法制審議会 民事執行法部会 第5回会議 議事録 第1 日 時  平成29年3月10日(金)自 午後1時29分                      至 午後5時16分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民事執行法制の見直しについて 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○山本(和)部会長 皆様おそろいのようでありますので,法制審議会民事執行法部会第5回会議を開会いたします。   本日も御多忙の中御出席いただきまして,誠にありがとうございます。      (新任幹事等の自己紹介につき省略) ○山本(和)部会長 本日は山田文幹事が御欠席と伺っております。   本日の審議に入ります前に配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 本日の会議用の事前送付資料として部会資料5を送付させていただいております。また,本日は前回の会議の積み残し部分を御審議いただくために,前回配布させていただきました部会資料4も併せて使わせていただこうと思います。   それから,本日の席上配布資料ですけれども,日弁連の「子の引渡しの強制執行に関する規律の明確化に関する意見書」,同じく日弁連の「財産開示制度の改正等民事執行制度の強化に伴う債務者の最低生活保障のための差押禁止債権制度の見直しに関する提言」,以上2通の意見書を阿多委員から御提供いただいております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。なお,配布資料のうち阿多委員御提供の各資料につきましては後ほど関係する箇所で御紹介をしていただくことにしたいと思います。   それでは,本日の審議に入りたいと思います。本日は,今,御紹介がありましたように,前回会議で積み残しとなった部会資料4「子の引渡しの強制執行に関する規律の明確化に関する検討」のうち,第2の2以降の部分と,新たに配布された部会資料5「債権執行事件の終了をめぐる規律の見直しに関する検討」について御審議を頂く予定であります。   まず部会資料4でありますが,前回の会議では,「第2 規律の具体的な在り方」のうち,部会資料4の6ページの上の方にあります,「2 直接的な強制執行に関する規律の在り方」,これは(1)から(3)までまとめて御議論いただきましたが,その途中で時間切れになりましたので,今回はその続きと「3 子の年齢等による制限」以降の部分について御議論を頂きたいと思います。   議論に先立ちまして,事務当局の方から資料の御説明をお願いいたします。 ○筒井幹事 部会資料4の6ページ,「2 直接的な強制執行に関する規律の在り方」については,前回,資料の簡単な御紹介をして御議論を始めていただいたところです。重ねての資料の説明は省略したいと思いますけれども,その「(1)直接的な強制執行における執行官の権限」のところでは,債務者に対する説得が執行官の任務に含まれることなどを明記するという方向について大方異論はなかったように受け止めております。その上で,こういった説得といった規定が入るとすればそれは任意の履行を促すという意味で,その一つ前の論点として取り上げておりました間接強制を前置するかどうかという議論とも関連してくるのではないかといった御指摘があったと思います。   そして,「(2)いわゆる同時存在の原則」のところでは,こういった要件の背景となっている考え方について積極的に評価する御意見がある一方で,このルールの存在が子の引渡しを実現する上での現実的な妨げとなっている場面も紹介され,こういった要件を設けるべきではないといった御意見もあり,あるいは例外を設ける,柔軟に考えていくべきであるといった方向の御意見もあったように思います。   そして,「(3) 執行場所」のところにつきましても,債務者の住居その他債務者の占有する場所という原則的な規律については,もう少し柔軟に規律を考えていった方がよいといったような御議論があったところかと思います。もっとも,(3)の執行場所に関しましては,ハーグ条約実施法でも占有者の同意といった要件をかけた上で例外も認められておりますが,その点にまで具体的に言及された御議論には必ずしもなっていなかったように思いますので,そういった点なども含めて更に御議論いただければと思います。   部会資料の3以降について,今回新たに御審議いただきたいと思いますけれども,その「3 子の年齢等による制限」のところは,ハーグ条約実施法においては,子が16歳に達していないという要件が設けられております。この要件そのものは条約の明文規定を踏まえたものですので,今回の規律を考えるに当たって必ずしも同じにする必然性はないわけですけれども,子の年齢ないしそれに類するような一定の要件を設けるかどうかといったことは,議論の対象になり得るのではないかと思います。   そして,部会資料9ページの「4 専門家の関与」のところは,子を対象とする手続という特質から,やはり専門家の関与を求めていく必要がある場面もあるのではないか,という指摘があるところでございます。そういった児童心理などに関する専門的知見を有する方の関与に関して,その必要性,あるいは現在の実務における実情などを御紹介いただきながら,そういった具体的な規定を設けることが必要なのかどうかといった辺りを御議論いただきたいと思います。   そして,最後に「5 執行機関」のところでございますけれども,手続を構想するに当たって,執行機関を執行裁判所とするのか執行官とするのか,論理的には二つの選択肢があるわけでございまして,これまで御議論いただいたところでは,今回の子の引渡しの強制執行を直接強制と見るのか代替執行と見るのかによっても執行機関についての考え方は分かれてくる可能性があるわけでございますけれども,ここまで具体的な規律の在り方について御議論いただいてきたところを踏まえて,執行機関をどのように考えるべきかといったことがここで御議論いただきたい点でございます。   部会資料の説明は以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,順次御意見をお伺いしたいと思いますが,先ほど申しましたように阿多委員から子の引渡しの強制執行に関する資料の御提供があります。同時存在の原則あるいは執行場所とも関わる部分があろうかと思いますので,この資料について補足的な御説明があればお願いしたいと思います。 ○阿多委員 少し時間を頂いて資料について説明をしたいと思います。   今回の民事執行法改正のテーマとしては3点挙がっておりまして,いわゆる財産開示及び第三者からの情報取得,更には暴力団員の競売手続への関与の排除,そしてこの子の引渡しの3点ですが,前二者については2013年6月21日付けで実は弁護士会の方として意見を公表しておりました。この最後の子の引渡しに関しては弁護士会としての意見を取りまとめて公表しているものがなかったわけですが,執行法の改正の部会設置に合わせて弁護士会の中でも議論をして,対外的に公表する意見を取りまとめましたので,それが2月17日に公表させていただいておりまして,今日この場で配布,御紹介という形の機会を頂いたということです。   第1の意見の趣旨というところでは,意見を3点挙げさせていただいております。今回のキーワードになっております間接強制,1ですが,間接強制の前置については一律に必要的とすべきではない。2のところは,いわゆる同時存在原則については,事案に応じて柔軟に例外を認める。3の執行場所についても,事案に応じて柔軟に例外を認めるというような形での立法が望ましいという形の意見でございます。   そのような意見に至る理由ですが,1のところでは,3行目のところで,幾つかの重要な論点についていわゆるハーグ条約実施法の規律に倣う形での制度の整備という考え方が示されています。そういう議論の立て方があるわけですけれども,この3点については同法と異なる規律を設けるべきであろう。今日その他の論点も出てまいりますが,少なくともこの3点についてはそのように考えています。   そのように考える理由ですが,2ページ目の第2パラグラフ,8行目でございます。執行の場面での,従前から本案の場面と執行の場面の子の利益,福祉というところの考え方が議論になっておりましたけれども,執行の場面での子の引渡しの実現を図るということを前提に,高葛藤状態や心身の危険が発生する可能性の高い状況に子供を置くことを避けるという方策はいかにあるべきか,そういう観点からこの執行制度を考えていくべきではないか,そこが担保されて債務者の任意の履行の確保ということにもつながるのではないかということで,今回の問題を整理してあります。   そして,間接強制の前置ということについては,ここで示した高葛藤状態や心身の危険ということから考えて,間接強制を一律に必要とする必要はないのではないかという考え方を述べ,同時存在の原則については,4ページの3行目のところで,例外としては「債務者のいる場での執行が相当困難であることが予測される場合」を挙げさせていただいているわけですが,逆にそうすることがここで同時存在を要求することが子の福祉を害するような執行につながるおそれがあるというふうに考え,同時存在の原則を適用すべきではなく,例外を認めるべきであるという意見を述べさせていただいています。   執行場所についてもほぼ同じような視点で,4と書いているところの第3パラグラフの「したがって」というところになるわけですが,執行場所に関しても同時存在の原則と同じように,事案に応じて柔軟に対応できる法制度及び運用が望ましいというふうに考えています。   なお,「債務者の住所その他債務者の占有する場所」以外の場所での執行については,事案に応じて子の安全やプライバシーの侵害に配慮しつつ,その当否及び方法を検討できる法制度及び運用が必要であるという形で意見を述べさせていただいております。そういう意味でも例外については柔軟に検討いただけたらということです。   そして,この意見書の趣旨のところでは3点しか挙げていませんが,第4のところについて少し補足をさせていただきたいと思います。「その他の検討事項」という形で,第1回のフリートーキングのときにもお話をさせていただきましたが,子の所在の調査に関する規定も設けるべきだというようなものです。本来ですと第1の意見の趣旨に入れるべきだったのかもしれませんが,もともとこれがハーグ条約実施法との関係での意見と整理をしているものですからそのような特徴になっていますが,第3のところで付加していますのは第2パラグラフのところで,子の所在が不明であれば,そもそも執行の申立てすらできないが,子の所在の調査に当たってはプライバシー性が高いため,現状弁護士法23条の2に基づく照会では回答を得ることができないケースが多く,裁判所の関与する手続が不可欠であると考えます。   そこで,当連合会としては,債務名義がある場合には強制執行の申立ての前後を問わず,申立て前,申立て後と分ける必要があるかとは思いますけれども,前後を問わず,例えば調査嘱託と類似の制度等を導入して子の所在の調査を嘱託することができるような制度整備についても検討していただきたいという形のものも挙げております。これも第1回に少しお話はさせていただきましたけれども,その他の検討事項として御検討いただけたらと思います。   簡単ですが,以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   事務当局からもし何かあればお願いします。 ○筒井幹事 具体的な様々な御提言をいただきまして,ありがとうございます。   部会資料では取り上げていないような,とりわけ最後に言及された子の所在の調査に関する点などにつきましては,次の2巡目の検討の際にどういう受け止めをするのかといったことも含めて,まずは私どもの方で考えてみたいと思います。   それから,やはりハーグ条約実施法との関係ということが繰り返し話題になっておりますので,改めてその点についても言及しておきたいと思います。前回の会議でも話題になり,特に谷幹事から,まずはあるべき手続がどうなのかを議論すべきだという問題提起があったと思いますけれども,そのこと自体は,私ども事務当局としても全く異存はございません。この会議におきましては,子の引渡しの規律としてどのような規律がよいのかということについて,十分に御議論いただきたいと考えております。   その上でですけれども,やはり同様の場面を取り扱う規律としてハーグ条約実施法がごく最近に制定され,運用が開始されたところでございまして,そのハーグ条約実施法の制定に当たっては法制審議会の審議でも様々な議論が行われ,そこでの大方の賛同を得て成案が取りまとめられ,それが更に国会において議論されて現在のハーグ条約実施法として制定されております。ですので,同じような場面を取り扱う規律について,ハーグ条約実施法がどのような規律を置いているのかということについては,常に参照し,対比しながら議論することが必要であろう,この点は私どもが繰り返し申し上げているところでございます。そして,その際にハーグ条約実施法と異なる規律を採るべきであるという結論になるとすれば,それはなぜハーグ条約実施法とは異なるのかといった点についての積極的な理由付けを十分御議論いただく,それを御提示いただくことが,私どもとしても今後の立案を進めていく上で非常に重要な意味を持ってくるであろうと考えております。前回の御議論でも,あるべき規律を考えた上でその後にハーグ条約との対比を検討すればよいという御指摘があったと思いますけれども,その点について私どもは全く異存はないということを繰り返し申し上げておきたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,部会資料4の6ページ,「2 直接的な強制執行に関する規律の在り方」,(1)から(3)の部分ですが,今の阿多委員あるいは筒井幹事の御説明等も含めまして,また前回ある程度議論はいただいたところかと思いますけれども,引き続きの御議論をお願いしたいと思います。どなたからでも結構ですので,御自由に御発言いただければと思います。 ○谷幹事 そうしましたら,ハーグ条約実施法との違いという観点,あるいは違うのかどうかという観点,要するにハーグ条約実施法と違った規律を設けるということについての少し私の意見を申し上げたいと思います。   先ほど阿多委員の方から御説明をさせていただきました日弁連の意見書では,同時存在の原則については柔軟に考えるべきだということで,その理由については3ページ目,3の(1)のところから書かれているところであります。ここで書いておりますのは,端的に言えばハーグ条約実施法の規律では執行が十分に実現されていないという問題があるのではないかという現状認識をベースに書いております。つまり,ハーグ条約実施法の規律自体が執行という観点から見た場合にはそれ自体が問題があるのだ,というのがこの意見書の基本的な認識だろうというふうに考えております。そういう意味で言いますと,そもそもそのハーグ条約実施法の規律を参考にするということがいいのかどうかという点についてはよくないだろうというのがこの意見書の基本的な立場なのだろうと思います。   それはそうとして,ただやはり違いというものがあるのかどうかというふうに考えていますと,違いというものは説明できるだろうと思っておりまして,それは国内の引渡しの場合には,監護者の指定なりあるいは親権者の指定なりが行われて,それを前提に引渡しが命じられるということになる場合がほとんどだろうというふうに思いますが,そういう意味では,誰の下で監護をされるのが子供にとっての利益なのかということについての判断はなされているという意味で,今,現に監護している者が同時に存在するところで引渡しをしなければならないという必要性というのはないのではないか。つまり,債権者の方が適切な監護者ということであれば,もう直ちに債務者がいないところであっても引き渡すということで特段の問題はないのではないか。   これに対してハーグ条約が想定する事案の場合には,どちらが監護者として適切かというようなことについては,全く判断をされていない前提でございまして,要するに常居所地国へ戻して,そこで子供の監護についての審理を行うという前提で常居所地国へ戻すということだけですので,その点にやはり大きな違いがあるというふうに思っております。   それから,執行場所についても日弁連の意見書では4ページ目のところに書いてあるとおりでありますけれども,これも基本的には現行のハーグ条約実施法の規律であれば十分に執行が実現されていないという現状についての問題意識を基に,現行のハーグ条約実施法の規律自体が問題であると考えているところでございます。   これについて,ではハーグ事案の場合と国内の引渡しと何か違いがあるのかということですけれども,あえて違いがあるということで言えば,ハーグ条約実施法の場合には解放実施の場合には解放実施者が指定をされて解放実施者が解放実施を行うということであるのに対して,国内の場合には先ほど申し上げたように,監護するのが適切であるというふうに実体上の判断をされた債務者が引渡しを受けるという点でやはり違いがあって,そういう意味でやはり執行場所についても子の安全とかプライバシーというふうなことを考えた場合には,具体的な場面ではやはり違いが出てくるのではないのかなというふうに思っているところでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。今の御意見についての確認,あるいはこの日弁連の意見書についての確認になるかもしれませんが,同時存在についてはハーグ条約実施法では確かに全く例外がないわけですけれども,執行場所はハーグ条約実施法140条1項で「債務者の住居その他債務者占有する場所において」ということがまず書いてあって,2項で執行官は一定の要素を考慮して「相当と認めるとき」は,先ほども説明がありましたように,占有する者の同意を得て債務者の住居等以外の場所でも債務者による子の監護を解くために必要な行為をすることができるという規律になっているわけです。今の御意見は,この2項の要件を変えるということなのか,それとも何か今のハーグ条約実施法の運用は硬直的なので運用を変えるということなのか,その辺りについて付言していただけますか。 ○谷幹事 私の意見としましては,執行場所の制限を法律の規定で認める必要はないだろうというふうに考えております。ただ,この日弁連の意見書がどうなのかというのは必ずしも明確ではないところがございまして,理由付けと結論がピッタリきているのかどうかという問題もあるのですが,そこは,両方あると考えているのではないのかなというふうに思います。 ○山本(和)部会長 執行場所の制限を設ける必要がないという御意見の御趣旨は,他者が占有する場所でも占有者の同意を得なくてもできるということも含んでいるのですか。 ○谷幹事 そこはですね,それは正に運用の問題と言いますか,法律上そういう規定を設ける必要はないのではないか。それについてどうなのかというのは具体的状況の下で占有の程度とかそういうものもあるでしょうから,それは占有の侵害というものが余り大きいようであれば別の実体法的な観点から問題が生じるでしょうしという解決をするのでよいのではないかということでございます。 ○山本(和)部会長 分かりました。 ○阿多委員 日弁連の意見を私の名前で紹介させていただいて,また日弁連から来ている委員によってはより強い意見があり得るということは御承知いただいた上で,今般は私の方で内容御紹介という形にさせていただきました。ただ,前回の議論もそうですが,子の引渡しが例えば道路上でできるかどうかについては委員・幹事間でも意見が分かれていた状況でございますので,そういう前提で御理解いただけたらと思います。谷幹事の意見を私正面切って反対するわけではないのですが,少なくとも決議に基づいて公表された意見として御紹介をさせていただきました。 ○山本(和)部会長 分かりました。 ○今井委員 ハーグ条約実施法が想定する事案と国内の執行と違うのは,国際間と国内ということのほかに,一番大きいのは谷幹事から指摘がありましたとおり,実体法上の判断がハーグ条約実施法の場合には親権監護権の帰属についてされていないと,これは資料にあるとおりで,そういうことがやはり一番大きいのかなと思いますし。今回はもうその実体的な判断はなされた上で,その判断に従った正に執行をどういうふうにするのかというので,やはり私の感覚では全然次元が違うと。暫定的に引き渡すというのと,それが実体的判断が決着した上でその判断のとおりにやるというのは意味合いが全然違うのだろうなというふうに思います。   そういう意味では前回も申し上げ,また佐成委員からも指摘ありましたとおり,子の福祉というテーマがあるわけですけれども,子の福祉は実体的判断で十分なされて,その結果において子の福祉にとってどういうふうにいいのかが実体的判断だと思うのですね。その次の執行は,私は極端に言うと福祉の問題ではないというふうに思います。福祉の点はもう決着がついているわけですから,あとはそれに沿った形で現実を実現する,正に執行のミッションで。それを執行機関として執行官がやるのか裁判所がやるのかという問題はあるにせよ,やはりそこは前回申し上げたとおり,やはり子がその執行という場面において,子ももちろん人間ですし,また乳飲み子から結構大人に近い方までいるわけで。そういう意味でその子が,前回の佐成委員の事例もありましたけれども,大きくなっても忘れられないというようなことがあるわけですから,そういうことを少しでも和らげる,そういうことができるかどうか。それがやはりこの執行というミッションと執行の在り方における子供に対する影響,これをどう調和させるかというのがこのテーマだろうと思いますので,ハーグ条約実施法でのテーマとは大分違うのかなという気がします。   個人的に私は余りこの種の事件について経験がなくて申し上げて恐縮ですけれども,やはり執行一般がそうであるように,一番大事なのは迅速性かなと,そういうことで早く目的を達する。とはいえ,子供のことを考えるとそこにおける少しでも和らげるというようなことがどうやってできるのか,そのためにそれが間接強制がいいのかどうか,前置がいいのかどうか,執行場所はどういうところがいいのか,同時存在がいいのかというところであって,一律に決められるものではないというのが日弁連の意見だというふうに私は理解してございます。   そういう意味で,ケースバイケース,年齢やどういう事件,そしてどういうふうな案件によってその場面において柔軟に適用できる,そういう規律がどこまでできるのか,これがこの改正のミッションであるように思っております。ですから,ハーグ条約実施法と一線を画して考えられていいのではないかというのが私の意見です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。 ○松下委員 今の点ちょっとお尋ねしたいことがあります。この部会で債務名義としてどういうものが多いかという御紹介があったかと記憶しております。親権者や監護者の指定変更を本案とする審判前の保全処分が債務名義になることが6割ぐらいあるという話を伺いました。それとの関係で,国内執行の場面では誰が適切な監護者か,誰が債権者であるべきかについては裁判で判断されているという御説明だったと思います。私がお尋ねしたいのは,保全処分ではあっても,一種の断行の仮処分なので相当本案に近い判断がされている,あるいはそうではないとしても本案で判断が覆ることはないという前提で議論していいのかという点について,実情が分かれば教えていただきたいと思います。 ○山本(和)部会長 これは裁判所の方で分かる範囲でお答えいただけますか。 ○石井幹事 保全処分と本案とで結論がどの程度異なり得るかということについては,統計等は取得しておりませんのでそれは分かりかねます。関連することとして,前回の部会で谷幹事から保全処分の申出があった場合は同時に本案についても判断されることが多いのではないかという御指摘があって,私は必ずしもそうではないのではないかと申し上げたところだったのですが,前回以降に調べまして,これについても統計を有しておるわけではないのですけれども,平成28年に全国の家庭裁判所の本庁に係属した事件で,子の引渡しの保全処分が認められた事件を対象にして調査を行いまして,確認できた範囲では,保全処分と本案が同時あるいは1週間程度近接した時期という形でほぼ同時に判断されている事件というのは4割強でございまして,その他の6割弱については保全の判断が先行して,その後,しかるべき時期に本案の判断がされているという状況でございました。   一般論として申し上げれば,同時に判断されるという場合には,本案で結論が変更された場合,子に対する引渡しの執行が何度もされるといったことを避けるといった配慮がされていると思いますけれども,他方,保全の判断がされずに事実上監護が継続してしまってそれを既成事実化してしまうといった事態を避けるといったことへの配慮が昨今強く求められるようになってきているということや,あるいは保全の申立てがされた事件における監護が違法性の高い対応での連れ去りによって開始されたといった場合には,一定の法秩序維持といった観点からの配慮が求められるといったことがございますので,そういったことも勘案して保全の判断を先行する事件の割合が多くなっているのかなと考えているところです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。いかがでしょうか,松下委員。少なくとも4割の事件では本案とほぼ同時ということですから,これは保全でも相当実質的な審理がされていて,残りの6割は保全の方が先行しているということで,そこでどの程度監護者が適切かということが審理されているかということは必ずしも明らかではないということかと思います。 ○松下委員 なかなか統計的には出てきにくいところなので,要は実感をお伺いしたかったのです。 ○今井委員 一般的には断行するほどの保全処分や仮処分の場合には,私の実務経験で言えばもう結論は明らかの蓋然性が高いからこそ断行とはいえ仮処分や保全処分ですから,本案が確定したわけではないのですけれども。それよりもそういう結論を待っていては更にいろいろな意味では損害が膨れるので,暫定的に恐らく覆らないであろう結論に向かって保全処分や仮処分を出す,こういうのが私の感覚なのですけれどもね。そのとおりの統計になっているかどうかというのはまた御調査いただければなという感じがいたします。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ハーグ条約実施法との関係についての総論的な話の部分,これは非常に重要な問題ですが,この具体的な論点としてのこの同時存在の原則あるいは執行場所の問題について,更に御意見があればお出しいただければと思います。 ○阿多委員 違う論点というか,もう確認的な形になりますが。(1)のいわゆる執行官の権限についての明文化ですけれども,この点はむしろ今までですと実務の運用に委ねられている部分についてこういう形でという明文化すべきことは望ましいというふうに考えている。先般来の債務者に対する説得が執行官の権限になるだとかああいう部分については導入すべきだと思います。   このパラグラフでは最後にこのほかというところで,ハーグ条約実施法では債務者による子の監護を執行官が解くために必要な行為として返還実施者を子や債務者と面会させること,その次に債務者の住居等に返還実施者を立ち入らせることができる旨が書かれています。私が理解する限りにおいては,現在の実務については債務者側の了解がない限り立会というのは,むしろ少し離れたところで待機をして執行官等が関与して引渡しを受けて速やかに退去するという形がされていますが,実際の状況として顔を合わせて任意に引渡しができるような状況であるならばこのような方法もあり得ると思いますので,それも含めて明文化は望ましいだろうというふうに考えますので,(1)については一応コメントをさせていただきます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ハーグ条約実施法では返還実施者ということになっていますけれども,国内の強制執行では債権者ということになるのだろうと思います。債権者を子や債務者と面会させたり,あるいは債務者の住居等の執行場所に立ち入らせることができるというような規律を置くことに賛成であるという御意見であったかと思います。   ほかにこの「2 直接的な強制執行に関する規律の在り方」の部分についてはいかがでしょうか。 ○勅使川原幹事 同じく(1)の執行官の権限のところですけれども。ここの2行目で,「できる限り債務者の任意の履行を促すことが望ましい」というふうにありますけれども,ここは間接強制の際の任意の履行を促すというのとはちょっと場面が違うように思っていまして,実際に直接的な強制執行する場面において債務者が取り乱したりとかいう事柄が子の心身に不安や衝撃を与えるということを避けるということがここでの趣旨だろうと思いますので,平穏な監護実施なり平穏な実施協力を促すというためのいろいろなここにある措置については,やはりこれは国内法でも採るべきであろうということで,(1)については全てここに書かれていることに賛成したいというふうに考えます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   「(1) 直接的な強制執行における執行官の権限」についてはそれほどの御異論はないようですが。 ○谷幹事 異論というわけではないのですけれども,確認をさせていただきたい点がございまして。この点は研究会でも議論されたようなのですが,「子に対して威力を用いることはできない」というのがハーグ条約実施法の規律だと思うのです。具体的に問題となるような場面というのは,例えば子供が乳児であったりして自分で動けないような場合や歩けないような場合に,その子供を執行官が抱えて執行するというようなことがここに言う「威力」の行使に当たるのかどうか。もし当たるとすれば,それすらできないというのは,もちろん具体的な場面で子供に危険が生じるような執行は駄目だとしても,穏やかに抱きかかえて連れて行くということ自体も「威力」の行使に該当するので,できないということであれば,ちょっとそれは問題なのかなというふうに思いますので,その辺りの考え方,どう考えたらいいのか教えていただけたらなというふうに思います。 ○山本(和)部会長 これは成田幹事からお答えいただけますか。 ○成田幹事 この辺りちょっと実務の現状についてお話させていただきたいと思います。   子に対して「威力」を行使することは,やはり子の心身に有害な影響を及ぼすおそれがあるとして慎重に取扱いがされてきているところであります。もっとも,子に対して一切の有形力を行使しないというわけではありませんで,子の意思を制圧しない程度の有形力の行使は可能であるというふうに考えられて運用されております。例えば先ほどありましたとおり,自律的に意思表明をすることができない乳児を抱き上げたりですとか,抵抗又は拒絶をしていない子の手を引いたりすることなどはこれまでも行ってきたところであります。 ○谷幹事 そうすると,意思を制圧するかどうかというのが一つの大きなメルクマールになっているというふうに考えればよろしいということなのですね。結構です。 ○山本(和)部会長 ほかにございますか。 ○今井委員 執行官の権限で今ほど出た議論と関係するのですが。これは前から思っていたのですが,このハーグ条約実施法の方は説得が執行官の任務に含まれることは明記されているわけですけれども,さっき言ったことの延長でもあるのですけれども,執行官は正に執行する立場で,一般には債務名義の主文のところだけを見ながらそれをどうやってやろうかということで現場に臨むわけです。これはあらゆる執行についてですね。前回も触れて言いたかったことは,当然執行官も人間ですからより円滑にやるというための工夫は,そこには別に子の引渡しだけではなくて,いわゆる債務者が明渡し等における債務者などでもいるわけですけれども,ある程度は説得しますけれども,任意の明渡しを求めるまではミッションでありませんので,やはり主文に極めて忠実にやるということが執行官のミッションですので。ここの説得を執行官の任務にまで含めるというのは実務感覚から言えば,ハーグ条約実施法のときは私は関与していませんのでちょっと分かりませんけれども,やはり一般的な執行官のミッションから言うと,かなり異質なもの,それからかなりハードルの高いものを期待するのではないだろうかという感じがいたします。ましてや債務者に対する説得,説得する行為ということまでをマストにすることは別として,それによって円滑な執行までの目的を期待するということは一般的な我が国の執行実務とはかけ離れたところであるので,恐らく執行官としては戸惑われることが多いのではないだろうかと。最終的には主文をいかにより迅速にやると。現場ではいろいろ話をしますけれども,最後のときには断行するわけであります。   御存じのとおり,明渡しでは,最近は余りやっていないのでちょっと自信ありませんけれども,それでも任意の明渡しの方がいいというときに,催告執行という期日を作っています。いついつまでに明け渡さなければやりますよということです。あれも任意の明渡しを迫るものですけれども,任意の明渡しというものを催告執行という制度化しているわけですので,執行官に現場における円滑な執行,まして債務者を説得して任意に履行するというのは多分本来の役割から言うとそれは過剰な期待をする制度設計ではなかろうか,こんなふうに思うわけであります。そういう意味ではハーグ条約実施法と子の引渡し,本件とは参考にはなるけれども,別に考えていいのではないかと思っています。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○山本(克)委員 今の説得の点ですけれども,ハーグ条約実施法の場合にはハーグ条約の仕組み自体を債務者に理解していただくということが多分説得の中身に含まれていると思うのですね。つまり,これは単に元いた国に連れて行くだけで,そこでちゃんとした裁判でどちらが監護権者になるか決めてもらうのだと,だからこれで今生の別れではないというようなことをちゃんと説明するということが期待されているのではないかなと思うのですけれども,それ以外の説得の要素というのが今回審議している場合についてどれほどのものがあるのかというのがちょっとよく分からないので,その点事務局にでも補足をしていただければと思います。 ○山本(和)部会長 いかがでしょうか,事務当局。 ○筒井幹事 御指摘のような疑問があり得るところだと思いますので,それが今回の一般的な子の引渡しの強制執行においては同じ趣旨の規定を置く必然性がないという結論につながるのかどうかといった辺りは,是非御議論いただきたい点の一つというふうに受け止めておりました。 ○山本(和)部会長 前回も山本克己委員から恐らく同様の御質問があって,裁判所の方からは今のようなハーグ条約の趣旨等についても説明することが多いというような御説明があったかと思いますが,それ以外のことがこの説得において行われているということがあるのでしょうか。先ほど来の委員・幹事の御発言からは,やはり現実に任意に引き渡すことに向けての説得ということをイメージされている方も多いように思うのですけれども,実際の場で行われていることについて,もう少し御説明があればという感じがいたします。 ○太田委員 聞いたところの記憶なので,もし補足があればまたほかの方からしていただきたいと思うのですけれども,先ほどからのお話でこの説得がマストかどうかというのは,私,条文は権限を書いた規定だと思っていましたので,権限として説得ができるという規定を置いたとしても執行官が非常に職務に支障とか心理的抵抗まではないのかなと思っております。   実際,子の引渡しのときにはいろいろなことで難色を示される方がもちろんいらっしゃるので,その事案に応じてお話を聞くというのが基本であろうと思っていますが,例えば先ほどお話が出た,これで今生の別れで,もう一切会えないのですかみたいなことをやはり思っておられる方もいるというふうにも聞いています。そういうときには面会交流とかそういう内容の説明とか,あるいはそのことに関する手続の教示とか,そんなことも場合によってはするようなことがあったかなと思います。   執行官全体としては,やはりまずいろいろ抵抗というか難色を示される方にはお話を伺うという意味での説得は行っているところではないかと,この条文の説得かどうかというのはちょっと置いておいて,実務の実感としてはそうなのではないかというふうに思っております ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○小津関係官 今,発言があったことに補足させていただきますと,説得で実際に行われていることとしては,例えばハーグ条約実施法の事案であればその常居所地国,つまり返還先の国の法制度,その後,監護権を決めるに当たってどういうふうになるのかという御質問が債務者から来る場合もあり,外務省の職員などの助けを得てその点を御説明するという場面もあると思いますし,あるいはハーグ事案に限らず,子供を対象にする執行をしておりますので,子供の執行現場における心理状態を専門家のアドバイスも受けながら,今子供はこのようなことを考えていると思いますというふうに債務者に説明することによって履行を促すこともあろうかと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○山本(克)委員 物の引渡しの直接強制の場合に債務者が抵抗しても,それはやはりちゃんと決まったことだから抵抗するのはやめなさいという説得はされると思うのですね。ですから,あえて説得の規定を置くことの意味というのは,もう一つよく分からないという趣旨で前回から多分同じようなことを続けて言っているのだろうと思います。ですので,あえて説得の規定はいらないし,執行官の職務として,ちゃんと決まったことだからというお話等はされるのは当然のことなのだろうなという気がします。