法制審議会動産・債権担保法制部会第6回会議 議事録 第1 日 時  平成16年5月11日(火)  自 午後1時30分                        至 午後5時20分 第2 場 所  東京地方検察庁刑事部会議室 第3 議 題  動産・債権譲渡に係る公示制度の整備に関する要綱案のたたき台(その1) 第4 議 事  (次のとおり)               議         事 ● 定刻になりましたので,法制審議会動産・債権担保法制部会の第6回会議を開会いたします。   本日は,お忙しいところを御出席いただきましてありがとうございました。   (幹事・関係官の異動紹介省略)   それでは,まず最初に配布資料の説明をお願いいたします。 ● 事務局から事前に送付いたしました資料は,「動産・債権譲渡に係る公示制度の整備に関する要綱案のたたき台(その1)」,及び「動産・債権譲渡に係る公示制度の整備に関する要綱中間試案の意見照会結果」でございます。   また,本日,席上に配布いたしました資料は,「動産譲渡登記事項のイメージ」及び「債権譲渡登記事項のイメージ」と題する書面並びに債権譲渡登記令等の改正の新旧対照条文,以上でございます。   また,更に○○幹事の方から,「動産譲渡に係る登記制度の創設が倒産処理手続における弊害をもたらすとの指摘に対する意見」という書面が提出されておりますので,席上配布しております。   事務局が配布いたしました中間試案意見照会の結果は,3月3日から4月5日までの約1か月間に,書面あるいはメールで送付された意見を取りまとめたものでございます。若干おくれて届いたものも,全部含めております。   また,席上配布しております新旧対照条文でございますが,これは今月6日に施行されました債権譲渡登記に関する政省令に係るものでございます。   この改正のポイントを簡単に申し上げますと,一つはオンラインでいたします債権譲渡登記申請の際に要する手数料を1,000円引き下げるとしたこと。二つ目は,これまで認められておりませんでしたオンラインによる登記事項証明書等の交付申請を可能としたという点でございます。審議の参考として紹介させていただきます。 ● それでは,議事に入ります。   まず最初に,意見照会の結果の御報告をいただきます。 ● それでは,私の方から,「動産・債権譲渡に係る公示制度の整備に関する要綱中間試案」についての意見照会の結果を御報告いたします。   今回の意見照会の結果,63団体,個人26名,合計89者から御意見が寄せられました。御意見をお寄せいただいた団体及び個人の内訳につきましては,「略称一覧」のとおりでございます。   まず初めに,意見照会結果の全体的な構成等について御説明いたします。   第1が「動産譲渡に係る登記制度の創設」についての意見,第2が「債権譲渡に係る登記制度の見直し」についての意見でございます。   基本的には,動産譲渡に係る登記制度の創設及び債権譲渡に係る登記制度の見直しのそれぞれにつきまして,主要な論点ごとに,まず賛成する意見を寄せた団体及び個人を掲記し,賛成意見の主な内容,賛成の立場からの補足的意見等を記載した後に,反対する意見を寄せた団体及び個人を掲記し,反対意見の主な内容,反対の立場からの補足的意見等を記載しております。また,賛成意見にも反対意見にも分類できない意見につきましては,その他の意見として最後の方に記載させていただきました。   なお,主要な論点のうち,枠で囲ってございます部分につきましては,要綱中間試案を引用した部分でございます。   それでは,各論点に沿って順に御説明をいたします。   まず,「第1 動産譲渡に係る登記制度の創設」について御報告いたします。   制度の創設につきましては,これに賛成する意見が多数を占めました。   賛成意見の主な内容といたしましては,次のようなものがございました。   機械設備,在庫商品等の動産を担保として利用しやすくするための制度創設であり,これにより,金融機関の融資方法と,事業者側の資金調達手段に選択肢が増えることによって,従来の不動産と個人保証に過度に偏重した担保手法が変わっていくことが期待できる。また,特に中小の事業者については,昨今の閉塞状況にある資金調達から抜け出せることにもなると予測されるという御意見がございました。   また,新規事業者や中小企業を中心とする事業者の資金調達の円滑化のために,在庫,原材料,機械設備等を対象とする動産担保法制の整備が,実務界を中心とする各界から強く要望されているという御意見もございました。   さらに,この制度の創設によって,譲渡担保取引の安定性・実効性が向上するという意見もございました。   そのほか,占有改定は公示制度として不十分であり,動産取引において法的紛争の原因となってきたが,この制度の創設によってこれを解消できるという御意見もございました。   さらに,動産譲渡の公示制度を創設すれば,いわゆるDIPファイナンスも円滑に実施することが可能となるという御意見もございました。   次に,賛成の立場からの補足的意見といたしまして,次のようなものがございました。   公示制度の具体的な内容については,そもそもこの度の公示制度の創設が,動産・債権の担保手段の確立を目的とするものであること,基本法である民法の例外となる位置づけであり,しかも動産譲渡担保の実体的権利内容については規定が置かれないこと,権利関係が譲渡担保に類似する所有権留保特約,リース契約,買戻特約付譲渡などの契約に対する影響も考えられること等にかんがみると,前記目的を達成するために必要最少限度の法整備にとどめるべきであるという補足的意見がございました。   これに対しまして,動産譲渡に係る登記制度の創設に反対する意見の主な内容は,次のとおりでございました。   まず,動産担保・債務者不特定債権担保登記制度は,破産した企業の財産を金融機関,商社等の経済的優位に立つものだけのものとし,労働債権者や一般債権者が弁済を受けることを著しく困難にするものであって,一般取引業者の先取特権や労働債権保護制度を実質的に有名無実化するものであるという御意見がございました。   また,企業が倒産する事態に至ったときは,金融機関等が企業の財産の大部分を確保してしまって,事業再生のために使える財産がほとんどなく,民事再生や会社更生の再建型倒産法制が有名無実になるおそれがあるという御意見もいただきました。   さらに,動産譲渡に係る登記制度創設によって,どれほど事業者に対する資金供給が円滑化され,また新たな資金調達,融資手法を生み出すことになるのか疑問がある上,むしろ動産取引の円滑化を阻害するおそれがあるという御意見もありました。   加えて,動産担保を設定すると,与信が減少するおそれ,信用不安が生じるおそれなどが発生し,設定者にとって好ましくない結果となる,したがって具体的なニーズは高くないのだという御意見もございました。   次に,反対の立場からの補足的意見といたしましては次のようなものがございました。   動産公示制度の創設は,労働債権確保を極めて困難にし,労働者の生活の安定が脅かされる事態につながることから,制度の前提として,実体法において労働債権の一部について抵当権,根抵当権,質権,債権譲渡,譲渡担保等に優先させる制度を新たに創設する必要があるという意見。あるいは,動産は労働債権確保の最後のよりどころであり,不動産が全部抵当に入っている中で,労働債権として押さえられるのは債権・動産ぐらいであり,制度を作るにしても,同時に労働債権に基づく一般先取特権による差押えの優越や,労働者代表の事前同意などの労働者保護措置が必要である,このような措置がなされない限りは反対であるという補足的意見がございました。   次に,「Ⅱ 登記の対象となる譲渡の譲渡人を法人に限定することについて」という論点について御報告いたします。   この点につきましては,寄せられた意見のほとんどがこれに賛成する意見でありましたが,1団体からこれに反対する意見が寄せられております。   賛成意見の主な内容は,次のとおりでございました。   法人に限定すれば,法人登記簿という調査の手掛かりがあるが,個人まで含むとすると調査の手掛かりがないという意見がございました。   また,個人所有の動産には,事業用動産と生活するために必要不可欠な個人用動産が混在していることも多く,個人まで対象に含めるとすると,個人用動産まで担保提供を強要されるおそれがあるという懸念もございました。   さらに,実務界における動産譲渡登記制度の需要は,法人がほとんどであり,自然人における動産譲渡に登記制度を導入する必要があるかは必ずしも明らかでなく,また自然人につき,動産譲渡の登記制度を導入することには技術的に困難が想定されるという御意見もございました。   1団体から寄せられました反対意見につきましては,次のような内容でございました。   担保とすべき不動産が限られる個人事業者が,より動産譲渡登記を必要としているのではないか。また,事業者の資金調達に占める動産の割合は,大企業よりも個人事業者の方が大きいのではないか。さらに,個人事業者の場合,全財産を担保提供するように強いられるおそれがあるとする点についても,包括的な譲渡を別途規制する方法が考えられるのではないかという御意見でございました。   次に,Ⅲの「登記対象となる動産を個別動産か集合動産か問わないとすることについて」という論点について御報告いたします。   この論点につきましては,集合動産を特定するための登記事項については,検討を要する旨の指摘が若干あったものの,中間試案の考え方に反対する意見は寄せられませんでした。   賛成意見の主な内容を御紹介いたします。   実務では,機械設備,器具等,個別動産を対象とする譲渡担保も行われているから,これを除外する必要はない。集合動産に限定した場合,集合動産の概念ないし定義によっては,集合動産であるとして当初登記がされたが,結果的にそれが集合動産でないとされた場合に,登記が無効となるおそれがあるという意見。   また,個別動産と集合動産とを明瞭に区別することは困難であるという意見が寄せられました。   次に,「登記の効力等」という論点に進ませていただきます。   動産譲渡登記の効力の論点につきましては,寄せられた意見を分析したところ,まずA案とB案とを比較し,次に1案と2案とを比較して結論を出すものや,A1案,A2案,B1案,B2案等をそれぞれ個別に検討して結論を出しているものなど,その結論に至る過程は様々でありました。しかし,その理由を子細に検討してみますと,理由のうち主なものは,大きく分けましてA案とするかB案とするか,すなわち登記に優先的な効力を認めるべきか否かについての意見と,1案とするか2案とするか,すなわち登記制度の対象を担保目的の動産譲渡に限るか,真正譲渡まで含めるかについての意見とに分類することができると考えられました。そこで,意見照会の結果の取りまとめにおきましては,それぞれの意見の対立点を明確に整理するという観点から,Ⅰにおきまして,A案とするかB案とするか,すなわち登記に優先効を認めるべきか否か,Ⅱにおきまして,1案とするか2案とするか,すなわち登記制度の対象を担保目的の動産譲渡に限るか真正譲渡まで含めるかという点に関する意見をまとめ,続きまして「Ⅲ 各説に対する意見等」というところで,順にA1案,A2案,A2案(注),B1案,B2案等のそれぞれに寄せられた意見をまとめることにいたしました。   なお,「Ⅲ 各説に対する意見等」におきましては,Ⅰ及びⅡで記載した意見と重複する意見を記載しないことといたしました。   それでは,ⅠのA案とするかB案とするか,すなわち登記の効果として一種の優先効を認める考え方をとるか,優先効を認めない考え方をとるかという論点について,結果を御報告いたします。   この点,A案に賛成する意見が,A案に反対する意見及びB案に賛成する意見を大きく上回りました。   A案に賛成する意見の主な内容は,次のとおりでございました。   特別の効果を登記に認めると,その優劣は明快で,また善意取得によって動産担保権を奪われるという機会は少なくなり,動産担保権の安定性,実効性は高まる。   登記に特別の効果を認めず,単に対抗要件を一つ増やしただけでは,登記するメリットも少なく,登記制度があまり利用されない可能性がある。   さらに,登記優先効を認めることができれば,資金供給者としては,隠れた譲渡担保が設定されているリスクを考慮することなく,より安全に新規の資金を供給することが可能になる。また,先行する隠れた譲渡担保を調査する費用や,金利等の融資にかかるコストを軽減させることによって,企業側にとってより低いコストで資金調達を受けることができる環境を整備することが期待できるという御意見もございました。   他方,A案に反対する意見の主な内容は,次のとおりでございました。   登記優先効を認めるA案のもとでは,登記の調査及び具備が一層深刻な問題として取り扱われることとなり,実務上,動産譲渡取引に与える影響が大きい。したがって,従来の動産譲渡取引に与える影響を最小限にとどめるという見地から,A案を採用することには反対であるという御意見がありました。   また,登記された動産譲渡担保に優先的地位を認める理論的根拠が見出せないという御意見もございました。   これに対し,B案に賛成する意見の主な内容は次のとおりでございました。   既存の動産担保に十分な配慮をし,動産取引の安全性を優先すべきであるという観点から,登記優先効を与えることに懸念がある。   A案の登記優先効をとった場合の実務への影響は予測し難いから,当初はB案程度の効力で制度をスタートさせるべきである。   さらに,登記優先効は,対抗要件の優劣を公示方法具備の先後によって決しようとする物権変動の基本原則を崩す結果となり,民法体系に及ぼす影響は大きいから,改正には慎重でなければならないという御意見もございました。   次に,Ⅱ,1案とするか2案とするか,すなわち登記制度の対象を担保目的の動産譲渡に限るか,動産譲渡一般とするかという点につきまして,意見照会の結果を御報告いたします。   この点につきましては,2案に賛成する意見が1案に賛成する意見を上回りました。   1案に賛成する意見の主な内容は,次のとおりでございました。   担保目的の動産譲渡の効率性,安定性を図るという制度の創設理由からは,真正譲渡を登記制度の対象とする必要はないという御意見が複数の団体から寄せられました。   また,動産譲渡登記一般について,登記を対抗要件として選択したいという実務の需要があるかは疑問であるという御意見もございました。   さらに,動産取引一般に与える影響が大きいから,動産譲渡一般を登記制度の対象とすることには慎重であるべきとの意見や,動産譲渡一般を登記の対象とすると,登記の具備・調査という取引慣行が確立され,動産取引の迅速性が妨げられるおそれがあるという意見もございました。   これに対して,2案に賛成する意見の主な内容は,次のとおりでございました。   動産の真正譲渡についての公示制度を整備することにより,動産の流動化,証券化取引が促進され,利用者の資金調達の手段が広がる。よって,登記制度の対象を担保目的の動産譲渡に限定すべきではないという,動産の流動化,証券化に関する御意見が寄せられております。   担保目的譲渡とそれ以外の譲渡との区別は明確ではない,外形上判然としない譲渡の目的を基準に,登記の有効性が判断されることになれば,明瞭な公示方法として動産譲渡登記制度を導入する趣旨に沿わない。   また,登記において担保目的譲渡であるか否かの判断を要求すれば,取引当事者に不利益を及ぼし,取引をゆがめ,取引の自由度を制約するおそれがある。   さらに,登記官の形式的審査のもとでは,不真正な登記がされるおそれがあり,こうした登記の効力をめぐって実務が混乱するおそれがあるという御意見も,複数から寄せられております。   我が国における財産譲渡に係る登記制度においても,譲渡の目的という外形上判然としておらず,実務においても当事者間で必ずしも明確に意識されていないような事項をメルクマールとするものは存在しておらず,動産譲渡登記制度においてのみ譲渡目的をメルクマールとすることは整合的ではないのではないかという御意見もございました。   続きまして,「Ⅲ 各説に対する意見等」というところで,Ⅰ,Ⅱから漏れた意見及びA1案,A2案等に対する個別の意見を御紹介させていただきます。   まずA1案につきましては,これに賛成するという意見が19者から寄せられました。他方,A1案に反対する意見についてでございますが,ゴム工業会(一部)のみが記載されておりますが,オリックス株式会社からも反対意見が寄せられておりますので,オリックスをA1案に反対する意見を寄せた者に加えていただきたいと存じます。この点,おわびして訂正させていただきます。したがいまして,A1案に反対する意見は2者から寄せられたということになります。   A1案に賛成する意見のうち,Ⅰ及びⅡで記載していない意見といたしまして,米国のUCC-9へのステップとしてはA1案が妥当であるという御意見がございました。   また,A1案に関する補足的意見といたしまして,A1案を採用するとしても,その対象を担保目的譲渡のみならず,流動化,証券化取引に広げることを希望するという意見がございました。   次に,A2案につきまして御報告いたします。   A2案につきましては,これに賛成する意見が22者,これに反対する意見が7者,採用についてはなお検討を要するとの意見が1者から寄せられております。   A2案に賛成する意見の主な内容をご紹介いたします。   本制度を証券化,流動化に利用できるものとし,大規模な市場が予想される在庫の流動化等を促進する制度にするためには,登記が優先するというA2案が望ましいという御意見や,真正譲渡についても占有改定は公示方法としての機能を果たさないから,明確な公示方法を制度として設けることに意味があるという御意見がございました。   他方,A2案に反対する意見の主な内容は,次のとおりでございました。   A2案は,立法趣旨との関係で一貫性を欠くのではないかという指摘がございました。   また,A2案ウの規律は,真正譲渡の登記について登記優先効があるかのような誤解や混乱を生じかねないという指摘がございました。   さらに,A2案の採用についてはなお検討を要するという次のような御意見もございました。   占有改定による担保目的以外の動産譲渡がどのような場面でどれだけ活用されているか不透明な中,制度についての不十分な理解から,それらの譲渡について取引上不必要に登記を徴求されることが想定される。また,登記の対象を広げるほど,登記優先ルールの効果を悪用する事例の発生が懸念される。仮にA2案を採用するに当たっては,現実の取引慣行に与える影響及びそれへの必要な手当てについてなお慎重な検討を有するという御意見もいただいております。   続きまして,A2案の(注)についての御意見を御報告させていただきます。   A2案の(注)と申しますのは,A2案のウの内容を「登記がされた動産譲渡は,当該登記が,他の担保目的の動産譲渡が占有改定により対抗要件を備えた後にされたものでも,この動産譲渡の譲受人に対抗することができるものとする。」という意見,すなわち,登記がされた動産譲渡一般について優先的効力を認めるべきであるという意見でございます。   このA2案の(注)につきましては,これに賛成する意見が14者,これに反対する意見が3者から寄せられております。   A2案(注)に賛成する意見の主な内容は,次のとおりでございました。   真正譲渡の場合の公示においても,譲渡担保の場合の公示と同様,先行する占有改定による動産譲渡担保に対しても優先する効力を有することが,動産の証券化,流動化等による資金調達を促進するためには必要であるという意見や,登記優先効が担保目的譲渡に限定され,真正譲渡に認められないのでは,バランスを欠いているという御意見がございました。   また,A2案(注)に反対する意見といたしましては,次のようなものがございました。   