法制審議会 民事執行法部会 第8回会議 議事録 第1 日 時  平成29年6月2日(金)自 午後1時30分                     至 午後5時17分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民事執行法制の見直しについて 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○山本(和)部会長 予定した時刻になりましたので,法制審議会民事執行法部会第8回会議を開会したいと思います。   本日は,御多忙の中,御出席いただきまして誠にありがとうございます。   まず,出欠の状況ですが,本日は垣内幹事が御欠席と承っております。   それでは,本日の審議に入ります前に配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 本日の会議用の新しい部会資料として,部会資料7-2と部会資料8-1を,いずれも本日の席上で配布させていただいております。部会メンバーの皆様には事前に電子メールではお届けすることができたかと思いますが,紙の配布が本日席上ということになってしまいました。申し訳ございません。   それから,本日は前回会議の積み残し分を審議いただく関係で,前回配布の部会資料7も併せて使わせていただきます。なお,本日配布いたしました7-2の方は,前回配布の部会資料7に補足的に内容を付け加えるものでございますが,8-1の方は暴力団排除に関する新しいテーマについて全体を一度にお示しすることができず,その一部について分割して今回お示しするという形になりました。この点につきましても,大変申し訳ございません。残りの部分については,次回会議用に事前にお届けするように準備したいと考えております。 ○山本(和)部会長 それでは,本日の審議に入りたいと思います。   本日は,部会資料7のうち前回会議で積み残しとなった部分のほか,補充的な資料として配られた部会資料7-2,執行場所等に関わる資料,それから,同じく新たに配布されました部会資料8-1,暴力団員の買受け防止の方策に関わる資料について御審議を頂く予定であります。   まずは部会資料7について御議論いただきたいと思います。前回の議論では,「第3 直接的な強制執行に関する規律の在り方」の「1 直接的な強制執行における執行官の権限」まで御議論を頂いたと理解をしておりますので,今回は部会資料7の7ページの「2 いわゆる同時存在の原則」以降の部分について御議論を頂きたいと思います。   議論に先立ちまして,部会資料7の該当部分及び関連する部会資料7-2につきまして事務当局から御説明をお願いいたします。 ○谷地関係官 部会資料7及び部会資料7-2について御説明いたします。部会資料7の「第3 直接的な強制執行に関する規律の在り方」のうち,7ページ以下の「2 いわゆる同時存在の原則」におきましては,この原則を肯定する立場があり,これを本文で取り上げています。これに対しては,この原則に否定的な立場がありますが,この立場による場合には,ハーグ条約実施法の規律との差異をどのように説明するかが問題となります。また,債務者の同時存在を要しない例外を設けるべきであるとの考え方については,例外をどのように規定するのかという問題もございます。なお,前回第7回会議におきましては,間接強制前置に関してのものでしたが,例外ではなく,執行裁判所が事案に応じて相当な処分を定めるものとする旨の意見がございました。このような考え方によりますと,執行裁判所が具体的な処分を定める際に同時存在を必要とする場合もあれば,そうでない場合もあるということになろうと思われますが,そうだといたしますと,この使い分けの実質的な基準をどのように考えるのか,条文上規律が明確でないことの当否などが問題となると考えられます。補足説明におきましては,これらの問題に関する前提事項として,同時存在の原則が債務名義の本来的な効力を制約する場面に関する整理を試みております。このような整理に関しましても,御意見を頂きたいと考えております。   部会資料7の9ページ以下「3 執行場所」につきましては,執行場所とするためには占有者の同意及び相当性が必要となるというハーグ条約実施法と同様の規律を設けるとの考え方を本文で取り上げています。これに対しては,直接的な強制執行を行いやすくする必要があるとの意見があります。もっとも,この意見の当否については,どのような場所を執行場所とする必要があるのかを具体的に示し,その場所ごとに直接的な強制執行が行いやすくないとすれば,その原因は何かを特定するなどの個別的な検討をする必要があると考えられます。   そこで,部会資料7-2では,このような観点から執行場所を制約し得る四つの要因を列挙しています。具体的には,債務名義の効力との関係,占有者の同意,相当性及び同時存在の原則の四つですが,このうち占有者の同意と相当性に関しては,図表を用いて議論の整理を試みています。図表に関しましては,簡略な分析にとどまりますので,内容の当否,具体的には丸の大きさや位置になるかと思いますけれども,その当否を含めて御意見を頂ければと考えています。また,部会資料7-2の「4 同時存在の原則」では,この要件の採否等に関して改めて取り上げております。ここでは,「他の要件によって強制執行の着手が認められない場面を除き,それぞれの場面ごとに」検討する必要がある旨を記載してございますので,他の要因による制約があり得ることを踏まえた御議論を頂きたいと考えております。   部会資料7に戻りまして,その10ページ以下の「4 子の年齢等による制限」につきましては,これまでの部会での議論を踏まえまして,補足説明で問題点の整理を試みてございます。まず,補足説明の2では,執行方法が適法であるかを審査するために執行機関が実体法的な観点から,子の意思能力等の有無を判断すると説明する立場を前提とする場合のあり得る二つの考え方を記載してございます。これに対しては,執行機関がこのような判断をすべきではないとの立場がございます。これらの対立とは別に,動産の引渡しに関する民事執行法第169条を類推適用することができるか否かの基準として意思能力の有無を用いているのが現在の実務であると説明する立場がありますけれども,子の引渡しに関する規定を新たに設ける場合には,このようなことを考える必要がなくなります。   もっとも,これまで直接強制をしていなかった意思能力のある子をどのように取り扱うのかという問題があり得ると思われます。この4の部分では,こういった点について御議論いただきたいと思います。   部会資料7の12ページ「5 専門家の関与」につきましては,専門家を立ち会わせることに関する規定を設ける必要性や,どのような専門家を立ち会わせるべきかといった点について御議論いただきたいと思います。   部会資料7の12ページ「6 執行機関」につきましては,現在の民事執行法の予定している枠組みを前提として,権利の性質から執行機関を決める考え方と,現行法の枠組みを前提としない考え方とがあります。また,他の論点との関係も問題となり得ると思います。   部会資料7の14ページ「第4 その他」では,関連して検討すべき点について御意見を頂きたいと考えております。なお,補足説明の中では,「子の所在の調査を嘱託することができるといった制度」を設けるべきとの御意見を取り上げており,更に検討する必要があると考えられる点等について記載してございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,適宜項目を区切って御議論を頂きたいと思います。まずは部会資料7の7ページ,「2 いわゆる同時存在の原則」の部分について御議論を頂きたいと思います。どなたからでも結構ですので,御自由に発言を頂ければと思います。 ○阿多委員 この同時存在の原則については,例外を緩やかに認めるべきだ,ないしは立場によるかもしれませんが,同時存在の原則というのは原則,例外執行ではなくて,個々に当否を考えるべきだというようなことで考えております。同時存在原則があるがゆえに,資料7-2の多分議論につながる話だと思いますが,同時存在の問題なのか他の要件の問題なのかというところは別にいたしまして,同時存在原則がある一つの制限の理由としてあるがゆえに執行に事実上支障が生じているという実情がございますので,迅速な執行を考えるのであれば,例外若しくは個別の判断ということを検討すべきだと思います。結論を最初に述べておきたいと思います。 ○谷幹事 同時存在につきましても,前回私が問題提起をいたしました,立法事実があるのかという観点から意見を申し上げたいと思うのですけれども,この点についても,ハーグ条約実施法ができる前は別にこういう原則がなくて,同時存在でない場合に執行がなされていたという実情がございます。具体的には,これは場所とも関わるのですけれども,保育所や幼稚園,学校とか,あるいはその前の道路で執行がされるというふうなことがあって,これはこれでもちろん事案にもよるのでしょうけれども,円滑に執行が実施をされるというふうな実情があったというふうに認識をしております。   そういうふうなことを考えますと,同時存在の原則というものを国内の引渡しの事案で新たに規律する必要があるかどうかという点については,そういう立法事実はないだろうというふうに考えております。ハーグ条約実施法では,様々な趣旨が同時存在の原則には語られているわけではありますけれども,それ自体も例えば債務者がいないところでは混乱に陥るおそれがあるとか,恐怖に陥るおそれがあるとかいうふうなことが語られているわけですけれども,国内の場合の引渡しというのを考えた場合には,大体の事例では,親のいずれかが債権者になるというふうなことで,要するに子供にとっては,ある意味ではもう肉親なわけですよね。肉親が債権者になり,それで,債権者は必ずしも執行場所に立ち会う必要はないわけですし,場合によったら,場所によっては立ち入らないという問題もあるのですけれども,少なくとも現場ないしその現場の近くには行くということが実務としては通常の場合だろうと思いますので,そういうふうな実情の下において同時存在でなくても特に子供が恐怖に陥るとか混乱に陥る,そういう場合が常に考えられるというふうなことではないというふうに考えますので,この同時存在の原則についても,それを必要とする立法事実はないだろうと。むしろ従前の取扱いに反するというふうな規律をしてしまうことになるだろうというふうに考えております。 ○今井委員 谷幹事と結果的には全く同じなのですけれども,同時存在が原則というためには,同時存在であることがこの執行にとっては円滑であり,よい執行が望まれるという前提だと思うのですけれども,実際に任意の解決がなされなくて,片親がいるところで例えばお父さんがお母さんの所にいる子供をというところの執行が原則だというと,私自身は経験ないのですけれども,推測したり,ほかの経験のある先生方からの話を聞くと,やはり多くは絶対抵抗すると,絶対引き渡さないという現場が容易に想定されるわけで,むしろこれが何で原則なのかなというふうに素朴に思うわけで,結果的には今,谷幹事が言う立法事実という言い方になるかと思いますが,以上です。 ○久保野幹事 今話題になっております従前のやり方がハーグ条約実施法に倣って変更されたことによって,実効性の面で必ずしも適切な状態になっていないという,従来,参考資料の民事執行手続に関する研究会以来出ている指摘ですけれども,前回ハーグ事案については外務省領事局長主催研究会の結論として,それをどう読むか難しいとはいえ,具体的な数字等が出まして,国内についてそれが変わったことによって,また読み方はあろうとは思いますが,具体的にどういうふうになっているのかというようなことがもし分かれば,それを前提にして議論ができたらなと思うのですけれども,いかがでしょうか。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。これは裁判所の方ですから,成田幹事,お願いします。 ○成田幹事 平成22年以降,統計を取らせていただいていまして,その完了率,つまり既済事件のうちの完了で終わったものを示していきますと,平成22年及び23年は40%台を示しておりましたが,徐々に下がっていきまして,24・25年は大体30%台半ばぐらいで,ハーグ条約実施法が施行されたのは26年4月からですが,26年が25.2%まで落ちております。ただ,27・28年と若干上昇していずれも27.8%になっているという状況でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。そのような状況にあるということです。 ○道垣内委員 私は,結論としては別に同時存在でなければならないというふうには思わなくて,執行官が子の心身に及ぼす影響,当該場所及びその周囲の状況その他の事情を考慮して相当と認める場合には執行してもよくて,かつそのことだけを条文に書くというふうになっても,私はそれはそれでいいのだろうと思います。ただ,その議論の仕方として,実効性を表に出して,実効性を高めるためには,これはない方がいいのだというのは,私はおかしいだろうと思います。というのは,債務者が同時にいることが実効性を高めるために同時にいるという原則を別にハーグ条約実施法が採用したわけではなくて,いろいろな子供の心身等に与える影響を考えたときにそうした方が妥当であるというふうに考えたわけですから,それを実効性はこちらの方があるというのは理由にならない。   第2に立法事実の問題ですが,それは引渡しがうまくいっているかどうかという立法事実の問題ではなくて,その後の児童心理学,様々な知見の積み重ねによって同時存在を要求することが子供の心身に与える影響等を考えたときに妥当であるというふうな判断がなされたわけであって,執行現場でうまくいっているから立法事実はないのだ,だから,変える必要はないのだという理屈にも賛成できません。ただ,結論は同じく別に同時でなければ必ずいけないというわけではないだろうと思います。 ○阿多委員 今指摘がありました,正に実効性だけで正当化するということではなくて,同時存在を要求しないことによって考えられる弊害について,本当にそれが弊害なのかということを含めての議論が必要だと思っています。特に子供への影響という部分については,本当に修羅場を見せるのがどういう意味を持つのかというのが同時存在に消極的な意見の一つの理由にあるわけですけれども,必ず修羅場を見せるわけではないですけれども,そういうふうなことを含めて弊害がどうなのかというところで考えても,同時存在は必ずしも要求する必要がないというふうに思っています。   弊害の幾つかは,後の表で選ばれる危険の問題とプライバシーの問題とかありますし,あと,従前からここで出ていたのは,債務者と子供のお別れのけじめみたいなお話も同時存在の場で債権者に渡すというところの理由に一つあったと思うのですが,その部分については,ハーグ事案ではもちろんその後裁判ができますけれども,この問題でもその後の面会交流で二度と会えなくなるわけではありませんので,債務者のいるところでけじめを付けて執行しないといけないという理由にはならないだろうと。ですから,弊害を含めて考えても同時存在でなければならないという理由はないと。問題点が出てくれば,それぞれ多分そうではないという説明はできるかと思いますけれども,そういうふうに思っています。 ○谷幹事 先ほど御指摘のありましたハーグ条約実施法では,児童心理学等の成果を踏まえて,子供への心身の影響等を考えて同時存在の原則を入れたのだという御指摘があったのですけれども,ちょっと私,不勉強で恐縮なのですけれども,そういう知見があるというふうな認識をしておりませんでして,もしあるのであれば,それは当然今回の立法に当たっても重要な考慮要素ということになるだろうと思いますので,もしあるのだったら,そういうものも示していただいた上で,それを踏まえてどういう立法をするのかという議論をすべきだろうというふうに考えております。 ○柳川委員 私も同時存在の原則に例外を設けてもいいのではないかというふうに考えています。子供に少し関わってきた本当にささやかな経験から考えても,子供というのは一般の大人が考えるほどやわなものではなくて,非常にたくましいし,適応能力も優れているもののように私は考えております。生育環境が耐え切れないほど大きく変わるものでなければ,例えばAからBに変わったとしても,周囲の愛情という栄養があれば,子供はそれを糧にして乗り越えていくものだろうと思っています。むしろ,自分をめぐって親たちがいさかいをする,また,その修羅場の中に長い期間置くことの方が子供の心に傷を残すのではないかと思います。   ですから,なるべく早くそういう状態から解放するためにも,いろいろな例外があってもよいように思います。例えば子供が慣れ親しんでいる祖父母の家で,祖父母と一緒にいるところでの執行というようなこともあり得るのではないかと思います。その場合,法律的な問題はないのか気になるところですが。執行の現場に立ち会う祖父母にとって非常に大きな精神的なプレッシャーを負うことになるので,あらかじめ債務者と,執行に立ち会う方たちに,ある程度のスケジュールを案内しておくと,それなりの心構えもしっかりできるのではないかとも考えます。こういうことを手当てをしていただいて,例外を設けてもいいのではないかというふうに思います。 ○道垣内委員 私,谷幹事がおっしゃった中で,国内の執行においては債権者が直接いる,ないしは近くにいるということが国際的な執行に比べて楽であり事例としても多いという話は非常に重要だろうと思うのですね。というのは,ここで同時存在の原則というのを置かない,ないしは私は置かなくて後半だけでいいと思うのですが,置いてもかなり広範な例外は認めるということになりますと,では,なぜ国内と国際とで違うのということは,やはり一国の立法として説明せざるを得ないということになるのだろうと思います。そのときに既に御指摘にあったとかいう話は非常に重要な話だろうと思います。だから,何度も言いますが,私は結論として全く皆さんに反対しているわけではなく,ただ理屈付けを全体として納得できるような形にすべきだろうと思う次第です。 ○成田幹事 例外という話がいろいろ出ているところでありますが,同時存在の原則の例外を執行機関が判断するような仕組みにされる場合には,やはり現場で判断に迷わないように明確な要件を定めていただければと思っております。   それと,最初の方に谷幹事がおっしゃっていた幼稚園で執行するということに関してですが,実は同時存在の原則があるのを前提として,正に登園の時を狙って執行を掛けたという報告を執行官から受けたことがあります。その時は結局幼稚園の園長の同意が得られずに不能に終わったということであります。ですから,ほかの要件との兼ね合いになるのかもしれませんが,同時存在を外したからといって,必ずしもうまくいかないこともあろうかと思います。 ○谷幹事 具体的な事例をお出しになったので,私が経験した事例ということで御紹介をしたいのは,これも正に登園のときではなくて,確か保育所だったと思うのですけれども,保育所に子供がいて,もちろん当時監護していた人は保育所にはいないという状況の下で執行官が行って円滑に執行できたというような事例がありましたので,一つだけを捉えてどうこうというようなことではなくて,様々な事例があって,同時存在でないところで円滑に実施された例はそれなりに多いだろうと,こういう趣旨で申し上げた次第でございます。 ○山本(和)部会長 その場合,当然保育所の同意はあったということですか。 ○谷幹事 ちょっと私,そこの詳しいところまでは厳密には調べていないのですけれども,いずれにしても,同意があってそこから子供を連れていったのか,あるいはその子供が何らか保育所の関与の下で公道に出てきたところで執行したのか,ちょっとそこのいずれだったかというところまでの正確な情報は持ち合わせておりません。 ○阿多委員 事例はまた後で幾つか出てくるかと思いますけれども,従前経験した事例で,学校の校門を出た外での執行の事例というのは,私自身間接的ですが,関与したものがあります。それは学校自体の同意うんぬんがやはり問題になりますし,学校としては自らがそういう子供を渡したという形で,後で債務者との関係でのトラブルになるのを回避したいという意向がありましたので,校内での教室とかそういうところではなくて,下校まで待機していて,出たところの登下校道で執行したという事例です。その事例では,執行の相当性のために債権者が待機していて,すぐ債権者の面談ができるような状況になっていましたので,公道ですが,方法としてもそれほど子供の身の危険があったということにはなりませんでした。   そういう意味では,また後で出てきますけれども,リスクの評価なりそれについては,かなり場所の問題ありますけれども,手段の相当性のところでコントロールができる話なのかなと思っていますので,エピソードとして出しておきたいと思います。 ○佐成委員 同時存在の原則について,私は,特に固定的な意見があるわけではなくて,積極でも消極でもない中立的な立場でございますが,ハーグ条約実施法で規定されている以上,それなりに意味のある原則だろうとは感じております。   この原則を外す,あるいは原則ではなくて例外を広く認めるということでもいいのですけれども,私が気になっているのは,今のお話ですと,まず債務名義の対象者がいないところを狙い,公道のような場所で執行しようとしているようにも見えて,果たしてそういうことでいいのか,そういうケースが増えてしまっていいのかという問題があるという点です。それから,もし債務名義で幼稚園とか保育所とか,あるいは学校とか,あるいは習い事をしている場合は塾かもしれませんけれども,そういったところで執行するといった場合には,第三者が子に対して占有しているわけではなくて,親に代わり子に対して監護をしているのだと思います。それはいわゆる請求の目的物を単に所持している場合のように,承継執行文が認められるような性質のものとは違うのではないかと思います。やはり第三者,例えば学校だとか,あるいは保育所だとか塾とか,そういったところにはそれなりに固有の利益というのが子に対する監護に関する利益という形であって,それを踏まえた手続保障を全く考えなくなるということが心配になります。こちらについては,おそらく債務名義の解釈とかそちらの方で手当てされると思いますが,同時存在を考える上で,公道上というのを盛んに事例として挙げられていたので,不安を覚えたということでございます。 ○山本(和)部会長 この辺りは理論的に執行力の範囲ということにも関わるかもしれません。 ○山本(克)委員 目的物の所持者でない者,つまり固有の利益を持つ者に対しては,普通はその者に対する債務名義を取れることを前提としている場合ではないでしょうか。学校に対して引渡せという債務名義は,請求権が存在するとは思えないので,物とのアナロジーが私は成り立たないのかなという気がしています。やはりそこは,請求の目的物の所持者以外の形で,何か執行力拡張を明文で定めて,承継執行文が付与されれば協力しなければならないこととするということで。例えば,学校にいるときには学校で執行できるような趣旨の執行文を発令できるのであれば,それで同意も何もしないで強制的にやられてしまいましたということですから,学校が協力したとかという話にはならないわけですよね。私は,先ほど来の議論を聞いていて,そっちの方がすっきりしていていいのではないのかなという気がしております。   つまり,子の引渡しの強制執行の方法の在り方については,請求の目的物の所持者のアナロジーで全部の説明をしようとしないで,前回も少し言いましたが,物の引渡しに近似したものとして捉えず,やはり子の引渡しは子の引渡しとして独自の執行方法だと位置付けた上で,その承継執行文付与をできる相手方というものを独自に考えていった方がよろしいのではないのかなという気がしています。   ついでにですけれども,例えば母親が父親に対して引渡しという家事審判をもらった後,父親はもう自分で面倒見切れないというので,自分の両親に子を渡してしまって,監護は完全に父親の両親がやっているというような場合に,その両親は債務名義成立後の承継人なのかどうかという議論は十分あり得る。ただ,それを承継人で説明するのか,別のターム,例えば債務者に代わって事実上監護する者というふうに定めるのがいいのかがどうかよく分からないのですが。ともあれ,私は同意が必要だという部会資料7-2の図表の黒丸の部分は執行文の問題として処理していった方がよろしいのではないかと。それならもう強制処分ですから,従わざるを得ませんでしたということで,学校も協力せざるを得なくなると,そういう仕組みの方が私はいいような気がしますけれども。 ○山本(和)部会長 同時存在の原則との関係では,今の山本克己委員の御発言のような,承継執行文か何か分かりませんけれども,そういうものが出た相手方が子と同時にいればこれを満たすというふうに理解してよろしいですか。 ○山本(克)委員 同時存在で子との最後のお別れをという話がありましたけれども,これは間接強制前置に関わる問題で,間接強制の前置にすると,その機会はもう与えたとみなしてよろしいのではないのか,そこを私は考慮しなくていい気がします。ただ,前置を採らない立場だと,そこはなお説明が必要なのかなという気がします。 ○阿多委員 もう理屈の方に本来シフトするべきなのかもしれませんが,元々の議論の流れは立法事実があるのかどうか,特にそういう立法事実の御紹介のときで非常に執行の実情を危惧された御意見が出ましたので,私の知る限りにおいては,実際執行するときに,場当たり的に執行するということではなくて,実際子供の分かる範囲ですが,行動スケジュールなどを出して,どこにいるのかというのを把握した上で,ではどういう執行方法を採るのかという検討をして執行しているのであって,いきなり公道がいいとか,そういう形でしているのではないというふうに理解をしています。   そういう例を議論しているのが正に登下校の時間帯がある場合は,そのときがいいのか,若しくは債務者が働きに行っている,ないしは同居しているというんだったら,そのケースで考えるべきですし,債務者の両親,おじいちゃん,おばあちゃんの所の別宅にいるのだったらどうするのかというところは所在も含めて執行官等と調査をして,最も適切な執行方法を選択して執行するということを本来考えるべきであって,そういう意味では,後のことになりますが,いろいろな情報をまとめてどういう執行をするのかというのを整理すべきだろうと思います。あの道路の例というのは,飽くまでそういうエピソードと申しましたけれども,こともありましたという形であって,常にそれがいいと申し上げているつもりはありません。個々のケースで適切なものを選ぶべきだと。   先ほどそれと出ました理屈の話は,今回の部会資料7-2をもらいまして,いろいろ考えてきているのですが,ただ,既存の執行文の範囲ないしは所持者,場合によっては補助者,先ほど事実上の監護者等いろいろな概念が出て,それらを用いても,だからできないんだという結論をするのももちろんアプローチではあるんですが,逆にこういう場面では執行することが実態として,それが全員一致になるかどうかは別にして,かなりの意見としてこういう場面での執行は認められるであろうという場面があるときに,それをどういう執行文で認めるのかという場面を考えた上で第三者宅で占有をどうするのか,更には監護というのがどうするのかという多分二つが問題になると思うんですが,そちらからのアプローチ,今の執行文でいくと,第三者の占有の所だから駄目だとか,そういう理屈ではなくて,こういう場面での執行は認められるべきだ,認められる場面が在るべきだとか,そのときにどういう執行文,更には執行裁判所からの私の言葉で言うと授権決定的なものを得てするのかということを検討すべきではないかと思いますが,その点も指摘しておきたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   今のような阿多委員の問題意識に事務当局が恐らく答えようとしたのが,この部会資料7-2であり,この3ページの図表ではないかと思います。既に執行場所についての議論にも入っているというか,執行場所と同時存在の原則とは相互に密接な問題で,切り離せないと思います。部会資料7でいえば,9ページの「3 執行場所」の問題ですね。この点も含めて,特に部会資料7-2との関係では,具体的にどの場面でどういう要件ないし手続で執行を認めるべき,あるいは認めるべきでないというような御意見があれば是非お出しを頂きたいと思います。もちろんそれ以外の点でも結構ですけれども。 ○佐成委員 今,阿多委員がおっしゃっていたところにも触発されたところがございますけれども,この部会資料7-2でも冒頭のところで①から④ということで場面を設定されておりますが,もし更にきめ細かくイメージを膨らませるのであれば,その場面でどなたと一緒にいるかというところもかなり大きな要素です。債務者名義上の債務者本人が一緒にいるような場面を想定するのか,あるいは子の年齢にもよりますけれども,お友達と一緒にいるときとか,あるいは保育士さんと一緒にいるときだとか,あるいはベビーシッターさんと一緒にいるときなどもあるかもしれません。ですから,余り単純に子供の登下校のときに執行するというようなことだけを考えるのではなくて,それぞれの場面について,もう少しいろいろ考えるべきではないかと思います。   それから,先ほど事実上の監護という言葉で表現されていましたけれども,そういう第三者が介入している場合にも,施設内にいる場合と公的な場所にいる場合があります。もし施設内にいる場合には,その施設への立入りについて,施設を占有している方の同意の問題がありますし,それから,事実上の監護を解くような,そういう法的な手段あるいは同意とか,あるいは放棄をするのか分かりませんけれども,そういったような側面というのも十分考える必要があるのではないかと思います。私は余り強い意見や定見もございませんけれども,少なくとも同時存在との絡みで言えば,そういったところに債務者本人が何らかの形でいるというような状況であれば,そういった執行はある意味許容してもいいのではないかという感じは抱いております。 ○山本(和)部会長 誠に御指摘のとおりで,この執行場所と,それから,同時存在といいますか,どのような人たちが子と一緒にいるか,例えば公道でも誰と一緒にいるかということによって,恐らく全然状況は違ってくるし,それを認めていいかどうかという判断も随分と違ってくると思います。そのために,きめ細かな議論をしていただく必要があるということで,こういう部会資料を用意したのだろうと思われますので,佐成委員の御指摘は誠にごもっともだと思います。 ○道垣内委員 私が目指しているところは,何のトラブルもなく,うまく執行がいけばよいということなのですが,しかしながら,やはりいろいろ気になることはあります。例えば学校において執行をする,という話ですが,執行時に学校に監護権を放棄させることができるのか,というと,学校は児童・生徒を監護する契約上の債務を負っているわけで,現在の事実上の保護者が一方の契約当事者となり,学校がその者に対して債務を負っているとき,他者がやってきたときに,学校が権利の放棄をすれば引渡しが可能になるかというと,そうではない気がします。「承継人」と言ったりするのは,その在校契約などの債権者としての地位の承継の問題として考えているのでしょうけれども,例えば寄託契約ならどうなるのかというと,寄託が以前からなされているときに,受寄者の下にある寄託物について寄託者の債権者が直接に差押えできるわけではないのだろうと思いますし,あるいは,債権譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律を改正して,動産物権変動についての対抗要件を加えようとしたときに,寄託動産が譲渡され,譲受人が受寄者に対して権利主張をしたときについてどのように考えるのかが問題になり,結局,3条2項が置かれて,受寄者は寄託者本人に対して異議を述べるなら異議を述べなさいと催告することとし,それでも寄託者による異議がなければ,譲受けについて対抗要件を備えている者に対して受寄物を返還してもよいということにしたわけです。逆に言うと,本人が異議を述べると,寄託者は受寄者に対して,「お前は俺との間の契約で預かっているのだから俺に戻せ」と言える,そう言われれば,受寄者は寄託者に返還しなければならないということが,動産債権譲渡特例法3条2項というのは前提になっていると理解できます。   そうすると,最初に戻りますけれども,スムーズにいくというのが一番大切だろうとは思うのですけれども,理屈上,それがどこまで可能なのかが疑問になります。学校よりも,公道上の方がよほど法的には支障がないような気がします。しかし,実質的には,公道上の方が不適切かもしれない感じもするので,そこは悩ましいところなのですが,気になるということで。 ○山本(克)委員 先ほど執行文のレベルでそこを調節した方がいいと言ったのは,正にそういうことで,もうその人は強制力に服するのだということで渡してもらうとすることにした方がいい,例えば小学校の校長先生とかも強制力に服させた方がいいのではないかということだったのです。ただ,執行文付与にすると,付与機関が書記官になってしまうので,先ほど阿多委員がおっしゃったように,執行機関は執行裁判所にするということをもう先取りしてしまっておりますが,そこでこういう状態のときにこういう執行ができるというような授権決定をもらって,それで執行する方がよろしいのではないかなという気がします。ただ,そこの不服申立てをどうするかとか,債務者に不服申立権があるのかどうかとか,そういうことを考えるとなかなか難しい問題が,例えば先に送達しなければいけないのかとか,その辺りはかなり難しい問題が残されているような気もします。 ○阿多委員 この議論というのは,そもそも子供を預かっている状態の人がいて,どういう地位にあるのかというところがきちんと整理した上での議論が必要だと思うのですが,先ほど公立・私立の問題がありますが,必ず契約かどうかは別にして,子供を何らかの形で預かっていると,そういうときに子供を預けた人に返す義務などがあって,その義務について義務に反しても責任を問われない,ないしはそういう形のものとしての債務名義なのだと。この子供を預かっていると先ほど申しましたが,これはいわゆる占有で言う占有補助者にとどまるという形で,監護補助者という言葉があるのは事実なのですけれども,独自の利益があるのか。独自の利益があるのであれば,承継の議論があるのだと思うのですが,ただ一方で気になるのは,従前の承継執行文という概念については,これは分からないので教えていただきたいのですが,承継されると前の債務名義者には執行できないのでしょうね,承継執行文が出てしまうと。   何を言っているかというと,債務者に対しての執行文をもらっていて,どこで執行するのが適切かと考えて,学校としたけれども,学校がうまくできなくて,やはり母親で執行するとなると,再度承継執行文をもらうのかどうかとかいう問題があって,そうすると,承継だとか,ないしは所持者概念で処理するとかいう場面に適時の対応できないのではないかと。手続的に新たな債務名義でなくても承継で済むという形になったとしても,それがうまくいかないときにどうするのかというような形を考えると,やはり先ほど山本克己委員からありましたけれども,執行裁判所が幾つかの可能性も含めて債務者方で執行することもあれば,時間帯によっては学校,更にはおじいちゃん,おばあちゃんの所にいるというのが分かっているのであれば,最初からそちらで執行するとか,個別の事例のそういう権限付与とかいうような形で対応しないと,執行文の客観的範囲なり主観的範囲だけでは対応できないというふうになるのではないかと危惧しています。 ○山本(和)部会長 今の点はどうでしょうか。理論的な説明として。 ○山本(克)委員 請求の目的物の所持者に対して執行文を付与されたときは,本来の債務者にも執行できないのではおかしいのではないですか。 ○山本(和)部会長 そうですね,普通は。 ○阿多委員 承継執行文が出た後でも。 ○山本(克)委員 そうですね。でないと占有とされたら承継執行文付与取消しの制度というのはないですよね。ということは,逆に今度はそれが何になるのかよく分からないけれども,必要になるので,それはもうできると考えているのではないですか。ただ,いわゆる狭義の承継の場合については,多分できないと考えているのだろうと思いますね。 ○青木幹事 先ほど道垣内委員から,学校は契約上債務者に引き渡す義務を負っているという御趣旨の御発言があったかと思うのですけれども,そうではないですか。 ○道垣内委員 そういうふうに捉えられているのですが,私は,例えば午後3時なら3時までは預かるという義務を負っているとしますと,小学校は,その生徒を校門から出せばいいわけであって,在学契約の契約当事者に引き渡すという義務を負っていると申し上げたわけではありません。ただ,ベビーシッターとか保育所とかそういうことになりますと,今度は逆に契約者に対して引き渡すという義務を負っているというのかもしれません。二つ違う場合があります。 ○青木幹事 分かりました。そうすると,保育所を例にした方がよいのかもしれないのですけれども,保育所に対して執行力が及ぶとか執行文を付与するのかということを考えるよりも,引渡権限ですか,債務者が引渡しを受けるというその地位を執行官なりあるいは債権者に対して授権するということをみなすというか,債務名義がある場合にはそのように扱うと。授権されたものとして執行官なり債権者なりが引渡しを受けることができるというふうに構成した方が,そのように構成できれば保育所なりも任意に応じられるのではないのかなというふうに考えております。ですが,ここも理論的に詰めているわけではないので,今思ったことを申し上げただけです。 ○道垣内委員 青木幹事のおっしゃることが動産及び債権譲渡対抗要件に関する民法の特例等に関する法律3条2項でとられた考え方と整合的か,というのが私の疑問点です。 ○谷幹事 従前,学校等で執行する場合にそこをどう整理していたのかというのも,私も必ずこうだというところまでの定見を持っているわけではないのですけれども,一つの考え方として,このような考え方だったのかなというふうに思いますのは,子供が学校にいると,それで,債権者といいますか,執行官が執行に赴くというふうな場合に,学校が執行官に引き渡すというのは,これは執行力があるから執行の結果として引き渡すというよりも,むしろその場合に実体法上,監護権なり親権なりがある人は,ある意味では事情によっては授業時間中であっても子供を帰させることができるわけで,それに対しては,学校は学校で一定の合目的な判断があり得るとは思うのですけれども,事情によっては親権者なり監護者に学校が引き渡すということはあり得ると。   多くの場合,国内の引渡しの場合には,親権あるいは監護権が決まった上での引渡しだと思いますので,そういう意味では,執行官が行き,債権者がそこに赴いて自分には親権があり,あるいは監護権があり,その実体法上の権限として子供を返してくださいよということで説明は付くのかなというふうには思っていたのですが,ちょっとそれにもいろいろ難点があるかも分かりませんけれども,一つの説明としてはそういう説明,つまり執行力が学校に及んでいるとかいう説明ではなくて,そういう実体法上の説明で可能ではないかなというふうには思っております。 ○久保野幹事 今のお三方のお話との関係で,今,実体法上の地位に基づいて引渡しが根拠付けられるのではないかと最後に御指摘がありましたけれども,完全に整理できていないのですが,学校なり保育所が児童を預かっていて,その父母に親権や監護権の争いがある場合に誰を相手にどう動けばいいのかという問題の一部なのだろうと思いまして。それが私の理解する限りでは必ずしもすっきり整理されていない,基準が確立していないということなのではないかと思っているというのが感想めいたコメントになります。   