法制審議会 少年法・刑事法 (少年年齢・犯罪者処遇関係)部会 第3分科会第10回会議 議事録 第1 日 時  平成30年 7月5日(木)    自 午前9時55分                          至 午後0時16分 第2 場 所  東京地方検察庁会議室 第3 議 題  1 起訴猶予等に伴う再犯防止措置の在り方について         2 保護観察・社会復帰支援施策の充実,社会内処遇における新たな措置の導入及び施設内処遇と社会内処遇との連携の在り方について 3 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○羽柴幹事 ただいまから法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会第3分科会の第10回会議を開催いたします。 ○小木曽分科会長 おはようございます。本日もありがとうございます。   まず,事務当局から資料について御説明いただきたいと思います。 ○羽柴幹事 本日,配布資料として,配布資料22「起訴猶予等に伴う再犯防止措置の在り方(考えられる制度の概要)」,配布資料23「平成28年に起訴猶予処分となった20歳及び21歳の被疑者の事件の概要(法定刑が短期3年以上の懲役又は禁錮に当たるもの)」,配布資料24「保護観察・社会復帰支援施策の充実,社会内処遇における新たな措置の導入及び施設内処遇と社会内処遇との連携の在り方(考えられる制度・施策の概要)」を配布しております。   また,羽間委員から,本日の意見交換の中で御意見を述べられる際に参照するための資料として,第2分科会の第9回会議で配布された配布資料20及び同分科会の第10回会議で配布された配布資料26を用いたいとのお申出がありましたので,本日これらの資料を机上に置いております。   配布資料の内容につきましては,後ほどそれぞれの議論の際に御説明します。 ○小木曽分科会長 それでは,審議に入りたいと思います。   本日は,当分科会が担当する「起訴猶予等に伴う再犯防止措置の在り方」並びに「保護観察・社会復帰支援施策の充実」,「社会内処遇における新たな措置の導入」及び「施設内処遇と社会内処遇との連携の在り方」の各論点について,部会に報告する制度概要案等の作成のための詰めの検討を行うこととしたいと思います。   まず,「起訴猶予等に伴う再犯防止措置の在り方」についての検討を行います。当分科会の第8回会議及び前回会議の結果を踏まえまして,事務当局に各論点について,検討の叩き台となる資料を作成してもらいましたので,まず,その資料について,事務当局から説明をお願いします。 ○羽柴幹事 配布資料22について御説明します。   配布資料22は,事務当局において,これまでの当分科会における御議論を踏まえつつ,現時点において考えられる制度の概要や検討課題を整理し,部会への報告に向けて,最終的な詰めの検討に資するための資料として作成したものです。   もとより,分科会における御検討の参考とする趣旨で作成したものであり,分科会の御議論を方向付けるといった趣旨のものではございません。   まず,「第1 検察官が働き掛けを行う制度の導入」の枠囲みの記載は,従前の配布資料における制度概要の記載を整理しつつ,これまでの御議論を踏まえて作成したものです。   考えられる制度の大きな枠組みとしては,検察官が,被疑者が罪を犯したと認める場合で必要があると認めるときに,守るべき事項を設定できる仕組みとすること及び設定した場合は,所定の期間,保護観察官による指導・監督に付する措置をとる仕組みとすることについて,おおむね意見の一致があったと思われます。   そこで,「1」には,「検察官は,被疑者が罪を犯したと認める場合において,必要があると認めるときは,被疑者が守るべき事項を設定し,所定の期間,被疑者を保護観察官による指導・監督に付する措置をとることができるものとする。」と記載しています。   「2」の「要件」については,「(1)被疑者の同意」として,これまでの御議論を踏まえ,守るべき事項の設定等について被疑者の同意を要することに意見の一致があったため,「1の措置は,被疑者の同意がなければ,とることができないものとする」と記載しています。   「(2)弁護人の同意」については,被疑者の権利利益の保護のために弁護人の同意を要するとする案と,弁護人の同意を要しないとする案とがあったことから,これらをA案及びB案として併記しています。   「(3)裁判官の関与」については,守るべき事項が適正であり,かつ,被疑者が任意に同意したと裁判官が認めた場合に限り措置をとることができるものとするか,そのような要件は設けないものとするかについて,守るべき事項の適正性及び被疑者の同意の任意性を確保するために要件を設けるものとする案と,要件を設けないものとする案があったことから,これらをA案及びB案として併記しています。   「3」の「守るべき事項の基準」については,一定の基準を法定するか否かについて,守るべき事項の恣意的な設定を防止するために,基準を法定する必要があるとする案と,法定しないものとする案があったため,これらを併記しています。このうち,法定するとする案については,これまでの御議論を踏まえ,「守るべき事項は,犯罪事実との関連性,改善更生のための必要性及び内容の相当性が認められるものでなければならない」とする案をA案として記載しました。   「4」の「守るべき事項の変更」については,これまでの御議論を踏まえ,変更する必要があるときは,設定の際の手続に準ずる手続により変更することができることにおおむね意見の一致があったため,「検察官は,必要があるときは,守るべき事項を変更することができるものとし,その手続は,守るべき事項の設定の手続に準ずるものとする」と記載しています。   「5」の「期間の満了の効果」については,守るべき事項に違反することなく期間を経過したときに,検察官は公訴を提起することができないものとするか否かについては,一定の期間にわたって指導・監督を受けたのに起訴があり得るとすることは,被疑者の負担の点で相当でないことから公訴を提起できないものとする案,守るべき事項を守ることの動機付けとして起訴を制限することは必要であるものの一定の場合に起訴できる可能性は残すべきことから,例外的に公訴を提起できるものとし,措置をとった後に重要な証拠を発見した場合を除いて公訴をできないものとする案,そのような効果を設けないこととする案があったことから,これらをA案,B案及びC案として併記しています。   「6」は,少年鑑別所の調査機能の活用の在り方について,これまでの御議論を踏まえ,「1の措置をとるについて必要があるときは,少年鑑別所に調査を依頼することができるものとする」と記載しています。   次に,検討課題について御説明します。   まず,「1 制度の必要性及び相当性」及び「2 対象者等」については,従前の資料にも記載していたものですが,引き続き検討課題としています。   「3 制度の枠組等」については,これまでの御議論を踏まえ,更に具体的な検討を要すると考えられるものとして,「(1)指導・監督の期間等」の「指導・監督の期間」及び「期間の延長の可否」並びに「(2)守るべき事項を守らなかったか否かについての審査手続」について,引き続き検討課題として記載をしています。   次に,「第2 起訴猶予となる者等に対する就労支援・生活環境調整の規定等の整備」の枠囲みの記載について,御説明します。   これまでの当分科会での御議論を踏まえると,起訴猶予となる者等の社会復帰を促進するためには,起訴猶予処分前の者に対しても更生緊急保護を実施できるようにすることや,勾留中の者に対しても,更生緊急保護の一環として,釈放後の住居,就業先その他の生活環境の調整を実施できるようにすることが適当であるという点で,おおむね意見の一致があったように思われます。   そのため,「1」では,「刑事上の手続による身体の拘束を解かれた被疑者であって,犯罪をしたと検察官が認めたもの(公訴を提起され,又は家庭裁判所に送致された者を除く。)を更生緊急保護の対象に加えるものとする」と記載しています。   また,「2」では,「(1)」に「保護観察所の長は,勾留されている被疑者であって,犯罪をしたと検察官が認めたものについて,その者から申出があった場合において,身体の拘束を解かれた後緊急に保護することが改善更生のために必要であると認められるときは,その者の家族その他の関係人を訪問して協力を求めることその他の方法により,釈放後の住居,就業先その他の生活環境の調整を行うことができるものとする」と記載するとともに,手続については,現行法の身体拘束を解かれた後の更生緊急保護と同様の内容とすることが適当であると考えられることから,「(2)」から「(4)」までにその旨を記載しています。   「3」の「検察官による関係機関に対する協力依頼」については,検察官が被疑者を起訴猶予処分にして釈放するとき等に,関係機関と連携して再犯防止を図るために,関係機関に協力を依頼することができる旨の規定を設けることについて,おおむね意見の一致があったと思われますので,「検察官は,被告人又は被疑者が身体の拘束を解かれる際に,その者の改善更生・再犯防止を図るため必要があるときは,公務所又は公私の団体に対し,必要な協力を求めることができるものとする」と記載しています。   配布資料22の説明は以上です。 ○小木曽分科会長 ありがとうございました。この段階で,今の説明に御質問や,ほかに検討課題があるのではないかといった御意見がありましたらお願いします。   よろしいでしょうか。   それでは,配布資料22に沿って検討を行いたいと思います。   まず,「第1 検察官が働き掛けを行う制度の導入」についてですけれども,この論点に関しましては,前回会議におきまして,起訴猶予となっているものの具体的な事例を踏まえて更に検討すべきではないかという御意見があり,事務当局にそれに関する資料を作成してもらいましたので,それについて御説明いただきたいと思います。 ○羽柴幹事 「第1 検察官が働き掛けを行う制度の導入」に関する資料として配布しております配布資料23「平成28年に起訴猶予処分となった20歳及び21歳の被疑者の事件の概要(法定刑が短期3年以上の懲役又は禁錮に当たるもの)」について御説明します。   なお,配布資料23及びその資料説明のうち具体的な事例にわたる部分などは,対象者の特定につながる可能性があることに加えまして,この資料及び説明は,起訴猶予となる事案が明らかになることによって犯罪の予防,捜査等に支障を及ぼすおそれがありますので,このような公表に適さない内容については資料を非公表とするとともに,該当部分は議事録に記載せず,非公表とさせていただきたいと思います。   それでは,配布資料23について御説明します。   分科会長からも御説明がございましたけれども,当分科会の意見交換において,比較的重い罪名でありながら起訴猶予となっている事例を踏まえ,更に検討を深めていくべきではないかという御指摘があったことを踏まえ,被疑者が処分時,20歳又は21歳であり,起訴猶予となった事件のうち,比較的重い罪名のものについて調査を実施しました。   まず,全国の検察庁において,平成28年に既済となった刑法犯の事件のうち,処分時の被疑者の年齢が20歳又は21歳で起訴猶予となったものは4,018件でした。このうち行為責任が重い可能性が高いものとして,執行を猶予することができる懲役又は禁錮の刑期の上限が3年であることを考慮し,減軽がなくても刑の執行を猶予することができる限界である短期3年以上の懲役又は禁錮が法定刑として定められている罪名を抽出したところ,その件数は27件でした。なお,統計上,未遂や幇助も含まれています。資料23はその概要をまとめたものです。これらの事件について,グループに分類して事案の概要を申し上げます。<ここで不起訴事件の概要について説明がなされた。>   配布資料23の説明は以上です。 ○小木曽分科会長 ありがとうございました。   ただいまの御説明に御質問はございますか。 ○羽間委員 時間がないところを調査いただきまして,本当にありがとうございます。ただいまの御説明を踏まえて2点,質問をさせていただきたいと思います。   前回申し上げましたとおり,罪名や犯罪行為が比較的重いのに起訴猶予となっている事例の調査について,事務当局にお願いをさせていただいたところです。