法制審議会 民法(相続関係)部会 第23回会議 議事録 第1 日 時  平成29年7月18日(火)自 午後1時30分                      至 午後5時00分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  民法(相続関係)の改正について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○大村部会長 それでは,定刻になりましたので,法制審議会民法(相続関係)部会第23回会議を開催いたします。   まず,新しい委員の方がいらっしゃいますので,自己紹介をお願いしたいと存じます。   一番最初に,小野瀬委員からお願いいたします。 ○小野瀬委員 このたび,7月7日付けで法務省民事局長に就任いたしました小野瀬と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○大村部会長 ありがとうございます。どうぞよろしくお願い申し上げます。   続いて,筒井幹事が委員になられたのですけれども,本日は所用で御欠席と伺っておりますので,私の方から委員になられたという点だけを御紹介させていただきたいと存じます。   それから,笹井幹事。 ○笹井幹事 7月7日付けで民事局参事官を拝命いたしました笹井でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○大村部会長 どうぞよろしくお願い申し上げます。   続きまして,配布資料についての説明を事務当局にお願いいたします。 ○満田関係官 それでは,本日の配布資料について御説明をさせていただきます。   配布資料目録に記載のとおり,本日の資料は4点ございまして,事前に送付させていただいた部会資料3点と,参考資料1点となっております。部会資料の方でございますけれども,部会資料23-1の「要綱案のたたき台(2)」,部会資料23-2の「補足説明(要綱案のたたき台(2)),さらには部会資料23-3の「中間試案後に追加された民法(相続関係)等の改正に関する試案(追加試案)(案)」となっておりまして,この部会資料23-3が追加のパブリックコメントの対象となるものでございます。参考資料につきましては,自筆証書遺言についての自筆によらない加除訂正の範囲に関するものでございまして,この資料については第3の遺言制度に関する見直しのところで改めて御説明させていただきます。   以上でございます。 ○大村部会長 ありがとうございました。   本日は部会資料の23-1,「要綱案のたたき台(2)」を基に御審議を賜りたいと思っております。   第1から第6まで6項目ございますけれども,前回,たたき台の(1)について御意見を頂いた際に,第5と第6は非常に駆け足になってしまいましたので,本日は第5と第6から,まず始めまして,これらにつきまして御意見を伺いたいと思います。その後に第1から第4までにつき御意見を伺うことになりますが,分量の関係で,第2の「遺産分割に関する見直し等」を残りの中では最初に取り上げさせていただき,その後,第1,第3,第4という順番で進めさせていただければと存じます。第5,第6といきまして,第2の「遺産分割に関する見直し等」が終わった辺りで休憩をするということを予定しております。   以上のような順序で,よろしくお願い申し上げます。   それでは,早速でありますけれども,「第5 相続の効力等(権利及び義務の承継等)に関する見直し」というところから御意見を頂きたいと思います。資料で申しますと,17ページの第5というところになります。これにつきまして,事務当局の方からお願いいたします。 ○満田関係官 それでは,関係官の満田から「第5 相続の効力等(権利及び義務の承継等)に関する見直し」について説明をさせていただきます。   まず,「1 権利の承継に関する規律」のうち,(1)につきましては,部会資料22からの変更点はございません。   「(2)債権の承継」につきましては,ゴシック部分に関して,まず1点目としまして,遺言執行者による通知の方法を変更しております。これまでの部会資料では,遺言執行者については受益相続人と同様,遺言の内容を明らかにする書面の交付を必要とするというふうにしておりましたが,これを改めまして,遺言執行者については相続人全員でする場合と同様の方法で足りることとしております。これは,遺言執行者は,遺言者に代わって職務を行う者であり,自らの法的資格を証明しさえすれば,別途,虚偽の通知を防止する必要性等は乏しいことなどを理由とするものです。   また,二つ目といたしまして,受益相続人が通知する場合に交付すべき書面の種類につきまして,遺産分割協議書及び遺言書といった書面の例示をすることといたしました。これは,対抗要件としての通知の際に必要となる書面については,できる限りその内容が明確であることが望ましいことを理由とするものです。   なお,交付すべき書面につきましては,虚偽の通知を防止する観点などからいたしますと,原本の存在に疑義を生じさせるものを認めるべきではないというふうに考えられまして,単なるコピー等の交付では不十分ではないかということを補足説明において記載しております。もっともこれらの書面について,その遺言書の原本や謄本など,公的機関が作成した写し等に限ることといたしますと,自筆証書遺言等におきましては,その検認の手続を経ない限り,現行法の下では謄本の作成は困難でありますので,これらの書面に限ることの当否や迅速な対抗要件具備の必要性が高まることとの調和をどのように図るべきかということについても御審議いただければと存じます。   続きまして,ゴシック部分の「2」及び「3」の点についてでございますが,この点については,いずれも部会資料22からの変更はございません。なお,「3 遺言執行者がある場合における相続人の行為の効力等」につきましては,前回の部会におきまして,その亀甲括弧の部分,相続人の債権者をこれに含めるべきかどうかというところについては,これを必要とする意見と不要とする意見とを頂いておりますけれども,この点も含めて,改めて御審議いただければと存じます。   説明は以上です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   「第5 相続の効力等に関する見直し」の部分につきまして,1の「(2)債権の承継」につきまして,幾つかの御指摘がありました。それから,2と3については修正等はないということでしたが,3の(2),亀甲括弧になっている部分について,括弧を外すかどうかにつきまして,御意見を頂きたいということでございました。どちらの点でも結構ですし,あるいはそれ以外の点でも結構ですので,御意見を頂ければと思います。 ○藤原委員 まず,第5の1の「(2)債権の承継」の部分で,2点,御確認をさせていただければと思っております。   まず(2)ア(ア)で,今回,通知以前に交付することとされております,いわゆるエビデンス,遺産分割又は遺言の内容を明らかにする書面というところについては,先ほどの御説明ですと,これは原本だということなんですが,御説明にあった自筆証書遺言のみならず,特に遺産分割協議書なども通常1通しか作成されない場合が多いかと思われます。そのときに金融機関の側としては,被相続人が複数の金融機関に取引がある場合というのもかなりあるところでございまして,そうすると,この原本の交付ということに関して,相続人の側において不都合が生じる可能性があります。   そこで御確認なんですけれども,ここでいう交付については,金融機関において一旦原本の交付を受けて預かった上で,金融機関において必要なコピーをとるなりして,その場でその原本自体は相続人にお返しをする,いわゆる原本還付という扱い,これについても交付に該当するという,そういった御認識でよろしいかというのが1点目の御確認でございます。   それから,2点目ですけれども,今回この(2)には(注)が追加されておりまして,遺言執行者は,その通知に当たってエビデンスの交付は不要ということにされておって,これが前回との相違点だと思います。この場合なんですけれども,特に家庭裁判所によって遺言執行者が選任された場合に,まず遺言執行者が選任の審判書を交付して自らの資格の証明を行って,その後,遺言書は交付せずに,対抗要件のための通知を行ったような場合,金融機関としては実際に払戻しを行う際には,遺言書の中身を見ないと,どの預金をどのように支払っていいのかということが分からない可能性がございます。   そこで,またこれも1点御確認なんですけれども,この債務者対抗要件具備の問題と,その後の支払時の来店者の請求権限の確認の問題というのは別であると。なので,支払時においては,遺言執行者に対して遺言書など,預金債権が遺言の執行対象財産であるということを示す書面を提示しない限り,遺言執行者の払戻しには応じられないというような実務になる可能性があるんですけれども,そうなったとしても,それは飽くまで来店時の支払権限の確認であって,そういったエビデンスを求めても,債務不履行責任は負わないということでよろしいかという点を確認させていただきたいと思っております。   続けて申し上げます。ページめくりまして,18ページの「3 遺言執行者がある場合における相続人の行為の効力等」の(2)の亀甲括弧を外すかについてですが,これは前回申し上げたことを改めて申し上げますが,これについては,この括弧を外していただきたいと思っております。   理由といたしましては,本件が想定する場面においてはでございますけれども,相続債権者であっても相続人の債権者であっても,優劣に差はないというふうに考えられることと,あと本件のこの提案の書き振りからすると,(1)の規律は飽くまで相続人がした行為を無効とするということであって,相続人以外の第三者の行為を制限するものではないと。ということは,この(2)は単なる確認規定にすぎないというふうに理解されるわけですけれども,そうであれば,ここの亀甲括弧を外すことに問題はないでしょうし,逆に亀甲括弧の部分を外して相続債権者に限ってしまうと,では,この亀甲括弧の中は一体どうなるんだというふうな形で,解釈に変な疑義を招くのではないかとも思われますので,そういった理由から,この亀甲括弧は外していただければと思っております。   私からは以上でございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。最後は御意見として承りました。前の御質問についてお願いします。 ○満田関係官 まず,1点目の原本還付が,ここでいう交付に当たるのかという点でございますけれども,ここの交付というのは,正に債務者の方で,その書面をきちんと確認したいという趣旨で設けられたものでございまして,債務者の方で,一旦,頂いた書面をその後不要になったということで返したとしても,これは交付に当たるということでよろしいのではないかと思います。   2点目ですけれども,まず,そもそも遺言執行者が払戻しをする場合にどうなのかと,それを遺言書等で確認しない限り,金融機関としては,その払戻し自体を拒んだとしても,それが債務不履行責任を生じないかどうかという,そういう御質問でよろしかったでしょうか。その場合がどうなるかというのは,正にこれは現行法上,もう生じている問題かとは思いますけれども,基本的には金融機関の方でもその預貯金について遺言の対象になっているかどうかが分からない限り,それが遺言執行者の権限かどうかは分からないと思いますので,その確認を求める行為自体は,これは許されるのではないかとは思います。ですので,その必要な範囲で,遺言書の原本等の確認をするということ自体は必要な行為であり,金融機関の方でその確認をしたからといって,債務不履行責任を負うことはないという解釈になり得るのではないかとは思います。 ○藤原委員 ありがとうございました。 ○大村部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○増田委員 前回の繰り返しになるかと思いますが,3の(2)のところは,相続人の債権者については外していただきたいところです。今想定されている場面ですが,相続人の債権者にしろ,相続債権者にしろ,権利行使する場合には,いずれにせよ裁判所が差し押さえるという形を経るわけです。その場合に,第三債務者が裁判所により差し押さえられた債権の支払に応じたところで,その支払が免責されないということは事実上考えられないわけで,本来は権利行使できない相続人の債権者が権利行使したことによる不利益が第三債務者に及ぶことはなく,あとは相続人と債権者の間,若しくは債権者同士の争いになるだけだと考えられますので,亀甲括弧のところは外しても差し支えはないと考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   3の(2)につきまして,前回と同じく賛否両論を頂いたわけですけれども,そのほかの委員,幹事の方々から,御発言はありませんか。いかがでございましょう。3の(2)に限りませんけれども,第5につきまして,何か御発言があれば伺いたいと思います。 ○潮見委員 先ほど藤原委員が問題にされた,第5の1の注記ですけれども,遺言執行者は遺言の執行として通知することができる,ということになっていますけれども,こういう遺言の内容を明らかにする書面というものを要求した趣旨を考えた場合に,今先ほどお話がありましたような状況もございますから,むしろ遺言執行者の場合も特段区別をすることなく,ほかの場合と同じように扱うというのもあってもいいのではないかというふうには思います。これは意見です。 ○堂薗幹事 そのような考え方も十分にあり得るだろうと思いますし,現に従前はそうしてきたわけですけれども,この債権の承継については,対象は遺産分割,遺産分割方法の指定,それと相続分の指定ということになりまして,そうしますと,遺贈の場合については従前どおり467条の対抗要件で処理をするということになります。その場合については,現行法を前提にしますと,遺言執行者が行う場合にも,特に書面の交付は要求せずに,資格だけを証明して通知をするということでやっているということだといたしますと,その点について,遺贈の場合と遺産分割方法の指定の場合とで区別をするというのも説明が難しいところがございます。それと先ほど藤原委員の御質問にお答えしましたように,対抗要件は実際に権利の移転があることが前提となっているわけですので,権利移転の証明が必要であるということと,対抗要件をどういう形で具備させるかというのは一応切り離して考えることもできるのではないかというようなこともございまして,今回はこのような形にさせていただいたというところでございます。 ○潮見委員 それはよく分かります。前者の方ですけれども,むしろ遺贈の対抗要件の考え方自体がそれでよかったのかということ自体の方が,問題ではないかというふうには思います。こだわりませんが,意見です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほかいかがでございましょうか。 ○水野(紀)委員 3の(1)についてお伺いいたします。善意の第三者に対抗することができないということで,善意,無過失とはされていないことの理由を御説明いただけないでしょうか。   それから,2番目の先ほど御意見が分かれたところです。現状では相続人の債権者が普通の法定相続の場合でもかかっていけることにはなっていますが,そのこと自体が,本当は疑問の余地があります。例えば具体的相続分がゼロであるにもかかわらず,法定相続分は差し押さえることができてしまいます。相続人の債権者が,債務者が相続する財産を期待することが,どこまで権利として許されるのでしょうか。こういう法定相続で遺言や遺言執行者がない場合にかかっていけること自体,もしかすると考え直さなくてはならない可能性もあります。ましてこれは,遺言執行者がいる場合です。実際には昭和期の判例を根拠に対外的関係は法定相続分を基準にして動かしてきた現実があるのは承知しておりますが,でもそれも指定相続分や相続させる旨の遺言では崩れつつあります。遺言執行者がいる場合には,その場合だけでも,被相続人という法主体の消失を清算する本来の遺産分割手続を実現する方向に舵を切られるのでしたら,ここは亀甲括弧の中を入れずに,相続債権者だけでいいのではないでしょうか。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○堂薗幹事 まず,善意の第三者で無過失を要件としていないということにつきましては,第三者の方に遺言の有無あるいはその内容について,調査義務を課すのは相当ではないのではないかということで,ここでは,その内容も含めて知っているという人に限るということでいいのではないかということでございます。   2点目につきましては,正にここで御議論いただければと考えているところでございまして,水野(紀)委員のような御意見も当然あろうとは思います。他方,従前から申し上げておりますように,相続人の債権者を外す,要するに相続債権者だけ権利行使できるという形にした場合に,若干執行の場面,あるいは債務者対抗要件などの場面で権利関係が複雑になるという面がどうしても出てきますので,その辺りも含めて御審議いただければというふうに考えているところでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほかはいかがでございましょう。特にございませんでしょうか。   それでは,3の(2)につきましては,依然として両論ございますので,この段階ではこの亀甲括弧に入れたままの状態で残して,更に検討するということにさせていただきたいと思います。   よろしいでしょうか。   それでは,第5につきましては差し当たり御意見いただいたということにいたしまして,「第6 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」というところに進みます。   この点につきまして,事務当局の方から御説明お願いいたします。 ○秋田関係官 それでは,関係官の秋田から,「第6 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」について御説明いたします。   相続人以外の者の貢献を考慮するための方策については,パブリックコメントで賛否が拮抗し,主として相続をめぐる紛争の複雑化,長期化に対する懸念が表明されたことを踏まえて,その具体的内容について御審議いただいてきたところです。   前回の第22回部会では,主に請求権者の範囲について,親族関係による限定を設けるべきか否か,双方の立場から御意見を頂戴しました。この点,前回の部会では,同居要件を課すことを検討すべきであるとの御指摘を頂きましたが,被相続人と同居していない者が被相続人の住居に通って介護をした場合,これを適用範囲から除外することの相当性が問題となると思われましたので,今回の部会資料におきましては,従前どおりの考え方を維持することとしております。この論点につきましては,引き続き御審議いただければと思います。   また,変更点としまして,従前,金銭請求を認める要件として「特別の寄与」との文言を用いてきましたが,新たに「著しい寄与」という文言を用いることを提案させていただきました。寄与分における「特別の寄与」という文言は,被相続人と相続人の身分関係に基づいて,通常期待される程度の貢献を超える高度なものであることを意味すると解されてきました。しかし,本方策における請求権者は相続人ではありませんし,被相続人に対して民法上の義務を負わない者が含まれております。そこで,通常期待される程度の貢献を前提とするものではないということを明らかにするため,「著しい寄与」という文言を用いることを提案させていただきました。こうすることで,本方策において請求権者とされる者が介護などの義務を負っているかのような不相当なメッセージ性を持つおそれがあるとの懸念についても,一定程度,払拭できるのではないかと考えております。この「著しい寄与」という文言が適切かという点も含めて,新たに御意見を頂戴できればと思います。   