法制審議会 民法(相続関係)部会 第22回会議 議事録 第1 日 時  平成29年6月20日(火)自 午後1時30分                      至 午後5時46分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(相続関係)の改正について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○大村部会長 それでは,定刻になりましたので,法制審議会民法(相続関係)部会第22回会議を開催いたします。   議事に先立ちまして,新しい関係官の方がいらっしゃいますので,自己紹介をお願いいたします。 ○秋田関係官 秋田純と申します。よろしくお願いします。 ○大村部会長 どうぞよろしくお願いいたします。   続きまして,配布資料の説明を,事務当局にお願いいたします。 ○神吉関係官 それでは,関係官の神吉から配布資料の説明をさせていただきます。   本日配布の配布資料目録のとおり,本日は3点の資料を配布しております。事前送付の部会資料22-1,それから部会資料22-2でございます。   以上,御説明させていただきました。 ○大村部会長 ありがとうございました。   今,御説明がありました部会資料の22-1,それから22-2,「要綱案のたたき台(1)」となっているものでございますけれども,本日はこれに基づきまして審議を進めさせていただきたいと思います。   要綱案のたたき台の(1)は,第1から第6までの項目に分かれておりますけれども,補足説明の方を見ていただきますと,第7という項目がございまして,都合7項目ございます。順次説明を頂き,御意見を伺うという形で進めてまいりまして,分量の関係で,第3の途中ぐらいで休憩を入れたいと思っております。   それでは,まず第1の配偶者の居住権を保護する方策につきまして,事務当局の方から御説明をお願いいたします。 ○倉重関係官 関係官の倉重から御説明申し上げます。   第1の点につきまして,まず,短期居住権の点についてですが,権利の内容について,従前は「使用及び収益」としていた点を,単に「使用」としております。従前のものは,平成8年判例では使用貸借契約を推認するという構成を採っていたことから,使用貸借に合わせていたものです。しかし,短期居住権は被相続人の占有補助者であった配偶者に相続開始後に独自の占有権限を付そうとするものですが,配偶者が相続開始前に建物の一部に収益権限を有していた場合には,その部分については被相続人と配偶者との間に使用貸借契約などが成立していることが多いと思われます。また,居住用建物のうち,収益をしていた部分まで短期居住権の対象とし,それによる収益を配偶者のみに帰属させるのは,短期居住権による配偶者保護の目的を超えているとも思われます。そこで,本部会資料では,短期居住権の範囲として建物の使用権限のみとし,収益権限までは認めないこととしました。   次に,前回部会で,居住建物について遺産分割が行われる場合には,配偶者が長期居住権を取得したときであっても,短期居住権を成立させることで,長期居住権の評価額を下げてはどうかとの意見がございました。しかし,長期居住権は短期居住権よりも強力な居住権として構成されていますので,長期居住権を取得した場合には,その時点から長期居住権に基づく居住を認めることで,配偶者の保護に資する面もあると思われます。また,配偶者が長期居住権を取得するのは,配偶者が長期居住権を希望する場合ですので,配偶者が不測の不利益を受けることもないと思われます。さらに,遺産分割によらずに長期居住権を取得するのは遺贈や死因贈与の場面ですが,この場合には,持戻し免除の意思が推定されるため,配偶者が取得できる財産が減少するのは限定された場面に限られます。これらのことから,この点につきましては,従前の提案を維持することとしております。   以上が,短期居住権についてでございます。   次に,長期居住権の点ですが,長期居住権は建物所有者に負担を課すものですから,その存続期間を明確にする必要性が高いと考えられます。そこで,その設定行為において,存続期間を定めなければならないものとしております。その上で,被相続人が遺贈によって長期居住権を設定する場合などに,その存続期間の定めを忘れることで,これが無効となってしまうことを避けるため,遺贈又は死因贈与契約で長期居住権を取得させる場合に,その存続期間を定めなかったときは,その存続期間を終身の間と定めたものとみなすことといたしました。このように定めましても,持戻し免除の意思表示が推定されることから,配偶者に不測の不利益が生じる可能性は低いものと思われます。   一方,遺産分割の場合には,配偶者が長期居住権を取得した場合,その財産的価値に相当する金額を相続したものと扱われることとなっているため,存続期間を終身の間と推定することにしますと,先行して一部分割を行って,配偶者に長期居住権を取得させたような場合に,後行する残部の分割において流動資産を僅かしか取得できなくなるといったような場面が生じ得ます。そこで,遺産分割の場合にはこのような推定規定を置かないことにしております。   しかしながら,このような規律にいたしますと,遺産分割において長期居住権の存続期間について黙示的な合意も認定できないといった事案では,長期居住権が無効となってしまうというリスクがございます。そこで,長期居住権については,その取得原因にかかわらず終身のものと推定するという規律も考えられますところですので,この点につきまして御意見を承れればと考えております。   最後に,配偶者に長期居住権を取得させる旨の審判があったとき,配偶者が単独で登記申請できるのかという点についてです。   まず,登記義務を命ずる審判については,特段問題なく,他方の当事者は単独で登記申請することができると思われます。また,審判において,登記義務の履行を命ずる旨が明示されていない場合にも,部会資料に記載しましたとおり,配偶者による単独申請が認められてよいものと考えております。なお,居住建物の所有権の移転の登記が未了である場合には,長期居住権を取得した配偶者は,その設定登記の前提として,保存行為により相続を原因とする所有権の移転登記等を申請する必要があるというふうに考えているところでございます。   以上になります。 ○大村部会長 ありがとうございました。   配偶者の居住権を保護するための方策ということで,短期居住権と長期居住権のそれぞれにつきまして,幾つかの調整をしているということで御提案があったかと思います。   順次御意見を伺えればと思いますが,短期居住権について,まず収益の権限は認めず,使用の権限だけにするということと,短期,長期の関係については,従前の提案を維持しているということですけれども,これらにつきまして御意見を頂ければと思います。いかがでしょうか。   水野委員,どうぞ。 ○水野(紀)委員 御検討いただいた上で維持されたということですのに,蒸し返しになってしまうのかもしれないのですが,やはり心配でございますので,一言発言させていただきます。   長期居住権の対価がどのくらいになるのかということが,ずっと心配でございまして,これが市場価格になりますと,例えば,10年分ぐらいの長期居住権の対価では,その不動産そのものの価値を凌駕してしまうような,それぐらいの高い価格になりかねません。そんな高い価格が付いてしまいますと,持戻し免除の意思表示を兼ねたとしても,やはり配偶者の老後の居住権が危うくなってしまう心配がございます。   元々日本法は,婚姻の効果としての配偶者の居住権が著しく弱いですし,夫婦財産制の清算まで視野に入れますと,配偶者の老後の生活が担保されない,配偶者保護がひどく弱い法制度になっております。何とか遺産分割が成立するまでの間,無償でという従前の保護を認める可能性はないものでしょうか。また,この長期居住権の対価が市場価格より非常に低いものになるであろうという何らかの将来的な示唆が盛り込めるのであれば,不安は幾らか減ずるのですが,そこの点はいかがお考えでしょうか。 ○堂薗幹事 そもそもこの長期居住権について,どういう形で評価をするかというところにかかってくるんだろうと思いますし,基本的には,長期居住権をほかの人に譲渡するというのは難しい面がございますので,そういった意味で,市場価格というのは観念しにくい面があるのかもしれませんが,従前,不動産鑑定士協会の方からいただいた資料等を見ても我々の印象としては,それほど高く評価されていないといいますか,比較的長期の居住権になっても,建物全体の価値まではいっていないというような場合もあるようでございますので,御指摘のような懸念は,それほど当てはまらないのではないかという認識を持っております。それから,長期居住権という,より強い権利を取得していながら,別途短期居住権も取得するというのは,なかなか制度としては仕組みにくいところがございますので,このような形にさせていただいているというところでございます。   以上です。 ○大村部会長 水野委員,よろしいでしょうか。   直接には,第1の1の(1)アのただし書,配偶者が遺贈又は死因贈与によりその建物について長期居住権を取得した場合は,この限りでないものとするという案が維持されているわけですけれども,これについて,更に見直しの余地はないかという御質問だったかと思いますが,今のように,それほど高く評価されないのではないかという見通しも含めて,これを維持したいという御提案かと思います。   何かこの点につきまして,ほかにいかがでしょうか。   どうぞ,藤野委員。 ○藤野委員 主婦連合会,藤野でございます。   直接かどうか分かりませんけれども,長期居住権を取得した場合に,それを登記することを基本とし,所有者にもそれを義務付けているということが大事かと思われます。これまでにない新しい権利ですから御懸念のように非常に高くなってしまったり,ちょっと思い掛けない方向の価値が生まれてしまうことに対して,住まわれる方が登記をすることで権利が守られるということが大事かなと思いまして,ここの項目は有り難いと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今,長期居住権の方の登記請求権に係る御発言もございましたけれども,短期の方について,特に御意見がないようであれば,長期も含めて御意見を頂ければと思います。   どうぞ,南部委員。 ○南部委員 ありがとうございます。   短期居住権にも少し関わるのですけれども,この注の取扱いはどうなるかということを,まずお聞きしたいと思います。条文の中に,この項目は入っていくのかどうかということ,3ページの上の注1,注2であったり,5ページの一番下の注の取扱いについて,まずお伺いしたいです。 ○大村部会長 では,お願いします。 ○堂薗幹事 最終的に条文にする場合にどうなるかという点につきましては,我々だけでは判断できないところがございますので,そういった留保があるという前提ではございますが,注1については,条文に書く必要はなくて,書かない以上はこういう形になるのではないかという理解でございます。注2につきましては,この特則の部分をどういう形で条文化するかというところにかかってきますので,この部分が明示的に条文に出てこないこともあり得ますし,短期居住権の本則のところとは別の形で書き下ろすという形にするのであれば,この点を含めて条文上明確にすることも考えられますけれども,そこは条文にする際に更に検討したいと思います。 ○南部委員 ありがとうございます。   そうしますと,書かない場合もあるということですので,一般的には条文に書かれていても分かりにくいというのが条文だと思っております。例えば,5ページの下の注であれば,配偶者は無償で長期居住権を取得できるというふうに誤解を招く恐れもあるかと考えておりますので,もし条文に記載されないのであれば,注意書きについてはしっかりと周知をお願いしたいと思っております。   これにつきましては,ほかの改正内容についても同様,周知と解釈の理解が一般の国民ができるような形で是非お願いしたいということで,要請でございます。よろしくお願いします。 ○堂薗幹事 その点は,こちらも配慮が必要だというふうに考えておりますので,条文の解釈等について誤解が生じないように周知をしてまいりたいと思っております。 ○大村部会長 注の取扱いにつきましてはよろしいでしょうか。 ○南部委員 はい,ありがとうございます。 ○大村部会長 そのほか,この第1全般につきまして,御意見がありましたらお願いいたします。   潮見委員,どうぞ。 ○潮見委員 1点だけ確認ですが,長期居住権の登記手続のところです。   登記手続について,単独での登記申請を認めるということは,それは,判決文中とか,あるいは審判の文言中に,登記義務というか登記の履行を命じるということが書かれているという場合に,その部分を意思表示擬制というところにつなげて,それで単独での登記申請というものを認めていたと理解しているのですが,今回の御説明によりますと,そういう登記を命じることが審判の中に現れていなくても,単独での申請を認めるというのは,これは,従来の枠組み,ひいては執行手続の考え方に対して変更を加えるということを意図されているのか,従来の実務との整合性がとれるのかというのが若干気になりまして,御教授いただければと思います。 ○堂薗幹事 その点は,不動産登記法を所管している民事2課にも相談の上で,こういう記載をさせていただいたんですが,基本的には,今,潮見委員が言われたとおり,審判書の中でそういう意思表示を命ずる,意思表示を擬制する主文がなければいけないという前提ではあるんですけれども,ただ,長期居住権の場合は,説明にも書かせていただいたとおり,長期居住権を取得させるけれども,登記を備えさせる義務を負わせないという場面は,基本的には存在しないという理解の下で,そういうことであれば,この審判の中に,言わば黙示的にそういった趣旨を含んでいると見ることが可能ではないかという趣旨でございます。したがいまして,ここで,このような取扱いをするからといって,ほかの場面で当然に意思表示を擬制する文言がないにもかかわらず,単独での登記申請を認めるということにはならないものと考えております。   この点の記載については,内部でもいろいろと議論があるところではございますので,引き続き慎重に検討させていただければというふうに思っております。 ○大村部会長 潮見委員,よろしいですか。 ○潮見委員 はい。 ○大村部会長 今の点につきまして,ほかに御発言ございませんか,登記請求権の点については,いかがでしょうか。   どうぞ,増田委員。 ○増田委員 今,潮見委員がおっしゃったことと同じことなのですけれども,今回の補足説明「2 配偶者の長期居住権を長期的に保護するための方策」の2の(2)はやはり削除すべきではないかと思います。   裁判所が取得を相当だとする審判を下すのであれば,主文で(1)のような書き方をすればいいのであって,こういう例外を認めると,他の形成裁判にも影響することが懸念されます。つまり,本質的に共同申請なのか,単独申請なのかという問題があって,登記義務者が観念できる場合に,共同申請でなく単独申請となる例は,ほかに多分ないと思うんですね。ということは,やはり潮見委員がおっしゃったように,これまでの登記請求権の考え方に沿った登記実務を大きく変えるものになるので,審判だけでなく調停にも関わってくることをも考えると,誤解を招くようなことは避けたほうがよく,必ず(1)のように書くことにしても,何も困らないのではないかと思いますが。 ○大村部会長 今の点につきまして,何かほかに御指摘ございますでしょうか。   それでは,事務当局に御検討いただくということにしたいと思いますが,潮見委員,増田委員,よろしいでしょうか。   ありがとうございます。   その他,第1の配偶者の居住権を保護するための方策につきまして,御意見,御指摘等ございますでしょうか。   中田委員,どうぞ。 ○中田委員 本質的なことではないですし,既にもう議論されているのかもしれませんけれども,細かい点,2点ございます。   一つは,短期居住権については,その建物を使用することはできるというふうになりました。長期居住権については,その建物全部の使用及び収益する権利という表現になっております。前者に全部というのが入っていないということに伴う,解釈の疑義ということは生じないでしょうか。これが一つ目でございます。   それから,もう1点は,それぞれについて,配偶者の死亡によって居住権が消滅した場合には,相続人が原状回復義務と収去義務を負うということになっておりますが,相続人がその義務を承継するのは当然のようなことのようにも思います。ほかにも,例えば,損害賠償ですとか,費用の問題も出てくるわけですけれども,原状回復義務と収去義務についてだけ,このようにあえて規定するのは,どういう意味があるんだろうかということについてお教えいただければと思います。 ○堂薗幹事 最初の点ですけれども,こちらの整理としては,短期の方は,建物の一部についても成立するという前提で,要するに,配偶者が使っている部分だけについて,こういった無償での使用が認められるという理解です。ただ,短期の場合は対抗要件がありませんので,そういった意味では,建物の一部についてのみ認めることも,それほど困難ではないのではないかということで,これを認めているわけです。これに対しまして,長期居住権の方は,対抗要件が登記に限定されており,占有等は認めないということもございますし,それから,そもそもこの長期居住権を新たに設ける意味というのは,無償でありながら,第三者対抗力まであるというところに特色があることになりますので,建物全体についてしか権利の設定を認めないという理解です。したがいまして,配偶者が被相続人の生前は建物の一部しか使っていなかった,居住目的で建物の一部しか使っていなかったという場合についても,建物全体について長期居住権の設定をすることができるという前提です。飽くまで居住用として一部使っていたというのは,長期居住権を取得するための保護要件にすぎないという整理をしております。 ○宇野関係官 2点目につきましては,御指摘があったとおりで,基本的には,死亡によってこの短期居住権なり長期居住権なりが終了した場合には,相続人がその義務を果たすというのが,恐らく何も書かなくても基本的にはそうなるだろうということは,こちらも思っております。ただ,これまでの部会の中で,特出しして,使用貸借でもそうだということはありますけれども,死亡を終了原因に挙げているところから,それによって配偶者についての相続が起こった場合には,誰がこの義務を履行するんだというようなことが,部会の中で議論になっていたこともありまして,ここでゴシックの中に掲げて明示しているということでございます。条文化の際に,これをこのままの形で条文にするかどうかは,御指摘を踏まえて検討したいと思っております。 ○中田委員 どうもありがとうございました。   第1点について,内容は理解したんですが,そうしますと,短期居住権については,その建物の全部又は一部を使用することができるという趣旨であれば,そういうふうに書いたほうが,明確なような気もするんですが。 ○堂薗幹事 その点も含めて検討させていただければと思います。 ○大村部会長 中田委員,実質についてはよろしいですか。 ○中田委員 はい。 ○大村部会長 では,書きぶりにつきましては,第2点も含めまして御検討いただくということにしたいと思います。   山本克己委員,どうぞ。 ○山本(克)委員 長期居住権の性格について,ちょっとお伺いしたいんですが,これは,譲渡は不可能だということになるということなんですね。そうすると,これは,長期居住権者に対する債務名義を要するものは,これは差し押さえることはできないということでよろしいんでしょうか。   例えば,遺産分割で,建物の所有権は別の相続人がそれを取得して,配偶者は長期居住権を得たという場合に,長期居住権者は執行から免れる財産を獲得し,他の所有権を取得した相続人は執行を免れることができない財産を取得するということになって,それは不均衡が生ずるけれども,これは長期居住権者制度というものを認めた以上やむを得ないと,そういうことでよろしいんでしょうか。 ○堂薗幹事 基本的には,そのようになるのではないかと思います。要するに,長期居住権の場合,所有者の承諾がないと譲渡等をすることができないということですので,賃貸借と同じような関係になっていると思うのですが,その場合に,差押えをした上で,その換価は所有者の承諾がないとできないという形になるのか,あるいは,差押えもできないということになるのか,そこは,賃貸借の場合とパラレルに考えるということにはなろうかと思います。   ただ,御指摘のとおり,少なくとも承諾を得ないと第三者に使用,収益させることができませんので,そういった意味で,執行可能財産に該当するかどうかという問題は生じ得るものと思います。 ○山本(克)委員 そうか,譲渡しも入っているんですね,ウに。 ○堂薗幹事 はい。 ○山本(克)委員 失礼しました,そこは読み落としました。   そうすると,今のような場合に備えて,借地借家法と同じような,承諾に代わる裁判の制度というのは必要にはならないんでしょうか。 ○堂薗幹事 そこは,元々承諾に代わる裁判が,そういう執行の場面を考えて作られたのかどうなのかというところにもよるんだとは思いますが,基本的には,長期居住権者の場合については,(2)のウのような形で書いてはおりますが,期間が限定されており,更新はありませんし,配偶者が死亡すると当然に終了するというような権利であり,余り第三者に使わせるということは想定していないというところがございますので,借地借家法にあるような代諾の制度まで設けるということまでは考えておりません。少なくとも,現時点で,そこまでは検討していないという状況でございます。 ○山本(克)委員 ちなみに,競売は当然,執行は当然前提としているので,借地借家法の20条1項で,借地権の場合につき,建物の競売における譲渡の許可の裁判というのが,これに相当するわけですね。   何が言いたいかというと,ほかの人は執行を相続財産で相続して,相続によって得られた財産について執行を免れることはできないのに,長期居住権者だけ執行を免れる財産を得るということは適切なのかどうかということを,ちょっと考えていただきたい。特にすぐ,亡くなるのも,若ければ何十年も使用できるわけですから,そんな財産的価値が低いと,一概には言い切れないわけですね。その場合の期間の定めをどう考えるのか。終身の場合に,期間をどう考える,売られてしまったとき,あるいは譲渡されてしまったときの期間がどうなるのかという点も,少し問題なのかなという気もしますが,ちょっとその辺,気になりました。 ○堂薗幹事 検討させていただきますが,ただ,長期居住権は,第三者対抗要件もあえて登記に限定したと,占有を対抗要件とせず,登記に限定したのは,相続債権者の方も,登記がされる前に建物を差し押さえれば,そちらが優先することになるため,被相続人の生前に権利の保全を行う必要性が少ないのに対し,占有を対抗要件といたしますと,早期に権利の保全を行わなければならなくなるのではないかというようなところもあって,このような形にさせていただいておりますので,この長期居住権について代諾の制度を設けるというのは,いろいろな面で難しい面はあるのではないかというふうに考えているところではございます。 ○大村部会長 山本克己委員,よろしいですか。 ○山本(克)委員 はい。 ○大村部会長 そのほか,いかがでございましょうか。   西幹事,どうぞ。 ○西幹事 制度が回り始めてから伺えばいいことだと思いますが,ちょっとありそうなことで気になりましたので,2点教えてください。   1点目は,2の(1)の③のところで,長期居住権は存続期間を定めなければいけないということになっておりますが,実際に遺言を書くときに,恐らく相続分の範囲でとか,遺留分を害しない範囲でという書き方をする方がいらっしゃるのではないかと思います。その場合は,それを解釈で存続期間に読み替えるということになるのか,あるいは存続期間が定まっていないものとして,終身というふうにみなすのかというのが気になりました。   もう1点,非常に細かいことですが,5ページ目の(3)の④のところなど,ただし書で,配偶者の責めに帰することができない事由によるときは,損傷について責任を負わないという話ですけれども,第三者に賃貸していた場合などについては,通常の賃貸借の場合の転貸とか賃借権の譲渡と同じように考えていいのか,あるいは,それ以外の部分も含めて,普通の転貸などとは少し違う扱いをこの場合にはすることになるのか気になりました。もし今の段階で解釈が定まっていれば教えていただければと思います。 ○堂薗幹事 相続分の範囲でとか,遺留分を害しない限りという文言があった場合の取扱いですが,まず,遺留分を害しない限りということですと,基本的には,そういうことがあっても,遺留分権の行使がない限りは,権利の内容としては維持されるということになると思いますので,恐らく遺留分を侵害しない限りと書いてあるだけでは,存続期間の定めがされていると見るのは難しいのではないかというのが第一感です。   