法制審議会 特別養子制度部会 第1回会議 議事録 第1 日 時  平成30年6月26日(火)    自 午後 2時31分                          至 午後 5時33分 第2 場 所  東京地方検察庁総務部会議室 第3 議 題  特別養子制度の見直しについて 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○山口幹事 お待たせいたしました。   それでは,予定した時刻になりましたので,法制審議会特別養子制度部会の第1回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中,御出席いただきまして,誠にありがとうございます。私は,法務省民事局参事官の山口と申します。本日は,この部会の第1回会議ですので,後ほど部会長の選出をしていただきますが,それまでの間,私が議事の進行役を務めさせていただきます。   最初に,お手元の資料について御確認を頂きたいと思います。まず,事前に送付しました資料としまして,部会資料1「特別養子制度の見直しに当たっての検討課題」と参考資料1「特別養子を中心とした養子制度の在り方に関する研究会中間報告書」とがございます。送付時点から,若干の形式的な修正を行っております。   その他の資料は,本日新たにお配りするもので,参考資料2は,特別養子制度の見直しに関する諮問第106号でして,参考資料3は,本部会の今後の日程表です。参考資料4及び5は,厚生労働省の児童虐待対応における司法関与及び特別養子縁組制度の利用促進の在り方に関する検討会の報告書及びその参考資料です。参考資料6は,最高裁判所御提供の統計資料でして,後ほど最高裁判所から御説明いただく予定です。最後に,参考資料7は,磯谷委員から事前に配布を依頼されております資料です。後ほど審議の中で,磯谷委員から御説明いただく予定です。   それでは,まず,この部会で審議される諮問事項と,この部会の設置の経緯につきまして,簡単に御報告いたします。   本年6月4日に開催されました法制審議会第181回会議におきまして,法務大臣から特別養子制度の見直しに関する諮問がされました。お手元の参考資料2,右肩に「諮問第百六号」と記載されたものを御覧ください。諮問事項は,ここに記載されておりますように,「実方の父母による監護を受けることが困難な事情がある子の実情等に鑑み,特別養子制度の利用を促進する観点から,民法の特別養子に関する規定等について見直しを行う必要があると思われるので,その要綱を示されたい。」というものであります。   この諮問を受けまして,法制審議会総会では,その日の会議におきまして,専門の部会を設置して調査・審議を行うのが適当であるとして,この特別養子制度部会を設置することを決定したものであります。まず,以上のことを御報告いたします。   続きまして,審議に先立ちまして,民事局長である小野瀬委員より挨拶がございます。 ○小野瀬委員 民事局長の小野瀬でございます。事務当局を代表いたしまして,この場をお借りして,一言御挨拶申し上げます。   皆様には,それぞれ御多忙の中,法制審議会特別養子制度部会の委員,幹事に御就任いただきまして,誠にありがとうございます。民法の特別養子に関する規定は,昭和62年の民法等の一部改正によって設けられたものでございますが,その後30年以上,見直しがされておりません。その一方で,近時の報告によりますと,実方の父母による監護を受けることが困難であるため,児童養護施設に入所しているなど,社会的な養護を必要としている児童は数万人に上っております。これらの児童の中には,特別養子縁組をすることにより,家庭と同様の養育環境において,継続的に養育を受けられる可能性のある者もいると,そういう指摘もされております。   もっとも,特別養子縁組の養子となる者は,原則として6歳未満でなければならないとされておりまして,現に施設に入所している6歳以上の子については,この要件が障害となって縁組をすることができない場合がある,こういった指摘もございます。また,特別養子縁組の成立には,原則として,実方の父母の同意が必要でございますけれども,一度同意がされましても,成立の審判が確定するまで撤回することができるとされておりますために,その養親となる者が養子となる者の試験養育を開始した後も,不安定な立場に置かれることになると,ひいては,そのために養親となることをちゅうちょする場合があると,こういった指摘もされているところでございます。   こういった指摘等を踏まえますと,特別養子縁組の養子となる者の年齢の上限を引き上げることですとか,あるいは,一定の場合には,実方の父母の同意の撤回を制限することなどを検討し,この制度をより利用しやすいものとする必要があると考えられます。そこで,特別養子制度の利用を促進する観点から,民法の特別養子に関する規定等を見直すことについて,法制審議会で御検討いただきたく,今回の諮問がされたものでございます。   委員,幹事の皆様方には,この点についての御検討をお願いすることとなりますが,適切な規律の整備のために御協力を賜りますよう,何とぞ,どうぞよろしくお願い申し上げます。 ○山口幹事 続きまして,委員,幹事及び関係官の方々に,自己紹介をお願いいたします。お名前と所属等を御紹介いただければと思います。   順番としましては,着席順に,青木委員から順次右隣の方へ,よろしくお願いいたします。 ○青木委員 東京家庭裁判所家事部所長代行を務めております青木と申します。どうぞ皆様,よろしくお願いいたします。 ○磯谷委員 東京弁護士会の磯谷と申します。よろしくお願いいたします。 ○岩﨑委員 公益社団法人家庭養護促進協会の理事をしております岩﨑です。どうぞよろしくお願いいたします。 ○大村委員 東京大学で民法を担当しております大村と申します。どうぞよろしくお願い申し上げます。 ○窪田委員 神戸大学で民法を担当しております窪田と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○高田委員 東京大学で民事訴訟法を担当しております高田と申します。よろしくお願いいたします。 ○棚村委員 早稲田大学で民法を担当しています棚村と申します。よろしくお願いいたします。 ○宇田川幹事 最高裁家庭局第二課長の宇田川と申します。皆様,どうぞよろしくお願いいたします。 ○山岸関係官 最高裁家庭局で局付をしております山岸と申します。関係官として参りました。どうぞよろしくお願いいたします。 ○岡田幹事 内閣法制局の岡田でございます。よろしくお願いいたします。 ○久保野幹事 東北大学で民法を担当しております久保野と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○杉山幹事 一橋大学で民事訴訟法を担当しております杉山と申します。よろしくお願いいたします。 ○成松幹事 厚労省の子ども家庭局で家庭福祉課長をしております成松と申します。よろしくお願いします。 ○島関係官 厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課で児童福祉専門官をしております島でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○浜田幹事 大阪弁護士会の浜田真樹と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○床谷委員 大阪大学で民法を専攻しております床谷と申します。よろしくお願いいたします。 ○平川委員 日本労働組合総連合会,連合で社会保障を担当しております平川と申します。よろしくお願いいたします。 ○藤林委員 福岡市こども総合相談センター所長の藤林でございます。よろしくお願いいたします。 ○水野委員 東北大学で民法を担当しております水野紀子と申します。よろしくお願いいたします。 ○村田委員 最高裁家庭局長をしております村田と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○山根委員 主婦連合会参与の山根香織と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○山本委員 厚生労働省子ども家庭局審議官の山本と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○倉重関係官 法務省民事局付の倉重と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○吉野関係官 法務省民事局付の吉野と申します。どうかよろしくお願いいたします。 ○山口幹事 改めまして,山口でございます。よろしくお願いします。   どうもありがとうございました。   なお,本日は,木村幹事と,それから,幡野幹事が御欠席でございまして,事務当局側も,筒井委員と堂薗幹事が欠席しております。   この機会に,関係官につきまして,補足して説明いたします。法制審議会議事規則によりますと,審議会がその調査・審議に関係があると認めた者は,会議に出席し,意見等を述べることができるとされております。この部会でも,従前どおり,関係省庁に対して,審議への参加を求めていこうと思っております。そのため,関係官として,当省の事務当局のほか,厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課の佐々木母子家庭等自立支援推進官及び,先ほど自己紹介いただきました島家庭福祉課児童福祉専門官並びに最高裁判所事務総局家庭局の山岸局付に御参加いただいております。ただ,本日,厚生労働省の佐々木関係官につきましては,御欠席と伺っております。   さて,続きまして,部会長の選任を行っていただきます。法制審議会令によりますと,部会長は当該部会に属する委員及び臨時委員の互選に基づき,会長が指名することとされております。この部会は,本日が第1回会議ですので,まず初めの手続として,部会長を互選していただく必要がございます。   それでは,ただいまから,部会長の互選をしていただきますが,自薦又は他薦の御意見などはございますでしょうか。 ○磯谷委員 磯谷です。僭越ながら,大村委員を部会長として推薦したいと思います。   大村委員は,民法について,幅広く,かつ深い識見を持っておられますし,また,本部会以前にも多数の立法の立案過程に関わっておられます。また,先立つ研究会におきましても,公正かつ効率的に中間報告書の取りまとめに尽力をされました。そういった観点から,大村委員が部会長に最も適任であるというふうに考えます。 ○山口幹事 ありがとうございました。ほかに御発言ございますでしょうか。   そうしましたら,部会長として大村委員を推薦するという御発言がありまして,ほかに御意見がないようでしたら,部会長は大村委員が互選されたということになろうかと思いますが,いかがでしょうか。よろしいでしょうか。   ありがとうございます。それでは,互選の結果,大村委員が部会長に選ばれたものと認めます。その上で,法制審議会の井上正仁会長に部会長を指名していただこうと思います。本日は,電話での指名というふうになりますので,井上会長と連絡を取る間,一旦会議を休憩とし,3時から再開させていただこうと思います。申し訳ありませんが,よろしくお願いいたします。では,一旦休憩といたします。           (休     憩) ○山口幹事 無事に井上会長と連絡が取れましたので,少し予定より早めて再開したいと思います。   今申し上げましたとおりでして,先ほど休憩時間中に,井上会長から大村委員を部会長に指名する旨の御連絡を頂き,これをもちまして,大村委員が部会長に選任されました。大村委員には,休憩時間中に部会長席に移動していただいておりますので,この後の進行役をお願いしたいと思います。よろしくお願いします。 ○大村部会長 大村でございます。改めて御挨拶を申し上げます。   御指名でございますので,非力ではございますけれども,部会長を務めさせていただきます。どうぞよろしくお願い申し上げます。   最初に,一言御挨拶をさせていただきたいと存じます。   先ほど,小野瀬局長の方からお話がございましたけれども,特別養子制度が創設されてから既に30年を経過しております。この間に現れた実務上の問題は多々ございます。また,この30年は,親子や夫婦,家族に関する考え方が多様化・流動化する時代でありました。そのため,今日では,特別養子,さらには未成年普通養子についても,その位置付け,制度趣旨に立ち返って再検討することが求められております。 こうした検討は,実親子法とも無関係ではございません。今回は特別養子法が見直しの対象になっておりますけれども,関連の諸制度も念頭に置きつつ,当面の課題について考えてまいりたいと思っております。   他方,家族法の改正という観点から見ますと,1999年に成年後見,2011年に親権の部分が改正され,今国会では成年年齢の引下げに伴い,婚姻適齢あるいは成年擬制の規定が改められております。さらには,相続法の改正案も現在審議されているところでございます。これに対しまして,婚姻,実親子に関する改正は,いずれも実現には至っておりません。これは,高齢者や子どもの福祉の増進を図るという大枠において,国民の価値観が一致しているのに対して,親子や夫婦,家族の観念について,様々な考え方あるいは議論がある。これによって,立法が進んでいるところと進んでいないところが分かれているのではないかと思っております。   今日まで改正が行われていない親子,婚姻につきましても,今申し上げたような大きな意味でのコンセンサスに基づいて,必要性・緊急性なども勘案しつつ,現代の状況に合わなくなってきている部分を順次改正していくということで,その現代化を図っていくということが必要なのではないかと思っております。その意味で,今回の特別養子を手始めにいたしまして,親子法の見直しが順次実現していくということを期待しております。   また,家族法は,非常に国民の関心の高い領域でございます。特別養子の当事者になる方々の数は少数であるといたしましても,特別養子という制度は,多くの国民の関心事であると言えます。このような関心に応えられるように,分かりやすい議論を行うように心掛けたいと思っております。委員,幹事,関係官の皆様におかれましては,御支援,御協力のほどをよろしくお願い申し上げます。また,事務当局におかれましても,外部に向けての説明等に当たりましては,格別の御配慮を頂ければ幸いに存じます。   以上でございます。どうぞよろしくお願い申し上げます。   最後でございますけれども,今後,私がこの会議に出席できないという場合に備えまして,部会長の代理を指名させていただきたいと存じます。具体的には,窪田委員にお願いをしたいと思っております。これは部会長が指名できるということでよろしかったですね。 ○山口幹事 はい,そのとおりです。 ○大村部会長 では,制度上,部会長が指名をさせていただくということになっているようでございますので,私の方から窪田委員にお願いをしたいと存じます。   窪田委員,よろしくお願い申し上げます。 ○窪田委員 部会長代理に指名されて,同意権は一体どうだったのかなとか,いろいろなことを考えますが,多分,同意権の保証されていない仕組みなのかなとも思います。微力ではございますけれども,部会長をサポートしながら,皆様と御一緒に,よりよい制度に向けて検討していきたいと思いますので,どうぞよろしくお願いいたします。 ○大村部会長 ありがとうございます。   次に,審議に入る前に,議事録の発言者名の記載についてという案件がございます。当部会における議事録の作成方法のうち,発言者の取扱いにつきまして,お諮りをしたいと存じます。   まず,現在の法制審議会での議事録の作成方法につきまして,事務当局の方から御説明をお願いいたします。 ○山口幹事 法制審議会の部会の議事録における発言者名の取扱いにつきましては,かつては発言者名を明らかにしない形で,逐語的な議事録を作成していた時期もありましたが,平成20年3月に開催された法制審議会の総会におきまして,それぞれの諮問に係る審議事項ごとに,部会長において,部会委員の意見を聞いた上で,発言者名を明らかにした議事録を作成することができるという取扱いに改められております。   御参考までに申し上げますと,この総会の決定後に設置された民事法関係の部会では,いずれも発言者名を明らかにする議事録を作成するものとされております。したがいまして,この部会の議事録につきましても,発言者名を明らかにしたものとするかどうかを御検討いただく必要があるのではないかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございました。   今の山口幹事からの御説明につきまして,御質問,御意見がありましたら,御発言をお願いいたします。特に御発言はないでしょうか。よろしいでしょうか。   部会長の私といたしましても,当部会では,審議事項の内容等に鑑みまして,発言者名を明らかにした議事録を作成するのが望ましいのではないかと考えます。これでよろしいでしょうか。   ありがとうございます。それでは,御異議がなかったということで,当部会におきましては,発言者名を明らかにした議事録を作成するということにさせていただきたいと存じます。   ここから,本日の審議に入らせていただきます。   まず,今日は初回ということですので,フリーディスカッションをお願いしようと思っておりますが,それに先立ちまして,事務当局の方から,今回の諮問の内容及びその発出の経緯,今回の検討の対象範囲等につきまして,御説明を頂きたいと思います。 ○山口幹事 それでは,若干詳しめに,今回の諮問の内容及びその発出の経緯,検討対象の範囲について御説明したいと思います。   