法制審議会人名用漢字部会第6回会議 議事録 第1 日 時  平成16年8月13日(金)  自 午後1時30分                        至 午後4時20分 第2 場 所  法曹会館「高砂の間」 第3 議 題  字種の選定について         その他について 第4 議 事  (次のとおり)               議         事 ● 定刻になりましたので,法制審議会人名用漢字部会の第6回会議を開始いたします。 本日は大変お暑い中を,また夏休みといいますか,お盆休みの真っ最中に御足労いただきまして,ありがとうございました。   それでは,最初に事務局から資料の説明をお願いいたします。 ● 事務局から資料の御説明をさせていただきます。   本日は,資料番号をつけた資料は2点でございます。資料番号26と27でございます。資料番号は通し番号でございます。   資料番号26でございますが,これは本日の審議項目をまとめたもので,二つしかありませんが,「字種の選定について」と「その他」でございます。   資料番号27は,「漢字データベース」でございます。意見照会の結果をまとめたものでございます。詳しくは,後ほど御説明させていただきます。   また,資料番号はつけておりませんが,席上配布として,「人名用漢字部会長様」で始まる二枚物のペーパーでございますが,本日御欠席の○○委員から,8月8日付で作成をいただいたものでございます。内容については,後ほど事務局の方から説明をさせていただきます。   また,異体字をまとめたものでございますが,一枚物で「追加候補の漢字」ということで,後ほど御審議いただくことになろうかと思いますが,常用漢字の異体字と人名用漢字の異体字関係をまとめたものでございます。   それから,これも後ほど御審議いただくことになろうかと思いますが,「異体字の掲げ方(その1)」と,「異体字の掲げ方(その2)」についても席上配布をしております。   また,いつも参考配布させていただいております人名用漢字表と,参照条文でございます。 ● それでは,お手元の資料につきまして,内容を事務局から御説明いただきたいと思います。 ● 部会資料27の「漢字データベース」を御覧いただきたく存じます。   今回のデータベースは,パブリックコメントにおいて削除要望のあった漢字479字を対象に,前回の御審議の後,各委員・幹事の先生方に,人名として明らかにふさわしくない漢字について御意見を伺い,その結果をまとめたものでございます。   具体的な御意見でございますが,凡例の項目でいきますと○27のところに委員・幹事への意見照会結果をまとめておりますが,ここにバツ印をつけたものが,人名に明らかにふさわしくない漢字であるとして,それぞれの委員・幹事の先生から御意見をいただいたものでございます。   有効回答をいただいた先生でございますが,委員につきましては,10名のうち7名でございます。○○委員,○○委員,○○委員は棄権でございます。   ○○委員につきましては,コメントをいただいておりますので,口頭で棄権の理由について御紹介させていただきます。   ○○委員は,「今の時代においてはいかなる漢字を使用すべきかを議論するのではなく,例えばアルファベットはどうするか,ハングルはどうするかという方向で議論をすることにこそ意味があるのではないか,個々の漢字を使用すべきか否かを決めるのは役所の仕事ではなく,一般国民の判断に委ねるべきである。したがって,漢字の意味を考慮して1字1字について採否を回答することは控えさせていただく」として,棄権させていただきたいとのことでございます。   また,○○委員,○○委員は事務局方の委員でございますので,棄権をいただいております。   さらに,幹事の皆様方につきましては,いずれも棄権をいただいております。   そして,有効回答をいただいた7先生方についてデータベースにまとめましたが,バツが付された数につきましては,データベースの一番右側の欄にそのまとめた数を数字として記載しております。そして,有効回答7の過半数の4以上にバツが付された漢字について,データベースでは網掛けをしております。   データベースの説明は,以上でございます。 ● それでは,この字種の選定につきまして,ただいま意見照会の集計結果の御説明がございましたけれども,各委員・幹事から補足的な御説明等ございましたら,お願いいたします。   御欠席の○○委員から,書面で意見が届いておりますので,これにつきまして事務局から御説明をいただけますでしょうか。 ● お手元に参考配布をさせていただいております,「人名用漢字部会長様」と題する二枚物のペーパーでございます。○○委員につきましては,228字の漢字についてバツ印をつけられておりますが,その理由について,ペーパーを読み上げさせていただきます。ペーパーの一枚目の真ん中あたりから読み上げさせていただきます。     この要求された「明らかに不適当と考えられる漢字」は,ほぼ次の4種の分類における第1種及び第2種をあらわしております。     第1種 漢字自体が既に不適当な意味を持つ漢字     第2種 その漢字にかかわる社会的な通念が不適当だとする漢字     第3種 新生児の命名には使用しないと考えられる漢字     第4種 新生児の名として適当だと考えられる漢字     この第1種は,「漢字データベース 意見照会用」の若い番号の漢字群で言いますと,順に「蔑,膿,娼,骸,尻」になります。     次に,第2種は,ことわざや慣用句を始めとして,社会通念をあらわす語句の中で否定的に扱われているものを表す漢字です。例えば,「鳶が鷹を生む」では「鳶」が軽視されています。「狐や狸に化かされる」では,「狐」,「狸」がよくない動物として扱われています。ただし,こういった社会通念は時代とともに少し動くことがあります。例えば,「鴨」の場合,「○○を鴨にする」,「鴨が葱を背負ってくる」などとの言い方がありますが,その「鴨」は必ずしも悪い意味だけではないということで残してあります。また,「狼」については,要望数が多いことの背後に,一方で「送り狼」という慣用句がありますが,他方で「ロウ」を表す漢字の中で,力強い感じを表す感じとして「狼」が期待されていると思案しました。     私は,この2種までは明らかに不適当な漢字としました。     第3種は,例えば「庇」でいいますと,これは「庇(ひさし)の間」というような意味で使います。「おおい」の意味です。人名に適切であるとは断言できませんが,「かばう」という意味もあるということで,必ずしも悪くはありません。こういう漢字を第3種としました。仮に漢字選定の条件から「明らかに」という限定語を除いて,「名として不適当な」ということですと,この第3種までを除外することになります。しかし,私は,この第3種は残してあります。     第4種は,従来の人名用漢字で採択した漢字群です。今回,JIS第1水準の漢字を念頭に置いた上での出発でしたので,この第4種に限定することができませんでした。     以上の次第で,私は,上記の第1,2種を除外して,第3,4種をよしとする立場をとりました。  以上が,○○委員の御意見でございます。 ● ほかの委員・幹事の方から補足的な御意見があれば,お伺いしたいと思います。   ○○委員,何かございますでしょうか。 ● 全体としては,大方の皆さんの御意向で進めさせていただくことはよろしいと思いますけれども,私と○○委員はかなり似ているのだろうと思います。   ○○委員の考え方に私は非常に近いわけでございまして,今回,従来に比べて頻度発生という形で分類をしたということは,ある面では現状の常用平易というのを拡大しようという,私はそういう考え方だというふうに理解しているのです。   そういう中で,私は名前というのは正に親が最初に子供に与えるプレゼントだと思います。そういうことを考えますと,私は親の,あるいは国民の,自己責任,自己決定という,そういう考え方をとっていいのではないかと考えました。常識があるかないかというのは,正に親の,国民の判断に委ねるというのが基本的な考えでございます。   しかし,それじゃ全部青天井にするかとなると,なかなか現実的に難しいから,雑誌,新聞等でかなり出現頻度が高いのを限りなく常用平易という形でとらえたのだというふうに思っておりますので,一つ一つについて,これが語源的にどうだという議論は,私は考え方としては余りとるべきじゃないと思います。   特に今,私,実は自治体の仕事をしておりますけれども,余りにも自己決定,自己責任というのが欠落しているのですね。ちょっと例を言いますと,今,学校なんかでも親御さんが,子供のはしの持ち方が分からないから学校の先生が教えろというのです。私はそれに対して父兄に言います,違うでしょうと。教えるのは家庭ですよと。なぜこういう持ち方が正しいかということを教えるのが学校ですよと。あるいは,朝,あいさつもしない。先生,学校で教えてというのです。あいさつをしろと,おはようと言うことを教えるのは親なので,なぜあいさつが必要かというのが教育なので,そこをすごくはき違えているのですね。何でも社会のせいにしたり,自分の判断というのを避けようという,私はそういう社会の風潮がある中で,子の名前については要するに親からの最初のプレゼントなのです。私は,自己責任,自己決定ということをとるべきであるということから,今回については--一つずつの字の語源は,私は専門家じゃないから分かりませんけれども--できるだけこういう基調から広げたいということで,事務局が御提案されたものについて賛意を示したものでございます。 ● ほかにいかがでございましょうか。 ● 御覧のとおり,私が一番厳しくバツをたくさんつけてありますが,その理由をお話ししたいと思います。   私も,初め,○○委員のように,幾つかの柱を立てて名前として明らかに不適切というようなものを選ぼうと思っていました。しかし,今,○○委員が言われたような立場もあるので,ちょっとなかなかこれは恣意的にならざるを得ない,どうもこれだけ広がりがありますとそういったことではつけられない。また私,人よりも今回こういうようにバツがたくさんになったのは,やはりパブリックコメントにおいて一つ二つというのはどうかと思いますが,三つ,四つ,五つというふうに削除要望が出ているということは,何らかの一つの傾向があるものというような,そういう立場があり,また一方では採用希望もあります。ですから,その辺を両方にらみ合わせまして,そしてまずそういったところで線引きをしてみました。その上でもって,更に不適切なものがあるかどうか,あるいは逆の立場でありますけれども適切なものがあるじゃないかというような,そういった見方をしていこうというふうに考えたわけでございます。   私は,基本的な,もっと大前提になるものとして,ここで今更言うべきことではないのですが,やはりこれはもうこういう時世になりますと,時代と社会の変化によってある程度の年数でやはりこれは,ちょくちょくという言い方は語弊がありますけれども,見直しを迫られるのじゃないか,ですからそういう意味では,今回についてはこの範囲ということはどこであっても致し方ないというようなことも考えました。   そこで,今のような結果になったわけですが,もう一言言いますと,やはり名前の社会性ということがあります。親が幾ら希望しても,どう読んでいいのか分からない,また非常に難しくて,小学校の児童の時代に本人が書けるかどうかも分からないような字までとることはない。単に字形だけでなく,字音も--今日の「朝日新聞」でしたか,何か非常にとんでもない読み方があって困るというような投書が載っていたと思いますが--それと同じことで,どうも読みようがない,またどんな当て方をされるか分からない,むしろかえって漢字の用法に混乱を来すのじゃないかというようなものは,この範囲になっても省いていこうと,不適切だから省こうというようなこともちょっと考えました。   主たる,最初の出発点は先ほどお話ししたとおり,パブリックコメントで3以上あった場合にはかなり厳しく見ていく,2以下だったらどちらかといえば残す方向で見ていくというようなことでしたが,あわせて採用支持,あるいは法務局に対する要望というようなものを勘案して見ていきました。   ですから,単純に今のように機械的に見たわけではないのですが,初めにそういう絞り方をした上で,一般の要望,あるいはマイナスの要望ということを見た上で,自分の意見をそこに反映させたつもりです。   以上のことで,何か原案に逆らうようなふうにもなりますが,かなり厳しい結果になりました。 ● 今の○○委員と比較的近いのですが,名前というのは個人のものではなくて,これはもう社会的存在なんですね。ですから,社会においてやはり読み方が分からない,書き方も非常に難しいということは,名前としての機能を既にそれだけで失っているのじゃないかと。   それから,○○委員の自己責任ということは分かるのですけれども,実際,後の方で言われたしつけの問題なんかも,先生に任せろなんていうのは誠におかしな話で,これは家庭で親がまず初めにしつけるべきことなんですが,そういう親が果たして名前を社会的な存在,あるいは子供の将来のために考えてつけるのかどうか,非常に恣意的に,「悪魔ちゃん」という例もあるように,今の親の教育というものをもし心配するのであれば,やはり名づけについても心配されなければならないと思います。   それから,いずれにしても名前というものを非常に親が子供のために一生懸命つけるということ,そしてその考えた字がなかったということでこういう見直しができたわけですから,そういう全体的な意見を尊重しなければならないのですが,今回内定してパブリックコメントの結果その他,いろいろ新聞,雑誌等の反響を見ますと,数は増えたけれども名前につけられる字はそれほど多くないのじゃないか,特に名づけの本なんかを書いている専門家といいますか,そういう方の中には,本当に名前につけるのはこのうちの2割ぐらいであって,実際名前につけたい字が入っていないと言う方もおられます。