法制審議会 民事執行法部会 第14回会議 議事録 第1 日 時  平成29年12月15日(金)自 午後1時30分                       至 午後5時36分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  民事執行法制の見直しについて 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○山本(和)部会長 それでは,予定した時刻になりましたので,法制審議会民事執行法部会第14回会議を開会したいと思います。   本日も御多忙の中御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   なお,本日は,筒井委員,石井幹事,岡田幹事,久保野幹事,山田幹事が御欠席と承っております。   それでは,審議に入ります前に,配布資料の確認を事務当局からお願いいたします。 ○内野幹事 事前送付資料といたしまして,部会資料14-1と14-2を送付させていただいております。また,席上配布資料といたしまして,先般行われました意見募集の結果概要につきまして,本日議題として取り上げているところの関連部分を中心に,暫定版ということで,「「民事執行法の改正に関する中間試案」に対して寄せられた意見の概要その2」というものを配らせていただいております。   今後の議論におきましては,パブリックコメントの結果を踏まえながら,我々としてどのような取りまとめをしていくのかということを考えていくわけでありますけれども,今回の資料では,それに資するようにするため,論点提示型の部会資料を作ってみました。今後の議論を見据えますと,要綱案の取りまとめを視野に入れた際に,中間試案の本文の方向での取りまとめを目指すべきであるのかどうか,また,そうではないとすれば,具体的な成案としてどういったものを見据えていくのかというようなことを考えていく必要があると思いますので,本日の会議では,飽くまでも可能な限りでということにはなりますが,その方向性や考え方を感じ取れるようなことができれば良いのではないかと,事務局としては考えているところでございます。   冒頭の配布資料の御説明としては,以上でございます。 ○山本(和)部会長 それでは,本日の審議に入りたいと思います。   まず,部会資料14-1,「債務者財産の開示制度の実効性の向上に関する検討(3)」という資料でありますが,このうち,「第1 現行の財産開示手続の見直し」について御議論を頂きたいと思います。   議論に先立ちまして,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○松波関係官 部会資料14-1の第1の部分について御説明いたします。   まず,資料の1ページの第1の1,(1)の部分では,財産開示手続の申立てに必要とされる債務名義の種類の拡大について取り扱っております。   この点につきましては,財産開示手続が強制執行の準備として行われるものであり,かつ,いずれの種類の債務名義についても,その執行力の内容には違いがないということに着目すれば,本来,理論的には,いずれの種類の債務名義についても,これに基づいて財産開示手続の申立てをすることができるはずであるとの考え方がありまして,この部会の議論におきましては,この考え方について多数の御賛同を頂いていると,我々として受け止めているところでございます。また,執行証書については,その活用状況をめぐる近年の状況の変化を見ますと,例えば,養育費の支払を求める場面等を念頭に置きまして,執行証書等に基づく財産開示手続の申立てを認める必要があるのではないのかという指摘がされてきたところでございます。   もっとも,この点に対しては,試案に反対する意見も一部で示されていたところでございまして,その主な論拠としましては,資料の2ページから御紹介しております。例えば,平成15年改正の際に考慮されたこの手続の特質,すなわち財産開示手続により債務者財産に関する情報が一旦開示されてしまうと,後になって権利の存在が否定されるというようなことがあっても,当該情報が開示されなかった状態に回復することができないという特質については,現在でも同様に重視すべきなのではないかということが指摘されました。   このような反対意見について検討する上では,例えば,不当に情報を開示させられた債務者の被る不利益をどのように評価するのかといったことを御議論いただく必要があると思いますし,また,その不利益を回避するための手段としまして,執行停止の裁判によって個別的な事案に応じて対応することが可能ではないのかといった点も問題となるのではないのかと考えております。   なお,今回の資料では,資料の3ページで,「(5)仮処分命令に基づく申立ての可否」という問題について取り上げておりまして,仮に,試案の本文の方向で債務名義の種類を拡大するということになれば,例えば,金銭の支払を命ずる仮処分命令についても,これに基づく財産開示手続の申立てが認められることとなるのではないのかということが考えられると思います。   このほか,財産開示手続の実施要件につきましては,このほかに,部会のこれまでの議論におきまして,先に実施した強制執行の不奏功等の要件の見直しや再実施制限の期間の短縮を求める意見がございました。意見募集の結果を見ましても,これに沿う意見があったところでございます。しかし,この点については資料の5ページから7ページに記載しておりますが,これらの要件の見直しを求める意見に対しましては,必ずしも現在の裁判実務等を正確に反映しているわけではないのではないのかといった批判があり得るところだと思います。   こういった状況を踏まえますと,財産開示手続の実施要件の見直しに関しましては,まずは,試案の本文で取り上げておりますように,申立てに必要とされる債務名義の種類の拡大という限度での見直しをするということが,一つの選択肢ではないかと思われるところでございますので,御意見を頂ければと思います。   次に,資料の7ページの「2 手続違背に対する罰則の見直し」について御説明いたします。   部会のこれまでの議論や,意見募集の結果を見る限りにおきましては,この手続違背に対する罰則を強化するという方向自体には,おおむね異論がないのではないのかと受け止めているところでございまして,今後の議論の中心というのは,資料の8ページで取り上げております罰則の強化の対象とすべき手続違背の範囲や,また,資料の8ページから9ページにかけて取り上げております強化する罰則の内容や法定刑をどのように定めるのかといったところとなるのではないのかと思います。また,今回の資料の9ページには,本日の議論の御参考といたしまして,例えば,民事執行手続等に関する既存の罰則の内容等を御紹介しているところでございます。   資料の第1の部分についての資料の御説明は以上でございます。よろしくお願いします。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,ただ今御説明がありました,この第1の部分,大きくは,1の実施要件の見直しの問題と,2の罰則の見直しの二つの論点がありますので,ここは少し区切って御議論を頂きたいと思います。   まず,「1 財産開示手続の実施要件の見直し」の部分について,御議論を頂きたいと思います。どなたからでも結構ですので,御自由に御発言を頂ければと思います。 ○道垣内委員 これは部会資料であって,パブコメに付するような文書ではないので,差し支えないとは思うんですけれども,私は,最初読みましたときに,財産開示手続の「申立てに必要とされる債務名義の種類の拡大」というと,要件を厳格にするのかなと思ったんですね。しかし,実はそうではなくて,「財産開示の申立てに必要とされる資料」というのがあって,それが拡大するから,要件は緩和されるわけなのですが,日本語としては読みにくくて,思わぬ誤解を招く可能性がありますので,少し文章表現を変えられたほうがよいのではないかと思いました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。事務当局において,次回以降の資料については御配慮いただければと思います。   ほかにいかがでしょうか。 ○成田幹事 今回新たに付け加わりました仮処分の関係で,質問になるんですが,定期金の給付を命ずる仮処分であれば余り関係ないのですが,一時金の場合ですと,2週間という保全執行の期間制限との関係が気になるところでして,財産開示について,どこまでやれば,いわゆる執行の着手に当たるのかといった点,あと,その後の執行についてはどう見るのかと。   つまり,財産開示をしてしまったら,2週間を簡単に超えてしまいますので,およそその後の執行ができないのではないかという気もするんですが,その辺り,どう見るのかというのを教えていただければと思います。 ○内野幹事 今回の資料でこの論点を取り上げましたのは,財産開示制度を導入時にも同様の論点が存在していたというところがありますものですから,まず,この際,もう一度取り上げているという点が一つでございます。   また,債務名義の種類をいわゆる緩和する,広げていくという部分についての消極的な御指摘の中の一つに,その債務名義が最終的な権利関係を確定するものではないというような御指摘がありますものですから,そういった,言わば「暫定性」というものが,財産開示手続の申立てを認めることとの関係で,どのような意味を有するのかということが問題となるのだと思います。言い換えれば,執行力の内容には差がないという場面において,判断の「暫定性」というものをどのように考えるのかというところの視点を考えていただく上で,一つの例なのではないかというようなところで,取り上げた次第であります。   したがいまして,いずれは,成田幹事の御指摘のような,その先の論点についても,議論すべきものかなと理解しておりますが,本日の段階での回答といたしましては,そのような細かな点の機序については,今後の議論次第であると,事務当局としては考えているというところでございます。 ○山本(和)部会長 よろしいですか。 ○成田幹事 はい。 ○阿多委員 仮処分の方から話が出ましたので,そちらの話題の方に触れさせてもらいます。   念のための確認なのですけれども,今回この債務名義のところで,いわゆる暫定的なものを対象としての,言わば仮処分等で認められたものを債務名義にするということですが,その後の手続なのですけれども,いわゆる債務名義が仮のものなのですが,その後は,執行手続という形に乗るのか,それとも,元々の債務名義が暫定的であるような場面においては,その後の手続は民事保全手続によって行われ,例えば,変な言い方ですが,暫定的な仮の財産開示的なことをお考えなのでしょうか。さらには,そのような暫定的な仮の財産開示の申立てをするためには保証金等が必要であるというような制度になるのでしょうか。この保全の債務名義との関係で,後の手続のイメージを御説明いただけたらと思うのですが。 ○松波関係官 必ずしも御指摘の問題意識がどこにあるのかを正確に把握できているわけではないのですが,例えば,金銭の仮払いを命ずるような仮処分がされた場合というのは,その仮処分を債務名義として強制執行することはできるのだと考えております。そうだとすれば,このように,金銭の仮払いを命ずる仮処分についても,執行力があるという点では,他の債務名義と同様ですので,今回の資料では,仮に,仮執行宣言付き判決等に基づいて財産開示手続の申立てをすることができるように改めるということとなれば,このような仮処分についても,同じように,これに基づいて財産開示手続をすることができるということが考えられるのではないのかという問題を,提示しております。阿多委員がご示唆されたような,仮の情報開示というものがどのようなものなのかは必ずしも明らかではありませんが,そのようなややこしいことを考えているわけではありません。飽くまでも,財産開示手続の申立ての場面において,金銭の仮払いを命ずる仮処分を,他の債務名義と同様に扱えるのではないのかということを記載しております。 ○阿多委員 確認ですが,いわゆる満足的仮処分でも,最終的な終局的な処理については別途手続はあり得るかと思うんですけれども,そこのところとは関係なく,保全の段階での裁判所の決定に基づいて,財産開示その後の執行を想定すると,そういうお話になるんですか。 ○松波関係官 阿多委員のお考えでは,具体的には,どのような場面においてどのような処理が問題になるということでしょうか。 ○阿多委員 いえいえ。元々が,今執行の話を議論しているかと思うんですが,その本案のところで,保全法に基づくものが入ってくるとなると,手続が,その後は民事執行法なのか,民事保全法なのかという,手続のイメージのことを確認したいということなんですが。 ○松波関係官 民事執行法に条文を書くのか,民事保全法に条文を書くのかということでしたら,今後法制上の問題として検討すべきだと思いますが,少なくとも今回の資料では,仮に,民事執行法第197条の規律を見直し,仮執行宣言付き判決等に基づいて財産開示手続の申立てをすることができるものとするのであれば,金銭の仮払いを命ずる仮処分についても,その要件に当てはまり得るのではないのかということを記載しております。 ○山本(和)部会長 よろしいでしょうか。 ○阿多委員 結構です。 ○山本(和)部会長 それでは,ほかに。 ○今井委員 もう何度か繰り返しで大変恐縮ですけれども,不奏功要件の廃止の点でございます。   中間試案では,不奏功要件の廃止がうたわれ,そこに(注)が入ったわけですけれども,今回の資料を頂きますと,5ページを拝見すると,むしろ逆に現行の規律を維持することの賛成意見が示されたというふうな記載になってございますが,これはこれとして,残念だなという感じがいたします。   繰り返しでありますので簡潔に申し上げますが,不奏功要件があるために,我々が代理人として実際にこの手続を使うときに使わなくなった,使えなくなった大きな要因の一つであることは,これはもう体験上偽らざるところでありまして,そこの段階を御理解いただきたいと思います。   それは当然のことながら,債務名義がとれた,だけれども,財産が分からない,だから開示してくれというところに,1号は,一度強制執行等をやって不奏功であることが要件,2号は,そこまでしなくても,知れたる財産に強制執行を実施しても,完全な弁済を得られないことの疎明があったことということで,資料を拝見いたしますと,この疎明が非常に簡易になっているので,よいではないかというようなふうにも捉えられるわけでありまして,これから強制執行する上で,完全な弁済が得られないと思っているからこそ強制執行するわけでありまして,そういう意味では,強制執行の前提が財産開示制度なのに,その前提ではなくて,開示の後の強制執行を前倒しで強制執行をして,不奏功であった場合にやりなさい,若しくは疎明をしてくださいというのは,論理的にも辻褄が合わないだけではなくて,我々実務家としても,この要件があるために使い勝手悪いよねとなっているのが現実であることを,また強く御理解いただきたいなと思います。   では,何でこの(注)にあるような取消しという制度が,中間試案であるわけですけれども,これは,拝見するに,債務者の申立てというところが御議論になりましたけれども,やはり債務者の一応手続保障という面なんだろうなとは思っておりましたが,ただ,こういう場合に,債務者が本当に知れたる財産だけで十分できるでしょうということを,債務者に言うということに,そもそもちょっと難点はあるということは,当初から感じていたわけでございます。だからといって,債務者からの取消しという要件がなくなったとすれば,不奏功要件の廃止も白紙に戻って現行法になるかって,そういうことを言っているわけではないわけで,日弁連の意見も,最終的には1号,2号の撤廃を申し上げているわけでございます。   それから,もう一つは,債務者のプライバシーは,現行法の正当性は何かということの説明だろうと思うんですが,債務者のプライバシーや営業秘密に関する事項の開示だから,その点を配慮しなければいけないということのようですが,これは,そもそも財産開示の対象が特定さえしていれば,債務者のプライバシーや営業秘密って問題は,直接には関係ないのではないかと思うわけであります。   以上ですので,この点については是非,このような資料になってございますが,今一度再考していただく,まだ再考の時期かもしれませんが,切実な思いとして捉えていただければなということでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ちょっと御確認ですが,今の御指摘は,この2号要件,やはり疎明に実際に難しかったという例がある,あるいは裁判所にそれで却下されたという例があったという御指摘なのか,それとも,理念的にこれはおかしい,あるいはこの要件があることの一種のアナウンスメント効果といいますか,これを見て,端的に言うと,ビビってしまって,そもそも申立てに至らないというような状況になっているということなのか,その辺りは。 ○今井委員 個人的な意見と弁護士会の意見とありますが,基本的には,個人的な意見と弁護士会の意見は大きなずれはないと思っていまして,私自身は,1号,2号も撤廃が正しいだろうと思っております。日弁連の意見も,ちょっとその辺は歯切れ悪いかもしれませんが,2号要件についても,最終的にはないほうがいいという意見になって,まとめているところがあると思います。   ただ,2号についての疎明というのは,実際に日弁連の意見等では,そういうふうな現実も,この疎明で苦慮した例はあるということは報告されていますが,全体としてどうかということとはまた別だと思いますが,その辺の指摘は,確かに日弁連の意見も出ておりますが,飽くまでも,ただ,日弁連の意見も,最終的には2号要件はないほうがいいというふうなまとめになってございますんで,まとめて申し上げると,少なくとも私の意見は全面撤廃だと。それで,撤廃することによって,営業秘密やプライバシーの問題があるかといったら,それはないでしょう,違う問題でしょうということが言いたいわけでございます。 ○山本(和)部会長 分かりました。 ○阿多委員 今回の資料の5ページの記載のところで,いわゆる不奏功等要件について,これと異なる実例等の指摘がないというのが,中間試案に対する回答としてあって,それで,その下で,現在の裁判実務を必ずしも正確に反映したものではないと思われるというような記載があります。実務家として今まで発言してきた我々に対する発言への御疑問なのかとは思うのですが,まず,パブリックコメントの際に,実例の指摘について,元々それが求められているわけではありませんので,少なくとも,現時点で我々,この2号要件についてどれだけトラブルがあったのかについては,まだ調査はしていません。パブリックコメントでも,それを指摘するような形での日弁連の意見としてはなかったと思います。   2号要件に関して言われているのは,もちろん,ホームページ等に,ひな形で報告書の記載例だとか,そういうふうなものが示されていて,それで,先般来,却下例もほとんどないというようなお話が出ていますけれども,やはり,実務家としては,一般的に言われている,制定当初から言われてきた解釈,さらには,個々の運用の問題になりますと裁判官によってかなり異なり得るのではないかということを危惧して,運用の問題ではなく,要件の問題として緩和してもらいたいと思います。特に,今回が財産開示の実効性確保ということにあるのであれば,実効性実現のためには,少しでもハードルは下げていただきたいと考えています。   少なくとも1号について,従前から配当して完全に弁済を受けない限りというようなことで,相当支障があると思っていまして,そういう意味では,第一義的には撤廃というのを考えていますが,次善の方法としては,要件のハードルを下げていただくということがあるかと思っています。   撤廃の場合はもうそれでいいですが,例えば,1号のときも,動産執行で,この場合でも,これは配当には全然関係ないわけですが,現状できないわけですけれども,それで1号要件を満たすような取扱いというのは可能かと思います。   2号要件に関して言うと,我々,議論して出てきたのは,例えば,扶養料等の債権で,月々10万円,これを支払ってもらうというときに,財産関係を調査すれば,自宅があるということがあります。そうなりますと,建前,不動産に対する執行ができるので,この財産開示が要件は満たさないと,多分そうなるんだと理解をしています。しかしながら,不動産についての強制競売の申立てをしようと思いますと,予納金が,大阪の基準でいきますと90万円要ると。そうすると,10万円の債権を月々回収するというために,それだけのものを出さないと駄目なのかというところがありますので,197条の1項2号の完全な弁済等の表現を改めていただいて,執行に要する費用等の相関関係などで財産開示を認めていただくとか,そういうふうな改め方もあり得るのではないかと。そういう意味で,繰り返しますが,一次的には撤廃,二次的には,残すにしてもハードルは下げていただきたいと思います。   それから,先ほど言ったことと少し矛盾するかもしれませんが,この財産開示の要件は,後で出てくる第三者からの情報取得と共通要件になるものと理解しています。もちろん,17ページ等を見ますと違う要件を立てるというお考えもあるようですが,仮に共通の要件になって,かつ,第三者からの情報取得で,非常に気にしています財産隠匿のおそれということを考えるならば,この197条のところで,何らかの形で債務者との接触をしなければいけない。先ほど言いました動産執行等を一旦申し立てて,執行不能になって初めて申し立てるという形になれば,それはもう,債務者の方に財産隠しのインセンティブを与える,そういうことを考える期間になってしまいますので,197条の要件を仮に残すとしても,今の2号はそうだと思いますが,債務者に知られない形で申立てができるというようなところまで含めて御検討いただけたらなと,そういうふうに思いますので,意見述べたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○谷幹事 債務名義の拡大について御意見がなかったかと思いますので,その点も含めまして,少し意見を申し上げたいと思います。   