法制審議会 民法(相続関係)部会 第24回会議 議事録 第1 日 時  平成29年10月17日(火)自 午後1時28分                       至 午後5時39分 第2 場 所  東京保護観察所会議室 第3 議 題  民法(相続関係)の改正について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○大村部会長 それでは,定刻になりましたので,法制審議会民法(相続関係)部会の第24回会議を開催いたします。   議事に先立ちまして,新しい委員等の御紹介をさせていただきたいと思います。自己紹介ということで,まず,筒井委員からお願いいたします。 ○筒井委員 法務省,筒井でございます。7月7日付けで審議官を拝命しました関係で,この部会にも委員として加わることになりました。引き続き,どうぞよろしくお願いいたします。 ○大村部会長 どうもありがとうございました。   それから,東京家裁の青木委員。 ○青木委員 東京家庭裁判所の青木でございます。石栗前代行の後任でございます。どうぞ皆さん,よろしくお願いします。 ○大村部会長 よろしくお願いいたします。   それから,3番目ですけれども,竹下関係官。 ○竹下関係官 法務省民事局付の竹下と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○大村部会長 よろしくお願い申し上げます。   以上が新しい委員等の紹介でございます。   続きまして,本日の配布資料につきまして事務当局の方から御説明を頂きます。 ○満田関係官 関係官の満田の方から配布資料等の説明をさせていただきます。   今回の部会におきましては,全部で5点資料がございます。部会資料は3点となっておりまして,24-1と24-2につきましては既に事前に送付させていただいています。24-3については本日,机上配布ということになっておりまして,これは第2の4の別案ということで,後ほど詳しく御説明させていただきます。それとともに,参考資料ということで,パブリックコメントの結果の概要をまとめさせていただいたものを参考資料としてお配りしております。   説明資料については,以上になります。 ○大村部会長 ありがとうございました。   ただ今,資料につきまして御説明がございましたけれども,本日は部会資料の24-1,24-2,それから追加資料がございますけれども,「要綱案のたたき台(3)」について御検討いただきたいと思います。   パブリックコメントの結果が出ているということで資料がございましたけれども,これは関係のところで併せて御説明を頂くということで進めさせていただきたいと存じます。   24-1を見ていただきますと,「要綱案のたたき台(3)」ということで,従前同様,第1の「配偶者の居住権を保護するための方策」から始まりまして,最後が19ページ,第6の「相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」で,計6項目ございます。この項目は従前と変わりません。   本日は,この6項目全部について御意見を頂き,集約できるところは集約していきたいと考えておりますけれども,順番といたしましては,なお議論すべき点が総体的に多く残されていると思われます第2と第4を先にいたしまして,「第2 遺産分割に関する見直し等」,それから「第4 遺留分制度に関する見直し」をまず先にやりたいと思います。その後,休憩を挟みまして,残りの第1,第3,第5,そして第6を検討させていただきたいと考えております。   以上のような手順でまいりますので,どうぞよろしくお願い申し上げます。   そこで,まず最初に,第2の「遺産分割に関する見直し等」につきまして事務当局の方から御説明を頂きます。 ○神吉関係官 それでは,関係官の神吉の方から御説明いたします。   本日も御議論いただくべき項目は多数ございますので,事務当局からの説明は簡潔にさせていただきたいと思いますが,御不明な点等ございましたら遠慮なく御質問ください。   まず,第2の「遺産分割に関する見直し等」のうち「1 配偶者保護のための方策(持戻し免除の意思表示の推定規定)」につきまして御説明いたします。   補足説明の7ページの1にもありますとおり,本方策につきましてはパブリックコメントでは賛成する意見が大勢を占めました。したがいまして,本方策につきましてはゴシック部分は字句等の若干の修正を施したほかは,追加試案からの変更点はございません。引き続き,追加試案の内容で要綱案を作成すべく検討を進めるのが相当であるものと考えております。   次に,2の「仮払い制度等の創設・要件明確化」につきまして御説明いたします。   まず,(1)の家事事件手続法の保全処分の要件緩和についてですが,こちらもパブリックコメントにおきましては賛成する意見が大勢を占めました。したがいまして,本方策につきましては,ゴシック部分は追加試案からの変更は加えておらず,追加試案の内容で要綱案を作成すべく検討を進めるのが相当であるものと考えております。   また,(2)の家庭裁判所の判断を経ないで,預貯金の払戻しを認める方策についてですが,パブリックコメントにおきましてはこれに賛成する意見が大勢を占めましたが,補足説明の9ページにもありますとおり,追加試案の基準では一般的な葬儀費用が賄えず,割合や上限額の定め方に問題があるのではないかなどの指摘がございました。   そこで,事務当局において改めてその基準等を精査いたしましたところ,補足説明の10ページ以下に具体的なデータを掲載しておりますが,高齢者の貯蓄額の中央値や貯蓄額に占める預貯金の割合などのデータを総合いたしますと,追加試案の2割という基準では特に仮払いを必要とされる葬儀費用を賄えないのではないかという疑問が生じてきましたので,今回の部会資料におきましてはその割合を3分の1と引き上げております。   また,上限額につきましても,先ほど述べた高齢者の資産状況などについては,景気や社会情勢などによって変動する可能性もあるため,柔軟な対応を図るべく政令又は省令に委ねるべきではないかとの意見も複数寄せられましたので,その意見を踏まえてゴシック部分は修正を加えております。   次に,3の「一部分割」について御説明いたします。   パブリックコメントの結果は,補足説明の13ページの1に記載のとおり,こちらも賛成する意見が大勢を占めましたことから,ゴシック部分につきましては字句等の若干の修正を行ったほかは特に変更点はございません。引き続き,追加試案の内容で要綱案を作成すべく検討するのが相当であるものと考えております。   次に,4の「相続開始後の共同相続人による財産処分」につきまして御説明いたします。   まず,パブリックコメントの結果ですが,補足説明の14ページの1に記載のとおり,相続開始後の共同相続人による財産処分につきましては,計算上生ずる不公平を是正するために一定の方策を講じることについては,計算上の不公平が生じることについてこれを正当化することは困難である,また,このような不公平な結果を回避するために新たな規律を設ける必要があるなどとして,これに賛成する意見が多数を占めましたが,これに反対する意見も相当数寄せられました。   次に,甲案と乙案を比較いたしますと,甲案を支持する意見が大勢を占めました。そして,甲案につきましては遺産分割の手続の中で一回的に処理することができ乙案より優れている,また,民法は相続人間では具体的相続分に応じて分割するのが相当であるとの価値判断をしているところ,本来その対象財産は相続開始時に存在した財産のはずであり,民法が予定する本来の姿に戻して一挙に解決しようとする方向性は支持されるべきであるなどとして,これを支持する意見が相当数寄せられたものの,補足説明の14ページの①から⑤までに詳しく記載したとおり,これに反対する意見も相当数寄せられております。   以上のパブリックコメントの結果を踏まえまして,部会資料の24-1におきましては甲案を提案として掲げております。   もっとも,甲案につきましては,これに賛成する意見も多く寄せられたものの,実務家の方を中心に強い懸念も示されており,実質的には甲案の理念を実現しつつ,少しでも実務における負担,混乱を軽減すべく,事務当局において様々な代替案を検討してまいりました。   その代替案が,本日机上配布させていただいた部会資料24-3となりますので,そちらを御覧ください。   本日机上配布となりましたので,やや詳しめに御説明させていただきたいと思いますが,別案の内容は,まず,(1)といたしまして,遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても,共同相続人はその全員の同意により,当該処分された財産又は処分により得られた財産を遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができるというものでして,(2)が,共同相続人の一人又は数人が(1)の処分をした場合には,当該処分した者は当該処分により得られた財産の限度で,ここは亀甲でございますが,この同意を拒むことができないというものになります。   基本的な考え方は2ページ以下に記載のとおりでございますが,すなわち,遺産分割は相続開始時に存在し,かつ,遺産分割時に存在する財産を共同相続人間において分配する手続であるところ,第三者が相続財産を毀損,滅失させた場合など遺産分割時には存在しない財産については,遺産分割の対象とはならないものと考えられます。   もっとも,遺産分割時には存在しない財産であっても,これを当事者が遺産分割の対象に含める旨の合意をした場合には遺産分割の対象となるものと考えられ,これは判例や実務においても定着した考え方であると言えます。この(1)の規律は,判例や実務によって承認されてきた考え方を,まずは明文化するものであります。   そして,遺産分割前に共同相続人の一人が,他の共同相続人の同意を得ずに預貯金債権を行使するなど遺産に属する財産を処分することは基本的に許されておらず,このような処分を行った者が,処分をしなかった場合と比べて利得を得るということを放置することは,不公平な状態を是認することになりますから,仮に他の共同相続人が遺産分割において処分した財産を遺産に含めて遺産分割をすることについて同意を求めた場合に,その処分者に拒絶権を認める必要はないものと考えられます。   そこで,(2)の規律は,共同相続人の一人又は数人が遺産分割前に遺産に属する財産を処分した場合には,他の共同相続人から当該処分した財産又はその代償財産を遺産に含める旨の同意を求められた場合には,当該処分を行った共同相続人はこれを拒むことができないこととしておりまして,結局,当該処分を行ったのが共同相続人の一人である場合には,遺産分割時に当該処分した財産又はその代償財産を遺産に含めることについて,他の共同相続人の同意があれば,これを遺産分割の対象として含めることができることになりまして,甲案において実現したい結果を実現することができることとなります。   なお,(2)の亀甲括弧で示した部分でございますが,こちらは各共同相続人は相続開始の時から遺産分割までの間,遺産を構成する個々の財産について実体的・具体的な権利を有しており,その共有持分権を第三者に譲渡することができるという累次の判例法理からすると,各共同相続人が安価で時価より低い価格で共有持分権を処分するなどの行為も本来自由であるという前提を可及的に維持した場合における別案の別案ということになります。   全共同相続人の集団的利益という観点からは,このような処分の結果は認めるべきではないという考え方もあり得るところではございますが,他方,これまでの判例法理との整合性に加え,処分された財産の評価等を巡る紛争の長期化を防ぐという意義も実務的にあるのではないかとも考えております。また,遺産分割の実務におきまして,遺産分割前の処分の大半を占めます預貯金債権の処分につきましては,この別案によっても同一の結論となります。   なお,甲案において示された懸念点等との関係につきましては,3ページの3に記載のとおりでございますが,以下のとおりに整理することができるかと思います。   まず,遺産分割の長期化,複雑化等との関係でございますが,別案によりますと,当該処分を行った者以外の他の共同相続人全員の同意がない限り遺産としてみなされることはなく,当該処分が葬儀費用の弁済や相続債務の弁済に用いられた場合など,他の共同相続人がその精算を望まない場合には遺産分割において考慮されることはなく,甲案とは異なって,常に処分された財産を遺産としてみなす必要はなくなることとなります。   また,別案は,遺産から逸失した財産については,もはや遺産ではないことを前提として,遺産分割時に共同相続人全員の同意がある場合には,当該処分した財産又は代償財産を遺産に含めることができるにすぎませんので,遺産分割が既に終了している場合にはその適用がないものと考えられ,遺産の処分がされた場合には常に遺産とみなす甲案とは異なり,事後的にみなし遺産の存在が判明し,遺産分割に関する紛争が繰り返されるということは少なくなるのではないかというふうに考えております。   もっとも,共同相続人の一人が遺産に属する財産を処分したとして,他の共同相続人全員が当該処分した財産を遺産とみなして遺産分割をすることを求めており,当該処分をしたとされる相続人がその処分の有無を争っている場合には,家庭裁判所において当該処分が共同相続人によって処分されたか否かを判断せざるを得ず,その意味では紛争の長期化,複雑化は一定程度避けられないと言えます。   なお,当該処分された財産が遺産の大半を占めている場合におきましては,家庭裁判所がその判断を誤り,当該処分された財産を遺産分割の対象とした場合につきましては,遺産分割審判が事後的に覆る可能性がないとは言えないため,当該処分したのが共同相続人の一人によるものか否か,ひいては別案の規律の適用の結果,みなし遺産となるかどうかについての確認訴訟を経た上で遺産分割の審判をするのが通常になるのではないかと思われます。   また,(2)の不法行為,不当利得との関係につきましては,以下のとおりに整理することができるかと思います。   すなわち,遺産分割前に預貯金の不当な払戻しが行われた場合には,他の共同相続人の関係で不法行為又は不当利得が成立するものと考えられます。そして,他の共同相続人が当該処分をした相続人に対して不法行為等による民事上の救済を求めている場合には,遺産分割における精算を希望していないものと考えられ,別案の規律の適用はないものと考えられます。そうすると,不法行為等による民事上の救済と遺産分割における処理とが重畳することは考えられず,その調整を考えることは基本的には必要ないものと考えられます。   遺産分割前に共同相続人の一人が遺産を処分した場合には常に遺産とみなされる甲案におきましては,民事上の救済と遺産分割における処理との関係を検討しなければいけませんでしたが,別案におきましては,そのような調整を基本的に考える必要はなく,法律関係がより簡明になるものと考えられます。   本日は,甲案とともに,その代替案であります別案につきましても併せて御検討賜りますよう,よろしくお願いいたします。   以上,第2について御説明させていただきました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今,御説明を頂きましたけれども,資料の24-1で申しますと7ページの「第2 遺産分割に関する見直し等」という部分,1から4まで四つの項目がございます。そのうちの1の「配偶者保護のための方策(持戻し免除の意思表示の推定規定)」,それから3の「一部分割」については,パブリックコメントでも特に異論はなかったということで,従前の案が維持されているところでございます。2の「仮払い制度等の創設・要件明確化」につきましては,上限額についてパブリックコメントに表れている意見等を勘案して,従前の制限を少し変えるような御提案がされているということでございました。   最後に,4の「相続開始後の共同相続人による財産処分」につきましては,別案が示されまして,詳しい御説明を頂きましたけれども,従前の甲・乙については,甲を採って,それを本案としておりますが,それに加えて,この別案を御検討いただきたいということでございました。共同相続人の全員の同意にかからしめることによって,これまで難点とされていた問題の幾つかが解決ないし軽減されるのではないかという説明だったかと思います。   以上のようなことかと思いますけれども,まず,1の「配偶者保護のための方策(持戻し免除の意思表示の推定規定)」,あるいは3の「一部分割」について何かございましたら伺いますけれども,これらの点についてはよろしいでしょうか。   後での御発言を封ずるという趣旨ではありませんけれども,順番として1,3については特によろしいということであれば,2の上限額の問題について御意見を頂き,これについて一定の御意見を頂きましたら,4の問題について御議論いただくという形にしたいと思いますが,仮払いのところについてはいかがでございましょうか。 ○藤原委員 仮払いのところにつきましては,1点意見と2点確認がございます。   まず,(2)の家庭裁判所の判断を経ない仮払いの制度につきましては,前回の部会においてこの仮払いの割合とか上限額についてはパブリックコメントの結果を踏まえて更に検討していただきたい旨の意見を述べさせていただきましたけれども,今回正にパブコメを踏まえて,割合については2割から3分の1と,上限金額については政省令への委任をすると提案されておりまして,これについてはきちんと踏まえていただいたということで賛成をいたします。   もう一つ,ただ,この政省令への委任が提案されております債務者ごとの上限額につきましては,補足説明の9ページから10ページにその背景が説明されておりますとおり,追加試案の基準では十分な払戻しを得られない可能性があるとか,少なくとも債務者ごとの上限額については政省令に委任して柔軟な対応をするのが相当であるといった,こういった御説明,背景からすれば,この当初,政省令で設定される金額につきましては最初の御提案の100万円よりは引き上げられるべきだというふうに考えておりますので,政省令の制定の際にはこの点につきしっかり御検討,御配慮いただきたい旨,意見させていただきます。   次に,確認をしたい事項2点でございますが,まず第1点は,これは(1),(2)両方に共通する事項でございますけれども,この仮払い制度において法律上の払戻しが認められる場合であったとしても,金融機関側からの預金規定上又は法律上の抗弁は認められるという,そういう理解でよろしいですねということを確認したいと思っております。   例えば,預金規定上の抗弁としては,パブコメにもございましたとおり,定期預金等においては一部の払戻しを禁ずるような商品もございまして,そういった預金規定に基づく抗弁であったり,また法律上の抗弁としては,元々被相続人に対して貸付債権があったような場合に,それと相続預金とを相殺するといったような抗弁が考えられますので,こういった抗弁がこの規律によっても妨げられないということを確認したいと思っております。   2点目については,これも以前の部会で述べさせていただきましたことの再確認でございますが,この(2)の規定は強行法規ではないですよねということでございます。今回,金額等の引上げがあったことによりまして,この仮払い制度によって対応できる範囲というのは広がったというふうには考えておりますけれども,仮にそれでもやはり金額的にちょっと足りないというようなニーズが生じた場合に,各金融機関の創意工夫によって,この(2)の規律とは異なる相続預金の払戻しに関する約款を設けるとか個別合意を行うということは妨げられないですよねということを確認させていただきたいです。この規律が任意法規であるということは法律上明記していただくのが一番よいとは考えておりますが,仮に明記されない場合であっても,任意法規という形での御提案であるということは確認させていただきたいと思っております。   あと,当然の話でございますが,この個別合意や約款というのは,民法90条であったり消費者契約法10条であるといった別の強行法規には反しないということを前提とするというふうに考えておりますので,その前提でお答えいただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございました。 ○神吉関係官 では,事務当局からお答えさせていただきます。   まず最初,御要望がありました政省令に委ねる場合の基準額につきましては,部会資料にも記載のとおり,景気や社会情勢によって変動する可能性があるため,そのときの情勢を踏まえて検討していこうと,本日頂戴した御意見も踏まえて慎重に検討していこうと思っているところでございます。   それから,御質問2点頂きました。まず,1点目の御質問はこの規定が預金規定上の契約上の制限を排除するものかどうかという御質問でございますが,特に2の(2)の方策につきましては,相続開始によって準共有となったと一般的には言われている預貯金債権につき,本来は共同相続人全員でなければ権利行使をすることができないところ,法律上の規定を設けて,一定額の範囲内で共同相続人の一人による単独での権利行使をすることができるということですので,預金規定上にその制限が付いている場合について,その契約上の制限まで解除する趣旨ではないという理解でございます。   2点目の質問でございます。強行法規かどうかという点でございますが,1点目の質問に対する御回答とも関係する点ではございますけれども,基本的には契約上の制限を解除するものではないという理解でございますので,別途契約で制限が払戻し制限が付いているといった場合については,そちらに委ねられるということだと思います。ただ,藤原委員御指摘のとおり,その契約上の制限が,民法第90条や消費者契約法に反するような場合については,その制限そのもの自体が無効となる可能性があるのかなと思いますので,どういった規定にするのかということについてはまた慎重な検討が必要と思っているところでございます。   また,どのような規定とすべきかは慎重な検討が必要かと思いますが,金融機関と預金者の方が,生前に支払委託契約を締結するなどして,葬儀費用の支払を委ねるということは,現在もそのような取扱いをされている金融機関もあるようでして,十分にあり得るのかなと思っているところでございます。 ○大村部会長 藤原委員,よろしいでしょうか。 ○藤原委員 はい,ありがとうございました。 ○大村部会長 そのほか,いかがでしょうか。 ○山本幹事 2の(2)につきまして,1点確認させていただきたい点がございます。   各共同相続人が一定額について単独で権利を行使することはできるということですけれども,当該一定額について請求する権利を第三者に各共同相続人が譲渡したりとか,あるいは相続債権者や相続人の債権者がこの一定額について差押えをするといったようなことは可能になるのかどうなのかというところについて御教示を頂ければと思います。 ○神吉関係官 十分に検討できておりませんが,こういう規定を設けた場合に差押えとかできるのかどうかは,その権利が行使上の一身専属権があるのかどうかによるのではないかと思います。この規定をどういう趣旨で設けたかというところにもよるのだと思いますが,各共同相続人が相続開始によって遺産分割までの間,被相続人の預貯金債権を行使できないということによって生ずる不都合を便宜的に解除するものだというところに趣旨があるのだとすると,行使上の一身専属権があって,差押えや,払戻請求権自体を譲渡するということはできないと考えられるのではないかと思います。 ○山本幹事 どういう趣旨として提案されているかという点については,どうなりますでしょうか。 ○神吉関係官 基本的に,事務当局としましては,先ほど述べたような趣旨で,行使上の一身専属権があるというか,払戻し請求権自体を譲渡したりとか,差押えはできないのではないかと考えておりますが,そこはもう解釈に委ねてもよろしいのではないかなと思っているところでございます。 ○大村部会長 いかがでしょうか。 ○潮見委員 確認だけですけれども,相殺はオーケー,差押えは駄目という御趣旨,譲渡も駄目という御趣旨ですか。 ○神吉関係官 相殺につきましては,金融機関が被相続人に対しても債権を持っている場合に相殺をするということは考えられるかと思いますが,相続人の債権者として相殺することが可能かどうかは問題があるのではないかと思います。相殺の具体的な場面というのは,どこの場面,相続人の債権者が相殺するのか,被相続人の債権者が相殺するのかによって大分利益状況は異なるのかなとは思うんですけれども。 ○潮見委員 利益状況が異なるというのは,どういうことですか。 ○神吉関係官 大法廷決定後に様々なところで議論がされておりますが,相続債権者としての相殺ということであればあり得るが,相続人の債権者としての相殺ということではあれば難しいのではないかという議論があるのではないかと思います。 ○潮見委員 ちょっと話の腰を折って申し訳ないんですけれども,事前に相殺への期待というものが存在しているから,その期待を保護しなければいけない,だから,その部分については相殺は認めてやっていい。ところが,そのような事前の相殺への期待というものは相続人債権者が持っている,例えば貸金債権等であれば存在しないから,だからそこの部分についての相殺は認めることは,どうするかは解釈に委ねるという判断ですか。一身専属にも絡んでくるという趣旨ですか。 ○堂薗幹事 例えば,相続人の債権者がこの仮払い制度がなかった場合に相殺ができないにもかかわらず,すなわち,弁済を請求できないので相殺もできないというような状態にあるにもかかわらず,この制度があることによって,相殺ができるということにはならないのではないかということでございます。飽くまでも,ここで準共有の持分であるにもかかわらず単独で権利行使を認めているのは,相続人には,いわば類型的に保全の必要性が認められるという前提で,政策的観点から特に権利行使を認めているので,この仮払いの制度があることによって,相続人の債権者が本来できなかった相殺をするとか,あるいは,共有持分の差押え自体は当然できるわけですが,本来ですと共有持分にすぎないので取立てができなかったところが,取立てをすることができるようになるとか,そういったことにはならないのではないかという趣旨でございますけれども。 ○潮見委員 先ほど,藤原委員が分かりましたとおっしゃったのは,そこも含めて分かりましたという御趣旨だったんですか。 ○藤原委員 今の問題提起されたことについては,含んでおりません。新たな問題提起として私も聞いておりました。 ○大村部会長 今,相殺について期待の有様によって線を引くのかどうかということが話題になっているかと思いますけれども,その点につきましてほかに何か御発言ありますでしょうか。いかがでしょうか。 ○増田委員 被相続人の債権者などよりも,相続人が本来期待していなかったはずの預貯金を引き出す権利の方が優先するというのはちょっと分からなかったんですけれども。本来は,それは被相続人に対する債権の担保になっていたはずなんだから,それがたまたま相続が起こったために,被相続人の地位を承継したはずの相続人がその預金を使えて,差押債権者の方は制限されるというのはちょっとよく理解できないわけで,そこまでして生活に困っているようなところを救う必要があるのかどうか,かつ,生活の困窮などの緊急性はこの規定の適用要件になっていないわけですから,差押えなどは相続開始前同様に当然にできると解されるのではないかと思いますが,いかがでしょうか。 ○堂薗幹事 ですから,元々相続人が預貯金債権の共有持分は持っていますので,そこに対して差押えをすることは当然にできるということになります。本来,持分の差押えをしただけでは取立てまではできない地位にしかなかったわけですけれども,この規定があることによって,取立てまでできるかどうかという点で,そこは行使上の一身専属権という理由付けなのかどうかは慎重に検討する必要があるというふうには考えておりますが,少なくともこの仮払い制度があることによって,本来,相続債権者ができなかったことまでできるようにさせる必要があるのかという点については,疑問を持っているということです。 ○大村部会長 今のような御説明で御意見は分かれ得るところかと思いますけれども,いかがでしょうか。 ○山本(克)委員 この預金の払戻請求権とここで言う払戻請求権ですね,本来の預金の払戻し,これ権利としての同一性は維持しているんですか,それとも別の権利が新たに成立していると考えているんですか,何か別の権利のようにも聞こえるんですが。 ○堂薗幹事 基本的には,本来共有の規定の適用があるところを,一部制限を緩和しているというだけですので,こちらとしては別の権利が発生しているというふうに見ているわけではございません。ですから保全処分で,例えば仮地位仮処分のような形で暫定的に債権者の請求を認めたという場合に,それについて,その債権者が差押えをして取り立てることができるのかという問題とも関連するのではないかというように考えているところではありますが,その辺りも含めて検討する必要があるのではないかと思っております。 ○山本(克)委員 何か伺っていると,一身専属的でなかったものが突如変わってしまうわけですよね,一身専属的に。何かそこは気持ち悪いなという感じで,例えば被相続人の預金払戻請求権を仮差押えした債権者がいて,そのまま共同相続が起こってしまったという場合に,同一性は持っているんですね。つまり,払戻し禁止の効力は弁済禁止の効力は共同相続人にも及んでいるということになるわけですか。 ○堂薗幹事 はい。 ○山本(克)委員 何か,でも気持ち悪い感じはしますね。 ○大村部会長 今の御議論は,実質の問題とそれからどのように説明するかということと,両方について考える必要があろうかと思います。この要綱案そのものにそれが表れるかどうかはまた別の問題で,ここで書かれている限度では皆さんの間に御異論があるというわけではなさそうですけれども,今の点をどのように考えるのかということについては少しはっきりさせておいたほうがいいだろうと思います。事務当局に持ち帰っていただき,次回までに整理していただくということでよろしいですか。 ○堂薗幹事 御指摘を踏まえて問題点を整理した上で,次回にもう一度結論をお示しして,御議論いただければというふうに考えております。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。   では,第2の2の仮払いにつきまして,ほかの御意見ありましたら伺いますが,いかがでしょうか。   それでは,今御指摘のありました問題につきましては更に御検討いただくということで,ここの提案自体についてはこれについて大きな異論はなかったということで先に進ませていただきたいと思います。   この資料で申しますと,8ページの4の共同相続後の共同相続人による財産処分,甲案に相当するものがその8ページに出ておりますが,これと併せて,先ほど別案の御説明もございました。別案は,本日初めての提案でございますので,これも併せて御意見等頂ければと思います。いかがでございましょうか。 ○潮見委員 私は,元々甲案には反対だとずっと言い続けてきている人間で,甲案を採用したほうがいいという御意見が多いということであれば,それを前提としてですけれども,甲案か別案かと言われたら,別案の方がよろしいのかなとは思います。その上で,1点だけ,ここはいかがかと思うところを申し上げます。甲案と別案のうち,別案の方には,1項で代償財産が入っています。甲案の方は,当該処分された財産のみですよね。御趣旨は分かるんですが,代償財産というものを別案に組み込んだのが果たしてよかったのかというところが,私にはよく分からないというか,外したほうがいいのではないかと思うところです。   御説明にありました代償財産というものがここに入った背景にあるところの判例というのは,これは代償財産というものは遺産ではないけれども,当事者の合意によって分割協議等に組み込んで,そして遺産分割の対象にすることができるということを言ったにすぎないというものです。それと,当初,相続開始時に遺産に属していた相続財産というものとはやや質が違うし,従前の実務で言われてきたようなものを,このような(1)のような形で遺産分割の対象財産として扱う以上に遺産とみなすというのは,従前の実務からもかなり質的に離れているものではないかと強く感じるところです。   その意味では,仮に甲案か別案かということで別案を採るにしても,(1)の「又は当該処分により得られた財産」という,この代償財産のところは外していただきたい。それを外して,(2)のところの亀甲部分も外すということであれば,それでもいいのかなという感じがしないわけではありません。別案のままでいったら,従前の実体法のルールとはかなり違ったものを持ち込んでしまうような気がしてならないので,御検討いただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   甲案と別案ならば別案の方が相対的によいということで,しかし,(1)の「又は当該処分により得られた財産」と,それから(2)の亀甲部分を外すべきだという御提案ですね。それに関して何かありますか。 ○中田委員 これまで,この問題,随分検討してきまして,難しい問題ですが,だんだん問題点が明らかになってきたと思います。つまり,共同相続人が遺産分割前に行った無権限の払戻しに対応できるということ,他方で,動産や不動産について持分の処分ができるという判例法理を尊重するということ,更に具体的相続分による遺産分割を実現すること,これらを全部そろえるのはなかなか難しいと思うんですけれども,ようやく努力された結果として別案に至ったのかなというように理解いたしました。その意味で言うと,この別案は今申し上げたような若干対立するような要請を満たす方法として評価できるのではないかと思います。   その上で,ただ今,潮見委員がおっしゃいました代償財産についてですけれども,これを入れることによっていろいろな問題がまた新たに出てくるだろうと思います。つまり,処分財産と代償財産との選択を誰がどういうふうにするかであるとか,あるいは処分財産よりも代償財産の方が大きい場合どうなるのか,逆にそれが小さい場合どうなるのか,いろいろな問題について検討する必要がございまして,その上でないとなかなかうまい規律ができないと思うんですが,そこまで細かく規律することのメリットとデメリットを比較するということかなと思います。 ○大村部会長 ありがとうございました。   比較すると,代償財産については潮見委員のような考え方も理解されるという御趣旨でしょうか。 ○中田委員 必ずしも今の段階で代償財産の部分をなくせとまでは申しませんけれども,もし残すとしたらいろいろな問題を検討する必要があるのではないかということでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○増田委員 私も従前,甲案には反対しておりました。甲案の幾つかの難点があるわけですけれども,その中でいつまでも遺産分割の手続をしなければならないということになると,大分前に死んだ人の相続に関して期間があいてから紛争になった場合には,中間に処分が多数あって遺産の特定に困るとか,あるいは遺産分割が終了した後で共同相続人の処分が発覚した場合でも遺産分割をしなければならない。訴訟との関係が分からないので,訴訟が仮にできないとすると民事保全などもできないというような不都合があったかと思いますが,それらの不都合については別案を採ることによって解消されるということで,別案を支持したいと思います。   ただ,潮見委員がおっしゃったのと同じような観点なんですけれども,当該処分された財産というのと,処分により得られた財産というのは本質的に異なるのではないかと思います。しかも,「又は」ということになることによって,「みなし遺産の確認訴訟」,私はみなしは要らなくて,遺産の確認訴訟だと思うんですが,この確認の対象がどちらになるのかという問題が生じる。しかも,処分した以外の相続人にとっては,処分された財産は分かっても処分により得られた財産は通常分からないので,これを確認の対象として訴えるということは相当困難だろうと思います。   私が思うに,前者の当該処分された財産というのは遺産性の問題としてこれを遺産と考え,後者の当該処分により得られた財産というのは評価の問題だろうと。その遺産を分割するときにどういう評価をするかの問題であって,これは訴訟上の確認の対象なんかには本来当たらないのかなと。つまりは当該処分された財産が遺産として分割の対象となったときに,手続の中で評価するに当たって得られた財産を一つの基準として評価するということでよろしいのかなというふうに考える次第です。   それで,ちょっとほかの質問。別案に関する質問ですが,この同意というのは,撤回を認めてはいけないものだと思うんですが,それでいいのかどうか。これが,実体法上遺産とすることの合意なのか,それとも手続上遺産分割の対象とすることに対する合意なのかという点をお伺いしたいと思います。   というのは,現在でも合意により遺産でないものを遺産分割の対象とすることは認められてはいるんですけれども,その合意の性質については若干争いがあって,手続上の合意とした場合には,調停のときと審判のときとは別個で,一旦調停で合意しても審判になったら,いや,それはしないというようなことも認められるし,あるいは,遺産確認の訴訟で和解をした場合にそれをそのまま調停ないし審判に持っていけるのかどうかという点については若干疑問が呈せられているところでもあるので,せっかくだから,そこははっきりとその性質も含めて明らかにしていただいたほうがいいんではないかと思う次第です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   3人の委員の方から,程度の差はありますけれども別案に賛成するという御意見を頂き,しかし,当該処分により得られた財産を含めることについてはネガティブな意見が表明されていたかと思います。それと,今,併せて,増田委員から全員の同意の性質について問題提起がされています。この2点につきまして,事務当局はいかがですか。 ○神吉関係官 代償財産を入れるかどうかという点については,理論上必ず入れなければならないというほどのものではないので,こちらは部会資料24-3に記載させていただいた趣旨を踏まえて,フランクに御議論いただければと思っているところでございます。   増田委員から御指摘がありました実体法上の合意なのか,それとも手続法上の合意なのかという点でございますが,こちらは詰めて検討したわけではございませんが,民法にこの規定を設けるのだとすると実体法上の合意であるというふうに解釈をされやすくなるのではないかなと思うんですが,そうすると,一度共同相続人全員で合意をした以上は,遺産として存在するものとみなされるという効果は既に生じておりますので,その後,同意をした共同相続人の一人がやはり同意をやめたと,撤回をするということはできない,そのように解釈をした方が安定的な遺産分割をすることができるのではないかなと思っているところでございます。   ですので,実体法上の合意というふうに理解したほうがいいのかなというふうに今の時点では思っているところでございます。 ○大村部会長 増田委員,よろしいですか。 ○石井幹事 同じような御意見になるのかもしれませんけれども,甲案については私も従前から遺産分割の実務の観点から紛争の複雑長期化が懸念されるということで意見を申し上げておいたところでありますけれども,パブリックコメントの結果を踏まえて甲案という形で御提案いただいたということかと思いますが,その点はやはり引き続き問題として残ると思いますし,裁判所が大変だというところももちろんあるんですけれども,甲案ですと一部の相続人が争っている場合でも全体を最後まで巻き込んで争っていかなければいけないというところで非常に当事者の負担が大きいんではないかといったことも申し上げておったところでありまして,裁判所内部でパブコメの際に意見を検討した際にも,そういった指摘が多く示されているところでございますので,やはりそういった点についてはなお検討いただく必要があろうかなと思っております。   今回別案ということで御提案いただき,今申し上げたような問題点については相当程度緩和策を御検討いただいているのかなと思いますが,直前に御提案を頂いたものでございますので,今日の段階でなかなか意見は申し上げにくいところでございます。   別案の関係でちょっと1点,私も御質問させていただければと思うんですが,同意が得られず,かつ,この御提案ですと,当該処分をしたものも,処分したかどうか争いがあるという場合について確認訴訟を提起するということが検討されていますけれども,資料を拝見して,確認訴訟になった場合の確認の対象が,預金なら預金が遺産に属することということの確認なのか,あるいはこの4ページの例でいくと,Aという個別の相続人が処分した預金が遺産に属するということの確認なのか,あるいはもう端的にAが預金を処分したということの確認なのかという辺りが必ずしもちょっと明らかでないかなというふうに考えておったんですけれども,事務局の方で何かその辺りお考えになっているところがあればちょっと伺っておきたいと思うんですけれども,いかがでしょうか。 ○神吉関係官 その点については,甲案を採用した場合でもどうなのかということで,確か第20回部会で御議論いただいたかと思いますが,別案を採用した場合にはよりシビアな問題になるのかなというふうに認識しております。遺産分割における前提問題ということであれば,処分した財産が遺産であるということを確認をするという主文が得られれば,そこのところが既判力を持って確定されればよろしいのかなというふうに現時点では考えているところでございます。 ○大村部会長 よろしいですか。 ○水野(有)委員 すみません,今のに関連してのことなんですが,もし遺産であることだけを確認となりますと請求原因がどういう形になるのかなと思いまして。主文が遺産の確認でございますよね。お兄さんが原告で弟が被告で,お兄さんが弟が処分したから遺産だというときには,多分,主文は遺産であることを確認で,請求原因が死亡時,父が持っていたと,それで弟が処分した,が請求原因になるのかなと思うんですが,それに対する認否が,まず遺産だというところが争いなしになってしまうんですよね,被告も。被告が,お兄さんが処分したと思っていた場合ですね,被告はお兄さんが処分したから遺産だと思っていたような事案のときにですね。そうなると,請求の趣旨に対する答弁が遺産だ,になってしまって,請求の原因に対する答弁が,お父さんが持っていたがマルで,弟が処分したがペケで,積極否認事由として兄が処分したになってしまうので,もし請求の趣旨に争いがなかったら一般的には民事訴訟なら認諾になってしまうということになりますと,やはり請求原因のうちの誰が処分したかということについて主文に挙がらないとなかなかいけないのかなと思わなくもなくて,そうなるとやはり今までの遺産確認訴訟とは何か毛色の違う何かを,立法で作る必要まであるのか,解釈でそこまで読み込んでそういうときはそこまで審理するとするのかまではちょっとよく分からないのですが,もう少し検討しなくていいのかなというのがちょっと民事訴訟で日々体験している者の実感としてありました。   というのは,ほとんどの,全部と申しませんが,私の30年近い裁判官生活の場合,第三者が処分したか相続人が処分したかという事例は確か1件もなくて,相続人同士の争いしか少なくとも私は経験したことがないので,余り第三者が出てくる例というのはちょっと想定し難いかなと。そうだとすると,もし甲案ないし別案を御検討されるのであれば,その辺りも少し詰めないと難しくないかなというのが,私の個人的な見解でございますので,御検討いただければなと思います。 ○堂薗幹事 その点は非常に難しい問題ですので,御指摘を踏まえて検討させていただければと思いますが,これは正に処分をした人がそこを争っていることが確認訴訟をするために必要だということになりますので,先ほどの事例で言いますと,弟が処分をして,なおかつ,弟が処分をしたことを争っているということで初めて遺産とみなされ,確認の利益が認められるということになると思いますので,先ほど御指摘いただいた事例ですと,被告の方は原告の方で処分したと思っていてということであれば,それはお互いにみなし遺産の確認請求をしない限りはっきりはしないということになるかと思います。逆に言いますと,原告の方の主張としては被告が処分したことが前提となっていますので,被告が処分したということが認められて初めて遺産の確認請求が認められますし,逆に被告の方の言っていることが正しくて,それを理由として遺産とみなされるのであれば,それはその弟の方が原告として遺産確認請求をすることになるのではないかという気もしているんですけれども。 ○水野(有)委員 そういう御見解を採るとすれば,多分誰が処分したかまでが,何といいますか,一致しないと訴訟物が違うという見解を採れば多分それでいけると思うんですね。だから,遺産となる理由が異なる場合には訴訟物が違うという見解を採れば,ただ,そこで真偽不明になったら両方棄却ということになってしまうということでよろしいんですかね。 ○堂薗幹事 逆に真偽不明ではあるけれども,相続人のどちらかが間違いなく処分しただろうという場合に遺産としてみなされますと,今度は逆に,それだけだと今度は遺産分割のところでどちらがそれを取得したのかというところの判断をしなければいけなくなり,その認定が違うということで遺産分割の結論は変わり得るということになりますと,それはそれで非常に問題は大きくなるような気もいたします。そこは正に,なぜ遺産になるかというと,要するに同意をしない人が処分をしたからこそ遺産とみなされるということなので,個人的にはそこまで言えて初めて訴訟物が決まるというふうにしたほうが全体の紛争の解決としてはいいのではないかという印象を持っておりますが,ただ,その点は御指摘を踏まえて検討したいと思います。 ○水野(有)委員 おっしゃることはとてもよく分かって,そうだとすると訴訟物が今までほかの遺産確認であればともかくその時点で遺産がその人のものであれば遺産確認できたものを,やはりそういう意味ではちょっと性質を変えているというふうに言うかどうか,説明の問題かもしれませんけれども,いずれにしても誰が処分したまでを訴訟物とまで言うか,趣旨に挙げるかどうかは別として判断しなければいけないものという訴訟類型を御想定されているという御趣旨,とてもよく分かりました。ありがとうございました。 ○青木委員 ちょっと今の議論に重ねて東京家裁からも御質問させていただきたいんですけれども,端的にここで説明のあるみなし遺産となるかどうかについての確認訴訟の主文例か何かを示していただかないと,ちょっと実務的には持ち帰って検討しづらいなと思います。   今,水野委員から御指摘のあった処分行為者が誰かというところが確認の主文に載らないのであれば,遺産性だけ確認して終わりということになると,では今度それは理由中の判断でそごが出てくるという話になるのか,それが終わった後,家裁の遺産分割審判における審理対象,残る問題点は何なのか,その辺りのところを是非十分議論の上,お示しいただきたいというふうに重ねてお願いしたいと思います。 ○神吉関係官 事務当局においても検討はしたいと思いますが,手続法の委員の方に教えていただければと思います。