私自身は,人名漢字の数を増やすこと自体がそれほど賛成ではないのですけれども,その意見には賛成です。   つまり,今回,恐らくもう少し減らされるのではないかと思うのですが,仮にここから200字削除したとして,あと50字ぐらいはむしろ人名にふさわしい漢字をすくい上げた方が,国民の要望に沿うのではないかと思います。ですから私としては,143字なんですけれども,実際はもっとたくさん挙げたかったのですが,これは遠慮した方でして,ただしそのかわり,「掬」だけではなくて,皆さんのところにも行っていると思うのだけれども,例えば木下杢太郎の「杢」とか,そういう名前につけておかしくないような字が抜けているものについては,そんなに多くない範囲で増やすことは,私は賛成です。 ● ○○委員,何か……。 ● いただいた資料を個別の文字ごとに検討していった結果で,88というのは少ない方から2番目になるのでしょうか。私個人で考えて,不愉快なイメージを与える文字というのを中心にバツをつけていった結果です。   単独の文字ではなくて,その文字が熟語として使われるケースを考えまして,具体的な例をお話しいたしますと,1ページの9番目,「垢」という字がございます。土へんに皇后陛下の「后」という字で,私はこれにバツ印をつけなかったのですが,「無垢」という言葉がありまして,「垢」という文字そのものはもちろん不快なイメージを与える言葉であるにせよ,それに否定詞をつけるというか,「無垢」という言葉を女の子につけたいという希望がもしかしたらあるのじゃないかということ,つまり熟語というレベルでそれぞれの文字を考えていこうというふうなスタンスで見てまいりました。   私がバツをつけていないために生き残ったという文字もかなり散見されますので,ちょっと責任を感じなければいけないかなという気はいたしますけれども,文字そのものとしては,例えば「噂」なんていう漢字は人名に対して適しているかどうかというレベルよりも,文字そのものの持つ意味のイメージというものを尊重した結果,使いたいという要望があれば使うことは別に構わないのじゃないかというふうに考えました。   それから,鞭撻の「鞭」という字も,これも鞭撻という,今の子供に対して鞭撻なんていう名前は使われないだろうとは思いますけれども,鞭撻の「鞭」というのは励ますという意味で使われる可能性がある文字ですので,今言いましたように熟語というレベルで考えていけば生き残りができるのじゃないかということで,割と自分では控えめにつけたつもりでいます。 ● 幹事の皆さん,何か御意見ございましたら……。   ○○幹事,いかがでしょうか。 ● 特にございません。 ● ○○幹事,いかがでしょうか。 ● 特にないのですが,今日の「読売新聞」の投書を見ていましたら,女性の方で「倫子さん」という方ですが,論理の「論」のごんべんをとってにんべんにする,そして倫子さんという方が投書されていましたが,以前は倫理の「倫」ですと言ったら通じたのに,最近電話で通じなくなっている,不倫の「倫」ですと言うと通じると,時代が変わったということを書いてあったわけですが,そういうことは将来も起こると想像されますので,熟語ということを考えてもなかなか難しいなと思います。単なる感想ですけれども。 ● ○○幹事,何かございますか。 ● 特にございません。 ● ○○幹事は何か……。 ● 特にございません。 ● 本日御欠席ですが,○○委員からいただいた回答シートには,ナンバー27の「屑」と40の「塵」について,一言コメントを書いていただいておりまして,俳句ではこの二つの字については桜の花びらを「花屑」とか「花の塵」などと美しく表現しますということで,バツはつけていただいていないということでございます。 ● 事務局としまして,○○委員の先生方にお伺いをしたいといいますか,御確認させていただきたい点がございます。   昨年12月の最高裁判所の決定で,社会通念上常用平易であることが明らかな文字を子の名に用いることができる文字として定めなかったときは,戸籍法施行規則60条はその限りにおいて違法無効であるとされておりまして,それでこれまでの部会で御審議をいただきまして,常用平易と考えられる文字を候補として選定いたしました。しかし名の社会性ということも考慮しまして,社会通念上明らかに不適当と考えられる字については,候補から削除しようということで,先生方から御意見を頂戴したものでございますが,ここで削除の候補とされている字の中で,若干でございますけれども,常用平易と思われまして,かつ必ずしも社会通念上名として不適当とも思われない,あるいは一般の常識から著しく逸脱しているとまでは言えないような字も入っているのではないかなと,ちょっと心配をしております。   例を10文字申し上げたいと思いますけれども,番号からいいますと5番目の「尻」,それから9番目の「垢」,11番目の「呆」,30番目の「叩」,45番目の「乞」,それから52番目の「吠」,84番目の「爪」,110番目の「咽」,128番目の「綻」,157番目でございますが煽動の「煽」でございます。   それぞれの委員の先生方で,もうこれらの字が社会通念上明らかに名として不適当だということで御判断いただいているのであれば,それはもう仕方がないのかもしれませんが,例えば「爪」という字などを見ていただきますと,4画で,明らかに常用平易と思われますし,また意味としても特にそんなにひどい意味もないような感じもしております。   削除要望数を見ていただきますと,「尻」は結構削除要望が多く,69件の削除要望があるのですけれども,「爪」は13件,「咽」が9件,「綻」が8件,「煽」が7件と削除要望数も結構少ないのでございまして,この辺について裁判となり常用平易性で争われたときに,なかなかつらいものがあるのかなという感じもしておるのでございますが,その辺につきまして委員の先生方から御意見を賜れればというふうに思っております。 ● いかがでしょうか,ここでだめだと決めた後で,裁判になって,これは明らかに常用平易であるというので,これを使わせないのは違法だという判決が出るのはちょっと困るのじゃないか,というふうなことかと思います。   余り名前につけそうもないような字だといえば,そういうふうな感じもしますけれども,いかがなものでしょうか。何か参考になるような御意見いただければと思います。 ● 今挙げられた中では,確かに「爪」が常用平易という感じがいたしますね。しかし,「尻」や「垢」ほどの否定的な意味はないのですけれども,大体爪でひっかくとか,爪を立てるとか,何かどちらかというと否定的な方に使われることが多いので,今まで名前につけられたという例は,私は知らないのですけれども,そういう意味で名前にふさわしい字ではないのではないかと思います。   それから,私としては一応追加要望があったものは省いているはずですが,これは追加要望はなかったと思います。そういう字ですから,単に常用平易であるにしても,名前としては一般の常識から,著しくかどうかは知らないけれども逸脱しているし,社会通念上も余り適当ではないと思っております。 ● 平易というのが,今の御説明の中でもどちらかというと筆画,画数,字形などの方から言われておりますが,最近の傾向としては全く意味と関係なく,字音を使って当て字のようにしていくのも結構あります。新聞の投書などでもそういったことも指摘されていますので,とんでもない読み方になっているというのがありますが,この「爪」なんかは読みようがない。「つめ」とは読みますが,これは何という音に当てるのかというようなこともありますから,決して画数が少なくても平易とは言い難い,つまり読みにくい,読めない,もしか読むとしたらとんでもない当て方をされてしまうというようなものは,今お話になった10個のほかにもありますが,平易という観点から,字音の方にもちょっと気を配ったつもりでおります。 ● いろいろ世間で批判された中に,批判といいますか,意見の中に,先ほどから挙げられた読みにくいということがあります。学校の先生なんかが,最初に1年生が入ってきたときに,ルビが振っていないと読めない名前がいっぱいあるという状況ですから,必ずしも字画がやさしいから平易であると言い切れない面はあると思います。   つまり,名前として素直に読めるような字であれば正に平易だと思いますが,非常に読みにくい字が今回の中に随分あると思っております。 ● 読みの方は,今読みにくいというのは,私も教員やっておりますからとても読めない名前がたくさんあるのですけれども,これは全部常用漢字と人名用漢字を使ったもので,しかしどう読ませるつもりなのかが全く理解できないという名前のつけ方はたくさんあるわけですね。 ● それも制限しろという意見がありますね,名前をつけるときに。 ● ほかに,今の点について何か……。 ● 今挙げられた10個のうちで,例えば「尻」とか11番の「呆」,あるいは「叩」というのは,やはり文句なしにマイナスイメージを伴う文字ではないかという気がいたします。   言われてみればうーむと考え込むのは,例えば「爪」ですし,それから犬吠岬の「吠」という字ですね。45番の乞食の「乞」というのは,やはり現実としては不快なイメージを伴う熟語を想起するというふうに私は思いますので,もし敗者復活という議論になるとしても,「乞」というのは私はやはりマイナスではないかという気がいたします。   「爪」というのは,私自身もバツをつけているのですが,○○委員がおっしゃったのでしょうか,ひっかくとか,あまり好ましいイメージでは使われないのではないかという気がしたのですが,例えば「琴を爪弾く」なんていう言葉を考えますと,もしかしたら使いたいという御要望があるかもしれないなというのは,今,御指摘を受けて思ったところです。   まだもう少し個別の文字について再検討するということであれば,それはそれなりにこちらも考え直すべきものについては考え直す時間があればとは思いますけれども,すべてのものについてそれをやり直すというのは,この間投票した意味がないわけですし,特定の文字についてここで議論をするというのだったら,それに参加するにはやぶさかではないということです。 ● 事務局で特に今の10文字について御議論いただきたいと言ったのは,字そのものから見て必ずしも難しい字というイメージを与えない。中には,例えば「尻」のようにイメージ的にマイナスのイメージが割とはっきりしている字もありますけれども,今御議論に出ました「爪」等については,それはプラスかマイナスかと厳密に見れば必ずしもプラスではないのかもしれませんが,ここで掲げないということは,少なくとも名前に使うことを許さないということですから,それほどのマイナスイメージが「爪」という字にあるのだろうかということです。音が難しいという御意見はありますけれども,ごく常識的に見て,「爪」について常用平易かどうかと言われて,常用平易でないという判断をするのは事実上非常に困難ではないかという気がするわけです。   「尻」という字だって,常用平易といえば平易ですが,まあ明らかに名前には使わないだろうし,マイナスイメージもあるという,そういうところは言えても,「爪」はちょっと難しいのではないかないか,程度として大分違うのじゃないかなと,そういうようなこともあって,単純な多数決だけではなくて,もうちょっと御議論いただいておいた方がいいのかなという感じで申し上げているのだと思います。 ● 言葉の持っている意味について,いろいろな意見はあると思うのですけれども,人の体の一部なんですよ。その機能がなかったら,人間として成り立たない。それをイメージが悪いというふうに言われてしまうと,どうかなと思います。人の体の機能が,例えば爪がなければ非常に困るし,特に生活として困る。それを絞っていくというのは,私としてはちょっといかがかなと思うのですね。   やはり,いろいろな役割と機能があって人間の体というのは成り立っているので,ある部分をもってそれがいい,悪いと言われてしまうと,ちょっとなかなか説明しにくいのじゃないかと思うのですよ。私はそんな感じを持っているのです。 ● 今日は字種については決めていきたいというふうに思っておるのですけれども,最終的には多数決というふうなことを含みに考えますと,現在過半数の方が削除すべきであるというものは削除せざるを得ないと思っておりますが,今御指摘がありましたように,戸籍法上の基準は単に常用平易ということでしかありませんから,裁判になると常用平易かどうかということで争われる,ただし著しく社会通念に反しているようなものについては外れても裁判所はそれはそれで合理性を認めてくれるだろうということです。 ● 先ほど例として10文字挙げられましたけれども,この挙げられた10文字は,網がかかっている中から字画が少ないというか,構造が簡単だという判断のもとに選ばれた10文字ということでしょうか。   でしたら,例えば18番の「仇」なんていうのは,これは4画の漢字なんですが,これが10文字の中に入っていないのは,何か理由があるのでしょうか。 ● アトランダムに例示として挙げさせていただいたものでございますので,これに基準があってこの10字だというものではございません。 ● 「仇」についても同じでしょうね。ですから,必ずしも全部をということではなくて,上の方から比較的目についたものについてということですので,挙げた中でも字の意味等で大分違いがあることも事実ですけれども。   考え方で,乞食の「乞」にしても,教えを乞うというのも同じ「乞」ですから,そういういわば謙虚な姿勢を示すために名前に使いたいのだということを考えたときに,それを禁止しなければいけないかという,そういう見方もあっておかしくないのではないかということなのですね。   