今回の諮問の背景事情といたしましては,まず,実の父母による監護を受けることが困難な児童の実情ということがございます。   我が国における児童の養育につきましては,法律の定めとしては,児童福祉法第3条の2というものがございまして,この規定によれば,国及び地方公共団体は,児童が家庭において心身ともに健やかに養育されるよう,児童の保護者を支援しなければならず,児童を家庭において養育することが困難な場合には,当該児童が家庭におけるのと同様の養育環境において継続的に養育されるよう,必要な措置を講じなければならないとされております。すなわち,児童は,第一次的には家庭において養育されるべきであり,それがかなわない場合でも,家庭と同様の環境で養育されるべきであるということです。   しかし,現実には,里親に委託されたり,児童養護施設等に入所したりしている児童は相当多数に上っております。これらの児童が児童養護施設に入所するなどするに至った経緯や原因には,様々なものがあると思われますが,その児童の中には,特別養子縁組をすることにより,家庭と同様の環境において継続的に養育を受けられる可能性のある者もいると考えられます。ところが,特別養子縁組の実際の成立件数は,年間500件前後で推移するにとどまっております。   また,以上とは異なる背景事情としまして,虐待を受けた児童の保護のために,特別養子制度の利用を促進すべきであるという動きがございます。詳しくは,お手元の参考資料1の第1にも記載されております。かなり長い文章になっておりますので,要点だけ申しますと,まず,国会は,平成28年5月27日に成立した児童福祉法等の一部を改正する法律の附則において,「この法律の施行後速やかに,児童の福祉を図る観点から,特別養子縁組制度の利用促進の在り方について検討を加え,その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。」と定め,また内閣も,同じ平成28年6月2日に閣議決定されたニッポン一億総活躍プランにおいて,児童虐待の問題に社会全体で対応し,児童の最善の利益が優先して考慮されるよう総合的な対策を進める。これを踏まえて,特別養子縁組制度の利用促進の在り方について検討し,必要な措置を講ずるとしております。   以上が,今回の諮問の背景にある事情でございます。   次に,今回の諮問の内容と検討の対象範囲について,併せて御説明いたします。   今回の諮問は,先ほど述べました背景事情を踏まえて,お手元の諮問事項,これは参考資料2だと思いますが,御覧になっていただきますと,ここにありますとおり,特別養子制度の利用を促進する観点から,制度の見直しを求めるというものであります。   ここで念頭に置かれるべき子は,諮問事項でも限定されておりません。すなわち,虐待を受けた児童に限られるものではなく,虐待を受けているわけではないけれども,実の父母による監護を受けることが困難であるため,里親に委託されている,あるいは施設に入所しているといった児童も含まれるものであります。   見直しの対象となる法律についてですが,民法が中心となりますけれども,諮問事項に民法の特別養子に関する規定等というふうにあります。そういうわけでして,必ずしも民法に限定されるものではなく,例えば,特別養子制度についての手続を規律する法律なども見直しの対象となり得るものであります。   最後に,お手元の参考資料1の研究会報告書と本部会における検討との関係について,念のため申し上げたいと思います。   特別養子制度の利用促進の在り方については,先ほど述べましたように,閣議決定により検討を求められ,法務省も参加した研究会においても検討されました。お手元の参考資料1の研究会報告書は,研究会における議論の成果であります。   この研究会報告書は,本部会において議論をしていただく際にも,少なからず御活用いただけるものとは考えておりますが,本部会は,法務大臣の諮問を受けて,新たに設置されたものでありまして,研究会の続きではございません。本部会の委員,幹事の皆様の中には,研究会のメンバーであられた方もいらっしゃいますが,その中で述べてこられた御意見に拘束されるわけではありませんし,論点につきましても,研究会で検討された論点のみが本部会で検討され得るといったものでもございません。   もとより,実の父母による監護を受けることが困難な事情のある子が相当多数に上っているという実情を考えますと,特別養子制度の見直しは喫緊の課題であると言えますので,事務当局としましては,スピード感を持って御審議を頂きたいと考えておりますが,参考資料としてお配りしました研究会報告書の内容や論点に拘束されるものでないことは,この場におきまして,改めて申し上げておきたいと存じます。 ○大村部会長 ありがとうございました。   続きまして,部会資料1について御説明を頂きたいと思います。 ○倉重関係官 それでは,関係官の倉重から,部会資料1について御説明いたします。   本資料は,フリーディスカッションの参考に作成したものでございますので,説明は簡単なものとさせていただきます。   資料中第1は,今回,特別養子制度を見直すに当たっての基本的な視点についてです。   社会的養護を必要とする子の中には,施設入所中の者が多くおりますが,そのうち,家庭復帰が困難な事情がある者については,永続的・家庭的な養育環境を保障すべきとの考え方がございます。そこで,特別養子制度の利用促進の観点から,特別養子制度を見直すべきではないかという指摘があり,それが今回の見直しの背景にありますので,この点につきまして,お考えを伺うというものでございます。   第2から第4については,具体的な論点でございまして,第2は,養子となる者の年齢要件についてです。   現行法では,養子となる者は,原則として6歳未満でなければならないとされておりますが,現に施設に入所している児童のうち6歳以上の者であっても,特別養子縁組の利用を検討すべき児童がいるというふうな指摘がございます。そこで,年齢要件を引き上げるべきではないかというような考え方がありますことから,この点について,皆様方のお考えを伺うものでございます。   なお,養子となる者の年齢要件を引き上げる場合には,養子となる者と養親となる者との間の年齢差に関する要件を設ける必要がないかという点も御検討いただきたいというふうに考えております。   第3は,実方の父母の同意の撤回に関するものでございます。   実方の父母の同意は,特別養子縁組の成立の審判が確定する時まで撤回することができますが,このような不安定な状態であるために,特別養子縁組の利用をちゅうちょされる方があるというふうな指摘がございます。そこで,養子となる者の父母が特別養子縁組成立の審判手続の中で同意をした場合には,一定期間の経過によって同意を撤回することができなくなるとすることや,さらには,審判が係属する前の同意についても撤回を制限することができないか,そういった方策がないかといったことについて,お考えを伺うというものでございます。   第4は,特別養子縁組の成立の審判に先立って,養子となる者の父母の同意は不要であるということをあらかじめ確定しておくという方策に関するものでございます。   ある特別養子縁組の成立におきまして,養子となる者の父母の同意が不要であるか否かは,終局審判まで分からないことから,予測可能性に欠けるということで,特別養子縁組の利用が阻害されているのではないか,こういったような指摘があるところでございます。そこで,親権喪失の審判を受けた父母については同意を要しないこととすることや,特別養子縁組成立の審判とは独立した新たな制度を創設してはどうかといった御指摘がありますことから,この点について,お考えを伺うものでございます。   第5は,以上述べましたことのほかに検討すべき事項がないか,お伺いするものでございます。   なお,諮問時の法制審議会総会におきまして,総会の委員から検討に当たっての御意見を頂いておりますので,そちらの方に記載しているところでございます。   冒頭にも述べましたが,本部会資料は参考という位置付けでございますので,フリーディスカッションにおきましては,様々な観点から御議論をお願いしたいというふうに考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   御質問等もあろうかと思いますけれども,まず説明を伺って,それから,まとめて御質問を伺いたいと思います。   今,部会資料1について御説明いただきましたけれども,続きまして,最高裁判所の方から,「特別養子縁組の成立の審判事件等の実情について」という資料をお出しいただいております。参考資料6というものになります。カラーのものでございます。これに基づきまして,特別養子縁組の審判の実情について御説明を頂きたいと存じます。 ○宇田川幹事 最高裁家庭局第二課長の宇田川です。では,私の方から説明申し上げます。   こちらの「特別養子縁組の成立の審判事件等の実情について」と題するものですけれども,これは最高裁において,平成28年4月から平成29年3月までに終局した特別養子縁組成立の審判事件と養子縁組許可の審判事件について,その実情を調査したものになります。   特別養子縁組の見直しの関係でございますので,特別養子縁組の成立の審判の数値について,中心に説明させていただきたいと思います。   まず,1の既済件数のところですけれども,この特別養子縁組の成立の審判事件の既済件数が607件というふうになっております。そのうち,認容された事件が538件ということになります。それから,その下に書いております親族,里親,その他というふうにありますのは,これは養親となる者の性質に沿って,それぞれの事件数を記載したものになっています。   それから,2の養子となる者の年齢についてというところですけれども,こちらも特別養子縁組の成立の審判事件の中で,認容事件の養子となる者の平均年齢は1.5歳ということになっております。下の棒グラフを見ていただきますと,養子となる者の年齢別の件数が出ておりまして,0歳,1歳ということが,事件数としては多いということがお分かりいただけるかと思います。   それから,次のページの3の養親となる者の年齢についてというところを御覧いただきたいと思います。こちらを御覧いただきますと,特別養子縁組の成立の審判事件の関係で,養父となる者の平均年齢が,認容事件で43.6歳,同じく養母となる者の平均年齢が42.9歳という形になっています。   それから,先ほども事務当局から御指摘のあった年齢差の関係,養親となる者と養子となる者の平均年齢差の関係ですけれども,こちらも平均の年齢差,養父との関係では42.1,養母となる者の平均年齢差は41.4ということになっています。それから,下の円グラフを見ていただきますと,こちらの左側の方が認容事案で,養父,養母とありますけれども,この緑色のものと紫色のもの,緑のものが30歳から39歳の年齢差,紫のものが40から49歳の年齢差になっていますけれども,この30から49というところが大体8割,9割と,9割に近い数字が出ています。   あとは,普通養子縁組の関係についても,同じように項目で数値を取っておりますので,これも御参考までにということで見ていただければというふうに思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   特別養子縁組と,普通養子縁組で裁判所の許可を要するものにつきまして,データを示していただいて,御説明を頂きました。   最初の部会資料1と,それから,今の参考資料6につきまして,皆様の方から御質問等ございましたら,まず伺いたいと思います。いかがでございましょうか。   それでは,直ちには御質問が出ないようですので,御意見を伺いながら,もし御質問があれば御質問も伺うということで進めさせていただきたいと存じます。これで質問はおしまいということではございませんので,また何かございましたら,後で御意見だけでなく御質問も頂ければと存じます。   先ほども申し上げましたけれども,本日は第1回目の会議になりますので,これから予定されている時刻まで,次回以降の本格的な審議に先立ちまして,フリーディスカッションをするということにしたいと思います。   なお,法制審の民法関係の部会では,通常,途中に休憩を挟むということが多いのですけれども,今日は2時半スタートでございましたし,既に1回休憩を挟んでおりますので,残りあと2時間ぐらいになりますが,ここはノンストップで進めさせていただきたいと存じます。   それでは,御意見を頂戴したいと思いますけれども,本日,磯谷委員の方から,「特別養子縁組に関して改善が期待される課題」というペーパーが出ておりますので,この資料の御説明かたがた,最初に磯谷委員から御意見を頂戴できればと思います。 ○磯谷委員 ありがとうございます。   それでは,今日,事務当局からお配りを頂きました「特別養子縁組に関して改善が期待される課題」というペーパーを御覧いただきながら,お聞きいただければと思います。   研究会の段階から関わらせていただきましたが,この段階で改めて,今,特別養子縁組に関して,特に法的に直面している課題というものを私なりにまとめてみたものでございます。もちろん,ほかにもあるということかもしれませんし,それは是非加えていただきたいと思いますけれども。   まず,(ア)と(イ)は,既に局長のお話にも出てきたので,簡単に申し上げますが,要するに,(ア)の方は,幼少期から養親候補者に養育されていて,親子としての実態があるにもかかわらず,単に年齢を過ぎてしまったということで特別養子縁組が認められないと,こういう話があるということで,年齢要件に関わる問題だと思っております。(イ)の方は,実父母の同意が,裁判手続が随分進んだ段階で撤回をされるということから,そこまで既に養親子関係が形成されておりますので,それがひっくり返るということになると,それが子どもの利益に反すると思われるというケースが指摘されているほか,そういうことを想定して,特別養子縁組をちゅうちょしてしまうこともあると指摘をされていますが,この辺りが同意の撤回のお話かと思っています。   (ウ)から(エ)については,少し裁判手続絡みの問題かと認識しておりますけれども,(ウ)は,現在,養親候補者が申立人として裁判手続を主導している状況でございます。そうすると,同意不要要件や,あるいはその他の要件をめぐって,実父母と対立をすると,少なくともそういう構図になることから,養親候補者の心理的な,あるいは労力としての負担というものがあって,特別養子縁組にちゅうちょしてしまうということがあるのではないか。これが(ウ)でありまして,こういった問題について,手続面において養親候補者の負担を軽減できる方法がないかというところが,一つ大きな課題なのではないかと考えております。   (エ)については,実父母の同意が得られないというケースで,そうすると,同意不要要件が満たされなければ,特別養子は認められないわけですけれども,同意不要要件が満たされるのかどうかというところが必ずしも明らかでないので,特別養子縁組の手続をスタートするかどうかの段階でちゅうちょしてしまうという指摘もございます。これについては,特別養子縁組の手続が始まる前,あるいは特別養子縁組を前提にお子さんを預かる前に,同意不要要件が満たされるということが予測ができたり,あるいは決まっているということであれば,そこは安心して養親候補者になれるだろうということから,何らか手当てができないかということでございます。   (オ)も,以前から指摘されていることですけれども,養親候補者が裁判手続の中で自分自身のプライバシー情報を開示されてしまうという問題があります。審判書の中で養親候補者の住所などが開示されてしまうことから,特別養子縁組の後,実父母から連絡を受けてしまうことがあったり,あるいは,そういう懸念から特別養子縁組をちゅうちょしてしまうことも指摘をされています。この辺りも,手続的に改善ができるのかどうかというところが課題かなというふうに思っております。   (カ)と(キ)については,同意不要の要件そのものについて再検討できないかということでございます。今回,事務当局から検討課題として,大きな三つの論点を頂いておりますけれども,言わば4番目になりましょうか,そのほかというところに関わるかもしれません。   (カ)の方は,父母が離婚して,母が子どもを引き取ったけれども,父親の方は長期にわたって,正当な理由なく,子どもと面会交流もしていないし,養育費も払っていない。要するに,子どもとは交流が全くない状況で,そういう中で,母親が特別養子縁組を決意したけれども,父親がそれについて同意をしないと。問題意識としては,その父親が同意しないということで,果たして特別養子縁組を認めないというのがよろしいのかどうかという問題意識でありますけれども,これについては,恐らく現在の要件からすると,ケースによるかもしれませんけれども,特別養子が認められない可能性があると思いますので,こういう観点から,要件の見直しにも踏み込めるのかどうかということでございます。   (キ)の方は,やや,ちょっと特殊な印象をお持ちかもしれませんけれども,実はこういったことも時々聞きますけれども,祖母,それから祖母の内縁の夫,それから母,母とはいうものの,未成年のお子さんと考えていただければと思いますが,この3人の家族で,祖母の内縁の夫が母,子どもを姦淫して,母が結局子どもを出産したと。でも,やはり育てられないということで,祖母や母は特別養子縁組を希望するんだけれども,内縁の夫は認知をした上で同意をしないというふうなことがありまして,これについても,性的虐待をしたと考えられる内縁の夫が同意をしないという理由で,果たして特別養子を認めないということが適切なのかどうか。