ですから,ハーグ条約実施法のときに説得ということをあえて職務に入れたのはハーグ条約の趣旨というのを十分理解していただいていないという現状があるということを前提としてのものだというふうに考えるべきではないかと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○柳川委員 法律とか仕組みについてはよく分かりませんが,ただ今「説得」について話されていますので,実際に子育てしている,娘や娘たちの周りの方の話を聞いての感想を述べます。子の引渡しの前の段階で十分に話合い,意見交換等を行った結果,債権者は相手方と決まり,子供を引き渡さなければならないことを分かっていても,実際には様々な家庭があり,親子関係があって,子の引渡しは一筋縄ではいかない,非常に難しいものだと思います。   法律の専門の方から見ますと,執行が決まっているのに今更何を言ってるのだということになると思うのですが,自分がよく考えて納得した上で子供を渡さないと,その後の生活にいろいろな影響を及ぼしますので,できるならば一定期間執行を行わないという方策はないものかと考えています。子供を渡すことに決まった親は,いつ執行が行われるかが分からない状況では非常に不安になります。また親の不安が子供にも影響するので,親子には分からない残された時間を無駄に過ごしてしまうことになります。例えば1週間後に引き渡すことが事前に分かっていれば,債務者の親は子供に最善のことを尽くすべく頑張りますし,親として子供の支度と言いますか,準備を整えてあげることもできます。そういうことができると,やることをやった,納得した,大勢の方が考えた結果これが子供にとってよいことなのだと自分自身が納得するように努力するとも思います。突然いつ子供を連れて行かれるか分からないという不安をなくす何らかの方法があればよいと思います。一般的に考えれば10日かそれぐらいあれば一応の準備ができるので,そんな長い時間は必要ないと思います。せめて10日なり何日かを有効に使えるように,母親に,父親に,引渡しの時期が分かっているという状況が整えられれば,債務者の納得の上で,多少なりとも落ち着いた状況で引渡しが進んでいくのではないか思います。時々孫を預かっている祖母としてはそんなふうに思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。今の御発言に関しては,先ほど今井委員が指摘されたように,建物の明渡しについて「明渡しの催告」という制度があって,次2週間後か1週間後か分かりませんが,もう一度来ますので,そのときは強制的にやります,その前に任意に明け渡してください,あるいは引っ越しとかの準備も整えてくださいというような制度が日本でも存在します。また,私の承知している限りでは,ハーグ条約について各国が国内で実施法を作っていますけれども,外国の実務においては,おっしゃるように,何週間後あるいは何か月後に子供を引き渡せというような債務名義をもともと作る例もあるというふうに伺っています。ですから,日本の現在の実体法,民法等を前提としたときに,そういうことができるかどうかというのは一つの問題ではあろうかと思います。ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○山本(克)委員 御指摘の点は「催告」というやり方でもできますし,前回出たこととは矛盾するかもしれませんが,間接強制を前置して,そこで2週間以内に渡しなさいというような形で裁判所が裁判することである程度実現できることではあると思います。ただ,子供は不動産ではありませんので,結局非常に遵法精神がある債務者を念頭に置いた場合にはそれでうまくいくのですが,そうではない人もたくさんいるのではないのかというのが恐らく間接強制前置に反対する人たちの考え方で,結局子供を別のところに移したり,自ら転居したりとかそういうようなことをすることを残念ながら保全処分で押さえることができないということが前提になっているので,非常に悩ましいところではあるのですが。確かにこのやり方だと,もう混乱してしまいますと,例えば子供があのおもちゃは絶対持っていきたいと思っているものを置いていってしまうということがあり得るわけですよね。その辺りを考えると非常に悩ましいなという気がするのですが,他方,やはり債務名義をとったのになぜそんなに時間がかかるのかという債権者側の心理というのもやはり考慮しないといけないところだと思います。   ですから,催告というのは余り仕組みとしてよくなくて,前回言ったことと矛盾しますが,せいぜい間接強制前置ぐらいで2週間という辺りが落としどころなのかもしれないですね。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○垣内幹事 すみません,ちょっと話題が戻ってしまうのですけれども,先ほど「説得」の内容について若干やり取りがあった関係で少し補足的にお教えいただきたいと思っていることがありまして。と申しますのは,ハーグ条約実施法の場合は,これは前回にも話題になったかと思いますけれども,債務の内容というのは常居所地国に行くということですので,その履行の対応として現在監護している者が,親が一緒について行っても別に構わないということかと思います。もちろん実際上はいろいろ障害はあり得ると思いますけれども,債務との関係そのものからはそれは排除されないと思われますので。そうしますと,監護を解くという形で強制執行が予定されているわけですけれども,その場での説得の内容としても場合によっては任意に履行するという場合に,一緒に例えば英国なら英国に帰る,行くということもあり得るというようなことも含めて説得ということが考えられているのか,それとも,そこでの説得はもっぱら監護を解くということを目的として,一旦あなたの監護は解きます,けれども,こういう趣旨ですからまた監護権はあなたのものになることもあるかもしれませんというようなことに限られているのか,その辺りについて少しもしお分かりになるところがあればお教えいただければと思います。 ○山本(和)部会長 これは裁判所の方からお答えいただけますか。 ○小津関係官 現場での話の中では今のような任意の履行についても言及するケースもあるのではないかと個人的には考えております。もちろんそれまで任意に履行されていないからこそ執行官が現場に臨場しているわけでありますから,話の大部分は今監護を解くことに向けられた説得ということになるのだろうとは思いますが,手続説明も兼ねて,あるいはハーグ条約の制度趣旨を説明する中では,もちろん子供を自分の手で帰国させることもできるということは説明しているのではないかと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○垣内幹事 ありがとうございます。仮にそういうこともあり得るのだとすると,特にハーグ条約実施法の場合はこの説得であるとか,あるいは同時存在の原則というのも非常に合理性があると申しますか,そういう任意履行の可能性も含めて説得をした上でそれが履行されるというのであれば債務者が同時存在していなければそういう形でも履行が不可能だということかと思いますので,そういう理解も一面ではあり得るのかなという感じがいたします。   そうなりますと,その点では国内のここで想定されているような引渡執行の場合はやや条件が異なってくるということなので,その点で若干異なる規律という考え方もあるいはあり得るのかもしれないというのが一方でするところです。   また違う話になるのですけれども,先ほど松下委員とのやり取りで,保全処分があるけれどもそれについてはそのハーグと国内の区別という観点から見て既に監護権の所在は決まっているというところがどこまで強く言えるのかということが話題になっておりましたけれども。この辺りは私まだ経験がなく非常に悩ましく感じているのですが,一方で監護権の所在が確定的に決まっている,終局的に決まっているということであればそれを迅速に実現すべきだという論理はありそうな気はするところでありますが,他方で保全処分の場合は,それは終局的には決まっていないけれども,しかし緊急にやらなければいけないからこそ保全処分をしているのだという側面もあり,それはどちらの方がより強力な手段を用いても結果を実現すべきであるのかというと,なかなかどちらとも言い難いところがあるのかなという感じもしております。   そこで見たときに,ハーグ条約実施法の方は,これも前回も出ていたお話かと思いますが,迅速でなくてもよいのかというと,これも一種の国家間の占有移転のようなことで,まずは本案はともかくとして場所としてはここに戻して,そこできっちり決着をつけましょうということですので,迅速にまずはそこに戻すというような要請はないわけではないと思われます。そう考えますと,弁護士会の委員の先生方から御指摘のあった監護権の所在が決まっているからという説明が,どの程度まで,どういう形で有効な議論として機能するのかというところについて,まだ私自身はなお難しい部分はあるように感じておりますので,ちょっと感想めいたことですけれども,この段階で申し上げさせていただきます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。その難しさはこの部会全体が共有すべきことなのだろうと思います。   もしよろしければ,恐縮ですけれども,また関連して戻っていただいても結構ですので,先に進ませていただければと思います。よろしいでしょうか。 ○谷幹事 今,垣内幹事が御指摘のあった点というのは従来の論点だと思いますので,ここは検討していただいたらと思いますが。これまで御紹介されているように,監護者の指定で引渡しの場合に本案と保全が同時に出る例が多いということで,これの実務的な意味がどこにあるのかということなのですけれども,これは本案の審判だけですと確定しなければ執行できませんので,即時抗告とかいうようなことになれば執行できないということがあるので,同時に実務的には保全も出して,それで執行できるようにするという,そういう配慮でなされているものだろうというふうに認識をしておりまして。そういう場合には恐らくやはり速やかに執行する必要があるということにはなるのかなというふうに思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,続きまして,部会資料4の8ページ,「子の年齢等による制限」の部分につきまして御審議を頂きたいと思います。ハーグ条約実施法では16歳ということ,これは条約からきていることだと思いますけれども,そういうような明確な基準が設定されていて,他方従来の民事執行の議論では意思能力というようなことが一つのメルクマールとして議論されてきたところだろうと思います。このようなことについて明確な規定を置くのかどうかということも含めて御議論を頂きたいと思います。どなたからでも結構です。 ○谷幹事 年齢等による制限,執行の場面で制限を設ける必要はないのではないかというふうに考えております。ハーグ条約実施法の場合には16歳に達していないということが返還の要件ですけれども,これは実体上の要件でございまして,返還を命じるか命じないかの判断に当たっての要件ですが,国内の執行の場面ではどちらが監護者として指定されるべきか,あるいは親権者となるべきかという判断をした上での引渡しでございまして。あとは執行するかどうかの判断です。16歳を超える場合には引渡しを命じることはできないというふうな実体上の要件ございませんので,16歳を超える場合でも引渡しを命じられる。そうするとあとはそれをどう執行するか。場合によったら子供が16歳を超えていて子供の意思が明確であることから執行できないということはそれはあり得る話では当然あるわけですけれども,一律に執行の要件として年齢制限を設けるというのは反対でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。 ○成田幹事 実情を申しますと,子の意思あるいは意思能力のところを現場で判断をするのはなかなか難しいところがありますから,やはり法的な規制としてはやはり何か明確に年齢制限があった方が望ましいのかなというふうに考えているところです。 ○阿多委員 明確な年齢制限を設けるという処理の理由だと思うのですが,ただ従前は物に例えていたのですが,意思能力があるかどうかで判断ができるかどうかというのを非常に問題にして,意思能力というのを一つのメルクマールにされていたと思うのですが,逆に年齢制限を設けますと何歳に設定するかですけれども,子供の意思がある意味でははっきりしているというような場合にどうするのかという問題が出てくるかと思うのです。従前の研究会でも話題になり,もし可能であればという形なのですが,実際にこの場面の手続が利用されている対象の子供の年齢というのは前回もほとんどが小学生であって,ハーグのような高い年齢の子供は余り例としてもなかったと思いますし,逆に案件によっては当該子供の精神年齢の問題もあったりして,余り形式的な基準で,それも高いところで設けても意味がないのではないかというふうな気がするのですが。   それと,これもまた後で出てくる話ですけれども,実際に強制執行する場面で専門家,さらにはその資料があれば家庭裁判所調査官の報告等を見て,当該報告書で子供がどういう状態かというのを把握して判断すればいいのであって,形式的にここで年齢を設ける意味というのは余りないのではないかというふうに思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。裁判所は明確な年齢制限があった方が望ましいとのことでしたが,ちなみに,難しいかもしれませんが,どれぐらいの年齢を考えておられるのでしょうか。 ○成田幹事 実情を申し上げますと,先ほど御指摘あったように,対象となる子の年齢としてはやはり3歳から5歳ぐらいが非常に多うございまして,年齢が高くても小学生ぐらいなのかなというところです。これを踏まえると,基準としてはハーグ条約実施法よりはやや下がりますけれども,やはり小学生ぐらいのところなのかなと漠然と考えているところですが,なかなかそこは線の引き方がまた難しいところだと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかに,この「3 年齢等による制限」の部分についてはいかがでしょうか。 ○山本(克)委員 この引用されている昭和35年の最高裁判決ですけれども,これは債務名義作成段階での,つまり引渡請求訴訟での判断ですよね。それを引用するのが適切かどうかと,結局それは債務名義作成機関の問題であるということになってしまって執行機関の問題ではないということになりそうな気もします。   自由意思,意思能力のみ有無で判断するというのは知的障害のある子が現に対象である場合等かなり困難な問題が生じて,それを執行の段階で反映するというのはかなり難しいのではないのかという気がしますので,仮に設けるとしたらやはり何歳ということにならざるを得ないのだろうと思うのですが。   その関係で今までどう考えてきたのかよく分からないのですが,例えば15歳の子の引渡命令が出て,5年間執行できなくて20歳になってしまったというときに,債務名義は効力をなお有していると。請求異議によって排除できるのかできないのか,執行力を,その辺りどう考えてきているのでしょうね。その辺りも実はちょっと絡む問題のような気がするのですけれども。   それともう1点,これはむしろ実体的な意味の子の福祉と関係するのですが,債務名義ができてからの執行までの期間制限というものも一つ考える必要があるのかもしれないという気がします。つまり,先ほど来監護権の在り方がもう決まってしまったのだといってもその後の事情変更で監護権は移るかもしれないわけです。そういうことを言いだすと現状維持でねばり勝ちになってしまうという批判もあり得るのですが,その判断の基礎となった事情から大きく変わるようなことがあり得るということを考えれば,債務名義ができて執行可能になってから何年がいいのか分かりませんが,2年とか3年とか,1年だとちょっと厳しいのかなという気もしますので,そういうことも考えられていいのではないのかなと思います。とりわけ乳児の時に債務名義ができて5歳児ぐらいになってからやっと居場所が分かって執行できるというような場合に,果たして乳児の時の判断というのが子の福祉の判断というのが維持できるかどうかというのはかなり疑問であると思いますので,そこも併せて御検討いただければと思います。 ○山本(和)部会長 この部会のミッションの内かどうかという問題はあるのかもしれませんけれども,事務当局には検討していただければと思います。   ほかにいかがでしょうか。もし可能であれば実体法の先生からコメントを頂きたいのですが,道垣内委員,いかがでしょうか。 ○道垣内委員 私も山本克己委員と同じところが気になっていました。あるいは逆の方向に気になっていたのかもしれないのですが。仮に注に引用している判決がこのとおりで実際も現在も生きているものであるとしたとき,この判決は,子が,債務者と同じ場所に,自由意思に基づかないでいるという判断がされ,それによって債務名義が成立したところ,しかしながら執行段階では別の考慮がされ,この人は自由意思に基づいてここにいるのだねと判断して,執行しないということがあり得るというものなのでしょうか。山本克己委員が出されたような,判決時と執行時が異なるといった微妙な例は除いて,単純に考えたとき,判例理解としてどうなのでしょうか。 ○山本(和)部会長 今の御質問は,国内の引渡しで債務名義ができた時点では引渡しが相当だと考えられたけれども,その後現実に執行しようとすると自由意思でそこにとどまっていて意思能力があるから執行不能であるという判断がされるということなのかということですが,事務当局からお答えいただけますか。 ○筒井幹事 債務名義作成の前提となった事情が異なっているということであるとすれば,現在の枠組みでは請求異議で受け止めるというのが普通の考え方ではないかなと思います。実際にそういった事例でそのように処理をしたケースがあるのかどうかというところまでは調査はしておりませんけれども。 ○道垣内委員 判決時においても,債務者の側から,この人は自由意思によってとどまっているのだといった反論をしないときにどうなるのかという話もあるのかもしれませんが,執行官が,その場の判断で,そこにいるのは自由意思に基づくといって執行はできないということになり,そこで,もう一度判決をとったところ,また自由意思だから駄目だということになると,執行官の方が最高裁よりも強いということになり,気になるところなのですが。 ○久保野幹事 多分同じことの質問なのですけれども。親権者でも監護者でもあるいはそれらになり得る人でもない第三者の下にお子さんがいるときに自由意思でとどまっているときにどう考えるかという話としては分かりやすいところなのですけれども,両親が親権者,監護者の指定について争っているときを考えますと,一般的には実体的な基準として子供の意思は聞きますし,尊重すべきだとは言われつつも,仮に子供が今いるお父さんなりお母さんなりの下にいたいと明確に意思を表明したとしても,反対側の親が監護者なり親権者なりに指定されるということは,実体判断としてはあり得るのではないかという気がしていまして。その話と執行の場面で子供が自分の意思でここにいるのだというと執行ができなくなるかもという話がちょっと整理がついていなくて。