先ほど,無垢ということでおっしゃいましたが,それと同じように,それこそ「糞」なんていう字はだれが考えても一字で意味も確定していますが,「教えを乞う」と考えるのか「物乞いをする」と考えるのかでイメージが随分違ってくる,そういう字もあるのではないかということです。 ● 下の方にある煽動の「煽」,「あおる」なんていう字なんかは,これは字画が少ないからというよりは,みんなになじみがあるというような意味で例として挙げられたということですね。意味としては,そんなに悪い意味ばかりでもないだろうということでしょうか。   これも,一字ずつリターンマッチを考えていくと,限りなく時間が必要になってしまいますが,とりあえずこの過半数の方がバツをつけたというものの中で,これはバツをつけたけれどもこの場でバツを外すことによって,要するに削除意見が過半数でなくなるというようなものがあれば,再検討の余地があるのではないかという,そういうふうな御趣旨での御提案だと思うのですけれども。 ● これは価値判断でございますので,確かに「爪」も悪い意味があり,他の字にもそれぞれ悪い意味があるといえば悪い意味があるのかもしれませんけれども,特に事務局として気になっているというのが,「爪」でございまして,4画で非常に簡易平明な字であるということ,それから漢和辞典の意味などを見ましても,爪と牙となって助け守るものということで「爪牙」というふうな単語もございまして,必ずしも悪い意味でない。確かに用語もないことは御指摘のとおりでございますが,もしこれが仮に裁判で争われたような場合に,この字を使うことを認めない理由を説明することがかなり難しいのではないのかと心配しているところでございます。 ● 今,○○幹事がおっしゃった,裁判になったらこれは非常に苦しいのじゃないかというお話が出ましたけれども,それは今挙げていただいた10字の中では,この「爪」という字だけですか。   つまり,一つは,例えば今の「爪」のちょっと上に「錆」という字が81番にありますね,これなどもとらえ方によっては錆ということで必ずしもよくない意味である。そういうことで,実はここも三つバツがついているわけですね。ですから,三つバツがついているものと四つバツがついているものというのは非常に微妙なところで,これはもう見ていくと本当に1字1字検討すると恐らく意見が分かれて,あるものは3票入り,あるものは4票入りということで,ですからどこかで線を結局引かざるを得ないのだろうと思います。   もう一つは,最初から申し上げていますけれども,本当はそういう一つ一つ検討をすべきじゃないかなということがあったわけですけれども,今回はそうでなくて,なるべく常用平易というような漢字集合を作るということで来たわけですね,ですからそういうものの意味を考えないでということでパブリックコメントやったわけですけれども,そういう流れからいっても,やはりここでまた1字1字についてというのは非常に難しいと思いますので,意見をお寄せいただいた先生方の見識を信頼するということにして,ですから私は基本は過半数ということでいいと思うのですが,どうしてもこれだけはというものは見直す。今確認したのは,どうしてもこれだけはというのがあれば,例えば「爪」というのが裁判になっていて,常用平易だからという理由で負ける見通しが立っているのにそれを外してしまったりすると,これは何のためにこういう会が行われているのか分からないというようなこともありますので,ですからその辺率直に教えていただいて,そういったことを少し考え直して,この網掛けを取るということは,当然なされるべき作業ではないかなというふうに私は考えております。 ● 「爪」について,特に裁判になっているとか,何か個別の事件で心配しているというものではございません。 ● 「爪」ではございますが,先ほど○○幹事の方からもお話ししましたが,「爪牙」ということで熟語として用いる場合が当然あり得ます。今回,「牙(きば)」が入ります。「爪牙」というのは,やはり君子を助け守る武臣のたとえということで,非常にいい意味で,「牙(きば)」が使えてなぜ「爪」がだめだというような話にはなろうかなということで,例として事務局としてはこの字を特に御審議いただければということでございます。 ● 「爪」が常用平易でないというのは……。字からいえば「尻」だって,割としょっちゅう使われる字ですけれども,それは意味まで考えれば人名用漢字に「尻」が入ってなくてもそう不思議ではないのだとは思うのですが,「爪」という字をあえて使いたいという人が出てきて,万一訴訟になったときに,どういう形で使うのかよく分かりませんけれども,あえてそれはだめですと最後まで頑張れるのかなという感じはするのですね。   その点で,先ほど挙げた例の中でも,「爪」あたりは一番そういう意味でマイナスイメージが少ない字ではないかと思います。   「乞」の方になると,それは確かに乞食のイメージがありますので,それはおかしくないとは思いますが。 ● いかがでしょうか,とりあえず話題が「爪」に集中しておりますので,「爪」について,そういうことなら涙をのんでバツを外してもいいという方がいらっしゃいますでしょうか。 ● 例えば,「爪」に私バツをつけていますが,虚心に今の御意見を伺いまして,このバツを撤回すればこれが生きるわけですね。そういうことをこの場でしてもいいものかどうかというのをちょっと今お教えいただきたいのですが。既に行った投票を訂正するということになるわけですから,別に事務局サイドにすり寄ろうという意図は毛頭ないのですけれども,考えた結果,「爪」になぜバツをつけたのか,今自分で考えていたのですが,これという明確な論理が出てこない。恐らく身体部位ということでつけたのだろうとは思いますけれども,常用平易ということを盾にとられたら,これはあえて外さなければいけない文字ではないのかなという気持ちには,今はなります。   自分なりに考えましたら,自分でバツをつけておいたものを非常に無節操にひっくり返すようなことはちょっと気恥ずかしいのですが,先ほど御指摘いただいた10文字のうちの52番の「吠」という字ですが,これ犬吠という地名がありますね,その辺の地域の方々が,沖縄で「琉ちゃん」という男の子の申請があったように,あれは千葉県ですか,千葉県でこの字を地名に由来する名前として使いたいという希望があったときに,果たしてそれが排除できるかというのは,10文字の中では私は「爪」とこの「吠」というのは,自らつけたバツを今どうしようかなと悩んでいるところだという感じです。   例えば「爪」については,マルにしますとこの場で態度表明をすることが許されれば,これは生きるということになります。ほかの先生方から節操のないやつだなという御批判をいただくかもしれませんけれども,言われてみれば外す理由は余りないのかなという気持ちにはなっています。 ● このいただいた御意見ですが,これは前回のときにも申し上げましたように,各委員・幹事の方から御意見を表明していただいて,それに基づいて最終的に今日の部会で決めると,こういう前提で行っております意見照会ですので,ここでいったん態度表明をしたらそれはもう訂正できないとか撤回できないとかということではありません。特に今日,できれば字種を最終的に決定していただきたいと思っておりますので……。 ● 法律というのは厳しいものかなと思っておりましたので。 ● ですから,もちろんここで意見交換をして,バツにしていたけれどもマルにしたい,あるいは逆に認めていたけれどもやはりバツにするのだということがあっても,それは差し支えございません。 ● 私は,それぞれ考えた上でのことですから,バツをマルにしますとは言いたくないのです。ですから,そういうどなたかから提案があって,審議して,その結果復活させようということであれば,この場でも復活して構わないと思います。   結局私は,なぜバツをつけたか,平易という二文字の解釈がやはりちょっと違うようで,常用と平易が一緒になっていますが,常用と平易はかなり隔たりがあると思います。社会性という点で,先ほど音の読み方の問題を申しましたが,「爪牙」という例を「爪」について出されたけれども,漢和辞典を引いて何か読み方はないかといって探せば,それはありますけれども,一般の人が「爪牙」という言葉を知っているというのは,恐らく1%にも満たないだろうと思います。そういった点で字音ということで私はこれが幾ら字画が少なくて平易に見えても,目では平易でも耳からは平易でないというような観点でバツをつけたわけですので,これにマルをせよと言われてもマルはしませんが,ただ御提案が平易という見地で違った角度から平易だというふうに言われて,それもそうだと思えば復活に賛成すると,そういうやり方にしたいと思います。 ● 私もバツを取り消すつもりはありませんが,いろいろほかの字と比べて,確かにそんなに難しくはないし,意味も甚だしく不適当ではないわけだから,これを残すことについてあくまで絶対反対と言うつもりはありません。 ● 私の発言が少し不適当だったかもしれませんが,○○委員から御指摘がありましたように,あくまで意見照会をいただいて,それを踏まえて本日この場の審議で決めるということでございましたので,バツをマルに変えていただいて初めて救われるということではなくて,過半数の方がバツをつけたものは基本的に削除の方向で検討する,その中で審議の結果,これは救ってもいいだろうというふうな形で意見がまとまったということで網掛けを外すものがあり得るということでございまして,今は「爪」につきましてはそれでよろしいだろうということでおおむね意見が一致したと思いますが,○○委員が御指摘になりましたもう一つの文字,「吠」はいかがでしょうか。 ● 意味としては,いい意味だとは認識はしていません。ただ,命名という事柄にまつわる話で,地域性はやはり考える必要があるのじゃないかという気がしますので,そこのところをどう考えるかというだけの話です。   ちなみに,ほかの文字ですが,咽喉の「咽」という字を先ほどおっしゃいましたでしょうか。 ● 110番です。 ● 「咽」という字は,咽喉という熟語でしか使わないと思うのですね。「喉」も65番にありまして,「喉」は必ずしも平易な文字だとは認識できませんので,咽喉という並びでしか使われない文字の一つだけを生き残らせるというのは,何の意味もないのじゃないかという気が私はいたします。そういった問題も含めて,議論の進め方としまして,例示されました10文字について,前から順番にオーケー,だめを一個ずつ考えていく方が早いのじゃないかという気がするのですが。 ● それでは,今のとりあえず例に出されました10文字で,最初に「尻」ですけれども,これは採用していいという御意見がなければしない方向に行くということで,意見を伺っていきたいと思います。 ● これは,現実問題としてつけられた子供がかわいそうじゃないかという気がするのですけれどもね。それこそ命名権の濫用に近いような印象を,私は持ちます。 ● 先ほどの地名ということを言ったら,地名で「尻」かつくのはいっぱいあるから,つけたいという人が出たら困りますけれども。 ● 「吠」と「尻」ではちょっとレベルが違うだろうと思います。 ● それでは,これは不採用ということにしたいと思います。   次,「垢」といいますか,無垢の「垢」でございますけれども,これについてはいかがでしょうか。 ● 「垢」という日本語を漢字で書けと言われて,ぱっとこの字をどのぐらいの方が書けるでしょう。だから平易ではないのじゃないかと思います。字を知っている人間には平易ですけれどもね。 ● 「手垢」なんていうのは,漢字で出てくることもあると思いますがね。「垢」だけでは出ないですが,「手垢」なんていうと漢字で出てくるかもしれませんね。 ● その字を知っていて使っている人間から見たら簡単な字なんですけれども,例えば書き取りの試験みたいな「垢を落とす」の「あか」を漢字で書けと言われたら,そんなに正答率はないのじゃないかという気がするのです。そうして考えますと,平易というものに当てはまらないかなという気が,私にはします。 ● 大学で時々書き取りみたいなものをやらせるのですけれども,非常に漢字の知識,悪いですね。「垢」は絶対書けないと思います。 ● 「純粋無垢」という4文字熟語で出したらどうですか。 ● それを知っている学生なら書けるかもしれませんけれども,知らないのじゃないかな,そもそも4文字熟語を。 ● 読めないでしょうね,これは。 ● 一般的には「無垢」という熟語があるにしても,ほとんど手垢とか,要するに悪い垢のイメージが一般的だと思うので,名前にはふさわしくないのじゃないかと思います。 ● バツはつけていませんけれども,「無垢」だけにこだわったので,全体の御判断がバツの方が多いようであれば,もちろんそれに従うというつもりでいます。 ● ほかに,特に御意見ございませんでしょうか。   それでは,「垢」も不採用のままということで,次は阿呆の「呆」でございます。 ● 「痴呆」という言葉を厚生労働省が改めようとしていますね。ですから,当然皆さん嫌がる字じゃないでしょうか。 ● 先ほどちょっと,「仇」という字についても話題に出ましたけれども。 ● 画数が少ないという例として取り上げただけの話であって,別に復活云々かんぬんということではありません。 ● それでは,次は「たたく」,「叩(こう)」でございますけれども,これもあえて復活させるほどのことではないということでよろしゅうございますか。   次は,「乞」ですが。 ● これも,一般に熟語として思いつくのは「乞食」ですね。 ● それでは,これもあえて復活させないという御意見だと承ります。   「吠える」でございますけれども。 ● これを言い出したのは私なんですが,地名ということにこだわっているのですが,たまたま私の知識の中で犬吠という地名の知識があっただけの話で,ほかに網がかかっている文字が同様に地名で使われていて,私が知らないだけというのが大いにあり得る話なんですね。