法制審議会 会社法制 (企業統治等関係)部会 第5回会議 議事録 第1 日 時  平成29年 9月 6日(水)   自 午後 1時30分                          至 午後 6時09分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  会社法制(企業統治等関係)の見直しについて 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○神田部会長 それでは,定刻になりましたので始めさせていただきます。法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会の第5回目の会議を開催させていただきます。   皆様方には,本日も大変お忙しい中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   それでは,いつものように,まずは事務当局から本日の参考人の御紹介をお願いいたします。 ○竹林幹事 参考人の御所属等につきましては,議事次第に記載させていただいているとおりでございますが,本日は「社外取締役を置くことの義務付け等に関する論点の検討」の審議の関係で,齋藤様に参考人として御参加いただいております。どうぞ,よろしくお願い申し上げます。 ○齋藤参考人 よろしくお願いいたします。 ○竹林幹事 本日ですが,稲垣委員,川島委員,藤田委員,岡田幹事は御欠席という御連絡をいただいております。さらに,人事異動の関係で,本日から新たに民事局付の坂本が関係官として参加させていただいております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○坂本関係官 よろしくお願いします。 ○神田部会長 ありがとうございました。   それでは,本日の会議の配布資料の確認を,事務当局からお願いいたします。 ○竹林幹事 本日は,お手元に議事次第,配布資料目録,部会資料6及び7,参考資料19から26まで,日程案,委員等名簿を配布させていただいておりますので,御確認ください。なお,参考資料25は,本日御欠席の川島委員から御提出いただいた御意見ですので,御参照いただければと存じます。 ○神田部会長 ありがとうございました。よろしゅうございますでしょうか。   それでは,次に,本日の審議に入ります前に,事務当局から今後の審議の進め方について説明をしていただきます。 ○竹林幹事 当部会におきましては,第2回会議より個別の論点の検討の第一読会を行っております。配布させていただきました日程案のとおり,第一読会につきましては今回で終了とさせていただきたいと考えております。次回からは,2回分ほどを使いまして第二読会を行うこととさせていただき,また,第二読会におきましては,第一読会の結果を踏まえまして,更に議論を深める必要性が高い論点のみを個別に取り上げて御検討いただくことといたしまして,その後の第三読会におきましては,第二読会で取り上げなかった論点も含めまして,中間試案のたたき台として各論点を全体的に御検討いただくということとさせていただきたいと考えております。   そして,今年度中に中間試案を取りまとめ,中間試案に関するパブリックコメント手続を採るということを目標とさせていただきたいと考えております。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ただいまの事務当局からの御提案の線で,この部会の審議を進めたいと思いますけれども,御質問とか御意見とかございますでしょうか。   それでは,そのように進めさせていただくということでよろしゅうございますでしょうか。   どうもありがとうございます。   それでは,次に,本日の審議に入らせていただきます。   本日ですけれども,議事次第に記載のとおり,二つのテーマ,「社外取締役を置くことの義務付け等に関する論点の検討」及び「その他の規律の見直しに関する論点の検討」について御審議をお願いいたします。   それで,まずは前の方,「社外取締役を置くことの義務付け等に関する論点の検討」の審議からお願いいたします。   初めに,お手元の部会資料6について事務当局に御説明をしていただき,その後,青委員と齋藤参考人からプレゼンテーションをしていただきます。   それでは,まず事務当局からの御説明,よろしくお願いいたします。 ○青野関係官 それでは,部会資料6の「第1 社外取締役を置くことの義務付け」についてから御説明させていただきます。   第1は,監査役会設置会社のうち,公開会社であり,かつ,大会社であるものであって,金融商品取引法第24条第1項の規定により,その発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないもの,これを「上場会社等」と呼ばせていただきますが,そのような上場会社等は,社外取締役を置かなければならないものとすることについて,どのように考えるかを問うものです。   平成26年の会社法及び会社法施行規則の改正により,事業年度の末日において上場会社等が社外取締役を置いていない場合の社外取締役を置くことが相当でない理由の説明等に関する規律が設けられましたが,改正法の施行後2年が経過した場合において,再度,企業統治に係る制度の在り方について検討することを求める改正法附則第25条に基づき,社外取締役の選任状況その他の社会経済情勢の変化等を勘案し,社外取締役を置くことの義務付け等の措置を講ずる必要があると認められるかどうかについて検討する必要があります。   東京証券取引所の全上場会社における社外取締役の選任比率は,平成26年改正法の施行前から増加傾向にあり,平成26年度においては64.4パーセント,市場第一部においては74.3パーセントでしたが,改正法の施行後更に増加して,平成29年度においては96.9パーセント,市場第一部においては99.6パーセントとなっています。この点につきましては,社外取締役の選任比率が大幅に増加しているからこそ,その選任の義務付けをしても負担は必ずしも大きくなく,少数株主を含む株主共同の利益を代弁する立場にある者として,少なくとも一人の社外取締役を置くことが必要であるという指摘や,他方で,社外取締役を置かなくてよいと説明しているごく少数の株式会社についてまで,社外取締役を置くことを一律に強制することは適切でないという指摘など,双方の議論があり得ると考えられますが,現在の社外取締役の選任状況及びこの後予定しております各プレゼンテーションの内容等も踏まえて,上場会社等に社外取締役を置くことを義務付けるべきかどうかについて御議論いただきたいと考えております。   続いて,2ページの「第2 社外取締役の行為の業務執行該当性」について御説明いたします。   第2は,株式会社と取締役との利益が相反する状況にある場合において,社外取締役が,業務執行取締役の指揮命令の下に執行する業務に関する行為を除く株式会社の業務に関する行為,これを「特定受託行為」と呼ばせていだきますが,社外取締役がそのような特定受託行為をすることが相当と認めるときは,株式会社は,その都度,取締役の決定によって,あるいは,取締役会設置会社にあっては取締役会の決議によって,社外取締役に対して当該行為をすることを委託することができるものとし,この場合において,社外取締役が当該特定受託行為をしたことは,会社法第2条第15号イの「業務を執行した」に当たらないものとすることについて,どのように考えるかを問うものです。   会社法第2条第15号イは,社外取締役の要件の一つとして,社外取締役が株式会社又はその子会社の業務執行取締役等でないことを規定しており,取締役が「業務を執行した」場合には,社外取締役の要件を満たさないこととなります。   しかし,例えば,取引の構造上,株主と買収者である取締役との間に利益相反関係が認められると評価されるマネジメント・バイアウト等,株式会社と業務執行者その他の利害関係者との利益相反が問題となる場面において,実務上,取引の公正さを担保する措置として,対象会社の社外取締役が独立委員会の委員として買収者との間で交渉を行う場合等がありますが,仮に,このような行為をしたことが「業務を執行した」に該当するとすれば,株式会社と業務執行者その他の利害関係者との間の利益相反を監督することが期待されている社外取締役がこのような行為をすることは,会社法の趣旨にかなうと考えられるにもかかわらず,当該行為をした取締役は社外取締役の要件に該当しないこととなってしまうという指摘等があります。また,現行法の解釈として,「業務を執行した」取締役は社外取締役の要件に該当しないこととする規律の趣旨が,監督者である社外取締役の被監督者である業務執行者からの独立性を確保することにあることを理由として,特定の事項について会社から委託を受けて業務執行機関から独立した立場で一時的に業務に関与することは,「業務を執行した」ことにはならないと解することができるのではないかという見解もあります。そこで,これらの指摘及び見解も踏まえ,第2本文のような規律を設けることが考えられます。   他方で,先ほど御紹介した見解のように,現行法の解釈としても特定受託行為を行っても会社法第2条第15号イの「業務を執行した」に当たらないと解釈できるという見解に従えば,あえて第2本文のような規律を設ける必要はないとも考えられるところです。   なお,第2本文(1)の「株式会社と取締役との利益が相反する状況にある場合」には,いわゆる利益相反取引について定めた会社法第356条第1項第2号及び第3号に掲げる場合には該当しないときであっても,マネジメント・バイアウト等,株式会社と業務執行者との利益相反が問題となる場合を含むことを想定しています。また,第2本文の問題提起は,指名委員会等設置会社以外の株式会社を念頭に置いており,指名委員会等設置会社において株式会社と執行役との利益が相反する場合にも本文と同様の規律を設けるべきかどうかなどについては,更に検討を要すると考えております。   続いて,3ページの「第3 監査役設置会社における重要な業務執行の決定の取締役への委任に関する規律の見直し」について御説明いたします。   第3は,会社法第362条第4項の規定にかかわらず,一定の要件に該当する監査役設置会社の取締役会は,監査等委員会設置会社の取締役と同様の範囲内で,その決議によって,重要な業務執行の決定を取締役に委任することができるものとすることについて,どのように考えるかを問うものです。   会社法上,監査役設置会社の取締役会は,重要な業務執行の決定を取締役に委任することができないものとされておりますが,監査役設置会社においても機動的な業務執行の決定の必要性があるという指摘がある一方で,裁判所が「重要な業務執行」の範囲をどの程度厳格に解釈するかを予見することが難しいために,重要性が低いと思われる事項が取締役会の決議事項として上程されているという指摘や,監査役設置会社においても選任が進んでいる社外取締役が取締役会における個別の業務執行の決定に逐一関与しなければならないとすると,社外取締役がその期待される役割の一つである業務執行者の監督に専念することが難しくなるという指摘があります。   機動的な業務執行の決定等の要請があるのであれば,監査等委員会設置会社又は指名委員会等設置会社といった,それを可能とする機関設計を選択すればよいという考え方もあり得るところですが,他方で,監査役設置会社において,企業統治の実効性を高めながら機動的な業務執行の決定等を志向する会社も存在し得るとも考えられます。また,監査役設置会社にも重要な業務執行の決定を取締役に委任することを認めた上で,いわゆる制度間競争が行われることで,企業統治の実効性が一層高められることが期待できるとも考え得るところです。   なお,仮に,監査役設置会社においても重要な業務執行の決定を取締役に委任することができるものとする場合であっても,会社法第373条の特別取締役制度は存続させることを想定しています。   そして,仮に,監査役設置会社においても重要な業務執行の決定を取締役に委任することができるものとする場合の要件については,委任を受けた代表取締役等の業務執行者に対する監督の実効性を確保するために,取締役会の監督機能を強化する必要があるという考え方を出発点として,本文(1)から(5)までのいずれにも該当することとしてはどうかと考えております。   これらの要件については,4ページの補足説明2以下に考え方を記載させていただいておりますが,まず(1)は,社外取締役のみの議決権の行使により取締役会における業務執行者の選定又は解職や業務執行者への報酬等の分配額を決定することができるようにすることで,取締役会が業務執行全般の監督機能を実効的に果たすことを可能にするという趣旨で,取締役の過半数が社外取締役であることを要件とするものです。   続いて,(2)は,取締役会による業務執行者の業務執行全般の事後的な評価の基礎となる計算書類の適正性及び信頼性を確保するために,会計の専門知識を持った専門家である会計監査人の監査を受ける必要があるものとするという趣旨で,会計監査人設置会社であることを要件とするものです。   (3)は,取締役会による業務執行者に対する監督業務の遂行の一環として,取締役会に経営の基本方針の決定を義務付け,業務執行者がその経営の基本方針を逸脱していないかを監督させるものとすることが適切であると考えられることから,取締役会が経営の基本方針について決定していることを要件とするものです。   (4)は,常勤とは限らない社外取締役が自ら業務執行者の業務執行に関する情報を収集して業務執行者に対する監督を行うことは困難であると考えられることから,監査等委員会や監査委員会が内部統制システムを利用して監査に必要な情報を入手し,また,必要に応じて内部統制部門に対して具体的指示を行うという方法で監査を行うこととなる監査等委員会設置会社や指名委員会等設置会社と同様に,取締役会がいわゆる内部統制システムの整備について決定していることを要件とするものです。   最後に,(5)は,業務執行決定権限の移譲を受けた業務執行者に対する監督の実効性確保を取締役会の監督機能の強化によって図ることを前提とすれば,取締役会の構成員たる取締役の選任を通じた株主による監督についても,重要な業務執行の決定の委任が認められない監査役設置会社の取締役よりも頻繁に受けるものとすることが適切ではないかという考え方に基づいて,取締役の任期は,選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結のときまでとすることを要件とするものです。   また,3ページの第3本文の(注)は,重要な業務執行である「重要な財産の処分及び譲受け」並びに「多額の借財」の該当性について,軽微基準は設けないものとすることを提案するものですが,この点についての補足説明は,6ページの補足説明3に記載させていただいております。   「重要な財産の処分及び譲受け」並びに「多額の借財」に該当するか否かの判断基準が不明確であるために取締役会で重要性が低いと思われる多くの取引が付議事項とされ,その結果として,取締役会の監督機能が阻害されているという認識を背景として,これらの事項について量的な基準を軽微基準として定め,処分,譲受け又は借財の対象となる財産の額が当該軽微基準を下回る場合には,取締役会決議を不要としてはどうかという指摘があります。   しかし,株式会社によって規模や財務状況等は異なるため,一律の量的な基準の設定は難しいと考えられることや,軽微基準の水準や実務での運用によっては,軽微基準を設けても取締役会の監督機能が阻害されているという問題の抜本的解決にはならないという指摘もあるところです。また,近時,実務において,取締役会の決議事項について付議基準の見直しが進んでいることに留意すべきであるという指摘もあるところであり,これらの指摘を踏まえると,「重要な財産の処分及び譲受け」並びに「多額の借財」の該当性について軽微基準を設けるものとすることは,必ずしも相当でないと考えられます。   御説明は以上となります。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,続きまして,青委員からプレゼンテーションをしていただきます。よろしくお願いします。 ○青委員 恐れ入ります,東京証券取引所の青でございます。   お手元の参考資料19に基づきまして,御説明させていただきます。   本日は,事務局から御依頼を頂戴いたしまして,東証の上場会社における社外取締役の選任状況と,東証上場の大会社であって社外取締役を置いていない会社が,社外取締役を置くことが相当でない理由について,どのような記載をしているのかということについて,お話をさせていただきたいと存じます。   なお,前半の社外取締役の選任状況につきましては,上場会社から東証に御提出いただいたコーポレート・ガバナンス報告書の記載を基にしております。それから,後半の相当でない理由の方につきましては,事業報告の記載を本年4月末時点でまとめたものでございます。   ページをおめくりいただきまして,3ページにまいりますけれども,まず,こちら,全上場会社を対象といたしまして,社外取締役あるいは独立社外取締役を1名以上選任している会社の比率の推移を記載してございます。   独立社外取締役というのは,東証の上場規則に基づきまして,独立役員として届けられている社外取締役のことでございまして,独立性の基準については13ページに記載をしてございますけれども,主要な取引先の出身者ではないことが要件の一つになっているところが,会社法上の社外取締役との大きな違いということになってございます。   それで,グラフの方を御説明させていただきますと,まず,2014年の段階で申し上げますと,社外取締役・独立社外取締役を選任している会社の比率は,社外取締役が64.4パーセント,独立社外取締役は46.7パーセントという数字でございました。これが,2015年以降飛躍的に伸びてございます。要因としては,社外取締役を選任していない一定の会社に,社外取締役を置くことが相当でない理由の開示を義務付けるという会社法改正と,コーポレートガバナンス・コードで独立社外取締役の2名以上の選任が推奨されたことを契機といたしまして,実務の方が社外取締役の必要性,有用性を認識して変わってきたということになるのではないかと考えてございます。   直近の2017年のところございますけれども,それぞれ社外取締役が96.9パーセント,独立社外取締役が91.8パーセントという,かなり高い水準になってございます。さらに,これを大会社に限ってみますと,社外取締役が98.2パーセント,それから独立社外取締役が93.8パーセントという,更に高い水準まできているというところでございます。   次のページでございますけれども,こちらが,市場第一部の上場会社における社外取締役の状況と独立社外取締役の状況というものでございます。直近のところでは,社外締役が99.6パーセント,独立社外締役が98.8パーセントという状況でございます。   次のページが,2名以上の選任でございます。それで,こちらも,同様に2015年以降に急速にその比率が増えているという状況でございます。直近の2017年のところを見ますと,社外取締役の方が76パーセント,それから独立社外取締役が67.8パーセントという水準にきておりまして,大会社について限って申し上げますと,社外取締役が79.3パーセント,独立社外取締役が71.6パーセントということで,こちらもかなり選任が進んできている状況にあります。   次のページが,市場一部の上場会社に絞った場合について,2名以上の選任の状況について記載をさせていただいてございます。   その次の7ページの方が,こちらが市場区分別とか,あるいは人数別等の,少し細かい内訳について御説明をさせていただいているものでございます。この一番左側の赤い枠のところでございますけれども,こちらが,社外取締役を選任していない会社の内訳になっております。市場一部に限って申し上げますと,社外取締役を選任していない会社というのは9社,0.4パーセントということでございまして,JPX日経400に採用されている会社を見ますと,全社が選任している状況にあるということです。   次に,会社法で社外取締役を置くことが相当でない理由の開示義務が課されております大会社に絞って申し上げますと,一番下のところでございますが,選任していない会社は,3,136社のうちの55社,1.8パーセントという数字になっているというところでございます。   それから,その隣の赤枠が,社外取締役を3分の1以上選任している会社の内訳でございまして,この社外取締役が3分の1以上という高い水準について見ても,全上場会社で見れば,3割を超える会社が満たしているという状況になっているということでございます。   それから,表の右側の方は独立社外取締役の状況でございますけれども,こちらも併せて御覧いただければと存じます。   それから,次のページが,本日のテーマと直接関係はございませんけれども,会社法上の機関設計の選択状況別のものを記載してございますので,こちらも御覧いただければと存じます。   監査等委員会設置会社につきまして,全上場会社のうち798社,22.6パーセントが採用しており,平成26年改正で導入された新しい制度でございますけれども,既に数多くの上場会社が利用している機関設計になっているというところでございます。   その背景としまして,各社それぞれ御事情がお有りのことかと存じますけれども,各社の開示も拝見いたしますと,コスト負担を考慮した上で,社外取締役を確保するということを考えまして,機関設計を監査役設置会社から監査等委員会設置会社に変更して社外取締役を確保しているという会社も相当数あると見受けられるのかなというところで,御参考までにお知らせさせていただきました。   次が,社外取締役を置くことが相当でない理由の開示の状況でございます。こちらが,取り分け各社の状況を見た上で,義務付けの要否について検討するに際して,重要なポイントになってくるのかなと考えてございます。   それで,10ページの方を御覧いただければと存じますけれども,まず,分析の対象としましたのは,社外取締役を置くことが相当でない理由を開示している48社ということでございます。先ほど7ページの表で,社外取締役を選任していない大会社,55社ということになってございますけれども,今期に入りまして,社外取締役が辞任したなどの事情によりまして,事業報告における開示が行われていない会社がございますので,それを差し引きまして,残りの48社を対象としたというものでございます。   それで,今回の説明のところでは,全体の傾向と,それからそれを踏まえて幾つかの開示の例を見ていきたいと考えてございます。それで,48社全社の具体的な開示状況につきましては,A3の横長紙を別立てで御用意させていただきましたので,そちらも併せて御覧いただければと存じます。それから,また,その別紙の方で,業種ですとか設立年月日,あと上位3位までの株主の持株の比率ですとか,会社の属性等も記載してございますので,そちらも併せて御覧いただければと存じます。   それで,社外取締役を置くことが相当でない理由として48社が開示しているわけですけれども,そちらをまとめて概観で見ますと,大きく三つに分けられるのではないかと考えてございます。資料に記載させていただいておりますとおり,「『適任者』が不在」,それから「迅速かつ的確な経営の阻害」,それから「社外取締役を置かなくとも現状のガバナンスで十分である」という,主にこういった三つの理由が記載されているところでございます。   ただ,多くの会社が,これらを組み合わせ,複数の理由を挙げて説明しているというところになってございます。便宜的に社数と割合も資料に記載させていただいてございますが,なかなかその判断が微妙なものもございますので,飽くまでもこちら,御参考ということで考えていただければと存じます。   それで,まず,(1)の「適任者がいない」というところでございますけれども,適任者でない者を社外取締役に選任するということは,その企業価値の毀損につながって相当でないとするというものでございます。   その説明の中におきましては,適任者の要件としまして,①として,自社及び自社の属する業界に関する専門知識を持っていることということを記載している会社が30社ということで,かなり多くなってございます。ほかに,企業経営に関する知見,全般の知見を求めているもの,それから経営陣の独立性等を要件に掲げるという会社というものもございます。要件の①から③の区分につきましても,別紙の方で丸印で記載してございます。平成26年改正会社法の施行以来,毎年適任者が不在としている会社も,この中でかなりのウェートを占めているという状況にあるところでございます。   それから,次に(2)といたしまして,社外取締役を置くことで,迅速かつ的確な意思決定が阻害されるということを記載しているというものでございます。   これにつきましては,(1)の方の適任者不在という点に言及した上で,さらに,適任者でない人を社外取締役に選任をするという条件を付した上で,その上で迅速かつ的確な経営の阻害になるという説明をしている会社が多くなっております。また,社外取締役を置くこと自体が,迅速な経営判断を阻害して問題だということ,そういう書き方をしている会社もあるというところでございます。   それから,最後に(3)といたしまして,社外取締役を置かなくても現状のガバナンス体制が十分に機能しているということを理由として挙げているものがございます。   これに関しましては,大きく分けまして,独立した社外の監査役が,客観性と専門性を持って実効的な監督を行っているということで十分だというものがございます。それから,事業に精通する社内の取締役によって,取締役同士の相互監視によって実効的な監督ができているということを強調するというものと,この二つの類型があるというところでございます。   なお,この48社のうち32社につきましては,適任者の選任に向けて,現在,検討を進めている状況であるというような説明をされているというようなところでございます。   それで,その次のページが,具体的な開示の例ということでございますけれども,市場一部,二部,ジャスダック,マザーズの四つの市場区分から,それぞれ1社ずつ代表的な開示例をピックアップさせていただきました。これらを選ぶに当たりまして,先ほどの三つの理由の分類をできるだけ網羅しているということと,それができるだけ具体的に書かれているということを考慮してピックアップをしたというところでございます。   まず,市場一部に上場しております「くらコーポレーション」という会社がございますけれども,そちらの開示の例を申し上げますと,資料の上のところでございますが,前半の部分におきまして,取締役会による意思決定と監査役による監督体制が適切に機能しているとした上で,分類の(3)の現状のガバナンス体制が機能しているということを記載しているというものでございます。   続いて,後半のところでは,分類の(1)で申し上げました適任者不在ということを掲げてございまして,社外取締役に求める条件を,経営からの独立性と当事者意識,それから危機感の共有,それに加えて,業界と現場の双方に精通していることというものを掲げています。その上で,これらの最大限の企業価値向上に資する要件に合致する社外取締役が,今のところ見付かっていないということを説明してございまして,先ほど記載しました適格者要件の①と③を求めた上で,それらを満たす人がいないということを理由としているというものでございます。   次に,市場二部の「誠建設工業」という会社でございますけれども,こちらでは,分類の(1),(3)の二つが言及されているというところでございます。   具体的に申し上げますと,分類の(3)で,独立公正な立場の社外監査役が社外取締役に匹敵する経営監視機能を発揮しているということを掲げてございまして,それをもってガバナンス体制が整っているという説明をしております。また,分類(1)の部分につきましては,適任者の要件は特に明示はせずに,自社の経営規模・体制にとっての適任者が確保できなかったということで,その中で社外取締役を設置すると,経営監視機能が損なわれるということを指摘しているという形になってございます。また,この会社は,社外取締役の選任について引き続き取り組むということと,監査等委員会設置会社への移行も検討するということも,重ねて付言しているというところでございます。   なお,「くらコーポレーション」,「誠建設工業」共に,平成26年改正以降,全ての事業報告書において,適任者不在であるということを継続的に説明しております。   そして,次のページが,マザーズ,ジャスダックでございますけれども,まず,上は,新興市場のマザーズに上場しています「ケアネット」という会社の開示でございます。こちら,(1)から(3)の3点全てについて言及しております。   まず,事業に精通した取締役による迅速かつ的確,柔軟な意思決定を重視しており,社外取締役を置くと,迅速かつ的確な経営阻害につながるということを示唆した上で,分類(2)に係る事項を述べているというところでございます。   続いて,分類(1)ということで,社外取締役に求める要件を,独立性以外に明示をしていないということであるものの,適正を欠く者を社外取締役として選任すると,企業価値の毀損につながるということの記載をしているということでございます。その上で,最後に,2名の社外監査役が取締役会に出席して意見を述べるなどにより,経営監視機能の客観性と中立性は確保されているということで,分類の(3)について説明をしているというところでございます。   それから,最後はジャスダックの「桂川電機」という会社でございますけれども,こちらも三つの全てについて言及をしているというところです。   