債務名義を作成するときにその子供の自由意思なり意思というものがどの程度判断されて折り込まれているかというのを実態を教えていただきたいと思っていました。恐らく同じお話ではないかと思うのですけれども。 ○山本(和)部会長 前提としては,執行ができなくなるというわけではなくて,間接強制はできるわけですので,直接強制ができなくなるということだと思います。 ○久保野幹事 はい,すみません。 ○山本(和)部会長 家庭裁判所の実態はどうなっていますか。 ○石井幹事 債務名義を作る段階,例えば審判の段階ということで申しますと,御指摘があったように,子の意思はきちんと把握した上で審判することが求められますので,当然子の意向を確認してということになります。年齢によって真意を示すことができるかどうかというのは大分変わってきますので,恐らくケースによるとは思いますけれども,例えば小さいお子さんが言葉ではどちらかと一緒にいたいと言っても,総合的に事情を考慮して別な方の親を監護者又は親権者に指定するということはあり得るとは考えております。 ○山本(和)部会長 その際に指定とともに引渡しまで命じるというのは,そこは基準は同じと考えていいのですかね。 ○石井幹事 そうですね,一般的には前回申し上げたかもしれませんけれども,監護者の指定と子の引渡しが同時に申し立てられることが多いかと思いますので,その場合に監護者の指定がされると,引渡しについてもその指定を前提に判断されることが多いのではないかなと思っております。 ○山本(和)部会長 ということのようですが。 ○青木幹事 重なるのですけれども,部会資料4の2ページの4行目以下にある誘拐されたような極端な場合は別にしても,子の意思に反して一方の親の元にあるというような場合を想定すると,そういった場合には自由意思があるからとか意思能力があるから執行できないというよりもむしろそういう場合は執行できた方がよいのではないかなとも思うのですが,それはここの子の引渡しの強制執行の話ではもはやないということになるのかどうか,その辺りを教えていただければと思います。意思能力があるから執行できないということにはならないのではないかということです。 ○小津関係官 意思能力があるかどうかという話と,執行現場において実際に子供の拒絶に反して執行官が引っ張って来られるかという点は,分けて考えるべきではないかと私個人は思っております。つまり,意思能力がなければ執行官は現場に行って執行に着手することができる,その意味では間口ではねられることはないわけですけれども,実際に着手した後に意思能力のない子供が拒絶した場合,それはハーグ条約実施法にもあるとおり,威力も行使できませんので,強制力をもって連れて来ることはできない。その結果,執行が不能になるということはあり得るのだろうと思っておりますので,意思能力の有無のみで執行の成否を決めているわけではなく,現に拒絶している子供に対する対応,現場での対応というのは別途考えるべきではないかと思っております。 ○山本(和)部会長 よろしいですか。 ○青木幹事 はい,ありがとうございます。 ○道垣内委員 1点だけ,私の観点から整理しますと,注に掲げられている判決というのは,親が債務者ではない事案についてのものだと思うのですね。つまり,子が例えば居所指定権なら居所指定権に反してほかのところに行っているが,それは,親権者・監護権者でもない親が確保しているわけではないとしますと,当該親は債務者ではありませんね。それに対してここで問題になっているのは,親が債務者であるという形,まあ,厳密には親とは限りませんけれども,現在監護している人が債務者であるという債務名義の執行の問題ですから,かなり性質が違うのではないかという気がしますが。 ○山本(和)部会長 この判例はそうではないのですか。私はこの判例,ここを読むと,第三者方に居住する場合には親権行使の妨害があるというのは,その第三者が妨害をしているのだろうと思ったのですが。 ○道垣内委員 第三者が妨害しているとは言えないわけでしょう。子供が自分でそこにいるのであれば。 ○山本(和)部会長 自由な意思に基づいて。 ○道垣内委員 そうです。子供が家出してホテルにずっと住んでいたら,そのホテルを債務者にできるかというと,それはできないわけですよね。 ○山本(和)部会長 それはそうです。ただ,この債務名義の債務者はここで言うところの第三者ではないですか。 ○道垣内委員 債務名義が成立しないというわけだから。 ○山本(和)部会長 この場合は自由意思に基づいているから債務者にならないが,自由意思に基づいていない場合はその第三者が債務者になる。 ○道垣内委員 そうそう。 ○山本(和)部会長 考えている局面は同じ局面なのではないですか。 ○道垣内委員 同じ局面だとは言えるのだけれども,債務者,第三者でもいいのですけれども,ある人がある子を確保しているという状況を解放するという執行の話と,道端にある動産,そうと言ったら変な感じがしますけれども,動産類似のものを持ってくるという話とは違う話ですね。話が若干混線するのは,債務者の義務の問題と,目的物であるところの子の扱いの問題は違うというところでして,少なくとも注に掲げられている判決というのは,目的物のことを問題にしているのではなくて,ある者が債務者なのかという話ではないかという気がします。 ○山本(克)委員 だから,先ほど申し上げたように,債務名義作成時点の問題で,親権妨害をしていると言えるかどうかということが争点になった判決なので,ちょっとこれを引用するのはやはり不適切だというふうに思います。ですから,間接強制か直接有形力の行使も含めて執行できるのかというところに年齢の分岐点を作るべきかどうかという問題で,それは執行法の問題だというふうに言えると思うので,ちょっとこの引用をできれば今後はやめていただいて,何らか別の資料を出していただければと思います。 ○山本(和)部会長 そうですね,何層かの問題があるような感じが確かにして,また執行現場では先ほど小津関係官が言われたように,結局威力を行使できないので,任意に子供は従わないと無理やり引っ張ってくることではできないというところでの意思能力というか子供の意思の問題が一方ではある。 ○山本(克)委員 意思というか成熟度というか何かそういう問題を,少なくともハーグ条約はある程度成熟度がある子供についてはもう条約の適用外だとするという選択をしているわけですよね。なぜ16歳になったか,私ちょっとそのハーグ条約のそのときの議事録を読まないと分からないと思いますが,ちょっとそれはやったことがないのでまた調べていただければと思いますが。16歳である必然性は日本法においては必ずしもないと,これはやはり条約からきているものだと。成年年齢の引下げ等の絡みもあり,なかなか今どの辺が適当な年齢なのかというのは非常に微妙な時点でこれをやっているというのはちょっと不幸なことかなという気もしなくはないのですが。   基本的には執行法の問題として債務名義作成段階の問題はもう一切無視して,現時点,当該執行の時点で何歳であるのが適当かどうか,あるいは意思能力という難しい判断をするのが適当かどうかという問題に収れんした方がいい。 ○今井委員 今さらなのですけれども,今の山本克己委員のお話等を踏まえて,この年齢による制限という整理は御指摘ありましたとおり,ある程度上限を決めてしまって執行の範囲を分かりやすく制限するというのか,それとも谷幹事から御紹介あったとおり,そこは子は子であって,個々の意思能力の有無で判断する,大きくこの二つ,2通りの提案なのかなというふうに思っていまして。もし後の方だとすると,意思能力の有無というのは,小学校に上がる前でもちゃんと分かってる,嫌だ,お父ちゃんのところへ行くのは嫌だ,お母ちゃんとずっといたいんだという小さな子もいれば,本当に15歳ぐらいになるともっと明確に私の人生はここにいることが正しいのであって,一切そういうことに従うつもりはないという15歳ぐらいのイメージと。だけれども,明確に行くのは嫌だ,ここにお母さんといることが自分にとっていいのだと,先ほどの柳川委員のおっしゃったようなこととも関係するのですけれども,こういうところの意思能力の有無の判断というのは,いわゆる法律行為の意味での意思能力とは大分違うと思うのですけれども,そこに先ほど御指摘あったとおり,そのことと執行の問題は違うのだということがごちゃごちゃしていて,意思能力がありとした場合にこれは執行不能というレベルの問題なのか。更に言えば,監護権の所在という存否の実体法の判断に至るまでの実体法上の問題にまで影響することなのか。今御議論を聞いていて問題点がなかなか分かりにくくなってしまったのですけれども,意思能力の有無とその辺りについての執行との関係について,ちょっと教えていただければと思うのですが。 ○山本(和)部会長 それは恐らくこの場の人は誰も教えることはできない問題なのかなと思います。私も今井委員と同じように,今の御議論で論点と言いますか問題の絡み方がある程度解明された部分もあると思うのですけれども,なお相当に議論は錯綜している印象を持ちました。これ以上議論しても何か出てくるという感じもありませんので,もし可能でしたらまた議論を整理していただければと思います。 ○久保野幹事 整理していただくときに,すみません,もう1点お願いなのですけれども。居所指定との関係で,親権者が子に対して行使する居所指定権,裁判とか実際には余り起きないのかとは思うのですが,一般的によく説明されているのが,意思能力がある子供に対してしか行使できないということで,それを前提に,けれども,裁判まではできたとしても,強制執行として直接強制はできないというのが現在では通説だといったような説明が一般的にはされるようなのです。その議論と関係する可能性があるのかなと思ったものですから,もしその辺りも何かありましたら教えていただければと思います。 ○山本(和)部会長 分かりました。では,その点も含めてお願いします。ますます難しくなりそうですが。 ○道垣内委員 整理のためのことで,「意思能力」という言葉を使うとさっきお話がありましたように,財産法上の意思能力の話と大分違って,自由意思でとどまっているかどうかというときの意思能力というのは話大分違いますので,余り「意思能力」という言葉で整理しない方がいいのかなという気がします。 ○山本(和)部会長 その点もよろしくお願いします。 ○山本(克)委員 今,久保野幹事がおっしゃったのは,強制執行になじむ請求権かどうかというような議論のように伺いました。基本的にはやはり監護権の争いというものを念頭に置いて,プロトタイプを考えた方がいいのではないかと思いますし,そのときに子の意思をどうするかというのは私は本案の問題だと思っておりますので,それは本案で子の意思にもかかわらず今の現状を変えたい,変えるべきだという判断をすればそれはもう後は執行の問題,そこは無視するというのがよろしいのではないかというふうに昔から思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,よろしければ,少し先送り的になりますけれども,もう少し整理してからもう一度御議論いただくということにさせていただきます。   時間が大分押してきて恐縮ですけれども,続きまして部会資料4の9ページ,「4 専門家の関与」の部分に入りたいと思います。これもハーグ条約実施法では中央当局というものがあって,「必要な協力をすることができる」と明文で規定されています。現に中央当局,要するに外務省ですけれども,にはその専門の職員がおられて実際の執行現場に立ち会っておられるということを伺うわけでありますけれども,国内の強制執行の場合にも同様の規定が必要かどうかという問題です。ドイツではハーグ条約実施法と同じような規定があるということなのですかね。いかがでしょうか。 ○山本(克)委員 もちろんあった方がいいと思うのですが,ただ執行場所である子の所在地において適切な人選できるかどうかというのは一つ大きな問題ですね。医療過誤訴訟や建築紛争用の専門委員名簿,候補者名簿ですかね,裁判所で作られたと思いますがそういうものが可能でないと,そういうものを必置するということはかなり難しいような気がいたします。適任者というのが全国にどういうふうに分布されているかというのは全く私は知識がないので,その辺も併せて教えていただければ。 ○山本(和)部会長 裁判所の方ではどのようにされていますか。 ○成田幹事 執行官の執行の局面ということで,専門家の給源としましては現在日本臨床心理士会,日本臨床発達心理士会,あるいは家庭問題情報センターの協力が得られているところでありまして,これらの団体に所属する専門家に関与を依頼できるようなスキームが作られているところです。 ○山本(克)委員 全国的に大丈夫だということですか。それならいい。 ○阿多委員 この専門家の関与なのですが,ここで紹介されているのは立会人や執行補助者という,正に執行の現場に臨場した場面でのお話になっていると思うのですが,その次の5とも関係するかもしれませんが,従前から専門家の関与というのはどういう方法が適切なのかというようなところでの議論と正に臨場している場合の専門家の関与と,場面としては二つあり得るかと思っています。   特に裁判所の方に実務の状況について教えていただきたいのですが,東京地裁などでは事前ミーティングというような形で打合せを実施されているやに聞いているのですが,現状どういう形で子の引渡しについて申立てがあった場合になされているのか,具体的な実情を教えていただけたらと思うのですが。 ○山本(和)部会長 これはどちらからお答えいただきましょうか。 ○小津関係官 現状の流れですけれども,まず申立てがあった後,執行官は一次的には債権者から,つまり申立人からできるだけ情報を取るべく必要な資料の提出を促すということになります。その上で,その資料ではまだ不足するということであれば,執行官から家庭裁判所,本案の判断をした家庭裁判所の方にミーティングの依頼をすることができ,その上で執行官が調査官などから参考となる情報を聴取するということはスキームとしてできるようになっておりますし,現にそのような運用をしているケースというのも比較的多かろうかというふうに思っております。 ○山本(和)部会長 ちょっと私が十分認識できていないのですが。先ほど家庭問題情報センターなどの団体との間で専門家に強制執行への関与を依頼することができるスキームがあるというお話がありましたが,今のお話とはどういう関係になるのでしょうか。 ○小津関係官 執行官と家庭裁判所との連携の話について御説明いたしましたけれども,専門家の関与という点では,専門家がそもそもどのような立場で執行に関与するかというのが2通り現状ありまして,国内事案ですけれども,立会人として関与する場合と,執行補助者として関与する場合に分かれており,それぞれ権限が異なっております。立会人は執行現場において執行が適正になされているか,違法性がないかという観点で監視する役目がありますので,基本的に立会人は執行現場以外には関与しないという仕切りになっており,家庭裁判所とのミーティングに立会人が関与することはおよそあり得ないと思っております。   他方で,執行補助者として関与する場合は,執行官が補助してほしい点について補助していただくことになるので,理論的には補助者はどのような場面で活用していただいてもいいということになるのですけれども,実際に家庭裁判所とのミーティングにおいて執行補助者が関与するということは想定されておらず,というのも,家庭裁判所の情報をどれほど裁判所外の方にお話するのが適切かという問題もありますので,基本的には執行官が聴取し,それを補助者,専門家にもお伝えしているということになるのではないかと思っております。 ○阿多委員 今,情報の給源というか収集の仕方と関係者のお名前とのお話を頂いたかと思います。質問で申し訳ないですが,御説明いただいている家庭裁判所という組織というかなのですけれども,聞き及ぶところでは債務名義の作成に関与した裁判官が関与するとかいうような形で事前ミーティングがなされていると。更には,執行部の裁判官も関与される場合があるというような形でなされているというのと。あと,執行補助者は正に債権者の方が補助者なのですが,先ほどの山本克己委員のお話も含めて,例えば専門家に関する制度を導入して守秘義務を負うような形で関与するというような人が創設できるのであれば,先ほどおっしゃっていたような秘密に関する部分についても早い段階で執行補助者というか専門家が関与して情報共有してということができるのではないかと思うのです。というのは,先ほどの立会人,更に補助者の方から情報収集する限りにおいては,その日だけにどうする,臨場するので,一体何を求められているのか,何をすればいいのかよく分からずにしていることもあるやに聞いているものですから,より実効性あるためにはチームというか情報共有するような方法を考えるべきではないか,そういうふうに思うので,質問と意見という形になりますけれども,よろしくお願いしたいと思います。 ○山本(和)部会長 質問の部分についてはいかがですか。 ○小津関係官 質問の部分は事前ミーティングのメンバーでしょうか。 ○山本(和)部会長 そうですね,家裁の裁判官などが関与するのかといった部分についてはいかがでしょうか。 ○小津関係官 現状国内の子の引渡しで執行部署と家庭裁判所がミーティングを行う場合にどのようなメンバーでどのような段取りで行うかということについては,基本的に全国の各庁で取決めなりをして運用していることですので,全国統一ではないのです。ですので,今おっしゃられたように,裁判官も間に入って同席して立ち会うミーティングもあると聞いておりますし,その他のメンバーも混ぜるかどうかというところは庁の実情に応じた形になっております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○今井委員 先ほど山本克己委員からハーグ条約実施法について債務者に対する説得が執行官の任務に含まれることに対して私の方から,これは本来の執行官のミッションから言うとかなりきついのではないかと言ったことに関して,いや,この今出ている命令はこういうもので,これはこういうことなのですよという説得なのだと。それを説得と言うのであれば非常によく納得感があったのですけれども。ですから,それは国内においても執行で先ほど主文だけ示すと言ったけれども,実際にはそこにいる債務者にはあなたはこういうふうな債務名義に基づいてやるということが例えば東京地裁から命令が出ています,東京家裁から出ていますと,こういうことになるかと思うので,それは非常に分かりやすいなと。ただ,それ以上に本当に円滑な子供の心を傷つけない執行という配慮というのは,それはちょっと無理であろうというかミッションから言うとそれはそぐわないだろうということを先ほど申し上げたのですが。ただ,そういうことが必要だと思いますので,それは専門家の関与ということでどうかと思いますが,先ほどの小津関係官からのお話だと,それは執行補助者的な要素になってしまうのかなと。位置付けはともかく,やはりイメージからすると,執行官は債務者にあなたにはこういう債務名義が出ていますよと,これが裁判所の命令ですよというような国内の執行でのミッションがそのまま当てはまる印象があって。