ただ,先ほど契約ではない場合もあるというお話はあったとはいえ,法的に監護権を持っている者からの委託を受けて児童を預かっている者であるということなので,法的な監護権というものが背景にあっての権利関係だと思いますので,やはりそこがもし変更されているという前提で考えるのであれば,物の所有権とは違った考え方が可能性としてはあり得るのではないかと一つ思いました。   もう一つが,かつてこの議論をした時に児童福祉法を引き合いに出したのですけれども,かなり観念的な話にはなりますが,児童の福祉を守るということについては,抽象的に言えば国民全員が義務を負っているということになっていて,児童について専門性を持っている機関はより濃いというか,何かを期待される立場にあるとは少なくとも様々な児童保護立法から言えると思いますので,そこから具体的な解釈論にすぐに結び付くという話ではないと思いますが,しかし,物や動産の場合と異なった解釈をする可能性はあり得るのではないかと。 ○谷幹事 先ほど久保野幹事がおっしゃった点の補足といいますか,おっしゃった点に関連して私の発言の補足なのですけれども,国内の子供の引渡しの場合には,多くの場合は恐らく監護者を指定して,それで引渡しの審判を出すということが多いと。あとは親権が決まっている場合という前提で引渡しという場合が多いということになるだろうと思いますので,そういう意味では,例えば従来の執行でも執行官が行き,監護者の指定がこうされました。それで引渡しの審判も出ていますので,子供さんを連れて帰りたいと思いますというふうに学校に説明をすることが恐らく多かったのだろうなと思いますので,そういう意味での実体法的な判断は出た上でのことだったということだろうと思います。 ○山本(克)委員 実体法の議論をすべきコンテクストかどうかというのは,私はかなり疑問に思っていて。やはり仮処分,審判前の保全処分としての引渡しもあり得るということを考えると,それも統合的にこの手続に乗せていかざるを得ないということを考えると,監護権ないし親権の所在があるからという理屈だけではやはりおかしいと思いますし,その議論は,下手をすると,親権者であることを自分が証明すれば連れていけるという話にもなりかねないわけですよね。債務名義なんか関係ないという話にもなりかねないので,飽くまでも債務名義に基づいて執行するというときの執行の手段をどういうふうに捉えるべきかということだと思うのですね。   私は道垣内委員のおっしゃる点で,物のアナロジーというのが本当に成り立つのかどうかという点になお疑問を持っておりまして,ですから,目的物の所持者というような言葉はむしろ使わないし,占有という言葉も本当は使いたくないというふうに思います。やはり人は人だということで。動産の引渡しと考えやすいアナロジーでありますけれども,やはりそこは一旦切ってみてこの固有の問題点を洗い出した上で,執行できる相手方の範囲というものを析出すべきであるし,そして,先ほど執行文と言ってしまったのが失敗だったのですが,執行文以外の仕組みで何かそこをうまく仕組んでいくという形にしないと,なかなか柔軟な,適切な執行方法というのは実現できないのではないのかなという気がいたしております。 ○村上委員 今ほど,るる御意見はありましたけれども,部会資料7の9ページや,資料7-2などに書かれておりますように,以前も申し上げておりますとおり,学校や保育所などの施設であるとか,公道や公園などの場所というところでの強制執行というのは,債務者や子のプライバシー保護の観点を考えれば,やはり妥当ではないのではないかと思います。また,子供に与える影響というものもやはり最小限にしていかなくてはならないということで,この点を考えてみても妥当ではないのではないかというふうに考えております。   債務者の住居や債務者の占有する場所において行うということを原則にしながら,どこまでだったら子供に与える影響を許容できるのかという観点から考えていくべきではないかと思います。私自身も2人の子供を保育所に預け,今は大学生になっておりますけれども,そういった経験からしても,保育所という場所の雰囲気を実感として把握しておりますし,子の引渡しということがそれほどたくさん起こることではありませんけれども,学校現場や保育の現場で十分なそれだけの余裕があるのかということを考えてみなければならないのではないかと思います。   また,違う点についても申し上げます。部会資料7の12ページの専門家の関与の部分です。子の引渡しの場面での専門家の関与については,児童心理学などの専門的知識を有する者を立ち会わせるという考え方に賛同いたします。その際,子供の気持ちを酌み取るというだけではなくて,債務者を説得するという場合においては児童心理の専門家だけではなくて,DVなどに知見がある人の協力というものも考えていくべきではないかと思っておりまして,その点も重ねて申し上げたいと思います。 ○谷幹事 山本克己委員の御指摘に関連して少し私はこうではないかなというふうに思う点を発言したいと思いますが,今の山本克己委員の御指摘は,子の引渡しの保全処分の場合に実体法上の権利あるいは権限との関係で説明が付かないのではないかという御指摘だったと思いますけれども,私の経験した例では,子供の引渡しの保全処分が出る場合というのは,監護者の指定も同時に保全処分として出されるということが多いように思います。でないと,引き渡した上で監護者が仮であるかないかは別としても,決まっていないという状況の下で子供だけ引き渡すということは,これ実務上余りやらないのではないかなというふうに思っております。したがって,そういう意味では,引渡しの保全処分の場合でも実体法上の説明ということで説明は付くのかなと。   それと,これを学校あるいは保育所の場合に債務者に対する債務名義の執行の範囲を拡張する,あるいは別の授権決定というのは,若干違和感がありまして,それでも何らかの形で実現したいという点での目的は同じなのですけれども,債務名義の効力の拡張あるいは授権決定という方向はそれでいいのかなというのは疑問に思っておりまして,といいますのは,学校なり保育所なりというのは,それはそれなりのやはり固有の今のお話でしたら利益というような言葉が出ていましたけれども,一定の目的に従って子供を教育するという目的があるわけでして,仮に債務名義の効力を学校まで拡張するのだということになれば,その固有の利益との関係でまた一定の手続保障なりをしないといけないというような問題も出てくるだろうと思いますので,債務名義の拡張あるいは授権決定という方向は余り採らない方がいいのではないのかなというふうに思っているところです。 ○山本(克)委員 よく分からないのですけれども。実体法なら許されて,そういう拡張なら許されないという根拠が私には全く見えない。つまり,執行手続は一定の手続に形式に乗せた上で執行するというのが大原則ですから,仮に実体法的な背景があるからこういうことができるとしても,それを手続に乗せざるを得ない。それはもう授権決定なり何なりに乗せざるを得ないので,おっしゃっている趣旨が全く理解できないように思います。   固有の利益とは一体何なのでしょうか。学校の固有の利益としては,ほかの子供たちに影響を与えないという利益はあるかもしれませんが,その子についての固有の利益というのが何なのかというのは,私はよく見えません。 ○谷幹事 学校の固有の利益という言葉が適切かどうかは別として,学校は責任を持って子供を教育するという立場にあるわけで,その権限,責任があるわけでして,場合によったら親権者,監護権者からすぐに子供を返すようにと言われても,それは諸般の事情から今はできませんということで授業時間の終わりまでとどめ置くという権限もそれなりにあるのだろうというふうに思いますので,そこを全く無視して債務者に対する債務名義があるから,それを拡張したらいいのだということにはやはりならないのではないかなという気がします。   それと,もう1点いいですか。私が実体法上の権限に基づいてというふうに申し上げました,そう説明できるのではないかと申し上げました前提としては,これは債務名義にも何にも基づいているわけではございませんので,任意で協力をお願いするという話にしかなりません。ですから,学校が親権者,監護権者から子供を返してくださいと,執行官も一緒にいて返してくださいと言ったとしても,それは任意の話ですので,学校としてはちょっと待ってくださいという話は十分あり得る,その前提でのお話です。 ○山本(克)委員 その立場だと,ここで議論する必要がないということですよね。任意ベースでやるという話は強制執行ではないということですが,最後の点は,執行できないということをここで決めるということを意味しますよね。   それともう1点。最初におっしゃった点については,授権決定の中で,授業が終わってからぐらいは当然配慮するのは当たり前の話ではないですか。そういう配慮をきちんとするためには執行文制度ではまずいなということで,先ほど私は立場を変えて,何月何日の授業が終わった後というような形で授権決定をして,それで失敗すれば,また次の機会について授権決定をするというような仕組みでやればいいのではないかという話をしたつもりです。 ○山本(和)部会長 その点の議論はもうかなり深まったと思いますが,子の引渡しのところでは,恐らく最も重要と言ってもいい問題だというふうに思います。もし可能であれば,御発言のない委員,幹事からもし御発言があれば頂ければと思いますが,いかがでしょうか。 ○勅使川原幹事 最初の頃に道垣内委員の方から御発言があったかと思いますけれども,やはりハーグ条約実施法との違いというところでは,我が国の国内法の場合には,債権者として片方の親のいずれかがあるとすれば同行できるとか付近にいられるというポイントをどこかで条件に含めていくようなことができないかどうかということ,それは飽くまで子の福祉の心身に与える負担を小さくするという意味で,どちらかの親には必ずなるわけですから,今実質的に監護をしている親御さんには,どうしてもロイヤリティーが子供の方から行ってしまうというのが現状だという報告もありますし,その点で同時存在ということもいわれたのではなかろうかというふうに思いますけれども,ただ,そのロイヤリティーゆえに阿多委員のおっしゃっていたような現実の場面では修羅場が生じてしまうということであれば,必ずしも同時存在が子の福祉についてプラスに働くかどうかというのもよく分からないこともあるということなので,私としてもやはり同時存在原則には余りこだわりたくはないということではあります。   今議論になっておりました債務者の委託か債務者のためにか分かりませんけれども,今直接に監護している者に対する執行という場面では,ずっとやはり不服申立ての点はよく思い付かなかったのですが,山本克己委員のおっしゃっているような授権決定の形で何かしら執行裁判所に権限を持たせるというやり方がやはり適切なのではないかというふうに考えております。 ○石井幹事 執行場所の議論を伺っていて,私も余り考えが整理できているわけではないのですけれども,これまで執行の場所については執行裁判所が判断するというような仕組みはなかったのではないかと思います。山本克己委員がおっしゃっていたように,そういう検討をするのであれば新しい仕組みとして検討するということになろうかなと思っておりますが,その際,議論が出ております学校とか保育所とかいろいろ場所がありますけれども,当該場所が本当に執行に適した場所なのかということについて判断するにしても,学校や保育所といったカテゴリーについての判断でないとなかなか判断しようがないと言いますか,この学校は非常に環境が整っているからいいのだけれども,この学校は対応が悪いので駄目だとか,そういう判断は容易にはできないと思いますので,仕組みを作る際には,そういったところについても配慮が必要なのではないかなと思いましたのが1点。   もう1点は山本克己委員が先ほどおっしゃったところと同じところですけれども,いちいちそれについて不服申立てができてしまいますと,著しく執行が遅れるということになりますし,かといって,執行裁判所が判断するにもかかわらず,不服申立てが認められないといったことになりますと,それは手続保障の観点で問題があるのではないかといった御議論もあろうかと思いますので,そういった点のバランスがやはり非常に難しいなと思いながら聞いておりました。 ○久保野幹事 まず一つ質問なのですけれども,今のこの学校ならいいけれども,この学校は駄目というような判断が可能かどうかということを,細かいところを知らないものですから教えていただきたいのですけれども。というのは,意見として加えたいことと関係するのですが,この部会資料7-2の判断との関係で,執行の実務の少なくとも一部の声として伺ったことがあるのは,子供の意向なりを聞くのに債務者の面前だとやはり自由に表明しにくいというようなことがあって,実務上は可能であれば別室でするように気を付けているというようなお話を伺ったことがあり,そうすると,債務者宅は無理だけれども,学校であればできるというようなこともあるのだというような点が気になっていまして,だから,学校がいいと直結するつもりはないですが,別室ということの意味付けにおいてプライバシーの問題だけではない側面もあるという意見です。   それで,そのようなこととも関連して,学校の状況について債権者が情報提供ですかね,その辺も分からないのですが,ある程度情報を集めて判断するというようなことは余り期待できないのか,事実上期待できないのかというよりは制度上ということだと思いますが,教えていただければと思います。つまり,執行場所の判断というのは,誰がイニシアチブを持って,どういう情報を集めてやることが可能だという想定で議論すればよいのかという意味で,判断の枠組みというか,誰がどういう方法で情報を集めるのでしょうか。 ○山本(和)部会長 最高裁民事局の方で何か御説明をいただけますか。 ○成田幹事 飽くまで現行法の下で執行官がやっているという前提でお話をしますと,従前,小津関係官が申し上げていたかと思いますが,債権者からいろいろな情報を集めた上で執行官においてどこの場所でやるのが適切かを判断しているというのが実情でございます。   それで,村上委員の先ほどの御発言との関係もありますので,ハーグ条約実施法施行前の執行場所の事情を御報告させていただきますと,実施法の施行前でもやはり債務者宅が一番多うございまして,6割程度ありました。そのほかには親族宅に身を寄せているようなときが2割弱ぐらいでして,公道ですとか保育所というのは,いずれも1割にも満たないぐらいのものだったというのが統計上は出ているところでございます。 ○阿多委員 学校の話はあれですが,ただ,むしろ今後の手続としては,実際執行するにしても,執行着手後の正に着手前の準備等で執行官が学校等と接触をして,執行の可能性があることについて説明し,その協力を求めるということはむしろあり得る話だと思いますし,話をしていまして,従前,学校等では子供を預かっている等のことからそれを拒否する例などもあったようには聞いていますけれども,むしろ今在るべきなのは,やはり法の執行について学校等,校長等を通じて法令遵守について協力を求めるというのが在るべき話であって,どこの学校だからいい,どこの学校だから駄目だとかいうような形で判断する内容ではないのだと思います。   それとは別に,山本克己委員から非常に強い応援を頂いたと思っているのですが,1点気にしているのは,生活場所,占有です。支配しているという意味の占有ではなくて,実際第三者宅,父母宅,債務者とは別にある父母宅や学校に立ち入る場合に,先ほどむしろ執行文ないしは授権決定の中身の問題でというお話があったのですが,前回に債務者の生活場所に立ち入ることについて法律の根拠を設ければ立ち入れるようなことができるのかというところについて多くの方は賛同意見を述べられたのですが,私自身はやはり占有自体にプライバシーも含めて独自の利益があるのだと思っていまして,立ち入るに際しては,先回は,私は執行裁判所というのを考えていまして,執行裁判所の許可ということで申し上げました。債務者の生活場所の立入りとは別に,先ほど父母の独立した場所への立入り,更には学校への立入りについて,それを同意の形の処理が,同意が取れればそもそも問題が起こらないわけで,意に反した形でどうやってするのかというときに,どういう形でできるのかと。法律の根拠を与えればできるというものではないと思っていまして,それについては全て裁判所に押し付けるのかと言われそうですが,やはり執行裁判所の方が許可をするときに第三者方への立入りも含めて授権決定をするという形で理屈を付ける必要があるのではないか。そうでないと,やはり基本的には立ち入れないのではないかというふうに思いますので,その点も付加しておきたいと思います。 ○道垣内委員 世の中にある保育所にしろ,無認可保育所にせよ,学校にせよ,それほど法的な力が強いわけではないですから,消防署の方から来ましたという訪問販売と同じく,裁判所の方から来ましたということで適切に対応できるのか,という点は心配です。私は全体として最後の流れは怖いなという感じがしながら聞いておりました。私は同意なのではないかなと最後は思いますが。 ○竹下関係官 先ほど議論を聞いておりまして,要するに問題が執行全体の観点から言うと,どの問題なのかということについて多少議論が混乱していたように思うので,そういう意味で,整理になればと思って申し上げるのですが,元々同時存在とか執行場所とかいうのは,いわゆる執行の方法の問題で,元々議論の出発点というのは,承継人であるとか占有・監護者であるという要するに執行力の範囲が問われている問題ではないと思うのですね。だから,そういうふうに議論が拡散してしまうのはちょっと具合が悪いのではないか,その点が一つ。   それから,これは資料の作り方と,それから,読み方として,中立的に書いておられるのだと思うのだけれども,「子の引渡しの直接的な強制執行」という表現についてなんですが,何回か議論を聞いていると,やはり皆さんの多くが動産の引渡執行に準じた形で考えるという考え方に,ちょっと私それに批判的なものですから,引きずられているような感じがするのですね。一方,一部の委員は執行裁判所が決めるというふうに言っていて,そこがやはり,まだ執行機関をどっちにするかということがはっきり決まっていないためだと思うのですけれども。最初の問題で言うと,執行の方法の問題として捉えようと思うと,執行裁判所を執行機関として授権決定で決めるというものを大分前から言っておられて,そういう考え方でないと,やはり引渡執行に準じて考えるというのではいろいろな場合が出てきてしまうのではないか,違う要素が混ざってしまうのではないかという懸念を持ちましたので,それだけ申し上げます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,今,竹下先生からも御指摘がありましたけれども,この問題はこの一回の議論で到底何か決着が付くような話ではないと思いますので,今の御議論を参考に,事務当局で更に検討を深めていただいて,もう少し具体的な案が出されていくというのを期待したいと思います。 ○山本(克)委員 その際に1点検討していただきたいのですが,プライバシーというのは一体何なのかということをもう少し突き詰めて考えていただきたい。何がプライバシーなのか,つまり親の間でもめ事があることを公にされることがプライバシーなのか,自分が強制執行の対象になったことがプライバシーなのか,何をもってプライバシーと定義付けているのかということが今まで非常に曖昧に,何か私的領域に入ったらプライバシーだというようなイメージで捉えられていますが,プライバシーはもっと狭い概念だと私は思いますので,何がプライバシーなのかもう少し明確にしていただければと思います。   債務者宅で債務者のプライバシーが害されると,これは分かります。