法制審議会 少年法・刑事法 (少年年齢・犯罪者処遇関係)部会 第3分科会第3回会議 議事録 第1 日 時  平成29年11月17日(金)   自 午前 9時56分                          至 午前11時57分 第2 場 所  東京地方検察庁刑事部会議室 第3 議 題  1 起訴猶予に伴う再犯防止措置の在り方について         2 保護観察・社会復帰支援施策の充実について         3 社会内処遇における新たな措置の導入について         4 施設内処遇と社会内処遇との連携の在り方について         5 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○羽柴幹事 ただいまから,法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会第3分科会の第3回会議を開催いたします。 ○小木曽分科会長 おはようございます。   本日も朝から,お忙しいところありがとうございます。   議事に入る前に,前回の本分科会以降,部会の委員に異動がございましたので,御紹介いたします。   中里智美氏が委員を退任されまして,新たに伊藤雅人氏が委員に任命されました。   委員の異動は以上です。   また,本日も当分科会における審議の中で,家庭裁判所の実務の実情等について御質問があったとき等に対応いただくため,澤村幹事に出席いただいております。   では,初めに,事務当局から資料について説明をお願いいたします。 ○羽柴幹事 本日,配布資料として,配布資料8「更生保護における犯罪被害者等施策について」を配布しております。また,参考資料として「『起訴猶予等に伴う再犯防止措置の在り方』についての意見要旨」,「『保護観察・社会復帰支援施策の充実』についての意見要旨」,「『社会内処遇における新たな措置の導入』についての意見要旨」,「『施設内処遇と社会内処遇との連携の在り方』についての意見要旨」を配布しています。配布資料については,後ほど意見交換の際に御説明いたします。   参考資料については,これまでの当分科会第1回会議及び第2回会議での御意見を事務当局においてまとめたものです。これらは,本日の会議における意見交換の御参考としていただくため,事務当局の責任において,各委員・幹事の御意見の要旨をまとめたものでございます。 ○小木曽分科会長 ただいまの説明に,何か御質問ございますか。よろしいですか。それでは,審議に入ります。   初めに,本日の審議の進行ですが,第1回及び第2回の会議におきまして,論点表の大項目の2に掲げられた論点のうち,「起訴猶予等に伴う再犯防止措置の在り方」,「保護観察・社会復帰支援施策の充実」,「社会内処遇における新たな措置の導入」及び「施設内処遇と社会内処遇との連携の在り方」について,それぞれ1巡目の意見交換を行いました。また,「少年鑑別所及び保護観察所の調査・調整機能の活用」については,これら四つの論点を検討する中で,関連する点について意見交換を行いました。   これで,本分科会が担当する五つの論点についての1巡目の議論が終わりましたが,ここまでの議論を前提として,各論点に関する議論が相互に関連する点なども踏まえて,更に議論を深めるべき点などもあると思われますので,本日は,引き続き各論点について2巡目の意見交換を行いたいと思います。   各論点について,前回配布した四つの論点に関する検討項目案である配布資料3,5,6及び7をそれぞれ再度配布しております。   今回も論点相互に関係のある事項に及ぶ場合には,他の論点に関して適宜御発言いただいてよろしいかと思いますし,また,各論点につきまして,これまで述べられていない御意見等を追加的に御発言いただくことも差し支えないと考えます。   このような進め方でよろしいでしょうか。               (一同異議なし)   なお,今後の予定として,12月19日に,部会の第6回会議が予定されております。部会第5回会議におきまして,分科会における検討状況は,逐次,部会に報告することとされており,部会第6回会議においては,本日までの分科会の議論について中間報告を行うこととなります。本日の会議では,中間報告に向けまして,検討すべき論点が適切に顕出されるようにするという観点からも,御意見を頂きたいと思います。   それでは,2巡目の意見交換を行いたいと思います。   本日は,各論点について,論点表に掲げられた順序に従い,「起訴猶予等に伴う再犯防止措置の在り方」,「保護観察・社会復帰支援施策の充実」,「社会内処遇における新たな措置の導入」,「施設内処遇と社会内処遇との連携の在り方」の順序で2巡目の議論を進め,「少年鑑別所及び保護観察所の調査・調整機能の活用」につきましては,これら四つの論点を検討する中で,必要に応じて議論したいと思います。   まずは「起訴猶予等に伴う再犯防止措置の在り方」について,2巡目の意見交換をしたいと思います。   1巡目の議論では,福祉的支援が必要な者に対して,いわゆる「入口支援」の取組を拡充・整備して対応すべきとの御意見や,社会内における監督・指導等の一定の働き掛けにより改善更生が期待できる者に対しては,検察官が起訴猶予を前提とし,誓約事項を課した上で監督・指導すべきとの御意見,これに対しては慎重な検討を要するのではないかとの御意見,少年鑑別所を活用すべきとの御意見や,これについては限界があるのではないかとの御意見等がありました。   お手元に,前回までの御意見を事務当局が取りまとめた「『起訴猶予等に伴う再犯防止措置の在り方』についての意見要旨」が配布されておりますので,それも参考に,更に検討課題や問題点などについて議論を深めたいと思います。もちろん,これ以外に新たな御意見があれば,更に御発言いただきたいと思います。   それでは,御意見がある方は挙手をお願いいたします。 ○保坂幹事 いわゆる「入口支援」の拡充・整備につきまして,意見要旨の1の一番上の一つ目の○のところにもございますが,第1回会議で,現在,検察庁で行われているいわゆる「入口支援」の取組について,これを拡充すべきという意見がございましたが,具体的にどう拡充することが考えられるのかという観点から若干補足をいたしたいと思います。   現在,検察庁で行われている「入口支援」の取組は,高齢者等の社会的弱者に対する福祉的支援が中心です。18歳及び19歳を含めた若年者であったとしても,この福祉的な支援が必要な者に対しては同様の支援を行えばよいということになろうかと思われますけれども,そういった若年者ならではの問題性に対する対応として,どういうことが考えられるのか検討する必要がございます。   18歳及び19歳を含めた若年者の問題性,特性に応じた方策としましては,就労の支援ですとか家庭環境や交友関係を中心とした生活環境調整が重要ではないかと考えられます。そういった若年の犯罪者の中には,就労支援とか生活環境調整を支援として行うことができれば更生できる者もいると思われますので,例えば,就労支援で言えば,公共職業安定所などにその対象者をつなぐことで,連携先を拡大・拡充していけば,入口支援の取組はより良いものになっていくと考えられるところでございます。   他方で,就労支援とか生活環境調整というものは,1回やればそれでよいというものではございませんで,やはり継続的な支援が不可欠になってくると思われますし,若年者について言いますと,時間をかけた粘り強い対応が必要になってくるのではないかと思われます。そういたしますと,18歳及び19歳を含めた若年者の問題に対応するためには,一定の働き掛けと言いますか背中を押すようなことをしながら,継続的に就労支援とか生活環境調整を行うことができる仕組みを考える必要があるのではないかと思うところでございます。 ○小木曽分科会長 第1回会議において,太田委員や羽間委員から,社会内における監督・指導等の一定の働き掛けによって改善更生が期待できる者に対しては,検察官が起訴猶予を前提として,「誓約事項」という言葉だったと思いますが,何らかの守るべき事項を課した上で監督・指導するべきではないかという御意見があったと思います。そのような仕組みを設けることの是非は論点になると思うのですが,具体的に,例えば,誓約事項の内容や仕組みといったもの,あるいは期間といったことについて検討することが有益と考えられるので,もう少し詳細にお話しいただければと思いますが,いかがでしょうか。 ○太田委員 今後の検討のためにも,私の持っている少し具体的なイメージをお話ししたいと思います。誓約事項に関しましては,まず,主に対象者が,再び罪を犯すことなく健全な社会生活を送るために遵守するべき一般的な事項と,それから,犯行の背景になっているような特性とか問題といったものを改善するために,対象者が履行すべき事項の2種類があるかと思っております。   一般的事項としては,例えば,善行を保持すること,届け出た住所に定住することとか,検察官からの呼び出しや訪問に応諾すること,そういったものが典型ではないかと思っています。   また,被害者がいるような犯罪の場合には,加害者を処罰しないことになるわけでありますので,被害者にも配慮しなければいけないだろうと思います。そこで,一般的事項に入るかと思いますけれども,例えば,被害者への接近禁止など被害者を保護するような事項とか,被害者へ賠償や謝罪をすることを設定することも考えられるのではないかと思います。   一方,対象者が履行すべきもう一つの誓約事項としては,例えばですけれども,特定の犯罪傾向を改善するために,一定の処遇とか,社会貢献活動を一定時間行うことが考えられるのではないかと思います。例えば,比較的軽微な窃盗ばかりを繰り返す窃盗犯に対しては,認知行動療法などの処遇を実施することが考えられるかと思います。   こうした二つの誓約事項については,やはり一定の期間を設定して監督したり指導したりする必要があろうかと思いますけれども,その期間をどれぐらいにするかということについては,いろいろな基準といいますか考え方があろうかと思います。日本のかつての横浜方式,更生保護措置付起訴猶予では,当時の更生緊急保護法を根拠としていたこともありますけれども,その法定期間の関係から当時は6か月とされておりました。現在,更生緊急保護の期間は,平成14年の法改正により,6か月の一般法定期間プラス特別法定期間で1年ということになっていますが,必ずしもこれと一致させなければいけないということはないかとは思います。   日本の起訴猶予者の再犯状況を調べた調査はかなり限られておりますけれども,その結果を見ますと,大体,再犯の可能性が高いのは2年間ということになっておりますので,上限を2年とすることも考えられますが,やや長すぎるかとも思いますので,やはり上限は1年辺りが妥当なのでないかと考えています。   以上,このようなイメージでございます。 ○保坂幹事 今,太田委員が御発言なさったことに関連して,検察官が,仮に誓約事項と言いますけれども,それを設定するという仕組みを設けることについては,太田委員からも御発言がありましたが,どのような内容の事項を設定するのか,それをどのように選択していくのかということが非常に重要ではないかと思われます。   