法制審議会 民事執行法部会 第15回会議 議事録 第1 日 時  平成30年1月12日(金)自 午後1時30分                      至 午後5時49分 第2 場 所  東京高等検察庁第2会議室 第3 議 題  子の引渡しの強制執行に関する規律の明確化に関する検討(4) 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○山本(和)部会長 それでは,予定した時刻になりましたので,法制審議会民事執行法部会第15回会議を開会いたします。   少し遅くなっていますが,明けましておめでとうございます。本年もどうかよろしく御審議のほどお願いしたいと思います。   出欠の状況ですが,岡田幹事につきましては,本日御欠席と伺っております。   それでは,本日の審議に入ります前に,配布資料の確認を事務当局からお願いいたします。 ○内野幹事 まず,事前送付資料といたしまして,部会資料15を送らせていただいております。また,席上配布資料といたしましては,意見募集の結果の概要につき,前回と前々回に暫定版としてお配りしたものを合体させて,若干表現等の形式面の整理等をさせていただいたものを,参考資料2としてお配りさせていただいております。本日は,意見募集の結果を踏まえた審議でございますので,本日もこちらを適宜御覧いただきながらの御検討を賜われればと思います。なお,意見募集に寄せられた意見そのものにつきましても,これまでと同様に席上に置かせていただいているところでございます。   今申し上げましたとおり,今回の資料は,意見募集の結果や部会のこれまでの議論を踏まえて,議論が分かれている論点も含めまして,あり得る考え方などを試みに提示しようとしております。今後の議論の進捗を見据えますと,前回と同様,中間試案の本文の方向で要綱案のたたき台の作成を目指していくべきなのか,別の方向があり得るとすれば,それについて具体的にどのようなたたき台の作成を目指すべきなのかという点について,飽くまで可能な範囲でということでございますが,事務当局としましては,その方向性を感じ取ることができればと考えているところでございますので,本日もどうぞよろしくお願いいたします。 ○山本(和)部会長 それでは,本日の審議に入りたいと思います。   審議の対象は,部会資料15,「子の引渡しの強制執行に関する規律の明確化に関する検討(4)」でありますけれども,適宜幾つかの項目ごとに議論をさせていただければと思います。   まず,「第1 直接的な強制執行に関する規律の明確化」の部分について,御議論をお願いしたいと思います。   事務当局から資料の説明をお願いいたします。 ○内野幹事 第1につきましては,これまでの中間試案の本文の作りと若干異なりまして,執行機関の話をこの第1で取り上げております。これは,直接的な強制執行の執行機関等の論点につきましては,執行裁判所を執行機関とすることを念頭に置いた御意見が部会の中でも多く出ており,また,意見募集の結果の中でも,そういった意見が多数を占めていたということを踏まえたものでございます。また,個別の他の論点につきましても,例えば,直接的な強制執行に当たって間接強制を前置すべきか否かという論点につきましても,その要件の該当性について執行裁判所が判断すべきだという意見も強く出ておりました。このように,個別の論点においても,執行裁判所が何らかの形で関与することを支持する意見が相次いでいるというようなところも踏まえまして,今後,この制度設計の詳細についての検討を進めるに当たっては,執行機関の点につき,一応の前提を定めておいた方が議論しやすいのではないかというところもありまして,その他の可能性を現時点で排除するわけではございませんが,差し当たり,執行裁判所を執行機関とする考え方を前提に,具体的な規律を検討していくという流れが建設的ではないかと考えまして,まず第1の点について提案をさせていただいているということでございます。   資料については以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,ただ今御説明がありました部分につきまして,御意見を頂戴したいと思います。どなたからでも結構ですので,御自由に御発言を頂ければと思います。 ○阿多委員 執行機関を執行裁判所にするというのは,従前から強くお願いをしていたところで,今回こういう形で整理していただいて,賛成したいと思います。   なお,(注)のところで,これも弁護士会が従前から申し上げていたことの御指摘だと思うんですが,「現行法の枠組みを前提とせず,子の引渡し特有の手続を構想すべきである」という部分についても,これは,執行機関は執行裁判所にするというような形で御提案させていただいたつもりでございますので,いずれにしても,(注)にいくにしても,執行機関は執行裁判所にするという考えで進めていただけたらと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   この点につきましては,おおむね御異論はないと承ってよろしいですか。   それでは,今お話がありましたように,今後の議論の前提としては,一応この執行裁判所を執行機関とするという方向を前提にしながら,議論を進めてまいりたいと思います。ありがとうございました。   それでは,続きまして,資料の2ページ以下になりますが,資料の「第2 直接的な強制執行と間接強制との関係」について,御議論を頂きたいと思います。   これも,まず事務当局から資料の説明をお願いいたします。 ○吉賀関係官 御説明いたします。   資料2ページから4ページまでは,間接強制前置の論点につきまして,中間試案の概要と部会の議論の状況,意見募集の結果等を御紹介するものでございます。   これらを踏まえますと,間接強制前置については,これを例外なく必要とする試案の本文の考え方,あるいは一切必要がないとする試案の(注2)の考え方のいずれも,子の心身に与える負担を最小限にとどめるという観点からは,なお問題があるのではないかといった認識が示されたように思われます。   そこで,4ページから5ページにかけての「ウ 今後の検討の方向」というところですけれども,個別具体的な事案に応じて,間接強制前置の要否を判断するという方向性を示しております。それを前提に,甲案と乙案という二つの案を示しているところでございます。   二つの案は,アプローチの違いはありますけれども,規律の実質において,余り大きく異なるものではないかもしれませんが,甲案では,直接的な強制執行によることが必要ないし相当であるといえる場面として,既に間接強制が実施された場合のほか,間接強制が奏功する見込みがない場合,あるいは子の急迫の危険を防止する必要がある場合を掲げております。他方,乙案では,甲案と異なり,直接的な強制執行によることが必要ないし相当ではないといえる場合には,執行裁判所がその申立てを却下しなければならないとする枠組みを提示しておりますが,どのような場合がこれに当たるのかという点につきましては,更に議論する必要があるように思われます。   なお,7ページのところで他の考え方も紹介しております。   以上を踏まえ,今回の部会では,甲案,乙案の適否や,その要件の在り方といった規律の実質の部分を中心に御意見を伺いたいと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,この直接的な強制執行と間接強制の関係の部分について,御議論を頂きたいと思います。どなたからでも結構ですので,御発言を頂ければと思います。 ○青木幹事 甲案ですけれども,これは,ドイツ家事非訟手続法の90条1項を参考にしているのではないかとも思われますので,既に部会資料4にも示されておりますが,簡単に紹介させていただきたいと思います。   ドイツ法は,人の引渡しなどの強制執行については,その直接強制といいますか,実力行使による方法を裁判所が命じることができる場合を,秩序金や秩序拘禁といった間接的な方法が功を奏しなかった場合,あるいは功を奏する見込みがない場合,それから裁判を即時に執行することが不可欠な場合に限定しております。逆に言えば,これらの場合にはそれを認めております。これは,相当性の原則から直接強制を例外的な場合に限定するというもので,差し迫った危険がないということであれば,慎重に手続を進めていこうというものだとされております。   このような考え方は,日本においても参考になるかと思われ,また,子の危険を防止する必要がある場合のほか,間接強制の方法が功を奏する見込みがないという場合であっても,間接強制を前置することなく,直接的な強制執行を認めてよいのではないかと考えております。 ○阿多委員 意見を述べる前に,ちょっと2点質問をさせていただきたいんですが,今回,この甲案,乙案というのをお出しいただいているのですが,「直接的な強制執行の申立ては」という主語で始まっているのであれなんですが,この甲案,乙案というのは,例えば,債権者の方が間接強制を選択するというような場合には,当然間接強制を申し立てる,両方選択することができるときの直接的な強制執行を申し立てる場合の手続と,そういうふうな理解でよろしゅうございますでしょうか。   それともう一点,間接強制前置の関係以外に,手続として,途中の説明を見てみますと,言わば代替執行,171条を意識した記載があるんですが,その場合,いわゆる債務者審尋というものを想定して,これ,直接的な強制執行の申立てでも,この甲案,乙案というのは,手続の中で債務者審尋が入るんだということを前提として考えられているのか,ちょっとその点教えていただけたらと思うんですが。 ○山本(和)部会長 説明をお願いします。 ○内野幹事 1点目は,阿多委員の御指摘のとおり,直接的な強制執行の申立てをする場面でのものを書いておりまして,別途,間接強制の申立てから行いたいという方の申立てについては,それは任意に選択することができるということを前提としております。したがいまして,1点目は御指摘のとおりかと思います。   二つ目の審尋の点ですが,今後の議論における考え方の一つとして,執行機関を執行裁判所にするといった方向での部会のこれまでの議論を踏まえますと,現行法を参考にすれば,代替執行と性質決定し得るようなものが検討の中心になろうかと思っておりますので,一つのモデルとしては,債務者の審尋を要求するということを前提とし,あるいは,ある程度想定しつつ,この案を御理解いただければと考えております。もっとも,この点につきましても,別の考え方があるようでしたら,御指摘いただければと思っております。 ○阿多委員 今の御説明を前提に,ちょっと意見を述べたいと思うんですが,私自身は,乙案に賛成したいと考えています。   先ほど青木幹事の方から,ドイツの方では直接強制は飽くまで例外的だと,間接強制前提だという御説明があったんですが,今回,甲案で示されている除外事由というか,⑴,⑵,⑶というものを拝見した場合に,例えば⑵で,172条1項の規定による強制執行を実施しても,債務者が子の監護を解く見込みがないときという要件が挙がっています。例として挙がっているのは,従前我々が申し上げてきたのは,強制金自体を無資力等で,それ自体効果がないだろうというような場合と,あとは,物ではありませんので,人の感情の問題ですから,債務者の方がもう明確に渡さないと意思表示をしているにもかかわらず,それで強制金を科してというような形は,余り実効性がないんだろうと考えます。   そうすると,現状,間接強制の場合に,いわゆる債務者審尋というものが制度として予定されていて,私が知る限りにおいては,書面審尋等で実施されているわけですが,その際も,履行の可能性について質問されていて,実際は,分かりました,履行しますなんていう回答が出ることはないわけですね。そうなってくると,実際この⑵の要件があって,そこで債務者が一言,いや,渡すつもりはありませんとかいうようなことを言えば,乙案にいってしまうというようなことになりかねないわけで,結局,原則例外と言っていても,中身に差はないのではない。これは,趣旨の説明のところに,甲案,乙案で実際どれだけ差があるのかというお話がありましたけれども,具体の場面を考えて,そういう除外事由を考えるんであれば,でも,余り差がないんであれば,もう最初から,全体を考慮してどういう場合が適当なのかという形で判断する乙案の方が望ましいんだろうと思いますので,乙案を支持したいと思います。 ○山本(和)部会長 分かりました。   ほかにいかがでしょうか。 ○石井幹事 甲案について,少し考えたところを申し上げますけれども,甲案については,⑴,⑵,⑶という形で要件を立てていただいて,それ自体は,これまでも具体的な場面をということで申し上げておりましたので,大変有り難いと思います。ただ,やはりこの要件の⑵につきましては,今,阿多委員がおっしゃったところと通じるところがあるかもしれませんが,資力の問題ですとか,あるいは当事者の強く反対しているかどうかといったところについては,なかなか審理するのも難しいというような感じもいたしますし,その判断も,なかなかしにくい要件立てになっているのではないかなというふうな感じがいたします。   前回の部会などでも,この前置自体について,消極的な立場からの御意見もあったかと思うんですけれども,なかなか判断しにくい要件が立ってしまいまして,それができないとなると,基本的には原則的なところに戻るというような思考,判断過程になると思いますので,そういった点からして,部会で目指されているところとの関係で,甲案が適当なのかなというような感じはしておるところであります。   あともう一点,⑶の要件のところについて申し上げさせていただくと,⑶の要件で,子の急迫の危険を防止するためにというところで,現行の保全処分とかなり近いというか,ほぼ保全処分と同じような要件立てになっているかと思いまして,保全処分を債務名義とする場合を例外にするといった考え方自体はあり得るかなと思うんですが,現在の実務について申し上げますと,保全処分が発令される場面として,必ずしも,子供に対して重大な身体的暴力などが加えられている場合等に限られておらず,例えば,債務者による監護の開始の違法性が高いような場合には,直ちに現状が子の生命や健康などに影響を及ぼすといったような場面でなくても,保全処分は認められているというような実務があるように思われます。   そうしますと,この要件立てが,イコール保全処分の要件ということになった場合には,そういった実務にも影響を及ぼすおそれがあるなと思っていまして,それだから,この要件に問題があるということではないんですけれども,そういったところも念頭に,ある程度議論していただく必要があるかなと思った次第です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○阿多委員 途中まで同じ方向に行くのかなと思ってお伺いしていましたら,逆の話になったものですから,少し確認をしたいんですが,結局甲案の⑵という要件があると,この「該当するときでなければ」というので,もう該当するのはほとんど明確になってしまうので,甲案としての意味がないのではないか。さらには,⑶については先ほどコメントしませんでしたけれども,ここで書かれている急迫の危険というようなことは,極論すると審尋をしてしまうと,例えば,債務者の方が子を連れてどこかに逃げてしまうというようなことがあって,場合によっては審尋なくそのような事情があると判断されれば,直接的な強制執行という形になるんだろうと思っていまして,そういう意味で,この除外事由があるがために,乙案と中身が同じではないかと,そういうふうなお話を申し上げたつもりなんですが,石井幹事の御意見というのは,逆に⑵の要件というのは外して,これを外してしまって甲案原則というふうな御意見なのか,⑵の要件は残しても,該当する場合がほとんどないとお考えなのか,ちょっとその点を教えていただけたらと思うんですが。 ○石井幹事 すみません,私の申し上げ方が余り明確でなかったのかもしれませんけれども,私が申し上げたのは,⑵のような要件については,やはり判断がなかなか難しいなというところではないかと。そうしますと,甲案を採った場合は,なかなか例外の判断ができなくなってしまうというところがあって,そうであると,甲案は,必ずしも望ましいものではないのではないかという趣旨で申し上げた次第でありまして,そういう意味では,阿多委員と意見が合ったのかなという感じがしております。 ○山本(和)部会長 そのような御趣旨のようです。 ○谷幹事 先ほど青木幹事から,この甲案はドイツの家事非訟手続法を参考にしているのではないかという御発言がありましたので,少しお尋ねをしたい点がございまして,この甲案では,今御議論ありましたように,⑴から⑶の例外要件を決めているわけですけれども,そのドイツの家事非訟手続法90条もほぼ同じような要件なのか,あるいは違うところがあるのか,それと併せて,もし実務の運用等について何か教えていただけることがあれば,教えていただきたいなと思います。 ○青木幹事 実務のことはよく分からないのですが,要件の立て方は,前置されるべき手続の中身,いわゆる日本法での間接強制の内容が異なるという点がありますし,ここで案として挙げられているように2週間を経過したときというようなことも,ドイツ法にはないかと思われますけれども,この趣旨としては,比較的類似した内容になっているように思われます。 ○内野幹事 過去の部会資料には若干記載しているところがあったかもしれませんが,事務当局から,御指摘のありましたドイツ家事非訟手続法第90条の仮訳の内容を申し上げさせていただきますと,第90条は,まず第1項に相当する部分におきまして,次に掲げる場合には,裁判所は明示の執行決定により直接的な強制執行を命ずることができるということで,三つの要件を掲げております。一つ目は,秩序金の決定が功を奏しなかった場合,二つ目が,秩序金の決定が功を奏する見込みがない場合,三つ目が,裁判を即時に執行することが必要不可欠である場合が掲げられており,厳密な訳ではないかもしれませんが,そういう認識をしております。 ○谷幹事 それを前提に,私の意見を申し上げたいと思いますけれども,この間接強制前置というのは,ハーグ条約実施法をベースに,それと類似の規定を設けるというふうな趣旨で,今まで検討がなされてきたと理解をしているんですけれども,そもそもハーグ条約実施法と国内的な引渡しについては債務の内容も違うし,それと同視すべきではないというのは,これまで申し上げてきたとおりでありますし,また,ハーグ条約実施法の間接強制前置が置かれていることによる弊害というのも,この間明らかになってきているということも申し上げてきたとおりであります。   最近の事例で言いますと,12月に最高裁の許可抗告に対する判断がございまして,ハーグ条約実施法の返還についての事情変更による変更の決定,あれの事例を見てみますと,高裁で返還命令が確定をしたのが2016年1月と。そこから様々な執行手続がなされた上,約8か月後に執行不能ということで執行が終了したというようなことで,執行不能まで8か月かかっているということですね。そうした事案で,恐らく間接強制前置ですから,間接強制の決定があり,それに対する執行抗告もなされ,更に直接的な強制執行の申立てがあり,それもある程度時間がかかり,そこまで時間がかかったというようなこと。   そういう時間的な流れの中で,申立人の方の事情が変わったということで,結局変更決定が確定をしたというようなことでございますが,いずれにしても,迅速に執行できなかったという事例であることは間違いないわけでございまして,その迅速に執行できない実情というものがどこにあるのかというようなことも,これまでいろいろ申し上げてきたとおりなんですが,例えば,間接強制を前置すれば,間接強制決定に対して執行抗告ができる。これは,もちろんそもそも間接強制の決定そのものがおかしいという執行抗告理由もあれば,間接強制金が妥当でないという執行抗告理由もあるわけでございまして,それによって時間が,抗告審の審理の時間が必要になってくるというふうなことがございますので,そういうことも背景に,先ほどのような事例のことがあったのかなと思います。   今,私が先ほどドイツの90条がどうなっているのかとお聞きしたのは,正に今の日本の間接強制前置であれば,間接強制が確定してから2週間という要件になっていますので,今申し上げたような確定まで時間がかかるというふうな事例には全く無力というか,それによって執行が遅れているというふうな弊害,これが正に明らかになっているんだろうと思うんです。先ほどの御紹介いただいたドイツの90条では,秩序金の決定による履行が奏功しない場合だけではなくて,その見込みがない場合というようなことで,そういうような要件があれば,また間接強制の決定の確定まで必要ではないというふうな実務の扱いもあり得るのかなと思うので,そういう意味で,ドイツと同様,ドイツ家事非訟手続法の90条を参考にしているから,甲案,これもあり得るのではないかというのは少し違うのではないかと,私は思うところでございます。   では,乙案がいいのかということなんですけれども,そもそも間接強制前置の根拠として言われている,子の心身への影響を最小限にとどめるという趣旨については,これまでのパブリックコメントの御意見とか,あるいはこれまでの部会の御議論,部会資料等を拝見しても,抽象的,一般的に言われているんですけれども,それが具体的に本当にそういう間接強制前置が子の心身に与える影響を最小限にとどめるということになるのかどうかということについての御指摘がなかったと,私は認識しております。   これまでの国内の引渡しの実務では,間接強制前置が置かれていたわけではございませんので,直接的な強制執行からまず執行手続をするというのが大多数であったと思いますし,そういう事例の中で,現実に執行が行われてきた。では,今までの執行は,子の心身に対して悪影響を与えてきたのかということだろうと思うんですけれども,そうした事例があったという指摘というのも,これまでなかったと思いますし,そういうふうないろいろな議論状況の中で,当然のことながら間接強制前置あるいは間接強制前置のようなことをベースに例外を定めるというふうな議論というのは,具体的な事実を踏まえない,立法事実を踏まえない議論であると考えておりますので,そもそもそういう意味では,甲案,乙案どちらも反対で,直接的な強制執行の申立てからできるというのが私どもの意見にはなるんですけれども,ただ,仮に乙案を採用するとした場合に,仮にこれをやるとしたら,先ほどの執行機関との議論,それから執行の手続,債務者審尋をするかどうかという議論とも関わるんですが,ここに言う例外要件,間接強制をすれば,子の監護を解く見込みがあるとか,子の利益に対して相当であるという,この要件を誰がどういうふうに主張するのかという点をどうイメージするのか。私が理解しているところでは,債務者審尋を行って,債務者がそれを主張,立証して,それが理由があるのかどうかというのを,基本的には裁判所で判断するという構造になるのかなと思うんですが,そういう構造であれば,まだ少しは賛成し得る余地があるのかなと考えているところでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○道垣内委員 すみません。私には,どちらの立場がよいのかは十分に判断できないのでして,甲案に賛成であるという立場から発言をするわけではありません。ただ,阿多委員のご発言で気になりましたのが,債務者が,「いや,私は履行しません」と言えば,この要件が満たされなくなるということを前提にされているのは妥当なのか,ということです。