法制審議会 少年法・刑事法 (少年年齢・犯罪者処遇関係)部会 第3分科会第6回会議 議事録 第1 日 時  平成30年 3月13日(火)   自 午前 9時59分                          至 午前11時54分 第2 場 所  東京地方検察庁刑事部会議室 第3 議 題  1 保護観察・社会復帰支援施策の充実,社会内処遇における新たな措置の導入及び施設内処遇と社会内処遇との連携の在り方について         2 起訴猶予等に伴う再犯防止措置の在り方について         3 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○羽柴幹事 ただいまから法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係部会)第3分科会の第6回会議を開催いたします。 ○小木曽分科会長 おはようございます。本日も御多忙のところお集まりいただきまして,ありがとうございます。   本日,澤村幹事は,所用がおありということで,御出席をお願いしておりません。   それでは,事務当局から,資料について御説明をお願いします。 ○羽柴幹事 本日は,当分科会の前回会議における配布資料13及び配布資料14を,再度机上に配布しております。   配布資料の内容につきましては,後ほど意見交換の際に御説明いたします。 ○小木曽分科会長 それでは,審議に入ります。   初めに,本日の審議の進行についてですが,当分科会の第4回及び第5回会議において,当分科会が担当する「起訴猶予等に伴う再犯防止措置の在り方」の論点の検討項目と,「保護観察・社会復帰支援施策の充実」,「社会内処遇における新たな措置の導入」及び「施設内処遇と社会内処遇との連携の在り方」の論点の検討項目につきまして,前回部会後の一通りの意見交換を行ったところです。   本日は,より時間を割いて意見交換を行う必要があるという理由で,当分科会の第4回会議で先行して議論した検討項目につきまして,1巡目の意見交換を踏まえ更に議論を深めるべき点などもあると思われますので,2巡目の意見交換を行いたいと思います。   当分科会の前回会議では,「保護観察・社会復帰支援策の充実」,「社会内処遇における新たな措置の導入」及び「施設内処遇と社会内処遇との連携の在り方」の,社会内処遇に関する論点の検討項目について議論したところですので,2巡目につきましても,引き続き,相互に関連性のある社会内処遇に関する論点の検討項目から意見交換に入るのがよいのではないかと思いますが,このような進め方でよろしいでしょうか。               (一同異議なし)   それでは,そのように進めることにいたします。   社会内処遇に関する論点の検討項目につきましては,配布資料10でお示ししたとおり,「第1」から「第7」までの柱を設け,当分科会の第4回会議では,このうち「第1 保護観察における新たな処遇手法の開発,特別遵守事項の類型の新設等」及び「第2 更生保護施設における指導監督の実施等」について議論が行われました。   しかし,「第1」及び「第2」は,相互に関連しているように思われ,一つにまとめられるのではないかと考えられることから,第4回会議における委員・幹事の方々からの御意見も踏まえて,事務当局において,考えられる制度の概要や検討課題等を整理して,第4回会議の際に配布した資料を改訂したものを作成してもらい,前回会議で配布資料13として配布しました。本日,この配布資料13を再度配布しておりますので,まず,事務当局から資料の説明をお願いします。 ○羽柴幹事 配布資料13について御説明します。   配布資料13には,「考えられる制度の概要」として,「1」及び「2」の二つを記載しており,「検討課題」もこれに対応しています。当分科会第4回会議における配布資料からの主な変更点を中心に,順次御説明します。   なお,「保護観察処遇における新たなアセスメントツールの開発及び新たな処遇手法の開発・整備」については,検討の結果,法整備を要しない運用で対応することが望ましいという点を含めて,おおむね合意が得られたと思われることから,その趣旨で配布資料13には記載しておりません。   「考えられる制度の概要」の「1」は,保護観察対象者の改善更生を促進するため,特別遵守事項の類型として追加する内容として,「(1)」及び「(2)」を追加して記載しています。   「(1)」については,法務大臣が認めた水準を満たすものに限定することが考えられるという趣旨の御意見があったことを踏まえ,「考えられる制度の概要」には,「自助グループが実施するミーティング,更生保護施設が実施するプログラムその他の民間支援団体等が実施する改善更生に資する援助(法務大臣が定める基準に適合するものに限る。)を受けること」を記載するとともに,「法務大臣が定める基準の在り方」を検討課題に加えています。   次に,「(2)」については,「考えられる制度の概要」に「更生保護施設に宿泊すること,当該施設から一定の時間帯は外出をしないこと」と記載するとともに,更生保護施設への宿泊を義務付けるべき場合の必要性及び相当性に関して御意見があったことから,「検討課題」の「必要性及び相当性」の下に,「保護観察付全部猶予者について,遵守事項違反があり,再犯可能性が高く,保護観察を継続するためには一定期間,問題のある環境から遮断しつつ濃密な処遇を行う必要があるとき」及び「仮釈放者について,刑事施設から社会内への円滑な移行のために,段階的な処遇を行う必要があるとき」を記載しています。   続いて,「考えられる制度の概要」の「2」は,「更生保護施設での処遇を充実させるため,保護観察における指導監督を同施設に実施させることができるものとする」というものですが,「検討課題」において,「A案」として更生保護施設に指導監督権限全般を与える案,「B案」として更生保護施設に処遇プログラム等に関する特定の指導監督権限を与える案,「C案」として更生保護施設が行う処遇プログラム等の受講を特別遵守事項として設定することにより,同施設が同プログラム等を実施することができるようにする案を掲げています。   配布資料13の説明は以上です。 ○小木曽分科会長 ただいまの説明に,この段階で,御質問やほかにも検討課題等があるのではないかといった御意見がありましたら伺います。   よろしいですか。   それでは,配布資料13に沿って意見交換を行いたいと思います。   これまでと同様,検討課題の順序に従って議論を進めていきたいと思いますが,2巡目の意見交換ですので,1巡目の意見交換を踏まえて,関連すると思われる事項については,他の項目に関わると思われる事項でも併せて御発言いただき,この検討項目全体について議論を進めるのがよろしいと思います。   そうした前提で,まずは,「1 特別遵守事項の類型の追加」の「(1)民間施設が実施するミーティングへの参加やプログラム等の受講」に記載されている点について,どの点からでも結構ですので,どの点に関するものであるかを明示した上で,御意見を頂きたいと思います。   御意見のある方は,挙手をお願いします。 ○保坂幹事 「1(1)」の全体に関わることですが,まず「必要性及び相当性」と「追加する内容」については,資料13に書いてあるようなミーティングやプログラムに参加すること,あるいは受講することについて特別遵守事項として設定することができれば,これらを受けることの促進につながり,改善更生に資すると考えられますので,こういった内容をイメージしながら追加する必要性はあるであろうと思われます。   他方で,民間施設が実施するということでもありますので,内容の明確性や効果,あるいは期間や密度等も含めて,内容的に一定の水準が保たれているかどうか,さらに,特別遵守事項ですので,履行状況の確認が可能なのかどうかといったことを担保するための基準を設ける必要があろうかと思われます。このような基準を設け,かつ,その基準が満たされているということを前提とすれば,特別遵守事項として設定する相当性もあるであろうと考えられます。   さらに,「対象者」についてですけれども,こういったプログラムないしミーティングに参加して処遇効果を上げるということでいいますと,現在でも保護観察所が行う専門的処遇プログラムなどについては,保護観察の種別を特に限定しないで行っているということです。そうすると,今回,民間施設が実施するものということで考えますと,特定の種別についてだけ,およそ不必要とか,およそ不相当であるということは考えられないと思われますので,保護観察対象者全般を対象としつつ,個別に必要性や相当性を踏まえて適否を判断していくということでよろしいのだろうと思われます。 ○田鎖幹事 こういったミーティングですとかプログラムへの参加が改善更生に資すると,それを促進するというのは,そのとおりだと思うのですけれども,他方で,有効であるということから直ちに義務付けが正当化されるということにもなりません。特に,保護観察の取消しがあり得るという威嚇をもって義務付けを行う,そこまでして実施する必要性のある処遇というものはどのようなものなのかということを考える必要があろうかと思います。   そうしますと,一般的な有効性ですとか有益性ということだけではなく,少なくとも本人の持つ特定の犯罪傾向との関係性,結び付きが明らかな場合に限定されるのではないかと思います。この点は,検討課題に挙がっております「追加する内容」,それから「対象者」とも関連するのでありますが,特定の犯罪傾向,具体的には一定の物ですとか行為への依存性があること及びその依存性等と犯罪行為との結び付きがあることが,共に明確な場合に限定されるのではないか。さらに,義務付けをするということであれば,そういった依存性等に対処するための方策として有効であることが確立されている必要もあると考えます。   そうしますと,必然的に,現在既に更生保護法第51条第2項第4号に基づいて標準的に設定されている性犯罪者処遇,薬物再乱用防止,暴力防止,飲酒運転防止といったプログラムに限られてくるのではないか,新たな特別遵守事項の類型を追加する必要性というのは,なかなか考えにくいのではないかと思います。考えられるとすると,この現行の同法第51条第2項第4号に基づいて追加すべき内容として,例えば福島自立更生促進センターで開発されたと以前にも御紹介がありました窃盗更生支援プログラムというものが考えられるのではないかと思われます。   