既存の対抗要件との整合性に最大限に配慮するためには,担保目的譲渡相互間に限定して登記優先効を認めるべきであるという御意見がございました。   続きまして,(A案関係後注)の御意見について御報告いたします。   (A案関係後注)の意見と申しますのは,動産譲渡に係る登記制度創設の目的からすれば,法人が行う担保目的の動産譲渡又は動産譲渡について広く一般的に登記を対抗要件とする必要はなく,占有改定により引渡しがされた担保目的の動産譲渡に限定して登記に対抗要件としての効力を付与すれば足りるという見地から,法人が担保目的で動産を譲渡した場合において,占有改定により当該動産の引渡しがされたときは,その譲渡は,登記をしなければ,担保目的で当該動産の譲渡を受けたものであって占有改定によりその引渡しを受けた者に対抗することができないものとするという制度にすべきであるとの御意見でございます。   この意見につきましては,これに賛成する意見が5者から,これに反対する意見が6者から寄せられております。   (A案関係後注)に賛成する意見の主な内容は,次のとおりでございました。   制度創設の理由にかんがみれば,占有改定により引渡しがされた担保目的の動産譲渡に限定して登記に対抗要件としての効力を付与すれば足りるという意見がございました。   また,現実の引渡し,簡易の引渡し及び指図による占有移転については,公示が不完全であるという問題が生じていない。これらを登記対象とした場合,現行の解釈,運用に悪影響を与えるおそれがあるという指摘もございました。   他方,(A案関係後注)に反対する意見は,次のとおりでございました。   まず,動産担保の安定性,実効性を向上させるという実務の要請に応えられるか疑わしい。   引渡しのほかに新たな対抗要件として登記の選択肢を作ることの方が,実務で柔軟な活用ができるのではないか。   さらに,登記によって引渡しの態様を問わず対抗要件を具備することの方が明確で分かりやすい制度であるという御指摘もございました。   続きまして,B1案に寄せられた意見について御報告いたします。   B1案につきましては,これに賛成する意見が4者から,仮に登記制度を創設する場合にはB1案という意見が3者から,これに反対するという意見が2者から寄せられました。   B1案に賛成する意見の主な内容は,次のとおりでございました。   動産譲渡担保についての取引慣行が一部業種を除いて未形成であり,実際の運用方法が不明確な中で新たな登記制度を創設することはかえって混乱を招くおそれがある。   差し当たり担保目的譲渡に限定したB1案で施行し,段階的にA1案やA2案を検討するのが無難であるという御意見がありました。   続きまして,仮に登記制度を創設する場合にはB1案という意見の主な内容を御紹介いたします。   仮に動産譲渡に係る登記制度を創設するとしても,動産譲渡に関する従来の取引実務に与える重大な影響にかんがみて,その影響を最小限にとどめるよう配慮することが肝要であるという御意見や,動産の対抗要件は引渡しであるという民法の原則の例外をつくり,対抗要件として併存させるのであるから,その効力は対等である方が従来からの慣行に混乱が発生しないという御意見がございました。   これに対して,B1案に反対する意見は次のとおりでございました。   真正譲渡の場合においても,特に資産流動化による資金調達のための利用としては大いに有用性があることに疑いはない。登記制度の利用範囲をあえて狭めるべきではないという意見がございました。   続きまして,B2案に寄せられた意見について御報告いたします。   B2案につきましては,これに賛成する意見が1者から,これに反対する意見が3者から寄せられております。   B2案に賛成する意見の主な内容は,次のとおりでございました。   証券化実施時点においては,動産の真正譲渡に関して競合し得る利害関係人との実質的な利害調整がなされ得るものの,明確な対抗要件がないために,その実行が実務上困難となっている。証券化の実施についていえば,証券化の当事者らが動産の登記制度を選択できるようにすれば十分であるという御意見がございました。   これに対して,B2案に反対する意見の主な内容ですが,真正譲渡も含むすべての動産譲渡を登記対象とし,登記に対抗力を認めれば,動産譲渡担保取引のみならず動産譲渡取引全般について引渡しと登記が対抗要件として併存することとなり,対抗要件具備の先後をめぐる紛争を複雑化させることが懸念される。また,登記制度という画一的な公的制度でありながら,登記の記載の有無・内容だけからは対抗要件の優劣が確定できないという一般人に理解されにくい制度を創設することになる。ひいては,無用な混乱を生じせしめると懸念する意見がございました。   次に,(A案・B案に共通の後注)に寄せられた意見を御説明いたします。   (A案・B案に共通の後注)と申しますのは,動産が占有代理人の占有下にある場合には,当該動産の譲渡につき,登記をもって対抗要件を具備することができるものとすべきではないという意見でございます。   (A案・B案に共通の後注)につきましては,これに賛成する意見が4者から,これに反対する意見が13者から寄せられました。   賛成意見の主な内容は,次のとおりでございました。   倉庫業者に寄託されている動産については,先行する隠れた譲渡担保に劣後するおそれや,後行の譲受人に善意取得されるおそれはないという指摘がありました。   また,倉庫業者に寄託されている動産について,倉庫業者の関知しない譲渡登記がされた場合に,倉庫業者は,寄託物を誰に引き渡すべきかを判断しなければならないなど,倉庫業における実務に大きな混乱をもたらし,かえって紛争発生のおそれが大きくなるという御意見もいただきました。   さらに,占有代理人の占有下にある動産については,もっぱら指図による占有移転に対抗力を付与すべきである,そうでないと,対抗要件が複雑になり過ぎるという御意見もいただきました。   他方,(A案・B案に共通の後注)に反対する意見の主な内容は,次のとおりでございました。   在庫商品を倉庫業者に寄託している場合や第三者に賃貸している場合も多く,登記制度の利用が限られるのは相当ではない。   直接占有と間接占有とが明確ではなく,占有代理人と譲渡担保設定者との関係も分かりにくいから,占有代理人の占有下にある動産も登記の対象とすべきである。   さらに,占有代理人の占有下にある動産の譲渡について,指図をしないで対抗要件を具備したいというニーズがあるという指摘がありました。   続きまして,「2 登記情報の開示」に寄せられた意見について御報告いたします。   中間試案におきましては,登記情報の開示方法として,概括的な登記情報については何人に対しても開示し,全部の登記事項については利害関係のある者に対してのみ開示するものとすることについて意見を伺ったところでございます。   この点につきましては,二段階の開示方法をとることに賛成する意見が多数でございました。   二段階の開示方法をとることに賛成する意見の主な内容は,次のとおりでございます。   法人がどのような動産を所有し,誰に担保目的で譲渡しているか等の詳細な情報を利害関係のない第三者に開示したくないという要求は理解できる。債権譲渡登記制度との統一的な処理,運営という点から妥当である。また,資産内容は,企業の営業秘密,営業戦略にも関係する。新たな動産譲渡登記制度という公示制度を設けることに対する譲渡人の心理的抵抗を和らげる必要がある。   また,動産を譲渡担保に供することは,資金調達の一手段とはなり得ても,担保提供者の取引相手方ないし一般の経済的信用は低下することは容易に推測される。このような情報が無制限に公示されると,担保提供者の経済活動にとって悪影響となることは避けられないという指摘もございました。   他方,こうした二段階の開示方法をとることに反対する意見の主な内容は,次のとおりでございました。   利害関係を有する者に限定して登記を開示するのは,権利を公示して容易に事実関係を調査できるようにするという登記本来の目的に反するという指摘がございました。   また,当該企業の一般債権者に対する引当財産を公示するという意味で,すべての登記情報を一般公開とすべきであるという御意見もございました。   さらに,公示手段としての登記の実効性は,登記情報の全部開示によって担保されるべきであるという御意見もいただきました。   次に,この点にも関連いたしまして,※印の「利害関係人の範囲について」というところでございます。   仮に,二段階の開示制度を採用した場合に,全部の登記情報の開示を受けることができる利害関係人の範囲につきまして,次のような意見が寄せられております。   まず,譲渡人たる法人の従業員や労働組合を利害関係人に含めるべきであるとの意見があった一方で,これに反対する意見も寄せられております。   また,譲渡人の債権者には,自己の債権の引当財産にいずれの動産が含まれ,いずれの動産が譲渡されているかを知るべき合理性があることを理由に,譲渡人の債権者を利害関係人に含めるべきであるとの意見も寄せられました。   さらに,これから動産を譲り受けようとする者を利害関係人に含めることについて,賛否両論の意見が寄せられております。   続きまして,35ページの「(2) 法人登記簿への記載」というところに関しまして寄せられた意見を御報告いたします。   動産譲渡登記がされた際に,登記の概括的な情報を譲渡人の法人登記簿に記載する制度の導入については,これに賛成する意見が若干多かったものの,賛否が拮抗した状態でありました。   法人登記簿への記載に賛成する意見の主な内容は,次のとおりでございました。   法人と取引しようとする者が,登記の概括的な情報を容易に調査できるようにしておく必要があるという御意見。   譲渡人に対する登記事項の変更の履歴を調査し,譲渡人の過去の表示によっても債権譲渡登記の有無を検索することを可能とする,第三者における債権譲渡登記の有無の調査の負担を軽減するという,債権譲渡登記制度における法人登記簿への記載の趣旨は,動産譲渡登記においても妥当するのではないかという意見がありました。   さらに,担保取引の予見可能性を高めるためには,担保権が存在することを広く知らしめる契機となる制度上の工夫を講じることが望ましい,したがって法人登記簿への記載はやむを得ないという見解もございました。   また,法人登記簿への記載に賛成する立場からの補足的意見といたしまして,法人登記簿への記載がいたずらに信用不安をもたらすことがないよう,記載内容について慎重な対応を図る必要があるという御意見もいただいております。   これに対しまして,法人登記簿への記載に反対する意見の主な内容は,次のとおりでございました。   法人登記簿の必要以上の信用情報化は不要であり,弊害も大きいという御意見。   担保目的の動産譲渡が担保提供者の経済的信用に及ぼす影響は甚大であるから,融資と関係のない者も閲覧可能な法人登記簿に登記の概括的な情報を記載すべきではない。   譲渡人が,信用を喪失することを危ぐし,登記による担保設定を拒む可能性がある。   動産譲渡登記情報を法人登記簿に記載することとなると,役員の選・解任,支配人の選・解任,支店の移転等といった登記等を,法人登記に係る登記予定日に行えないリスクが生じてしまう点に留意してほしいという見解もございました。   また,条件付反対意見といたしまして,動産譲渡担保に係る登記事項証明書のオンラインによる検索が容易にできる環境を整備することを条件に,法人登記簿への記載を行わないこととすべきであるとの御意見もございました。   続きまして,「3 その他」について御説明いたします。   「その他」につきましては,動産譲渡登記制度にまつわるその他の意見が多岐にわたって寄せられております。   「(1) 登記事項について」,寄せられた意見は次のとおりでございました。   法的紛争予防の要請,執行実務上の要請から,疑義の生じるおそれの小さい動産の特定方法を検討してほしいという意見や,登記制度において,過剰担保ないし公序良俗違反という実体法上の問題に対して,何らかの歯どめをかけるか否かについても検討されるべきという御意見がございました。   また,動産を特定するための事項については,少なくとも,種類,所在場所,量的範囲,他の同種動産に対する特質によって特定することになると思われる。なお,動産の特定の仕方次第によっては,債務者の財産が広く担保権者に捕捉される結果となり,労働債権を始めとする無担保債権の引当財産を圧迫することになる点に注意を要するという御意見もございました。   さらに,個別動産譲渡担保については,基本的には工場抵当登記取扱手続第6条以下に準ずる特定をすべきであるという御意見もございました。   次に,(2)に移らせていただきまして,真正譲渡について即時取得の適用を妨げない旨の規定を設けるということについても,賛成・反対両論が寄せられております。   即時取得の適用を妨げない旨の規定を設けることについて賛成する意見の内容は,次のとおりでございます。   倉庫内の在庫に設定された動産の担保権の追及効が,対象となった動産が市場で取引される段階にまで及ぶといった懸念を法文上も払拭する必要があるという観点から,工場抵当法の規定を参考に,登記による効力が善意取得に対抗できない旨を明らかにすべきであるという意見や,動産取引の安全性を担保するため,法文上,一般の商取引においては,登記は善意取得を妨げない,すなわち登記の調査義務がない旨の規律を置くべきであるという御意見がございました。   他方,これに反対する意見といたしまして,債権譲渡登記に後行する担保目的譲渡の譲受人が現実の占有を取得するに至った場合にも善意取得できない旨の明文規律は設けずに,この点については実務慣行に委ねるべきであるという御意見もございました。   続きまして,「(3) 経過措置等について」にも幾つかの御意見が寄せられております。   代表的なものといたしましては,既存の担保目的譲渡への対応など,経過措置等について十分な措置を講じるべきであるという御意見や,制度導入時において既に設定済みの占有改定による担保目的譲渡についても,登記優先効の遡及適用を認めてほしいという意見もございました。   次に,「(4) その他」でございますが,次のような御意見がございました。   いかなる場合に登記の調査義務があり,いかなる場合にはないのかを明文上明らかにすべきであるという御意見がありました。   動産の所在地を検索基準とする調査の方法の導入についても,検討すべきであるという御意見がありました。   現存する工場財団抵当制度や鉄道財団抵当制度と不均衡を来さないよう,規定を整備すべきであるという御意見がありました。   この機会に,所有権留保及びリース契約についての登記も検討に値するという御意見もございました。   さらに,今後の企業の資金調達手段の多様化を図るためにも,不動産譲渡に限らず,質権設定の場合においても制度が利用できるよう整備を図ることが必要ではないかと思われるという御意見がありました。   大型機械,自動車など,既に登録制度が存在する動産についても,本制度の対象となるのか否かを明示してほしいという意見もございました。   また,登記の申請手続及び調査手続は簡便なものとし,これらに要する費用も低額に抑えていただきたいという御意見もございました。   このほか,オンラインによって登記事項証明書を取得できる制度を充実させるべきであるという御意見もいただいたところでございます。   続きまして,「第2 債権譲渡に係る登記制度の見直し」について,お寄せいただいた御意見について御報告申し上げます。   制度の見直し,すなわち債権譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律による債権譲渡登記制度を見直し,債務者が特定していない将来債権の譲渡について,債権譲渡登記によって第三者に対する対抗要件を具備することができるようにするものとするという見直しの可否につきましては,意見照会の結果,これに賛成する意見が多数を占めましたが,更に慎重な検討を要するという意見や,反対意見もございました。   見直しに賛成する意見の主な内容は,次のとおりでございました。   通信サービス,クレジット債権,リース料債権,ビル賃料債権及び売掛債権の担保化,流動化等,債務者不特定の将来債権譲渡の必要性が金融実務界に存在するという御意見がありました。   また,集合債権の将来債権譲渡に当たっては,個々の債権や個々の債権の債務者が特定していなくても,他の債権と識別可能な程度に特定していれば,その有効性が認められるべきものと考える。また,実務においても,例えばあるクレジット会社が東京都内に住所を有する者に対して将来有すべきクレジットカード債権という具合に,債務者が不特定であっても,これを債権譲渡の対象とするというニーズは幅広く存在しているという御意見がございました。   さらに,資金調達手段が広がる,特に現在は信用力が低いが,将来性の有望な事業を開始しようとする企業の資金調達手段となるという御意見。それから,登記対象が債務者不特定の将来債権に広げられることによって,流動化,証券化の対象となる指名金銭債権の範囲が拡大し,企業の資金調達力の向上につながることは望ましいという御意見もございました。   続きまして,条件付き賛成意見もございましたので御紹介いたします。   債務者不特定の不動産賃料債権については賛成であるが,特定商品の売掛金債権まで登記の対象とすることには反対である。このように,債権の性質によって取扱いを異にすることが不可能であれば,見直しに消極的であるという御意見もいただきました。   続きまして,更に慎重な検討を要するという御意見もいただきました。   その内容は,債務者不特定の将来債権譲渡の必要性は認められるものの,債務者を特定しないで債権を特定できるのか。債務者対抗要件を無視又は軽視することにならないかといった理論的な問題に加え,債務者及び譲受人の立場からの問題点もあり,かかる問題点のゆえに取引上混乱が生じ,かえってこの制度が利用されなくなる危険がある。そこで,債務者不特定の将来債権譲渡の可否,債務者保護,譲受人による権利行使等の点について,更に検討することを要するという御意見も賜りました。   これに対しまして,見直しに反対するという御意見の主な内容といたしましては,再建型法的倒産処理手続への影響,倒産時の労働債権等の保護の形骸化,一般債権者からの与信の縮小等,第1の動産譲渡に係る登記制度の創設に対する反対意見と同趣旨のものもいただいておりますが,これについては記載を省略させていただいております。   そのほか,債権譲渡登記制度の見直しに特有の反対意見としては,次のようなものがございました。   債務者不特定の将来債権譲渡の有効性について,実体法上の解釈が確立しているとはいい難い。仮にこれが有効であるとしても,例えば債務者不特定の売掛債権の譲渡登記がされ,その後,目的物が二重譲渡され,譲渡に係る債権が併存することになった場合の対抗力の範囲,内容について十分な検討がされているとは思われない。   債権担保は,第三債務者にとって相殺の担保機能を大きく減殺することとなるところ,債務者不特定の将来債権にまで担保権を設定することができるとなれば,第三債務者に不測の損害を与えかねず,その影響は大きいという指摘もございました。   また,債務者不特定という極めて早い段階で将来債権について対抗力の取得を認めることは,対抗要件取得の機会の公平性を阻害し,同時に対抗要件制度そのものの正当性を失わせる。将来債権の特定方法によっては,包括的担保として債務者の一般財産に対する不当な干渉を招来し,同時に,債務者の債権を用いた資金調達等の経済活動を著しく阻害する可能性があるという御指摘もございました。   債務者不特定の将来債権の譲渡可能性や,対抗力の取得について,判例・学説ともに確立しているとはいい難いのであって,実体上その効力は不明確な制度に対抗力のみを付与することは問題であるとの反対意見もいただきました。   