子供が余り小さければ駄目ですけれども,当該子供に対して怖くないよ,大丈夫よとか,先ほど柳川委員がおっしゃったとおり,そんなに子どもは弱くはないから心配ないというような感じのイメージですが,それがこの専門家の関与する執行補助者的な役割だとすると,すみ分けが何となく私的には印象があったのですが。思い付きではありますが,そんな位置付けでやると円滑な執行と執行官の役割という整理ができるのではないかなという感じがいたしました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにこの点についての御意見はございますか。 ○村上委員 今の御意見と同じような話なのですが,やはりお子さんの気持ちをきちんと酌み取るということと,また債務者の方をきちんと説得するということにおいても専門家の協力を得られるようにしておくということは,大変重要だと思います。その際,部会資料の中では「児童心理等の専門的知見を有する者」とありまして,児童心理というようなところで言うと先ほど臨床心理士が例示されました。案件によっては,例えば虐待であるとかDVなどにも知見のある方,いろいろなNPOもあるかもしれませんけれども,そういう方々の協力を得るということも必要な場面があるかもしれないと思いますので,その点について詳しくはもう少し議論を深めていくことが必要ではないかと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにこの「専門家の関与」の部分についてはいかがでしょうか。よろしゅうございましょうか。   ありがとうございました。それでは,あと一つ,執行機関の話が残っていますが,ここで休憩にさせていただきます。3時30分に再開をさせていただければと思います。よろしくお願いします。           (休     憩) ○山本(和)部会長 それでは,審議を再開したいと思います。   引き続きまして,部会資料4の9ページ,最後のテーマでありますけれども,「5 執行機関」につきまして御議論を頂ければと思います。この点は既に間接強制を前置するかどうかというような問題とも関連して若干の御議論があったというふうに理解をしておりますけれども,執行機関を執行裁判所とするのか執行官とするのかという正面からの議論です。これは,資料にもありますように,子の引渡しの執行というものをどういうふうな執行手続として理解するかということとも密接に関連する問題でありますけれども,ここでまとめて御議論を頂ければと思います。 ○阿多委員 休憩前に裁判所の方から事前ミーティングについての御紹介いただきましたけれども,そこでは事実上という形になるのでしょうが,家庭裁判所,特に案件によっては債務名義を作成した裁判官が関与するというような形で,現在の実務として裁判所が関与するという運用が一部行われているということでした。   それと,今回はいろいろなところで原則に対する例外ないしは柔軟に考えるというような形での実質判断が入り得るかと思います。そうなりますと,執行官の本来の役割というのは決められたことを執行するというような形になりますので,執行官のままで実質的な判断をするのは非常に難しいのではないか。極論すれば,同時存在についても最初から同時存在ではなくて対応するのか,それとも臨場したけれども債務者がいないというような場合とは場面としては異なるわけですが。最初から同時存在とは違う方法で原則の例外を認めた上で執行するというような形になりますとかなり状況なり情報なりを入れて判断する必要があるかと思います。そういう意味では,執行裁判所が執行機関として関与して,執行官に対する授権決定で実際の現場は対応されるというのが望ましいかと思います。   なお,前回,石井幹事等から,そうすると手続が重たくなるのではないかという形の御懸念が出ていましたけれども,現時点での事前ミーティング等は少なくとも審判前の保全処分であれば2週間で着手しなければいけないというようなことの前提にでも対応できるような形で御準備進められているかと思いますので,執行裁判所で裁判官が関与したがゆえに手続が重たくなって遅くなるということは必ずしも危惧する必要がないのではないかというふうにも思いますので,その点も付加しておきたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。 ○石井幹事 執行機関を執行裁判所とするかそうでないとするかについては,部会資料にもあるように,法的な性格にリンクする問題かと思っておりますので,代替執行とする場合には論理的には裁判所を執行機関とする帰結になり得るのかなは思っておりますけれども,御指摘があったような執行方法について例外を設けてそれについて執行裁判所が定めるということになりますと,やはり何か客観的なものに基づいて判断ができるというような明確な要件立てができないとなかなか難しいのかなというような感じは持っております。本日も執行の実効性あるいは迅速性を高めるという観点からの御発言も多く出ていたかと思いますけれども,そういった観点からはやはり今申し上げたような配慮を頂く必要があろうかなと思っております。   仮に裁判所が例外を判断するような形での制度というのを検討するのであれば,今申し上げたように明確な要件を定めることができるかということについてしっかり議論していただく必要があろうかと思っていますし,その議論の結果,要件はなかなか難しいということになると,御提案についてもなかなか難しいという結論もあり得るのではないかなと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。前の幾つかの論点と関連する話ではないかということかと思います。ほかにいかがでしょうか。 ○佐成委員 私も今の石井幹事の御意見に共感するところがあります。少なくともハーグ条約実施法に関しては同時存在については例外はないのですから,仮に同時存在とか直接強制における執行場所について,原則はハーグ条約実施法にのっとりつつも例外を広く認めるという設計にした場合には,要件立てを明確にしていただくということがまず第一だと思います。   それから,ハーグ条約実施法ではやはり執行場所の判断については一応執行官の権限ということになっておりますので,その辺りも踏まえて明確に作っていただいた方が,執行官にとってもやりやすいのではないかということでございます。   感想的な感じで恐縮ですけれども,以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。特段よろしいですか。   前回会議でも議論がされた間接強制前置あるいは同時存在の原則,執行場所などについてどういう原則例外のルールを作るのかということ,それが執行裁判所の裁判官が判断することが適当なものになるのかどうかということ,そのような問題を含めて,この「執行機関」という論点が一番最後に持ってこられているのは,石井幹事や佐成委員が御指摘になったことを恐らく事務当局も配慮されたためだろうと思います。引き続き議論をしていきたいというところですが,ここで竹下先生から御発言をいただけますか。 ○竹下関係官 どうも私は余り発言をしないという前提で出席させていただいているのですけれども,今の問題は非常に重要な問題だと思うのですね。要するにこの執行をどういうふうに性格付けるか,位置付けるかというのが基本だと思うのですね。ハーグ条約実施法では代替執行というふうに位置付けて,したがって執行官が現場で直接に子供の引渡しを実施するというのも,それは代替執行の一つの方法として執行裁判所がそういうやり方を命じた場合にするということなので,初めから物の引渡しで執行官固有の権限として直接強制をするというのとは性格が違う,そういう意味では違う。ですから,先ほどちょっと問題になったような「説得」とか何とかという要素が入ってきてもこちらの場合はおかしくないのだろうというふうに思います。   迅速性の問題なのですけれども,結局直接強制でやろうとしてもなかなか難しいという話はもうずっとここで出てきて,執行官の権限にして直接強制をやったら本当に迅速なのかというと,これまでの議論の経過を見るとかなり疑わしいのではないかと思うのですね。   ちょっと余計なことも言いましたけれども,沿革的にいっても,代替執行,間接強制の執行機関というのが現在の民事執行法では執行裁判所ということになっていますけれども,旧法上は第一審受訴裁判所ということになっていたのですね。これは第一審受訴裁判所が執行裁判所としてやるというのではなくて,第一審受訴裁判所というのは,執行官,執行裁判所と並ぶ3番目の執行機関として旧法上は定められていたわけですよ。代替執行,間接強制についてだけなぜ債務名義を作った裁判所が執行までやるかと言えば,正しく阿多委員が言われたように,いろいろなやり方があり得る,一体どういうやり方が代替執行としては最も適切か,あるいは間接強制として最も適切かということは,やはり債務名義を作った裁判所である第一審受訴裁判所が一番いいというのでそういう制度が採られていたのですね。   余計なことまで言って恐縮ですけれども,もともと執行裁判所というのは特別な裁判所で,判決の執行は判決した裁判所がやるというのがドイツ普通法の基本的な考え方で,しかしベルリンでやった裁判の執行を例えばミュンヘンでやるというときには,自分でやれないからミュンヘンの裁判所に執行だけ頼む。そのときに執行だけ引き受けるのが執行裁判所だったわけですね。日本の旧法もそういう考え方でできていたわけです。ですから,執行裁判所というのは執行をなすべき地の地方裁判所ということになっていたわけです。ところが,執行裁判所という言葉が非常に普通名詞的なものですから,結局執行をやる裁判所は全部執行裁判所でいいではないかというので民事執行法では全部執行裁判所と,つまり執行官ではない裁判所がやる執行行為を担当していれば全部執行裁判所という呼び方になってしまったので,そこらの考え方,基本的な執行制度を作るといったら基本的な考え方というのが条文の表面上は消えてしまったのですね。だけれども,代替執行,間接強制は,もともとやはり債務名義を作った裁判所が一体どういう執行法,いろいろな可能性があり得るから,物の引渡しとは違う,したがって,債務名義を作った裁判所が一番いいというのでそうなっていたわけです。   ですから,阿多委員が言われたことの裏付けみたいな話ですけれども,私はやはりそういう考え方の方がいいのではないかと思います。けれども,これは私は別に委員でも幹事でもありませんから,御参考までに申し上げます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。貴重な講義を拝聴できたと思います。今の竹下先生のお話も含めて,次の第二読会で,この執行機関の議論を更に深めたいと思います。   一応「子の引渡しの強制執行に関する規律の明確化」についての第一読会としての議論は以上ということにしたいと思いますが,よろしゅうございましょうか。 ○谷幹事 先ほど所在調査については第二読会,2巡目までに検討いただくという事務当局の御説明ありましたので,ちょっとその前提として少し確認をさせていただきたいことがございます。と言いますのは,現行の家事事件手続法には履行の確保ということで家庭裁判所が調査をしたりとか履行の勧告をしたりとかいう制度が規定をされておりまして,その中に調査としては例えば官庁などに行って調査をするというふうな規定もあって,場合によってはそういう規定などを活用して所在を調査するということもあり得るのではないかというふうに考えているところなのですけれども。家事事件手続法,あるいは人訴にも同じような規定がございますけれども,そういうことも可能だというふうに理解をしていいのかどうか,ちょっとその辺りのもし共通認識があるのであれば教えていただいて,それを前提に議論をした方がいいのかなと思いましたので,ちょっと確認をさせていただきたいということでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。その点も含めて引き取らせていただいて,裁判所の運用あるいは法律の解釈等については,第二読会で子の所在調査について事務当局がどういう受け止めをしたのか御議論いただく際に付随的にまたお話を頂ければというふうに思います。   それでは,引き続きまして,部会資料5の「債権執行の終了をめぐる規律の見直しに関する検討」に入りたいと思います。まず,事務当局から資料の御説明をお願いいたします。 ○筒井幹事 部会資料5について御説明いたします。この部会では,ここまで諮問に掲げられておりました主要な三つの検討課題について順次御検討を頂いてきたところですけれども,諮問の中でもそれ以外のテーマの検討可能性については否定されない趣旨の言葉が盛り込まれておりました。その点については,この部会の第1回会議の際に私の方から,主要な三つの検討課題と同じようなスピード感で成案を得られる見込みのあるものであれば同様に検討課題とすることはあり得るという趣旨の発言をさせていただいたところです。   そういった観点から,他の検討課題について見回してみたところ,この部会の最初の会議で参考資料として配布いたしました研究会報告書でも取り上げられている点ですが,債権執行事件の終了をめぐる規律の見直しについては取り上げる価値が十分にあるのではないかと考えて,今回の資料を作成した次第です。   ここでの問題意識としては部会資料5の1ページ,「1 見直しが必要となる場面」のところに二つのことが書いてあります。債権執行事件に関しては,債権者の協力が得られない限りいつまでも事件が終了しないことが起こり得るということは,かねてから指摘されており,何らかの対策が必要なのではないかといった指摘もあったと思います。具体的には,部会資料にも書きましたように,債権差押命令が第三債務者に送達され,そして債務者にも送達され,差押債権者が第三債務者から直接取り立てることができる地位に立った,その場合であっても,その後に何らかの事情により債権者の行動がとられずに放置されている場合には,いつまでも事件が終了しないことになります。その場合の問題として,一つには,第三債務者にとって支払を禁じられた状態がいつまでも継続してしまうという点があります。もちろん,それに対しては権利供託といった形でその地位から脱する手段が与えられているわけですけれども,そのような行動をとらない限りそのような地位に置かれ続けるという問題がまず指摘され得ると思います。   そしてもう一つが,いわゆる債権法の改正の議論の中で指摘されてきた点でございます。現在国会で審議中の民法の一部改正法案,いわゆる債権法の改正法案におきましては,消滅時効の時効障害事由についての見直しが行われておりますが,その議論の際に債権執行事件についての事件の終了をめぐる規律が不安定で,不合理な事態が起き得るのではないかといった指摘がございました。差押債権者が一部の取立てのみを行い,その余の部分の取立てを断念したといった場面で,差押債権者が取立ての届出と,残りの事件の取下げ,こういった行動をとらない場合には,その後いつまでも時効が中断したままになってしまう可能性があるといった問題の指摘でございます。   こういったことを踏まえまして,部会資料の1の「(1)差押債権者の協力に依存している場面」に関しては,何らかの債権者の協力がなくても事件を終了させることができる方法を設ける必要があるのではないかという問題を取り上げております。   また,法制度としては少し場面が違うのですけれども,「(2)その他の場面」というところで,債務者への差押命令の送達が未了となる場面を取り上げております。この場面では,第三債務者には債権差押命令が送達されたけれども,債務者には差押命令がまだ送達されていないため,取立権が発生しておりませんから,(1)と場面が違っておりますし,法制度上当然に差押債権者の協力がなければ事件が終了しないのかどうかも議論の余地がありそうなのですけれども,しかし実際の執行実務におきましては,差押債権者の協力が得られない限り事件が滞留した状態になるという点で,同じような現象が生じているわけでございます。   そういったことを踏まえて,(1)と(2),両方の場面について,この機会に債権執行事件の終了についての一定の規律を整備するかどうかを御議論いただく必要があるのではないかと考えた次第です。   以上のようなことが第1において説明がされているところでございます。   具体的にどのような規律を設けるかということについては,部会資料5の4ページ,「第2 考えられる規律の骨子」以下に書いておりますが,ここは飽くまで,試みに,例えば,ということで方策を提示してみたところです。具体的にどのような方策があり得るのかということは,本日の御議論の中で,さらに別の考え方なども御提示いただければと思いますけれども,ここで提示しておりますのは,まず第2の1のところでは取立権の行使について一定の期間制限を設けるという考え方でございます。そのような考え方をとった上で,一定の期間の経過によって当然に差押えの効力が失われるとする案もあり得ると思いますし,また一定の期間の経過を要件として執行裁判所が差押命令を取り消すといった規律を設ける考え方もあり得ると思います。   また,5ページでは,その他の場面,債務者への差押命令の送達未了の場面ですけれども,この場合につきましては,これも例えばですけれども,債務者に支払督促を送達することができない場合における規律などを参照して,一定の場合に差押命令を取り消すことができる,あるいは取り下げたものとみなすなどの規律を導入するかどうか,こういった案を試みに御紹介しているところでございます。   部会資料の説明は以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   この部会資料5については大きく二つの部分に分かれていると思います。見直しが必要となる場面,そしてその見直しに至る必要性について第1の総論的な部分があり,それから,見直すとしてそれでは具体的にどういう規律が考えられるのかという第2の部分がありますが,まず,「第1 総論的事項」の部分について御議論を頂きたいと思います。最初に筒井幹事からもお話がありましたように,かなりテクニカルな問題で,御専門でない方は理解しづらいところもあったのではないかというふうに思いますので,基本的な事項の御質問でも結構ですし,御意見でも結構です。どの点でもどなたからでも,お願いいたします。 ○道垣内委員 総論,問題点の指摘というのが二つに分かれていて,第三債務者の行動が制約されるという話と,時効などの関係で差押事件が終了しないというのが続くと困るという話とあるわけですけれども,前者がよく分かりません。つまり,第三債務者が差押債権者が取立権を行使しないと弁済はできず,せいぜい供託するだけであって困るというわけですが,それは差押えがなくても同じではないかという気がします。債権者が受領しないとき,債務者は供託しなければ最終的には債務から解放されない。これは同じような気がいたします。また,転付命令が出されたり譲渡命令が出されたりして差押事件自体が終了するということになりましても,第三債務者の地位が差押債権者が権利行使をしない限り確定しない,債務から解放されないということは変わらないような気がします。