法制審議会 少年法・刑事法 (少年年齢・犯罪者処遇関係)部会 第2分科会第5回会議 議事録 第1 日 時  平成30年2月14日(水)    自 午前 9時57分                          至 午前11時39分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  1 宣告猶予制度について         2 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○羽柴幹事 ただいまから法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会第2分科会の第5回会議を開催いたします。 ○酒巻分科会長 本日は御多忙中のところお集まりいだたきましてありがとうございます。   本日は,当分科会における審議の中で,家庭裁判所の実務の実情等について御質問があったとき等に適切に対応していただくために,村田委員に御出席をお願いしております。   次に,まず,事務当局から,資料について御説明をお願いいたします。 ○羽柴幹事 本日,配布資料として,配布資料8「宣告猶予制度(検討課題等)」を配布しております。   配布資料の内容につきましては,後ほど御説明いたします。 ○酒巻分科会長 資料についてはよろしいでしょうか。   それでは,早速,審議に入ります。   本日は,「宣告猶予制度」につきまして,これまでの当分科会における意見交換や,部会第6回会議での御意見を踏まえながら,更に専門的・技術的な検討を加え,考えられる制度の概要案等を作成するとともに,検討課題を整理していきたいと思います。   このような検討の進め方でよろしいでしょうか。            (一同異議なし)   それでは,「宣告猶予制度」についての意見交換を行いたいと思います。   まずは,部会第6回会議におきまして「宣告猶予制度」に関して御意見があった内容について,事務当局から御説明をしていただきます。 ○羽柴幹事 部会第6回会議において,当分科会に属されていない委員・幹事から「宣告猶予制度」に関する御意見がございました。本日の議論に先立ち,その要旨を御紹介いたします。   「宣告猶予制度」については,「裁判所の関与により保護観察などの社会内処遇に付し,その間の行状に問題がなければ前科にならないという制度は,刑事政策的に意義があり,裁判所が関与して早期に保護観察に付すこととなる宣告猶予制度は評価できる」との御意見,「起訴猶予か起訴かを迷うような事案などについて,裁判所が関与して保護観察ないし保護観察類似の処遇に付す制度を検討すべき」との御意見,「例えば,薬物の自己使用の初犯はほとんどが単純執行猶予であると思われ,薬物離脱のために保護観察に付した方がよいが,現在は単純執行猶予の者を保護観察に付しやすくすることは厳罰化であると考えられるため,厳罰化にならずに社会内処遇を有効に機能させる方法として宣告猶予制度が考えられないか」との御意見,「改正刑法草案部会案の仕組みや,現在は起訴猶予や罰金刑となっている者を対象として判決又は刑の宣告を猶予する仕組みについては,本来起訴されずに済む者を起訴して被告人の立場に置くことや,起訴猶予や執行猶予との使い分けをどうするかといった問題があり,これらの問題を踏まえた上で制度の必要性を検討すべき」との御意見,「裁判所が実刑か執行猶予か迷う場合に,刑の宣告を猶予し,宣告猶予中の行状を考慮して量刑を決める仕組みについては,運用面において現在の執行猶予制度とほとんど変わらないのではないかといった問題があり,執行猶予との使い分けなどを踏まえて制度の必要性を検討すべき」との御意見がございました。   手続に関しては,「例えば,裁判所の簡易な手続により有罪認定を経て,一定期間保護観察等に付した上で,その間問題なく終了すれば公訴を取り消し,問題があれば通常の手続に移行するような制度は考えられないか」との御意見がございました。   その他,全般的なものとして,「現在検討されている各制度は,現在の家庭裁判所における調査,処遇と比較すると,見劣りがするものではないか,再犯防止という観点から見ても不十分なものではないかと考えられるため,現在の家庭裁判所等において行われている制度との比較を意識して議論することが適当である」との御意見がございました。 ○酒巻分科会長 ただいまの説明に御質問のある方は挙手をお願いいたします。   よろしいでしょうか。   次に,これまでの分科会における意見交換の内容や,部会での御意見などを踏まえて,「宣告猶予制度」について,考えられる制度の概要や検討課題等をまとめた資料を事務当局に作成してもらいましたので,事務当局から「宣告猶予制度」に関する資料の説明をお願いいたします。 ○羽柴幹事 配布資料8について御説明いたします。   「宣告猶予制度」につきまして,これまでの部会及び当分科会における意見交換を踏まえ,「考えられる制度の概要」とともに,検討課題となると考えられる事項を記載しました。   現時点において考えられるものを記載したものであり,もとより御議論の対象をこれらに限る趣旨ではありません。   考えられる制度の概要や検討課題として記載した事項について説明いたします。   まず,「考えられる制度の概要」についてですが,これまでの意見交換を踏まえると,「1」にあるとおり,「裁判所が,審理の結果,有罪であると認めた場合において,判決又は刑の宣告を一定の期間猶予する」ものと考えられ,また,本制度を設けるに当たっては,「2」にあるとおり,必要な手続を整備する必要があると考えられますので,それらを記載しています。   次に,検討課題について御説明いたします。   まず,検討課題の「1 対象となる事案の範囲」については,これまでの意見交換で提案された「対象となる事案」を踏まえ,A案とB案を記載しています。   A案は,「比較的軽微な事案」を対象とするものです。A案については,どのような事案を対象に含むか,年齢による限定をするか,薬物犯罪者等を対象とするかといった点が検討課題になると考えられます。   次に,B案は,「裁判所が実刑か執行猶予か迷う事案」を対象とするものです。   本制度においては,一定の要件の下に宣告猶予を取り消して判決又は刑を言い渡すことになりますが,「2」にあるとおり,言い渡す刑の量定において,宣告猶予期間中の行状を考慮できることとするか否かが検討課題となると考えられます。   次に,「3」の「具体的な制度の在り方」について御説明いたします。   具体的な制度の在り方を検討するに当たっては,「(1)判決の宣告猶予とするか刑の宣告猶予とするか」のほか,「(2)判決又は刑の言渡しを猶予する要件」として,3つの「○」にあるとおり,「前科の有無等」,「罪名,言渡し刑の範囲等」,「実質的要件」が検討課題となると考えられます。   また,「(3)」の「宣告を猶予し得ることとする期間」,「(4)宣告を猶予する際の手続」として,二つの「○」にあるとおり,「簡略な手続を設けるか」,「検察官及び被告人の同意を要することとするか(あるいは,異議申立てにより通常手続に戻ることとするか)」,「(5)宣告猶予期間中の保護観察を必要的なものとするか」が,それぞれ検討課題になると考えられます。   そして,宣告猶予を取り消して判決又は刑を言い渡す場合の要件や言い渡す刑として,「(6)」のとおり,どのような場合に言い渡すこととするか,「(7)」のとおり,言い渡す刑に執行猶予を付すことができることとするかが検討課題となると考えられ,また,「(8)」のとおり,「宣告を猶予する際の手続」,「(9)不服申立ての在り方」として,二つの「○」にあるとおり,「宣告猶予の裁判に対する不服申立て」,「宣告猶予取消し後の裁判に対する不服申立て」が検討課題になると考えられます。   さらに,宣告猶予を取り消されなかった場合,「(10)」にあるとおり,「宣告猶予期間を経過した場合の効果」が検討課題になると考えられます。   最後に,「4 その他」として,「○」にあるとおり,「少年鑑別所や家庭裁判所調査官の活用の要否,活用場面」が検討課題になると考えられます。   配布資料8の説明は以上です。 ○酒巻分科会長 ありがとうございました。   ただいまの説明に,この段階で,御質問や,ほかにも検討課題等があるのではないかといった御意見のある方は挙手をお願いいたします。   よろしいでしょうか。   それでは,「宣告猶予制度」について,配布資料8に沿って意見交換を行いたいと思います。   まず,配布資料8の「1 対象となる事案の範囲」についての意見交換を行いたいと思います。   