今回の調査では罪名に注目をして,罪名が重いものについて集めていただいたようなのですけれども,私としましては,前回も申し上げましたとおり,罪名だけではなくて犯罪行為の内容としても重いのかということについて確認させていただきたいと思っていまして,その趣旨での質問です。   今御紹介のあった事例のうち,例えば13番などは,かなり詳しく御説明を頂いて,事案のイメージがわいたものでございますが,他方で,3番目のグループで御紹介されていた中で,3番から7番については,<ここで不起訴事件の概要を前提とした説明がなされた。>としか紹介されませんでした。また,12番と21番は,事案の内容について,<ここで不起訴事件の概要を前提とした説明がなされた。>ということしか御説明いただけませんでした。今回の会議では,この資料等に関する議事録は非公表ということですので,もし差し支えなければ,3番から7番,あと12番と21番について,できる限りの範囲でよろしいので,具体的な事案の内容を教えていただけませんでしょうか。 ○羽柴幹事 広く調査をしたところではございますけれども,先ほど御説明したことを越える御説明をすることができるものが手元にございませんので,これ以上の御説明を現時点ですることは困難でございます。 ○羽間委員 そうですか,分かりました。もう一つ質問させていただいてよろしいですか。   <ここで不起訴事件の概要を前提とした説明がなされた。>という御説明があったように思うのですけれども,それはよろしいでしょうか。 ○羽柴幹事 説明はそのようにいたしました。 ○羽間委員 事案の具体的内容を御説明いただけませんでしたので,何と申し上げたらいいのか分からないのですけれども,<ここで不起訴事件の概要を前提とした説明がなされた。>とだけ御説明いただいた事案の中には,恐らく犯罪行為の中身としても重いものもあり,中には,仮に起訴されれば重い刑が言い渡されるというようなものもあるのかなと推察いたします。詳しいことがよく分かりませんでしたけれども,例えば,<ここで不起訴事件の概要を前提とした説明がなされた。>というのが,急になされたというイメージですので,こういった事案の犯罪行為に関して,重い刑が言い渡されるようなものなのかどうかということについてお伺いしたいと思っております。ただし,そういうことに関して,私は専門外でございますので,実務感覚に照らしてどうなのかということを,事務当局ではなくて実際に量刑をお決めになっている裁判所の方に聴かせていただきたいなと思いました。もう一度質問を整理させていただきます。   今お話のあった事案のうち,具体的内容が御説明いただけず分かりませんので,あえて仮定をしての質問になりますので,大変お答えづらいかもしれないと思いますが,犯罪行為の重さということで,例えば,<ここで不起訴事件の概要を前提とした説明がなされた。>そういう被害者の意向というものが特にない場合,つまり,示談成立とか被害者が処罰を望んでいないという事情がないということで起訴された場合は,実刑も考えられる程度の重さの犯罪行為なのかということを教えていただければと思います。まとまりのない質問で申し訳ないのですが,仮定の話ということで,お答えいただくのがとても難しい質問で,恐縮なのですけれども,そういう被害者の意向というものなどが特になかった場合にどのような判決があり得るような犯罪行為なのかということについてお伺いしたいと思います。 ○福島幹事 結論から申し上げると,なかなかお答えは難しいということになろうかと思います。やはり量刑の判断というのは,その事件の中身をしっかり見て,どういう犯罪なのか,どういう経緯でそうなったのか,どんな結果が生じたのか,また,被害者がいる犯罪であれば,被害者がどういう意向を持っているのか,示談がどうなったのか,そういうことを総合的に考慮して決めるものですので,今お話に出ているような抽象的な情報だけで量刑がどうなるのだと御質問されても,なかなかこれはお答えしづらいということになります。 ○羽間委員 お答えいただきにくい質問をいたしまして,大変恐縮でございます。   もう1点だけ,追加で事務当局にお願いをしたいと思います。今回は若年者の事件で罪名が重いものという基準で集めていただいたわけでございますけれども,起訴猶予となっている事案の中には窃盗,恐喝,傷害など,必ずしも重い罪名とはいえないものの,被害結果等の点からは犯罪行為の内容が重いものというものもあるのではないかと思います。実際に少年とか若年者の非行とか犯罪名とかを見ていますと,むしろこういった罪名の方が多いのではないかと思います。今回以上に調査が難しいと思うので,非常に恐縮なのでございますが,今回のように重い罪名ではなくて,窃盗,恐喝,傷害など,少年や若年者が行う非行あるいは犯罪として比較的多い罪名で,被害の結果などから見て犯罪行為の内容が重いと思われる事案で起訴猶予となっているものがないかどうかということを,追加で調査を頂けないか,そして部会で御紹介いただけないかということがお願いでございます。   もちろん,今回紹介していただいたものに比べますと事例の数が膨大になると思われますので,例えば,調査期間を1か月に区切るとか,特定の庁で扱った事件に限定するとか,その中で一定以上の被害結果の事案で起訴猶予となっているものに限って調査をするというように,調査の幅を大幅に限定した上で,何とか調査いただいて,次の部会が難しければ,その次の部会でも結構でございますが,その調査結果を提出していただくというわけにはいかないかということがお願いでございます。 ○羽柴幹事 御指摘いただきましたように,件数が非常に多いという問題があろうかと思います。また,それについて一定の区切り方をするとした場合に,その区切り方が適当で,その取り出し方でよいのか等,調査については様々な問題があろうかと思いますので,今後の部会のことでございましたら,部会長とも御相談をさせていただいて,検討させていただきたいと思います。 ○太田委員 詳しい事案は分からないということではあるのですけれども,私が今日の事例を見て非常に印象深く残ったことは,別件公判請求済みというケースが起訴猶予処分の対象者に非常に多いのだなということでございます。起訴猶予処分になるときにこれらの余罪が発覚していたら,恐らく起訴猶予処分にはなっていないだろうと考えますと,この別件で公判請求されたという事案は起訴猶予処分後に発覚したか,起訴猶予処分直後に犯行を行ったということが考えられると思うのですけれども,そのような理解でよろしいでしょうか。 ○保坂幹事 個別の事件の時系列は承知していませんが,検察官をしていた経験から申し上げますと,例えば,最初に起訴した上で,幾つか追起訴をした後に,まだ余罪があるという場合があります。そのときに,既に起訴済みの事件で刑政の目的を達するという場合,つまり,最後の残っている余罪を起訴しても量刑が変わらないという場合には,最後のものについて事実は認められるけれども,訴追はしないという判断をして,起訴猶予処分にするということはままあります。特に連続して犯行に及んでいるようなものについては,何件か起訴し,余罪を起訴猶予にするということはままあります。 ○太田委員 なるほど。別件公判請求済みの事案の方が先に立件されて,起訴されているという可能性も十分にあるということですね。 ○保坂幹事 捜査の時系列は分かりませんが,恐らく不起訴処分をする時点では起訴済みであることが多いだろうと思います。 ○太田委員 分かりました。そこも含めまして,私が感じたことは,事件の前後関係がどうであれ,こういった別件公判請求済みとなっているような起訴猶予処分対象者というものは,やはり再犯性といったものがかなり高く想定されると思われます。ただ,これが今回の,守るべき措置を設定して起訴猶予にするという事案の対象になるかどうかというのは微妙で,別件公判請求されてしまっていますから,こういったものは対象外なのだとも考えられますし,恐らく別件公判請求になっていない別件のようなものがあるという可能性も十分にあると考えられますので,そういったものは起訴猶予処分だけでは更生が,若しくは再犯防止が難しいというケースもあるのではないかと思いますので,今回検討しているこの制度といったものは,そういう場合に意義がある制度ではないかと感じた次第でございます。 ○小木曽分科会長 ほかに御質問はございますか。   よろしいですか。   それでは,ただいまの御説明を踏まえまして,「第1 検察官が働き掛けを行う制度の導入」について検討をしたいと思います。   このテーマにつきましては,部会に報告する制度概要案がおおむね作成されているところですけれども,枠の下の「検討課題」にある項目につきましては,引き続き検討する必要があると思われるものです。   また,枠内につきましてもA案,B案,場合によってはC案も併記されているものがありますので,本日の進め方としては,まず,このテーマについては【検討課題】について御意見を頂くことにいたしまして,その後,枠内の項目について検討したいと思いますが,そのような進め方でよろしいでしょうか。               (一同異議なし)   それでは,まずは検討課題のうち,従前の資料にも記載しておりました「1 制度の必要性及び相当性」,それから「2 対象者等」について検討したいと思います。   これらの検討項目につきましては,従前の資料と同じ記載がされているところであり,既に様々な御意見も出ておりますので,これまでお出しいただいた御意見のほかに御意見があれば,御発言をお願いします。 ○田鎖幹事 主として制度の相当性と,それから対象者に関わることですけれども,必然的に制度の枠組み等とも関連してくる問題でございます。私自身,これまでの他の委員・幹事の御意見の理解が不十分だったと反省しております。私は,検討課題の相当性のところにも書き出していただきましたように,なぜ裁判所の認定を経ることなく検察官が一定の処遇をすることができるのか,その根拠について疑問を持って,当分科会の第6回会議では保坂幹事にも御質問をさせていただきました。そのときには保坂幹事は,「検察官が本来,訴追裁量権の発揮として,守るべき事項を守ったのであればそれを良い情状として考慮しようということを想定しながら守るべき事項を設定し,それを守れたのであればそのとおり起訴猶予処分にするが,それが守れなかった場合には,場合によっては,それを起訴する判断を行うという大きな仕組みの中で,この制度,この仕組みというものも考えられる」と,このようにおっしゃっておられて,議事録を拝見しましても,その前から,あるいはその後も同じような趣旨の御発言をされております。   ただ,ここで御説明されているのは,守るべき事項の設定と,それが実際に守られたかということを検察官がどう評価するか,つまり,その仕組みの入口部分と出口部分について触れられているわけですけれども,中間部分の検察官による積極的な働き掛け,すなわち処遇の根拠については具体的に述べられていないと考えます。すなわち,指導・監督という積極的働き掛けの根拠について,どうもこれまでの当分科会での議論は十分ではなかったと私は考えます。   具体的に申し上げますと,まず第一に,このような仕組みにおいて,なぜ検察官による処遇が本人の同意なしに可能なのかということを明らかにされておりません。制度の概要の枠囲みの方にもありますけれども,ここでは要件の「(1)」においては,被疑者の同意というのは単に守るべき事項の設定についての同意ではなくて,本件措置をとるための要件として位置付けられております。ここで,仮に前提として,私以外の委員・幹事はそのような御意見が多かったと思いますけれども,同意というのは法的には不要だが実効性確保のために必要なのだという立場を採りますと,理論的には,本人の意思に反してでも積極的に処遇をなし得るということになります。したがいまして,仮に一旦制度が出来上がりますと,この同意という要件を撤廃することも理論上は可能ということになります。しかも,ここで想定されている処遇というのは,保護観察官の機能を用いた一定期間に及ぶ指導・監督というもので,かなり強力なものとなります。しかし,法的には飽くまで無罪推定の及ぶ被疑者に対して,本人の意思に反してでも,理論的にはですが,積極的に処遇するということが刑事訴訟法上どのように正当化できるのか,ということの根拠が具体的にこれまでのところ明らかにされていないと考えます。   したがいまして,検討課題の相当性のところに,裁判所による犯罪事実の認定を経ていないのに一定の処遇を行うこととすることは相当か,と記載されておりますけれども,この相当か否かの検討というのは今後の部会も含めて,かなり緻密かつ厳格に行う必要があると考えます。まず,これが相当性に関してです。   