そもそも判決が出て,判決というか,債務名義があって,しかし債務者は履行をしていないわけで,履行はしたくないわけですね。そこで,自発的に履行はしない,ということは明らかなわけです。そのようなとき,間接強制を実施すれば奏功するか否かを判断するためには,間接強制が行われたときに履行をせざるを得ないような状況になるのかという判断がされるべきなのであって,債務者が「履行しません」と言ったら,すぐにこの要件がないということになるので意味がないという理由付けには賛成できません。   その上で,谷幹事がおっしゃったようなこと,つまり,債務者の側で,間接強制があると私は苦しくなりますから履行しますということを証明するという構造は,私は考えにくいと思うわけでありまして,最終的にどの案にすべきかについては十分な判断ができないんですけれども,ご発言の理由付けがについては若干,問題があるのではないかという気がしております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員 非常に強調しながら申し上げたのであれなんですが,結局,甲案の要件の問題は,実は事実認定の問題なんだろうと。そうすると,道垣内委員が御指摘のとおり,例えば書面審尋で応ずる気持ちはありませんと書いて出せば,もうそれだけでそういう認定をしていいのかというところをおっしゃっているわけで,それは,もちろんその1枚だけで認められるわけではないですけれども,結局どこまでの手続を考えるのか,先ほど谷幹事がおっしゃったような,乙案側の構造もそうですけれども,甲案のこの例外事由について,要件定立の問題と,実際その要件が機能するのかという問題の話があって,私自身は,甲案のこの要件というのは事実上機能しないであろうということで,先ほど例として申し上げて,ですから,機能しない以上,そういう要件定立を例外事由にするような形の甲案は余り意味がないのではないかと,そういう説明で使っていますので,道垣内委員の御指摘は,紙だけ出せばその要件を満たすんだと,そういう極論に必ずなるとは思っていません。ただ,実際上は,ほとんど債務者の方が了解すれば,執行上の和解なんていうのは,本来制度としてはないとは思っていますけれども,強制執行することなく履行の完了はできるわけですので,最終的には債務者審尋でもうまく解決できずにいくとなると,債務者の主張がそのまま残って,⑵の要件はその段階で事実上,裁判としては満たすという判断をせざるを得ないのではないかと,そういうふうに思っています。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○山本(克)委員 以前にも申し上げたかと思いますが,ドイツ法の当該規定は,債務名義を作成する裁判体が,そのまま執行を担当するという前提に立っているので,⑵と⑶の要件の判断は容易であるという状況,そういう構造になっているはずなので,確かに⑵と⑶の要件をどうやって判断するのかという問題は,執行裁判所が担当するとした場合には,当然出てくるということになろうかと思います。そういう意味で,阿多委員や石井幹事がおっしゃるのはもっともなのかなという気がします。   他方,乙案ですけれども3点ぐらい疑問がありまして,1点は,甲案の⑴に該当するような場合というものをどう扱うのか明確でないということですね。これは,⑴に当たるような場合に,更に再度間接強制しか許されないというふうな場合があり得るかのようにも読めるというところに,乙案の問題点があるように思います。   それから,乙案がこの例外要件を判断する手続が不明であるという点が問題で,ここについても,債務者の審尋を要するのかどうかという問題が明確にされていない。そこを一方的に債権者の提出した資料だけで裁判所が判断するのか,それとも,債務者の審尋を要するのか,そこについて明確にしないまま議論するのは,私は望ましくないと思います。   そして,最後に,仮にこういう例外要件を認める場合には,それにその違背とか,執行裁判所の判断の違背を理由とする執行抗告を当然許すことになるのかどうなのかという点も,やはりきちんと議論しておかなければいけないと考えられます。これは,甲案においても同じ問題があるということですね。⑴,⑵,⑶の要件が満たされ,特に⑵,⑶の要件が満たされているとして,直接的な強制執行を許した場合において,⑵,⑶の要件を満たしていないのではないかというような執行抗告が許されるのかどうかという点も,やはり議論しておかなければいけないと思います。   それと,最後に確認ですが,ここの執行裁判所というのは,民事執行法171条2項の規定が準用されるということでよろしいんでしょうか。つまり,債務名義の区分に応じて,それぞれの作成した裁判所の,そういうものであるという名義の作成した機関と絡めて執行裁判所を考えるということでよろしいんでしょうか。 ○内野幹事 今日の部会の議論次第かなというふうに思っていたんですが,資料作成の際の想定としては,民事執行法第171条第2項の部分と同様の規律を想定しながら提案をしているということになろうかと思います。 ○山本(和)部会長 あと手続の部分については,恐らく事務当局としては,具体的に甲案,乙案というのが固まった後で議論しようということで,一応,171条を念頭に,類推か直接適用か準用か分かりませんが,考えておられたと思うので,債務者審尋はするようなものを考えていたとは思うんですけれども,山本克己委員の今の御発言は,債務者審尋と執行抗告のことについて言及がありましたが,その171条と同じように考えるという方向で,問題があるという御指摘だったのでしょうか。 ○山本(克)委員 執行抗告をすると時間がかかるという点を解消する方途として,管轄裁判所を高裁所在地の地裁ないし家裁に限定するという考え方が理由があるかどうかということを,実務家の言いにくい話だと,お答えにくい話だと思いますが,いずれにしても執行抗告,私は認めざるを得ないと思いますので,そういうような管轄をもう少し限定するということが,執行抗告の遅延というような,先ほど指摘のあった問題の解消になるのかどうかということを,ちょっと考えてみたいなと思ったところです。 ○山本(和)部会長 分かりました。ありがとうございます。   谷幹事からも,債務者審尋のお話はありましたけれども,事務当局から何かございますか。 ○内野幹事 提案上は,まだこの点を限定する趣旨ではありませんが,部会資料の第1の部分の議論などを踏まえますと,債務者審尋というものもある程度念頭に置いた提案であると理解していただいていいとは思われます。   ただ,それが具体的な要件立てとの関係で,果たして本当に機能するのかという部分については,部会での御議論次第かとは考えております。 ○山本(和)部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○阿多委員 今,山本克己委員からの執行抗告のお話が出て,時間がかかる,かからないというのは,裁判所の場所のお話も含めて出たんですが,1点確認したいのは,従前の御発言で,執行停止,執行抗告に伴う執行停止は認めなくてもよいんではないかというお話があったかと思うんですが,先ほどの御説明は,執行抗告は認めざるを得ないけれども,執行停止のことまでは必要ないのではないかという,従前の御意見とつながる,それを前提にする御発言ということでよろしいんでしょうか。 ○山本(克)委員 私は,言ったかどうかも覚えていないので何とも言えないですが,直接的な強制執行の執行停止を抜きにするというのは,極めて難しいのではないですかね。直接的な強制執行の場合には,もう執行停止は当然入らざるを得ないのではないですか。間接強制の場合について,執行停止をなくすというのは,それはあり得る話だと思います。 ○阿多委員 すみません。私の質問は,間接強制について,先回執行停止をなくすという制度もあり得るのではないかという御発言を頂いたと。 ○山本(克)委員 それはあり得ると思います。 ○阿多委員 続けてよろしいでしょうか,申し訳ありません。   山本克己委員から御質問のあった,甲案の⑴をどう扱うかというのは,実は甲案,乙案両方なんですが,これは今後の手続の組立てに正に関連するんだと思うんですが,例えば,最初に御質問しましたように,直接的な強制執行,間接強制を選択的に申し立てることができるというところが,例えばですが,主位的には間接強制の申立てをして,予備的に直接的な強制執行を申し立てると。間接強制の決定をもらって,先ほどのお話ではないですけれども,もう確定させても執行できないという形で言えば,1号要件の資料に使うというような形を組むと,乙案としても同じような形でも,1号を満たさないんだし,それは逆に相当であると認める材料になるんだからというのはあり得るのかなと。   ですから,乙案の場合に,⑴の要件についても,そういう事情があれば当然却下,これは却下の話になっています,すみません,証明責任というか,それは別になると思いますけれども,間接強制を申立てして,2週間経過すればもうほとんど,乙案でもこのただし書に当たらない形で執行できるというのは可能なんだと思っています。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○内野幹事 今,御指摘いただいた点に関連するものといたしましては,直接的な強制執行の申立てと間接強制のいわゆる並行的な申立てが許されるかどうかという点については,現行法においても一つの論点になっていると認識しております。この部会資料では,飽くまでも現行法の規律を念頭に置いているというところはございます。 ○山本(和)部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○青木幹事 甲案と乙案の違いは,恐らくどちらが主張するのかという問題にとどまらず,慎重な手続をとるのか,迅速な執行を優先するのかという基本的なところで考え方が違うと思うのですが,あえてそのどちらが主張すべきなのかというような話をするとすれば,恐らくここで扱われているのは子の利益を重視するということでありまして,先ほど阿多委員がおっしゃったように,子の利益を債務者が適切に主張するということは期待できないように思いますので,債権者の方に個別事情を挙げてもらうという方向がよいのではないかなと考えております。   なので,どちらかといえば,山本克己委員がおっしゃった問題もありますが,甲案の方がよいのではないかなと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。言うまでもなく非常に重要な問題ですので,できるだけ多くの委員,幹事の御意見を頂いて,この部会としての全体の趨勢というか,できるだけ把握したいと思っているので,積極的に御発言をお願いいたします。 ○村上委員 パブリックコメントにも意見は出していますが,抽象的,観念的という御指摘もありましたけれども,手続の考え方で何を大事にするのかということで言えば,今青木幹事もおっしゃったように,子の心身に与える影響というものを最小限にとどめるということを,大事にしていくべきではないかと思っておりまして,技術的な問題はいろいろあるかもしれませんが,甲案に賛成をしております。ただ,甲案,乙案であっても,多分実際上間接強制がされるべき事案というのは,余り変わらないのかもしれませんけれども,考え方としてどちらを重視するのかということを,手続法の中では考えていくべきではないかと考えておりまして,甲案です。   それから,乙案の場合において,子の利益に照らして相当であると認めるときというのは,どうやって判断するのかという問題も出てくるのではないかという感じを持っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○垣内幹事 甲案,乙案,両方異なる内容とはなっているわけなんですけれども,基本的なものの考え方としまして,子の利益ということは,子の福祉ということは一方にあり,間接強制で結果が実現できるのであれば,それが望ましいという考え方があり,しかし,他方,それを強いることによって,結局,結果が実現されないということでは,本来実現されるべき裁判の内容が無に帰するということになって相当でないということで,その出発点については,甲案も乙案も変わるところはないのかなと考えております。いずれを採ったとしても,間接強制で監護を解く見込みがあると仮に考えられる事案であれば,そちらを優先するということになるわけですし,その見込みがないということであれば,初めから直接的な強制執行をすることができるということでありまして,その点では,実質的にそれほど大きな考え方の違いがこの両案によって出ているということではなくて,あるいは,先般谷幹事の方からは,よりそのような考え方そのものを前提にしないような考え方もあるのではないかという御指摘があったと思いますけれども,ここで御提案されている両案については,そこは余り大きな違いはないと。   そうしますと,その要件立ての具体的な文言の内容ですとか,それを誰が主張,立証するのかといったところに,やはり実質的な違いは帰着するのかなと考えておりまして,そうしたときに,私自身は,基本的には甲案の方が,考え方としては,何を考慮して判断をすべきかということが規定から読み取りやすいというようなことで,分かりやすいところがあるのかなと感じているところがあるのですけれども,かつ,乙案の場合に,債務者の方で何か主張をする,あるいは,場合によっては執行抗告をして争うということが考えられるわけですが,その際には,債務者の方では,自分は間接強制をしてもらえれば応ずる用意があるのであるということを主張,立証するということになるはずで,それはかなり奇異な事態ではないのかなという気がしているというところもあって,その辺りが乙案についてやや問題がある点かなと感じております。   他方,甲案の方ですけれども,先ほど書面審尋で出てきた書面を基にどう判断するのかという問題の指摘がありましたけれども,ここで,⑵で「見込みがないとき」ということになっておりまして,これをどの程度の心証で認定していいのかというのが,正に事実認定の問題としてあるかと思いますが,絶対に見込みがないということについて,高度の蓋然性を持って心証を得なければならないというようなことであったとしますと,これはなかなか認定が難しいということになり,そうなると,見込みがあるかもしれないからということで,結局間接強制に流れていくということになってしまいますと,あるいは,本来ここで達成しようとしていた結果が,ややそのとおりにならないという懸念があり得るのかなという感じがしております。   ですので,仮に甲案の方向で考えるとしましても,この見込みがないときというところについて,何かより認定が容易になるような,文言の問題なのか,あるいはそのほかの問題なのか,今の段階で妙案があるということではないのですけれども,その辺りも含めて検討しておく必要があるのかなという感じがしております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   思い付きですが,よくあることですけれども,この「見込みがないとき」という認定が難しいんだとすれば,全くの思い付きですけれども,例えば,「見込みがあるとはいえないとき」という要件にするということは,考えられないではないのかもしれません。 ○山本(克)委員 倒産手続の開始の条件で,明らかであるとは認められないときというような言い方をしていますが,それも技術的にはあり得ると思いますが,ただ,ちょっと乙案について一言申し上げたいんですが,前半の「見込みがあり」という要件との関係は,今まで随分議論されているんですが,子の利益に照らして,間接強制の方が相当であるという要件について,何ら言及が,皆さん言及されていないようなんですが,私はなぜこの要件が必要であるのかが理解できないんですね。   少なくとも,子の心身に与える影響の程度は,間接強制の方が低いということが当然の前提とされているはずなのではないのかと。つまり,乙案も要件立ての仕方は別として,一応間接強制前置の1バリエーションであると思います。なぜ,それでは前置するのかというと,子の利益の観点からすると,心身に対する影響が少ないから,間接強制の方が優先されるプライオリティーが高いんだと,こういうふうに考えているはずなのに,なぜここでこういう要件が立てられるのかという理由が,私にはちょっと量りかねるところがありますので,御説明いただければと思います。 ○内野幹事 まず,間接強制手続が子の心身に与える影響に関する山本克己委員の御指摘は正にそのとおりかと思うのですが,部会のこれまでの議論では,先ほど谷幹事が示された観点,すなわち,債務名義の実質的な内容の実現という観点にむしろ重きを置いて子の福祉を考えた方がよいのではないかというような御指摘もあり,「子の福祉」について山本克己委員のご指摘とは異なる考え方がみられるところではありますが,部会のこれまでの議論を踏まえれば,「見込みがあり」という要件を設けるという考え方もあり得るような印象もございまして,乙案のような規律を示させていただいたところです。   また,乙案自体は,要するに,子の福祉の実現の観点から,どのような執行方法がよいのかという部分を裁判所の判断に委ねるというところが肝ですので,それを表現しようとして,このような記載振りになっているというところであります。 ○山本(和)部会長 よろしいでしょうか。 ○山本(克)委員 それであれば,直接的な強制執行の方が,子の利益に照らして相当であると認めるときと書けばいいのであって,こういうふうに間接強制が相当でないというような書き振りにするのは,やはりおかしいんではないでしょうか。 ○内野幹事 御指摘のとおりかと思いますが,正にそういったところの当否も含めて御議論いただきたく,提案をしたところでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員 今の乙案の書き振りについて,実は,乙案については,この却下事由については分かりにくいから,逆にこういうことは誰も,債務者審尋を入れたとしても,実際認められることはないであろうというような読み方をしていてあれなんですが,御指摘のとおり,直接的な強制執行の方が相当であるというような形の表現の方が適切なんだろうと思います。   それと,先ほどから甲案の要件のお話が出ていて,例えば,見込みがないというのが,あるとはいえない,いろいろな表現が出ていましたけれども,これは,手続の組み方の問題で,かつ,従前,私の発言に対して反対が強かったのは認識をしているんですが,一体判断にどういう材料を用いるのかということも,併せて御検討いただきたいと思っています。   先ほど山本克己委員からドイツのお話があって,これは本案であるから当然判断がしやすいけれども,執行裁判所になったときには判断が難しいというお話がありましたけれども,私などは,執行裁判所は本案の際の資料も併せて判断できるような構図を考えていただいて,本案のときの調査官の調査報告や,本案での審判の記録等で,債務者がどういう御発言をなさっていたのかというのも,併せてこの執行裁判所で判断していただくべきではないかと考えていますので,その点も併せて発言しておきたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○栁川委員 執行裁判所が執行主体と明確に打ち出されましたので,私には,甲案も乙案もあんまり大きな差があるような形には見えないんです。   子の引渡しの強制執行に関しては,これまでずっと皆さんが,子供の心身に与えるダメージを最小限に食い止めたいということで長い間審議をしてきましたし,それから,もう子供は渡さないと言っている債務者にいろいろな働きかけをしても無理でしょうというふうなお話もあるんですけれども,執行裁判所がいろいろな動き方ができるということになりますと,私はかなり期待をしております。   ですから,子供の心身にとってダメージを与えないというのは,債務者が自発的に子供の監護を解くというのが非常に有効ではないかと思いますので,家庭裁判所の審尋の状態とか,子供の状態だとか,それから債務者の言動等をよく知っている家庭裁判所との連携が非常に不可欠だと思いますし,実際の執行に当たっては,専門家等の助力を得ながらやっていくと,今までかなり難しいと思われるものも,債務者の自発的な監護を解いて,子供の心身の影響にダメージを与えないという方向に,少しずつですけれども持っていけるのではないかと。私は執行機関が裁判所になったということに対しては,期待を持っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○勅使川原幹事 もう既に出ておりますけれども,乙案は,今のこの書き振りだと,確かに債務者の方からの主張,立証などを要求するということで,ちょっと厳しいと考えております。書き振りが変わってくれば,また話は違うのかもしれませんが。   甲案でも,⑵,⑶の要件は,確かにどう判断するのかということはありますけれども,例えば,先ほどのお答えのように,あるとはいえないという形にした上で,更に所属大学の研究会のパブリックコメントでも出しましたけれども,本案の事件記録等もやはり参照できるような形にして,極力子や債務者の現況をなるべく執行裁判所の方で把握をするという形であれば,何とか判断が可能になり得るのではなかろうかなと考えておる次第でございます。 ○山本(和)部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○山田幹事 私もこれまでに出た意見とかなり重複をしてしまうのですけれども,まず,乙案で,仮に後段の要件について,直接的な強制執行の方がまだ子の利益にかなうという要件立てに変わるのであるとすれば,これは,むしろ債権者の方から主張するという話になりそうでありまして,そうしますと,むしろ甲案とかなり近くなってくるのではないか,甲案の⑶とかなり近くなってくるのではないかと思われますので,そういたしますと,元に戻って甲案の方がベターかなとは思いますが,ただ,今,勅使川原幹事からもありましたけれども,特に⑶の要件などは,内部の状況というのは,なかなか債権者には分かりづらいところがありますので,子の状況について調査,あるいは主張するための手段というものも,併せて検討する必要があろうかと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○佐成委員 甲案,乙案について,現時点では特に定見はなく,どちらがいいとは判断しておりません。いずれにしても,まずハーグ条約実施法という実体法との整合性が十分とれるような形である必要があるというのは,皆さん当然お考えのことだと思いますけれども,私もそう思っております。   少し気になりましたのは,本案の資料に関して,どこまでこの執行裁判所に提出していいのかというところです。やはり,本案を執行段階でまた蒸し返すような形になるようだと,どうなのかなと思います。またそこで,子の利益に関して議論を戦わせるようなことになりますと,審理の構造にもよるでしょうけれども,要するに,債務者審尋を入れるかどうかということにも係るのでしょうけれども,若干その辺が気になります。どうすべきだという定見はないのですけれども,ただ,余り本案の資料をむやみに全部出していいよという格好にすると,一体どういうことになるのだろうというのが,非常に懸念を感じるところであります。