法制審議会 民法(相続関係)部会 第20回会議 議事録 第1 日 時  平成29年4月25日(火)自 午後1時29分                      至 午後5時40分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(相続関係)の改正について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○大村部会長 それでは,時間になりましたので,法制審議会民法(相続関係)部会第20回会議を開催いたします。   議事に先立ちまして,年度変わりでもございますので,関係官等,新任の方などがございますので御紹介からさせていただきます。では,倉重さんからどうぞ。 ○倉重関係官 この度,法務省民事局付を拝命いたしました倉重と申します。以降,関係官として関与させていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○大村部会長 それから,最高裁の草野さん。 ○草野関係官 この4月に最高裁家庭局付を拝命いたしました草野と申します。どうぞよろしくお願い申し上げます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   それから,最後になりますけれども,法務省民事局民事第二課の佐藤さん。 ○佐藤関係官 この4月から民事第二課の局付をしております佐藤と申します。本日は不動産登記に関する論点と関連してこちらに参りました。どうぞよろしくお願いいたします。 ○大村部会長 どうぞよろしくお願い申し上げます。   それから,今後のスケジュール,これも年度初めでございますので,スケジュールの見通しにつきまして事務当局の方から御説明を頂きたいと思います。 ○堂薗幹事 本日は,当部会における今後の審議についてお諮りしたい点がございます。当部会では,これまで本年9月の答申を目指して審議を進めてきたわけでございますが,現在の状況等を考慮いたしますと,9月の答申は難しい面があるのではないかと考えているところでございます。その理由につきましては幾つかございますが,一番大きな点は,中間試案をパブリックコメントに付し,その結果を踏まえて部会での調査・審議を再開したわけでございますが,中間試案では取り上げていなかった新たな方策について検討がされているという点でございます。   通常,法制審議会では中間試案をパブリックコメントに付した後,その結果やその後の法制審での御議論を踏まえて,その内容を変更したとしても基本的には変更後の方策について再度,パブリックコメントに付すということはしてこなかったところでございます。しかし,この部会における御審議では,従前からの議論の状況やパブリックコメントの結果等を踏まえ,配偶者の相続分の見直しの実現が困難になったことを受けまして,新たに居住用不動産について生前贈与等がされた場合に,持戻し免除の意思表示があったものと推定するという考え方を取り上げ,これについて審議が進められているというところでございます。   このように,この方策は配偶者の相続分の見直しに関するパブリックコメントの結果等に端を発して検討が始められたものではございますが,内容的には全く別の方策であり,配偶者の相続分の見直しの延長線上にあるものとは言えない内容になっているかと思われます。中間試案に対するパブリックコメントにおきましても,相続法制において配偶者の保護をどこまで図るかという点につきましては,様々な御意見が寄せられているところでございますので,事務当局といたしましては,この新たな方策についても国民の皆様の御意見をお伺いし,その結果やそこで出された問題点などを検討した上で,最終的な取りまとめを行う必要性が高いものと考えております。   相続法制の見直しは,言うまでもなく国民生活に与える影響も大きいことから,見直しをするに当たってその意見を聴くことは,とりわけ重要な意義を有するものと思われますので,事務当局といたしましては,この点については慎重を期し,項目を絞った上で再度パブリックコメントを実施したいと考えております。具体的には,居住用不動産について生前贈与がされた場合の持戻し免除の意思表示の推定規定のほか,預貯金債権の仮払い等を対象とすることが考えられるのではないかと考えております。   預貯金債権の仮払い等を認める方策につきましても,中間試案では何ら具体的な内容を示しておりませんでしたけれども,先の最高裁大法廷決定の補足意見での示唆などを踏まえまして,これを具体化する方策を検討しておりますので,これについても国民の皆様の御意見をお伺いする必要性があるものと考えているところでございます。したがいまして,今後のスケジュールでございますが,本年7月頃までに見直しの内容をおおむね固めた上で,夏頃に再度パブリックコメントを実施し,その結果を踏まえ,秋頃から部会を再開し,その後は来年2月の法制審総会での答申を目指して,必要に応じて部会を開催し,調査・審議を進めていただくということを考えているところでございます。   以上,委員・幹事の皆様方には更なる御負担をお掛けすることになり,大変恐縮ではございますが,御理解,御協力を賜れれば幸いでございます。 ○大村部会長 今,御説明がありましたように,7月以降に新たにパブリックコメントを行って,持戻し免除の意思表示あるいは仮払い等について意見を徴するということで,来年2月の法制審への答申ということを考えたスケジュールを御提案いただいたわけですけれども,これにつきまして,御質問,御意見等がございましたら伺えればと思いますが,いかがでございましょうか。 ○増田委員 パブリックコメントに付す内容ですが,そのほかにも中間試案後に新たに議論していることがあると思います。例えばこの先まだ進める方向にあるのかどうかは分かりませんが,今日,御提案の相続開始後の共同相続人による財産処分についてという項目,あるいは遺留分制度に関する見直しのところでは,パブリックコメントに付した甲案,乙案とは異なる案が二つ提示されておりますので,この辺りについてもパブリックコメントに付すことを御検討いただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○堂薗幹事 その点は検討したいと思います。 ○大村部会長 先ほど挙げていただいたのは,主要なものの例示ということだと思いますので,具体的にどこまでパブリックコメントの対象にするかということについては,更に事務当局の方で御検討いただくということかと思います。   そのほか,いかがでございましょうか。 ○水野(紀)委員 立法の締切りが迫っていると思い,いろいろ,諦めていたことがあるのですけれども,もし,これを機会に少し時間的余裕ができるのでしたら,検討していただけないかと思うことがございます。今回の相続法の改正は,ワーキングチームの作業の段階では遺言の部分にこんなに手が入るとは思っておりませんでしたが,思いがけず,遺言が改正対象になりました。遺言には,本当はきちんと洗わなければいけない規定が一杯あると思っております。   例えば,902条の指定相続分については明治民法の起草者が思い付きで入れたような条文で,包括遺贈があるのになぜこの条文が必要か,不要ではないかという議論が学界でずっとありました。それから,成年後見法と同時に行われた遺言法の改正は,障害者が口授できないために公正証書遺言を利用できないのはよくないという理由からの改正でしたが,拙速だったと思っています。通訳でできるようにしても,公正証書遺言は本人が目で内容を確認できますから障害者の害にはならないのですが,死亡危急時遺言とか,船舶遭難者遺言とかまで同様の改正を拡大してしまいました。これらの場合は,通訳者が正確に訳す保障はありませんから,本人の真意ではない遺言が有効になる可能性があり,かえって障害者のためにならない規定になってしまっています。また,この976条の死亡危急時遺言も明治民法の起草段階でも,梅博士を筆頭に,こんな遺言はおかしいと反対が強かったのですけれども,日本の伝統的な遺言発想から入ってしまった条文です。この条文は,江戸時代の名残と申しますか,武士の家が断絶するとたくさん浪人が出て,皆が不幸になり,かつ死亡率が高かった時代に,当主が亡くなっても周囲の家老たちがそういう遺言があったということにして,家がお取り潰しにならないようにした時代の慣行を再現したものでした。そんな江戸時代の遺物の976条がそのまま残っておりまして,本人の真意を確保する要件が何一つない条文ですので,立法論的には非常に問題だと思っております。   洗い始めるとたくさんあるように思うのですけれども,そういう条文を洗う余裕は,延びてもないということでしょうか。 ○堂薗幹事 最終答申時期が来年2月になったとしても,既に取り上げられている論点だけでもまだかなり詰めるべきところがあると,皆さんも思っておられるのではないかと思いますので,それほど時間的な余裕はないというのと,現在認められている方式の遺言をなくす方向で見直しをすることについては,その影響等を含め,かなり慎重に検討する必要があるのではないかというところもありますので,御指摘を踏まえて検討いたしますが,これから,そういった点について新たに取り上げることについては,難しい面があるのではないかというのが正直な感想でございます。 ○水野(紀)委員 遺言がもっと活発に使われる方向に議論が進んできてしまいましたので,少なくともその弊害が見えてきた段階では,新たに改正を立ち上げることをお考えいただければ,と思います。改正を考え続ける機会を与えていただきたいと,かなり心配しております。死亡危急時遺言につきましては,本人が亡くなってしまっていて周囲の力のある者たちがそういう遺言があったことにするものですから,文句は出にくい遺言なのだろうとは思うのですが,でも,子どものような力のない者の利益が損なわれる危険や,本人の真意が確認できないという意味では非常に危ういものだと思います。遺言を活用しようという方向で改正が進んでまいりましたが,母法のように遺言がある場合は必ず公証人が遺産分割に関与するような制度保障がない日本では,この類型に限らず,遺言のもたらす弊害がどう出てくるか,不安になっております。そのような弊害に,臨機応変に対応できることをお考えいただければと思います。よろしくお願いいたします。 ○大村部会長 御指摘を踏まえて,今後,更に検討しなければならない課題もあるという形で,事務当局の方で記録にとどめていただきたいと思っております。今日のところはよろしいでしょうか。   そのほか,いかがでございましょうか。   それでは,スケジュールにつきましては,事務当局の御提案のようにさせていただくということで,パブリックコメントの項目等につきましては,また,改めてということにさせていただきたいと存じます。   続きまして,本日の配布資料につきまして事務当局の方から御説明を頂きます。 ○神吉関係官 それでは,本日の配布資料について御説明させていただきます。配布資料目録のとおり,本日の配布資料は2点ございます。事前に送付させていただいた部会資料20,「積残しの論点(1)」と題する資料と,あと,浅田委員の方において作成いただきました「仮払い制度に関する意見」,こちらは本日の机上配布の資料となります。後者の浅田委員作成資料につきましては,後ほど浅田委員の方から御説明いただけるものと伺っておりますので,どうぞよろしくお願いいたします。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今,御説明がありましたけれども,本日は部会資料20の「積残しの論点(1)」に基づきまして御審議をお願いいたします。中身は第2の「遺産分割に関する見直し等」,それから,第3が25ページから始まりますけれども,第3の「遺言執行者の権限の明確化等」,そして,第4は37ページからでございますが,「遺留分制度に関する見直し」というのが大項目でございまして,その中の幾つかの問題につきまして,再度,御検討いただくということでございます。第2,第3,第4と順番に進めますけれども,第3の途中で休憩を入れさせていただくということを予定しております。   まず,では,第2の「遺産分割に関する見直し等」につき,最初に事務当局の方から御説明を頂きまして,その後,浅田委員の方から資料についての説明を頂きたいと思います。では,よろしくお願いいたします。 ○神吉関係官 それでは,関係官の神吉の方から部会資料20につきまして御説明させていただきます。   まず,「仮払い制度等の創設・要件明確化」につきまして御説明させていただきます。   まず,甲案についてですが,これは裁判所の判断を経た仮払いを認めるという案でございますが,第18回部会でお示しした案からの変更点は,仮払いを認める費目を限定列挙としていたのを例示列挙とした点,また,相当性の要件を他の共同相続人の利益を害しないという要件に置き換えた点となります。それぞれ,簡潔に御説明いたします。   まず,費目を例示列挙とした点でございますが,部会資料18におきましては仮払いを認める費目につきまして限定列挙としておりましたところ,委員からそのほかの費目についても付け加えるよう,御要望が出されました。しかしながら,費目を限定列挙とする場合,必要かつ十分に書き切れるかという問題に直面いたしまして,今回の部会資料におきましては限定列挙とすることはやめ,例示列挙とすることといたしまして,その必要性の判断につきましては裁判所の裁量に委ねることとしております。   次に,他の共同相続人の利益を害しないという要件について御説明いたします。これは,従前の部会資料におきましては特定の資金需要がある場合に,裁判所が相当と認めるときは預貯金債権の仮払いを受けられるという案を提案しておりましたところ,委員から相当性の審査の内容が分かるよう,もう少し規律を明確化できないかという御指摘がございましたことから,その内容が分かるよう記載ぶりを改めさせていただきました。具体的な内容につきましては,部会資料4ページの①から③までに記載のとおりでして,部会資料18において,これまで説明してきた内容とほぼ同じということでございます。   また,「(3)その他」の部分でございますが,こちらは本案係属要件の論点について記載しております。部会資料18におきましては,本案係属要件を不要とする考え方も記載いたしましたが,これに積極的に賛意を示す意見がなかった一方で,理論的な問題があることや本案係属要件を要求したとしても,必ずしも当事者に過大な負担を課すわけではないということから,本案係属要件については現行法どおり,維持することでどうかということを記載しております。   次に,乙案につきまして御説明させていただきます。乙案は裁判所の判断を経ない仮払いを認める制度ということになりますが,従前の部会資料で掲げていた三つの案のうち,乙-2案をベースに今回の部会資料における御提案とさせていただいております。   ところで,第18回部会でも御検討いただいたとおり,乙案を採用した場合には金額による上限額をどのように定めるのかという問題がございます。この点,①預貯金債権ごとに定めるという考え方,②金融機関ごとに定めるという考え方,③預貯金債権全部を対象として上限額を定めるという考え方があります。裁判所の個別的判断を経ないで定型的に預貯金の払戻しの必要性が認められる額に限定するという観点からは,③の預貯金債権全部を対象として上限額を定めるという考え方が適当ではないかという御指摘もございましたが,この考え方を採用した場合には,金融機関に一定の調査義務を課すことにつながり,そうすると裁判所の判断を経ることなく,簡易かつ迅速にごく一部の預貯金の払戻しを受けることを阻害しかねないと考えられます。   これらの点を考慮いたしますと,裁判所の個別的判断を経ないでも預貯金の払戻しの必要性が認められる部分に限定すべきという要請と,簡易かつ迅速に預貯金の払戻しを受けられるようにするという要請,この両方の要請を満たすものとしては,金融機関ごとに上限額を定めるという②の考え方を採用するのが適当であると考えられ,今回の部会資料におきましては,預貯金債権の債務者ごとに100万円を限度とするという御提案をさせていただいております。   次に,7ページに移りまして「相続開始後の共同相続人による財産処分について」という論点につきまして御説明させていただきます。これは,今回の部会資料において初めて正式に提案する考え方とはなりますが,第18回部会におきまして仮払い制度の乙-2案について検討を行った際,共同相続人の一人が預貯金債権の一部について権利行使をした場合に,精算を義務付けるルールとして,当該権利行使をした相続人は,当該権利行使をした預貯金債権も含めて遺産分割の対象とすることに同意したものとみなすという規律を設ける必要が本当にあるのか,委員から問題提起があったところでありました。この点は,遺産分割前に共同相続人の一人によって自己の共有持分の処分がされた場合と同様の取扱いをすべきことになるものと考えられますが,この点についての明文上の規律はなく,また,明確にこれに言及した最高裁判例も見当たらないことから,今回の部会資料において取り上げさせていただいたということでございます。   この点,学説上も定説もない状況でございまして,どのように考えるべきかということになります。8ページ目の末尾から9ページ目の冒頭に,具体的相続分を求める計算式と遺産分割における取得額を求める計算式を掲げておりますが,これらの計算式のうち,相続開始のときにおいて有していた財産の価額に相続開始後に処分された遺産の価額も含めるのか否か,また,遺産分割の対象財産の価額に相続開始後に処分された遺産の価額も含めるのか否かにより,理論上は4通りの考え方があり得るところ,実際上,あり得る考え方として8ページ目の表でもお示ししたとおり,α,β,γの三つの考え方があり得るものと考えられます。それぞれの考え方を採用した場合に,具体的な事例でどのような結論となるかということを9ページ以下の「2 具体的な事例における検討」においてお示ししております。   次に,12ページ目に移っていただきまして,「〔検討〕」においてその分析・検討結果を記載しておりますが,α説及びβ説を採用いたしますと,特別受益のある者が遺産の一部又は全部を処分した場合,これがなかった場合と比べて最終的な取得額が多くなるという不公平が生じることになりまして,解釈又は立法的な解決により,その不当な結果を是正する必要があるように思われます。   そして,その方向性といたしましては,①遺産分割は遺産分割当時に残存している財産で行うという点は堅持しつつ,α説又はβ説を前提とした上で,具体的相続分で調整する,そして,具体的相続分を超える権利行使がされた場合には,不当利得又は償金請求をできる旨の規定を設けるという考え方と,②相続開始後の出金についても遺産分割の対象財産に含め,遺産分割において精算を行うという考え方が,こちらがγ説ということになりますが,前者の考え方につきましては,【事例2】のように遺産分割前に具体的相続分を超える権利行使がされた場合には,具体的相続分で調整することができず,また,そのような場合に不当利得又は償金請求ができる旨の規定を設けるとしても,その審理は地方裁判所で行わざるを得ず,一回的解決を図ることは不可能となります。したがって,基本的にはγ説,②の考え方を前提に検討するのが相当ではないかということで検討を進めております。   13ページ以下の「3 今回の提案について」ということでございますが,まず,冒頭でγ説を採用する場合の規律の設け方,また,理論的な許容性について検討しております。   次に,14ページ以下で幾つかの派生論点について検討を加えております。   まず,「(1)不動産の共有持分について売却された場合」についてですが,共同相続人の一人が不動産の共有持分を第三者に譲渡した場合についても本提案の規律は該当する,すなわち,譲渡された持分についても遺産分割の対象とし,遺産分割の中で精算を義務付けるものと整理しております。   次に,16ページの「(2)不動産の共有持分が差し押さえられた場合」についてですが,遺産に属する不動産の共有持分が相続債権者又は相続人の債権者によって差し押さえられた場合につきましても,実質的には遺産から逸失したものと考え,本提案の規律の対象に含めるということも考えられます。しかしながら,差押えの処分禁止効の内容や所有権移転の時期を考慮いたしますと,差押えがされたとしても遺産から逸失していないものと考えられ,差し押さえされた持分を含めて遺産分割をすればよく,また,売却決定がされ,代金が納付された場合には,本提案の規律の適用又は類推適用により,処理することもできるように思われることから,単に差押えがされた段階においては,本提案の規律の対象とすることとはしておりません。   次に,17ページの「(3)共同相続人の一人によって,その共有持分を超える財産処分が行われた場合について」ですが,本提案の規律は,このような場合も含めて規律の対象とすることとしております。   ところで,共同相続人の一人によって,他の相続人の同意なくして自己の共有持分以上の財産処分が行われた場合につきましては,他の相続人はその処分を行った相続人に対して,その法定相続分に応じた不法行為による損害賠償請求権を分割取得するという考え方もありまして,共同相続人の一人が遺産を処分した場合の規律を設けるとしても,自己の暫定的な持分を処分した場合に限るべき,それ以上の持分処分の場合につきましては,不法行為又は不当利得による処理に委ねるべきという考え方もあるように思われます。   しかしながら,特別受益がある場合などには,このような考え方に基づき処理を行いますと,(注1)(注2)で具体的な事例に基づき計算例をお示ししておりますが,相続人間の実質的な公平を貫徹できませんし,また,自己の持分を処分した場合には相続人間の公平を図り,他人の持分を処分した場合には,相続人間の公平を図らなくてもよいという実質的な理由も見当たらないことから,このような場合も含めて本提案における規律の対象に含めることとしております。   なお,21ページ目の(注3)を御覧ください。こちらには本提案の規律を採用することは,共同相続人の一人が他の共同相続人の持分を処分した場合に,相続開始により暫定的に生じた法定相続分の割合による持分の侵害があったとして,不法行為又は不当利得が成立するという従前の理解は,変更することを意味するものではないということを記載しております。そういたしますと,相互の関係をどう整理するのかということが問題となりますが,遺産分割が先行する場合には,基本的には遺産分割の遡及効により,不法行為に基づく損害賠償請求権又は不当利得返還請求権は消滅すると整理でき,また,損害賠償請求等が先行した場合には,審判の内容を工夫すれば公平な遺産分割が実現することができるのではないかということも記載しております。なお,両者の手続が併存している場合につきましては,裁判所としては適切に釈明権を行使し,どちらの手続を先行させるのかと当事者の意向を確認した上で,その手続を進めるということになろうかと考えられます。   最後に問題となりますのが22ページの「(4)共同相続人の一人によって,遺産の全部が処分された場合について」でございます。7ページ目のゴシック部分の提案では,亀甲を付けてはおりますが,共同相続人の一人によって遺産の一部が処分されたのみならず,遺産の全部が処分された場合も,本提案の規律の対象としております。   これは,遺産の全部が処分された場合にも,これを精算の対象としないと共同相続人間の実質的な公平が図れないことから,共同相続人の一人によって遺産が全部処分された場合につきましても本提案の規律の対象としておりますが,遺産分割の時点では,実際には分割すべき遺産が全くない場合についても,遺産分割事件として処理することは理論的に問題があるという批判も考えられます。