法制審議会不動産登記法部会第3回会議 議事録 第1 日 時  平成15年11月26日(水)  自 午後1時30分                         至 午後2時10分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  不動産登記法の改正についての要綱(骨子)について 第4 議 事  (次のとおり)               議         事 ● 予定の時刻が参りましたので,ただいまから第3回不動産登記法部会を開会することにいたしたいと存じます。   本日は,御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   本日は,当部会の最終回を予定しております。本日は,残された論点について御審議をいただいた上で,これまでの御審議を踏まえて当部会として総会に報告すべき意見を取りまとめたいと考えておりますので,よろしくお願いいたします。   それでは,早速本日の審議を行いたいと思います。   本日の議事進行について,事務当局から御意見がございましたらお願いいたします。 ● それでは,事務当局の方から本日の議事について御説明させていただきたいと思います。   前回の部会では,非常に熱心な御審議をいただきまして,幾つかの非常に貴重な御指摘もいただきましてどうもありがとうございました。特に,登記識別情報の再通知の問題,登記官による本人確認について意思能力の判断をどう考えるかという問題,それから事前通知型の申請において,先日付の申請を認めるべきかどうかという問題,更に登記原因証明情報に関して,売買の具体的な金額の記載をしないことについてどう説明するのか,また登記義務者の記名押印ではなくて,署名を要求すべきではないかという,そういう御指摘がございました。本日の議事に入る前に,この前回御指摘があったこれらの点につきまして,事務当局として一応,検討したところを説明させていただければと思います。   若干長くなるかもしれませんが,御容赦をお願いします。   まず,第1の再通知の問題につきましては,原案においてもともと再通知を認めないとしていた理由というのは,コンセプトの問題として,オンライン環境において登記済証に代わるものとして登記識別情報というものを考えたということでございます。すなわち,登記済証というものが前回の登記申請時に登記権利者となった者に,その登記完了時に交付されて,それ以外の場面では交付されないという前提があるから,これを有する人が前回の登記申請に関与した人であるということが推認されるという構造になっていて,それを登記識別情報に置き換えたときにも維持しようとすると,同様に登記識別情報というものは完了時以外の場面では通知されないという前提を採るべきではないかということを考えたというわけでございます。   この点につきまして,前回御指摘があった点といいますのは,結局,その登記識別情報と登記済証というのは本来的に性質が違うわけで,登記識別情報の論理的属性というふうな概念を持ち出して説明することは誤解を招くおそれがあり,制度論としては,登記識別情報の再通知は,いわば事前通知手続の前倒しという制度としてとらえることもできるわけで,その方がユーザーにとっても登記所にとっても使い勝手がよいのではないか,そういう御指摘であったかと思います。   確かに,このような制度を採ることも論理的には可能でありますが,他方,実務的なニーズという面から見ますと,少なくともこれまでの意見照会の結果を踏まえますと,実務界サイドからはむしろ再通知は認めるべきではないという御意見の方が強かったということも事実でございます。また,再通知を認める場合の本人確認手続の内容が,例えば登記識別情報の提供がない場合の本人確認手続と同じ程度のものが必要だという前提で考えますと,本来登記識別情報は登記の申請のためにだけ必要なものでありますから,再通知を認めなくても,端的に登記申請の場面で本人確認手続を行えば足りるという原案の考え方も,やはり捨て難いのではないかと考えております。そこで,事務当局といたしましては,新しい制度の導入に当たっては,再通知は行わないという原案のコンセプトをそのまま維持することとして,御指摘の点については将来的な検討課題とするのが適当なのではないかと考えております。   次に,第2の登記官の本人確認と意思能力の問題でございます。   前回,御指摘があったとおり,確かに出頭主義のもとでの対人審査の対象として,意思能力が入るというのはやはり通説的な理解のようでございます。今回の登記官の本人確認権限というものは,出頭主義の下で認められた対人審査権をそのまま維持するというコンセプトでございますから,理論上は御指摘のとおり意思能力を含めて本人確認権限には含まれるという説明をすることにはなるのだろうと思います。   