宣告猶予制度の対象となる事案の範囲をどのようなものとすることが考えられるかということについては,これまでの当分科会における意見交換の結果を踏まえてまとめると,大きく分けてA案とB案の二つの事案を念頭に置くことが考えられます。これらの二つの事案とも念頭に置いて具体的な制度の在り方を検討するべきか,あるいは,いずれかの事案を念頭に置いて検討することとするか,又は別の案が適当かについてや,それぞれの案における事案の範囲について,御意見を伺いたいと思います。   御意見のある方は挙手をお願いいたします。 ○川出委員 どのような事案を念頭に置いて制度の在り方を検討するかという点なのですが,まず,配布資料にあるように,A案とB案の二つに区分することはこのとおりで結構だと思います。といいますのも,A案とB案では,同じ宣告猶予といっても,そもそも,その趣旨,目的が異なります。具体的には,A案の方は,比較的軽微な事案を対象として,その宣告を猶予した上で処遇を行い,それによって対象者の改善更生を図ることを目的とするものであるのに対して,B案の方は,宣告を猶予した上で,その間に量刑のための判断資料を得ることを目的としたものです。そうしますと,それらは分けて検討したほうが妥当であろうと思います。   その上で,いずれかの事案を念頭に置いて具体的な制度の在り方を検討するか,両方を取り上げるかという点について意見を申し上げたいと思います。B案は,裁判所が実刑か執行猶予か迷うような事案で,宣告を猶予した上で,その間,例えば,対象者を保護観察に付し,その間の行状を見ることにより,被告人を社会内に置いた場合に再犯のおそれがあるかどうかについての判断の手がかりになる資料を得た上で,実刑か執行猶予かを決定するという制度に対するニーズがもしあるのであれば,こういう仕組みも考えられるのではないかという趣旨で,第1回の分科会で提案したものです。しかし,これまでの分科会及び部会での議論を聴いていますと,そういったニーズが特段あるというわけでもなさそうですし,部会においても,その必要性や有用性に関する積極的な御意見はありませんでした。そうであれば,あえてB案を検討の対象とする必要はないと思いますので,A案の方を念頭に具体的な制度設計を考えるのがよいのではないかと思います。 ○酒巻分科会長 提案者の川出委員から今,B案については特段の必要がないのではないかという趣旨の御意見があったわけですけれども,ほかに御意見のある方は挙手をお願いいたします。 ○加藤幹事 B案についてはこれ以上検討の対象とする必要が乏しいのではないかという川出委員の御意見に同感です。実務的な面を踏まえて感覚的なところを申し上げますと,裁判所におかれては,いわゆる行為責任を基礎としつつ,犯罪行為にふさわしい刑を言い渡されているものと認識しています。実刑か執行猶予か迷うような事案で,裁判所におかれて,公判段階における一定期間,被告人の行状を考慮することによって量刑を決することが必要であるというような事案は,なかなか見当たらないのが実情ではないかと感じます。そうした意味で,川出委員の御発言に同感です。 ○福島幹事 裁判所の話になっておりますので,一言申し上げます。ただ,以前にこの点については少し詳しく申し上げましたので,今回ここで改めて申し上げることはしませんが,今,加藤幹事からもありました実務的な感覚といいますか御意見については,私も同感でありまして,そういう意味では川出委員の先ほどの御発言にも全く同感であるということを申し添えさせていただきたいと思います。 ○酒巻分科会長 今の意見交換の状況を総合いたしますと,B案の事案を対象とする制度を設けることについては,裁判所が刑を判断するという趣旨・目的で宣告猶予制度を設けることは必要性が乏しい,また,B案について積極的な御意見もなかったことから,これを念頭に「考えられる制度」として更に具体的な検討を深めていく必要はなかろうと思います。他方で,A案は,対象者の具体的範囲について検討すべき点があるにせよ,今回の審議の目的を踏まえると,比較的軽微な事案を犯した者について改善更生,再犯防止に役立つ制度として検討する意味はあると考えられます。そこで,この先の制度の在り方の検討は,A案の事案を念頭に置いて議論を進めていきたいと思いますが,このような進め方でよろしいでしょうか。            (一同異議なし)   それでは,A案について検討を続けることとします。A案を前提にしつつ,具体的な要件や手続等は,どのような事案を対象とするかにもよるということがあるかもしれませんが,それらの点については,必要に応じて,この先の要件等の検討の中で,御発言いただきたいと思います。   そのような形で進めていきますが,まず,1のA案における対象となる事案の範囲について御意見がある方は,挙手をお願いいたします。 ○加藤幹事 A案の具体的論点として,この検討課題等には「・」で5つ挙がっているわけですが,差し当たり,上の3つの起訴猶予となっている事案を含むか,罰金に相当する事案を含むか,現在単純執行猶予相当の事案を含むかというのが同じ種類の論点だろうと思われますので,まずこの点について申し上げます。   A案の対象として,起訴猶予相当の事案を含めることについてですが,現在は起訴猶予となっている者を,新しい制度で宣告猶予のそ上に乗せるためには,検察官がそのためにあえて公訴提起をして刑事裁判手続に乗せるということが必要になります。そうすると,検察官が起訴猶予相当であると判断しているものをあえて起訴するということになるわけですが,その点には疑問を感じるところです。このように,本来的には処罰を求めるために行われるはずの起訴が,専ら社会内処遇を行うためになされるということになりますと,公訴提起というものの意義と整合するのかという指摘も既にあったところであり,現在の検察実務との関係でも非常に違和感が大きいものになるのではないかと感じています。   実際,我が国では起訴されるだけでも社会的な不利益を被るという実情があるということも無視できないと思われるのであり,こういう宣告猶予にすること,処遇を行うことを目的として起訴をするということが適切であるのか,その点は慎重に検討する必要があるのではないかと考えます。 ○池田幹事 ただいま加藤幹事から御指摘のあった起訴猶予相当事案の扱いについて,私も同種の意見を述べたことがありまして,特に付け加えることはないのですが,他方で,3つ目の「・」にあります単純執行猶予相当の事案,これを宣告猶予とどうすみ分けるのかというのがこれまでも問題になってきたところです。   第6回の部会でも,初犯の薬物犯罪者のような単純執行猶予者について,これにそのまま保護観察を付すると重罰化あるいは厳罰化になると思われるけれども,保護観察に付しながら厳罰化しない方法として宣告猶予制度が考えられないかという御指摘がありました。もっとも,執行猶予ではなくて宣告猶予という制度の対象とすれば,そこで懸念されているような重罰化を回避することができるかということは,検討の余地があるように思います。   といいますのは,宣告猶予期間中の行状に問題があって宣告猶予を取り消すということになった場合に,仮に執行猶予を付し得ないとする制度とした場合には,執行猶予期間中の行状に問題があって取消しになって実刑になるという場合と,宣告猶予が取り消されて実刑になるということとで,違いはないとも考えられるからです。   他方で,宣告猶予の取消しの際にも刑の執行を猶予することができるという制度になりますと,今度は保護観察付き執行猶予が取り消されれば実刑になってしまう執行猶予と比較すると,保護観察後にも再度の社会内処遇の可能性が宣告猶予の場合にはあるという点でメリットがある,そのようにも考えることができるかと思います。   ただ,この点に関しましては,現在,第1分科会で,保護観察付き執行猶予中の再犯に重ねて再度の執行猶予を可能にするということの検討もされているものと承知しており,執行猶予制度の枠内でもそうした対応がなされる可能性があると理解しております。そうだとすると,それに重ねて宣告猶予制度を設けることに意義があるのかということは,疑問の余地があると思うところです。 ○福島幹事 今の上の3つの「・」について,申し上げたいと思います。まだ私自身の考えも十分に整理できていないので,こういう段階で発言させていただくのは恐縮なのですが,議論の一つの参考にしていただければということで,申し上げたいと思います。   再犯等に及ばずに宣告猶予期間を無事経過した場合の効果については,この後にもまた議論されることなんだと思うのですけれども,仮に改正刑法草案部会案と同様に免訴とみなすというようなことを前提で考えてみますと,宣告猶予というのは量刑としては非常に軽い量刑ということになるのではないかと感じております。