法制審議会動産・債権担保法制部会第2回会議 議事録 第1 日 時  平成15年11月25日(火)  自 午後1時30分                         至 午後4時30分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  動産譲渡の登記制度の整備について 第4 議 事  (次のとおり)               議         事 ● 予定した時刻が参りましたので,法制審議会動産・債権担保法制部会の第2回会議を開会いたします。   本日は,御多忙の中を御出席いただきまして誠にありがとうございます。   それでは,動産・債権譲渡の公示制度の整備についての審議に入ってまいりたいと思います。   まず初めに,本日の配布資料について事務局から説明をしてもらいます。 ● 部会資料といたしまして,資料番号2-1「動産譲渡の登記制度の整備について」と題する書面を事前に送付させていただいております。   また,事務局からは,「登記優先型のイメージ」という説明図を席上配布させていただいております。   それから,「債務者不特定の将来債権の特定について」と題する書面を席上配布させていただいております。この書面は,前回の第1回会議におきまして話題になりました債務者不特定の将来債権の譲渡について,譲渡の目的となるべき債権をどのように特定するのかということに関しまして,具体的イメージをお示ししたものでございます。御参考にしていただければと思います。   そのほかには,「動産公示制度創設等についての意見」と題します○○委員から提出されております書面,これも席上配布しております。   それから,日本労働弁護団から,当部会あてに送付された書面2通がございます。これも席上配布しております。   配布資料は以上でございます。 ● ○○委員御提出の資料につきましては,本日の審議事項であります「動産譲渡の登記制度の整備について」に関連する問題ですので,その中で資料の御説明,御発言をお願いしたいと思います。   それでは,部会資料2-1と,席上配布の補足説明資料につきまして,事務局から説明してもらいます。   なお,本日のテーマにつきましては,いわば本日が第一読会で,次回を第二読会というふうな形で審議を進めまして,2回の審議で動産譲渡の登記制度の整備についての基本的な方針を固めたいというふうに思っております。そこで,少し長くなってしまうかもしれませんけれども,部会資料2-1の全部について事務局からの御説明をいただいて,その後,個別の論点に関する審議をするという進め方にさせていただきたいと思います。   それでは,よろしくお願いいたします。 ● 部会資料2-1に基づきまして御説明差し上げたいと思います。少々長くなるかもしれませんが,よろしくお願いいたします。   部会資料2-1は,大きく三つの部で構成されております。   まず,1ページを見ていただきますと,第1においては,「動産譲渡の登記制度の整備の必要性」について記載しております。   それから,第2におきましては,動産譲渡登記制度の「制度設計に関する前提事項」について記載しております。   それから,第3におきましては,「制度設計」といたしまして,動産譲渡登記制度における登記と民法上の対抗要件具備方法との関係等をどのようなものとするか,その制度設計の内容について考えられるものを幾つかお示しをしております。   それから8ページ,「第4 その他」といたしまして,その他の事項として登記情報の開示方法などについて取り上げております。   1ページ目に戻っていただきまして,まず第1の「動産譲渡登記制度の整備の必要性」について御説明いたします。   第1回の部会におきましても,委員・幹事の皆様から,動産譲渡担保の公示に関する問題点の指摘や,これに対処するための動産譲渡登記制度の整備の必要性についての御意見がありました。その内容等も踏まえますと,動産譲渡担保の公示に関する問題点や,登記制度の整備の必要性については,この部会資料の第1に記載したように整理することができるのではないかと考えております。   まず,「1 先行する隠れた譲渡担保に劣後するおそれ」があるということです。   次に,「2 後行の取得者に善意取得されるおそれ」があるという点です。   ここで問題としておりますのは,後行の譲渡担保権者による善意取得であります。すなわち,譲渡担保を設定しても,設定者が目的物を引き続き占有するために,設定者が更に別の人に譲渡担保を設定するおそれがあります。そして,後行の譲渡担保権者が現実占有を取得した場合には,その後行の譲渡担保権者が目的物を善意取得するというおそれがあります。ここで取り上げております善意取得のおそれというのは,このような譲渡担保権者による善意取得のおそれを指しております。   もっとも,後行の取引が通常の売買という場合については,先行の譲渡担保権者の地位が覆されても,それはやむを得ないのではないかと考えられます。それが2ページの(注)のところに記載してある内容です。   つまり,担保目的物が集合流動動産の構成部分であって,それが通常の営業過程において売却されたものである場合には,買主たる第三者は,当然に権利を取得することになります。他方,目的物が集合流動動産以外の場合には,善意取得の適用場面ですが,買主たる第三者について善意取得を否定するのは動産取引安全等の観点から相当ではないと考えられます。   以上,御説明した点から,動産譲渡登記制度を整備して,このような問題に対処する必要があるのではないかと考えておりますが,この点につきまして御検討をお願いしたいと思います。   それから,占有改定については,外観上明らかでないために,後日,その存否や日時等が争われるという問題点もありますが,登記という制度を整備すれば,この点の立証が容易になるというメリットはあろうかと思われます。   次に,第2におきまして,動産譲渡の登記制度を整備することとした場合に,その制度設計に当たって前提となる問題点として,登記制度の適用対象について取り上げております。   まず,第2の1についてですが,登記制度の適用対象である譲渡の譲渡人は,法人に限定するべきであると考えておりますが,この点について御意見を伺いたいと思います。   法人がする譲渡に限定する理由は,そこの(注)に記載したとおりでありますが,この点いかがでしょうか。1に記載しましたように,登記制度の要望は,企業資金調達の多様化等を図る観点からのものですので,法人がする譲渡を対象にすれば,その要望はほぼ満たされることになるのではないかと考えられます。   また,(注)の2に記載しましたように,法人については法人登記簿により,変更前の名称等を把握することができますので,名称等の変更前にした動産譲渡登記も含めて,動産譲渡登記の有無を確認することが容易であるということがあります。   ただいま申し上げた(注)の1について補足させていただきますと,自然人のする譲渡も登記制度の対象といたしますと,これらについて登記の申請とか閲覧が必要になり得ることになろうと思います。そのような登記の費用や手間をかけても,なお自然人をも適用対象にするべきとの要望,あるいはこれを適用対象とすることによるメリットはないのではないかと思われます。   次に,第2の2のところについて御説明します。   制度設計を考えていく上で,どのような譲渡を登記の対象とするかという問題と,どのような「引渡し」について立法目的に沿った特段の法的措置を行うかという問題とは,異なる問題であろうと考えております。ここで,「特段の法的措置」と申し上げましたのは,例えば占有改定の対抗力を否定すること,あるいは占有改定の対抗力について登記の方を優先するといったようなことであります。   ここで一番重要な問題は,後者の問題です。制度設計の内容を検討する前提としてまず検討していただきたいということで,ここで取り上げさせていただきました。ただいま申し上げましたとおり,どのような譲渡について登記の対象とするのかという問題ももちろん検討しなければならない問題点でありますが,特段の法的措置,つまり対抗力を否定すること,あるいは対抗力について登記を優先するということは,取引に与える影響が大きい重要な問題ですので,特にこちらの問題を検討していただきたいということで取り上げさせていただきました。   そこで,まず特段の法的措置をすべきか検討を要する場面ということで考えていきますと,対象動産が融資を受ける者の支配下にある場合がこれに当たることは言うまでもないと思われます。というのも,対象動産が融資を受ける者の支配下にあるからこそ,二重譲渡担保の問題が生じるからであります。したがって,先行する取引について,現実の引渡しあるいは簡易な引渡しがされているような場合には,対象動産は融資を受ける者の支配下にはないので,そのような問題は生じません。したがって,第2の2の(注)1に記載していますように,現実の引渡しや簡易な引渡しがされている場合を特段の法的措置をすべき場面とする必要はないと考えられます。   次に,対象動産を第三者が占有する場合について,特段の法的措置を行う必要があるかどうかについてですが,この場合には,典型的には倉庫業者などに預けてある物件について,指図による占有移転の方法によって譲渡担保を設定するということが考えられます。この場合には,第2の2の(注)2に記載しておりますように,特段の法的措置を講じるべきではないと考えております。   まず,第三者が占有する動産について,譲渡担保を設定する場合には,指図による占有移転によって対抗要件を具備するのですが,第三者が占有する物について譲渡担保の設定を受けようとする者は,動産を占有している第三者,つまり占有代理人に問い合わせをすれば,先行する譲渡があったかどうかを確認することができます。したがって,あえて特段の法的措置を講じる必要はないのではないかと考えております。実際の取引においても,特段の不都合があるとはされていないものと思われます。   もっとも,譲渡を受けようとする者から仮に問い合わせがあったとしましても,占有代理人と融資を受ける者とが結託して,譲渡の事実を隠すというような可能性がないとは言えません。しかし,そのように結託してうそをつくというようなケースは,例外的な場合であろうと思われます。また,そのような結託のケースがあるからといって,指図による占有移転がされるケースについて特段の法的措置を講じる,つまり指図による占有移転の対抗力を否定する,あるいは登記を優先するという措置を講ずると,むしろ弊害の方が出るのではないかと考えます。つまり,倉庫業者に預けられているほとんどのケースでは不都合はなく,現行制度のもとで問題なく取引がされている,にもかかわらずこのような法的措置を仮に行ったとしますと,指図による占有移転をしても,後から登記をされてしまえば自己の地位が覆されてしまいますので,結局は登記をしなければならないということになります。そうしますと,登記の費用や手間の負担を余儀なくされるということになってしまいます。   以上申し上げました点から,今般の制度設計におきまして対抗力の否定,あるいは登記に優先されるという限度で対抗力を制限するといった特段の法的措置を講じるべきか否かを検討すべき対象というのは,占有改定の場合であろうと考えております。   ただいま御説明いたしました点について,補足して説明をさせていただきたいと思います。本日,席上に「登記優先型のイメージ」と記載しております説明図を配布しておりますので,こちらを御覧ください。   この図面で,右にAという記載がありますのは,先行する取引の譲受人であると考えてください。それから,左に記載されているBを,後行の取引の譲受人と考えていただきたいと思います。AとBにある人物から二重譲渡がされたというケースと考えていただければ結構です。   右のAの枠内を御覧ください。ただいま申し上げましたとおり,今般の動産譲渡登記制度において特段の法的措置,つまり先行する取引における対抗力の否定,あるいは対抗力の制限といったことをするかどうかを検討すべきなのは,譲渡人のもとに動産がある場合です。したがって,先行する譲受人であるAに現実の引渡しがされたという場合や,簡易な引渡しがされたという場合は,括弧でくくってあります。   また,第三者が占有していることを前提とする指図による占有移転の場合も事実上問題になりませんので,これも括弧でくくってあります。   また,右の方に「担保目的譲渡」と「真正譲渡」と書いてありますが,対抗力の否定や制限については,担保目的譲渡のみを対象にすべきであって真正譲渡は対象にするべきではないと考えております。したがって,そこに黒く太く書かれましたとおり,担保目的譲渡の占有改定のみがその対象となります。   次に,後行の取引の譲受人であるBの方です。ただいま申し上げましたとおり,譲渡人のもとに動産があるということが前提ですので,簡易な引渡し,あるいは指図による占有移転の場合は,括弧でくくってあります。実際に問題になり得ると思われるケースは,Bについて占有改定がされたケース,現実の引渡しがされたケース,あるいは何らの引渡しもされていないケースというふうに考えられます。   それから,あくまでもBは登記をしたということが前提であります。   この場合において,BがAに優先するかどうかということです。   まず,占有改定排除型の場合ですが,この場合はAの枠の下に(参考)として記載していますように,占有改定排除型の場合には,注の場面ではAに対抗力はありませんので,常にBが優先するということになります。   登記優先型の場合は若干ややこしいので,ちょっと御説明いたしますと,Bについて占有改定しかされていない,あるいは引渡しがされていないといったケースではBには善意取得制度の適用がないということになります。したがって,この場合にはBの保護のために登記優先ルールが適用されて,BがAに優先するということになります。   それから,Bについて登記の前に現実の引渡しがされたというケースでは,Bには善意取得制度の適用があり,これによってBの保護が図られますので,この場合に登記優先ルールを適用する必要があるか否かは問題になり得るところであり,今後検討を要するところであろうというふうに思われます。補足資料の説明は以上であります。   それから,部会資料に戻っていただきまして,3ページに第3とあります。   第3におきましては,制度設計の内容を取り上げております。説明の順番としましては,まず6ページの(後注)の1に記載しています担保目的譲渡についてというところを御説明した方がよろしいかと思いますので,これについて御説明いたします。   ただいま申し上げましたとおり,占有改定排除型,あるいは登記優先型というものは,占有改定を排除するあるいは登記が占有改定に優先するというものでありまして,登記申請あるいはその閲覧といった負担を課すものです。そうしますと,これらの制度設計を採用した場合に,真正譲渡もそういった占有改定排除あるいは登記優先の対象としますと,従来占有改定によって対抗要件を具備していた真正譲渡の取引に影響を与えることになってしまい,相当ではないと考えられます。   他方で,担保目的譲渡に関しましては,登記制度を整備して譲渡担保の実効性を高めてほしいという要望があるところです。