ただ,実際上,登記官が鑑定とかそういうことができるわけではございませんし,実際上そういうことが明らかに分かるような場合というのは,例えば一見して小学生ぐらいの子供が申請してきているとか,そういうことが分かったような場合に限られてしまうのではないかと思われます。これは,結局,却下事由にも絡むわけですけれども,今回,当事者が出頭しないことというのは却下事由から外れるわけですが,逆に商業登記法とか債権譲渡登記令の例に倣って,申請の権限を有しない者の申請によるときというものを却下事由にして,その中で読み込むということになるのではないかと考えております。   それから,第3の,これは登記の申請後に物権変動の日時が到来するという,いわゆる先日付の申請を認めることはできないかという点でございます。   この問題というのは,もともと今回の要綱(骨子)案によって制度上の手当てが必要になるという性質の問題ではなくて,今でも保証書による申請の場合にもある問題だということです。要するに事前通知型の手続の場合には,登記申請後,事前通知に対する申出の際に初めて代金決済をする,したがって,そのときに所有権の移転の時期の日付を登記申請時として申請させるというのは,いわば当事者の意思に反するのではないか,そういう実務的観点からの御指摘だと思います。   そもそも登記制度は,既に発生した物権変動に対抗力を与えるための制度であるからこそ受付の時点で順位を決めるということになっているわけです。それが,先日付を認めるということになりますと,受付の時点で物権変動が生じていない申請を認めることになりますから,受付の時点で順位を決めるという考え方をそのまま維持することができるかどうかが問題になるのではないか,仮に,その場合,物権変動がないのに順位だけを確保するということになれば,これは仮登記制度との違いというものを再検証する必要が生じますし,また,登記申請から物権変動が生ずるまでの間に,差押えとかその他の申請があった場合の処理もどうすべきかという問題が生ずる。つまり,先日付を認めるということになると,制度の骨格にかなり影響を及ぼす大きな問題になるのではないかという気がしております。   ここでの問題というのは,要するに代金も支払われていないのに登記申請するのは嫌だという売主側の意識と,それから登記申請時に物権が移転していることを前提とする制度の建前,これをどういうふうに説明するのかということだと思います。事前通知型の手続においては,事前通知に対する申出をしない限りは,登記自体がされることはありませんし,売主は代金が払われない限り申出をしないということが可能ですから,結局売主の利益は守られている。したがって,法律的には代金決済がされないことをいわば解除条件とする所有権が移転があったという前提で登記申請をするという法的構成をとることなども不可能ではないのではないか,したがって,あえて先日付の登記申請を認めなければならないとまでは言えないのではないかと考えております。   それから,第4に登記原因証明情報について,具体的な売買代金額を要件としないという点につきまして,これも繰り返しになりますけれども,一般論としては売買契約であることを認定するためには,具体的な代金額が判明していることが望ましいし,また,登記原因証明情報の真実性を高めるという観点から,それが望ましいプラクティスであろうということはいえるわけですが,登記手続上,当事者が売買であるとして登記申請している場合に,登記原因の記載レベルにおいて具体的な代金額がないことを理由に,これを却下することまでできるかというと,ここは現時点では,理屈の話ではないのかもしれませんが,コンセンサスは得られないのではないかと考えております。   同様に,登記義務者の署名を必ず義務付けろという御提案につきましても,これは確かに証拠価値という点からは単なる押印よりも署名があった方が望ましいということは言えるわけですが,例えば法人などの場合に,やはり実態を踏まえますと記名押印を認めざるを得ないのではないかと。したがって,少なくとも当事者の押印がされているという場合に,署名がされていないことを理由に却下するということまでは難しいのではないかと考えております。   以上のとおり,前回の御指摘を踏まえ,事務当局といたしましては要綱(骨子)案に修正を加え,あるいはその考え方を変更するべき点はないかという観点から検討させていただきましたが,対立する考え方の存在や実務に対する影響等を考慮しますと,やはりこれは原案を維持するほかないのではないかと考えた次第でございます。中途半端だというおしかりは受けると思いますが,御理解のほどお願い申し上げます。   そこで,今回の部会におきましては,配布資料3001番という簡単なメモがございますが,前回積み残して論点である登記完了通知の問題,それから予告登記の廃止の問題につきまして御議論いただければ有り難いというふうに考えております。 ● ただいまの事務局の御説明について,何か御質問,又は御意見がございますでしょうか。   --よろしいですか。   特にないようでしたら,次に進みたいと思いますけれども,よろしいですか。   