法制審議会 会社法制 (企業統治等関係)部会 第12回会議 議事録 第1 日 時  平成30年 5月23日(水)   自 午後 1時31分                          至 午後 5時41分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  会社法制(企業統治等関係)の見直しについて 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○神田部会長 それでは,予定した時間が来ているようですので,法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会の第12回目の会議を開催させていただきます。   本日も皆様方には,大変お忙しいところをお集まりいただきまして,誠にありがとうございます。   それでは,まず,いつものように,会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いします。 ○竹林幹事 お手元には,議事次第,配布資料目録,部会資料20,参考資料43,委員等名簿を配布させていただいておりますので,御確認ください。   なお,本日ですけれども,神作委員が少し遅れて御参加である旨,また,岡田幹事が御欠席である旨御連絡を頂いております。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。よろしゅうございますでしょうか。   それでは,早速,本日の審議に入らせていただきます。   本日でございますけれども,お手元の議事次第に記載のとおり,取締役等に関する規律の見直しについての個別論点の検討について御審議をお願いいたします。   そこで,まずは,取締役の報酬等について御審議をお願いしたいと思います。   お手元の部会資料20の第1について,事務当局から御説明をお願いします。 ○邉関係官 それでは,部会資料20の「第1 取締役の報酬等」について御説明いたします。本日の資料も大部となりますので,絞った形で御説明させていただきたいと思っております。   「1 取締役の報酬等の内容に係る決定に関する方針」の(1)では,パブリックコメントの結果を踏まえ,試案第2部第1の1(1)本文のような規律を設けるものとすることを提案しております。   (2)の本文では,監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除く取締役会設置会社において,取締役会は,決定方針の決定を取締役に委任することができないものとする旨の明文の規定を設けるものとすることについて,どのように考えるかを論点として掲げております。   また,(注)では,監査等委員会設置会社や,取締役会を設置していない株式会社において,決定方針の決定を取締役に委任することができないものとする旨の規律を設けるものとすることについて,どのように考えるかを論点として掲げております。   続きまして,2ページ目の(3)では,例えば,A案又はB案に掲げる場合には,株式会社は,決定方針を決定しなければならないものとすることについて,どのように考えるかを論点として掲げております。   A案は,決定方針を定めずに業績連動報酬等を付与するということは通常は想定されないという考え方を背景に,業績連動報酬等についての議案を株主総会に提出する場合には,決定方針を決定しなければならないものとする案です。他方で,B案は,取締役会による監督が重要視される株式会社においては,決定方針を決定しなければならないものとする案です。   A案及びB案は,監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社以外の株式会社を前提としておりますけれども,(注)のとおり,監査等委員会設置会社においても,決定方針を決定しなければならないものとすることについては御検討いただきたいと思っております。   補足説明の2に記載のとおり,ここでA案を採る場合には,監査等委員会設置会社においても,業績連動報酬等についての議案を株主総会に提出する場合に決定方針を決定しなければならないとする考え方につながりやすいように思われますし,B案を採る場合には,監査等委員会設置会社においては,常に決定方針を決定しなければならないものとする考え方につながりやすいように思われます。   続きまして,4ページ目,「2 金銭でない報酬等に係る株主総会の決議による定め」では,会社法第361条第1項第3号を改正し,取締役の報酬等のうち金銭でないものについての①から③までに掲げる事項は,定款に当該事項を定めていないときは,株主総会の決議によって定めるものとすることを提案しております。特に,株式や新株予約権を報酬とする場合等における株主総会の決議事項について,①の(注2)や,②の(注)のとおりとすることの是非等について御議論いただきたいと考えております。   続きまして,6ページ目,「3 取締役の個人別の報酬等の内容に係る決定の再一任」では,パブリックコメントの結果を踏まえ,試案第2部第1の1(3)のA案のように,公開会社において,取締役の個人別の報酬等の内容に係る決定を取締役に再一任するためには,株主総会の決議を要するものとすることについて,どのように考えるかを論点として掲げております。   「4 株式報酬等」の(1)では,パブリックコメントの結果を踏まえ,いわゆる株式の無償発行の論点について,試案と同じく利用することができる株式会社の範囲について,特に限定をしないという甲案に加えて,利用することができる株式会社を上場会社に限定するという乙案を掲げております。これらの案について,どのように考えるかを論点として掲げております。   なお,パブリックコメントにおいては,発行可能な株式の数に上限を設けるべきであるという御意見もございましたけれども,甲案又は乙案のいずれであっても,前記の2の部分の改正というものを前提にした御提案となっておりますので,先ほどの2の①に掲げる事項についての定款の定め又は株主総会の決議による定めに従わなければならず,定款又は株主総会の決議で定める上限の範囲内でしか株式は発行することができないということになりますので,これに加えて,発行可能な株式の数の上限を設ける必要があるかどうかについては,別途慎重に考える必要があるのではないかと考えております。   (2)では,新株予約権の行使に際してする出資を不要とする論点について,(1)と同様に甲案と乙案を掲げております。   (3)では,先ほどの(1)の株式の発行及び(2)の新株予約権の行使があった場合に増加する資本金及び資本準備金の額の合計額は,株主となる取締役が提供した役務の対価の額とすることについて,どのように考えるかを論点として掲げております。現在のストックオプションについての処理との平仄等を考慮すると,このような考え方があり得ると思われます。   会計処理も,併せて検討する必要がある論点であるとは思われますけれども,本日は,主に法律論,立法論の観点から,このように報酬として発行されるものについては,例外的に払込みを要しないでも資本金等の増額を認めることについて,問題があるかどうかなどを御議論いただきたいと考えております。   続きまして,8ページ目,「5 情報開示の充実」の(1)では,パブリックコメントの結果を踏まえ,試案第2部第1の1(5)本文のような見直しをするものとすることを提案しております。   (2)では,公開会社においては,取締役の報酬等の額を個人別に事業報告により開示しなければならないものとすることについて,そして,例えばA案からC案までに掲げる取締役に限り,個人別の報酬等の額を事業報告により開示しなければならないものとすることについて,どのように考えるかを論点として掲げております。   御説明は以上となります。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,御審議をお願いしたいのですけれども,区切っての御議論をお願いできればと思います。   そこで,1から3まで,6ページの下辺りになりますけれども,「1 取締役の報酬等の内容に係る決定に関する方針」から,「3 取締役の個人別の報酬等の内容に係る決定の再一任」までについて,御質問,御意見をお出しいただければと思います。4と5は後ほど,また御意見等を頂く機会を設けたいと思います。   どなたからでも結構でございます。いかがでしょうか。古本委員,どうぞ。 ○古本委員 ありがとうございます。   「取締役の報酬等」につきましては,経団連としては,再一任に関する新たな規制の導入や,個人別の報酬の開示には反対です。   この関連で,1(1)の「決定方針」について伺いたいのですが,中間試案の(注1)に記載の決定方針に含まれるべき事項,この中には,「個人別の報酬等の内容に関する事項」や「再一任」に関する事項は含まれていないと理解しておりますが,その理解でよろしいか,御確認をお願いしたいと思います。   それから,(3)の方針決定の義務化につきましては,義務化までする必要はないということで反対の立場です。「決定に関する方針」について規定が置かれることになりますと,恐らく上場企業は,そうした方針を決定する方向に動くことになるとは思いますが,そうしたことは,ガバナンス・コードなどのソフト・ローの下で,各社がそれぞれ判断して,自律的に行うべきことだと思います。   この関連で,(2)について申し上げますと,決定することが義務化されていない方針について,必ず取締役会で決定しなければならないとまでする必要はないと思います。もう少し柔軟に構えて,任意の委員会で決定することや,場合によっては,社外役員の意見を聴きながら代表取締役が決めるというやり方も,法的に排除する必要はないのではないかという意見です。   それから,2の「金銭でない報酬等に係る総会決議」につきましては,拝見したところ,現行実務に影響しないと理解いたしますので,そういう理解の下で,敢えて反対するものではありません。   それから,3の再一任につきましては,部会資料の補足説明には,中間試案のA案に賛成する意見の方が多かったとあるわけですが,企業や企業関係団体はこぞって反対であり,賛否が大きく二つに分かれた状態と捉えるべきではないかと思います。したがいまして,パブコメの結果をもって,「現行の規律を見直さない」とするB案が削除されていることには違和感を覚えます。   これまでも申し上げてまいりましたが,個人別の報酬につきましては,総会で承認を得た総枠があり,その枠の範囲内で,かつ善管注意義務がある中で,高度な経営判断の一つとして額が決定されている状況にあります。つまり,再一任にはお手盛りの問題もなければ,再一任が恣意的な報酬決定につながっているわけでもないと考えております。   A案のような規律が導入されますと,再一任に関する総会決議を回避した場合,取締役会で個人別の報酬を決定することになるわけですが,そうなりますと,取締役会でメンバー各人の報酬額について,各人の評価も含めて議論することになりますが,そのようなことには,恐らく,実務においては相当な困惑が生じるのではないかと懸念いたします。それから,取締役会議事録の閲覧請求がなされますと,個人別の報酬額が表に出てしまい,プライバシー侵害の問題が生じる懸念もあります。   部会資料の補足説明には,再一任が「取締役会による代表取締役への監督にマイナスの影響があるかもしれない」という記載もありますが,そうした懸念は,再一任をやめれば解消するというものでもないと思います。「影響があるかもしれない」ということをもって,このように実務に重大な影響が及ぶこととなる規律を導入することには,経団連としては反対です。 ○神田部会長 ありがとうございました。   質問があったと思いますけれども。事務当局,どうぞ。 ○竹林幹事 御質問の点ですけれども,御質問を正しく理解しているか自信がないところがあるのですが,元々,取締役の報酬等の内容に係る決定に関する方針の(注1)として書かせていただいていたのは,方針についての説明ということになりますので,個人別の報酬等の内容を必ずそこで説明するということにはつながらないという意味では,御質問にあったとおりかと思います。しかし,個人別の報酬等の内容の決め方について,例えば,再一任をしているというようなことがあるのであれば,それは方法として,再一任しているということを御説明いただくようなこともあり得ると考えておりまして,方針というものの中に,個人別の報酬等の内容の決め方が含まれ得るわけですが,個人別の報酬等を明らかにしていただくというわけではないということになります。 ○古本委員 すみません,必要的決定事項になるということでしょうか。それとも,そうではないということでしょうか。 ○竹林幹事 元々の御提案は,定めていたら説明してくださいということなので,定めていなければ,説明には入ってこないということになるのですけれども,仮に,実際に再一任しているという,そういう定め方をしているということであれば,再一任しているという御説明をしていただくことになろうかと思います。 ○古本委員 ありがとうございます。 ○神田部会長 よろしゅうございますでしょうか。小林委員,どうぞ。 ○小林委員 どうもありがとうございます。   まず,1の取締役の報酬等の内容に係る決定の方針について,商工会議所としては,パブリックコメントにおいて,現行の規律を見直す必要はないという意見を表明しております。元々,決定方針に関する規律として,株主総会への説明を義務付けることで,かえって株主総会の議論が形骸化して,株主との対話の質が下がる懸念があることを理由としておりますが,この懸念については,我々は依然として持っております。   本文(2)の決定方針の決定を取締役に委任できないという規律を設ける件については,これも設ける必要はないと考えております。この資料の説明ですと,任意の委員会に対する意見照会までは認められるようですが,現在,CGコードに沿って各社が工夫しているような,任意の委員会への委任という現行実務ができないことになる,と理解されます。各社の実情に応じて,弾力的に対応できる余地を残すべきと考えております。   付言いたしますと,取締役会を設置している株式会社でも,中小零細企業もたくさんございますので,このような形式的な規制は過剰ではないかと考えております。   本文3も,全体として法制化する必要はないと考えております。特にA案は,単に業績連動報酬等を支払おうとする株式会社が対象となっているので,これは規模に関係なく,非公開の会社も含まれると理解されます。このような記述ぶりですと,元々制度そのものが対象としている人たちではない,想定外の人たちが入ってくる可能性がありますので,少なくともA案には強く反対します。元々この制度は必要ないという前提ですが,一応意見として申し上げておきます。   3の取締役の個人別の報酬等の内容に係る決定の再一任でございますが,こちらにつきましても,商工会議所としては,中間試案B案の現行法の規定を見直さないことを支持しておりまして,この点は同様でございます。あえて株主総会にこのような判断を求めることについては反対いたします。   A案にそもそも反対ですが,提案の中で公開会社,非公開会社という基準の設け方をされているこの区分け自体にも違和感があります。私どもの会議所の考え方として,こういう分け方をすることに違和感があるということは,意見として申し上げておきたいところでございます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。前田委員,どうぞ。 ○前田委員 どうもありがとうございます。   まず,決定方針を決定しなければならない場合について,確かに方針の決定が重要な意味を持つのは,インセンティブ報酬を導入する場合なのだと思いますけれども,補足説明でお書きくださっていますように,インセンティブ報酬を導入しない場合でも,なぜ固定額報酬だけにするのか,方針を決定することに意味があると思いますし,最高限度額に関する方針のように,なおお手盛り防止との関係でも,方針の決定が意味を持つことがあり得るのではないかと思います。ですので,このA案のように,あえてインセンティブ報酬を導入する場合に限定することはないのではないでしょうか。   そうしますと,経営陣への規律付けの必要性が高い会社ということで,指名委員会等設置会社は既に手当てがございますので,B案の一定範囲の監査役会設置会社プラス監査等委員会設置会社ということにするのがいいのではないかと思います。   それから,決定の再一任については,そもそも現在でも,株主総会決議は,配分は「取締役会の決定に委ねる」という内容の決議なのですから,再一任が認められるためには,その株主総会決議が再一任を認める趣旨の決議である必要があるはずであって,今回のA案は,そのことを明確化するだけのことなのだと思います。   確かにA案ですと,再一任の株主総会決議をしておかなければ,再一任できなくなりますけれども,現在でも,株主総会決議が再一任を認める趣旨のものでないなら,再一任できないはずです。ですから,A案は,規制の強化というよりは,決議内容の明確化にすぎないのであって,規律の明確化のために,A案のような規定を設けるのがいいのではないかと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。田中幹事,どうぞ。 ○田中幹事 以前から,再一任に関しては,株主総会決議を明確に採るべきと申し上げておりますので,この3については,A案に賛成したいと思いますけれども,規律の対象に関しては,公開会社というところをもう少し限定する可能性もあるかなと思います。実態的に閉鎖的な会社で,オーナー経営者も存在しているという場合に,そこまで厳格に明示的な再一任決議を採る必要もないのではないかという考え方もあり得ると思いますので,例えば上場会社に限るとか,現行法でいえば,有報提出会社まで限定すると,そういう可能性はあると思います。   ただ,そのように限定した上であれば,先ほど前田先生がおっしゃったように,本来株主総会で再一任を認めていなければ,再一任はできないはずですので,再一任が通らないかもしれなくて,通らないときにこういう不都合が起きるというような議論は,ちょっと現行法下でも通らないのではないかと思っております。   諸外国の情勢から見ても,個別報酬開示をする国が多くなってくる中で,本当に取締役会で各自の報酬を定めることが,どれほどの悪影響があると言えるのかということを考えた方がいいですし,また,もし本当に悪影響があるのであれば,そこは株主を説得して,明示的に再一任の授権を得るようにするということでいいのではないかと考えております。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。梅野幹事,どうぞ。 ○梅野幹事 ありがとうございます。   日弁連の意見につきましては,中間試案に対する日弁連の意見として述べさせていただきましたので,いちいちこれらについて言及はしません。若干気が付いた点を申し上げますと,2ページの(3)で,「決定方針を決定しなければならないものとする」という点に関してでございますが,これにつきましては,日弁連としては,少なくとも公開会社かつ大会社のうち,その発行する株式について,有価証券報告書の提出義務を負う会社については,類型的に株主が不特定多数となり,かつ,株主構成が頻繁に変動する可能性が高いことが想定されることから,制度的に企業統治を充実させる要請が高く,取締役の報酬等の内容に係る決定に関する方針を定めることを義務付けるべきであるという意見を申し上げたところでございます。したがいまして,ここに関しては,基本的にB案ということでお考えいただければと思う次第です。   また,3ページの2,監査等委員会設置会社についても,やはりその発行する株式について,有価証券報告書の提出義務がある会社について,このような規律を設けるということでよいのではないかと考えております。   次に,4ページの2,金銭でない報酬等に係る株主総会の決議による定めという点に関してですが,これにつきましては,従前,日弁連で意見を述べてきたところと,基本的な方向性としては合致するものであると理解しておりますので,賛成を致します。   