また,遺産分割の審判事件は遺産の分割方法について裁判所に裁量が認められることから,これを審判事件で取り扱うことが許容されているものと考えられますが,遺産の全部が処分された場合には金銭的に調整するほかはなく,この点に裁判所の裁量を認める余地はないとも考えられ,これを審判により行うことができるかという問題もあるように思われます。   もっとも,この点につきましては処分された遺産が相続人の手元に残っている場合,例えば譲渡契約が解除又は取り消された場合などには本規律を適用することにより,遺産から一度逸失した財産についても遺産分割の対象とすることができ,このような観点からすると,遺産の全部が処分された場合についても,必ずしも金銭的に調整するほかはないとまでは言い切れないようにも思われます。   以上の点につきどのように考えるべきか,委員・幹事の皆様の御意見を頂戴できればと思います。なお,後半の第2の論点につきましては,新しく御提示する論点でございますし,かなり今までの実務とは違う御提案となります。ですので,委員の皆様からいろいろな御意見が出るかと思われますが,議論の順番といたしまして,不公平が生じるということについてまずどう考えるべきなのか,次に,この点について解消する方策として遺産分割でやるのか,それとも,償金請求の地方裁判所の方に委ねるべきなのか,その辺りで恐らく御意見が分かれてくるかと思いますので,段階的に御議論いただければ有り難いかなと思っているところでございます。 ○大村部会長 ありがとうございました。   第2の「遺産分割に関する見直し等」につき御説明を頂きましたけれども,中は1ページ,1の「仮払い制度等の創設・要件明確化」と,それから,7ページ,2の「相続開始後の共同相続人による財産処分について」とに分かれております。2番目の方は,今,直前に御説明がありましたけれども,仮払い制度から端を発した話ではありますけれども,今回,初めて出るものでございますので,別途,切り離して後で段階を追って御議論いただきたいと思っております。   そこで,まず,最初に「仮払い制度等の創設・要件の明確化」という点につきまして,甲案,乙案につき,それぞれ,一定の修正をされたものが提案されておりますけれども,これにつきまして浅田委員の方から御発言があると承っておりますので,浅田委員にお願いしたいと思います。 ○浅田委員 ありがとうございます。   仮払い制度は銀行界にとって,とても重要なものですので,恐縮ながら今回も少しお時間を頂きまして,銀行界の意見についてお手元の資料を利用させていただきながら述べさせていただきます。   まず,事務当局におかれましては,これまでの銀行界からの各種要請について真摯に御検討いただき,御提案いただきましたことにまずは御礼を申し上げたいと思います。ただ,この点は銀行界でも種々,議論させていただいたものでございますけれども,結論として今回御提案の乙案について,御提示いただいている案では銀行における窓口実務として対処が煩雑であり,困難ではないかと考えており,また,相続人間の協議が調うまでは払戻し不可であるという原則の例外として,相続人にとって真に必要なものを支払うというコンセプトが国民にとっても有益な制度と考えるところ,この案ではそのコンセプトに十分に応えることができないのではないかとも考えられるところであります。そこで,第18回部会においても同様のことを私から述べさせていただいたことでありますけれども,改めてその理由についてまた簡単に述べさせていただきたいと思います。   まずは,昨年末の最高裁大法廷決定との関係です。同決定が相続人間の公平性という観点から,預貯金債権について遺産分割の対象と判断した点に鑑みますと,費目等を限定せずに一律,一定額まで払戻しを受けられるという制度というのは,その趣旨に沿わないのではないか,すなわち,相続人間の公平性を害してしまうケースがあるのではないかと思います。次に,元々,裁判所外での仮払いというのは,裁判所の手続として甲案では本案係属要件を必要とするなど,手続面での負担が相応にあるため,一般国民からは簡易に裁判所外で払戻しを受けたいニーズも出てくることが想定されるところ,このニーズに応えるという観点から乙案が提案されているものと認識しています。   しかしながら,御提案の乙案では,そのニーズに必ずしも応えていないのではないか,すなわち,相続人の葬儀費用等の緊急性の高い資金需要に,適時にかつ簡易な方法で応えることができないのではないかとも思われるところです。  更に銀行側の都合となってしまいますが,これまで述べたようにニーズに合致すると言い切れない制度であるのにもかかわらず,本制度が適用されると銀行窓口にとって対処が煩雑であり,対応が困難となることがあるのではないかとも思っています。   他方で,そのような事情を踏まえますと,銀行界としては費目で限定した形での仮払い制度がなお望ましいのではないか,そう考えております。そこで,私どもなりの提案を少し具体的に作成したものがお手元資料,「仮払い制度に関する意見」と題したものでございます。これを御覧いただければと思います。   1枚おめくりいただいて2枚目を御覧ください。現行の銀行窓口実務において,一部の相続人から払戻し要請があるもののうち,裁判所での仮払い制度ではスケジュール的に間に合わないと思われる事案は葬儀費用の支払分です。葬儀費用の支払については,相続発生直後に発生するものですから,当然ながら相続人間の各種調整も終わらないまま,支払期限が到来します。こういった事情もあり,少なくとも昨年末の大法廷決定前において,多くの銀行では相続費用については便宜払いをしていたものと思われます。そうであれば,その実務を仮払い制度として設計できないか,そう思いまして,この仮払い制度案を試みに作成しております。   何分,法制度に関する技術的なことについて知見が乏しいものですから,つたないものとなっていることは重々承知の上でありますが,作成者の意図を申し上げますと以下のとおりです。一つは,相続費用等の債務については仮払いを受けることができる,二つ目に,ただし,それには要件があり,一つにはきちんと相続費用が発生しているエビデンスを用意していただく必要がある,三つ目は,また,もう一つの要件として葬儀社等の債権者の口座に直接送金する形でお支払させていただく,すなわち,相続人には現金を渡さないということです。これが今の銀行の実務だと理解しています。こういった観点から本案を作成しております。是非とも事務当局等におかれましては,係る案の採用について御検討いただければ幸いです。 ○大村部会長 ありがとうございました。   本日は,甲案と乙案のそれぞれについて事務当局の方から御提案を頂いておりまして,そのうちの乙案につきまして浅田委員の方から言わば別案が提案されているということかと思います。甲案につきましては先ほど御説明がありましたけれども,仮払いを認める費目を限定列挙としていたのを例示列挙にしたということと,相当性の要件を他の相続人の利益を害しないという要件に変えたということが挙げられておりました。乙案につきましては乙-2の考え方をベースにしつつ,上限額を金融機関ごとに定めるというのが事務当局の方の御提案でございました。浅田委員の方からは費目を限定するということと,支払の仕方についても一定の制約を加えるという御提案を頂いたと理解しております。御意見を頂ければと思いますけれども,事務当局の方から何かありますか,今の浅田委員の御発言について。いいですか。では,皆様からの御発言を頂きたいと思います。 ○潮見委員 浅田委員にちょっとだけ確認の質問をします。御提示になられた部分については,私はそれほど違和感は覚えません。ただ,この間の議論で出てきているような生活費の支弁をする必要があるときとか,あるいは,相続税の支払,共益費用の支払,そういうものについてはどうしたらいいとお考えになっておられるのか。乙案については,このように修正した上で甲案的なもの,つまり,裁判所の介入による仮払いというか,何らかの形での支払を認めるという考え方を採用すべきだというお考えなのか,それとも,ここに上がっていないような費目については現行法のままでいいし,しかも,そこに大法廷決定の枠組みがかぶさってくるんだというお考えで,御説明をされたのか。その辺りはいかがなものでしょうか。 ○浅田委員 基本的には,ここに書いていないものについては甲案の方で対応いただくのが適当ではないのかと考えております。もちろん,いろいろな考え方があると思いますし,甲案で拾うべき項目というのを乙案で何らかの技術的な明確性も含めて対処できるのであれば,乙案で拾うということも可能だと思います。ただ,考えてみますに,基本的な発想としますと乙案というのはどちらかというと緊急性の高い費用を支払うと,その代表例としては相続費用であり,この観点から(1)の②で挙げていますのはすぐ払えと,弁済期が到来している債務ということを挙げているという話です。その他の費目,例えば扶養者の生活費等に関しては,もちろん,緊急性があるという一定のものはあるのかもしれませんけれども,継続的な全体の長期的な観点から,公平性の観点も含めて判断されるべきと考えますので,どちらかというと,甲案,裁判所の判断を待って対応するというのが適当ではないかと,こういう発想で作成したつもりであります。 ○潮見委員 ということは,甲案があって甲案の特則として,今日,お示しになられた葬儀費用と相続財産に属する債務についてのルールを設けていただきたいという,そういうお考えですね。 ○浅田委員 私どもとしては,甲案があるということを基本的には念頭に置いていると,それに加えて乙案をこれであればと考えている次第であります。 ○潮見委員 分かりました。ありがとうございます。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。   そのほか,いかがでございましょうか。 ○石井幹事 甲案についてですけれども,今回の御提案では費目を例示列挙にされたということで,従前の限定列挙とどちらがいいかと検討したのですが,結論としては例示列挙とすることで裁判所は柔軟な判断ができ,限定列挙になりますと,そこに費目に当たるのかというところについて判断が複雑になる可能性もありますので,例示列挙としていただくという方向で進めていただくことが適切と考えております。   その上で,要件の立て方について更に御検討いただければなというところがございます。まず,現在の御提案ですと必要がある場合にということになってございますけれども,例えば債務の支払について必要があるというところで債務の存否,本当にあるのかとか,金額などについて具体的に認定をしなければいけないと解される恐れもあると思います。飽くまで保全処分というところですので,保全的な審理,判断でよいということが明確になるような要件立てをしていただけると,実務的には有り難いのかなと思っております。   同様の観点から,御提案のありました他の共同相続人の利益を害しない限りという要件につきましては,考え方としては,今回,御提案いただいたような方向性で進めていただければよろしいのかなと思いますけれども,利益を害しない限りといいますと,特別受益ですとか,そういったものの判断をある程度,具体的にしていかないといけないということになって,そこがどこまでも厳密にやらなければいけないというような解釈になる可能性もありますので,そこについても一定の幅というか,概括的な保全の認定で許容されるといったことがより明確になるような要件立てを御検討いただければ,有り難いなと考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○神吉関係官 要件立てについて御意見をいただきましたが,これ以上,どう書いたらいいのかというのは余りアイデアがないので,もしあれば教えていただければと思います。そもそも,保全処分,仮分割の仮処分という形になりますので,疎明でいいということになるかと思いますが,その点の審査については疎明資料によって行うということで,審判で通常行っているような審査とは違うのではないか,ある程度緩やかな審査でいいんだろうと思います。その上で,法文上の要件としてそこを反映させるとなると,なかなか,アイデアが余りありませんので,もしあれば教えていただければなと思っているところでございます。 ○石井幹事 例えば,今の案ですと他の共同相続人の利益を害しない限りとなっておりますけれども,利益を害することが明らかでない限りとか,あるいは必要性の方も必要があるということではなくて,必要があると認められるとか見えるとか,疎明だということが分かるような書きぶりを御検討いただけるとなお有り難いかなと思っております。 ○神吉関係官 家事事件手続法200条2項との平仄の問題はありますが,検討させていただきます。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○増田委員 まず,浅田委員に対してよろしいでしょうか。前回,甲案に対してした質問と同じことになるんですが,相続財産に属する債務というのは,相続開始以前に発生原因のあるものに限られるのか,弁済期が到来しているものというのは,相続開始以前に既に弁済期が到来しているものに限られるのかという点をお伺いしたいと思います。 ○浅田委員 この点については具体的に詰めておりません。ただ,私の考えでは相続財産に属する債務,いわゆる被相続人が負担していた債務に限定され,したがって,相続人が従前から負っていた債務は含めない,という方向で考えております。また,弁済期の到来というのはどちらでも設計の仕方だとは思いますけれども,支払当時において弁済が到来しているという考え方でも,すなわち相続開始以前に弁済期が到来している必要はない,という方向での運用もできるかと思います。これについては詰めて議論しておりませんので,今,申し上げたのは私個人の意見だということで御理解いただければと思います ○増田委員 質問の仕方が悪かったように思います。相続財産に属する債務と発生原因との前後関係を質問したのは,具体的に言えば,相続開始後に発生した相続財産の固定資産税ですとか,相続財産の修繕費用ですとか,そういったものが含まれるのかどうかということをお伺いしたかったんです。 ○浅田委員 詰めた明確な議論はされていませんので,個人的な意見にとどまりますけれども,私の個人的な考えでいいますと,先ほど増田委員が御指摘されたものは入ると考えております。すなわち,基本的には相続人がその時点において相続財産に属する債務として負担すべきものについて仮払いを認めるという制度ですので,必ずしも相続発生時において債務が発生している必要はないかと思います。ただ,これについては制度設計の仕方だと思いますし,また,その間の債務について認めるということが波及する債務の範囲の特定性の問題であるとか,議論が出てくると思いますので,そこは詰めたいと思います。 ○増田委員 ありがとうございます。   それで,今度は甲案についていいですか。 ○大村部会長 今の点はよろしいですか。 ○増田委員 今の点は以上でございます。   甲案については,私は前回,別の非訟事件として立てられないかということも申し上げたんですが,今回も遺産分割事件の保全処分という方向になっています。遺産分割の保全処分と構成した場合には,当該保全処分の申立人が当該債権を将来的に取得する蓋然性が要件になると思われるんですが,それでよろしいんでしょうかということと,その場合には将来取得する蓋然性までを疎明しないと,共益費用なども支払を受けられないのかという点をお伺いしたいんですが。 ○大村部会長 では,お願いします。 ○堂薗幹事 保全処分ですので,本案の遺産分割でどういう権利を取得できるかという点は判断の対象になるのだろうと思います。他方,例えば,保存行為として,ほかの相続人の負担部分まで弁済をした場合には,他の相続人に対する求償請求権が発生することになるわけですけれども,そういった求償請求権があるということになりますと,後の遺産分割でその権利行使をした相続人に例えば代償金の支払義務を負わせることとした場合にも,相殺によってそこは処理ができますので,代償金の支払義務を負う者の支払能力の問題は生じにくくなるというところはあろうかと思います。したがって,基本的には代償分割がやりやすくなると思いますので,そういった意味では,ほかの相続人に対して求償債権が発生するかどうかという辺りについても,考慮されることになるのではないかと考えているところではございます。 ○神吉関係官 補足で御説明させていただきますけれども,先ほどの増田委員の御指摘は,遺産の中に預貯金債権以外にほかの何かの遺産財産があった場合に,当該預貯金債権を取得するという蓋然性の立証・疎明まで必要なのかという御質問だったのかもしれないんですけれども,その点については,そこまでの疎明は必要ないのではないかと考えております。部会資料の3ページ目から4ページまでで,整理しておりますが,基本的に最初に言うべきこととしては,遺産の総額と,申立人の相続分の割合,それから,仮払いを受ける必要性について疎明をすれば基本的にはよいと。次に,他の共同相続人の利益を害しない限りという要件で,どのように考えていくのかという話になりますが,基本的には遺産の総額に法定相続分を乗じた額の範囲内であれば,他の共同相続人の利益は害しないということで,仮払いは認められると。   ただ,一方で預貯金債権以外にある財産というのが非常に市場流通性が低い財産で,他の共同相続人もその預貯金債権が欲しいということが想定されるような,そういった事案については,預貯金債権のうちの法定相続分ということもあり得るのではないか,このような場合に遺産の総額に法定相続分を乗じた範囲内の額であったとしても当該預貯金債権を申立人に仮に取得させるということは他の共同相続人の利益を害することになるのではないか,ということが4ページ目の③というところで整理しております。 ○大村部会長 増田委員,いかがでしょうか。 ○増田委員 私は甲案に別に反対するわけではないんですが,制度として遺産分割事件の保全処分であり,しかも,本案係属要件を今回,必要とされるということになっているので,全体が見えない段階で,つまり遺産の総体すらまだ見えない段階で申し立てた場合に,仮払いが認められないのではないかという危惧を感じますので,そういうことがないような制度であればと思っている次第です。 ○堂薗幹事 まず,こういう制度を設ける場合に,なぜ,そもそも,預貯金債権についてだけ200条2項の厳格な要件ではなくて,少し緩和された要件で仮払いが認められるのかというところが問題になるんだと思いますが,基本的に預貯金債権の場合はほかの財産と違って,一部分割や,あるいは仮分割をしても,後に遺産分割をする際に,適正な分配が困難になるという事態が生じにくいという面があるのではないかと思います。すなわち,預貯金債権ですので現金類似の性質を有しており,換価が容易であって,金銭で分配できるという性質がありますので,預貯金債権全部の仮払い等認めることになりますと問題になるかもしれませんが,一部について特定の相続人に仮払いをしたとしても,残部の遺産分割では,ほかの預貯金債権で調整をすることもできますし,また,基本的には預貯金債権については,例えばほぼ全ての相続人に同額ずつ分配するというようなことも十分可能ですし,かつ,その方が公平な場合も多いのだろうと思います。そういった意味で,預貯金債権について要件を緩和することが可能であるとしますと,先ほど増田先生が言われたように,まだ,遺産分割についての協議ないし手続が進行しておらず,全体が見えていない段階でも,預貯金債権については比較的容易に仮分割を認めることが可能になるのではないかと思います。要するに,預貯金債権について仮払いの要件を緩和する趣旨からいっても,御指摘のような取扱いはできるのではないかと考えております。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。 ○窪田委員 今の論点とは違うところになってしまいますけれども,よろしいですか。 ○大村部会長 では,ちょっと待って下さい。今の点については保全処分という形を採っているけれども,本案との関係でこれが使いにくいということになりはしまいかというのが増田委員の危惧かと思いますけれども,それはそうならない運用が期待される基盤があるだろうというのが堂薗幹事の御返事だったと思います。取りあえず,増田委員,それはよろしいですか。 ○増田委員 はい。 ○窪田委員 一つ戻ってしまうのですが,浅田委員から御提案もあった部分に関して,浅田委員に対してというよりは,むしろ,法務省に対する御質問ということになるのかもしれないのですが,甲案が出た段階で,限定列挙か,例示列挙かはともかく,葬儀費用が入っていなかったのは,葬儀費用の位置付けというのは随分,議論があってからということだったかと記憶しております。正確には覚えておりませんけれども,葬儀費用についての債務者というのは相続人なのか,喪主なのかというような議論もありますし,それが一旦,債務を負担する形で承継したものから払うのか,むしろ,遺産,それ自体が直接払うべきものなのか等々に関しても議論があるところだろうと思います。   御質問というか,検討していただけたらと思いますのは,恐らく甲案,乙案というのとは別の性格のものとして,葬儀費用についてのルールというのを立てることができるのかどうなのかという点です。つまり,浅田委員からの御提案にあったのも,葬儀費用に関しては,むしろ,本来,被相続人が持っていた財産から直接支払うというイメージでルールを立てるということだろうと思いますし,そのときに例えば乙案でも債権額の2割にその相続人の法定相続分を乗じた額とかという枠が本当に入るのかどうなのか,これは要するに葬儀費用を誰が負担するのかという点にも関わるのですが,なじみにくい部分があるのかなという気がいたします。   先ほど申し上げたように,学説上はいろいろな議論もありますし,裁判例でもいろいろな説明をしているものもあるようですが,しかし,かと言って,これでなければいけないという意味で,原理的なところで何か非常に学説が対立していてというような性格の問題でもなくて,みんな,何となくはっきりしないよねということでぼんやりきているだけなのかなという気もいたします。そうだとすると,甲案,乙案とは別立てに何らかの形での葬儀費用に関してのルールを立てるということは,必ずしもそれほど不合理なことではないのかなという気もしましたので,既に御検討がなされているのであれば,その点も含めて教えていただきたいということです。 ○神吉関係官 葬儀費用をどういうふうに誰が負担するのかという点ですけれども,委員の御指摘のとおり,様々な見解がありまして,裁判例上も幾つかの見解があるという状況にあります。すなわち,喪主が負担するのか,それとも,相続人全員で負担するのか,それとも,相続財産が負担すべきものなのかといういろいろな見解があるようでございまして,どのように考えるべきかは事案によってかなり異なるのではないかという気がしております。   相続人全員でまず葬儀をしようということになれば,相続人全員の負担という形になるでしょうし,喪主が自分の家のためにやるんだとか,そういう考えに基づいてほかの相続人との協議なしに葬儀を行うという話であれば,喪主が負担するということになるでしょうし,被相続人が生前自ら葬儀を準備していたという話であれば,相続財産から支弁するということで相続債務的に扱うということもあるでしょうし,そこはかなり事案によって違ってくるというところで,一つの見解で統一するということがそもそも可能なのか,問題があろうかなと思っているところでございます。特に葬儀費用については,裁判実務上,かなり紛争が生じることもあって,相続人間の仲が悪いと2回,葬儀をやるというようなこともあると聞いておりますので,そういったところでルールの明確化になじむのかどうかという点は,若干,危惧しているところでございます。 ○窪田委員 ちょっとだけ補足させていただいてよろしいでしょうか。今,御説明いただいたところは非常によく理解できることですし,当然にこれが例外で扱えると考えているわけではありませんが,ただ,喪主が費用を負担するといった場合に,実際にそれを例えば相続した預金債権の中から支出した場合には,それを喪主が相続したことになるのかとか,そういうレベルの話まで含めたときに,本当に今の状況というのが喪主が債務を負担する,イコール,喪主が債務を負担する以上は,預金債権からそれを支払ったとしても,それは既に喪主のところに分配されたのと同じだというふうなところまでを含んでいるのかどうなのか,よく分からないなという感じを私自身はしております。   ただ,そうは言いつつも,無制限にそれを認めてしまいますと,上限なしで葬儀をやって,預金債権しか相続財産がなかったのに,それを全部使ってしまっても構わないのかということになると,多分,それはそれで妥当ではないだろうなとは思いつつ,浅田委員からの御提案があった部分というのは,結局,それに対して答えない限りは,葬儀費用についてのルールというのは立てられないのかなという気もしたものですから,お尋ねしたということです。   その上で,浅田委員に少し実務について教えていただけたらと思うのですが,実際には仮払いという葬儀費用の債権者宛ての振込みによって便宜払いを実施しているということなのですが,このときには預金債権額との一定の割合の範囲だとか,そういう制限はあるのでしょうか。 ○浅田委員 お答えいたします。これは,基本的に実務で一般的に行われているということで私が認識しているところでありまして,各銀行によって取扱いが違うということは留保させていただきたいんですけれども,まず,第一に葬儀費用に関しては緊急性が高く,ある程度,理解できるものでありますので,そういう意味で,銀行としてはできる限り応じたいという考えを持っておりますが,一方で,トラブルも多いということでありますので,それをどう極小化するかということで実務が決まっているわけです。   そこで,二つのクライテリアがあると思います。一つは真に葬儀費用であるのかということでありまして,これは,ここでの提案にも書きましたとおり,エビデンスといいましょうか,葬儀費用であるということの請求書等のエビデンスを拝見させていただくということ,それに加えて,実際に弁済としては葬儀社に対して振込みで行うということで,これによって金額の多寡はあるかもしれませんけれども,基本的には葬儀費用で支払っているということを確保するというのが多分,大きなクライテリアだと思います。二つ目に金額の条件ということでありますけれども,これも銀行によって違うと思いますけれども,一つは例の大法廷決定前までは,トラブルが生じたとしても,従前の判例理論によれば法定相続分までは預金が可分されて帰属するということでしたので,その範囲であれば払いやすいと,それを理由に,その可分されて帰属する範囲で払うという判断をしていた銀行というのも多いと思います。   あとは,もちろん,常識的に葬儀費用というのはいろいろ多寡がございますので,一般的に認められる金額かどうかというのは,本当にまちまちであるわけですけれども,そこは常識でトラブルにならないような範囲で銀行の窓口職員が判断して,高いようであれば,そこはまた,別途,検討するということになろうかと思います。   余談ながら,統計の話でありますけれども,ある統計によれば,大体,葬儀費用というのは200万ぐらいだという統計を見たことがあります。統計の仕方によるものですから,いろいろ,違い得るかもしれませんけれども,一方で,葬儀費用は先ほど議論がありましたようにトラブルも多いわけでして,いろいろな考えを持つ相続人の方がいらっしゃるわけですし,また,費用の掛け方にもいろいろあるわけですので,そういう意味で,これはなかなか一律的な,演繹的な議論というのは非常に難しいかなとは思っておりますが,ただ,さりとて,繰り返しになりますけれども,一定のルールを大法廷決定後に作らないと,葬儀費用をめぐって相続人は困るということですので,こういう提案をしているということでございます。 ○大村部会長 窪田委員,よろしいですか。 ○窪田委員 分かりました。今のお話ですと,ただ,要するに300万円ぐらいしか預金債権がない場合でも,場合によっては200万円の支払というのが,それほど不条理なものでなければ払うということも,銀行の仕組みとしてあるかどうかはともかく,一定のニーズはあるということなのだろうと思います。また,そうだとすると,甲案,乙案とは違うタイプのものになるのだろうという気がします。ただ,それを本当に貫いて制度設計できるかどうかというのは,私自身もよく分からない感じがしているものですから,悩ましいなということだけで終わりますけれども。 ○堂薗幹事 まず,今回の甲案で例示の中に葬儀費用の支払というのは入っていないわけですけれども,甲案で葬儀費用の支払のために仮分割を認めることは当然あり得るという前提です。その上で,誰がその費用を負担するのかという問題は取りあえず置いておいて,そういう形で仮分割をし,その人が本来負担すべき費用であれば,当然その人が負担するということですし,相続人に求償できるようなものであれば,それを踏まえて求償するということですので,基本的には甲案を採用して,裁判所がその点を判断するということにした方が,葬儀費用が過大なものでないかどうか,その人の身分にふさわしいものかどうかという辺りの判断もできるので,一律に葬儀費用であれば払戻しを認めるよりは,相続人間の公平が図れるのではないかと考えているところでございます。 ○潮見委員 今の堂薗幹事の話ではないですが,甲案で考えるか,あるいは先ほど浅田委員に確認したお答えでよいとするならば甲案をベースに特則として,しかも,その特則というのは甲案の方は基本的に仮分割,仮処分の枠組みだけれども,特則の方は預貯金債権に関する弁済であり,そのあとの遺産分割のところで調整は残っているという意味で似ていて違うということを受け入れた上で,今回御提案のものを入れるという枠組みか,どちらかで考えていただければと思うところです。それで制度設計ができるかどうかという話は残りますけれども,そうすることによって先ほどから話が出ていた葬儀費用の債務者は誰かとかというややこしい問題は回避することができて,実際の便宜にも供することができるというのであれば,それはそれでよろしいのではないかと個人的には思います。   ただ,その上でのことですが,仮に浅田さんが提案されているようなことでいった場合には,額のところ辺りは法務省令で定めるという形に丸括弧書きで柱書きに書かれておりますが,こういう形が採れるのかという辺りは,個人的には悩ましいなというところは思うところでございますし,相続財産の属する債務と,先ほど増田さんの話にありましたが,これを卒然と読めば,正に相続財産のうちの消極財産ということだから,被相続人が負担していた債務ということであって,単に相続財産が引当てとなっているようなものを想定しているとは到底読めない。   だからこそ,相続税負担はどうだとか,あるいは先ほど増田さんがおっしゃったような相続財産について後で修理した修理代金債務はどうなるんだという議論が別枠で出てきたのではないかと思います。そんなところから考えても,相続財産に属する債務というのは極めて限定的かなという感じがいたします。   逆にそうであれば,そういうふうに限定したというか,限定するということが先ほどの浅田さんの提案になるところの,ここにいう相続財産に属する債務というものと合致しているのか,それとも,相続財産に属する債務は検討させていただきますというお答えがございましたが,先ほど増田さんが言われていたような,それ以外の広いものも全部含めていくのかという辺りは,少し詰めていただきたいと思います。と同時に,法務省の方も浅田さんの提案というもので酌み取るべき価値があるところがございましたら,そこの相続財産に属する債務というのは何なのかというところはパブコメに出すということでございましたから,そのときに,これはこういうものを言って,こんなのも入るんですよとか,あるいはこれは入らないとか,その辺りを誤解のないような形でお示しいただければと思うところです。 ○大村部会長 ありがとうございます。   御意見は,浅田委員の御提案ですと(1)の①,②が列挙されているわけですが,それを適切に限定していくということが必要になる,上限額だとか,債務の範囲というような問題がありますけれども,そういうことをどう考えるのかという御指摘だったかと思います。他方,事務当局が用意している案の方は,そうしたことを言わずに金額で決めてしまおうということであったと思います。浅田委員の御提案は,(1)①,②のようなものの方が明確ではないかという御趣旨なのだろうと思いますけれども,それが難しければ,元に戻って金額でというような話になる。そうした関係に立っているようにも思いますけれども,その辺りの得失について何か御意見等がありましたら伺えればと思いますが,いかがでしょうか。 ○神吉関係官 事務当局の方から,浅田委員の御提案について1点だけ質問させていただきたいと思います。今日,御提案いただいた案では,仮払いを認める費目として,葬儀費用と相続財産に属する債務に限定しているということで,それについては仮払いの申請をさせる際に疎明資料を出させるという形になっているかと思うのですが,その疎明資料を出させるということの効果についてお伺いしたいと思います。提出を受けた書類を見て審査をして,それで,実際にあるなと判断できた場合に支払うということを想定されているんだとは思うんですけれども,もし,客観的に見て提出書類が不十分だったとか,よく分からないという中で支払ってしまった場合に,それは有効な弁済ではないという理解でいいのかどうかというのが,資料を出させるということの効果をどう考えるのかというところを教えていただければと思います。 ○浅田委員 そこには議論があろうかと思います。つまり,銀行員が書面を見たときに,それがどこまで真実であるのかについて確認する義務を認めるのかという論点はあると思います。その点について直裁に答えているかどうかというのは別として,私どもの考え方としては(4)のところでありまして,前3項に従いなされた弁済は,有効なものとみなすものとするということです。それでは(3)の弁済というのが,一体,どういう場面での弁済なのかということに戻ってしまうわけなんですけれども,ある意味では,準占有者に対する弁済と同様の一定の注意義務はあるのかもしれないということは認識しつつも,私としては,その書面の一定の確からしさを前提に,銀行がそれを弁済した場合を想定しています。すなわち,(4)に従って,準占有者の弁済とみなすのか,(4)に伴う有効な弁済とみなすのかという違いはあろうかと思いますけれども,少なくとも銀行にとっては,その書面の真実性にかかわらず,(3)に従って弁済をすれば,第三債務者に対しては効果が生じるというふうな立て付けを考えております。 ○大村部会長 よろしいですか。 ○神吉関係官 そういたしますと,明らかに書類が客観的に不十分だったという場合には,弁済としては無効になると読むのかどうか,そこがよく分かりませんでして,もし,仮にそうなると金融機関の負担が結構,逆に大きくなってしまうのではないかなと,危惧をしております。もし,書類の交付に効果をそれほど持たせないということであればですが,例えば権利行使をする際に一定の資料を出させたり,弁済方法を一定のものに限定するというのは,契約法理で,約款とかで限定するという方向であれば,詰めて検討したわけではないんですけれども,考えられなくはないかなという気はしております。要件と効果が結び付かない形で書類の審査をするというのが少し違和感はあるかなというところでございます。 ○浅田委員 この点についても,今回,まずは枠組みをお示ししたわけでありますので,そこの効果に至るまでの書面の真実性に関するレベルの高さの可否の内容については,今後,しかるべき検討をしなければならないとは認識しております。 ○中田委員 確認なんですけれども,(4)の弁済というのは預金債務の弁済という面と,それから,例えば相続財産に属する債務の弁済という面と2通りあると思うんですが,どちらを指しているのでしょうか。 ○浅田委員 基本的な発想としては,預金債務の弁済についての有効性だと考えております。それに加えて,当該原債権に対する債務の弁済が有効かどうかというのは,もちろん,当該原契約の内容であるとか,また,その抗弁の有無であるとかいうことの問題が出てくると思いますけれども,そこは,銀行以外の当事者間で決せられる問題だと理解しております。この規律において,その相続財産に属する債務の弁済の有効性まで規律することというのは,一応は考えられ得ると思いますけれども,この提案した規律というのは,そこまでは考えておりません。この提案の文章として読み取れないということであれば,書き方をもう一度,見直す必要があろうかとは思います。 ○中田委員 分かりました。ありがとうございました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでございましょうか。甲乙の両案が出ておりますけれども,これは両立しないわけではない,乙案が無理だということになってしまえば甲案だけということになりますが,乙案を一定の範囲で認めるということであれば,先ほど潮見委員も乙案を特則としてという言い方をされましたけれども,二つのものが成り立つということはある。そういう前提で審議をしてきたかと思います。本日のところ,甲案については質問等を頂きましたけれども,大きな異論はないという状況かと認識しております。乙案につきましては事務当局が示された案に対して,浅田委員から出された費目を絞るという案につき,この費目の絞り方を適切なものにできるのだろうかといった点について御意見を頂戴している。こういう状況かと思いますけれども,ほかにこの際,御指摘,御意見等があれば頂きたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○石栗委員 乙案の場合には,払い戻された額がそのまま遺産分割の対象になるということですが,金融機関に対して調査嘱託をすれば,どなたに幾ら払われたのかというのは,明らかになるということは前提になっているということでよろしいのでしょうか。 ○神吉関係官 事務当局からお答えいたしますと,乙案に基づいて請求する場合には,債権額の2割にその相続人の法定相続分を乗じた額が権利行使できるということですので,当然に金融機関に対して自分は法定相続人で,自分の法定相続分はこれだけですよということを証明しなければいけませんので,当然,戸籍なりを提出することになるんだと思います。そこの中で,誰に対していくら渡したということは記録されるのかどうか,当然,記録されることにはなるのではないかとは思っていますが,もし制度改正後にどうなるのか,現時点で検討をされていることがあれば,浅田委員から教えていただければと思います。 ○浅田委員 現行実務を一般論として申し上げますと,まず,相続財産の開示に関しましては,相続人であれば開示しております。平成21年1月22日の最高裁判決でもありますものですから,これは開示していると思います。問題は取引履歴というか,いわゆる勝手払いとか,そういう話ですか,それとも,現に有する預金残高ということでしょうか。 ○神吉関係官 質問の趣旨といたしましては,乙案に基づいて請求してきた場合に,誰に払ったかというのを記録することになるのか,仮に乙案のような制度を設けた場合にどうなるのかという質問でございます。 ○浅田委員 失礼しました。御質問は,今後,この制度が導入された場合に,新たな記録について開示をするかどうかということですね。それについては,まだ,十分に内部では検討しておりません。もちろん,こういう制度ができる限りは,銀行としては記録を何らかの形で付けるということになろうかと思います。次に,その内容について開示するかどうかということですけれども,これは検討しなければならないわけですけれども,守秘義務等の問題がないのであれば,開示する方向になるのではないかと私は個人的には思っておりますけれども,すみません,内部の検討が必要な点だと思っております。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。   乙案,それに伴う浅田委員の御提案につきまして,更に御意見があれば頂きたいと思いますが。 ○浅田委員 恐縮ですけれども,乙案でありますけれども,基本的な話としてこの意味がどうなのかということでありますが,つまり,2行目の相続開始時の債権額の2割と,債権額の2割というのは当該被相続人の有していた債権額全体の2割なのか,それとも,個々別の銀行で有している預金債権を全部集めた金額の2割なのか,それとも,個々の預貯金債権の債権口ごとの債権なのか,どれをお考えなのかということをお尋ねしたいと思います。 ○神吉関係官 お答えさせていただきます。部会資料の中では,明確ではないところだったかと思うんですけれども,権利行使ができる預貯金債権の割合・額については,個々の預貯金債権ごとに判断されるものと考えております。遺産のうち,例えばA銀行に普通預金が300万円,同じ銀行に定期預金が400万円あった場合に,この規律によって法定相続分は2分の1の相続人が単独で権利行使できるのは,普通預金のうちの30万円と定期預金のうちの40万円ということになるかと思います。ですから,当該相続人が,先ほどの金額を合算して普通預金から70万円を引き出すということはできないと今のところ考えているところでございます。   これと異なりまして上限額の設定と同様に,例えば預貯金債権の割合額について金融機関ごとに判断するという考え方とか,あと,預貯金債権全体,我が国にある預貯金債権全部を対象とするという考え方も,あり得なくはないかなと思いますが,ただ,預貯金債権全部を対象とすると,全金融機関にある預貯金債権額を把握しないと,個々に権利行使することができる額が決まらないということになり,実務上,それは難しいだろうと思われます。また,金融機関ごとに判断するという考え方もあるかと思いますが,上限額の設定のように,必要最小限度の権利行使を認めるという観点では,そういった規律もあってもいいかと思うのですが,ここでは単に口座ごとの払戻請求を認めれば足りますので,それほど金融機関ごとという方策を採用するメリットは余りないかなと。そうすると,規律としてシンプルである預貯金債権を口座ごとに考えていくのが良いのではないかと,今のところ,思っているところでございます。 ○浅田委員 ありがとうございました。 ○窪田委員 1点,よろしいですか。浅田委員に御質問するということになるのかもしれないのですが,先ほど便宜払いという言葉が出てきたのですが,便宜払いに関しては預金契約の中に何らかの形の特約とかというのはあるのでしょうか。それを御質問するという趣旨は,浅田委員から御提案があったことも,場合によっては預金契約によって対応が可能な問題として扱う余地があるのではないかというべきです。仮にそうだとすると,そこで扱える問題と民法なり,法律の方で対応するべき問題の切り分けも必要になってくるとも思います。それも踏まえて,そこで出てきた便宜払いということについても,少し教えていただければと思ったということです。 ○浅田委員 お答えいたします。約款等には便宜払いについての規定はございません。便宜払いというのはまさしく便宜に払うものであって,ある意味,正規の約款等に従った弁済ではなくて,銀行が裁量の判断によって,真実はお支払するべきでないかもしれないけれども,便宜的にお支払するということでございます。したがって,ないということであります。一方で,個人的な意見でありますけれども,本審議会において議論が出てきたときに聞いておりますところ,現在の預金約款について係る相続についての規定というのがないということが,度々,指摘されているところであります。これについては,相続法の改正,債権法の改正を受けた検討を含みますけれども,これらも勘案して何らかの約款の見直しが今後,検討されることを,私も今,お約束することはできませんけれども,ということが望まれているということを感じております。 ○大村部会長 窪田委員,よろしいでしょうか。 ○窪田委員 どうもありがとうございました。 ○大村部会長 窪田委員の御指摘は,乙案に相当するものを約款の中で対応するということを考えることはできるのではないかという方向ですね。先ほど事務当局の方からも,それは約款で対応することが考えられるという御指摘が浅田委員の案についてありましたけれども,法律で定めるべき事柄と約款で対応していただく事柄を仕分ける形での対応は,考えられないだろうかという方向では考えてみたらいかがか。こういう指摘として承りました。   ほかはいかがでしょうか。事務当局,よろしいですか。   では,甲案については特に大きな問題の指摘はなかったと,乙案につきまして原案に対し,費目を制限するという御提案が出されている。これの可能性についてなお検討を要するとまとめさせていただきたいと思います。よろしいでしょうか。   それでは,引き続きになりますけれども,相続開始後の共同相続人による財産処分という問題の方に移らせていただきます。これは今回,実質的には初めて出てくる論点であります。資料の方はかなり大部なもので,7ページから24ページまで具体的な計算例なども付いておりますけれども,先ほど事務当局から御希望の表明がありましたが,基本的な考え方,規定を設けて一定の考え方を示すということの当否ということにつき,まず,御意見を賜りまして,その後,具体的にどう考えるのか,それから,具体的に考える際に設ける規定の射程というんでしょうか,適用範囲をどの程度のものとして想定するかといった点について御意見を賜りたいと思います。   まず,かなり難しいところもございますので,質問等も含めまして最初の前提問題の方について御意見を頂ければと思いますが,いかがでございましょうか。どなたからでもどうぞ。 ○石井幹事 前提というよりは,こういう制度を設けるべきかどうかというところについて申し上げますと,こういった形で規律を設けて一定の法律関係を明確化するという意図については,理解するというところでございますけれども,こういった規律を設けた場合には,何点か,検討を要する難点があるのかなと思っております。   一つ目として,この提案によりますと,相続開始後に例えば遺産に属する預貯金の一部が引き出されていた場合については,その引き出しを誰が幾らしたのかといったことについて審理するという必要があろうと思いますけれども,実際,実務上も預金がそれに使って引き出されているということは間々ありまして,特に相続開始からある程度,時間がたっているような場合については証拠が既に散逸していたりするため,なかなか,審理が容易でないといった場面もあるというのが実情です。   これまでの実務では,そこは遺産分割の対象にはならないということで,そこについて疑義がある方については必要に応じて訴訟等で争って,遺産分割についてはその余の分について解決しているというところでしたけれども,この提案によりますと,最初に申し上げたような誰が引き出したかといったことについて,審理をしなければいけないということになりますので,遺産分割に関与している相続人の方全員が関与した形で長期間にわたって手続をやっていく必要があると考えられます。そういう意味では,全員が拘束されることになるのかなと思っておりまして,それが果たして制度として妥当なのかといったところについては,検討が必要なのではないかなと思っております。   