以上の点を含め,第6全体につきまして御審議いただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   ただ今御説明いただきましたように,この第6につきましては,請求権者の範囲につきまして,前回,両論の御意見があったところでございます。今回の案は,前回同様,亀甲括弧に「三親等内の親族に限り」という文言が入った形になっております。この点につきまして,更に御意見を伺うということと,それから寄与につきまして,「特別の」という文言に代えて,「著しい」という文言を使ってはどうかという御提案がございました。これによって,予期しないメッセージが生まれることを避けるという趣旨だという御説明だったかと思います。   以上の点を含めまして,御意見を賜れればと思います。いかがでしょうか。 ○水野(紀)委員  イメージがちょっとつかめないところがございます。私自身は余り実務に詳しくないものですから,立法時の議論などを手掛かりに,寄与分というのはかなり大ざっぱな取り分の増加として講義で以前は話していたのですが,最近の寄与分の現状は,そうではないと,何人かの実務家に伺っております。つまり,非常に細かい立証が要求されるもので,週に何回通って,どういう作業をして,交通費がどれだけかかってというようなことを主張立証しなくてはならないものだそうです。それで,私の昔の常識とは大分違う形で運用が進んでいるのかと認識したのですが,その認識自体が正確かどうなのかも分かりませんけれども,そうだといたしますと,今度の,この新たな寄与分は,現在行われている詳しい立証を伴うような寄与分と,同じようなものなのでしょうか,違うのでしょうか。また,その「特別の」ないし「著しい」が付いたときに,そのような実務はどのような変化をするのでしょうか。その辺りをお教えいただければと思います。 ○堂薗幹事 現行の寄与分について,実務上どのような取扱いがされているかというところについては,実務家の委員・幹事から御意見をお伺いできればというふうには考えているところですけれども,現行法の寄与分と違いまして,相続人以外の者の貢献の場合については,一定の絶対的基準で,ここで書いてあるような「著しい寄与」,あるいは「特別の寄与」といっても,通常の寄与との対比ではなく,一定程度以上の寄与を要するということでございます。その効果として金銭の請求ができるわけですが,その金額をどういうふうに算定するかというところについては,基本的に現行の寄与分と同じように,被相続人の財産の維持又は増加にどの程度貢献したかという点を考慮して決めることになるのではないかと考えております。その意味では,実務においても,その計算については基本的には寄与分の考え方を参考にしながら行うことになるのではないかという気がいたします。   したがいまして,仮に現行の実務において寄与分の計算がある程度そういう形で厳密にされているということになりますと,ここの相続人以外の者の貢献についても同じような取扱いがされることになるのかなという印象は持っております。 ○大村部会長 水野(紀)委員,よろしいですか。 ○水野(紀)委員 はい,ありがとうございます。 ○大村部会長 何か今の点につきまして,実務に詳しい委員から補足等ございましたら,頂ければと思いますけれども。 ○石井幹事 水野(紀)委員がおっしゃったように,現行の実務では,ざくっと認定するというよりは,療養看護という場面であれば,御主張される方がどのような寄与をどの程度されてきたかといったことを具体的に認定した上で,それを金額に算定するとどのような形で寄与分として認められるか,といった形で認定をされているというふうに認識をしておりまして,そこは今,堂薗幹事がおっしゃったようなところと基本的に同じ認識を持っております。   その上で,今回の御提案について1点だけ懸念を申し上げると,現状の寄与分の実務と同じような形で考えられるのかなと,私どもは思っておったところだったので,もしそういった認識を前提にしますと,寄与分に関する要件から文言が変わると,何か解釈として違うことが生じるのかなという理解がされる懸念もございますので,文言を変更することについては,若干の懸念もあると考えているところでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほか,第6につきまして御意見を頂ければと思いますが,いかがでございましょうか。 ○金澄幹事 前回も申し上げたところですけれども,やはりここで親等で区切るということについては違和感を感じております。   まず療養看護,つまり介護というものと扶養というものは,そもそも性格が異なるのではないかなというように思っています。扶養は,経済的に自立できない者に対して,経済的に援助できる者が生活費を給付するという金銭扶養が原則で,それ以外に引取り扶養というものももちろんあるんですけれども,その引取り扶養も,引き取って衣食住の現物給付を行うことということになっていまして,無償の労務の提供というものはそもそも予定されていないというところだと思います。つまり,現実の行為として,世話とか面倒見と言われるような労務の提供というのは,扶養の概念が経済的給付を原則としていることからして,法的な義務の限界を超えるものではないかというように注釈でも書かれているところだと思います。   そうすると,さらに介護というのは,通常の世話,面倒見の程度をはるかに超えた負担の重い労働ということになりますので,介護の法的根拠というのは,一般的に言われている扶養義務にあるのではないと考えられています。こう考えると,扶養義務と介護というのは別次元のものではないかと思います。にもかかわらず,ここで療養看護をした者のうち,請求することができる者を扶養義務に関連付けて親等で区切るというのは,やはりおかしいのではないかというふうに考えています。   そして,ここで書いてある三親等ということなのですけれども,この三親等も,法律上,一律に義務があるわけではなくて,特別の事情がある場合に,家庭裁判所が審判によって義務を負わせることができる範囲を定めただけです。更に,特別な事情というのも相当の対価を得ていたりとか,高度の道義的恩恵を受けているような場合ということで,非常に厳しく見られているところですので,三親等がゆえに扶養義務があるわけでもないと思っています。   あと相続というのは,親等という身分関係によって範囲が決まる制度ですけれども,この特別寄与者というのは,元々,提案の趣旨というのは,労務の提供とか,財産の維持・増加に「特別」若しくは「著しい寄与」があったという,当事者が行った事実行為に基づき,その事実と結果によって請求権が発生するという制度なので,そもそもこの制度を導入するのであれば,やはり身分で区切るというのはおかしいのではないかと思っています。   請求の範囲が広過ぎるということで,前回,手続の複雑化,長期化を避ける必要があるということなので,同居の有無ということを要件として検討したらどうかという御提案を私の方で申し上げたんですけれども,今回の資料だと,同居の有無という事実関係によって範囲を限定する合理性には疑問があるということのようです。けれども,療養看護自体が事実行為なわけですから,そうであれば,同じく事実行為としての同居ということで限定をしても,それはそれほどおかしいことではないのかなと思っています。さらに,被相続人と同居して療養看護をし,かつ「著しい寄与」をしている者が複数いるということは考えられないと思いますので,請求者の範囲の制限としても,同居を要件とすることを更に御検討いただければと思っています。   また税法でも,老親,年老いた親の扶養控除の金額について,同居している場合とそうでない場合と控除の金額が違うということもありますので,同居をするかどうかによって,やはり法律的にも違いをもたらしているものがあるということも御参考にしていただければというように思っています。   最後になんですけれども,翻って考えると,この制度自体が法律婚の配偶者の保護にならない場合というのもあるということで,弁護士会は,第一義的には反対しているところではあるのですけれども,それはなぜかというと,特別寄与者の寄与分を一番多く負担しなければならないのは,正に残された配偶者,法定相続分が2分の1の法律上の配偶者だという問題もあるかと思います。さらに,現在の御提案では,法定相続人に遺留分が確保されるような制度設計には今のところなっていないというところも,一つ問題なのかなというように思っています。   以上,意見です。 ○大村部会長 ありがとうございました。   いかがですか。 ○堂薗幹事 御意見は非常によく分かりましたけれども,1点補足をいたしますと,ここにつきましては,確かに扶養義務の規定を参考にして三親等内の親族としたという御説明はしておりましたけれども,我々としても直接関連するものとは思っておりませんで,もちろん今言われたように,扶養義務というのは基本的には金銭による扶養を前提としておりますので,労務の提供としての介護とは質的に異なるものだという理解をしておりますし,従前から三親等ではなくて二親等の親族という要件をお示ししていたのも,その辺りのことを考えていたというところでございます。扶養義務の三親等を参考にしたというのは,民法の用例として,全くほかに用例がないものを基準として設けるというのはなかなか難しい面があるということと,もちろん直接的な関連性はないんですけれども,そういう扶養義務を負い得る人が,実際に介護をしているというような場合に,なかなかそういう人が契約等を締結して,一定の金銭が得られるようにするというのは事実上難しい面があるのではないかという辺りを考慮したものでございます。   それから,同居の点につきましても,確かに基準になり得るのかもしれないんですけれども,同居せずに同程度の貢献をしている場合に,それを同居している人とは違って,その人については請求権を認めなくていいという点の説明が難しいのではないかと思っております。現に,現行の寄与分におきましても,同居しているということで,例えば被相続人の所有建物に同居しているということになりますと,一定の利益を得ているというようなところもあるので,そこをどう寄与分の際に考慮するかというところは問題になるわけですけれども,同居をせずに,同じような寄与をしているということになると,むしろそういう利益は全く得ずに貢献をしているということになります。そのような点を考慮すると,同居を要件として請求権者の範囲を切り分けるというのはなかなか難しい面があるのではないかというのが,こちらの検討結果でございます。 ○金澄幹事 分かりました。ありがとうございます。   でも,同じように,同じような寄与をしていながら,身分関係がないということだけでここの制度からはじいていいのかというところはあるかと思います。いずれも価値判断だとは思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほかの委員,幹事の方々はいかがでしょうか。 ○南部委員 ありがとうございます。   今のところに関連してなんですが,前回のパブリックコメントで,甲案,乙案いずれも反対というのは最も多数であったというふうに記憶しておりまして,また,甲案に賛成は極めて少数で,限定なしの乙案に賛成が甲案を上回ったというふうな結果が出ていると思います。となれば,今回,三親等というのはちょっと矛盾があるのではないかという疑問でございまして,また,パブリックコメントという行為をとる予定なので,これも含めてもう一度聴くというのも一つの手かなと思いますので,そこも含めた御検討をお願いしたいと思います。   以上です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほか,いかがでございましょうか。 ○山本(克)委員 細かい話で恐縮ですけれども,この「特別の寄与」,あるいは「著しい寄与」をした者の各相続人に対する債権というのは,先ほどの第5の3の(2)の相続債権者と相続人の債権者のいずれに当たるというふうに考えるのでしょうか。仮に亀甲括弧の部分を外してしまうんだとすると,何かこれは相続財産の清算の要素を含むにもかかわらず,相続人の債権者だからとしてはじかれてしまうというのはちょっと奇妙な気がするので,その辺ちょっと整理していただければなという気がします。 ○堂薗幹事 基本的には,被相続人の債務ではないという前提ですので,相続人に対して裁判によって金銭請求が生じるということになりますので,相続人の債権者ということになると思います。ですので,そうした場合に,第5の3の(2)との関係で問題が生じないかという点については,御指摘を踏まえて検討させていただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほか,いかがでございましょう。 ○中田委員 先ほど,南部委員から前回のパブリックコメントについての御紹介がありましたけれども,私もこの第6の規律を置くことにはいろいろな問題点があって,個人的には規律はなくてもいいのではないかと思っています。しかし,この部会の大勢がこういう規律を置いたほうがいいというのであれば,それ以上申し上げるつもりはないんですけれども,ただ,その場合であっても,やはり先ほど御説明のありましたように,通常の寄与という概念が一定のメッセージ性を持つということは,否定し難いのではないかと思います。そうすると,「著しい寄与」という言葉を使うことについては,私は次善といいますか,まだその方が少しはいいかなという気持ちがあります。   ただ,それに対して,先ほど石井幹事から,現行の実務との連続性を考えると言葉を変えないほうがいいだろうという御指摘がありまして,それもそうかなと思うんですが,しかし,904条の2の寄与分と,今回新設されようとしているものとは,随分対象も違っておりますし,目的も違っておりますから,必ずしも同じでなければいけないということにはならないのではないだろうかと思います。もちろん実際の認定の仕方として,共通するような精度の主張や証明が必要なのかもしれませんけれども,そのことと規律をそろえるということとは,必ずしも一致しないのではないかと思いますので,もしも規律を置くのだとすれば,せめてその程度は配慮があったほうがいいのではないかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   南部委員,中田委員は,どちらかというと規律を置かないほうがいいのではないかという御意見で,中田委員は,その上で,もし置くのならば,今回御提案があったような「著しい寄与」という形で歯止めを掛けたほうがいいのではないかということだったかと思います。   ほかはいかがでございましょうか。 ○米村委員 金澄幹事がおっしゃっていたことと基本的にかなり重なりますが,法律に明るくない人間がこれに触れたときに,相続人以外の者の貢献ですから,「著しい」「特別」,いずれの表現にしろ,寄与といったときに,事実関係で考えるのが普通だと思います。これまでの寄与分と,ある程度算定も踏まえてということですと,事実である程度認定されるものと考えられ,やはりそこに身分関係がもう一度かかってくるのが何でだろうという素朴な疑問は,多分あると思います。   「特別の」と「著しい」という言葉で苦労しなければいけないというところには,やはりそういう問題もあるかと思いますので,慎重に議論を進めていただきたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでございましょうか。 ○八木委員 価値判断の問題に尽きるんだと思うんですけれども,一般の寄与分が相続人に限定されている中で,これを更に相続人以外の親族にも広げられないかというところから,ここでの議論は起こったように記憶をしているんですね。それで,この亀甲括弧の部分を削除してしまう,すなわち身分関係を限定しないということになってしまうと,場合によっては婚姻とは何なのかという本質論に発展する可能性があるのではないかと思うわけです。すなわち,婚姻と内縁との違いは何なのかとか,同性同士で住んでいる,それで療養看護をしているという,そういった場合をどういうふうな評価をしていくのかという,そこらのその議論に発展するとするならば,この部会の任務からちょっと外れるのではないのかなというのが私の率直な意見です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   いろいろな意見が出ておりますけれども,そのほかの委員,幹事,いかがでございますか。 ○村田委員 今,八木委員がおっしゃった価値判断のところについて,特に意見を申し上げるつもりはなく,したがって,この制度を入れるべきかどうかについても特にこうだという意見を申し上げるつもりはないんですが,仮に何がしかこういう制度ができたとして,出来上がったときの使われやすさを,実務家の感覚と,それから請求する側の感覚と両方の視点から併せて考えると,請求者については三親等内の親族という一定の身分法上の取っ掛かりがあり,かつ「特別な寄与」という現行の相続人の場合の寄与の制度に似たイメージの表現があるということによる親しみやすさというか,そういうところからする使われ方というのは一定の範囲で想像でき,ある種の使われやすさが期待できるかなという気はするんですけれども,他方で,「著しい」というのは語感として,かなりハードルが高いかなという感じも受けます。請求者の限定がないため,現行の寄与分の制度とは全く異なる新しい制度であると捉えられ,その代わり「著しい」はものすごくハードルが高いですというような形で捉えられると,制度ができたはいいけれども,余り使われないかもなという不安もよぎるところでありまして,その辺りも踏まえてパブリックコメントでの御意見をお聞きしたいなというところです。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○潮見委員 個人的には前から申し上げているとおり,規定は設けるべきではないのではないかと思っています。ただ,仮に設ける場合であっても,あるいは三親等内の親族に限るという形である場合であっても,これに当たらないような人たちが,被相続人に対する療養看護だとか,その他の労務の提供をしたというような場合について,それがどのように扱われるのかと,何らその救済の道はないのか。それとも,こういう枠組みがあるぐらいのところは,ある程度見越した上で説明をしていただくことをお願いするところです。   前に,不当利得とか,事務管理とか,そういう枠組みを使うことによって救済をすることができるのではないか,だからこの種の規定というのはなくてもいいということを申し上げ,そのときには無理ですという形でお返事を頂いたとは思いますけれども,本当にそうなのかというような辺りは,ここを仮に絞った場合には意味を持ってくることではないかと思いますから,その辺りも含めて少し慎重に検討をしていただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○増田委員 私も意見としては,以前よりこういう規定を設けること自体に反対の立場を採るものですが,それはともかくとして,今気になった点があります。第6の1で,相続が開始した後,相続人に対して金銭の支払を請求することができるとされ,この金銭が,特に寄与分とか寄与相当額とは書いていないんですが,ここは,被相続人の財産の維持又は増加について寄与した者が請求権者ですから,財産の維持又は増加についての寄与分であるということは明らかにされる必要があるかと思います。潮見委員が言われたように,ほかの法律構成で請求する余地もあるわけですから,請求方法について利害得失を考える上でも重要なポイントであり,金額の基準を明確にするということは必要であろうと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   何かありますか,よろしいですか。 ○堂薗幹事 それは検討いたします。 ○大村部会長 様々な御意見を頂いております。そもそも置く必要はないのではないか,置くとしたらということで,要件に絞りをかけるのか,かけないのか,かける場合に親等でいくのか,同居でいくのか。どちらにせよ,寄与についての要件を設けるのか。それから,増田委員が今おっしゃったような点も含めて,幾層かについて意見が分かれているところかと思います。   