法制審議会 民事執行法部会 第9回会議 議事録 第1 日 時  平成29年6月30日(金)自 午後1時30分                      至 午後5時31分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民事執行法制の見直しについて 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○山本(和)部会長 それでは,予定した時刻になりましたので,法制審議会民事執行法部会第9回会議を開会いたします。   本日も御多忙の中御出席いただきまして,ありがとうございます。   本日は,小川秀樹委員,松下淳一委員及び石井芳明幹事が御欠席と伺っております。   それでは,審議に入ります前に配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 本日の会議用の部会資料といたしまして,部会資料8-2,それから9-1,9-2の3通を本日の席上で配布させていただいております。部会メンバーの皆様には電子メールで事前にお届けいたしましたけれども,紙の配布が本日の席上になってしまいました。大変申し訳ございません。   それから,このほか,阿多委員御提供の資料「差押禁止債権制度の見直しに関する具体的検討について」を席上配布させていただいております。   配布資料は以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ただいま御紹介がありました配布資料のうち,阿多委員御提供の資料につきましては,後ほど関係箇所で御紹介いただくことにしたいと思います。   それでは,本日の審議の中身に入りたいと思います。   本日は,いずれも新たに配布されました部会資料8-2「不動産競売における暴力団員の買受け防止の方策に関する検討(2の2)」,部会資料9-1「債権執行事件の終了をめぐる規律の見直しに関する検討(2)」,それから,部会資料9-2「差押禁止債権をめぐる規律の見直しに関する検討」について御審議を頂く予定であります。   順次御審議を頂きたいと思いますが,まずは部会資料8-2です。これは暴力団員の買受け防止という意味では前回に引き続いての議論でございますけれども,残された部分である暴力団員以外の者を対象とする規律についての部会資料ということになります。   議論に先立ちまして,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○山本関係官 御説明いたします。   前回会議では,部会資料8-1を基に,専ら暴力団員を念頭に置いて,それを排除する手段についての御検討を頂いたところですが,暴力団への不動産の供給源をより確実に断つためには暴力団員本人のみを排除するだけではなく,その周辺者による買受けを制限する必要もあるとの指摘がございます。今回お配りしている部会資料8-2では暴力団員以外の者を対象とする記述について取り上げております。   まず,1ページの「1 暴力団員以外の自然人」の箇所ですが,元暴力団員のうち暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者による買受けを制限することとし,配偶者などの元暴力団員以外の自然人による買受けは制限しないとの考え方を提示しています。   次に,3ページの「2 暴力団員が関与する法人」の箇所では,暴力団員が関与する法人を識別する基準として役員に着目し,暴力団員が役員である法人による不動産の買受けを制限するとの考え方を提示しております。   このような考え方を採用する場合には,前回会議で御議論を頂いた暴力団員に該当しない旨の誓約を買受け申出の条件とすることとの関係で,誰にどのような誓約を求めるのかが問題になるかと思われますので,併せて御意見を頂ければと思います。   最後に,5ページの「3 暴力団員等の計算において買受けの申出をした者」の箇所では,暴力団員が第三者を利用して規制を潜脱するという行動実態があるとの指摘も踏まえ,実効的な制度としていくためにも,暴力団員等の計算による不動産の買受けを制限するとの考え方を提示しています。この場合にも誰にどのような誓約を求めるかが問題になるかと思われますので,併せて御意見を頂ければと思います。   説明は以上になります。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,適宜項目を区切って御議論を頂きたいと思います。   まず,「1 暴力団員以外の自然人」,資料の1ページから3ページまでのところでありますが,この点について御意見を御自由にお出しいただければと思います。 ○阿多委員 質問も含めてということでお願いしたいのですが,イの方で,暴力団員の配偶者などというような形で配偶者を例示しながら,それ以外の可能性も含めて記載されているのですが,どういう方をイメージされているのかを御紹介いただけたらと思います。それを踏まえて少し意見を述べたいと思います。 ○山本(和)部会長 それでは,事務当局からお願いいたします。 ○山本関係官 配偶者以外の自然人といたしましては,交友関係などを通じて密接に関係を有する者も,買受けの制限の対象として検討することが想定されるかと思います。2ページの中くらいのところで記載してございますが,ただ,そういった密接な関係を有するか否かをどのように判断するのかという点に,一つ問題もあろうかと思います。 ○阿多委員 ありがとうございます。配偶者とありましたものですから,その戸籍関係を前提にして親とか子に広げるようなお話なのかと思ったものですから質問させていただいたのですが,意見といたしましては,アの本人については,現暴力団員に限定してしまいますと御指摘のような対応の関係で処理し切れないことがあるかと思いますので,元暴力団員を含めるということは必要だと考えますが,イのところについての戸籍関係については,憲法22条とか29条の関係,さらには14条もあるかと思いますけれども,本人の属性とは異なることで不動産の取得を制限されるというのは,やはり問題ではないかと思っています。   実質的な理由については,ここに挙げられている以外,我々聞いている限りにおいては,暴力団の配偶者は,必ずしも婚姻関係が届けられているわけでもないというような実態もあります。むしろ最後に御指摘されているような計算等,言わば当該本人が道具になっているというような場合には,その配偶者を含めてこの手続から排除するというような形で考えるべきであって,形式的な身分,ないしは非常に判断が困難な密接な関係というようなものでの手続に載せるということは難しいと考えます。   なお,5年という要件が適切なのかどうかについて,この注のところでもいろいろ意見を書かれているのですが,比較するときに貸金業や宅建業という,言わば行政の許認可というか,それとの比較で物を考えるのか,それとも当該個人が営業活動を行ってするというようなところで考えるのかということに関して言うならば,資格の問題ではなくて,営業活動の自由ないしは財産取得の自由,憲法で言うと29条の話なのだろうかなと思って拝見しています。   そうなると,競争の導入による公共サービスの改革に関する法律のところでは5年と出ているのは有力な事情になるのかなとは思います。ここでは挙がっていませんが,記憶によれば,いわゆるサービサー法を導入するときも,これはある意味では職業選択の自由が問題になった事例かとは思いますけれども,そこでも債権の取立てというのが当時暴力団関係者の生業として典型的だったものを排除するためにはどれくらいの期間を置くのが適切なのかということを考えて5年という答えを出したと記憶をしているものですから,そういう意味では現行の数字の5年というのもそれなりの合理性があるのかなとは思っています。 ○中原委員 部会資料8-2の3ページの(注3)の箇所で,全銀協の暴力団排除条項が参考に挙がっていますので,5年とした理由について簡単に御説明を申し上げます。   これは貸金業あるいは包括信用あっせん業,サービサー業,探偵業,産業廃棄物処理業などの行政上の許認可等の拒否理由や欠格理由として,暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者が定められていますので,全銀協もこれに倣って5年という期間を定めております。   したがって,銀行取引では暴力団員でなくなっても5年間は取引を排除していますので,競売手続においても同様な期間を設けられることに異存はございません。 ○今井委員 なぜ辞めてから5年間は暴力団排除と同等の扱いをするかということにつきまして,一言申し上げたいと思います。   例えば覚醒剤等で暴力団組員が捕まりますと,新聞等で見ていただければ分かりますとおり,必ずと言っていいほど元暴力団になっておりまして,その意味は,暴力団であるかないかという直接の身分は暴力団事務所,組長が決めることですので,そういう形ですぐにできてしまう。ですから,本当に破門しているかどうかは分かりませんが,それを言いますと元暴力団と言いながらも,実際にはそうではないという,内輪では組員で,シノギという活動については組員そのものであるということが,これは警察の方がいらっしゃっていますのでよく御存じの話ですが,これは一般的によくあることで,特に最近暴力団排除という民間社会の活動が活性化すると,余計に余り暴力団であることを誇示する動機がなくなってきているというのが実態でございます。そういう意味で何らかの形で問題になる,若しくは捕まる,そのときにもう組員ではないよと言われたときに,明らかに組員であったという裏付けがあること,例えば検挙であったり,逮捕情報であったり,それが3年前だ,そうすると3年前には明らかに組員であった。そうすると3年たっているわけですから,仮に本当に組員でなくなったとしても,それから5年はたっていない。こういうことが暴力団対策の実践的な意味があるのだろうと思いますので,そういう意味で世間が一般的に辞めてから5年というのは,いつからかということが大きなテーマというよりは,潜脱を許さない,若しくは身分を偽ることを許さない,こういうことが今の対応なのだろうと思います。感想で恐縮ですが,そういう意味でアについては賛成でございます。   ついでにイのことを申し上げますと,本件は暴力団員の競売からの排除ですが,今,社会での活動は暴力団排除というよりは,反社会的勢力からの取引排除というテーマになっていることは今更言うまでもありません。つまり暴力団というだけではなくて,反社会的勢力というところまで広げているわけであります。   そうしますと,暴力団ではないけれども,反社会的勢力って何なのだ,この定義がなかなか難しいわけでありまして,そういう中で暴力団とその行為を助長する関係にある人,あり得る人,そういうことをインクルーズして反社会的勢力と,典型的なのは警察で言う共生者や密接交際者,配偶者となると,配偶者が経験的に助長しているだろうというところであればそういう範疇にも入るだろうと思うんですが,いずれにしても,当該暴力団組員との密接性,それから,どういうふうにその行為を助長しているか,その枠をどこまで広げられるか,そういうところでありますが,定義と立証がなかなか難しいというのが実務だろうと思います。   以上です。 ○中原委員 部会資料8-2の1ページ第3の1のイについて申し上げます。   全銀協の暴力団排除条項には,暴力団員以外に,暴力団準構成員とか,あるいは暴力団関係企業,総会屋等,あるいは社会運動等標榜ゴロ又は特殊知能暴力集団等,その他前項に準ずる者という,いわゆる反社会的勢力と呼ばれるもの,あるいは共生者と呼ばれる者も排除していますが,今回の制度の中で,裁判所が本当にこれらを確認できるのかという点はあると思います。本来的には排除できるのであれば,排除するに越したことはありませんが,現実問題として,これらの情報を警察から取れるかというとまず無理でしょうから,現実的には暴力団員に限るしかないのかなと思います。 ○今井委員 今の点ですが,中原委員の御指摘は非常に実務的で悩ましいところなのですが,今,中原委員からも御指摘がありましたとおり,反社会的勢力を社会の取引から排除するという,一連の国民を挙げての活動という意味では,なぜここだけ暴力団というように絞らなければいけないのかという説明はなかなかつきにくいわけですが,ただ,実際の実務,裁判所等の対応からいうとなかなか難しいですね,というところのそこをどう考えるかというところなのですが,反社会的勢力,共生者や準構成員等も駄目ですよというのは抑止力としてはあるのではないかという感じはするのですが。ただ,それが絵に描いた餅であったり張り子の虎であるとかえって制度としてワークしない,その辺のところがなかなか立証が難しいというのであれば,暴力団なり,ごくその周辺に絞ったほうがいいのかなという気もしますが,ただ,やはり抑止力という意味ではある程度広げていたほうがいいのではないか。   これについては,反社会的勢力というのと,後に出てきます計算や法人,それについて個々に議論をさせていただければ,こんなふうに思っております。以上です。 ○道垣内委員 異論がないようなので,特に言うほどのことはないのですが,配偶者を類型的に排除するということはやめていただきたいと思います。前の話は蒸し返しませんが,配偶者の独立性ということについてどのように考えているのかということが非常に気になります。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   それでは,ただいまの今井委員のお話もありましたが,次に,「2 暴力団員が関与する法人」の点について御議論を頂ければと思います。   部会資料8-2では,基本的には役員に着目して制限したらどうかという原案になっているところですけれども,いかがでしょうか。 ○成田幹事 法人の代表者,役員に着目するということなのですが,代表者が暴力団員であるというのであれば,それほど困らないとは思うのですが,一方で,役員全員という話になってしまいますと,法人の全役員について暴力団員の該当性を見なければいけない。正にそれを警察に照会するということになりますし,その前提として住民票の提出を求めなければならないということになりますと,どうしても執行裁判所の方も照会等で大変なことになりますし,当該法人の方も書類の提出等でかなり負担が大きくなるのではないかと思われます。 ○阿多委員 先ほどの成田幹事の御発言は,法人は対象にするが,代表者だけという御意見かと思いますけれども,代表者だけという形になれば,言わば代表者でなければ,代表者以外の地位で取締役等になるのであれば抜け駆けができてしまうという形になりますので,法人を対象とする場合には役員全員を対象とすべきだと思います。   部会資料8-2の4ページでは,アプローチの仕方として形式的な役員に着目する基準と実質基準というか,支配を問題にする基準が出ていますが,執行手続の手続的な側面を理由にするならば,役員,①の要件は必要だと思いますけれども,②についてまでは少し,従前御説明を頂いている警察への照会も個人の照会であって,ではそれが当該法人についての実質的な支配をしているかどうかは別個の判断で,裁判所は執行記録に基づいて判断しなければいけないということになるかと思うんですけれども,これは無理ではないかと思います。ただ,実際は別の情報で,裁判所にとって顕著な事実で,当該法人の実質支配者は暴力団だということはあり得るかもしれませんが,少なくともアプローチとしては形式的基準かと思いますので,その点述べたいと思います。   それから,先ほど住民票提出というお話がありました。住民票は,前回,本人が自然人の場合,提出が義務付けられるというようなことは,賛成したのですが,法人の場合に役員全員の住民票を本当に出さなければいけないのか。むしろ最近の株主リストではないですけれども,会社の方が役員リストを作って,それが正確であるということを証明させて,それで出せば,都度住民票を徴収してという必要はないと考えていますので,むしろ手続的なところでその辺は対応できると思っています。 ○成田幹事 例えば,現在事項証明書に住所も書いてあったりしましょうから,そういうもので対応できるのであれば差し支えないのですが,前回,振り仮名が要るといった話もあったかと思いますので,そことの関係でどこまで負担が掛かるのかが読めないところがあると思います。   あと阿多委員がおっしゃるように代表者だけであれば,潜脱もされてしまうというリスクはあろうかと思います。そういう意味で仮に役員全員ということであれば,前回議論がありましたように宅建業者ですとか,他の法令によって暴力団員が排除されているような場合については照会不要という形にしていただくのが円滑な執行手続を維持する上で必要不可欠ではないかなと思います。 ○中原委員 役員についてどう考えるかという点ですが,民間の銀行では法人に関しては役員全員についていわゆる反社会的勢力の該当性をチェックしているので,競売手続においても同様に役員全員をチェックの対象とすべきであるという点については,銀行界の意見が一致しているということをお伝えしたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   この誓約の部分については,4ページの(2)のところで,①,②というような選択肢も挙がっていますが。 ○阿多委員 もう誓約書のところも含めてのお話かと思いますので,まず,法人の場合も誓約書は提出すべきであると考えますが,二つの方法,代表者がいわゆる役員全体についての表明保証する形の場合と,②の個別に求めるということがありますが,先ほど役員リストと申しましたけれども,代表者等であれば,当該会社の全ての役員が暴力団員でないということについて自ら調査して,それは確認した上で表明するということは可能と考えますので,作成者は代表者のみでよいのではないか,全員分の表明保証を付けて出さなければ競売に参加できないというのは手続としては少し重たいのではないかと思っています。   ただ,その場合の問題として刑罰との関係を少し気にしていまして,先ほど一方でそう申したのですが,では必ず代表者が署名,これは署名であれば別ですけれども,記名押印等でする場合に,実際の法人の事務処理の実態として,代表者が処理をしているのか,むしろ決裁権限等が場合によってはおりていて,例えば不動産なんかでも一定額以上であれば,どこどこで決裁して判断する。その際の形式的要件として暴力団員がいないとなったときに,常に代表者が処理をしていて,それに違反していた場合に,代表者が刑事罰の対象になって,両罰規定で法人になるという論理の立て方が本当にいいのか。実態は総務の方で処理をしているというようなこともあり得るかと思いますので,形式的にはここに書かれているように代表者が表明保証して代表者が出せば,刑事罰でも個人責任としては代表者だという流れは分かるのですが,いろいろ御検討いただく必要があるのかなとも思っていますので,その点付加したいと思います。 ○佐成委員 今,阿多委員のお話を聞いていて少し感じたところを申し上げます。実際,この件に限られませんけれども,代表者というのは恐らく社長になるわけですが,競売の立て付けでどうなのかはよく分かりませんけれども,普通,会社組織の場合には総務系の部署で実際にはそこの部長が処理をし,ただ,名義は社長名で出されて,しかもそこには公印を押すことになります。今回,誓約書としてどういうものを求めるかにもよりますけれども,もし公印を押すということになれば,代表者の印鑑証明が必要になりますし,個人の場合であってもやはり印鑑証明を添付させるということであれば,手続的にはかなり重たくなる気がいたします。そこまでは普通民間の契約書ではやりませんけれども,今回の手続ではやるのかというところも少し気になっておりまして,どこまでそこを重たくしていくか,刑事罰との関係がありますので,どこまできちんとやっていくかというのは非常に難しい問題があるのかなとは感じております。   