事務当局としては先ほど述べたように,遺産であるということを確認すれば十分なのではないかと,誰が処分したということまでは,そこまでは確認の利益があるのかどうかというのはよく分からないなと思っていたところですけれども,その辺りの点についてもし何か御示唆があれば頂戴できると有り難いのですが,いかがでしょうか。 ○垣内幹事 若い者から先に発言させて頂くということで,間違いがありましたら他の委員の先生方から訂正を頂ければと思いますが,結局,処分権主義ですので,何について確認を求めるかというのはこれは原告が基本的には設定するということになりますが,そうすると問題は確認の利益が何について認められるかということで,甲案を採った場合でもいろいろ問題,議論の余地というのはあることかと思いますけれども,基本的にはまず当該財産がそもそも遺産分割の対象となる遺産なのかどうかということを確定することにどういう意味があるのかということがまずあって,これは分割対象でないような財産について,例えば審判などで分割をしたというときに,それが仮に本来分割対象でない財産だったとしたらその審判の効果等はどうなるのかという問題と密接に関連をしているところかと思います。では,後者の問題というのは一般的な共通理解があるのかどうかというのが私自身は実はよく分からないところでありますけれども,一つの考え方としては,およそ分割対象ではないような全く相続財産に含まれないようなものについて,幾らそんな審判をしたところで,それは意味を持たないのではないかというような考えがあり得るとしますと,それによって,言わば後でその財産が遺産でなかったことが発覚したことによってその審判の効力が左右されるという事態になるので,これを防ぐために,遺産であるかどうか,つまり遺産分割の対象となる財産であるかどうかを確認することには利益が認められるというのが一つ出てくる話なんだろうと思います。   そうした場合には,その観点からのみいきますと,誰が処分して,その人の同意が拒めなかったから遺産とみなされたのかというのは,その限りでは意味がないことであって,とにかく遺産の分割の対象だったかどうかということがそこでは注目されているということになるんですけれども,しかし,そうなりますと,今度は遺産分割をそれに基づいてするという段階で,結局兄が処分したのか,弟が処分して取得したのかということが分からないと,分割の内容をどうするかということのレベルでどう処理したらいいのかという問題がもう一度噴出してくるということになりますので,そのときに,仮に最初の確認対象を単に抽象的に当該財産が遺産とみなされるということだけではなくて,兄が処分をしたことによって遺産とみなされることの確認であるとか,弟が処分をしたことの結果として遺産とみなされることの確認というようなことだったといたしますと,その点も含めてその遺産分割,後での協議,あるいは審判等ではそれを基準として,既判力がありますのでそれを前提に処理をするということになるわけで,もし後者のような処理ができるということに意味があるというふうに考えられるのだとすると,それも確認の利益が,そこまで確認の利益があるという考え方もあり得るのかもしれないというように思います。   ただ,問題は結局,兄が処分してもう取ってしまったんだから,分割の中でそれを調整するとか,逆であるといったようなことは,これは分割の具体的な内容の問題であって,そもそも対象でない財産を分割したという話とは違いますので,後で仮にその点が本当は兄が処分した前提で審判をしたけれども,本当は処分したのは弟だったということが後で分かったというときに,審判の効力等はどうなるのかという問題は,そもそも遺産でなかったという場合とは異なる帰結になる可能性があるように思われまして,仮にそもそも遺産でなかったという場合であれば何か覆る,覆るということは何を意味するのかということも問題ですけれども,兄が処分をした,弟が処分したの限度ではそういう事態にはならないということがあったとしますと,そこの違いからその後者のようなところまで確認するという利益は認められないというような議論があるいはあり得そうな気もするところで,私自身はどう考えたらいいのかちょっとまだ御提案を拝見して決めかねているというのが現状でございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○山本(克)委員 では,お年寄りもちょっとしゃべらせていただきますが,私はこれ,誰が処分したかは特別利益と似たような問題であって,具体的相続分の算定に係る問題だと思いますので,そこは訴訟事項ではないというのが最高裁の考え方なので,そちらにのっとっていけばいいということで,特に訴訟においては,誰が処分したかというのは第三者が処分したのでないということさえ分かればいいので,誰が処分したのかというところについて相続人の誰かということまで審理する必要は,既判力を持って確定する必要は何もないというふうに一応考えています。 ○山本(和)委員 私も結論的には山本克己委員と同意見で,確認の利益,遺産帰属性についての確認の利益はあるかというのは垣内幹事が言われたようなことではないかと思っていて,最高裁も遺産確認の訴えの利益を認める根拠は,その財産が遺産分割の対象となる財産であることを既判力を持って確定して,遺産分割後に問題が生じないようにするという点に確認の利益を認めているわけですので,それと同じことはこの別案の場合にも同様に妥当するだろうと思います。   ただ,誰が処分をしたかというのは,結局遺産に帰属した後,裁判所がそれを,通常はその処分をした人に帰属をさせて後々問題がないようにするわけで,別の人に帰属させてしまうと後でいろいろ問題,争議,911条か何か分かりませんけれども,後に問題を残すことになってしまうので,ですから,そこを封じるということは分からないではないんですけれども,それは紛争解決機能はより高くはなるんだろうと思いますけれども,それは飽くまでも遺産分割をする際の基準の問題であって,今,山本克己委員が言われたように特別受益の問題あるいは具体的相続分の問題については,それは権利義務ではなく確認の対象ではないというのが最高裁の理解なんだろうと思います。   したがって,水野委員が言われた問題でも,結局兄か弟かどちらかがそれを処分していれば,そして兄も弟も基本的にはそれを遺産分割の対象としたいからそういう訴えを起こしているんだろうと思いますので,仮にそこが両方ノンリケットだった場合に,両方の請求が棄却されて遺産分割の対象にならないという帰結になるのは,それは結論はすごくおかしい感じがしておりまして,そこをどういうふうに説明するのかというのはちょっと私も今,定見はありませんけれども,基本的には第三者でない相続人のうちの誰かが処分したと,処分した者以外がそれを遺産分割の対象にしているという要件が満たされれば,それは遺産とみなされ,遺産分割の対象になるのかなというふうに理解をしております。 ○水野(有)委員 今の山本和彦委員の御意見はとてもよく分かりまして,そうなりますとやはり訴訟物としたら選択的に兄が処分しようと弟が処分しようと主文としては遺産という確認されるという形になる遺産確認,それが従前の遺産確認だと思うんですね。それでそうなるんだったらすごく論旨一貫していてとてもよく分かるんですが,ただ,そうだとするとここでのニーズを満たす訴訟類型,ニーズですね,理論的なことではなくて,になるのかならないのかという論点が出てきて,たまたま理由中で認定できるときはされるかもしれないし,されないかもしれないということになってしまうのかなとは思ってしまいまして,だから理論的にはそれもあり得るので,だからちょっと事務当局の方がおっしゃった訴訟物が別ということとはちょっと難しくて,訴訟物を別にするんだったら何らかの事実確認の訴えを,この制度のためにあえてほかのところと違う理論を作って,作るべきかどうかという議論になるのではないかなと,整理とすればですね,とは思ったので,すみません,個人的な見解ですが。 ○堂薗幹事 もちろん十分に検討したいと思いますが,まず,そもそも原告も被告も,どちらが処分したかは分からないけれども,遺産として組み入れたいという場合には,少なくともこの(1)で一応遺産とみなすことについて同意があるということになるのではないかと思いますので,そもそも確認訴訟をする必要がないのではないかという気がいたします。   したがって,確認訴訟をする必要がある場合というのは,同意をしていない人が,要するに処分者だということを主張して初めてその確認訴訟ができるので,そういった意味では基本的には請求原因の中に出てくるのではないかという気がしておりまして,確かに主文として確認されるのは元々あった財産が遺産とみなされることの確認だけなんだと思うんですけれども,仮にどちらかが処分したことは認められるということになった場合に,例えば兄弟がA,B,Cという3人いて,処分者がAかBかが争われており,それぞれが処分者に関する自己の主張が認められることを条件に遺産に組み入れることに同意しているという事案において,Cが確認請求をすると,それはAであろうとBであろうと確認請求は認められることになりますが,処分者がAかBかについては確定されず,結局その点については最終的には遺産分割後に争い得る,不当利得などで争う余地が出てくると,こういう理解になるということでしょうか。 ○水野(有)委員 すみません,今の議論を前提とすると,結局遺産を共同相続人の誰かが処分して,みんなが遺産分割の対象としていて,結局誰かは分からんというのは民事訴訟に来ないとなると,結局家裁が審判で判断せざるを得ない,はっきり言ってその類型がほとんどというか,少なくとも私の経験ではそこが多いのですが,そのようなものは全部家裁でやるべきだというスキームだという御趣旨でしょうか。 ○堂薗幹事 ですから,元々私が言っていた考え方は必ずしもそうではないんですが,今の山本和彦委員の考え方を前提にやっていくとそういう面が出てくるのかなというところもありますので,その辺りは再度検討したいと思います。 ○水野(有)委員 よろしくお願いします。 ○山本(克)委員 訴訟で問題になるのは,ですから誰が処分したかということよりも,むしろ固有財産を,処分者が固有財産だと言っている場合だと。だから,自分が本来持っている財産なんで,相続財産ではないものを処分しただけだというふうに主張している場合にはやはりこの場合の遺産確認の訴えというのはニーズがあって,それがメーンになってくるということになるのではないでしょうか。   それから,1点よろしいですか。この分割対象の遺産であるとみなすということの意味なんですけれども,処分後から分割時までの果実をどうするのかという問題が少しあると思うんですが。例えば預金,今は利息は低いので余り議論しても意味がないですけれども,処分してから現在までの利息というものも遺産なのか,それとももう処分時において財産の預金の名目枠というのはもう確定してしまうか,どちらだと考えるべきなんでしょうか。それによって,どの時点での遺産を確認するのかというのも非常に難しい問題はあるんですが,そこでちょっと確認対象が変わってくるところがあると思うので,お考えがあればお教えいただければと思います。 ○堂薗幹事 その辺りも検討した上で,次回にこちらの考えを述べさせていただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   一連の御議論で大分問題の所在は明らかになってきたと思いますけれども,事務当局で持ち帰っていただきまして整理をしていただきたいと思います。その留保の下で,別案の大筋について,この方向で考えていっていいのではないかというのが全体的な御意見かと思います。最終的にこれでいいかどうかというところはまだ判断ができないという御意見もありましたけれども,甲案を基にした原案ではなくて別案を検討するということでいく,それでよろしいでしょうか。 ○垣内幹事 ちょっと私も特に異論があるということではないんですけれども,その前提として御教示を頂きたいところがありまして,いろいろ代償財産をどうするかとかいった点もありますが,大筋で甲案と別案が最も異なる点というのは,甲案というのは別に全員の同意というようなことではなく,当然に分割対象である遺産とみなされるということであるのに対して,別案の方は基本的には全員の同意によってそうなるという枠組みになっているということで,そこが大きく違うかと思われますけれども,別案の場合には,結局そうしますと,二つとも最終的に目指すこういう制度を新たに設けることの,何と申しますか,一つの目的は本来在るべき具体的相続分に従った遺産分割を実現するというところにあるかと思われるところですけれども,甲案の場合ですとこれは一人でも相続人の一人が勝手に処分をしたのでおかしいのであると言っていれば,それは遺産とみなされることになりますから,誰も言っていないときは実際は余り問題は起きないのかなという気がするんですけれども,一人でも言っていれば当然そうなるというのに対して,別案の方ですと,その処分をした者以外の相続人が全員同じ考えに至らないとそうはならないということで,かなり規律の実質は異なってくるものはあるのではないかと思います。   というのは,相続人の人数は事案等によって様々かとは思いますけれども,その中には必ずしも全員が利害が一致していたり,その処分についての見方が一致していたりということではないかと思いますので,そこはもう正に実体法の政策判断の問題ですので,別案でもその点は十分導入する意味のある制度であるということなのであれば,そこはそういうこともあり得るのかなという気がしているというのが1点です。それから,あと2点御質問があります。   1点目の御質問は,今日の資料24-3の3ページ目のところで,別案の甲案に対する優れた点の一つとして,甲案の場合には遺産分割が既に終了した後になってまたその問題が再燃するということが往々にして考えられるのに対して,別案の場合には遺産分割が既に終了している場合にはその適用がないものと考えられるという御説明がされているんですけれども,なぜ別案であればそうした帰結になるのかというところが私自身はまだ十分に飲み込めていないところがあります。先ほど申し上げたような理解によりますと,要するに別案と甲案との違いというのは,誰の意思でそういう帰結をもたらすかというところであって,別案を前提とした場合でも例えば相続人が二人いて,一人が勝手に処分をしたという状況で,一旦は遺産分割はされたんだけれども,その後にやはり勝手に処分された財産があるということを一人の相続人が言い出したというときに,だから,その同意を拒めないはずであるという主張をしてくるというようなことはあり得そうな気もいたしまして,その点については甲案となぜ帰結の違いが生ずるのかというのが第1点です。   それから,もう1点は,これはどちらかというと技術的なことなのかもしれないという気もするんですけれども,別案の(2)のところで同意を拒むことができないという表現と申しますか,表現が使われているんですけれども,同意を拒むことができないというのは,法制的にどうとかということは私はよく分かりませんので,一般的にどういう意味で使われるのかということがまずはあろうかと思うんですが。同意を拒むことができないということの,こう規律することの結果として,この資料ですと4ページのところですが,家庭裁判所が本当にその人が処分したのかどうかを判断して,判断ができれば遺産であることがみなされるということを前提としているのかなと思われる御説明があったんですけれども,まず同意が要件であって,一定の場合には同意が拒めないということだとしますと,同意を求める側の関係者とその同意を求められる処分したと言われている者がいて,しかし,同意は拒めないというだけで同意がないんだとすると,最終的には意思表示を求める訴えを提起すればそれは勝てる,拒めないはずですから勝てるはずなんですけれども,判決確定によって意思表示が擬制されて,それによって全員の同意があったことになるというような規律もここからは導き出せそうな気がしたものですから,恐らくそういう理解ではないんだと思うんですけれども,そういう理解でないとしたときにこういう表現でいいのかどうかというような辺りについて,もし何かありましたら教えていただきたいというのが2点目です。 ○大村部会長 ありがとうございます。最初は御指摘というか,前提としてお話になったということで,二つの質問について,ではお願いいたします。 ○神吉関係官 事務当局から回答をさせていただきます。   まず,後者の同意を拒むことができないという表現が適切かどうかという点につきましては,法制的な問題がございますので,また慎重に検討させていただきたいかと思います。垣内先生から御指摘があった,今,「拒むことができない」ではなくて「同意があったものとみなす」とか,「同意を得ることを要しない」というふうに書いたほうがいいのかどうかという点も含めて検討したいと思います。   あと1点目,遺産分割が終了した場合については,この規律は適用ないのだというところですけれども,3ページの脚注の3のところに少し考え方を記載させていただいております。現行法の実務においても,共同相続人による同意で遺産から逸失した財産についても遺産に含めることができるという運用があるところではございますが,その同意の限界もあるんではないかというところで,既に遺産分割が終了している場合には,事後的にその同意があったからといってまた遺産分割をしてくれということは余りやっていないのではないかなという,そこは私どもよく分からないところではありますが,そういった意味で同意の限界があるのではないかなといったところで,現行の実務と一緒であると考えておりますということでございます。   ただ,現行実務も遺産分割の終了後も同意があれば受け付けていますということであれば,ちょっとここはまた考え直すことはあり得るかなとは思っているところでございます。私どももちょっとまだよく分からないところでございますが,また,そこを教えていただければと思っているところでございます。 ○山本(克)委員 今のところは,審判が全部分割なのか一部分割なのかというのをどうやって区別するのかという問題と絡むようにも思うんですが,全部分割だとしてやって,それでなお残部分割というのがあり得るのかどうかという問題ですよね。一部分割ならば当然残部があって,そこに入ってくるはずなんだろうと思うんですが,そこをどうやって区別するのかがよく分からないんですが,先ほどの本体の方の説明のところでも,全部又は一部の分割を求めることができるというふうになっていますが,全部又は一部とどうやって特定するのかがよく分からないなと思って聞いていたんです。多分,そこら辺とも絡む問題だという気がします。   私の頭の中では,追加配当に似たような話なので,全部であっても,残部ができても何でもおかしい話ではないのかなという気もしなくはありません。 ○増田委員 理屈の上では,遺産分割終了後にもう一度合意をして,あるいはその合意の擬制により遺産分割を申し立てるということがあり得るのかもしれませんが,普通は訴訟するでしょうということだけ申し上げておきたいなと。まず,遺産分割という手続をあえて採る実益があるのかどうかですね。終了しているのにかかわらず,その後に誰かが一部を持ち出していたということが発覚した場合には,その処分者は前回の手続の間中,処分の事実を伏せていたわけですから,保全とともに訴訟を起こすというのが通常の考え方かなと思いますので,それほど神経質に議論する実益があるのかどうかと,理屈ではありませんが,申し上げておきたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○山本幹事 今の増田委員の通常訴訟になっているかどうかについては事実認識として留保はしたいと思いますが,別案を前提に検討を進めること自体については特に現段階では異論はございません。ただ,先ほど来問題になっております確認訴訟の形が分からないと何とも申し上げられないところがございますので,是非主文,訴訟物,そして要件事実として何があるのか,それから事後的に既判力によって遮断されるのがどういう範囲になるのかという辺りは一通り整理をしていただければと思っております。その上でどういうふうになるのかというところは,また申し上げたいと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。今の直前の問題,実際実務の取扱いがどうかということも含めまして,もう少し整理をしていただくということになろうかと思います。その上で,別案を基に,これを採用することができるかどうかというのを検討するということで,本日のところはよろしゅうございますでしょうか。何かほかに御指摘があれば承ります。 ○水野(紀)委員 本当に御尽力いただいて感謝したいと思います。先ほどからの確認訴訟と審判との関係も,家裁の審判に裁判所でありながら既判力がないというのが,本当はおかしな話なのだと思います。最高裁は財産分与についても扶養の問題についても管轄を家裁に限定することで,既判力がない問題をクリアしようとしたのですが,そのためにまたいろいろと矛盾も起きてくるわけですけれども。遺産分割についても既判力がないので,遺産確認の訴えができてきたこと自体に,この構造的な問題があったのだろうとは思います。   それから,この別案を検討されるに当たって,パブコメで指摘された紛争の長期化,複雑化について,実務は本当にこれで御苦労されているので,それに一定の対応をなさろうという努力についても理解いたします。   ただやはり,つい本来的な形,つまり近代法の相続は,自然人という法主体の消失を清算することが基本だという観点から,私は考えてしまいます。江戸時代は,財産は家産であり,個人財産はなくて,当主はいわば家という営業体の代表取締役にすぎなかったわけで,明治民法は個人財産制を創設しましたけれど,家督相続は同様に清算の不要な,代表取締役の交代に過ぎなかったのだと思います。つまり日本人が本来の相続を経験したのは戦後70年余りのことで,戦後の立法もそれがよく認識できていなかったからきちんとした清算手続を設けず,家族に丸投げしたのでしょう。本当ならそういう清算手続を構築しなくてはならないはずでしたが,家裁実務は,遺産分割が抱え込むものをできるだけ排除して,紛争をまとめやすくするという方向に進みました。このような従来の動きに対しては基本的な疑問は持っております。   例えば,遺産分割がもめますと,持分を放棄したり誰かに譲渡してその紛争から抜けたいという当事者が出てきて,実務はそれをずっと認めてきました。紛争の複雑化を軽減し解決しやすくするという意味では,争いたい人だけが争っていることにするには確かに益があったのかもしれません。でも,それは法定されている相続の放棄とは全然違いますし,法的な意味ははっきりしません。その争いから抜けたいという相続人のやった放棄や譲渡は,一体どういう法的性格を持つものだったのか,その人が特別受益を受けていたときにはどうなるのか,またその人にかかってくる相続債務はどうなるのかというようなことについては,必ずしも詰め切れていなかったと思います。   なるべく遺産分割で多くのことを取り込んで,かつ,それでまとめてきちんと一括解決できる方向に行くべきではないでしょうか。確かにこの方向は,実務が御苦労してきた方向を修正することにはなりますが,そういう修正をしていくほうが大きな流れとしてはいいだろうと思います。そういう意味で,甲案を基礎にして御検討いただいたことには私は大いに賛意を示したいと思っております。ただ,そうではない形でこれまで動いてきた実務の蓄積との間にぎくしゃくしたものが生じるのは当然のことですので,その点についてお詰めいただく必要はもちろんあるかと思いますけれども,大きな流れとしてはこの甲案の方向でまとめられる御尽力に賛成したいと思います。これまでの実務とのぎくしゃくは,実務を追認すれば解決するかというと必ずしもそうではなく,これまでの実務は,本当の相続の在るべき姿とは違っていいのではないかと思います。