たまたま偶然の結果として,私が知っていたというものに拘泥することが許されるかということと,これを地名として使われる可能性があるから復活させるのだったら,他の文字も同じフィルターにかける必要が出てくるのかなという気もいたします。 ● それだけじゃなくて,そんなに難しい字じゃないということと,それほど悪い意味とまで言えるのかどうか,いい意味ではないかもしれませんけれども,嫌悪感を催すような著しく不適切というほどの字ではないという評価もできるかもしれない。 ● これも音読みが「はい」であるというのは,多分ほとんどの日本人は分からないでしょうから,吠えるという訓読みでしか多分使われないですね,使うとしたら。   「吠子(ほえこ)」なんて名前つけたら,かわいそうだと思いますけれどもね。 ● それこそ犬吠との関係でいえば,「吠太郎(ぼうたろう)」でも何でも,つくろうと思えば読みはつくれると言えなくもない。   これも,ほかには救ってやっていいじゃないかという御意見はないというふうに理解してよろしゅうございますか。   それでは,「吠」も不採用のままということにさせていただきます。   「爪」は,先ほどの御意見で生き返らせてもいいということで御意見の一致をいただいたと思います。   「咽」につきましては,先ほど○○委員から御指摘のあったところですけれども,いかがでしょうか。 ● ○○委員がおっしゃったように,咽喉がありますが,咽喉は耳鼻咽喉科のときに出てくるだけだと思います。その耳鼻咽喉科も,このごろは「耳,のど,鼻科」なんて書いたりして,「咽喉」を使わないようにしていますね。むしろ文学作品を見たら,むせび泣くという「嗚咽」の方で見ることがあると思いますから,もし取り上げるならその組合せで,「喉」との組合せでは考えなくていいのじゃないかというふうに思います。 ● 「嗚咽」だって,余り意味がない。 ● それでは,不採用のままということになります。   次の,「綻」,ほころびるはいかがでしょうか。 ● 議論の材料として申し上げますが,ぱっと見て思いつくのは破綻の「綻」であるわけですが,布目がほどけるということ以外に,花が咲きかけると,花がほころびるという使い方も辞書にあります。 ● 新聞ではよく「破綻」を使うのですが,「綻」が常用漢字にないので,いわゆるまぜ書きにするか,あるいは漢字で書いてルビつきにするか,どちらかにしているのです。つまり,ルビつきにしないと今の若い人は「はじょう」と読むらしいですね。「はたん」と読めない。ですから,余りやさしい字ではないようです。 ● これを入れると,「じょう」という音に使われる可能性が非常に強いですね。今,○○委員がおっしゃったとおりで,宍戸錠の「錠」の書き間違いによく使われるのですね。 ● 音だけで名前をつける傾向というのは少なくないと思いますので,使えるとなれば使う人があり得るかもしれない。 ● 熟語としてすぐ思い浮かぶのは「破綻」ですから,どちらかというとマイナスイメージかなと思います。 ● それでは,これも生き返らせるべきであるという意見はなかったということで理解させていただきます。   最後は煽動の「煽」でございますけれども,これも音と字面だけからいえば使いたいという人が出てきてもおかしくはないというふうに思いますけれども。 ● 煽動するの「煽」というのは,今は常用漢字で「扇」を書換え字に指定しているのですね。そうしますと,扇動的な発言とか扇動的な行動という「扇」は,今は普通の扇という字で常用漢字では書換えを指定していますので,この文字を使いたいということは,これは明らかに「あおる」という意味を知っての行為ではないかという気がするのです。あおるということは,余り好ましいイメージではないのじゃないか。煽情的とか,正しくない方向に向かわせるという意味で使うのが普通ではないか,と考えれば,いい意味ではないなという気はいたします。 ● 音と字画で決めていくという,こういう名前のつけ方というのもありますが……。 ● 本当は炭火をおこすようにうちわでばたばたするということなのですけれども,実際にはそういう意味では使わない。 ● やはり熟語としては「煽動する」ですから,マイナスイメージかなと思いますね。 ● 煽動と煽情ぐらいですか。 ● 字の意味にかかわりなく,図や絵のようにとらえてみれば,ひへんに扇だから何かいいかなと思って使う人がいるでしょうけれども,我々はそうじゃなくて,余り意味にとらわれないと言いながら,やはりどういう熟語で出るかとここで議論していますから,ちょっとその辺のギャップがあると思います。絵や図として見ていくというふうになると,ほかの字もかなり検討しないといけないようなものが出てくるのじゃないか,ですからこれを殊更何か取り上げたい理由がほかにあれば私も復活にやぶさかではないのですが,これだけとなると,見方が首尾一貫しないところが出てくるのじゃないかなと思います。   ただ,今のそういう何か絵のように,図のようにして使うというのは,確かに今そういう傾向があると思うのですけれどもね。 ● それでは,これも積極的に復活させるべきであるという御意見はなかったということで,「爪」の一文字がこの場で採用してもよろしいであろうということになったということで,それ以外は網掛けの文字をパブリックコメントに付した文字から削除するということでよろしゅうございますか。   ほかに,どうしてもこの字はやはり削除しておかなければいけないというふうにお考えの字がありますでしょうか。 ● 決して復活希望を出しているのではありませんが,98番の脊椎の「脊」です。これは「爪」と同じ論理が展開される可能性はないかなというふうに思います。 ● 「爪」ほどやさしいかと言われると,難しいですね。 ● 同様に,106番の「髭」ですが,これも難しい字といことで,「髭」そのものは決して悪いものではないだろうとは思うのですが,平易ではないということでしょうか。 ● ほかにいかがでしょうか。   それでは,これで網掛けの文字は合計で何文字になりますでしょうか。 ● 79です。 ● 網掛けが80あって,そこから「爪」を引いて79文字が本日の会議において削除されることになったということで,そうなりますと何文字採用ということになりますか。 ● 488です。 ● 488文字ですか。前回追加した「掬」を入れて488字が,本審議会において新たに人名用漢字として追加されるものと決定したということで理解したいと思いますが,よろしゅうございましょうか。--どうもありがとうございました。   それでは,議題の「1 字種の選定について」につきましては,ただいま御審議いただきましたように,488文字が採用ということになりました。   本日の議題の「2 その他」というところがありますが,前回も幾つか御意見をちょうだいいたしましたが,人名用漢字表への掲げ方の問題でございます。常用漢字の異体字と,それから人名用漢字の異体字と申しますか,人名用漢字の中に2字体があるという場合の人名用漢字表への掲げ方についてでございます。   この点につきましても,事務局での御検討の結果をまず御説明いただきたいと思います。 ● 今,お手元に配布しております「追加候補の漢字」という,四角が五つほど書いてある一枚物と,それと「異体字の掲げ方(その1)・(その2)」と書いてあるペーパーを見ながら御議論いただければと思います。   前回の御審議を受けまして,事務局の方でいかに掲げるかについて検討を進めてまいりましたが,まず従来の異体字と同様に,規則の附則の許容字体的なものとして掲げることはどうであろうかという点でございますが,この点につきまして,結論としては附則に今回採用されることとなる漢字を掲げるのはなかなか難しいと考えております。といいますのも,附則に規定する事項といいますのは,例えば法令の施行期日に関する規定とか,今ある法令を廃止するということに関する規定,それから法令の施行に伴う経過措置に関する規定--現行の許容字体というのはこの経過措置に関する規定ということで置かれております。すなわち,従前は使うことができたもの,そういう従来の一定の状態を新規制定の法令が容認をしますというようなことで経過措置的に当分の間用いることができるという整理でございます。又は,その他既存の他法令を改正するような場合なども附則で規定をいたしますが,今回はいずれも常用平易なものだということで,新たに採用する漢字でございますので,これを附則に掲げるというのは法制的にはかなり難しいということでございます。ですから,異体字関係につきましては,いずれも本表,規則の方に掲げざるを得ないと考えております。   その場合の掲げ方でございますが,常用漢字の異体字につきましては,常用漢字は内閣告示,内閣訓令として定められておりますので,その異体字だということを明らかにするために現在の人名漢字とは区分して,例えば本表を二つに分けて常用漢字の異体字の区分に掲げるというようなことができるのではなかろうかなとは思っております。常用漢字の異体字以外の漢字でございます人名用漢字につきまして,これをどう掲げるかという点でございますが,前回の御審議等によりますと,人名用漢字というのは社会,世間では字体の標準を示したものとして事実上受けとめられているということで,非常に重く用いられているという現実はやはり無視はできない。ということであれば,何とかどちらかが標準ですというような掲げ方ができないかということで検討はしてまいりましたが,規則は法務省令でございますので,法務大臣が字体の標準を定めるということは,権限の関係で非常に難しいだろうということで,悩みが尽きないところでございます。お手元の「異体字の掲げ方」でございますが,本表の中のいずれの字体も同等であるということを前提としつつも,括弧を用いて掲げるという方法はどうであろうかということで,作成したものでございます。これが事務局案というわけではございませんが,あくまでも理屈上はいずれの字体も同等であると考える法務省としては,法務大臣が標準を決めたものではないが,同一字種について2字体掲げるものについては,異体字関係にあるということを示すという限りにおいて括弧を使うという案を検討はしてみましたが,ただその場合であってもいずれの字を括弧の外に掲げるか,いずれの字を括弧の中に掲げるか,非常にまたこれが悩ましいところでございます。   異体字の掲げ方には,上の方から6字までは現行の人名用漢字でございます。現行の人名用漢字につきましては,表外漢字字体表においても尊重されており,印刷標準に準ずるものとして扱われておりますので,これはやはり括弧の外に掲げるべきであろうと思います。   その点について恐らく御異議はないのかなと思いますが,その下,「曽」以下でございますが,この点が非常に悩ましい問題でございます。   まず「曽」でございますが,これは昨年末の最高裁の決定で略体の「曽」が明らかに常用平易だと判断され,その理由として,「曽」は常用漢字の構成要素になっているということが判示されておりますので,正に最高裁は略体の「曽」であるからこそ,それを明らかに常用平易だというように判断をしたものと読むことができますので,その最高裁の趣旨からするならば,括弧の外になるのではなかろうかと思います。   その次の「すむ」でございますが,これはいずれも印刷標準字体に掲げられておりますので,恐らくこれは別字意識があるということで掲げられたものではなかろうかと考えました。同一の字種ということでありますが,例えば「同棲」という熟語であれば,きへんに妻の方を必ず使用し,きへんに西の方をそれに当てるということはありませんので,そういうことからすれば別字だと判断すれば,両方とも括弧に掲げずに,そのまま裸のまま置いてしまうということでございます。   その次の二つ「や」と「ひのき」でございますが,難しい方の康熙体が印刷標準とされております。ただ,この印刷標準の方を重視して,これを括弧の外に掲げた場合には,括弧の中には略体の方になりますが,「異体字の掲げ方(その1)」を御覧いただければ分かるように,括弧の中の字体が難しい「槇」とか「堯」でございますが,こちらの方は難しい方の字体を掲げて,「ひのき」などは略体の方を掲げるということで一貫性がない。ぱっとこれを見た国民の方からすると,何のことだろうかということで,非常に見苦しいということと,その点について法務省に聞かれても,最終的には説明することができようかと思いますが,非常に分かりにくくなってしまう。   その点を考慮すると,次の「異体字の掲げ方(その2)」のように,「や」と「ひのき」については康熙体の方を括弧の中に掲げてしまうという方法もあると考えられます。印刷標準字体は人名用漢字として本則に掲げますので,その点では尊重はしていると考えれば,このような(その2)のような掲げ方もあるとも考えられますが,どうもなかなか,果たしてそれでいいのか,しっくりいかないところでございます。主にこの点について御審議いただければと思います。 ● これは,恐らくこの審議会に対する諮問事項ではないので,審議会としてはっきりした結論を出さなければいけないというものではないけれども,実際に規則を作る上では非常に重要な事項でございますので,最終的には事務局でまとめるということになりますが,そのための御意見を頂戴したいということでございます。できればここでの皆さんの一致した意見に基づいて規則を作るのが,一番問題はないだろうというふうに思いますけれども,必ず意見が一致しなければいけないというものでもないという前提で,御専門の先生方の御意見を伺いたいということでございます。   中身は,常用漢字の異体字をどう取り扱うかということと,人名用漢字に2字体ある場合の取扱いをどうするかというのは少し性質が違うと思いますので,まず常用漢字の異体字の取扱いについて御意見を承りたいと思います。   