そこで,第三債務者の地位を安定させなければならないという問題点の所在というのが今一歩理解できないのですけれども。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。事務当局の方からまず説明をお願いします。 ○筒井幹事 相対的にそれほど迷惑を受けているわけではないと言えるのかもしれませんけれども,本来の債権者でない人が取立権を持つという事態に巻き込まれたという意味では,平時とは異なる状況に置かれているとは言えると思います。その状態で,供託以外になすすべがないと言いますか,積極的な行動がない限りはそのまま継続してしまうという点に問題があるのではないかという認識でございます。 ○道垣内委員 それは債権譲渡があっても転付命令があっても同じですよね。自分が関係しないところで債権者が変わったという話です。ですから,ここで差押えとかがあったときにだけ第三債務者の地位を速やかに確定させるために何かの方策を考えるというのはちょっと私には理解が難しいところがあるのです。まったくの意見です。 ○中原委員 銀行が第三債務者になるケースはたいへん多いと思います。差押命令が銀行に送達された場合の事務の流れを御説明します。最初に何をするのかというと,差押命令の対象となっている預金の弁済を止める手続をとります。普通預金については,差押命令送達時点の残高について差押命令の効力が及び,その後の入金には差押命令の効力は及びません。そこで,差押命令の対象となっている預金を別に管理しなければならないという作業が生じます。また,定期預金や積立定期預金については払戻しができないように当該預金について支払停止の条件設定を行います。総合口座の場合は,差押えにかかる定期預金を担保定期預金から除外して貸越極度額を再計算して,貸越極度額の引下げを行なうという事務負担が発生します。差押対象債権の管理負担をなくす方法として,第三債務者には供託があるので,銀行も供託すればよいのかもしれませんが,例えば差押命令の対象預金が少額の場合であっても,その都度,行員が供託書を作成し,法務局に行って供託手続をとるとなれば,人的な負担も大変大きくなります。したがって,現在では,預金口座に支払停止の条件設定をし,あるいは普通預金の場合には別段預金など別口座に預金残高を移して管理するという負担が生じています。このように第三債務者にはいろいろな事務負荷がかかっているというのが現状です。 ○道垣内委員 それは例えば取立権を6か月に限定するとか1年に限定するとかといった規律を置いても同じことになりませんか。 ○中原委員 その間は銀行に管理負担は生じますが,例えば取立権を制限したり,裁判所が差押命令を取り消して第三債務者に通知してくれれば,管理を終わらせて元の状態に移せばよいので,管理負担を減らすことはできると思います。 ○山本(和)部会長 よろしいですか。では,佐成委員,どうぞ。 ○佐成委員 我々の方も,銀行ではございませんけれども,多かれ少なかれ第三債務者になることがあります。支払を止めるという場合,これはどうしても供託するとかいったことになりますが,その辺の差押えの拘束力というのは非常に負担であるというのは多かれ少なかれあります。   もう1点申し上げたかったのは,質問というわけでもないのですけれども,今回時効との関係で問題になっているのは,請求債権の時効の進行という問題ですよね。先ほどの話は,差押債権,すなわち差押えに係る債権の第三債務者が拘束を受けるという問題でありますけれども,時効との関係で問題となっているのは,この1ページのところに書いてあるとおり,例えば,差押債権者が取立権を行使しないで放置しているような場合に新たな時効が進行しないという不合理な事態が生じ得るということですから,ここで言っているのは,請求債権,すなわち差押債権者の有する債権についてです。要するに差押債権者が権利の上に眠っているにもかかわらず,自己の権利の時効が進行しないというのは時効制度との関係で果たして調和的なのかというそういう趣旨だろうと私は理解しておりますし,そういったことがやはり理論的には問題になるのかなとは感じております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○山本(克)委員 第三債務者の負担の点ですけれども,仮差押えの場合も同じ負担が生じますよね。 ○中原委員 そうです。 ○山本(克)委員 仮差押えが今回対象に上がっていないということがやはりちょっとバランスを欠くという感じがします。それで,供託については弁済供託の場合よりは執行供託の方が証明する事由,供託事由を証明しなくて済みますので,差押命令ないし仮差押命令が送られてきたということだけで供託できますから,その点で第三債務者の負担というのはあることはあるのですが,それほど大きなものと言っていいのかどうか,ちょっとよく分からない。特に仮差押えの場合は不動産の仮差押えで売却不能の物件についてずっと仮差押えが続いたままで何十年も時効中断できるというのが最高裁の判例ですから,その辺りとのバランスを,そこが問題だというのであれば全面的にそういうことをやるべきであって,強制執行としての債権執行の部分に限ってそれをやることはちょっと説得力を欠くのではないのかなという感じがします。 ○筒井幹事 その御指摘はごもっともなことだと受け止めております。私どもとしても仮差押えにも基本的に同様の問題があって,債権の本差押えについて一定の手当てをするとすれば仮差押えについても同様の手当てをするかどうかを検討する必要があるだろうと認識しております。ただ,そこは議論の順序として,民事執行法の改正についての諮問を受けているということも形式的にはありまして,まずは民事執行法についての改正の要否の検討を行い,その後に,いわば応用編として仮差押えについての検討も行うという手順にさせていただきたいと考えております。 ○山本(和)部会長 よろしいですか。仮差押えについての記載がないのは,そういう趣旨だということです。 ○山本(克)委員 はい。 ○中原委員 山本克己委員から御発言がありましたが,仮差押えについても是非検討に加えていただきたいと思います。また,仮差押えに特有の問題として,仮差押えの担保には,現金や保証国債への質権設定に加えて,銀行が保証するケースがあります。銀行が保証することは支払承諾取引という与信取引になるので,仮差押えが継続している間は,銀行が与信管理を長期間にわたり続けなくてはならないという銀行取引上の問題も生じているという点を併せてお伝えしたいと思います。 ○山本(和)部会長 分かりました。仮差押えについてはそのほかにも起訴命令の制度をどう考えるかとか,幾つかプラスアルファで考えなければいけない問題があり,そういう意味では筒井幹事が言われたように応用問題ということになりますので,まずはこの本執行の方を考えてからということかと思います。   ほかに御意見はございますか。 ○太田委員 今二つの論点が出ているとは思うのですけれども,先ほど第三債務者の話が出ていまして,直接は私どもではないのですけれども,やはり例えば預金の話ですと,今第三債務者多数の申立ても結構ございまして,仮差押えとは違って要件があれば債権差押命令を発令しますので多数の差押えがかかっているかと思うのですが,数百円とか,余り金額が大きくない差押えがあるという事態は結構実務的にはありまして,それは第三債務者の方には御負担をお掛けしているのではないかなと思っております。   またもう一つの,債務者に差押命令が送達していないという事案も差押命令の効力が生じているのだけれども,債務者にとっては不服申立てができないとか,抽象的にはやはり不安定な部分があるのかなと思っておりまして,同様に問題かなと思っております。   私も裁判所の実務をやっている立場ではやはりこれは軽視できない問題になっているかなと思っております。裁判所では新しい申立てを頂きますので日々事件が積み上がっていくのですけれども,この2つの問題につきましては終局ができない事件が日々積み上がっていくということになりますと,数多くの事件記録を管理するということになります。事案の内容にもよりますが,差押債権者に対する連絡等行うという手段もありますけれども,その負担も軽視できないものでありまして,どちらも不熱心な差押債権者に対する対応だということで,そのパワーと言いますかその給源をほかの執行事件の処理に充てることができればもっとより効率的な事務処理ができるかなということになると思います。   したがいまして,この第1の問題につきましては,差押債権者の協力に依存している場面,その他の場面,両方について規律の見直しを積極的に御検討いただければと思っております。 ○山本(克)委員 時効障害の話を持ち出す場合に,どうなのでしょう,一般先取特権の実行としての債権差押えあるいは物上代位権の行使を含む特定担保権の実行としての債権差押えというのは時効と絡むのでしょうか。これ自体民法がよく分からないので,それによって何らかの時効障害,現行法で言えば時効中断が生ずるのかどうかというのがよく分からないところですので,また教えていただければと思います。   それで,私が申し上げたいのは,時効の話を理由に持ち出すのは適当ではないのではないかというのが最初に言いたかったことで,不熱心な差押債権者に対する措置ということで正面から理由を付けた方がよろしいのではないのか。そうすると今の場合も確実に含むわけですよね。一般先取特権の実行としても特定担保権の実行として差し押さえる場合も全部含むわけなので,やはりその取立権を長期間行使しないものとの関係ではそちらの不熱心な債権者に対してどういうふうに手続の側としてリアクションすべきかという問題設定を端的に出した方が私はいいので,時効うんぬんという話あるいは第三債務者の負担ということを余り前面に出すと,いろいろな問題,道垣内委員の御指摘にあったような問題もありますので,そういう考え方もあると。ただ,仮差押えの場合はそのときにうまくいかないという問題が別途出てくる,そういう考え方ではうまくいかない可能性があるということになるのかもしれませんが,余り時効の話を持ってくるのはどうかなという気がします。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。 ○今井委員 今,仮差押えの話がございました。実務感覚で申し上げますと,今この部会で議論されている第三者照会としての銀行の預金照会ができればまた違ってくるのかもしれませんが,仮差押えは今保証金を積まなければいけませんし,今,太田委員からも御指摘ありましたとおり,債権執行の申立て自体はそう難しいことではなくて,ただ本当にヒットするかどうかが分からないことも少なくないので,そういう意味ではやや模索的なところが現状としてはありまして,本当に預金債権があるかどうか分からないけれども,結局調べようがないと。ただ,債務者のこれまでの関係から言うと,この辺りの金融機関に取引があるのではなかろうか,もしくは個人の預金があるのではなかろうか。それをあてにして債権差押えができるわけですけれども,本差押えであれば割と手続はそんなに難しくないのですけれども,仮差押えとなると,コスト対効果という言い方は適切ではないかもしれませんが,保証金まで積んで本当にヒットするかどうか,保証金を積まなければならないという負担から考えると,一般にはかなり慎重になることが多いのではなかろうか。   そこで,統計まで知ることができれば本当はありがたいとは思うのですけれども。私の実務の感覚から言うと,本差押えと仮差押えのウェイトは全然違うのではないかなという印象がありますので,仮差押えとのバランスで議論するのは実務感覚から言うとちょっと違うのではないかなと,そんな気がいたします。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。 ○中原委員 第三債務者の立場からすれば,管理負担というのは全く変わりません。差押命令の場合と同じです。 ○山本(和)部会長 第三債務者からすれば確かにそうですかね。 ○今井委員 私が申し上げているのは,件数的なものとしては全然違うのではないかという感覚はあるのですけれども,そうでもないのですか。 ○中原委員 仮差押命令も多く受け取りますが,そのまま放置されているケースも結構あると思います。 ○今井委員 ではやはり債権者の方の問題でしょうか。 ○山本(和)部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○青木幹事 消滅時効について検討すべきだという趣旨ではないのですけれども,もしよろしければ教えていただきたいと思います。それは,見直しが必要となる場面に含まれるのかどうかということなのです。部会資料の3ページの下から6行目の「債権執行において差押債権者が取立てを行ったが,その旨の届出を怠っている事例」なのですけれども。差し押さえられた債権の全部を取り立てたが,執行債権の一部の満足を得たにとどまるという場合で,この場合はその段階で事件は終了したとみて改正後は時効の更新ということになるということでよいのではないかなと思いますが,その場合も届出がないと時効についても不明瞭が生じるということなのかどうか,その場合もこの見直しの必要がある場面として想定されているのかということについて教えていただけますでしょうか。 ○筒井幹事 債権執行事件がどのような帰すうをたどったときに新たな時効の進行が始まるのかというのは,青木幹事から御指摘があった事例など幾つかの事例についてよく分からないところがございます。御指摘があったのは,ある請求債権と言いますか,債権者が有する債権のうちの一部に基づいて執行事件が申し立てられ,その事件については全ての取立てを完了し,しかし,取立届の提出がないというケースで,形式的に事件は終了していないように見えるけれども,その残債権についての時効は新たな進行を開始したのではないかということだと思いますが,恐らくこのケースでは御指摘の通りではないかというふうに理解しております。ただ,幾つかの場合分けがあり得る中で,どのような場合に新たな時効の進行が始まるのかを考えてみると,必ずしも定説がなさそうなところもあって,よく分からないというのが現状だと思います。   そういうこともありますので,先ほど山本克己委員からも御指摘があったように,全ての場合についてこの消滅時効に関する疑義があるということで,この改正の必要性を説明しようという趣旨では必ずしもないのですけれども,債権法改正の議論を契機として,ごく最近になってそういったこの問題点の指摘を受けて,見直しが必要であるという議論が展開されるようになったということは,やはり今回の議論に連なる経緯として紹介しておいた方がよいのではないかと考えております。 ○青木幹事 ありがとうございました。 ○山本(和)部会長 よろしいですか。   今まで出された意見では,この改正の趣旨あるいは理由をどういうふうにとらえるのか,第三債務者の保護とか,今の時効の更新時期の明確化とかいうようなことが趣旨となるのかどうかということについてはニュアンスの異なる御意見が出ていたかと思いますが,全体としては何らかの見直しが必要であるということに対する異論は御意見としては余り出なかったかと思いますが,そのような理解でよろしいですか。それとも,そもそも見直しは必要ではないという御意見もあるのでしょうか。この段階で別に確定しようとは思っていませんが。 ○道垣内委員 私が,第三債務者の保護の必要性が債権譲渡よりも高いということが分からないと申し上げたことに対して,中原委員から非常に説得的なお話がありました。中原委員がおっしゃることはよく分かります。でも,その説明は銀行預金については債権譲渡禁止特約が債権法改正の下でも認められるという仕組みになっているので,譲渡の場合とのバランスを考える必要がないということによって支えられているのだと思うのですね。それをより一般的な制度として,第三債務者が負担であると,したがって何らかのことをしなければいけないということになりますと,山本克己委員がおっしゃったように,より一般的に,不熱心な差押債権者に対してそのままの権利をずっと認めているということはよくないのではないかということで正当化することになりそうです。しかし,そうなると,それはどうしていけないのだろうという問題が多分生じてくると思うのです。部会長は,制度改正をするということ自体には異論はなかったですよねとおっしゃったのですが,山本克己委員のおっしゃるような根拠が正当化できるということが前提になれば私もそのとおりだというふうに思うのですけれども,今現在ここに示されている様々な例においては必ずしも正当化はできないのではないかという気がします。   もちろん時効の問題については,筒井幹事がずっとおっしゃったように,分かりにくい,いつまでたっても続いてしまうという問題があり,それに対して山本克己委員の方から不動産の差押えはどうなるのかという話が出たわけですけれども,その中でこの部分については明確化をするということが必要であるということの理由があれば,改正をするということに異存はありません。しかし,私には,まだ理由が少しはっきりしないという感じです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。特に結論を急ぐ趣旨ではもちろんありませんので,今の道垣内委員のお話も視野に入れて,この制度を見直す実質的理由についてなお詰める必要があるのではないかという御意見だったと思います。それは今後の課題ということにしたいと思います。   ほかにこの総論的なところで御意見はございますでしょうか。   それでは,また戻っていただいても結構ですので,仮に何らかの見直しをする必要があるとした場合に考えられる手段というのはどういうものか,その場合の検討課題はどういうことかという「第2 考えられる規律の骨子」の部分について御議論を頂きたいと思います。この点については先ほど筒井幹事からの御説明もありましたように,まだ全て「例えば,こういうことが考えられるのではないか」という段階のお話ですので,是非御自由に御意見等を頂ければと思います。いかがでしょうか。 ○谷幹事 こういう見直しをする必要性があるのかどうかについては今部会長がまとめられたとおりでございますので,これについては今後も十分検討が必要かなと思っておりますし,また私どもが常々申し上げております,例えば第三者に照会をして債権者の持っている債権の内容が明らかになるということであれば,探索的な差押えもかなり減るのではないかと思いますので,そうなれば更にこういう見直しの必要性もなくなっていく,あるいは第三債務者の負担も減っていくということになるのかなとは思っておりますけれども,それはそれとしまして。   差押債権者が取立権を行使しない場面において何らかの見直しをするということであれば,一方で差押債権者が差押えをなされた状態のままでいるということの必要性というものも一方ではある場面もあると思いますので,そういう場面についての配慮が必要かなと思っております。これは第1回の部会でも申し上げたかとは思うのですけれども,例えば銀行預金を差し押さえた場合には,銀行からの第三債務者の陳述として相殺予定であるというふうな回答が返ってくることが多いと。