まず,事業に精通をした社内取締役で議案の審議を尽くすということでありまして,実質的な監督機能は十分に果たされているということで,既存のガバナンスの有効を述べていると。その上で,分類の(3)について言及した上で,分類(2)ということで,社外取締役を選任することで,監督機能の低下,それから意思決定の迅速性が阻害される可能性があるということを記載しているというところでございます。   そして,分類(1)ということで,同社の事業を理解し,助言監督機能を果たし得ることを適格な要件とすると設定をした上で,この要件を満たす適任者がいない中で,社外取締役を選任するということは,経営に悪影響を及ぼすのではないかということで記載しているというところでございます。   こちらの会社も,先ほどの2社と同様に,会社法の施行以降,継続的に適任者不在という説明をしているという,そういう状況になっているというところでございます。   資料に基づく客観的な選任状況と開示の状況についての御紹介は,以上のとおりでございます。   このまま少し続けさせていただきまして,こうしたことを踏まえた上での私どもの考え方について,少しお時間を頂戴して,意見として述べさせていただければと存じます。   私どもとしましては,上場会社のうち大会社のみを対象としてということでございますけれども,社外取締役を置くことを義務付けることが適切ではないかと考えている次第でございます。社外取締役につきましては,少数株主あるいは株主共通の利益の代弁者として,業務執行者から独立した客観的な立場から会社経営の監督を行うこと,そして,経営者あるいは支配株主と少数株主との間の利益相反の監督を行うという役割を期待できるということが,その理由でございます。   仮に取締役会が業務執行者のみで構成されている場合には,一つ目の経営の監督という点につきましては,自らの業務執行を自分で評価するという自己監督ということになりますので,事業のリスクとリターンを適切に評価して,時には軌道修正をしたり,あるいは事業の撤退の判断を下すということが余り期待しづらいのではないかと思われます。   それから,二つ目の利益相反の監督という点につきましても,敵対的買収ですとかMBOはもとより,ストック・オプションですとか役員の選任あるいは新株発行,支配株主との取引といったようなときに,社外者が欠けている状態では取締役会に十分な少数株主の保護を期待できないのではないかと思われる次第でございます。そこで,会社法制におきまして,広く一般の株主がいるということが想定されます上場会社を対象といたしまして,こうした役割を担う社外取締役が最低でも1名いることを求めることが適当ではないかと考えている次第でございます。   ここで,ガバナンスが,実質が肝要で,必ずしも形式を整えるだけでは意味がないということは言うまでもないということでございますけれども,取締役会のメンバーに外部の適任者といえる方が1名でも入ることとすれば,少数株主の代弁者も必ず存在するという状況を作れるということになりますので,取締役会が適切に機能して実質を高めていくというための出発点になるのではないかと考える次第でございます。そうした意味で,社外取締役がゼロと1とでは,質的に大きな違いがあるのではないかと考える次第でございます。   それから,次に,コーポレート・ガバナンス全体の政策ということで考えてみた場合には,ガバナンス・コードの方で複数名,更には3分の1以上の独立社外取締役の選任を促すアップサイドの取組を進めているということにしているわけでございますけれども,ガバナンス改革を定着させるということで考えれば,ミニマムスタンダードとしまして,社外取締役1名以上という最低限の水準を会社法に設けるということで,社外取締役の選任を取りやめるような会社が出てこないような下支えをするということも,重要ではないかと考える次第であります。   加えて,現行の会社法では,社外取締役を置くことが相当でない理由の説明義務を求めているという形になっているということからいきますと,上場会社は社外取締役を入れるべきだというのが,現行法の基本的な考え方なのではないかと考える次第でございます。ただ,一律の義務付けをすると,企業の創意工夫によって優れたガバナンス体制の構築阻害要因となるという意見があったということを踏まえまして,各社の事情に応じた社外取締役を選任しないという余地を残したということであると理解しておる次第でございます。   ただ,その中で,社外取締役の選任状況の実態を子細に見ていけば,現状では,先ほど申し上げましたように96.9パーセントもの上場会社が社外取締役を選任しているということですし,選任していない会社においても,大半は適切な人が見付かれば選任するとしているということでございます。したがいまして,選任していない会社も含めて,ほとんどの会社が社外取締役の意義については認めているという状況にあると考えられますし,まして社外取締役を置くこと自体が相当ではないと考えている会社は十数社と,極めて少数という形になるということであると考えてございます。   また,選任しない理由としまして,適任者不在としている会社はございますけれども,その多くは,自社や業界に対する知見を求めているというところでございます。こちらを厳格に求めますと,候補者が極めて限られるということになりますので,探すのはかなり難しいという状況になります。ただ,そもそも自社ですとか業界に対する知見というのは,業務執行取締役に求められるというのは当然重要でございますけれども,一般的に,客観性,中立性が要求される社外取締役については,必ずしも最初の段階からそうした知見を持っているという必要はなくて,その後キャッチアップしていくということは十分可能であると考えられますので,そのような要件を過度に求めなければ,大多数の会社が選任していることからいけば,十分に適任者を見付ける余地はあるのではないかと考える次第であります。   また,独立した社外監査役が十分に監視機能を果たしているという会社もございますけれども,社外取締役には,取締役メンバーであるからこそできることを期待しているということでございますので,この説明は少し説得力としては乏しいのではないかと考える次第でございます。   それから,ほかにも社内取締役同士が相互に牽制,監督しているから問題がないという説明がございますけれども,こちらについては,先ほど申し上げましたように,自己監督による限界があるということでございますし,少数株主との利益の対立というときには,その社内者のみで十分な牽制,監督が働くということは,一般には期待しづらいということは,十分に考慮が必要なのではないかと考える次第でございます。   このようにして,社外取締役を選任していない企業の説明の納得性ということを考えた場合に,必ずしもそこは高くないということではないかと考えられますので,この点を踏まえますと,ほぼ全ての会社が社外取締役が必要だという判断をして,実際選んでいるという中で,あえて選任をしないという余地を残すべき積極的な理由に乏しいという状況にあると考えられないかと思う次第でございます。   なお,その社外取締役を義務付けるようになりまして,その業績への影響などの効用を検討することも必要だという意見もあろうかと存じますけれども,でも,少数株主の代弁者を設けるということですとか,取締役会の機能が適切に発揮されるために,最低1名が必要であるということが,私どもの方の考え方でございまして,それで,1名いれば,直ちにそれは業績がよくなるということは,必ずしも期待されているわけではないのではないかと考えてございます。   あと,業績が上がらない限りは制度改正ができないという関係というわけでもないのではないかと考える次第でございます。そして,仮に,業績を見るとした場合でも,ガバナンスは中長期の企業価値向上を考えるというものでございますし,徐々に改善していくという性質がございます。また,コードの施行前から,先進的な企業は率先して社外取締役の選任をどんどんと進めていったという状況からいけば,改正前後の状況を比較しても,なかなかそこのところで上手に傾向を導き出すことは難しいのではないかとも考える次第でございます。   最後になりますけれども,我が国の資本市場のより一層の発展を目指すという観点から考えた場合に,国内外の機関投資家,それから一般の株主から経営陣に対します信頼性というものを確保するということは,ベースとなる法制上の国の土台としても極めて重要ではないかと考えてございまして,その一環として,社外取締役の義務付けということが適切ではないかと考える次第だということでございます。   長くなりましたが,以上でございます。ありがとうございました。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,続きまして,参考人としてお越しいただいております齋藤参考人にプレゼンテーションをお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。 ○齋藤参考人 慶應大学の齋藤でございます。よろしくお願いいたします。   本日は,義務化ということに関して少し意見を頂きたいということでお願いされてまいりました。   私自身は,少しだけ自己紹介させていただきますと,現在,慶應ビジネススクールの方におりまして,元々コーポレート・ガバナンスに関する実証分析をずっと行ってまいりました。特に取締役会に関する実証分析を行っておりまして,昔でしたら,『役員四季報』とかからいろいろデータを持ってきて,それと財務データなんかをくっつけながら,どういう特性の企業が社外取締役を入れるんだろうかと,社外取締役を入れたらどういう効果があるんだろうかと,そういったことをこれまで実証的に研究してまいりました。本日は,その考えに基づいて少しお話しいただきたいということですので,やらせていただきたいと思います。   このお話を頂いたときに,当然のことながら,今,もう皆さんよく御存じのとおりコーポレートガバナンス・コード,それから会社法の改正によって,近年,社外取締役をめぐる状況は大きく変わっていると。この状況を無視して実証的に何かしゃべれと言われても,ちょっとしゃべれないという状況にありまして,ですので,ちょっと,今回のこのために,今,現時点でできるデータの範囲内で少し実証研究を回してみて,コーポレートガバナンス・コード,それから会社法改正によってどういう変化があったのかということを少し,まず皆さんの方にお話しして,そこから義務化ということにどういう意見を私が持っているかということを,少しお話しさせていただければと思います。   それでは,よろしくお願いいたします。   まず,1ページ目と2ページ目の方にありますように,会社法改正が平成27年にありましたと。それから,もう一つ非常に大きなものは,東証の方でコーポレートガバナンス・コードが入れられたと。会社法の方では,社外取締役を置かない場合は理由を説明しなければいけない。コーポレートガバナンス・コードの方に関しましては,独立社外取締役を2名以上置かないのであれば,その理由を説明しなければいけないというルールが設けられていると。いわゆるコンプライ・オア・エクスプレインというのが,この2015年に改正された非常に大きな改正だったのではないかと思います。   コンプライ・オア・エクスプレインというもの,3ページ目にありますけれども,どういうものなかのということを少しだけ考えてみますと,ここ,コーポレートガバナンス・コードで書いておりますけれども,例えば,ここの下の部分に図がありますけれども,ゼロ名の便益であると。例えば,経営者の便益だと考えていただければと思います。高さはその大きさを示していると。例えば,ゼロ名がいいと思っていた人間に対して,重要なことは,コンプライ・オア・エクスプレインですね,エクスプレインするには何らかのコストが掛かると。そのコストを課すことによって,ゼロ名であることの便益を下げると。そうすることによって導入を促すというのが,このコンプライ・オア・エクスプレインについて非常に重要な役割ではないかと思います。   この点に関しては,いい点は,先ほどもお話ありましたけれども,会社は飽くまでもエクスプレインすれば,自分たちの好きなように選ぶことができるという意味では,会社の創意工夫の余地は残されていると。ただし,そうでない企業に関しては,コストが掛かってくるんで,そのコストに見合う部分がないと思った企業は導入してくるということになってくると。   まず,ここで少し実証的に考えたいこととしましては,この説明のコストというのは,実はなかなかどういうものかというのを説明するのが難しいと。実際のところ,単に書くだけだと,非常に軽いコストかもしれないと。それに対して,説明のコストというのは,実は社会的にいろいろなプレッシャーとか,ほかの会社が入れてしまって自分だけが取り残されるとかいう形で,いろいろな見えないコストというものがあるかもしれない。そういう意味では,まず一つ目に考えなければいけないこととしては,この説明のコストというのはどれくらいのものなのかと,きちんとあったんだろうかということを,実証的に少し考えなければいけないことではないかと思っております。二つ目の点としましては,この説明のコストというのは,義務化というのは,必ずどの企業にも,どしんと大きく乗ってくるわけですけれども,説明するということは,企業によって説明のコストは変わってくるかもしれないと。ある特性を持った企業にとっては,ものすごくコストが大きいかもしれないけれども,ある特性を持った企業には対してコストは大きくないかもしれないというような可能性もあるということも考えられると。   そういう意味では,今回のこのコンプライ・オア・エクスプレインルールによって,どういう形でどういう企業が社外取締役を入れたんであろうかという点を考えるというのは,非常に重要ではないかと考えています。ですので,ちょっとそういう点を,後ほど考えたいと思っておます。   4ページ目の方には,これが望ましい政策である条件としては,考えていることとしては,基本的には利害の不一致があると。経営者は実質的にはガバナンスを決める権利を持っている中で,経営者と株主の利害は不一致があると。そういう中で,仮に,社会的に株主価値を最大とすることを望ましいとすると,それに利害を沿わせようと思うと,このコストを掛けてくるというのが非常に重要なことになってくるだろう。   それに対して,念のため,お話ししておきますと,望ましくない可能性もないことはないと。もし仮に,事前の段階でゼロ名であることが非常に望ましいという会社があるかもしれない。それは,経営者にとっても望ましいし,株主にとっても望ましいという企業があるかもしれない。ところが,そういう企業に対して何らかのコストを掛けられたら,本当はやりたくなかったのに移行するという企業が出る可能性もあるというのが,このコンプライ・オア・エクスプレインと。これは義務化でも同じだと思いますけれども,こういったルールの非常に大きな特徴ではないかと思っております。   社外取締役が少ない方がいいと,要するに,ゼロ名の方が2名よりいいという可能性はあるのかというところがありますけれども,まず基本的には,経済学的には,ちょっと皆様の方には7ページを見ていただきたいんですけれども,これが大体経済学者が理論的に描いている取締役会の,下の比率というのは,社外取締役の比率だと思っていただければ結構です,それと取締役会の効率で,ひいては取締役会の効率性が上がれば企業業績が上がるだろうという観点に立っていますけれども,大体こういう絵を描いています。一直線に上がっていくのではなくて,どこかに各企業にはふさわしいポイントがあるのではないかと。それよりも多くても悪いし,少なくても悪いのではないかと。   なぜそういうふうに考えるかといいますと,取締役会というものが機能を果たすためには,基本的には独立性が必要です。モニターするんだから,当然独立性が必要です。その一方で,モニターするためには情報が必要だと。情報を誰が持っているかって,内部の人間が持っていると。そういうふうに考えると,内部の人間も必要だし,外部の人間も必要だというのが,取締役会の機能を果たす上での非常に重要な前提になってくると。その比率というのは,恐らく企業によって変わってくるのではないだろうかというのが,我々の頭の中に描いている構図だと思っていただければと思います。   少し,ここから実証研究の結果を見てまいりたいんですけれども,まず最初に8ページ目の方に,ちょっとこれ参考で,もし分からなくなったら見ていただきたいんですけれども,今回のタイムラインということで。ガバナンス・コードであるとか会社法改正の影響を受けた最初のところを0期とするという形で,タイムラインを置いています。ですので,何年という形ではないという形で置いていますので,少しこの後,説明していく中で,もし分からない点があれば,ここに戻っていただければと思います。   まず,最初に,9ページ目の方ですけれども,説明のコストというものが本当に大きかったのかという点を,少し検証してみました。   まず,これ,図の方ですけれども,東証一部,二部,それから新興市場の企業の社外取締役平均人数ですけれども,見て明らかのように,まず-1から0期にかけて,やはりジャンプがあるということになっています。そういう意味では,恐らく説明のコストというのはそれなりにあったのではないかとは想像されます。ただし,もしかすると,この-1期から0期にかけて,何らかの企業特性の変化がいろいろな企業で一斉に起こったかもしれないという可能性も,全くないことはないということが考えられると。   次の10ページ目の方には,そういった企業特性をコントロールしても,社外取締役の増加というのが,コーポレートガバナンス・コードの適用,それから会社法改正によって起こったのかということを検証しています。そうすると,大体この結果の読み方としましては,企業特性で,我々が少なくとも持っている限りのデータ化できるような企業特性のコントロールをした上でも,会社法改正では説明できない増加というものが,大体0.5人ぐらい起きていると,平均的に,という結果が得られているということになっています。そういう意味では恐らく,まず,どの企業にとっても非常に大きなコストがあったということは間違いないだろうと。コストというものが,無視できるようなものではなかったと。実際,こういうコストがあるからこそ入れた企業というのがたくさんあったということを,この結果は示唆していると考えられます。   次に,どういう企業は入れたんだろうかという点を,少し考えてまいりたいと思います。   11ページ目の方は疑問が書いてありまして,12ページ目の方はちょっと,我々がこういうのをやるときに基礎統計を入れますんで,それを入れていますけれども,ちょっと今日はもう説明する時間がございませんので,13ページ目の結果の方に少しいかせてください。   非常に見にくくて,皆さんが多分ふだん見られないようなものがあって,ちょっと困られているかと思いますけれども,少し説明させてください。   これはどういうことを分析しているかといいますと,どういう特性を持った企業が社外取締役をたくさん任命しているかということを分析した結果になっています。例えば,ちょっと東証一部の方のこのコラム,2列目の方で見てまいりますと,例えば,売上げに対して0.2411で,プラスで,*三つで,統計的に優位になっていると。言ってみれば,規模の大きい企業ほど社外取締役をたくさん入れているという傾向がありましたねということを示しています。そういう意味では,皆さんよくよく御存じのとおり,例えば,外国人持株比率が高い企業ほど社外取締役をたくさん入れているだとか,それから役員持株比率,役員がたくさん持っている,言ってみれば,ファミリー企業みたいなタイプです。そういった企業は,マイナスに優位になっているということです。そういう企業は社外取締役を導入していないというような傾向があるということを示しています。   ここで見ていただきたいのは,ちょっと外国人の方で見てまいりますけれども,この上の方の外国人持株比率というのは,ここは事前です。ガバナンス・コードとかが入る前にどういう影響があったかと,全体的な傾向を示しています。それに対して,この下の方に外国人持株比率掛けるCE,コンプライ・オア・エクスプレイン比率,政策があったと。この政策によって,こういう傾向がどういうふうに変わったかということを説明しているとなっています。ですので,ここでどういうふうに読んでいただきたいかといいますと,外国人持株比率で見ますと,元々外国人持株比率が高い企業ほど,社外取締役の人数が多いという傾向があったんですけれども,その傾向は,2015年の政策実施後に弱まったということを意味しています。   これ,見ていただきたいんですけれども,特に東証一部を見ていただきたいんですけれども,実は,傾向はことごとく弱まっています。例えば,元々売上高が大きい企業ほどたくさん入れているという傾向があったんですけれども,その傾向は弱まっている。それから,リスクが高い企業ほど入れていなかったという傾向があったんですけれども,その傾向も弱まっていると。それから,トービンのqが高い,成長性が高い企業ほど入れているという傾向があったんですけれども,その傾向も弱まっている。それから,役員持株比率が低い企業ほどたくさん入れているという傾向があったんですけれども,その傾向も弱まっているという形で,事前に見られたような傾向というのは,ことごとく消す方向でいっているという形になっています。   そういう意味では,もし仮に,外国人持株比率が低い企業にとっては,説明コストが掛かっていないのであれば,こういう結果にはならないということが考えられます。ですので,そういう意味では,元々この結果が見られることとしては,入れていなかったタイプの企業というのは,どの特性を持った企業も,やはりこのエクスプレインのコストというものがあって,説明コストがあったので,社外役員の選任を進めただろうと。そういう意味では,一部の特性を持った企業がこの政策に反応しなかったということは,ないんではないだろうかということを示すような結果が得られているということになっております。   実際,15ページの方には,どういう企業がやったかって,もっとダイレクトに分析しているんですけれども,皆さん,簡単に想像が付くのは,外国人持株比率が多い企業ほど社外取締役を入れていくんでしょうと感じられると思うんですけれども,少なくとも,この政策前後を比べる限りは,そうではなくて,外国人持株比率が低い企業ほどたくさん社外取締役を任命していた,役員持株数が多い企業ほどたくさん社外取締役を任命していたという傾向,我々の直感から持っているのとは違う傾向が見られていると。そういう観点から考えても,今まで入れていなかった企業に対して,明らかに大きなコストが掛かって導入が進んだんだろうということが見てとれるということになっております。   16ページの方には,それでも,この政策が実施されても2名以上入れていない企業,2名以上入れている企業,入れていない企業にどういう差があるのかということを示しています。今回,義務化ということで1名ということなんですけれども,ただ,ちょっと,我々の実証分析のツールからいきますと,現在の任命の動向から行きますと,95.6パーセントを超えてきているような状況ですので,正直申しますと,実証分析でもう傾向は見てとるというのはほぼ不可能な状況になっておりまして,そういう観点もありまして,今回は2名という形で見ております。   ここで,ガバナンス・コードで2名と,ここは社外取締役で見ていますけれども,2名という形でやると,確かに,これ,ちょっと以前の傾向は見せていませんけれども,以前と比べて,傾向というものはかなり少なくなったんですけれども,ただ,先ほど言いましたように,傾向は少なくなる方向にはかかっているんですけれども,ただ,それでも,例えば,東証一部で見てみますと,現在でも外国人持株比率が高い企業の方が2名入れていると。逆に言うと,外国人持株比率が低い企業はやはり2名入れていないという傾向は,現在も見られると。それから,役員持株比率で見ましても,高い企業の方が社外取締役を入れていないと,2名以上に達していない確率は高いというような実証結果を得ています。   売上げに関してもプラスに出ていますので,想像できることとしては,小規模なファミリー企業みたいなタイプというのは,まだ導入は進んでいないという傾向は現在もあるんだというのは,ここの結果から言えることではないかと考えております。   最後に,効果ということで少しだけお話しさせていただきたいと思います。   このガバナンスの効果を捉えるというのは,我々研究者にとっても非常に大きな難題です。なぜかといいますと,コーポレート・ガバナンスというのは非常に捉えにくいものだと。なぜかといいますと,ガバナンスというのは,企業の特性が変わるとガバナンスも変わる。でも,企業の特性が変わると,同時に企業の業績も変わってしまうと。ちょっと想像していただくなら,単純に言うと,ウナギをつかむようなふうに思っていただくと,つかもうとすると逃げられていくと。要するに,ガバナンスの効果は,どこをつかんでも,なかなかつかめないというのが現実としてあるということになっております。   そういう形になっているわけですから,なかなか因果効果,我々が知りたいのは,社外取締役であるとか取締役会が業績にダイレクトにどういう影響を与えたかということですね。それをうまく捉えたいわけですけれども,なかなかそれを捉えるのは難しいというのが現実です。   ただし,これを捉えるには,たまに良い方法があります。それはどういう方法かといいますと,企業の特性は変わらなかったんだけれども,取締役会だけが大きく変わったというときはないだろうか。そういうときに企業業績がどういうふうに変わったかということを調べれば,取締役会の変化と企業業績にどういう変化があったということを見てとれるというチャンスなんだということになります。こういうのを,我々は操作変数法という形で呼んで,分析に使っております。こういうものを使うと,その因果効果と言われるようなものを見てとることができると。   今回のこういう形のガバナンス・コードというものは,そういうものができる一つの大きなチャンスになっているということになっております。なぜかといいますと,ガバナンス・コードの適用によって,社外取締役というか,独立社外取締役を2名以上任命していた企業というのは,今回,説明コストは一切掛からなかったわけですよ。その一方で,2名以下の企業に対して説明コストが掛かってくると。要するに,掛かった企業と掛かっていない企業があると。掛かっていない企業は何で掛かったかというと,別に企業特性が変わったからコストが掛かったわけではなくて,外生的に,制度というものによって「がーん」と与えられて急に変わってしまったということになっていると。であるならば,このガバナンス・コードの適用,それから会社法の改正によって社外取締役が増加した部分と企業業績の関係というのを見ることによって,今回,どういう企業業績に影響があったかということは見てとれるのではないだろうかと,そういうアイデアを持って分析を行っております。   実は,様々な国でこういう形でガバナンスの改革,義務化であるとかキャドバリー報告書なんかを利用した,どういう形で社外取締役を増やすときに効果があったかということを,これまでにいろいろな国で様々に分析されております。例えば,イギリスのキャドバリー報告書,それから韓国で,大企業で50パーセント,それから中小では25パーセントを義務化すると,社外を,それから,アメリカではSOX法によって独立社外を半数以上にしなければいけないと。こういう義務化というのは,我々研究者にとって非常に大きなチャンスで,因果効果を見てとるチャンスだということがありまして,多くの研究がなされているということになっております。   基本的な結果としましては,イギリス,韓国なんかでは上昇していると,アメリカは場合によりけりだと,上がった企業もあるけれども,下がった企業もあるというようなことが報告されております。今回,ちょっとこれを日本でやってみようという形で思っております。   ちょっと21ページ見ていただきたいんですけれども,ただし,ちょっと少し皆さんにお話ししておきたいことがありまして,まずは,我々がこの手の研究をするには大体,少なくとも3年は欲しいというのが現状です。ただ,コード実施をやってから2年しかたっていませんので,現在ではデータは不十分であると。不十分な下でやった結果になっているということだけは,まず皆様に御記憶いただきたいと思います。それから,我々はこういう結果というのは,1人の結果によって進むというよりも,幾つかの研究が積み重なって,スターライドファクトができてどうだったかという結果が出てきますので,そういう意味では,今後たくさん研究が出てくるかと思いますので,そういうものと併せて効果がどうだったかというのは読んでいただきたいというのが,ちょっとここで結果を説明するために御記憶いただきたいことです。   22ページに結果があるんですけれども,ROAが変化したか,社外取締役が増加したことによって,今回のこの行動によって,ROAがどう変化したか,ROEがどう変化したか,トービンのqがどう変化したかということを,全上場企業,東証一部,東証二部,新興市場という形でやっております。まず,見てみますと,正直言いますと,まず東証一部と新興市場に関しては,何らかの一貫した効果がずっと見られるということは,余りほとんどなかったと。一部にちょっと有意なところがあったりしますけれども,そういうのはなかなか見られなかったというのが現実的な結果になっております。これは,いろいろ理由があるかと思います。ちょっとそこは後で触れたいと思います。   