他方,相続分の範囲内でというふうに書いてあるような場合につきましては,基本的には,それで同じように存続期間の定めがあると言えるのかというのはかなり疑問ではありますが,ただ,終身を前提とする長期居住権の取得によって,あるいはそのほかの財産を合わせて算定しますと,配偶者の具体的相続分を超える場合には,その超過部分については,長期居住権の期間で調整するという趣旨が読み取れるということもあり得るとは思います。いずれにしても,そこは,最終的には遺言の解釈,遺言者がどういう意思を有していたかというところにかかってくるのではないかと思います。   5ページの(3)の④につきましては,基本的には,賃貸借並びの規律になりますので,基本的には賃貸借の解釈がそのまま当てはまるということで考えております。 ○大村部会長 西幹事,よろしいですか。 ○西幹事 はい。 ○大村部会長 そのほかいかがでございましょうか。   よろしゅうございますでしょうか。   それでは,字句等につきまして,あるいは説明につきまして,御指摘がございましたので,それらの点につきましては見直しをしていただくという留保の下に,先に進ませていただきたいと思います。   第2の遺産分割に関する見直し等に入りますけれども,まず事務当局の方から御説明をお願いいたします。 ○神吉関係官 それでは,関係官の神吉から,遺産分割に関する見直し等につきまして御説明させていただきます。   まず,1の「配偶者保護のための方策(持戻し免除の意思表示の推定規定)」についてでございますが,こちら,部会資料の18における甲案の考え方を掲げております。その内容につきましては,長期居住権を遺贈又は死因贈与した場合も,本規律の対象に含めることを明確にした点以外は,部会資料18における説明から特段の変更点はございません。   次に,2の「仮払い制度等の創設・要件明確化」についてでございますが,ゴシック部分の1につきましては,家庭裁判所の判断を経て仮払いを得るという方策,また,ゴシック部分の2につきましては,家庭裁判所の判断を経ないで預貯金の払戻しを認めるという方策でございまして,その内容につきましては,部会資料20における提案内容から特段の変更はございません。   なお,第20回部会におきまして,委員の方から乙案に関しまして,葬儀費用の支払及び被相続人の債務の弁済を目的とする場合に限り,仮払いを受けられることとし,また,被相続人の債務の弁済を目的とする場合については,金額の上限なく預貯金の払戻しを認めるという考え方の提案がございました。この点につきましての事務当局の考え方につきましては,補足説明の6ページの注において検討しているところでございますが,この案につきましては,他の共同相続人の利益を害するおそれがあることなどから,少なくとも法律上の規律としては実現することは困難ではないかと考えているところでございます。   次に,3の「一部分割」については,ゴシック部分の提案内容,部会資料21からの変更点はございません。なお,前回の部会におきまして,ゴシック部分の②に公益的な観点も加味できないかという御指摘も頂きましたが,遺産分割をするか否かの場面では,公益的な観点が考慮されない一方で,遺産分割をする段階では考慮されるというのは,いささか理論的に正当化は困難ということで,その点の実現化は見送っております。   最後に,4の「相続開始後の共同相続人による財産処分」についてですが,これまでも御説明申し上げてきたとおり,相続開始後に共同相続人が財産処分を行った場合に,その処分を行った者が,処分をしなかった場合と比べて利得をするという不公平が計算上生じることとなりますが,公平かつ公正に遺産分割を実現するためには,何らかの救済手段を設ける必要性が高いものと考えております。特に,先の大法廷決定によりまして,共同相続人は単独での預貯金の払戻しをすることができないことになるため,今まで以上に共同相続人の一部の者による口座凍結前の預金払戻しが増える可能性があり,決して看過することができない問題であると考えられます。   立法的な解決により不当な結果を是正する方向性といたしましては,部会資料20の12ページ以下にも記載しましたとおり,遺産分割の中で処理をするという考え方と,償金請求をすることができる旨の規定を設け,一般の民事事件として処理をするという考え方があり得るところでして,今回の御提案をさせていただいた甲案は,前者の考え方に基づくもの,また,乙案は後者の考え方に基づくものということになります。   なお,前回の部会におきまして,甲案と乙案の折衷案のような提案もしておりましたが,規律として中途半端ではないかという指摘がされたことを踏まえ,今回の提案には含めておりません。   また,補足説明の11ページ以下で,甲案でこれまで指摘された問題点についての考え方,また,補足説明の14ページ以下で,乙案についての基本的な考え方を記載しております。   なお,乙案に関しましては,補足説明の15ページの(注2)にもありますとおり,共同相続人の1人による預貯金の引出しについては,違法な引出しであって,不法行為に基づく損害賠償が成立するという考え方もあるように思います。この場合,乙案と同様の結論が現行法の解釈によって実現できるかどうか,理論的にはよく分からないところでありますので,後ほど是非御意見を頂戴できればと考えております。   以上,御説明させていただきました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   第2の遺産分割に関する見直し等につきましては1から4までございますけれども,1,2,3につきましては,1について,甲案によるということはございますが,あとは,内容は特に変わっていないということでございました。4につきましては,甲案と乙案,両案併記という状態になっております。   まず,この1,2,3につきまして御意見を伺った後,4につきまして御意見を伺うということにしたいと思いますが,最初の1,2,3につきまして,何かございましたらお願いいたします。   どうぞ。 ○藤原委員 2の仮払い制度のところでございますけれども,(2)の家裁の判断を経ないでの仮払いというところにつきましては,先ほど関係官から御説明ありましたとおり,4月の第20回の部会におきまして,浅田委員の方から対案を提案させていただきました。先ほどの御説明のとおり,今回の御提案では,その対案は取り上げられておりませんで,その理由としては,補足説明にありますとおり,相続人間の平等の観点から問題があるということで御指摘を頂いておりまして,その内容自体は理解をしているところではあります。もっとも,実際に多くの相続人の方々から払戻しの請求をされておる金融機関の立場から申し上げますと,相続人が仮払いを請求するのは,必ず何らかの資金需要がございまして,特に葬儀費用であるとか,被相続人の税金の支払等の相続債務の支払のために,まとまった資金を早急に欲しいというケースがほとんどでございまして,それに対して,金融機関も,特に去年12月の大法廷決定後は,遺産分割が調う前の払戻しということについては,特段の法的な根拠が失われた状態にある中,そういったニーズに応えるために,各金融機関がリスクを負いながら柔軟に対応しているというところでございます。ただ,こういった状況が今後長引けば,便宜的な払戻しに消極的になる金融機関がないとも限らないという状況にあります。   第20回部会で浅田委員が提案した内容は,こういった金融機関が肌で普段感じている相続人の仮払いに関するニーズと,それに対応した金融機関の実務対応を踏まえたものでございまして,当該ニーズに応える制度の提案としては,一定の社会的な意義があるものだというふうに考えております。   一方,今回引き続き御提案を頂いております,以前乙案と呼ばれておりました法務省提案は,金額で,特に資金使途の制限は設けないということで,相続人間の公平を担保するという点では,理論的には理解できるんですけれども,実際この制度を運用する側から申し上げると,相続人のニーズであるとか,現在の金融機関の実務に,必ずしも沿ったものとは限らなくて,これが法制度化された場合に,本当に使い勝手のよい制度になるのかどうかというところについて,若干の疑問を持っているところでございます。   具体的には,幾つかありまして,まず,この金額が,預金の残高,掛ける2割,掛ける法定相続分ということになっておりまして,この2割というのは,今後の議論の対象かもしれませんけれども,特に預金金額が少ないような場合には,葬儀費用等の金額に満たないような場合も出てきてしまうということ。それからあと,資金使途での費目での縛りがないということになると,相続人の側も,こういう制度ができたんだから,取りあえず,必要はないけれども,その分だけ下ろしておくかということで,安易な仮払いが横行して,その結果,その後の遺産分割協議において,余計なトラブル,争いを生じてしまうのではないかという懸念,それから,もう一つは,法定相続分の確認をしなければいけないということになりますと,結局,払戻しを請求する側で,自身の法定相続分を示さなくてはならず,被相続人と相続人の戸籍謄本を結局全部用意しなければいけないということになりますので,それなりに相続人の側に時間的な,又は物理的な手間が掛かるということで,裁判所を絡めた手続である(1)の案と,時間的にどれぐらい差が,スピードが確保できるんだろうという点などの疑問が生じているところでございます。   浅田委員の提案に対しましての問題点ということで挙げていただいている中で,費目を限定しているということについては,本当にこれだけの費目で必要十分かということについて,なかなか法律上決めることができないのではないかという批判もあるところでございますけれども,実務上ニーズが高いものについては,裁判所の関与がないもので取り上げた上で,それ以外のものについては,(1)の裁判所が関与するもので対応するというような制度設計もあるように思っているところでございます。   ということからして,浅田委員から20回部会で提案した制度については,改めて本日,委員の皆様に御議論いただくとともに,これから行われるパブコメにおいては,是非この(2)のゴシックの案と両論併記にしていただくということを望むものでございます。   本日の御議論の結果,浅田委員の提案した制度が俎上に載らないということであって,今回の(2)の提案がそのまま法制度化されたような場合に,仮に,将来この制度が,ちょっと実際のニーズに合わないぞというふうになった場合には,金融機関としては,各金融機関の創意工夫によって,この(2)とは別の,浅田委員の提案に近いようなものを,各金融機関の,例えば,個別の商品であるとか,又は預金の約款等で手当てをすることによって対応するということも考えられるところでございます。   ただ,その場合,少し気になるのが,(2)が法制度化された場合の強行法規性といいますか,この制度とは別の制度を各金融機関が約款や個別契約で行った場合に,それが(2)の法律に反すると,それが有効ではないというようなことになってしまうと,非常に困るということでございます。ということですので,(2)が法制度化された場合に,それと異なるような内容のものを契約で対応するということについて,法律上禁止されないということは,この場で確認できればいいなというふうに思っております。もしその点が,仮に現段階では,それは今後の解釈によるとしか言いようがないということであれば,一つの案としては,この(2)はあえて法制化しないという議論もあり得るように思っております。   あと,最後に,各金融機関において,約款であるとか預金者との個別契約で対応する場合には,当然ながら,各金融機関の営業政策の方針であるとか,又は独禁法の関係もありますので,その取扱いを強制したり,条件を統一化するということは困難ですので,この点からも,本来であれば,相続人のニーズをきちんと的確に捉えた内容が,裁判外の制度として法制化されるということを,一義的には望むものです。   私からは以上でございます。 ○神吉関係官 事務当局の方から,ただ今の藤原委員の御意見に対して,いくつか御指摘させていただきたいと思います。まず,(2)の規律によりますと,払戻しが得られる金額が債権額の2割に法定相続分を乗じた額となっているので,実際の資金需要と比べて少ないのではないかという御指摘があったかと思います。この点につきましては,割合,又その金額の上限を(2)では設けておりますが,この具体的な数額については,必ずしもこだわるものではございませんでして,パブリックコメントの結果なども踏まえまして,最終的に決めていきたいとは思っておりますが,その制度設計といたしましては,他の共同相続人の利益を害しないような制度設計にするべきであると考えておりますので,さほど大きな数字にはできないのではないかと思っております。その金額の上限を超える場合につきましては,(1)の方策により裁判所の仮払いということで対応できますので,一応制度的な手当てもされているのではないかと考えております。   また,(2)の方策によりますと,法定相続人であることの確認や,法定相続分が幾らであるという確認を戸籍なりでしなければいけないので,それに時間が掛かるのではないかという御指摘がございました。ただ,その点につきましては,前回の部会において浅田委員から御提案いただいた内容でも異なるところはないのではないか,すなわち,その支払の請求者というのが相続人であるかどうかということは,戸籍を提出していただいて,恐らく疎明をしていただく必要があるのではないかというふうに思っておりますので,その法定相続分の計算をしなければいけないという手間は掛かるかもしれないんですが,疎明資料としては,さほど異なるところはないのではないかと考えているところでございます。   また,(2)の制度を法制化せずに,各金融機関の約款や個別の商品に委ねることができるかという点でございますが,あり得なくはないかもしれないのですが,先ほどのお話ですと全金融機関で同じ約款を採用はできないというお話でしたので,国民の目からすると,この金融機関では仮払いはできるけれども,この金融機関ではできないという話になりまして,恐らく非常に困ったことになるかと思いますので,法務省といたしましては,国民の目から見て,一律に支払が得られるような法制度にすべきではないかということで,(2)のような制度は必要であると考えているところでございます。   また,(2)の制度と金融機関が考える個別の商品との併用は可能なのかどうかという点でございますが,どのような商品を考えていらっしゃるのかということ次第だとは思うんですけれども,例えばの話といたしまして,被相続人が生前に支払委託みたいな形で葬儀費用とか相続債務の支払に充てるため,一定の金銭をプールをするような形で契約をしていたという話であれば,それは,遺産から既に逸失していると考えることができるのかもしれませんし,もしそういう構成が採れるのであれば,(2)の制度と併用するということは,十分可能なのではないかと思います。ただ,個別の中身の商品設計を見てみないと,何とも申し上げようがないというところでございます。 ○大村部会長 ありがとうございました。   今の点は,非常に国民一般の関心度も高い点だろうと思いますので,各委員,幹事の御意見があれば,是非承りたいと思いますが,いかがでございましょうか。   どうぞ,上西委員。 ○上西委員 確認も含めて,4点ございます。   1点目ですけれども,2の(2)の括弧書きで,「ただし,預貯金債権の債務者ごとに」と書いてあります。これは,金融機関ごとにと読んでよろしいのでしょうかという確認が1点目です。   2点目は,2割や100万という,一定の割合で,かつ金額の限度基準を設けたのは,一種の救済方法といえます。資金的に立場の弱い人に対して,28年12月19日の決定を踏まえつつも,実務を考慮したものとして,評価したいと思います。   3点目は,実務を考えた場合に,29年5月29日から施行されています法定相続情報証明制度の証明書を持っていけば手続ができるような仕組みと考えてよろしいでしょうか。   最後,四つ目なのですが,家庭裁判所の判断を経る場合と経ない場合の二つが選択肢的に書かれてあります。実務を考えますと,家庭裁判所の判断を経ないで,一定割合・一定金額まで必要な資金を引き出した後,なおそれでも相続財産に属する債務の弁済とか相続人の生活費の支弁やその他の事情により,遺産に属する預貯金債権を行使する事例もあると思います。二者択一ではなくて,両方使えると考えてよろしいでしょうか。 ○神吉関係官 お答えさせていただきます。   今の上西委員の御質問ですが,まず1点目の御質問でございますが,(2)の括弧内のただし書のところですが,「預貯金債権の債務者ごとに」としておりますので,こちらは金融機関ごとに上限額を判断するということになります。 ○上西委員 金融機関ごとですね。 ○神吉関係官 はい。ただ,「遺産に属する預貯金債権のうち,相続開始時の債権額の2割」と,ここの部分につきましては,これは口座ごとに判断をするというものでございまして,ある被相続人が同じ金融機関に複数の口座を持っていた場合に,それを合算して100万円が限度となるという趣旨でございます。   それから,3点目の法定相続情報証明書の件でございますが,こちらは,使えるかどうかというのは,制度ができた後に金融機関との間で詰めていくという形になるのかと思います。   それから,(1)と(2)の制度が併用可能なのかどうかということでございますが,こちらはもちろん併用可能というものでございまして,従前は甲案,乙案という形で,案として二つ出していたんですけれども,そこはちょっと分かりにくいという御指摘がございましたので,今回は(1)と(2)とさせていただき,別の制度として,それは併用可能ですということを明確にさせていただきました。 ○上西委員 了解しました。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。   そのほかいかがでございましょうか。   潮見委員,どうぞ。 ○潮見委員 先ほどの仮払い制度の(2)の方ですけれども,これ,基本的には,この部分については,法令によってといいますか,民法によって,遺産分割前の払戻しを許容すると,大法廷決定では駄目だとされているものを,この限りでは許容しているということであると思います。ただ,そのことが,これ以外の場面における遺産分割前の払戻しというものを禁止する趣旨ではないと思います。その意味では,合意とか,あるいは約款によって,これとは違う枠組みといいますか,場面での事前の預貯金の払戻しというものを認めるというものを仮に取り決めたとしても,そのこと自体をもって,それは禁止されているから駄目ですということにはしていないという確認が欲しいのですけれども,いかがでしょうか。 ○堂薗幹事 基本的には,先ほど御説明したとおりで,契約の条項で定めて,これと違う取扱いといいますか,例えば葬儀費用について,この上限額を超えるような形で死亡後に払戻しを認めるということは,禁止されないのではないかという趣旨でございます。 ○潮見委員 この趣旨に反するような合意は駄目だということは含んでいるのですか。例えば,金額の上限だとか,いろいろありますけれども。 ○堂薗幹事 そこは,それこそ先生方の御意見をお伺いしたいところなんですが,消費者契約法との関係がどうなのかとか,そういった問題は一応あり得ますので,そこについては慎重に検討する必要があると思います。ただ,それは,飽くまで相続に基づいて払戻しをするという場合に,この2(2)の規律を超えるような取決めをするとどうなるかという話でございまして,それとは別に,支払委託ですとか,そういった別の形で生前に契約をし,それに基づいて,金融機関の方で支払をするというのは,禁止されないということにはなるのではないかと考えているところでございます。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。   どうぞ,水野委員。 ○水野(紀)委員 すみません。プリミティブな質問になってしまうのですが,今の潮見委員の御質問を伺っていて,私の理解が違っていたのかと不安になりました。その3で,一部分割は可能だということになっております。ですから,もし共同相続人でともかくお父さんのために盛大な葬儀をしてやろうというコンセンサスができて,お父さんの預貯金をそれに使おうということになった場合,その相続の証明書とそれぞれの印鑑証明と取り寄せれば,その一部分割が成立したという形で預貯金を下ろすことができると理解していたのですが,それでよろしいのでしょうか。 ○堂薗幹事 もちろん,ここは飽くまで,全員でなければ本来払戻しができないところを,この分については例外を設けたということですので,当然全員の同意があれば,問題なく払い戻せるという理解です。それを一部分割されたという形で処理することになるのかは別の話だと思いますが,払戻し自体はできるという理解です。 ○水野(紀)委員 そうすると,かなりの場面はこれでカバーすることができて,ただ,一部の相続人がそんな派手な葬儀はするべきではなかったと文句をいうような紛争を,事前に抑止することができると考えればいいわけですね。 ○堂薗幹事 事前に抑止することになるのかどうかはよく分かりませんが,趣旨としては,今申し上げたとおりでございます。 ○水野(紀)委員 はい,ありがとうございました。 ○大村部会長 藤原委員,どうぞ。 ○藤原委員 今の水野委員のところにもちょっと関係するんですけれども,実際のニーズとしてあり得るかなと思いますのは,この(2)の御提案が法制化された場合に,何割というのはちょっと置いておきまして,一定の金額について払戻しができますというふうになった場合に,やはり現実のニーズとしては,葬儀費用の仮払いというのが多分一番多いであろうというふうに感じておりまして,今の水野委員がおっしゃったとおり,相続人皆さんで払戻しに来ていただければ何の問題もないところではありますけれども,現実には,後ろに相続人間の争いがあってなのか,又は,相続人間で葬儀についての費用についての何らかの合意は事実上できているんだけれども,ただ,店頭には1名しか,いろいろな皆さんで御事情があって来られないという場合に,金融機関にとっては,その背景事情が明らかではないがゆえに,その1人の方についての払戻しが正当な権限を与えられた代表としていらっしゃっているのか,又は,相続人1人の資格としていらっしゃっているのかというのは分からないという事情の中で払い戻さなければいけないというのがございます。   そうなったときに,背景に相続人間の合意があるかどうか分からないけれども,1人相続人がいらっしゃって,例えば,葬儀費用のために払い戻したいんだけれども,この(2)の規律だけではお金が足りませんとなったときに,ここが,各金融機関の判断又は契約によって,例えば,うちの金融機関は,あらかじめ預金約款なり別の契約で,葬儀費用であれば,この(2)の規律を超えて全額お支払いたしますというような,こういった各金融機関の創意工夫が妨げられないような法制度にしていただきたいというのが趣旨でございます。 ○大村部会長 何かありますか。 ○堂薗幹事 正に,背景に相続人間の争いがあるかどうか分からないようなものについてまで払ってしまうのは問題ではないかと,葬儀費用の支払についても,そういった問題を含むものもあるので,そういったものについて,葬儀費用の支払だからといって,無条件に払ってしまうのは問題ではないかというのが,こちらの問題意識ではございますけれども,他方で,先ほど申し上げましたように,そこは,契約条項を工夫することによって,葬儀費用であれば問題なく支払えるようにすることは,十分可能ではないかと考えておりますので,その辺りについては,契約をどういう形で仕組むのかという問題はございますけれども,そういう前提でお考えいただき,仮払いの制度としては,こういう形にさせていただければというふうに考えているところでございます。 ○大村部会長 どうぞ,窪田委員。 ○窪田委員 今お話を伺っていると,専ら葬儀費用が問題になっていると思います。葬儀費用はよく議論がされるところではありますけれども,そもそも相続人の債務なのか,被相続人が本来負担すべきものが,単に残っているだけなのかという議論がありますので,どちらでも結構なのですが,被相続人が特段の合意をしていれば,それを有効とするということは説明しやすい債務なのかなと思います。ですから,それを,特段の合意でも,あるいは水野委員のおっしゃったような形の一部分割という形でも,いずれの側でも対応はできるのだろうと思います。   その上で,したがって,(2)はこのままでいいということも考えられるのですが,ちょっと気になりましたのは,先ほど,預貯金債権は債務者ごとにということだったので,金融機関ごとに100万円ということではあったのですが,これは,その前に,その相続開始時の債権額の2割に,その相続人が法定相続分を乗じた額,この文章の主語は「各共同相続人は」になっているのですが,相続開始時の債権額の2割に,総相続人の法定相続分を乗じた額というのは,相続人が複数いる場合に,合計して幾らになるかというのは,常に同じで,3人であっても,5人であっても,1人であっても同じ金額になると思うのですが,100万円の方は,これは,相続人ごとにということになるのでしょうか。   