今,議論されましたのは,不奏功等の要件の問題だったと思うんですけれども,私どもの今回の執行法の見直しに望む基本的なイメージとしては,債務名義を特に拡大する必要はないと。しかし,不奏功等の要件については,これを撤廃ないし緩和ということが,実務家,とりわけ弁護士としてのニーズの感覚かなということで,そういうイメージで様々な議論をしてきたところでございます。   今回の意見募集の結果によりますと,日弁連としては,債務名義の拡大については反対と。これは,様々な問題点があるという認識とともに,日弁連内の関連の委員会で検討したところ,やはりそういうニーズというのは余りないということがベースにあるんだろうと思うんです。一方,不奏功等の要件につきましては,逆に,やはりそれがあることによって,申立てができないとか,今阿多委員が申し上げたような事例もございますので,そちらの方の要件の撤廃ないし緩和の方がニーズが強いと,こういう結果なんだろうと思うんですね。   一部,債務名義につきましては,単位会で賛成という,拡大に賛成という意見もありますけれども,特段ニーズという点での今日の概要を拝見いたしましても,具体的なニーズという点での御指摘ではないのかなと思っているところでございます。   それで,そのことをまず前提として,私どもの認識,そこに置いているわけでございますけれども,そういう前提に立った上で,本日の部会資料での議論との関係で申し上げますと,まず,債務名義の拡大については,執行証書なり,あるいは支払督促なり,仮執行宣言付きの判決なり,いずれにしても,債務名義という点では確定判決等と異なるところがないから,これをここに拡大をしてはいいのではないか,あるいはすべきではないかという御議論だと思うんですけれども,そこは少し理論的に必ずしもそうストレートに直結するものではないと思っております。と言いますのは,金銭債権の債務名義の執行力というのは,把握している責任財産を換価して,そこから回収をするということが中心となると思いますので,それ以上に債務者の,言わばプライバシーに属する財産状況について明らかにさせるというところまでの効力というのは,本来的にはあるわけではなくて,そこは,法政策的にどういうふうに設定をするのかという問題なんだろうと思うんです。   そういう議論の結果,15年改正では確定判決等に限定をして財産開示という制度を入れたというふうなことだと思いますので,そういう意味で言うと,債務名義を拡大すべきかどうかという議論のベースには,理論的にこうだからこうということではなくて,具体的な実情を踏まえたニーズとか,あるいは弊害とか,こういうものを踏まえた議論というのが必要なのかなと思っているところでありまして,その具体の中身については,もう既に執行証書については様々な弊害がある,支払督促,それから仮執行宣言付きの判決等については暫定的,暫定的といいますか,将来的に変わり得るものでもあるし,ニーズもそれほどないということで,債務名義を拡大する必要がないというのが私どもの考え方でございます。   ですから,私どものイメージとしては,債務名義の拡大という方向ではなくて,そこは,要件はきっちりと絞った上で,不奏功等の要件を撤廃ないし緩和することによって,間口は狭いといいますか,間口はある意味で絞った上で,それを通過したものについては,より容易に財産開示を認めていくというような,そういうイメージでして,これは一つの方向性としてあるし,実務の感覚としては,それが望ましいのではないのかということでございます。 ○松下委員 今,谷幹事から,執行力はどの債務名義でも同じだけれども,債務者のプライバシー,あるいはその情報を取得する部分については執行力そのものとは違うのだから,債務名義ごとに財産開示を使えるかどうか分けてもいいのではないかという御議論がありました。しかし,情報を取得できる力というのは,やはり執行力から来ているわけで,その執行力に差がない以上,情報を取得できる力に差があるというのは,やはり理論的には説明がなかなか難しいのではないかと思います。   従前からこの点については議論をしております。今日の机上の資料の概要の5ページから6ページにかけて,執行証書について様々な問題点が指摘されていますが,ここまでおっしゃるのであれば,公正証書を債務名義にすること自体が立法論として適切でないという立場を明らかにされるんであれば,私は十分理屈として理解できるんですけれども,公正証書を債務名義とすることは認めつつ,なお,しかし財産開示の基礎にはできないというのでは,私は,そこは理屈が通っていないのであって,今回の部会の所掌外ではありますけれども,例えば日弁連として,公正証書,執行証書を債務名義にすべきではないという立法論をお採りになるのかどうか,明らかにしていただいたほうがいいのではないかと考えます。 ○佐成委員 債務名義の種類の拡大につきまして,先ほどニーズの話が出たものですから,お話をさせていただきます。その前段として,松下先生が今お話された点についても,私の意見を申し上げておこうかと思います。   基本的に,私は本文の考え方に賛成しております。今回の見直しは,財産開示手続の実効性を高めていこうという趣旨でございますから,債務名義の範囲を拡張していくことについては,その必要性が非常に高いのではないかと感じております。   それから,理論的な面については,学者の先生がこれまでの議論の中でも,制限をすることについて余り理論的な根拠がないのではないかとの指摘をされておりますし,ただ今,松下先生がお話された点についても,私はそうだろうなと感じております。   その上で申し上げたいのは,先ほどのニーズがないというお話についてです。実際,支払督促については,現状では対象になっていないので,確かにどのようなニーズがあるのか分からないということかもしれないのですけれども,私どもの業界といいますか,例えばガスとか電気といった公益業界では,債務が滞ったとき,すなわち,ガス料金だとか工事代金だとか,そういったものが滞ったときにどうしているかというと,確定判決をとるような手続ではなくて,支払督促という手続をとっております。この場合,契約書といっても,届出している約款に基づいて契約しているものですから,債務名義も比較的簡単にとれるわけでありますが,執行できるかというと,やはり,なかなか難しくてできない状況です。せっかく債務名義をとっているのだけれども,無駄になっているということでございます。そのままにしているのかというと,公共料金なので公平性に反するのではないかと思われますし,現状では短期消滅時効なので,2年しますと時効になりますが,貸倒れという形で処理するのも大変なので,執行ではなくてもある程度督促をしなくてはいけないということで,集金の人とかに頼んでいろいろとやってもらうような格好になるわけであります。せっかく債務名義を持っているのだけれども,実際は宝の持ち腐れということです。では,件数としてどれぐらいあるかというと,実際,例えば,弊社で聞いてみたところ,それほど多くはなくて,年間10件ぐらいなのですけれども,そのほとんどが宝の持ち腐れになっております。   ところが,今後,民法改正で短期消滅時効が廃止になりまして,一律5年になるわけです。そうなるとちょっと話が違ってきまして,支払督促の債務名義をそのままずっとため込んでおくというわけにもなかなかいかなくて,どうにかしなければいけないということになります。財産がどこにあるかということは,特に個人のお客様についてはある程度なら分かる場合もありますけれども,事業者さんになりますと全く分からないところがありまして,やはり是非,財産開示手続を利用したいというニーズがございます。ただ,現状では支払督促では使えないので,弊社の集金の人に聞いてみても,あまり関心がないという話をされるわけですけれども,私からすると,もし債務名義の種類を拡大するということであれば,弊社のみならず,同業の公共料金なんかについても,多分そういったニーズが出てくるのではないかという気がいたします。   また,執行証書で問題になっているような弊害事例については,少なくとも公共料金について何か同じようなことをやるというようなことは,ブランド価値にも影響しますし,今競争が非常に激しくなっておりますから,そんなことはとてもできないという状況もあります。ですので,そういったような弊害は恐らくないだろうと思います。そういった意味で,是非ここは拡大をしていく方向というのがよろしいのではないかということを,実務家の一つの意見として申し上げておきたいと思います。 ○谷幹事 先ほど,松下委員が御指摘の,理論的な問題,違いがないのではないかという点ですけれども,そこは,ある意味では,どこまでいっても恐らく平行線なのかなとは思うんですが,基本的に私どもが考えていますのは,金銭債権の債務名義の執行力というのは,責任財産の把握,責任財産から回収すると,そこが本質的な効力でありますし,それ以上に,必要な情報まで開示をさせる,強制的に開示をさせるというのは,それはまた別だろうと。何らかの情報が必要であれば,それはそれで別途,例えば,本来的には判決手続でこの両方を明らかにしろというふうな手続もあるわけで,それはそちらの方で,判決の効力としては,そちらの方で実現すべきものでありまして,したがって,金銭債権の債務名義の効力の中に情報開示させるところまで含むというのは,理論的にはおかしいだろうと考えているところでございます。   それと,支払督促に関するニーズの御指摘がありまして,おっしゃるようなニーズというのは,企業等についてはあるのかなとは思います。一方で,その弊害につきましては,そういう企業であれば,そこでありもしない債権を主張して支払督促の申立てをするというのはあり得ないんだろうとは思うんですが,そうではない,個人の争いとか,あるいはヤミ金を含めた貸金関係では,利息制限法を超えるものとか,あるいは,余り根拠のないような原因を主張して支払督促を取得するというのは,これは現実にあるわけでございまして,私どもも法律相談を受けているとそういう例はたくさんありますから,そういうものに対する弊害,そういう弊害に対する手当てというふうな観点も必要なのかなと思いました。 ○山本(克)委員 今の谷幹事の前半の御意見は,結局財産開示制度は撤廃しろという御意見としか聞こえなかったんですね。つまり,ほかの確定判決においてだって,金銭債権の存在と,それから履行期にあることを裁判所が確認した上で給付命令を下しているわけですよね。それで,なぜ財産開示が正当化できるかということについて,何らお答えがないということになりますので,債務名義の種別によって変えるという話にはつながらない。金銭債権を表示する債務名義の効力は,財産を差し押さえることだけであって,情報を得ることにはないというと,もう財産開示制度全般をもうやめちまえと,そういう御意見にしか聞こえないということで,やはりそこを,少なくともそれは論拠にならなくて,あと考えられるのは,債務名義ごとの弊害なのですが,しかし,一応執行法の建前として,そういうもの,変な債務名義が出てくることは当然含みおいた上で,あとは請求異義で対処するという立て付けになっているわけですから,なぜそこを,その点を捨象して議論されるのかというのが,よく分からないところです。   それから,ニーズうんぬんというのは,ニーズの把握というのはそんな簡単なものではなく,つまり,結局,鶏が先か卵が先かという議論になってしまうわけですよね。ないからニーズがない,制度として使えないからニーズは浮かび上がってこないということもありますので,本当にニーズを把握しようとしたら,仮にこういう制度があったらどうしますかというような調査をきちんとして,初めてニーズがあるかないかというのは分かるんですけれども,残念ながら日本でそういうことを立法に当たってやらせてくれるだけの予算がありませんから,実感信仰ですよね。自分の実感こそニーズであると,ニーズの存否というのは自分の実感であるという議論がまかり通っているわけで,それはやむを得ないことだと思いますけれども,やはり制度がないからニーズが浮かび上がってこないという事態も考えられるということを,やはり認識した上で議論すべきだろうと思います。   それから,執行証書については,現在世界の潮流としては,養育費の実現の強化というのは,世界全体の流れといいますか,少なくとも少子化で悩んでいる国の流れであるわけですね。日本法も,僅かですが養育費,養育債権の実現を手続的に強化するというところは,執行法や倒産法において図られてきているわけです。協議離婚というものを認めている日本においては,では,協議離婚のときに養育費の定めをどうやって執行するかというと,即決和解も考えられるのかもしれませんけれども,執行証書によるしかないという実情があるということもやはり,これはきっちり頭に入れた上で議論すべきなのではないかと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○中原委員 執行力がある債務名義を有しているにもかかわらず,任意に債務を弁済しない債務者を保護する必要がどの程度あるのかということに関してはかなり疑問を感じます。   債務者が,現在は弁済等により債務が消滅したと主張して債務の存在自体を争うのであれば,執行停止という裁判手続によって争うという手段が保証されていますし,かつて問題になったヤミ金とかサラ金の被害という点については,平成18年に貸金業法が全面的に改正されて,新しい貸金業法が成立し,総量規制や上限金利の引下げ,貸金業者に対する規制の強化ということが国の施策として打ち出しされたわけですから,その施策を踏まえれば,過度に過去のサラ金被害を強調するのはおかしいのではないかと思います。   したがって,債務名義については拡大する方向で検討されるべきだと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○栁川委員 支払督促について何回かお話ししてきましたが,支払督促の中には,以前は,これは非常に問題があるのではないかというものがたくさんありました。平成15年頃,消費生活相談の窓口にも支払督促,執行証書,これらについては本来は行政機関である消費生活センターでは扱わないのですが,非常にたくさんの相談が寄せられました。消費生活相談の窓口では,それらについての情報提供を随分させていただきました。   近年は,今お話にもありましたように,業法が変わったり,事業者がコンプライアンスを重視した企業経営を行っているとか,相談窓口の機能が徐々に拡大・浸透してきているせいだと思いますが,最近は,消費生活相談窓口では,以前のように支払督促等に関する相談が多いという感じは受けません。   それから,支払督促というのは簡便な手続なので,最終的に債務名義とか強制執行という段階に至るまでにはたくさんのプロセスを経ます。そういうプロセスの中で,早期に問題を解決するということが非常に大切なのではないかと相談窓口を担当していて思いました。ですから,債務名義は拡張という方向で考えて,足りない部分については,情報提供とか相談窓口の周知・強化とかといったところで補っていけるのではないかと考えます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員 理論的なのか,政策的なのかは,少し従前から整理の仕方があったかと思うんですけれども,15年当時の状況にはないとは,少なくとも私はそういう理解をしています。   ただ,今回,先ほどのお話と共通しますが,新しく第三者からの情報取得制度を導入すると。その上で,何度も言いますが,債務者の手続保障という言葉を使うのかどうかはあれですが,債務者の知らないところで,場合によっては情報取得がされると。そういう制度が場合によっては実現するというのを,今検討しているわけですけれども,そうしますと,債務名義を広げるというのが一つの実効性の強化とは理解しているんですが,状況としては,不当な債務名義に基づいて,知らないところで預金情報が出ていくと。出た後で初めて,当該債務者は自分の預金についての情報が,債権者の方から取得されて,もちろんこの手続は,更に情報の流用に対する制裁ももちろん検討していますけれども,そういうふうなことが起こると。   従前の財産開示ですと,少なくとも本人を呼び出して開示させるのかどうかというところで,本人関与という場面があったわけですけれども,新しい制度は,立て付けによっては全く知らないところで預金情報が出ていくと。そういうことを想定したときに,先ほど山本克己委員がおっしゃったように,債務名義の種類を問わず,一律拡張というか,従前から更なる要件を課しているという,いろいろな説明の仕方がありますけれども,何ら今の制限を課すような形でなくて,そこまで行っていいのかというのは,一つ検討しないといけないと思っています。   仮執行宣言付きは裁判所が関与し,支払督促も裁判所の書記官が関与していますが,やはり執行証書の問題点というのは,裁判所が関与せずに作成されているという点で,整理しています,本来的に利用したい方ももちろんたくさんいるとは思うんですが,やはり問題のある場面の率が,他の2者に比べてはるかに大きいのではないかと,私は思っています。ですから,基本的には全部制限を一切撤廃するというところは反対ですが,仮に次善の策でいくにしても,やはり執行証書は問題が残るだろうと。   先ほど,あと,養育費等扶養料の関係で救済手続が必要だという御指摘がありましたが,それはもちろん認識をしているんですが,協議離婚の問題と扶養料というのは本来別の話で,今回のパブリックコメントの意見にもありましたように,例えば,費用的なことを言いますと,調停に付して,調停で調停調書の上で金額を決めてもらうほうが,公正証書を作成するよりもはるかに安い費用でできるわけで,むしろ手続的にはそちらへの誘導というようなことを考えるべきであって,協議離婚とあと公正証書でしているから,それを強化する方向でいくというのであったら,違うルートというのも考え得るのではないかと思いますが,その点指摘したいと思います。 ○山本(和)部会長 今の阿多委員の御意見は,第三者からの情報の取得の要件をどうするかというのは,この後の第2の方の問題になるわけですが,この第1の現在の財産開示の制度との関係においてはいかがでしょうか。 ○阿多委員 御指摘のとおりですが,共通要件にするんだろうということで,私は前者と後者と区別する理由はないと思っていますので,後のことも併せて,今は考える必要があるだろうと,そういう整理をしています。 ○山本(和)部会長 分かりました。 ○山本(克)委員 調停への誘導という点については,かなり私は違和感を持ちます。   というのは,調停が安いということは,それは国民が負担しているということですね,税金で。そういうことに誘導するのが,本当に正しい方向なのかという点については,安けりゃいいという話ではないと思います。 ○阿多委員 そこのところで議論しても…… ○山本(和)部会長 そこは,ちょっとここの,ここの御回答は。 ○阿多委員 コスト論はあれですけれども,やはり執行証書の問題点というのは,成立についての形式的審査はなされているけれども,中身の相当性のところで問題があって,そうすると,調停委員会等が関与するほうが,公正な内容が実現できるんではないかという形で誘導と申し上げたんで,コスト論にこだわるわけではありません。 ○今井委員 今の一連の御議論を聞いておりまして,債務名義の拡大のテーマと,それから不奏功要件の撤廃のテーマというのは,もちろん論点としては別ですけれども,お聞きしていて,本当に今気付いたというと僭越でございますが,切り離せない関連論点だなということを,実に感じた次第でございます。   漠然とですが,今,谷幹事が申し上げた暫定的な判断が上でひっくり返った場合どうするかという意味では,確定判決ということで固めに絞って,それでこの開示手続にというのは,漠然とそう考えていたんですけれども,今の佐成委員,栁川委員,それから山本克己委員のお話を聞いていると,やはり幅広く債務名義が国民のいろいろな社会活動,経済活動に果たしている役割というものは,言うまでもないことなんですが,お聞きしていると,やはりハンディーで,先ほどの協議離婚であれば執行証書でやると,それはそうだろうなという感じがいたしました。   そうだとすれば,そのハンディーな債務名義は,執行力がないと意味がない,債務名義と執行は一体ですので,そういう面からも,債務名義を拡大して,よりハンディーで使い勝手のよい債務名義を拡大するに伴えばこそ,不奏功要件というこの煩瑣な,私に言わせると意味のない手続を次のハードルに置いて,事実上,債務名義の執行力を減ずるというようなことはまずいなという意味からして,拡大するからこそ,より一層不奏功要件というのはなくす方向であるべきではないかと。   そこで,債務者保証というのがあるのかないのか,これについては,少なくとも先ほどの繰り返しですが,プライバシーや営業秘密ということであれば,それはちょっと論点が違うのではないかと,こういうふうに思っている次第でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○中原委員 債務名義の拡大に慎重な御意見をお聞きしていますと,基本的にその制度が不当に利用された場合に債務者に何らかの被害が生じるのではないかということを懸念されているように思います。しかしながら,債務名義を有していながら弁済を受けていない債権者の方が大多数であり,債務名義を持ちながら任意に履行してもらえない正当な債権者を犠牲にしてまで,少数の濫用的制度利用を重視する必要があるのかという点については,違和感を覚えます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○勅使川原幹事 また平行線と言われてしまうかもしれませんけれども,やはり今回,財産開示なり第三者からの情報取得なりを強制執行の準備と位置付けて,そこで正当化していこうということでないのであれば,どんなに債務名義を制限したって,もしそれができないということであれば,当然財産開示だってできないし,第三者照会もできないと持っていかないと,筋は通らないことになるのではなかろうかと思います。   