なお,この補足説明の中におきましても,事前交付型ですとか事後交付型ですとか,現在の実務に相応した御検討をしていただきまして,大変有り難いと思っている次第でございます。   関連する細かな点ですけれども,4ページの②新株予約権に関する(注)ですけれども,アでは「当該新株予約権の数の上限」と,イでは「会社法第236条第1項第1号から第4号までに掲げる事項」とあって,その第236条第1項第1号を見ると,上限とは書いていないのですけれども,実務では,この決議を繰り返し枠として何回も使うことを想定して,上限を定めることがあります。今の実務で許容されているので,余り問題はないとは思うのですけれども,アで上限とされていて,イではそうなっていないということから,解説等において,そういった上限数の定めが許容されることを確認していただければ,大変有り難いと思った次第です。以上でございます。 ○神田部会長 ありがとうございました。坂本幹事,どうぞ。 ○坂本幹事 ありがとうございます。   経済産業省の方からは,参考資料43で意見を提出させていただいております。かいつまんで御紹介をさせていただきます。   まず,(1)の決定方針を定めている場合の株主への説明義務につきましては,株主が報酬等の必要性・合理性に対して,適切に監督を及ぼすという観点から,こういった御提案のような規律を設けることには賛成をしております。   二つ目の決定方針の決定について,取締役への委任を禁止するということに関しましても,役員報酬に係る決定方針が,客観性・透明性が担保されたプロセスの中で決定をされることというのが重要なことだと考えておりますので,これを決定方針の決定について,取締役会の決議事項とすることについて,こういった形で制度的に担保されるということについては,適切であろうというふうに意見を出させていただいております。   三つ目,決定方針の決定の義務付けに関しましても,(2)のところもそうですけれども,特に上場会社等に関して,決定方針の決定を義務付けるというB案について賛成をしております。2ポツの金銭でない報酬等に係る株主総会決議の定めにつきましては,株式報酬等がインセンティブ報酬の中でも特に有効な方法の一つであろうということから,部会資料の(注)のところでお示しを頂いたような事項について,概要ということで,過度に詳細にならないような内容にしていただいているかと思いますので,こういった形での定めというのは妥当であろうというふうに考えております。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   では,沖委員,藤田委員の順で。沖委員,どうぞ。 ○沖委員 ありがとうございます。   まず,取締役の報酬等の内容に係る決定に関する方針につきまして,この方針を決める意義は,株主が方針の基本的な妥当性,報酬の在り方の全体的な妥当性の判断をした上で,報酬全体の中での議案の位置付け,妥当性を判断することが可能になるということにあると思います。株主は,お手盛りの規制だけではなく,インセンティブの観点からも,議案を評価できるようにすることが必要ですので,一定の範囲の会社に方針決定を義務付けることが相当だと考えます。   まず,上場企業で増加している業績連動報酬の上程をする場合には,議案の内容が技術的に詳細にわたるということは困難ですので,概要として示された議案を株主が評価するために,方針の決定を義務付けることが相当ではないかと考えます。また,業績連動報酬を上程しない場合にも,上場企業では,報酬全体の中で業績連動報酬をどのように位置付けているのか,導入しない理由は何かを株主が理解するため,方針の決定を義務付ける必要があるかと思います。したがいまして,義務付けの範囲としては,主要な上場会社を含むB案が妥当であると考えます。   このB案の範囲は,社外取締役を置くことが相当でない理由の説明義務を負う会社と一致しているわけでありますが,そういう会社は,社外取締役の監督機能が期待されており,社外取締役が報酬の方針の決定,方針に沿った報酬の策定に関与するために,社外取締役を委員とする諮問報酬委員会の活用の促進が期待できるということになるかと思います。   取締役の個人別の報酬等の内容に係る決定の再一任の原則的禁止につきましては,現在の実務が総会の決議の決定を取締役会から代表取締役にそのまま再一任してしまっている実務は,やはり問題が残るところです。したがいまして,再一任の原則禁止の導入につきましては,やむを得ないと考えておりますが,実際には,取締役会で取締役の報酬の配分を議論するということは,現実的ではないと思います。   したがいまして,取締役会は,報酬の決定のプロセスを監督する義務があるということでありまして,実際の決定の再一任の委任先は,個別の取締役だけでなく,社外取締役を委員とする複数の取締役が構成する諮問報酬委員会に対する委任も可能ということにすることがよいかと思いますが,そのような扱いが可能であることが法文上又は解釈上明確になれば,非常に意義があると思います。 ○神田部会長 ありがとうございました。藤田委員,どうぞ。 ○藤田委員 ありがとうございます。何点か申し上げたいと思います。   まず,部会資料20の第1の1の「本文1(2)の(注)について」というところで書かれている,監査等委員会設置会社や取締役会非設置会社についても報酬の決定方針を取締役に委任できないものとするということをどう考えるかということですが,どちらのタイプの会社についても同種の規律を及ぼしていいのではないか,つまり,委任できないというふうにしてもいいのではないかと思っています。内部統制システム等と同じで,決めることを要求されるわけではないけれども,決める場合には取締役の独断で決めてはいけないということにしてもいいように思います。   次に部会資料20の1(3)の決定方針を定めなくてはならない会社の範囲ですが,実はA案,B案は,全く異なった発想でこの範囲を決めようとしているもので,お互い相互排斥的な関係にはないのですね。A案的な発想は,業績連動報酬というのは,金銭の報酬と組み合わせて,どんなパッケージを設計しているのかという方針を言ってもらわないと,その適否を判断しようがないようなところがあるので,こういう形で報酬を出すのであれば決定方針を決めてもらいたいというのも分かりますし,B案については,先ほど前田委員が指摘されたような観点から分かる面もある。そして異なった理由から決定させることの要請があるのであれば,A案で書かれたような会社あるいはB案で書かれたような会社,いずれかであれば決定方針を決定しなければならないという規制の仕方もあり得るように思います。   そうなると,B案の対象外の会社であっても,業績連動報酬をあえて与える限りは決定方針を示せということになるのですが,その際に会社の対象をどこまで絞るかといった更なる微調整は必要かもしれません。いずれにせよA案かB案かいずれかから選ぶという問題の立て方に,あえてこだわる必要はないという印象を持っております。   最後に,再一任の点ですが,これは言うまでもなく,お手盛りという観点から枠が決まっていればいいという話ではなくて,業務執行者が監督者である取締役会メンバーの取り分を決めるということに対する違和感が一番基本です。私は,現在の提案,つまり一任するのであれば株主総会で一任する――誰に一任するかということも含めて――ということを決議することを要求すべきだと思いますけれども,もし,そうしないのであれば,一任したか否か,誰にしたのかについて,事業報告で開示することだけは最低限必要だと思います。今まで何人かの委員から発言があったように,決議させる方が,理屈としては通ると思いますけれども,実務的にどうしても無理だというなら少なくとも開示だけはしてもらいたい。現在それもしていないのは改めてもらいたいと思います。取締役会の独立性を高め,監督機能を強化すると標榜している会社が,それと矛盾するような報酬の分配の決定方法をしていないのかということを知る手掛かりもないという現状だけは,改めなければいけないと思うからです。   なお対象会社について,公開会社という線引きがいいかどうかは,確かにもう一度考える必要はあるかもしれません。取締役会の機能の強化,社外取締役の選任にかかる規律などについても,一定の範囲の会社で区切っているのですが,公開会社なら全てに規制を及ぼすべきだと考えているわけではありません。そういったことも,併せて考える必要があるかもしれません。   最後に,細かなことですが,現在,A案の書き方は,取締役へ委任する場合となっています。ただ特定の取締役ではなくて,任意で設置した報酬委員会,例えば社外取締役から成る報酬委員会とか,あるいは外部者を入れた報酬委員会に委ねるということが,これの案の下だとどうなるのか,ちょっとはっきりしない気がします。こういうケースもやはり総会による委任が必要というふうに理解すべきだと思いますが,そうだとするなら,取締役会が決めないなら誰が決めるかについて,総会で決めた上で委任してくださいという趣旨だとすれば,そういう表現に直した方がいいように思います。   今申し上げたケースも,取締役に委任して,取締役の諮問機関として社外取締役だとか社外有識者等から成る任意の委員会を置いて検討しているのだという説明も,論理的にはあり得るのですが,直接そういう委員会に配分の決定を委任することも,あり得る選択肢だと思いますし,その場合も明示的に含まれるような案にした方がいいように思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。尾崎委員,どうぞ。 ○尾崎委員 どうもありがとうございます。   幾つか発言させていただきたいと思うのですが,報酬の問題を考えていくときに,従来は取締役の報酬というのは,固定額あるいは総額,最高限度額,そういう枠の中で考えていたと思います。それが現在では業績連動,こういったものが,ある意味で併存している時代というのでしょうか,こういう時代ですので,先ほど来から出ておりますように,特に業績連動報酬におきましては,その報酬を一体どういうふうにして決めるのかが問題となります。そもそもの問題として,報酬に関する方針がまずは決まらないといけないでしょうし,固定額と業績連動のバランスというのでしょうか,それをどういうふうに考えて,報酬を「体系」として考えていくかが問題となります。   また,先ほど前田先生がおっしゃっていたように,例えば,固定額の方式を採っているにしても,それは中小企業であったとしても,なぜそういうふうに決めているのか,その報酬決定はどういうふうにしているのかというのは,当然報酬方針があって決められているはずであって,例えば大株主は直接の配当ではなく役員報酬で利益の分配を受け取っているとか,そんなケースも,中小企業にはあるやに聞いておりますが,それは,そういう形での報酬の決定の方針ということだろうと思います。いずれにしても,その会社がどういう報酬の決定をしているのかということを「報酬方針」として,明らかにしていくべきではないかという気がしております。   したがいまして,方針を決めるということは,ある意味で,一定の会社においては,これは,決めざるを得ない会社というのは当然あると思いますし,決めている以上は,それを明らかにするのは当然でしょう。他方,中小企業であっても報酬に関する方針を明らかにしていくという方向で進むべきであろうと思います。結論としては,全ての株式会社に報酬方針を決めてもらうという方向性は,あっていいのかなと思っています。   中長期的にというのでしょうか,報酬の決め方の透明性というのでしょうか,金額の透明性を図ることが最もよいことなのかもしれませんが,そうでない報酬もあり得ますので,報酬の決め方ということで,その透明性は少なくとも確実に実現する必要があると思います。そして,その報酬を明らかにする「場」は,やはり株主総会の場がよろしいのではないかと考えております。   私ども早稲田大学が提出した意見書では,具体的報酬額の決定についての再一任というのは,理論的に本来禁止すべきものであるというのが大方の意見でございました。現在の実務は,代表取締役に対する監視・監督という機能を非常に薄めてしまうおそれ,つまり,代表者が勝手に決めてしまう危険性がある。確かに一定の金額枠の中で決めてはいるのでしょうが,自分以外の取締役に対して,どういうふうな配分をしていくのかとかいう点で,恣意的になされては問題があるわけで,提案されている案については,A案しかないというのが全体としての意見であったわけです。私もA案に賛成したいと思っております。   ただ,先ほど来から出ておりますように,任意の報酬委員会,こちらを活用するということは十分考えられるわけでございます。このような委員会を任意に設けて,こちらの方に報酬決定については投げて,つまり社外取締役が中心であるそちらに投げて,そちらの方で適正な報酬を決めていく。それも先ほど来の「報酬の方針」の枠の中で決めるということですが,指名委員会等設置会社の報酬委員会という枠組みは,監査等委員会設置会社などにおいても,あり得るのではないかと感じております。したがいまして,先ほど前田先生がおっしゃっていたこと,全く私はそのとおり賛成でございまして,正に方針というものを明らかにする必要があるということです。   ただ,それを強制する際におきまして,どこまでの会社にするのかということについて,少なくともB案というのは,一つの方針の決め方であろうと思います。監査等委員会,これも当然のことかもしれませんし,先ほどちょっと申しましたように,中長期的にというのでしょうか,どこまで先か分かりませんが,やはり取締役の報酬の在り方というのを「報酬方針」としてそれぞれの会社において考えていただいて,それが株主さんの方に明らかになるという仕組みを作ることが,重要ではないかなと思っております。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   では,三瓶委員,青委員の順で。三瓶委員,どうぞ。 ○三瓶委員 ありがとうございます。   まず,方針,本文1(2)のところで,明文規定を設けていただくことに対して賛成です。また,委員会等へ諮問することを禁止するものではないということについて,明確に補足説明していただき,ありがとうございます。   本文1(2)の(注)について,監査等委員会設置会社も同様に取締役に委任できないものとすることに賛成です。   (3)のところですけれども,先ほど藤田委員から御指摘ありましたとおり,A案については,特に内容に主眼を置いていて,B案については,対象に主眼を置いているのかなということですが,そういう認識の下で,ここについては,監査役会設置会社,監査等委員会設置会社ともにB案,要するに,一般株主に対する責任ということを重視して,そういった対象に主眼を置いた,こちらのB案が好ましいのではないかというふうに考えます。   3ですが,内容に関わる決定の再一任に,中間試案ではA案に賛成しております。ここで,考え方として,実務上,取締役の個人別の報酬等の額が明らかになることを避けるためなどの理由で,取締役会が代表取締役に一任することがあるという指摘がありますが,取締役会による代表取締役に対する監督に不適切な影響を与える可能性ということを懸念して,再一任についての透明化が必要であると考えています。   また,実務上,支障があるというような御意見もありますけれども,例えば,海外で個別開示が非常に進んでいる一つ根底にある考え方として,例えば,リーズナブルな見識を持った人が見て,例えばその人の給与明細を見て,違和感がないというようなものをそもそも用意するべきだと,そういう一般的な考え方があります。そういうことからすると,開示に耐えられるだろうということです。   ここで,取締役会の出席メンバーを考えたときに,この方々がリーズナブルな見識を持った方々であるというふうに考えるのがふさわしいと思います。そうすると,そこで本来,違和感があるようなことがあれば,それ自体が問題であって,議論していただきたいし,そうでなければ,それぞれ,違和感があるないというの,これ,同金額だとか金額が近いということではなくて,それぞれの果たした役割,功績に応じて,ふさわしいという意味ですけれども,そういうことが皆さんの間で,リーズナブルだと思うものであれば,取締役会の中で決定していくことに何ら支障は本来ないはずです。ということで,ここについては,中間試案のA案に賛成ということです。   また,補足説明のところには,事業報告で開示されていればということがありますけれども,事業報告で事後的に開示というのが,どのような開示のことを言っているのか,ちょっと分かりません。それで本当に考え方が全て明らかになるのかどうか。そこに,考え方を全て明らかにするとなると,開示の方法がまた煩雑というか,難しくなってくることも考えられますから,ここについて,事業報告に耐えればいいという考え方はちょっと,すぐには理解し難いなというところです。 ○神田部会長 ありがとうございました。青委員,どうぞ。 ○青委員 まず,取締役会が株主に対して,責任をきちんと果たすということが重要でございまして,それで,そのために,代表取締役を始めとする取締役に対する監督機能を取締役会が発揮するということが必要というふうに考えますが,その観点からいけば,取締役会として,取締役の各人を評価して,その評価に基づいて,取締役会自らが取締役の個人の報酬額を決定するというのが,一番基本であるのかなというふうに考える次第でございます。   それで,例えばということですけれども,社内取締役が過半を占めているような取締役会を想定した場合に,株主総会の意思が全く及ばないという中で,そうした取締役会が再一任の決議をするということでは,監督責任というものが十分に果たされるのかというところについては疑問を感じるところでございます。   そうしたことを踏まえますと,取締役会が適切に監督機能を発揮するためには,本来,取締役会自らが判断するということが必要だと考えますし,仮にそれを取締役に再一任する場合におきましても,総会の何らかの意思確認というものが必要ではないかなということで,事務局の提案は適当ではないかというふうに考えられる次第でございます。   それからあと,再一任先でございますけれども,そちらにつきましては,代表取締役1名というのが,現状のところ,多い実務とは伺っておりますけれども,そちらというよりは,やはり独立の社外取締役を主とする取締役によって構成される,任意でも構いませんけれども,報酬委員会を活用するといったようなことが適切ではないかというふうに考えられるところでございまして,それで,そうしたところに再一任できるような形で,実際のところは,実務が可能になるような仕組みということをお願いできればというふうに存じます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,時間の関係もありますので,次に,6ページの下,「4 株式報酬等」,それから,その次の項目である「5 情報開示の充実」,9ページの下までについて,御質問,御意見をお出しいただきたいと思います。いかがでしょうか。古本委員,どうぞ。 ○古本委員 ありがとうございます。   4の「株式報酬等」についてですが,これについても,企業関係団体は皆,「現行の規律を見直さない」とするC案に賛成しているにもかかわらず,部会資料からはC案が削除されてしまっているという状況にあります。   経団連として,C案が適当であると申し上げている一番の理由は,現行実務に何ら支障がないということで,実際,多くの会社が株式報酬を導入していますが,株式の無償発行を求めるような声は上がっておりません。現行実務の相殺構成が技巧的で分かりくいということがあるのかもしれませんが,そのような理由で株式の無償発行を新たに認める規定を導入することが適当なのか,疑問に思う声が多かったということです。   それから,5の「情報開示」につきましても,パブコメでは,会社関係者とその他で大きく意見が割れた状況だと認識しております。   (1)につきましては,先ほどから様々御議論いただいていますが,私どもとしては,③の「再一任」に関する開示には反対です。   (2)の「個人別報酬額」につきましても,開示によって得られるであろうメリットがほとんどないと考えられる一方,プライバシーの問題を含めて,マイナスの影響が大きいことから反対です。個人別の報酬に関するA案やB案は海外での開示をイメージしたものかもしれませんが,欧米と日本とでは報酬のレベルが全く異なりますので,今の時点でこうした規定を導入するのが理にかなっているとは思えません。   それから,C案は初めて見るものですけれども,有価証券報告書での開示とのタイミングの違いが指摘されておりますが,そもそも会社法で,役員報酬1億円以上の開示といった規定を置くことが適当なのか疑問です。会社の規模や利益水準などは,会社ごとに全く異なります。そうした中で,何ゆえ1億円をもって線引きをする必要があるのか疑問に思います。金商法で1億円以上の開示が要求されているから,会社法においても,ということなのでしょうが,そのような理由では納得感に乏しいと思います。それに加えて,そもそも株主が個人別報酬の金額を知るところとなったとしても,それだけでは報酬の妥当性を判断できるものではありません。   何らかの理由で,報酬のレベル感を知りたいということであれば,過去の有価証券報告書をたどれば,昨年までの実績は十分に把握できるわけですから,わざわざ会社法に新たな規定を置くほどの価値があるとは思えません。C案も含め,個人別報酬額の開示には反対です。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。川島委員,どうぞ。 ○川島委員 どうもありがとうございます。   5の(2)取締役会の報酬額の個人別開示について意見を申し上げます。   まず,取締役の個人別の報酬等の額の開示について,有価証券報告書における取扱いや個別開示に対する国内外の機関投資家のニーズなどを踏まえ,事業報告の内容を拡充する方向で検討を進めるべきだということを申し上げてまいりました。その上で,A案からC案のいずれの案とするべきか,あるいは他の開示基準とするべきかについては,有価証券報告書における記載要件と合わせて,連結報酬等の総額が1億円以上の役員とすることが,企業側の実務において過度な負担とならないため,個人別開示の第一歩としては適当であると考えてまいりました。   しかし,報酬額の水準については,企業規模や企業の個別事情などが影響するものであること,そもそも開示の目的は,額の高い低いということだけではなくて,その額が役員等のインセンティブとして適切であるか,報酬方針に沿って適切な支払がされているかなどを評価できるようにするためであることなどを踏まえますと,A案,C案のように報酬額で線引きすることよりも,経営に対する権限の大きさや責任の重さなどで線引きすることの方が,より合理的と考えます。   具体的には,B案にある代表取締役を基本とし,これよりも広げるか,あるいは絞り込むかについて検討することが妥当と考えます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。小林委員,どうぞ。 ○小林委員 ありがとうございます。   まず,4の株式報酬ですけれども,商工会議所としては,従前から株式報酬等について,株式,新株予約権ともに,無償という形で金銭的な裏付けのない資本金の増加につながることから,現行法の規定をあえて見直す必要はないと考えております。   元々,中小企業において,思わぬ支配権の拡大・移転や経営の安定性が毀損される懸念から,本制度には賛成いたしかねるとしておりました。今回,対象を上場会社に限る乙案が提案されていることについても検討しましたが,上場企業であっても,資本金が必ずしも大きくない企業におきましては,やはり先ほど申し上げた懸念は払拭できないと考えますので,この無償構成の株式報酬には,慎重であるべきと考えております。   もう一つ,(3)で,増加する資本金額及び資本準備金の額について,株主となる取締役が提供した役務の対価とする案が示されております。しかし,特に中小企業では,事業承継の際などによく問題となりますけれども,上場企業のような株式の取引相場がないために,株式の公正な評価額を算定することは,実務上,極めて困難です。したがって,確実に争いが増えると想定しているということを,会議所の考え方として付言させていただきます。   それから,5番目の情報開示の充実につきましては,現行の規律を見直す必要はないと,商工会議所として申し上げております。   元々,情報開示についてはコーポレートガバナンス・コードや,有価証券報告書において,おおむね対応が図られております。また,先ほどの公開・非公開の概念で,公開会社には有価証券報告書の提出義務のない非上場会社も含まれますので,この部分の規律の線引きの考え方については,やはり違和感があるということは改めて申し上げます。   もう一つ,(2)の取締役の個人別報酬の開示につきましては,そもそもプライバシーの問題があるほか,チームワークの乱れなど,取締役同士の内部での意見対立を招きがちだということもあります。また,外部への開示のために,本来支払われるべき適切な役員報酬を引き下げるような心理的圧力が働いたりするような弊害を私どもとしては強く懸念しておりまして,開示項目としては適当ではないと,強く反対いたしております。   今回,A,B,Cという案で提示されておりますが,これについては全て反対いたします。C案について付言いたしますと,金商法上に似たような規定がございまして,そちらの見直しが議論されていると思いますが,今後別々に改正されていく法律に同じような規定を置くこと自体の意味と,会社法という規律の中で,このような金額基準があることについては違和感がございますので,この規律自体に反対したいと考えております。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。柳澤委員,どうぞ。 ○柳澤委員 発言の機会を頂きまして,ありがとうございます。   取締役会の報酬等に関する情報開示の充実につきまして,日本投資顧問業協会が機関投資家として意見を提出しておりますので,その内容に沿ってコメントさせていただければと思います。   役員報酬体系に関しては,投資家が会社のガバナンスを評価する上で重要な項目の一つとして分析を行っており,特に報酬体系が取締役に対して適切なインセンティブを付与する設計になっているかどうか,その仕組みが十分に説明されるべきと考えております。そのためには,報酬等の内容に関して,情報開示を充実させていくことが必要であり,中間試案第2部第1の1(5)で示された報酬等に関する事項の事業報告における開示につきまして賛成をしております。   例えば,具体的には,取締役の報酬等の内容に係る決定に関する方針を定めている場合には,その内容の概要や方針の決定方法,加えて事業年度での報酬等の内容が方針に沿うものであると取締役会が判断した理由について,開示項目とすることが求められると思います。   また,業績連動報酬等を付与する場合においては,インセンティブ報酬としての機能を的確に把握するという観点から,KPIの達成状況と,それに伴って付与される具体的な報酬等の内容,報酬等の種類の内訳,中長期業績に連動する報酬の割合などに関して,その仕組みが投資家にとって分かりやすいように,情報開示の充実が図られるべきと考えております。   なお,今回,改めて論点として掲げられた役員報酬額の個別開示に関してですが,会社から説明されている報酬体系が実際に機能しているのかどうかを確認する上で,一定の取締役に対して支払われた報酬額の実績をチェックすることができれば,投資家として,より的確に報酬体系の評価が可能になると考えられます。特に業績連動報酬等が付与されている場合には,報酬額の個別開示を通して,報酬体系が機能しているかどうかの実態について,一定の範囲で把握することが可能となりますので,インセンティブ報酬としての実効性評価を行う上でも有用な情報になり得るものと思います。   その際に,個別開示の対象をどこまでとするのかという論点につきましては,モニタリングの対象として,より重要と考えられる役員の対象者をどのような範囲で設定しておくのかという整理の仕方が妥当なのではないかと思います。その意味におきましては,A案の一定の人数までの報酬額上位を対象とした開示やC案の一定の報酬額以上を対象とした金額基準に基づく開示の仕方というよりは,モニタリングの重要性に照らして対象者の範囲を設定し,B案で示されたような一定の取締役を対象として,役職基準に基づく個別開示について検討していく方向性が望ましいのではないかと考えております。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   沖委員,坂本幹事の順で。沖委員,どうぞ。 ○沖委員 ありがとうございます。   4,株式報酬等につきまして意見を述べます。募集事項として,募集株式と引換えに金銭の払込みを要しない旨の定めを置き,会社法に明確な規定を置くことが,株式報酬のインセンティブ報酬としての適切な利用を促し,あるいは,税制面からも一層の対応を求める前提条件となることになると思いますので,賛成であります。   その規定の適用の範囲についてですが,今回,乙案が提案されておりますけれども,この乙案によりまして,中小企業での濫用への対処,濫用の可能性には対処することができると考えられます。これに加えまして,不公正発行における主要目的ルールと併せますと,かなり濫用にも対処できると思いますので,上場企業に限定する乙案に賛成いたします。   この場合の,現物出資方式により,実質的に金銭の払込みを要しないで株式を発行可能となることとの整合性についてでありますけれども,現物出資方式による場合,ひとまず金銭報酬債権を株主総会で承認し,認識した上で,この金額に基づいて資本計上がされるということになるかと思います。株式を直接交付する場合の資本計上額は,ストックオプション会計基準に準じた基準を設けるか,新しく会計基準を作るか,いずれにしましても,対価として用いられた自社の株式の契約日における公正な評価額か,取得したサービスの公正な評価額のうちいずれか,より高い信頼性を持って測定可能な評価額で算定されるということが予想されます。   サービスの額自体は,通常測定が困難ですので,付与される株式の公正評価額による可能性が高いと思いますけれども,上場株式には市場価格があり,公正評価額を知ることが容易でありますので,資本計上金額の明確さという点を考えても,上場株式に限定して株式報酬を認めるということは合理性があるかと思います。   あと,有利発行規制との関係について整理しておく必要があるかと思います。株式報酬につきまして,明確な,今回のように甲案また乙案のような規定を置く場合に,払込金額の規定,決議はしないわけですから,結局のところ,有利発行規制をどのように適用するのかということが問題になります。この場合,発行数の上限は,総会で決議事項とされていますので,既存株主の持株比率の希釈化については,株主の保護が図られていると考えます。したがいまして,有利発行規制が適用されないならば,それでも差し支えないのではないかというふうに考えております。   特に,事後発行型のパフォーマンス・シェアにつきましては,発行時期と条件が具体的に総会決議された場合,その具体的な発行時期までに株価が上昇していても,それは本来期待された効果のとおりですし,有利発行規制や,あるいは募集を決議の日から1年内に制限する現行法の規制は適用しなくてもよいのではないかというふうに考えられます。 ○神田部会長 ありがとうございました。坂本幹事,どうぞ。 ○坂本幹事 ありがとうございます。   参考資料43の3ページの下の段からでございます。4の株式報酬等につきましては,効果的なインセンティブ報酬ということで,その積極的な活用を促していくための環境整備として,御提案にもありますように,少なくとも上場会社等については,こうした無償発行等を認めていくことが望ましいのではないかと考えております。   4ページの5にいきまして,情報開示の充実につきましても,取締役報酬の透明性・公正性の確保,また,株主による実効的な監督という観点から,試案第2部第1の1(5)本文のような見直しをしていただく方向で進めていただくことが望ましいと考えております。   1点,未来投資戦略の中で,事業報告と有価証券報告書の一体的な開示というのが挙げられておりますので,こうした情報開示の充実の方向で,詳細を検討していただく際には,是非こういった一体的な開示という視点も併せて御検討いただければというふうに思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   尾崎委員,梅野幹事の順で。尾崎委員,どうぞ。 ○尾崎委員 どうもありがとうございます。   株式報酬に関しまして一言,また,開示に関しても一言申し上げたいと思います。   これに関しまして,いろいろと議論がなされ,この場でも議論した経験がございます。私も,基本的に,インセンティブを付与する目的という趣旨は理解しております。かつ,インセンティブ報酬という方向性も理解しております。ただ,その方法として,提案されている株式報酬という方式が妥当かどうかということで,この場でも反対意見が非常に多かったと記憶しています。   以前,私は,株式は基本的に議決権を伴うものであることから,提案されている株式報酬制度には濫用の危険性があると申し上げたと思います。乙案が提案され,決定事項の方の2の①でしょうか,開示をすることで,また決定をすることで,濫用に対しては少し歯止めがあるということになろうかという気はしております。   もし株式報酬を制度化するならば,可能ならば,この程度の手当ては必要かなというところでございます。ただ,理論的に更に検討すべき課題があると思っています。これまでも申し上げてきたように,いわゆる職務執行の対価として議決権を付与するということの意味です。職務執行の対価として,株式を付与することではなくて,私は「議決権」を付与するというところに注目しているわけです。そういうことがいいのかなという疑問はぬぐえないところです。学問的な話なのかもしれませんが,少しその点は詰めてみたいと思っています。   この制度では結果として「役務出資」を認めるということになろうかと思いますが,これも議論の余地があります。取締役が役務を提供した後に,それに対して,報酬を金銭でなくて株式で渡すとか,現物で渡すとかというのはいいわけでしょうが,株式報酬は,将来提供する役務を対象として,それを現在価値で報酬として決め,しかも議決権株式を渡してしまうわけです。与えられた議決権の行使をどこかで止めておけばいいということも,法技術的には可能なのかもしれませんが,それでよいのか。繰り返しになりますが,そもそもの役務出資ができるのかということも,皆さん方は理論的に解明できているのだとおっしゃるかもしれませんが,なかなか納得できない部分があるわけで,それはともかく,株式報酬という制度を作るならば,新提案では濫用という点については,ある程度これで効くかもしれませんが,そもそもというところに,やはり疑問がある。大学内部でコメントを検討しているときに,多くの研究者が疑問を持っていたということを御報告させていただきたいと思います。   もう1点,開示の話でございますが,提案に,賛成したいと思います。報酬は,適正な決定を経て適正な報酬が決定されることが必要だと思います。したがいまして,報酬決定の前段階は,株主への情報提供という意味で,開示が大変重要だと考えます。報酬の適正性を確保するという点からいって,この開示は必要なことだろうと思います。報酬に係る各種提案は全て,ある程度の開示がうまくできているということが前提になってくると,私は理解しております。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   梅野幹事,齊藤幹事の順で。梅野幹事,どうぞ。 ○梅野幹事 ありがとうございます。   沖委員と若干重複しますが,4の株式報酬等につきまして発言させていただきます。   まず,(1)についてですが,乙案に賛成したいと思います。日弁連の意見書においては,株式報酬については,特に非上場会社において,経営陣による支配権確保のために濫用されるおそれがあることから,その段階では上場会社といったストレートな定義がされていなかったので,公開会社かつ大会社であって,株式について有報提出義務を負う会社に限定すべきであるという意見を申し上げました。しかし,今回乙案では,上場会社の定義を設け,そのような上場会社に限って株式報酬等を認めるという方向性となっておりますが,これに賛成でございます。   若干感想めきますが,金商法と絡んで,株式会社の種類について,いろいろな概念が錯綜してきている感じがございまして,どこかで少し概念整理みたいのをした方が,ユーザーとしては分かりやすいかなというように思います。   次に,有利発行についてですが,昨年の第3回の部会において,参考資料10を沖委員と提出させていただきました。そこでは,株式報酬として付与される株式等について,無償発行を認め,有利発行規制を適用しないという方向性を御提案しましたが,今回の部会資料20を拝見しますと,募集株式と引換えに金銭の払込みを要しない旨を定める場合,必ずしも有利発行規制の適用がないということを明示的に規定するのではないと理解を致しました。   振り返ってみますと,会社法制定時に,新株予約権を,いわゆるストックオプションとして無償で発行する場合は,本来会社が負担すべき金銭報酬を低く抑える経済的な効果があるのであれば,特に有利なわけではないという形で,有利発行性が否定される旨の解説があったと理解しております。今回も同様に,もし有利発行規制について明示されないということであれば,やはり立法経緯の解説等において,そういった有利発行の問題を整理していただくと実務上ありがたく,使いやすい制度になるのではないかと思います。   ここから先は,よく分からないところですが,尾崎先生の御発言にもありましたが,甲案のような形で,一定の限定が付いているとはいえ,株式会社一般に無償発行を認める方向性に踏み込んだ場合,払込金額を1円とするとか,そういった方向で,無償発行に近い類型の発行が広がるきっかけとなりはしないかといった懸念についても,検討する必要があるのではないかと思いました。   次に,7ページの(3)のところですが,今回,あまり会計については踏み込まないものと理解しておりますが,資本金の額及び資本準備金の額の合計額について,株主となる取締役が提供した役務の対価の額とするという点については賛成をしたいと思います。   既に,ストックオプション等に関する会計基準,企業会計基準第8号だと思いますけれども,その第15項において,必ずしもストックオプションだけではなくて,サービスの取得の対価として自社の株式を交付する取引についても,会計処理を定めていると理解しております。   そこでは,企業がサービス取得の対価として,自社の株式を用いる取引については,取得したサービスを資産又は費用として計上し,対応額を払込資本として計上するとされています。サービスの取得価格については,対価である株式の契約日における公正な評価額又は対価となるサービスの公正な評価額のうち,いずれか信頼性の高いものとするというように定められています。さらに,それについて解説があり,公開企業については,自社の株式の市場価格による信頼性のある測定が可能なので,これに基づいて算定すべきだし,算定の基準日は契約日とすることが合理的であるというふうにされていると理解しています。   部会資料の8ページに,取得した財貨又はサービスを資産・費用として,対応額を払込資本として計上し,契約を締結した日における株式の公正な評価額で算定するものとするという意見があったという紹介がありますが,この方向性については是非検討していただきたいと思っております。  特に,事後交付型の株式報酬においては,契約日に対価を確定できるメリットは大きいと考えています。すなわち,契約日以降,株価上昇があると,その上昇した分だけコストが増えてしまい費用が確定できないといった問題もありますし,361条1号の決議についても,対価の額をもって総額を定めるということになってくるのだと思いますが,事後的に株価が上昇した場合,付与される株式数が減ってしまうといった懸念もあり得るところだと思います。