次に,対象者に関わる点です。今の点とも深く関わるのですけれども,制度概要といたしましても,検察官において,「被疑者が罪を犯したと認める場合」としかまとめられておりません。しかし,これまでの分科会の議論の中では,被疑者も事実を認めていて,検察官も被疑者が証拠上,罪を犯したと認定できる事案について,その訴追裁量の下で再犯防止措置をとることがなぜ許されないのかというような御発言もございました。当然に被疑者が事実を認めているのだということが議論の前提になっていたように思われます。しかし,起訴猶予制度自体は被疑者が事実を認めていることを前提とするものではありませんし,検察官において罪を犯したと認定すればよい制度であります。そうしますと,これも理論的には,被疑者が事実を認めているということは必要ではないはずで,そうであるからこそ,制度概要にもそのような記載はされていないのかなと理解できます。   そうしますと,第一に,被疑者が事実を認めない場合に措置の対象にしないというのは飽くまで運用上の問題であって,法的に要求されるものではないと理解せざるを得ません。そうであるとしますと,理論的には,被疑者が事実を認めていなくても,かつ,先ほど述べた点からしますと,理論的には同意がない場合であっても指導や監督が可能だということになります。理論的にはそのようなバックグラウンドを持った制度ないし仕組みであるとしますと,制度の相当性と同様に,どうしてそういうことが検察官単独において可能なのかということが大きな問題になると考えます。 ○小木曽分科会長 必要性,相当性,対象者について,ほかに御意見はいかがでしょうか。 ○羽間委員 対象者についてなのですけれども,まず幾つか質問させていただいて,それを踏まえて意見を申し上げたいと思います。   本日,事務当局にお配りしていただいた資料についてですが,先ほど事務当局において御説明いただいた起訴猶予の事案は,いずれも20歳以上ということでございました。他方で,前回も申し上げましたとおり,今般,仮に少年年齢が引き下がった場合に,18歳及び19歳で現行で保護処分を受けているものが起訴猶予となって,この制度の対象となり得るのかということについても確認しておくべきだと思いました。その検討の材料として,ちょうど第2分科会の方で少年院送致となった事例を調査していただいているようでしたので,議論の前提として配布をお願いしたということです。時間を取って申し訳ないのですけれども,第2分科会を傍聴していないことから,各事例について,何をしたのか,その非行内容のところだけで結構ですので,事務当局から簡単に御説明いただけないでしょうか。 ○小玉幹事 配布資料20の「平成28年に少年院を出院した者(出院時18歳以上の者)のうち,在院期間が133日以下であるもの」の資料について,9件記載していますけれども,各事案について,御説明します。   1件目ですけれども,これは元交際相手を強姦したもので,第1種少年院送致の決定がされているところでございます。以下,事案の中身に限定して申し上げますと,2件目は,共犯者とともに鍵や現金を盗んだ窃盗,住居侵入及び器物損壊の事案です。3件目ですけれども,交際相手が被害者に貸した金を返済させようと考えて,被害者に暴行を加えて現金を脅し取ろうとした恐喝未遂及び傷害の事案でして,傷害結果としましては,加療約20日間を要する左足の挫傷及び加療約132日間を要する歯牙破折という内容になっています。4件目ですけれども,他人の親族等になりすまして現金をだまし取る特殊詐欺について,現金の受け取り役を行ったという事案で,2件の詐欺及び1件の詐欺未遂の事案です。5件目が,共犯者とともに通行人に対して因縁を付けて現金を脅し取ったという恐喝2件の事案でして,このうちの1件では,暴行を加えたことによって被害者に全治約2週間を要する外傷,打撲傷等の傷害を負わせたというものです。6件目は,酒に酔って通行人とけんかをした上で加療約1週間を要する打撲傷,捻挫の傷害を負わせ,また,コンビニでの万引き窃盗及び集団暴走による道路交通法違反を行ったという事案です。7件目は,無免許運転と集団暴走による道路交通法違反の事案です。8件目は,大麻を含有する植物片約4.7グラムを所持したという大麻取締法違反の事案です。9件目は,知人に暴行を加えて全治約1か月間を要する鼻骨骨折の傷害を負わせたという事案です。   簡単ですけれども,配布資料20の各事案の御説明になります。 ○今福幹事 続きまして,配布資料26の説明をさせていただきます。   資料26は平成28年に少年院を仮退院した者で,少年院送致決定時18歳以上の者を選んでおりますので,今御説明いたしました配布資料20とは事案の選び方が異なっており,そのため,事例に若干の重なりがございます。1番から8番については配布資料20のうち2番だけ除いたものと同じ事例です。その他の事例について,時間の関係もございますので,第2分科会第10回会議で御説明いたしましたように,罪名あるいは被害の結果などで重いものを中心にピックアップして御説明させていただきます。   まず,主たる非行名の法定刑が短期1年以上のものは5件ございます。うち1番の事例については,先ほど申し上げたとおり説明を省かせていただきます。11番は,強盗,強盗未遂です,共犯者と共謀の上,深夜に帰宅中の被害者3名に対して暴行,脅迫を加え,被害者2名から現金それぞれ5,000円及び8万円を強取し,残りの被害者についてはその目的を遂げなかった事例です。次に,29番の非現住建造物等放火は,共犯者と共謀の上,火災保険金詐取目的で建物に放火し,全焼させた事例です。次に33番の強姦致傷,逮捕監禁は,元交際相手に対し,車中で手足を緊縛し監禁して姦淫しようとしたが,抵抗されて目的を遂げず,その際,加療約14日間の傷害を負わせた事例です。65番の強盗致傷は,共犯者と共謀の上,通行人に暴行を加えて,現金3,500円等在中で,時価500円相当の財布などを強取し,加療約6週間の傷害を負わせた事例です。   次に,非行名に含まれている刑法犯の罪名として多かったものは窃盗,傷害,詐欺,恐喝です。その中で被害結果の重いものについて御説明いたします。最初に,非行名に窃盗が含まれているものは26件でございまして,そのうち被害額の大きいものを御説明いたします。まず,19番は,見ず知らずの被害者に因縁を付けて車内に連れ込んで暴行した後に,窃盗の犯意を生じて現金約5万円を窃取した事例です。次に21番は,換金目的で集合住宅の物置に侵入してバッグなど時価合計約23万円相当を窃取した事例です。次に26番は,約1か月半の間に複数回にわたって勤務先の店舗からスマートフォン合計24台,販売価格合計約230万円相当を転売目的で窃取した事例です。40番は,出張の際に宿泊していた施設において同僚のバッグから現金約5万円を窃取した事例です。45番は,共犯者と共謀の上,二度にわたり駐車中の自動車に取り付けられていたバッテリー合計33個,時価合計約60万円相当を換金目的で窃取した事例です。52番は,共犯者と共謀の上,自己使用目的で,駐輪場に駐車中のバイク1台,時価約20万円相当を窃取した事例です。次の53番は,交際相手の家から現金1,700円及び財布など,時価合計約7万円相当を窃取した事例です。59番は,民家への侵入窃盗など5件で,被害額合計は約114万円の事例です。最後に,63番は,自己使用目的で軽自動車2台,時価合計約34万円相当を窃取した事例です。   次に,非行名に傷害が含まれている事例は10件ございまして,そのうち傷害結果が大きいものについて御説明いたします。このうち,8番は説明を省かせていただきます。次に,34番は,これは飲酒の上,路上でトラブルとなった被害者に対し,顔面を足蹴りする暴行を加え,加療約56日間を要する傷害を負わせた事例です。44番は,共犯者と共謀の上,遊び仲間であった被害者に対し,制裁目的で熱湯を浴びせるなどして加療約3週間を要する熱傷の傷害を負わせた事例です。   次に,非行名に詐欺が含まれている事例は10件あり,そのうちの8件は振り込め詐欺等の特殊詐欺の事例でございます。それ以外の2件について御説明いたしますと,まず12番は,無銭飲食3件,被害額合計約2万円のほか,万引きや侵入などを複数回行い,被害額合計は約4万円の事例です。42番は,インターネットを利用したチケット販売詐欺で2万4,000円をだまし取った事例1件のほか,ユーフォーキャッチャーの景品,時価合計4,000円相当を転売目的で窃取した事例1件です。   次に,非行名に恐喝が含まれている事例は6件であります。このうち2番と4番は説明を省かせていただきます。残り4件について御説明いたしますと,35番は,共犯者と共謀の上,少年の交際相手と遊んだと因縁を付け,被害者から約24万円を脅し取った事例です。37番は,友人を介して知り合った被害者に家電を販売した後,被害者が代金を支払わなかったことについての迷惑料などの名目で現金合計45万円を脅し取った事例です。49番は,共犯者と共謀の上,地元の後輩である被害者に加療約2週間を要する傷害を負わせた上,現金を脅し取ろうとしたものの目的を遂げなかった,傷害,恐喝未遂の事例及び同じく地元の後輩である別の被害者に加療約1週間の傷害を負わせた事例です。最後に,55番は,共犯者と共謀の上,知人である被害者を呼び出して因縁を付けて7,000円を脅し取った事例1件と,同じ被害者から更に現金を脅し取ろうとするも目的を遂げなかった事例1件です。 ○羽間委員 今の御説明を聞いていて,比較的軽い事案だと考えられるのかなというものも幾つかあった一方で,なかなか重い犯罪行為に及んだものも対象になっているのだなという印象を受けました。また,今御説明いただいた事案の中には強姦,傷害,恐喝といった比較的重い犯罪行為の事案であるものの,元々,少年と被害者とに関係性があるような事案もあるようでした。小玉幹事がおっしゃった1番と9番は,関係が元々あった事例かなと思いましたが,間違いないですか。 ○小玉幹事 はい,1件目は被害者は元交際相手,9件目の被害者は知人ということです。 ○羽間委員 あと,今,今福幹事がおっしゃった事例では,33番が元交際相手ですか。 ○今福幹事 はい。 ○羽間委員 55番も知人とおっしゃっていましたか。 ○今福幹事 そうですね。 ○羽間委員 こういった事案,つまり,事件前から被害者と関係性があるような事案について,事件後に被害者と示談をしたとか,あるいは被害者が処罰を望まないというような事情がある場合には,先ほどの執行猶予の御説明を踏まえれば,起訴猶予になり得るものもあるのかなという印象を受けました。先ほどの配布資料23の起訴猶予の事案は具体的な犯罪行為の重さが分かりませんので,比較することが難しいのですけれども,そんな印象を受けたところです。   私個人の意見ではなくて,実務の観点からお伺いしたいと思うのですけれども,これも仮の話で恐縮なのですが,今申し上げたような,元々被害者と関係性があったような事案につきまして,示談とか被害者の非協力というような事情がある場合,被害者の意向次第では起訴猶予になるということは考えられるのでしょうか。それとも,今申し上げたような事案は,被害者の意向等,どのような事情があっても決して起訴猶予にはならないということなのでしょうか。 ○保坂幹事 起訴猶予処分にするかどうかというのは,刑事訴訟法第248条に規定があり,その中でもおそらく,「犯罪の軽重」というところがウエイトが大きいと思います。ただ,実際は相当,個別の事件によるところであり,今御説明を伺ったのは,少なくとも少年院に入った者ということになります。一般的に言えば,非行事実の重さというのが要保護性にも反映され,つまり,要保護性が高いから少年院にある程度入っているわけだとすると,非行事実の重さも相応にあると言えようかと思います。   第2分科会でも同じような御質問,御議論があったわけですが,その中で,私も御説明を伺っていて思いますのは,聞いている中では,大麻取締法違反の事件がありました。資料20でいうと8番で,資料26でいうと6番になりますが,これは大麻を含有する植物片約4.7グラムの所持ということでしたので,常習性とか入手の状況とかにもよりますが,犯罪行為そのものからすると,起訴猶予になる可能性があるかと思われるものです。それ以外については起訴猶予になるというのは考えにくいのではないかと思いながら聞いておりましたが,他方で財産犯も,手口や態様など中身にもよりますけれども,例えば被害額が軽微で,被害弁償して示談もできて被害者が宥恕しているということであれば,起訴猶予になるものがあるかもしれないと思います。 ○羽間委員 分かりました。