さらに,制度の創設につきましては,その他の意見として,債権はその本質上,弁済の責めに任ずる債務者が基本的要素であるから,債務者不特定の債権を担保その他取引の客体とすることの必要性は,正常な経済取引としては考え得ないことであるという御指摘もございました。   続きまして,債権譲渡登記における「法人登記簿への記載」について寄せられた意見を申し上げます。   この点につきましては,法人登記簿への記載に賛成する意見が若干多かったものの,賛否は拮抗した状態でございました。   法人登記簿への記載について,賛成する意見及び反対する意見,それらの主な内容につきましては,動産譲渡登記における法人登記簿への記載に対して寄せられた意見とほぼ同様でございましたので,この点については御説明を省略させていただきます。   続きまして,「その他」については,債権譲渡特例法及びそれに基づく登記制度につきまして,意見が多岐にわたって寄せられております。   まず,「(1) 登記事項について」,寄せられた意見は次のとおりでございました。   登記制度において,過剰担保ないし公序良俗違反という実体法上の問題に対して,何らかの歯どめをかけるか否かについても検討されるべき。また,公的紛争予防の要請,執行実務上の要請から,疑義を生じるおそれの小さい債権の特定方法を検討してほしいという見解がございました。   債務者不特定の将来債権を特定するための登記事項として,債権の種類,債権の発生原因及びその他債権を特定するための事項を記載すべきである。その他債権を特定するための事項としては,物件の所在地,債務者の住所地,債務者の営業地,債権の発生場所,債権が発生する対象物の所在地及び種類,債務者の属性等が考えられるのではないかという御提案もありました。   また,債務者不特定の債権譲渡登記を認めると,譲渡債権の特定が不十分になることが予想され,債務者において自己の負担する債務が登記されている譲渡債権に含まれるのか,債権者において自己の譲り受けようとする債権が登記されている譲渡債権に含まれるのかを判定できずに混乱が予想されるので,譲渡債権の特定が十分されるように登記事項を設計する必要があるという御意見をいただきました。   さらに,譲渡債権の目的物については,譲渡通知の場合に譲渡人・譲受人がその責任で自由に記載するのと同様に,自由に記載することをもって公示させ,その記載可能文字数を大幅に増加するものとし,記号,期日などは任意に記載するといった方向に変更するべきであるという御意見もございました。   続きまして,「(2) 債務者が特定している場合の債務者の記載について」,寄せられた御意見を申し上げます。   この点につきましては,債務者が特定している場合については債務者の記載を要求すべきであるという意見と,要求すべきでないという意見,両論ございました。   記載を要求すべきでないという意見の主な内容といたしましては,債権譲渡登記によって第三者対抗要件を取得する場合,債権譲渡登記の対象となる債権さえ特定されれば足り,債務者により債権を特定する必然性はない。個々の債務者を特定することなく,集合的に債権を特定することを認めれば,債権譲渡にかかるコストが削減され,登記申請事務が円滑化,迅速化することが考えられるという御意見がございました。   他方,債務者が特定している場合には債務者を記載させるべきであるという意見の主な内容につきましては,債務者が特定している場合については,債務者の表示は,譲渡債権を特定する重要な要素であり,それを表示できる以上は,債務者を具体的に表示しない方法を許容すべきではない。現行法上うまく機能している以上,その必要性もないという御意見もございました。   続きまして,(3)の「債務者不特定の将来債権の譲渡につき,後に債務者が特定された段階で債務者を具体的に表示することを許容する制度」についても,幾つか御意見をいただきました。   債務者が特定した時点で債務者名等を登記しなければならないとすると,多大な事務負担がかかるほか,債務者対抗要件を具備しなければならない際に,譲渡人が登記に協力しないなどの理由で債務者対抗要件が具備できないおそれがあるため,債務者名の登記は必須とせず,任意にすることができる制度とすべきであるという意見や,債務者が特定された段階で,債務者を具体的に表示することを許容する制度について,このような追加登記は煩雑であり,債務者不特定の将来債権譲渡の利用を妨げることになるという観点から賛成できないとする意見もございました。   次に,(4)でございますが,「「譲渡に係る債権の総額」の記載について」も意見をいただきました。   主な意見は次のとおりでございました。   見積額では意味がないし,かえって誤解を招く場合もあり得るから,将来債権の譲渡登記において,譲渡に係る債権の総額,発生時債権額及び譲渡時債権額は任意的記載事項とすべきであるという御意見がございました。   また,将来債権については,将来発生する債権額についての合理的見積総額,カードローンのような借入極度額の定めがある場合は極度額のいずれかによる記載を認めるようにしていただきたいという御意見もございました。   さらに,譲渡に係る債権の総額については,累積額を記載すべきか残高を記載すべきかについて議論が統一されておらず,混乱を招きかねないから,登記事項から除くべきであるという御意見もございました。   続きまして,(5)の「利害関係人の範囲について」,御説明いたします。   法人の従業員等を利害関係人に含めるべきであるという意見について,賛否両論が寄せられております。   賛成意見につきましては,先ほどの動産譲渡のところで述べたところと同様でございました。   反対意見につきましては,従業員が登記事項証明書を取得して不正に利用する可能性があり,個人情報保護の観点から問題があるという御意見もございました。   続きまして,(6)でございますが,「現行の債権譲渡登記制度に関する意見」についても様々なものをいただいております。   主なものは次のとおりでございました。   実際の契約と登記との乖離を防ぐため,記載可能文字数を増加し,記号,期日等を任意的記載事項とすべきである。   備考欄の文字数を増やしてほしい。   債権譲渡登記に際し,債権の特定のために記載する債権コード分類の記載方法を見直してほしい。具体的には,将来債権について現在のコード分類のうち複数をまたぎ得る場合にも対応することができるようにしてほしいという御意見がございました。   また,現行債権譲渡登記の閲覧は,法務局中野出張所のみで受け付けられているところ,これ以外のできるだけ多くの法務局,出張所においてもこの制度を運用してほしいという意見や,現状の抹消登記は弁済,解除,取消し等を登記原因としているところ,信託を原因とした登記を行った場合には,委託者へ信託財産を交付する場合において,当該信託譲渡の登記を抹消できる旨を明確化してほしいという御意見もございました。   (7)の「その他」でございますが,次のような意見がございました。   債務者が,登記事項証明書に記載された債権が自らの負担する債務を指しているか否かの判断に困るケースが増えるものと思われるから,より簡便な供託の利用や,債権の準占有者への弁済の適用範囲の拡張等,債務者保護の方策が求められるという御意見や,債務者不特定の将来債権の譲渡については,当事者の一人である債務者が特定されていないことから,将来債権の譲渡の真正担保と有効性確保の必要があり,債権譲渡登記をするに当たっては,改正不動産登記法の考え方を取り入れ,債権発生原因を証明する情報の提供を義務付ける必要があるという御意見もございました。   意見照会の結果の御報告は,以上でございます。 ● 席上配布でこの意見照会結果の正誤表も入っておりますので,あわせて御参照ください。   それぞれの寄せられました意見に関しまして,質疑あるいは御意見等あろうかと思いますけれども,これは追ってそれぞれのテーマについて御議論いただくときに御意見を述べていただければというふうに思います。   形式的な点につきまして,何か不明な点等ございましたら……。 ● 取りまとめで,1案か2案かというときに,2案の方が多かったという取りまとめになっていましたけれども,数えてみますとA1の方が23で,A2の方が26ですが,2の方は個人が5人ぐらい含まれていますので,認識としてはそれぞれ意見が分かれたという認識で進めるべきじゃないかと思ったので……。数の問題でありませんから大したことではないのですが,取りまとめだけその文章が残ってしまいますと,若干不正確だろうと思いますので。この点はそれぞれの意見が相半ばしていたという認識ではないかと思いますが,その点確認させていただきたいと思います。 ● 今,2案が26とおっしゃられましたでしょうか。 ● 26じゃないのですか。 ● 個人が16件ありますので合わせますと41件です。 ● そうしますと,団体と個人の数の関係で,そういう形で数えていくと多くなったということだとすると,ますますちょっと問題だと思いますので。 ● 形式的には2案が41件,1案が23件となっていることを御報告申し上げたものでございます。決して何か意図的にやろうとしたわけではございません。 ● ほかにはよろしゅうございますか。   それでは,次は部会資料6-1でございますけれども,ここで休憩をとらせていただいて,その後に部会資料6-1についての御説明と御議論をいただきたいというふうに思います。             (休     憩) ● 再開いたします。   それでは,部会資料6-1に基づいて御説明をいただくことにいたします。   まず最初に,第1についての説明からお願いいたします。 ● まず,資料の表題でございますが,今回の表題は「要綱案のたたき台(その1)」としております。8月24日に予定されております要綱案の取りまとめに向けまして,これから詰めの御審議をお願いするわけですが,これはその題材となるものです。   イメージといたしましては,資料のゴシック部分のところが最終的に要綱案として残るというイメージでお考えください。   では,資料の説明に移ります。   第1は,「動産譲渡に係る登記制度の創設」についてでございます。   まず,制度自体の創設の可否につきましては,意見照会の結果では,立法目的を達成するための必要最小限の法整備にとどめるべきであるといった留保をつけるものがございましたけれども,賛成する意見が大多数を占めました。   他方,これに反対する意見の主な理由としましては,1ページの(1)アの①から④までにまとめておりますが,これらの意見につきましては,検討の結果,いずれも問題があるのではないかと考えられます。   その理由につきましては,2ページのイを御覧ください。概略を申し上げますと,反対意見の①ですが,動産譲渡登記制度を創設した場合における譲渡人の倒産時の弊害を指摘するものでございます。確かにこの制度が創設され,浸透した場合において,譲渡人が破産したときには御指摘のような弊害,そのような事態が生ずる懸念もございますけれども,そもそもこの制度は,動産担保の実効性をより一層高め,企業の円滑な資金調達を図ることを目的としたものでございます。すなわち,本制度を利用することによって,従来の不動産担保や個人保証に依存した資金調達方法では資金繰りに窮し,倒産せざるを得なかった企業の一般債権者や労働者は,倒産手続の範囲内でしか支払いを受けることはできませんでしたが,このような企業であっても,担保価値のある動産がある場合には,本制度を利用することによって事業資金を確保し,倒産を回避することができることとなります。その結果,一般債権者や労働者は,倒産処理手続によることなく,より多くの支払いを受けることができることとなり,必ずしも一般債権者や労働者の保護に欠けることにはならないと考えられます。   また,現行法制のもとでは,再建型倒産処理手続に入った企業が,在庫商品等の動産を担保として,いわゆるDIPファイナンスを受けようとしましても,動産譲渡担保の公示制度の不備等の理由から実現することができないといった指摘が,マイカルや長崎屋の事例を通してされておるところですが,本制度を創設することによって,担保価値のある動産を担保に供していない場合には,いわゆるDIPファイナンスが受けやすくなるといった効果もあるものと考えられます。   次に,②は動産譲渡登記の公示によって信用不安が生ずるおそれがあること,また与信が喪失ないし減少するおそれがあること,更には動産譲渡登記制度を創設する具体的ニーズは高くないのではないかといった御指摘でございます。   このうち,信用不安のおそれにつきましては,債権譲渡登記制度においてその最大の原因であるとかねてより指摘がされておりました法人登記簿への概略的事項の記載は,今回行わないこととして,後ほど御審議いただきますように,仮称でございますけれども「動産譲渡登記事項概要簿」といったものを用いた新たな開示制度を設けることを提案しております。このような開示制度によれば,法人登記簿に登記情報が記載されないことから,法人登記簿の謄本をとった際に,すべからく動産譲渡登記の有無まで知られるということはなくなり,譲渡人の信用不安を生じさせることもなくなるものと考えられます。   もっとも,このような新たな開示制度を用いたとしましても,概括的な登記情報は何人に対しても開示されますので,積極的に信用情報を調べようとする者に対しては,動産譲渡の有無は知られることとなります。しかしながら,この登記制度の創設後,動産譲渡担保というものは不動産担保と同様に,一般的な資金調達手段の一つにすぎないのだという認識が経済界において一般的になるのに伴い,動産譲渡の登記があるからといって直ちに信用不安につながるといったこともなくなっていくものと考えられます。   次に,事業者間の与信が喪失ないし減少する原因として,意見照会では動産譲渡の公示による信用力の低下による支払サイトの短期化や動産担保の増加に伴う一般債権者への引当財産の減少といったことが挙げられておりました。この点につきましても,まず登記情報の開示方法については,これも後ほど取り上げますが,いわゆる二段階方式を採用しております。その結果,通常の取引先は登記の概括的な情報しか知ることができないということになりまして,これをもって直ちに信用力が低下して支払サイトが短くなるとはいえないのではないかと考えられます。   また,通常の与信におきましては,債務者の引当財産のみを考慮するのではなくて,債務者の財務状況や成長力,さらには経営者の人柄等を総合勘案して,与信の可否を判断しているといわれており,本制度の創設に伴う引当財産の減少から,直ちに与信が減少ないし縮小するということにはならないと考えられます。   具体的なニーズにつきましても,当部会のこれまでの御審議において,本制度の創設は企業の資金調達の円滑化の観点から歓迎すべきものである旨の御発言があり,また昨年実施されました経済産業省のアンケート調査によれば,事業会社の半数以上がこの制度を作ることが望ましいと回答していることからも,具体的なニーズも高いと考えられます。   次に,③の御意見ですが,これは動産譲渡登記制度と対抗要件や即時取得などの既存の制度との調整の困難を指摘するものでございます。   この問題につきましては,これまでも当部会において御議論いただき,また意見照会の結果におきましても,真正譲渡については即時取得の規定の適用を妨げない旨の規定を設けるべきであるとの意見が複数寄せられているところでもありますので,今後はそのような寄せられた意見をも踏まえまして,動産取引の円滑化を阻害することがないように,制度設計の検討を更に進めていくこととしたいと思います。   最後に④ですが,これは動産譲渡登記制度の効果について疑問を呈するものでございます。従来,動産譲渡担保が積極的に利用されてこなかった理由としましては,まず公示制度が不備であること,それから担保目的である動産の評価,管理,処分が困難であることなどが挙げられていました。このうち,本制度の創設によりまして,公示制度は整備されることとなります。また,動産の管理等につきましても,意見照会において寄せられた意見ですが,それを専門とする会社の設立を準備しているといった意見も寄せられており,更には既にそのような専門業者を利用した日本政策投資銀行による融資事例も報告されております。また,制度創設の暁には,債権譲渡担保における売掛債権担保融資保証制度と同様の制度を動産譲渡担保についても創設することが考えられているところでもあります。このような諸事情からすれば,動産譲渡登記制度を創設することによって,公示制度の不備を補うことができれば,動産譲渡担保を利用した適正な債権者による新規融資が活発に行われることとなると考えられるところです。   以上が,制度創設に反対する意見に対する検討でございますが,この点につきまして実務的な観点,更には理論的な観点から御審議いただきたいと思います。   次に,仮に動産譲渡登記制度を創設するとした場合には,4ページのウに記載しましたような措置をすべきであるとの意見が寄せられております。これらの意見は,いずれも本制度の創設に伴うデメリットとして指摘されております労働債権の確保を何らかの形で図るべきであるというものであり,その重要性については事務当局としても十分に認識しているところでございます。   まず①でございますが,この意見は,実体法において労働債権の一部について抵当権等に優先させる制度を新たに創設すべきであるとの御意見でございます。しかしながら,このような制度を設けるとしますと,5ページに記載しましたとおり,抵当権者等に不測の損害を与えることとなり,事業者の事業資金の調達に悪影響を与えるのではないかといった問題があると考えられます。   次に,②の意見のうち,労働債権に基づく一般先取特権による差押えの優越という御意見がございますが,その意味するところは,労働債権に基づく先取特権による差押えがされた場合には,先行する他の差押え等に対しても優先させるべきであるとの考え方であると思われます。しかし,そのような優先効を認めるためには,実体法上も優先的地位が認められていることが必要であると考えられますが,先ほど述べましたとおり,労働債権を他の担保物権に優先させる制度を設けることには問題があるということから,このような差押えの優越を認めることもまた同様であるといわざるを得ないと考えております。   次に,②の意見のうち,労働者代表の事前同意という意見がございますが,これは事業者が動産譲渡担保を行う場合には,事前に労働者代表の同意を得なければならないといった制度を設けるべきであるとの意見であると考えられます。この点につきましては,動産譲渡担保契約というのは事業資金の調達のために機動的に行う必要があるのが通常でありますが,これに対して,一律に労働者代表の同意を得なければならないとしますと,その機動性を阻害するのではないかといった問題などがあると考えられます。   以上述べましたように,寄せられた意見の内容を直ちに実現するには,現時点では乗り越えなければならない問題が多いと考えられますが,これらの意見のほかにも,本制度を創設するに当たっては,何らかの労働債権保護の制度の整備や,労働者代表等の関与を認めるべきではないかとの意見が寄せられております。本制度を創設するに当たりましては,企業の資金調達の円滑化が図られるといったメリットが得られる反面で,御指摘のようなデメリットが指摘されているところでありまして,そのようなデメリットを解消する必要性があることはもっともなことだと考えられます。   この点につきましては,動産・債権譲渡の公示制度を整備するという当部会の守備範囲でどのような対応ができるのか,更にはその範囲を超えてもなお検討しなければならない問題点があるのか,本日限りの審議で終わらせるというわけではなく,事務当局としても引き続き真剣に検討しなければならないと考えております。