なお,潮見委員がおっしゃった他の財産法の法理は,この提案がされたときに,それでは難しいところもあるという趣旨だったと思いますので,否定されているということではないだろうと思います。どんなものができたとしても,財産法上,できるものはできるということになるのではないかと思いますが,そこは説明の方で,いずれにしても対応していただくということかと思っております。   その点は別にいたしまして,様々な意見が出ております。事務当局にちょっと伺いますが,パブリックコメントでもう一度聞いたらどうかという御意見も出ていますけれども,その辺りはどうですか。 ○堂薗幹事 こちらとしては,基本的には中間試案で聞いたものについては,今回は対象にしないというふうに考えておりまして,中間試案の段階では甲案,乙案というふうにはしていたわけですけれども,その点について大きな変更があったということでもありませんので,ほかとの平仄等も考えますと,第6について再度パブリックコメントにかけることは,考えてはいなかったというところでございます。 ○大村部会長 そうすると,南部委員の御指摘があったところですけれども,前回のパブリックコメントで出ている意見を踏まえた上で,この場で皆さんの意見を集約してどうするかを決めるということになりますね。   今日もいろいろな御意見を頂いておりますけれども,なかなかこれについては成案を得る見通しが立ちません。今日さらに御議論を頂いても,残りの時間の中では意見は収束しないという気もいたしますので,取扱いとしては,この亀甲括弧が付いている状態を維持して先に進むというほかないかと思います。よろしゅうございますでしょうか。   では,この点につきましては,なお保留するということにさせていただきたいと思います。   第5,第6につきまして意見を伺いましたので,残りでございますけれども,そのうちの「第2 遺産分割に関する見直し等」の部分に移りたいと思います。これにつきまして,事務当局の御説明を伺います。 ○神吉関係官 それでは,関係官の神吉から,遺産分割に関する見直しにつきまして御説明させていただきます。   まず,「1 配偶者保護のための方策(持戻し免除の意思表示の推定規定)」,「2 仮払い制度等の創設・要件明確化」,「3 一部分割」につきましては,ゴシック部分の提案内容は字句等の若干の表現の修正は行っておりますが,これまでの部会資料からの変更はございません。   次に,「4 相続開始後の共同相続人による財産処分」についてですが,ゴシック部分の提案内容につきましては,甲案,乙案とも字句等の表現の修正をしておりますが,実質的な内容はこれまでの部会資料からの変更はございません。   なお,4につきましては,補足説明の内容につきましてもかいつまんで御説明いたします。   部会資料23-2の6ページ以下を御覧ください。   相続開始後に共同相続人が遺産について財産処分を行った場合には,その処分を行った者が処分をしなかった場合と比べて利得をするという不公平が計算上生じ得るところ,公平かつ公正な遺産分割を実現するために,何らかの規律を設ける必要性が高いものと考えられ,前回の部会におきましては,複数の委員から同旨の御意見が述べられたところでございます。   なお,相続開始後の財産処分が特に問題になると思われる預貯金の払戻しについてですが,共同相続人の一人が他の共同相続人の同意を得ることなく預貯金の払戻しをすることは違法であり,他の共同相続人は不法行為に基づく損害賠償請求をすることができると解する余地もあり得なくはないところ,この場合において,現行法の不法行為,不法利得の解釈として,乙案と同じ結果が実現できるのであれば,新たな規律を設ける必要性は低下することになります。   そこで,この点につきまして,前回の部会におきまして問題提起をして御審議いただいたところでございますが,複数の委員からそのような解釈の可能性もあり得なくはないが,確実にそのような解釈になると考えることはできないのではないかとの意見が示されたところでございます。   また,第2の2(2)にもありますとおり,相続された預貯金につきましては,家庭裁判所の判断を経ないでその払戻しを認める方策についても検討されているところ,この方策に基づく適法な払戻しであれば,当該権利行使をした者は遺産分割において精算を義務付けられるにもかかわらず,この方策に基づかずに払戻しを受けた場合については,精算を義務付けられずに不公平な結果が生ずるということを是認することは,結果の具体的妥当性の観点から見ても極めて困難であると考えられます。   他方で,前回の部会におきましては,部会資料22で提案した考え方につきましても様々な懸念が示されたことから,本部会資料の7ページ以下で甲案について示された問題点,9ページ以下で乙案について示された問題点について,それぞれ検討を加えておりますが,いずれの指摘も根本的な問題点とまでは言い難いように思われます。   以上,第2につきまして,御説明させていただきました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   「第2 遺産分割に関する見直し等」につきましては,1から4まで4項目ございますけれども,1から3までにつきましては,大きな点には修正はないということでございます。   4につきましても,ゴシックで書かれている提案自体は,甲案,乙案の併記ということで内容は変わっておりませんけれども,これにつきましては様々な御意見があったということで,補足説明で一定の説明がされているという御説明がございました。何らかの形で規定を置いたほうがよいのではないかというのが事務当局のお考えであろうかと思いますけれども,これにつきまして御意見を頂ければと思います。 ○潮見委員 意見というより確認のための質問,4についてです。主に問題のあるのは預金の払戻しだということですので,そこに絞って,こういう御理解かということの確認です。   ここの甲案にせよ,乙案にせよ,これは相続が開始された後に預金が払い戻されたという場面が想定されている。そして,仮払いという制度が仮に設けられれば,これは2の方で処理をする。4で書かれているのは,それ以外の場面である。それ以外の場面で,つまり相続開始後に預金の一部が金融機関から共同相続人の一人に対して払い戻された。その場合の払戻しが有効であるという前提で,この4の甲案,乙案というものは成り立っているのでしょうか。例えば300万円の預金債権があり,それで何らかのことがあって200万円をある一人の人に払い戻したと。預金残高のそこのところには100万円しか残っていませんけれども,そういう状況で200万円を払い戻したのが有効だというときに,あとは100万円しか残高残っていないけれども,300万円という形で処理をしましょうという場面に限っているのか。それともいろいろな状況があって,共同相続が開始した後でも金融機関がある一人に払い戻した。でも,それは本当は払い戻しちゃいけないのにいろいろ言われて払い戻したとか,いろいろな事情があって払戻しをしてしまって,結果的にそれが無効だと評価されたというような場合もあろうかと思いますけれども,こういう場合は,ここの4のところの甲案にせよ,乙案にせよ,考えていないのか。もっと言ったら,今のような場合は300万円で200万円払戻ししているけれども,預貯金は300万円あるんだという形で処理をするということで,もうここに載せずに考えようとされているのか。この点についてだけ,少しお考えをお示しいただければと思います。 ○神吉関係官 お答えさせていただきます。   基本的に,潮見委員御指摘のとおり,払戻しが有効であるということを前提として,ここの規律は考えているということでございます。これまでの部会資料におきましても預貯金の払戻しが準占有者の弁済で有効となったということを前提として,遺産ではなくなった場合にどうすべきなのかということを検討しております。したがいまして,委員から御指摘がありましたとおり,本来は支払ってはいけずその弁済が無効と評価されるような場合には,遺産としてなお残っていると考えることができ,その残っているものを前提として遺産分割をすれば足りるというふうに考えております。 ○潮見委員 民法で言ったら準占有者弁済に当たるという前提だということですか。 ○神吉関係官 はい。 ○潮見委員 そうであれば,先ほど読み上げられた説明の6ページの下から3行目の辺りのところですけれども,「共同相続人の一人が他の共同相続人の同意を得ることなく預貯金の払戻しをすることは違法であり」と書いているのですが,若干説明を工夫しないと,私が言った後者のようなものも含めて,甲案,乙案みたいなものが考えられる可能性が,おそれがあると思うんです。ですから,少し丁寧に説明をしていただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○中田委員 不法行為や不当利得について,確実ではないから手当てとして制度を置くという趣旨はよく理解いたしました。   その上で確認なんですけれども,例えば二人の相続人がいて,そのうちの一人が預金全額を払戻ししたと。それで,相続財産はその預金しかなかったというときに,遺産分割で半分ずつにしろというときには,償金請求はできるということになるのではないかと思うんですけれども,その償金請求というのは遺産分割審判によって創設されるものだというように理解してよろしいでしょうか。 ○神吉関係官 遺産が預貯金しかなくて,それを相続人の一人が全て引き出してしまったといった場合には,乙案の規律によりますと,この規律で当然に具体的相続分の侵害額について請求できるということになりますので,償金請求をするに当たっては特に遺産分割等を経る必要はないものと考えられます。一方,乙案ではなくて甲案の規律を設けますと,遺産分割審判を経て預貯金の帰属を決めて,その帰属の侵害があったものとして,別途,不法行為なり不当利得で請求していくのか,若しくは代償金,実際に引き出した人に全て預貯金を相続させつつ,具体的相続分を超過した分については代償金債務を負わせるという遺産分割審判をする,そのどちらかかなと思っております。 ○中田委員 そうしますと,乙案を採った場合には,遺産分割前であっても,その償金請求権を被保全債権として仮差押えをしたり,あるいは引き下ろした相続人が破産したときに,その債権届をすることが可能になると理解してよろしいんでしょうか。 ○神吉関係官 乙案のような規律を設けますと,その処分をした時点で償金請求権が発生しますので,基本的にそういう理解になるのではないかなと思っております。 ○中田委員 更に重ねて恐縮でございます。遺言執行者がいる場合,もう少し具体的に言うと,不正な払戻しがあった後,遺言執行者が選任された場合に,遺言執行者は不法行為に基づく損害賠償請求権や不当利得による返還請求権を払戻者に対して行使することはできるんでしょうか。 ○神吉関係官 その点については現行法の理解にもなるかと思いますので,もしよければ先生方の御意見をまたお伺いしたいなとは思いますが,遺言執行者というのは遺言の執行をするのが職務だと思いますので,相続人に代わって不法行為なり不当利得の請求をするということまでが,その職務に含まれていると言えるかどうかということだと思います。私ども詰めて検討したわけではありませんので自信がありませんので,むしろ民法の先生方に御意見をお伺いしたいなと思います。 ○中田委員 そこは遺言執行者の権限との関係があるのだと思うんですが,私が関心がありますことは,この規律の外に不法行為ないし不当利得による請求の可能性が残るのか,残らないのかということでして,この規律を置いたことによって遺言執行者,あるいは残りの共同相続人が払戻者に対して不法行為や不当利得の請求をすることが封じられるわけではないということが確認できればと思うんですが,そういう理解でよろしいでしょうか。 ○神吉関係官 その点はそのとおりだと思います。そもそも他人の持分を処分した場合には,不法行為若しくは不当利得が成立するということ自体は,乙案を採用したとしても変わらないかと思いますので,現行法において成立するものを,乙案を設けることによってやめるとか,廃止をするとか,そういったことを含意しているものではございません。 ○大村部会長 中田委員はよろしいですか。 ○中田委員 不動産についての意見もあるんですが,それは後ほど。 ○水野(有)委員 意見というより,今おっしゃったことに関する質問なんですが,今現行法で何も規律を設けないと,法定相続分に基づいて不法行為や不当利得が請求できる状態であるという趣旨と理解しているんですが,そういう理解でよろしいでしょうか。 ○神吉関係官 他人の持分を処分した場合には,そういうことになろうかと思います。 ○水野(有)委員 その持分を算定するのは,今規律を付けないと,論理的には具体的相続分という説があり得ないとまでは言いませんが,多数説は法定相続分で考えているという理解をしていたのですが,大体そういうことでよろしいでしょうか。 ○神吉関係官 そうですね。遺産分割をするまでの暫定的な持分については法定相続分若しくは指定相続分という考え方もあり得るかと思いますが,話を単純化し相続分の指定がないようなケースについては,他人の持分を処分して不法行為等が成立するという場合の持分割合については,法定相続分が基準となると考えるのが通説なのではないかなと思います。 ○水野(有)委員 ありがとうございました。 ○大村部会長 今の点に関連して,何かございますか。   では,中田委員,もう一問ございましたか,先ほど質問。 ○中田委員 不動産に移ってよろしいんですか。 ○大村部会長 その前に,藤原委員どうぞ。 ○藤原委員 すいません。では,第2のところでもう一つ,例の家庭裁判所の判断を経ない預貯金の仮払いのところについてだけ,ちょっと1点,御意見を述べさせていただければと思います。   法務省提案の金額のところですね,法定相続分の2割であるとか,債務者ごとに100万円という,この金額の部分については更なる検討の余地があるのかなと思っておりまして,実際,前回,対案を御説明させていただいたときの理由にもちょっとあるんですけれども,実際の仮払いのニーズで多分一番多いのは,やはり葬儀費用ではないかというふうに考えておりまして,そうすると,ある調査によれば,葬儀費用の平均は大体200万円弱というふうに言われているようでございまして,そうなりますと,この債権額の2割かつ債務者ごとに上限100万円ということですと,必要額に足りないということもあるのではなかろうかと。そうなると,なかなか作ったはいいけれども,利用しにくいということにもなりかねないということでございまして,今回ここの部分についてはパブコメにかけていただけるということですので,この金額の上限については,そのパブコメの結果も踏まえて,更なる議論が必要かなというふうに考えております。   以上です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今の御発言は4とは直接には関係ないですね。 ○藤原委員 すいません,2の方でございます。 ○大村部会長 御意見として承ります。   4に戻りまして,中田委員はもう一つの質問は4の関係ですね。 ○中田委員 はい,4です。 ○大村部会長 では,それをどうぞ。 ○中田委員 不動産の共有持分の売却の場合も,この規律は対象にしているのではないかと思うのですけれども,AとBと二人の相続人がいて,Bがその持分を売却すると,後にAがそれを含めて遺産分割で取得しても,第三者の権利は動かないというのが現在の規律だと思います。その場合に,AとBの後始末について,現行法の下でどうなっているのかを教えていただければと思うんです。つまり,物権的に残りの相続人であるAと第三者との優劣がどうかというのはしきりに議論されていて,相続と登記とか,遺産分割と登記の問題としてよく知られているところですが,その後始末についてどうなるのかというのがここでの問題だろうと思うんです。その現在の帰結と,今回御提案になっている甲案,乙案とを比較する必要があるのではないかと。それで,現行実務を動かすのだとすると,それはどういう理由であって,支障はないのかということを検討する必要があると思います。   そこで,その前提として,不動産の共有持分の売却の場合の後始末についてお教えいただければと思います。 ○神吉関係官 この点,我々もいろいろ調べたのですが,明確にきちんと検討しているものというのは少ないのではないかなと思いますが,理論的な可能性としては二つの考え方があろうかと思います。一つの考え方としましては,ある相続人が法定相続分で持分を処分して,残りの持分について遺産分割をするんだと,それを法定相続分なり具体的相続分で遺産分割をするんだという考え方があろうかと思います。もう一つは,例えばの話として,相続人がA,Bいて,Bが自分の持分2分の1を処分してしまったら,残りはその2分の1のAの持分しかないので,Aは遺産分割することなく単独で残りの持分を取得するという考え方もあろうかと思います。   この場合どちらの考え方が一般的なのかというのは,よく分からないところでして,部会資料22の10ページ(注)にも記載しましたが,実務上は不動産の持分処分した場合は,処分した人の同意を取って,全体を遺産とみなすなどして処理されており,問題が顕在化することが少なかったのではないかと思われます。そもそも遺産分割前に持分が処分されるということ自体,これまで事象として多くあったのかどうか,そこもちょっと分からないのですが,この点を明確に検討しているものはほとんどないのではないかなと思います。 ○中田委員 むしろ,もし御経験のある方々がいらっしゃればお教えいただければと思いますが。 ○水野(有)委員 すいません,私がちょっと判例の正確な理解があるかどうか分からないんですが,一部のものを処分して,例えばAという物件を処分してしまったら,そのAの物件で全然違う第三者が入るということになりますので,そちらについてはもう物権共有になってしまって,そちらは物権法上の共有物分割で処理することになって,ただそれが,算数上,完全に遺産から離れるかどうかまでは正確に理解は私はしていないんですけれども,遺産分割の対象財産からは外れるのかなとは思っておりました。   ただ,現実の調停とかだと,その人も一緒に入って話をすることはあるんですが,ぎりぎり審判という話になれば,ちょっと遺産分割からは外れてしまうのかもしれないなと思っておりました。 ○中田委員 お教えいただければと思うんですが,処分した人が対価を得ていますね。その対価は何か考慮されるんでしょうか,遺産分割において。 ○水野(有)委員 多分,考慮していないのではないかと思うんですが。現実問題としては,処分価格は安いことが多いですね,時価よりは。というのは,やはり訳あり物件のようなものですから。だから,問題があるとすれば,その物権共有の分割部分について,寄与分とか具体的相続分という話ができなくなってしまうところを問題と捉えるならば,捉えることはできるのかもしれませんが。   ですから,中田委員の御質問にちょっとかぶせるようで恐縮なんですが,一番典型的ですごく御心配されている金銭債権のところの手当てとしては,何らか必要というニーズはすごく私も感じるんですが,中田委員御指摘のとおり,他の動産とか不動産とか,いろいろなものと一貫してできるものを作らないと難しいかなと思っておりまして,私としたらどうするのが一番それが全てきれいにいくのかが,本当によく分からないなと思っているので,是非,法務省にすばらしい案を作っていただければというのは前々から申し上げているとおりです。 ○堂薗幹事 不動産の場合,例えば今のように相続人がA,Bだった場合に,Bがその共有持分の処分をしたという場合には,その不動産は,Aと第三者の共有ということになって,その分割は共有物分割の手続で行うことになるということかと思います。そこで残ったものは遺産分割の対象となるというのが判例の考え方ではありますが,相続人としてAしか残っていないというときにも,遺産分割の対象になるかどうかというのはやや分からないところはあるのですが,少なくとも,例えば相続人がA,B,Cの3人で,Cが処分をして,第三者との間で共有物分割が終わり,残ったものについてA,Bの共有になっているという場合には,遺産分割の対象になるということなのではないかと思います。   