受刑の対象範囲及び若年受刑者に対する処遇調査の充実」について意見交換を行いたいと思います。   ただし,論点相互に関係のある事項に及ぶ場合には,ほかの論点に関して,適宜御発言をいただいてよろしいかと思います。   それでは,「自由刑の在り方」についての意見交換を行いたいと思います。   前回配布いたしました配布資料4の「自由刑の在り方(検討項目案)」を再度配布しております。本日は,前回に引き続きまして,この配布資料4に記載されている二つ目の検討項目である「自由刑を一本化した場合の処遇内容をどのようにすべきか」について意見交換を行いたいと思います。   前回は,加藤幹事から,作業や各種指導の意義や義務付けの必要性についての御意見があり,また,橋爪幹事からの御質問に対して,小玉幹事から,各種指導が義務付けられている根拠などの御説明があったところで時間となっておりますので,その続きから意見交換を行いたいと思います。   なお,この点に関連して,一つ目の検討項目である「懲役刑と禁錮刑を一本化すべきか」についての御意見を述べられても構いません。   御意見がある方は挙手をお願いいたします。 ○青木委員 作業をどう位置付けるかということに関してなんですけれども,懲役刑というのは,作業を言わば罰として,あるいは懲らしめとして行っている刑であるというのが,恐らく当初のものだったんだろうと思います。   そういう形で作業を捉えるとしますと,懲役刑と禁錮刑というのは,明らかに非難の程度が違っていて,禁錮刑の方については,作業という罰を与えない,その程度の非難に値する刑というような区別があったのだろうと思います。そういうことで,作業について,罰としてという捉え方をするのであれば,今後も懲役刑と禁錮刑というのは,別々に分かれた形で存在するべきなのだろうというふうに思います。   先ほど,交通事犯がほとんどだというお話でしたけれども,同じ過失であっても,悪質であるものについて,懲役刑が選択されているということだろうと思いますので,そういう区別がある限りは,懲役と禁錮という区別も存続することになるのではないかと思います。   一方で,では,今行われている作業というものが,懲らしめであったり,あるいは,正に罰として行われているかというと,実態としてはそうではなくて,世の中の一般の人が働いている形と同じような形で働いているという面もあるでしょうし,処遇の一環という側面が非常に強くなっているんだろうと思います。そのように捉えるとしますと,そういう形で懲役と禁錮というのを分けるという必要もないわけで,そこの差については,何らかの形で量刑上,配慮されるということで済むのだろうと思います。   欧米諸国は,そういう形で,拘禁刑という形で一本化しているというふうに,資料にも出ているかと思います。その上で,作業とその他の処遇について,各種指導をどのようなものとして捉えるべきかということについては,諸外国においてもいろいろあるようでして,作業について義務付けをしているところもあれば,フランスのように,何か一つやりなさいというものもあるようですし,作業は義務でないというところもあるようです。その組み方については,ちょっとまだ考えがまとまらないんですけれども,基本的に,どういう形で制度設計をすれば改善更生により資するか,社会復帰に役立つかということを考慮して決めるべきなのだろうと思います。   一つの考え方としては,今,刑収法がそのような形になってしまってはいますけれども,作業も,各種改善指導を受けることについても,少なくとも刑収法上の義務にはなっていて,義務違反があったら懲罰が科されるという形で,言わば懲罰で強制して行わせることができる制度になっているんだろうと思いますけれども,特に改善指導に関しては,本人がやる気がないところで,幾ら罰を与えて強制しても効果がないということは,いろいろなところに書かれてもいますし,実態もそうなっていて,現実に,違反があったからといって,懲罰ということにはなっていないようですので,そこも,むしろ法律を見直して,どちらかといえば,そういう懲罰で強制するという形ではなく,努力をすれば報われていくという形にすること,要するに,作業をして,改善指導を受けることが正当に評価されて,それがその後の,社会復帰が近付いてくるとか,あるいは報奨金が上がってくるとか,何らかの形で,本人にとってやる気が出る形を採って実施させるという方向というのも,十分検討する必要があるだろうと思いますし,そちらの方が,恐らく実際には,社会復帰に役立つのではないかというふうに考えております。 ○橋爪幹事 今の点に関連して,幾つか思うところを申し上げたいと存じます。   私も青木委員と同感でございまして,自由刑における作業とは,単に罰や苦役という観点から考えるべきではないと思います。飽くまでも作業とは,勤労精神や忍耐力を養って,あるいは共同作業への順応性を高めるという観点から,社会復帰や改善更生に向けられた処遇として,重要な意義を持つものとして位置付けるべきだと思います。   そして,刑罰の目的が,改善更生,社会復帰を図ることに求められる以上,各種指導と作業の両者を併用しながらこの目的を達成するということが,望ましい判断ではないかと考えます。   両者の関係につきましては,いろいろな制度設計の在り方があると思いますが,基本的には,両者がともに刑罰の内容を構成するとした上で,個別の受刑者ごとに好ましい形で両者を,あるいは片方を課していくという形式が適当ではないかと考えております。   問題は,先ほど青木委員からも問題提起がございましたけれども,これらを義務付けるべきかという点でございます。   結論から申しますと,やはりその重要な意義に鑑みますと,義務付けをすべきであると個人的には考えております。確かに受刑者の改善更生といったものは,本人の意欲がなければ実効性がないことはそのとおりでありますけれども,仮に受刑者が,俺はもう改善更生する気はないというときに,そうですか,それなら結構ですというわけにはいかないようにも思いますので,本人のためだけではなくて,社会全体の利益という観点から,犯罪者の改善更生・再犯防止を促し,これを義務付けるという観点について,更に今後検討すべきではないかと考えます。 ○今井委員 今の橋爪幹事と同じような意見を持っております。   先ほど青木委員のおっしゃったこと,私も総論として賛成でございまして,青木委員が御指摘になりましたように,従前は懲役と禁錮を分けていて,作業というのが懲らしめの意義があるというのがスタートだったと思います。それが応報であって,過去に行ったことに対する非難の伝達という意味もあったと思いますけれども,後半で青木委員もおっしゃっていましたが,現在では社会復帰,受刑者の特別予防,ひいては一般予防ということが,刑罰を執行していく大きな目的となっておりますので,懲らしめというよりは,社会に戻ったときのために役立つべくどういうことをするか,処遇という言葉を青木委員もおっしゃっておりましたけれども,広く処遇とはどういうことであるべきかを考えて,整理をしていくのがよろしいかと思います。   そうしますと,橋爪幹事もおっしゃっておりましたが,作業と指導というものをまずは大きな処遇という観点で見て,個別に,どの人には何が適切かということを振り分けていくというふうな考え方がよいのではないかと思います。   それから,青木委員がおっしゃっていた,本人が今日は処遇を受ける気がないと,あるいは一切受ける気がないといったとき,どうするかというのが,やはり大きな問題なのですけれども,刑罰を科して,税金を投入して,受刑者の自由を拘束して刑事施設に入れることの目的としては,社会復帰をしていただいて,犯罪を繰り返さないようにするという点が大きいと思います。そうなりますと,やはり刑事施設の中にいる限りは,効果として,本人が嫌だと言っているときでも,作業ないし指導を受けていただくということが本来の趣旨ではないかと思います。   ただ,ここは大変重要な問題ですので,今後も議論していきたいと思いますけれども,刑罰の目的に特別予防というものがある点を踏まえ,そこからどういうふうな義務付けが出てくるかというのを考えていくのが大事ではないかと思っております。 ○加藤幹事 青木委員の御意見に対して,一つ指摘をとどめたいと思います。ただいま今井委員,橋爪幹事から御発言があった,改善指導を義務付けるのかどうかという問題についてです。   実際に,改善更生の意欲がなくて,改善指導を受けようとする自発的な気持ちがない受刑者というものは存在するのだと考えられます。その場合に,そういう者に対して,指導を受けることを観念的に義務付けるかどうかというレベルの話と,義務付けをするとして,それを懲罰で担保するのかというレベルの話と,2段階あるように思われるのですが,前者の義務付けが必要であるという点については,今井委員,橋爪幹事から御指摘があったとおりだろうと,私も考えています。   さらに,それを懲罰でまで担保するかという点について,義務付けられた指導をどうしても拒否するという者に対して,それを放置するというのが好ましいとは考えられないように思われますので,そのような場合に,懲罰を科するのがやむを得ないこともあり得るのではないかと考えるところです。 ○青木委員 まだ,きちんと考えがまとまっているわけではないんですけれども,今整理していただいたように,義務付けをするかどうかということと,義務に違反した場合にどうするかというのは,確かに分けて考えなければいけないんだろうと思います。   それから,懲罰を科されるとして,懲罰の科し方の問題というのもあるんだろうと思います。前に喜連川社会復帰促進センターに行ったときに,懲罰についての執行猶予みたいなことをやっていて,実際に執行猶予をして,執行しなくて済む場合もあるというようなお話もあったんですね。   ですので,そこら辺のもろもろの制度の組み方で,先ほど申し上げたように,どちらの方が改善更生に資するのか,実際上,特別予防として役に立つ制度になるかどうかということは,現実にその人が立ち直って社会復帰できるかどうかということにかかっているわけですので,どういう組み方をするとよいのかという観点で考えるべきだろうと思います。もちろん義務として,「あなたはきちんとこれをやらなければいけないんですよ」と言った方が良いということはあり得るでしょうし,その場合であっても,違反したらこうなるのですよというのも,いろいろな形で,本人がやる気になる方向をどうやって目指すかというのを検討したらよいと思います。 ○今井委員 今の青木委員の御意見に,私も賛成でございます。