そこで,計算規則等が絡んでくると思いますが,実務的な観点からは,できれば,ここに意見として紹介されているような形で,契約日に対価を確定できるという方向に持っていっていただけると,大変使いやすい制度になるのかと思っている次第です。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。齊藤幹事,どうぞ。 ○齊藤幹事 ありがとうございます。   2点御意見申し上げます。1点目は,梅野幹事が御指摘になられました資本金と資本準備金の額の計上の仕方でございまして,取締役が提供した役務について,既に提供を受けた分という表現になっていることを前提に,事務局の御提案に賛成したいと思います。   つまり,将来提供される予定の,まだ会社に入ってきていない役務の部分で,しかも取締役の現在の任期を超えた部分まで,例えば現在価値に評価をして,資本金や資本準備金に振り替えてしまうことにつきましては,現在の資本制度と相容れないので,認めるべきではないように思われます。もちろん,資本制度それ自体の意義ということにつきましては,また別途議論する必要はあると思いますけれども,少なくとも現在の体系とは相容れないという趣旨でございます。算定の基準時をどこにするか,それを前倒しし得るかは,また別に考えることができる問題だろうと思われます。   もう一つは,先ほど来議論がございました個人別の報酬の開示でございますが,この問題にかかる重要な点の一つは,上場していない,あるいは有価証券報告書を提出していない,しかしながら公開会社の形態である会社をどのように位置付けるかということでございまして,このような会社まで念頭においた報酬規制の在り方は,これまで部会では余り議論をされていなかったように思います。   このような会社の態様は様々でございまして,上場会社に近い,株主が分散している会社もあると思いますし,一方で,本当は閉鎖会社の形態を採るべきだけれども,特に最初に会社を設立したときから,何も変更する必要を経営者が感じないまま,今に至っているというような会社も含まれているように思います。このような会社に一律に,上場会社のガバナンスを前提になされた規制を及ぼすのは,時期尚早ではないかと思います。   このような,上場会社以外の会社においても共通する問題としては,少数株主の保護がありまして,少数株主の保護に資する,あるいは,そのために必要な規制であれば,これらの会社に及ぼす必要がありうると思いますけれども,そのような側面からの議論も,余りされてきていないように思いますので,今回,公開会社一般にこの規制を及ぼすことについては,まだ議論は熟していないのではないかと感じた次第でございます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   次の項目に移ってもよろしいでしょうか。第1について,もし補足的にもあれば。田中幹事,どうぞ。 ○田中幹事 報酬に関する情報開示の充実については,是非実現していただきたいと思います。この開示の範囲について,公開会社全部にするか,実質的に上場会社に準ずる会社にするかというのは検討の余地があって,後者も十分考えられると思いますが,少なくとも上場会社か,それに準ずる会社については,実現していただきたいと思います。   報酬開示については,確かに少しずつ改善してきているかとは思いますけれども,例えば,同じ同程度にグローバルな会社で見たときに,日本の会社と,例えばアメリカの会社の株主総会資料を見た場合に,やはり報酬に関して,圧倒的な情報格差があると思っています。明らかに貧弱であるということは否めないのではないかと。   特に,先ほど来KPIのことがいわれておりますが――最近,大学でもKPIの達成度を求められるようになっているのですが――アメリカですと,どういうどのようなターゲットを設定していて,そのターゲットへの達成率が何%であるから,各取締役について,これだけ払ったということが明確に開示されるわけでして,そういうのと比べたときに,やはりどうしても見劣りすることは否めないと思いまして,その点について,開示の充実を図ることがやはり必要ではないかと思います。   問題は個人別の報酬開示の是非ですが,アメリカの場合,トップ5人が個別報酬の開示対象ですから,トップ5人の一人一人について,固定の報酬がこれだけあって,短期のインセンティブがこれだけあって,中長期インセンティブがこれだけあって,達成度が何%で,従ってこれだけ払いましたという形で開示されるわけですけれども,日本の場合は,社内取締役――社外役員は別枠で開示対象になっていますから――全社内取締役でコンバインして,そのコンバインした情報を開示すれば,一応は,KPIの達成度も含めて,報酬の状況が分かるのではないかという気もします。   この辺りはちょっと,投資家の方の御意見を聞かなければならなくて,先ほど柳澤委員から,やはり個人別の開示もしてほしいと思うという御意見がありまして,それはもちろんもっともだと思うんですが,ここは最も実務界の反対が強いところかと思いますので,そういうコンバインした情報開示でも現状では足りるのではないかという,そういう可能性も検討されたらいいのではないかと思います。   私自身としては,日本の場合はやはり,個人別の報酬が開示されないということもさりながら,とにかく情報の開示が少な過ぎるということが問題だと思っておりますので,是非これを契機に,これは法令の改正だけではなく,実務上の対応も大事だと思っていますので,情報開示が充実することを願っております。   それから,株式報酬に関してですが,株式報酬を現物出資又は相殺構成で付与しても,やはり,直接ストックオプションを無償で付与した場合と同程度の開示が必要になるのだということを明確にすることが大事だと思っています。そのような形で,株主総会決議における情報開示が図られるのであれば,今回の法改正において,あえて無償の発行まで明示的に認める必要はないということはあり得る考えかなとも思います。   確かに,無償発行で起きるかもしれない弊害は,現物出資構成でも起きるはずですので,私自身は無償発行に対する反対論には今でも納得はしていないんですが,産業界は別段これに積極的ではなく,むしろ反対しているという中で,あえてこういう規律を設ける必要はないということはあり得るのではないかと思います。   それから,最後に,(3)の資本金の額及び資本準備金の額ですが,これは私は,以前から必要性について御意見を申し上げていたところです。つまり,ストックオプションとして新株予約権を付与する場合には,会計基準に従って,役務提供のあった部分を漸次,資本金に振り替えることができるのですが,株式報酬を現物出資構成で付与してしまうと,金銭債権である報酬請求権を現物出資した時点で,その金銭債権の額面額全額を資本金又は資本準備金に計上しなければならないのではないかという問題があって,ここは法令上の対応が必要だと私は理解しておりましたので,こういった規律が設けられることはいいのではないかと思います。   その上で,一つ御質問ですが,先ほど沖委員が言われた有利発行規制との関係です。上場会社の場合,株式に市場価格がありますから,一般的には株式型報酬の評価額を計測しやすいとは思うのですが,例えば報酬目的で譲渡制限株式を発行するが,譲渡制限が解除されるのに一定の条件があって,条件未達のときは会社が無償で取得してしまうと。そういう条件で発行した場合に,その条件を加味して,発行される株式の公正評価額はディスカウントされると考えてよいか,ディスカウントされた価格で発行しても有利発行でないと解してよいか,という問題です。理論的には,公正評価額は条件の内容も含めて判断すべきなので,そう解してよいとも思われますが,条件について評価が難しい場合があると思いますので,議論の余地があると思います。もしこの点,事務局サイドでお考えがあれば,お聞かせ願いたいと思います。 ○神田部会長 ありがとうございました。   事務当局,いかがでしょうか。 ○邉関係官 御質問いただきまして,ありがとうございます。   正直なところ,現時点でその点の公正価値の評価と有利発行の考えといったところ,整理し切れていないところがございます。田中幹事がおっしゃったような考え方は,一つの考え方として,十分あり得ると考えてはおりますが,必ずしも詳細に検討することができているわけでもないので,現時点で事務当局としての見解を申し上げるのは,ちょっと難しい状況であると思っております。   この案が成案に向かっていく場合においては,そういったところも含めて検討してまいりたいと考えております。 ○神田部会長 ありがとうございました。   ほかに,第1の部分について,何か言い残したこととかございますでしょうか。松井幹事,どうぞ。 ○松井幹事 すみません,言い残したことと言われたので,慌てて,ちょっとだけなんですけれども,この案についてはいろいろと,このような規律に従わなかった場合にどうなるのかという問題が,いろいろな場面で生じてくると思います。   先ほどの田中幹事の御指摘のように,金銭でない報酬等に係る株主総会の決議による定めで,当該株式の交付の条件というのを定めることになっているけれども,これとの関係で,株式価値が非常に低くなるような定めを置いた場合,どうするのかとかいったこともそうですし,報酬の内容に関する決定の方針の説明が,ミスリーディングとか欠落があった場合どうするかとか,あるいは事業報告において,そのような記載がなされてしまった場合に,それを承認した役員の責任はどうなるかとか,いろいろと多分,これがもし破れた場合どうするかという手当ての,事後的な手当てがどこで付くのかという整理がちょっと,一通り必要なのではないかというふうに感じています。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。三瓶委員,どうぞ。 ○三瓶委員 すみません。   先ほど田中幹事から,投資家はどう考えるかという御質問があったので,簡単に。御指摘はとてもごもっともで,大事なポイントだと思うんですね。この,例えば9ページのA,B,C案で,あえて何も申し上げなかったのは,例えば,1億円という一律な基準が何か意味を持つかというと,正直言って,それほど実は意味を持たない。例えば水面上に出ているものだけ見て,何か分かるのか。一方,そこに出てこなければ,今度は全くインフォメーションはない。   私たちが評価するのは,何らかの因果関係で,ひも付きで,どうしてこういう報酬なのかというものと,あとは相対関係ですね。同じ会社の中で,最も報酬を頂いている方と,同じ取締役でも一番少ない方の根拠は何であるのかとか,その格差がどのくらいであるのかとか,それによって,最もリーダーシップ又は発言権が大きくなるのは,大きな金額をもらっている方であろうとか,全て,いろいろな意味での相対関係で見ていきますので,その相対関係と考え方というものが一緒に付いてこなければ,余り,一つ一つばらばらに見ていっても意味をなしません。   なので,田中幹事がおっしゃったような開示の方法というのは,全て細かく出すわけではないけれども,ある程度の因果関係を開示するというような動きとしては,むしろ意味のある御提案かなと思いました。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   次へ進んでもよろしゅうございますでしょうか。   それでは,次に第2になりますが,会社補償についての御審議をお願いしたいと思います。部会資料20の第2になります。   事務当局からの説明をお願いいたします。 ○邉関係官 会社補償につきましては,まず,部会としての今後の検討におけるスタンスを御議論いただきたく,冒頭に少し長目の(注)を記載しております。   パブリックコメントの結果等を踏まえますと,現在,会社補償が問題なく運用されていると評価することは困難であると考えております。今後,当部会においては,法的安定性等の観点から,会社補償に関する規律を会社法に設けるものとすることを前提として,その規律の在り方について,パブリックコメントの結果も踏まえて検討していくことが適切であると考えられるところでして,そのような考え方について,どのように考えるかといったことを,ここでは論点として掲げております。   10ページ目の1ですけれども,ここでは,いわゆる防御費用の補償について,主観的な要件による制限を設けるものとすることについて,どのように考えるかや,そのほか,試案のような規律を設けるものとすることについて,どのように考えるかを論点として掲げております。   パブリックコメントにおいては,主観的な要件による制限を設けるべきであるという意見等を頂いております。そこで,本文に記載するように,例えば,当該職務の執行が自己若しくは第三者の不正な利益を図り,又は当該株式会社に損害を加えることを目的とする場合については,補償をすることができないものとすることなどを御議論いただきたいと考えております。   なお,パブリックコメントにおいては,会社自身が取締役の責任を追及している場合にも,会社による費用負担を認めることについて,疑問があるとする意見もございますので,こういった意見について,どのように考えるか等も含めて御議論いただきたいと考えております。   11ページ目ですけれども,2では,試案第2部第1の2①イのような規律を設けるものとすることを提案しております。この部分については,もう少し要件を緩めた方が使い勝手が良くなるという趣旨の御意見等も寄せられてはおりますけれども,役員責任の規律との整合性や職務の適正性確保という観点からすると,難しいのではないかと考えております。   11ページ目の下の3では,試案第2部第1の2②の(注)について,どのように考えるかを論点として掲げております。パブリックコメントの結果は,意見が分かれているところですけれども,仮に,補償の実行に際しても取締役会の決議を得ることを要するという案を採用する場合には,その法的な意味を整理する必要があると考えております。   具体的には,補償の実行に際して,取締役会の決議を得ることができなかった場合には,そのほかの要件を満たしているときであっても,役員等は保護を受けることができなくなる可能性があるということになるのかどうか,例えば,補償を受けることができなかったことを理由として,役員等が会社に対して,債務不履行に基づく損害賠償請求をすることができることとなるのかどうかなどを整理する必要があると考えております。   4では,試案第2部第1の2の(⑤の注)の(ア)や(イ)に掲げる事項など,補償契約に基づく補償に関する事項を事業報告の内容に含めるものとすることについて,どのように考えるかを論点として掲げております。パブリックコメントにおいては意見が分かれておりますが,そういった結果を踏まえて御議論いただきたいと考えております。   最後に,5では,その他については,いずれも試案のとおりの規律を設けるとすることを提案しております。   御説明は以上となります。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,どの部分についてでも結構ですので,御質問,御意見をお出しいただければと思います。古本委員,どうぞ。 ○古本委員 ありがとうございます。   「会社補償」につきましては,部会資料冒頭の(注)を拝見いたしますと,「会社補償は実務上問題なく運用されており」とありますが,実務の感覚からこれを正確に申し上げると,「費用の償還などは民法の規定の下で実務上問題なく行われており」と記載した方がよろしいのではないかと思いました。   会社補償には,御指摘のとおり,どうしても利益相反的な要素がありますので,我々会社サイドでも,民法の規定を超えることとならないように,極めて慎重であるべきだと考えておりますし,実際,そのように実務が行われていると理解しております。   「コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会」でまとめられた「法的論点に関する解釈指針」を頼りに,補償契約を結んでいる会社が実際に存在しているのか,どれほどそのような形で実務が行われているのかということについて,少なくとも私は存じ上げてはおりませんが,パブリックコメントにおいて,「規律の導入に賛成」としている意見は,「解釈指針」に基づいての補償契約の締結といったことが実務でかなり進んでいるのではないかといった懸念からやや過敏に反応したもののようにも思われます。若干,現状についての認識が,私どもとは違うのではないかというのが正直なところです。   その意味では,会社補償について,急いで規律を導入すべき状況に本当にあるのか疑問のあるところでありまして,もしそこまでの状況にはないということであれば,規律の内容,特に補償し得る損害の範囲等については,業務執行取締役の責任軽減の議論と併せて,もう少し腰を据えた議論をしてもよろしいのではないかと考えます。現状認識をどう考えるかによって,大分変わってくるのではないかと思います。   経団連といたしましては,今御提案いただいているような形での会社補償に関する規律の導入については,余りポジティブではないといいますか,必要はないと考えています。更に申し上げれば,御指摘のとおり,民法の規定が曖昧であるということもあって,会社補償について新たな規律が導入されますと,実務においては,民法の射程内かどうか,若干なりとも曖昧なものについては,補償契約を結んでおかなければ支払を躊躇するといった副作用が起きるのではないかという懸念が,経団連会員企業の中にはあるということです。   会社補償に関する現状の案につきましては,何度も申し上げておりますが,手続面,開示の面で,実務として懸念があります。それに加えて,補償の対象範囲が,費用はともかく,損害については非常に限定されているという問題もあって,せっかく新たな規律が導入されたとしても,このままでは補償契約の締結に動く会社は限定的ではないか,結局は,民法による費用償還などが必要以上に慎重に行われる結果になるだけではないかという懸念を持っております。   以上が,会社補償に関する規律全体に関する私どもの受け止めなのですが,部会資料で記載されている内容について,3点コメントさせていただきたいと思います。   まず,手続面についてですが,補償の実行の都度,取締役会で決議するという案は,手続として重過ぎると思います。今の立て付けの会社補償であれば,ほとんどのケースが費用の補償になると思われますが,金額の相当性は担当役員の判断に任せるべきであると思います。   それから,2点目は,先ほども申し上げましたが,補償範囲が極めて狭いということです。損害については,会社と役員が第三者に対して損害賠償責任を負う場合は補償対象から実質的に外れてしまうことと,そうした場合に和解したときには,実務的に非常に対応が難しいという問題があります。このままでは,損害については,会社補償としての機能をほとんど果たさないのではないかと思います。   また,今回,費用について,主観的要件による制限が加えられています。趣旨はよく分かりますが,一般に主観的要件となりますと,該当するかどうかの判断が難しくて,実務的には利用しづらくなってしまうのではないかという懸念があります。   また,類似の機能を有するD&O保険の約款において採用されている主観的要件の,記載ぶりとの整合性についても,目配りが必要ではないかと思います。   3点目は,開示についてですが,中間試案の(注)の(ア)や(イ)は不要としていただきたいと思います。   この(ア)の開示まで要求されますと,結局,責任ありとなった場合の費用の補償などが,実務において行えない方向に作用する懸念があります。そうなりますと,費用について,せっかく広目に補償範囲を設定した効果が失われることになってしまい,補償機能がいよいよ小さなものとなる懸念があります。   (イ)につきましては,ただでさえ狭い損害に関する補償が更に実行し難くなってしまいますので,このような開示まで要求すべきではないと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,小林委員,北村委員の順で。