拡大と申しますけれども,本来的にはやはり債務名義の色分けというのは理論的にはちょっと難しいかなというところで,15年の時点では,もろもろの理由から制限をかけたということですけれども,中原委員,栁川委員おっしゃったとおりに,関係の業法の整理もあって,濫用のおそれについては大分減っているということ,あるいは,本来的にはこういう,本来金銭債権がないにもかかわらず強制執行をかけてしまったというような場合でも,やはり執行停止の裁判で対処するというのが本策だったんだろうと思いますので,ここで,債務名義の色分けによって情報取得の制限を正当化しようというのは,ちょっと理論的にはやはり難しいのではなかろうかと考えているところです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○山本(克)委員 プライバシーのことについては,以前安易に使うべきでないということを申し上げましたが,またちょっとその点について申し上げたいと思いますが,プライバシー,財産情報全般がプライバシーではないわけですね。つまり,公簿に登記されているようなもの,登記登録されているものは,これは公開情報ですからプライバシーには属さない,少なくとも不動産や登録特許権などの財産を持っていれば,それは当然開示すべきものであって,それは債務名義の種類に関わらない。   だから,全部プライバシーに属するんだから網をかけるべきだという議論は,やはりおかしいわけですね。法制度全体の観点からして,そんなものをプライバシーだというようなことはできないので,仮にプライバシーをうんぬんされるんであったら,どの範囲がプライバシーに属する情報なのかということをはっきりさせた上でおっしゃっていただかないと,おかしいことになるのではないのかということを危惧します。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   債務名義のところは,大体議論は出たということでよろしいでしょうか。 ○垣内幹事 債務名義のところについては,既に議論は大体出尽くしているのかと思っておりまして,私自身は拡大ということでよろしいのではないかと,今のところ考えております。   御発言しようと思いましたのは,不奏功等要件についての議論に関しまして,先ほど阿多委員の方から,不動産があることは分かっているのだけれども,その不動産の執行というのは現実的には困難があるというような場面について,債権等があれば,そちらの方に強制執行したいというようなニーズを御指摘されて,確かにそういう債権者側から見ると,その方が便宜だという場面というのは,なるほど想定できるのかなということで伺ったんですけれども,しかし,翻って,財産開示の義務を課すということで,ある場面では阿多先生ほかも強調しておられる情報の開示ということに伴う不利益ということも課すわけですし,また,債務者本人の場合には出頭等の問題,負担ということもあるということが,ほかの場面でも指摘されておりますが,それを,強制執行をすれば全額満足が得られるということが分かっているという状況で,他により便宜なものを求めて財産開示を使うというところまで認めていいのかというところについては,およそあり得ない考え方ということではないのかもしれませんけれども,少なくとも現行法の下で,そこまでの債権者の便宜を図ろうということでこの制度が設けられているということは,なかなか言いにくいのかなという印象を今のところ持っておりまして,そう考えると,基本的にはこの不奏功等の要件というのは維持するということになってくるのかなと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○阿多委員 応援の意見かと思っていたら違ったんですけれども,私自身,今までの発言からお酌み取りいただけると思いますが,財産開示の要件と第三者からの情報取得の要件というのは,もう同じものになるだろうと。ですから,先ほど197条の要件と申しましたけれども,それが多分,第三者からの情報取得の要件になり得るかと思っていまして,特に預金情報についての情報の価値の議論が後で出てくるかと思いますけれども,先ほど挙げたような例の場合には,第三者からの情報取得が認められるような法制度,さらに財産開示と共通すると駄目なのかもしれませんが,要件を変えるとか,いろいろなことが考えられると思うんですが,現状,そういうふうな実務上の支障がありますので,そういうことを踏まえて要件緩和,繰り返しますが,第一次的には撤廃ですが,要件緩和を御検討いただけたらと。財産開示だけを想定して発言したわけではありませんので,その点付加しておきたいと思います。 ○山本(和)部会長 この問題は,後の第2のところで引き続きということになるかどうか分かりませんが,さらに御議論いただきたいと思います。ほかに。 ○阿多委員 すみません。違う項目よろしゅうございますか。 ○山本(和)部会長 はい,どうぞ。 ○阿多委員 いわゆる再実施制限の緩和についてですが,今回,この資料を拝見しますと,3年要件について,パブリックコメントの中でも現行法のままという形のものが出ていて,その後に財産情報が取得された場合には,197条3項ですか,3項で対応すればいいという御指摘ですが,やはり近時の財産構成の変化ということで,3項というのは,財産があることがある程度分かって,新たに取得したことが分かった場合の問題なのだと思うんですね。それが分からないからこそ開示を求めるのであって,期間短縮の根拠として,3項があるから,取得したときなどに限ってとありますけれども,それが分からないからこそ,再度の申立てを考えるんであって,やはり期間は3年というのは長過ぎるのではないかと。従前から私は1年という提案をしていましたけれども,今回もやはり1年というので検討すべきではないかと,その点触れておきたいと思います。 ○山本(和)部会長 いかがでしょうか,その再実施制限のところは。1年とすべきだという御意見ありましたが。 ○山本(克)委員 雇用の流動性がすごく高まっているわけで,どんどん勤務先が変わるという人もたくさんおられるわけですので,そういうことで考えると,財産状況の変化とスピードというのはかなり速いと思いますので,1年が適当かどうかというのは定見ありませんけれども,3年でいいのかどうかという点については,少し検討したほうがやはりよろしいのではないかなという気がします。 ○山本(和)部会長 いかがでしょうか。もちろん,他方では,1年というようなことになると,必ずしも財産を持っていないかもしれない債務者にとっては,負担が増加するという面もあろうかと思いますけれども。 ○栁川委員 資産状況の変化の頻度が高まっているとのお話がありましたが,ごく平凡な暮らしをしていると,それほど激しいものかどうかはよく分かりません。よく分からないという前提で申し上げますが,この本文の記述に,財産開示の手続の実施に伴う債務者の負担をできる限り少なくするという趣旨であるとの記述があります。そういうことから考えると,一般の人にとって裁判所は非常に敷居の高いところで,そこに,例えば,期間を1年と定めた場合,1年はあっという間に巡って来るので,毎年呼び出されて,宣誓を求められたり,仕事を休んだり,自分の時間使っていくということは,一般のごく普通の債務者にとっては非常に酷であり,非常にストレスがかかるのではないかと思います。かといって,3年がいいのか,2年がいいのかは分かりませんが,1年は,債務者にストレスがかかり過ぎるのではないかと思います。 ○村上委員 栁川委員と同様の意見でございまして,雇用が流動化し,転職する人もかつてに比べれば多くはなってきているかと思いますが,ただ,毎年毎年職を変わるという人が多いわけではありませんので,そういったことを考えると,再実施制限を1年に緩和すると,やはり債務者の負担は高まっていくのではないかと思っておりまして,現行の3年でよいのではないかと考えております。 ○山本(克)委員 先ほど,実感に基づいてニーズ論の話をすべきではないと言いながら,これからそういうことを言うんで申し訳ないですが,今お二人の委員の方がおっしゃったような,ごくごく普通の生活をしている方については,財産把握がしやすくて,債権者も比較的,銀行の預貯金の部分さえ実現できれば,恐らくうまくいくだろうと思います。持家を持っておられるんであれば,そこの住所を調べて,登記簿を見て,ああ,御本人の所有だなということで差し押さえるということが可能だし,転職をそれほどされていないということであれば,勤務先も大体掌握できるということで,この手続に乗ってくることがあんまりないのではないのかなと想像します。むしろ,こういう手続が必要とされるのは,頻繁に住所を変えたり,職を変えたりするような人について,ニーズがより高いのではないのかなという感じがしますので,債務者像というものとして,おっしゃる趣旨は非常によく分かるんですけれども,そういう人を標準として考えるべき制度なのかどうかという点が問題ではないかなと思います。 ○山本(和)部会長 ほかに,この点いかがでしょうか。 ○阿多委員 実務家の発想のようなことを山本克己委員に発言していただいたんですが,僕は逆に,毎年毎年と申し立てるのは,従前からですけれども,ある意味で濫用的な利用という形で,それはそれで一般原則で対応するなりの方法が可能なんだと思うんです。そもそも財産開示の一定の割合では,例えば話合いによる和解で分割払いの話がなされて,そうすると,それがなされている限りにおいては,再度の申立てがなされるというようなこともありません。開示をして,何も解決せずに,ないしは約束をしたけれども全然払われないというような場合のケースが対象ですし,新たに第三者からの情報取得で預貯金情報が取得できるのであれば,回収が意図であれば,財産開示を毎年毎年申し立てるということは,コストのことを考えても,余り考えないです。   そうすると,濫用的な申立てがされた場面については,規定に置くのか,ないしは一般原則で対応するのかということがあるかとは思いますけれども,制度自体を今のままというのではなくて,ほかの対応方法で処理すべきであって,むしろ財産情報の移動の今のスピード感というのを考えると,期間は短くすべきではないかと。同じ話を山本克己委員と繰り返したことになりますけれども,そう思いますので,その点を付加したいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかには,この点いかがでしょうか。よろしいですか。   事務当局の方から何かありますか。 ○松波関係官 阿多委員から,毎年毎年申し立てる人はいないだろうというような御趣旨の御発言を頂いたわけですけれども,そうすると,再実施が制限される期間を例えば1年に短縮することによって,誰がどのような利益を受けるとお考えなのか,必ずしもよく理解できなかったところがございます。   また,資産変動の頻度が高まった理由の一つとして,雇用関係が比較的スピード感が増したという御指摘があり,毎年転職するような人についてはこの制度を使う必要があるというような御指摘も受けましたが,他方で,雇用関係が終了した場面というのは,現行の規律においても,類型的に,再実施が許される例外要件に当てはまるということになっておりますので,このような場面を念頭に置いて議論することの適否についても,更に議論が必要なのではないかなと感じた次第でございます。これらの点について,阿多委員から補足的な御意見があれば,お願いします。 ○阿多委員 御指名いただきましたのであれですが,毎年毎年というのは,イメージとして,私は先ほど申したように,濫用的な形で,3回,4回と,10年間ずっとというようなことをイメージして申し上げたんで,場合によっては,1年後で実現,財産関係が変動して回収が可能であれば,それで終わってしまいますので,毎年毎年というのは,先ほど言いましたように,濫用をイメージしての発言です。   雇用というところについてこだわって申し上げているつもりは全くなくて,今の財産状況の変動はいろいろあるんだろうということの一つの例にすぎません。特に,法人の立場で実は発言するんであれば,貸倒れ償却の要件を満たすかどうかの判断であって,実際それほど毎年しなければいけない,だから,実回収を意図してなのか,貸倒れ償却なのかということで考えると,本来貸倒れ償却であれば,それほど毎年する必要は全くないわけで,実回収をしなくてはいけなくて,話合いにも一切応じてもらえないというケース,そういう場面しか,あんまり出てこないのではないかなと思いまして,弊害論については他の対応で処理してはどうかということです。 ○内野幹事 そうすると,再実施制限の期間について,1年という数字の正当性が特にあるわけではなくて,感覚的な御意見として,現行法が3年としている点を,1年ぐらいに期間を短くするべきだということを御指摘いただいたということでしょうか。その点についてのいわゆる動機といいますか,実質的な理由については,例えば,雇用の流動性というようなことが一つの例として具体的に示されたところですが,阿多委員としては,どこを気にされて,期間を短縮すべきだとおっしゃっているんですか。 ○阿多委員 どこを気にされてということに関して言うならば,いわゆる財産開示の実効性という,非常に抽象論があって,なおかつ,少なくとも,これも立法事実も含めて,再度の申立てができなくて支障になっているとか,そういう数字があるわけではないわけですけれども,3年という間隔がやはり何かの手続をとる上で非常に長過ぎるなと,そういうふうに思うものですから,3年という期間ではなくて,もっと短くしたらいいのではないか。本当に理念だけの話です。 ○山本(克)委員 もう短期消滅時効がなくなるときに,こういうことを言うのがどうかは別として,少なくとも短期消滅時効にかかる債権はたくさんあるわけですよね。やはりそれで3年未満のものも時効期間があるという前提を考えると,もう少し短くてもいいのかなという気はしなくはない。 ○山本(和)部会長 分かりました。   それでは,大体よろしいでしょうか。   債務名義の種類の拡大についてはかなり御議論がありました。発言された委員,幹事の中では,賛成の見解が多かったかとは思いますけれども,なお懸念を示される委員,幹事おられたかと思いますので,ここは引き続き御議論を頂ければと思いますし,不奏功要件,再実施についても,やはり両論出たということかと思いますので,引き続きたたき台に向けて,なおまだ議論が必要だということかと思います。   次に,それでは,資料7ページ2の罰則の見直しの部分でありますけれども,ここについて御議論を頂ければと思います。いかがでしょうか。 ○阿多委員 罰則のところは,反対意見ももちろんあるのでしょうが,私は,刑罰という手続にし,対象としても,8ページの3のところでは,手続違背全体という形で考えています。   議論が多分あるのは,4の罰則の内容のところで,懲役刑を含むのかどうかというところですけれども,やはりここで挙げられている例のうち,懲役刑がないものとの比較ということを考えてみると,少なくともやはり,財産開示の手続違背で懲役刑までのものを想定しての刑罰は重過ぎるのではないかという感想があり,結論だけですけれども,バランスを考えて刑の内容を定めるべきではないかと思います。その点だけ,議事に残していただけたらと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○成田幹事 罰則の強化の必要性については,ここで御議論されているとおりですし,どれぐらいの罰則を科すかというのは,定見があるわけではありませんが,一つ注意したほうがいいかなと思うのは,完全に刑罰に置き換えてしまった場合に,かえって実効性が失われる可能性はないかなというところであります。   実例を申しますと,過料の制裁は,不出頭に関しては債権者の方から過料相当の上申が出れば,ほぼ間違いなく過料の制裁がされるところでありますが,刑罰になりますと,検察官によるかなり広範な訴追裁量という問題がありまして,そうすると,かえって債務者の方が逃れられる余地が広がるのではないかという懸念があるところでありますので,その辺りは考慮したほうがいいのかなと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員 今,過料と検察官の裁量の話になりましたけれども,逆にちょっと,刑罰になったときのその後の手続なんですが,今は,債権者の方で過料上申というような形で上申をして,裁判所の方があと職権の発動をするかどうかという形で対応されていると思うんですが,今回,刑罰という形になると,実際に手続組んでから,債権者の方で検察庁等に告訴,告発というような形で対応することが想定されていると。そこの手続の立て付けなんですが,裁判所の方が不出頭でけしからんというので告訴していただけるんであれば非常に楽なんですが,そういうことに多分ならないとは思うんですけれども,どういうふうな手続が想定されているのかというのは,御質問したいと思います。   それから,おっしゃるように起訴裁量の問題があるんですが,やはり公益違反というか,個人と法人は違うかと思いますけれども,法人において刑罰という形で対応された場合に,許認可を受けている業界等であれば相当影響があります。少なくとも,現時点でも貸金業等であれば,今の過料と違ってかなり影響がありますので,効果としては,仮に裁量になるとしても,将来リスクを考えると,不出頭等を含めて対応しないということは大分減るのではないかと思いますので,やはり刑罰が望ましいということを,重ねて発言しておきたいと思います。 ○内野幹事 今回の資料で参考に書かせていただいております様々な刑罰法規についての運用と,それと大きくは変わらないのではないかとは考えておるところではございます。   例えば,不動産競売における売却基準価格の決定等の場面の手続や破産に関するものを書かせていただいていますが,一般論として申し上げれば,これらの刑罰法規と同様の運用になっていくだろうということを想定しております。 ○山本(和)部会長 ほかには,この罰則の点はいかがでしょうか。   このパブリックコメントの結果でも,あるいは,これまでのこの部会の議論でも,罰則を強化するという方向性については,おおむね異論はなかったかと思います。今,成田幹事から若干の御注意があったということかと思いますし,また,罰則の対象,強化の対象としては,全ての手続違背を対象とすべきだということも,大体の一致はあったかと思います。   仮に刑罰化した場合の刑罰の内容,懲役刑等を含むかどうかというのは,引き続きの課題かと思いますけれども,その他の点については,大体そのような方向での御異論はないと伺ってよろしいでしょうか。   ありがとうございました。 ○山本(克)委員 法人の場合に,両罰規定にするかどうかという辺りは,どうなるんでしょうか。 ○内野幹事 それも含めて論点だと考えております。 ○山本(和)部会長 それでは,よろしければ,以上で一応この第1の部分の検討は終わりまして,引き続きまして,「第2 第三者から債務者財産に関する情報を取得する制度の新設」の部分について御議論いただきたいと思いますが,まず,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○松波関係官 部会資料14-1の第2の部分について御説明していきます。   資料の9ページ以降の部分では,「第三者から債務者財産に関する情報を取得する制度の新設」について取り上げております。もっとも,今回の資料では,私人からの情報取得のみを取り扱っておりまして,公的機関からの情報取得については取り扱っておりません。   まず,9ページでは,第三者からの情報取得制度の対象とする第三者と情報の範囲について取り上げております。これまでもこの点が大きな論点となっておりましたが,今回の資料では,意見募集の結果等々も踏まえまして,試みに,二つの案をお示しいたしました。   甲案は,試案の本文で掲げたような預貯金債権に関する情報取得の制度を一つ取り上げておりまして,また,乙案としましては,預貯金債権に加えて,株式,投資信託受益権等のうち,いわゆる振替制度の対象となるものに限って,この制度の対象に含めるものとするという考え方を取り上げております。乙案におきまして,いわゆる振替制度により取り扱われるものに着目したのは,これらの財産が,恐らくは容易に処分することができるというものであるため,探索的な差押えの方法による対応では,一定の限界があるのではないのかという御指摘があったことを踏まえたものですが,このような指摘を,資料の11ページと12ページに書かせていただいております。また,これらの振替制度により取り扱われている財産は,基本的には,金融機関において,預貯金債権と同様に,電子的な情報管理システムが整備され,それにより管理されていると考えられるため,情報提供義務を負う第三者の負担がそれほど大きくはないのではないかというような御指摘もありましたので,この点を資料の13ページに書いております。これらの指摘につきましては,恐らくは,株式や投資信託受益権に限らず,社債,国債などのように,いわゆる振替制度の対象となる金融資産全般に当てはまるのではないのかというような御指摘もあろうかと思います。今回の資料で株式投資信託受益権に続いて,「等」と記載しておりますのは,この意味で,いわゆる振替制度の対象となる金融資産の全般を含むべきであるとの考え方もあるのではないのかという趣旨で,ある程度の幅を持たせた書き方をさせていただきました。   また,部会のこれまでの議論におきましては,株式,投資信託受益権のほかに,生命保険契約解約返戻金請求権などについても,様々な御意見を頂いていたところでございます。しかし,生命保険契約解約返戻金請求権につきましては,その財産の性質等が必ずしも預貯金や株式,投資信託受益権等々とは異なるのではないのかといった御指摘も,これまで頂いたところでございまして,また,解約返戻金請求権に関する情報提供に伴う第三者の負担といいますものは,預貯金債権に関する場面と必ずしも同列には扱えるわけではないといった御指摘もあったかと思います。   こういった御指摘等のほか,第三者からの情報取得制度を円滑に導入する必要性をも踏まえまして,今回の資料では,この制度の対象となる第三者と情報の具体的な範囲につきまして,ただ今御説明しましたような二つの案をお示しさせていただきました。この点について,御意見いただきたいと思います。   続きまして,資料の16ページでは,第三者から情報を取得するための要件について取り上げております。財産開示手続のうち,申立てに必要とされる債務名義の種類を仮に拡大するのであれば,こちらも同列に扱うというような考え方があろうかというところでございまして,いずれの債務名義についても,この手続の申立てをすることができるということが,一つの考え方になろうかと思います。   