その段階ではまだ銀行が持っている反対債権との関係では剰余がない場合であってもいずれそれが時間を経て銀行の債権が減っていくということになれば,預金に剰余が出て取り立てられるというような場面もありますので,それを待つというのは,これは差押債権者としては必要性がある場面だろうと思いますし。   あるいはまた別の場面で言えば,敷金の返還請求権などを差し押さえた場合に,これは債務者が退去しなければ敷金が現実化しないことがありますので,これもやはり差押えをしたままの状態を保持するというのは債務者にとっては必要性がある場面だと思いますので,こういうような場面についてきちっと配慮をした上での制度設計が必要なのかなと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。部会資料4ページに「差押債権の中には,条件付や期限付のものなど,直ちに取り立てることができないものがある」とありますが,後者の例の敷金は,恐らく現在は停止条件付権利というふうに理解されていますので,これも「条件付や期限付」というところに入るかなと思います。相殺予定といったようなことも含めて,どこまでこの例外を認めるのかということはかなり詰めて考えなければいけないというのは,谷幹事御指摘のとおりかと思います。   ほかにいかがでしょうか。 ○太田委員 差押債権者が取立権を行使しない場面,それから債務者への差押命令の送達未了の場面,いずれについても部会資料に記載されたこの案で賛成したいと思っております。   先ほどいろいろ例外的なお話もありました,確かにそういう事案もあると思いますけれども,話が分かりやすい預金の話をしてしまいますけれども,やはり額が余り大きくないというのが実務的には多いと思います。そういう場面ではやはり不熱心の原因というのは費用対効果ということがあると思いますので,余り長くこれを置いておいたから行使が期待できるかというとそうでもないように思います。基本的には期間につきましてはいろいろ御議論はあるかと思いますが,余り長期にわたらないというふうにするのが望ましいのではないかと思っております。   先ほどからお話が出ています条件期限付きの差押債権ですとかそういう例外的なものにつきましては,例えば取立権の行使権の伸長を認める規律をきちんと設けるなどというような配慮をして対処すればよろしいのではないかというふうに思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。 ○中原委員 具体的な規律として,一定の期間制限を設けて,その期間の経過によって取立権が当然に失われるということになりますと,事件に直接利害関係を有しない第三債務者が期日管理しなければならないことになります。これもかなりの負担になりますので,そのような制度は避けていただいて,例えば裁判所から取消通知が第三債務者に送達されるというような制度設計を考えていただきたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。 ○阿多委員 今第三債務者の立場から期日管理のお話がありましたけれども,逆に差押債権者にしても,弁護士だけでなくて,これは本人もできるわけですけれども,債権者の方でその一定期間内に何らかの行為をしないと当然効力が失われるというような形になりますと,やはりそれなりの負担,リスクを負うという形になりますので,手続としては別途取消しという形のものがこの中でまだ望ましいのかと。ただ,取り消すにしても,取り消すに際してなぜ行使できないのかというような形の事情確認していただく,それはやはり期間経過と同じ話になりますので,例えば何らかの形の催告をしていただいて,無回答であれば取り消すとかいうような形で,発令とは別の形でそういう認識する,コーションと言っていいのかどうか分かりませんが,そういうようなものを設定していただいて,その上で手続を進めるということでお考えいただけたらと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○佐成委員 産業界の方も第三債務者になる場合については,やはり中原委員と同じような問題意識がございますので,もし規律を設けるのであれば,通知とかそういったものは是非お願いしたいということでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○道垣内委員 通知という制度に反対ではないのですが,そのときの制度設計としては裁判所が期日を管理しているということになるわけですね。6か月なら6か月経ったら裁判所が職権で行うのであって,別に誰かどこかに申立権者がいるわけではないということですね。 ○山本(和)部会長 本来は債権者が申し立てるのかもしれませんし,債務者とか第三債務者が申し立てるかもしれませんけれども,それは余り期待できないとすれば,職権でという話になり,それは裁判所が管理するということになるのかもしれません。 ○道垣内委員 ただ,その職権でということになってそれで構わないのなら構わないのですけれども,例えばさっきの条件付きとか期限付きとかいう話に即して申しますと,条件成就とか期限の到来というのは実体的な判断の問題であって,例えば10月1日以降に支払うということになっていても,それ以前に期限の利益の喪失事由が発生する可能性だってあるわけですね。それを裁判所が帳簿で管理をするという形でどういうふうにしてコントロールできるのかというのが,ちょっと私には見えてこないものですから。そういう制度にすること自体には全く反対はしないのですけれども,その辺りも御検討の上お考えいただければと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員 今の御指摘のところにも関連するかと思うのですが,差押債権の種類を全く一律に適用するのか,先ほどの条件付債権や継続的な給付で発生するような債権については少なくとも発令の段階で差押債権の内容を見れば裁判所としては分かるはずで,そういうようなものについては期間経過というような形とは違う,それから外すような形でお考えいただくということも一つの選択としてあり得るのかなと。もう一律に,先ほどの事件管理ではないですけれども,裁判所の方が差押命令発令した,そこから一定期間経過したという形でそれで処理されるのではなくて,やはり差押債権の種類なども御考慮いただけたらと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。例外の作り方はいろいろあるかもしれません。 ○成田幹事 裁判所は当然債権執行の事件が完了したかどうかを確認しなければいけません。当然期日管理をしているところであります。ただ,差押債権を見る,あるいは返ってきた陳述書を見てどういう債権かというのを確認するのも,またこれもなかなか煩わしい部分がありますので,一つの方法としては先ほどありましたけれども,要はアラームを鳴らす,つまり,期間が経過しましたけれども,どうですかというところで,返ってきたもので何か把握できるような形の方がありがたいのかなというふうに思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○山本(克)委員 今ちょっと部会長がおっしゃった,イニシアティブの問題なのですけれども,第三債務者保護を強く言ったときに,なぜ職権ですべきなのかというところの説明がなかなか難しくなってくるのではないのかなと思います。だから,第三債務者保護をしてほしかったら自分で言えと,申し立ててこいというのが民事裁判の一般原則で,そこを職権でわざわざ第三債務者のために裁判所が職権発動しなければならないというところについてはそれなりの正当化が必要になってくるはずだろうと思います。で,私は職権でやるのはけしからんと言っているのではなくて,結局全体に大きな負担を与えることによって制度としての効率性が落ちることがいわゆる費用の外部化に当たるのだという説明で職権でやるというのなら筋が通るということを申し上げたつもりです,先ほどは。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。制度の趣旨説明と具体的な手続の在り方が変わってくるのではないかという御指摘かと思います。 ○阿多委員 趣旨というところとは直接関係ないお話なのですが。先ほど谷幹事からもどういう場面でこのような取立届を出さずに放置するのかの典型例の一つとして,我々が経験するのはやはり相殺予定ということです。第1回か何かのときにもお話が出ましたけれども,中原委員はそのようなことはないということをおっしゃるのですが,我々の認識としては取立権を行使しようとして連絡をしても相殺予定ですというような形でお答えがあって,では実際に相殺されたのかという形で,相殺されたこと自体こちらに直接連絡はないわけですけれども,そのままで,裁判所から電話がありまして,どうなさいましたと,こちら取立権行使してないものですから,連絡をしたら相殺予定ですというふうな形で。第三債務者側の都合で事件処理が進められていないという例もあるというふうに認識しています。   したがって,相殺予定については何らかの形で相殺するのかしないのか,例えば催告して一定期間内に回答がなければ相殺しないという形で取立権が行使できるというような制度というのも併せて御検討いただきたいというふうに思います。 ○山本(和)部会長 中原委員から何かございますか。 ○中原委員 御指摘の点については銀行界も問題意識を有しています。まだこれから対応を模索する状況ではありますが,銀行界として何からの方針なり,意思統一ができればよいと思っています。鋭意努力はしてみたいとは思っています。 ○山本(和)部会長 前向きな御発言,ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○山本(克)委員 相殺権の失権ですよね,催告期限とか,ちょっとあればいいなと思いますけれども,民法ではないのかなという気がし,この部会の権限の範囲を超えているような感じもしなくはないですけれども。 ○山本(和)部会長 実務的な対応も含めてお考え頂くということかと思いますが。   ほかにいかがでしょうか。   御議論が,差押債権者が取立権を行使しない場面,この部会資料5の4ページで言えば第2の1の点が中心になっておりますけれども,2でその他の場面における規律,差押命令が債務者に送達できない場面の規律についても議論の対象になっておりますので,この点について何か御意見があれば承りたいと思います。 ○山本(克)委員 これを取り上げるのが果たして適当なのかどうか。第2の1についてはこういうのもあるかなと思うのですけれども,第2の2は行方をくらまされたら,債務名義ができてしまった後行方をくらまされたらどうしようもないわけで,一次的に債権者の怠慢だとは言い切れない案件ですので,これを同列に取り上げるのは私はちょっとネガティブです。もう少し公示送達の要件が緩和されているということであれば一つの選択肢かと思うのですけれども,公示送達について厳格な立場をとっているとやはりこれなかなかこれを取り入れるのは債権者には酷すぎるのではないのかなという気がします。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。ややネガティブな方での御意見でした。 ○阿多委員 逆に債権者の応援を頂いたようで非常にありがたい御発言で。実務の状況といたしまして,なぜこのような場面が生じるのかということについてはやはりまず第三債務者に送達された後に債務者に送達する,しかしながら送達されないと,こちらの方としても調査をしようとしてもなかなかできない状況で,もちろん手続を踏んで公示送達の手続まで要件を満たすようなことまでできればいいのですが,実情としてはできない。特に債務者が遠隔地にいるときの調査については時間も費用も相当かかるような状況にありまして,コスト,時間というような形で,これ後で出てくる期間の制限についても,それなりの期間を頂かないとこれは非常に難しいというのが意識でありまして。逆にそもそも先ほど頂いたようなこれを債権者に向けたいというような形でするのはいかがなものかという御意見を頂くと,債権者の立場によく就く者としては非常にありがたい応援だなというふうに思っています。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。他方で,第三債務者の立場から見れば,同じ問題ではないかという見方は当然あるのかなというふうには思いますが。 ○成田幹事 送達場所を調査してもなかなか見付からないというのであればやむを得ないと思うのですが,先ほど御指摘もあったのですが,費用対効果で調査してもらえないという事態は,事件を管理する裁判所としてはなかなか耐え難い部分があるのかなと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員 費用対効果で,特に陳述催告で預金が幾らかという形で,多くの場合は取下げで対応をしていると思うのですね。もちろんそれすらされないのでこういうのが残っているのだというお話だとは思いますけれども,債権者としてなすべきことを放棄しているということは必ずしもないのではないかと思いますので,その点だけ補足したいと思います。 ○山本(和)部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○垣内幹事 余り新しいことを付け加えるということでもないのですけれども,この5ページのその他の場面に関しては山本克己委員もおっしゃったように,説明の中で支払督促の場合の規定が挙げられておりますけれども,やはり支払督促の場合にはこれは正にこれから債務名義を作る際の手続保障の関係で送達が要求されるということであるのに対して,この場面では既に債務名義は有効に成立していて,その執行の場面であるということですので,かなり場面が違うというところがあって,民事訴訟法388条3項が申出をしなければ取下げとみなすということになっているのですけれども,こういう一律の規律を設けるというのは先ほど御指摘のあった裁判所の御事情を考えてもなかなか難しいのかなという感じが現状ではしております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。 ○山本(克)委員 私が先ほど取り入れるのはどうかというのは職権でやるスキームであればやめた方がいいという趣旨で,第三債務者の申立てによる差押えの解除という形の別途の考え方でいけば,それはそれで十分あり得ることだろうとは思っております。ただ,執行供託をなぜされないのか,権利供託をなぜされないのかというところについてはなお十分に納得はしておりません。 ○山本(和)部会長 少額を供託するために法務局まで行くのかという話が先ほど中原委員からは出ておりましたけれども。 ○中原委員 第三債務者が差押えの解除を申し立てる点は,実際にはかなり厳しいと思っています。債権者が申し立てた差押命令に対して,第三債務者が自分の負担を軽減するために,取り消せというのは事実問題としてなかなか言い難いと思います。 ○山本(克)委員 ですから執行供託してくださいと申し上げているのですけれども。 ○山本(和)部会長 第2の1の差押債権者が取立権を行使しない場面の問題と第2の2の債務者への差押命令の送達未了の問題とでは,委員・幹事の御発言からはやはり帰すうが違うような印象を受けました。しかし,いずれにしても両方とも引き続き制度見直しの必要性も含めて検討するということかと思います。 ○今井委員 債務者の送達の点は,反対債権の相殺予定であるとか,実際にかかったけれども,それこそ300円とか1,000円とかというところでそういう結果がある。債務者にも不送達。実際にはそういうようなヒットする実効性が小さかったり,回収可能性が非常に少なくて債務者にも送達できない,これが一つのパターンとして多いのではないかと推測していたのですけれども。確かに山本克己委員から御指摘のとおり,まれかもしれませんけれども,非常にうまくヒットして回収可能性が出る。だけれども,債務者に送達できないので取立てが生じない,こういうケースは言われてみれば,確かにあるわけですから。そう考えるとやはり現状はどういうふうになっているのかという実態ベースの把握というのは必要だなと思います。一律にこの制度を支払督促のようなことでやってしまうようなことについてはやはり慎重でなければいけないなと,改めてそういうふうに思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。裁判所の方でもその実態,実情として,どの程度こういうことが起こっていてというようなところが,統計は多分ないのだろうとは思いますが,その辺りが分かるような資料等がもしあれば将来的に部会にお出しいただければありがたいと思います。   おおむねよろしいでしょうか。   それでは,部会資料5についての審議はこの程度にしたいと思います。   事務当局からお出しした資料についての第一読会としての意見交換は以上ということになるわけですが,この機会に阿多委員から御提供を頂いている「財産開示制度の改正等民事執行制度の強化に伴う債務者の最低生活保障のための差押禁止債権制度の見直しに関する提言」という,日本弁護士連合会で決議された提言について御説明をお願いできればと思います。 ○阿多委員 お時間頂きまして,どうもありがとうございます。今日は二つの提言の御紹介をさせていただきたいと思います。   こちらの方は今年の1月20日の時点で日弁連が決議し公表したものになります。タイトルが「財産開示制度の改正等民事執行制度の強化に伴う債務者の最低生活保障のための差押禁止債権制度の見直しに関する提言」というものです。今般の民事執行改正が債権に対する執行強化ということが一つの目的,情報収集も含めて一つの目的,一つ目のテーマについては少なくとも執行強化ということが目的になっているのかと思いますけれども,それ自身,日弁連としては当然支持しているわけですが,今回特に財産開示,更には第三者からの情報取得というような制度の充実に伴って少し今まででは余り日が当たらなかった話題なのかもしれないなと思うところについて検討する必要があるのではないかという形で,強化に伴うという形のタイトルを付けさせていただきました。それが実際制度として導入されてきますと,債務者の勤務先等の情報が債権者に取得され,それに伴って給与等の差押えがなされるないしは預金の差押えがなされるというようなことがより現実化していくだろう。そうなりますと,提案の理由のところに少し触れさせていただいていますけれども,日弁連としては債務者に資力があるにもかかわらず債権者が債務の財産に関する情報を得られないために執行できない,権利の実現が図られないという事態は不正義であるというふうに考えています。今後も債務者の逃げ得ということを許さないためには,適切な法改正による債権者が債務者財産に関する情報を取得する制度を強化し,判決の実行性の確保をしなければならないというふうに考えています。   