そういうふうなことを考えると,同意不要要件をまた見直す必要があるのではないかと,こういうふうな問題意識でございます。   私としては,これの全てが改善できるかどうかというところは分かりませんけれども,これからの議論の過程で,こういった問題がどの程度改善できるのかという視点で,是非議論をしていきたいというふうに考えております。一つ材料として御提供申し上げました。 ○大村部会長 ありがとうございました。   事務当局の方からお出しいただきました資料1では,第1に基本的な視点が示されておりまして,第2に年齢の問題,それから,第3,第4に同意に関わる問題が取り上げられており,最後に第5,その他というようになっておりますが,磯谷委員の方からは,これらに対応する問題と,それから,その他に属するような問題の双方につき,織り交ぜて御指摘があったものと理解いたしました。   フリーディスカッションでございますので,上から順番にいくとかというようなことはいたしませんので,皆さんの方から,御関心の問題を取り上げて,御発言を頂ければと思います。事務当局の御説明に関わる問題でも構いませんし,今の磯谷委員の御発言に関わる問題でも構いません。もちろん,どちらでもないという御意見も頂戴できればと思います。いかがでございましょうか。 ○水野委員 最初に過激なことを申し上げてしまいますけれども,特別養子縁組をどうしてこんなふうに活用しようということになったのかが,今一つ飲み込めずにおります。と申しますのは,特別養子縁組は,不出来な立法の養子法だと思っているからです。特別養子縁組の立法は,御存じのように,元々は匿名出産を何とか実現しようということから始まった改正だったのですけれども,戸籍制度がネックになりまして,結局,実親との断絶のみが何とか立法されました。その間,いろいろな議論が競合脱線するような形で,現行法のような養子縁組になりましたけれども,端的に申し上げますと,私は欠陥の多すぎる立法ミスだと思っております。   ただそれには,やむを得なかったところがありまして,要保護児童のための断絶養子に必要な,大きな前提になる二つの社会的・制度的前提条件が,日本では,西欧諸外国と違っていたからでした。その条件の差にもかかわらず,こういう諸外国法のような特別養子を作ろうとしたことからもたらされた,やむを得ない立法ミスだという側面はあったように思います。   まず一つの前提条件の違いは,身分証書と戸籍の差です。モデルにした西欧法の社会は身分証書制度を採用していますので,そもそも出自情報に他人がアクセスすることは戸籍よりはるかに至難ですし,母の名前を書かずに身分証書,つまり出生証書を作成して匿名出産にすることが可能です。その上,養子になると,出生証書を書き換えてしまうことで,養子のプライバシー権を非常に強く守る前提の下ででき上がっています。さらに親子法の母法のフランス法では,報道の自由に関する法律で,養子の死後30年まで,養子の実親情報を報道すると,2年の禁錮刑のような刑事罰がかかることになっていて,ともかくプライバシーを,出生証書を書き換えるとともに,本当に守るということになっています。  しかし,日本は御存じのように戸籍制度の国ですので,その人の住所から戸籍をたどって出自が明らかになる出生の情報にアクセスできますし,匿名出産ももちろんできません。戸籍の公開原則は2008年にさすがに廃止されましたが,今でも工夫すればアクセスできますし,過去の戸籍に遡って実親情報を探すまでもなく,養子の現在の戸籍を見さえすれば,身分事項欄から特別養子であることはわかってしまいます。   古くは,家制度の伝統から,親戚の優秀な子を養子にするような慣習が広く行われていましたから,養子であることがスティグマになる度合いは,比較的少ない社会だったと思います。しかし施設養子に対しては偏見は強いようですし,民法817条の7という問題な条文があります。この条文は,実親が子を育てられない,とんでもない親であることを要件にしてしまっています。子の福祉のために必要だと書くだけで十分だったでしょう。公的な場で発言するのをためらいつつ,でもあえて言ってしまいますけれども,ある知人の裁判官は,特別養子の申請者に対して一般養子を勧めるといっておりました。この子の将来の結婚などを考えると一般養子にした方がいいよと話すのだそうです。もちろん差別はいけないことですが,このようなスティグマがあることは否定できません。プライバシー保護という発想が全くなかった戸籍という制度の下では,考えなくてはならない構造的な問題があることを否定できません。   それから,身分証書と戸籍との差に加えて,もう一つの構造的な差があります。つまり日本は,育児支援が本当に足りない国だということです。社会福祉のうち,育児支援に割かれている公的予算は,OECD諸国の水準よりも,はるかに段違いに低い水準です。虐待対応の公費支出も,文字通り桁違いの低さです。どの西欧諸外国でも,手厚い育児支援をして,実親に育てさせようとします。そして,そのような支援にもかかわらず,どうしてもこの親には育てさせられないということになりますと,親権を奪って,公的な国家後見などに委ねて,それから,次にその子を育てる親を作る養子縁組手続きが始まります。  フランスの数字しか調べられなかったのですが,2016年にフランスで,児童保護措置が採られている件数は31万1618件です。フランスの人口は日本の約2分の1ですので,これを日本で考えると,ほぼ倍にして想像していただければと思います。親が児童保護措置に同意しないときには,裁判所が強制的にその措置を発動します。その司法の判決件数が9万2639件,約10万件ということになります。   そして,司法の命じる強制的な措置を受けることになりますと,判事とケースワーカーが継続的に,その子の育て方を見守ることになり,大体年間20万件の子どもたちがそういう状態にあります。もし日本でも同じ割合で措置がとられれば,40万人の子どもたちが,判事の監督下でケースワーカーが毎週かよって,実親の育児を支援されていることになります。そういう支援を受けても,どうしても駄目なときに,親子関係を断絶する。そして,一旦国が預かって,それから養子縁組の方に動き,養親に委ねることになっています。   日本の特別養子制度を作るときには,まだこの発想がありませんでした。日本の社会における養子縁組は,家制度の伝統から,ずっと家と家とのメンバーシップのやり取りでしたので,その発想から逃れられなかったのでしょう。実親との関係切断と養親との関係創設は別々の手続きでなければいけないのに,それらを合体して,実親から養親への直接的なやり取りにしてしまいました。この立法ミスが,先ほど磯谷先生が言われた,様々な問題をもたらしている原因なのだろうと思います。   こういう構造的な問題を抱えている特別養子制度なのですけれども,今回の改正で,どこまで構造的な問題に手を入れられるおつもりがあるのでしょうか。例えば,国家後見のような制度を作られるおつもりがあるのかということが,今回の法制審がどこまで根本的な手が入れられるかに関わってくるだろうと思います。   3月まで法制審で,相続法改正の審議をしておりましたけれども,この点でも日本は,公証人とか遺産裁判所という公的なセクターが関与するきちんとした清算手続がないという構造的なバグがあり,それが相続法の改正を非常に困難にしていました。それでも,いささか弥縫的な改革ですけれども,できることはいたしましたが,そのときには会議のメンバーはみな,前提として,相続法がそういう問題を抱えていることを分かりながら議論をしておりました。特別養子の場合に,そういう構造的問題があることが,どれだけここのメンバーの間で御了解いただいているのでしょうか。それによって,議論の仕方は随分変わってくるように思います。   それから,もう一つ,非常に心配しておりますのは,児童虐待への対応策として,特別養子を利用したいという動機です。これは花園大学の和田一郎先生に教えていただいたのですけれども,和田先生はかなり各国の調査をしておられて,どの国でも里親ないし施設に入っている社会的養護は,子ども人口の1%ぐらいなのだそうです。日本ですと大体,1%は18万人ぐらいという計算になるのですが,実際に社会的養護に入ってきているのは4万6000人ぐらいです。これは相当率が低くて,かなり重度の子だけが社会的養護に入っていると思われます。そして,どの国でも,やはり里親に委託されるのは中程度の子どもたちで,本当に重度の子どもたちは,里親に余りにも大きな負担が掛かるので,プロフェッショナルの施設でないと対応できない,それが,それらの国の常識的な対応のようです。   そうすると,日本の場合には,かなり重度の子だけが社会的養護に入っていると想像されますので,その子どもたちを養親に託してしまうことについて,私は非常に危惧しております。特に,育児支援が圧倒的に足りない日本で,素人の私人である養親に,里親の受けている児童相談所のサポートや里親手当もなく,離縁の申立権もない形で,児童虐待対応を委ねるという制度設計が,果たしていいことなのでしょうか。もちろん,育てられるのなら,特に幼い乳幼児は,愛着障害を起こさないように,施設より里親の方がずっといいと思いますけれども,それは同時に,里親への非常に手厚いサポートが必要なはずです。そこを考えずに,養親に任せてしまう特別養子制度の活用というのは,非常に心配です。   日本は,この問題に限らず,家族へのそういう社会的な支援が,非常に足りません。急速に近代化してしまったせいかもしれませんが,いわゆる家族依存社会だと思います。精神病患者の問題でも,以前は家族の問題として私的監置で対応させ,ライシャワー事件などを契機に問題化すると,利益を上げやすい基準で精神病院を一杯作って,家族同意だけで強制入院できるようにして,その結果,強制入院過剰国家だと国際的に批判されています。ノーマライゼーションが必要だと言われているわけですけれども,地域の受入体制なしに,ただ精神病院から退院させれば,それでいいというものではなくて,地域の受入体制が必要です。その議論や体制作りが進まないので,現状をなかなか変革できません。また,離婚後の面会交流とか共同親権も,これも諸外国にならって進めた方がいいという議論があるわけですが,そのときに,DVや児童虐待から,きちんと被害者を守るということなしに,ただそれを進めると,結局は被害が永続化するだけになってしまいます。日本法では,DV被害者は,家族への公的な積極的介入によって救済する諸外国と違い,逃げる自由しかないという構造があります。   そういうふうに,家族を支援する制度が圧倒的に,いろいろな意味で足りない構造を,民法の家族法の条文をいじることによって,果たしてどこまで解決できるのでしょうか。民法改正で対応しようとすることについての構造的な,根本的な疑問と危惧を抱えていることを最初にお話したいと思いました。どうもありがとうございました。 ○大村部会長 ありがとうございました。   本日の部会資料1でいいますと,基本的な視点が最初のところに出てまいりますけれども,水野委員の御発言は,この基本的な視点について,この考え方で大丈夫なのかという危惧を示された,そういうものとして承りました。   この点につきましても,皆様からいろいろな御意見があろうかと思いますので,何か御発言がありましたら,お願いを申し上げます。 ○山本委員 水野先生から御意見が出ておりますが,議論の前提となる話を整理するため,厚生労働省の方から述べさせていただきたいと思います。   日本では家族支援が非常に手薄であるというご意見がありましたが,御案内のことと思いますが,平成28年に児童福祉法が改正されまして,これ,かなり大きな改正でございました。児童福祉,子ども家庭福祉がよって立つべき理念を明確にしていくということで,一つ目は,子どもが適切な養育を受け,健やかな成長・発達,自立を保障される権利の主体であるというところを明確にしたことが一つ目。それから,二つ目は,山口幹事から冒頭御紹介がございましたように,家庭養育を優先していくという考え方を明確にしておりまして,具体的には,まず実親支援をしていく,それでは養育環境として適当ではないときに,家庭と同様の養育環境において養育されるようにする,それでも駄目な場合は,いわゆる施設になるんですけれども,この施設においても,できる限り家庭的な環境で養育をされるようにしていく,そのようなソーシャルワークをしていく上での優先順位が明確になりました。施策の目標としても,そのような優先順位を付けながら整備をしていこうということになっているわけでございます。   そのほか,28年の制度改正においては,発生予防ということであれば,母子保健の対策から,いわゆる望まない妊娠をされた方の対策も含めて,そこを一貫して支援をしていくための包括的なセンターを市町村に作っていくといったようなことでございますとか,市町村児童相談体制の強化,専門性の強化も位置付けております。そして,最終的には社会的養護の子どもの自立支援まで対策の強化が図られたところでございます。   問題は,この改正法をこれから実施に移していくということであり,各地方自治体の現場でしっかりと取り組んでいただく必要があるかと思います。私ども,この改正法の理念として,非常に高いものを置いているんですけれども,これを具体的にどう現場で実施をしていただくかという,ある意味ではガイドラインとして,厚生労働大臣の下に置かれた検討会で1年間掛けて議論をし,昨年の8月に「新しい社会的養育ビジョン」を打ち出したところでございます。今後は,これを各都道府県の推進計画に位置付け,施策を充実していただく段階に入ってきているということでございます。   子どもを養育する家庭の支援につきましては,そういう形ではございますけれども,抜本的に,これから厚くしていこうということで考えてございます。同時に,これは非常にお金を伴うことでございまして,国としても,必要な予算措置を十分確保しながら進めていく必要があるかと思います。来年度に向けまして,先だって,いわゆる骨太方針2018が閣議決定されましたけれども,児童虐待や社会的養育の推進については,このような改正法の趣旨,それから,新しい社会的養育ビジョンでも掲げられた内容を明確にして,閣議決定をさせていただいたところでございます。以上が前提のお話でございます。   それから,社会的養護の子どもが日本は人口対比でみると非常に少ないのではないかというのは,正にそのとおりでございまして,現在,施設入所,里親委託という形で,いわゆる公的な養育がされている子どもの数は,4万5000人ということになってございます。これは,欧米の人口対比で比べても少ないだろうと思っております。これは,何分,受け皿がネックになっているということもあるかと思いますし,あるいは児童相談所や市町村の体制強化,専門性の強化が進んでいけば,もっと掘り起こし効果が出てくるので,本来ならば,これが膨らんでいく可能性は十分あると。そういうことも視野に入れて,都道府県では,これから推進計画を作っていただくということにしております。   また後ほど,必要があれば,補足をさせていただきます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   実親支援ということと,それから,社会的養護の対象となっている児童が少ないので,これの強化を図っていくという現在の厚労省の施策について,御説明を頂いたものと理解を致しました。 ○藤林委員 今の水野委員の社会的養護にどういう子どもさんが入所しているのかということにつきまして,私,児童相談所長として,少し別の意見を述べたいというふうに思います。   今,山本審議官が言われましたように,海外と比べて,日本の社会的養護に入所する子どもの率は非常に少ない。2分の1とか3分の1というのは,確かにそのとおりです。では,水野委員が言われるように,少ないので,とても重症な子どもだけが入所しているかというと,決してそうではないというふうに私は思っています。かえって重症の子どもは,なかなか里親ケアには入れない,施設ケアには入っていないというふうな現状もあったりもいたします。   今の児童養護施設の職員配置数は,子ども4人に職員1人という配置数なので,到底,虐待の影響を非常に受けた子どもだとか問題行動を表す子どもさんは,なかなか通常の児童養護施設には措置できない。結果的に,一時保護した後,家庭に帰っていく子どもさんも多いかなというふうに思っています。   日本の社会的養護の特徴は,私が思うのは,長期入所という事態が非常に大きいと思っています。例えば,児童養護施設に入所している子どもが3万人います。3万人のうちに,乳児院から継続して,3年,5年,10年,15年と児童養護施設に措置継続されている子どもが6500人です。この6500人の子どもは,決して重症の子どもではありません。又は,とてもケアが必要な子どもさんでもありません。   こういった,十分な家庭養育環境が保障されないまま,代替養育に措置されている子どもが非常に多い,非常に長期間養育されているという,この問題をどう解決していくのか,それが一つの大きな課題と思っています。   まだいろいろありますけれども,今のところは以上です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   現在の社会的養護の状況,特に長期入所の子どもが多いという御指摘を頂きました。 ○棚村委員 今,いろいろ御意見いただきまして,現状の認識とか実情ということについて,水野先生は割合と,歴史的なパースペクティブの中で,児童虐待,特別養子,社会的養護をめぐって,その前提となっている日本の家族や子どもを支える制度あるいは家族の支援の在り方が抱えているいろいろな構造的な問題点や基本的な課題ついてご指摘をしていただいたのは,本当にその通りだと思います。   