そういたしますと,結局,例えばAとBの共有,要するに相続人がAとBしかいなかった場合に,そのうちの一人が処分すると,遺産共有ではなくなってしまうので,それが遺産分割の対象にならないとすると,結局法定相続分を前提とした精算がされ,やはり特別受益などの考慮が一切されないということになりますし,A,B,Cと相続人がいる場合に,Cが持分を処分して,その分については対価を得ていると。それで,第三者との関係では遺産分割が終わって,A,Bの共有財産が遺産分割の対象になるということになりますと,それ以外の財産についてはA,B,Cの共有財産であるのに対して,処分された財産についてはA,Bの共有財産が遺産分割の対象となるということで,各相続人の法定相続分を前提とした取得額,要するに特別受益の調整前の取得額を計算する上でも,非常に計算としては複雑にならざるを得ないのではないかというところは,どうしても残るような気がしておりまして,したがって,特に甲案のような考え方を採りますと,その計算をする場合にも,全ての財産についてA,B,Cの共有状態だという前提で計算ができるようになりますので,全体としては計算がしやすくなるという面はあるのではないかなというふうに,考えているところでございます。 ○大村部会長 中田委員,もし何かあればどうぞ。 ○中田委員 共有状態がどうなるかというのは理解いたしましたけれども,遺産分割において,その処分した共同相続人の取得分というのはどうやって計算することになりましょうか。 ○堂薗幹事 処分をした相続人については,法定相続分で換価をしたということになりますので,そこはそれで終わってしまって,遺産分割においては,その部分については全く考慮されないという前提だと思います。ですから,その処分した残りの部分について,それ以外の相続人で共有しているという状態ですので,結局その財産については,処分をした人は法定相続分で財産を取得でき,それを維持することができるということになり,したがって,特別受益などが多い人がそういうことをすると,そこの不公平は残ったままということになるので,そういった場合も含めて,この規律の対象にすると,特別受益による調整もできるようになるのではないかというところでございます。 ○中田委員 処分というのは,実際には多くないと思うんですが,差押えは結構あると思うんですね。その場合も同じことだということですね。 ○神吉関係官 差押えがされた場合については,部会資料20において検討しておりますが,売却決定まで至った場合については,同様に考えることができるのではないかと思われます。 ○大村部会長 ほかに,この点につきましていかがでしょうか。 ○山本幹事 従前から,甲案,乙案,それぞれ議論があり,今問題となっている不動産も含めて考えたときに,この甲案,乙案で全てきれいに規律ができているのかというところについては,かなり疑問もあるところであり,第一次的には,今回,規律として入れてしまうというのは難しい面もあるのではないかと。そういう意味では,当面不法行為となるかどうかといったことも含めて今後の解釈に委ねるというのも一つの解決ではないかなと思っているところであります。   その上で,特に乙案について,実務上,生じ得る問題等について改めて述べさせていただきたいと思います。前回申し上げたところですけれども,乙案によると,家裁の遺産分割手続と同時並行又はこれに先行する形で民事訴訟手続の中で具体的相続分についての審理が行われることになるわけでありまして,これは当事者からしますと,両方で同じような審理のために,同じような資料を大量に出さなければいけない可能性が生じるということで,非常に負担が大きくなる可能性があるかと思います。さらに,その結果として,結論が家裁と地裁で異なる,あるいは相続人が複数いる場合ですと,この償金請求も幾つかの訴訟が起こるという可能性がありまして,それぞれ資料を出し,かつ結論も異なることが可能性としてはあり得るということになるかと思われます。   部会資料にも触れられていますように,こういった事態は一応,現行法上も遺留分減殺請求訴訟に関しては起こり得るわけではありますけれども,ただ,遺留分減殺請求の場合は,現実問題としては基本的に全財産を特定の相続人に相続させる旨の遺言がある場合がほとんどでありまして,その意味では,事実上,ダブルトラックが生じるという場合は非常に限られているのではないかと思われます。それに対して,今回の規律が入った場合は,かなり恒常的にそういった事態が生ずるわけでありまして,利用者の負担の観点から,それでいいのかという問題が一つあるのかと思っております。   もう一つは,これも従前の部会資料でも触れられていたところでありますけれども,民事訴訟手続の中では,寄与分を考慮し得ない結果,かえって公平に反する事態が生じ得るのではないかと思われるところであります。例えば,以前の部会資料において,AとBの二人の相続人のうち,Aが相続開始後に相続財産である預金を引き出した事例で,Bに寄与分が認められる場合には,請求できる償金の額が過小になる場合があるということが紹介されておりましたけれども,逆に,引き出したAの側に寄与分が認められる場合には,償金の額の方が過大になる結果,かえって不公平が生じるようなことがあり得るところであります。特に,遺産分割終了後にもこのような請求を認めざるを得ないということになると,これは結果として妥当なのかが問題となると思われます。   さらに,今回の規律を拝見しますと,今回の規律を前提にすると,共同相続人による遺産処分の事実があれば,それだけで,アからイを控除した額を請求し得るように見え,そうすると,例えば調停とか遺産分割協議が先行しているような場合にも,さらにこの規定によって,言わば満額の償金請求が認められることになり得るように見えるわけですけれども,この点実質的に妥当なのか。逆に,そうではないということになると,従前から申し上げていたとおり,発生要件事実,あるいは消滅原因事実といったような要件事実的なところがやや分かりづらいのではないかなと思っているところであります。   最後に,これも従前御議論いただいているところですけれども,具体的相続分の法的性質をどう捉えるのかというところでありまして,前回の御議論でもその権利性を否定する一方で,償金請求を認めるという根拠は明らかではないのかというような御指摘があったところかと思いまして,その点も是非御考慮を頂ければと思っております。   そういうことで,一次的には甲案,乙案,いずれも今回規律として入れるのは時期尚早ではないかと考えておりますけれども,仮に甲案,乙案という形でパブリックコメントにかけられるということでありましたら,今申し上げましたような乙案についての不都合の点は,補足説明で是非御説明を頂ければと思っております。   以上です。 ○神吉関係官 部会資料で検討を加えている部分もありますが,事務当局から何点か御回答させていただきます。まず,寄与分については,確かにこれを考慮しないと公平が徹底しないということはおっしゃるとおりかと思いまして,この点については前回の部会資料でも検討してありまして,寄与分については法制上,一応考慮するという方策を採るということもあり得なくはないと思っております。現に民法第910条の相続の開始後に認知された者の価額の支払請求については,第904条の2第4項にも規定されているとおり,寄与分についても考慮することができるとされておりますので,同じような仕組みを採るということも理論的にはあり得るかと思います。ただ,そうすると,より手続として重たくなりますので,果たしてどうかという御意見がきっとあろうかと思いまして,寄与分については,取りあえず考慮しないということでどうかということで御提案をさせていただいているということでございます。この点について,もしやるのであれば,公平を徹底させたほうがよいという御意見が多数を占めるのであれば,第910条と同様に寄与分について考慮するという方策も十分あり得るのではないかなと思っているところでございます。   それから,調停など遺産分割協議が先行している場合に,この償金請求権がどうなるんだという御質問があったかと思います。調停などで処分した部分を含めても,処分した財産も含めて帰属を決めて,精算を決めてしまったといった場合については,遺産分割の遡及効で遺産に属する財産を処分していなかったと,そこも含めて精算されたということで考えることはできるかと思いますので,乙案の償金請求権が消滅をした,消滅というか,そもそも遡及的に発生していないというふうに考えることもできるのではないかなと思っているところでございます。 ○山本幹事 今の点に関連して,1点目の寄与分の点ですけれども,これはおっしゃるとおりで,寄与分を考慮する立て付けにしますと,全部待たないといけないということになります。910条のような限定的な場面はともかくとして,今回それなりの件数があり得るという前提ですので,民事訴訟の方でも考慮するという立て付けは,それはそれでやはり問題があるというふうに考えております。   2点目の方ですけれども,少なくとも調停で清算条項が入っているような場合は,基本的にそれは消えるんだという前提で,今,理解いたしましたが,遺産分割協議のような場合ですと,そもそも計算に入っているのか,入っていないのかもよく分からないような事例も多数あるかと思っておりまして,そういう場合にどうなのかというところは,なお問題があるのかなというふうに考えているところでございます。   以上です。 ○大村部会長 ありがとうございました。 ○中田委員 不動産と債権と両方にわたることなんですけれども,不動産については,ただ今のお話を伺っていても甲案の方が,まだ現行実務に近いのかなというふうに伺いました。現行実務は,もう一度確認なんですが,A,B,二人の相続人で,Bが自分の共有持分を処分したときに,その後の遺産分割においては,当然それは具体的相続分によってA,Bの間で遺産分割がされるということでよろしいわけですね。その対象となっている遺産は,その残ったものであるけれども,しかし,その限りでは,具体的相続分による分割が実現されることになるのではないだろうかと思うんですが,そうすると,甲案とは連続性があるのかなと思いました。   他方で,甲案を採った場合には,債権については遺産分割審判があるまでは不正払戻しに対しては何ら請求権を持っていないということになると,先ほど申しました件ですけれども,仮差押えなどができないという事態になって,それはやはり不都合ではなかろうかと思います。甲案,乙案,それぞれ問題を抱えているのかなと思いました。 ○窪田委員 ちょっと幾つか分からない点がありますので,質問も含めてさせていただければと思います。   本当に初歩的なところを誤解しているのかもしれないのですが,まず,甲案に関してですが,不動産の場合,今,中田委員からもお話があったように,むしろ甲案の方が分かりやすいかもしれないということでありましたけれども,不動産は一つしかなくて,法定相続分を処分してしまったと。それで,処分してしまった側が非常に大きな特別受益を持っているというような場合だったら,処分した分も含めて具体的相続分を計算してということになると思いますが,現に残っている不動産は,もう2分の1の持分しかないわけですよね。そうしますと,足りない分が出てくるというか,調整しようとすると,多分不足するということになると思うのですが,そこの部分については,言わばお金で処理をするということが含まれるのかどうなのか。それを含むのであれば,何か乙案と似たような扱いになるのかなという気もしますし,その点を確認させていただければというのが1点です。   もう1点,これはもっと基本的なところで,私が誤解しているのかもしれないのですが,今までの議論としては,償金請求権というのは民事訴訟のところで片付けて,一方で具体的相続分の話は遺産分割なので,家裁で審判手続の中で処理をするということで,ダブルトラックになるのではないかという問題があったのですが,ここで言っている償金請求権というのは,ストレートに損害賠償請求権と言っているわけでもないですし,言わば具体的相続分を本来実現するということが求められているにもかかわらず,しかし,その前に遺産分割の前に処分されてしまったので,それを調整しようとするというものであり,この制度自体を遺産分割の枠組みの一つの延長で理解するということが仮に可能なのであれば,そもそも償金請求権について処理をするということも,遺産分割の手続の中で考えることはできないのだろうかという疑問です。私は多分,初歩的なことも分かっていないからなのかもしれませんが,そういう可能性はないのかなという気がしたものですから,教えていただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   甲乙は分けられないという,そういうことでしょうか。 ○窪田委員 必ずしもそうではないのですが,あるいはもう全然別の問題として扱ってもらったらよいのですが,甲案の場合について,残った財産では具体的相続分を実現するのには足りない場合どうなるのかという問題と,それとは全く別に,乙案をどの手続で扱うのかということについて,家裁で扱うという可能性はもう全くないのかという質問です。 ○神吉関係官 二つの御質問があったかと思います。まず,前者の御質問ですが,具体例に基づき御説明した方が分かりやすいかと思いますが,例えば,不動産が1,000万円の価値があるものがあり,相続人がA,B2名いますと。そして,Bが自分の持分2分の1を処分しましたと。この際に,Bに特別受益が1,000万円ありましたと。そういったケースを想定すればよろしいかと思いますが,本来普通に遺産分割をしますと,Aが全て不動産を取得できるという計算になるかと思います。この場合に,Bが2分の1をもう既に第三者に処分をしていると。この場合に,甲案の規律を働かせるとどうなるかのというのが,窪田委員の御質問かと思います。この場合の具体的な審判としましては,Bはもう既に第三者に持分を処分してしまっておりますので,まず,第三者に処分をした不動産の2分の1の持分部分をBに取得させると。それで,残っている2分の1の持分をAに取得させるとした上で,Bはその500万円分を取り過ぎとなりますので,BはAに対して代償金として500万円を支払えと,こういう主文になるのではないかと思います。したがいまして,結論としては不足分については金銭で解決をするという形になるかと思いますが,法形式としては,遺産分割審判の中で,代償金債務を負わせた上で,具体的相続分に応じた遺産分割をするということになるのかと思います。   2番目の償金請求権について,家裁でできるかどうかという御質問ですが,これは既に発生した金銭債権に関する紛争ということで,非訟ではないと思いますので,遺産分割審判の中で処理をするということはなかなか難しいのではないかと思います。別途訴訟的なものを家裁に管轄権を付与すればできるという可能性はあり得るのかもしれませんが,遺産分割審判と一緒に処理をするということはなお難しいのではないかと思います。したがいまして,乙案の償金請求訴訟については基本的には民事訴訟で処理をするということを想定しているところでございます。 ○窪田委員 ちょっとだけ補足させてください。   御説明の趣旨というのはよく分かるのですが,例えば財産分与の扱いの中で,現在の判例ですと,慰謝料の部分というのは通常訴訟と財産分与に関する審判のどっちでもいけるという形になっていて,財産分与の枠組みの中で処理をすることを否定はしていませんよね。それとの関係で言うと,全く可能性がないのかどうなのかということです。可能性がないというなら,筋としてはやはり本来は訴訟事項なんだというのはよく分かるのですが,そうすると,乙案というのはなかなか実現可能性というのが乏しくなるのかなという気がしますし,先ほど御説明があったとおり,両方とも具体的相続分の話をして,それが一致するという保証もないという形で運用されるというのは,ちょっとリアリティーに欠けるのかなと思ったので確認をさせていただきたかったということです。 ○神吉関係官 お答えになっていないかもしれませんが,乙案を採用したとしましても,当事者が合意をして,遺産ではないものについて合意をして,遺産分割の対象財産に含めて遺産分割をするということ自体は,現行法上も禁止されておりませんので,甲案的な処理を当事者の合意を取った上でするということは十分あり得ると思っております。 ○水野(紀)委員 窪田委員のイメージに非常に近いものを感じております。そもそも900条ただし書で,遺産分割前に法定相続分を処分できるとしたことに,相当根本的な問題があったわけです。最高裁のいう,勝手に処分したときの損害賠償ないし不当利得の請求権を,私自身は具体的相続分の権利性をもっと強く考えておりましたので,具体的相続分まで考えた上で損害賠償ないし不当利得も命じ得るのだと考えておりましたが,お話を伺ってみますと,実行して売ってしまうと,その部分が飛んでしまいかねないように思いました。私は,共有持分の処分が結果的にそのような遺産分割分の権利性を侵害してしまうものだと思っておりませんでした。今までの実務と余りにも違うという問題はあるのかもしれませんけれども,やはり遺産分割までは処分できないという形にするのが本来だろうと思いますので,なるべく甲案に近いような形で,償金請求という形にしましても,損害賠償ないし不当利得の金銭的なもので最高裁が認めているような処理も,できるだけ遺産分割ができるような形に近付ける結論になるといいように思います。   それから,先ほど藤原委員の御意見を伺っていて思ったのですけれども,銀行が死亡を把握する前に下ろすというのが,ネットなどにも言わば常識といいますか,生活の知恵と書かれていて,銀行が死亡を把握する前に相続人が被相続人に成り代わって下ろしてしまうという場合も随分あるだろうと思います。そのような場合の後始末も,これも下ろした人が相続人全員の同意を受けて,葬式費用をあらかじめ下ろしておくねという場合もあるでしょうし,そうではなくて,自分の手元にお父さんの通帳があるうちに取れるものは取ろうと思って下ろしてしまう場合もあるでしょうし,そういう場合も全部含めて,本当は遺産分割という場に出して,整理ができるような形にするのが筋だろうと思います。そのような筋を通すことが現実にどのような困難をもたらすかについては,私はよく分かっておりませんけれども,方針としては,そういう形できれいに整理ができるような筋を通していただければ有り難く存じます。よろしくお願いいたします。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○藤原委員 今の水野委員の御意見ともちょっと関連するんですけれども,預金の不正払出しのところの話なんですが,実際に不正払出しで一番今多いケースが,銀行が預金者が亡くなることを知る前に相続人が下ろすというケース,もちろんそうなんですけれども,それが店頭で行われるケースというのは,昨今はやはり銀行も本人確認が厳しくなっておりますので,預金者の相続人が払戻しに来ても,性別が違う,年格好が違うということでなかなか下ろせないケースが多うございまして,実際に一番多いのは,暗証番号を知っている親族の方がATMで下ろしてしまうということです。そうすると,銀行はもう本当に何も分かりませんということになってしまいます。   ただ,今でも,例えば兄弟姉妹が相続人のような場合で,御本人と性別,年が似ているというような場合には,本人の死亡を知らずにそのまま銀行も払い戻してしまうということは事実上,起こり得るわけでして,そのときに,今,裁判実務に関する皆様方の意見を聞いていてちょっと思ったのは,不正払出しをした以外の相続人の方が,不正払出しをどのように実際立証するんだろうかというところでございまして,ATMで下ろされてしまうと,銀行としても誰が下ろしたかについては把握のしようがありませんので,銀行からは資料の出しようがないということになります。   店頭の払戻しについては,払戻しの請求書,つまり伝票が残っておりますので,その筆跡等,又は銀行に誰が来たのか聴取をするなどによって分かる場合がございます。