ただ,子のプライバシーというのが何なのか分からないということです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。この点は先ほど村上委員からも御指摘のあったところですけれども,もう少し突き詰めてといいますか,議論を整理していただきたいと思います。   それでは,既に大幅に時間が経過しているところでございますけれども,子の引渡しの強制執行に関する規律の明確化についてはもう少し残された部分がありますので,御議論を続けていただきたいと思います。「3 執行場所」の所まで行ったということを前提にさせていただいて,続きましては,部会資料7の10ページ,「4 子の年齢等による制限」の部分についての御議論をお願いできればと思います。これも御自由に御発言を頂ければと思います。 ○阿多委員 子の年齢については,基本的には債務名義の判断がそのまま執行されるというのが執行だと思いますので,執行法のところで特段の考慮というものを設ける必要はないのだろうと,そういうふうに思っています。何か問題があれば,債務名義自体の変更を求めるなりすべきであって,ここは特に執行官は基本的には債務名義に基づいて執行すると,それで足りると思います。 ○山本(克)委員 今の議論は確かに正論なのですが,ただ,それを位置付ける手段として債務名義成立後何年かまでしか執行できないというような規制を設けないと,それは成り立たないのではないのかなと。例えば1歳のときに取った債務名義で15歳になった時点でやっと見付かりました,執行できるかと,そういう問題に応えられないのではないのかなという気がしますので,もう少し簡単に名義作成の問題だというふうに言い切ってしまうのは問題で,もう少し執行法独自の考慮も必要なのかなという気がします。 ○山本(和)部会長 請求異議では,対応はなかなか難しいだろうということですか。 ○山本(克)委員 請求異議で債務者ですよね。そうすると,そこでは引渡しができる,引渡しの対象年齢が実体法上,一義的に定まっているということでないと請求異議を受けた裁判所もまた大変なのではないでしょうか。 ○阿多委員 よろしいですか。御指摘のことは従前からも議論が出ていまして,ただ,むしろそれで,執行法の中で法律を定めて年齢を定めるとかいう形で対応するのではなくて,別の場面でもそうですけれども,債務名義自体に例えば期間を入れるのかとか,本来債務名義作成のときの問題であって,執行官の方で債務名義から何年たっているからこれは執行していいかどうかという判断を執行官--執行裁判所と言った方が正しいのかもしれない--執行裁判所の方で判断するというのは難しいのではないかなと思います。もちろん適宜の執行方法を考える上で経過年数なりを見て,執行裁判所がこれは執行すべきでないというふうに思う場面があるのかないのか分かりませんけれども,基本的には債務名義の作成段階の問題で処理すべきではないかと思っています。 ○山本(和)部会長 債務名義の作成段階ということは,やはり実体法上,基準があるという前提ですか。何歳までという基準があると。 ○阿多委員 何歳までとか基準を債務名義に入れない限り,執行の方としては触れないというふうに思っていますが。 ○道垣内委員 全く分からないままに伺うのですが,例えば18歳の子供について引渡しの強制執行の対象となりますといったときには,具体的にはどういう手続になるのですか。 ○山本(和)部会長 「どういう手続」というのは。 ○道垣内委員 意思能力があるような子を強制的に連れていくのは妥当でなく,その子の意思を尊重すべきではないかという話なのですが,法文上,何の制約もしなくても,その子に対して強制力が行使できるわけではないと思われますので,一定年齢以上になった子は,「行かない」と言ったらそれまでなのではないかという気がするのです。条文によって制限を付けることの意味というのはどういう意味を有するのか,ということがピンと来ないものですから教えていただければと。 ○山本(和)部会長 今の道垣内委員のお考えは,基本的には,部会資料7の10ページ以下補足説明3の最後に書かれている考え方に近いのかなと思いますけれども,いずれにしても,執行のところで「もう行かない」と言う意思能力がある,あるいは自由意思に基づいて子に拒絶されれば,それは執行不能になるのではないかというお話ですよね。 ○山本(克)委員 補足説明3とは違うのではないですか。3は,定形的に幾つ以上は動産と同視できないという発想ですよね。それに対して,道垣内委員がおっしゃっているのは,行くか行かないかはもう任意になってしまって,債務者の抵抗を排除するところまでは強制執行だけれども,あと,付いていくかどうかは本人の問題になってしまうのではないかというので,付いていけばそれで強制執行成功だし,付いていかなければ執行不能で終わった,失敗で終わった,不奏功で終わったということになるという御指摘なのではないでしょうか。 ○阿多委員 着手はされるけれども,不能になる。今議論しているのは着手していいのかという議論ですよね。 ○道垣内委員 そうなのですが,着手していいのかという議論をする際に,一定年齢以上になると,その子の意思を重んじなければならないからというふうな理由を付けるわけですが,その子の意思はどんな制度を採っても重んじられるのだから,別にここで考えなくてもいいではないというのが何となく思うということです。 ○山本(和)部会長 それぞれ理由は微妙に違うかもしれませんが,結論的なことは一致しているように思えますが。 ○今井委員 先ほど竹下先生から動産の引渡執行に準じるということに少しこだわり過ぎている弊害といいますか,嫌いがあるのではないかという,正に子の年齢のことを考えると,そのことがより一層指摘できるような感じがいたしました。執行官に意思能力ありなしを判断してもらうこと自体は非常に困難な問題ですし,それがまた刻一刻子供は大きくなるわけでして,そういう意味から考えますと,これは先ほど来の議論と全くかぶってくるのですけれども,道垣内委員がおっしゃられた,やはり最終的にはスムーズな執行ができるためにどうしたらいいのかというところに集約されて,そうしますと,やはり山本克己委員がおっしゃられた,これは動産執行ではなくて,子という人間なんだというところに対するオリジナルなものを制度設計しないと難しいんだというふうに私は捉えましたし,それがやはり今日の御議論の集約になるのかなという気がしました。   戻って恐縮ですけれども,例えば法務省に作っていただいたこの図表は本当に分かりやすいんですけれども,ただ,先ほど来ずっと考えていて,典型的なスムーズに行く場所と制度とはどういうものなのかなということを考えていると,どれもこれだったらいいなというのがなかなか見当たらなくて,村上委員は,執行場所は債務者宅がいいというふうにおっしゃられたけれども,本当にそうなのだろうかというのと,それから,柳川委員がおっしゃられた,そうは言ってもやはり子供は強いし,それほど弱くないですよというのは,それはやはり先ほど山本克己委員がおっしゃったことと同じだと思うので,動産ではないんだということとセットなのだと思うのですね。だから,やはり一番いけないのは親のトラブルを見せちゃいけないのだというようなところが大事なのかなという感じがしました。   公道といっても,やはり本当に霞が関のすぐそばの公道のイメージなのか,それこそ本当に田舎道なのか,それから,公園も本当にきれいな公園もあれば人がたくさんいる日比谷公園もあれば,それから,保育所もいろいろあるわけですので,更に承継執行文という話もありましたけれども,3時までは保育所や学校にいるけれども,その後は誰か保護者が引き取っていく,それを毎日繰り返されるわけですよね。そういうことに対して既存の制度の枠組みの中でやることにそもそも無理があるのかなと。それで,私は結論を先走って申し訳ないんですけれども,やはりこれは山本克己委員,それから,竹下先生御指摘のとおり,執行機関はやはり裁判所にしていただいて,ただ,裁判所は全てをということではなくて,やはりその事案,事案でみんな違うし,場面が違うので,それに対する最適な執行計画みたいなものを執行官と,また関係者と相談してやっていくというので,なかなか原則はこうだよとかメニューはやはり限定しない方がいいし,できないのではないかなということを感じたわけでございまして,特に子の年齢はその問題が端的に具現化するテーマではないのだろうか,こんなふうに思いました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかに子の年齢についてはよろしいでしょうか。 ○山本(克)委員 面会交流のときに,子の年齢についてどういう扱いをされているのかというのがもし,今日でなくて結構ですので,参考に資料を頂けると有り難い。 ○山本(和)部会長 それは面会交流の執行の場合ですか,その前ですか。 ○山本(克)委員 対象となる子の年齢によっていろいろな違いを付けておられるのか,あるいはそうして間接強制の方法について何らかの考慮,子の年齢について考慮をされているのかどうか,その辺りをもし資料があれば。今日は結構ですので。 ○山本(和)部会長 分かりました。それは事務当局で,また次の機会までに。   それでは,よろしければ次に部会資料7の12ページ,「5 専門家の関与」というところについてお願いできればと思います。先ほど村上委員からは積極的な方向での御意見があったかと思いますけれども。 ○阿多委員 従前の意見の繰り返しになりますけれども,専門家の関与というのは導入していただくべき,積極論という形。その際,ここでの意図しているのは,立ち会わせることができるというのが正に執行の場,臨場している場のお話を想定しているかに読めるのですが,それ以外には,そもそも執行すること,どういう執行が適当なのかということについて判断するに際しても何度も申し上げますが,執行裁判所においてある意味ではチーム的なものを想定して,専門家の関与の上でどういうふうに執行するのがいいということを御検討いただけたらと思います。そうなりますと,現状の立会人や執行補助者という制度で,言わば第三者的な交渉とは言いませんけれども,適切になされているか証明手段的な形のものではなくて,むしろ積極的な意見を述べていただく,前も申しましたけれども,調査官記録などについても目を通していただくような形のものを例えとしていいのかどうか分かりませんが,専門委員的な形で,早い段階で入れていただけたらというふうに思っています。   その際,ここでは児童心理等の専門的知見というのが例として挙がっていますが,いろいろお話を聞いていると,子供の心理というのはもちろん大事なのですが,むしろ離婚のことについて理解をしていただいている方が立ち会っていただかないと,どうもその修羅場的なことも含めて必ずしも状況を把握していただけないようなことがあるやに聞いているものですから,専門家の中には,子の引渡しに至る前提でどういうことがあって,どうなっているのかも含めて一般論になると思いますが,そういうことの専門家も含めて考えていただけたらと。対象について追加してはどうかと。 ○山本(和)部会長 離婚に理解のある専門家とは,どのような方を想定しているのでしょうか。 ○阿多委員 端的に言うと,エフピックなどで,家庭裁判所調査官OBなどがされている,そういう方は実際離婚のときにどういうことがあってというのはお分かりなので,教育者うんぬんで児童心理というだけではなくて,そういう実務経験がおありの方を選んでいただけたらなと,そういう趣旨です。 ○松下委員 児童心理等の専門家の御協力を得ることそれ自体に反対する意見は多分余りないのではないかなと思うのですが,実務上は民事執行法第7条の立会人を使う場合と,それから,この資料7の12ページにありますけれども,執行官規則第12条のいわゆる執行補助者を使う場合と両方あるということのようです。ただ,民事執行法第7条の立会人というのは証人として相当と認められることということで,言わば何が起きているのかを見届ける人という意味だと思うのですけれども,それは何か違和感があります。やはり子の福祉であるとかスムーズな執行について専門的な知見を執行官に供給するあるいは裁判所に供給するというのが主な仕事かなと思いますので,位置付けようとすれば執行補助者の方がよいように思います。条文上は技術者,労務者となっていますのでそれに当たるのかどうか分かりませんが,位置付けとしてはやはり専門的知見を執行裁判所に供給する人という位置付けで整理した方がいいのではないかと思います。 ○成田幹事 これについて実情を御紹介しておきますと,今,松下委員がおっしゃったように児童心理の専門家を立会人あるいは執行補助者として関与してもらうというのがどちらもあります。なぜ分かれているかといいますと,費用の問題でございまして,立会人ですと日当で済みますが,一方,執行補助者になると実費が必要になるというところがありますので,このような理由で取扱いが分かれているやに聞いております。どちらが使い勝手がいいかというと,やはり執行補助者の方がいいようでございまして,立会人ですと,第三者的な立会いということになりますので,どうしても説得という面ではなかなか難しい部分がある。執行補助者であれば積極的に子供さんへの対応等も含めて動いてくれるので,そういう意味でうまくいっているという例を聞いております。 ○阿多委員 今,成田幹事の方から実情を御報告いただきましたけれども,我々の認識しているところでも,立会人はその日,正に日当の問題で,その日に来られてされているから必ずしも状況について把握されていない。これに対して執行補助者の場合は申立人,債権者の方の補助という形でされますので,むしろ事前のところから関与いただいて,より情報などについても共有していただける形,抽象的には役割分担というのはあるんだと思いますが,費用その他ないしは裁判所の方,執行補助者の場合は,結局執行補助者とのそういう情報を持っているか持っていないかとか,そういうふうなところもあって,どなたに頼むかも含めてきっちりしたルールがあるわけではないように聞いていますので,もう今度新しく制度として考えていただけたらと。執行補助者はどうしても動産執行ないしは明渡し執行の際の執行会社的なイメージが強いので,少し制度としては新しく考えていただけたらなと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,続きまして,部会資料7の12ページ,「6 執行機関」について,これも先ほど来議論が出ており,何人かの委員,幹事からは執行裁判所を執行機関とするというお話が出ていたかと思いますけれども,改めてこの点について補充的な御意見があれば承りたいと思います。 ○阿多委員 執行裁判所の方が望ましいと考える理由は従前何度も申し上げてきました。特に家事事件等について実際に専門家として御経験,その事件に関わっているかどうかではなくて,裁判所の裁判官の方はそういう御経験が多いかと思います。執行官の方も質等について特段指摘するわけではないんですが,執行官は従前のように裁判所出身者を給源としているわけではなくて,民間からのサービサー出身者や不動産会社の出身者,むしろそういう形の御経験の方で執行官になられている方なども登場していて,必ずしも裁判手続に精通しているわけではない。また,現状男性のみであるというようなことを考えますと,裁判所で家事事件等について関わってこられて,離婚等について認識されている方の方が望ましいだろうと。そういう意味でも執行裁判所が望ましいと考えます。 ○成田幹事 強い異論を挟むつもりではないのですが,執行官の関係で余り精通していないという意見が出たので,一応申し上げておきますと,執行官は採用時その他時宜に応じていろいろ研修等をしており,その辺りの訓練は積んでおりますので,そこだけは伝えておきたいところでございます。 ○阿多委員 資質に疑問は持っていません。 ○松下委員 結論として執行機関を執行裁判所として仕組むということについても御異論がない空気だと思うのですけれども,それをどう説明するかが問題です。資料に書いてあることに尽きるのですけれども,子の引渡しを求める請求権というのは,11ページや13ページの(注)にあるとおり,端的な引渡請求権ではなくて,親権者や監護者による親権・監護権の行使に対する妨害の排除を求める請求権だと。つまり不作為義務の違反の結果の除去を求める請求権だと整理すれば,スムーズに説明できるのではないかなと思います。 ○柳川委員 私も裁判所がよいと思います。というのは,今お話を伺っていますと,スムーズな執行をするためには,本来であればかなり個別具体的な対応が望ましいのだろうと思います。そのためには,事件に関わって事情をよく知っていたり,債務者,債権者の性格等の見当がつき,さまざまな事情を踏まえたうえで,こういう人を配置した方がよりスムーズにいくという全体的な流れを組み立てた上での執行が求められるものと考えます。 ○石井幹事 執行裁判所という御意見が多いので,執行機関を執行裁判所とすること自体に強く反対するというものではないのですけれども,御議論を聞いていると,非常に過大なというか,強い御期待を頂いているなというような印象を持っております。確かに家庭裁判所が執行裁判所になれば,一般的に子の引渡しの事件に関する知見を持っておるかとは思いますけれども,現行制度に限定しますと,必ずしも当該債務名義を作成した裁判体が執行機関になるわけではないことから,具体的に執行がどういうふうにうまくいくのかということについても,個別的な要素を十分考慮して適切な判断ができるのかと言われると,できることもありましょうし,逆にそうではなくて,かえって具体的に決めてしまうと身動きが取れなくなってしまうという懸念もあると思います。飽くまでやはり債務名義について執行機関は速やかに判断できるという制度として設計をしていただくということが一方では重要かなと思いますし,子の福祉という観点を強調し過ぎることで支障が生じないかといったところについては少し慎重に考えていただく必要があるのかなと思っております。 ○山本(克)委員 私もそれは前から言っているように同感で,ドイツのように引き渡すことの当否を含めて更に執行段階で考えるというような制度というのは,日本の現行の強制執行の枠である限りはやめておいた方がよいというか,やれないというふうに考えますが。ただ,引渡方法について子の福祉を考えるということはやはり必要であって,それについて裁量性が高いということになりますので,やはり裁量性の高い事項というのは一般的に執行法の建前として,執行機関としてはやはり裁判所であるというふうになっていると思いますので,松下委員がおっしゃったことに加えて,やはり裁量性の広さということも加味すれば執行裁判所が執行機関であるというふうに位置付けるべきだろうと思います。 ○山本(和)部会長 石井幹事の御発言には,裁量性が広いということはあるにしても,やはり丸投げでは困るという懸念も含まれていたかと思います。その点に関しては,先ほどの同時存在等に例外等を設ける際の要件について今後詰めていく必要があるということかと思います。 ○山本(克)委員 授権決定について,ある程度の一定のパターンあるいはカタログの中からできるだけ選べるようにするとか,いろいろなことを考えていかなければいけないと思います。丸投げの白紙委任というのはちょっと難しいのではないかと。 ○山本(和)部会長 それは本部会の恐らく今後の宿題ということになるだろうと思います。 ○久保野幹事 引渡方法の判断主体として執行裁判所が適切だという意見に賛成いたします。それで,不作為義務と実体的に性質付けると,それが説明しやすいことは確かだと思うのですけれども,審判例を見たりですとか,いろいろなケースがあると考えますと,恐らく,場合によっては,もしかしたら作為義務を観念した方がいい場合もありそうな気がするので,そこと結び付けなくとも執行裁判所というのが適切であり得るという意見として,付け加えさせていただきます。 ○松下委員 私も,子の引渡義務と不作為義務を直接結び付けたつもりはなくて,不作為義務違反の結果,そこにあるものを除去するのは,代替的作為義務で代替執行できる,そんな説明になるのではないかと思います。