ただ,私も,厚労省の養子制度をめぐる民間機関,児相とかの実情を調査させてもらったとき,アドバイザーというような形で関わらせていただきました。社会的養護の実態では,やはり要保護児童というか,親が育てられない,あるいは適切に育てることができない子どもたちというのが,4万5000人ぐらいいて,そして,先ほども藤林先生もおっしゃったんですけれども,施設で育てられているという子どもたちも非常に多くて,特別養子について言いますと,一時期,制度が開始したところは3000件ぐらい申立てがあったんですけれども,だんだん,若干今はちょっと増えたりしていますけれども,認容されるのは大体500件とか600件ぐらいということで,圧倒的に施設での集団ケアが多くやはり家庭的養育というのが不足しているという実情が明らかになってきました。   しかも,厚労省の実態調査の結果,問題だったのは,父母の同意要件,つまり,父母が同意をしてくれないとか,一旦同意したもの撤回されてしまったというようなことに係るハードルがかなりみられました。それから,年齢要件が6歳未満ということで,大部分は満2歳までに特別養子になっているのですが,かなり養子の年齢要件が低いところで抑えられているため,年齢が高くなって特別養子になれない子もかなりいることが判明しました。はじめての立法となりますから,スタート時点ではしようがなかったと思うのですけれども,父母の同意要件や養子の年齢要件などのようなところがネックになって,特別養子制度の利用がなかなか進んでいない,あるいは現状では使いづらい状況になっていること明らかになってきました。折角の特別養子制度をどういうふうに利用し易い制度として見直していくかということは,やはり非常に重要な視点だと思っています。   法制度として完璧なものを作るというのは,周辺の関連する制度との整合性の問題や役割分担もあって,なかなか難しいことですので,少なくとも現状認識とか実態の把握という点でいうと,特別養子縁組制度についても,30年が経過して,改正なり見直しなり,あるいは,もっと使いやすくするというニーズが出てきているということは認識できているのではないかと思います。   2番目ですけれども,改正のニーズや要望があることを前提にしても,かなりスピード感を持って改正なり見直しが進められる必要があるということです。特別養子縁組に関しても,子どもたちにとっては,時間は日々刻々と過ぎてゆきます。ひとりひとりの子どもたちにとって,養育環境はとても大切で,待てないというか,待ったなしの厳しい状況に置かれています。そうすると,約1年近く養子制度の研究会にも関わらせていただいて,やはり,特別養子制度のどこを見直していくかということについても,ある程度優先順位を付けていかないと,時間との関係ではとても迅速に改正のコンセンサスは得られそうもない。たとえば,養子制度そのものも様々な形で利用されており,実親子との関係でも,生殖補助医療やDNA鑑定などでいろいろと見直し,あるいは普通養子と特別養子との関係が果たして今のこういう形でいいのか。それから,成年養子,未成年子という養子制度全体をどうするのかというのもあるんですけれども,一応,ある程度優先順位を付けた上で,できるだけコンセンサスができそうなところから見直しをする。そうすると,やはり年齢の要件とか,同意をめぐる要件とか,あるいは審判の申立てをするとか,特別養子縁組の成立手続全体の在り方を最優先課題としてここで見直してはどうかと思う次第です。   特別養子についてもこの辺りのところで絞った上で,今日,磯谷委員からも出たように,同意不要の要件というものについても,何らかの形で明確にすべきではないかと考えています。私自身は,そのほかにも,普通養子と特別養子との関係性みたいなものについても,実務的にも理論的にも若干の誤解とかあるいは認識の違いみたいなのがかなりあって,専門家の間でもあると思います。例えば,一旦普通養子になったものの,特別養子への転換が認められるか認められないか,要保護要件,必要性要件みたいなものももう少し考えないといけないように思います。また,普通養子縁組の利用というのが,海外なんかを見ると,オープン・アダプションというような形で,かなり家族が多様化していく中で,従来の断絶養子を見直し,実親との関係性を少し持ちながら,親子の交流を維持するような形も出てきていますし,あるいは親族養子みたいなことも,連れ子養子みたいなものも,もう1回見直していくということも必要だと思います。   そうすると,要保護要件の問題とか,特別養子って一体,普通養子と比べると,どういうものなんだという制度の位置づけも考えてみる必要がある。普通養子の利用みたいなものもしやすくするということも考えて,3番目ですけれども,やはり関連する制度との有機的な連携もある程度視野に入れて検討する必要もあります。   先ほど水野委員からもありましたけれども,やはり日本では,実親に対する支援というのが欠けているということは間違いないですし,それから,個人情報とかプライバシー保護,匿名出産,内密出産などは,やはり今の身分登録制度,家族単位で登録をする戸籍という制度の中でかなり限界もある。それから,裁判手続の中での情報の取扱いとか,プライバシーの保護,不必要な対立に巻き込まれたくないというようなこともあるので,広範囲にわたって関連する制度を意識しながら,普通養子,あるいは実親子で,特に生殖補助医療なんかで,かなり多額のお金を掛けながら,実の子を持ちたいと思ったんだけれども持てなくて,40代,50代になって親になりたいと真剣に特別養子を利用したい人たちもいる。もう一方では,親が育てられないので,子どもとしては是非温かい両親のいる家庭が欲しいと願っているのになかなか親にめぐり会えない。その辺りをどういうふうにつなぐかというので,民間団体による養子あっせんについての法律もできましたけれども,民間機関のあっせんだけではなくて,児童相談所とか,そういう公的なあっせんの仕組みとか,そういうこともいろいろ意識しながら,私たちとしては,もう1回確認しますけれども,利用促進のニーズがあるとの現状認識みたいなものの中で,今はやはり,特別養子制度というのをもう1回,30年たっていますので,見直す時期にあるんだと考えています。どうやったら,利用しやすい制度として必要な見直しができるか。   そして,スピード感というのも非常に大事ですので,議論やポイントを絞った上で,優先順位を付けて見直しをしていく。そして,最終的には,やはりいいものにしていかなければいけませんので,周辺の関連する,親権喪失とか停止とか親権制限制度との関係も見ながら,実親の支援をしながら,パーマネンシーの保障という意味での特別養子制度というのを子どもを養育する仕組み全体の中でどう位置付けていくか。一方でそういう幅広い視野にたった中での充実した議論を重ねて,他方,迅速かつ必要な議論をした上で,比較的限られた期間で改正に結び付けられる審議をしていきたいなと考えております。   手続の問題もありますので,申立権者とか,あるいは今の審判手続みたいなもの1個でやるのか,それとも切り離して,2段階でやるのかという議論もありますけれども,私も手続法の専門家ではありませんので,やはりそういう中で,関連付けながら,手続の構造とかやり方みたいなものも是非議論していきたいと思います。すみません,長くなりました。 ○大村部会長 ありがとうございました。   様々な御指摘いただきましたけれども,一方で,相対的に,よりよい改正というのを迅速に行うべきだという御指摘と,他方,併せて普通養子ですとか,あるいは親権ですとか,周辺の制度にも目配りをして,バランスをとりながら,この両方の面を御指摘いただいたものと思います。 ○磯谷委員 二度目ですから手短にいきたいと思いますが,まず,全体的なところは,私も今,棚村先生がおっしゃったところに賛成です。水野先生の問題意識というのは,本当に私もよく分かりまして,特別養子縁組というのが,何かバラ色であるとか,これが最終目標だとか,そういうふうに考える合理的な理由は,多分ないだろうというふうに思っています。   ただ,一方で,やはり特別養子縁組が適当な子どもがいることも間違いなく,そういう子どもたちが,いろいろ手続面であるとか,必ずしも本質的でない要件面で引っ掛かって,結局諦めざるを得ないということは,なるべく避けるべきであろうと。ですから,そういう視点で今回見直しをするということに,私もニーズがあるんだろうと思っています。   もう一つ,今日はフリーということで,順不同で申し上げますけれども,事務当局からも提案いただいた年齢要件の部分についてです。研究会の方でも随分議論いたしまして,中間報告書の7ページになりますが,研究会としては幾つか案を取りまとめて,12歳あるいは15歳,あるいは,12歳までに養親の下で監護されている場合には,申立ては15歳までとか,そういうふうな形で検討しましたが,これに関連して,結論から申し上げると,是非,発達心理学その他の観点から,専門家の方の知見を頂くことができないかと思います。   と申しますのは,特に12歳というラインについて,私も感覚的には十分あり得るなと感じるところであります。なぜかというと,12歳までということは基本的に小学生までということになり,思春期に入る前だと思われるからです。しかし,そうは言っても,法律的な観点からすると,15歳になれば,普通養子縁組も自らできるということで,一つのラインが引かれている。ところが,12歳というのは必ずしもそういったラインがない。そのように考えますと,例えば,心理学的なご説明があると,そういう観点も踏まえて,どの年齢が適当なのか考えられるのではないかというふうに思います。   特に,やはり実親の監護から養親の監護に移る時期ですね。それが年齢によって,やはりどのぐらい子どもの心理や発達に影響があるのかとか,あるいはその後のなじみ方とか,そういったところについて,確定的なことが言えるかどうかは分かりませんけれども,何らか専門的な意見というものも踏まえて議論ができればなと思っております。この点はこれからの審議に関する提案です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   一般論についても御意見を頂きましたけれども,特に年齢要件につきまして,研究会で議論していたときの経緯も踏まえまして,幾つかの案が考えられるだろうというお話でした。どこかに線を引くという場合に,専門家の知見も参照したいということで,この部会でもそういう機会があればいいのではないかという御指摘だったかと思います。 ○床谷委員 研究会の議論は,必ずしも拘束しないということを説明いただいておりますし,私自身も,研究会の研究内容の議事録等も十分には見ておりませんので,私自身の特別養子についての考えをちょっと申し上げさせていただきたいと思います。   先ほど水野委員がおっしゃいましたように,現行の特別制度が非常に不完全だという思いは私自身もずっと持っております。三十数年前に作られたときに,取りあえず作ることが精一杯で,できてから,いいものに作り上げていこうというふうに,当時の先生方は考えておられたというふうに聞いておりますけれども,結局,何もできずに三十数年来たということで,今,見直しの機運がようやく出てきたということだと思っています。   特別養子制度は,一つの焦点で,円のようにきちんとなっているものではなくて,私は,どちらかというと,二つの焦点のある楕円のような形が今の状況であろうと思っていて,一つは,三十数年前の議論の中で法律家が議論していた留保事項,法制審の議論の中にあった,ヨーロッパの法律制度を参考にした養子法の近代化という考え方が一つの焦点であり,それから,もう一つは,御承知のとおりの菊田医師事件以降の赤ちゃんあっせん事件の問題で,実子あっせん型といいますか,匿名型の出産をさせて,それを受入れ方で実の子どもにするという一つの視点,この二つの視点が,結局一つに統合されないまま,二つとも残った形で,現行の法律制度になっていて,民法なので,形の上ではヨーロッパ型になっているんだけれども,例えば,実親子同様のという言い方をすることが度々あるように,もう一つの方の実子擬制型のものが心の中に残ってしまっているというのがどうもあるようで,年齢要件にしても,近代型の養子法を考える人は,要するに,法律関係の帰すうを実方から養方に移すという,非常に明確な,スイッチするという考え方でカウントすればいいというふうに考えるのに対して,実子型を志向する人は,心の中で子ども自身が,この人が自分の実親だというふうに思い違いをするといいますか,そういうような,そう思えるだけの心の関係を作れるような年齢にしたいという,そういうところに引っ張られてしまうと。   6歳未満というのはその折衷案で,当時,1,2歳までに限定すべきだという意見と,逆に12歳とか15歳にすべきだという意見と両方があって,その真ん中といいますか,折衷的な案で6歳未満,小学校に行く前であれば,かろうじてそういう心のスイッチができるのではないかというところと,一定の範囲で,子どもの養育を切り替える期間として,6年ぐらいの間あるいは8年ぐらいの間であれば,そこで切り替えても前の実親との関係を整理するという,近代型の方にも少しは向いているというふうな形で,すごく焦点が合わないというか,二つ焦点を持った形のままになっていると思うんですね。   この二つの焦点を無理やり合わす必要は,むしろないのかなというのが,今ちょっと,私は思っていて,三十数年前は,もっと近代型養子法を研究していたこともあって,そっちの方に特化した方がいいのではないかというふうに思っていたんですけれども,やはり現実的には,実子型養子を志向する意見は非常に強くて,赤ちゃん養子を希望する意見が非常に多いと。他方で,しかし,一定の年齢に達して,自分の意識の中では,実親は誰,血のつながりは誰ということは分かりながら,しかし法的には,この人ではなくて,こちらが自分の親であり子であるという関係を理解できるような年齢でも,一つの親子関係に整理するということは,あってもいいのではないかというふうに私自身は思っています。   先ほど棚村委員から,オープン・アダプションの話が出ましたけれども,確かにヨーロッパでも,クローズドの養子縁組からオープン・アダプションの方にいっていますけれども,これは情報を交換するということ,あるいは面会交流のチャンスを与えるということであって,法的には併存させるということと,また別の話ですので,日本のように普通養子と併存している国の参考スタイルとしては,恐らくドイツなんかよりはフランスの方が参考になるだろうし,アジア的に風土の近い韓国が併存型にしている,韓国の場合は特例法がありますから,特別養子型も手続的には二つに分かれていきますけれども,むしろフランス型とか韓国のような制度を参考にしていくのが,これからの特別養子の使い方を,より活用といいますか,使えるようにするには,いいのではないかなというふうに私は思っています。 ○大村部会長 ありがとうございます。   1987年の立法の経緯について,大きな文脈としての養子法の近代化ということと,当時の当面の課題に対応するということ,この二つを追求した結果,現在のようなものになっているというお話と,それから,現在,特別養子法を考えるときに,必ずしも一つのタイプのものを念頭に置く必要はないのではないかというお話もあったように思います。 ○岩﨑委員 最初に質問をすればよかったんですけれども,最高裁から出された統計の中で,特別養子が認容された中に,親族里親が少ないんですけれども,あるんですね。親族との特別養子縁組がなされているというのは,具体的にどんな事例なのか,ちょっとお教えいただけますでしょうか。 ○宇田川幹事 最高裁家庭局の宇田川ですけれども,すみません,具体的にどういう事例だったかというところまでは,この実情調査では取っておりませんで,飽くまでも親族なのか,里親か,その他かという類型で調査をしたものでございます。 ○岩﨑委員 普通養子の場合に親族が多くなっているのは当然だと思うんですけれども,特別養子で親族がなっている例というのは何があるんだろうというのは,連れ子養子の一部,いわゆるシングルマザーが結婚をした場合に,結婚した男性が妻の連れ子を特別養子で申立てたら認容されているという判例があることは,聞いておりまして,それはでも,実母である妻もそのときに特別養子縁組をするのでということになるんですかね。男性だけとの養子縁組でいいんですか,連れ子養子の特別養子は。 ○宇田川幹事 原則としては,夫婦そろって養親という形になります。 ○岩﨑委員 それで親族が出てくるんだろうという気がするんです。   ただ,現実の問題としてこれから数が多くなるのかならないのかは,ちょっと予測できないんですけれども,時折おじいちゃんやおばあちゃん,あるいはおじさん,おばさんが,自分の娘,あるいは自分の兄弟が産んだけれど育てない子どもを自分たちが引き取ったとき,子どもの実母である娘から介入をされないために特別養子縁組をしたいんだけれども,できないんだろうかというような相談を受けることが時折あるんです。だから,親族であっても持て余してしまった自分の娘や兄弟から,育てている子どもの母として介入されたくないというようなぐらい,子どもを育てない親たちの背景が,何が悪いとか社会がどうだとかということは今ちょっと置いておいて,なかなか複雑な,そして,非常に深刻な状態になっているんです。   私たちは,ほぼ50年近く,普通養子法と特別養子法で養子縁組をやってきました。養子縁組候補の子どもの選択は児童相談所からしてきますので,全てが社会的養護の子どもです。協会が民間の養子あっせん団体として独自にした赤ちゃんからのあっせんが50年間で百数十件ぐらいしかなく,あとは全て,児童相談所から依頼を受けた子どもの養子縁組を,普通養子でざっと500件,特別養子ケースが,やっとちょっと増えまして600件足らずの比率になっています。