小林委員,どうぞ。 ○小林委員 どうもありがとうございます。   商工会議所としては,今回の考え方について,再読し検討いたしましたけれども,元々,全体として,この制度の見直しは要らないのではないかという意見を申し上げてきております。   会社補償については,会社法330条及び民法650条の委任の規定に基づく現行の仕組みの中で慎重に運用されていると考えております。そういう意味では,実務上は特段の問題はないと考えておりますが,中間試案に関して,商工会議所の会員から,この内容だと使いにくい制度ができるだけなので,会社補償を法制化する必要はないとの声が非常に多かったということは,今回申し上げておきたいと思います。   本件は元々,役員に適切なインセンティブを付与するための規律の整備の範ちゅうと理解しておりますけれども,結局のところ,広範で過剰な規制というふうに映ります。使いにくく,実務への負担が大きい制度だということで,問題ではないかと考えております。   どうしても法制化するということであれば,むしろ,これも既に申し上げているところではありますが,業務執行取締役と会社が責任限定契約を締結できるようにすることとセットで考えるべきではないかと考えます。社外取締役が多くなったことだけではなく,会社が業務執行取締役についても社外や国外から経営のプロを迎えることを考えるとすると,外国との人材の獲得競争の中でどうするかということになります。インセンティブとして,責任限定も含めて,実質的に補償を広く認めるという環境整備が必要と考えます。   その上で,各項目について,若干申し上げます。   1の,いわゆる防御費用について,新たに主観的要件である,職務執行が損害を加える等の目的ならば補償できないと規定することについては,内部的に検討しましたが,やはりこれも会社にとっての判断の難しさという点では,例えば,次の損害賠償及び和解金における主観要件と,それほど差がないという感覚を持ちました。   それから,2の損害賠償金及び和解金について,仮に制度化を検討するとしても,現在の提案内容では,和解の場合も含め,第三者に対する損害賠償金が,役員等に対して補償できるケースが極めて限定されるとの懸念はあります。   これも従前申し上げているとおりですが,損失の補償の要件は,悪意又は重過失が明白である場合を除きという程度のところに修文していただきたいことは改めて申し上げます。   3の補償の実行に関する手続については,やはり,これは既に決定済みの補償契約に基づく補償の実行ですので,余り重い手続を乗せることについては賛成ではございません。   4の補償金額等の情報の開示につきましては,株主からの無用な疑念や訴訟リスク,あるいは,企業が役員等に正当な補償を行うことを妨げるというデメリットも生じ得るということから,そういうおそれがない範囲に限るべきと考えております。費用,損失の額,相手方については,開示項目としては不適当であると考えております。   また,補償契約の概要といっても,細か過ぎれば,結果的には萎縮は避けられませんから,開示する場合でも,ごく簡単な内容にすべきと考えております。   それから,その他のところですが,取締役会非設置会社に関して,補償契約について,これは同族経営の中小企業の負担感が大きいために,取締役の過半数による決定をお願いしたいと申し上げていましたが,これも部会資料で否定的な見解が示されております。   この点を商工会議所にて再考しました。内容として,やはり株主総会の決議は重いので,ここについては賛成し難いというところですが,例えば,取締役会の全員一致による賛成であれば決定は可能であるという考え方を新たに御提案してはどうかということになりました。全員一致であれば,その決定過程として,各取締役について,当該取締役を除いて,他の取締役全員が賛成したものとして,この決定が有効であると考えることはできるのではないかというところでございます。   この方法が考え方として容認されるのであれば,現行法が求める範囲を超える情報開示についても要らないということになりますので,実務面での負荷軽減の観点から,この制度全体の賛否は別にしても,手続を考える上では,御検討願えればというところでございます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,北村委員,前田委員,梅野幹事の順で。北村委員,どうぞ。 ○北村委員 ありがとうございます。   会社補償について,まず総論的に1点申し上げた後,個別論点について何点かお話しさせていただきたいと思います。   これはD&O保険についても同じなのですけれども,私は,このような規定を設ける意味は,現行法の下で利益相反取引該当性が懸念されるため,補償契約の有効性と,補償を行ったときの関係者の責任を,利益相反取引規制とは別のものとして定めることであると思っております。   中間試案では,利益相反取引と同じような手続をするということと,そうすれば利益相反取引についての責任に関する規定は適用されない,としているわけでございます。もっとも,中間試案では,会社補償の対象は役員等ということになっておりまして,会計参与,監査役,会計監査人も含めているわけでございますけれども,新たに会社補償に関する規定を設ける場合は,取締役と執行役のみを対象とするだけで足りるのではないかと思います。実務上は,役員でまとめて一緒に決議するのだから,余り意味ないということになるかもしれませんが,規定の上では,取締役と執行役だけを対象にだけでいいのではないかと,まず総論的に申し上げておきます。   次に,部会資料20の10ページの1のところでございます。費用の補償について,主観的要件を設けるかどうかですけれども,これは既に議論がありましたように,費用というのは,取りあえず役員に頑張って防御してもらうために出すものであって,後で,それが悪意重過失とか濫用的意図があったら返してもらうという制度にするのが,この趣旨に合うのではないかと思っております。だから,主観的要件を設けることは適切なのですけれども,それは事後的な返還ないしは補償契約で,こういうことが明らかになれば返還することを定めることができるとか,そのように規定をすれば足りるのではないかと思っております。   そして,11ページの下の方から始まります,補償するときに,更に取締役会決議等が必要かということでございますけれども,補足説明にございますように,これは補償することを約する契約ですので,条件が満たされたのに補償されないということになると,契約違反の問題が出てくると思います。また,利益相反取引についても,取締役会で承認するときに,一定の幅を設けて取締役会が承認し,その幅の中で代表取締役が具体的に決定するということは認められているはずでございますので,補償契約について取締役会で決定すれば,具体的な補償については取締役会決議は要らない,このように解してよいと思っております。   最後に,開示の点でございます。中間試案第二部第一2の⑤の(注)が問題になっているのですけれども,⑤の方は,現在の責任限定契約に関する事業報告における開示と同じことを開示せよと,こういうことになっておりまして,余り開示が細かくなりますと,結局使い勝手が悪く実務上使わないという方向に行きそうですので,私は,⑤の(注)ではなくて,⑤本体だけの開示でよいと考えております。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。前田委員,どうぞ。 ○前田委員 どうもありがとうございます。   費用の補償で,主観的要件による制限を設けるかという問題について,私は第一読会のときは,費用の補償を広く認める案には懸念を持っておりました。悪意重過失があれば返還させるべきではないかと考えていたのですけれども,しかし費用の方は,広く補償を認めても,賠償金の場合とは違いまして,責任の抑止機能を損なうとまでは言いにくいと思いますので,役員等に悪意重過失がある場合,あるいは会社・株主による責任追及の場合にも,法律で補償を一律に禁止するほどのことはないと,現在は考えております。つまり,会社が補償契約の中で任意に主観的要件を設け,あるいは,会社・株主による責任追及の場合は補償しない旨を定めればよいのではないかと思います。   それから,補償の実行に関する手続なのですけれども,実行に会社の裁量の余地がない,言わば義務的な補償というべきような場合であれば,実行段階で再度取締役会決議をする意味はありませんし,今北村委員のお話にもありましたが,むしろ決議を要求しますと,補足説明にも書かれていますように,もし決議が得られなかったら,会社は損害賠償責任を負うのかというような無用の混乱を生じさせることになろうかと思います。   これに対して,補償するかどうか,あるいは,どの範囲で補償するかについて,会社に裁量を残すタイプの補償契約であれば,実行段階でも慎重に取締役会決議を要するのがいいのではないかと思います。取締役会設置会社であれば,特に明文を設けなくても,重要な業務執行の決定として,中間試案のイと同じ結果になるのではないかと思うのですけれども,取締役会設置会社以外では,利益相反性を考えますと,取締役が決めるのではなくて,株主総会決議を要することにするのがいいのではないかと思いますので,中間試案のイのような規定を設けるのがいいのではないでしょうか。   つまり,補償契約が会社に裁量を残すタイプの場合に限って,中間試案のイの規律が及ぶような規定を考えるのがいいのではないかと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   梅野幹事,沖委員,大竹委員の順でお願いしたいと思います。梅野幹事,どうぞ。 ○梅野幹事 10ページの1,防御費用について申し上げます。   この点に関しては,新たに主観的要件を設ける方向性を出していただいておりますが,日弁連で出させていただいた意見書と基本的に方向性が合致するものであり,賛成をしたいと思います。   私どもの意見書においては,取締役が会社以外の者の利益を図る若しくは会社に損失を加える目的で行為をした場合,又は重要な法令に違反することを知りつつ当該行為を行ったような場合など,取締役の行為の態様等が悪質である場合,何らかの要件を設けずに,会社が費用の補償をすることを認めてしまうと,取締役の職務の適切性を害し,モラルハザードを招来する危険があると申し上げました。   私どもの懸念というのは,モラルハザードという1点にございます。どのような立て付けにすれば,そういったモラルハザードのリスクを抑止しつつ,取締役にインセンティブを与えることができるかという,非常に難しい問題であると理解しております。その上で,私どもとしては,今のような方向性が基本的によいのではないかと考える次第です。   ただし,今回提示された要件というのは,背任の要件に近いもののようですが,専ら本人,会社のために違法行為を行った場合というのが,実務上はあり得るのではないかと思います。そういった場合,結局は事実認定の問題になるのかもしれませんけれども,この要件で本当によいのかどうかというのは,検討の余地があるのではないかと議論をしております。   刑法の背任罪については,自己若しくは第三者の利益を図る目的と本人の利益を図る目的とが競合する場合には,前者,つまり自己又は第三者の利益を図る目的が主たる目的で後者が従たる目的の場合には,背任罪が成立するとされているようです。独禁法違反等々の場合で専ら会社のためにやったといった事例があり得ます。そういった場合に,この要件に該当しないということで,補償を認めていいかという点については,なかなか難しいところがあるのではないかと考えています。   また,任意の契約でそういった要件を定めて,会社の自治に委ねればよいのではないかという御指摘もありますけれども,やはりモラルハザードが絡む問題について,そこまで会社の自治に任せていいかどうかというのは,難しい問題であり,私どもとしては,会社法の規定で定めておくのが適当ではないかと考えた次第です。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。沖委員,どうぞ。 ○沖委員 ありがとうございます。   会社補償につきまして,会社法に明文の規定を置くことには賛成ですが,その趣旨は,要件や手続が明確でないことから,これについて明確にして,適切な利用を促進するということにあると思います。したがいまして,民法その他,現行法上,会社補償が可能と考えられるような場合について,明文の規定を置いて,これができなくなると,範囲が狭くなるということは妥当ではありませんので,この点は気を付ける必要があるかと思います。   そこで,まず,今,梅野幹事からも御指摘がありました主観的要件の問題ですが,この点は今回,部会資料で一つの案が提案されてございます。主観的要件につきましては,悪意重過失という要件では,これは適切に機能しないということであります。他方で,アメリカのデラウェア州法のように,イン・グッド・フェイスという実質的な要件がありますが,これはビジネス・ジャッジメント・ルールの主観的要件そのもののようですので,アメリカでは判例の積み重ねがあるとしても,日本では解釈は難しいということになるかと思います。   この主観的要件を設ける場合に,会社が会社補償を履行するときに,十分判断が可能な要件でなければならないということだと思います。この観点から見ますと,御提案の要件は,一つの妥当な案であり,この費用の補償が除外事由によって,できなくなる範囲が余り広くなるということでも妥当ではありませんので,一つの妥当な案ではないかというふうに考えております。   次に,損害賠償金及び和解金の要件として,悪意又は重大な過失がないときという要件が提案されておりまして,この点については,悪意又は重過失がないことが明らかな場合のみ除外するという対案が出ております。この点ですけれども,会社補償の具体的な履行の手続を責任限定契約,責任の一部限定の制度で,実際使われているのは責任限定契約ですので,この場合と対比してみますと,責任限定契約の場合は,役員の責任追及訴訟が提起されて,裁判所が被告である会社役員の抗弁として出された責任限定契約による責任の限定の主張について,悪意重過失の有無を判断して,一挙に解決するということになるかと思います。   これに対して,会社補償の履行の手続を考えますと,役員の責任追及訴訟の判決が確定するか又は和解が成立した場合に,必ずしも判決の中で示されていない悪意重過失の有無を会社が判断して,会社補償をするということにならざるを得ないと思います。そうしますと,後日,会社補償を決定した取締役に対して,株主代表訴訟が提起され,その判決の中で,会社補償を受けた取締役の悪意重過失が認定されれば,補償は無効ということになってしまいます。このようなことでは,会社は悪意重過失の有無が不明の場合に,やはり補償することにちゅうちょせざるを得ないので,補償機能を損なうということがあるかと思います。   そうしますと,会社補償の主観的要件である悪意又は重過失については,これをどう解決するか難しいですけれども,恐らく,悪意重過失があることが明らかな場合にだけ,できなくするという趣旨は,そういった問題を踏まえたものかと思いますので,例えば会社補償の効力を争う側に,悪意重過失の挙証責任があるというような規定の仕方ができるのかどうか分かりませんけれども,そういったことも含めて,何らかの方法を検討する必要があるかと思います。 ○神田部会長 ありがとうございました。大竹委員,どうぞ。 ○大竹委員 ありがとうございます。   出ていない点につきまして,細かいのですが,質問を二つほどさせていただきたいと思います。   今回の部会資料というよりは,試案2の①のアの点についてなんですけれども,その柱書きの括弧書きで,相当と認められる額に限るという注記になっています。いわゆる防御費用の会社補償を認めることに関して,役員等が職務の執行に関し,損害賠償請求を受けた場合に,これに対応するための弁護士費用などが念頭に置かれているということかと思います。   これにつきまして,質問の一つ目は,この2の①のアの規律が,補償契約を締結する段階で,その補償契約の内容を規律するための条文であるとすると,補償契約で相当と認められる額を超えて,役員等に金員を補償すると規定をした場合,その超えた部分は無効となるという理解でよいのかという点であります。   質問の二つ目は,弁護士費用として相当と認められる額は,どう算定するのかという点であります。   御承知のとおり,交通事故などの不法行為による損害賠償請求訴訟では,認容判決をするときに,認容される額の10%程度を相当な弁護士費用の額と認定するという実務が比較的広く行われております。ただ,これは,被害者である請求者が,損害額に加えて10%の弁護士費用相当額を受け取るようにするという扱いをしているという場面であります。   これに対しまして,今回は,加害者とされている取締役に一定の金銭を補償するという局面でありまして,大分局面も違いますし,被害者の被った損害額は,いまだ確定していないという段階にあります。そういう場合に,弁護士費用として掛かった費用はそのまま認めるということであれば,あまり疑義は生じないのですけれども大分局面が違うところもあり,相当の認められる額をどんなふうに考えるのかというのは,なかなか難しい問題かなと思います。事務当局のお考えが何かあれば,お聞きをしたいと思いますし,この場で御議論いただければ幸いかと思います。 ○神田部会長 ありがとうございました。   事務当局,いかがでしょうか。 ○竹林幹事 まず,御質問いただいた1点目は,また考えさせていただければと思います。   2点目の相当と認められる額につきましては,以前にも御質問いただいたことがございますけれども,私どもといたしましては,会社法852条1項の責任追及等の訴えに係る訴訟の場合の相当と認められる額と同じように解釈していただきたいということでございます。現行法でも,ここについて明確に解釈があるのか,私どもも十分に存じ上げない点もございまして,むしろ,ここについてどのように解釈されているのか等,御意見を頂きたいと思いますけれども,私どもといたしまして,条文上のこういった文言を念頭に置いて御提案しているということとなります。 ○神田部会長 今の点について,もし委員,幹事の皆様から御意見があれば,先にお伺いしたいと思いますけれども,いかがでしょうか。   それでは,また後でお考えいただいて,出していただいてもと思いますので,札を立てていた順でいきたいと思います。坂本幹事,加藤幹事,中東幹事の順で。坂本幹事,どうぞ。 ○坂本幹事 ありがとうございます。   参考資料43の4ページから,会社補償についてまとめております。会社補償につきましては,事務局資料にも書いていただいていますけれども,優秀な人材を確保するため有効なツールであるということ,また,欧米においては広く認められた標準的な役員就任の条件ということで,こういった人材を確保する,人材獲得において,グローバルでの人材獲得が厳しくなる中でのイコールフッティングという観点から,活用しやすい制度整備をお願いしたいということで,ここで,モラルハザード・リスクということとのバランスかと思いますけれども,そういったリスクに対処するための規律付けの在り方については,合理的に必要なレベルというところで,御意見を申し上げたいと思います。   5ページ,防御費用について,今回新たに主観的な要件というのを入れていただいておりますけれども,やはり主観的要件については,判断に一定の評価を要するということから,会社において,これを適時に判断をしていくことは,実際には難しいということを考えますと,やはり補償の実行に対して,抑制効果が働くのではないかというふうに考えております。   また,損害賠償金の主観的要件につきまして,部会資料の中に,過失なく信じていれば責任を負うことはないというのを入れていただいておりますけれども,ここについても,具体的にどのような場合がこういったところに該当するかというのは,必ずしも明確ではないということを考えますと,やはり萎縮効果という懸念は残るのではないかと。   