次に,そうしたプログラムを民間施設が実施するものとすることの必要性とか相当性についても検討する必要があるわけですが,この点につきましては,法務大臣の定める基準の在り方とも関連いたしますけれども,義務付けをする以上は,その処遇の質というものを確保しなければならない。それは,先ほどの保坂幹事の御発言にもあったとおりでございますけれども,なかなかそれが実際には困難ではないかと思います。そもそも,一定の基準を定めたとして,それへの適合性をどのように判断すればよいのか,これ自体難しい問題であろうと思います。   つまり,基準を満たしたプログラムの案ですとか,計画の内容を書面上審査するだけでは不十分でしょうから,そうしますと,何か模擬ミーティングのようなことを実施して,それを審査するのかというようなことが具体的には疑問として湧くわけです。   そのような方策をとりまして質を確保するとしても,実施による更生保護施設の負担というのは非常に大きいのではないかとも考えられます。   また,この点は次の検討課題の「2」とも関連しますが,そもそも更生保護施設に指導監督権限を付与することの問題性とも絡むというのもありますので,これは次の検討課題のところで申し述べたいと思いますが,私は結論的には,民間施設で実施するというよりは,やはり従来のように保護観察所で行うか,あるいは場所としては更生保護施設で行うとしても,実施主体は保護観察所,保護観察官とするのが相当ではないかと考えます。 ○保坂幹事 今,田鎖幹事から御意見のあった,民間施設が実施する場合の実施基準や,それが守られているということがきちんと分かるのかという関連で事務当局に質問なのですが,民間施設が実施するということでいいますと,社会貢献活動があると承知をしております。社会貢献活動は福祉施設での介護や,あるいは民間の団体が行うような清掃活動等に参加させるというものですけれども,このような社会貢献活動を特別遵守事項として設定するに当たって,運用上,その基準をどのように作り,どのように担保しているのかという点について御説明いただければと思います。 ○今福幹事 ただいま御指摘があった社会貢献活動の活動先や活動内容につきましては,更生保護法上,「地域社会の利益の増進に寄与する社会的活動」と定義されており,この定義に当てはまるように運用しています。具体的には,民間の社会福祉法人等が設置した福祉施設での介護補助や,民間の団体が行う公共場所の清掃等のボランティアに参加させるなどの活動であり,保護観察所において活動内容を選定しています。   また,更生保護法では,ただいま申し上げたような社会的活動を「一定の時間行うこと」とも規定されております。この規定は,当該活動が保護観察対象者本人にとって過度な負担にならないよう,不定期ではなくて一定の時間内に限定されるという趣旨が明確に規定されています。この規定を受けて通達等でおおむね6月以内に5回程度,1回につき2時間から5時間までという基準を設けています。実務においては,この基準の範囲内で個々の保護観察対象者の特性に応じて回数や時間を設定するという運用を行っています。 ○保坂幹事 ただいまの御説明からすると,民間施設が実施するからといって基準が作れないということではないと思われますし,制度概要にもありますけれども,「法務大臣が定める基準に適合するものに限る」という限定があるわけですので,そういう意味で処遇の水準を確保するということが必要になってくると思われます。   いずれにしても,実施自体は民間施設で行うとしても,指導監督自体は保護観察官又は保護司が行うということであり,保護観察官の方でどのようなプログラム,あるいはミーティングが行われているのかということを,しっかり把握して管理・監督していくということになりますので,民間施設だから水準が保たれないということにはならないと思われます。 ○田鎖幹事 確認させていただきたいのですが,この検討課題の「特別遵守事項の類型の追加」に関しては,取りあえず,次の検討課題の「2」の「更生保護施設における指導監督の実施」とは全く切り離して,確かに民間施設というのは更生保護施設よりももっと広い概念ですので,飽くまで指導監督としては保護観察官が行うという前提での検討課題の設定という理解でよろしいでしょうか。 ○羽柴幹事 この「検討課題」の作りとしましては,御指摘のように,「1」の「(1)」は,こういった特別遵守事項の類型を追加するかどうかということであり,それ以外の枠組みを変えるかどうかということは,ここには含まれていませんが,それは「2」との関連でいろいろ御議論はあろうと考えられるところです。 ○小木曽分科会長 そのほかの点でも結構ですが,いかがですか。   よろしいですか。   それでは,次に,「(2)更生保護施設への宿泊義務付け及び当該施設からの外出禁止」について意見交換を行いたいと思います。   配布資料の「1」の「(2)」に記載のある点につきまして,どの点かを明示いただいて,御意見をお願いしたいと思います。   御意見のある方は,挙手をお願いします。 ○太田委員 更生保護施設への宿泊義務付けについて,特に「必要性及び相当性」に関わることでありますけれども,この配布資料にありますとおり,保護観察付全部猶予者につきましては,まず遵守事項違反があって,再犯可能性が高く,そのままであれば執行猶予の取消しの申し出もできるというような状況であるものの,一定の期間,問題のある環境から遮断をして濃密な処遇を行うことによって,その行状の改善を図って保護観察を継続するということが見込まれる場合があると思われますので,このような場合であれば,更生保護施設への宿泊を義務付ける必要性もあるでしょうし,かつ相当性もあると考えられます。   なお,遵守事項違反があった場合に更生保護施設への宿泊義務付けを活用することによって,結果的には,執行猶予の取消しによる長期間の受刑というより重い不利益を回避することができますので,そういった不利益を回避しつつ,保護観察の実効性を確保するということができると考えられます。   それから,刑事施設に収容中の者については,いきなり社会に出して環境に適応させるということが困難な場合であっても,仮釈放後に更生保護施設に宿泊させて,そこで濃密な処遇を行うことで,刑事施設から社会内への円滑な移行を図るために,このような段階的な処遇を行う必要があるときということが考えられます。必ずしも親族等の家を帰住先とすることができないという場合だけではなくて,社会内への円滑な移行を図る必要があるという場合においても,更生保護施設で一旦宿泊させて,同所で濃密な処遇を行った上で円滑な社会復帰を図るということを目的として,同施設への宿泊というものを特別遵守事項で設定することも,改善更生や再犯防止のための処遇として非常に有意義であると考えられます。このような場合も,更生保護施設への宿泊を義務付ける必要性もあって,かつ,相当性もあると思われます。   なお,このような段階的な処遇を行う枠組みができれば,この段階的な処遇を行うことを前提として仮釈放を認めるという判断もすることができるため,結果的には仮釈放につながるということも期待できるのではないかと考えます。 ○保坂幹事 「法整備の要否」について,まず宿泊の方ですけれども,更生保護施設への宿泊を義務付けることが現行の更生保護法第51条第2項第5号で設定可能かどうかという点について事務当局に教えていただきたいのですけれども,前回の第4回会議でも確認されましたように,今申し上げた第5号の規定では,「法務大臣が指定する施設,保護観察対象者を監護すべき者の居宅その他の改善更生のために適当と認められる特定の場所であって,宿泊の用に供されるものに一定の期間宿泊して指導監督を受けること」と規定されておりまして,この規定からしますと,宿泊指定先となるためには,更生保護施設に宿泊させて指導監督を行うことができる体制の整備が前提になるのではないかと思われます。   その体制の整備の在り方として,例えば,更生保護施設と保護観察所の連携を強化して,保護観察官が更生保護施設に行って指導監督を行うという体制を強化していくということも考えられるのではないかと思われるわけですけれども,そのようなことが可能かという点について,現場の実情を含めて事務当局から教えていただければと思います。 ○今福幹事 現行の実務では,更生保護施設に入所している保護観察対象者に対して,何らかの指導を必要とする場面があれば,保護観察官が更生保護施設に赴いて面接指導を行っています。   ただいま保坂幹事から御指摘があったとおり,更生保護施設と保護観察所の連携を一層強化して,保護観察官が,より頻度を高めて更生保護施設に赴き,更生保護施設入所者に対して濃密な指導監督を行うことができる体制を整備するということは,今後検討し得ると考えています。 ○保坂幹事 そうしますと,そのような濃密な指導監督を行う体制を整備ができるということであれば,更生保護施設を宿泊の義務付け先とすることは可能なのだろうと考えられるところです。 ○田鎖幹事 今のお話を伺っていますと,更生保護施設への宿泊義務付けの点ですけれども,本来的に,一定期間,問題のある環境から遮断して濃密な処遇を行う必要がある場合というのは,これは拘禁というか,収容して短期間であっても刑事施設で処遇をすると,これが原則なわけでありまして,それを社会内処遇を継続するために一定期間,限定された期間であっても収容のために用いるというのは,ある意味では相矛盾するような部分がないわけではないので,ここはとても慎重に考えなければならないと思うわけです。   その上で,先ほど太田委員がおっしゃいましたように,このままでは取消しになってしまうのだけれども,このような措置をとることによって社会内処遇の継続が可能になるということであれば,まだ,詰め切れていないのですけれども,そうした制度枠組みというのを,特別遵守事項とは別に設計した方が,趣旨としてもはっきりするのではないかと考えました。その中には,きちんと,取消しを回避するために,どういうふうに書くのか分からないですけれども,社会内処遇の継続を可能とするためであるということをきちんと明記しておくことになるだろうと考えます。   