今,特別養子が見直されて,厚労省から,要するに数を増やす,その対象になる子どもの特別養子縁組がもっともっと認められるような制度にしてもらいたいというふうなことで,こういう審議会が始まったんですけれども,私の中では,正直なところ,50年してきて,どんどん実の親の背景の複雑化とともに,育てる側の養親たちの力不足,子どもを養育するとか,子どもを責任を持って愛していくとか,我が子としてもらった子どもだから,その子どもを我が子として責任を持って養育していくために,何をどうしたらいいのかというようなことの養育能力がどんどん落ちている。だから,水野先生がおっしゃるように,支援が必要だというふうに言われるんですけれども,養子縁組が成立するまでの支援は,親子関係が安定するまで,どこの児相もあっせん団体もしていると思います。養子縁組が成立した後の支援って,付きっ切りでやれるものではないのです。   支援が付きっ切りでやられるのは,生まれてから1年ぐらいまでで,それなら,私はとても大事なことだと思っています。その後,どんどん育っていく中で,その時々の問題をきちんと相談してくる人には支援ができますけれども,そうでなければ,彼らがどれだけ自分たちの力で子どもを育てていくかという中に,成長によっていろいろな問題が出てきます。刑務所に入っているのもおれば,少年院に入っているのもいれば,自殺をする子どももいますし,いろいろな問題が出てくるわけです。そのときに,支援は万能ではないと,正直私は思いながら,協会は少なくとも,かなり個々のケースで支援をしています。50歳になる養子たちと,今私は付き合っていますし,明日会う約束をした養子が30歳で,親がやっと30歳で告知をしようとしたら,「何言っているの,私,7歳から知ってたで」みたいなことを言う子どもの気持ちを受け止めるために,明日一緒に会って,ご飯を食べることにいたしました。   子どもたちの成長とともに,本当に,依頼を受ければ,相談を受ければ,徹底して子どもと一緒に問題を解決するために支援をしていくという仕事を,私は随分とやってきたと思っているんですけれども,こういうことには予算も何も付かないんですよね。個々のワーカーの思いの中で,子どもと一緒にご飯を食べたり,話をしたり,あるいは,一緒になって親と話し込んでみたりというようなことをするのです。本当に必要だから,どの子どもにとっても必要だから,やっていますけれど,それは私達があっせんした親子から信頼をされているということがなければ,成り立たないことなのです。そういう全体的な今の現状を考えてみると,私は特別養子がどんどん増えていくとは思えないですし,私たちが責任を持って増やしますよと言えるほど,今の日本の国民の中で,親が育てられなくなった子どもを私が守って育てますよと言える人は多くないです。逆に養子縁組というのは,自分が子どもが欲しいというエゴイスティックな要求がなければ,その子どもの50年か70年を,親として責任を持って付き合っていくことはとてもできない。社会的な養護の必要性が叫ばれるので,「私,養子を何人か育ててみましょう」なんていう人を,私は余り信頼していません。   そんな程度で子どもを育てられるわけではなく,我が子としてどうしても欲しいという必然性がその人にないと,養子縁組っていうのは成立をしない。そして,「あなたならまだ育てられるのではないの,この子はあなたが産んだのだから,しっかり育てていくことできないかな,それ支援するよ」と言っても,手放すことの方を安易に考える,養子に出したい親たちとのエゴとエゴとのぶつかり合いの中に,せめてあっせん団体だとか,私たちのような仕事をするものが,子の福祉を損なわれないように守る,守れる人を選ぶということでしか,私の毎日の仕事はないと思っています。   制度がどんなふうに変わったとしても,多分,私が今やっている仕事の中身は,そう大きく変化をするわけではないのではないかと思っています。それほど今,日本の世の中で,他人の子どもを我が子として育て,そして,その子どもを1人の社会人として自立させていくことに喜びを感じ,苦労をいとわず育てていただける資源は,そんなに豊富にあるわけではないと思っています。だからこそ何とぞ1件でも,何とぞ1人でも多くの子どもが特別養子縁組ができるように,皆さん方のお知恵を貸してほしいというのが,私の今日これから,この審議会にお願いする唯一の期待です。どうぞよろしくお願いします。 ○大村部会長 ありがとうございました。   御経験に基づいて,詳しい御説明を頂きました。先ほど実親支援の話が出ましたが,養親の支援も必要だけれども,なかなかそれは難しいということでした。養親になろうという人は必ずしも多くないだろう,そういう人たちについて,特別養子縁組を実現できるようにしたいという御意見として伺いました。   そのほか,いかがでございましょうか。 ○浜田幹事 幹事の浜田でございます。   今まで,既に出ている御意見と若干かぶるところもあるかと思いますけれども,普通養子縁組と特別養子縁組,また里親制度等との絡みも考えたときに,どうなるのかというところで,ちょっと気になっていることを申し上げたいと思います。   今日も資料でお配りいただいております厚生労働省の平成29年の検討会の報告書などを拝見いたしますと,家族の永続性とか永続的な家族といった表現がよく見られるところであります。そこは,今回のキーワードにもなるところだと思っておりますけれども,ちょっとうがった見方が過ぎるのかもしれませんけれども,家族の永続性,永続的な家族というものを形成するためには,特別養子縁組こそが最適であると申しますか,更にうがったことを言えば,普通養子縁組ではやはり駄目で,特別養子縁組でなければ駄目なんだというふうに読めなくもないなというふうに思います。   そこは,若干気になるところではございまして,御承知のとおり,特別養子縁組が,離縁の困難性辺りにも起因を致しまして,永続性と直結する特徴があるということ自体は間違いのないところかと思います。ただ,逆に言えば,離縁の困難性があるために,特別養子縁組の成立後に,結局,やはりうまいこといかなくて,お子さんは施設でずっと生活をするというふうなケースがあるということも耳にはしておるところでございます。   そういたしますと,特別養子縁組ばかりが重視をされて,普通養子縁組が社会的養護の下にある子どもにとっては,余り意味のないものであるとか,一段低いようなものと評価されるようなことにもしなるのであれば,そういう見方は適切ではないのではないかというふうに考えるところでございます。   そこで,今回,法改正に向けての今後の審議会の議論がなされていく中でも,基本的な視点として,最初に申しましたけれども,普通養子縁組とか,更には里親制度とか,家庭養育とか家庭的な養育とかいうところとつながる,いろいろな制度との関係性を考えながら,その辺も,それはそれで有益なんだというふうな視点を持ちつつ,特別養子縁組制度がどうなっていくべきなのかということを議論できればいいなというふうに思っております。その辺りをちょっと確認しておきたいなという趣旨で発言をさせていただきました。 ○大村部会長 ありがとうございました。   普通養子については,これまでも何人かの委員,幹事から御発言を頂いております。特別養子について,改正すべき点があるのではないかということですけれども,普通養子の方をそのままにしておいてよいのかという御意見も含まれた御指摘として承りました。   今の点も含めまして,更に御意見がありましたら,お願いいたします。平川委員。 ○平川委員 ありがとうございます。   この部会に参加するに当たり考え方を発言させていただきます。まず,特別養子縁組を利用しやすい制度にすべきという意見も,考え方の一つとしてあるかと思いますけれども,重要なのはやはり,子どもの最善の利益をどうやって考慮していくのか,若しくは子どもの育ちをどうやって保障していくのかということが重要なのではないかと思っています。そうした観点の上で,選択肢の一つとして,特別養子縁組があり,若しくは別な制度,例えば一般の里親制度も,子どもの育ちにとってみれば,それは選択の一つとしてあるのではないかという考え方が,あるのではないかと思っています。   この場は,民法の改正をどうしていくのかということが中心課題でありますが,子どもの最善の利益のためには周辺環境をきちんと議論した上で,民法の改正をどう検討していくかということで考えを整理していければいいのではないかと思っています。   もちろん,極端なことを言えば,児童福祉法28条の措置を通じて親権が停止された親であっても,場合によっては親子再統合によって,結果として,特別養子縁組ではなくて,子どもが実親の元に帰るということもなきにしもあらずでしょうし,様々な例があるのではないかと思いますので,そういう背景も含めて考えていく必要があると思っています。   あと,参考資料の特別養子縁組に関する調査結果を見ますと,浜田幹事より特別養子縁組となったとしても,うまくいかないのではないかという御指摘がありましたけれども,特別養子縁組成立後に問題が生じた事案というのが,26枚目のスライドに,事例として出されています。先ほど言いましたように,この辺も,特別養子縁組が全てではないということとともに,一方で,特別養子縁組になってしまうと,様々な公的な支援が得られないという実態もあるかと思いますので,そういうことを,これは多分,この民法の改正の場の議論ではないかもしれないですが,やはりそういう支援,特別養子縁組に対する支援ということも含めて,どこかの場で考えていく必要があるのではないかと思います。   児童相談所の方では,里親支援の充実が進んでいるかと思います。引き続きその充実は必要ですし,特別養子縁組もそうですし,里親もそうですけれども,やはり地域差であるとかいうことも大きな課題かと思いますので,その辺,地域差のデータがありましたら,また,これは多分,後々の議論で出していただければいいのかなというふうに思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   子の利益の確保・実現ということを目標に据えて,特別養子は,そのうちの選択肢の一つとして位置付けて考えるべきだという御指摘と,それから,様々な実務が執り行われているところであるが,実務にも地域差があるのではないか,この点についてのデータも欲しいという御指摘だったかと思います。   それでは,山根委員,藤林委員の順番でお願いします。 ○山根委員 ありがとうございます。   先ほどの,現場で御苦労されている声というのは,とても重いなというふうに伺いました。特別養子制度というのが,そして制度の改正が,バラ色ではないという声もありましたけれども,だとしても,一歩何か進めて,突破口となればというふうに思います。とにかく,何より日本の育児支援の不足さというのをとても強く感じますので,その辺りの拡大につながるようにと願っているところです。   それで,利用が今まで広がらなかったということの大きな原因は,制度が知られていないからだというようなこともよく聞きますし,私もそうなのだろうというふうに思っていたんですけれども,この制度が余り一般に知られていなかったということの反省というのか,その辺りの整理はされているのでしょうかということをちょっとお伺いしたいと思います。   そういった中において,一気に年齢を上げるということの判断が,どういう影響を与えるのかなというのも思いますし,まず,一気に年齢を上げるという判断の前に,制度の周知に努めて,増加の様子を見て,それから大きな引上げへと進むということも,考えてもよいのではないかとも思います。   それから,思いますのは,こういった縁組を適切に進めるには,やはり体制がきちんと整備されているということが不可欠とに思いまして,やはり現状のままでは心配に思うところです。国の後押しは当然必要ですし,そういった養子縁組の成立に向けた丁寧な作業はもちろんのこと,成立後の,あと引渡し後の見守りとか相談体制とかも,数が増えれば多く必要になってくると考えられますので,まず数を増やすことを目指す,急ぐということで,焦らなくてもよいというか,焦らない必要があるのではないかというふうにも思っています。   それと,もう一つ,家庭的な環境でというのが第一優先ということではありますけれども,乳児院で,そこから児童養護施設に行って,それから自立という流れで育っていく子どもたちも,幸せであらねばならないというふうに思いますので,その辺りも含めて,大きく見ていければと思っています。 ○大村部会長 ありがとうございます。   特別養子,十分に使われていないとすると,制度の使い勝手のよしあしのほかに,何か原因があるのではないかということについて,一定のデータが欲しいという御要望と,数を増やすことだけが絶対的な目的になるというのはどうかと,バックアップのシステムとともに進めていくということが必要だろうという御指摘かと思います。ありがとうございます。 ○藤林委員 先ほどの浜田幹事から,特別養子縁組と普通養子縁組の優劣は論じるべきではないというふうな御意見がありましたけれども,私も別に優劣を論じているわけではなくて,福岡市の児童相談所長として,400人以上の子どもを措置している立場に立っているわけなんですけれども,一人一人の子どもの状況とか,保護者との関係とか,今までの育ちとか今後のことを考えた場合に,子どもにとって最善の利益を優先して考慮した場合の選択肢は何だろうかというふうなことを考えていくわけなんですね。   そういった場合に,中には,ずっと施設で暮らしながら,その後自立していくということが最善の子どもさんもいるかもしれないし,里親家庭で暮らしながら,そのまま自立していく,でも保護者,親とは時々交流していくということが最善の利益の方もいらっしゃるかもしれない。中には,里親さんと,15歳とか18歳とか20歳で普通養子縁組を組むとか,又は,今現在施設にいて,普通養子縁組を組んで,親族の元に家庭復帰していくということもあるかもしれない。また,実親さんも何とか努力して,実親の元に家庭復帰していくという子どもさんもあるかもしれないし,親族里親になっていく方もいるかもしれない。   ただ,特別養子縁組については,磯谷先生が書かれたような,この(ア)から(キ)というのは,これは本当にリアルな,福岡市にもこういう子どもさんも何人もいるわけなんです。こういう子どもさんたちに,我々児童相談所が子どもの最善の利益として,特別養子縁組を選択する際に,利用促進を阻む要因として何かあるのであれば,これはやはり取り除いてあげたい,取り除きたいというふうに思うわけなんですね。   これは例えば,普通養子縁組においても,利用促進を阻むものがあれば,それは取り除くべきであるし,施設から養育里親に措置変更することを阻む要因があるのであれば,それは取り除くべきと思うんです。子どもの最善の利益を実現するために阻む要因があれば,それを取り除くということが,改正児童福祉法2条の精神ではないかなというふうに思っています。   ただ,取り除いたからといって,では,今現在,12歳の子どもの養親さんが見付かるかというと,それはまた別の問題であり,その年齢で養子縁組を組んだ子どもさんに対して,十分な支援が提供できるかというのは,また別に論じなければならない。けれども,それがないから,この阻んでいる要因は今のままでいいというふうにはならないのではないかというふうに私は思っています。 ○大村部会長 ありがとうございます。   様々な方策があるうちの一つの方策として,特別養子縁組というのは位置付けられる。その上で,特別養子縁組に支障があるならば,その改善を図りたいという御指摘だったかと思います。   ほかにいかがでございましょうか。 ○山本委員 厚労省でございます。   藤林委員の御意見と重なるかもしれませんけれども,この場は特別養子縁組制度の利用促進の在り方について議論していただく場だと思いますが,最終目標は,数を増やしていくということではなく,特別養子縁組がなじむ子どもに,使えるようにチャンスを与えていくというところが主眼であろうと思っております。   年齢要件については,私どもが実施した調査,今日は分厚い資料を付けてございますけれども,平成26年度,27年度の状況について,児童相談所,民間機関を対象に調査をしておりますけれども,その中で,特別養子縁組制度がなじむと考えられるにもかかわらず,例えば年齢要件がネックになって,うまく使えないという現場の指摘があるというのは,正にこれはエビデンスであろうと思っております。   例えば,この資料の23ページや25ページなどにありますように,選択肢として特別養子縁組を検討すべきと考えられるものは298件あったということでございますが,その中で,例えば年齢要件が障壁となっているというのが46件,15.4%あったといったようなことでございまして,これらを受けて,厚労省が開催した検討会においては,年齢制限の引上げについて,引き上げていくべきであって,その方法については複数の提案がなされたという点も参考に御議論いただければと思います。   それから,先ほど,この調査の26ページと27ページにあるように,特別養子縁組についても,様々な養育困難の訴えなどがあるというのはこの結果のとおりでございまして,これは実親子と同様に,やはりきちんと支援をしていくと。支援を求めない方もいらっしゃいますけれども,必要に応じて,手が届くところに支援機関があるということが重要であろうと思っております。   これについては,28年の児童福祉法改正におきまして,児童相談所において,特別養子縁組についての相談,その後の援助について,業務として明確に位置付けられましたので,今後,体制はきちんとできていくであろうというふうに考えております。