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○阿多委員 栁川委員から,執行機関が執行裁判所になることによって,柔軟な対応が実現できるのではないかという御指摘がありました。   それはそう思うんですが,1点気にしていますのは,先ほどの,同じような本案の蒸し返しになっても困るということ以外に,やはり迅速な執行ということを前提にするときに,私,先ほど執行手続ですから,和解はないと申し上げたんですが,何か話合いの場が再度執行裁判所になったことによって,審尋が何度も入ってなされるというようなことは,問題であろうと思っています。   よく,実際,実施決定という言葉がいいのかどうか分かりませんが,裁判所が決定した後の執行で,実務的には柔らかな執行とか,いろいろな言葉で任意の履行を促したりするようなお話が,決定が出た後はあり得るかと思うんですが,決定が出るまでに,相当の審理を重ねるというようなことは,余り手続としては観念すべきではないのではないかと思っています。   それから,山田幹事の方から,情報収集の手段のお話が出ましたので,この点は,情報収集ということについて,執行着手後の情報収集や,そういうことについても併せて御検討いただけたらと思いますが,本来今日の話ではないと思いますけれども,一応触れておきたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○平田委員 裁判所でございますけれども,少し議論が混乱しているかなと思われるのが,乙案を前提とした場合に,執行裁判所がいろいろやるという中で,様々な資料を駆使してといいましょうか,いろいろ集めて判断しなければいけない,一番子の福祉に適する形を考えなければいけないというような期待を持っておられるとすると,少しここでの議論とは違うのではないかと。   ここでは,間接強制を前置するのがいいのかどうかであり,それが実効性があるのかどうか,その判断をどういう形で迅速にするのかという問題ですので,乙案を採った場合に,直ちに本案の記録を取り寄せるとか,そういう話に,いくということにはならないのではないかと思っております。債務者審尋をしても,その判断ができるかという問題もありますので,今,主張立証責任の問題としても議論されていましたが,例えば,職権主義的にといいましょうか,後見的に裁判所がいろいろな事情を考慮して間接強制前置をすべきかどうかという判断をするというところまでの役目はないのではないかと思っております。そうなりますと,結論的には甲案,乙案いずれでもいいのですけれども,迅速に判断ができるシステムを作っておかないといけないのではないかということを申し上げておきたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○今井委員 今,平田委員のお話で気付いたことと,それから,基本的には阿多委員と同じ結論と理由なんですけれども,ちょっと自分の整理のためにもという意味で,若干補足してお話を申し上げますと,元々間接強制前置がいいのかどうかということで,既に債務名義の段階で,任意で明渡しがなされなくて債務名義になっていると,それの履行だというところなので,そういう意味で,間接強制前置のメリットが,要するに直接的な強制執行よりも子の心理的な影響にとってはいいんだというのは,そのとおりだと思うんですが,ただ,そのためには,直接的な強制執行をしない方がいいということなんだろうと思うんですけれども,残念ながら任意の履行がなされないので,債務名義の取得になった。次にもう執行の段階になっているというところで,任意の履行がなされないのに,だからこそ執行の問題になっているのに,やはり直接的な強制執行でない方がいいんだという,そこで,もう一回そのチャンスを与えるために間接強制前置がいいんだという議論の立て付けが,従前前提としてあったように思うんですが,それは,しかし,場面から考えるとちょっと違うのではないかということを従前言ってきたわけで,そういう意味では,全てに間接強制前置ありきというのは,おおむね私の認識では,あんまり賛同を得られなかったような。今回,オール・オア・ナッシングではなくて,甲案,乙案が出てきたと認識してございます。   ただ,そうだとしても,今申し上げたことの問題点は残っているわけで,もう一回,債務名義は取れたけれども,間接強制前置とした方が,子の心理的な負担,つまり任意の履行を促すにはそっちの方がいいんだというのは,この債務名義の取れた後の問題としては,どう整合性につながるのかなという感じがありますし,谷幹事が申し上げるとおり,時間が非常にかかると。それって,本来の執行を円滑に,迅速に,そして子の心理的な影響をより少なくというところを考えると,どういうふうになるのかなと考えて,ただ,その後,例えばお母さんが債務者の場合に,気が変わって,やはり絶対渡さないと言ったけれども,判決も出たし,子供のことを考えたらそれほど,絶対渡さないというよりは,今は少し気持ちの整理もついたし,子供のためにも強制執行する前に渡した方がいいのかなと思うことはあるのかなと,想像ですけれども。   そうだとすると,かなり例外的なときに,その債務者の任意の履行ができていない状況が,その後変わった,変わり得る,それは,子供も3歳,もっと小さい子から,かなり大人に近い子もいますし,いろいろな場面があり得るので,そういう意味では,執行機関は執行裁判所だということも含めて考えると,制度設計の柔軟性,執行計画をというようなイメージの中だと,それもあり得るのかなという意味からすると,やはり原則は直接的な強制執行で,ごく例外的に任意の履行が期待できそうな場面が実はあるんですよという場合に限って例外を認めるという意味では,座りとしては乙案の方が理論的には整合性があるのかな,こんなふうに整理したわけでございます。   ただ,今,平田委員のお話を聞くと,裁判所に対して,執行機関が裁判所だということにちょっと,私も含めて過剰な期待をしているのかもしれないけれども,それは,この執行の場面で,そこまでの期待を裁判所にするのは,ちょっと座りとしてもどうなのかなと感じました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○山本(克)委員 先ほど平田委員がおっしゃったことは私も同感で,前から言っていますように,やはり債務名義作成機関と執行機関を分けるということを,民事執行法は徹底してしまったわけですよね,旧執行法と比べると。やはりそこは,崩すべきではないと思いますので,平田委員のおっしゃるような形の運用が可能になるような規定振りというのが望ましいと思います。とりわけ家庭裁判所で,執行段階で家庭裁判所調査官による調査を行うなどというようなことにならないような形にしていただければと思います。   今の今井委員の発言で,私よく理解できなかったんですが,任意の履行がないから債務名義を取ったという場合を念頭に置かれているんですが,しかし,子の引渡しの債務名義というのは,ほとんど形成的な債務名義であって,離婚調停あるいは家事審判でも,家事審判の場合には,事前に引渡し義務はないのに,それによって新たに形成される場合ですね。これは当然離婚判決における附帯処分として,子の引渡しが命じられる場合も同様でございますので,履行義務が既にあって,それを任意に履行しないから債務名義を取得したという場面は,むしろまれな場合,このコンテクストではまれな場合であって,一般の物の引渡しと同じように考えているというのは,やはり私はおかしいと思います。   そういう意味で,名義ができてから,初めて履行するかどうかという問題が生ずるという場合であるので,当然請求権が既存であるという前提の議論というのは,私はここではやるべきではないと。そういう場合もあり得ることはあり得るわけですけれども,メインは,やはり形成的にそのとき初めて,債務名義成立によって初めて引渡し義務が生ずるという場合を念頭に置いて議論すべきであろうと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○今井委員 確かに,私は,債務名義がなされたのは,ほかの引渡しと同じように任意の履行がないからだと,そういう感覚でお話をさせていただきました。私自身が,子の引渡しをした経験が正直言ってないものですから,そういう場面がどういう場面なのかということについては,実務的には自信がありませんし,それはよくそういう事件を扱っている弁護士の方がよく知っているんだろうと思いますが,一般的には,債務名義があってというときには,任意の履行がなかったからだというふうな前提で話したことは間違いありません。それはむしろ例外だとおっしゃられるとすると,逆にまた,そうなのかなという,ちょっと私も判断がしかねるところでございます。   ただ,債務名義に基づいて執行を申し立てるという場面が,この強制執行の申立てだと思いますんで,少なくともその段階では,やはり任意の履行はなかったんだという意味では,任意の履行がない段階でのこの執行の申立てのテーマであるという意味では,先ほど申し上げたことが当てはまるのではないかなというのが,私の考え方でございます。 ○垣内幹事 今,何人かの委員,幹事の先生方のお話を伺ってきまして,問題点について,私は十分に理解できていなかったところがあったかなと思いまして,先ほどの発言にちょっと補足をさせていただければと思います。   と申しますのは,先ほど発言いたしました際には,甲案と乙案の主たる対立軸というのは,直接的な強制執行を例外的なものとして許容するのか,それとも原則的に許容するのかという点に主たる違いがあるだろうという前提で申し上げたんですけれども,事務局からの御説明でも追加がありましたように,両者の間にはもう一つ例外要件の設定の仕方として,子の利益あるいは子の福祉といったものを全面的にその段階で裁判所が判断するのか,それとも,例えば,監護を解く見込みが間接強制であるかどうかといったような定型的な事由の存否のみを判断し,それによって,相対的には形式的に判断するのかということで,その組合せは,甲案について,例えば監護を解く見込み,その他の事情を考慮してうんぬんといったような要件を作ることもできますし,乙案の方で,子の監護を解く見込みがあることが明らかである場合には却下しなければいけないといったような要件立てをすることもできますので,都合四つの組合せがあり得るのかなという感じがいたします。   どちらを原則とするかということについては,実際上の結論が余り変わらなければ,それほど私自身は違いがないようにも感じているんですけれども,直前の議論で出てまいりました,子の利益をこの段階でどのように考慮するかという点に関して補足させていただきますと,この段階で,執行の段階で考慮されるべき子の利益というのは,飽くまで執行方法を直接的な強制執行とするか,間接強制にするかということに係るものであって,そもそも誰が監護すべきなのかといったようなことは,ここでは問題にならないということだと思いますけれども,そう考えたときに,間接強制で監護が解かれる結果が実現される見込みがどの程度高いかということ以外に,何か考慮すべき事情がその両者の選択についてあり得るのかどうかと考えますと,どうも私自身は,余り執行方法の選択という意味で,それ以外の要素が何か重要になるかというと,そうではないのではないか,要するに,間接強制で実現する見込みが高ければ,十分に高ければ,そちらの方がよいというのが,ハーグ条約実施法以来の法の立場で,それを前提にすれば,それが十分に高ければそちらでいくし,そうでないということであれば,結果は実現しないことには,これはそもそもの子の福祉の問題,判断された者が覆るということになりますので,それは相当でないということですので,その点に尽きていると考えますと,そちらの問題については,ここでは子の利益全般を改めてということではなく,間接強制で結果を実現できる見込みを軸として判断をするということになるのかなと,現時点では考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○石井幹事 垣内幹事がおっしゃったところと同じことを申し上げることになるんですけれども,私も,乙案を拝見して,その要件については,基本的に前段といいますか,債務者が子の監護を解く見込みがあるというところと,子の利益に対して相当であると,実質的には同じことを言っているのかなと理解をしておりました。今日の議論で,そこの点について幾つか議論があったというところですが,私も,この場面においては,考慮すべきは,今,御意見があったように,間接強制をしてみて,その監護を解く見込みがあるかどうかといったところと理解するべきなのかなと思っております。   御意見があったところに敷衍して申し上げると,通常,子の引渡しの事件になりますと,家庭裁判所で通常は調停からやって,その中で任意の引渡しを含む和解的な解決を試行しながらやってみて,それが駄目であればやはり審判をして,どちらがより監護者として適しているかという点について,調査官の調査により,監護状況ですとか適格性などを調査した上で判断をするという流れを採っております。今日,実務家の方が同じような向きからの御発言を頂いたのは,まずそういった実体験を基にお話されているからかなと思うんですけれども,ある意味,債務名義ができている時点では,そういった任意の履行に向けた試みはやり尽くしているというところがあると思いますので,執行の場面においては,むしろそういった手続的な到達点ということを前提に考慮すべきなのかなと思っているところです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○谷幹事 乙案の要件の理解については,私も,今,石井幹事がおっしゃられたこととほぼ同様に理解をしておりまして,実質的には,間接強制によって子の監護を解く見込みがあるんだと,そうだとすれば,それが子供の心身への影響という観点から見ても,間接強制をやればいいのではないかという,こういう趣旨だと理解をしておりましたので,これを前提にするならば,何とかそれほど,これは潰さないといけないというところまでの意見には,私はならないと考えていたんですけれども,これを逆に,先ほど,特に山本克己委員などからお話がありましたように,あるいは山田幹事からもお話がありましたように,逆に,直接的な強制執行によることが,これ,要件の定め方,なかなか難しいんですけれども,直接的な強制執行によることが相当である場合には,却下できないみたいな形にするのは,これはちょっと,要件の性質,要件の性質といいますか,この規律の性質自体を大きく変えてしまうことになるのかなと思います。   つまり,積極的に直接的な強制執行によることが妥当だということが,ある意味ではいろいろな事情から判断できないと,直接的な強制執行はできないとなるわけですので,この乙案で提案をされている趣旨とは全く違ったものになるのではないか。そうであれば,賛成しがたいと言わざるを得ないと考えております。 ○山本(和)部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○山本(克)委員 甲案の⑶の要件との関係で,ちょっと今まで言っていたことを全部ひっくり返すようなことを申し上げることになりますが,御検討いただければと思います。   先ほど垣内幹事は,⑶の要件が執行方法に関する要件であるかのようにおっしゃいましたが,これは,私は本案の要件であろうと思います。つまり,子の現在の監護状態が極めて劣悪である,虐待を受けているであるとか,経済的に困窮していて,衣食もろくなものが与えられていないというような場合に,直ちに直接的な強制執行を行い,間接強制という迂遠な道を採らないという意味なんだろうと理解しております。   それを判断できるのは,先ほど来何度も申していますように,これは本案の審理をした裁判所が執行も担当するから,これが執行段階で考慮されることになっているわけですが,しかし,直ちに監護を解いて監護者を変更するということが必要かどうかって,やはりこれは,私は本案の問題だと考えます。   それで,御提案なんですが,⑶の要件は,むしろ本案の裁判所に判断させるべきであって,間接強制が前置されない場合の要件として,債務名義に間接強制を許さない旨が記載されている場合にという形に変えて,これは,家裁の実務を変えるということを意味しますが,本案の段階でそういう間接強制は許さないんだということを宣言していただくと。そして,その債務名義に基づいては,直ちに直接的な強制執行ができるというような制度設計もあり得るのではないか,従来の債務名義を前提としているから議論が紛糾するのであって,そういうことは本案で処理していただくと。調停の場合,どうしようもないわけですが,少なくとも裁判による,債務名義が裁判である場合については,そのように考えると。ただ,裁判の範囲をどこまで広げるかという問題があって,民事訴訟の場合に,その判断ができるかどうかと。つまり,本案の性質上,そういう判断ができるかどうかというと極めて疑問ですので,家裁の家事審判及び附帯処分の場合に,そういうふうな扱いをしてはどうかと御提案したいと思います。 ○山本(和)部会長 分かりました。御提案として承りたいと思いますが,おおむね御意見は出たということでよろしいでしょうか。 ○松下委員 今,山本克己委員の御発言について,突然のかなり大胆な御発言なので,どう対応していいのか,すぐには反応しかねるのですけれども,ただ,釈迦に説法ですが,債務名義を作るときに判断しなければいけないことが増えるということは,債務名義作成までに時間がかかるということになりそうな気がしまして,執行の場面で考えることが増えることと裏腹になりますけれども,早く債務名義を作ることに意味がある場合も何かありそうな気がしますので,そういうことも含めて,御検討いただければと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○阿多委員 重ねてのお話にはならないようにはしようと思うんですけれども,今井委員からの意見について,山本克己委員からの問題提起がありまして,石井幹事が実情を御説明いただいたと思いますけれども,審判の形成的な効力についての疑問を呈したわけではなくて,実務上,話合いの機会が何度も設けられていると。これは,従前私の方も何度もこの場でお話をして,それができないのでというのがなされているという前提での御発言だと理解をしています。   それで,1点,谷幹事の方からの御指摘,私は,日本語として分かりにくいという意味で,確かに山本克己委員の御指摘の表現になったんですが,従前からここの議論というのは,やはり原則例外執行でいくのか,執行段階での子の福祉というものの判断は,執行裁判所が中心に,全体を見て判断するという制度をするのかという形でイメージをしておりまして,乙案というのはむしろ後者,原則例外執行ではない相互事情考慮の判断だと思います。   ただ,その相互事情考慮というのは,本案で議論していたことをぶり返すということをイメージしているわけではなくて,先ほどの御発言にありました,例えば,執行段階で調査官を使うとかいうようなことで申し上げているつもりはなくて,直接的な強制か間接強制前置かという,まず入口の判断と,あと実際に執行する段階で,どういう方法によるのがよいのかという,直接的な強制執行をする場合にどういう方法がよいのかという,言葉として適切かどうか分かりませんが,実施計画の中で,子の福祉をどう考えるのかという話は別なものだと思っていまして,平田委員がおっしゃったように,とにかく,ここは形式的に間接強制を置かなければいけないのかどうかという判断は,あんまり議論することなく,簡単にできるような構造にしておくべきだと思っていますので,その点だけ付加しておきたい。中身としては,むしろ実施計画といわれるものの内容なんだと思っています。 ○石井幹事 山本克己委員の御提案については,私も,急なところで何とも申し上げられないんですけれども,審判の中で,執行の場面も念頭に置いて判断するということになると,現状とかなり違うことを求められることになりますので,なかなか難しい面もいろいろ出てくるのではないかなというふうな感じがしております。   発想としては,今回の資料の中で,保全,要するに,類型的に急ぐべき場面というところについては,例外として認めるべきではないかというようなところがありましたけれども,発想としては,そういう発想に近いのかなというような感想も持ちましたが,直ちには何とも申し上げられないところであります。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   それでは,おおむねこの点については御意見をいただいたかと思います。基本的には,甲案,乙案,それぞれについて御賛成の意見があったと理解していますが,それ以外の意見というのは,必ずしも多くはなかったということで,甲案,乙案,それぞれを軸として,今後審議を進めるということについては,御賛同が得られそうな感覚を持ちました。   また,何人かの委員,幹事が適切に御指摘されたように,甲案と乙案がどの程度異なるのかというところはもちろんあるわけですし,また,その修正案といいますか,例えば,先ほどの甲案の⑵を,「子の監護を解く見込みがあるとはいえないとき」にするとか,あるいは,乙案の子の利益の問題について,ただし書ということになるのかどうか分かりませんが,むしろ直接的な強制執行の実施が子の利益に照らして相当であるというような形で整理するとかというようなことを考えると,更に甲案と乙案は近接していくということになるのだろうと理解しました。   そういう意味では,何となく方向性というのがかすかには見えてきたかなという印象を,私としては持っていますが,まだ残された問題,特に手続的なところで,債務者審尋や執行抗告の問題,あるいはその判断に本案の資料等をどこまで使えるのかという問題についても議論がされました。これは,恐らくどの手続でいくかということが固まってから,更に具体的な手続を詰めていく必要があるという意味で残された問題はなお多いということかもしれませんけれども,本日のところは,部会の御意見の趨勢はお伺いできたと思いますので,この部分についてはこの程度にさせていただければと思います。   それでは,引き続きまして,「第3 直接的な強制執行の手続の骨格」の部分でありますが,まずその1,資料の8ページになりますが,「子が債務者と共にいること(同時存在)の要否」の部分について,これもまた大きな問題ですけれども,御議論を頂きたいと思います。事務当局の方から資料の御説明をお願いいたします。 ○吉賀関係官 御説明いたします。   資料の9ページ以下のところですけれども,ここも,同時存在の要否の論点について,試案の概要と部会のこれまでの議論や意見募集の結果を御紹介しております。   これらを踏まえますと,同時存在の要否については,試案の本文と同様に,原則として同時存在を必要としつつ,一定の場合に例外を設けるとする考え方があり得る一方で,同時存在の要否の判断というのは,事例によっても様々あり得ることから,原則例外といった形で規律を設けてしまうと,どうしても硬直的な帰結になるのではないかという御指摘も頂いているところでして,こうした発想からすると,本文で書かれた乙案のように,原則例外を定めずに,執行裁判所の総合的な判断に委ねるとする考え方もあり得るところかと思います。   もっとも,この論点については,原則例外といった形で規律を設けるか否かにかかわらず,どのような場合には同時存在を要求するのが相当でないのかという点について検討することが必要であると考えております。   