事務局の御提案は,本表の中で正字と異体字といいますか,常用漢字と異体字という区分けをしたいということですね。 ● 具体的には,どういう表示になるのですか。 ● 人名用漢字別表に,1として常用漢字の異体字に関するもの,2として常用漢字の異体字以外の人名用漢字に関するもの,と並べるということです。 ● 常用漢字の異体字に関するものについて,もとの常用漢字は掲げないのですか。 ● 常用漢字も含めて掲げます。 ● それで,異体字は括弧に入れるわけですか。 ● 常用漢字の異体字に関するものということで括弧の外に出します。 ● 常用漢字は,戸籍法施行規則の60条1号で決まっていますので,これをあえて表示する必要はないのだろうと思います。   その常用漢字の異体字の方を,別表の中に並べるということが考えられようかと思います。 ● そうしますと,もとの常用漢字はどれかということは,それだけ見たのでは分からないのですか。 ● 要するに,形としては常用漢字の異体字を使えるようにしましたということで,それを示すわけです。その字の後に括弧をして,つながりを示すために常用漢字を掲げてありますという,現在の附則別表と多分同じような形になると思います。それは,常用漢字という既に使える字の異体字をまとめて表示するということですから,それは現在の附則別表の考え方を基本的に踏襲して,ただ根拠が附則でなくなるだろうと,こういうことです。 ● 今日のこの資料で,例えば最初に大阪の「阪」という字が出てくれば,その後ろに括弧で「坂」が入るということですか。 ● はい,そうです。 ● 「阪」についてそうするかどうかは,またちょっと問題はあるのですけれども。 ● 別表というのは,こちらのサイドの方はすぐ頭にピンと浮かぶと思うのですけれども,恐らく委員・幹事の皆さん,規則別表というのは見たことがないと思うのですよ。こういう人名用漢字表というもので一般には見るので,別表1というふうに出てくるときにはこの形ですか。 ● はい。これと同じ形です。 ● そういう意味で,先ほど常用漢字の一覧表もその表の中に入るのですかという御質問があったように,規則別表というのは常用漢字は載っていないわけですよね。   この中の線の上が現在の規則別表1,下が2になっているわけですね。この線の上の1の中に,今度新しく採用された常用漢字の異体字が混ざり込むということですね。 ● 見た目につきましては,お手元に配布の人名用漢字表の2枚目に「人名用漢字許容字体表」というものがありますが,ここに現行の常用漢字に関するもの195字が掲げられております。一番下が人名漢字に関するもの10字でございますが,この線の上の195字に19字がプラスされるというイメージでございます。   19字と申しますのは,「瀧」も含めてでございます。 ● 現行のこの許容字体表が一緒になるのですか。 ● 現行の許容字体表も本則の方に掲げて,195にプラスして19字を常用漢字の異体字として本則に掲げるということでございます。 ● 一つポイントになると思うのは,これでいうと常用漢字の異体字というのは当分の間用いることができるということだったわけですね。これを根本的に変えて,当分の間ではなくて,常用漢字の異体字としてこれはもう使えるものなんだというふうに明示したいということですね。そこがポイントだと思うのですけれども。   私は,事務局の案に基本的に賛成です。ただちょっと気になりますのは,今事務局から出していただいた資料で,追加候補の漢字の四角が真ん中に大きくあって,常用漢字の異体字18字並んでいますけれども,その中で更に小さな四角で囲んである,例えば大阪の「阪」だとか,「堺」だとか,それから奇蹟の「蹟」とか,埼玉の「埼」という字だとか,これは実は下の(注)にありますように印刷標準字体なんですね。これ,なぜ印刷標準字体かといいますと,表外漢字字体表にあるように,さっき○○関係官の方もおっしゃったと思うのですが,これは本来常用漢字の異体字なんだけれども,要するにもう一般の意識として,例えば大阪の「阪」はもう土では違うのだと,この字を書かなければいけないと。それから「堺」もそうですね。それからこの「藁」の字なんかも,今のでいうと原稿の「稿」という,のぎへんの異体なんですけれども,誰もそれが異体だということがほとんど分からないだろうということで,あえてここでは印刷標準字体として別字意識のあるものとして掲げているのですね。ですからこの四角で囲ってあるものをどう扱うかというところだけが実はちょっと気になっているのです。   それで,根本的な考え方として,ここでもずっと議論が出ているのですけれども,やはり積極的にこの場であるものが標準であるとか標準でないとか,そういうものを出すのは好ましくないというのがずっとあって,私は非常にそれがよく分かるのです。そうだとすれば,字体についての判断はすべてこの表外漢字字体表にのっかってやりました,表外漢字字体表では大阪の「阪」だとか「堺」というのは,本来は常用漢字の異体なんだけれども,もう別字意識があるからとして別に掲げているわけですから,ここにあるうちの18字の四角で囲っていないものについてはこういうふうに括弧をつけて示すことにして,大阪の「阪」だとか奇蹟の「蹟」などはむしろ人名用漢字として別字で,その判断は表外漢字字体表に従ったのだとすれば,その方がむしろ世の中には分かりやすいのかなと感じます。その辺,いろいろと御意見をお聞かせいただきたいなと思うのですけれども。 ● 常用漢字の異体字については,この現在の許容字体表のような形にするということについては御意見が一致しているのだと思いますけれども,今御指摘のありました6文字,常用漢字の異体字ではあるけれども別字としても意識されているといいますか,表外漢字字体表では別字扱いになっているものについてどうするか。人名用漢字表上も別字として採用した方がいいのか,あるいは許容字体表ふうの掲載の仕方がいいのかという点ですけれども,御意見いただければと思います。 ● うちの職場でも,この常用漢字の異体字ということで表を出して,もとの字は何だろうというのでやってみました。大阪の「阪」は恐らくつちへんだろうと,そのあたりは分かるのです。奇蹟の「蹟」だとか,このあたりまでは何とか分かるのですけれども,「堺」といったら元字は何だろうと全然分からなかったですね。埼玉の「埼」も「裡」という字も,これもよく分からなくて,前にいただいたデータベースを見て,これかというのがやっと分かったという状態で,これだけで出されたらちょっと何が何だか多分分からないというのが実情じゃないかと思います。 ● この点,御専門の委員・幹事の方,ほかに御意見いただければと思いますが。 ● 表外漢字字体表というのが制定されて,国字にならなかったにしても字体の標準と一般に認められているわけですから,表外漢字字体表に従うというのは穏当だと思います。したがって,表外漢字字体表で別字扱いにしている,この四角で囲ってあったものは,特に常用漢字の異体字ではあるのだけれども,いわゆる許容字体のような形で示さなくて,本表に入れてしまってもいいのかなと思います。 ● そういうこで,一応ここの御意見は6文字につきましては別字扱いにして,人名用漢字の本表に入れてはどうかという御意見が大勢を占めたということで理解させていただきます。   それでは,予定の休憩時間になりましたので,ひとまずここで休憩をとらせていただいて,その上で人名用漢字の異体字の取扱いについて審議したいと思います。よろしくお願いいたします。             (休     憩) ● 再開したいと思います。   人名用漢字につきまして,2字体以上ある場合の取扱いということでございますけれども,原案といたしましては,どちらかを括弧書きにという形にするか,あるいは全く対等なものとして並べるか,括弧書きにする場合にはどちらを括弧の外に出すのかという,こういうふうなことでの御提案で,それらについて御意見をいただければと思います。 ● 私は,附則別表というものの書式とかいうものを存じませんので,注釈というのでしょうか,これこれこういう原則に従って配列しているというコメントはそこにつけられるものなんでしょうか。 ● 括弧をかけた場合でしょうか。 ● そうです。 ● 一定の規則性があれば書けるのでしょうが,なかなかそこの統一的な基準というのを見出すのが難しい状況でございます。括弧をもしつければ,何らかの注釈は当然必要になろうかとは思っておりますが。 ● 「その1」と「その2」の違いというのは,実際には下の3文字で,難しい方の字体が前に出るか,簡略化字体が前に出るかの違いですよね。 ● このペーパーではそうでございます。 ● その点については,「その2」の方が整合性はとれるわけですね。ぱっと見たところ。 ● そのように考えました。 ● 一般の国語施策をほとんど御存知ない方から見れば,「その1」の方だったら,何で下の二つだけ,特に「ひのき」という字は割とよく知られている字ですから,難しい「檜」が前に出ているのに,例えば「まき」は簡略体が前に来ている。あれっと思う。「その2」の方だったら,ふむふむというふうには認識できるのですが,ただそれに関しては,これも国語政策を知っている方から見ると,これはおかしいじゃないかという突っ込みもあり得るわけですね。一言コメントを書いておけば話は簡単なので,7番目,8番目までは現行の人名用漢字では簡単な方が前に出ていて,難しい方が括弧の中に入っているので,今回追加するものについても同じ方法で並べるというようなことを,法律の専門誌か何かでお書きになれば,議論はおしまいじゃないかという気がするのですが。   ただ,字体の正・俗について,をこの字表では関わらないわけですから,正体字・俗体字という言葉は,それを使うととんでもないことになりますので,そこをどうしてぼかすかということでしょうけれどもね。   もう一つは,前回議論になっていましたけれども,人名用漢字というのは字体の正・俗をあげつらうものではないということは,どこかにお書きになったらいかがでしょうか。 ● あげつらうことではないということで,もう括弧をすべて取ってしまって,淡々と並べるということですね。 ● 淡々と,これだけの集合ですよということを見せるということですね。 ● はい。ただ,実際それでいけるかということになると,いろいろな問題がございますので,括弧をつけた案も今回検討はしているということでございます。 ● 現在の人名用漢字別表というものが,各辞書その他で字体の基準とされてしまっているわけですね,現実に。ですから,「はるか」という字は,人名用漢字でやさしい字(遥)が既に入っているということで,辞書がこれを大体親字にしているわけです。そこに対等に旧字が追加された場合に,辞書としてはどちらを親字にしていいか分からなくなると思うのですね。どちらを標準にするかということが。そうすると,辞書の判断で,辞書によって違ってくるということになると,教育的にも,あるいは新聞にとってもどちらを使うかという問題が出てきます。   ですから,やはりこれは優劣というわけではないのだけれども,同じ字体については標準字体ということは,法務省としてはうたえないにしても,何らかの基準に基づいて区分けをしないとまずいのじゃないかと思います。   常用漢字については,常用漢字の字体が基準になっているわけですから,人名用漢字もやはり既に人名用漢字として発表されている「遥」は,先に発表されている方が親といいますか,もとの方ではないかと思いますがね。それに対して,旧字を使いたいという要望があったからこれを括弧内に示す,ということにする。   ただその場合に,人名用漢字に入っているものは人名用漢字が基準であるし,印刷標準字体に入っているものは印刷標準字体が基準であるというのが,分かっている者には分かりやすいのですが,確かに先ほど○○委員がおっしゃったように,一般の人が見た場合には,後の方で急に正字だけが入ってくるというのは分かりにくいということは言えると思いますね。この辺がちょっと難しいところです。 ● 事務局に質問なのですけれども,この人名用漢字許容字体表だと,先ほどの最後の1行,下の1列は人名用漢字についての許容字体表ですよね。こちらの方は,難しい字というか,正字が括弧の外ですよね。これは,今回の文字との関係はどういうことになりますか。 ● この10字につきましては,許容字体が括弧の中に入れて掲げるということになります。 ● 括弧の中と外を入れ替える。 ● これは許容字体表でございますので,これが本表になると外と中が入れ替わります。括弧の中が人名用漢字でございますので。 ● 人名用漢字本表の中に,人名用漢字の下に括弧書きでここにある許容字体表というのが入る。 ● そうでございます。 ● そうすると,この「異体字の掲げ方(その2)」の上の6個と同じような形になる。 ● そうでございます。 ● 常用漢字の場合の扱い方なんですけれども,現在の人名用漢字許容字体表というのがなくなって,それが本表の別表に入ってくるわけですか。 ● はい,本表の常用漢字の異体字の項目に入ります。 ● 括弧が入れ替わって入るわけですね。 ● 入れ替わって入るということでございます。 ● それと同じように,人名用漢字の許容字体10字もそういうことになるわけですね。 ● 入れ替わって入るということでございます。 ● 今,人名用漢字に入っている「晃」までは,同じ形で全然整合性はとれるわけですね。 ● はい。 ● だから,「曽」以下をどうするかということですね。 ● 私は,個人的にはもう括弧をやめた方がいいのじゃないかというふうに思っているのですけれどもね。というのは,人名用漢字というのは,目的は人名をつける親御さんのための漢字表なので,その親御さんにとってみれば正字か俗字かじゃなくて,あっちの字もこっちの字も全く対等に使えるというふうに今回なったわけですから,何か括弧内の後ろめたい字を選びながら使うというふうなのはおかしいので,全く本来対等に並ぶべきじゃないかなと思います。