また,加藤幹事が示されましたように,観念的にどのような義務をどのような根拠から導くのかということと,青木委員が御指摘のように,今日は処遇を受けない,あるいは受けたくない,反抗的なような方がいらしたときに,どのような誘導をするのかというのは,別の問題だろうと私も思いますので,今後の課題としては,こういった問題を刑法典,刑法の一般法で規定するのか,刑事収容施設法等で規定していくのか,ここには技術的な問題も含まれるのですけれども,義務の抽象性と具体化というところで,今後検討していくべきだろうと思います。 ○橋爪幹事 私も同感でして,改善指導を義務付けるべきかという問題と,義務付けをどのように担保するかという問題は,一応分けて論ずるべきだと思います。法的な義務付けが必要だとしても,それをどのように担保するかについては別途考えるとして,議論を分けて論じた方がいいように思います。 ○佐伯分科会長 ほかにはいかがでしょうか。   ここまでで,「自由刑の在り方」の検討項目について,一通り意見交換を行ってきたわけですけれども,この論点について,そのほか,現時点で御意見がある方がおられましたら,お願いいたします。 ○青木委員 先ほど,作業報奨金を,例えば,きちんと作業をしていれば作業報奨金が上がっていくというふうな話をしたんですけれども,今後,改善指導の割合が増えていった場合に,作業をする時間が相対的に減るわけですから,改善指導を受けているときには作業報奨金というのは発生しないということで考えますと,受刑者が社会復帰するときに手元にあるお金が減ってしまうのではないかという問題が出てくるような気がするんですね。   ですので,処遇を受けるということで,作業も改善指導も一種の処遇だというふうに捉えますと,そこでどういうふうに区別をするのか,あるいは,作業については今までどおり作業報奨金だけれども,改善指導を受けるというのについては,何らかの手当が出るとか,何かそういうような制度設計をして,社会に出るときに,社会復帰をするのに必要なお金がたまっているようなことというのも必要なのではないかと思います。 ○大橋幹事 作業報奨金につきましては,今青木委員が御指摘のとおり,金額につきまして,年々上げていくということで,出所後の資金でもありますので,そういう努力を続けているところでございます。   作業に就かない者につきましては,現在,作業報奨金を支払わないとしておりますけれども,矯正処遇,他の改善指導,教科指導に対して,そういう何がしかのものを支払うかどうかということにつきましては,広く一般国民の方々がどう考えるかとか,財政上の措置とか,いろいろございますので,その点について検討する必要があろうと思います。   また,それをお金の形で渡すのか,あるいは出所後の様々な社会福祉,生活保護等のサービスに円滑につなぐことによって,出所してから社会で生活に困らないような手段の方に持って行くのかということも考えるという必要があると思います。 ○佐伯分科会長 ほかにいかがでしょうか。   それでは,続いて,「社会内処遇に必要な期間の確保」についての検討を行いたいと思います。   初めに,事務当局から,「社会内処遇に必要な期間の確保」に関する資料の説明をお願いいたします。 ○隄幹事 本日,「社会内処遇に必要な期間の確保」に関する資料として,配布資料6「社会内処遇に必要な期間の確保(検討項目案)」を配布しております。   「社会内処遇に必要な期間の確保」については,「若年者に対する刑事法制の在り方に関する勉強会」取りまとめ報告書において,施設内処遇の対象者が円滑に社会復帰するためには,施設内処遇に引き続き,社会内処遇を行うことが重要であるが,社会内処遇が効果を上げるためには一定の期間が必要であること,そこで,施設内処遇に引き続き,社会内処遇に必要な期間を確保するため,若年者について保護観察付き刑の一部の執行猶予制度の活用を図ること,仮釈放の期間において,いわゆる考試期間主義を採用すること等が考えられることなどが記載されています。   配布資料6は,これらの勉強会報告書の記載や,部会での御意見などを踏まえて,飽くまで分科会における意見交換の御参考としていただくため,検討項目の案を事務当局において作成したものです。もとより,検討項目がこれに限られるものではありません。   検討項目の案の趣旨を御説明いたします。   「社会内処遇に必要な期間の確保」につきましては,現在の制度の運用状況と問題点の有無・内容を把握しつつ,検討の対象となる施策等を議論するのが適当であると考えられますので,まず初めに,「現在の制度及び運用並びに問題点」を記載いたしました。   具体的な制度としては,勉強会報告書の記載等を踏まえ,「保護観察付き刑の一部執行猶予制度」と「仮釈放制度」の二つを記載いたしました。   次に,「検討の対象となる施策等」として,勉強会報告書の記載や部会での御意見などを踏まえ,三つの項目を記載いたしました。もちろん,御議論の対象をこれらに限る趣旨ではございません。   一つ目の「保護観察付き刑の一部執行猶予制度の拡大・活用」につきましては,平成28年6月から開始された刑の一部の執行猶予制度について,その対象を拡大することや,その活用を図ることを検討しようとするものです。   二つ目の「仮釈放制度の積極的活用」につきましては,現行の仮釈放制度の運用を見直すことなどによって,施設内処遇の後の社会内処遇の期間を確保することを検討しようとするものです。   三つ目の「仮釈放の期間についての考試期間主義」につきましては,勉強会報告書では,いわゆる考試期間主義として,仮釈放の期間を残刑期間とするのではなく,再犯の危険性を標準として仮釈放の期間を定め,その間,保護観察に付する制度とされており,このような制度について検討しようとするものです。この考試期間主義の採用につきましては,責任主義の範囲内で適切な仮釈放期間をどのように定めることができるか,刑の事後的変更として許容されないのではないか等の理論的課題があることが勉強会報告書に記載されています。 ○佐伯分科会長 ただいまの御説明に質問や,この段階で,ほかにも検討項目があるのではないかといった御意見がございましたら,挙手をお願いいたします。よろしいでしょうか。   それでは,当面は配布資料6の検討項目案に沿って議論を進めることにさせていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。                 (一同異議なし)   それでは,「社会内処遇に必要な期間の確保」について,意見交換を行いたいと思います。配布資料6には,「1 現在の制度及び運用並びに問題点」,「2 検討の対象となる施策等」が記載されており,意見交換もこの順番に行いたいと思います。   まず,「検討の対象となる施策等」について意見交換いただく前提として,「現在の制度及び運用並びに問題点」から意見交換を行いたいと思います。   御参考としていただくため,統計資料を配布しておりますので,事務当局から説明をお願いします。 ○隄幹事 本日,「現在の制度及び運用並びに問題点」に関する資料として,配布資料7「統計資料2(刑の一部の執行猶予に関するもの)」,配布資料8「統計資料3(仮釈放に関するもの)」を配布しております。   まず,配布資料7について御説明いたします。   この資料は,平成28年6月に開始された刑の一部の執行猶予制度において,刑の一部の執行猶予の言渡しを受けた者の人員数を罪名別にまとめたものです。   「該当法条」欄をみますと,保護観察が必要的とされている薬物法第3条によって刑の一部の執行猶予が言い渡された人員の総数は377人です。他方,保護観察が任意的とされている刑法第27条の2第1項によって刑の一部の執行猶予を言い渡された人員の総数は406人ですが,その全てについて保護観察に付されており,そのうち,薬事関係,すなわち薬物事犯が370人と約9割を占めています。   配布資料7の説明は以上です。   次に,仮釈放に関する統計資料である配布資料8については,今福幹事から御説明いたします。 ○今福幹事 統計資料3について御説明いたします。   資料は,主に仮釈放に関連する統計でございます。   1ページは,満期釈放者・仮釈放者の人員と仮釈放率の推移に関する統計です。満期釈放者と仮釈放者の人員は,ともにおおむね減少傾向にありますが,仮釈放率については,平成23年以降,一貫して上昇しております。   2ページは,地方更生保護委員会において仮釈放審理を開始した人員や,審理において仮釈放を許すべき旨の決定をしない旨の判断をした比率の統計です。このうち,仮釈放を許すべき旨の決定をしない旨の判断をした比率については,長期的に見ますと,戦後,昭和50年代までは15%を超える時期もあるなど,比較的大きな上昇と下降を繰り返しておりました。その後,昭和50年代終わり頃から徐々に低下し,平成に入った頃からは,今御覧いただいているとおり,年によっての上下はあるものの,おおむね2%から5%で推移しております。   3ページは,仮釈放を許可された定期刑受刑者の執行率,すなわち,仮釈放までに刑期のうちのどれくらい執行していたかをまとめた統計です。執行率90%以上の者の割合と,80%以上90%未満の者の割合は,平成19年以降増加傾向にあるのに対し,執行率80%未満,70%未満の者の割合は減少傾向にあります。   4ページは,平成28年に仮釈放を許可された定期刑受刑者の執行率について,刑期別にまとめた統計です。執行率90%以上の者の割合について見ますと,刑期1年以下については4割近くを占めていますが,刑期2年以下では25%弱であり,そこから刑期が3年以下,5年以下と刑期が長くなるほど執行率90%以上の者の割合が高くなっております。   5ページは,仮釈放者に対する保護観察について,保護観察期間別の人員・構成比,累計の構成比をまとめた統計です。平成19年以降,各年とも,3月を超え6月以内の者の割合が最も多く,4割程度を占めております。また,保護観察期間6月以内の者の累計の構成比については,平成19年以降やや増加傾向にあります。   6ページは,仮釈放者に対する保護観察事件について,終了事由別の人員と構成比についての統計です。いずれの年も,多くは期間満了で終了しており,仮釈放取消しで終了した者の割合は,平成19年以降,4%から5%程度で推移しています。   統計資料3の説明は以上です。 ○佐伯分科会長 ただいまの御説明に質問のある方は挙手をお願いいたします。   ないようですので,このような統計資料も踏まえまして,保護観察付き刑の一部執行猶予制度や仮釈放制度に関する「現在の制度及び運用並びに問題点」について意見交換を行いたいと思います。   