すなわち,多くの事件では再犯等に及ばず宣告猶予期間が無事経過すると思われますので,宣告猶予とする事案は基本的には免訴となってよい事案,すなわち,刑罰を科さずに,刑事裁判を途中で打ち切るのがふさわしい事案ということになりますので,仮に宣告猶予という制度を導入するのだとすると,その対象は刑事責任が非常に軽い事案ということになるのではないかと思われますので,その点を申し上げたいということでございます。   あわせて,「3」の「(2)」の要件のところと関連してくると思うのですけれども,以前にも申し上げていますように,現行法には既に懲役刑,禁錮刑,罰金刑があり,さらに,いずれについても執行猶予制度が設けられておりますので,宣告猶予制度と執行猶予制度との切り分けがきちんとできるのか,適切な使い分けができるのかということはよく検討していただきたいと思います。これまでの御議論を伺っていても,この使い分けのイメージが全然湧かないというのが率直な感想であります。 ○山﨑委員 先ほどの加藤幹事の御意見で,起訴猶予となっている事案について御発言がありましたけれども,従前検討されてきた宣告猶予制度を前提にしますと,確かに起訴自体の当事者に対する不利益というのも非常に大きいものがありますので,その点は十分考えなければいけないだろうと考えております。   ただ,「3」の「(4)」のところで,簡易な手続をとることによってそういう不利益というのを緩和できないかといったところで,これは宣告猶予からは少し外れるような制度も検討した方がよいのではないかと思っております。詳しくはそこで発言しようとは思っていますけれども,それを考えた発想としては,第3分科会の方で「起訴猶予に伴う再犯防止措置」としてどのようなことができるかという議論がされておりまして,他方で第1分科会では執行猶予の点が検討されておりますけれども,それぞれ,どういうことが可能でどこまではできないかという議論が当然この後,部会に上がってくるだろうと思われますので,それらとの関連において,各分科会では少し幅広に考えておいた方がよいのではないかと考えております。   そういう意味で言いますと,起訴猶予に伴ってどこまでできるかということを考える際には,こちらの制度について,現行で起訴猶予となっているものに対しても含んで考えるのかどうかということが課題になってくる可能性はあるのかなとは思っております。ですので,基本的には,私も従前起訴猶予だったものを起訴することにより負担が大きくなるというのは避けるべきだと考えておりますけれども,他の制度との兼ね合いでは,その点はまだ検討する余地が残っているのかなという点が1点でございます。   あと,執行猶予に関しても,池田幹事がおっしゃったところが正に同じような発想が当てはまると思っておりまして,第1分科会の検討でどこまで進むのか,それがどこまでかと,こちらの広がりとが関連する問題ではあろうと思っております。 ○川出委員 単純執行猶予相当の事案を含むかという点についてですが,部会では,今後,これまでであれば単純執行猶予となっていた事案に保護観察を付けるという運用を行うとすると重罰化になるので,そうではなく,単純執行猶予相当の事案は,宣告猶予の形で保護観察に付して,無事その期間が経過したら前科が付かないという仕組みにした方がよいのではないかという御意見がありました。保護観察を付けることが重罰化になるという前提に立った上で,執行猶予ではなく宣告猶予という形式にしたら重罰化にならないといえるのかどうかについても疑問がありますが,それはひとまずおいて,宣告猶予であれば前科が付かないというメリットがあるという点について意見を申し上げたいと思います。確かに,宣告を猶予した上で,一定期間,保護観察に付し,その期間を無事経過すれば,例えば免訴にするという仕組みにした場合,前科が付かないというのはその通りですが,保護観察付きの執行猶予の場合にも,その執行猶予期間を無事経過すれば刑の言渡しの効力は失われますので,保護観察期間が経過した時点での状態は,宣告猶予の場合と同じことになります。そう考えると,宣告猶予にすれば前科が付かないという点は,保護観察付き執行猶予の場合と,それほど大きな違いではないように思いますので,そこを捉えて,単純執行猶予相当の事案を宣告猶予の対象にする必要性は低いように思います。 ○山﨑委員 今の点に関して言いますと,資格制限の点で違いが出てこないのかという点が,やはり一つあるかなと思っております。更生を図る上で,様々な職業についてこの人は頑張った方がいいというときに,資格制限自体の要件を緩和するという第1分科会のテーマもあると思いますけれども,それが難しいのであれば,むしろ宣告猶予的な制度も含めた宣告猶予を考えて,その期間,資格制限なく更生を図れるようにした方がいいという発想もあり得るのではないかと思っています。 ○川出委員 資格制限との関係は,確かに検討すべき点であると思います。ただ,仮に,資格制限にはそれ自体の目的があるので,対象者の改善更生という観点からその適用を外すことが難しいということであるとすれば宣告猶予制度を仮に設けたとしても,個々の資格制限の趣旨に照らせば,宣告猶予の場合にも資格制限が適用されるということになる可能性もあります。したがって,宣告猶予を導入するかどうかの問題は,とりあえずは,資格制限とは切り離して検討した方がよいと思います。 ○酒巻分科会長 今までの御議論に関連して,ほかに御意見のある方はいらっしゃいますでしょうか。   それでは,先に進むこととし,A案にある5つの「・」のうち,下の2つの「・」について御意見がある方は挙手をお願いいたします。 ○加藤幹事 まず,年齢による限定をするかどうかという点ですが,これは制度の作りとの関係で,まだ今のところ両様の考え方があるのではないかと思います。仮に少年の上限年齢が引き下げられた場合に,これまで保護処分に付すことができていた18歳及び19歳の者が起訴猶予処分等となって,処遇を図ることができなくなるということから,そのような者について特に処遇の充実を図ることを目的とするということであれば,この制度の対象を18歳及び19歳の者に限定するということも,それなりの考え方ではないかと思われます。   ただ,他方,比較的軽微な犯罪を犯した者について,公訴を提起した上,裁判所において保護観察に付すなどして改善更生を図るということを目的とするというのであれば,それは年齢による違いがあるわけではありませんから,年齢を限定しないという考え方もあると考えられ,そういう意味で,いずれの考え方もあり得るのではないかと思います。   次に,累犯者を対象とするかどうかという点について,この点についてはこれまでの分科会でも一部意見を申し上げておりますが,一つに,累犯者については実刑となって刑務所において改善指導を受けるというのが今まで考えられていた形であり,そのような者について,宣告猶予が施設内における処遇よりもその処遇の充実に資するのかという問題がありますし,二つに,以前に執行猶予あるいは実刑に処せられた前科を有する者が,その次の段階で更に宣告猶予になるというのは,刑罰の在り方として適当なのかと,あるいは特別予防,一般予防に資するのかといった問題があると考えられますので,基本的に,前に前科があって,特に服役前科がある者について,この制度の対象とするということは適切でないように思われます。このように累犯者を対象とすることに問題があることについては,その者が高齢者である場合であっても,基本的には変わりがないのではないかと考えます。   一方で,高齢者の中でも,例えば,認知症等を患ったことにより万引きをするようになって,これを数回繰り返しているというような者も考えられます。そして,その原因が,例えば認知症等にあり,相応の福祉的支援を行えば再犯を防止できるというような者もいるとは考えられます。そのような者については,累犯になる前に早期の段階で福祉的支援をして介入するということが重要であるように思われ,例えば,この点の施策として,検察庁においては,いわゆる入口支援として起訴猶予の場合等に福祉につなぐという取組を行っているところです。この点は部会でも紹介がありました。検察庁の行っている入口支援については第3分科会で御議論になるところですが,基本的に被疑者に対する補導援護,あるいは福祉的な介入を行うという点についてはそれほど異論はないのではないかと認識しています。   こういう者について,あえて起訴をした上で判決又は刑の宣告を猶予して保護観察に付して遵守事項を守らせるというのが対処の仕方として適切なのかどうかは一考の余地があると思われます。