それに対して,ちょっと,今回で非常に一貫して効いてきたのは,実は東証二部の方でトービンのq,株式市場の評価ですね,株式市場の評価というのに対してマイナスに有意に効いていると。要するに,社会取締役を増やした企業の方が,株式市場で評価が下がっているのではないかというような結果が出ているということになっています。ここも少しあれがありまして,我々も,実は東証二部のデータというのは非常に扱うのが難しくて,割とデータが粗っぽい部分があって,上下変動が激しくあったりしますので,そういう意味では,平均に対して何らかのアウトライアーが非常に影響を与えたと。最低限の処理はしていますけれども,そういう可能性もありますけれども,ただ,一貫していろいろな形で年数をとってみても,トービンのqに対してマイナスの影響があったというような結果を得ています。   23ページに少しだけ解釈を書いておりますけれども,東証一部と新興市場に関して結果が見られなかったと。もちろん,これは,一つは分析上の限界で,まだ早い,いろいろなデータがまだ分析が足りないとかいうのもあるかと思う。それから,これは東証二部にも言えることかと思いますけれども,今回の場合,監査等委員会設置会社への移行というものがありましたので,そういう会社に関しては,もしかしたら違う効果があった可能性もあると。要するに,横滑りしただけで何も変わっていないという可能性もあるという点があるではないかということがあるかと思います。   それに対して東証二部の方は,株式市場での評価が下がっているという可能性があるんではないだろうかということが,結果が出ています。今回,ちょっとこれに関して少し考えてみたんですけれども,今回,調べてみますと,-1期の時点で,社外取締役ゼロ名の東証二部の上場企業の時価総額って大体42億円,中央値ですけれども,最終損益は3.5億円になっていると。冷静に考えてみますと,こういう企業に対して,仮に,社外取締役を2名増員せよと,純増の2名にしたとすると,掛かってくる費用としては,1人1000万円,2000万円。2000万円掛かってきて,ガバナンスの費用というのは非常に重要なことは,永続的に確実に掛かってくると,間違いなくずっと永続的に払い続けなければいけないコストになってくると。それがずっと掛かってくると。2000万円ずっと払い続けるとすると,強引に計算すると,1億8000万から2億円ぐらいの株式価値を下げる効果がある可能性があるのではないかと。   それに対して,ガバナンスの効果はと考えると,ガバナンスの効果というのは,この先行研究でも,基本的にはパーセントで効いてくる。要するに,どのサイズの企業でも,ガバナンスを改善したら100億円上がるのではなくて,基本的には,サイズに応じて1パーセントの上昇があるのではないだろうかという形で効いてくるという形になってくると。そういう観点から考えると,50億円の規模で2億円取ろうと思うと,4パーセント上げなければいけないと。なかなかガバナンスで4パーセント改善するというのは難しいのではないかと,論理的にも考えられない。   そういう意味で,非常に重要な点としましては,ガバナンスのコストというのは,基本的にはあんまり規模に依存しないで掛かってくる部分があるのに対して,ガバナンスの効果というのは,割と規模に依存してくると。要するに,パーセンテージで効いてくるという形であると。そう考えると,実は小規模な企業にとっては,ある程度ガバナンスの効果がこういうふうに上がってくると,マイナスに出てくるというのが,実はそれほど不思議なことではないんではないだろうかと思いました。   0期で見ましても,今でも社外取締役1名以下の企業ですと,株式時価総額,中央値でいくと54億円ということになっていますので,その企業に対してガバナンスのコストが掛かってくる,どれぐらい掛ったかというのは非常に難しいところかと思いますけれども,そう考えると,株式市場からすると,最終損益が下がってきて,株価が下がってきているということが起きているのかもしれないというのが,結果から見えることではないかと思っております。   最後,分析結果のまとめですけれども,24ページにありますけれども,まず一つは,説明のコストが低いということはないだろうと。やはり,説明のコストというのは,それなりに大きかっただろうと。それから,企業特性によって,大きく説明のコストが変わっているということはなく,やはり今まで入れていなかったどの企業にとっても説明のコストというのは大きかったのではないだろうかと。それから,小規模な企業にとっては,若干,社外取締役選任のコストいうものよりも,ベネフィットよりもコストが大きかったという可能性があるかもしれないというようなことを,結果は匂わせているということになっております。   最後に,少しだけこの結果を踏まえまして,義務化に関して私の意見を述べさせていただきたいと思うんですけれども,まず,私自身も,社外取締役というものは,取締役会には絶対的に必要だろうと。会社法で定められた取締役会の役割というものを考えるときに,社外取締役を入れないという理由を説明するというのは,非常に難しいことではないかと思っています。   先ほども,迅速かつ的確な経営の阻害という話がありましたけれども,過去の日本企業を見たときに,社外取締役いなかったから意思決定が迅速だったとは,とても思いにくいと。それから,現状のガバナンスで十分というのは,それを決めるのもまた社外の人間の話ではないのかという観点から考えても,なかなか入れないという要素を,現状において,先ほども御説明いただいたとおりだとは考えております。   ただし,少しだけ義務化というものに対して懸念があるとすると,まず一つ目としましては,これは実証研究者の立場からかもしれませんけれども,コーポレートガバナンス・コード,それから会社法改正があったという意味では,この効果というものはもう少し見てから考えてもよいのではないか。今,義務化するということに関しては,こういうのを見てもよいのではないかというようなことを考えました。   それから,明らかに義務化すべきということを考えられるのは,明らかに社外取締役を入れるべきを入れていないという状況がある。例えば,明らかに,ものすごくキャッシュリッチな企業なのに社外取締役を入れていない企業群というのがかなりあるという状況であるならば,義務化というのは非常に重要な話だと思うんですけれども,少なくとも実証研究の分析から見る限りは,そういう明らかにガバナンス上問題である,キャッシュリッチであるとかという企業が入れていないという傾向は見られなかったと。そういう意味では,ターゲットとすべきような企業群というのは,そんな明らかな企業群というのは存在していないのではないだろうかと。   それから,最後の点は,小規模な企業の話ですけれども,皆さん御存じのとおり,割と日本は上場企業が多いという話があって,上場企業が多いということは,割と規模の小さい企業がたくさんあると,中小規模のですね。ちょっと数えたんですけれども,大体東証一,二部で今2,550社あって,50億円以下の時価総額の企業というのは大体200社程度あると。これ,アメリカのニューヨーク・ストック・エクスチェンジとかで比べても,恐らく数字的には多いとなっていますので,そういう意味では,そういう企業群に対して,こういう形で義務化であるとか,これは,今回に限らず,ガバナンス改革というコストを掛けていくというのは,先ほどもお話ししましたように,ガバナンス改革というのは,ある程度規模に関係なく固定的にコストが発生する一方で,効果というのはある程度規模に依存してくるという部分があるかと思いますので,そういう観点から考えると,そういう企業に対して,どういう効果があるのかというのは慎重に見極めるというのが重要なのではないだろうかということを,今回,分析しながら思いました。   以上でございます。どうもありがとうございました。 ○神田部会長 齋藤参考人,どうもありがとうございました。   それでは,御審議をお願いしたいと思いますけれども,本日も,いつものように部会資料で申しますと,幾つかに区切って議論をお願いしたいと思います。   まずは,部会資料6の「第1 社外取締役を置くことの義務付け」,この部分について,御質問,御意見をお出しいただければと思います。なお,今,御説明,プレゼンテーションをいただきました青委員と齋藤先生に対する御質問あるいは御意見等も併せて御発言いただければ幸いでございます。   どなたからでも結構でございます。御質問,御意見,いかがでしょうか。 ○神作委員 齋藤先生に御質問させていただきたいと思います。   実証研究に基づく御報告,大変興味深く聞かせていただき,誠にありがとうございます。   私の質問は,コーポレートガバナンス・コードと平成26年の会社法が適用される1年前の2014年から,スチュワードシップ・コードが適用されておりまして,そのスチュワードシップ・コードも日本の上場企業のガバナンスに相当の影響を与えているのではないかと思います。本日の実証研究は,0期というのが,2015年の8ページの図でありますけれども,この0期を平成26年会社法が適用される2015年とされておられますけれども,例えば,1年遡って,スチュワードシップ・コードの適用のときからカウントすると,結果は相当変わってくるものなのか,スチュワードシップ・コードの施行の影響についてどのような御知見をお持ちか,教えていただければ大変有り難いと思います。 ○齋藤参考人 ありがとうございます。   まず,答えとしまして,その点に関しては,今回は,全然考慮されていないというのが現実でございます。おっしゃっていただいたとおり,恐らくスチュワードシップ・コードの入り方などによって,機関投資家の効き方などが変わってきたという形で,構造の変化が事前に起きていた可能性は十分にあると思います。ただ,そこに関しては,今回は,考慮できていないというのが現実だと思います。   非常に今,分析上難しいのは,これに限らず,2010年ぐらいからずっと様々な政策,それから社会の動きがある中で,やはりガバナンスに関する根本の構造が急に変わっている部分があって,これは,今の研究でいきますと,-5期から0期までは,基本的には一定であるという前提の下でやっているわけですけれども,ただ,その事前の段階で,いろいろな形で大きく様々な効き方が変わってきたという可能性があるということは,全く否定できないことだし,今後,検証していかなければいけないかとは認識しております。 ○神田部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○古本委員 ありがとうございます。   この問題は,根本的には適切なガバナンス体制の在り方に関するものです。社外取締役の設置も含めまして,適切なガバナス体制は,個々の企業の経営理念,戦略,それから業種,業態に応じて,株主との建設的な対話も行いつつ,各企業が創意工夫しながら構築していくことが原則であると考えておりまして,会社法で一律に設置を義務付けるべきものではないと考えます。   現実としても,先ほど御紹介がありましたように,今は,ほとんどの上場会社は社外取締役を導入しています。この事実をどう評価するかということにつきましても,単にそういう状況であれば,義務付けても問題はない,大きなコストは掛からないと考えるのではなく,既に先の会社法改正の目的は達せられていて,そうであるならば,あとは原則どおり各社の自治に任せてよいと捉えるべきではないかと思っております。   先ほど御説明がありましたように,社外取締役を導入していない会社に対し,置くことが相当でない理由を株主に説明させる現行法の規律は,十分機能していると考えておりますし,御意見はございましたけれども,現状そうした説明責任は果たされていると理解しております。社外取締役を設置していない理由として,適任者が不在というものが多かったということが,資料上も,そして先ほどの御説明にもありましたが,今のように社外取締役の需要が急増している中で,適任者が見付かっていないと言っている会社にも,とにかく設置しなさいと義務付けることが正しい方向なのかといいますと,私どもはそうではないのではないかと考えますので,義務付けには反対の立場です。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。前田委員,どうぞ。 ○前田委員 社外取締役の有用性については,ほぼ異論はないところだと思うのですけれども,今回考えるべきことは,現在の状況の下で義務付けをすることが適切かどうかということなのだと思います。   そして,平成26年改正のときの改正附則の検討条項は,もし開示規制だけでは効き目がなくて,社外取締役の設置が進まなければ義務付けなどの措置を講じるという趣旨の規定であったと思います。そうしますと,現在の普及状況を見れば,先ほどの実証分析の御報告にもありましたように,平成26年改正時の開示規制の狙いは実現したか,あるいは実現しつつある状況にあるのであって,義務付けの必要はないと考えるのが,この検討条項の趣旨に照らしても妥当ではないかと思います。古本委員の御意見に賛成したいと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   同時に挙がったので,では,小林委員,それから梅野幹事の順でお願いします。 ○小林委員 どうもありがとうございます。   今回,社外取締役を置くことの義務付けについての提案は,やはり二部上場とか新興市場でも比較的規模が大きくない企業も含まれ,この範囲ですと,非常に少数ではあると思いますが,上場していない企業も含まれる場合があり得るということです。商工会議所として考えてみたときに,こういった企業につきましては,社外取締役を選任することに当たっての,物理的,心理的な負担ですとか,現実の招へいの困難性というのは依然としてかなり大きいと考えております。   先ほどの御説明にもありましたように,社外取締役の選任自体が,迅速かつ的確,柔軟な経営判断に影響を及ぼすという懸念を表明したり,あるいは監査役会がその監督として十分に機能としているということで,あえて社外取締役を選任しないことが有効と考えている企業にとって,現実に強制的に義務を課すことが,実益があるというよりは,むしろ有害となるのではないのか,そのような規制強化になるのではないかという印象を持っております。   社外取締役の選任比率については,もう既に御説明されているように非常に高まったということですから,マクロでは目的が達成されていることはうかがえるわけですが,もう少し考えますと,株主や実際に選任されている会社について,株主への説明責任が本当に全てきちんと機能しているか,もう少し様子を見てもいいのではないかと。もちろん,選任していないということについて説明している企業はよろしいですが,選任されている企業がきちんと運用されているかということを含めての話でございます。   元々,社外取締役の選任というのは,ガバナンスの強化の一手段と考えるというのは当然でありますが,重要なことは,当該会社が社外取締役にどのような役割を期待しているのかとか,社外取締役を選任することにどのような効果があるのか,一生懸命考えて内容を充実させていくということだと思います。特に社外取締役の義務付けを制度として強制してしまうと,やはり特に規模の大きくない会社にとっては,単に社外取締役を選任すればいいと流れる可能性が非常に強くて,ガバナンス強化といった本来の趣旨とは離れてしまうのではないかなと考えます。そういう意味では,制度の形骸化を招くおそれがあり,企業実務面の監督としては,社外の取締役の選任について,その有無にかかわらず,企業の取組を尊重して,それこそ株主の対話によって各社の自主的な取組を期待する方が望ましいと考えております。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。梅野幹事,どうぞ。 ○梅野幹事 今回,参考資料21として,日本弁護士連合会の8月24日付の意見書を資料としてお配りいただきました。日弁連としては,社外取締役の1名を義務付けるという意見でございます。   日弁連は,従前は有価証券報告書提出会社について社外取締役1名選任の義務付けということを主張してまいったのですが,今回はその範囲を限定して,部会資料にいう「上場会社等」,つまり,大会社であって,かつ,発行する株式について有報を提出しなければならない会社に限定した上で,少なくとも社外取締役を1名置くべきであると考えております。   この理由については,先ほど東証の青様から御説明があったところとかなり共通する部分がございますが,ごく簡単に説明をさせていただきたいと思います。   社外取締役については,議決権行使といった手段を通じて業務執行者に対する適切な監督を行う機能,あるいは少数株主を含めた全ての株主に共通する株主共同の利益を代表する立場にあって,会社経営者などの間で利益相反が生じ得る状況において,会社経営者等を監督する機能がかねてより期待されていたと理解しております。最近においては,これらに加えて,経営戦略・計画への策定の関与,指名・報酬プロセスへの関与,あるいは株主等の企業における多様なステークホルダーの意見の反映といった,様々な役割が期待されるようになっています。   そういった期待に加えて,社外取締役が1名でも取締役会の中にいることによって,業務執行者は社外取締役への十分な情報を提供する必要に迫られる結果,取締役会の意思決定の透明性が高まるというように,1名であってもガバナンスにおいて質的な違いをもたらすものであろうと考えております。   東証に御作成いただいた参考資料19によれば,一部上場会社においては99.6パーセント,全上場会社のうち,大会社においては98.2パーセントの会社において既に社外取締役が1名選任されているということでございますが,これは,コーポレートガバナンス・コードにおいて独立社外取締役の選任を進めるという東証の御努力の結果であると同時に,社外取締役の有用性について一般に認められてきていると理解をすることが可能だと思います。   こういった状況を前提にすると,日本の上場会社等においては,一律に社外取締役1名の選任が義務付けられているという制度にすることが,海外投資家等にとっても分かりやすい制度になると思います。しかも,少数株主を含めた全ての株主に共通する株主共同利益を代弁する立場にある社外取締役がボード,取締役会の中に必ずいるという安心感のある制度となって,コーポレート・ガバナンスの向上や,日本の株式市場に対する投資を誘致するという観点からも望ましいと考えます。   齋藤先生の先ほどの御報告を極めて興味深くお伺いしました。社外取締役の存在が業績に対してどのような効果を及ぼすかといったことについては,必ずしもプラスではないというか,はっきりしないというような御結論だったと思います。けれども,私どもとしては,そういった効果があるから導入すべきだというように考えているわけではございません。また,先ほどから御発言にあったとおり,一律の義務付けというのは,各個別企業にとっての適切なガバナンス体制の構築の妨げになるという御意見があるということも,十分承知しております。ただし,社外取締役を義務付けるか否かという問題については,あえて社外取締役を置かないとすることが適切であって,ガバナンスの実効性も確保されているとする,数パーセントの上場会社の判断を尊重するか,あるいは上場会社においては,一律に1名の社外取締役が義務付けられているという分かりやすい制度にするかという選択の問題,「決めの問題」なのではないかと考えます。   現時点において,大部分の上場会社が社外取締役1名を選任している以上,現時点において1名選任の義務付けまで踏み切ってもいいのではないのかなというのが,私どもが考える理由でございます。ただ,対象につきましては,有報提出会社全般とするよりも,やはりある程度規模の大きい会社を対象にすべきだというように考えます。平成26年改正の会社法施行規則124条2項の改正理由として,類型的に見てこの程度の会社に適用することが妥当だろうということが述べられておりました。それと同様の範囲に及ぼすことが妥当であると考えて,今回この意見を導くに至った次第です。 ○神田部会長 ありがとうございました。   それでは,坂本さん,田中さんの順で,経産省の坂本幹事,どうぞ。 ○坂本幹事 ありがとうございます。   経済産業省から提出させていただいております参考資料26の1ページ目冒頭のところでございます。社外取締役を置くことの義務付けに関しましては,我が国企業の中長期の企業価値の向上という観点から,社外取締役が監督助言機能を十分発揮されるということは重要でありまして,平成26年の会社法改正,コーポレートガバナンス・コードの策定を経て,導入が大きく進展しているということは評価すべきでありますが,引き続き導入を促進していくことは重要だと考えております。   他方で,冒頭御紹介がございましたように,少数ながら現状,その社外取締役を選任していない企業が存在するという中で,現段階でこうした企業も含めまして,一律に社外取締役の選任を強制するということの是非については,これら企業が選任していない理由というものをきちんと精査をしつつ,義務付けという方法以外の方法も含めて,丁寧に議論をしていく必要があるのではないかと考えております。 ○神田部会長 ありがとうございました。田中さん,どうぞ。 ○田中幹事 選任義務付けに関しては,私も古本委員や前田委員と同様に,現時点での義務付けは少なくとも時期尚早ではないかと。もう少し,現行の法制度下におけるエビデンスを収集する必要があると思っております。   今回,齋藤先生に御報告いただきましたように,コンプライ・オア・エクスプレインルールという形であっても,規律を設けますと社外取締役の選任を増加する効果があるわけです。これは,イギリスにおいて,キャドバリーレポートによって社外取締役の選任を勧告した結果としても,明らかにそうなっているわけです。ただ,イギリスとの違いは,私の理解しているところでは,イギリスでは,キャドバリーレポートの勧告に応じて社外取締役を増やした企業において,業績を改善する。その後3事業年度にわたって見ますと,業績が改善しているという研究があるのですが,今回の齋藤先生の御報告では,まだ入れた後の事業年度が1期と短いわけですが,その期間だけで見ると,少なくとも二部上場企業においてむしろマイナスに出てくるということで,これはちょっと,他国,特にイギリスの先行研究とは違う結果になっています。そういう面でも,もう少しデータを今後調査していく必要があるのではないかと思います。   先ほど齋藤先生もおっしゃったように,通常こういった研究をする場合は,少なくとも3事業年度ぐらいは見る必要があります。また,今回の研究結果は,ガバナンス・コードで社外取締役の選任を勧告されてからすぐに入れたという,すぐに社外取締役を増やした企業だけを対象にしています。普通は,コードによる勧告をしてから,もう数年ぐらいの期間中に社外取締役を増員した企業についても,3事業年度中の業績がどのように変わったかを見る必要がありますので,実際にはもう数年は待たないと,学術研究として認められるような研究はできないと思われます。そういう意味でも,もう少しエビデンスが増えることを待つ必要があるのではないかと思います。   それから,先ほど来,実証研究は大事で興味深いけれども,それは社外取締役の選任を義務付けるかどうかの議論において重要でないというか,こういう研究において良い結果が出なくても,社外取締役の義務付けを主張できるのだというような議論があったように思うんですけれども,私はそういう考え方にはくみしておりません。やはり現在でき得る限りの方法を用いて実証研究をやって,それでもプラスの結果が出なくて,むしろマイナスの結果が出た,ということであれば,やはりそれは,義務付けに対しては否定的な結果と受け止める必要があると思います。コーポレート・ガバナンスの問題は,例えば,基本的人権みたいに,結果がどうなるかにかかわらずとにかく人権を保障するのがいいんだというような,そういう類いの問題ではなく,社外取締役についても,飽くまで会社の業績を上げるから入れるべきなのであって,入れても上がるのかどうか分からないということであれば,それはやはり入れることを強制するのはおかしいでしょうということになるのが,自然な見方だと考えております。   また,社外取締役を入れると,業績はともかくとして,海外機関投資家を中心にして投資家の評価が高まるんだというような御意見もあったと思いますが,そのようなことが実際にあるとすれば,今回,齋藤先生がなさった研究でいうと,トービンズqが上昇するはずです。トービンズqは,資産簿価を一定とすれば株価が上昇すると上昇する数値ですので,社外取締役を入れることによって本当に機関投資家の評価が上昇するのであれば,それは株価の上昇,ひいてはトービンズq を上昇させるはずです。ですから,もしも実際にそういうふうな上昇が観察されないということは,投資家の評価を高めることによる効果というのは言われるほどに大きなものではないと。少なくとも,ここで問題にされているような,二部上場企業においては,言われるほどに大きいものではないということです。おそらく,二部上場企業では,社外取締役が入っているかを重視して投資する機関投資家の持株比率がそれほど高くないためであると,私は思います。   そのようなこともありますので,この義務付けに関しては,もう少しエビデンスを集めるということが大事だと思います。そして,何かこう雰囲気的に,多分,社外取締役は有用であろうから義務付けよう,というのではなくて,やはりきちんとした実証研究のメソッドを尽くした結果であれば,それはたとえ自分の元々の信念と違っていたとしても受け入れるという態度が大事ではないかなと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。柳澤委員,どうぞ。 ○柳澤委員 ありがとうございます。   社外取締役を置くことの義務付けに関してですが,選任を一律に強制することは適切ではないとの考えを持っております。   基本的な考え方としまして,一律に選任を義務付けることによって,会社の規模,業種,業態等に適した柔軟な企業統治体制の構築を阻害するリスクがあるのではないかといった見解を支持しております。会社によって,社外取締役の必要性や機能は一様ではなく,期待する役割も異なると想定されるため,各会社が自社を取り巻く経営環境や事業リスク,ビジネスモデルの特性等を踏まえた上で,適切なガバナンスシステムの在り方を自由に選択できるよう,柔軟性が確保されていることが望ましいと考えております。   社外取締役の要否の判断,それ自体にも,企業を分析する上での情報的価値が備わっているとの見方が可能であり,その会社特有の考え方や戦略的意図が表れてくるものと捉えております。義務付けによって選任せざるを得ない状況を作るのではなく,会社が自社のガバナンスシステムについてどのような設計を適切と考え,その中で社外取締役の要否をいかに判断したのかが分かるようにしておくことも,投資家にとっては有用な分析上のポイントと考えております。また,自社の企業価値向上に照らして,信念を持って社外取締役を置かないという選択肢を採り,その趣旨を説明している会社に対して,あえて選任を強制する必要もないのではないかと思っております。仮に,その説明が不十分,若しくは説得的ではなく,投資家から見て社外取締役の選任が必要と認識される場合には,例えば,目的を持った建設的な対話を通して,企業と課題を共有し,エンゲージメントによって選任を促していくといった手法も想定できると考えております。   なお,これまでの改正法の施行やコーポレートガバナンス・コードの導入及び上場規程に定められた独立役員の確保に係る企業行動規範等によりまして,東京証券取引所の全上場企業における社外取締役の選任比率は,平成29年度で96.9パーセントに達してきております。こうした社外取締役の選任状況は,法的な強制力がない中で,各会社が選任の便益とコストを勘案し,自律的に判断した結果との見方ができますので,ここまでの取組によって一定の成果を上げつつあるとの評価ができるのではないかと考えております。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。三瓶委員,どうぞ。 ○三瓶委員 これまで多くの経営陣又は社外取締役数十名と,その導入の結果又は成果とかいうことを意見交換してきました。上場企業何千社という数にはとても及びませんけれども,そういった現場感覚からの評価と意見を申し上げたいと思います。   結論から申し上げますと,今回はそろそろ強制,義務化するということでいいんではないかと思っています。   まず,経緯として,26年改正法のときには,実は,そういったディスカッションの中で慎重な意見を申し上げました。というのは,そのときには,形式だけが先行して,内容が進展しないと,そういったリスクを非常に懸念しました。数だけそろえばいいということにならないようにと,そこでは,まずは,企業が自分たちで選択をして,その意味を考えながら導入するということを見届けようと。それが進んでいるとか,内容がうまくいっているとかいうことを見たかったんですね。結果として,今のところ,既に御説明があったとおり,数としては相当数導入がされました。   その中で,もう一つ見極めようと思ったことは,企業側からどのような,導入することが相当でないという理由が出てくるのか,それが納得感あるのかということで見ていたんですが,私もふだんから見ていますけれども,東証さんからの説明のとおり,今のところ導入していない会社でも,社外取締役の重要性,有用性については認めているわけですね。真っ向から反対しているわけではありません。ただ,適任者がいないという理由です。適任者がいれば入れるという考え方です。