また,資料17ページでは,この第三者からの情報取得につきましては,財産開示手続との先後関係について取り上げております。この論点についても,部会のこれまでの議論においては,大きな論点となっておりましたので,今回の資料では,これまでの議論や意見募集の結果を踏まえまして,二つの考え方を記載してみました。そして,預貯金債権や株式,投資信託受益権等に関する情報取得の場面を置く限りにおいては,各意見の根拠については幾つかの御指摘があり得るかなと思っておりますが,例えば,現行の民事執行法においては,これらの財産に対する差押命令が発令された場面では,債務者に対する事前の手続保障がないまま,陳述催告の手続によって,第三者である銀行等から情報が一定程度開示されるということになっておりまして,こういった現行の民事執行法制の在り方との比較という観点でも,議論があるのではないかと思います。   このほか,資料の21ページ以降では,回答の送付先等や第三者に対する費用等の支払,情報の保護などの論点を扱っておりますが,これらの点につきましては,部会のこれまでの議論や意見募集の結果を見る限りにおきましては,基本的には試案の方向で行くのだというのが,一つの考え方として示されているところかと思いますので,特段の御意見あれば頂きたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   この部分も,幾つかの項目に分かれておりますので,区分して進行したいと思いますが,まず1,第三者及び情報の範囲の点でありますけれども,今回は,従来示されていた甲案というようなものに加えて,乙案という形で範囲を拡大する案も提示をされているところでありますけれども,御自由に御質問,御意見をお出しいただければと思います。 ○阿多委員 今般対象として乙案という形で,振替制度に載せている社債等も対象にすると。   まず,乙案には少なくとも賛成です。ただ,先ほどの御説明もありましたけれども,逆に振替制度に載っていない財産については,もう対象外というような形での御意見,事務局案なのかなと思うんですが,そういう,11ページの中ほどのアの(ア)の「もっとも」というところに似たような御意見なのかなと。   株式,投資信託受益権については,振替に載っていないものについては,今回の乙案の対象外にされるのかと思うんですが,やはり,株式については,実際振替に載っていない,例えば,その他財産権等で差し押さえてするような市場性のない株式であれば,実際それほど必要性はないと思うんですが,投資信託について,支店勘定で管理をしているものについては財産的価値もありますし,それを外すというところが,なぜなのかなというのがよく分からない。多分,管理,可能性の問題かと思うんですけれども,この議論をするときに,まず第三者からの情報取得という議論の前提は,第三者の方に財産に関する情報収集義務を負わすのではなくて,その時点で持っている財産に関する情報を開示しろというのが,制度としてイメージしているんだと思うんですが,であるならば,もちろん第三者のシステム等によって管理能力は異なるとは思いますけれども,その時点で,当該第三者が管理できているのであれば,その振替制度に載っていない財産であっても開示の対象から外す必要はないと思いますし,あとは,第三者の事務処理との関係で決めればいいんであって,最初から制度から外すという必要はないと思いますので,その点御検討いただけたらと思います。 ○内野幹事 第三者の事務処理能力との関係で決めていくというのは,どこの場面のことをおっしゃったのでしょうか。 ○阿多委員 回答の内容として,つまり,最初から振替制度に載っているものに限定して,その他についての回答義務は負わないというような制度にする必要はないのではないかということです。 ○内野幹事 つまり,回答できないものはしなくてもいいけれども,制度としては回答義務を負わせるということなんですか。 ○阿多委員 ですから,情報収集までは負わせないけれども,その時点で認識しているものを回答してもらえばいいのではないか。つまり,債務者の申し上げている第三者によって,後のところでも出てきていますが,生保のところでも記載がありますが,そのような体制が整っているのか,整っていないのかというところで,整っていないというところは,では回答できないというようなことがあり得ると思うわけですが,でも,整っていて,その支店で何があるかということも含めて管理できているような第三者であれば,その情報を提供してもらっていいのではないかと思うんですね。そういう意味で申し上げているつもりですが。 ○山本(克)委員 よろしいですか。   今のは,A銀行とB銀行で同じ商品について,回答義務がある場合とない場合を認めるという議論ですか。 ○阿多委員 私自身はそう考えています。 ○山本(克)委員 それは,法制度としては無理なのではないでしょうか。送付嘱託的なイメージで考えるならともかく,義務を課しているわけですから,それは無理なのではないですかね。 ○阿多委員 申し上げているのは,おっしゃるように義務を課すんですが,少なくとも現時点では,制裁を伴わない形のもので運用が始まるかと思っていますので,最初の試みのときにはそれでいいのではないかというのが,一応私の考えです。 ○山本(克)委員 制裁の有無と義務の有無というのは,必ずしも連動しないわけで,例えば,消費者被害を引き起こしたような企業が債務者である場合に,A銀行には問い合わせたら答えてくれたけれども,B銀行は答えてくれなかったと,弁護団がパンパカパーンとやると,これ,もうレピュテーションリスクの問題ですよね,Bにとっては。そういうものを含んだような制度を作るのがいいのかどうかというと,これは非常に問題であって,やはりできるということが我々として確証持てるものに対して義務を課すというのが,正道なのではないでしょうか。 ○山本(和)部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○中原委員 甲案は情報の範囲を預貯金債権に限定し,乙案は,甲案の規律に加えて,振替決済制度の対象となっている株式や投資信託受益権等に関する情報についても回答を求めるものです。貯蓄から投資へという流れが促進されているので,預金から投資信託へ資金が移動していることは事実と思います。   問題は,先ほども若干議論がありましたが,金融機関において,全店照会システムの組み立て方やコンセプトが揃っていない点であると思います。例えば,預金であれば,時間をかければ,全ての金融機関において全店照会ができる状況にあると思います。しかし,投資信託の全店照会については,全ての金融機関において全店照会ができるようにシステム設計がされているのかは,調査してみないと何とも言えないと思いますし,かつ,どのような内容の照会ができるのかも統一されていないかもしれません。例えば,預金であれば,支店・勘定科目・口座番号・残高は共通して照会可能と思いますが,投資信託の場合には,何が共通しているのかは調査する必要があると思います。   したがって,乙案にすること自体について強く反対しませんが,仮に乙案でいくのであれば,全ての金融機関について全店照会機能の有無や照会可能項目が共通であるのかを調査した上で議論していただかないと,先ほど山本克己委員のご発言にありましたように,ある金融機関は全店照会は可能だが,ある金融機関は出来ないということも有り得ると思いますので,その点については慎重に御検討お願いしたいと思います。 ○山本(和)部会長 もしよろしければ,先ほど阿多委員が言われた振替制度に載っていないような投資信託,株式等についてもコメントいただければ。 ○中原委員 上場株式は全て振替決済制度の対象となっていますが,投資信託には制度振替決済制度の対象となっていないものもあります。例えば,各支店で保護預かり等により管理している有価証券は全店照会の対象にはなっていないと思います。今回議論している第三者からの債務者財産の情報取得制度は,本店に照会を行えば,全店での取引情報の回答を得られることを予定しているので,システム的に把握できないものについては,本店から支店に個別に照会し,回答を得るという作業負荷が生じます。これは,極めて負担が大きいと思いますので,乙案でいくとしても,振替決済制度の対象となり,全店照会が可能なものに限定していただかないと,第三者債務者の負担は極めて大きいと思います。 ○山本(和)部会長 分かりました。 ○道垣内委員 私は,阿多委員がおっしゃっているところは,非常に論理が一貫していると思うのですね。乙案を,答える側が負担がないというものとして捉えて,そうすると,振替制度に乗っていなくても,答える側にそれほど負担がない場合はあるだろう,だからその場合にも,という発想なんだろうと思います。   しかし,私は,その発想自体が適切ではないと思います。つまり,これは以前も発言をしたことなのですが,預貯金に関しましては,改正民法477条でも,預金債権ないしは貯金債権というものを債権者に得させたという段階で弁済の効果が発生するという形で,ある種,金銭に似た効果を与えているわけですね。それに対して,振替制度が用いられている様々な権利について,その移転について金銭の移転に似た効果が与えられるということになっているのかというと,なっていないと思いますし,また,社債,株式等の振替に関する法律とか,そういった振替制度を定める法律というものが,第三者に対する情報開示という効果が付着したものとして構想され,公示内容が決定されているのかというと,そうではありません。   したがって,私は,阿多委員の見解が一貫していることは認めますが,その一貫している最初の出発点が賛成できない結果,甲案を指示したいと思います。 ○山本(和)部会長 分かりました。   ほかには。阿多先生,先ほどの話。 ○阿多委員 よろしゅうございますか。   中原委員からも御指摘ありましたように,管理できている,できていないは,表現はちょっとあれですが,どうしても最低限に合わせるということにならざるを得ないんですが,特に資産家等で投資信託をする場合に,振決に載せて売買するという形ではなくて,むしろ取引銀行との間で管理して,それで資産として保有し続けるというのが,それなりの割合があるという認識です。   にもかかわらず,それらについては,先ほど言いましたように,金融機関によっては,把握できているにもかかわらず,それについて回答を得る機会を最初から制限してしまうのでいいのか,やはりそこが疑問でありまして,何度も言いますように,できないところがあると,そこに合わせるとなるので,やはり今回,財産情報について第三者からの取得という制度を考えるんであれば,お持ちであれば出していただくと,そういう形で制度は考えていただけたらなと思います。   やはり,繰り返しますけれども,株式については,非上場のものについてということまでは考えていませんし,それ以外に店頭売買も何もありませんので,株式はですね。問題は投資信託だと思うんですが,投資信託について,分からないと言いますけれども,ここまでいくとあれですが,普通預金口座等を開設しているその支店で,多くの場合は取引をなさって,そこで管理をしているということが多くて,投資信託を設置されている口座と日頃の取引銀行,支店とが全く違うというのは,これもあんまりない例なわけで,でありますと,実際は,情報収集というのはそれほど負担ではないのではないかと思って。もちろん本店に照会して,支店にそこまでさせるということが今回の内容になるのかあれですけれども,繰り返せば,本店で把握されている例があるにもかかわらず,回答が得られないという制度は,やはり制度としては不十分ではないかと。同じ話を言っているだけですが,そういうことを述べておきたいと思います。 ○山本(和)部会長 分かりました。   ほかにいかがでしょうか。 ○山本(克)委員 振決に載っていない投資信託を差し押さえる際は,支店ごとという預金と同じ扱いにしているのか,本店一括で差押命令を送っているのか,どちらなんですか。現状ですが。 ○谷藤関係官 振替制度の対象となっているものであれば,本店に送達し,載っていないものだと,恐らく支店ごとということになるのではないかと思うのですが。 ○山本(和)部会長 現状で,振替制度に載っていないようなものというのは,相当あるという認識なんですか。 ○中原委員 ほとんどが証券会社で販売する仕組債や外貨建の投資信託のような特別なものだと思います。数量は分かりませんが,金額は大きいと思います。 ○阿多委員 今お話ありましたけれども,知る限りにおいては,基本的に支店で,なおかつ銀行の付随業務として証券会社作成の商品を付随業務として支店で販売されて,支店で管理されているというのが多いと認識しています。かなりの資産額になるんだろうと思います。 ○中原委員 銀行が販売するのではなく,仲介で証券会社を紹介するというのが一般的な金融取引です。銀行が証券会社の仕組み債を販売することは,まずないと思います。 ○阿多委員 言葉の選び方として,直接販売されているというわけではありませんので。 ○山本(和)部会長 分かりました。   ほかに,この点いかがでしょうか。 ○垣内幹事 私自身は,審議の初期の段階から,基本的には義務の根拠について,かなり抽象論としては広く及び得るような考え方に親和的な考えを持ってまいりましたので,そういう観点から見ますと,乙案というのは非常に魅力的な提案に映るということがございます。   ただ,どこで線を引くのか,その線を引くときに,何に着目して引くのかということが,なかなか難しい問題かなと考えておりまして,甲案の基礎にある考え方は,基本的には,先ほど道垣内委員の御指摘のあった預貯金というものがどういう機能を果たしているかという,金銭との類似性に着目するという点と,それに加えて,現在の差押えにおける取扱いで,店舗の特定までが要求されているという基本的な理解ということが前提となっているということかと思いますので,それが重要だと見るのであれば,甲案だということになるんだと思いますけれども,前者の金銭と同じ機能というのは,預貯金の特殊性というものを非常に特徴的に示しているという点では分かりやすい切り口ではあるように感じますが,金銭と同様のものを預かっている場合には開示義務があって,金銭と同じでなければないというように,義務の存否に直結する話なのかどうかと考えますと,そこは,私には今一つよく分からないところがございます。そういう意味では,決定的ではないのではないかと。   決定的だと考えられたのは,差押えの際の取扱いが特別であるということ,これは確かにほかとは違う点で,そこが何に効いてくるかといえば,これは,情報取得の必要性が類型的に高いということにつながっているように思われまして,そう考えてみると,情報取得の必要性が,そういう形で預貯金は高いのだけれども,ほかの形で高いものもあり得るのではないかと考えることができるとすれば,一部の振替機関等に関する情報というものも含めて考えるということも,およそあり得ないということではないのではないか。また,その金銭と同じではないにしても,この資料で御提案されておりますような処分の容易性というようなところに着目して,そこまでは広げて考えるということも,およそあり得ないわけではないのかなと考えており,乙案も検討に値する御提案なのかなと,今のところは考えております。 ○山本(和)部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○青木幹事 先ほどの財産開示の再実施のところの話とも関わるのですけれども,金融資産の流動化に対応するという点では,やはり財産開示を再実施するということとともに,第三者から,金融機関から債務者の財産に関する情報を取得することで補っていくことが必要になってくるのではないかなと思います。その観点からも,預金に関する情報だけでなくて,それ以外の株式とか投資信託受益権等についても広げていくという方向に賛成ですし,できることであれば,振替制度が用いられていないものについても広げていくのがよいのではないかなと考えております。ただ,その点については,既に御指摘がされているとおり,その全店照会ができるとは限らないといった問題もありますので,実際にできるかどうかという観点からの検討は,必要となってくると考えております。   一つ質問なのですけれども,初歩的なところで的外れかとも思いますが,振替機関等というのは,債務者が口座の開設をしている振替機関等ということで,この社債,株式等の振替に関する法律第2条でいうと,むしろ第6項なのかなとも思ったのですけれども。 ○松波関係官 資料,振替機関等と書きましたのは,振替機関及び口座管理機関ということで,社債,株式等の振替に関する法律の2条第5項を引いたものです。 ○青木幹事 振替機関である証券保管振替機構には情報が一元化されているというわけではない,あるいは一元化されているとしても,そこから情報の取得をするというのは,先ほど道垣内委員がおっしゃったように,そもそもそういう制度ではないとすると,そのような利用の仕方は想定し得ないということなのかなと思います。債務者が口座の開設をしている機関,主としては販売会社という理解でよろしいのかという確認をさせていただきたいと思います。 ○阿多委員 私が言うのもあれですが,振替決済の場合は,複層構造になっていますんで,保振の下に口座管理機関があって,その下に口座開設がありますんで,もちろん証券会社の財産を押さえるというんであれば,証券会社,保振の下にありますからですが,通常は証券会社に開設されている証券口座の財産を押さえるという形になりますので,実務的には証券会社を名宛人として差押えの申立てをしているところが多いと認識はしていますが。 ○谷藤関係官 民事執行規則の150条の3第1項で振替機関等について定義しておりまして,社債,株式等の振替に関する法律2条5項に規定する振替機関等であって,債務者が口座の開設を受けているものということで,執行上はそういったところを振替機関等と定義しているところです。 ○山本(和)部会長 よろしいでしょうか。ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○今井委員 第三者の範囲をより広く広げることが執行力の強化,情報開示ということですので,第三者の範囲を広げていただきたいというのは基本的なスタンスですが,預金と株式等について一言,釈迦に説法みたいになりますが,お話をすると,預金は,本当にゼロに近い預金の方もいらっしゃれば,莫大な預金の方もいらっしゃると思いますけれども,債務者が株式など,言わば現金同価物を持っておられるという場合は,これを現金化して支払に充てるとした場合,直ちに生活が困窮するということは恐らく,そういうことがあんまり考えにくい,余剰資産というかどうかはともかく,そういう意味では,債務名義を執行する対象資産として,少なくとも今挙げられている乙案の拡大ということは,あるべき方向ではないかと,こんなふうに思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○谷幹事 株式につきまして意見が1点と,それと,質問を1点させていただければと思っております。   まず,本日の資料では,株式につきまして,15ページの下辺りに書かれているんですけれども,要するに,探索的差押えができる状況の下で必要性がどれぐらいあるのかという点についての検討が必要だという御指摘なんですけれども,これ,今までの部会でも申し上げましたけれども,これまでは,生命保険協会に一括して弁護士会照会をいたしますと,生命保険協会の方で取次ぎをしていただいて,加盟の各保険会社に問い合わせをして回答いただくという取扱いがあったわけですが,その際の加盟保険会社からの回答というのは,大体40から50社ぐらいから来るという状況なんですね。   したがいまして,これを仮に探索的差押えが可能だということで,そちらでやればいいのではないかと言われましても,40なり50なりの保険会社に対して,例えば,債権額を40分の1ずつ割り付けて差押えをするのかというふうなことになるわけで,現実的には,それはほとんど機能しないだろうと考えております。そういう意味では,やはりどこの保険会社に契約があるのかということが分からなければ,現実的には執行というのは無理なんだろうなと考えております。   それと,質問は,16ページの2の上の一固まりの段落といいますか,この文章でいきますと,下から6行目の後ろからですが,「必ずしも全ての保険会社等においてその情報を情報管理システムで管理しているとは限らないのではないかとの指摘もあり得る。」ということで,こういう指摘があり得るのかも分かりませんけれども,指摘があるだけではなくて,現実に情報管理システムで管理していない保険会社があるという具体的な事実というのは,何かつかんだ上での記載なんでしょうか。 ○山本(和)部会長 事務当局の方から何か御指摘はありますか。 ○内野幹事 生命保険契約の解約返戻金の御指摘いただきましたが,正にそういった視点として,その情報取得の必要性でありましたり,開示を要求される第三者の実務上の対応能力でありましたりという論点を提示して,今回のレジュメは書かせていただいております。   そういった複合的な観点から,もちろん現金類似性というような視点も頂いてはおりますが,これらの観点から生命保険契約解約返戻金請求権をこの制度の対象に含めていくのかどうかという点の議論を,この部会のこの場では,事務当局としては期待しております。そこで,やはり実務対応能力というのが,実情を踏まえた議論としてここは基本的には重要なのだということになれば,より厳密な事実調査をして,またそれを議論の俎上にのせるという作業が必要かと思っております。ですので,事実として,ここの会社がこういう状況にあるということを,今ここで具体的に提示できるような状況ではございません。 ○谷幹事 提示できる状況かどうかということもそうですけれども,そういう事実をつかんでおられるのかどうかということは,いかがですか。 ○内野幹事 同様に,直ちには具体的にご説明することができません。 ○山本(克)委員 保険商品についてはいろいろなものがありますけれども,やはり年金保険とか養老保険の類いのようなものが真っ先に差し押さえられるという事態は,私はやはり望ましくないんだろうと思います。   