お集まりの委員・幹事の皆様方におかれましても,その具体的な方策やアイデア等につきまして,言葉は悪いですけれども,思いつきのようなものでも構いません,様式についても本日の審議会での御発言だけではなく,後日メールや口頭でお知らせいただくという方法でも全く構いませんので,是非幅広い御意見をお聞かせいただければと思います。   続いて,6ページの(2)の「登記の対象となる譲渡の譲渡人を法人に限定することについて」という問題点につきましては,意見照会の結果,一つの団体を除いてすべてが賛成意見でございました。   反対意見につきましては,6ページの(2)記載の理由で採用することは難しいと考えております。   また,(3)の「登記対象となる動産を個別動産か集合動産か問わないとすること」につきましても,意見照会の結果は反対意見は寄せられませんでしたので,中間試案の考え方を維持しております。   それから,最後(4)でございますが,最大の論点でございます登記の効力等につきましては,問題の重要性と時間の関係上,申し訳ございませんけれども次回に検討する予定としておりますので御了承いただきたいと思います。以上でございます。 ● これは,部会資料5にありましたものの第1の柱書きに該当する部分の御説明でございました。   「動産譲渡に係る登記制度の創設について」というところから御意見を伺っていきたいと思いますけれども,どうぞ御自由に御発言をお願いいたします。 ● 今,事務局から若干コメントつきの御説明がございましたが,動産登記制度の創設と労働債権等のバランスが非常に崩れる,実体的に崩れるということについて,意見を持っておりますので,ちょっと時間をとらせていただいて恐縮ですが,幾つかメモをつくってまいりましたものですから,発言させていただきます。   今回の創設について,一番言いたいことは何かというと,倒産時における労働債権や一般債権者の保護に欠ける点,それから再建型倒産処理手続を有名無実化させる懸念など,倒産時の弊害が大きいことについて,先ほどのパブリックコメント等でも労働関係はもちろん,弁護士関係,裁判所と多くの意見が寄せられておるところでございます。   これらの弊害をどのように克服し得るかについて十分な検討を行った上で,このような弊害を克服し得る制度設計をあわせて提起する必要があると思います。難しい場合は,現時点でのこの制度の導入は見送るべきであると思います。   これが基本的なスタンスでございまして,以下,先ほど御紹介のございました2ページのイで,採用することができないという理由が書かれてございますので,この点について一応意見を述べたいと思います。   基本的にはこの説明は納得し難いということでありまして,まず前段のところで,制度の創設自体については賛成する意見が大多数を占めたとあるけれども,先ほど申し上げましたように弊害が大きいことを中心に多数の意見が寄せられておりまして,これらを無視すべきではないというふうに考えます。   まず1点目でございますが,イのところの説明ですけれども,多分ここで寄せられている倒産時の弊害が大きいという意見の趣旨は,いわゆる制度が提示をする枠組み,すなわちこの動産譲渡登記制度が利用された場合を前提として,倒産という事態に立ち至った場合に,労働債権保護等とのバランスを欠くこととなるのではないか。更に言いますと,実体面のところを配慮しつつその保護のバランスを適正にとる必要が政策的にあるのではないか。更に言うと,このようなことが不可能であれば,やはりこれは実体面の公正性を欠くことから,制度は入れるべきではないのではないかというような意見なのではないかというふうに理解をされております。   しかしながら,イのところでは,これら提起された制度の姿において,これらのバランスの変化についてどう判断をし,どのような対応をする必要があるかということについては一切触れられておりません。多分この点について論議をきちんとして,否定をするのであれば答えを出す必要があるのではないかというふうに思います。   あと,幾つかちょっと,かなり揚げ足取りみたいにとれるようなことで恐縮なんですが,これはちょっと私の理解が悪いというふうに思って勘弁してください。   まず,その点で申し上げますと,「これまで倒産せざるを得なかった企業」と,その後「すなわち」以下では資金繰りに窮している企業ということが例に挙げられているわけですが,こういう企業が動産譲渡登記制度を利用することによって事業資金が融資され,倒産が回避されると考えられると,必ずしも一般債権者や労働者の保護に欠けることにはならないとされているわけですが,たとえそのような例--倒産せざるを得なかった企業に事業資金が融資され,倒産が一時的にではなく回避される例ということはあり得るとしても,一方で一時的に倒産が回避されたとしても,その後倒産のやむなきに至ることも多く懸念をされるということから,倒産局面における労働債権等の保護とのバランスを図る措置を講じる必要がないのではないかということは適当ではないということで,これは先ほど事務局の方の説明の中に若干補足の趣旨がありましたが,そういうことであります。   特にその点では,更に現実の見方の問題でございますが,経営が悪化するもとで,不動産等の資産が担保にとられ,動産を担保に供しなければ,しかも現在ある動産譲渡という仕組みだけではなくて,あえて公示を求めて供しなければ融資が受けられない状況に立ち至った企業というのは,実体的には一時的に倒産を回避し得ても,いずれは倒産に至る可能性が高いというのが残念ながら現実に近いのではないでしょうか。この点への配慮が不可欠であるということであります。経営が悪化するもとで,動産を担保に融資を受けることによって会社が続くから,後段の一概に労働者の保護に欠けることにはならないということの現実的な当てはめの妥当性は,どうも疑問があるように思います。   それから,関連してその2点目は,これは私の思い違いかもしれませんが,ここで書かれているスタンスが要綱の中間試案策定までの論議経過と乖離をしているのではないかということを一つ感じました。中間試案策定までの議論においては,いわゆるニューマネー・オールドマネーという論議があったように思っております。動産譲渡登記制度の創設ということについて,動産以外に目ぼしい資産がなくて融資が受けづらい,かといって,企業経営が決して困難に直面しているわけではなくて,事業として発展の見込みがあるいわゆるニュービジネス,そういったようなところに資金が円滑に流れる仕組みが必要であるという前向きな制度整備の議論の必要性が多く指摘されていたように感じます。   一方,企業経営が悪化するもとで既存融資の振替えなど,債権回収を目的とする手段に利用される,いわゆるオールドマネーの懸念というのも,あわせて議論になったところです。そのときの議論は,これは私の解釈が違っていたのかもしれませんが,オールドマネーの弊害を押さえ,ニューマネーを促進する方向でこういうことを考えて検討していきましょうということであったのではないかと思いますし,実際,経営者団体,あるいは委員の方からのそういう適正な企業行動を含めて意見表明があったもので,基本的にオールドマネーではなくてニューマネーを中心のものとする趣旨の意見があったように思っております。しかるに,ここに出されている説明というのは,資金繰りに窮して倒産せざるを得なかった企業ということを取り上げ,この制度が適用されることの意味効用を強調しており,これらのことを採用し難い理由とするというのは,どうもこれまでの議論とは違っているのではないかというふうに思います。   それから,個別的に「すなわち」以下の考え方でありますが,ちょっと理解をしにくいところがございますので,若干補足をしていただければ有り難いと思います。   まず,先ほど申し上げたことと重複をいたしますが,倒産を回避することができる企業というのがどの程度あるのだろうか,それに対するいわゆるこれは政策的意図ということになると思いますが,それには当然現状判断があるわけでございまして,それについて明確にされる必要があるのではないかと。ここでは,従来の不動産担保や個人保証に依存した資金調達方法では資金繰りに窮し,倒産せざるを得なかった企業にとってメリットがあるということだと思いますが,現行でも動産譲渡担保による資金調達は認められており,動産譲渡登記制度の創設によって新たに融資されることによって倒産を回避し得るのはどういったような企業なのか,どういうふうに考えるか,これも明確にされるべきではないかと思います。   それから,次にここでの趣旨は,この文章で「担保価値のある動産を担保に供していない場合には……,必ずしも一般債権者や労働者の保護に欠けることにはならない」と,こう書かれているわけでありますが,そもそもこの制度創設の趣旨は,動産譲渡登記制度が利用されていく--当然利用を促進するということですから--ことを前提として,その場合の法的,現実的な効果を中心に論議がされるべきであるというふうに思いますけれども,この制度が利用されていない場合を前提にしてこういうことを言った上で,保護に欠けることにはならないとしている点であります。最初と同じことになるかと思いますが,この制度を利用したことを前提にして,バランスが崩れないのかどうかということについて,きちんと議論すべきだというふうに思います。   それから,この制度を利用することによって倒産を回避し得ることとなって,一般債権者や労働者は倒産処理手続によることなく,より多くの支払いを受けることになるということの意味でございますが,まず必然的に倒産が回避されるのかどうかということについては,先ほど申し上げたどういうことを考えるのかということでありますが,同時に,一時的に倒産を回避しても倒産のやむなきに至った場合--このようなケースも多く発生すると考えられますが--このような場合が利益ということでどの程度当てはまるのか,一般債権者や労働者がより多くの支払いを受けることとなるのかというのは,どうも明らかでないように思います。   手前みそですが,労働債権について言いますれば,仮にここで倒産が回避されることによって企業が存続をするということであっても,存続した後労働を提供して賃金をもらうというのはこれはあくまでも労働としての対価をもらっているわけでございまして,ここでの趣旨はそのような賃金のことまで含めて支払いがより多くなるという趣旨ではないと思いますが,どうもそのようにちょっと誤解をされるので,ここはきちんと区分けをすべきだと。   そうすると,逆に言うと,企業は存続してもむしろここで想定をしているような,ここで融資を受けなければつぶれてしまうということを想定しているところで考えれば,資金繰りに窮している企業においては,むしろ逆にその間未払い賃金が発生をする,労働債権としては新たに発生をする,若しくは膨らむという可能性の方が高いというのは,どうも通常の現実的な理解のような気がいたします。逆に言うと,通常債権は膨らむが,その部分をきちんと労働者に配分されるのでしょうかということであります。   破産等の倒産手続に比べて,多くの支払いを受ける可能性があるというふうに書かれていますけれども,そのことは必ずしも明確ではないような気がいたしまして,こういう可能性があるのは恐らく企業業績が融資によって向上して,企業自身の債務支払能力が高まる場合,これは当然そういうことにはなるでしょう。それか,あるいは不幸にも業績が改善しない場合には,いわゆる再生手続がとられる。あるいは,その間,企業が伸びている間において,各社の債権者がいわゆる分捕り合戦をやって,自分だけ多くとろうとする機会が与えられるというようなこと以外にしか,余り多くの支払いを受けるというケースは考えられないのではないかと思います。したがって,この動産譲渡登記制度によって倒産が回避されるケースが出たとしても,企業の債務支払能力自身が高まって,債務支払いが実行されるかどうかについては定かではない。改善しなかった場合は,債務者間の分捕り合戦となるので,説明のように倒産が回避できればより多くの支払いが受けられるということは,明確ではないのではないかと。これが明瞭であるかのように御説明をされているのですが,一部そういう可能性があるがゆえに,保護に欠けることにはならないという考え方はどうも納得ができないような気がいたします。むしろ,労働債権については,この動産譲渡登記制度が使われることによって,一時的に倒産が回避をし得ても,倒産のやむなきに至った場合には,より少ない支払いしか受けられない,逆に言うと保護に欠けると考えられるのではないかということでございます。これは(1)のアの理由についてよく分からなかった点でございます。   それから,一方,再建型倒産処理手続が有名無実化するのではないかという懸念がまた多く寄せられたところだと思いますが,この文章を読んでいると,前と同じ理由で採用できないと書いてあるのですが,この中で,これを退ける理由というのが記載をされているのかというと,どうもよく書かれていないのではないかというような気がいたします。   「また」以下のところで,いわゆるDIPファイナンスについて,動産譲渡登記制度によってDIPファイナンスが受けやすくなるという事実上の効果というか効用が指摘をされておりますけれども,これが退ける理由に当たるのかどうかということは,にわかに判断し難いところでございます。   また,DIPファイナンスについては,きちんとした定義があるのだと思いますが,今ではいろいろな解釈がされているのだろうと思います。本来この部分は,再建型の倒産手続の中の扱いできちんと枠を決めて論議をすべき問題であるというふうに考えますが,これをそのような再建型倒産手続の中でなくて,債権担保法の動産譲渡登記制度の文脈で論議するということについては,むしろDIPファイナンスについての考え方を含めて非常に議論というか,政策方向を混乱することになるのではないかと思っております。動産譲渡担保の公示のないことが,DIPファイナンスをどういう意味で使うかにもよりますが,DIPファイナンスの決定的障害であるのかどうかということについても,これはあくまでも障害があったという例が書かれているだけでございまして,決定的障害かどうかということ,しかも公示制度のないことがDIPファイナンスの決定的障害かということについては,余り明らかでないような気がいたしております。   以上が前段の,労働債権等の保護に欠ける指摘があるが,これをなかなか採用することができないという,本日の資料に対する意見でございます。   今の御説明では,その後6ページ近くのところまでまいりましたので,よろしければそちらに係る部分も一緒に発言させていただければと思います。   したがって,また意見の要旨を整理いたしますと,倒産時における労働債権や一般債権者の保護に欠ける点,再建型倒産処理手続を有名無実化される懸念など,倒産時の弊害が大きく,その弊害を克服し得る検討を行った上で,弊害克服の制度設計をあわせて提起することが難しい場合は,導入を見送るべきであるという主張でございます。   この趣旨は,こういう趣旨が書かれて,これは採用することができないと書かれているので,1回整理をしたいと思いますが,まず動産譲渡登記制度の創設によって,この制度を利用し倒産に立ち至った場合に,労働債権の確保は極めて厳しくなる,これが実態であろうというふうに思います。したがって,倒産に立ち至った場合の労働債権の保護を図る措置を政策的な配慮として講じるべきであるというのが,こういう措置を講ずるべきであるということの背景であります。   動産譲渡登記制度の創設の趣旨については,企業の円滑な資金調達を促進するという政策的な意図によるものだと,動産担保の実効性を高めることで,現実の動産譲渡担保を促進させることを目的としている。これは,単に手当てとしては公示制度の整備かもしれませんが,実体的にかなり大きな変化を及ぼすものである。一方で,従来から労働債権の保護については,これもいわゆる政策的な配慮ということで一般先取特権としての一定の保護が与えられておりますが,担保物件は一般先取特権に優先するために,実体上は担保物権の範囲が拡大すればするほど一般先取特権で保護される範囲というのは縮小していく関係になります。   動産譲渡担保を現実的に促進させていくという政策は,とりわけ倒産等の局面において実質的に労働債権として保護される資産が減少することとなり,従来の労働債権保護の政策的意図は後退をするということになります。   しかしながら,労働債権を保護すべきという政策的要請については,現在のような社会,雇用関係のもとで働く労働者が国民の大多数になってきている,また産業構造が国際化等の中で非常に変化をし,倒産等のリスクがかなり高まっているということからすると,実体的には保護の重要性というのは高まっていると理解をすべきだろうと思います。また,このような理解も含めて,前回の担保・執行法制部会等においても労働債権の扱いについて,拡大する方向で議論が行われたわけであります。   今度の制度にかかわる問題ですが,現実には倒産等のやむなきに至った場合に,ほとんど動産とか売掛金とか,そのぐらいしか労働債権確保の原資としては残されていない場合というのが,これは実体的なところでございます。にもかかわらず,実際はこういった企業でも倒産の危機に直面した企業の労働者というのは,多少給料の遅配とか欠配があっても,やはり会社存続のために我慢して懸命に働いているというのが実態であろうと思います。これはオールドマネーの議論でありますが,債権回収の手段として動産譲渡担保登記制度が使われるということになれば,この点で勤労者の保護に大きく欠けることとなり,このバランスを悪化させないという政策的配慮が不可欠だろうと思います。ここでは否定されておりますが,このような政策的配慮から,実体法上の手当てを講じるということも否定すべきではないというふうに思います。これがメーンの理由であります。   これに加えまして,今までの議論との政策的な文脈ということで考えました。このような理由,実体法上保護のバランスを欠くということに加えて,仮に労働債権の保護などを厚くして,そのことによってニューマネーではなくてオールドマネーに流れてしまうという懸念を払拭をする,いわゆる債権回収を目的として制度の悪用--利用ですけれども,実は趣旨から見て悪用だと思いますが--を制限をするという仕組みが可能なのではないかと思いまして,このようないわゆるニューマネーを中心とした全体の資金の流れを政策的に求めていくということでありますので,これは経営者の人的保証や債務者の引当財産のみを考慮するのではなくて,債務者の財務状況,成長力,経営者の人柄等,総合的に勘案をして与信が行われるという,資金調達の円滑化を目指す本来の政策目的にかなうものではないかというふうに考えます。   仮にこの動産譲渡担保公示制度が,専ら与信のいわゆるニューマネー拡大ということではなくて,債権回収の手段として使われるようになるということでありますと,これはここで議論していた政策的意図を大きく裏切ることになりますし,先ほどの企業の成長力等によって,いわゆる引当て等によらない資金供給を考えるという政策についても,大きく矛盾をする,裏切られるということになるのではないかと思います。また,そのこと自身が勤労者にとって大きな損害をもたらすということも,これは事実であります。   これが基本的な考え方であります。一般先取特権等による差押えを優先させるとか,そういったような仕組みを中心に考えておるということでございます。   ここはもう専門家の世界で,私どもは非常に素人でありますから,余り理解がつかないところでありますが,素人なりに考えたことをあと3点言わせてもらいます。   ここで言う動産の譲渡担保を促進するということは,通常いわゆる流動集合動産譲渡担保が主となる,当然実務の使いようではそういうことになるのだろうと予想をされますが,もともと動産とか債権というのは不動産に比べれば,その持っている価値自身が余り大きなものにならないのが実態だと思いますので,そういうものを担保化する場合,どうしてもその範囲が大きなものになるということは当然予想されるのだろうと思います。