法的に見た場合に誓約事項を課すことがどのような意味を持つのかとか,検察官の権限との関係でどのような関係,位置付けになるのかということとともに,どのような内容の事項であれば必要性があって,かつ相当と言えるのかということも,今後検討していく必要があると感じたところでございます。 ○田鎖幹事 具体的に更にお考えがあれば教えていただきたいという意味で質問させていただきたいのですけれども,まず,最初の保坂幹事の御意見の中で入口支援に関するものですが,特に若年者についてどういった仕組み,働き掛けが考えられるかという御発言でした。典型として,これは若年者に特化したスキームがあった方が良いのではないかという観点からの御発言なのかということが1点です。   それから,確か分科会の第1回会議の議論の中でも,必ずしも必要な福祉的支援イコール更生緊急保護の枠組みには限られないだろうという御指摘も委員・幹事の中から出てきていたと思うのですけれども,先ほどの御発言の中には,支援を要する若年者に対して継続的に背中を押すような一定の働き掛けというような御発言があったのですが,これは,従来の更生緊急保護の枠組みにとらわれない,もうちょっと広いものをイメージしての御発言なのでしょうか。それをまず伺いたいと思います。 ○保坂幹事 まず,私が若年者の特性に応じた対応ということで申し上げた趣旨は,若年者に特別なことでは必ずしもなくて,少なくとも今やっている取組が,若年者まで果たしてカバーが行き届いているのかという観点からすると,若年者ならではの問題性にも対応できるように,そこを拡充しておくべきということでございまして,その拡充された結果,若年者以外の成人でも,それに適するのであれば,その支援ルートに乗っていけばよろしいのではないかと思っております。   それと,今,私が申し上げた背中を押していくような働き掛けについては,更生緊急保護に限ってという趣旨ではございません。その後のテーマであります起訴猶予に伴う働き掛けのところにも徐々に及んでくるわけでございますけれども,今の支援ですと,例えば福祉事務所につないで,そこに行けば,その人はその支援を受けられて立ち直っていけることになるわけですが,その1回きりでは済まない場合もあって,そうなると,ある程度の期間をかけて継続的に働き掛けていくことも必要になってくるのではないかという趣旨でございます。 ○田鎖幹事 分かりました。実はそこがこれまでの議論の中で私もはっきりしなくて,確か分科会第1回会議でも述べさせていただいたと思うのですけれども,意見要旨の1番目のいわゆる「入口支援」の拡大・整備についての基本的な枠組みというものが,2番目の起訴猶予に伴った働き掛けを行うこととも連動し得る,絡んでくるということで御提案がなされていると考えますと,それを見据えた上で,もう1回,1番について,あるいは2番についてそれぞれ見直すと新たな視点で出てくる課題があるのではないかと考えました。 ○太田委員 今の点ですけれども,私が思っているイメージといたしましては,現在の任意の働き掛けや入口支援の拡充・整備も,必ずしも現在の更生緊急保護的なものに限定されないものはあるであろうと思いますし,これに対して,それをもう少し超えた積極的な働き掛けという点では,いろいろな枠組みを整備した上での新しい制度を作る可能性もあるかとは思っております。 ○田鎖幹事 これもまたお尋ねになってしまって恐縮なのですけれども,先ほど太田委員が具体的なイメージをお話ししていただいたわけですが,これは,保護観察という枠組みを使って行うというようなイメージなのか,必ずしもそうでないということなのか,その辺を教えていただけますでしょうか。 ○太田委員 保護観察というのは,刑罰,例えば,全部執行猶予に付される付随処分であったり,刑罰である自由刑で仮釈放にした場合の保護観察という,いずれにしても刑罰ないしは刑罰に付随したようなものであったり,いわゆる保護処分や保護処分に付随した内容のものであるのに対して,起訴猶予の場合の働き掛けというのは,作用としては似たような働き掛けがあるかもしれませんが,法的な位置付けは,やはり保護観察とは異なるものであろうと思います。諸外国の例を見ても,一応そういった刑罰や処分における社会内処遇と,こういった起訴猶予に付随させる社会内処遇といいますか働き掛けは,制度的には区別しているところであろうかと承知しております。 ○田鎖幹事 そうしますと,私が以前から申し上げていることと重複するのですけれども,やはり作用として似ているということについて,先ほど保坂幹事から御発言もありましたが,検察官の権限との関係等も踏まえて,そこにどのような課題があるのか,果たして許容できるのかということは考えていかなければいけない重要な課題だと思っております。 ○太田委員 今のお話でございますが,検察官が行うべきかどうかということや,それから,この意見要旨のところにも反対意見として裁判所が関与すべきではないかということが書かれておりますので,それとの関係で,第1回会議のときにも私が申し上げましたとおり,確かに,裁判所が有罪認定をした上で犯罪者に一定の働き掛けを行う仕組みも考えられないわけではないと思いますけれども,その一方で,更生への不安から,働き掛けや処遇の必要性はあるのですが,犯した罪が軽微であることなどから,不起訴相当事例のような場合に,処遇のためにあえて起訴するのが不相当だという場合もあるでしょうし,起訴された場合には,結果的には本人への手続的な負担とかラベリングといったものが生ずることを考えれば,やはり起訴猶予の段階で一定の再犯防止措置を講ずることができる仕組みが別途必要ではないかと思っております。   それから,検察官の役割ということに関しましては,確かに,検察官は公訴官や訴追官に徹すべきである,検察官は犯罪者の処遇とか再犯防止には積極的に関わるべきではないという考え方もあろうかと思いますけれども,現在の刑事訴訟法でもそのような建前になっているとは思えませんし,検察官に捜査官や刑の執行官としての役割を負わせているほか,大幅な訴追裁量権を与えているわけでありますから,検察官にも被疑者の再犯防止とか改善更生に向けた一定の責務と権限を持たせるのは,むしろ当然ではないかと思います。検察官は,軽微な事件については単に起訴を放棄すればよいのであって,その後の再犯とか改善更生などあずかり知らぬというのでは,私は,かえって無責任であって,刑事政策的な観点からも不相当ではないかと考えております。 ○保坂幹事 続けてでございますけれども,意見要旨の「反対意見②」と書いてあります「被疑者の同意」についてです。ここに書いてありますように,誓約事項を設定するについて,被疑者の同意を得たとしても,それは任意の同意とは言えないのだという御意見がございました。この御意見は,検察官が誓約事項を設定するについて同意がなければならないという前提に立っているように思われるわけです。そういたしますと,そもそも検察官が誓約事項を設定し,その誓約事項を確認していくことについて,被疑者の同意を得ることが法的に要請されるのかどうかについて検討する必要があるかと思われます。   現行の刑事訴訟法でいいますと,同意を要するとされておりますのは,例えば第326条によりまして,書面を証拠とすることの「同意」ですとか,即決裁判手続によることの「同意」とがございます。これについては,前者であれば反対尋問権の放棄であったり,後者であれば通常裁判を受ける権利の放棄ということですので,同意を要するとされていると理解しているわけでございます。   それで,このテーマについてでございますけれども,検察官が誓約事項を設定したといたしましても,被疑者がこれを遵守する法的義務が発生するわけではございません。検察官がそういう誓約事項を設定した上で,被疑者がこれを遵守すれば,被疑者の改善更生を示す情状として考慮され,逆に遵守しなかった場合には,改善更生を示す情状が乏しくなるということになるわけです。それで,誓約事項を遵守しないで有利な情状が乏しいため,検察官が被疑者を起訴したとしても,それは,もとより訴追裁量を有する検察官が,その有利な情状がなかったことやその他の事情を考慮して,起訴が相当という判断に至ったから起訴したということであると考えた場合に,被疑者の同意を得ることがどのような理由で法的に要請されるのかという根拠についても検討していく必要があるのではないかと思うところでございます。 ○太田委員 今の同意の点ですけれども,被疑者が犯罪行為を行ったということが,捜査の結果きちんと確認されていて,被疑者もそれを認めているということが前提でありますけれども,それを前提とすれば,本来は,犯罪を行っているわけですから,起訴されて刑罰を受けるのが本筋であるわけであります。   ただ,一定の働き掛けをすることで更生と再犯防止が図られることに期待して起訴猶予とするわけでありますので,元々起訴するか起訴しないかという決定に被疑者の同意が必要ないように,理論上,そこには同意が必要ないという考え方もあるかもしれないとは思っております。   ただ,検察官が働き掛ける目的は何かということを考えた場合に,それは,被疑者の改善更生を図ることにありますので,本人がその働き掛けに素直に応じようとしないという姿勢が初めからある,要するに同意しないということはそういうことなのですが,そういう働き掛けに応じないという姿勢が初めからあるとすれば,改善更生の実効性はもはや期待できないので,起訴するしかないと思われます。   特に,社会に戻して,社会生活を送らせながら一定の措置や働き掛けを受けさせるという社会内処遇の特質,本質から考えますと,働き掛けや更生に対して,本人の自発性が求められているわけでありますから,誓約事項の内容や意義をよく説明して,本人にその誓約事項を遵守する意思があるのかどうかを確認するとともに,本人に更生への意欲を持たせることが必要でありますから,働き掛けの実効性を確保して,本来の目的を達成する上でも同意を必要とする,こういう制度にするのが望ましいのではないかと考えております。 ○田鎖幹事 実は私もこの同意の点が気になっておりまして,「若年者に対する刑事法制の在り方に関する勉強会」の取りまとめ報告書を見ますと,「同意を得た上で」というような,あるいは「意に反しないように」というような記載があったのですけれども,確かに,分科会の第1回会議で,特に同意というものは積極的に行うべきという委員・幹事の方からではなくて,私が同勉強会の取りまとめ報告書を読んだ前提で同意の問題を出したのかと私も理解しまして,気になっておりました。   そうなると,遵守義務はないのだから,一方的に誓約事項というものは設定しますよと,ただし,それを守るというか,それに従うかどうかは見ますよということになると,遵守事項ではなくて誓約事項という言葉だったのですけれども,そうすると,今度,誓約ということは,言葉だけを見ますと,やはり自発的に私がこれを守りますということで誓約する事項なのかなと思いまして,ちょっと同意が不要というところと,この誓約事項の設定ということの関係がよく分からなかったのですが,もうちょっと具体的に御解説いただけますでしょうか。 ○保坂幹事 「誓約事項」というのは,仮にそういう名前を付けたということでございまして,誓約だから自発でなければならないということを意味しているわけではなくて,要するに,検察官と被疑者との間で,「これをやるといいよね」とか,「こういう事項を守りましょうね」ということを取り決めたとした場合に,検察官がそれを見て,その後の訴追裁量の判断にいかすということでございますので,誓約という言葉を使ったから自発ということまでを意味する趣旨ではないのではなかろうかと思うところでございます。 ○小木曽分科会長 今,取りあえず「誓約事項」と言っているだけという趣旨ですね。 ○田鎖幹事 そうすると,すみません,私は元々の考えに引っ張られてしまっているので適切にかみ合ったことが言えないかもしれないのですが,もちろんこの意見要旨の2番目の起訴猶予に伴う一定の働き掛けという場合には,必ずしも高齢であったり障害であったりという方だけを念頭に置いているわけではない,もっと広いものなわけですけれども,そういった方も含まれ得るというスキームになると思うのですね。そうすると,実際に今,現場でも困難に直面されている事例があると思うのですけれども,実際に知的障害のある方とか認知症のある方との間で,どうやって約束事の取決めのようなことが有効にできるのかという問題もあろうかと思います。   それから,それとの関連ですと,まとめていただいた意見要旨の中にも,確か,弁護士の関与というものもあったのですけれども,これも被疑者国選弁護制度というものは,当然,身体拘束されているということが前提にありますので,とても全体的にカバーできるような状態にはなっていないということ,かつ,最初は身体拘束されていても,釈放されると,当然そこで弁護人もいなくなるという問題もありまして,やはり一旦釈放されても,その後もきちんと頑張っていけるのかとか,場合によっては,誓約した内容の変更とかも考えるということになると,それへの対応を被疑者サイドできちんとできるように弁護人の援助が必要だと考えると,現行では,少なくとも国選ということではできませんということになりますので,予算的にも,法制度的にも,そういう視点から見ると重要な課題をはらみ得るのかなと考えます。 ○小木曽分科会長 今,意思疎通の困難な方が対象者である場合,それから,弁護士又は弁護人の関与という2点の指摘がありましたが,これについてはいかがですか。 ○保坂幹事 今おっしゃった弁護士又は弁護人の関与というところについては,被疑者の改善更生ということを見た場合に,弁護人にも御尽力いただくことは非常に重要です。弁護人からも被疑者に対していろいろアドバイスしていただくことは重要なことだとは理解しておりますけれども,先ほど申し上げたような,検察官が何らかの事項を設定して,それを守れたかどうかを見て起訴するかどうかを判断するという仕組みを仮に考えた場合に,弁護人なのか弁護士なのかは分かりませんが,どういう局面で関与することが法的に必要になってくるのか,「できればいたほうが良いよね」ということなのかどうか,今申し上げた仕組みの持つ法的意味合いを更に検討した上でどうするのかという問題ではないかと思います。 ○田鎖幹事 正におっしゃるとおりだと思いまして,それが起訴につながるということであれば,それは大きな問題ですので,それが弁護人なのかどうかは別として,やはり専ら被疑者の側に立った専門の援助というものは必要になってくるのではないかと思います。もちろん,それ以前の問題として,そのスキームで良いのかという問題はあるのですけれども,一応問題としては出てくるだろうと。ですから,あれば良い,ベターだよねというよりは,もっと重要な意義があるのではないかと私自身は考えます。 ○太田委員 私もこの起訴猶予に際しての一定の働き掛けに,弁護士関与の手続が法的に必須なものかどうかということは,今後検討しなければいけないことかとは思っております。ただ,事実認定といいますか,被疑者が犯罪行為を行っているということについての確認においては,被疑者の権利保障という点で,弁護人がいる場合はいいですし,弁護士の方が関わってくれれば権利保障という点ではいいと思います。ただ,これは元々の起訴猶予に内在する問題であろうかと思います。犯罪事実が確認された後に,この一定の誓約事項の働き掛けを課す段階について弁護士が関わることが必要かどうかということは,今後検討すべき点であろうかと思いますが,ただ,後見的役割といいますか,弁護士もただ被疑者の権利保障さえしていればいいわけではなくて,犯罪者が改善更生していくことは本人にとっての幸福にもつながることでありますので,そこに関わる後見人としての役割といいますか,そういう形で弁護士の方若しくは弁護人の方が,起訴猶予に際してどういう働き掛けをするのかとか,その意味とか法的な効果について被疑者に説明したり,その後の処遇に関しても見守っていただく仕組みができれば非常に良いかなと思います。   刑が確定した後の段階で,刑事弁護に関わった弁護人の方が,その後の犯罪者の更生に関わってくださる方は本当に一部だと伺っておりますので,この起訴猶予の働き掛けの部分に弁護士の方が関わってくださるというのは,後見的役割としても意味があることではないかと考えております。 ○小木曽分科会長 意思疎通が難しい方という点については,何かございますか。 ○保坂幹事 誓約事項の設定だけの局面ではなくて,例えば,取調べの中でそういうやり取りをするのであれば,そもそも供述を採取する時点で,知的能力の問題がある人に対しては,それをいかにうまく適切に対応するかということはもとよりある問題でございますので,その誓約事項の設定だけのために何かそういうことが必要ということでは必ずしもないのだろうとは思います。もちろん,知的能力に乏しい方であれば,分かりやすく趣旨等を説明することは,いずれにしても必要なことだろうとは思うところでございます。 ○田鎖幹事 今の御説明を受けての感想めいたものになってしまうかもしれないのですけれども,申し上げますと,今考えられているのは,その被疑者,対象者本人の持っている困難とか問題性に着目して,この人は働き掛けが必要だし,それをすれば改善更生が期待できるものですので,そうすると,当然対象としては,事案としてはかなり軽微なものが含まれるわけですね。   なのですけれども,そこに働き掛けを行うことによって,最終的には,場合によっては本人の行状次第で起訴につながるかもしれないと。それは当然,現在の起訴猶予のスキームの枠組みの中でも,犯罪後の状況を考慮することによって一応可能ではあるのですけれども,実際問題として,やはりそれほど多くは行われてこなかったものだと思うのですね。それとの比較で考えますと,やはり軽微な事案であっても本人が抱える困難によって最終的には起訴につながる可能性が高くなる,そういう効果を持つものだとすると,元々どんな事件であっても,例えば知的障害のある人については,それは問題があるのだからというレベルとは,もうちょっと違う考慮が必要になるのではないかと思います。当初の,働き掛けをして改善更生を図るという点では本人の利益のために行うものが,最終的に起訴につながるわけですから。訴追裁量が広くて,結局どんなものでも起訴できるのだということを言ってしまうと元も子もないのですけれども,飽くまでも現在現れている事象との比較で言うと,やはりそう簡単に見落とすことのできないポイントではないかと私自身は考えます。 ○小木曽分科会長 他はいかがでしょうか。この程度でよろしいですか。   それでは,「起訴猶予等に伴う再犯防止措置の在り方」につきましてはこの程度にいたしまして,続いて「保護観察・社会復帰支援施策の充実」について2巡目の意見交換を行いたいと思います。   本日の論点のうち,「保護観察・社会復帰支援施策の充実」等における1巡目の意見交換では,犯罪被害者等の視点に立った処遇の充実等に関しての御意見がございましたことから,2巡目の意見交換を行う上では,更生保護における犯罪被害者等施策の内容や運用状況について把握しておくことが有益ではないかと思います。ですので,本日はまず,これらの点について事務当局から説明を伺いたいと思います。それでは,説明をお願いします。 ○今福幹事 配布資料8を用いまして,更生保護の立場から行っている犯罪被害者等施策の概要について説明いたします。   1ページの上のシートですが,更生保護における犯罪被害者等施策の内容である四つの制度の全体像とその実施体制等を整理したものです。   一つ目は,左上にある地方更生保護委員会による「意見等聴取制度」です。   二つ目は,右上にある保護観察所による「心情等伝達制度」です。   三つ目は,左下の「被害者等通知制度」です。   四つ目は,右下の「相談・支援」です。   意見等聴取制度,心情等伝達制度及び被害者等通知制度につきましては,各制度の利用を希望する旨の被害者等の方々からの申出に基づいて実施されます。   また,ただいま申し上げました各制度の実施に当たりましては,シートの一番下の「実施体制」にありますとおり,全国の保護観察所に,専従の保護観察官と保護司が配置されており,それぞれ被害者担当官,被害者担当保護司と呼ばれております。   1ページの下のシートからは,各制度の概要を整理しております。   まず,1ページの下のシートは,意見等聴取制度の概要でございまして,地方更生保護委員会が,仮釈放審理や少年院からの仮退院審理において,対象となる被害者等の方々から加害者の仮釈放等に関する意見や,被害に関する心情等を聴取するもので,聴取した意見等は,仮釈放等を許すか否かの判断や,仮釈放等を許す場合における特別遵守事項の決定に当たって考慮されるほか,その後の保護観察の実施に当たっても考慮されます。   被害者等から意見等を聴取する方法は三つございます。   一つ目は,地方更生保護委員会の委員,すなわち,当該加害者の仮釈放等の許否を判断する合議体の構成員である委員が,被害者等から直接意見等を聴取する方法です。二つ目は,被害者等が,その意見等を記載した書面を地方更生保護委員会に提出する方法です。三つ目は,地方更生保護委員会の事務局に所属する保護観察官が,被害者等から意見等を録取する方法です。   実施件数につきましては,下の棒グラフのとおり,増減を繰り返しながらもおおむね年間300件程度で推移しております。   2ページの上のシートは,心情等伝達制度の概要です。   この制度は,保護観察所が,被害者等の方々から申出があったときには,被害に関する心情等や,保護観察中の加害者の生活や行動に関する意見を聴取して保護観察中の加害者に伝えるものです。対象となる被害者等の方々は,意見等聴取制度の対象と同様です。   心情等伝達においては,被害者担当官が,被害者等の方々から心情等を聴取して書面化いたします。この書面を心情等聴取書と言います。そして,加害者の保護観察を担当する保護観察官が,この心情等聴取書を保護観察対象者の面前で朗読することによって心情等伝達が行われます。   実施件数については下の棒グラフのとおり,平成26年以降は年間150ないし160件程度で推移しております。   