例えばマンションの屋上にバラック小屋を建てたために日が当たらなくなっちゃったと。だから,それをどけてくれという場合,バラック小屋を建てちゃいけないのは不作為義務ですけれども,バラック小屋をどけるのは代替執行ですよね,代替的不作為義務ですから。という話をしたつもりです。 ○山本(和)部会長 それは従来竹下先生の御見解でもあったかと思います。民事執行法ではそういう議論がされていて,ただ,子はそこでいう先ほどのバラックとは大分話が違うではないかというところもあろうかと思います。あるいは,部会資料7の「6 執行機関」」の補足説明後段に書かれてあるように,特別の手続を構想するという形で整理するか,既存のものに引き付けて整理するかというのは今後の課題だと思いますけれども,御意見はおおむね一致する方向にあるというふうに認識をいたしました。   それでは,まだ,「第4 その他」というのが残っているんですが,ここで休憩を取りたいと思います。3時30分に再開ということでよろしいでしょうか。           (休     憩) ○山本(和)部会長 予定の時間よりは早いですが,もう皆さんおそろいのようですので,再開をさせていただければと思います。   それでは,資料7で最後に残っている部分,「第4 その他」の部分でありますけれども,この点についてもどなたからでも結構ですので,御発言を頂ければと思います。 ○阿多委員 その他で子の引渡しの強制執行に関する規律の明確化の一つとして,従前,日弁連の意見の提言の中にはなかったのですが,その他の中に所在調査について,制度創設について検討いただきたいという記述をさせていただいています。ただ,現行法の実施状況がよく分からなくて,もし現行法で対応できるのであれば,その必要がないかと思います。具体的には家事事件手続法の289条の履行の確保の中の履行の調査が条文としてあるんですが,実際例えばこれが子の所在等について不明な場合に使えるのであれば,そういう方法もあり得るかと思いまして,この289条の今の実施状況等についてもしお分かりであれば御紹介いただきたいと思うのですが。 ○山本(和)部会長 分かりました。家庭裁判所の取扱い等について,もしお分かりであれば,石井幹事にお願いいたします。 ○石井幹事 履行勧告の際に実際には調査嘱託という形になると思いますけれども,その実施状況に関する統計については,こちらの方で有しているものはございませんので,正確なところは分からないところでございますが,実務上は,子供の所在が不明な場合には,そもそも履行勧告の申立てがされるという例が多くないと認識をしております。また,仮に調査嘱託を行ったとしても,個人情報保護の観点から子供の所在に関する情報の提供を拒否されるという可能性も高いようには思われるところでございます。 ○阿多委員 今のお話を聞きますと,やはり立法の必要があるかと思うのですが,まず,なぜこのような制度創設について必要かということについて簡単にまとめさせていただきたいと思います。   現状の手続は民事執行法ですので,管轄があって,そこで申立てをするんですが,ただ,実際は債務名義の記載されているところに債務者自身ないしは子供自身も同居していないというか,別の所に行っていて,執行の申立て自体がどこに申し立てていいのか,そもそも申立てができないというような状況があります。未成熟子等であれば,例えば就学年齢に達していて学校に通っていれば,我々もまず住民票をあげる,ないしはそういう形で可能な調査をした上で所在を確認するんですが,今は個人情報保護等を理由にそもそも住民票を移動していることについての回答もなかなか厳しくなっていたり,更には住民票をそのまま残して別の所に移られたりするようなケースでは,子供が別の学校に移られるケースでは調査のしようがないというのが実情です。   そういう状況において,就学されている子供さんの場合はどこかの学校に行かれているのが通例ですから,例えば教育委員会等に照会をして転校前に通われていた教育委員会等がどこに転校したかというような形を契機にするような形の情報取得の制度などを設けていただけたらと。そういう必要性とそういう場面があると。なお,弁護士の場合は23条照会が制度として別にあるわけですが,弁護士法23条照会はセンシティブな情報についての回答は公的機関であってもなかなかもらえないというので,法律で制度として設けていただけたらと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。それは何らかの強制的なことまで考えられているのですか。調査嘱託の枠内ですか。 ○阿多委員 制度の立て付け,嘱託方式かどうかというのはあるかと思うのですが,嘱託でも一応公法上の義務があって,公的機関に照会する場合には少なくとも回答は頂けるのであると。私自身は嘱託なのかなというふうには思っていますが。 ○山本(和)部会長 ただ,先ほど石井幹事のお話だと,調査嘱託であっても必ずしも答えてくれるとは限らないということのようですが。 ○阿多委員 実施例自身がそれほどない。 ○石井幹事 先ほど申し上げたように,この場面での例は,少ないのではないかなと承知しています。 ○山本(和)部会長 分かりました。そうすると,答えてくれる可能性はあるのではないかということですかね。 ○山本(克)委員 嘱託だと個人情報保護法の例外にならないような気もしなくはないですけれども。 ○阿多委員 私の理解は,民事訴訟法上の嘱託については,最高裁の方から個人情報保護法の例外の法律上の根拠に基づくものだということで各関係機関に説明がされていると思うのですが。 ○山本(克)委員 調査嘱託の方ですか。送付嘱託ではなく。 ○阿多委員 ええ,調査嘱託です。 ○山本(克)委員 そうですか。何か微妙な気がしますけれども。 ○阿多委員 それ以外にということで仮にあり得るのであれば本案裁判所の,そもそもどこの裁判所がいいのかもまだ分からないのですが,本案裁判所の方に何か申立てをしてライフラインの調査ではないですけれども,執行官の方に学校等に出向いていただいて,具体に話を聞いていただくとか,いろいろな形での情報取得,書面を送って回答が来るかどうかだけではなくて,いろいろな形の調査というのは考えていただけたらなと。調査嘱託の書面送付だけ認められればそれで十分だというつもりではありませんので,そこも付加しておきたいと思います。 ○山本(克)委員 調査嘱託を発令する裁判所は,債務名義を作成した裁判所なのか,それとも執行裁判所なのかどちらなのでしょうか。 ○阿多委員 今考えているのは,まず想定される場面として,一旦例えば債務名義に基づいて執行を申し立てて,子供がいないないしは債務者もいないという状況になったときに,事件終了ではなくて継続で,例えばそこでの執行官を通じて調査するという場面もあり得れば,そもそも債務名義に記載されているところは債権者の方で調査したけれども,もういないという場面と両方あり得ると思うのですね。少なくとも後者の申立て前に調査した段階でいないというときに,どこの執行裁判所に申し立てればいいのかということ自体が分からないので,私自身は,後者の場合は本案裁判所なのかなと。申立てをしたら執行裁判所に帰属して,執行裁判所の方が事件終了にするのか,先ほども言いましたように継続で別途やってくれるのか,それはもしかすると根拠が執行法に置かれるのか,ほかに置かれるのかちょっと違ってくるかもしれないのですけれども,場面としては両方あり得ると思っています。 ○成田幹事 この点につきましては,部会資料にもありますとおり,債務者の所在が分からないとか,あるいは執行の目的が子なのか物なのかという違いはありますけれども,それらが分からないという事態は,動産の引渡しの場合でも起こり得る話ですので,子の引渡しの場面に限ってこういう制度を設けることの合理性は,検討していかなければいけないのかなと思っております。あと,やはり制度を設けるのであれば,要件を明確にしていただく必要があるのではないかとは思っております。 ○阿多委員 やはり先ほどのお話ではないですけれども,動産の所在調査と子の所在調査では,やはり元々の債務名義の実現のどういう言葉を使うかはあれですが,実現をしなければいけない必要性なり意味は高いと思いますので,同じもちろん債務名義ですけれども,現状動産の所在等についての調査がない,制度のないことが制度創設について消極的な理由になる必要はなくて,とにかく生きている人ですから,子供ですから,そういう意味では,より制度創設の必要は動産と違って高いというふうに思っています。 ○山本(和)部会長 その点も含めて御議論いただく必要があろうかと思いますが,御意見はおおむねよろしいでしょうか。   ありがとうございました。   それでは,以上で資料7及び7-2についての審議は終了したいと思います。   引き続きまして,部会資料8-1「不動産競売における暴力団員の買受け防止の方策に関する検討(2の1)」というものでありますが,これについて御議論を頂きたいと思います。まず,事務当局から資料の御説明をお願いいたします。 ○山本関係官 部会資料8-1について御説明いたします。   まず,1ページの第1のところでは,部会資料3でも指摘したことですが,「総論的事項」を取り上げております。「1 検討の必要性等」というところでは,暴力団員の買受け防止の措置を講ずる意義といったことを取り上げておりますので,御確認ください。   次に,2ページの「検討の方向」のところですが,具体的な方策としては競売手続の過程において執行裁判所の判断により暴力団員の買受けをあらかじめ排除する仕組みを構築するという方向と,暴力団員による買受けを刑事罰をもって禁圧する方向が考えられ,両方向で検討してみる必要があるといったことを部会資料3に引き続き記載しております。   2ページの第2のところからは「暴力団員の買受けを防止するための具体的な方策」を取り上げております。   まず,「1 執行裁判所の判断によって暴力団員の買受けを制限する方策」のところですが,本文アでは,暴力団員の定義としては,暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律で規定している暴力団員とすることが適当ではないかといった提案をしております。   また,本文イでは,執行裁判所が最高価買受申出人を対象として,照会に応じて警察から提供される情報を利用して,暴力団員に該当するか否かを判断するとの規律を提案しております。警察から提供される情報を利用することについては,第3回会議でも特段の異論がなかったものと受け止めております。   本文ウでは,まず①で警察から暴力団員に該当する旨の回答が寄せられた場合の取扱いとして,執行裁判所が暴力団員であるか否かの実質的な判断をして売却許可・不許可の決定をするという審査の枠組みを取り上げております。次に,②では暴力団員に該当しない旨の回答が寄せられた場合の取扱いとして,執行手続の円滑性を確保する観点から,警察からの回答のみに依拠して直ちに売却許可の判断をするという審査の枠組みを取り上げております。この考え方の正当化根拠としては,6ページの(注2)で警察が特別の能力と権限を有していることなどが考えられるのではないかといった記載をしていますが,こういった考え方についてもアドバイスや御意見を頂けたらと思います。   次に,8ページ以下で「2 濫用的な執行抗告への対策」という項目を立てております。   (1)では,売却許可決定に対して,最高価買受申出人が暴力団員であることを理由とする債務者からの執行抗告を認めないとの考え方を取り上げておりますが,第3回会議では,暴力団員の買受け防止の意義として,債務者等の私的な利益の保護も含まれるとする立場から執行抗告を認めるべきであるとの意見もございました。これらの考え方について御意見を頂きたいと思います。   9ページの(2)では,暴力団員であることを理由とする売却不許可決定に対して,最高価買受申出人からの執行抗告を認めるとの考え方を取り上げております。   次に,9ページの「3 その他の検討事項」部分では,その補足説明において,執行裁判所が暴力団員に該当するか否かを判断する規律を設けるに際して,更に検討が必要になると思われる事項について記載しておりますので,それぞれ御議論いただきたいと思っております。   最後に,11ページの本文4のアでは,買受け申出の条件として,暴力団員に該当しないとの誓約をさせる方法を取り上げております。この誓約については,事実の陳述部分と宣誓部分に整理をすることができるのではないかとの整理を今回試みているところですが,アドバイスや御意見を頂きたいと思います。また,誓約をさせた場合には,真実でない誓約をすることに対してどのような制裁措置を用意するのかといった点も検討課題になると思います。   本文イでは,第3回会議での御意見も踏まえ,虚偽誓約に対する制裁として保証の返還を請求できないとの考え方を取り上げております。また,虚偽誓約に対しては,刑事罰による対処も検討課題になるかと思います。刑事罰を科す場合には,虚偽の誓約そのものを構成要件とする刑罰を設けるといったことがまず思い浮かびますが,その前提として現行の刑罰法規によって処罰される可能性の有無について検討することが必要だと考えております。差し当たり刑法の詐欺罪や強制執行関係売却妨害罪が成立するかどうかが問題になるのではないかと考えておりますが,今後十分な検討が必要だと考えております。現時点での御意見など頂ければと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま御説明があった部分のうち,まず「第1 総論的事項」の部分について御議論を頂きたいと思います。この部分は「1 検討の必要性等」と「2 検討の方向」に分かれておりますけれども,いずれについてでも,また,どなたからでも結構ですので,御自由に御発言を頂ければと思います。 ○道垣内委員 前も発言したことがあるのですが,私は暴力団員の買受け防止というのが必要であるということについて,本当はそうなのか,という若干の疑問がないではありません。ただ,私は,その疑問をもとに,買受け禁止のルールを作るべきではない,という主張をするつもりはありませんで,納得できる理由が提示されるべきだというだけです。以前に発言をさせていただいたときには,普通の売買が禁止されていないのにどうして競売手続の買受けだけが禁止されるのか,と申し上げたのですが,今回の部会資料では,第1の1のところの「他方で」と書いてあって,判決が引用されているのですね。平成27年の最高裁の判決ですが,この判決というのは,例えば市営住宅に居住させるということは当該居住者に対する公からの一定の便宜の供与たる性格を有しているのであり,そして,その便宜を暴力団の構成員に対して供与するということは制度の目的に反するので,契約を解除して追い出すことができるとなっていても,それはおかしくないというものですね。そうしますと,それでは,競売手続において買受け申出を受け競落させるということは,買受申出人や競落人に公から何らかの便宜供与をしていることになるのかというと,そうではないのではないかなという気がします。そうすると,27年判決は根拠として実は弱いのではないかという気がします。ですから,私が安心立命の境地に陥ることのできる理由があれば,私は何ら反対するつもりはないのですけれども,どうもなかなか安心立命の境地に達することができないでおります。 ○山本(和)部会長 分かりました。今の心境を語っていただいたということかと思いますが,ほかにいかがでしょうか。 ○今井委員 道垣内委員に答える立場ではないのですけれども,意見としては,まず競売だけはなぜ許されないかという御指摘については,これは前提がちょっと違うのかなという気がしまして,19年6月の政府指針以降,あらゆるまでは言い過ぎかもしれませんが,多くの業界において契約書上に表面保証等における反社,暴力団よりも広いのですけれども,反社排除条項というのが入っているのが今は一般的だという認識を持ってございます。   それから,御存じのとおり,各会社では内部統制システムのところにそれが現在事業報告事項になっていますけれども,そのコンプライアンスというところに多分少なくとも上場企業はほとんどがそこに反社を取引から排除というのが入っていると思います。   それから,そういう意味で,むしろ問題点は逆でして,この競売だけなぜ排除しなければいけないかというよりは,競売だけがなぜ排除していなかったのかというのがむしろ問題点の出発点のような気がいたしますので,そこのところに競売もやはり競売とは言えども不動産売買というのがベースにありますので,そこが反社排除のシステム,仕組みがなかったために暴力団事務所の1割が競売物件だという,こういう実態があるわけでありまして,競売物件を適正な価格で競落したとしても,その物件が入ること自体が暴力団に対する利益供与といいますか,利益になっていると,こういう見方をするのが一般的のような気がいたします。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   部会資料8-1の2ページまでのところはおおむねよろしいでしょうか。この資料の「検討の方向」というところでは,民事,刑事両面からの検討が必要ではないかという結論になっていますが,それも含めて特段御異論がないというふうに理解してよろしいでしょうか。   よろしければ,それでは,具体的な方策の検討ということで,まずは資料2ページですね,「第2 暴力団員の買受けを防止するための具体的な方策」の部分ですが,これも適宜項目を区切って御審議を頂きたいと思います。そのうちのまず「1 執行裁判所の判断によって暴力団員の買受けを制限する方策」では,2ページ以下の「(1)審査の枠組み」と6ページ以下の「(2)警察への照会の時期等」に分かれておりますが,これはいずれでも結構です。2ページから8ページのところまでの部分について御議論を頂きたいと思います。 ○阿多委員 また5ページを見ていただきたいのですが,いわゆる「(2)暴力団員に該当しない旨の回答が寄せられた場合の取扱い」の御指摘があるのは,この第1パラグラフの6行目でしょうか,「しかし,このことを利用して,債務者等が,売却決定期日において,最高価買受申出人が暴力団員である旨の意見陳述をし,執行裁判所に対して一定の証拠調べを要求するなどの執行妨害に及ぶことが予想される」と記載があります。従前からこの問題があって,だから,いわゆる片面的構成の問題があるのですが,売却決定期日の意見陳述は,そもそも単に意見を正に述べるだけであって,証拠調べの要求があると,これは法的な意味があっての証拠調べの要求であるわけでもないわけで,売却決定期日にまた意見が言えるのもこれは債務者等になっていますけれども,自分の権利に影響を与える場合にだけ発言ができるというふうになっているときに,債務者が何か言ったからといって,それで影響を受けるのかというのも少し気になるところで,本当に片面的構成にしないと手続に支障が生じるのかというところは,いまだに決断ができないところなのです。   ちょっと違うことを申すと,逆に一番最初のところで公益・私益という整理があって,公序まで行かない,公益・私益ですが,これ逆に暴力団員であるというふうに発言するというのは,私益ではなくて場合によっては公益に関する発言,暴力団排除という,そういう状況で警察情報では該当しないということがあっても,そういう発言があるにもかかわらず考慮せずに直ちに手続を進めるというので公益・私益という結び付きからいってもいいのかなというのは少し引っ掛かっていまして,単に発言するだけでは,それほど裁判所の判断に影響するわけではないと思っていますので,売却決定期日の判断材料が増えたというだけにとどまるのではないでしょうか。