ですから,そもそもこの考え方がおかしいとか,違うということを説明されているところはありません。   次に,今の導入状況についてどういう評価をしているかということですが,急速な浸透がありました。その中で,簡単にプラスの面とマイナスの面があります。まず,プラスの面は,これは,実際に経営陣の方とか社外取締役の方と,どういうふうに運用しているのか伺っている中で見えてきていることなんですが,例えて言うならば,スポーツや,例えば,何とか道,剣道とか茶道とか,そういったものと同じように,まず正しい形から入るというので,型を身につけると,そこから学ぶことがあると,こういうようなことに似た状況もたくさんあったように思います。ですから,導入する前に思っていた社外取締役と,実際に社外取締役を招き入れて,そこから新たな気付きがあって,取締役会の運営方法を変えるとか,又は事前資料の説明を変えるとか,委員会を設置するとか,いろいろなことが導入をしてみてから変わったと,そういった気付きを生んだ面もあります。   一方で,マイナス面も明らかにあったと思います。それは,例えば,ある会社の社長と,これは具体的にやり取りしたんですけれども,その会社は監査役会設置会社なので,社外監査役がいらっしゃいます。その方の,例えば,選任理由が,コーポレート・ガバナンス報告書に書いてあります。その方と新たに社外取締役として加わった方の選任理由は,一語一句一緒です。唯一違うのが,「社外監査役として」というところと,「社外取締役として」というところだけです。冒頭のところは,例えば,「検察官及び弁護士としての長年の経験や幅広い知見を有し,人格,識見の上で当社取締役又は当社監査役として適任であり」と,こう,割と見かける文言だと思います。全く同じなので,私は,なぜこの方を新たな社外取締役として招へいされたんですかと,全く説明が一緒だからダブっていますということを申し上げたら,社長は,横の側近の方を見て,また側近の方も困った顔をして,全く説明らしい説明がありませんでした。「それについては,今後検討します。」だけでした。今は,その方はいらっしゃいません。   これは,非常に形式的な導入だった悪い面だと思います。ただ,数は取りあえずそろったと,そういった良い面,悪い面がありながら,今からやっていかなければいけないのは実質を見ていかなければいけないんだと思います。   そんな中で,私たちが直面する一つの問題は,どうやって実質を磨いていくかです。実際に社外取締役の方と面談をして,形式的には独立性が認められているとなっていても,実際のやり取りの内容で,どれだけ株主のことに意識があるのか,どういう意識で決議に臨んだのかとかも踏まえて,形式的には問題なくても再任議案に反対をすることがあります。そのときに,一つ悩ましいのは,私たちが反対するからといって否決されないんですけれども,もしそういう株主が多くて否決された場合に,その会社から社外取締役が1人いなくなります。そのときに,「会社としていろいろ考えて適任者と思って導入したけれども反対か」と,「そんなふうに反対するんだったら,次はなかなか見当たらないから入れない」ということでは,そもそも反対するのが良かったのか,そういう方でも若干異議があったけれども,否決しない方が良かったのかということになります。そこで,例えば,その方が多くの株主の反対にあって否決された場合には,速やかに会社側がもう一度適任者を探し,ある一定の期間の間には見付けてくるというような責任を課す必要があると思います。でなければ,私たちが積極的に,実質的にこの方が適任者かどうかということを評価して反対をするということと,取締役会自体の独立性のための社外取締役の数確保(例えば,過半数)の両立が難しくなります。引き続き,実質本位で判断し再任議案に反対すべきときは反対はしますけれども。   ということで,今,この段階では,より実質ということを考えたときに,否決されてももう1回探しに行くということを企業側に考えていただくという意味では,義務化するということが必要になってくると思います。ただ,義務化のときに検討しておかなければいけないのは,先ほどもありました,適任者の条件はこうであると,その適任者が見付からないといって,何年も見付からない状態でいいのか,猶予期間が必要か,又は,その猶予期間を超えたときのペナルティーが何かあるのか,何らかのことを決めておかなければいけないんだと思います。   個人的には,先ほどの適任者が見付からない理由として挙げている,自社又は業界についての知見が無いからというところは,本来の社外取締役に期待するスキル,経験からすると,特段大きな理由ではないと思っています。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。沖委員,どうぞ。 ○沖委員 ありがとうございます。   齋藤先生に教えていただきたい点があります。   今日は,貴重な実証分析を御紹介いただきまして,ありがとうございます。   この先生の報告書の中で,7ページですけれども,社外取締役が少ないことが望ましい場合もあるというタイトルがありまして,この右側のグラフですが,最適な社外比率があるということで,山なりのグラフがあって,真ん中の高いところが最適な比率であるという,これはイメージで描かれていると思うんですけれども。そうしますと,最適な社外比率がゼロの会社というのはあり得るのかどうかというのが1点ですね。   もう1点は,今回の実証分析と社外取締役の選任の義務付けの関係で見ますと,コストとベネフィットを見たところ,現状では3期のデータがないこととか,あるいは一部,東証二部についてはマイナスに振れているようなこともあるので,慎重に見た方がいいのではないかという御指摘だったかと思いますけれども,このコストの見方ですけれども,3ページを見ますと,ここに説明のコストというのがあります。これは,コンプライ・オア・エクスプレインの方法を採った場合の説明のコストだと思いますけれども,これは,選任を,例えば,1名義務付けてしまうと,一応説明する必要というのはなくなるわけだと思うんですが,一方では,最後の方ですね,23ページに,やはり東証二部のところで,選任コストというのがありまして,選任に伴うコストが永続的,確実にあるということは,例えば,選任した場合の報酬とかということだと思うんですけれども,これは,一律に義務付けた場合は,全社に掛かってくるわけですから,むしろ増えるコストだと。コスト全体で見たときは,社外取締役の義務付けをすると現状以上になるということで,やはりコストとベネフィットの関係をもうちょっと慎重に見る必要があるという,こういう理解でいいのかという,すみません,2点なんですけれども。 ○齋藤参考人 ありがとうございます。   まず,ゼロ名が良いことがあるかというのは,まず,この手の理論,この下にもありますけれども,「Journal of Finance,Adams and Ferreira」,基本的には,この手の理論をリードしている欧米の研究者にとっては,ゼロ人というのはまず信じられないというか,そんな会社があるという前提で全く理論を作っていませんので,彼らのまず理論の中で,ゼロ名が適切だということがあるとは考えていないと思う。もちろん,本人たちに聞いたことありませんけれども,もし仮に,ゼロがいいかと言われると,恐らくそれは,なかなか考えにくいのではないかという答えがあるのではないかと思っております。   私自身も,そういう意味では,ゼロ名が望ましいと,少なくとも,全くないとは言いません。例えば,もし仮に,上場企業なのでよく分かりませんけれども,経営者が99パーセント株を持っていて,1パーセントを持っていないとかという状況が,もし仮に,あったとしたら,それがいいかもれしませんけれども,ただ,ある程度株式が上場していて,株主がたくさんいるという状況を考える限りは,なかなかゼロ名がベストだと理論的に考えるのは難しいかもしれないと考えております。もちろん,現実的に考えるときに,実際あるか分かりませんけれども,本当にゼロ名で決めることが非常に早い実施決定になっているとかという,ここの理論で考えられていない,もしかしてベネフィットというのが非常にあるんだということであれば,そういう可能性はあるかもしれませんし,実際そういうことをこれらの企業は主張しているんだと思うんですけれども,ただ,少なくともこの理論モデルの中では,そういう点はそこまでは考えていないと思っていただければと。   そういう意味では,意思決定の速度というものは,今のところ,この社外取締役の議論の中に入ってきていないというのが現実です。効率的に決められるかどうかであって,意思決定が早いかどうかという部分はここに入ってきていないと。それに対して,今,言っている企業というのは,どちらかというと意思決定が早いということで言ってきていますんで,そういう意味では,この理論の中にはその考えを取り入れられていないと思っていただければと思います。   効果の方に関してちょっと,非常にややこしい使い方をしまして申し訳ございません。おっしゃっていただいたとおりで,ここの選任のコストというのは,正しく選任の部分で何らかの説明のコストであって,後ろの部分というのは,社外取締役に実際に掛かってくるコストとかいうものが,どう変わってくるかという点で考えていると思っていただけると思います。   恐らくコストとしては,ちょっと付け加えになるかもしれませんけれども,今回恐らく,先ほども社外取締役の需要が非常に増えているという中で,ほかの国でもやはりこういう形で需要が増えていく中,同じ数でも恐らく今,コストというのは上がってきている可能性がある。それから,より多くの仕事をしなければいけないという中では,1人の人間に対して払わなければいけない報酬も上がる,これも恐らく,今後検証しなければいけないことであって,社外取締役報酬というものがどういうふうに変わってきたか。もしかすると,いろいろな形で関わってきているという意味では,コストは上がってきている。   それから少し,何か付け加えで申し訳ないんですけれども,適正な人がいないという中で考えなければいけないこととしては,払えるコストに見合って適正かという観点も,実はあるのではないかと思っています。要するに,小さい企業だと,いい人,あの人いいかもしれないけれども,そこまでのコストは払えないと。そういう人は取り合いになっているというのが,実はあるのではないだろうかというのが,そういう意味で適任な人を探せないと。いるんだけれども払えないという可能性も考慮しなければいけないのではないだろうかと,コストの観点では思っております。   ちょっと付け加えになってしまいました。申し訳ありません。 ○神田部会長 ありがとうございました。よろしゅうございますでしょうか。 ○沖委員 はい。 ○神田部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。よろしゅうございますでしょうか。  それでは,次へ進ませていただきたいと思います。   部会資料6の第2と第3について,御質問,御意見をお出しいただければと思います。第2が「社外取締役の行為の業務執行該当性」,第3が「監査役設置会社における重要な業務執行の決定の取締役への委任に関する規律の見直し」であります。   御質問,御意見,どなたからでもお出しいただきたいと思います。いかがでしょうか。 ○古本委員 第2の社外取締役の行為の業務執行該当性の御提案ですけれども,経団連内でも議論をしたところ,部会資料で提示されているような規定の法制化を望む声はなく,強い必要性を感じていないというのが現状です。   仮に,この規定を設けて,特定の行為については業務執行性なしと定めることにより,反対解釈といいますか,その他の行為については業務執行性ありとされることにならないのかという,若干の懸念があります。それから,部会資料の「特定受託行為」の定義についても,本来的に業務執行に当たらない行為を念頭に,念のために規定しようという趣旨なのか,それとも本来は業務執行に当たる行為なのだけれども,取締役会の決議によって例外的な扱いをしようとしているのかが,若干判然としないのではないかと思います。   また,本来的に業務執行に当たらないと解釈できる場合でも,この部会資料の記載では,特定受託行為については社外取締役のみが受託できるように読めます。つまり,それ以外の非業務執行取締役は行えなくなるのかといったようなテクニカルな疑問もあります。それから,記載されているMBOの場面などにおきまして,社外取締役以外の全取締役が行為者である場合,要するに,利益相反性がある場合は,どういう決議をするのかといったような声もあり,いずれにせよ,法制化を希望するところではないということでございます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。前田委員,どうぞ。 ○前田委員 今の古本委員の御意見と重なるところがあるのですけれども,この社外取締役の行為の業務執行該当性については,今回の案では,利益相反の場面でしか委託できないという限定をすることが適切かという問題があるように思います。   確かに,利益相反の場面での監督が,社外取締役に期待される重要な役割の一つであることは分かるのですけれども,業務執行者からの独立性が害されないのであれば,別に利益相反のない場面でも社外取締役の活動を制約する必要はないのではないか。例えば,弁護士資格を持っている社外取締役が,会社と全くの第三者との間の特定の訴訟事件について,会社の訴訟代理人になることを禁じるほどのことはないように思います。   今回の案が,社外取締役がやっていいことを示す例示の一つであって,単にセーフ・ハーバーとしての意味しか持たないのであればいいのですけれども,この案を読む限りでは,反対解釈として,利益相反がなければ委託できないように読めます。   社外取締役がやっていいことを過不足なく明文で書くのは,難しいように思いますので,ここは解釈に委ねておくか,あるいは,もし規定を置くのであれば,セーフ・ハーバーであることが分かるような書き方にしないと,かえって社外取締役の活動範囲に無用の制約をかけることになりかねないと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。松井幹事,どうぞ。 ○松井(智)幹事 今の意見に追加になるんですけれども,セーフ・ハーバーとしてこれを規定するということに関しては,そのような意図であると理解しているんですけれども,そうだとしても,この規定は,取締役会の決議によってという手続要件を加えるものになっておりますので,現状,業務執行に当たらないとして出されている行為についても,この決議がなければできないのではないかという解釈を,セーフ・ハーバーとして書いたとしても,誘引する可能性があるのではないかということがありまして,その意味では,ちょっといろいろ,今できていることが大変になってしまうのではないかと懸念があります。 ○神田部会長 ありがとうございました。   事務局から。 ○竹林幹事 御指摘いただきました,今の本文の書き振りがどうかというところについては,検討する必要があるとは考えておりますが,元々の私どもの意図といたしましては,現在,既に業務を執行したということについて,実務上採られている解釈を変更する意図はございませんので,まず業務を執行したに当たるのか,業務執行性があるのかどうかというのは,現行法上の解釈に委ねられる問題であろうと考えています。   その上で,業務執行と解釈され得るものについて,セーフ・ハーバーとしてこういう規定を入れたいという趣旨でございまして,この趣旨が十分にこの書き方では出ていないのではないかという御指摘につきましては,検討させていただきたいと考えておりますけれども,そういう趣旨の御提案であるということは,御理解いただければと存じます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。そういうことのようでありますので,よろしくお願いします。坂本幹事,どうぞ。 ○坂本幹事 ありがとうございます。   参考資料の26の,2ポツと3ポツのところで意見を入れさせていただいております。   社外取締役の業務行為の業務執行該当性につきましては,仮に,会社法で一定の規律を設けるのであれば,そもそもこういった業務執行該当性に関する元々の規律の趣旨に鑑みまして,業務執行者からの独立性が確保され得る範囲で,最大限,社外取締役が本来期待をされている役割,機能というものを果たすことが可能な内容とする必要があるのではないかと考えております。   規律を設けることで,かえって活動機会を制約するといったような結果とならないように,先ほど事務局からの御説明もありましたけれども,業務執行該当性が否定される行為の範囲として適切か,手続として妥当かというところについては,慎重に検討いただければと思いますし,こういった点を踏まえますと,こういった会社法上の規律を設けることの是非に関しましては,柔軟な運用の余地を確保するという観点からも,立法によらずに現行法の解釈の問題として整理をするという選択肢というのは,十分に検討に値するのではないかと考えております。   第3の論点についても,併せてよろしいでしょうか,すみません。   意見書2ページ目の3ポツというところでございます。重要な業務執行の決定に関する委任ということでございますけれども,現状,経営環境の変化のスピードが早まっております。こういった中で,経営陣に広く権限を移譲して機動的に経営判断を行えるようなガバナンス体制の構築というのは重要だと考えておりまして,本提案のような方向性というものはあり得るものだろうと考えておりますけれども,法務省の案に挙げられておりますように,その際の要件として,取締役の過半数が社外取締役であることといった要件については,実務上の利用価値のある制度になるかどうかといった観点から,検討を要するのではないかと思っております。   なお書きのところで,少し触れさせていただいておりますけれども,社外取締役の数が増加をする分,業務執行取締役の数が減少することも想定されますが,そうしますと,取締役でない使用人が経営トップに就任するといったような事態が生じやすくなるという御指摘もあるかと理解をしておりますので,善管注意義務など会社法上の規律の及ばない非取締役に関しまして,例えば,監査役会設置会社においても取締役会の決議によって業務執行を担う役員を選任できるようにすることによって,会社法上の規律の対象とするとともに,そういった業務執行役員を代表者として選定をできることとするといったような,何らかの立法的な手当を講じる必要性についても,4月に一度,意見書で出させていただいていますけれども,併せて検討をする余地もあるのではないかと考えております。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。小林委員,どうぞ。 ○小林委員 ありがとうございます。   第3の論点についてのお話がございましたので,続けて発言させていただきます。   監査役設置会社における重要な業務執行の決定の取締役への委任についてですが,機関設計に様々な選択肢が増えるということは,良いことであり,反対するようなものではありませんが,監査役設置会社におきまして,重要な業務執行の決定を取締役に委任することができるようになるということの方向性について,直ちに積極的には賛成できないのではないかと考えております。   実は,今,そのような機関設計にしたいのであれば,委員会型のその機関に移行するということで,次々とたくさんの会社で行われているということを考えますと,今の監査役設置会社にそのような仕組みをあえて認める必要があるのかということに,やや疑問を感じております。   今,御提案されているような仕組みですと,委員会型の機関と似たような仕組みになる部分もございますから,結局,なぜこの監査役設置会社というのがあるのかということについての考え方がちょっと不明確になってしまい,特に監査等委員会設置会社の制度ができてから余り時間がたっていないということもありますので,むしろ監査等委員会設置会社が企業統治としてどのように機能しているか,そういった検証をきちんとした上で,あえて監査役設置会社にこのような御提案のような機能の追加設計が必要かということは,もうしばらくたってから考えるべきではないかと思います。今すぐ,この話が出ることに,少し違和感があるというところがございます。   それと,監査役設置会社の機関設計の中で,機能が選択できるということになりますと,極論かもしれませんが,過半数が社外取締役の場合に委任したとき,一定の時期に社外取締役が過半数であっても,それが過半数でなくなった場合,そういうことがあるのかどうか分かりませんが,もしなくなった場合には,業務を委任できないということで,また元の形に戻るということがあり得ることを考えると,そのような設計自体がどうなのかなという感じがします。今のような監査等委員会設置会社と今の監査役設置会社の形でも,設計自体がはっきり分かれている方が,ずっと明確ではないかと感じてございます。   元々,今現在,従来の監査役会設置会社とかでも,任意の委員会とか部会を設置したり,監査役そのものの役割にいろいろな重点を置いて,ガバナンスの強化に努めている企業もそれなりに存在しておりますので,個別の事情で柔軟に対応できているということもあるので,今のこの監査役設置会社に,今回の御提案のような機能をあえて持たせる必要はないのではないかなという印象を持っております。 ○神田部会長 ありがとうございました。   それでは,古本委員,野村委員,それから梅野幹事の順でお願いしたいと思います。 ○古本委員 ありがとうございます。   第3の点についても,コメントさせていただきたいと思います。   この点も,経団連の会員企業に意見を聞いてみましたが,部会資料で御提案されているようなガバナンスメニューの追加については,特に望む声はありませんでした。   特に意見が出ましたのは,社外取締役が過半数という要件についてです。監査等委員会設置会社における権限委譲の要件,これと比較しても,ハードルが高過ぎてバランスを失しているのではないかという声ですとか,社外取締役だけではなくて,社外監査役の存在も考慮するべきではないのかという観点から,社外取締役過半数という要件についてはネガティブな意見が強かったということでございます。   それから,全般的には,これは,選択肢を増やすという御提案だとは承知しておりますけれども,モニタリングボードへ誘導するような議論についての懸念もあります。また,先ほど申し上げたように,非常にハードルが高いので,実際にはこの制度を使うのは難しいのではないかなど,実のない形で,会社法に社外過半数の取締役会という,新たなガバナンスのメニューが規定されることについての抵抗感もあり,したがって,御提案のような制度の導入は必要と考えていないという立場です。 ○神田部会長 ありがとうございました。野村委員,どうぞ。 ○野村委員 ありがとうございます。   先ほどの業務執行該当性の話と,それから,今の話,ちょっと2点,続けてお話しさせていただきたいと思いますが,まず,社外取締役の業務執行該当性の話については,ベースの部分での解釈問題が残った上で,このような形の手続規制を入れるということについては,私は賛成したいと思っております。   その理由といいますのは,MBOのようなときに,要するに,第三者委員会というのが設けられまして,その中に社外取締役が構成メンバーとして入るというケースはよくある話でありますし,また,世界的にもそういうケースが多いという理解をしておりますが,そういう中で,万が一,何の手続的なセーフ・ハーバーがない形でこの第三者委員会が組成され,一定の方向観,例えば,価格決定のプロセスなどに活用されていたときに,これが業務執行に該当しているのではないかということを言って,この委員会自体の,言わば,適法性とか,あるいは信頼性みたいなものを攻撃するという,そういう可能性というのは十分あり得ると思いますので,私はむしろ,業務執行該当性の解釈というよりは,社会で,今,有用性が認められつつある場面における第三者委員会の適法性というか,第三者委員会の,言わば,合理的な運営のために,一定の手続的な規制というものを入れるということに賛成したいという,そういう趣旨でございます。   それから,第3の方のいわゆる新しい監査役設置会社の下でのモニタリングシステムの移行に関してなんですが,この点に関しては,伝統的に,例えば,ドグマティックな形で監査役設置会社にはモニタリングシステムはなじまないみたいな議論はする必要はないと思いますので,ある意味では,こういったような立法論というのは十分考えられるとは思いますが,ただ,実態として,これが本当に合理的な形で使われるのかどうかということについての懸念が一つございます。   それは,先ほど来から出ていますように,要件が,ハードルが高いので使われないというものも一方にはあるんですが,逆に言いますと,監査役設置会社であって,それでモニタリングシステムを入れますと,取締役会というものが活用される機会が少なくなる可能性がありまして,執行サイドが意思決定を行い,モニタリングだけをするので,例えば,2か月に1回とか3か月に1回,取締役会が集まればいいんだという運用の仕方はあり得ると思うんですが,そうなりますと,特段の仕事がない社外取締役という人たちが出てまいりまして,この方々が,2か月に1回だけ集まればいいんですねとか,3か月に1回集まればいいんですねという形で招集されていきますと,意外に過半数の社外取締役が選べてしまうような,そういう妙な会社が生まれてくる可能性があるのではないかと思います。   例えば,地方で,余り言っていいのかどうか分かりませんが,信用金庫さんとか信用組合さんとかというのは,実は,ガバナンスの中に社外者が大量に入っているわけでありますけれども,実際のところというのは,ほとんどガバナンス機能を果たさずに,理事会の中で賛成なり反対なりというのを,その地域の言わば経営者の方々が持ち回りで就任しているような,そういう会社形態というのが生まれてくると。そうすれば,過半数社外取締役を確保しているので,言わばモニタリングシステムの名の下に,独裁的というのはどうかと思いますけれども,経営者が強固な権限を持って,ガバナンスの効かない会社というものが生まれてくる危険性というのもあるのではないかと思いましたので,その点だけちょっと留意をしていただければと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   梅野幹事,それから三瓶委員の順にお願いします。 ○梅野幹事 まず,第3に関して最初に質問をさせていただきます。今までのやり取りの中で,ほぼ前提にされているのかと思いましたが,監査役会設置会社での重要事項の委任について,会社法研究会資料の12を拝見すると,「監査役会設置会社においても,モニタリングモデルを採用することができるように」といった説明がございました。今回の説明資料にはモニタリングモデルという言葉は全くございません。これは単に呼び方の問題なのかもしれませんが,事務局サイドとしてそういったモニタリングモデルの採用ということを御意図されているのかという点について,念のため確認させていただきたいというのが1点目です。   2点目は,少し意見にわたる部分で,野村先生の御指摘と共通する面もございます。昭和56年改正により取り入れられたのだと思いますが,現在の362条2項は,2号の取締役の職務執行の監督と同時に1号で業務執行の決定をするという,そういう構造になっています。今回の御提案のような制度にした場合,取締役会の監督という内容が変容するという懸念があるのではないかということを指摘させていただきたいと思った次第です。従前は,取締役会の監督義務としては,取締役会が代表取締役の職務執行について目を光らせて,取締役会決議を通じて不適切な業務執行を防止する,あるいは取締役会が具体的な経営事項を決定することを通じて,取締役会の監督機能を充実させるといった考え方に立っていたのだと思います。   私も,僅かながら社外取締役の経験がございます。そういう限られた観点からこの場で申し上げるのは適切ではないとは思いますが,同様の御指摘もあったので指摘させていただくと,取締役会による監督というのは,様々な議案について細部を含めて議論していく,そういうプロセスを経て,会社経営をより深く理解できる場合も多いように思われます。そういった過程を経て,取締役会における監督の実効性,あるいはコントロールというのが向上していくということがあると思います。しかしながら,重要な業務執行の決定を取締役会に委任した場合,先ほど野村先生は2か月,3か月に1回しか取締役会が開催されないといった御指摘をされていらっしゃいましたが,そういった意味での取締役会の監督機能が低下してしまうのではないかという懸念があり得るように考えた次第です。  それと同時に,362条2項との関係,すなわち,従前の監督と,このシステムの下での監督というものの違いをどう考えるかといった課題があるのかなと思いました。より具体的に言えば,この制度を採用した場合には,いわゆるモニタリングモデル的な意味での監督といいますか,経営者が策定した経営戦略等に照らして,その結果が妥当であったかを検証して,最終的には経営者の首を切る場合もあるという形で監督するということになると思うのですが,それは,今まで,先ほど述べましたような個々の案件に関する取締役決議を通じて監督していくということとはかなり違った形になると思いますので,その辺りの整理が必要ではないかと考える次第です。   さらに,監査役の役割というのもやはり変わってくる,監査役による監査の重要性というのは一層増してくるのかと思います。