もう1点,そういった場面ですと,例えば被相続人と同居していた親族の方などは,実質上,財産の管理を補助されていたために相続債務の支払をするといった形で,言ってみれば共益的な費用の支払のような形に宛てているような形で,預貯金等を引き出すといった場合もありますけれども,本提案によりますと,今,申し上げたような身近で面倒を見ておられた御親族の方が一部を引き出したといった場合は,遺産分割として一旦は既に使われた部分を当該相続人に取得させて,求償が必要である場合は当該相続人の方が訴訟を起こして,争ってもらうというような立て付けになろうかと思いますけれども,今,申し上げたように相続人全員のためにある程度,共益的な支払をしていたような相続人の方に,そういった負担を課すということになりかねないので,そういった意味で,一般の国民の方を含めて理解が得られるのか,検討が必要なのではないかなと思っております。   もう1点,余り理論的なことではないかもしれませんけれども,この提案によりますと,主文として既に遺産から離されているようなものを相続人に取得させるといったような形で遺産分割を解決するということになりますが,やや構成としては技巧的なところもございますので,一般の方も含めて分かりづらいのではないかなというところで若干懸念があります。特に不動産について既に所有権が移転されている場合ですとか,提案の最後にあります遺産の全部が既に移転しているような場合についても,なお,相続人の方に取得させるといったような解決の仕方が分かりやすさという意味で,十分,理解が得られるかといったところについては,検討が必要なのではないかなと思った次第であります。 ○大村部会長 ありがとうございます。   幾つか難点というか,問題点の御指摘を頂いたと思います。 ○神吉関係官 三つ,御指摘いただいたかと思うんですが,それぞれについて御回答させていただきます。まず,誰が処分したのか分からないというケースにおいて,この規律が適用されるのかどうかという話ですが,この点については,部会資料の14ページの(注2)のところで,考え方を整理してあります。そもそも,誰が処分したかどうか分からないというケースでは,この規律の適用はされないと,この規律は飽くまで共同相続人の一人によって遺産が処分された場合のケースということですので,誰が処分をしたのかよく分かりません,証拠がありませんといった場合については,この規律を適用しなくてよい,と考えているところでございます。   あと,相続債務などの共益費用的なものを弁済した場合,その人の相続分としてカウントするのはどうなのかというお話があったかと思います。この点につきましては仮払いのところと近い話で,部会資料18の24ページ以下で検討しております。当該相続人の具体的相続分を超えて,共益費用的なものを加算して遺産分割において取得させることができるのではないか,取得させた上で具体的相続分を超過した分については代償金を支払わせることとして,共益費用であれば他の共同相続人に対して求償金が発生しますので,代償金債務と求償債務で相殺をする,一応,そういった形で遺産分割の中で整理することもできるのではないかと考えているところでございます。   3番目の主文が技巧的だという話は,確かに技巧的なのかなとは思うんですけれども,この主文が要るのか,要らないのかという点については,よく分からないところだなとは思ってはいるのですが,ただ,全体が遺産分割の対象となるときに,足して全部にならないというのが果たしてどうなのかというところで,とりあえず,そこも含めて主文を書いたらどうかなというところでございます。 ○石井幹事 1点目の分からないときは対象にならないというのは,整理としてはそうなのかなと思いますが,実際,争われると,判断せざるを得ないというところがあります。引き出されたものが遺産とみなされるかというのは,遺産の範囲に属するような問題かと思いますので,前提の問題として,その点が遺産分割手続で解決できるかというところも議論があると思いますけれども,争われた以上は判断せざるを得ないというところはあろうかと思います。 ○堂薗幹事 そこはいろいろな考え方があり得ると思うんですが,遺産全部について処分がされた場合に,この規律を適用するかどうかということも絡むのではないかと思っております。仮に,遺産全部についての処分を含めないということにしますと,処分者が分からない部分については置いておいて,現に遺産共有状態にあるものについて分割すると,そうすると,結局,遺産分割の対象となる財産はなくなりますので,全部処分がされた場合と同じような形になり,全部処分された場合については,基本的には家庭裁判所の審判手続でやるのではなくて,地方裁判所の償金請求で対応するという形にするのであれば,基本的に争いがあるようなものについては,償金請求で処理をし,そうでないものについて遺産分割での一体的な処理を認めるという考え方もあり得るのではないかと考えているところでございます。 ○神吉関係官 補足して御説明させていただきます。そもそも,確認の対象になるのかという話があったかと思うんですけれども,基本的に遺産か,遺産ではないかというのは今でもある紛争でして,その場合については遺産確認訴訟ということで,地方裁判所で確認訴訟の対象になると言われているかと思います。この場合も処分したのが共同相続人なのか,それとも第三者なのかということが争われた場合については,基本的には遺産か,遺産ではないかという話になってくるかと思いますので,これも確認訴訟の対象になり得るのではないかなと思っているところではございます。その辺,もし手続法の先生方から御意見があれば教えていただければと思います。 ○大村部会長 手続法の先生方,いかがでしょうか。 ○垣内幹事 逸失してしまっている,処分されてしまっているものであるけれども,しかし,それが遺産に含まれるという規律を設けるということを前提とした場合には,他の普通の財産について遺産に帰属するかどうかについて,確認の利益が認められるのと同様の扱いで確認の利益が認められるという理解は,今,伺った限りでは十分あり得るのかなという感じはしておりますけれども,何か効果の面で少し一般のものとは違うというようなことが出てくると,そこをどう考えるのかという問題は細かく言えば出てくるのかもしれませんけれども,大筋,同じようだということであれば,同じように考えるのかなという,今のところはそういう感想を持っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   ほかにも何人かの方から手が挙がりましたけれども,では,そちらの水野委員からいきましょうか。 ○水野(有)委員 すみません,重なるところではございますが,今のお話ですと,遺産の対象かどうか,処分者が誰かによって決まるということであれば,処分者のところも確認するという,誰が処分したかも主文に出るという御趣旨の御提案でしょうか。 ○神吉関係官 確認訴訟の主文がどうなるのかという問題は,更に検討すべき問題なのかなと思っております。処分された財産,例えば甲不動産だとすると,甲不動産については被相続人の遺産であることを確認するというのが,今までの遺産確認訴訟の主文だったかと思うんですけれども,御指摘のとおり,共同相続人Aが被相続人の遺産である不動産甲を処分したことを確認すると,そこまでの主文が必要になるかどうかというところは,更なる検討問題かなとは思っております。詰めて検討したわけではないのですが,先ほどの単に遺産であることを確認するといった場合には,元々,遺産であったわけですので,現時点での遺産である確認なのか,それとも,相続開始時での遺産である確認か,よく分からなくなるかと思いますので,基本的には後者のような主文の方がいいのではないかなとは,現時点では,思っているところではございます。 ○垣内幹事 私自身が御提案について十分に理解できていないということもあるかと思うんですけれども,先ほど遺産としてなお存在するものとみなすということだから,遺産があるというのと同じだろうという前提でお話をしたところですけれども,考えてみますと,主文の問題というのも先ほど御指摘がありましたけれども,ここで遺産としてなお存在するものとみなすということの意義というか,機能というか,それは結局,財産そのものを分割しようという話ではもちろんないわけですから,遺産分割の際の分割すべき財産が全体としてどういうものであるのか,価額が全体としてどうなのか,価額という言葉が8ページなんかで使われて整理されている,正に実質はこういうことではないかという感じもします。そうしますと,分割の際の基準となる価額をどう決めるかについて,この規定は定めているのであるということだとすると,そこは一般の本当に分割の対象となる,現実の分割の対象になる財産についての確認の場合と,同列に論ずることができるのかというのは,どういう面からこの規律を捉えるかということになるかと思いますけれども,組み方によっては疑義が生ずるところはあるのかなと,具体的相続分みたいな形のものにすぎないんだというような理解もあり得るような感じもいたします。そこは実際に規律をどういうものとして具体的に組むのかということによって,大分,変わってくるところがあるのではないかということを少し付け加えさせていただければと思います。 ○堂薗幹事 先ほど申し上げた,全部処分がされた場合をどうするかということと関係するのではないかというのも,正に同じようなことなんですけれども,要するに誰が処分したか,よく分からない,ですから,みなし遺産かどうか分からないというものについて,確認訴訟を提起した上でないと遺産分割ができないということになると,制度としてはかなり重くなるように思います。そこで,本来,遺産とみなすことによって取れた分については,別途,民事訴訟を認めるという別の選択肢を認めることが可能であるとすると,確認訴訟までしなければいけないようなものについては,むしろ,民事訴訟で解決し,そうではなくてある程度,当事者間で誰が出したか分かっている,あるいは証拠上,はっきりしているというものについて遺産分割で一体的に処理することも認めるというようなことは,十分にあり得るのではないかなというようにも思っているところでございまして,そういった意味で,正に適用範囲をどの部分に限るかというところは,かなり,重要になってくるのではないだろうかと考えているところでございます。 ○大村部会長 それでは,増田委員の後,水野(紀)委員も手が挙がったと思いますので,増田委員,水野(紀)委員という順でお願いします。 ○増田委員 今の点に限定して聞きたいんですけれども,共同相続人の処分がみなし遺産の要件であるということだと思うんですが,共同相続人の処分というのをどういう手続で認定するかというところが問題なのではないかと思います。今,争いのない場合と,証拠上明らかな場合というのがありましたが,前者と後者は大分違うので,証拠上明らかかどうかというのを認定する手続が正に問題であるということです。前者の場合には別にこういう規定を入れなくたって,それを遺産に入れるという合意さえできれば,遺産分割の手続の中でできるのではないかと考えられるのであえて規定する必要はなく,後者のときが問題で,そのときに非訟事件の中で認定することはどうかということだと思うんです。   先ほどみなし遺産について,確認訴訟ができるのかどうかという問題がありましたけれども,私は現存する遺産とは違って,現在ないものを遺産であるとみなして,それを計算の基礎とするだけのものを対象として,みなし遺産確認訴訟というのは難しいのではないかと思いますし,ましてや誰が処分したかなんていうのは過去の事実であって,その確認訴訟というのも今の訴訟類型の中では考えにくいのかと思います。つまり,今の論点からいけばそうなんですけれども,より広い観点から見れば,理念的にはあり得るのかなというような話ではあるんですけれども,非訟事件手続の現在の枠組みの中で,そういった前提問題を審理するというような状況ではないので,そこのところの手続まで含めて全て抜本的に改正するというのならともかくとして,なかなか,難しい問題を多くはらんでいるのではないかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   何人かの方々から,一般論としてはいいのかもしれないけれども,実際にこれを動かすのに様々な困難が付きまとうのではないかという御指摘を頂いておりますけれども。 ○水野(紀)委員 そもそも論の話をしてしまいますと,日本の相続法には基本的なバグがあります。本来なら,相続開始から間もないときに遺産分割手続が行われて,それまで合有で処分を禁じておくべきなのだろうと思いますが,残念ながら,そうはなっていません。戦後の改正までは実は処分を許さないという合有説の方が通説だったのですけれども,戦後の改正で909条ただし書を入れて共有説を採らざるを得ない条文構造になってしまいました。   その後,共同相続と登記という一連の判例にしろ,学説にしろ,共有的な処分可能という解釈に賛成してきたのは,安定的な遺産分割手続が制度化されていないことと,それゆえに放置すると事実上跡取りが遺産を占拠して家督相続が再現してしまうという危惧があったことが理由だったろうと思います。戦後,遺産共有における共有持分を強くするという観点から,学説も賛成して,共有説が大前提になってきた結果,実務が苦労されることになりました。遺産分割は家裁の管轄になりましたけれども,そこでは債権債務は対象外で,判明している積極財産だけで限界と矛盾に満ちた遺産分割をせねばならず,しかも家裁は既判力がなくて,既判力を持つ遺産確認の訴えのためには地裁へ行かなければならないことになりました。言わば基本的なバグがある上に,複雑骨折しているというような,そういう相続法になっていて,よく実務はこれで戦後70年も御苦労してやってこられたなとつくづく思います。本来的には,今日,詳しく御検討いただきましたように,相続開始後間もない最初の段階で処分を封じておいて遺産分割をやらないと,遺産分割は公平なものにならないというのは当然のことなのだろうと思います。   そういう当然の方向に沿うわけですから,こういう規定を入れてお考えになるということは,私はいい方向だろうと思います。ただ,これまで御議論が出ましたように,従来そうではない形で,複雑骨折の現状に合わせて苦労してこられた実務の慣行と,あちこちでぶつかることは確かだろうと思います。それでも,理念的には本当は合有説でもいいところなのですから,こういう形で計算をし,かつ,家庭裁判所が遺産分割訴訟を管轄できるという位置付けで既判力もあるということにして,遺産分割に関するいろいろな計算は家裁限りでできるという形にする方が,本来的なあり方だと思っておりますので,基本的な御提案の方向には賛成でございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○潮見委員 水野(紀)委員がおっしゃったことの半分は賛成で,半分はどうかなと思うところを今から申し上げることになるかと思いますけれども,冒頭に御説明がございましたように,この問題というのは基本的に遺産の一部を処分した場合に,それを遺産分割の中で調整するのか,それとも,遺産分割の外で,不法行為とか,不当利得という枠組みで処理するのかということが,まず出発点にあるのだと思います。それは御説明のとおりだと思います。その上で,そうしたら,それを実体法上,例えばどう仕組むかということを考えたら,今,直前の水野(紀)委員の発言ではありませんが,この考え方は,実体法上では何とか理論的に一貫して説明することはできるのではないかという感じはいたします。   ただ,問題は複雑骨折とおっしゃいましたが,実際にこれを手続法のレベルに乗せて考えたときに,先ほどからお話がございましたような確認というもの,あるいは証拠面での評価というようなものを遺産分割の手続の中で,家裁で果たして,今,やっていけるのか,あるいはやっていくべきなのかという問題があり,それが恐らくこの提案を採用するかどうかの最大の別れ道ではなかろうかと思います。私は手続法の専門家ではありませんから,これ以上は申し上げません。   ただ,その一方で今回,この問題が出てきたのは,基本的にこれは預貯金債権についての一部の弁済等があったような場合を想定しているように思います。預貯金債権の場合には先ほどの議論にもありましたけれども,広い意味での仮分割あるいは仮払いというような形で行われ,しかも,それが当事者間での最終的な遺産取得をどのようにするのかという,言ってみたら調整弁という形でも機能するというようなこともあり,その点では預貯金債権というものについては遺産の中でもある種,特殊な状況にあります。そういうところでは,遺産の一部,つまり,預貯金債権の一部について何かが起きた場合に,それを遺産分割の手続の中で調整するというのは,コスト面も含めてあり得ることです。   そうであれば,ここからが言いたいことなんですけれども,仮にこのようなものを認めるとしても,預貯金債権に限定する形で何らかの対応をすることは可能なのではないか。そして,この場合は,先ほどの確認の利益だの,何だのかんだのというややこしい問題は,間違っていたら増田委員に直していただきたいんですが,それほど大きな問題として起こらないかもしれない。   もうちょっと言いますと,不動産の場合の一部の持分処分等で,実際に対応しなければいけないような問題が生じていないということであるならば,手続法上,いろいろ,難しい問題が理論的なものも含めてあるということであれば,無理しない方がいいのかなと思ったというところです。 ○大村部会長 ありがとうございます。   これは,今,潮見委員から御指摘がありましたけれども,仮払いとの関係で出てきた問題に端を発していて,預金債権の場合はどうなるかというところからスタートしているわけですが,それをこの際,一般化したらどうかという発想に立って提案されているかと思いますけれども,一般化するのに伴うコストを考えたら,一般化しないで止まるというのも一つの選択肢ではないか,というのが今の潮見委員の御発言かと伺いました。事務当局の方からどうぞ。 ○神吉関係官 預貯金債権に限定して,こういう規律を置いたらどうだという御提案が今ありましたけれども,そうすると,なぜ,預貯金債権についてだけ公平の理念を徹底させるのかと,不動産の処分が行われた場合については不公平が生じても構わないのかという,多分,そこの説明を付けなければいけないんだと思うのですが,そこはなかなか難しいのではないかと感じております。不動産を処分した場合に,余り問題となっていないのであれば,逆に全体を含めて規律してしまってもいいのではないかという気もしますし,規律を区別するということであれば,どういう理論的な説明をするのかというのが非常に悩ましいと思っているところです。   事務当局として,必ずしもここでいうγ説にこだわるものではもちろんないわけなんですけれども,もちろん,民事訴訟において公平に解決できるということであれば,その道もあるかとは思います。しかしながら,ここで事例を挙げて御説明していますとおり,自らの法定相続分を譲渡した場合については,基本的には不法行為も不当利得も成立しないものと現行法上考えられているかと思います。そうすると,今の不当利得法,不法行為法の世界の中ではなかなか救済が難しいと。それであれば,規定を設けて対処しようという話になってきます。冒頭にも申し上げましたが,そもそも,不公平を是正する必要があるのかという問題と,是正するときに遺産分割の中でやるのか,それとも地裁の訴訟の中でやるのかという,その2つの段階的な問題があるんだと思うのですが,まず,最初のところについて委員・幹事の皆様の問題意識が共有されているかどうかというところを確認したいと思っておりますが,いかがでしょうか。 ○窪田委員 余りはっきりした意見ではありませんし,いろいろな問題があるということは承知しつつも,7ページの2で御提案いただいている方向というのは,十分,あり得る方向なのかなと私自身は資料を頂いたときに思いました。潮見委員の御指摘についてはそうかもしれないと思う部分もありつつ,不動産の場合であったとしても同じ問題は存在するのだろうと思っています。ただ,この問題を考えるときに一つ何か暗黙の前提となっているのが,財産法上のアプローチでは具体的相続分を反映させた処理というのはできないということ,つまり,具体的相続分というのは遺産分割を前提としての単なる額であって,権利性を有さないという判例の立場であり,これを前提としてしまうと,結局,今,御説明があったようなことになるのだろうと思います。   余り大きな問題は,今更取り上げるべきではないのかなと思っていたのですが,もう少し,会が続くということですから,少しだけ考えてみたいと思うのは,今でも例えば904条の規定では,当然に最高裁が言っているようなことが示されているわけではなくて,この者の相続分とすると言っているだけだということです。なおかつ,904条というのは遺産分割の章ではなくて,相続分の節に置かれています。その意味では,判例を所与のものとして考えざるを得ないのかというと,例えば最後に代償請求権として構成できないかということもあったんですが,場合によっては代償請求権の中で具体的相続分を反映させるような仕組みというのを取り込むことができるのであったら,財産法上の解決もできるということだろうと思います。形としては両方ともあるのかなという気はいたします。 ○大村部会長 ありがとうございます。   不公平が生じるということは踏まえつつ,別の解決もあり得るのではないかという御指摘だったかと思いますが,そのほか,いかがでございましょうか。入り口のところで様々な御意見を頂いていますけれども。 ○堂薗幹事 不動産で持分を譲渡する場合がどの程度あるかという問題はあるんですが,本来,不動産で自己の共有持分を譲渡したという場合には,その不動産については処分をした相続人は持分がないという状態になります。遺産分割について,遺産全体を言わば1個の財産のように見て包括的に計算をすることが可能なのは,遺産全体に対して各相続人が同一の割合,すなわち,法定相続分の割合で持分を有していることが前提となっていると思うのですが,相続人の一人が自分の持分を処分した場合には,その前提が崩れることになります。したがって,遺産分割において,本来,きちんと計算しようとすれば,処分がされた財産は別枠で計算し,それ以外の財産,すなわち相続人全員がそれぞれ法定相続分で共有持分を有しているものについては一括した,通常行われている計算ができるわけですが,そうではないものについては別枠で計算しないと,本来的にはおかしいことになるのではないかと思います。そういった形で相続人が一部の共有持分を処分した場合に,対象財産を二つに分ける形でそれぞれ計算するよりは,むしろ,こういう形で遺産としてみなして,遺産全体についてそれぞれ全相続人が法定相続分の共有持分を有しているという前提で計算した方が,むしろ計算も楽なのではないかと考えております。   この点について,現行の実務でどういう形でやっているのか,よく分からないところはあるのですが,仮にα説でやっているんだとして,本当に処分がされた財産について別枠できちんと計算するようなことがされているのであれば,その限りでは公平な分配がされるのだろうとは思うんですけれども,必ずしもそういう形になっていないのではないかというところもあって,こういう形で提案させていただいたというところではあります。   それから,先ほどの増田委員の御指摘と潮見委員の御指摘と関係する部分ですが,正に預貯金債権のみを対象にした場合にさほど問題にならないのは,誰が引き出したかという点について証拠上はっきりしている場合が多いからなんだと思うので,そういったものに限って不動産についてもこの対象にすると,証拠関係がある程度はっきりしていて,家庭裁判所においても,仮にその後に地裁で争われてもひっくり返ることはないだろうということで,確信を持てるようなものもあると思いますので,そういったものについては,こういう形で一体的な処理をしていただくということは十分あり得るのではないかと思います。   