6ページの上3行目,例えばということで書かせていただいておりますが,主観的要件の入れ方につきましては,悪意重過失であることが明らかな場合には補償の対象から除外するといったような,こういった補償が実際に機能するような形での規定の在り方というのを御検討いただけないかというふうに考えております。また,従来より申し上げてきております求償可能な部分の取扱いについても,こういった会社補償というものの機能発揮という観点で,引き続き御検討いただければと。   6ページ真ん中,和解金につきましては,事務局の資料では,例えば,損害賠償金と性質は,それほど異ならないのではないかということでございますけれども,例えば訴訟の初期段階において,今後要する費用の見込額を前提として和解がなされるというような場面を考えますと,費用に近い性質を有する場合もあるのではないかと。また,特に和解については,主観的要件について,確定をしないことも通常であると思われますので,こういった点を考慮していただければということでございます。   また,7ページ,4ポツで,補償の実行に関する手続につきましては,補償契約の締結について,株主総会又は取締役会の決議を経るということにしておけば,あとは契約に基づく義務の履行ということになりますので,補償契約を適時に,補償契約に基づいて適時に補償を実行するという観点から,例えば補償契約の中で,社外取の関与などについて,適切な手続について具体的に定めておけば,弊害に対しては対処できるのではないかというふうに考えますと,必要なレベル,規律付けのレベルということを考えた際に,補償の実行の都度,一律に株主総会又は取締役会の決議を要するというのは,やや過剰なのではないかというふうに考えております。   また,⑤の(注)のところで,個々の補償金額等の開示につきましては,例えば個別案件に係る和解金の額が明らかになってしまう,それによってまた,そういった補償について,ちゅうちょしてしまうというようなことを考えますと,補償の適正性の担保については,補償契約の内容の開示などによって,十分確保できるのではないかというふうに考えられますので,契約に基づいて行った個々の補償に関する事項を義務的に開示させるというのは,必要性と弊害対処のための合理的な手段ということを考えますと,やや均衡を損なっているのではないかというふうに考えております。 ○神田部会長 ありがとうございました。加藤幹事,どうぞ。 ○加藤幹事 ありがとうございます。   会社法の会社補償に関する規定と,実際に会社と取締役の間で締結される補償契約の関係について,質問させていただきます。   部会資料20の第2の1で,防御費用の補償について,主観的要件を設けるということが提案されています。このような規定の下では,例えば,補償契約の条項の本文において,請求があった場合には速やかに支払うと定め,ただし書として,事後的に,今回御提案いただいたような主観的要件を充足することが明らかになった場合には返還を請求するというような定めを設けることも許されなくなるのでしょうか。   同じような問題が,損害賠償金についてもありえるような気がします。つまり,補償契約の条項で,会社は取締役の悪意又は重過失を立証することによって補償義務を免れるという定めも許されないのかということです。補償契約でこのような定めがなされたとしても,会社の補償義務は取締役が善意無重過失の場合にのみ発生することに変わりはないように思います。また,部会資料20の12ページで指摘されている,補償を実行する際に取締役会決議が必要だとした場合に,それを欠く場合の効力の話も,補償契約の条項の定め方と関連するように思います。例えば,補償契約において会社が支払いますとしか書いていなかった場合と,取締役会の決議を得た場合にだけ支払いますと書いてあった場合では,取扱いは異なると思います。   まとめると,会社法の規定が具体的な補償の手続を補償契約で定めることをどこまで制限するのかといった,会社法の規定と実際の補償契約で定められることとの関係を整理する必要があると思います。 ○神田部会長 ありがとうございます。事務当局,いかがでしょうか。 ○竹林幹事 御質問いただいた点でございますけれども,まず,防御費用に関してどれだけ柔軟な規定が認められるのかということについては,中間試案で,主観的要件を設けないということを御提案していたときには,どこまで契約に従うことができるかという条文の書き方等は置かせていただきまして,比較的柔軟に,事後的に返還を求めるということを約することもできれば,分かったらあらかじめ補償しないということを約することもできるようにしていたものでございます。   今回の御提案の,例えばと書かせていただいているのは,基本的には,こういったことがあれば補償をすることができないということを前提にしておりますので,仮に補償をしてしまっていて,後から分かれば,返還を求めるということも含まれるのかもしれないと,今御質問を伺って思いましたけれども,いずれにしましても,そもそも払えないということを前提とするのか,払うことは認めるけれども返還を求めることを前提とするのかについては,今日御議論いただきたいと思っていた点でございます。   また,そのことと立証責任の関係は,まだ条文の書き方までは念頭に置いていないので,何とも申し上げにくいところはございますけれども,実際には,例えば,払ってしまったことが違法だということで争われて,株主代表訴訟等に係る訴えが起こされるときに,問題となってくるかと思いますので,その際の立証責任とは必ずしもリンクしない部分が今の書きぶりにはあるかと思っています。   続きまして,賠償金あるいは和解金の関係ですが,ここは私どもといたしましては,防御費用とは元々違って,かなり厳格に考えておりまして,基本的には補償をすることができないという前提での御提案になっております。仮に,主観的要件は満たされている,悪意重過失でなかったと考えて,会社としては補償することはあり得るとは思いますけれども,事後的にそれが問題となるのであれば,返還を求めていただくということを念頭に置いて,御提案していたところでございます。 ○神田部会長 よろしいでしょうか。中東幹事,どうぞ。 ○中東幹事 総論について確認をさせていただきたいと思うのですが,資料9ページから10ページの(注)の御整理あるいは御見解について,同じ理解でございます。会社補償に関する規律を会社法に設けることにも,賛成です。   会社役員のハンティングに携わっていらっしゃる方々にお伺いしたいと思っておりますのは,ある人に是非うちの会社の取締役になってもらいたいと思っているけれども,なかなか引き受けてくれそうにない,こういう人を説得する場面で,もしも,会社補償制度はどうなっているかと聞かれたら,どのようにお答えになるのかです。   もしかしますと,実は法制審議会のこの部会で議論されているけれども,いろいろ意見も分かれていて,現在の補償制度の実務で安心していただいて結構という状態ではありませんとお答えになるのかなとも思うのですが,これでは納得してだけない気がします。やはり基盤として,きちんと会社法で定めておくことが大切と思っております。   それとの関係でお教えいただければ幸いなのですが,これは古本委員,小林委員,あるいは沖委員の問題意識にも出ていたかと思うのですが,会社補償に関する規定をもし会社法で設けたら,今までの実務はどうなるのだろうか。より具体的には,今まで民法の解釈として,実務においてしっかり運用されてきたもの,これを排除するものなのか,あるいは民法で認められた費用償還請求権については,きちんと残っているのでしょうか。民法を活用して適切に設計された補償契約は今後も適法であることを前提として,会社法に根拠を持つ会社補償として提案されている要件を満たしていれば,このときは当然に会社補償が認められる,こういう立て付けであると私自身は理解しているのですが,それでよいのかです。 ○神田部会長 ありがとうございます。事務当局,いかがでしょうか。 ○竹林幹事 基本的に,私どもとして,民法で補償が認められる範囲を狭めようという意図で,これを御提案しているわけではございません。ただ,元々の懸念といいますか,繰り返しになりますけれども,民法でどこまで補償することができるのか,民法650条1項と3項の関係など,疑義もあろうかと思っておりまして,その点も踏まえて,会社法で補償が認められる範囲を明確にしたいと考えているという趣旨でございます。 ○神田部会長 よろしゅうございますでしょうか。藤田委員,どうぞ。 ○藤田委員 時間も迫っていますので,できるだけ簡単にしますが,民法との関係は今言われたとおりで,民法650条3項に基づく補償は,それはそれとして完全に生きていて,ただ,今回規定する補償契約に基づくのであれば,法律で与えた範囲については当然に払うことができるようになる,そういう効果があるだけだと思います。   そのこととの関係でいうと,前田委員の言われたように,補償契約の内容に裁量的な要素があるのであれば,補償する段階で再度取締役会で判断するというのが論理的な気もするのですが,補償の根拠として会社法に基づいて契約を結べば,言わば民法650条3項に基づいて請求するのと同じような状態が作り出せされる,法律で認められた範囲内の費目については,そういう状態になると考えるのであれば,改めてそこで取締役会決議を要求しない,役員等は会社に対し補償を求める権利を取得し,会社はそれに応じて払わなければいけないだけの話というふうに考えることもできると思います。もちろん,裁量の余地がある部分で,払い過ぎということが起きるかもしれませんが,それは払い過ぎた場合の責任の問題,関係した役員の責任の問題と整理することになると思います。   次に,手続費用については,私は元々中間試案の案に賛成でした。手続費用は当然カバーされているということが,新たな規律が実務にとってかえって邪魔だという批判との関係でも,新しい規律にいくばくかでも存在意義を与えるという意味で,こちらの方がよかったと思っています。   そういう意味では,今の新しく出された提案そのものに余り賛成ではないのですが,しかし,仮に中間試案に対するパブリックコメントで批判が強かったため,どうしても何かしなくてはいけないというのであれば,妥協点は北村委員の言われたようなところかと思います。つまり,とにかく防御費用は,一旦は補償してもらえる,そしてその後,不正の利益を図り,また会社に損害を与えることを目的とする場合ということだったのであれば,支払われた補償について,会社は返せと言えるというルールにし,場合によっては,この返還請求について,代表訴訟によるエンフォースメントを認めるという規律にすべきだと思います。   最後に,開示の点ですけれども,この法律に基づく補償契約で定めた補償については,役員等は当然に請求できるとし,具体的な補償金額が決まり補償を行うところでは取締役会決議は不要とするのであれば,⑤の(注)に書かれた事項の一部は,事業報告に入れた方がいいと思います。具体的な金額等まで書かせるかということは検討の余地があるかもしれませんけれども,少なくとも補償の支払を当該年度にしましたという事実ぐらいは明らかにさせておいた方がいいと思います。補償の実行について,取締役会決議もなく,実行したかどうかも分からないということでは,問題があると思うからです。そういう意味では,⑤は(注)の一部というのを入れるべきではないかと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。田中幹事,どうぞ。 ○田中幹事 すみません,できるだけ手短にお話ししたいと思いますが,まず,補償の規定を設けるか,設けるべきかどうかということについては,内容はともかくとして,設けた方がいいのではないかと思います。   ちょっと先ほどの議論についてですが,私,補償についての規制に,設けることに不安があるとすれば,現在行われている補償契約では補償するとされていた内容であって,その内容が今回の規律によってできなくなってしまうと。できなくなってしまう部分が,諸外国で非常に一般的に設けられていることで,それができなくなると,有能な人材が来てくれなくなると,そういう具体的な問題点が存在するということが,私,一番不安に思っていたんですけれども,ちょっと今日の御議論を聴いていると,まだ日本では,それほど会社補償それ自体について,必須というような状況にはないのかなと思っていて,もしそうだとすれば,あと心配なのは,やはり補償の必要がないときに,利益相反関係から無用の補償が行われると。そちらを心配するということになりますので,だとすれば,こういう規制を課しても問題ないのかなという感じを受けています。   あと,各論について,今回新しく提案されている主観的要件に関して,防御費用については今回の提案は,恐らく図利加害の目的といいますか,図利加害目的があれば,防御費用についてもカバーできなくするべきではないかということで,それはそれでもっともなんですが,何か私,図利加害目的がある場合は,それにもかかわらず,役員が補償契約を盾に取って訴訟費用を請求するというのは,権利濫用なのではないかと思いまして,契約解釈としても,その場合は払わなくていいと,払った場合は取り返せるのではないかなと思っていて,そういうのをあえて法律のルールにする必要があるのかなという点に若干疑問を持っています。   この規定自体は,元の提案自体は,責任については,悪意又は重過失がある場合は補償してはいけないんだけれども,防御費用については,悪意又は重過失があるかは,実際に裁判してみないと分からないわけですから,とにかく防御費用については払わせてあげようということで,これ自体はとても合理的な理由があったと思うんですね。だとすれば,防御費用に関しては,とにかく主観的要件,考えずに払ってしまうと。そして,後で本当に悪いことをしていたと,誰が見てもこんなので,会社が一円でも払うのはおかしいということであれば,権利濫用を理由に取り返すという,それでいいのではないかなという気がしているということです。   それから,大竹委員の問題提起された相当と認める額ですけれども,これは確かに,裁判所が判断難しいかもしれませんが,補償契約は利益相反取引と同様の問題点があることはやむを得ない,否定できないので,利益相反取引においては,取引の相当性を現在でも裁判所は判断しておられると思いますから,訴訟費用に関しても判断していただきたいと,こうなるわけですけれども,相当と認める額について,不法行為と同じ基準が適用されるとまで考えなくてもいいのではないかと。   つまり,この補償は,飽くまで契約をしたと,会社と役員等で払うという契約をしたときに,それを裁判所がオーバーライドするというところで出てくる基準ですから,それを考えれば,現在の不法行為の基準も,ちょっと私,なぜあれが相当とされるのかも分からないんですけれども,あれに制約されるということでは,必ずしもないのかなと思います。   ちょっと私,思考実験として考えたんですけれども,根も葉もないところ,訴えを起こされて,それが10億円ぐらいの賠償請求だったという場合に,例えば,実際には,最悪,取締役に過失が認められるとしても1億円ぐらいの賠償なのに,10億円賠償請求されたら,それを防御するためには,やはり,負ければ10億円払わされるわけですから,どうしても防御せざるを得ないのではないかと思いまして,そのときに,10億円の10%しか払ってはいけないという理由は,余りないのではないかなという感じがしました。   そういったことも含めて,相当の額というのは,元々両当事者で契約しているものをオーバーライドするものというふうに考えれば,不法行為法の相当の額よりももう少し高い,緩やかに認めるというか,もう少し緩やかな基準でいいのかなという感じは受けております。ちょっと思い付きで,雑な議論ではありますけれども,今のところ,こう考えております。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。もしよろしければ,休憩を取らせていただきたいと思いますけれども,15分間休憩を取らせていただいて,4時5分に再開させていただきます。よろしくお願いします。           (休    憩) ○神田部会長 それでは,再開をさせていただきたいと思います。   部会資料20の第3に進みたいと思うんですけれども,よろしいでしょうか。第2で言い残した点とかございますでしょうか。   それでは,第3の役員等賠償責任保険契約の御審議をお願いしたいと思います。事務当局からの御説明をお願いいたします。 ○坂本関係官 それでは,13ページ,「第3 役員等賠償責任保険契約」について御説明いたします。   部会資料18の92ページ以下に記載しておりますとおり,試案第2部第1の3については,パブリックコメントにおいて,主として経済団体からは,D&O保険は実務上問題なく定着しており,規律を設ける必要はなく,規律を設けることで,かえってD&O保険が利用しづらくなってしまうことなどを理由として,これに反対する意見も寄せられておりますが,大学や弁護士会を中心に,D&O保険の会社法上の位置付けを明確にし,手続を整理する必要があることや,D&O保険がその内容によっては,役員等の職務の適正性に影響を与えるおそれがあること,構造上,利益相反性を有することなどを理由として,役員等賠償責任保険契約に関する規律を設けることに賛成する意見が多く寄せられました。   そこで,パブリックコメントの結果も踏まえ,D&O保険に係る契約の締結により生ずることが懸念される弊害に対処するとともに,D&O保険が適切に運用されるようにするため,必要な規律を会社法に明文で設けることを前提として,その具体的な規律について御議論いただきたいと考えており,その旨を最初の(注)に記載させていただいております。   14ページの「1 役員等賠償責任保険契約に関する規律の適用範囲」についてですが,ここでは,試案第2部第1の3①本文のような役員等賠償責任保険契約の定義に該当するもののうち,役員等賠償責任保険契約に関する規律の全部又は一部を適用しないこととする保険契約の範囲について,どのように考えるかを御議論いただきたいと考えております。   具体的には,例えば,自動車賠償責任保険のように,事業活動との関係で,法律上加入が強制されている保険に係る契約についてのみ,規律の全部又は一部を適用しないこととする考え方や,これに加えて,いわゆる通常の生産物賠償責任保険(PL保険)や企業総合賠償責任保険(CGL保険)に係る契約についても,規律の全部又は一部を適用しないこととするという考え方などが考えられますが,これら以外の考え方も含めまして,どのような理由付けで,どのような範囲の保険契約を規律の適用対象とすべきかについて,実質的な観点から御議論いただければというふうに考えております。   15ページの「2 役員等賠償責任保険契約に関する手続」につきましては,部会資料18の94ページ以下に記載しておりますとおり,パブリックコメントにおいて,主として大学や弁護士会から,試案第2部第1の3②から④までのような規律を設けることに賛成する意見が多く寄せられたことも踏まえまして,このような規律を設けるものとすることを御提案しております。   16ページの「3 役員等賠償責任保険契約に関する開示」の(1)は,被保険者及び内容の概要の開示についてですが,部会資料18の98ページ以下に記載しておりますとおり,パブリックコメントにおいては,主として大学や弁護士会から,試案第2部第1の3⑤本文のような規律を設けることに賛成する意見が多く寄せられましたことから,このような規律を設けるものとすることを御提案しております。   (2)につきましては,保険金額や保険料,保険給付の金額の開示についてですが,部会資料18の101ページ以下に記載しておりますとおり,この点について寄せられた意見の中では,開示に反対する意見が相対的には多いという結果になりました。もっとも,明示的にこの論点に言及している意見が少なかったということも踏まえ,部会において改めて御議論いただきたく,論点として掲げております。   御説明は以上となります。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,皆様方から御質問,御意見をお出しいただければと思います。いかがでしょうか。古本委員,どうぞ。 ○古本委員 ありがとうございます。   