御意見がある方は挙手をお願いいたします。 ○橋爪幹事 まず,統計資料を踏まえまして,幾つか実務の現状につきまして質問がございます。   2点お伺いできればと存じます。   まず,刑の一部執行猶予制度でございます。   統計資料2を拝見いたしますと,この制度はほとんど薬物事犯に適用されていることが明らかです。本来,刑法の規定は,罪名の限定がないわけですけれども,一般の刑法犯には27件しか適用がなく,ほとんどが薬物事犯に適用されています。   今後の実務においては,より広くこの制度を適用することもあり得るのかと考えまして,1点御質問を申し上げたいと存じます。   現在,実務において,このように薬物事犯に限ってこの制度が使われていることについては,何か実務的な理由があるのでしょうか。もしよろしければ,実務家の委員・幹事の方の御意見,御感触をお伺いできればと存じます。 ○吉田幹事 一部執行猶予制度の立法段階におきまして,薬物事犯につきましては,一部執行猶予が取り分け有効であるとの議論がされておりましたことなどに鑑みますと,一部執行猶予が薬物事犯を中心に運用されているということにつきましては,特に違和感はございません。けれども,一部執行猶予は施行されてから間もない制度でございまして,具体的な事例における判断が蓄積されていくのはこれからという段階でございます。ですから,その運用につきまして評価し,あるいは分析することは,現時点では難しいのではないかと考えておるところでございます。 ○加藤幹事 吉田幹事が御発言になったとおり,まだ一部執行猶予の制度自体が施行後間もないということもあって,適用状況について分析して,評価するというのは難しい段階だろうと思われます。   ただ,これも御指摘のあったとおり,立案段階から,一部執行猶予の対象として考えられる一つの類型が薬物犯罪であると言われてきた経緯がございますので,判断になじみやすいということが言えるのではないかということは感じるところです。 ○橋爪幹事 もう1点,今度は統計資料3でございます。仮釈放に関する状況につきまして,資料でいろいろなデータをお示しいただきましたけれども,この数字をどのように理解するかにつきましては,まず,実務の運用方針や判断基準を正確に把握することが重要であると考えているところでございます。   このような観点から,刑事施設の長による仮釈放を許すべき旨の申出,あるいは地方更生保護委員会による仮釈放を許す旨の決定における具体的な判断基準や考慮要素につきまして,御説明いただければと存じます。 ○大橋幹事 刑事施設の長における仮釈放を許すべき旨の申出につきましては,仮釈放の条件としまして,まず,有期刑の刑期の3分の1などの法定期間を経過するということが条件でございます。その上で,悔悟の情及び改善更生の意欲がある,それから再犯のおそれがない,それから,保護観察に付することが改善更生のために相当であると認めるときに,刑事施設の長による仮釈放の申出を行うことになっております。ただし,社会の感情が仮釈放を是認すると認められないときは,この限りではないとされております。   刑事施設の長が仮釈放を許すべき旨の申出をする際の具体的な考慮事項としましては,例えば,犯罪の態様であるとか,本人の再犯のおそれであるとか,被害者の感情,それから慰謝の手段が採られているかどうか,施設内の生活態度,矯正処遇,すなわち改善指導,教科指導及び作業の実施状況や取組状況,あるいは暴力団からの離脱の意思とか保護環境等が挙げられます。これらを総合的に検討して,刑事施設の長は,仮釈放を許すべき旨の申出をしているというのが実情でございます。 ○今福幹事 地方更生保護委員会の決定に関する実情について申し上げます。   仮釈放を許す処分の基準でございますけれども,ただいま矯正局から説明があった申出の基準と同様でございまして,第1に,悔悟の情及び改善更生の意欲があり,第2に,再び犯罪をするおそれがなく,かつ,第3に,保護観察に付することが改善更生のために相当であると認めるときにするものとするとされ,第4に,ただし,社会の感情がこれを是認すると認められないときはこの限りでないとされております。   審理に当たっての考慮要素ですけれども,犯罪による被害の実情,当該犯罪に至った自己の問題性の認識,犯罪を悔いる気持ちの表れなどがございます。 ○今井委員 ただいまの両幹事の御説明を聞きまして,私も仮釈放,それから,それに伴う保護観察の趣旨等を確認させていただいたところでございますが,統計資料の3−5を見ておりますと,先ほども御説明あったわけですが,この保護観察期間には,かなり顕著な特徴があるように思われます。   平成28年ベースで見ますと,先ほどもありましたが,保護観察期間が3月以内が40%弱,6月以内が80%弱,1年以内でほぼ終わっているということなのですけれども,これが社会内処遇に必要な期間の確保,今御説明あったものをもう少し具体的に考える上で,大変有益なきっかけとなるのではないかと思います。そこでですが,実際に保護観察をなさっているときに,保護観察の期間が3月や6月に満たないということによって,処遇上の難しさ,例えば,本来行うことが望ましいプログラムをやっていたのですけれども,それができないで中断してしまうのか,そういった場合があるのか,あるとすれば,どのように御苦労して解決されているのか,実情をお話ししていただければと思います。 ○今福幹事 仮釈放に対する保護観察の期間は,ただいま御指摘ございましたとおり,6月以内の者が8割近くを占めております。しかし,仮釈放者は,その性格,年齢,経歴,心身の状況,家庭環境等が様々でございまして,現在の保護観察の期間が社会復帰に必要な期間となっているのか否かについては,一概にお答えすることは困難と考えております。   一方で,一般論を申し上げますと,仮釈放は,先ほど申し上げた基準や考慮要素を基に判断しているところであり,社会内処遇に必要な期間の確保という点も,その考慮要素の一つではあるものの,その点のみを重視して仮釈放の時期を判断しているような運用とはなっていません。   その上で,御質問いただきました,仮釈放の期間が短期間である者に対する保護観察の実情ということについて申し上げますと,仮釈放者は,釈放直後は刑事施設から社会内へと生活環境が大きく変わることで不安定になりやすいことから,まずは釈放前の生活環境の調整の段階から,その者の改善更生と社会復帰にふさわしい生活環境をあらかじめ整えるための措置を行っているところであり,それを踏まえて,仮釈放後は,たとえ短期間であっても,仮釈放者の心情に特に配慮した指導監督を行うとともに,保護観察期間満了後の生活の安定を見据えまして,社会復帰のきっかけとなるような支援も行っているところです。そして,本人からの申出が更にあれば,期間満了に引き続いて,更に更生緊急保護としての支援も行っているところでございます。   また,専門的処遇プログラムについては,現在,その内容に応じて,特定の期間が確保できる者に対してのみ,特別遵守事項として義務付けて実施している運用でございますが,その期間が確保できない短期間の仮釈放者に対しても,本人の抱えている問題性に応じて,上記プログラムの全部あるいは一部を任意に実施することで犯罪傾向の改善を図っている,そのような運用をしております。 ○今井委員 繰り返しの質問になってしまうかもしれないのですが,今の御発言で改めて,大変御苦労されているということが分かるわけですけれども,やはり対象の受刑者の方,あるいは仮釈放した方が,いろいろな個性を持っていて,問題も抱えておられると思いますので,現在の仮釈放期間,保護観察期間が,その人にとって短過ぎるということであるならば,社会内処遇に必要な期間をもう少し確保するような方策を,ここでも検討する必要があるのかなと思います。   その際には,前提といたしまして,一定の期間を確保した場合に,どういった社会内処遇を行っていくのか。今のお話でも,任意に働き掛けてというふうな,大変御苦労があるのだろうと思うのですけれども,そういった点を踏まえて,制度として,どのような組み直しができるのか。そして,処遇をしたときに,社会全体との関係で,どのような犯罪を繰り返さない効果が期待できるのかということを踏まえた制度設計が必要ではないかと思っております。   今の段階で,そういった期間の設定あるいは処遇の効果予測等につきまして,御説明可能なものがあれば,御教示いただければと思いますが,いかがでしょうか。 ○隄幹事 どういう形でお示しできるかも含めて,検討させていただければと思います。 ○佐伯分科会長 それでは,今の点,あるいはそのほかの点について,いかがでしょうか。 ○加藤幹事 「社会内処遇の期間の確保」という観点からは,満期釈放の問題を見落とせないだろうと考えられます。一般社会から隔離された刑事施設内での施設内処遇の後に,自由のある,誘惑もある社会内で,一定の指導あるいは支援を受けながら生活し,ソフトランディングを図るということが重要なわけですが,社会内処遇の期間がないままに釈放される者がいるのも実情です。本日配布された資料8の中の統計3−1によれば,仮釈放率はここ数年で少し上がっているようですが,それでも4割を超える者が満期釈放になっているという状況のようです。   満期釈放者と仮釈放者とでは,満期釈放者の方が予後が悪いとも言われており,満期釈放者が仮釈放の基準を満たさない者である以上,そうなること自体はやむを得ないとも言えるわけですが,この満期釈放者の問題について,現在どのような対応が行われているのか,その点について,満期釈放者と仮釈放者の再犯率あるいは再入率と併せて,説明の用意があれば,お願いしたいと思います。 ○大橋幹事 満期釈放者と仮釈放者の再犯率,再入率でございますけれども,矯正局で押さえておりますのは,再び刑務所に戻ってくる再入率でございますので,再入率で御説明をさせていただきます。   平成28年の犯罪白書にも出ておりますけれども,平成23年に刑務所を出所した受刑者の刑務所出所後5年以内の再入率,23年に出て5年以内に刑務所に戻ってくる者の再入率につきましては,満期釈放者が49.5%,それに対して,仮釈放者は28.7%となっておりまして,約20ポイントの差がございます。これが満期釈放者,仮釈放者の再入率の現状でございます。   ただいま,満期釈放者に対する対策という御質問がございましたけれども,まず,生活環境の調整のところで対策を採っております。