それから,相続人が全員同意している場合というか,誰が引き出したか,争いがない場合でも,現行法でいきますと,それを遺産の対象に含めることについて相続人全員の同意がないといけないことになりますが,特別受益の対象となる贈与等が多数あるような場合は,それぞれ相続人間で利害が対立しますので,仮に誰が引き出したか,あるいは誰が処分したかについて争いがない場合であっても,相続人全員が遺産分割の対象に含めることについて同意するということには必ずしもならないのではないかなというところもあり,こういう形で,提案させていただいたというところでございます。 ○水野(有)委員 提案の必要性とかいうところは,皆さんで御議論いただければいいと思うんですが,実務との関係で,お願いがございます。預貯金については誰が引き出したかが明らかであることを前提としての議論が今されていたかなと思うのですが,カードなんかを使って引き出した事案では,民事訴訟では誰が引き出したか分からないものというのは,経験上,一定程度ございますので,預貯金については誰が引き出したか,常に明確であることの前提の議論は実態とは違うかなと思いますので,そこも御考慮いただければなと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○増田委員 多分,私しかこんなことは言わないのかもしれないので,「(笑)」を付けていただいて結構なんですけれども,ここまで言われるのだったら,遺産分割を訴訟にするということはお考えではないんですか。というのは,訴訟にしてしまえば,関連紛争についても全て訴訟の中で解決できるということになり,かつ,既判力があるということになります。審判にしておく以上は,先ほどからいろいろ出ていますように必ず訴訟に残る部分,あるいは先に訴訟して解決しなければならない部分が増えるだけなんです。今,前提問題として言われているものが一つ増える,要するに誰が引き出したかというようなものが前提問題として一つ増える,あるいは最高裁判例によれば既判力がないから後で争えるという要素が一つ増えるだけのことだろうと思いますので,これを提案されるのであれば,そこまでのことを考えていただいた方がいいのかなと思っているんです。   遺産の事件を非訟でやっているというのは多分,戦後,家庭裁判所ができた際に,何らかの当時の政策的配慮によってなされたものだと思いますが,戦前は多分,訴訟だったのだと思いますし,比較法的に見ても,恐らく諸外国では訴訟だと思うんです。それを考えると,なぜ,遺産分割を非訟手続ですることを絶対に動かさない所与の前提として考えられているのか,私は別にこのような提案が出ないのだったら,今のままでもそれほど不便ではないと思いますが,ここまでするのだったら,訴訟手続にすることまで考えられてもいいのかなと思います。 ○神吉関係官 遺産分割をこの段階から地方裁判所の管轄にするのは,なかなか,難しい問題があろうかなとは思っております。増田委員の問題意識としては,こういう不公平があるということについては,是正した方がいいとお考えなのか,それとも,それはやむを得ない相続法の欠陥であるとして,そこは飲み込むという方がいいのか,前提として,不公平は是正する必要があるというのがこの部会の総意ということであれば,遺産分割で処理するのか,それとも,償金請求なり,地裁で処理をするのかというところ,そこの道を多分,次の段階としてやっていかなければいけないかと思いますが,一段階目の問題意識が共有されているかどうか,よく分かりませんので,教えていただければと思います。 ○村田委員 そこで事務当局がおっしゃる公平とは,神様の目から見た公平を言われている気がするのですけれども,実際の裁判実務を含めた紛争の形態からすると,ぎりぎり言ったら公平でないかもしれないと思っても,遺産分割はしょせん,棚からぼた餅的なものだから,あえて,そこまで争わないという関係者もおられるわけで,それが一つの相続の中で枝分かれしていくこともあるわけです。ですから,結果的には神様の目から見たら公平でないということがあったとしても,それで丸く収まっている話は世の中は幾らでもあるわけで,そういった余地を手続的に分けた結果として認めて,それでよしとするのか,そうではなくて,理念を飽くまでも貫き通すことが立法として正しいと考えるのかと,そういう問題ではないかと思います。 ○大村部会長 増田委員,何かありますか。 ○増田委員 これが絶対に正しいのかどうかというのは,留保させていただきたいなと思うんですよね。今,村田委員がおっしゃったことにも近いんですけれども,要は神様の目から見て事実関係が全て明らかになった上での公平というのならともかくとして,世の中の事実というのは誰がやったか,本当は分からないんですよね。しかも,遺産紛争の場合,預金の引き出しばかりが,勝手に処分したというところが目立ちますけれども,細かいことを言えば,分からないことが一杯あって,現金とか動産とか小さいものであれば勝手に処分したなんていうのは,これまた,山ほどあると。そんな中でたまたま分かったものだけをがちがちにやるのが公平なのかどうなのか,証明できないものがたくさんある中でどうなのかなという疑問もあって,少し,そこは留保させていただきたい。 ○水野(紀)委員 すみません,増田委員の発言の御趣旨とは異なるのかもしれませんが,神様の目から見たというお言葉についてだけ反論したくなってしまいました。日本の家族法全体において,紛争が起きないようにあらかじめ手厚く仕組むという制度が本当にありません。婚姻中の妻子の居住権保護やDV対策などがされていませんし,離婚も圧倒的に当事者任せの協議離婚ですし,遺産分割においても,生前相続である贈与を要式行為にして証拠を残すこともありませんし,中立的な第三者が最初から手伝って遺産分割をするという手続が入っておりません。その上,紛争コストが非常に高くつきますから,当事者が諦めることによって,結果的に紛争数を少なくしていることが,離婚の場合でも,遺産分割の場合でもあるのだと思います。   それを是と考えるかどうかなのですが,私は是とは考えたくないと思っております。つまり,国民が諦めることによって紛争が少なくなるのではなくて,きちんと権利が実現できる方向で社会がサポートしていくべきではないかと考えております。もちろん,サポートすること自体のコストが社会に掛かることは否定できませんけれども,現在,どちらの方向でといいましたら,社会がコストを掛けても,家族の紛争の中で諦めた者が負けることがないような形に,制度設計をしていくべきではないかと考えております。 ○増田委員 一言だけ言わせてください。預金だったら1万円の預金を出しても目立つんですよ。だけれども,1万円の動産を処分しても誰も何も言わない。分からないからです,それは。それは不公平といえば,神様の目から見れば不公平なんです。私の言っていることはそういうことであって,こっそりやったら,それが得するということではないです。そういう趣旨です。 ○石栗委員 ほかの裁判所でどうしておられるかは分かりませんけれども,東京家裁では,基本的にはβ説に近い形で運用されております。例えば,現実には相続開始時よりも減少している預金額を誰が出したのかが分かりませんので,それを相続分として計算していいかどうかということ自体が確定できないことの方が多いんです。   ですから,この御提案のとおり,Aさんが引き出したということが分かっていれば非常に不公平な結論にはなりますので,今のところ,おっしゃっているように誰かが出したことが明らかである場合には,その現金をAさんが持っているというような形で擬制をして遺産分割の審判をするとか,そういういろいろな手当てはしておりますけれども,それは必ずしも常に働く手当てではないので,何かきちんとしたものをとお考えになるのはよく分かります。しかし,先ほど水野(有)委員もおっしゃったように,誰が引き出したのかというのは地方裁判所で審理しても分からないことがありますので,家裁の手続の中では分からないということの方が逆に言うと多いと思います。結果的に分からないということで外して遺産分割の審判をした後,当事者が何らかの形で,償金請求とか,不法行為とかで訴訟をなさって,実は相続人のうちの誰か一人が引き出したと認定された場合に,遺産分割審判における相続分の計算自体が明らかに誤りであって,審判が効力を失うような事態にならないかどうかということを非常に懸念しております。   こういう制度になりますと,ある程度,時間を掛けてせっかく遺産分割をして,もう一度,やり直すことになることも考えられるのではないかと思われますし,引き出された預貯金の部分が非常に多くて,その部分は誰がやったか分からない状態である場合には,そちらが決まらないと,実際に残った財産の分け方が本当に公平なのかどうかがわからない,誰が引き出したとしても,残りの遺産だけで公平な分け方をするということができないということもあり得ますので,結果的には,訴訟手続をお待ちするしかないという事態も考えられ,冒頭で石井幹事がおっしゃったように,最終的に今,残っている遺産の分割自体が遅れるという事態も懸念されます。   ですので,実務としては今のところはβ説に近い形で,α説のような多少の修正ができるものについては,努力して行っておりますけれども,御指摘のように全ての不公平を是正しているのかと言われれば,そこは難しい部分はありますが,最終的に誰がやったかということが確定すると,不公平かどうかが分かるという,どっちが先かというような議論にもなりかねませんので,その辺りも御配慮いただいて御検討いただければと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   不公平が存在しているという前提に立てば,それをそのまま放置していいとおっしゃる方は多分いないのだろうと思いますけれども,分からないではないかということが一方にある。事務当局も全てを明らかにせよと言っているのではなくて,分かるときに対応できるような制度を作ったらどうかということを言っているのだろうと思いますけれども,そうすると,線引きがどうなるかという問題で,困難なものを抱え込むのではないかということが話題になっているのかと思います。   皆さんが基本的な考え方について足並みがそろえば,それに基づいて制度設計するという方向でいけるのだろうと思いますけれども,伺っていると,先ほどの表現でいうと絶対的な不公平を放置してよいとは誰もおっしゃらないけれども,その上で,どのようなスタンスを採るかについては意見の対立がかなりあって,どれかに収束するという状態ではないように思われます。   制度を作るときには,それぞれの立場の方がおっしゃっていることを考慮した上で,最低限,これだけはしておいた方がいいのではないかという制度を作れるかどうかということになりそうに思います。事務当局としては,基本的な考え方について出た御意見を踏まえて,幾つかの考慮すべき事情を考慮した上での制度案というのをもう一度,出していただくというのがいいように思いますけれども,事務当局,それでいかがでしょうか。 ○堂薗幹事 もちろん,そういうことで結構なんですが,この場合に,仮に不公平を是正するんだけれども,遺産分割で一体的に処理することはやめるということになりますと,あとは先ほど神吉の方が申し上げましたように,具体的相続分を前提とした不当利得的な請求を民法上認めるかどうかということになるんだと思います。そういうような形であれば,それは正に訴訟で証明できれば認容されることになりますし,権利行使したい人は権利行使して,権利行使しなくて,それでいいという人はしないということにはなるわけですが,そういう方向で検討するということでよろしいのかどうかという辺りについてもし御意見があれば,あらかじめお伺いできればと思います。 ○窪田委員 単なる思い付きということになるのですが,先ほど石栗委員からお話があったことも,この規定を置いてしまって,その後,共同相続人の人が丸ごと持っていったのだという形になると,遺産分割自体がひっくり返ってしまうのではないかということです。それは確かに避けるべき事態なのだろうとは思いますし,結局,デフォルトをどっちにするのかということだけなのですが,β説で例外的にα説みたいな対応をするというのもあるかもしれませんが,一応,原則として例えばこのようなものを置いた上で,しかし,その後,共同相続人の一人が実は全部,財産を処分していたということが分かったとしても,既に成立した遺産分割の効力は否定せず,代償請求権によって処理をするといったような措置もあり得るのかなと思いました。   そんな回りくどいことをやるのはどうしてなのかというと,これを全く外してしまって代償請求権だけ一本という手もあるとは思うんですが,そのとき,先ほどの具体的相続分を手掛かりとすることができないということが,問題となってきてしまうのだろうと思います。これを一応,前提としておけば,ここでの権利というのを損害賠償請求権でも何でも,そうしたもの前提として考えることができるのではないか。そうすると,具体的相続分を反映させた形で利益といいますか,代償請求権の中身を考えることができるのかなというふうな方向もあるのかなと思い付きましたので,一応,発言だけさせていただきたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   関連して今日の段階で御指摘を頂くと,事務当局としても考え直す際の手掛かりが得られるかと思いますので,ほかに何かございましたら伺いたいと思いますが。 ○潮見委員 今,直前に窪田委員がおっしゃった方向なら私は反対です。恐らく多分,非訟の位置付け,あるいはそこで具体的相続分というのがどこまで機能するのかという,そのものに対する評価,これが多分,違うから,そのようになるんだと思います。   それから,もっと言いましたら,先ほどのβ説なんて採るのだったら,これではむしろ足りない。むしろ,きちんとそのことを書き込んでいただかないと安定性が全く欠けてしまうという感じもいたします。そういう意味では,先ほど神吉関係官がおっしゃっておられる不公平というのは僕はよく分かるんです。実体法上,不公平というものがあるということは,それはあらがいようがないと思います。   先ほども申し上げましたように,これを実体法上で見た場合に,この提案というものが受け入れられるかといった場合に,これはあり得る選択肢だと思います。ただ,その部分が手続法上で正当化されるのか,担保されているのか。そこのところをきちんと把握しておかないと,その部分を直前の窪田委員のような形で,ある意味では非訟の方に全て投げるという形で決断されるのであれば構いませんが,そこまでのところを少し御考慮いただいて,今日のところでは実体法のところでは,これは了解しましたけれども,更にそれが手続法上,何らかの形で支障が生じないのかということをきちんと確認していただければと思います。更に言えば,代償請求という形で法定相続分等々で考えるのと具体的相続分で考えるのとどっちがいいのかというところも,もう少し慎重にやっていただいた方がいいような感じもいたしました。   更に申し上げますと,預貯金のところでは,仮にこの部分に限ってでも不公平を是正する方法が手続面も含めてあるのであれば,その部分について対応するということが,場合によれば将来の遺産分割においてプラスの方向に働くのではないかとも思います。他方,預金債権だけ別扱いをしたのでは,ほかの財産と比べた場合に不公平だということであるのならば,そこは少しやめておきましょうかということで考えるか,その辺りをまだ半年続くということですから,お考えいただければと思います。 ○中田委員 細かいことだけですが,御検討の際にお願いしたいことがあります。一つは不動産を売却したときの持分を遺産とみなすというときの評価額の基準時をいつにするのかということです。これは,全体の制度設計とも関係してくると思います。   それから,2番目に,みなすという効果なんですけれども,これは機械的にみなされるのか,それともみなすことができるのか,何らかのそこで柔軟な手当てができないだろうか。   それから,3番目ですけれども,代償財産については合意による組入れが可能だということが(注)の中にありますけれども,合意による組入れというのは常にどんな場合でも可能だということを前提としていいのか。現行法の下でも最高裁大法廷決定の前には,金銭債権について合意があれば中に組み入れられるという理解ですが,その合意の効果は必ずしもはっきりしなかったと思うんですけれども,それをどう位置付けておられるのか。   最後ですが,預貯金について大法廷決定を前提とした場合に生じ得る不合理を是正するための方向というのは,非常によく理解できるのですが,それを拡張することによる問題点というのがあり,何人かの委員から御指摘のあった点を検討すべきだろうと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○水野(紀)委員 先ほど増田委員が全部訴訟でと言われたのに力を得て発言いたします。私は逆に窪田委員の感覚に近くて,全部,できるだけ家裁でできるようにしたいと考えております。日本では,家裁は非訟事件だという訴訟法の大前提があるのが,私は本当はおかしいと思っております。国民にとって地裁は敷居が高い裁判所で,家裁の方がずっと敷居が低い裁判所です。家裁から地裁へと管轄を往復して争って,訴訟費用で結局,遺産がなくなってしまうような悲惨な道をたどらないと,相続紛争について決着が付かないことになりますと,それは権利行使として保障されているとは言えないでしょう。できるだけ家裁で管轄できるように,立法的にも処理できるのであればしていただきたいと思いますので,そちらの方向に賛成でございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○浅田委員 先ほどから銀行の預貯金について指摘がございましたので,私が今,考えるところを述べたいと思います。この問題は従前,私どもから申し上げている,いわゆる勝手払いといいましょうか,勝手に処分した場合のその後の規律について明確化してほしいという当方からの問題提起に関して,応えていただいたということでございまして,それは非常に感謝しております。したがって,本件について銀行界としては少なくとも預貯金に関して何らかの規律が明示されると非常に有り難いと思います。先ほどの潮見委員のお話にありましたように,仮に遺産全体に通用する規律が難しいということであれば,実務ニーズという観点からは預貯金だけの何らかの規律というようなことを考えていただくということは有り難いと思っています。   もっとも,いろいろな議論があった中で手続法的な論点というのがあるということを今日,私は認識しました。その点について私は知見を特に持たないものでありますけれども,ただ,参考までに事実を補足しますと,預貯金といえども,勝手払いを行った者の特定というのは必ずしもできないという事実があろうかと思います。先ほど水野(有)委員からもお話がありましたように,カードによる出金というのは,下ろした者が誰かの特定が難しいと思います。   加えて,先ほどの第1の乙案の銀行に対する開示請求ということにも関連しますけれども,基本的に銀行が相続預金についての移動に関して,預金の移動に関して照会を受けた場合には,先ほど申し上げたとおり,平成21年の最高裁判決に従って相続人と同視される者であれば開示するというのが実務だと思っております。そして,それは基本的にはいつ,幾ら下ろしたというようなことは開示すべきものの中核でありますけれども,他方で,誰が下ろしたかということに関連するエビデンスということについてまで,開示するかどうかということについては議論があろうかと思います。例えば払出伝票の筆跡を見たいとか,あとはATMで下ろした人の画像を見たいとか,あとは下ろして振込みをしたときの振込先を知りたいとかいうことに関しては,平成21年の最高裁判決の射程と守秘義務の観点から定説はないと思っておりまして,銀行によって対応というのはまちまちだと思っております。   何を申したいかというと,したがって,預金に関しても必ず勝手払いをした者が明確になるかということについては,一定の限界があろうかと思います。ただ,繰り返しますけれども,そういうことを前提として,そこは挙証責任で対応するのかどうか,私は知見を持ちませんけれども,一定のルールに従って今回の御提案というのが適用できるようなルールに仕立て上げるということであれば,私どもとしてはこの規定の明確化ということには評価すべきものだと考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○村田委員 先ほど中田委員が細かいこととおっしゃいましたけれども,財産の評価のところについて検討すべき点があるという御指摘だったので,それに乗っかって,一言,申し上げたいのですけれども,特に不動産の場合が顕著だと思うのですが,自分の法定相続分に従って共有持分を処分してしまったような不動産がある場合に,仮にこういう規定を設けて,その部分も遺産としてみなされると,丸々,共同相続人が持っている不動産が無事なまま,あるかのようにみなされるようにも思えるのですけれども,その一部が第三者に処分されて,遺産として残りが残っているような不動産について,そういう状態では実際上,売れないでしょうといって残りの不動産も買い取ろうとする業者が,見られるところ,結局,この場合,非常に安い価格で購入される例が多いように思われます。   こういう実態があるときに,こういう規定を設けて丸々あるものとみなしたからといって,それが実際の市場価値とかけ離れたものであるとすると,実際,遺産分割するときにどちらを前提にして考えれば,公平なものになるのかという難しい問題を抱える余地もあって,先ほどのどういう時点で評価するかということと絡めて,今,申し上げたような点も検討する必要があるのかなと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   いかがでございましょうか。ほかに御発言はありますか。事務当局の方もよろしいですか。   それでは,この問題については取りあえず,ここまでということにさせていただきまして,ここで休憩を挟ませていただきたいと思います。4時5分に再開したいと思います。           (休     憩) ○大村部会長 それでは,再開させていただきます。   第2を終えたことにいたしまして,第3の「遺言執行者の権限の明確化等」という項目に入りますけれども,まず,事務当局より御説明を頂きます。 ○満田関係官 それでは,関係官の満田の方から部会資料20,第3の「遺言執行者の権限の明確化等」につきまして御説明させていただきます。   まず,1の「遺言執行者の一般的な権限等」についてでございます。部会資料17でお示ししておりました民法第108条の規定を遺言執行者に準用するという考え方について,今回の部会資料におきましては,この考え方を削除させていただいております。   その理由でございますが,本条の見直しの趣旨でございますが,これは遺言者の意思と相続人の利益とが対立する場合等にも,遺言執行者としては飽くまでも遺言者の意思を実現するために,職務を遂行すれば足りるという旨を明らかにする点にその趣旨がございますので,必ずしも現行の規律を実質的に変更するということを意図したものではございません。そうしますと,1015条の見直しに伴いまして,代理に関する規定のうち,108条についてのみ,その適用関係を明確にするというのは法制的に困難な面があると思われます。