本日の部会では,このような規律の実質を中心に御議論いただきたいと思っております。   なお,部会資料では,同時存在を要求するのが相当でない場合があり得る例として,試みまでに事例のⒶからⒺまでを掲げておりますけれども,これらの事例とは異なる観点から,特に検討を要するのではないかと思われる事例があれば,併せて御紹介いただきたいと考えております。   また,今回の部会資料では,部会のこれまでの議論を踏まえまして,同時存在を不要とする場面では,債権者本人の出頭を要するとすることを内容とする規律を提示しておりますけれども,12ページの⑶アのところにありますとおり,執行場所への出頭を要する者を債権者本人に限るべきか否かという点についても言及しておりますので,これらの点についても御意見を伺えればと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   それでは,ただ今御説明ありました部分,この同時存在の問題について,どなたからでも結構ですので,御発言をお願いいたします。 ○阿多委員 意見の前に,質問という形で甲案の中身を確認させていただきたいんですが,⑴,⑵とありまして,⑴の方は,「ただし,⑵の決定がされた場合には,この限りでない」と。⑵の中身では,3行目のところで,上の方は要件だと思うんですが,執行裁判所の申立てにより何々することができるという形で書かれているんですけれども,この⑴,⑵の執行裁判所の実施決定といいますか,それは,同時になされるということが前提なのか,⑴が出た後,何らかの事情を債権者の方で別途申立てをして,決定をもらってするという行動を考えていらっしゃるのか,ちょっとこの手続のイメージについて御説明いただけたらと思います。 ○内野幹事 ここも,本日の部会の議論次第かなというところかと考えており,乙案との検討の俎上にのせる上での思考経済上の配慮というところが中心ではありますが,飽くまでここの想定としては,阿多委員がおっしゃいました実施決定ないしは授権決定といいますか,その最初の決定時に同時にするというのを,まずは基本的なものとして想定し,ただ,それとは違う考え方もあり得るものと思っております。ですので,議論のたたき台としては,同時にするということをまず,乙案との関係も含めて念頭に置いていただいて,それで御議論いただければと思っております。 ○道垣内委員 議論の仕方に口を挟むのはどうかと思うんですが,第3の1においては,債権者がその場にいるということを,債務者が一緒にいなくてもよいとするための要件として,甲案においても乙案においても位置付けていると思います。これに対して,13ページ以降の2というのは,それとは独立に,債権者等がいることが必要かどうかという話になっています。このような構造において,2において債権者等がいることが必要であると,皆さんが仮にお考えになりますと,1の甲案・乙案における,債務者がその場にいなければならないかどうかという論点は飛んでしまうのではないか,と思うのです。つまり,後半の債権者がいるときには認められるというところに常に当てはまることになってしまうのではないでそうか。そこで,どういうふうにして議論すればいいのかというのが少し気になるのですが。 ○山本(和)部会長 私の理解では,この13ページの2のところは,債権者又はその代理人も含んでいるわけですけれども,この第3の1の部分は,債権者が出頭したときとなっていて,本人が出頭しているということを一応前提としていると。   ただ,だから,その後の論点,12ページの⑶のアのところで,債権者本人だけではなくて,それ以外の者が出頭した場合でも,この例外を認めようという考え方,その中にこの代理人がもし含まれるという考え方を採れば,道垣内委員がおっしゃるように,これは,基本的には要件としては当然のことを書いているということにはなるんだと思うんですが,現状においては,代理人は必ずしも含んでいない,債権者本人が出てこなければいけないというところで,その後の部分とは違っているという整理にはなっているんだと。 ○道垣内委員 現在,議論の対象ではないところについて話をしてしまうことになって大変恐縮なんですが,13ページの2のところは,代理人を含むので違うんだという点については,その前提として,代理人を含みうるという理由が全然分からないんですね。というのは,説明の中には,知らない人がやって来ただけでは,子供は不安ではないかという話が書いてあるわけですよね。しかし,弁護士です,代理人ですと代理権授与証書を見せられたって,子供は不安に決まっているわけで,不安のことを中心的な理由にするのであれば,債権者本人でなければ意味がない,あるいは代理人の資格要件を定めて,おじいちゃん,おばあちゃんでないと駄目だとか,そういうふうならまだ分かるのです。そして,そういうふうに代理人資格を定めて,弁護士では駄目ですと,知らない弁護士は駄目ですという話になるならば,今度は,第3の2のところも,代理人を入れないということは必然的ではないという話になってくるような気がして,悩んでしまうところがあるのですが。 ○山本(和)部会長 この点について,事務当局から御説明はありますか。 ○内野幹事 この論点についての冒頭説明が不適切であったかもしれませんが,前回までの議論で,同時存在を要求しない場面では,せめて債権者本人が出頭しているという執行の条件を確保しなければ不適切なのではないかというような指摘もあったものですから,仮に同時存在を要求しないこととする場面については,甲案も乙案も,債権者本人の出頭を求めるという規律を提示しております。   仮に,こちらでそのような規律を採用しますと,執行場所への出頭の場面では,まず,一般論として,債務者がそこにいようといまいと,とにかく債権者の出頭を求めるかどうか,そして,その代理人の出頭も許容するのかどうかということを,執行場所への債権者等の出頭の論点において扱うことになるのだろうと思います。   したがいまして,後の論点である債権者の代理人による出頭も認めるかどうかという部分については,子の心身に与える負担を軽減するということだけを制度趣旨とするのではなく,一般論として,現実の執行のしやすさ等の債権者側の事情をも考慮の対象として受け止めてはどうかという点が,論点になろうかと思います。   ですので,甲案と乙案の規律における,誰の出頭を要するかという点だけに着目しますと,これは,子と債務者の同時存在が外された場面における強制執行では,債権者が必ずいるということになります。ですから,その部分については,いってみれば13ページ以下の議論の特則的に扱われるという議論になるのではないかと考えていたところです。   今の御指摘を正確に把握しているかどうか分かりませんが,事務当局としての資料作成上の考え方としましては,以上のとおりでございます。 ○山本(克)委員 今の点は,1から順番に議論するのではなくて,2を先に議論しろという話ではないんでしょうか。 ○山本(和)部会長 道垣内委員の御提案がという意味ですか。 ○山本(克)委員 はい,そういう趣旨だと。2を先にやって,2の結論次第では,1は議論する必要がなくなるんではないかという御趣旨ではないかと思いました。 ○道垣内委員 山本克己委員に理解していただいてありがたいところです。私の感覚だと,債務者がいて債権者がいないときの方が,子供は一番不安だと思うんですよね。今までの議論の流れと違うと言われたら,それも困るんですけれども。   つまり,例えば,お母さんが現在監護している状態にあるときに,お父さんの側に監護権があるということになって行くことになったといったときに,お母さんから引き離されて,知らないおじちゃんのところに行くというのが,一番不安な状況です。私は,債権者の方が実は肝であり,債権者がいるということになったら,債務者がいるかいないかというのは,それほど大きな問題ではないのかもしれないとまで思うものですから,本当は2から議論すべきではないのかというのが,私の本心です。 ○内野幹事 確かに飽くまで中間試案の内容から出発して議論をしてきたものですから,現在,このような形になっております。   これまで,債権者の執行場所への出頭について,代理人を認めてはどうかという形でこれまで推移してきたものですが,確かに,常に債権者の出頭が必要だということになるとすれば,第3の1の論点における甲案,乙案の債権者本人の出頭は不要になるという議論はあろうかと思います。 ○山本(和)部会長 その議論の順番としては,もちろん,別々にやって,結果としてそうなれば,要件としては要らなくなるということでも別に進め方としては,それほど違わないかなと思います。 ○道垣内委員 私も絶対にその順番で議論すべきであるという言うつもりはありませんので。 ○山本(和)部会長 ただ,そこに密接なつながりがあるという御指摘は,誠にそのとおりなのだろうと思います。 ○谷幹事 前提としての質問なんですけれども,2のところで,債権者又はその代理人が出頭したときに限りという要件が立てられている趣旨なんですけれども,これは,子供の不安を解くという観点もあるのかもしれませんけれども,要するに,これは,執行官が債務者の監護を解く行為をする場面ですよね。そうだとするならば,執行官が債務者の監護を解き,その後どうするのかというと,子供を監護する権限は執行官にもありませんので,債権者なり,あるいは債権者の代理人なりがいなければ,その間,子供は監護もされない宙ぶらりんの状態になるというような意味があって,債権者なり,あるいは代理人がその場にいなければならないと,こういう趣旨ではないのかなと思ったんですが,そうではないでしょうか。 ○山本(和)部会長 この13ページの2の説明に書かれてあることは,正にそういうことなのだろうと思います。 ○谷幹事 そういうことであれば,1の部分の債権者の存在を必要とすべき趣旨と必ずしも重なるものではないので,それはそれで独自に検討,議論するべき対象となるのかなとは思っております。 ○道垣内委員 それは,2において債権者の執行場所への出頭を要求する理由について一定の理解を前提とするものだと思うのですが,私はそれを承認しませんから。 ○山本(和)部会長 それは,ですから,今までの中間試案を作るまでの経緯でそういう議論がされてきたということで,そこは違うという御意見はもちろんあり得るんだろうと思います。 ○山本(克)委員 同じことを申し上げたかったのですが,私,確か前回この議論をしたときに,本人出頭を要件とすべきだと申し上げましたけれども,その趣旨は,やはり単に監護者がいなくなるということに対応するだけではなく,やはり子の不安という,心理的不安を取り除くためには,やはり債権者,多くの場合は両親のどちらかですので,それの直ちに庇護下に置かれるということが,極めて子の福祉の関係で重要であるというふうな判断から,そういうふうに申し上げましたので,この(2)が決まりだとは,私も思っておりません。 ○山本(和)部会長 決まりではないと思います。正にここで御審議を頂く対象だと思いますが,とりあえずは,この同時存在のところを外す条件として,債権者本人の出頭が必要なのか,あるいはそれ以外の代理人等でも構わないのかということについて,これはこれとして御議論を頂いて,その後,2のところでも,それは同時存在という要件を外して,同時存在の場合であっても,やはり債権者本人がいなければいけないのか,代理人でよいのかということで,別の問題として,とりあえず議論をしていただければと思います。   この同時存在の部分ですが,一応甲案,乙案が出ておりますけれども,それ以外の御意見もあるいはあるかもしれませんけれどもいかがでしょうか。 ○阿多委員 1点ちょっと確認しながらで申し訳ないんですが,甲案,乙案についての意見を述べたいと思うんですが,甲案というのは,⑴,⑵の決定が,これ二つの決定になるのかあれなんですが,甲案というのは,⑵の主張をしなければ,申立てをしなければ,債務者が共にいるときということで,それでいいんだというんであれば,それだけで終わるが,乙案というのは,債務者と共にいるときかどうかというのが選択肢の内容として入っているんですけれども,そうすると,逆に乙案で書かれているような事情についての主張というようなことがなければ,裁判所は却下するという話なんでしょうか。   甲案,つまり何か申立てがあったときに,裁判所は乙案でも⑴,⑵のどちらかを必ず選択するという話なのか,それとも,そうではなくて,甲案なら何も言わなければとにかく⑴の決定は得られるけれども,⑵は何か言わなければ,申立てをしなければ駄目ですよと,この…… ○山本(和)部会長 ⑴の決定,⑵の決定というのはよく分からないです。⑴の決定と言われているのは,授権決定のことですか。 ○阿多委員 すみません。授権決定で,⑴で,「ただし,⑵の決定がされた場合には,この限りでない」とあるものですから。 ○山本(和)部会長 ⑵の決定というのは,同時存在を免除する決定という,そういう言葉を使われているということですね。 ○阿多委員 ええ。ですから,質問は,⑵の申立てをして⑵の決定がされなければ,甲案ですと当然⑴の決定は出ると。乙案の方は,8ページのところで書かれている事情を考慮して,いずれかの決定を定めなければならないとあると,申立てがあると,必ず⑴か⑵のどちらかの決定が出ると,そういう立て付けでよろしいんでしょうか。 ○内野幹事 それでよろしいかと思います。 ○山本(和)部会長 よろしいですか。 ○阿多委員 はい。   そうなりますと,書き振りなのかもしれませんが,乙案で書かれている事情のところの3行目からになるんだと思うんですが,「事案の性質,子の心身に及ぼす影響並びに既に行った強制執行の手続における債務者の言動及び当該手続の結果その他の事情」については,通常必ず主張するような内容だと思うんですけれども,先ほど来出ている子の利益とか子の福祉を考えるためには,こういう事情というのは当然,申立ての段階で話が,少なくとも債権者の方としては主張しているわけですけれども,甲案というのは,戻りますけれども,そういうことを主張しなくても申立てができるんだという案ということになるんでしょうか。 ○内野幹事 今,申立てができることになるのかというのは,授権決定の申立てということですか。 ○阿多委員 はい。 ○内野幹事 甲案というのは,正に,子と債務者の同時存在を要求しないときには,甲案の⑵のような決定をするということを想定しておりますので,一般論としては,これに当たらない場面であれば,単に授権決定の申立てをするということも可能になり得るということと理解していただいてよいのではないかと思います。 ○阿多委員 余り入口で議論してもというのはあるんですが,子の福祉とかいうのは,甲案というのは,ある意味で債権者の選択権をここでも認める話になっているのかなと思うんですが,そういう理解なわけですか。 ○内野幹事 それでよろしいかと思います。 ○阿多委員 結論としては乙案で,これ,従前から申し上げていたことで,⑴,⑵に分けるような原則例外ではなくて,申立人が主張している事情を考慮して,総合判断で⑴,⑵,いずれかの選択をしてもらうと。何も言わなければ甲案というのはどうしても引っ掛かっているんですけれども,判断の方法としては,乙案で御判断いただくのがいいかと思います。   とりあえず,意見をここで述べておきたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○谷幹事 私も,どちらを採るのかと言われれば,乙案と考えております。同時存在については,ハーグ条約実施法でもあるわけなんですけれども,それによる弊害というのもいろいろと言われておるところで,それは,これまでも議論されてきたことだと思いますが,とりわけ検討の題材となる事例として挙げられている部分,10ページの下の方ですが,これ,Ⓔ,Ⓓというのは,直接的な強制執行に着手したものの,債務者が債権者に強い敵意を有しており,あえて子を抱きかかえて離さないなどした場合とか,あるいはⒺについては,物理的な抵抗はしないものの,子供の面前であえて「子は債権者の下には行かないと思う」と述べるなどし,これに呼応した子が執行官に抵抗した場合というのは,こういう事態こそが正に子の心身に悪影響を及ぼすわけでございまして,こういう制度を必ず採らないといけないという同時存在の原則というのは,明らかに問題があると考えているところでございます。   それで,仮に甲案によった場合,甲案によらなくてもそうなんでしょうけれども,同時存在ではなくてもよいと,とりわけ甲案では,⑵の同時存在ではない場合なんかでは,場合によったら,一旦同時存在で執行した上で,それが不奏功だったから,同時存在でないところで執行するというようなこともあり得るのかなと考えているところなんですけれども,そういう二度手間というのは,具体的にどんな負担が債権者に生じるのかというのも,余り明確には認識をされていないと思いますので,少しその点,実情を申し上げたいと思います。   同時存在でまず実現をしようとすると,債務者の生活状況によっては,昼間は仕事に出ているとかいうふうな場合には,朝早くとか夜間の執行をしないといけないと。それは,もちろん時間的な負担というものもありますけれども,それによって執行官の手数料が時間外の追加料金になったりするわけですね。そもそも執行官に直接支払う,あるいは執行のために予納する費用というのはどれぐらいなのかというと,これ,各自,地方によって違うんですけれども,例えば,ハーグ条約実施法の返還の執行であれば,予納金として8万円を予納したという例がありますし,子供の引渡しの執行であれば,これは福岡の例ですけれども,15万円を予納したというふうな例がありまして,これを仮に一旦同時存在でやった上で,更にまたそれが不奏功だったから,同時存在でないところでやらないといけないというふうなことになれば,その倍になるかどうか分かりませんけれども,その都度その都度債権者の負担が増えていくというような弊害があるわけでございます。   そういうふうな具体的な事例をも踏まえて,是非とも御議論を頂きたいと思いますが,結論としては,同時存在を求めることによる弊害等から考えて,乙案であれば,何とか考慮が,可能性としてはあり得るかなと考えているところでございます。   ただ1点,乙案について申し上げたいのは,3行目に,「既に行った強制執行の手続における債務者の言動」を考慮してと,これが事情の一つとして掲げられているんですが,こういう書き方であれば,既に同時存在の強制執行を行わないといけないかのようにも読めないこともないので,仮に書くとすれば,既に直接的な執行方法による強制執行を行った場合においては,その手続における債務者の言動というふうな,中立的な書き方にする方が妥当ではないのかなと思っているところでございます。 ○山本(和)部会長 分かりました。   ほかにいかがでしょうか。 ○石井幹事 甲案,乙案というところについて谷幹事がおっしゃっているところを伺っていると,実質においては余り考えていることは違わないのかなと思うところもあったんですが,私としましては,乙案には反対であります。と申しますのは,やはり同時存在を設けるかどうかというところについては,多分に,これが子の福祉に該当するかという価値判断の要素を有する問題であると思われまして,何がしかの指針というか,方向性が立っていないと,なかなか裁判所としても判断することは難しいのかなと思っております。   現在示されている乙案ですと,事情を考慮して裁判所がいずれかを決めるということになっているので,そこがオープンになってしまっているというところがありますので,なかなか立法上の指針がない中で判断していくのは難しいと。せっかくこういった形で御議論いただいているんで,何がしかやはり方向性とか指針というのは出していただく形での立法が望ましいのではないかなと思っています。   従前から申し上げているように,具体的にどういった場面が問題なのかというのについて議論していただくのが大事だということで,今回,実際資料にそういった形で出していただいて非常に,そういう点は有り難いと思っておりますけれども,具体的にそういう事情があるかどうかといったところについて,個別事情を見ながら裁判所が判断するということは,もちろんすべきところだと思うんですが,その要素がどういうふうに考慮するかという位置付けについては,ある程度明確にしていただきたいなと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○山本(克)委員 これ,甲案にしろ,乙案にしろ,授権決定の当否を争う執行抗告は可能だという前提でしょうか。やはりそれは,私は,先ほど来出ている執行遅延要因を増やすことになるだけの話で,2から議論するのは禁じられてしまいましたが,やはり2から議論すべきであって,甲案も乙案も要らないと。2で債権者本人出頭だけで授権決定を出せば,そういう問題は,あとは執行官の,当然裁判官とそれなりに連絡を取りながらやられるんでしょうけれども,執行官の現場での判断に委ねるということにしてしまうということで,執行抗告の事由を一つ減らせるということは,大きいのではないかと思います。   それとともに,ハーグ条約実施法との差別化という点でも,債権者本人出頭を必要的にすることによって,一応差別化は可能であると。つまり,ハーグ条約実施法の場合には,債権者は海外にいる場合を原則的な場合として考えているから,債権者の本人出頭は求めていないと。だから,その代わり,同時存在の原則というものになっているんだけれども,今回は,こちらは国内の規律なので,本人の出頭ということを原則として,それを要求することによって同時存在は要求しないんだという,本当に理屈になっているかどうかは分かりませんが,一応の差別化も可能ですので,私はやはり本人出頭を必要的とすることによって,もちろん本人が病気であるとか,そういう特段の事情の場合はちょっと考えなければいけないのかもしれませんけれども,2の方で本人出頭を要求することで,もう甲,乙案の議論はやめてしまった方がいいのではないかと思います。 ○山本(和)部会長 要するに,一切同時存在はなくてもいい,執行官の個別的な判断に委ねればいいという御趣旨ですね。 ○山本(克)委員 はい,そうです。 ○谷幹事 そういう御意見であれば,私は全面的に賛成をしたいんですけれども,それはそれとしまして,ハーグ条約実施法との差別化について少し補足をさせていただいたら,こういう考え方もあるのではないのかなと思う点を申し上げたいと思います。   ハーグ条約実施法による返還手続というのは,要するに,常居所地国への返還ですので,監護者に引き渡すわけではないというところが大きな,債務の内容としての違いだと思います。したがいまして,債権者に引き渡すわけではございませんし,常居所地国への返還というのは,今現に監護する債務者が連れていってもいいわけですし,別の者が連れていってもいいという意味で,債権者の,あるいはその代理人の出頭というのは全く必要とされない,こういう論理的に関係があるのかなと。それと国内とは違うという説明ができるのかなと思います。 ○山本(克)委員 今の意見には,全く異論ありません。 ○山本(和)部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○谷藤関係官 授権決定と執行抗告の関係で,執行の遅延が生じるのではないかという御指摘がございましたけれども,民事執行法171条の授権決定に対しては,確かに執行抗告できるとされておりますけれども,未確定でも執行できるという理解がされているのではないかなと思っております。