法制審議会動産・債権担保法制部会第8回会議 議事録 第1 日 時  平成16年7月14日(木)  自 午後1時30分                        至 午後5時00分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  動産・債権譲渡に係る公示制度の整備に関する要綱案(案)について 第4 議 事  (次のとおり)               議         事 ● それでは,定刻になりましたので,第8回の法制審議会動産・債権担保法制部会を開会いたします。   本日の議事に入ります前に,お手元に参考資料として配布されていますように,委員・幹事の異動がございましたので,御紹介いたします。     (委員・幹事の異動紹介省略)   それでは,まず事務局から本日の資料の説明をお願いいたします。 ● 事務局からは,資料番号8-1「動産・債権譲渡に係る公示制度の整備に関する要綱案(案)」と題する書面を事前に送付させていただいております。それから,○○幹事が作成されました「登記の範囲につき1+α案を採用することに関する意見」と題する書面を席上配布しております。資料は,以上でございます。 ● それでは,○○幹事の意見書につきましては,関係する課題についての審議の中で適宜御発言をいただければと思います。   本日の議事につきましては,まず配布されました資料8-1につきまして事務局からの御説明をいただき,その後議論をしたいと思います。よろしくお願いいたします。 ● それでは,お手元に配布させていただいております動産・債権担保法制部会資料8-1に基づきまして,第1から御説明をさせていただきます。   まず,「第1 動産譲渡に係る登記制度の創設」と題しまして,「登記対象となる譲渡の譲渡人は法人に限定し,登記対象となる動産は個別動産か集合動産であるかを問わない」ことを内容とする動産譲渡に係る登記制度を創設するものとする旨を記載させていただいております。   第6回会議の審議におきましては,倒産時における労働債権の保護を図る制度が設けられない限りは動産譲渡登記制度を創設することに反対する旨の御意見がございましたが,動産譲渡登記制度の創設自体には賛成する御意見が多数でございました。こうした状況を踏まえまして,第1のゴシックのように記載させていただきましたが,倒産時における労働債権の保護を図る制度としていかなるものが考えられるかについては,なお引き続き検討するものといたしたいと思っております。   次に,「1 登記の効力等」と記載させていただいてございますところから御説明いたします。   第7回会議の審議におきましては,担保目的の譲渡と真正譲渡との区別が困難であること,流動化・証券化目的の譲渡も対象に含めるべきであることなどを理由として2案に賛成する意見がございました一方で,流動化・証券化目的の譲渡を対象とするニーズがあるとしても,直ちに2案とするのではなく,まずは流動化・証券化目的の譲渡を適切に表現できるか否かを検討した上で,それが困難な場合に2案を検討すべきであるとの御意見もございました。   そこで,こうした御意見を踏まえまして,(1+α)における規定ぶり等について検討することといたしましたので,ここにおきましてこの案の概要を御説明いたしたいと思います。次いで2案についての概要,それから問題点についても検討していただきたいというふうに存じます。   (1+α)案は,動産譲渡登記制度の対象を,法人が行う担保目的又は流動化目的の動産譲渡に限定するものであります。すなわち,第7回会議におきましては,動産譲渡登記制度の対象を動産譲渡一般に拡大した場合には取引コストの増大や制度悪用の危険があるため,ニーズがあるところに限定して有効な制度を設けるべきであるとの御意見を踏まえたものでございます。   まず,(1+α)案における1の部分,すなわち担保目的の譲渡について御説明いたします。ゴシックでありますところでは,「動産の譲渡であって,金銭債務を担保することを目的とするものをいうものとする」と記載させていただいておりますが,ここにあります基本的な考え方は,担保目的の譲渡と申しますのは,動産の譲渡であって,譲渡人又は第三者が譲受人に対して負う金銭債務を弁済した場合におきましては,譲受人から譲渡人に対して当該動産の所有権が移転されることを約して行うものをいうものとしております。すなわち,ある動産の譲渡が担保目的というためには,動産の譲渡がされた際に譲渡人と譲受人との間に,実質的に被担保債権といえるものが存在することが必要であるということであります。実質的に被担保債権が存在するという意味は,動産の譲渡がされました際に,譲渡人が譲受人に対し金銭債務を既に負っているか,又は負うことが予定されておりますところ,将来譲渡人が当該金銭債務を弁済した場合におきましては,譲受人から譲渡人に対して当該動産の所有権が再契約を要せずに自動的に復帰することについて明示又は黙示の合意が存在する状態にあるということであろうかと思います。被担保債権が存在するか否かは,あくまで譲渡にかかる契約をみて実質的に判断されるべきであるというふうに考えております。   次に,このような考え方についての問題点として,3点ほど掲げさせていただいております。4ページのbからでございますが,まず第1に,このような基準によって担保目的であるか否かを判断することとした場合におきましても,例えばリースバック等におきましては,当事者は真正譲渡及び賃貸借であると認識しているもかかわらず,後日裁判所において担保目的譲渡であると判断される事例があるところ,真正譲渡として登記できるならばよいのですが,担保目的譲渡としてしか登記できないとすると,登記をすることによって本来の認識と異なる担保目的譲渡であると認めたこととなってしまうので,困惑するという御指摘がございます。   第2に,ある取引が担保目的であるか否かについて,取引当事者の認識と裁判所の判断が異なることに伴うリスクがあるとの御指摘がございます。例えば,この案をA案と併用しました場合,ある動産の譲渡取引につきまして,当事者は担保目的の動産の譲渡であると認識し,先行する占有改定があったとしても有効に当該動産の所有権を取得することができるものと認識して取引を行い登記まで行ったものの,事後的に裁判所において真正譲渡と認定されますと,譲渡人は当該動産に対する所有権を主張できなくなります。この場合におきまして,譲渡人がその時点で十分な資力を有していないときは,不当利得の返還請求も実質的になし得ず,損害をこうむることになるのではないかという懸念でございます。   第3に,登記官の形式的審査のもとにおきましては,担保目的の譲渡ではないものが登記されることを排除することは容易ではないため,無効な登記が増えるおそれがあるという御指摘がございます。   次に,(1+α)におけるαの部分,すなわち流動化目的の譲渡について御説明します。いわゆる流動化と申しますのは,資金調達を行おうとする者が,所有する特定の資産を分離し,当該資産の管理又は処分により得られるキャッシュフローを裏づけとして資金調達を行うことをいうものであるとされております。ここに記載させていただきます案は,これまで金融庁が多大な御尽力をなされておつくりになりました資産流動化法における基本的な考え方,それからその他の政府における法律の考え方を参考にさせていただきまして,私たちなりに工夫させていただいたものでございます。   まず,1の通常の譲渡については,資料で言いますと2ページの1の「次に掲げる法人に対する動産の譲渡」というところからでございますが,証券化を行う法人,すなわちvehicleの特性に着目して規定しようと。2の信託譲渡,3ページにございます2でございますが,信託的譲渡については信託契約の内容に着目してこの譲渡を限定しようという考え方のもとに,このような案を策してみました。   1のbにつきましては,基本的な考え方としましては,いわゆる流動化の業務のみを専業として行うことを目的とする法人であれば,これらの法人が流動化以外の目的のために動産等の資産を譲り受けることはないと考えられますために,流動化のための譲渡を特定することができるという考え方に基づくものであります。   すなわち,流動化とは,一連の行為としまして,まず一つ目に,社債・株式などの発行により投資家等から資金を調達する,二つ目に,調達した資金により法人が動産などの資産を取得するとともに当該資産の管理又は処分を行う,三つ目に,当該管理又は処分により得られた金銭を,債務の弁済,配当の支払いなどの形で投資家等に還元するという,この大きく三つのスキームによりなされるというふうに分析いたしますと,最初の社債・株式などの発行により投資家等から資金を調達する行為と,債務の弁済,配当の支払いなどの形で投資家に還元するという行為は,各法人すなわちvehicleの形態によりまして,社債であったり株式であったり,あるいは債務の履行であったり,配当の支払いであったりして異なるものですから,その異なるそれぞれの形態に応じてアからカまでの各号に記載することとし,真ん中の資産を所得して管理・処分を行うという行為はすべてのvehicleに共通のものでございますので,これを本文の方に規定するという条文といいますか,規定ぶりの構造になっているわけでございます。   次に,このような規定を設けることの問題点として,3点ほど掲げさせていただいております。   第1に,このような規定を設けることが民事基本法の性格に照らして妥当なものとはいい難いのではないかという指摘があることでございます。   第2に,動産物権変動の対抗要件という一般的法規律にこのような目的要件--資料には「条件」と書いてございますが,「要件」というふうに御訂正いただければと思いますが,このような目的要件を持ち込みますことは,法律関係の簡明性を著しく阻害するものであるいう指摘があることでございます。   第3に,このような規定を設けることといたしました場合には,今後の金融商品の柔軟な発展にとって大きな障害となる可能性があるという御指摘があることでございます。   第4に,このような規定が設けられた場合,証券化を行う法人,すなわちSPVに動産を譲渡し,登記まで行いましたものの,投資家に対する有価証券の発行等がされないような事態が生じることもあり得ますし,2のbの場合におきまして,信託契約においては受益権の譲渡がされることが予定されている旨の記述があるにもかかわらず,これが実際に譲渡されないという事態が生じることもあり得ます。このように,流動化目的というものは,譲渡後の予定であって登記対象である譲渡の特性をあらわしているものとは必ずしも言い難く,ただいま御説明しました規定で登記の対象の譲渡が明確になっているとはいえないのではないかという御指摘もございます。   以上のような問題点を掲げさせていただいております。   第2案は,すべての動産譲渡を制度の対象とするものでございます。この案は,動産譲渡登記制度におきましては,担保目的の譲渡に限定するべきではなく,動産の生み出すキャッシュフローを担保として資金調達を容易にするという点においては,流動化目的の譲渡もこの対象に含めてよいというふうには考えられますが,民事基本法としての性格や将来の金融商品に柔軟に対応する必要性を踏まえますと,(1+α)案のように限定して規定すべきではなく,広く動産譲渡一般を対象とすべきであるという考え方に基づくものでございます。   この案を採用した場合の問題点としましては,取引コストの増大や制度悪用のおそれがあるとの指摘がございますが,この点については,通常の取引において真正譲渡についてまで登記を具備する取引慣行が形成されるとは考えにくいとの指摘がなされているところでございます。   次に,「(2) 登記の効力」についてでございます。   第7回会議の審議におきましては,A案を採用した場合の問題点について御審議がされまして,いわゆる三すくみの問題についても審議がされたところでございますが,仮にA案を採用することとしました場合には,予測可能性を確保する観点からもこの問題についての考え方を明確にしておくことが必要であると考えられます。   そこで,6ページにございます(2)の②のような規定を設けることによってこの問題を解消するという考えについて,どのように考えるか,御議論をちょうだいしたいと思います。   ②の規定は一つの例でございますが,動産の所有権の移転は,当該動産の担保目的又は流動化目的の譲渡について占有改定により対抗要件が備えられた後にあっては,①の優先効が付与される登記がされた譲渡によるものを除き,その効力を生じないものとするというふうにさせていただいております。   この動産譲渡登記制度におきましては,占有改定も引き続き原則として有効な対抗要件として位置づけようというふうに考えているところ,A案は占有改定の公示機能の不十分性を踏まえ,いわゆる担保目的又は流動化目的の譲渡が競合した場合におきましては,占有改定による担保目的譲渡後にされた担保目的譲渡であっても,登記をすれば占有改定による担保目的譲渡に優先するとのルールを導入するということでございます。   こうした考え方を前提にいたしますと,いわゆる三すくみの事例におきまして,占有改定による担保目的の譲渡の譲受人,すなわち最初の先行する甲は,その後の占有改定による真正譲渡の譲受人(乙)に自己の権利を主張することができますが,これは,真正譲渡の譲受人との関係では占有改定も完全な対抗要件であるというふうにされているからだと考えられます。このように,甲乙二者しか存在しない場合におきましては無権利者である乙が,登記を経た担保目的譲渡の譲受人(丙)が事後的に登場することによりまして突如として権利を主張することができるようになるというのはそもそも不合理ではないかというふうに考えられます。したがいまして,丙が出現したときは丙を優先させるのが相当であると考えられますが,この点についてはいかがでございましょうか。   繰り返しますと,三すくみの問題につきましては丙が勝つということで,前回の審議のところで,そのような結論を規定を設けて明確にすればよいではないかという御意見もございましたので,その一つの例,例えばということでこのような規定の仕方を考えてみました。もちろん効力を生じないというのではなくて,甲に対抗できない乙は丙にも対抗できないというような形で,対抗問題のような形で書く書き方もあろうかと思います。規定の例でございましてほかの規定の仕方があるかもしれませんが,まずその実質,それから規定ぶりについて御議論をちょうだいできれば幸いに存じます。何とぞ御審議のほどをよろしくお願い申し上げます。 ● 続けて,「(3) 占有代理人の占有下にある動産の譲渡」について御説明差し上げます。   前回の御審議におきまして,例えば倉庫事業者の占有下にある動産が譲渡された場合につきまして何らかの調整規定を設ける必要があるのではないかとの御指摘をちょうだいしましたことから,事務当局におきまして,現行法制下においてどのような調整規定を設けることができるか,検討した次第でございます。   そもそもなぜこのような調整規定が必要となるかについてでございますけれども,考えまするに,現行法のもとでは,所有者が占有代理人のもとにある動産を譲渡する場合の対抗要件としては指図による占有移転によらなければならないところ,動産譲渡登記制度の創設後は,登記によって対抗要件を備えることができることとなります。   ところが,指図による占有移転による場合には所有権の譲渡とともに占有権の譲渡も行われるのに対しまして,登記による場合には所有権の所在と占有権の所在が観念上分離するという事態が生じることとなりまして,占有代理人としてはだれに占有物を返還しなければならないのか必ずしも定かでなくなるというおそれがございます。   また,本人と占有代理人との間に寄託契約のようなものが提携されている場合などには,寄託者が契約上の地位を移転せずに寄託物を第三者に譲渡し登記したようなときには,物権的請求権と債権的請求権が分属することとなりまして,この場合にも受寄者はだれに返還したらよいのか必ずしも定かではなくなるおそれがございます。   そこで,このような不都合性を解消する方策として考え得る案として五つの考え方を示しております。五つも挙げないでもっと絞り込めなかったかという御批判もあろうかと思いますが,どれも一長一短ございまして,いずれの案も一応御議論の対象にさせていただければと思います。   概略を申し上げますと,まず甲案は,指図による占有移転と同様の規律を設けようというものでございます。乙案は,民法の起草者の考え方は恐らくこうではなかったのかという考え方に基づくものでございます。丙案は,登記についての外観法理的なものを適用した考え方でございます。それから丁案と戊案は,実務上予想されるであろう処理の方法に従った考え方でございます。以下,順に御説明差し上げます。   まず甲案は,引渡請求を受けた占有代理人は,譲渡人から譲渡の通知を受けるまでの間は引渡しを拒むことができる,そういった考え方で,現行法の指図による占有移転と同様の規律を設けようとするものでございます。   しかしながら,最高裁判所の判例によりますと,動産の寄託を受けた者というのは民法第178条の第三者に該当しないという御判断をしておりますので,譲受人は対抗要件なしに受寄者に対して所有権に基づく返還請求権を行使できるということになると考えられます。ところが,甲案では,譲受人は登記という対抗要件を具備している上に,更に指図による占有移転までを要求することとなりますので,このような判例の考え方に抵触するのではないかと思われます。   また,甲案では通知の主体を譲渡人に限定していることから,譲渡人が破たんしたような場合には結局譲渡人の協力が得られないということになって,実効性に問題があるのではないかという点も問題点としてございます。   さらには,甲案では,本人と譲渡人が一致していることを念頭に置いて規定しておりますけれども,他人の物を寄託しているような場合,本人と譲渡人が異なるような場合には,譲渡人からの通知で指図による占有移転があったと構成することは困難ではないかと考えられます。   次に乙案でございますけれども,乙案は民法の起草者の考え方に基づく案でございまして,譲受人の方から引渡請求を受けたとしましても,譲受人が確定判決その他の方法によって所有者であることが明らかになるまでは,占有代理人は引渡請求に応じなくてもいい,応じなくても損害賠償の責めを負わないとするものでございます。   この問題を検討するに当たりまして手がかりとなる条文として,寄託契約に関する民法660条というものがございます。この条文は,第三者が訴えを提起した場合や差押えをした場合には,受寄者は寄託者に通知しなければならない,通知義務を課すものでございますけれども,第三者が訴えを提起する前の段階で単なる請求があった場合については,何ら規定をしておりません。   そこで,この条文の制定時の法典調査会の速記録を調べてみましたところ,同条の原案には,第2項として「前項の場合において受寄者が確定判決により受寄物を第三者に引渡すべきときは……受寄者は寄託者に対して返還の義務を免れる」,そういった規定が設けられておりまして,この規定については,受寄者は寄託者に寄託物を返還するのが原則であるが,その例外を定めた規定であると説明されておりました。したがいまして,起草者の頭としては,受寄者が第三者から単なる請求を受けた段階では,受寄者はその請求を拒めると考えていたのではないかと推察されます。   乙案は,このような考え方に基づきまして,更に,代理占有関係というのは寄託や賃貸借等の占有の基礎となる契約関係に基づいて成立するものというのが原則でありまして,その点を考慮しまして,占有代理人は契約上の返還請求権者に対してのみ返還義務を負うのが原則であるけれども,例外的に所有権者が確定判決等に基づいて引渡請求する場合には,その者に返還すれば契約上の返還請求権者への返還義務を免れると,そう考えまして,現行法のもとにおいてもその理は異ならないと。したがいまして,乙案のように書くということは,現行法においても当然のことを注意的に規定する確認的な規定になるという考え方でございます。   