ただ,甲案と乙案で,ちょっとそこで銀行の実務としておやと思ったところがございまして,例えば相続人の一人が銀行の店頭に来て,先日,この被相続人の預金が下ろされているんだけれども,誰が下ろしたかを調査をしたいので伝票を見せてほしいとか写しを欲しいと言われたときに,今現在の実務としては,その依頼者が相続人の一人であることが確認できれば,元々共有状態であった預金に関する調査であるということで,その写しを渡しているというのが実務なんですけれども,これが乙案になると,もう預金の払戻しは完全に終わってしまって,別途の民事の請求権ですと,それは地裁で処理されますということになると,その方は債権者ということになってしまって,預金を実際に下ろした方の伝票を出すことが,守秘義務上どうなんだという問題がちょっと出てきてしまうのではないかということで,特に乙案を採った場合のほかの相続人がそういった不正払出しの調査をする,言ってみれば調査権限というか,そういうものが若干問題になってくるんだろうなと思うのを,皆さんの議論を聞いていてちょっと思いましたというところで,そこのところ,もし何か事務局の方で御見解があればということでございます。これは御質問でございます。 ○神吉関係官 特に詰めて検討したわけではないんですが,預金契約上の地位自体は共同相続人全員が承継している形になるかと思います。その共同相続人の一人が取引履歴の開示をするということもあり得るところであって,その一環なのかなと思っております。預貯金契約が解約をされて全て契約が終了した場合はどうなのかというのが,若干問題はあるのかなと思うんですが,少なくとも預貯金契約自体が継続している間は,そういった履歴の開示ということは別にあり得ていいのではないかなと思っております。ただ,守秘義務との関係では検討したわけではありませんので,民事法としてはそうなのではないかなと思っております。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。 ○藤原委員 ありがとうございました。一つの御見解として,参考にさせていただきます。 ○大村部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○石井幹事 先ほどの窪田委員がおっしゃった乙案的な解決を遺産分割の中で行えることもあり得るのではないかというところですけれども,私の理解では乙案というのは,引き出された部分については遺産分割と切り離すということを前提としているので,ややその前提が違ってくる議論になってしまうかなという印象を持ちましたというところが一つでございます。そういう意味で,それを実現しようとすると甲案という世界でやるしかないのかなと思うところですが,甲案についての問題点はこれまでも御指摘させていただいているところですので繰り返しませんけれども,やはり遺産をめぐる紛争の複雑化,長期化といったことについては懸念があるといったことでございます。   その上で,今回のこの点についてはパブリックコメントに付すということでありますけれども,案としては今,甲案,乙案,いずれもということで御提案を頂いているんですが,今の部会の議論としては,甲案,乙案,いずれについても難点,あるいは懸念が指摘されているところで,本日も議論の中で指摘がありましたけれども,甲乙ということだけではなくて,いずれもやはり難しいというところを踏まえて解釈に委ねるという,言ってみれば丙案というような形での提案というのもあるのかなと思っておるんですけれども,そういったパブリックコメントでの意見の聞き方といったことについては,事務局としてはお考えにはなっていらっしゃらないんでしょうか。 ○堂薗幹事 その点は,中間試案の際にも,例えば配偶者の相続分ですとか,そういったところでも御意見があったんですけれども,基本的には見直すものについて御意見をお伺いすると。現行法を変える必要がないということであれば,それはその出された提案に対して反対ということで御意見を頂ければいいので,基本的には,見直す方向の提案を甲案,乙案で出して,見直さないものを丙案として出すということは考えていないということでございます。   それから,先ほどの乙案の関係で,遺産分割の処理が難しくなるのではないかという御指摘を頂きましたけれども,こちらとしては,むしろ乙案のような規律があると,今現行で行われている相続人全員の同意で遺産分割の対象とするという取扱いが促進されるといいますか,今ですとごねた人がいると,要するに引き出した人が,例えば遺産分割の対象にすることに同意しないという場合に組み入れられないというところがあるわけですが,最終的に乙案のような形で請求されるということになると,そこは同意がされやすくなるという面もあるのではないかというところもありますし,そういった意味で,乙案を採用したからといって,遺産分割での一回的な処理が現行法よりしづらくなるということはないのではないかというように思っております。   それから,甲案につきましても,複雑化,長期化という面はもちろん問題としてはあるのかもしれないんですけれども,ただ現行法でも,先ほど潮見委員から御指摘ありましたように,準占有者の弁済とならなければ,なお遺産として残っているという面もありますので,現行法を前提としても,その辺りの事実認定如何によって,遺産分割の対象となるのか,ならないのかが変わってくるという面がありますので,甲案を採ったことによって,そこがそれほど劇的に変わるんだろうかというような疑問も,今日の御議論を聞いていて少し感じたところでございます。   以上です。 ○石井幹事 今の点に関して1点質問なんですけれども,今の堂薗幹事のお話の中で,例えば準占有者に対する弁済に当たらないようなものは対象にならないというような御説明があったんですけれども,それ自体,なかなか遺産分割をやっている中では判然としないところがあると理解をしております。その場合は,今回の場合の資料でいくと8ページぐらいのところに御説明がありましたけれども,みなし遺産であること自体について確認が必要な場合には,その確認の訴えを経ることは考えられるといった御説明があったところですけれども,やはり同じように深刻な争いがある場合は,そういった一度確認の訴えなどを経た上で遺産分割を採るといったことを想定されているということなんでしょうか。 ○堂薗幹事 そこは,要するに,そこの事実認定が違った場合に,そこの担保責任の規定でどこまで救えるかというところとも絡んでくるわけですが,今回の部会資料でお示しした考え方は,当事者間で争いがある部分が遺産のかなりの部分を占めるというような場合には,やはり確認訴訟でそこをはっきりさせた上で,遺産分割をせざるを得ないということになるのではないかという認識でございます。 ○石井幹事 分かりました。最初の申し上げたところに戻ってしまって,なかなか意見の聞き方として難しいということかもしれませんけれども,その場合にも補足説明等で,いろいろな多様な意見があったということは十分お示しいただければと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○増田委員 多分この場で甲案か乙案かそれ以外かという結論は出ないと思いますし,パブリックコメントに出されるんだと思いますけれども,その場合の補足説明においては,第20回の部会で出たような訴訟と非訟の問題,現在の審理方法で,このような要件事実を認定できるかどうかといった問題,それから,具体的に相続分について,権利性を付与するのかどうか,現行の判例の解釈を変えるのかどうかといった問題等,最初の議論に立ち返って,きちんと丁寧に説明をしていただきたいと思います。   今日出たような話だけをパブリックコメントに付したところで,専門家ですら多分理解できないと思いますので,一番最初のところから論点をきちんと整理して出していただければと思います。希望です。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○水野(有)委員 すいません,同じようなことを重ねて申し上げて恐縮なんですが,これを言ってしまうと,逆にこれの必要性という話も出てしまうのかもしれませんが,何だか御提案の趣旨だと,余りこういうことはないような御理解かと思うんですが,被相続人が亡くなった後,下ろしてしまうという事案は,すいません,統計とかはないんですけれども,私自身の経験では,例えば私が今単独百何件持っているので,そのうちのある程度のボリュームであるんですね。だから,相当な数ある事案なんです。それを今法定相続分でやっているからこそこのスピードで,それでも早いとは言えないのかもしれないというスピードでやっているんですが,それを全て具体的相続分に変えるとなりますと,速度は極めて全体が遅くなるということは十分御理解いただいて,それも踏まえて--何だか伺っていると,ボリューム感が何か余り感じられないというか,遺留分と同じ量,ただ,遺留分と遺産分割が重なる例というのは極めて少ないものですから,ちょっとボリューム感の御理解がもしかしたら,うまく私どもが伝えられていなかったのかなと思うのですが。   あと,甲案であれば,もちろん一部分割的なことを考えなければいけないし,争いがあるときは,争いがある部分には訴訟で,それも従前の確認訴訟とはまた違った形態の確認訴訟を作るか,作らないかという,検討すべきことが相当程度あるという状態の,まだ御提案であるということでして,おっしゃるとおり,方向性の抽象論はとてもよく理解できるんですが,こうすればいいという,まだビジョンの段階かなと思いまして,ちょっと案の段階にいっているのかどうかは,率直に言って私にはよく理解できていないというところですので,よろしくお願いいたします。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○潮見委員 時間が押しているのに申し訳ありません。   慎重にやってほしいと思いますし,私は,増田委員がおっしゃったことに,全く同意見です。   その上でですけれども,いろいろ伺っていまして,乙案をこのままの形でパブコメに出しましょうという積極的な意見はどれだけあるのかというのが,正直言ってよく分からないようになりました。一歩譲って,この種の規定は抽象的には必要だということは認めますけれども,それ以外の可能性もあるかもしれないとも思うところですし,今日の話をいろいろ伺っていましたら,甲案についてはいろいろ意見,異論等はございましたが,それでも,甲案でもいいという意見はちらほらお聞きしたんですが,乙案の方について,乙案をこのままの形で,このまま育てていこうというようなことを積極的にどのくらいの委員の先生方が考えているのか。窪田委員も,乙案というものを訴訟という形ではなくて,何らかの形で家裁の手続の方に盛り込むことはできないのかなというようなことだったというふうに記憶しておりますし,中田委員にしても,不法行為とか,そういう形での救済の余地というのはあるんですよねという,その辺りの確認というのが乙案に対する御意見についての中心部分ではなかったかというように思います。   そういう意味では,パブコメにかけるということになった場合も,乙案については少し慎重な書き方,あるいは部会の雰囲気というものを何らかの形で示すような形の補足説明というものを是非お願いしたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   甲乙両案について,これまで御検討いただいてきまして,それぞれの得失,メリット・デメリットを検討する中でいろいろな御意見を頂いたと理解しております。意見分布についてはいろいろ見方があろうかと思いますけれども,全体としてどんなことを考えているのか,考えてきたのかということを示すためには,乙案もあったほうがいいのかと思っております。   ただ,何人かの委員から御指摘ありましたけれども,そもそも要らないのではないかという御意見もかなりございますし,甲案,乙案でどちらかというと甲案の方が支持者が多いかという気もいたしております。増田委員から御指摘ありましたけれども,パブリックコメントに当たっては,そもそも何を考えているか,これがなかなか理解しにくいところもありますので,その点を十分に説明した上で,得失についても分かりやすく説明をしていただく。その上でパブリックコメントに付すこととしたいと思いますけれども,よろしいですか。 ○増田委員 潮見委員も含め,乙案に対して非常に消極的な意見があるわけですが,乙案がどのような経緯で出てきたかということをやはりきちんと補足説明では書いていただきたいところです。甲案が理想だとしても,それは現行の処理手続の中では難しいのではないかということは,前回,石栗委員がきれいにまとめられたと思うんですが,現実に甲案が可能なシステムにはなっていない。そこで,その理想に近付ける何らかの方策という,乙案はそういう位置付けだと思いますので,そこのところを補足説明で書いていただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今のような取りまとめで,補足説明を付けた上でパブリックコメントに付すということでよろしいでしょうか。   ありがとうございます。   それでは,この点につきましてはそのようにさせていただきたいと思います。   第2につきまして,ほかはよろしいですか。 ○神吉関係官 仮払いにつきまして,1点だけ補足させていただければと思います。先ほど藤原委員から,金額などについてはパブコメで検討してほしいという御指摘があったかと思いましたが,その点については事務当局としましても金額や割合につきましてはパブコメにおける意見を踏まえて,最終的に決めたいと思っているところでございます。ちなみに参考となるデータというものを少し御紹介させていただければと思いますが,こちらは総務省の統計データにはなるんですが,60歳以上の高齢世帯の平均貯蓄金額は約2,400万円というデータがございます。また,これは総務省のデータではないのですが,金融機関における平均口座保有数は一人当たり約3.5個というデータも示されておりまして,これらのデータを単純に組み合わせますと,60歳以上の高齢世帯の配偶者は約240万円の払戻しができるということになりまして,一般的な葬儀費用は賄えるのではないかなと思っているところでございます。   こういったデータも補足説明において具体的に示しつつ,パブコメではどういった金額が割合が好ましいのかということにつきまして,御意見を聴いていきたいなと思っております。 ○藤原委員 一つだけ申し上げますと,預貯金の平均額は,本当に単純平均だけを見ればいいのかというところが,多分かなり高額者に引っ張られているところがあると思いますので,いわゆる中央値というか,その辺りを統計のマジックに陥らないようにというのはお願いしたいと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   その点も含めて,御検討いただきたいと思います。   第2について,よろしいでしょうか。 ○石井幹事 「3 一部分割」のところについては余り御意見がないんですけれども,パブリックコメントでこれを付していただくということはよろしいかと思うんですが,従前申し上げているとおり,こういった規律を設けますと経済的価値の低いというか,利用価値の低い物件については未分割のまま放置されるといった懸念も指摘されているところですので,その点については,パブリックコメントに付す際にはきちっとお示しいただいたほうがよろしいのかなと思いますので,よろしくお願いします。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほか,いかがでございましょうか。よろしいでしょうか。   それでは,第2につきましては御意見を頂いたということにさせていただきまして,ここで10分ほど休憩させていただきまして,3時35分に再開いたします。   では,休会いたします。           (休     憩) ○大村部会長 それでは,再開させていただきます。   第5,第6,第2と御意見を頂いてまいりましたが,資料の最初に戻りまして,第1の「配偶者の居住権を保護するための方策」につきまして,事務当局の方から御説明を頂きます。 ○倉重関係官 それでは,関係官の倉重から第1について御説明いたします。   まず,「1 配偶者の居住権を短期的に保護するための方策」についてですが,補足説明の1及び2は規定振りの明確化に関するものです。3につきましては,従前,短期居住権の消滅原因として「配偶者が占有を喪失したこと」を挙げていたところですが,短期居住権は無償で居住建物を使用することができるという権利ですから,居住建物を占有していない場合に対価を支払う必要がないことは当然ですので,これを削除することを提案するものです。4は,短期居住権に関して,居住建物の修繕に関する規定を設けることについてです。居住建物が遺産分割の対象となる場合には,通常,他の相続人及び配偶者はいずれも居住建物の持分を有しておりますので,他の相続人とそれから配偶者のいずれも第一次的な修繕権を有するという規律にいたしました。なお,本部会資料では,修繕権の扱いにつきまして,建物が遺産分割の対象にならない場合でも同様の規律とすることを提案しておりますが,この点については,長期居住権の修繕権に関する御議論を聞かせていただいて,それに合わせた規律とすることを予定しております。   次に,「2 配偶者の居住権を長期的に保護するための方策」についてですが,1は,前回も口頭で申し上げました点ですが,長期居住権の存続期間を原則終身とする規律としてはどうかという点について御意見を賜りたいというものです。2は,長期居住権における居住建物の修繕に関するものです。この点については,民法第615条と同様の規律を設け,配偶者が修繕できる場合を限定するとする甲案,それから,配偶者が常に居住建物を修繕できることとする乙案を併記しておりますので,この点について御意見を賜りたく存じます。3は,前回部会で御指摘いただいた長期居住権に関する承諾に代わる許可制度の導入の要否についてですが,借地借家法上も,建物の賃借権については許可の制度がないことから,同様の制度は導入しないこととしております。最後に,4の登記の点についてですが,前回部会での議論を踏まえ,審判によって長期居住権の設定登記をする場合には,原則どおり主文において登記義務の履行を命ずる旨が明示されている必要があるとすることについて,御意見を賜りたいというものです。 ○大村部会長 短期と長期の居住権がございますけれども,修繕の問題,それから長期居住権の存続期間の問題,そして長期居住権の登記に関する問題,これらの点について御意見を賜われればということでございました。これらの点も含めまして,御意見を頂ければと思います。いかがでしょうか。 ○南部委員 ありがとうございます。   長期居住権の修繕費の関係ですが,仮に甲案になった場合ですが,所有者が費用面を考慮することなく業者を選定するということも想定されて,配偶者が不利益を被る可能性があるのではないかと考えます。居住建物の修繕費を配偶者が負担するのであれば,業者の選定を含めて,第一次的な修繕権は配偶者に認めるほうが妥当ではないか,一般的に,もし仮に私がこうなった場合,このように思いますが,皆さんいかがでしょうか,御議論いただきたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今の点,他の委員,幹事,いかがでございましょうか。   御発言ございませんでしょうか。 ○水野(紀)委員 配偶者の長期居住権については,ずっと私は危惧しております。特に財産的価値に相当する金額を相続したものとして扱うという前提についてです。先日も,調停委員の方とお話する機会があったのですが,これまでは,わずかな年金暮らしのお母さんが残されて,遺産は居住家屋しかないという場合には,子どもたちがお父さんの死亡の段階で相続したいというのを,お母さんをせめてそのまま住まわせておいてあげなさいと説得をしていたそうなのですが,なまじこうして居住権に金銭的な財産的価値があることになりますと,住まわせておいたらその対価をもらいたいという形になるだろうと言われ,子どもたちへの説得がこれまでよりも非常に難しくなってしまうと心配しておられました。そんな調停委員の御意見にも説得力があって,私もこの財産的価値に相当する賃料分の居住権を配偶者が取得するという構成について,危惧を持っております。これまでも何度か,せめて安く見積もれるようにできないかとお願いしてきましたが,配偶者に修繕権を認めることもその補強材料になるように思います。