その上で,先ほど保坂幹事が言われた点に関連して申し上げますと,更生保護施設への宿泊義務付けについては,現行法に照らしても,一定の体制を整えた施設に限定されるということだと思うのですが,そうであるとすれば,一定の施設に限定されるとはいえ,更生保護施設自体が現状においても既に非常に多様な機能を担わされる状況になっていて,現場の負担も大きいと,それに見合った人的・物的な手当が十分になされていると現状においても言えないような状況で,こういう高度な機能を担わされるということであれば,私はむしろ更生保護施設とは何か別の概念といいますか,そういうものを打ち立てた方がすっきりするのではないかと思います。それと,更生保護施設と両方の運営を兼ねる施設が出てくることは,実態としてはあり得ると思うのですけれども,建て付け自体を独立に考えた方が,これは先ほど申し上げた遵守事項として考えるのではない制度枠組みを考えた方がよいのではないかという私自身の考えと関連しているゆえでもありますが,独立のものを考えた方がよいのではないかと思いました。 ○太田委員 今,田鎖幹事の最初の社会内処遇に対する疑義といいますか,悪い環境から遮断するのだったら拘禁しておけばよいではないかというお話ですけれども,それに関して一言で言うのならば,「畳の上の水練」ということだろうと思います。グスタフ・ラートブルフという法哲学者の言葉ですけれども,水泳の練習は畳の上ではできず,水の中でしかできないという言葉ですが,要するに,犯罪者は社会に戻り,社会という自由がある中で自分を律する「自律」と,かつ,自分で生活していくことができるという,「自立」を学んでいかなければいけないということを意味します。要するに,刑務所や少年院のような身柄拘束をされているところでの教育も重要であるけれども,それだけで完結してはいけない,社会の中で自由がありながらも,自分を律していける,そして自分でやっていけるということを学ぶ機会が必要であり,非常に重要だということです。   私も刑事施設だけでの処遇で終わるのではなくて,社会内での処遇が必ず必要であると考えます。ただ,仮釈放のように最初から自分で生活していくということができる人もいると思いますけれども,その一方で,その間に,元の悪い交友関係に戻ってしまいそうだとか,生活が非常に不安定になりがちだという人の場合には,こういう更生保護施設に宿泊をさせ,しばらくサポートをしながら,そこで生活がきちんと安定し,就労もできて仕事をしていくということも見据えた上で,次の段階に進んでいくということは非常に有意義ではないかと考えます。 ○田鎖幹事 あえて申し上げるまでもないのかもしれないですけれども,今の点については少し誤解があると思いまして,太田委員がおっしゃるようなことを正に前提とした上で,私は,先ほど発言いたしました。拘禁しておけばよいというようなことを申し上げたのではなくて,正に拘禁というのは最後の手段であると,可能な限り社会内処遇が適切であって効果があるのであれば,それは社会内で処遇をすべきであるということを出発点とした上で,先ほどのようなことを申し述べたということでございます。 ○保坂幹事 外出禁止について述べます。宿泊を義務付けられた施設からの外出を禁止するということが制度概要になっているわけですけれども,当分科会の第4回会議でも,今福幹事から,施設に宿泊していても,夜になると犯罪性がある者と交際・交遊しようとする対象者に対して,そのような時間帯に外出させずに集中的な処遇を受けさせる場合に有用であるという御説明があったところですが,外出禁止も権利の制約があるわけですので,宿泊の義務付けに加えて,更に外出を禁止する実務的な必要性,相当性が,どういった場合に想定されるのかという点について御紹介いただければと思います。 ○今福幹事 実務の観点からは,更生保護施設への宿泊義務付けという方法で対応した場合であっても,保護観察対象者によっては,宿泊義務については履行しているけれども,門限を守らずに夜間に外出して,再犯を誘発し得るような問題性のある者などと接触するようなことは考えられます。   さらに,その行状が改まらずに,再犯のおそれが高まることも考えられますが,そのような場合に,外出を禁止する特別遵守事項を設定することができれば,軌道修正を図るための指導がより効果的に行えるようになると考えられます。 ○保坂幹事 そうしますと,結局,門限を守らないで外出を繰り返し,犯罪性のある者等と接触する蓋然性が高いという状況であれば,宿泊を義務付けるだけではなく,更に外出を禁止する必要性,相当性もあるだろうと考えるところです。   その関連で,「法整備の要否」も資料に掲げられているわけですが,現行の更生保護法第51条第2項第1号では,「深夜に無断外出をしないこと」という遵守事項が設定できるとされているものの,当分科会の第4回会議で今福幹事から御説明いただいたところでは,この規定は,監護者や監督者と居住している対象者を念頭に置いて,こういった監護者等がいることを前提に「無断外出」を禁止しているというお話でした。   この点,自立更生促進センターや更生保護施設に宿泊をしているという場合には,その監護者等に当たるような者がいるのかどうか,監護者等に無断でという場合の「無断」に該当するのかどうかというところで疑義が生じるとしますと,自立更生促進センターに勤務している保護観察官や更生保護施設の長又はその者が指定する職員など,誰に「無断」でというところを規定からも明確にしておいた方がよいのではないかと思われます。   加えて,外出の禁止ということになりますと,権利制約を伴うことになりますので,禁止をすることが必要かつ相当な場面を限定する意味でも,外出を禁止すべき時間帯については,夜間等の一定の時間帯に限るということを規定としても明確にしておくことがよろしいのではないかと考えられます。 ○田鎖幹事 今の御発言に関連するところですけれども,やはり宿泊の義務付けと外出禁止は,組み合わせ次第では,非常に拘禁度の高いものになると考えられます。受刑者であっても外出や外泊が可能であるということを考えますと,拘禁に極めて近い状態になると思います。今,保坂幹事からも御指摘がありましたけれども,仮に設定するというような場合にも,かなり明示的に縛りをかけるものでないといけないと考えます。 ○小木曽分科会長 この点については,この程度でよろしいですか。   それでは,最後に,「2 更生保護施設における指導監督の実施」についての御意見をお願いしたいと思います。   御意見のある方は,挙手をお願いします。 ○保坂幹事 意見ではなく,まず事務当局への質問から入りたいと思います。「A案」,「B案」,「C案」と三つの案に整理されているわけですけれども,これらを検討していく上で,更生保護施設における指導監督について,更生保護施設の意向,あるいは更生保護施設の職員の立場や国の監督の在り方について,実務を担い,法律を所管している立場から,どのような課題を把握しておられるのかということについて,事務当局から御説明いただければと思います。 ○今福幹事 更生保護施設側の意向についてですが,大きく2点把握しています。   1点目として,現行では,更生保護施設において実施するプログラム等について,保護観察対象者にその受講を義務付けることができないことから,プログラム等を受講する意欲が乏しい更生保護施設入所者に対して,その受講を強く促すことができるような枠組みを求める意見があります。そして,このような意見が複数の更生保護施設職員から寄せられています。   2点目として,他方で,更生保護施設の本質的な業務は補導援護の実施であるから,その補導援護の充実を図っていくべきであって,仮に入所者に対して一定の処遇を義務付けて実施するとした場合でも,これを促すための権力的・監督的な指示・指導等は飽くまでも保護観察官において行うべきであるとする意見があります。そして,こうした意見が少なからずあることも承知しています。   次に,更生保護施設職員の立場や国の監督の在り方についての課題という点に関連して,平成14年に,関係する法律が改正されておりますので,まずその点を御説明いたします。   平成14年には,更生保護事業法等の一部改正がなされています。この法改正以前は,更生保護施設に対しては,宿泊及び食事の提供といった「応急の救護」のみしか委託できませんでしたが,この改正により広く社会適応を促すための積極的な処遇をも「補導援護」として委託できるようになりました。同時に,更生保護施設における処遇の基準として,「保護観察に付されている者に対しては,遵守すべき事項を守るよう適切な補導を行うこと」が位置付けられました。   他方で,保護観察における指導監督は,引致及び留置という強制的措置や仮釈放の取消し等の不利益な処分をとり得る権限を背景とするものであることから,指導監督を委託することについては,仮に,委託内容を指導監督のうち特定の内容に限定したとしても,受託者である更生保護施設を運営する法人の全ての職員の立場を,公務員ないしそれに準ずるものとする必要があるのではないかという点,また,更生保護施設に対する国の監督が現状よりも強いものにならざるを得なくなり,我が国の保護観察制度における官民の役割分担として適切とは言えなくなるおそれがあるのではないかといった点,そういった検討すべき課題が指摘されていました。このため,平成14年の法改正では,保護観察のうち補導援護のみを委託できることになったものと承知しています。   これらのことから,更生保護施設に指導監督まで担わせることを可能とするか否かという点を検討するに当たっては,同様の課題が生じると考えられます。 ○保坂幹事 ただいまの御説明によりますと,更生保護施設側のニーズとして,プログラム等を受けることを強く促すことができるような,そういう実効性を高める措置が必要だという声がある一方で,そのような権力的・監督的な指導というのは官の方でやるべきではないかという声もあるということでした。   そうしますと,「C案」のように,プログラム等の受講を特別遵守事項として設定して,これを受講するように保護観察官が指導監督を行うことで,保護観察官と更生保護施設とが,そういう意味で連携を密にして,より充実した指導監督を行っていくということになれば,両方の意見を両立できるという仕組みになるのではないかと思われます。 ○羽間委員 この検討課題の根底には,更生保護施設の職員による助言などに応じない対象者を,いかにして処遇の軌道に乗せていくかという,非常に古くて新しい問題があろうかと思います。   更生保護施設は民間の施設ですから,自立更生促進センターのように保護観察官が常駐しているわけではありません。しかし,更生保護施設と担当の保護観察官は,日頃から密接に連絡を取り,協議を行い,処遇を行っていると思います。   委託される側と委託する側という関係はあるにせよ,ある種の官民協働体制が敷かれていると考えるならば,民間の更生保護施設職員による助言などに応じない,そのような場合こそ,保護観察官の出番だと考えます。   先ほど,今福幹事がおっしゃっていた更生保護施設側の意向というのは,日々,補導援護に努めている現場の素朴な声であろうし,一定の権限を望むというよりも,むしろ施設職員の方々の人間力,それから保護観察官の指導力,これらが合わさって入所者を改善更生に導いていこうとする姿勢の表れだと思われます。   そうしますと,「C案」のように,更生保護施設が行うプログラムの受講を特別遵守事項として設定可能とした上で,保護観察官が適切に指導監督することで,更生保護施設が指導監督権限を持たずとも,プログラムの受講を強く促すという目的を達成できるのではないかと考えます。 ○小木曽分科会長 この点について,ほかに御意見はおありでしょうか。   よろしいですか。   それでは,配布資料13についての意見交換はこの程度としたいと思います。   次に,「起訴猶予等に伴う再犯防止措置の在り方」の論点のうち,より時間をかけて意見交換をする必要があると思われる「検察官が働き掛けを行う制度の導入」について,2巡目の意見交換を行いたいと思います。   この点につきましても,当分科会の第4回会議における委員・幹事の方々からの御意見を踏まえ,事務当局において考えられる制度の概要や検討課題等を整理して,第4回会議の際に配布した資料を改訂してもらいました。これが資料14で,前回会議でも配布しましたが,本日再配布しておりますので,まず,事務当局から資料についての説明をお願いいたします。 ○羽柴幹事 配布資料14について御説明します。   当分科会第4回会議における配布資料からの主な変更点を中心に御説明します。   まず,「考えられる制度の概要」については,前回までの分科会において異論がなかったと思われる点を踏まえ,一つ目の「○」にあるとおり,このような制度において指導・監督を行うのが保護観察官であることについて追加し,また二つ目の「○」にあるとおり,「対象とする被疑者の選定及び守るべき事項の設定は,必要に応じて,少年鑑別所の調査機能を活用することとする」と追加して記載しています。   次に,検討課題のうち,「1 趣旨等」について,検察官が働き掛けを行う制度の相当性について議論すべきという趣旨の御意見があり,これを明示することとして,「相当性」を検討課題として追加し,具体的には,「裁判所による犯罪事実の認定を経ていない者に対して働き掛けを行う制度とすることの相当性」を追加して記載しています。   また,「2 対象者等」についても,どのような処分を受けている者を対象とするのかを検討課題とすべきとの御意見があったことから,同様に,「想定される対象者や事案」を検討課題に加えています。   次に,「3 制度の枠組み等」の「(1)守るべき事項の設定」について,「内容」の下に,これまでに意見があった守るべき事項の内容を記載し,「対象者の選定や守るべき事項の設定のための調査」の下には,調査結果の取扱いについて検討すべきという趣旨の御意見があったことから,「調査(調査結果)と捜査(証拠)の関係」と記載しています。   次に,「不服申立て」について,「A案」として不服申立て制度を設けるとする案,「B案」としてこれを設けないとする案を掲げています。   次に,「(2)指導・監督」のうち,「期間」については,これまでに出た御意見を踏まえて,「A案」として6月から1年程度とする案,「B案」として6月より短い期間とする案を掲げています。   最後に,「(3)その他」については,「期間の満了の効果」の具体的内容として,「公訴提起を禁止することの要否・当否」を記載しています。   配布資料14の説明は以上です。 ○小木曽分科会長 ただいまの説明に御質問,あるいは検討課題を追加した方がよいのではないかといった御意見がありましたら伺います。   よろしいでしょうか。   それでは,配布資料14に沿って意見交換を行いたいと思います。   2巡目の意見交換ですので,1巡目の意見交換を踏まえまして,検討項目全体について適宜御発言をいただくことにしたいと思います。   どの点かを明示いただいて御意見を頂戴したいと思います。   御意見のある方は,挙手をお願いします。 ○保坂幹事 今回の資料から追加された「相当性」という検討課題についてですけれども,前々回の第4回会議において,田鎖幹事から,検察官が司法的関与のないままに社会内処遇を行うことは認めるべきではないという御意見があり,その理由として,刑事訴訟法第248条の沿革に触れられ,同条は旧刑事訴訟法の規定を下敷きにしているけれども,そこに「犯罪の軽重」という文言が加わって,性格自体も旧刑事訴訟法の規定とは違っているという趣旨の御発言があったと記憶しています。   確かに,旧刑事訴訟法では「犯罪の情状」となっていた規定が,現行の刑事訴訟法第248条においては,「犯罪の軽重及び情状」となっていますので,文言上は「犯罪の軽重」が付け加えられたことになっています。   私は,「犯罪の情状」の意味することの中に「犯罪の軽重」が含まれていなかったとは考えていないのですが,昭和24年当時の逐条解説をみますと,この「犯罪の軽重」という文言の趣旨について,「犯罪の情状という立言では,犯罪の動機その他犯人がその犯罪を犯すに至った主観的情状のみを指す如き誤解を生ずる虞があるところから,犯罪そのものの軽重もまたこれを考慮すべきことを明らかにしたものと思われるが,しかしながら,重い犯罪について起訴猶予処分を許さない趣旨ではない」という説明がされております。このことからしましても,「犯罪の情状」という文言が「犯罪の軽重及び情状」と改められたことをもって起訴便宜主義の性格が変わったとみることは無理ではないかと思われます。   いずれにしても,この改正によって,起訴猶予処分を行うに際して働き掛けができなくなった根拠とみるのは,かなり無理があると思われます。   その上で,田鎖幹事に,裁判所の有罪認定を経ていない段階で,検察官が再犯防止の働き掛けを行うことが許されない,認められないという根拠を教えていただきたいと思います。   もちろん,検察官としても,否認をしている被疑者や嫌疑不十分だと考えている被疑者に対して,このような再犯防止措置を施すことは考えないわけですけれども,被疑者も事実を認めていて,検察官も被疑者が証拠上罪を犯したと認定できる事案において,その訴追裁量の下で再犯防止措置をとることがなぜ許されないのかという点が,私にはよく分からないのです。   仮に,現行法の下でそういったことを行った場合にそれを起訴したとなりますと,その公訴提起が違法になってしまうという御主張なのか,さらには,仮に法律の規定を設けても許されない,あるいは法律の規定を設けること自体が許されないという御主張なのか,そういう実質的な根拠を明らかにしていただけると有り難いと思います。 ○田鎖幹事 まず,御質問に直接お答えする前に,刑事訴訟法第248条の点についても若干述べさせていただきたいと思います。   確かに,刑事訴訟法第248条の「犯罪の軽重」という語句の挿入について,特に検察官あるいは検察官出身の方から旧刑事訴訟法における起訴便宜主義の運用に変化を来すような特別の意味はなかったのだと,そういった理解も示されているということは承知しております。   ただ,保坂幹事から御紹介もありましたが,事実の問題として文言が加わりました。これが元々旧法と同じ文言を用いていた政府案に対して,GHQの側から「犯罪の軽重」という語を加えるようにという示唆がありました。これ自体は間違いがないわけでありまして,この点について,松尾浩也先生は,このように指摘されております。すなわち,戦前,旧刑事訴訟法下において,起訴猶予が再犯防止の有効な手段として意識的に用いられ,起訴猶予処分に付された者に対して「保護観察」を加えたり,「更生保護」の対象にするなど,積極的な措置が講じられていたことをまず指摘されます。その上で,こう述べておられます。「この方向を推進することは,刑政上の効果が大きい反面,人権侵害のおそれも伴う。現行法は,起訴便宜主義の規定を受け継いだ際,「犯罪の軽重」の一句を加えたが,これは,特別予防主義への過度の傾斜を戒め,裁量権の行使に多少の限定を付加しようとする趣旨である」とされているわけです。   このように特別予防主義への過度の傾斜に限定を付すという趣旨からは,やはり,正に特別予防主義の最たるものといえる保護観察は許容されないのではないかと私自身は考えます。   その上で,冒頭の御質問に対する直接の答えの部分に戻りたいと思います。ここでのテーマは,裁判所による犯罪事実の認定を経ていない者に対して働き掛けを行う制度の相当性ですけれども,一口に働き掛けといいましても,様々な段階があります。例えば,訓戒というのは,これ以前の分科会でも出ておりましたけれども,被疑者側の関与というのは専ら受動的でありまして,検察官が訓戒を行っているのを聞いている。これを,受忍と言っていいのかどうか分かりませんけれども,上の空かもしれないけれども,とにかく聞くというようなものです。   それから,誓約書や請書を出させるというようなことも実務で行われていると思いますけれども,これは訓戒とは違って,一定の被疑者あるいはそれ以外の第三者の能動的な行為というものを必要とするわけですけれども,被疑者や第三者が内心どう考えているかはさておいて,少なくとも表向きは検察官から働き掛けがなされて,これを自発的に受け入れて,自ら誓約書を書く,あるいは請書を書いて出す。こういう行為と評価できると思います。   これに対して,今,検討課題となっている保護観察を行うような制度はどう考えられるのかと見てみますと,前の例と異なる点というのは,まず検察官が行う訓戒をその場で聞く場合のような,単なる受動的なものではありませんし,誓約書ですとか請書を書いて出すというような場合の行為の任意性とか自発性というものも前提とされていないと考えます。   