正・俗の区別をつけてもらわなければ困るというのは,親御さんじゃないし,戸籍官でも何でもなくて,辞書を作る人にとっての便宜なわけで,それをなぜ法務省令で決めてやらなければいけないのかと思います。そもそも法務大臣にそんな漢字の正・俗的なものを決める権限があるのかと考えると,むしろもう全く対等に並べて,しかしそのどちらが正字であるか,どちらが標準字体でどちらが異体字なのかというのは,それは国語的な観点からいろいろな形でコメントをつけていただくという方が,法制的には筋じゃないかなという感じがしているのです。 ● 最初は国語審議会の管轄でしたね。それで,何年か後に法務省に移したということですね。そのときに,前にいただいた資料にもありますけれども,国語審議会の国語政策の考慮が払われることが望ましいということがあって,そういうことで恐らく出版界では人名用漢字表もこれは字体の基準を示すものであると考えてきたと思います。しかも1字種1字体で通してきましたから。それを,今回急にがらっと変えるわけで,それがちょっと問題ですね。   前から人名用漢字というものがもう字体と関係なく人名にだけ付けられるということであれば,これは問題ないのですけれども,やはり今までの人名用漢字の歴史を考えると,ここで急にそれを放棄して,単に便宜的に人名につけられるものだけに変えたというのは,一般の人には問題ないにしても,出版界,辞書界その他,つまり字に関係する者としては,非常に頼りないというか,妙な感じがしますね。 ● 多分,経過はおっしゃるとおりだとは思うのです。ただ,現時点で法律的に考えると,法務大臣が本当に字体の標準を決めることが戸籍法で認められているのかというと,なかなか難しい面もあるのではないかと思います。ただ,事実上そういう機能を果たしてきたことも事実ですし,そういうことを考えますと,今回も少なくとも二つ,1字種に複数の字体を認める場合に,それをはっきり法務省としてどちらが標準と,法律上の標準を定めるということではなくても,事実上どちらが標準として用いられるかということを念頭に置いた表記の仕方を考えていく必要があるのではないかということから,ここでもわざわざ取り上げて御議論いただいているわけです。   そのときに,先ほども御指摘がありましたけれども,既に決まったものはもうそれが印刷標準字体として用いられているので,それを今から変えるというのは混乱を招くので,それは多分従来の扱いが維持できるような表記の仕方をせざるを得ないだろうと思います。ところが,新しい,例えば「檜」が典型ですけれども,これについて現在の印刷標準字体を印刷標準字体だからといって標準であるかのように表記すると,表記上の矛盾が生じてしまうということがあるわけです。そうなると,少なくとも人名用漢字として用いられるという点では差がない字ではありますが,それを表記するときに,少なくとも表記の仕方としての一貫性は最小限保たないと難しいのではないかと思います。   先ほど,○○委員がおっしゃったような,正にいわば略体の字を先に書いて,本来の康熙字典体等に準ずる字体を括弧内に書くという表記の仕方,「その2」の方ですね,ぐらいかなと思います。 ● 最終的に488文字でしたっけ,これだけの文字を追加しますというときに,その488文字をどの原則によって並べるのでしょうか。現在言われているデータベースというのは,何種類かありましたけれども,使用頻度数であったり様々な配列の原則があるわけですね。でき上がりの完成バージョンで488,これだけの字を追加しますというときに,1番目から488番目の字までは,例えば部首の原則なのか音読みなのか。今まではどうしていらっしゃったのですか。 ● まだ具体的に詰めておりませんが,この字を採用しますよというのは,ただそれを淡々と掲げればと考えております。 ● それをたんたんと書くときに,例えばここで出てきます「(〓示+爾)」と「檜」と,これはどっちが先に出てくるか。 ● パブリックコメントのときには,出現頻度順に並べましたが,今回は部首順に掲げるということも考えられますが……。 ● 部首順で掲げる場合と,代表的な音訓で並べるというやり方とあるのですけれども,ほかにもあるでしょうけれども,例えば括弧をつけないというやり方をする場合には,「ひのき」という字二つを,これは画数でいうと略体は4画で反対字のは13画ぐらいになると思うのですけれども,その間に例えばきへんに7画の字が入ったら,これ分かれてしまうわけですよね。そうすると,その関係は見えなくなるわけです。   例えば,「かい」という音読みで並べるとしたら,これは二つは隣接するわけですね。そして括弧を外してしまって,ペアを組む文字が隣接するように並べてしまえば,それは括弧なしで割と異体字の関係だということが見えるのじゃないか。画数でやりますと,もう実際やってみないと分かりませんけれども,例えば「檜」なら「檜」,あるいは「(〓示+爾)」でもそうですけれども,その略体と難しい字の間の画数に,その中間的な画数を持つものが入ってきたときに,切り離されたら見えないと思うのですね。 ● その点,規則にどう書けるかというところをもにらんで検討しないといけないと思っておりますが,音訓だと検索が非常に難しいかなと思っております。 ● JISの第一水準が音訓なんですね。 ● むしろ部首順に並べて,同じ部首のものについては画数が少ない順に並べて,例えば「檜」であれば同一字種のものは続けて画数の少ないものから多いものということで並べるという方法も考えられると思います。 ● 現行の290文字の人名用漢字は,そこには入れないのですね。 ● いや,全部一緒になります。 ● そうしますと,「まき」という字がありますね,「ひのき」二つの間に略体の「槙」は多分入ります。そうすると,部首で並べる場合に,きへんに簡単な方の「会」があって,きへんに真実の「真」の簡単な方(槙)があって,というふうに,「ひのき」の間に邪魔者が入ってくるのですね。画数で並べますと。   部首で並べるというのは,その部首の以下の部分の画数順ということで当然反映されてきますから,そこのところで例えば「ひのき」なら略体の「桧」を出した段階で,次の画数は無視して難しい方の「檜」を出してしまうという手もそれはあるでしょうけれども,何らかの形を工夫しないと,ペアを組むものが分離されてしまう可能性があるわけですね。 ● そこは,括弧をつけるかどうかということを別としても,同一字種の字は一固まりに表示しないと,利用する方から見ればたまらないので,先ほど○○委員がおっしゃった,仮に括弧をつけない表記を考えるとしても,同一字種は少なくとも固めて表記するということになるのじゃないでしょうか。 ● 同一字種の異体字だからということで寄せ集めるということですね。 ● この人名用漢字については,非常にいろいろなところで新聞などでも随分取り上げられていますね。つい二日ぐらい前の「読売」の社説などでも取り上げられていて,実はこのところ私のところにも随分いろいろ電話があるのですけれども,かなりいろいろなところの方たちが非常に気にしています。特に出版関係ですね。   それで,まず申し上げたいのは,基本的な考え方としてはさっき○○委員がおっしゃったとおりだと思うのです。別に子供の名前に,これはもう前から私が申し上げているし,それが本当の筋だと思うのですけれども,別に字体の規範だとかそういうところに何ら関係なく定められたものだと思うのですが,ただ285までの人名用漢字というのは,実は人名用漢字であると同時にもう一つの性格を持ってしまったのですね。それが実はこれなんですね。つまり,表外漢字字体表の中で現在の人名用漢字についてはいろいろな辞書での扱いとか,いろいろな出現頻度数の資料などの出方から見て,これは常用漢字に準じたものとしてもう社会が完全に認定していて,そういう受けとめ方というのは完全に定着している,だから人名用漢字については要するに常用漢字に準じたものですよということをここで言い,かつその人名用漢字というものがどういうものなのかというのを制定年別に285字挙げているのですね。ですから,人名用漢字というのは人名のための漢字だけだったのですけれども,このいろいろ非常に膨大な調査をして精査した結果,それが国語政策の中にここで取り込まれてしまって,285字については常用漢字の通用字体と同じような重みを持っているものだというふうに,ここで決めちゃったのですね。   これは,逆に言えば国語審議会の中では果たしてそういう扱いがいいのかという,本当にそういうフラットなところから出たわけですけれども,実際にやってみたらそれが余りにもきちんと全部がそれで動いている,そこを優先せざるを得ないというものがあって,この285字についてはこういう形で掲げているということです。   ですから私は,285の後,286になり7になり,今290になっているわけですけれども,その後に加わったのはともかくとして,285については人名用漢字であると同時に,その字種の代表字体になってしまっている,そしてそれが,国語政策上も認められてしまっているので,どうしても今回の人名用漢字を考える場合には,既に認められている285と,それ以降追加したものという形で,やはり二つ別々のものが入ってきているというイメージになると思うのです。   それで,事務局でつくってくださった案でいいますと,「その1」と「その2」があって,これはそのままここだけを見ると「その2」の方が非常に整合がとれているという感じがするのですね。つまり,括弧の外が略体になっていて,中が康熙体になっている。   それから,この「すむ」という字については,これを別々に掲げるというのはさっきの常用漢字で四角で囲ってあるもの,これと同じ扱いをするということで多分皆さん異論ないと思うので,それはもう別字種として扱うということでいいと思うのですが,もう一つ考えなければいけないのは,今回488入ってきて,それを区別しないで並べると,実はそれが矛盾だと言われればもう矛盾そのものなんですけれども,略体でないものがたくさん入ってくるわけです。いわゆる康熙体というものが要するにずらずらっと並んでいるわけです。488の多くは康熙体になっているわけですから。ですから,それを考えると,要するに括弧の外が康熙体である方が,もしかすると混じっているのだけれども,違和感があるのかないのか分かりませんけれども,これだけの範囲で見てしまうと何か括弧の外が略体の方がいいような感じがするのですけれども,285にプラスして488という700ぐらいの文字の数で見ると,多分康熙体が外に出ているというのはそんなに違和感がないのだろうと思うのです。   非常に勝手なことを言わせていただくと,私の個人的な希望でいえば「その1」がいいだろうと,そして「その1」で,これはできないと言われればもちろんそれ以上こだわりませんが,木曽の「曽」についても,要するに285以外で今回新たに加えるものについては一応ここでは字体の判断をしないで,印刷標準字体を外に出して置くというような扱いができれば,非常に有り難いと思っています。つまり,印刷標準と簡易慣用字体の関係で,この「曽」は幸か不幸か両方ともここに出てきてしまうので,別にどっちが重いとか軽いということじゃないのですけれども,何かそういうことで康熙体を入れ替えることができるのであれば,非常に興味関心を持っている方が見ると,あ,印刷標準字体が外に出ていて,簡易慣用字体若しくはそれに当たる略体が括弧の中に入っているのだなという形で,ですから285のもう既に決められてしまっている集合と,その後今回新たにつけ加える集合と,そこを両方とも整合をとろうと思うのは,そもそもやはり無理なのかなというふうに思いますので,私は「その1」で,できれば「曽」についても変更して欲しい。ただ,最高裁のというのが先ほどあったので,それが無理だとすれば,今ここに掲げられている形で「曽」についてはいろいろな経緯があってこういうふうになっているということを説明していただければ,聞かれればですけれどもね。   ということで,いずれにしても今申し上げたような観点から,「その1」でいっていただければなというふうに考えております。 ● 今の御発言に関連したことを伺いたかったので,御質問します。   このどっちが標準字体であるかということをここで決めないと,辞書業界が大変困るというふうなことだとすると,例えば「その2」を採用すると,この「ひのき」でいえば略字が今度は辞書でいくとこれが標準で出てきて,康熙体は括弧の中で小さく扱われると,そういうふうに辞書の扱いが変わってしまうということですか。 ● そこはちょっと分からないと思います。ただそういうふうになったときに,印刷標準字体というふうにこっちで決まっているのに,例えば「ひのき」は印刷標準字体は難しい「檜」ですよね。それが,例えば簡単な方が外に出ていて,難しい方が括弧の中に入ったときに,それをどういうふうに解釈したらいいのかということで,それをどう判断するのかというところが,多分困るというふうに言っている一番大きな理由だと思います。 ● 出版社から法務省に対する問い合わせが殺到するでしょうね。 ● 逆に,なぜこんなの括弧の中に入れるのか,括弧に入れる論理は何なのかということが,それは今後の国語政策の中でこれを標準的に使っていくべきだという趣旨でやるのだとしたら,今ここでちょこちょこと話し合って決めてしまうので本当にいいのですかという疑問がなくはないのですけれども。 ● そこで,私が思っているのは,1字種1字体の原則というのがありますから,前回も私確認したのですけれども,1字種1字体の原則を基本的に維持するというのは共通認識になっているわけですよね。ですから,本来は1字種1字体の原則で,その原則が生かされるべきなのだけれども,ある面で原則が外れたものがあって,それが1字種2字体になっている。