どうぞよろしくお願いいたします。 ○大村部会長 ありがとうございます。   水野委員が今おっしゃったのは,甲案を出発点にして調整の末,今,別案が出ているということで,甲案でというのは,その方向でまとめるということを含んでいる。こういう理解でよろしいですね。 ○水野(紀)委員 はい。 ○窪田委員 私自身も別案で進めていただくという方向でよろしいのではないかと思います。その上であと2点,留保ということになるのかもしれませんが,先ほど垣内幹事から御指摘のあった点に関してですが,私自身も本当にこの説明で再度の争いというのがなくなるのだということにできるかどうか分からないのですが,ただ,いずれにしても別案の文言からはこの部分については明確ではないわけですし,それについて解釈論に委ねるという方向はあり得るのではないか,そういう意味でこの方向でもいいのではないかと思います。   もう1点なんですが,これは冒頭で潮見委員から御指摘あった点なのですが,私も当該処分により得られた財産というのが(1),(2)で入っているというのはかなり違和感がありますし,この規定の性格を大変に複雑にしてしまうのではないかと思いますので,むしろ削ってしまったほうがシンプルな制度として組み立てられるのではないかと思います。これは意見です。 ○大村部会長 ありがとうございます。御指摘として承って,事務当局の方で更に考えていただきたいと思います。   そのほか,よろしゅうございますでしょうか。   それでは,「遺産分割に関する見直し等」につきましては,今頂きました御意見に従って,更に進めさせていただきたいと存じます。   続きまして,第4の「遺留分制度に関する見直し」に入りたいと思います。   この点につきまして事務当局の御説明をお願いいたします。 ○神吉関係官 それでは,時間も大分押してきておりますが,第4の遺留分制度に関しまして,御説明させていただきます。   まず,今回のパブリックコメントの対象になりました1の「遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直し」につきまして御説明させていただきます。   パブリックコメントの結果につきましては,補足説明の28ページの1において記載のとおりでございますが,遺留分減殺請求権の行使により生ずる権利を金銭債権化する点,また受遺者又は受贈者の負担額に関する基準を設ける点につきましては,これらに賛成する意見が大勢を占めました。もっとも,現物給付の規律につきましては,追加試案の提案に反対する意見の方が若干多く,賛否は拮抗しており,反対する意見におきましても金銭債権化そのものに反対するもの,また,単純金銭債権化を主張するもの,現物給付の規律を設けることには賛成するが,その方法として中間試案における甲案又は乙案を支持するものなどに分かれました。   現物給付の規律に反対する意見の多くは,部会においても指摘がありましたように,受遺者等に指定権を与えると不要なものを押し付けられるリスクが高まり,遺留分権利者の権利が不当に弱まるのではないかといった意見でございました。   また,「イ」の現物給付の請求の時的限界につきましては,補足説明29ページにもありますとおり,②の金銭債務の履行の請求を受けた時から一定の期間内にしなければならないとの意見が多く,その期間につきましては1年間を支持する意見が多く寄せられました。   また,指定財産の放棄制度につきましては,賛成・反対を明示した意見は多くありませんでしたが,現物給付の規律に反対する意見の中でも,仮に現物給付の規律を設けるのであれば,指定財産の放棄制度は設けるべきであるという意見も複数寄せられました。   また,「エ」の期間につきましては,追加試案の2週間又は1か月という短期間で指定財産の状況を調査するのは酷であるなどとして,相続放棄に準じて3か月とすべきという意見が多く寄せられました。   続きまして,前回の提案からの変更点につきまして御説明いたします。   まず,(1)の金銭債権化,(2)の受遺者又は受贈者の負担額につきましては,パブコメの賛成が大勢を占めましたことから,追加試案の内容で要綱案を作成する方向で引き続き検討するのが相当であるものと考えられます。   また,(3)の現物給付の規律につきましては,先ほども御説明したとおりパブコメにおいて賛否が拮抗しており,現物給付の指定権を受遺者等に与えると不要なものを押し付けられ,遺留分権利者の権利は不当に弱まることにより相当でないなどといった意見が多数寄せられ,遺留分減殺請求権の行使による生ずる権利を金銭債権化するのみでよいという意見も複数寄せられたところであります。   確かに,パブコメにおける意見にもありますとおり,遺留分義務者となり遺留分侵害額を負担しなければならないのは,自ら贈与又は遺贈を受けた結果であり,多くの財産を取得した者が遺留分侵害額に相当する金銭を負担し,その結果,その固有の財産をもって責任を負わなければならないとしても不合理ではないという考え方も一応あり得るように思われます。   もっとも,補足説明の31ページ末尾から32ページに二つの事例を掲げて御説明させていただいているとおり,法定相続分しかもらっていないにもかかわらず遺留分義務者となり得ることがあり,また,単純金銭債権化すると場合によっては遺留分義務者の方が遺留分権利者より最終的な取得額が少なくなることがあることからすると,単純金銭債権化に踏み切ることにはいまだちゅうちょを覚えざるを得ません。   そこで,今回の部会資料におきましては,受遺者等に現物給付の指定権を与えるとしても一定の制限を設けることとしてはどうかということで,(3),アのただし書に,今,亀甲としておりますが,同一の受遺者又は受贈者が遺贈と贈与を受けている場合にあっては遺贈の目的の財産を先に,そして,贈与を複数受けている場合にあっては新しい贈与の目的の財産を先に指定しなければならないこととしております。このように考えれば,受遺者等が不要なものを遺留分権利者に押し付け,遺留分権利者の権利が不当に弱められるという懸念を相当程度払拭することができるように思われます。   また,「イ」の現物給付の指定の時的限界につきましては,補足説明33ページにもありますとおり,パブコメの結果を踏まえて,今回の部会資料におきましては現物給付の請求は金銭債務の履行の請求を受けた時から1年以内にしなければならないこととしております。   また,「エ」の放棄の意思表示の時的限界につきましても,パブコメの結果を踏まえまして,相続放棄の熟慮期間に準じまして,現物給付の請求を受けた時から3か月以内に放棄の意思表示をしなければならないこととしております。   そのほかのゴシック部分につきましては,字句等の修正を除き,変更はありません。   続きまして,「2 遺留分の算定方法の見直し」につきまして御説明いたします。   2につきましては,ゴシック部分につきましては字句等の修正を加えたほか,また,ゴシック部分に(注2)を加えた点を除き,特段の修正点はございません。   なお,(注2)につきまして若干補足して御説明いたしますと,遺留分を算定するための財産の価格に加える相続人に対する贈与につきましては,民法第903条第1項の,いわゆる特別受益に限るということを明文化するという点でございます。   現行法の下におきましても,相続開始前1年を超える贈与につきましては特別受益に限定されるものと考えられておりますが,相続開始前1年以内の贈与につきましては,特別受益に限定するのか否か,必ずしも明らかでありませんでして,考え方といたしましては補足説明の35ページにもありますとおり非限定説と限定説があるものと思われます。相続人に対する贈与と第三者に対する贈与とではその意味内容が異なるものと考えられることや,また,非限定説を採用すると紛争が複雑化することなどから,限定説を採用してはどうかということで御提案させていただいたものであります。   また,一部の委員の方から,2の(1)のアの(注1)の意味が少し分かりにくいんではないかという御指摘を頂いているところでございます。この(注1)の意味といたしましては,そもそも現行民法第1030条は,相続人に対する贈与と第三者に対する贈与を分けて規定はしておりませんが,害意がある場合につきましては1年以上のものを含めるということを規定しているところでございます。   今回,(1)のアで相続人に対する贈与についての特則を設けることとし,10年以内にされたものを含めることとしますが,10年超のものについても,当事者に害意があればこの1030条後段の規律が適用され,算定の対象になるというものでございます。   また,第4の3でございますが,遺留分侵害額の債務の取扱いに関する見直しでございますが,こちらもゴシック部分につきましては,(2)の亀甲括弧を外したほかは特に修正点はございません。   以上,御説明をさせていただきました。 ○大村部会長 ありがとうございました。   第4の「遺留分制度に関する見直し」は1から3までございますけれども,2と3につきましてはゴシック部分については変更はない,ただし2につきましては(注2)について,ある考え方が示されているということでございました。   大きな問題は,1の「遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直し」についてでございますけれども,金銭債権化の大きな方向については,この部会でもコンセンサスは得られているのかと思いますけれども,現物給付をめぐる問題がここでも様々な形で議論されてきたところでございます。   今回の御提案では,部会資料の24-1の方で見ますと,14ページの(3)のアのところに,ただし書を付加するという形で弊害の軽減を図るという提案がなされていると。また,期間については同じ(3)のイとエで一定の配慮をしていると,こういうことであったかと思います。   これも,1の現物給付の点が中心的な論点になろうかと思いますので,まず,2と3の方につきまして何かございましたら御指摘を頂き,その上で1の方にいきたいと思いますが,2,3につきましていかがでございましょうか。 ○中田委員 3について,表現だけの問題ですけれども,(1)で免責的債務引受を記載しておられまして,しかもそれが債務を消滅させる行為の筆頭に出ています。他方,(2)では,求償権についての規律が出ています。しかし,免責的債務引受は求償権が発生しないという条文もあることですから,内容というよりも表現だと思うんですけれども,ちょっと御配慮いただけたらと思います。 ○神吉関係官 免責的債務引受は,これをしても御指摘のとおり求償権が発生するものではありませんので,法文化の際には誤解が生じないよう配慮をしていきたいと思います。   ただ,要綱案におきましては,免責的債務引受をした場合について,債務の加算はしないというところも,今回の規律のメリットの一つでありますので,要綱案としては残したほうがいいのかなと考えていたところでありました。ただ,繰り返しになりますが,免責的債務引受によって求償権を取得するわけではありませんので,(2)の規律は働いてこないと,実質的としてはそういう整理をしているところでございます。 ○大村部会長 誤解のないように,説明等について配慮をしていただくということで,中田委員,よろしゅうございますでしょうか。 ○中田委員 はい。 ○増田委員 特にこだわるものではないんですが,求償権が発生する場合に,相殺構成を採らずに,この規律による消滅請求をすると,倒産法上の相殺禁止が働かないのではないかという疑問も出てくるのですが,その点はどうなんでしょうか。 ○堂薗幹事 その点も検討の上,次回お答えさせていただければと思いますが,基本的にやっていることは相殺とほぼ同様になりますので,倒産法制において相殺の制限がある場合には,類推適用とか,そういう余地は十分にあるのではないかとは思います。 ○大村部会長 増田委員,よろしいですか。   ほかに,いかがでございましょうか。   それでは,1の「遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直し」,特に現物給付の問題が修正の多いところではございますけれども,これらの点につきまして御意見を頂ければと思います。いかかでございましょうか。 ○増田委員 弁護士サイドでは,単純金銭債権とする考え方が近時は強かったところですが,現物給付指定権についてかなり制約ができたことで,一番懸念していた不要なものを次々押し付けられるのではないかという危険が若干薄らいだと考えられ,これであれば,余り変なものを出すと受遺者の方が現物の価値が低いことによるリスクを負担するということになるので,合理的な交渉ができるのではないかと。やってみなければ分からないことではありますが,実務的には一応動かせるのではないかというように考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今のような御意見を頂きましたが,ほかにいかがでございましょうか。 ○潮見委員 私も金銭債権一本とすべきだと,今でも思っています。けれども,全体の方向が現物給付というのを認めるということで,バランスのよい調整ができるということならば,特に余り私一人がここでぎゃあぎゃあ言っても仕方がないと思います。ただ気持ちの上では金銭請求権一本ということは望ましいとは思います。   その上でも,ちょっとしたコメントになりますけれども,30ページのところ,あるいは31ページにかけて(注1)と(注2)を挙げられて,単純金銭債権化の問題点だという指摘がされています。本当にこれが理由になるのかというところについて若干疑問があるということだけは,ここで申し上げておきたいと思います。   30ページですが,(注1)の方を引いておられて,被相続人から法定相続分に相当する遺贈しか受けていない場合においても遺留分義務者となるということで,結局法定相続分のところにまで組み込まれて,食い込んだ形で取られてしまうということの趣旨だと思いますけれども,これは一定の理論的な前提があって,つまり受遺者は法定相続分に相当する価値は保証されているのであって,その価値は保証するべきであり,遺留分を侵害されている人がいたとしても侵食を許さないというようなところが前提としてあるのだと思います。それはそれとして一つの考え方ではあろうかとは思いますけれども,本当にそれでいいのかというところについては,個人的には疑問を感じます。ただし,これは意見だということで,もうお答えは無用です。   それから,(注2)の方ですけれども,これも一つの前提があって,金銭債権化した場合には,これは金銭債権で期限の定めのない債務であって,請求と同時に遅滞に陥るということから,即時,その請求時に,正確にいったら翌日ですけれども,遅延損害金が発生するということを想定して,それを前提として,こうこうこういう不都合があるという説明になっていると思うのです。   ただ,少し考えてみますと,現行法での遺留分減殺請求の場合もそうですが,実際にこういう減殺請求とか,あるいは遺留分侵害に基づく一定の給付請求をした場合に,その請求によっていつの時点で履行遅滞に陥るのかというところについては即断し難いのではないかと思います。金銭債権だから請求したら期限がないから,請求時に遅滞に陥るという,本当に素直にそう言っていいのかという話はいろいろなところであるわけであって,例えば預金の払戻しだって,普通預金の払戻しの場合であっても,例えば調査等に,あるいは手続等に時間が掛かるということであれば,その間,その調査等々をすることによって払戻しが遅れたからといって,ではその間の遅延損害金というものを払わなければいけないのかといえば,それはいろいろな理由も付けてですけれども,違法阻却だとか何とか何とかで,その分についての遅延損害金は発生しないという扱いもされていますし,現在の制度の下で現物返還等が問題になっている場合であっても,例えば引渡債務の履行遅滞という形で当該給付請求が出てくるような場合も,その物を渡せという請求をして,その翌日から,観念的ですけれども遅延損害金が発生するのか,あるいはその間の使用利益がどうなるのかとか,そんなことを考慮に入れて遺留分減殺の問題を扱ってきたのかといったら,必ずしもそうではないのではないかという感じもしないわけではありません。   そうしたことも含めて考えると,そもそも遺留分を侵害された場合に,いつの段階でどういう形で履行遅滞に陥るのか等について,きちんと整理をした上でやったほうがよいと思います。これも意見ということでもいいのかもしれませんが,金銭債権化した場合には,これは起こってくる問題ですから,御検討いただければと思うところです。いろいろな意味を込めて,少し発言をさせてもらいました。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○中田委員 私は,お二人の委員とは違いまして,単純金銭債権化ではなくて,裁判所の御負担があるけれども,かつてあった甲2案というのがいいのではないかという意見でございました。今でもそういう気持ちでおりますけれども,総体的に言えば,従来の案よりも今回の追加して括弧の部分が付け加わったということで懸念は相当程度緩和されているというふうに考えておりまして,その点ではさきの2委員と同じでございます。   その上で,若干の課題と御質問がございます。1点目は,新しい御提案ですと,順番が決まっているということで,それ自体は明確なんですけれども,逆に結果としてその順番を違えてしまった場合にどうなるのかという問題が新たに発生すると思います。それは,誤って順番を違えたということもありましょうし,故意に違えるということもあるでしょう。その場合の帰結がどうなるのかということを考える必要があるのではないかということです。   それに関連しまして,今回出ていないんですが,死因贈与の位置付けも明確にしたほうがいいのではないかと思います。指定についての紛争が今後生じることがありますので,明らかにしておいたほうがいいのではないかということです。もちろん,現行法の下で1033条と1035条について,死因贈与をどこに位置付けるのか議論があるところですけれども,今回全面的に改めるわけですので,紛争の未然防止という観点からは明らかにしたほうがいいのではないかと思いました。   それから,次に,ただ今の潮見委員の御発言とも若干関係するんですけれども,今回の御提案・御説明によりますと,第4の1の(1)にあります金銭の支払請求というものと,それから14ページの(3)のイにあります債務の履行の請求というこの2種類の請求があるということになっています。恐らく,最初の請求は言わば形成権的なものであって,第2の請求は履行遅滞に陥れるというものだろうと理解いたしますが,中身はどう違うんだろうか,つまり,どちらも金額を明示することになるのではないかと思いまして,そうすると,その2段階を置くことの意味がどういうものなんだろうかと思いました。むしろ,履行遅滞をいつの時点で生じさせるのかということについては,ただ今の潮見委員の御発言も踏まえて,この制度全体の中でどの時点から遅滞にするのがいいのかということを改めて考える必要があるのではないかと思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今,何人かの委員の方から御指摘を頂いておりますけれども,従前幾つかの異なる立場があったわけですけれども,今回,現物給付について,ただし書以下の制限を掛けるという案が出ていて,これでも許容できるという御発言を頂いているところかと思います。   ただし,こう決めると派生問題が出てくるのではないかというのが一つと,それから,理由付けとして挙げられている(注)が適切なものかどうかということについてもう少し検討したほうがいいのではないかというのがもう一つ,この2点にまとめられるのではないかと思いますけれども,何か事務当局の方であればお願いします。 ○神吉関係官 まず,中田委員から御質問が3点ございましたので,そちらについて御回答を差し上げようかと思います。まず1点目の御質問,受遺者がこの規律と異なる指定をした場合にどうなるのかという点でございますが,基本的にはこの規律と異なる指定につきましては無効であると考えております。ただ,受遺者等といたしましては,遺贈又は贈与を受けた当事者ということですので,その順序につき誤解が生ずると,故意にやった場合というのは別でございますが,誤解が生ずるということは余りないのではないかと考えているところでございます。   また,1番目の御質問と関係する点,死因贈与に関しての規律を定めたほうがよいのではないかという点ですが,この規律の適用を誤ると現物給付の効果が生じなくなるので,そういった考え方も十分あるのではないかなとは思って検討しているところではございます。ただ,仮に順番を明確化することになりますと,東京高裁の平成12年3月8日という判例が死因贈与に関してございますが,この考え方からすると,まずは遺贈,その次に死因贈与,その次にそのほかの生前贈与という形で規律を設けることになるのかなと,恐らくこれが現在の多数説なのではないかなとは思ってはいるのですが,最高裁の判例があるわけではございませんでして,また,遺贈と同順位で考えるべきではないかという説もございますし,また,贈与に準じて考えるとしても行為時説とか履行時説とかいろいろな学説があるような状況でして,もう議論をすべき時間も余り残されていないこの段階で規律を決めてしまうというのがなかなか難しいのではないかなと思っているところでございます。   この問題は,何がどのように減殺されるのかという現行法においてもよりシビアな問題としてありますが,こちらは解釈に委ねられているというところでございますので,この点につきましては,なお解釈の積み重ねを待つのでもよいのではないかなというふうに事務当局では思っているところでございます。   3点目は,第4の1の(1)の「金銭の支払を請求することができる」というのと,(3)のイの規律,「債務の履行の請求を受けた」というのがどういう関係にあるのかという御指摘がありました。中田委員から御指摘がありましたとおり,基本的に(1)の請求につきましては形成権の行使というふうに考えております。形成権の行使と具体的な金銭請求権というのは一応別として考えたほうがいいのではないかということはこれまでの部会の中で指摘されてきたところであり,また,遺留分権利者としては,形成権の行使については1年以内にしなければならないという制限は掛かってくるので,形成権の行使はまずすると,その後,詳細に計算をして,自分はこれだけ請求できると考えて具体的な金銭請求をすることができるということもあろうかということで,形成権の行使と,具体的な金銭請求権の行使は分けて考えているということでございます。   それから,潮見委員から,(注1)というのが法定相続分は担保されるべきであるという考え方を前提としているのではないかという御指摘がございましたが,事務局としてそこまで考えているわけではございませんでして,(注1)の事例でももちろん遺留分額しか取得できないという説を前提として計算をしているところでございます。パブコメの意見の中で,多くの遺贈とか贈与をもらったんだから,それだけ自分の固有財産で負担してもいいのではないかという御意見があったことに対する,いや,そういうわけでもないですよという一つの事例として出したものにすぎませんので,決して判例で否定された法定相続分超過額説を事務当局が是としているとか,そういうわけではないということでございます。   以上,簡単に御説明させていただきました。 ○中田委員 御説明ありがとうございました。   私の第1点について,間違うことは余りないだろうということなんですけれども,複数の贈与を受けている受贈者が意図的に先後を入れ替えて遺留分権利者に不利なものを指定するという事案を考えておりました。