満期釈放になるかならないかの大きな事情の一つとして,帰る先があるか,帰住先があるかということがございまして,満期釈放者は帰住先の調整に苦労して,結局,満期釈放になるというようなケースがございますので,更生保護官署と緊密に連携をとって,なるべく早期に適切な帰住先を確保することに努めております。   また,一つの帰住先がそこは駄目だと,不調に終わった場合でも,すぐ次の帰住先に変更するように本人に働き掛けるということで,できる限り帰住先を確保して,仮釈放につなげるように生活環境の調整をしております。   2点目につきましては,特別調整という制度がございます。この法制審議会でも御説明があったと承知しておりますけれども,高齢あるいは障害を持つ受刑者につきましては,帰住先がない,出所後の生活が困難であるなどの問題がございまして,満期釈放になるという可能性が高いものでございますので,出所後速やかに社会福祉につながる必要がある者につきましては,本人の同意の下で,更生保護官署あるいは地域生活定着支援センターと連携をした生活環境の調整を行うという特別調整をして,帰住先を確保する努力をしているところでございます。   また,どうしても満期釈放になってしまうという者につきましては,釈放の前の指導を充実させるということをしております。釈放前の1週間程度の期間でございますけれども,出所後の就労を始めとした将来の生活設計や年金,健康保険制度など,出所後の生活に向けた指導を行っております。また,満期釈放が見込まれる刑期終了の2か月ぐらい前から,釈放前の指導に準ずる内容の指導を開始するということについても努めております。   満期釈放者につきましては,当局において指導用の教材を作成しておりまして,それを使用して各施設で指導するほか,また,出所後の生活保護あるいはハローワークの利用など,出所後有用となる制度につきまして,情報を記載したハンドブックを手渡すというような体系的な指導を実施しているところでございます。   また,先ほど保護局の方から御説明がありました,更生緊急保護に円滑につなぐということも必要でございますので,刑事施設においては,必要と認めるとき,あるいは本人の希望するときには,更生保護官署において実施する更生緊急保護の手続を容易にするための保護カードというものを渡して,更生緊急保護に関する説明をして釈放し,更生緊急保護への円滑な実施ということが図られるよう努めているところでございます。 ○今福幹事 満期釈放された者には,ただいま御説明のありました更生緊急保護の取組を進めております。   それをもう少し申し上げますと,満期釈放者の中には,親族からの援助などを受けることができず,緊急に保護を要する者がおりますことから,その申出に基づきまして,更生緊急保護を実施いたします。そこでは,事案に応じまして,食事,医療,旅費などの給与又は貸与の措置を実施する,更生保護施設などに宿泊場所の供与等の措置を委託して実施する,あるいは就労支援を行うなどしまして,それぞれの改善更生のために必要な措置を採るよう努めているところでございます。 ○佐伯分科会長 そのほか,何かございますでしょうか。   「現在の制度及び運用並びに問題点」については,この程度でよろしいでしょうか。   それでは,次に,今の御議論も踏まえまして,「検討の対象となる施策等」について意見交換を行いたいと思います。   三つの項目を挙げられておりますので,まずはこの順番で,一つずつ意見交換を行い,これらの項目以外の御意見があるようでしたら,その後にお伺いしたいと思います。   まず,一つ目の「保護観察付き刑の一部執行猶予制度の拡大・活用」について意見交換を行います。御意見ある方は挙手をお願いいたします。 ○橋爪幹事 私としましては,保護観察付きの刑の一部執行猶予制度は,執行猶予の取消しという心理的強制を担保とした上で社会内処遇を行うという意味におきましては,若年受刑者の処遇方法としても積極的に活用する余地があるような印象を持つ次第でございます。   先ほどは,現在は薬物事犯を中心に使われている理由について御説明をいただきましたが,今後,先例が蓄積していけば,一般の刑法犯についても適用する余地があるようにも思われますし,今後,積極的な運用を検討すべきではないかという印象を持ちました。 ○今井委員 私も橋爪幹事と同じような意見を持っております。これが若年者に対して効果的であろうということは,その制度を作ったときの趣旨からも分かるわけでありますけれども,しかし,現行法の制度の縛りというものがあります。施行されて運用されて,まだ期間が余り経っていないのですけれども,今回の機会に現行の制度を見直すということも,法改正もあっていいのではないかと思います。   例えば,現行制度では,初入者に当たらない者であっても刑の一部執行猶予を言い渡すことができる対象者となっているのは,薬物事犯者のみでありますけれども,これを拡大するということは考えられないか。あるいは要件の緩和ですね。現在の要件ですと,3年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受けた場合であるとか,あるいは,前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても等々の要件の縛りがございます。それらは,制度のスタートの段階では必要だったと思いますが,今回の諮問を踏まえ,もう少し柔軟に,法改正も視野に入れた議論がなされて良いのではないかと思います。   ただ,繰り返しになりますけれども,まだこの制度はスタートした直後であり,施行されてから余り日が経っておりません。先ほど吉田幹事,加藤幹事からもお話がありましたけれども,運用の実績につきましては慎重に見まして,若年者対象として適用できるエッセンスは何なのかということを見て,検討されることが必要ではないかと思う次第であります。 ○青木委員 私も,「保護観察付き刑の一部執行猶予制度の拡大・活用」というのは,有用なのではないかと思いますけれども,この一部執行猶予制度を導入したときの議論とか,今の薬物に主に適用されているということを考えますと,判決言渡しの段階でどれだけ,どういうものについて,この制度を適用することができるのかという判断に,裁判所としては材料が少ないのではないかという問題があって,判決前調査というものがあれば,それはいいのでしょうけれども,やはり判決言渡しの段階では,それに限界があるということもあって,恐らく薬物に,今かなり偏っているという問題があるのだろうと思うんですね。   そういうことで,そういう材料をどういうふうに裁判所に提供できるのかというのが,もし拡大・活用するということになるのだとすると,必要なのではないかと思います。   それと,一方で,仮釈放の期間についての考試期間主義とも絡むのですけれども,仮釈放の期間についての考試期間主義というのは,やはり先ほどお話がありましたように,責任主義だとか,あるいは刑の実質的な変更であるという問題があるかと思うんですが,これを考え方を変えて,仮釈放ではなくて執行猶予というふうに捉えて,一部執行猶予を,今は判決の言渡しの時点で一部執行猶予を言い渡すわけですけれども,一度刑務所に入った後で,残刑について裁判所に判断していただいて,一部執行猶予するという制度の組み方というのもあり得るように思うんですね。   そうすると,保護観察期間をとらなければならないという配慮の下に,裁判所が判断するということになれば,仮釈放と併存して良いのですけれども,必ずしも残刑期間に限らない執行猶予期間というのをとることができるわけですから,それより短いものもあれば長いものもあるという制度の組み方ができるのではないかと思います。   この一部執行猶予制度の議論をした「被収容人員適正化方策に関する部会」でも,そのような御意見は出ておりまして,それは,そのときは一部執行猶予ということだけで終わったんですけれども,現に一部執行猶予制度というのが始まっていて,裁判所がそういう部分に関わるというような仕組みが始まっているわけですから,そのような残刑についての一部執行猶予というようなものについても,是非検討していただけたらというふうに思います。 ○佐伯分科会長 一つ目の「保護観察付き刑の一部執行猶予制度の拡大・活用」については,ほかに何か御意見ございますでしょうか。   それでは,また,もしありましたら,戻っていただくことも結構かと思いますが,二つ目の「仮釈放制度の積極的活用」について意見交換を行いたいと思います。御意見がある方は挙手をお願いいたします。 ○今井委員 先ほど大橋幹事から御説明がありましたように,現行法では改悛の状があるとき,有期刑については刑期の3分の1を経過したとき,無期刑については10年を経過したときに,仮釈放が可能であると制度上なっているのですが,統計資料を拝見いたしましても,やはり運用の実情は,かなり執行率が高まった後に仮釈放がされているというようでございます。   仮釈放制度は,これまでもいろいろ議論されて,一定の合意があると思われるのですが,施設内処遇から社会内処遇にいく際に,先ほどもソフトランディングという言葉が出ておりますけれども,徐々に環境を変えさせていくことによって,施設内での処遇の効果を社会内においても維持することに重要な目的があろうかと思います。この意味で,大変,刑事政策的に意義のある制度だと思います。これは歴史的にもそうなのですけれども。   ですから,社会内の処遇に必要な期間を確保するという観点からは重要なのですけれども,他方,先ほど御説明ありましたように,仮釈放を認める要件として,いろいろなものがあります。悔悟の情,改善更生意欲があること,再び犯罪をするおそれがないこと等が考慮されているのは,当然のことだろうと思います。社会内処遇の期間を確保するという観点のみから,早期の仮釈放を認めていくことは困難だと思われますが,もう少し何か事態の改善ができないだろうかと思っております。   そこで,先ほどの青木委員の御発言とも,根っこのところでは関連するのですが,例えば,宣告された刑期が短い方の場合には,社会内処遇として十分な期間を確保するような制度設計を考えてはどうかと思います。   具体的な案というのは,これからなのだろうと思うのですけれども,その際には,裁判所が短期の刑を言い渡したときでも,犯した罪に対する責任に見合った刑の執行がなされるべきとの要請がありますので,それも守りつつ,社会内に戻したときの施設内での処遇を有効にするようにするにはどうすればよいかなどを検討する必要があると思っております。 ○橋爪幹事 私の方からは,満期釈放者の問題について若干申し上げたいと存じます。   