なので,代表者個人に刑事罰を科すというのはいきなり飛び過ぎているような気がいたしますので,もし表明保証に違反したときにどういった効果を持つかということについては,本当に代表者個人に刑事罰を科すのが妥当なのかというのが非常に気になることであるということだけコメントさせていただきたいと思います。 ○垣内幹事 刑事のことについては全く不勉強なんですけれども,ここで虚偽の誓約に関して刑事罰を科すというときに,過失犯ということではないと思いますので,虚偽であるということを知り,故意に誓約をした。ですから,暴力団員が役員にいるということを知っていたのに,いないという誓約をしたという場合についてはこれは処罰の対象になり得るという限度でのお話と理解しておりますけれども,そこはそういう理解でよろしかったでしょうか。 ○山本(和)部会長 いかがでしょうか。 ○筒井幹事 御質問ありがとうございます。いろいろな可能性を検討することにはなろうかと思いますが,現在,思い描いているのは御指摘のとおり故意犯ということになろうかと思います。   それから,一つ前,佐成委員の方から疑問を呈された印鑑証明まで求めるのかという点については,差し当たり今の時点でそこまでを求めることは想定していないところであります。 ○山本(和)部会長 よろしいでしょうか。   それでは,よろしければ,引き続きまして資料5ページ,「3 暴力団員等の計算において買受けの申出をした者」,こういう規定を設けるという考え方についてどうかということですけれども,御意見を頂ければと思います。 ○阿多委員 計算の部分ですけれども,先ほど少し形式的な身分関係でするのではなくて,実質的なもので判断すべきだということを申しましたが,ここでは計算についてという規定は入れるべきだと考えています。   端的に言いますと,他人の名前で出せば,その場合,この手続をすり抜けてしまうというのはやはり問題だと思いますので,一般に予防的なことを考えても,計算については規定を入れるべきだと。従前の,一度このときには実効性の議論が,御指摘がありましたけれども,今回誓約書,後で誓約書はいろいろ意見が出るかと思いますけれども,誓約書とか,場合によってはお金の入金ルートがより明瞭になるような,例えばお金は口座振込に限定するとか,いろいろな形で計算についてのルートを知り得ることも可能かと思いますので,全く実効性がないとまでは言えないのではないかと思います。ですから,「計算において」は入れるべきだと考えます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○成田幹事 阿多委員に1点質問があるのですが,そのお金の振込みに限るというのはどんな場面のことをお話されているのか,教えていただけますか。 ○阿多委員 すみません,イメージしましたのは,少なくとも,今も多くの振込みの手続が利用されているのかと思っているのですが,少なくとも口座振込であれば,どこからお金が出ていて,もちろんそれが名義人の口座から振り込まれる,ないしは第三者からの振込みか分かると思うのですが,より金融機関の方がマネロンをしていて,暴力団の資金の流れに関してはかなり御関心を持ってチェックされているので,計算というようなところでも本当にそういうところからお金が出たのであれば資料等も入手しやすくなっているのではないか。それで現金の支払ではなくて,振込みという方法を使って,金融機関を使ってお金の経路を見るということもできるのではないか,そういう意味で申し上げたつもりです。それは保証金や買受けの際の差額の支払,いずれもという意味です。 ○成田幹事 売却代金ですので,売却許可決定が出た後のお話になってしまうので,必ずしも有効にならないのではないかというところは…… ○阿多委員 それはあるかもしれません。 ○成田幹事 少し気になるところであります。   それとはまた別に,この点について意見を申し上げますと,従前の議論ですとか今回部会資料にありますとおり,現実に第三者の計算における買受けの申出が判明することは極めてまれでして,現行法の71条の買受けの資格を有しない者等の計算においてという理由で売却不許可になった例は見当たらないようでございますので,そうすると実効性が確保されない制度を設けるのは余りうまくないのかなという感じがしております。 ○阿多委員 ここでは民事のお話しか出てないのですが,仮に刑事罰について,何らかの形で導入する場合に,その計算を含めて,つまり誰がお金を出して,暴力団が参加してこの競売手続を妨害したのかと考えたときに,計算についての民事の規定なく,刑事の方だけで処罰するということは難しいのだろうと思いますので,将来の別途検討するであろう刑事罰のことを考えると,やはり民事の方でも計算においては駄目だという形が必要だと思います。実際,民事では例がないというのは承知していますが,京都地裁等で刑事の方で,それを参考に刑事事件について処理をした事例があったかと思いますけれども,やはりそういう意味でも一般予防的,それも刑事を含めての一般予防的なことを考えるならば,計算においての規定は必要だと思います。 ○谷幹事 計算においての部分につきましては,資料にございますように導入をするのが相当だろうと考えております。それで論点,恐らくその必要性なり意義なりという点については特段御異論があるわけではなくて,実効性があるかないか,実効性がないような制度を導入することは相当ではないのではないかという辺りが論点なのかなと思っております。   その点については,確かにどこまで事実関係が判明するかという問題はあるだろうと思いますけれども,ただ,それは現行法の下において,債務者の計算においてというのも不許可の理由になっているわけですけれども,これも必ずしも全ての事例を把握して適切に処理しているわけではないという意味では,補足率という意味ではかなり低いという実情にあるのだろうと思います。しかし,だからと言って,この規定が不要であるという議論があるわけでもございませんし,暴力団の計算についても同じく必要性というものがあるのであれば,実効性が必ずしも期待できないとしても,置いておく意味というものはあるだろうと思います。   逆に,これを置かないということになれば,むしろ暴力団員が自らの名前ではなくて,他人の名前で入札をすればいいということをメッセージとして発するということにもなりかねないですし,そういう潜脱というものが大いに起こってくる可能性もあるだろうと思いますので,そうした意味からこの規定は置いておくほうがいいのではないかと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。あるいはこの辺も6ページの(2)のところで誓約の話が出ていますが。 ○阿多委員 では,誓約書の点ですけれども,場合分けを丁寧にしていただくとこうなるのかなというのは読んでいて理解はしたのですが,これは暴力団について誓約書を出すという形での誓約書を意味して,それで第三者が出した場合に,第三者の計算によるかどうかという,この部分について第三者が暴力団ではないということを求める形になると,既存の支払に際して,債務者の支払は駄目だという形,では,その部分については何も手当てをしないで,暴力団の場合だけここまで細かく場合分けをするのかというと,制度としてそこは非常にバランスが悪いような,もちろん理屈としては,今後入札に際して債務者からの計算で出したのではないというのを,そういう誓約書を出させるのもあるのかもしれませんが,元々入札参加者というのは債務者と縁がない人が多数なのに,そんな誓約書を出さすこと自体おかしな話なわけで,となりますと,誓約書については少なくとも名義との関係で提出を求めればいいのであって,ここまで細かく場合分けをして,第三者の場合はその人が暴力団員ではないんだということまで第三者に事前に求めて,それを入札参加の時点で常にそろえろというのは手続が逆に少し複雑になって,逆の意味で実効性が確保できないのではないかと思いますので,誓約書は形式的に入札名義を前提とするもので足りると思っています。 ○山本(和)部会長 入札名義を前提とした誓約というのはこの①とは違うのですか。 ○阿多委員 あ,ごめんなさい,ですから,②以下の複雑なものは考えないという。 ○山本(和)部会長 ①のようなものでいいということですね。 ○阿多委員 ええ,いいかと思います。 ○道垣内委員 「計算において」という言葉というのはいろいろなところで使われる言葉だろうと思います。そして,経済的利益がその人に帰属するという意味なのだろうと思いますけれども,今ここで問題にしているのはどういう話なのかを考えてみますと,暴力団の関係者が市場価格よりも安く不動産を手に入れるということを防止しようとしているわけではなくて,不動産を手に入れようとすることを防止しようとしているわけですよね。そう考えたときに,「計算において」というのが本当にメルクマールとして適切なのかというのが何となく気になるのですね。つまりどういうことかというと,例えば私が1億円で購入する,しかしながら1億2,000万円ですぐに暴力団に転売するということが決まっている。そのときには私は正に2,000万円の利益を上げるわけであり,競売の利益は誰に帰属しているのかと言ったら,私に帰属しているのでしょうが,それを防止するということが本来は必要なのではないか。そうなると,誓約書というのは,「計算において」というふうな皆さんが慣れ親しんだ言葉で記述せざるを得ないのかもしれないのですけれども,例えば暴力団員に転売するということを前提にして購入するわけではないといったりする実質的なところについても本当は誓約を出させたっておかしくはないと思うのです。   実際問題として,とりわけバブル期等においては公営のマンション,公営というか,公社系のマンションなどで当たったらぼろもうけというのが結構あったわけなのですね。しかるに,そういうときには転売禁止の条項があって,買戻し条項が付いているという事例が多々あったわけでして,これは一般の人に自分の家屋を得させるというために公社系のところが作ってマンションを販売しているのだから,バブル期だからと言ってすぐに転売してもうけるということをされたのでは目的に反するから,売主は買戻しができますという,こういう特約だったわけです。暴力団員の問題のときにも,それは考えられてよいのではないかという気がします。もちろん禁止されることを定めるルールと,誓約書の内容に関するルールが違ってよいのかという問題はあるのかもしれません。そして,禁止についてのルールにおいて,あまり実質的なことは書きにくいということであるならば,今申し上げたことは撤回せざるを得ないのだろうと思います。しかし,私は②を書かせてもおかしくないと思うし,もっと実質的に書かせたっておかしくはないという気がいたします。 ○阿多委員 よろしいですか。道垣内委員の御指摘は経済的利益が誰に帰属するか,ですから,計算よりも本人の利益なのか,途中で言わば利ざやを抜いて転売すれば,それは本人の計算で本人の利益の話になるかと思うのですが,むしろ今のお話は転売制限の話で,第1回か何かのときに結局,この暴力団排除についてどこまで競売手続で関与してコントロールできるのか,暴力団に最終帰属するのは困るけれども,転売制限まで掛けられるのか。そうするとその誓約書に違反し転売した場合に事後どういう形の違反になるのかという話に,効果としてどうなるのかとなるかと思いますので,売却許可を出すか出さないかというような判断の要素としては,おっしゃったようなところの転売制限まで入れるお話は手続的には少し,少し難しいのかなと。むしろここで言う計算というのは,経済的な効果の帰属よりも,誰の出捐なのかというところが意味があって,第三者の名義で取得されても暴力団事務所として使われるけれども,実際はお金を出しているのが暴力団員だというところが問題のメーンなのかなと。転売については競売手続での制限は少し難しいのかなと思って今まで議論してきたつもりです。 ○道垣内委員 私が公社の例を出したのでかえって混乱をさせたかもしれません。大変申し訳ございません。   私自身は転売のときにも発言させていただきましたけれども,私,そのとき発言したのは,一般人が暴力団に売ることが禁じられないのになぜ国は禁じられるのか,本当に説明がつくのでしょうかということです。そのときには転売について禁止をするということは無理だろうという前提で話をしました。   これに対して,私が今ここで発言したことは,転売を目的として購入すること,転売を予定して購入することは認められるかという話で,転売禁止とは本当は少し違うのではないかと思います。ただ,その問題が転売一般の問題とか,いろいろなところに波及してしまい,かつ禁止規範を作ってもなかなかそれを実質的に判断するというのは困難であるので,「計算において」というところでとどめようというのであれば,それはそれでよいのかなと思います。   ただ,かといって,誓約において,そのことを書かせるのは無理だということに直接つながるのかというのは少しまだよく分からないところがあります。 ○今井委員 阿多委員の意見と同じようなことに,ちょっと付け加えさせていただきたいと思います。   確かに道垣内委員のお話を聞いていると,計算という言い方がほかにもっと適切なものがあればいいのでしょうけれども,この計算というものの狙いは阿多委員が申し上げたとおり,これはむしろダミーとして,入札者がダミーで,真の当事者が暴力団員である,そういうことをしようということの言い方で,かといって,法律にダミーと書けませんので,計算にということだろうと私は理解しておりました。   更に申し上げると,では,このダミーという人は暴力団員と一般にはどういう関係にあるのだろうということ,これは実際多いわけですので,それはいわゆる,今御議論の中にある反社会的勢力であるという認定をされる方が多分ほとんどだろうと思うのです。正に密接交際者という,暴力団との密接交際,密接交際者自身を排除できるのであれば,この計算なり,ダミーなりという真の暴力団員というところに着目しなくてもいいのだろうと思うのですが,転売益という経済的な利益ということはまた別な議論だと思いますし,ここで言う計算というのはダミー防止ということなのだろうと考えております。 ○垣内幹事 先ほど御指摘のあった不許可事由として排除される実体的な事由の内容と誓約の内容の関係についてなんですけれども,誓約という制度を導入するときに,その趣旨をどう考えるかというのはいろいろな考え方があり得るのかとも思いますけれども,私自身は差し当たりのところでは,誓約という制度は例えば暴力団員又は暴力団員であった者による買受けは認められないであるとか,その種の者の計算による買受けを認めないということを定めたときに,その定めの実効性を確保するという観点から誓約という手続を追加し,かつ場合によってはその虚偽の誓約がなされた場合にそれに対する制裁も考えていくという性質の問題なのかなと理解しておりましたので,そういう基本発想からしますと,基本的にはこれは不許可事由の内容と誓約の内容というのは対応して考えるべきものではないかと思われるところです。   とりわけ虚偽の誓約について刑罰を科すといったようなときに,およそ直接には不許可事由には該当しないような事項について誓約の義務を科し,そこで虚偽の誓約があったからと言って刑罰を科すというときには,その刑罰というのは一体何の方法を意図して科される刑罰なのかというところがかなり疑問が大きくなるような感じもしているところでありますので,刑罰は全くないということでありますと,そこは刑罰を科す場合と比べると柔軟に考えるという余地はあるいはあるのかもしれませんけれども,基本的には不許可事由の内容と誓約の内容というのは対応するということかなと私自身は考えております。   以上です。 ○佐成委員 今の垣内幹事の御説明を前提に私も考えておりますけれども,その上で誓約の制度を入れた場合に,これは一般人が読むわけでございまして,法律家が読むわけではございません。ですので,「計算において」といった表現について,法律家が解釈するのであればある一義的な意味を観念できると思いますけれども,一般人が読むものですから,その辺りの表現ぶりとか説明については相当慎重にやっていかないといけないと思いますし,もし刑事罰を科すということであれば,更にその辺りは十分配慮していく必要があるのではないかということを感じましたので,一言申し上げておきます。 ○山本(和)部会長 貴重な御指摘かと思います。   ほかに。 ○谷幹事 誓約の問題につきまして,若干理論的な整理をしておく必要があるのかなと思うのですけれども,仮に誓約の制度を入れるとした場合に,それが不許可事由の運用に当たっての実効性の確保ということが目的なのかどうなのか,仮にそういうことが目的だとしても,そもそもそれをどういう性質のものとして考えるのか。この点については前回の事務当局の御説明では,暴力団員であるということの売却不許可事由との関連で言えば,暴力団員ではないという事実を表明をして,それが事実であるということのある意味で宣誓の意味があって,宣誓違反があった場合に罰則を設けるという考え方ができるのではないかというような御説明だったと思うのです。   そういたしますと,要するに誓約というのは,ある意味では一つに性質としては事実の表明,それを基に売却不許可事由があるかないかを裁判所が判断をする,言わば証拠としての意味がある,こういう性格だというのが事務当局の説明だったと理解をしておりまして,それはもちろん一つの考え方としてそういう考え方ができるのではないかという意味であって,それ以外の考え方はないという趣旨ではないわけですけれども,そういうものであったと考えた場合に,どこまでどういう誓約ができるのかというようなことはおのずとある意味では論理的に出てくるのかなと思いましたので,ちょっとその点だけ指摘をさせていただきました。 ○平田委員 誓約の関係ではないですけれども,よろしいでしょうか。   暴力団員が役員である法人の規律については先ほど御議論があり,特に,裁判所としては手続が煩雑になるということ,実効性がないということで反対は申し上げたところなのですが,仮にこういう規律を作ることになった場合には,いわゆる元暴力団員が役員であった場合を考えなくていいのか。それから,今,考えられている規律では買受け申出時点でということになっていますので,それから過去に遡って暴力団員が役員であった場合は考えなくていいのかということは検討しておいたほうがいいのかなと。端的に申し上げますと,こういう規律ができますと,暴力団員が役員をやっている会社は役員を入れ替えた上で買受け申出をすることは容易に考えられるわけで,それが登記簿上明らかになった場合も,そこを排除できないということにはなりますが,それでよろしいかどうかというのは,考えておいたほうがいいのかなとは思っておりますが,その点はいかがでしょうか。 ○山本(和)部会長 事務当局で御検討いただけますか。 ○筒井幹事 検討させていただきたいと思います。 ○阿多委員 よろしいですか。今の点,マトリックスというか,組合せの話で,現暴力団で個人と法人があり得て,元暴力団の個人と法人があり得て,イメージとしてはおっしゃるように元の代表者以外の役員になる場合ですけれども,ただ,整理としてそうなって,ただ,実際に手続的なところですると,そうすると役員交代の役員リストを出すときも,いついつまでの役員はこういう人ですとか,そういう形のリストの提出みたいな形にどんどん広がる可能性があって,私の立場でそんなことを言うのは変なのですが,そこは形式的にどこかで線引きをしなければいけない話なのだろうと思います。従前,私の理解は,警察への照会は飽くまで個人の属性についての照会で,どの法人の役員をしているかどうかというのは,警察情報で別段それがブラック企業かどうか分からなくて,こちらから買受け申出人の法人の役員はこの人ですと出した者だけの照会をする。