本日は時間がない中で御準備を頂いたということもありまして,私も聞いたばかりでまだ整理しきれておりませんので,必ずしも十分な検討がなされたとはいかないかと思っております。部会におきましては,本日と同様に,起訴猶予となってこの制度の対象となり得る人がどういった犯罪行為に及んだものなのか,あるいはどういった問題性があるのかということをもっとクリアにしていただいて,その上で,そういった起訴猶予者に対する措置として,いかなる制度で対応するのが最も適当なのかということについて,なお検討していきたいと思います。 ○太田委員 今,必要性,相当性,対象者のところだと思うのですが,先ほどの田鎖幹事の発言について,検事の方と田鎖幹事にそれぞれ確認したいのですが,飽くまで運用上ではという限定がついていましたけれども,現在,犯罪事実をかたくなに否認しているのに起訴猶予にするということは私はないと思っていたのですけれども,そういった運用が行われているのでしょうか。それから,田鎖幹事にお聴きしたいのは,これは,守るべき事項を付した上で起訴猶予にするということの問題性というよりも,起訴猶予そのものに内在する問題,要するに,本人が犯罪事実を否認しているのに起訴猶予にする,起訴猶予というのは犯罪事実を前提とした処分だということになるので,守るべき事項を付するかどうかということの問題は別途検討するとして,そういうことがいけないとなると,要するに起訴猶予という制度そのものがいけないと,そういう御主張につながるかと思うのですけれども,その点はいかがでしょうか。 ○保坂幹事 まず,前提の質問ですけれども,網羅的に調べた経験があるわけでもないのですが,私自身の経験で言うと,積極的に否認をしている者を起訴猶予処分にした経験というのは,私自身はありません。 ○田鎖幹事 私は検察官としての立場で聴かれているわけではないのですけれども,私自身も,例えば積極的な否認ではないかもしれませんが,黙秘で認めないという事案で起訴猶予になったというのは何件も経験しております。それは正に,先ほどおっしゃっていた「犯罪の軽重」という,軽いというところで判断されて,認めないけれども猶予になるというのは決して珍しくはないと考えます。   それで,先ほど,起訴猶予自体に内在する問題であって,起訴猶予制度自体がいけないという主張なのかというような御指摘ですけれども,私が申し上げたのは,後で制度の枠組みのところで申し上げようかと思っていたのですけれども,要は,起訴猶予という枠組みの中で制度設計するのだというようなざくっとした議論が進んできたのですが,そうなのかと,一般的に,例えば刑事政策の教科書とかを見ても,起訴猶予という制度と積極的な処遇というのは現行法下では結び付かないではないかというようなことも書かれております。それを,いや,元々刑事訴訟法第248条の中で処遇までできるのだと捉えて,はっきりそのように意識した上で議論がこれまでなされていたかというと,私はそうではないと思います。別の考え方として,第248条ではできないけれども,それとは別に,関連はするかもしれないけれども,別の権限を検察官に持たせるのだと,そういう考え方もあると思います。   ですから,いずれと考えるかによって,内在する問題なのかどうかということも考え方が違ってくると思います。もちろん,起訴猶予権限の中でということであれば,起訴猶予をする権限があれば,ほぼ無制約にどのような判断もできるのだと捉えると,御指摘のような方向に行きやすいのかなとも理解しますが,少なくともこれまでの現行刑事訴訟法に関する議論としては,そのような一致というのはなかったのではないかと。そうすると,起訴猶予に内在するものとして直ちに捉えるというふうにはできないと私は考えます。 ○太田委員 少し質問の趣旨が御理解いただいていないようです。プラスアルファの部分をどうするかということではなしに,被疑者が犯罪事実を否認しているのに起訴猶予処分にする。起訴猶予処分というのは犯罪事実を前提としていることで,ある意味で不名誉なことなわけですね。それに加えて措置をするかどうかということは,それはまた別の検討をしなければいけないのですけれども,被疑事実を否認しているのに起訴猶予処分にすること自体が問題だということになってくるので,そうすると,裁判所か何かが事実認定をした上で起訴猶予処分にするみたいな話にもなりかねないので,そこは起訴猶予制度そのものの問題,検察官としては,基本的には本人の自白なり,犯罪事実を証拠から確認できるということをもって起訴猶予処分にするということなんでしょうけれども,そうでない場合,黙秘というのは別に否認しているわけではなくて,否認も肯定もしていないわけですね,そういう場合には検察官としてもやはり処分を決めなければいけないということで,最終的にはいろいろなことを考慮して起訴猶予処分にする場合はあるというお話でしたけれども,そこに,プラスアルファの部分ではなくて,犯罪事実を検察官自体の判断で起訴猶予処分にしているということ自体に問題性があるということの御指摘なので,そこはやはりプラスアルファに何かしていいかどうかということとは関係なしに,起訴猶予処分そのものの特性といいますか,そういうことではないですかとお聴きしたのですけれども。 ○田鎖幹事 私自身は,私の冒頭の発言を御理解いただけていないと逆に考えておりまして,私が申し上げたのは,処遇というものが起訴猶予の裁量の中でできるのかということで,太田委員は元々それはできるという前提に立っておられるので,先ほど来の御指摘とか御質問が出てくるのだと思うのです。そこは当然にできるということについての検討自体が十分ではないのではないかというのが,凝縮しますと,私の最初の問題提起でございます。 ○太田委員 同じことの繰り返しになりますけれども,私はそのように考えておりません。 ○小木曽分科会長 まだしばらく詰めなければいけないということだろうと思いますが,できれば「制度の枠組等」の検討に進みたいのですが,よろしいですか。   それでは,「3 制度の枠組等」に進みます。   この検討項目につきましては,これまでの御議論を踏まえまして,更に検討しなければいけないことがあると思います。まず,「(1)指導・監督の期間等」について検討したいと思います。これについては,「指導・監督の期間」,それから「期間の延長の可否」という項目がありますけれども,どちらでも結構ですので,御意見がありましたら,お願いいたします。 ○太田委員 「指導・監督の期間」と「期間の延長の可否」についてですけれども,両者は関連しているので,併せてお話をさせていただくと,私自身は,制度を設けるとすれば期間に一定の上限を設けた上で検察官が被疑者に対して守るべき事項を設定するという制度が望ましいとは考えますけれども,実際にこの制度ができた場合の実務を考えますと,個々の事案に応じて,例えば1か月単位とか,そういうことで期間を設定するということは実際には難しいだろうと思います。そうなりますと,事案ごとのぶれといいますか,そういったことも大きくなることが予想されますことから,実際にはある程度は類型化したような適用がされるという可能性が高いと思われますので,固定期間とするA案か,上限を設定するような形で実際に個々に設定していくB案かということについては,実際の実務を考えますと,A案の方が実用的であるように思われます。   では,どれぐらいの期間にすべきかということにつきましては,従来の社会内処遇,そういった実務を考えますと,3月というのは余りにも短いだろうということで,この間に更生の見極めをするということは難しいと思います。反対に,事案によっては短い指導・監督の期間でよい場合もあるので,全てのケースを1年にするということも長いようには思いますので,妥協案というわけではないのですけれども,原則として6月とした上で,守るべき事項の内容によっては,例えば例外的に1年を設定することができるということが現実的であるようには思います。当初より1年と設定してしまいますと,もしこの守るべき事項を守らなかった場合に,守るべき事項の変更ということも考えられますけれども,もう少し履行の有無を見極めて更生の可能性,再犯の可能性というのを見極めたいということで猶予期間の設定を延ばすということをしたくても,できないことになってしまいますので,そこで原則として6月としておいた上で,状況に応じては,最初に設定するときも個別の事案によってはもう少し長く1年としておく,若しくは6月に設定した上で,履行状況によっては1年に延長するということができるようにしておくということが妥当ではないかと考えております。 ○田鎖幹事 従前も私は公判請求された場合の期間というのを引き合いに出したのですが,制度の必要性として,起訴に伴う負担を回避して早期の社会復帰を実現するということを掲げるということでありますと,最小限の期間とならざるを得ないだろうと考えます。現に有罪認定を経た上で行われる保護観察所の実施する専門的処遇プログラムの場合には,十分な保護観察期間があるということが前提となっておりますので,そういうことは余り直接的な参考にはできませんし,また,刑務所の特別改善指導も指導を行うための刑期が十分にあるということが前提の上で行っていると承知しておりますけれども,それでも刑務所の特別改善指導の標準的な期間としては,短いものですと1か月とか2か月,全体的には大体3か月から6か月ぐらいで行っているようであります。ほかの考慮要素もあった上で最終的な判断をするということで,これだけで判断するわけではないという御説明もありましたので,私は,3月から始まって,延長があっても6月を超えない期間というのが限度ではないかと考えます。 ○保坂幹事 まず,「指導・監督の期間」について申し上げたいと思います。   太田委員は,実務の観点から,固定期間とするA案を出発点としてはどうかとの御意見をおっしゃって,それはそのとおり,十分成り立つ御意見だと思います。他方で,守るべき事項にはいろいろなバリエーションがあり得るということからしますと,固定期間としておくよりは,検察官が設定する守るべき事項の内容に応じて期間を決めるという方法も一つあるのではないかと考えられ,したがってB案ということです。先ほど御指摘のあった事案ごとのぶれということで言いますと,運用していくにつれて内部的な基準というのは徐々に出来上がっていくのだろうと考えられることから,事案ごとのぶれというのも徐々に解消されていくのではないかと思われます。   それから,検察官が期間を設定するとした場合,ある種,見込みでもって設定をするわけですけれども,見込みよりも早く改善更生が進むこともあろうかと思われますので,そのような場合には,解除というのか打ち切りというのか,そういうこともできる仕組みにしておくことも考えられるのではないかと思います。これは,法定期間というか固定期間を採用した場合にもある選択肢かと思います。   以上のように考えた上で,B案を前提にすると,上限期間ということになるわけですが,この上限期間は,指導・監督によって改善更生の実を上げ,あるいは,少なくともその見込みの見極めができるようになるために必要な期間ということになるわけですので,以前に1号観察のケースについてデータの御紹介がありましたけれども,1年以内で解除されるものが全体の4割で,15月以内になると全体の7割になるとのことでしたので,先ほど申し上げた観点からすれば1年程度の期間が必要であると思われますが,他方で,起訴猶予になるような事件を前提とすると,1年を超える期間というのは長いかと思われますので,上限は1年としておくことが考えられるのではないかと思います。   その上で,「期間の延長の可否」についてですけれども,守るべき事項を守っていなかった場合には,直ちに起訴するという途もあり得ようかと思いますけれども,改めて守るべき事項を守るように指導したり,あるいは,守るべき事項を変更するなどして,その指導・監督を継続するということが適当な場合もあろうかと思われます。そういう意味では,通じて1年は超えないというキャップをかぶせた上で,通じて1年を限度として延長は認めるという仕組みが考えられるのではないかと思います。 ○太田委員 私は,取りあえずA案と申し上げましたけれども,これにこだわるものではありません。私は,元々B案が持論なのですが,実務家の方の感覚だとどれがやりやすいかというような,これがもし制度化された場合の運用のことを考え,実際に関わる検察官の感覚において設定していただくのがよいかと思います。ただし,いずれにしても上限というのは設けなければいけないということは明らかですので,そこで判断していただければとは思っております。 ○小木曽分科会長 この程度でよろしいですか。   次に,「(2)守るべき事項を守らなかったか否かについての審査手続」について御意見がございましたら,挙手をお願いいたします。 ○保坂幹事 審査手続を設けるかどうかということですが,前回,裁判官が審査しないとしても第三者的な立場による審査が必要だという御意見が田鎖幹事からありました。どのような機関を想定するのかもイメージが湧かないわけですけれども,いずれにしても,田鎖幹事の御意見によりますと,その審査が行われるのは,起訴されることが確実な場合,あるいは起訴された場合ということでした。起訴されることが確実な場合というのがどういう場合なのか分かりませんが,仮に,検察官が起訴しようとするときには,この第三者機関による守るべき事項を守らなかったという審査・認定を経なければならないという手続だとしますと,これは守るべき事項を守ったときには法的に起訴を禁止するという効果があることを前提とするものということになりましょうから,そのような効果を持たせること自体の是非が問われるわけで,それについての問題点は,前に申し上げたとおりです。   また,起訴された場合に,守るべき事項を守らなかったか否かということを第三者機関で審査するということですけれども,起訴されたということになりますと,弁護人が,公判で,守るべき事項は守ったのだということを有利な情状として御主張される場合があると思いますが,それと第三者機関の手続はどういう形で進められるのか,また,第三者機関の認定と裁判所の判断とはどういう関係になるのか,第三者機関の出した結論に裁判所が拘束されるのか,翻って,弁護人が公判手続では,守るべき事項を守ったのだということの主張ができなくなるということなのかといった,いろいろ問題があるのではないかと思われます。   そもそも,守るべき事項を守らなかったかどうかということ自体が,多分に評価的な要素がありますし,守るべき事項が対象者のどのような問題性に対応して設定されたのかとか,あるいはその前提となるような犯罪行為に関わる事情も含めて,結局のところ行き着く先は,改善更生・再犯防止のためにどのような処分を要するのかというところに収れんされていくのだろうと思われますが,そういった検討を,刑事裁判が進行しているにもかかわらず別の機関が行うということには,やはり問題があると思いますので,こういった審査手続を設けるというのは,適当でないと思います。 ○田鎖幹事 前回の会議で,この点について随分時間を割いて,議論の対象になったのですけれども,私の問題関心の核心は,冒頭の発言でも述べましたように,そもそも検察官限りにおいて事実を認定して積極的な処遇ができるのかという点です。その権限が刑事訴訟法第248条の枠内でできるとするお立場というのも恐らくあるのでしょう,そうではなくて,新たに権限を付加するというお立場もあるのでしょうが,それも結局,非常に,裁量に縛りのないような大きな権限を与えるのだとしますと,それでいいのかということになるわけです。   後ほど枠囲みの議論もさせていただけるのかと思うのですけれども,大方の御意見というのは,先ほど期間の点は,上限が必要だという御意見が出ましたけれども,あとは期間満了の効果についてどうするかということを除けば,縛りはないのだという御意見が多かったように思います。しかし,新たな権限を付与するにしても,それは一定程度,制度として設計する以上は,恣意的な運用になることも想定した上で設計が必要ではないかということが一番の問題関心です。   ですので,先ほど保坂幹事が御指摘されたように,私は,「期間の満了の効果」というところでA案を前提としたからこういうことが出てきたわけですけれども,核心は,この審査手続そのものの有無にこだわるというようなことではなくて,有罪判断を経ていない人に対する積極的処遇とその効果を,手放しで全て検察官の大きな裁量に委ねる仕組みを作っていいのか,というところが核心ということでございます。 ○太田委員 保坂幹事から詳細な分析がなされていますので,私はそれをまとめたざっくりとした意見しかないのですけれども,やはり被疑者にとっての関心事は,守るべき事項を守ったか守らなかったかということではなしに,守らなかったことを理由に起訴されたということが一番の関心でしょうから,そうしますと,前にも申し上げたとおり,守らなかったとして起訴されたことの当否ということをここで審査するということが実質的なポイントになってくるだろうと思います。そうなりますと,守らなかったこと等を理由として,それを含めてですけれども,起訴されたということの当否を公判とは別の形で審査をするということは,検察官の訴追裁量権を認めている現行刑事訴訟法の枠組みにはやはりそぐわないと思いますし,仮に,例えば裁判所がこの審査を行うということになれば,公判とは別に,若しくは公判と並行してかもしれませんけれども,裁判所が起訴の当否を審査するということになりかねないので,妥当ではないとは思います。 ○小木曽分科会長 この項目につきましては,この程度でよろしいでしょうか。   次に,配布資料の枠内の記載について,これまで出ている御意見のほかに御意見がありましたら,お願いしたいと思います。 ○田鎖幹事 内容に関わることというよりは,まとめ方をどうするかというような観点なのですが,特に,「2」の「要件」のところを見ますと,「(2)」以下,A案,B案と並んでおりまして,様々な組合せがあるかのように見えるのですが,実際には全くそうではなく,全ての点についてA案を採る見解と,全ての点についてB案を採る見解,強いて言うと,「5」の「期間の満了の効果」についてはB案とC案に分かれるというのが実際ではないかと思われます。そうであれば,そのような,大きく二つに分けて,二つ目の中が更に分かれるというような整理をした方が報告された側としては分かりやすいのではないかと,たくさんの組合せがあるというわけでは実際にはないということをはっきりさせた方がいいのではないかと考えました。 ○小木曽分科会長 まとめ方につきましては,検討させていただくということでよろしいですか。   それ以外の点はいかがでしょうか。 ○太田委員 裁判所の関与について,また少し整理してお話をしようかと思っていたのですが,これまで出なかった話に限ってということで,ここは前にもう触れられている点ではありますので,そこは割愛させていただきます。今のような大きな話ではなくて,この内容で部会に出すわけですので,文言上の変更といいますか,お願いしたいと思っているのは,「3」の「守るべき事項の基準」についてです。B案という上記基準は法定しないという案もあるわけで,A案に,「1の守るべき事項は,犯罪事実との関連性,改善更生のための必要性及び内容の相当性が認められるものでなければならないものとする。」とあります。私はどちらかというとA案の方が妥当ではないかと思うのですけれども,改善更生のための必要性という文言は,私の見解としては,再犯防止という文言も併せて書いておくという表現が望ましいのではないかと考えております。再犯防止というのは改善更生と表裏一体の概念ではありますけれども,これを併せて表記しておくということは必要ではないかとは考えています。 ○小木曽分科会長 再犯防止という文言をどこに入れた方がよいという御意見でしたでしょうか。 ○太田委員 A案に,「1の守るべき事項は,犯罪事実との関連性」とあって,その次に,「改善更生のため」とありますけれども,その改善更生の前か後ろかというのはありますが,例えば,再犯防止及び改善更生のためというように,「再犯防止」という文言を入れた上で報告をした方がよろしいのではないかと考えております。 ○小木曽分科会長 御意見として承り,検討させていただくということにしたいと思います。   そのほか,いかがでしょうか。 ○田鎖幹事 先ほどの発言とも関連するのですが,要件「(1)」の被疑者の同意,ここは,同意をとるという点では一致を見たのでこのようになっているのですが,より掘り下げて,制度そのものの性質ということを考えたときに,被疑者の同意が単に実効性担保のものなのかどうかというのは,制度が出来上がった後のことまでも含めて非常に重要だと思いますので,枠の中に同意の法的性格について意見が分かれていることを一応書くか,あるいは検討課題の「1」の「相当性」のところに2番目の「・」として掲げるのか,つまり,同意が相当性の根拠として必要かどうか。いずれにしても,一応,考え方の違いがあるということは重要な点なので,どこかに記載をお願いしたいと考えます。 ○小木曽分科会長 同意の法的な性質ですね。検討させていただくということで承りました。 ○太田委員 枠内にある事項ではないのですけれども,やや全体に関わる内容として,これまである程度前提にはなっているのではないかと私は勝手に思ってはいたのですけれども,この制度で想定されている仕組みというのは,基本的には検察官が起訴猶予の裁定をする際に,守るべき事項を設定して,保護観察官による指導・監督に付するという形であって,守るべき事項を設定し保護観察官による指導・監督を行った上で,最終的に検察官が起訴猶予の裁定をするという形ではないという理解でよいでしょうか。私は,前者のイメージを持って検討してきていたものですから,この枠内の表現だけでは,そのどちらかというのが必ずしもはっきりはしていないように思われますので,何かこの点について,これまでこういう枠組みだったのだというようなことがあれば,確認したいと思って質問させていただきましたけれども,いかがでしょうか。前提が何かということにも関わってくると思うのですけれども。 ○保坂幹事 恐らく,どちらかを決めていないという形でこの案ができているのだろうと思うのですが,太田委員の質問の御趣旨は,要するに,処分保留の状態で指導・監督を行うのか,それとも,起訴猶予の裁定,処分をした上で,指導・監督を行い,その後,守るべき事項を守らなかったら再起して起訴する途を残しておくのか,こういう問題だろうと思います。仕組みとしては,私はどちらもあり得るとは思っておりますが,他方で,デフォルトがどちらかということにも関わってくるのかなと思いました。つまり,先に起訴猶予処分をするということは,その時点でもう起訴猶予だということになろうと思いますので,その後,守るべき事項を守らなかったときに再起をして起訴するとすると,それはなぜなのかという問題になってくるかと思います。   他方で,いわゆる処分保留としておきますと,守るべき事項を守るかどうかを見極めて訴追判断をするというのが結び付きやすいのかなと思いまして,もとより,起訴猶予処分をしておいて,またその期間が来た時点で,再度その処分を見直した上で,再起するのかしないのかを判断するということになれば,それほど大きな違いはなく,仕組みとしてはどちらもあり得ると思います。更に言うと,どの段階で起訴猶予の処分をするかについて検察官の判断に委ねておく方法もあろうかと思います。 ○太田委員 一度この問題を確認しておいた方がよいのではないかと思ったものですから,質問させていただきました。 ○小木曽分科会長 その他,いかがでしょうか。   よろしいですか。   では,この程度にいたしまして,次に,「第2 起訴猶予となる者等に対する就労支援・生活環境調整の規定等の整備」についての検討を行いたいと思います。どの点でも結構ですので,御意見がありましたら,お願いいたします。   特にないということでよろしいですか。   それでは,「起訴猶予等に伴う再犯防止措置の在り方」についての検討は,この程度とし,次に,「保護観察・社会復帰支援施策の充実」,「社会内処遇における新たな措置の導入」及び「施設内処遇と社会内処遇との連携の在り方」についての検討を行います。まずは,事務当局から,これについて資料の説明をお願いいたします。 ○羽柴幹事 配布資料24について御説明します。   配布資料24は,事務当局において,これまでの当分科会における御議論を踏まえつつ,現時点において考えられる制度・施策の概要や検討課題を整理し,部会への報告に向けて,最終的な詰めの検討に資するための資料として作成したものです。   もとより,分科会における御検討の参考とする趣旨で作成したものであり,分科会の御議論を方向付けるといった趣旨のものではございません。   まず,「第1 特別遵守事項の類型の追加」の枠囲みの記載は,事務当局において,これまでの御議論を踏まえて技術的観点から検討を行い,追加すべき特別遵守事項の類型として,現時点で考えられる制度の概要を具体的に記載しています。   