というふうに伺いましたのは,この書き方だと,相続人ごとに100万円という金額になって,5人いるのだったら500万円かなと思ったのですが,それは,整合的なのかなという点が気になりましたので。 ○堂薗幹事 ここは,債務者ごとですので…… ○窪田委員 債務者ごとですか。金融機関ごとに100万円ですよね。 ○堂薗幹事 はい。 ○窪田委員 でも,この文章,主語は「各共同相続人は」ですよね。 ○堂薗幹事 はい。 ○窪田委員 本文のところは,相続人が増えると,法定相続分が減りますので,常に合計額同じになると思うのですが,ただし書の部分はどうなるのかという質問でした。それをお聞きしましたのは,共同相続人が5人ぐらいいるんだったら,500万円あるのだったら,葬儀費用は問題なく払えるだろうと。100万円だと,今の葬儀費用の平均額でも難しいだろうなと思ったものですから,どういう意味なのかなと思って伺った次第です。 ○神吉関係官 御質問の趣旨を適切に理解しているかどうか自信がないのですが,例えば相続人がA,B,C,Dの4名で,全員で権利行使すれば,この規律を使わなくても権利行使できるわけですけれども,A,Bでこの規律を用いて払戻しをした場合はどうかという話でしょうか。   その場合には,確かに上限額が100万円であれば,Aも100万円下ろせて,Bも100万円下ろせるという形で,合わせて200万円下ろせることになりまして,A,Bが合わせて葬儀をやるということは,それは十分可能だとは思います。 ○窪田委員 そのことと,たまたま相続人の数が多いと,仮払いの金額が全体として大きくなるというのは,制度設計としては合理的に説明ができるのかなという,ちょっと理論的な疑問になるかもしれませんが。 ○堂薗幹事 ここは,必ずしも葬儀だけを念頭に置いて作っているわけではないので,そういう形になっております。葬儀費用のように,仮に共同相続人全員で費用を出し合ってということになると,おっしゃるようなことにはなるんですけれども,必ずしも葬儀費用に限られるわけではなく,例えば,生活費でしたら,それぞれ相続人ごとに事情が異なるということになりますので,御指摘のような面はありますが,そこは,やはりこういう形にせざるを得ないのではないかと考えております。 ○窪田委員 もう,これだけにとどめておきますけれども,本文に書かれているほうのことと括弧内で書かれていることが,多分違うことになっているのではないかなという点が気になります。つまり,本文の方で書かれているのは,それぞれの事情があるとしても,結局共同相続人の全体として払戻しができる額がこの金額ということで止まるわけですよね,一定の割合で。   一方,金額の方は,人数が増えると,1,000万円というか,ちょっと割合の方を考慮しないとすると,一定の金額があれば100万円ずつ出していけると。たまたま1人だと100万円だという上限の設定の仕方は,それほど合理的なのかなという感じがしたものですから。 ○神吉関係官 支払に充てる費目が,先ほど堂薗幹事から御説明申し上げましたように,共同相続人のために何かやる葬儀費用的なものなのか,それとも,個々の生活費の支弁に充てるためなのかという,それによっても恐らく評価が違ってくるのではないかなとは思います。個々の相続人の生活費に充てるためだとすると,別に各相続人ごとに100万円という形で考えても,それは何らおかしくはないかなとは思います。 ○大村部会長 窪田委員の御質問は,仮払いにつきまして,基本的な考え方を認めつつ,しかし,具体的に設計するときに,債務者ごとの100万円という計算の仕方が,これでよいのかということかと思いますけれども,今,事務当局からは,目的を葬儀に限って考えなければ,これに一定の合理性があるという趣旨のお答えがあったかと思います。   他の委員,幹事,この点につきまして御意見があれば伺いたいと思いますが,いかがでしょうか。   窪田さんは,今のお答えに対して何か。 ○窪田委員 私自身は,別に葬儀費用だけを考えているわけではなくて,制度設計としてうまく説明できるのかなというのが気になっただけです。正直,ちょっと釈然とはしないのですが,それほど頑張るような話でもないと思いますので,もうこれ以上は特に固執しません。 ○大村部会長 中田委員,どうぞ。 ○中田委員 ちょっと,窪田委員の御質問とお答えとの関係を理解したいだけなんですけれども。預貯金が2,000万円あったとして,そのうちの2割ですから,合計400万ですよね。相続人が3人いた場合には,1人133万円になるわけですが,それは,しかし100万が頭打ちである。相続人が5人いたときは,1人80万ずつになる。こういう理解でよろしいんでしょうか。 ○堂薗幹事 はい。 ○中田委員 だとすると,窪田委員の御懸念というのは,今のように考えると,一応説明できるかなと思ったんですが。 ○大村部会長 よろしいですか。ほかに何か。   どうぞ,山本委員。 ○山本(克)委員 長い間休んでいたもんですから,もう既に議論済みかもしれませんけれども,預貯金というふうな一般的なくくりで,このような一部の払戻しというのは可能なものということになるんでしょうか。預貯金の種類によって,こういうことができないような預貯金というのは,あるのかないのかよく存じませんが,そこをちょっと教えていただければと思います。   それと,債務者ですが,これも,相続開始時の債務者ごとにというふうに読むんでしょうね。相続開始後,銀行が合併しちゃったというような場合は,もちろん相続開始時に2行あったんだから200万になるという理解でよろしいんでしょうか。 ○堂薗幹事 基本的には,ここの部分は,原則相続人全員でなければ行使できないものについて,その例外を設けるということですので,その預貯金の契約上,そもそも全員で行っても払戻しはできないものについては,それはできないという理解です。ですから,債務者側は,契約上,これはまだ支払わなくていいので払いませんということは言えるということでございます。債務者ごとというのは,こちらも今のような事例を十分に想定して考えていたわけではございませんが,基本的には,相続開始時に権利行使が可能な額が決まるという前提ですので,相続開始時の債務者の数で考えるということになるのではないかと思います。 ○大村部会長 そのほかいかがございましょうか。   仮払いにつきましては,従前委員の方から出ていた案について,更に検討を願いたいという御意見が藤原委員の方からございました。他方,現行の案で行く場合には,約款等による対応の可能性を明らかにしてほしいという御指摘もあったわけですけれども,これについては,場合によるわけですけれども,一定程度,契約による対応は可能であろうという見通しが示されているところかと思います。そのようなところで,この案で取りまとめるという方向でよろしいでしょうか。   どうぞ,水野委員。 ○水野(有)委員 すみません。質問という趣旨でございますが,2の(2)の最後の括弧,「この場合には,当該権利行使をした預貯金債権については,遺産分割の時において,遺産としてなお存在するものとみなすものとする。」とされているのですが,これが括弧書きが付いている趣旨は,4と関連するという趣旨なのか,それとも,また違った趣旨なのか,どういう御趣旨でここは書かれているんでしょうか。 ○神吉関係官 おっしゃるとおり,4において甲案,乙案いずれの制度を採用するのかということによるかと思います。4において,甲案を採用した場合には,2の(2)の亀甲部分については不要となるのではないかと思います。 ○水野(有)委員 ありがとうございました。 ○大村部会長 よろしいでしょうか,4の方でまた議論をするということで。   第2の1から3,特に2につきまして御意見を伺っておりますけれども,基本的には,ここに挙がっている方針でいくということにつきまして,更に御発言がありましたら伺いますが。   どうぞ,石栗委員。 ○石栗委員 すみません。今のお答えだとすると,4で甲案を採用しない場合には,この括弧書きを付けるということで,いずれにしても,この2(2)の制度については存在するものとみなす制度にするという,そういう御趣旨ですか。 ○神吉関係官 4で甲案,乙案いずれの制度も設けないという場合に,2の(2)のような制度,亀甲部分を付けた制度を設けることができるのかというのは,理論的に問題があると考えております。すなわち,2(2)に亀甲のような精算の仕組みを設けますと,預貯金の払戻しについての特則という位置付けになるかと思うんですけれども,そうするとそもそも本則ではどうなるのだというところについて,きちんと整理をしないと特則を置けないということになりますので,ですので,4について何も手当てをせず,2(2)の制度を本当に置けるかということになると,相当に慎重な検討が必要になるかと思います。だからこそ,事務当局としましては,4の論点については積極的に検討したいなと思っているところでございます。 ○石栗委員 分かりました。ありがとうございます。 ○大村部会長 今の点は,4の方と併せて,また御検討をいただきたいと思います。   どうぞ,潮見委員。 ○潮見委員 私の理解が間違っているのかもしれませんが,要するに,4で甲案を採るという方向についての強い御趣旨の現れということでしょうか。   というのは,2の(2)というのは,(1)に対する特則とも読めるわけです。私はそういうふうに理解をしていて,別に4の甲案を採らなくても,2の(2)の仮払いの制度を設けることについての合理性がある。縷々この場で繰り返されているような必要性というものが存在するということで,家裁のプロセスを経ないでの,しかし限定を付した払戻しというものを認めてあげるということで,このような規定を創設するという形でも,説明はできるのではないかと思います。その上で,仮に(2)のこのような亀甲括弧がないようなルールを作った場合には,括弧が付いている後段というものを設けて,それによって共同相続人間での遺産分割における公平性を確保すると説明すれば足りるのではないのかなという感じもしたわけです。直前の御発言の趣旨が,私,理解できなかったものですから,発言させてもらったところです。 ○神吉関係官 後ほど御議論いただければとは思いますが,2の(2)で亀甲を外し,かつ,4の制度をいずれも設けなかった場合ですけれども,正当な権利行使をした場合には,遺産としてなお存在するとみなして精算の対象とする一方で,2(2)の方策によらずに他の共同相続人に無断で預貯金の払戻しをした場合については,みなし遺産の対象とならないと,精算をせず,不公平な結果が生じても構わないということになりますが,それはおかしいだろう,正当化することが困難ではないかという問題意識がまずあるということでございます。   また4において事務当局が甲案を採用することに強い意向を有しているかという御質問ですが,遺産に関する紛争の1回的解決という観点からは甲案が望ましいとはいえますが,乙案のような制度も十分あり得るとは思っております。そして,乙案を採用した上で,その2の(2)の仮払いのところについては,これは相続人の一人が権利行使をしたことが明らとなりますので,(2)の亀甲部分を維持して,これについては遺産分割の中で精算をするということもあり得ると思います。 ○大村部会長 今の点につきましては,4につき議論を頂きまして,それを踏まえて更に見直していただくということで,今の段階では,2の(2),この亀甲の部分をどうするかを除いて,差し当たりこのままで進めさせていただくということでよろしいでしょうか。   では,そのように進めさせていただくということにいたしまして,その上で,4の相続開始後の共同相続人による財産処分に入りたいと思いますけれども,ここは,甲,乙ありまして,両立するのではないかという御指摘もありましたが,御意見を頂ければと思います。   どうぞ,上西委員。 ○上西委員 私もこれらは両立すると考えます。   要は,共同相続人の1人による遺産の処分が行われた場合,元の状態に戻して,つまり,なお存在するものとみなして遺産分割をするのが本来の姿であると考えます。そして,財産の種別等によっては,金銭的に求償するという選択肢を求めていくことの方が,救済という視点に立てば,幅広に手当てができるとこう感じます。   それと,この甲案の場合,長期化,複雑化するのではないかという懸念があると思いますが,資産の処分は最近の出来事でありますので,古い時代の特別受益等に比べたら相当明確になるものであり,余り懸念し過ぎる必要はないと思います。むしろ,公平さの方を重視すると,多少の長期化か複雑化があったとしても,在るべきものを一旦テーブルの上に載せて検討し直すという甲案を原則にするのが正しいと思います。その上で,財産の状況等に応じては,乙案も損失を受けた他の共同相続人の選択として設けてはどうかと。両者は,相互に反するものではないと思います。   以上です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   甲案をベースとしつつ,乙案も選択肢としてあってよいのではないかという御指摘でしたけれども,この点につきまして,他の委員,幹事の方々,いかがでしょうか。   先ほど,潮見委員から御発言もございましたけれども,何か潮見委員,続けてございますか。 ○潮見委員 いや。乙案は,何らかの形で残しておいてほしいというところぐらいです。 ○大村部会長 そのほかの方々,いかがでございましょうか。   水野委員,どうぞ。 ○水野(紀)委員 私も,両立していいように思います。   これまでも何度もお話してまいりましたけれども,相続開始時から間もなく,相続人が協力してすぐに遺産分割を行わなくてはならない義務を負うのが,本来の姿なわけですけれども,それを担保するような制度的な関与がない日本法は,その点で基本的なバグを抱えております。おまけに,家裁と地裁に管轄が分断しているという,もう一つのバグが重なって,複雑骨折しているわけで,にわかにその構造的な困難を解消することは出来ません。けれども,法解釈するとき,また新しい制度を考えるときには,遠い未来になるかもしれませんが,やはり本来的な方向を可能にするように,また近づけるように考えたほうがいいだろうと思います。   これに論理的に近いものを考えてみたのですが,130条の条件付きの権利が少し近いように思います。故意に条件の成就を妨害したときには,条件成就とみなすことができるとされていますが,同時に,130条の解釈としては,損害賠償の請求権があると考えられていたと思います。この場合も,本来遺産分割まで待たなければいけないのに,故意にその部分を処分してしまったために,遺産分割に妨害を加えた場合には,それは,遺産分割のときにおいて,なお存在するものとみなすと考えていいと思います。かつ,同時に130条で期待権が侵害された損害賠償請求権も解釈上認められているように,ここでも,金銭的な賠償を認めることを否定する必要はないように思います。両立すると考えていいのではないでしょうか。日本法の構造的なバグである家裁と地裁の問題はあるにしても,そういう理解,解釈は,可能であるように思います。 ○大村部会長 両立論の御意見が続いておりますけれども,ほかの方々はいかがでしょうか。   石井幹事,中田委員の順番でお願いいたします。 ○石井幹事 甲案について原則とすべきではないかといった御指摘でございましたので,甲案については従前から実務的な問題点があるのではないかということを申し上げておりまして,改めてその点については強調しておきたいと思います。   預貯金の引き出し等の財産処分について争いがある場合につきましては,家裁の審判に既判力がないということもありまして,異なる判断が後の訴訟でされたような場合には,一般的には審判の効力が覆るというふうに考えられているのではないかなと認識しております。部会資料で,この点についても検討していただいておりますけれども,基本的には,覆らないという書き方をされていますが,覆る可能性があるということであると,やはり裁判所として,手続を進めることについて,かなり躊躇する部分もございますし,遺産の範囲に関わる問題ということになりますと,そこの点についてまず解決してくださいということになるのではないかと思いまして,やはり長期化の懸念というのは非常に懸念されるところかなと思います。   仮に審判の中で判断するということになりましても,先ほど申し上げたような性質,既判力がないといったところもございますので,やはり相当慎重に判断しなければいけないということになりますし,そうしますと,相続人全員に審理にお付き合いいただくということがありますので,そこの御負担や手続面への影響というのは,必ずしも無視できないものではないかなということについては,改めて申し上げておきたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   中田委員,どうぞ。 ○中田委員 甲案,乙案通じてなんですけれども,処分という言葉の中に,不動産の共有持分の譲渡という適法なものと,預金を無権限で払戻しを受けるという不適法なものと,両方混じっているような気がしまして,その結果として,規律が不明確になっているのではないかと思います。ここでの一番の問題は,無権限預金の払戻しであるのだとすると,そこを中心に考えてもいいのかなと思います。   ただ,この場合に,不法行為に基づく損害賠償請求権や不当利得に基づく返還請求権ができるかどうかについて,資料22-2の15ページの注2のところで,具体的相続分に権利性がないことから無理ではないかという御指摘で,そうかなというふうにも思うんですが,そこは,不法行為の法律上保護すべき利益の解釈,あるいは,不当利得における利益と損失の解釈によって,ある程度対応することもできるのではないかとも感じます。   ということで,先ほどの2の(2)の亀甲括弧の部分と合わせて,一番問題になるところを検討すればいいのかなと思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   どうぞ。 ○堂薗幹事 ただ今の点につきまして,我々も適法の場合と違法の場合があるという前提で検討をしておりますが,ここでは,一応両方含むという形で規律を設けております。他方,適法な場合について規律を設けた場合には,違法な払戻しがされた場合に,それが,不法行為や不当利得で調整することができないということになると,それは,かえってアンバランスではないかという問題もあって,違法な払戻しについて,不法行為や不当利得で調整することができるということであれば,もちろん適法な場面だけを念頭に置いて規律を設ければいいということにはなるのかもしれないんですけれども,そこも含めて,この注2の問題について,どのように考えたらいいのかというところが分からない状況の中で,そこを分けて,その一部の部分についてだけ規律を設けるというのは,なかなか難しい面があるのではないかというのがこちらの問題意識でございます。   それから,先ほどの石井幹事のお話なんですが,もちろん前提となる事実について誤りがあった場合には,原則として,その審判が覆るというのは,一般論としてはあり得るんだと思うんですけれども,ただ,他方で,遺産分割については,部会資料にも書いておりますとおり,911条の担保責任に関する規定等もございまして,あの規定が遺産分割の審判にも適用になるのかどうかというところについて解釈上争いがあるようですので,その点の御懸念を言われているのか,あるいは,相続人の誰かが引き出したんだけれども,その認定が誤っていた場合,これについては,こちらとしては,基本的にはその点の事実認定の違いによって,具体的相続分は変わりませんし,配当の対象となる財産も変わらないので,そこは,特段審判が覆ることはないのではないかということで書かせていただいているんですが,そこも含めて御懸念をお持ちなのかという辺りを含めて,少し補足していただけないでしょうか。 ○石井幹事 911条の担保責任の規定のところですけれども,裁判例などを見ますと,それが遺産分割の重要な部分になる特段の事情がない限りは,遺産分割審判全体は無効にならないという判断を示しているものもございますが,逆に言えば,後の訴訟で異なる判断がされた部分については,無効になるということで,基本的に無効にならないと言えるかどうかということについては,疑義を持っているということでございます。   もう一方の,相続人間の,例えば,部会資料にありますけれども,A,Bの相続人のいずれかということであれば,相続人による財産処分というところについては変わりがないということであるという御説明がされておりまして,そういう場合に,AからBに対する不当利得という形で処理ができるのではないかという説明がされておりますけれども,不当利得ということになりますと,利得について,法律上の原因がないということが前提になりまして,それが,本当に曲がりなりにも審判で取得するということで認められていることと整合するのかといったことについては,ちょっと疑問というか,疑義を持っているところでございます。 ○堂薗幹事 今の最後の点は,要するに,Aさんに取得させるという審判をしたにもかかわらず,実際にはBさんが引き出していたという場合ですので,そうすると,Bさんの払戻しについては法律上の原因がないということになるのではないかということで,必ずしも今のような問題は生じないのではないかというのがこちらの整理です。   審判どおり払い出したのに,法律上の原因がなくなるということになりますと,それは問題なんでしょうけれども,そういう前提ではなくて,審判ではAさんに取得させるという審判であったのに,実際にはBさんが引き出していたということですので,それは,やはり不当利得の関係になるのではないかという趣旨でございます。 ○石井幹事 審判ではAの取得ということになっているけれども,何かそれを前提としながら,Bに利得が生じているというところが,整合的に説明ができるのかなという疑問ではあるんですけれども。 ○大村部会長 水野委員,どうぞ。 ○水野(有)委員 幾つかあるんですが,今の点をまずお話させていただきます。   少なくともトラックが幾つも用意されていると,事実が違った場合には民事でも争えるということを,ある程度想定した制度というのは,元々裁判所が大変とかいう意味ではなく,国民の方にとても分かりにくい。何がどれで,何がどれで,どのようがどうというのが,全て明確に,少なくとも分からなくてはいけないのに,今回の御提案では,どのようなときにどのようになるかが,いろいろな解釈問題に,今までの最高裁の解釈問題に相当関連するし,先ほど石井幹事がおっしゃった911条についての,それでできるというのも,高裁の一判例ですから,それが果たして一般的なのかどうかも,率直に言って,今のところ分からない。最高裁も存在しません。   それと,もう1点,この911条は,物の瑕疵があるところにしか問題にならないと思うのですが,多分,ちょっと私の間違いでなければ,それが相続分,引き出したものが,ないと思っていたのが遺産とみなされたことによって,多分,具体的相続分は変わりますよね。具体的相続分が変わった場合に,それでも審判がひっくり返らないのだろうかというのは,ちょっと私もよく,この911条で全てフォローできるのかどうかというのはちょっと分からなくて,甲案と乙案のいずれも目的としていることはすばらしいとは思うのですが,ただ,制度として仕組むのであれば,やはり中田委員の御指摘もありましたが,具体的相続分というものを,どこまで権利性を認めるか,それを,預貯金や全ての財産で統一的にするかという,そういう相続制度全体についての一貫したポリシーがない限り,ここに手を付けると,一番問題があるところを直したいというのは多分みんな一緒だと思うんですけれども,そこに手をつけることによって,全体としての整合性がちょっと,仮に問題が出てくるとか,逆に,整合性のない制度にすると,穴があったときの解釈ができなくなってしまって,結局国民の予測可能性を害するとか,特に元々民事と家事との制度が分かれているということによって,結局どっちに行ったらいいのかが,最高裁が定まる,何十年といったら言い過ぎですかね,何年か先でないと,この場合はどうというのが定まらないという制度を作るというのは,余り適切ではないと思うんです。だから,甲案,乙案,両方ともすばらしい目的を持っている制度だとは思うのですが,機能する制度を作るには,より深い検討があったほうがよろしいのではないのかなと思っております。 ○神吉関係官 まず,具体的相続分が,相続開始後の共同相続人の財産処分によって変わるのではないかというお話があったかと思うのですが,この点につきましては,903条によって具体的相続分は決まる形になりますので,この903条では,相続開始の時において,有した財産の価格に贈与などを加えたものをみなし相続財産とし,それで算定をするということですので,相続開始後に財産処分があろうがなかろうが,具体的相続分自体は別に変わらないことになるのではないかと思いますが。 ○水野(有)委員 すみません。客観的に変わるかどうかが問題なのではなくて,元々ないと思っていた財産が,実際存在したということが分かったことによって変わるということ。客観的なことかどうかでなくて,現実に分かっている,分かった事態によって変わるという質問の趣旨です。 ○神吉関係官 事後的に分かったということですかね。 ○水野(有)委員 そういうことです。 ○神吉関係官 それは,そうだとは思います。それは,この共同相続人の財産処分の問題,預貯金の処分の問題のみならず,例えば,遺産分割の時には認識していなかったけど,実は他に相続財産の中に動産があったとか,そういう問題とも恐らく同じ話ではないかと思いまして,ここだけの問題というわけではないのではないかなとは思っております。   また,甲案を採った場合は,基本的には遺産分割の中で処理をされることになると思いますが,その家庭裁判所で適切な事実認定がされれば,恐らくそれが事後的に覆るということは,基本的にはないとは思うのですが,万が一,違う人が処分をしたということが,事後的に分かった場合には,民事訴訟でも処理ができますよということを申し上げているにすぎないのであって,別に,甲案を採った場合に,家裁でもいけるし,地裁でもいけるしとか,そういういろいろなルートがありますよということを,我々は申し上げているわけではございません。甲案を採った場合には,基本的には家庭裁判所で処理をされることになりますが,万が一,その事実認定が間違っていた場合には,それは,地裁でも救済のルートがありますということを申し上げているだけであって,それほど国民にとって分かりにくい話では,むしろないのではないかなと思っております。 ○水野(有)委員 質問のもう一個の方の趣旨の具体的相続分について,どの程度固い権利と考えるべきか,中田委員の御指摘がありましたところの御質問は,実は法定相続分に基づいた処分は適法であることを前提とした御質問だったかと思います。そうなりますと,法定相続分に基づく不動産の処分は適法であると。ところが,最終的には,具体的相続分での精算は求められるべきものであるというお考えということでしょうか。 ○神吉関係官 それはそうだと思いますけれども。 ○水野(有)委員 ということは,むしろ全てのことについて,最終的には具体的相続分で精算するということを徹底すべきだというお考え。 ○神吉関係官 それが,公平かつ公正な遺産分割ではないかと,事務当局としては考えております。 ○水野(有)委員 そういうお考えで,全て徹底して,全てを解釈し直すということで,この制度だけでいけるのではないかと思っていらっしゃるという御趣旨でしょうか。 ○堂薗幹事 全てという点なんですけれども,ここで書いているのは,飽くまで遺産分割をする際に,相続開始後に相続人が処分をした場合,それは違法であろうと適法であろうと,この規律で全部いけるのではないかということです。このような規律を設けることがほかの場面でどう影響するのかというところの御懸念なんだとは思いますが,ここは,飽くまでも相続開始後に,相続人の財産処分が禁止されていない,禁止されていない以上は,その処分した場合には何らかの調整規定が必要ではないかということで,こういう規律を設けるということですので,基本的には,それ以外の場面で,具体的相続分について,ほかの場面でも何か権利性が生じて,今までできなかったような訴訟ができるようになるとか,そういったことにはならないのではないかということで考えており,この限られた場面の中では,常に具体的相続分を前提とした調整をするという考えでございます。 ○大村部会長 では,増田委員。 ○増田委員 乙案についての質問です。   法定相続分の侵害を理由とする訴訟は,これまで多数行われてきて,現在も多く行われていると思うんですが,その請求とこの償金請求との関係はどうなるんでしょうか。具体的に言えば,法定相続分侵害を理由とする訴訟が終わった後で,更に具体的相続分による請求が可能なのかどうかというのが一つと,もう一つは,法定相続分の侵害を理由とする訴訟の被告側が,原告に具体的相続分がないとか少ないとかいうことを,抗弁的に主張することができるのかどうか。具体的相続分が究極的な基準となるのならば,そういうことができてもいいのかもしれないですが,ただ,法定相続分の訴訟というのは,その目的となる特定の財産の価額が分かれば,その段階で提起できるのに対し,具体的相続分に基づく訴訟は,遺産の総額を評価しないとできないんで,両者の関係についてお伺いしたいのですが,いかがでしょうか。 ○神吉関係官 お答えさせていただきます。   少し抽象的な話になりますと分かりにくいかと思いますので,具体的な事例を提示させていただいて御説明させていただきますと,例えば,部会資料20の23ページの事例を想定いたします。   この事例申し上げますと,相続人がA,Bの2名で,法定相続分が2分の1ずつと,また,遺産が1,400万円預金でありました。また,特別受益として,Aに対して生前贈与が1,000万円ありました。そういうケースを想定しておりまして,この場合に,Aが相続開始後に預金全額1,400万円を引き出した場合どうなるか,また,Bが相続開始後に預金全額1,400万円を引き出した場合どうなるのかとか,そういった事例を想定していただければと思います。   まず,Aが引き出した場合どうなるかということでございますが,乙案の償金請求の規律によりますと,Aの引き出しがない場合にはBが1,200万円遺産分割取得できましたので,BはAに対して1,200万円請求することができるということになるかと思います。一方で,相続された預金に対するBの法定相続分の持分は700万円分になりますので,700万円の法定相続分の持分が侵害されたとして,こちらは従来どおり不当利得返還請求,若しくは不法行為によって,BはAに対して700万円請求をすることができるということになるかと思います。そして,これらの請求権の関係は,700万円の範囲内で請求権競合の関係にあるのではないかと考えております。   一方で,難しいのがBが引き出した場合なのですが,この場合,乙案の償金請求の規律によれば,Aはあと200万円取得できたということになりますので,AはBに対して200万円の償金請求権を取得することができるということになるかと思います。一方で,不当利得返還請求若しくは不法行為によってAはBに対して700万円請求をすることができるということになるかと思います。その場合に,先ほど増田委員の御指摘としては,不当利得返還請求訴訟が先行した場合に,抗弁として具体的相続分の侵害額は200万円の範囲内であると,500万円は侵害していないと,そういう抗弁を訴訟で出すことが可能かという御指摘だったかと思います。   ここはなかなか難しいところだなと考えておりまして,なぜ法定相続分の持分を侵害したという訴訟の中で,具体的相続分の話が抗弁として言えるのかというのは難しいところだなとは思ってはいるんですが,一つの解釈としては,具体的相続分が基準となるので,それは抗弁では成り立つという考え方もあるとは思うんですが,一方で,本来は遺産分割までAに無断ではしていけないその引き出しをBがしたんだから,その結果,自分が700万円の請求を受けても,それはやむを得ないと,甘受すべきだという考え方も一方であるかなとは思っております。そうすると,具体的相続分は基準とはなってこないことになるのですが,そこは解釈に委ねてもいいのなというところが,事務局としても悩んでいるというところでございます。 ○増田委員 具体的相続分は権利ではないということでしょうか。私は前回までは,この案は具体的相続分に権利性を認めることが前提の案だというふうに思っていたんですが,今回の補足説明では権利性がないとはっきり書かれています。しかし,権利性がないのに請求できるというのは,請求の根拠が理解しかねます。先ほど中田委員がおっしゃったことも似たような話だと思うのですが,この請求権は何が根拠になっているんですか。 ○堂薗幹事 この乙案の方ですね。 ○増田委員 はい。 ○堂薗幹事 乙案の基本的な考え方につきましては,例えば,民法では,付合があった場合や,共有の壁の高さを増した場合などに償金請求を認めているわけです。要するに,適法な行為をした場合に,付合であれば,法律の規定で所有権の帰属が変わってしまったという場合に,その状態は維持しながら,当事者間の公平を図るために,一定の場合に償金請求を認めるということがされておりますが,正に乙案は,公平の観点から,不当利得的な性質の請求を認めるということですので,もちろんこの償金請求に関していえば,具体的権利性を認めたことにはなるわけですけれども,それは,具体的相続分に一般的にそういう権利性を認めるという話ではないという理解です。   元々具体的相続分というのは,遺産分割をする場合の規律として,どのような規律にするのが公平かということで設けられているわけでございますので,言わば,この乙案は,遺産分割でそこを反映できなかった場合の,正に調整として,その場面に限定して一種の不当利得的な権利を認めるというものでございますので,そういった形で認めたからといって,遺産分割とは関係のない場面において,当然に具体的相続分に権利性があるとか,あるいは,具体的相続分の確認請求ができるようになるとか,そういったことには直ちにつながらないのではないかという趣旨でございます。 ○増田委員 いや,いいですか。   今の,先ほどの償金請求の例で出されたものは,もともと所有権という具体的権利について侵害がされているわけですよね。ただし,その侵害行為は違法性がない,適法なものであるということで,損害賠償ではなくて償金請求が一種の損失補填として認められているんですね。だから,これも,償金だというんだったら,元々具体的な権利というものがあって,それが,在るべきところから幾らかなくなったということでないと成立しないのではないかというふうに思うんですが。つまり,この乙案でいくんだったら,率直に,具体的相続分は権利だと言われたほうが,ほかのところにも応用はできるように思います。ほかのところにひずみが出るかどうかは,十分検討できていないので,ひとまず別としてですが。 ○大村部会長 では,山本委員,それで,更にあれば潮見委員。 ○山本(克)委員 私も増田委員と同感なんですけれども,これ,中間確認の訴えで,具体的相続分確認はできないわけですよね。最高裁の判例を前提とする場合,そういうものがなぜ請求の基礎になるのかというのは,私はちょっと理解し難いところで,やはり最高裁の判例の指針とするところは,遺産分割審判の前提問題として,やはり形成作用によって具体的な相続分が算定されるんだという,一種の形成作用を前提としないと,具体的相続分というのは簡単に出てこないということを前提としているからこそ,権利性がないと言っているのではないのかなというふうに思うわけで,そうすると,なぜ訴訟手続において,具体的相続分を形成的に判断できるのかというのは,やはり,私はちょっと説明ができないというふうに直感的に思います。何か話を聞いていますと,私,最高裁判例に元々反対なので,そっちの方がいいんだろうと思うんですけれども,ただ,最高裁の判例を維持しつつ,こういうふうに考えるというのは,私はちょっと解せない感じがして仕方ありません。 ○大村部会長 潮見委員,いいですか。 ○潮見委員 似たことです。私は,最初は増田委員が言われたように,この乙案,私はこれでいったらいいと言ったのは,相続分の捉え方自体が,今回の案でもう少し考え方を従前とは違う方向に持っていこうと考えていたのかなと思って,これで賛成ということを言ったんです。   あと,もう一つは,後の議論を踏まえですけれども,規定を設けないという考え方も,私はあっていいのではないかと思うんです。というのは,基本的にこの議論は,先ほど中田委員もおっしゃっておられたように,預貯金の払戻しが問題になった場面で,先ほどの2の(2)の括弧書き,この並びで,預貯金について仮払いを認めた場合に,遺産というものをどのように捉えていくのかという考え方が最初に挙がって,そして,それを更に考えていったら,同じようなことは預貯金とは違う場面でも考えなければいけない問題だという形で,4の問題が展開されて出てきたのではないかと思うんです。   そのときに想定されていたというのは,基本的に預貯金のことであるならば,仮に2の(2)の,しかもそこに鍵括弧をつけるという案を採用するのであれば,4のような制度を急いで設ける必要はないのではないかとも思います。預貯金の払戻しがあったような場面というのは現在でもあるわけですし,それをどういうふうに考えるのかということで,現在不当利得でいきましょうとか,あるいは不法行為でどうかとか,そういう話も出ておるわけですから,細かいことを詰めないで案を出すよりは,解釈に任せておいて,取りあえず今必要な2の(2)だけ対応しておくということでもありかなというふうにも思うところです。 ○神吉関係官 ちょっと確認させていただきたいのですが,補足説明の15ページの(注2)のような考え方が,解釈上できるのであれば,4において特に規定を設けないという結論もあり得るかなと思っておりまして,先ほど中田委員の方から,解釈としてそういうこともあり得なくもないかなということも御示唆いただいたのですが,ほかの民法の先生方はこの点を考えていらっしゃるのかということを,もしあれば教えていただければと思います。この点,現行法の解釈として,相続された預貯金の払戻しは,違法な行為であり,かつ,具体的相続分を基準として乙案により導かれる結論と同じ結論が得られるのであるということであれば,規定を設けずに解釈に委ねるということもあるかなとは思うんですけれども,その点いかがでしょうか。 ○大村部会長 どうぞ,窪田委員。 ○窪田委員 ちょっと組合せが難しいなと思っているのですが,4の甲案も乙案も全くないような状況で,つまり,現在と同じ状況で注の2の問題が提起されたら,もちろん不法行為の法益と権利又は法律を保護された利益であって,幾らでも緩やかにすることはできるということなのかもしれないのですが,現在の判例を前提とした上で,不法行為で損害賠償請求が認められるというのは,そう簡単ではないのではないかなという気はしています。場合によっては,害意のような主観的な要件を加重する形でというのはあるかもしれないですけれども,普通の行為又は過失で認められるかというと,やはり厳しいのではないのかなという気がします。   一方で,恐らく甲案,乙案のようなタイプの規定を置いた場合には,先ほど権利性があるのかないのかということがあったのですが,多分,権利性があるかないかという議論の仕方もものすごく抽象的で,独立の所有権のような権利なのかというと,多分そうではないけれども,こういった法律効果を生じさせる前提としての一定の保護法益性はある,権利性はあるという程度のことは,やはり甲案も乙案も前提としているのだろうと思いますし,こういった規定ができることによって,従来は認められていなかった不法行為や不当利得というのが認められてくるという可能性も出てくるのだろうと思います。ですから,甲案,乙案を作るか作らないかとは全く無関係に,不法行為法でいけるのだからというような話ではなくて,恐らく甲案,乙案のようなタイプの規定を作るということが,不法行為法上の解決でも関係していくのかなという感じがしています。   その上で,ちょっと周回遅れみたいな質問になって恐縮なのですが,乙案が,私自身十分理解できていないところがあって,今申し上げたように,乙案,あるいは甲案でもそうなのだろうと思うのですけれども,増田委員の御質問との関係でいうと,やはり一定の権利性は関連しているのだろうと思うのですね,全く権利性がないという形ではなくて。ただ,そうは言いつつも,そこでは,不法行為法上の一般的な権利なのかどうなのかというと,恐らくもう少し弱いものだろうと思いますし,飽くまで償金請求を認めるというだけの前提のものということになっているのだろうと思います。   一方で,償金請求を認めたとしても,更に主観的な要件を満たす場合に,不法行為の損害賠償請求は幅広く認められるというのはあり得ていいと思うのですが,その上で,乙案を仮にそういうものだというふうに理解すると,ちょっと私自身がよく分からない感じがし,乙案が中途半端なのかなという印象を受けるのは,損失を受けた他の共同相続人はという形で,損失要件が入っているのですね。損失要件が,後の方でも機能するような形になっているのですが,これは,求償,単なる償金の問題なのだとすると,アとイの差額というのについて,償金請求権があるということを言うだけで足りて,損失ということを言う必要はないのではないでしょうか。説明の方を見ると,損失要件を置くことで,遺産分割の中で処理できた場合には,損失が消えるのだという説明をしていますが,恐らく遺産分割をした場合には,具体的相続分がどうであれ,それによって帰属が決まったという形になりますので,損失の有無の問題でもないのだろうと思いますし,また,注の3とかを見ると,離婚の場合の慰謝料というのを考えていますけれども,あれはやはり損害概念を前提としていて,ある意味で,結構きちんとした権利性があるものを考えていると。そうすると,仮に乙案というのを,今申し上げたような,仮にそういう理解が正しいとすると,単に償金請求権を基礎付けるためだけのものとしての非常に限定的な権利性を承認しているだけで,損失を受けたといったような文言は不要ではないかなという気もいたしましたし,ちょっとその点を確認させていただけたらと思ったということです。ちょっと,後半違う話になってしまって恐縮ですが。 ○神吉関係官 その損失を受けた要件につきましては,こちらが意図していたことは,補足説明に書いたとおりでございますので,御指摘を踏まえてゴシック部分として本当に要るかどうかということについては,改めて検討したいと思います。 ○大村部会長 水野委員,山本委員,それから山本幹事の順でお願いします。 ○水野(紀)委員 私は,原案をサポートしたいと思います。先ほど申し上げたことの繰り返しになってしまうのですが,日本法が抱えている構造的なバグの下で,解釈する困難があります。最高裁の判例についても解釈が分かれるかと思うのですが,本来的な形を考えますと,私は,具体的相続分は権利だと思っております。そして,先ほど合法的な処分と言われましたけれども,本来的な形を考えましたら,共同相続分を遺産分割前に自分の法定相続分で処分できるということ自体,本当はよかったのか,問い直すべき問題になるのだろうと思います。相続開始時から間もなく行われる,遺産分割までは処分権がないというのが,実はあるべき形だったのではないでしょうか。もちろん,日本の場合にはそうはなってこなかったわけですし,その事実を考えなくてはならないわけですけれども。   それから,家庭裁判所等に既判力がないというのもおかしな話です。最高裁判例の理解として,具体的相続分が裁量的な形成作用を前提としているからとは,私はあまり考えておりませんで,最高裁は,家庭裁判所の管轄をともかく安定させたいという趣旨で言ったのだと好意的に理解していました。今後も,できるだけ家庭裁判所の遺産分割審判を不安定にするような形には設計すべきではないと思います。家庭裁判所という重い手続を動かして,あえて遺産分割をしたのですから,その結論に事実上既判力を持つような大きな力を与えるべきだとは思いますけれども,同時に,勝手に処分をされた結果,具体的相続分が侵害されていたら,それは,本来は家庭裁判所の審判によって甲案のようにして処理をされるべきだけれども,一定範囲でそこから落ちてしまったものがあったときに,その権利性を守ってあげるという提案をすることも,本筋からいうとそれほどおかしなことではないと思います。   従来の日本の訴訟法的な文脈の中で,最高裁判例の解釈においても,家裁の審判は既判力がないという大前提の下で判断されてきたこと,また,遺産分割手続が相続開始直後にきちんと行われる体制になっていないために,遺産分割前に自分の共同相続分の持分を処分することも合法だとされてきたことなどについては,それぞれ再考してみる必要があるように思います。それらを疑いの余地のない大前提として理論が帰結するというよりは,それらは日本法の構造的なバグの結果,やむを得ずそうなってきたにすぎないと,ある程度括弧に入れて考えることも必要でしょう。日本の抱えている制度的限界のもとで相続法を運用してきた工夫なのだと,割合柔軟にお考えいただいてよいのではないでしょうか。今度は立法なのですから,在るべき姿に近づけて手当てをされることが,従前の判例の理論的な帰結と若干矛盾するというようなことは,余り気になさらなくてもいいように思います。 ○大村部会長 山本和彦委員,どうぞ。 ○山本(和)委員 注2のところですけれども,私の理解も,先ほどの窪田委員が前半に言われたのと近いです。注2のような解釈を採るとすれば,中田委員が言われた,権利でないとしても,やはり法的に保護された利益であるということを認めるという前提になるんだろうと思うんですが,私の理解では,あの判例は,やはりそういう実質的なものとして具体的相続分を考えるのではなくて,遺産分割,それから遺留分減殺について言及していたかと思いますけれども,その前提となる一種の係数的な数字の問題なんだと。だから,確認の対象にはならないというところをかなり強調していたように思うので,これを侵害すると,やはり請求権が生じるということになると,係数的なものだという説明は非常に難しくなるように思いますので,やはり判例からは距離がある考え方かなというふうに思っています。   他方で,乙案は,先ほど窪田委員から,損失を受けたという話がありましたけれども,純粋に,「ア―イ」で,この償金請求権というのを法律で作るんだという,そういうものなんだと説明すれば,ここで言われているアとかイの903条の相続分というのは,償金額を計算する前提の係数的なものであると,必ずしも実体を持つものではないという説明は不可能ではなくて,そういう意味では判例の理解を動かさなくても作れる。ただ,これをしたときに,解釈として,より具体的相続分が権利性を帯びるものとして解釈されていく可能性というのは,将来的には否定できないんだろうと思うんですが,説明がつかないことはないのかなというのが,私の印象です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   それでは,続けて山本幹事,どうぞ。 ○山本幹事 具体的相続分の法的な位置付けについては,今,山本和彦委員がおっしゃったとおり,家裁で遺産分割を行う際の計算上の基準なんだろうというふうに思っているところでございます。   ところで,今回御提案いただいている乙案は,遺産分割で結果的に間違っていた分を調整するにはとどまらず,遺産分割に先立ち,あるいは同時並行で,地裁における具体的相続分を前提とする一定の請求を認めるものと理解しております。そうなってきますと,結局,家裁の家事審判あるいは調停で遺産分割をやるのと,いわばダブルトラックの状況で,地裁でも具体的相続分を問題にする場面が広く生じるということになるかと思います。そして,具体的相続分を考える上では,実際の事件では,非常に古い特別受益も含めて,当事者は家裁と地裁の両方でいろいろな資料を出して主張を立証しないといけなくなり,しかも,その結果,地裁と家裁とで判断がまちまちになってしまう可能性があるということで,これは,国民の負担,あるいは分かりやすさという観点からいった場合に,果たして望ましい制度の組み方なのかという疑問も持っているところでございます。   そういう意味で,具体的相続分を法的にどういうふうに位置付けるのかという問題と併せて,地裁でそのような具体的相続分というものをどこまで取り扱うべきなのかについても御議論いただければというふうに考えております。 ○大村部会長 中田委員,どうぞ。 ○中田委員 不法行為は難しいだろうという御意見が多くて,確かにもっともかなとも思うんですが,私の言いたかったことは,具体的相続分を法律上保護される利益と見るというのではなくて,むしろその具体的相続分が形成される立場にあるというようなところまで広げて考えられないかというふうなイメージでおりました。と申しますのは,もう一つ,不当利得のことも申し上げたんですけれども,無権限で払戻しを受けたものが持っている金銭というのは,これは不当利得ではないかと思うんです。返還請求にもし制限が掛かってくるのだとすると,損失要件の方で掛かってくるのかなと思います。そうすると,その損失要件を考える際に,先ほど申し上げた具体的相続分として形成されるべき利益というようなものが考えられるのではないかと思いまして,もちろん,それは難しい解釈かもしれませんけれども,その可能性としてはあり得るのではないかと思った次第です。   それから,議論の大きな前提として,水野紀子委員が御指摘になられた,持分処分というのは合法だという前提自体を疑うべきであるということ,それは,お考えとして理解しておりますけれども,しかし,現在の909条を前提として,これまで形成されてきた判例や学説の考え方を採る限りは,やはり,持分の譲渡というのは有効というところから出発しないと,なかなか大変ではないかなというふうに思っております。他方で,無権限の払戻しは,これは,やはり法律上の原因がないということは動かないのではないかなと思っておりまして,それをどうやって解決していったらいいかということを考えた次第です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   この4の相続開始後の共同相続人による財産処分は,この会議で比較的新しく出てきた問題であるということもあって,なかなか難しい問題を含んでいるように思います。