引き続き,私どもも,きちんと指導して,フォローアップをしていきたいと思っています。 ○大村部会長 ありがとうございます。   二つ御指摘があったかと思いますけれども,一つは,特別養子が望ましいと思われる子どもについて,特別養子制度が使えないという状況を改善してほしいということと,それから,養親支援というのも施策の対象になっているという御指摘だったかと思います。   そのほか,いかがでございましょうか。 ○久保野幹事 久保野でございます。   今話題に出ました,特別養子がされた後の養親支援について,施策に入っているという御説明があったのですけれども,先ほど来議論になっている,子どものために何ができるかという様々な可能性のうちの一つとしての特別養子をどう考えるかということを考えるに当たって,正に気になる点の一つが,社会的な養護,養育の制度からは,形式上は外れ,私的な親子ということで,私的な親子という言い方は本当は変ですけれども,公的主体の関与が必然的に伴うものではない親子関係になっていくというところに特別養子の特徴があると思うのですけれども,そこが子どもの利益との関係で,不利益に働かないということを,ある程度見通せるということが重要ではないかと考えています。   そのこととの関係で,厚労省の方の資料の中で,特別養子についても,サポート体制のようなものをしっかりしていくということが,正に議論,論点として入っていたということが記録にございまして,それでただ今も,入っているという御説明をいただいたのですけれども,まず確認させていただきたいのが,山本委員から先ほど,社会的養護についてのビジョンを作る作業が正に行われているという御紹介が,最初の御発言でありまして,その中で,社会的養護との関係で,特別養子をどう位置付けるかですとか,あるいは,社会的養護と隣接する制度として,特別養子について,こういう支援制度の充実を図っていくといったようなことが議論されているのかといった点について,質問をさせていただきたいと思います。   ちょっと,続けて別の件なんですが,ついでに質問,一緒によろしいでしょうか。 ○大村部会長 では,どうぞ。 ○久保野幹事 すみません。もう一つ,全く違う質問で,最高裁判所に対しての御質問なのですけれども,この統計のところで,先ほどもちょっと,個別事件については調べていないという御説明ではあったのですけれども,1の養親が誰かという属性の数字と2の養子となる者の年齢について,クロスさせたデータというようなものがあるでしょうか,あれば有り難いという質問です。   その理由なのですけれども,やはり,どのような児童にこの制度が必要とされているのかというイメージを明確化していくということが,とても重要だと考えていまして,その観点からの質問です。よろしくお願いします。 ○大村部会長 ありがとうございました。   厚労省の山本委員宛ての御質問と,それから,最高裁の宇田川幹事宛ての御質問というのがございましたけれども,本日この場でお答えいただける範囲で,お答えを頂ければと思いますが,山本委員,何かございますでしょうか。 ○山本委員 特別養子縁組と社会的養護との関係について,どうかということの御質問だろうというふうに承っております。   家庭養育を推進していくに当たり,よく,パーマネンシーということ,永続的な家庭で養育できるようにということが言われていますけれども,このパーマネンシーの実現の在り方というのは,実は様々あるだろうと思っております。例えば,里親に保護を必要とする子どもを委託いたしまして,里親さんの家庭で養育しながら,親子関係再構築のための指導を並行して実家庭にしていき,うまく実家庭に戻せるようなら,里親委託を解除して実親さんのところに戻していくという,これも一つのパーマネンシーの姿だろうと思います。   一方,もう実家庭には全く見込みがないといったときに,先ほど藤林委員の方から,長期に社会的養護がされ,ずっと,親の面会交流もなくやっているようなケースなどの御紹介があったと思いますけれども,そういったものについては,いかに早く安定した,永続的な家庭を,その子どもに用意をしていくかということを,一人一人ソーシャルワークをしていって,個々の事情を見た上で,特別養子縁組が最適であろうという場合は,それを使っていくということになるんだろうというふうに思っています。そういう意味では,選択肢の一つであるということは間違いないかと思います。   その際,普通養子縁組制度と特別養子縁組制度で,どこに違いがあるかといいますと,やはり本当の親子になろうと,一旦決意した両者においては,法律上の基盤が不安定であると,不安で,そこまで行き着けないということがありますので,そういう意味では,特別養子縁組制度というのは,普通養子縁組制度よりも,子の福祉とか子の健全な育成を図るための装置がより法的基盤として安定したものとして用意をされているのであろうというふうに思っています。   このことは,普通養子縁組ではそのような目的を達成できないということでは決してないわけでございますけれども,現状においては,新設された当時の考え方によれば,そういう位置付けが与えられて,特別養子縁組制度ができたというふうに理解をしています。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今御指摘があった点が,ここで議論する一つの論点になるだろうとと思って伺いました。   久保野幹事,差し当たりのお答えとして,今の答えでよろしいですか。 ○久保野幹事 今の話も非常に有り難かったのですけれども,更にお聞きしたかったのが,特別養子ということになると,里親の場合と対比すると分かりやすいと思うのですが,里親は当然,児相というか,社会的養護の枠内に当然入っている,準,括弧付きの親子関係なのに対して,特別養子というと,制度的にはそこから外れてしまうということではないかということで,それについて,あえて言うなら,準社会的な関与といいますか,そのようなものの可能性といったようなことについて,難しいというような議論がここに紹介されているのは,厚労省の資料の方で拝見してはいますけれども,例えば,去年のビジョン作成の中で検討などがあったかということについて,今日でなくても結構なのですけれども,また教えていただけたら有り難いということでした。 ○山本委員 里親の場合は,親子ではありませんので,子どもの養育を里親さんに委託をするための委託費としての措置費が公的に支給されることになります。一方で,特別養子縁組の場合は,これは親子になるということですので,そういう形の委託費というのは支給されません。   しかしながら,これら親子の背景を考えていくと,様々に支援をしていかなくてはいけない方々であろうということなので,現状でも里親支援事業,予算事業の名目はこういうことなのですけれども,この中で,特別養子縁組をした親子の支援を全国の児童相談所において行っております。また,28年改正法の施行は29年4月からですけれども,業務としても明確に位置付けられたということもあり,そこは強化されていくであろうというふうに思っております。 ○大村部会長 久保野幹事,よろしいですか。 ○久保野幹事 はい,ありがとうございました。 ○大村部会長 岩﨑委員は,今のこととの関連ですか。 ○岩﨑委員 今のことでちょっと。 ○大村部会長 もう一つ質問がありますので,手短にお願いいたします。 ○岩﨑委員 すみません。この会議には関係のないことにはなるんですけれども,児童相談所に,確かにいろいろなものが整えられていくとして,今の児童相談所で,それを経験的に積み上げる期間がないまま,持ち場が変えられる。私は50年この仕事をしてきました。ほとんどの子どもを委託当初から知っている。記録も全部手元に残っていて,その子がどんなふうに育ったとか,どんな問題を起こしていたか等を,たとえその子の担当者が辞めていたとしても,ほとんど私は知る事が出来ます。私の下には,25年から30年近く一緒に仕事をしてきた職員が3人ほどおりますので,彼女たちと一緒に,ある程度の子どもの見通しを持って,アフターケアもできますし,里親の認定もできているつもりです。   申し訳ないんですけれども,藤林先生のところでも,私がなじんでいる里親担当していた職員が,やはり持ち場を変わらせられるんですね。これは役所の当然のことで,しようがないんだと思いますけれども,この仕事を本気でやろうと思ったら,10年,20年ぐらいの経験は最低限度持っていなければ,どの人を親として選ぶかというところから,その人をどう研修させるか,どう指導していくか。親子の関係がまずくなったとき,どう支えていくかというノウハウがしっかりと身に付いて,それが応用編として使えるようになるには必要なんです。私は10年では,この頃足りないと思っています。20年たったら,さすがにうちの職員たちも,ああ,任せられるなというふうに思うぐらい難しい技術なんです。そのことを本当に頭に入れて,児童相談所の先生方がこれから取り組んでいただけなければ,絵に描いた餅になるしかないと思います。   今,山本委員がおっしゃったように,里親委託には委託費が出ているんです。養子縁組が整いますと,委託費がなくなるんです。その節税効果,すさまじいものがあります。年齢が小さければ小さいほど,その子どもが18まで社会的養護にいたとしたらという金額を計算してみると,私たちが1人の子どもの養子縁組を,できるだけ小さいときによき家庭に委託できれば,その1人の子どもだけでも,ある意味では何千万,1億に近いお金が,計算上としては節税になるんです。   節税効果がとても高い割には,養子縁組ケースというのは,今,制度の中で冷遇されています。同じ社会的養護下の子共を育てているのですが,里親手当は出ませんし,措置費だけが出ているだけです。子どもが二十歳になるぐらいまで養子手当を出してほしいと思うぐらいです。何故なら,引き取る側の里親たちの年収も,どんどん今低下していっています。バブルの頃に比べる必要はないにしても,以前からのケースと比べても,貯金高が平均して300万から400万の家庭が大体ほとんどで,それぐらいの貯金しかなくて,年収がどんどん,年齢がいくに従って減っていくという今の日本の経済状況ですが,子どもは金食い虫ですし,大学を出してやりたい,あるいは,就きたい仕事に就かせるための専門的な知識も持たせてやりたいなんていう費用を用意してやれるのだろうかと思うからです。   そういうことも含めて,この制度があるという状況を法律を改正する上では全く関係のないことですけれども,委員の皆さん方には,少し頭に入れて考えていただけると有り難いと思います。すみません。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今御指摘があった点が,ここで議論する一つの論点になるだろうとと思って伺いました。   それでは,久保野幹事から最高裁の方に御質問あった点につきまして,よろしいですか。 ○宇田川幹事 幹事の宇田川でございます。   先ほど久保野幹事から御質問のあった,1の既済件数の関係での認容の内訳の親族,里親,その他と,養子となる者の年齢をクロスさせるような数値を取っているかという御質問ですけれども,ちょっと非常に申し訳ないんですけれども,その点については,この実情調査においては,そのような集計をしておりませんで,その点についてはお答えすることはできないということになります。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今回,このようなデータを出していただいたわけですけれども,養子縁組については,なかなか実態が分からないところがあります。私たちが基礎にしているデータは,かなり古いものであったりします。それぞれの組織で持っているデータ,出せるデータは限られているということもございましょうが,御希望があれば,それに沿うデータを各方面からできるだけ出していただいて,議論の基礎にしていければと思います。最高裁にもまた,何かお願いすることがあるかもしれませんが,どうぞよろしくお願い申し上げます。   久保野委員,それでよろしいですか。   そのほか,いかがでございましょうか。 ○水野委員 先ほどの藤林委員の御発言への質問でもよろしいでしょうか。つまり,社会的養護にあるのは,むしろ中程度の子どもたちで,重度の子どもたちは社会的養護から外れているという御発言です。もしそれが本当だとすると,そのこと自体が,非常に深刻な事態だと思います。重度の子どもたちの予後は,ご存じのように非常に悪く,成長後の社会的なコストもとても高くつきます。そういう重度の子どもたちが外れてしまうという構造について,それが現実だとすると,今後,それにどう対応すればよいか,お教えいただければと思います。 ○藤林委員 今日の議論と少し外れますけれども,本当に深刻な状況と思っています。   我々児童相談所の援助方針会議で,子どもの行ける先がなかなかない,しばらく,ここの施設が空くまで児相の一時保護所で見ておこうと言っている間に,半年,1年たってしまうというケースがたまにあったりいたします。   こういった,本来十分なケアが必要な子どもさんがいるにもかかわらず,そういった施設が不足しているという問題に対して,昨年8月に新しい社会的養育ビジョンを取りまとめたわけです。その中で,本来,里親ケアと施設ケアが一体どこを担うのかといった場合に,本来,施設ケアは,より高度に専門性を持ったケアを提供するべきではないか。そのためには,今現在の職員の配置基準でなくて,少なくとも小規模な施設,6人ぐらいの,又は6人以下の子どもに対して,常時2人以上の職員が配置されるような場所であるとか,もっと十分なケアが必要であれば,大体4人ぐらいの子どもに対して,もっと手厚い職員を配置すべきではないかといった提言を,「新しい社会的養育ビジョン」の中でまとめさせていただきまして,それに向けて,今後,厚労省さんが取り組んでいただけるのではないかなというふうに思っています。お答えになったでしょうか。 ○水野委員 そういう手厚い施設がないので,やむを得ず親元に置いてあるということなのでしょうか。 ○藤林委員 親元に置きたくないんですけれども,結局子どもを,例えば,児童養護施設とか里親さんに委託なり措置なりしますけれども,やはりそこでうまくいかなくて,子ども間暴力が発生するとか,子どもがいろいろな問題行動を起こして,家に帰ってしまうとか,家出してしまうとか,行く行くは,そのうちの子どもの中には,少年院に行ってしまう子どもさんも今まで経験してきました。   そういったことを,何とか防ぎたい。要するに,一人一人の,先ほどの私の意見にもありますけれども,児相長として,約450人の子どもの一人一人に最善の利益を優先した措置先を提供したい。この子どもには,非常にインテンシブな治療的な施設を提供したい。この子どもさんには,いずれ家庭に帰るので,その間,家庭的な里親家庭を提供したい。この子どもさんには,ほぼ100%家庭復帰は見込めない。であれば,特別養子縁組を提供したいというふうに,一人一人の子どものニーズに合ったケアを提供していくということが,多分,28年改正児童福祉法の趣旨であり,「新しい社会的養育ビジョン」ではないかなというふうに私は思っています。 ○水野委員 抽象論としては異論はないのですが,現にある社会的支援の現状で,どういう手段をとるかという問題です。重度のお子さんは,正にマンツーマンでプロが関わらないといけないと思います。親と子どもを引き離したばかりの状況は,いわば集中治療室に入れなければならないような,精神的に血まみれの状態ですので,そのようなお子さんは,プロがマンツーマンで集中的・継続的にケアしなくてはいけません。それなのに,人員配置も足りない集団的養護しかできない一時保護施設に入れてしまうという,非常にひどい現状です。たしかに現状はひどいのですけれども,私が心配しますのは,そういうお子さんを素人の養親に任せてしまうことです。プロがマンツーマンで付いて支えなければいけないお子さんを,素人が対応できることは全くないだろうと思います。 ○藤林委員 例えば,非常にインテンシブな専門性の高いケアが必要な子どもさんが,施設で一定のケアを受けて,劇的に改善して,養親さんが見ていけるようになれば,それはあるかもしれない。けれども,やはりそこは,子どものニーズに応じて,インテンシブなケアが終わった後に,どのようなケア環境で過ごしていくのかというのは,子ども一人一人のニーズに応じた措置を考えていくというのが原則。   決して,数合わせのために特別養子縁組に移行できる子どもを増やしたいとか,里親委託率を増やしたいから措置をするということは,決してあってはいけない。飽くまで子どものニーズに即した措置を考えていく,又は,その後のケアの在り方,ケア環境を考えていくというのが原則というふうに思っております。 ○大村部会長 水野委員,よろしいですか。 ○水野委員 はい,そういう,正に救われなければならない子どもたちが救われていない状況が,非常につらいと思っております。そして,そこをきちんとすることがまず最初だろうと思います。すると,特別養子がどういうふうに用いられるのかということが疑問であり,その心配が,どうしてもなかなか拭えないということです。 ○大村部会長 ありがとうございました。御意見として承ります。   そのほか御発言,いかがでしょうか。 ○床谷委員 先ほど,最高裁判所の資料の方について,久保野さんから御質問があったので,私もちょっと,こういう資料はすごく貴重で,知りたいところが幾つもあるんですが,幾つかを絞ってお願いを,もし分かればということで。   一つは,クロス集計のような難しいことではないのですけれども,数字が2ページの方の年齢差のところで,平均年齢差という表示がばーんと出てきて,特別養子と普通養子の許可と,それほど年違わないなという印象を受けると思うんですけれども,実際に下の方の表を見ると,特別養子の方が,どちらかというと年代が上の方になっていて,普通養子許可の養父母よりも年齢が上になっていると。