こうした意味における働き掛けというのは,被疑者の意思とは関係なく,たとえこれに反してでも,一定の事項を守って指導監督を受けるように求めることにほかならない。これは刑罰にも等しい人権の制約でありまして,裁判所による裁判,その結果としての有罪の認定,具体的には現行法では判決ですけれども,これを経ることなしに刑罰を科すことができないのと同様に,許されないということです。   もちろん,我が国の現行法上は,執行猶予に伴う保護観察は刑罰そのものではなく,付随処分とされているわけですけれども,刑の執行を猶予する判決,すなわち,有罪判決がなければ保護観察に付されるということはあり得ないわけでして,裁判所の有罪認定が当然の前提となっております。   そうすると,裁判所による有罪認定を経ていない被疑者に対して,先ほど述べたような意味において,人権制約を伴う働き掛けを行うことが一体どうすれば正当化されるのか,そのことこそが真剣に問われなければならないのでありまして,その意味では,逆に私の方から,どうして裁判所の有罪認定を経なくとも被疑者の意に反してでも働き掛けが許されるのかということを後ほど伺いたいと考えます。   この点はおいておき,先ほどの刑事訴訟法第248条のお話ですが,確かに,同条は検察官が犯罪の認定をするということを前提としているわけで,保坂幹事がおっしゃるように,事実関係に争いのない場合に,検察官が自らの認定した事実をもとに一定の働き掛けを行うことがどうして許されないのかという御疑問であるということは理解しております。   しかし,ここで重要なのは,検察官は飽くまで訴追官であるということです。訴追者である検察官が,自ら事実を認定し,その認定に見合った処分を判断するということは,訴追者と判断者の役割を兼ね備えた糾問官としての検察官を認めることになる。訴追者と判断者が同一である場合に,判断の恣意性というものは,どうしても避けることができないわけです。そうであるからこそ,近代の刑事訴訟法は,糾問主義を排して弾劾主義を採用いたしました。それを根底から否定するのが,この制度の構想であろうと私自身は考えます。   例えば,団藤重光先生もこう述べられております。「いうまでもなく,起訴猶予は,嫌疑なしとする不起訴処分とは違って,犯罪事実の存在を肯定するものには相違ない。しかし,それはどこまでも検察官の認定にすぎず,その処分は検察官の処分である。保護観察は結局,本人のためだとしても,人権に制限を加えるものであることは否定することができないから,これは裁判所の処分によって初めて許されるものと考えるほかない」ということです。   そのような意味におきまして,先ほど保坂幹事が最後に言われました,法を設けること自体が許されないのかという点に関しましては,私は,そのとおり,法の規定を設けること自体が原理的に許されないと考えております。   以上が理由でありまして,なぜ裁判所の認定を経ることなしに検察官が再犯防止措置の働き掛けをすることができるのか,それについて,御見解を教えていただきたいと思います。 ○保坂幹事 検察官が設定しようとする,ここで議論している「守るべき事項」を巧みに保護観察と言い換えられた上で御発言があったわけですけれども,私が以前から申し上げているのは,検察官が本来,訴追裁量権の発揮として,守るべき事項を守ったのであればそれを良い情状として考慮しようということを想定しながら守るべき事項を設定し,それを守れたのであればそのとおり起訴猶予処分にするが,それが守れなかった場合には,場合によっては,それを起訴する判断を行うという大きな仕組みの中で,この制度,この仕組みというのも考えられるということを申し上げているわけです。   その場合に,検察官が想定した,被疑者がこれを守れば有利な事情として考慮するということを被疑者との間で設定するということ自体について,それを直接何かを義務付ける行為といえば,それは不利益なことなのかもしれませんが,本来起訴するかどうかについて裁量がある検察官において,こういう事情を考慮しますとすること自体が,直接何かを義務付けているというものでは,ないだろうと思われます。   それは実質的には義務付けではないかとおっしゃるのかもしれませんが,それが仮に本人が望まないにもかかわらず,実質的に義務付けられるということが問題だというのであれば,後の議論ですけれども,前々回の会議において,私が確認したかったことに関わります。田鎖幹事がこの仕組み自体が許されないと考える理由に関して,仮に被疑者の同意を得るということを要件化したとしても,やはり許されないのかという御質問を私から申し上げたときに,田鎖幹事は,もっと原理的なものであるということもおっしゃっていました。   先ほどのお話によりますと,本人が望まないにもかかわらず,何らかの実質的な義務が掛かるというところがよくないのであれば,今もありますように,例えば,略式手続については,本人が裁判を受ける権利を一部放棄することになるので同意を得ることになるわけですけれども,先ほどのお話によりますと,同意さえ得れば制度としては成り立つという御理解になるのでしょうか。 ○田鎖幹事 私自身は,これまでの分科会で申し述べたことと矛盾したことを述べているつもりはございません。以前,保坂幹事からお尋ねがあったときには,同意がなければ到底制度として成り立たない,つまり,同意というものは,より効果的な働き掛けをするために必要というような位置付けではないんだという文脈で述べました。   先ほど述べたのも,それと同じ文脈なのでございますけれども,例えば,今問題となっている場面とは若干ずれるかもしれないですけれども,非拘禁措置に関する国連最低基準規則,いわゆる東京ルールズでは,公判,あるいは正式な手続の前に,あるいはそれに代えて犯罪者に義務を課す社会内処遇措置をとる場合には,対象者の同意がなければならないと定めているのは御承知のとおりです。   やはり,正式な公判を経ない段階で本人の権利を制約するような措置は,規則では確かオフェンダー,犯罪者という書き方をしていたと思いますが,その同意がなければならないとされています。それは最低限,本人が任意に内容を理解した上で,自ら受け入れることがない限り権利を制約する措置はやっていけない,逆に言えば,そのような真摯な同意があれば可能である,つまり,その後の制度設計が可能であるという意味で,同意が必要条件とされているわけです。そういう意味では,制度設計の必要条件として,同意というのは位置付けられると考えられます。   ただ,同意があればよいのかというと,そこはこの制度をどういう位置付けのものとして考えるのか,それから現行の捜査の在り方にどのような影響を与えるかとか,細かな点ですが,次の段階の論点が様々出てまいりますので,同意があれば,即,可ということにはならない,そういう位置付けでございます。   つまり,次のステージの様々な論点をクリアする必要があるという趣旨です。 ○保坂幹事 今のをまとめますと,ほかにもいろいろ検討課題はあるけれども,田鎖幹事がおっしゃった,検察官が有罪認定を経る前に,本人に対して実質的な義務付けをするような仕組みというのは,本人が同意すれば,ほかにも検討課題はあるが,その点はクリアされるという御趣旨とお聞きしてよろしいでしょうか。 ○田鎖幹事 とても短くまとめるとそうなるでしょうけれども,そうすると,次に,その同意の在り方とか,任意の同意をどうやったら確保できるのかとかいうことも含めた問題が出てくるということです。   あと,先ほど質問の前段階で保坂幹事がおっしゃられたことが,検討課題の前提として,この分科会での共通の理解となっているのかどうかということが,私自身は疑問に感じました。といいますのは,一応,考えられる制度の概要としては,一定の守るべき事項を設定するということになっているわけで,以前には太田委員の方から,一般的に守るべき事項と,特別に本人の問題性に応じて守るべき事項というような,かなり実際の保護観察と似たような内容の御提案がありました。それを,巧みに保護観察とすり替えたと言われるのは,私も心外なのでありますが,結局,配布資料の「2」の「対象者」とも絡んでくるのですけれども,どういった事案の被疑者を対象とするのかとも絡んでくるわけです。   これが,いわゆる純然たるダイバージョン的な制度であって,通常であれば起訴に相当するような事案なんだけれども,経過を見てこれが守れたら訴追しないというようなものなのか,今までの議論を伺っていると,必ずしもそうではなくて,事案としても,通常起訴猶予が相当なんだけれども,働き掛けも必要,有効であろうという事案を取り込むというような御提案がありましたので,そうであるとすると,結局,これが守れたらあなたの利益に,起訴はしないようにしましょうねと言ったときの意味合いが,対象者によって全然違ってくるということは気を付けなければいけないと思うわけです。   ですので,先ほどおっしゃられたように,実質的には義務付けではないかと思われるかもしれないと御指摘がありましたけれども,私は正にそうだと思います。それが例えば,守るべき事項が個別に設定されるものではなくて,あらかじめ法定されているということになってくると別なのでしょうけれども,そういった規範が最初に本人が向けられていてということであれば,正に現行の刑事訴訟法第248条の枠内において,検察官が「犯罪後の情況」というものを見るというようなものと変わらないものになるんだと思うんですけれども,今考えられているものは,そういうシステムではないと考えます。   ですので,先ほど言われました,これが守れたらいいねという感じで,本人に提示するというようなイメージが,ここで共有されているのかということを,私としては確認させていただきたいと思います。 ○保坂幹事 確認するものかどうか分かりませんが,議論が対象者の方に入っていますので,私が考えている対象者というのを御説明申し上げて,回答になればと思います。   対象者について,本来であれば起訴相当者に限るとか,あるいは本来的に起訴猶予相当者を除くという御提案をする向きもあるのかもしれませんけれども,実際に検察官として仕事をしてきた経験からしますと,起訴相当か起訴猶予相当かということは,そう単純に決められるものではありません。