それが分からないまま遺留分権利者が受領して,しばらくたってから分かったというときにどうなるのかなということを考えました。   そういうこともあって,できるだけ規律を明確にしたほうがいいという趣旨で死因贈与についても申し上げたわけで,むしろ先ほどおっしゃった順番で規律することで検討してもいいのかなとは思っておりますが,それは希望です。   それから,3点目なんですけれども,13ページの第4の1の(1)の注を見ますと,最初の権利の行使により具体的な金銭請求権が発生すると,こう書いてあるわけですが,これは金額も特定された金銭請求権ではないのでしょうか。だとすると,その後の二度目の履行の請求と実質的な内容がどこがどう違うのかを,今まで議論したのかもしれないんですけれども,念のためにお教えくださればと思います。 ○神吉関係官 今の御質問でございますが,遺留分侵害額請求権という形成権の行使によって,遺留分侵害額に相当する金銭が発生すると考えております。具体的な金銭請求の額,それ自体は(2)の計算によって出てくるものであるということでございます。ですので,最初に権利行使をする時点で正確な相続財産の範囲をきちんと把握をしていないということもあろうかと思いますので,まずは遺留分侵害額請求権,形成権を行使をすると,それで客観的には遺留分侵害額に相当する金銭債権が発生しているんですけれども,遺留分権利者としてはその額が正確に幾らかということはちょっとまだ計算をしてみないと分からないということはあるので,後日,正確な金額を請求をするということはあり得ようかというふうに考えているところでございます。   それは現行法も,取りあえず遺留分減殺請求権を行使して,具体的にこんな遺贈があった,贈与があったということで,実際減殺しているのはこれだということを正確に把握・理解をした上で,引渡請求をすることになろうかと思いますが,それと同じというイメージであります。 ○中田委員 そうしますと,13ページの第4,1,(1)の(注1)の具体的な金銭請求権というのは,金額は不明だけれども客観的には確定している,そういう意味での金銭請求権だという趣旨でございますね。 ○神吉関係官 はい,そういう理解です。 ○中田委員 そうでしたら,そういうように御説明をしていただいたほうが,より分かりやすいのではないかと思います。 ○神吉関係官 分かりました。記載振りについては検討いたします。 ○大村部会長 ほかにいかがでございましょうか。 ○山本幹事 すみません,1点確認なんですが,(3),アのただし書,亀甲括弧のところなんですけれども,これに反する指定が当然無効だという御説明が先ほどありましたが,先ほど中田委員がおっしゃったこととも関係すると思うんですけれども,一旦当事者間ではそれで話がついて,終わったと思ったものを後で蒸し返せるのかという問題がちょっとあるような気がしておりまして,そこはどういう整理になるんでしょうか。 ○神吉関係官 当事者が無効であるということが分かって,また1年以内の期間内であれば再指定をするということは可能なのではないかなというふうには考えてはおります。もっとも,当事者間でもう話合いがついて,これでいいよというふうに言っている場合につきましては,別途代物弁済契約が成立したりとか,更改契約が成立したということで,債務が消滅をしているという整理をすることは,それは一方でできるのではないかなと思っているところでございます。 ○中田委員 代物弁済契約なり更改契約ということは,言わば無効行為の転換を考えているのか,それとも新たな合意を認定するということを考えているのかですが,後者については当然そこでは錯誤が問題となってくるのではないかと思うのですけれども,いかがでしょうか。 ○神吉関係官 当事者がこれでいいやと思っているというのをどう評価するのかということだとは思うのですが,当事者が本当のことを知ったら,やはりそれは嫌だったということであれば,恐らくそういった代物弁済契約とか更改契約があったということまでは言えないということになろうかとは思います。そうすると,元に戻って現物給付の指定というのは無効であって,金銭債務がなお残っているという理解は,それはそちらの方が自然なのかなと思っております。   ただ,なお分かった後に,もう受領しているからこれでいいやというふうに遺留分権利者側がもう思っているような場合については,代物弁済契約若しくは更改契約が成立していたと評価をする余地はあろうかなと思います。 ○中田委員 結局同じことになると思うんですけれども,法律上の制度の結果として受け取っているということを,後から見て,それはこれでいいやと思っていたので代物弁済契約があったということは,そもそも契約があったのかということと,あったとしても錯誤ではないかという二段階の問題があって,なかなかそのルートというのは問題があるのではないかなという気はしております。 ○堂薗幹事 ですから,逆に言いますと,受遺者とか受贈者側は,贈与の順番はこうだということをきちんと説明して,だけれどもこちらでということで合意を得ないと,錯誤を主張されて,その結果,より多くの遅延損害金を払わなければいけないというリスクも出てきますので,代物弁済契約なり更改契約が有効に成立するためには,受贈者側はその順番も分かっているわけですので,そこもきちんと説明した上で合意ができていれば問題ないですし,そこを説明せずに,これが法律の順番であるという前提で合意したような場合は無効になりやすいということではないかとは思いますけれども。 ○大村部会長 中田委員よろしいでしょうか。先ほど,中田委員が挙げられた二つの捉え方でいうと,今の堂薗幹事の考え方はむしろ後者の方で考えて,しかし,それが有効な契約として成立する場合というのは一定程度限られるだろうという御説明だったかと思いますが。 ○中田委員 そうなるんだろうなと思います。普通は,それほど説明して新たな合意をするというんではなくて手続にのっとってやったんだという,それを受け取るというだけでしょうから,合意が認定されるというケースはそれほど多くはないのではないかなと思います。 ○増田委員 指定という単独行為だけで,それで終わった状態であればそれは無効であるということでよろしいのかなと。それを受領すると,きちんと契約をしたということで,それが根本から違っていたというのであれば詐欺や錯誤による取消しの問題になるという整理でよろしいのではないかと思いますが,いかがでしょうか。 ○堂薗幹事 そうですね,同じような理解でよいのではないかと思っています。 ○大村部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○沖野委員 中田委員がおっしゃった死因贈与の点は是非御検討いただきたいと思います。手掛かりが少ないというふうに言われましたけれども,裁判例もございますし,その方向で何とかできないかと。ほかにも,例えば信託ですとか,この位置付けをどう考えるかといった問題があり,民法の方の基本が決まっていないと,更に重ねて解釈が複雑になってくるということがございますので,そこは是非明らかにする方向で極力検討していただけないかと思うところです。 ○神吉関係官 一応検討はさせていただこうかとは思いますが,死因贈与というのを遺贈の次に位置付けて,そのほかの生前贈与がその次に来るというところで,皆さん,特に異論がないということであれば,そういう前提で検討することはもちろん可能かとは思います。また,贈与につきましては先ほど御説明したように,贈与した時期で考えるという説と履行が行われた時と考える説があるようですが,そういった説の対立がある中で,死因贈与を遺贈の次に位置付けるというのが,履行時説に近づいた解釈になってしまうのではないかな,というところを危惧しているところです。   ただ,死因贈与をそこに位置付けたからといって,そこは生前贈与の中ではまだ解釈は分かれているんですよというところで,特に解釈に影響しないということであればそういう結論もあり得るかなとは思いますが,ちょっとそこは是非民法の先生方にもお知恵を頂きたいなとは思っているところではあります。 ○大村部会長 何か,その点に関して御発言があれば是非伺いたいと思いますが,いかがでしょうか。   では,御検討いただくということで,必要に応じて問い合わせをさせていただくということもあるべしということにさせていただきたいと思います。   そのほかに,いかがでございましょうか。 ○水野(紀)委員 先ほど潮見委員がおっしゃった30ページの理由付けのところについて,伺います。理由付けの前半は(注1),(注2)の例を挙げているのですけれども,後半のところで,共同相続人の一人が不動産の贈与を受けて,その段階では侵害するような状況ではなかったのだけれども,結局その後,遺産がなくなってしまったときが挙がっています。この理由付けも余り説得的でないように思います。つまり,特別受益にさかのぼる理由について,特別受益で与えられたのは生前相続分だと考えますと,自己の固有財産をもってとまで言えない,つまり事前に生前相続しているものを吐き出すと考えると,酷とまでも言えないかと思いますので,この理由付けには少し疑問がございます。   それから,全く違う話なのですけれども,指定財産の価額でその請求があったときに消滅して,その指定財産に対する権利が移転するということなのですが,この価額はどのくらいに評価されるものなのでしょうか。これは当然のことながら遺産分割全体のところでも問題になる話なのだとは思うのですが,私は,実務がよく分かっておりませんので,御教示下さい。いわゆる負動産といいますか,持っているだけマイナスになってしまうという不動産,税金などの負担でマイナスになってしまって,売ろうと思っても誰も買ってくれないという不動産であったとしても,税法上は当然プラスの資産と計算されることになっております。   そして,今度順番を付けてくださったということなのですが,例えば生前贈与でおいしいところを取っておいて,あと,そういう負の不動産だけが残っていて,それが遺贈対象となったときに,その遺贈対象不動産が,それでもプラスに評価されることになりますと,それを指定する,すると当然のことながら遺留分権利者はそんなものは放棄する,そうすると遺留分は事実上なかったこと,遺留分権は否定されたことになりはしないでしょうか。そういう意味では何かこの価額の評価次第になるようなところもあって,この価額を,そういう負動産のような場合にどのようなものとして考えていらっしゃるのか,イメージをお知らせいただければと思います。 ○神吉関係官 これまでの部会の中でも少し議論になった点ではございますが,基本的には時価若しくは処分価格という形になるのではないかなと。ただ,それについては事案によってそこは異なってくる可能性はあるかなというふうに考えているところでございます。   先ほど,水野委員から御指摘いただいた負の不動産があるんだけれども,負の不動産で一定の評価額はあるけれどもほとんど価値がないようなものについて,その現物給付して遺留分侵害額自体は消滅をしてしまうという,ただ,それを放棄をしたらそれほどもらえなくなってしまうではないかという話は,それはそういう帰結になるのではないかなと思いますが,それは現行法でも同じ話かなと思っております。遺留分減殺請求権を行使をすると,まずは遺贈から減殺されていきますので,ある程度価値があればそこから減殺をされて遺留分侵害額は評価されていくと,それについて,要るのか要らないかということを恐らく遺留分権利者で考えた上で,減殺請求権行使をするかどうかと恐らく決める形になると思うんですけれども,その上でやはり要らないと思えば遺留分減殺請求権を行使をしないということになるでしょう,なお欲しいということであれば減殺請求権を行使をして負の不動産,遺贈に係るその負の不動産みたいなものを取得するという帰結になるのかなと思いまして,そこはそれほど現行法と違うことにはならないのではないかなと思っているところでございます。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。   そのほか,いかがでございましょうか。   それでは,様々な御指摘を頂きましたけれども,関連する問題点や理由付け等につきましては更に御検討いただく必要があろうかと思いますが,今回の御提案,すなわち,アにただし書を付けることを中心とした案で進めるということで先に進ませていただきたいと思います。よろしいでしょうか。   それでは,二つ終わりましたので,ここで休憩させていただきたいと思います。今,この室内の時計で3時40分少し前ですので,3時50分まで休憩させていただきます。   休憩いたします。           (休     憩) ○大村部会長 それでは,まだ4項目残っております。全てについて御意見を頂ければと思っておりますので,少しスピードアップさせていただきたいと思います。   残る4項目のうちのまず「第1 配偶者の居住権を保護するための方策」につきまして,事務当局の方から御説明を頂きます。 ○倉重関係官 それでは,関係官の倉重から,「第1 配偶者の居住権を保護するための方策」について説明いたします。   まず,短期居住権ですが,次の3点を変更したほかは,おおむねこれまでと同様の規律となります。   1点目は,短期居住権の発生障害事由について,配偶者が欠格事由に該当したり,排除されたりしたことで相続人でなくなった場合,短期居住権は発生しないことといたしました。   一方で,相続放棄については両論あり得るところであろうとは思われましたが,検討の上,消滅原因としないこととしております。   2点目は,短期居住権の存続中の建物の修繕について,前回部会での議論を踏まえ,配偶者が一時的な修繕権を有することとする規律に改めました。   3点目は,短期居住権の消滅原因の整理です。占有喪失については,権利の放棄,短期居住権の場合は債権ですので免除というのが正確かもしれませんが,と捉えれば足りますことから,削除することといたしました。   一方で,長期居住権を取得したときに短期居住権が消滅することにつきまして,これまでは当然のこととしておりましたが,これを明確に規定することといたしました。   次に,長期居住権についてですが,次の4点を変更したほかは,おおむねこれまでと同様の規律となっております。   1点目は,存続期間についてです。存続期間の定めがないことで長期居住権の取得が無効となるリスクを避けるため,存続期間の定めがない長期居住権については,取得原因にかかわらず配偶者の終身のものとすることにしました。   2点目は,用法遵守義務についてです。これまでの規律は,従前の用法に従って建物の使用及び収益をしなければならないというふうにしておりましたが,居住の目的の範囲内であれば,従前の用法と異なる用法での使用も許容することといたしました。   3点目は,居住建物に関する費用負担についてです。借主が建物を無償で使用及び収益する使用貸借においてさえ,借主は通常の必要費のみを負担することとされていることに照らしまして,長期居住権においても配偶者の負担部分を通常の必要費に限ることといたしました。   4点目は,居住建物の修繕に関する規律でございますが,費用負担の規律を短期居住権と同様の規律といたしましたことから,この点につきましても,短期居住権と同様の規律にすることといたしました。   これらの点につきましてどのようにお考えになられるか,御意見を賜りたく存じます。よろしくお願いいたします。 ○大村部会長 ありがとうございます。   第1の「配偶者の居住を保護するための方策」につきましては,短期居住権と長期居住権の2種のものを考えているわけでございますけれども,それぞれにつきまして,補足説明の方で挙げております点,前者については三つの項目,それから後者については四つの項目について修正を提案しているということでございます。   基本的な方向は既に定まっておりますけれども,細部にわたる点につきまして,計7点の提案がされておりますので,これらについて御意見を頂ければと思います。いかがでしょうか。 ○増田委員 1点だけ気になったところが,配偶者が相続人でなくなった場合なんですが,このケースは,利益状況としては1の(2),配偶者以外の者が配偶者の居住建物を取得した場合に類似していると考えます。配偶者自身は,その建物に対する権利がなくなって,ほかの人が建物を無償取得した場合ということになるので,むしろこれは放棄の場合も含めて(1)ではなくて(2)のほうに入れた方がいいのではないかと思いますが,いかがでしょうか。 ○堂薗幹事 その点につきましては,こちらも両方の考え方があるのだろうとは思っているんですけれども,平成8年の判例の考え方を前提とした場合に,使用貸借契約の推認ということだといたしますと,仮にそういう推認が認められるという事例については,事後的に相続放棄をしたからといって,それが解除条件的に消滅するとか,そういったことまでは考えていないのではないかという印象も持っております。そうだとすると,今,増田委員が言われたような規律にしますと,その場面では現行法の規律より若干効力は弱まるというおそれもあるのではないかということで,相続放棄の場合については(1)の規律にしたというのがこちらの考え方です。   他方,欠格事由ですとか廃除の場合につきましては,そもそもそういった場合については,使用貸借契約があるという推認が働かない特段の事情があるという場合が多いのではないかということで,それについては規律の対象外にしているという整理をしているところでございまして,この辺りにつきましては両方の考え方があり得ると思いますので,正にこの場で御議論いただければと考えているところでございます。 ○増田委員 現行法が使用貸借を推定しているというのは,無償性の点で推定しているというだけであって,権利が存在しない場合の権利まで推定しているわけではないと思っているんです。平成8年の判例は,共同相続人の一人が持分権を有していて使用権を有しているという前提に立って,それが有償なのか,無償なのかという争点で,当事者間の通常の意思は無償だという判例だったように思うんですが。したがって,権利がない場合にまで現行法が無償での使用を認めているとは言い難いと思います。 ○大村部会長 今の点につきまして,何か御発言ございますでしょうか。 ○倉重関係官 今の点につきまして付言させていただきますと,確かに御指摘のとおり,(1)の方の規定というのは,配偶者が遺産共有持分権を有している場合に,言わば共有者相互の調整のための規定であり,それに対し,(2)の方は共有持分を持っていない場合に,言わば明渡猶予的に作られた規定であるというふうに理解をした場合には,委員御指摘のとおり,(2)の方が適切ではないかとも思われるところでございます。しかしながら,今回,これを(1)と整理いたしましたのは,短期居住権自体,配偶者の保護で設けようと考えた制度でございまして,その点からしますと,理論上,できるだけ長い期間の居住を保護したいと考えたためです。   そのように考えますと,配偶者以外において遺産分割が行われる場合には,この(1)の方の規定に入ってくるわけでございますが,仮に配偶者を除いた相続人たちで何か具体的な使用方法が決まっているのであれば,もうその建物だけ先行して遺産分割してしまって,所有を決めてしまうようなこともできるわけですから,その建物自体がまだ遺産共有状態にあるような場合には,配偶者を直ちに出ていかせる必要もないのではないかと思われたところです。したがいまして,このような場面については(1)の方に規定に入れまして,遺産分割で所有権の帰属が確定するまでは住まわせてよいのではないかと考えたという次第でございます。 ○増田委員 その前に,ちょっと整理しておきたいんですが,この案では,欠格・廃除の場合は(2)もないんですか,放棄の場合は(1)なんですか。それだとすると,全く何か筋が通らないというか,余りにも違いすぎて,理屈がよく分からないということになるんですが,まずその質問についてちょっとお答えいただけますか。 ○笹井幹事 御質問は,廃除の場合であるとか欠格事由の場合に,短期居住権が成立するのかどうかということでよろしいでしょうか。 ○増田委員 廃除・欠格の場合は(2)もないということですか。 ○笹井幹事 廃除・欠格の場合は(2)もない。短期居住権は,いずれの類型としても成立しないということでございます。放棄の場合については,遺産分割がされるまでは(1)の居住権を認めてもよいのではないかというのが原案の内容でございます。 ○増田委員 それらとその理論的な違いは全く分からないですね。自ら放棄しておきながら,厚い保護が来るというのも分からないし,欠格といっても,殺した場合から遺言書の隠匿まで程度の問題があるわけだから,欠格というだけで一律に放棄との間に大きな差を設けるというのは,ちょっと理解し難いなと思います。   また,遺産分割が行える場合というのを,今,放棄の場合で考えますと,その人がいることによって,目的物の価格に影響するということは事実上はあるわけで,遺産分割ができたら直ちに不法占有者になるとはいえ,占有があることによって価格に影響することもあり得るのですから,認める理由はなさそうな気はするのですが,感覚的にも分からないところです。 ○倉重関係官 正しくそこは両論あるところかなと思いまして,部会資料でも検討させていただいたところではあるんですが,一つの考え方としては,そのとおりでございまして,相続放棄しているのですから,被相続人に負債がある場合であると思われまして,ほかに負債を負うことを覚悟して相続を承認したほかの共同相続人の負担の下に,その負債を負わない配偶者が利益を得るという状況になるのは不公平であるということからすると,確かに相続放棄した場合に認めなくていいのではないかという方向の考え方もあるのではないかと思われました。   しかしながら,一方で,積極財産全てが遺贈されてしまうというような場合を考えますと,それで負債だけが残るので,やむを得ず配偶者としては放棄しなければならないというような事態を考えますと,そういうときこそむしろ短期的な居住を認めた方がいいのではないかとも考えられますことから,むしろ配偶者保護という政策の方向性から考えますと,そういった場合を救う方を重視していいのではないかということで,相続放棄も認めさせていただこうという提案をさせていただいているという次第でございます。   ここは両方あり得るということが分かった上での御提案でございますので,どちらの方が論理的であるか,制度として正しいものであるかということについては,是非御意見を頂きたいなと考えております。 ○大村部会長 増田委員は,両方とも(2)の方で整理すべきだという御意見だったかと思いますけれども,他の委員,幹事,今の点につきまして何か御意見があれば伺いたいと思います。 ○沖野委員 実は,ここに来るまでは,原案のままでよろしいのではないかと--(2)に移すかどうかについてなんですが--そういうふうに考えてきたんですけれども,増田委員の御指摘を受けながら考えましたところ,まず,この制度の趣旨ですが,確かに(1)について,共同相続人間の調整の問題と考えるのか,死亡によっていきなり居住を奪われる配偶者の居住を,一定範囲でドラスティックな変更から免れさせるということと考えるのかという点があるかと思いますが,それは基本的に後者で考えるべきではないかと思っております。   そうしたときになんですけれども,(1)は,したがって,配偶者の保護として,保護に値する配偶者かどうかという観点から,一応の切り分けとして原案の考え方はあり得るのかなと思ったところです。ただ,遺言書についての一定の行為と殺害というものが同じ評価でいいのかというのは,遺言書の破棄とか隠匿とかその行為は限定されておりますけれども,それでいいのかという問題は確かに立つように思われます。   しかし,相続放棄の場合は,その保護を奪うほどのものではないのではないかという評価の切り分けはあるのではないかと考えてまいりました。