仮に108条の適用関係を明確にするのであれば,代理に関するほかの規定,99条から118条までですが,これらにつきましても同様の手当てをする必要があると思われます。   他方で,民法第1015条を見直し,本提案のような規律を設けた場合でありましても,遺言執行者の行為の効果は相続人に帰属する旨を明示することになりますので,遺言執行者にも第108条が適用ないし準用されることにつきましては,解釈によっても十分に導き得ると思われますので,本提案ではこの点については削除ということにさせていただいております。   続きまして,2の「個別の類型における権限の内容」のうち,遺言により権利を取得した相続人を遺言執行者と推定するという旨の規定を設けることにつきまして御説明させていただきます。   これまでの部会におきましては,特定遺贈による場合と遺産分割方法の指定による場合との違いにつきましては,議論を重ねてきたところでございますが,現行法上,大きな違いが生ずるものとしまして登記の申請手続というものがございます。具体的には,不動産の特定遺贈につきましては法的性質が特定承継であることもありますので,売買等による権利移転と同様,共同申請の原則が採られておりますが,他方で,遺産分割方法の指定につきましては,相続による権利の承継として,受益相続人による単独の登記申請が認められているというところでございます。   この点につきましても,相続人に対する特定遺贈と遺産分割方法の指定との相違点を少なくするという方向で検討し,遺言者の意思を根拠として,受益相続人を遺言執行者として指定したものと推定するという規定を設けることを今回,提案させていただいているところです。このように考えた場合には,相続人に対して特定遺贈がなされた場合でありましても,受益相続人が遺言執行者として登記義務者の地位を併有することになりますので,結果としては受益相続人による単独での登記申請を認めたのと同様の効果が生じると思われます。   もっとも,このような考え方につきましては,現実には相続人に対する遺贈は多くないものと思われますので,そのような推定規定を設ける必要性があるのかですとか,民法第108条との関係も含め,濫用を招くおそれがあるのではないかといった指摘もあり得るところだと思われますので,慎重に検討する必要があると思います。仮に受遺者たる相続人については,このような推定規定を設けるとした場合には,受遺者が第三者である場合についてもどうするかという点も問題になると思われます。なお,32ページにございます「(3)その他の方策」という考え方につきましても,遺言執行者の推定規定と同様,遺産分割方法の指定というものの相違点を少なくするという問題意識に基づく提案でございます。   続きまして,32ページの3の「遺言執行者に行使権限を認める債権の範囲について」を御説明いたします。ゴシック部分といたしましては24ページの④の部分となります。   部会資料17では,遺産分割方法の指定等の対象となる債権については様々な類型があることなどを考慮いたしまして,預貯金債権を含め,遺言執行者に債権の行使権限を認めることにつきましては現行法と同様,解釈に委ねるとの考え方を提示したところでございました。この点につきましては,委員の先生方から預貯金債権が遺産分割の対象となるかどうかについての判断を示した最高裁大法廷決定の趣旨を踏まえて,再度,検討すべきではないかという意見を頂いたところでございました。   そこで,この点について検討いたしますと,大法廷決定の趣旨を踏まえますと,預貯金債権について遺産分割方法の指定をした遺言者の意思としましても,相続人又は第三者に対し,預貯金契約上の地位まで移転するということを意図していない場合が多いものと考えられます。そこで,遺言執行者に対しましては,契約上の地位の移転までの権限を付与する必要はなく,定期貯金等を含めた預貯金債権に係る基本契約についての解約権限を付与するという規律を設けることを提案しております。他方で,預貯金債権以外の金融商品につきましては,投機的な性質を有する面もございますので,受益者の不利益等も考慮いたしまして,これらの債権については解約権限の対象としないということといたしました。   なお,このような規定を設けた場合につきましては,預貯金債権以外の債権についての反対解釈のおそれをどのように考えるかという点が問題となりますが,本提案は24ページの④と⑤を併せて読みますと,預貯金債権についての法律上の推定規定を設けるものであることが明らかでございますので,それ以外の債権について法律上の推定が及ばないということは当然でありまして,預貯金債権以外の債権については,反対解釈のおそれは生じにくいものと考えております。なお,注書きに記載しましたとおり,このような規定が設けられた場合には,本条を踏まえて預貯金債権と類似の関係が認められる債権につきましても,事実上の推定が働くということも考えられるところでもございます。   以上の点について御審議を頂ければと存じます。 ○大村部会長 ありがとうございました。   ペンディングの説明をしていただけますか。 ○堂薗幹事 25ページの1の②のところに【P】と書いてありますのはペンディングの趣旨でございまして,対抗要件に関する論点については遺産分割のところでも取り上げていますけれども,そこと併せて対抗要件主義を採用しつつ,②のような規律を採った場合にどう考えるか,その整合性をどう考えるかという辺りについては次回の部会資料で取り上げたいと考えておりまして,その関係で今回はペンディングということにさせていただいているところでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   第3の「遺言執行者の権限の明確化等」についてですけれども,一般的な権限等の部分につきましては今のペンディングの部分を別にいたしますと,108条を準用するという規定は,これを置かないということが今回,出てきております。それから,個別の類型における権限の内容につきましては,特定遺贈について遺言執行者の指定がなされなかったときに,受遺者が遺言執行者となるという規定を置くのはどうかという問題提起がされている。それから,3番目になりますけれども,預貯金については遺言執行者に契約の解約権限を付与することが提案されている。こうした御説明があったかと思います。これらにつきまして御意見を頂戴できればと思います。いかがでございましょうか。 ○南部委員 質問です。26ページの④,預貯金の件でございますが,ここに書かれております「ただし」というところでございまして,当該預貯金債権の履行期が到来していない場合は,この限りでないものとするということになっておりますので,これは例えば履行期が10年後だとすれば,遺言執行者は解約ができないという理解でよろしいのでしょうか。 ○堂薗幹事 ここでのただし書のような規律を置くということになりますと,当然には遺言執行者に解約権限は認められないということになります。ただ,その場合には受益相続人,この預貯金債権を取得した相続人の方で,契約上の地位を移転させた上で,弁済をしてくださいということで金融機関に求めた場合に,金融機関の方でそれでいいですと,金融機関の方の承諾が得られれば解約できるということにはなるんですが,そうでないと,遺言執行者は当然には解約できないということになるということでございます。 ○南部委員 とすれば,金融機関の方が認めたら大丈夫という理解でよろしいでしょうか。 ○堂薗幹事 金融機関の方で認めたというのは,受益相続人,預貯金債権を取得した相続人の方で解約したいと言ってきた場合に,金融機関の方で認めれば解約はできるということになるということでございます。 ○南部委員 分かりました。だとすると,この括弧は必要なのでしょうか。 ○堂薗幹事 そこを正に御議論いただければと考えておりまして,こちらとしては,こういった履行期が到来していない場合まで,遺言者に当然に解約権限を認めるというのはかなり権限としては大きくなりますので,そこまで認めていいのだろうかという趣旨で問題提起をさせていただいたということでございます。 ○南部委員 例えば普通預金にほとんど入っていなく,定期預金の場合だけであれば,すぐ使えるような形の方が利便性が高いというのが一般的な意見です。御検討をよろしくお願いいたします。 ○浅田委員 先ほどの南部委員からの御指摘のところについて敷衍してであります。まず,今回の提案につきましては,預貯金債権の特則を置いていただいたということでございまして,これまで銀行界として求めてきた預貯金債権に関する解約権限を明確化すると,推定効という形であれ,明記いただいたことについて御礼を申し上げます。   幾つか意見と確認があるわけですけれども,まず,南部委員が御指摘された26ページの④の括弧についてであります。私の読み方でありますけれども,これは解約権限ということでありますから,解約権限でもって銀行がいわゆる定期預金の期限前解約を認めるかどうかという話は,別の話だと私はこの文章を見て理解していました。すなわち,まず,遺言執行者に解約権限があるかどうかということの問題があり,次に解約権限があったとしても契約ですから,期限前解約を認めるかどうかというのは別の次の問題として出てきて,それについては御案内のとおり,原則として期限の利益は銀行側にもあるわけですから,解約する権利というのは預金者ないしはその承継人にはないと。   ただし,銀行の裁量でもって解約することもあり得ると。それが実情,多い例であるということは御案内のとおりだと思っております。したがって,この規律を素直に読むということをすると,先ほどの堂薗幹事のお答えとはまた違って,銀行の判断ということの前に,このただし書があれば,遺言執行者は定期預金に関しては解約する権限を持っていないものなので,そもそも解約請求することができないということになるのではないかと理解しています。   その上で,銀行界の意見でありますけれども,このただし書,すなわち,履行期が未到来のものは除くとされております点ですけれども,実務においては相続預金に普通預金と定期預金が含まれている場合に,両者の扱いが一律に変わってしまうというのは,遺言の円滑な履行という面からはネガティブに働くものと想定しております。考え方としては,履行期未到来のものについて預金債権を解約するかどうかは,遺言者が善管注意義務に従って判断すればよいのであって,一律に履行期未到来のものについて解約権限の推定効はないものとする必要まではないように思われます。したがって,この括弧の部分についてはよく御検討いただきたいというのが銀行界の意見でございます。 ○堂薗幹事 まず,仮にこの亀甲括弧の部分がない,このただし書部分がないとした場合には,当然,解約権限はあるということになりますが,ただ,契約による拘束は受けますので,契約上,解約できないような場合であれば,遺言執行者は金融機関が応じてくれない限り,実際には解約できないという前提です。ここでは,受益相続人の意思にかかわらず,ただし書に当たるような場合にも解約権限を認めていいのかどうかということを問題としておりますが,解約権限があるということになれば,銀行さえ承諾してくれれば解約できることになるのに対し,ただし書のような規律を設けますと,銀行が承諾しても受益相続人の了解を得ない限り,解約はできないことになると,そういう前提でございます。 ○浅田委員 確認で恐縮ですけれども,先ほどの南部委員への回答というのは,この括弧がない前提であれば,遺言執行者に解約権限はあるんだけれども,ただ,銀行がその上で定期預金の期限前弁済を認めるかどうかということにもよると,こういう御回答ですか。括弧があった場合にまた別の話になるということですか。 ○堂薗幹事 亀甲括弧があった場合に,このただし書があった場合に,一切,満期が来るまで解約できないのかというと,必ずしもそういうことではなくて,遺言執行者にはそのような権限はないけれども,受益相続人の了解を得て金融機関に解約の申入れをし,金融機関の方でもそれを承諾すれば,解約はできるのではないかという前提でございます。 ○浅田委員 くどいようですけれども,受益相続人の同意があるのであれば,遺言執行者の権限にかかわらず解約の請求ができ,かつ銀行がその裁量でその解約を認めれば,解約がなされるということと理解しました。そうであれば,おっしゃることについてはそのとおりだと思います。 ○増田委員 今の話なんですが,書き方がおかしいのではないかということだと思います。この括弧書きを含めて読めば,預金・貯金に係る契約を解約する権限は遺言執行者にあるけれども,例えば定期預金で履行期が到来していないときには,遺言執行者にはないと読めるんです。その帰結として,受益相続人が銀行との間で銀行の承諾を得れば引き出せると,そういう話だと。しかし,堂薗幹事が後で言われたように,一応,権限は遺言執行者にあって,受益相続人の意思に反して解約する権限はないということであるのならば,「ただし,この限りではない」ではなくて,「ただし,期限が到来していない場合には受益相続人の意思に反して解約することはできないものとする」ということだと思うんですけれども,要するに解約を申し入れる権限は飽くまで遺言執行者にあるのではないかということです。 ○堂薗幹事 そこはあえて遺言執行者に与えなくても,そういう場合は飽くまで受益相続人の代理人として解約するということでいいのではないかと,受益相続人の同意を得て解約するのであれば,あえて遺言執行者としての権限として,そこまで認める必要はないのではないかという理解ですけれども。 ○増田委員 おそらく銀行側のニーズは,遺言執行者がやるということに意義があるわけです。解約の相手方ということが,相手方が明確になるという意味があるわけですよ。 ○堂薗幹事 ですから,履行期が到来していない場合まで,遺言執行者であれば,受益相続人の意思を確認せずに解約するということまでしてしまっていいのかというところを今回,問題提起させていただいているということです。 ○増田委員 言っていることは同じで,それは遺言執行者が受益相続人の同意を得て,解約するということなのではないんですかということを言っているんですよ。 ○大村部会長 増田委員がおっしゃっているのは,それを制度の中に組み込もうというお考えだと思うのですけれども。 ○増田委員 制度に組み込んでということではなくて,解約する主体は遺言執行者なんだということだろうと。だから,それであれば,この限りでないという言い方ではなくて,要するに受益相続人の意思に反して解約することはできないということにすべきだということ。 ○大村部会長 事務当局が言うのは,この制度の外の話だという理解だろうと思うのです。増田委員がおっしゃっているのは,この制度に乗せておいて,しかし,同意が要ると仕組もうということではないのですか。 ○堂薗幹事 同意を取らなければいけないのであれば,あえて,この制度に乗せる意味はないのではないかというのがこちらの考えなんですが,そこは両論あるのかもしれません。 ○増田委員 それだと履行期がどこで到来するかによって,誰が解約するかというのが変わってくるんです。そうすると,今までは受益相続人ないし受遺者が持っていた解約権が,履行期が到来したら途端に遺言執行者に移る。3か月定期で3か月がたったら移るというのは変ではないですか。 ○堂薗幹事 その辺りは検討いたしますし,皆様の御意見をお伺いできればとは思いますけれども。 ○大村部会長 そのほか,いかがでございましょうか。   今の点はブラケットが付いていますので,ただし書を置くのか,置かないのか,置くとしたときにこの書き方でいいのか,それとも増田委員のような言い方の方がいいのかということが,選択肢としてはあるとは思いますけれども。 ○浅田委員 テクニカルな確認点が二つございます。預貯金債権の特則に関してですけれども,まず,一つ目は今回の推定効がありますのは遺産分割方法の指定の場合に限定されているとの理解です。他方で,例えば遺言において遺言執行者の権限が明記されておらず,かつ特定の金融機関の預金債権が相続人以外の第三者に遺贈された場合には,遺産分割方法の指定があった場合と同様,遺言執行者は当該預金債権の解約等の権限を有すると解されるのでしょうか。あるいはかような場合における解約権は,25ページの1の①の遺言の執行に必要な一切の行為をする権限,又は同じページの2の(1)の①の遺贈の履行をする権限に含まれるとの理解でしょうか。まずはこの質問からお答えいただければと思います。 ○堂薗幹事 まず,ここでは,明文で書けるのは遺産分割方法の指定の場合に限られるのではないかという理解が前提としてあります。ただ,特定遺贈の場合について解釈をする場合にも,遺産分割方法の指定についてこういう規定があることがその拠り所にはなるのではないかと思っております。特定遺贈についても同じように書けるかというところが問題としてはあるものと考えておりますが,債権法の改正において,贈与の場合に贈与者がどういう義務を負うかという規定を設けたわけですが,当然のことながら,預貯金債権について解約権があるかどうかという点について明文の規定はありませんので,遺贈の場合の遺贈義務者についてだけ,そういった規律を設けるというのは法制的に難しい面があるのではないかということもあり,今回の部会資料では遺産分割方法の指定がされた場合についてだけ規律を設けたということでございます。ただ,それは当然,特定遺贈の場合の解釈にも影響を及ぼすであろうとは考えているところでございます。 ○浅田委員 ありがとうございます。   二つ目の確認ですけれども,先ほど事務当局の御説明にもあったことの同様の趣旨だという理解の下,改めてお伺いしたいんですけれども,35ページ,36ページにおけるその他の金融商品との関係であります。当該部分において,預金債権以外の解約権については推定効が及ばないだけであって,当該遺言執行者に特定の権利関係についての解約権限があるかないかは,遺言者の意思解釈の問題であるとされています。ここからすると,従前来,銀行界としては預金債権以外にも投資信託等について解約権につき,明確化を求めてまいりましたけれども,これとの関係でいうと,例えば預貯金債権と類似性が高い金融商品については,法律上の推定効は及ばないものの,事実上は同様の取扱いがなされる方向で,遺言又は遺言者の意思の解釈がなされるもの,ないしはそういうことが期待されるものと理解してよろしいでしょうか。 ○堂薗幹事 正にそこは解釈ということになりますが,預貯金債権について,そういう推定規定を置いたことがほかの場面でも解釈の根拠にはなりますので,それとの類似性をどう考えるのか,要するに預貯金債権に類似しているのであれば,遺言者の意思としても解約権限まで与えているということの根拠にはなるのではないかと考えております。 ○浅田委員 ありがとうございました。 ○大村部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○村田委員 ごくごく単純な確認だけの質問なんですけれども,26ページの④の先ほど話題に出ていた亀甲括弧のただし書のところで,定期預金の場合には最近のものは,大概,自動更新特約が付いていると思うんですけれども,その場合には,その時点での履行期が来れば解約のアクションを遺言執行者はすることができると考えてよろしいんでしょうか。 ○堂薗幹事 その場合は,死亡後に満期が到来した場合に,更新させる趣旨なのかどうかというところによってくるのではないかと思うんですが,死亡後も自動的に更新させるということになると,この規定があると履行期がまだ到来していないということにもなるのではないかという感じがいたします。定期預金契約でそこをどう考えるかというところ次第ではないかなという感じがいたしますけれども。 ○大村部会長 ほかはいかがでしょうか。 ○浅田委員 34ページに記載してある預貯金債権の判例の考え方の整理に関する記述に関して,問題の整理をしたいと思っていまして,コメントと若干,質問を含むかもしれませんけれども,私の考えるところを述べたいと思います。今から申し上げることは,本審議における議題と直接関係するかどうかは分かりませんが,34ページの記載については先ほども申し上げた平成21年の最高裁判決,これは預金取引開示請求権に係る判決でありますけれども,それをめぐっていろいろな議論,すなわち,預金債権と預金契約が分属するかどうか,預金契約の移転を認めるかどうか,それは遺言に明記がある場合にどうか,ない場合はどうかというような預金者の意思解釈によって,預金契約の移転に影響されるかとかいう論点があると認識しております。よく詰め切れていないのですけれども,現時点で私個人としては,その論点を踏まえた部会資料記載については大きな違和感はございません。   ただ,1点,34ページの下から2段目のところ,「次に」と書いてある段落で,読み上げますと,定期預貯金債権を取得する旨の遺言がされた場合でも,これと併せて移転させる意思まで有していないとは認め難いというのは違和感が若干ございました。なぜならば,例えば,特定の定期預金を特定の者に相続させる遺言があった場合で,かつ遺言執行者がないケースのときには,現行実務では当該受益者による単独請求による解約というのを認めています。   ところが,この記述だとすると,定期預金に係る契約というのはその者一人に寄せられることなく,他の相続人と併せて解約をしなければならない。預金債権自身は単独に権利承継がされるわけですけれども,預金契約自体は準共有の形で法定相続人に準共有される結果,特定の者に遺言により相続された定期預金に関しても,当該受益者が単独でやってきて解約をしたいといった場合に,他の相続人の同意も必要だということにもつながるのではないかと思うわけです。この点については,どう思われますかということであります。   続きまして,一方で,遺言執行者がいるケースにおいては,本審議の提案によれば預貯金債権につき,遺言執行者に解約権限を認めていますので,実務対応は可能となる提案と評価できると思います。また,遺言執行者がないケースにおいてもこの提案,すなわち,遺言執行者の25ページにおける2(2)②の括弧の規律があれば対応可能になると思います。そういう意味で,評価できる提案だと思います。   ただ,このとき,例えばでありますけれども,預金の一部金額について特定の者に相続させる遺言があるケースでは,どうなるかということを詰めて考える必要があろうかと思います。例えば単純な例でAとBの二人の相続人がいる場合で,1,000万円の定期預金があったと。遺言には800万円をAに相続させるという遺言があったケースでは,800万円についてAのみの単独解約ができるのか,200万円については二人の請求が必要だと考えたとしても,800万円に関してはAのみの単独解約ができるのか,あるいは800万円を超えて,200万円も含めた全額についてAとBの請求が定期預金の解約のために,この規律においても必要なのかということが,議論が出てくる余地があるのではないかと思いました。問題提起ということでありますが,この点についてもし現段階での御見解があれば,御教授いただければ有り難いと思います。 ○堂薗幹事 まず,最初の点ですが,私が十分に問題意識を把握できていないのかもしれませんが,34ページの記載は,定期預貯金について相続させる旨の遺言がされた場合に,受益相続人にその利益を取得させる方法としては,解約した上で現金で分配するという方法と,定期預貯金の債権自体あるいは契約上の地位自体を受益相続人に帰属させて,それで終わらせるという二つの方法があるんだと思いますが,その二つの方法のうち,通常は,遺言者としても,契約上の地位まで移転させた上で,それを存続させるということまでは考えておらず,払戻しをした上で,それを渡して終わりにするという意思である場合が一般的なのではないかと思います。したがって,定期預貯金についても遺言執行者に解約権限を認めていいのではないかと,そのような説明として,ここでは書いておりますので,必ずしも定期預貯金は受益相続人に帰属するけれども,契約上の地位が相続人全員に帰属するということを考えているわけではございません。   