先ほども議論がございましたけれども,満期釈放者につきましては,本来,最も再犯予防の必要性が高いにもかかわらず,残刑の期間がありませんので,保護観察を付けることができず,社会内処遇が実施できないという問題がございます。これにつきまして,何らかの対応が必要であると考えますので,この分科会でも積極的に議論すべきだと思いますし,現在の更生緊急保護などの制度で十分かという観点からも検討が必要であると思います。   もっとも,この問題を解決するために,仮釈放を積極的に活用すれば済むというわけではない気がします。つまり,飽くまで満期釈放者は,満期になっただけの理由があるわけですので,取りあえず早く出せばいいだろうということではないと思います。社会内処遇を充実させるためには早期に仮釈放すべきという議論は,いわば本末転倒であって,むしろ満期釈放にならざるを得なかった条件,理由を社会的に解消していくことが,本来重要であるような印象を持っております。 ○佐伯分科会長 ほかにはいかがでしょうか。   それでは,二つ目の「仮釈放制度の積極的活用」につきましては,これでよろしいでしょうか。   三つ目の「仮釈放期間についての考試期間主義」について意見交換を行いたいと思います。   既に青木委員から一つの御提案もあったわけですけれども,そのほか御意見があれば挙手をお願いいたします。 ○加藤幹事 考試期間主義は,仮釈放期間を残刑期間に限定されずに定めることができるという意味では,ここで議論されている社会内処遇に必要な期間の確保という検討趣旨には合致する答えではあろうと考えられるわけですが,一方で,先ほどの事務当局説明あるいは青木委員の御指摘にもあったように,刑法上の責任主義との関係をどのように考えるか,すなわち,刑罰の重さは行為の責任を基礎として定めるという考え方との整理がつくかという点ですとか,裁判所が宣告した刑期よりも長期間にわたって対象者の自由を制約することにならないか,事後的に刑を不利益に変更することにならないのかといった点について,検討の必要があるところだと考えられます。   先ほど青木委員から御指摘のあった点も,一つの御提案として検討の対象になろうかと思われますが,今申し上げたような点について,十分な御検討をお願いしたいと考えます。 ○橋爪幹事 加藤幹事の御発言に関連して1点申し上げます。   考試期間主義の採用でございますけれども,これを採用するということは,刑を事後的に変更することを意味しますので,これを行政機関の判断だけでなし得るかについては,理論的な問題が残るような印象を持っております。   もっとも,仮に裁判所がこれに関与・判断する仕組みを設ければ,この理論的な問題はクリアできるわけであります。   もっとも,裁判所が判断すると申しましても,これは恐らく,一般の刑事裁判とはかなり違った判断であるような気がします。刑事裁判は本来,責任主義の観点から,犯罪に見合った刑罰を科すわけでありますけれども,この判断においては,行為責任の観点ではなくて,受刑者の改善更生の状況や再犯の危険性が重要な判断資料となると思いますし,その場合には,受刑者の処遇状況等の情報収集が,必要となるようにも思います。   そう考えますと,これは,裁判所にとっては,かなりシビアなお仕事であるような印象を持つわけでございますけれども,裁判所としては,こういった仕事をやろうという覚悟というか,意欲というか,その辺の御感触を伺えればと思います。 ○吉田幹事 ただいま橋爪幹事から御指摘がございましたとおり,矯正処遇の効果を踏まえて再犯可能性を判断するということにつきましては,これまで刑事裁判で行われてきたことと大きく異なるものであると考えられるところです。ですので,御指摘の点も含めまして,様々な点につきまして,慎重な検討が必要になるのではないかと考えておるところです。 ○橋爪幹事 慎重な検討が必要というのは,おっしゃるとおりだと思いました。裁判所が関与されれば,先に申し上げた理論的問題はクリアできると思うんですが,それは,現在の仮釈放に関する運用を大幅に変更することを意味します。したがって,実務的な影響が極めて大きい問題ですので,具体的なメリット,デメリットを十分にしんしゃくした上で慎重な検討が必要であると私も考えております。 ○今井委員 橋爪幹事と同じ感触を持っております。刑の一部執行猶予を議論する際にも,例えば,フランスで刑罰適用裁判官という制度があり,そうした裁判官が刑の変更をしているという御紹介もありました。これについては,賛同といいますか,親近感を持つ意見も多かったわけですが,しかし,今の両幹事からのお話にありますように,日本にそれをすぐ導入することは,なかなか困難であろうということで,現在の制度ができたものと承知しております。   そういったことを前提にしますと,改正刑法準備草案,あるいは法制審議会の刑事法特別部会の小委員会で議論されていた考えを改めて取り上げる必要があるのではないかと思います。具体的には,社会内処遇のために客観的に最低限必要と考えられる期間,こういうものが,仮に6月というふうに資料等から分かる場合には,仮釈放期間をそのような期間,社会内処遇のために最低限必要と考える期間とする制度を考えるという選択肢はあろうかと思います。   このように考えますと,このような残刑期間を超えて定める仮釈放期間が,制度上限定されておりますので,これを前提として裁判所も判決を言い渡すことになりますから,行政機関が事後的に刑を不利益に変更するという理論的な問題は回避することができるかもしれません。   もっとも,繰り返しになりますけれども,このような制度を作る際には,残刑期間を超えて社会内処遇に充てるべき法定期間というものを,できるだけいろいろな資料等に基づいて客観的に出す必要があろうかと思います。その際には,配布されております資料が大変有益かとは思いますけれども,それと受刑者の方のニーズでありますとか,先ほど,更生緊急保護が申出に基づいてなされているという点についても御説明がありましたので,そういった運用を見て,できるだけきめ細やかな制度を作るのが望ましいと思っているところであります。 ○佐伯分科会長 今,今井委員から御指摘あったように,この問題は長い歴史を有している問題ですので,いろいろこれから検討できればと思います。   ほかにはいかがでしょうか。三つ目の「仮釈放期間についての考試期間主義」については,このぐらいで,取りあえずよろしいでしょうか。   「社会内処遇の期間の確保」の検討項目について,一通り御意見を伺ったわけですけれども,この論点について,そのほか,これまで出ていない問題で,現時点で御意見がある方がいらっしゃいましたらお願いいたします。よろしいでしょうか。   それでは,続きまして,「若年受刑者に対する処遇原則の明確化,若年受刑者を対象とする処遇内容の充実,少年院受刑の対象範囲及び若年受刑者に対する処遇調査の充実」についての検討を行いたいと思います。   初めに,事務当局から,この論点に関する資料の説明をお願いいたします。 ○隄幹事 本日,若年受刑者に対する処遇原則の明確化等に関する資料として,配布資料9「若年受刑者に対する処遇原則の明確化,若年受刑者を対象とする処遇内容の充実,少年院受刑の対象範囲及び若年受刑者に対する処遇調査の充実(検討項目案)」を配布しております。   若年受刑者に対する処遇原則の明確化等については,「若年者に対する刑事法制の在り方に関する勉強会」取りまとめ報告書において,若年受刑者について,その特性に応じた矯正処遇の実施に関する処遇の原則を明確化した上,若年受刑者を対象とする処遇内容を充実させることが考えられること,若年受刑者に対し,現在少年院で行われているような教育的な処遇が有用である場合には,そのような教育的処遇を実施することができるものとし,そのために必要な若年者を収容する施設及び体制を整備することが考えられること,少年院において刑を執行することができる受刑者の範囲を現行の16歳未満の者から拡大することが考えられること,個人の特性に応じた適切な処遇を実施し,若年受刑者の改善更生を図るため,処遇調査の内容等を更に充実させることが重要であり,少年を対象として,少年鑑別所や家庭裁判所において行われる調査を参考としつつ,若年受刑者に対する処遇調査を充実させるための措置を採ることが考えられることなどが記載されています。   配布資料9は,これらの勉強会報告書の記載や,部会での御意見などを踏まえて,飽くまで分科会における意見交換の参考としていただくため,検討項目の案を事務当局において作成したものです。もとより,検討項目はこれに限られるものではありません。   検討項目の案の趣旨を御説明いたします。   若年受刑者に対する処遇原則の明確化等につきましては,四つの項目から成っていますが,このうち,「若年受刑者を対象とする処遇内容の充実」と「少年院受刑の対象範囲」は,検討内容において相互に密接に関連すると考えられるため,まとめて記載いたしました。   まず,1の「若年受刑者に対する処遇原則の明確化」につきましては,法令上,若年受刑者に対する処遇原則を明文化することの意義・必要性と,その処遇原則の内容について検討しようとするものです。   次に,2の「若年受刑者を対象とする処遇内容の充実,少年院受刑の対象範囲」につきましては,現在の制度の運用状況と問題点の有無・内容を把握した上で検討するべく,まず初めに,「現在の制度及び運用並びに問題点」を検討しようとするものです。   二つ目の「若年受刑者に対する処遇内容の充実のための方策」は,現在も少年受刑者・若年受刑者を収容している刑事施設において,処遇内容を充実させるために,どのような方策を採ることが考えられるかを検討しようとするものです。   三つ目の「少年院において刑の執行をする制度(少年院受刑)の導入」は,若年受刑者に対する処遇内容の充実に当たっては,少年院で行われているような教育的な処遇を実施することも考えられることから,現在の16歳未満の少年受刑者を対象とした少年院で刑の執行をする制度のように,刑事施設ではなく少年院において刑を執行することについても検討しようとするものです。   最後の3の「若年受刑者に対する処遇調査の充実」につきましては,現在行われている処遇調査の実状を把握しつつ,より一層の充実を図るために考えられる方策を検討しようとするものです。 ○佐伯分科会長 ただいまの御説明に質問や,この段階で,ほかにも検討項目があるのではないかといった御意見のある方は挙手をお願いいたします。   それでは,当面は配布資料9の検討項目案に沿って議論を進めることにさせていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。                 (一同異議なし)   それでは,若年受刑者に対する処遇原則の明確化等について意見交換を行います。配布資料9には,「1 若年受刑者に対する処遇原則の明確化」,「2 若年受刑者を対象とする処遇内容の充実,少年院受刑の対象範囲」,「3 若年受刑者に対する処遇調査の充実」が記載されており,意見交換も,この順番に行いたいと思います。   一つ目の「若年受刑者に対する処遇原則の明確化」について,具体的には「法令上,若年受刑者に対する処遇原則を明確化することの意義・必要性,その内容」について意見交換を行いたいと思います。   御意見がある方は挙手をお願いいたします。 ○加藤幹事 この検討項目は,ある種の原則を法文に書き込もうとするもので,その法文自体に具体的な法的効果があるというものではありません。その書き込むことの意義に関し,現在の刑事収容施設法第30条に,受刑者の処遇の原則という条文がございます。お手元の六法全書の1巻ですと,2856ページになります。   この第30条を見ると,「受刑者の処遇は,その者の資質及び環境に応じ,その自覚に訴え,改善更生の意欲の喚起及び社会生活に適応する能力の育成を図ることを旨として行うものとする。」とございます。今回の議論の前提といたしまして,この今ある第30条の受刑者の一般処遇の原則は何のために規定されていて,実際の処遇にどういうふうに反映されているのか,そして,どういう影響があるのかという趣旨や意義といった点について,まずは事務当局から御説明をお願いします。 ○大橋幹事 今,御提示のありました刑事収容施設法第30条の趣旨や意義について説明いたします。   旧監獄法には,この規定に相当する規定は置かれておりませんでした。被収容者等の処遇に当たって留意すべき点などを法規範として明確に定めることが適当であるという考え方から,刑事収容施設法において新たに規定されたものでございます。   受刑者処遇の究極の目的につきましては,犯罪に対して制裁を科すことに加えて,受刑者の改善更生及び社会復帰を図ることにあると考えられますが,先ほど提示された刑事収容施設法第30条は,受刑者の処遇については,そのための直接的かつ具体的な目的として,まず,その者の資質及び環境に応じて行うこと,それから,二つ目として,その自覚に訴えて行うこと,それから,三つ目として,改善更生の意欲の喚起及び社会生活に適応する能力の育成を図ることを目的とすると規定しております。   その中で,まず,「その者の資質及び環境に応じ」という部分につきましては,個々の受刑者の資質,環境に応じて,その受刑者にとって最も適切な処遇を行うこととする,いわゆる個別処遇の原則を明らかにしたものでございます。   個々の受刑者の有する問題は,それぞれの人格的な特性とか,社会とか環境的諸条件によりまして千差万別でございまして,その違いに応じた処遇を行わなければ,受刑者の犯罪に至った原因を的確に取り除いて,受刑者処遇の究極の目的である改善更生の意欲の喚起と社会復帰に適応する能力の育成を十全に図ることができないという考え方から設けられたものです。これを受けまして,刑事収容施設法第84条第2項におきましては,矯正処遇の実施について,受刑者ごとに定められた処遇要領に基づいて行うこととしております。   二つ目の点といたしまして,「その自覚に訴え」という点がございます。その点は,受刑者が自己の意思で問題性を認識して,改善更生や社会復帰に向けて努力するように方向付ける処遇を行うことが必要であるということを明らかにしたものでございます。受刑者が専ら受身で作業,改善指導等の矯正処遇を受けるのでは,施設内では問題なく生活できるかもしれませんけれども,真の意味での改善更生,あるいは社会復帰を遂げることはできないという考え方から盛り込まれたものでございます。   これを受けまして,受刑者ごとに定められている処遇要領につきましては,その作成に際して,刑事収容施設法第84条第4項におきまして,必要に応じ受刑者の希望を参酌するということとしております。また,同法の第88条においては,制限の緩和の制度を規定しております。制限の緩和の制度につきましては,受刑者の自発性及び自律性を涵養するため,処遇の目的を達成する見込みが高まっていくに従って,受刑者の生活や行動に対する制限を順次緩和するということで,その見込みが高いと認められる受刑者につきましては,例えば外部通勤作業を行うとか,電話による通信を認めるとか,特に高いと認められる受刑者については外出・外泊の制度,あるいは,先ほど御紹介しました市原刑務所のような開放的施設で処遇を行うということが考えられます。   最後に,三つ目の「改善更生の意欲の喚起及び社会生活に適応する能力の育成を図る」という点につきましては,受刑者に自己の犯罪や問題点を自覚・反省させた上で,再び犯罪に及ぶことなく社会生活を送ろうとする気持ちを起こさせる,また,受刑者が社会の一員として受け入れられて,健全な社会人となる上で必要な知識・技能,社会態度を身に付ける処遇を行うことを明らかにしたものでございます。このような目的を達成するために,犯罪の要因となる事情を除去するための積極的な処遇として,改善指導等を行うことを規定しておりまして,それを実施しているところでございます。 ○加藤幹事 詳細な御説明ありがとうございます。   今御説明にあったように,刑事収容施設法第30条は,言わば原則を定めた規定なのですが,その規定が現実の行刑において十分に指針として機能していると承ってよろしいでしょうか。 ○大橋幹事 はい,そのとおりでございます。 ○橋爪幹事 私は,若年受刑者につきましては,一般の受刑者とは切り離して,プロパーな処遇原則を明確に規定し,それを明文化することが,理論的にも実務的にも重要であると考えております。   少年受刑者を含めた若年受刑者につきましては,まだ成長段階にあることから,可塑性に富んでおり,他方,心身が不安定であるという特性がございます。その点を十分にしんしゃくした処遇といったものが重要であると考えます。すなわち,再犯防止,改善更生に向けた取組が最も必要であり,また,最も効果が期待できる層でありますので,各種指導の充実など,若年受刑者の特性に応じた矯正処遇を行うことが極めて重要であると考えております。   もちろん,こういった問題意識は,実務的にも既に十分,共有されていると思います。したがって,なぜわざわざ明文化する必要があるのかという御疑問もあるのかもしれません。ただ,現場の人的・物的資源は有限だろうと思います。今後,場合によっては,若年者の処遇に対しては,必要に応じて人的・物的資源を優先的・重点的に投入することもあり得ると思いますし,それを正当化するためにも,明文の規定を設けた方が適当であろうと考えております。 ○今井委員 私も,今の橋爪幹事と同じ意見を持っておりまして,若年受刑者に対する処遇原則を,刑事収容施設法の第30条の特別法というふうな感じになるかもしれませんけれども,対象者がゼネラルの人ではなくて,先ほど橋爪幹事もおっしゃいましたが,まだ若くて可塑性に富んでいて,あるいは特別なケアを要求される方々ですので,どういうふうなことをするのか明確に書くことが必要だと思います。   その際ですが,先に結論といいますか,感想を申し上げますと,この後,「若年受刑者を対象とする処遇内容の充実」が議論される予定なのですけれども,そこでどういうふうな効果的な処遇を取り上げるかということも視野に入れつつ,若年受刑者に対する処遇原則を明文化していくというのがよいかと思います。   つまり,若年である方にはいろいろな特徴があり,それはプラスのものもあれば,マイナスのものもあろうかと思いますので,今までの御経験に合わせて,こういう年齢の方にはこういう処遇が経験上効いていたのだ,だから,そういった方向に促すことが必要なのだというふうな,経験に即したエビデンスベースのような発想で,次の「若年受刑者を対象とする処遇内容の充実」を検討しながら,それの最大公約数として,若年受刑者に対する処遇原則を明確化するというのが望ましいと思っております。 ○加藤幹事 少し議論の射程を広げる意見です。今般の議論は,諮問の趣旨に鑑み,まず若年受刑者について,処遇原則を明文化する必要があるかどうかという点を御議論いただいているのですが,若年であること以外の特性を持つ受刑者もあるわけです。先ほど資料説明の際にもありましたが,例えば,高齢の受刑者ですとか,障害の有無,性別等に応じた処遇についての処遇原則を設ける必要性はないかというのも,派生的な論点にはなり得るのではないかと考えています。   むろん,高齢受刑者あるいは障害を有する受刑者等は,配慮すべき事項等が個々に大きく異なっておりますので,統一的な処遇原則を規定することが可能かどうか,あるいは適当かどうかという点にも留意しつつの検討となるとは考えられるのですが,他方で,それらのものについても,その特性に応じた働き掛けの必要性が指摘されていると承知しているところですので,この点も検討の対象にはなるのではないかと考えている次第です。 ○佐伯分科会長 どこまで法律に書くべきかというような問題かと思いますけれども,ほかに何かございますでしょうか。 ○青木委員 意見というか質問なんですけれども,先ほど刑収法の第30条について御説明がありまして,言葉としては,個別処遇の原則というふうに言われたと思うんですね。そうしますと,グループでくくってというよりかは,やはりその人その人に対応する形で処遇ができるというふうな法律の仕組みになっているのではないかと思います。   そうしますと,若年者であれば,若年者なりの資質というものを踏まえて,それに対する処遇というのが,今の法律上でもできるのではないかという気がするんですけれども,それについて,何か障害になるというようなことが,若年者について,こういうことをやりたいと思うんだけれども,この法律だとできないというようなことがあるのでしょうか。 ○大橋幹事 第30条につきましては,大きく受刑者一般の処遇の原則というのを示しておるところでございますけれども,特に若年者につきましては,可塑性というところに着目した処遇を,現在も,いわゆるY指標といわれるものにつきましては,重点目標として定めておりますので,それをきちんと法律に明確化して,それに基づいて,様々な制度をこの法制審議会の御議論を踏まえて構築し直すということも考えられるのではないかと考えられますので,その意味で,大きな目標を一つ,処遇の原則を一つ立てるという意義はあるものではないかとは考えております。 ○青木委員 具体的に想定される,今のこの刑収法第30条からはみ出すというんですか,ここには書かれていないけれども,こういうことが必要なんだというのは,どういうことが想定されるんですか。今,新たに構築すると言われた中身としては。 ○大橋幹事 これはもちろん,刑事収容施設法第30条は一般原則で,ここからはみ出すということはございませんけれども,更に詳細に,若年受刑者について,その個々の問題,現在いろいろな,発達上の障害とか抱えている者もおりますので,そういうところに受刑者,特に若年の受刑者について,特化した処遇を考えていく上での原則を一つ設けるということは考えられるのではないかと思います。 ○青木委員 その刑収法第30条に含まれることは含まれるけれども,特にというようなことで,より詳細に定めるとか,そういうイメージなんでしょうか。 ○大橋幹事 そうです。 ○佐伯分科会長 一つ目の「若年受刑者に対する処遇原則の明確化」については,この程度でよろしいでしょうか。   それでは,二つ目の「若年受刑者を対象とする処遇内容の充実,少年受刑の対象範囲」,具体的には「現在の制度及び運用並びに問題点」や,それを踏まえた「若年受刑者に対する処遇内容の充実のための方策」,「少年院において刑の執行をする制度(少年院受刑)の導入」について意見交換を行いたいと思います。   御意見がある方は挙手をお願いいたします。 ○橋爪幹事 まず,第1の現在の制度,運用に関する問題点につきまして,現状の確認をさせていただきたいと存じます。   本日の配布資料5に即して,幾つか御質問を申し上げたいと存じます。   配布資料5の3枚目でしょうか,少年刑務所の処遇状況に関するペーパーがあるかと存じます。それを拝見しますと,J指標とY指標については少年刑務所に収容され,処遇が行われているということでございまして,特にJ指標については,かなり特別な処遇が行われているという御紹介があったかと存じます。   では,Y指標の受刑者につきましては,どの程度,一般の成人と異なった処遇が行われているか。その具体的な状況について,御説明いただければと思います。   さらに,続けて申し上げますと,少年刑務所にはA指標とB指標の区別がございますので,J指標,Y指標ともにこれは,A指標又はB指標に区別されていると理解いたしました。   また,3枚めくりますと,PFI事業に関する資料がございますが,島根あさひ社会復帰促進センターと美祢社会復帰促進センターについては,26歳未満の者も一部,収容されていると理解いたしました。このような,A指標,B指標の区別,更にはPFIの収容状況なども踏まえまして,どのように若年受刑者の処遇分類が行われているかにつきましても,具体的に御説明いただければと存じます。 ○大橋幹事 先ほど御説明申し上げました配布資料5の3ページ,「少年刑務所における処遇について」というところで,Y指標の施設を示しておりますけれども,Y指標につきましては,可塑性に期待して矯正処遇を行う,重点的に行うのが相当と認められる26歳未満の成人を指すものでございます。   先ほど少し触れましたけれども,処遇の重点目標,Y指標の重点目標と定まっておりまして,悪風感染の防止に留意した処遇をすること,それから,特技及び適性の発見に努め,これに応じた指導をすること,可塑性に期待し,積極的な働き掛けを行うこと,体育活動を活発に実施することが処遇の重点目標とされております。   Y指標に指定された施設には,A指標施設あるいはB指標施設,2通りございまして,A指標につきましては,犯罪傾向が進んでいない者を示す指標でございます。その処遇重点目標としましては,刑執行開始の指導を十分に行う,初めて刑務所に入ってきた者でございますので,それと自律性を養わせて,できる限り自治活動を取り入れる,あるいは更生意欲を培わせ,収容期間中の目標を自ら立てさせるということで,犯罪傾向が進んでいない者に対する処遇目標を定めております。   それから,B指標につきましては,犯罪傾向が進んでいる者を示すものでございまして,その処遇の重点目標につきましては,厳正な態度をもって接すること,それから,保安及び警備を厳重にすること,あるいは被収容者間の人間関係,特に反社会性集団の派閥傾向に留意した処遇をすること,それから,勤労の意欲及び習慣を培わせるための指導をすること,あるいは引受人及び帰住先の確保のための指導及び援助をすることが処遇の重点目標になっております。   そういうことで,Y指標及びA指標に指定された施設,具体的には函館少年刑務所,川越少年刑務所,佐賀少年刑務所でございますけれども,そのY指標の処遇重点目標とA指標の処遇重点目標に対応する処遇,それを踏まえた処遇が行われるということになっております。   YA指標の函館少年刑務所,川越少年刑務所,佐賀少年刑務所では,総合職業訓練施設にも指定されておりますので,職業訓練を特に積極的に実施しておりますし,また,被収容者の自律性を養うという観点から,クラブ活動,体育活動等が積極的に実施されています。   それと,Y指標及びB指標,すなわちYBの指標に指定をされた少年刑務所につきましては,盛岡少年刑務所,松本少年刑務所,姫路少年刑務所の3施設がございますけれども,個々の特性に応じた処遇を行う観点からは,一般の刑務所と比較して,職業訓練,教科指導等は積極的に行われているところでございます。しかしながら,被収容者の多くが少年院とか,あるいは刑事施設への収容歴がある,あるいは暴力団等の反社会性の集団に関係していた者もいるということもございますので,保安及び警備につきましても留意する必要があるということで,A指標の施設と比較しますと,保安・警備の方に留意した,規律を重視した処遇というのが行われているというのが現状でございます。   最後に,PFIの刑務所の御質問がございました。この資料の6ページにございますけれども,そこの一番上の各施設の収容対象というところで,島根あさひ社会復帰促進センター及び美祢社会復帰促進センターの収容対象につきましては,収容,刑執行開始時の調査の時点において,20歳以上となっております。美祢社会復帰促進センターにつきましては,60歳未満という条件も付いておりますけれども,それに加えて,PFIの施設につきましては,心身に著しい障害がない,あるいは集団生活に順応できるという要件を別に定めております。このような要件に該当する者につきましては,再犯防止のための各種の指導の効果が見込めるものであると考えられますので,PFI刑務所に収容することとした上で,先ほど簡単に説明を致しましたけれども,認知行動療法の知見に基づく各種の改善指導プログラム,それから多様な職業訓練の受講の機会を与えて,出所後の就労に役立つ資格・免許を取得させております。   以上のとおり,若年の受刑者につきましては,これらYA,YB指標,それからPFIの施設がございますので,それぞれの受刑者の状況に応じて適切な施設に収容して,様々な働き掛けを行っているところでございます。 ○橋爪幹事 ありがとうございます。   ただいまの説明を伺いまして,1点,感想めいたことを申し上げたいと存じます。   今伺った限りですと,基本的にY指標につきましても,若年受刑者の特性に十分に配慮した上で,教科指導や職業訓練を重点的に行っていると理解いたしました。   そうしますと,実はJ指標とY指標の区別が,その処遇の実態においては,かなり相対的であるようにも思われます。もちろん対象者の年齢が違うわけですが,それ以外の点では,基本的によく似た観点からの処遇が有効であり,また,実際に行われているということだと思います。   そうしますと,場合によっては,現在J指標で行われている処遇内容を,Y指標についても活用していくということが好ましいのではないか,例えば個別担任制など,J指標で行われている取組をY指標についても積極的に活用するということが,望ましいような印象を持ちました。   このような理解を,更に一歩進めますと,現在少年院で行われている処遇の内容につきましても,場合によっては,若年受刑者の処遇として活用,応用できる余地があるような感想を持ちました。   もちろん,少年院の処遇は保護処分でありまして,若年受刑者の処遇は刑罰でございますので,両者の違いといったものは看過できないとは思います。ただ,いずれにしましても,若年者の改善更生に向けた処遇という観点からは,共通する観点もあるわけですので,そういう観点につきましては,少年院の処遇における成功例をY指標やJ指標の処遇についても導入するということがあり得るような印象を持つ次第です。 ○今井委員 今の橋爪幹事と,私も同じような意見を持つわけですけれども,少年院で現在行われているような処遇というのは,教育的な観点からなされておりますが,こういうものが有用である場合には,若年者に対して,刑事施設である少年刑務所においても,今後そういった少年院同等の処遇を実施することが望ましいのではないかと思います。   繰り返しになりますけれども,少年院におきましては,個別の対象者の環境,生育歴等々見まして,法務教官,心理技官の方が大変手厚く,専門的なケアをなさっているというふうに承知しておりますけれども,こういったものを刑事施設である少年刑務所においても取り入れて,同様の問題を抱えて悩んでいることもあろう若年受刑者に対して実施していくことが,社会復帰には大変重要だと思います。   ただし,現在のくくりといたしまして,少年刑務所は飽くまで刑事施設であり,少年院とは処遇環境からして大きく異なっております。そこで,同等の方に対して同等の,少年院で成功しているような体験を実施するためには,やはり先ほどの1の「若年受刑者に対する処遇原則の明確化」の問題に戻ってくるのですけれども,現在の刑事施設においても少年院同等の処遇を可能にするような若年受刑者に対する処遇原則の明確化というものがあることが大変望ましいと思います。 ○加藤幹事 今井委員,橋爪幹事からも,若年者の刑務所処遇について,少年院での知見を取り入れることについて御指摘があったところです。   若年受刑者に対する処遇内容の充実に当たって,少年あるいは若年層に対する処遇の実績を有している少年院の知見を活用することは有効だと考えられますし,この点に関しましては,「若年者の刑事法制の在り方に関する勉強会」取りまとめ報告書におきましても,少年院において受刑をさせる仕組み,受刑者の処遇を行う仕組みが,検討の1項目として挙げられていたというところです。   このような方向性というのは,あり得るところであると思われますが,現行の懲役・禁錮の執行場所というのは,刑法では,御案内のとおり刑事施設とされておりまして,16歳未満の少年受刑者については,少年法によって,言わば特則的に,少年院において刑を執行することができるというふうにされているのが現行制度です。   