そうすると,あえて片面的構成というものを取らずに,一般的に売却決定期日前に調査嘱託なのか何なのか分かりませんが,警察に嘱託をして,判断材料の一つの回答が来て,それと売却決定期日の意見陳述等を踏まえて裁判所が判断するというオーソドックスな立て付けで考えられているような執行妨害ということは,余り前面に出して制度の無理をするまでは必要がないのではないかというふうに思いますので,ちょっとその点だけ発言をしておきたいと思います。 ○成田幹事 今の阿多委員の御発言の関係ですと,期間入札の公告に当たって売却決定の日時,場所も定めていますので,審理期間が余り変わってしまうと,その辺りの整理をしづらくなるというのが一つあろうかと思います。   その前に戻りまして,前提としてですが,買受け制限の対象となる暴力団員の定義につきまして,従前,裁判所としてはもう少し形式的にできないだろうかというふうな発言をしておったかと思いますけれども,なかなか法制度的に厳しいのかなというところですとか,あと,従前,筒井幹事がおっしゃっておられたかと思いますけれども,不服申立てとの関係で難しい問題がありそうですので,ここについては部会資料の案でよろしいのではないかと思います。ただ,結局この要件を認定するに当たっては,警察からの情報が非常に意味を持ってくるかと思いますので,このイのところも賛成していくということになりますが,ここは警察の方がいらっしゃっているので質問になるのですが,どういった情報を頂けるのかというのをお伺いできればと思います。 ○山本(和)部会長 もし可能な範囲でお答えいただけるのであれば,奥田関係官にお願いします。 ○奥田関係官 警察庁でございます。基本的に暴力団員を想定すれば,暴力団員として警察が把握している,暴力団員として認められるあるいは暴力団員とは認められないという回答になろうかというふうに想定をしております。暴力団員ではないという回答は警察としても保証の限りではないというふうに考えております。 ○成田幹事 今のを前提として,最高価買受申出人が暴力団員であるかどうかという認定は恐らく警察からの情報に頼らざるを得ないのではないかというところがあると思いますので,執行手続の迅速な運用ということですとか,執行妨害の抑止という観点からしますと,少なくともウの②については,こういう記述でいいのではないかと思っております。   やや悩ましいのがウの①の場合でして,結局争うチャンスをどこで与えるかというところの兼ね合いになってきます。この点については,売却不許可でその手続から外すだけでなくて,その後の保証の問題も出てくるので,悩ましいところではあるのですが,正に暴力団員が執行妨害してくるという可能性を考えると,この点についてもできれば迅速に対応できるような形で手続を組んでいただければと思っております。 ○阿多委員 今の回答の関係ですが,正に暴力団員に当たるかどうかという回答ではなくて,警察の把握するもので該当するかどうかで,暴力団員ではないという判断までないと思うのですが,該当しない場合には別にそれを裏付ける資料なんていうのは出てこないと思うのですが,該当するという回答の場合には,該当すると判断した資料というのは併せて回答があるという理解でよろしいんですか。それとも該当する,しないという結論だけが来るのでしょうか。もし可能であればお答えいただきたいと思います。 ○筒井幹事 必要があれば奥田関係官から補足していただければと思いますが,まだ制度を構想している段階なので私の方から説明いたしますけれども,暴力団員に該当するという回答の場合には,それについて執行裁判所における一定の実質的な判断を必要とするという,現在お示ししている方向で考えるのであれば,仕組みの詳細はおくとしましても,その裏付けとなる一定の資料の御提供をお願いする方向で,今後,警察当局と協議をしていくことになろうかと思います。 ○山本(和)部会長 よろしいですか。 ○阿多委員 気になりましたのは,成田幹事からの御発言で,①,②についてもやはり迅速にというお話があったのですが,少なくとも①については裁判所が資料に基づいて判断されるということをイメージしておりまして,それは今,筒井幹事の方から御説明のあったところになるので了解しますけれども,②については戻りますけれども,多分ない資料を出せというのは,それは無理な話で,結論だけが来るのかなと。戻りますけれども,そういう資料がないというところで売却決定期日に何かそういう発言があるということがあっても,それを一切考慮しないという制度にしてしまうのか,発言はありましたねというふうにして全体で判断されるのか,そこの違いなのだろうと思うのですが,であるならば戻りますが,余り無理しなくてもいいのではないかと,そういうふうにまた同じことを申し上げました。 ○今井委員 実務的な先ほど申し上げたとおり,反社の取引からの排除ということで,各会社がたくさんのデータベースを一生懸命作っていまして,当然のことながらそのデータベースは各社ごとにやっているものですから,データベースは会社によって異なっているわけで,最終的にそれが一番確かというか,精度が高いのは警察情報だろうというのがやはり一般企業の認識だと思います。というと,結局は警察情報が一番固めに間違いのないようにという形でやっていますから,一般の企業よりもかなり絞りを掛けているのかなという印象を持ってございます。   ただ,水際でこれから取引する上で排除するときに,各社がデータベースで使ってヒットする,それは別にそのことを理由に排除する必要はないわけですから,契約自由の原則に基づいて総合的な考え方により理由があるわけでありまして,ただ,取引が始まった後に排除する,これが解約事由になるかどうかというところが非常に難しいわけでありまして,先ほど申し上げたとおり,契約書の中に表明保証を入れて反社である場合には解除しますよと,その条項に基づいて反社であるから排除するという場合に,例えば裁判になったときに,警察情報を一定のルールや条件の下に問合せをさせていただく。   そうすると,該当ありかどうかというところに先ほど筒井幹事からおっしゃられたとおり,それはもう本当に結論だけで該当あり若しくはなしと,もうそれだけで後ろに資料というのは付いていないわけで,それはある面で警察の内部情報,調査情報,ただ,それが争われたときに必要があれば,場合によっては警察の方に協力を頂いて立証するというふうな手続になるかと思うのですが,今のお話をお伺いしていると,これから警察と裁判所で御協議されるということですけれども,まずは該当ありかないかのところに資料付きでというのは,今のような民間でやっている流れから言えば,制度が重たくなるのかなと,ワークし難くなるのかなというような印象を受けました。問題になったときに適宜というのはあるかと思いますけれども,例えば執行抗告されたときに警察から資料を提供してもらうということはあるかと思いますけれども,感想です。 ○勅使川原幹事 恐れ入ります。純然たる質問なのですけれども,以前知人から聞き及んだので間違っているかもしれないですが,警察の方で暴力団該当情報というものを調査する際に,いわゆる警察庁の暴力団情報データベースですか,それに照会するのであれば一両日ぐらいで終わっているのだろうと。ただ,確実性を期すとなると,その先には各都道府県本部の警察にも二次照会を掛けると。それがまた1,2週間ぐらいかかるのではないかというお話を伺ったことが前にあるんですけれども,どちらの方をこの警察の回答というふうな前提をされているかと。 ○筒井幹事 警察の内部でどの部署に御回答いただくのかというのは,これはまた今後の相談事項だろうと思いますけれども,回答にどの程度の時間を要するかというのは,これは制度の構想との関係で関心を持たざるを得ない事情でして,その点については,現時点での私どもの感触として申し上げれば,該当しないという御回答を頂く分には比較的早い時期に御回答いただくことができるのではないかと思います。   しかし,該当するという方向の御回答を頂くに当たっては,恐らくデータベースでヒットするということのみで直ちに該当するという回答をされるわけではなく,関連する一定の確認作業などを経た上で回答されることになろうと思いますので,それにはある程度の時間を要することになるのではないかと想定しております。 ○山本(和)部会長 よろしいですか。 ○谷幹事 暴力団員を排除する場合の暴力団員というものの定義を実質的に行うとした上で,裁判所が売却許可決定あるいは不許可決定の判断に当たって,ここも実質的に判断するというのが大体今構想されている制度の立て付けだというふうに思いますので,そうだとすると,今,筒井幹事がおっしゃったように,暴力団員に該当するという回答が警察からある場合には,それを裏付ける事情というものも裁判所に送ってもらって,その上で裁判所が実質判断をするということが理論的には整合性があるかなというふうに思いますので,それは是非そういう方向で協議をしていただきたいなというふうに思っているところでございます。   それから,問題は暴力団員に該当しない旨の回答があった場合に,直ちに許可決定をするのかどうか,暴力団員である旨の意見陳述を許すか許さないかの論点なのですけれども,ここは裁判所が実質的な判断をするということであれば,やはり直ちに許可決定をしなければならないという立て付けというのは,少しなかなか説明が付きにくいのかなというふうには思っているところです。   現実の問題として,最高価買受申出人が暴力団員であるというふうなことを例えば債務者なり何なりがそういう陳述をした場合に,それで手続が遅延するのかどうかという点なんですけれども,これは恐らく暴力団員かどうかというのは裁判所の職権調査事項になるかとは思いますが,そういう暴力団員であるという陳述にどれだけの根拠があるのか,あるいはその内容がどれだけ詳細なものなのか,その辺りを判断して,余り詳細でもない根拠もなさそうだということであれば,それはもちろん聞いた上でこれは暴力団員とは認められないという判断をすることになるのかなというふうに思いますし,そういう意味では,それほど手続が遅延するということにはならないのではないか。逆にむしろ根拠のある陳述であれば,この人は暴力団員なのだという点について根拠のある陳述であれば,逆にそれはむしろ調査をしないといけないのではないかというふうに思うところですので,それはそういう意味では手続が延びるということは,ある意味ではいたし方ないという事情だとは思いますので,直ちに許可をしないといけないという立て付けは,そこまでの制度というのは少し行き過ぎなのかなというふうな感触を持っております。 ○今井委員 谷幹事の今おっしゃられたことは,理屈としては一応理解できないことはないんですが,ただ,大分非現実的だという認識を持ってございます。   まずは,先ほど申し上げたとおり,暴力団員かどうかというのは各社がデータベースを一生懸命集めていて,それでもやはり一番精度が高いのは警察でしかないと,これは一致したところだと思います。それ以外に,現行でそれ以外の高い精度のデータベースはないと思いますので,そういう意味で最終的には警察の方に民間では問合せをしているのが現状であります。裁判所が独自にデータベースを持っているわけではありませんし,それを一つの参考として裁判所が実質的な判断をするという理屈は分かりますけれども,それはしかし,現実問題としては無理があると思います。   先ほど申し上げたとおり,この制度の立て付けというかコンセプトは,結局民間で言う取引をやっているときにたまたま相手方が反社であったり暴力団員であったら,それは取引から水際で排除しよう,若しくは解約しよう,こういうことを国の競売制度でもやはり原点としてやらなければいけないと,これが制度の立て付けの原点だと思うんですね。   そういう意味で,入札者全員なんて非現実ですし,最高価買受申出人だけですと,前回のお話ですと,27年度では確か12万件があったと思うのですけれども,それを全部チェックするのも大変だなとは分かりましたけれども,仮に最高価買受申出人をチェックするとしても,結局ヒットしない,つまり警察から該当なかったということであれば,そのまま整々と進めるということは,民間がやっていることとパラレルに考えると,全然おかしいことではない。それをこういう公の法律の制度にする上でどうやってはめ込むかというところだけのことだと思うのですが,仮にそれが実質的な判断,職権調査なんだと言っても,実際にはもうできることは限られていますので,警察の情報を,それ以外はあり得ないというのが現実だと思います。   ただ,それを制度として,ではそれで拘束されるかというふうに制度設計してしまうと,これはやはりまずいのかなという気はしますが,現実はそういうところですので,それを資料が出てきましたと。資料というのは非該当が出てきました。それを債務者に抗告の利益があるかという論点は別としても,仮にそれをさせることで十分遅延すると思います。 ○筒井幹事 今のやり取りを聞いておりまして,私どもの作りました部会資料8-1の3ページのウで,警察からの回答が非該当である場合に関する②の方ですけれども,該当しない旨の回答が寄せられた場合に「直ちに」という書き方をしたのがややミスリードではなかったかという気がいたしました。真意といたしましては,この資料で提案しておりますのは,警察から該当するという回答があった場合にのみ売却を許可しないという判断をすることができるという制度を構想してはどうかということです。したがって,該当しないという回答しかない場合には,売却を許可する決定をすることになるのですけれども,ここで「直ちに」と書いてあるのは,債務者から有力な情報が寄せられているのに,それを必ず無視しなければいけないということを要請しているわけではなくて,その点については同じ部会資料8-1の5ページの下から6ページの辺りで御紹介したかと思うのですけれども,暴力団員であるという情報があっても,それを見逃さなければならないということではなくて,そういった情報がもし本当にあるのであれば,それを警察の方にお伝えして,もう一度調査をしていただいて,もしそれで該当するということであれば,該当するという回答を頂くといったような方法も考えられるのではないか。こういったことも踏まえれば,先ほど申し上げたような整理というのは,全体として合理性を持ち得るのではないかということでございます。 ○阿多委員 今御説明いただいたのに確認というのもあれなのですが,3ページの本文第2の1(1)ウの②,更にはそれの補足説明,5ページの3(2)のところの議論で,特に「ところが」のパラグラフのところでは,「本文ウ②の記載の考え方は,競売手続の円滑性を確保する観点から,暴力団に該当しない旨の回答が警察から寄せられた場合には,執行裁判所は,直ちに売却許可決定をするとの考え方を取り上げた」という記載があるものですから,むしろ形式的に処理をされるのかなというふうに読んでいて,その下には,この考え方に対しては違う意見があるという御指摘も御紹介いただいているのですけれども,どうもイメージしているものが事前に,売却決定期日の前に照会をして回答が来ていると。回答が来ていて,非該当であれば当然ほかのものについては執行記録等で形式的に不許可事由の有無については判断をして,それと非該当の回答で直ちにというふうに読めてしまったものですから。   確認になりますけれども,決定期日の意見陳述でいろいろなものが出る,更には,場合によっては書面等で資料が出ることもあり得るわけですから,それは端緒として,それらを含めて裁判所としては非該当と来ているということなどを併せて判断すると,そういう実質判断が非該当の場合にもなされるという理解でよろしいのでしょうか。 ○筒井幹事 その辺りをどう構想するかは,もちろんここでの御議論ということになろうかと思いますが,私どもの方で,この部会資料の本文で提示している考え方は,確かにいろいろなケースがあり得るので,売却許可決定期日に債務者が出頭してきて何か陳述をすることがあり得ないとは言えないし,そこで有力な情報が出てくることも全くあり得ないとは言えない。実際に出てきたときにどうするかというのは,それは一つの問題ではあるのですけれども,現実問題として大半の事件ではそういうことは起きないわけですので,そういった大半の事件をいかに円滑に流していくかを併せて考えないと,実務が耐えられないような制度になってしまいますので,そこを考慮した上で,本文の①,②という整理を御提示したということです。   ですから,警察ではまだ把握していない情報だけれども,暴力団員に該当するという非常に有力な情報が債務者からもたらされたと,そういう極めてレアなケースがもし現実に起きたならば,そのときに正義に反するような形でそのまま売却を許可してよいなどと殊更に申し上げるつもりはないのですけれども,そういったレアなことについては,事実上,警察の方に情報を提供してもう一度回答いただくというようなことで対処してはどうか。他方で,大半を占めるであろう大量の事件については形式的な判断で流れるようなルートを用意してはどうかと,こういうことでございます。 ○山本(和)部会長 よろしいですか。   それでは,認識は相互に深まったのではないかというふうに思いますが,ほかのこの部分についていかがでしょうか。 ○相澤委員 確認させていただきたいのですけれども,該当するという回答があった場合に,更に実質的な判断とおっしゃっていただいているその実質的な判断というのは,どの程度のことを想定しておられるのかという点でございます。第3回会議のときにも申し上げましたが,1回の開札期日に40件なり50件なりという件数がございますところ,恐らく大多数が該当しないという回答になるだろうと思われるのですけれども,ただ,いずれにしても,照会をし,回答を頂いてというスパンだけを考えても,現状のスケジュールは維持できないところへ加えて,更に実質的な判断というところが重きを持ちますと,例えば,審尋といったことまで想定した場合には,これまで築き上げてきた競売の迅速で合理的なシステムを維持することができなくなるという危惧を感じておりますので,そこを教えていただければと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。これは事務当局からお願いできますか。 ○筒井幹事 これも御議論いただきたい点かと思いますが,やはり建前としては最高価買受申出人が暴力団員であるということを認定することになりますので,こういった手続の中ということを前提とした上で,それにふさわしい心証が得られた場合ということにならざるを得ないのだろうとは思います。   ただ,実際に暴力団員に該当するような事案が出てくれば,やはりそうせざるを得ないということでありまして,制度を構想する際には,できる限りしっかりした排除の枠組みを作っておけば,暴力団員による入札の未然防止という効果も期待されると思いますので,そういう予測もある程度織り込んだ上で制度を考えていってもよいのではないかと考えております。 ○山本(和)部会長 よろしいでしょうか,相澤委員。 ○平田委員 蛇足かもしれませんが,危惧しているのは,今,相澤委員から出たものでして,条文の立て付けとか,どういう形にするのかということとも関連してくると思うのですけれども,先ほど言われた最高価買受申出人が暴力団員である場合を不許可事由にするという形にした場合は,やはり判断は必要になってくるとは思うのですが,その際に実質的な判断が必要だと言われると,かなり慎重にならざるを得ないと。ですから,これは条文上の問題ではなくて運用の問題になるのかもしれませんし,認定の問題だけになるのかもしれませんが,やはり審尋はせざるを得ないのかなというところも出てきます。そうなると,該当しないという回答の場合に,いろいろな人が出てきて,最悪の場合は債務者が妨害のために言う場合もありますでしょうし,そういうような場合までも条文の形で構築してやる必要があるのか,あるいは,先ほどのような一般条項的な条文にしておいて,あとはもう運用の問題にするのか,そういうところは検討しておいた方がいいのかと。先ほど例として挙げられましたけれども,そういうものを示していただいた上で議論した方が有益なのかなと考えているところであります。 ○阿多委員 裁判所の人間でない者が判断についてコメントするのはあれですが,少なくとも例えば今の不許可事由について,執行記録に基づいて不許可事由がないことの判断というのは,実質的判断という形でなされているものだと理解をしていますので,該当しない回答が来て,それを含めて形式的証拠力があって,それでするとかいうことではなくて,されているのは実質的判断で,該当するという回答がたまたま来たら,それに該当するかどうかの判断であって,ほかの方がどう言ったから形式判断,実質判断と,そういう区別ではない言葉遣いでここでの実質的判断,形式的判断というのを使われている。端的に言えば,裁判所の判断行為としての判断ではなくて,法定証拠みたいな形でするのとは違うという形で使われていると理解しているのですけれども,そういう理解でよろしいのでしょうか。 ○筒井幹事 説明ぶりは,実は資料でも迷ったような書き方をしていたと思いますけれども,まだ今後の検討課題とせざるを得ないとは思っておりまして,差し当たり結論として,不許可決定をするのは警察から該当するという回答があった場合に限定すると,そういうルールを立てておくことが有益ではないかという提案をしているということです。 ○今井委員 今,実質的な判断というお話が出ましたけれども,阿多委員が申し上げましたとおり,実質的判断はやはり警察がしているというのが認識で,そして,では何の判断かといえば,もう本件は反社かどうかではなくて暴力団員かどうか,ただ,現なのか過去なのかというようなテーマはありますけれども,仮に現在若しくは過去ちょっと何年か前と。そうすると,もうそこの確認というのですか,判断する対象はそこに限られるわけですので,今,平田委員がおっしゃられた実質的な判断をするというのは,まず一つは,それはもう警察段階でできているのではないかと。それからもう一つ,審尋というふうな話がありましたけれども,まず,誰を審尋するのかということで言えば,当該最高価買受申出人ということにもしもなるとしたら,その方からその人が組員かどうかということを聞いても無駄であることは,別に説明するまでもないわけで,そうなると,やはり警察情報が全てで実質判断もできているのでと,実態はそうだと思うのですね,正直に申し上げると。ただ,それを仮に裁判所が実質判断をするといっても,それは既に警察からの情報でなされているものをやはり斟酌して,ほとんどそのままをもって実質判断すると言わざるを得ないのではないかという感じがしますし,それ以外の何か別の情報があってというふうに判断材料があるかというと,私はちょっと思い当たらないなという感じがするのですが,ただ,制度の立て付けとしたら,警察情報に拘束されるとか片面的審査とか,そういう議論は余りよろしくないのかなという感じをしています。 ○山本(和)部会長 ほかにいかがでしょうか。   具体的な条文をどういうふうに立てていくかとか,あるいはそれについての説明とか,あるいはその後の運用というようなところについては,なおいろいろ問題はあろうかと思います。ただ,大きな考え方としてここで示されているもの,その該当情報というのは,先ほど筒井幹事から御説明がありましたように,恐らく現実には0.0000,そうやって言うとよくないかもしれませんが,ほぼないに近いような場面ということなのだろうと思います。そのような該当情報がある場合については,この資料によれば,先ほど来,審尋という話が出ていますが,必要に応じて最高価買受申出人の審尋などを行うというところで実質的な総合評価がされる必要があるだろうということです。他方,大多数がそれに当たるだろうと思われる非該当回答があった場合には,先ほど御紹介があったように,それは警察庁との関係でも相対的に言えば短期間に回答が頂けるのではないかということが期待されるということを前提として,基本的には警察の情報に基づいて裁判所は判断をすれば足りると。そして,極めて例外的にそうではない情報を警察以外の誰かが持っているということであれば,それは警察の方に行っていただいたらどうかというようなことで,処理できるのではないかということです。こういう大枠的な考え方については,大体のコンセンサスが得られていると理解してよろしいでしょうか。 ○今井委員 最高価買受申出人のことについて一言申し上げれば,審尋して最高価買受申出人にもし暴力団がいたとして,それに該当があったときに,本人を呼んだとして「そのとおりです。私は組員です」と言うはずがないわけですよね。そうやって入札しているわけですから。それで,入札の前提として組員は駄目よというのは分かっているわけですから。という意味でも,やはり審尋というのはそもそも意味がないし,必要がないと思います。 ○阿多委員 いろいろな考え方がもちろんあり得るわけで,今の71条の不許可事由の判断に際しても,本人を呼んで話を聞くというのは幾らでもあり得るわけで,通常の手続に乗せてしているというイメージでお伺いしていまして,それでは中身で了解,もう余りここで時間を取るのもあれですが,最初に売却期日の持ち方で御質問させていただいたのは,仮にいわゆる片面的にすると,そういう発言すること自体も制限してしまうような運用をなさるのかというイメージを持ったものですから,つまり警察情報で該当しないという回答が出たら,債務者等の発言でそういう該当するではないかという発言,それはもうここで判断する材料ではないからというような期日の持ち方が極端な場合,行われるとなれば大分今まで違うのですが,発言は発言であって,それを踏まえての実質判断をされるのであれば,私自身はそれほど抵抗のない制度になると思っています。 ○山本(和)部会長 その辺り,運用の問題ということになろうかと思いますので,もう少し制度が固まってきたら更に御検討を頂くということで取りあえずはよろしいですか。今,(1)の部分について審査の枠組みと言われるところにかなり議論が集中しましたが,「(2)警察への照会の時期等」というところで既に出ているところもありますが,アとして開札期日と売却決定期日の間に照会をするということと,それから,イとして,6ページの一番下の行で,前回出てきましたように,全てについて照会するのかというと,ほかの資料で確認ができるもの,これは7ページの(注)等で記載されているところでありますが,そういうものについては,この照会というのを省略して売却許可決定をすることもできるという考え方が示されていますが,この辺りについてもし御意見があれば頂戴したいと思います。 ○阿多委員 従前もこのような意見が出ておりまして,それについては,イの方の言わば例外を認める手続というのは賛成したいと思います。ただ,従前,山本克己委員から出ていました例外が例えばこちらの本則で,審査で掛ける手間と同じようなものが業法等になりますけれども,制度的になされているのかというところについては,ここで定めるよりもむしろ業法を所管する役所との関係になるかもしれませんけれども,慎重にこちらでそういう手続が利用できるためのものとして審査をしていただきたいということ。   特に宅建業に関して我々も日常的にお付き合いがあって,宅建業者の方について警察への照会をして暴力団排除がなされていると。それは理解をしているのですが,免許の更新が5年に一回で,途中,宅建業者ではなくて役員自身が交代をするときに一応届出にはなっているわけですけれども,それがなされない場合はペナルティーが必ずしもあるわけでもないと理解をしています。また,宅建業の免許が役員交代について,平取締役が例えば交代したからといって,それの届出が遅れたら宅建業免許がすぐに取り消されるというような,そのような運用にはなっていないという理解をしているのですが,一番この制度で法人で心配されるのは,宅建業免許取得ないしは更新時は,役員は暴力団に該当しない人ですが,いつの間にか暴力団関係者が役員に変わっていたにもかかわらず,そのままこの手続で非該当だから無審査でいきますよというようなことになると,少し問題があるのかなと。だから,ここで正に除外をするのと同じだけの制度的な保証ができるようなところの例外というのは考えていただけたらなと思います。   それと,今回過去の一定期間内に一旦チェックをして,そこで非該当と出ていればそれを利用するというのは新しい御提案かなと思いますが,これについても賛成したいと思います。 ○今井委員 今の意見で,これは弁護士会の意見ではなくて個人的な意見なのですが,やはり先ほど部会長がおっしゃられたとおり,実際にこの制度ができた後にヒットするのは,今よりもはるかに小さくなっている。というのは,この制度が暴力団員は買受けできませんと,その抑止力は私が予想するに,また,期待するに相当大きいと思うのですね。そういうことも含めて考えますと,もう買受けできませんという抑止力を前提にすると,相当実際に最高価買受申出人を警察情報に照会しますと,それこそ部会長がおっしゃったとおり0.00に近くなることも十分予想されます。そうなると,制度設計と,それから,本来の競売の円滑性,迅速性,ようやく長年にわたってより迅速にとやってきた制度がほとんどヒットしないであろうということによって,そのブレーキになりかねない。ということになれば,やはり必要に応じて合理的で,また,かなり絞りを掛けた方が私は全体の競売制度の中におけるこの暴力団排除の制度設計のバランスだと思いますので,宅建業者等既に7ページの(注)にあるような,改めてやる必要はないのではないかというところについては,この制度自体の抑止力なりワークする実効性という面からも個人的には賛成です。弁護士会としてどうかはちょっとまだ分からないので,違う意見があるかもしれませんが,そう思います。 ○山本(克)委員 議論を聞いていて訳が分からなくなってきたのですけれども,私,このペーパーは暴力団員個人が最高価買受申出人である場合を念頭に置いた資料だというふうに思いまして,先ほど阿多委員は役員というか,法人である場合についてまでおっしゃったのですけれども,そこは議論の対象でしょうか。 ○山本(和)部会長 おっしゃるとおりで,それは次回,部会資料8-2という形でその問題が出てくるということです。現時点では個人を念頭に置いてください。 ○山本(克)委員 現時点では個人だけを対象とするのだということでよろしいですね。 ○山本(和)部会長 ほかにいかがでしょうか。この点もおおむね,むしろ記載の方向で大きな御異論はないという理解になるのでしょうか。   ありがとうございました。   それでは,引き続きまして,部会資料8-1の8ページの「2 濫用的な執行抗告への対策」の部分についての御審議をお願いしたいと思います。これも(1)で債務者からの執行抗告の制限,売却許可決定に対する債務者からの執行抗告の制限と,9ページの(2)で不許可決定に対する最高価買受申出人からの執行抗告の制限について,方向といいますか,考え方としては,前者は執行抗告を認めない,後者は執行抗告を認めるという考え方が一応提示されて,どのように考えるかということになっておりますけれども,この点もどちらからでも結構ですので,御意見を頂ければと思います。 ○成田幹事 (2)の不許可決定というところですが,売却不許可決定としてしまえば確かに執行抗告しかルートはなくなるのはおっしゃるとおりかと思いますが,懸念がありますのは,やはり執行抗告となりますと,記録を高裁に送るなど手続がかなり重くなってしまう部分があると。あと,一部判例で例外的な運用も認められておりますが,不許可決定になると,恐らく入札からやり直すのが本則になるというところがありまして,それも時間がかかるのかなというところがあります。   それで,確か従前,小津関係官が出席していた時に最高価買受申出人排除決定なるものを作って執行異議に流せないかということを申しておったかと思うのですが,裁判所としては,そういう提案が維持できればと思っております。 ○山本(和)部会長 分かりました。執行異議のルートの方がよろしいのではないかということだと思います。 ○阿多委員 まず,(1)の認めない考え方については,結論としては賛成するのですが,2のところで,いわゆる公益・私益の整理で,私益があるから認められるべきだとかいうことよりもむしろ気にするのは,公益という言い方をすると,逆に広く認められる方向の議論に,誰との関係でもやはりそれは公益なので認められる理由になるのではないかなと。ちょっと理由付けとしてこれでいいのかというのは気にしています。そもそも債務者自身がそのような申立てができるのかという抗告の利益の問題だと思います。   そして,(2)については,これは逆に場面を暴力団員という形の議論に限ってしているのか,法人が入らないのは,すみません,私が誤解,間違えたんですが,いわゆる元の議論が入ってきたときに本当にこの執行異議だけで抗告できないというような形でいいのかというのは非常に気になるところで,やはり不動産を取得する機会を最高価買受申出人はこれによって奪われるわけですから,その場合には,私自身は暴力団員であるか元暴力団員であるかを問わず,やはり執行抗告の機会は与えられるべきだというふうに思っています。 ○松下委員 先ほど成田幹事から執行抗告を認めると,記録が高裁へ行ってしまって事件が停滞するというお話がありました。運用を教えていただきたいのですけれども,民事執行規則の7条では,執行抗告があった場合に執行裁判所が事件記録を送付する必要はないと考えれば,抗告事件の記録だけを抗告裁判所に送ればいいという規定があって,これはある種の抗告に対する対応として位置付けられていると思うんですけれども,民事執行規則の7条を使う,つまり事件の記録を送付する必要がないと言い切れてしまう場合はないという前提の御発言というふうに理解してよろしいでしょうか。 ○成田幹事 私が答えるべきかどうかという問題はないわけではないのですが,恐らく暴力団に該当する旨の情報が本体記録の方につづられてしまいますので,そうすると,それを送らざるを得ないのではないかと現時点では考えているところであります。 ○松下委員 ありがとうございます。 ○阿多委員 先ほど成田幹事の方から御指摘があった,どこまで遡るのかというのは,債権者,債務者等いろいろ影響があるのですが,この場合,暴力団を排除した上での入札という制度で考えるはずなので,本当に最初に遡って一からやり直さなければいけないのかなというのは,この手続だけなのか,ほかを広げていいのかどうかは別ですけれども,少なくとも第一順位の人が外れるだけというような制度もあり得るのかなと思いますので,それがあるから,抗告の利益ないしは抗告制度を認めないというのは行き過ぎではないかと,その点も付加しておきたいと思います。 ○山本(和)部会長 恐らく最近の最高裁の判例の傾向からすれば,今,阿多委員が言われた方向に親和的なのかなというふうには思いますけれども,ほかにいかがでしょうか。おおむねよろしゅうございましょうか。 ○今井委員 この2の方ですけれども,やはり執行抗告のケースは少ないとは予想できるんですけれども,やはり進行が止まるという大きなあれがありますので,やはり不服申立ての手段としては9ページにありますとおり,執行異議というところで全く不服を言う制度がないのはちょっとどうかと思いますが,執行抗告は全体の進行からすると余り賛成できないので,執行異議というこの説に賛成です。 ○山本(和)部会長 先ほどの成田幹事の言われたような方向性に賛成だという御意見でした。 ○山本(克)委員 執行異議か執行抗告は,やはり形質的な判断か実質的判断かと関わる話で,やはりそこで実質的判断をするのであったら執行抗告だし,形質的な判断で売却不許可にできるのであれば執行異議で十分なのではないですかね。見間違えとか,照会をするときの手続的な間違いだけをチェックすればいいだけで,実質的に暴力団かどうか判断しないで済むのであれば執行異議で十分です。だから,そこ次第の問題なので,どちらを考えるべきか,結局そこに収れんしてしまうのではないかなという気がします。 ○阿多委員 私が形式不備,ここでの執行異議説というか異議を考える考え方は,山本克己委員のおっしゃるような理解,そんな形式的不備だけを異議理由という形にされているのではなくて,実質まで含めた上で提案が先回なされたのかなというふうに思っているんですが,そこだけちょっと整理していただいた方が。 ○山本(和)部会長 それは,先ほど暴力団排除決定ですかね。何かそういうような売却許可決定とは別の暴力団員として排除するというような決定をかませて,それに対しては執行異議ということですので,暴力団員かどうかということについては,先ほどのこの3ページのウの(1)の枠組みで判断をするということが前提になっているのだろう。そういう意味では実質的な判断が前提だと。 ○山本(克)委員 だから,実質的判断をするのであれば,私はやはり執行抗告だと思います。だから,執行異議にするのであれば,それはやはり形質的な判断であるということが前提で,セーフの場合は形式的判断で私はいいと思うのですね。でも,アウトの場合は実質的判断でないと,やはり裁判所の判断ですので,他機関の言ったことをそのまま受け入れるというのは,やはり裁判所の在り方としていかがなものかという気がしますから,実質的判断である以上はやはり執行抗告にならざるを得ないのではないかなという気がします。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかにはどうでしょうか。(1)について,私が理解したところではおおむね異論はない。ただ,説明ぶりについては阿多委員の方から公益ということについて御指摘があったかと思いますが,(2)については,依然として執行抗告か執行異議かという両論が披露されたというふうに理解しました。この段階では,そういうことでよろしいですか。事務当局も特段よろしいですか。   それでは,引き続きまして,今度は9ページ,「3 その他の検討事項」の部分についての御審議をお願いいたします。この部分は「(1)照会に必要となる情報の確認方法」,この氏名,振り仮名,生年月日,性別ということを義務付けるということ,それに加えて住民票の写し等についても義務付けるかどうかということが問いとして出されていると。10ページの「(2)その他の事項」につきましては,それ以外のことについて何か注意すべきことがあるかというちょっとバスケットクローズ的な問いになっているかと思いますけれども,これらの点について御意見があればお願いしたいと思います。 ○阿多委員 意見というか質問なのですが,今回,(1)の正に提出する情報の範囲のことで氏名の振り仮名の部分なのですけれども,住民票に載っている,載っていない,これは基本的には申立人ですから,自分の名前の振り仮名だとは思うんですけれども,この振り仮名を要求する理由なのですけれども,これがないと照会ができないということで要求されるんですか。単なる検索の際の端緒の便宜という意味なのか,ちょっと振り仮名を要求される趣旨について御説明いただきたいのですか。 ○筒井幹事 私どもの方で聞いておりますのは,検索をするための情報として,氏名とともに振り仮名が必要であると聞いております。ただ,全てが正確でないとヒットしないかどうかというのは,また別のことであると。まずは検索をするためにその情報の入力が必要だということだと思います。 ○阿多委員 今,後半でお答えいただいて,これがないと照会できないのかとか,逆に,通常使われているのと違う書き方をされると,それではじかれてしまうのかという,そこに関連するのかと思うのですが,振り仮名がなくても文字,漢字とかほかのアルファベットとか情報で検索ができるのであれば,余りこだわる必要がないのかなとは思っているのですけれども,そこはこれからの話になるのですかね。 ○山本(和)部会長 もし可能であれば,奥田関係官に可能な範囲でお答えを頂ければと。 ○奥田関係官 この4要件が必要と申しておりますのは,システムに入力をするに当たって,この4要件を埋めなければシステムは作動しないという意味でございます。それなので,もちろんのことですけれども,全く違う読み仮名をして本人が申し立てた,それを入力してもヒットかアンヒットという結論は出ます。