監査役の監査においても,取締役会に出席して情報を得る,招集通知を見る,あるいは配布された資料を検討する,あるいはその取締役会の議論を聞くということが,何らかの監査の端緒になる場合というのがあると思うのですが,このシステムの下ではそういう機会が減りはしないかというような懸念も少しあり得るのかなと思いました。もちろん部会資料6を拝見すると,4ページの2以下で様々な要件と絡めて,これらの要件はいずれも監督の実効性を高めるために考え出された要件と理解しておりますけれども,そういう工夫がされているとは思いますけれども,先ほど述べたような監督なり監査役の役割というものが,質的に異なってくる可能性があるという点について御指摘させていただければと思った次第です。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   御質問の点があったと思います。 ○竹林幹事 まず,1点目のモニタリングモデルという言葉をこの資料で使っていないという理由でございますが,もちろんモニタリングモデルというものに誘導するという意図ではないというような意味合いも,ないわけではないのですが,そもそもモニタリングモデルがどういうものかということに関しては種々議論がございまして,ここでモニタリングモデルという言葉を使ったところで,それが何を意味するのかを余り適切に表現できないのではないかというように考えまして,モニタリングモデルという言葉は避けた上で,資料を作成させていただいております。   また,特に御質問いただいたわけではないのですが,56年改正で意図した取締役会の役割につきましては,これは私が申し上げるようなことではないかもしれませんが,近年いろいろ議論があるところでございまして,そのような取締役会の役割をどう考えるべきなのかという考え方が,こういった議論の背景にあるということは十分承知した上で,資料等は作成させていただいております。 ○神田部会長 ありがとうございました。   よろしゅうございますでしょうか。   それでは,三瓶委員,加藤幹事,沖委員の順で。 ○三瓶委員 ありがとうございます。   私も,第2と第3について一言申し上げたいと思います。   第2の業務執行該当性なんですが,特にこの説明の中で,マネジメント・バイアウトのことが書いてあります。これを特に重視して考えた場合に,実は今年もありました。このときに,正にこういった解釈があれば,もっと強く言えたなとは思っています。   というのは,これ,時系列的に考えていくと,マネジメント・バイアウトのいろいろな水面下での交渉があってから,それが適時開示されて,これから株式について幾らの値段で既存の株主から買い取りますということが発表されます。私たちは,それを知ってから経営陣と,それは困ったということで交渉を始めます。交渉を始める中で,本来であれば社外取締役も含めて対話をしたいと思いますけれども,大抵期限が決まっていますし,こういったことが外に出ている状態で社外取締役と対話をするというのは非常に,例えば,内部者情報という面もあって危険です。ですから,そこではなかなか難しいんですね。   そのときに,今回の例でも,社外取締役は何と言ったかと,どのように関わったかということを聞きましたけれども,それは経営陣の説明から聞く説明で,社外取締役もこれについては,方向性について合意したと,それで,具体的な交渉は経営陣の方が任されてやっているというような,後からどうしようもないというようなことになります。ですから,明確にこういった例では,独立委員会として利益相反性ということを考えながら交渉の場に加わるとか,そういったことについては,業務を執行したということには該当しないということを,明確に何らかの形でしていただくということがあれば,我々としても,そういう手続をきちんと取ったのかということを言えますので,非常に有り難いと思います。   もう一方,第3の方なんですが,こちらについては非常に難しい面があります。一見すると,この(1)から(5)が全てかつ条件になっている,この条件下で委任できるということはいいのかなと見えますが,先ほど来,いろいろな方がおっしゃっていますけれども,取締役の過半数が社外取締役ということは,これも,一見株主からするとよさそうなんですけれども,今,既に監査役設置会社で先進的な経営をされているところについて,何らかこうマイナス面はないのかなというところを一番懸念します。   例えば,取締役会の形態で,最も先進的な一つとして,社外取締役の方が議長を務めておられるという会社,これは今,直近1年間のコーポレート・ガバナンス報告書を調べたところによると,上場会社では28社あります。28社のうち14社が監査役設置会社です。どういうことを考えながら社外の方に議長をお願いしたのか,それで,その中でどんな運営をしているのかということを伺っていくと,ものすごく丁寧に考えています。この丁寧に考えていることが,何かの拍子で,この条件がないとできないとかいうことになると,これは困るなと思います。そして,逆に,この(1)から(5)の形式的な条件さえ整えればいいというのは,先ほど野村委員等もおっしゃっていたような懸念があるところです。   例えば,経営会議に委任することになると思うんですね。そうすると,例えば,今申し上げたような先進的な会社であればと,社外の方も経営会議で口出しはしないけれども,オブザーバー参加するとか,そういった形でどの程度まで権限移譲したことが良かったのか,適切に運営されているかどうかというのを見ていらっしゃる。結局は,取締役会として見ていないけれども,社外の方として,そういったオブザーバー参加することによって見ている。それをすることによって,これはちょっと脱線しますけれども,指名諮問委員会の委員をされている社外取締役にも,どういう方々が執行役員にいらっしゃるのか,どのような能力をお持ちかということも,業務執行に関わる会議にオブザーバー参加されることなどを通じて分かっていくと。そういったいろいろなプラスの面を独自に考えて運営されている場合に,この新しいルール化が行われることによって,例えば,会社側から,こういう条件を整えているから,それでオーケーなので,経営会議にオブザーバー参加していただく必要はないとか,逆に,(1)から(5)の条件さえ整っていれば,権利として無条件で委任してくれとなってしまうようなことが万が一あれば,本末転倒だなと思うところがあります。   条件の中では,(4)と,あと(5)の注書きなんですかね,この注書きの軽微基準のところ,これがとてもセットとしては大事だと思っています。軽微基準は設けないというのは,非常に大事なことであろうと。(4)の内部統制システムを使えるということも,非常に大事な点だと思いますので,良いか悪いかということについて,それほど明確に申し上げることはできていないように思いますけれども,その辺について,丁寧に運営していただくというのが大事ではないかなと思います。 ○神田部会長 ありがとうございました。加藤幹事,どうぞ。 ○加藤幹事 私も,第3の点についてコメントをさせていただきます。   第3の点で挙げられております(1)から(5)というのは,監査役設置会社の取締役会が,意思決定機能ではなくて監督機能にできるだけ特化した仕組みを認めるとした際に,どのような条件を取締役会が備えるべきかという観点から列挙されているものかと思います。   しかし,(1)から(5)を見ますと,やはり監査役設置会社には監査役がいるわけで,さらに大会社には監査役会も存在するわけであります。そういった場合,この(1)から(5)を満たすことによって,これは既に何名かの委員,幹事の先生がおっしゃったことではありますけれども,取締役会の役割が変われば,やはり監査役とか監査役会の位置付けも変わってこざるを得ないだろうと思います。   それで,会社法の規定などを見ますと,重要な業務執行については取締役会が決定することを前提にして,監査役の規定は作られていると思います。例えば,監査役は取締役の職務の執行を監査するのであって,取締役ではない執行役員,社長の職務執行を監査するとはなっていないわけであります。もちろん,現行法でも,監査役は,そういった使用人に対して,重要な情報の提供を求めることはできるわけですけれども,直接の監査の対象にはなっていないわけですが,これでいいのかと。つまり,監査役設置会社における取締役会の役割,機能というものを変える場合には,併せて,監査役がその役割を十分に果たすことができるような手当てが必要ではないかという印象を持っております。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。沖委員,どうぞ。 ○沖委員 ありがとうございます。   第2と第3の点について,それぞれ意見を申し述べます。   まず,第2の社外取締役の行為の業務執行該当性ですけれども,これは,最近,社外取締役に,MBOの場合等期待される活動範囲が増えていることから,現在,経産省の指針で新しい解釈が示されているということは承知しておりますが,その解釈の限界といいますか,かなり不明確な点もありますので,今回の御提案のように,特定受託行為ですね,取締役会決議に基づくものとして,これを認めることは,セーフ・ハーバー・ルールとしては大変意味があることと思いますので,賛成です。   その場合に,この定義ですが,株式会社と取締役との利益が相反する状況にあることという,ここですけれども,株式会社というのは,その背後にいる株主も含むと,そういう御理解だということは認識していますけれども,定義として「株式会社」というのはいいのかどうかということ,あるいは,「状況にある」ことという,この定義ですね。この辺りを見ますと,ちょっと定義として機能するかということと,狭いのではないかということですね。この利益相反の場合以外にも,社外取締役の活動範囲がありますので。ですから,この要件については,例えば,例示にするとか,あるいはほかの表現を考えるとか,更に検討していただければと考えております。   以上が第2の方ですけれども,次に第3の方ですが,こちらはもっと難しいんですけれども,要は,現状を見ますと,東証の『コーポレート・ガバナンス白書2017』,これを見ますと,全上場企業のうち79.8パーセントが監査役会設置会社ということで,その中で,独立社外取締役の割合,これは,機関設計を問わず,全上場企業ですけれども,3.8パーセントの133社と。ここから委員会型を除いても,かなり多数の監査役会設置会社で社外取締役が過半数の会社もあるということだと思います。こういう会社に,上程される決議事項を絞り込んで,経営方針の計画や策定や監督の審議時間数を増やすということは意味があると思いますし,また,先ほど言葉で問題があるというお話でしたが,委員会型で志向されているようなモニタリングモデルですよね,個々の決議よりも経営方針の策定や経営者の成績の評価を通して監督を行うと,こういう機関設計を認めるということは意義があると思いますので,検討してよいのではないかと思います。   委員会型に移行すればいいのではないかという話ですけれども,経営者のお話を伺っておりますと,伝統的な監査役による監査の方法ですね,これを率直に評価している会社もありますし,また現行法の委員会型への違和感ですね,例えば,指名委員会等設置会社では,仮に,取締役会で社外取締役が過半数だったとしても,委員会の決定は覆すことはできないわけです。そういったことから,委員会型には移行したくないという会社もあることを聞いておりますので,やはり監査役設置会社のままでこういった扱いを認めることには,意義はあるのではないかと考えております。   ただ,この要件の点ですが,現行法と比較したときに,部会資料の案は非常に穏当な要件であるとは思いますが,この中で,社外取締役が過半数でなければならないという点ですけれども,これは,社外取締役だけで業務執行取締役が選任,解任されることを必要と考えたということだと思いますが,監査役設置会社で複数の社外監査役がいることなどを考えますと,この過半数という要件については,非常に難しい検討が必要かと思いますけれども,少し下げることも考えてみてもいいのではないかと,こういうふうに思いました。   あと,軽微基準が,せっかく検討してきたのに取り下げるということで大変残念なんですけれども,こういう基準を作るのは,限界が非常に難しいということとか,これを決める以上は,司法審査がうまく働くようにしないといけないですし,他方で,この基準を満たしたものにはセーフ・ハーバーとして機能しないといけないということから,どうしても低目になってしまうということで,難しいということだと思います。しかし,逆に,上限を決めて,その範囲で各社の決議基準に委任するということを考えてみてもいいと思いました。そうすると,この上限については低目に決めておけばいいわけですから,そういう形で何とかできないかなというのは考えましたので,これは御検討いただければと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,北村委員,田中幹事の順で。 ○北村委員 発言の機会を頂き,ありがとうございます。   第3の点について少しコメントをさせていただきます。   モニタリングモデルという言い方が適切かどうかは別として,一応,便利なので使わせていただきます。部会資料6の4ページの真ん中辺りに,監査役設置会社についてモニタリングモデル的なものを作ることによって,いわゆる制度間競争を通じて企業統治の実効性が一層高められることが期待されると,述べられています。コーポレート・ガバナンスの向上のためには幾つかのモデルがあって,それぞれのモデルの中で競争するというのは分かるのですが,元々あるべきモデルを潰していくというのが,果たして制度間競争なのかということに,若干疑問がございます。   先ほど野村委員が,ドグマティックに考えるべきではないとおっしゃったわけでありますが,そもそも指名委員会等設置会社や監査等委員会設置会社というのは,経営と監督が分離しているモニタリングモデルを志向する機関設計であると考えられます。一方,監査役設置会社は,重要な業務執行の決定を監査役も出席する取締役会がするということを通じて経営の監督をするというモデルであるというのが,一応の出発点になろうかと思います。そういう設計の下で,監査役設置会社をモニタリングに近づけていくということが,果たして妥当なのかということに疑問がございます。   先ほど,この制度を入れるのであれば,社外取締役が過半数いなければならないというのは厳し過ぎるのではないかという御意見がありましたけれども,もしこれを緩めると,ますます委員会型との違いが曖昧になってくるのではないかと考えます。既に監査役設置会社におきましても,コーポレートガバナンス・コードの導入などによりまして,社外取締役を複数選任している会社が非常に多いわけであります。そのような会社では,任意に指名委員会や報酬委員会を設置するという工夫もされています。つまり,いわゆる本来の業務執行の決定を通じた経営の監督とともに,ややモニタリング的なものを入れるという,先ほど三瓶委員もおっしゃった先進的な工夫が既にされているのでありますから,そのような方向を推奨すべきではないかと考えるところです。そして,加藤幹事もおっしゃいましたけれども,もし監査役設置会社がモニタリングモデルに近寄っていくと,監査役とは何なのかということを,もう一度考えなければいけないことになってまいります。   少し戻りますけれども,齋藤先生の参考資料23の7ページの最適な社外比率という箇所ですが,これはアメリカ人が考えていますという御意見だったかなと思いましたけれども,日本では,監査役会設置会社では社外監査役が2人以上います。そうすると,最適な比率がゼロということは,社外監査役2人,つまり社外比率2ということではないかなと思った次第です。   あと1点,軽微基準について,若干申し上げたいと思います。   軽微基準につきましては,ヒントとなったのは,会社法467条1項2号の事業の重要な一部の譲渡です。私は,軽微基準を設けることに賛成の考えですけれども,株主総会の決議としての軽微基準と取締役会決議としての軽微基準は,やはり性質が異なっておりまして,取締役会設置会社の株主総会は会社法又は定款で定められたことしか決議できませんから,軽微基準を下回ってしまうと,そもそも決議できないことになります。ところが,取締役会の決議ですと,軽微基準を下回っても取締役は有効に決議ができます。ということは,軽微基準を設ける意味は,軽微なものを取締役会の専決事項から外すということで,会社法上必要な取締役会がなかったら取引の効力がどうなるかという問題が生じないということ,そして,軽微基準を下回った事項を取締役会で決定しなかったということが,各取締役の法令違反にはならない,という効果が生じるということになります。   しかし,軽微基準を下回っても,取締役会は,善管注意義務から要求される場合は決議すべきですから,軽微基準を設けたからといって,経営監督機能が失わるわけではないと思います。もちろん,合理的な軽微基準を設けるのは困難であるという御見解は理解できるのですが,なお検討の余地はあるのではないかと思う次第です。 ○神田部会長 ありがとうございました。田中幹事,どうぞ。 ○田中幹事 第2及び第3,それぞれについて意見を述べたいと思います。   第2については,消極論が先ほど来多数を占めているかと思いまして,慎重な検討が必要なのかもしれませんが,私としては,これがセーフ・ハーバーであるということを明確にした上であれば,十分入れる意味はあるのではないかと思っております。   近年,業務執行概念について,これまで一般に考えられていたのとは異なる形で,その意味を狭めて解する考え方が提唱されています。具体的に言うと,継続的又は業務執行者に従属するような形で会社の事業活動を行うというのが業務執行であり,非継続的かつ業務執行者に従属しない形で行っていれば,それは業務執行ではないということです。私自身も,そういう解釈を提唱してはいるのですが,これは,有り体に申し上げますと,社外取締役に期待される行為ができないようになっては困るなという,非常に即物的な考慮から提唱されたものであり,そのような解釈が,「業務執行」という言葉から自然に導かれるかどうかは,私自身,かなり疑問に思っております。実際,このような解釈を初めて述べたときに,実務家の方から,なぜそうなるのかよく分かりませんとおっしゃられたことがあります。   ここ数年来,MBOとか親子会社間の取引等において特別委員会を設置するという実務が広がったために,社外取締役をそうした特別委員会の委員にするという実際上の必要性から,そのような解釈が,言わばまかり通っているような状況ではないかと思いますが,本当にこのような状況で安定した実務が形成されていくかということは少し疑問に思っています。むしろ,会社法に明文の規定を置くことにより,業務執行というのはこのように解釈していいのだという指針を与えることが大事ではないか。そういう意味でも,何らかの形で立法化することには意味があるんではないかと思っております。   それから,第3(重要な業務執行の取締役への委任)は更に難しいところかと思いますが,私は,根本的には,重要な業務執行の決定という,取り立てて利益相反があるわけでもなく,また,会社支配に関わることでない,言わば,純粋な経営マターについて,どこまでを取締役会で決定して,どこまでを業務執行者に委任するかということについて,法律で縛る必要があるかということが問われていると思います。   先ほど来,こういう改正は不要で,むしろ軽微基準を設けてはどうかという意見がありましたけれども,仮に軽微基準を入れるとしても,それを例えば総資産の1パーセントのような低い基準にすると余り入れる意味がないので,例えば,5パーセントぐらい高いものにして,5パーセントの範囲内で取締役に委任するかどうかは各会社の判断に委ねると,そういうことであってこそ軽微基準を入れる意味があると思います。けれども,もしそのような軽微基準を入れるのが望ましいとすれば,それは,軽微基準(5パーセント)の範囲内の行為については,これを取締役会で決定するのかそれとも取締役に委任すべきかについては,各会社の判断の方が,法律ないし裁判所の判断よりも信用ができるのだという考えに基づくものと思います。もしそうだとすれば,そもそもの初めに,ある行為が取締役会の決議を要するほど重要なものであるかという,そもそもの判断について,なぜ各会社の判断を法律や裁判所の判断よりも信用しないのか,という疑問が出てくるように思います。   また,先ほど,三瓶委員から,どの程度のことを取締役に権限委譲するのが望ましいかは,具体的状況下で様々あるというお話があったと思うんですけれども,現行の制度ですと,重要な業務執行の決定は,具体的状況のいかんにかかわらず,常に取締役会でしなければならないわけです。少なくとも監査役設置会社では,取締役会において,その行為の決定は業務執行者に委任することが望ましいと考えたとしても,更に言えば,定款の形で,株主もまたその行為の決定は業務執行者に委任していいと考えたとしても,法律ないし裁判所がその行為は「重要な業務執行」に当たると判断する限り,そういう委任は認められない,そういう制度になっているわけです。そのような規制が,監査役設置会社という組織構造をとっていることと整合的なのかということが問題です。つまり,監査役設置会社という組織形態をとることと,重要な業務執行の決定は取締役会がしなければならないという規制を課すことが,必然的に結び付くのかということです。余り必然的には結び付かないのではないか。例えば,先ほど,取締役会が重要な業務執行の決定を業務執行者に委任したときに,監査役がどのように監査をすればいいのかという監査役の在り方が問われるという御意見がありましたけれども,監査役設置会社でそういうことが問題になるのだとすれば,監査等委員会設置会社でも全く同じ問題があるはずであります。その点について,監査役設置会社と監査等委員会設置会社で区別を設けることはできないような気がします。   私は,監査役設置会社と委員会型の会社との相違は,取締役の他に監査に特化した役員を別途設けるという形態を採るか,それとも取締役の中に監査の職務をも担う取締役がいるという形態を採るか,そこに制度間の本質的な相違があって,制度間競争という点でいえば,そこの部分で競争させるというであると考えています。重要な業務執行について,必ず取締役会で決定しなければいけないというのは,監査役設置会社というモデルから何ら必然的に導かれないような強行法規によって,監査役設置会社だけを縛っているということになると考えております。   そういう考え方からしますと,そもそも事務局案にありますような(1)から(5)までの要件を課すべきかどうかという点も,考慮の余地があるのではないかと思いますが,ただ,現実問題としては,野村委員がおっしゃったように,全く規制をしないと,取締役会が本当に無機能化するというおそれも考慮しなければならないと思います。そういう面で言えば,重要な業務執行の委任を認めるために何らかの要件を課すことは支持されると思いますが,この(1)から(5)のような要件を課す必要があるかという点は,考える必要があると思います。   監査等委員会設置会社との並びでいえば,このような要件のもとで取締役会の決議による委任を認めるという類型に加えて,定款で取締役会の委任を認めるという,そういう類型があるはずでありまして(会社法399条の13第6項),この場合には,監査等委員会設置会社との並びでいえば,社外取締役に関する要件はせいぜい「2人以上」という要件しか課さないことが整合的になると思います。もし,監査等委員会設置会社との並びを厳格に考えるのであれば,指名・報酬に関して社外取締役に意見陳述権を与えると,これによってほぼ監査等委員会設置会社と同じ並びになりますので,この要件を満たした場合に,定款で業務執行の決定を取締役に委任することを禁じる理由は特にないのではないかと思います。   先ほど,実務的に余りこういう改正の必要はないと思いますという御意見がありました。確かに,実務上ニーズがないのであれば,今申し上げたことは,全部理論上の問題にとどまります。ですから,最終的にはもちろんニーズの有無に応じてということになるわけで,ニーズの有無にかかわらず重要な業務執行の決定の委任についての規制を緩和すべきだと申し上げるつもりはありません。そうではありますけれども,理論の問題としては,監査役設置会社にこのような強行的な制約を課す必然的な理由ではないのではないかということを申し上げたいと思います。 ○神田部会長 ありがとうございました。齊藤幹事,どうぞ。 ○齊藤幹事 業務執行権限の所在と監査機関の組合せに対する法的な制約の関係については,田中幹事が先ほど整理されたところと同じ意見を持っております。   現在の監査役設置会社の業務執行権限の所在のあり方は,平成14年改正時に指名委員会等設置会社を設けられた折りに議論された結果なのだと思います。当時,新しく創設される指名委員会等設置会社を利用することが期待され得た会社においても,社外取締役を過半数そろえるのは難しいのではないかということで,モニタリングモデルの利用の裾野を広げるために,取締役会本体に過半数の社外取締役を要求せずに,委員会に過半数の社外取締役を要求することにとどめ,その代わり,委員会の決定は取締役会で覆せないという形にされました。指名委員会等設置会社においては,このような取締役会の監督機能の強化と引換えに,業務執行の意思決定権限は経営者である執行役に集中することが認められたわけです。他方で,従来の監査役設置会社のガバナンス・メカニズムはほとんど変わらなかったので,当時の商法260条2項を撤廃すれば,昭和56年改正からの単なる後退になるにすぎず,改正の趣旨に反する結果になることから,商法260条2項の見直しは見送られたというような経緯もあったように思います。   どのような監査機関を置くかという問題と,取締役会の権限を現行法のようにリンクさせる必然性はないはずですが,その点がよく見直されないうちに,平成26年改正で監査等委員会設置会社が設けられてしまいまして,そのときに,この点に大きなメスが入れられないまま,当時の,監査役設置会社と指名委員会等設置会社の立て付けと整合性を取るために,監査等委員会設置会社の規律は,今のように複雑に,両形態を組み合わせた形になって,現在に至っています。もう一度平成14年改正前の議論に立ち返って,現行法の基礎にある考え方を大きく問い直し,複数の経営機構の間で,ある制度を足したら,別の制度を引くというような発想で整合性をとろうとする発想も見直してはどうかということを,この会議の最初の方の会合で申し上げました。   しかしながら,もしそのような大幅な考え方の見直しが,実際の立法の事情から難しいということで,362条4項を緩和するにあたり,御提案のような形で,従来のとおり,すなわち,あれを引いてこれを足すという発想で,整合性をとる必要があるということでございましたら,御提案について,次の点が気になります。まず第1の点は,田中幹事も指摘されましたが,挙がっている一つ目の点の取締役の過半数は社外であることという要件と並んで,399条13第6項に対応する規律を設けないのはどうしてなのか,監査等委員会設置会社の場合は,制度上ガバナンスがより優れていることが保証されているところが何かあるのか,よく分からないということです。   もう一つ気になっているのが第5番目の点でございまして,これは,監査等委員会設置会社と足並みをそろえる要素であると理解しております。監査等委員以外の取締役の任期は,指名委員会等設置会社の取締役の任期と足並みをそろえたものであろうと思います。しかしながら,指名委員会等設置会社におきましても,任期が1年ということについて,現在,積極的に意義が見いだされ得るのか難しいところです。これには,平成14年改正の時に,当時の指名委員会等設置会社においては,剰余金の配当権限を取締役会に付与することとのバランス上,株主総会に毎年現経営陣に対する信任を表明する機会を与えるために,取締役の任期を1年にしたという経緯があったと思います。その規律と切り離された現行の会社法の下で,指名委員会等設置会社の取締役の任期が1年であることに,積極的な意味が見いだされ得るのか疑問もあり得たところ,平成26年改正の時に,その点について余り議論されないまま,監査等委員会設置会社においてもこの規律が引き継がれてしまいました。今回の改正で,このような形で監査役設置会社の規律にも取り入れられてしまいますと,任期を1年にすることが,ガバナンスにおいて特に重要であると積極的に評価されたかのような意味を持たせてしまうように思います。   しかしながら,ただ取締役の任期を短くしていくことが,全体として優れたガバナンスに貢献していくことかにつきましては,慎重に見極める必要があろうかと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,大分時間もたちましたので,ここで一旦休憩を取りたいと思います。十二,三分になるかもしれませんが,4時20分に再開を目指したいと思います。よろしくお願いします。           (休     憩) ○神田部会長 それでは,再開させていただきたいと思います。   いつものように戻っていただいても結構でございますので,次の資料というのでしょうか,今日の二つ目のテーマであります「その他の規律の見直しに関する論点の検討」に移らせていただきたいと思います。   部会資料7につきまして,事務当局からの御説明をお願いいたします。 ○邉関係官 それでは,部会資料7について御説明いたします。   「第1 責任追及等の訴えに関する規律の見直し」の「1 取締役等の責任を追及する訴えに係る訴訟における和解に関する規律の整備」は,監査役設置会社等が取締役等の責任を追及する訴えに係る訴訟における和解をする場合に関する規律を整備することについての提案等をするものです。   