そこで,占有改定排除型と登記優先型の場合には,占有改定の対抗力の否定あるいは制限の対象となる譲渡は,担保目的譲渡に限定して,真正譲渡は適用対象としないというふうに考えたものです。この点,「制度設計」で出てきます単純対抗要件型については,占有改定の対抗力の否定あるいは制限といったことはいたしませんので,この点は問題にはなりません。   次に,(後注)2の集合動産譲渡を対象とするということについて説明いたします。   ただいま申し上げましたとおり,占有改定を排除,あるいは占有改定よりも登記を優先する対象の譲渡につきましては,担保目的譲渡に限定するのが相当であろうと考えたのですが,この点については,その対象を集合動産の譲渡に限定するという考え方も一応考えられようと思われます。しかし,集合動産の譲渡に限定するという考え方につきましては,7ページに記載しましたような問題点もありまして,これを採用することはできないのではないかというふうに考えております。   それでは,第3の「制度設計」の本文の方に戻りまして,そこに挙げております三つの案について御説明したいと思います。   その三つとは,先ほどから御紹介をしておりますが,占有改定排除型,登記優先型,それから単純対抗要件型であります。   まず,3ページの「1 占有改定排除型」です。   この制度設計は,担保目的譲渡については占有改定では対抗要件を具備することができない,それにかわって登記によって対抗要件を具備することができるものとするものであります。   この制度設計は,隠れた譲渡担保に劣後するおそれの問題に対しましては,(注)1に記載しておりますように,占有改定による対抗要件具備というのを認めませんので,隠れた譲渡担保に劣後するおそれがなくなることになります。   また,(注)2に記載しておりますように,登記という形式的で明確な基準で優劣を決定することができるというメリットがあります。   他方,(注)3に記載しておりますように,占有改定による対抗要件具備というのは認めませんので,占有改定による譲渡担保は,競合する譲渡担保との関係のみならず,差押えあるいは破産の場面でも対抗できないということになります。   また,(注)4で記載しておりますのは,部会資料の第1の「動産譲渡の登記制度の整備の必要性」の2,つまり「後行の取得者に善意取得されるおそれ」の関係で取り上げました問題と絡むものであります。   この占有改定排除型のもくろんでいるところは,競合する担保目的譲渡相互の間の優劣を,登記の具備の先後によって決しようというところにあります。にもかかわらず,先に登記を経た担保目的譲渡の譲受人がいるのに登記を経ていない担保目的譲渡の譲受人が善意取得によって権利を取得することができるということになってしまいますと,その趣旨が没却されてしまいます。したがって,こういった場合には善意取得を認めるべきではないのではないかというのが,ここに記載しております問題意識であります。   次に,2の「登記優先型」であります。   この制度設計は,担保目的譲渡について登記によって対抗要件を具備することができるようにして,その登記を具備した担保目的譲渡は,登記の具備以前に占有改定による担保目的譲渡があったとしても,その譲渡に優先するというものであります。逆に言いますと,担保目的譲渡は占有改定によっても一応の対抗要件を具備することができますが,後で登記を具備した担保目的譲渡が登場すれば,これとの関係では劣後するというものであります。   この制度設計におきましては,隠れた譲渡担保に劣後するおそれの問題に対しましては,(注)1に記載しておりますように,登記を経た譲渡担保は先行する占有改定による譲渡担保よりも優先しますので,隠れた譲渡担保に劣後するおそれがなくなるということになります。   また,(注)2に記載しておりますように,登記という形式的で明確な基準で優劣を決定することができます。また,占有改定を対抗要件具備方法として認めますので,占有改定排除型とは異なって,占有改定による譲渡担保は差押えや破産の場面で対抗することができるということになります。   他方,(注)3に記載しておりますように,この制度設計では,原則としては対抗要件具備の時間的先後によって優劣を決定しつつも,例外ルールとして,担保目的譲渡相互の競合場面においては対抗要件具備方法相互の間に序列をつけるということになります。こういった例外ルールを設けることに理論上の問題がないかどうか,また実際上矛盾が生ずる場面が生じないかどうか,この点について御意見を賜りたいと思います。   (注)4で記載しておりますのは,先ほどの占有改定排除型のところで申し上げたのと同様の趣旨のものであります。   次に,3の「単純対抗要件型」です。   この制度設計は,占有改定に加えて登記も対抗要件具備方法として認めるというものです。そのほかには,登記に特別な法的効力は付与しないものです。占有改定の対抗力につきましても,変更を加えるものではありません。この点が占有改定排除型や登記優先型と異なるところです。単純に登記に対抗要件としての効力を認めるだけということで,「単純対抗要件型」とネーミングをしております。   この制度設計は,隠れた譲渡担保に劣後するおそれの問題に対しましては,(注)1に記載しておりますように,登記申請や登記閲覧の取引慣行の形成に期待し,それがされれば,これによって先行する隠れた譲渡担保に劣後するおそれが軽減されるというものであります。   後行の譲渡担保権者による善意取得のおそれとの関係につきましては,(注)の2に記載しております。この点についても,取引慣行の形成に期待し,それがされれば善意取得を事実上阻止することができるようになるというものであります。   この制度設計は,(注)3に記載しておりますように,占有改定の対抗力を変更しませんし,登記の効力につきましても,対抗力のほかには特別な法的効力を付与するわけではありません。したがって,実務としても比較的対応しやすい,あるいは従来の法制度との関係で問題が生じるおそれは小さいものと思われます。   他方,(注)4に記載しておりますように,隠れた譲渡担保の問題,あるいは善意取得の問題等に対処できるかどうかが,取引慣行の形成いかんにかかっております。そのような慣行が形成される保証はないという点に問題があります。   本文で挙げました制度設計の例は以上でありますが,これらのほかにも(後注)の3で挙げておりますような,登記による善意取得を認める制度設計というのが一応考えられます。ここで取り上げました制度設計は,簡単に申し上げますと,現行法では判例上,占有改定では善意取得は認められておりません。通常,譲渡担保を設定し,占有改定を得ても,善意取得は成立しないということになります。しかし,この制度設計は,譲渡担保を設定して占有改定しか具備していない場合であっても,登記を具備した場合には善意取得を認めるというものであります。しかし,この制度設計につきましては,部会資料にも記載しましたとおり,他の譲渡担保の目的物だけではなくて,賃借物,あるいは受寄物に譲渡担保が設定された場合であっても担保目的譲渡の登記によって善意取得されてしまうということになる,そういった問題があるため採用することはできないのではないかと考えております。   最後に,8ページの「第4 その他」について御説明いたします。   まず,1の「登記情報の開示方法」につきましてです。   動産譲渡の登記情報につきましては,その中には当然,動産を特定するために必要な事項が盛り込まれることになります。このような登記の情報につきまして,そのすべてをだれにでも開示をすることとするのか,あるいは一定の登記情報については一定の範囲の者についてだけ開示することとするのかというのが問題になります。ある者が,具体的にどういった動産を所有しており,また担保を設定しているかということについては,気まぐれの調査者あるいは営業上の競争者といったものに開示されるべきではないとも考えられます。その点を考慮すれば,資料に記載しましたような二段階の公示方法を採用するべきであるとも考えられます。そこで,登記情報の開示方法につきまして御検討をお願いいたします。   なお,このような二段階の開示方法は,債権譲渡特例法においても採用されている方法であります。   次に,2の「法人登記簿への記載」について御説明いたします。   債権譲渡登記制度では,債権譲渡登記がされたときには,その登記に関する概括的な情報が法人登記簿に記載されるものとされております。動産譲渡登記制度におきましても,同様の制度を設けるべきでしょうか。   この点につきましては,第1回の部会におきまして,この法人登記簿への記載については改めてその在り方を検討すべきではないかとの御意見も賜ったところであります。そこで,法人登記簿への記載をどのようにするかについて御検討をお願いしたいと思います。   部会資料の説明は以上です。 ● それでは,ただいま御説明いただきました部会資料2-1に従いまして,本日の審議を進めたいと思います。審議の順序も,おおむねただいまの御説明の順序に従いたいと思います。   最初に,「第1 動産譲渡の登記制度の整備の必要性」についてです。   この点につきましては,先ほど御紹介がありましたように○○委員から,「動産公示制度創設等についての意見」と題する資料が提出されておりますので,この資料についての御説明を○○委員にお願いしたいと思います。 ● 席上配布しておりますので,これを参考にしていただきたいと思います。   第1回目の会議のとき,私,欠席いたしまして,この機会に前回の議論のときの債権譲渡特例法の見直しについても若干意見を言わせていただきたいと思います。   1ページの2の(1)のところの2段落目のところで書いておりますが,前回議論されました債権譲渡特例法についてでありますけれども,この法律ができて以降,私どもの職場で倒産が起きたときに,労働債権が確保できないというふうなことが何件か起きております。したがって,今回,将来発生する債務者不特定の債権についてまで債権譲渡を公示できるとするならば,ますます労働債権の確保は大変困難になってくるのではないかというふうなことが,私どもの傘下の組合から指摘されております。したがって,もし新たにこのような制度を創設するならば,労働債権の確保について新しい仕組みを作ることが必要なのではないか。実際,最近は破産が多いわけですけれども,破産になったときに,ほとんど何もなくなっている,財団を形成しても,財団の中に何も財産がなくて,ゼロ配当で終わるということが起きてくるのではないかというふうに,非常に危ぐしております。したがって,労働債権の問題について,是非議論していただきたい。   国会にまだ上程されておりませんけれども,破産法の改正の中で給料債権や退職手当が3か月分,財団債権になりました。幾ら財団債権になったといっても,財団に財産がなければそれは配当が限りなくゼロになるわけでありまして,今でもなかなか困難な労働債権の確保が非常に大変になるというような指摘でございます。   それと,2ページの(2)ですが,今日の議論の「動産公示制度の創設について」であります。このことも,前回議論されました将来発生する債務者不特定の債権の公示制度と同じでございまして,動産についても公示制度を創設するということが今日提起されておるわけでありますけれども,労働債権が実際の倒産,特に破産のときにどういう状態かといいますと,大体土地とか不動産は担保権がついていて全部ないわけで,製造業だと残っていた機械ですね,製造業だってほとんど工場抵当に入っているわけですけれども,若干残っている機械を売って労働債権で分けるとか,製品の残っている在庫品を売って労働債権で分けるとか,若しくは売掛金をみんなで集金してきて労働債権で分けるという形で労働債権の確保が辛うじて行われているわけです。今度動産までも登記制度ができれば,中小企業としては非常に資金が入ってくる,借りやすくなるということではメリットはあるだろうけれども,一方いよいよもって何もなくなってしまう,全く空になってしまう。そのときに労働債権をどういうふうに確保するのかということについて,是非御議論をしていただきたいと思います。   私どもは,できたならば,破産法改正のときにも申し上げましたけれども,フランスだとかヨーロッパでできている担保権にも優先する労働債権,「スーパー債権」というふうなものをつくりながら,こういう新しい制度を創設するということを一緒に議論していただきたいと思います。 ● ただいまの○○委員からの御説明は,企業破たんの場合の労働債権の確保ということで,動産だけではなくて債権の譲渡担保についても御発言がございました。第1回の債権譲渡登記制度の整備についての御議論の中でも,委員の中からもそれに類似する御意見もございましたので,この際ですので,動産か債権かを問わず,ただいまの問題の提起について御意見を伺いたいと思います。どなたからでも,どうぞ。 ● ○○委員,ありがとうございました。   商工会議所の立場から,ただいまの○○委員の御意見に関しましての感想を申し上げさせていただきます。   商工会議所といたしまして,この動産担保並びに債権担保の法制度の整備につきましては,貸し渋り,貸しはがしの状況下,動産ないし債権を担保とする融資というのは,中小企業の資金繰りに極めて有益なものであると考えております。ひいては,それがただいまの○○委員の御指摘にもありましたような,中小企業の破たんを回避して,従業員の雇用維持にもつながるものであるということを強調させていただきたいと思います。   具体的には,あくまで○○委員の御指摘は破たん時の分配の問題でございまして,その破たんに至る前にいろいろな局面で中小企業の資金調達を図る,それによって倒産を回避するということが大切なことではないかと思いますし,またその手段として動産担保ないし債権担保が大変有益であるというふうに会議所としては認識をしておるところでございます。   加えまして,このことは一中小企業の経営というふうな観点のみならず,売掛債権を有する中小企業者としても,当該売掛先が破たんをしない有効な資金調達の手段であるというふうに考えておるところでございます。 ● ほかに御意見,いかがでしょうか。 ● つけ加えさせていただきます。ただいまの倒産・破たん回避の視点のみならず,よしんば破たんをしたとしても,でき得る限りリストラを極端な方向に持っていかずに再生をし,操業を継続するために,例えばDIPファイナンスその他の資金調達の道があるわけでございますが,こういったDIPファイナンスに関しましても,特に動産担保等については,従前の不動産等が相当の担保力のないような状況の中では有益に活用できるのではないかというふうに思います。これは,恐縮ですが,あえて指摘させていただきます。 ● ほかに御意見,いかがでしょうか。 ● 労働債権の問題を今言っておるのですが,在庫あるいは債権が全部とられて配当に回す材料がないということになりますと,例えば一般債権者にとっても影響はあると思うのです。ただ今回の創設する趣旨が,いわゆる中小企業金融というのを円滑にしようということでありまして,また仮に倒産した場合でも,DIPファイナンスに有用に使えるというふうな前提に立ちますと,我々いわゆる一般債権者の立場に立った場合も若干問題なしとはしないのですが,それよりもこういう制度をつくっていただくということが,ビジネスチャンスにつながると思いますので,非常に有用ではないか,私はこういうふうに考えております。 ● 先ほど,○○委員からもお話がありましたけれども,こういった制度を作ることで企業の倒産回避という,そもそも論のところで労働債権の確保を図るといった面での効果は期待できるのかなというふうに思っております。現在,銀行におきましても,中小企業融資についてどのようにやっていくかということは課題でございまして,このような制度が新たにできると,それの一つの推進材料になると。   先ほどのお話にありました別除権に優先させる制度を新たに創設するということについてですけれども,破産法の改正のときにも銀行協会側の別な委員の方からお話し差し上げたと思うのですが,こういった別除権に優先させる制度を新たに創設するということになりますと,従来の銀行の融資において考えてきた保全についての考え方が根本的に変わってきてしまうところがありまして,金額的にもどういった金額で優先されることになるかの予測可能性が非常につきにくくなってきて,ひいては中小企業に対する融資がやりにくくなるというふうなことで,これはあってはならないことだというふうに思っております。 ● ほかの御意見,いかがでしょうか。 ● 前回は債権譲渡についての考え方を申し上げましたので,動産の譲渡担保についても,経団連として意見交換した上での議論を紹介させていただきます。   これも債権譲渡の制度についてのとらえ方と同様に,企業にとって今まで資金繰りに利用することが難しかった資産について,それを資金化して事業に投入することによって,結果的に資金効率の向上につながるものということで,新たな選択肢を加えるものですので,基本的には賛成できるものと考えております。更にDIPファイナンス,若しくは新興企業,ベンチャー企業にとっても,新たな資金調達手段を提供するという意味で,基本的に有効なものと考えております。   ただ,やはり実務界としましては,資金の貸し手,借り手だけではなく,取引先という立場から相手方への信用供与という観点で幾つか懸念があったということも紹介させていただきます。   まず一つは,担保として供される動産を我々はどのようにして外から見える立場にあるのだろうか。法律事項かどうかということは別としまして,それをいかに特定するか,若しくは一体性を明確にするかということについては,制度設計上十分に御配慮いただきたいと思います。   また,新たな公示制度の創設ということにつきましては,公示された登記についての検索,閲覧のコストを十分に低減していただきたい,使いやすいものにしていただきたいと考えております。   三つ目としましては,この新しい公示制度の現行の法律関係への影響をできる限り最少限度にとどめるということが必要ではないかと思っております。具体的には,例えば所有権留保,リース取引につきまして今までの取引慣行を大きく変えるというようなことになりますと,実務界に与える影響というのは大きなものになるのではないかと思っております。 ● ほかに御意見,いかがでしょうか。学者委員の方から,どなたか御意見ございましたら……。 ● それでは,先回これとの関係で一言発言した者として。   今の幾つかの御意見で大体了解できましたが,しかし,例えばドイツとかフランスなどでは基金をつくりまして,一応労働債権の優先的な権利を認めながらそれを基金の方で手当てすることによって,担保の実行等に支障のないような制度を考えているのです。これはもうここの部会の領域をはるかに超えてしまう問題ですけれども,やはりどこかで考えていかないと。たとえビジネスチャンスが広がるといっても,広がったメリットが労働者のところに行かないのでは,やはり必要な配慮を欠くことになるのではないかと思います。 ● 経産省は,この動産公示とか債権公示については基本的にサポート申し上げている立場なのですけれども,今まで与信を受けたくても受けられなかった中小企業者の方々の中で,事業は結構しっかりしているから動産とか債権がちゃんと動いているような人たちにちゃんと与信がつけば,そこで新たな雇用も生み出せるかもしれないし,あるいは今の雇用も維持できるかもしれないと。そういうふうにどちらかというと拡大均衡的に物事が生むような仕組みの一助になればいいなということで,ここを支持申し上げている次第でございます。したがって,新しいこうした制度ができたときに,今の与信の流れが全然変わらなくて,より多くの担保をとられてしまうという話になってくると,いろいろと労働債権の議論,あるいは労働債権のみならず一般債権としての議論でもいろいろな問題が出る副作用もあろうかと思いますが,ただ一方で,今の中小企業の実態を見ていると,不動産担保とか個人保証がない限り金が借りられないというところを打破していかないと,維持できるはずの企業もなかなか維持できないというところに目を当ててみたいなと思っている次第です。   それから,中小企業施策としては,どちらかというと今まではこういう新しい融資をする方々に対して公的な保証をつけるというふうにならなかったのですが,最近売掛債権担保についても公的な保証をつけさせていただくということをやらせていただいておりますが,こうした新しい制度がもしできますれば,それが世の中の新しい与信先の開拓につながるように,政府としても中小企業施策の一環として御支援申し上げるような手立てを講じて,なるべくいい作用が顕在化して,悪い作用が顕在化しないような形で御助力を申し上げることができればというふうに考えております。   非常に難しい議論だと思うのですけれども,できますれば経済の新しい芽を育てるという方向で御議論が進むことを,経産省として,あるいは中小企業庁としても期待しております。 ● ほかに御意見ございますか。 ● これは,私の意見ということではなく,御紹介という形で述べさせていただきたいのですけれども,倒産関係の業務を中心として行っている弁護士から,多少意見をお聞きしております。   倒産事件の中で,特に再生なり更生という再建型の倒産手続を進めていく上で,動産なり売掛債権がふたをあけてみたら根こそぎ債権者にとられていたという事態になりますと,再建型の手続が非常にやりにくいということを,従業員の労働債権の問題とともに指摘を受けておりますので,その点御紹介させていただきたいと思います。 ● ほかに御意見ありませんか。   それでは,事務局から。 ● 労働債権の保護の必要性,重要性については,十分我々も認識しております。ただ,スーパー債権あるいは○○委員から出ました基金などという制度の創設という問題は,民事立法だけで解決することは困難なことと思われます。我々としましても○○委員の御意見を十分尊重した上で,引き続き検討していきたいと思いますが,時間の関係もございますので,制度の内容についてもう少し議論を進めていただけたら有り難いと思うのですが,いかがでございましょうか。 ● 理解したというよりは,議論を先に進めていくことに協力するという立場で,最後に一言なんですが。   ヨーロッパで行われている倒産時における労働債権のための保険制度について,私どもずっと注目しているのですが,日本では現在,未払賃金立替払制度が労災保険の副次事業で行われているわけですが,それの廃止の方向性が打ち出されているわけですね。そうするとそういう意味では,企業に対する資金融資の問題と企業を再生させるという課題と,それと労働債権の確保というのが非常に困難になってきているわけで,したがってここの審議会がそういう場ではないわけですけれども,関係者の皆様の中で,何らかの形で労働債権を保護するような方策が必要ではないかという認識を持っていただいて,関係方面への働きかけなどもお願いしたいと思います。 ● 委員からの御指摘,それから事務局の整理もございましたけれども,労働債権の保護というのは非常に重要だと思いますし,それからまた,倒産時,再生時の配当原資,基礎となる財産の維持というふうなことも非常に重要な観点だと思いますが,この場ですべてに答えを出すことは大変難しいのも事実でございます。それらの点につきましては今後関係する方面でいろいろと御検討いただくということと,それからこの制度のメリットの部分が大きく出るような運用,あるいは側面援助する様々な仕組みをつくっていただくというふうなことを期待して,議論を先に進めさせていただきたいと思います。   それでは,次に資料2-1の2ページ,第2の1ですけれども,登記制度の適用対象となる譲渡の譲渡人につきましては,これを法人に限定するという御提案でございますけれども,この点について御意見をいただきたいと思います。 ● この法人所有動産に限定することにつきましては,商工会議所の会員構成におきまして個人事業主が相当数あることは事実として認識をしておりますので,いろいろと考えてはいたのですが,むしろ商法の現代化等の時代の流れにかんがみまして,法人化を志向することが今後の個人事業主の喫緊の課題とも言えますので,したがってこの点で特段の異論はないというふうに申し上げます。   加えて申し上げますと,個人事業主の場合,個人所有の動産というのは決して事業用資産のみならず,いろいろな生活用の種々の資産その他ございまして,これが動産担保として供するということになりますと極めて混乱を来すことになりかねない。「倒産隔離」という言葉がございますが,あくまで当該事業の範囲の中でその事業用資産が担保物として提供されて,資金の調達を受けるというのが筋でございます。そういう意味では,むしろ法人所有の動産に限定することを積極的に受け入れたいというふうに考えておるところでございます。   次の点は,あくまで経済的な問題でもございますが,あえて申し上げます。   近年の金融環境や取引構造の変化の中で,中小企業においても質の高い計算書類を整備いたしまして,それを公表することによって金融機関や取引先の信頼を確保する必要性が高まっております。自らの経営実態をより正確に把握することが,事業の効率化,経営基盤の強化につながりますので,中小企業にとっての公正なる会計慣行を明らかにすることがむしろ喫緊の課題でございます。その観点からも,我々としては個人事業主のままではかえってこの動産担保融資その他の資金調達の道がむしろ閉ざされているのだということを深く認識をして,今後とも進めていきたい,取り組んでいきたいというふうに思っております。 ● ほかの御意見,いかがでございましょうか。 ● 債権譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律に関連いたしまして,法人がする債権譲渡の場合に限られるということになったわけですが,どうしてそうなったのだろうかということを考えてみますと,やはり商事の商業登記簿とか,あるいは法人の登記に関連いたしまして,そこに債権譲渡登記を載せるというふうな案も一時期あったというふうに伺っております,別個の制度ではなくて。また,でき上がった制度といたしましても,そこにある情報というのをきっかけにして債権譲渡登記の方に迫っていくために,こういうふうな債権譲渡登記が行われていますよということを商業登記簿に載せることが必要であるということがありまして,法人のみが債権譲渡登記ファイルによる対抗要件具備の方法というのを享受できるということが正当化し得たのではないかというふうに思うわけです。   しかるに,8ページの2のところに,「法人登記簿への記載」というような話がございまして,これについては慎重に考える必要があるという話が先ほど○○関係官の方からありましたけれども,もしここを,仮に商業登記簿とは無関係な制度として作るのだというふうにいったときに,法人に限るということの根拠ないし正当化事由はどこにあるというふうにお考えなんでしょうか。 ● 事務局から,何か御意見ありますか。 ● 見直すといいましょうか,そういう提言が前回第1回の会議のときにございましたので,御意見を尊重するという趣旨でここに記載したものでございます。事務局の方でこれを切ってしまおうとかいうつもりはございませんものですから,私の方にどう考えるのかと言われてもちょっと困るのですけれども。   ただ,債権譲渡特例法の関係では,法人に限った理由としましては,そのほかに2点ばかりお聞きしておりますが,一つはニーズといいましょうか,こういう登記制度を使って資金調達をするニーズというのは企業に限られているだろうと,企業というのと法人とは必ずしも一致じゃありませんけれども,法人に認めておけばほぼ需要は満たされるだろうというふうに考えたと聞いております。   もう1点は,個人の債権というものを流動化するというのはかえって好ましくないだろうということで,法人に限定したというふうに伺っております。   そういった趣旨からいきますと,この動産の登記制度でも同じようなことが言えるのではないかと。まず1点は,やはり個人からのニーズというのはほとんど聞こえてきておりません。それからもう1点,個人の持っている動産を譲渡担保に供することを促進させるのかといいますと,先ほど○○委員からもございましたけれども,やはり生活のために必需品というような動産までなくなってしまう可能性がある,それはちょっと好ましくないのではないか,そういう点からもやはり法人に限定すべきではないかと言えるのかなという気もいたしております。 ● 私の理解するところでは,債権譲渡特例法で法人に限定したのは,実質的な理由としては今御指摘がありましたように,個人用の,非常に極端に言えば家庭内債権のようなものまで流動化することをむしろ避けなければいけないので,事業用の債権を対象にすべきである,ところが事業用の債権という概念はぴったり法律の中に仕組めませんので,少しずれますけれどもほぼそれをカバーできるものとして法人の債権に限定したというのがいわば実質上の理由だった。形式上の理由としては○○幹事がおっしゃいましたように,商業登記簿上の記載を少なくともデータ構築のベースにしていけば,本店所在地の変更,商号の変更等が商業登記と連動してくる。つまり人的な編成でやっていかなければいけませんので,そういうものを,商業登記簿の上に書くかどうかは別として,データベースとして共有できる形で仕組まないといけない,個人の場合には旧住所での個人の登記もあれば新住所の個人の登記もあり,結婚前の姓の登記もあれば結婚後の姓の登記もあるというもので,一人の人と一つの登記という関連を機動的につけることが非常に困難であるという技術上の理由と,両方から法人に限ったのだというふうに理解しています。   その関係で,私の理解するところですから事務局の御提案とずれるとまずいのですけれども,第4の2の問題提起に関して言えば,商業登記簿に登記事項をそのまま記載するということと,商業登記をデータベース構築の基礎として使うというのは相対的に別の問題ですから,商業登記簿に書かないようにしても,なお同じ法務局の中にある商業登記簿のデータベースの上に,この動産譲渡登記を構築する,そして連結を内部的に図っていくということは可能なのではないかというふうに理解しております。 ● それでは,法人に限るという点につきましては,特に異論はないというふうに理解させていただきます。   次の,2の「登記制度の適用対象となる譲渡」という点でございます。