現に,ハーグ条約実施法におきましても,規則の85条でありますけれども,解放実施の申立てについては,授権決定だけを添付するということになっておりまして,特に確定証明書を求めておりませんので,そういう意味では,執行抗告があるからといって,執行が遅延するということには,直ちになっていないのではないかということを申し上げたいと思います。 ○山本(克)委員 ここは,今,授権決定という言葉を使いましたけれども,代替執行であるという性格付けは必ずしもされていないわけで,その同じ議論が成り立つのかどうか,特に完全に引き渡してしまうわけですから,ハーグ条約実施法の場合には,返還されるべき国に行って,そこで改めて本案がなされるということを前提としているので,今のような解釈が成り立つと思うんですけれども,今回は監護の状態は完全に移ってしまいますので,そこを執行抗告に執行停止を認めるべきかどうかというのは,また別途成り立つ,議論すべき事項ではないのかなという気がします。 ○山本(和)部会長 その点も,先ほどの手続のところがまだ,もう少しまた更に考えてみなければいけないというところかと思いますが。   ほかにいかがでしょうか。   この点も,言うまでもありませんが,従来部会で様々な意見が出て,またパブリックコメントでもいろいろな意見が出たところですので,是非本部会の感触を伺いたいところです。 ○久保野幹事 私も,第3の案といいますか,債務者が同時に存在することということを求めるのにこだわらないという,第3の方向性の方に賛成いたします。   それで,その理由なんですけれども,同時存在が適切であるという理由,様々ある理由の中で,一つ執行官が債務者を説得して任意に引き渡すことの意義ということがありますけれども,これは,先ほど間接強制前置のところでも議論になっていたとおり,子の引渡しが問題になる場合に,調停,審判という,審判には限らないわけですけれども,ある一つの典型的な流れとして調停,審判等を経てきて,調査官などの関与もある中で,その調整的な,恐らく心情的な問題にも立ち入って調整などがされてきた後の段階でありますし,先ほどの間接強制のところで債務者の審尋ということがなされるのだとしますと,なおさらその段階でもある種任意の履行を求めるという関与があるわけですので,その上で更に執行官が執行の現場で個別にやる説得というのが,ちょっと私は状況を具体的には分かっていないので,厳密に言うとどうかというところはありますけれども,今言ったような段階を踏んで,最後に執行官の説得というものが持つ意義というのがどのぐらい大きいのかということについては,疑問の余地もなくはないのかなとも感じます。   もう一つ,子供への影響なんですけれども,先ほどの10ページのⒹやⒺのような事態が生じるのを避けることの重要性は非常に大きいとまず感じるということと,あと,Ⓔのように,子供の面前であえて債権者の元にはいかないと思うと述べるというところまでいかないとしましても,同居している親が子供に対して影響を非常に与えやすいということはよく指摘されることだと思いますので,同居している債務者が共にいることの,子供の意向や行動に対する影響というのは,結構大きいおそれがあるのではないかと思いますので,そういう点からも,債権者の立会いの方を重視して,債務者の同時存在の方は求めないということに,今の段階では賛成したいと思います。 ○山本(和)部会長 その「求めない」という御趣旨ですが,同時存在を求めるのが相当である場合というのは一切ないだろうという御趣旨と理解してよいのですか。 ○久保野幹事 先ほどは,債権者がいるという方式を採った上で。 ○山本(和)部会長 ええ。債権者がいるということを想定して。 ○久保野幹事 今のお話は,つまり,裁判所の判断として,債務者も同時存在すべきだと判断する仕組みを,甲案,乙案のような形の変則的,個別の形でかませた方がよいかどうかということでしょうか。 ○山本(和)部会長 ですから,この乙案も甲案も,もちろん同時存在が相当でない場合があるということは,当然,認識して,前提としているわけですね。ただ,相当である場合もあるだろう。だから,そこは,執行官の判断に委ねるのではなく,執行裁判所が判断をするのだという枠組みにおいては,多分共通した考え方になっているんだと思うんですが,これではなくて,常に同時存在は不要であるというのは,同時存在が相当である場合というのはないだろうという御認識だということなのですか。 ○久保野幹事 相当である場合がおよそないとまで,積極的に言えるかどうかはちょっと分かりませんけれども,先ほど来出ている御指摘との関係で,手続的に相当であるかどうかの裁判所による判断をしないことになると,より迅速にできることになるのではないかといったような,先ほど来出ているような議論に乗るとすると,債権者がいるということで,子供の利益の確保は,基本的に十分に確保されて,債務者と共にいるのが相当かどうかというのは,個別の執行官の判断に任せるという案でよろしいような印象を持っています。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○今井委員 基本的には,阿多委員が申し上げた,甲案か乙案といえば,乙案だろうなとは思っていたんですが,今日の道垣内委員と久保野幹事のお話を聞いていたら,そういう意味では,個人的な意見ですけれども,確かに場面を想定しますと,例えば,お父さんが債権者でお母さんが債務者で,それなりの小さい子供,物心のついた子供をイメージしますと,確かに道垣内委員がおっしゃったように,我々は同時存在を原則とすべきかどうかという議論をずっとしましたけれども,引渡しの場面で債務者がいることが同時存在だとすれば,それが基本的でいいのかという,まずそこの検証がちょっと,個人的にはあんまり深く考えていなかったのかなと。   実際に債務者,例えばお母さんが渡さないということがあれば,それは,お母さんがいた方が子供にとっては心強いと思うんですけれども,結局渡す場面にお母さんがいて,子供にとってみると,お母さんの方をずっと頼っていて,お父さんはそれほど普段は縁がないというような場面だとすると,そういうお父さんにお母さんが,あなたはそっち,強制執行の場面でいくときに,行っていらっしゃいというようなイメージが,子供にとってどんな心理的影響を受けるのかなというような感じもちょっとしまして,そうだとすると,道垣内委員がおっしゃったとおり,やはり行ったところに,これがあなたの実のお父さんで,代理人を入れるかどうかは別の議論として,そうだとすると,そのときというのは,信頼がお母さんの方にあったとしても,やはり債権者がいることがむしろマストなのではないかなというふうなことは,今日の御議論を聞いていて,そんな気持ちになった次第です。   それで,債権者はマストで,債務者がいることがいいのか,悪いのかという議論が,今,久保野幹事のお話を聞いていて感じたわけですが,両方そろっていることが本当にいいのかという感じがありますので,そこは,今部会長がおっしゃられたとおり,両方いた方がいい場合もないのかと言われると,そこまで,いや,そういう場合もあるかもしれないという感じはありますので,その辺の判断は,やはり裁判官が執行機関としてかなり厳しい,つらい御判断にはなると思いますけれども,そんな感じかなという気はしますし,構造的には,やはり債権者はマスト,債権者,債務者の両方同時というのは本当にいいのかなということについては決めかねている,こんな感じです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ここはまだ,もうちょっと議論をしていただかなければいけないと思いますが,かなり時間がたっておりますので,ちょっと恐縮ですが,ここで休憩を取らせていただいて,3時55分に再開をさせていただきます。           (休     憩) ○山本(和)部会長 それでは,時間になりましたので審議を再開したいと思います。   引き続き,この第3の「1 子が債務者と共にいること(同時存在)の要否」の点について御意見を頂戴できればと思います。 ○垣内幹事 私自身が,この問題について従来考えている際に,やはり最も難しく感じておりましたのは,ハーグ条約実施法が極めて厳格な同時存在の原則と申しますか,そういう規律を採っているということで,そのこととの関係で,先ほど御指摘のありましたハーグ条約実施法の場合とは,まず義務の内容も違うし,また仮にこちらでは債権者本人の出頭を少なくとも原則とするということであれば,その前提がとられていないという点で異なることになるので,区別は可能であるという御議論は大変魅力的なものではないかというふうに承りました。   ただ一方で,ハーグ条約実施法で,これは本日の部会資料ですと9ページの下の方ですけれども,少なくともその趣旨の一部として,子の心身に与える負担を最小限にとどめるという考え方を,その同時存在というところに込めているということも,また否定できないのかなと考えておりまして,これを一切,全面的にこの考え方を捨て去るということでないとすると,この民事執行法の方でおよそ同時存在が持つ価値ということについて,全く無視してしまうということで,整合性の観点から問題は生じないだろうかというところはやや気になるところはございます。   ただ,先ほど山本克己委員からも,手続的な面からの御指摘がありましたけれども,この8ページから9ページにかけての甲案,乙案ですと,この点についてはいずれも裁判所が何らかの形で決定をすると。そうなると,執行抗告等の問題が付随して発生するということになっておりまして,もし仮に同時存在の場でできれば,それは望ましいことではあるということを何らかの形で規律に表現するとした場合に,ほかの方法がないだろうかと考えますと,例えば今回の資料ですと,14ページに執行場所に関する規律の御提案が含まれておりますけれども,ここは執行官が最終的には判断するということを前提として,しかし,本則的な規律としては債務者の住居等を想定し,一定の場合にはその他の場所でもできるという形の規律を設けることを提案されているかと思いますが,これと同種の規定,執行官がどのような対応で執行するかということについて,債務者がいる場合にできるし,一定の場合には相当と認めれば,そうでなくてもできるというような規律を設けるといった可能性というのも,あるいはあり得るのかなというようなことを,多少先ほど来の議論をお聞きしていて感じたということがあります。   それから,もし債権者の出頭というところを言わばてこにして,同時存在について大幅に緩和するということだとしますと,跳ね返ってハーグ条約実施法に関しても,債権者が日本に来て,そこに同席するというようなことがあれば,裁判所が,債務者はいない場合であっても執行を認めるというようなスキームというのは,これは別の法律の改正の話になってしまいますと,ここで論ずるべき問題ではないのもしれませんけれども,そういう可能性も出てくるのかなという感想を持ちました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○阿多委員 丙案というか,債権者が存在すればというお話が出たんですが,今の垣内幹事の御発言の中にあったこととも関連しているんですが,執行官がどういう権限というか,判断をするのかということについて,先ほど執行官が執行することの相当性についての判断をするというお話が出ているかと思うんですが,従前,執行官は,執行官に個々の判断を委ねるのが適切なのかどうかと,本来,執行官は決められたことを執行する,形式的なことだけを判断するのであって,ここで執行するのが適切かどうかという,言わば自主的な判断を執行官がするという立て付けが本当にいいのかというのは少し気になっているんですが,債権者が臨席していれば,もう逆に形式的に執行官はもう執行だけを,債務者がいようがいまいが執行するのだというお話なのか,それとも債務者がいない場合には執行しないという判断を執行官がするという可能性も認めた御意見なのか,ちょっとその点だけ,その点だけというか,御説明いただけたらと思うんですけれども。山本克己委員の方にお伺いしたいんですが。 ○山本(克)委員 いや,全く執行官がロボットみたいにプログラムされたことだけをやっているというふうには,AIを登載していないロボットですけれども,というようなことは誰も考えていなかったのではないですか。執行ではないですけれども,執行官送達の場合,どこでやらなければいけないなんていう限定はどこかから,書記官によってそういう指定をされて,そこでやるということでもないし,見付ければ,そこでやればいいということになっているのではないですか。 ○山本(和)部会長 今の御質問の趣旨を私なりに解釈すれば,一定の範囲で執行官は,相当性というのを判断はするという前提ですか。 ○山本(克)委員 ええ,そうです。だから,相当でない場合があるから執行異議の制度が認められているので,執行官の行為に対する。そこで全部プログラムされたもの以外のものをやった場合にだけ執行異議がされるという理解ではないというふうに私は思っておりますけれども。 ○阿多委員 いや,もちろんそんな形式的なことを申し上げているつもりではなくて,債権者がいさえすれば,債務者がいる,いないにかかわらず形式的に執行するのだったらともかく,この場合はやめておきましょうとかいうような判断を執行官が判断をするということを前提の御意見なのかと。   典型的には,子供はいると。ただ,債務者は戻ってきていないと,子供だけがいるという状況で,債権者が臨場,一緒に行っている場合は,もうそのまま執行すればいいという話でしょうか。 ○山本(克)委員 そうです。 ○垣内幹事 今の点なんですけれども,仮に甲案,乙案,裁判所が決定をするという案を前提にしましても,これは債務者がいなくてもできるという旨の決定をするにすぎないので,現場に行って実際やるかどうかについては,これは執行官の現場での判断というものがあるのではないかというふうに私は理解していたのですけれども,そこはそうではないのでしょうか。 ○阿多委員 私が答える内容なのかどうかはあれなんですが,いない場合にはどうするということも含めて,執行裁判所の方が判断をして,そのために執行機関は執行裁判所で,そういうことも含めて判断をするというイメージでいたものですから,執行裁判所のそういう判断がなく,現場に行って執行官がいなくても執行するという判断をするというのは,ちょっと判断主体が想定していたものと変わってきているものですから,なぜなのかなというので確認をしたかったんですけれども。 ○山本(克)委員 同時存在の意義よりも,債権者の臨場による子供の心理的負担の軽減というものが重要だと考えるから,それだけです。 ○阿多委員 分かりました。   もう1点ちょっと関連するところで,先の話になって申し訳ないんですが,12ページの関連する論点のところで,債権者が出頭できない場合のことについての仮定で,その他執行裁判所が指定する者が臨場すれば執行できるという意見が出ているんですが,先ほど来の議論の趣旨の確認なんですけれども,そうなりますと,ここの裁判所が指定した者という者であっても,その人が出頭すれば,債務者が存在しなくても執行できると,そういう話になるんでしょうか。 ○山本(克)委員 いえ,そういうことは申し上げてはいません。 ○阿多委員 それは違うわけですね。 ○山本(克)委員 全然そういうことは申し上げていませんので,誤解なきようお願いします。   疾病その他の事由,やむを得ざる事由において臨場できないという場合に代理人を指定することは回避できない,せざるを得ないと思うんですが,その代理人の資格として選ばれる者の範囲は,先ほど道垣内委員も少しおっしゃいましたけれども,やはりきちんと子供と面識があって,適切に心理的負担を和らげることができると見込まれる者でないと駄目だという立場です。 ○山本(和)部会長 子の心理的負担を適切に和らげることができると見込まれる者でないと,子と債務者の同時存在が必要ということに戻るということですか。 ○山本(克)委員 いや,執行がそもそもできないと。 ○山本(和)部会長 直接的な強制執行自体ができなくなるという,そういう形だということですか。 ○山本(克)委員 はい。 ○山本(和)部会長 分かりました。 ○道垣内委員 阿多委員と山本克己委員が議論していた内容がいま一歩分からなかったのですけれども,債務者の同時存在の原則を外すという話というのは,債務者がいないということだけで執行をしてはいけないという結論にならないということは当然意味しますが,債務者がいないとうまくいかないと執行官が判断して,事実として債務者がいないのでうまくいかないといったときに,そのときに執行しないという判断をすることは妨げられてはいないのですよね。 ○山本(克)委員 それは排除していません。 ○道垣内委員 そうすると,阿多委員がおっしゃったことと,山本克己委員がおっしゃっていることとの間に齟齬があるようにも思わなかったんですが。 ○山本(克)委員 多分,阿多委員は,それはあらかじめ裁判所が,そういういろいろな場合を想定したプログラムを作って,それをその範囲内でしか執行官は行為できないというイメージでおられると。つまりプログラムの内容を,先ほど執行計画とおっしゃいましたけれども,そういう形で詳細に規定しているというイメージでおられるんだけれども,そんなものは私は要らないのではないかという立場です。 ○阿多委員 御説明いただきましたけれども,私がイメージしていましたのは,従前から執行裁判所というのを強調していたのは,そういうことも含めて,こういう場合はどうしようというようなことを執行裁判所が判断して,一切それから越えることができないと申し上げるつもりはないですけれども,執行官は自らの判断で,そういうふうな精神的な負担なく執行できると,そういう場面を想定していましたので,今出ている債権者を同道すればできる,それで必ず執行するんだというのだと,執行官の判断の心理的な葛藤はないとは思うんですけれども,執行官が現場に行って,更に執行する,しないという判断をするとなると,場合によっては債権者から,なぜ執行しないんだとかいろいろ責め立てられ,そういうような執行官の負担の問題にまた戻ってしまうと。そういうことを避けるための執行裁判所だったのではないかと思うものですから御質問させていただいた,そういう次第です。 ○山本(和)部会長 よろしいですか。 ○垣内幹事 今は基本的には執行裁判所が執行機関という前提で議論をされていて,そのこと自体については,私も阿多委員のおっしゃったような意義が実際上もあるかなと思っておりますので,ただそれは,決定という形で裁判官が授権決定の一部ないし別個の決定ですべきことなのか,あるいは執行裁判所と実際に現地に行く執行官との間で協議等を事前に綿密にしておくというレベルの話なのか,後者であっても,執行裁判所が関与するということで事前にこういう問題が生じたときにどうするといったようなことは,当然準備をすることは望ましいと思いますので,必ずしもここでの規律に直結する話というわけでもないのかなというふうに私は伺いました。 ○山本(和)部会長 ほかに。 ○成田幹事 部会資料を頂いた段階では,甲案,乙案,どちらがいいだろうというところで議論をしておりまして,乙案だとやはり立法上の指針がなく,価値判断の部分がよく分からないので,乙案はなかなか難しいだろうと思っていて,そうなると甲案かなと思っておったところなんですが,今般,山本克己委員の方から新たな御提案がされていて,これは十分あり得るのではないかと。従来申し上げていますとおり,ハーグ条約実施法ができてからの国内執行の完了率も下がっていると。その原因としては,やはり債務者の拒絶ですとか,あとは債務者を見て子が拒絶をするというのがうかがわれるところでありますので,その意味では,同時存在の原則自体は外してもいいのではないかなと思われるところではあります。   ただ,そうなりますと,子の福祉をどうやって図っていくかという話になるわけですが,その場合は債権者御本人が同席しているというのが,多分絶対条件になっていくのかなと思っています。債権者がいて,債務者がいない状態で,執行が相当でないという場合がどんなものが想定できるかなとちょっと考えていたんですが,子が債権者をひどく拒絶している場合というのは多分あり得るかと思うんですが,その場合,そもそもそういう引き渡すという審判が出るのかどうかというところもあろうかと思います。あと,執行の現場において債務者がいなければ嫌だと言って,てこでも動かないというようなことはあり得るかと思います。   そういう場合については,正に,先ほど来ちょっと議論に出ていましたけれども,執行官の判断において債務者に連絡をするとか,あるいは一度中止にして様子を見るというのはあり得るのではないかと思っております。   あと,関連する論点というところで,債権者,その他執行裁判所が指定した人でもよいというところですが,本案裁判所と執行裁判所を別にしたときに,執行裁判所においてうまく指定できるのかどうかという疑問がないわけではないのですが,子の福祉の観点からというのと,あと債権者が物理的に出られないという場合は当然あろうかと思いますので,そこは何かいろいろ考え方はあり得るのではないかと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがですか。 ○阿多委員 先ほど私が申し上げた例は,例えば子供が一人で学校から先に帰っていて,それで債務者がまだ仕事から戻っていないと,そういう状況で執行するという場面,つまりそういう状況では債務者は不存在で子供だけがいると。そういうところに執行官が臨場をした際に,債権者が一緒に同道しているんだからそれで執行していいという話になるのかと,そういう場面を想定して御質問させていただいたという場面で,審判が出ないということではなくて,行ってみたら債務者がいなかったと,そういう状況での問題設定です。 ○成田幹事 その場合でしたら,子が,もうそれで債権者の方に付いていくということであれば執行ができてしまうということになろうかと思いますし,やはり債務者を待つということであれば,執行官としては待つのか,連絡を取るのかといった対応をするのではないかというふうには思っております。 ○谷藤関係官 補足でございますけれども,ハーグ条約実施法施行以前の話ですが,実際に債務者がいない場面で執行することはあったわけです。その場合でも,執行官は相当性を考慮して,債務者に電話連絡するなどした上で執行したという状況があったと聞いております。 ○山本(和)部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○村上委員 10ページに掲げられている具体的にどんなときに問題になるのかということで,ⒷからⒺに掲げられているような事案については,同時存在を求めること自体が子の福祉のためにならないということは十分理解はしております。しかし,今いろいろ議論が進んでいる中で,債権者が大事だということはそのとおりだと思いますが,本当に同時存在ではなくていいのかというのが,今一つ,まだ議論に付いていけていない部分です。   前の1巡目,2巡目の議論でもありましたけれども,ハーグ条約実施法の場面とは違うということはありつつも,今まで暮らしていたところと違うところに行くというときに,そういうときにも同時存在がなくていいのかということを,今一度考える必要があるのではないかという感じがしております。 ○勅使川原幹事 最初にちょっと確認なんですけれども,甲案において⑵の決定をしなかった場合と,乙案であれば授権決定の中に⑵の事項を定めなかった場合,つまり債務者と同時存在でいくんだというふうになった場合だとしても,13ページの2で言う「債権者又はその代理人」はちょっと括弧にして,債権者は常に執行場所に出頭しなければならないという記述が入った場合には,一緒に行くという設定なんでしょうか。