まず,本文(1)では,補助参加に関する規律や責任の一部免除に関する規律との均衡を考慮し,監査役設置会社等が取締役等の責任を追及する訴えに係る訴訟における和解をする場合には,各監査役,各監査等委員又は各監査委員の同意を得なければならないものとすることを提案しております。   本文(2)では,このような和解をする場合の当該監査役設置会社等を代表する者についてどのように考えるか,としております。この問題については,補足説明で記載しておりますとおり,大きく三つの考え方があろうかと思われます。   第1の考え方は,常に監査役等が株式会社を代表するものとすべきであるというものです。この考え方に対しては,株式会社が補助参加人として訴訟に参加する場合には,監査役設置会社等であっても代表取締役等が株式会社を代表すると解されていることから,当初は補助参加人として代表権を有していた代表取締役等が和解をするに当たっては代表権を有しなくなるため,関係者による円滑な訴訟活動を害するのではないかという懸念があり得ると考えられます。   第2の考え方は,第1の考え方に対する先ほどの懸念に配慮して,補助参加人として和解をする場合に限って,代表取締役等が株式会社を代表するものとすべきであるというものです。もっとも,この考え方に対しては,利害関係人として参加する場合と補助参加人として参加する場合とで代表者は異なるものと考えることの理由が明らかではないという懸念があり得るかと考えられます。   第3の考え方は,原告として和解をする場合については監査役等が株式会社を代表するものとすべきとしつつも,利害関係人又は補助参加人として和解をする場合には,監査役等は一度当該訴えを提起しないことが相当である旨の判断をしているのであるから,取締役と株式会社の利益相反の程度は原告として当該和解をする場合ほどには類型的に強くないとして,本文(1)のように各監査役,各監査等委員又は各監査委員の同意を必要とすることを条件として,代表取締役等が株式会社を代表するものとすべきという考え方です。   なお,以上の点に関連して,監査役設置会社等が取締役等の責任を追及する訴えに係る訴訟における和解をする場合に,当該和解が自己取引に該当し利益相反取引規制の適用があるものと考えるべきかどうかについても検討する必要があると思われますので,その点についても,併せて御議論いただきたいと考えております。   続きまして,3ページ目「2 株主による責任追及等の訴えの提起の制限」は,株主による責任追及等の訴えの提起に新たな制限を設けることについて,どのように考えるかを問うものです。   この問題については,株式会社の利益に反する株主による責任追及等の訴えの提起を制限する規律を新たに設けるべきであるという指摘があります。ただし,株式会社の利益に反する株主による責任追及等の訴えの提起を制限することについては,法制審議会会社法(現代化関係)部会において議論され,第162回国会に提出された会社法案においても,当初,その趣旨の規定が盛り込まれていたものの,衆議院において削除されたという経緯があるところです。このような経緯を踏まえると,会社法制定当時から現在までの間に重大な立法事実の変化等がない限りは,このような規律を設けることは難しいのではないかとも思われます。   参考資料24は,最高裁判所より提供を受けた統計を事務当局において加工して作成した資料です。これによると,新受件数は平成24年をピークにむしろ減少傾向にあることが分かります。終局処分の内訳別の割合を見ても,会社法制定当時から取り立てて認容・認諾の割合が減少しているわけでもなく,また,取下げ・放棄の割合が増加しているということでもないようであり,この統計から,会社法制定後に株式会社の利益に反する訴えの提起の増加があったことを認めることは難しいように思われます。   なお,新たな制限を設けるべきであるという指摘の中には,その具体案として,社外取締役又は社外監査役の判断を一定の範囲で裁判所が尊重するような仕組みを設けるべきであるという指摘もありますが,他方で,このような仕組みを設ける場合には,我が国の社外取締役又は社外監査役の要件として,社外取締役又は社外監査役の独立性をより厳格に要求する必要があるという指摘もあります。 ○青野関係官 次に,4ページ目「第2 議決権行使書面の閲覧謄写請求権の濫用的な行使の制限の要否」について御説明いたします。   第2本文は,議決権行使書面の閲覧謄写請求権の濫用的な行使を制限するための措置として,議決権行使書面の閲覧謄写請求に関して拒絶事由を明文で定めることについて,どのように考えるかを問うものです。   実務上,議決権行使書面には,株主の氏名及び議決権数に加えて住所が記載されていることが通常ですが,会社法上,議決権行使書面の閲覧謄写請求を行う際には,株主名簿の閲覧謄写請求と異なり,株主がその理由を明らかにする必要はなく,拒絶事由も明文で定められていません。   そこで,株主名簿の閲覧謄写請求が拒絶された場合に,議決権行使書面の閲覧謄写請求が濫用的に利用されるおそれがあるという指摘があります。また,実務上,株式会社の業務の遂行を妨げる目的等,正当な目的以外の目的で閲覧謄写請求権が行使されているのではないかと疑われる事例が見受けられ,そのような閲覧謄写請求に対する対応について会社法上の明確な根拠が必要であるという指摘もあります。いわゆる名簿屋等に情報を売却するなどの目的で議決権行使書面の閲覧謄写請求がされた場合には,権利濫用として会社は当該請求を拒絶することができるという指摘がありますが,議決権行使書面の閲覧謄写請求について,株主名簿の閲覧謄写請求の拒絶事由を類推適用することについては,肯定及び否定の双方の議論があり得るところであり,そのような類推適用を否定した裁判例もあります。   プライバシー保護の必要性の観点及び閲覧謄写請求権の濫用的な行使の制限の必要性の観点からは,株主名簿と差異を設ける必要はないとも考えられ,議決権行使書面の閲覧謄写請求についても拒絶事由を明文で定めるべきという考え方もあり得ます。なお,仮に,議決権行使書面の閲覧謄写請求についても拒絶事由を定める場合には,当該拒絶事由は,株主名簿の閲覧謄写請求についての拒絶事由と同じ事由とすることが考えられます。   他方で,会社法上,株主の住所は,議決権行使書面に記載すべき事項とされておらず,この点についてプライバシー保護の観点から会社法上の手当てをする必要性は高くないとも考えられます。また,議決権行使書面の閲覧謄写請求については,株主総会の決議の取消しの訴えの提訴期間内に閲覧謄写をする必要性が高いと考えられ,そもそも株主総会の日から3か月の備置期間内に限り認められている議決権行使書面の閲覧謄写請求を更に制限する方向での立法的手当ては難しいという考え方もあり得ると考えております。   第2の(注)は,仮に,議決権行使書面の閲覧謄写請求について拒絶事由を明文で定める場合には,電磁的方法により提供された議決権行使書面に記載すべき事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧謄写請求並びに代理権を証明する書面及び電磁的方法により提供された当該書面に記載すべき事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧謄写請求についても拒絶事由を明文で定めることについて,どのように考えるかを問うものです。   これらの記録及び書面についても,住所その他の株主の個人情報が含まれている限りでは,議決権行使書面と同様に閲覧謄写請求によってプライバシー侵害が生ずる可能性があり,また,閲覧謄写請求権の濫用的な行使の制限の必要性の点では議決権行使書面と差異がないと考えられることから,仮に,議決権行使書面の閲覧謄写請求について拒絶事由を明文で定める場合には,これらの閲覧謄写請求についても議決権行使書面の閲覧謄写請求と同様に拒絶事由を定めることが考えられます。 ○邉関係官 続いて,6ページ目「第3 他の会社の株式等の取得と引換えにする株式の交付」は,株式会社が他の会社を子会社にしようとする場合には,会社法第199条第1項の募集によらずに,当該他の会社の株式等の取得の対価として,当該他の会社の株主等に対して,当該株式会社の株式を交付することができるものとすることについて,どのように考えるかを問うものです。   会社法上,買収会社がその株式を対価として対象会社を買収しようとする場合には,株式交換を用いることが考えられます。しかし,株式交換は対象会社が株式会社でなければ用いることができず,かつ,株式交換によった場合には,買収会社は,対象会社の発行済株式の全てを取得するものとされております。したがって,対象会社が外国会社である場合や,対象会社を完全子会社化することまでを企図していない場合には,株式交換を用いることはできず,買収会社は,対象会社の株式等を現物出資財産として,会社法第199条第1項の募集を行う必要があります。もっとも,この手法を用いることについては,原則として検査役の調査が必要となるため,その手続に一定の時間を要し,費用が発生することや,引受人である対象会社の株主等及び買収会社の取締役等が財産価額塡補責任を負う可能性があるといったことなどが障害として指摘されております。   このような会社法の規律に対しては,株式会社が他の会社を子会社にしようとする場合のうち,株式交換の場合とそうでない場合とで規律に大きな違いを設ける必要はないという考え方があり得ると思われます。このような考え方に立ち,株式会社が他の会社を子会社にしようとする場合には,(注1)のとおり,現物出資財産に係る検査役の調査,取締役等の財産価額塡補責任に相当する規律の適用はないものとし,具体的には,(注2)のような規律の適用を認めるものとすることの当否等について,御議論いただけたらと存じます。   (注2)では,8ページ目,補足説明2で記載しているとおり,会社法第199条第1項の募集によらない新たな株式の交付,ここでは「株式交付」と定義しておりますが,この株式交付に際して株式交換の場合と同様に,一定の事項について,原則として株主総会の特別決議を要するものとするとともに,株式交付に関する事項を記載した書面等の備置き及び閲覧等に関する規律や,反対株主の株式買取請求権及び株主の差止請求権に関する規律を設けることが考えられるところです。   ただし,株式交付は,株式交換とは異なり,株式交付子会社の発行済株式の全てを取得するものではないことから,(注2)では,法律上,当然に株式交付子会社の株式等を取得するものとはせず,当該株式等を有する者から個別に申込みを受け,株式等の給付を受けることによって取得するものとしております。また,適用範囲を株式交付親会社が株式交付子会社を子会社とする場合に限定するために,取得する株式等の数の下限は効力発生日において株式交付子会社が株式交付親会社の子会社となるように定めなければならないものとした上で,申込期日において申込者が申込みをした株式等の総数が下限を下回るとき及び効力発生日において株式交付親会社が譲り受けた株式等の総数が下限を下回るときは,株式交付をすることができないものとしております。そして,仮に,効力発生日において株式交付親会社が給付を受けた株式等の総数が下限に満たない場合において,株式交付親会社が申込者から給付を受けた株式等があるときには,株式交付親会社は,その株式等を申込者に返還しなければならないものとしております。   なお,(注)は,別途,金融商品取引法上の公開買付規制や発行市場規制の適用があり得ることを前提としております。 ○青野関係官 続きまして,「第4 全部取得条項付種類株式の取得又は株式の併合に関する事前開示手続」について御説明させていただきます。   第4は,いわゆる全部取得条項付種類株式の取得又は株式の併合を利用したキャッシュ・アウトに際して行われる端数処理手続に関して,情報開示を充実させることについて,どのように考えるかを問うものです。   株式の併合等は,実務上,キャッシュ・アウトの手段として用いられることがあり,その場合には,一に満たない端数の処理として,一株に満たない端数の株式の合計数に相当する数の株式を競売又は任意売却して得られた代金が株主に交付されることとなるのが通常です。株式の併合等については,平成26年の会社法及び会社法施行規則の改正により,一に満たない端数の処理をすることが見込まれる場合における当該処理の方法に関する事項,当該処理により株主に交付することが見込まれる金銭の額及び当該額の相当性に関する事項も事前開示事項とする事前開示手続等が設けられるなど,端数となる株式の株主の利益を保護する観点から,株主への情報開示の充実を図るなどの措置が講じられております。   もっとも,株式の併合等の効力発生後に一に満たない端数の処理により株主に実際に交付される代金の額は任意売却等の結果に依存しており,実際に任意売却等が行われるまでの事情変動等による代金額の低下や代金の不交付のリスクは,当該代金の交付を受けるべき株主が負うこととなることから,確実かつ速やかな任意売却等の実施及び株主への代金の交付を確保するための施策の導入について検討すべきではないかという指摘があります。   そこで,このような指摘を踏まえ,株式の併合等を利用したキャッシュ・アウトに際して行われる端数処理手続に関して,更に情報開示を充実させることが考えられます。具体的には,競売については,性質上,競売する株式を買い取る者や競売の実施時期等についても事前開示事項とすることは難しいと考えられますが,任意売却については,一に満たない端数の処理の方法に関する事項として,例えば,任意売却する株式を買い取る者の氏名又は名称,任意売却の実施及び株主に対する代金の交付の時期,任意売却する株式を買い取る者が任意売却の代金の支払いのための資金を確保する方法並びに当該方法の相当性その他の任意売却の実施及び株主に対する代金の交付の見込みに関する事項を,当該見込みについての取締役等の判断及びその理由を含め事前開示しなければならないものとするなどして事前開示事項を具体化し,情報開示を更に充実させることが考えられます。   御説明は以上となります。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,また二つぐらいに分けて御議論を頂きたいと思います。   まず,「第1 責任追及等の訴えに関する規律の見直し」と「第2 議決権行使書面の閲覧謄写請求権の濫用的な行使の制限の要否」,この二つについて,資料ですと5ページまでの部分について,御質問,御意見をお出しいただきたく思います。いかがでしょうか。 ○古本委員 まず,第1の1の方,和解に関する規律でございますけれども,この前段の和解に際しては各監査役等の同意を必要とすることでどうかという御提案ですが,各監査役等の同意まで必要とすべきか,それとも監査役会等の決議で足りるとすべきかを御検討いただければと思います。監査等委員会設置会社,指名委員会等設置会社では,基本的には委員会で決議するか,委員会で選定した委員に権限行使を委ねるという立て付けになっていると思いますので,和解についても同様の形で,「監査役会等の決議とする」というのが適当ではないかと思います。   それから,監査役会設置会社におきましては,和解に対する同意をするか否かを検討する上では,当然ながら監査役会で議論することは有効であるということに加えまして,和解する場合は,提訴の時のような違法性に関する判断をするわけではありませんので,手続的に若干軽くしていただいて,「監査役会の決議で足りる」としてよろしいのではないかと思っております。   それから,後段の代表者についてですけれども,これにつきましては,部会資料にある第3の考え方に賛成です。まず,会社が訴訟の原告となって訴訟提起した場合については,現行の解釈どおり,和解する際も「監査役等が会社を代表とする」とするのが妥当ではないかと考えます。   一方,会社が利害関係人又は補助参加人として訴訟参加した場合,これは,監査役等は訴えを提起する必要はないと既に判断を行っておりますので,「代表取締役等が会社を代表する」こととし,「監査役等は代表取締役等による和解の判断を監査する」ということで足りるのではないかと考えます。   利益相反規制との関係につきましては,「監査役会等の決議を経ることによって払拭できる」と整理できないかと考えます。   それから,第1の2の「会社による責任追及等の訴えの提起の制限」でございますけれども,この件は,経団連として関心の高い項目であり,検討項目に挙げていただきありがとうございます。第1回の部会でも申し上げましたけれども,社外も含む監査役等が提訴の利益がないと判断した場合でも,一株主が提訴すべしと判断すれば,それが常に優先されて,取締役等が個人の責任を追及される,場合によっては,遺族が法廷に立たされるということにもなりますので,今の株主代表訴訟制度につきましては,何らかの立法措置が採られてしかるべきではないかと考えております。   この代表訴訟の実態ですけれども,通常の民事訴訟の場合は,第一審の認容率は80パーセント台と承知しておりますのに対して,代表訴訟の場合は極めて低い,せいぜい20パーセント程度ということになっております。今回,経団連の会員企業に実情をアンケートで伺いました。そうしたところ,例えば,1単元しか保有していない株主から6年間に4回もの本人訴訟を提起された事例があります。これは,実は,私どもの会社で実際に起きたことなのですが,この同じ株主からは,代表訴訟には至らなかったのですが,この他に提訴請求が2件ありました。また代表訴訟ではありませんが,その同じ株主から,総会決議の取消訴訟は6年連続6回行われました。それから,議事録閲覧請求訴訟,議事録閲覧請求拒否に係る慰謝料請求訴訟など,別に3件の訴訟,それから,取締役会議事録等の閲覧謄写に至りましては17回も許可申請がなされている,こういう状況もございました。   他の会社からも,不提訴理由通知書の内容から勝訴の見込みがないことが明らかであるにもかかわらず,訴訟が提起されたという事例,それから,代表訴訟とは別の請求のための情報収集を目的に提訴されたと考えられる事例,また,原子力発電所の建設阻止であるとか労働運動などの個人的な主義主張の達成を目的に提訴がなされた事例などが寄せられております。   こうした訴訟が起きますと,会社といたしましては,当然ながら被告となった取締役等のサポートを行うことになるわけですけれども,弁護士費用を含むコストの面でもマンパワーの面でも無用な負担を強いられます。その結果,会社が本来注力すべき業務にしわ寄せが生じてしまうというようなことが起きております。もちろん訴えられた役員自身にとりましては大きな負担になりますし,このようなリスクを回避しようとすると,果断な経営判断を萎縮させることにもなりかねません。こうした無益な代表訴訟は企業の効率的な経営を阻害し,ひいては株主全体の不利益にもなるため,立法措置を講じる必要があると考えております。   また,我が国の株主代表訴訟制度は,諸外国の制度に比べましても濫訴が起きやすい立て付けになっていると考えますので,イコール・フッティングの観点からも制度の見直しを御検討いただきたいと思う次第です。   具体的には,3点検討いただけないかと考えております。まず一つは会社による不提訴判断の尊重,二つ目は訴訟却下事由の追加,三つ目が少数株主権化です。   まず,第1ですけれども,会社による不提訴判断の尊重について,業務執行から独立した会社の機関による判断が一株主の判断よりも優先するメカニズムの導入を御検討いただきたいと思います。例えば,現行の不提訴理由通知制度をベースにして,裁判所の審理において会社による不提訴の判断が尊重される仕組みを作ることが考えられると思います。また,社外取締役を選任する会社が増えているという状況も踏まえまして,訴訟委員会制度を導入すること,若しくはドイツやイギリスに見られるような裁判所による訴訟提起に関わる許可制度の導入を通して,業務執行から独立した機関による不提訴判断を尊重することも考えられると思います。   第2の訴訟却下事由につきましては,会社の利益,株主全体の利益に関する訴訟が排除されるための事由,これが追加されてしかるべきだと考えます。先ほど申し上げた事例に見られるような,役員の法的責任の追及とは異なる目的,すなわち会社の資料を収集しようとか,個人的な主義主張の達成を目的とするような訴訟が却下されるような,そういった制度を検討いただきたいと思います。   第3は,会社の利益にかなった訴訟が提起されることを担保するためのものであり,代表訴訟の提起を単独株主権ではなくて少数株主権とするという考え方です。この考え方につきましては株主提案権の議論の際に申し上げた考え方と同じですけれども,一定の資金を投入していることを代表性を認める上での要件にしてはどうかということです。例えば,ドイツでは1パーセントが基準になっていると承知しています。   なお,部会資料の補足説明に株主の資料収集手段の拡充についての御指摘がありますが,そもそも株主代表訴訟についてのみ資料収集手段を拡充する必要性があるのかという疑問もございますし,訴訟の長期化,株主による他の目的への流用の懸念もありますので,これについては慎重に御検討いただければと思います。   それから,第2の「議決権行使書面の閲覧謄写請求権の濫用的な行使の制限の要否」については,この件も経団連からお願いした事項であり,検討項目に加えていただきましてありがとうございます。適切な閲覧謄写拒否事由を定めていただければと考えております。   これにつきましても経団連で実態調査をいたしましたところ,次のような事例を含む濫用の実態が寄せられています。例えば,同一の株主から3年続けて閲覧請求がなされたという事例であります。3年のうち2年は閲覧謄写の期間が20日間にもわたった。その間,部屋の手配を要求されて,閲覧の間,社員が立ち会うといったようなことも必要になりますので,業務への多大な負担が生じたということです。   また,別の事例では,議決権行使書面を閲覧謄写した株主が,その株主は自ら株主提案もしておりまして,株主提案に賛成した株主をこの閲覧謄写請求によって割り出して,そうした株主に翌年の株主総会で自らが提案する株主提案に共同提案者になるように勧誘を行った,若しくはカンパを募るために郵便物を株主に送り付けたといったようなことがありまして,株主から会社にクレームがなされ,多大な迷惑を被ったといった事例も寄せられております。こうした場合でも,現行法では,請求目的の開示も求められておらず,拒絶事由も定められておりませんので,会社としては請求に応じざるを得ないという状況になっております。   拒絶事由につきましては,部会資料の補足説明に「株主名簿の閲覧謄写請求についての拒絶事由と同じ事由とすることが考えられる。」とございますけれども,そうした拒絶事由を設けることはもちろん賛成の立場なのですが,この二つの制度の目的の違いも若干考慮に入れて拒絶事由を工夫する必要があるのではないかと思います。株主名簿の閲覧謄写請求と同じ事由とした場合,先ほど申し上げた二つ目の事例でございますけれども,自らの株主提案に賛成した株主を調べ上げて,翌年の株主総会で共同提案者になるように勧誘するといったようなことが,文言的には正当な行為ということで解釈されかねないような気がいたします。議決権行使書面の閲覧謄写の本来の目的,すなわち決議の適法性,取消事由の有無の確認,これ以外の目的の請求が拒絶できるようにすることが,実務的には効果が大きいと考えております。   もう少し一般的な議論をいたしますと,議決権行使書面が何万通も何十万通もあるような上場会社もたくさんあります。そういった会社について,そもそも現行の制度を維持する必要があるのかという疑問を感じております。現在,議決権行使のカウントは株主名簿代理人である信託銀行に委託しており,信託銀行が自動読取機などを使ってカウントして,会社はそれを正として臨時報告書を作成しております。議決権行使書面がそのように何万通も何十万通もある会社につきまして,株主が閲覧謄写請求を行って,正しく手作業でカウントできるのだろうかという疑問もございますし,更に申し上げると,議決権行使書面が万単位であるような会社に,本来の制度趣旨,本来の目的のためにこの権利が行使されているのかということについても疑問に感じているところでございます。そこで,例えば上場会社につきましては,株主が直接手でカウントするような制度を維持するのではなく,株主名簿代理人に証明を求めるといったような制度に切り替えることも,現実的な観点からは検討が必要なのではないかと考えております。   すみません,少し長くなりました。ありがとうございます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。小林委員,どうぞ。 ○小林委員 まず,第1の2の「株主による責任追及等の訴えの提起の制限」というところでは,今,古本委員から詳しくお話がありましたけれども,中小企業実務で,一番大きいのは内紛的な紛争というものが起こりやすく,近親者とか元取締役とかといった方々が責任追及の訴えを起こすことがあるわけです。これは,もちろん経済的に会社の利益を回復するというようなことが正当に行われれば別ですが,非常に嫌がらせ的な提訴も起こりがちということもありまして,本来の目的から逸脱して,訴訟によって人的,経済的資源の損耗を強いられるということは,中小企業においてはなおさら厳しいということもございますので,こういう株主による責任追及等の訴えの提起については,やはり本来の趣旨,目的にかなっていない提訴については,新たな制限の措置を講じていただきたいというところはございます。   具体的な項目については古本委員から御指摘があったようなところで,正しくそのとおりだと思いますので,今後,改めて議論を深めていただけると有り難いと考えております。   この場合,先ほどもございましたが,情報収集権の必要性については,先ほどの申し上げました内紛的な提訴の場合は,その情報収集権そのものの濫用あるいは当該企業の情報の外部漏えいといったリスクを極大化させている場合ということになりますので,そういう意味では,他の民事訴訟とのバランスから見ても,やはりその情報収集権を認めることは妥当ではないのではないかと考えております。   それから,第2の「議決権行使書面の閲覧謄写請求権の濫用的な行使の制限」については,目的外使用,不適切使用という事例がかなりあると考えておりまして,閲覧の理由が明らかでなくても閲覧できるということでは,ハラスメント的な閲覧請求もございますから,これは一定の制限が必要だろうと。どこまで拒絶事由を定めるかというのは,確かにいろいろな決め方がありますけれども,少なくとも,最低限株主名簿の閲覧謄写請求の拒絶事由を定める会社法125条3項を,議決権行使書面の閲覧謄写請求についても,最低限明文化していただきたいというところでございます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。梅野幹事,どうぞ。 ○梅野幹事 それでは,簡単に述べさせていただきますが,まず,第1の1の(1)各監査役等の同意につきましては,これは賛成いたします。実際,会社が代表訴訟の当事者ではない場合に,850条2項に基づいて会社に通知が来たときに誰が判断するかが問われる場面もあって,こういう形で明文化していただくことは望ましいと思います。また,事案の適切な解決に資すると思いますので,こういう形が望ましいと考えます。   次に,(2)の代表者ですけれども,これは私の考えになりますが,第3の考え方というものが現在の実務にも整合しておりますし,かつ,先ほど述べましたとおり,(1)において監査役の同意を要件とするということであれば,この第3の考え方によってもよいのではないかと考えます。理由につきましては,部会資料7の3ページ等に記載されておるとおりですけれども,実際,代表訴訟における和解においては,例えば,今後再発防止策をいかに講じるかといった条項を設けるといった場合,つまり代表取締役が本来行うべき内容が含まれるような場合もあると思いますので,監査役の同意を得た上で,代表取締役が従前どおり和解を進めるということで不都合はないのではないかと考えます。   ここで事務局に対する質問といいますか,確認させていただきたいのは,部会資料7の2ページの3の5行目辺りに,「和解をするとき」とあるのですけれども,これは解釈に委ねるべき問題かもしれませんが,和解に向けた交渉あるいは弁論準備期日等において和解の話をする場合も含んでいるのか,それとも,和解期日に和解する場合のみを意味するのかという点を,検討しなければいけないと思っております。和解期日のみ代表するものを切り替えればよいというのであれば余り問題はないのだろうと思いますけれども,交渉段階から切り替えなければならないという考え方に立つとすると,実際の訴訟の中で,例えば弁論準備等においてそういった話題が出た場合どうするのかということが問題になって,和解と訴訟遂行手続とを切り分けざるを得なくなるといった工夫が必要になってくると思いますので,この辺りの考え方はあらかじめはっきりとさせておいた方が良いかと思う次第です。   さらに,部会資料7の2頁の3の「第一の考え方」を採った場合には,代理人を代えなければいけないのかといった問題があると思われます。その問題については,基本的には弁護士職務基本規程等においてコンフリクト,利益相反の問題をどう考えるか,弁護士によっても考え方が違う場面だろうと思います。和解について,監査役と代表取締役の間で非常に厳しい意見の対立があるというような場合には,代理人の変更等を検討せざるを得ないように思われますが,そういう場合には手続が遅延するとかコストが発生するといったリスクもあると思います。