2ページの下のシートでは,被害者等通知制度を整理しております。   この制度は,被害者等の方々から通知を希望する旨の申出がなされている場合には,被害者等の方々に対して,地方更生保護委員会からは仮釈放等審理に関する事項として,審理の開始・終了の年月日や審理結果等を通知し,保護観察所からは,保護観察の開始・終了の年月日や,保護観察中の処遇状況として特別遵守事項の内容,保護観察官・保護司との接触状況などを,それぞれ書面で通知するものです。   また,被害者等の方々が,意見等聴取制度や心情等伝達制度に係る申出の機会を逸することがないように,例えば,仮釈放等審理の開始年月日を通知する際には,関係するリーフレットを同封するなどして,両制度の周知を積極的に行っております。   通知件数については下の棒グラフのとおり,毎年増加しており,直近の9年間で約4倍となっております。   3ページの上のシートは相談・支援に関するものです。   この取組は,保護観察所が,犯罪被害者等の方々からの相談に応じる中で,各種制度や刑事手続の内容を説明したり,関係機関の紹介を行うなど,相談ニーズに応じて必要な情報の提供を行います。   対象となる被害者等の方々は,先ほど御説明した三つの制度よりも広く,加害者の状況にかかわらず,被害者等やその親族であれば,いつでも相談することができます。   また,相談・支援の内容が,加害者の再犯防止や改善更生に資するものである場合には,その内容を加害者の保護観察を担当する保護観察官と共有し,例えば,謝罪や損害回復などの誠実な対応を促すなどの指導や,被害者等への接触を禁止する特別遵守事項を新たに設定するなど,相談・支援の内容も踏まえた保護観察処遇の実践に努めております。   3ページの下のシートと4ページの上のシートは,被害者等施策に関係する更生保護法の条文を掲載しております。   配布資料8の説明は以上です。 ○小木曽分科会長 ただいまの御説明に質問がございましたら,挙手をお願いいたします。   よろしいですか。   それでは,以上の御説明も踏まえまして,「保護観察・社会復帰支援施策の充実」について,意見交換を行います。   1巡目の議論では,新たなプログラムや処遇方法を開発し,遵守事項として設定可能にすべきではないかとの御意見,これに対して慎重な検討を要するとの御意見,犯罪被害者等の視点に立った保護観察処遇の充実を図るべきであるとの御意見,刑の執行猶予中の保護観察の仮解除の活用促進及び解除を検討してはどうかとの御意見,更生保護施設等で指導監督を行うことを検討してはどうかとの御意見や,これに対して慎重な検討を要するといった御意見などがございました。   これらの御意見を事務当局がまとめました「『保護観察・社会復帰支援施策の充実』についての意見要旨」も参考になさりつつ,御提案のあった仕組み・取組等の意義や検討課題について更に議論いただきたいと思います。もちろんそれ以外の新たな御意見があれば,更に御発言いただきたいと思います。   御意見がある方は挙手をお願いいたします。 ○太田委員 意見要旨の1のところにあります「専門的処遇プログラム等の充実」ですけれども,ここに「新たなプログラム,体系化されたものでない一定の処遇方法」とありますが,「体系化されたものではない」というのは少し語弊があるかと思いますので,私が前回発言したことの確認といいますか趣旨を御説明させていただきたいと思います。以前に申し上げましたのは,新たな専門的処遇プログラムや高度に体系化されたものでなくても,一定の処遇方法等を開発するか,あるいは整備して遵守事項として設定することが可能ではないかと申し上げたわけであります。要するに,本質的な問題は,特別遵守事項の対象とすべきプログラムはどのようなものであるべきかということだと思います。   私が申し上げた趣旨といたしましては,例えば,窃盗事犯,特に窃盗を繰り返す者とか,放火犯とかストーカー,それから飲酒の問題があるような犯罪者など,いろいろな類型の犯罪者に対して処遇を行っていく上で効果が期待されるような処遇方法を新たに開発することも考えられますし,これまでの実務においても既にいろいろな処遇が行われておりますので,そういったものを整備することが有益ではないかということであります。その際には,現在の専門的処遇プログラムというものは,認知行動療法に基づいているため非常に高度に体系化されているという性質を持っておりますけれども,そういうような体系性が非常にはっきりしているものでなくても,一定の処遇方法とかガイドラインの設定などの形式によってある程度体系化されたプログラムであれば,だから「体系化されたものでない」というのはちょっと語弊があると思うのですけれども,ある程度体系化されたプログラムであれば,特別遵守事項として設定するのにふさわしいと思いますので,それを遵守事項として設定した上で,本人が改善するように積極的に促していくことが重要であり,それが,様々な問題性を抱えた保護観察対象者の改善更生とか再犯防止にとって有効ではないかと思います。   さらには,そういうプログラムがどのような対象者にどういう効果があるかの見極めをすることが非常に重要でありますので,そのためのアセスメントツールといったものを開発していくこととセットで検討するべきであろうと思います。   現在の特別遵守事項として設定が可能なプログラムは,法務大臣が指定することになっておりますけれども,これから整備したり開発したりしていくという処遇方法は,新たに法務大臣が専門的処遇プログラムとして指定した上で,遵守事項として義務付けていることもあるでありましょうし,私が言った趣旨からすれば,ガイドラインなどである程度体系化されていて効果が期待されるものについては,他の遵守事項として義務付けていく方向もあるのではないかと思いますので,今後どのような形で遵守事項としていくのかということを検討する必要があるように思います。 ○保坂幹事 意見要旨の1の下から二つ目の括弧のところの「犯罪被害者等の視点に立った保護観察処遇の充実」ということでございますが,前回の会議で太田委員から,被害者の損害回復に努めること,損害回復を果たしていくための就労・行動に努めることというのを特別遵守事項として設定するか,それが難しいようであれば,生活行動指針で定めて,それに基づいて働き掛けるための規律を設けるべきではないかという御意見がございました。   そこで,その特別遵守事項に設定するのが難しいのかどうかという点に関連いたしまして,現行法上の特別遵守事項というものがどういう考え方から設けられているのかということを事務当局から御説明いただければと思います。 ○今福幹事 前回の会議で太田委員から御指摘いただいたとおり,更生保護官署としましても,保護観察対象者による被害者への慰謝の措置が適切になされることは,被害者の損害回復という意味だけではなくて,対象者本人の改善更生という意味においても大変重要なことだと考えております。   更生保護法の施行前の実務について申し上げますと,特別遵守事項として被害弁償について義務付ける設定もなされておりました。ただし,保護観察対象者に被害弁償を義務付けるということは,対象者の置かれた環境,能力や保護観察期間等によっては不可能なことを強いることにもなりかねないこと,あるいは不良措置を威嚇として,本来民事の手続で解決されるべき債務の履行を強制する面があることなどの難しい面もあったことから,その当時も「被害弁償に努めること」というような,言わば奨励事項という形で,規範的な意味を薄めて設定しておりました。承知している限りでも,この遵守事項に違反したとして取り消された事例はありませんでした。   更生保護法が施行される前の法律の下では,特別遵守事項に生活指針や努力目標的なもので違反に対する問責が困難な事項も含まれておりましたことから,「被害弁償に努める」という事項も特別遵守事項として設定できておりました。その後,現在の更生保護法が立法される過程で,特別遵守事項についての整理がなされ,特別遵守事項を遵守しなかった場合には不良措置が採られ得るものであるということを踏まえて具体的に定めることとされました。その経緯の中で,「被害弁償に努めること」については,表現がやや抽象的で,いかなる場合を違反と捉えるのかが必ずしも明確でないということや,先ほど申し上げたような債務の履行を強制することの難しさなどの点を考慮しまして,特別遵守事項としては設定しないものとして整理がなされております。   現行法の下では,「被害弁償に努めること」という事項は,特別遵守事項として設定しないこととされましたけれども,冒頭申し上げましたとおり,被害者への慰謝の措置が適切になされることは,引き続き大変重要なことだと考えております。そこで,主に二つの対応をとっております。一つは,更生保護法の下で新たに整備されました生活行動指針として「被害弁償に努めること」を保護観察所長が定めて,対象者に対して被害弁償に努めるよう指導監督することにしております。   二つ目に,平成19年3月から,全国の保護観察所で実施しておりますしょく罪指導プログラムというものがございますけれども,その一環としまして,被害弁償等の責任があることを自覚させ,具体的なしょく罪計画を立てさせた上で,被害者等の意向に配慮しながら被害弁償の誠実な実行について指導監督をするというようなことを実施しているところです。   ただし,申し上げましたしょく罪指導プログラムについては,対象となる保護観察対象者の範囲が一定の重大犯罪に及んだ者に限られております。また,生活行動指針として設定して実施しておりますけれども,前回太田委員からも御指摘いただきましたが,いかなる場合に生活行動指針として定めるのか,あるいは生活行動指針として定められた場合に,被害弁償に向けてどのように働き掛けていくのかといったことについて,統一した指針というものがございません。このため,庁によってその対応にばらつきが生じていることも実情として承知しているところです。   そこで,例えば,仕事に就いて,実際に給料を得て,自立更生に向けて自身の生活を立て直しつつ,その一方で,被害者の置かれている状況を理解させ,被害者の意向を確認した上で,賠償に向けた具体的かつ現実的な計画を立てさせて,そして仕事をして得られた給料の中から僅かずつであっても着実に弁償を実行させ,それを継続させていくというような被害弁償に向けて最低限行うべき適切な処遇を実現するためには,いかなる法的枠組みで,どのように指導していくことが最も実効的なのかということにつきまして,引き続き御意見等を賜れたら,と考えているところでございます。 ○保坂幹事 御説明を踏まえまして,太田委員の方で,生活行動指針ですとか規律の点につきまして,今の時点でお考えがあるのであれば教えていただきたいと存じます。 ○太田委員 前回の会議での発言は,受刑者の中には,被害者に対して損害賠償責任を有している者とか,中には損害賠償命令申立制度ができた後は,その損害賠償の決定を受けている者がいるにもかかわらず,刑事施設の中で報奨金を得ても,送金に努めている受刑者はほとんどいないと伺っていますし,それから,仮釈放になって保護観察を受けても,現在は,今説明がありましたように,特別遵守事項としては「損害賠償に努めること」ということが設定できなくなっていることもありますので,賠償に向けた指導も十分には行われていない状況にあるという私の認識が前提になっています。   