つまり,預貯金等が,先ほど道垣内さんが現金に近いものとおっしゃいましたが,正にそうで,預貯金等で差押えの強制執行がうまくいかなければという,うまくいかない場合をどう定義するかという問題ありますけれども,そういう場合に,やむを得ず来るのはいいと思うんですけれども,いきなり保険会社が資力があって確実だから,保険会社に行ってしまうということになると,保険商品の種類によっては,債務者の老後というものが崩壊してしまうわけですよね,生活設計が。そういうことまでこの制度は認めるべきなのかという点からも,議論していただきたいと思います。 ○山本(和)部会長 いかがでしょう,この保険の問題について。 ○阿多委員 保険の話に行きましたので。   山本克己委員から,保険の種類に応じてという話がありましたが,逆に,保険については,本当に金融商品として最初の一括で払って,10年等経過すれば,正に預金代わりに使われているという商品もありますので,保険の中身というのはいろいろあるという前提なんですが,ただ,情報取得という場面で,保険の種類によって差を設けるのかということについて言うならば,現時点で少なくとも保険については差押えができるという扱いがされていて,さらには,財産開示の際の回答の対象として,保険の有無というのは現時点でも回答の対象になっているわけで,そうすると,新たな第三者からの情報取得するに際して,保険の種類によって回答しないというのが,逆に山本克己委員の言い方をすると,執行の対象でなぜそういう差が,法律上の根拠がないのにできるのかという点は,別途検討が必要なのではないかなと思います。   それから,先ほどの事実調査の問題もありますけれども,これ,逆に,現時点で,従前は,生保に関して協会が取次ぎをした40幾つのところは回答があったようですが,それに対して,探索的差押えを含めて全て差押えができているわけで,差し押さえられたほうは,2週間内に有無について回答させている。それで,差押えは全て本店に送っているわけで,現時点で差押えに対しての陳述催告の回答ができているという状況にあるときに,新たな制度のところでシステムが対応できないから,変な言い方でまたあれですが,生命保険全てが対象にならないというようなのは,少しおかしいのではないかなとも思います。   現時点で2週間で回答できているものを,むしろ期間等の制限を置かずに回答をしてもらって,むしろ探索的差押えというような形ではなくて,存在するものについて申し立てるという形になりますので,余り態勢ができているのかどうかという回答で,この制度が影響するというのはいかがなものかと思いますので,その点も付加しておきたいと思います。 ○山本(和)部会長 先ほどの問題かと思いますけれども。 ○山本(克)委員 よろしいですか。   今申し上げたんですが,私は,甲案だけでいくべきだという立場ですので,金銭に近いもの,本当に決済性預金だけに限らないと,金銭に近いものということが言えるかどうかというのは,ちょっと微妙なところがあると思うんですけれども,そういう考え方プラス,先ほど話が出ていました情報探索の,今の差押えの実務の難しさですよね,支店単位でという,店舗単位で差押命令を申し立てないといけないという点がやはり問題なので,一元管理はされているわけですよね。ただ,それを名寄せしているかどうかというのが問題なんですけれども,本店でいけるわけですよね,保険商品については。そこについてはニーズがないということを申し上げたつもりですし,乙案についても,口座のある振替機関等で,これは本店一括でいけるわけで,そこで探索的に差し押さえすれば十分だという立場ですので,それがまず前提になっていて,副次的な論拠として,いきなり保険を狙い撃ちするという過酷執行ということを誘発するような,過酷執行は確か弁護士会,猛烈に反発,きちんとした制度を作れとおっしゃっていたと思いますので,あえて申し上げました。 ○山本(和)部会長 ほかに,保険に。 ○谷幹事 そこまで言われると,ちょっと一言申し上げておかないといけないと思うんですけれども,やはり保険というのも様々な種類がありますので,阿多委員御指摘のような一時払い養老とか,これは,ある程度預金代わりというようなことだと思いますので,保険だから一律に駄目というのはそうはならないし,保険というのはそもそも老後の備えだと,全部が全部そうではないので,それだけを強調するというのは,少し何というか,イメージ操作のような気がいたします。 ○山本(和)部会長 それは,逆に保険なら全部いいという方向にいくということなんですか。 ○谷幹事 保険なら全部いいというか,要するに,先ほど来出ているように,財産開示の当然開示対象でもありますし,情報取得の対象としては,保険も除外する理由というのはないだろうと考える。 ○山本(和)部会長 損害保険とか,そういうもの,共済とか,そういうようなものも全部含めてということですか。 ○谷幹事 生命保険を入れるとすれば,損害保険,共済も,共済というのは,ある意味で生命保険と同じようなものだと思いますので,それも入れるということになるのかなと。   ただ,損害保険の場合,それほど解約返戻金があるものというのは,種類としては多いのかどうか,ないことはないと思うんですけれども,種類として多いのかどうか,そういう意味での必要性で,どこまで必要性があるのかという問題はあるかも分かりませんけれども,区別する必要はないと考えております。 ○山本(和)部会長 分かりました。   ほかにいかがでしょうか,この保険の論点。 ○村上委員 私,以前の部会でも申し上げましたが,理屈があるということではなくて,感覚的なもので申し訳ありませんけれども,生命保険というのは,普通の債務者にとっては,流動性の高い資産とはやはり違って,老後のためだとか,何かの備えのためにあるものであるので,差押え可能だとしても,まず初めに情報開示するという話ではないのではないかということで,これについては,16ページにもございますが,預貯金債権と同視し得るようなものとはいえないという意見を持っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○青木幹事 先ほど,乙案の方に賛成するようなことを申し上げて,株式とか投資信託受益権については賛成なのですけれども,しかし,保険については慎重に考えたほうがよいかなと考えており,先ほど阿多委員から御指摘のあった,財産開示の対象になっているではないかという点については,やはり保険については,財産開示が実施されたとしても,一部免除になり得るものではないかなと考えますので,既に御指摘があったとおり,真っ先にといいますか,先にこちら,第三者から,保険会社から情報を取得するということにはなじまないのではないかなと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員 よろしいですか。すみません。   青木委員の一部免除というのは,生命保険が現時点で開示対象になっていること自体がおかしいという…… ○青木幹事 いや。そうではなくて,ほかの財産を開示すれば,保険に関する情報は開示しなくてもよいとなる可能性があるということでございます。 ○阿多委員 一部,開示範囲の変更の問題だと思うんですが,何を開示する,しないというので,保険だから開示しないとか,そういう形で財産の種類が区別されているわけではなくて,責任財産を構成するものとして何があって,逆に過剰に開示しないという話で,財産の種類に応じて開示する,しないという選択にはならないと思うんですが。私が誤解しているんであれば。 ○青木幹事 そうならないとしても,例えば不動産とか,ほかの金融資産などを開示して,それで執行債権の完全な弁済を得るのに足りると判断されれば,一部免除が許可されるということになり,したがって,生命保険に関する情報は開示する必要がないということになるのではないかと思いますが。 ○山本(克)委員 今の点は,結局,おっしゃりたいのは,そういう生命保険のある種の種類のものについては,やはり補充的なもの,ほかで駄目だったからいけるものと位置付け,少なくとも債務者は位置付けていって,ほかの財産が十分ありますから,これは開示対象にしないという選択肢を債務者が持っているということを言っているわけですよね。   これは,似たような法制を探してみると,民事再生法上,共益債権や一般優先債権に基づく強制執行の場合について,事業に必要な資産を差し押さえてきた場合については,他に執行ができる財産を示せば,最初の差押えを取り消すことができると,これは正に補充性の問題なんです。   ですから,そういうことが,財産開示でできるというオプションがあるのに,なぜいきなり保険の方にいけるのか,私が最初に申し上げたように,まず預貯金の方でしょうと。特に決済性預金の方にいくのが筋ではないかと申し上げたのも,それと同じような趣旨です。 ○阿多委員 補充性の議論は分かるんですが,つまり,主観的というか,債務者の方で選択されて,それを開示しないというのはよく分かるんですが,そもそも財産の性質によって,少なくとも財産開示の,現状の財産開示において,それが補充的だから開示しなくていいということにはならないと思うんです。   ですから,変な言い方ですが,通常は,解約手続をしなければいけない生命保険を,預貯金があるのに先行して差し押さえると,それは,実際はそんなことはほとんどないわけで,ただ,だからといって,生命保険を最初から開示の対象から外すというような法制は,どこに理屈があるんですかということを申し上げているつもりなんですが。 ○山本(和)部会長 そこは,多分見解の違い。 ○山本(克)委員 それは,飽くまでも補充的な論拠であって,基本的な論拠は,本店でいけばいいんだから,なぜそんなことをしなければいけないのかという問題。 ○山本(和)部会長 山本克己委員の御意見ということですよね。 ○谷幹事 ちょっと論点が深まってきたと思うんで,今,山本克己委員に,あるいは村上委員に御質問なんですが,保険より前に,預金債権があるんだったら,そっちを差し押さえればいいではないかと,仮にその前提に立つとすれば,そうだとすれば,第三者照会の場合でも,預金等を照会して,あるいは財産開示で預金等,財産を開示させた。そこで,預金等,そのほかの財産に執行したとしても,これは,債権額,債権全部が満足することができないというふうな状況のときには,その場合に限って,保険について第三者照会することができるような制度というのは,選択肢としてはあり得るんでしょうか。 ○山本(克)委員 そういうことが定義できるか,不可能かという問題があって,結局,決済性預金を,あるいは定期預金等の商品を扱っている全ての金融機関に当たっていないと駄目だということになりかねないので,それは,事実上制度としては組めないのではないですかね。 ○山本(和)部会長 おおむね議論としては出たと理解していいでしょうか。 ○内野幹事 生命保険契約解約返戻金に関する本日の議論を見ますと,まずは,これを対象財産に含めるかという点について,その財産性質や社会的実態が基本的な問題意識だったかと思いまして,これをどう評価するかが議論のポイントであろうとは考えてはおります。議論がその先の情報開示の要件や手続との関係にも入ってきておりますので,この点は本日の会議の後半での議論とも関係するのではないでしょうか。 ○山本(和)部会長 それでは,ここで休憩とさせていただきたいと思います。           (休     憩) ○山本(和)部会長 それでは,議論を再開したいと思います。   最後のところで保険のお話になりまして,何人かの委員,幹事から御意見を頂戴しましたが,これは非常に重要な問題だと思いますので,もし他の委員,幹事から,さらにこの保険の部分について御意見があれば,お伺いしたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○勅使川原幹事 甲案,乙案のところでは,貯蓄から投資へみたいな流れでありますとか,その意味では,情報取得の必要性というものもそれなりにあるようにも思いますし,株式,ETFぐらいであれば,振替機関等でもいいのかなという気はしておりますが,生命保険になりますと,確かに投資とか資産形成の対象になるような商品もあるのかもしれませんが,そうでないものもあるということであれば,これを一律に含めてしまうということには,まずちゅうちょがあるということと,それから,この後の手続によりますけれども,財産開示が前置されないということになるのであれば,一部免除の可能性も消えてしまいますので,そうした意味でも,入れることには,ちょっとちゅうちょがあるというところでございます。 ○垣内幹事 私も,部会資料で御説明があるところですけれども,探索的差押えによる対応がどの程度可能かという点について,株式や投資信託受益権で振替決済の対象になっているものとは,やはり違いがあるということはあるように思いますし,また,財産の性質としても,保険といってもいろいろあるということは,そのとおりかとは思いますけれども,典型的なものを少なくとも考えた場合に,株式や投資信託受益権とは,やはり性質は違うのではないかという感じは持っておりますので,それも含めるというのは,更に一段ハードルが上がるというのは間違いないかなと思っております。 ○栁川委員 ダメージの少ないものからやっていただきたいと思います。それから,生命保険についてですが,生命保険の商品にはいろいろなタイプのものがあって,従来のような万一のときの保障,将来に向けた資金作り,老後の暮らしへの備えなどを主目的とするものではない新しい商品がたくさんあることは事実ですが,多くの方は,不慮のアクシデントや老後に備えて生命保険に加入していると思います。生命解約をして,解約返戻金を債務の弁済に充てた場合,生命保険がほかの商品と違うのは,一旦解約してしまうと,新たに生命保険に加入する場合は,健康上の理由で加入できなくなる,加入はできるが,条件付きでの加入となるといったことが起きます。これらの点でほかの商品とは性質を異にしていると思います。ですから,できるだけダメージの少ないものから順番にと考えます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○松下委員 ちょっと昔の話になりますけれども,簡易生命保険法には昔,保険金請求権あるいは解約返戻金が差押禁止という明文の規定があったんですね。その後なくなったんですけれども,現行法では特段,その種の差押禁止の規定はありませんので,保険金請求権や解約返戻金は差し押さえられることになっているわけですね。   確かに,いろいろな保険商品があるというのはそのとおりで,特に債務者の生活保護に直結する保険があるということもよく分かるのですが,そういう議論は本来,差押禁止の範囲の話で勝負すべきであって,財産の開示の範囲の問題で勝負すべきなのかどうかということが私にはよく分かりません。   今回の部会では,差押禁止の問題は,保険金については問題になっていないので,代わりにここで勝負するんだということなら,私は議論は分からないではないのですが,開示の範囲の問題で議論するというのは,私はどうなのかなと思います。つまり執行対象財産である以上,生命保険を特に除外する理由はないのではないかというのが,私の結論です。 ○山本(和)部会長 分かりました。ありがとうございました。   ほかにはいかがですか。 ○山本(克)委員 恐縮ですが,何も差押禁止にしようということを申し上げているのではなくて,現行の執行法の債権執行の立て付けとして,取立権が発生したら直ちに解約できるという立て付けを前提とした場合に,過酷執行が生ずるのではないか,ということを申し上げているわけですね。つまり,解約権が発生するまでに,例えば2か月ぐらい猶予を経て,その間に,他に任意履行するなり,他に執行可能財産があるということを示して,別のところに行けるというような法制がされていれば,私は,整備されていれば,特に保険商品の補充性ということを強く言うつもりは全然,それ,前提が崩れてしまいますから。   ただ,現行法,これは既に昔から指摘されている点で,いきなり解約権が発生してしまうというところに問題があると。そこのところの立て付けを変えないままですと,私はやはりちょっと,保険商品については,できるだけ執行が後になるような仕組みを作ってあげるというのが,国民にフレンドリーなのではないかというふうに考えているということだけです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   よろしいでしょうか。この問題については,今回,乙案が新たに提示されて,御発言いただいた委員,幹事は,甲案か乙案かというと,乙案を支持される方が相対的には多かったということかと思います。ただ,中原委員の方から,本当に乙案で各金融機関が対応できるのかということは,もう少し慎重に考える必要があるのではないかというような御指摘がございましたし,なお,むしろやはり甲案によるべきだという御意見もあったところです。さらに,乙案プラスアルファという点についても,必ずしも振替制度の対象になっていないような株式,投資信託も含めるべきだという御意見もありました。   またさらに,保険契約解約返戻金についても,意見が分かれたということだと思いますが,恐らく今日の御議論の成果としては,非常に多様な商品があって,それぞれの委員,幹事がイメージされている保険商品についても,かなり違いがありそうな感じがあったということかと思います。純粋の金融商品に近いようなものをイメージして御発言されている方がいる一方で,むしろ純粋に,掛け捨て型に近いような,本当の保障というものを主眼としているような伝統的な保険商品を念頭に置いて御発言になった方があったかと思いますが,そこは非常に多様であるということでした。しかし,多様であるからどうするのかということが問題で,これらを全部含めるのか,それとも全部含めないのかということについては,認識の違いがやはりあったようにも思います。   そういう意味では,この問題はなお,少し方向性というのは見えたかなというふうには思いますが,取りまとめに向けては,まだかなり議論が必要だし,また実情についても,先ほどのお話もありましたが,調査を更にしていく必要があるということは確認できたのではないかというふうに思いますので,本日のところはこの程度とさせていただければと思います。 ○松下委員 先ほど山本克己委員から,差押債権者がすぐ解約返戻金を取るために解約できるという話がありましたが,その際に,当然山本委員も前提にされていると思いますが,保険法60条の受取人による介入権がどの程度実効的にワークするのかしないのかという点も含めて,御検討いただければと思います。 ○山本(和)部会長 分かりました。   それでは,引き続きまして,今度は資料の16ページの2の第三者から情報を取得するための要件で,ここは(1)と(2)に分かれておりますが,ここは特段の区別なく,一般的な要件,それから財産開示手続との前後関係,両方について,どこからでも結構ですので,御意見を頂ければと思います。 ○阿多委員 まず,要件のところで,前半のときも申し上げましたけれども,基本的には財産開示と第三者からの情報取得は同じ要件で,逆に,その要件を満たしたところで,どちらの方法を採るのかという,言わば選択制みたいなのも考えてもいいのではないかとは思っています。   ただ,前半でも申しました,197条の今の要件では救済されない場面があり得る,例で挙げました,扶養料で家を押さえられるときに,それをしなければいけないのかという部分について,やはり預貯金情報をそういう,その場合であれば取得できるようなことを考えるのであれば,第三者からの情報取得については,少しハードルを下げるというような立て付けもあり得るのかなと前半発言しておりまして,そう思いましたので,その点はそう付加しておきたいと思います。   あと,先後関係につきましては,私の方は前から,18ページの下に入れていただいています(3)の試案第1の2(3)の(注)の考え方を強く求めておりまして,なおかつ,先ほどの甲案,乙案で,乙案に広がるのであれば,広げるべきだと思いますけれども,乙案の場合であっても同じような,内容は財産的な価値に関する情報で,非常に定型的なものですので,債務者への事前告知なく情報取得は可能な制度を検討いただきたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   いかがでしょうか。17ページ,(2)の,資料でいうと後段というか,後ろの方に書いてある考え方が相当ではないかという御意見ですね。 ○今井委員 もう言うまでもないことですけれども,不奏功要件の撤廃は,この面についても当然だというのが私の考えですので,理由は先ほど申し上げたことを引用させていただきたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがかでしょうか。 ○成田幹事 財産開示との先後関係というか,不服申立ての関係で,一つ質問なんですが,(注)の考えに立ったときに,およそ不服申立てをさせないという趣旨なのか,どこかで不服申立て,具体的には執行抗告なんでしょうけれども,それをやるということなのか,それはどちらなんですか。 ○松波関係官 御指摘の点は,恐らく,既に情報が開示されてしまった後の段階では,不服申立ての手続を仕組んだとしても,何も覆すものがないのではないのかという御疑問だというふうに理解しましたが,恐らくそういう考え方が一つあり得るというふうには思います。 ○成田幹事 どちらでお考えなんでしょうか。 ○松波関係官 特段何も置かなければ,不服申立てはできないとする考え方が自然なのではないかということだというふうに思います。 ○成田幹事 そうなると,債務者財産情報の開示という観点からすると,財産開示手続で執行抗告が認められるのとの関係で,恐ろしくバランスが悪いのかなという気がします。   債権差押えの陳述催告との並びというのもおっしゃっていますが,それは債権差押え自体に執行抗告ができる,事実上,情報が裁判所に来てしまっているというだけの話であって,情報だけで見た場合には,むしろ財産開示の方が手続が近いのかなと思いまして,財産開示において執行抗告が認められていますから,それとの関係はどうなのかというふうに思いますが。 ○内野幹事 そうすると,財産開示を前置した方がいいのではないかという御見解ということでしょうか。 ○成田幹事 財産開示前置にするのか,それとも,前置せずに執行抗告という形を採るのか,どちらもありかなとは思っておりますが,少なくとも(注)の考え方の,およそ不服申立てを認めないような作りにするのは,やや異質な気がしているところであります。 ○内野幹事 正に,それがこの論点でございますので,皆様の御意見をいただきたいと思います。 ○阿多委員 債務者の利益の守り方で,損害賠償というのが挙がっているところですけれども,実は思っていますのは,これ,執行抗告という構成を採らないとできないのかどうかなんですが,本来,例えば,開示される理由がないにもかかわらず,第三者からの情報取得がされたと。もちろん情報取得がされても,それに基づいて,債権者としては,今の制度でも差押えはできないんでしょうけれども,何らかの形で債権者に対する制約を課すような,だから,執行抗告で,本来開示されないものが開示されたということを元に戻すことはできないわけですけれども,開示された情報が,目的外使用も含めて,より使われないようにするようなことを何か手続として考えられないのかなというふうなことも思っていまして,そのためには,本来抗告の利益については,弁済済み等で開示される理由がないにもかかわらず,開示されたという手続を採らないと,債権者に対する拘束というのはできないのかと思いまして,何かそういうものが考えられないかと,ちょっと思っているところですが,それも付言しておきたいと思います。 ○内野幹事 ここでの議論では,情報が出る前に債務者に何らかの反論の機会を与えるとか,債務者が何らかの形で手続に介入していく余地を認めるのかというのが中心議題でありますが,今御指摘いただいているのは,どういう場面でのどういうものを想定しているのでしょうか。 ○阿多委員 ですから,もう一度整理しますと,事前の債務者への告知でそれを止めるということは,私,この試案の方を支持していますので,それはまず考えられない。ただ,そうなったときに,もう出ているから,債務者の何らかの保護というのは図られないんです,損害賠償だけなんですという,本当にそれでいいのかというところを少し気にしています。 ○内野幹事 これまでの御指摘の流れでは,情報の目的外利用を制限することで対処することができるのではないかというものがありました。もう一つは,この(注)のような考え方に立つとすれば,情報を取得することの正当化という点については,それは財産開示の必要性の高さ等といった観点で説明をしていった上で,もし問題がある場合には損害賠償で対応しようという考え方があったように思います。   今,ここで御指摘いただいているのは,正に,もう一つ,第3の何かがあるのではないかと,こういう御指摘ですか。 ○阿多委員 第3の何かというのを考えなければいけないのではないかとずっと思っていまして,何度も言いますように,本来ですと損害賠償で,債権者との関係を調整する話になるわけですけれども,損害額の内容とかいうようなことが,例えば,定型的にそういうことをして,幾らと決まるのであれば,非常に救済としては分かりやすいんですが,損害賠償ができるではないかという形だけで手を下げていいのかというのは非常に気にしていまして,債権者に対する何らかの制裁的なものも考えられるのではないか。そういう制裁を採るためには,やはり債務者の方で開示される必要がない情報が開示されたということは,制度として,手続的に確認をしないと,そういうものは採れないのではないかということで御提案しているわけです。   端的に言うと,損害賠償に何らかの実効性を付加するようなものが考えられないかと,そういうことです。 ○山本(和)部会長 ちょっと難しいような気もするけれども,アイデアとして,何らかの制裁という感じですかね。 ○内野幹事 ちょっと,どういう場面のことを想定されておられるか,若干抽象的ですので,具体的に御指摘いただけますでしょうか。 ○阿多委員 場面としては,既に弁済済みで,本来,第三者からの情報取得の要件を満たしていないにもかかわらず,それら申立てをして情報取得をしたと。それが,戻りますけれども,弁護士会の従前の,一番当初の提案は,事後的に債務者に通知するという提案をしているんですね。今回の制度はそれが入っていないんですけれども,情報を開示したということを,やはり債務者には何か告知しないといけないのではないかと。告知されたときに,もう告知したから,あとは手続外でやってくださいという話になるのか,告知された段階で,何でこんな情報が出ているんだという形で,債務者の方が積極的に何か手続がとれないのか,そういうことで御提案をしている次第です。 ○内野幹事 その中身を,今ここで明らかにしていくつもりはないんですけれども,ご指摘のように実体的な権利が存在しないということであれば,その先の強制執行に進まないように,例えば請求異議であるとか,そういうことが申し立てられるという場面を想定されておられるのですか。 ○阿多委員 もちろん,本来それ,差押えがされれば,請求債権がないにもかかわらず差押えされれば,それはそれで止められるわけですけれども,情報を取得した者について,目的外利用も本来制約はされているんですが,要件がないにもかかわらず,申立てをして取得したということについて,制裁的なものを考えて,言わば抑止的効果というものも考えれば,債務者への手続保障をそれほど前面に出さなくても対応できるのではないかと,そういう趣旨で申し上げています。 ○内野幹事 実質は恐らく,事後的な措置として,今,制裁というお言葉遣いだったところだと思うんですが,これまでの具体的なアイデアとしましては,損害賠償請求というものが,この部会の中では提示されているというふうに認識はしております。 ○阿多委員 その上で何ができるかという前提で申し上げているのですが…… ○山本(和)部会長 ちょっとその点は置いておくとしまして,(2),(1)の問題もありますが,一般的に,この点についてのお考えを。 ○青木幹事 金融機関から預金に関する情報を取得するということについて,財産開示を先行,前置させる必要はないという観点から,二つのことを申し上げたいと思います。   一つは,ドイツ法において,財産開示の前置が求められていることとの関係なんですけれども,この部会の第2回に配布された以前の資料ですが,部会資料2の18ページにおいて紹介されているように,ドイツ法においては,第三者から債務者財産に関する情報を取得するために,債務者自身による財産開示の手続を先行させなければならないとされているわけで,日本法とは事情が異なる点があるのではないかということです。   一つ目は,ドイツ法においては,債務者の情報の自己決定権とか比例原則の考え方から,財産開示を先行させているというような説明がされているのですけれども,ドイツ法においては,財産開示手続において,執行官に債務者との間で,期限の猶予とか分割弁済の合意とかといった和解的合意をする権限が与えられていて,債務者に資力があれば,その合意に基づいて,実際に執行債権が実現されることが多いということのようであり,財産開示を経た方が,第三者から情報を取得して強制執行,金銭執行を行うというよりも,債権者にとっても債務者にとっても望ましいということが考慮されているようであります。   日本においても,財産開示の機会における和解的合意の重要性というのは既に指摘されていて,将来的には検討課題ではないかなと思うのですけれども,現状を見ますと,ドイツ法において,財産開示の不履行に対する制裁とか債務不履行者名簿といったような制度が設けられているのとは異なり,日本法においては,財産開示を経ることで,金銭執行によらない執行債権の実現が期待できるというようなことはないよう思います。   二つ目ですけれども,ドイツにおいては,金融機関のデータベースへのアクセスというのが整備されていて,情報取得権限を持つ執行官は,全ての金融機関の口座情報に対してアクセスして,情報を取得することができるとされております。それに対して,ここで検討されているのは,日本においては,個別の金融機関に対して情報の提供を求めるということであり,情報開示の範囲という点でも,ドイツ法とは異なるように思います。   三つ目ですけれども,ドイツ法においては,債務者自身による財産開示の要件について,強制執行の不奏功等の要件が撤廃されて,強制執行の一般的な開始要件を具備されれば,財産開示の手続を開始することができるという点でも,日本法とは違いがあるのではないかというふうに考えております。   以上が一つ目で,もう一つは,日本法の話になるんですけれども,まず,金融機関,第三者が債務者に対して負う守秘義務との関係で,財産開示の実施決定がされている必要がという議論があるのですけれども,財産開示の実施決定がされていなくても,債務名義を有する債権者との関係では,債務者には金融機関の負う守秘義務により保護される利益は認められないと言うことができるのではないかと考えております。   そのことを前提とするという話になってしまうのですけれども,財産開示手続を先行させる必要として,第三者から情報を取得する手続において,債務者に手続保障を与える必要があるということで,この手続保障を与えるということの意味には,大きく分けると二つあります。一つは,債務名義の効力であるとか執行債権の存否を争う機会を与える,請求異議の訴えを提起し,執行停止を得るという機会を与えるということなのですけれども,債務名義の送達が要件とされているということで,そこで争う機会が与えられるかなと思うのですが,先ほど阿多委員から出てきたような,もう既に執行債権が弁済されているといったことを主張する機会は,第三者から情報を取得するところではないということになってしまいます。あるいは,債務名義の内容が分割弁済を内容としていて,それが履行されているにもかかわらず,この手続が利用されてしまうということは生じてしまいます。   この点は気掛かりですけれども,先ほど既に話が出たように,事後的な救済によらざるを得ないと,また,事後的な救済というわけではないんですけれども,その際には,目的外利用の制裁で対応するということ,あるいは対応できないとすれば,そこを少し広げるということは考えられるのではないかなと考えております。   もう一つ,手続保障を与える意味の二つ目として,実施要件を争うということあるのですけれども,現行の財産開示と同じような,それに相当する要件を設けるとして,197条1項1号の不奏功の要件については,比較的,執行記録などから客観的に明らかなのではないかなと思いますので,債務者に手続保障を与える必要性は低いと考えます。   2号の方なんですけれども,債権者に知れたる財産に対して執行しても,完全な弁済を受けられることができないということの疎明ですけれども,これも結局,最初に申し上げたこととも関わるのですが,これに対して,債務者に対して不服申立てといいますか,をする機会を与えるまでの必要はない。結局,この197条1項の要件は,真に必要な場合に,その手続を利用することが必要な場合に限定しようということなのですけれども,そのための要件を課したことによって,必要な場合に情報を得ることが難しくなるということでは,やや本末転倒なところもございます。歯切れは悪いのですけれども,事前に財産開示の手続を経ることによって,財産を処分されてしまうということを考慮しますと,手続保障を与えずに,事後的な救済でよしとするということも,やむを得ないと考えております。   長くなりまして失礼いたしました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○今井委員 今,青木幹事のお話,大変感動しておりまして,特にドイツ法との比較のところが,悩ましかったんですけれども,大変研究していただいて,なるほどなということをよく感じた次第でございます。本当に,ありがとうございますというのも変かもしれませんけれども。   第三者に対する保障というのは,対象財産を絞り込めば,そのことによって,あえてそれ以上の必要があるのかなというところ以外は,誠に,お考えについては全面的に,本当に賛同させていただきたいと思いました。   それで,(2)の財産開示前置の点ですが,そういう意味で,まず,当該手続を実施する決定が債務者に告知される前であっても,情報提供を行うものとする考えがあるということについては,言うまでもなくこれは賛成でございまして,なぜならば,告知されてしまいますと実効性が失われる,これが1点でございまして,それから,財産開示がそもそも前置かどうかということについては,これは前置する必要はないというふうに,なぜならば,財産開示と第三者からの情報提供というのは並列であって,財産開示手続がこれまで奏功していないからこそ,やはり第三者から直接情報を開示してもらうということになっている意味では,そういう意味では,論理的にも先後関係はないのではないか。これは手段として,A手段とB手段があるというような意味からして,前置をするという根拠はないのではないかと,こういう意見でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかに。 ○中原委員 第三者から情報を取得する目的が,差押えの準備ということを考えれば,特に預貯金債権のように流動性の高いものについては,実効性を確保するためには,隠密性の確保が必要だと思います。   仮に預貯金以外の,例えば投資信託等の金融商品を含むとしても,現在はインターネットバンキングが発達していますので,自分で銀行に行かなくても,インターネットを使ったら,数日後には,投信を売却して換金でき,その資金を動かすことができます。このように資金移動が自由にできるようになっている状況を考えれば,債務者に対する財産開示を先行させる必要もないし,第三者から情報を取得する手続を実施する決定が債務者に告知されるのを待つ必要もないと思います。   更に言えば,任意に債務を弁済しない債務者の保護よりも,正当な権利を行使する債権者の保護を優先して図るべきだろうと思います。情報開示制度が不当に行使された場合は,損害賠償という形で処理するしかないと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○山本(克)委員 私は昔,前置と言ったような気もしなくはないんですけれども,昔のことは忘れてしまいましたので,仮に前置だと言ったとしたら,撤回したいということです。   かつての議論は,かなり第三者の範囲を極めて広くとるオプションがあったので,やはり第三者に迷惑を掛けるなら,それなりに手続を尽くした後でないと,迷惑を掛けてはいけないんだというふうに考えておったような気もするんですが,しかし,かなり絞り込まれてきており,第三者の範囲,情報が絞り込まれてきている中では,今,中原委員がおっしゃったような点というものが,むしろ重要であるというふうに思いますので,私も前置は必要ないというふうに考えます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○谷藤関係官 先ほどの第三者照会の対象とする財産の範囲とも関係するんですけれども,これまでの御議論ですと,預貯金のほかにも,振替社債等,あるいは生命保険解約返戻金等に拡大していこうという議論もあったかと思いますけれども,そうしますと,対象になる財産がどんどん拡大していくと。今,山本克己委員から,絞り込まれていくというようなお話もありましたけれども,それが逆に,どんどん拡大していくというようなお話もございました。   そうしますと,財産開示と何が違ってくるのかという話が出てきますので,やはり財産開示とのバランスは考えざるを得ないのではないかと考えております。 ○山本(和)部会長 ほかに。 ○垣内幹事 私自身は従来,どちらかというと前置の方が,手続として慎重で,好ましいのではないかという感触を持っていたんですけれども,今の御議論でもありますように,対象財産の範囲をどうするかという問題と裏表の関係にあるということは間違いがないところで,これが広くなるということであれば,より慎重を期すということでしょうし,非常に限定されたものにとどまるということであれば,そこまでの必要性はないということにはなるのかなと思っております。   ただ,これは,何というんでしょうか,実際的な考慮の問題として,作っても意味のないような制度を導入しても意味がないと。前置することによって,およそ実効性がないというようなことであれば,それは余り意味はないのではないかということは非常によく分かるので,そういう意味では,前置をしないというのが一番簡明で,すっきりした制度かなというふうには思います。   しかし,とはいいつつも,一方で財産開示手続,債務者本人についての財産開示手続の強化を議論しており,そちらも実効的に機能するということを考えている中で,第三者の方について,それは機能しないことを前提として,前置なしでもよいというふうに考えるというところに,私自身はなお,若干の気持ち悪さといいますか,抵抗感を感じないわけではありません。   ただ,先ほど申しましたように,実際問題として,やはり前置をしない方が,実効性の面では有意があることは間違いないかというふうに思いますので,議論の大勢がそういうことであれば,前置しないという方向に特に強く反対するという気持ちは,今のところ持っておりません。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○山本(克)委員 念のために補足しておきますが,私は甲案を前提に申し上げたということですので。 ○山本(和)部会長 分かりました。   ほかにいかがでしょうか。 ○垣内幹事 それから,先ほどの青木幹事の御説明に関しまして,念のための確認ですけれども,先ほどの御議論を前提にしますと,現行の197条5項で執行抗告を認めているというのも,これは不要なものであるということになるのでしょうか。 ○青木幹事 先ほど申し上げたのは,預金についての情報についてということでありまして,現行の制度については,債務者の有している財産全てを開示するということになりますので,プライバシーというのは適切ではないかもしれませんが,債務者に相当の負担になるものですので,現行の制度について,執行抗告は不要だということを申し上げるつもりはありません。 ○山本(和)部会長 よろしいですか。 ○垣内幹事 はい,ありがとうございます。 ○山本(和)部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○阿多委員 前半でも申し上げましたけれども,財産隠しという形について,それを防止するための実効のためには,債務者への事前の告知というものは避けていただきたいと申しました。けれども,そうなりますと,いわゆる実施要件についても,事前に債務者に告知しない,先ほど言いましたが,1号ではなくて2号の要件ですれば問題ないわけ,今でもそうなんですけれども,そういうところについて,なおかつ2号要件を満たした場合の債務者への,財産開示であれば実施決定を送るわけですけれども,その送るタイミングとか,執行に着手するまでは,債務者への告知がないような形の制度を考えていただきたいと思います。   それから,余り議論出なかったのですが,守秘義務との関係では,少なくとも実施要件を満たすという形の裁判所の判断ができるのであれば,あえて財産開示で,全て開示義務を負っているんだからということを理由に,守秘義務解除ということではなくて,十分要件は満たしているという判断は可能ですし,むしろ,いわゆる陳述催告と同じような形の制度設計をイメージして,第三者の回答義務ということも根拠付けられると思いますので,その点も付加しておきたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかに。 ○村上委員 全然結論はない意見ですけれども,少し懸念というか,感じているところを申し上げたいと思います。   倒産したなどの事情で逃げてしまった事業主から未払の賃金債権を確保したいというときには,開示手続なしで第三者から,金融機関から情報開示,情報を提供してもらうという手続は,大変魅力的ではある一方で,そうしていくと,債務者から陳述させるという財産開示手続そのものの意味はどうなっていくのかというような印象を持っております。   また,本日は議題となっておりませんけれども,公的機関からの情報取得制度の創設ということも考えた場合の関係をどう考えていくのかと。私は,その場合については,やはり財産開示手続をきちんとさせるべきだと考えておりますけれども,そのこととの関係ということも考えていく必要があるのではないかという印象を持ちました。 ○内野幹事 正に御指摘のとおりでありまして,本日は公的機関からの情報取得の関係は議論の対象とはしておりません。   既に,このレジュメの中で若干触れておりますが,いわゆる中間試案におきます(注)のような考え方においても,それは公的機関の場面と,こういった預貯金債権に関する情報等の場面とは,財産開示との関係性は,異なる考え方もあるのではないかという議論は否定されておりませんので,ただいま御指摘いただいたところは,公的機関からの情報取得の場面の手続をどうするかという場面の固有の議論として,論点として残っていると認識しております。 ○山本(和)部会長 よろしいでしょうか。 ○村上委員 はい。 ○阿多委員 先ほどの村上委員の御発言は,財産開示と第三者からの情報取得の役割ということも含めて御発言があったんだと思うんですけれども,まず,第三者からの情報取得というのは,財産開示と違って,例えば銀行預金にしても,それほどたくさんの照会をするわけではなくて,経験値としまして,弁護士会の本店照会においても,かなりの割合,残高なしというような回答が来ています。   そうしますと,そこの最初の段階で一旦告知して,事後的に債務者に告知するとなると,その段階ではもう,財産隠しというリスクもまたそこで出てきますので,やはり選択肢としては,全ての財産を開示させるという財産開示の利用価値というのはあると思いますし,むしろその方が,生命保険も含めてになりますが,全部の財産を本人に回答させると。なおかつ,刑事罰も含めて実効性があるというのであれば,皆が皆,第三者からの情報取得に行くのではなくて,財産開示をやはり選択すると,それはあり得るんだと思います。   それから,先ほど青木幹事からの御発言もありましたけれども,今も実務でもそうですが,財産開示を使って手続外で和解をしていると。そういうふうな実例もあって,そうなりますと,円満な執行というか解決になっていますので,今後はむしろ債権者の方で,どういう形で手続選択するのかというのを考えた上ですると思いますので,全てが第三者からの情報取得に流れて,財産開示が逆に使われなくなると,そういうことはないというふうに,少なくとも期待はしています。