しかし,必ずしもそういった場合ばかりではないと思うので,その問題を過度に重視してこの問題を考える必要はないかと個人的には考えております。   難しい問題だと思いましたのが,部会資料7の3頁の2の「株主による責任追及等の訴えの提起の制限」の問題です。古本委員が御指摘されたような事例は,お伺いした限り非常に問題ですし,会社側は大変な苦労を強いられている事案があるということは十分承知しております。それについて何らかの工夫ができないかと考えることに,反対するものではございません。   ただし,本日事務局からお配りいただいた参考資料24を見ると,平成24年をピークとして,平成25年から大幅に責任追及等の訴えの数が減少しているようです。平成28年というのは最も少ない数になっていると思います。こういった数値を前提として,果たしてどの程度,あるいは極端といえるような事例を考慮した上でこれを変える必要があるかどうかというのは,慎重に検討すべきだろうと思います。前回の改正の際の衆議院での議論等を見てまいりましたけれども,事前規制の緩和に伴い,取締役の行動の自由度が拡大しているため,その行動を事後責任追及で制御することは有効かつ重要な方策であり,責任追及等の訴えの制度の重要性や必要が高まっていく方向にあることから,過度にこの制度が有する機能を萎縮させることは好ましくないといった理由から,元の提案が削除されたと理解しております。そういった当時の立法理由を変更して新たな規制を導入する必要があるかどうかについては,更に立法事実を見た上で慎重に検討すべきであろうと個人的には考える次第です。 ○神田部会長 ありがとうございました。 ○竹林幹事 今,御質問いただきました和解というのをどのタイミングで捉えるかということでございますが,直接的な御回答になるかどうかは分かりませんけれども,部会資料7の本文で和解をするには,同意を得なければならないものとするというような場面におきましては,正しく和解を締結する,和解についての合意をするという場面を考えておりまして,基本的には,そう解釈していくのだろうと思うのですが,ただ,梅野幹事から御指摘いただいたとおり,その前の,どういう和解交渉をしていくかということが問題となってまいります。それが和解をするかどうかという結論に影響を非常に強く及ぼすと思いますので,きれいに切り分けることはなかなか難しいというのが実際かと思っております。その点が正しく第1の考え方について補助参加の場合等の場面では特に問題となるということで,他の考え方等も挙げさせていただいているところでございます。 ○大竹委員 せっかくその問題になりましたので,裁判所の立場から,細かい点ではありますけれども,少しだけ補足させていただきたいと存じます。   第1の1の(2)について,結論的には第3の考え方に賛成です。第1の考え方につきましては,梅野幹事が言われたことに加えまして,今の実務では株主代表訴訟において,株式会社が取締役等を補助するために補助参加する場合には,監査役設置会社等であっても代表取締役が当該株式会社を代表するという解釈に立っております。その場合,第1の考え方に立つとしますと,補助参加人が和解する場合には,監査役等が会社を代表することになり,委任状の出し直しが必要となるということになります。   ところで,正に今,法務省からも御説明がありました株式会社が補助参加している場合に,裁判所が弁論準備手続等において判決に向けて手続を進めるのと並行しまして,補助参加人をも含めて和解の意向を打診するということは,通常行っていることでありまして,そのような和解勧試がされたときには,代表取締役等によって選任された訴訟代理人がこれに対応するということになります。   仮に,和解成立の蓋然性が高まったときに,監査役等が訴訟代理人を選任し直すということになりますと,前の訴訟代理人の下である程度積み上げて和解の話をしてきたのに,もう一度,一からやるのかということになる。場合によっては,取締役のお考えと監査役,監査役会のお考えと違うということもあって,そうすると,最後,和解するときに委任状の出し直しが必要と言われますと,どこまでその和解の話を最初の代理人の下で突っ込んでするのかという,裁判所としてはなかなか悩ましい局面に逢着することにもなります。   そうしたことからしますと,第1の考え方は,理論的にはすっきりすると思うのですけれども,和解を進める裁判所の立場からは,手続の円滑性の観点からは御勘弁いただきたいというのが正直なところであります。   その観点からは,第2の考え方というのは,補助参加の場合はともかくとして,利害関係人の場合は,監査役,監査役会が代表するというのは,あり得ない話ではないと思いますが,これは,補助参加の場合と利害関係人の場合とで代表者が違うというのは,感覚的にかなり強い違和感がありまして,それは部会資料にも書いてあるとおり,その説明ができるのかという疑問を持つところであります。   したがいまして,第3の考え方が一番支障が少ないと裁判所としては考えております。その場合には,何らかの利益相反的な局面に対する対応策が必要ということになるというのも,部会資料のとおりかと考えております。 ○神田部会長 ありがとうございました。   それでは,坂本幹事,沖委員,神作委員の順で,坂本幹事どうぞ。 ○坂本幹事 参考資料26,2ページ目の下になります。第1の二つ目の論点「株主による責任追及等の訴えの提起の制限」,こちらにつきましては,先ほど実際の企業において多大な負担が強いられているというような事案状況の御紹介もございましたけれども,こういった会社の利益に反するような訴えについて,そういったものがあることを踏まえて新たな制限を設けてはどうかという御提案については,賛同したいと思います。   会社法の成立後の一つの大きな状況の変化といたしまして,例えば,前半に議論もございましたように,社外取締役の導入が大幅に進展しているといったようなことも踏まえまして,株主共同の利益を代弁する立場にあるこういった社外取締役等の判断を一定の範囲で裁判所が尊重するような仕組みを設けることを含めて,是非前向きな議論がなされればと期待しております。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。 ○沖委員 最初に,「取締役等の責任を追及する訴えに係る訴訟における和解に関する規律の整備」ですけれども,まず,(1)の方の「各監査役等の同意」ですが,和解をする場合には役員等に一定の責任が認められることを前提に,責任の一部免除を含みますので,一部免除の制度の要件とされている監査役等の同意が必要と,これは理論的に正しいということだと思いますので賛成いたします。   次に,(2)の「代表者」の方ですけれども,訴訟の実務の円滑という観点からは,先ほど大竹委員が御指摘のとおりかと思います。ただ,これを理論的に見てみますと,最初,監査役設置会社等が被告取締役に補助参加する場合ですけれども,これは代表取締役が実務上,代表することは認められるということですが,この場合の監査役等の同意の意味を考えてみますと,この同意は,被告取締役側に立って責任を争うことを対象にしたものだということだと思います。責任があることを前提にした同意というのは理解することが難しいということだと思います。これが代表訴訟が進行するに従って,和解が行われるタイミングとしては,主張の交換が一段落した時点や,あるいは証拠調べが終了した時点ということで複数考えられると思いますが,和解の手続においては,裁判所が一定の心証を開示して,被告に責任が認められることを前提に支払額が交渉されることが考えられるわけであります。こういう場合には,この和解というのは,やはり役員等に責任が一定認められることを前提に,この免除を交渉するわけですから,被告取締役側に補助参加して責任を争うときとは利益相反の状況が一段階高まっているという状況にあるかと思います。ですから,この段階では監査役等が代表するということにすることには,一定の合理性はあると思います。   ただ,これについては,先ほど来,御指摘のように,遅くとも和解手続に入る前に訴訟委任状の差し替えが必要になる。あるいは,前の代表取締役と監査役との間で訴訟に関する,和解に関する方針が対立して代理人が難しい立場に置かれると。そうすると,最悪の場合は信頼関係が失われて代理人の交代が起こるということはあり得るわけです。ただ,これも,訴訟代理人が,会社で代表者が交代してその訴訟に関する方針が変わった場合と基本的には同じと考えれば,そういったことはレアケースとも考えられるわけであります。ただ,そういった訴訟の円滑の問題がありますので,そことの関係で議論をつなぐかどうかということを考えていただければよいかと思います。   結論としては,第1と第3は,どちらの考え方も採れるのではないかと考えております。   次に,二つ目の「株主による訴訟追及等の訴えの提起の制限」ですけれども,ここは,私も現行法上にない考え方として,株式会社の利益になるかどうかという視点は大切だと思っております。具体的には,先ほど古本委員から三つ御指摘,御提案がありましたけれども,そのうちの会社による不提訴判断を尊重する制度,これは,もしこれを本格的に導入しようとすると,アメリカのスペシャル・リティゲーション・コミッティのような制度が必要になってくると。その場合には,今の社外取締役の独立性を一層高めたり,あるいは訴訟委員会の判断が提訴株主に与える法的効力をどう考えるか,あるいは司法審査で争うための手続等,非常に複雑で重装備な制度を検討する必要があるということですので,これを実際今回の改正の中で検討するのは難しいかと感想を持っております。   ただ,二つ目の却下事由の追加,これは一応考えられるのではないかと思います。前回の会社法改正の際にこれに似た提案が削除されたということですけれども,これと矛盾しないような形で設計できるかどうかを,当時,審議に関わっておられました委員や幹事の方もいらっしゃるようですから,何か建設的な提案があれば,出していただければ,大変良いのではないかと思います。   今回のD&O保険の明文の規定を置くということで,開示の問題がありますけれども,これは代表訴訟の濫用可能性をどう考えるかということと裏腹ですので,そういったものと併せて議論ができれば有意義ではないかと考えております。   最後に,第2の「議決権行使書面の閲覧謄写請求権の濫用的な行使の制限の要否」ですけれども,こちらは,問題になるのは株主の住所が議決権行使書面の記載事項にされていないという点ですが,一応,氏名と株主番号で株主の特定自体は可能と思われますが,株主の住所というのは,株主の特定のために有用な情報であるということは否定できないと思います。実務上,議決権行使書面の1枚の用紙の片側に議決権の賛否の記入欄と株主の氏名,住所が印刷されて,この氏名と住所の部分が封筒の窓を通して見えるようになった宛先として機能していると。こういった実務が一般的に定着しておりまして,これを今更2枚の紙に分けたり,あるいは住所の部分をマスキングしたりするというのは,非常にこれは作業の点から現実的ではないと思います。そうしますと,余事記載自体は認められているわけですから,現行の実務を尊重して,プライバシーの保護を考えることも許されると考えます。   したがいまして,株主名簿閲覧請求権と同等の拒絶事由を認めることは正当と考えますので,これの御検討をいただければと思います。 ○神田部会長 ありがとうございました。   それでは,神作委員,中東幹事,田中幹事の順でお願いします。 ○神作委員 第1の「責任追及等の訴えに関する規律の見直し」について発言させていただきます。   第1の和解に関する規律の整備ですけれども,現行法上,それに関する解釈が分かれていてルールが明確でないというのは確かですから,この点についてルールを明確にするというのは非常に望ましいことであると思います。また,1の(1)の論点と(2)の論点は密接に関連していると考えておりまして,まず,(2)の方から述べさせていただきますと,先ほど梅野幹事から御指摘がございましたように,和解の内容として非常に多様なものが含まれるということからすると,代表取締役等が和解について会社を代表するということは十分に考えられるわけでございます。   他方,代表訴訟をめぐる和解については,従来大きく二つの問題点が指摘されていたと思います。第1は,株主についての手続保障とか透明性の確保が不十分な面がある。第2に,代表訴訟をめぐる和解には免責的な要素があるという御指摘もございましたけれども,そのように免責的な要素があるのにもかかわらず,会社法の役員の免責に係る手続規定に比べると非常に緩やかな規律しか置かれていないという問題がございます。したがって,和解に係る代表者を代表取締役等とする場合であっても,(1)の方はちょっと厳しくと申しますか,古本委員の御意見とは違ってくるかと思いますが,(1)の方は各監査役等の同意を必要とすることによって,その点をカバーすると申しますか,手続保障を厳格化することにより公正さを確保するという考え方を採ることが適切なのではないかと思います。その意味では,正にこの御提案のとおり,(1)を前提として,(2)については第3の考え方を採ることが適切ではないかと考えております。   また,3ページの2の株主による責任追及等の訴えの提起に制約を課すという点についてでございますけれども,これは,既に御指摘がございましたように,現状の統計を見ますと,濫訴が著しく問題となっている状況ではないのではないかという印象を受けております。そうだといたしますと,不提訴判断の尊重ですとか少数株主権化という話に踏み込むのは時期尚早と申しますか,現時点でそのような手当てをするのは適切でないと思いますけれども,この点も私は沖委員と同意見でございまして,却下事由についての見直しというのは検討に値すると考えます。先ほど御紹介いただいた幾つかの事例においても,却下事由をより適切に設定することができれば,適切に対処することができるものもあるように感じたところでございます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,中東幹事,田中幹事,松井幹事の順で,それから成田幹事でお願いしたいと思います。 ○中東幹事 第2の「議決権行使書面の閲覧謄写請求権の濫用的な行使の制限の要否」について意見を申し上げたいと思います。   基本的には古本委員の御意見に賛成でございます。つまり,二つの制度,株主名簿の閲覧と議決権行使書面の閲覧謄写請求は制度の趣旨が違っており,この違いを意識した上で制度設計をすべきであるということです。例えば,もし支配権争奪の場面で株主総会が開催されていれば,通常,総会検査役が選ばれて,総会検査役が議決権行使結果の集計を調査するということかと思いまして,そのような形で,株主総会の決議が適法かつ公正にされることの担保はなされていると思います。   総会検査役が選任されていなくて,事後的にもう1回賛否が適切に計算されたかを確認したいということがあっても,言わば,事後的な検査役を選任するという形によって,その検査役に調べてもらって,裁判所と株主には調査結果を報告することにすれば十分にこの目的は達成されると思います。株主が自ら議決権行使書面の確認をしなければ,公正に確認できないというものではありません。古本委員からは,株主名簿管理人のお話もありまして,実際上,検査役の調査方法としては,恐らく信託銀行にもお伺いして,確認を求めるなど,それほど違わない提案かと思うのですが,やはり裁判所に検査役の選任等の過程で関与してもらう方が望ましいと思っています。   株主による監督是正を実現するに当たって,何を自ら行わせて,何を検査役等の専門家を通じて行わせるかを区分するという考え方そのものは適切であると思っております。この種の直接的な請求権が拡大されたのは,戦後のGHQの占領下での昭和25年改正のときで,そのときに株主は直接的に閲覧できるのが基本という形にしたわけです。ですが,私は相当このような発想に懐疑的でございまして,直接見ないといけないものもあるだろうけれども,間接的に見れば十分に目的が達成できるものもあり,そのような場合には,間接的な方法がより会社に迷惑が掛からず,かつ,株主の利益も守られると思っております。議決権行使書面の閲覧謄写もその場合だと思います。拒絶事由を何にするかという難解な検討をするのではなく,むしろ事後的な検査役の選任という方向で御検討いただければと思っております。 ○神田部会長 ありがとうございました。 ○田中幹事 それぞれについて簡単に私の考えを述べさせていただきます。   まず,第1の点に関しましては,多くの委員,幹事の方が既に指摘されているように,和解の代表者については第3の考え方でよいのではないかと。つまり代表取締役あるいは代表執行役が会社を代表するが,ただ,それについて監査役等の同意を要するという形がいいのではないかと思います。現行法では,和解については,通常の役員の責任の免除に関する規制(会社法424条-426条)が何も掛からないという形になっています(会社法850条4項)。これは,株主に訴訟提起の機会を与えているということから正当化されているわけですけれども,和解の内容について各株主に通知するといった制度がない以上,いささか規制が軽過ぎるのではないかという疑問もあるかと思います。   また,アメリカで行われているようなことが日本でどれだけ行われるか分かりませんけれども,アメリカでは,代表訴訟の和解については,会社の費用負担を大きくして,その代わり役員個人の責任は小さくするというような内容の和解をするといったことが問題になっていて,日本でも将来そういうことが起こることがないとは言えません。そこで,和解について監査役等による監督を働かせるということは,十分考慮に値すると思います。ただ,和解に監査役等全員の同意が必要であるかという点については,私も古本委員と同じような考えを持っておりまして,この場合には監査役等は,取締役に対して訴訟をするかどうか判断する機会は既に与えられているわけですので,そのような判断を経ずに取締役会の決議によって責任を一部免除する場合とは状況が異なっていると思います。ですから,和解についての同意は,必ずしも各監査役,各監査等委員の同意でなくてもいいのではないかと。監査役の多数決,又は監査等委員会若しくは監査委員会の決議でもいいのではないかという気がしております。   それから,第2点(代表訴訟の制限)に関しては,慎重に考えた方がいいと思います。今回,事務局から提示された資料を見ると,ここ数年,非常に代表訴訟の件数が減少していて,逆の意味で代表訴訟の危機かなという印象もあります。私自身は,確かに濫用のケースもあるかもしれませんけれども,やはり一般予防の観点から,代表訴訟は大きな効果を発揮してきたと思っておりますので,濫用の問題が顕著でない限り,制限というのは少し慎重に考えた方がいいのではないかと思います。   先ほど様々な濫用事例を御紹介いただきましたけれども,そういったものは基本的には現行の847条1項ただし書の不正目的での提訴により却下可能なように思います。いわゆる嫌がらせ目的の提訴は,これによってカバーされるというのが立法以来の理解ではないかと思っております。これを超えた代表訴訟の提訴制限,つまり,平成17年の会社法制定時に試みられたが実現しなかった,訴え自体は不正の目的があるとは言えないけれども,全体的に考慮したとき訴訟は会社の利益にならないと認められる場合は訴えを却下できるという制度を設けることはもちろん考えられるわけですが,その場合は,この特定の訴訟が特定の会社の利益になるかという狭い問題だけでなくて,やはり一般予防的なことも考慮して会社の利益になるかどうかを考える必要があると思っております。具体的に言えば,例えば,大和銀行訴訟とか,三井鉱山訴訟とか,恐らくその訴訟が提起された時点では,多分,多くの人は却下された方がいいと思っていたケースでも,判決を通じて一定の法理が形成されることで,全体的には経営に対する規律の効果を高めたということもあると思っております。もちろん,そのような一般予防の観点をも裁判所は考慮したうえで,やはり訴訟を却下すべきだとなることは確かにあり得ると思いますが,現在のように年に数十件ぐらいしか代表訴訟が起きていなくて,それも減っているという中で,あえてそういう高度な判断を要する提訴制限規定を入れる必要があるかという点は,慎重な検討が必要かと思います。   それから,この代表訴訟の提訴の制限というのは,いわゆるアメリカ型モデルで,事前に代表訴訟をスクリーニングするという発想と思いますが,アメリカの代表訴訟モデルでは,一方で事前のスクリーニングを設けつつ,他方で,そのスクリーニングをくぐり抜けた事件は,非常に厳格なディスカバリー,証拠開示の手続があるというところでバランスをとっているかと思います。   翻って,日本の場合,自己使用目的の内部文書については文書提出命令の対象にならないという民事訴訟のルールが代表訴訟にも全く同様に適用になるというのが最高裁判例であります。ここで判例に異を唱えている時間はないのですが,一般論としては,代表訴訟と普通の訴訟を全く同じように考えてしまいますと,会社の利益と役員の利益が同一視されてしまって,本来は会社の内部的な意思決定を尊重するという趣旨の規制が役員の責任逃れのために使われてしまうという問題がありますので,私自身としては,もし代表訴訟にスクリーニングを設けるのであれば,スクリーニングをくぐり抜けた代表訴訟については,文書提出命令に関するこの最高裁判例の法理は適用にならないとか,そういった改正とセットで行われる必要があるのではないかと考えております。   それから,第3点(議決権行使書面の閲覧)についてですけれども,これについては,私は何らかの改正が検討されていいのではないかと思います。この311条4項は全ての会社に適用される条文ですから,ごく小規模の会社,株主が自分で議決権行使書面を手で数えて十分数えられるような会社にも適用を予定しているということでこうなっているかと思います。しかし,上場会社ですと,膨大な数の議決権行使書面があるわけですから,株主本人に数えさせる必要は必ずしもないですし,また自分で数えさせることを認めることにより,住所を見るための利用というような目的外使用に道を開いているということもありますので,その対策としては,先ほど来,意見があるように,むしろ裁判所の選任した第三者――これは検査役の制度に吸収してしまうのか,それと違う制度とするかはともかくとして――,とにかく裁判所の選任した人に数えさせると。そして,その費用は,カウントした結果に依存して会社と株主のどちらが負担するかを裁判所が決める,こういう制度でいいのではないかと。要するに,この議決権行使書面の閲覧という制度は,株主が事前に株主総会検査役の選任申請をせずに総会決議に臨んだところ,思いがけず,投票の集計について不正が行われたという疑いが生じたような状況に対応した制度であろうと思います。そうだとすれば,これは言わば,株主と会社との間の訴訟のような状態になっていて,投票を再集計した結果,株主の申立てに理由があるとすれば,それは被告の立場にいる会社が費用を負担するべきでしょう。これに対し,申立てに理由がなければ,基本的に申立て株主が負担する,こういう制度でいいのではないかと思います。   いずれにせよ,この制度自体は,株主にほかの株主の住所を見せるとか,そういう権利を保障した規定でないことは確かですので,基本的には,投票が適正にカウントされたかということをチェックするという限度で認められる権利だと私も思いますから,そのような目的に特化した制度になるような改正をするということは十分考えられると思います。 ○神田部会長 ありがとうございました。 ○松井(智)幹事 手短に第2についてだけなのですが,今の費用負担の話がやはり引っ掛かっておりまして,要するにこの条文で,311条3項,本社で自分で紙ベースで保管していることに起因するコスト増ということがあると思いますので,名簿管理人に管理してもらい,例えば,表面に住所があるけれども,裏面に必要事項だけ書かれていて,こっちだけをPDF化しておいて,そちらをカウントしてもらうとか,何かそういうやり方によるコスト削減もできるかなと。   検査役選任という形になってしまって,日数が掛かると,今みたいに,結局,何も空振りだったとなったときに結構膨大な費用になってしまうというのがありますので,かなり抑止的な効果が高くなるかということがありますので,ちょっと工夫をすると。今言ったような,どこに預けるか,あるいはどういう形式で預けるかということについて緩和する必要があるのかもしれないですけれども,そういったことが拒絶事由を書くこととは別に,もう一つオプションとして併存するのではないかと思いました。 ○神田部会長 ありがとうございました。 ○成田幹事 参考資料24のデータを提供した者として一応補足説明をするとともに,この第1の2の関係で若干コメントしたいと思います。   まず,参考資料24のタイトルが「責任追及等の訴えの新受・既済件数一覧」となっておりまして,何か会社からの訴えも含むかのように見えますが,これは全て代表訴訟のものでございますので,これ以上,代表訴訟の件数が減ることはありませんので,そこだけ御承知おきいただければと思います。   それから,下の注にも書いてございますが,平成15年から18年までの数値は報告に基づく概数ということになり,やや数値の正確性に疑義がないわけではないのですが,平成19年以降につきましてはきちんと統計データで取っている数字でございまして,これは信用していただければと思います。   それで,この数値を見ますと,先ほど来,沖委員,神作委員あるいは田中幹事から御指摘のとおり,マクロ的に見れば濫用事例がどのぐらいあるのかという話はちょっと疑義が出てくるところかと思います。もちろん認容率が低いという問題はあるのですが,これも田中幹事の御指摘と関連する部分ですが,証拠の偏在という構造的な問題がございますが,もちろん訴訟においては,釈明権を行使したりですとか,場合によっては文書提出命令を法令の認める範囲で許容して,そこのバランスを取っているところではございますが,どうしても証拠の偏在の問題は残るので,いわゆる専門訴訟の典型である医事関係訴訟,医療機関の責任を問う訴訟などでも認容率はそう高くないことからすると,この認容率の低さをもって濫用が多いというのはなかなか言いづらいと思っております。   あと,古本委員の御提案の中で却下事由の追加という点についてですが,確かに濫用事例が御紹介いただいたようにあるというのは理解できるのですが,却下事由を追加することによって却下事由の審理の方に時間を取られてしまっては元も子もないという部分がありますので,もし仮に,却下事由を追加するということでありましたら,要件を明確にして判断しやすくしていただければ有り難いかと思います。 ○神田部会長 ありがとうございました。   若干の時間の延長をお願いすることにならざるを得ないと思いますけれども,加藤幹事,どうぞ。 ○加藤幹事 まず第1の1の和解について,部会資料では356条第1項第2号の取引に該当するとして利益相反取引規制の適用があるとすべきかどうかという問題提起がなされていますが,被告とされた取締役と会社との間に和解契約が存在するので形式的には356条第1項2号の取引に該当してしまいます。しかし,個人的には,和解は和解で完結した制度を作った方がいいのではないかという気がします。特に,356条第1項第2号の取引として利益相反取引規制が適用されるとした場合,和解は被告とされた取締役にとって自己のための取引に該当するので,会社法428条を始め様々な法的効果がセットで付随してきます。各監査役の同意などを要求するとした上で,追加的にこのような利益相反取引規制も適用する必要性がどの程度あるのか疑問があります。   次に,代表者と各監査役などの同意の件についてですが,代表者の件については第3の考え方で私もよいように思うのですけれども,各監査役などの同意を要求するかどうかということにつきましては,結局,責任の一部免除と和解をどれほど同視すべきなのかという問題だと思います。私が思いますのは,やはり和解の場合には裁判所の監督の下でなされるわけでありまして,そういった場合に,どこまで裁判所が関与していただけるのか,和解の実質的な内容ということまでいろいろと監督していただけるのかということに依存すると思います。   さらに,責任の一部免除と違いまして,和解の場合には,単に責任を免除するということだけではなくて,特に非上場会社の事件では,責任の免除以外に様々なものが和解の内容に組み込まれている場合があります。こういったことも考えると,各監査役の同意などを要求するよりも,裁判所にもう少し後見的な監督をしていただくとした上で,各監査役の同意よりも少し要件を緩めるという方向もあり得るのではないかという気がいたします。   さらに,第2の議決権行使書面の閲覧謄写請求権の話につきましては,実務のお話を伺っていて,何らかの対応が必要な事項であるとの印象を持っています。この問題については,現在の実務,すなわち,議決権行使書面の裏面に信託銀行の住所があって,表面にマル・バツを付けるところと株主の住所が印刷されているということを前提に考えざるを得ない気がします。そうすると,やはり,現在,単に株主名簿の拒絶事由と同じような条文を議決権行使書面について新設するだけでは,現実に存在している問題への対処としては不十分であるかもしれません。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   少し時間の延長をお許しいただければと思います。部会資料7の後半部分,第3と第4,6ページ以下につきまして御意見等ございましたら御発言いただきたいのですけれども,いかがでしょうか。 ○梅野幹事 「第3 他の会社の株式等の取得と引換えにする株式の交付」について,まず,実務家の観点からコメントいたします。   