すなわち,宣告猶予中の保護観察によって改善更生を図ることができるのか,あるいは保護観察に意味があるのか,そういった者に対する保護観察が奏功しないということであるとすると,何のために宣告を猶予するのかといった疑問も生じますので,そのような者を宣告猶予制度の対象とする意義は乏しいのではないかと考えます。 ○川出委員 軽微な犯罪を繰り返す高齢の累犯者等を宣告猶予の対象とするという場合に,それが何を目的としているのかを明確にして議論する必要があると思います。仮に,それが,行為責任の観点からは実刑にも相当するような犯罪を行った者を宣告猶予にして,その間,一定の処遇をし,それでうまくいけば施設内処遇を回避する形の処分をする,具体的には執行猶予にすることになるのだと思いますが,それを意図したものであるとすると,それは,結局B案と同じことになります。しかし,それは検討の対象から外すということになりましたので,このような目的での制度は考える必要はないことになります。   もう一つ考えられるのは,加藤幹事から御指摘のあったように,福祉的な支援をする必要がある人を宣告猶予の対象とするというものです。仮に,それが,現在,入口支援の対象となっているような人を起訴し,宣告猶予を言い渡して,その間,入口支援で行われているのと同じことをやるということだとすれば,例えば保護観察に付した上,遵守事項として福祉施設への入所を定めるということになろうかと思います。しかし,福祉的支援というのは相手の同意を得てやらないと意味がないということは共通の理解だと思いますので,そのような遵守事項の設定はできないと思います。そうすると,加藤幹事の御指摘のとおり,このような事例で宣告を猶予して保護観察に付する意味はないということにならざるをえません。したがって,結論としては,軽微な犯罪を繰り返す高齢の累犯者等を宣告猶予の対象とするのに適した事案は考えにくいように思います。 ○山﨑委員 私も,まず,年齢については限定をせずに考えたらよいのではないかという点について,加藤幹事と同じ意見を持っています。   さらに,薬物あるいは高齢の累犯者については否定的な御意見が今,出たのですけれども,これも先ほど申し上げましたが,起訴猶予に伴って検察官がどこまでできるかという範囲が関係してくると思います。川出委員がおっしゃったように,福祉は同意に基づかないと効果がなく,本人の同意に基づく必要があるので,その範囲にとどめるということなのか,更にもう少し強制的な契機をそこに持ち込もうとするのかによっても多少変わってくるのかなと考えており,そういう強制的な契機を必要とする場合を想定するのであれば,むしろ裁判所が介入をして宣告猶予の受皿を広くとっておいて,そこで判断をすべきというふうな考え方があり得るのではないかと思っています。累犯の部分についても同じような問題があると思いますし,早い介入で累犯を防ぐこと自体が大事だという点については全く異論がないのですけれども,これまでなかなかそこに手が回ってこなかったという実情がある中で,果たして今後,新たな制度をつくったときに,累犯だからということでその制度の対象から外してしまってよいものかという点は検討が必要ではないかと思っています。 ○酒巻分科会長 それでは次に,「2 宣告猶予の取消し後に言い渡す刑の量定において,宣告猶予期間中の行状を考慮することができることとするか」について意見交換を行いたいと思います。御意見のある方は挙手をお願いいたします。 ○池田幹事 宣告猶予の取消しということで,行状が悪かった場合というのが念頭に置かれているのだと思いますが,この場合,宣告が猶予されてから,猶予期間経過後に改めて事実認定とは切り離された形で刑の量定を行うということになるものと思います。ただ,その際に言い渡される刑は,これまでの量刑実務についてお話を伺ったところも踏まえますと,行為責任の範囲内でということになりますので,行状を考慮に入れるとしても,それによって付け加えることができるものは,仮にあるとしても,さほど大きなものではないのではないかと思います。   しかし,それを考慮に入れるということになれば,その猶予期間中どのような行状であったかということを調査の上,手続において明らかにしなければならないという負担を生じさせることになります。とはいえ,それが量刑に与える影響は必ずしも大きなものではないということに照らすと,そのような手続的な負担との均衡も考慮に入れるべきではと思っております。 ○加藤幹事 宣告猶予制度の目的が,処遇を一層充実させることによって改善更生を図るということであるとしますと,その意味からは,猶予期間中に再犯に及ぶなどした場合に,その刑をより重くするというところに本旨があるわけではありませんので,猶予期間中の行状をその刑の量定に当たって,今,御発言があったように,通常は重く考慮するということになってしまうわけですが,その重く考慮するということに必然性があるとは思われません。 ○酒巻分科会長 ほかに御意見ございますか。   よろしいですか。   次に,「3 具体的な制度の在り方」について意見交換を行いたいと思います。   「(1)判決の宣告猶予とするか刑の宣告猶予とするか」については具体的な制度の中身と連動しますので,「(2)」以降の検討が一通り終わった後に意見交換を行いたいと思います。   そこで,まずは「(2)判決又は刑の言渡しを猶予する要件」について意見交換を行います。要件に関する事柄である「前科の有無等」,「罪名,言渡し刑の範囲等」,「実質的要件」について,まとめて御意見を伺いたいと思います。いずれの点でも結構ですので,御意見のある方は挙手をお願いいたします。 ○滝澤幹事 一般的な形になってしまいますけれども,要件の中の前科の有無等についてという点についてございます。承知している限りで,改正刑法草案の部会案では禁錮以上の刑に処せされたことがある者を宣告猶予の対象から除外するというふうになっていると承知をしております。仮に,禁錮以上の刑に処せられたことがある者も宣告猶予の対象とするということになりますと,前科があるにもかかわらず再犯に及んだ者が,その後の行状次第で刑に処せられないということになりまして,再犯に及んで相応の刑事責任を負うべきと考えられる者が,有罪であるのに刑に処せられなくなるということになってしまうということかと思います。これが刑罰の在り方としてどうなのか,被害者の方も含めて国民全体がどのように受け止めるのかというところからも問題があるように,感覚的には思われますので,やはり改正刑法草案部会案なども参考としていただきまして,自由刑の前科がないことを要件とするということがふさわしいのではないかと思っております。 ○加藤幹事 滝澤幹事からも御発言がありましたが,具体的な要件を検討するには,以前に法制審議会の刑事法特別部会が示した案があり,それが既にこの分科会の配布資料2として配られていますので,それを参照しつつ,意見を申し上げたいと思います。   まず,「(2)」の二つ目の「○」,「罪名,言渡し刑の範囲等」という,言わば形式的要件の一部でありますが,これについては部会案の第74条に要件があって,対象となる言渡し刑の上限を6月以下の懲役若しくは禁錮,5万円以下の罰金,拘留又は科料と定めていたわけです。これは,当時の部会でも様々な検討がなされて出された結論であると思われ,現在でも相応の合理性を持つのではないかと思います。もっとも,罰金の金額については,改正刑法草案が公にされた昭和49年から現在までの間に当然,物価の変動もあり,罰金額の引上げもありますので,この罰金の額というところについては,現在にふさわしいものを検討しなければならないだろうとは思われます。その罰金額については別途検討するとしても,宣告猶予の対象となる言渡し刑の範囲については,部会案の考え方はなお妥当する点があるのではないかと思います。   また,これとは異なる観点で,宣告猶予の対象となる事案の範囲について,言い渡し得る刑の上限によって枠付けをするのではなくて,罪名あるいは法定刑で区分するといった考え方もあり得るといたしますと,その場合には宣告猶予の対象となる犯罪としてどのようなものが考えられるかということについて検討する必要が生じると思われます。そういった枠付けがよいのかどうかという点も検討の対象になろうかと思います。   さらに,3つ目の「○」の「実質的要件」ですが,実際にどのような場合に宣告が猶予されることとするのかということを考えた場合に,実質的には情状が軽くて宣告を猶予することが相当である場合でないかと考えられます。これについての具体的規定ぶりについて部会案を参照しますと,「刑の適用に関する一般基準の趣旨を考慮し,判決の宣告を留保することを相当とする事情があるとき」と規定されています。