こういうのは非常に,すごく印象的で,むしろ年齢が60歳とか69歳とか,60代まであるというような事例がうかがえて,特別養子の場合,年齢差については,恐らく,養子の年齢を上げると年齢差が縮まるので,最低年齢差を議論するということになっているようなんですが,最高年齢のようなものは議論の対象にするべきなのかどうか。私自身は,年齢差は特別に設ける必要はないという基本的な考えを持っていますが,もし最低を論じるのであれば,最高の方も論じる必要があるのかないのか。   日曜日に韓国で,韓国の先生方と話ししていて,日本では孫養子が節税のために認められるらしいなということで,孫を養子にするということは,韓国人からすると考えられないと。行列が違うということなんですけれども,まして親養子のように,実子のようにするような場合,それほど年齢差が違うというのは明らかにおかしいというような印象を語られておりまして,日本人の受け止め方と大分違うというのが確かにあるんですが,その辺りのところがちょっと,一つ,議論の対象になるのかどうかお聞きしたい点です。   それから,もう一つ,お願いしたいのは,養父となる者,養母となる者が,それぞれ20代,30代という大きなくくりになっているのですが,特に最小年齢とかということを考えると,例えば0~19歳,数は少ないですけれども,恐らく19歳とかいう,どっちかに偏っていると思うんですね。もうちょっと細かく分けていただけませんでしょうかということで,少ない数字は,例えば何歳であるとか,ちょっと,恐らく個票を調べ直していただくことになるので,面倒なのかと思うのですが,10代とか,10年というくくりではなくて,もう少し年齢差を置くべきかどうか,どういうような実態になっているのかを知る上で,少し年齢差を細かく切り分けて,表にしていただければ有り難いなという点です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   宇田川幹事,何かございますか。 ○宇田川幹事 二つ目のお願いという部分のところで,私の方からお答えさせていただくと,これは実は,調査を行ったのが28年4月から29年3月ということで,1年以上も前のところでございまして,そのときには,実際に調査した結果に基づいて,こういう形で整理をしたんですけれども,その基のデータ,個票みたいなものが,現時点では保存していないというふうに認識しておりまして,そういう意味で,これ以上詳細なものができないのではないかというふうに考えております。   また,事実関係が違うようであれば,また御報告させていただくこともあるかもしれませんけれども,なかなか個票に基づいて更に再集計ということは,難しいのではないかというふうに考えております。すみません。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今ここに出ているものについては難しいということでしたけれども,何かまたほかに,今の床谷委員の御関心に答えられるようなデータがあり得るようであれば,是非お願いをしたいと思います。   それから,年齢差につき,小さい方を決めようというのだったら,大きい方も考える必要があるかもしれないという御指摘をいただきました。   そのほか,いかがでしょうか。   今日はフリーディスカッションということですけれども,事務当局の方から,一般的にいって,こんな点についてどうですかというようなことは何かございますか。 ○倉重関係官 今,床谷先生から御指摘いただいた点について,少し事務当局の方で御質問させていただきたいのですが,年齢差要件について,ここでは,どういった理由から年齢差要件というのを設けるべきかという視点は特段示してはいないのですけれども,もし年齢差要件が必要である,今申し上げているのは最小年齢差の方でございますけれども,必要であるというような見方があるのであれば,それは,どういった視点から定めるべきかという視点を御提示いただければと思います。   また,今,床谷委員の方から御指摘ありました最高年齢差というようなものを設けるとした場合には,ではこれは,どういった観点から考えるべきなのかといった御視点を御提供いただければと思います。よろしくお願いいたします。 ○大村部会長 ありがとうございます。   まず,先ほどのご発言で,床谷委員御自身の御意見としては,年齢差要件は要らないのではないかという御見解だ理解しましたが,そうだとすると,要らない理由は何なのかということ点につき,御意見を御披露いただけると,参考になるのではないかと思いましたけれども,いかがでしょうか。 ○床谷委員 比較法的に,年齢差の最低,最高を置いているところは幾つかありますけれども,基本的には,親子関係を作るのにふさわしいかどうかという観点からの年齢差の要件を置いているところが多いかと思います。   特別養子の場合は,特に実子らしいということが,うたい文句がありますけれども,親であり子であるということで,外見的に自然に親子関係らしい年齢差というものが,ある程度下とか上とかにあるのではないかということだと思うんです。出産される年齢が三十数年前とは違っていますし,結婚される年齢も違っていますので,当時ですと,上は普通に出産する場合の年齢というのと,今と比べると,やはり大分違っていますから,その点は時代に応じて変わってくると思います。   基本的には,ある程度,自然な年齢差ということを想定しながら,その前後に幅を持たせるためには,余りかっちりした,きちんと明確な数字を置くのは,ふさわしくないのではないかというのが私の基本的な考え方で,そこのところの調整は裁判所が,この縁組がふさわしいかどうかを判断するところでなされれば,よろしいのではないかというふうに思っています。   最高年齢は,やはり祖父母と孫かなというようなことを考えるような形になるのではないかということで,ちょっと気になるところですが,ただ,自分のことに置き換えると,60代になって,小さい子どもを養育しても,できるかなというふうに,そのときは思っても,この子が成人するまで責任持てるかというと,それは無理なので,それはやはり親の方の気持ちであって,子どもの養育をきちんと担保することにならないのではないかという,そういう思いがあります。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今の御意見は,一定の年齢差は必要であろうけれども,リジッドに決めるよりは裁判所に委ねた方がよろしいのではないかとご趣旨ですね。他方,年齢が離れすぎる方については,もしかすると,何か考える余地があるかもしれないということですね。ありがとうございます。   そのほかの方々,何かございましたら,いかがですか。 ○村田委員 今の御質問のやり取りにも少し関連するんですけれども,次回以降の進め方に関しての要望なんですけれども,今日のいろいろな皆様方の御意見をお聞きしていても,特別養子縁組制度をとにかく使いやすく,どんどん使っていただくようにしようということでは必ずしもなくて,特別養子縁組制度が正にフィットする事例に,それが適切に使われるように,そういう意味において,使われやすくするための手続を見直すべきではないかと,こういう御議論なのかなと思って承ったところです。   ですから,そうすると,どういうケースが,正に特別養子縁組制度にフィットするものとして,典型的にイメージするのかというところが,非常に大事ではないかと思って,それがどういう実親の下に,どういう子どもがあって,どこに,そういう課題があるのに対しては,こういう養子がフィットするはずだというようなことを,ある程度具体的にイメージしないと,それが,年齢要件であったり,今の年齢差要件であったり,上限であったり,それから,同意の撤回というのはどういう場面であり得るので,そこをどう制限するかという,そういう各論に生きてくるところがあるのではないかと思うんです。   ですので,そういう典型的なイメージ論を議論する時間というのを,ある程度取っていただいた方がいいのではないかというふうに思いましたので,そういう要望として述べさせていただきます。それが,多分,制度が何がしか,ここでの議論を踏まえて改正がされて,出来上がったときには,裁判所の運用にも大きく影響するのではないかというふうに思われますので,要望する次第です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今日は初回でもありますので,全体として,総論的な基礎的な御議論が多いのですけれども,具体的な要件を考えるに当たっては,どういう場面で必要なのかというイメージを固めるために,どういう例を想定しているのかという認識を共有することが必要ではないかという御指摘かと思います。ありがとうございます。次回以降の議論の際に考慮させていただくことになろうかと思います。   そのほか,いかがでしょうか。 ○窪田委員 一つは,今,村田委員から御指摘があったこととも重なりますが,正しくそのことを申し上げたいなというふうに思っておりました。オプションの一つであるということまでは了解はできたとしても,それが一体どんなオプションなのかということが分からない限り,ちょっと議論が進めていけないのではないのかなという気がいたしましたので,私もやはりその部分について,完全な共有は無理なのかもしれませんが,ある程度共有しないことには,先に進めないのかなというふうに思って伺っておりました。   それから,冒頭の水野委員の御発言に関わる部分なのですが,特別養子制度がそれ自体として,随分問題を抱えているのではないかということで御指摘がありましたが,御指摘があった中では,幾つかの,少し性格の違う問題があるのかなと思って伺っておりました。もちろん匿名出産をめぐる問題は,多分,今現在も一定のニーズがある問題なのだろうと思うのですが,ただ,児童虐待との関係では,やや性格の違う問題で,それはそれ自体として,当然検討すべき問題ではあるのかもしれないのですが,ここでそれまで含めてしまうと,議論が非常に錯綜してしまうのではないかと思って伺っておりました。   他方で,そうはいいつつ,現在の特別養子の制度が抱えている問題としては,磯谷委員からの御指摘の中にも出てきたのですが,現在でも,身分証書ではなくて戸籍ではあったとしても,一応何か一遍除籍して,除籍簿を作ってから,そして,もう一遍入れるというような形で手当てはされているのに,しかし,審判書きの方では全部書いてあるというような形で,何か頭隠して尻隠さずみたいな制度でるといった点など,いろいろな問題があるんだろうと思います。これは単に手続の問題というよりは,かなり実質的な意味を持っている問題だと思いますので,検討課題の中にはストレートに挙がっていなかったのですが,そこの部分の見直しは,やはりきちんとしなければ駄目なのではないのかなというふうに思って伺っておりました。最後の点は,その点も検討してほしいという希望でもあります。 ○大村部会長 ありがとうございました。   先ほどの水野委員の御指摘は,多岐にわたっておりましたけれども,その中で,関連する問題として,ここで取り上げることができる問題もあるという御指摘だったと思います。具体的な問題も示していただいたと受け止めました。ありがとうございます。   そのほか,いかがでございましょうか。 ○倉重関係官 もし可能でしたら,同意権の関係の辺りについても,少し御議論をお願いしたいと思います。 ○大村部会長 そうですね,年齢の話は少し出ているわけですけれども,同意に関わる問題については,これまでのところ,特に御発言がないように思います。皆さん,1回目なので遠慮されている,これやり始めると,本論に入ってしまうことになるという予感をお持ちなのかもしれませんけれども,大きな方向として,取りあえず御感触を伺えればと思います。何か御発言があればお願いいたします。いかがでしょうか。 ○水野委員 先ほど,最初に申し上げましたように,本来ですと,親権を公的に奪ってから,養子縁組の候補者になりうる子として,そして初めて別個に養子縁組の手続きが始まるという手続きですから,そもそも養子縁組の同意権という形では問題にならないはずです。日本法においても,そういうふうに,養子縁組の候補者になり得るという手続の部分を,養子縁組の成立とは切り離して設計するところまで,今回の改正は,可能性としてはお考えなのでしょうか。 ○大村部会長 それは,ここで御議論いただくということかと思いますけれども,具体的な御意見が何かあれば,どうぞお願いいたします。 ○水野委員 養親に親子関係断絶の手続きまで含めてイニシアチブをとらせて,養親と実親との間の直接的なやり取りという形にして設計をしたことに,磯谷委員が御指摘になったような問題の多くが起因しているように思います。ですから,例えば,児童相談所でもいいのですけれども,そういう公的な機関が,一旦そこで養子縁組の対象者になるという形でひきとる制度設計をするということができましたら,先ほど藤林委員がおっしゃったようなケースにも対応できるはずです。乳児院からずっと施設にい続けて,親の方が構わないというお子さんのケースです。そういうお子さんに対して,実親にある程度働きかけをして,それでも実親がその子に関心を示さず無責任なままでしたら,そこで実親と絶縁させて,養子縁組の対象者にして,それから養親と結ぶという手続にすると,多くの問題は解決するように思います。つまり同意権の問題は,養親を入れずに,もっと早く適時に公的なセクターが介入することで解決できると思うのですけれども,そういう根本的な制度設計の改革まで,今回の改正でお考えなのでしょうか。それとも,養子縁組は養親と実親が直接やり取りするという日本の伝統的な発想で作られている現在の特別養子縁組の構造は維持して,その同意権だけをいじるという微調整でとどめられるおつもりなのか,そこをお伺いしたいと思います。 ○大村部会長 事務当局,今の点について何かあれば,どうぞ。 ○倉重関係官 それでは,まず,お答えいたします。   厚生労働省で行われた検討会,先ほど御紹介がございましたけれども,そちらでは,2段階手続というような名前で,今委員御指摘のような制度が紹介されていたというふうに理解しております。   ただ,まず1段階目の手続における審判の効果が何なのかというのを考えましたときに,まず,単に養子とすべき子であるということを確認するだけの手続でございますと,法律的には何の変化もないような審判ということになりますので,それ自体,審判として,一つの独立した手続として組むのはどうかなというような考えがあったところでございます。   今度は逆に,親子関係を断絶するというような効果まで仮に持たせるような強い審判にした場合には,後続するマッチングの方の手続がうまくいかなかった場合に,子にとっては,ただ親がいない状態が生じるだけということで,果たしてその子にとって利益にかなう状態が実現できる制度なのかという疑問があるかなと考えたところでございます。   このようなこともございまして,これに先立つ研究会の方で議論した際にも,2段階手続は,最終的な中間報告としては維持されなかったというふうに認識しております。部会資料にも直接的にその制度を記載しませんでしたのは,そういった考えに基づくものでございます。   もし具体的に,今の隘路を乗り越えるようなものがあるのでございましたら,別に検討の対象から排除しているという趣旨ではございませんので,是非御提案いただければと考えているところでございます。 ○水野委員 それは,最初に申しましたように,育児支援にどれだけ国家が介入するかということについての,ある種の腹のくくり方のように思います。親権剥奪までしておけば,同意権の問題にはならないでしょうし,親子関係についての出自情報は戸籍を維持すれば明記せざるを得ないのですから,親子関係の断絶と言っても程度問題でしょう。ネグレクトなどの虐待状況で本当に介入する気があれば,そしてその方がいいと思うのですが,そうだとすると,やはり国家が介入して,国家後見という形で引き取る制度があってもいいように私は思います。ただ,国家後見というのは今まで,日本は知らない制度ですので,これをどういうふうに組むかということについては,当然のことながら,御議論は必要だろうと思います。 ○棚村委員 研究会でかなり議論をして,私もアメリカだとかイギリスとか見ていると,親の権利みたいのを終了させて,親が育てられないのであれば,どういうケアをしていくか。里親に預けて実親に返す一時的養育でいいのか,それともパーマネントな形で,養子縁組なのかというような形で,いったん切り離した手続の前提になっているのが欧米の親権終了手続です。欧米諸国では,水野先生もおっしゃった,国家がやはりパレンス・パトリエ(国親)というか,要するに,国家後見というような形で,空白がなく,子どもの受け皿を確実に手当てをするという大前提に立っています。ところが,日本の場合には,それが私人間でやってしまっているので,いろいろ問題が生ずるということで,やはりちょっと構造的に違うのではないかとという議論もありました。   それから,もう一つの問題は,特別養子縁組というのは,一方では,実方と断絶させる,切るという親子関係の断絶と,それから新しい親となるべき者,ふさわしい者に親子関係を作るという養親子関係の形成を一つの手続で行っているのです。その二つのことを,特別養子制度を作るときに,二つに分けるような欧米型の手続構造にするのか,床谷先生の話だと,近代化というか,欧米型の養子制度の在り方で,しかも養方に完全に取り込むということを意識すると,そういう二つに分けている制度を持っているところがあるわけです。