であるならば,この段階でとにかく元か何かも含めて人をリストアップしてもらって,照会材料を提供するということと理解していますので,それ以外のところで元職を含むかどうかというのは,むしろ仮にそれをするのであれば,裁判所の方の執行記録の上でどこまで判断できるのかという,そういう御判断の内容になるのかなと理解をしていたのですが,それ以上の,役員交代して,実はそこで元職が入っているというのは,もちろん裁判所がその段階で何らかの情報で気付いて,その人が念のために元職かどうかを警察照会に追加されるのであれば,それは知ることができるのかもしれないですが,なかなかそういう手続をイメージしていらっしゃるのかというのがよく分からないのですが。 ○筒井幹事 ただいまの御指摘の中には,以前に役員であった者が暴力団員であるケースも含まれていたかと思いますが,基本的な検討の対象としては,入札の時点を基準時として,個人であれば,その時点で暴力団員であるか,暴力団員を辞めてから5年を経過していない者,法人であれば,その入札の時点における役員に関して,その役員の中に現に暴力団員であるか,又は暴力団員を辞めてから5年が経過していない者がいるかどうか,この限度でまずは検討対象になるのであろうと思います。更にそれの発展形まで射程に入れる必要があるかどうかというのは,なお検討課題とはなり得ると思いますが,差し当たりは今整理したようなラインで検討を進めてみたいと考えております。 ○阿多委員 多分暴力団関係の2巡目の議論はこれで最後ですので,今回の資料では誓約違反の刑事罰のお話が出ているのですが,それ以外の刑事罰のお話は出てなくて,先ほど途中でも刑事罰を設けるのであればと申し上げましたが,刑事罰の可能性というのはいまだ残っているという前提で理解してよろしいのでしょうか。記載がないものですから,念のための確認ですが。 ○筒井幹事 現時点で検討しておりますのは,こういった暴力団排除の仕組みを設けた場合に,現在の刑罰法規,とりわけ詐欺罪,あるいは強制執行関係売却妨害罪等に該当することとなるかどうかを,その関係当局と協議するなどしているということです。そこで捕捉できれば,これらは言わば実質犯ですので,ある程度の重さの刑罰に処せられるという可能性は広がるであろうと考えられます。   一方,それと並行して検討しておりますのは,御指摘がありましたように今回の競売手続の中で一定の誓約をさせるというプロセスを設けて,その誓約が虚偽であったということを捉えて処罰するという,これは言わば形式的な犯罪類型ということになりますので,処罰の重さという意味ではそれほど重いものを期待することは困難であるかも知れませんが,現時点ではその両面で検討を進めてみたいと考えております。 ○中原委員 暴力団員の計算において買受けがあった場合に関してですが,売却許可決定が下り,代金の払込みも終わり,配当も終わった後に,暴力団員の計算において代金の払込みがされたことが分かった場合でも,その配当手続には何ら影響はないということでよろしいのでしょうか。 ○筒井幹事 現時点ではそのように考えております。 ○中原委員 分かりました。 ○山本(和)部会長 ほかにはおおむねよろしいでしょうか。   それでは,暴力団の買受け防止の方策につきましては,以上とさせていただきまして,引き続きまして,今度は部会資料9-1「債権執行事件の終了をめぐる規律の見直しに関する検討」の部分について御議論を頂きたいと思います。   まず,事務当局から資料の御説明をお願いいたします。 ○松波関係官 部会資料9-1について御説明いたします。   この部会の第5回会議におきましては,差押債権者の協力が得られずに,いつまでも債権執行事件が終了しないという問題について取り上げて御議論を頂きました。その際には,問題となり得る場面として,取立権が行使されずに放置されている場面と,差押命令が債務者に送達されないまま放置されている場面の2つを御紹介しまして,御議論頂きました。これらの場面で債権が差し押さえられたまま漫然と長期間が経過するという問題が生ずるということについては,この部会の中でおおむね認識を共有することができたのではないかと思っております。また,これらの場面について,債権執行事件の終了をめぐる規律を見直す必要がある理由につきましては,様々な面からの御指摘を頂いたものと認識しております。   そこで,これまでに頂いた御指摘につきましては今回の資料の補足説明の中でも幾つか取り上げさせていただいておりますが,今回の資料の本文では,これまでの議論を踏まえまして,この問題への対応策としてあり得る選択肢の一つを提示してみました。   まず,資料1ページの本文1の(1)におきましては,債権が差し押さえられた後,差押債権者が取立てをせずに放置しているという場面に対応するための規律を取り上げております。この場面の対応策としては,金銭債権の差押えがされて取立権が発生した後,一定の期間が経過したことを要件として,執行裁判所が差押命令を取り消すことができるものとするという規律を設けることが考えられると思いますが,この場合におきましては,差押債権の中に条件付きのものや期限付きのものなど,債権者が直ちにはその取立てをすることができないものがございますので,そういったケースでも支障がないようにする必要があると考えられます。   そこで,本文のアとイの部分におきまして,取立権の発生後,一定期間が経過したときには,まず,執行裁判所が差押債権者に対して第三債務者から支払を受けた旨の届出をするか,又は第三債務者から支払を受けていない事情の届出をすることを命じるものとしまして,その命令がされた後,更に一定の期間が経過したにもかかわらず,差押債権者がこれらの届出をしなかったときには,執行裁判所が職権で差押命令を取り消すことができるという枠組みを試みとして提示しております。   本文のウでは,こういった規律の下で,差押債権者からの届出によって,この期間の起算点を後ろ倒ししまして,いわば取立権の行使期間を延ばすような仕組みを提示しております。   この仕組みによりますと,例えば給与のような継続的な給付の差押えの場面では,差押債権者が第三債務者から支払を受けて適切な時期に執行裁判所に取立ての届出を提出していれば,その都度取立権の行使期間が延びていくということになり,差押命令の取消しがされないことになります。また,差押債権者が何らかの事情によって第三債務者から全く支払を受けていないという場合には,一定の期間の経過によって執行裁判所からその事情の届出をするように命じられることになりますが,この命令を受けた差押債権者が全く支払を受けていない旨や,その原因,理由などの事情を届け出れば,取立権の行使期間が延びることとなります。   次に,資料の5ページの本文の1の(2)についてですが,第5回会議におきましては,債権の差押えの場面と同様に,民事保全として債権の仮差押命令が発令された場面におきましても,仮差押えがされたまま漫然と長期間が経過するという状態が生じ得るという御指摘がございました。もっとも,債権の仮差押えの場面では,仮差押債権者は取立権を有しているわけではないという点や,起訴命令や事情変更による保全取消しの手続が別途用意されているという点で,債権執行との違いがあると思います。ここでの議論では,この違いをどのように評価するのかというところが問題になろうかと思います。   資料の7ページでは,差押命令の送達未了の場面に対応するための規律を取り上げております。本文では,類似の現象が生ずる場面に関する現行法の規定や関連する裁判例などを参考にしまして,債務者に対して差押命令を送達することができない場合には執行裁判所が差押債権者に対して送達場所の補正を命ずることができるようにした上で,差押債権者がその補正をしないときには,裁判所が職権で差押命令を取り消すことができるとする規律を,試みとして提示しております。   また,資料の9ページの本文の2の(2)では,債務者への送達をすることができずに事件が滞留するという現象が債権の差押えの場面に限らず,不動産競売や民事保全の場面でも同様に生ずるのではないのかという考えに基づき,本文2の(1)と同内容の規律を設けることを提示しております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,これについても順次御議論を頂きたいと思います。   まず,資料1ページの「1 差押債権者が取立権を行使しない場面等における規律」の「(1)債権の差押えに関する規律」,資料で言えば5ページくらいまでがその説明になっていますけれども,まずこの辺りについて御意見を頂戴できればと思います。 ○成田幹事 一つ質問なのですが,この本文の案によると,事情の届出をするよう命ずるということなのですが,この命令が差押債権者に届かない場合も想定されるところでありまして,その場合はどういう形になるのでしょうか。 ○松波関係官 本文のアの命令は,差押債権者に告知する必要があると考えられます。御指摘のようにこの命令が差押債権者に届かないという場面もあるかもしれないとは認識しておりますが,そのような場面では,例えば付郵便送達をするなどの方法で通知をするということがあり得るのではないかと考えております。 ○山本(和)部会長 いかがですか。 ○成田幹事 仮にその命令を送達するとなると,当然その費用ですとか,取消決定の送達のための費用を事前に予納してもらう必要があろうかと思いますので,そういう意味でやや差押債権者の当初の負担が重くなるのではないかと危惧しているところであります。   あと補足説明で,問題があるということで指摘をされております,当然失効という案,あるいは取下げ擬制という案もあり得るでしょうが,これらにつきましては,例えば今ですと,民事施行規則136条1項で取下げの場合には第三債務者に通知をするという造りになっていますので,その通知の時点で差押えの効力が失われるという立て方であれば,余り不都合は生じないのかなという気もするので,そちらの方にもまだ魅力を感じるところではあります。 ○谷幹事 ちょっと質問なのですけれども,二つございまして,1の(1)のアの事情の届出なのですけれども,これは例えば取立てができていない事情というのはいろいろな場面が考えられるかとは思うのですが,一つは第三債務者の方から相殺予定であるという陳述書が返ってきているけれども,相殺がなされていないまま時間が経過しているというような場合,敷金を差し押さえたのだけれども,明渡しが完了していないということで,これも取立てが完了していないというような場合は,そういう事情であるということを事情の届出をすればよいとここでは前提とされているのかどうか。仮にそうだとして,そういう事情の届出があれば,事情の届出があったということで取消しはしないという制度を考えておられるのかというのが1点でございます。   それから,2点目は,この1の規律によって取立届,あるいは事情届をしないということで差押命令を取り消した場合の効果なのですけれども,端的に時効の中断との関係が問題となると思います。民法の154条によれば,差押えが権利者の請求により,また,法律の規定に従わないことにより取り消されたときは時効の中断の効力を生じないということになっているのですが,この1の規律による取消しの場面がこれに該当するのかどうかについて,資料作成に当たっての考え方が何かあるのであれば教えていただきたいと思います。 ○松波関係官 初めに御質問がありました事情の届出について御説明いたします。   ここで今回本文で提示させていただきましたのは,支払を受けていない場合にはその旨に加え,その理由や原因などの事情を届け出ることを想定しております。この事情をどの程度詳しく書く必要があるのかというのは,様々御意見があろうかと思っております。現時点では,事務当局として確定的な意見を持っているわけではございませんので,御意見を頂ければと思います。   次に,この事情の届出がされた場合に,執行裁判所がその事情の合理性や正当性を審査する必要があるかどうかというのは,一つ論点になろうかと思います。本文に提示させていただいたものは,この事情を執行裁判所が審査する必要はなく,このような届出がされれば取立権の行使期間が延びるというものです。補足説明の4ページにこの問題点についての検討を試みておりますので,御意見を頂ければと思います。   それから,御質問の2点目についてですけれども,御指摘いただいたように,この規律によって差押命令が取り消された場合に,その後時効がどのように進行していくのかというのは一つの論点になろうかと思いまして,具体的には,この取消しが,現行の民法154条の「法律の規定に従わないことにより取り消されたとき」に当てはまるかどうかという問題の御指摘かと理解しました。ただ,この文言の解釈については,必ずしも確定した裁判例があるわけではないこともあり,直ちには確定的なことを申し上げることはできません。今後,検討の必要があろうかと考えております。 ○谷幹事 それでは,その前提で,先ほどの事情の届出の関係なのですけれども,今御指摘を頂いた4ページの補足説明のところで,(4)の上の辺りに,原則として裁判所は合理性について判断をしないという前提でお書きになっていて,(4)の上の辺りに,ごく例外的な要件の下で差押命令を取り消す余地を残しておくと書かれています。このごく例外的な要件というのはどんなものを想定されているのか,もしお聞かせいただけることがあれば,お聞かせいただければなと思います。 ○山本(和)部会長 事務当局から御説明いただけますか。 ○筒井幹事 そこに書いた限度でして,まだこの辺りの立て付け自体を模索している段階で,先ほど答えたとおりなのですけれども,一定の期間の経過によって当然に失効するというモデルが一つあり,それから,取消しの決定をするというモデルが一つあり,取消しの決定をする前に何か事情があれば届け出てもらう,その届出の程度,内容はいろいろだと思いますけれども,そういうモデルまでは一つの可能性として考えられるだろうと思います。その上で,その届出に正当な理由があるかどうかを審査するかどうか,これは大きな分かれ目だろうと思います。こういった考え得るいくつかの方策について,ただ枝分かれを御提示するのみでは議論がしにくいだろうと思いまして,私どもなりに検討を加えてみますと,その正当性といいますか,合理性といいますか,そこをしっかり審査するというのでは,かなり重い手続になるだろうし,その個々の事情を裁判所が判断するというのでは過大な負担をお願いすることになると思います。ですから,原案としては,まず審査をしないというタイプの案をお示ししたわけですけれども,実際には,ともかく何か届出らしき返事はきたけれども,意味がよく分からないものもありましょうし,その記載どおりだとすると手続を継続しておく必要性が全くないことが明らかなものもあるかもしれない。そういったときに取り消せる余地を残しておくというのは一つの選択肢だろうということで,御提示させていただいたということです。 ○阿多委員 制度についての意見は後ほどという形で,今の関連で実はよく分からなかったのは,4ページの(4)のところのいわゆる不服申立ての手続を「執行抗告とすることができ」という形で書かれているのですが,元々の本文で提案されているのが,届出というものが形式的に出されているか,出されていないかという意味では,形式的な事由に基づいてこの取消しを争うというのであれば,それは前回の議論ではないですけれども,異議とかそういうお話なのかなと思ったのですけれども,そうではなく,実質的な判断を含めて,裁判所が取り消すことの是非ということであれば,この手続が考えられるのですが,そうすると,ここの読み方としては,必ず本文だけの手続を想定しての不服申立てを考えていらっしゃるのではなくて,一定期間経過で取り消すというものも含めての不服申立てなのでしょうか,そこがまず1点目の質問です。   2点目は,もっと根本的なことで確認したいのですが,何のための制度なのかという,そこで当初の紹介は一定の共通認識はできているということなんですが,これを拝見していますと,例えば2ページのところで,最後の下2行で,後者の方向について取り消すことの制度で考えた場合に,一番最後の行で,「専ら第三者や債務者の利益を保護するものと捉えるのであれば」という御説明があるのですが,先ほどの仮差押えの比較うんぬんと考えた場合に,ここで言う債務者の利益というのが一体何なのかというのを教えていただきたい。   というのは,従前から第三債務者の利益については,供託うんぬんすればいいではないか。それは負担だというような形で,第三債務者のなるべく負担軽減でこの手続から解放してあげたいというのは意味があったと思うのです。先ほど仮差押えの関係では仮差押えは債務者自身がいろいろな手続がとれるけれども,本差押えに基づいて差し押さえられている状況で,債務者の利益というのが,もしかしたら時効のお話なのかなとも思っていまして,考えていらっしゃる債務者の利益というのを少し御説明いただければなと思います。 ○松波関係官 まず,最初に御指摘がありました執行抗告の方から御説明いたします。   民事執行法の第12条によりますと,民事執行の手続を取り消す旨の決定については執行抗告をすることができるとされております。この場面で執行抗告ができるとされている趣旨や理由については様々な御説明があろうかと思いますけれども,例えば,民事執行の手続を取り消す決定は当事者の利害関係に重大な影響があるから,執行抗告をすることができることとして十分な手続保障を与えるという考え方によれば,この場面でも同じことが当てはまるのではないかという説明が一つあり得るかもしれません。これと異なる考え方もあろうかと思いますので,御意見を頂ければと思います。   それから,御質問の2点目に関しまして,資料補足説明の2ページの最終行の「専ら第三債務者や債務者の利益を保護する」とありますのは,何らかの確定的な考え方を書いているわけではないのですけれども,例えば,差押命令は債務者の処分権を奪うという点で債務者に不利益を与えるものであるため,それが取り消されることは一般的に債務者にとっては利益になるのではないかという考えや,また,御指摘いただきましたとおり,時効が再度進行することになれば,債務者の利益に適うという考えがあろうかと思います。この制度の受け止め方や新たな規律の意義につきましては様々な御意見があろうかと思いますので,御意見を頂ければと思います。 ○阿多委員 取りあえず結構です。 ○山田幹事 今の点に関連してですけれども,確かに本制度の利益は裁判所の利益であるのもさることながら,第三債務者等の利益もあるだろうと思われますので,第5回会議を欠席しているので議論の状況の理解は定かではないのですけれども,この第三債務者等からの申立権も併せて認めるというような規律もあり得るのではないかと思います。   その際に,先ほどお話がありましたように,差押債権者からの届出の合理性に関して,裁判所が判断するというのは非常に難しいというのはおっしゃるとおりかなと思うのですけれども,そうであれば,第三債務者にそれを争う利益というものがあるのであれば,申立権ないしは職権による取消しの発動を促すということかもしれませんけれども,何らか争わせる機会というものがあってもよいのかなと思いました。 ○中原委員 銀行間でこの問題について議論した際に,差押えが放置されていたので,差押命令が今どういう状況なのかを裁判所に聞いたところ,裁判所に記録がないから分からないという回答があったという話がありました。したがって,先ほど山田幹事からお話がございましたように第三債務者から差押命令の取消しの申立てができるような制度を併せて御検討いただければと思います。 ○阿多委員 その関連でよろしいでしょうか。今,記録がないというお話で,実は後の仮差押えのところとの関係でお伺いしようと思っていたのですが,裁判所の記録の管理ですけれども,本執行の場合は終了事件にならずに事件記録として,物理的な場所は別にして事件は生きている事件として管理されているけれども,仮差押え,保全の場合は発令した段階で終了事件として記録が記録係に行く,そういう意味では両者違うと理解をして確認しようと思ったが,そういう理解でよろしいでしょうか。 ○山本(和)部会長 裁判所の方でお答えいただけますか。 ○成田幹事 通達レベルの話ではあるのですが,債権執行事件において,債権の取立ての届出等がないまま取立権発生後5年を経過したときは,記録係の方に移して事件記録を保存するという取扱いにしております。保全の関係は,先ほど阿多委員がおっしゃったとおりであります。 ○山本(克)委員 この届出の意味というのがもう一つよく分からないのですが,まず,弁済を受けたときはその限りで,全額弁済を受けていればそれで執行事件は終わりということで,本来やるべきことをやってくださいという趣旨ですよね。もう一つの方のまだ弁済を受けていませんというときに,その事情を書かす意味といったら一体何があるのか,私はちょっと理解ができない。つまり例外的な場合というのが本当にあって,それで取り消すという判断をするんだったら,事情を書かせても意味があると思うんですけれども,それがないのであれば,事情なんて書かす意味は何もなくて,むしろ大事なのは債権執行を継続する意思があるかどうかを届けさす。意思がある場合には継続してそのまま続け,意思がないとしたときは取下げをするとか,そういう形にしていたほうが私はいいような気がして,事情というのは何を書いたらいいかよく分からないし,書くことで何の法律効果もないのであれば,そういうものは要求すべきではないのではないのかという気がします。 ○筒井幹事 本文のとおりの規律であれば御指摘のとおりかなと私どもも思います。全く審査をしないということであれば,突き詰めるとそれは事件を継続する意思がある旨の届出で足りるのかもしれないと考えた上で,差し当たり議論していただくために,事情の届出という案をお示しし,その届け出られた内容について,ごく例外的な場合に取り消すことができるとか,あるいは積極的に合理性を審査して取り消すことができるという規律の可能性も排除しないで,当面このような案を御提示したということです。 ○山本(克)委員 積極的審査なんて,多分無理なことで,むしろ負担をどちらかというと軽減したいという発想で出てきたものに負担を課すような規律を出すというのはやはりいかがなものかという気がしますし,特にこういう場合の合理性というのは一体何なのかと突き詰めると,いろいろな意見が出てまとまらないだろうと思いますので,完全に形式化してしまうというほうが私はよろしいのではないかと。 ○阿多委員 先ほど誰のための制度なのかという質問をさせていただいたのは,山本克己委員と同じで,どこまでの制度に,いろいろなことを考えるとそれぞれ違う,前回もそうでしたけれども,違う話になるのかなと思ったのですが,仮にこの制度にする場合,実際中身としてア,イの,いわゆる告知されてから2週間を経過した段階で届出をしないときと要件を立てられているのですが,届出の内容というのが取立て完了もあればいろいろなものを含んで,取りあえず形式的に出せばというお話ですが,やはりこちらとしては届出をするのであれば,それなりの調査をする形になると思います。取立てうんぬんについても代理人が自ら取り立てる場合とかいろいろな場合がありますので,そういう調査のことを考えると,形式的に何か出せばいいと言われると,継続中ですと書いて出すかもしれませんが,真面目に調査をすると2週間では正直言って無理だと思います。そういう意味では中身のある届出ということを考えるのであれば,例えばですけれども,2か月や3か月の期間は頂かないとしっかりした回答は出せない,制度を作られるとしても,そういうようなことをお考えいただきたいと思います。 ○山本(克)委員 先ほど第三債務者の方をうんぬんということが中原委員と山田幹事からあったと思うのですが,そのときに第三債務者が申立てすることができるのは取消しを申し立てることができると考えているのか,それともこの届出の催告をするように裁判所に申立てをするということなのか,これはどちらなのでしょうか。それによって全然話が違ってきて,仮に前者だとすると,正に取消事由は何なのかということを真剣に議論しなければいけなくなると思いますので,その辺教えていただければと思います。 ○中原委員 銀行が考えていますのは,取消しの申立てをすることです。 ○山本(克)委員 そのときに取消事由として具体的にどういうものが取消事由になり得るとお考えなのでしょうか。 ○中原委員 例えば差押命令が送達されて相当期間が経過したにもかかわらず,銀行に取立てに来ていないといった場合は,差し押さえられた預金の管理負担が大きいので,第三債務者が管理負担を免れるために差押命令の取消しを申立てるということです。 ○山本(和)部会長 それはむしろアの事情届の命令を申し立てるという感じではないのですか。 ○中原委員 差押命令の取消しです。 ○山本(和)部会長 これは事情届をまず裁判所が命じて,事情届が出てこなかった場合に取り消すという,何というか,二段階的構造になっているのですが。 ○中原委員 事情届が出るかどうかは第三債務者には分かりませんから,第三債務者の負担を考えれば,差押命令が送達して何年間か経過したにもかかわらず,差押債権者から何らアクションがない場合には,第三債務者からの差押命令の取消しを認めて欲しい,そういうことです。 ○山本(和)部会長 だから,アについても第三債務者は申立権を与えれば,おっしゃる趣旨はかなうようにも思いますけれども。そこは仕組みかもしれません。 ○阿多委員 今,銀行から,第三債務者の申立てでの取消しというお話が出て,特に差押債権者からのアクションがないという場合には,そういう形で自主的な中身の話になりますと,従前から申し上げているようにケースによってはということになりますけれども,第三債務者の方が相殺予定であるという回答をされたがために,こちらの方も対応できないというような中身に入った話になっていかざるを得ないのかなと。そうすると正に山本克己委員がおっしゃったように,どういうものを取消事由にするのかという形になりますので,我々としては本来第三債務者の保護としては供託という方法があるけれども,その負担が大きいということについて,別の手立てを何か考えるという方向で議論するのであれば,こういう形式的なものというのもありますけれども,それを超えた手続,第三債務者の利益を議論されるのであれば,もっと違う理論の立て方を考える必要があるのではないかなと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   この点,いかがですか。 ○青木幹事 離れてしまうかもしれませんが,先ほど山田幹事がおっしゃった申立権との関係で,この手続の一つの,あるいは主な目的が執行裁判所の負担の軽減ということにあるかと思いまして,それはよく分かるんですけれども,この手続自体が負担になってしまうのではないかという気が直感的にはしていて,その関係で教えていただきたいのですが,アは,これは取立権が発生した日から2年なら2年が経過したら,常にというか,原則として執行裁判所はこの届出の命令をするというイメージなんでしょうか。だとすると,それを怠っていれば申立権という話にもなるのかなとも思うんですが,余り申立権ということは考えなくてもよいのかなとも思います。あるいは執行裁判所は特に事件が滞留していて負担だと感じた場合にこの手続を利用することができるという規定なのか,その辺りを教えていただければと思います。 ○筒井幹事 このペーパーで提示しているのは,必ず命じなければならないという意味ではなくて,命ずることができる,そういう権限を付与しましょうという提案なのですが,その点についても御議論いただければと思います。   ただ,裁判所からの届出を命ずることができるという仕組みを試みに用意してみたのは,いろいろなケースがあり得て,執行裁判所の方でも取立てが行われていない事情が分かるケースも中にはありますので,典型的にはいわゆる停止文書が提出されて事件が止まっているようなケースでしょうか,そういった状態で2年が経過しているということは記録上執行裁判所には分かるわけですから,そういった事案であれば何もこの手続を行う必要はないであろう。そういった事態もあり得ることを考えると,このような仕組みを設けるのであれば,裁量の余地を残しておいたほうがよいのではないかというのが現時点での考え方であります。 ○山本(和)部会長 よろしいでしょうか。 ○青木幹事 ありがとうございます。 ○山本(和)部会長 ほかに(1)の部分で御意見はございますか。 ○谷幹事 この制度を設けるかどうかということを考えた場合に,裁判所の負担,あるいは第三債務者の負担というものがあるというのはそのとおりだと思いまして,なかなか正面からこの制度に反対ということではないのですけれども,ちょっと仮に設けるとした場合に,先ほど阿多委員がおっしゃった期間の問題についてはこれは2週間では不足だろうと考えております。そこはもっと長い期間を設ける必要があるだろうという点と,それともう1点,こういう工夫ができないのかなと思うのがございます。それはこの執行法部会の課題なのかどうなのかとよく分からないところもあるのですけれども,やはり時効との関連でして,端的には第三債務者から相殺予定であると陳述が戻ってきてそのままになっているというふうな場合に,これは差押債権者としては取り下げてしまうと時効の中断が元々なかったことになってしまうということもあり,そのまま維持をしている。しかし,一方で事件が終わらなければ債務名義の還付を受けられませんので,別の執行もできないということにもなるので,事件を終わらせるという動機付けといいますか,差押債権者にとってのメリットもありますので,それが何かうまい形で実現できれば,差押債権者としてもあえてこの事件をそのまま置いておく必要はないともなる。そこでやはり問題なのは,仮にこの制度を設けて取消しになったという場合に,先ほどの民法の解釈との関係なんですけれども,当初から時効の中断がなかったとなると,これはなかなか取消しをしてもらわない方向に働くでしょうけれども,そうではないという制度であれば,一旦これで取消しをしてもらって,債務名義の還付を受けて,また別の執行なりにするということもあり得るかと思いますので,ちょっと何かそこら辺りの工夫ができないのかなと,私自身が具体的な案があるわけではないんですけれども,そういう問題意識を持っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   具体的な規定が設けられるかどうかというのは難しいのかもしれませんが,少し考えていただければとは思います。 ○相澤委員 裁判所の立場からしますと,今の本文の御提案のとおりですと,支払を受けていないときの事情の届出の中身としていろいろなものが出てき得る中で,それの内容次第によって取消しをするべきかどうかを考えざるを得ないのではないか,それは非常に難しい作業になるのではないかということがございます。また,届出をする旨の命令は送達しなければいけないわけですので,その送達の作業というのは想像以上のものがございます。東京地裁ですと現時点で取立権が発生している未済件数が約1万件ございますので,そのうちの何割かについて順次2年なりといった一定の年数でそういう送達の作業をすることになるということはなかなか重いのではないかとは感じております。   ですので,成田幹事が申し上げましたような一定の期間で取下げが擬制されるような規律は魅力的かと思います。そこはいろいろな御意見があるのは承知しておりますけれども,規律の仕方はできる限り裁判所にとりましても重すぎないような,判断に迷わないような仕組みを御検討いただけたらと思っております。 ○山本(克)委員 ほとんど議事録にとどめるだけのために申し上げますけれども,相殺予定うんぬんというのはしょっちゅうこのコンテクストで出てくるんですけれども,破産法73条のような相殺権行使についての催告権を差押債権者に与えるというようなことも,今回の改正では恐らく無理でしょうけれども,そういうことも今後は考えられていいのかもしれないと思っています。これについては御返答不要でございます。 ○阿多委員 それとすみません,今回の規律ですけれども,これも従前発言したのですが,裁判所の方はなかなか難しいというのは理解する。これ取立権が発生した日という日を基準ですが,本来ですと,前もお話しました,発令段階で継続的なものを予定しているものを差押債権にしているのか,そうではないのか。さらには陳述書が返ってきて,弁済しない理由について,言わば長期間,先ほどの敷金ではないですけれども,もう見るからに明らかなのか,短期間には弁済がなされないのが明らかなような事情というのはケースによっては分かり得るわけですね。それを一切考慮しないで,取立権というところを基点にして行動されて,非常に形式的な処理を前提にする制度というふうに理解していまして,裁判所の先ほどのお話も含めて,制度とするのであれば,余り実質的なものを入れない,形式的な処理としての制度として組んでいただく必要があって,先ほどの第三債務者からの取消権とかいうような形ではない,事務処理の問題として制度を組んでいただくのがいいのではないかと思っています。 ○中原委員 先ほど相澤委員が言われましたみなし取下げの場合,第三債務者に対してはどのような形で通知がくるのでしょうか。それとも第三債務者がみなし取下げとなる期間を管理するという形になるのでしょうか。 ○相澤委員 先ほど成田幹事の方から御説明がありましたが,それは裁判所の方から通知をするということになろうかと思いますけれども。 ○山本(和)部会長 恐らく現在も民事執行規則の136条の3項で取消決定があった場合には第三債務者に通知しなければならないという規定があるので,通知はされるという前提ですか。 ○成田幹事 恐らく中原委員が危惧されているのは,みなし取下げ,ないし失効した時点と通知があった時点のタイムラグのところを気にされているかと思いますが,そこは,組み方次第だと思いますが,通知の時点で失効するという形はあり得るのではないかと考えております。 ○山本(和)部会長 現行法にもあり得る問題なのかもしれないですか。 ○成田幹事 現行法でも取下げの場合は生じ得る問題かとは思います。 ○阿多委員 現行法の取下げは債権者が取下げの意思表示を,つまり裁判所に提出した段階で効力が生じて,この一般の通知に関して言うならば,我々も債務者に届かないとか,いろいろなケースで追加で調査をしてほしいという形で実務では対応している案件だと思いますが。 ○成田幹事 おっしゃるとおりでして,今申し上げたのは現行法でも取下げの場合,タイムラグの問題が生じる,そういう趣旨でございます。 ○阿多委員 1点,成田幹事から最初に御発言があったのですが,我々やはり費用の件についてどうするのかという点は考えていただきたいと思います。もちろん予納段階で,何年かおきに通知を出すということを前提に予納をすることになるのかもしれませんが,つまり申立債権者の負担という形でするのかもしれませんが,これは実際充当とかをする場合に,一部,どういう順序で充当するのか,まだ使われていない予納が裁判所に残っているというような形になりますので,充当の関係も問題になるかと思いますし,また,足りなくなったときに裁判所が予納命令を出して,それに応じないと,今度はこれがまた,そちらを理由に取消しになるのか,費用との関係についても少し整理しておいていただけたらと思います。 ○道垣内委員 谷幹事の方から取り消される場合の時効の話が出たと思うのですが,改正法148条1項は,申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合にあっては六箇月を経過するまでの間は時効が完成しないということにしておりますので,一応は対応できているのではないかなという気がします。 ○山本(和)部会長 恐らく法律の規定に従わないことによる取消しかどうかが問題になるのだと思います。 ○道垣内委員 そうですね。ただ,取下げの場合だってそうであるわけですから,該当するのではないかという気がしますけれども。 ○山本(和)部会長 分かりました。   ほかにはいかがでしょうか。それでは,(1)についても,もし引き続き御意見があれば伺いたいと思いますが,(2)の方についても御意見があれば伺いたいと思います。 ○阿多委員 すみません,先ほども触れたようなものですが,保全の場合は誰の利益かということにまたこだわりますけれども,債務者の方としては自ら起訴命令の申立てをいろいろ手当てがなされていますので,第三債務者の負担とは違う形でこの取下げ等がなされないまま放置されている場合について考慮する必要がないのだと思います。債権者自身も保全の場合には担保金を積んでいるわけで,当然それを取り戻すためのインセンティブも働きますので,それは置いているのは何らかの事情があるというような形の考慮は本案よりもはるかに考えられますので,保全の場面においてこの取消しの手続というのは導入する必要はないと考えています。 ○中原委員 第三債務者の立場からすれば,差押えであろうが,保全であろうが,負担は全く変わらないと思います。したがって,成田幹事のお話によれば,保全の場合には発令すれば記録はクローズして,何年間か保管したら処分するということであれば,例えば6年後,7年後,この仮差押えはどうなっているのかを第三債務者が裁判所に聞いても何も分からないという状況となるので,第三債務者の保護を考えるのであれば,保全にも同じような規律を入れるべきだろうと思います。 ○山本(和)部会長 中原委員の御認識としては,実態としては仮差押えの場合も結構あるということですね。 ○中原委員 あります。 ○山本(和)部会長 これと先ほどの担保金を取り返す必要があるのだからという話は。 ○阿多委員 もちろん一定の場合に,事件が寝ているという言い方をする,あるのは認識しているのですが,本案の場合のように回収のインセンティブが働かないのと保全の場合とは,債権者側の背景としてやはり放置しているという意識はそれほどない。むしろ先ほど言いましたように担保金を取り戻さなければいけないというようなことを考えて,実際本案を起こしているとか,その交渉で時間がかかっているというケースが多くて,懈怠しているという場面は実情としては少ないだろう。ですから,それについては必要がないという,第三債務者側の立場から見れば同じ事情だということは理解できるのですが,債権者の立場としては前提が大分異なる,そういうことで導入の必要はない,そういう意見です。 ○中原委員 第三債務者は,事件とは全く関係ない第三者の立場ですから,やはり第三者の立場は十分に尊重されてしかるべきではないかと思います。 ○谷幹事 本執行の場合と仮差押えの場合の違いという点で言うと,大きいのは取立権が発生しているかどうかというのは大きな違いでございまして,取立権が発生していて,その上でなおかつ行使しないということは,いろいろな事情があるのでしょうけれども,事情もないのに行使しないという場合にどうするのかというのは,それはそれで対応の必要はあるのかなと思うのですけれども,仮差押えの場合は取立権が発生していないですし,別途本案なりで,その本案についての争いをしていくという状況を考えると,利益状況としては恐らく全く違うのだろうと思います。   したがって,同様の規律,これはですから同様の規律ということになると,仮差押決定から2年を経過したときは催告ができるみたいなことになるのでしょうけれども,同じような2年というのは少なくとも全く利益状況が違う中で,こういう制度を設けるということにはならないのではないかと考えております。 ○道垣内委員 今のお話なのですが,中原委員は第三債務者にとっての利益状況をずっとお話になっていたところ,第三債務者にとっても利益状況は異なるという御判断でしょうか。 ○谷幹事 第三債務者にとっての利益状況は全く同じとは言いませんし,逆に全く異なるとも言いませんけれども,若干の違いはあるだろうけれども,ある程度同じところもあるだろうと,大ざっぱなことで申し訳ないですけれども,そんな感覚を持っております。 ○道垣内委員 そうすると区別する理由はないような気がしますけれども。 ○谷幹事 いや,私が申し上げたのは第三債務者の利益だけで物事が決まるわけではございませんので,差押債権者とか仮差押債権者の利益とか,そういうことも含めて制度設計をするべきだろう,こういうことを申し上げました。 ○道垣内委員 一番迷惑なのは第三債務者ですよね。私は第三債務者の利益が一番重んじられるべきだと思います。 ○山本(克)委員 そこは法律の建前は権利供託ができるということで,執行供託で処理するということになっているので,それが手続が煩雑だとかいろいろな負担があるということなので,本筋は執行供託の手続を合理化してもっと使いやすいものにするというのが本筋であって,それをしないのに脇道を作るということについては私はかなり抵抗感がいまだにあります。 ○道垣内委員 今の御説明はよく分かりました。 ○阿多委員 議事録に残すためだけですが,我々も何度も申します第三債務者の不利益というのは,本来供託で対応していただく話であって,ただ,実際上御負担があるというのも認識しているので,何度も言いますが,形式的な手続の導入というのはせいぜいその限度で,本則に戻っていただいて供託をしていただけるのであればこういう制度は必要ないと思っています。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   いかがでしょうか,大体議論は出た感じでしょうか。   それでは,1の取立権を行使しない場合の話については,おおむね以上にさせていただいて,ここで休憩をとりたいと思います。   それでは,3時40分まで休憩ということにしたいと思います。           (休     憩) ○山本(和)部会長 それでは,審議を再開したいと思います。   続きまして,資料9-1の7ページ,「2 その他の場面」,差押命令等の送達未了の場合の規律というところで,ここも(1)債権差押えと(2)不動産競売等に分かれていますが,まず,便宜上(1)の方から御議論を頂ければと思います。よろしくお願いします。 ○成田幹事 この(1)の場合,つまり債務者に送達未了の場合ですが,第三債務者には差押命令が送達されております。そうすると差押命令の効力は生じておりますので,先ほどの取立てを放置している場合と同じような問題が特に第三債務者との関係では生ずるかと思われます。また,債務者に送達されていないというのは,債務者が逃げ回っていれば別なのですが,必ずしも逃げ回っていないような場合で送達ができていないような場合ですと,不服申立機会を与えられていないという問題も出てくるかと思われます。こういった状況に対応するにはやはり部会資料にあるような規律を設けるべきではないかと思っております。 ○阿多委員 質問よろしいですか。本文で書かれている制度のイメージは分かるのですが,9ページのところの説明の第3段落のところで,本文ではというのがありまして,これら規律を参考にこの場面での方策を検討する上であり得る選択肢の一つとして,債務者に対する差押命令を送達することができない場合は執行裁判所が差押債権者に送達場所の補正を命ずるという記述がこういう手続になるのだという御説明があるのですが,ここで考えていらっしゃる補正の意味なのですけれども,補正というのは申立書類とか,裁判上の書類についての記載の訂正を意味しているのかと思っていたのですが,これですと申立書の債務者住所の記載をうんぬんするというお話なのか,そうではなくて,送達方法について,何らかの公示送達なり調査した上での住所についての送達方法についても補正という言葉を使うのが一般なのか,ちょっと言葉の使い方なのかもしれませんが,教えていただけたらと思うんですが。 ○松波関係官 補足説明で補正を命ずると書きました趣旨としては,本文で書いておりますように,送達場所の届出か,又は要件を満たす場合には公示送達の申立てをすることを差押債権者に命ずることを意味するものとして使っておりました。補正という言葉の使い方が必ずしも正確ではないのではないかという御指摘というふうに受け止めておりますけれども,御指摘を踏まえて今後検討したいと思います。 ○阿多委員 了解しました。 ○谷幹事 今の補正というのは確かに正確ではないだろうと思いますので,補正というのはそうだとすると,送達場所が申立書の記載要件にならないと理論的には補正ということにならないのかなと思います。そこは工夫をしていただいたらと思います。   それとこういう制度,我々からすれば決して歓迎するものではないのですけれども,事情としては分かるところはあるという限度で,あえて大きな異論は述べないということにはなるとは思います。   ただ,8ページの本文のイのところで,差押債権者が相当の期間内に送達すべき場所の申出をしないときはという,相当の期間内という言葉がございまして,9ページの一番上の行には2か月というような例もあると,これは支払督促の場合ですけれども,この辺り,ここの相当の期間というのをどう定めるのかというのは極めて重要な問題なのかなと思います。   支払督促の場合には,正に本案の内容について,支払督促という手続で請求をするということになるわけですので,これはそれなりに相手方の所在等も確認をしてやるというのが手続としては通常だろうと思うのですけれども,差押えの場合には,例えば債務名義が確定して判決等が確定をして,その上で差押えの申立てをするというときには,訴え提起の段階ではそれなりに所在の調査はするかも分かりませんけれども,判決に住所が記載をされておれば,それはそれに従って差押えの申立てをするということになるだろうと思いますので,その場合に届かなかった,債務名義上に記載された住所地にいなかったということになった場合には,差押債権者側としてはそこからある意味で初めて所在調査を始めないといけないという事態に陥るような例というのは多いと思うのです。したがいまして,ここでは支払督促と同様な期間というのは少し状況が違いますので,相当でないだろうと。ですから,それなりのかなりの期間を置いておく必要があるのではないか。具体的にどれくらいかというのはなかなか難しいところはあるんですけれども,少なくとも2か月というのは短いのではないかと考えております。 ○勅使川原幹事 1点確認をさせていただきたいのですが,ここに書かれている制度の創設,本文の内容について私は特に異論はないのですけれども,規則の10条の3との関係を確認させていただきたい。書記官から必要な調査を求めるということができるというのが執行規則の10条の3と,9ページの注の2にも挙がっているところですけれども,これを前置して執行裁判所に命令に入るということは前提としているわけではなくて,実際やるかどうかは別として,理屈の上でいきなり執行裁判所が送達場所の届出,申出を命じるということも可能な制度設計ということでしょうか。 ○山本(和)部会長 事務当局から,お願いします。 ○松波関係官 御指摘ありがとうございます。規則の10条の3の内容は補足説明の9ページの注2のところで御紹介しているものですけれども,裁判所書記官が当事者に対して必要な調査を求める権限を付与したものでございます。   この規定と本文の規律との前後関係についての御質問ですけれども,私としては,理屈の上では,規則による裁判所書記官からの求めが先行していなくても,執行裁判所が本文に書いたような命令をすることができるということは念頭に置いておりましたが,御指摘を受けて考えてみますと,まずは裁判所書記官からの連絡を前置させるのが適当であるという御意見もあろうかということで受け止めさせていただきました。 ○山本(和)部会長 いかがですか。 ○勅使川原幹事 前置の必要があるかどうかは考えどころかなという気はするのですが,執行裁判所としてはどっちが魅力的かというと送達場所を言いなさいというほうが魅力的になって,規則の10条の3というのは単に権限規定としてあるだけになって,実際には空文化するのかなという気がしたものですから確認をさせていただきました。 ○成田幹事 やや話は外れるのですが,似たような場面といたしましては不動産競売において,売却の見込みがない場合の措置として,御承知のとおり民事執行法68条の3は,3回売却を実施しても買受けの申出がなかった場合に取り消し得るという規定があって,その一方で,民事執行規則の51条の5がございまして,これも買受けの申出がなかった場合について,調査を求めるなどできるという規定がある。この辺りの運用の世界にはなるのですが,実際に3回売れなかったからすぐに取消しにしているというわけではありませんで,先ほど規則の規定を使って,他に買い手はいないのかといった調査をするようお願いをしているところであります。そことパラレルに考えますと,実務的には執行規則10条の3で何度か調査を求めて,その上でどうしようもなければ,取消しのステージにいくということになるのではないかと推測をしているところではあります。 ○中原委員 債務者に送達されないということは結局取立権が発生しないということですから,第三債務者に送達された段階で差押命令の効力が生じながら,取立権が発生していない差押命令が残るということはやはり異常と考えます。したがって,取消しの制度は創設すべきだろうと思います。   それから,第三債務者には,差押命令から離脱する方法として供託手続が整備されているではないかという御発言がありました。確かに法律の制度はそうなっています。しかし,第三債務者が例えば銀行であれば,ある程度スタッフもそろっていますし,あるいは法的な知識のある従業員もいますので,理屈としては供託することは可能と思います。しかしながら,第三債務者は銀行あるいは大きな企業ばかりではなく,中小・零細企業もありますし,個人もいるわけですから,供託の制度があるからと言っても現実には供託手続をとることが事実上困難な場合もあるので,供託すればよいということで済む問題ではないと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。おおむね本文の御提案に大きな異議はないということですが。 ○山本(克)委員 現状において,別に執行手続だけではなくて,訴訟手続その他の民事の裁判所手続で結構なのですけれども,公示送達というのはどれくらい認めているのでしょうか。これは公示送達を申し立てたけれども,却下されるというのでは,債権者は踏んだり蹴ったりですので,そこの見込みというものがある程度分かってないと私は賛成するわけにいかないのではないかという気がします。 ○山本(和)部会長 これは裁判所の方で,もし,お答えを頂けるようでしたら,お願いできますでしょうか。 ○成田幹事 これも事案によりけりとしか言いようがないところではあるのですが,普通に調べて本当にどこに行ったかが分からないというケースは公示送達になるのではないかという,一般論でしか答えられませんけれども,そういうレベルかとは思います。 ○山本(克)委員 そこでどれくらいの調査をしないといけないとか,そういうところのハードルがどれくらいあるかということがこの制度の採否にかなり影響するのではないのかなという気がするんですけれども。つまり債権者側の調査という意味ですが。 ○山本(和)部会長 ちょっと今の段階では直ちにはお答えが難しいでしょうか。 ○山本(克)委員 すると,よろしいですか,前の点ですけれども,民事訴訟法110条1項4号の場合の六月というものとこの相当の期間の関係というのはどう考えればよろしいのですか。 ○松波関係官 本文にある「相当な期間」の長さについては,裁判所が事案に応じて適切に定めることを考えております。御指摘のあった110条の1項4号は外国における送達が必要となる場面を念頭に,外国の官庁に嘱託をした後,六月を経過してもその送達を証する書面の送付がない場合に公示送達をすることができるとする規定ですが,このように外国送達が必要となる場合には,そういった事情を考慮して執行裁判所が「相当な期間」の長さを定めることになるかと思います。   相当な期間に関して御参考までにということですが,9ページの注4で御紹介しております東京地裁の決定では,30日以内に送達場所の届出をするようにというふうに承知しているところでございます。 ○阿多委員 山本克己委員の質問に対する回答ではないのですが,確かこちらの方も,公示送達のところは気にしています。その9ページの上2行,本文の下から2行,3行のところで,債務者の住所,居所その他送達をすべき場所が知れない場合等で110条1項各号をした上で公示送達のお話が出ているのですが,実際は公示送達にいくまでは相当ハードルが高くて,いわゆる付郵便送達ができないかどうかについて調査をして,さらには住民票があったりすると,逆にあっても,そこにいるかいないか,今ですとオートロックのマンション等があって中に入れない,なおかつ所有物件であれば不動産登記法の方であれですけれども,賃貸物件であれば管理会社等に照会をするのですが,個人情報を理由に回答を得られない。そういう意味では実務的には送達に関する調査というのは公示送達に至るまで相当のハードルがあります。それらを全部こなした上で,例えば付郵便送達を上申して,それとか勤務先送達の上申をしてとか全部こなして公示送達というのが感覚ですので,そうなりますとここでイメージされているのがいきなり公示送達の申立てとなるのではなくて,全部こなしてくださいよということをおっしゃっているのかなと思っていたのですが,そうではなくて,いきなり送達場所の届出か,届けというか,全部試みの上申をして,それで公示送達の申立てまで一定期間内にやってくださいということを考えていらっしゃるのか,御説明いただけたらと思うんですが。 ○松波関係官 実務上,公示送達の申立てをするために様々な調査をされるということは承知しております。   御指摘は,本文のような命令がされた場面で,どのような流れをたどるのかという御疑問だと思いますが,例えばこの場面でも,通常の訴訟において訴状の送達をすることができず,その補正を命じられた場面と同じような流れになるのではないのかと思います。 ○阿多委員 そうしますと,相当期間というのが,命令を発令して,経過報告も何もないまま一定期間経過するということを考えていらっしゃるのか。もう結論的に公示送達とかの申出までのことだけで,途中何をしようが関係ないというお話なのか。そこはどういうふうにお伺いすればいいのでしょうか。 ○松波関係官 訴訟の場面でも解釈に委ねられている問題だと理解しておりますけれども,補正命令を発した後,例えば原告から何らか別の送達場所の申出があり,そこに更に送達したけれども,また届かなかったという場面で,どう処理するのかというものに類似する問題の御指摘かと思います。   このように原告が補正命令を受けて新たに申し出た場所でも送達をすることができなかった場面では,原告が補正に応じなかったとして直ちに訴状却下をすることができるとする解釈もないのではないのかもしれませんが,しかし,通常は,再度の補正命令を発した上で,更に別の送達場所について届出や,公示送達の申立てを命ずるということが行われているのではないのかと思います。本文で提示させていただいた規律についても,このアの命令は1回だけ発するのではなくて,命令に応じて差押債権者が新たな送達場所の申出をしたような場面では,何度か発することもあり得るのではないのかと思います。 ○阿多委員 よろしいでしょうか。実務の話ですので,実際その命令が発せられて,送達未了の場合には命令が発せられて対応しているのかもしれませんが,通常は書記官とのやり取りで届きませんでした,それで宛て所見当たらずで調査してください。先ほど言いましたように住民票があるけれども,いるかいないか分からないというところで相当,いるけれども,受け取らないというのは付郵便になる。逆に住民票があるけれども,そこにいないのだという形になって,110条の1号とかという形になって,一つずつ手順を踏んでいっているのですが,それが個々の補正命令という言葉もあれですが,命令に基づく行為としてやっているという感覚はないのですね。もしかしたら裁判所はその都度命令を発令されているという認識なのかもしれないのですが,そうなりますと,戻りますけれども,一通りの手順を踏んでいることについて,ここの制度としてはどういう予定を,本当に命令の積み重ねという理解なのか,やるべきことはやっても,先ほど言いましたように発令したけれども,何も言ってこない,先ほどのあれではないですけれども,今こういうことをやっていますということを言ってこないまま経過すれば,それで取消しというような形の制度を考えていらっしゃるのか,そこのイメージがよく伝わってこないのですが。 ○成田幹事 通常の訴訟の場合ですと,阿多委員がおっしゃったように,いろいろやり取りをするので,その度ごとに補正命令を出しているわけではありませんで,これは正に書記官の事実上の指示ないしお願いでやっていると。それでもどうしようもなければ,民事訴訟法138条の世界へ行って,補正命令でそれを却下ということになるのではないかと思われます。それとパラレルに考えれば,事務当局の考えを忖度しますと,これと同じような規律を設ける,その前提として施行規則10条の3を使って事実上のやり取りをしていくというのが多分先行して,それでらちが明かない場合に補正命令的な処理をしていくという造りなのではないかと考えているところです。 ○山本(克)委員 今の話を聞いていまして,この提案の位置付けがよく分からなくなったのですが,強制執行というのは申立人と相手方のある事件だと考えられているはずですよね。そうすると民事執行法20条による民訴法の138条2項の準用以外に,準用とは違う世界をここで作ろうとしているのかどうか。つまり現行法でもできることではないのかという気がしてきたのですけれども,何のために規定を設けるのでしょうかという疑問が私は今少し感じてしまいました。 ○松波関係官 御指摘のとおり,民事執行法の20条によって民事訴訟法の138条は準用されると思います。ただ,138条は訴状の却下についてのものですので,もしかしたら,民事執行法で準用する場面となると,差押命令の申立書を却下するというところまでしか言えず,差押命令を取り消すことまではできないのではないのかという解釈上の疑義があるかもしれないということを考えておりました。補足説明で書いております注の4に御紹介しております裁判例も,民事訴訟法の御指摘の条文を準用することで開始決定を取り消すことができるとしたものとも読めますけれども,同じように,開始決定を取り消すことは訴状却下とは異なるとも思いますので,この場面における解釈上の疑義をなくすためにも,差押命令の取消しをするための規律を設けておく必要があるのではないかということを考えておりました。 ○山本(克)委員 申立書の却下というのは執行手続が先に進んでしまうときの第三債務者に対して送達をしてしまうので,申立書の却下では足りないという御判断でしょうか。 ○松波関係官 その点について,現行法の解釈に疑義があるのではなかろうかと考えました。 ○山本(克)委員 却下でもいいような気もしますけれども。申立書を却下して,それを申立書の取下げと同様の処理をして,第三債務者に対する通知との関係でも却下と取下げとで同じような規定を置けば十分対応できるような気もします。 ○成田幹事 部会資料の注4で掲げていただいている東京地裁の平成3年11月7日の決定は,正に山本克己委員がおっしゃるような形で準用で取消しまでいったものであります。ただ,これがありながらも,やはり今,松波関係官もおっしゃったように取消しまで踏み込めるだろうかというところは裁判所としてはなかなか勇気の要るところでありますので,その辺り,明確化する意味で規定を設けていただいた方が助かるかなとは思っております。 ○山本(克)委員 よろしいですか,私が申し上げたいのは取消しまで進めるとは思わないので,申立書の却下しかできないと思うのです。申立書の却下で駄目だという理由がもう一つ,完全に整理されているのかなと思ったということです。 ○山本(和)部会長 申立ての取下げの場合でも結局そういった効力は失われるわけですよね。 ○山本(克)委員 申立ての取下げと同様に扱うということで,規則改正だけで済むような気もすると。 ○山本(和)部会長 今の点は法制的というか,どういう制度にするかという問題ですので,少し御検討いただいて,実質的には山本克己委員もはっきりしないようで。 ○山本(克)委員 いや,というか,やはり先ほど阿多委員がおっしゃったように138条でやられているような実務の扱いよりはもっと簡単に取り消すことができるというイメージがどうしてもこれには伴いますので,この書きぶりというのは少し行きすぎかなという,もう少し単に場所だけではなくて,送達方法についての申立てをするとか,職権発動の申出をするとか,何かいろいろなそういうステップを踏んだ上でということでないとなかなか,いきなり公示送達までどうもいきそうにないので,これで公示送達の申立ては不適法,要件を満たしてないので却下する,全体を取り消すということに簡単にいってしまいそうな気がして,それは債権者が必ずしも有責であるわけではない場合について,最終的にもうどうしようもない場合はどうしようもないので,というのは民訴法も認めているところですから,それはしようがないのですけれども,余りにも簡単に差押命令の取消しにまでいってしまうということについては抵抗があると。 ○山本(和)部会長 分かりました。恐らく事務当局も多分そういう趣旨ではないだろうと思いますけれども,実質というか,その趣旨をもう少し規律内容に組み込めるような形で御検討を引き続きいただくということかと思います。 ○青木幹事 138条の準用のところ,正しく理解できていないのかもしれませんが,恐らくこれ申立書は送達しないので,準用にならないような気がするのですけれども。要するに開始決定はむしろ判決手続では判決に当たるものなのかなと思うのですけれども,そうだとすると,むしろ判決が送達できない場合の話と対応させるべきで,訴状の送達ができない場合との対応にはならないのかなと思いました。 ○山本(克)委員 それは確かにそうなのですが,しかし,これは手続開始の通知を兼ねているわけですね。これは差押命令があれば,当然にそれでその新旧での手続が終わるという建前は執行手続は採ってないわけですから,その後,手続内の申立てをいろいろしたりとか,いろいろなことがありますので,これはやはり開始の裁判だということで,申立て,訴状の送達に類似した面はやはりあると言わざるを得ないのではないのかと思いますけれども。 ○山本(和)部会長 まあ,しかし疑義があるということは多分そうだと思いますので,貴重な御指摘を頂いたと思います。   ほかにはいかがでしょうか。もしよろしければ,今の(1)がどうなるかということにもよるのですが,(2)の,(1)のような規律を置くとすれば,不動産執行等,あるいは民事保全等にも同じことになるのかどうかというようなところも御議論いただければと思いますが。 ○阿多委員 また質問からで申し訳ないのですが,裁判所の方にむしろ教えていただきたいのですが,執行官による現況調査等のいわゆる3点セットの準備について,どの段階から着手されるのかということを教えていただきたいのですが,不動産の強制執行の場合,まず登記自体が先に入ってしまいますので,あとは債務者への送達の話なのですが,債務者に送達がされないと,現況調査等についての開始はされないのか,それともそれとは別にそういう手続が進んでいくのか。特に不動産の強制執行の場合,予納していて,相当高額の予納をしているので,当然手続の進行については関心があるのですが,今の裁判所の取扱いを教えていただけたらと思うんですが。 ○谷藤関係官 通常,差押登記が入った後に現況調査となります。 ○阿多委員 すみません,債務者への送達が未了でも現況調査は開始されるのですか。それがないとされないのかなというイメージがあったのですが。  そうであるならば,先ほど言いましたように不動産の場合は予納していて,そういう意味でなるべく早く手続に着手していただきたいというのがむしろ差押債権者の意図で,同じような規律を設けるという,それほど放置するという場面が余り考えられないのではないかと,これは先ほどの債権のところでも場面としては限定されるのではないか,債権執行と保全のところでも場面が限定されるのではないかと申しましたけれども,不動産に関する強制執行の場面で取下げを擬制しなければいけないような事例というのが本当にあるのかということも含めて疑問で,こちらとしてはあえてその必要はない,こういう規律を設ける必要はないのではないかという意見を申し上げたいと思います。 ○山本(和)部会長 この注4の事例というのは不動産競売開始決定の事例では。 ○阿多委員 確かにそういう事例があって,実際制度が入りますと,一定の割合で取り消されるということになると思うのですが,先ほど山本克己委員から御指摘もありましたように差押債権者に,それほど有責性があるといえるかが問題となると思います。債権執行の場面と不動産に対する強制執行や民事保全の場面とでは,変な言い方,インセンティブが違うかもしれません。陳述催告に対する答えを見て,所在調査に向けた動機付けがなくなるという場面と異なり,まだ全然分からない状況で予納をしているけれども,何も手続も進まないという状況では,債権者の手続を進めようというところにそれほど問題があるとは思えません。そこにあえて規定を設ける必要があるのか,そういう趣旨で申し上げています。 ○成田幹事 運用としてはやはり送達がされてから現況評価の命令がされていたものが多いのではないかという記憶であります。さらに申し上げますと,阿多委員の御指摘のとおり,当然債権者の方にもインセンティブがあるところ,不動産競売事件において,東京地裁,あるいは大阪地裁において債務者に対して1年を超えて送達ができてないというような事例はないと聞いているところであります。 ○中原委員 債権の仮差押命令についても同様の制度を導入していただきたいと思います。 ○山本(和)部会長 第三債務者の立場から見れば同じだという,先ほどと同じ問題でしょうか。   ほかにいかがでしょうか。この段階ではよろしいでしょうか。   それでは,この資料9-1につきましては以上で審議を終えたいと思います。   続きまして,部会資料9-2「差押禁止債権をめぐる規律の見直しに関する検討」について御議論を頂きたいと思います。   まず,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○谷地関係官 御説明いたします。   部会資料9-2では,諮問に掲げられております主要な三つの検討課題以外のものとして,差押禁止債権をめぐる規律を取り上げてございます。諮問に明示されていない課題につきましては,これまでにも主要な三つの検討課題と同じようなスピード感で成案を得られ,かつコンセンサスが形成される見込みのあるものであれば,同様に検討課題とすることはあり得るという趣旨の説明をしてきたところです。この差押禁止債権をめぐる規律の見直しに関しましても,取扱いは同様でございますので,そのような見込みがあるのかといったところが,まず問題になってこようかと思います。   そのような前提の下に,「第1 総論的事項」におきましては,差押禁止債権の範囲の変更が機能していないとの現状認識を前提として見直しの必要があるとする意見を取り上げるとともに,債務者財産の管理制度の見直しによる債権者の地位の強化との関係で,債務者保護が必要となるとする考え方を紹介しています。このような意見等を踏まえて,見直しの必要性の有無や見直すとすればどのような根拠に基づくのかが問われるところだと思われます。   「第2 見直しの必要性が指摘されている規律」におきましては,「1 給料等の債権に関する差押禁止の範囲の見直し」と,「2 給料等が振り込まれる口座の預貯金債権に関する差押禁止の当否」の二つを取り上げています。   1におきましては,給料等の債権について,その給付の額が一定の基準額に満たないものを全面的に差し押さえることができないものとするという考え方を取り上げています。この点については種々問題がありますけれども,特に理論的な面での問題といたしまして,②の給料等の額及び扶養家族の人数をいずれも考慮しないで一定額を定める方向に関しまして,債権者が債務者の勤務先を調査することができる制度の存在していない現状において,債務者が比較的少ない額の給与等を複数の勤務先から得ているような事案を想定したときに差押禁止額の言わば累積により,債務者が必要以上の保護を受ける結果となりかねないことや範囲変更の申立ての負担を債権者と債務者のいずれに負わせるのか,いずれに負わせるのが合理的かといったところが問題になってこようかと思います。   2におきましては,給料等が預貯金口座への振込みにより支払われた場合に,その口座の預貯金債権のうち一部を差し押さえてはならないものとするという考え方を取り上げています。ここでは,特に民事執行法制定の際に給料等が債務者の預金口座への振込みにより支払われた場合における当該預金債権の差押えにおいては,執行裁判所は債務者の申立てにより差押禁止に相当する額のうち,差押えの日から次期の給料等の支払日までの日数に応じて計算した金額に相当する部分の差押えを取り消すことができるものとするとの案が検討されたものの,差押禁止債権の範囲の変更の規定によって十分に対応可能であるとされたとの経緯等を踏まえて,どのような規律の見直しが可能なのかといったところが問題となろうかと思われます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,この機会に,阿多委員から御提供いただいている「差押禁止債権制度の見直しに関する具体的検討について」という資料につきましても御説明をお願いします。 ○阿多委員 お手元に私の単名の資料がいっているかと思いますけれども,この資料ですけれども,先回の第5回,3月10日開催のこの部会において,日弁連の意見書について御紹介をさせていただきました。「財産開示の改正等民事執行制度の強化に伴う債務者の最低生活保障のための差押禁止債権制度の見直しに関する提言」と非常に長いタイトルです。そこではまず背景を御説明し,複数の選択肢があるというような形での提案をさせていただいていまして,具体的な特定の提案をしているというものにはなっていなかったのですが,先ほど冒頭の御説明がありましたように,さらには先回,パブリックコメント,中間試案作成のスケジュール等の御説明がありまして,それに言わば中間試案の中で御議論いただくような形のものを御提示できなければ中間試案にも載らない,そうすると,改正のテーマに載らないというようなことが考えられましたので,より具体にこういうふうに考えるというものを御提示させていただこう,それで御議論いただくのが一番いいだろうというので,私の名前,単名で出しています。   先ほどの共通の意見が形成されるというのは答えが一つになるということではなくて,少なくとも問題点があるねということについて共通認識を持っていただければ中間試案の中で取り上げていただけるのかなと考えて作ったメモです。   なお,このメモは,今日机上配布になっています部会資料9-2を頂く前に私の方で作成して提出しているもので,部会資料9-2についてのことについて触れておりませんけれども,これら議論というのは私も調査した上での同じことを前提にしています。ですから,総論的な部分について,まず,差押えの最低限度額の設定という制度導入の必要性,これはあると考えての意見です。   具体的にどういうふうにするのかという形について,シンプルにするためには第三債務者の方でいろいろな事情を考慮するというのは無理だという形で,差押債権の最低限度額は単身世帯を基準に,例えば一律10万円というような形で最低限度額を設定するという御提案をさせていただいています。   なお,私の1の本文のただし書のところで,いわゆる扶養義務等に係る定期金債権に関する請求の場合との調整については,最低限度額よりも扶養義務等に係る定期金の差押えを優先する。つまり最低限度額設定の適用はないという意見を述べさせていただいています。   そうしますと,単身者を前提の一定金額になりますと次に調整弁が必要になると考えます。今日の部会資料9-2でも,結局範囲変更についての負担を債権者,債務者のいずれに負わせるのが合理的かという調整の問題だという御指摘がありましたけれども,正にその考えで,最低限度額をまず事前に設定して,それが適当かどうかということについてのまず債務者側の,自分は単身ではなくて,扶養家族がいるのだというような形についての調整は,債務者の申立てによって差押えの最低限度額の拡張という形の手続を提案したいと思います。その際,手続が非常に重たくなると実効性がかなり厳しくなりますので,こちらで考えているのは,一つの案として提案させていただいているのは,第1段落のところで,債務者の申立てにより政令で定める額を限度として規定を設けて,家族等についての情報を提供するという形で,裁判所の一旦命令の差押えの範囲の変更を求めるということで考えています。   他方,債権者側は現行の制度が生きていますので,3ページのところで,この申立ては現行の民事執行法153条と併存するということを考えていますが,これは債務者の方が書いていますけれども,更に債権者側においても例えば先ほどの複数給与等も含めて,複数給与については後でまた御説明しますが,債権者側の申立てでまた調整をしていただくということを提案したいと思います。   あと今回の部会資料9-2には挙がっていませんが,債務者への手続教示のお話も入れていただいてあると思います。実際153条等の実効性がないというのは,債務者がそのような手続を有することについて認識がなく,かつ債務者に代理人,弁護士が付いてないことも実情として多いということから,発令の段階で教示をお願いしたいと思います。   なお,預金との関係まで言っていいですか。取りあえず全部させていただきますが,給与債権等についての差押禁止について,預金債権に振り替わった場合に現状は従前の属性がそのまま継続するのではなく,一旦そこで切れてしまって,預金債権の差押えの問題という形で処理されているかと思います。それに対する対応策として従前の提言では複数の提言をしていたのですが,より裁判所を含めた関係者だけで手続が完結できるものとして,債務者申立てによって,預金についても差押えの範囲を変更するという制度を提案したいと思います。   その内容は,たまさか今回従前の民事執行法改正の際の議論等も御紹介いただいておりますけれども,同じような形で一定の日割りでそれを提案するという形で御提案したいと思っています。   個別事情による差押債権の債権者側の申立てについては,先ほども少し触れましたけれども,債権者側で差押禁止が広すぎるうんぬんのことについては個別事情を債権者側の申立てで調整する。ですから,戻りますけれども,複数給与については発令の段階で,まず債務者が複数のところで給与を得ているという情報を債権者が得ているという前提が難しいのだと思いますが,仮に例えば3か所から給与を得ているということを情報を得て,それに基づく差押えをするのであれば,申立てに際して153条の変更許可を同時に申し立てて,発令段階で最低限度額の設定は一つにどこかに寄せるというか,限って,ほかについては最低限度額が働かないとか,さらには発令後にそういう情報を得て複数給与を得ているというのであれば,債権者の方で申立てをして,差押え範囲のそれぞれの命令のうちどれに寄せるのかという形での変更をする。いずれにしろ調整ということが必要になるものについては153条,さらにはそれに類する規定によっての事後調整という形で債権者,債務者の利益調整を図るべきである。現行法は事前の最低限度額の設定はないですが,やはり一旦事前に最低限度額の設定を入れて,調整は事後と,こういう御提案をしたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,議論に入りたいと思います。これも適宜項目を区切って御議論いただきたいと思います。基本的には部会資料9-2に基づいて御議論いただければと思いますが,適宜,今,阿多委員から御紹介のあった提案にも触れていただければと思います。   まず,部会9-2の1ページ,一番最初の「第1 総論的事項」についてです。そもそもこのような差押禁止債権についての規定を見直す必要性があるかどうかというところ,やや大きなところですが,この辺りから御議論を頂ければと思います。阿多委員というか弁護士会は,当然必要があるという前提で御提案されているということかと思いますが,ほかの委員,幹事の皆さんの御意見はいかがでしょうか。 ○柳川委員 私は規定を見直すというのではなくて,更に工夫して使い勝手のよいものにしたいと考えました。   実際にこの部会資料9-2の第1の注2によりますと,債権者の取立権が生ずるのは債務者に差押命令が送達されてから1週間を経過したときであると書いてありますが,通常の債務者が短い期間に申し立てることは事実上困難であり,この制度は機能してないとの意見も書いてあります。現実はこんなものではないかと思っています。   そういうことがあるので,まずはこの点を使い勝手のよいものにしていただきたいと思います。実際は債務者が申立ての期間内に申立てをするというのは,債務者自身に相当な知識があり,またフットワークよく対応できるという状態でなければ,この1週間を使いこなすのは非常に難しいと考えています。   それから,弁護士さんを初め,弁護士会の相談窓口,法テラスなど,相談窓口は充実してきていますが,それらの窓口を使える状況にある方ばかりではありません。申立ての範囲変更ができるということが分かっていても,実際に使えない,十分に使えない方が現実的に大変多いということを,実際の現場で見聞きしています。ですから,少なくとも使い勝手をよくするためには,こういう制度があるということを周知することがまず第一ですが,届けなければならないところに届かないのが情報であって,これはなかなか難しいと思います。が,根気よくやっていくということと,申立ての期間を延長して,さらに申立ての書面の内容を誰でも書けるような簡単な形にするということと,手続を簡素化するというような工夫があれば,債権者にとっても債務者にとっても非常に有益な制度になると思います。工夫が必要なのではないかと思います。 ○阿多委員 すみません,私が短時間に説明しなければいけないと思って急いでいたところがありまして,私のペーパーの4ページのところで,教示について一言先ほど申し上げたのですが,ここでは新たな提案もさせていただいておりまして,本文をちょっと読ませていただきますと,民事執行法155条1項を改正し,同法152条1項各号の債権については,取立権の発生時期を債務者に対して差押命令が送達された日から4週間という形で,先ほどの運用でというお話については,今の1週間ではなくて,4週間の間を置いて,その後に取立てが可能になるという提案をしています。その4週間というイメージは,先ほどお話があった,まず本人で弁護士に相談できないというような形について相談のタイミング,さらには先ほど提案しました事後調整についてのいろいろな情報を集めてもらう期間として,取立開始を1週間ではなくて,4週間先延ばしするという提案も併せてさせていただいておりますので,柳川委員の運用とおっしゃっていただいた部分についてはかなり親和性のある提案をさせていただいていると思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。運用についてのお話がありましたので,裁判所の方で153条等の運用について御紹介いただけますか。 ○相澤委員 153条の申立て自体はそう数が多いわけではございません。その背景にはやはり差押命令自体がいわゆる空振りの事案が多いということもあって,件数もそれほど多くはないのではないかとも思っております。したがいまして,件数だけから直ちに機能していないと言えるのかどうか,何とも言えないと思っております。   ただ,1週間以内に申立てがある例というのは余りないのかなと思います。  正確な資料はございませんけれども,実際にこの申立てがありますと,仮の支払禁止命令を出すことも多いと思うのですけれども,それをした上で,必要な資料を出していただいて判断をするという流れになっております。 ○村上委員 3月に御紹介いただきました日弁連の提言であるとか,今回資料9-2で御紹介されている差押禁止債権をめぐる規律の見直しに関する検討についてです。検討テーマである「債務者財産の開示制度の実効性向上」により,現状よりも債権者の地位が図られるのであれば,債務者の保護策についても検討する必要があるという問題意識が御紹介されておりまして,こういった考え方については私どもとしても賛同するところであります。とりわけ今回第三者からの債務者財産に関する情報を取得する制度の新設について検討されているわけですので,そういった観点からはこうした問題意識というのはバランスのとれた考え方ではないかと思っております。   債務者の生活保障の必要性ということから,前向きに検討していくべきと考えておりますが,実務的にどのような課題があるのかということをきちんと整理しなければ,実際に運用することができないということにもなりますので,その辺りの精査をきちんとしていくべきだろうと考えます。 ○成田幹事 あちらこちらの地方裁判所に行きましたので,そこでどんな運用でやっているのかというところを申し上げますと,債務者は差押命令が送られてきますので,これを見て驚いて,どうしたらいいだろうと,裁判所に尋ねてくることが多いかと思います。その場合は裁判所の方でも範囲変更の申立てがあるというような手続教示をしているのではないかと思います。   では,範囲変更の申立てがされたときなのですが,先ほど相澤委員が申し上げたように,比較的早い段階で仮の支払禁止を出す例,しかも無担保で出す例もそれなりに多くございまして,特によくあるのは預貯金の中身が差押禁止に係る給与であるとか年金であるというような事案かと思いますが,それなら通帳等を見てすぐに分かりますので,そういう場合であれば,仮の支払禁止を出した上で比較的容易に範囲変更,差押禁止の形で命令を出すのではないか。私自身も何件かそのようにやった例もございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかに総論的部分についてはいかがでしょうか。 ○道垣内委員 今,私,御説明がよく分からなかったのですけれども,預金についても差押禁止を出されることがあるということですか。 ○成田幹事 預金の中身が年金であるとか,給料の差押禁止に係る部分であるとかという場合にそういう事態が起きることはあります。 ○道垣内委員 それは大変よいことだとは思いますが,それは民事執行法152条,153条というのは差し押さえてはならない債権の部分を変えることができるところ,預金債権についてそういうことができるという運用がされているということですか。 ○山本(和)部会長 153条の一般的な解釈としては,差押えの範囲を縮小あるいは拡大することは裁判所の判断によってできるという理解をされていて,当該債権は差押えの152条に入っていないようなものであっても,裁判所の判断によって,差押えの全部又は一部を取り消すということは可能だというふうに思います。 ○道垣内委員 取り消すのは可能ですね,もちろん。 ○山本(克)委員 1点だけ。債務者に対する教示をもう少し充実するというようなことを,先ほど柳川委員がおっしゃったと思います。その辺りは少し運用のレベルでいけるのか,それとも規則で教示をするということまで書き込まなければいけないのか分かりませんけれども,債務者がそもそも制度を知らないということもあり得ますので,その辺りについては私は異論ございませんし,取立権の発生時期についても弁護士会の御意見にそれほど違和感は持っておりません。ただ,ほかのところは違和感だらけなのですが,それはまた各論で申し上げます。 ○山本(和)部会長 阿多委員の御提案は,恐らく規則というよりも法律に書くということかと思います。阿多委員の御提供資料4ページの3の第2段落ですね。民事執行法にということで,裁判所書記官がこういう手続の内容を説明した書面を交付しなければならない旨の規定を設けるという御提案かと思います。 ○山本(克)委員 そこは法律と規則の切り分けの問題で,法制的にどちらが一般的かという観点から,私は規則だという感覚を持っていました。けれども,ほかにも教示についての規定が法律にあるようでしたら,それはそれで私は構わないと思います。 ○阿多委員 民事執行法と書きましたけれども,今の民事訴訟法等でも支払督促ですか,あと手続教示の規定は規則の中にあるかと思います。法と書いていますけれども,ここの部分については規則事項とすることについても含めて,重要なのは4週間という期間の延長のところがあるものですから,そこは法律事項ということでしていますので,規則で手当てすることについては異論はありません。 ○山本(和)部会長 分かりました。   それでは,山本克己委員からも言及がありましたが,より各論的なお話の部分に入っていきたいと思います。資料9-2の「第2 見直しの必要性が指摘されている規律」の中の「1 給料等の債権に対する差押禁止の範囲の見直し」という部分については,これに関連して先ほど阿多委員から御説明がありました。阿多委員御提供の資料1ページの「1 給与等債権の差押禁止の最低限度額」,あるいは3ページの「2 家族数に応じた差押禁止の最低限度額の拡張」,こういった辺りが関係すると思いますけれども,どの点からでも結構ですので,御意見を頂ければと思います。   阿多委員の御提案は,まずは単身世帯を基準として10万円等といったような絶対額を最低限度額としてその部分は差し押さえられないものとしています。ただ,さらに家族数に応じて扶養家族が多い場合にはその額を拡張するということも認められるし,先ほど口頭で補足されたところによれば,逆に複数のところから給与を得ているような場合については,10万円なら10万円というのをある一つの給与に充てて,その場合は残りの部分は通常の規律によって差し押さえられるものとするというような,伸縮を可能にするというような御提案であったかと思いますが,この御提案についての御意見でも結構です。 ○山本(克)委員 複数給与をそのように調整することは現実的に可能なのでしょうか。複数の給与を得ているということは,誰がどうやって発見するのですか。 ○阿多委員 よろしいでしょうか。御指摘のことはもちろん認識しているのですが,まず,新しく今回財産開示,さらには第三者からの情報取得という制度で,例えば財産開示でも不奏功要件を私などは撤廃すべきだというような形で申し上げていますけれども,そうなってきますと例えば財産開示の申立てをした場合には,債務者は勤務先情報については全て,複数から給与を受けている,それは答えなければいけないという形になるかと。そうなると,それで債権者は情報取得できますし,第三者からの情報取得で公的機関からの情報というのが取得できるのであれば,例えば年金機構等とか市町村から情報を取得できるのであれば,所得税の源泉がどこでされている,年金についてどこで負担されているというような情報が得られますので,複数の差押えが可能だということはあり得ると思います。   さらには,実際の与信の場合で,貸金等の場合であれば,与信に際しての債権者の情報収集ということもあり得ると思いますので,知り得ないとまでは言えないのではないかと,そういう形で考えています。 ○山本(克)委員 そうすると債権者が情報を取得,収集した上で,どういう申立てをすることになるんですか。 ○阿多委員 この申立ての6ページの5で書きましたように複数の収入を得ています。153条の中の解釈の問題なのか,むしろ制度の取消しの問題,最低限度額設定を取消しの形にするのか,それは今後の問題なのですが,債権者が申し立ててこの人はA,B,C3か所から給与を得ていて,AもBもCも最低限度額が設定されているというようなことで言えば,B,Cについての命令について,それの最低限度額の設定部分については取り消すというような形の手当てが考えられるのではないか。 ○山本(克)委員 Aについて差押えがある前に,そのようなことができるということですか。 ○阿多委員 ですから,まずAについての差押えの申立てしかしていませんので,まず債権者としては。 ○山本(克)委員 そういうことですか。他者が申し立てている場合はどうなんでしょうか。 ○阿多委員 違う債権者がいる場合には,多分他の債権者の差押えに関する記録等を閲覧する,差押えが競合すれば,少なくとも供託の問題になりますし,他の債権者等の情報を得ることによって,甲はA,乙はBとか,そういうふうなことがあり得ることはもちろん分かっているのですが,そういう場合も情報は知り得ることがあるのではないか。 ○山本(克)委員 知り得ることがあるというだけでは,これはやはり駄目で,必ず知り得るということを前提としないと。 ○阿多委員 だから知られない人だけが得をするということが起こり得るということですよね。 ○山本(克)委員 そうですね。知っている,知らないによって利害状況が大分変わるというのは,私はそれはやはりおかしいのではないのかなと思います。   それと,差押禁止動産についての131条の3号は,「標準的な世帯の二月分の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭」という形,標準的世帯という形で,実際の家族の人数にかかわらず,一応額を設定している。この場合は差押禁止になる上限の方だけですけれども,この差押禁止動産の場合と似たようなことになっているわけですけれども,この動産差押えの場合の金銭の差押禁止の範囲の問題とは違って,債権差押えの場合だけ,なぜ標準世帯という形ではなくて,単身世帯を一旦決めておいて,それにプラスして増えていくことがあり得べしという形になるのでしょうか。それは体系的に一貫しないのではないのかという気がしますが。 ○阿多委員 よろしいですか。動産差押えの場合はその動産の持っている経済的価値がそのまま生活に充てられるわけではないわけですが,給与の場合は少なくとも・・・。 ○山本(克)委員 いや,「金銭」の差押えです。 ○阿多委員 ああ,すみません。おっしゃるのは上の方はそれを超える部分は全て差押えができるわけですから,上限の設定と最低限度の設定は意味が違っているとまず思っています。最低限度は債務者の生活の最低保障ということを考えていますので,単身者の場合と,扶養家族がいる場合とは扱いが異なるだろう。国税徴収法等における取扱い,国税徴収法は当初から情報があるので,扶養者等の人数分を考慮できるわけですが,少なくとも給与の差押えについての第三債務者がそれだけの情報を持っているのかというと第三債務者は必ずしも情報を持っていない。そうすると第三債務者のところで調整できないのであれば,債権者,債務者のところで調整せざるを得ないだろうというので,まず最低限度額の設定。 ○山本(克)委員 私が聞いているのはそういう意味ではなくて,131条3号は「標準的な世帯」を基準として66万円は差し押さえてはいけませんという自由財産の額を定めているわけですよね。ここで提案されている最低限度額というのは,自由財産とは言いませんが,差押禁止動産の,金銭を定めているのと同じではないのかと。だが,同じような事柄で,なぜ金額が違うのかはある程度の説明はつくと思います。金額が違うのは,ほかでも生活の原資を調達できるから,金額は給与債権の差押えのときと動産差押えとしての金銭差押えの場合で違ってくるというのは説明できると思うのですが,計算の仕方がなぜ違ってくるのか。動産差押えの場合には標準世帯を基準として単一の基準しか出してないのに,給与債権の差押えの場合には,なぜ世帯の債務者の扶養にかかっている人たちの数を加算して,増額していくというシステムを採るのか。そこは体系的に一貫していないのではないか,ということを伺っているだけです。 ○阿多委員 二つの基準があって,それぞれの算定が違うのは一貫してないというのは御指摘のとおりだとは思いますが,そこは元々のなぜそういう最低の枠を設けるのか,標準世帯で規律するという立て付けと,やはり給与,現金ではなくて,給与というところでの日常生活に使われる部分についての意味が違うのだろう。やはり生活の,かつては基本的に給与債権で日常生活を送っているわけですので,それについては人数によって使用する額が違うのだから,最低限度額の計算式についても違うというルールは可能なのではないかと。 ○山本(克)委員 それは動産差押えの場合だって同じなのではないですか。家にある現金を全部持っていかれるというのは困るから,その世帯が食べていけなくなるから,66万円は残しなさいという立て付けになっているわけですよね。 ○阿多委員 もちろんそれは2か月間を前提に66万円ですけれども,給与の場合は継続性があって,毎月毎月の話になりますので。 ○山本(克)委員 いや,だから累積していけばもっとたくさんになる。場合によっては動産差押えの方が厳しい場合があるわけですよね。現金収入は一切なくて,今手持ちにある現金だけで食べている人でも66万円ですよね。他方で,給与であれば差押禁止部分が累積していくわけですよね。どちらが有利か不利かという話は成り立たない話なので,なぜ給与だけ特別扱いするのかということについて,もっと合理的な説明が必要なのではないかという気がするということです。 ○山本(和)部会長 そうすると,山本克己委員は,給与についても標準世帯を基準にすれば,そういう制度はあり得るというような御意見ですか。 ○山本(克)委員 それはあり得ると思いますけれども,ただ,それが可能なのかどうかというのはほかの点との絡みでどうなのでしょうか。とりわけ給与所得者等再生における最低弁済額の基準との関係とか,詰めていかなければならない問題はたくさんあるのではないかという感触を持っています。 ○阿多委員 よろしいですか。反論にはならないのは前提なのですが,いろいろ議論の過程においてそもそも差押えの範囲について現在の標準家庭を前提とする,その立て付けがいいのかという,そこから議論をしていったのですが,少なくとも短期間に中間試案に載せるということを考えて,大きな枠組みではなくて,まず給与債権からと,そういう発想で考えていまして,全体の整合性がとれていないと言われれば,端的にそのとおりですとそう言わざるを得ない。合理的な説明は,先ほどの説明で合理的でないと言われるとなかなか難しいのかなとは思っています。 ○成田幹事 御提案の制度のうち,扶養親族がいるときに要は範囲を変更させていくというところについてなのですが,御提案の制度においてもいろいろ資料をそろえて申立てをしなければいけないということだとすると,現行の範囲変更の制度とどう違うのかなというのが今一つよく分からない部分がありまして,別立てにする必要性は慎重に考えたほういいのかなと思います。 ○阿多委員 結局153条の今の立て付けの話になってくるかと思うのですが,153条は非常に抽象的に債務者及び債権者の生活の状況その他の事情を考慮するという形で,具体的にどういう事情を考慮したらどうなる,どういう事情を考慮したらどうなるというふうな形になってない,抽象的な規範なのですが,それを債務者が申し立てる場合はこういうふうな事情,債権者の場合はこういうふうな事情という,言わばこの抽象的なものを申立て側ごとに整理した,そういう意識です。債務者の場合,一旦発令されていますので,発令されたところについての変更ですので,なおかつ家族数等については非常に形式的な,住民票等でこれだけ同居の家族がいるのですというような形の説明,よくあるのは年末調整の控除のときの申請の書類とか,いろいろなものを出せば,裁判所の方も考慮してという部分については判断がしやすくなるだろう。言わば整理したと,そういう形で理解していただければと思います。 ○山本(克)委員 最低限度額については,先ほどあってもいいと言いましたけれども,やはり複数の給与債権がある場合の扱いがきちんとできないと無理だなと思います。   それともう1点。最低限度額自体もこれは固定で動かないという法制がいいのかどうかという点は考えなければいけないところではないのかと思います。阿多委員の御提案でも扶養債権者についてはそれは当てはまらないとおっしゃっているわけですよね。定型的に書くのが難しいので法律にはなっていませんが,同じような事情がある場合として,人身侵害による損害賠償請求権であって,その稼働能力を被害者が失ったがために,将来の収入に相当する遺失利益賠償が命じられているような場合には,扶養の場合と極めて似かよった状況が生ずるということになろうかと思います。そういう場合は一切相手にしないという提案のように読めます。ということになると,153条で債権者の生活の状況ということをしんしゃくしている趣旨がそれによって損なわれてしまうのではないのかなという気もするのですが,いかがでしょうか。 ○阿多委員 御指摘の点については従前の債権の種類にはいろいろなものがあるのだという形で我々も議論してきたところですが,先般は扶養料を特別扱いするという理屈立てが執行の中ではあり得ると,特に給与債権に限定してはあり得るというような理解の御紹介がありましたので,今回の提案は給与債権等について,扶養料の場合は差押えの最低限度額を除くという扶養料の特別扱いの枠の中で議論させていただきました。もちろんこちら,私などはいろいろな債権があって,救済の必要性がいろいろあるというのは認識していますが,制度としてまずそういう点を。特に第三債務者の負担ということを考えたときに,第三債務者で判断できないような事情で最低限度額とか33万円を超えるとかというような形のところの調整は難しいので,その調整はやはり債権者と債務者の間で,それが我々は153条をなくせと言っているわけではなくて,153条をより明確化する方法として,債務者が申し立てる場合,債権者が申し立てる場合の内容を挙げているのであって,先ほど御指摘の点についても153条の解釈,運用の内容になるのかなと思っています。 ○山本(克)委員 では,最低限度額というのも153条の適用範囲内の差し押さえてはならない部分について差押命令を発することができるに含まれるという御提案なのですか。 ○阿多委員 そう,私自身は。 ○山本(克)委員 それなら理解できます。 ○阿多委員 私自身はそういう提案ですから,複数給与の場合も一旦発令されたものについて,A,B,C三つあったときに,Aだけで,B,Cは外すということも含めてこの153条のところもありますし,余り話を広げるとあれですが,同居の親族に高額収入があって,債務者自身は最低限度額にとどまるというような場合でも,同居の親族の収入を考慮するというような立場で考えるのであれば,変更ということもあり得ると思っています。いろいろなパターンというのはあり得るけれども,少なくとも現時点での提案は債務者が申し立てる場合にはこういう事情を考慮してどうする,債権者が申し立てる場合にはという提案を今回させていただいているという趣旨です。 ○山本(和)部会長 中身についての議論がかなりできたかと思いますが,重要な問題ですので,できればできるだけ多くの委員,幹事の御意見を伺いたいと思います。 ○垣内幹事 本日の部会資料9-2の2ページのところで,(2)で①,②の二つの考え方が提示されているところですけれども,このうち私自身は①の方はやはり算定の労力を考えるとかなり困難があるのではないかという印象を持っておりますけれども,②の方に関してはそれと比較するとより現実的な可能性が相対的に高いということかなと思っております。   ただ,②のような記述を仮に導入したときに,それが現状と比較して何を意味するのかということについては二つの側面があるように思っておりまして,一つは,実質的に保護される範囲というものは今より広くなるということ,もう一つは,現在でも差押禁止の範囲の変更等の申立てがあればされていることがその負担なくできる,その負担の分配について現状と少し変わるということになるという,この二つの側面があるように思われます。