今回の宣告猶予制度において検討してみますと,現在の刑事訴訟法第248条を参考にするなどして考慮事情を掲げつつ,例えば「犯人の性格,年齢及び境遇,犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の状況を考慮し,宣告を猶予することが相当であるとき」などという形で規定することがひとまず考えられるのではないかと思われます。   もっとも,このように宣告猶予の実質的要件の内容あるいは規定ぶり,いずれの点においても,宣告を猶予する場合と,情状によりその刑の執行を猶予する場合とで具体的にどのような点が異なるのか,裁判所におかれてもこれらの実質的要件から両制度を明確に使い分けることができるのかという点については,既に御指摘のあったとおり,検討課題になると考えています。 ○酒巻分科会長 加藤幹事が引用された改正刑法草案部会案の第74条は,「刑の適用に関する一般基準の趣旨を考慮し」と定めているところ,この一般基準の条文も配布資料2に載っていますが,その条文は,刑の適用に当たっては,犯人の年齢,性格,経歴及び環境,犯罪の動機,方法,結果及び社会的影響,犯罪後における犯人の態度その他の事情を考慮し,犯罪の抑制及び犯人の改善更生に役立つことを目的としなければならないというものであり,現行法でいうと刑事訴訟法第248条に類似していますので,同条を参考にすることが一つ考えられるということだと思います。。   それから,対象となる事案の範囲について,罪名により区分することも考えられるのではないかとの御意見がありました。執行猶予と宣告猶予はよく似ているところもあるのですが,執行猶予について罪名による区分は基本的にはありません。宣告猶予について罪名で区分する点については,いかがでしょうか。 ○池田幹事 罪名について今,分科会長から御指摘があったとおり,執行猶予,あるいは単純に比較できないのかもしれないのですが,起訴猶予との関係でも,罪名による限定は付されておりませんので,仮に宣告猶予についてそのような形で対象事案を限定するということを考えるとするならば,やはり宣告猶予に特有の実質的根拠があるといえるかを,併せて検討しなければならないだろうと思います。 ○川出委員 言渡し刑の範囲についてですが,先ほど刑事法特別部会の案の御紹介がありましたけれども,そもそも,部会案の宣告猶予は起訴猶予と執行猶予の間ぐらいのものを対象とするという前提であったので,言渡し刑の範囲が6月以下の懲役若しくは禁錮と5万円以下の罰金ということになっていたのだと思います。ですから,この問題は,本日の最初の検討課題であった対象となる事案をどう考えるかというところに関係するもので,そこが決まった上でここが決まってくるのであろうと思います。   その観点から考えると,仮に,起訴猶予になる事案を対象とするのであれば,言渡し刑もかなり軽いものになるでしょうし,そうではなく,単純執行猶予相当の事案まで含むとなるとある程度広がってくることになります。その上で,単純執行猶予相当の事案を含むとした場合には,御指摘のあったとおり,実質的要件との関係で,宣告猶予と今の執行猶予とをどう使い分けるのかということが問題となってくることになろうかと思います。 ○山﨑委員 今,川出委員がおっしゃった問題意識は私も同じでして,他の制度との関係で,あるいはどういう対象事件を想定するかによって,この辺りは変わってくるところだろうと思っています。   1点,前科のところで滝澤幹事の御発言がありましたけれども,前科が異種の犯罪である場合も同様に考えるのかどうかという点はあると思いますし,更に言えば,前科があるということだけで対象から外すということまで本当に必要なのかという点は,より慎重に検討する必要があるのではないかと思っています。 ○加藤幹事 先ほどの点に補足いたします。   第1分科会の方で刑の全部執行猶予の在り方について検討がなされている中で,短期の懲役刑の刑期について資料が出ていたのですが,以前に比べると,刑期1年未満の刑というのはかなり減っている傾向にあって,一番軽い層の刑期というのは少し延びている傾向にあるというデータが出ておりました。この刑の宣告猶予の適用範囲を決めるに当たっても,そういったデータは参照する必要があるだろうと考えます。 ○酒巻分科会長 この程度でよろしいでしょうか。   次に,「(3)宣告を猶予し得ることとする期間」について意見交換を行いたいと思います。御意見のある方は,挙手をお願いいたします。 ○加藤幹事 部会案第74条によると,言渡し刑の上限が6月以下の懲役などである犯情が比較的軽微な事案を対象として,保護観察を裁量的なものとした上で,宣告を猶予する期間は6月以上2年以下という仕組みにされていたと承知しています。この宣告を猶予する期間については,言渡し刑の範囲とも関係してくると思われます。また,宣告猶予期間中は,その処遇の充実を図るため社会内処遇に付するということになり得ますので,その処遇の効果という点も考慮する必要があると思われますが,他方で被告人の手続的負担ですとか迅速な裁判の要請といった要素も考慮する必要があると思われます。したがって,宣告を猶予する期間については,それらの要素を考慮しつつ,部会案も一つの参考として検討する必要があるのではないかと考えます。 ○酒巻分科会長 この程度でよろしいでしょうか。   次に,「(4)宣告を猶予する際の手続」について意見交換を行いたいと思います。「簡略な手続を設けるか」,「検察官及び被告人の同意を要することとするか,あるいは異議申立てによって通常手続に戻ることとするか」について,まとめて意見交換を行いたいと思います。   いずれの点でも,その他の手続に関する事柄でも結構ですので,御意見のある方は,挙手をお願いいたします。 ○山﨑委員 この点については,これまで私の方から何度か,こういった方向性で考えた方がよいのではないかと発言していましたので,少し整理したところをお話ししたいと思います。   まず,簡易な手続の制度を検討する必要性について,考えているところを述べます。宣告猶予制度というのは,かつての刑法改正草案では採用されなかったものの,「若年者に対する刑事法制の在り方に関する勉強会」の取りまとめ報告書では,判決や刑の宣告を回避しつつ,司法判断を経た上で保護観察を行うことが可能な制度と位置付けられております。これに対して,起訴猶予制度あるいは執行猶予制度との関係で,そもそも制度の必要性について議論があるわけですけれども,宣告猶予制度には,裁判所が関与する手続であるという点,対象者を早期に社会内処遇に付することができるという点,その成績いかんによっては前科や資格制限を回避し得る制度であるという点において,起訴猶予や執行猶予とは異なる独自の存在意義があるだろうと考えております。   また,宣告猶予は起訴猶予と執行猶予との間に位置付く制度と考えられますところ,宣告猶予に関する検討をするに当たっては,第1分科会での執行猶予に関する議論,第3分科会での起訴猶予に伴う再犯防止措置に関する議論とも相互に関連すると思われるわけですけれども,それぞれの制度の採否については部会の方で今後,検討されるということになると思われますので,当分科会としては,先ほども申し上げましたとおり,宣告猶予の制度,更にはそれに類する制度に関しても,他の分科会における議論も意識しながら幅広に検討しておいた方がよいのではないかと考えております。   そういった観点からしますと,また,第3分科会の方で検討されている起訴猶予に伴う検察官の働き掛け等については,そもそもその相当性については慎重な検討が行われていると聞いており,そういったことも踏まえますと,比較的軽微な事案を対象として対象者を早期に社会内処遇に付し得る制度として,従来の宣告猶予制度に必ずしも捉われずに,より簡易な手続による制度,言わば裁判所によるディバージョンといったような制度についても併せて積極的に検討しておくべきではないかと考えているところです。   具体的にどういった制度があり得るかという点なのですが,必ずしも私が現時点でこういう制度が良いというようなものではございません。かつての学説の議論なども勉強させていただきまして,その中で検討に値するのではないかといったものがございますので,そちらを述べたいと思います。   まず,検察官が,主に比較的軽微な事案ということになると思いますけれども,対象者に対して保護観察等の処遇に付することが相当と考えた場合に,公訴取消しの可能性を付記した上で,できるだけ簡略な手続で裁判所へ起訴をする,これを受けた裁判所としては,通常の公判手続ではない簡略な手続によって有罪を認定し,その上で対象者を保護観察に付する。この保護観察期間が問題なく経過した場合には,検察官が公訴を取り消して,裁判所が公訴棄却の決定をする,これに対して再起訴は禁止をした方がよいと考えていますけれども,他方で保護観察期間中に問題が生じた場合には通常の公判手続に移行する,といったような制度が検討に値するのではないかと考えております。