それでは,本日は先ほど申し上げましたように要綱(骨子)の取りまとめをするという予定になっておりますので,部会資料3001にありますような残された論点について審議をしたいと思います。   まず資料の「1 登記完了通知(証明)について」の審議に移りたいと思います。   この点につきましては,本日の席上で配布されておりますけれども,部会資料2008の「登記完了通知について」,事務当局からまず御説明をいただきたいと思います。 ● それでは,登記完了通知,部会資料2008番に基づきまして説明させていただきます。   これは,要綱(骨子)案との関係で申し上げますと,2ページ目,四の(注3)にかかわる部分でございます。   第1回目のこの部会で,そもそも登記完了通知,つまり登記識別情報の通知とは独立してそういうものを設ける必要があるかどうかというところを議論していただいた方がよいのではないかということを申し上げた,その関係でこの資料を用意させていただいたということでございます。   一応,甲案と乙案というものの説明をさせていただきますと,乙案というのはいわば登記識別情報が通知されるときにはそれをもって登記完了通知なるものにしてしまうと,つまり逆に言いますと,それ以外の場面で登記完了通知,あるいは登記完了証というものはない,いわば登記識別情報への通知の一本化案でございます。   乙案の考え方というのは,結局部会資料2008番でいいますと3になりますけれども,そもそも登記済証に代わる本人確認手段としての登記識別情報があるわけで,登記実行処分自体は登記簿に記録されることによって万人に対して通知されるのだから,そのほかに登記済証的なものは特に設ける必要はないのではないか,そういう考え方でございます。   他方,甲案というのは,いわば現行法上の登記済証の通知機能と申しますか,1に書いてございますが,現行制度におきましては,申請に基づき登記を実行したときには,必ず登記所から申請人に対して,登記所の登記済みといった判こを押した紙を渡して,これがいわゆる権利証という形で使われることがあるわけですが,必ずそういうものがもらえると。今回の登記完了証は登記手続時の本人確認機能はないわけですが,甲案というのは,登記識別情報制度を導入したとしても,やはり登記所から申請人に対し,登記が完了したという,そういうあかしというものを,紙の場合には紙で,オンラインの場合にはオンラインで必ず出ますというふうな制度にするという,いわば現行制度をそのまま平行移動したような形になります。   甲案と乙案との違いというのは,結局甲案の下では登記識別情報の通知がされない申請人,例えば最初から登記識別情報は要らないといった人に対しても,登記完了証というのは必ずされるという点が大きく変わってくるということになろうかと思います。   第1回の部会の冒頭,事務当局の方では乙案的な考えでどうかということを申し上げたわけでございますが,いろいろな方の意見を伺ってみますと,やはりニーズはあると,登記済証的なものということになりますが,やはり登記識別情報をもらわないときでもそういうものがあった方がいいという意見の方が多いというような印象を持っております。そこで,両案を出した上で,こういう申し上げ方をするのも何でございますが,甲案が多数意見になるのではないかというふうに考えております。以上でございます。 ● ただいま,登記完了通知,従前の用語に倣っていえば「登記完了証」というようなものになろうかと思いますが,その制度につきましてはこれを設けないという乙案と,これをすべての申請人に交付するという甲案があって,事務局の側からは甲案の方が適切ではないかという御説明があったところです。この点につきまして,御意見を伺います。   実務界の側ではいかがでしょうか。 ● 現在も登記済証を交付しておりますし,また一般的に登記が終了したときは,登記済証のほかにも大体登記簿謄本や,登記事項証明書をおとりになっているような実情を考慮いたしますと,そういう通知を差し上げるのが適当ではなかろうかと考えております。 ● 特に,表示登記は基本的な国民の義務としておるわけです。権利の登記は任意でございますが,どうしても登記完了証は必要だというふうに考えております。よろしくお願いいたします。 ● 私も全く同じで,完了証の制度は是非設けていただきたいと思います。   理由はここに書いてあること,大体ほとんど私どもと考えは同じですので,そうあってほしいということでございます。 ● ほかに,御意見いかがでございましょうか。   それでは,これまでの御意見を踏まえまして,登記完了証につきましては甲案を採用するということで次の論点に移りたいと思います。   次の論点でありますが,予告登記の廃止について御審議をお願いいたします。   まず,事務当局から御説明をお願いいたします。 ● 予告登記の廃止の問題につきましては,これは最近の法制審議会の担保・執行法制部会の中でも出た議論ですが,執行妨害のために濫用されていると,抜本的にはこれを廃止すべきではないかという議論がかねてからございました。