ただ,この考え方にもやはりちょっと問題点があるなと思われるところは,そもそもそういう前提とする,占有代理人は譲受人に引渡義務は負うけれども,譲受人が所有者であることが確定判決等により明らかになるまでは引渡しをしなくても違法ではないという考え方というのが,起草案の第2項が削られた現行の民法のもとでもそのような解釈が維持されているのかという点については疑問もあるところだと思います。   また,起草案の第2項では,受寄者が寄託者に通知しなかった場合でも返還義務を免れるとすることの妥当性についての疑問ですとか,通知をしなかった場合には返還義務を免れるけれども損害賠償は負うという説明がされていますが,それは規定上読めないのではないかというような理由で,起草の段階では削除されたということが記載されております。   それから,乙案によりますと,「譲受人が所有者であることが明らかになる」というのが一つの区切りになっておるのですが,具体的には,確定判決を受けた場合ですとか,フランス民法にも記載されているような,受寄者自身が,寄託物が盗品であって譲受人が真の所有者から譲り受けているということを知っていた場合などがその具体例ではないかと考えられますけれども,「確定判決その他の方法」というような表現の仕方で,後者のような場合まで網羅的に規定していると読むことが可能かどうかというところは,またそこも疑問があるところでございます。   続きまして丙案でございますが,丙案は,登記に外観法理的な効力を認める考え方です。譲受人が引渡請求をした場合には,占有代理人が譲受人に引渡しを受ける権原のないことにつき善意であり,かつ過失がなかったときには,譲受人に動産を引き渡せば,本人に対して損害賠償の責めは負わないというものでございます。この考え方は,譲受人が譲渡人との双方申請でされた登記を有していることから,実体関係がその登記と異なっていたとしても,本人にはその寄与があるということで,外観に基づく責任を負わせるという考え方でございます。   この案におきます,「引渡しを受ける権原のないこと」というのは,譲渡契約が効力を有しなかった場合ですとか,いわゆる譲渡担保権の実行の条件が成就していないような場合を意味すると考えております。それから,譲受人が引渡しを受ける権原を有している場合には,引き渡したときの記述については直接は記載はしておりませんけれども,当然に本人に対しては責任を負わないということを前提としております。   この案に関する問題点でございますけれども,それは,動産譲渡登記にこのような強い外観まで認めてもよいのかという,そのよって立つ根拠そのものに対する疑問でございます。すなわち,動産譲渡登記というのは,不動産登記のような物的編成主義をとりませんし,また,登記以外の引渡しについても,現行法と同様,対抗要件として認めておりますので,第三者が登記を備えたとしましても,その後に指図による占有移転を受けた者が即時取得するという事態は制度上十分生じうることとなりますので,その動産譲渡登記を信頼したことをもって,占有代理人に本人との関係で責任を負わせないという効力まで持たせることは困難ではないかと考えられるところです。   続いて丁案でございますが,この考え方は,実務上とられるであろうと予想される処理方法に従った考え方です。すなわち,まず譲受人から引渡請求を受けました占有代理人は,遅滞なく,本人に対して,当該請求について異議がある場合には,相当の期間内にこれを述べるべき旨を催告しなければならないとしております。そして,本人がその期間内に異議を述べなかったときは,占有権の移転があったものとみなしますし,異議を述べたときには,代理人はその旨を譲受人に通知した上で譲受人の請求を拒むことができるとする規律でございます。占有代理人が譲受人の請求を拒んだ後の処理につきましては,規定上は規定はしてございませんけれども,本人と譲受人の間で決着をつけると。民法660条と同様の考え方によっております。   この案の意義につきましては,本人との関係では,本人に催告して,本人からの異議の内容に従って行動するということで,本人に対しては不法行為責任を負わないということ。それから,譲受人との関係につきましては,引渡請求後も譲受人が所有者であるかどうかを確かめる期間,ここでは相当期間,催告期間内は不法行為責任を負わないということを明確化したものという説明になるかと思います。   しかしながら,この案につきましても幾つかの問題点がございまして,まず,占有代理人に催告義務を負わせる,義務まで負わせることの理論的な根拠というものが問題になるかと思います。寄託契約の場合でも,先ほど御紹介いたしましたように,通知義務は訴えの提起とかがあった場合に限定されていることを考えますと,一般的に義務まで与えるという理論的根拠はどこにあるのかという点が問題だと思います。   それから,指図による占有移転がされたとみなされるという要件がないと,結局,譲受人の方は引渡請求を実現できないということになりますので,実質的に権利行使要件を課したことと同様となり,判例の考え方と抵触するのではないかという問題点がございます。   さらには,丁案では,本人が異議を述べなかった場合には,本人の意思の有無にかかわらず,強制的に指図による占有移転があったとみなしてしまうという構成をとることになりますが,その理論的な説明をどうつけるかという問題がございます。   さらに,丁案の②では,占有代理人が譲受人の請求を拒むことができるという根拠をどう説明するかという問題がございます。この点について,一つの考え方としては,本人の異議事由を占有代理人が代理占用関係,代理関係に基づいて援用するという説明の仕方もあろうかと思いますが,本人が必ずしも異議について正当な理由があるとは限りませんので,この説明ですべての場合を理由づけることはまた難しいのではないかと思われます。   そこで,最後に戊案でございますけれども,この考え方は,丁案の先ほどの問題点を解消しつつ,実務上とられるであろう処理方法を規定したものでございます。具体的に申しますと,譲受人が引渡請求をした場合には,代理人は,遅滞なく,本人に対して,異議がある場合には相当の期間内にこれを述べるべき旨を催告し,その期間内に本人が異議を述べなかったときは,譲受人に動産を引き渡せば本人に対する損害賠償の責めは負わないとしまして,丁案とは異なりまして,占有代理人が本人との関係で責任を負わない場合のみを規定しております。   ここに書かれていない場合,すなわち占有代理人が催告しなかった場合,それから本人が異議を述べた場合の規律についてはどのように考えているかと申しますと,現行法のもとにおいて譲受人が引渡請求をした場合と同様になるであろうと考えております。現行法のもとでどのようになるかといいますと,この点について明確に記述しているものはございませんでしたので,恐らくこうなるのではないかということしか申し上げられませんけれども,本人との関係では,まず本人に事情を確認することとなると思います。これをせずに譲受人に引き渡してしまったような場合には,譲受人が所有者であることが明らかであるような場合を除きまして,本人に対して賠償責任を負うことがあるかと思われます。   他方で,譲受人との関係では,判例のような考え方からすれば,本人が異議を述べ,その異議の理由が正当であると考えられるものであれば,それを根拠に引渡しを拒んでも不法行為責任まで負うことはないのではないかと考えられますし,また,起草者の乙案のような考え方に基づきますと,譲受人から引渡請求を受けても,確定判決等によりその者が所有者であることが明らかになるまでの間はこれに応じる必要はないということになりますので,占有代理人は引渡しを拒んでも不法行為責任を問われることはないということになるのではないかと考えられます。   それから,戊案自体の説明としましては,占有代理人は譲受人との関係でも相当期間内は責任を負わないことを前提としておりますけれども,これについてどう説明するかという点につきましては,やはり判例の考え方,それから起草時の考え方と説明のしぶりが異なるかと思われますが,まず判例の考え方からすれば,引渡請求後も譲受人が所有者であるかどうかを確かめる相当期間内は不法行為責任を負わないということを明確化したものだと。それから,起草者の考え方からすれば,恐らく,譲受人からは引渡請求を受けても,確定判決等がない限りはこれに応ずる必要はないということを前提とした確認規定であるといった説明がされることになるかと思われます。   以上五つの案を述べ,それぞれの問題点を指摘させていただきましたけれども,それらを踏まえて御議論いただければと思います。   続いて2でございますが,「登記情報の開示」についてでございます。   (1)の「登記情報の開示方法」につきましては,2種類の開示方法にする点で,当部会におきましてもこれに賛成する意見や御意見が多数でございましたので,中間試案に掲げた考え方をそのまま記載しております。   続いて,米印は,全部の登記情報についての開示を請求することができる者の範囲についてでございます。この点は,これまでは,「利害関係を有する者」として譲渡人の使用人や労働組合を加えるかという問題提起をしておりましたけれども,債権譲渡特例法第8条第2項が「利害関係を有する者」の具体的中身について規定しておりますけれども,13ページのアに記載しましたとおり,かなり限定的に解され,規定されていることからしまして,利害関係人の中に譲渡人の使用人や労働組合を含めることは困難ではないかと考えられます。もっとも,これまで当部会の審議におきましても,企業がどのような資産を担保に供しているか,また譲渡しているかということは,企業と雇用関係にある使用人にとっては重大な関心事項であり,一定の労働者保護を図るべきであるとの御意見が多数出されていたところでございます。そこで,このような御指摘を踏まえまして,労働者保護の政策的な観点からしまして,譲渡人の使用人も,利害関係人としてではなく,独自に全部の登記情報の開示請求ができるとすることを今回御提案しております。   イですが,労働組合は含めるべきかどうかという点についてでございますけれども,企業の中には労働組合がないものもございますし,実質的に労働組合の代表者,それから構成員は通常は譲渡人の使用人であると考えられますので,譲渡人の使用人に全部の登記情報の開示をすることを認めるとすれば,実質的なニーズはカバーできるのではないかと思われることから,労働組合自体は含めないということにしております。   それから,(2)は「法人登記簿への記載」についてでございますけれども,この点は,登記の概括的な情報を譲渡人の法人登記簿には記載せずに,新たに「動産譲渡登記事項概要簿」というようなものを設けまして,こちらに記載する制度を設けることで御賛同いただけましたので,その案を掲げております。   それから,御審議の際に御質問がございましたけれども,概要簿への記載事項につきましても,いわゆるないこと証明が発行できるようにシステム的にも対応する予定でございます。   それから,動産譲渡関係の最後は,米印でございますけれども,他の登記・登録制度等との関係について整理したところを掲げております。   まず,1に記載しましたとおり,登録された自動車ですとか航空機等のように,所有権の得喪の対抗要件として民法上の引渡し以外のものが予定されている動産につきましては本制度の対象とはしませんけれども,未登録の状態であれば対象になるという整理をしております。これらの動産につきましては,現行法のもとにおきましても,いったん登録等がされるまでは民法の動産対抗要件制度の適用がありますけれども,登録等がされた後は,登録等をしない限りは対抗要件を備えたことにはならないとされておりますので,この制度が創設後もそれと同様の整理になろうかと思われます。   それから,2でございますけれども,貨物引換証等の証券が作成されている動産についてでございます。これらの動産につきましては,証券を引き渡したときは当該動産の上に行使する権利の取得について,当該動産が引き渡された場合と同一の効力を有するという物権的効力が認められておりますけれども,その処分証券性の趣旨につきましては見解が分かれております。   まず第1説は,動産処分は証券の引渡し等をしなければ一切効力を生じないという民法の物権変動について一種の形式主義を採用して,意思主義の例外を定めたものであるという考え方がございます。他方で,そうではなくて,物権変動の原則は維持したまま,証券の引渡しと動産の引渡しが競合したような場合には,証券の引渡しを受けた者の権利が優先することを定めたものであるといった2説がございます。どちらが通説なのかというのがいま一つ,両説とも有力のようでございまして,決めが打てない状態でございます。前者のような考え方からしますと,そもそも動産譲渡登記というものはできないということになりまして,仮に登記がされても無効だということになりますけれども,後者のような考え方からしますと,民法上の引渡しもできますので,動産譲渡登記の対象にはなると考えられます。しかしながら,証券が作成されている場合には,その証券を用いた金融手法は可能でございますから,わざわざ動産譲渡登記の対象とする必要性は乏しいですし,また,仮にこれを含めますと証券の引渡しと登記との優先関係はどうなるのかという問題を生じることとなります。   そこで,ここでは,これらの証券が発行されているような動産につきましては動産譲渡登記制度の対象とはしないという適用除外規定を設けることを提案しております。この規定の説明ぶりとしましては,意思主義の例外だとする前者の考え方からすれば確認規定ということになりますし,意思主義の原則を維持するのだという後者の考え方からすれば適用除外規定を設けたということで説明するということになろうかと思われます。   動産関係は以上です。 ● それでは,まずは動産関係につきまして御審議をいただきたいと思います。   最初の第1の「1 登記の効力等」の「(1) 登記の対象」について御審議をいただきたいと思います。もちろん,これまでの御審議の中で度々御意見を述べられておりますように,効力の問題と完全に切り離して議論することは難しいことは難しいのですけれども,議論の整理上,まずは登記の対象について御意見をいただきたいと思います。   ○○幹事のペーパーは,登記の対象に関連しますか。それでは,御意見をお願いします。 ● 席上配布していただきました,「登記の範囲につき1+α案を採用することに関する意見」ということでお出ししております。   意見表明したいのですが,(1+α)案,資産流動化目的を記載するということが可能かどうかということで案をお出しいただいたのですけれども,私は,結論といたしまして,これを採用することには賛成できないということでございます。権利変動の対抗要件というのは,この1のところはこれは言わずもがなのところでありまして,一義的・簡明に権利変動の存在を示すものであることがおのずから要請されていると。   この部会資料8-1の1ページ一番下の行以下に掲げていただきました流動化目的の動産の譲渡の定義を見てみますと,この一義性・簡明性が充足されているとは考えられないというふうに思います。この1bの記載は,特定融資枠契約に関する法律--コミットメントライン契約ですね--の2条7号ですとか,それからサービサー法の2条1項12号などに見られる表現と軌を一にするものでありますし,また資産の流動化に関する法律にも類似する規定がございます。したがいまして,資産流動化目的を表現しようとする場合の記載方法としては恐らく適当なものなのであろうということはよく分かるわけであります。   しかしながら,登記申請の際に登記官がこの要件の存否を正確に判断するということは不可能と思われます。結局,登記が受理されたとしましても,その登記の有効性をめぐっては後行の権利関係に立とうとする者との間で不安定な法律関係が生じることになると思われます。   一例としまして,私自身が弁護士として最近関与いたしました有限会社SPCの例,これは唯一ということでなくて,ほとんどがこんなような記載であります。定款の目的は,「(1)不動産信託にかかる信託受益権及び不動産の取得,保有,売却及び管理」ということで,受益権を受け入れる場合と,不動産そのものを受け入れる場合と両方に使えるようにしてあります。こういう記載になっている。金銭債権であれば債権になるということであります。以前,この「一連の行為として」というその資金調達方法までをこの目的の欄に書こうとして法務局と協議したことがあるのですけれども,企業が社債を発行するというのは,これは定款の目的であるはずがないという御指摘を受けまして,その資金調達の内容については書かずに,こうした資産の取得等々の事柄に限定した記載をすべきであるという御指導を受けたような経緯もありまして,今現在SPCはこんなような書き方がスタンダードなものとなっているかと思われます。   そうしますと,これは動産になる場合には動産というのは追記されるのでしょうけれども,こうした定款の目的をもって,商業登記の目的を見た登記官がこの定義1bにありますような「一連の行為として」云々という要件の存否を判断するということは困難と思われます。したがって,この程度の専業性というか,シンプルな目的になっていれば,恐らく登記は受理せざるを得ない,受理されるのだろうと思われます。   しかしながら,後行の権利関係に立った者は,「一連の行為として」云々という要件があるのかないのかということについてなお争い得るということになるわけでありまして,法律関係は極めて不安定になるということが予想されます。後行の権利関係に立とうとする者がこうした不安定な法律関係を嫌うならば,結局,先行登記があるだけで,そのことだけでもってその有効性を考慮することなく後行の取引を一律に思いとどまる結果となるだろうと思われます。このこと自身は,2案を採用した場合における後行取引当事者の行動選択と同様なわけですけれども,先行登記の効力をめぐって紛争が生じることが予想される分だけ,対抗要件が持つ権利関係の整序機能というものが大きく後退させられているのではないかと思われます。   翻って考えてみるに,先ほど御紹介しましたようなコミットメントライン契約であるとかサービサー法,あるいは資産流動化法といったものに類似の表現がありますけれども,これはいずれも関係する当事者を規律する場面で機能するのみでありまして,当事者以外の第三者を巻き込む場面で,第三者に対する関係で機能するということはあり得ないという,そういう法律なのではなかろうかというふうに思われます。例えばコミットメントライン契約の場合,この要件を満たさないものでコミットメントライン契約を締結した場合には,その貸主は利息制限法違反だとか出資法違反という責めを負うことになるということでありますし,サービサー法について言いましても,特定金銭債権の適格を欠くということの不利益は,当該サービサー業者が負うのみであります。資産流動化法におきましても,同じく資産流動化計画が不適法であるという話になるだけだろうと思います。   ところが,この登記制度というものは,当事者以外の第三者を巻き込む部分にこそ存在意義があるわけですから,この要件の存否をめぐる問題の立ち位置というものは,根本的に異なるのではないかと思われます。したがいまして,こうした当事者以外の第三者との関係でかかる流動化目的というものの要件を要求するということは,対抗要件制度として適切なものとは考えられないと思います。   このこと自体,目的から見るということ自体は,流動化目的に限らず,担保目的についてもやはり同じ構図を持っているわけであります。後行の譲受人が権利主張をした際に,先行の登記権者が先行登記という対抗要件を抗弁として主張し,これは司法研修所的に言いますと抗弁ではなくて再抗弁なのではないかとかいろいろ細かな議論はあるのですが,例えばで言いますと,抗弁として主張し,後行の譲受人が,担保目的でない,実質的には担保目的以外の目的であることというものを再抗弁として主張するという,こんなような形の紛争が予想されるわけでありますけれども,こうした紛争がせっかく設ける対抗要件制度の中で行われるということは,いかがなものがというふうに考えられるわけであります。   したがいまして,私は,1案も,それから(1+α)案も対抗要件制度としては適当なものとは考えられない,2案の簡明性こそが重視されるのではなかろうかというふうに考える次第でございます。 ● ほかの御意見をいただければと思いますが。 ● 私も,ただいまの○○幹事の御意見に全面的に賛成であります。   私は,前回のこの会議でペーパーをお出しして意見を申し上げたその冒頭で,対抗要件の画一的処理ということを強調させていただきました。1案の担保目的でも,(1+α)案の流動化証券化目的というものを加えたものでも,この画一的な処理にもとる,一義的かつ簡明な処理ができなくなるということは同じでありますし,マージナルなところの線引きの判断に困難を生じ得るということは同じであります。   そして,本日お示しいただいております(1+α)案の書きぶりですけれども,これは,前回,こういうものがどう書けるのか,書いてみるべきであるという御意見があったからということだろうと思いますが,事務局の御努力は多といたしますが,このように長文の規定になる,かつ,今の○○幹事の御発言のように,これでも問題が残る。いわゆる業法ではこのような長文の規定というのも見るわけではありますけれども,民事基本法ないし民法の特例を作る法律という位置づけになるようなものとしては,国民に理解を求める意味でも,これは適切ではないだろうと,こういう長文になること自体が適切な規定ではないというふうに私は思うわけであります。   したがって,前回申し上げましたように,2案を採用していただきたいというのが私の意見であります。 ● ほかに御意見があれば。 ● 前回,(1+α)案を検討する必要があるのではないかということを提案申し上げまして,短期間でこれだけの案を検討いただきまして,そのことにまず敬意を表したいと思います。   今,幾つかの議論がございましたけれども,5ページに,こういう(1+α)案を書いたときの問題点ということで,ただいまの○○委員の御意見にもありましたように,民事基本法としての性格に照らしてという議論が前回からもありましたけれども,こういう民事基本法の性格に照らしてとおっしゃる方の民事基本法とは一体何かということが,どうもこれは一昔前の民事基本法のイメージではないかというふうに私は考えております。例えば,電子署名に関する法律というのがしばらく前にできまして,この電子署名法というのは,フランスでいきますと民法典本体に入るような,これは民事基本法的な性格で,認証業務に関する法律という名称になっておりますけれども,決して業法ではないわけであります。また,様々な新しい技術が登場することに対応すべく民事基本法をどう構築するかということで,従来こういうタイプの法律はなかったわけですから,これを作るときには,関係者,多大な御努力をいただいて,こういうものが民事基本法であるということの理解を得ることが非常に困難であったということが語られていますけれども,正にそれと同じような問題がここでもあるのではないか。つまり,古い民事基本法のイメージではなくて,今ここで必要とされているのは,この電子署名法のようなタイプのものではないかというふうに考えられます。   立法技術としましては,法律本体にここまで細かいルールを書くのがよいのか,法律本体につきましては例えば電子署名法と同じように機能的な定義を掲げておいて,具体的に何が当たるかは主務省令に委ねるという形で,機動的な,新しい技術の発展にも対応するという法律の書きぶりにするかどうか,これは次のレベルの技術的な問題ですので,この御提案を少しモディファイすればそういう形に置きかえることは容易だろうと思います。   そういう形で,新しいタイプの民事基本法というのがここで要請されているとすれば,そういうことが十分あり得てよいし,正にこれからはそういうことがむしろ必要になってくるのだという発想の転換が必要だというふうに私は考えております。   目的で,5ページでいきますと「加えて,」以下の話がありますけれども,ここで書いてある話は結局担保目的譲渡の場合と同じことでありまして,担保目的譲渡の場合にも譲渡そのものについては権利がいっているわけでありまして,その後どうなるかという一連の過程を機能的に評価して,担保目的かどうかということになるわけでありますので,担保目的譲渡はいいけれども流動化目的はだめだという批判は成り立たないだろうと思います。先ほどから出ている議論というのも,結局担保目的譲渡も,それから流動化目的も,何か目的を掲げること自体が適当でないのだというタイプの議論でありますので,担保目的譲渡がいいという方は,流動化目的の方はだめだという批判は成り立たないというふうに私は思います。   なぜ目的を掲げるかということは,冒頭,○○委員からもお話がありましたように,これは効力論と関係しているわけでありまして,結局,現時点では二つの方向,つまり,A案的な発想で,登記に明確な効力を与える,その場合には,一律譲渡を対象にするにはいろいろな弊害が出てくるので,ここでは企業の事業収益に着目した資金調達方法を円滑化ならしめるために動産の公示制度を検討するというのがそもそもこの部会の出発点であったはずでありますので,そのこの部会の目的に沿った形で限定をし,そこで一定の明確な効力を与えるという方がいいのか,それが難しいので,登記の効力は極めて弱いものにして一律与えるのがよいか,そのどちらかの選択であります。   ○○幹事は,前回から,弱い効力でいいという立場にお立ちでありますので,そもそもA案的な効力は要らないということですから,それで完結していると思いますけれども,前回の議論を拝見しておりまして,実際に実務に立つ方の中にも,そういう弱い効力でいいのか,要するにB2的な発想でいきますと公設ネームプレート案でありまして,登記では法的な効力はデフォルトとしてはないと。これは,取引慣行によっては,一定の場合に即時取得を拒否できるような効力が与えられる場合があるというわけであります。   先ほどから,○○幹事のペーパーにも,登記の場合には「一義的・簡明に権利変動の存在を示す」というふうに書いてあるわけでありますけれども,あるいは明確性,「対抗要件が持つ権利関係の整序機能」という言葉が出てきますけれども,これはA案をとるのかB案をとるのかによって大きく違ってくるわけでありまして,2案でもB2案の場合には,登記に余り一義的・簡明な効力もなければ,整序機能もないと。せいぜい公設ネームプレート,つまり先行の占有改定には負けるわけでありますし,また後行の即時取得を排除する効力があるかといいますと,これは取引慣行に委ねるわけでありまして,そのある一定の立場の者が例えば融資をするときには公設ネームプレートを見なくてはいけないという行為規範が今後の取引慣行によって醸成された場合に,それを見るということになるわけでありまして,それ以外の場合には登記を見なくてもどんどん即時取得していくというのがB2案でありますので,「一義的・簡明に権利変動の存在を示す」というものとはほど遠い。つまり,そのあたりの効力が,先ほどの御説明のはどういう前提に立つのかということとやや抵触しているような気がいたします。   結局,効力をどこまで与えるかという,これは論理で定まる問題ではなくて実務のニーズによるわけでありますので,B2のような公設ネームプレート的な弱い効力でいいのだという場合には,何も難しい議論をして目的で限定する必要はないだろうということになりますし,いや,それでは流動化や担保,これからの担保,新しい事業収益に着目した担保手法としてはそれでは適当でないのだという場合には,(1+α)の方向で努力するということになろうかと思います。ここはニーズでありますので,この点については,政策的な結論を最終的には法務省がすることになるのだと思います。 ● 今,議論を整理していただきましたように,これまでの議論の経過の中で,A案をとって(1+α)でいくという線と,B2案というのが大きな意見の分かれになっておりますので,その辺のところ,そろそろ大勢を決めなければいけない時期にも差しかかってきておりますので,効力の問題とも絡めまして,それぞれの委員・幹事からできるだけ幅広く御意見をいただければと思います。 ● 私の方はリース業界からの考えということなのですが,A案,いわゆる優先効を認める場合にはリース取引に与える影響というのはかなり大きなものがありますから,その場合は,1案であっても(1+α)であっても,非常に問題がある。A案の場合でしたら,やはりA2がリース業界にとっては一番好ましいということなのですが。   ただ,我々は,B2でも,それに対して特に強く反対するというふうなことはございませんで,B案だったらB2がやはりよろしいのではないかと,こういうふうに考えております。 ● A2又はB2ということですね。 ● そういうことです。   我々の意見としてはA2の(注)ということでしたけれども,それがどうも突出したような考え方のようですから,B2であっても特に問題はないと思います。 ● 銀行業界の中で話し合った結果なのですけれども,基本的には,従来はA(1+α)という案がなかったものですから,新たにその+α部分についてどう考えるかということで議論もしたのですが,+αを加えることについては特に反対はなくて,むしろ賛成する意見も聞かれたところであります。そうしますと,A(1+α)でうまくいくようであればそれでいきたいという意見が比較的多いということなのだろうと思うのですけれども,一方では,B2案についてもやはり賛成する意見がありまして,総括すると,A(1+α)がやや優勢ではあるのだけれども,まあB2でも構わないというふうな意見です。 ● 私どもの中小企業庁という立場上のところもあるわけですけれども,もともと今回のこの審議自体が,中小企業の金融を豊かにする,それをもって中小企業の金融を円滑化するというところがこの議論のスタートだった。それをかいつまんで御説明いただいた○○幹事の御意見とほぼ変わるところはないわけでございますけれども,それを目的とする以上は,基本的にはその効力の強いものであることの方が,銀行若しくは信金・信組まで含めた融資慣行からすれば,中小企業の担保の効力を強めることによって得られるであろう融資の効力,融資の大きさというところに影響するわけでございますので,その意味においてはA案というところになるということだと思います。   その上で,範囲の議論につきましては,(1+α)というところで十分だとは思うのですけれども,ただ,今御議論の中にあったような,民事基本法というところの議論の中で(1+α)はとり得ないというところについての御議論は,これまた○○幹事のおっしゃるところと感覚的には一緒でございまして,我々の接するところの事業者の立場からすれば,基本法も法律も差はない,ユーザーの立場からすれば法律は法律であって,そこにどんな色がついてるんだということだと思いますし,そこで本当に分からないことが書き切れないということであれば,それこそ政令だ省令だということで書くのが法律上のテクニックだということなのだと思うのです。そこからして,民事基本法だからという制約要因でこれを(1+α)ではないというようなことで中小企業団体だとかいろいろなところに説明しろと言われても,私はちょっと説明する語句がないなという思いを持つ次第であります。   よってもって,結論としては,A(1+α)案がよろしいのではないかというのが私の意見であります。 ● ほかの委員・幹事の御意見も。 ● 私は,最初からB2案がいいと思っております。   理由でございますけれども,まず登記の整序機能ということで,確かにA案ですと,登記をすれば先行の占有改定が吹っ飛びますから,--ごめんなさい,効力の問題と射程の問題がないまぜになってお話をすることになりますけれども--A案ですと,1回登記をすれば,その前に占有改定がついても全部吹っ飛びますから,登記をすればそれで一番ということでクリアですけれども,ただ,そのように強い効力を与えるときには登記の範囲というものをやはりどこかで区切らなければいけないとすると,担保目的に区切るにしろ(1+α)にしろ,目的に入るかどうかで,その入口に入れるかどうかということですから,入れないとなれば全部登記が吹っ飛んでしまいますから,幾ら登記をつけていて一番だと思っていても,残念でした,これは入口が違いましたといえば,ゼロになってしまう。   それに対して,2案の場合は全部につけられますから,確かに先行に占有改定があった場合には,登記はつけたとしても2番になるかもしれないけれども,登記自体の効力が吹っ飛ぶということはないわけですから,その意味では,法的安定性というところから見れば,どうもA1にしろA(1+α)にしろ,目的で縛るというと非常にそこに不鮮明なところが残るので,全体的に見た場合には,登記の簡明性というところからすれば,私は,2案にするとこれはどうしてもB案にせざるを得ないと思いますので,そちらの方が勝っていると思います。   それから,確かに,αをつけるということで,民事基本法の概念をどうパラダイムの転換を図るべきかどうかという,そういう話に入っていきますと,これは神々の議論になって,それぞれ信条告白をしなければいけなくなるのでやめておきまして,確かに,例えばαのところを骨格だけは法律で書いて,あと全部,政令とか省令に落とすとしても,実務というのは,特に流動化とか証券化とかいう分野というのは,これから信じられないくらいの発展を遂げるところで,物すごい仕組みが出てくると思いますので,幾ら法律は骨だけで細かいことは規則に落とすといっても,やはり官のやることは民の後を追うしかないと思います。そうすると,そこにギャップが出てくるので,αを入れてしまいますと,どうしても仕組みを縛ってしまうことになるのではないかと思います。その観点から,確かに現在の動産・債権譲渡にかかるこの審議会というのは,その一番のターゲットは,目下のところは中小企業金融の円滑化であろうかと思いますけれども,しかし,中小企業金融の円滑化だけではなくて,動産なり債権を使って資金を引っ張る手法というもっと大きな目で見た場合には,これを例えばA(1+α)とかA1にした方が中小企業金融に明日とか今資するからというのは少々,ちょっと失礼な言い方ですけれども,近視眼的ではないかなと思います。   かつ,確かにA1とかA(1+α)の場合には登記をつければいいということですけれども,ただし,こういう債権とか動産を担保目的にした場合に,これは結局キャッシュフローを目的にしていますから,徹底的に,融資先がどんなキャッシュフローなのか,担保目的にはどういう権利がついているのか,融資をする側が調べないはずはないわけですから,その手間隙を惜しむということは私はないと思いますので,その意味で,いったん登記をすればその登記の効力が後からひっくり返ることはないという意味で,譲渡については全部登記をさせるということで,2案に賛成です。そうすると,どうしても効力との表と裏でB2案,確かにベストの選択ではないかもしれませんけれども,B2案の方がよいのではないかと思います。 ● 前回も申し上げたような気もしますけれども,もう一度私の意見を申し上げますと,1案か2案か(1+α)案かという観点から申し上げますと,私は2案でございます。   そもそも,一つの売買取引が担保目的であるのか真正譲渡であるのかということの区別は,当事者の意思だけで決まるものではないわけでございまして,後から裁判所が御判断なさる問題でございます。その判断によって,実はあれは無効な登記だったのだというふうなことになってしまうリスクを当事者に負わせてしまうということは非常に酷なのではないだろうかという気がいたします。その問題は(1+α)についても同じなのではないだろうかと思います。そのαの部分というのは,先ほどから御指摘があるように,取引の進化・進展によってどんどん変わってくるのだろうと思います。先ほど○○幹事から御指摘がございましたけれども,政省令に譲ることによってより機動的な取り込みができるのではないかという御指摘もありましたけれども,なおそのときそのとき取引を企画する段階では,一つの決まりがそこにあるわけでございまして,その決まりを枠組みとして前提として一つの取引を企画をして入っていくわけでございます。そのときに,果たして今行おうとしている取引が(1+α)のαの中に含まれるだろうかどうだろうかという判断を当事者に負わせるということは酷なのではないだろうかという気がいたします。したがいまして,私は2案に賛成です。 ● ほかにいかがでしょうか。 ● (1+α)か2かと聞かれれば,通常,経産省は2と言うんですよね。これは当たり前なんですけれども,今回ちょっと特殊な事情があって,恐らく我々の目で見ているところは,やはり積極的に使いたい人たちは何を望むだろうかと,こういう議論をしていくと,規定という意味では2の方がいろんな可能性があるからいいという議論にはなるのですけれども,効力とかなりリンクしていますので,そうすると,結局我々の目から見ると,法務省事務局の御努力で,とりあえず担保目的だけでなくて流動化目的も入れましょうと,そういう問題意識は(1+α)でも2でも同じなので,相当程度大前進したというふうに理解をしています。   あと,(1+α)か2かという書きぶりの議論だけちょっと気になったものですから,いろんな関係者の方々にお伺いしたら,結構うまく書けているじゃないかと。現状の今やりたいことについては恐らく漏れがないだろうし,確かに可能性としてはこれからいろんなやり方が出てくるから,不備であるという議論もあるだろうけれども,でも現状の実需,実務の目から見ると(1+α)の書き方というのは必要十分こなしているのではないかという評価をいただいていると,こういう状況でございます。そういう意味では,(1+α)と2というのは,ある種範囲をどこまできちっとやりたいことを押さえているかと。要するに,真正譲渡まで動産公示制度を使おうという人はいないわけですから,やりたい人という目で見たときに(1+α)と2というのはどうなっているかというと,恐らくほぼ無差別になっていて,そういう意味ではどちらもとり得る案ではないかというふうな頭の整理になると思います。   あとは,効力の議論に立ち上ってきたときに,さっき全銀協さんの御意見の御紹介ございましたけれども,使いたいという方々にちょっといろいろとまたこれを議論してみたのですけれども,正直申し上げると,経産省は最初B案的なことで担保法制研究会まとめた経緯はございますが,A案という新しい提案が出て,AかBかという議論を前提にして,新しいことをやりたい方々と議論すると,やはりAの方が格段に使い勝手がいいし,したがって積極的な与信活動あるいは流動化活動をやるインセンティブが働くという意見が非常に強うございます。そういう意味では,AかBかと言われれば,やはり我々は,懸念さえなければAに行きたいし,ただ,Aを2まで広げてしまうとまた様々な御懸念があるという議論はまたこれ事実でございますので,そうとするならばA(1+α)という議論になろうかと思います。   ただ,先ほど幾つかありましたけれども,やはりこれは,A(1+α)であろうとB2であろうと,流動化目的まで含めて手当てをしていただくというところでは相当程度前進をしていると思います。   あとは,AかBかで実効性でどれだけ違うのか,あるいはAとBである種懸念がどれだけ格段に違ってくるのか,それから,若干私がもう一度御確認していただきたいのは,Aをとったときに三すくみという議論がございまして,今日の法務省のペーパーを読ませていただくと一応法論理的に不能解はないという御結論だとすると,この議論はもうないということで理解していいのかどうか。したがって,今申し上げたように,実効性の議論と,懸念の議論と,法論理的な整合性の議論と,三つのバランスでどちらかに決まると。新しい人,新規活動重視という議論になればA(1+α)になってくるし,ちょっと変な話ですけれども,無難にいきましょうという議論になればB2的になるし,そこら辺非常に悩ましいところなのですけれども,今我々が聞いている感じでは,新しいことをやりたいという方々は意外と,私の想像を超えて,A案に対するこだわりは非常に強いというふうに私は見ています。だとすれば,どちらかと言われれば,先ほど中小企業庁代表ということで○○幹事の方から説明がありましたけれども,もともとこちらの発想からするとA(1+α)になるのかなということだと思います。   あとは,先ほど申し上げましたように,実効性の議論と,懸念に対する配慮の議論と,法論理との議論のバランスの議論でございますので,この審議会の中で,私の希望は,どちらの案になるにしても,なぜこの案をとったのか,それについての分かりやすい説明を是非決めていただきたいと思っています。