この簡略な手続としてどういった手続があり得るかという点に関しては,現行の制度としては,例えば即決裁判の手続などが参考にできるのかなと考えております。以上が検討すべきと考える一つの簡略な手続ですが,これは宣告猶予制度の枠からは少しはみ出して,猶予制度というよりは裁判所によるディバージョンという,かなり新しい手続ということになると思っています。   またもう一つ,これとは別に,簡略な手続というこの項目からは外れるかもしれませんけれども,宣告猶予制度の検討に当たっては,「若年者の刑事法制の在り方に関する勉強会」の最終回でも提案されておりましたけれども,仮に少年法の適用上限年齢が引き下げられた場合の18歳,19歳に関する手続として,家庭裁判所を専属管轄として宣告猶予を導入するという構想も提案されており,こちらも検討の対象としておくのがよいのではないかと考えております。   具体的には,起訴猶予については犯罪の軽重を基準として,微罪処分的な起訴猶予に限って認め,仮に起訴する場合には家裁の専属管轄にするという御提案だったかと思います。そして,裁判所が有罪の心証を得た場合は有罪判決を宣告して,その上で家庭裁判所調査官に対して社会調査命令を発する。裁判所は,社会調査の結果を踏まえて処分は決定するけれども,刑の宣告は猶予し,保護観察に付すことができるというような制度と認識しております。この点,猶予期間が無事に経過すれば免訴の裁判が確定したものとして,再犯や遵守事項の重大な違反があった場合には改めて量刑を行うと,こういった御提案があったかと思います。この点に関しては,先の分科会の議論で,仮に引き下げられた場合の新たな処分というものが検討されたところではありますけれども,この新たな処分が今後,部会で採否含めてどのような議論がされるか,まだ分からないところでもありますので,一応,先ほどのような提案というのも検討の対象に乗せておいた方がよいのではないかと考えているところです。   改めて申し上げますが,私がこの制度が望ましいとか,是非採るべきだというところまで考えは固まっておりません。要するに,他の分科会の議論も踏まえて,幅広に検討しておくべきではないかという趣旨でございます。 ○酒巻分科会長 今,山﨑委員から,簡略あるいは簡易な手続について御提案がありましたが,最初の案は,検察官が公訴取消しを見込んで公訴を提起し,裁判所の有罪認定後に公訴を取り消すということでしょうか。理論的な観点から,疑問がないわけではないですが,まずは御提案ということで承りたいと思います。 ○山﨑委員 このような制度を提案された研究者の方も,恐らく,アメリカですとかオーストラリアですとか,そういったところでの裁判所が関与したディバージョンの制度を日本に持ち込む場合には,既存の手続を使うとこういう制度があり得るという御説明をされていると思います。そこにはいろいろと現行法の趣旨となかなか整合しづらい点があるのかもしれませんけれども,要するにそういった,社会内処遇を早期に付した方がいいというときに裁判所が関与する形で何らかできる制度を検討すべきではないかということでございます。 ○加藤幹事 今承ったばかりなので,御提案の制度について賛成,反対は今のところ申し上げられる段階ではないのですが,検察官という立場から見たときに,最初に御提案のあった,裁判所によるディバージョンとおっしゃっていた仕組みについて考えてみると,まずは,いずれにしても検察官がこの制度に乗せるかどうかということを選別しなければならないわけでありますので,その選別の基準といいましょうか,正にどういう事案をこの仕組みに乗せるのかという,本日御議論がなされていた問題は,御指摘のような仕組みを採ったとしても,検討しなければならないだろうと思います。   また,簡略な手続として,一つ,即決裁判手続が例になるのではないかと挙げていただいたわけであり,それは一つの御提案だろうと理解いたしますが,現状の即決裁判手続が簡略な裁判手続としてどの程度機能しているかという評価でありますとか,略式手続は非常に頻繁に使われていて,簡略な手続として極めてよく機能しているということに疑いはないのだろうと思いますが,即決裁判手続というと一応,公判は開くということが前提になりますので,それと通常の公判の手続と区別できるというか,峻別できるほど簡易なものにし得るかどうかといった点なども具体的に検討する必要があるように思われます。   さらに,猶予の期間中,保護観察に付するとして,遵守事項違反があった場合等問題が生じた場合には通常の公判手続に移行するという御提案だったように思われますが,通常の公判手続に移行した結果,その裁判結果がどうなるかという見通しの問題もあり,宣告猶予の議論の中でも,宣告猶予がうまくいかなかった場合の刑は実刑に限るのかどうかといったような議論があるわけですが,保護観察の遵守事項に違反した場合の措置として十分な担保措置がとれるかどうかといったようなことについても検討課題になるのではないかと,第一感として考えたところです。 ○酒巻分科会長 「検察官及び被告人の同意を要することとするか,あるいは,異議申立てにより通常手続に戻ることとするか」については御意見はございませんか。 ○池田幹事 検察官又は被告人の同意について,特に被告人の同意については,これまでの分科会でも,いろいろな理由からそういうものが求められるのではないかという指摘があったところと承知しております。   その理由の一つとして,まず保護観察に付するということが一定の権利制約を伴うという理解との関係で,同意が必要なのだという説明があったかと思いますが,現状で,保護観察付き執行猶予に付する際に同意は必要とされていないことや,あるいは,保護観察に付するかどうかというのが裁判所による改善更生に適した手段かどうかという観点から判断されるべきものであることに鑑みますと,権利制約があるからという理由で同意が必要だという説明は成り立たないように思っております。   もう一つの理由として,宣告が猶予されると,その結果,手続が完全に終結するまでに時間が掛かるために,迅速な裁判を受ける権利が制約されるという指摘もあったかと存じております。そして,これは確かに宣告猶予制度特有の問題であり,宣告猶予に付するというときに,迅速な裁判を受ける権利との関係で,被告人の権利の放棄のような意思決定を求めるということは考えられるように思います。もっとも,その意思をどのように担保するかという手続の在り方として,事前に同意を求めることも,あるいは手続を行った上で異議の申立ての機会を設けるということも,いずれも考えられ,そのいずれによるかというのは,今後の検討課題ではないかと考えます。 ○山﨑委員 今の池田幹事の御意見のうち,権利制約に伴う同意は不要なのではないかという点は,執行猶予に伴う場合とは必ずしも同じではないといえる部分もあるのではないかなという感じがしております。執行猶予であっても刑を宣告する判決に伴って保護観察に付される場合と,宣告猶予の上で付される場合というのは,ちょっと状況が異なる点もあるのではないかなという感じがしておりますので,その検討も必要かなと思っています。 ○酒巻分科会長 どのように状況が異なるのかという点について,補足はありますか。 ○山﨑委員 もう少し考えます。具体的な刑が決まってその執行猶予されるという局面と,ちょっと違うかなという感じがしています。 ○酒巻分科会長 池田幹事が述べられた迅速な裁判を受ける権利という点は,刑事被告人の地位から離脱できない期間が一定期間継続するという不利益に対応する意味で権利の側面があるということでしょうか。 ○池田幹事 手続負担が長期化してしまうということにも配慮する必要があるだろうと思います。 ○酒巻分科会長 ほかに,同意あるいは異議の申立てなど宣告を猶予する際の手続について御意見ございますか。 ○加藤幹事 この点も部会案を参照いたしますと,その附録として,「宣告猶予手続に関する要綱案」というものがあります。こちらを見ますと,宣告猶予の手続については,宣告猶予の裁判は決定手続で行うこと,判決書を作成した上で行うこと,さらに,判決書は検察官,被告人に閲覧させること,という案が示されています。このうち,決定で行うという点については,あえて公開の法廷で判決により行う必要まではないと考えると,合理的なものだろうと思われます。また,判決書を作成した上で行うことについては,宣告猶予期間中の行状を考慮しないという前提に立てば,そのことを担保できるという意味でも,判決書を作成しておくということは一つの合理的な選択肢であろうと思われます。   