それとも⑵の場合にだけ債権者が出頭するという立て付けなんでしょうか,これは。 ○山本(和)部会長 御趣旨があれですが,債務者がいるところで強制執行をする場合においても,債権者等がそこに出頭する必要があるという規律になっているかということでしょうか。 ○勅使川原幹事 13ページの2の規律というのは,そのような場合を想定してということでよろしいでしょうか。 ○山本(和)部会長 それはそういうことです。 ○勅使川原幹事 ですよね。とすると,甲案,乙案の差というのは,⑵を申立てに寄らせるか,あるいは申立てがなくても裁判所の方でできるかということなんだとすると,どちらかと言えば乙案で,最初に同時存在でいるのか,あるいはそうでなくてもいいのかということを判断いただいた方がよろしいのではないかというふうに考えております。 ○山本(克)委員 勅使川原幹事にお尋ねしたいのですが,同時存在が積極的にふさわしいと考えられる場合として,どういう場合を想定されているのかというのはお教えいただけると,そこが一番の今のイシューなのではないのかと。   村上委員がおっしゃった点も,正に同時存在を積極的に必要な場合が残っているのではないかという疑念を持たれているからなので,今日の時点の議論では,やはり乙案を採るのであれば,積極的にそういう同時存在がふさわしい場合と,甲案を採ればまた別ですけれども,乙案を採るのであれば,ふさわしい場合としてどういう場合をお考えなのかというのをお教えいただければと。 ○勅使川原幹事 具体的にどういう場面というよりも,私がちょっと念頭に置いていたのは,明らかにお子さんがかなり債務者の方に依存型というんですかね。だから,何をやるのでも,一応,お母さんならお母さんの顔を見てとか話をしてから,その先に一歩進むようなタイプのお子さんがいたような場合に,その人がいないところでもって付いていくということに躊躇があるケースとかがあるのではないかというような,非常に曖昧で申し訳ないんですが,そんなような場面をちょっと考えておりました。 ○山本(克)委員 それは,正に心理的葛藤を子供に強いる典型的な場面なので,果たしてそれが本当に同時存在を適当とする場合に当たるのかどうかというのが,それ自体が問題なのではないでしょうか。つまり,お母さんが今監護していると,それで父親に引き渡せという場合において,母親の顔色を見ないと何もできない子が,同時存在で母親の顔を見て行っちゃ駄目と言われたときに,連れて行かれるということの心理的葛藤の大きさというのは,極めて心の傷を将来に残す可能性が高いとも言えるわけで,そういう場合は私は同時存在がむしろふさわしくない場合の典型例ではないのかなという気がしています。 ○内野幹事 やはりここは村上委員の御発言にも通ずるところはあるかもしれませんけれども,飽くまで理念としてですけれども,従前,生活を一緒にしていた債務者がいないままその生活環境から離れていくという状態が,子に大きい不安感を与えるのではないかという議論があって,恐らく子と債務者の同時存在を要求してきたという経緯があったのではないかと思います。そして,それが要らないという判断については,執行裁判所が様々な事情を総合的に考慮して個別の事案に応じ判断したらよいのではないかということで,甲案,乙案という流れになっているものと認識をしているところでございます。   ただ,実は,子と債務者の同時存在が子の心身に与える負担の方が大きいのだという議論になりますとまた別なのですが,これまでの経緯を踏まえますと,まずは,子と債務者の同時存在を要求することが,一般的な理念からすれば望ましいのではないかという議論がされていたのではないかというように感じてはおります。 ○山本(克)委員 ただ,限定された形とはいえ,一応,間接強制前置というものを要求しているわけですよね。本来はそちらでやるのが望ましい,だけれども,できなかったと。あるいは,間接強制を前置するのが必ずしもふさわしくないという前提があって,同時存在は要らないと私は言っているつもりなので,いきなり,もうあらゆる場合に直接的な強制執行ができるというふうにする場合と,間接強制前置を制限された形とはいえ,採用する場合では,やはり状況が違うのではないかと思います。 ○青木幹事 私は,その間接強制を前置した上で,更に同時存在で説得を試みる直接的な強制を行い,それでも駄目であれば,債務者がいないところでの直接的な強制をするというふうに,まだやはり段階を踏んでいくのを原則とするのがよいのではないかなというふうに考えております。それでは迂遠であるということであれば,特にそこにこだわるというわけではありませんが,やはり間接強制か,少なくとも同時存在を要求する説得を試みる直接的な強制執行かは,少なくともどちらかはあらかじめといいますか,債務者のいないところでの直接的な強制執行の前には置かれるべきではないかなというふうに考えております。 ○山本(和)部会長 そうすると,部会資料に出ている案では甲案的なもので,ただ,間接強制がされたかどうかというようなことも,相当性判断のところで考えるというような,そういうような感じになるのでしょうか。 ○青木幹事 そうですね,ええ。ただ私は,最初に申し上げたことで言えば甲案ということになります。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○山田幹事 私も執行の迅速性ということとの関係では,それに対抗する利益として,仮に,対抗するかどうかというのはまた非常に難しいところだと思いますけれども,子供の利益ということを考えれば,甲案,同時存在が妥当すべき場合というのはなお否定し切れないように思いまして,甲案が相当かなと思っております。   先ほど少し勅使川原幹事などのお話があったのは,恐らく10ページでいうところのⒹとかⒺという事案であるとすれば,そのような場合には,この例外というふうに考えてもよろしいかと思いますけれども,やはり動産の引渡しと違いまして,子供と,それからこれまでの監護親との間の人間関係というものをどのように整理をした上で出してあげるのかというところは,なお最後に残るのかなと。   確かに,債務者がそれまで履行しないのが悪いんですけれども,しかし,子供にとりましては間接強制で何がというのは余り関係がない話で,実際に引き渡されるというときに,債務者と別れができるということの方が,将来的には子の利益に,長い目で見ればなるのではないかという印象を持っております。   ただ,債権者が同道すべきだということについては私も賛成でありまして,そういう意味では甲案プラス,債権者は常に出頭するということが望ましいのではないかと思っております。 ○山本(克)委員 今の山田幹事の御発言のうち,同時存在を要求しない立場というのは執行の実効性確保,迅速な執行を念頭に置いているというふうにおっしゃられましたが,私はそれは極めて心外な評価だというふうに感じております。というのは,直接的な強制執行を複数回やるということは,それだけ子に対する心理的負担を与えるということを前提として,できるだけ1回で済ませるというのが望ましいというのが私の考え方ですので,お母さんがいるところで何度もやって,それであかんかったから,どこか学校の門の前で待っていてぴゅっと連れていくというのを何度も繰り返す,3回も4回もそういうことがあるという方が,よほど子の心の傷は大きいのではないか。ここは水掛け論になるんですけれども,そういう考慮で私は申し上げているつもりです。 ○山本(和)部会長 分かりました。 ○久保野幹事 2点なんですけれども,一つは,一緒に住んできた債務者と別れるという場面に当たって,説明なりでスムーズに渡すということの利益について,確かに,先ほどのときははっきり答えられなかったんですけれども,それ自体の価値を全面的に否定するというわけではないんですけれども,今のお話を伺っていて思いましたのが,父と母の間での争いを想定した場合には,確かに一緒に住むという関係は失われるわけですが,理念的にというか,在るべき姿で言いますと,面会交流に限らないかもしれませんが,離婚なりをした父母が子供との関係を協力し合いながら調整していくというのが,本来在るべき姿ではあるということがありまして,そのような見方をしたときに,引渡しをして監護を変えなければいけないということを実現しなければならないということが問題になっている場面で,どこまでその要素を重視するかということについて,やはり少しニュアンスの差というかが生じ得るのかなというふうに思って聞いておりました。   それで,私の意見としては,この場面では,もはや監護を移すという債務名義の内容を実現するということや,先ほど出た複数回のそれを1回の強制執行で実現してしまうということの方が,より重要ではないかと考えています。   もう一つ,先ほどの丙案といいますか,債権者が同道する場合について,考慮する必要があるかもしれないというふうに気付いた点として,債務者も存在する場面があるという想定で話していると思いますが,両者がそろうというのは,DVなどが背景にある事案では難しいのではないかという,困難な問題を生じるというような指摘もあったかに思いまして,この点については確か何回目かのときに,子供のためにさえ行けないのであれば,そのような債権者にまで認めなくてよいといったような,確か山本克己委員の御意見があったと思いまして,そこはちょっと私は山本克己委員の御意見にもやや実は同感するところはあるんですが,ただ,実務の方の感覚をうかがいたいところですが,その場に同道すること自体が心身の問題として難しいという場面もあり得るのかと思いまして,その点は恐らく先ほど病気ややむを得ない理由のときには別の人がという枠組みを少し残すというお話がありまして,そのようなところで判断をする余地というものは大事なのではないかと思いました。 ○山本(克)委員 今の点,私が名宛人でしたのでお答えしますが,おっしゃるとおり,やむを得ない事由の一つとしてそれをカウントするということもあり得ますし,臨場するといっても,顔を合わせないような形で,例えば団地の入口で待っていますというような程度のことでも臨場だというふうに考えればよろしいのではないでしょうか。 ○山本(和)部会長 もう1点,私からも質問ですけれども,債権者の出頭で同時存在の意義をカバーするというときに,ただ,父親だといっても,何年も会っていないというような可能性も,あるいは子供の意識の中からはもうなくなっているという場合で,そういう場合に引渡しまで命じるというのは,あるいは少ないのかもしれませんが,そういうこともあり得るとすれば,その場合にやはり子供はかなり混乱するおそれというのはあるような気がするんですが。 ○山本(克)委員 一番問題は,債務名義の作成から時間的経過がかなりある場合だと思うんですね。債務名義はできたんだけれども,引渡しが,任意の履行がなされない,あるいは行方不明,姿をくらまされて居場所が分からないので執行も申し立てられなかったけれども,やっと見付けたというような場合が一番問題であると。それは実は悩ましい問題で,昔からどういうふうに考えたらいいかというのは私も答えが出ないままであれなんですけれども,債務名義の成立から執行申立てまでの期間限定というものが,この場合にはあり得てもいいのかなと。 ○山本(和)部会長 それはやはり債務名義ができてからの期間経過だけですかね。そうではない場合もあり得るのではないかという気がしますが。 ○山本(克)委員 いや,しかし,それを言い出すと多分もう強制執行自体が間違っているということになってしまうので。それは私はもう目をつぶらざるを得ないんだろうと思います。 ○山本(和)部会長 そういう場合に,引渡しを命ずるということ自体が相当ではないだろうということですか。 ○山本(克)委員 相当ではなかったんだけれども,相当でなくても,債務名義ができた以上は債務名義を排除する何らかの異議申立ての手段がない限りは,執行力は排除できないという理屈は,もう変えようがないのではないかと思います。 ○山本(和)部会長 分かりました。   大体御意見は伺いまして,これも甲案,乙案,双方を支持する意見はあったということですが,先ほど来出ている丙案と,仮にこの場で名付けるとすれば,そういう考え方,基本的には債権者の出頭を前提とすると子と債務者の同時存在は一切要求しないという考え方にも一定の支持があったというふうに伺いました。   先ほどの論点とは違って,この部分は更に議論が拡散してしまったというような印象は持ちますけれども,ただ,いずれの場合においても,債権者の出頭が必要であるという点についてはかなりのコンセンサスがあったように理解します。ただ,その場合,債権者本人が出ていけない,病気が典型的かもしれませんが,行けないような場合は,先ほどあるいはDVの話も出ましたが,これらのような場合に,一定の例外というものを認める必要はあるのではないかという意見は何人かの方々から出されたというところかと思いますけれども。   更に御意見がありましたら,どうぞ。 ○佐成委員 意見表明を全くしていなかったので,一応,意見分布がどうなっているかというところで,申しあげます。   確かに,丙案といいますか,そういった考え方は,執行の迅速性というところで魅力的だとは感じておりますが,現時点では私はそこには十分には乗れないという状態であります。私の考えとしては,どちらかというと,甲案に近いかなというのが現時点での印象でございます。 ○谷幹事 蛇足でございますが,私は丙案に乗りたいと思いますので。   それはそれとしまして,あと子供の引渡し,どういう場面をイメージするかというのが非常に大きな議論の分かれ目なのかなと思っておりまして,幾つか事例が出たんですけれども,まず,久保野幹事の御発言があったように,大体多くの場面では,債務者の下で監護されていて,それが債権者に移ったとしても,債務者との関係は基本的に,虐待があったりしたら別ですけれども,良好な場合であれば,本来的には面会交流等でその後の子供と債務者との交流が図られるべきだと。これは理念的にもそうですし,実際上,それが十分かという問題はあるにしても,それはそれで図られるということが在るべき姿で,そういう意味で,引渡しが今生の別れではないということをまず確認をする必要があるんだろうと思います。   それと,債権者と子供の関係が,非常に長期間離れていて疎遠になっていて,余り子供からしてみれば,これがお父さんだというのがよく分からないという場面があるのではないかということですけれども,恐らく実務上,そういう場面で引渡しが認められることは,部会長もおっしゃったように実例としては余りないのかなと。あとは問題としてあり得るのは,山本克己委員がおっしゃったように,債務名義の成立からそれなりの長期間が経過をした場合にどうするかという問題。これは山本克己委員がおっしゃったような,一定の期間経過によって,もう執行できないという制度もあり得るのかも分かりませんけれども,一応現行の仕組みとしては,事情が変更したということで,元々の審判の変更を申し立てるとか,あるいはそもそも何らかの別の,自分の方が監護者なんだということでその指定なりを受ける,あるいは親権者の変更ということになるかも分かりませんけれども,そういうような仕組みが用意されておりますので,本来的にはそれで対応していくということになるのかなと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,ちょっとこれは事務当局に重い宿題が残ってしまった感じがしますけれども,皆さんの御議論の結果ですので,それを受け止めて,次回までに更に議論を進めていただきたいと思います。一点,債権者の出頭のところですが,13ページの2のところで最初に御議論を出していただいたところですが,同時存在がない場合については,今,おおむね債権者本人の出頭が必要であるとしつつ,何らかのやむを得ない事情がある場合は,非常に素朴な言い方をすれば,子がなじんでいるような人を債権者の代わりに立てて,代理人とするということは可能かもしれないという御意見がありましたが,そうすると,2の場合,主として同時存在があるような場合ですが,この場合にも今の整理と同じということでよいのか,もう少し代理人の範囲を広げるといいますか,債務者がその場にいる場合はもう少し広くてもよいというふうに考えるべきかというところで,恐らく山本克己委員は先ほどのお話であるとすれば,そういう人がいない場合には,債務者がいても執行はできないという御趣旨であったかと思いますけれども,そういう整理でよいかどうかということになろうかと思います。 ○阿多委員 2のお話として,先ほど御質問させていただいたこととも関連するのですが,代理人という立場であれば,弁護士であれば,正に執行についての代理権授与がされているんですが,ちょっと確認したいのは,債権者に代わる人という,12ページでは「その他執行裁判所が指定した者」という形で挙がっている方しか出頭していない場合に,その方に子供を引き渡すというのが,債務名義に挙がっていない人に子供を引き渡すという形になると思うんですが,債権者が代理権を与えていないにもかかわらず,そのような執行というのができるのかというのがよく分からないんですけれども,その点は…… ○山本(克)委員 法定代理だと考えればいいと。 ○阿多委員 法定代理は,これはでも,裁判所の方が,ここでは心身に与える負担の軽減という観点から,面識があるようなおじいちゃん,おばあちゃんをイメージしていると思うんですけれども。 ○山本(克)委員 ええ。ですから,それを代理人として裁判所が指定していると。 ○阿多委員 代理権を裁判所の方が付与するという,そういう…… ○山本(克)委員 その裁判の中に,代理権授与の効果を認めればいいということではないですか。 ○阿多委員 ちょっとそれは理解しました。 ○山本(和)部会長 そういう意味では,代理権があるという前提であるということですね。 ○道垣内委員 山本克己委員がおっしゃるのも一つの説明だと思います。債権者からの代理権授与がないと駄目だということでも構わないのではないかと思いますが,ただ代理権授与があればよいということではなくて,当該執行における要件を満たすために適格な代理人であるかということについて,裁判所の許可なり何なりが入るという,そういう制度設計は十分にあり得るのではないかと思いますが。 ○成田幹事 今,部会長がおっしゃったとおりで,そこは許可代理人の制度が執行法上,もう既にありますので,それで対応できるかとは思います。 ○山本(和)部会長 だから弁護士とかを自分で代理人として選任しても,それは駄目だと,この場面においては駄目だということになるという御意見で共通していると理解してよいですか。 ○道垣内委員 いや,ちょっといいですか。それは二段階目であり,許可を与える基準をどうするかという問題ですね。そのときに子供に与えるプレッシャーというものを最小限にするという観点から決めるということならば,弁護士は入らないだろうと思いますが,法律上,近親者に限るとか,何親等に限るとかというふうに書くのか,それとも,近所のおばちゃんでよく知っている人であるということでも構わないというふうにするために,子の負担というものの軽減という観点から,正当と認められる者とするのかというのは,また別問題としてあるのではないかと思いますけれども。 ○山本(和)部会長 それは,債務者がその執行場所にいる場合も同じであるという御意見だと承ってよろしいですか。 ○道垣内委員 私はそうです。 ○山本(和)部会長 分かりました。 ○阿多委員 裁判所から許可代理のお話が出たんですが,調べもせずに御質問して申し訳ないんですが,許可代理というのは,イメージしていますのは,申立て段階で裁判所の許可をもらって,それで申立て等を行うというイメージでいたんですが,ここでは,例えば弁護士が申立てをしたという状況で,執行場所に臨場するのはこの人という形で裁判所が指定した者という形でするときも,授権決定の段階で許可代理をするというのは,許可代理の概念には入ってくるものなんですか。   山本克己委員の法定代理権を付与するというのであれば,それは説明の仕方としては理解できたんですが,おっしゃる許可代理というのが,通常使っている許可代理のイメージと違うものですから。 ○山本(克)委員 私は今の阿多委員と同じ考え方で,民事執行法の13条の許可代理は弁護士は代理人になれることを前提に,それ以外の者を許可できるということであって,それは申立て行為等,そういう場合のことを念頭に置いたら,それでこの許可代理の規定でよろしいかと思いますけれども,やはり臨場するものについては別途どこかで許可をするという手続が必要であると思います。 ○山本(和)部会長 13条だけで賄えないというのは,そのとおりでしょうね。 ○山本(克)委員 13条では賄えないし,全く特別の規定を各則の中に置かざるを得ない。それで,それを許可代理の枠組みで捉えるのがいいのか,それとも法定代理という形にするのかは,立法技術的な問題であろうかと。 ○山本(和)部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○松下委員 ちょっと細かい話なんですけれども,現行の民事執行法では,不動産の明渡しのときに債権者,又はその代理人が執行の場所に出頭した場合に限りできるとありますが,これとは違う整理をするということですか。つまり明渡しの場に債権者本人が行こうと思ったけれども,どうしても都合が付かないので弁護士以外の誰かに頼むというときには,多分13条の許可代理でアドホックに明渡しを受ける人を頼めると思うんですけれども,それとは違って,子の福祉という観点から,特別な許可をするというようなイメージで理解してよろしいでしょうか。 ○山本(和)部会長 中間試案の段階までは,今,松下委員から御指摘のあった規定に沿って規律が作られており,恐らくこの代理人というのも,その場合と同じ代理人を想定していたんだと思いますが,今日の御議論では,それとは違うものが想定されているということは明らかなのではないかと思います。だから,それが同時存在を外す場合の要件として,この原案は理解していたわけですが,今の何人かのお話は,そうではない,同時存在がある場合でも,債務者がいる場合でも,なおそれが妥当するのだと。そういう代理人が用意できなければ,もう直接的な強制執行はできなくて仕方がないということかと思います。 ○松下委員 本人が行かなくてかつ代理人もいなければ,ということですね。 ○山本(和)部会長 ええ。そのような御意見が出ているというのが私の現状の認識です。   ほかに,そういうことでよいのかということはあると思うのですが,御意見があれば伺いたいと思います。 ○青木幹事 私も債権者,あるいはなじみのある,指定された者がいる方が望ましいとは思うんですが,このことを利用して遠方に居住して執行をしにくくするとかというおそれがひょっとするとあるのかなということは心配しております。 ○山本(和)部会長 そうすると,もう少し広げた方がいいのではないかということですかね。 ○道垣内委員 そのときの広げ方に二通りあるわけですね。つまり債権者又はその代理人の出頭が不要な場合というのを作るというのと,その代理人というのが原則として親族で運用されているところ,大変遠方で,弁護士さんでもたまたまよいという場合があり得ると考えるというのと,二通りあるわけですよね。後者で十分対応できるではないかなという気が私はします。 ○山本(和)部会長 代理人の範囲を変えるということですね。 ○道垣内委員 そう。