D&O保険につきましては,部会資料の(注)の第2段落目に記載いただいているとおりで,このような規律の導入は必要がなく,かえって,規律を設けることによって実務に負担が生じる懸念がありますので,導入には反対です。   そもそも,どうして今まで問題視されてこなかった,実務ですっかり定着している保険についてまで,御提案のような規律を導入する必要があるのか,疑問に感じるところです。   問題は,恐らく,D&O保険の利益相反性にあるのかと思いますが,D&O保険全般に利益相反性が認められるのか,対会社責任に関する特約部分に利益相反性が認められるのか,また,利益相反性があるとして,部会資料で御提案のように一定の開示を行うことが利益相反問題の解消として適切なものであるのか,この辺りを改めて慎重に御議論いただきたいと思います。   1の「規律の適用範囲」について申し上げますと,元々は,いわゆるD&O保険を念頭に置いた議論であったはずであり,規律の対象となる保険の範囲が拡大され過ぎていると思います。およそ関係しそうな保険を全て対象とした上で,個別に外していくというのは,現状の実務との比較で,我々からいたしますと,過剰規制の感がありますし,この方式を採りますと,新商品が出る度に法令改正の検討や手当てが必要になるということで,環境の変化や技術変革に応じて,新しい損害保険が普及・利用されるということに対する阻害的な効果をもたらすことも考えられます。議論の対象を,いわゆるD&O保険のうちの対会社責任特約,この部分に絞るべきではないかと思います。   改めて申し上げると,釈迦に説法で恐縮ですが,D&O保険には,役員が巨額の賠償リスクにさらされないようにして,適切なリスクテークを可能とする機能があると承知しています。これによって,会社は有意な人材を確保することができるわけですから,保険を付すことは,会社にとってプラスであり,さらには,保険の本来の機能として,役員が賠償し切れない場合の会社の損失を補塡するというプラスの面もあります。   もちろん,会社の費用で対会社責任の特約が付保されるということになりますと,役員にとってもリスク軽減になるわけですが,こうした,言わばウイン・ウインの関係を,通常の利益相反と同じように考えるべきなのかということだと思います。利益相反性は,もちろんゼロとはいえないと思いますが,例えば,会社が直接補償する会社補償に比べますと,利益相反性の程度は随分と弱いと考えられます。そうであれば,利益相反の問題の解消に必要な手続につきましても,再考の余地があるのではないかと考えております。   実際に,D&O保険を導入するということになりますと,当然,一部の役員のためだけに保険を付すということにはなりませんので,2で要求されている取締役会での承認決議では,ある意味では皆が特別利害関係人といえますので,利益相反の問題の解決策にはなっていないと思います。そうしますと,開示することが利益相反性の問題の解決策であるという御提案のように見えるわけですが,具体的内容の開示を要求すればするほど,パブリックコメントでも申し上げているとおり,実務上の弊害がいろいろと生じてしまうと思います。   D&O保険の対会社責任特約につきましては,経済産業省の研究会でまとめられた解釈指針に基づいて,社外取締役の同意をもって取締役会で決議をするという実務が,税務面での扱いも含めて,既に広く採用されている状況にあります。これは,かなり実務でも進んでおります。   社外取締役もD&O保険の受益者であるのは確かですが,社外取締役の場合は,通常,責任限定契約が結ばれていますので,業務執行取締役と比較しますと,利益相反性は小さい,したがって,社外取締役の同意というものには意味があると考えることもできると思います。   こうした実務の状況も十分に考慮していただいて,新しい規律導入による負荷の増加や実務の混乱がないように御検討いただきたいと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。小林委員,どうぞ。 ○小林委員 どうもありがとうございます。   これまでも商工会議所としましては,いわゆるD&O保険については,長きにわたって実務上,特段問題なく運用されてきているので,ここに規律を導入する必要はないということは申し上げております。   特に,今回提案されている保険契約の範囲が,これまで言われていたD&O保険の株主代表訴訟の敗訴の特約部分が議論のスコープであるなら,それはそれで一つの考え方ですけれども,今回,取締役の賠償責任に関する契約のほとんどが検討範囲になってしまう考え方が示されたことに,相当に困惑しているところでございます。   中小企業が多い商工会議所の会員企業からは,町工場が加入する自賠責や火災保険,PL保険等までに,取締役会や,場合によっては株主総会の決議を会社法が求める必要があるとは到底思えないとの意見が寄せられております。   「人手不足と賃金上昇の中で,国の社会保険料の引上げや消費税引上げにも対応し,一生懸命生き残りをかけて生産性革命をやっているところ,今回,このような内容で形式的な手続規定を新たに設けることは,元々,総務部といっても,非常に少ない人数でやっているところの仕事を増やして,生産性向上の足を引っ張りたいとでも思っているのではないか」と,「非常に迷惑な話だ」という意見が出ました。   必ずしも,直接話として結び付いてはいませんけれども,問題の所在とか大きさを一定程度評価していただきたいというところではありまして,潜在的に利益相反を構成するから一律に規制の網が掛かるという形式的な考え方ではなくて,保険契約のような,社会的に既に確立した取引慣行がある分野では,大企業であれ中小企業であれ,違和感のない手続を検討していただきたいというところです。   各企業で,実務上の必要性から,様々な保険に加入しておりますが,会社と取締役が連帯して損害賠償請求されることは,当然よくありますので,取締役も被保険者として特約でカバーされる契約はたくさんあるわけです。この多数の契約の中で,どれが取締役まで補償の対象かということを一つ一つ把握して,それを厳格な手続に付せと読めますので,実務としては非現実的な印象を受けます。   先ほど古本委員からもあったように,対象から除外される契約を限定列挙する方法では,商品が新しく開発される度に法令改正が必要だということでは,やはり大きな問題だと思いますので,規律の適用範囲を全面的に再考していただきたいと考えます。   保険の範囲の議論をどうするかという問題はさておき,2と3の手続と開示について,若干コメントさせていただきます。   会社補償のところでも申し上げましたが,中小の会社の取締役会非設置会社というのは,同族の会社が多く,株式の所有と経営が一致しているところも多くて,いわゆる利益相反と状況が異なる部分も多いと思っております。手続の負担感も考えて,取締役の過半数の賛成による決定ではいかがというふうに申し上げておりますけれども,先ほどの資料の補足説明において,これについて否定的な説明が行われております。商工会議所で再考したところでは,取締役の過半数の賛成というようなところでよいとは思いますけれども,場合によっては,取締役の全員一致による賛成であれば決定が可能であるという考え方を採用していただけないか提案させていただくところでございます。理由としては,全員一致であれば,各取締役について,当該取締役を除いて,他の取締役全員が賛成したものとして,この決定を有効であると解釈することができるのではないかというところでございます。   役員等賠償責任保険契約の,規制の範囲とは別に,手続面で検討していただきたいところの意見として申し上げます。   開示につきましては,様々な会社から意見が出ておりますけれども,リスク対処方法の根幹をなす保険契約については,企業経営における最高レベルの秘密事項であると位置付けている会社が非常に多くございます。保険契約の内容が情報開示規定によって不用意に外部に示されるということは,経営上のノウハウを外部に流出させることに等しいと強く意見を言ってくる会社も多うございます。どの会社がどの程度の保険に加入しているかが外部から明らかに分かるようになりますと,悪意を持った方が攻撃先の選別を容易にできることにつながります。備えている会社ほど却って必要のない訴訟に巻き込まれてしまうということになって,本来の保険の趣旨に反してしまいます。   そういう意味も含め,特に保険料,保険金額,保険給付の開始というようなコアな部分には当然に強く反対いたしますし,開示そのものにも反対させていただくことを,再度表明させていただきたいと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。坂本幹事,どうぞ。 ○坂本幹事 ありがとうございます。   参考資料43の意見書の8ページのところから書かせていただいております。先ほど来も委員からございましたように,これまでのこちらの議論では,いわゆるD&O保険に係る保険契約を念頭に置いての議論が行われていたというふうに認識をしておりまして,PL保険ですとか自賠責保険といったD&O以外の保険についても広く規律の対象となるという前提が,必ずしも共有されていたわけではないのではないかというふうに考えます。   もし,こういった広い広範な保険契約が対象になるということであれば,規制によるコストと法益のバランスというところは,大きく前提が変わるということになるかと思いますので,改めての議論が必要になるのではないか,また,海外において,いわゆるD&O保険以外の,どういった保険契約が規制の対象になっているのかということで,比較法的な検討というのも,人材獲得がグローバル規模で,グローバル市場で行われているという現実を考えますと,イコールフッティングという観点から,こういった視点というのも必要になろうかと思っております。   3の開示につきましては,これも保険給付の個別の金額,あるいは保険金額,保険料といったようなことについて,開示の要否を検討するに当たっては,パブコメの中でも出てきておりますとおり,保険の活用について,こういった事項の開示を要求されると,柔軟性が損なわれるといったようなことも出てきているかと思いますので,こういった保険の導入に対する悪影響も十分に勘案をして,悪影響が出ないような形で考えるべきではないかというふうに考えます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。北村委員,どうぞ。 ○北村委員 ありがとうございます。   先ほどの会社補償と同じでございますけれども,私は,役員等賠償責任保険に関する規律を新たに設けることに賛成でございます。その理由は,今まで行われていた保険について,利益相反取引に該当する可能性があるということになりますと,その契約の有効性と責任の規制が掛かることになりますので,それをクリアするという意味でございます。その意味では,先ほど会社補償について申し上げましたように,対象は取締役と執行役に限ったものにしても構わないと思います。   かつての部会でもありましたように,経産省の解釈指針に従っていれば,裁判上も絶対大丈夫かということについては,少なくとも研究者委員・幹事からは,かなり疑念の声があったと記憶しておりますので,やはり立法的な手当てが必要であると思う次第でございます。   部会資料20の14頁の1の役員等賠償責任保険契約の範囲について,一般のD&O保険以外のものが入っていることをどのように考えるかということでございますが,もし1の(注)に挙がっているようなものを全て除くことになりますと,除いたものが利益相反取引に該当すると,取締役会決議がなければどうなのかとか,責任はどうなのかという問題が出てくるわけでございますので,定義としては中間試案のとおりの定義をし,1の(注)で規律の全部又は一部を適用しないという考え方が示されておりますけれども,例えば開示規定については,(注)に挙がっているものは適用しないということが考えられます。新たな保険の種類が出てくるとどうするかということですが,ある程度法務省令レベルで対応せざるを得ないのではないかと思っております。   最後に,開示の点,16頁の3でございますけれども,これにつきましては,確かに3の(2)のような開示規定を設けるということについては,懸念があるというのは理解できるところでございますので,中間試案の第二部第一3の⑤本文のような開示規定だけでよいと考えております。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。沖委員,どうぞ。 ○沖委員 ありがとうございます。   役員等賠償責任保険契約に関して,会社法に規定を置くことには賛成ですが,その目的は,飽くまで手続を明確化することによって,適切な利用を促進するということでなければならないと思います。   そこで,定義から除外する保険契約の範囲についてですが,部会資料で例に挙がっております生産物賠償責任保険等について示されております定義は,「被保険者がその職務の執行に関し,会社法その他の法令による責任を負うことによって生ずる損害を塡補する」という定義には,一応含まれてくると思いますので,PL保険等,これらを除外するためには,この定義を変更する必要があるということになると思います。   職務執行の適正性が損なわれるというリスクということから見ますと,程度にそれほど大きい差異はないかもしれません。また,D&O保険の特約によって,指摘されているような保険のリスクが一部付保されるということもあることを考えますと,自賠責のような強制保険の場合以外には,除外することは難しいということになるかもしれませんので,その場合には,全体として,非常に柔軟な規律,緩やかな規律を目指すというのが妥当だと思います。   役員等賠償責任保険は,これまで特段の規制なく付保されて,実務上定着しているものであり,少なくとも,その付保によって,弊害が現実に発生したという指摘は余りないのではないでしょうか。むしろ,代表訴訟等の和解の可能性を現実的に支えているという機能もあるかと思います。今後,会社が株主代表訴訟敗訴時担保特約部分の保険料を負担することが可能になったということから,保険金額の増大も予想されますけれども,これによる濫用の可能性も,抽象的なレベルにとどまっているのではないかと思います。   会社が保険料を負担することによって,役員個人が負担する賠償責任について保険金が支払われることから,構造的に利益相反があることは事実ですが,その程度を見ますと,保険の商品設計に基づいて,免責事由等,ある程度類型化して商品設計がされていると。したがって,自由設計部分にとどまるということとか,あるいは,保険金が支払われることによって,会社自身の損害回復機能もあるということからしますと,その構造,利益相反性もかなり限定されているというのが実際ではないかと思います。そうしますと,今回規律を置くに当たっては,余り過剰なものであってはならないということかと思います。   このような観点からしますと,規律の内容は,取締役会決議を必要としますけれども,その効果として,利益相反規定の適用は排除される。取締役会決議があれば,株主代表訴訟敗訴時担保特約や会社訴訟担保特約の部分の会社による保険料負担も適法になるということを確認するというような点に意義があるかと思います。   事業報告による開示につきましては,先ほど申し上げましたように,利益相反性が一定程度限定されていると考えられることから,保険契約者や契約の内容の概要にとどめるべきではないかと考えられます。また,保険金額,保険料は,実務上の弊害も考えられることから,除外してよいのではないかというふうに考えます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,先へ進んでもよろしいでしょうか。田中幹事,どうぞ。 ○田中幹事 D&O保険に対する規制については,ほかの規制の提案以上に反対が強く,立法自体,危ぶまれるような状況があるかと思います。そこで,私も,規制対象について合理的な制限をする可能性について考えてきました。従来の学説がD&O保険の利益相反性を問題視するときは――もちろん,必ずしも対象範囲が明確でない議論もあったかもしれませんが――やはり主として,役員の対会社責任を付保する部分を問題視していたのかなと思っております。   つまり,対会社責任については本来役員が会社に賠償すべきところを,会社の保険料負担で付保するわけですから,結局,役員の対会社責任が事前に免除されているような効果があるのではないかという部分が議論の中心であったと思います。そのような問題意識から,経産省による法令解釈に関する指針においても,対会社責任部分の保険料を会社が負担することについての規律という形で議論が行われていたのではないかと思います。学説がD&O保険の利益相反性を問題にして,何らかの立法的措置を要求する際も,やはり対会社責任が中心だったのではないかと。   これに対し,今回の立法において,対会社責任だけでなく,対第三者責任を付保する部分までも規制範囲に含めようとすることから,D&O保険とほかのPL保険などの責任保険を区別することが実際上困難になる。その結果,そうした保険が全て規制対象に含まれてしまいます。その部分を除外するといっても,実際には,客観的に除外する基準がないので,限定列挙的な除外規定になるということで,どうしても無理が生じるかなと思います。   私,先ほども申し上げたように,会社補償については一定の規制は必要だと考えていますが,D&O保険の場合,やはり保険会社が間に入るので,モラルハザードについては,保険会社が一定の規律を働かせるインセンティブがありますので,完全に会社と役員だけの会社補償とは違うと思っています。会社補償は,極論すれば,D&O保険で付保できない部分を会社が自腹を割くことになりますので,一般的には濫用の危険がより大きいと思います。D&O保険は,そういう面では,利益相反性が低いといって差し支えないかと思います。   このようなことから,D&O保険について会社法が規制を設けるとすれば,対会社責任を補償する保険に絞って規制する――対第三者責任を補償する保険は規制対象から外す――ということは,十分考えられるのではないかと思っております。   それから,開示に関しては,私自身は,特に上場会社の場合はD&O保険に普通入っておりますので,保険料および保険金額といった一定の保険の内容について開示しない限り,情報開示の価値に乏しいのではないかという感じを受けておるのですけれども,この部分の開示については,カナダなどを例外とすれば,諸外国でも必ずしも行われていないことも事実であります。   その点を踏まえますと,この開示に関しても,会社がD&O保険契約に入っているということ,保険の概要,それから,利益相反の回避措置としてどのような措置を講じているか,例えば役員の自己負担,何%ぐらい自己負担しているとか,そういった開示にとどめるということは,現実的な選択肢として考えられるのではないかと思っております。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   それでは,先に進ませていただきたいと思います。どうもありがとうございました。   それでは,部会資料20の第4についてになります。社外取締役の活用等についての御審議をお願いしたいと思います。事務当局からの説明をお願いいたします。 ○青野関係官 それでは,部会資料20の17ページから記載しております「第4 社外取締役の活用等」について御説明いたします。   まず,「1 業務執行の社外取締役への委託」の本文では,試案第2部第2の1については,パブリックコメントにおいて,これに賛成する意見が多数だったこともあり,そのような規律を設けるものとすることを提案しております。   なお,パブリックコメントにおいて,当該規律が設けられることにより,会社法第2条第15号イの「当該株式会社の業務を執行した」に関する現在の解釈を変更するものでないことなどを明らかにすべきである旨の意見があったため,補足説明の(2)において,これに対応する説明を記載しております。   