さらに,宣告猶予の裁判の前に判決書をあらかじめ検察官,被告人,すなわち当事者に閲覧をさせておくという仕組みが提案されているわけですが,これは,部会案が宣告猶予の裁判に対する検察官,被告人の異議申立てを認めていて,その異議申立てがなく宣告が猶予された後,宣告猶予が取り消されて判決が言い渡されるときは,その判決に対しては上訴を認めないという仕組みとしていることとの関係から,宣告猶予時に宣告が猶予される判決の内容を当事者に言わば開示しておく必要があったものと思われます。これも一定の合理性のある制度であると考えることもできると考えます。もっとも,判決の内容について,言渡しではない方法で,言わば裁判前に当事者に閲覧させる,事実上知らせるといったようなものになるわけですが,これが今ある仕組みとの関係では余り類例がないので,適切であるかどうかという点については,一個の検討課題になろうかと考えます。 ○酒巻分科会長 ほかに御意見ございますでしょうか。   よろしいでしょうか。   次に,「(5)宣告猶予期間中の保護観察を必要的なものとするか」についての意見交換を行いたいと思います。   保護観察を必要的なものにするか否かについては,これまでの分科会での御議論において,対象者の改善更生を図り再犯を防止するための制度として宣告猶予制度を検討しているという目的を踏まえると,保護観察は必要的とすべきであるという御意見があった一方,制度として必要的とするまでの必要はないという御意見もありましたが,賛成意見,反対意見,補足意見など御意見があれば,伺いたいと思います。御意見のある方は,挙手をお願いいたします。 ○川出委員 以前の分科会で申し上げたことの繰り返しになりますが,この制度の目的が,例えば,現在は起訴猶予になっているような者について,裁判所による有罪認定を経た上で処遇を行うことによりと,改善更生と再犯防止を図ることにあるとすれば,対象者に処遇をすることが前提になるはずですし,かつ,その処遇の方法として,現在,保護観察に代わるようなものはありませんので,そうすると,必要的に保護観察に付すということになるのではないかと思います。   他方で,保護観察は裁量的にするという御意見もありましたが,そうすると,宣告は猶予するけれども特に処遇は行わないという事案も出てくることになります。そうした事案では,再犯をした場合には判決が言い渡されることになるという心理的な強制力を働かせることによって再犯を防止するということになるわけですが,あえてそのような制度を設けて再犯防止を図るべき対象者が一体どれくらいいるのか,言葉を換えていえば,こうした制度を設ける必要性がどのくらいあるのかということを検討する必要があると思います。その必要性があるというのであれば,裁量的な制度もあり得ると思いますが,元々の出発点として,そういう対象者は想定されていないように思いますので,やはり必要的にする方が妥当であろうと思います。 ○加藤幹事 川出委員の御発言とほぼ同趣旨なのですけれども,裁量的な保護観察を導入するかどうかというのは,既に御指摘があったように,保護観察の必要がなくて,判決あるいは刑が宣告される可能性があるという心理的強制力だけで一定期間過ごさせることによって再犯防止を図ることが相当であるといった者がその対象者に含まれているかどうかという考慮になろうと思われます。正に対象者の切り取り方が問題なわけでありますが,仮に起訴猶予と執行猶予の間の層というのを観念できて,その部分の者についてはこの仕組み,宣告猶予制度を用いるということになるのであれば,今申し上げたようなものも含まれることになるのかもしれませんが,いずれにしても,そのような点との関連を勘案しつつ,検討することになる問題であろうと思っております。 ○酒巻分科会長 ほかに御意見ございますか。   よろしいですか。   次に,「(6)どのような場合に宣告猶予を取り消して判決又は刑を言い渡すこととするか」,「(7)宣告猶予を取り消して判決又は刑を言い渡す場合に言い渡す刑に執行猶予を付すことができることとするか」,「(8)宣告猶予を取り消して判決又は刑を言い渡す際の手続」については,宣告猶予を取り消して判決又は刑を言い渡す場合の事柄であり,相互に関連すると思われますので,これらの点についてまとめて意見交換を行いたいと思います。   これまでの分科会の御議論において,「(6)」については,改正刑法草案部会案のように,再犯又は保護観察の遵守事項違反を要件とすることに合理性があるという御意見がございました。また,「(7)」の点については,本来起訴猶予や罰金になるような者に対して言い渡す刑を実刑のみとするのは適当とは思われないとの御意見,社会内処遇が功を奏さなかったのであるから,言い渡す刑を実刑のみとする改正刑法草案部会案にも合理性があるとの御意見がありました。これらについての賛成意見,反対意見,これ以外の御意見があれば伺いたいと思います。御意見のある方は挙手をお願いします。 ○川出委員 「(7)」のところですが,先ほど,宣告猶予を取り消す場合に,その宣告猶予中の行状を考慮するかどうかという議論がありましたけれども,その点につきどちらの立場を採るにしても,基本的には行った犯罪についての行為責任の枠内で刑が科されるということが大前提になっています。そうしますと,元々の対象事案が起訴猶予や罰金になるような軽い事案であるとすると,宣告猶予期間中に,再犯や保護観察の遵守事項違反があり,刑の宣告がなされるときに,それが実刑になるというのは説明が付かないだろうと思います。そういう意味では,「(7)」では,刑に執行猶予を付すことができることとするかという問題の立て方がされていますが,軽い事案を対象とするのであれば,そもそも実刑にならないというのが基本的な考え方ではないかと思います。そうではなく,元々の対象事案に実刑相当のものまで含めるのであれば,もちろん,宣告猶予の取消後に,実刑を言い渡すことはあり得ます。 ○加藤幹事 まず「(7)」の執行猶予を付することができるかという観点で,今,川出委員から御発言があった点は,全くそのとおり理解できるところですが,宣告猶予の処遇効果を高めるという観点から考えると,処遇が功を奏さなかった場合に言い渡される刑が実刑だけであるとされていれば,その心理的強制力はより大きいものになりますので,この観点のみから考えると,部会案が示していたように実刑のみとするということも考えられなくはないのではないかとも思っています。部会案もそういう考慮が働いているのではないかと思いますが,もっとも処遇の内容については一義的に決まるものではなくて,犯した犯罪あるいは対象者によって,いかなる処遇をするのが相当であるかということによって決まるものですから,一般的には必ず実刑しか言い渡すことができないとするまでの必要性はないのではないかと思われます。そういう意味で,結論としては,必ず実刑にしなければならないという仕組みが合理的であるとは考えていません。   また,次に,「(8)」の宣告猶予を取り消す場合の手続ですけれども,これも部会案及び先ほどの「宣告猶予の手続に関する要綱案」によりますと,裁判所が検察官の請求によって被告人の意見を聴いた上で決定をするということとされておりますが,この点については一定の合理性のある提案ではないかと考えています。 ○山﨑委員 私も,「(7)」の点については今の委員,幹事の御意見と一緒です。執行猶予も付することができるようにすべきだと思っています。その点の御説明で,加藤幹事の方から心理的強制のお話がありましたけれども,他方で,やはり本人の主体的な取組を促して効果を上げるという面をしっかり見ておく必要があるのではないかと思っています。その面からは,先ほどちょっと同意のところでの整理がございましたけれども,同意にするのか,異議申立てを確保するのかはともかくとして,やはり適正手続上の保障という観点のほかに,しっかり社会内で改善更生をするという点についての対象者の自発的な,積極的な取組の意思を促すような発想に立って,制度を考えた方がよいのではないかという点を申し述べたいと思います。 ○酒巻分科会長 ほかに御意見ございますでしょうか。   この程度でよろしいでしょうか。   次に,「(9)不服申立ての在り方」について意見交換を行いたいと思います。「宣告猶予の裁判に対する不服申立て」,「宣告猶予取消し後の裁判に対する不服申立て」は,相互に関連すると思われるので,まとめて御意見を伺いたいと思います。いずれの点でも結構ですので,御意見のある方は,挙手をお願いいたします。 ○加藤幹事 「(9)」の「不服申立ての在り方」の関係ですが,宣告された判決あるいは刑に対する不服申立てとしてどのような仕組みを設けるかというのは,これに先立つ宣告猶予の裁判に対する不服申立ての制度などとも関係することから,それらを踏まえつつ検討する必要があるのだろうと思われます。   