ただ他方で,これでいきますと2ページのところの(2)に関連する部分ですが,無資力の債務者に対する過酷な執行の可能性ということがより顕在化しますので,その点についての配慮ということも必要ではないかというのが今回の提言の趣旨になります。   戻りますが,提言の内容として大きく2点あります。2点目については更に方法として二つの方法を提言しています。   1ページに戻りまして,第1の提言の趣旨ですが,1点目は,民事執行法152条1項1号及び2号所定の各差押禁止債権については,債務者の最低限度の生活を保持するために欠くことができない金額として政令で定める最低限度金額までは全額を差押禁止とする等の立法提言をしたいと思います。非常に分かりにくいですが,現状は差押えがなされた場合,差押禁止債権として4分の1までは差押えされ,ないしは33万円を超える部分については差押えの効力が及ぶという形になっていますが,最低限度設定額というのは現在ありません。すなわち,10万円を差し押さえれば必ず4分の1の2万5,000円は差押えの効力が及ぶというような形になっていますが,近時の非正規雇用等で労働している方で必ずしも給与等で支払額がそれほど多くない方であっても4分の1は差し押さえられるというのは少し問題ではないかという形で,一定金額までは差押禁止とするというような形での最低限度額設定というものを1では提案させていただいています。   2ですが,まず読みますと,給与・年金・生活保護等の民事執行法その他法令による差押禁止債権に係る給付が,債務者の預貯金口座に振り込む方法により行われた場合における当該預貯金口座に係る債務者の預貯金債権に対する差押えを制限するための制度の立法化を検討すべきだと。抽象的な形にしていますが,内容は二つあります。また後ほど御説明しますけれども,ここの趣旨は,当該債権の性質では全部又は一部が差押禁止になっていても,それが預貯金口座に振り込まれた場合には当該元の債権の特性というものは消えてしまって,単純な預貯金債権となって差押えの効力が及ぶというのが現在の実務の取扱いになっています。しかしながら,年金生活者で年金に依存している方で多くの方は振込口座指定等で年金が振り込まれて,それに基づいて生活されているわけですが,口座に入った途端差押えが送達され効力が及ぶという形になりますと,全額が取立ての対象になってしまうというような実情がございます。それらについて何らかの形での手当てを設けるべきであるというのが2点目の趣旨という形になります。   提案理由は先ほど御説明しましたが,情報が行き渡ることによる問題の顕在化ということを挙げさせていただいて,こちらの理由の中でも2ページの(2)のところでも憲法論も含めて入れさせていただいています。2ページ(2)の第2段落のところですが,このためという形で,債権者の権利の実現を図るために債務者財産に関する情報を取得させる制度が強化された場合,その結果として十分な資力を持たない債務者の生活の糧となる給与等債権や,年金・生活保護等が振り込まれた預貯金の差押え等により,債権者がその家族の生活が脅かされ憲法25条が保障する生存権に関わる問題が生じ得ることも考慮しなければならないという形で,非常に重要な問題であるということを指摘させていただいているわけです。   そのような背景を踏まえまして,具体的内容について御紹介をしたいと思います。2ページ,真ん中より少し下,2のところの給与債権における差押最低限度額の設定等についてのところでございますが。内容は先ほど御説明いたしましたが,ポイントといたしましては,最低限度の生活の保持・保障という観点から,一定の金額までは全額を差押禁止とするような規定を設けるべきだという提案です。では,その一定の金額というのをどのように設定するのかという方法については,ここの意見では二つの方法について御提案を,すみません,まずそのような提案です。   現行の民事執行法では,事後調整の方法として153条という規定があるのですが,現状必ずしも153条というのが機能していないということ。むしろ事前に規制を設ける方がより生活保護,生存権保護というのでは意味があるだろうというふうに考えること。実際の実例といたしましても,滞納処分の場合の国税徴収法の場合は一定額を最初から除外をして,それには差押えの効力が及ばないという取扱いをしていること,ですから,民事執行法の場面でもそれが実現困難であるというふうには必ずしもならないのではないかと。したがって,事前規制型を提案するという内容になっています。   一定金額の定め方については,国税徴収法等では実例として御紹介しますが,まず1月ごとに10万円,3ページの(2)の第2段落のところで,国税徴収法76条1項4号及びそれに際しての具体的内容を御紹介していますけれども,現状1月ごとに10万円がまず差押禁止となり,滞納者と生計を一にする配偶者その他親族があるときは,これらの者一人につき4万5,000円を加算するという形で金額計算をして及ぶというようなルール設定をしています。一つの方法としてはこのような形で債務者と生計を同じくする者に応じて人数調整をするという方法が一つ考えられます。勤務先等では年末調整等をしていることから,その債務者が生計を一にするというような人数の把握は可能なことも多いかと思いますので,そのような方法を一つの方法として提案をしています。   他方,勤務先等が必ずしも年末調整等でしていない,ないしは時期的なずれもあるというようなことを考えますと,このような調整方法ではなくて,家族数を考慮せず一定金額について差押禁止の最低限度額を設けるという方法もあり得るかと思います。   そのような場合には,家族に応じての増減というのは先ほど御紹介しました153条をもう少し使い勝手がいいような形にして,債務者の方で差押禁止範囲を拡大してもらうような方法を検討していただく必要があるのではないかというふうに考えています。   提案内容の2の,7ページの3でございますが,差押禁止債権に係る給付が振込入金された場合の預貯金債権の差押禁止についてというところの概要を御紹介をしたいと思います。   趣旨は先ほど御説明したとおりで,現在の実務では一部差押禁止がされている給与債権や,全部が差押禁止されている年金等が銀行等に振り込まれ預金債権等になった場合には,従前の差押禁止債権の性質が消えて,全額が差押可能な対象になっています。そこで,従前の性質を何らかの形で生かす方法が考えられないのかという形の提案です。   この方法としては二つの内容を提案しておりまして,10ページのところの3行目でアという形で御提案させていただいています。これは,債務者の方からの申立てで差押取消しというような形の方法を提案させていただいています。第三債務者である銀行等では何の情報もないわけですから,むしろこのような差押禁止についてはもともとの給付を受けていた債務者の方で裁判所の方に153条等を修正した内容で差押禁止の申立てをして裁判所の,ここでは必要的取消しという言葉を使っていますけれども,裁判所の方が判断いただいて差押範囲の変更をするという御提案です。   その際,153条のような債務者及び債権者の生活の状況その他の事情というような抽象的な規範を定立して御判断いただくのではなくて,単純に原資が例えば年金だ,給与だという形であれば,その資料,そしてそれについて次がいつ入るのだということを見て,残りの日にちでの日割計算というような形で非常にシンプルな形で計算をすると,それについては取り消すというような御提案をしているところです。   そのような裁判所に対する153条を改めた取消しの方法を御提案したいと思います。   もう1点は,第1点の方は裁判手続によるものですが,特別法というような形になるかと思いますけれども,差押禁止の専用口座というものの導入ができないかという御提案です。11ページの真ん中少し下,イのところで差押禁止預貯金口座の制度という形で御提案しています。先ほどの裁判所に対する153条の申立てというのはやはり事後的になりますし,債務者の負担というものもかなり大きいので,事前に差押えがされないような,専用口座があると債権者の負担もかなり軽減されるのであろうという形で,方法としては事後調整の方法と事前の制度の創設という形で御提案をさせていただいています。今回弁護士会の方としては,給与債権等についての最低限度額設定,更にはそれが預金等に入った場合の従前の差押禁止の効果の維持の方法というものを提案したいと思いますので,御紹介させていただきました。   どうもありがとうございました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。確か第1回の会議でも頭出し的な御発言があったかと思いますが,このたび日弁連として提言という形で具体的なところをおまとめいただいたということです。せっかくの機会ですので,ただいまの御説明につきまして御質問あるいは御意見を頂ければと思います。 ○中原委員 阿多委員の御発言の差押禁止預貯金口座の制度という点ですが,銀行業界内で話してみますが,私の直感ではシステム的にかなり難しいのではないかと思います。と言いますのは,当該預金口座への年金や給料以外の振込みをどうやって防ぐのか,言い換えれば,個々の振込みの識別が可能なのかということです。さらに,例えば給料をA銀行とB銀行に分けて振り込んでいる場合もありますが,複数の差押禁止預貯金口座がある場合は,どのような取扱いをするのでしょうか。技術的に難しい問題があるように思います。また,振込の識別を可能にするシステム開発をしようとすれば,個別銀行のシステムだけでなく,全銀協が運営する全銀ネットにも影響するので,巨額のシステム開発費用が必要になると思います。本当に民間銀行に大きな負担をさせてまでやる必要がある制度なのかという点についても疑問を感じています。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。第三債務者の立場から御発言でした。   ほかにいかがでしょうか。 ○山本(克)委員 前半の方ですけれども,扶養家族等で加算していくという考え方は,国税の場合は自力執行力があるので差押債権者に相当する人がデータを持っているわけですよね。ところが,持っていないわけですよね,労働債権を一般債権者が差し押さえる場合というのは。やはりちょっとそれは無理があるのではないでしょうか。それを第三債務者からの何らかの回答に基づいてやるのであれば,差押命令をまず送らずに一応催告をして,情報提供を求めて,それから差押命令を発令するという今までとは違う手続を組まなければいけなくなってくるというふうに考えられますので,ちょっとなかなか難しいかなと思います。   ただ,私は差押禁止の最低額を設けることはそれは一つの選択肢だとは思いますが,ただ最近の労働市場の流れからして,兼業を禁止しないところが結構出てきているというふうに聞いていますので,それが複数の勤務先について同様のことが起こっていくと,結局兼業している人の方が単一の就労事業所で働いている人よりも優遇されるというような問題も出てき得るので,やはりかなり慎重に考えなければいけない問題で,検討するためには相当時間がかかるのではないかなという気がしました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○阿多委員 御指摘ありがとうございます。第三債務者の情報に基づいてもともとの発令した命令の内容が事後的に変容するというのは非常に今までの制度としてはないということはこちらも十分認識しておりまして,発令の仕方ないしは具体的な内容としてもその取立権の行使が実際できる期間も現状のような1週間でいいのかとかも含めて相当検討する必要がある問題なのかなとは思いますが,何らかの形で今のままではよくないというところの意識で。実際御指摘のとおり,国税の方の情報収集能力と債権者は違うのですが,御提案としてさせていただいたところです。   この場合も先ほど申しましたように,債権者の方で場合によっては情報を持っていて,最低限度額設定ないしは複数のものがある場合については,債権者の方での変更の153条は両方できる規定になっていますけれども,債権者にとっても使いやすいような形で命令の範囲を広げるような形の規定というのが設けられないかということも考えていますので,併せて御検討いただけたらと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○山本(克)委員 複数の勤務先がある場合について私が申し上げたのは,それが破産した場合の自由財産の範囲において1か所に勤めている人と2か所に勤めている人で大きく違ってくる可能性が出てくるということがよろしくないのではないかという趣旨ですので,申し添えておきます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。   もともと民事執行法を制定するときから問題になっていた問題で,そのときにはこの153条によって対応するということになったわけですけれども。阿多委員あるいは日弁連御指摘の,153条が果たして機能しているのかという問題も踏まえて何らかの対応が必要ではないかというのは,恐らくその後諸外国における制度の発展というのもかなりいろいろなところがあるということで,このような御提案になったということかと思います。また他方では,最初に事務当局からも御説明があったように,どの程度の審議を要する事柄なのかということで,基本的な三つのテーマあるいは今日御議論いただいた債権執行事件の終了をめぐる規律の見直しに関する問題と,審議のスピードというか足の速さが同じくらいのものでないと現実には取り上げるのが難しいだろうということも最初に御説明があったところかと思います。   そういうことも踏まえて,ただ重要な問題提起であることは間違いないと思いますので,本部会としては引き続き検討と言いますかテーブルの上には乗っているということで,事務当局の方でも今後どのように取扱っていくのかについてお考えいただきたいと考えます。そのような取扱いでよろしゅうございましょうか。 ○松下委員 先ほど山本克己委員からも言及がありましたが,破産法の自由財産の拡張の方は随分活用されていると聞きます。民事執行法の153条はそれと比べてもしあまり使われていないのだとすると,一つの理由は,破産の場合には破産管財人がいて,破産管財人の意見を聞くというプロセスが絡んでいるからだと思うのです。裁判所が全部を判断するのではなくて,破産財団の様子を把握している破産管財人が意見を述べるからこそ機能しているのだとすると,153条の運用の問題なのか改正の問題なのか分かりませんけれども,債務者の実状を踏まえて差押禁止の範囲を変更するというのは難しいのではないかと思います。ですから,もし条文化するとしてもかなり機械的な計算ができるような,例えば5ページの中ほどぐらいに書いてありますけれども,源泉徴収票を見せれば扶養家族が何人いるから幾らにするとかいう程度の計算をするぐらいしか多分できなくて,それ以上に例えばお金のかかる学校に行っている子供がいるから差押禁止の範囲を広げるなどということはまず無理だと思うのです。そういう方向で御検討いただければと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員 153条が使われていない背景としてはやはり一つはその手続の存在を必ずしも債務者の方は認識をしていない,代理人が必ずしも付いているわけではありませんし,そういう状況ですので,これも従前少し頭出しをしましたが,差押命令発令等の段階でそのような手続があることについて教示をしていただくようなことも併せて御検討いただけたらと思います。よろしくお願いします。 ○山本(和)部会長 御指摘のとおりで,代理人がいてもこの制度を知らない人がいるので,私は民事執行法の授業では必ずこれは忘れないでくださいというふうには言っているのですが,いろいろな理由で使われていないということは恐らくそのとおりなのだろうと思います。   それでは,今のようなことでよろしければ,この点については以上としたいと思います。これで基本的には,第一読会と言いますか,1巡目の議論はしていただいたということになろうかと思います。次回の議事日程等を含め,今後の審議の進め方等につきまして,事務当局の方から御説明をお願いいたします。 ○筒井幹事 まず,次回の会議の開催日ですけれども,3月31日,金曜日,午後1時30分から午後5時30分まで,場所は本日と同じ法務省20階第1会議室でございます。日程調整の結果としてたまたま3月に2回開催することになってしまい,御負担をおかけいたしますけれども,どうぞよろしくお願いいたします。   次に,次回の議題ですけれども,ただいま部会長からありましたように,本日までに主要な三つの検討課題を中心とする1巡目の検討を終えることができましたので,次回から2巡目の検討に入っていきたいと思います。それに当たりましては,今後のこの部会のスケジュールについて言及しておく必要があるかと思いますけれども,第1回会議の際にこの部会の最終的な要綱案の取りまとめの時期については様々な要因があってなかなか見通しが立てにくい状況にあるというお話をさせていただきました。その代わりとして,中間試案をいつ頃まとめるのかについて2巡目の検討に入る頃には見通しをお伝えしたいと申し上げました。その点に関しまして,なお確定的なことを申し上げられる状態ではないのですけれども,中間試案の取りまとめを行う時期の選択肢の一つとして,本年7月頃を目途として進めてみてはどうかと考えております。つまり,次回会議から2巡目の検討に入り,その議論の動向,状況を見た上で中間試案の取りまとめに向かうかどうかを決めて,もし7月に中間試案を取りまとめるとすれば,7月21日の会議を一つの目標としてスケジュールを進めていくということになります。他方で,2巡目の検討の中でもう少し時間が必要だ,あるいは他の要因もあってもう少し時間をかけた方がよいということになれば,中間試案の取りまとめを夏以降に持ち越す可能性もあるといったことを,現時点では考えております。   いずれにいたしましても,次回3月31日の会議からは2巡目の検討に入りたいと考えており,次回会議では債務者財産の開示制度の実効性の向上に関して2巡目の検討をお願いするということにしたいと考えております。   なお,2巡目の検討につきましても1巡目の検討とおおむね同じような順番とすることがまずは想定されるのですけれども,実は出席予定のメンバーの関係で2巡目では1巡目と順番を入れ替えまして,債務者財産の開示制度の実行性の向上の検討の次に,4月28日の会議では子の引渡しの強制執行に関する規律の明確化を取り上げる,そのような順番で進めていきたいと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。ただいま御提示のあった今後の進め方について,もし何か御意見御質問等があれば承ります。よろしゅうございましょうか。   それでは,今御説明があったように,次回につきましては,3月31日に,債務者財産の開示制度の実効性の向上に関する検討課題について御議論を頂くということにしたいと思います。   それでは,これで民事執行法部会第5回の会議を閉会とさせていただきます。   本日も熱心な御審議を頂きまして,ありがとうございました。 -了-