そうすると,いわゆる動産などは経営体としての事業活動についてその生殺与奪を支配するという強力なものになりかねないということでございます。再建型倒産手続等の企業存続に与える影響も大きいですし,実質上,そういう担保権の実行によって営業活動が停止をし,労働者が,あるいは勤労者が解雇等により職を奪われる可能性が出てきます。このように影響が大きいものだと思います。この点からも,労働者保護とのバランスを実体的には政策的に確保することが必要なのではないかということであります。また,いわゆる再建型倒産手続との整合性ということについて検討して,必要であれば,再建型倒産手続についてもきちんとした見直しをしていくということがされるべきではないかと思います。   それから,動産譲渡担保権者がこのような強力な力を仮に持つといたしますと,当然債務者との交渉上の力関係からいって,かなり生殺与奪に近いものを握るということになるのでありますから,交渉上,経営に関わる相当量の情報を債務者から入手をするということが容易なのであろうと思います。これまでの議論でも,いわゆるモニタリングということがこれから資金の流れということを含めて方向性として提起をされた,その一つとして動産譲渡担保を活用し得るのだといったような御指摘もあったと思います。このような状況にあると,賃金の未払いや退職金債務等労働債権の状況,発生の見込みについては,担保権者はある程度予測がつくのではないか。少なくともいわゆる企業の形態を基本に置いて,そこで金を貸すわけですから,その間の経営状況について相当程度の見通しを持って貸すというふうに考えられます。したがって,その中で労働債権等を中心とした企業経営の基本的な状況は,予測し得ると考えられますので,一定程度の労働債権についてこれを政策的に優先させて保護するということが必ずしもここで指摘をされるように不測の損害を与えるということにはならないのではないかと思います。   それから,流動集合動産譲渡担保を実体的に促進をさせるという政策的判断でありますが,ここで言うと公示制度だという議論はあるのかもしれませんが,動産譲渡担保についての課題は,多分実務を含めてかなりいっぱいあるのだろうと思います。否認権の関係とかよく議論がされるようですが,私は専門家ではないのでちょっとシンプルに申し上げますと,新たにいわゆる流動集合動産として加わる製品や在庫等については,その価値の形成については将来分の労働の対価が寄与しているということは,多分当たり前のことなのだろうと思います。それらについて,登記の時点で対抗要件を与えて,第三者対抗要件を労働者に対して与えてしまうということについては,どうもこれは非常に労働債権保護とのバランスを欠くというか,非常に公正的ではないのではないかというふうに思います。これは,将来債権にかかわる部分と若干同じ論点でありますが,このようなことが,やはり労働債権に優越を与える政策的配慮を加えるという基本的な根拠,理由ではないのかと考えます。   ここで,実体法において労働債権の一部において抵当権,根抵当権,質権等に譲渡担保等に優先させる制度,ここで言うウの①について,受け入れることができないということが書かれております。この部分について,以下,先ほど申した基本的な保護制度を作るべきという政策の考え方と若干重複する部分がありますが,もう一度整理をして意見を述べたいと思います。   まず,ウの①でございますが,この意見については労働債権は近年の動向からますます保護すべき政策的必要性が高くなっているというのがまずこれを提起する理由だろうと思います。動産譲渡担保が一層進展をする,あるいは将来の債権譲渡に対して対抗力を与えるということが進む中で,労働債権の保護はますます形骸化をするということであります。社会の構成員の大多数が勤労者となる産業社会において,実体的に保護の必要性があるのではないかということでございます。   労働債権というのは,基本的に企業組織にかかわった,いわゆる企業としての産業社会の問題であります。従来の私人間の関係を軸とした民法というのも,当然ながら社会の発展によって,いわゆる産業社会の法にその性格を変えつつあるというふうに見るべきであると思いますし,今回提案をされている公示制度の創設も,企業の資金調達を多様化,円滑化しようという産業社会の要請の中で修正を加えようと出されているものであります。従来の経営者の人的保証や不動産などに頼った資金融資の悪弊を是正し,債務者の引当財産のみを考慮するのではなくて,債務者の財務状況,成長力,経営者の人柄等,総合的に勘案して与信が行われる資金調達の円滑化ということが要請をされているということであります。   この説明,エの反論のところでは,いわゆる抵当権者等の担保権がその設定時には認識することができない労働債権に優先されることになると,抵当権者等は,抵当権等の設定後に生じた事情によって自己に優先する支払いがされることになるので,不測の損害を与えることになる,だから困難ということでありますが,このような産業社会の進展等,あるいは実際のニーズということを考えると,この前後関係の不測の損害という考え方は必ずしも現実の個別の部分によって修正されてもよい考え方なのではないかと思います。   それから,「また」以下の事業資金の調達に悪影響を与えるという反対理由でありますが,これを余り強調すると,いわゆる債務者の引当財産のみを考慮するような融資姿勢を助長しかねない。現在求められている,先ほど申し上げた政策の資金の方向性ということには,整合的ではなくて,逆に何か矛盾するようなものであるというふうに考えます。モニタリング等の要請があったように,担保権者は,事業活動の把握など,債務者に対して優位性がますます強くなりつつあるというのが現状だろうというふうに思います。とすれば,雇用関係の本質的性格から,当然労働者は経営者に担保なんて求めることはできないわけでございますし,またその実際の発生が,倒産直前というような労働債権を政策的に強く保護をするということがあったとしても,そのことが担保権者にとって一方的に酷であるというようなことにはならないのではないかと思います。   この度の動産譲渡担保公示制度の創設,あるいは将来債権譲渡等を可能にする制度の創設によって,実体的に担保権としての進展がなされることとなれば,やはり労働債権を優先させる制度の創設,あるいは包括的な調整手続の導入ということについても,改めて検討される必要があるのではないかと思います。   なお,動産譲渡担保や将来債権の担保化というのは,経営の先行き判断,動向と密接にかかわる問題でありまして,そういうことを考慮しにがら担保設定が行われることが通常でありますから,従来の議論で不測の損害だといったようなことも一定程度当然甘受すべき事態が生じてくるのではないかと考えます。少なくともこれらの検討ということについて,現在の状況を踏まえ,また同時にこの制度が提起をしている政策的意図ということも踏まえて,きちんと検討していくべきではないかと思います。   それから,次にウの②の方でありますが,動産譲渡担保制度の公示制度の創設や将来債権譲渡を可能とする制度の創設に当たっては,同時に労働債権に基づく一般先取特権による差押えの優越,労働者代表等の事前同意などの措置を設けるべきであるという意見と,その反論について申し上げます。   まず,いわゆるオールドマネー,債権回収の手段として動産譲渡担保登記制度が使われるということになれば,これは勤労者の保護に大きく欠けることとなり,やはりこのバランスを悪化させない政策的配慮は不可欠。したがって,先ほど申し上げたように実体法上の手当てを講じるということも否定されるべきではないというふうに,まず基本は考えます。ここで言う差押えの優越とかいう提案は,時間的な制約等も考慮に入れつつ,ぎりぎりバランスを図るという点から提起をされたものだというふうにまず理解をしておりまして,基本は多分①の考え方だと思いますが,現在の状況の中でいくと②の考え方も一つの考え方であろうというふうに思います。   労働債権保護とのバランスを,例えば動産譲渡担保の拡大,あるいは新たに質的な変化をもたらす将来債権譲渡への拡大に限定して図るということに考えるとすると,このような方向は考えられるのではないかということであります。説明のエによって,これらのことは受け入れられないとされる論拠は,担保権設定後の労働債権に優先され,不測の損害を受けるという先ほどの指摘と,その分を考慮して少ない額を融資せざるを得ないので,事業資金の調達に悪影響を与える,だから実体法上の優先的地位は認めることはできないのだということで,同意をというふうに書かれているので,この辺はもう少しきちんと検討してみる余地があるのではないかというふうに思いますが,そういうふうに否定をされているわけでございます。   しかしながら,このように担保権一般に対して一定の労働債権の優越を認めることを否定する理由というのは,先ほど①のところで申し上げたように必ずしもないということに加えまして,ここで言っているような動産譲渡担保権や債権譲渡に限定をしてこのような効果を認めるということについては,相当の理由があるのではないかというふうに考えます。   まず,先ほど申し上げました不測の損害ということについてでありますが,動産ぐらいしか担保資産がない場合において担保を要求する場合,これはかなり苦しい場合だろうと,バッドマネーに近い局面だと思いますが,そういう場合はやはりする方もされる方も企業の先行きということについて一般的にかなりの神経を使って融資をするというのが,当然担保権者の行動でありましょうし,このような局面において債務者から多くの情報を要求できる力関係というのも,相当程度強いということだろうと思います。ましてや,こういう危ないところで労働債権云々との懸念等についても,当然一定程度予想し得るというふうに思いますので,この点では後で発生した不測の損害なのだということは必ずしも言えないのではないかというふうに思います。   また,本来この動産譲渡登記制度を作るという創設意図,ニュービジネス等のニューマネーの話でありますが,こういったところというのはもともと不動産等の引当ての資産はないけれども,企業経営として将来性がある,でも引当ては動産ぐらいしかない,こういうところはきちんとそういう見合いによって資金調達の仕組みをつくりましょうという,極めて前向きなところでありますが,そういった場合については,もともとそういった将来性を判断する時点の判断において,実体的には労働債権が発生する可能性というのは非常に少ないだろうと。これに加えて,やはり事業の将来展望を勘案しつつ融資を行うということが基本にあるのでありますから,当然将来の経営動向についても判断できる情報は当然に求め,その中で判断をするわけであります。その中で,当然労働のいわゆるコンプライアンスを含めた調べがなされるかどうかということについては,ある程度織り込み済みであるのであって,不測の損害ということにはならないのだろうと思います。   また,融資額がその分少なくなるという点でありますが,これは前回のいわゆる抵当権を中心にした議論とのかかわりの中でかなり出されている論拠だと思いますが,今回のところに限定をして考えますと,また将来の政策的な方向に限定して考えますと,経営の将来動向といういわゆる企業体としての価値,将来動向を勘案して融資額が決められるということについて,そういうものを重視するような形で資金の供給が行われるようにしましょうという政策的意図に基づいて,これらの担保権を拡大するということであって,もともとベースになる融資自身をそれで判断するわけですから,そのことに比べて融資が少なくなるということではなくて,もともとの判断に織り込み済みである。それにもかかわらず,更にその見込みを超えて労働債権に優先されるリスクがあるから更に融資を減額するというのは,これは一種の過剰担保そのものではないかと考えられます。   また,今度制度を入れる部分で考えると,これらはいわゆる動産譲渡担保等のように従来担保の利用が非常に少なかったか,あるいは債権譲渡の将来部分については全くなかった分野でありますので,制約をかけることによって現在に比べて資金供給量が減少して,全体の資金供給に悪影響を及ぼすということは当然考えられないことでありますし,またこの制度自身がそういう資金供給を円滑にしようという前提で成り立っているものだと考えます。   また,これは私素人なのでよく分かりませんが,法制的に見た場合に,例えば不動産の先取特権など,一定の政策的理由から後行する先取特権が抵当権に優先をするということについてはあるわけでございまして,いわゆる現状の実務上の政策的配慮から,これらの担保権に対して労働債権を優先させることを否定するということは,必ずしも当たらないのではないかと考えます。   さらに,オールドマネー・ニューマネーとの関係で申し上げると,このような労働債権の保護などを厚くして,いわゆるバッドマネー,債権回収の目的による制度の悪用を制限する仕組みを設けるということは,今回の法改正が意図する経営者の人的保証とか,債務者の引当財産のみを考慮するのではなくて,債務者の財産状況,成長力,経営者の人柄等を総合的に勘案して与信が行われる資金調達の円滑化を目指すという,本来の政策目的にもかなうものではないかというふうに考えます。   近年,いわゆるコンプライアンス,法令遵守とか企業の社会的責任,CSRが産業社会の考え方として主流となってきている中でありまして,当然このような仕組みを入れることは,担保権者の行動ということにつきましても,これらの一定の行動を促進するという社会的意味があるのではないかと考えます。   それから,次の後段の労働者代表の事前同意という部分でございます。 ● なるべく簡潔にお願いします。 ● はい,もうすぐ終わります。   労働者の同意ということについては,いわゆる経営状態が思わしくない場合の債権回収として担保価値を独占しようとする--いわゆるバッドマネーの方ですが--行動に対して,労働債権の保護を図るための仕組みとして提供されたものと理解すべきだろうと思います。当然ながら,根拠は労働者保護に対する政策的配慮の必要性であります。   動産譲渡担保は,通常,債権担保価値が単独では余り大きくないので,流動集合動産担保として利用されることを基本的に考えるべきだと,これは先ほど申し上げた点であります。この場合,実体的に企業の営業活動に多大な影響を及ぼすことになるのだろうと思います。担保権の実行によって営業活動が停止し,労働者の雇用が失われかねない事態が予想されるわけでありまして,確かに担保契約自身から見ると従業員は第三者ではありますが,その効果が給与以外に生計の糧を持たない労働者に与える影響は非常に大きく,これを一方的に契約当事者の意思に委ねるということは,公正を欠くような気がいたします。   また,いわゆる動産譲渡担保が企業活動の将来動向,期待収益を基本に判断される中での一定の引当てとして担保を設定する,行動を広げるのだという政策的位置づけに従うとすれば,やはりここで従業員を関与させるということについては,従業員に適切な情報を与え,企業活動が適正に遂行されることによって企業が発展していくという,むしろ目指す意図の一因に寄与するのではないかと思います。   2点目の,迅速性が阻害をされるという点でありますが,これはもう正しく経営状況,実態との関係だろうと思いまして,一概に迅速性が阻害されるとはなかなか考えにくいのではないかと思います。また,過度の迅速性を求めることは,場合によってむしろ不適正な契約につながるという懸念もありますし,経営者として的確な判断を必要とする時間というのを必要以上に超えて迅速性が阻害されるというかどうかは,通常このような局面における経営者の慎重な行動,立場ということを考慮すれば,余り重視する必要はないのではないかと考えます。   なお,この二つの提案は,政策的に労働債権保護とのバランスを図るとした中で,本来的な在り方,それから現在の時間的な制約を含めた状況の中での考え方ということから,労働債権の保護をどうバランスをとるかということから提起したものであると理解されます。   なお,このほかに,これは労働者自身の交渉力という部分が非常に難しい部分がありますし,また労働組合等がどうかというのもありますが,そういう意味では広くあまねく行き渡るということではありませんが,現状の実態を考えますと,例えば登記がされた以降でも,実行前になされた差押え,あるいは労働債権を理由とする譲渡については一律に善意取得を認めるといったような考え方も,保護の方向としてはあるのではないかと思います。これは,今後効力を含めての部分の中でまた御検討いただければ有り難いというふうに思います。   ○○委員,この部分は以上なんですが,債権譲渡に係る部分が……。 ● 債権譲渡はまた後で議論の対象にいたしますので。 ● ありがとうございました。 ● 私自体は,結論といたしましては1ページの第1にゴシックで書いてあるところに反対するわけではないのですが,もちろん内容は後で考えるといってゴシック部分に賛成できるかというのは本当はよく分からないところではあるのですけれども,しかしながら○○委員のおっしゃったことの中には,かなり納得できることが多々含まれているのではないかという気がしております。   どういうことかというと,まず第1に,ゴシックはそれでいいのですが,全体の説明のトーンの問題なんですが,2ページに倒産が回避できるというようなことが書いてあって,そうじゃなくて,倒産までの期間が長引くだけだろうというふうに○○委員はおっしゃった,そのことが多いだろうとおっしゃったのですが,2ページに書いてあること自体は,何かうそっぽい法と経済学みたいな話でありまして,余り説得力がない感じがしますね。   かつ,これも○○委員がおっしゃったところですけれども,こういうふうな倒産回避の目的でこの制度を作るということで今まで議論されてきたのかというと,ちょっとそうではなくて,○○委員の方が何回もおっしゃったわけですけれども,中小企業等の積極的な経営といいますか,そういうものをどういうふうにして盛んにしていくかというふうなことを,もうちょっと前向きな話として考えていたような気がしますので,何か書いてあることもうそっぽいし,何だか後ろ向きの理由で全体が当たらないというふうに言われるのは,若干どうかなと思います。それが第1点。   第2点目は,これも○○委員がおっしゃったことでございますけれども,かつこれから言うことは途中までは同じなんですが,結論は違うのですけれども。   全体として,現在での集合動産譲渡担保というのはできる,ないしは動産譲渡担保というのはできる,しかしこの制度を作ることによってより安定した制度になって更に使われるようになるかもしれないということを,もうちょっと前面に出した文章にすべきではないかと。この文章自体は,今現在ない動産譲渡担保,ないしは集合動産譲渡担保制度というものが,この制度によってできるかのように読めるところがあって,例えばここが○○委員と根本的に違うところなのですけれども,こういうふうな制度を作ると労働者の最後のよりどころがなくなってしまうではないかというふうにおっしゃるわけですけれども,考えてみれば現在だって第三者に即時取得される可能性があるなどのいろいろな危険を冒せば,集合動産譲渡担保というのは設定できる,取得できるわけでございまして,そういたしますと労働債権の一般先取特権との関係において集合動産譲渡担保権者が勝つのですね。したがって,現在でもその問題は存在するわけであって,更に○○委員のお立場になりますと,だからこそ更に労働債権一般を保護する別の制度が必要であるというお話なのだと思うのですけれども,この制度を作ることによって労働者の立場がどこが悪くなるのかというと,より安定したことによって,より使われるようになることによって悪くなるということはあるわけですけれども,現在使えないものが使えるようになって悪くなるわけではないというのは,どこかに理由として書き込んでいただければと思うわけであります。 ● ○○幹事からペーパーが出ておりますので,テーマが関連しますから,この機会に御説明をお願いいたします。 ● 席上配布で,「動産譲渡に係る登記制度の創設が倒産処理手続における弊害をもたらすとの指摘に対する意見」として提出させていただいておりますので,かいつまんで概略だけ御説明したいと思います。   理由としましては3点挙げております。   第1点としましては,この見解は,本制度が企業の資金調達を円滑にし,取引を活性化させ,倒産を回避して成長に通じるものであることを過小評価している。   一般債権者や労働債権者の保護を論じるのであれば,不動産担保貸付に依存した重厚長大産業偏重型社会を脱却し,昨今の閉塞状態を打破するに資する制度の創設こそを正当に評価すべきなのであって,倒産時の問題の処理は,その制度における一側面にすぎないことが認識されるべきであると。前向きな制度として認識をすべきであるという,今も出てきたような御趣旨のつもりでおります。   第2番目,ここがポイントかと思うのですが,倒産時における現実的な権利実行方法をもう少し十分に検討すべきではないか。在庫商品を担保にとった債権者にとって最も有効な換価手段は,従来の取引ルートでこれを販売することだろうと思います。特に再建型倒産手続においては,従来の販売ルートを維持存続することについて,再生債務者と債権者,担保権者とは利害を共通にすることから,再生債務者との間で別除権協定を締結し,再生債務者の手によってこれを販売するとともに,売却代金を一定割合で分配するとの合意が完成するであろうことは容易に予想できるだろうと思います。例えば,これまでの倒産事案におきましても,不動産デベロッパーの場合など,担保不動産は金融機関によってどんどん競売されていくのかというと決してそうではなくて,債務者のこれまでのノウハウをもって販売し,その売却代金を別除権者と協議配分するという例が少なくありません。あるいはノンバンクにおける貸出債権の処理においても,取立委任のような形で回収委託を受けて,その倒産企業自体も利益を得ていくという形が一般かと思います。動産については,より一層こういった形態が一般化するのではないかと思います。   あるいは,もう一つの観点としましては,別除権者の権利行使に対しては担保権実行中止命令の制度が用意されているということも,こうした合意の形成が促進されるであろうということの一つの理由になるのではなかろうかと思います。   結局,担保といいますとどうしても不動産を連想してしまうものですから,倒産手続の外で独自に,極めて簡明な回収手段として機能するということをイメージしやすいのですけれども,必ずしもそれに限るものではなくて,倒産手続の中に取り込まれて,倒産債務者に対して優越的な地位を主張し得るという,そういう柔軟な担保権というものは十分あり得るわけでして,こうした動産担保においても,純粋な別除権の形で権利実行をすることばかり考えているというのは一種の固定観念でありまして,折衷的なといいましょうか,倒産債務者とともに回収に当たって,その中で一定割合での優越的地位を確保していくということは十分に考えられるだろう,恐らくこれが主流になるのではなかろうかと考えているということでございます。   第3は,理屈の問題かもしれませんけれども,制度上の障害があったことと権利保護の必要性とを混同しているのではなかろうかと。これまで制度上の障害があったから使いにくかった,結果的に一般債権や労働債権の引当てとなり得たとしても,それは反射的利益ともいうべきものであって,一般債権や労働債権の保護のために確保されなければならないということの論証にはならないだろうと。例えば,差押禁止財産のような観点から方法を論じるならともかくとして,少なくとも制度上の障害を温存することの理由にはならないのではないかと。   これは,先ほど○○幹事も御指摘のとおり,今までやってはいけなかったことをやるようにするということではなくて,今までやってもいいのに制度上の不備があったがゆえにやりにくかったということをやりやすくするという,そういう議論をしているわけですので,この辺については整理をする必要があるのではなかろうかというふうに思います。 ● ただいまの○○委員並びに○○幹事の御意見,それからまた○○幹事の御意見等も踏まえまして,本来商工会議所の立場からるるお話を申し上げたいのですが,時間の制約もございますので,もしよろしければこのことに関しまして,次回,私の方から改めて商工会議所の立場からコメントを申し上げさせていただきたい,そのお時間を確保させていただきたいということで御提案申し上げますが,よろしゅうございましょうか。 ● はい。 ● 1点だけ,先ほど○○委員からお話があったニューマネー・オールドマネーの件,この点について考えているところを簡単に申し上げたいと思うのです。   ニューマネー・オールドマネーというのは必ずしも言葉で言うほど区別が明確にできるものではないのではないかというふうに思うのですけれども,一般に企業の活動というのは担保を入れたり抜いたり,あるいは借りたり返したりというふうに生き物のように流動しているわけなんだろうと思うのですけれども,そうするとある担保権の設定がオールドマネーに対するものなのか,それともニューマネーに対するものかというのは必ずしも明らかではないという問題はあると思います。   それから,仮に既存債務に対する担保権設定であっても,企業がその既存債務について期限の延長を得られるとか,そういったメリットを受ける場合もあり得る,それによって倒産を免れることができるというふうな,既存債務の担保であっても前向きというのも,これまたあり得る話だというふうに考えます。そうしますと,ニューマネーに対する担保設定は良いが,オールドマネーに対するのはだめだというふうな二者択一の考え方ではなかなか律することはできない生き物のような性格というのはどうしてもあるのだろうと。   仮にニューマネーは良いが,オールドマネーはだめだというふうな区別をつけてしまうとすると,前向きの融資であったとしても,先ほど申し上げた区別が明確でないという点から来るオールドマネーに対する担保だと解釈されないかどうかという懸念が生じてきてしまう,そういう可能性を考えますと,余りその点をうるさく言うのは,せっかく前向きの融資をしようと思っても,それを逆に阻害するような方向に働く懸念もあるのではないかというふうに考えます。 ● いろいろ御指摘がありましたように,本日のたたき台の説明に○○委員からの内容的な反論もありましたけれども,書きぶりもやや挑発的に過ぎるという感じもしなくもないですので,○○委員の御趣旨も,この問題が決着がつかない限りは次に進んではいけないというわけではなく,これをやるのだったらそれに見合った実体法的な手当てを含む労働債権の確保,あるいは倒産回避の方法をあわせて考えてほしいという御趣旨だと思いますので,○○委員からも次回意見をまとめて提示されるといことですし,事務局サイドも本日の御指摘を踏まえて再検討していただく時間があった方がいいようにも思います。この点,なお引き続き労働債権の確保等の課題にこたえるためにどういうことが考えられるか,あるいはもともとのこの問題についての説明の在り方をどういう形で説明をしていくべきなのかということを引き続き検討させていただくということで,本日のところは,便宜次の課題に進まさせていただいてよろしゅうございましょうか。   事務局から何かございましたら……。 ● 1点だけ。先ほど,○○幹事の方から,うそっぽいということを言われましたのが,このペーパーの2ページ目のイに,「しかしながら,次のような理由により,これらの意見はいずれも採用することはできないと考えられるが,どうか」と記載してありますように,これまでこの部会で御発言された内容及び担保・執行法制部会などで出たスーパー先取特権等の議論をできる限り参考にした上で一応の考え方をまとめましたが,これでどうでしょうかと提示させていただいたものです。これは説得力がないというのであれば,どういう言い方がよろしいのか,御発言いただきたいのです。この点はメールででも構いませんので是非御意見をいただきたいのです。 ● 今の御趣旨はよく分からなかったのですが,理由の書きぶりを出してくださいということは,結論は変わらずに理由の説明を出してくださいということ。 ● ○○委員の御意見に対するほかの方の御意見も伺わせていただきたいという意味です。 ● 私も○○幹事と同じように,このペーパーはちょっと書き過ぎていると思うのですけれども。   それは,最初に諮問事項との関係で,この審議会で何を議論するかということで議論になったことと関係あると思います。担保・執行法制部会の方の資料を使ってというお話ですが,そちらは正に実体法をどうするかという話を検討していたのに対して,こちらは公示制度を入れるべきかどうかということで,中心もそういう労働債権の保護が実体法上図られなければ公示制度を設けてはいけないと考えるのか,公示制度は仮に導入するとしても,それに伴う弊害が将来どうなるかというのは,よく使われるか悪くなるかということは分からないわけでありますから,将来労働債権の保護について深刻な問題が出てきたら,その時点でいろいろな選択肢が考えられるだろうと思うのです。その中の幾つかがここに載っているわけでしょうけれども,それに尽きないわけですから,何もこの時点でこういう労働債権について優先権を与えるのは適当かどうかというようなことについて結論を出さないと公示制度を入れてはいけないのかということを論ずればいいだけであって,その中身,労働債権の保護の在り方については問題が起きた時点でしかるべき検討をする必要性があるということについてまで否定する必要はないのに,何かそもそも労働者債権は保護しなくていいのだということを書いてあるような感じを受けまして,そこが書き過ぎではないかという,そこが私も違和感が……。   賛成するとしましても,この理由で賛成したと,異論ないですねと言われると,いや,この理由づけについては納得し難いけれども結論は賛成ですよというふうに言わざるを得ないと思いますので,そのあたりの問題の整理の仕方として,別に公示制度を入れてしまえばそれですべてがハッピーになるわけではなくて,ここで問題にしている事業収益に着目した融資制度というのが発展するための一つの条件であって,今後それがどうなっていくのかということは分からないわけですから,その展開を踏まえた対応というのをどうするかというのは開かれていると思うのですね。 ● 先ほど,担当者の方から説明させていただいたつもりでございますけれども,今後とも事務局として労働債権の確保とか,措置については重要な問題と認識しているので,皆さんにアイデアでも構わないから教えてほしいということを申し上げていたつもりでございます。表現ぶりとしては,ちょっと書き過ぎであるという御意見は承りました。 ● 今も御説明がありましたように,○○関係官からもいろいろな御提案をいただきたいという御説明が最初にあったところですので,できれば次回にまとまればいいのですけれども,次回にまとまらなければ更に,これは一番根本的な話ですので,次回までというふうに別に時間を区切ったわけではなく,できる限り次回に向けて様々な御提案をお出しいただいて,それを踏まえて事務局でまたたたき台の練り直しをしていただくということにさせていただきたいと思います。   それでは,先を急いで恐縮でございますけれども,登記情報の開示,6ページの「2 登記情報の開示」の部分についての御説明をお願いいたします。 ● それでは御説明いたします。若干時間の関係もございますので,重要なところに重点を置かせていただきます。   (1)は,登記情報の開示方法につきまして,いわゆる二段階方式の開示方法を提案しておりますが,意見照会の結果につきましては,これに賛成する意見が大多数でございました。何人に対しましても全部の登記情報を開示すべきであるとの御意見もございましたところですが,商品の在庫構成等が営業戦略上の秘密に値すると,これを競争相手など利害関係のない者に対してまで開示する必要がないという理由などから,中間試案の考え方を維持することとしております。   それから,(2)ですが,これが今回新しく御提案するものでございます。   中間試案におきましては,法人登記簿への記載を概括的な事項について譲渡人の法人登記簿に記載する制度の導入については,なお検討するものとしておりましたけれども,意見照会の結果は賛否拮抗する状態でございました。   反対意見の主な内容としましては,譲渡人の信用不安を招来するおそれ,それから制度利用への心理的抵抗などが挙げられておりました。今回,債権譲渡登記制度に加えて新たに動産譲渡の登記制度も創設するに当たりましては,いずれの理由も看過し得ないものであるとの御指摘であると考えられます。そこで今回は,債権譲渡登記制度と同様とはせずに,新たな記載方法を提案するものとしております。   もっとも,これまで債権譲渡登記制度において法人登記簿に記載することによって得られていたメリット,すなわち法人の名称等の変更があった場合に対応し得る検索の利便性というものが損なわれてしまっては元も子もございません。そこで,このような利便性を確保した上で,法人登記簿への記載はしないという制度設計にしております。   具体的に申し上げますと,まず①でございますけれども,動産譲渡登記がされた場合に,当該登記をした登記官,つまり動産譲渡登記ファイルに記録をした登記官は,譲渡人の本店等の所在地を管轄する登記所に対して,その概括的な事項を通知しなければならないものとします。   そして②ですが,この通知を受けた本店等の所在地を管轄する登記所の登記官は,譲渡人ごとに編成された動産譲渡登記事項概要簿,これは仮称でございますけれども,これに通知の内容を記録するものとしております。   また,これは注でございますけれども,(注2)の記載にありますが,譲渡人の商号変更の登記等があった場合,その場合には動産譲渡登記事項概要簿にその変更内容が反映されるような仕組みを法務省令において設けることとして,動産譲渡登記事項概要簿と商業登記簿等の内容がリンクするようにして,先ほど申し上げましたような検索の利便性は維持するものとしております。   そして,③でございますけれども,動産譲渡につきましては,利害関係を有しない者であっても,何人であっても譲渡人の本店等の所在地を管轄する登記所の登記官に対して,当該譲渡人の名称を示すことによって,当該譲渡人について動産譲渡登記事項概要簿に記録されている事項を証明した書面の交付を請求することができるということにしております。   以上が新しい制度の概要でございますけれども,このような方法で実務上何か不都合な点があるかどうか,御意見をちょうだいしたいと思います。 ● この点につきまして,御意見がございましたらお出しいただきたいと思います。 ● 法人登記簿への記載につきましてですけれども,今回,法人登記簿への記載に様々なデメリットがあるというところから,新しい登記簿,新しい帳簿の新設を提案いただいておるのですけれども,要は検索の簡便性,利便性が損なわれなければいいということに尽きるわけでございますけれども,実際のところ,取引相手の何たるかを知ろうと思えば,法人登記簿だけではなくて別の帳簿を見なければいけないということになります。やはりこれは二度手間というところは避けられないのではないかと思います。   これは,債権譲渡登記制度の反省を踏まえという御説明がありますけれども,これは実際のところはよく分かりませんが,新しい制度が創設されれば,それに対するリアクションというのは生じるだろうと思いますし,それが時間がたつにしたがって,周知徹底されるにしたがって徐々に収斂していくというところから考えますと,新しい帳簿を起こしたからそういうリアクションが起きないということに果たしてなるのかどうか,それと,一方で新しい帳簿を起こすことによって二度手間というようなのはどうしても出てくるということ,これが果たして適当なのかどうか。   あと,債権譲渡制度についても同様の見直しを行うということになりますと,やっと定着しかかっている実務を変えることの影響というのはいかがなものかというところについて,若干疑問があるというふうに申し上げたいと思います。 ● ほかに御意見,いかがでしょうか。 ● 細かいことで大変恐縮なんですけれども,公示されるという譲渡人の信用不安を招くことがあることというふうな話が8ページの1行目に出ていますね。この制度になると,どうして変わるのですか。今おっしゃったことと基本的に同じだと思うのですけれども。   こういう主張があることは私は重々承知しておりますけれども,概括的な情報を開示しても譲渡人の信用不安を招くことがあるというのならば,概括的な情報すら開示しないというふうにするしか方法はないのであって,私,それには賛成じゃありませんけれども,率直に言うとこの理由自体がまともにはとりあえない理由なのじゃないかという気が,個人的にはしておりますが。 ● 若干文章が足りなかったようですが,ここで言っている信用不安を招くというのは,商業登記簿を謄本をほかの理由で,役員の変更ですとか本店等の所在地の変更を調査するというほかの理由でとった場合にも,すべからく概括事項が分かってしまう,そういったところから何か情報が一般的に流布されて信用不安を招くと。   ○○幹事が御指摘のように,概括的事項が分かれば信用不安は生じるのではないかというところは,先ほども述べましたけれども,動産譲渡登記があっても一般的な資金調達手段の一つにすぎないのだという認識が定着するかどうかというところにいつにかかっておって,そこにこたえるような制度ではないということはもちろんです。すべてほかの理由でとった場合においても概括的事項が明らかになってしまう,そこをシャットアウトするようなことをねらいにしております。 ● 非常に複雑な制度のように見えますけれども,従来は商業登記簿謄本をとれば債権譲渡まで知ろうと思おうが思うまいが全部書いてあったのが,商業登記簿はもともとの商業登記簿の記載事項だけが謄本に出てきて,債権譲渡の事実だけを知りたい人はあわせて債権譲渡登記簿だけをとればいいと。   同じ法務局で申請ができるということですね。一つの帳簿,1個だったものが二つの部分に分かれただけだと,実質的にはそういうふうなことではないかと思うのですけれども,ただ両方とりたい人にとっては二つ分の料金がかかる,二つの申請をしなければいけないというふうなことはあるだろうと思いますので,それだけの手間をかけるまでもないと,ついでに債権譲渡担保の情報が出たって別に構わないではないかということであれば,そのままでいいのかもしれません。 ● 今,○○委員がおっしゃった別の理由で請求したときに一遍に出てくることの問題への対処として御提案いただいていることだと思いますとともに,○○委員の方から御指摘のあった二度手間になるということとの関係でのお尋ねなんですが,③のところ,「書面の交付」とあるのですが,オンラインで請求するという方法も可能であるというような御検討の可能性もおありでしょうか。もしお考えがあればで結構ですが,簡単に教えていただきたいと思います。 ● 今,政府の関係では,平成13年ごろからIT戦略フォームというのができまして,オンラインができるようにと,当時から今後5年間で世界最先端のIT国家になるということでやっておりますので,可能な限りオンラインを導入するという方向で考えていくというのが政府の基本方針に合おうかというふうに考えております。   現在の商業登記におきましても,まだ100%コンピュータ化されているわけではないということで,現在会社法人数で約8割までコンピュータ化されておりますが,残り2割はまだ途上にあるということで,現在の商業登記簿上の債権譲渡登記欄も,2割部分はまだ紙ですので,その部分はまだもう少し時間がかかろうかとは思います。 ● ただいまの御議論に関連してですが,私は今回の意見照会のどこかにもあったと思いますが,商業登記簿がどれだけ信用情報のソースになるべきかというところをやはりきちんと考えるべきではないかと。