だから,括弧をつけているのは本来1字種1字体の原則で1字だけ示すべきなんだけれども,非常に要望が強かったわけですね。頻度が高かったためにそこは例外的に1字種2字体になっているので,そういうことを明示するために括弧をつけたというのは,そういう言い方も多分できると思うのですね。それは,標準だとかそういったこととは別にですね。   確かに私は,本音で言うとおっしゃることはよく分かっていて,本来こういった形で人名用漢字が関わってくること自体がどうかなというのがあって,それは実は表外漢字字体表をやっているときにもそういう思いが強くて,そこは動かせないのかなという気持ちもずっとあったのですけれども,やればやるほどいろいろなところに 物すごく食い込んでしまっているという実態が明らかになったということで,それで今私はこういう立場からということで申し上げているわけですけれども。 ● 今,○○幹事がおっしゃったとおりで,法務省が字体を決める権限はないし,標準を示す必要はないのだけれども,事実として今まで日本の漢字の字体の標準というものが常用漢字は常用漢字の字体,人名漢字は人名漢字に発表された字体,それから表外漢字は表外漢字字体表に発表された字体というふうに,出版界ではそれを標準字体として統一的に使ってきたわけです。ですから,それに基づいたということになれば,別に法務省が決めたのではなくて,単に既に決まっている漢字の表記体系の標準を法務省も踏襲したということになるのじゃないかと思います。そういう点からいえば,○○幹事がおっしゃったように,下の方は印刷標準字体に従う,あとは既に制定されている人名漢字に従ったということになると思いますが。 ● おっしゃるのは一つの考え方であるとは思っているのですが,従来の人名用漢字を決めるときに,略体を人名用漢字の方にして,本来の康熙字典体を許容の方にしていた,その形が上の方になるわけですね,その表でいえば。簡易慣用字体の方が外に出てしまう。同じ人名用漢字の中で,いわば原則がなくなってしまうわけですよ。 ● だから,法務省が字体の標準を示すつもりはない,あるいは権限がないと言っていながら,実は過去は略体の方を決めていたわけですね。字体を決めていたわけです。そこから文部科学省の方に踏み入れてしまったというような結果になっているのじゃないでしょうか。それが,今ちょっと戻そうと思っても何か戻しにくくなっているというような気がしますが……。 ● 実際に人名用漢字として略体の字を採用したことによって,それが事実上の標準字体になってしまっているわけですけれども,今回,人名用漢字の範囲を広げるときに,表記の仕方として従来とは違う原則で今度は表記するのだということになって,しかも同じ表に掲げると,それはいかにも分かりにくいという感じはあるわけです。ですから,そこをどうするか。あえて説明すれば,現在印刷標準字体として用いられているものを変えないようにしているのだという,そういうことになるのでしょうけれども,なぜ従来の人名用漢字は略体が標準というか先に出ていて,今回採用したものについてはその逆になっているのだと聞かれると,なかなかそれは説明するのにつらい……。   だから,最小限少なくとも字体をここで積極的に決めている趣旨ではない,簡易慣用と康熙字典体とを同一字種であることを明示するために示しているということを説明して,ということしかないかなと思うのですがね。   「その1」の表記の仕方というのは,逆に,かえって字体について踏み込んだ立場になるわけです。 ● 今のお話というのは,「その2」の方がいいのではないかという,そういうふうに受けとめてよろしいですか。 ● はい。 ● 今回の審議で,いろいろな原則が変わっているところがあって,先ほどおっしゃったように,これは1字種1字体の原則というのはもう半ば捨てたと言っていいと思うのですね。ただ,字体を自由にするのじゃなくて,原則は1字種1字体,しかし例外的に1字種2字体のものもあるという限りで,少し踏み出したというのが一つ大きな変化なんだろうと思うのですけれども。   もう一つは,私の理解が間違っていたらすみませんが,この人名用漢字許容字体表というのは括弧書きをしているわけですけれども,この括弧書きというのは,括弧の外にあるものは徐々に括弧の中に変わっていくことが予定されていたわけですね,少なくとも出発点では。戸籍法上の取扱いも,括弧の外から中へはどんどん変わっていく,しかし中から外へは変われないということで,括弧書きには法制上の意味もあったわけですよね。しかし,今度は括弧をつけたとしても,括弧の中と外は全く対等で,しかも今の許容字体表も本表に入ってくるとなると,従来の取扱いとはこの部分も変わってきて,両方が対等にこれからなっていくのだというようなことになるので,そういう意味ではかつての括弧書きというのは戸籍法上も意味のある括弧書きだったけれど,今度の括弧書きというのは,何かそれこそ正・俗を決めるだけの括弧書きで,名前をつける上では戸籍法上の意味は何にも持たない括弧をつけるというふうなことになってくるので,そういう意味でも従来のこの扱いとはがらっと変わるので,この機会に全部そういう意味での括弧なしの,全部対等,人名との関係では全部対等ですというふうな原則にがらりと変わっても,それはそれでむしろ現実を正確に反映てしているのじゃないかなという感じもしなくもない。かえって議論を混乱させるようなことかもしれませんけれども。 ● 許容字体ではないのですよね,括弧の中は。それはもう,確かに大きな性格の変化ですね。 ● 現実には,出版界はとにかく1字種1字体を守っているわけですね。ですから,例えば「漱石全集」にしても「(〓區+鳥)外全集」にしても,固有名詞の名前は人名用漢字にある字体でやっているわけです。常用漢字は常用漢字の字体でやっているわけですから,人名漢字が今回増えたときに,じゃ常用漢字を増やせばよかったんだと,そうすれば意味が名前にふさわしくない字が入っていてもそれは何ら差し支えないわけですから。そういう動きがないわけではないので,もし常用漢字を増やすということになれば,やはり1字種1字体を決めざるを得ないと思うのです。   ですから,そういう先のことも考えた場合に,人名が先走るわけだから,果たしてこれは人名だけに限られるかどうかは分からない,常用漢字が入ってくる可能性が,近い将来か遠い将来かあるとすれば,やはり対等に同じ字種のものを並べるよりは,標準字体を法務省が決めたというわけじゃなくて,今までの字体の基準に基づいて決めたという形にすれば,おかしくないと思うのです。 ● そういう意味で,括弧の意味なんですけれども,これはもう性格が全く変わってしまって,1字種1字体の原則なんだけれども1字種2字体になっているものがあって,それが括弧のついている字の左隣の字と同一字種なんだということを示すためだけの括弧ですという言い方でいくしかないのかなという気がするのです。ただ,それをどっちを外に出しているかということは別にあえて言わなくてもいいのじゃないかなと思います。   ですから,括弧がついている意味というのは,さっき○○委員が盛んにおっしゃっていたように,どう並べるかとか,どうやってもある字とある字が同一字種だということはやはり明示しておく方が,さっき○○委員もおっしゃったように,多分受け取る方はずっと分かりやすいと思いますので,ですからそれを明示するためだけについている括弧ですよ,別に外が偉くてこっちが偉くないのだというような,そういうのじゃないのですよという言い方で言っていく。ただし,見る人が見れば,別の受けとめ方もできるというような,そういう形でしかこの事態は解決しないのじゃないかなと思っているのです。 ● そういう意味で,別に辞書のために作るわけではないけれども,「檜」など印刷標準字体が外に出ている方が,出版界にとっては逆に分かりやすい。一般と違ってね。 ● ただ,先ほど○○委員のおっしゃった従来からの字体の決め方の考え方でいくと,従来から採用するときは簡易慣用な字体の方を採用してきている,それは多分常用漢字でもそういう流れですし,人名用漢字もそうですので。そういう継続性とか,あるいは表記の仕方の一貫性からいうと,逆の扱いの方が分かりやすいということにはなるのではないかと思います。   ただそのときに,持っている意味が過大に評価されないように,なぜそういう表記の仕方をしているかということは,多分解説をしないといけない。ですから,これは同じように人名用漢字だけれども,同一字種であることをあらわすために,連続して,あるいは括弧内で表記しています,そして原則として簡易慣用の字体の方,あるいは画数の少ない方を先に,括弧外に表記していますというような,いわば中立的な説明をするということになるのではないか,そのときに従来の扱いをやはり字として維持するということであれば,それはもうそれでいいのでしょうし,逆に人名用漢字については同じように扱うということであれば,それはそれでということだと思います。法務省として,それをどちらにすべきだというようなことを申し上げる立場ではありませんし。ただ,同じ法務省の決める字で,かつ同一の表の中で異なる原則のような表記の仕方は,なかなかつらいという感じがするのです。 ● 「その2」の表記の仕方というのはの形で,下の四つに(注)がついていますよね。例えば,「『檜』が印刷標準字体」と。この(注)というのは,例えばアステリスクか何かの略号を使って,括弧の中に難しい方の「檜」という字を入れる,つまり「その2」の表記の仕方というのはの形で並べて,印刷標準字体にはそれを示すマークか何かをつけておけば,もし括弧の中に入れるという形をとるにしても,この字形が印刷標準字体ですよということが,今日の手元の資料では文章として「『檜』が印刷標準字体」と書いてあるのですが,それをしかるべきマークで明示することによって,先ほどから議論されている問題はクリアされるのじゃないかというふうに思うのですが,いかがなものでしょうか。 ● 解説書にはつけられるでしょうね。ただ,法務省令にそれを書けるかというと,多分書けない。 ● 難しいでしょうね。解説ならもちろんすぐできますし,事実上,例えば各戸籍の窓口等には一覧した表が配られるのでしょうけれども,そういうものにそういうものがついているということはあり得ると思いますけれども,省令に印刷標準字体というのを注記するというのは難しいのじゃないかという感じがしますね。 ● 確かに,これは人名用漢字ですから,そこに印刷標準字体という,印刷というのが入ってくるのは多分違和感があるだろうなというのは,恐らく見た方もそう思うかもしれませんね。   ただ,先ほど○○委員がおっしゃったように,何らかの形でこれが何か標準を示しているものじゃないのだみたいなことが明確になれば,確かに混乱は避けられるかもしれませんね。つまり,何もなくて,「桧」の字が外に出ていて,括弧の中に康熙体が入っていると,康熙体が印刷標準字体になっているけれども,略字の方を標準に法務省が定めたのだというような,そういう受けとめ方を間違いなくしますよね。 ● 仮にそういう表記の仕方をするとすれば,例えば画数の順番で同一字種の字体については表記していますというような説明をすることによって,どちらが標準ということを積極的に決めた趣旨ではないことを示す。従来の人名用漢字については,既にそれが標準になっているわけですから,それはそれでいいでしょうし,今回新たに採用されたものについて,法務省として積極的にこちらを標準としたことによって,定着した印刷標準字体を改めろと,こういう趣旨ではないのですと説明する。それは理解していただけるのではないかと思いますが。 ● 私は,いろいろな意味でいずれにしても解説をつけないと具合悪いというのだったら,むしろもう省令は全部並列にしておいて,解説の中ですべてを処理するということの方が,変な誤解はないのじゃないかなという気がしているのですけれども。実際上のいろいろな御要請もあるでしょうし,事務処理の一貫性というようなこともあると思いますので,ほかにまだ御意見があれば,それらの御意見を頂戴した上で,事務局で適宜処理をしていただきたいと思うのですが。   ほかに何かございますでしょうか。 ● この人名用漢字も,「凜」とか「萌」は,これはこちらの方が正字ですね。ですから,必ずしも一貫して略体になっているわけでもない。 ● そこは難しいところがあるのですけれどもね。多分画数でいけば,まあ何とかなるかなとは思うのですけれども。   ですから,そういう意味で既に確立した人名用漢字については,多分書き方を変えたからといってそれで変わらない。新たに,例えば「ひのき」について略体(桧)が標準に定められたという誤解をできるだけ与えないようにということであれば,括弧はしないで,例えば2字を続けて書く,ただその順番として,画数の少ないものを上にしておくのだという方が,それで説明としてそう書いておくという方が,ある意味では更に誤解は少ないかもしれない。括弧だと,どうしても括弧の内外ということになりますので。そういう意味では,先ほどから○○委員がおっしゃっている並列にという考え方もある。   もちろん,1字種であることを示すために連続して置かないとこれは見にくいので,それは例えばアステリスクをつけて2字連続して書いておいて,説明としてアステリスクのついている字については,同一字種で異なる字体のもので一括して表記した,その順番としては例えば画数順に表記したというような説明をすれば,それは多分一番中立的な表記かなと思います。それはもう括弧が仮になくても,2字連続で,しかもアステリスクか何かつけておけば,これは非常に分かりやすいのではないかとは思いますが。 ● 今伺っていて,例えば括弧なしで並べた場合に,今の省令で解説書でない場合でも,例えばこの配列は部首順である,そして平易な方を先に並べてあるというぐらいのことは注でつくわけですか。 ● ですから,表の中で例えば「はるか」なら「はるか」を2字並べておいて,今言ったように,例えばアステリスクをつけておく。それで,表の末尾に注として,「アステリスクのついた文字は同一字種の異なる字体を画数順に並べたものである」というようなコメントをつければ,それは省令の一部となりますね。   現在も,例えば附則の別表ですと,括弧内はつながりを示すために字を掲げてあるというような説明がついておりますので,それと同じような趣旨で,表の中にそういった例えばアステリスクをつけておいて,それについての説明ということをすれば,省令の一部になりますので,それを更に解説書等で敷えんするということは十分可能です。 ● その場合,現行の人名用漢字許容字体10字も,同じような扱いになるのですね。 ● それは一緒にしないと,使う立場から見ると,同じ人名用漢字ですから余りばらばらになっていると分かりにくいと思いますので。 ● あと,事務局として,何かこういう点は聞いておきたいということはございますか。 ● 特にございませんが,仮に括弧をつけて,画数の少ない方を外に出すということになると,「すむ」についても当然括弧の中がきへんに妻(棲)の方になろうかなと思いますけれども。 ● 先ほどの常用漢字についてあったように,もう既に別字と認識されているものは,別字扱いというのでよろしいのじゃないでしょうか。 ● 別字種だということですね。 ● 同じとは思わないでしょうね。 ● それでは,まだ実際に省令を起案していくには法制的にもいろいろな対処の仕方等難しい問題があって,すぐに右か左にというふうにはいかないかと思いますけれども,本日頂戴しました御意見を参考にして,事務局の側で更に詰めた御検討をいただければというふうに思います。   ほかに,今日御議論しておかなければいけないことがございますでしょうか。 ● 念のためですけれども,先ほど私最初にちょっと言ったのですが,木下杢太郎の「杢」という字を是非追加してくれという要望が皆さんのところにも来ていたと思うのですが,私自身は人名漢字をそんなに増やすのは賛成じゃないから無視してもいいとは思いましたし,事務局からもちょっと今はもう無理だろうという話でしたけれども,「爪」なんかよりは人名に使う可能性の高い字じゃないかと思います。   それと,これはその人だけじゃなくて,白川静さんが「朝日」に書いたし,それから飯間浩明さんという早稲田の先生が今回の追加案に落ちているものとして杢太郎の「杢」を挙げていました。飯間さんは,ごみがいっぱいあると,つまり捨ててもいい字がたくさんあるのに「杢」が入っていないのは,というようなことを言っていましたので,もし追加のできるような事情があれば追加してもいいかなと思っているのですが,無理でしょうか。 ● 「杢」につきましては,前回の部会でも「掬」と同様に議論をいたしましたが,「掬」につきましては出現順位が3,160位で,出現回数が156回でございます。他方,「杢」につきましては出現順位が3,595位で,出現回数が85回でございますので,ここに非常に大きな差があります。   「杢」につきましては,パブリックコメント要望数が9でございましたが,同じく9の要望数があった「曠」,ひへんに「広」の旧字体でございますが,こちらについては出現順位が3,276で,出現回数が133でございまして,仮に「杢」の字を入れるとなると,では「曠」はどうなんだというようなことで,これはもう収拾がつかない状況になります。「掬」につきましては,出現回数が156回と非常に高い回数でございますので,もともとこの字は次点扱いということと,要望もあったということ,かつ,パブリックコメントでの要望が27ということでダントツでございましたので,これについては基準上も採用してもいいであろうという判断でございますので,そこの客観的な基準という点で見ますと,「掬」と「杢」の間には大きな差があろうかと思います。 ● 「杢」という字は,恐らく固有名詞にしか使われない字だろうと思うのですね。出現回数のデータの中では,「掬」というのは「手で掬い取る」という動詞として使われますので,品詞によってどのような書物に使われるかということにもよりますけれども,例えば文学系統の詩集ばかりでデータをとれば,それははるかに「杢」という字がよく出てくるわけですね。   私,別にその文字を是非とも入れたいとも入れるべではないとも,判断については言いませんけれども,データ処理で考えると「杢」という字は不利な状況ではあるなというところはあると思いますね。 ● 人名を主体としたデータだったら,もうちょっと上に上がってくる。 ● これ,どうなんでしょうか,またすぐ裁判になって入れなければいけないようなことになるのであれば余り格好いい話ではないので,普通に考えて「杢」は木に工ですから,割とやさしい字ですよね。「杢太郎」とかいろいろあるし,それから今,○○委員がおっしゃったように白川先生だとか,そういうのも社会からの声だというふうに考えれば,それから例えば親からの要望が非常に強くて,またこれが例えば裁判になったときにどうなのかということを考えると,負ける可能性もあるのかなという,今までのお話を伺ってそういう気もしないでもないので,そういうことがかなり予想されるのであれば,やはり出すときに入れて出すということも必要なのじゃないかなと思うのですけれども,その辺いかがでしょうか。何か「杢」という字について,裁判でどうのなんていうことの予想というのでしょうか。やはりある程度考えておいてもいいのじゃないかなと思うのですけれども。 ● ○○幹事の御感触を伺いたいのですが。 ● 個人的な意見ですけれども,基本的には常用平易かどうかということで戸籍法から委任されていることで,この「杢」というのは今,○○関係官がおっしゃった常用性の点でかなり劣っている,ですからなかなか明らかに常用平易かというところで説得力のある説明が難しいのではないかと思います。   今回の部会では,常用平易性を基本に置いて,更に要望も特に多かったものについて一定の出現頻度のあるものについては個別に見て拾っていくということだったかと思いますので,「掬」については圧倒的に要望が極めて多かったということで特に追加したという筋だったかと思いますので,この要望数一けたのものまですくい始めると,もう一度洗い直して見てみないといけないのかなというふうに感じましたけれども。 ● 「杢」は確かに画数が少ないし,木下杢太郎の例があるということで,確かに言われてみればいろいろうなずけるところがあるのですが,多分データ的には,これは国字ですから,恐らく基礎になっているデータには中国の地名,人名その他,そういった引用された文献からも出ているから,頻度としてどうしても少なくなりますね。ということは,今,幹事の方からお話があったように,結局やはり日本語の中ではもう人名にしか出てこないということで,余り常用平易ではないということもいえると思います。つまりほかの熟語をつくらないですし。   ただ,今から考えると,国字については何かほかにもそういうような例もあったのかもしれないし,考えてもよかったのかなという気はいたしますけれども,何か常用平易であるけれども,しかしどこで出てくるかというと人名の中でしか出てこないということが常用平易でないということもあるのかもしれないと思います。私は,もう現段階では仕方ないというそういうふうに思っております。 ● この「杢」というのは,確かに漢和辞典を見ると国字で大工という意味しかない,木工というのが二つ詰めただけだということなんですけれども,例えばこのお手紙の方の「杢糸(もくいと)」という熟語があります。それは,上質な糸の名前であって,それをもとに命名を考えていたということが書かれていて,「杢糸」という熟語が日本語としてあるということです。   これとは関係なく,実際通信販売のチラシなんか見ていると,「杢グレー」なんていうのがやたら出てきます。それで「杢」が使われていて,辞書を見るとやはりこのような意味がある。漢和辞典的な世界では確かにもうほとんど出てこなくて,凸版印刷においてもたまたま出てこなかったと思われますが,目にしてきたものしか出さなかったということは確かなので,今回の基準からはかなり厳しいと思いますが,こういう当落線上のものは残っているのではないかというのは率直に思います。 ● どうでしょう,ほかの御意見は。少しこの段階で採用するのは厳しいのじゃないかという御意見が多かったかと思いますけれども,そういうことでよろしゅうございますか。   データのとり方で,本当に人名にしか使われない字というのが非常に低いランクに出てきているという問題はもともとありましたので,その点,今後また改めて洗い直しをする必要があるかもしれませんけれども。 ● 人名にしか使わない文字だから,人名用漢字に入れるべきじゃないかという考え方もできないでしょうか。   私,裁判官としてお考えになるときに,常用ではないというのは確かにあの字は常用ではないだろうと思いますが,人名においてはある程度常用ではないかということは,かなりの人間が知っている高名な詩人の名前に出てくるわけですね。特に石川啄木の「啄」という字は,決して常用ではないでしょうけれども,啄木という人間を知っていれば,あの「啄」という字が人名に使われたって不思議ではないなという気はするわけです。同じレベルでいえば,「杢」というのは人名としてはむしろふさわしい字という意見はあるのじゃないかという気がするのですけれどもね。   何か各委員のところに手紙が来ているみたいなんですが,私はまだ拝見していませんので,どういう御要望なのかは具体的に把握していませんけれども,言われてみればむべなるかなというような気持ちはどこかにはありますね。全体の御意向としてそれを外すということであれば,あらがいはしませんけれども,主張としては理解できるということは感じます。 ● 採用・不採用はともかくとして,例えば木下杢太郎というのはペンネームなわけですが,たまたま聞いたところによると,なぜ杢太郎かというと,ありふれた名前にしたと,つまり木下杢太郎の感覚では,杢太郎というのは一般によく使われている名前だというのがその感覚としてあった。確かに江戸時代の人なんかは杢太郎なんていう人が幾らでもいるということのようです。つまり,人名として脈々とある時期まで存在していたものというのは確かにあるにはあるわけですね,それにあやかろうという人もまたいるというのは事実なので,今回そういう調査というのは最初のころにもうしないということになっていたために,こういうものがぎりぎりになって議論されていると思いますが,この1通が今たまたま議論されていますが,こういうものがまだあるだろうというふうに思います。 ● それでは,いろいろまだ検討の余地はあるかと思いますけれども,審議のこれまでの流れからいって,この時点では採用することはしないということで,先ほど御決定いただきました488文字を採用する,こういう方向で最終的な答申案を事務局に御作成いただくということにしたいと思います。 ● 先ほどいろいろ問題提起があった中で,例えばアルファベットとかハングルの使用をどうだとか,また読み方の制限というようなお話もあったかと思うのですが,その辺はいかがでしょうか。 ● 表記は日本文字を使用するということでございます。アルファベットやハングルは対象外と考えております。また,読み方につきまして,戸籍法上はそこは今制限をとっていない立場でございますので,しかも諮問事項でもございませんので,その点も制限はしないということでございます。 ● この点は,今回の諮問事項からは外れていまして,むしろ戸籍法自体をどう改正するかの問題ですので,今後の検討課題として是非民事局の方でお引き取りいただきたいと思います。 ● 遠い将来は分かりませんが,やはり会社の名前,あるいは法人の名前とはちょっと違うのではないかなという感じはしておりまして,自然人の日本国籍を有している方の氏名には,やはり日本語として用いられている文字で,少なくとも日本語として用いられている文字というときに,まだアルファベットは入っていないのじゃないかなとは思うのですね。 ● 最近,外国人との結婚が非常に多いので,出生届に随分出てくるのですね。 ● それは,出生届に記載する,あるいは戸籍に記載する,その在り方と,自分の名前として使う文字としてどう表記するかということは,またちょっと違うのかなと思います。現在は戸籍に片仮名で表示してもらっていますけれども,それをアルファベットで表記するかという話は,あり得るとは思いますが,しかしその考えでいくと,じゃアラビア文字で書かれたらそれでいくのかという話になって,実際上不可能じゃないかという気もするのですね。キリル文字はどうだとか,ですね。アルファベットだけはいいのだというわけにもなかなかいかないのじゃないかと思います。   そうすると,戸籍の表記一つをとってもやはりそういういろいろな検討すべき課題があるので,ましてや人名そのものということになると,まだしばらく先ではないかなと思っています。 ● 確かにそういう方がパスポートをとったときに,本来の英文表記ができるかと思ったらヘボン式で書かなければいけない。例えばLで始まる名前つけたのにRの表記しかできないのは不合理だとか,何かいろいろな昔では予想できなかった問題がたくさん出てきていますので,そういうふうなことを今後時間をかけて御検討いただければと思います。   ほかにいかがでございましょうか。   なければ,事務局から次回についての御説明を。 ● 次回でございますが,8月25日水曜日の,午前10時から正午まで,場所は法務省の20階第1会議室でございます。よろしくお願いいたします。   答申案について御了承をいただく予定でございます。 ● それでは,本日も長時間にわたりまして熱心に御討議いただきましてありがとうございました。これにて閉会させていただきます。 -了-