賃貸借であれば,住まいの修繕は,当然家主の方が負担するわけですが,配偶者が自分で修繕することなどを手掛かりにして,配偶者のこの居住権の価格算定の幅を柔軟に安くできるように考えていただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでございましょうか。 ○潮見委員 先ほどの南部委員がおっしゃったことと絡むのか絡まないのか分からないんですが,ちょっとだけ教えていただきたいことがあります。   甲案,乙案が出ていた居住建物の修繕等のところですが,部会資料の5ページに2(2)カがあって,「居住建物の修繕等」というのがあって,そこにまず(ア)がありますよね。(ア)があって,「居住建物の所有者が居住建物の保存に必要な行為をしようとするときは,配偶者は,これを拒むことができない。」と,まずこのルールが立てられていますよね。それで,(イ)以下ですが,甲案を採った場合には,これを前提として,つまり,第一次的な修繕権というものについては,居住建物の所有者が持っているとして,その上で,(イ)の方の甲案を採ったら,配偶者はまず通知するぐらいのことしかできない。ただ,例外的に,第二次的に,言わば補充的に,配偶者の方が修繕をすることができるのは,(a),(b)号にあるように,通知をしたけれども必要な修繕をしない,それから急迫の事情があるという,これは,改正民法の607条の2の第1号,第2号に対応させたものだと思うのですが,これは,賛成するかどうかは別として,それなりにまあまあ一貫はしているのかなという感じはするんです。他方,乙案を採った場合に,乙案のaがありますよね,「配偶者は居住建物の使用及び収益に必要な修繕をすることができる。」と。これと,先ほどのカの(ア)との関係をどう理解したらいいんですか。配偶者に第一次的な修繕権があるから,修繕したいと配偶者が手を挙げれば,その配偶者がやりたいような修繕というものが,それが優先されて,その形で以下進行するのか。それとも,やはりaの前にはカの(ア)という規定がありますから,居住建物の所有者の所有権に基づいて,自らの目的物であるということで修繕をすることができるということになりますから,所有者の方がやりたいと言えば,所有者の方の修繕権というものが,乙案を採っても優先することになるのか。その辺りを,ちょっとお教えいただけませんでしょうか。 ○堂薗幹事 乙案を採用した場合に,今御指摘頂いた点は気になるところではあるんですが,乙案は,基本的には配偶者に第一次的な修繕権を認めるということですので,配偶者と所有者が両方修繕したいというときは,当然配偶者の方を優先させるという前提でございます。それは,必要費の負担を配偶者にしているというところに基づくわけですが,乙案を採用した場合に,そこが不明確であるということであれば,この所有者が修繕できる場合を,例えば,配偶者が相当期間内に修繕をしない場合とするとか,あるいは,配偶者が自ら修繕しないという通知をした場合は直ちに修繕できるけれども,そうでない場合は,甲案と同じように相当期間修繕をしないときに限って修繕をすることができるようにするとか,そういうことも考えられるのではないかというふうに思っているところでございます。 ○大村部会長 潮見委員,よろしいですか。   ほかに何か。 ○山本(克)委員 乙案で通知をしなかった場合に,何らかの効果が発生するんでしょうか。 ○堂薗幹事 それは,通知をしないことによって,所有者が必要な修繕をできないということで,その分余計に修繕費がかかったとか,そういうことであれば,その部分の損害賠償とかは考えられるのではないかというふうには思っておりますが,それをしないこと自体で,直接何か効果が生じるということではないのではないかという気がいたします。 ○山本(克)委員 甲案の場合は,配偶者が通知したら,配偶者に修繕権が発生するかもしれないということに結び付いているのに,乙案には何もそういう効果が生じないのは,何か非常に気持ち悪いなという気がしただけです。 ○堂薗幹事 ですので,先ほどお答えしたとおり,そこをはっきりさせる必要があるということであれば,通知後,相当期間内に修繕をしないときに,初めて所有者の方で修繕ができるという形にすると,甲案との関係で,第一次的な修繕をどちらに認めるかというのを逆転させることになりますので,そこははっきりするのかなという感じはしております。 ○大村部会長 書き方としては,今のようにされるのがはっきりするということだろうと思います。   潮見委員がおっしゃったように,基本的に所有権なのだからということを尊重してカの(ア)は置かれている。 ○潮見委員 そこをどう整理するかということ。 ○大村部会長 そういうことですね。 ○潮見委員 いろいろと矛盾のないような形でお願いします。 ○大村部会長 ということで,実質に紛れがないように,ちょっと整理をすることが必要かと思います。   そのほかいかがでしょうか。 ○中田委員 短期の方でもよろしいでしょうか。   短期についても,同じような修繕についての規律があるわけですけれども,現実問題として,短期の場合に,修繕がどの程度必要性があるのかということを考えます。他方で,配偶者以外の相続人がそれぞれ修繕権があるということになりますと,配偶者と敵対する相続人が修繕権を行使し,修繕権に基づく明渡しを求めるおそれはないんだろうかということが気になりまして,かえって紛争を惹起してしまうことはないだろうかと思います。   より根本的な問題として,短期居住権を法定債権だからこういう規律を置く必要があるんだという御説明なんですけれども,法定債権であるとしても,何らかの合意をすることはできないのだろうか,あるいは,その法定債権とは別に,被相続人との間に成立していた使用貸借契約に基づく,その内容としての修繕についての規律ということもあり得るのではないだろうかと考えると,短期の場合の修繕権というのは,何かいろいろ検討する課題はあるなと思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   ほかに御意見いかがでございましょうか。   存続期間の点について,何か,特にありますか。   あるいは,登記の点についても,問題提起がございましたけれども。 ○村田委員 全然違うところで質問なんですけれども,よろしいでしょうか。   短期居住権の消滅事由で,占有の喪失を括弧に入れられて,不要ではないかという御提案といいますか,御示唆だったかと思うんですけれども,これを削った場合には,規定としてはなくなるけれども,例えば,占有を放棄して施設に入るつもりで,家財道具も一切全部持ってきれいにして出ていったと。ところが,行った先が気に入らなくて,一,二か月して戻ってきましたというときには,それは,短期居住権としては認められるのか,認められないのかというところについては,結論的にはどうなるという理解になるんでしょうか。 ○堂薗幹事 そこは,一般的に短期居住権を放棄したというふうに見られるのであれば,通常の場合と同じように権利がなくなるということなのではないかと思うんですけれども,そこまで認められないという場合で,荷物を整理して,ただ,鍵をそのまま持っていたという場合は,結局占有を喪失していないということだと思いますし,一旦ほかの相続人に返したというような場合は,通常は短期居住権を放棄したという扱いにはなるのではないかというように思っております。したがいまして,いずれにしても,結果としては同じような結論にはなるのかなというふうには思っているんですけれども,あえてここに,こういう形で特出しするまでの必要はないのではないかという程度のことでございます。 ○村田委員 すみません。そうしますと,占有の喪失とあえて消滅事由に記載しなくても,本当に放棄と見られる場合には,一般的な考え方から放棄して消滅したと考えられると。そうでなければ,逆に言うと,何らかの形で占有が継続していると見られる場合も,結果的にはあるのではないかという整理でよろしいですか。 ○堂薗幹事 はい。 ○村田委員 分かりました。ありがとうございました。 ○中田委員 関連することですけれども,今のお答えで既に尽きているかもしれないんですが,原状回復の基準時との関係で,終了時が基準時になりますと,終了していないと,より後になってくるということによって,配偶者にとってマイナスの影響はないだろうかということが気になりました。それは,今の村田委員とのお話であったような,占有の放棄ということで解決するということでしょうか。 ○堂薗幹事 短期居住権の放棄ということで,放棄すればそこで消滅はするということですので,そういう場合は,その時点で原状回復義務は生じるのではないかということでございます。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。 ○増田委員 今のところなんですけれども,間接占有があるかどうかとかいった辺りは,それは,努めて事実認定の問題だと思うんですけれども,喪失した場合を消滅事由としないとまで言う必要性があるのかどうか,これは亀甲括弧のところがあったほうが,よく分かる民法になるだろうと思うんですが,その点はいかがか,あえて消さなければならないでしょうか。 ○堂薗幹事 あえて消さなければいけないというほどのものではないんですが,そもそも,完全に占有を喪失したにもかかわらず,他に占有者がいないというのは,通常はあまり想定できないのではないかというところもありまして,基本的に第三者に占有を移しているような場合ですと,それは,それを理由に消滅請求もできるということではありますし,他の相続人に返しているような場合は,先ほどのように短期居住権自体を放棄したというふうに見られるような気もいたしますので,そういった意味で,あえて占有の喪失を独自の消滅原因として挙げる必要はないのではないかというところでございます。したがいまして,あっていけないかというと,そこまでの考えもないんですけれども,占有の喪失を権利の消滅原因としている例はあまりないこともあり,あえてここで,消滅原因として特出しするまでの必要はないのではないかということでございます。 ○倉重関係官 付け加えさせていただきますと,そもそもこの占有を喪失したときという書き方にしていると,第三者に占有を奪われたようなときには,それが終了原因になるとは考えておりませんでしたけれども,あたかもそのようなときも消滅原因になるというふうに読まれる可能性があるというようなこともございます。そうしますと,分かりやすさという観点からも,占有の喪失を削除した方がよいと考えられます。それから,もう一つが,占有喪失を終了原因としますと,返還義務との関係でも整理をしなければいけなくなってくるということもあります。   一方で,終了原因として想定している占有喪失の多くの場合については,基本的には短期居住権の放棄,免除という形で包含できると考えておりますので,そうであれば,規定の分かりやすさとか明確さといった観点から,これは削除していいのではないかと考えているところでございます。 ○大村部会長 先ほど村田委員や中田委員から御質問ありましたけれども,実質には多分差は出ない。言葉として,どちらがより分かりやすいかということで,増田委員の御感触と事務当局の御感触とちょっとずれがあるようですけれども,現在,亀甲括弧の中に入っているので,これに決着を付けたい。そういうことですね。 ○堂薗幹事 そうですね。 ○大村部会長 言葉の問題ですが,いかがですか。何か御感触あれば伺いますけれども。どなたでも。   特に御発言ありませんか。 ○窪田委員 多分,実質には全然変わりがないことなのだろうと思いますけれども,使用貸借に関して,いずれからでも解除することができるということで,当たり前といえば当たり前のことなのですけれども,今回のものは使用貸借ではなくて,短期賃貸借というふうに作るのであれば,先ほどから出たお話を伺っていると,占有の喪失が終了原因になるというよりは,要するに,短期使用権,短期居住権に関してはいつでも放棄することができるということを定めておけばよいのではないでしょうか。というのは,使用貸借の規定との並びでもあり得るのかなというのが,ぼんやりと感じたという程度です。大してこだわるものではありません。 ○大村部会長 増田委員のお立場からしても,何か書いてあって明瞭になれば,それはいいということなのかもしれませんが,事務当局としては,それは当然だから書く必要はないということになるんでしょうね。やはりあったほうがいいでしょうか。 ○増田委員 仮にどこかへ出ていって帰ってきたって,持分権があって住めるわけですから,別にどっちでもいいことで,どう決めるのが自然かどうかというだけの話です。だから,全然こだわりはしません。 ○大村部会長 それではまた,他の規定の書き振りなどと併せて御検討いただきたいと思います。 ○潮見委員 先ほど中田委員がお尋ねになられた短期居住権の修繕のところなのですが,これ,仮に規定を設けなければ,どういうふうになるとお考えになっておられたんですか。共有の民法252条のただし書が適用されるという形で処理をされるということをお考えになっておられたのか,仮にそうであったならば,ここの(エ)のところに書かれている内容というものとは,少なくとも今の252条ただし書の解釈論とはちょっと違いますよね。特に,修繕を要する旨の通知をしなければいけないとかなんていうのは,こういうものは252条ただし書のところからは直接には出てこないというようなことにもなりますし,そういうことをつらつら考えていますと,この規定を置くことによって分かりやすくはなるけれども,他方で,これ,配偶者の立場に立って考えた場合に,252条のただし書で保存行為は素直に,ストレートにできたところが,こういうプロセスを経なければいけないというようなことも生じてきて,果たしてそういう短期居住権を有している配偶者にとってフレンドリーなものなのかという話も出てくるかと思いましたので,ちょっとその辺りの感触も,併せて御披露いただければと思います。 ○堂薗幹事 正直なところ,こういう規定が本当に必要なのだろうかという疑問はあったんですけれども,賃貸借のところでは,所有権の侵害という側面もあることを考慮してあのような規定が設けられたということだといたしますと,短期居住権や長期居住権でも,そこを強調すれば,所有権に対する侵害という面があることを強調すれば,やはり同じような趣旨が当てはまるのではないかということでございます。逆に,賃貸借の方では,先ほどのような趣旨で規定を設けたにもかかわらず,ここでは不要だという点について合理的に説明できるのだろうかという疑問もあって,こういう形でお示しをしたというところでございます。   ただ,他方で,使用貸借についてはこのような規定は設けられておらず,そこは当事者の合理的意思解釈に委ねるということではあるんですけれども,居住権は法定の債権という整理をしておりますので,当事者間の合意でそこを決めるというのは,なかなか難しい面があるのではないかということで,今回の部会資料では,こういう形でお示ししたわけですけれども,確かに,先ほど長期のところでも申し上げましたように,短期のところも,今の案ですと,他の相続人と配偶者の修繕権の優劣といいますか,そこがはっきりしないところがありますので,この点についても,配偶者の方を優先させるということも,考え方としてはあり得るのかなとは思っているところでございます。この点につきましては,特に債権法改正であのような規定が入った趣旨との関係で,どのように考えればいいのかという点について,是非債権法の審議にも関わった先生方にお伺いできればと考えているところでございます。 ○大村部会長 何かございますか。 ○潮見委員 こっちの場合は,飽くまでも遺産共有状態ですよね。先ほどの御説明にもありましたけれども,配偶者自身も共有持分権を持っているというのが前提ですから,その共有持分権の行使として,保存行為をするというような形で整理するのもあるのかなと思います。そう考えると,使用貸借でもないし,賃貸借でもないし,法定の利用権ですけれども,実態として,基礎には遺産共有に基づく地位があるというのでどうでしょうかとも思ったからです。 ○倉重関係官 短期居住権の場合,(2)の方の規律もございまして,この場合には,配偶者が所有権を持っていないということになりますが,基本的に(1)と(2)とも短期居住権という同質の権利として整理していますときに,(1)と(2)とで修繕に関する規定が大きく異なっていいのかという問題があるように思います。   したがいまして,(2)との整合性を考えたときに,共有持分権に基づく保存行為だけで説明ができるのかなという疑問はあるのですが,例えば,一つの案として,全ての場面で配偶者が第一次的に修繕権を有することにするというのは一つの在り方かなと思っているのですが,そのような整理についてはいかがでしょうか。 ○潮見委員 それは,あり得るとは思いますけれども,先ほどのお話ではないですけれども,どういうふうな立て付けにするのか,幾つかの組合せがあると思いますから,そこを考えていただければいいのではないでしょうか。 ○大村部会長 ありがとうございます。   規定を置くことによって配偶者に思わぬ不利益が生じないように御配慮いただきたいという複数の発言がありましたので,それを勘案していただくということかと思いますけれども,そのほかにいかがでしょうか。 ○沖野委員 戻ってしまって恐縮なんですが,長期居住権の修繕について,念のため確認させていただきたいということで,費用はどちらが持つのかということなんですけれども,相続人あるいは所有者の方が修繕するときには,それは,所有者の方が修繕費用を持つという理解でよろしいんでしょうか。そのような想定の説明のようにも見えるのですが,しかし,規定上は,必要費は,しかも通常の必要費に限っていませんので,配偶者が持つということですから,そこは全部配偶者が持つということなんでしょうか。 ○堂薗幹事 基本的には,所有者がした場合も,配偶者に償還請求ができるという前提です。 ○沖野委員 分かりました。ただ,そうすると,一層やはり配偶者に優先権を認めるべきではないかと思われますけれども。 ○大村部会長 ありがとうございます。   ほかはいかがでございましょうか。 ○垣内幹事 また別の点についてでもよろしいでしょうか。   長期居住権の存続期間の点に関して,素朴な確認の御質問なんですけれども,前提として,資料23-1の4ページのイのところでしょうか,ウのところですね,存続期間の定めが必要であるということで,もし定めがないときの取扱いとして,終身とみなすものとする規定の射程をどうするかということが,問題として提起されていたかと思うんですけれども,前提として,その存続期間を定めるという場合,審判の場合は余り問題ないのかと思いますが,協議で定めるというときに,その定め方として,具体的にどういうものまで許容されるのかという点についてお尋ねしたいということなんですが。例えば10年とか5年とかいうことは当然できると思いますし,終身の間ということもできるかと思いますけれども,当分の間とか,協議で定めるとか,何か改めて協議するとか,誠実に話し合うとか,そういった定め方の場合には,これは存続期間を定めたことになるのかどうかという辺りが,あるいはそういう意思が黙示にあったと認定できるような場合についてどう考えるかといったことが,あるいは問題になるのかなという気がいたしまして,その点について何かお考えのところがあれば,お示しいただければと思います。 ○堂薗幹事 存続期間を定めなければならないというふうにしているわけですので,当然一定の期間ないし,もちろん不確定期限付きのものでもいいわけですが,他方で,協議で定めるとか,当分の間ということでは,通常はこの存続期間を定めたということにはならないのではないかというふうに考えているところでございます。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。 ○垣内幹事 そうしますと,そういう定め方をした場合には,定めがないので無効であると,そういう前提で議論をすればいいということでしょうか。 ○堂薗幹事 ええ。ですので,そういったことで無効になるのを避けるということであれば,その場合は終身とみなすということになりますし,そこをどう考えるべきかを,是非お伺いしたいということで,今回の部会資料でも,その点の指摘を再度させていただいたということでございます。 ○大村部会長 今の点につきましては,何か御意見ございますでしょうか。 ○窪田委員 前提だけ確認させていただきたいと思うのですが,期間を定めなければいけないので,期間が定まっていなかったら,この長期居住権の設定は無効であるという場合には,長期居住権の設定を含む遺産分割協議が無効になるということでよろしいですか。 ○堂薗幹事 それは,一部が無効だった場合に,それが全体に及ぶかどうかということだと思いますので,当然に全体が無効になるということにはならないのではないかと思いますけれども。 ○窪田委員 ただ,長期居住権というのは,遺産分割のときにやはり評価されるべき価値の高いものということを前提として,正しくその中で決めるということですので,ある意味で長期居住権の部分だけは無効になって,ほかの部分についての遺産分割協議は有効だよということになると,生存配偶者が不利になるのかなという気もしたものですから。   存続期間を定めなければいけないというニュアンスは非常によく分かりますし,それが多分,いろいろなことを計算する場合の基礎になるということもよく分かるのですが,それを定めないと単純に無効だとすることの意味が,どういうふうに波及するのかというところで,ちょっと気になる点はございます。   ただ,一方で,終身という形で推定規定を置いてしまうのが,果たして適当なのかどうなのかというと,この場合には,非常に価値が高いということを前提とするということになりますので,それについても,それで適当なのかどうか分からないなという気はします。 ○上西委員 通常の遺産分割の協議の場では,例えば,農地がある場合でしたら,誰が相続するかは分かるのです。自社株式も大体引き継ぐべき人って分かるわけです。全ての財産について決めるわけではなくて,一次分割,二次分割と進む中で,長期居住権については,最初は生存配偶者に与えるのだけれども,ほかの財産の分け方に応じて年数を決めようということもあり得るのかなと思います。そうであれば,直ちに無効にするのはどうかなと考えます。最後の協議において年数が決まらなければ,その段階で無効というのもあるのかなと思います。 ○大村部会長 事務当局の御提案は,期間が決まらないために無効となるのをできるだけ避けようということかと思います。先ほど垣内幹事から当分の間というお話もありましたけれども,当分の間はやや難しいかもしれないけれども,解釈によって,一定の期間を定まる,あるいは期間の定め方は定めているというような場合に,それが全部排除されるのかというと,それも必ずしもそうではない。今の上西委員の御発言はそうした文脈で捉えることができるように思って伺いました。   いかがでしょうか,期間の点は。 ○窪田委員 もう1点だけ。これも,前提を正確に理解しているかどうか分からないのですが,先ほど終身という推定はちょっと危ないかもしれないというふうに申し上げたのですが,遺産分割協議の場合と審判の場合で同じかどうかちょっとよく分からないなという感じがしています。遺産分割協議の中では,結局本人たちが合意して,この人には長期居住権を認めましょう,その上で,こういうふうに分けましょうといったときに,それをどのぐらいの価格で算定しているのかというのは,厳密には分からなくてもいいわけですよね。だとすると,そのときには終身というのを使っても,別にさして不都合はないのかなという気もします。   他方,審判ということになりますと,前提として,それの与えられる長期居住権はどれだけの価値を持っているんだということをかなり厳格に決めていかなければなりませんので,そこで終身ということを前提にしてしまうと,非常に判断の手足が縛られるということが出てくるかなという気もします。ひょっとすると,遺産分割協議と審判で,推定規定を置くかどうかについては異なるという可能性もあるのかなと思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。御意見として伺って,検討をお願いしたいと思います。   存続期間については,更にもう少し考える必要があるのかという気がいたしておりますが,そのほかよろしゅうございますでしょうか。   ありがとうございます。   それでは,第1は終えたということにいたしまして,その次の第3の「遺言制度に関する見直し」に進みたいと思います。   この点につきましては,事務当局の方からの説明をお願いいたします。 ○倉重関係官 それでは,「第3 遺言制度に関する見直し」につきまして,関係官倉重より説明いたします。   まず,1の「自筆証書遺言の方式緩和」の点についてです。   これまでは,自筆証書遺言の方式を緩和した場合でも,加除訂正の場面は全て自書することを要することにしておりました。しかし,財産の特定に必要な事項については,加除訂正の場面であっても,当該ページに署名押印があるのであれば,変造等のおそれは低いと思われ,自書による必要はないのではないかとも考えられるところです。この点については,財産の特定に必要な事項を自書しないで,自筆証書遺言を訂正した例を机上に配布しております。このような加除訂正を認めることについて,御意見を賜りたいと思っております。   次に,2の「自筆証書遺言の保管制度の創設」についてです。   変更点が4点ございます。   1点目は,第22回部会での各事務を取り扱う法務局を明らかにするようにという御指摘を踏まえたものです。ゴシック部分の注2にも記載したとおり,遺言保管制度を利用した事実及び遺言書の画像データについて,全国の法務局からアクセスできるシステムが構築されている場合には,原本が必要でない事務については,ほかの法務局においても申請することができるとする方向で検討を進めていきたいと考えております。   2点目は,外国語による遺言の取扱いについてです。第22回部会での御指摘を踏まえ,申請書によって保管を申し出ている書面が日本法に基づく自筆証書遺言であることを確認することができ,かつ,遺言者及び通知すべき相続人等を把握できることを前提に,遺言保管制度の対象とする方向で検討を進めていきたいと考えております。   3点目は,ゴシック部分の6において,遺言者の死後,相続人等は法務局に対し,保管に係る遺言について,正本の交付を求めることができるとしていたものを,写しの交付を求めることができるというふうに変更したところです。これは,保管に係る自筆証書遺言の写しに原本と相違ない旨の法務局の認証を付する取扱いでも,不動産登記等の事務において特に支障がないと考えられ,特に正本を発行する必要性は乏しいと考えられたことから,規律を変更したものです。   4点目は,遺言書の保管事実の通知時期に関するものです。部会資料22-1では,相続人等が法務局に対し遺言の保管の有無を照会した場合に,ほかの相続人等に対し,遺言を保管している旨を通知しなければならないとしておりましたが,この通知時期を,相続人等が原本の閲覧又は写しの交付を求めた場合に変更しております。これは,遺言書の保管の有無の照会をする際には,相続人全員を特定する書面の提出までは不要とし,照会者が遺言者の遺言の有無を照会することについて,利害関係を有していることを明らかにする書面を添付すれば足りるとすることに伴い,規律を変更したものです。   このほか,ゴシックの(2),(3),(4)において,出頭要件を明示しております。   3の「遺贈の担保責任」については,部会資料22からの変更はございません。   最後に「4 遺言執行者の権限の明確化等」については,ゴシック部分の提案内容としては,遺言執行者の一般的な権限の例示として,相続財産の管理を挙げることとしたほかは,一部亀甲括弧を付した部分ありますが,その他の内容については,部会資料22からの変更はございません。   まず,遺産分割の指定がされた場合の遺言執行者の権限について御説明いたします。   この点に関しましては,第22回部会において,引渡しを対抗要件とする動産について,遺言執行者に対抗要件具備権限を付与すべきかどうか,もし付与しないこととした場合に,目的動産の受領権限はあるのかどうかについて,改めて検討すべきであるとの御指摘を頂いておりました。   そこで検討したところ,遺言執行者は一般的に遺言の執行に必要な一切の行為をする権限を有するとされていること,遺言執行者がその職務の過程で受け取ったものについては,相続人に引き渡す義務を負うことなどからすると,動産について,原則として対抗要件を具備させる権限を有しないという規律を設けたとしても,遺言執行者が目的動産を任意に受領し,これを受益相続人に引き渡すことができなくなるわけではないように思われます。また,貸金庫内の目的物について,遺産分割方法の指定がされ,かつ遺言執行者が選任されているような場合には,遺言者は第三者対抗要件を具備させるという目的ではなく,遺言の実効的な執行のために受益相続人にこれを直接引き渡すことを遺言執行者の職務として指定したとの解釈をすることができる場合も多いように思われます。そこで,このような趣旨をより明確にする観点から,遺言執行者の一般的な権限の例示として,現行法と同様,相続財産の管理を掲げることとしました。   他方で,遺言執行者について一般的に対抗要件具備権限を認めることとしながら,上記のような理由だけで動産についてはその例外とすることができるかについては疑問もあること,遺言執行者には就職するに当たっての諾否の自由があり,動産の引渡権限が加重である場合には就職を拒絶することが可能であることなどからすると,遺言執行者の一般的な権限として,動産も含めた対抗要件具備権限を付与したとしても,必ずしも遺言執行者に加重な負担を負わせることにはならないようにも思われます。   そこで,引渡しを対抗要件とする動産について,遺言執行者に対抗要件具備権限を認めることとすることも考えられるところであり,この部分については亀甲括弧としております。   続きまして,遺言執行者の通知義務の点について御説明いたします。   部会資料23-1のゴシック部分の11ページでは,遺言執行者の就任通知について,「家庭裁判所に選任されたとき」を亀甲括弧としております。これは,現行法の解釈として,一般に,家庭裁判所に選任された遺言執行者であっても,選任後に諾否の自由があるとの解釈が有力であるとされておりますので,このような解釈を前提とすれば,家庭裁判所に選任された遺言執行者についても,遺言執行者が就職を承諾したときに通知義務を課すことで足りることになるためです。   最後に,遺言執行者の復任権について御説明いたします。   部会資料23-1のゴシック部分12ページ,(3)の記載です。遺言執行者が復任権を行使した場合の責任については,法定代理と同様の規律を設けることとしておりますが,第22回部会において,この点に関し,信託法第35条と同様な規律にする必要がないか検討すべきであるとの指摘がされましたので,この点についても検討いたしました。   信託法の考え方は,部会資料23-2の補足説明の16ページに記載されているとおりでございます。このような信託法第35条の考え方は,基本的には遺言執行者の場合にも妥当するものと思われますが,遺言者の意思等を踏まえましても,遺言執行者において当然に復任権の行使が予定されているとまでは言えないことから,信託法のような詳細な規律を設ける必要性は高くないように思われましたので,遺言執行者が復任権を行使した場合の規律については,法定代理の場合と同様,包括的なものにとどめ,遺言者が特段の定めをした場合における責任の範囲については解釈に委ねることとしております。   以上の点について,御審議いただければと存じます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   第3の「遺言制度に関する見直し」については4項目ございますけれども,1の「自筆証書遺言の方式緩和」,これは大きな変更はないということでしたが,それとは別に資料として配布されているものがあります。このような形での修正を認めるということにしてはどうかということについてどう考えるかが問題として提起されていたかと思います。2の「自筆証書遺言の保管制度の創設」につきましては,前回の御議論を踏まえて,4点について修正の御提案がございました。3の「遺贈の担保責任」はそのまま,4の「遺言執行者の権限の明確化等」も,ゴシックの部分については特に大きな変更はないということでしたが,動産の引渡しにつきまして,前回までに御議論を頂いたところについての説明があったと理解いたしました。   以上の点を含めて,御意見,御質問等あれば,伺いたいと思います。 ○増田委員 1のところですが,加除訂正の簡素化については,私は余りお勧めすることではないだろうと思います。遺言そのものについての簡素化をしているわけですから,この例であれば,加除訂正をせずに,第1条を取り消して,別紙2の記載の建物を法務一郎に相続させるという別の遺言を作れば,それでいいことです。   なぜかというと,加除訂正をすると,いつその訂正をしたのかなど,余計な争いを生むことになりますので,できるだけ加除訂正をお勧めするようなメッセージはやめて,訂正する場合には新しい遺言を作るようにする。新しい遺言であれば,当然物件目録の部分は差し込んでいいわけですから,そちらの方を勧めた方がよろしいかと思います。   偽造防止の観点からは,確か中間試案のときには署名だけでいいという提案もあったところ,これに対しては慎重論の方が多かったという理由で消えています。その消えた趣旨から考えても,加除訂正の簡素化は,私は避けたほうがいいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今のような御意見いただきましたけれども,いかがでございましょうか。 ○中田委員 確認なんですけれども,頂いた参考資料ですが,これは,亀甲の部分をなくしたことを前提とする文例という理解でよろしいですね。そうしますと,今回の規律は968条に加えるということなので,968条の2項は存続するという理解でよろしいですね。そうすると,この参考資料においては幾つか加除訂正がされているわけですが,それは,現在の968条2項と,それから今回の新たな規律とを合わせて適用した場合に,このようになるということですね。   そうすると,形式的にはこれで理解はできると思うんですが,あとは,事実上どういう弊害があるかという問題で,そこはちょっと分からないんですけれども,条文との関係で,この参考資料というのは一応は理解できるという印象を持ちました。 ○大村部会長 ありがとうございました。   そのほかいかがでございましょうか。   これを認めるにせよ,認めないにせよ,増田委員がおっしゃったように書き直してもらうというのは,補足説明の中では書いたほうがいいのかもしれませんね。   いかがでしょうか。 ○窪田委員 これも,特に積極的な意見ではございませんし,増田委員のおっしゃることもよく分かりますし,あんまり誘引すべきではないというのもそうなのだろうと思うのですが,やはりちょっと気になるのは,基本的に,968条に新しい規律を加えて,財産目録の部分については要件を緩和するという仕組みを前提として採用した場合に,仮にこの見本のような訂正がなされたという場合に,原則書き直しなさいということを前提として無効にしてしまっていいのかというのが,やはり少し気になります。望ましいのは,やはりきっちりとしたものであるということは,そのとおりなのですが,一方で要件を緩和しつつ,でも,内容的には,本人の意思というのはかなり明確にはなっているケースにおいて,無効にしていいのかどうかという点が気になるというだけでございます。   ただ,一方で,どんどん自筆証書遺言に関しては要件を緩和していくのだという,何でもかんでも有効になるんだよというようなメッセージが過度に伝わるのも望ましくないというのは,増田委員がおっしゃるとおりなんだろうと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   無効になるのは確かに困るということですね。このような加除修正がされたものが出てきて,本人はそれでオーケーだと思っていたけれども無効になるというのはどうかという御指摘かと思いました。   いかがですか。   一応,今の点については,何人かの方々から御意見いただきましたので,ある程度意見分布が分かりました。さらに御意見があれば伺いたいと思いますが,その他の点でも結構です。   いかがでしょうか。   特にございませんでしょうか。 ○潮見委員 中身に異論はそれほどないというか,これでいいのかなとは思うのですが,1点だけ,説明の部分で,これはまかりならんのではないかというところがありますので,個人的な意見として言わせていただきたいところがあります。   遺言執行者の復任権のところの説明です。信託との関係ということについては,ここで書かれていることもまあまあそうかなというふうには思うのですが,非常に瑣末なところで申し訳ないのですが,基本的な事柄に関わりますから,あえて申し上げます。   「もっとも」の段落があります。3,4行目の辺りのところから,「遺言者の意思としても人的環境を踏まえて遺言執行者を選任している場合が多いと思われる」とあります。これを強調すると,むしろ遺言執行者は復任をしてはいけないという,ちょうど債権関係部会等でいろいろ議論があった自己執行原則の話に傾いていくことになるんです。少なくとも,履行補助者とか,あるいは復代理とか,その辺りのところでは,こういう「人的環境を踏まえて」という言葉を使うということは,それは,要するにその方についてお願いをしたわけですからと,事務処理を委託したわけですから,ほかの人を使っちゃ駄目ですよという,それが基本原則だという方向に傾く論理なんです。いってみたら,復任禁止が原則であって,そして,例外的に遺言に別段の意思があったり,表示されていたり,あるいはやむを得ない事由があったら,それは別ですよという,こういうスキームで流れていくことになって,それが,1016条で書かれている枠組みとは違うんです。ですので,これは表現だけの問題ですから,少し解説をお書きになるときに工夫をお願いしたいと。特にこの辺り,ずっと研究してきた人間からしたら,つらいところがあります。よろしくお願いします。 ○大村部会長 ありがとうございました。   ちょっとそれは,説明を工夫していただきたいと思います。   ほかはいかがでございましょうか。 ○山本(和)委員 細かな点ですけれども,11ページの一番下のウのところで,家庭裁判所に選任されたという亀甲括弧のところで,一応どのように考えるかと問われているので,この資料23-2に書かれているとおりではないかと思います。ほかの裁判所に選任される,例えば破産管財人とか清算人というのは,その義務を書くときは,基本的には就職後遅滞なくとか,あるいは就任後直ちにというような書き方がされているのが一般的で,その就職とか就任というのは,選任をされて,それに管財人等が同意した,承諾したときというふうに解されるのが一般的なのではないかと思いますので,ここで選任されたときに,これ,本人の承諾の前であっても何か義務が発生すると読めるような条文が民法にあるというのは,余り適当なことではないだろうと,こういうふうに思います。 ○大村部会長 ありがとうございました。   それは,ちょっと御検討いただくということにさせていただきたいと思います。   それでは,3委員から御指摘があった書式の点ですけれども,これはこれで一つの考え方であろうという御意見も複数ありましたので,方式の緩和を促進しているという趣旨では必ずしもないということについて,一定の説明を付け加えていただくということで対応してはいかがかと思いますけれども,3委員,それでよろしいですか。 ○増田委員 留保したままという意味ですか。それとも,完全に消すんですか。 ○大村部会長 留保したほうがいいですか。 ○増田委員 もう少し検討にしていただけませんか。 ○大村部会長 分かりました。では,そうしましょう。 ○沖野委員 誠に申し訳ありません。今の書式なんですけれども,これは,非常に巧妙にといいますか,別紙記載の土地が建物に変わっていますので,ここを訂正せざるを得ないんですけれども,これが土地の差し替えであった場合に,バツを打ち,別紙2ではなくて別紙として付けたという場合でしたら,この別紙記載の土地を,別紙に記載の建物と改めるというような文言がないと,やはり無効ということになるんでしょうか。そこだけお聞かせいただきたいのですけれども。