最近の議論かもしれませんが。   また,その際,法制審議会の担保・執行法制部会の中での意見として,例えば実務界の委員の方だと思いますが,果たして予告登記という制度がどの程度今の実務界で意味があるものとして考えられているのかという照会を含めて,是非改正項目に挙げて各界の御意見を聞いてもらえないかというような御意見があったと承知しております。   そこで,今回7月1日に公表しました不登法改正に関する担当者骨子案において,項目の一つとして予告登記制度の廃止というものを掲げて意見照会をさせていただいたわけでございますが,その結果につきましては,廃止論が特に実務サイドの方からは多数であったといえる状況にありました。   この部会におきましても,御議論はございましたが,廃止の結論自体については異論はないけれども,民法の解釈との関係で一応問題点を整理した方がいいのではないかというような形の御指摘があったというように承知しております。   そういうわけで,その点に関しまして前回ちょっと時間が非常にタイトでございましたので,十分な御議論ができなかったのではないかと考えておりますので,もしその点,問題の提起があればお伺いできればと考えております。 ● ただいま御紹介がありましたように,予告登記の廃止につきましては,第1回,第2回の部会におきまして,○○幹事から,先ほど御紹介がありましたような御意見がございました。この点につきまして,○○幹事の方から再度論点を整理していただければと思いますが。 ● 私は,結論的には今御紹介がありましたように予告登記の廃止に賛成の意見であります。ただ,年間1,500件予告登記が行われるわけですけれども,例えば担保・執行改正論議のときの民法395条,短期賃貸借の廃止の議論のときには,どの程度濫用的な短期賃貸借があったのかといった細かい議論が行われたのに対して,1,500件のうちのどれほどのものが濫用的な予告登記なのかの議論がさして行われていない。   一方,仮処分登記によって事実上変えられるのだというお話でしたけれども,それが100%補え切れているのか,それともそうではないのかという,補い切れなかったものについてはどう説明するのかということにも細かな議論が行われていなかったわけです。したがいまして,ここで議論する意図は全く有しておりませんけれども,改正後のいろいろな説明等において,理論とそれから実務関係について,例えば民法395条で行われていたようなきめ細やかな御説明をなさっていただきたいという,要望事項のみを述べさせていただきたいと思います。 ● 実体法上の問題について,実体法に与える影響という観点については。 ● その点につきましてもいろいろお話をお聞きしていますと,従来昭和30年以前から,ちょうど民法94条2項の類推適用論であるとか,あるいは古くは大正時代からですけれども,無権利構成から対抗構成に判例が変化した時代ぐらいから,予告登記制度というのはどれほどの意味があるのかということに関して学説の蓄積が存在したわけですけれども,○○幹事の方から御紹介がありましたように,現在の予告登記廃止論は,そういった従来の議論とは違う論点,つまり濫用的な予告登記の廃止論のみに集中した形で論点が出る。ですから,今までの議論を知っている人間との関係がひどく違和感を覚える廃止の理由であるわけで,その点についてもすり合わせを行う必要があろうと思います。ただし,結論的には私は廃止論で一致しておりますので,廃止後の説明について影響が大きく出るのか出ないのか,出ないのであれば出ないものであるということについて,きめ細かな説明をいただきたいということでございます。 ● ただいまの御指摘の点につきまして,ほかの委員の方からの御意見,とりわけ学者の委員・幹事の方の御意見をいただければと思います。   あるいは実態の話もございましたので,その点についての御意見を実務界の側からちょうだいすることも有り難いと思いますけれども。 ● ただいま○○幹事の方から,廃止をするという結論に異論はないけれども,実態かつ理論的な面の精査の上でという御注意をいただきまして,誠にそのとおりだと思います。   私は,実態の方について,今御指摘をいただいたところについて若干所見を述べさせていただきたいと思いますが,短期賃貸借保護制度の廃止のときには,件数の統計が法制審議会のテーブルの上にのったではないかと,今回はのっていないというおしかりをいただいたわけですけれども,改めて御説明申し上げるまでもなく,短期賃貸借の場合には,執行官による現況調査が行われまして,執行裁判所が各案件ごとに引受けとなる短期賃貸借であるかどうかを,基本的には理由を添えて判断しているということがございますので,最高裁判所の方で統計をとっていただいて数字を見るということができましたけれども,事,予告登記に関しては,同じ執行妨害という側面をもっているというところは同根でございますけれども,登記面を見ただけで,これが濫用的だということを,私は濫用的な予告登記をしていますというふうに登記面には書いていないわけでありまして,その数を数えるというのは登記面からできない上に,執行官の現況調査に当たるような契機というものが,こちらについては用意されておりませんので,御指摘をいただいたような統計的な濫用の実態というものの御説明を差し上げることはできないのだと思うのです。   