「犯罪の軽重」だけではなく,例えば本人の反省の状況や態度,そういった「犯罪後の情況」によって起訴・不起訴の判断が分かれる事案というのは,よくあるわけです。   以前に事務当局から,いわゆる横浜方式について対象者の説明がありましたけれども,別に横浜方式をとりましょうということではないのですが,そこで想定されていた,当時行われていた対象者としては,犯罪事実自体は必ずしも起訴しなければならないほどではないけれども,環境が悪くて,適切な指導保護者もいないため,再犯の危険があると認められるため,従来であれば起訴相当と思われるような場合や,逆に犯罪事実自体の犯情は軽視できないけれども,改悛の情も認められて,適切な指導によって再犯防止することができると認められる場合,こうした起訴と不起訴のいわば限界領域みたいなものを含んでいたと説明があったところです。   このような起訴にするのか不起訴にするのかの限界というものは確かに存在していると思われるわけですけれども,今議論している仕組みについても,やはり「犯罪後の情況」いかんによって起訴,不起訴が分かれ得るようなものを対象として想定しておくことも十分考えられることだと思われます。   先ほどありましたけれども,例えばここで議論されている守るべき事項というのに違反があったという場合に,必ず起訴しますというのではなく,それも一つの情状として,起訴,不起訴の判断を改めて行うということだとすれば,違反はしたけれども起訴しないという判断に至ることもありますので,あらかじめ起訴相当か不起訴相当かというのを峻別してその対象者を想定するというのは,必ずしも適切ではないであろうと思われます。 ○太田委員 今の対象者についても意見があるのですが,先ほどの田鎖幹事の御発言の趣旨を確認させてください。同意の問題が先に出ていましたけれども,同意だとか,そういった手続的な制度設計なり内容であれば,こういった検察官が守るべき事項を設定するということがあり得るという御趣旨なのか,その前のお話ですと,とにかく検察官がこういった被疑者に対して裁判を経ないで事実上の有罪認定をして何かの守るべき事項を課すということは問題外で,あり得ないのだという御趣旨なのかを確認させていただきたいと思います。多分,後半の方の御趣旨だと受け取ったのですけれども,それでよろしいでしょうか。   同意うんぬんの問題に関係なく,検察官が事実上の有罪認定をしている,これは現在の起訴猶予制度でもそうですね。不起訴ではなくて起訴猶予なので,犯罪事実はあったということを前提として起訴猶予にしているわけですけれども,検察官がそもそもこういった事実上の有罪認定をした上で,それがどういう性質のものであるとか,どういう手続が必要なのかということは別として,守るべき事項を設定することはそもそもあり得ないという御趣旨の発言だったのでしょうか。 ○田鎖幹事 お答えするのがとても難しいのですけれども,原理的に考えたときに,こういう制度は設けるべきではないという意味で,あり得ないというのであれば,あり得ないと表現することもできるのでしょうが,十分あり得ますよという御意見が今出てきていて,一応制度設計をする場でありますので,私としては,そもそも制度を構築すること自体が相当ではないという意見を述べると同時に,仮に設計するにしても,こういった問題点がありますという両方のことを申し述べているつもりでございます。   現に,あり得るという立場からの御提案に対しては,可能な限り前向きに私自身,頭を悩ませて,考えて,申し述べているということです。 ○太田委員 確認ですけれども,現在の起訴猶予制度に関しては,どう思われているかということと,それから,行為責任は軽いけれども,やはりちょっと予後が心配だという者については,現在の運用だと,これは起訴したとしても,恐らくまず間違いなく単純全部執行猶予になると思うのですけれども,処遇を行うために,こういう者についても起訴して裁判に送り込んでいけという御趣旨でしょうか。   要するに,起訴にするには行為責任として軽いのだけれども,検察官としてはやはり再犯を起こしてもらっては困るがその辺は大丈夫だろうかという者に対して,どう扱うかという判断だと思います。こういう制度が駄目だということになれば,そういった者も起訴し裁判所が有罪認定をしたとしても,単純全部執行猶予になってしまう。これでは処遇が行えないのでまずいと思うのですけど,そういう方向の御趣旨ということでよろしいですか。 ○田鎖幹事 その点についても,多分以前から何度か繰り返させていただいていると思うのですが,確かに現行法のメニューが非常に限られているので,今この制度設計をしなければ,起訴して単純執行猶予で,全く何の働き掛けもなくていいのですかという御疑問が出てくると。それは私も十分に理解しているところでありまして,そうであるからこそ,第2分科会の議論と絡んでくるのでありますが,私は,今行われている正式な公判請求とそれに必然的に伴う手続とは別の形の,もっと簡易な形での制度設計が必要であろうと考えています。   ただ,それは直接的に第3分科会のテーマとなっておりません。第2分科会とも絡んでくることですので,それは今後の部会の御判断とも絡んでくるんだと思うんですけれども,決して何にもしなくて無策でよいというようなことではないということです。   ですので,裁判所がきちんと関わった上での制度設計というものが,この部会のどこかできちんとした形でできないか,なされるべきであろうと私自身は考えております。 ○小木曽分科会長 それは具体的にどのような制度なのか,よろしければ,御披露いただけるとよいと思うのですが。 ○田鎖幹事 具体的にというのは,私もこの第3分科会の論点に取り組むだけで精一杯なのですが,本当に思い付きなんですけれども,例えば諸外国などを見てみますと,訴追した後で裁判所が中心となって行われるようなディバージョンの形態もありますし,あるいは事案の軽微性を理由として手続を打ち切る,その場合に処遇的なものといいますか,プロベーション的なものと組み合わせて打ち切るということも考えられるでしょうし,そこはいろいろ考えられると思うのですが,一方であまり目新しすぎて,これまでの我が国における制度設計の議論の経過とか,様々なことを考慮して,あまり距離感がありすぎるものというものも実現可能性という点で難しいでしょう。ただ,そこは,太田委員は,恐らく現行刑事訴訟法を足掛かりにしてこれまでにもいろいろ構想されてきていると思うのですけれども,そこからもう少し踏み出して,アレンジするということは,私は十分考えられるのではないかと思います。 ○太田委員 私もいろいろな制度があってよいと個人的には考えているのですけれども,田鎖幹事のお考えをお聞きしたいのは,裁判所が有罪認定して,何らかの働き掛けをするような仕組みは確かにいろいろあり得ると思うのですけれども,そうした制度を作った場合に,この起訴猶予にして働き掛けをするような対象者は一切残らないという感じにまで,その制度を広げていくという感じになるのでしょうか。   要するに,全てそういった者を裁判に取り込んでいくという仕組みを作るべきだというお考えでよろしいのでしょうか。 ○田鎖幹事 そういうことではなくて,現行の起訴猶予制度が一定の機能を果たしてきたということについては,恐らく評価としてはほぼ一致しているということですので,これまで起訴猶予として一定の刑事政策的機能を果たしていた分を全部取り上げてというような,そういうことではないです。 ○太田委員 私はやはり訴追した上で対応していくべき人もいると思うのですけれども,今検討してるような起訴,不起訴の段階で一定の対応をとることによって,検察官としても再犯防止が図られる,犯罪者の更生も担保できるということであれば起訴猶予にしていきたいと考える,そういう一定の対象者のグループはいるだろうと思っています。   ただ,私はそもそもの出発点として,罪を犯している,そこに争いはないというのが前提ですけれども,罪を犯しているということを前提にすれば,刑罰を受けることが本来であるということを議論の出発点とすべきではないかと思います。   本来であれば刑罰を受けるべき者ではあるが,再犯防止や社会復帰のための対応がとられるのであれば,処罰を回避してよいのではないかということであるのに,最初から起訴猶予だ,起訴放棄だというのが当然もしくは前提であって,そこを出発点とした上で,そこに何かをすることは負担だとか,介入の強化だとかいうようなことは,私は本末転倒ではないかと考えます。   対象者の話が制度のイメージや趣旨と絡んでくると思いますので,対象者に関して話しますが,私も先ほど保坂幹事がおっしゃられたとおり,行為責任が起訴猶予相当でも,やはり予防の必要性が高い者というのは今でも実際おりますし,それから,境界事案というのはいっぱいあるので,客観的に何が起訴相当か決めているわけではないですけれども,行為責任からすると起訴相当事案ではあるけれども,改善更生とか再犯防止の措置がとられれば起訴猶予もあり得る者というのは,やはり考えられるのではないかと思います。この二つがやはり入ってくるのだと思います。   前者は,行為責任としては起訴猶予相当でも予防の必要性が高い者,起訴猶予相当の軽い行為責任の犯罪を繰り返す者とか,行為責任は軽いけれども,問題性が非常にはっきりしていて,具体的な対応や措置というものが想定できて,それによって十分更生を図ることが期待できる者などが考えられると思います。   対象者の問題が翻って趣旨に返ってくるのでしょうけれども,対象者について議論するのであれば,これまでであれば起訴猶予相当であった者を除外するとか,これまでであれば起訴相当の者に限るとかというような,そういう区分から検討するのではなくて,どのような被疑者であれば,こういった制度を作った場合に必要かつ有効なのかという観点から検討すべきではないかと思います。 ○田鎖幹事 今の御発言を伺っておりまして,恐らく,こういう被疑者に対しては積極的な働き掛けが必要であろうという範ちゅうの者が現に存在するという認識自体には争いがないわけであります。それに対して,罪を犯せば刑罰を受けるのが本来の姿なんだから,現に起訴猶予制度というのはあるんだから,そこは検察官にやってもらいましょうと判断するのか,いや,そうではなくて,刑罰を受けるといっても,それは裁判所が認定することが現行法では大前提になっているのだから,やはりそこを飛ばしてしまうわけにはいかないだろうと考えるのか,そこが大きな分かれ目だと思うんですね。   