それから,2点目の一定の金額について相続させる旨の遺言がされた場合にどうなるかというのは,非常に難しい問題だと思っているんですけれども,それは普通預金の場合も同じような問題が生じるのではないかと思います。この点について,先日出された預貯金債権に関する最高裁の判例では,各相続人が共有持分という形で持っている場合に,その口座に入金があるたびに,それが分属することになり,それを前提として計算をし直すのは煩雑ではないかということで,当然分割ではなくて準共有だということを言っておりますので,その趣旨からしますと,例えば,Aさんが取得する額は800万円と決まっていて,その後,ほかの振込みがされても,それはAさんには帰属しないと,相続人が二人であれば常にBさんに帰属するということであれば,先日の判例で言っているような問題は生じないので,特定した金額について単独で権利行使を認めるという余地はあるのではないかと思います。   そこは1個の預貯金債権の共有持分を取得させる意思であったのかどうかという遺言者の意思解釈にもよるのではないかという気もしておりますが,ただ,そこは正直なところ,よく分からないところがありますので,民法の先生方の御意見を聴いてみたいなと思っているところでございます。 ○浅田委員 ありがとうございます。   なかなか,難しい問題と認識しております。私が申し上げたのは,預金債権の帰属と,当該預金債権を下ろすときに,解約という行為を行うときの解約権限を誰が持つかという問題は別の問題なので,よって,預金契約の承継者が誰なのか,どの部分についての預金権限なのかということを分析しないと,妥当な見解が導けない可能性があるものですから,この点についての議論を深化させる必要があるのではないかと思った次第でございます。 ○大村部会長 今のことに関連して何か御発言があれば伺いますが。 ○潮見委員 意見というよりも単純な確認なんですが,先ほど浅田委員がおっしゃったような1,000万円の預金,これは普通預金の場合と定期預金の場合がありますが,そのうちの800万円を例えばAに与えるという,そういう場面というものは今回の御説明では26ページの④のルールに当たると,つまり,預金債権の特定の額の一部についての相続させる旨の遺言というのは,これに当たるという,そういう御理解ですか,それとも,そうではなくて,言ってみたら,要するに預金債権について相続が問題になるときの預金債権の帰属主体というものは一人であり,預金契約上の地位の承継主体も一人であるという非常にシンプルな場合を想定して,この部分のことを書かれておられるのかということです。 ○堂薗幹事 金額を特定した場合も④の規律の適用があり,遺言執行者はそれで払戻しができるという前提です。 ○潮見委員 解約の場合には,その場合には預金契約上の地位というものについては,例えば相続人が三人いた場合には三人に準共有という形で帰属すると,共同帰属ということになります。その場合の解約は,全員で解約しなければいけないんですか。 ○堂薗幹事 ですから,複数の者に預貯金債権を帰属させるような場合でも,遺言執行者は法律上解約権が認められるので,単独で解約することができるという理解なんですけれども。 ○潮見委員 預金契約全体を単独で解約できるということですか。 ○堂薗幹事 むしろ,そういうことでないと,実務上,困るのではないかという意見が非常に強かったので,今回,そういう形で御提案をさせていただいたということなんですけれども。 ○窪田委員 まだ,状況が見えていないのですが,複数の者に帰属させる場合でも,遺言執行者が一人でAとBにこの割合で帰属させるといった場合には,遺言執行者が言わば全員を代表しているという形になりますから,この規律を適用するということはよく分かるのですが,1,000万円の普通預金又は定期預金において,800万円分だけAに帰属させるといったときに,遺言執行者が持っている権限というのは,Aに800万円分を帰属させるという権限だけですよね。そのときに特に解約というのは。 ○堂薗幹事 ですから,800万円を帰属させるという遺言がされた場合に,その趣旨が800万円の預貯金債権を受益相続人に帰属させるという趣旨なのか,あるいは払戻しをした上で,現金でそれを渡すという趣旨なのかというところで,ここは,むしろ,そういう場合には現金で渡すという方が一般的なのではないかという理解の下,このような規律を置いているということでございます。もちろん,そもそも,そのような理解が相当かというところが問題になるとは思っておりますけれども。 ○窪田委員 800万円分だけを払い戻してということになるのですか。預金契約そのものの解約は,ほかの共同相続人も同意しなかったら,できないということでよろしいですか。 ○堂薗幹事 解約した上で,全部引き出して,それを分配するということです。 ○窪田委員 解約は一人でできる。 ○大村部会長 1,000万円のうち,800万円だけを特定の人に与えるという遺言があったときにも,遺言執行者が選任されていれば,遺言執行者はその全体について解約権限を付与されていると解釈しましょうという規定を置く。それをデフォルト・ルールにして,反対の意思があれば,そちらに従うという趣旨ですよね。 ○窪田委員 Aに800万円を帰属させるということ以外に,残りB,Cという二人がいたとして,残りはB,Cでとか,残りの部分はA,B,Cで分けるということまでを含めて,遺言を執行するという説明をすれば,当事者の意思から,被相続人の意思から説明できると思うのですが,そういう説明を介さずに,最高裁の判決でどの部分を重視して読むかということにもよりけりなのですが,契約上の地位のものであって,いろいろな出入りがあるものだから,全員が一緒にやらなければいけないということを重視すると,今の説明だけで足りるのかなというのがちょっと気になる気がいたしました。 ○沖野委員 全く同じ疑問なんですけれども,まず,前提としては1,000万円の定期預金について契約の一部解約自体はできないという前提ですよね。だから,全体を解約するか,解約しないかしか選択肢がない。それとも,800万円だけ解約できるんでしょうか。 ○浅田委員 その銀行の取扱いにもよると思いますけれども,一部を払い戻すということは,可能は可能です。ただ,それを法律的にどう説明するのか,解約と説明するのか,それとも,一部金額の引き出しと考えるのかとか,そういう論点はあります。正直ここは,余り詰めた議論はされてこなかったと思いますけれども,今回の議論においては,一部引き出しないしは全額の解約というのが,一体,どういう法的構成なのかということが去年の最高裁大法廷との絡みもあって,何らかの整理がなされなければならないと思った次第です。私が申し上げたいのは,決して御提案の規律自体が問題だというふうなことは申しておりません。むしろ,非常に有り難い規律だと理解しております。ただ,理論的に整理が必要ではないかと,こう思った次第で,つい尋ねてしまったというようなことでございます。 ○沖野委員 一部解約ができるのであれば,800万の限りでということで話は終わると思うんですけれども,契約上の地位であって部分的な解約のみはできないというときに,残り200万は遺産共有として処理されるはずのものなわけですよね。1,000万を引き出した遺言執行者は,800万円は遺言の執行の問題として受益相続人に渡しますけれども,あとの200万はどうするのだろうかということでして,先ほど分配すると言われましたけれども,それをどう分配するかというのは遺言には書いていないわけで,分割協議に乗るはずですね。   そうしたときに協議が調うまで持っているのか,それとも,一旦,誰かに渡してしまうのか,そうすると,協議が調うまでの保管というのも実は遺言執行なのかというと,それは遺言執行を実現するために,そうではないところに入らざるを得ないという場合の遺言執行者の権限をどう考えたらいいのかという問題があって,その分についても遺言執行に必要な限りにおいては,そうでない部分にも踏み込み,そうしたときに残り200万は,本来,分割協議で決まるものだとすると,分割協議のために持っているというような付随的,周辺的な地位を遺言執行者は有するし,義務も掛かってくるということを提案することになるのではないでしょうか。 ○堂薗幹事 そこは,正に200万円の取扱いについて遺言者はどう考えていたかという,遺言者の意思解釈の問題となり,遺産分割が終わるまでは遺言執行者がそれを保管しておいて,遺産分割がされたら,それに従って分配をして下さいという趣旨なのか,あるいは200万円については相続人の誰かに渡すなり何なりして,遺言執行者の職務としては,それで終わらせるという趣旨なのかというところに関わってくるのではないかと思いますが,このような規律を設けた場合には,御指摘のような非常に難しい問題が生じますので,その辺りについては慎重に検討したいと思います。 ○潮見委員 1点だけ,個人的な印象なんですが,こういう推定規定みたいなものが必要だというのは分かっておるつもりです。ただ,その場合に,今,申し上げたいろいろな御意見があったところからもうかがわれますが,例えば預金契約上の地位,それ全体が相続人の一人に移るような,それは預金をこの人にという,1,000万円の預金を1,000万,この人に上げるとか,この定期預金はこの人に上げるとか,そういう形で遺言が書かれたようなシンプルな場合についての推定規定という形で置くことは考えられないのでしょうか。   銀行業界等で要望しているところから外れるかもしれませんけれども,推定規定あるいはそれに近いものとするならば,今のようなところが無難かなという感じはします。そうすることによって預金契約上の地位と,それから,預金債権,これが分属するかどうかとか,あるいは預金契約上の地位は準共有なんだけれども,預金債権の部分についてだけ誰かに承継させるのかとか,そういうややこしい問題は起こらないですから,推定則としては無難かなとは思いますが,これは印象です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。今,2の(2)の④について様々な御議論を頂いておりますけれども,あと,ほかに2の(1)の②をめぐる問題もございますけれども,そちらも含めて御意見を頂ければと思いますが。 ○増田委員 みなし遺言執行者ですけれども,御提案の補足説明のところを読みますと,目的はどうも単独での登記申請をできるようにするということのようなんですが,それならば,むしろ,単独の登記申請を認めると端的に言っていただいた方がよろしいのではないかと思っています。遺言執行者ということになると,就職についての通知,あるいは数人がある場合の過半数での任務執行とか,遺言執行者に関する他の規定も全部適用になってきます。破産者は受遺者等になっても欠格のため遺言執行者になれないので,その場合はどうするのかなという問題も起こったりすると思うので,登記をするだけのことであれば,端的に単独登記なりを認める方向で検討した方が,遺言執行者という重い枠組みを利用する必要はないのではないかと思うんですが,いかがでしょうか。 ○堂薗幹事 それは,こちらとしても十分あり得るとは考えているんですが,そうなりますと,それはどちらかというと民法実体法の問題というよりは,不動産登記法の問題ということにもなりますので,そのような前提で検討させていただければと思います。 ○佐藤関係官 補足して説明させていただきますと,単独申請を現行の不動産登記法で認めている例として相続の場面がありますけれども,これは登記権利者と登記義務者のうち,登記義務者がいない場合であり,かつ,客観的な資料で登記の真正を確認することができるからと考えられております。今回,問題になるのは特定遺贈の場合の単独申請ということになるかと思いますが,特定遺贈はこれまで特定承継として考えられており,共同申請ということでこれまで解釈・実務を運用しております。そのため,これを不動産登記法で変えるということになりますと,実体法における理解を踏まえ,かつ登記法のこれまでの考え方との整合性なども踏まえて,慎重に検討していく必要があるかと考えております。 ○増田委員 今の点は意味が分からないんですけれども,不動産登記法を変えられないから民法を変えるというのは意味が分からない。逆でしょう,本来。民法を変えるより不動産登記法を変える方が単純なはずですよね,単なる民法の附属法規で手続法なんだから。しかも,この場合は登記義務者はいないわけなんです。いないから相続人を登記義務者と無理やり構成しているような話であって,現在,存在しないわけだから,そこは別に単独登記でもおかしくはない。何か法の上位,下位が逆転しているような気がしてしようがないですね,今の話は。 ○堂薗幹事 御指摘は非常によく分かりますが,ただ,ここはもちろん,御指摘の問題が検討を始めたきっかけではありますが,遺言者の意思としても,このような説明が可能ではないかというのがあって御提案をしたということです。正に民法上の規律として,こういった推定規定を置くのが適当なのかどうかという問題がまずあって,それは適当でないということであれば別ですが,遺言者の通常の意思から考えても,このような説明が可能ではないだろうかという前提があり,それを前提として民法実体法を変更し,遺言執行者がいない場面というのをなるべく少なくするというのは,一つの選択肢としてはあり得るのではないだろうかということでございます。 ○大村部会長 今の点につきましてほかの御意見があれば,是非,伺いたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○垣内幹事 今の点に関してなんですけれども,私は実質について特に方向性があるということではないんですけれども,どうも遺言執行者制度というものの一般的なイメージというか,意義に関して,こういう規定を仮に置いたとすると,遺言によって利益を得る人が自ら執行するのが何か原則のような形態であって,何もなければ,そう推定されるんだというようなことになるかという気もするんですが,そういった考え方というのは従来の遺言執行者制度についての理解と,どういう関係に立つのかという点が素人としては若干気になるところがあるかなというのが一つ感じるところであります。もう一つ,全くこれは実質には関わらない用語といいますか,説明ぶりの話かと思うんですけれども,先ほど少し議論になっておりました26ページの④の規律に関して,法律上の推定だとか,あるいはこれとは似ているけれども,この規律の適用対象とならないものについては,事実上の推定というようなことが説明としてされているんですけれども,これは実際にどういう条文になるのかという,その文言にもよるのかもしれませんけれども,普通に④のような任意規定を置いて,別段の意思表示があれば違うということであって,強行規定ではないという規律を置くにすぎないようにも思われまして,その趣旨が遺言者の推定的な意思に基礎を置いているというのは,説明としては十分理解できるかと思うんですけれども,この規律そのものを法律上の推定とか,これと似た取扱いを事実上の推定と呼ぶというのは,少し本来の法律上の推定とか,事実上の推定というのとは違う比喩的な説明なのかなという感じが少ししましたので,もしかすると,それは的外れなのかもしれませんけれども,用語,説明ぶりについても,その辺りも御検討いただけるといいのかなという気がしております。 ○堂薗幹事 確かに後者の点は,特に前提事実があるということではありませんので,厳密には法律上の推定という用語は不適切であるように思います。今後は,そういう使い方はしないようにしたいと思いますけれども,遺言執行者の従来の考え方を変えることになるのではないかというのは,確かにそういう面はあるんだとは思いますけれども,実際に遺言執行者が指定されていない場合に,例えば家庭裁判所で選任してもらって,遺言が執行されているというのが一般的にされているのであれば,それは特に問題ないんだと思いますが,必ずしもそうではないという実態があり,そうでない場合に相続人全員でやらなければいけないということになると,遺言が円滑に実現できないという面はどうしてもあるのではないかと。   裁判所に対して,そういう選任の申立てをするということについては,それなりに高いハードルがあると思いますので,その結果,遺言が円滑に実現できていないという場合があるのではないか。そうだとすると,受益相続人を遺言執行者にすることも許容されているのであれば,そういう指定がない場合には本人に執行してもらって,遺言の円滑な実現を図るということも制度としてはあり得るのではないかということでございます。ただ,この点については,事務当局として特段定見があるというわけではありませんので,ここは正に委員・幹事の皆さんの御意見をお伺いして決めたいということで,亀甲括弧を付けさせていただいたと,こういう趣旨でございます。 ○大村部会長 ほかにいかがでございましょうか。 ○浅田委員 質問なのかもしれませんけれども,25ページの2の(2)の①の下から2行目からのただし書が括弧書きになっています。この趣旨についてお尋ねします。なお,ここの趣旨は,上の1の(注)にもありますように,対抗要件制度にも関係していると思われ,それは他の議論においても関係しますので,併せて議論されるべきだと思いますし,また,その際には,銀行として債務者対抗要件ないしは第三者対抗要件として通知等がいろいろ来たときに,銀行の実務として,それが耐え得るのかという論点も提起されたところでありますので,そこは全体を見て評価すべき問題だとも思っております。  それで,このただし書の御提案の趣旨なのですけれども,もし,財産が預貯金債権である場合には,これは遺言者が対抗要件を備えるために必要な行為を行う権限がないということだと理解しました。   そうだとすると,実際,どうなるのか。つまり,対抗要件の具備が不要で,そのまま,権利者が銀行に来て下ろせとなるのか,それとも,そうではなくて受遺者がそれぞれの規律に従って例えば法定相続分より超える部分についてとか,別の議論があったかもしれませんけれども,それに基づいて対抗要件を具備した上で銀行に請求するのか,どちらの趣旨でこのただし書を起案されているのかということですけれども,それについてお尋ねします。 ○堂薗幹事 ④で遺言執行者に解約権を付与するという前提になりますと,遺言執行者がその事務を終了させるためには,必ずしも対抗要件を具備させる必要はないのではないかということで,遺言を実現するための方法として,先ほど申し上げましたように,払戻しをした上で現金で渡すという方法と,権利自体を受益相続人に取得させて,受益相続人が権利行使可能な状態にするという二つの方法があるわけですが,④のような規律を設ける場合には,そちらの対抗要件を具備させて,権利行使可能な状態にするという必要はなくなるのではないかということです。   他方,これとは別に遺言の最終的な執行のためにということではなくて,対抗要件を具備することによって例えば差押債権者にも対抗することができるとか,そういった効果が生じますので,そういった権限を遺言執行者に付与するかどうかというのは,両説があり得るのではないかと思います。特に債権のところの対抗要件については,受益相続人が単独で対抗要件を具備することができるようにするという提案もしておりますので,そういった場合に権利を保全するという目的で,遺言執行者にこういった権限まで与える必要があるのかどうかというのは,一応,考え方としては両説あり得るのではないかということで,亀甲を付けさせていただいたと,そういう趣旨でございます。 ○浅田委員 ありがとうございました。   感覚的な問題ですけれども,前段の解約をするための手続について銀行のサイドからすると,あえて対抗要件を具備していただいて解約手続をとるというのは,若干,迂遠な感じがいたしますので,そういう実務の簡便性という観点からも議論いただきたいところでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほか,いかがでございましょうか。 ○中田委員 第3の1なんですけれども,民法108条の準用をなくしたという部分で,これは法制的に困難だということは理解いたしました。ただ,この話は,元々は何だったかというと,遺言執行者の権限についての規定だけではなくて,義務についての規定も明確にすべきではないかという問題意識があって,忠実義務について書くということもあったわけですけれども,それは108条を置くことで代替できるだろうということだったと思います。しかし,それは無理だと。   他方で,今回の資料を拝見しても,遺言執行者の権限がかなり拡充しておりますし,あるいは受益相続人が遺言執行者となるというような規律も設けるとすると,義務についても明確にする必要があるのではないかという感じはあります。かつ1015条の規定,つまり,相続人の代理人とみなすという規定を削除すると,なおさら手掛かりが少なくなってきて,残るのは1012条だろうと思います。ところが,1012条も余りはっきりした規定ではなくて,1項で一切の行為をする権利義務を有する。この義務というのは何だろうかというのが余りはっきりしない。それから,2項では委任の規定を準用しているわけですけれども,そうすると,委任者に相当するのは誰かということがはっきりしないと思います。   そうすると,むしろ,遺言執行者の権限と義務とをそれぞれ明確にするという方向もあるのかなと思いました。義務について,もちろん,委任の規定の準用というのでも実質は同じかもしれませんけれども,それを独立して規定する,破産法85条1項のような形で書くとか,権限の方が発達しているので,義務についても明確にした方がいいのではないかなと思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   先ほどの垣内幹事の御指摘とも関連する点かと思いますけれども,沖野委員,何か。 ○沖野委員 実は私も108条の点が気になっておりまして,108条の規定が準用なのか,適用なのか自体も決めにくいということで,置きにくいというのは確かに分かりますし,元々,108条を適用でも準用でも持ってくることについては,私自身は若干の違和感を持っております。と申しますのは,とりわけ,民法改正法案の方になったときなんですけれども,現行法のままですと,どちらかというとできないという方から書いていますので,より忠実義務の内容が出やすい形になっています。   しかし,改正法案では代理権がない者がした行為とみなすという効果帰属における無権代理がより中核の規定になっていまして,そうだとすると,無権代理の関係が全部,ここに入ってくる,本人として追認するのは誰かとか,取消権などがあるのかとか,無権代理人としての責任を遺言執行者が負うということなのかという,108条を単純に準用するとなるとそういった問題が生じる,あるいはそちらにシフトする可能性があって,そうではないのではないかと考えていたところです。   更には遺言執行者の場合,本人が誰なのか,誰の利益あるいは誰のことを一番に考えなければいけないのかというのが単純準用では出ないですし,もし,108条を準用なり,適用なりということで考えられていたものを表すとすると,書きおろした方がいいのではないかと。誰の利益を考えるべきなのかという点から,一方では,こういうことについては権限がないという書き方をするのか,それとも義務規定として書くのかという方が望ましいのではないかなと思っておりました。   具体的な提案がないんですけれども,そのような観点から考えられないだろうかと思います。