これも,やや分かりにくいところかあるかもしれませんけれども,事務局からの御説明にありましたように,どういうものが登記できるのか,あるいは登記所はどういうものの登記を受け付けるのかというふうなことと,その登記が対抗力なり何なり,実体法上の効力を持つのかということとの間には少しずれの生ずる可能性があるのですけれども,ここは登記に特別の効力を与えるような場面は,占有改定にかわって登記という,こういう場面だけを考えればいい,そういう趣旨……。ちょっと違いますか。 ● かいつまんで申しますと,民法で従来対抗要件とされていたものについて,どこまで対抗力の否定,あるいは対抗力の制限をするかという点について御検討賜りたいということでございまして,ここで考えておりますのは,現実の引渡しあるいは簡易な引渡しといったものについては,特段対抗力の否定,あるいは対抗力の制限をするのは必要ではないし,あるいは相当ではないだろうということ,それから指図による占有移転についても同様に,そこは変更しない方がよろしいだろう,こういう問題提起であります。 ● この点,いかがでございましょうか。   いずれにしても,現実の引渡しとか簡易な引渡しが後から出てきた登記でひっくり返されるというふうなことは,これはあり得ない,考える必要はないというふうに思うのですけれども,指図による占有移転についてはどうでしょうか。   あるいは,現在,指図による占有移転で済ましているのだけれども,登記ができるなら登記ができるようにしたいというニーズとか,あるいは指図による占有移転が隠れていることによって迷惑するのだから登記をさせろとか,こういうふうな話があるかということだと思いますけれども。   原案は,余り必要ないだろうというふうな御提案でございましたけれども。 ● 事務局としましては,指図による占有移転の場合も変更した方がいいだろうという積極的な意見が出るか,あるいは否定すべきだという理由がもう少し深まるのかという観点から問題提起した次第です。   問題提起の理由をもう少し具体的に言いますと,物が倉庫業者のような第三者のところにある場合は,債務者と占有者が違っていますので,普通は倉庫業者,占有者のところに行けば大体分かるわけです。しかし,債務者と占有者との間に密接な関係があって,結託された場合は問題が出てくるのではないだろうかという問題意識でございます。最終的にはこれは原則として占有者,倉庫業者のところに行けば分かるし,結託するというのはレアケースでございましょうし,それから民法の動産質権の民法344条は動産の引渡しを動産質権の効力発生要件としておりますが,この引渡しは占有改定はだめだけれども指図による占有移転はよいとされております。また,債権譲渡の対抗要件も,債務者のところに行って聞けば分かる第三者は立派な公示力,公示的な機能を果たしているという考え方が民法の基本的思想であると思われます。したがって,指図による占有移転の場合を,最終的には入れなくてもよろしいと考えてはおりますが,入れた方がいいというお考えがあれば,その理由等を教えていただきたい,あるいは,入れなくてもいい理由として,別の理由もあるというのであれば,それをお教えいただけたら有り難いと思っております。 ● 中小企業の視点からこの御指摘に関して考えさせていただきますと,商品あるいは資材の置き場所が他人の土地建物内にあるという場合が確かに想定されることは想定されるのですが,一般に中小企業がわざわざ賃料や地代等を支払ってまで,なお商・製品その他,これを第三者の手元に保管をお願いするというような例は,実は決して多くはございません。そういう意味ではいわゆるニーズの問題からすれば,特段の措置を検討するほどの問題ではないというふうに考えております。 ● 意見というよりも,私この問題を一応考えて,指図による占有移転も含めて今回の登記,新しい制度の対象にしなくてもいいだろうというふうに思ったのですが,先ほどいろいろ議論しておりましたら,例えば集合物の譲渡担保で事例の出ましたプロパンガスのような形であちこちに置いているもの,あるいはあちらこちらに貸している動産を担保に入れたいというような場合に,どういうふうに考えたらいいのか,もし委員の中で御意見がありましたら,御意見いただければと思うのですけれども。 ● これは,○○委員,いかがでございましょうか。 ● 私どももそういうケースはなきにしもあらずなんですが,ただ占有代理者の了承をとっておるわけですね。したがいまして,担保というか登記までしてやるということは,我々毛頭考えていないのです。占有代理人といいますか,受寄者といいますか,そこに個々に了承をとっておくということしか,今の実務からいいますとないと思うのですが,わざわざ登記までやるという手間暇を考えたら,余り実務的ではないかなという感じはします。 ● ほかにはいかがでしょうか。   それでは,この点も当面指図による占有移転まてカバーするということは考えなくてよろしいということで,次に進めさせていただきたいと思います。 ● ちょっと1点,確認させていただきたいのですが。   カバーするとか,2ページの「登記制度の適用対象となる譲渡」という言い方と,○○関係官の方からの御説明が若干違うような気がいたしまして……。   ○○関係官からの御説明ですと,登記制度を作ることによって既存の引渡方法のうちのどれに影響を及ぼす制度にしましょうか,影響を及ぼすものをどう考えていきましょうかということに関して,占有改定の効力に影響を及ぼすものだというふうに考えていって検討しましょうという話でございましたね。そうすると,指図による占有移転を除くというのは,その効力をさわらないという意味でございますね。   そういう意味で,2ページの下から2行目の「登記制度の適用対象となる譲渡」という言い方は,余り妥当な言葉遣いではないというふうに思いますが。意味が確認されていれば,それで結構です。 ● その点は,同じような印象を持ちますので,中間取りまとめの段階ではもう少し表現の工夫もした方がいいかもしれません。   それでは,第3の「制度設計」に入りたいと思いますけれども,先ほどの御説明では(後注)の1,2というところを先に議論して,それから三つのモデルについての議論ということでございましたので,ここでの議論もほぼその順に従っていきたいと思います。   資料の6ページ,(後注)の1「担保の目的でする動産に関する物権の譲渡」,これは新しい登記制度が何らかの実体法上の効力を持つのはどういう内容の物権変動かということについては,担保目的の物権の譲渡に限る,こういう御提案だというふうに理解しております。つまり,真正譲渡についての占有改定の効力に手を触れるものではないという趣旨だと思いますけれども,この点についての御意見をいただければと思います。 ● 先ほどの○○関係官の御説明によりますと,前の単純対抗要件型をもし選択するのであれば,ここの(後注)の担保目的に限定する必要はなかろうという文脈でお聞きしたかと思うので,そこはそういう理解でよろしいですか。 ● そのとおりでございます。 ● 第一順位で真正譲渡の取引があった場合,先ほどの「登記優先型のイメージ」の紙でいきますと先行するAという人が真正譲渡を受けた場合というふうに限定して考えていただければと思います。この場合,Bさんが登場してくる,そして担保目的で譲渡を受けるとしますと,基本的にはこれは譲渡人のところに物がある,占有があるときだというふうに考えられます。   そういった場合は一体どういう場合かといいますと,真正譲渡を受けた方は売買の買主,あるいは代物弁済で弁済を受けた人などが物の観念的な所有権の移転を受ける。だけれど,例えばですけれども,買った場合のことを言いますと,大量に物を買った,あるいはかさが非常に大きいのでとりあえず預けておくといった場合で,もともとの売主のところに置いてきて,後でとりにくる,あるいは後で送ってもらう,そういうパターンだと思います。   そういった人におくれて,今度は譲渡担保をそれに設定した場合,そして登記をした場合,こういうときに真正の譲渡を受けた買主,先ほどのような買主に勝たせるという仕組みがよろしいかどうかということだと思っているのです。   基本的には,譲渡担保を設定する銀行や金融機関は,他人のものになっているものをとりたいというニーズはほとんど聞きません。だから,ニーズはほとんどないのだと思っております。   逆に,こういったものについてまで後でひっくり返される,おくれた人が登記をすると先の人がひっくり返ってしまうという制度をつくりますと,先の人はおちおち預けておられなくて,自分のところでも同じように登記をするかとか,そのような登記ができる制度がないと心配だとか,そういったことになるのだと思います。登記制度をつくった場合には,余計な費用負担をかけさせるなどという弊害が考えられるので,これは入れない方がいいだろうということでございます。 ● この点,当面第一読会としては,この制度は端的に言えば譲渡担保同士の争いの解決に登記を使うというのを第一義的な目的にするのだということで,真正譲渡相互間の争いを登記で解決しようということは直接の目的にはしないという了解で次に進むということでよろしゅうございますか。   実際にやっていく間に,またいろいろなケースに応じて修正の必要というのはあるのかもしれませんけれども,第一読会としては当面,担保目的譲渡の優劣決定基準,占有改定による担保目的譲渡の相互間の優劣決定基準として登記を想定するという了解で次に進めさせていただきたいと思います。 ● ちょっとよろしいですか。   結論に反対ということではありませんけれども,問題の全体をどういうふうに整理するかという観点から,一言述べさせていただきたいと思います。   担保目的譲渡を対象とする対抗要件制度ということで議論をしていくということは,私もそれが望ましいかなという気がしておりますけれども,その前提として,そういう対抗要件制度というのは,従来ない,新しい対抗要件制度を作るのだという発想に立つと。そうなりますと,従来にないいろいろな問題が出てきますので,そこをどうクリアするかというところに知恵を絞っていく必要があるという点が認識として重要ではないかと思うのです。   つまり,従来,対抗要件という場合,例えば所有権が移転するという場合には登記をしないと対抗できないという仕組みをつくった場合には,その所有権を移転する原因が売買なのか贈与なのか,はたまた譲渡担保なのかということは問わずに,所有権移転であればすべて一律に適用するということを前提に考えてきたと思います。それが従来,少なくとも授業で教えている対抗要件制度なんですけれども,担保目的の場合に限るというのはどういうことなのかという点が非常にこれからのややこしいところになるわけです。   その選択肢を詰めていくといろいろな問題が出てきて,やはりそういう譲渡全てに一律に適用するということでないと難しいということになると,これは集合動産の譲渡を対象にする場合は,対象をくくり出して別枠にして,そこでは占有改定排除型のような強い効力を認めてもいいし,それから真正譲渡であっても何でもいい,すべての譲渡について対抗要件制度を適用しますよという場合には,くくり出して強い効力を与えるか,あるいは単純対抗要件型のように効力を極端に弱めてしまうという選択肢になるわけです。その中間をとろうとしますと,担保目的とか何らかの形でくくり出さなければいけないという問題が出てくる。それに伴う問題がどこにあるのかという点の議論を詰めていく必要があって,そこで解決できないものが出てきたときには,もう一度最初に返らなければいけないという関係になるかと思います。   それからもう一つ,担保目的の譲渡というのは,担保目的と譲渡と二重に縛りがかかっているわけでありまして,担保権者相互の優劣を決定するために登記を使うということであれば,機能的に担保と言われるもの,例えば所有権留保についても外観上分からないわけでありますから公示がなければいけないとか,あるいはファイナンスリースについても同じように扱うという選択肢も理論的にはあるわけですけれども,そこはまた譲渡というところで縛りをかける。この担保目的と譲渡という二重の縛りをかけてくくり出した範囲で登記を優劣の決定基準とするというルールを考えて,その外にあるものについては占有改定の公示力は従来どおり認めるということですので,この担保目的の譲渡について余り強い効力を与えることはできないだろう,しかし単純対抗要件型まではいかないとすると,どういう選択肢があるのか。そういう全体の絡みになっておりますので,一つずつ決定していくというのは議論の進め方としてはそれでいいかと思いますけれども,全体はそういうつながりになっているという認識が重要ではないかと思いますので,ちょっと余計なことかもしれませんけれども,一言述べさせていただきました。 ● 今の御指摘のとおりでございますので……。 ● ○○幹事と同じなのか違うのかよく分からないのですけれども,先ほど私が指図による占有移転等について申させていただいたことと同じなんですが,6ページの(後注)の1の,「担保の目的でする譲渡を登記制度の適用対象としている」という文言もすごく気になるのです。先ほどの占有改定と指図による占有移転等とパラレルの問題だと考えますと,担保目的でする占有改定だけがその効力を今後議論されるのであって,真正譲渡が占有改定で対抗要件が備えられたときのその効力について今後議論をしようというつもりではないという意味ですよね。そうなりますと,登記制度の適用対象ということではないような気がしますので,ちょっと文章的にどうかと思います。 ● 皆さんから御意見が出ていますので,私も余計なことかもしれませんが確認的な発言です。   債権譲渡担保の世界では,真正譲渡と担保とは区別がつかない,契約書を見ても取引形態等から見ても区別がつかないというのが国際的な判断で,御承知のアンシトラルの国連国際債権譲渡条約では,真正譲渡か担保かは一切区別しないということでやっておりますので,今回の制度設計においては,動産の譲渡と債権の譲渡ではやはりそこに差があって,動産の譲渡の方は担保目的という区別がつけられるということが前提になると思いますので,そこのところはどういう区別をつけるかというのを何らかの形ではっきりと,基準をどこかで示すということが必要だと思います。 ● 部会資料の中の何か所かに出てくる「登記制度の適用対象としている」という文言なんですけれども,これから読会を重ねることですから徐々に詰めていけばよろしいことだと思うのですけれども,恐らく少なくとも三つの事柄,第1に登記手続上,登記官がその申請を受理することができるかどうかという次元の問題で適用対象とするという問題と,それから実体的になされた登記に対抗要件その他の効力を認めるかという場面で,そうするかしないかという適用対象の有無の問題と,それからもう一つ,そういう法律的な話ではなくて,結果的な作用として登記をすることにうまみがあるとか,あるいは従前法制に何か結果的に実際上変更が生ずることになるかということの三つは区別した上で,どの適用対象とするのかというのを今後の検討でお詰めいただければよろしいのではないかと。   差し当たり今日のところでは,2ページの指図による占有移転云々の話のところの適用対象は,これは恐らく法制的にこういうことをかちっとこれと同じことを書きあらわすのは難しくて,結果的にこういうことになるという御趣旨での提案かなというふうに受けとめましたし,後ろの方の適用対象は,これは実体的効力のことを恐らく言っているのだろうと。