まず,「1」では,これまでの御議論において,民間施設が実施するミーティングやプログラムの受講等を義務付けることができるように,特別遵守事項の類型を追加することについて,おおむね意見の一致があったと思われますので,これを踏まえつつ,想定されている主な主体は更生保護施設であり,ほかにも適当と認められる民間施設もあり得るため,それらの主体を示すものとして,「更生保護事業を営む者その他適当な者」と記載しています。   また,「2」では,これまでの御議論において,夜間等の一定の時間帯に限り,宿泊を義務付けられた施設からの外出を禁止することの相当性については,なお御意見が一致しないところがあるものの,そのような措置が必要な場合があることについては,おおむね意見の一致があったと思われますので,これを踏まえつつ,制度として設けるとすれば,正当な理由がない限りにおいて外出を禁止すべきとのことや,外出を認める場合の判断の主体を明確に規定することが適当であるとの考え方が示されていたことから,「正当な理由なく,一定の時間帯は,特別遵守事項により宿泊を義務付けられた施設から,その管理者に無断で外出をしないこと」と記載しています。   外出禁止の特別遵守事項を設けることの相当性等については,更に検討を要すると考えられることから,これを検討課題として記載しています。   次に,「第2 犯罪被害者等の視点に立った処遇の充実等」については,これまでの御議論を踏まえますと,刑の執行等の初期段階において,被害者等から心情等を聴取し,伝達すべきものについては加害者に伝達するとともに,聴取した心情等を踏まえて処遇を行うことや,そのようにして行われた矯正処遇の状況・結果を踏まえた仮釈放審理等を行うことについて,意見の一致があったものと思われます。そこで,「1」の「刑の執行等の初期段階における被害者等心情等伝達制度」では,そのうち法制度とすることが考えられるものについて,刑事施設における場合を「(1)」及び「(2)」とし,少年院における場合を「(3)」及び「(4)」として,それぞれ具体的な内容を枠囲み内に記載しています。なお,このうち「法務省令で定める」としている部分は,どのような場合に聴取し,伝達するかなどについて,円滑な運用ができるように実務的な観点から検討する必要があるため,このように記載しています。   また,「2」については,保護観察等を行う上での総則的な規定に被害者の状況等を考慮要素として規定すべきであるとの御意見があったことから,これまでの御議論を踏まえ,「保護観察等の措置をとるに当たっては,措置の内容に応じ,被害者等の被害に関する心情,被害者等が置かれている状況その他の事情を考慮するよう努めなければならないものとする」を枠囲み内に記載しています。   次に,「第3 刑の執行猶予中の保護観察の仮解除の活用促進等」の「1」の「保護観察の仮解除」については,その活用の促進を図るために,主体を地方更生保護委員会から保護観察所の長に変更するとともに,要件・基準を法律上明確にすること等について,おおむね意見の一致があったと思われますので,これを踏まえ,事務当局において,技術的観点から検討を行い,現時点で考えられる制度の概要を枠囲み内に記載しています。   また,「2」の「刑の執行猶予中の保護観察の解除」については,必要性・相当性等に関して必ずしも意見が一致しているものではないと思われますので,枠囲み内は,従前と同じ内容を記載しつつ,検討課題についても,従前から挙げられていたものを引き続き記載しています。   次に,「第4 保護観察における少年鑑別所の調査機能の活用の在り方等」については,事務当局において,これまでの御議論を踏まえて技術的観点から検討を行い,現時点で考えられる制度の概要を枠囲み内に記載しています。   まず,「1」では,仮釈放者や保護観察付執行猶予者について,収容を伴わない方法で少年鑑別所による鑑別を行うことを念頭に置いたものとして,その要件を「必要があると認めるときは」と記載しています。「2」及び「3」は,収容を伴う鑑別について記載していますが,少年鑑別所のほかに,刑事施設を収容先としつつ,少年鑑別所の職員が刑事施設に赴いて鑑別を行うことも考えられるため,「少年鑑別所又は刑事施設に収容し」と記載しており,また,これを設ける場合の制度として,身体拘束をするに当たっては裁判所の判断を経ることが適当であると考えられることから,「保護観察の処遇を見直す場合において,鑑別のために特に必要があると認めるときは,裁判所の許可を得て」と記載しています。   さらに,対象者を若年者に限るか否かや,収容を伴う鑑別について現行の留置制度と組み合せた制度とするか否かという点については,いずれも,更に検討を要すると考えられることから,引き続き検討課題として記載しています。   次に,「第5 更生保護事業の体系の見直し」については,事務当局において,これまでの御議論を踏まえて技術的観点から検討を行い,現時点で考えられる制度の概要を枠囲み内に記載しています。   最後に,「第6 運用において対応すべき事項」については,これまでの御議論において,「第1」から「第5」までの制度概要案と一体的に御議論がなされてきたもので,実施すべきということ及びこれらを実施するに当たっては法整備までは要しないことについて認識の共有が図られたと考えられるものを枠囲み内に記載しています。これらは,「第1」から「第5」までの制度と相互に関連し,一体のものとして検討の対象になると考えられることから,法整備は要しないものの,今回,配布資料に記載しました。   「1」の「保護観察処遇における新たなアセスメントツールの開発及び新たな処遇手法の開発」及び「2」の「更生保護施設における宿泊の義務付け」は,「第1」の「特別遵守事項の類型の追加」と一体的に検討がなされてきた事項であり,「3」の「より犯罪被害者等の視点に立った指導」は,「第2」の「犯罪被害者等の視点に立った処遇の充実等」と一体的に検討がなされてきた事項です。また,「4」の「外部通勤作業及び外出・外泊の活用等」は,「第1」の「特別遵守事項の類型の追加」や「第5」の「更生保護事業の体系の見直し」と一体的に検討がなされてきた事項です。   配布資料24の説明は以上です。 ○小木曽分科会長 ただいまの説明に御質問,あるいはほかの検討課題があるのではないかといった御意見がありますか。   よろしいですか。   それでは,配布資料24に沿って検討したいと思います。まずは「第1 特別遵守事項の類型の追加」について,枠内に記載の制度の概要,検討課題のいずれの点からでも構いませんので,御発言いただければと思います。 ○太田委員 検討課題のところに保護観察付全部執行猶予者についての説明がなされていますけれども,これは,仮釈放者や仮退院者と違って元々身柄拘束を伴わない処分であるからあえて抜き出しているということであって,同じような必要性や相当性は,ほかの保護観察対象者にも同様に妥当するものと考えます。特別遵守事項に加えるということは,その規定は全ての保護観察対象者に適用がありますから,当然でありますけれども,一応,確認のため,この保護観察付全部執行猶予者に限らず,そういった必要性,相当性はほかの保護観察対象者にも認められるということを申し述べさせていただきました。 ○保坂幹事 枠囲みの二つ目の外出禁止を特別遵守事項の類型に追加することについてですが,これを法整備するとしますと,ここに記載されているとおり,「施設の管理者」に無断で外出しないというものになろうかと思われます。そうしますと,検討課題にあるように,許可・不許可の判断ができるような更生保護施設の管理者を常時配置することができるのかという現実的な問題になろうかと思われます。この点につきまして,現場の実情について事務当局から教えていただければと思います。 ○今福幹事 現在,更生保護施設は全国に103ございますけれども,その全てが民間の法人により運営されており,職員の勤務体制については収容定員や収容規則等により様々でございます。このため,特別遵守事項で設定された外出の許可,不許可という重要な判断を行うべき立場の管理者が夜間,休日を含む24時間365日,施設に駐在をして入所者の外出の許可・不許可の判断を常にできる体制をとることになりますと,現状の更生保護施設の体制上は困難であると考えられます。 ○保坂幹事 現状においては,管理者が常時,その判断のために配置されるような体制を作るのは難しいということでした。検討課題の一番上の「・」にある必要性や相当性はあると私は思いますけれども,運用する側の体制が追い付かないということになりますと,このような類型を追加する法整備をしたところで,結局,特別遵守事項として設定することは現実にはできないということになってしまいますので,現段階においてはこのような法整備を行うのは難しいのではないかと考えます。 ○太田委員 確認ですけれども,今の更生保護施設でもその施設の内規として門限というのがございますね。夜間に出掛けてはいけない,若しくは,何時までに帰ってこなければいけないという管理が行われていて,その管理者は,特定の一人ということではないと思うのですけれども,そのこととの関係で,今の御発言がどのような意味を持っているのかを改めて確認させていただきたいと思います。 ○今福幹事 実情を申し上げれば,確かに夜間,宿直の職員も配置をしておりますので,門限に違反しているかどうかの確認や,門限に遅れた者に対しての指導は,事実上,行われております。ただ,今ここで議論されておりますのは,無断外出等が特別遵守事項に違反しているのかどうかやその前提となる外出の許可・不許可などといった判断に関連するものであり,そういった判断は特別に役割等を与えられた管理者において行うべきであろうということで,そういう者が24時間365日体制で配置できるかといいますと,そうはいかないという状況でございます。 ○太田委員 最終的にそのことを保護観察所に報告するかどうかのときに,それが無断の外出であったかどうかということを判断する管理者が常に24時間365日,そこにいなければいけないということでもないように思います。当直担当者というのは必ず毎日いらっしゃるわけで,その者から報告を受けた上で,それがどういったことかも入所者に確認した上で今でも対応しているわけでありますので,そのような意味では,一人の管理者というものを設定して,それがずっといなければいけないということでもないように思います。保護当局の方でそれが無理だということであれば無理なのでしょうけれども,今の御説明はかなりストイックな状況を設定されているようにも思うのですけれども,いかがでしょうか。 ○今福幹事 門限については,それぞれの民間施設ごとで施設管理の観点から様々に設けられているものであり,その門限に対する違反かどうかの判断は,施設長が常にいるわけではなくても行えるものであります。他方,ここでの「外出」の許可・不許可の判断は特別遵守事項で定められた特定の行動の禁止の範囲を解くことを認める判断であり,これをすべき者が必要だということであります。このことと,それぞれの施設で決められている門限に違反したかどうかの判断を施設長がいなくても行っていることとは別の次元の問題であろうと考えております。 ○小木曽分科会長 では,検討課題は残しておいて,もう少し詰めるということでよろしいですか。   そのほか,この項目について何か御意見がありますか。   それでは,この程度としまして,「第2 犯罪被害者等の視点に立った処遇の充実等」について,御意見をお願いしたいと思います。 ○太田委員 第2の「1」の「刑の執行等の初期段階における被害者等心情等伝達制度」ですけれども,事務当局で作成していただいた原案は,恐らく,現在の更生保護法における被害者の心情等伝達制度の規定を土台に作っていただいたものと思いますけれども,このような内容ですと,単に受刑者に心情伝達するためだけに被害者から聴取をして,それを伝えるだけという制度になってしまうような気がいたします。   これまでにも当分科会で何度かお話をしてきておりますけれども,犯罪者の真の意味での更生のためには,受刑者に被害者の被害の現実というものを正しく理解させることが重要でありまして,そのためには,矯正職員や保護観察官が被害者等の被害に関する心情とか,被害者等の置かれている状況とか,それから加害者の処遇に関する意見とか要望とか,そういったものを的確に判断して,それを参考にしながら施設での矯正処遇やその後の保護観察を行っていくという必要があろうかと思います。   