非常に難しい議論が多くて,どの案になっても説明は要ると思うのです。何でこうなったのかという議論が,法論理的に無理だったという議論からそれはちゃんと説明をしたいし,こういう懸念があったのでこうしたのだという議論はこうしたいし,あるいは実効性重視でこうなったのだという議論であるならばその議論をしなければいけないし,そこのどれを重きに置いたのかという最後の説明とかそこら辺について議論を尽くしていただければ有り難いと思います。現状では,感触としてはA(1+α)なのですが,最後大事なことは,どの案に落ち着いたとしても,どういう理由でこれを選んだのかということを分かりやすくやっていただければよろしいのではないかという感触がございます。 ● 実務界のニーズ,あるいは実務界の現時点での要望というふうなのが政策決定の上でかなり重要だというような御指摘が幾つかあったのですけれども,○○委員,何かございますか。 ● 私も前回申し上げたとおりでございまして,皆様の意見と大きく変わるところはないのですけれども,ただ,私どもの御意見をお伺いしている企業は,それほど積極的に使いたいというところは残念ながら余り見当たらなかったのですが,かつ,新しい制度ができる以上はやはり何らかの予想外の波紋,波及というのはどうしても避けられないだろうというところを前提といたしまして,ただ,そうは言うものの,ニーズがあるところには必要な制度を作るということで,それは反対はしないということでございます。ですので,前回も申し上げましたとおり,新たな証券化も含めたニーズがあるのであれば,そこも含めた切り分けをしていただきたい。ということで,今回法務省に大変な御尽力をいただきまして,このようなすっきりとした,ボリュームはありますけれども分かりやすい定義をおつけいただいたことは非常に感謝をしております。これで前提であれば,効力ある制度を設けても,目的のためには必要にして十分ではないかと思います。   そうしますと,あとは,○○幹事がおっしやいましたように,どれだけの懸念があるかということと,この制度を作るということのいかに積極的な説明をするかということになっていくかと思っております。 ● まず,本日御提案をいただきました事務当局のお考えに関しまして,大変な御努力をされたと思います。感謝申し上げます。   登記の対象のことなのですが,商工会議所は従来から,1案若しくは(1+α)案を主張してまいりました。先ほど○○幹事から御意見がございまして,それをなぞるようなものではございますけれども,中小企業金融というのは,簡明性あるいは経済合理性というふうなものが当然に求められてくるわけでございます。したがって,すぐれて簡単なものということであれば1案の方がよろしかろうというのはおのずと出てくるわけであります。すなわち,動産担保金融,先ほど近視眼的ではないかというような御案内もございましたが,むしろ喫緊の課題と認識しておりまして,そのような喫緊の課題を実現するためには,したがって金融スキームの確立のためには簡明なものであるということからすると,1案及びAということがよろしかろうというふうに現時点でも考えております。   また,加えて申し上げますと,よしんば特にこの登記の対象に関して2案を採用された場合,制度悪用論というのが先ほどもございましたが,本来ニーズのないところで登記が可能になるということ,これを現実を見据えてまいりますと,例えば動産譲渡に関して実際にニーズがないのに登記を何らかの形で行って,その登記解除料が求められるとか,いろいろな濫用の問題が出てこないか。むしろ1案であれば,少なくとも被担保債権が登記の権利者には存在するはずでございますから,そういう意味ではいかがなものかなというふうにもちょっと思うのでございます。いろいろな御議論の末によしんば2案を採用されるのであれば,その濫用防止なり,あるいは排除の措置を講ずべくいろいろな手当てをされるとか,あるいは更にキャンペーンを実施するなどの社会的なコストが必要になるのではないかということを懸念をするところでございます。 ● ほかに御意見いかがでしょうか。 ● どちらがいいという意見が相次いでいる中で,ちょっと質問みたいな話で気勢がそがれるというか,申し訳ないのですけれども。   流動化につきまして何らかの定義を置きますね。それに対して,いろいろ実務は進展していくので,それの定義に当てはまらないような手法というものも,流動化という広く見たときに当てはまるようなものであっても出てくるかもしれないということなのですが,その定義がこのときにどういう意味を持っているのかということなのです。つまり,流動化のことを(1+α)でやろうというときにはAと結びつきやすいという意見が強いようでして,そうすると,流動化目的の動産譲渡があってそれが占有改定で行われているという後に,流動化目的の同じく動産譲渡があって登記をすると,登記の方が勝つというわけなのでしょうけれども,その2番目の譲渡を受けて登記をした者が,1番目の譲渡の人に,おまえは確かに占有改定を受けているかもしれないけれども,流動化目的なのだからおれが勝つというふうに主張するわけですけれども,1番目の人は,確かに流動化目的です,でも政令で決まっている定義には当てはまっていない新規手法ですというふうに言えば,否定されなくなるわけですよね。つまり,その人には登記ができるというポッシビリティーがなかったわけですから。そうすると,定義に書かれているということは,それの流動化の力というか効力を強めるという方向に働くのか,それとも弱めるという方向に働くのかというのがちょっとよく見えてこないのです。   担保目的というのは,そういうものとは違って,定義が先ほども○○委員の方からも出ておりますように,実質的に見て被担保債権があるというふうに判断をされると,当事者が幾ら真正譲渡であるという契約書をつくっていても,おまえさんのは担保目的だというふうに経済実質から攻めていって負かせることができるわけですよね。そうすると,争い方としては非常に分かりやすい,担保目的だというふうに一方が主張して,いや違う,担保目的ではない,真正譲渡だと主張して,裁判所が担保目的だと言えば登記をした人が勝つという,非常に分かりやすい紛争構造になるのに対して,流動化のときの紛争構造というのはいま一歩私には見えてこないのですが,そのあたりはどのように考えればよろしいものなのでしょうか。 ● 差し当たり,このような規定を置く場合の一つの考え方にすぎませんが,○○幹事がおっしゃられた新種の手法というものがどういうものがあるかなというのが,まあ新種ですから直ちに思い浮かばないのですが,浮かばないものですから不公平感というものがちょっと私の胸に現実のものとして突き刺さってこないのですが,一つの考え方は,担保目的の譲渡もいわゆる流動化も,動産のキャッシュフローを目的として資金調達をするという点において一つの部分社会みたいなものを形成するのだとすれば,その部分社会というかその一つの村の中での優劣というのは登記で決しましょうということで,いわゆる新種の商品というものはその部分社会から外に出ているのだというふうに考えれば,それほど不公平感はないというふうに考えられるのではないかということでありまして,資産流動化のための譲渡と担保目的の譲渡が経済的に一緒であるという仮定が仮に正しいのだとしますと,担保目的の譲渡に限定した場合におきましては,優先効を与える主体を担保目的の譲渡に限定した場合におきましては,最初の譲渡が真正譲渡であった,これは流動化目的であったと。最初の真正譲渡で流動化目的で占有改定しかしなかったと。それで2番目の人が担保目的の譲渡で登記をしたというような場合に,1番目の人が担保目的の譲渡であったらひっくり返されてしまうわけですけれども,同じ機能を持つのであっても,流動化であれば,おれは担保目的じゃないもんねと,それで,別に登記では決しないよねということになって,結局,流動化の方が勝つということになりますので,仮に部分社会の中では登記をということであれば,できる限り,可能な限り,ある中で同じものを拾っていこうというふうにとりあえずは考えて--まあ,その仮定が正しければの話ですが--したがって断定的な結論ではありませんが,この案に立つ場合にはそういうふうに考えるのではないかと思うのですが,いかがでしょう。 ● それもよく分かりますし,どのような新種の手法があるのかなというのを具体的に私が出せと言われても出せるような能力はとてもないわけでございますけれども,少なくとも,ある一定の定義がなされたときに,この定義に当てはまらないようにした方が有利なのですね。つまり,これの外でやりなさいという方向に流動化を,ビジネスというものを導くという機能を持っているのではないかという気がするのですが,それは違うのでしょうかね。 ● 新種のお話というのが出ていますので,例を挙げれば,2年前にこの議論をしていれば,有限責任中間法人というのは絶対出てこないわけですよね。その例でお考えいただければお分かりいただけるのではないかと思います。 ● ただ,それはvehicleが有限責任中間法人がふえたというだけの話で,○○幹事がおっしゃったのはもうちょっと複雑なことをおっしゃったのだと思いますけれども。 ● ですから,有限責任中間法人がvehicleになるものについては,どういうA(1+α)を採用したとしてもひっくり返らない権利変動になるし,登記は逆に利用できない。そういう形で,今考えている,流動化目的のものを取り入れようというものと全く違った世界に行ってしまうという話ですよね。 ● 新種の証券化も占有改定でやるのでしょうが,それはひっくり返らないというのは多分そうなのだろうと思うのですけれども,その前に担保目的で占有改定されていると,それに負けてしまうのではないかと思いますが。 ● それは当然の話ですね。 ● ちょっと違っているかもしれないのですけれども,先行か後行かで違うのではないかなと思います。後行につけようと思う人,何でAでひっくり返すかというと,何番目であろうと一番最初に登記すればひっくり返されるよという利益を得るためには,新種の流動化のスキームですと,登記ができない,ひっくり返るという効力が得られませんから,とにかく登記ができるスキームでつくっておいて登記をすれば必ず一番が得られるということですから,一律に新しい取引に動かすという方向とか動かさない方向と一律には限られないのでは……。さっき○○幹事がおっしゃったのだと外れるというふうに行くし,私の今の例だと安全に法律で書いてあるので仕組んで登記すれば安心ということですから,ケース・バイ・ケースというほど大げさなものではないですけれども,その場その場で,どっちかの方向に……,一方向だけに誘導するというものではないと思います。 ● お話がまたいろいろ難しくなってきていますので,恐縮ですが再度私の意見を申し上げさせていただきます。   先ほど○○幹事から,こういうものを使いたい人のニーズを重視すればA(1+α)ということになるのかというお話がありましたけれども,そのときに,あとは法理論的な問題とか懸念の問題とかいうことを考慮すべきというお話だったのですが,私は,法理論的に申し上げると,対抗要件の考え方からすればB2しかとり得ないという立場であります。   先ほどの○○幹事の御発言で,伺っていると,登記に弱い効力のある場合は云々ということで,効力の問題と処理の一義性・画一性をまぜてお話になったような気がするのですが,1案及び(1+α)案においては,その登記が強いか弱いかにかかわらず,登記がされた場合の処理の一義性・画一性というものはなくなります。ですから,強い・弱いの効力の問題と,処理の一義性・画一性の問題は区別をしていただきたい。   そして,今,少し,後からひっくり返せる登記云々というような議論がまた出てきておりましたけれども,対抗要件の考え方からすれば,後からひっくり返せる登記というのを考える,つまりほかの対抗要件よりも強い対抗要件を考えるということは,この前るるお話しいたしましたけれども,そういうことを考える場合には,ほかの引渡し等の対抗要件との強弱も決めていただかないといけないわけです。私は,この三すくみの状態というのが起こること自体が対抗要件の法理からしたらおかしいと。つまり,登記優先ルールとか時的先後ルールとか,幾つかの複数のルールがぶつかり合ってしまうというのはおかしいことであって,三すくみの状態があるからそれについて何らかの解を作るということで6ページの今回もその結論が示されているわけですけれども,私は,三すくみの状態が起こらないようにすべきであって,その場合には引渡し等の他の対抗要件との強弱も決めなければいけないと申し上げました。6ページの解は,相変わらず占有改定と登記だけを比べております。したがって,こういう形の法律が通るということ自体に私は反対であります。三すくみの状態をどう考えるかではなくて,三すくみの状態が起きない対抗要件システムにしなければいけないということです。   それから,もう一つ加えて言えば,先ほどの○○幹事のお言葉,これは別に批判ということではなくて,お言葉をかりると,B案の方が無難ということでしょうかという御意見がありましたけれども,私は,B案は無難というだけでなく,登記制度の信頼性とか予測可能性という意味では,これは先ほど○○幹事の御発言にあったところですけれども,B案の方が逆に制度の信頼性,予測可能性は高いというふうに考えておりまして,これは前回申し上げましたけれども,弱い登記でも創設した意味はあるはずだというふうに,私自身としては積極的にとらえております。 ● ○○委員の当初の議事進行で,登記の対象に関連させて登記の効力の方の話にも及んでよいというお許しがあったものと認識した上で,2点述べさせていただきたいと思います。   まず,登記の対象の方から述べますと,登記可能とされる動産物権変動の概念に何らか,流動化にせよ担保化にせよ,目的の概念を取り込んで法制を組み立てるということがもたらす障害,技術的困難性というのは,今までの御議論を伺っておりまして,とりわけ○○幹事のペーパー及び○○委員の御発言等承りますと,やはり払拭し切れてないような印象が残ります。これが1点でございます。   それからもう一点,登記の効力の問題の方に触れさせていただきますけれども,前回第7回の会議におきまして○○幹事の方から提出をいただいたペーパーに対して私の方から質問をさせていただきましたが,先行する隠れた動産譲渡担保を打ち負かすという効力まで動産譲渡登記に認めなければ不便がありますかというお尋ねを差し上げたところ,そのような不便は実務上決定的には感じられませんというお答えをいただいていた,このことを御想起いただきたいと思います。AかBかというふうにアルファベットで議論し始めますと,なるべく強くというふうなお話が出てくるのですが,このなるべく強くというやや情緒的な御議論のなさり方ではなくて,むしろ,前回私から○○幹事に質疑を差し上げたような形で,もう少し具体的に詰めて御議論をいただくということがやはり必要であって,そのこと等を踏まえて申しますれば,残された若干の会議の御議論を承った上で私自身ももう少し考えてみたいと思いますけれども,恐らくB2案が対抗要件制度として簡明で安定的な運用に耐え得るのではないか,無難ということではなくて,B2案は恐らく手がたい案なのだというふうに感じますけれども,そのような簡明性を持った制度にした上で,説明が適切に啓発等ができる制度である,新しい制度でありますからそういうこともまた必要なのでありまして,もちろんもう少し考えてみなければいけないと思いますけれども,目下のところそういうふうな感触を自分としては持っております。 ● まだ御発言でない○○幹事,いかがでしょうか。 ● A(1+α)かB2かということに議論は収斂していると思うのですが,第一には,お使いになる方々がどちらを求められるかということで,この点は私どもとしてどうこう言う筋合いではないのですが,個人的な思いで申しますと,判断を裁判所に求められるということで言えば,担保目的ということの判断をするのは少し難しいことになるなという気はいたします。   それから,流動化の方は,書いてくださったような定義をしてしまいますと,もうこの定義に乗るか乗らないかだけで決めるということになるのだと思います。目的のような幅広い概念設定ではありませんので。ですから,新しいものが出てきてこの定義から外れれば,それはそうではないという判断をするというのが多分筋道なのだろうと思います。使われる方にとってそのαがあることがかえっていいのか悪いのかというのは分からないのですが。   あとは法律の,これは気持ち悪さというのですか,それは私はA案の考え方にすごく感じます。多分それは,半分は今まで勉強してきた民法の対抗要件の考え方を飛び越しているという部分で,半分は自分の理解から外れたものが入っているからだと思うのですが,その気持ち悪さがどれだけ具体的に変な問題を起こすのかということについて,三すくみが一つ出てきましたけれども,この1個だけなのかどうかという不安感を,ちょっと漠然としたもので申しわけないのですけれども,ただ,そういうものを乗り越えてでもやる必要があるのか,今伺っていると,それほどAにしなければいけないニーズが高くないというのであれば,私は,B2にした方がいいのではないかという気がいたします。 ● もともと商社はA1案というところからスタートして,1回休んでいる間に(1+α)というのが出て,非常に混乱しているのですけれども,ちょっと私の頭の中を整理するということで,事例を挙げて質問させていただきたいのですけれども。   先行と後行のそれぞれの目的別に分けると,先行は占有改定で登記はされていない,先行が担保で後行が担保と。担保・担保。それから,先行流動化目的・後行流動化目的。あとは,先行が担保目的で後行が流動化目的,これはあると思います。先行が流動化目的で後行が担保目的,これもある。あとあるのは,先行は担保目的でも流動化目的でもない,後行は担保目的だと。あともう一つは,担保目的でも流動化目的でもないのが先行であって,後行が流動化目的と。この六つあるというわけではないかと,私はこう分類するのですけれども,そのすべてにおいて,ではどういうケースでどちらが勝つのだとか,A案をとった場合に非常に議論が錯綜する。そこら辺のところをちゃんと分かるような制度の仕組みができるかどうかという点について,何となく不安になってきたなというのが率直な感想です。 ● 少なくとも,お示しさせていただいている案は,先ほど申し上げましたように,担保目的とか流動化目的とか同じ穴のムジナの中では登記で決しましょうということですので,担保・流動化,流動化・担保,担保・担保,流動化・流動化,全部この間では登記で決しましょうというだけの話で,最初のものが真正譲渡とかであれば,後行するものが担保目的であろうが流動化目的であろうが最初の占有改定が勝つという,そういうルールかと思いますけれども。   繰り返しますと,仮にこの前提が正しいとすれば,同じ穴のムジナというか,機能的な部分社会の法理というか,その中の間では登記で決めましょうというお話かなと思いますけれども。 ● そうすると,念のために確認いたしますけれども,先行が流動化目的で,後行が担保目的で登記ということだと,それは流動化目的の方が勝つと。 ● 先行の流動化は占有改定しかしていないのですか。 ● はい。 ● 後行は。 ● 後行は担保で。 ● それで登記はしたのですよね。 ● はい。 ● では登記が勝つ。 ● そういうことですか。分かりました。 ● 大体恒例の休憩の時間を少し過ぎておりますので,いったんここで休憩をとらせていただきまして,再開ということにさせていただきます。            (休     憩) ● それでは,そろそろ再開したいと思いますが,残された課題がまだたくさんございますので,場合によっては予定の終了時間を超えるかもしれませんけれども,まずは,登記の対象・効力に関連してまだ御発言ございましたら,どうぞ。 ● 休憩前の御議論で,A(1+α)にするのかB2にするのかという御議論の中で,例えば○○幹事から,(1+α)という考え方をとった場合には,登記がされたとしても,本当にその登記がされたものがこのカテゴリーに合致しているのかどうかがはっきりしなくて,そこで後の紛争が残って非常に不安定なものになるのではないかという御指摘がされたところなのですけれども,この関係については,果たしてどのようにして登記がされることになるのか,あと,本当にこのカテゴリーに入っているものなのかどうかというのがどの程度審査された上で登記されるのかということについて,このメンバーの中の共通認識がある必要があると思うのです。   私が若干登記にかかわった経験からしますと,この要件を,登記という申請がされてからできるだけ早期に多くのものを登記しなければいけないという要請の中で,経済合理性が要求される中で,担保目的にせよ流動化目的にせよ,何らかのかなりかっちりした証拠を出させて,それを一つ一つ登記官がチェックをしてなんていうことは到底考えられないと思っているのですけれども,御所管の○○幹事,いかがでしょうか。 ● 名指しで御指名ありがとうございます。   ○○幹事のペーパーでも御指摘がございますように,客観的に申し上げまして,(1+α)案の特に資産流動化目的の要件のほとんどは,なかなか実質的な審査というのは難しいかなという感じがいたしております。この1aの部分は,当該会社の商業登記の内容からある程度判断できると思いますが,bの方につきましては,先ほどの○○幹事のペーパーにございますような定款の目的記載だといたしますと,多分,商業登記に記載されました会社の目的から,ここに書いてありますような事柄を専ら行うことを目的とするものかどうかということを明確にそうであるか否かということを判断した上でということは非常に困難だろうと思われます。特に「専ら」というのが評価概念でありまして,そこのところは登記官の形式的審査権の範囲ではなかなか白黒明確にするということはできないと思います。   したがいまして,このような「1+α」のような形での登記をするのだというふうに制度設計がされるのであれば,登記所の側としてはそういう登記をすべく最大限の努力をするということになりますが,せいぜい,特にbの関係で申しますと,譲受人会社の代表者あたりから,当社は専らこういうことを目的とする会社でありますというような証明書でも出していただいて,それを添付書面として審査の対象とするかどうか,あるいはもう大量処理ということからすれば,少なくともその契約当事者の間ではそういう認識だったのだろう,共同申請でありますので,ということで処理をしてしまう。したがって,登記されたということはミニマム,契約当事者間ではこういうものだという意識でされたのだろうなということは登記から御判断いただけるかと思いますが,客観的にその要件を満たしているかどうかというところまではちょっと厳しいかなという印象を持っています。 ● よろしいですか,○○幹事。 ● ですから,そういうものであるという前提で御議論いただく必要があるのではないかと思います。 ● これはちょっと本筋から離れるような質問になって恐縮なのですが,○○幹事あるいは○○幹事なり○○委員に教えてもらいたいのですけれども,先ほどの○○幹事の話の中で,この(1+α)のαの部分は普通の譲渡とはちょっと性質が違うからαとして取り込めるのだ,こういうお話だったのですけれども,このαの中に入っている部分のかなりの部分か一部なのかはよく分かりませんけれども,これは真正譲渡であるという証明をつけてわざわざやっているケースがありますよね。そういうものが,これはやはり担保目的に準ずるものとして,ほかの真正譲渡から切り離されて登記ができる取引なのですよというふうにされることは,そちらの実務には何か影響ないですか。それはそれ,これはこれですか。 ● 今の御質問は,もう少し特定して聞いてみましょうか。聞くと出てくる可能性があるんですよね,こういう議論というのは。ちょっと私が手元に聞いている話だと,そこについての懸念は,少なくとも私がおつき合いしている対象の方々からは聞こえてこなかったのですけれども,今,○○委員がおっしゃったような点がもしあるとすれば,また後で大変なことになってきますので,ちょっと確認をしてみる価値はあるかもしれませんね。 ● これはいろんな判断の可能性があると思うのですけれども,弁護士さんの感覚でいくと。 ● 今の○○委員の御発言は,真正譲渡か担保目的かという,このどちらに当たるかというときの話と,それから流動化目的というのを入れたときに,これが真正譲渡かどうかということが問題になるかという話は,かなり違うのだと思うのです。担保目的か真正譲渡かという場合は二者択一なわけですけれども,ここで流動化目的は別に真正譲渡ではないという話ではなくて,譲渡は譲渡だけれども流動化目的があるというわけですから,流動化目的かそれ以外かという二つに分かれるだけでないでしょうか。 ● それは,ここの法律との関係ではそうなのでしょうけれども,真正譲渡かどうかが問われるのは,今度は倒産法との関係で問題になってくるときに,いや,純粋真正譲渡じゃないから特別の取扱いが法制上されているのですよというふうな形でこういう立法をすることが今後の取扱いに何らかの間接的影響が,これは本当に杞憂の部類なのかもしれませんけれども,あるのではないかというふうな御意見も聞かないわけではないので,その辺についての御感触があれば教えておいていただきたいということだけなのですけれども。 ● それは,ほかの制度で真正譲渡かどうかで制度の適用の仕方が変わっている制度が別途あって,別途この法律で,もし真正譲渡とは別に流動化という議論が出てきたときに線引きが違ってくるから,こちらの方の真正譲渡の線引きとの関係で,こちらの方の適用関係が変わってきて実務上混乱が生ずるかと,こういうたぐいの議論がどういう法律関係であるかどうかということでございますね。分かりました。 ● ちょっと余計な話だったかもしれません。   ほかに,この登記の効力との関係では,三すくみ問題というのが,A1あるいはA(1+α)をとったときの問題として前回指摘されておりまして,それに対してはやはり立法的な対処をすべきであるということで6ページのような案も提案されているところでございますので,それも含めて御議論をいただければ幸いでございます。三すくみ問題は,ここの6ページにあるような案で解決ができる,法制的にも特に問題はないというふうに御判断いただけるかどうかという点でございます。 ● 三すくみ問題が存在しないとか存在してはいけないという立場に立たないとすると,三すくみ問題が生じるわけですから,どちらかに決するというときに,今日の御説明でもありましたように,この結論でいいのかという点が,まず意見の一致を見るべき事柄だろうと思います。   私自身はこの解決でいいと考えますけれども,その上で書きぶりは,御説明にもありましたけれども,②の最後が「その効力を生じないものとする」というのは,ちょっと何かやや似つかわしくないような気がします。「効力を生じない」というのは,当事者間において所有権移転の効力が生じないというわけですけれども,これはそもそも,甲に譲渡して甲が対抗要件を備えているというときに,乙は譲渡してもこれはそもそも無権利者ではないかと。無権利者であれば所有権移転できないのは当然のことであって,無権利者からの移転であるから所有権の移転の効力が生じないということなのか,そうではなくて,これは丙に対する担保権設定をする権原が残っているので,無権利者ではないのだけれども効力が生じないのかとか,そのあたりが,これは三すくみですからややこしい問題が出てくるのですけれども,ここは対抗要件の話でありますので,口頭で御説明がありましたように,②の対抗要件を備えた後にあっては,当該譲渡に対して優先する,丙に対しても乙は対抗できないという書きぶりにするという表現もあろうかと思います。対抗要件の話として一貫した方が理屈としては通るような気がして,当事者間の効力があるかないかの話を入れてすると何か過不足が生じる気がいたしますけれども,これは結論が決まった上で最後どう書くかと。それから,最初の譲渡,担保目的譲渡が例えば弁済によって消滅した場合に結論が変わるのか,もうそれはフィックスなのかといったあたりの結論をどちらに倒すのかによっても変わってきますので,これは変わらないという前提だと思いますけれども,結論は私もそれでいいと思いますけれども,そのあたりの結論を定めた上で,最終的な書き方が,「効力を生じない」以外の書き方ができれば,そちらの方がよいように思います。 ● ほかに,御意見いかがでしょうか。   これは,条文の書き方自体はある意味では非常にテクニカルですし,ある意味ではそもそも「対抗することを得ず」というのは一体どういうものと理解するかとか,いろんなことにかかわってきますけれども,具体的な結論として,前回あったような,担保目的で占有改定で取得した甲,それから真正譲渡で占有改定をしている乙,3番目に担保目的で登記をした丙というのが出てきたときに,これはもう丙の勝ちで,丙は乙にも甲にも勝つという結論を出したいと。それを出すためにどういう条文の書き方をすればいいかというのでこれができているのですが,結論自体はそういうことでいいかどうかという点について。   これは,前に○○委員はちょっと違うお考えで意見書を出されたわけですよね。 ● 議事録に残していただくために発言しますが,三すくみはAだけで起こるのでありまして,B,特にB2をとりますとこれは起こりません。登記も占有改定も引渡しも同等の対抗要件ですから,三すくみにはならずに,最初に完全な対抗要件を備えた者が優先する。そういう意味で非常に明快で問題のない対抗要件ルールになります。ですから,今,仮にA案をとった場合に起こる三すくみの結論の書きぶりについてこれでいいですかと御下問があっても,私はそもそもAはおかしいという考えですから,ここでは何も反対も賛成もしないということです。 ● A案をとる場合には必然的にこういう問題が起きてきて,これは理論上出てくる結論と全く同じ内容の立法でも,ともかく立法的にしっかり書いておいた方が混乱がないということだろうと思いますので,A案,A1案,A(1+α)案賛成の方は特に,こういうふうなことでよろしいのかどうかについての御意見をいただければと思います。 ● 前回,三すくみの問題に関しましては政策的に解決をされるようにお願いをしたところでございまして,その問題提起に関しましてこのような御提案をいただきましたことについて感謝申し上げます。また,この内容で結構かと思います。ありがとうございました。 ● ほかに,御意見いかがでしょうか。 ● この結論で本当に正しいのかどうなのかということは,私にはまだよく分かりません。ただ,違うお考えもあり得るのではないのかなという気もします。あるいは,この場にいらっしゃらない多くの関係者の方々,利用者の方々にとってみて,自然法的に考えて当然のことじゃないか,こんなことかと言えるような結論なのだろうかという気がしないでもありません。そうした状況が新法を作ることによってつくり出されるということがどうなのだろうかという気がいたします。こういった状況がつくられてしまうこと自体,この新しい法律の決め方自体に何か問題があるのではないかなという気がするものですから,それで私は,先ほども○○幹事でしたか,御指摘があったように,ほかにも何か困ったことが起こってくるのではないのか,化け物が出てくるのではないかという不安もございまして,やはりここはB案でいく方が手がたいのではないのかというふうな気がいたします。 ● ほかに御意見ありましたら,お願いいたします。   今日あたりで大体,A(1+α)かB2かの大まかな方向性を決めて,それに基づいて,次回,要綱案を,もうちょっと方向性の明らかなものをつくっていただこうかと思っていたのですが,やはり事務局には今日の意見を踏まえてもうちょっと御検討いただくと。その分,次回と次々回に更にプレッシャーがかかってくることになるのですけれども,今の時点ではそういう感じかなというふうに思っております。その場合にも,この三すくみ問題が本当にうまく解決できるのかというのは一つの判断要素にもなろうかと思いますので,本日御意見が余り出ないようでも,追ってまた御意見がございましたら事務局の方にお知らせいただければと思います。 ● もうほぼA(1+α)かB2でというふうなことで○○委員がおまとめになられましたので,こんなことを言ってもむだかとも思いますけれども,私は1です。   つまり,先ほどから,担保目的の譲渡と流動化目的の譲渡というのが同じ村の話だというふうな話も出ておりますけれども,担保目的の譲渡に関しましては,最高裁の判例法理によれば,所有権の移転というものは担保の目的の範囲内のみで生じるのだということで,それは通常の譲渡の場合と譲渡自体の性格が異なるということは言おうと思えば言える領域なのだと思うのです。それに対して,流動化という経済目的というのは,転売目的とかあるいは自己使用目的というのと同じような,全くもってある真正な譲渡を行うときの経済的な目的にすぎないわけであって,そうすると,それは譲渡の性質にかかわるものではないと思います。   そして,新たな登記制度を作る,そしてその適用領域というものを定めるというときに,これは譲渡の性質が違うから特別な規律に服せしむるのだというのは分かるのですけれども,私は,なぜ経済的な目的がある一定のものが別の規律に服するのかというのがいまだによく分からない。それは,民事基本法はごちゃごちゃ書かないものだなどというふうな気持ちで申し上げているわけではなくて,かなり政策的な判断なわけであって,私は,いつここで政策的な判断について十分な議論がなされたのか分からないと前回申し上げただけであって,民法をきれいにしておきたいから,あるいは民事基本法にはごちゃごちゃ細かなことを書くべきではないから書かないようにしたいというふうに申し上げているわけではなくて,やはり譲渡の性格から正当化できる範囲にとどめるのが理屈の上ではいいのではないかというふうに,これは正しいというわけではないと思いますけれども,思います。その意味では,担保目的と流動化目的というのは並び称せられるものではなくて,全然違うものであって,私は,本来,この間までというか何回か前まではそうであったところの担保目的ということでいいのではないかといまだに思っているということを,もはやだめそうなのですが,一応言っておきたいと思います。 ● 一通り意見表明があったので,一応。   結論的にはB案の方です。これは今までの皆さん方のような非常に難しい議論と違って,いわゆる現場での感覚の話でございます。   そもそもこの制度を創設するに当たって,いわゆるモラルハザードを含めた部分が非常に懸念され,その手当てをお願いしたいということを申し上げました。そのときに,これから中小企業金融に対してお金がきちっと流れる仕組みを作るというのは非常に重要なことだろうとそのときにも申し上げましたし,今もそう思っております。ただ,問題になるのは,やはりモラルハザードとか,その部分が変な使われ方にならないように。これは当事者の実務のところではそういうことはないように徹底するというお話ももちろんございました。   本来,そういう好ましい在り方を考えると,やはり中小企業等が持っている資産とかあるいは能力,将来性というのでしょうか,ということも含めてきちっと評価がなされて,一応それの裏づけにあるものとしての一定の,例えば動産等の担保の手当てをされる。そういう部分では,当然,銀行とのコンタクトとか,それから,○○幹事の方からお話も出ましたけれども,モニタリングを含めてそういったような適正な把握の上になされるという,そういうような融資の慣行が後押しされるという一つの制度だというふうに考えたときに,1,2のどちらかということを話しますと,やはり今,現場はなかなか,そういう慣行を育てていこうと思ったときにはどうもそっちの方がないがしろになって,ただ効力からすると安心だからすぐそっちに行ってしまおうといったようなことで不適正な使い方がされてしまうとちょっと不幸なことになる。   今回の改正は,そういう中小企業の融資みたいな枠の整備をする,とりわけ新興企業のニューマネーを含めた部分のところでという環境整備で整えるという考え方からすると,やはり2案の方がよろしいのではないかと考えます。モラルハザード等が否定される十分な措置というものが同時にされるということであれば,それは当然そういうことを全体に進めるということも必要だと思いますが,今の状況ではそういうことだと思っています。 ● ほかに特にこの際御発言がございましたら。 ● AかBかということについて,ここ最近余り発言してなかったような気もするもので,一言だけ申し上げさせていただきたいのですけれども,A案をとった場合に効力を覆滅される先行の占有改定の担保権者が何ゆえに覆滅されるのかということについての議論が必ずしも十分になされていないのではないかという気がいたします。恐らく前提として,担保にとるものは登記を利用すべきなのだ,利用せずに占有改定を利用したから負けても仕方ないのだ,こういう価値判断を背景にしているのではないかと思うのですけれども,それが本当に正しいのかということについてはきちんと議論をする必要があって,私自身は,そういう価値判断は間違っているのではないかという気がいたします。   例えば,債権譲渡特例法を考えた場合に,債権譲渡特例法の利用とそれから民法対抗要件の利用と,今あれこれ案件をやっていく中で,登記を使うべきだ,登記の方がいいのだという価値判断を持たなければいけないような社会事象はあるかというと,これは全くないと思います。それぞれの案件の特性に応じて使い分けをしているというのが実情でございます。同じく動産登記制度についても同じことが言えるのであって,占有改定を利用しているから悪いのだ,負けてもしようがないのだという価値判断というのは多分出てこないのではないかという気がしております。   ですから,B案は無難とか手がたいということ以上に,やはり覆滅される方の権利から考えた場合でも正当化できるのではなかろうかと考えておりますので,ちょっとその辺を一言だけ。 ● A案かB案かということですが,先ほど担当の○○幹事の方からも御説明しましたように,実際の登記の仕組みとしては,仮にA案をとった場合,担保目的か流動化目的かという点の審査はほとんど不可能だろうと思いますので,事後的に担保目的でない,あるいは流動化目的でないという形で登記の効力が覆滅されるということは,これは十分予想される。   そういう意味で言うと,A案をとった場合,確かに効力としては非常に強いものが与えられるわけですが,登記そのものをどこまで信頼できるかという点に関しては,B案に比べますとそういう信頼性はどうしても低くなるという,そういう問題があることは認識しておいていただきたいなと思っております。 ● ○○幹事と○○幹事のその前の発言につきまして,理論的なといいますか,民法の立場から申し上げますと,担保権設定の対抗要件として占有改定を認めること自体がそもそも適当かという問題があって,私は,比較法的に見ますと,占有改定で対抗要件を備えたことにするのがいいのだというのはある種の便宜論であって,それ自体がげたを履かせているのだと。それを正常なところまで戻そうとすると,担保権設定は占有改定の効力は否定して登記一本でいくというところまでいくのが筋だろうと思うけれども,ただ,現実を見ますとなかなかそこまで踏み切れないので,過渡的なものとして占有改定の効力は認めると。しかし,A案でとった場合には登記をした場合にはそれに負けるという,三すくみとか相対的な問題が出てくるのはその出発点からでありまして,○○幹事が正当化できないだろうと言われたその立場自体がむしろ原則と例外が逆転していまして,日本でいくと占有改定は大手を振って対抗要件なわけですけれども,そのこと自体が出発点としてかなり問題であったという認識に立つわけでありまして,全く正反対であります。   それから,その前の○○幹事の発言でありますけれども,特に事業収益に着目した資金調達という観点から考えてみますと,前回,○○幹事がその種の御発言をされたと思いますけれども,担保目的と流動化目的というのは車の両輪みたいなもので,両方とも同じような機能を営むものとして民法の体系の中に位置づけるべきだろうと思いますし,将来体系書を書くときにはそのような理論的な正当化をすべく,講義ではそのようなスタンスで話をしていますし,理論的に見てもそちらが望ましいということで,担保目的と流動化目的はそもそも民法の理論的な立場から言って性質が異なるのだというのは,それは従来はそういう見方だったかもしれませんけれども,今後はその見方自体を改めるべきだというのが私のスタンスです。