ただ,私は,社会復帰というのは,受刑後,犯罪を犯さなければそれでよいというものでも,自分の罪を忘れるということでもないと思っております。自分が犯した罪としっかりと向き合って,被害者に対して損害賠償を含めた損害回復に向けて真摯に努力していく必要があると信ずるところでありますけれども,実際,仮釈放されて,就労と収入が現実のものとなる保護観察の過程において,被害者の意向は確認しなければいけませんけれども,保護観察対象者に,被害者に対してどのような損害賠償を行っていけばよいかを指導することが必要であって,そのためには,保護観察において「損害賠償に努めること」とか,どういう規定ぶりが良いか分かりませんけれども,「損害賠償を果たしていくための就労や行動に努めること」とかといった特別遵守事項を設定するようにするか,若しくは今福幹事からお話がありましたように,少なくとも生活行動指針とした上で,具体的な指導方法等を定めて対象者に指導していくことが必要であると考えます。   繰り返しになりますけれども,今,今福幹事がおっしゃられたように,例えば就職活動をまずすること,それから,実際に就労して,収入を得て,まず自らの生活をきちんと立て直すこと,それから,一方では被害者の意向を確認しなければいけませんので,それをした上で,それを踏まえて,具体的にどう賠償計画を立てるのか,それから,そこから得られた収入の範囲の中で僅かずつでもそれを実行していくというような指導計画を立てさせ,若しくは一緒に立てた上で指導することが必要ではないかと思います。   とにかく大切なことは,被害者の損害回復につながる指導が実際に行われると同時に,被害者への損害回復とかしょく罪に向けての対象者の努力が,本人の更生とか再犯防止に資することではないかと思っております。   一方,もう一つ私が申し上げましたのは,被害者が実際に受けた被害の全体像を正しく理解していない犯罪者が極めて多いわけでありますけれども,犯罪者が真の意味での更生を果たす上では,自己の罪を振り返らせて,被害者が,事件後や,さらには裁判後に被った被害の現実を正しく理解させるための働き掛けも強化する必要があります。こういう働き掛けは,既存のこの保護観察・社会復帰支援施策の充実ということになるのか,新たな措置の導入につながるのか分かりませんので,もしよろしければ,次の「社会内処遇における新たな措置の導入」の意見趣旨に心情伝達のことがありますので,そのときにまた発言させていただければと思っております。 ○小木曽分科会長 犯罪被害者等の視点に立った処遇の充実という点について,更にいかがでしょうか。よろしいですか。   それでは,それ以外の点でも御発言があればお願いします。 ○保坂幹事 意見要旨の次の仮解除等の関係でございます。前回の会議で,仮解除につきまして,判断主体を地方更生保護委員会から保護観察所長に変えて,手続を簡素化して活用促進してはどうかという御意見がございました。これにつきましては,まず,その活用しにくいという現状にあるのかどうか,その理由が何なのかということですとか,その手続を判断主体の変更という形で簡素化することについてそれに見合う必要性があるのかどうかということですとか,相当性の問題として,判断主体を地方更生保護委員会から保護観察所長に変更することが許容されるのかどうかということが,検討課題として今後必要になってくるだろうと思った次第です。   もう一つ,仮解除と併存するということでございましたが,問題性が早期に解決した場合に,例えば裁判所の関与によりまして本解除ができる仕組みというものも検討すべきではないかという御意見もございました。仮解除を活性化させていくこととともに,加えて本解除という仕組みを導入するといたしますと,仮解除と本解除とで保護観察所あるいはその対象者にとりまして,実際上どの程度の違いがあるのかですとか,処遇上の効果にどの程度違いがあるのかという点など,本解除の導入の必要性を今後考えていく必要があるかと思うところでございます。 ○羽間委員 ただいま保坂幹事がおっしゃった保護観察の仮解除の手続の簡素化に関連しまして,事務当局に2点確認をさせていただきます。   まず,第1点目は,部会の期日外視察におきまして,東京保護観察所の方から,現行法上,仮解除という制度が存在しているけれども,実績が低調であることから,現場の保護観察官からは,仮解除について地方更生保護委員会の決定を要する制度から簡素化できないかという意見があるという趣旨の発言があったと承知しております。こういった御意見というのは,保護観察の現場からの声としては,特異なものとして受け止めるべきものなのか,そうではなくて,広く一般的な御意見として受け止めるべきなのかということが第1点目でございます。   第2点目は,今,保坂幹事が御指摘されていた点のうち,判断主体を地方更生保護委員会から保護観察所長に変更することが相当であるのかということに関連するのですけれども,そもそも現行の制度で保護観察の仮解除の決定権者について地方更生保護委員会とされているその立法趣旨のようなものについて,分かれば教えていただきたいと思います。これが2点目でございます。 ○今福幹事 今二つ御質問を頂きました。一つ目の御質問については,全国の保護観察官にアンケートをとって意見を集約したことはございませんけれども,私の知る限りでは,保護観察処分少年に対する1号観察の場合であれば,保護観察所の長において解除を行えることと比較しましたときに,保護観察付執行猶予者に対する4号観察の仮解除の場合は,保護観察所の長が申出をして,地方更生保護委員会が決定するという手続を踏まなければならないという点についてこれを簡素化してほしいという趣旨の御意見は聴いたことがございます。私の実務経験も踏まえつつ申し上げれば,先ほど御指摘の期日外の視察でありました東京保護観察所からの意見というものは,決して特異な意見ではないであろうと考える次第です。   二つ目の御質問は,仮解除の決定権者が地方更生保護委員会となった立法趣旨の点であります。前回,保護観察の仮解除についての御説明をいたしましたけれども,この制度自体が導入されたのは昭和29年の刑法改正で,そこで行政官庁の処分によって仮に解除することができるという規定が置かれ,それと同時に制定された執行猶予者保護観察法で,その決定権者が,地方更生保護委員会であることが明記されました。   当時の国会審議等を見ますと,仮解除につきましては,裁判所の言渡しの効果を消滅させるものではないということが前提としてあり,仮解除は,仮釈放と同じように行政官庁の処分によるものとすることが相当であるとされたことがありました。   次に,行政官庁としてどこが適当なのかということについては,元々地方更生保護委員会は仮釈放の権限を持っているようなところでもありましたし,保護観察付執行猶予者の保護観察を担当している保護観察所を監督する立場にもありましたから,そういった観点で,最も適当であるというような答弁がなされています。 ○羽間委員 ありがとうございました。そうしますと,仮解除について,地方更生保護委員会の決定を要する制度から簡素化できないかという現場の東京保護観察所からの御意見は,現場の保護観察官の声としては,広く一般的だということまでは言えないものの,特異なものではないと言えるのかなと思われます。つまり現場からは相応の支持が得られるものであろうというくらいのものであるとは思われます。   また,地方更生保護委員会を決定権者としたことについては,保護観察所を監督する立場にあるからということ以上に,何か特筆すべき趣旨はないということになるかとお聴きいたしました。   他方で,1号観察,つまり保護観察処分少年に対する解除の決定権者については,地方更生保護委員会ではなく,保護観察所長とされています。とすれば,こうした良好措置の判断主体をどのような行政官庁とするのかについては,ひとえに政策上の判断ではないかと思われ,仮解除の決定権者を保護観察所長とすることについて,特段問題はないのではないかと思われます。   ここから先は前回の会議で申し上げたことと重複する部分が若干ございますので御容赦いただきたいと思いますが,前回の会議で今福幹事から説明のありました事務当局の資料からは,仮解除中の人員,それから,全体に占める割合のいずれも低下傾向にあるということが示されました。こうした公的な統計とか,先ほど取り上げました現場で実務に携わる保護観察官の声を踏まえますと,仮解除の手続を簡素化する必要性はあるのではないかと考えます。   そして,仮解除を促進する方策として,判断主体を現行の地方更生保護委員会から,実際に保護観察を実施して,対象者の改善更生の状態をよく知る保護観察所長に変更するという形で手続を簡素化することについては,一定の合理性があるのではないかとも考えます。   次に,御指摘のあった点のうち,仮解除とは別に,本解除を導入する必要性について申し上げますと,本解除は,保護観察を完全に終了するという点で,仮解除とは全く異なる制度でございます。部会でお配りいただいた改正刑法草案の解説を見ましても,執行猶予となった者について,保護観察を継続する必要が全くなくなる場合もあるということ,また,仮解除よりも本解除の方が本人に与える感銘力が強く,一層,改善更生への努力をする刺激になるといった理由で,仮解除とは別に本解除制度の導入についても検討されていたことについて記載がされているところでございます。   その上で,今回の法制審議会における議論の状況を鑑みて検討いたしますと,今後,他の分科会の検討結果次第では,仮に少年法適用対象年齢が引き下げられた場合に,18歳,19歳の年長少年のうち,現行であれば保護観察処分,単純執行猶予あるいは罰金の実刑になってくる層とか,これらに近い年齢層の若年者が,保護観察付執行猶予者となってくる可能性があるわけです。今申し上げました層に属する者は,比較的軽微な犯罪に及んだ者で,問題性についても比較的軽い者であることや,可塑性の高い者であることが想定されまして,早期に問題性を解決し得る者も含まれていると考えられます。   このように早期に問題性が解決した者に対して,保護観察を仮に解除するだけにとどまらず,本解除の制度を導入して,早期に保護観察を終了させられることとすべきではないかと思います。むしろ開始当時から,解除という良好処置があるということを告げて,改善更生の意欲を高めて,そして,処遇効果をより高めることができるのではないかということを考えています。こういった理由から,仮解除とは別に本解除を導入すべきだと申し上げたところでございます。   次に,御指摘のあった点のうち,本解除の手続について考えられることを申し上げます。   本解除は,裁判所が判断した保護観察の期間を変更するという面がございますため,改正刑法草案でも検討されていたとおりに,裁判所の承諾を必要とする制度とか,決定そのものを裁判所が行う制度などが考えられます。