私は,これ以上余り商業登記簿に信用情報ソースとしての機能を与える必要はないのではないかというふうに思っておりまして,その観点からは,二度手間という御意見がありましたけれども,逆に二度手間でいいのではないかと,本来の商業登記簿で見られるものを商業登記簿で見て,それ以外の信用情報に係る部分は別の帳簿を探すという発想も,私はそれがあるべき姿ではないかと思いまして,その意味では今回動産の方と債権譲渡の方とあわせて新しい概括簿を考えるということには,基本的な発想としては賛成したいと思っております。 ● 全く賛成です。それしか理由にならないと思います。ここに書いてあることはほとんど理由にならない。○○委員がおっしゃったことが理由になるべきではないかと思います。 ● ほかにいかがでございましょうか。   これは,こういう形で動産なり債権の譲渡登記が商業登記簿から切り離された場合に,譲渡の事実はないということの証明を出すことは可能ですか。なかなか難しいですか,こういうシステムで。譲渡の登記はありませんと。 ● ○○委員がおっしゃっているのは,債権譲渡登記所の方で出す証明書の話でしょうか。それとも管轄の登記所の方で出す概要簿事項証明書のことでしょうか。 ● 概要で大丈夫だと思うのですけれども。つまり,当該ある法人について債権譲渡登記の記載があるかと。   今は商業登記簿謄本を見れば有無が分かるのですけれども,これが切り離されたときに,債権譲渡登記はありませんというないこと証明というのも当然出てくるというふうに考えていいですか。 ● システム開発の絡みもありますが,現在,債権譲渡登記所の方ではないこと証明を既にやっておりますので,ある程度のお金をかければできるかとは存じます。 ● それはどっちからでもとれるようになる可能性があると。それは分かりませんか。 ● 意見というよりは,御提案に対しての質問でございますが,この考え方をとったときに,各登記所に概要簿を置くかわりに,概要簿に当たるものを動産譲渡登記が置かれている登記所に集めてしまうという仕組みはお考えになられませんでしたでしょうか。あるいは,そうするとどういう不都合が生じることになりましょうか。 ● 今おっしゃったのは,各地方法務局に債権譲渡登記なり動産譲渡登記の簿冊を置くようにしたらどうかということですか。 ● そこはもう決まっているのかどうか分かりませんが,日本に1か所だけ動産譲渡登記簿を置く登記所があるというイメージを持っております。それで,そこに事項概要簿に当たる,要するに法人が変わったときのトレースできるような情報を置いておくと。 ● 先ほど商事課から話がありましたように,まだ法人登記簿が完全にコンピュータ化していないものですから,それと全国で何万もある商業登記の変更,商号の変更を中野の方に集中させるというのもなかなか制度的に難しい,時期尚早と思われます。将来は分かりませんが。 ● 商業登記全部そこに集める必要はなくて,動産譲渡登記が行われた譲渡人についてのものが集まればいいのではないかと思うのですけれども,それはなかなか難しいということですか。 ● 動産譲渡があったことを知らないと,商号変更があった会社について情報を中野に送っていいかどうかが分からないということなので,結局難しい。 ● 分かりました。 ● ほかに御意見は……。   多少,二度手間の問題はありますけれども,大勢としてはこういうシステムに……。ある意味で切替になりますね,債権譲渡とも足並みを合わせてということになりますと,切り替えることについて,大勢としては支持する意見であったというふうに理解させていただいてよろしゅうございますか。 ● しつこいようで……。補足させていただきますが。   二度手間というところは申請書を2枚書くと,ネットでの申請でしたらクリック2回すればいいということですので,それに別にこだわるつもりはございませんでして,あとはコスト面につきましても1件幾ら要求されるのか分かりませんが,それは倍かかるというのは,負担と言えば負担かもしれませんが,やはり法人登記簿の記載内容が今会社法の現代化で相当簡略化される方向で進んでいると聞いておりますので,一方で簡略化されて,一方で新しい帳簿を1個作ると,新しく譲渡担保に係る登記の内容がそれほど信用情報というふうにセンシティブに受けとめられるのであれば,逆に実務界としては登記できなくなってしまうのではないかということも考えられますし,会社に関する情報を1個に入れてはいけない,分けるべきだという議論がそれほど主流なのかどうかというところで若干疑問を感じたということでございます。 ● 基本的には,そもそも二段階開示が必要なのかどうか,そこのところについては債権譲渡登記とは異なって,第三債務者のプライバシーという問題がちょっと異質なところがあるものですから,だれでも見られるという制度でもいいのかなとは思っているのですけれども,仮に二段階開示ということでやるとしました場合には,法人登記簿への記載をするか,あるいはここで御提案いただいている方式,これはどちらでもいいのではないかというふうに思います。   ただ,ここで御提案いただいているやり方でやるときには,一つにはやはり従来法人登記簿をとろうと思ったときに,そこの登記所に行けばとれたというふうなことと同じように,やはりそれぞれの登記所でとれるという,そういうメリットはあった方がいいのじゃないかということが一つ。   もう一つは,先ほどお話に出ましたないこと証明なんですけれども,これはやはり絶対出るようにしていただきたいというふうに考えます。 ● それでは,時間の関係もございますので,次に進ませていただきます。   9ページの「第2 債権譲渡に係る登記制度の見直し」ということで,御説明をいただきたいと思います。 ● 引き続きまして,「第2 債権譲渡に係る登記制度の見直し」について御説明いたします。   まず,債務者が特定していない将来債権の譲渡について,債権譲渡登記によって第三者に対する対抗要件を具備することができるようにするという制度の見直しの可否につきまして,意見照会の結果では,先ほど申しましたとおりこれに賛成する意見が多数を占めました。   他方,これに反対する意見の主な理由のうち,再建型倒産処理手続への影響,倒産時の労働債権等の保護の形骸化,一般債権者からの与信の縮小など,動産譲渡に係る登記制度の創設に反対する意見と同趣旨のものにつきましては,動産譲渡登記制度のところと同様の理由により,採用することができないのではないかと考えられるところでございます。   このほか,意見照会の結果では,債権譲渡に係る登記制度に特有の問題を取り上げて,債権譲渡登記制度の見直しに反対,又はにわかに賛成し難いとする意見がございました。これらについては,9ページの(1)から①から⑤までにまとめておりますが,検討の結果,これらの意見はいずれも採用することができないのではないかと考えられます。   その理由については,10ページの(2)を御覧ください。   反対意見の①は,債務者不特定の将来債権にまで担保権を設定することができることとなれば,相殺の担保的機能を減殺し,債務者に不測の損害を与えかねず,その影響は大きいとするものでございます。ただ,債務者不特定の将来債権の譲渡について,登記によって第三者対抗要件を具備することができるようにしたとしても,債務者に対する対抗要件につきましては,債務者が具体的に特定した後に,当該債務者に対して登記事項証明書を交付して通知をした時点で備えられるという規律についてはこれまでと変わりませんから,債務者としては,登記事項証明書を交付した通知を受けるまでに原債権者に対して取得した相殺の抗弁等を譲受人に対して対抗できるわけであって,債務者不特定の将来債権の譲渡が債務者の相殺の担保的機能を減殺し,債務者に不測の損害を与えかねないという批判は当たらないのではないかと考えられます。   反対意見の②につきましては,債務者不特定という極めて早い段階で将来債権について対抗力の取得を認めることは,対抗要件取得の機会の公平性を阻害するというものでございます。しかしながら,何人も債務者不特定の将来債権を譲受け,債権譲渡登記によって第三者に対する対抗要件を具備することができるのであって,その機会が特定の者に対してのみ与えられ,その他の者に対しては制限されているというわけではないから,対抗要件取得の機会の公平性を阻害するとの批判は必ずしも当たらないのではないかと考えられます。   反対意見の③につきましては,債務者不特定の債権を担保その他取引の客体とすることの必要性は,正常な経済取引としては考えられないことであるとするものでございます。しかしながら,債務者不特定の将来債権の譲渡について,登記によって第三者に対する対抗要件を具備することができるようにしてほしいという要望が,金融実務において存在していることにつきましては,当部会のこれまでの審議においても指摘されるところでありますし,意見照会の結果を見ましても,通信サービス,クレジット債権,ビル賃料債権等の担保化,流動化等,債務者不特定の将来債権の譲渡の必要性が金融実務界に存在するという意見が寄せられているところでございますので,このような批判は当たらないのではないかと考えられます。   反対意見の④でございますが,債務者不特定の将来債権譲渡の有効性について実体法上の解釈が確立しているとは言い難い,仮にこれが有効であるとしても,例えば債務者不特定の売掛債権の譲渡登記がされた後に,売買の目的物が二重譲渡され,譲渡に係る債権が併存することになった場合における対抗力の範囲,内容について十分な検討がされているとは思えないと述べるものでございます。しかしながら,近時の判例の判旨に照らせば,債務者不特定の将来債権の譲渡は,譲渡の目的とされる債権が適宜の方法によって特定されている限り,債務者が特定していないということのみによってその有効性を妨げられるものではないと考えられるところでございます。   また,反対意見④の後段につきましては,例えば次のようなケースを想定しているものと思われます。すなわち,債務者を特定しない方法により,将来の一定期間に発生するある在庫品の売掛債権の譲渡がされ,その旨の登記がされた後に,当該在庫品が例えば甲及び乙に二重に譲渡された場合が想定されます。このような場合には,譲渡に係る債権として,甲に対する売掛債権と乙に対する売掛債権とが併存することも考えられますが,その場合にも,債権の譲受人が最終的に債権を取り立てる段階では,甲又は乙による債務不履行を原因とする売買契約の解除等により,通常甲・乙いずれか一方に対する債権のみが残存するはずでありますから,実際上の不都合はないのではないかと考えられます。   反対意見の⑤ですが,債権の特定方法や評価方法いかんによっては,融資を受けようとする者が過剰担保や包括担保を強制されるおそれがあるということを懸念するものでございます。しかし,過剰担保又は包括担保に当たるような債権譲渡につきましては,公序良俗違反等の理由でその効力が実体法上否定される可能性があり,これによってある程度歯どめがかかるのではないかと考えられます。これに加えて,過剰担保又は包括担保を防ぐため,債権譲渡登記制度において債権の特定方法等を限定するか否かにつきましては,寄せられた意見も踏まえまして検討を更に進めてまいりたいと考えております。   以上述べました事項につきまして,実務的,あるいは理論的な観点からこの場で御審議いただければ幸いでございます。   次に,2は法人登記簿への記載についてでございます。債権譲渡がされた際に,債権譲渡登記の概括的な情報を法人登記簿に記載する制度の在り方につきましては,今回現行の制度を見直しまして,動産譲渡に係る登記制度のところで述べたところと同様の制度とすることを提案させていただいております。今回,こうした提案を行いました理由につきましては,動産譲渡登記制度で述べたことと同様のことが妥当すると考えられます。以上です。 ● それでは,ただいまの第2の2の方は先ほどの議論を援用させていただきたいと思いますが,第2の1についての御意見を伺いたいと思います。 ● 第2の1の議論という○○委員の御指定ですが,一つ意見照会結果を踏まえて先に申し上げておきたいことがございます。   というのは,今回の部会資料は第2の「1 債務者不特定の将来債権譲渡の公示」,それから「2 法人登記簿への記載」ということだけになっておりますが,意見照会の結果は,先ほど御説明いただきましたように,「その他所要の規定を整備する」というところについての意見がかなり多数出ております。したがいまして,申し上げたいというか,お伺いしたいのは,意見照会結果を踏まえて当初の構想よりもやや広く手を入れることをお考えになるべきではないでしょうかということであります。   つまり,「その他」のところ,今回のこれからすぐに債務者不特定の将来債権譲渡の公示の議論が始まると思いますが,その議論をして先ほどもう既に済んだ登記事項概要簿の話があって終わってしまうのかどうかというところでありまして,「その他」のところで出てきた意見を簡単に申しますと,一つは債務者が特定している場合の債務者の記載と,もう一つ後から特定された段階で債務者が具体的に表示する,この2点は実は第2の1にかかわるもので,特段その他ではありません。その他にかかわるのは,譲渡に係る債権の総額の話,それから細かいですけれども記載文字数とか情報量とかコード分類の見直しとか,この「その他」の部分を立法の手当てなしに,ガイドラインとか何か規則,省令のところで手当てするとか--それも立法になってしまいますけれども,ガイドラインを示すから何もせずに判例が出るのを待つというふうにするか,それとも例えば譲渡に係る債権の総額では意見照会の中で出ているように任意的記載事項にする,これは立法の話でありまして,こういうところについてまで少し広く手を入れるということはこの際お考えになりませんでしょうかということを,まずお伺いしたいと思います。 ● 事務局からの説明のときに,若干漏れがあったのかもしれません。中間試案にも,今,おっしゃられました既発生の債権はなお検討ということにしてございまして,この部会で検討していただくというつもりでございます。ですから,債権総額についても次回,あるいは次々回になるかもしれませんが,それは次のテーマとして心づもりをしております。 ● 内容にわたることでは,9ページの(1)で,①から⑤まで述べられていて,それに対する反論が10ページに載っていますけれども,そのうちの①ですけれども,10ページの①のところで,「登記事項証明書を交付した通知を受けるまでに原債権者に対して取得した相殺の抗弁権等を譲受人に対抗できる」という部分は,相殺の抗弁権,既に相殺適状になったという場合はともかくとして,①の方は,相殺の担保的機能全般についての問題を指摘して,それに対する答えという形ですので,その相殺の担保的機能全般について通知を受けるまでに取得した担保的な機能に対する期待というのは,すべて従前どおり保護されるということにはならないのではないかというふうに私は思います。これは記述としてこのまま受け取ってしまうと,間違っているのではないかというふうに思います。   と申しますのは,要するに受働債権については既に包括債権譲渡がなされているわけで,それに対してその後反対債権を取得したからといって,相殺に対する担保的な期待を持つべきではないと考えるのが筋ではないかと。第三債務者としての地位と,担保的機能の場合には債権者としての地位と,両方取得することになるかと思いますので,この結論は解釈としてもそうならないのではないかと。   同じ論理は,例の抵当権に基づく物上代位と相殺と競合をした場合について,抵当権の登記時である種債権についても処分がなされているので,その後に反対債権が生じたとしても,抵当権者に対抗できないのと同じ論理がここでもとられることになるはずではないかと思いますので,これは相殺の抗弁権等ですので,相殺適状の場合を念頭に置いた記述としてはいいけれども,それ以外まで全部対抗できるという結論にはならないのではないかと思うのですが,この点について全部いけるのだという御趣旨だとすると,それはおかしいのではないかと思います。 ● この点,もう少し解釈論的にきちんと詰めて御検討いただければと思います。   ほかの点でいかがでございましょうか。   ○○委員,先ほど債権譲渡についてもあるというお話でしたけれども,非常にコンパクトにまとめてお話をいただければ。 ● 大分御迷惑をおかけしたので,コンパクトに……。   基本的な考え方は,動産譲渡の部分と同じでございますので,そういうふうに御理解ください。実体的に保護の範囲が非常に縮小するということです。   特に今回は,動産譲渡の場合と比べて,登記すると通知があったものとみなしてしまうというフィクションを作るわけですから,これはかなり実体的に性格をいじくるものだというふうに理解しておりまして,したがって権利関係がかなり変動するということだろうと思います。その意味でも,労働債権等の保護を確保する必要がより高いのではないかと考えます。   将来のことをあらかじめ登記をしたときにそれで確定をして,第三者,とりわけ労働者に対して対抗力を求める手法というのは,もともと労働債権自身の性質からいって,まず交渉力がないという従来からの保護の必要性に加えて,そもそも労働債権自身は直前にぎりぎりの中で発生するので,あらかじめ将来のことについて,債権者と平等を確保するなどということはあり得ない。したがって,後からやる部分が必要であるということが一つの政策的な手当てを講ずる必要の論拠であるというふうに思いますし,それからもう一つは,不測の損害になるかということについても,正しく将来債権の部分というところについて融資をするということは,正しく将来の経営動向を引当てにしてやるということ,その物的引当てで先にやるということでありますから,当然経営動向の先行き,それから労働等の債権,労働債権が発生しないことということ自身は,既にその時点で織り込み済みの部分でありますから,そういうことで不測の損害を受けるということにはならないのだろうと思うし,そのあたりは担保権者が甘受すべきものであるというふうに考えますので,より理由があるのではないかということです。   基本的には譲渡のところと同じでございます。ここだけちょっと違うと。 ● それでは,動産とあわせて御検討をいただくということにさせていただきます。   ほかに,よろしゅうございますか。 ● ⑤番目の反論の過剰担保,包括担保の点に関してですけれども,それに関して著しく相当とされる範囲から逸脱する場合は,公序良俗に反するとしてその効力は実体法上否定される可能性があるというのは正しいと思うのですけれども,そうすると裁判手続にならないと白黒決着がつかないのかということになってくると,果たしてそういうふうな立法の仕方がいいのかということになるのではないかなと思いまして,ここはやはり債権の特定方法を限定するという部分について,もう少し議論を詰めていただいて,何か工夫していただけないかなというふうに考えますので,よろしくお願いいたします。 ● 関連してですが,9ページの②の点で,10ページの中ごろにそれに対するお考えを書いてあるのですが,これも今おっしゃった特定の問題として受けとめるべきだと思うのですね。つまり,債務者が特定しているかあるいは不特定かという問題と,譲渡された債権が特定しているか不特定かという問題は別で,賃貸マンションの賃料債権とかはきちんと特定しているわけですね,債務者は特定していないけれども。しかし,他方で債務者は特定しているけれどもその債務者がいろいろな債権を持っていてというので不特定な場合もあるわけで,結局これは今おっしゃった過剰担保とかそういう問題だと思うのですね。だから,そういう問題を検討するという課題として考えていった方が,議論としてはいいのではないかと。   特に,②の最初のところ,「何人も」と言われると,ちょっとどきっとしちゃうところがありまして,そういう問題として考えていくべきではないかと思います。 ● それでは,第2の1につきましてもいろいろと有益な御意見ちょうだいしましたので,それらの点について更に検討をしていただくということでありますけれども,基本的な方向性自体については,異論がなかったわけではないのですけれども,大方は御支持いただいたと,しかしこれについては先ほど申し上げたように動産等の場合とあわせて労働債権の確保等については一体として今後とも検討を続けていただくということで,残された時間はわずかで,場合によっては5時を少し過ぎてしまうかもしれませんけれども,席上配布で動産と債権の登記のイメージという資料が配布されておりますので,これも今の特定の問題等にも絡んできますので,御説明をいただければと思います。 ● それでは,「動産譲渡登記事項のイメージ」というペーパーの方から御説明差し上げます。   動産譲渡登記制度の検討と並行しまして,制度が創設された場合に実際にどのような登記をするのかという点についても検討を進めているところでございますが,このペーパーは現在の方向性について示したものでございます。   なお,まだ検討中の事項も多々ございますので,大まかな,正にイメージとしてとらえていただければと存じます。   では,順に御説明します。   まず,1の「登記の単位」でございますが,これは1の譲渡担保契約ごとに一つの登記を可能とするということにしております。   それから,重要なところは2の「必要的な記載事項」ですが,そこに①から④まで掲げておりますけれども,(注)の1のところを御覧ください。   客観的な標識により唯一性の担保される動産,「個別特定動産」とも言っておりますが,そういうようなものにつきましては,動産を個別に特定して記載する方法によって登記をするということになりますので,ここでは①の動産の名称種類,それから②の数量,④のその他同種類の他の動産と区別するに足りる特質といったものを必要的記載事項としております。したがって,③につきましては,任意的な記載事項ということになります。   それから,(注)の2でございますけれども,集合流動動産といったものにつきましては,唯一性が担保されない動産でございまして,これらは場所的な範囲で特定して記載する方法によることとなりまして,①から③,動産の名称種類,それから数量,保管場所の所在地及び名称を必要的な記載事項としております。   さらに,③の数量についてでございますけれども,これは個別特定動産の場合には「1」と,それから集合流動動産の場合には「全部」という記載をすることとしておりまして,それ以外の,実務上間々見受けられるようなものですが,「何個」とか「何トン」とか,「全体の3分の1」というような記載につきましては,そこに記載したような理由によりまして,特定性を欠くのではないかと考えられることから,認めないという方向で検討しております。   それから,4では,今申し上げたような記載事項につきまして,個別特定動産と集合流動動産につきまして,代表的と考えられる幾つかの例を挙げておりますので,御参照いただければと思います。   それから5ですが,登記の存続期間につきましては,一般的に動産の耐用年数として考えられています大体最長10年というところを念頭に置いて考えております。その期間内におきましては,譲渡人と譲受人がなお期間内で取引を継続するような場合には,延長登記を認めることとしております。   最後に6でございますが,保管場所の変更登記の可否につきましては,これは保管場所というのは必要的記載事項にもしておりますし,担保目的である動産を特定するための最も重要な事項の一つであると考えられることから,その変更につきましては新たな登記で対処すべきではないかと考えております。また,保管場所の変更登記を認めますと,例えば幾つかの倉庫に流動動産を保有しておりまして,そのうちの一つのみが登記されているような場合におきまして,保管場所を別の倉庫に変更する登記によって,その別の倉庫内の流動動産について,かえって最初から登記による対抗力が具備されているような外観が生ずるというような不都合性も生ずることから,保管場所の変更登記は認めない,そういった方向で検討しております。   動産に関しては以上でございます。 ● 続きまして,「将来債権の譲渡に係る登記事項のイメージ」について御説明いたします。   債権譲渡登記制度を見直した場合に,譲渡に係る債権をどのように特定するかという点につきましては,現在,具体的に検討を進めているところでございますが,このペーパーは動産と同様に,現段階での方向性についてイメージを示したものでございます。   まず「1 債権を特定するための事項」についてですが,債務者不特定の将来債権の譲渡登記におきましては,債権を特定するために次のような事項を必須の要素として記録するものとすることを検討しております。   ①の債権通番につきましては,現行制度上も債権譲渡登記規則第6条第1項第1号及び法務省告示において要求されておりますが,債務者不特定の将来債権譲渡の対象債権について,全体として1個の債権通番を付すものとすることを検討しております。   ②につきまして,債務者不特定の将来債権においては,債務者を記載することができないわけですが,譲渡に係る債権が債務者不特定の将来債権である旨は登記上分かる仕組みにすることを検討しております。   ③の原債権者の数及び④原債権者の表示につきましては,いずれも現行制度上,規則及び法務省告示において必須の要素として要求されておりますが,債務者不特定の将来債権譲渡においてもこれを維持するものとすることを検討しております。   ⑤の債権の種別につきましては,現行制度上,規則において要求されておりますが,債務者不特定の将来債権譲渡におきましても,これを維持するものとすることを検討しております。   ⑥の債権発生原因につきましては,現行制度上は法務省告示において任意的な記載事項とされているところでございます。しかしながら,債務者不特定の将来債権の譲渡について,債務者を必要的記載事項としないかわりに,債権発生原因の記載を必須のものとして要求することを検討しております。債権発生原因の記載につきましては,債権発生原因たる契約客体,原債権者の属性,債務者の属性等,債務者以外の要素で譲渡に係る債権を特定するための事項を記載することが考えられるところでございます。   ⑦の債権発生年月日につきましては,現行制度上も規則において債権を特定するために必要な事項とされております。終期につきましては,告示において債権の発生日が数日に及ぶときは,その末日の年月日を記載するとされておりますところ,将来債権の譲渡は,通常一定期間にわたって発生する債権を譲渡の目的とすることから,終期につきましても必須の記載項目となると考えられます。   また,始期については,ここでは将来債権を念頭に置いておりますので,債権譲渡登記の翌日以後の日とするとしております。   2の部分ですが,ここにおきましては,債務者不特定の将来債権の譲渡登記における債権の特定方法につきまして,幾つか具体例を挙げておりますので御参照ください。   3ですが,将来債権の譲渡について,たとえ登記時に債務者が具体的に特定していても,債務者を具体的に表示しない方法による登記を許容するものとすることとしております。債務者が特定している将来債権の具体例といたしましては,既に特定の者が入居しているマンションの1室について将来発生する賃料債権や,ある商品を特定の取引先に対して継続的に卸売りをしている業者が将来取得する当該商品に係る売掛金債権などが考えられます。   将来債権の譲渡につきまして,たとえ登記時に債務者が具体的に特定していても,債務者を具体的に表示しない方法による登記を許容するものとする理由につきましては,2ページに書いておりますことが考えられるのではないでしょうか。   このほか,債権譲渡登記につきましては,既発生の債権について債務者を必要的記載事項とするか否かという問題や,債権総額の問題が残っておりますが,これは先ほど御説明いたしましたとおり,次回又は次々回にこちらの部会で検討させていただきたいと考えております。 ● 時間は少し超過しておりますし,それから今見てすぐに非常に実質的な議論が十分にできるかどうか分かりませんけれども,御検討いただく上で,今の説明の中でよく分からないとかいうようなことがありましたら……。 ● 分からないのではなくて,意見でよろしいですか。 ● 意見でも結構です。 ● まず総論から申し上げます。   債権譲渡の対抗要件に対する民法の特例等に関する法律というのがあったわけですが,あの法律というのは,民法上の対抗要件制度というものと並列して存在していたわけであって,あれが登記の制度によって,ある一定の形でしか登記制度を利用できないというふうになっていても,ほかには対抗要件を備える手段があったわけですね,だからさほど問題にならないのですが,これを仮に実体的な効力として前に占有改定がなされていても,これでひっくり返せる--とりわけ動産の場合ですね--ということだと考えますと,この登記でそういったものの対抗要件具備が認められるかどうかというのは非常に実体の問題として大きな意味を持ってくるということが総論です。   それを前提にしまして,簡単に一,二点だけ申し上げたいと思うのですけれども。   まず1ページ目の3でございますけれども,「「○個」「○トン」「全体の3分の1」等の記載は特定性を欠くものとして許さない」というふうに書いてあるのですが,下の説明は「○個」の場合しかないのですね。「全体の3分の1」というのが共有持分の譲渡として許されないかということに対しては,すごく議論があるわけであって,その部分について書かないと,「○トン」がだめだとか「○個」がだめだというのは,乾燥ネギフレーク事件でも判例がはっきりしているわけなんですが,何分の1かというのが問題なのじゃないかと思うわけです。しかしながら,どうして現在の登記をつくっている法律において議論があるところの何分の1というのが認められないということになるのかというのが,私にはよく分かりません。   2番目に,保管場所なんですが,これも例えば有線放送の会社のチューナーというものを全部集合動産でいけるかという話があって,我妻先生的に言うと何となく経済的な一体性は場所的な一体性を含んで集合物と観念していたわけですが,特定だけ考えるならば,別にばらまかれていたって構わないだろうという意見もあり得るわけであって,それを登記事項の決定の中で,知らないうちにできないことにしてしまうというのは,私は必ずしも納得がいくものではありません。   3番目,最後にしますけれども,将来債権譲渡の登記事項の方ですが,これは非常に細かい点について1点だけ申し上げます。   先ほど,始期については債権譲渡登記の翌日以降とするというふうにおっしゃった,それが当然のようにおっしゃったのですが,そうすると,例えば現在発生しているクレジット債権と将来発生するであろう,しかしながら相手方が決まっていないクレジット債権を譲渡するという場合には,別個に登記せよということになりますよね。それはしかし,本当に必然性があるのだろうかというのは,これは翌日以降になりますと,1週間たちますともう既に発生している債権が幾つかあるのに,しかしながら債務者は一切書かれていないという形の登記というものが存在するわけですね。そうなりますと,登記時に分かっていたからといって,あえてそれを除くということにそんなに私には合理性があるとは思えない。最後はちょっと細かい話ですが,申し上げておきたいと思います。 ● 今の点に,事務局から何かありますか。 ● 今の御意見を踏まえた上で,検討させていただきます。 ● 私も,動産譲渡登記で○○幹事のおっしゃったことと裏返しの関係になるのかもしれませんが,以前に現実の引渡しと簡易な引渡しの場合に登記ができるかどうかということで,占有の態様を問わない登記というお話でしたけれども,これを見ますと,個別特定動産以外の場合には保管場所を書かなくてはいけないということなので,現実の引渡しと簡易の引渡しについてはできないような,種類物について,そういう方法では登記ができないということになったように思いますので,何かちょっと肩すかしに遭ったような感じがしますけれども,そういう理解でいいのか,それともその理解が間違っていて,現実の引渡しの場合にも保管場所を書けばいいのかとかいう点がよく分かりません。その点は今後明確にしていただきたい。   それから,指図による占有移転についても,例えば東京都にあるリース物件全部指図の占有移転をするというようなことはだめで,保管場所一個一個書かないとだめだと。保管場所というのは,日本とか東京都とか,そういうのでもいいのか,それはだめだという趣旨なのかによっても,指図の占有移転はできるのかできないのかというところでできないと言っているようにも聞こえますので,結局今まで懸案になっていたことがどうなったのかということのある種の態度決定をして,それと○○幹事のおっしゃったことに対する一定の答えができると思うのですけれども,御検討いただきたいと思います。   それから,債権譲渡について,先ほど○○委員に対するお答えに対して,債務者が特定している将来債権の譲渡で,こういう場合には許容するものとすると,何か結論がここに書いてあるような,これ以外は許容しないというわけじゃないとすると,次々回の検討結果によってはこの3も変わるという……。将来,債務者が具体的に特定していても具体的に特定しない方法を許容するというわけですけれども,既発生についても許容する可能性はあるわけですね。   債務者が特定して,将来債権の譲渡についてだけ許容するわけではなくて,債務者が特定している既発生も許容する場合にはどうなるかという問題は,反対解釈じゃなくてオープンになるわけですから,そこが結論によっては3についての記述の仕方も,(理由)1,2,3も変わってくる可能性があると思うので,まだオープンだというのと,何か結論が出ているような書きぶりになっているのと,若干そごするような印象を受けましたけれども,これがそういう趣旨でないとすれば,理由についての書き方もある種の工夫というか,改める必要があるのだろうと思います。 ● 時間がありませんので指摘だけさせていただいて,御検討いただきたいと思うのです。   動産について2点,債権について1点なんですが,動産の方の一番最初の「譲渡〔担保〕契約ごとに」という,譲渡担保契約の数え方の概念なんですけれども,例えば1件の融資で個別特定動産を2個とったというときに,それは譲渡担保契約が2個あることになるのか,1個の契約で2個とったことになるのか。下の方に2の(注)3で,個別特定動産の場合1になるというお話なんですが,1になる場合のほかに2とか3とかになることがあり得るのかないのかという点をお詰めいただきたいというのが1点目です。   2点目が,個別特定動産をとったときに,保管場所は任意的記載事項であるというお話で,それを前提にしたときに,その場合の任意的記載事項の変更登記は認めてもさしたる支障はないようにも思えるのですけれども,これも御検討いただきたいというお願いです。   それから,債権の方の1の②の債務者不特定の将来債権の譲渡である旨を記載させることと,最後の3のところとの関係が,これは恐らく御説明の問題なんだと思うのですが,ちょっと分かりにくい部分がありますので,修文を御検討いただければなというお願いでございます。 ● 僣越ではございますが,債権譲渡の関係とパラレルで考えれば恐らくこうであろうということがありますので,○○幹事の1点目だけお話しさせていただきますと,一つの契約で二つの個別動産を売買するかどうかというのは当事者の契約次第でございまして,当然複数の個別動産を一つの契約で売却する,譲渡担保に供するということもあろうと思います。そのときには,ここのペーパーの中には個別動産の場合には数量1を書くとなっておりますが,これは複数であれば動産通番と,債権の場合には債権通番というのがありまして,債権通番1番は当事者がだれだれ,債権通番2は当事者がだれだれというのを書く欄があるわけですが,動産の場合も同様に考えますと,一つの契約で二つの個別動産を売却すれば,一つ目の個別動産は動産通番1,製造番号何とか,二つ目の動産は動産通番2,個別の製造番号幾つという形で,それによって複数の動産について一つの登記で賄えるという仕組みになろうかというふうに考えております。 ● 分かりました。 ● 私の理解が正確かどうか分かりません,邪推でしかないのかもしれませんけれども,この時点でこういうものが出てきたというのは,今後登記制度を具体的に制度設計していく上でのコンセプトをある程度つくっていかなければいけないという趣旨なのではないかなと思うので,そうなると,例えば動産の特定の仕方などでも,大きな骨組みが変わってくると登記の仕組みも変わってくるだろうけれども,特定の仕方はある程度相関的にしか決められませんから,先ほど都内にある何とかというレンタル中の機械全部というのはいいですけれども,都内のどこの倉庫にあるか分からないけれどもあるものというのはだめだとかいうふうに,都内というやり方でいいかどうかというのは全部相関的だと思うので,それの細かいところは幾らでも対応できるけれども,大きな骨組みについてはある程度枠が決まっていないと今後のいろいろな制度設計が難しいということだろうと思いますので,そういう点につきましての御意見をむしろ中心的に,なるべく早い時期に,これも事務局にこのペーパーに基づいて出していただいて……。   これも,次回少し御意見をいただく時間をつくれますか。あるいは,むしろメールその他,あるいは紙ベースで事務局に御意見をお届けいただくと。   ただ,このつくり方次第で先ほどの御意見のようにいろいろな実体的な部分にも関与してきますから,効力を考えたりするときにも意見は出てくることは間違いないと思いますので,こういう個別の細かい論点については紙ベースでと,基本的な考え方にかかわる部分はまた効力のところできちんと御議論をしていただくというふうな振り分けにならざるを得ないと思いますが,よろしいですか。 ● 特に,先ほど○○委員から話がありました過剰担保に関してですが,特定というだけでしたら期間を限定することだけでも十分に特定していますが,具体例は種別でもう少し小刻みに切り分けるという思想で,過剰担保,包括担保について考慮しているやり方です。そういった意味では,先ほどの議論と関連することになると思います。 ● ○○委員の言われたことの確認なんですけれども,私の先ほどの趣旨は,次回登記の効力等について検討するという際には,具体的にどういうふうに登記をするかという点,今までは括弧にくくって観念的に議論してきたわけですけれども,具体的にどういう登記の仕方があるかということを詰めていくと,あり得ない選択肢だったり,杞憂にすぎない批判だったりする問題が浮かび上がってきますので,この問題は正にここで登記の効力等に絡めて,次回正面から議論すべき問題だという,そういう理解でよろしいわけですね。 ● はい。ただ,細かいテクニカルな部分までではなくて,登記の効力と関連する部分では議論の対象にせざるを得ない,こういうふうに思います。 ● あくまで確認ですが,先ほど恐縮な言い方ですが時間の進行に配慮いたしまして意見を差し控えさせていただきましたが,今回のこの「たたき台(その1)」に関する意見を次回に述べさせていただいてよろしいのでしょうか。事務局と相談させていただきますけれども,第1に関する部分の御意見を伺う機会は必ずつくりたいというふうに思っております。   ほかに,よろしゅうございますか。   では,かなり大幅に時間を超過してしまいましたけれども,大変貴重な御意見をいただきましてありがとうございました。これらを踏まえまして,また事務局にも引き続き御検討をお願いしたいと思います。   それでは,次回の確認をしていただきます。 ● 次回の部会でございますが,6月17日の木曜日になります。場所は今日と同じ東京地検の会議室でございますので,お間違いないようにお願いいたします。 ● それでは,これにて第6回会議を閉会いたします。長時間にわたり御審議いただきましてありがとうございました。 -了-