本日も,思想として,あるいは実体法上の考え方として,甲案,乙案が持っている考え方に賛成されるという方が多い一方で,実際の手続にのせたときに,家裁の審判に様々なひずみが生じるのではないかという御指摘がなされていたところであります。   他方,理論的に説明するということになったときに,具体的相続分というものに,どこまでの影響が生ずるのかということと,それから,不法行為,不当利得について,現在の状況でどう考えるのか,何か規定が置かれたときに,どういう影響が生ずるのかといったような問題が指摘されているかと思います。   今日のところでは収束の見通しがつかないように思いますけれども,今のような御指摘を頂いたということで,更に事務当局の方で持ち帰って御検討いただくということでいいですか。   どうぞ。 ○堂薗幹事 先ほどの2の(2)の亀甲部分だけ手当てするというのもあり得るのではないかというところなんですけれども,念のためもう一度,こちらの問題意識を申し上げさせていただきますと,この部分だけ規定を設けて,4のような規定を設けない場合には,正にこの法律上の規定に則って,適法に払戻しをした人については,具体的相続分を前提とした調整がされるにもかかわらず,違法な払戻しをした人については,そのような調整がされずに得をする場面が出てくるということになります。そういった違法な処分をした場合に,不法行為とか不当利得で調整できるということであればさほど問題はないようにも思われますが,先ほどからいろいろ御議論がありましたように,現行法の下で本当に不法行為等の請求ができるのかという点について議論がある中,2の(2)の亀甲部分だけ規律を設けるということで,本当にいいのかというところが,最も気になっているところでございます。事務当局としても,本日頂いた御指摘を踏まえて,再度どうするかというのは検討したいとは思いますが,こちらの問題意識は,正に今申し上げたところにございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今の問題も複数の委員の方から御指摘があったかと思います。理論上,堂薗幹事が言ったようなことが生じ得るのかと思いますけれども,実際上の問題としてどうだろうかというような御指摘もありましたので,両方を勘案して,更に御検討いただきたいと思います。   この点,ほかに何か御指摘,どうぞ,石栗委員。 ○石栗委員 家事の審判の手続で判断したことと,訴訟手続で判断したことが結論的にはそれほど違わないだろうということをおっしゃっているんですけれども,手続的には家事事件では裁量の幅が広く,基本的には遺産分割の手続というのは,遺産分割時に存在している財産を,誰にどのように配分するかということに最も適した手続になっていると思います。その前提の計算として,具体的相続分の計算が出てくるわけですが,相続時には存在したことが明らかだけれども,遺産分割時には既になくなっている預貯金等について,その存否や誰がどのように持ち出したのかなどを判断するために一番適切な手続を家庭裁判所が本当に持っているかということについても,少し御配慮いただきたいと思います。地裁の訴訟のように,どちらかに主張立証責任があって,立証が不十分であれば,立証責任のある側が敗訴するというような仕組みになっておらず,家事の手続は,どちらかというと裁量的に,それぞれ個性のある財産を誰にどのように分けるのが一番公平だろうかということを判断するのに最も適した手続になっております。今のお話ですと,家庭裁判所が行っていた手続で,地裁の訴訟で扱ってきたような判断もするということだと思いますので手続面も含めて御検討いただけると有り難いと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   その点も含めて,更に御検討いただきたいと思います。   4につきまして,今日のところはよろしゅうございますでしょうか。   それでは,第2に進もうと思っておりましたけれども,時間が大分たっていますので,この部屋の時計で45分まで休憩させていただきます。休憩にいたします。           (休     憩) ○大村部会長 それでは,休み時間短くて恐縮ですけれども,先が大分ございますので再開させていただきます。   「第3 遺言制度に関する見直し」という項目につきまして,まず,事務当局の方から説明を頂きます。 ○満田関係官 それでは,関係官の満田から御説明申し上げます。   まず,「自筆証書遺言の方式緩和」につきましては,次の各点に検討を加えましたが,基本的には部会資料17と同様の規律を維持することにしております。   まず,「契印の要否,同一の印の押捺を要求することの要否について」でございます。この点につきましては,変造防止の効果は限定的である一方で,方式違背が増加するおそれがあることから相当でないと考えました。そこで,本部会資料でも,契印や同一の印による押捺までは要求しないことと整理をしております。   次に,加除訂正の方式についてですが,これまでは加除訂正の場面では,財産の特定に必要な事項であっても自書であることを要することとしておりまして,本部会資料の③の記述も同様の理解に基づくものでございます。しかし,仮に新たな財産目録が印刷されたものであったとしても,訂正文言が自書されており,かつ新たな財産目録の全てのページに遺言者の署名押印がされているのであれば,変造等のおそれは低いものと考えられます。そうしますと,遺言の加除訂正の場面でも,財産の特定に必要な事項については自書であることを要しないとする考え方もあり得るように思えます。この点についても,委員・幹事の皆様の御意見を賜れればと思っております。   補足説明の第3項では,遺言の加除訂正については全て自書でしなければならないとの従前の規律を前提に,遺言者が自筆証書遺言作成後に自書によらない財産目録を追加した場合を念頭に,このような行為を遺言の変更の様式性との関係でどのように捉えるべきかを整理しております。   続きまして,自筆証書遺言の保管制度についてでございますが,遺言保管の対象を民法第968条第1項の方式による遺言とすることにした以外は,部会資料17における提案と同様のものでございます。遺言保管の対象につきましては,遺言の方式に関する法律の抵触に関する条約との関係で,以下のとおり検討を加えました。   まず,外国法に定める方式による遺言,外国法でなされた遺言につきましては,法務局において,それが遺言に該当するか否かを的確に判断することはできないと思われますので,遺言保管の対象は少なくとも制度開始の時点では民法第968条に定められた方式による遺言で,日本語で記載されたものに限らざるを得ないと考えております。   一方,外国人によって作成された遺言については,そのものが日本語で,日本の方式で遺言をしたのであれば,それを遺言保管の対象から除外すべき理由はないものと考えております。   最後に「検認を不要とする時期について」でございます。   現在,家庭裁判所の検認手続は,遺言の現状の記録,発見時の状況の聴取,保管状況の聴取等が中心だと思われますが,遺言保管の対象となっている遺言については,これらはいずれも自明であると考えます。そうしますと,保管者や相続人らに負担を掛けてまで検認を義務付ける必要はなく,遺言保管の対象となる遺言については,当初から検認を要さないこととしてもよいものと思われます。   続きまして,第3の「3 遺贈の担保責任」と「4 遺言執行者の権限の明確化等」について説明させていただきます。   まず,「遺贈の担保責任」についてでございますが,この点については部会資料17における提案内容と同様となっております。   続きまして,「4 遺言執行者の権限の明確化等」についてでございますが,遺言執行者の復任権について,規律を一部修正しております。修正の趣旨でございますが,従前の部会資料では遺言者が別段の意思を表示した場合の規律の適用の範囲が不明確でございましたので,選任権の範囲のみを修正するということを明らかにしました。   さらに,預貯金債権の解約権限等につきましても,従前の部会資料から一部修正しております。第20回の部会におきましては,預貯金の一部のみについて遺産分割方法の指定がされた場合にも,預貯金契約の全部を解約することができるとしておりましたが,その当否や履行期が到来しているかどうかによって,遺言執行者の権限を変えることの当否について,それぞれ問題点を指摘する意見が出されたところでございます。   このうち前者の解約のところでございますけれども,前回の御指摘を踏まえまして,本部会資料では遺言執行者に預貯金契約の解約権限が付与されるのは,預貯金債権の全部について遺産分割方法の指定がされた場合に限るということとしております。他方で,預貯金債権の一部についてのみ遺産分割方法の指定がされた場合には,円滑な遺言の執行を図る観点から,遺言執行者にその一部についての払戻権限を認めるという形で整理しております。   なお,履行期が到来しているかどうかにつきましては,払戻しに関する遺言執行者の権限につきまして,解約の申入れをする権限を有するということと整理しましたので,これで遺言執行者に強制的な解約権限がないことを明確にするということで対応しております。   続きまして,「動産の引渡権限について」でございます。   従前の部会資料では,遺言執行者については原則として対抗要件を具備する権限を付与するとしておりまして,動産についても,遺産分割方法の指定がされた場合には,その対抗要件が引渡しである場合には,遺言執行者にその引渡権限を付与するということを提案しておりましたが,この点については,遺言執行者にとって過度の負担になるおそれがあるなどとして,慎重な検討が必要であると指摘がされておりました。   そこで,今回の部会資料におきましては,遺言執行者が有する対抗要件の具備権限のうち,引渡しを対抗要件としている動産については,これを遺言執行者の権限から除外することとしております。   詳細な説明につきましては,部会資料の補足説明の方に記載させていただいたとおりですけれども,その趣旨といたしましては,飽くまでも遺言執行者を選任した遺言者の通常の意思としては,基本的に遺言執行者が単独で行うことができる職務を委任する趣旨である場合が多いと考えられますので,このように動産の引渡しの権限まで遺言執行者の権限といたしますと,動産の直接の占有者自身が任意に協力しないという場合には,その訴訟の提起までしなければならないこととなり,遺言執行者の負担が過度に大きくなること,更に動産の公示制度自体が,既に現在でも必ずしも十分とは言えないものでありますし,その動産の引渡しの方法については現実の引渡しのほか,指図による占有移転など,複数の方法がありますので,その方法のいずれを採るかにつきましては,動産の所有権を所得した受益相続人の判断に委ねるのが相当であるというようなことも思われましたので,動産についてはこれを遺言執行者の権限とはしないと,飽くまでも遺産分割方法の指定がされた場合については遺言執行者の権限としないというふうな整理をしております。   なお,このような考え方を採用した場合には,補足説明の24ページの(注1)にも記載しておりますけれども,不動産や債権についても遺産分割方法の指定がされた場合には,これは受益相続人が自ら単独で対抗要件を具備できるということになりますので,その場合にも遺言執行者の権限とする必要があるかどうかということについても,御審議いただければと存じます。   説明は以上です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   「第3 遺言制度に関する見直し」につきましては4項目ございますけれども,「1 自筆証書遺言の方式緩和」に関しては,補足説明の2に付随して,御意見を頂ければというお話がありましたが,それ以外は基本的な考え方は維持されているということでございます。   「2 自筆証書遺言の保管制度の創設」につきましては,対象をどうするかということで,民法第968条1項の所定の方式によるという点を明らかにしておりますけれども,その他は従前どおりで,「3 遺贈の担保責任」についても従前どおりとのことでした。   「4 遺言執行者の権限の明確化等」につきましては,預金の解約権限等と,それから動産の引渡権限について,一定の修正を加える提案がされているということだったかと思います。   以上について,御意見を頂ければと思います。   いかがでしょうか。 ○南部委員 ありがとうございます。   自筆証書遺言の保管制度について伺います。保管対象は民法第968条の1の方式による遺言ということなのですが,民法第968条には,外国語は駄目だということは書いていないと理解しております。そこの整合性は大丈夫かということが一つと,他国での保管制度というのはどのように扱われているのか,外国語で保管ができている事例はあるかについてお聞きしたいと思います。   一旦は以上です。 ○倉重関係官 では,まず外国語の保管制度の状況がどうなっているかという点ですけれども,この点につきましては,次回までに調べさせていただくということとさせていただきたいと思います。   それから,外国語については民法上規定がないのに,そこに縛りを掛けて大丈夫かという点についてですけれども,基本的にこの保管制度自体は遺言の有効性に影響を与えるものではございません。したがって,この保管制度の対象にならなかったからといって,外国語で書いた遺言が無効になるとか,そういう関係にあるものではございませんので,民法との関係で何か問題が生じるとは考えていないところでございます。   先ほど申し上げたとおり,どうしても制度的な限界といいますか,それを扱う部署での限界がございますものですから,制度立ち上げ時においては日本語に限らざるを得ないのではないかと,こういうふうに考えているところでございます。 ○南部委員 それは分かりました。   その上で,日本語に限るのは当分の間ということになろうかと思うのですけれども,この法律改正も何十年とされていなかったということで,今このように決められた後の今後の将来的な展望についてお聞かせいただけますでしょうか。初動は日本語のみであっても,今後この多様化している,グローバル化している日本の中で将来的にどのように対応しようとお考えになっているかということをお聞きしたいと思います。 ○堂薗幹事 自筆証書遺言の保管制度を設けた場合に,それをどういう形で実現するかという点は大きな問題としてございますが,なかなか民法に書き込むというのは難しい面があるのではないかというように思います。その辺りは今後の検討ということになるわけですけれども,新たな法律を設けた場合も,そういうサービスの対象として,どこまでの遺言を受け付けるのかという辺りの細部的事項についても法律で書き込むのか,あるいは下位の法令に委任するのかという辺りも含めて,今後検討させていただければと思います。比較的細部的な事項については,御指摘のようなことで柔軟に対応できたほうがいいということであれば,下位の法令に委任するという選択肢もあるものと考えておりますが,その辺りの法制面については,今後,法制局の方とも御相談の上,検討していきたいと考えているところでございます。 ○南部委員 ありがとうございます。 ○上西委員 今回の自筆証書遺言の方式緩和と保管制度の創設で,利用が相当伸びるものだと期待されますし,そのように予想しております。そのときの手続についてです。例えば今まででしたら,公正証書遺言を撤回しようと思えば,自筆証書でもできると理解しています。1022条に,「遺言者は,いつでも,遺言の方式に従って,その遺言の全部又は一部を撤回することができる。」とありますので,今回のように原本の返還を求めるということは公正証書遺言はできないわけですが,公正証書遺言について,今回の自筆証書遺言の保管制度を使って紛失と改変のリスクをヘッジした上で撤回することができるようになると理解してよろしいでしょうか。すなわち,公正証書遺言の撤回をすることは,自筆証書遺言でもできる。そして,今回のこの保管制度であれば,その撤回についても紛失,改変のリスクヘッジができると考えてよろしいですね。 ○堂薗幹事 はい。それはそういうことになると思います。 ○上西委員 実際に自筆証書遺言の保管制度を申請した後に,撤回したいという場合に,多くの遺言者はどのように考えるのでしょうか。撤回のための新たな自筆証書遺言を保管制度で申請するよりも,返還を求めて廃棄するケースもあろうかと思います。そうした場合に,返還を求めても,その段階ではまだ有効な遺言です。そうしますと,2の④で「遺言者は,いつでも,法務局に対し,遺言書の原本の返還を求めることができるものとする。」とあるのですが,申請のときと同じように,これも本人が出頭するようにしておかないと,改変,紛失のリスクがあることになります。特に改変が問題になります。この場面でも,遺言者本人の出頭主義を貫いたほうがよいと考えます。   それと,法務局に申請した後,例えば③で原本の閲覧があり,④で今申し上げた原本の返還があり,⑥の原本の閲覧がありますが,その当該申請した法務局に対して行うと理解してよろしいでしょうか。それと,⑤の法務局に対して照会を掛けるのは,現在の公正証書遺言の検索システムと同じように,どの法務局に対しても照会が掛けられるようにしておかないと利便性が高まりません。その旨,何か表現を足したほうが分かりやすいかなと思いました。 ○堂薗幹事 御指摘の点は,書き足すかどうか,検討したいと思います。 ○大村部会長 ほかにいかがでございますか。 ○窪田委員 すいません,さして大きな部分ではないのかもしれないのですけれども,先ほど南部委員からも御指摘があった部分で,また堂薗幹事からも一定の御説明があったとは思うのですが,外国語で書かれた遺言に関して,この補足説明の方を見ていますと,法務局において判読することができるものでなければ,それは遺言保管の対象となるかどうか判断することはできないとなっているわけですが,本人を出頭させて遺言だということが分かっていると,それで極端なことを言ったら,表のところの「遺言書」というのは漢字で書かれていて中身が外国語だった場合に,結局どういうイメージでおられるのかなというのがちょっとよく分かりませんでした。本格的に実質審査をするわけではないだろうと思いますし,公正証書遺言のような形できちんとこの内容が正しいかどうか,適切に書かれているかどうかまで判断するわけではないのだろうと思うのですが,そうだとすると,ここで書かれていることの意味というのは,一体どういうことをイメージしておられるのかなというのがちょっと気になったということです。先ほど,法律に書き込むのか,あるいはそれ以外のところで書くのかというのも,そういう話だったと思うのですが,もう少し仮に具体的なイメージというものを考えるとすると,要するに,本人が遺言だと言っていれば,その物を預かるというだけの仕組みなのか,やはり中身まできちんと確認した上で,これは遺言書だよねということが分からないと預かれないのか,その辺りはどうなのでしょうか。 ○倉重関係官 まず,法務局において実質的な審査をする義務を負うかどうかという点に関しては,それは負わないと考えているところでございます。ただし,実質的なサービスとして,無効になるようなものであれば御指摘するというような事実上のサービスができればいいのではないかなと考えておりまして,そうしますと,何でも受け付けるというよりかは,飽くまで事実上のサービスとして,ある程度法務局の方で内容を見るような制度を考えています。ただ,実際に,これを預かってくれと言われたときに,読めないから却下しますということができるのかという問題はあろうかと思うんですが,原則としては,形式的な最低限のところだけは,事実上チェックをさせていただければなと考えているところでございます。 ○窪田委員 どういう制度として設計するのかという部分にも関わってくるのだろうと思いますし,サービスを積極的にしたいということは,それ自体としてはいいことなのかもしれません。ただ,サービスをしたいのだけれども,そのサービスができないのだったら受け付けないというのは,何かある意味で自分の首を絞めているような気もしたものですから,ちょっと御検討いただいたほうがいいのかなというふうな気がいたしました。 ○堂薗幹事 その点は検討させていただきます。 ○大村部会長 そのほかいかがでございましょうか。 ○中田委員 「自筆証書遺言の方式緩和」についてでございます。   遺言の変更の様式性との関係について検討してくださいまして,どうもありがとうございました。   内容の確認なんですけれども,財産目録を遺言書の日付の当日に加除訂正によって差し替えた場合は有効であると。しかし,後日差し替えた場合には,一部又は全部が無効になるという理解でよろしいのでしょうか。 ○倉重関係官 必ずしもそういうふうに考えているわけではございませんで,要するに最後に財産目録を付け加えた行為によって遺言書が完成したと見ることができるのであれば,それ自体は遺言の作成なんだろうと考えているところでございます。   一方で,一度完成している遺言については,そこで差し替えたとすれば,それはやはり遺言の加除訂正等の変更に当たるんだろうと考えているところでございます。 ○中田委員 そうすると,日付が変わっても,当初の日付と別の日に差し替えても,それは構わない。 ○倉重関係官 それが一体として遺言書の作成と見られる事案では,それは作成として有効になる場合があるんではないかなと考えているところでございます。 ○中田委員 それは,書かれた日付とは別の日付に完成したということになるわけですね,そうすると。 ○倉重関係官 要するに,真実の作成日と違った日付が書かれた遺言ということで,現行法上でも生じ得る問題かと思いますが,その延長線として解釈することになろうかと考えております。 ○中田委員 分かりました。   ただ,今のお話でもありましたように,財産目録の後日の差し替えの場合に,それは有効な遺言なのか,そうでないのかというものの判定がものすごくデリケートだと思います。もちろん裁判の場での証明の問題ということもあると思いますが,実際に遺言書を書く人が余り意識しないまま差し替えてしまって,結果的に無効になってしまうということがあると,余り望ましくないなと思っています。結局は遺言としての一体性,あるいは完成という概念にかかっていることだとは思いますけれども,少し間違いやすいおそれがありますので,その間違いをどうしたら少なくできるかということを検討すべきではないかなと思います。 ○倉重関係官 基本的には,今申し上げたのは救済という趣旨でございまして,やはり完成自体は当日中というのが原則であろうと思っております。この点は,そうではないときにどう救済できるかという文脈で申し上げたものですので,それは積極的に,こういう場合は問題ありませんというつもりではございません。 ○中田委員 そうしますと,ますます起こり得る問題として,ある日付で作ったんだけれども,後日,財産目録だけを差し替えるという現象が起きると思うんですね。今のお話ですと,原則はやはり無効だということになる。それで,救済があれば有効になるんだけれども,原則無効だということになりますと,実際上はそういう場面というのが生じやすいのではないか。特に契印も要らないし,別にホチキスでとめている必要もないということだと思いますので,そういったトラブルが起きて,思いがけずに無効になってしまうという不利益を被らせないようにするにはどうしたらいいのかということを,もちろん制度の周知ということが前提になると思うんですけれども,なお懸念を意識した上で,何か手を打てないだろうかということでございます。 ○堂薗幹事 その点は,御指摘を踏まえて検討させていただきます。 ○大村部会長 そのほかいかがでございますか。 ○藤原委員 4番の「遺言執行者の権限の明確化等」のところでございまして,10ページのイの②の指定された財産が預貯金債権であるときというところでございまして,ここで2点ほどちょっと確認をさせていただきたいところがございます。   まず,今回の御提案の内容ですと,例えばA銀行の預金の1,000万円のうち,800万についてBに相続させると。それで,遺言執行者がある場合に,遺言執行者は800万部分の一部支払を求めることはできるけれども,預金全体を解約して1,000万を持って行くことはできないということと理解しています。   これは,金融機関における約款の用語の使い方の問題との整合性の確認なんですけれども,普通預金の場合にはこの御提案はよく理解できるところなんですけれども,定期預金の場合には,一部支払をそもそも認めていない商品があります。その場合には,今回は遺言執行者側は申入れできるだけなので,一部支払はできない旨の約款を理由にお断りはできるということは,それはそうだと思います。ただ,一部解約を認めている商品についても,今,私,一部解約と申し上げたとおり,定期預金の場合には払戻しという言葉は使っていなくて,一部を解約してお金を下ろす場合には,一部解約という用語で統一してしまっているのですが,これは飽くまで用語の定義の仕方であって,今申し上げていることも,今回の御提案では,いわゆる一部払戻しとお書きいただいているものに相当するということでよろしいですねという,これは単純な御確認です。   