漢字の読み,漢字氏名と読みの氏名というのは,我々としてはダブルチェックという意味合いで,基本的には,ほかの民間あるいは業法等の照会においては要求していて,どちらかが当たった場合にはヒットということで都道府県警への確認に移行するというふうにしております。 ○道垣内委員 私も調べたわけではないのですが,振り仮名が法令上位置付けられているものというのはあるのですか。つまり,私の戸籍にも住民票にも振り仮名はない。パスポートを取るときの振り仮名は私が自由に付けることができるのですね。振り仮名というのを日本の法令上正式に位置付けることが,他の法令でも多くされているということであれば私は別に反対しませんが,民法的に考えると,振り仮名なんてないはずなのです。そうすると,振り仮名を振れという規律は,どうしてなのだろうという気がするのですが。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。貴重な御指摘だと思いますので,ほかの例とかを調べてさせていただくということで引き取らせていただいてよろしいですか。 ○道垣内委員 警察内部でシステムを作るときに振り仮名を入れるのは自由だし,私の私的な住所録にも部会長のお名前を入れているところには「やまもとかずひこ」と振り仮名を打っていますけれども,法的にはない概念だと思うのですよね。 ○山本(克)委員 性別の記載を法定するということに関しては,LGBTの方々の反発というものが予想され,この部分だけを取り上げてフレームアップされて法案がポシャるなどということになるということは,私は望ましくないと思うので,ここも一工夫が必要ではないのかなという気はします。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。御指摘のとおりのように思います。 ○阿多委員 それは,それの中身の住民個人の案件ですので,住民票の提出その他についても,今でも実際に提出しているという認識ですので,これについても特段異論はない。賛成したいと思っています。 ○成田幹事 住民票の関係は,現行の民事執行規則の38条6項になりますが,「住民票の写しその他その住所を証するに足りる文書を執行官に提出するものとする。」という形で,義務的ではないのですが,登記の便宜のために出してもらっていることになっております。   ただ,実際上は,ほぼ100%,自然人の入札に関しては出ておりますので,そういう意味で,これを義務化することとしても差し支えはないだろうと思っております。ただ,その場合は法律に書くのか,規則でやるのかという問題が出てくるのかなという気はしております。 ○奥田関係官 先ほどの,付け加えて1点申し上げたいのですけれども,先ほど来出ている四つの項目というのは,我々で言っているシステム,一次照会と呼んでおりますけれども,そのシステムを動かすための条件でありまして,それでヒットすれば都道府県警に,その者を登録している都道府県警に,同一人物であるかということを確認するということになります。その場合には当然,同じ生年月日で同姓同名の者というのは想定されますので,その同姓同名者でないという識別をするには,もちろんこの4要件以外の情報を加味して都道府県は考えていくということになるので,念のため付け加えさせてください。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   そのほか,この10ページの(2)の辺りは,閲覧・謄写等の問題は,恐らくこれは何らかの制限ということが問題になってくるのだろうとは思いますけれども,この段階で何かお気付きの点があればということですが。   よろしいでしょうか。それでは,この辺りはかなり細かい制度の詰めということになると思いますので,今後,大枠が固まった後の課題とさせていただきたいと思います。   それでは,本日の資料では最後になりますけれども,11ページの「4 買受けの申出の条件として暴力団員に該当しない旨を誓約させる方法」ということで,この誓約をさせるかどうか,それを欠いた買受け申出は無効とするか,そして,虚偽の誓約をした者に対して何らかの制裁を科すかという辺りの議論ですが,これについても御議論,御自由に御意見を出していただければと思います。 ○谷幹事 この点につきましては,私どもの方から若干違和感があるというお話をさせていただいて,こういう整理を事務当局の方でされたのかなというふうに思っておりますけれども,その御努力は御努力として多とした上で,やはりなおかつ,これも少し技巧的で,納得できるかどうかという点では,余り納得できるものではないなという感じがしておりますので,そういう感触だけを申し上げたいと思います。   若干この説明でまだ違和感が残っているのは,やはり買受けの申出資格のうちの暴力団員に該当しないという点だけを殊更に取り上げて誓約をさせるという点です。部会資料8-1では,この誓約の中身としては二つの内容があるのだということで,事実の問題として暴力団員ではないということを証明するということと,それを真実間違いないということを誓約するという,その二つの部分に分けられるという,そういう御説明なのですけれども,いずれにしても,何らかの陳述について誓約させるというのは,この部分だけしか考えられていないわけでありまして,買受けの申出に当たって,ほかの部分については一切何らの誓約というものも考えられていない中で,やはりこの部分だけというのは,立て付けとして,そういう特別扱いをするということについての根拠が十分であるのか,ないのか。必ずしもそういうものがあるとは言えないのではないかという点で,やはり違和感は残っているという。そこだけは申し上げておきたいなというふうに思います。   あと,制裁なのですけれども,保証の不返還というふうな点とか検討されているところですけれども,仮にこれを設けるとしたら,本当にその誓約が虚偽なのかということを,これをそれこそ実質的に判断しないといけないということにもなるだろうと思いますし,その辺りをどういうふうに手続として構想されているのかどうか。それとの兼ね合いで,そこまでの,言わば厳しいサンクションを設けるということが合理化されるのかどうかという辺りが問題であると思いますので,もし何か具体的に,実質的に判断するための手続を構想されているのであれば,お伺いしたいなというふうに思うところでございます。 ○筒井幹事 本日,前回に続いてですけれども,問題提起いただいたところを踏まえて,更に検討する必要があるだろうと考えておりますが,とりわけ保証の不返還のところについて,十分な正当性に疑問がある。その理由として,虚偽の陳述であったのかどうか,いろいろなケースがあり得るのではないかという危惧があるのだといたしますと,保証の不返還については,故意に虚偽の陳述をしたといった要件を付加することによって正当化を図ることも検討課題になり得るだろうと思います。それが全体としてよいかどうかというのは,また更に議論があろうかと思いますが,例えばそういった方策というのも考え得るのではないかと思います。 ○今井委員 暴力団は入札できない,落札できないという制度になる以上,このような申出を一つの書類として,書類という言い方はよくないのかな,誓約させることはそれほど,目的と手間を考えますと,変なことではないと思いますし,少なくも民間では表明保証というのはもう一般的になっておりますので。民間は分かるけれども競売は駄目だという理屈があるのかどうかはちょっと分かりませんけれども,民間とも,少なくも一般的になっている,平仄を合わせる意味でも,別に違和感はないと私は思います。   その結果として無効とするという,この民事の関係は一応理解ができるわけですが,先ほど申し上げたとおり,この制度自体は,やはり抑止力というのは非常に大きいと思いますので,制度設計自体は余り重たくなく,使い勝手のいい法律にした方が結果的にはワークするというふうに個人的には想像しているわけなのですが。   ただ,この刑罰のところは,制裁がもし刑罰だとすれば,保護法益は何になるのかなという感じがしまして。虚偽をした誓約をしたということに対するペナルティーだとすると,先ほど申し上げた,要するに買受人から排除すればいいという,そこの目的に絞られればいいと私は個人的には思っていまして,この制度で,暴力団員がうそをついた,これはけしからんから刑罰で制裁をすべきだというところまでの必要性は,これも個人的な意見ですけれども,あるのかなという感じがして。かえって重たくなって,先ほど来出ております事実的な立証というところに入っていくと,更にいろいろ,この制度自体が,制度自体というのは競売自体の迅速性その他についての支障が出はしないか,そんなふうに思っているわけでございます。 ○佐成委員 今,今井委員の方から民間についてのお話がございました。私も民間におりますが,民事的な側面に関しては特に今井委員が御説明されたとおりでありまして,実際に新しい取引をするときなどには必ず誓約書を差し入れていただいております。特に長期的なものについてはとりわけそうしておりますけれども,そのような実務が一般化しているので,それほど違和感はないということだけ申し上げたいと思います。 ○阿多委員 民間の話が出ました。私法上の契約で誓約書を出す場合には,損害担保契約なり,その法的性質が何らかの効果を持つものですが,今回は違う。むしろ事実の陳述,宣誓という整理されて,通常,民間で使っているものとは意味が違うという形になるのだと思います。さはおいておきまして,実はこの整理で,私は一つ理解はしたところです。   この暴力団排除については,制度の作り方,一つは一般予防的な観点を考えると,先ほども出ていましたけれども,仮に該当者にすれば,これを出すことによってその証拠が残って,私自身は後の刑事による対応も実は肯定の意見を述べようと思っているから,そういう意味では,暴力団関係者が手続参加をするというのは,入り口の段階でもう諦めると。特に前科関係者とか執行猶予期間中の方とか,いろいろな方がいらっしゃると,そういう人はもう手続に入ってこないという意味では,排除の効果はかなり大きいのではないかというふうに思っています。制度として,個別の裁判での排除という以外に,そもそも手続に入ってこないということでは,この誓約書は意味があるというふうに思っています。   あと,保証の不返還ですが,谷幹事がおっしゃって,それで筒井幹事の方から,要件のところで御説明がありましたけれども,私自身が思っている疑問は,実際にこれを争って,多分没収手続があって,それについての不服申立てで裁判になったときに,警察の該当回答及びそれの裏付けの実資料があり,それとの関係で当たるのだと。   ただ,それ以外にどれだけ本当に証拠が集まってできるのかなと。特に「元」が入るような場合だと,期間の問題などが出てきて,実体要件だけではなくて,実際の裁判になったときに,どこまで何を証拠に使って争っていくのかなというのが,少しイメージが浮かばないのかなと思っていまして。通常の不納付の没収の場合は非常に形式的で,それを争うのはなかなか場面として考えられないですが,ここではかなり暴力団員等を含めての実体要件の該当性を争うという形になると,手続の,そこでの裁判手続というのが,今まで考えていた没収の裁判手続と違うのではないかと。証拠が違うということだけなのかもしれませんが。そういう点も含めて,ちょっとどこまでの制度として作り込むのかなというのは,保証の不返還については気にしています。   刑事については,先ほど申し上げたとおり,予防的効果を考えると,裏付けが何かないと保証だけでは意味がないので,賛成というふうに述べたいと思います。 ○道垣内委員 これは,ある人が「私は暴力団ではない」というふうにチェックをして,手続が進みそうになったのだけれども,照会によって暴力団員であるということになって,それで暴力団員であることが分かったということでしょうかね。その場合だけを考えると,確かに保証の没収というのはあり得るのかなと思うのですが,債務者からの執行抗告を制限するというときに,裁判所が警察の協力を得て見付けられなかったなどということは絶対あり得ないのだということになりますと,そもそもこの執行抗告なんて必要あるわけないという話になるわけですが,一応制限するというのは,上手の手から水が漏れることがあり得るというのを何か前提にしているような気がするのですね。   しかるに,では,暴力団員ではありませんというふうなところをチェックして,しかし,すり抜けて競落をしたと,買受人になった。このときに保証金は没収されないのですね。だから,何かそこまでいけばラッキーだが,その事前に見付かると没収になる。何かどこか変なのではないかなという気がするのですが,変ではないのですかね。ちょっとよくその辺は分からないですが,そういうふうなすり抜けるような場合を考える必要はないのだというふうなことを言えば,もちろんそれはそれでもよろしゅうございますけれども,そうすると,もう濫用的執行抗告への対策などというふうなことの説明をもう少し変える必要があるかもしれない。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。そうですね,そこの部分を更に考えていただかないといけないところであろうかとは思います。 ○中原委員 銀行の預金規定や融資の基本契約書である銀行取引約定書には,いわゆる暴力団排除条項が定められています。暴力団排除条項は,取引を制限する抑止的効果が大変大きいだろうと思います。私どもの銀行の事案ではありませんが,暴力団員が暴力団員でないことを確約,表明して預金口座を開設し,通帳とキャッシュカードを入手した事案で,行為者は詐欺罪に問われています。銀行取引約定書では,約定違反として貸付金について期限の利益を喪失させることができます。このような点を考えれば,暴力団員ではないという表明保証をしてもらうことは,入札手続の入り口で排除するという意味での抑止力があると思います。 ○青木幹事 保証の不返還については以前発言をさせていただいたのですけれども,解約手付にこだわるつもりはなくて,御提案のように虚偽の契約に対する制裁という性質をも併存させるということについては,特に異存はありません。   それから,部会資料8-1の13ページの(注2)については,御説明,御教示くださいまして,ありがとうございます。   その上で,道垣内委員がおっしゃったことともひょっとすると関連するのかもしれないのですが,保証が返還されない場合に,その保証金をどうするのかということについては,現行の代金不納付の場合と同じように配当に充てていくというふうに考えるのか,あるいは,もうそれとは別のもので国庫に納めるというふうに考えるのか,どのように考えるのか。今後の検討事項なのかもしれませんが,もしどちらかの考えをもう既に想定されているのであれば,御教示いただければと思います。 ○筒井幹事 十分な検討をしたわけではないですが,代金不納付の場合の取扱いと同じく,配当原資に回すということを念頭に考えておりました。その上で何かありましたら,御指摘いただければと思います。 ○青木幹事 先ほど道垣内委員がおっしゃったことと似ているのですけれども,売却不許可決定の後に強制執行の申立てが取り下げられると,現行法上の代金不納付の場合は,結局,保証は返還されるのではないかと思いますが,この場合で保証金が暴力団員のところに返還されるというのは,違和感があると考えております。 ○阿多委員 この保証のデステアは,私は単純に没収かと思っていたのですが,配当原資になると。そうなりますと,刑事罰の立て付け,直接つながらないのだとは思いますけれども,先ほど中原委員から,例の最高裁の詐欺の事件の,いわゆる財産犯的な構成なのか,ここで上がっています強制執行関係売却妨害罪というか,司法手続に対する罪なのかという問題があるかと思うのですが,基本的には,先ほど言いましたように,一般予防的な意図をもって制度として立てて,それによって執行手続の暴力団排除という目的を実現するのであれば司法手続に対する罪で,財産犯という構成ではないし,いわんや,それが配当に結び付くのか,財産犯と結び付くとは,論理的に結び付くとかは思わないのですけれども,やはり没収なのではないかなというふうに思ってこれを読んでいたということだけ併せて。 ○山本(和)部会長 没収というのは,要するに国庫に帰属するという意味ですか。 ○阿多委員 国庫に帰属すると思っていました。 ○山本(和)部会長 分かりました。   ほかにはいかがでしょうか。   御意見は,この限りで出尽くしたと考えてよろしいでしょうか。 ○山本(克)委員 没収と考えるには,手続がお粗末に過ぎるのではないですかね。それだけの不利益処分を科すのですから,やはり従来の枠組みの中で整理するということにならざるを得ないのかなという気がしますけれども,私の第一感は。 ○山本(和)部会長 それは,没収するのか代金を配当に充てるのかによって,違ってくるのではないかということですか。 ○山本(克)委員 いや,従来のものと一緒だと。不返還であって没収ではないという立て付けとなるのではないかと思います。 ○山本(和)部会長 分かりました。   いずれにしても,皆様から出ましたが,その手続をどうするのかというのはかなり慎重に考えていかなければならないところかと思いますが,この段階ではこの程度でよろしいですか。   ありがとうございます。   順調に御審議を進めていただいたことに感謝したいと思います。ただ,次回は資料8-2ということで,暴力団員本人以外の方,法人あるいは元暴力団員等についての御審議を頂くということで,本日の点も,先ほど来,阿多委員などから御指摘があるように,暴力団員それ自体以外に対象を広げる場合に,同じような立て付けでいいのかどうかという問題がまた別途出てくるのだろうというふうには思いますけれども,取りあえず今日のところは御意見を頂戴できたということにさせていただきたいと思います。   それでは,次回の議事日程等につきまして,事務当局の方から御説明をお願いいたします。 ○筒井幹事 次回は,6月30日金曜日,午後1時半から午後5時半まで,場所は本日と同じ法務省20階,第一会議室でございます。   次回に予定しております議題ですけれども,ただいま部会長から御紹介がありましたように,暴力団員による買受け防止のうちの暴力団員以外の者を対象とする規律,本来であれば本日資料を御用意すべきであった点について,次回までに御用意して,御審議いただきたいと考えております。   それ以外に,この部会で検討する事項として,諮問事項で明記された主要の三つのテーマ以外のテーマとして,一巡目の際に債権執行事件の終了をめぐる規律の見直しについて御議論いただきました。この点についての二巡目の検討を予定しております。また,それ以外に,この部会で検討すべきテーマとして御提案いただいているものの取扱いについても,何らかの形で俎上にのせるべく,検討してみたいと考えております。よろしくお願いいたします。   それから,今後の会議日程のことと関わりますけれども,次回6月30日は二巡目の検討の最後の会議に当てるといたしまして,その上で,その次ですけれども,7月21日には,これまでの議論を踏まえて,中間試案の取りまとめのためのたたき台を御提示して,一度御議論いただきたいと考えております。その場合に,そこでの御議論次第ではありますが,その次の機会,具体的には9月8日の会議を想定しておりますけれども,この日に中間試案の取りまとめを目指す方向というのを現時点ではイメージしているところです。その方向になるかどうかは,7月21日にまずは御議論いただいた上で,御相談したいと考えております。   次回6月30日の会議は先ほど申しましたような二巡目の検討の最後とし,7月21日の会議で中間試案のたたき台を御提示する,そして,その議論の状況次第ではありますが,9月8日の会議で中間試案の取りまとめを目指す,こういったイメージで進めていきたいと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,これにて法制審議会民事執行法部会第8回会議を閉会させていただきます。熱心な御審議を頂きまして,ありがとうございました。 -了-