それは私の個人的理解ですが,いずれにしてもそのあたりの三つの次元の事柄を区別しながら,今後の御議論を進めていただくことが相当ではないかというふうに考えます。 ● その前の○○幹事の発言と,ただいまの○○幹事の発言に関連しまして,今日問題を議論する上では,登記の対象とするのと,それから実体上の効力とを分けてということで,ただいまの○○幹事の発言ですと2番目の実体法上の効力を中心にということでいいと思うのですが,1番目の,どういうものが登記対象となるのかという点も,これは例えば真正譲渡であっても形式審査であるから一応登記ができてしまうといっても,例えば登記原因として担保なのだということを書かせるのか書かせないのかということにかかわってくるわけですね。つまり,ずれが生じることも,それ自体として1個の問題であって,そこのずれが広く許容されるということになってきますと,これもまた従来にない,法的効力のないものであってもどんどん登記はできますよというふうに考えるのか,それとも,形式審査の限界からやむを得ずできてしまうと考えるのか。やむを得ずできてしまった場合に,実務としてそこに何らかの機能が結びつく場合があるかという3番目の問題がそこにのっかってきますので,1番目の問題も問題としては存在すると思うのです。それ自体をどう考えるかというのも,広いところから狭いところまであり得ると思いますので,これは議論を分けた上で,ここで議論をする機会を設けていただければというふうに思います。 ● ○○幹事が御指摘になったとおり,若干表現ぶりに分かりにくさがあったかもしれません。そこで,○○関係官の方から何度かしつこく説明させていただきました。   今回,議論をお願いしているところは,2番目の占有改定を排除してしまうか,占有改定の効力を制限するか,あるいは,占有改定はそのままにした上,登記した場合に優先効を与える制度を設けるかなどという点について議論をいただきたかったのです。   それから,どういうものを登記させるか,登記の対象とするかという点は大きな問題であることもよく承知しております。この点は次回にペーパーを用意させていただきたいと思っております。 ● よろしゅうございますか。   貴重な御指摘をたくさんいただきましたけれども,担保目的というのもあくまで議論の出発点だというふうに私は思っていますけれども,それを議論していくうちに,その目的を達しようと思ったらどういうところまでカバーしなければいけないか,あるいは先ほど○○幹事が言われた効力との関係で真正譲渡と一緒くたにした取扱いをせざるを得ないというふうな結論になることもあり得るだろうということで,議論の出発点としてとりあえず担保目的のものを念頭に置いて議論を始めていくということにさせていただきたいと思います。   6ページの(後注)の2の「集合動産の譲渡のみを対象とする制度設計について」ということですが,集合動産という切り口で実体的効力のある登記の問題を考えていくという切り口はとれないのではないかというのが原案でございますけれども,この点についての御意見をいただきたいと思います。 ● 企業の資金調達の多様化,具体化という観点から申し上げます。   先ほど,○○幹事からの御指摘がございましたけれども,今後新たな資金調達につきましては,被与信者といいましょうか,中小企業の取引状況なり財務状況を把握して,金融機関においてはキャッシュフローに着目した融資というものを考えていくという方向性も出てくると思います。その際には,在庫というものはその裏づけとなる担保物ということが言えると思いますし,その観点から集合動産というものを専ら考えるということは当然のことであります。   ただし,中小企業金融にあっては集合動産のみならず,機械器具,あるいは備品,あるいは極めて多額な産業用機械というふうな資金需要というものがあるわけでございます。そういう購入資金等につきましては,やはり個別動産を担保として資金調達するだけでよいわけでございますので,言ってみればキャッシュフロー着目型融資と,それから機械購入資金のような個別動産担保の融資というのは,資金使途としては明確にあるし,また峻別をされてしかるべきでございますけれども,この際,この登記制度の中では両方とも使えるようなスキームを考えていただければと思います。特に中小企業の在り方として,個別動産を担保として金融を得るという必要性は,これは大いにあり得るということで御理解を賜りたいと思います。 ● 同時に,そういう個別動産を譲渡担保に供して資金を得るときに,登記制度を使えた方がいいということも含めて,ですね。 ● そうでございます。 ● この点,ほかに御意見ございませんでしょうか。 ● 私も,結論的には集合動産に限らないということがいいと思うのです。そのことの持っている意味なんですけれども,まず集合動産という形で組むのは非常に難しい。場所的な集合なのか,あるいは種類,例えば資材というような集合なのか,あるいは機能,この工場の運営のために必要な動産というものなのか。それから自動車なんかあちこち走っているわけですから場所で特定するわけにはいかないし,それから更に将来取得する動産を担保に入れるというようなことを考えますと,集合動産をどういうふうにつかまえるのかというのはとても難しいのではないかと思うのです。   ですからそれを消去しますと,個別の動産のほかに債務者の有するすべての動産を担保のために譲渡するということが逆に可能になるのではないかと思うのです。そういうものをどうするかと考えていくと,結局それは認めざるを得ないのじゃないかというような気がしております。そこのところは後でまた出てくると思うのですが,効果の方でそれにふさわしい効果にとどめるという形で制度設計していくより仕方がないのではないかなというのが,差し当たりの私の意見です。これは,ここで言っていいのか,あるいは後の方で言ったらいいのか,一応個人的な意見として申し上げます。 ● ほかに特に御意見がないようでしたら,ここも集合動産のみという切り方はしないということで議論を進めさせていただきたいと思います。   それでは休憩をとった上で,今の三つのタイプのものについて議論をするということにしたいと思います。             (休     憩) ● それでは,予定の時間になりましたので,再開させていただきます。   先ほど申し上げましたように,制度設計として占有改定排除型,登記優先型,単純対抗要件型の三つの案が挙げられています。それから,先ほどの御説明でも関連して説明されましたけれども,7ページにあります(後注)の3の登記による善意取得を認めるという制度も,いわば占有改定排除型,登記優先型の間にあるようなシステムとしてこれを考えることもできるかと思います。   これらの制度につきまして,これも各別にそれぞれの中身についての御意見もあろうかと思いますけれども,むしろずらっと並べた上で,どういう考え方がいいかというふうな包括的な御意見もあわせてお伺いしたいと思いますので,どこからでも御自由に御発言ください。   一つは実務界のニーズにこたえられなければいけないということですし,他方では理論的にしっかり説明ができないといけないということでもございますので,実務界の側から何か……。 ● リース業界の立場から一言申しますと,善意取得を認める制度というものにつきましては,私どもこれは到底受け入れ難い。現在でも,我々の方で所有権があるわけですが,ユーザーの方には必ずしもそれが徹底されていないという嫌いがございます。善意取得が認められると,現実に持っていかれるということであればまだしも,いわゆる占有代理移転ですか,レシーの方で占有しておきながら,いつの間にか担保になっていた,所有者は全然それを知らなかったというふうなことで,現実の引渡しと同じように善意取得にもなっちゃうということであれば,これは非常にゆゆしき問題だということでありまして,この制度はちょっと認め難いと言わざるを得ないと思います。 ● 私ども,商社の中で意見交換をしておりますけれども,善意取得型については余りニーズはございません。占有改定排除型,登記優先型,単純対抗要件型,これにつきましては正直申し上げまして各社各様でございまして,商社としてどのパターンでやってほしいという意見はまだまとめ上げられておりません。 ● それぞれのメリット・デメリットみたいなもので,これはというふうな意見がありましたら御紹介いただけると……。 ● 占有改定排除型という意見が過半なんですけれども,占有改定というあやふやな形ははっきり排除して,もう登記一本にしようという,非常に分かりやすい制度設計だということで支持する者が多い反面,必ずしも債務者から登記・登録の承諾は得られないだろうという局面を想像いたしまして,従前の占有改定も残しておくべきだという,二者相対立する意見がございまして,そうすると最終的には登記優先型が落ち着くべきところかなと私個人は思っておりますけれども,まだ6商社の中でどれが一番いいかという点については,意思統一はできておりません。改めて別の機会で,こういう形でお願いしますというふうなことになるかもしれませんけれども,現時点ではまだ意思統一はできておりません。 ● 私どもの方で,銀行界の意見を聞いてまいったわけですけれども,その中では,まず占有改定排除型につきましては,一部意見が分かれているところはあるのですけれども,いわゆる担保設定者の側で登記まではちょっとというふうな難色を示すようなケースも考えると,そういう場合でも,占有改定という対抗要件具備方法があれば次善の策ということで担保取得できるケースもあるのかなと。そういう選択肢をなくしてしまうという点では,占有改定排除型は難点があるというふうな意見がありました。   それから,単純対抗要件型についてですけれども,これではちょっと効力が弱くて,何のためにせっかく制度を作るのかよく分からないというふうな意見もございまして,単純対抗要件型については反対意見が多うございました。   それから,登記優先型と善意取得制度適用肯定型について,これはほかに比べれば比較的肯定意見もあったのですけれども,後者の善意取得制度適用肯定型につきましては,効力が強過ぎて反対されている委員もおられるようだということを説明しますと,どうしてもそれでなければいけないというふうな意見があったわけではないです。大体意見の傾向としては,そんなところでございました。 ● 実務界で各社の意見をお伺いしての大勢なんですけれども,やはりこの公示制度自体がどのような機能を果たすかというのが今のところまだ実務上影響がよく見えない中で,この制度の効力というのを余りに強く認めるというのは,実務取引に与える影響が大き過ぎるのではないかという意見が大勢を占めたかなと思います。ですから,結論としては,単純対抗要件型がやや優勢で,登記優先型という意見もありという形になっております。   特に,公示によっていきなり善意取得を認めるということになりますと,所有権留保等への影響が余りにも大き過ぎると。あと占有改定排除型につきましても,公示がされれば動産についての善意取得ができなくなるというようなことになれば,従来の考え方を大きく変えなければならない。例えば,これが有効なのかどうかは別として,実務としては直ちに動産にすべてシール等をぺたぺた張るというような方法をとらざるを得なくなって,結果的にコストが非常に上がるというようなこともあり得るのではないか,そうするととりあえず対抗要件だけを具備するという形での単純対抗要件型からスタートしていく,まずはそのスタートから始めるのがいいのではないかという意見が優勢だったということです。 ● 産業界以外の方からの御発言も……。 ● 理論的に考えた場合,先ほどの登記の対象の特定性の問題と絡んでくると思うのですが,個別はもちろんいいのですけれども,個別ではなくて集合も--集合というのはある程度絞っているわけですが,集合というのじゃなくてもいい,個別と同時にかなり包括的なものまで認めるとなりますと,そういうものを善意取得するというのは一体何なんだろうかと。つまり,どこに何があるか分からないものについて善意取得するということまで認めてしまうというのは,理論的におかしいというふうに思います。ですから,これはやはり認めるべきではないというふうに思います。 ● ほかの御意見,いかがでしょうか。 ● 商工会議所の中の意見もまだ確定をしたものではございませんので,あくまで議論の流れにつきまして御案内申し上げます。   ここに御提示をいただきました制度設計の順に申し上げますけれども,まず占有改定排除型に関しましては,占有改定で従前いわば資金調達をしてきたというケースが多々ございますものですから,これをおよそ排除していくということはいかがなものかというふうに……。あくまで実務上の議論でございますけれども,そういうこともございまして,加えて登記をしなければ絶対に第三者に対抗することができないとなりますと,これまで信頼関係の中で担保に供するというようなケースもありましたものですから,それがおよそすべて登記に走るということになりかねませんので,その点はいかがかというふうな声がございました。   一方,登記優先型でございますが,これにつきましては,繰り返しますけれども,信頼関係のもとで占有改定の担保の提供のみにとどめて,資金調達を望むというふうなケースも決してないとは言えないということもございますので,しかしながら一方で,恐らく金融機関等においては登記をすることによって予見可能性を高める,あるいは担保利用価値を高めるというふうなことも大いにあり得ますので,選択肢を持つということで,登記優先型の方が妥当ではないかということの議論が強くなっております。   なお,単純対抗要件型も,もちろん選択肢という意味ではあるわけでございますけれども,むしろ実務上は,一体どちらが明確な形で力があるのかというようなことについて--これも中小企業の意見なのでしんしゃくいただきたいのですが--むしろはっきりしていただいた方が,かえって資金調達,あるいは金融機関との交渉もやりやすいというふうな意見があったということでございます。御紹介させていただきます。 ● ほかの御意見,いかがでございましょうか。 ● 実務界において占有改定による譲渡担保が今後も利用されていくであろうという感覚は私自身も持っておりまして,その場合に,登記優先型をとりますと,今度は逆に,後行の譲渡担保が登記されるというリスクが非常に大きなものとして出てくるという面は無視できないだろうと思うのです。もちろん,占有改定排除型は強過ぎると思いますし,善意取得型ももちろん適切ではないと思います。   私自身は,単純対抗要件型も捨て難いのではないかということを考えておりまして,資料で現在の問題点として指摘していただいていることに加えて,先ほど○○関係官からもちょっと口頭で御説明がありましたけれども,現在の占有改定による対抗要件というものが非常に不明確で,それに依存して権利関係を構築することに当事者としてはどうしても不安があるという側面が非常に強いように感じております。