次に,先ほど申し上げたとおり,1000万のうち800万という相続させる遺言で,遺言執行者がいる場合に,全額は解約できませんということになる場合に,こういうことができるかどうかという確認なんですけれども,遺言執行者は,当該預金の全部を一旦解約するんだけれども,解約したうちの800万だけ一部払戻しを受けますと。残りについては引き続き金融機関が,例えば定期預金だったものを別の普通預金という形で預かり直す,それは遺言執行者名義であると。こういったことは,今回の規律でいくと,遺言執行者名義になった瞬間に遺言執行者が管理権限を有するものになってしまうので,できないということであるのか,いや,それとも,ちょっと見方を変えて,遺言執行者名義ではできないんだけれども,元々の被相続人名義で,例えば金融機関の別段預金か何かで,引き続き預金の契約,性質を変えないで預かり直すというようなことが仮にできるのであれば,それは禁止する趣旨ではないということなのか,すいません,ちょっとテクニカルな問題なんですが,そこを確認させていただきたいということです。 ○堂薗幹事 まず,1,000万の預金があって,そのうち800万円をAさんに取得させるという点につきましては,御指摘のとおり,遺言執行者は全体の解約はできないけれども,800万円の払戻しを申し入れることはできるという理解でございます。   定期預金の場合に,一部解約という取扱いがされているということでございますが,ここの趣旨としては,契約を全体として解約するには,その預貯金全部について誰かに帰属させるという遺言がなければいけないという趣旨でございますので,定期預金のような場合にも,銀行側で一部の払戻しに応じると,一部解約という形で払戻しに応じることは可能であるという整理でございます。最後の点はなかなか難しいところはあると思いますけれども,原則からいきますと,1,000万のうち800万ということですので,全体の解約はできないということにはなるわけですけれども,この規定の趣旨は,要するに800万円誰かに取得させるという遺言がされているにもかかわらず,1,000万円を遺言執行者に払い戻すというのは,それは行き過ぎではないかという趣旨でございますので,200万円,銀行に残るような形で仕組まれているのであれば,この規定の趣旨には反しないという解釈があり得るのかどうかということだと思います。   ただ,基本的には全体を解約することはできないという整理でございますので,ここの②の規律を文言どおり素直に解釈いたしますと,なかなか難しい面があるのかもしれません。 ○藤原委員 例えば,その残りの200万円部分が,特に遺言による指定がなく法定相続になりますというような場合には,その残りの200万円を預かり直したものについてきちんと遺産分割後にそれを確認して,その確定した人に払い戻すという運用であれば,特に問題なかろうということでよろしいですか。 ○堂薗幹事 基本的には,そういう運用であれば,ここに書いてあるような趣旨には反しないということになるとは思います。 ○藤原委員 ありがとうございます。   すいません,続けてもう1点でございます。今度は預金商品以外の金融商品についての遺言執行者の解約権限ということで,これは従前から,浅田委員の頃から,この権限を預金以外の金融商品等についても加えていただきたいという要望はさせていただいておりましたが,そうなると,特に相場ものの投資信託とか国債ということが入ってきますので,いつ解約するかによって価値が変わってしまうため,その解約のタイミングの権限を遺言執行者に与えるということが,なかなか遺言執行者の権限として難しかろうということで,取り上げられていないという理解ではございます。   それは,確かにおっしゃるとおりかなというところもございまして,ただ,現行は,特に遺言執行者に就任をされることの多い弁護士の先生等からは,何で一緒に解約できないんだということを強く申入れを頂くことがございまして,ただ,今までは,全部解釈に任されていた世界でしたので,そういった遺言執行者の弁護士の先生の解釈の下,そういった申入れがなされて,金融機関側の解釈と違って店頭でトラブルになるということがあったんですけれども,今回こういった形で,明文の規定でどこまで金融機関の商品を解約できるのかというところがはっきりすれば,そこはきちんと予測可能性ができたということで,そういった従前のトラブルは回避できるのかなとは思っております。   なので,例えば,生前の預金者が,遺言執行者に,預金以外の商品についても解約権限を与えるよう遺言に記載して,遺言執行者に解約権限を与えること自体は今回否定されていないという御提案ですので,そういう意味では明確になった提言かなと思っておりまして,歓迎をしておるところでございます。   ただし,これは新しい制度全般に言えることでございますけれども,ここの部分については,今までそういった遺言執行者の方と金融機関との間での解釈の齟齬によるトラブルがあったということも踏まえて,預金のみがこういった形で解約権限を有するということについては,是非ともいろいろな形で周知解説をお願いしたいというところでございます。 ○堂薗幹事 預貯金以外のものについて,何も遺言に書いていない場合には解約できないと,要するに,イの②に当たらないものは解約できないというところまで,規律したものではないという整理でございます。預貯金については,この点の規律を明確化してほしいという要望の強いところでございますし,預貯金の限度であれば,先ほど御指摘いただいたような問題は生じないので,解約時期如何によって相続人の利益を害し得るというような問題が生じないので,預貯金債権についてはこういう形で規律ができるだろうということです。   他方,飽くまで預貯金債権に関する規律として書いていますので,それ以外のものについて解約権限はないというところまで,この規定が含意しているわけではございませんので,それ以外の契約については,それぞれの遺言の解釈として判断するという前提です。   ただ,預貯金債権について解約権限を認めた趣旨は従前から申し上げているとおりでございますが,このような規律を設けることによって,ほかの契約について解約権限があるかどうかを解釈するに当たっても,参考になるのではないかと思います。要するに,預貯金債権に近いものについては解約権限が認められやすくなるでしょうし,先ほどのような解約時期によってかなり金額が変動するようなものについては認められないというような解釈がされやすくなるのではないかと考えているところでございます。 ○藤原委員 ありがとうございます。   そうすると,1点御確認でございますけれども,ここで,イで遺産分割方法の指定がされた場合というのは,いわゆる相続させる遺言,特定の財産を特定の相続人に相続させる旨の遺言を念頭に置いているものと理解しておりますけれども,そのときに,先ほどの動産のところの解説でもあったとおり,従前の解釈では,その場合には基本的には遺言執行者の遺言執行の余地がないと解されてきた部分が,特に不動産を中心に多いと思うんですが,そこは引き続き預金以外のものについては,その従前の解釈の流れを引き継ぐという理解でよろしいのでしょうか。 ○堂薗幹事 不動産について,受益相続人本人が単独で申請ができるので,原則として遺言執行者の権限は顕在化しないとか,その辺りは基本的に引き継ぐのではないかと思います。   他方,先ほど説明いたしましたとおり,今回の部会資料では,そういった本人ができるようなものについてまで遺言執行者の権限として認める必要があるのかどうかという辺りについては,部会資料の22-2の24ページの(注1)のところで問題提起をさせていただいているところでございまして,その点については是非御議論を頂ければと思います。その点については,動産の引渡しを遺言執行者の権限から外すことと併せて御議論いただければと考えているところでございます。 ○潮見委員 そのところですが,動産の引渡権限だけを外すというのは,考え方としてはあるのではないかとは思います。ただ,その上でのことですが,その理由として,23ページのところにいろいろお書きになっているのが,これが果たして説得力があるのかというところについては,本当かなと思うところがあります。そこには,そこで書かれている理由は大体三つぐらいにまとめられます。   一つは,遺言者の通常の意思というのは,遺言執行者に訴訟追行まで委ねる意思はないからと,この場合に動産は引渡しは除外するというものです。   二つ目は,動産の公示制度が必ずしも十分なものとは言えないからというものです。   三つ目は,動産の引渡しの方法についてはいろいろあるから,どれを採るかは受益相続人の判断に委ねるのが相当であるというものです。   しかし,このうちの2番目の動産の公示制度が必ずしも十分なものとは言えないからというのは,これは果たしてどこまで説得力があるのか分からないですし,1番目の遺言執行者に訴訟追行まで委ねる意思はないとかいうことを強調すればするほど,(注1)のようなところにも引っ掛かってきて,それでは,その動産だけを除外,引渡しを除外するということではなくて,そもそもこのようなルールを作ること自体がいかがなものかというところにもつながっていくのではないかとは思います。さらに,第三の理由も,私にはよく分かりません。むしろ,昔の最高裁の判決にあったと思いますけれども,相続させる遺言で,物の占有管理については,基本的に受益相続人自身が行うことを前提としているというのが遺言者の意思なのだという説明があるので,むしろ理由としては,そちらの方がまだ説得力があるのではないかという感じもしたわけです。そう考えると,動産の引渡しだけを除外するというのはここでは分かるし,(注1)のような展開にも至らなくていいのかなとは思いました。   ただ,本当にこれでよいのかはいろいろな見解があるのではないかと思いますし,またパブコメでもこの辺り聞かれるのか,さらに検討したほうがよいのではないかと思います。 ○中田委員 今,潮見委員は,23ページの第2パラグラフ以下の理由が十分説得的ではないのではないかということをおっしゃいまして,ただ,結論はこれはあり得るということで,私も結論はこれはあり得るとは思っております。   私は,むしろ23ページより前の22ページから23ページにかけての理論的な説明の部分で,十分理解できなかったところが何点かございます。例えば,「動産の対抗要件制度においては,直接の占有者の認識をもって公示に代えている」という説明ですとか,「相続による動産の物権変動についても対抗要件主義を適用し」とか,あるいは「観念的な占有の移転では対抗要件とならない」という,かなり物権法の根幹に触れるようなところについての大胆な御説明がされているなと思いました。   その中で,一つだけを申しますと,現在の178条は,動産の物権変動のうちの譲渡に限って引渡しを対抗要件としておりまして,そこに解除とか取消しまでは入るけれども,相続による承継は入らないというのが一般的な理解だろうと思います。部会資料は,これまでは遺産分割方法の指定と相続分指定という意志的な要素を含むものについて,遺産分割と同じように対抗要件主義を採用しようということだったと思うんですが,今回の部会資料では,相続による動産の物権変動という一般的な書き方をして対抗要件主義を採るというようになっているんですけれども,相続一般について対抗要件主義を採るんだとしますと,178条だけではなくて177条,不動産についての問題にも及んでくるような気がいたします。   他方で,遺産分割方法の指定と相続の指定を,相続による承継ではないというように性質決定するんだとすると,それはそれでまた大きな議論を呼び起こすことになりそうだと思います。いずれも制度の本質に関わることで,かなり検討を要すると思いますので,少なくともここの記述の部分については,もう少し慎重にしたほうがいいのではないかなと思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   増田委員,今の点に関連してですか。 ○増田委員 若干関連して。   動産の引渡しを訴訟までしなくてもいいんだという点については,それはありだろうとは思うんですが,(1)の①の遺言執行者の一般的な権限等との関係で,動産を任意に受領して引き渡すということもしてはいけないのかどうか,そこのところを確認したいんです。いけないのだとしたら,例えば貸金庫の中に動産があれば,それは任意に引渡しを受けられることは確実なのですが,遺言執行者は貸金庫を開けて,ああ,ありましたねと確認はできても,その動産は受け取れないことになります。それで,貸金庫を閉じて,では,受益相続人に取りに行ってくださいと言っても,受益相続人は貸金庫を開けられないという状況もあり得るわけです。   別の場面では,当該動産を別の相続人が占有していて,受益相続人が行っても多分引渡しは受けられないだろうけれども,遺言執行者という第三者が行けば,事実上,引渡しを受けられる可能性が高いというようなケースもあり得るということを考えると,(1)の①の解釈の中で,任意に受領して引き渡すということまで含めないかどうか,そこのところはどんなものなのかなと思ったんですが,いかがでしょうか。 ○堂薗幹事 その点は,今のこの規律でいきますと,従前は,引渡しについては遺言執行者の権限に含めないと書いていたわけですが,今回はイの①で,要するに対抗要件具備行為のうち,引渡しを対抗要件とするものは除くということですので,直接的には引渡しのことは規定していないということになります。ですので,その点は従前どおり,この4の(1)の①の遺言の執行に必要な一切の行為と言えるかどうかというところで判断をするということにはなるんだろうとは思います。要するに,対抗要件を具備させる権限はないということにはなりますけれども,任意で遺言の執行のために引渡しをすることまで否定されるかどうかというのは,従前どおり遺言の解釈によって決めるということになるのではないかと思っております。   そうすると,貸金庫の場合も同じような問題は生じることになるわけですけれども,特に貸金庫のような場合については,どういった人に返還をするのかという辺りも含めて,契約上の措置をすることで対応できないかということも考えているところでございます。   それから,先ほどの中田委員の御指摘の関係ですけれども,従前から御説明しておりますとおり,相続について対抗要件主義の対象とするといっても,実際に対抗関係が生じるのは法定相続分を超える処分がされた場合に限られますので,「相続による物権変動についても対抗要件主義を適用し」というのは,結果的には,遺産分割方法の指定と相続分の指定と遺産分割がされた場合,これらの場合で,法定相続分を超える権利変動が生じた場合を念頭に置いているということでございまして,そういった意味で,法定相続分での変動を含めた相続による物権変動一般についてという趣旨ではございません。その点について誤解がないように,今後,部会資料を作る際には注意をしたいと考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   潮見委員,中田委員からは,結論についてはいいかもしれないけれども,それを導くのに過不足のない適切な理由をしてくださいという御要望があったかと思います。今,堂薗幹事が最後に触れられた点はそこに関わると思いますけれども,いずれにしても理由の方は少し見直していただくということにしたいと思います。 ○藤原委員 増田委員との中で貸金庫の話がちょっと出ましたので,そこについて一つ追加で御確認をさせていただければと思います。   現在の法制下における貸金庫の相続の運用は,相続人又は遺言執行者,受遺者における中身の確認,つまり,中に何が入っているかというのを一旦開庫して確認をするという行為と,その中身を誰に引き渡すかという行為は一応別ものとして考えておりまして,中を開けて,それを見て何が入っているか,まず確認をしてもらうという行為そのものは,これは実務上金融機関も応じております。ただ,それを誰に引き渡すかというのは正にこれは権限がある人かどうかということになってまいりますので,相続人全員の同意があれば当然引き渡すわけですけれども,遺言があって,今回想定しているような相続させる遺言で,特定の動産について特定の相続人にこれを相続させるとあって,現に当該動産が貸金庫の中に入っておりましたという場合に,それを相続させる遺言で指定された相続人に引き渡すべきなのか,それとも遺言執行者に引き渡すべきなのかというのは,それは現在も正に解釈問題ということでございます。   遺言の中に,遺言執行者にその受領権限があると書いてあれば,当然遺言執行者に引き渡しますけれども,何も書いていない場合は,現状の金融機関の運用としては,一応解釈としては,もうその遺言の物権的効力によって,その所有権は特定の相続人に移っておりますので,それ以上,何か遺言執行者がやることはもはやないのではないかという解釈もあり得るところでございまして,遺言執行者への引渡しはせず,受遺者側に引き渡すというふうな運用をしておる金融機関もありますし,そこの部分については,正に遺言執行者が引渡しを受けて,それをその受遺者に渡すこと自体が遺言の執行であるという解釈も,これまたあり得るところでございまして,遺言執行者に引き渡すという運用の金融機関もございます。さらに,そこの部分の解釈が分かれていることを理由に,遺言執行者と受遺者,両方立ち会っていただいて,両者にある意味引き渡すというような保守的な運用をしておる金融機関もあるというのが正直なところでございまして,今回のこの御提案ですと,そこが今後は明確になるのか,それとも引き続きそこは同じく解釈問題になるのかというところは,確認しておきたいところでございます。 ○堂薗幹事 今回の規律で,そこは明確になると断言できるようなものではないんだと思いますので,引き続き解釈に委ねるということにはなるんだと思います。ただ,対抗要件として必要な場合でも,引渡しは遺言執行者の権限から外れるということになりますので,この規定からすると,一般的に引渡しについては権限がないというような解釈がされやすくなるという面はあるように思います。 ○藤原委員 すいません,もう1点よろしいでしょうか。   先ほど堂薗幹事の方から,正に貸金庫のところで約款というか約定での対応のお話が出ましたので,もしちょっといろいろな委員の方の御意見を伺えればと思いまして,例えば遺言執行者の引渡権限を貸金庫の約款の中に書いたような場合に,果たして,生前貸金庫の契約者が結んだ契約の効力が,その方の死後,相続人のみならず,遺言執行者にどこまで及ぶものなのかというところについて,今までそういう約款を,契約者の死後に関する約款を設けるという発想自体がなかったものですから,全く定見がない中で,仮にそのような約款対応をした場合にどのように考えればよいのかなというところにつきましては,委員の方の御意見がもしあれば,伺えればと思っているところでございます。 ○大村部会長 どなたか御発言があれば伺いますけれども。 ○山本(克)委員 動産の引渡しうんぬんがちょっと理解,私よく分からないんですが,これは対抗要件である引渡しは,遺言執行者が支配を確立している動産を取得すべき相続人に引き渡すことだけなのではないのかなと思っていたんですが,これは第三者,関係のない者が占有している者に対して引渡請求をするということも,引渡しだという立場に立っているということなんでしょうか。 ○堂薗幹事 そうですね。第三者が持っている場合も,何らかの形で引渡しを受けなければ,その動産については対抗要件を具備しないという理解の下で,そこを遺言執行者にさせるかどうかを問題としており,今回の規律は,そこは遺言執行者の権限とはしないというものです。 ○山本(克)委員 任意にその人が,これは指定されていますよねといって,占有者が渡してくれたというときに,引き渡せないということなんですか。 ○堂薗幹事 今回の規律は,対抗要件具備と関係ない場面で,遺言執行者に引渡しや物の受領権限があるかどうかという点については明確にしていないという理解です。 ○山本(克)委員 今の対抗要件と全く関係ないんですか,そこはよく分かんないですが。任意に遺言執行者が占有を取得して,それを引き渡すという対抗要件ではないという御理解で……。 ○堂薗幹事 それは,基本的に遺言執行者が使者として本人に渡しているのかどうかということだと思いますが,もちろん第三者が占有している場合でも,受益相続人に現実に動産が引き渡されれば,それは当然対抗要件としても具備しているということにはなると思います。 ○山本(克)委員 よく分からないんですけれども,遺言執行者が誰の,訴訟担当の言葉で言えば,被担当者は誰かという問題について,私は何か議論が混乱しているとしか思えない。つまりここだと,受益相続人が被担当者であるかのような前提で書かれているんですけれども,そうなんですか。私はそういうふうには思っていなくて,元々,言ってみれば被相続人の代わりに事柄を行うものであって,受益相続人はむしろ相手方であると。つまり,利害対立している相手方のためになぜ働かなければいけないのかということがそもそも問題で,問題は,だから,占有を自分のところに取得するという権限しかそもそも,相手方にそれを渡す,請求に応じて渡すという構造になるんで,受益相続人のあたかも利益代表者のようにして,受益相続人のために働くことが前提になって,こういう制度設計をすることがもう一つよく分からないんですけれども,特定遺贈の場合も同じ構造になるんでしょうか,これと。 ○堂薗幹事 遺贈はまた別です。これは飽くまで遺産分割方法の指定がされた場合の話ですので,遺贈については(2)のアでありますように,遺言執行者が遺贈の履行をする義務を負うということになりますので,それは引渡しも含めて遺言執行者の権限に含まれることになります。 ○山本(克)委員 第三者から引き渡してもらって,渡すということですね。それと同じ構造を採らないのはなぜなんでしょうか。 ○堂薗幹事 そこは,基本的に,遺産分割方法の指定と遺贈との違いとして,遺言執行者がいる場合はともかくとして,遺言執行者がいない場合には,受益相続人以外の相続人が引渡義務を負うのかどうかという点について違いがありまして,遺贈の場合は当然受益相続人以外の相続人がそういう引渡義務を負うわけですけれども,相続させる旨の遺言の場合には,受益相続人以外の相続人は引渡義務を負わないこととされており,その違いを反映させたものという理解です。 ○山本(克)委員 分かりました。分かりましたけれども,それだと訴訟の権限がないという理由付けは,もうおよそ成り立たないのではないですか。つまり遺贈の場合には,特定遺贈の場合はやらざるを得ないわけですよね。そんなことまで遺言者は考えていないという理屈立ては,まず考えられないわけですよね。この場合はなぜ,ここだけがなぜそういう理由付けになるのか,潮見委員がおっしゃったことと同じことになるのかもしれませんが,なぜこの場合だけ取り上げられるのかというのがもう一つよく分からない,より一層分からなくなる。 ○満田関係官 確かに,遺言執行者の役割というところで,遺贈の場合と遺産分割方法の指定の場合というのはちょっと違うものになっていると思いまして,従前,現行法上,遺産分割方法の指定の場合には,特に全相続人が何か受益相続人に対して行う義務というものは基本的に観念できないとされていたと思いますし,そういう意味で,正に遺言執行者というものが,現行法上は遺産分割方法の指定の場面で何か登場するというのは,余り想定はされていないと思われます。正に受益相続人が自分一人でやればいいので,ほかの全相続人を正に代表して何かをしなければいけないということは,余り想定されていなかったのかなとは思っております。   それで,正にこの遺産分割方法の指定がされた場合に,対抗要件の具備権限を遺言執行者に与えてしまうと,それは一体誰の代わりとしてやっているのかという問題は出てくるのは山本(克)委員がおっしゃっていたとおりで,正にそれは受益相続人の代理人としてやるというのか,それとも中立的な立場でやるのかという問題が出てきますので,対抗要件の具備権限等について,正に受益相続人が自分で一人でやればいいものを遺言執行者に与えるかという点については,正に遺言執行者をどういうふうに位置付けるかというところと,ちょっとセットで考えないといけないのかなとは思ってはおります。 ○山本(克)委員 遺言執行者が支配を確保している場合に,渡すことはできるんですか。 ○満田関係官 イの場合に,その占有を確保している場合というのがどういう状況かというと,正に貸金庫のものを任意に受け取ったとかという場合になるとは思うんですけれども,そのときに,この①の規律があれば対抗要件を具備する権限はありますので,イの①の規律。ただ,そこは動産の引渡しを除くとなった場合に,どうなるかというところは問題にはなるんだとは思いますので,ちょっとそこは検討させていただきますけれども,ただ,それを現実に引き渡せば,それは受益相続人にとっては現実の引渡しで対抗要件を具備していると考えて,特に問題はないかなとは思うんですけれども。 ○山本(克)委員 そうなんですか。いや,それが全体,私の原案の理解が全然できていないということなのかもしれませんが,そういうふうには全然聞こえなかったので。 ○満田関係官 少し,遺産分割方法の指定の場合にどうなるかというのは,ちょっと検討させていただければと思います。 ○増田委員 今の話は,前々回の部会資料20にあった③を外したことによって,結局自分が持っている,自分が占有を確立している動産でも,それを受益相続人に引き渡してはいけないというメッセージを与えるのではないかという問題だと思うんですね。それはいかにもおかしな話だろうと思うので,もう少し考えてもらったほうがいいのではないかということです。 ○堂薗幹事 ここで書いているのは,飽くまでもほかの相続人,あるいは第三者が占有している場合に,自分でその引渡しを求められるかどうかということで考えております。遺言執行者が既に支配を確立している場合に,それを受益相続人に引き渡せないというのはおかしい感じがしますので,その辺りについては御指摘を踏まえて再度整理をしたいとは思いますけれども,今回の提案は,飽くまで,一般的に引渡権限があるかどうかという点について,遺産分割方法の指定がされた場合については明確に規定せず,ただ,引渡しを対抗要件とする動産の場合に,対抗要件として具備させる必要はないというところだけを規定しているという前提です。その結果,それ以外の部分が不明確になっているので,今のような問題が生じるんだと思いますので,その点については再度検討させていただいて,整理をしたいと思います。 ○山本(克)委員 ちょっと関連して,もう一つお伺いします。   不動産について相続させる旨の遺言があって,被相続人のところにまだ登記が残っていると。それで,その効力についていろいろと争いがあって,受益相続人が不動産の相続による移転登記請求をするという訴訟をするというときに,被告適格者は誰だと考えているんでしょうか。 ○堂薗幹事 すいません,受益相続人のところに登記は。 ○山本(克)委員 登記は被相続人にまだ残っている。  それで,受益相続人とその他の相続人の間で相続の効力について争いがあると。それで,受益相続人が相続の登記を請求すると,移転登記を請求するときに,訴訟上,被告適格者は誰にあるということになるんでしょうか。 ○堂薗幹事 その場合は,被相続人名義であれば,受益相続人が単独で登記申請はできます。 ○山本(克)委員 できるということですか。 ○堂薗幹事 はい。なので,遺言執行者が出てくることはないという理解です。 ○山本(克)委員 それで,そことパラレルに考えていくと,動産でもそう在るべきだというお考えですか。 ○堂薗幹事 はい。 ○山本(克)委員 分かりました。   不動産の場合は,そういう登記法上のある種の考え方があるので何とかなるけれども,動産の場合に,でも,やはり遺言執行者が占有を確保することと渡すということは,やはり分けて考えないとまずいのではないですか。 ○堂薗幹事 そこは再度整理したいと思いますが,不動産登記法において,相続の場面で単独申請ができる理由としては,先ほど申し上げましたように,相続の場面では他の相続人がそういった権利の移転義務を負わない,そこは遺贈と違うところがあるので,単独での登記申請を認めざるを得ないということがありますので,正にそれとパラレルに考えて,この場合は受益相続人も物権的請求権等ができますので,それはそういう手段がありますと。それで,不動産の方については,本人ができる以上,遺言執行者についてはその権限が顕在化しないという判例がありますので,それとパラレルに考えたという面はございます。 ○中田委員 これまでの御議論を伺っていて2,3あるんですけれども。一つは,遺言執行者の引渡権限と引渡義務との関係を整理したほうがいいのではないかと思いました。   それから,その義務に関してですが,今のお話でも,遺言執行者の立場ってなかなか微妙だなと思いまして,前々から義務についての規律を明確化していただければと申しておりましたが,それは難しそうだということで今回入っていないと思うんですけれども,気持ちは変わりませんので,条文化の段階ででも何か工夫していただければと思っております。   3点目ですが,遺産分割方法の指定及び相続分の指定と178条との関係について,先ほど堂薗幹事から御説明いただいて大体分かったんですけれども,三つの可能性があるように思います。一つ目は,遺産分割方法の指定等は,相続ではなくて譲渡だから178条が適用されるという考え方,二つ目は,相続なんだけれども,178条を拡張して適用するという考え方,三つ目は,譲渡ではないんだけれども,178条の規律を借用するという考え方です。このような可能性があり得ると思うんですが,その辺り,どれになるのかを整理していただければと思いました。 ○堂薗幹事 基本的には譲渡ではない,したがって,178条の適用場面ではないんですが,相続の場面でも,そういう意思表示が介在するようなものについては,178条と同様の要件を備えなければ第三者には対抗できないという規律を新たに設けたと,そういう整理です。したがって,債権のところも同じような整理をしております。 ○中田委員 分かりました。 ○堂薗幹事 それから,遺言執行者の権限と義務を,そもそも分けることができるのかというところは,こちらとしてはかなり疑問に思っておりまして,やはり権限として認める以上は,その権限の行使について,善管注意義務なり何なりを負うことになるのではないかと思います。したがって,その引渡しについて権限はあるけれども,そういった義務は負わないというような規定は置けないのではないかということがございまして,今のような規律にさせていただいているというところでございます。 ○中田委員 ありがとうございました。   規定としてそうなるという御趣旨は分かったんですが,ただ,今まで出ている議論としては,やはり二つの線の議論が出ておりまして,そこはやはり整理する必要はあるのではないかと思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   結論もさることながら,今の中田委員からの御指摘がありましたけれども,説明のところで考えるべき問題もかなりあるようですので,引き取らせていただいて,再度整理をしていただくということにしたいと思いますが,今日の段階で更に今の点について御指摘があれば伺います。いかがでしょうか。 ○増田委員 皆さんのおっしゃっているとおりなんですが,遺言執行者が何ができて,何はできないのか,何はやってもいいのか,その辺りはきちっと線引きはできるようにしていただきたい。遺言執行者というのは非常に孤独な仕事でして,四方八方から責められ,トラブルの多い状況にありますので,是非その点を御考慮いただいて,その辺りを明確にしていただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今の御意見も踏まえて,検討していただきたいと思います。   第3につきましては,ほかに何か御指摘ございますでしょうか。 ○沖野委員 今回,修正の入った第3の4の(3)のところですけれども,例えば,第三者に一定のことを行わせてもいいけれども,その場合には特定の事務所を使うようにというようなことを遺言者が書いていたときには,そして使っても使わなくてもいいんだけれども,しかし,やむを得ない事由があってやはり使うということになったときには,恐らくその事務所を使わないといけないことになるのではないかと思うんですけれども,訂正された形で,果たしてそれが実現できるのか,具体的には信託法35条の規定などが気になっておりまして,問題がないか,もう一度御検討いただければと思います。 ○堂薗幹事 検討させていただきます。 ○大村部会長 では,御検討いただくということにさせていただきたいと思います。   ほかに,第3につきましてはよろしいでしょうか。   それでは,第3につきましては御意見を伺ったということで,「第4 遺留分制度に関する見直し」に進ませていただきます。   事務当局の方から,また説明をお願いします。 ○神吉関係官 それでは,大分時間も押しておりますが,第4につきまして御説明させていただきます。   まず,ゴシック部分の1,(3)の「現物給付に関する規律について」でございますが,これまでの部会資料における甲-3案の考え方に,遺留分権利者の指定財産の拒絶権を与える考え方を提案として掲げております。   なお,現物給付の拒絶権の時的限界,1の(3)の④の規律でございますが,委員等から2週間以内では短すぎるのではないか,1か月程度が適当ではないかという御指摘があったことを踏まえまして,2週間又は1か月という二つの案を提示しているところでございます。   また,そのほかの修正箇所についてですが,ゴシック部分の(2)につきましては,減殺の順序を定める民法1033条から1035条までについて,受遺者等又は受贈者の負担額に関する規律として,その実質を維持することを提案するものであります。   なお,ゴシック部分におきまして,「受遺者等又は受贈者が相続人である場合にあっては,当該相続人の遺留分額を超過した額」を遺贈等又は贈与の目的の価格とするものするとしておりますが,これは民法1034条の「目的の価格」に関する現行法の解釈といたしまして,受遺者等が相続人である場合には,その遺留分額を超過した額を「遺贈の目的の価格」とするという解釈が有力でありまして,判例もこの解釈を採用していることから,この点を明らかにすることを提案するものであります。   また,現行法におきましても,相続分の指定や遺産分割方法の指定による遺産の取得につきましては,遺贈などと同様,減殺の対象となっているところ,この点を明らかにする観点から,(1)におきまして「受遺者(遺産の分割の方法の指定又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下「受遺者等」という。)」と整理しておりまして,遺留分侵害額に相当する金銭の支払請求をすることができると整理をしております。   また,「2 遺留分の算定方法の見直し」と「3 遺留分侵害額の算定における債務の取扱いに関する見直し」につきましては,実質的な変更点はほとんどありませんが,今回の部会資料におきましては3の②の規律を付け加えております。この②の規律につきましては,受遺者等又は受贈者が,相続債権者に対して遺留分権利者が負担すべき債務の弁済等をした場合に,求償権を取得することがあるところ,①の請求によって遺留分権の行使によって生ずる金銭債務が消滅した場合には,その求償権は消滅した金銭債務の限度において消滅するというものであります。   ①の消滅請求をした後に,求償権の行使を認めると,受遺者等又は受贈者が実質的に二重の利益を得ることになって相当ではありませんが,この点の規律が必ずしも明確ではないと考えられることから,これを明確にする趣旨ということとなります。   以上,御説明させていただきました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   現物給付に関する記述につきましてはいろいろ御議論を頂いたところでございますけれども,その他の点も含めまして御提案を頂きました。   一括して御意見を頂ければと思いますが,いかがでしょうか。 ○中田委員 現物給付についての懸念はこれまで何度か申し上げましたので,繰り返すことはいたしません。ただ,この規律は,受遺者等は遺留分権利者が拒絶しそうな財産を指定するという方向に誘導して,何というか,遺恨を残すおそれがあるのではないかと思います。裁判所の御負担はありますけれども,従前の甲-2案の方が,まだ全体としての紛争の抑制に資するのではないかと思っております。   ただ,多分それは少数意見だろうと思いますので,それ以上は申しません。そこで,規律内容について伺いたいのですけれども,甲-3案というか,今回の御提案を採ったときに,受遺者等の指定した財産に対して遺留分権利者が不当だと考えたときに,どのようにして争うことになるのかということについて教えていただきたいと思います。   まず,指定財産を受け入れた上で,それが遺留分額に満たないと考える場合には,差額を請求するということになるのではないかと思うんですけれども,それはどの裁判所に,どういう形で申し立てをするのかということです。   それから,もう一つは,遺留分権利者が受遺者等の財産の指定が権利濫用であると考える場合には,その財産を拒絶した上で,その指定が無効であるということの確認の請求と,それを前提とするところの遺留分額全額の支払請求になると思うんですけれども,それはどの裁判所にどういう形で申し立てればよいのかということでございます。   仮に後者の場合に,遺留分権利者が敗訴すると,結果的には不要な物を押し付けられ,かつ金銭も減額されるという結論になりそうなんですけれども,そういう理解でよろしいかどうかを教えていただければと思います。 ○神吉関係官 御説明させていただきますと,基本的に訴訟構造といたしましては,遺留分権利者が,その遺留分侵害額に相当する金銭を計算いたしまして,例えば1,000万円の金銭請求を受遺者側にすると。それに対して,受遺者側がそのうち,自分が受けた遺贈のうち,ある物で,不動産で返しますと。それが200万円相当だとして,それで返しますと意思表示したものとします。そうすると,その200万円相当の遺留分侵害額の金銭債権が消滅をし,残りの800万円については金銭債権が残ると。そして,遺留分権利者としては800万円の支払を求めることができると。以上のように整理できるかと思います。遺留分権利者としては,200万円の不動産について,それは不要なものだと思えば放棄もすることはできるし,かつそれが本質的に権利の濫用に当たるようなケースについては,その指定が権利の濫用だという主張も一応はできるのではないかと思っております。   訴訟構造としては,まず遺留分権利者が請求原因として遺留分の侵害がされたとして金銭請求をすると。次に,受遺者側は,遺贈に係る物で現物給付する旨の意思表示をし,金銭債務の全部又は一部の消滅を主張する,それは金銭債務消滅の抗弁になるかと思います。更に,遺留分権利者としては,その現物給付の主張について,それを権利の濫用に当たり無効である,そういう再抗弁を出すという形になるんではないかと思います。それで再抗弁が認められれば,その指定が無効だと証明されて,1,000万円の金銭請求が認められるという形になるのではないかと思っております。 ○中田委員 それぞれの裁判をどの裁判所にどういう形で起こすのかということ,それから,権利濫用の主張が認められなかったときには,結果的には不要なものを引き取り,かつ金銭債権が減額されるという理解でいいかどうかという点は,いかがでしょうか。 ○神吉関係官 いずれにしても民事訴訟になるかと思いますので,地方裁判所若しくは簡易裁判所で主張立証が交わされるという形になるかと思います。   また,権利の濫用の抗弁が認められなかった場合には,御指摘のとおり指定については有効だということになり,再抗弁が成り立たなかったことになりますので,金銭債務のうち200万円部分は消滅し,かつその不動産についての権利は遺留分権利者に移ると,そういう整理かと思います。 ○潮見委員 権利濫用というのは分かるんですが,どういう観点から評価をして権利濫用だという結論を導いていくのですか。少なくとも,どういう要素を見るのか。それから,その要素をどう評価していくのか。権利濫用というのはなかなか認められませんよという,そういう話はちょっと置いておくとしても,それ以前の問題として,権利濫用という判断枠組みが明確でなければ,結局は権利濫用という主張が封じられて,前から多分問題になっているのではないかと思いますけれども,遺留分権利者から見たら余計なものを結果的に押し付けられるという機会が増えてしまうのではないかということにもなりそうなものですから。私は前から金銭請求権一本でやってほしいと言っていて,もうそれは通らないのは分かっているのですが,だからこそ,では,どうなるのというところが気になってしまいますので,お教えいただければと思います。 ○神吉関係官 どういった場合に権利濫用となるのかということにつきましては,部会資料20の40頁以下で詳しく御検討させていただいたかと思うのですが,例えば遺贈の対象物として複数の不動産があって,その一部の何でも返せる状態にあるにもかかわらず,一部の不動産については,例えば産業廃棄物がたくさんあってほとんど価値はなくて,それを渡したら逆にマイナスになるようなものがあったときに,嫌がらせ目的でそれを渡した場合に,事案によっては権利濫用に当たることになるのではないかと思います。ただ,前回の部会におきまして中田委員から御指摘いただいたとおり,遺留分権利者側から指定財産の放棄を認める制度を設けることによって,そういった権利濫用の主張は認められにくくなるのではないかという,そういった面はもしかしたらあるのかなとは思っております。   ただ,一般論としては,いろいろな要素を総合的に考えて,あえてそんなものを渡さなくてもいいのに渡したという場合には,権利濫用と評価されることはあり得るのかなとは思っております。 ○潮見委員 今の権利濫用と言われた例というのは,まず,どちらかといったら主観的な悪性というものが非常に厳しい例であって,そういう極端な例はそうなのかもしれませんが,むしろ普通に上がってくるようなパターンでどうなのかというところについて疑義があるのです。   それから,放棄という形でやっちゃうと,放棄することしか方法はないということになりますから,そうしたら,放棄した後は残った部分だけで満足をするということになるんですよね。そういう結果というものが果たして受け入れられるのかというところについて,若干疑問はあります。 ○堂薗幹事 基本的に,遺留分権利者にとって要らないものを指定したという場合に,同じように受遺者側から見てもそれは要らないものだからということであれば,それは基本的に同じような立場にありますので,その場合には,受遺者側の判断を尊重していいのではないかというのがこの考え方になります。それは,例えば遺贈があって,それを承認していなければ,遺留分減殺請求をしてきたときに遺贈の放棄ができるというのと似たようなところもございまして,そういった意味で,双方が同じように要らないということであれば,基本的には現物給付の指定権を受遺者側に認めて良いのではないかという理解が前提にあります。   そうではなくて,遺留分権利者はこの物は要らないということが分かっており,受遺者側には必ずしもそういう事情がないにもかかわらず,嫌がらせ的にその物を指定したとか,そのような場合には,権利の濫用ということで対応することができるのではないかと思います。そういった意味では,このような規律にしますと,かなり主観的な面を考慮しないと,権利の濫用というのは認められにくくなるのではないかという気はしております。   他方,このような放棄制度を設けることがいいのかどうかという問題なんだとは思いますけれども,この放棄制度があることによって,逆にその放棄を狙って,現物の指定をするというような事案が出るおそれはあるように思います。そこは,そもそもこういう放棄制度を設けたほうがいいのかどうかというところには関わるんだと思いますが,ただ,前回の部会における御議論では,最終的な手段としてあったほうがいいということでしたので,今回の部会資料では,このような制度を設けた上で,御提示をしたということでございます。 ○増田委員 私も従前から申し上げているように,金銭債権一本がいいのではないかと思っていて,金銭債権一本にすることのデメリットはないのではないかと思っているんですけれども,それはさておき,二つほど質問です。   一つ目は,遺留分権を行使した後,具体的な金銭の支払を請求することになりますが,この金銭の支払請求権の時効についてはどうお考えなのかというのが質問です。   もう一つは,この指定財産の価格とは何なのか。つまり,処分価格と考えていいのかどうかというところ,これは後の意見にも関わるところなんですが,その2点お願いします。 ○神吉関係官 具体的な金銭請求権が発生した後の時効につきましては,これは一般の金銭債権と同じということで整理ができるかと思いますので,通常の民法の規律が適用されるということになるかと思います。 ○堂薗幹事 後者の御質問の,処分価格以外でというのは,どういうものを念頭に置かれているんでしょうか。 ○増田委員 いわゆる評価額という場合には,そのものの潜在的な価値等全て含まれます。処分価格と評価額に大きな違いがあるものには,例えば,閉鎖会社の株式とか,あるいは農地の賃借権などがあり,そういうものは処分すれば全く二束三文若しくは処分不可能であるけれども,鑑定すれば一定の評価額はでます。 ○堂薗幹事 基本的には,遺留分権利者の遺留分権を保全するための制度ですので,必要に応じて換価をした上で遺留分に充てるという趣旨ですので,最終的に処分価格になるのかどうかというところまでは法律で書けませんので,解釈ということになるのではないかとは思いますが,個人的には,やはり処分価格に近いような形で考えないと,遺留分権利者にとって不利益が生じるといいますか,そういった面があるように思います。要するに,遺留分権利者が取得した財産をそのまま使いたければ使っていいわけですが,使う必要がない場合にはそれを換価して,遺留分の保全をするという趣旨でございますので,基本的にはそういった解釈につながりやすいのではないかとは思いますけれども。 ○増田委員 それでは確認ですけれども,最初の質問については,まず1年の間に遺留分権を行使するという意思表示をして,そこから債権法改正後の新法では5年以内に金銭の支払請求をするということでいいですね。   後の方は,そうすると,遺留分の算定の基礎となる財産の価格と,遺留分権利者に戻す指定財産の価格とは違ってもいいのかどうかという問題があります。指定財産の価格は処分価格だということになると,異なる可能性があって,例えば閉鎖会社の全株式を受遺者に渡していた場合には,会社の純資産額との関係でそれなりの価値はありますが,受遺者がその25%を返したとすると,つまりは全株式の3分の2に満たないものを返しても,その25%の株式については何の価値もないし,処分もできない。こういうことを念頭に置いて,算定の基礎と指定財産の価格にずれがあってもいいのかどうかということをお伺いしたいんです。 ○堂薗幹事 今の問題点は非常に重要だと思いますので,検討させていただければと思いますが,基本的には,もちろん遺留分侵害額を算定する際にされた評価がそのまま使えるという前提で考えていたところではありますが,特にそういった違いが生じるような例外的な場合にどう考えるのかというのは,最終的には解釈問題になるとは思いますけれども,こちらの方でも検討はできておりません。次回にお答えさせていただければと思います。 ○神吉関係官 ちょっと補足して説明させていただきますけれども,現行法の価格賠償についてはどう考えるのかということとも関連するかと思います。例えば,減殺の対象が例えば株式全体だったとして,それが可分な株式だったとして,そのうちの幾つか,3分の1について価格賠償で弁償しますといったときに,それはどう評価するのかという問題と同じなのかなという気はしております。次回までに検討して調べたいとは思いますが,一応,同じ問題は現行法でもあり得るのかなとは思っております。 ○増田委員 現行法の解釈だと株式は一株一株が準共有になりますから,ちょっと違うと思います。 ○神吉関係官 いや,全体がその減殺対象になったときには,減殺請求権の行使によって全てが遺留分権利者の元に移るんだと思います。ただ,受遺者側が価格賠償をするとして,例えば10株のうち5株については価格賠償でするということは,それはできるのではないかなとは。 ○増田委員 10株,5株の価格ではなくて,一株一株が共有持分になるから,価格賠償すべき共有持分の価格は株式全体の価格の一定割合なんです,現行法だとね。 ○大村部会長 それは検討していただくということにしまして,山本克己委員からも手が挙がってましたので,お願いします。 ○山本(克)委員 すいません,(3)の②なんですが,この趣旨がどういうものなのかがちょっとよく分からなかったんで。   「又は控訴審の口頭弁論」,「又は」というのは,これは事実審の口頭弁論終結時という趣旨であるということですか。それで亀甲括弧でくくってあるというのは,これはどういう趣旨なんでしょう。 ○神吉関係官 趣旨としては,民法にここまで書けるかどうかというのは少し悩ましいなと思いつつ,その点については法制化の際に改めて検討したいなと。ただ,これまでの部会資料にも書いてありますとおり,実質的にはこういった規律にする必要があるのではないかということでございます。 ○山本(克)委員 請求異議では駄目だということを言いたいということですか。例えば,金銭請求で全部認容があって,請求異議時において,この現物給付の請求をしましたということで異議事由を立てて,請求異議の訴えを起こしても,それは棄却されると,そういうことを言いたいわけですか。しかし,それは,よく分かんないんですけれども,この請求権は裁判上,行使しなければいけない請求権というか形成権なんだろうと思うんですけれども,裁判上,抗弁として行使しなければならない形成権として捉えられているのか,訴訟外でも行使できるものとして捉えられているのか,どちらなんですか。   請求異議のところでやるとすれば,既判力の話で遮断できるという考え方も十分あり得るんだけれども,そこが微妙なところですよね。