他方,日本のような藁の上からの養子,実子の特例とする発想で,同時に実親を切ることと,養親子になることを一体的に実現する制度もあるわけです。いずれがいいのか悩ましいところですが,実方を切るということによって,新しいところの受け皿を作るという,その手続を完全に別々にしたり,切り離したりというのが,私は2段階手続が本当に貫徹できるのかというので,ちょっと心配をしています。   つまり,新しい親子関係というのは,それが前提になっていて,実親が適切でないときに,その連携の中で,一方では実方と切れて,もう一方の新しい関係ができるという関係になっています。それで,私自身は,かなり早い段階から,中間審判みたいな形で,ある意味で,養親になろうとする人の負担も軽減をし,児相長も,そういうようなところで協力できたり,何らかの形で申立てや関与ができる。ただ,先ほど言った実親の支援というのがやはり必要で,それが無理なときに,同意権ということを通して,親の関係が切れたときに,同意がなかなか得られないために,その同意権の部分について,あるいは要保護性があるということについて,その前提となる重要な点について,中間審判みたいなのができた上で,受け皿になっている人たちも,ある意味では,それは自分たちが親として,子どもとの関係で,マッチングとか適合性,そういうものをきちんと持っているんだと安心して次のステップに進めるようにしてはどうかと考えました。そういうことだけを中心になってやればいいんですけれども,今の手続法でいくと,全部一体になっているものですから,ある意味では,実方が適切でないとか,そういうことについても,ある程度,関わらざるを得ないということがハードルになってはいけない。   そういう負担の軽減とか役割分担ということを考えると,大きく二つの役割ということはあり得るんだけれども,ただ,それを完全に別の手続で,別に分離してやったときに,その二つの手続の相互の関係が,きちんとうまく連携がとれるのだろうかというようなところで悩んで,意見が変わるかもしれませんけれども,最初は水野先生が考えたように,欧米型の養子制度,完全養子制度をモデルとするのであれば,そういう手続の組み方というのはあり得るのかなと思っていました。しかし,よく考えてみると,今の手続法の中で,管轄とか記録の謄写とか,それから,申立権を持つということと利害関係参加とかいうものを組み合わせていったときに,中間審判みたいな形で,一つの手続の中で,それぞれが適切な役割分担をしながら,子どもの福祉のために何をするかというので,実方の関係を切ったり,それから,同意を不要とするという手続と,それから,新しく親子になるという,この人が親としてふさわしいんだと,そういうものを,一つの手続の中で組めないのかなという考えがあるものですから,完全な2段階手続論とか,申立権者を完全に分けるというのに躊躇があります。   なぜかというと,児相長が申立権者をやって,それで,養子にするか,ふさわしいかを判断するということになると,最終的に受け皿になる,親になろうという人たちの位置付けが,結局,後の手続は,やはり前の手続との関係で,かなり利害関係を持って,子どもを育てようとする人たちが当事者になっているので,私自身,4件ほど意見書を書かせてもらいました。同意の不要の手続,要するに,同意免除事由についての意見書を書いたときにも思ったのですけれども,やはり,児童相談所とか児相長がしっかり役割を果たしてくれればいいんですけれども,理想なんですけれども,そうでなくて自分で,50歳とか,かなり高齢になって,養子縁組,特別養子にしたいということで,御兄弟というか,お二人,1人目も認められ,もう1人はやはり,同意がなかなか取れないということで,認められないということについて,そのときも,やはり弁護士さんを雇って,お金もかなりかかりましたけれども,居どころも調べて奮闘努力をなされていました。結局,養親候補者のみなさんは,いろいろな形でもって,実親の関わり方とか,そういうものについて調べて,実親さんとも交渉をし,最後に残ったのは,実親としては,自分が子どもを育てられないという自責の念とか罪悪感みたいなもので,現実としては自分は育てられないんだけれども心理的につながりだけは絶たれるのが辛い,そういう微妙な事案になると,正にこれは,同意不要事由をどういうふうに解釈したり,立法化するのかと関わるのかもしれませんけれども,ある意味で,そういう親になる覚悟を持っ養育を引き受け,負担も負いながら,親になろうとして頑張っている親御さんもいらっしゃるし,それから,児童相談所も,そこまでなかなか手が回らないとか,いろいろな状況も,もしかするとあるかもしれませんので,親になろうということで,監護を開始していたり,手続も開始している人には,最初の段階の手続にも何らかの形で関わるということはあり得るのかなということ考えております。ちょっと長くなりましたけれども,完全な2段階手続論で,申立権者も分けて,手続も分けると,その最初の手続と後の手続が争われたケースなんかですと,非常に複雑な感じにならないか,時間も掛からないかということが,ちょっと気になっているというのが現段階の考えです。 ○大村部会長 ありがとうございます。   水野委員がイメージされている2段階の手続と,いま棚村委員がおっしゃった2段階の手続と,同じ2段階の手続という言葉を使っておられますけれども,かなり差があって,水野委員が考えられているのは,間に国の後見のようなものを挟む,そういうものですけれども,棚村委員は,現在の手続を二つに分けるということを考えておられる,そこにギャップがあるように思います。棚村委員は,現在のものを二つに分けるとすると,そこから出てくる様々な問題があるので,2段階手続論が言われている要望を実質的に受け止める形で問題を解消できないだろうかという御発言だったかと思います。 ○窪田委員 今の話とは直接関わらないのですが,同意に関してと発言してよろしいでしょうか。   一つは,余り大した問題では本当にないのだろうと思うのですが,同意が必要だ,同意が必要だといいながらも,817条の7で,そもそも特別養子の成立のためには,「父母による養子となる者の監護が著しく困難又は不適当であることその他特別の事情がある場合」でなければ成立しないとなっているわけです。そういう場合であって,かつ同意が必要であるというのは,817条の6との関係では,しかし,「父母による虐待,悪意の遺棄その他養子となる者の利益を著しく害する事由がある場合」には当たらない場合にのみということになります。その意味では,結構狭いものなのではないのかなという点について,まず前提として確認しておくべきなのかなというふうに思います。   それと,もう一つ,実は私のアイデアではなくて,会が始まる前に高田先生とお話をしている中で,少し出たことなのですが,何か817条の6というのは,同意が必要だというふうに言っているだけであって,別に同意権として構成しているわけではないですよね。飽くまで,家庭裁判所が審判によって特別養子を成立させるだけであって,その際に,一定のケースでは同意が要るという構成をしているだけだと思います。ひょっとしたら,同意権という言葉を使って説明することが,そもそも適当なのかどうなのかという問題があるのかなというふうに思います。高田先生の御意見を正確に理解しているかどうか分からないのですが,何かそういうことをちらっと伺ったような気がしたものですから,申し上げた次第です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   高田委員,何か補足発言がありましたら,お願いいたします。 ○高田委員 まず,前提としまして,手続法を専攻している者としまして,手続法の問題があるということでございますけれども,もしその手続がネックであるとすれば,特別養子縁組の成立が阻害されないような対処をするために,ない知恵を絞りたいと考えております。   手続に関係する部分が全て同意に関する部分だと理解しておりますので,一言申し上げさせていただきたいと思いますが,今,窪田委員からもございましたように,私の理解によりますと,817条の6は,同意が必要な場合と必要でない場合が定められているという理解でありまして,かつ,同意が必要とされる理由についても,多分これから議論されることになるんだろうと思いますが,一方では,子の利益に関する事項だろうと思いまして,これは817条の7と密接に関連しておりますし,実父母の同意にどの程度の決定力を認めるかという問いが残っているんだろうと思います。他方で,実父母の利益に関する事項については,どこまでそれを保障すべきか,場合によっては濫用と評価されるのではないかという議論があり得るように思いまして,そうしますと,直感的にでございますけれども,審判の過程で適切な処理ができるようにも思います。   それを踏まえて,若干申し上げたいのは,今回の検討課題を卒然と読みますと,同意の撤回はよくないことだと,あるいは同意しないことはよくないことだというニュアンスがにじみ出ているようにも思います。   考えますに,濫用的に同意しない場合もあると思いますが,同意しないことにそれなりの合理性がある場合もあるのかもしれません。事情の変更もあるのかもしれません。したがいまして,実父母の実情というものも,できれば共有したい,   取り分け,実父母が同意しない場合は,いわゆる,嫌がらせといったら失礼ですけれども,何らかのエゴの発現なのか,それとも,先ほど出てまいりましたように,最低限のつながりは残したいという思いから出てきているのか。その辺りについての,もしイメージが共有できればと思いまして,私自身は全くそうしたものについての情報はございませんので,どこかの過程でお教えいただければと存じております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   手続的な工夫で乗り越えられるところについては,工夫を考えたいとおっしゃっていただいたので,非常に意を強くいたしましたけれども,その前提として,実体法が定めている同意ということの意味を分節化して検討する必要があるのではないかという語指摘でした。その際に,同意をしないということが悪いことだと当然には言えないので,どういう事情があるのかということを明らかにし,問題を共有する必要があるいう御指摘を頂いたと思っております。   ほかに,今の同意の点につきまして,他にいかがでしょうか。 ○岩﨑委員 事例を二つだけ御報告したいと思います。   1つの事例は,子どもが生まれたときに,実母に養子に出すかという話をしましたら,「養子には出したくない」と言いました。でも,若いお母さんは育てませんでした。そして,乳児院に預けたまま面会もなく,行方不明でした。その間に児相は,おばあちゃんとの話合いの中で,多分育てられない予測の方が大きかったので,実母から連絡があれば「あなたがきちんと児童相談所に行って,この子を引き取りますと言わない限り,養子に出すしかないのではないのか」ということは伝えられて,「わかった」と答えたのですが,それ以来,そのお母さんの行方がつかめなかったので,里親委託され,4才で申立てました。私たちの方でお世話をさせていただきました。817条の6が適用されて認容され,裁判所内に公示された上で確定しました。ところが確定後2年して,子どもの付票から養親の現住所が判明し,子どもを引き取って育てたいと言ってきました。児相から,また弁護士から「確定している」ことを説明しています。   もう1件は,今裁判中で,私は養親となる方から依頼されて意見書を書きました。まだ結果が出ません。やはりそのお母さんも,養子には出したくないとは言っていたけれども,生まれて間もない子どもを連れて家出したので,母の親から捜索願が出され,友人宅に居るところを,結局,児相に通告されて,保護されて,乳児院に措置されました。その間に,彼女も転々と住居を変えていましたので,連絡が取れず,そして,里親に委託されました。そうしたら,母親が見付かりまして,確認しましたら,「確かに今まで私は面会にも行けなかったのに,その里親さんは遠いところを何日も通って引き取ってくださった。そんないい方が見付かったのなら同意をしますと言いました。   ところが,特別養子の申立てをした段階では,母親は,「時々会わせてくれるのであれば同意をしてもいいんだけれども」と言っていたのが,調査官の審問,それから裁判官の審問を受けている間に,事の次第がどんどんと深刻になって,養子に出さないとはっきり言い出しました。審問では,問われていることに応えながら,母親がこれまであまり深く考えていたわけではないことが質問されたり,子どもが今住んでいるところでは養子であることが住民の人に知られているらしいのは,子どもにとっていじめられたりするのではないかとか,あまり熱心に同意を求められることに不信が出てきたり…ということが,却って母親を意固地にさせてしまったようには思えますが,現実的にはすぐには引き取れない事情もあって,改めて施設に戻して欲しい,それから面会をして,今育てている本児の弟や妹(現在は結婚し,前夫との子どもを養子縁組してもらい,その下に夫との間に生まれた子どもを育てている)に兄である本児の存在を理解させないと混乱するであろうということなどを理由としています。しかし本児の,今育てられている里親と安定した親子関係を築いてしまった子どもにとって,突然に現れる記憶にない実母とその家族との関係を受け入れられるかという理解ができるかが難しいところだと思います。   この2例とも,実母は,一時期はとても不安定な生活をしていたようですが,その後結婚し,生まれた子どもを育てているので,産んだ子どもだから育てられるという自信を持っていることが多いのですが,子どもは非血縁であっても今育てられている関係が安定していると,実母の突然の出現は,子どもにとって決してプラスになるものにはならないのです。特に年齢が大きくなっていますと,今の信頼関係が崩されたことによる不安や怒りが,実親への反抗や激しい試し行動を引き起こしますので,それを引き受けられた実親の事例を経験したことがありません。是非,結果的には審判を認めていただけるような動きになるのが,基本的には子どもにとっていいのではないかと私は思いますが,こういうケースが意外とちょこちょこ起こるので,やはり同意の確認を,どこでしたものをもって同意とするというのをしっかりと決めていただきたいと思うのです。水野先生,私は最初から2段階方式で頑張ったんですけれども,今言った諸般の事態で,私も随分つらい立場に今立たされております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   岩﨑委員のつらい立場は,また次回以降にも御表明いただける機会があるかと思いますけれども,本日は1回目ということで,一般的な,テーマを絞らない形で御意見を頂戴いたしました。   最後に同意に関わる問題につき,その前に年齢の問題につき,各論的な御発言もありましたけれども,全体としては,特別養子という制度を子どもの福祉を図る政策の中で,どのように位置付けるのかということと,それから,民法の養子法の中で,普通養子,特別養子をどのように位置付けるのかということ,これらの大きな問題について,御感触,御意見を頂きました。   次回以降,念頭に置いているケースを共有しながら議論をしようということについても,了解が得られたのではないかと思いますので,そのようなやり方で審議を進めていければと思っております。フリーディスカッションということですので,これ以上のまとめはいたしませんけれども,次回以降も,どうぞよろしくお願いいたします。   ちょうど予定の終了時刻になっているのですけれども,次回の議事日程等につきまして,事務当局の方から御説明を頂きたいと思います。   そこで,今,終了の時間,予定時刻になっているのですけれども,次回の議事日程等につきまして,事務当局の方から御説明を頂きたいと思います。 ○山口幹事 次回の日程は,さきに御案内さしあげているかと思いますが,来月7月31日火曜日の,時間は午後1時30分から午後5時30分までということで,本日より1時間早いスタートとなります。場所につきましてですが,東京保護観察所集団処遇室という,この建物の1階というふうになっております。   次回の予定につきましては,養子となる者の年齢要件,それから同意の撤回,あるいは,同意が要らないということをあらかじめ確定する方法,これらの論点について,掘り下げて御議論を頂ければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   いまお話にございましたけれども,次回は7月31日1時30分からということでお願いを申し上げます。個別の論点について,一通り掘り下げた御議論を頂きたいということでございますので,どうぞよろしくお願い申し上げます。   1回目ということで,何か特別な御発言ございますか。 ○山根委員 申し訳ありません,不勉強で,私だけかもしれないんですけれども,海外の制度を知って,比較もしてみたいというふうに思うわけですけれども,何か見やすい,そういう資料等があれば,教えていただければと思います。 ○倉重関係官 海外の制度は,現在,法務省にて調査委託を検討中の段階でございます。法制審議会のこの会議を継続している途中で,お示ししたいというふうには考えておりますが,現時点では時期は未定ということになります。現在存在している,やや古い情報の文献等につきましては,また個別にお知らせさせていただきます。よろしくお願いいたします。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほか,よろしゅうございますでしょうか。   それでは,法制審議会特別養子制度部会の第1回会議をこれで閉会させていただきます。本日は熱心な御審議を賜りまして,ありがとうございました。閉会いたします。 -了-