したがいまして,具体的な制度としましては,刑や保護処分にも適用があるのですけれども,刑や保護処分の執行の初期段階において,単に被害者の心情を聴取して伝達するという形だけのものにするのではなくて,まずは矯正処遇に当たっては被害者の心情等を考慮するように努めなければいけないものとするという,後の「2」の方にある更生保護法に置くような総則的規定を設ける必要があろうかと思います。   保護観察においては,「2」のところにありますように,地方更生保護委員会や保護観察所の長がこういった被害者等の被害に関する心情や,それらのものを考慮するように努めなければならないものとするという規定を置いていますから,これに相当する,被害者に関するいろいろな状況を考慮して処遇を行わなければいけないという規定を設けた上で,その一環として,被害者等から申出があったときには,ここにある文言を利用すれば,法務省令で定めるところによって,刑事施設の長がその心情等を聴取するものとする必要があると考えます。ですから,伝達するためだけの調査ということにとどまってはいけないだろうと思います。もちろん,今度は聴取することの相当性という問題があると思いますから,これは被害に係る事件の性質とかその他の事情を考慮して,相当でないときなどには行わないとしておくことは必要であろうと思います。   そして,更に聴取をして,それを処遇にいかしていくわけでありますけれども,さらに,犯罪者の真の更生のためには,受刑者に被害の現実を正しく理解させることが重要でありますことから,被害者等から聴取した内容のうちの,その中で被害者が受刑者に伝達をしたいと希望する事項については,受刑者に伝達することを認めるというふうにする必要があります。もちろん,これにも相当性に関する要件といったものを設定する必要があります。   このように,矯正処遇における被害者の心情の考慮,それから被害者等からの聴取,それから,その中で一部のものを受刑者に伝達すると,このような構成にすることで,受刑者に被害者等の心情を理解させるための矯正処遇やその後の保護観察が実現するように思われます。さらに,場合によっては処遇要領を定めるに当たっては,被害者の心情を参酌するものという規定も設けることが望ましいと思われます。   また,将来,仮釈放の審理や保護観察を行う上では,矯正職員のみならず保護観察官も被害者等の心情等を把握しておくことが重要でありますことから,被害者等からの心情の聴取や伝達においては,この刑事施設の長と,それから地方更生保護委員会や保護観察の長と連携を図るように努めなければならないとする努力規定をここに置いておくということは重要であろうと思います。そして,少年院の在院者についても同様の規定を設ける必要があるだろうと考えております。 ○保坂幹事 太田委員がおっしゃったように,刑事収容施設法において被害者の心情等を考慮するという総則的な規定を独立して置くということも考えられるとは思いますが,他方で,刑事収容施設法第30条に,「受刑者の処遇は,その者の資質及び環境に応じ,その自覚に訴え,改善更生の意欲の喚起及び社会生活に適応する能力の育成を図ることを旨として行うものとする」と規定されているとおり,処遇に当たって考慮すべき様々な事情の中に被害者の心情等も含まれていると一般的に理解されていると思われます。そうしますと,枠囲みの「(1)」に,「受刑者に被害者及びその親族の心情等を理解させることの重要性に鑑み」という規定を明記するという案になっていますが,ここに言わば理念的というか総則的意味合いを持たせて,この制度の考え方を示すという趣旨ではないかと理解されますので,それも一つの方法かと思いました。   あと,太田委員の御意見の中で,処遇要領の定め方についても,被害者の心情を参酌するという御提案がございましたけれども,現在の運用で,処遇要領については被害者の心情を考慮することとなっているのかどうかについて,事務当局に御教示いただければと思います。 ○小玉幹事 ただいまの点ですけれども,刑事収容施設法第84条におきまして,矯正処遇は処遇要領に基づいて行うこと,さらには処遇要領は処遇調査に基づき定めることが規定されておりまして,これを受けて,刑事施設及び被収容者の処遇に関する規則第43条におきまして,矯正処遇の進展状況その他の事情を考慮して,必要があると認めるときは処遇要領を変更することと規定されています。   実務の実情としましては,こうした規定に基づきまして,施設側が処遇調査で把握できた範囲でということにはなりますけれども,被害者の心身の状況,被害に関する感情等が記録され,この調査結果に基づいて定められた処遇要領において,その処遇調査の結果等に応じまして被害者の心情等を理解するための改善指導を受講すべきことですとか,受刑者自身が罪を償うための具体的行動を考えるべきことなどが矯正処遇の目標や内容として盛り込まれているということになっています。 ○保坂幹事 それを前提としますと,枠囲みの「(1)」によって被害者から聴取される心情などについても,その内容に応じて処遇内容を定めるに当たって参酌されることに,少なくとも運用上はなっていくと思われます。聴取された心情等をどの程度踏まえて処遇につなげていくのかということについては,聴取した内容や受刑者の状況に応じた判断がありますので,運用に委ねるのが適当ではないかと考えられ,その処遇要領の定め方についても,その運用に委ねるということも考えられるのではないかと思われます。   いずれにしましても,この仕組みの具体的な規定やその具体的な運用については,保護観察対象者と受刑者との違いですとか,犯した重大性や改悛の情の程度等,いろいろありますので,今の規定,あるいは実務の運用の実情を踏まえた上で,条文化する場合の技術的な観点も踏まえて確定していくべきものと考えるところです。 ○太田委員 くどいようですけれども,こういう文言の中に読み込めるのではないかというようなことよりは,やはりきちんとした法律に規定を置いておくということが私は重要だと思っておりますし,それから,心情伝達の中に「重要性に鑑み」と書いてるということで十分だというよりは,やはり,どこに規定するかということはいろいろ技術的な問題はあると思いますけれども,少なくとも言えることは,心情を聴取するということは,被害者に関する様々なことについて調査をするということの一環であって,その上で,それがその後の矯正処遇や,さらには仮釈放等審理や,それから保護観察にいかされる,その意味では,保護観察における心情伝達とは違うものだと私は思っています。刑の執行の初期段階における被害者の心情把握は,以後の刑の執行においての,それを貫く被害者に関する基本的な情報収集という意味があろうかと思いますので,規定ぶりをどうするかというのはいろいろあるかと思いますけれども,やはり構造としては,聴取するということと伝達をするということは構造的に分けておいた方が,より優れた制度になるかなと思っております。処遇要領のところに規定に書くかどうか,ここら辺はかなり技術的な問題はあろうかと思いますので,現場の方で御判断いただければと思いますけれども,ただ,やはり伝達のための聴取にとどまるということにならないような規定といいますか,制度の方がよろしいのではないかとは思っております。 ○小木曽分科会長 今,意見があったのは「1」の部分だけでしたけれども,「2」の点についてはよろしいですか。 ○太田委員 この中に具体的には書き込まれてはいないのですけれども,被害者の心情等を聴取するということと関連で,仮釈放等審理における意見等聴取制度でありますけれども,仮釈放や仮退院が許される場合には,その後の保護観察において被害者等の心情等が十分に考慮された指導・監督が実践されることが必要であり,例えば,特別遵守事項の設定や生活行動指針の設定などにおいては,被害者の心情が十分に反映されるべきだと考えます。   そこで,事務当局に確認をしたいのですが,仮釈放等審理において被害者から意見聴取を行う場合に,被害者等から仮釈放の後の保護観察に関する意見も聴取しているということでよろしいでしょうか。また,仮釈放等が許される場合には,被害者等から聴取した意見はどのようにして保護観察に反映させているのでしょうか。 ○今福幹事 意見等聴取制度につきまして,そこで頂いた被害者等からの御意見をその後の保護観察処遇等にいかしていくということの必要性は御指摘のとおりでございまして,現在の実務でもそのように運用しているところです。   具体的に申し上げますと,実例として,意見等聴取制度においては,被害者等からいろいろな御意見を頂くわけですけれども,その中では,その後の保護観察の処遇に関連する内容についての御意見,例えば,つきまとってほしくないというような御意見等を頂くことも多くみられます。そういったときに,それをどのような形でその後の処遇等に反映していくのかについて申し上げますと,例えば,今申し上げたような事例ですと,特別遵守事項の設定の際にその御意見を反映させるということを行っており,具体的には,接触の禁止ですとか,つきまといをやめるというようなことについて特別遵守事項として設定する場合もありますし,中にはそれを生活行動指針として定める場合もございます。   どの段階で反映するかについて更に御説明いたしますと,地方更生保護委員会において特別遵守事項を設定いたしますので,その段階での設定に今の御意見を反映させるということがございます。また,仮釈放を許す旨の決定をしますと,決定通知書という形で地方更生保護委員会から保護観察所に通知しますけれども,その中には保護観察の実施上の留意事項についても記載する欄がございまして,そこに意見等聴取制度で被害者等から頂いた御意見で留意すべき事項がありましたら,それを適宜記載をしていく,そして保護観察所における処遇に反映させるということを実施している状況でございます。   このように,意見等聴取制度では,保護観察に関する御意見がございましたら,それを,先ほど申し上げたような形で適宜その後の保護観察処遇に反映させていただいているという実情にございます。 ○太田委員 今のお話ですと,被害者等から聴取した意見は保護観察にも適宜反映されているということでありました。私はこのことは,被害者の心情への配慮という点でも,それを踏まえた処遇を行っていくという意味でも,非常に重要であると考えています。また,場合によっては,生活環境調整においても被害者の心情を踏まえるということが重要ではないかと思っております。   今回,かなり要綱に近いような形で,具体的な心情伝達の制度という形でお示しいただいたわけでありますけれども,先ほど言いましたように,私はもう少し広い内容を持ったもので在るべきだと思っています。ここには書かれていないのですけれども,心情を聴いた上で矯正処遇にもいかし,仮釈放審理の際も,それを踏まえた受刑者の状態を見て仮釈放の審理をし,そして,被害者の心情を踏まえた遵守事項の設定や保護観察にいかしていくということを考えると,ここには規定としては挙がってきておりませんけれども,現行の更生保護法第38条第1項では,仮釈放に関する意見聴取において,被害者が述べることができるとされていることは,被害に関する心情,仮釈放に関する意見とだけしかなっておりませんので,現在でも保護観察にいかされているということであれば,例えばそこの部分につきましても,被害に関する心情並びに仮釈放,保護観察及び生活環境の調整に関する意見などというふうに改正するということがより望ましいのではないかと考えております。追加みたいになりますけれども,私が従来からお話ししていたところはそのようなところまで踏まえた見解なものですから,改めて施策として検討の内容に加えていただければと思っております。 ○小木曽分科会長 それ以外はいかがですか。よろしいですか。   それでは,「第2」についてはこの程度として,次に,「第3 刑の執行猶予中の保護観察の仮解除の活用促進等」について,御意見がありましたらお願いします。 ○羽間委員 解除の導入につきまして,これまで何度も申し上げてきましたけれども,部会に報告されるに当たって,最後に改めて簡単に申し上げておきたいと思います。   解除制度を導入することでの処遇効果,それから,そもそも必要がなくなったものに対して保護観察を続けることの問題点,つまり,かえって再犯を起こしやすくなるということもそうですし,そもそも必要性のないものに義務を課し続けるということ自体が許されるのかという点でも問題点があるということは部会に御報告いただきたいと思います。また,これも繰り返し申し上げておりますけれども,東京保護観察所を視察した際の現場の御意見としても,そういった解除を求める声がありましたので,その点も含めて御検討いただければと思います。   