気にしておりますのは,かえってややこしいといいますか,ここだけはプリントアウトでいいから,ここだけ差し替えればいいし,バツも打ってあるし,ここ自体は自書ではないんだからこれでいいと理解されてしまうとか,加除訂正を促進するかということとは別に,逆に複雑になってくるために無効の余地が拡大するのではないかという懸念があるものですから,確認させてください。今のような形であると,訂正文言もないことからやはりそれは無効ということになるのでしょうね。 ○堂薗幹事 先ほど中田委員から御指摘があった968条の2項によりますと,その変更の場所を指示して,しかもその変更した内容を付記しなければいけないということになります。したがいまして,例えば,別紙の1を2に変更したという場合には,その特定をする必要があるわけですが,別紙記載の土地というのをそのままにしておいて,その別紙にバツをした上で,別の別紙を付けただけだと,そこの特定がきちんとできているかという問題が生ずるのではないかと思います。付記のところで,別紙を差し替えたというところを説明しなければいけないわけですが,やはりその説明をする際には,別紙のうち,どの部分をどれに差し替えたというところが特定できないと,加除訂正の方式を満たさないということになるように思います。 ○沖野委員 結論は分かりました。ただ,本文の文言には全く訂正が入らないというようなときに,どちらの規律が遺言者の意図に反して無効になる確率が少ないのか,安定性の観点からの問題があるように思いました。 ○倉重関係官 今の点なんですけれども,例えば,現行法でも別紙方式で遺言を書くことは可能だと思いますが,その際に別紙だけを訂正,差し替えるような形の訂正がされた場合に,現行法でも生じ得る問題のようにも思うのですけれども,その理解でよろしいでしょうか。 現状の規定に基づいて作成された自筆証書遺言の別紙にバツをつけて,判子を押して。 ○沖野委員 全部自書であるというときですね。 ○倉重関係官 ええ。そのときに,これを変更した旨を付記するという規律に現行法はなっていますけれども,これとの関係でどうなるのかというところと同じ問題かなと思うんですが。 ○沖野委員 差し替えるというのは,バツを打って,更に一つを入れるという形ですね。 ○倉重関係官 そうですね。最初が,本文と別紙からなる遺言書が全て自筆で存在していましたと。別紙部分にバツを付けて判子を,訂正印を押しましたと。それに付け加えて新たな別紙を付けましたという状況は,現行法でも生じ得るのかなと思うんですが。 ○沖野委員 そうですね。しかし,全部自書であるという限りにおいては認識も違い得るように思いますが。 ○倉重関係官 その場合の解釈と一緒なのかなという気はしておるんですけれども。 ○沖野委員 分かりました。分かったんですけれども,自書でない場合,その部分は元々添付なので,プリントアウトなのでというような誤解を招かないかと。それは法律に書いてあるんだからということであるならば,例えば,逆の立場にしても,法律に書いてあるんだからということになるように思われまして,どちらが誤解が少なくなるのか,微妙なところがあるのかなという感じがしたものですから,大丈夫かを検討してもらったほうがいいのかと思います。 ○倉重関係官 仮にそれが無効になる場合には,もしかすると,そういった無効な方式をある種勧めるような形になってしまわないかという懸念があると,そういう御指摘になりましょうか。 ○沖野委員 無効な方式を勧めるというのではなくて,問題が複雑になってきますと,せっかく遺言を作っていたのに,結局は無効であって,その意思が実現できないという,むしろ窪田委員が御懸念になったような状態が,別の規律であっても同じように生じる可能性があるので,どちらがまだ問題を生じさせにくいのかということは,直ちに決められないのではなかろうかという懸念を持ちましたという意味です。 ○倉重関係官 かしこまりました。 ○大村部会長 増田委員に加えて沖野委員からも懸念が示されましたので,保留ということにして,得失を比較して,どうするのがよいのかということを更に御検討いただくということにさせていただきたいと思います。   よろしいでしょうか,この点につきまして。   それでは,先に進ませていただきたいと存じます。   最後残っておりますのが,第4の「遺留分制度に関する見直し」という部分ですけれども,この点についての御説明を事務当局から頂きます。 ○神吉関係官 それでは,最後に,第4の「遺留分制度に関する見直し」につきまして,簡単に御説明させていただきます。   第4につきましては,ゴシック部分はいずれも字句等の若干の修正はしておりますが,実質的な変更はございません。   なお,前回の部会におきまして,委員から御指摘がありました事項,具体的には,第4の1の(3)のウの指定財産の価格の評価についてでございますが,こちらについてどのように考えるべきかという御質問がございましたが,事務当局において検討した結果を,部会資料の23-2の17ページの注において記載しております。   以上,簡単でございますが,御説明させていただきました。どうぞよろしくお願いいたします。 ○大村部会長 ありがとうございます。   第4の「遺留分制度に関する見直し」につきましては特に修正はないということで,御質問についてのお答えは,補足説明の17ページにあるということでございます。   いかがでございましょうか。   第4につきまして,御意見等あれば承りたいと思います。 ○増田委員 従前からの私自身の意見は封印いたしまして,取りあえず,これに沿ってですが,1の(3)のイの点です。前にも少し申し上げましたが,第一審又は控訴審の口頭弁論終結までにしなければならないということなんですが,口頭弁論終結時で主張を遮断するというのは,飽くまで訴訟法上の要請だと思うんですね。それは,主張立証の終期を定めて事実認定に用いる訴訟資料の範囲を画するという意味であって,そこに実体法上の権利行使の終期を絡ませるというのは,ほかにも例はないだろうと思うし,もともとの口頭弁論の終結という考え方に実体法上の観点が入っているとはちょっと考えにくいと思います。   実務上も不都合があるのではないかと思うのは,終結というのは,一旦終結しても再開するということもありますし,判決が出ても,最高裁から差戻しで戻ってきた場合には,また事実審の口頭弁論が開かれることになりますので,そうなってくると,一旦消えた権利がまた復活するということになり,法律関係が不安定になります。あるいは,終結間際になって,給付財産の指定権が行使されますと,その財産の評価などを改めて裁判所で審理しなければならないことになりますので,ぎりぎりに提出されるということが繰り返されると,濫用論は別の問題として,引き伸ばしにより審理が遅延するということは十分あり得ると思います。   こういう終期の決め方は,やはり実体法上の権利の行使の終期としておかしいのではないかと思いますので,それに代えて,一定の期限を定める,例えば,遺留分侵害額の請求時期から1年とかいう形で切って,早期の法律関係の確定を目指すほうがよいのではないかと思われます。   このように短期の期限を定めることによって,従来から問題になっているような不要なものを嫌がらせ的に次々押し付けるとかいうようなことを事実上抑制する効果も期待できるんではないかと思いますので,できましたら,この遺留分の関係は,早期解決を目指す方向で,比較的短期の期限を設けるということを御検討いただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○神吉関係官 お答えさせていただきます。   (3)のイの規律につきましては,これまでの部会において,何らかの時的限界を設けたほうがいいだろうということにつきましては,部会における一致した意見,少なくとも反対意見はなかったかと認識しております。ただ,時的限界を設ける場合にどこまで延ばすべきかという点についてはさほど議論をしておりませんでして,事務当局としては,一応最大限延ばすとすると,第一審又は控訴審の口頭弁論終結のときではないかということで,こういった御提案をさせていただいたというのがございます。したがいまして,今,増田委員から御提案があったように,例えばの話としまして,この債務の履行の請求があったときから1年以内に現物給付の主張をしなければいけないというような規律を設けるということは,こちらは十分あり得るのではないかなと思っているところでございます。   なお,ほかの委員の御意見も併せて頂戴できればと思うんですけれども,増田委員の御提案を伺って今気になった点としましては,例えば,1年以内にしなければならないとした場合に,1年以内に例えば訴訟が終わってしまって,確定した後に,受遺者側が,例えば11か月後ぐらいに現物給付の主張をした場合にどうなるのかといった問題が出てくるのではないかなと。そういったときに,なお現物給付は1年以内だからできる,させてもよいし,そういった場合には,請求異議なりで処理をすればいいんだろうという考え方も十分ある一方で,例えば,解釈論として,法律が1年以内と短期間でしろということを言っているのだから,既判力によって遮断をされるんだというような解釈論も,もしかしたらあり得るのかなとか,思ったりもいたしまして,この辺りの訴訟法的にどう考えるのかということも併せて御意見をいただければなと思っているところでございます。 ○山本(克)委員 私も,これは省いたほうがいいのかなと思っています。それはなぜかというと,判決の内容に依存していない書き振りになっているわけですよね。つまり,従来考えているのは,請求認容判決があったときに,それに抗弁となり得るような形成権が既判力となって排除されるかどうかという議論をしているんですね。訴え却下判決の場合とかを書いていくと,結局実体法の問題ではやはりなくなってしまうので,増田委員のおっしゃるとおり,ちょっとこれはどうかなという感じがいたします。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今の点,山本克己委員から御発言ありましたけれども,ほかの委員,幹事,いかがでございましょうか。 ○山本(和)委員 私の理解では,これが金銭給付が認められた後,その判決に対して請求異議か分かりませんけれども,この現物給付を後から求めてきて蒸し返されてしまうと。それが,既判力によって遮断できればいいんだけれども,そこが最高裁,いろいろな判例があって不透明であると。しかし,そこだけは抑えたいという観点からすると,こういう規定が,確認的なのか創設的なのか分かりませんけれども,ないといけないだろうと。山本克己委員も増田委員も言われたように,実質的には訴訟法的なものをここに導入しようとしていて,そこに違和感があるというのは,御指摘のとおりだろうと思いますけれども,ただ,実質としては,これがなければ抑えられるかどうかということは,非常に不透明になるのではないかというところから,ずっと亀甲括弧のままここまで来たという経緯だったのではないかというふうに理解をしています。   実体法的に言えば,増田委員が言われたように,期間を決めるというほうが,よりなじみやすいものだろうと思っております。ただ,そういうふうにすると,神吉関係官が言われたように,訴訟がその前に終わってしまった場合に,それを,その後の行使を遮断できるかというと,それは,既判力の一般論からすれば,やはりなかなか難しい,つまり,1年間であっても,それは,1年以内に行使しなければならないとともに,1年間は行使できるということをやはり保証したというふうに考えられるとすれば,その前に訴訟が終わったからといって遮断されてしまうということには,なかなかなりにくいのではないかというふうには思います。   ただ,1年で訴訟が終わるということは,残念ながら,普通に考えればそれはないことなので,極めてレアケースだということになりますから,そこは,その場合には,場合によっては先ほどのような蒸し返しみたいなことが起こっても,解釈に委ねてあえて規律は設けないという選択肢は,政策的には私はあり得るんだろうというふうには思っています。 ○大村部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○西幹事 細かいことで恐縮ですけれども,2点教えてください。   1点目は,13ページの第4の1の(1)のところです。今回注2というのが新たに入っていまして,遺留分権を金銭債権化することによって,一部の規定を逐次改めるというようなことが書かれていますが,例えばどのようなことを想定されているのでしょうか。   もう1点は,16ページの(2)のところです。これは,亀甲括弧に入っているので,削除する可能性もあるということなのかもしれませんけれども,必要ないようにも思います。置く意味があるとすれば,どのような点で必要なのか教えてください。 ○大村部会長 ありがとうございます。   それでは,お願いします。 ○神吉関係官 御回答させていただきます。   例えばの話といたしまして,減殺の順序を定める現行法の1033条以下は改める必要があると思いますし,1036条の受贈者による果実の返還というのは,その減殺,物権的効果が生じたことを前提として果実の返還というのもあるかと思いますので,1036条も削除する必要があるかと思います。   また,減殺という言葉を使っているものについて,それぞれ一つ一つ検討しなければいけないかと思いますので,1042条の減殺の請求権の時効などにつきましても,少し言葉を改める必要があるのかなと思っているところでございます。   それから,2点目の御質問ですが,3の(2)の規律が要るのかどうかというところですが,遺留分権利者が負担する相続債務を受遺者が弁済することにより求償権を取得し,遺留分侵害額に係る債務との間で相殺をしたような場合については,当然に求償権が消滅をすることになるかと思いますが,(1)の消滅請求権を行使しただけで,当然に求償権が消滅するかどうかは必ずしも明らかではないことから,規律の明確化の観点からすると設けておいたほうがいいのかどうかというところで,規律を置いているということでございます。御指摘のとおり,(1)の消滅請求権を行使することによって当然に求償権も消滅するということであれば不要ということになりますが,今後詰めて検討したいと思います。 ○大村部会長 よろしいですか。   ほか,いかがでしょうか。 ○西幹事 申し訳ございません。減殺という言葉を場合によっては変えるというお話が今ありましたが,そこまでのことを今回想定しているのでしょうか。何を言いたいかと申しますと,例えば,フランスなどでも,価額弁償の原則化ということで話が進みましたが,減殺という言葉は一部やはり維持されています,現物については。   それは,やはり相続分の一部としての遺留分という概念があるために,そのような表現が残っているのだと思います。今回,それらしき言葉を全部抜いていくということになると,完全に相続分から切り離された遺留分という位置付けになるというふうにみなされる可能性があると思うのですが,そこまでのことを,今回の改正で想定しているのか,あるいは,そこまでではないのであるとすれば,表現をそこまで変えていかなくてもいいのではないかなという気がいたしましたので。そこまでの,遺留分の性質を変えるということまで想定されているのでしょうか。 ○堂薗幹事 そこは,そもそも減殺というのはどういう意味かというところにもよるわけですが,贈与ですとか遺贈の効力を一部無効にするという意味だと思うんですけれども,それで,物権的効力が生じるという点を見直すからといって,それで直ちに減殺が使えなくなるとは思わないわけですが,今の案のように現物で返す場合に,遺贈や贈与の対象財産から受遺者側が選べるということになりますと,それは,要するに,遺贈とか贈与の一部を無効にするという取扱いではおよそなくなっているのではないかと。したがって,そういう意味では,減殺という言葉はふさわしくないのではないかと思います。   ただ,中間試案のときのように,金銭で返すか,現物で返すかという点について,現行法の原則と例外を単に入れ替えるというだけであれば,減殺という言葉を維持することも考えられるのではないかとは思うんですが,今の現物給付の規律からすると,もはや減殺という言葉は使えないのではないかというのが,こちらの整理です。 ○西幹事 分かりました,ありがとうございます。 ○大村部会長 整理を要する点につきましては,今の言葉遣いも含めて,もう少し御検討いただければと思います。   そのほかよろしいでしょうか。   それでは,増田委員御指摘の14ページのイのところについては,更に御検討いただくというにさせていただきたいと思います。   ほかにもあれば,どうぞ。 ○増田委員 すみません。先ほど封印した単純金銭債権化に対する反論なり何なりかは,補足説明には入れていただけるんですか。 ○神吉関係官 補足説明において,言及をしてほしいということでしょうか。 ○増田委員 いや。補足説明について,単純金銭債権化に対する事務当局の御意見で結構ですから,触れていただけるんでしょうかということです。 ○神吉関係官 中間試案の補足説明の際には触れておりましたが,改めて触れてほしいということであれば,検討はさせていただきたいとは思います。   それから,もう1点確認させていただきたいんですけれども,(3)のイのところですが,増田委員から対案が示されましたけれども,事務当局としても一つの考え方としてあり得るのではないかなとは思っております。こちらの案につきましても,パブコメに付してほしいという,そういった理解でよろしいでしょうか。パブコメにおいては,今の現行の案を示すのか,それとも,対案も含めてお示しをしたほうがいいのか,その辺は,皆様いかがでしょうか。 ○増田委員 もちろん,私としては対案も含めて付していただければ有り難いです。 ○堂薗幹事 両方並列的な形でということでよろしいでしょうか。期間の点についても,一定期間をどの程度にするのかという点もありますので。 ○増田委員 多分,1年というのは決まった話ではないので,一定期間だと思いますけれどもね。 ○堂薗幹事 例えば1年というような形ですかね。 ○増田委員 例えば1年ですね。並列的でも結構ですし,もちろん,そういう具体的な期間の提言を入れていただければ,大変有り難いことです。 ○大村部会長 では,その方向で検討させていただく,具体的な文言については部会長に一任いただきパブリックコメントに付させていただくということでお願いいたします。   ほかは,よろしゅうございますでしょうか。   ありがとうございます。   それでは,この第4についても御意見を伺ったということにさせていただきたいと存じます。   これで,本日の「要綱案のたたき台(2)」につきまして御意見を頂きました。   最後に,直前に話題になりましたが,パブリックコメントの予定等も含めまして,今後の審議の予定につきまして,事務当局の方から御説明を頂きます。 ○堂薗幹事 本日もどうもありがとうございました。   それでは,今後の予定でございますが,事務当局といたしましては,この追加試案のパブリックコメントにつきましては,資料の23-3に挙げているものを対象にすることを考えております。   今後の予定ですけれども,事務当局の責任において作成する補足説明とともに,この追加試案の公表をして,パブリックコメントの手続に付すことになりますが,その期間については,追加試案の公表のために若干時間を要しますので,8月上旬頃から1か月半程度を予定しているところでございます。パブリックコメントの期間中は,部会はお休みにさせていただくということで考えておりますので,次回は,10月17日火曜日の午後1時半からを予定しております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   まず,パブリックコメントについてですけれども,本日の資料の23-3,これに本日の議論を踏まえまして所要の修正を加えたものを,パブリックコメントの対象にするということ。そしてこれを踏まえて,10月17日に次回の会議を開くということでございました。以上について,何かございますか。   よろしいでしょうか。   それでは,本日はこれで閉会をさせていただきます。本日も熱心な御審議をいただきまして,ありがとうございました。   閉会いたします。 -了-