例えば,これもまた部会案ですが,判決の宣告を猶予する仕組みとした上で,判決書は宣告猶予の裁判に先立って作成して,その判決書を検察官,被告人に閲覧させることとする,検察官及び被告人は宣告猶予の裁判や判決書の内容に不服があるときは異議の申立てをすることができる,異議の申立てがあれば判決が言い渡されることになるけれども,その申立てがなくて判決の宣告が猶予された場合において,その後に判決を宣告することになったときには,その際に宣告された判決に対して不服申立てをすることができないという,大要そういう仕組みが提案されていました。このように,判決が宣告された時点の不服申立てができないとするのは,その前の段階である宣告猶予の裁判の時点において,判決の内容を知った上で異議の申立て権を与えて,それを受け入れるか否かの選択をさせているから,その後に判決を宣告する際に不服申立てをできる機会を与える必要はないと考えられたからであるとも思われます。   そうしますと,宣告猶予の裁判の時点で判決の内容を知らせての異議申立て権を認めるという仕組みにしない場合には,当然その後,判決あるいは刑の宣告により初めて判決の内容を知った時点で不服申立てをする機会を与える仕組みとすることが必要になるのだろうと思われます。 ○福島幹事 今伺っていて,実務的に気になることがあるので申し上げるのですが,確かに難しい問題なのですけれども,仮に宣告猶予が取り消されて,判決あるいは刑の宣告がなされた時点で初めて,その判決に対して不服申立てができるという制度設計にするとなると,事件が発生してから,あるいは裁判が始まってから相当長期間経過した後に上訴審が開かれるということになるのかなと思いますが,仮にかなり時間がたってから上訴審理をやるとなると,証拠の散逸,あるいは関係者の記憶の減退なども起こってまいりますので,非常に事実認定等はやりにくくなるという問題が実務的にはあるのかなと思いましたので,指摘させていただきたいと思います。   あと,一つ戻って「(8)」のところで,取り消すかどうかのところが,裁判所の決定でというお話があったと思うのですが,裁量的に裁判所が決めるということになると,これはこれでまた,どういう場合に取り消して,どういう場合に取り消さないのかというところは曖昧にはできないのかなと思いましたので,一つ戻って恐縮なのですが,申し上げさせていただきます。 ○酒巻分科会長 「不服申立ての在り方」について,ほかに御意見はございますでしょうか。   よろしいですか。   次に,「(10)宣告猶予期間を経過した場合の効果」について意見交換を行いたいと思います。御意見のある方は挙手をお願いいたします。 ○加藤幹事 これも部会案を参照いたしますと,第77条に猶予期間の経過の効力が規定されていまして,判決の宣告を猶予された者が,その宣告を受けることなく猶予の期間を経過したときは,免訴の言渡しが確定したものとみなすとされていました。基本的にこの部会案と同様,免訴の言渡しが確定したものと見るということで問題はないのではないかと考えております。 ○酒巻分科会長 ほかに御意見ございますでしょうか。   この程度でよろしいでしょうか。   「3」の最後として,先ほど後回しとしていた「(1) 判決の宣告猶予とするか刑の宣告猶予とするか」について,御意見を伺いたいと思います。 ○加藤幹事 重ねて部会案を参照して意見を申し上げます。判決の宣告猶予と刑の宣告猶予との違いは,宣告猶予の裁判の時点で有罪認定を正式に宣告しておくかどうかということにあると思われますが,判決の宣告猶予であっても,裁判所が有罪認定を前提としているという点については同様なのだと理解しております。そこで,我が国では有罪認定の宣告と刑の宣告というのが通常の場合,分かれておらず,有罪認定の宣告と刑の宣告とをあえて切り離さなくてもいいだろうと考えますと,部会案にありますように,判決の宣告を猶予するということで問題ないのではないかと考えています。もっとも,宣告猶予の裁判や,宣告猶予を取り消して判決あるいは刑を言い渡す手続の在り方,不服申立ての規律等によってこの点も結論が異なってくるということはあり得ますので,それらも視野に入れつつ検討することが必要だろうと考えます。 ○酒巻分科会長 (1)につきまして,ほかに御意見ございますか。   よろしいでしょうか。   それでは,次に,「4 その他」について,意見交換を行いたいと思います。少年鑑別所の調査機能の活用に関しては,分科会におけるこれまでの議論の中で,対象者,調査の時期,調査事項,手続,調査の記録の取扱い等について,検討課題が示されていました。また,家庭裁判所調査官を活用することができないかといった検討課題も示されていました。これらに関する検討課題でも,その他の御意見でも構いませんので,御意見のある方は挙手をお願いします。 ○山﨑委員 これまでも発言してきましたけれども,現行で行われている様々な調査ですとか鑑別というのは,裁判所に事件が係った後に行われていると,基本的には捜査と並行してということではない,ということはやはり重視すべきではないかと思っています。捜査と様々な調査との切り分けが可能かといった点ですとか,それによって捜査が長期化しないかという点がございますので,やはり捜査を遂げる前にできることというのは,かなり限られてくるのではないかと考えております。   先ほど検討すべきと挙げた二つ目の提案などについては,家庭裁判所を専属管轄にして,そちらでしっかり調査をするという提案でありますけれども,恐らくその提案も,家庭裁判所調査官の調査が非常に重要であり,それをいかすためにはという発想もあるかと思います。きちんとした調査をしっかりやるためには,そういったことも考えないといけないのではないかと感じております。 ○加藤幹事 山﨑委員から御発言があったように,山﨑委員が御提案になった仕組みのうち家庭裁判所を活用するという仕組みですと,家庭裁判所調査官の活用というのは無理なく出てくるのではないかと思われるわけでありますが,一方で,捜査段階ではなかなかこういったきちんとした調査ができないのではないかという御指摘もありましたので,それについて,1点申し上げたいと思います。   例えば,山﨑委員から御提案いただいたような裁判所によるダイバージョンの仕組みを採るとしましても,その対象者を誰にするかということ自体が一つの問題にはなりますが,その対象者を検察官が選別するということになりますと,当然その検察官においては,その仕組みにふさわしい者であるかどうかという何らかの資料を収集しなければならないので,この場面で鑑別の知見を活用するといったようなことは,一つ考えられる方策なのではないかとも思われますので,申し上げておきます。 ○山﨑委員 その点は私もいろいろ可能性を考えておりまして,裁判所によるディバージョンという先ほどの第1のような構想をするときには,おっしゃったように捜査段階でできる調査として何がどこまであり得るのかという点と,仮に,手続をできるだけ簡略化するという中で,どこまで可能かはありますけれども,裁判所に係った後で簡略な調査をするというようなことも一応,考えられるのかなと思っています。今の少年審判の調査とは大分違ってくるかもしれませんけれども,そこでは家庭裁判所の調査官の活用の余地というのも出てきたりするのではないかというようなことを考えております。 ○酒巻分科会長 ほかに御意見ございますか。   よろしいでしょうか。   ここまでで,配布資料8に記載されている検討課題について,一通り意見交換を行いましたが,その他,「宣告猶予制度」について,現時点で御意見がある方は,挙手をお願いいたします。   「宣告猶予制度」についての本日の意見交換は,この程度でよろしいでしょうか。            (一同異議なし)   それでは,本日の審議はこれで終了いたします。   今後の予定について,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○羽柴幹事 今後の予定について申し上げます。   次回の第2分科会の会議は,3月6日火曜日午後1時30分から,場所は東京地方検察庁の会議室で行います。 ○酒巻分科会長 本日の会議の議事につきましては,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を作成し,公表することとさせていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。            (一同異議なし)   それでは,そのようにさせていただきます。   本日は,どうもありがとうございました。 -了-