しかしながら,やはり予告登記に関して濫用的な実態があるということをうかがわせる幾つかの傍証というのはあるわけでありまして,一つは現行登記法145条2項の規定に基づいて,抹消回復の請求権を放棄した旨の意思の表明があれば,予告登記の抹消ができるわけですが,それがなされないために,裁判上それを強制することがどのような法的構成によって可能かということが論じられて,幾つか異なる法的構成がありますが,高等裁判所段階のものでも複数,地方裁判所段階のものになると更に数多くの抹消回復の登記請求権の放棄を認定したり,あるいはその意思表示の給付を命じたりするような裁判例が出ている。それらの裁判例それ自体,ないしはその理由で説明されるところを見ますと,かなり濫用的な実態が見受けられるのではないかと思います。   また,裁判所書記官の方々が主たる執筆者になって書いておられる雑誌の中でも,書記官実務上,濫用の様子が顕著なんだけれども,法的な理屈が立たなくて執行妨害を黙認せざるを得ないような状況が見られるというような指摘をなさっておられる論文も複数掲載されているところでございます。   そういう意味で,十分ではないかもしれませんけれども,濫用的な実態が相当程度あるということは推知し得るのではないかと思います。そのようなところから,私自身も担保・執行法制部会に出席させていただいた折に,予告登記制度の廃止が相当であるということを申し述べたような経緯がございます。以上,御紹介をさせていただきます。 ● ほかにいかがでございましょうか。 ● 確認ですけれども。   今,○○委員の方から,そういう形で濫用されているということが挙げられておりまして,今回も濫用があるということが主な理由となっているのですけれども,以前から○○幹事からも紹介がありましたように,この予告登記制度,一方では裁判所の国民に対するサービスであったわけですけれども,他方で条文として,制度としてどれほどの意味があるかということが,濫用の問題が出てくる前からずっと議論されていたことでもあると思います。そうしますと,今回の廃止の理由というのは,専ら濫用目的があるから,それで処分禁止の仮処分で代替できるからやめてしまうということなのか,もともとそれに加えて,従来予告登記制度というものが十分に機能していたかどうか,あるいは制度として非常に有用な制度であったかどうかについても問題があったという点も考慮されて,全体として廃止という御趣旨なのか,そこを教えていただければと思います。 ● ちょっと個人的な見解も含めて述べさせていただきます。   一つは,濫用ということも言われておりますけれども,もともと私の個人的見解でありますけれども,この予告登記制度というのは,確かに予告登記をすることによって第三者に警告を与えるという積極的意義を持っているのですけれども,ただ制度としてはやや不十分なところ,あるいは不備な部分があるというふうに私は感じています。とりわけ,例えば予告登記の不動産登記法の3条にはただし書というのがついていて,同じ取消しの場合でも,詐欺による取消しは予告登記されないわけですね。これを理論的に説明することは,ほとんど不可能に近いのです。というのは,日本の制度で詐欺による取消しの意思表示をしたときにもう既に契約は無効になっていますから,それ以降に詐欺者から買う人は無権利構成で無権利者からの譲受人になっているはずなんですね。強迫で取り消されたときも,強迫者からの譲受人は無権利者からの譲り受けだと。だから強迫の場合に,予告登記で無権利者からの譲受人として保護されない可能性があるかもしれませんよという警告をするのは,これは意味があるのだとしたら,詐欺による取消しのときだったのと同じように予告登記をしてやらないと,第三者の保護には欠けるところがある。なぜここのただし書で,善意者に対抗できるものとできないものを区別しているか,十分には説明ができないのだと思うのです。   もともと予告登記は,フランス法が起源だと言われておりますけれども,フランス法は取消しは裁判上行わなければいけませんことになっていますから,訴えを提起してから判決が出るまでの間の第三者というのは,全部取消しの判決によって権利が覆ってしまう。そういう人を保護してやる必要があるというようなところからもともとはあったので,それと日本の裁判外の意思表示だけで効果を生ずるという制度との間で食い違いがある。   そのことが,仮登記で予告登記がなくなった分,補充できるかというようなお話ですけれども,逆に予告登記は取消しをしてから訴えを提起するまでの間にできた第三者に何も警告は与えない。