一方,本解除については,裁判の内容を対象者にとって有利な方向に変更するものでございますので,準司法機関ともされております地方更生保護委員会の合議体の決定をもって足りるということも,検討の余地はあるのではないかと考えるところでございます。   いずれにしても,仮解除とは別に本解除を導入することについては,刑法改正等にも関わることにはなります。そして,議事録等を拝見しておりますと,第1分科会において,解除制度の導入に関して御意見があったものと承知しておりますので,引き続き第1分科会でも解除制度の導入に関して御議論いただきつつ,第1分科会,第3分科会とで密接な連携をもって制度の設計ができるようお願いできればと思います。 ○小木曽分科会長 最後の点は,連携を取りつつ制度設計をするということだと思います。   そのほか,この論点について,いかがでしょうか。 ○太田委員 意見要旨の2の「民間施設等の処遇体制の整備」のところの「更生保護施設等における指導監督の実施」の積極意見の中に「保護観察における一定の指導監督は,民間の更生保護施設等が委託等により実施することとすべき。」と非常にシンプルな形で書かれておりますので,部会への報告ということを念頭に置いて,私が申し上げた趣旨を少し説明させていただければと思います。   要するに,保護観察における一定の指導監督というものを更生保護施設等が実施すべきではないかという発言の意味でありますけれども,部会のヒアリングの際にも,更生保護施設長をしております保護司の方から,指導監督ができる規定を設けることが更生保護施設としても有益であるという旨の発言があったところであります。確かに,更生保護施設の中には処遇について様々な考え方がありましょうし,実際の処遇体制にも差がありますことから,補導援護としての生活指導を中心としていく施設もある一方,既に保護観察所と同様の認知行動療法に基づく薬物回復プログラムといったものを実施している施設もありまして,このような状況を前提とした場合に,更生保護施設に指導監督を担わせることについて,一定の理解が得られるのではないかと思います。   ただ,実際の仕組みとしましてですけれども,更生保護施設が「指導監督を行うことができる」と直接規定することも考えられますし,指導監督の委託という規定を設けておいた上で,運用上,実際の委託先としては指導監督を担うことを希望していて,かつ,そのための体制が整っている特定の更生保護施設に対して限定して委託していくという方法が考えられるのではないかと思っております。 ○保坂幹事 また違うテーマですけれども,意見要旨の2の二つ目の括弧の中にございます「更生保護施設通所処遇・自立準備ホームの明文化」というところでございます。前回の会議でその自立準備ホームを更生保護事業として明文で位置付けることが考えられるのではないかと申し上げたところでございますが,その趣旨というか効果といたしまして,自立準備ホームというものを改善更生のための施設として明確にすることによりまして活動を促進することのほか,事業としての監督を通じて,入所者に対する処遇の水準を確保するということも挙げられるのではないかと考えているところでございます。   羽間委員から事業化を行うことで,活動している法人の多くが対象から外れてしまって受皿が減ってしまっては元も子もないのではないかと御指摘がございまして,そのとおりかと思いますけれども,例えば事業として明文化するときに,その要件を,許認可という重たいものにするのか,登録とか届出というものにするのかということもございますし,いずれにしても事業参入の要件をどう設定するかについては,引き続き検討する必要があるのだろうと思っているところでございます。 ○小木曽分科会長 「保護観察・社会復帰支援施策の充実」については,このくらいでよろしいですか。   それでは,続きまして,「社会内処遇における新たな措置の導入」について,2巡目の意見交換を行いたいと思います。   1巡目の議論では,自立更生促進センター以外での施設で宿泊しつつ指導を受けることを特別遵守事項で設定可能とすることを検討してはどうかとの御提案,特別遵守事項又は保護観察に付随する措置等として,少年鑑別所等に居住させるような仕組みを設けてはどうかとの御提案や,これらに対して慎重な検討を要するとの御意見などがありました。これらの御意見を事務当局がまとめました「『社会内処遇における新たな措置の導入』についての意見要旨」も参考にしつつ,御提案のあった仕組みの意義や検討課題などについて更に議論を深めたいと思います。それ以外の新たな御意見があればもちろん適宜お願いいたします。   それでは,御意見がある方は挙手をお願いいたします。 ○太田委員 意見要旨の1の2番目の項目,「施設への宿泊義務付け・外出禁止」でありますけれども,現行法でも,規定上は,特別遵守事項において,法務大臣が指定する施設に宿泊させ,指導監督を受けることを設定することが可能とされておりますし,それから,今後,特定の更生保護施設に指導監督を担わせることができるようにするのであれば,これと併せて,手続の部分も含めて現行法と同様の枠組みで更生保護施設に宿泊しつつ指導を受けることを特別遵守事項として設定することが考えられようかと思います。そのようにすることによって,以前お話ししましたように,私は本来,施設内処遇から社会内処遇へ移行する際の段階的な処遇を行うことが重要だと思っておりますけれども,そのための受皿ができるようになることと,それから,以前に羽間委員から御提案されていた,実際の保護観察の途中に遵守事項違反があった場合に,直ちに取り消すということではなくて,一旦,更生保護施設等に居住を義務付けて様子を見るという段階的な不良措置ということも,こういう制度ができると実現しやすくなり,保護観察をより柔軟で実効性の高いものにすることができるようになると思われます。   一方,指導監督につきましては,特定の施設や団体で処遇を受けるとしても,そこにたまたま宿泊機能がないとか,そこの宿泊定員に余裕がないという事情から,宿泊については,処遇を行う施設や団体への通所が可能な他の更生保護施設とか,そういったところに宿泊するといったように,宿泊と指導監督とを分離した上で,両方の機能を連携させていくような体制も保護観察対象者の更生には有効であると思われます。そのためには,先ほどお話ししましたように,専門的処遇プログラム以外にもある程度体系化された一定の処遇を遵守事項として課すことができるようにするとともに,特定の施設に宿泊する部分だけを遵守事項として設定可能にすることも検討課題であるかと思います。   また,施設に宿泊したとしましても,例えば夜間に施設から外出して犯罪性のある者と交際しようとするような対象者に対して,このような時間帯に外出させずに,施設職員が行動を共にしながら,規則正しい日常生活を送っていく能力とか生活習慣を身に付けさせるための集中的かつ濃密な指導を行うことで,その改善更生が期待できるような場合が考えられるわけでありますけれども,こうした指導にも従わずに外出しようとする者に対して,補導援護の一環では何もできないというのでは,やはり少し問題があるように思われますので,「深夜に無断外出しないこと」というのは,現在の特別遵守事項でも制定可能ではありますけれども,このような場合に,問題性が改善されるまでの一定期間,夜間の外出禁止を組み合わせるようなことによって,改善更生を図ることも考えられるのではないかと考えております。 ○保坂幹事 意見要旨の1の一つ目の括弧の「民間施設等への通所の義務付け」というところでございます。前回の会議におきまして,自助グループですとか支援施設への通所を特別遵守事項として設定可能とすべきではないかと申し上げたところでございますが,18歳及び19歳を含めた若年者ということを想定した場合に,どういうものが考えられるかということでございますけれども,「若年者に対する刑事法制の在り方に関する勉強会」で,第5回のヒアリングだそうですが,平成28年1月27日に行われたものですけれども,そのときに,少年院入院・保護観察の経験者の方からは,保護司とは別に,共感してくれるような年の近い人がセットになっていて,保護観察を受ける側も心が開けるような工夫があればいいという御趣旨の発言があったと承知しております。   そういたしますと,少年とか若年の保護観察対象者の再非行・再犯防止のためには,保護観察官や保護司との役割分担をしつつ,同じような境遇を経験して立ち直った先輩として助言等を行うような自助グループの場を設定して,そこへの通所や参加を特別遵守事項として設定可能にすることも考えられるのではないかと思います。 ○太田委員 先ほど少し申し上げました被害者の視点を踏まえた処遇といいますか,特に,この意見要旨でいいますと心情等伝達制度のところになろうかと思いますけれども,先ほども犯罪者の真の意味での更生のためには,被害者が事件後や裁判後に被った被害の現実を犯罪者が正しく理解することが重要だと申し上げましたが,そのための制度として,先ほど今福幹事から御説明がありましたように,現在,心情等伝達制度というものがありますが,こと仮釈放後の保護観察に関して言いますと,長期間の受刑が間に挟まっているわけでありまして,その後にしか心情伝達ができないために,被害者にとって少し利用しづらい面があるのではないかと思うと同時に,そういった期間を経た後で20年,場合によっては30年経った後で被害者の心情が伝達されるということでは,受刑者への感銘力という点でも少し難があるのではないかと思っております。   一方,ここには仮釈放審理ということしか書いてございませんけれども,ここを少し補わせていただきますと,仮釈放審理に際しましての被害者の意見聴取につきましても,被害者から仮釈放の許否,すなわち許可するか棄却するかの意見を聴くという部分については,実際には仮釈放に反映することが難しいわけでありますから,どのような意味があるのか私は疑問に思っておりますし,さらに,時期的な問題から,被害者の意見を聴いても,矯正処遇に反映することができないわけであります。   そこで,自由刑の実刑の場合には,心情伝達と統合するような形で,刑の執行の初期の段階で,被害者の被害の状況とか受刑者に対する要望等を聴取する機会を設けておいて,そのうち受刑者に伝達したいという事項については受刑者に伝達をし,その上で,被害者から聴取した内容も参考にしながら被害者の視点に立った矯正処遇を実施していくようにして,仮釈放審理に際しては,それを踏まえた処遇の成果を含めて判断をしていくようにすべきであると考えますので,こうした制度の導入の可能性について御検討いただければと考えております。 ○田鎖幹事 施設への宿泊義務付け等の関係で,現状を考えるに当たって,現状の自立更生促進センターへ宿泊をさせての指導監督について御質問させていただきたいのですが,私は,現状では3号観察,仮釈放者を収容しての運用がなされていると理解しているのですが,それでよろしいのでしょうか。それ以外の保護観察対象者が宿泊して指導監督を受けるというような実例があるのか。仮に,仮釈放者だけ,これまでの実績としてそうであるとすると,それはどのような理由ないし事情に基づくものなのかということを教えていただけないでしょうか。 ○今福幹事 今の御質問ですけれども,仮釈放者以外でありますと,更生緊急保護の対象者がございます。ただし,仮釈放期間の満了日において自立更生促進センターに入所していた者であって,引き続き更生緊急保護の措置として同センターに入所させることが適当と認められたものに限ります。 ○田鎖幹事 確認ですけれども,当初,仮釈放者として保護観察を受けていて,その後,期間が満了して更生緊急保護の対象者としてとのことでしたが,では,一応類型としてはその2種類ということですか。 ○今福幹事 そうです。御質問の趣旨は,最初から保護観察付執行猶予者が自立更生促進センターに入所しているかということだと思いますけれども,そういう実例は今のところございません。 ○田鎖幹事 そういう事例が現時点でない,そういう運用になっているのは,何か一定の理由なりあるいは事情というものがあるのでしょうか。 ○今福幹事 法令上の縛りは特にありません。しかし,それぞれの自立更生促進センターの設置の目的,あるいは地域の御理解の状況などに応じて,最も適した対象者が入所するような運用をしています。 ○田鎖幹事 その設置目的との関係というところについて,もう少し補足的に教えていただけますでしょうか。 ○今福幹事 自立更生促進センターは,その設置の経緯として,民間の更生保護施設等で受け入れることが質的に難しい人がいるであろうということが前提にあり,そういった人の受皿をきちんと整えなければならないというのがそもそもの大きな目的としてございましたので,刑務所出所者で,受皿が確保されれば仮釈放になれるという人を,できるだけ社会内処遇の期間を提供して,その後の社会復帰につなげようという趣旨で設立されたものであるというところが基本にあります。 ○小木曽分科会長 そのほかの点でもよろしいかと思いますが,いかがでしょうか。 ○保坂幹事 意見要旨の真ん中辺りにあります「少年鑑別所等への居住の義務付け」ということについてです。部会への報告の論点整理という趣旨で,羽間委員に2点ほどお伺いしたいと思います。   意見要旨に書かれておりますように,「遵守事項違反があった場合に特別遵守事項又は保護観察に付随する措置等として少年鑑別所等に数週間程度居住させるような仕組み」という御提案がございました。質問としては大きく分けて二つございまして,一つは,こういう仕組みを設ける狙いですとか,宿泊,居住させた上で,どういう処遇を行うことが想定されるのか,それと併せて,保護観察対象者の4種別のうち,いずれかを念頭に置いておられるのかということがもしあれば教えていただきたいというのが1点目でございます。   その上で,少年鑑別所等ということでございましたが,少年鑑別所を例に挙げられたということでございますと,それはいわゆる身体拘束を伴う収容といったものを想定されておるのかということと,少年鑑別所等というところの少年鑑別所以外で想定されておられるような居住先,宿泊先がございましたら教えていただければと思います。 ○羽間委員 二つ頂いたということなのですが,一つ目が,狙いと処遇の内容と,どの層をということでございますので,まず,その第1問目につきまして,私の考えを少し述べさせていただきたいと思います。   まず,狙いに関してですけれども,前回の会議でも申し上げましたが,現行の4号観察において,遵守事項違反があった場合,これの不良措置は執行猶予の取消しのみですけれども,取消しがされた場合の効果として,受刑期間が比較的長期に及ぶことから,実務ではかなり慎重に運用されている,すなわち保護観察の実効性の確保が困難な状況にあると承知しております。   特に若年の対象者の中には再犯リスクの主たる要因が,交友関係とか家族関係といった環境面にあることが少なくございません。ですので,再犯リスクが高まっている遵守事項違反という状態に対して,処遇の転換が必要になってくるわけです。そうした処遇の転換の一つの方策として,一定期間異なる環境に居住ないしは宿泊させるという,言わば環境との分離の措置が有効になる場合があるのではないかということです。   このような中間的な不良措置の位置付け方の形態として,私は,まず自立更生促進センターあるいは更生保護施設の宿泊義務付けを特別遵守事項として設定するという御提案をいたしました。このような形態での不良措置ということであれば,現行法の下での運用や解釈の変更というようなことで行い得るのではないかと考えられるところでございます。   他方で,今後,これまで少年院で施設内処遇を受けていたような18歳,19歳について,保護観察付き執行猶予となることも考えられるところでございまして,こういった若年者は,衝動性の高さゆえに,私が先ほど御提案申し上げた自立更生促進センターあるいは更生保護施設での宿泊・居住の義務付けには限界があることも考えられると思います。例えば期間を区切った上で少年鑑別所などに居住ないし宿泊して,集中的な調査あるいは教育を受けることを義務付ける措置を検討する意義はあるのではないかということで提案した次第です。この場合,いかなる制度とするか,いかなる施設を活用するかにもよりますけれども,現行よりは強い枠組みの処遇ということになりますので,やはり法改正を伴うことになるかと思いますし,何らかの形で裁判所の判断を仰ぐことも考えられる,そういうところであります。   もちろん少年鑑別所などの矯正施設を活用することについては,できる限り謙抑的であるべきでありますので,不良措置の在り方としては,まず,先ほど申し上げたような現行法の下での遵守事項の変更などによって対応すべきだとは考えます。ただ,そういった対応で実効性を持たせることには限界があるものの,他方で,いきなり取消しで数年の懲役刑を科すことによる不利益が大きいものに対する措置として,少年鑑別所などの活用という制度を設ける意味はあるのではないか,これが狙いでございます。   次のどういう処遇をという御質問の点につきましては,一定期間身柄拘束を伴う収容とするのか,あるいは夜間拘禁のように時間を区切った収容とするのか,宿泊だけを義務付けるような制度とするのか,こういったことによっても異なってくるところではございますし,宿泊ないし収容する施設をどうするかということとも関係してくるところでございます。   その上で一つの例としてイメージを申し上げさせていただければ,遵守事項違反を契機に少年鑑別所に数週間程度収容させ,鑑別技官などにおいて鑑別的な調査あるいは教育を行うことで,入所者の資質,更生に向けた意欲,処遇の反応性,更生可能性などを見極めるといった調査を行い,同時に,保護観察所において,生活環境の調整を行い,再び社会の中での処遇を継続する見込み・可能性があれば,少年鑑別所から釈放して,反対に社会内での処遇が困難であるとなった場合には,執行猶予の取消申出を行うような制度が考えられるのではないかと考えます。   3番目の対象ですけれども,少年鑑別所などの活用について,前回の会議で,私は保護観察付き執行猶予を前提として申し上げました。その趣旨としては,他の分科会でも検討されていますように,今後,保護観察付き執行猶予となる者の数や層が広がる可能性がある一方で,既にもうお話し申し上げましたけれども,保護観察付執行猶予者に対するいわゆる4号観察,これは,他の号種の保護観察と比べても不良措置が使いづらいというところがございます。処遇が低調となる恐れがあるということがあります。   そこで,まずもって保護観察付執行猶予者に対する4号観察を前提として検討させていただければと思いますけれども,想定される制度によっては,他の号種でも有用であることも考えられます。そうであれば,他の号種にも導入することを検討してもよいのではないかとは思います。   特に,他の分科会の検討状況によっては,今後,保護観察付き執行猶予と同じかそれ以上に不良措置の在り方が問題となってくる,そういった類型の保護観察を導入することになるのであれば,そういった保護観察における不良措置として,今申し上げたような制度を活用することも考えられるのではないかと思います。   それから,第2問目については,まず,少年鑑別所の身体拘束を伴う収容かどうかということですけれども,既に申し上げたとおりなのですが,改めて整理いたしますと,御指摘のとおり,少年鑑別所を活用するということで,一定期間身柄を拘束する,収容する制度がまずもって考えられるところではございますが,他にも夜間拘禁とか,それから,原則として宿泊だけというような制度も考えられるところでございます。このうちいかなる制度とすべきかについては,こういった制度の必要性だけではなくて,例えば一定期間身柄を拘禁するのであれば遵守事項とは言えないのではないかというように,この収容ないし宿泊義務付けを遵守事項と捉えるのか,付随処分ないし措置と捉えるのかといった法的根拠と関連します。   また,夜間だけや週末だけの拘禁といったことが対応できるのかというような施設側の御事情とも関連してまいりますので,こういったことも含めて更に詰めて検討させていただければと存じます。   次に,少年鑑別所のほかに何か想定しているかということについては,御指摘のとおり,前回の会議で,私は「少年鑑別所など」という言い方をいたしました。これについては,少年鑑別所に限定する必要はないだろうということから幅広に提案したところでございます。前回の会議で私は,調査あるいは集中的な教育ということを申し上げましたが,例えば教育という観点からは,少年院という選択もあり得るのではないかとも考えております。また,今後,収容率が低い少年院を改築して現行よりも開放度の高い施設にすることで,収容というよりは宿泊を義務付けるという仕組みに近付けることが可能になる施設をお造りいただくことも考え得るのではないかと思います。いずれにしても,いかなる制度にするかによっていろいろ選択肢があり得ると思いましたので,その趣旨で「など」と言わせていただきました。   ただ,少年院の場合は,少年鑑別所のように多くが街中にあるわけではないと思うので,街中にあるものもございますけれども,そういう立地の関係から,身柄を移送するときの手間がかかるであろうことが懸念されます。また,少年院に短期間収容したときに,集中的な教育としてどのようなことを行い得るのか,このことも重要なポイントになるような気がいたしております。ただ,この集中的な教育については,やはり矯正関係の方々の御意向や事情を度外視して軽々しく申し上げるわけにはまいりませんので,今後更に詰めて検討させていただければと思います。 ○保坂幹事 明確にしていただきありがとうございます。課題や問題,考えなければいけないことも御指摘いただきましたので,引き続き検討すべきものと思います。 ○小木曽分科会長 では,このくらいでよろしいでしょうか。   それでは,最後の点,「施設内処遇と社会内処遇との連携の在り方」についての2巡目の意見交換を行いたいと思います。   1巡目の議論では,外部通勤作業,外出・外泊をより拡大するために要件を緩和したり,就労・住居等の受入れ先を確保したりすることで,これら制度の活用につなげるべきではないかとの御意見や,施設内や社会内への段階的な処遇を促進するべきではないかとの御意見などがありましたが,これらの意見を事務当局がまとめました「『施設内処遇と社会内処遇との連携の在り方』についての意見要旨」がございますので,これも参考になさりつつ,御提案のあった仕組み・取組の意義や検討課題などについて更に御意見を頂きたいと思います。