これは学問として学会で議論すべき事柄だと思いますけれども,そこはそういう意見があるのだということを認識していただきたいと思います。 ● 同じことを言うかもしれないのですけれども,○○幹事がおっしゃった債権譲渡の場合は,登記制度と従来の民法の対抗要件と両方どちらも優劣がないということをおっしゃったのですけれども,債権譲渡の場合は第三債務者が情報センターの機能を果たして,要はどちらが優先する,劣後するというのはある意味はっきりしているのですけれども,占有改定による動産譲渡の場合はそこら辺のところがはっきりしない。だからA案だという議論だと思うのですね。だから,同列に考えること自体がおかしいのではないかと思います。 ● ちょっと話題が変わってしまうかもしれないのですけれども,一つだけ,事務局か○○幹事かに教えていただきたいのですけれども,A案とB案の採択によって金融検査マニュアル上の差は出るのか出ないのか。担保付債権として扱ってもらえるのか,これはあくまで無担保,ある意味コーポレートの財務内容によって貸付けをするものなのかどうか。実態の金融機関でそれを踏まえた上でどのような融資がされるのかによって差が出てくるのかどうか,そこだけちょっと,もしも差があるのであれば,先行する占有改定のところは登記優先効で認められないということをもってして,それは怪しい融資だよね,そこはしっかりとした裏づけのあるような債権じゃないねということで,そこが掛け目として落ちてきてしまうというような効力を持つ差があるのかどうか。そこはどういうことになるのかというのだけ,ちょっと教えていただきたかったのですけれども。 ● 検査マニュアルのところにそれがどこまで反映されるか,ちょっとそこは正直言って今申し上げるような準備が全くございません。ちょっと持ち帰って中で聞いてみますけれども,基本的には検査マニュアルができ上がってから,後でそれの実態に従ってやっていくというのが順番でございますので,先行的に何か物が言えるのかどうか分かりませんけれども,持ち帰らせていただきたいと思います。 ● A案でいけば,先行した隠れた譲渡担保は覆滅することはできる,しかし隠れた真正譲渡は覆滅しないというので,100%ではないですよね。   それでは,また追って御意見がありましたらお寄せいただいて,できるだけ次回の要綱案の作成に御意見を反映できるようにしていただきたいと思います。   もう一つ,占有代理人の占有下にある動産の譲渡についても五つの案が提示されているわけで,これはA案,B案どちらをとっても生じてくる問題でございますので,この点についても是非御意見をお聞かせ願いたいと思います。よろしくお願いします。 ● これは,まず第1に,私は,ある程度規定を置くべきだろうと思います。本人と占有代理人ということですが,現実的にはこの代表例というのは倉庫に寄託されているケースなのだろうと思います。そうしますと,何でまず規定を置くべきかというと,倉庫業界はこの新しい法律ができることによって何かメリットを得るかというと,恐らくほとんど何もメリットはなくて,逆にこれで何かデメリットがあったら困るということできっと不安を持つのだろうと思います。これは確かにある程度解消してやるべきことなのだと思うのです。   そこで考え方ですが,先に結論だけ言っておきますと,今ある案の中では戊案が恐らく適切なのだろうと思います。   その論理構成は,こうなります。   ここでは本人と占有代理人という全く物権法の世界で書かれていますけれども,倉庫の寄託のケース等を中心に考えますと,まず契約法ルールが優先すべきだという債権法の方から私は考えました。ということはどういうことかというと,このような紛争が起こったときには,まず寄託者と譲受人で解決してもらうべきということです。具体的には,そういう登記を得たという譲受人が来た。これは例えば占有代理人が倉庫業者であるとすれば,契約の相手方である寄託者に通知をして処理をしてくれということが第一に来るのだろうと思います。そうすると,具体的には,荷渡指図書というのでしょうか,そういうものがあって,実際にそれが今度,新しい譲受人の方へ返してくれということで寄託者と譲受人の間で決着がつけば,まずそれでオーケーです。したがって,この段階で甲案からずっと見てみますと,丁,戊あたりがこの催告ということを入れているので,まずこの段階でやや適切という感じになります。   ちなみに,この今日の御説明の中では,乙案のところで660条のことが触れられていますけれども,660条の2項,実際には削除された効果のところから乙案の根拠にされておられるわけですが,現行660条はその素案の2項がなくなって1項の部分だけ,つまり通知義務を規定しているものですから,引っ張ってくるとすると戊案のところに親和的ということに,あるいは丁案のところに親和的ということになります。   そして,その寄託者と譲受人で解決してもらうことが解決しない,つまり異議を述べてきたとか荷渡指図書を回さないというような場合には,二通り考えられます。つまり,解決するまで占有代理人はだれに引き渡さなくてもよいという解決方法と,どちらかに渡して責めを免れるという解決方法があります。倉庫の状況で考えますと,引き渡さなくてもよいというのは,実は物流がとまってしまうので余り適切な判断ではないと思います。そうすると,どちらかに渡して責めを免れるという判断をすべきなのではないかと思います。そうすると,ここでは「拒める」よりも,どちらかに渡して責めを免れるということで,甲,乙案よりは丁,戊案ということになります。   ここに書かれてないのですけれども,私は,債権保護的にはもう一つ供託の発想が考えられるのかと思うのですが,これは実際の物ですから,供託をどういうふうに使うか,これはちょっと私自身もまだもう少し勉強してみないと分かりませんけれども,そういう議論もあってしかるべきだとは思うのですが。   更に丙案は,善意無過失という免責条件が出てきます。これは受荷者というか受託者,倉庫業者のリスク増,調査義務が実質課されるような形になってしまうということがあり得ますので,丙案のような占有代理人に何らか免責要件のところで負担が増すような案は,私はよくないと思います。   したがって,現行の中では戊案に近い考えですけれども,これで十分かどうはもう少し検討する必要があるかもしれませんが,一応,私の基本的な考え方は以上です。 ● この問題,私は,基本的には民法の一般原則に従った解決が望ましいと思いますけれども,では民法の一般原則とは何かということで,ただいま○○委員の御発言がありましたけれども,若干それとは違うのが民法の一般原則,これはポティエからフランス民法,ボアソナード,それから起草者へと引き継がれてくる民法の一般原則としてそこで前提にされていたものは何かという観点からお話を申し上げたいと思います。   こういう寄託の場合に,受寄者はだれに返すべきかという議論は伝統的にございまして,これは,基本は寄託者に返すべきだと。寄託者に返すのは,その寄託者が所有者であるからではなくて,契約関係があるからだということでありまして,だれが所有者か分からないと。寄託者は所有者でなくて他人物寄託ということがあり得る。現在でも,アウトソーシングなんかをして寄託者は所有者と一致しないのがかなり広がっているわけでありますから,寄託者が受け取れるのは,その所有者であるからではなくて,契約関係にあるからだと。そうしますと,だれに返すかというのは,寄託者あるいは寄託者から指図の占有移転を受けてその寄託者としての地位を引き継いだ者であって,こちらの系統はすべて所有権とは無関係に,この契約のルールでだれに返すかということが決まっているわけであります。   甲案というのはそういう意味での原則を定めたものでありますけれども,ただ,甲案が書き過ぎなのは,例外を許容していない点であります。つまり,寄託者以外に所有者がいて,自分が所有者だと言って受寄者に対して所有権に基づく引渡請求をしていった場合に,本当に所有者であればそれは認められてしかるべきだということになります。ただ,受寄者はだれが所有者か分からないというのが大原則でありますので,だれが所有者であるかは受寄者自ら判断してはいけないと。判断してはいけないということは,寄託者に返せということでありまして,もし寄託者以外の者に渡すとすれば,それは受寄者が自らの責任で,万が一の場合には賠償責任を負うという前提でやりなさいということで,民法の原則からいけば寄託者以外の者には渡してはいけない。その例外というのは,この乙案にあるように,強制的に,例えば裁判所がこの人が所有者だということを判断し,強制的に命じられるまでは拒むことができるというのが,この民法の原則でありまして,ボアソナードなどはそれを明確に書いておりますし,これは起草者もその点は否定するということではなかったと思います。   660条の2項が削除されたということの意味合いでありますけれども,これは別に今の原則について争いになったとか意見が分かれたからではありませんで,その点についての争いがあったというふうには,起草過程を見る限りでは,理解することはできません。660条の場合には,訴えを提起したり差し押さえられた場合には通知せよと言っているわけでありますけれども,なぜ通知が必要かといいますと,訴えを提起されたり差し押さえられて強制的に持っていかれる場合には,受寄者としては引き渡さざるを得ないということが生じますので,そのときには寄託者が自らの利益を擁護する機会を保障するために通知せよということでありまして,例えば第三者がただ単に,自分が所有者だ,引き渡せと言ってきたときにはなぜ通知が必要ないかといいますと,受寄者はそういう場合には渡してはいけないからであります。ですから,660条の2項が削除されたからといって今の原則が否定されたことではありませんで,これは事実として調べれば分かることであります。   そうしますと,民法の原則として目されるべきものは,甲案と乙案を足したようなルールというのが民法の一般原則だというふうに理解することができます。つまり,通常は間接占有を移転して,寄託者から指図による占有移転を受けた場合には,受けた者はその資格によって引渡しを請求することができると。ただし,それ以外の者が乙案にあるように判決その他によって客観的に所有者であることが判明した場合には,その者に対して渡さなくてはいけないということであります。判例と我妻説の違いはここにありまして,我妻説は乙案より更に一歩進めて,その所有者が指図による占有移転まで受けないと権利行使できないと言ったわけですが,そこまでいくのは判例と抵触するわけでありますので,ここではとることができないかと思います。   これが一般原則なわけでありますけれども,丙と丁は,これは理論的に見て成り立たないというふうに私は思います。   丙は外観法理なわけでありますけれども,外観法理の場合には何か外観を信じるわけでありますが,ここで言う登記事項証明書には何か外観として信頼すべきものがあるかといいますと,ここでは,たとえ登記をしたとしても,その後で即時取得すると。譲渡があって登記がなされたとしても,その後で別の者が譲渡を受けて指図による占有移転を受ければそちらが即時取得する可能性が高いわけでありますので,登記があるからといって所有権があるというふうに信頼すべき外観はございません。また,その外観法理の場合には,それに対して引き渡さなくてはいけないという義務を負っているから保護するという必要が出てくる。債権の準占有者の弁済のような法理というのはその義務を負っているからでありますけれども,ここは原則は拒めるわけでありまして,怪しかったら拒めるわけでありますから,拒まずに自ら渡したときに外観法理で保護するという理論的な基礎がそもそも存在しないので,丙案は理論的に見て民法の原則から是認し難いと思います。   それから,丁案と戊案は似ているわけでありますけれども,丁案と戊案の違いは,催告義務を課すという点でありますが,だれかが自分が所有者だと言ってきて,その人のために何か寄託者に対して催告義務を課すというわけでありますが,ここで注意しなくてはいけないのは,その所有者だと言っている人が本当に所有者かどうか分からないという前提でありまして,そういうただ単に自分が所有者だと言っている人のために何かする義務を負わせるということは適当でないというのが,この660条の起草者の考え方でありますので,660条がなぜ通知義務の範囲を限定しているのかということと,この丁案とは正面から抵触します。   戊案は,これはどういう意味のある規定なのかという点が問題でありまして,戊案に書いていること自体は,催告をする義務もないということでありまして,催告しなくても拒めばいいと。催告をして本人が異議を述べなかったときには,ある種の指図による占有移転をすることについて黙示の承諾があったとみなして渡していいということでありまして,それ自体は内容的には問題がないかと思いますけれども,それ以外の場合どうなるかについては戊案は何も触れておりません。ですから,戊案を置くことの意味は,甲案プラス乙案のような一般原則があることを前提としながら,それを確認する規定だという説明をするときに戊案の意味が初めてあるのであって,甲案,乙案書いてしまいますと,民法の一般原則として民法に書いてないことを特別法で明文の規定を置くということはなかなかためらわれるので,間接的にそのことを確認するという,無難な,それ自体はそれほど意味のない規定として戊案を置くという形がいいのか,それとも甲案,乙案というような形で民法の一般原則を明示的に書くことを試みるのがいいか,そこが最終的な判断だろうと思います。   1点,盗品の場合についてというのがありまして,乙案の権利が所有者であることが明らかになるまでということで,確かにフランス民法には盗品の場合の例外があるのですけれども,ただ,これは,日本のボアソナードや起草者は,盗品の例外というのはフランス民法と違って入れないという趣旨だったようであります。盗品の場合というのは,フランスでも,盗品は入るけれども遺失物は入らないというように,盗品の場合は特殊な考慮に基づいて入れている。つまり,盗品であることが明らかになったのに返さないということは,その盗人のぐるになっているようなことになって,公序良俗に反して適当でないという別の政策的な理由で入れているわけでありますので,その盗品のような扱いをどうするかというのは,これ自体が一つのややこしい問題であります。この乙案のようなものを書く場合には,その点について一定の解釈をどうするかというような点を決しなくてはいけませんので,そういうことから見ると書きにくいから戊案に行くというのも一つの判断だろうと思いますが,明確なのは甲案プラス乙案で書くということだろうと思います。これは民法の一般原則で動産登記制度ができても,そのことに変容を迫る理由がない以上,それを確認的に規定すべきだろうと思います。   長くなりましたが,以上です。 ● ちょっと補足させてください。   私が先ほど契約法ルール優先と言ったのは,今,○○幹事がおっしゃったように,契約の相手方に返すのが原則,そのことを指しておりまして,そこは全く○○幹事と同意見であります。ただ,私は,その後のところで拒んで紛争解決まで例えば倉庫業者がずっと握っているというのが実際に現状の取引からして適切かどうかという,そういう判断基準を入れて戊案に行っているわけで,そういう意味で,○○幹事のおっしゃった,基本的な原則は甲,乙にあってというところも否定するものではありません。現実的な倉庫業を頭に置いたときの処理として戊案がよりまさるだろうかということで申し上げました。 ● ○○幹事にちょっと質問なのですが,今の御説明を伺いますと,民法の原則は,受寄者は寄託者に返すべきであると。そして,判決など一定の要件で明らかに所有者であるとかそういったことが分かるまでは,所有権者であるといって登場した人に引き渡さなくても構わないというのが民法の原則,解釈上そうなる,こういう御趣旨でしょうか。 ● はい,そうです。 ● そうしますと,仮に規定を設けなくても,民法上はそうなるということですね。 ● はい。 ● そうしますと,規定を設ける意味は,何となくそういう解釈になるかどうか不安だという人に対してサービスをする,リップサービスという意味だということになるのでしょうか。 ● おっしゃるとおりだと思います。今言った原則が,動産登記制度ができることによって変更ないということで意見が一致しているのであれば,わざわざ規定を置かなくても原則どおりだということでいいわけですけれども,ただ,例えば中間試案の補足説明にあるように,受寄者が判断をして,どちらが優先するかを判断して渡さなくてはいけない,受寄者に判断を迫るような考え方というのも論理的にあり得るから補足説明に書いてあったと思いますので,その後でこういう考え方,何も明文を置きませんと,ああいう考え方をとっているのかという疑義が生じますので,それを否定するために何らかのシンボリックな規定が必要ではないかと。ここは最終的にそういう規定はなくてもそれは当然だと,法務省の解説でもそのように書かれる,それで十分だということであれば,わざわざ規定を置かなくてもよいのではないかと思います。   それから,先ほどの○○委員の御発言に対して私がちょっと気になったのは,受寄者はだれかに渡してしまえばいいというお話がありましたけれども,そうではなくて,受寄者は寄託者に渡すべきであって,所有者かだれかそれ以外の者に渡す場合にはそれなりの理由がある,そうでなければ責任を負うというのが原則だということであります。   それから,ずっと持っているのが適当でないというのはそうではありませんで,処分が必要だと。ずっと処分できなくて宙ぶらりんになって商品の価値が下がってしまうというような場合には,その処分が必要なわけですけれども,それはだれかに渡すということではなくて,だれの指示に従って処分をしてよいのかという問題だと思いますが,これは寄託者の指示に従って処分が必要であれば処分をすればよいということでありまして,その所有者が出てくるのは,やはり所有者であることがはっきりしてということで,寄託者と所有者の間でトラブルがあれば,普通はそこで決着がついた上で引き渡せということで,それまでは寄託者に返すというのが原則だろうと。その点が若干気になったということです。 ● そこも1点補足させてください。   私は,今回の登記をB2案で弱い効力だと申しましたけれども,対抗要件として認めるわけです。そうすると,今の状態では,私が所有者だと言って来た人がいても,動産自体は倉庫にあるわけですから,そういう意味での対抗要件を持った権利者性はそれだけでは弱いはずで,ところが,登記を持っているということで私が所有者だという人が来たときにどうなるか。恐らく何も規定を置かない場合の倉庫業界なんかの不安はそういうところにあるのだろうと思います。そうすると,この対抗要件性を持った書面を提示してきた所有者というものに対して倉庫業者が判断を迫られるのはおかしい,これは○○幹事も今言われたとおりであります。したがって,その場合に何らかの明示的な規定を置いて倉庫業者の負担をふやさないという観点からすると,こういう免責という発想を入れるべきではないか,こういう考え方です。 ● ちょっと質問させてください。   ○○委員でも○○幹事でもいいのですけれども,今,専ら寄託のお話があって,こういう問題が出てきたのは倉庫業に関連して問題が提起されてきたことは明らかなのですけれども,この規定ぶりは占有代理人ですから,これは賃借人も,あるいは請負人として占有している人もみんなこの規定が適用になると。賃貸借の場合でも請負の場合でも,真正所有者が返還請求してきたときに,あなたになんか返さないと,こういう権利が民法上認められていると,こういう前提で理解してよろしいですか。 ● 賃借人の場合は更に指図による占有移転が必要で,あと対抗要件が必要ですから,これは別のレベルでもう少し厚い保護がなされていると思いますし……。 ● ただ,それは,この登記の対抗力が指図による占有移転に変わってしまうとしたら,指図による占有移転なしで動産譲渡登記だけで来れるかどうかという問題がやはり起きてきますよね。 ● 対抗要件というふうにくくってしまうから混乱が生ずるわけで,指図による占有移転というのは,前主の占有といいますか寄託者の地位を引き継ぐという点にポイントがあるので,そこでは所有権の論理は出てこないわけです。フランス民法に明文にありますように,受寄者は寄託者に対して所有権の証明を求めてはいけないという原則ですね。所有者だから返すわけではなくて,寄託者だから返すというのが考え方ですけれども,そうじゃなくて所有者だと言って請求してくる場合は,それとは別でありますから,賃借人の場合も,そこの対抗要件を備えたというのが判例法理で,それが登記にも及ぶのだというところに論理の飛躍があると思います。   正当にもといいますか,解説の11ページのウの(イ)に書いてある丙案の問題点,つまり登記事項証明書に何らかの外観の基礎となるような効力を求めるという考え方がなぜおかしいかという批判は,これはもっともだと思いますけれども,先ほどの○○委員のお話にありますように,仮に登記をしたとしても,譲渡人に所有権があったということはこの登記によって何ら確定されないということであります。物的編成主義もとっていないわけでありますから,譲渡人が所有者であるかどうかは登記を見ただけでは分からない。それから,B2案をとった場合には即時取得の可能性は排除されておりませんので,登記をした後に,登記がなされていることを知らずに指図による占有移転がなされていれば,それは即時取得しますし,それから担保目的の場合でも即時取得する可能性はあるわけであります。そうしますと,そういう微妙な判断でどちらが勝つかということは,これは受寄者がなし得ることではありませんし,またそういう事情を知り得る立場にありませんので,ですから,登記事項証明書があるといっても,そうですかというぐらいの効力しかない。これは不動産登記と動産登記の大きな違いだと思います。 ● ですから免責をさせるという考え方を入れましょうというのが,私の提案です。 ● その前に,○○幹事の御理解では,この最初にどういう条文を置くのかにもよるのですけれども,最初のころに出ていた事務局案だと,動産譲渡登記をすると引渡しをしたのと同じにするとか,あるいは第三者に対抗できるようになるというふうな規定をまず設けるというところがあったと思うのですが,そこに言う「第三者」には賃借人その他は入らないと。つまり,動産譲渡登記をすれば賃借人に対する関係での対抗要件にもなるというふうな制度にしてはいけないというのが前提ですか。先ほどのお話だと。つまり,私は所有権を取得したことについて,登記によって対抗要件を備えたと。それで所有権に基づく返還請求と,現在それはできることになっていますよね,賃借人に,対抗要件を備えれば。そのときに,登記をもってしては賃借人には対抗できないと。 ● 対抗のレベルの問題ではないのだと思うのですね。 ● ですから,所有権に基づく返還請求は賃借人・受寄者等にはできないのだと。 ● 所有権に基づくかどうかが分からないので拒めるというだけですから,所有者であることが判決等ではっきりすれば,それは対抗要件の話を経るまでもなく渡さなくてはいけない。 ● 受寄者だけではなくて,賃借人の場合もそうであると。 ● 賃借人の場合も原則そうですけれども,ただ賃借人の場合には対抗要件まで備えなくてはいけないという判例法理がかぶってきたときに,そこに登記が含まれるかという,そういう話ですよね。 ● 逆に,登記をして対抗要件を備えただけで請求していっても,あなたが本当に所有者かどうか分からないのだから,裁判か何かやるまで私はあなたになんか返さなくていいと,こういう権利が賃借人にはあると。 ● そこは,この案をどちらに倒そうとも次に出てくる問題ですね,解釈として。ですから,ここでどれを決するかによって今の点が確定するとは思えませんけれども。 ● 逆に言えば,そういうふうな抗弁をしても,後々不当利得返還請求も不法行為責任も問われないと。例えば189条で訴えの提起から悪意の占有者とみなすと言われているのだけれども,しかし判決が出るまでは悪意の不当利得者としての不当利得の返還請求等も受けないという保障があるから,それに基づいてこういう例えば戊案みたいな,こんなやつが来たけれども一応通知しておくよと。それで,請求者には,私は拒んでいてもずっと拒むこと自体は適法であるという取扱いになる。甲案も乙案もそういう考え方ですよね,基本は。 ● そうしませんと,義務が矛盾するというか,どう行動すればいいかというのが受寄者というか,寄託者に対する関係と所有者に対する関係と矛盾するおそれが出てきますから,それは統一しないと行動がとれなくなるのだと思います。 ● それが現在の民法の解釈論としても,賃貸借請負いの場合も含めてそうだというならば,それは確認的規定なのだけれども,その辺が実はあいまいだということになると,この法律でいわば民法改正をやる,あるいは民法の補充的改正をするということに実質的になりますか。 ● あいまいだという趣旨ですけれども,これは網羅的に調べたわけではありませんけれども,我妻先生初め,対抗要件かどうかの問題は別にして原則がそうであるということを書いてある教科書は多いのですけれども,それとは違うのが原則だと書いてあるものは見当たらないと思うのです。ですから,争いがあるわけではないので,争いはないけれども,潜在的に,何も書いてないけれども違うふうに思っている人が,法律で書かれると,自分は違うように思っていたのに,これが一般原則だというふうに特別法で書かれてしまったということを気にするかどうかだと思いますけれども,まあその程度の問題だろうと思います。 ● ほかの方に特に異論がなければ,こういう方向でやっていくと。 ● 私,頭のめぐりが悪いのでついていけないのですけれども,やはり,今,○○委員がおっしゃいましたように,所有権でやってきたときに,所有権者に対してどういうことが……。これは物権で来るわけですから,そのときに,片方が寄託だったり賃借権だったり使用貸借だったり,いろんな可能性があると思うのですけれども,それを本当に--事実の問題としては,おまえは所有権者かどうか,そんなのは登記簿を持ってきただけでは分からないといって拒めるというのは,それをしたからといって現実に何らかの損害賠償はその時点で負わないとは思うのですけれども,その意味では乙案というのは現実のレベルではそうだと思うのですけれども,これが法律に入っているとすごく違和感が……。   物権的請求権というのは,今までは,私は従来の民法の教科書にどっぷり,それからなかなか出られないのですが,やはり物権的請求権があるかないか,あったら引き渡せと言えるし,なければ,というふうに今まで考えてきたので,乙案のように,これは非常に証明が--公権的に証明されたらば請求に応じなければいけないけれども,この書き方というのは随分今までの書き方と違和感があると思いますし,ですから,そもそも論として,物権でやってきたときに,確かに寄託だけ考えれば所有者に返さなくてもいい,預けた人に返せばいいというのは,それは確かですけれども,それが物権で来たときに両方が矛盾した場合に規定を置くということは……。   これは,さっき○○委員がおっしゃったように,寄託だけの話ではなくて,全部第三者占有の場合にかかってくるわけですから,ここで条文を置いてしまうと,やはり私は,民法の実質改正になるのではないかと。それもかなり大きな,債権と物権がバッティングした場合にどうなるかという,ある意味で日本民法の根幹にかかわることについての態度決定をここでしてしまうことにも,分からないですけれども,なりかねないのではないかというふうに思うので,ここに規定を置くことについてはちょっと反対ですけれども。上手に規定が私自身は書けないというせいもあるのですけれども,どうも前提が本当に自明なのかどうかというところが自信がないものですから。 ● 民法の理論はよく分からないのですけれども,我々実務,特に債権者・譲受人の立場に立っての発言をさせていただきますと,甲案も乙案も譲受人・債権者にとっては非常に過酷な条件を課されると。すなわち,譲受人が所有権を主張しているときに譲渡人から通知がなされるというのは期待できないわけでして,乙案にしても,対象となる動産を早急に換価しなければいけないときに確定判決までもらいに行くというのも,これも非常に現実離れしているということで,もし何か手当てをするというのだったら,我々は,戊案が適当ではないかというふうに考えます。   この戊案だと,異議が出たときにどうなるのだということなのですけれども,これは今でも正しくそのとおりであって,異議が出たときは,それは譲渡人と譲受人との間で何らかの話し合いによって和解に達すればいいと。それができなければ訴訟になるだけの話で。ですから,私は,戊案というのが適当ではないかと考えます。 ● 戊案の場合には,実体法上の変更を内容とする規定ではないという読み方ができて,その実体的な権利関係は民法で決まっているとおりというふうな言い訳ができなくはないという意味でも,それこそ無難な立法案ではないかと思いますが,多少もともとの代理占有関係における物権的関係と債権的関係の絡みについての理論的な整理をちゃんとつけなければいけない問題であることは確かですので……。   今すぐ決めた方がいいですか。 ● ちょっと今日は……。 ● もうちょっと内部的にも,先生方の御意見を伺いながら,実務のニーズにもこたえられ,かつ理論的にも厄介な問題を引き起こさない,法制的にも余り奇妙なことにならないというふうな案を次回まで詰めさせていただくということで,また是非いろいろお知恵を……。 ● ○○委員に質問ですけれども,話し合いがつくまでは受寄者は引き渡さなくていいと。引き渡さなくてもそのことについて法的責任は問われないという点は,そういう前提なのでしょうか。 ● 確かにそういう前提ですけれども,我々譲受人・債権者は,その場合に損害が発生したらすべて担保するから引き渡せという交渉をするだけの話でありまして,それは我々がその倉庫業者から信頼をされるかされないかだけの問題だろうというふうに実務的には考えています。 ● それは甲案,乙案をとった場合も同じことですね。法的には渡さなくていいのだけれども,そういう取引によってということで。結局ここは,登記だけしているけれども占有してない者がいかに動産の占有を取得するかということで,これは間接占有の場合だけではなくて,債務者自身が占有しているという動産について登記だけ持っているときに,いかにして占有を取得するのかと理論的には共通する問題なのですね。   ですから,そういう前提であれば戊案ですけれども,そういう前提だという説明を伴わないと,戊案自体は催告義務があるわけではないですから,あ,そうですか,催告しませんよと言っても,ではその先どうなるのですかというのは一般原則にゆだねた,その一般原則は分からないということだと,何のためか分かりませんので,やはりその前提は,渡さなくていいのだということを暗に規定したのだと,ただ直接書きたくないのだという便法だと思うのですね。 ● ちょっとまた引き取らせていただいて,事務局で検討させてください。   次に,「登記情報の開示」の項目に移らせていただきますが,この「概括的な登記情報については,何人に対しても開示し,全部の登記情報については,利害関係のある者に対してのみ開示するものとする」という基本方針については御議論はありましたけれども,大方の意見はこれでよろしいということだったと理解しております。   その中で,全部の登記情報についての開示を請求できる者に譲渡人の使用人を加えるということはいかがかという御提案でございますけれども,この点についての御意見をいただきたいと思います。 ● 全部の登記情報についての開示を請求することができる者の範囲について,譲渡人の使用人を加えて提示をされたことについて感謝を申し上げます。実際に動産担保や債権の譲渡について把握をするということは,労働者・労働組合にとって非常に重要なことでございまして,完璧ということにはなりませんけれども,一定の保護につながるものだというふうに認識をしております。労働組合というのは,全部一斉に何かやるとかえって混乱するという議論があったし,現場の実務の問題では窓口の部分,実際の運用上はそうなるということだと思います。そういうこともあわせて,是非よろしくお願いしたいと思います。 ● ほかに御意見。   よろしいですか,○○委員,あるいは○○委員。   では,基本的にこういう方向で,次回に向けて案を事務局の側で考えさせていただきます。   次に,14ページ,「(2) 法人登記簿への記載」に関連した問題ですけれども,14ページの中ほどの米印,他の登記・登録制度との関係という点でございますけれども,先ほど御説明いただいたところでございますけれども,とりわけ,15ページの2の貨物引換証等が作成されている動産についての取扱いというところについて御意見をいただければと思います。   特にこの原案のような考え方に御異論はございませんでしょうか。 ● その前の14ページの「(2) 法人登記簿への記載」の,ここについて一言だけコメントさせていただきたいのですけれども,日弁連の委員会で協議しておりました際に,もちろんこれで構わないのですが,動産譲渡登記事項概要簿に対するアクセスをより簡明にしていただきたい,ついては商業登記簿の申請の際にバツ印か何かでやらせていただけるような簡明なアクセスを是非確保してほしいという意見が出ておりますので,御紹介したいと思います。 ● その点は,事務局,それから商事課の方で御検討いただければと思います。   それでは,大分時間が超過しておりますけれども,「第2 債権譲渡に係る登記制度の見直し」につき,御説明をいただきます。 ● それでは,「第2 債権譲渡に係る登記制度の見直し」について御説明いたします。   1は,見直しの可否についてでございます。債権譲渡登記制度を見直し,債務者が特定していない将来債権の譲渡について,債権譲渡登記によって第三者に対する対抗要件を具備することができるようにするものとするということにつきましては賛成する意見が多数でございましたが,倒産時における労働債権の保護を図る制度が設けられない限りはこれに反対であるという意見もございました。倒産時における労働債権の保護を図る制度につきましては引き続き検討してまいりたいと考えております。   「2 法人登記簿への記載」につきましては,債権譲渡がされた際に債権譲渡登記の概括的な情報を法人登記簿に記載する制度を見直し,新たに,仮称ではございますが,「債権譲渡登記事項概要記録簿」を備え,債権譲渡登記についての概括的な情報を調査する際の利便性はこれまでどおり維持するものとするとしております。   次に,「3 譲渡に係る債権の総額」について御説明いたします。既に御案内のとおり,債権の総額につきましては債権譲渡特例法第5条第1項第5号に規定されておりますが,更に,法務省告示におきまして譲渡に係る債権の譲渡時における債権額の合計額を記載するものとされております。   債権の総額を必須の登記事項とするか否かという点につきましては,部会資料の(1)から(3)の場合に分けて考えるのが相当ではないかと考えられます。   まず(1)で,将来債権のみを譲渡する場合につきましては,債権の総額を必須の記載事項としないことを提案しております。現行制度上,将来債権の譲渡において債権の総額は譲渡に係る個々の債権の見積額の合計額ということになりますが,前回の部会の審議におきましても,債権額を正確に見積もることは困難であること,将来債権の債権総額について実務において累積額を記載すべきか残高を記載すべきかについて議論が統一されておらず,混乱を招きかねないことなどを理由として,総額を必須の記載事項とすべきではないという意見が多数を占めたところでございます。   これに対しまして,(2),既発生の債権のみを譲渡する場合につきましては,債権の総額を必須の記載事項とすることを提案しております。そもそも債権総額が必須の記載事項とされた趣旨でございますが,債権譲渡契約を特定するために有用であるし,譲渡人が譲渡した債権額の合計額についての情報を提供するという意味もあるところ,既発生の債権のみを譲渡する場合にはこうした趣旨はなお妥当するものと考えられます。また,既発生の債権のみを譲渡する場合には,債権総額は確定額としての譲渡時債権額の総計を意味しますから,見積額であることに由来する問題点は出てこないと考えられます。   続きまして,(3),既発生の債権と将来債権をあわせて譲渡する場合につきましては,両論あり得るところと考えられますので,ここではA案,B案の両案を併記させていただきました。   A案は,既発生の債権と将来債権をあわせて譲渡する場合に,債権総額を必須の記載事項とすべきであるという考え方です。A案によれば,見積額であることに由来する問題点を避けるため,債権総額として,譲渡に係る債権のうち既発生の債権についての譲渡時債権額の合計額を記載させることとなると考えられます。この場合にもなお,譲渡に係る債権のうち既発生の債権額の合計額についての情報を提供するという意味での有用性はあるという考え方がA案でございます。   これに対しまして,B案は,既発生の債権と将来債権とをあわせて譲渡する場合に,債権総額を必須の記載事項とすべきではないという考え方です。このB案は,既発生の債権と将来債権をあわせて譲渡する場合,譲渡に係る債権のうち既発生の債権の譲渡時債権額の合計額のみを債権総額として記載させてみても,債権譲渡契約を特定するという意味においても,また譲渡に係る債権に関する情報を提供するという意味においても,それほど有用ではないし,譲渡に係る債権のうち既発生の債権の額がわずかで,将来債権の額が大きいような場合に,かえって誤解を与えるおそれがあるという考え方でございます。   この点については,本日御審議いただきたいと思います。   続きまして,「4 既発生の債権の譲渡における債務者の記載」につきましては,既発生の債権について債務者を必須の登記事項とする仕組みを維持するものとしております。この点につきましては,前回の審議において,債務者は譲渡に係る債権を特定する上で重要な要素であること,既発生の債権について債務者を必須の記載事項としないとすれば,譲渡人及び債務者の表示を検索条件とした登記事項証明書に基づいて登記を調査する者の利便性が損なわれるおそれがあること,譲渡人は債務者に関する情報をデータによって管理しており,債務者を記載させても登記申請事務の負担はそれほど大きくないと考えられることなどを理由に,これに賛成する意見が多数を占めたと認識しております。   最後に,5の登記事項証明書の交付を請求することができる者の範囲につきましては,動産譲渡登記のところで述べたことと同様に,利害関係を有する者とは別に譲渡人の使用人を加えることを提案させていただいております。   以上の点について御審議いただければ幸いでございます。 ● それでは,まず,債務者不特定の将来債権譲渡の公示を認める方向でという基本的な御提案に関してでございますけれども,御意見いかがでございましょうか。 ● 資金繰り等は非常に重要なことだと私どもは考えております。とりわけ,中小企業等の資金をどうするかということも含めて何らかの措置を講ずることが必要であるというのは私どもは決して否定しているわけではございません。ただ,この間で,同時にやはり現実上労働債権との関係を確保するために何らかの措置が必要だと従前申し上げて,引き続き検討ということで,是非この点はよろしくお願いしたいというふうにお願いいたします。 ● ほかによろしゅうございますか。   ただいま御指摘の点につきましては,どういう形での対応が現実的にできるかということを引き続き検討させていただきたいと思っております。   次に,「2 法人登記簿への記載」でございますけれども,これはほぼ議論が固まってきたところではないかと思いますけれども,特に御異論がなければ原案どおりということで御承認いただきたいと思います。   「3 譲渡に係る債権の総額」で,これはいろいろと御議論いただいて,将来債権のみの場合には債権総額の記載を必要的記載事項から外すという方向性について,前回,大方の御意見の一致を見たと理解いたしておりますが,特に,両方まざっている場合にどうするかというところについては御意見が多少分かれていたかと思いますので,この点を中心に委員・幹事の皆様の御意見をいただければと思います。 ● まず,A案にするかB案にするかの判断の要素として,前回もちょっと議論が出てきたのですが,既発生と未発生を分けた場合,A案にした場合にどのぐらい登記が面倒になるのかというあたりは商事課にお伺いしたいと思いますし,それから,既発生,未発生を分けて既発生部分だけは書くのだというときに,実際そう書けるものかどうかなんていうのは,現実に商社さんなんかでお使いになっている方にその辺のところもお伺いして,それで判断したいと思うのですが,御意見をいただければ幸いです。 ● 御指名でございますが,商事課の方から何か。 ● どれぐらい大変かは,専ら申請者の方の御負担の点だと思いますので,当方としては特にございませんし,現実問題としては,仕組みを決めれば申請チェックプログラムというプログラムを法務省の方で無償で提供しておりますので,皆さん,それでチェックされると思いますので,それほどの手間ではないと思います。 ● 伺いたかったのは,1回の登記でできるのか,二つに分けなきゃいけないのか,そのあたりはどうなのですか。 ● 債権譲渡登記は10万個までの債権を登記できますので,その意味では,既発生と将来を分けると二つになるというだけで,10万個まではできるということですので,負担になるとかいうそういう話でもない,登記所の手間として大変だとかいう話ではなくて,専ら申請者の方々の御負担の点が関心事項であろうと思います。 ● 登記者の方が二つに分けなければいけないのかどうかということは,やはり分けなければいけないですね。例えば,登記の中身を既発生部分と未発生部分に分けて登記する。 ● 前回までの議論は,将来分だけについて書かないという議論でしたので,こちらとしては,既発生のものだけは書くのかと,そうすると分かれるのかなと思っていたのですが,このような論点の提示をして,ここで御議論をされた結果に従ってシステムをつくればよろしいのではなかろうかというふうに考えております。 ● 分かりました。 ● 前回の部会で私が発言したことで,例えば平成16年4月1日から平成17年3月31日まで1年間の継続的商取引に基づく売掛債権というものが,現在は通番一つで登記ができている。それを既発生,未発生に分けなければいけないとした場合に,今日登記を入れるとすれば,今日を境に既発生分と未発生分で債権通番を二つに分けてしなければいけないのでしょうかというふうな発言をして,たしかそうですというふうにおっしゃられて,それを前提としますと,そのケースですと既発生と未発生の二つの通番のものですから,総額を書くか書かないかという今日のA案,B案の議論に乗っかってくるのだと思うのですけれども,そのあたりの前提の理解がそもそも正しいのかどうかから教えていただければと思うのですけれども。 ● これは,債権総額の記載自体は,譲渡行為の特定なり情報提供のために必要なものであるということと,今,○○幹事がおっしゃられた継続的供給契約に基づくもの,これは譲渡行為の対象となる個別の債権の問題だと思います。ですから,今現在債権通番一つとして処理されているものは,個別の既発生債権,将来債権,あともう一つは継続的供給契約から発生する債権。そういったものの集合体が一つの譲渡行為によって移転されると,こういう構造だと思うのですが,問題は継続的供給契約に基づく売掛債権をどうするかというところでしょうが,これは既発生債権と未発生債権とが観念的に含まれていますけれども,現在は一つの債権として扱われており,債権通番も一つですので,将来部分が入っているから見積額を書かせていますが,これは不要となりますと,そこも,今までの一つの債権とする扱いを変えなければ,債権額の記載は要らないということになると思いますが。 ● これはA案をとるかB案をとるかによって変わってくるのではないのですか。それは変わらないのですか。 ● それは変わらないとは思います。 ● そうすると,A案で,1個の債権通番で既発生部分の債権額だけを債権総額の欄に書くのですか。 ● 客体が1個の債権で,それが継続的供給契約に基づく債権ですと,全体を一つの債権として扱っていますが,その全体について額を記載させないこととすれば,債権総額の記載も不要になります。 ● 先ほどのように,1年分の売掛代金債権を包括的に譲渡したと。その1年の起算点は過去にある,それで到達点は未来にあると。だから既に既発生の債権が存在するし,未発生の債権がこれから譲渡されていく。これは1個の債権通番で今後ともいいのだ,A案をとってもいいのだということになると,債権譲渡総額は既発生分だけの総額を書く,当事者間では将来のものを含めてたっぷり譲渡するつもりだけれども,債権総額欄には既発生分だけの額が書かれる,こういう登記の記載になるのですか。 ● 同一の第三債務者,例えばAに対して契約を結ぶときは,契約時点で既に発生している債権及び将来発生する債権を合わせてその債権譲渡担保をとるという契約を結ぶわけですね。やり方は多分二つあると思うのです。Aに対する既発生債権だけ登記して,Aに対する将来債権も登記して,二つ分けてやる。これだと手間は倍かかるわけですけれども,やり方としてはできます。ただ,今現在許されているのは,過去にさかのぼって既に発生しているものから例えば1年後の債権まで合わせて債権譲渡登記ができるというやり方でオーケーされているので,我々実務家としては,1本で済むのでそれをやっているということです。   それで,3のA案と3のB案で,3のA案は,譲渡時債権額すなわち既発生の債権だけを,これを譲渡に係る債権の総額ということで,あわせてその同額の金額を登記しろということだと思うのですが,これは実は余り意味がないのではないかと考えています。だから,A案でもB案でも譲渡時債権額の合計額は同じ金額が出てくるはずなのですけれども,AとBの違いは,譲渡に係る債権の総額に譲渡時債権額をもう一度書き直すかどうかだけの問題だと思って,それだと,私は,A案,B案は余り意味がなくて,B案でいいのではないかと考えています。 ● 私の理解だと,A案をとると既発生分と未発生分と二つ分けて登記しなければいけないというふうになるのかなと理解していたのですけれども,今の○○幹事の説明だとそうではないということですね。 ● 商事課の方が詳しいと思いますが。 ● これはどうにでもできるということですか。 ● それは制度の仕組み方,こういうふうに登記しろというふうに決められれば,それに従った対応を我々の方は考えていくということです。 ● もう一度申し上げますと,分けて登記すると単純にインプットの作業が倍になるということなので,できれば余りそうはしてほしくないというふうに考えます。 ● 全く同じ意見でございまして,既発生の分も将来の分も一つにまとめて1回でできればそれにこしたことはないということでございますし,かつ,1回にまとめて登記できる場合についても,既発生部分について債権総額を記載するというのは全く意味がないことだと思いますので,債権総額の記載も必須の記載事項とはしないというふうな形で是非お願いできればと思います。 ● 当初,将来債権分について意味がないではないかというのは,いろいろぶれがあって誤解があるという懸念,特に信用不安みたいなものとかを惹起するというのはもともとこの制度につきまとっている根本の部分がありますから,そういう意味でいくと,やはり,どれだけの債権額という見込みの部分のぶれがあるにしても,出るということが非常に重要だろうと思っています。確かに,その部分のぶれが将来債権分の部分のところは非常にぶれがあってそれが下手な誤解を招くという懸念は,それは非常に実務であるのだろうと思っていますが,だからといって全く分からなくなってしまう,また過去の分だけやったらそれは正しく分からないという話になりますので,これは,そういう不安が起こらないようなしっかりとした書き方をきちっとやっていただくことが非常に重要なのだろうというふうに思います。 ● 私もちょっとA案になったときの登記の姿を誤解していたのかもしれませんけれども,そうなると,債権総額ではなくて,譲渡される債権のうち既発生分の総額という表示になるわけですね,その登記の中で。   これは,Aでなければいけない,Bでなければいけないというのはどちらでも仕組むことはできるけれども,御利用される立場から言えばBの方が簡便でよろしい,Aのように書かせることにはそれほどの意味がないのではないかという御指摘でしたけれども,それでも,できるだけ情報は,やはり開示できるものは開示した方がいいではないかというふうなお考えも他方ではあり得るということです。 ● これは任意的な記載事項ではあるわけですね。   そのときに,A案をとってある額を書いたときに,全体の額を任意的に記載しているのか,既発生部分を必須で記載しているのかというのは区別できるんですかね。 ● タイトルのつけ方だと思いますよね。「債権総額」なんていうタイトルで既発生分の合計額を書くなんていったら,それは誤解を招くだけで全然意味のないことだと思います。 ● そうすると,何か欄を変えないといけないような感じになって,そうすると何かかえって……。まあ,いいのかな。既発生……。何かおかしいような気がする。 ● そういうコメントを書いてくれればいいですけど,タイトルとしてただ「債権総額」としか書いてないのでは困ってしまうというだけの話ではないですか。 ● 私が最初に伺ったのは,○○委員のような御発言が当然ある一方で,○○委員や○○委員の御発言のような,実際にお使いなる方が手間が2倍になるなんていうことがあったら,その手間と予測可能性の比較考量でA案かB案か決めるべきだろうと思っていたものですから,やはり,インプットが単純に本当に2倍になってしまうのだったら,私は,B案の方がいいだろうと思うのですね。○○委員の御発言の意味は分かるのですけれども,もう既に未発生部分,将来部分については書かないわけですから,その予測といっても限界がある。そうすると,この債権譲渡登記が,今回の改良というか修正によって使いにくくなったり負担がふえてしまうということになると,これは非常に問題だと思っておりましたので,手間の点をやはり私は重視したいと思うのですが。 ● インプットを2倍というのも,何かクリックをもう1回余計にすればいいだけとかいうようなあれならいいですけれども,どの程度かにもよるかと思うのですけれども,二つの登記にするかどうかということと,この既発生分だけ書くというのとは直結はしないということですね。1回の申請であっても書かせるという選択肢がある,既発生と未発生を分けるというシステムにする選択肢もあるということで,どちらかと言えば,1個でいいけれども既発生分だけは書きなさいというのがA案の趣旨ということですね。 ● ○○委員に確認といいますか,質問だけさせていただきたいのですけれども,恐らく登記の数だとか手間の問題というのが論点として占めている比重は,今のお話を伺っていると,そんなに大きくないというか,克服が可能な見通しがあって,あとはどういうタイトルをつけるかにもよると思うのですが,表示されていることが与える印象との関係で,このB案のところの最後にある,「有用とはいい難いし,かえって誤解を生むおそれがある」と,ここのところが実務の観点からはどういう御認識でいらっしゃるのか。このとおりだというふうにお考えになるのか,いや,どっちでも大したことないよというふうな御感触なのか。ちょっとそこだけお教えいただきたいと思います。 ● 実際に見積額を書くときは,大体この第三債務者に対してこの期間でどれぐらいの商売をやるのだろう,どれだけの債権が発生するのか,こう予測して書くわけでして,全くでたらめの数字を書くわけではないのですけれども,実はそれもほとんど意味がない。プラス,ではその債権総額を書くことによって対象債権の上限が確定されるのかというと,それもそうでもなさそうだというので,譲渡債権の総額を書くということは,債権譲渡登記においてほとんど意味合いがないのではないかというふうに考えております。プラス,現行の実務では,特に金融機関は累積額で書かれるので,とんでもない金額になるということで,これはかなり誤解を生むという要素があろうかと思います。 ● 債権総額を書くことでもって債権譲渡が特定できているのかというと,恐らく別な要素で特定しているのではないかと思うのですね,実態は。むしろ,債権総額を記載することが債権譲渡を特定するために有用であるという認識が本当に正しいのかなというのは若干疑問に思っているところがございます。   それからもう一つ,情報を示すというところなのですけれども,債権額が記載されているところで,債権譲渡登記によって譲渡されたものについては情報としてあるのかもしれないですけれども,それ以外の民法の対抗要件に従って譲渡されたものなんて別にあるのでしょうし,そういったものは分からないので,情報としてどれだけ有用かというのも非常に疑問に思っております。   そういうところからいたしますと,いずれにしても債権総額としての記載というのはほとんど意味がないのではないかなと思っています。 ● 御質問でございます。あくまで担保を提供する側として申し上げますが,恐れ入りますが○○委員か○○委員にお答えいただきたいのですが,このB案の最終行で,「誤解を生むおそれがある」という表現ぶりがございますが,この誤解とは一体何なのか,この点についてもし何かお言葉があれば賜りたいと思うのですが,いかがでしょうか。有用性はよく分かります。意味がないという意味は分かるのですけれども,この辺はいかがでしょうか。 ● A案とB案の違いというところなのでしょうけれども,A案の場合は,既発生部分については,これは譲渡時債権額の合計額ということで多分インプットされるわけですね。それが,譲渡に係る債権の総額ということで,私,同金額が多分そこで書かれるのだと思うのですけれども,ところが実際は既発生の債権額だけではなくて将来債権も譲渡されているので,その将来債権の部分を全く考え合わせずに,譲渡時債権額すなわち既発生の部分だけを,これも譲渡時債権額というふうに登記することは,全くもっておかしなことになるんじゃないの,A案だとそういうふうな誤解を生むおそれがあるんじゃないのという意図かなというふうに考えたのですけれども,違いますでしょうか。 ● ありがとうございます。そのとおりだと思います。 ● それでは,ただいまちょうだいいたしましたような御意見を踏まえまして,事務局の側で要綱案を取りまとめさせていただきたいと思います。   次が,「4 既発生の債権の譲渡における債務者の記載」でございますが,この点につきましては現行の債権譲渡特例法の仕組みを維持するという原案でございますけれども,この点についての御意見をいただければと思います。   特に御異論がないようでしたら,原案で御承認いただいたという取扱いにさせていただきます。   それから,「5 利害関係人の範囲」は,先ほどの動産譲渡登記に連動いたしまして,使用人を含むということで同一の取扱いをさせていただければと思います。   それでは,最後の方,債権譲渡になるといつも大急ぎで過ごしてしまいますけれども,残された審議会の予定があと2回で,その2回で取りまとめをしなければいけないというので,そろそろ決断の時期であるのですけれども,本日御議論いただきましたように,やはり動産譲渡登記の範囲及び効力については単純な頭数だけで決めてしまうというわけにもいかないだろうと思いますので,次回に向けまして,事務局と委員の先生方とのコミュニケートもしていただきながら,取りまとめの方向を探らせていただきたいというふうに思っております。   それから,占有代理人の占有下にある動産の譲渡については,御意見として,戊案ならほぼいけるだろうというふうな御意見が出されたところですので,それを踏まえながら,少し理論面,それから実務界のニーズ等をお伺いしながら取りまとめの案をつくらせていただいて,次回また御検討いただきたいというふうに考えております。   その他の点は,おおむね大方の御意見がまとまりつつあるというふうに考えておりますので,それらを踏まえて,できるだけ早目に要綱案の確定版に向けた素案を事務局に用意していただきまして,これもできる限り事前に委員の先生方と……。 ● 済みません,最終的な取りまとめの関係で,16ページの1のところには(補足)とありますけれども,これは前々回のときに,債務者不特定の将来債権の譲渡を入れることによって相殺の担保的機能がどうなるかということについての規律が現在の最高裁の考え方に照らして誤っているのではないかという指摘を申し上げたのですけれども,それは結局,検討された上どうだったかについてまだ御報告がないと思うのですけれども,このままでいきますと,法務省の見解は前回の説明のとおりのまま残ってしまうのか,それとも,最終的なペーパーは,この(補足)のところにその点についての最終的な検討を踏まえたものも補充されるという趣旨なのか。次回申し上げると遅くなってしまいますので,そのあたりも結局どうなったのかということを分かるように。議事録にも残っていますので,その点も議事録に残るように明らかにしていただきたいと思います。 ● 分かりました。その点も御検討,よろしくお願いいたします。 ● 先ほどの申し上げたようによろしくお願いしたいと思います。   それで,次回,あと若干,これは後で個別に教えていただけばいいのかもしれませんけれども,やはり悪意利用というかモラルハザード的な部分も含めて,例えば破産手続に入った場合とか,民事再生とか再生型でいこうといったようなことになったときに,そことの関係,極端に言うと否認権的なものも含めての扱い,運用上の,ということも実務上検討してお教えいただきたいなと思っております。   それから,ちょっと最後,債権譲渡がぱっぱっといき過ぎてしまったのですけれども,将来債権全体を譲渡するという部分のところで,特定の部分は分かるのですけれども,余りにも長期とか長い期間をやるというのも,ちょっとこれは将来の部分でいくと,債権者の公平性の面からいって--債権者というか,可能性のある人の部分ですから,例えば債権譲渡の存続期間等についても,やはり通常いくと5年とか10年とか,まあ5年ぐらいかなというような気はしますけれども,そこのこともちょっともう一度検討していただければ有り難いなと。 ● 分かりました。   何かありますか。 ● 今ちょうど御指摘なされたのは,将来債権で債務者不特定の部分を登記できるようにしますと,今のままですと50年まで登記できる,それが長過ぎるという御指摘と承ってよろしいでしょうか。 ● ちょっと政策的にはバランスを欠くような気はいたしますけれどもね。 ● それは次回までに検討させていただくということでよろしいでしょうか。 ● 今の○○幹事のお話だと,50年までの登記ができるというお話でしたけれども,何年までのものを登記を許すのかという問題と,それから実体法的に何年までしか契約できないというふうに絞るのかとか,あるいは登記の有効期間だけを絞るのかとか,いろんな対応の仕方があると思いますので,また少しお考えもちょうだいしながら,事務局の方で引き取らせていただいて,次回までに御検討をいただくと。これは多分,動産譲渡登記についても登記の存続期間の問題というのは出てきはしないかと思うので,その辺も含めて御検討をお願いいたします。   倒産時の問題につきましては,破産法改正なったばかりのところでもございますので,少しまた破産法の運用状況等も見守っていただく部分もあるかと思いますが,同時に,御提案の趣旨について包括的にいろんな形での対応をということでしょうから,可能なものと,更に検討を続けなければいけないものというふうなことを振り分けて御検討いただくようにしたいと思います。   ほかに何かございますでしょうか。   本日,十分な御発言の時間がなかった委員・幹事の方もいらっしゃいますでしょうし,またこちらの側ももうちょっと補足的に御説明を伺わないと十分理解し切れてないというふうなこともあるかもしれませんので,いろんな形で御連絡をとらせていただくことがあろうかと思いますけれども,是非ともよろしく御協力のほどお願いいたします。   本日は大変長時間にわたり熱心な御議論いただきまして,ありがとうございました。   次回につきまして事務局から御連絡申し上げます。 ● 次回の部会でございますが,8月4日の水曜日になります。場所は変わりまして,法曹会館の「高砂の間」になります。時間は今日と同じ1時半からでございます。どうぞよろしくお願いいたします。 -了-