ただ,一方で1012条2項で委任の規定を準用していますので,善管注意義務がある,更には善管注意義務の中から忠実義務が読み取れるかという問題はあるんですが,しかし,今でも特に忠実義務は誰の利益を図るべきなのかというところが難しいので,遺言の実現を第一としてということであれば,それを強調するような書き方などができないだろうかと思ったところです。   それと多少,関連することとしまして,受益相続人を遺言執行者とするという点について,登記さえ手当てできればいいのなら,本当に登記だけ手当てしていただくのが一番いいと思うんですが,いろいろ,今までの,あるいはほかへの波及効果なども考えると難しいと。一方で,遺言執行者と当然になってしまうということには問題があるとすると,受益相続人というものが遺言執行者となることを妨げない旨の規定を置くことで,利益相反的な要素があり得る地位に置くんだけれども,それは構わないというので,それが構わないということが明確にされれば,遺言を作成する際に執行ができるというようなことを書くという点もあるのではないかと思います。   更には第三者と相続人の関係があるんですが,受益者が相続人の場合には義務者でもあるわけですよね。だから,義務者としての地位において,ほかの人に代わって執行するということも,あるいは考えられるのかもしれないとは思ったんですけれども,あちこちへ行って恐縮ですが,現在の25ページの②は難しいということであれば,少なくとも利益相反などの規律から,受益相続人を遺言執行者とすることも妨げないぐらいを置くということも考えられるのかなと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   幾つかの御意見を頂きましたけれども,遺言執行者の権限が拡大する方向にあるのに対して,108条に込められていたような義務の側面が全くなくなるのは,いかがなものかということが何人かの委員・幹事のおっしゃったことのように思います。それにどう対応するかということについて,複数の選択肢を示していただいたと思っておりますけれども,ほかに何か御発言はございますでしょうか。 ○中田委員 補足ですけれども,忠実義務については結構,議論の蓄積があると思うんです,遺言執行者について。信託の受託者に近いからとか,あるいは受任者に忠実義務を認めるとか,あるいは他の財産管理人とのバランスとかということもありますので,しかし,結論的には忠実義務を認めるという少なくとも学説は多いのではないかと思いますから,それを踏まえて御検討いただければと思います。 ○大村部会長 ほかはいかがでしょうか。よろしいでしょうか。   預貯金債権については,解約権限を付与するという場合を絞り込む必要があるのではないかという御指摘があったかと思います。単純な制度にした方が,後始末の問題を抱え込まなくていいという御指摘だったかと思いますけれども,その点が一つの御指摘と,それから,今の受遺者を遺言執行者とするということとのバランスで,一定の対応をしておく必要があるのではないかといった御指摘がされているものと認識しておりますけれども,そのほかに何か御発言はございますでしょうか。事務当局,よろしいですか。 ○堂薗幹事 忠実義務の点は,かねてより中田委員から御指摘を受けている点でありますので,こちらもそれなりに検討はしてみたのですが,事務当局としては,誰のために権限を行使するのかという点については,第3の1の①の規定で,遺言の内容を実現することを職務としというところで表しており,更に委任の場合の本人が誰なのかという点についても,第3の1の③で遺言執行者がその権限内においてした行為の効果は相続人に帰属するというところで,相続人全員が委任者的な立場にあるという趣旨を表しているという前提です。このように,誰のために,どういうことをしなければいけないかということを①で書いていることから,善管注意義務の内容もある程度は明らかになっているのではないかというところがあるのと,それから,先ほど中田委員からも御指摘がありましたように,民法上は他の財産管理人について忠実義務に関する規定が置かれていないのに,遺言執行者のところだけそのような規定を置けるのかという法制上の問題もありますので,現時点ではこのような案になっているということでございます。御指摘の点については,再度検討してみたいと思いますけれども,事務当局としては,そのような整理をしているところでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほか,よろしいですか。では,今の点につきましては更に検討を頂くということにしたいと思います。   それでは,かなり時間がたっておりますけれども,第4について御説明を頂いて少し御意見を頂き,残った部分については次回に回させていただきたいと思います。では,事務当局の方で御説明をお願いします。 ○神吉関係官 引き続きまして,37ページ以下の「遺留分制度に関する見直し」につきまして御説明させていただきます。   まず,1の「遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直し」についてですが,ゴシック部分につきましては従前の部会資料16で御提案させていただいていた甲-2案及び甲-3案を,ほぼそのまま掲載させていただいております。   38ページ以下の補足説明の内容につきまして,ごく簡潔に御説明させていただきます。第16回部会におきまして,現物給付により不要なものを押し付けられるリスクについて,どのように考えるべきかという点について様々な御議論が行われ,様々な御意見が寄せられました。そこで,今回の部会資料では,この点に関する基本的な考え方を整理した上で,幾つかの事例を踏まえて検討を加えております。   39ページの「(1)基本的な考え方」についてですが,部会資料でも①から③と,基本的な考え方,理由を記載しております。基本的には受遺者又は受贈者の立場といたしますと,単に遺留分権利者が必要としないという理由で,受遺者又は受贈者が指定した現物給付の目的財産の拒絶権を遺留分権利者に与えるのは相当ではない,これを認めるとしても例外的な場合に限定するのが相当ではないかと考えられます。   また,(2)の甲-3案と甲-2案の比較ということでございますが,第16回部会におきましては規律として明確である甲-3案を支持する意見が多かったものの,甲-3案を採用すると,不要なものを押し付けられるリスクが高くなるのではないかという懸念が示されたところでございます。この点は,委員からも指摘があったとおり,甲-3案を採用するといたしましても,実体法上,現物給付の指定を無効とする事由を適切に設けることができれば,甲-2案と同様の結果を実現することができるということで,甲-3案の本質的な問題点ではないものと思われます。そういたしますと,基本的には規律としてシンプルである甲-3案を中心に検討を進め,どのような場合に遺留分権利者に拒絶権を与えるべきか,また,拒絶権を与える場合を適切に要件化できるかといった順序で検討すべきように思われます。   そこで,40ページの(3)以下では事例を踏まえた検討を行っております。ここでは第16回部会でも御指摘がありました事例を踏まえまして,六つのケースについてどのように考えるべきかということを検討しております。その検討結果は,41ページの「【検討】」のところで記載しておりますが,結論から申し上げますと,現物給付の指定権を受遺者又は受贈者に与えない事例を適切に要件化することは困難ではないかと考えております。そういたしますと,甲-2案を採用することや,甲-3案を採用しつつ現物給付の指定を無効とする事由を適切に設けることは,いずれも困難ではないかと思われます。結論といたしましては,個別具体的な事案に応じて,権利濫用といった一般条項により対応するのが相当ではないかと考えているところでございます。   次に42ページの2の「指定された目的財産の権利放棄を認めるかどうか」につきまして御説明いたします。この点は,第16回部会におきまして甲-3案を採用するとしても,こういった制度も考えるべきではないかと御指摘いただいたところでございます。結論から申し上げますと,このような制度を設けますとかなり規律として複雑にならざるを得ず,また,克服すべき理論的な問題点も生じるということからすると,採用することは難しいのではないかということを記載しております。   また,44ページの3の「その他の問題点について」ですが,こちらは甲-3案の③の規律に関する記載となりまして,こちらは現物給付の意思表示に関する時的限界に関する規律を明文化する必要があるかどうかについて検討をしております。この点は,金銭請求訴訟の既判力によって現物給付の抗弁が遮断されるかどうかという理論的な問題とも関連いたしますので,実質論としては金銭請求訴訟が終わった段階では現物給付は主張できないという点では異論がなかったところではございますが,理論的にどうかというところで問題が残りますので,亀甲を付けて今後の検討課題としているところでございます。   引き続きまして,46ページの2の(1)アの「相続人に対する生前贈与の範囲に関する規律」につきまして御説明いたします。本文につきましては,従前の部会資料からの変更点はございませんが,民法1030条後段の規律を維持すべきかどうかにつきまして,第16回部会におきまして委員・幹事の方から,これを削除することも検討すべきではないかという御指摘がありましたので,検討を行っております。その結果ですが,1030条後段の規律自体は維持するのが適当ではないかということで,ゴシック部分の(注)で掲げることとしております。その理由につきましては,部会資料46ページの①から⑤まで記載したとおりでございます。   以上,御説明させていただきました。 ○大村部会長 ありがとうございました。   この第4の「遺留分制度に関する見直し」については,ここに上がっているゴシックの提案部分については,変更はないということです。それで,上げられていた問題点について1の「遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直し」に関しましては,不要なものを押し付けられるということがあるのではないか,あるいは指定された目的財産の権利放棄を認めるかと,こうした御懸念が示されておりましたけれども,いずれにしても,これを制度化して対応するのは難しいのではないかという検討結果について御報告があったものと受け止めました。それから,遺留分の算定方法の見直しについては,(注)のところに出てくる1030条後段の規律についてこれでよいかということが問題になりましたけれども,これも維持するというのが適当なのではないかという御報告でありました。   これらについて御意見を賜れればと思います。検討結果の御報告を頂いているわけなんですけれども,更に検討せよというお話があるようであれば承りたいと思いますが,何かございますでしょうか。 ○増田委員 時間の関係でどの程度,しゃべったらいいですか。というのは,私の意見の趣旨は甲-3案を採用し,なお,検討すべき点が幾つかあるということなんですが。 ○大村部会長 検討の方向を示すようなことを簡潔に御指摘いただけると,有り難いかと思います。 ○増田委員 私はまず前回,甲-2案とか,いろいろ,比較しましたけれども,権利関係の明確性という見地から,甲-3案が望ましいのではないかと考えております。ただ,甲-3案でも残る問題が幾つかありまして,例えば現物給付の指定の意思表示が明確なものでないと,その時期もはっきりしないということになり,所有権の移転という重大な法律効果を伴うことを考えると,どういうものをもって現物給付の意思表示と見るかどうかというのが結構難問なんです。41ページの上の方の⑤で,事前の交渉で遺留分権利者が不要であると明示していた財産を指定した場合というようなことが書いてありますが,この場合というのは事前の交渉のときに,Aという物件で返しますと言ったら,そのときに指定されているのかどうか,指定の前段階の提案みたいなものを予定されているようにも見えますので,指定の意思表示について明確にするために何らかの方式を限定するとか,何か方法があっていいのかなと思いました。   それから,予備的な意思表示が有効かどうかです。現物指定について遺留分減殺そのものを争うとともに,仮に遺留分が存在するのであれば,この物件で返しますという意思表示というのは実務上,あり得ると思うんですけれども,それが有効なのかどうか,その場合,有効だとした場合,その所有権の移転時期はどうなるのか,仮に所有権移転時期を判決確定時等とした場合には,かなりのタイムラグが生じると思われますので,その間の目的物の保管とか,目的物の管理について善管注意義務等の責任を決めなくていいかどうかという話,それから,現物給付指定のやり方なんですけれども,対応する金額,要するに消滅させるべき債務の金額を明示して行うのかどうか,その金額は受遺者側を拘束するのかどうか,あるいは遺留分侵害額に満つるまでといったような,そんな指定も可能なのかどうかということです。   指定の終期なんですが,ここでは口頭弁論終結時と書かれていますが,実は民法に口頭弁論終結時というような定めはないし,口頭弁論終結による遮断効などは恐らく訴訟法が決めることであって,民法が決めることではなさそうです。また,御存じのとおり,相殺とか建物買取請求権などは,口頭弁論終結後でも行使できると言われていますので,それらとの整合性はどうなのか,それから,指定した場合に遺留分減殺債務の方,請求権の方です,こちらの方はいつ消滅するのか,どの範囲で消滅するのか,これも指定の意思表示時ということも考えられるし,判決確定時というのも考えられるし,あるいは遅くすれば履行時ということも考えられると。幾つか問題が残っているので,その辺を詰めないといけないのかなと。あと,時間があるということですので,詰めなければいかんのかなと思っています。   それから,もう一つ意見なんですが,放棄,これは認めるべきであろうかと思います。物を所有するということについては,その物から生じるリスクを負担すると,あるいは管理コストを負担するということになりますので,幾ら価値のあるものであっても,それは要らないというのであれば,物の所有権は帰属させなくてもいいのではないかと,取得する義務まではないのではないかと思います。   ①,②,③という不都合が書いてありますが,放棄の意思表示が可能な一定の期間を設定して,かつ放棄に遡及効は持たせないという形にすれば,不都合は回避できるのではないかと思います。   ということで,以上,かなり脈絡のない話をしましたが,単に甲-3案というだけではまだ解決できない問題が多数あるので,そこの中身を詰める必要があるだろうということで,よろしくお願いします。 ○大村部会長 二つの問題のいずれも,対応は難しいのではないかというのが事務当局からのお話だったと思いますけれども,なお,頑張ってくれという御要望である,特に不要なものについては,甲-3案を採るとしたときに付随して出てくる問題点について,対応の方向性も併せて御指摘を頂いたと理解いたしました。甲-3案で考えるというところまでは,多分,事務当局も同じなのだろうと思いますけれども,例外的な場合を要件化できるだろうかという点について,事務当局からは,それはかなり厳しいのではないかという感触が示されたのだろうと思いますけれども,そこについては何か御意見はございますか。 ○増田委員 どういうことでしょうか。放棄の話ですか。 ○堂薗幹事 指定を無効にできる場合の要件化は難しいのではないかという点と,そこは今の問題点の中には含まれていないという理解でよろしいんでしょうか。 ○増田委員 指定の放棄はいつでもというか,自由にできるということでいかがでしょうか。 ○堂薗幹事 受遺者等において指定したものについて,その指定は不当だということで無効になる場合の要件を民法の中に盛り込むのは難しいのではないかというのが事務当局の考え方です。 ○増田委員 それはそのとおりで結構です。 ○神吉関係官 増田委員から指定された目的財産の権利放棄を認めるかどうかという点で,なお検討をしてほしいという御意見を頂きましたけれども,先ほど御説明したとおり,この点は第16回部会で別の委員から御指摘を頂いて,事務当局でその可能性について,検討を行ったところであります。部会資料42ページの①,②の問題というのは,規律を組めば何とかできるかなという気はするのですが,③については理論的に難解な問題があるのではないかと考えております。すなわち,請求の一部放棄に条件を付することにもなりかねないということで,裁判所の判断が示されたら請求が一部放棄されたことになると理解するのか,そうすると請求の範囲というのは裁判所の審判の範囲を決める話ですので,そこに何か条件を本当に付せるのかどうかというところが,理論的によく分からないという状況です。もし,可能であれば民事訴訟法の専門の委員・幹事の方で,御意見があれば教えていただければと思います。 ○垣内幹事 ここで問題となっている事柄というのは,金銭請求をしていて,それに対して予備的抗弁という形で現物給付を求めてきているという場合なんですね。そういう目的財産だったら,もし,それが認められるのだったら放棄すると言っているということですけれども,これは請求の一部放棄と解する必然性もないかなという気もしておりまして,要するに,元々,予備的抗弁という形で出てきているものについて,それが認められる場合だったらこうするぞと言っているわけですけれども,それは主張レベルの話であって,請求そのものを放棄しているとかいうことであれば,請求の一部放棄ということにはなるんですけれども,そこはそうでない理解の余地もあろうかなという感じもしております。そうなりますと,請求の放棄と自白等は別のレベルの事柄ですので,主張レベルで請求の一部が棄却になるようなことを言っていたとしても,請求の放棄をしていなければ,請求は請求としてあるわけですから,実際にその主張が現実に認定されれば,その分は棄却の結論につながるということであるにすぎないと説明することができるとすれば,③の一部放棄に条件を付することができるかという形での問題にはならないと,解する余地もあるのかなという印象を今のところ持っております。まだ,私自身も考えてみなければいけないと思っておりますが,差し当たりは,そういう印象を持っております。 ○増田委員 攻撃防御方法として実体的な放棄の意思表示をしているだけであって,請求としての訴えの一部放棄をしているわけではないわけですから,そこは大丈夫なのかなと思っているんですが,垣内幹事も同じと思いますけれども。 ○堂薗幹事 御指摘を踏まえて検討させていただければと思います。ありがとうございました。 ○大村部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○山本幹事 甲-3を前提に要件化を検討して,これが難しいという点につきましては賛成でございます。性質上,例外的な場合に当たるか否かというところは,主観面,客観面を総合して考えなければいけないということになろうかと思いますので,具体的な要件を定めるのは困難と思われる一方で,抽象的に定めても判断の指針にはなりづらいと思っているところでございます。   放棄の点は,今の③の点については保留しますが,タイムラグが生じて,その間に処分が生じてしまった場合にどうなるのかといった辺りの問題も含めて考えたときに,そこまでして組まなければならないのかどうなのかというところが一つあり得るのだろうと思います。特に事務局で今回,整理していただいたところを前提とすれば,基本的には物の指定について,遺留分権利者は文句を言える立場にないというところが出発点になっているのだろうと思われまして,そこが否定されるのであれば,むしろ金銭債権以外はいけないという方向にいった方がシンプルなような感じもしておりまして,どちらに割り切るかという問題ではないかと思っております。   意見としては以上ですけれども,1点,質問がございまして,部会資料の45ページ(注2)の「その他の問題2」で,相続分の指定に対する減殺請求が取り上げられております。現在の取扱いを変更して,B説的な考えを採るのが相当ではないかという御説明ですが,これはこういう規律として置くということを提案されているのか,それとも解釈として,こういう考え方があり得るのではないかという御示唆を頂いているのか,これはどちらになるのでしょうか。 ○神吉関係官 お答えいたします。B説による場合に,これまで提案している規律とは別の規律を設けなければいけないのかどうかということは,慎重に検討する必要があるかと思いますが,実質論としてB説を採用した上で,あとは解釈の問題で現物給付の内容を考えることができるのであれば,それはそれでよろしいのかなとは思っております。部会においては,実質論としてA説がよいのか,B説がよいのか,またB説による場合に現物給付の内容をどのように考えるべきかいうことについて,今日は御意見を頂ければなと,思っているところでございます。 ○山本幹事 解釈の問題であれば,それは後に残された問題ということになると思いますけれども,いずれにしても遺留分減殺請求権の金銭債権化から,論理必然的にB説が帰結されるわけではないように思われるところでありまして,その辺りも含めて現状を変更する必要があるのかどうなのかというところは,慎重に御検討いただければと思っているところでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。  そのほかに何か御指摘はございませんか。 ○中田委員 今日,議論を更にするのでしょうか。言いたいことはあるんですけれども,それは結構,時間が掛かると思うんです。 ○大村部会長 更に御意見もあるということであり,また,1030条の問題も残っておりますので,併せて次回に持ち越すということでよろしいでしょうか。では,中田委員は今日のところは,特に御発言はないということでよろしいですか。 ○中田委員 発言しますと,多分,また時間が掛かると思いますので。 ○大村部会長 それでは,今,一部,御意見を伺いましたけれども,更に御意見もあるようですので,この点については次回以降に持ち越させていただきたいと思います。私の方の不手際で,時間を過ぎてなお終わっていないという状況ですが,今のような取扱いにさせていただきたいと存じます。   最後に,今後の日程等につきまして,事務当局の方から御説明を頂きます。 ○堂薗幹事 それでは,次回の日程でございますが,既に御案内のとおり,5月23日(火曜日)の午後1時半からを予定しております。次回も三読で御議論いただいたもののうち,更に詰めた検討を要する積み残しの課題を取り上げて,御審議いただくということを考えております。今回は積み残しの課題の中でも,比較的大きな論点を取り上げましたけれども,次回は細かな論点も含めてできる範囲で取り上げたいと考えておりまして,見直しの全体像につきましては,次々回以降にお示しすることができればと考えているところでございます。次回の場所ですけれども,次回も本日と同じ法務省20階の第一会議室ということになります。   次々回以降でございますが,これまで6月分まで正式にお伝えしていたかと思いますけれども,7月は18日(火曜日)に開催することを考えておりますので,日程の確保をお願いいたします。冒頭で申し上げましたとおり,可能であれば7月の部会の後にパブリックコメントを実施できればと考えているところでございます。それでは,次回もどうぞよろしくお願いいたします。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今,御説明がありましたけれども,積み残しの論点のうち,本日,扱われていないものにつきまして次回に御検討いただき,その後,6月以降に取りまとめに向けての案を出していただくということでございます。   本日はこれで終了させていただきたいと思います。熱心な議論を頂きまして,どうもありがとうございました。 -了-