この現行の少年院における受刑は,平成12年の少年法改正のときに,刑事処分可能年齢が16歳から14歳に引き下げられたことによって,16歳未満の少年に対して懲役・禁錮の言渡しをする可能性が生じたことに伴って,16歳未満の少年受刑者について,その年齢や心身の発達度合いを考慮して,受刑者の社会復帰のために改善更生を図るという刑罰の教育的側面を重視した行刑を適当とする場合が多いと考えられ,特に義務教育年齢の者について,教科教育を重視しなけらばならないということから設けられた制度であると理解しているところです。   このような仕組みを拡大して,一定の年齢の成人受刑者を含めた少年院受刑の制度を導入することについても,検討の対象になり得るのではないかと考えられるところではありますが,ここは単純に拡大するという話ではないわけでありまして,仮に今,直接の検討対象となっております18歳,19歳の者が少年法の適用対象年齢から外れた上で,それでも少年院で受刑をさせるということになりますと,今までのように,少年である受刑者を少年院で処遇するというのではなくて,成人である受刑者を少年院で処遇するといった問題にもなってくるわけでございます。   そういたしますと,この問題を検討する際には,少年院受刑の必要性や有用性に関係する検討に加えまして,少年院で刑を執行することや成人を含めて対象とすることの当否,あるいは収容場所,処遇内容の判断・決定を行う主体がどうなるのか,あるいは,当該判断を決定する際の考え方や基準をどのようなものとするのかなどを含めて,平成12年の改正経過等を踏まえて,法制上の整理を行う必要が高いと考えられます。   これらの検討を行う前提として,差し当たり,現行の受刑在院者に関する運用について,事務当局から御説明の用意があれば,お願いいたします。 ○大橋幹事 現行の受刑在院者につきまして,これまで受刑在院者については,収容した実績がございませんので,実際の運用というわけではなく,こうなっていますという制度の御説明になってしまいますけれども,受刑在院者を収容する少年院として,第4種少年院というのを指定しております。具体的には,久里浜少年院,榛名女子学園,関東医療少年院,奈良少年院,交野女子学院,京都医療少年院に受刑在院者を収容して,矯正教育課程の一つとして,受刑在院者課程というのが指定されております。   その受刑在院者につきましては,それらのいずれかの施設で矯正教育を受けるということになると思いますけれども,第4種に指定された少年院につきましては,第4種のみを収容するという指定がされているわけではございませんので,ほかの種類の保護処分の在院者も収容されるということになっております。ですので,保護処分の在院者とは居室を分離するということにしていますけれども,例えば生活指導とか教科指導とかの矯正教育や運動につきましては,それぞれの受刑在院者の個々の状況に応じて,処遇の効果を上げるために必要であると認められれば,分離せずに,保護処分の在院者と共に実施をするということも考えられるということでございます。   処遇につきましては,保護処分在院者に準じて行われるとなっておりまして,基本的な生活習慣を身に付けるための生活指導,あるいは義務教育としての教科指導,あるいは思春期における精神障害の専門的な治療処遇の必要性等,個別の事情を十分考慮するということにしております。   また,16歳未満で刑事処分を受ける少年でありますので,対象として生命犯が想定されますので,その事件の重大性を認識させて,被害者に対する慰謝の在り方について考えさせるということも教育の重要な柱になろうかと思います。   また,16歳に達したときには,刑事施設に移送するということになりますので,刑事施設への円滑な移行に配慮して,個人別の矯正教育計画を策定するなど,円滑な移行に向けて動機付けなどを行うことも必要だとされております。 ○佐伯分科会長 今の点を含めまして,何か,少年院での受刑について御意見ございますでしょうか。 ○青木委員 先ほど言われた少年院での受刑ということで,少年院でのうまくいっている処遇を,今少年刑務所に入るような人にも適用するというのは,それはあり得る話だろうと思いますし,それから,少年院のような小規模なところで少年刑務所を設置して,そこで受刑させるというのはあり得ると思うのですけれども,少年院で刑を執行するという今の制度を拡大するということについては,それはかなり問題なのではないか,そもそも今の制度自体もかなり問題がある制度なのではないかというふうに思っております。   というのは,恐らくこの制度が導入されたのは,16歳未満という義務教育年齢が関わってくるものですから,その当時,まだ刑収法もない時代ですし,少年刑務所に入れるというのでは教育的な配慮ができないであろうとか,そういうようなこともあって,義務教育年齢ということに鑑みて,そういう制度ができたという側面が非常に強いのだろうと思います。   それで,実際に例がないということなので,現実にどういうメリットがあって,デメリットがあったのかというのは分からないんですけれども,先ほども御紹介ありましたように,少年院に収容されている受刑者は,少年院が終わると刑務所に行くわけですね。少年院で,次は刑務所しか待っていない少年と,しっかりやっていれば早く出られる少年が同じところで,居室は別とはいえ,処遇されているというのは,お互いにとって余りよいことではないのではないかと思います。ですので,少年院のような規模で,少年院のような綿密なといいますか,そういう処遇をやるということは,是非検討したらよいと思いますけれども,少年院で受刑させるということは,やはりまずいのではないかと思います。   それと,今,少年法に基づいて,保護処分としてなされているということについては,やはり,それは少年だからできていることであって,それが成人に対してできるのかというのは,やはり理論的にも問題なのでしょうから,全く少年院と同じことができるということにはならないと思うんですね。そういう意味で,少年院で行われている処遇を若年成人にも適用しようという場合に,どのような処遇は適用できるのか,どのようなことは,それは過度な介入であって,成人に対しては行い得ないものなのかという整理も,きちんとする必要があるのではないかと思います。 ○今井委員 私も,青木委員のおっしゃることは大変よく分かるわけですが,他方で,青木委員も恐らく,こういう考えには賛成されるのではないかと思うのですけれども,少年院で刑を執行する際に,何がメリットかといいますと,やはり小規模で,個々の対象者に応じたオーダーメードのトリートメントができるということであります。   成人かどうかという区切りが,もちろん制度的にあるのですけれども,現在の少年と同じような問題を抱えていて,それに取り組んで改善していくのに適した方は,現在の少年院での刑の執行範囲を広げることによって,つまり青木委員もおっしゃったように,刑事施設への移送というふうな問題を排除するような方向で,制度の組み方は検討されてもいいと思います。どういうことかといいますと,そういう少年院で刑を執行される対象を広げていくというものも,現在の制度を基にした上で,一歩進んで改善するための方策としてあるのではないかと思うわけでございます。   ですから,例えば,成人である若年受刑者に対して,少年院受刑の対象を広げるということでありますとか,いろいろな切り方はあるのですけれども,現行少年法の適用対象である20歳未満に拡大する,あるいは,現行少年院法において収容継続が可能な23歳未満又は26歳未満というふうな線引きも考えてみて,先ほどから申し上げているのですが,どのような対象者に対して,どのような処遇が適切かという効果の方から遡って,現在の制度をより拡充して使うということもあり得るのではないかと,青木委員の意見を聞いていて思った次第でございます。 ○青木委員 整理の仕方の違いなのかもしれないんですけれども,それをあえて少年院でという必要があるのかどうか,それは,少年刑務所をそのようなものにすればいいのではないか,小規模な施設を少年刑務所として,今言われたようなオーダーメードのトリートメントができるという制度を作るという,むしろそっちの方がすっきりするのではないかという気もしますので,それはちょっと,またよく考えてみたいと思います。 ○橋爪幹事 今の点,なかなか難しいと思いました。少年院の処遇は保護であり,少年院受刑は刑罰であるという違いをどのように考えるかという問題になってくると思うんです。両者の質の相違を重視するならば,やはり処遇としても明確な区別を施すべきという理解もあり得るところです。   ただ,刑罰の対象となる者の中には,刑罰を加えながら,かつ,国家が後見的に保護すべき者も含まれている気がするんですね。例えば障害者の方,あるいは発達上の問題がある方,これらの若年者であり,かつ国家が後見的に保護する必要がある者については,刑罰の中で一定の保護的措置を施すということがあり得るようにも思います。このように対象者を絞って考えますと,少年院の中で,言わば保護的観点を交えながら刑罰を執行するということも正当化し得るようにも思いますし,また,女子については,そもそも全体の人数が少ないという特殊性がありますので,少年院と共同して受刑するということにも一定の意義があるのではないかという印象を持ちました。 ○佐伯分科会長 ほかには,二つ目の「若年受刑者を対象とする処遇内容の充実,少年受刑の対象範囲」について,いかがでしょうか。   このくらいでよろしいでしょうか。   三つ目の「若年者受刑者に対する処遇調査の充実」が残っているんですけれども,予定した時間を過ぎておりますので,残りの議論は次回にしていただければと思います。ということで,本日の審議はこれで終了させていただきたいと思います。   今後の予定につきまして,事務当局から説明をお願いいたします。 ○隄幹事 今後の予定について申し上げます。次回の第1分科会の会議は,11月14日火曜日午前10時から,場所はこの建物の20階にある会議室で行います。 ○佐伯分科会長 本日の会議の議事につきましては,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を公表させていただくことにしたいと思いますが,よろしいでしょうか。                 (一同異議なし)   それでは,そうさせていただきます。   本日はどうもありがとうございました。 −了−