その関係で,現状について裁判実務等をもしお分かりであれば伺いたいと思うんですけれども,例えば本日の阿多委員からの御提案では,一つの参照される金額として10万円というような金額が上がっているということなわけですが,現在,実際給与等の差押えで給与が10万円に満たないような者で,それの4分の1について差押えが申し立てられたけれども,それについて減額を債務者の方で求めてきたので,それを認めたというような事例というのがあるのかどうか。あるいはそうした変更をするときに他に給与を得ているという事情があるのかどうかといったことについて,裁判所として調査したりしているのかといったことについて,もし現状何かお分かりのことがあればお教えいただければと思います。 ○山本(和)部会長 分かる範囲で,裁判所ではどうしているのかお答えを頂けますか。 ○谷藤関係官 その点に対しては特に実情というのは調査をしておりませんので,具体的な事情については分かりかねるというところではないかと思います。差押えが競合して,事情届が出ていれば幾らの給料で差し押さえられているというのは分かるのですけれども,事情届が出ていないで,取立てがなされている場合には実際どのくらいの給料が出ているかというのが分かりませんので,なかなか難しいと思います。 ○垣内幹事 範囲変更申立てがそういった事例で出てくるという例もそれほどないということですか。 ○谷藤関係官 先ほど相澤委員からも申し上げたとおり,件数としては少ないという程度でしか分かりません。 ○阿多委員 よろしいですか。我々先ほども申しましたけれども,給与債権の差押えの場合は今制度としてないものですから,153条というものが使えるということ自体,債務者はそれほど知識がありませんので,そもそも変更の申立て自体がされてないというので,給与債権の場合はただそのまま第三債務者の方が控除して,取立てに来れば渡すというのが実態で,余り変更うんぬんのことは実際にはされてない。そういう意味で困窮されている債務者がいるというのが今回の問題提起です。 ○垣内幹事 差し押さえる側の実務,弁護士さん等々の観点から申しますと10万円に満たないようなものでも差押えをするということはそれなりに現実的な事例としては想定されているということでしょうか。 ○阿多委員 それは当然債権者の立場としては知り得るのに,それを差し押さえないという選択は,よほど債権者本人がそれはいいですと言わない限りはそういう選択はないとは思います。差押えの手続を申し立てないという理由にはならない。 ○垣内幹事 実際によくあるのかどうかということですけれども。 ○阿多委員 どれだけもらっているかが分からないというのが実情で,差し押さえて陳述書が来て初めてこれだけあるのかということになります。 ○山本(克)委員 よろしいですか。複数の給与債権についてですが,それは同じ例えば今年の6月分なら6月分が複数あるという場合だけを考える,その限りで複数なのか,あるいは前の職場の未払賃金が残っているというような場合も複数なのか,それは違うのですね。同じ賃金ということですね。 ○阿多委員 そういう意味です。ですから,締めの日が違うと本来違うわけですし,実はそこまで細かなことはですが,継続的な差押えをして残っているというのであれば,一旦払って,それで終わってしまうのが最低限度額で結局差押えが功を奏しませんでしたという形で,陳述書がきて中身が分かるという形。 ○山本(克)委員 いや,そういう意味ではなくて,期がそろってなくて,未払賃金と今働いているところの賃金で重なっているところがない場合にも複数というふうに言うのですかと聞いているだけです。   月給制が普通ですけれども,雇用体系がどんどん変わってきていますので,日々雇用の人は毎日給料をもらうわけですよね。そういう人と,それと日々雇用の部分と月額の部分というものを持っているような場合の対応の仕方とか,あるいは年俸制の人で,本当に,日本の年俸制は大体それを12か月割ってもらうのが日本の年俸制ですけれども,外資系の企業だと本当に年俸制でぽんと払っているところもあると思うのです。そういうものもうまく組み合わせて規律ができないと,これは裁判所が非常にお困りになるだけの話なのかという気がしますので,そういうところはどの程度詰めておられるのでしょうか。 ○阿多委員 全てのパターンを考えた上で詰めているわけではないのですが,ただ,その問題というのは今の単独のところからの,雇用形態がいろいろ変わっているというのは正に御指摘のとおりで,給与の支払もいろいろなパターンが出てきていて,今の単独のところから給与をもらっているところでもおっしゃるように半年払いとかいろいろなのがあるのを私も承知していますので,それは同じ問題なのかなというふうに,最低限度額が月でかぶるのか,数か月分もらったらどうなるのかと同じ議論なのだと思うのですけれども。ですから,それに手当てができてないので,最低限度額設定がそもそも無理なのだということにならないと思います。 ○山本(和)部会長 恐らく,今の民事執行法施行令のように,日割りで日を乗じるみたいな,そんなことなのではないですかね。 ○山本(克)委員 そういう形になるのでしょうね。   ともあれ,一番の問題はやはり複数から給与をもらっていることを知られていない債務者がいて,例えば10万円ずつ3件からもらっていて30万円の収入があるのだけれども,債権者は大体10万円くらいしかもらってないなというのをそれぞれについてしか知らないときは一切差押えを受けない,空振りに終わる。でも実は30万円もらっているというような事態を確実には防止できないというのが,やはり問題なのではないですか。 ○阿多委員 よろしいでしょうか。だからこそ調査についてのいろいろな権限を付与してほしいということも第三者からの情報取得のところでも御提案しているわけです。現実に今でも給与をもらっている,もらってないことすら分からない状況で,分かる範囲で差押えの申立てをしている。全ての勤務していること自体分からなくても,知られた人は差し押さえられてしまう。知られてない人は差し押さえられないという現状があるわけで,それがでは給与の差押え制度がおかしいという話にはならないのだと思う。そういう意味では複数のところでもたまたま知られている方と知られてない人で運用で結果として差が出るというのは,それはある意味ではやむを得なくて,知り得たときにどう調整するのかという,すみません,知り得る方法をいかに作っていくのかという話なのだと思うのですが。 ○山本(克)委員 いや,私は税務署とか年金事務所にそういうことを言わせることには基本的に反対ですので,そこは前提が違うというところがあるということと,債務者に対して本当にすごく重い刑罰をもって財産開示をさせるという選択肢と合わせないとこれはうまくいかないのではないか,そこまでやる覚悟はあるのかどうかということ,になろうかと思います。 ○山本(和)部会長 財産開示というか,債務者財産の開示制度のところと一定の関係性がある議論であるということは確かだろうと思います。ただ,申し訳ありませんけれども,今日の段階で最後まで御議論は頂きたいと思います。また,(1)の方に戻っていただいても結構ですが,2の方の口座に振り込まれた場合の問題についても御議論をしておいていただければと思います。この点は阿多委員御提供資料でも4の辺りで具体的な御提案があるところですので,この御提案についてでも,あるいはその他の点でも結構ですので,御意見を頂ければと思います。 ○道垣内委員 2の(1)の話をしているように見せかけながら,実は前の話を蒸し返すという手段をとりたいと思うのですけれども,2の(1)のところで,差押えを禁止するという記述と,差押えの取消しを求めるという記述の選択肢が出ていて,垣内幹事から,取り消すということならば分かるけれどもという話があったのですが,例えば現在の民事執行法131条の差押禁止動産なんていうときにはこれはどう運用するのでしょうか。つまり例えば私が台所用品なのだけれども,例えば大変高級なグラスなどをいろいろ持っているので,それは債務者の生活に欠くことができないわけではないだろうといって差押えがされたとします。しかし,実は,これはなんちゃって商品で,普通の水を飲むコップにすぎないということもあるかもしれません。そうすると,ぎりぎりのところになると,債務者と債権者,あるいは裁判所も含めての間のいろいろな意見陳述というものがないと最終的には決まらないような気がするのです。そうなったときに,差押禁止というのと,取消しを求めるというのとどこまで違うのだろうかというのがよく分からないのです。  なぜ2の(1)の話をしなければならないときに,前の話をしていることになるかというと,なぜ給与債権に関しては差押禁止という選択肢だけが論じられているのはどうしてなのか,ということなのです。差押えを禁止するというルールと,差押えを取り消すように申し立てるというルールというのは理念上どう異なるものとして皆さん御理解されているのでしょうかということです。それが分からないというと①,②どっちにしますかという話が何かよく分からないままなのです。 ○山本(和)部会長 理念上,ですか。 ○道垣内委員 理念上という言葉に余り気にしてくれなくてもいいですけれども,イメージ上でもいいですが。 ○山本(和)部会長 現象的には債務者側の申立てが必要かどうかということですよね。 ○道垣内委員 それはそうなのだけれども,①の差し押さえることはできないというところに反して差押えをするとき,差し押さえることができるということを債権者が言わなければいけないのですか。そうではないとするならば,私の口座に60万円入っていると仮定したときに,それが何を原資で入ってきて,日割りにしたら,私の給与分で本来差押えできないものが幾ら残っているかなんていうのは債務者側の申立てがないと簡単には分からないと思うのです。そうすると,結局債務者からのイニシアチブで,いやいや,これは給料を入れている口座で,給与を差し押さえてはいけなくて,ここが入ったからと言って急に差し押さえられたのでは困りますと言わないと駄目なのではないですか。そうすると①,②はどう違うのかな。 ○山本(和)部会長 預金口座への入金の話ですね。 ○道垣内委員 そうそう。そう考えると,私は②が必須なのだと思うのですけれども,結論としては。 ○山本(和)部会長 これは結局阿多委員のこの御提案も,もというか,債務者の申立てによって取り消すということになるのではないでしょうか。 ○阿多委員 という提案,もちろん従前は差押禁止の専用口座というものも含めて御提案しましたが,実効性なりうんぬんの議論がありまして,調整弁としては債務者の申立てで手続をとる,そういう提案にさせていただいています。 ○山本(和)部会長 そうすると,これと153条の関係というのは,先ほどの最低限度額のところで言われたのと同じ議論になりますか。 ○阿多委員 同じ議論です。 ○山本(和)部会長 明確化するという趣旨であるということですか。 ○阿多委員 はい。 ○山本(克)委員 私は制度の仕組み自体にそれほど反対しないのですけれども,この法務省の部会資料9-2の6ページの注に書いてあるドイツ,フランスの制度を見ますと,これは給料の振込口座とか,そういう制限を科していないわけです。それはなぜかというと現金と同じだからです。つまり,給与所得者だけの口座が保護されるのかということは私はやはりおかしいという気がしますね。それは給与所得者でない人で,現金をそれほどたくさん持たない,ほとんど口座に入れているという生活をしている人は,たくさんいると思うんです。それは別に給与所得者でなくても,商売をしている人でも,売上があったら必ず入れて,生活に必要なものは手元に少ししか置いておかないというような生活パターンをしている方もおられると思うんです。その人たちの口座についてはなぜ語らないのかというのは私は納得ができない。ただ,ここでは難しい問題が出てきて,これはドイツは一つだけと制約が科してある。フランスではどういう口座を持っているか,完全に行政庁で把握できるということを前提としてやっているわけですよね。私は金銭と横並びにするべきだと思いますけれども,そのためには預金の,少なくとも流動性預金の,これは流動性預金だけですよね。 ○阿多委員 もちろんそうです。 ○山本(克)委員 流動性預金の口座を全部把握できるという前提でないとやはりこれなかなか採りづらいのではないのかと思います。金銭と横並びにするという考え方で言えば。   これは破産法改正のときにも,なぜ自由財産が給与所得者だけに一杯あって,個人事業を営んでいる人にはないのかということはかなり言われて,こういう案になれば必ずそういう反論というのは出てくるのではないのかなと思います。反論に耐えようとすると今度はまた流動性預貯金の口座を全て把握できているということが必要になってくるということで,なかなか支障があって,提案自体それほど反対するわけではありませんが,そこは非常に難しい問題としては残るのかなという感想です。 ○山本(和)部会長 フランスについては,おっしゃるように差押禁止と切り離して差押禁止口座という,これは割合少額のものだと思いますけれども,そういうものがあるのとともに,部会資料9-2の6ページの注の2段落目の4行目で書かれているように,差押禁止債権に基づく給付が預金口座に振り込まれた場合でも差押えは禁止されることとされているという,差押禁止債権とひも付けた制度もあり,2段階構成になっていると私は理解しています。 ○山本(克)委員 私が目を付けたのは,その部分のなお書以下でして,そこが問題ですが,ひも付けしたときに,これは以前にも言いましたが,金銭の抽象性の問題をどうやってクリアするのか。民事執行法制定時の部会でも議論になったというのは本日の資料でも紹介されていますけれども,やはり金銭の抽象性との関係をクリアできるんですか。私はその問題がクリアできるのであったら,いろいろなところに変動が出てくるのではないかと,やはり民事基本法ですので,ここだけでそういう抽象性を否定するようなひも付けができると言ってしまうと,ほかにも一杯いろいろなところに波及するので,少し怖いなという感じがします。 ○阿多委員 いろいろなところに手当てすると当然ほかとのバランスがおかしいではないか,それを言い出すと,例えば給与債権の差押えについての今の限度額設定でも,これ委任契約だったらどうだ,請負で入ってくるのはどうだ,そういう議論もあり得るわけで,少なくとも法律が給与の債権についての最低限度額を設定しているという,そこに着目して,それとの同一性が言わば裏付けられる場合は預金について,その部分についての従前の性質を。 ○山本(克)委員 いや,私が申し上げたのは,「裏付けられる」というのがそもそも本当に裏付けられているのかということ,今までの民法の考え方と整合的かということを申し上げているだけです。 ○阿多委員 ですから実態として預金債権の性質なり,実際の問題としてはもろもろの出入りがあって,その部分がどこに特定できるのかという実際の問題もあり得るとはもちろん理解はしているのですが,少なくとも明らかだというケースもないわけではないわけで,また実際残高との関係での調整の規定ももちろん必要になるとは思いますし,だから駄目なんだということまでいくのか,それだけです。 ○山本(和)部会長 恐らく山本克己委員はもう少し理論的なところのことを言われているようにも思いますが,これもやはり重要な問題です。民事執行法制定時から議論になっているところですので,できればできるだけ多くの委員,幹事の御意見を知りたいところですけれども,いかがでしょうか。 ○平田委員 皆さんがおっしゃるように総論的な部分で裁判所としても反対しているわけではないということが前提なのですけれども,申立件数がそもそも少なく,東京地裁でも年間で十数件,その程度なものですから,具体的にどこが悪いのか,それでどうして件数が少ないのかも分からないところがあります。ですので,次回までに調査せよと言われてもなかなか分析ができないと思いますので,むしろ弁護士委員の方でこういう案件があって,範囲変更の手段が分からなかったので,こういう結論になったけれども,きちんとした制度ができればこのくらいが正当なのであったろうというのを出していただければ,具体的な額も含めて検討の材料になるかなと思うのです。なかなかそれは難しいというのは分かりますけれども,裁判所の方でここをこういうふうにしたほうがいいのではないかということも言えない現状にあるということは御理解いただいて,むしろ具体的な数字的なもの,それから,どういう理由で申立てができていないのか,むしろ裁判所の認定が厳しすぎるから駄目なのだということなのか,教示がきちんとできていないということで解決できるのかというのを教えていただいて,立法事実になると思うんですけれども,それを明らかにしていただかないとなかなか議論が進まないのかなという印象がございます。 ○山本(和)部会長 なかなか弁護士の方でも難しいかもしれませんが。 ○阿多委員 統計的なものがあるわけではないのですが,弁護士は経験値としてみんなあるわけで,少なくともやはり給与ではない議論で,預金に関して言うならば,取立てが1週間で,債務者の方が弁護士のところに相談に来る段階ではもう取り立てられているというのが実情で,ではそこから後戻りしてという形には153条でできませんので,実態として預金口座について今対応ができてないということなのです。そういう意味では手続教示もありますし,預金も取立て開始をするのを1か月延ばすというようなことを考えて,事前にそういうことが債務者の方での申し立てるようにできるのであれば,実情としては変わる。やはり期間が短くて,今は債務者として知り得ないので,実際件数が少ないのであって,それでいいと思っているから件数が少ないのではないというふうに多分弁護士の方の話としては出てくる。具体例でこういうケースがあった,こういうケースがあったとそれはピックアップすればあるとは思いますけれども,そういうものを,統計的な数字ではなくて,ケースの紹介が立法事実に関心があるのかなというところは少し抵抗がある。一応状況を御説明だけしておきます。 ○山本(和)部会長 先ほど柳川委員からも御指摘がありましたように,そもそも弁護士のところまでたどり着いていない人もいるのではないかという問題意識もあるとすれば,なかなか実情,立法事実を提示するというのは難しい部分があるかもしれません。事務当局でも何か御工夫ができればいいのですけれども。 ○山本(克)委員 今の点は特に教示の点なのですが,立法事実の有無で判断すべき事柄なのかどうかというのをそもそも私は疑問で。やはり,市民にやさしい民事手続法という観点からすれば,教示をしてもいいし,それは被差押債権の属性にかかわらず,個人が,自然人が債務者であれば常にあると。給与債権に特化するというのには私はすごく違和感を持っていて,それは生活のために必要な債権とかということが153条1項の趣旨ですから,債務者が個人であれば,それはみんなに対して教示すべきだし,そのときに時間の猶予も与えるのであれば,それは被差押債権の属性にかかわらず,債務者が自然人であれば,全てについてやるべきなのではないのかなと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかにこの資料9-2全体でも結構ですが,この際何か御意見があればお伺いしたいと思います。   よろしいでしょうか。   それでは,これで資料9-2についても御議論を頂いたということにして,本日の審議はこの程度とさせていただきたいと思います。   次回の議事日程等について事務当局の方から御説明をお願いいたします。 ○筒井幹事 次回の会議は来月7月21日金曜日,午後1時半から午後5時半まで,場所は法務省地下1階大会議室になります。   次回の予定ですが,前回会議の際に予告いたしましたように中間試案の取りまとめに向けてたたき台となるようなものを御提示して議論していただきたいと考えております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○山本(和)部会長 それでは,本日の会議はこれで閉会させていただきます。熱心な御審議を賜りまして,ありがとうございました。 -了-