M&A等の実務に携わっておりますけれども,これは産業活力強化法における公開買付けの特則を一般法化するものであって,実務家としては基本的に賛成できる御提案であろうと思います。ただし,部会資料8ページに記載されてあるとおり,譲渡益課税の繰延べが認められなければ,なかなか使われることにはならないだろうと思います。   また,(注2)の②ですけれども,取得する株式等の数の下限は効力発生日において子会社となるように定められなければならないとありますが,会社法上の子会社の概念は,実質的な基準によっていると思います。例えば,40パーセントの場合,プラスアルファの要件が必要かと思いますけれども,こういった場合をどうするのかというのは考えておく必要があると思っております。議決権の過半数を有する場合だけにするのか,その辺りをしっかりと決めておく必要があるだろうと思います。   さらに,子会社化としようとする場合だけではなく,子会社の株式の買増しのような場合にも適用できるようにする方が,使い勝手の良い制度になるのかなど,なかなかいろいろ難しい課題はあるかと思いますけれども,そういったことを考えております。   次に,検査役検査及び取締役の財産価額塡補責任の規律を及ばないとすることについては,理論的な説明が必要なのではないかと思いました。この御提案が意図するスキームと同様の結果というのは,現物出資による募集株式の発行によっても達成することができますけれども,その場合には,原則として,検査役検査及び塡補責任が適用されます。しかし,この御提案による場合には,株主総会の特別決議があれば,検査役調査とか財産価額塡補責任が適用されないことになるということで,この御提案は,想定される取引を現物出資的な取引ではなくて,合併類似の組織法的な行為と構成しているものと理解しております。   ただし,完全子会社化ではない単なる子会社化の場合に,どうしてそれが組織再編に引き寄せて考えられるのかというのは,分からないところがないではありません。つまり,組織再編というのは,通常,当事者同士の契約あるいは当事者会社の作成する計画によって行われていますけれども,この制度は,そういった形の取引ではなくて,親会社になろうとする会社と子会社の株主との間の個別取引の集合だと思うのです。そういった意味では,今まで組織再編と整理されていたこととは違う面があるように思います。   この制度の基になっている産業競争力強化法の特則,34条だと思いますけれども,これにおいては,主務大臣の認定というプロセスがあることによって,多分,検査役調査や塡補責任の規律を及ばさないことにしていると思います。けれども,この制度にそういった主務大臣の認定みたいなプロセスがあるわけではなくて,会社法という一般法の中で処理するものですから,こういう個別取引の集合の場合に,株主総会の特別決議があれば,どうしてこういった検査役調査等を適用しなくていいことになるのかという問題意識を持った次第です。   現物出資規制の趣旨についてはいろいろ考え方があるのは承知しております。株主間の価値移転を防止するための規制だという捉え方もあると理解はしていますが,通例であれば,債権者保護のために現物出資規制があるという位置付けだと思います。そうであるとすると,株主総会の特別決議とか反対株主の買取請求権があることによって,債権者保護の規定である現物出資規制を及ぼさなくてよいということにできるのかということの説明も必要なのではないかと思った次第です。もちろんこういった取引を円滑かつ迅速に行うメリットがございますし,実務家としては有り難い制度だと思いますので,前向きに御検討いただければと思いますけれども,こういったことを取り入れるとすると,将来的には現物出資規制の在り方自体を問うような端緒にもなり得る御提案なのかなと理解した次第です。   もう一点,御質問が最後あるのですけれども,(注2)①の原則とか(注2)の⑫にも買取請求権についても原則というような言葉が使われていたと思いますが,これは簡易組織再編と同様の手続を認めるものと理解しましたが,その理解に間違いがないかどうかについて確認させていただければと思います。 ○神田部会長 ありがとうございました。 ○竹林幹事 今,御質問がございました原則というのは,大枠としてこういった制度が認められるような場合については,簡易手続を設けることも視野に入れているということでございます。 ○神田部会長 ありがとうございました。 ○坂本幹事 参考資料26,3ページのところに,この第3の御提案について意見を入れさせていただいております。趣旨に関連するところですけれども,第4次産業革命と言われ,経済社会が急速に変化し,スピードが速まっております中で,我が国企業の中長期の企業価値向上という中で考えますと,機動的な事業再編等によって事業ポートフォリオの組替えを円滑に行えるような制度を整備していくことが非常に重要になってきていると考えております。   株式対価による買収取引においては,外国会社の買収ですとか,いわゆる部分買収と言われるもののほかに,大規模案件ですとか,新興企業など手元資金に余裕のない企業による買収が促進されるというメリットが認められているということですし,欧米においては広く活用されている手法だと認識しております。   先ほど御指摘がございましたように,我が国においては,なかなか会社法上の規制あるいは課税の繰延べが認められていないということが阻害要因となり,これまでなかなかこういった形での買収取引というのは行われてきていなかった,株式交換による場合以外にはそういう状況にあるということだと思っております。   こうした中で,こういった株対価による買収取引に係る譲渡益課税の繰延べ措置に関しましては,来年度,平成30年度税制改正要望ということで,当省といたしまして正式に要望を出しているところでございます。もちろん税務当局との調整ということになりますけれども,こういった税制上の措置と併せまして会社法上の規律の合理化ということが図られれば,こういった国際的にも事業再編の有効な手法ということになっております株対価による買収取引の活用に向けて,我が国においてもようやく大きく道が開かれることになるのではないかということで,是非前向きな御検討をお願いしたいと思っております。   なお,議論に当たりまして詳細なところは今後ということかもしれませんけれども,例えば,実務上ニーズのある手法といたしまして,買収会社の親会社の株式を対価とするような取引についても,同様な立法的な手当てをする必要がないか,こういった株対価の買収取引の円滑化に資する方向で是非議論をお願いできればと思っております。 ○神田部会長 ありがとうございました。 ○松井(智)幹事 第3についてですけれども,これは,今の法律の制度からいうと筋としては余り通らないかとは思うのですが,この形で子会社化をするというやり方をしますと,子会社側に残存する株主の保護ということでどうなるのかということがちょっと心配だということであります。   今でも,例えば,買増しをせずに塩漬けになっている外部株主であるとか,あるいは現物出資の申込みをしたけれども受け入れてもらえない株主というのは恐らくいるのだと思いますが,しかし,今回の手続の中では,株式交付親会社が申込者からどういう形で,どういうふうに株式を取得するのかということについて,公開買付規制がついておりませんので,解釈上許される範囲でどこから買うかということを恐らく決定するのだと思うのですが,そうすると残存した株主はそのままになってしまう。   この問題はいろいろなところにあるとは思うのですけれども,ここでまた拡大するかと思いますので,ちょっと一考する必要があるのではないかと思います。 ○神田部会長 ありがとうございました。 ○古本委員 第3の株式対価のTOBについての御提案なのですけれども,経団連の中では,余り,これは良い制度であるとか,ニーズが非常に高いという反応ではありませんでした。その理由は,税務上の取扱いの問題があるということと,やはり原則として株主総会の特別決議を要することから,キャッシュによるTOBに比べて手続が重くて機動性に欠けるためではないかと私は思っております。   従って,この制度を導入する上では実務ニーズを高めていただく必要があり,先ほど少し話が出ておりましたけれども,簡易の株式交付のような制度が入れば,あとは税制上の問題が解決すれば,パターンによっては,実務ニーズは高まると考えております。   それから,先ほど梅野幹事から御指摘があったこととは逆になるかもしれないのですけれども,取締役の財産価額塡補義務の免除については,これをこういう形で認めるのであれば,他の局面でも同じような考え方で拡大していくという考え方もあるのではないかと思います。例えば株式対価での事業譲受け,こういう時でも免除を検討できないかという気がいたしております。   事業譲渡の際に株式を対価とする場合,取締役会に提案する取締役には財産価額塡補義務が生じてしまうので,事実上,このスキームは実務では使われていない状況にありますが,事業譲渡の場合も,譲り受ける事業の価値につきましては,通常はファイナンシャルアドバイザーの評価といったものを踏まえて慎重に決定するのが一般的な実務となっておりますので,会社分割の場合になぞらえるのであれば,会社分割の時に求められるような手続,例えば,債権者保護手続を踏むとか,そういうことをすることによって,非常に重い財産価額塡補義務の免除の場面を増やすことを検討いただけないかと思っております。 ○神田部会長 ありがとうございました。 ○前田委員 この第3の案は,個別取引の集積というのではなくて,組織的な行為として構成するものなのだと思います。組織法的な行為と構成することによって現物出資規制を避けると。この考え方は,株式交換の制度を導入したときに採られたものであって,これは,今回の案のように,いわば部分的な株式交換とでも言うべき場合にも妥当すると思いますので,理論的には十分説明が付く制度だと思います。ただ,新たな組織再編行為を株式交換に準じてもう一つ作ることになりますので,恐らくは,「その他の規律の見直し」の1項目にとどまらず大規模な改正にならざるを得ないのではないでしょうか。例えば,株主総会決議に瑕疵があるような場合も,無効主張を制限する必要は株式交換と同様のはずですので,無効の訴えのような制度も必要になってくるのでしょう。ただ,実務上のニーズがあるのであれば,検討を進めることには賛成です。   それから,ついでに最後の第4,事前開示を充実することには賛成です。そして,開示規制だけで十分かというと,あるいは開示規制とともに,任意売却の場合の買取人は会社自身でもいいわけですから,例えば,効力発生日から3か月以内に代金の交付をしなければならないという具合に,期限を法定してしまうことも検討に値するのではないでしょうか。自己株式取得の財源規制との関係で「会社が買い取ることができない場合を除いて」という限定は必要でしょうけれども,会社自身が買えるのであれば,時期の見込みを開示させるだけではなくて,法律で期限を定めてしまうことも考えられると思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,齊藤幹事,沖委員,小林委員,青委員,野村委員の順番でお願いします。 ○齊藤幹事    第3についてでございますけれども,債権者保護との関係ですが,組織再編の場合には,株式交換の完全親会社となる会社につきましても,例外的に債権者異議手続が必要となる場合がございますので,そこと足並みをそろえる形で,債権者保護の問題は解決し得ると思います。   ただ,現物出資規制には,御指摘もありましたように株主間の公平さの確保,更には既存の株主の株式価値の希釈化を防止する有利発行規制を現物出資の場合に実質化するという側面もございます。簡易手続を設けることも視野に入れているということでございますけれども,このような行為が行われる場合には,通常,プレミアムを載せて株式を発行することになるのではないかと思いますので,有利発行規制とのバランスで過度な緩和にならないように配慮する必要があるのではないかと思います。 ○神田部会長 ありがとうございました。 ○沖委員 この株式交付の制度ですけれども,私も前田委員と同じでありまして,組織再編類似の行為として,株式交換と比較すれば,この制度を定めることは十分可能ではないかと考えております。   まず,株式交付子会社の方は,これは,株主は任意に株式を提供するわけですから特に問題にならないということだと思いますけれども,問題は,株式交付親会社の株主の保護の関係ですが,こちらは,今,御指摘がありました有利発行や希釈化の問題があるかと思いますが,この点は利害状況が株式交換と同じだと思いますので,株式交換と同等の手続と保護があれば可能ということになるのではないかと思います。併せて自己株式を交付することが可能かどうかという点も御検討いただければと思います。   問題は債権者保護の点ですけれども,これは,株式交付時点の債権者と将来の債権者に与える影響が問題になるかと思いますが,まず,交付時点の債権者との関係では,これは株式交換が財務内容に変更を起こさないことから保護の必要はないと考えていると思いますけれども,これと同じことが言えるのではないかと思います。   次に,資本金や準備金等の開示が将来の債権者との関係でどうかということですけれども,これは,支配取得に該当する場合が,企業結合会計を前提にして時価を基礎にして算定した範囲内で資本金,準備金を計上することになっている。これが株式交付でも同じということだと思いますので,一応手当てはされているということで,株式交換に倣えば制度設計は可能だと思いますので,是非御検討いただければと思います。   そうしますと,現物出資規制も検査役の調査であるとか財産価額塡補責任,これも同様の要件であれば適用除外とすることは可能ということになってくるのではないかと思います。   あと,制度設計について2点お願いしたい点があるのですけれども,1点目は,株式交付に当たって,株式交付子会社になる株主の株式をいつ取得するかという時点ですが,これは株式交換に倣って,親会社株式の交付がなされる時点に,同時に引換えで統一すべきではないかと思いますので,御検討いただければと思います。   もう1点は,この制度は公開買付けでエクスチェンジ・オファーの手段として使えるのではないかと思いますけれども,この場合,公開買付けでは株式と金銭の選択的対価ということが可能になっていると思います。そうしますと,株式と金銭の対価を併せて他の会社の過半数の株式を取得するような場合にもこの制度の利用は可能であるのかどうか,一応検討していただければと思います。もし仮に,可能ということであれば,この場合には,別途,債権者保護手続が必要になるのではないかと思われますので,御検討いただければと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   あと,小林委員,青委員,野村委員,田中幹事の順でお願いしたいと思うのですけれども,私事で大変申し訳ないですけれども,私,やむを得ない別の会合とちょっとぶつかっておりまして,途中で失礼させていただきますが,その順で御発言いただき,更に御発言がある方は,事務当局の竹林幹事に進行をお願いして続けていただくことをお許しいただければと思います。   大変申し訳ありませんけれども,それでは,小林委員どうぞ。 ○小林委員 先ほど梅野幹事からもありましたが,子会社化を想定した提案ということですが,これは,子会社化される企業の持株比率が50パーセントに満たない場合も当然あり得ると思いますので,この場合がどうなるのか,制度上,検討しておいていただきたいところでございます。   もう一つ,今,考えられているところと射程とは若干違うかもしれませんが,税法との関係もあるとは思います。こういう制度を,例えば,中小企業の事業承継にも使える可能性があって,そのようなことを考えると,一度に子会社化するのではなくて,複数回に分けて株式を譲渡していく,例えば,3分の1ずつとか,そのようなことも十分考えられて,このような場合も,この制度の射程にあると非常に我々としては有り難いということもあるので,そういうことが考え方として可能であるのかどうか,御検討いただけると大変有り難いということでございます。若干,制度の射程とは違うかもしれませんが,御検討いただければ有り難いと思います。 ○神田部会長 ありがとうございました。 ○青委員 第3の方ですけれども,こちらについては,開示の関係で対価として交付される株式の総額などが開示されるかということも重要かと思いますので,この点もしっかりと御検討いただく必要があると考える次第でございます。   それから,第4に関しましては,私どもから提案させていただいたことにつきまして取り上げていただいてありがとうございます。この提案に関しては,取り分け少数株主の財産がこうした手続の隙間のところで大幅に損ねられた事案があったという論点もございますので,是非導入をお願いできればと思う次第でございます。   それで,1点ちょっと御提案的なのですけれども,このキャッシュ・アウトに際して行われる端数処理に関しましても,基本的には任意売却ということになるかと思いますけれども,競売につきましても,可能な限りの開示を求めてはどうかと考えてございまして,例えばということでございますが,任意売却で行うのか競売によるのかの別とその理由であるとか,あるいは競売を行う場合には,いつ頃を予定しているのかという時期に関する見込みについても付け加えること等を通じて,いたずらに引き延ばしがされないというところを担保する必要があるのではないかと考える次第でございます。   それから,1点確認ですけれども,特別支配株主の売渡請求において,対象会社の事前開示事項,取り分け対価の交付の見込みに関する開示につきましては,売り渡すその株主が特別支配株主からその対価の交付を受けられなかった場合に,対象会社の取締役の会社法の429条に基づく損害賠償責任の追及などの手掛かりとなると解されているかと思いますけれども,今回の提案につきましても,併合等のときについて,同様の機能を有するということで理解しておるのですが,そういうことでよろしいのかどうかについて,お考えを教えていただければと存じます。 ○神田部会長 ありがとうございました。 ○野村委員 まず,第3の方のことですけれども,こちらにつきましては,やはり株対価TOBというM&Aの新しい手段を拡充していくこと自体は,今は,税制で止まっていますけれども,利用価値の高いものだと思いますので,是非制度化の方向で検討してもらいたいと思います。   ロジックとしては,先ほど梅野幹事から,いわゆる現物出資規制との整合性の問題の御指摘がありますけれども,そもそも株を対価として合併を行う場合についての最もオーソドックスな古典的な合併の本質論でも現物出資説というものが存在しているわけですが,にもかかわらず,現物出資規制というものは存在していないわけでありまして,言わば,価格の正当性を確保することができる何らかの手続というものが存在したり,あるいは代替措置があるということであれば,検査役の検査を要求する必要性はないだろうとは思います。   さらに,先ほど齊藤幹事からもお話がありましたように,これは現物出資規制に関しましては,株主間の利益調整の問題がありますけれども,これにつきましては,先ほど齊藤幹事が御指摘されたとおりだということで,私も同じ考えであります。   それから,第4の方ですけれども,こちらにつきましては,私は,問題意識は余り了解していなかったのですが,かつて会社法研究会のときにも東証から,実際に端数売却がなされた後,価格の変動等によって支払が滞ってしまって資金が手に入らない人たちがいるということで,少数株主,スクイーズ・アウトされる株主の保護のためには何らかの手当てが必要だという問題意識を共有いたしまして,その解決策としては,今の第4の御提案は必要不可欠なものではないかということで賛成したいと思います。 ○田中幹事 まず,第3点については,私も松井幹事と似たような懸念を持っておりまして,これは,恐らく株式対価での部分公開買付けのような仕組みになるかと思うのですけれども,その場合,イギリスその他のヨーロッパ諸国の規制では,部分買付けは,原則できないということになるのだと思うのですね。もっとも各国とも,それについては例外も設けていて,例えばイギリスですと,対象会社の株主が,部分公開買付けをすることそれ自体について多数決で承認したらできる。ただ,実際は,株主の承認に加えてテークオーバー・パネルの許可が要るので,部分公開買付けはそれほど簡単ではないとも聞いたことがあります。   そのように,部分買付けに制約が掛かっているのは,やはり強圧性の問題があると考えられます。つまり,公開買付け後に少数派として残ることの不安から,買付条件に不満があっても応じてしまうおそれがあるということです。これは,もちろん現金対価の部分交換買付けでもあることではあるのですけれども,株式対価ですと,株式の評価が現金ほど簡単ではないので,株主の不安というか不確実性が増大するということはあるかと思います。   これは,私,前から立法論として申し上げていることなのですけれども,部分公開買付けについては,イギリスのような制度にして,公開買付けすること自体について対象会社の株主の多数決による承認を得ればいいのではないかと。これはイギリスで実際に行われていることですので実現可能性もあると考えています。それは,本来は金商法の改正によって行われるべきことなのですけれども,このようにあえて株式交付という形で会社法の制度として仕組むのであれば,基本的に会社法での組織再編は,買収会社側と対象会社側の両方の株主総会の承認が必要なわけですから,対象会社の承認が必要になる,そういう制度にすればいいのではないかと考えております。   それと,十分に私,欧米の事情を分かっていませんけれども,果たしてこの株対価で,しかも部分買付けにするというのが,実際上どの程度ニーズがあるかというか,企業にとってはニーズがあるかもしれませんが,投資家に好まれているのかというのも少し気になっているところではありますので,十分なニーズの存在と税を含めた実現可能性を考慮して進めていただければと思います。   それから,第4点については,私は賛成したいと思います。このような事項を開示することは,現在の実務ではそれほど過重ではない,むしろ既に任意に行われている開示事項が多いかと思いますので,実務にとって負担ではなく,不適正なキャッシュ・アウトに対する歯止めの効果もあると思いますので,賛成したいと思います。 ○竹林幹事 よろしいでしょうか。   先ほど青委員から御質問いただきました点は,私どもといたしましては,御理解のとおり,損害賠償請求がしやすくなるのではないかという効果も期待して,こういう御提案をさせていただいているところでございます。 ○柳澤委員 審議時間が超過する中で発言の機会を頂きましてありがとうございます。今回の部会をもって提示された論点に対する議論が一巡する状況ではありますけれども,投資家として追加で御検討いただきたい論点がございまして,コメントさせていただければと思います。   これまで個別の論点として取り上げられてはきませんでしたが,投資家としては,総会議案の精査期間の十分な確保や企業との建設的な対話の充実のため,株主総会関連の日程に関する論点も重要な問題として検討する必要があるのではないかという課題認識を持っております。確かに,実務面におきましては,総会日程の分散や7月総会開催の動きも見え始めてはおります。また,こうした株主総会日程の変更に際しましては,総会実務への影響が伴いますので,発行体企業,監査法人あるいは我々資産運用業界など,各種ステークホルダー間の意見の集約や調整,他の日程への影響を考慮するなど克服すべき課題もあろうかとは思います。しかしながら,実務面での課題だけではなく,法制面におきましても重要な論点として検討していくことが必要ではないかと考えております。   まず1点目は,基準日以降に株主でなくなった者が議決権を行使する,いわゆるエンプティ・ボーティングの問題,2点目は,議決権を行使する際の十分な議案精査期間の拡大及び総会開催前の企業との対話充実に資する時間の確保といった問題が挙げられます。これらの観点に対して,具体的には基準日から株主総会開催日までの期間の短縮,招集通知の期限の前倒しといった規律の検討が考えられると思います。   1点目のエンプティ・ボーティングの問題を緩和するためには,基準日から株主総会開催日までの期間について検討しておく必要があるものと認識しております。第124条第2項では「基準日から三箇月以内」と定めていますが,これを短縮することが望ましいのではないかと考えております。   また,2点目の議決権行使の精査期間確保のためには,招集通知から株主総会開催日までの期間について検討を進め,十分な期間の拡大を図っていくことが投資家としての要望であり,第299条第1項では「二週間」と定めていますが,これを可能な限り前倒しすることが望ましいと考えております。   こうした株主総会関連の日程に関する論点につきましては,投資家として大変重要な問題と受け止めておりますので,論点として取り上げて,御議論いただければ幸いであり,追加的にコメントさせていただいた次第です。本件論点の重要性に鑑み,検討の俎上に載せていただければと考えております。 ○三瓶委員 手短に。今の御発言については私も賛成です。   私が手を挙げたのは,先ほどの田中幹事のお話に対して投資家がどう見ているかという一つのお答えと,あと,UKのテイク・オーバー・パネルの件です。   まず,株式対価のM&A等については,多くの投資家がこれは大いに賛成していることで,期待していることだと思います。というのは,企業価値向上の中で株式が高評価される状況で株式を有効活用するという意味では,その高評価の株をカレンシー,通貨として低評価の会社を買う,ただ買収をするだけではなくて,そういったことを有効にするという意味で株式交換は非常に大事です。ですから,これを是非促したいと思っています。   もう一つ,英国のテイク・オーバー・パネルのルール,30パーセント以上を取得するときには全株取得するというルールになっています。これは,中途半端に経営介入しないという意味であるのですけれども,これを日本で導入すると,敵対的買収防衛策的な意味合いが強くなってしまう懸念があります。既に日本の場合は金商法でSECと同じ5パーセントルールで大量報告の規制があり,特例措置がありますけれども,10パーセント以上は,それは特例措置もない。その5パーセントから始まるSECと同じルールで一旦その経営に無用な介入をする者を排除するような規制が既にあるところに,UKの30パーセント以上は全株取得を強制するという別のルールを持ってくると,二重構造になります。ちょっとこれは,屋上屋を架すことになりかねないので,ここについては全体のバランスという検討が必要かと思います。 ○田原幹事 先ほど柳澤委員からもお話があった件ですけれども,1回目の本審議会で申し述べさせていただいたとおり,株主総会日程に関連しまして,国内外の投資家の方々から,議案の検討期間が短いという御指摘を多々受けている状況にございます。この件については,事業報告等の電子化に関する議論の中でも,電子提供の日程について取り上げていただいているわけですけれども,そうした検討にとどまらず,検討をしていただければと考えているところでございます。その際に,エンプティ・ボーティングの問題があるというのは,コーポレートガバナンス・コードを策定する際にも,私どもも指摘を受けたところでございますので,そういったことも含めて,御検討いただきたいというのが一つ目のお願いでございます。   もう1点は,やはり1回目の本審議会でお話しさせていただきました会計監査人の報酬決定の在り方でございまして,前回の改正時に御検討をいただいたということで,今が検討すべき時かということについては御意見もあるかと思うのですけれども,例えば,足元で見ましても,会計監査人の交代時に報酬が低下する傾向が見られるなどの指摘も受けておりまして,継続的に重要な課題と考えられますので,必要に応じて本審議会で御検討いただければと考えているところでございます。 ○竹林幹事 他に御意見等ございますでしょうか。 ○尾崎委員 私から言うのもあれなのですけれども,やはり総会日程とか総会周りのことというのはいろいろと議論してきたわけで,その点で,法制度的にどういう問題があるかという切り口でもう一度こちらで議論していただけるならば,それは賛成したいと思っております。   ただ,今回のアジェンダというのでしょうか,この挙げ方自身がこういうことではないと理解していたのですが,そこを正面から,と実務の方から言われたわけですから,そういう時間が少し取れるのであれば議論していただければと考えます。 ○竹林幹事 ただいま頂きました御意見等もございますが,実現可能性ですとか審議時間等の関係等もございますので,事務当局で改めて少し検討させていただきまして,必要に応じましてまた御相談等させていただきたいと存じます。   本日は,予定していた時間も超過しておりますので,この程度とさせていただきたいと存じます。   次回でございますが,平成29年10月4日水曜日午後1時30分から午後5時30分までということで予定させていただいております。場所につきましては,この会議室でございまして,20階第1会議室となります。   次回は,株主総会に関する手続の合理化及び役員に適切なインセンティブを付与するための規律の整備に関する第二読会を行いたいと考えております。   それでは,法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会の第5回会議を閉会させていただきます。   本日も熱心な御審議を賜りましてどうもありがとうございました。 ―了―