これが登記制度を利用することによって,かなり大きく前進するという面は捨て難いものとしてあるというふうに考えておりまして,単純対抗要件型でも十分に実務界は機能するのではないかという感覚的なものを背景として,登記に余り強い制度を持たせてしまうと,逆に首を絞めてしまうような側面があるのではないかなというふうに感じております。 ● ほかに,いかがでございましょうか。   研究者委員の方から,どなたか御意見ございませんでしょうか。 ● 今の○○幹事の御意見,ごもっともな部分があるというふうに私も感じていたのです。何人かの実務家の委員の方々から先ほどお話があったときに,単純対抗要件型では効力が弱過ぎてとおっしゃった発言が一,二あったように聞いたのですけれども,効力が弱過ぎるというのは具体的にはどういうことなのか,そこを詰めないでおいて単純対抗要件型はイマイチだよという取扱いをするのは,評価として徹底しないかなという気もするのですけれども。何かお教えていただくことがあれば,承りたいと思いますけれども。 ● いかがでしょうか,○○委員,あるいは○○委員,○○委員。 ● 登記の主たる目的の一つとして,潜在的に存在する占有改定型の従前の譲渡担保に,自分が勝つか負けるか,優先しているかどうかを認知できるようにするために登記をするという意図があるとするならば,単純対抗要件型で,先に例えば占有改定で契約上確定日付をとっている人に登記をした人が勝てないとなると,登記をする一つの意図がなくなってしまうのじゃないかと私は思うのですけれども。 ● 先行する隠れた譲渡担保が怖いという側面と,債務者が裏切って後行の取引が行われるという問題とを考えたときに,先行するものの有無というのは,担保設定のときは一応信頼関係はあるわけですので,完全にフロードリスクの問題で,ある程度設定時に予測ができることなんですね。それに対して,後行の問題となりますと,何か起こるか分からないという状態になってきます。   そうしますと,この制度ができたとしても先ほどのように占有改定によるべき場面というのは必ず残るというふうに見ておりまして,その残る場面において後行の取引が公示によってされてしまうと,自分の当初の占有改定が劣後してしまうというものでよいのかな--占有改定という方法をとったからいけないのだと言ってしまえばそれまでなんですが--恐らく実務的にはそうは言い切れないだろうというふうに感じておりまして,登記で行われた後行取引を余り強くするというのはいかがなものかなという感じを持っておりますけれども。 ● 補足させていただきますと,単純対抗要件型を支持する意見の多くは,先ほど○○委員のおっしゃった意見の逆でございまして,必ず登記を優先するというように効力をはっきりさせて登記が必要ということになると,かえって取引上コストがかかり過ぎるのではないかと。といいますのは,公示制度となってだれからも見えるものにするとなると,取引上必ずしもそれを歓迎しない取引先というのはどうしても残るだろう,そうしますと占有改定のみで行う取引というのが決してゼロにはならないと思います。ところが,後行する登記が優先するということになると,結局はこの形の譲渡担保というのはすべて登記を求められるということになってしまいまして,それが果たしていいことなのかどうかと。   単純対抗要件型が余り使えないのではないかということもあるかと思いますが,例えばDIPファイナンス等,あと破たん企業の再生等で使われるケースというのは容易に想像できますので,そういうケースから活用を広げていって,これからの判例若しくは取引慣行の進展等で効力が認められるようになれば,その時点で再度見直しを図るということでもいいのではないかと考えております。 ● 私は,2の登記優先型と単純対抗要件型,これはどちらが理論的に正しいかというよりも,実態に即してという話になりますので,実務の方の御判断というのが重要だと思いますけれども,今,○○幹事の御質問に対しましていろいろお答えがあったわけですけれども,更にちょっと進めてお聞きしたいことがございます。   一つは,登記優先型の場合には,隠れた譲渡担保で占有改定しか得ていないものに負けるのはおかしいではないかという議論ですけれども,この制度の前提というのは,担保目的かつ譲渡の場合で,それ以外のものについては公示がなくても勝てる人たちがいるわけですね。ですから,隠れた譲渡担保はなくなるわけですけれども,それ以外の形で,例えば所有権留保だとかリースだとか,あるいは真正譲渡でそこから借りているというような形をとられますと,ここはリスクが残るわけですけれども,そこのリスクと,それから隠れた譲渡担保のリスクというのは程度の差じゃないかと考えますと,別に3でいいのではないかという議論が出てくるのだと思いますが,そこはやはり実態問題としては隠れた譲渡担保のリスクというのが他のものとは違う,特別なリスクが実態としてあるのだというお話なのかどうかという点を,更にお聞かせいただければと思います。   それから,単純対抗要件型の議論をお伺いしていますと,先行の譲渡担保で占有改定しかできないときに,後で登記をされると困るということになりますと,後からの人は登記ができるけれども先の人は登記ができず,占有改定にとどまらざるを得ないという場合があるということなわけですけれども,何で後の人は登記ができるのか。これも事実の問題ですけれども,その前提について更にお伺いできればと思います。 ● それでは,今の点,いかがでしょうか。   これもどちらかというと,単純対抗要件型に消極的意見の強かった業界から……。 ● 今の御質問の回答ということにはならないのかなと思うのですけれども,銀行の中で意見を聞いている中で,単純対抗要件型について反対意見を述べられている銀行の意見の中身としましては,単純に言ってしまえば,対抗力以外に優先的な効力を付与しないとして,従来では占有改定によっても対抗要件は与えられていたわけで,それに加えて新たな制度を設ける意味というのは一体どこに出てくるのだろうかという,非常に単純な意見だったと思います。 ● 前回,各業界から御意見いただいたところでも,最大公約数といいますか,最小公倍数といいますか,占有改定だけだと外から見えないので,先行する取引に対する不安もあるけれども,自分の権利の保全の点でも不安だというふうな御意見が非常に多かったので,少なくとも,登記をして権利関係をはっきりさせれば,後々の紛争回避とか,あるいは不測の後順位者が出てくるというふうなことは最低限回避できるという意味での,事実上の効果は結構あるような気もするのですけれども。そういう点を考慮しても,なおやはり,わざわざ登記をして今持っている権利以上のものがないというのでは,それはちょっと間尺に合わないというふうな感じが強いのでしょうか。 ● 少し交通整理をして申し上げれば,単純対抗要件型の議論として,結局登記も占有改定も同列で対抗力を持つとした場合,やはり債権者の方としては公示してしまえと,自分の権利ですから公にしてしまえばよいという発想に陥りがちではないかと,したがって結果的にはすべて登記というふうな方向に--銀行コードと言うと誠に恐縮でございますけれども--行ってしまうのではないかと。したがって,そういうふうなことであれば,結果として,場合によっては登記を望まないような業態であっても,登記をするしかなくなってしまうというふうな空気が出てこないか。加えて,一部この導入当初は恐らくは動産など担保に入れるということ自体がある種の信用に関する一つの風評を呼ばないかというふうなことにもなりかねないといった点もあります。   それからまた,先ほどの○○委員からの御指摘もございましたコストの問題等もあって,自分が望まないものをなぜそこまでやらなければならないのかという空気が,第1の占有改定排除型のみならず単純対抗要件型でも出てくるのではないかなと思っているところですので御紹介申し上げます。   加えて申し上げますが,登記優先型のことに関しましては,先ほども御案内がございましたが,むしろ登記優先型の場合は,債務者の信用判断ということが債権者において明らかというふうに考えております。つまり,債務者の信用があって,良好な信頼関係があれば,占有改定にとどめて担保取得するということはあってもよいと。一方で,登記というものは大変いろいろな意味で重要な公示制度の一つでございますが,大型の設備であるとかあるいは集合動産でキャッシュフロー型に着目しての御融資としてプロジェクトファイナンスを展開する,あるいはその他の設備資金を行うというのであれば,その登記制度を活用すればよいわけですから。それに関しては,登記をした方が優先であるという,極めて割り切った考え方をすればよい。   したがって,繰り返しますけれども,単純に動産担保を入れたら必ず登記をしなければならない,あるいはその風潮に出てくるということでは,かえってそういうふうな審査の濃淡,あるいは信用の高低といったものも反映されないようになるのではないかというふうなこともございまして,会議所の議論の主流と言ってよろしいと思いますけれども,登記優先型の方向にあるということを御紹介したいと思います。 ● ほかの御意見,いかがでございましょうか。あるいは,先ほどのように実務に対する御質問という形でも結構でございますけれども。 ● どんな登記制度をとってもなかなかすべてを登記するということにはならないし,またなるべきでもないという実務的な感覚というのはよく分かりました。それとともに,DIPファイナンスとかあるいはプロジェクトファイナンスとかいうふうなときには登記をするということもあるでしょうというふうなことも伺ったわけですが,なぜそのときに登記をすることもあるのかというのが分からないので教えていただきたいのですが。   と申しますのは,例えば登記優先型というふうなものをとったときには,登記をしていることのメリットというのは何かというと,先行に譲渡担保があったときに勝つということがもしあったとすれば大きなメリットがあるわけですけれども,DIPファイナンスとかプロジェクトファイナンスとかいう場合に,先行するものがあって,それをひっくり返したいというふうな気持ちがあるとはとても思えませんし,更にDIPファイナンスで銀行なり管財人がかなり深く営業といいますか,再建の中に入ってやっているというときに,先ほどフロードリスクという言葉が出ましたけれども,管財人の方がその後になって,最初の譲渡担保があるのだけれども次の譲渡担保もやっちゃおうというふうにお思いになるのか,何となくこれもお思いにならないような気がするわけです。何か伺えば伺うほど,登記制度をつくらなくていいのではないかというような雰囲気が漂っているような気がするのですが,DIPファイナンスとかプロジェクトファイナンスとかの場合には使われるということの理由と,そのとき使われることの意味について,もしお教えいただければ有り難いのですが。 ● いかがでしょうか。 ● 要は,がっちりした制度であるかどうかということは,非常に信頼の基礎をなしていると思うのです。私どもいろいろ業務をやっていまして,動産譲渡担保は占有改定の書面だけで対抗要件だからいいですよと言うことはまずなくて,明認方法との併用というのがほとんどではないかと。在庫商品とか一部明認方法が必ずしも当たらないものがありますけれども,例えば登記できない建物,工作物ですとか,生産ラインなどにつきましては,必ず明認方法を何らかの形で施さないとだめよということをいつも言っているわけですが,じゃ明認方法を施せば本当にいいのかという不安を常に抱えながら業務をアドバイスしているというのが現状なんですね。動産をめぐる権利関係というもののあいまいさが,どうもこの信頼の対象になっていないと思っていまして,したがってがっちりしたものをつくりたいと思った場合には,必ずもうちょっと信頼度の高い制度を利用したいというニーズは間違いなくあると思います。それで,DIPファイナンス等々のそういうニーズが高い取引においては登記制度が利用されていくだろうと思っています。 ● 会議所の立場ということではないのですが,せっかくの御質問でございますので申し上げますが,いわゆるDIPファイナンスあるいはプロジェクトファイナンスというのは事業価値に着目した融資だと思っております。あるいはキャッシュフローでございます。したがいまして,債権者が金融をつけられるときには恐らくは自らが会社の価値を前提に審査をして御融資をするということになりますから,当然動産のみならず他の資産にも担保提供を満遍なく求めていかれるでしょうし,その全体の事業価値の捕捉の手段として動産担保というものがあって,それに関しては公に開示をする,そして自らが権利者であるということを明らかにするということが当然の行動だろうというふうに私は思っております。   加えて言えば,DIPファイナンス等は特に決してローリスクではない,ミドルリスクのミドルリターンの融資であろうと思われますから,そういった点からしても,単純な占有改定は,債務者の信用がある場合等に銀行が判断すればいいことでございまして,やはりミドルリスク等の御融資等に関しましては--これは中小企業金融一般にそう言えるのかもしれませんが,こういうことを言ってしまうと恐縮なので,DIPファイナンスに限って言えば--登記というものを御選択になるということは大いにあり得ると。   繰り返しますけれども,これは開示をするということに効果があるというか意義がある,これは金融のありようだというふうに,会議所の立場としても思うところでございます。 ● やはり同じ○○幹事からの質問に対する私の考え方なんですけれども,プロジェクトファイナンスの場合はよく知りませんけれども,DIPファイナンスの場合には,必要とするのは倒産直後,手続開始直後でございまして,そのときには管財人はもちろんだまそうと思ってだましたわけではないのですけれども,分からないという場合は非常に多いのではないかと思います。あるいは,民事再生の場合は管財人もおりませんね,ですので非常に情報に不安定さがあるということは否めない。   お金を借りる側は仮に善意であっても,貸す側とするとそこらあたりに対しては非常な疑念を持ってかからざるを得ないという構造にあることは間違いないのだろうと思うのです。○○委員がおっしゃったように,倒産した場合に,さて自分の債権がどういうふうに扱われるのか,先順位の担保権者がいて自分の債権が一般債権になってしまうというリスクはやはり耐え難いものがあるというようになりますと,DIPファイナンスの蛇口が細くなってしまうという可能性はあるのかなというふうに思います。 ● ほかにはいかがでしょうか。   現在,それぞれの制度を支持する意見が拮抗していますので,このままずっと何度も続けても結論がなかなか出にくいところがありますから,少し議論が深まるような形で,メリット・デメリットについて御議論しておいていただければと思います。 ● 同じように実務の方への質問ということでお許しください。○○委員の御発言にもう一つお伺いしたいことがございます。   登記したくない,公示したくない担保設定者がいて,それでもよいと考える債権者がいる,その人たちのそういう意向というものを新しい制度のもとでも尊重しようというところに一つの力点があったように思いますが,私もなるほどそうかなと思うのですけれども,しかしその意向をよりよく実現しようとすると,単純対抗要件型になるのではないかなというふうに私は推論するのですが,○○委員のお話ですと,そこから登記優先型の方が望ましいという御意見だったように思うのですが,そこのつながりをできましたら御説明いただけると有り難いと思います。 ● それでは発言をさせていただきます。   ただいま御案内のような御議論も確かにあるかと思います。ただ,私たちは単純対抗要件型であったとしたら,債権者があくまで登記ということを望むのではないか,公に開示をするということであるから望むのではないかというふうな議論が強いということでございます。一方で割り切って考えれば,登記優先という形で登記に重きを置くという形で,一方で占有改定を選んだ債権者は,債務者を信用したからであって,よしんば取り分がなくなったとしても,それは覚悟されたことなんでしょうというふうな前提が出てきて,一種のめりはりがつくでしょうということでございまして,単純対抗要件型でもその判断の中ではめりはりをきかせて運用されるということがあってもよろしいのかもしれません。その辺は,それぞれの見方によっていくだろうというふうに思いますが。 ● ほかに御意見ございませんか。   特にないようでしたら,次の第4のテーマについて御意見を伺いたいと思います。 ● 入る前にちょっと。   さっきから言葉の問題ばかり申し上げていて大変恐縮なんですけれども,1の「占有改定排除型」の部分は「担保目的でする動産に関する物権の譲渡は」と書いてあって,2のところもそうでございますね。3に関しては,「動産に関する物権の譲渡について」というふうに書いてあるわけですが,その意味がちょっとよく分からないのは,先ほどから担保目的に限るということの意味もいろいろあると,譲渡の対象を何にするかという言葉の意味もいろいろあるというふうな議論が出ておりましたけれども,登記ができる譲渡に関して別に何ら制限するわけでもなく,引渡しに加えて登記によっても対抗要件を備えることができるという単純対抗要件型の一文目の文章を採用しながら,しかしながら2で,そういうふうに登記された場合には,それが担保目的でする譲渡の場合には,他の担保目的でする譲渡に係る占有改定が前にあったとしても,その人には勝つのだという文章の続き方だって可能なような気がするのですが。御説明いただいたのかもしれないのですけれども,文章を変えていることの意味について一言だけお教えいただければと思うのですが。 ● ただいま,○○幹事から御指摘がありました点は,恐らく,登記ができて登記すれば対抗力は付与されるという場面と,従来あった占有改定を否定し,あるいは占有改定よりも登記が優先するという場面とは両様あって,その前段の対象と後段の対象とは違っていいのではないかという御指摘だと思います。そこは,我々も今後検討して詰めたいところであると思いますが,恐らくそういう選択肢もあり得るのではないかというふうに考えているところであります。   今回,私どもが資料の中で御説明し,皆様に御検討いただきたいのは,主として後者の,占有改定について,例えば対抗力をやめてしまうのかどうかという点でありまして,前者の点につきましてなお御意見等ございましたら,是非この機会にお伺いしたいと思うところであります。 ● ちょっと念のために確認させていただきたいのですが。   ○○幹事が質問を二つされて,2番目の質問の中で,先行して隠れた占有改定対抗要件を備えて,後で登記をする人が出てきたら後の方で勝ってしまうと,先に占有改定で対抗要件を備えた人は,もはや登記という手段がとれないような表現をされたように私は受け取ったのですけれども。いったん占有改定で対抗要件を備えた人が,後で思い直して登記ということが,○○幹事は否定される趣旨なのかどうかということなのですけれども。 ● 別に否定するという趣旨ではなくて,最初の人は登記までとろうと思ってもできないような状況にあるので占有改定にとどめておいたけれども,後から来る譲渡担保権者は登記がとれるという状況はどういうときに出てくるのかと。例えば力関係からいって,強い債権者は登記がとれるけれども,そうでない債権者はとれないと。しかし取引の合理性から見ると必ずしも登記までする必要はないようなものについて,後から強い債権者が出てきてごっそり持っていくというのは,かえって秩序を乱すことになるのかならないのか,そういうような問題関心があったものですから。   実態として登記がとれるかとれないかということでありまして,法制度としては選択できるという前提で御質問したつもりであります。 ● 分かりました。 ● よろしゅうございますか,制度設計に関することは,また後で時間が余っていたら御議論いただくということで……。   第4の「その他」でございますが,まず4の1「登記情報の開示方法」につきまして御意見をいただければと思います。   現行の債権譲渡登記のような,二段階開示制度をとることにしてはどうかという御提案でございます。 ● 先ほどの御説明で十分分からなかったので,確認の御質問になるかもしれませんけれども,概括的な登記情報のみを開示する登記事項概要証明書というので何が分かるかと。概括的なというわけですけれども,動産は特定できないとしますと,何が担保に入っているか分からない概括的な証明書をもらって何が分かるのでしょうか。 ● まだその点につきましても,必ずしも定まった考え方というのがあるわけではないのですが,債権譲渡登記制度と横並びで考えるのであれば,譲渡人,譲受人,登記原因,それから登記年月日,こういった情報というのは概括的な情報で分かるのであろうと,動産の譲渡をそういう形でしたというところまでは分かる。しかし,当該動産の内容がどのような内容かということがその概括情報では分からない。今ここで御提示しているのはそのようなイメージのものであります。 ● この点は,現在の債権譲渡登記の関連で,こういう情報の使い勝手がいいかどうかということも関連するかと思うのですが,実務界の側から何か御意見ございますでしょうか。 ● 商工会議所の立場から申し上げます。   やはりこの二段階の方式を是非堅持していただきたいと思っております。何となれば,あくまでかような在庫というのは営業戦略上の非常に重要な資産でございます。こういった資産の詳細をだれもが直ちに知るような形で開示をされるということは,これは企業側にとっては耐え難いことでございます。したがいまして,あくまで担保に提供するわけですから,担保権者にその全容を開示するのは当然のこととして,それ以外の方々にとっては,先ほどの○○関係官の御案内のような概要でもって十分開示の目的は達せられるというように思いますので,所有資産,これが集合物であれ特定動産であれ,それをすべて公にするというのは営業上の秘密にも属することだという御認識のもとで,ただいまの御提案のような制度としてお願いをしたいところでございます。 ● 今の○○委員に更に追加的に御質問したいのですが,「対象者を限定せずに」と,「利害関係のある者」と,二つのワードが出てきますけれども,これから担保にとろうとする者,それから既に譲渡担保権を設定した者がその後どうなっているか知りたいと。それから,債務名義を持っている一般債権者,この三つを想定した場合に,どれがどれに入って,どれを利用するという組合せになるのかという,今のご発言の前提についてお伺いしたいのですけれども。 ● これから担保にとろうとされる方については,自発的にその資産の内容を開示するのは当然のことだと思いますが,その他の一般債権者等に対しては,これは別に関係のある方だというふうに私は思っておりません。 ● 自発的にというふうにおっしゃいましたけれども,これから担保にとろうとする人は,直接登記所に行って登記事項証明書がもらえるかというと,そうではないですね。 ● 設定者が利害関係人として……。 ● 設定者が提供するということですね。 ● そうしますと,最初のこれからとろうとする者が例えば登記事項概要証明書の交付を受けて,何か担保に入っている可能性があると,そこから先は譲渡人に詳しい情報を出させると。これから利害関係を持つわけですから,前者のカテゴリーであれば足りるので,後者の利害関係ある者に含まれなくても,そこで拒否されるようであれば設定しなければいいと。   それから,既に譲渡担保を設定した場合は,当然利害関係のある者に含まれると。一般債権者は,利害関係には入らないという前提でこれを読んでおられるということですね。 ● 御指摘のとおりです。 ● 既に譲渡担保をとった人は,利害関係のある者になるのですか。他人の譲渡担保についても。 ● 自分の譲渡担保の内容について。 ● それは,ちゃんと登記されているかというのを調べるだけですよね。それだけの話ですか,これは。自分がちゃんと申請したのだけれども,本当に登記所はちゃんとやっているかな,それを確認するためですか。まさか。 ● いやいや,登記事項証明書付きの通知を発するため。 ● だれに対して。 ● 債務者に。今のこれは,債権譲渡登記をもとにして話をしているのですよ。その仕組みで言えば。 ● 債権譲渡登記の場合は正にそのとおりなんですけれども,ここに言う「利害関係のある者」というのに関して,既に譲渡担保を取得している人というのが入るということの意味というのが私にはよく分からないのですが。   自分が譲渡担保権者であるところの譲渡担保権の目的物の内容を見たって,集めている切手をアルバムで見るようなもので,何の意味もないですし,他人のは一般債権者としての資格でしか見ることができないような気がしますので。 ● これは,動産譲渡担保でいえば自分の譲渡担保の内容については利害関係人ですけれども,ほかの人のものについては利害関係人ではあり得ない。自分のものを見るだけで,実益があるかないかの話はあるけれども,利害関係人であるかどうかといえば利害関係人。あえて実益を探せば,転譲渡担保にするとき等に必要性があるのかもしれませんけれども。 ● 利害関係というのは,その当該譲渡担保権者と本人でよろしいのだろうと思います。本人が自らそういう詳細な証明書をもらって,そしてそれを例えば銀行借入れに際して銀行に自発的に持参すればいいわけですから。そういったありようでよろしいのではないでしょうか。それ以上に何かほかの人に見せるという意味合いが,むしろ私には想像ができないということですが,いかがでしょうか。 ● そこまで割り切ってお考えになるのでしたら,私はそれに異論があるわけではないのですが,例えば差押債権者等も含まれないという前提ですね。 ● 一応債権譲渡登記の場合の御説明だけさせていただきますと,債権譲渡登記法8条2項で,債権譲渡登記令を引用して規定がございまして,登記令の19条というところで,利害関係人の範囲を画しております。1号では,譲渡に係る債権の債務者又はこれらの債権を取得した者,両方含むということで,2号で○○幹事がおっしゃった差押債権者,こういうものが含まれると。3号で,財産の管理処分権を有する者ということで,例えば成年後見人など,こういうものが入る。こういうふうな整理になっておりますので,恐らく事務当局のお考えになったのは,これと横並びということではなかろうかと考えております。 ● 自分が問題を出しておいて話を変えて申し訳ないのですけれども,もう1点,この問題についてお話をしたいことがございます。   それは,○○委員のおっしゃった営業秘密に属するという話に関連してですが,その言葉にかみつこうということではございませんで,この二段階の開示制度というものをとるときに,その二段階の開示制度をとることの理由をどこに持ってくるのかというのが非常に重要な話だと思うのです。つまり,○○委員がおっしゃったように,どんな在庫商品を持っているのかということを知られるのは困る,それは営業の秘密に属するのだというのを立法理由として考えますと,恐らくつくられるべき登記制度というのはどのような具体的な商品が存在しているのかをかなり書くという仕組みの登記制度を念頭に置くことになるような気がするのです。と申しますのは,一番詳しい情報のところで見るとどんな商品があるのか分かってしまうというのを一方の立法理由にしてしまうと,それがそこに書かれているというふうな登記令みたいなものが最終的にできる可能性がある。   私自身は,本当にそういうことが必要なんだろうかと。つまり営業の秘密に属している見られたら困るような内容が,最終的に登記内容として書かれるような制度にこれをすべきなのかということにかなりの疑問があって,例えばUCCのファイリングシステムですと,私は,どこの利害関係人がどういうふうに見られるのかということについて十分に承知しているわけではありませんけれども,それを見たからといって,営業政策がばれてしまうような書き方にはなっていない,もっともっと概括的なわけですね。だから,二段階の制度にするのは結構なんですが,これがこういったファイリングシステムにするのだ,こういったことを書かせるのだということと何か結びついているような気がしまして,そこまで詰めないとちょっと何か分からない気がするのです。 ● ただ,緩く書くことを認めたとしても,当事者間で後のトラブルを回避するために具体的に書きたいという場合があると思います。それを登記制度として拒否する必要はないわけで,そういった場合には,○○委員がおっしゃったような懸念というのは出てくるのだと思います。 ● この二段階の開示制度については,確かに債権譲渡特例法とパラレルにというスタートの発想はあるかと思うのですけれども,分析して考えてみれば,二段にする意味というのは,今,○○幹事からの御質問にあったように,違うところに核心が来るのですね。つまり,あくまでも債権譲渡特例法の場合の二段階の開示制度の必要だという理由は,譲渡に係る債権の債務者のプライバシー保護なんですね。ですから,その債務者名をこれから譲り受けようなんていう段階の人には知られないようにということが大きかったわけで,それに対してこちらは,先ほどの○○委員の御説明にもあるように,譲渡人本人のプライバシーといいますか,営業上の,秘密に属するかどうか,作戦というレベルでしょうか,持っている動産の個性とか品質とかレベルとかが分かってしまうのがどうかということですから,債権譲渡特例法の方で債務者のプライバシーを保護するためにはこういう形の切り分けというのがある意味で必然であって,こちらでは,今の理由から私は二段階の開示制度はやはり意味があると,○○委員のおっしゃるように当該譲渡担保権者と本人がいわば一番詳しいところが見られればいいのだという切り分けでよろしいのではないかと思うのですけれども。   だから,二段階の開示制度自体に反対ではないのですが,意味合いは違っていて,その意味合いの違いが今の○○幹事のように,これをすることによって政令なんかで中身をどこまで細かく書かせるかというところまで影響してしまうのではないかという御議論にもつながる話で,この段階ではそこを切り離して,二段階の制度をとるということだけ決めて先に進むということも可能であろうとは思います。 ● これは,二段階にわざわざする必要はなくて,一段ですっきり全部出せばいいというふうな御意見はございませんでしょうか。 ● 補足しますと,譲渡人自体がディスクロージャーというか,自分が登記するものについて全部外に出すのだという制度設計も可能だろうと思うのですけれども,それは学者が考えるよりも,実務の皆さん方がそれでは困るとか,そちらの御意見の方を参考にされるべきだと思います。 ● 譲渡人の側で全部開示してもいいか悪いかを決めるというのに一番即応できるのは,現在のこの制度なんですね。詳しいのが欲しければ,譲渡人自身が詳しいのをとって見せればいい,嫌だったら出さなくて,外からは簡単なものだけが見えるというのが今の制度設計なんだと思うのですけれども。 ● この後の議論のための論点の整理の関係で,ちょっと確認なんですけれども。   この二段階の方式をとるということの根拠を何に求めるかという議論と,それから将来恐らく政省令などで登記事項の細目を立ち上げていくときに,詳細性をどの程度要求するかという論点は,ひとまず切り離して考えていいという前提で考えてよろしゅうございましょうか。私はそういうふうに考えるのが適当だと思うのですけれども。   二段階の方式をとることの根拠は,今の議論の段階ですと○○委員がおっしゃったことが根拠で,仮にそれが根拠になったとしても,登記事項はかなり詳細に具体性を要求する書き方も認めるし,かなり概括的に書くやり方も認めるし,かなりフレキシブルな方法をとるということがイメージされていて,仮に具体的に書いたときに,それを出したくないから二段階方式なんだという説明をすれば,二つの論点は切り離して受けとめることができるはずなので,そういう理解で今後の議論を進めていただきたいというふうに感ずるものですから,一応申し上げます。 ● ただ,どこまで概括的な書き方でいいかというのは,多分登記に何を期待するかということとも関連するのかもしれませんけれども。   例えばある倉庫内の動産を譲渡担保にとりたいという人が,ある倉庫内の動産を入っているかどうかという調べ方ができるかできないかというのは,先行する登記の中での目的動産の書き方が,どのぐらい緩やかな書き方が許容されるかということと表裏一体のような感じもしなくもない。 ● ですから,ひとまず切り離してと申し上げたので。○○委員がおっしゃるような関連もあり得るとは思うのですが,後ろの論点で詳細性について必ずこういう議論になるのだというふうに拘束されると,それはちょっと議論としては違うような……。 ● それは逆転していると思います。   とりあえずここでは,二段階開示制度は迷惑だという御意見は特にないということで,次に進まさせていただきたいと思います。 ● こういう動産にせよ債権にせよ,最終的に登記システムのあるべき方向というのをどういうふうにとらえていくのかという問題があるような気がするのです。つまり,UCCという制度は1949年から50年にかけてでき上がったわけでありまして,その当時コンピュータというと,この部屋より大きいようなものしかなかったわけであって,コンピュータベースで登録制度を作るというのはあり得なかったわけですね。そこで紙ベースの登録制度ができ上がった。   そのUCCというのが,50年たっていろいろなところに影響を及ぼしてくるわけで,オランダの担保制度にも影響を及ぼしますし,カナダのパーソナルプロパティセキュリティーインタレストの法律というのにもすごく影響を及ぼして,カナダ各州がいろいろつくっているわけですが,コンピュータベースで登録から全部自分の家からというか,自分の会社からできる,閲覧ももちろんできるという制度としてつくっていこうと。   そういうふうな方向で物事を考えていくのか,それともやはり紙ベースで,心配な人は電話をかけて,おまえ持ってこないと取引しないぞと言ったら,登記所に行ってとってきて,紙を持っていきますという話でやっていくのか。私は,本当に二段階にしてまで守るべき何かがあるのかなというのが,何となく疑問なんです。   もちろん,あるというふうに実務家に言われますと,ないだろうというふうに私のような者が言っても全然説得力ないのでありますけれども,方向としてはいろいろあるのではないかと。全員一致でこうなったというのも何となくしゃくなので,一言だけ。 ● 分かりました。 ● 二段階の開示制度で,仮に問題だなと思うケースは,多分こういうケースだと思うのです。   動産売買先取特権を行使する立場に立って,自分が売った商品が譲渡担保に入っているのか入っていないのかを知りたいという立場,つまり動産売買の先取特権者からすると,一発で見えないと非常に問題かなと思うので。私はだからどちらという立場ではないのですけれども,そういう意見があるとは思います。 ● それでは,ただいま御指摘いただいたような点も含めて,なお次回に向けて事務局でいろいろ御検討をいただきたいというふうに思います。   次に,法人登記簿への記載の問題でございますけれども,これは債権譲渡登記とも関連するテーマでございますけれども,この点につきまして御意見をいただければと思います。 ● この点について,私はメリットとデメリットのバランスというか,関係を実務界の皆様方にいろいろ伺いたいと思うのです。というのは,御案内のように債権譲渡特例法の場合には,事前の研究会では商業登記簿記載という案は全く出ていなかったのですが,実際にでき上がった法律ではそういうものになっていまして,その結果,譲渡人,法人の信用不安をかなり広く引き起こした,中小企業関係ではそれが非常に問題になったということがあったわけです。   あの場合に,商業登記簿に記載することにした理由は幾つか伺ってはおりますけれども,まず知りたいのは,そのような信用不安というのが既に一過性のもので,免疫ができているというふうに考えられるのか,それともまだ同じことが繰り返される可能性があるのか。それと,ここで言う法人登記簿に記載することのメリットとの比較を検討したいということでございます。 ● この点について,御意見をいただければと思います。 ● 債権譲渡登記のことに関しまして申し上げますと,債権譲渡総額の転載がやめられましてからは,信用不安という形で直截的に取り上げられるということは,実はないというか,沈静化をしております。ただ,もちろんいわば企業の血液たる債権をそもそも担保に入れるのはどうかというふうな点での風評というのは,決してなくなりはしないわけでございますが,それは往々にしてあることでございます。あくまで譲渡総額の登記というのは,中小企業にとっては天文学的な数字になるような場合もありまして,そのために非常に不安を呼んだというふうな混乱は終息しているというふうに認識しております。 ● 今,お話がありましたように,従来商業登記簿に債権総額が記載されていたときのことを考えると,特に将来債権を担保取得したときに見積額が登記されるということになりますと,見積額の見積もり方にもよるのでしょうけれども,余り現実的でないような多額な記載がされるなんていうことも間々あったようでございまして,そういったときのことを考えれば,現状では抵抗は少なくはなってきているのかなと思いますけれども,商業登記簿に記載されることについて全く抵抗がなくなっているとまでは言えないのかなと思っております。   債権者の立場からすると,その設定者がいわゆる債権譲渡をしているのかどうか,債権譲渡しているとしてそれを登記によって対抗要件具備しているのかどうか,そこら辺が知りたいわけですけれども,商業登記簿をとれば簡単に分かった,少なくとも譲渡の登記をしていなければそれが分かったということはあったわけですけれども,別の方法で,譲渡していないことの証明のようなものが簡単に得られるということであれば,必ずしも商業登記への記載というのは必要ないのかなという気がしております。 ● ほかの御意見,いかがでしょうか。 ● もう少し伺ってよろしいですか。   これは私は決していい風潮ではなかったと思うのですが,債権譲渡の場合には,従来危機対応型といいますか,倒産寸前の譲渡等が多かったために,そして我が国では売掛債権等を使った資金調達システムの発達がおくれていたために,売掛金なんかの債権を使って資金調達をするということ自体が一般に認識されておらず,債権を譲渡するということイコール信用不安,経営危機ということになっていたのだと思うのです。この点は,物的な動産譲渡担保の方では御心配がないのかということ。   それから,更に御提案の方としては,法人登記簿記載にどのようなメリットを現時点で考えておられるのかの確認,この2点を伺いたいと思います。 ● やはり法人登記簿への登記があるのかないのかというのは,実務界からすると非常に関心の強いところでございます。   今のところ,どちらがいいという意見は特にありませんけれども,例えば取引先の信用状況をウォッチする観点からしますと,従来なかった登記が新たに加わったというのは,信用状況の変化を示すものですから,それに応じた取引条件の変更を行う必要がありますし,そのためにも登記が必要であるという言い方もございます。   一方で,そういう記載があれば,直ちにその企業にとって新たな取引先とか与信を受けるのは難しくなるという考え方も多分あろうかと思います。先ほど,効力のところで,まずはなるべく影響の少ない形にというふうに申し上げたのも,やはり登記簿への記載という何らかの公示があり得るわけですから,その影響はできるだけ軽微なところからスタートしてはいかがかというふうに申し上げた次第でございます。 ● ただいまの○○委員の御指摘に関しまして,まず,果たして動産担保で同じような兆候は見られないかどうかということも含めてですが,例えば債権譲渡に関しましては債権譲渡登記ができるようになって,むしろ初めて売掛債権等が担保として活用できるのだという認識が広まっていって,しかもそこに,例えば売掛債権担保融資保証制度というふうな公的な信用補完制度が導入されまして,加えて言えば,その中で管理手法が非常に精緻に開発された。加えて言えば,譲渡禁止特約等も官公庁の率先した姿勢によって解除されつつあるというふうに,これまで阻害要因とされてきたものが非常に改善されたということで,それがまた今度は売掛債権担保についての一種の誤解をなくすことにつながっていったというふうに私は認識をしております。したがいまして,動産担保につきましても,先ほど○○幹事の方から心強い御意見がございましたが,いろいろな政策あるいは民間の金融機関の金融スキームの開発等によりまして,あくまで公示制度を活用して金融スキームが開拓されていけば,ある種の誤解というものはなくなっていくのだろうと。   ただし,そこには痛みが当然伴うことにはなると思いますが,それは金融の多様化,具体化のためには避けて通れないプロセスだろうというふうに,商工会議所といいますか,私ども中小企業者としては見ておるところでございます。   もう1点,動産の法人登記簿の転載のことに関しましては,前回の会合で私の意見書の中にも触れさせていただいたところでございまして,その背景にあるのは信用問題があるというふうに仄聞するから再検討をお願いしたいというふうなことを申し上げていたわけでございますが,これは内部でよくよく考えますと,動産担保取引の予見可能性を高めるという今回の制度趣旨等からすると,むしろ明確な公示制度が必要であって,それは登記制度だけでは難しくて,登記の内容を単純に証明書等で披瀝をするというだけでは難しい。逆に法人登記簿に転載をすることで皆にある程度のことは知らしめる,開示を堂々とやるのだということはあってしかるべきだろうと。それがないと,例えば債権者の方々にとっては,この会社が流動資産を担保に入れているかどうかも分からないという状態になりますから,何かのきっかけが欲しいでしょうし,そのきっかけさえあれば,あとは当事者の交渉によりまして,その担保内容の詳細が分かる,あるいはまた御自身が取引するかどうかを判断すればよいということになるわけでございまして,そういう一つの契機になり得るということからしても,法人登記簿への転載についてはやむを得ないものというふうに商工会議所等では認めるところでございます。 ● ほかの御意見,いかがでしょうか。   これも積極から消極というふうな御意見がありましたので,その点を踏まえて,また同時にシステムづくりをどうするかというふうな観点も必要でしょうから,それらの点を事務当局で引き取らせていただいて,御検討いただければというふうに思います。   冒頭に紹介がありましたように,事務局から債権関係の資料も配布されておりますので,こちらの御説明をいただくことにしたいと思いますが,よろしゅうございますか。   動産譲渡関係については,一応本日の議論をここで区切りをつけさせていただいて,本日席上配布資料であります「債務者不特定の将来債権の特定について」と題する資料につきまして,事務局から説明をしていただきます。 ● それでは,私の方から,本日,席上配布させていただいた「債務者不特定の将来債権の特定について」と題する書面に基づいて,簡単に説明させていただきます。   まず,この書面を配布させていただいた趣旨ですが,前回の部会におきまして,債務者不特定の将来債権の譲渡について,登記によって第三者に対する対抗要件を具備することができるものとした場合に,債務者以外の事項によって,どのように譲渡債権を特定するのか,あるいは登記上債務者の記載がないことによって,債務者あるいは第三者にとって譲渡された債権がどの債権であるかについての判断が容易でない場面が生ずるのではないかという疑問が出されたところでございますので,債務者以外の事項によって譲渡債権を特定する方法について,具体的なイメージを持っていただきたいという趣旨で,具体例をお示ししたものでございます。   「1 債権の特定」というところでは,実体法上債権譲渡が有効にされるために必要な譲渡債権の特定性についての基本的な考え方,及び債権譲渡の予約の場面ですが,その有効性についての平成12年の最高裁判例を御紹介させていただいております。   「2 債務者不特定の将来債権に関する特定方法の具体例」では,債務者不特定の将来債権の譲渡について,譲渡債権を特定する方法の具体例として4例ほどお示ししております。最終的には,債権譲渡登記の記載事項を具体的にどのように仕組むかということが問題となってくるところですが,この点については現在なお検討中でございます。現時点では,債務者不特定の債権を特定するための事項を債権発生原因欄等に記載させる等の方法によって,本日お示しした具体例のいずれについても登記ができるような仕組みにしたいというふうに考えております。   簡単ではございますが,以上です。 ● この内容等につきましては,またいろいろと御意見おありかと思いますけれども,追って改めて債権譲渡についての御議論をするときにあわせて御議論いただければと思っております。   本日,いろいろと貴重な御意見をいただきましたので,これらを踏まえて,また次回,同じテーマについて議論をさせていただきます。長時間にわたりましてありがとうございました。   事務局から,次回の会合についての御連絡をいただければと思います。 ● 本日は,どうも貴重な御意見ありがとうございました。事務局としましては,どのような譲渡について登記を認めるかという点は今日終わらなかった論点と認識しておりますので,次回には,これに関するペーパーを作りたいと思っております。   次回でございますが,12月24日,1時半から一応5時までというふうにお願い申し上げます。場所は,今度は地下1階の大会議室になりますので,どうぞお間違いのないようにお願いいたします。 ● それでは,法制審議会動産・債権担保法制部会を閉会させていただきます。本日は御熱心な御審議を賜りましてありがとうございました。 -了-