その場合に,(1)なのか,(2)なのかということですが,(1)と(2)というものが,権利がない人の明渡し猶予的なものが(2)であってということになれば,正に増田委員がおっしゃるとおりではないかと思うんですけれども,分割の形で,飽くまで共同相続の過渡的状況にある,相続人がいて,その者が分割協議等をしており最終的な権利関係は確定していないという段階である限りは配偶者に現状を維持させるというのが(1)だとすると,なお(1)ということもあり得るのかなとは思っておりました。   実際そう考えてきたんですけれども,ただ,今伺っておりまして,その前提としては,遺産分割が6か月を超えて非常に長くなったときに,もう6か月たったのに,まだ分割決まっていないけれども,あなたは出ていけと言えるというのが,確かに相続放棄しているので何の権利もないんだからと言えそうでもありますが,共同相続人がそういう分割などをやっている間は,もう少し長い期間となってもいいのではないかという感覚でいたんですけれども,遺産分割がどの時期に終わるのかというのはちょっと分からないところがあり,仮に3か月で終わったというような場合も考えられるわけで,そのときに,明渡し猶予的に,6か月は(2)であれば保障されるところを,やはり(1)だと短くなるという可能性が一つ出てきます。   もう一つは,配偶者が相続放棄したために,単独相続になってしまった場合はどうなるのかということで,(1)によると,直ちに所有が確定してしまうので,直ちに出ていけということになりそうにも思うんですけれども,それもいかがなものかと考えますと,かつ遺産分割が短くても構わないというのは,(1)で配偶者が相続人の一人であれば,分割の中に加わっていけますので,自分の意向をそれなりに反映させる,ニーズを反映させるという道があるんですけれども,共同相続人の一人ではないということになりますと,その道がない中でということになりますので,そうだとすると,(2)に寄せた方がいいのかなというふうに,今では考え直しつつあります。 ○大村部会長 沖野委員は,価値判断としては,相続放棄の場合の配偶者を保護する必要があるのではないか,それから,欠格の中にもあるいはそれに準ずるものがあるかもしれないということをおっしゃって,では,保護するとした場合に,(1)がいいのか(2)がいいのかというと,(1)がいいと思っていたけれども,むしろ(2)がいいかもしれない。そういうことですね。 ○沖野委員 すみません。前半は余計だったかもしれませんが,両論があり得るのはあり得るのだろうと思っておりまして,ただ,現在,今考えてみますと,(2)の方がいろいろ問題が少ないのかなと思うようになり,(2)で寄せた方がいいのではないかと考えているということです。 ○笹井幹事 (1)であるか,(2)であるかというところですけれども,原案の(2)は,誰が所有者かが決まっていることを前提に,その人による引渡しの催告から6か月ということになっているんですが,相続放棄の場合の短期居住権を(2)に移すとすると,6か月の起算点はどこだとお考えでしょうか。   遺産分割がその後予定されていますが,遺産分割によって誰が最終的な取得者が決まって,その人による引渡しの催告を受けてから6か月ということを意味しているのか,今のお話ですと,もう少し前から明渡しを求められるということを前提にされていたようにも聞こえたので,ちょっとその点を御教示いただけますでしょうか。 ○沖野委員 御指摘ありがとうございます。今考えていたのは,最終的に遺産分割で確定しなくても,共同相続で自分以外の者が所有者になるということがもう確定していて,自分の可能性が全くないということが明らかになっている段階ですので,他の相続人というか,他の相続人は全員ですね。共同相続人から明渡し請求を受ければ,そこから6か月で十分ではないかと思ったということです。 ○笹井幹事 遺産分割が3か月で終わることもあるではないかという御指摘を頂きましたけれども,配偶者自身が遺産分割の当事者である場合でも同じ問題は起こり得るわけですので,そういう意味では,その問題は元々ある問題なのだろうと思います。ただ,全員から明渡しの催告を受けた場合に(2)の適用を認めるべきではないかという問題ですとか,放棄の結果として相続人が一人になってしまった場合に(1)がどのように適用されるのかが不明確であるという問題はあろうかと思いますので,その点については引き続き検討させていただきたいと思います。   欠格・廃除と放棄の間で配偶者の要保護性といいますか,事情が違うのかどうかという点について引き続き御意見を頂きたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○窪田委員 沖野委員の御指摘は,なるほどと思いながら伺ってはいたのですが,そうすると,恐らく(2)をものすごく大きく書き直す必要があるのかなという気がします。現在だと,配偶者以外の者が無償で配偶者の居住建物を取得した場合ということですけれども,むしろ配偶者以外の者が相続を含めて取得した場合,一般の規律ということになるのかなという気もします。   その上で,同じようなことを,多分これは,以前の第1の質問の中に含まれていた問題だったと思うのですけれども,遺産分割までなのか,遺産分割が早期に決まってしまった場合には,取りあえず6か月間,相続開始後6か月間ぐらいまでの猶予を認めるのかという形とで議論されていた問題があったと思いますが,恐らく,仮に先ほど御指摘の問題だけだとすると,(1)のほうでそういう手当てをするというのも,小さな修正としてはあるのかなと思いました。   冒頭のお話,増田委員からの御指摘のあった問題なのですが,相続人としての配偶者をどこまで保護するのかという問題であるとするならば,正しく相続放棄の場合と欠格の場合となぜそんなに違うのかという問題の立て方はできるのだろうと思います。ただ,沖野委員からも御指摘がありましたけれども,そうではなくて,むしろ,特に短期居住権に関しては,生存配偶者の保護というのをストレートに出した制度であって,そうすると,生存配偶者の保護といいながら,欠格の話がどうして関わってくるのかというと,そのときには相続権の有無の問題ではないけれども,やはり保護に値する配偶者なのかどうなのかという立て方をということ,一応の説明はできるのかなと思いました。   もちろん,欠格事由の中で,1号から5号まであって,全然違うではないかということはそうなのですが,ただ,今の欠格事由が,そうした議論はありつつもそういう立て方になっている以上,この部分だけを区別して規律するというのは極めて困難なのではないのかなという気はいたします。ちょっとあんまりはっきりしない方向ですけれども,そういうふうに伺っておりました。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○水野(紀)委員 今の窪田委員の御意見に基本的に賛成でございます。もっと,相続場面だけではなくて,家族法全体の問題なのですけれども。夫婦財産制の問題にしましても,婚姻の効果としましても,配偶者の居住権はもっと非常に手厚く保護されるのが,国際的には標準です。日本法はそこのところがとても脆弱で,配偶者の保護がなっていないと思っております。そして,その婚姻効果の延長線上として,相続の場面における配偶者の居住権保護を考えるのが本来の形と認識しておりますので,ここで,いきなり共同相続人のうちの一人の配偶者だけに特別な保護を与えるという枠組みではないのだろうと,全体の構造として認識しております。   それが日本法の従来の伝統と違うことも承知はしておりますけれども,そちらの方向に,あるべき姿に近づける改正として,特に遺産分割までの時間が長くかかったときに,配偶者の居住権をこのように保護することになったのは,一律6か月で切るよりはずっと有り難いと思います。そして,遺産分割が3か月で終わってしまった場合,あるいは放棄したような場合も,少なくともそれでも6か月は住めるという方向での,先ほど御示唆があったようにプラスアルファを書くという方向での修正が望ましいと思います。全部をまとめて2のほうに流し込んでしまうというのではなく,つまり配偶者の保護の方向へはっきりかじを切った形でまとめていただければと思います。前婚の子と配偶者との争いの場合など,ニーズもあるだろうと思います。 ○大村部会長 確認ですけれども,水野委員は,放棄の場合には6か月でやるという考え方だということですか。 ○水野(紀)委員 いいえ。 ○大村部会長 違いますか。 ○水野(紀)委員 そうではなく,ごめんなさい。3か月で終わってしまったような場合も最低6か月で,そして,私は放棄の場合などでも,遺産分割が終わるまで住まわせてあげたいと思っております。 ○大村部会長 放棄の場合については配偶者が保護されるということで,それと別で,全体として6か月は確保する。そういうことですね。 ○水野(紀)委員 少なくとも,最低限6か月は確保するという方向に考えたいと。 ○大村部会長 ほかはいかがでしょうか。 ○藤野委員 主婦連合会,藤野でございます。   私もここは,相続放棄の場合は,多分,負の遺産があった場合等に考えられると思いますが,配偶者以外の方もそれを検討する可能性はあると思うのですね。そういうことを全て含めて遺産分割が行われると思うのですけれども,熟慮の上,結果として配偶者が相続放棄をする場合,亡くなったときにすぐに「私は相続放棄します」という結論が出るわけではなく,熟慮の時間も必要です。その間,ほかの相続人の方もそういうことを考えていると思うので,相続人の全てが方針を決める時間がこの遺産分割協議の期間だと思います。その間に配偶者が相続放棄を決めたとしても,新設されるこの短期居住権で,遺産分割協議の結論が出るまでは住んでいることが認められる方向がよろしいのではないかと考えております。 ○大村部会長 基本的なお考えとしては,配偶者の居住の保護ということについて,先ほど窪田委員と,それから水野紀子委員から御指摘ありましたけれども,その線で考えてほしいということですね。 ○藤野委員 はい。 ○大村部会長 そのほかいかがでございましょうか。 ○山本(克)委員 相続人が不存在になってしまった場合の処理というのは,何か考えておられるんでしょうか。 ○笹井幹事 放棄の結果相続人が一人になってしまった場合という沖野先生の御指摘を受けて,私も,不存在の場合について考えなければならないと今思ったのですけれども,まだ十分に検討しておりませんでしたので,改めて検討させていただきたいと思います。仮に,今,何人かの先生方から御意見いただきましたように,(1)のほうにも少なくとも6か月という規定を設けるのであれば,そういった保護を設けることも考えられるかと思います。 ○沖野委員 先に申し上げた中で一番気になった点は,6か月が(1)では保障されないということです。相続放棄の結果,単独相続になる場合と相続放棄の結果なお共同相続だが分割終了までが短かったときの両方について妥当します。繰り返しですけれども,自分が分割に加わる場合は,分割の中で自分の意見を言えますし,長期居住権などの話も出てきますし,そこは短くても考慮の余地があるのではないかと考えておるんですけれども,その意向を反映させる手段がない中で,6か月より短い期間で切られるということは適切ではないのではないか,単独相続の場合も含めてということで。もちろん,相続放棄まで3か月の間,熟慮期間がありますので,その間はぎりぎりまで考えられるという可能性はあるかもしれませんが,それでもやはり6か月は(2)で保障されるものが保障されないということはどうかという点ですので,むしろ(1)の中に最低6か月,それでもどういう場合であれ保障されるというのが組み込まれるのであれば,それは,それがよろしいのかなとも思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほかに御意見はありますか。今の点いかがでしょうか。 ○増田委員 問題の方向がちょっと変わってきてしまったんですが,私も別に6か月を保障するということには,何も異論はないわけです。先ほど,沖野委員が相続人一人の場合ということをおっしゃったけれども,残った一人の相続人--所有者が出ていってくれと言えば,6か月たてば出ていかなければならない。その場合と遺産分割を行っている作業中の相続人全員が出ていってほしいといった場合と,何ほど違いがあるのかということだと思うんです。だから,所有権や共有持分権の問題ではないと言われてしまえばそれっきりですけれども,そこはもう少し御検討いただかないと,催告を受けてから6か月というのは,いかなる場合でも保障されるという理解で私はいいと思います。 ○大村部会長 今の点につきましては,何人かの方々がおっしゃっている(1)の場合について,6か月というのが必要なのかどうなのか,それを組み込むかどうかによって,かなり制度のイメージも変わってくるかと思いますので,先ほどからの御指摘も含めて,それをどうするかということと,それから,放棄の取扱いをどうするかということ,改めてこれらの点をもう少し御検討を頂いたほうがよいかと思いますけれども,それでよろしいでしょうか。 ○上西委員 基本的に6か月であるのがよいと考えますが,場合によっては,不要とする場合もありますので,配偶者の選択により6か月という規定振りもあると考えました。事業承継を考えますと,早期に資産を活用すべきですので,配偶者の選択によりという文言を入れてはどうかなと思いました。 ○笹井幹事 配偶者が要らないと言ったときには成立しないということでしょうか。 ○上西委員 そういうことです。 ○笹井幹事 居住権の放棄をすることは別に構いませんので,規定を設けなくても,配偶者が居住権を放棄すれば,成立しないというか,成立するんだけれども直ちに失われるというか,そういう処理になるのではないかと思います。 ○上西委員 了解しました。 ○大村部会長 そのほかの点について,短期・長期の居住権につきましていかがでしょうか。 ○中田委員 派生的な問題なんですけれども,今回,使用方法について,「善良な管理者の注意をもって」という言葉が付け加わっております。短期についても長期についても入っているわけですが,賃貸借や使用貸借の部分では用法遵守義務だけが規定されていて,善管注意義務は規定されていないわけです。400条の適用の有無などで議論のあるところだと思います。   そういう中で,あえてここで規定される意味は何なのか,この規定によって賃貸借や使用貸借の解釈に影響があるか,ないかという辺りについて,お考えをお聞かせいただきたいと思います。 ○笹井幹事 御指摘の点ですけれども,賃貸借や使用貸借につきましては用法遵守義務に関する規定しか設けられておりませんけれども,400条に依拠するかどうかということは別として,善管注意義務が債務の内容になっているということ自体には争いがないのだと思います。その結果として,債務不履行の規定を通じて解除ができるということになるわけですけれども,居住権につきましては契約ではないので,解除というものがございません。そのために,それに代わるものとして消滅請求を設けたわけですけれども,この消滅請求につきましても,どういう場合に消滅の請求することができるのかということを法定しておかなければならないだろうと思います。   契約につきましては,400条あるいは契約の解釈から善管注意義務を導けるわけですが,居住権につきましては法定債権ですので,善管注意義務違反が消滅請求の原因になるということも書き切らないといけないということで,こちらに書かせていただいたということです。そういう意味で,規定を設ける必要性が契約の場合とは違っていると。したがって,契約のほうに何かの影響を及ぼすということはないと考えております。 ○大村部会長 よろしいですか。 ○中田委員 ありがとうございました。   賃貸借と違うんだという御説明だったと思います。ただ,今の御説明でよく理解することができました。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○山本(克)委員 今の点に関連してですが,配偶者が相続人である場合について,918条1項との関係というのはどういうふうにお考えでしょうか。つまり,承認するまでの間ですけれども。 ○笹井幹事 十分に考えておりませんでしたけれども,居住権については善管注意義務を規定しましたので,配偶者が居住権に基づいて占有する限りは,管理義務が若干加重されるということになるのではないかと思います。 ○山本(克)委員 ほかの人が住んでいたら加重されないけれども,配偶者だと加重されるという。 ○堂薗幹事 ほかの相続人の場合は,一応理屈の上では,ほかの相続人の持分部分については本来的には対価を払わなければいけないという関係があるのに対しまして,配偶者の場合にはそこを免除すると。要するに,居住建物が共有である場合であっても,持分相当分の使用対価を払わなくていいという意味で,そこは配偶者を優遇しているという面がありますので,その結果として,財産の管理については通常の場合よりも重い義務を課しているという整理をしているところでございます。 ○山本(克)委員 はい,分かりました。 ○潮見委員 918条は相続財産の管理だという点を意識し,こっちのほうの居住権というものは管理の域を超えるから,義務の程度を書いたという立て付けではなかったのですか。つまり,ルールの切り分けがされているということではないのでしょうか。 ○堂薗幹事 例えば,配偶者がいない場合に,ほかの子どもが住んでいて,遺産分割までの間,引き続きそこで管理をしているというような場合に,それは,私の理解では,自己と同一の注意義務で足りて,その場合,善管注意義務までは負っていないという理解です。そうすると,基本的に短期居住権の場合も,従前の居住を継続するだけですので,管理を超えるということだけで説明が付くのかなという疑問もあるように思います。 ○潮見委員 そうですか。居住権という,短期にしてもそういう法的地位を与えたというのは,今の現行法で考えられている相続の承認,放棄等をするまでの間の管理とは少し違ったことがここで想定されているから,それにふさわしい形で,権利を与えた以上は注意義務の程度も書いたということではないのですか。説明の問題だけですけれども。 ○堂薗幹事 ですから,短期居住権の場合には,具体的にはほかの相続人の持分については使用利益を払わなくていいというところに意義があるんだと思いますので,その反面として,そういった意味では,通常の場合よりは優遇しているので,管理義務の程度を上げたという理解をしてきたということでございます。 ○増田委員 今の説明に疑問なんですけれども,ほかの相続人に対しては使用利益を払わなくていい,ほかの相続人は使用利益を払わなければならないというのがどこから出てくるのかというのがよく分からなくて,現在の判例の考え方からいえば,従前から引き続いて居住している相続人は,やはり使用貸借と同じように対価を払わなくてもいいということだったと思うんですが,そこの部分は,この配偶者についての特則ができたところで現行の解釈は変わらないという前提だったように思うんですけれども,どうなんですか。 ○堂薗幹事 ですから,そこは,ほかの相続人についても使用貸借契約の成立が推認されれば,それは使用貸借契約の内容として返還義務を負うわけなので,そこは善管注意義務を負うということになるのではないかと思うんですが,今,私が申し上げたのは,使用貸借契約が成立せずに,通常の918条で管理をする場合との違いについては,そこで説明することになるのではないかということでございます。 ○大村部会長 先ほどの潮見委員の御説明も,あり得る説明ではないかなと思いますので,ちょっと説明の仕方について,先ほどの918条の御指摘を踏まえて,整理をしていただく必要があるかと思いますけれども,それでよろしいでしょうか。   そのほかいかがでしょうか。 ○西幹事 すみません。前も伺ったかもしれませんが,2件,確認ないし質問させてください。   1点目は,必要費及び有益費の負担のところで,短期居住権については1ページの下の方,長期居住権については4ページの下のほうにありますけれども,それぞれ(イ)の方で,短期の方はbになりますけれども,文言が少し違いますが,書いてある内容としては同じことなのでしょうか。   2点目は,修繕のことですが,今回新たに入ったことかもしれませんけれども,短期の場合には2ページの(エ)のbのところ,長期については5ページのカの(イ)で,どちらについても修繕の必要がある場合には通知しなければならないということになっています。ただ,その上のところでは,配偶者は,必要な修繕をすることができると書かれています。   これらを併せて読みますと,配偶者が必要な修繕をする場合でも,やはり通知はするというように読むのが素直だと思うのですが,その場合の通知の性質というのでしょうか,通知の意味はどこにあるのかというのが今一つよく分かりません。単純に所有者が本来権限を持っているべきことだから,一言言っておくというだけのことなのか,あるいはそれ以上の意味があるのか。例えば,こういうふうに修繕してほしいということを所有者が述べることができるのか,ちょっとその辺りがよく分かりませんので,教えてください。 ○笹井幹事 1点目の,表現が違っているではないかというところですけれども,原案の意図としては同じことを言うつもりでしたので,平仄がとれるように表現をもう一度検討したいと思います。   次に,通知のところですけれども,第一次的な修繕権は配偶者に認められておりますけれども,配偶者が自分でしない場合には所有者がするという場合もありますし,誰が,どういうふうに修繕を行うかというような,協議のきっかけというような意味もあり得るのかなと考えていたところです。ただ,賃貸借の615条における通知義務の趣旨は,修繕の義務を負っている者に対して修繕を求めたり,修繕の機会を与えるということですので,不必要な部分があるのではないかという御指摘はあろうかと思います。その点も御指摘を踏まえて検討させていただきたいと思います。 ○大村部会長 ほかにいかがでしょうか。   では,先もございますので,第1の「配偶者の居住権を保護するための方策」につきましては,先ほど御議論がありました点を中心に,必要な見直しをしていただくということにさせていただきたいと思います。   先を急いで恐縮ですけれども,次が第3の「遺言制度に関する見直し」ですけれども,これについて御説明を頂きます。 ○倉重関係官 それでは,第3の1の変更点について御説明申し上げます。   本部会資料では,これまでの規律を改め,改正によって新たに許されることとなる様式について,自署によらない財産目録を添付する方式に限定することといたしております。規定の明確化の観点からは,改正によって新たに適式となる様式を具体的に明示した方がよいと考えたためです。   財産の目録につきましては,パソコンや代筆で作成することはもちろん,従前どおり不動産の登記事項証明書や預貯金通帳の写し等を目録として添付しても差し支えないと考えておるところでございます。   また,新規律の後段は,変造・偽造の防止のため,自署によらない財産目録を添付する場合には,その目録の毎葉に遺言者の署名及び押印を要求し,特に自署によらない記載が両面に及ぶ場合については,その両面に遺言者の署名を要求することにしております。   なお,前回までは,加除訂正を自署によらない方式で行うことができるか,否かについて亀甲括弧付きとしておりましたが,作成時に自署によらない目録を添付することを認める以上,加除訂正時にこれを禁ずるとすれば,適式でない方式による遺言が増えることになりかねないと考えましたことから,本部会資料では,自署によらない目録を利用した訂正等も許すこととさせていただいております。   以上が1になります。 ○大村部会長 2,3も併せて説明を頂いて,御意見を頂きたいと思いますので,2につきましてお願いいたします。 ○竹下関係官 それでは,関係官の竹下から御説明いたします。   2の「自筆証書遺言に係る遺言書の保管制度の創設」についてでございます。   前回の部会資料から変更点が1点ございます。第23回の部会資料においては,遺言者が遺言書の返還及び閲覧並びに遺言書に係る画像情報等を証明した書面--これは前回は「写し」という表現とされておりましたが--の交付を求めることができるとしておりましたところ,これを,遺言者は,遺言書の返還及び閲覧のみをできることと変更したものです。これは,遺言者の生存中は,保管している遺言書が返還されたり,新たな遺言書が作成され保管されるなどの可能性があるため,特定の時点における法務局が作成した遺言書に係る画像情報証明書を交付することの意義が乏しいばかりか,例えば相続人らが残された遺言書に係る画像情報等を証明した書面に基づいて,別の遺言書が法務局に保管されているかどうかを確認することなく遺産分割を行ったところ,後日,前の遺言を撤回する内容の新たな遺言書が法務局に保管されていることが発覚するなど,当該書面の存在による誤認を誘発させる可能性もあるということや,遺言書の返還及び閲覧を認めることによって遺言者の保護は十分であることに照らして,遺言者は,遺言書の返還及び閲覧のみを求めることができるとして変更したものでございます。   このほか,補足事項が3点ございます。   まず,1点目ですが,2の(1)の(注1)において,法務局の事務官が当該遺言書の民法第968条に定める方式への適合性を審査する旨を付記しております。この趣旨は,これまでの部会における議論を踏まえまして,公的機関である法務局が自筆証書遺言を受領して保管する際に,外形的に確認することができる日付及び氏名の自署や押印などについて,方式違反の有無を確認するものであることを明らかにするものでございます。   これは,遺言書に記載されている署名の筆跡鑑定をするというようなことを想定しているものではありません。飽くまで,遺言書にこれらの事項が記載されていることを確認したり,申請者に自署したことを自認させるというような外形的な審査を行うことを想定するものでございます。   2点目は,同じく(1)の(注2)についてでございます。   これは,遺言書の保管の申請をすることができる法務局について,遺言者にとっての利便性,相続人等の利便性,それから法務局における事務量予測の必要性等を考慮いたしまして,遺言書の保管の申請については,法務大臣の指定する法務局のうち,遺言者の住所若しくは本籍地又は遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する法務局に対して申請をすることが考えられることを付記したものでございます。   3点目は,第2の(4)から(6)についてでございます。   これは,前回の部会資料で,相続人等が遺言書に関する証明書の交付等を請求することができるという表現にしていたものについて,「何人も自己を相続人等とする遺言書について請求できる」という表現に改めたものでございます。規律の内容自体は変更しておりません。   なお,この点については,実際に証明書の交付を求める場面での遺言書の特定方法を記述したものではなく,例えば遺言者を特定せずに,自己を受遺者とする遺言書というような形で,遺言書に関する証明書の交付を請求することを認めるという趣旨ではございません。   このほかには,表現を改めたもの以外は,実質的な内容について変更はございません。   以上が自筆証書遺言の保管制度の創設関係の説明となります。 ○満田関係官 続きまして,3の「遺贈の担保責任」及び4の「遺言執行者の権限の明確化」等につきまして,関係官の満田の方から簡単に説明させていただきます。   まず,3の「遺贈の担保責任」につきましては,ゴシック部分につきまして,2点だけ修正がございます。   一つ目は,遺贈義務者の引渡義務につきまして,従前はその対象範囲を相続財産に属する遺贈を目的とした場合に限定をしておりましたが,今回の部会資料におきましては,債権法改正後の贈与の引渡義務等の規定との平仄を合わせまして,その対象範囲については特段の限定をせず,遺贈全般に及ぶものとしております。   さらに,二つ目は,この規律が設けられることにより削除される条文について第998条のほか第1000条を追加させていただいていた点です。   さらに,遺贈の担保責任の3のところで(2)につきまして,民法第1025条ただし書について,1点追加で部会資料に載せております。   この点につきましては,これまでの部会で取り上げられていなかった論点ではございますが,債権法の改正後の民法におきまして,錯誤に基づく意思表示が詐欺,強迫による意思表示とともに取消しの対象とされたことを踏まえた見直しということになります。   4番の「遺言執行者の権限の明確化」につきましては,ゴシック部分について,実質的な内容についての変更はございませんが,法制的な観点から,一部表現方法の修正を加えておるということになっております。   説明は簡単ですが,以上でございます。 ○大村部会長 ありがとうございました。   第3の「遺言制度に関する見直し」は,幾つかの項目を含んでおりますけれども,1の「自筆証書遺言の方式緩和」については,財産目録を添付するという方式が提案されていて,財産目録に関する加除等についても,自筆によらない方法を認めるということが言われているかと思います。   2の「自筆証書遺言の保管制度の創設」に関しましては,従前は証明書を交付するということでありましたけれども,幾つかの理由によって,閲覧のみを求めることができるとしている。それから,細かい点について,幾つかの付記がされているという御指摘があったかと思います。   3番目の「遺贈の担保責任等」につきましては,主として債権法改正との平仄を合わせるような調整をしているという御説明だったかと思います。   最後,4の「遺言執行者の権限の明確化等」については,特に大きく変わったところはないということだったかと思います。   どの点でも結構ですので,御意見等頂ければ幸いです。   いかがでしょうか,御発言ございませんでしょうか。よろしいですか。   ありがとうございます。   それでは,この点につきましては特段の御意見はなかったということで,先に進ませていただきたいと思います。   次が,第5になりますけれども,第5の「相続の効力等(権利及び義務の承継等)に関する見直し」という部分につきまして,事務当局の方から御説明を頂きます。 ○満田関係官 引き続きまして,満田の方から説明をさせていただきます。   部会資料の24-1の17ページを御覧ください。   まず,1の権利義務の承継に関する規律についてですが,まず(1)につきましては,実質的な内容の変更はございませんが,前回の部会資料の表現方法については,中間試案の表現振りと比べ,規律の対象範囲が分かりづらいなどの御指摘を頂いておりましたので,法制的な観点から再度検討し,対抗要件主義が適用される範囲について,法定相続分を超える部分の取得に限定されるということが明らかになるよう,その表現方法を修正しております。   また,従前は(2)の規律におきまして,共同相続人全員による通知を含め,債権の承継に関する規律全体を記載しておりましたが,(1)のような規律を設けることによりまして,共同相続人全員による通知及び債務者の承諾については,(1)の規律に含まれることと整理できることになりましたので,(2)及び(3)におきましては,受益相続人が単独でその債権の取得の通知をする場合の規律のみを記載することといたしました。   なお,受益相続人による通知の際に必要な書面の交付につきましては,従前の部会資料では,各受益相続人が自らそれを交付しなければならないこととしておりましたが,相続人や債務者の事務処理上の負担等を考慮しまして,必ずしも受益相続人本人が交付する必要はなく,その受益相続人による通知以前に債務者にその書面が交付されていれば足りるという形で,規律の内容を変更しております。   2番の「義務の承継に関する規律」については,部会資料23-1からの変更点はございません。   3番の「遺言執行者がある場合における相続人の行為の効果等」につきましては,部会資料23-1では亀甲括弧とされておりました相続人の債権者の取扱いにつきまして,法律関係が複雑化すること等を防止する観点等も考慮いたしまして,亀甲括弧を外し,本文に記載するということとしております。   説明は以上になります。 ○大村部会長 ありがとうございました。   第5の「相続の効力等(権利及び義務の承継等)に関する見直し」につきましては,1の権利の承継の部分は,(1)の表現を修正している,これに伴って(2),(3)に書かれることも変わってきている,こういう御説明だったかと思います。   それから,通知,書面の交付の主体についての修正が加わっている。   さらに,2の「義務の承継に関する規律」と3の「遺言執行者がある場合における相続人の行為の効果等」については,後者の3の方につきまして,従前,亀甲に入っていた相続人の債権者について亀甲を外した,こんなことだったかと思います。   どの点についてでも結構ですので,御意見等を頂ければと思います。いかがでしょうか。   これも特に御意見ございませんでしょうか。   よろしいですか。   それでは,この点につきましても特に御意見がないということで,先に進ませていただきます。   すみません。進行を急いだために,皆さん発言を御遠慮になっているかもしれませんが,最後に,多少時間が余りましたら,全体について追加の発言を,時間の許す範囲で伺いたいと思っております。   最後の第6になりますが,「相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」という項目につきまして,事務当局から御説明を頂きます。 ○秋田関係官 それでは,第6について,関係官の秋田より御説明いたします。   この方策につきましては,請求権者の範囲を中心に,これまで御意見を頂戴してきました。この請求権者の範囲につきまして,三親等内の親族と限定すると扶養義務の範囲と重なる部分が多いため,かえって不相当なメッセージ性を持つおそれがあるなどの意見がございましたので,今回の部会資料では新たに,相続人になり得る者及びその配偶者を請求権者とすることを,1の4行目の亀甲括弧の中で提案しております。   この提案は,寄与分の主張権者が相続人に限定されていることの不都合を回避するため,相続人に準ずる法的地位にある者に主張権者を拡大する必要があるとの考えに立ち返って,請求権者の範囲を定めることを提案するものでして,本方策における請求権者の範囲と扶養義務を負い得る者の範囲との関連性を連想させることがなくなることで,以前から指摘されておりました不相当なメッセージ性を少しでも払拭できないかと考えております。   このほか,幾つかの点に内容の修正がございますので,修正箇所のみ御紹介させていただきます。   まず,請求権が否定される場合として,1のただし書の前段で「特別寄与者がその寄与について対価を得たとき」とこれまでしておりましたのを,「被相続人から対価を得たとき」というふうに文言を変えております。また,ただし書の後段で,これまでは「被相続人が遺言に別段の意思を表示したとき」としておりましたのを,「遺言に反対の意思を表示したとき」と修正しております。   次に,権利行使期間について,2のただし書において,これまで6か月と1年の二つの権利行使期間を「時効」として定めておりましたのを,今回の部会資料では「除斥期間」として定めることを提案しております。また,6か月の権利行使期間,つまり2のただし書前段につきまして,これまで「相続の開始を知った時」を起算点としておりましたが,新たに「相続の開始及び相続人を知った時」を起算点とすることを提案しております。   最後に,管轄について,(注)の部分に記載がございます。これまでの部会資料では,家事事件手続法第191条第2項と同様の定め,つまり,遺産分割の審判事件が係属する裁判所にも本方策に関する審判について管轄を認める,このような規定を置くことを提案しておりましたが,検討の結果,そのような規律を設ける必要はないのではないかと考えましたので,その旨の記載を削除しております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   第6につきましては,資料24-1で申しますと,19ページの1,2の亀甲で囲まれている部分,「被相続人の直系血族及び」という部分ですけれども,これは従前の三親等の親族という限定について問題点が指摘されていたので,それに代わる案をここに掲げているということであったかと思います。   その他,1のただし書,それから2のただし書について,幾つかの修正が加えられているということと,(注)の一部を削除したということだったかと思います。   これにつきまして御意見を頂ければと思います。いかがでございましょうか。 ○金澄幹事 まず,質問ですけれども,たたき台(2)からの変更ということで,まず請求の相手方についてです。たたき台(2)では,「相続が開始した後,各相続人に対し」というようになっていたのが,今回それの「各」という文言が消えているわけなんですけれども,従前の補足説明ですと,各相続人に対する個別の請求権の決定のみが審判事項であることを明確にしているというようになっていました。つまり,各相続人に対する相続人の数だけの個別の請求権があるというような理解だったと思います。   また,同じように,たたき台(2)では,各相続人が支払うべき額を算定するというようにあったのが,今回は特別寄与料の額を定めるということで,全体を定めるというような形に読めるのですけれども,これらの変更点は,たたき台(2)の考え方を変更して,相続人全員に請求をして,家裁が総額を決めるというように考え方が変更されたという理解でよろしいんでしょうか。 ○堂薗幹事 この点は,実質を変える趣旨ではなく,法制的な観点からその表現を修正したものです。基本的に,第6については,単独相続の場合と共同相続の場合とで取扱いが若干変わるところもあるので,この1から4までは,基本的に単独相続の場合を想定した規定振りにした上で,5で共同相続の場合を想定した規定振りにしたということでございます。実質的には,従前から申し上げておりますように,基本的には各相続人に対してそれぞれに請求するということですし,裁判所が決める内容も,各相続人に対する支払額を定めると。複数の相続人に対して請求する場合も,その総額を定めるのではなくて,それぞれの相続人に対する請求額を審判の処分で掲げるということを想定しております。 ○金澄幹事 総額を掲げるんですか。 ○堂薗幹事 いえ,総額ではなくて,各相続人に対する支払額を掲げるということです。誰々に対して幾ら幾ら払えという,最終的には給付請求の部分はそういうことになるのではないかということです。 ○金澄幹事 とすると,何か第6の規律の書き方と今おっしゃった御説明との間にそごがあるような気がするんですけれども,表現の仕方ですけれども。 ○堂薗幹事 例えば,4の規律につきましては,全体として,要するに共同相続である場合には,その共同相続人に対する請求額全体--総額ですね,その総額がここでの残額を超えることができないという規律を設ける必要があるんですけれども,1のところから,共同相続を前提とした規定にした場合に,非常に書きにくいというところがございまして,若干表現が分かりにくいという御指摘については,そのような面はあるかなという気はするんですが,先程のような問題があることから,ここでは,まず単独相続の場合を想定した規定を設けた上で,共同相続の場合にはこうなりますという書き方にさせていただいているというところでございます。この点の表現振りをどうするかというところにつきましては,御指摘を踏まえて検討してみたいと思います。 ○金澄幹事 はい,お願いします。 ○大村部会長 今の確認ですけれども,共同相続のときにも,特別寄与料の総額を定める必要はあるということでしょうか。 ○堂薗幹事 主文で総額を定める必要はないという理解です。 ○大村部会長 5項はどういうことになりますか。 ○堂薗幹事 5項は,飽くまで,各相続人に対して,幾ら請求できるかという点について計算方法を書いたものということになりますので,主文の中で総額を明らかにしなければいけないという趣旨ではありません。 ○大村部会長 そういう趣旨ではないわけですね。 ○金澄幹事 それは次回までにお任せをいたしますので,表現を御説明と合わせていただければと思います。   次に,たたき台(3)では,要件として,被相続人から対価を得たということで,従前のところですと,単に「寄与について対価を得たとき」ということから表現が変わっているわけです。つまり,従前は誰からの対価であるかを特定していなかったわけなんですけれども,今回は「被相続人から」と特定をするということになったわけですけれども,この変更の意味は,今回の補足説明によりますと,被相続人の推定的意思を根拠とする規定であるから,被相続人の意思に基づかないで対価が払われた場合,つまり「被相続人以外の者からの対価を得ていた」場合でも請求できるということだと思うんです。とすると,特別寄与者が被相続人以外の者から対価を得ている場合に,更に特別寄与料の請求ができるということになってしまって,結局,二重に寄与の請求をできることになるのではないかなというように思います。この点については従前のものの方がいいのではないかなというように思っています。   実際に,特別寄与と評価されるほど被相続人に対する療養看護が必要になる場合であれば,被相続人は恐らく認知症だったりと,寝たきりで自分の金銭管理ができなかったりというようなことがほとんどだと思います。とすると,そのような要介護の程度が高い被相続人の療養看護に関して,現実に対価を支払うのは,やはり被相続人の配偶者であったり,子どもであったりということがほとんどではないかと思われます。そういう人たちが対価を払っている場合に,今回,被相続人からの対価というように限定してしまうと,やはり先ほど申し上げたように,二重の寄与についてお金を頂くということになるのではないかというように思いますが,従前から変更して,ここを限定したのはどうしてかしらと思うのですが。 ○秋田関係官 どのような事案を想定するかだと思うのですが,こちらで請求権が否定されるのは不当でないかと考えた事案としましては,例えば,長年にわたって介護してきた人がいるときに,被相続人以外の親族がこの人に特別寄与料を支払いたくないという理由で,はっきりと対価であると示して少額のお金,例えば1万円や2万円を渡したときに,これまでの「対価を得たとき」という要件に当てはめると,そのような場合でも対価であると認定されてその額にかかわらず請求権が否定されてしまうことがあり得る。そのような事態が起きることは不当ではないかと考えましたので,今回,「被相続人から」という限定を付すことを提案させていただきました。   また,二重取りの危険があるのではないかとおっしゃられたと思うのですが,被相続人以外の者から一定の金銭を受け取った場合であれば,額の算定の中で,一切の事情として考慮されるので,一定程度相当な結論は導き得るのではないかと考えております。 ○金澄幹事 分かりました。では,そこは結構です。 ○窪田委員 対価の意味についてちょっとお聞かせいただきたいと思います。今のお話だと,幾ら少額でも対価といって払ったら対価になるのだということだったのですが,私自身は,ここで対価として示されているのは,当然対価として評価されるべきものという前提であって,何か上げる人が「これは対価ね」と一言言えば,ここから外れるわけではないし,それは被相続人に関しても同じではないかなと思いますので,ちょっとその点確認していただければと思います。 ○堂薗幹事 もちろん,労務の提供の対価として払われているということが必要になるわけですが,ただ,例えば,双方ともそういう趣旨で,非常に少額の金銭などが払われたという場合に,それをもって,この請求を認めないこととするのか,あるいはそこは3の一切の事情として考慮した上で,裁判所の判断に委ねるということにするかというところだと思います。   こちらとしては,対価という場合には,必ずしも相当額の対価ということには限らないと思いますので,そういったことも含めて,このような形にはさせていただいているということでございます。 ○窪田委員 あんまりこだわるものではないですし,解釈論として残せばいいことではあるのだろうと思うのですが,ただ,やはり,幾ら形式的に一定の額を払ったとしても,それは契約の無償性を当然に否定することにはならないと思いますし,ちょっとそこは含みのある部分ではないかということで,第三者からであっても被相続人からであっても,被相続人の場合には別途意思の問題もありますが,何かものすごく小さな金額を払って,それで済ませればいいというのは適切ではないと思いますし,誰がやっても同じ問題があるのではないかなという気がしましたので,ちょっとそこの部分については留保しておきたいと思います。 ○大村部会長 今のところも整理をしていただく必要があるかもしれないように思って伺いました。趣旨は,金澄幹事も御指摘になったように,被相続人の意思を推定するという発想で作られている規定なので,被相続人からお金を得ているという形になっているということだったかと思いますけれども,それに準ずるような場合が,解釈論としてカバーできないだろうかということですね。それから,対価と言っているけれども,実際上,対価と言えないようなものの場合に,これで一律に封ぜられることはないのではないか,そんなことが話題になるかと思います。   それと,3のほうの取扱いと,どういう関係に立つのかということも含めて,またちょっと整理をしていただければと思います。 ○金澄幹事 請求権者のところですけれども,請求権者を限定する理由ということで,今回,補足説明の40ページには,「被相続人とかなり近い関係にあることから,契約などの生前の対応が類型的に困難であるということもできる」というふうに書いてあります。そうであれば,内縁配偶者とか事実上の養子が,正にこれに該当するのではないかなというように思いますし,少なくとも被相続人の兄弟姉妹やその子,それらの者の配偶者よりも被相続人に近いという関係であるということは言えると思います。ですので,これらの者を排除することは,立法理由からしてもおかしいというようには思っています。   ただ,もう基本的に最終段階になっていますので,一つ,御提案として申し上げたいと思っていることは,このように請求権者を列挙するのであれば,「配偶者の直系血族」ということにしたらいかがでしょうか。いわゆる再婚した配偶者の連れ子であって,未だ養子縁組していない方,つまり「事実上の養子」も被相続人を療養看護することがあると思います。そういう配偶者の直系血族というのを入れるのはどうかなという御提案です。   現在,結婚する夫婦の4組に1組は再婚家庭でして,子連れの再婚でステップファミリーも当然のことながら増えているという状況です。連れ子は,養子縁組をしないと姻族一親等にはなれずに,相続人にはならないという関係です。しかし,長年生活をともにして,実親子と同様か,かえって離れて住む実親子よりも濃い関係を築く親とその配偶者の子--連れ子ですね--という関係もあるかと思います。親の療養看護に尽くす連れ子というのももちろんあると思います。このような連れ子をやはり排除する理由はないのではないかなと思います。ですので,配偶者の直系血族を請求者に含めれば,このような連れ子を救うことができるのではないかなと思っています。   法律婚尊重という御意見があるにしても,法律婚に付随する親子関係である,法律婚をした配偶者の直系血族であれば請求権者に入れてもいいのではないかなと思っております。御検討いただければと思います。 ○堂薗幹事 検討させていただければと思いますが,ここは,亀甲括弧を付けた場合には,基本的に相続の延長線上で説明することが可能であり,相続人になり得る者を請求権者にしたという説明をすることを考えております。ただ,その配偶者,相続人となり得る者の配偶者については,さらに別の説明が必要となりますが,この点については,夫婦のどちらがやるかによって取扱いが変わらないようにしたという説明をすることを考えております。すなわち,夫婦については相互に家事などを分担し合うという関係があるので,その点を考慮して,配偶者も請求権者に含めることにしたという説明をすることを考えておりまして,その関係で,さらに配偶者の直系血族まで請求権者の範囲を広げた場合に,法制的に合理的な説明ができるかというところについては,難しい問題もあるように思いますので,その辺りも含めて検討させていただければと思います。 ○大村部会長 よろしいですか。 ○南部委員 ありがとうございます。   先ほどの意見と重なるんですけれども,私の方もこの間,この部分にLGBTの方々も含められないかということで御意見を申し上げてきました。今後,パートナーが多様化する中で,また,超高齢化社会に入ったときに,かなりこの法律改正で,この部分が注目されると思います。LGBTの方々までを対象にするというのはなかなか難しいかも分かりませんが,内縁の妻や,同性の同居者は入れないということではなく,できるだけ多くの貢献した方々が救われるような妥協案というのはどこかでできないかとこの間申し上げてまいりました。是非,今ほどの意見と併せて御検討いただきながら,特に今指摘された妻の連れ子,養子縁組をされていない事実上の養子の方々は,もっと深刻だと思っております。是非,相続人の世話をしている事例もたくさんあると思いますので,御検討を厚くしていただけたらと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○八木委員 そういう御意見も出ましたので,私は亀甲括弧を外して,本文に記載するのがいいと思っております。この部分が全体なくなって,限定部分もなくなると,他の規定との整合性が非常に難しくなるというか,話が一気にややこしくなると思うんですね。何かパブリックコメントを,さっき速報を見ていましたら,配偶者の居住権の問題についても,やはり内縁とか同性カップルとか,それを入れるべきだという御意見もあったんですけれども,この「相続人以外の貢献を考慮する」というテーマも,実は主として配偶者保護の問題だろうとずっと考えてきたんですけれども,ここに内縁とか同性カップルを含めると,簡単に言うと,婚姻との差というものが相対化されて,他の規定との整合性が非常に曖昧になるんだろうと思うんです。そうなると,婚姻制度そのものの本質的な問題に発展するということです。   そうなってくると,仮にこの限定を外したような案が提案されたとしても,恐らく国会で通らないと思います。そのような現実的なところも考えて,少しでも,これまで介護等で貢献しながらも評価されてこなかった配偶者を金銭的に評価していくという意味で,少しでもその保護の度合いを強めるというところであれば,ここの亀甲括弧部分を外して,本文に記載をしていただきたいという意見です。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○藤野委員 まず,一つ質問させていただきたいのですけれども,3のところに「2本文の場合には,家庭裁判所は」うんぬんとあって,「その他一切の事情を考慮して,特別寄与料の額を定める」とあるのですが,この額はゼロということもあるのですか。その上には,相続人に対して調わないときに,家庭裁判所に申立てができて,家庭裁判所はそれなりに判断するとあるのですけれども。 ○堂薗幹事 先ほどの,第三者から対価を得た場合の話は置くといたしまして,基本的にはこの1の要件を満たしている場合には,何らかの請求は認められるという前提でこちらでは考えておりまして,そこの具体的金額については,家庭裁判所がこれらの考慮要素を勘案して決めるということを想定しているものでございます。 ○藤野委員 つまり,ゼロということもあるということですね。 ○堂薗幹事 いえ,1の要件を満たしている場合には,基本的にはゼロにはならないという前提でございます。 ○藤野委員 ゼロにはならないということですね,分かりました。   1のところに療養看護その他の労務の提供というのがありまして,療養看護だけではなく,その他の労務ということも含まれていて,私は八木委員がおっしゃったように,やはり少しでも,今報われない--身内の中で行われていることが報われるようになることがもう第一だと思っているのですが,それなりの判断を下す第三者がある場合には,亀甲括弧の中がなくても,これまで報われていない方も報われる判断も下されるでしょう。懸念していたのは,全く関係ない人が入り込んでカタチだけのお世話をして,「自分もお世話をした」と言って,ある意味,判断力が鈍っている方の財産を取っていくような事件性のあることが発生することを非常に恐れていたのです。   よって,私はこれがゼロになることもあるのであれば,この括弧の中はなくてもいいかなと思ったのですね。つまり,お世話をした人がしっかりと判断されて,それなりの寄与分を頂けるということになるのがよろしいのではないかと。そうすれば,婚姻関係があろうとなかろうと,婚姻関係あった方の連れ子の方であろうと,しっかり寄与した方がそれなりにもらえる,又は事件性があるような場合の方は,判断されてゼロになるということで,家庭裁判所に持っていっても,あなたにはその権利はないと言われる可能性もあるということだと思ったのです。そのような判断もあっていいのかなと。   この括弧内の記載を付けなければ報われないのではなくて,この括弧内の記載がなくても,これまで報われてこなかった人が報われるという可能性がしっかりあることが望ましいと思っています。 ○大村部会長 ありがとうございます。   この部分を除くという御意見ですね。 ○藤野委員 ゼロになることもあるのならば除くことがよいということです,はい。 ○大村部会長 そういう意見も出ておりますけれども,ほかにいかがでございましょうか。 ○山本(克)委員 本筋から,今の議論からちょっと外れてしまうんですが,今,堂薗幹事から,ゼロになることはあり得ないとおっしゃったんですが,財産者,特に相続人から十分な対価を得て療養看護をした人については,要件を満たしていればゼロにならないとおかしいのではないでしょうか。 ○堂薗幹事 ですので,対価をもらっている場合については置いておいてという前置きをした上での話でございます。 ○山本(克)委員 そういうことですか。はい,了解しました。それなら結構です。 ○大村部会長 ほかにいかがですか。 ○西幹事 先ほどから,亀甲括弧を外して本文に入れるかどうかという話が出ていますが,私も実際問題として,亀甲括弧を外して本文に入れる方がいいという判断をする人が多いというのは納得できます。ただ,その場合,今回の御提案だと,何となく落ち着きが悪いというか,気持ち悪さを感じるのは,先ほど金澄幹事の御質問に対するお答えの中で,特別寄与料の額を定めたり,相続人に対してというところで,実質は変えないというお話でしたけれども,文言だけを見ていると,今までは各相続人に対する個別の権利という感じだったのが,今回は相続財産に対する権利という色彩が色濃く出ているように感じます。   さらに,1の括弧のところで,相続人の中でも相続放棄をした人とか,欠格事由に当たる人とか,廃除された人を除くということで,特別寄与料を受ける者は準相続人という発想が見えるのが今回の御提案だと思います。準相続人というか,相続人になり得る者というのを念頭に置くのはよく理解できるのですが,そうなったときに,亀甲括弧の部分に相続人になり得る者の配偶者が入るのはやはり気持ち悪いように感じます。   実態としては配偶者を入れないといけないというのは分かりますけれども,これら配偶者は絶対に相続人になり得ない者ですので,それが露骨に挙げられているというのはどうかと。全体としては非常に潜在的な相続人という色彩が強く出ているようで,異質感が目立って落ち着きが悪いので,もし亀甲括弧を外すのであれば,もう少し準相続人,潜在的に相続人になり得る者という色彩を弱めるとか,何らかの工夫をしていただいた方がいいかなという気はしました。 ○大村部会長 御意見は,ここで亀甲括弧を外すということが現実的であろうというところから出発するけれども,現在の相続人の範囲からいうと,最後に出てくる「及びその配偶者」というのが言わばプラスアルファになっている。プラスアルファをするのならば,この範囲をもう少し広げられないか,そういうことですか。それともこれを除けということですか。 ○西幹事 どちらもあり得ると思いますけれども,もう少し広げる方が。あるいは全体として相続人になり得る者という色彩を弱めて,むしろ債権者という方向に近づけるのであれば,どういう限定をしても相続人になり得る者の配偶者を加えても,それは政策的な判断ということでできるのかなと。両方の判断があり得るような気がしますけれども。 ○大村部会長 はい,分かりました。   そのほかいかがでしょうか。   この亀甲括弧はもう要らないという御議論もありますし,いや,この亀甲括弧がなければもたないという御意見もあったわけですけれども,その間にあって,亀甲括弧を外すけれども,その範囲をもう少し調整できないかという御議論も出ている。こういう状況かと思いますけれども,他の委員,幹事でまだ御発言のない方,何かございましたら御意見を頂ければと思います。 ○村田委員 この亀甲括弧だけ外して,主体に限定を残すか,あるいは残すとしてその内容をどうするかというところ自体に,内容的には直接な意見はないんですけれども,そこは正に国民の皆様の価値判断というところかと思っていまして,それを代表するここの委員,幹事の皆様の御意見が今ぶつかっているというところだと思うんです。この場だけでもこれだけ意見が分かれるところですので,難しい問題だからというので,最後は裁判所へお願いしましょうというのだけはやめてもらいたいというところでありまして,やはり裁判所はそのルールを実体法として決めていただいたところを,その事案に当てはめるのが仕事なものですから,ルール自体を自由に設定,その事件ごとに裁判所は考えろと言われるのはちょっとつらいなというところがありますので,ルール設定は何とか明確なものをお願いしたいと考えます。 ○大村部会長 今の御意見は,亀甲を取って,中身をどうするかは部会の議論に委ねるけれども,何らかの限定は欲しいという御趣旨ですか。   ほかに,いかがでございましょうか。   実質的にどこまで広げるかということになると,これはなかなかコンセンサスを得るのは難しいんだろうと思われます。前回までは三親等というのが出ていたわけですけれども,それに対しては別の問題があるのではないかという御指摘があって,それに代わるものとして,今回,相続人の範囲を基準にして,それにその配偶者を加えたという案が出てきているかと思います。「その配偶者」を削ってしまえば,ある意味では相続人の規定との並びになる,この制度は,潜在的な相続人で実際には相続人にならなかった人の貢献に報いるための制度である。それ以外に,今日における家族関係について,何か積極的な判断を示しているわけではない。こういう説明ができるのかと思いますけれども,その線を超えて,実質的なものを加えていくということになると,その実質について,一定のコンセンサスができる範囲はどこかを考えなければいけない。   「及びその配偶者に限り」のその配偶者については,コンセンサスが得られるのではないかというのが事務当局の判断で,こういう案が出てきているということだろうと思いますけれども,もし今のように考えていくとすると,この線ならばコンセンサスが得られるのではないかというところについて御意見を頂くというのが現実的なのかと思いますけれども,その辺りはいかがでございましょうか。 ○潮見委員 今の部会長のまとめで,私は結構かと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   しかし,どの辺りなのかということについて,何かあれば是非伺いたいのですが。 ○窪田委員 どこまで広げるかという話ではないのですが,西幹事の御指摘はそのとおりなのだろうと思います。ただ,恐らくこの問題の出発点になっていたのは,息子の嫁が実際にはずっと農作業を手伝っていてというようなタイプのものだったと思いますので,潜在的な相続人の話なのだということと,従前はそれを何か相続人の寄与分という形でみなしていて対応するということで,それは一定の解決だったのかもしれないけれども,本来は配偶者に行くべきものがそういう形になっていたということに対する対応だと思いますので,その意味で,「及びその配偶者」というのは,居心地が悪いというのもそのとおりですが,特に出発点となった問題状況との関係では一定の説明ができるのかなとは思っております。   その上で,もう部会長がまとめていただいた大原則の枠組みに関して,私も大賛成でございますので。 ○大村部会長 おっしゃったのは,「その配偶者」というのは,この問題についての従来の議論の経緯からいって,子どもの配偶者みたいなものが想定されていたのだから,その要請とここに挙がっているものの範囲というのを組み合わせたのだという理解で説明は付くのではないか,そういうことですね。それで,更にあるのならば,更に考えることあるべし,そういうことになりましょうか。 ○窪田委員 はい。そこから皆さんで考えていただいて。 ○大村部会長 「その配偶者」まではよいのではないかというのが窪田委員の御意見だと承りました。   ほかにいかがでございましょうか。   先ほど村田委員から御指摘がありましたけれども,やはりそれぞれの方々から御指摘があったように,国民全体の中には様々な意見があるところかと思います。この場でも様々な意見があろうかと思いますので,様々な意見を伺った上で線を引くことが可能なものというのを取り出すことを試みる必要があるかと思いますけれども,そのために御意見を出していただければと思います。いかがでございましょうか。   金澄幹事が先ほどおっしゃったのは,プラス配偶者だけでなく,直系血族も加えるという御提案だったわけですね。 ○金澄幹事 はい。 ○大村部会長 そういう案も出ていますけれども,いかがでございましょうか。 ○藤野委員 婚姻関係にはならないけれども,例えば渋谷区が認めているような同性のパートナー,つまり「公認されるパートナー」というのを加えるということは難しいのでしょうか。といいますのは,先ほども申しましたけれども,その他の労務の提供というところも実は気になっておりまして,療養介護だけではなく,例えば会社を一緒に担ってきた方とか考えられると思いますけれども,そういうときに公認されるパートナーと--言葉は何でも結構なのですけれども--いうものが一つ加われば,いろいろなものが解決するのではないかと思いますが,いかがでしょうか。 ○大村部会長 そのような御意見も頂いておりますけれども,いかがでございましょうか。   特に,御発言ございませんでしょうか。   そうすると,事務当局の方で,この亀甲を外すとして,もう少し何かプラスできることがあるかどうかを御検討いただくということになるかと思いますけれども,それでよろしいですか,それとももう少し何か伺っておきたいことがありますか。 ○堂薗幹事 基本的にはそのような形で検討したいと思いますが,ただ,やはり請求権者に限定を付す場合には,何でその人に限定するのかというところが法制的にきちんと説明できないと難しいという面がございますので,その辺りも踏まえて,再度検討させていただきたいと思います。 ○大村部会長 亀甲の問題については,そのようにさせていただいて,更に御検討いただきたいと思いますけれども,その他につきましてどうでしょうか,この「第6 その他」の点につきまして。 ○水野(紀)委員 以前にもお伺いしたかと思うのですが,特別の寄与の計算の仕方がどのようになるイメージなのか,もう少し御教示いただければと思います。   以前,寄与分を立法したときには,もう相当丸めて幾らという形の議論で立法が行われたと思うのですが,実際の実務においては,次第に,相手方当事者に納得してもらうために,週何回通って,そしてそこでどれだけの時間を使ってというようなことを主張立証させる,相当細かい作業になっていった,そういう進展があったと伺っております。   そうなりますと,それは限りなく赤の他人が行ったときの不当利得の返還請求権に似てくると思うのですが,そういう不当利得返還請求権をこれで封じるというものでもないと思われます。そうすると,ここで書くものの対価の計算と,不当利得返還請求権として開かれているものの対価の計算というのは,限りなく似てくるということになるのでしょうか,それともそれとは違うものを考えておられるのでしょうか。 ○堂薗幹事 そこは現行の寄与分に関する計算が一つ参考にされることになるのではないかということでございまして,現行の寄与分につきましても,そういった計算をした上で,更に裁判所の裁量でその何割にしたりという取扱いもされていると聞いておりますので,基本的にはそのようなものになるのではないかと思います。   それから,不当利得との関係につきましては,現行の寄与分と不当利得の関係と同じように考えられるのではないかと思います。もちろんこういう制度があるからといって,不当利得返還請求権がそれによってできなくなるとか,そういったことではないのではないかと思いますが,基本的には,こちらで請求が認められれば,その分損失が減るということにはなるんだろうと思いますので,そこは現行の寄与分と不当利得と同じような関係に立つのではないかというのがこちらの整理でございます。 ○水野(紀)委員 そうしますと,亀甲括弧を外す,外さないは余り実質的には変わりない論点である,ということになりますか。 ○堂薗幹事 亀甲括弧,要するにこの請求権者の限定をなくすと,相続の延長線での説明というのは難しくはなってくるんだろうと思いますので,どちらかというと,請求権者の範囲について限定を付けた場合に,寄与分の場合と同じような説明が可能になってくるのではないかという印象を持っております。 ○大村部会長 よろしいですか。現状についての御意見を踏まえての御発言だったかと思いますけれども,水野委員,更に御発言ありますか,いいですか。 ○水野(紀)委員 結構でございます。 ○大村部会長 そのほかいかがでございましょうか。よろしいでしょうか。   それでは,第6の「相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」につきましては,亀甲につき難しい問題が残りましたけれども,この点を中心に御検討いただくということにしたいと思います。   時間は既に予定の時間を過ぎているのですけれども,ちょっと途中急ぎましたので,特にご発言があれば,どうぞお願いいたします。 ○潮見委員 非常に簡単なところで,17ページですが,第5の1の(3),権利義務の承継の(3)第三者対抗要件ですけれども,これ通知だけだと,承諾は要らないのですか。 ○堂薗幹事 そこは,今回の整理は,(1)のところで,通常の対抗要件についてはここで読むということで,ですから,467条と同じような対抗要件の処理については,(1)で書いているという前提です。(2),(3)は,受益相続人が単独で通知をする場合の話という前提で書いている関係で,通知に限った形にさせていただいているということです。したがいまして,当然のことながら,467条にのっとって対抗要件を備える場合には,承諾の場合も確定日付が必要だということになります。 ○潮見委員 了解です。 ○大村部会長 このように整理をされたわけですが,やはり分かりにくいところがあるので,そこは説明の方を十分に工夫していただいて,紛れのないようにしていただく必要があると思います。   その他,水野委員,何かありますか。 ○水野(紀)委員 今のやはり第5のところで,単なる質問なので先ほど控えたのですが,第5一番最後の相続人の債権者を加えられた部分です。相続人の債権者は何でもできるという書き振りになっていますが,相続人の方はできないということになっておりますと,相続人の債権者が債権者代理権を使って,相続人に代わっていろいろするということは可能ということなのでしょうか,その辺りがちょっとよく分かりませんでした。 ○堂薗幹事 相続人が当然できないことを,相続人の債権者だからといって代行してできるということまでは考えておりませんで,ここでは飽くまで相続人の債権者が強制執行などをすることについては妨げられませんという趣旨です。 ○水野(紀)委員 相続人が獲得するであろう財産に強制執行するということですか。 ○堂薗幹事 はい。相続人の法定相続分に関する部分について,相続人の債権者が強制執行することは,(1)の規律によっても妨げられませんと,そういう趣旨でございます。 ○水野(紀)委員 法定相続分についてもでしょうか。 ○堂薗幹事 はい。 ○水野(紀)委員 例えば,指定相続分,あるいは相続する旨の遺言があった場合にもですね。 ○堂薗幹事 ですから,基本的に対抗要件主義を拡張した結果,相続させる旨の遺言をされた場合ですとか,相続の指定がされた場合も,対抗要件を先に備えれば,基本的には相続人の債権者や相続債権者の方が優先するという規律を第5の1のところで設けているわけですが,遺言執行者がいる場合も,その点は変わらないという趣旨でございます。   飽くまで,相続人が自ら遺言の執行を妨げるような行為をしたら,それは無効になりますが,それは,飽くまで相続人の行為としてした場合に無効になるということであって,相続債権者や相続人の債権者が自らの権利を行使した場合については,この規律の対象外という趣旨でございます。 ○水野(紀)委員 ちょっと考えてみます。1013条の問題ですが,遺言の有無が分からないと,相続人との取引も危ういのですけれど,遺言の存在が分かりやすいのであれば,1013条の存続もあり得るのかなどと考え始めてしまっておりまして,すみません。 ○山本(克)委員 そこの債権者の権利行使を妨げないというところ,もうちょっとスペシファイしないと,読んでも何のことか分からないという感じがしますので,もうちょっとスペシファイできるような努力を--できない可能性もあるんですが--ちょっとしていただければと思います。 ○大村部会長 では,その点も,ちょっと御検討いただくということにさせていただきたいと思います。   ほかはいかがでしょうか,よろしいでしょうか。   それでは,第1から第6まで,駆け足でありましたけれども,重要な点を多々御指摘いただきましたので,それを踏まえまして,更に事務当局の方で検討をお願いしたいと思います。   今後の予定等につきまして,最後に御説明をお願いいたします。 ○堂薗幹事 本日も熱心に御議論いただきまして,ありがとうございました。   まず,次回の日程の前に,1点御報告がございます。今回,パブリックコメントの結果につきましては,その概要をまとめてお配りしたところではございますが,パブリックコメントの原本を確認されたいという方につきましては,その旨おっしゃっていただければお見せすることができますので,その点をまず御紹介させていただきます。   それから,次回の日程でございますが,次回は12月19日(火曜日)に開催したいと考えております。時間は,いつものとおり午後1時半からを予定しておりまして,場所は,本日とは異なりまして,法務省20階の第一会議室ということになります。 ○大村部会長 今,御説明がありましたようなスケジュールでどうぞよろしくお願い申し上げます。   本日,長時間にわたりまして熱心な御議論を頂きまして,誠にありがとうございました。   これで閉会させていただきます。 -了-