そこで正に有罪の認定というところで負担が重くなるというのであれば,軽い形態を考えるべきだし,考えなければならないと思います。そこをせずして,現にあるものを利用してというと,刑事訴訟法の基本原理との抵触を免れないだろうという意見です。 ○太田委員 刑事司法における制度というのは,犯罪者の権利保障だけを考えていればよいわけではなくて,そもそも社会の安全をどうやって確保していけばいいのか,社会の安全確保とか,犯罪被害者の立ち直りという,その視点も踏まえて,あるべき姿というのを模索するべきであって,犯罪者の負担が重いか軽いかとか,国の介入が強いか軽いかという観点だけで見ていけばいいというわけではないだろうと思います。   仮に,そういった負担とか介入といった観点だけを見るとしても,介入を弱めることが望ましい場合も私はあると思いますし,もっと強めるべきだというときもあるのは,当然だろうと思っています。   また,局所的に何か見て,ここだけ見れば介入が強まっているように見えても,実は再犯防止が図られることによって,結果的に長い目で見れば介入が弱くて済むという場合もあるだろうと思います。   また,犯罪者の利益ということだけを基準に考えることも,私は妥当ではないと考えますけれども,仮に犯罪者にとっての利益ということを考えるにしても,起訴猶予になったからいいよというその場限りの利益を考えるのではなくて,長い目で見たときに,その犯罪者というか,その人にとって何が最善かということを考える必要があるのではないかと思います。   起訴猶予になったからそれでいい,執行猶予になったからそれでいい。はい,さようなら,それが被疑者の利益である。後は野となれ山となれ。これでは犯罪者その人の人生にとっても,まずいのではないかと思います。何らの働き掛けも受けずに単なる起訴放棄というような形で起訴猶予になって,何らの改善更生も得られなかった結果,犯罪を繰り返すような人生を送るというような場合と,起訴猶予になるに際して何らかの働き掛けを受けたけれども改善できたという場合では,どちらが本人にとっての利益かということを私は常々思っておりまして,その場限りの介入が強いか弱いか,それを弱くすることが常に正しいんだということは,不合理ではないかと思っています。これは,私の基本的な考え方なのかもしれません。   それから,こういう問題を考える際に,犯罪被害の予防や被害者への配慮という観点も,私は必要であると思っています。すなわち,人が犯罪を犯すことによって被害を受けている人が実際にいるわけであります。そういうことを絶対忘れてはいけないだろうと私は思います。犯罪を犯した人に対して刑罰を科し,その過程で処遇や教育を行って更生を促すということは,新たな被害者を生まないように努力をするということであると思います。   けれども,起訴できるにもかかわらず起訴しないということは,刑罰の過程でそういった処遇とか,新たに被害を生まないための対応をとることができないということを意味するわけであり,その結果,仮に再犯が行われて,新たな被害者が生まれたらどうするのかということであります。当然,検察官はそういうことも考えざるを得ないわけです。新たな被害者を生まないように,できることもしないで,単に処罰を回避すればよいというのは,私は被害者への配慮に欠けると言っても過言ではないと思います。また,それは本来処罰すべきであるにもかかわらず起訴猶予とすることに納得した被害者,若しくは納得せざるを得なかった前の被害者の気持ちも踏みにじることになると思います。   起訴猶予になるような事案は,被害者にとっても重大な事件ではないだろう,軽微だから大したことないだろうというように,勝手にそん度することも許されないだろうと私は思っています。   しかも,起訴猶予になった者の再犯が重大なものではないという保証もありません。ですから,犯罪者を処罰しない場合でも,被害を防ぐという観点からの対応というのもとる必要があるのではないかと私は考えます。 ○田鎖幹事 おそらく,以前も申し上げたと思うんですけれども,今の御発言は,やはり制度趣旨に深く関わる問題提起だと思います。確かに,社会復帰,確実な更生というところに再犯の防止という趣旨が含まれていると理解できるのかもしれませんが,ただ,もっと端的に再被害の防止,社会の安全ということまで入ってきますと,趣旨・目的自体も練り直す必要があるのではないか,そこを重視するのであれば,今までの議論以上に,必ずしも事案の軽微性とそれに対応して必要な措置とが,比例しないというか,問題は軽微であっても,それなりの対処が必要な場合も出てきたりとか,何か派生していろいろな問題が出てくるのではないかということと,やはり一種の危険性に着目した議論といいますか,制度設計ということになりますので,もっと広い,ある意味では一種の保安処分的なものをも見据えたような制度設計になるのかとか,いろいろ考えられるので,趣旨・目的ももう1回練り直す必要があるのではないかと思います。その趣旨・目的の設定いかんによっては,そういった趣旨の制度は作るべきではないということになるかもしれないと思います。 ○太田委員 保安処分のような言葉を出してレッテルを貼るようなコメントの仕方は,妥当ではないということを申し上げておきたいと思います。   それから,新しい観点が出てきたとおっしゃるのですけれども,私は検察官が事案の軽微性だけを根拠に起訴・不起訴を決めているような実務をやってるとは全く思っていません。これは,保坂幹事に質問をしたいのですけれども,検察官としては,その行為に対する刑事責任を適正に追及するためにどうすればよいのかということは,翻って,刑罰権をきちんと執行するということによって,社会の安全を守っていこうということが背後にあり,また具体的にも起訴か不起訴の判断をする被疑者が再び犯罪を犯すかどうかとか,それから一方では,被害者の方に対する被害の程度とか損害回復はどうかということを総合して,最終的な起訴・不起訴の判断をされていると思います。今になって突然,社会の安全とか,被害者への配慮の話が出てきたということではなくて,起訴・不起訴の判断に当たっては,当然,そういった総合的な配慮の中でどう判断するのが最も妥当なのかということを基準に判断をしていると理解していますけれども,いかがでしょうか。 ○保坂幹事 それはおっしゃるとおりで,刑罰を科すかどうかということでいいますと,刑罰の目的として,応報ですとか一般予防,特別予防があるわけですが,特に起訴するかどうかということでいいますと,刑事訴訟法第248条にいろいろ列挙されていまして,これは犯罪の軽重や情状,並びにその犯罪後の情況というのがありますけれども,その中では例えば,被害者の感情も考えるでしょうし,社会の治安がきちんと保たれてるかということも考慮の中に入ってきます。ウエイトの置き方はいろいろあるかと思いますが,それらを今まで考えてこなかったとか,考えるべきではないというのは,やはり少し違うのではないかと思われます。   次に,各論に入っていきたいと思います。まず,「守るべき事項の設定」の「内容」というところですけれども,今までの会議で太田委員から,配布資料にありますように,一般的に遵守すべき事項ですとか,あるいは履行すべき事項として幾つか例を挙げていただきました。   そこで挙げられていたように,例えば再び犯罪をすることがないよう健全な生活態度を保持すること,届け出た住所に定住すること,呼び出しや訪問に応じること,被害者への接近禁止,被害者に謝罪,賠償すること,社会貢献活動を行うこと,認知行動療法を受けることというのが挙げられておりました。いつもこのフルセットという意味ではないのだろうと思いますけれども,こういったことを守るべき事項として設定するということを想定しておくということでよろしいのではないかと思われます。   さらに,ほかにも例えば犯罪性に応じたということでいいますと,DVとか児童虐待,あるいは万引きという事案におきましては,いろいろな公私のグループでプログラムとかミーティングなどが実施されておりますので,先ほどの議論ではありませんけれども,そういったプログラム,あるいはミーティングに参加することということも考えられるのはないかと思われます。   続いて,「対象者の選定や守るべき事項の設定のための調査」につきましては,以前にも申し上げたとおり,少年鑑別所のノウハウを活用するということが有効だろうと思われます。   その上で,「調査(調査結果)と捜査(証拠)の関係」を議論すべきではないかという御発言がありましたので,今回この点が資料に付け加わったということでした。結局,少年鑑別所に調査をお願いして,その調査結果が返ってきて,それを検察官が訴追の判断資料に用いるということになりますと,これはやはり検察官が訴追判断に必要な証拠を収集し,その証拠として検察官の手元にあるのであり,その証拠に基づいて起訴・不起訴を判断するというのが自然な理解です。調査結果は検察官の判断に組み入れられるけれども,証拠ではないという整理は,かなり無理があるのではないかと思われます。   先だっての会議で田鎖幹事から,その調査結果をその後の手続に利用できるようにすべきなのかどうかという御発言がありましたけれども,利用すべきでないような仕組みにするという実質的な理由は,どういったところにあるのか,もしお考えがあれば教えていただきたいと思います。 ○田鎖幹事 確か,当分科会の第4回の会議におきまして,私がアメリカの例に少しだけ触れて,問題意識として述べたことについてのお尋ねであろうと思います。   まず,既によく御存じの方もたくさんいらっしゃると思うのですけれども,アメリカの公判前のディバージョンの制度には様々な形態のものがあって,プログラムの実施主体も一様ではありませんので,それを前提とした上で,今回少し見たニュージャージー州の公判前の介入プログラムについて述べたいと思います。具体的に第4回会議では,このことを念頭に置いて発言したということです。   ニュージャージー州では,公判前介入プログラム,インターベンションですね,介入プログラムに関する規則を裁判所で定めておりまして,またそれに従ってプログラムの実施のためのガイドラインというものが定められています。   