仮にそれを民法94条2項の類推適用で保護されるとすると,予告登記では十分な保護にならないですから,取消者が自分の権利を守ろうと思ったら,予告登記に対応していたのでは不十分で,結局仮処分のようなことをしないと権利の保全ができない。   そういう意味で,ちょっと予告登記自体,論理的にやや不備があるし,それから権利者の保護の手段としても十分ではないところがあると。それを実務の中では仮処分等で補っているのだったら,予告登記がなくなっても,実務に与える影響もそれほど大きくはない。そういう意味で,濫用だけ,濫用があるから引っ込めましょうというだけではないのだろうと思います。これに代わるいい制度がない,あるいは欠陥があるのに存続させておくことの理由がないというようなことも,この予告登記廃止論の背景にあるのではないかということを,私は個人的に思っております。 ● 私は,今回の廃止のみが,むしろ○○委員がおっしゃったことは実体法上の全体の解釈をどうしても持ち出さざるを得なくなっているので,結局濫用の実態があるということが廃止理由だけでいいのではないかと思っているのです。それ以上のことを言うと,やはり○○委員のおっしゃるように制度間と制度趣旨の以前からの問題を言わざるを得ない。   ただ,○○委員がおっしゃったような形,もともと職権で登記されていくわけですから,およそ無効や取消しが起こったときになされるものがすべて濫用だ,濫用の事実が多いという言い方には,多分ならないはずですね。ですから,先ほどの繰り返しになりますが,そこら辺についてもう少し細やかな説明の仕方があるのじゃないかというだけの要望です。 ● ほかに,御意見ございませんでしょうか。   特にないようでしたら,○○幹事も結論としては廃止に反対ではないというか,むしろ賛成であるという御意見でございましたし,また民法上どう考えるかというふうなことはこの場で結論を出すべき性質のものでもないと思いますので,予告登記の廃止という点については,部会として御了解をいただいたというふうに理解させていただきたいと思います。   それでは,以上で第1回の部会で抽出しました論点についてはすべて御審議をいただいたということになります。特に御異論あるいは補足の御意見等がなければ,骨子案についての取りまとめに移りたいと思いますけれども,いかがでございましょうか。   それでは,骨子案の取りまとめにつきまして,事務局からの御説明をお願いいたします。 ● 今回,御検討いただきました要綱(骨子)案というものの性質は,いわば立法の基本方針というものであって,細部についてはまだまだこれから具体化していく必要がある性質のものでございます。これまでの審議の中でいろいろ御意見をいただいた点,特に,例えば資格者代理人の本人確認についてルール化すべきであるとか,そういったところも踏まえまして,今後制度を具体化していく中で御意見を踏まえて検討していきたいと考えております。   ただ,立法の方針を示した文書としては,要綱(骨子)案については,これまでの御審議の結果を踏まえましても,特に変更を要するところはないのではないかと考えております。以上でございます。 ● ただいまの事務局の御説明を前提といたしまして,この部会としては要綱(骨子)案について原案どおり了承すると,異議なく了承するということでよろしゅうございましょうか。   --特に御発言がないようでしたら,要綱(骨子)案につきましては原案どおり,部会の御意見として総会に報告するという御決定を得たということにさせていただきたいと思います。   総会へは,部会長から報告させていただきますが,部会長報告につきましては,慣例として部会長に御一任いただくということでよろしゅうございましょうか。--ありがとうございました。   予想より随分順調にというか,要綱(骨子)案について御了承をいただいたということで,改めてお礼を申し上げます。 今後の予定につきまして,事務当局から御説明を願います。 ● 今,部会長の方から御説明いただきましたけれども,今回,御意見をいただいた要綱(骨子)案につきましては,来年2月上旬に開催予定の法制審議会の総会に報告させていただきまして,その御審議・御承認をいただいた上,総会から法務大臣に答申を提出するということになります。それを踏まえて,担当部局,民事局で改正法案としての立案作業を進めていきたいと考えております。 ● それでは,本日予定しておりました議事は極めて順調にすべて終了いたしました。この際,特に発言しておきたいということがある委員・幹事の方がいらっしゃいましたら,どうぞ遠慮なく御発言いただければと思います。   --よろしゅうございますか。   審議の過程で御指摘のあった点は,今後継続して検討するというようなお話もありましたので,その点につきましては是非継続して事務当局で御検討いただければと思います。   以上をもちまして,法制審議会不動産登記法部会を閉会にさせていただきたいと思います。短期間の部会ではございましたけれども,御熱心な御審議をいただきまして,また非常に有益な御意見をちょうだいしましたことを改めて御礼申し上げます。ありがとうございました。 -了-