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかに,この手続のところはいかがでしょうか。おおむね議論を出していただいたということでよろしいですか。   (1)の要件の問題も,特段の御意見はございませんでしょうか。よろしいですか。   この(1)の要件の点は,先ほどの財産開示のところでも御意見が分かれているところでありますので,そちらによるといいますか,仮に同じ要件にした場合に,そちらがどういうふうになるかということに関わってきますし,また,そちらの要件とは別に,別な形で,先ほど阿多委員が若干指摘されましたが,場合によってはそれを緩めるとかということもあり得るところなので,財産開示の方の要件についての議論が更に深まるのに合わせて,またもう一度,やはりこれは議論する必要があるところだろうというふうに思います。   (2)の方は,御発言いただいた委員,幹事においては,相対的には,この後段といいますか,財産開示を前置せず,債務者に告知する前であっても情報提供が可能であるという御意見に賛成の御発言が多かったようには思いますけれども,なお,財産開示手続とのバランス,特に執行抗告が財産開示では認められていることとの関係でありますとか,あるいは,対象財産をどういう範囲にするかということとも関係してくるというような御意見もありました。   また,飽くまでも金融機関との関係の話で,公的機関の情報はまた別個に考える必要があるというような御意見もありましたし,なお考えるべき点は多そうな感じでしたので,これも完全にこの方向ということには,なかなかならないのかなというふうには思いますけれども,その辺りのちょっと宿題も考えていただきながらということになろうかと思いますが,何か事務当局の方からありますか。 ○内野幹事 部会長に本日の議論の状況をまとめていただきましたが,意見が分かれているとはいえ,若干の強弱もあったかと思いますので,次回に向けて,一旦議論を整理した上で,次の議論を進めていいければよいなというふうに考えております。 ○山本(和)部会長 よろしいでしょうか。 ○山本(克)委員 1点だけ。   費用の点なんですが,開示を求める債権者が費用を納めると,そこはいいんですが,その費用を債務者に償還を求めることができるか。求めることができるとして,開示された場合に限るべきだと思いますけれども,開示された預金債権なり何なりを差し押さえて執行したときに,執行費用に含まれる,手続費用に含まれるべきなのかという点も少し考えて,やはり執行の前倒し,前さばきだというふうに考えると,そういうふうに考える余地もあるのではないのかなという気がしますが,それは,中間試案には確か載っていなかったような気がする。 ○山本(和)部会長 事務当局から御説明をお願いします。 ○松波関係官 現行の財産開示手続ですと,民事執行法第203条によって,民事執行法第42条が準用されています。山本委員の御指摘は,第三者からの情報取得の手続においても,基本的にはこれと同じ取扱いをするのかという御趣旨のものだというふうに思いますけれども,この点については,引き続きこちらで検討した上で,しかるべきときに一定の考え方を提示したいというふうに思います。もし,この場で御意見,お考え等賜れれば,参考にしたいというふうに思いますが,いかがでしょうか。 ○山本(克)委員 執行手続をどこに絞るかというのが一番問題で,開示対象の債権を差し押さえた場合に限るのか,それとも,ほかの手続,財産を差し押さえたときにも手続費用化できるのかどうかという辺りが問題なのかなという気がします。 ○山本(和)部会長 その場合に,今イメージされている費用というのは,金融機関に対して支払う費用ということですね。 ○山本(克)委員 はい,そうです。 ○山本(和)部会長 分かりました。   その点,今の前のところがそれでよろしければ,その後,資料でいえば21ページ以下で,3,4,5という問題が示されております。3は,回答の送付先ということで,これは原案というか,中間試案では,執行機関に回答するということとしているということ,それから,4が今の点,山本克己委員が指摘された問題と関係するわけですが,金融機関等に対する費用の支払ということで,これについては,中間試案で,一定の事務的な費用というものを,取りあえずは,申立人が負担するということだと思いますが,今御指摘があったのは,それを更に執行費用というふうに考えられるかどうかという問題であったかと思います。   それから,23ページの5のところは,情報の保護ということで,これは先ほども少し出てきましたが,目的外使用についての制裁ということで,一定の制裁を考えるべきだというのが中間試案であったかと思いますけれども,この辺りは,パブコメでもおおむね,中間試案に提示された方向に賛成する意見が多かったというふうに理解をしておりますけれども,もし今の点,3,4,5,全体について,どの点でも結構ですので,何か御意見があれば頂きたいと思います。 ○阿多委員 今,費用のお話が出ましたので,まず,今回の資料の23ページで示されている調査嘱託とのバランスという点については,どこが照会先になるのか,求めるべき回答が何なのかという形になるかと思いますけれども,現時点で話題になっている預貯金,更には証券会社等であれば,定型的な,言わば回答ひな形みたいなのもありますので,そういうもので照会する限りにおいては,定額で構わない。調査嘱託のように個別,個別で金額算定というのは,むしろいかがなものかと。その処理について,前もっての予納か,予納にした場合に,別の手続,後行手続の執行費用になるのかという議論があるかと思いますけれども,逆に,裁判所を通さないで個別解決という形になると,それは逆に執行費用には,余計に入れられなくなると思うんですが,私自身は,山本克己委員から御発言がありました,それで回答を得たところについて差し押さえる場合は,執行費用としての,まだ親近性があるけれども,外れた場合については,残高なしとか取引なしとかいう回答があった場合に,費用とできないと。それでいいのかな,回答によって費用にできる,できないというのがいいのかというのは,非常にやはり抵抗がありまして,関連性がどこに,因果関係がどこにあるんだと,当然そういう指摘は受けるわけですが,少なくとも執行手続に乗って,費用を掛けてしていますので,後行手続の際に執行費用に入れられる,全額なのかどうかは別ですけれども,入れられることも御検討いただけたらというふうに思っている。   なお,従前,執行費用で濫用対策という形のお話もあったかと思いますけれども,濫用については,また別途検討する必要があるんだろうと思う。それから,最後ですが,刑罰というか,情報保護のところで,24ページのところでは,現行の財産開示における規律の科料と,もう一つ挙がっているのは,振替決済制度における機関構成者の刑罰だけが挙がっているんですが,後者は振替制度の構成員から情報を受けた形の守秘義務の問題で,少し比較するのはどうかなと。他方,従前から山本克己委員が御指摘しているように,過料ではいかにも軽いと。私自身は,先ほど申しましたように,第三者が少なくとも,目的外に取得した場合もそうですけれども,取得した情報については,刑罰を科すべきですし,相当な内容の刑罰にすべきだろうというふうに思いますので,その点も付加しておきたいと思います。 ○山本(和)部会長 分かりました。   一番最初に言われた定額にすべきというのは,運用としてそうすべきというのか,それとも,法律とかで書くという話をされているんですか。 ○阿多委員 もう少し補足をしますと,費用について,各照会先について,では,正に処理費用というのを先般,人件費も含めて,それぞれが決めて処理するのかという形については,そういう個別,調査嘱託の回答ではないですけれども,個別にするのはいかがと思って,定額にしてあると。逆に,照会先は,新しい制度の照会とかいうことだけではなくて,いろいろお話をしていると,第三者に該当するところは,いろいろなところからいろいろな照会を受けて,それを回答するための部門が設けられていたり,担当の人を置いていたりされているわけで,逆に,その全てについて,同じように費用をもらっているわけではない。従前の弁護士会照会も,事実として,費用は払わずに対応されているわけですが,そういう状況において,個別の算定というのは非常に困難だろうと。   であるならば,裁判所がルールとして定額を事前に決めて,銀行への預金残高の照会だったら幾らというふうに決めるしかない。それはもう,法律なのか規則なのかあれですけれども,そういう形で制度を設けるべきだろうというふうに思っています。 ○山本(和)部会長 分かりました。 ○中原委員 費用については,どれだけの負担になるのかは実施してみないと分かりませんが,仮に裁判所で,一定のルールで費用を決めるにしても,現実的な金額であることをお願いしたいと思います。   それと,費用の入金を第三者が管理して,不足を個別に請求していくのか,あるいは,裁判所がまとめて管理して1か月に1回支払うとか,いろいろな方法があると思います。この点については,協議させていただければと思います。 ○山本(和)部会長 分かりました。   ほかにいかがでしょうか。 ○山本(克)委員 法律か規則という話ですが,規則はそういうことは定めないものだというふうに思っていますので,行政側の方,国会の方で決めるものか,それに委任された行政庁ということになると思うんですが,今,中原委員のお話を聞いていますと,法律で書くというよりは省令で,手続的なことも含めて書いていただくのがよろしいのかなという気がする。   ただ,手続的な部分が,もしかしたら裁判所,規則事項になるのかもしれませんので,その辺りの法制的なことは全てお任せしますけれども,法律に書くというものではないような気がします。 ○山本(和)部会長 それにしても,運用でというよりは,やはり何か明確に書いた方がいいということですか。 ○山本(克)委員 額は定額,何かの形で定額化しておく方がよろしいのではないかなという気がします。それは,何らかの形で,運用を任される裁判所としても,算定の根拠がさっぱり分からないのではないのかなという気がしますので。 ○成田幹事 今,山本克己委員がおっしゃったとおりでございまして,事前の予納という形で制度を組もうとしますと,金額が決まっていないと予納額が決まらないという話になってしまうので,大変困ったことになってしまう。ですから,もし額が決まらないということであれば,直接当事者間でやっていただけないかというところでもあるんですが,そうしてしまいますと,阿多委員御指摘のとおり,執行費用に入る,入らないという問題が出てきてしまいますので,ですから,やはりここは何らかの形で,第三者の費用の額を定額にしていただければとは思っております。   あと,ほかに,3の関係でも若干コメントしますと,従前裁判所の方では,当事者間というか,第三者から直接債権者の方にというようなことも申しておりましたが,中間試案ですとかパブコメの状況を踏まえますと,制度としては,裁判所の方に送付していただくということでやむなしかなとは思っております。   ただ,実務運用としましては,債権差押えの陳述催告に伴う陳述書は,裁判所とともに債権者にも送ってもらうような運用になっておるかと思いますので,第三者照会手続においても,そういった運用をした方が,債権者としては,早くその後動けるのではないかというふうに感じているところであります。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかに。 ○阿多委員 今,回答の送付先で,債権者も含めて送付の対象になるというのは,実は発言したくでもできなかったところなんですが,今の財産開示も,閲覧,端的には謄写を債務者の方が提出してから,それを裁判所から御連絡を受けて,謄写手続をするという形で,債権者の手元に来るのは相当時間が掛かって,ですから,財産開示期日の本当に少し前に手に入れてするというような状況になっています。   そちらはされるのかどうかあれですが,第三者からの情報取得を債権者の方にも直接頂くと,財産開示と同じように閲覧謄写ではない方法で回答を入手できるというのは,提案として上げていただけるんであれば,それに賛成したいと思います。 ○中原委員 回答先については,金融機関はナーバスになっています。全銀協からの中間試案についての意見書の中でも言及していますが,裁判所に対して回答するのであれば安心して回答できます。しかし,債権者に対して回答するのであれば,債権者の属性が分かりませんし,債権者が回答を公表したり,コピーを配布したりすると,批判の矛先が金融機関に向けられる可能性があります。これでは困りますので,回答先は裁判所にしていただきたいと思います。 ○山本(和)部会長 分かりました。   ほかに,この3,4,5の辺りは,よろしいでしょうか。   幾つかの御意見,それぞれについて頂戴したと思いますので,これらについても,もう少し事務当局の方でもんでいただければと思います。   それでは,よろしければ,以上で14-1についての検討は終わりまして,引き続きまして,14-2,債権執行事件の終了をめぐる規律の見直しに関する検討について御議論を頂きたいと思います。   まず,事務当局の方から御説明をお願いいたします。 ○松波関係官 部会資料14-2について御説明いたします。   まず,資料1ページの「1 差押債権者が取立権を行使しない場面等における規律」についてですけれども,意見募集の結果や,また,この部会の議論の中の状況を見ますと,中間試案の本文や(注)で提示されている規律に反対する意見も幾つか見られたところでございますが,しかし,その内容を具体的に見てみますと,まず,総論的な事項として,差押債権者が取立権を行使しない場面において,債権者の行為に依存することなく事件を終了させるという新しい制度を作ること自体については,むしろ,それほど反対の声は大きくなく,賛成の立場が多数であったように受け止めております。そこで,今後も,債権執行事件を終了させるための規律を設けるため,御議論をお願いしていきたいというふうに考えております。   そして,試案の提案に反対する意見についてですけれども,これを具体的に見てみますと,その主な論拠としましては,試案で提案されているような一定の届出義務の履行を差押債権者が失念してしまう場面があり得るだろうというような御指摘がありまして,このように差押債権者が義務の履行を失念してしまった場面に対応するため,一定の仕組みを設ける必要があるのではないのかというような御指摘があったように受け止めました。   仮に,そのように差押債権者が届出をすることを失念してしまうという事態があり,これを何とか対応するための仕組みが必要であるというようなことであれば,そのための検討をする必要がありますので,今回の資料の2ページの(3)アでは,「裁判所書記官からの連絡等の必要性」という項目を設けました。ここでは,差押命令が取り消されるまでの過程において,裁判所から一定の連絡をすることなどによって,こういった債権者が失念してしまう場面というのに対応するという方向を考えております。また,これと別の方向としまして,3ページの「イ その他の検討課題」の部分でございますけれども,差押命令が取り消された後の過程において,この取消決定を覆す余地を広く認めるというような方向もあり得るのではないかということで考えてみました。これらの二つの方向を,今回は部会資料として試みに御提示しておりますけれども,これらによって,差押債権者が届出義務を失念してしまう場面に対応するということにつきまして,御意見を頂きたいというふうに思います。   また,仮に試案の本文のような取消決定をするような規律を設けるものとしましても,3ページの(4)で触れておりますように,差押債権者が届出をすべき時期やその期間について,試案では,2年,2週間とする案が提示されていたところではありますが,この点について更に議論の余地があると考えております。例えば,この期間を長くすることとすれば,差押債権者が届出義務を失念してしまう場面にも,ある程度対応できるのではないかも考えられるのではないかと思います。   これらのことを踏まえまして,改めまして,試案の本文のような執行裁判所の取消決定により債権執行事件を終了させるというような考え方について,御意見を頂きたいと思います。   次に,資料の4ページでは,その他の場面として,債務者への差押命令の送達未了の場面の規律を取り上げております。意見募集の結果を見ますと,まず,債権執行の場面で差押命令を送達することができない場面を念頭に置く限りにおきましては,試案で御提示した規律を設けることに,おおむね異論はなかったように受け止めております。他方で,試案の(注1)(注2)として掲げました不動産執行等の場面や民事保全の場面において,裁判所からの命令が送達できないことを理由に取消決定等の規律を設けることにつきましては,現状において,送達未了を原因として不動産執行事件や民事保全が滞留しているといった実情が必ずしもあるわけではないというような御指摘が寄せられまして,これらの場面では規律を設けることに反対という意見もございました。そこで,差押命令等の送達未了の場面で事件を終了させるための規律を設けることに関しまして,債権執行以外の場面でも,こういった規律を設けるのかといった点につきまして御意見を頂きたいというふうに思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,この資料,大きく1と2に分かれておりますので,まず「1 差押債権者が取立権を行使しない場面等における規律」ということで,先ほど御説明がありましたが,中間試案の本文を基礎にしながら,それにプラスしてといいますか,裁判所書記官からの連絡とか,あるいは,取消決定が出た後も届出をして執行抗告をすることを認めるとかというような,改善案というんですかね,少し新たに付け加えられた分があるということですが,これにつきまして御意見を頂戴できればと思います。 ○阿多委員 この2ページのところでは,試案,本文に対する反対が,共助する立場にはないと考えるやに書かれているんですが,共助についての議論と必ずしも論理必然性がないというふうに考えて,前向きな話をしていきたいと思います。   従前は,2回の特別送達というのは,さすがに手続的には重た過ぎて,特に期日を連絡するための特別送達と,それが債務者に到達しなかったらどうするんだとか,そういうこともありますので,御提案の1回の手続で,なおかつ書記官からの事務的な連絡により債権者が事実上認識できるというような制度は,有効な方法だと思います。   なお,書記官からの連絡について,事実上の運用にするのか,法的義務にするのかというところについては,やはり法的義務にしていただけたらと思いますが,逆に,法的義務が果たせなかったときに,本当に,ここで危惧されている転居等の事情により事務的な連絡が困難だったら,それで,後の手続が,特別送達するわけですから,後の手続が本当に飛ぶような話になるのかというと,そうではないと思います。行為規範として,こういうことはしてくださいよという形の意味での義務で規律すれば良いと思いますので,書記官の事務的な連絡がなければ取消決定が無効になるというようなことまでの内容にする必要はないのだろうと思います。   それから,書記官の連絡とは別に,その後に争う手続も必要だと思います。これらは選択的ではなくて,両方というのはあり得るかと思います。ただ,これが執行抗告なのかというのは,実は非常に疑問で,届出をしないから,したにもかかわらず着かなかったというのが執行抗告事由でしょうけれども,多くの場合は,届け出なかった。そうすると,それは抗告事由がないという形になって,後で再開する理由にはならないと思うんですね。そうすると,むしろ執行抗告とかいう立て付けではなくて,むしろ,手続的な形で届出はしなかったけれども,実は取り立てる意思があって交渉しているんですとかいうような事情届的なものがあれば,取消決定を撤回するなり,そういうふうなものがあり得るのではないかと。   民事執行法でいろいろ規定を探したんですが,そういうのはないんですが,例えばですけれども,会社法などでは,みなし解散があっても,会社の方がまだ事業継続の意思があるというので,総会決議をして届出すれば,みなし解散の登記については,復活という形で制度もありますので,執行抗告事由ではないですけれども,取立ての意思が表明されるような届出があれば,取消決定を撤回して,再度継続するというような制度を御検討いただけたらと思いますので,そういう意見を述べたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   いかがでしょうか。 ○谷幹事 この問題では,私,これまで,期間経過により直ちに取消しというのは反対であるというふうには申し上げてきたところでありまして,その意見は現時点でも維持をするということにはなるんですけれども,仮に取消しという制度を設けるとしても,やはり理論的にも,実際上のそういう効力を持たせていいのかどうかという点で説明が付きにくいと思うのは,条件付債権について,条件未成就で取立てができないという状況であるにもかかわらず,期間経過だけで取消しというような効力を発生させるということについての根拠というのが,やはり説明ができないのではないかなというふうに私は思っております。   したがって,例えばですけれども,第三債務者の陳述で,条件付債権で条件が成就していないから弁済できないという陳述があった場合には,これは期間経過によって取消しはできないというふうにするような制度ということも十分考えられると思います。あるいは,相殺予定についてどうするかとか,幾つかの派生する問題はあるのかも分かりませんけれども,債権がないということで陳述を変えてきた場合と比べて,それ以外の場合というものも含めて,全部期間経過で取消しというのは少し行き過ぎで,その辺りについてのきめ細かな制度というものが本来あるべきではないのかなというふうに思います。 ○山本(和)部会長 今の御意見は,裁判所書記官がそういう通知みたいな,連絡みたいなものをするというような制度を設けても,なお反対であるということですか。 ○谷幹事 そういう趣旨です。 ○山本(和)部会長 分かりました。   ほかにいかがでしょうか。 ○成田幹事 今,谷幹事から出た話ですが,陳述書を書いてきたのを解読するのが結構,大変なこともありまして,むしろその辺りは,現に第三債務者と交渉に当たるであろう債権者の方の取立てできない事情の届出のところで,やはり判断をすべきことなのかなというふうに思っておりまして,陳述書を見て,それだけで例外とするのは,なかなか難しいのではないかと思っております。   あと,裁判所としましては,事前のお知らせの部分につきまして,やはり取消しの要件とされてしまうと,ではどうやって,その要件を満たすことを記録上明らかにしていくのかなど,なかなか難しい問題が出てきますので,そこは阿多委員おっしゃったように,行為規範というのか,多分法令上は,するものとするぐらいのところの規定ぶりにしていただいた上で,むしろ取消決定後の,恐らく取消決定の執行抗告なのかなと思うんですが,執行抗告の局面で,追完というのを認める形を考えていけば,そこはカバーできるのかなというふうに思っております。 ○山本(和)部会長 分かりました。   ほかに。 ○平田委員 併せて,ちょっと申し上げますけれども,先ほどは特に出ませんでしたが,試案の(注)というところ,裁判所の意見ということで取り上げていただいたんですが,もうここに至っては,そこには固執しません。   先ほど阿多委員の方からもお話があったような,いわゆる本文の案ですね。本文の案で御検討いただけるということであれば,それをお願いしたいと思っているところですが,その前提としての書記官からの連絡,事実上の連絡でいいとか,特に大阪等で行われている,電話等でやってもらえばいいということを多分念頭にある上でのお話だとは思うんですけれども,ただ,それにしても,そういう連絡を受けなかったとか,そういう形で争われるのを避けるために,そういう手続を法令上設けるとすると,送達等が必要ということに,流れとしてなりかねないと思いますし,少し厳格な手続が必要だという方向になると,同じような懸念が生じるということで,今,成田の方から申し上げたのは,翻って考えると,届出を失念しているうちに取り消されてしまったというところを懸念されるのであれば,取消決定を一旦したとしても,届出を後でするという形で,取消決定が失効するような制度にしておけば,その懸念はないのではないでしょうかというのを申し上げたいということでございます。   その方法としては,現行法上は,やはり執行抗告というふうにしていただいた上で,その過程で,取消決定が確定するまでの間に届出を追完してもらえれば,それで失効するという形で,これは民事訴訟においても,抗告提起の手数料の納付を命じる補正命令を受けた者は,期間内に納付しなかった場合でもこれを理由とする抗告状却下命令が確定するまでは手数料納付の追完を認めているという,最高裁の決定等の流れもあり,この場合もそのようにせざるを得ないと思いますので,届けを出してもらえば,取消決定は覆るという制度設計にすれば,その点の御懸念もないのではないかと思っているところでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかに。 ○山本(克)委員 今のような,平田委員がおっしゃったような形で,やはり執行抗告で確定したことを前提にしないと,阿多委員の言われるように,取消決定の撤回はやはりまずいのではないか。つまり,取消決定が出て,第三債務者が債務者に支払ってしまった場合に,準占有者に対する弁済になるのかどうか,準占有者の弁済になるとして,差押債権者と債務者との不当利得の関係はどうなるのかとか,そういうややこしい実体法上の問題を生じさせるようなことは望ましくないので,やはり取消決定の確定と,未確定だという間に何かしてもらうということでないと,やはりまずいのではないかなと,今,平田委員がおっしゃったことで,その懸念は去ったと思いますが,念のために申し上げておきます。 ○阿多委員 懸念の原因になった発言をした者ですが,単純に時間軸で考えたときに,どこに執行抗告理由があるんだろうと。先ほど言いましたように,自分は,まず裁判所の連絡については,厳格なことを考えているわけではないんですが,聞いた,聞いていないというトラブルになるのであれば,いまだに文明の利器とは思えませんが,ファクシミリなどの形のものは残していただくような形になると思います。先ほど申しました執行抗告理由がないのではないかという形で,ほかの理由を考えて発言したのであって,追完というような形で対応できるんだというのであれば,この意見にこだわるわけではありませんので,手続的に簡明な方法にしていただけたらと思います。   それとは別に,先ほど発言漏れをしたんですが,届出をすべき時期及びその期間について,この試案では2週間という形で頂いていて,今回,それとは違う,これに対しという形で,もう少し長期というお話があります。   弁護士等で債権執行している者と,いろいろ話をしていると,一旦発令後も当然,代理人で管理している事務所もありますし,弁護士もいますけれども,確定段階で一旦事件終了で,取れないという状況を報告して,もうそれで本人の方に事件管理を委ねている例もあります。ただ,届出の関係では,送達場所で,代理人のままという形で連絡を受けますので,それは連絡が来るのは当然だとは思うんですが,債務者とのいろいろ連絡をとった上で,実際取下げという,取消しでいいのか,何か考えるのかという形の情報交換というか,意見交換のための期間をもう少し見ていただきたい。   そういう意味では,2週間ではやはり短過ぎまして,御提案いただいている,例えば1か月というような形で検討いただけたらと思いますので,その点も付加しておきたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかに。 ○谷幹事 平田委員に質問がございまして,先ほどおっしゃいました,執行抗告の中で追完をすればいいのではないかという,そういう仕組みが考えられるという御指摘なんですけれども,その場合,取消しの要件との関係をどういうふうにイメージをされているのか。   ここで試案の考え方というのは,一定期間経過,2年なら2年経過によって取消事由が発生して取り消すということであれば,これ,取消決定の後,仮に何らかの届出をしたとしても,2年間の間にしなかったという点では要件を満たしているわけでございまして,そうすると,その要件を満たした状態というのが,後から仮に届出をしたとしても,その事実関係自体は変わらない。そこら辺りの要件との関係で,どんなふうな仕組みをイメージされているのか,ちょっと教えていただけたらなと思います。 ○成田幹事 取立てに関しては,取り立てたときに取立届を出すという義務は現行法でもあると。   遅くとも2年を経過したときには取立届を出さなけなければいけないですし,あと,取立てに至らなかった場合にはその事情を届け出るものとすると。2週間たったら取消しの要件が満たされるわけですが,平田委員から申し上げたとおり,訴え提起手数料等については,補正命令で期間を切られた後でも印紙を納めることはできますし,あと,訴状却下命令等がされた後でも,即時抗告をして納めることはできるという形で,要は,要件とは別に,救済の道を設けているという形になっておりますが,そういう整理かなというふうに思っております。 ○平田委員 非常に禅問答みたいな話になっておりますが,今申し上げたとおり,期間を定めて補正命令を出すんですけれども,通常の訴状の手数料等の関係で,期間を徒過しているからということで,訴状却下命令等を出しているんですが,それに対する不服申立ての手続の中で,手数料の支払が行われた場合は救済しているんですよね。   それで,おっしゃることはよく分かるんです。ですので,何らかの理由で,これですので,裁判所として,正式に議事録として出されると非常に困るんですが,何らかの理由で出していただいて,それですぐに,それは理由に当たらないと却下することはなくという流れになるのかなと。その手続の中で,事情届を出していただければ,それで追完されたという流れになるのではないでしょうかということで,そんなのは信用できないという御意見が出るかもしれませんが,今,現実に,通常の訴訟の中で,そういう形になってしまっておりますので,ということで御容赦ください。その後の知恵はいろいろあるかと思います。 ○山本(和)部会長 ちょっと理論的に,現実的に詰めないといけないかもしれませんが。 ○谷幹事 おっしゃるとおり,理論的に詰めていただく必要があると思います。   恐らくそこは,そういう扱いをしているというのは,裁判官の独立の関係でいうと,全く拘束できない性質のものだろうというふうに思いますので,裁判官によっては,それは認めないという判断も十分あり得るという問題と,それと,そういう条文に表れないような形で,実務上こうなっていますよというようなものであれば,それを知らなければできないわけでございまして,債権者というのもいろいろあるし,弁護士にとっても知らない,仮にそういう運用がこれから確立するとしても,知らない人がいるわけでして,そういう不安定な制度というのは,よろしくないだろうというふうには思います。 ○山本(和)部会長 分かりました。 ○垣内幹事 今の点は,実質というよりも,理論的説明あるいは規定の書き方等に依存するところが大きいかというふうに思いますけれども,理論的な点という点でいいますと,先ほどの訴状の補正等の場合というのは,これは結局,訴状が適法であって,訴えが提起されれば,それは何というか,当該訴えに関する限り,何といいますかね,基準時において全て適法であればよかったということであって,それがいつ満たされるかということは,それが,その裁判,却下をする裁判前であれば,それはいつでもいい,いつかどうかは本質的な問題ではないということかと思われるんですけれども,この制度を仮に作ったときに,規定の仕方として,例えば2週間なり1週間たったのに,届出がないことが取消事由であるという形になってしまいますと,後で追完がされても,その期間内に届出がないという事態は変わりませんで,これは,一旦完成した時効は後で中断しても仕方がないみたいな話になってしまうかと思われますので,そこは本質的には,届出がないことがその取消しの理由であって,しかし,取消しの裁判は2週間なり30日なりがたったら初めてできるというように,そこを何といいますか,実体と手続の問題を分けて,誤解のないように規定がされれば,その点は解決がされるのかなというふうな感じを持っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。おおむねよろしいですか。 ○平田委員 今の論点とは少し異なるんですが,差押債権者が届けをすべき時期についてなんですけれども,これは試案,それから,その補足説明でも今回と同じように書いてあるんですが,民事執行法155条3項においては,支払を受けた旨の届出というのは,今現在は,すぐにしなければならないとされているのを,今回の改正によって,2年間経過して初めて,届出をすべき時期が到来するのかと言われると,それはちょっと困るところがありまして,全額支払を受けたら終了してしまいますので,やはり届出をすべき時期は,支払を受けたときには,その時期にしてほしいと。ただ,それをしない人がいるので問題になるわけですので,遅くとも2年間たった後は,しなければいけないというような規律にしていただきたいと思っておりまして,多分そういう案だと理解しておりますが,それでお願いします。 ○山本(和)部会長 事務当局としてはそれでよろしいですね。 ○内野幹事 はい,そのようなことが実質であろうというふうに認識をしておりますので,ただ今の御議論を踏まえて,規律の在り方について検討していきたいと考えております。 ○相澤委員 裁判所書記官からの事務的な連絡の関係では,法的な義務ということまでではなく,事実上お知らせをするという扱いで規律を考えていただきたいと思います。実務的には,法的義務となりますと,やはり送達という方向に行きがちかなと思いますので,それでは非常に重たい制度になってしまうのではないかと感じております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   おおむね,多くの委員,幹事の御意見は,今回の修正された本文というんですかね,基本的には届出義務と取消決定の組合せ,ただ,裁判所書記官から一定の連絡をすると。ただ,その連絡については,何らかの法的効果を伴うようなものではないものとして位置付けるということでよいのではないか。また,その取消決定がされた後の届出に基づいては,執行抗告,追完という構成になるというお話がありましたが,それは執行抗告事由になるということ,ただ,それが理論的にどういうふうに整理されるのかという,垣内幹事から一つの提案がありましたけれども,どういう書きぶりをするかということも含めて,問題としては残るけれども,実質的はそういうことであるという御意見が多かったと思います。ただ,依然として,それで本当にいいのかという御意見も,なお残っているという状況かなというふうに思います。   それから,2年,2週間の問題については,特に2週間の点については,もう少し期間を長く設定,例えば1か月というような御発言もあったということであったかと思います。そういうような御意見のおおむね分布であったということを前提にして,また更に次回以降。   それでは,よろしければ,最後,2のところで,債務者への差押命令等の送達未了以外の場面,差押命令等の送達未了の場合の規律について,どのように考えるのかということで,本文の問題につきましては,おおむね中間試案の意見について,異論がなかったということですけれども,それを更に不動産執行等,あるいは民事保全に拡大するかどうかということについては,意見募集では両論あったという御紹介があったかと思いますが,この点について御審議を頂きたいと思います。 ○阿多委員 送達未了の場合ですけれども,質問というか確認なんですが,送達場所の1の4行目から末尾で,送達場所の申出等を命ずることができるものとした上で,申出をしないときはという形になっていて,試案のときには,いわゆる公示送達のお話が入っていたわけですけれども,質問というのは,公示送達の場合の公示送達要件について,満たしていないかどうかというのは,一旦公示送達の申立てがあった上で,その手続で判断するのであって,形式的には公示送達の申出さえすれば足りるというのが提案の趣旨なのか,今回,前はそのままあったんですが,消えていますので,一応,中間試案前に確認すればよかったのかもしれませんけれども,その点についてしたいと思う。   というのは,公示送達の要件を満たす,満たさないというのは,前から発言していますように,それなりの手続を経た上で,公示送達手続に行くことが多いものですから,ただ,この関係では,送達場所の申出が実際できなくて,公示送達をするという場合には,もちろんそれまでに調査しているではないかというお話があるかもしれませんけれども,公示送達の申出だけをすれば,少なくともその時点では要件は満たして,あとは公示送達要件がないと,その段階で却下という手続になるのかを確認したいと思います。   その回答によって,多分,相当期間というのが,公示送達の期間を考慮しての期間になるのか,申出だけであれば,それほど時間が掛からないのでというのに影響するかと思いますので,お願いいたします。 ○松波関係官 今回の資料は,「申出等」という形で簡略的に書いておりますけれども,実質的には試案で御提案させていただいたものと同じものを書いているつもりでございます。   試案の内容については,中間試案の取りまとめの際にも御議論ありましたが,事務当局としましては,基本的には,現状において訴状の送達ができない場合に補正命令が発せられるものと同じような規律にし,それと同じ解釈がされることを想定しております。相当の期間というのも同じように,裁判所において事案ごとに定めていただくことになりますので,公示送達の要件の調査のために時間が掛かるというのであれば,しかるべく判断されることなのではなかろうかというふうに思います。 ○内野幹事 ですので,今回の資料の体裁は形式的にはこれまでのものと変わっておりますが,その実質的な内容は従前の議論と変わってはいないというふうに御理解いただければと思います。 ○阿多委員 そうしますと,非常に,取りあえず形だけでも公示送達の申出をすれば,それで要件は満たすと,そういう理解でよろしゅうございますか。 ○松波関係官 これも同じく従前議論があったところですけれども,現状において,訴状の補正命令がされた場面を念頭に置きますと,当事者が補正命令に対して何らかのアクションをすればそれのみで足りるとするのかどうかというのは,事案ごとに応じて異なる処理がされるものだというふうに思います。例えば,公示送達の申立てがされたものの,実際には公示送達の要件を満たさなかった場合において,裁判所が直ちに訴状却下命令をしているのかというと,実際にはそうではなく,裁判所が改めて補正命令を発するというような運用上の工夫もあり得るところでございます。債権執行事件に関して提案しております今回の規律も同じような解釈がされるのではないのかというふうに考えているところでございます。 ○阿多委員 結構です。 ○山本(和)部会長 よろしいですか。   ほかにいかがでしょうか。 ○山本(克)委員 不動産執行等の場合のことでもよろしいですか。   私は,滞留がないから要らないというのは,ということは,本則は,提案理由は滞留解消であると書くということですよね。そんな恐ろしいことができるのかという気がするし,やはり,やるのであったら,なぜ違うのかというのを説明できないと思うんですね。やはり,執行手続の円滑かつ迅速な処理のために必要であるということになろうかと思いますから,それで,なぜ不動産執行の場合には外れるのかということは説明できませんので,やはり一貫した規律というものが必要とされるのではないのかなという気がします。 ○山本(和)部会長 いかがでしょうか。 ○阿多委員 よろしいですか。一貫した規律が入ると,大変な影響があると思うんですが,少なくとも民事保全の部分については,別途の考慮が必要なのではないかなと。一貫した規律が入っても,事実上,他の執行事件は,不動産も,動産についても支障がないので,入ってもそれほど問題にならないと思うんですが,民事保全については,仮差しされたまま長期継続しているというのはありますので,それについて,本案の状況が進捗しないと取消しになるとかいうようなことになると大変ですので,執行事件に関してという形で限定していただけたらと思います。 ○山本(克)委員 そちらは本案の起訴命令等で対処できる場合があるので,特に必要は感じないけれども,執行手続の範囲でという趣旨。 ○山本(和)部会長 いかがでしょうか。 ○松下委員 感触程度のことしかないんですけれども,同じ執行といっても,債権執行と不動産執行というのは,執行という点では共通なんですが,元々持っているスピード感みたいのが全然違うような気がしまして,必ず横並びしなければいけないというものでもないのではないかなという,これは印象以上のものではないんですけれども,それほど神経質に理論的にそろえる必要があるのかなという程度のことです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○山本(克)委員 そこで理屈が立つのであれば,私は別に構わないですが,理屈がないのであれば,差別化の合理的な理屈が立つかどうかという点を問題にしているので,理屈が立つのであれば別に,異なる扱いをするということにはこだわりません。 ○山本(和)部会長 ほかにいかがですか。 ○谷藤関係官 先ほど阿多委員からも御発言がありましたけれども,民事保全に関しては,裁判所としても余り必要性を感じないところでありまして,本文と同様な規律を民事保全について設けますと,補正命令や取消決定の送達に要する費用を債権者に予納させるということが必要になってまいりますので,その点の対応は困難になるかなと思っているところでございます。 ○山本(和)部会長 不動産執行等は,特段差し支えないという感じ…… ○谷藤関係官 特に,そちらは,あっても別にいいかなと思っているのですが。 ○垣内幹事 私は不動産執行等について,確たる方向性があるということではないんですけれども,債権執行の場合に関しては,やはり第三債務者が巻き込まれているというところがあって,そこは不動産執行の場合ですと,必ずしもパラレルではない部分というのもあるのかなという感じもしており,区別,違いを一つ挙げるとすれば,そういうところはあるかなという気はしております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかには。 ○中原委員 金融機関は第三債務者として預金を預かる立場ですから,同じように長期の管理をしなければならないという負担が生じていることは付言しておきたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかにはよろしいでしょうか。この点,本文の点についてはおおむね,恐らく異論はないということを前提としてということですが,民事保全は少し違うのではないかという御意見が多数であったという,多かったというふうには思いますが,最後,中原委員からは,同じとするのがよいのではないかという御意見もございました。   また,不動産執行等については,かなり意見が分かれて,説明できるのかというところであったかと思いますけれども,これも事務当局の方で,更に説明できるかどうかということを含めて,ちょっとお考えを頂ければと思います。   以上で一通り,本日の審議対象については御議論いただけたかと思いますが,何か付随的に,付加的に御意見があれば,お伺いしたいと思いますが,よろしいですか。   それでは,本日の審議はこの程度とさせていただきたいと思います。次回の議事日程等について,事務当局から御説明をお願いします。 ○内野幹事 次回でございますが,平成30年1月12日の金曜日午後1時半から午後5時半までの予定で,場所は東京高検の第2会議室で開催する予定でございます。   次回の議題につきましては,現在のところということでございますが,子の引渡しの強制執行に関する規律の明確に関する検討課題について,御審議をお願いしたいと考えております。 ○山本(和)部会長 それでは,これで第14回の会議を閉会させていただきます。   本日も熱心な御審議を賜りまして,ありがとうございました。少し早いですが,本年最後ということですので,どうかよいお年を。 -了-