形成権の基準事後行使は必ずしも一律に結論が出ていないわけなので,どちらの,遮断されるほうか,遮断されないのかというのはあらかじめ決めを打ちたいという趣旨で書いてあるということですか。裁判が,でも,行使できるということは前提になっているということでよろしいですか。それで,基準事後行使について一定の方向を書ければいいなとお考えになっていると,そういうことですか。 ○堂薗幹事 そうですね。正にこれがない場合に,既判力で遮断できるかどうかというのは非常に微妙で,どちらかというと建物買取請求権に近いのかなという感じもするので,遮断されない可能性が十分にあるのではないかと思います。したがいまして,これについては,規定上,遺留分に関する訴訟の中で行使しなければならないという形にしたほうがいいのではないかということで,このような規律にしております。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。この第4の現物給付に関する規律を中心に,まだ御意見随分あるようですけれども,事務当局としては,今日,第5,第6についても主な意見は伺いたいということのようですので,第4について,まだ終わっていないということで,次回も更に伺うということでいいですよね。 ○堂薗幹事 はい。 ○大村部会長 それを前提にして,第5,第6,第7について御説明を頂いて,今日御意見があるという方については若干伺いまして,次回に残りを送りたいと思います。   30分ぐらいで終えたい,今5時15分ですけれども,45分ぐらいを目途にやめたいと思いますので,すいませんが15分だけ延長させていただきたいと思います。   ということで,第5,第6,それから第7,まとめて事務当局の方から御説明をお願いいたします。 ○満田関係官 それでは,第5,第6,第7をまとめて説明をいたします。   ちょっと時間の関係もありますので詳細な説明を割愛させていただいて,簡単に説明させていただきます。   まず第5,1の(1)でございますけれども,この点については従前の部会資料の規律から変更点はございません。   「(2)債権の承継」につきましては,従前,第三者対抗要件と債務者対抗要件を切り離していたところではございますけれども,今回は債務者対抗要件につきましては,(2)の①の㋑に記載のとおり,まずはその債権を承継した相続人が,遺産分割又は遺言の内容を明らかにする書面を債務者に交付した日以後にという形で債務者に通知をしなければいけないということで,その通知と遺言等の内容を明らかにする書面の交付の先後関係を明確にいたしました。その上で,第三者対抗要件については,その債務者に対する通知に確定日付ある通知又は確定日付ある証書によってしなければいけないという形で整理させていただいているところでございます。   「2 義務の承継に関する規律」でございますけれども,従前はこの点に関して,法定相続分の割合による権利の行使をした場合に,その指定相続分による権利の行使が一定の場合にはできないという規律について設けさせていただいたんですけれども,これについても,前回の部会の中で委員の先生から御指摘がありましたので,今回の部会資料におきましては,基本的には法定相続分で権利を行使したとしても,その後,指定相続分での権利の行使をすることはできると。ただし,相続債権者が共同相続人の一人に対して指定相続分の割合による義務の承継を承認したときにはこの限りではないといたしまして,指定相続分の割合の義務の承継を承認した場合には,それは指定相続分のみの行使によるという形で規律を整理させていただいております。   「3 遺言執行者がある場合における相続人の行為の効力等」についてでございます。   従前の部会では,遺言執行者がいる場合の法律関係につきましては様々な意見が出されたところではございますけれども,今回の部会資料では,従前の部会資料21の【乙-2案】をベースとした考え方を掲げさせていただいております。その上で,②のところで相続債権者又は相続人の債権者が,相続財産について,その権利を行使することを妨げないものとするということで記載しておりますけれども,この相続人の債権者についてどのように考えるかという点については,是非,御審議いただければと思います。   「第6 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」についてでございます。   相続人以外の者の貢献を考慮するための方策については,パブリックコメントでも賛否が拮抗し,主として相続をめぐる紛争の複雑化,長期化に対する懸念が表明されたため,第14回部会においては,指摘された問題点を軽減する方向で検討を進めることとされ,第19回部会においては,その具体的内容につき御審議を頂いたところでございます。   まず,請求者の範囲についてでございますけれども,第19回の部会では,相続をめぐる紛争の複雑化,長期化を防止する観点から,寄与行為の対応を限定することに加え,ブラケットを付して,親族関係による限定を設ける旨の規律も記載しておりました。今回の部会資料におきましても,その旨の記載を基本的に維持しております。   他方,変更点といたしましては,親族関係による限定につき,第19回の部会資料では,二親等内の親族に限りとしていたものを,今回の部会資料では三親等内の親族に限りとしております。これは,限定の設け方によっては不相当なメッセージ性を持つ懸念もあるという御指摘を踏まえたものでございます。限定の範囲を三親等内という民法上,扶養義務を負い得る者の範囲に合わせることによりまして,契約などの生前の対応が類型的に困難である者を救済するための制度であるという説明が容易になり,御懸念の点をある程度払拭できるのではないかと考え,このような提案をさせていただきました。   また,第6の③の規律にも若干変更を加えております。特別寄与者の請求権につきましては,各相続人が相続分に応じて責任を負い,1人の相続人に対して行われた審判が,他の相続人との関係で効力を持つものではないということを明らかにするため,特別寄与者に支払うべき金銭の総額を算定し,これに各相続人の相続分を乗ずることにより,各相続人が支払うべき額を算定すると文言を修正しております。   さらに,第6の④の規律につきまして,寄与分に関する民法904条2第3項と平仄を合わせまして,相続財産が債務超過である場合に,本方策に基づく請求が認められないことについては条文上は明示しないこととしております。   最後に「第7 その他の論点」ということでございますが,こちらはゴシック部分のたたき台の方には記載しておりませんで,部会資料の補足説明の40ページのところに記載しております。   まず,「1 相続分の指定と遺産分割方法の指定の区別の明確化について」でございますけれども,この点は第19回会議におきまして,委員の皆様方の間においても,その賛否が分かれたところでございます。   これまでは,遺産分割の方法の指定と合わせまして,相続分の指定がされる場合があると理解されてきたところではございますけれども,ここに記載しております丙案を採用しますと,現行の遺産分割方法の指定とは異なる新たな遺産分割方法の指定という遺言事項を定めたものと理解することになるように思われますけれども,このように理解した場合に,現行実務において頻繁に利用されている相続させる旨の遺言について,その法的性質を変えることにもつながり得るところでもございますので,その影響については慎重な検討を要すると思われます。   そこで,この点については賛否が分かれている状況でもございますので,現行法と同様,遺言の解釈に委ねるのが相当であると考えたところでございます。   最後に「2 危急時遺言に関する見直しについて」を御説明いたします。   この点については,第20回部会におきまして,委員の方から聴覚又は言語機能の障害等を有する者が遺言する場合に関する規律につきまして,遺言に本人の真意が反映されていることの制度的担保が不十分であるということとして,見直しを検討する必要があるのではないかという問題提起を頂いたところでございました。もっとも,この点について検討しましたが,そもそもこれらの遺言につきましては,家庭裁判所が遺言者の真意に出たものであるというものの心証を得た上で確認をしなければ,遺言の効力を生じないとされておりまして,その意味では,家庭裁判所による慎重な確認がされているものと考えられますし,他方,民法の976条1項の方式による遺言につきましては,現に年間100件以上利用されている制度でございまして,これを廃止するということについては,その影響等を含め,極めて慎重な検討を要するというものと考えられます。   仮にこれらの規定等を削除するとしますと,代替制度の要否ですとか,その在り方についても実態調査等を踏まえた慎重な検討が必要でありますので,これらの見直しについては将来の課題とせざるを得ないという形で整理させていただいております。   説明としては以上です。 ○大村部会長 ありがとうございました。   急いでいただきましたけれども,「第5 相続の効力等(権利及び義務の承継等)に関する見直し」,1の「(2)債権の承継」については,必要な整理を加えていただいた,「2 義務の承継に関する規律」については,前回の委員の議論を踏まえて修正が若干入っているということでございました。3につきましては,2の規律について,是非,御意見を伺いたいという御要望がありました。   それから,第6につきましては,ブラケットで請求権者の範囲を画するということがされていますけれども,これを二親等から三親等に変更したということのほか,若干の修正がなされているということでした。   そして,第7につきましては,1,2,二つの課題があったわけですけれども,いずれにしても,なお検討を要する点があるのではないかということで,今回取り上げることは難しいのではないかという整理であったかと思います。   もう時間が限られていますので,次回にも改めて御意見を伺いますけれども,今日のうちに是非問題点を指摘し,検討をしていただきたいという点を伺いたいと思います。どの点でも結構ですので,御発言をお願いいたします。 ○藤原委員 一言だけ。第5の3の②のところです。   「遺言執行者がある場合における相続人の行為の効力等」で,ここの亀甲括弧を入れるか,入れないかというところにつきましては,今回の補足,22-2の資料の33ページの一番下の段落,「まず」以下で御説明いただいておるところでございますけれども,こういった御説明にあるとおり,相続債権者と相続人の債権者については,この場面においては少なくとも立場というか,利害関係にあまり差はないと考えられますので,この亀甲括弧を外して,相続人の債権者も例外に含めるということがよろしいかと考えております。 ○大村部会長 ありがとうございました。   先ほど,事務当局の方から意見を求められていた点について,意見を述べていただきました。 ○増田委員 今の点は,前回申し上げたとおり,相続人の債権者との間では対抗問題ではないと考えており,かつ相続人の債権者は実質的に保護される必要はないと。根拠は前回申し上げたとおりです。山本和彦委員から前回御指摘のあった,差押えの上にのっかったらどうなるかという話ですけれども,配当異議事由になるという解釈になるのかなと思っております。責任財産でないものについて,配当要求してきたということだろうと思っております。   ただ,最後の点については,一旦差押えがなされた以上は,その手続においては確定的に責任財産へ入るという考え方もあり得るかなと思いますが,そこが本質的にこの議論の別れ目になるというものではないだろうと考えております。   それから,銀行の方で払戻しの際に善意悪意は分からないのではないかという御懸念はあるかと思いますが,差押えが掛かったものを差押債権者に払い戻して,それで準占有者弁済等の保護がないということはあり得ないだろうと思いますので,仮にそういう御懸念だとすれば無用だろうと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでございましょうか。 ○金澄幹事 第6のところに,新たに三親等以内の親族という要件が入っているのですけれども,これについては,もう一度御検討いただきたいと思っています。   というのは,第7回の審議の部会資料のときにも,扶養制度の見直しだけでは対処できないという御説明があり,あと第10回の資料でも,やはり扶養制度の見直しでは不十分というような説明がありました。そのために新しく相続人以外の者の貢献を考慮するという制度を作ったという経緯があります。そういう流れの中で,改めてここで,この制度の中で範囲を限定するために,再び民法上の扶養義務を負い得る者という,扶養制度からの要件を出してきたということは,やはりちょっと矛盾するのではないかなと考えています。   また,19回の審議の部会資料にも,「被相続人は,その者に裁判所が相当と認める額を取得させる遺贈類似の意思を有していたものと取り扱い」というような記載もあることからすれば,この制度は被相続人の意思を根拠にしているというところもあるのですから,親等によって適用範囲を限るという必要はないのではないかと思っています。身近に療養看護をした者であれば,親等による制限をすべきでないだろうと考えています。   また,中間試案のときのパブコメの結果でも,請求者の範囲を限定しない乙案の方に賛成する意見が相当多かったわけです。範囲を限定する甲案の賛成は4団体5個人で,乙案の賛成が10団体16個人で相当多かったわけで,それらの流れをずっと踏まえた議論があった中で,ここに来てまた更に親等による制限を付けるということは,ちょっとパブコメの流れからしてもおかしいのではないかなというように思っています。第19回の審議のときにも,何らかの制限は必要というお話もあったのですけれども,二親等では狭いというような親等を拡大すればいいという議論ではなかったかと思います。そうであれば,例えば,同居をしていることという要件での制限とか,親等で区切ること以外の何らかの形もあるのではないか,別の方策も検討すべきではないかなと思います。   そして,今までの議論の中で,ずっと紛争の長期化とか複雑化,濫用に対応するために要件を絞ってきたということで今の要件になっているわけですが,請求権者は療養看護という事実行為をした上に,被相続人の財産の維持増加について特別の寄与をしたということで相当絞られているし,請求の期間も限定されているので,これで更に濫用の危険ということで親等を要件にして請求権者を決めるという必要はないのではないかと思っています。そして何より,この制度の趣旨として,相続人以外の者が療養看護等によっていろいろ寄与してきたのに,相続人でないという一事をもって何らの対応もされないのはおかしいという不公平を是正するということだったわけですから,ここでまた更に親等を持ち出してやるということは,この不公平を解消するという制度趣旨に反するのではないかなと思っています。   また第19回のときに,南部委員が御発言になっていたように,相続人以外の親族も療養看護を行うことを奨励するようなメッセージとなりかねないということが,やはり非常に懸念されるところです。介護の社会化ということが言われている中で,そういう親等で限定をして,親族による介護を奨励するようなメッセージを法制審議会の中から発するということについては,非常に疑問があるところです。また社会の中で,同性婚とか,いろいろな家族が出ている中で,助け合いで同じコーポラティブハウスに住んでいるような人たちとか,いろいろな家族の形態が出てきている流れにも逆行するような立法になるのではないかと懸念していますので,是非この亀甲括弧のところは再検討していただきたいと思っています。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほかに,何かありますか。 ○八木委員 今のような御意見出ましたので,一言述べたいと思います。   私は,この三親等内の親族に限りとすることに賛成です。亀甲括弧を外すのが適当かと思います。   一つは,この要綱案のたたき台全体として流れている趣旨というのが,配偶者保護ということだろうと思います。短期居住権,長期居住権,それから持戻し免除の意思表示の推定はいずれもそうです。この特別寄与者についても同じようなことだろうと思います。他の規定との整合性を考えて,三親等内の親族に限るとするのは合理性があるだろうと思います。   それから,確かに同性で療養看護をしている方だとか,あるいは内縁関係でそういうことをしている方だとか,おられるとは思いますけれども,でも,この問題は,内縁関係と婚姻制度との差は何なのかとか,あるいは同性婚を認めるのかとか,そういったことに波及しがちな問題でありまして,これは婚姻制度をどうするのかということに関わりますから,別の部会でも設置してそこで議論すべき話であって,ここの相続に関わるところで行うべき議論ではないんだろうと思います。   したがって,これは現行の制度の中でどういった判断ができるのかということになるかと思うんですけれども,結論としては,亀甲括弧を外していただきたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今,第6の①の亀甲括弧について賛否両論ありましたけれども,その点も含めて,あるいはその他の点でも結構ですので,今日のうちにという御発言がありましたら,是非伺いたいと思います。   いかがでしょうか。 ○藤野委員 主婦連合会藤野でございます。   私は今のところで,金澄委員の御意見に全面的賛成ではございます。本当に全面的賛成ではあるのですけれども,ここのところ,今まで報われないでいた方たちが,少しでも早く報われるようになるために,まず一歩を踏み出していただきたいという思いがものすごくあります。そして,二親等から三親等になったということで,ある程度範囲が広がったということが,まず評価されることだと思います。本当に同性婚のカップルも内縁のパートナーも,とても大事なところではあるんですけれども,まずここから始めていただいて,より広げていただきたいという思いが私の中にはあります。   ただ,意見としては,金澄委員の意見に全面的賛成でございます。 ○大村部会長 ありがとうございました。   その他の委員,幹事,いかがでございましょうか。 ○南部委員 ありがとうございます。   今の第6の三親等の件でございますが,二親等から三親等に広げたということですが,私は何か違和感を感じておりました。今の社会はやはりもっと多様化しているように感じておりまして,この法律が,先ほど八木委員がおっしゃったように別の部会ということであれば,またそこでしっかりと議論していただければいいのですけれども,ここでということになれば,もう少しここは深めた議論が必要ではないかと思っております。2から3に範囲を広げるだけではなくて,もう少し大きな視点で物事を見ていけばいいのではないかと思っておりますので,是非,もう少し慎重に議論をお願いしたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほかいかがでございましょうか。 ○窪田委員 第6のところで,両方ともの御意見が出ていたのですが,これは以前この部分で議論したときも出た問題だったと思うのですが,私自身は,あるいはそのとき潮見委員からもっと強い形で意見が出ていたと思いますが,第6の問題というのは本来相続の問題ではなくて,財産法上の問題なのではないかと。その上で,多分あのときは潮見委員は,むしろ,だから,財産法の問題として解決すべきだということでしたし,私自身は,前提はそうなのだけれども,やはり事務管理や不当利得で処理するのは難しいということを前提として,相続法の枠組みの中で対応するというのが考えられるんではないかという意見を述べていたように記憶しています。いずれにしても,全体としては基本的には相続ではないという位置付けだろうと思います。   ですから,今,相続の中にどういう問題を持ち込むのかということはありましたが,相続の問題ではないといったときには,三親等内の親族というのはやはりかなり違和感があるなという気がいたします。その上で,それを残すのがいいのか,というか,それをとった上でこういう仕組みを残すのがいいのか,もうそこまでいくのであれば,もう全部取り去ってしまうのかというのは議論の余地はあると思うのですが,全体としては,今のような位置付けはある程度まで共有できるのではないのかなという感じがいたします。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○藤野委員 ごめんなさい。私自身の意見にちょっと付け加えてなんですけれども,そういうこともあった上で,やはり遺言がもう少ししっかり制度として浸透して,この方にはきちんと残したいということを伝える遺言が広がっていくことを加えてお願いしたい,世の中に広まってほしいということも希望しております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   第5の3の2につきまして両論,御意見ございましたし,第6の①につきましては,二つではなくて三つ,あるいはそれ以上の意見があったかもしれませんけれども,今日の段階で,今の2点,あるいはそれ以外につきまして御発言があれば更に伺いたいと思いますが,いかがでございましょうか。   よろしいでしょうか。   今の御指摘については,事務当局の方からお答えは頂いておりませんけれども,御指摘を踏まえまして,次回更に御検討いただくということにさせていただきたいと思います。   私の方の不手際で,第4以降について,十分な時間を取ることができませんでしたけれども,これはまだ終わっていないということで,次回に改めて時間を取って検討させていただきたいと思います。   ということで,一応最後まで目を通していただいたということで,最後に次回の予定と,それからパブリックコメントについて説明を,事務当局の方にお願いいたします。 ○堂薗幹事 本日もありがとうございました。   まず,次回の日程でございますが,御案内のとおり7月18日午後1時半からを予定してございます。次回も要綱案のたたき台の全体をお示しした上で御審議を頂くということで,本日の議論を踏まえまして一部修正したものをお示しして,御議論いただければと考えております。   可能であれば,次回の部会におきまして大まかな取りまとめについて御了承いただいた上で,次回の部会終了後に,中間試案後に新たに取り上げた論点,具体的に申し上げますと,居住用不動産について遺贈又は贈与がされた場合の持戻し免除の意思表示の推定規定,本日の部会資料で申し上げますと,第2の1のところでございます。それから,第2の2の預貯金債権の仮払い制度,第2の3の一部分割,第2の4の相続開始後の共同相続人による財産処分,第4の1の遺留分減殺請求の法的性質の見直しにつきまして,再度パブリックコメントに付すということを考えております。   したがいまして,今回行うパブリックコメントにつきましては,中間試案のときに行いましたように全体について行うのではなくて,今の限定した範囲で行うということを考えているところでございます。   それから,次回の場所でございますが,次回は場所が変わりまして法務省の地下1階の大会議室になりますので,お間違いのないよう,よろしくお願いいたします。 ○潮見委員 パブリックコメントに出す項目というのは既に限定はしているということでしょうか。今回の要綱案のたたき台みたいなものについては,存在はしているし,そのときには公表はされているでしょうけれども,それをパブリックコメントの対象にしたものではない。仮にそういう項目を限定した場合に,それ以外の項目について御意見を書いてこられるような方々がいらっしゃったら,それは御意見として伺っておくという,そういうことですか。 ○堂薗幹事 そうですね,はい。 ○潮見委員 実際にパブリックコメントで何を取り上げるべきかというのは,次回,またこの場で検討はさせていただけるのでしょうか。それとも,もうそれは法務省,あるいは部会長等に一任という形になりますでしょうか。 ○堂薗幹事 これ以外のところで,この点についてもパブリックコメントを付したほうがいいのではないかというところがございましたら,御指摘いただければと思います。それは本日でも構いませんし,次回でも構いませんが,それを踏まえて,最終的にパブリックコメントに付す範囲を決めたいと思います。 ○大村部会長 基本的な考え方としては,前回のパブリックコメント以降に新たに検討された,あるいは内容が大分変わったものについて意見を問う,前回のものが基本的に維持されている部分については対象外にするということかと思います。ただ,どこが変わったかということについては,委員,幹事の方々に,この項目もかなり変わったのだから,これについてもパブリックコメントに付すべきだというような御指摘もあろうと思います。それについてはなお調整の余地があるという御趣旨だと思いますが,本日の会議終了後でも結構ですし,次回にもまた御意見があれば是非伺いたいと思います。よろしいですか。   ほかによろしいですか。   それでは,時間を大分過ぎまして申し訳ございませんけれども,これで閉会したいと思います。本日も活発な御議論を頂きまして,誠にありがとうございました。   閉会いたします。 -了-