他方で,本解除制度の導入に向けては,当分科会でも御指摘いただいているとおり,判断主体の点も含めて,様々な検討課題がまだ残されておりまして,場合によっては刑事法の観点からの検討も必要となってくるのだろうと思っております。そこで,今後の本解除の導入に向けた検討に当たっては,第1分科会の構成員も含めることが必要であり,それが可能な部会の場で引き続き検討していくことがよろしいのではないかと思います。   まとめますと,部会への報告としては,これまでの検討を前提として,私が申し上げてきた必要性と,他方で出ていた検討課題,これを併せて部会に報告していただいて,引き続き部会において検討していただくということがよろしいのではないかという意見でございます。 ○小木曽分科会長 御意見として承りました。   そのほかはよろしいでしょうか。   それでは,「第3」はこの程度にしまして,次に「第4 保護観察における少年鑑別所の調査機能の活用の在り方等」について,御発言がありましたらお願いします。 ○保坂幹事 検討課題の一つ目の「○」の対象者を若年者に限るか否かについてですけれども,少年鑑別所の調査機能を活用するということについては,いわゆる通所と収容のいずれの場合でも,この枠囲みにも書いていますように,保護観察所の長が必要と認めたときに鑑別を求めるという形になりますので,逆に言えば,必要がなければ鑑別を求めることにならないことから,若年者に法律上限定する必要はないという整理もできようかとは思います。   他方で,少年鑑別所におきましては,従来から,成人の少年院在院者に対する処遇鑑別を相当実施してきていまして,若年者に対する調査についてはノウハウを相当蓄積していますので,そのような高い効果が期待できる若年者に法律上も限定しておくとも考えられるところです。   配布資料の枠囲みの中には,収容先のところで「又は刑事施設」とされており,拘置所に収容して,鑑別の一環として,少年鑑別所の職員が拘置所に行って調査を行うということも許容されようと思いますけれども,逆に,少年鑑別所に収容して調査すべき場合に,施設の体制が整っていないため実施できないということになると問題ですので,対象とする年齢をどれぐらいにしておくのかについては,少年鑑別所の組織や体制にも関わることから,実務的な観点からの検討や調査を経た上で確定する必要があると考えられるところです。   次に,もう一つの検討課題の収容を伴う鑑別について,留置と組み合せるかどうかという点で,事務当局に教えていただきたいのですが,特に,保護観察付執行猶予者に関し,現行の留置制度の活用状況について,件数や取消しにつながっているのかどうかという点も含めて,教えていただければと思います。 ○今福幹事 平成28年の統計に基づいてお答えを申し上げますが,更生保護法に基づき当年に新たに留置された人員の総数は243人でございまして,このうち保護観察付全部執行猶予者は17人でした。この17人につきましては,いずれも保護観察所の長が執行猶予の言渡しの取消しの申出を行い,裁判所において取消し決定を行っているものと承知しております。 ○保坂幹事 今御説明があった留置の運用状況を踏まえて,収容鑑別と留置を組み合わせた制度にするのかどうかについて申し上げたいと思いますが,まず,収容鑑別がなぜ必要かということで申し上げると,保護観察対象者の問題が大きくて,指導ではなかなか改善できないという状況にある場合に,保護観察の実施計画や特別遵守事項の内容といった処遇方法の見直しを行うに当たり,その犯罪に至る背景や問題性を改めて把握するために収容が必要なときには,収容鑑別を行うという制度を設けておくことが必要だということを以前にも申し上げました。   他方で,今御紹介があったとおり,留置制度は,規定上は取消しの申出をするか否かの調査を行うことが目的に含まれているかと思われますが,保護観察付執行猶予者の場合は,遵守事項に違反して,その情状が重いときという要件になっている上,先ほどの説明では,実際に全件取消しにつながっているということでした。そもそも,保護観察付執行猶予者については留置される件数自体が非常に少ないということですので,留置されるとほぼそのまま取消しに結び付いているということになって,結局,留置された後に保護観察の見直しということで保護観察が継続されることにはなっていないのではないかと思われるところです。   これは,先ほど申し上げましたように,遵守事項に違反して情状が重い,かつ,取消しが前提とされているような場合に留置して,所在不明になることを防止しながら,その間に取消しに向けていろいろな手続や調査を行うという形になっているからではないかと考えられますので,今の留置制度の運用を踏まえますと,収容を伴う鑑別の必要性とは別になりますので,これは仕組みとして連動させないという方がよろしいのではないかと考えられます。 ○小木曽分科会長 そのほかの御意見はよろしいですか。   では,「第4」についてはこの程度でよろしいでしょうか。   次に,「第5 更生保護事業の体系の見直し」について,御意見がありましたらお願いします。   この点については,これまでの御発言以外に御意見はないということでよろしいですか。   それでは,最後に「第6 運用において対応すべき事項」についてです。「第6」につきましては,これまでの当分科会の議論によりますと,配布資料の枠内に記載されている内容を実施すべきであるということと,これらを実施するに当たっては法整備までは要しないということについて,認識の共有が図られたのではないかと思われますが,この点について,特段の御意見がありましたら,お願いします。 ○太田委員 「第6」の「3」の「より犯罪被害者等の視点に立った指導」でありますけれども,特に,被害者への損害賠償等に向けた生活行動指針を規定するということについて,生活行動指針に関する現行の更生保護法では,「当該保護観察対象者の改善更生に資する生活又は行動」という規定になっております。私個人としましては,犯罪者の改善更生というのは,単に再犯をしなければいいというものでもなくて,自らが被害者に与えた被害の内容や,被害者のことを忘れることなく,遵法的な生活をしながら,かつ,被害者への損害賠償に向けた,なし得る限りの努力をしていくことであると考えておりますことから,被害者への損害賠償等も改善更生の当然の一部であると考えております。しかし,これまでの実務では,被害者への損害賠償等が改善更生に資するということに含まれているかどうかについては,解釈上,疑義を呈する向きもないわけではありませんでしたので,更生保護法第56条の生活行動指針の改善更生に資する生活又は行動の指針に,被害者への損害賠償等に関する生活や行動の指針が含まれるのだということが規定上,読み取れるようにする必要があるのではないかと思っています。   ですから,一つの方法としては,第56条を改正して,被害者への損害賠償等,どのような文言にするか分かりませんけれども,そのような文言を入れるということも一案であろうかとは思います。そのような意味では,ここも単に運用において対応すべき事項にとどまらないということになってくるのですけれども,ただ,他方で先ほどの「第2」の「2」において,被害者の事情等を考慮する努力義務を更生保護法の中の総則規定という形で入れることがこれまでの議論を踏まえて提示されておりますので,余り具体的に申し上げる必要はないのかもしれませんけれども,更生保護法第3条に運用の基準という規定があって,この中に,「その改善更生のために必要かつ相当な限度において行うものとする」とあり,ここに第2項として,こうした被害者に対する事情を考慮する努力義務に関する規定を置くことによって,この法律における改善更生には被害者への配慮が含まれるのだということが明らかになるので,「第6」の「3」の生活行動指針の中の保護観察対象者の改善更生に資する生活又は行動にも,被害者への配慮が入るというように読み取れるだろうと考えられます。そういう意味では,運用においてあとは対応していくことになろうかと思いますので,先ほどの第2の「2」の規定というのは是非とも必要であると考えております。 ○小木曽分科会長 つまり,「第2」の「2」でそのような措置がとられれば,「第6」の「3」は,このままでよろしいということでしょうか。 ○太田委員 運用ということで,できるだろうということです。 ○小木曽分科会長 「第6」について,ほかは,いかがでしょうか。   ほかに御意見がなければ,「第6」については枠内に記載されている内容を実施すべきであるということと,これらを実施するに当たっては運用でできるということについては,分科会としてはそのような結論に至ったということでまとめてよろしいでしょうか。               (一同異議なし)   それでは,そのようにさせていただきたいと思います。 ○太田委員 今後の「第6」の扱い方についてですけれども,部会への報告事項に含まれることにはなろうかと思いますが,最終的に,法改正を要しない部分について,答申などにはこういったものは入らないという理解でよろしいでしょうか。そこまでまだ決まっていないのかもしれませんけれども,運用において対応すべき事項を今後どのような形で伝えていくのかということについて,何か現時点でのお考えがあれば,教えていただきたいと思います。 ○羽柴幹事 部会での結論の出し方という御質問かと思いますけれども,それは正にこれから部会において検討されていくことかと考えております。 ○小木曽分科会長 ここまでで,配布資料22と24に記載されている事項については一通り検討が行われたということになります。本日の各論点について追加的に御意見がありましたらお願いしたます。 ○田鎖幹事 意見といいますか,大変細かい点なのですけれども,先ほど,積極否認で起訴猶予はないのではないかというお話がありましたが,その後,思い出しまして,20年ぐらい前ですけれども,私自身が担当した事件で,無銭飲食の詐欺事案で否認をしていたと,だますつもりもなかったと,適切なサービスが提供されていなかったので,自分は支払い義務がないと主張しておりましたけれども,結局,飲食代金の支払いをして起訴猶予にしていただいたという経験はございます。 ○小木曽分科会長 それ以外に,補充的に御意見がありますか。   それでは,本日の議論はここまでといたします。次回の部会に向けての当分科会での検討は,本日が最後です。皆様には大変活発に,また幅広く御議論いただきました。お陰さまをもちまして,具体的な制度概要案を部会に成果として報告できるものと思います。ありがとうございました。   部会に報告する制度概要案等につきましては,本日の議論も踏まえ,まずは分科会長である私の方で案を作成させていただきたいと思います。できる限り速やかに,事務当局を通じて,その案を皆様にお示しして,そこでいただいた御意見を更に踏まえて検討したいと思いますが,ただ,時間的な余裕も余りないことと,それから,飽くまでも部会で更に検討するための材料であるということですので,最終的な取りまとめは分科会長である私に一任いただきたいと思います。よろしいでしょうか。               (一同異議なし)   それでは,部会に報告する内容につきましては御一任いただいたということで,私の責任におきまして報告の内容を取りまとめて,部会に報告することにしたいと思います。   以上で本日の審議は終了です。   今後の予定について,事務当局から説明をお願いします。 ○羽柴幹事 今後の予定についてですが,部会第8回会議が7月26日木曜日午前10時から予定されております。場所は,この建物の15階の会議室です。 ○小木曽分科会長 本日の会議の議事録ですけれども,公表に適さない内容については,配布資料を非公表とするとともに,議事録に記載しないこととしたいと思います。具体的にどの部分を非公表とするかについては,これも分科会長に御一任いただきたいと思いますけれども,よろしいでしょうか。 ○羽間委員 念のために確認させていただきたいのですけれども,議論自体がなかったことになるのか,それとも,議論はなされたというような記載になるのかということを,また御相談させていただければと思います。 ○小木曽分科会長 その点は御相談させていただきます。それ以外につきましては,これまでどおり,発言者名を明らかにした議事録を作成して公表することとさせていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。               (一同異議なし) ○小木曽分科会長 それでは,そのようにさせていただきます。  本日はありがとうございました。 -了-