それは,つまり子の福祉が第一であるというのは当然なんですが,執行が原則に従った場合に著しく困難であるという場合には,それは代理できるというのは十分にあり得るのではないかなと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   おおむねよろしいでしょうか。   この問題は,先ほどの甲案,乙案,丙案というものとも密接に関わってくるところですので,引き続きの御議論に委ねたいと思います。 ○道垣内委員 私は債務者の同時存在は特に必要なく,債権者がいればよいのではないかと申し上げるとともに,しかし,債務者がいた方がよい場合もあるのではないかというのは,それはそうかもしれないし,具体的には思い付かなくても,それは我々のイマジネーションの乏しさが原因であって,そういうバッファーは残しておいた方がよいのではないかと思うわけです。しかし,仮にそういった考え方が全部否定されて,債務者の同時存在を原則にしようとなったとしても,その債務者の同時存在というのは,垣内幹事がおっしゃったように子供の心理的な,本当に心理的な葛藤を下げることになるのか,強めることになるのかといったら微妙な問題があるですので,その代わりとして出てくる債権者に関して,仮にそこに代理人を入れるというふうになったときにも,代理人には一定の制限が在るべきだろうと思います。 ○山本(和)部会長 分かりました。   今後の進め方なのですけれども,本日については延長もやむなしということを考えていたのですが,やはりなるべく時間内に終わらせた方がよいだろうということで,もうあとそうすると40分,若干の延長をするにしても1時間はありませんので,恐縮ですけれども,今後の方針を決めていく事務当局が作業をする上で,やはり最も重要なところとしては,部会資料の16ページ以下の第4の2の債務者の占有する場所以外の場所において執行行為を行う場合の当該場所を占有する者の同意の問題があります。   この部分について,とりあえず今日はいけるところまで議論をして,これも全部終わるとはちょっと思えないところもあるんですが,できるところまで議論をして,それを踏まえて次回,残った部分を含めて議論をしていただきたいというふうに考えますので,まず,第4の2の部分の資料について,事務当局の方から御説明をお願いできますか。 ○吉賀関係官 説明いたします。   資料16ページ以下にありますとおり,債務者の占有する場所以外の場所における占有者の同意の問題につきまして,⒜から⒟までの事例を題材に,それぞれの事例において占有者の同意に代えて,執行裁判所の許可等の手続を経れば足りるものとすることはできるのかという点について,御議論いただきたいと思っております。   18ページの3⑴のところに記載しておりますけれども,今回の部会では⒜から⒟までの事例について,それぞれ債務者以外の第三者に対し,債務者に対する債務名義の執行力が及んでいることを前提とした上で,更にその執行場所についての当該第三者の財産権等の保障の観点から,執行官がその場所に立ち入るなどする場合に,その第三者の同意が例外なく必要となるのか,あるいはこれに代えて,執行裁判所の許可等の手続を経れば足りるものとすることができるのかという点を問題としております。   試みまでに,19ページの⑶ア及びイのところで,子の住所に当たるか否かといった視点ですとか,あるいは祖父母方と学校や保育所との違いといった視点を提示しておりますけれども,どういった点に着目して規律を考えていくべきかという点についても御意見を頂きたいと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,この部分について,どなたからでも結構ですので御意見を頂ければと思います。   いかがでしょう。突然飛んでしまったので,心の準備ができていないということかもしれませんが。 ○垣内幹事 今の事務局からの御説明の中で,これは前にも出てきたお話かもしれないんですけれども,ちょっとこちらの書面の方でどこに対応する記載があったのか,ちょっと今見失ってしまったんですけれども,執行力が拡張されるとか及ぶことを前提にというところについては,なかなか言葉遣いが難しいところがありまして,私自身は今のところの整理では,17ページの⒜,⒝,⒞,⒟というふうにあるところのうち,⒞と⒟については,これは仮に動産で言うのであれば,占有補助者とか所持機関のようなものに対応するものであって,これについては,そもそも執行債務者的立場にあるものではないのではないかと。飽くまで債務者に対する強制執行だけがあって,その場所がしかし,祖父母宅であるとか保育所の敷地であるということで,この祖父母とか保育士等に執行力が及ぶとか及ばないというふうには,従来は言ってこなかったのではないか。しかし,強制執行を妨げるべき立場にあるわけでもないということかとは思います。   他方,⒜,それで⒝が非常に特殊で,なかなか私もどう考えていいのか分からないんですけれども,少なくとも⒜に関する限り,私自身はどうもこれは債務者のために預かっていて,しかし,そういう意味では自己固有の利益はないというか,飽くまで債務者のために預かってはいるんだけれども,しかし,資料の後の方でも,住所がそもそも祖父母方にあると評価できるような場合ということで,生活の本拠になっているようなところで,そこから引き離すという形での執行を想定することになりますので,動産の引渡し等になぞらえて言うのであれば請求の目的物の所持者に相当するような人で,これについては執行力は,しかし,及ぶんだろうと。しかし,動産の場合であれば,これは執行文が必要ということになるのではないかというふうに従来考えてまいりました。ただ,執行文に代わるような何か手続的な手当というものがされるのであれば,その形式を執行文ということに限る必要はないかもしれないということも併せて申し上げたかと思うんですけれども,そういうふうに理解しております。   そのことを前提としまして,この部会資料の16ページ以下の2のところでは,専らその場所の問題として問題を整理されていて,確かに執行場所がどういう場所で,その場所で強制執行を行うのに,場所について所有権とか利用権とかを持っている者の利益をどうするかという問題は存在しますので,そういう観点からの検討が必要なことは間違いはないだろうと思うんですけれども,難しいのは,この問題を考える際に,先ほど申しましたような誰を債務者として執行するということを考えるのかということが密接に関係してまいりまして,ここで直接には当該場所を占有する者の同意ということが問題となっているわけなんですけれども,債務者自身の占有する場所において執行する場合について,別途そのこと自体につき債務者から同意を得るということは想定されていないわけですので,そのことは仮に執行文の付与を受けたとして,祖父母に対して強制執行するというような場合でも,これは執行債務者は祖父母だということですから,やはりその同意等は問題にならないということになると思いまして,そうなりますと,当該債務名義で元々の債務者を執行債務者として強制執行できるのがどの場合なのかということとこの問題というのは表裏の関係にあると申しますか,その理解によっては,この⒜,⒝,⒞,⒟のうち,例えば⒜や⒝の場合については,別途の同意というのは問題とならず,同意ではなく,むしろ執行文の付与であるとか,それに相当するような手続的な何か措置というものが問題になるということもあり得るように思われまして,そうなりますと,なかなかその点について,前々回でしたか,かなり議論もあったかと思うんですけれども,方向性が,方向性と申しましても,これはどちらかというと解釈論の問題ということになってしまうのかもしれないんですけれども,一定の理解を前提とした上でないと,なかなか議論が難しいところがあるのかなという印象を持っております。方向性のない発言で申し訳ありません。 ○山本(和)部会長 今の垣内幹事の御意見,仮にそういうお考えを前提にした場合には,⒜については執行文をとることを前提として,場所についての同意は不要であると。⒞とか⒟については,これは執行文は要らない,そういう占有補助者的に捉えれば執行文は要らないけれども,場所についての同意は必要であるという整理になるという,そういう理解でよろしいんでしょうか。 ○垣内幹事 はい。今のところは,そのようになるのではないかと考えております。 ○山本(和)部会長 そこのバランスが,おっしゃるように,理論的には執行文が付けられれば,債務者と同視されて,その場所についての利益も失われるというのは理解できるところもあるんですけれども,何となく占有補助者的なものというのは,もっと手続保障がなくてもよい主体のような感じもするにもかかわらず,そこは同意がなければならないというふうに考えると,やや何かバランスが何となくどうかなという気もするんですが,その辺りは感覚的な問題なんですかね。 ○垣内幹事 御指摘のようなバランス感覚というのも理解できる面もあるんですけれども,この場合には,通常,占有補助者的な者というのは債務者と同居しているであるとかいうことが考えられてきたという関係で,そのような点が顕在化してこなかったということではないかと思うんですけれども,この場合には対象が子供であるということとの関係で,債務者が飽くまで債務者からの引渡しないし監護を解いて新たに監護権者が事実上も監護を取得するということを実現する場所が,たまたま債務者の占有する場所ではないという事態が生じてくるわけで,その場合に,その占有補助者的な地位にある者が,なぜそれを甘受しなければならないのかと,その場所をですね,そういう形で使われるということの問題が,一般には生じないけれども,ここでは出てきているということのためにそこが顕在化しているということで。   それで,どうもハーグ条約実施法の検討の際に,その辺りの問題についてどういう整理の下で現在の規律になっているのかということが,私自身十分に理解できていないということなんですが,恐らくハーグ条約実施法の場合は,これは同時存在が貫かれておりますので,債務者に対して,執行債務者は当然債務者であると。飽くまで債務者に対する執行で何か,言ってみれば迷惑を被る当該場所の占有者等がいて,その者の利益等も考慮する必要があるという観点から,同意ということになったのだとすると,同じようなことはこの場合でも,今議論している問題でもあるのではないかと思いまして。   逆に,⒜や⒝において,とりわけ⒜ですけれども,祖父母が本来執行を受けるべき立場にあるのにもかかわらず,その場所を使うことは許さないというような規律がバランスのよいものかというふうに考えると,それも逆の意味で問題があるのではないかというように考えておりまして,今のところは,先ほど申し上げたように考えているということです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○阿多委員 前々回,垣内幹事の整理を伺っていて,承継執行文ではなく特殊な執行文というような形の議論で,最終的には本案裁判所ではなくて執行裁判所において手続保障的なものがされれば,それで代替する考え方もあり得るという御意見になったかと思っていまして,私はむしろそれを前提として,⒜や⒝についてはそういう機会を与えるかどうかの話だと思うんですが,⒞,⒟は同意ではなくて裁判所の許可で対応すべきだと。正にバランスの問題で,⒞,⒟は同意を得られなければ執行できなくて,⒜は機会を保障すれば同意なくできるというのは逆におかしいと思っているものですから,何らかの機会を与えるかどうかという意味で⒜,⒝と⒞,⒟は違うんだと思いますけれども,裁判所の許可という形になるかと思います。   1点,⒜の問題設定は,これは「長期間預けられ」という形になっているんですが,これは期間の問題なのかというのは実は非常に気になっていまして,預けられたという事実が意味があるのか,例えば1週間預けますとなったときに,初日だったらある意味で⒞と同じなのかどうかというところで,これは多分,前提としては⒞,⒟は昼間の間という形で時間というか,基本的には債務者の管理に及んでいるけれども,⒜は及んでいないという前提なんでしょうけれども,そこの線引きというのは非常に難しいと思うんですね。先ほど言いましたように,預けに行った初日に行けば長期間でも何でもないわけですので,立て付けとして⒜と⒞の区別というのは実は難しいのかなというふうには思っています。そういう意味でも,同じルールで処理できる方が望ましくて,一番問題なのは⒝ではないかというふうには思っています。   それから,これも,今の話とは違うんですけれども,⒟で「保育士等」というような形で,保育所の敷地となっているんですが,これまで問題にしてきた,仮に同意の問題を考えるにしても,占有補助者的な形の人に対する同意の取り方として,これは保育士は実際,もう事実として子供の引渡しなり監護をしているものですが,施設に立ち入るうんぬんの際は,多分同意の対象は保育士ではなくて施設管理者のお話なんだと思うんですが,そういう理解でいいのか。ちょっとこれは確認させていただきたいと思います。 ○内野幹事 最後の点はそのとおりだと思います。 ○山本(和)部会長 飽くまでも,これは⒜,⒝,⒞,⒟というのは典型例,最も典型的な例示ですので,このままもちろん法律の条文に書くわけでもありませんし,その区別が微妙な場合があるというのも全くそのとおりであろうと思いますが,それを前提に御議論を頂ければと思います。   ほかにいかがでしょうか。是非,今後の方針を定めるために積極的な御意見を出していただければ。   ちょっと垣内幹事にもう一度確認ですが,⒞とか⒟については,先ほどの御意見で同意,この場合は同意が必要だろうということだったわけですが,その同意に代わるような裁判所の許可,決定みたいなものを考える余地があるとお考えなのかどうかということをもしクラリファイいただければ。 ○垣内幹事 先ほど同意と申し上げたのは,絶対に同意でなければならないという趣旨では必ずしもありませんで,ハーグ条約実施法は同意を要求しているということもあり,この場合に何かそれと区別できるという話になるのか,それともあちらも問題があるということになるのか分かりませんけれども,強制執行手続について部外の第三者であっても,一定の場合には受忍限度の範囲内で何か協力を,同意なく課されてもいいというようなことが言えるのであれば,裁判所の許可で代えるということは,およそあり得ないわけではないかなという気がしております。そこの理論構成について,私自身はまだ十分には検討できておりません。   それから,私の先ほど申し上げた問題意識からしますと,⒜,⒝,⒞,⒟と並べて場所で区切っていけばそういう話になるんですけれども,例えば長期間,長期間というのは何なのかということも確かに問題で,そこは非常に難しい問題だと思っておりますが,しかし,一定期間いて,もう生活の本拠は祖父母宅であると,債務者とはもう暮らしていないと評価できるような場合で,祖父母宅から学校に通っているとかいうときに,学校で執行するという場合には,場所で見ますと学校の同意ないし,それに代わる許可が問題となるということですが,先ほど申し上げたような点からしますと,そのときに生活の本拠がそこにあるという共に暮らしている祖父母について何も配慮しなくていいのかという問題が,ここで整理されている問題の枠外に残っているということではないかというふうに理解しております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○石井幹事 意見というわけではないんですが,⒞あるいは⒟のような事案で,同意に代わって裁判所の許可に係らしめるという制度設計について,考えられなくはないと思うんですけれども,その場合に,どういう場合に許可ができて,どういう場合に許可ができないのかというイメージがなかなかつかみにくいところがありまして,債務名義ができているので,もうそれは執行されるべきだということであれば許可になって,逆に,例えば⒟のような保育園にいるような場合で,許可しないという場面がどんな場面なのかなという気はします。他方,その施設の管理者の管理権なりプライバシーといったところを重視するということになると,許可できる場面というのはどういうものになるのかというような気がいたしますので,今後の議論では,どういうことを裁判所が判断するのを念頭に置いているのかといったところも,少し軸にしていただけると有り難いなと思います。 ○道垣内委員 分からないことをいいことに,好き勝手なことを言っているように聞こえるかもしれませんで,それは多分に当たっていますが,⒝について一言。これは執行しないと執行されないんですか。どういう意味かというと,つまり指図による占有移転では済まないんですか。子供は,いずれにせよ全寮制の学校の寮から帰ってこないわけですよね。そうしたら,執行というのは,夏休みに帰るところが変わるというだけですね。そういう際に,何らかの執行行為というのを物理的な作業として行わなければならないのかというのが,少し分からなかったんですが。 ○内野幹事 まず,前提といたしまして,子の監護につき,比喩として申し上げますが,指図による占有移転のようなものを観念することができるのかという点について,現時点で事務当局としての答えがあるわけではなく,子を事実上監護しているという状態について,そのような形での執行というものを法律的に捉えることができるかという点についても,皆様の御知見を貸していただきたいと思っております。 ○道垣内委員 仮にこの全寮制の学校をやめさせようと考えているのならば,親権なら親権に基づいて,学校との間の在学契約を解除するということになるんだろうと思うのですが,仮に解除しないということになりますと,一旦債権者に引き渡したら,その次の瞬間にもう一度寮に戻すわけですよね。それは,占有改定という制度の説明において,現実の占有だけを対抗要件にしても,こっそり引き渡してすぐに戻せば外部からは認識できないので同じであり,だから占有改定でも足りるのだという話と同じになってしまいます。そうすると,占有改定みたいなことをすれば十分なのではないかというふうな気がしまして,指図による占有移転から話は変わったかもしれませんが,執行といっても何をするのだろうというのが分からなかったんです。 ○垣内幹事 私自身も,資料を読んでいてその点はどちらなのかなと思っていたんですけれども,私自身は,ここで問題としているのは飽くまで帰ってくるうちが変わるという話ではなくて,その寮の中に入っていって連れてくると,少なくとも1回はですね。その後どうするかというのはまたあるんだと思いますけれども,その場合に,その同意等が問題となるのではないかという問題意識から,資料は作成されているのではないかなと思いまして,もしそういうことがそもそもなしで済まされる場合があれば議論をするまでもないので,その場合について同意等は問題にならないだろうと思います。 ○内野幹事 事務当局も,今,垣内幹事がおっしゃったような前提を想定しつつ資料作成をしていました。やはり監護を解いたと評価することのできる何らかの事実行為というのをまず基本的には想定しつつ,議論をするということを念頭に資料を作成したというところでございます。 ○山本(和)部会長 どの程度,現実的にこういうことがあるかというと,かなり疑わしいところは多分あるかもしれませんけれども,一応,理念として,こういう場合はどうかということを考えてみようということかと思います。 ○阿多委員 石井幹事の方から,どういう場合に許可ができて,どういう場合に許可ができないのか,裁判所の判断として困るというお話があったんですが,元々の議論自体は,少なくとも第三者方に立ち入るということについて,本来同意が必要だと。しかし,それがために執行不能の場面が生じるということで,同意がなくても立ち入れるようなことを制度として考えるべきではないかと。その際に,私の従前の議論の認識は,法律に書けばいいのか,そうではなくて,やはり個別の何らかの,例えとしていいのかどうか分かりませんけれども,令状主義的な形での裁判所の判断を一旦関与させるのかという意味で議論をしてきたので,裁判所の関与ということが許可なんだと理解をしているんです。ですから,この事案として相当であるというような形で裁判所が判断されれば許可は出せるんであって,許可を出す,出さないの判断が非常に難しいということにはならないのではないかというふうには思っています。   それと,逆に執行の場面で,いきなり来られて通常は困りますと,不同意だという話にしかならないときに,逆に裁判所が許可をしているんですということをもって説明をするためのものですので,同意を封ずるためで考えるべきであって,その許可の判断基準の問題ではないように思っている。そういう意味では,この執行の実際の場面として,例えば学校で執行するときにいきなり執行するのか,そうではなくて執行官等が事前に執行を管理者との間で話をしていて,こういう形で執行しますので協力をしてくださいという説明の際に,裁判所の許可が出ていますということで話をされるんであって,むしろ手続保障としては,そういう形で事前に執行官が接触をする形で,お話としてはできているんだろうというふうにイメージしていたんですけれども,とりあえずそういうイメージで説明しています。 ○山本(和)部会長 阿多委員は,前から夜間執行などと同じような,基本的には裁判所の裁量に委ねるという御意見でしたが,他方では,やはりそういう場合とは違うのではないかと。その場所の利益,財産権の保護というのがもう少し重要なものだとすれば,何らかの要件化が必要ではなかろうかという御議論もあって,そこで事務当局はやや苦慮されているということで,こういう具体例を出して,もし要件化するとすれば,その手掛かりのようなものを見いだしたいという趣旨なんだろうと思います。 ○成田幹事 そこのところは,今,部会長の方で整理していただいたとおりでございまして,やはりプライバシーなのか財産権なのか住居権なのか管理権なのか,いろいろな説明があるかと思いますが,それを乗り越えるという話になるわけですから,本来は同意があってしかるべきところだと思います。   それで,同意に代わる許可というのが,にわかに想定しにくい部分もあって,どういった場合に許可できるんだろうかというのは,裁判所としてはきちっと議論して整理していただいた方がよろしいかと思っております。 ○山本(和)部会長 いかがでしょうか。やはり何らかの基準がないと,実際上は許可はしにくくなるということはあるのかもしれませんが。 ○相澤委員 私も今日の議論をお聞きし,部会資料を拝見したときには,同意に代わる裁判所の許可というのがどういうものを想定しているのか,なぜ,裁判所の許可で財産権なり居住権に基づく同意を排除するような許可ができるのかという,その根拠も教えていただきたいと思っておりました。また,どのような場合に,拒否するという保育所の御意見に対し,それは認められない,これは許可しますといった判断の基準をどう考えるのかというのは非常に難しいと思って伺っておりました。   そういう意味では,夜間執行の許可と同じレベルで考えるということは想定していなかったところでございます。 ○山本(和)部会長 事務当局から説明していただいた方がいいのではないですか。 ○内野幹事 事務当局としましても問題意識は同じでございまして,現在は,ハーグ条約実施法の内容等も参照した上で,財産権等の保障のために同意を要求していますが,それを例えば,部会のこれまでの議論においては,これを例えば裁判所の許可のような手続で代替するというアイデアも出ていたところではあるものの,どのような要件,根拠で裁判所の許可によって同意を要しないものとすることができるのかという部分について,事案を念頭に置きつつ,議論ができればと思い,今回,このような部会資料を用意したというところでございます。 ○山本(克)委員 同意に代わる許可であるということがまずいことであって,許可によってできるというふうに考えればいいのではないでしょうか。つまり,同意に代わると考えるから,同意に代替するものが何なのか,要件はどうのこうのと考えるんですけれども,許可を得て債務者の住居以外の,公道をどうするかというのは問題ですが,他者が占有管理するような場所に立ち入って執行できると,許可一本でいくべきなのではないですか。 ○山本(和)部会長 同意は一切要らないという御趣旨ですか。 ○山本(克)委員 同意は一切要らない。同意をするということは,あらかじめ接触するということですよね。それで取れないから許可を取りに行くということになるのではないですか。 ○山本(和)部会長 ハーグ条約実施法との違いの説明については,どのように考えますか。 ○山本(克)委員 それは,同時存在の原則を前提としているので,債務者の住居で執行するのが当然の前提になっているからだと,原則形態だと。それ以外の場合については,その名義の効力は及ばないので許可をすると,同意が必要だというふうに考えるわけで,名義の性質が違って,監護状態を解除するためには,どこででも執行できる名義だというふうに考えて監護を解除するために必要な場合には立入りが必要だ。ただ,そのときに何でも許可があればいいということにはならず,子の心身に与える影響を軽減するために,こういうところで,あるいはほかにも要件あるかもしれませんが,幾つかの要件を設定した上で許可,同意というのは一切考えないということでいいのではないのかなという気がします。 ○山本(和)部会長 そうすると,その具体的な要件,考慮すべき事情というのは,どのようになるのでしょうか。 ○山本(克)委員 まず,子の心身に与える影響を少なくするために,その場所で執行する必要があること,あるいは債務者の住居で執行することが著しく困難であることなどを考え,要件を選択的に幾つか立てればいいのではないでしょうか。 ○山本(和)部会長 分かりました。   ほかにいかがでしょうか。 ○山本(克)委員 ちょっと許可を得た場合について,今日飛ばした第4の1の⑴の処分はすることができるということなんでしょうか。 ○内野幹事 部会資料上はそういう前提です。 ○山本(克)委員 分かりました。 ○山本(和)部会長 いかがでしょうか。これもかなり両極端といいますか,もう一切同意も不要で,許可だけでいいのではないかという御議論がある一方,なかなか同意に代わるような許可というようなものは難しいのではないかという御意見があり,その中間に,一定の場合に許可に基づく執行というのは認められるのではないかという意見があるけれども,その要件については,基本的には裁判所の裁量に委ねていいのではないかという御意見と,やはりその場合には何らかの要件がないとなかなか難しいだろうという御意見があるということですが,それは論理的にあり得るべき意見がここで出たというだけの整理になってしまうような気もするので,事務当局としてはその方向性がとりにくいような気もするので,もう少し御意見を頂ければ大変有り難いのですが。 ○松下委員 ここはなかなか難しい論点だと思います。先ほど山本克己委員のおっしゃった,同意というのを考えないで許可一本でいくという考え方は,確かに非常に魅力的ではあるんですが,しかし,許可を受けないと執行できない根拠というのは,やはり財産権とか居住の静穏とか,そういうことに還元されるのだとすると,同意で解除できないということはなかなか観念しにくいような気もします。だから,まず同意だけれども,なければ許可。それで,同意が取れそうになかったら,最初から許可を取りに行けばいい,事前の接触なんかしなくてもいいわけですから,同意又はそれに代わる許可というのは,その枠組み自体は原案のとおりで,私はいいような気がします。   それで,許可のファクターですが,先ほど来出ているとおり執行の実効性みたいなことと,それから元々許可なり同意なりが必要な根拠が財産権なりその場所の静穏なり秩序なりだとすると,やはりそういうものを不当に害しないかどうかということではないかと思います。例えば具体例で言うと,保育園ならば多分朝夕送り迎えとかしているわけですが,⒝の全寮制の学校の場合,かなり建物の奥深くまで入っていかないと,その子供に到達しないような場合には,場合によってはかなりほかの入寮者,生徒さんの生活に影響を与えざるを得ず,許可が難しい場合もあるいはあるのかなという気はしました。   特に定見はありませんが,以上です。 ○山本(克)委員 私が同意なくしてというのは,先ほど来議論しているのは,同意を取れなかったから許可が必要,許可を取りに行くという発想で議論されていたので,そのように申し上げただけで,同意又は許可によりで,常に許可を取るのが弁護士ならば当然の,同意を先に取らずに,いきなり許可を取るのが当然の行為だということを前提にお話ししましたので,たまたま子供を追い掛けていったらどこかの家に入ったので,このお子さんは引き渡してもらわなければ困るお子さんですといって,そうですかといって入って,それでその住居に入って子供を連れていくということは何ら私は差し支えはないということで,ですから,事前にあらかじめここで執行すると考えている場合に,あらかじめ同意を取りに行かなければいけないという発想がおかしいということを申し上げただけです。 ○山本(和)部会長 逆に言えば,仮に同意で免除できるとしても,全ての同意は許可によって代替できるというお考えだということですよね。 ○山本(克)委員 はい。 ○垣内幹事 私はまだ定見がないんですけれども,もし裁判所の許可ないし判断で同意なしでもできるという場合を考えますと,強いてこれに何か手掛かりになるようなものはないかと考えたときには,例えば訴訟における検証の受忍命令ですとか,そういったものが通ずるところが多少あるかなというふうに考えておりまして,裁判所が当該場所での強制執行の実施というものが必要で,最も抽象的に言えば必要で,かつ合理的だという判断があるというときに,同意がなくてもそこでやることを受忍せよという裁判をするということで,同意がなくてもできるというようなことは,あるいはあり得るかもしれないと思います。   ただ,これは従来にない制度だということになるかと思いますので,この場合にだけなぜそれが認められるのかということについて,例えば子の福祉の観点等から特に場所についてそのような柔軟な規律が必要なんだといった説明が必要かと思いますし,またハーグ条約実施法との区別については,私自身はまだなお難しい点があるかなと思っております。   併せて,仮に検証とか文書提出命令とかいった訴訟の判決手続の制度に引き付けて考えたとしますと,これは当該土地の占有者等の方から不服申立てをどうするかというような問題も出てくるのかなというふうに考えておりまして,なかなか解決すべき課題がいろいろあるのではないかという印象です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   この⒜,⒝,⒞,⒟のそれぞれの事案についてどうかということで,先ほど松下委員からは,⒝についてはなかなか,ほかにもいっぱい子供もいるし,そこに同意がないにもかかわらず,ずかずか入っていくということは難しいのではないかという御意見もありました。   逆に⒜のような場合は,これはいいという感じになるんでしょうか。 ○松下委員 先ほども阿多委員から御指摘ありましたけれども,⒜と⒞は,それほど截然とは区別できないような気もして,そこに長いこといるかどうかというのは,長くいようが,反復して短くしかいないであろうが,結局祖父母のうちに立ち入ることには変わらないので,⒜と⒞は区別しなくてもいいのかなというのが私の印象です。 ○山本(和)部会長 恐らくこの原案の趣旨としては,⒞のような場合は,いるのは昼間だけなので,夜,親のところに戻ったところで執行しようと思えば,先ほど谷幹事から,かなり手間が掛かると,費用も掛かるという御指摘はありましたけれども,できないではないと。でも,⒜は祖父母のところにずっといるので,それができないと執行はなかなか難しくなるというような,執行の必要性の観点からのやや違いがありそうだということなのかもしれないという気もしますが。 ○松下委員 それ自身はよく分かる御指摘なんですけれども,当然⒞の場合,夜執行するのは適切なのかということもあるので,もちろんこれは⒜と⒞は,だから違うところもあれば同じところもあり,グラデーションが付いている話なのできれいに切れると思いませんが,今言ったように夜執行するのは適切ではない場合もあることを考えると,⒜と⒞はそれほど区別をするんだろうかというのが第一感だというのは先ほど申し上げたとおりです。 ○山本(和)部会長 分かりました。 ○山本(克)委員 それは先ほど申し上げた,今の問題は許可の要件の問題として処理すべき問題ではないでしょうか。つまり,原則はやはり債務者の住居における執行であるけれども,それが困難である,あるいは債権者にとって酷な要求に当たるような場合には許可ができるというようなところでコントロールできる話ではないのかなという気がします。 ○山本(和)部会長 基本的には,やはり執行の必要性というか,その債務名義を実現するために,そこで執行することが必要かどうかというところが決定的な要件になるというお考えですか。 ○山本(克)委員 必ずしもそうではないんですが。 ○山本(和)部会長 先ほど,子の心身という点にも言及がありましたが,その辺りはいかがでしょうか。 ○山本(克)委員 その辺を累積的に考えるのか,それとも選択的に要件を設定するのかというのはまだよく考え切っていませんので,皆さんの御意見を伺いながら考えてみたいと思います。 ○青木幹事 子の心身に与える影響というのは,同意があってもやるべきでないということにもなると思うので,そこをどう整理したらいいのかなというのは疑問に思いました。 ○山本(克)委員 債務者の住居で執行するよりも,他の場所で,他人が監視する場所で執行した方が,子の心身に与える影響が少ないと認められる場合に許可するという趣旨です。 ○青木幹事 その場合,許可を得ずに同意を得てするのも多分ふさわしくないとは思うんですが,同意を得てするのであれば,できてしまうようにも思えるのですけれども。 ○山本(克)委員 おっしゃる趣旨は分かりました。   やはり同意はなしということにした方がいいのかもしれないですけれどもね。 ○山本(和)部会長 やはり同意では代替できないということですか。 ○山本(克)委員 代替できない部分があるのかもしれませんね。多分,許可には二通りの意味があると,執行方法としての適切性の問題と,他人の監視する場所に立ち入るということの両方の,そこをクリアするという両方の意味があるのかもしれませんね。   ありがとうございます。今ので頭が整理されました。 ○今井委員 許可って何なんだろうというふうな話をしようと思いましたら,今,山本克己委員から出て,執行の適正と,それから第三者のところに入るというところという,その2点だというので今答えが出てきちゃったんですけれども,これまでの御議論からすると,基本的に私の議論の傾向としては,元々の,例えばお母さんに対する債務名義では,そう簡単に名宛人の地位なり,若しくは承継執行文という場面というのはかなり限られてくるのではないか,若しくはないのではないかという印象がありました。   それから,例えば,では,⒝とか⒟ですが,これは逆に,なるほど,こういうところに同意は必要ではないかという何となく印象はあるんですけれども,実際にやはり名宛人の地位は失っていなくて,ただ全寮制の学校に行っていたり保育所に預けられているという場合で,そうすると,今度は学校の立場とか保育所の施設で言うと,これは親から,直接はお母さんの場合が多いと思いますけれども,契約で預かっていると思うんですけれども,そうなると,預かっている以上は学校なり保育所の何をするかというミッションがあるわけで,それはその契約の中で規定されている。それを子供を引き渡せと来たときに,やはり学校の立場や保育所の立場から言うと,それはその契約との関係で言えば,それを害されるわけですから,その面では非常にイレギュラーな事態が生ずるわけで,そうなるとやはり学校にしても,保育所の立場からすると,では,あなた同意してくださいと言われても,それはその同意することは,元々の子供を預かっている契約との関係で言うと,多分債務不履行になるのではないかなという気がいたします。むしろ,それは裁判所が,そういう契約はあるんだけれども,裁判所が許可だと,むしろ全般的に裁判所の命令があって,これにある以上は,やむを得ずこれに従わざるを得ない,こういう方がやはり円滑な執行と,預かっている側の立場の理解というんですか,その方が円滑にいくような気がいたします。   ですから,先ほどもう結論は出ていましたけれども,同意というのは現実問題しにくいと思うんですね。それで,した途端に債務不履行になる。だから,それと同意に代わるというものが許可というと,またそれはそれで,同意に代わるのが許可というのとまたちょっと違うのかなという。免責をするという意味では許可かもしれませんけれども。つまり,この執行で,この場面で,こういうところを執行機関としては十分分かっていて,その上でこういう執行をオーケー出したと。そうすると,許可がトータルな意味での執行命令の一部なんだということが,むしろ許可の本質なのではないかなと,こんなふうに思いました。 ○阿多委員 先ほど,この許可が二つの性格を持っているというので,執行方法としての許可と立ち入ることの許可というお話があったと思うんですが,その前提で確認されていたのは,第4の1については適用されるのかという形で,一旦もう立ち入った後は,執行官の権限等については差がないという前提で考えるときに,やはり元々は立ち入ることの許可について考えていて,あとは立ち入ったらすることは同じですよというお話で進んでいたのかと思うんですが,執行方法についての判断というのは元々実施決定,更には授権決定のところで,どこでするのがいいのかということは判断しているわけで,にもかかわらず,立ち入ることについて別途執行方法について許可というのが,執行裁判所が判断するときに一体何を前提に,何について判断をしているのかというのが重なってくるのではないかなという気がするんですが,飽くまでここでの議論というのは,立ち入ることの許可というのは,立ち入ることの同意に代わるものとして議論をされているのかなと思って伺っていたんですが。 ○山本(和)部会長 前提が少し異なるのかもしれませんが,占有者の同意については,第4の1の⑴から⑶までの全ての同意という前提で議論されているように思うのですが。そうすると,仮に制度を作るとすれば,許可は,この⑴から⑶までの全てについての許可ということになるんだろうと思います。 ○阿多委員 立ち入ることではなくて,むしろ許可をするのは第4の1も含めて全て許可をすると,そういう整理。 ○山本(和)部会長 同意に代わるものとして捉えるのであれば,前提はそういうことになると思います。 ○阿多委員 分かりました。 ○村上委員 同意とか許可とかという議論に,まだ付いていけていないのですが,19ページのアとイで,⒜,⒝,⒞,⒟に関してグルーピングされています。   その中で,どういうふうに考えたらいいのかなとずっと思っていまして,⒜は,こういう場合,場所であれば大丈夫だろうと思っていましたし,⒟のような場合は,なるべく避けるべきではないかということを今まで申し上げてきました。では,⒝と⒞はどうなのかということをいろいろ考えていましたけれども,今日御議論を伺っている中で考えてきたのは,松下委員もそうですけれども,⒜と⒞は違いが余り見られないのかなと思いますが,逆に⒝と⒟は大変近い部分があるように思います。20ページに指摘されていますように,執行の対象となっているお子さん以外のお子さんたちがいる場所での,好奇の目にさらされるということもありますし,当該のお子さん以外の子たちへの影響とか,いろいろなことを考えなくてはいけないのではないかと思っていまして,グルーピングとしてはそういう感じではないかなと思っております。   ただ,前から申し上げていますけれども,保育所などへの過度の負担を掛けるべきではないという意見は,改めて申し上げておきたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   貴重な御意見を頂いたと思いますが,この⒜から⒟までについて,今,村上委員からの御指摘は,⒜と⒞というような,祖父母が子を預かっている場合については同意に代えて裁判所の許可で執行する可能性というのは認めてもいいのではないかということかと思います。それに対して⒝とか⒟というような,他の子供がいるようなところについては,やはり慎重に考えるべきであるという御意見が出されたわけですが,できればそういうような,私もそう思うとか,私は違うとかという御意見がもし今日のところであれば,出していただければ,ちょっと空中戦の議論よりは事務当局の今後の検討にとって役に立つところがあるのかなと思うんですが。 ○山本(克)委員 祖父母と広い意味の教育機関というものを峻別できるというのは確かなんですけれども,中間のものが多数あり,それをうまく切り分けられるかどうかという点を考えると,私はむしろその場所に応じた執行方法,許可の際に執行の在り方について限定を加えるというような形で対処すべきであって,許可を,教育機関の場合について排除するというのには賛成できません。   例えば,いわゆるママ友のところに,保育所からママ友に頼んで連れて帰ってもらって8時まで預かってもらうというような場合,どう考えるのかと。教育機関なのか,親族と同じに考えるのかなどというようなことを,いろいろな場合を例に考えて立法するということは私は不可能だと思いますので,そこはもう裁判所に,その場所に応じた執行方法,例えば全寮制の学校であれば,校舎から寄宿舎に帰ってくるときに待ち受けて執行するとか,幼稚園,保育園であれば,保育時間が終わってから門のところで待ち受けて執行するとか,そういうような執行方法を指定することと併せて許可をするということで対処すべきであって,余りこういう場合はよくて,こういう場合は許可は一切駄目という場合を考えることは,ちょっと難しいのではないのかなという気がしています。 ○山本(和)部会長 分かりました。   ほかに今日の段階でございますか。 ○久保野幹事 求められている具体的な議論にちょっと合わないかもしれないのですけれども,⒜と⒞との差については,区別できないという意見も大分出されましたけれども,私自身は冒頭に垣内幹事がおっしゃった意見に賛成でして,⒞の祖父母は言わば占有補助者的な立場と言えるけれども,⒜については所持者に当たる,要は短時間の事実上の関わりを超えた,より包括的,定型的なというか,差し当たり分類としてはそれとは違うある地位を認め得る立場にいるのではないかという区別があり得ると思います。ただ,それが具体的な問題にどうつながるかというところは,垣内幹事がおっしゃった特殊執行文ということにつながっていくのだろうかという程度のものしか持っていませんけれども,まずはその点があります。その理由は,何回目かのときに,少年法や児童福祉法などを見たときの保護者概念といったものを参照するというところで言ったことと重なります。   あと1点なんですけれども,ちょっと同意の性質のところで,先ほど15ページの⑴から⑶の全てについてのというお話がありまして,確かに16ページの下から6行目にもそう書いてあるんですけれども,ちょっとそれで分からなくなったんですが,⑵の債権者若しくはその代理人と子を面会させることについての同意という問題は,財産権等を保障するためということに重なる,ちょっと違うような気もしたんですけれども,それと場所を占有している者の同意というもののつながりについて,今更で申し訳ないですけれども,確認させていただけたらと思います。 ○内野幹事 飽くまでもその場所で執行官が一定の行為をするということについての同意という趣旨であると認識しております。 ○久保野幹事 面会させることそのものということよりは,面会をさせるためには立ち入るなりということが必要になるのでという趣旨と理解すればいいと。分かりました。ありがとうございます。 ○平田委員 今更ながらと言われるかもしれないんですが,皆さんのイメージされているのがちょっとどうなのかなと思いますので申し上げますと,執行場所をどこにするかというのは,授権決定後,執行官が任意に考えていろいろな場所に行けるというのを前提でお考えなんでしょうか。どうなんでしょう。   それで,例えば保育園に行ってやるときには同意が要るのか,保育園に行ってやるので,保育園が同意しない場合に備えて許可をしてくれと,こういうイメージなんでしょうか。 ○山本(克)委員 そうではないと,先ほど私は。多分今井委員もそう,私と同じだと思いますけれども。 平田委員 誤解があるのかなと思いますのは,今皆さんの御意見を伺っていると,例えば保育所等で敷地内に立ち入るという場合に,許可を申し立てられた裁判所として,許可しないというのが選択肢としてあるのかという。つまり許可しないということはないのではないかというのが前提のように思われるんですが,そうすると,例えば保育所で直接的な強制執行を行うとして,例えば裁判所が許可すれば,そこで必要な行為はできる。先ほどの⑴から⑶までの行為はできると,もう法律で定めてしまっておけばいいのかなと。どうも何か,先ほどから裁判官の委員や幹事が,それは困ると言っているのは多分そういうところだと思うんですね。それを許可しないという場合を余り皆さん想定されないまま,何か裁判所の許可があればオールマイティーにできるという規律を設けることは非常に懸念されるわけで,もうそういう場面が想定されないのであれば,こういう第三者の場所で執行するということを,例えば裁判所が許可するということにしたら,そこで必要な行為はできるというふうな規律をするのも一つかなと思います。イメージとしては,何かそういう感じでお考えなのではないかと思うんですよね。 ○山本(和)部会長 先ほど村上委員は,そういった学校等については許可をすべきでないというお考えだったというふうに伺いましたが。 ○平田委員 もうそれはできないと。 ○村上委員 そうですね。 ○平田委員 もしそうだとしたら,元々の原案の立て方の同意に代わる許可という形であれば,本人が同意しないのに裁判所が許可するということは,ちょっとできないのではないかと思っております。 ○山本(和)部会長 分かりました。   大分時間が過ぎましたので,それでは,これはまた事務当局にはかなり宿題が残ったということかと思いますけれども,今日の議論は一応これで打ち止めにしたいと思います。   次回の議事日程と,本日残った部分の今後の取扱いも含めて,事務当局の方から説明をお願いします。 ○内野幹事 次回は2月23日の金曜日,1時30分から5時30分までを予定しております。場所は未定でございますので,また別途,御連絡をさせていただこうと思います。   次回は,本日残った部分を御審議をいただきまして,その後に,恐らくそちらがメインになろうかというふうには想定しておりますが,不動産競売における暴力団員の買受け防止の方策などについて御審議をお願いしたいと思っております。また,あらかじめ部会資料をお送りさせていただく予定でございます。 ○山本(和)部会長 よろしいですか。   それでは,これで本日の審議を終了させていただきたいと思います。   本日も長時間にわたって熱心な御議論をありがとうございました。 -了-