それ以外の新たな御意見があれば,更に御発言いただきたいと思います。   御意見がある方は挙手をお願いいたします。 ○太田委員 意見要旨の1の四つ目の○になりますけれども,前回の会議においては,段階的処遇が必要であることや,そのための中間処遇の拡大についての意見を述べたところでございますが,その趣旨をもう少し補足させていただきますと,更生保護施設が指導監督を行えるようにして,そこでの宿泊と指導を特別遵守事項に義務付けることで,仮釈放の受皿として活用することをまず念頭に置いております。仮釈放直後というのは就労とか就学などで対象者が不安を抱える一方,様々なトラブルや困難も予想されるところでありまして,こうした更生に向けた不安定な時期を無事に乗り切ることが安定した社会復帰には非常に重要であろうかと思います。特に若年者については,犯行時の不良仲間から誘いがあったりして,そこから再び元の悪い不良交遊や環境に戻ってしまい,結果として再犯に至ることも少なくないと聞いております。   また,仮釈放となるためには,改善更生に適した帰住先確保が重要でありますが,本人が帰住先として希望しているところが必ずしも適当とは言えない場合がありますし,帰住先として家族等と同居することが予定されていても,本人の問題性から,あるいは反対に家族の方の保護環境といいますか監護能力に問題があったりして直ちに当該帰住先に居住するのがいいというわけにはいかず,結果的に仮釈放が認められなかったり,あるいは時期が遅れたりする場合も考えられます。そこで,仮に他の帰住先があったとしても,中間的な施設として更生保護施設等に宿泊させて,そこで改善更生のために濃密な処遇を経た後で本来の帰住先に移行して,そこでも引き続き通所処遇とか保護観察等を行うという流れが考えられるのではないかと思っております。   そのためにも,更生保護施設というものが法律上,指導監督を行うことができるようにすることで,本人の問題性の改善にも対応できるようなところが出てくるのではないかと考えておりまして,このような枠組みを設けることを通じまして,結果的には仮釈放を推進することにもつながって,本人の社会復帰にとっても有益ではないかと考えられると思います。   加えて,確認ですけれども,私の段階的処遇のイメージとしましては,一方では仮釈放後の中間処遇を今の長期受刑者に限らないで拡大していくことをイメージしておりますけれども,もう一方では,刑事施設における外部通勤とか外出・外泊の開放的な処遇を拡大していくべきではないかと考えております。現在,なかなか開放的処遇といったものが積極的に運用されていないことの背景でありますけれども,それがもし開放的な処遇の要件とか手続にあるとするならば,これを見直すことも一つの検討課題かと思われますので,現在の開放的処遇の状況と課題がどうなっているかについて,事務当局からお話を伺えればと思います。 ○小玉幹事 ただいまの点ですけれども,まず,外部通勤作業についてですが,これは刑事施設内の作業では取得できない高度な技能を修得できるとともに,一般社会での正しい人間関係を学ぶことができるなどの効果が期待できる有効な処遇方法であると考えておりまして,受刑態度が良好で,改善更生の意欲が高く,外部通勤作業に必要な適性がある者などを選定して行わせているところでございます。   次に,外出・外泊ですけれども,社会復帰に向けて有用な活動を行うことを可能とするとともに,受刑者の自律心と責任感を涵養することにもつながるものでございますので,改善更生の意欲の喚起及び社会生活に適応する能力の育成に効果的であると考えております。   他方で,これらはいずれも一時的にせよ受刑者を刑事施設の職員の戒護下から離脱させるものでございまして,受刑者の逃走などを防ぐ必要がありますことから,刑事収容施設法やその規則におきまして,仮釈放を許す期間を経過した受刑者について,一つ目としては,開放的施設において処遇を受けていること,二つ目としては,制限区分が外部通勤作業については第1種又は第2種,外出・外泊について第1種に指定されていること,三つ目としては,仮釈放を許す決定がされていること,これら三つのいずれかに該当することが要件とされておりまして,各施設におきましても,その適否を慎重に判断しているところでございます。 ○太田委員 今の点について確認ですけれども,実際にこういった開放的処遇においては,外部通勤先を確保するとか,適格のある受刑者を選抜するとか,それから,様々な関連機関と調整するという現実の課題が非常に大きいので,なかなか積極化できないということは承知しているつもりなのですけれども,では,今の話だと,少なくとも制度論として,現在の法的な枠組み,例えば要件などが厳しすぎるためになかなか行い得ないとか,何か手続上の難があるためになかなか施行ができないということではないという理解でよろしいでしょうか。 ○小玉幹事 そうですね,要件は先ほど申し上げたとおりなのですけれども,それ以外でも,例えば外部通勤作業につきましては,今おっしゃったような相手方,事業所の方との調整等ですとか,あるいはその事業所の経営者のみならず,その事業所で働くその他の従業員の方ですとか,あるいは地域住民の方の御理解も必要不可欠なところでもございますので,そういった運用上の課題もかなり大きなところがあるかと考えております。 ○太田委員 現在でも,例えば更生保護施設に宿泊することを前提として外泊させた例も,確か矯正の方の論稿で読んだ記憶がありますし,それから,ハローワークに行って,それがちょっと刑事施設から遠いものですから,その近くの更生保護施設に泊まって,次の日帰ってきたというようなことを聞いたことがあります。確かに外部通勤,外泊というのは,逃走防止とか刑の執行という点で非常に慎重に行わなければいけない面があると思いますし,先ほど言いましたように,更生保護施設の法的位置付けや,更生保護施設そのものの意向も尊重しなければいけないと思うのですけれども,外泊や外部通勤において更生保護施設を活用していくことについて,今,法的な枠組みで何か制約があるということではないと承知しておりますが,そういうことでよろしいでしょうか。 ○小玉幹事 必ずしも更生保護施設に外泊することなどについての制約があるということではないと理解しておりまして,例えばこれまでの外泊についても,更生保護施設を外泊先にしているというのはかなりの件数に上っておりますし,更生保護施設を積極的に活用することは,現在も方針として行っているところでございます。 ○太田委員 これは,一時保護ということをやっている更生保護施設であれば,その枠でやることになるのですか。事実上の保護ということになるのですか。法的枠組みが分かれば,教えていただけますでしょうか。 ○今福幹事 更生保護事業ということではなくて,更生保護施設が,いわゆる公益事業という形で引き受けるという枠組みでございます。 ○太田委員 更生保護の目的には予防ということも入っていますが,そういう広い意味での事業として引き受けているということでしょうか。 ○今福幹事 更生保護法人は,更生保護の目的以外に公益的な事業を行うことができます。その枠組みで受けているということでして,例えば,家庭裁判所からの補導委託を受けているような事例もありますが,更生保護施設における外泊受入れも公益事業として整理されているかと思います。 ○太田委員 そうすると,法的な枠組みとしてはもう整備されていて,特に何か規定を整備すれば積極化するということでもないということですね。 ○小木曽分科会長 よろしいですか。   以上で,本分科会が担当する全ての論点について,2巡目の意見交換をしたということになりますが,全ての点について,現時点で更に御意見がございましたら伺っておきたいと思います。 ○田鎖幹事 確認的なものなのですけれども,最初の「起訴猶予等に伴う再犯防止措置の在り方」についての参考資料の意見要旨の1番の「入口支援の拡充・整備についての基本的な枠組み」のところです。タイトル自体がいわゆる「入口支援」となっているのですが,前々回の会議でも申し上げたのですけれども,入口支援というもの自体が非常に多様であって,様々な取組があり,中には入口支援ということで,むしろこのまとめでいうと意見要旨の2番に近いような取組もあるようだというようなことも私は申し上げました。あと,場所によっては,検察庁だけではなくて,弁護士会が入口支援というものをやっていますというところもどうやらあるようでございますので,検察庁がやっている入口支援の取組の拡充・整備というと,少し語弊というか誤解もあり得るので,念のためですけれども,ここは当然,福祉的支援が必要な者に対して,速やかに福祉的な,正に支援を行う,その方向性について異論はないということで確認させていただきたいということでございます。 ○小木曽分科会長 今の点は御意見として承りました。   それ以外に何かございますか。   それでは,2巡目の意見交換はこれで終了いたします。   ここで,本日の冒頭にも申し上げました中間報告についてお諮りしたいのですが,本分科会は3回にわたりまして五つの論点について,関連する従来からの制度,運用あるいはこれらに対する評価,問題点等を把握しつつ,各論点に掲げられた制度や取組の意義,在り方などについて意見交換を行いました。また,考えられる制度や課題等についても意見交換を行ったところであります。   本分科会で行われました意見交換の内容について,その要旨を中間報告として取りまとめまして,12月19日に予定されている部会第6回会議において報告することといたしたいと思います。その中間報告の資料内容についてですが,事前に当分科会の構成員の皆様にお示ししたいと思っておりますが,分科会として部会に報告するという性質のほか,期間の問題もありますので,もちろん事前に御覧いただきますけれども,取りまとめにつきましては,基本的に分科会長である小木曽に御一任いただきたいと思いますが,それでよろしいでしょうか。               (一同異議なし)   それでは,部会に報告する中間報告の内容につきましては,私に御一任いただいたということで,私の責任におきまして,内容を取りまとめて,部会に報告いたしたいと存じます。   以上で,本日の審議は終了いたします。   今後の予定を事務当局から御説明ください。 ○羽柴幹事 今後の予定についてですが,部会第6回会議が12月19日火曜日,午前10時から予定されています。場所は東京高等検察庁の会議室となります。 ○小木曽分科会長 本日の会議の議事につきましても,特に公表に適さない内容はなかったと思いますので,発言者名を明らかにした議事録を公表することとさせていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。               (一同異議なし)   それでは,そのようにさせていただきます。本日は,ありがとうございました。 ―了―