まず規則の方では,公判前介入においてプログラム参加者に監督的な処遇を提供するべく指定された人,処遇担当者に対して,自己に対する告発に関して行った供述,その他明らかにした事柄について,処遇担当者から検察官に開示がなされるということを禁じています。また,こうした供述ですとか明らかにした事柄は,参加者に対する民事あるいは刑事の手続において,証拠として許容されないと定めております。   規則のこの点に関するガイドラインを見ますと,公判前介入プログラムの効果的な運用には,参加者とスタッフとの信頼関係が必要であるため,参加者のプログラム参加やその申込みの結果として獲得された情報が,参加者の利益に反して,その後の手続で用いられることがあってはならないとされております。   さらに,このガイドラインのこの部分に関するオフィシャルコメントというものがありまして,それによりますと,このプログラムは参加者に更生のための真のセカンドチャンスを与えるものであり,プログラムに失敗した場合には,通常の訴追手続に戻して,本人が失敗による不利益を被らないよう,可能な限り本人がプログラムに参加しなかった場合と同じように扱うとしています。   今回検討になっているものは,保護観察というか指導監督ですね,想定されているような指導監督が効果を上げるためには,被疑者の側がその指導監督の実施主体というものを信頼して,その上で,通常の捜査の過程であれば口にはしないであろうような秘密にわたるような,ずっと誰にも言わないで隠しておきたい,そういうような内容も率直に開示する必要があると考えます。   そうしますと,将来の公判手続において証拠となる可能性があるということであれば,本人に説明した上で同意を得るということも考えられるわけですけれども,ひょっとすると将来自分に対する裁判で不利益な証拠として使われるかもしれないということを念頭に置いた上で,自由に,深い秘密に関わるような誰にも知られたくないようなことについて,情報開示がなされるかというと,これは疑問であると考えます。   かといって,将来,普通の捜査に関する情報と同じように使われる可能性があるということは特に何も触れずに情報を入手して,それを結果的に事後の手続で利用しようということになりますと,今度は起訴された場合,被告人の反発を招いて,その後の改善更生への取組に対する否定的な観念といいますか,考え方を植え付けてしまう。その結果,その後の改善更生をますます困難にするということにもなりかねないのではないかと考えます。当分科会の第4回会議で,私から,入口支援を捜査段階で拒否したことについて,その後の被告人質問で触れられたという事例を紹介しましたけれども,こういった事例はそうした弊害の一例と言えるのではないかと考えます。   今のはアメリカの制度設計を踏まえた上でのものですけれども,結局,先ほどの趣旨等とも関わってくるんですけれども,どのような趣旨の制度として位置付けるかによって,この制度設計,証拠としての利用についての制度設計の在り方も変わってき得るということです。   つまり,制度趣旨等のうちの確実な更生を担保するという点をどう捉えるのか。これは,本人の意思とか,本人との信頼関係とか,そういうことはさて置いて,検察官の側で必要と考える処遇をきちっと受けさせる,そのことが確実な更生の担保になると考えるのであれば,指導監督が良好に進まないで公判請求となった場合であっても,その過程で得られた情報,あるいはそこに至る手続で取得された供述その他の情報というものも証拠として請求して,そしてさらには,裁判所の量刑判断の基礎として提供すると,場合によっては,それが分からないですけれども,ひょっとしたらそれに基づいて,保護観察付き執行猶予を求めるということにもなるのかもしれません。   他方で,更生のための本当の意味での真のセカンドチャンスを提供するというような考え方に立ちますと,指導監督に関する記録というものが,たとえ形式的には伝聞例外の要件を満たしていたとしても,被告人の同意がない限り証拠とはなし得ないという制度として設計することも十分考えられるであろうと思います。   結局,どのような制度として立て付けるかによって,ここは考え方が違ってくるだろうと考えます。今までの議論を拝見していますと,恐らく私だけがかなり違ったことを考えているのだなということはよく分かりました。 ○保坂幹事 ニュージャージー州の取組を御紹介いただきまして,ありがとうございます。処遇担当者への供述だとか告白といったものを他言しないということで,信頼関係を維持しようという制度的な担保にしているようです。恐らく弁護人との秘密交通権と同じ趣旨なのかなということで理解をしました。   他方で,恐らく処遇担当者が,先ほどセカンドチャンスという言い方をされましたけれども,結局そこで決められたメニューに従わなかったときというのは,また訴追のプロセスに戻すということでしたので,この者は失敗した,守らなかったということは,恐らく伝わってくるのだと思います。   したがって,供述として提供することは禁止されているとは思うのですけれども,検察官の訴追,その判断の中の資料として,プログラムを遵守しなかったことというのは,恐らく入ってこざるを得ないのかなとお聞きしました。   それから,後段がよく分からなかったのですけれども,例えば保護観察官が行った観察結果であるとか,少年鑑別所にお願いをして得た鑑別結果というものを,公判で証拠に用いることができないようにしましょうという御提案だと理解をしたのですが,その実質的な理由がよく分からなかったので教えていただければと思います。 ○田鎖幹事 積極的な提案というよりは,紹介した上で,こういった立て付けも十分考えられる,それは制度趣旨と関わってくるということを申し上げました。   ですので,そういう意味では,制度趣旨として,本人に改善更生のチャンスを与えるというところを重視するのであれば,自発的な改善更生を促すということを重視するのであれば,証拠としての一定の制約を設ける,証拠能力の制約を求めるということは,十分合理性があるだろうということです。   ただ,どうやら考えている制度趣旨の在り方自体が,何か私1人ずれているのかなという気もしますので,そうすると,なかなか論点としてはうまくはまらないといいますか,かみ合わないということになるのだなと思います。   ちなみに,前半にコメントがありました点,うまくいかなかった点については,確か規則に定めがあったと思いますので,後で確認して,可能であれば御紹介させていただきたいと思います。 ○太田委員 私はニュージャージー州の制度を知りませんが,プリトライアルといっても,アメリカの場合いろいろな仕組みがあるので,誰がそれを決定して,誰が監督して,それをどういう形で誰が事後の履行確認というのをやってるのかということで,もし資料があれば,勉強してみますのでお示しいただければなと思います。   ただ,すぐに思い浮かぶのはドラッグコートの場合ですけれども,あれも州によって,また,州の中でも非常に複雑な仕組みがあって,ドラッグコートに係属している場合に対象者を被告人と呼んでいいのかどうかというのも非常に複雑で,訴追されないで行う制度もあったりとか,訴追した後でやる場合,いろいろな仕組みがあるようです。ただ,ドラッグコートに係属した場合,本人が処遇を受けているということについて,そのことは裁判所にも全部報告が行きますし,また,1回薬物を再使用したからといって,すぐに取消しになるわけではないですけれども,最終的に取り消すという場合には,きちんとプログラムを受けていなかったとか,その結果再使用してしまったということは,全部裁判所に報告が行くということなので,先ほども保坂幹事から話がありましたけれども,ニュージャージー州の制度でも最終的に訴追され,処罰の対象となるということであるとすると,やはり履行がうまくいかなかったということ自体の情報というのは伝わっているのだと思います。その過程での細かいプライバシー情報だとか何とかというようなことは出さないということは分かるのですけれども,プログラムの履行に失敗したということの情報は裁判所にも行っているのだと思います。そのことも含めて,ニュージャージー州の制度を御紹介いただければと思います。   それから,前回も申し上げましたけれども,ここで設定する守るべき事項というのは,被疑者の抱えている問題性や問題に対して働き掛けることによって,再犯防止や更生が促されるだろうということでありますので,そのことがうまくいかなかったということは何を意味しているかというと,被疑者の抱える問題そのものが残っているという状況なわけです。本人が,途中から守るべき事項の遵守や履行が嫌だと言って受けなかったとか逃げてしまったという場合は,本人の本来守るべき事項が設定された前提となった問題が残っているということなので,そのこと自体を訴追の判断とか,裁判で判断することは全く問題がないだろうと思いますし,守るべき事項を履行しなかった,ということ自体が間接的に,そういう問題性が残っていることの裏付けになっているわけでありまして,そういうことを評価するということまでも禁止されるものではないのではないかと思っています。 ○田鎖幹事 今確認しましたけれども,確かに情報の検察官への開示というのは認めていないのですけれども,その参加者が満足のいくような形で監督的処遇に応じたかどうかについて告げることまでをも禁じるものではないと,そういう内容にはなっております。 ○小木曽分科会長 そろそろ予定の時間まで来ております。   まだ項目も様々ございますし,本日の意見交換はこれまでとしまして,残りの意見交換は,次回に持ち越して,継続することにいたしたいと思いますが,それでよろしいでしょうか。               (一同異議なし)   それでは,そのようにしたいと思います。   今後の予定について,事務当局からお願いいたします。 ○羽柴幹事 今後の予定について申し上げます。   次回の第3分科会の会議は,3月29日木曜日午前10時から予定されています。   場所は,法務省第1会議室となります。 ○小木曽分科会長 本日の議事につきましては,特に公表に適さないものはないと思いますので,いつものとおり,発言者名を明らかにした議事録を作成し,公表することとしたいと思いますが,よろしいでしょうか。               (一同異議なし)   では,そのようにいたします。   本日は以上です。どうもありがとうございました。 −了−