また,パブリックコメントにおいて,「株式会社と取締役との利益が相反する状況にある場合その他取締役が株式会社の業務を執行することにより株主の共同の利益を損なうおそれがある場合」の意義を明らかにすべきであるという趣旨の意見があったため,補足説明の(3)において,マネジメント・バイ・アウト,現金を対価とする少数株主の締出し(キャッシュ・アウト)や株式会社と親会社との間の取引の場面は,これに含まれることを想定している旨の説明を記載しております。   そして,試案第2部第2の1①の委託に関する決定については,これを取締役に委任することができないことを前提としておりましたが,本文1の(注)において,監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社においても,取締役会は,その決議によって,試案第2部第2の1①の委託についての決定を取締役又は執行役に委任することができないものとすることを提案しております。   次に,部会資料19ページの「2 監査役設置会社の取締役会による重要な業務執行の決定の委任」では,試案第2部第2の2について,どのように考えるかを論点として掲げております。   試案第2部第2の2については,パブリックコメントにおいて,A案に賛成するものとB案に賛成するものとに意見が分かれました。双方の意見の主な理由については,補足説明の1に記載しておりますが,このようなパブリックコメントの結果を踏まえ,どのように考えていくべきか,改めて御議論をお願いしたいと考えております。   なお,パブリックコメントにおいて,試案第2部第2の2のA案の「取締役の過半数が社外取締役であること」という要件について,例えば,取締役の3分の1以上が社外取締役であることと定款の定めなどの付加的な要件に変更してはどうかという趣旨の意見もありました。しかし,他方で,監査役設置会社の取締役会が重要な業務執行の決定を取締役に委任するという選択をすることができるようにするためには,取締役の過半数が社外取締役であることという要件は必須であるという意見も比較的多く,また,取締役の3分の1以上が社外取締役であることが取締役会の独立性を確保するための要件として十分であることの論理的な説明は困難であると考えられることから,本文2においては,「取締役の過半数が社外取締役であること」を要件とする試案第2部第2の2のA案について変更を加えずに論点を掲げております。   最後に,20ページの「3 社外取締役を置くことの義務付け」では,試案第2部第2の3について,どのように考えるかを論点として掲げております。   試案第2部第2の3については,弁護士会,機関投資家,金融商品取引所及びその他団体からA案に賛成する意見が多く寄せられ,これに対して,経済団体からB案に賛成する意見が多く寄せられ,大学からの意見はA案に賛成するものとB案に賛成するものとに分かれましたが,全体の単純な数の上では,社外取締役を置くことを義務付けるものとするA案に賛成する意見がやや多いという状況でした。   双方の意見の主な理由については補足説明に記載しておりますが,このようなパブリックコメントの結果を踏まえ,どのように考えていくべきか,改めて御議論をお願いしたいと考えております。   御説明は以上となります。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,御質問,御意見をお出しいただきたいと思います。川島委員,どうぞ。 ○川島委員 ありがとうございます。   3の社外取締役を置くことの義務付けについて意見を申し上げます。以前も申し上げた内容と重なるんですが,この点について意見が分かれているということもありますので,再度申し上げます。   社外取締役を置くことの義務付けの要否については,社外取締役を選任したことにより得られた効果,選任しないことによる問題点,選任する際の課題などを十分に検証・分析した上で,法律で義務付けることの必要性や妥当性について,丁寧に議論を尽くすべきであり,現時点では現行法の規律を見直す必要はないと考えております。   他方,今重要なことは,社外取締役制度の実効性を高めることであると考えます。そのために,例えば,職務を遂行するに当たり,必要な社内情報を入手できる仕組みの構築,是正する権限の強化,内部監査機能の強化などについても,併せて検討することが必要であると考えます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。古本委員,どうぞ。 ○古本委員 どうもありがとうございます。   1の「業務執行の社外取締役への委託」についてですが,これはパブリックコメントでも申し述べておりますとおり,実務ではニーズがありませんので,このような規律の導入は必要ないという意見です。   補足説明を拝見いたしますと,「業務を執行すること」という文言がセーフ・ハーバー規定であることを示していて,非業務執行事項につきましては,従来どおり,社外取締役が行うことに問題はないという説明がされていると思いますが,そもそも何が業務執行事項で,何がそうでないかの線引きには,どうしても曖昧なところが残ります。   したがいまして,先ほどの会社補償のときに申し上げたことに近いのですが,このような規律を導入すると,実務においては,少しでも業務執行性が懸念されるものについては,取締役会での都度の委託が必要であるというように,どうしても保守的な対応を採ることになりがちです。そうなりますと,都度の取締役会決議という要件の重さがあだとなって,逆に社外取締役の活用が事実上抑制される方向に働くのではないか,従来行ってきたことが行いにくくなるのではないかと,そうした懸念が経団連の中からも出ております。   それから,2の「監査役設置会社の取締役会による重要な業務執行の決定の委任」についてですが,私どもとしては,このような選択肢を設ける必要性・合理性が認められないと考えておりますので,制度の導入には賛成いたしかねます。   監査役設置会社を選んでいる会社は,マネジメントボード,すなわち重要な業務執行を取締役会で決定するガバナンス・スタイルを選択したということですので,そのスタイルを維持したまま,モニタリングボード型になるというオプションを設定する必要はないと考えます。現行法上の三つのオプションで十分ではないかということです。   それから,3の「社外取締役を置くことの義務付け」につきましては,「現行の規律を見直さない」とするB案に賛成です。もう既に,ほとんどの上場会社が社外取締役を選任するようになっておりますので,そもそも今,義務付けが必要とされる状況にはないということであり,法律で設置を義務付けることによって得られるメリットとしてどのようなものがあるのか疑問です。恐らくは,概念的ないしシンボリックな効果を除くと,現実的にはメリットは極めて小さいのではないかと思います。   逆に,義務化によるマイナスの影響も懸念されます。現時点で,社外取締役を選任していない会社は,ごく少数ですが存在しており,そうしたごく少数の会社は,「社外取締役を置くことが相当でない」と判断して,その理由を説明している状況にあります。こうした中で,「置くことが相当でない」と判断している会社に対してまで,それぞれの会社の個別の事情をしんしゃくせずに,画一的に設置を義務付けるのはいかがなものかと思います。   会社法というハード・ローで設置の義務付けを行うよりも,ガバナンス・コードなどのソフト・ローの下での各企業の取組,創意工夫に委ねていただく方が,より適切ではないかという意見です。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。小林委員,どうぞ。 ○小林委員 どうもありがとうございます。   社外取締役の活用等について,2の監査役設置会社の取締役会による重要な業務執行の決定の委任につきましては,これは現行法の規律を見直す必要はないと考えております。こちらにつきましては,委員会型の機関に移行することで対応できますので,あえて従来型の監査役会設置会社を選択している会社にとって,現実のニーズがあるのか,やはり疑問でございます。   委員会の機関設計と似た機関が並んで,なぜ監査役会設置会社まで委員会型と同様の機能を持たせているのか分かりにくくなりますし,平成26年の会社法改正によって,監査等委員会設置会社の制度が新たに創設されてから,さほど効果が経過しておらず,その効果が十分検証されないうちに,このような改正を行う必要性は高くないのではないかと考えております。   それから,3の社外取締役を置くことの義務付けにつきまして,これは商工会議所としては,現行法の規律を見直す必要はないということを強く申し上げております。   現時点で,平成28年,29年ぐらいから社外取締役を導入したばかりの会社もございまして,社外取締役の設置が急速な進展を見せているところですが,この経営への効果や課題について検証を行うべき段階であって,そういう意味での民間の努力を見守っていただきたいと考えております。   十分な検証を経ずに社外取締役の設置を義務付けることは,経営判断の迅速性を重視し,社外取締役設置とは別の手段で同等以上のガバナンスが確保できていると考えて,あえて社外取締役を選任しないことが有効だと考えている企業にとっては,規制強化となりますので,やはり弊害が生じ得ると考えております。   商工会議所の会員企業への個別ヒアリングからの声でございますが,CGコードの導入以来,社外取締役業を商売とする専門家が増えて,売込み営業を日々受けるというようなことがあるそうです。実際には,企業経営と各社の事業内容を十分に理解した資格と人格を兼ね備えた人材は,現時点でも相当不足していて,会社側も選任に苦慮しているという意見が出されております。   このような状況下で義務付けがなされるということになりますと,やはりガバナンス強化という本来の趣旨とは離れて,誰でもいいから,とにかく形式的に社外取締役を選任しなければならないという事態を招きかねませんので,かえって制度が形骸化するおそれがあるものと考えております。   あともう一つ,これも会員企業からの懸念ですけれども,義務化ということになると,社外取締役に急な欠員が生じた場合の取締役会の決議の有効性をどうしても懸念する声が寄せられておりまして,こうした状況も踏まえますと,今時点で制度を見直す必要はないものと考えております。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。青委員,どうぞ。 ○青委員 3の社外取締役に関する,置くことの義務付けのところについてでございますけれども,こちらは,以前のところの部会でも申し上げたとおり,私どもとしましては,社外取締役を置くことについて,義務付けを行うべきであるというふうに考える次第でございます。   それで,パブリックコメントの手続の中でも,投資家側のみならず,弁護士会あるいは学会からも,数としては多数の賛成意見が示されているということでありますので,ここについては正面から,改正に向けてということについて議論することが適当ではないかというふうに考える次第でございます。   それで,その理由といたしましては,社外取締役につきましても,これまで申し上げているとおりでございますけれども,少数株主の代弁者として,業務執行者から独立した客観的立場から会社経営の監督,それから,経営者やその支配株主,少数株主との間で利益相反の監督を行うという役割が期待されるところでございます。   それで,我が国の資本市場が全体として信頼されるという環境を整備するためには,上場会社において,そのような客観的立場からの監督がなされないことは容認されるべきではないというふうに考える次第でございます。したがいまして,実態としてガバナンスを進めていくということは,もちろん考えておくべき重要な課題であるんですけれども,その前提として,上場会社が満たすべき基本的な要件として,会社法において,社外取締役1名以上置くことを義務付けることが適当ではないかというふうに考える次第でございます。   それで,社外取締役を置かないという判断をした会社があるのではないかという意見も多々ございますところでございますが,ここにつきましては,社外取を置くことが相当でない理由として挙げられている内容として,まず,そうしたこと,置かないという選択している会社が48社程度ということでございます。それで,その中で,社外取を置くことが相当でない理由として,各社が書いている内容を見ますと,社外取を置くこと自体は,まず十数社が,そもそも置くこと自体が相当でないという程度でございまして,かなりの少数であるということと,それから,多くの会社におきましては,社外取の有用性・必要性は認めていても,適任者が不在であるという理由によって選択できていないということであるということでございますので,社外取締役の有用性というものは,一般的に広く認知されているのではないかというふうに考える次第でございます。   それで,加えて,その見付からないと言っている会社におきましては,多くが自社や業界に対する知見を求めているということでございますけれども,ここを厳格に求め過ぎてしまうと,候補になる方が極めて限られてくるということになりますけれども,そもそも個別の会社の内容ですとか,あるいは業界に関する知見につきましては,業務執行者がしっかりと持っているということが当然重要でございまして,社外取締役の一般的に客観性・中立性が期待されているという面を考えれば,社外取にそこのところを過度に要求すべきものではないのではないかという感じは持ってございまして,それで,むしろそういうところは,しっかりと各社が社外取締役に説明することによって,身内だけの論理になっていないかどうかということを判断してもらうということこそが,期待された役割ではないかということで考える次第でございますので,そうした社外取締役に何が求められているのかということを適切に御理解いただければ,適任者を見付けるということは十分可能なのではないかというふうに考える次第でございます。   それからあと,最後に,急な欠員が生じた場合の話でございますけれども,ここのところにつきましては,そこに対する懸念も十分分かるところでございますけれども,ここは補欠の社外取の選任をするということであるとか,あるいは選任の義務付けと個別の取締役会決議事項の有効性に係る考えを切り離していくということなどによりましてという,そういった形での制度上の工夫で対処すべき範ちゅうではないかというふうに考えますので,これ自体は義務付けを見送る本質的な理由にならないのではないかというふうに考える次第でございます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,柳澤委員,野村委員,沖委員の順で。柳澤委員,どうぞ。 ○柳澤委員 発言の機会を頂きまして,ありがとうございます。   業務執行の社外取締役への委託及び社外取締役を置くことの義務付けに関する論点につきましては,日本投資顧問業協会が機関投資家として意見を提出しておりますので,その趣旨に沿ってコメントさせていただければと思います。   まず,業務執行の社外取締役への委託に関してですが,投資顧問業協会の見解といたしましては,飽くまでセーフ・ハーバー・ルールであるという位置付けを前提とした上で,中間試案に賛成という判断をしております。例えば,会社と取締役との利益が相反する状況にある場合や,取締役が会社の業務を執行することにより,株主の共同の利益を損なうおそれがあるような場合においては,仮に社外取締役の行為が業務の執行に当たると評価されるときであっても,その都度,取締役の決議によって,社外取締役に業務執行の委託ができるものとし,これらの行為によって,社外取締役の要件を満たさないことにならないよう,規律を設定しておくべきと考えております。   なお,社外取締役の業務執行該当性に関しましては「コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会」報告書の別紙3「法的論点に関する解釈指針」でも整理されておりますが,その中では,社外取締役の行為のうち,投資家との対話やマネジメント・バイ・アウトにおける買付者に関する情報収集,買付者との間での交渉などが,原則として「業務を執行した」に当たらないものとして例示されております。   また,コーポレートガバナンス・コードにおいても,独立社外取締役の役割や責務について,その有効な活用を図るべきとの記載がされておりますが,そのほかにも,社外取締役の果たす役割としましては,例えば,日本弁護士連合会が策定した「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」で示されている内容として,企業不祥事に際して設置される第三者委員会で調査業務に従事することが,具体的な事例として示唆されています。   こうした社外取締役としての役割を有効に果たしていく上で,法的安定性や萎縮効果の回避といった観点からも,セーフ・ハーバー・ルールを設けておくことは,コーポレート・ガバナンスの向上に資するという意味で,必要な措置と考えております。   なお,繰り返しになりますが,この規律は,飽くまでセーフ・ハーバー・ルールであって,現行法の解釈や実務を変更するものではなく,また,反対解釈をすべきものではないことも明らかにしておくべきであるというのが,機関投資家としての投資顧問業協会の意見となっております。   次に,社外取締役を置くことの義務付けに関してですが,投資顧問業協会の考え方に沿って,簡単にコメントさせていただければと思います。   東京証券取引所の全上場会社における社外取締役の選任比率に関しての状況確認になりますが,改正法の施行前の平成26年度では64.4%でしたが,平成27年5月の改正法の施行や同年6月のコーポレートガバナンス・コードの適用開始の影響もあり,平成29年度には96.9%へと選任比率が増加してきております。   こうした社外取締役の選任比率の変化を踏まえた上で,投資顧問業協会が取りまとめた見解といたしましては,A案若しくはB案でも実質的に差異のない状況であると認識されるため,社外取締役の設置を義務付けるといった形式ではなく,取締役会がより実効的に機能するかどうかを重視すべきであり,実質的な運営が行われるよう,効果的なガバナンス体制を構築することが重要であるとの意見を提示しております。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。野村委員,どうぞ。 ○野村委員 ありがとうございます。   まず,委託に関するところでございますけれども,先ほど意見の中で,現行法の社外取締役の要件の中であります業務執行していないことという,この概念が曖昧であるがゆえに,コンサバティブな対応が生ずるという,この前提は私も共感しているところであります。しかし,そうだとしますと,今法律がない状況で,そのことはどういうふうに反映するかというと,本来,社外取締役に活躍していただきたい場面であったとしても,これは業務執行に該当するのではないかというふうに懸念して,それを依頼できないという状況が生ずることになるわけでありまして,それがむしろ,社外取締役の有効活用を妨げているというふうに考えるべきだと思います。   そういう意味でこそ,正にセーフ・ハーバーが必要なわけでありまして,この手続を踏めば,これは問題がないという形で,コンサバティブな今の活用状況を打破することができるということですので,私は積極的に,この1番目の案については賛成したいと思っております。   それから,2番目でございますけれども,2番目の重要な業務執行の決定の委任に関しては,これはかねてからも,ちょっと申し上げたことなんですけれども,実は指名委員会等設置会社あるいは監査等委員会設置会社におきましても,取締役会の機能をモニタリング・システムの方向に強く方向付ける形で定款規定等を設けますと,取締役会の開催頻度は2か月に1回や3か月に1回という形になってくる可能性がございます。このような場合であったとしても,社外取締役の方々は,監査委員とか,あるいは監査等委員というのを兼ねたり,他の委員を兼ねたりすることがあることにより,そこをやることがほとんどでございますけれども,その結果,取締役会以外のところの会議体において,頻繁に社外取締役としての活動を行うということが想定されるわけでございます。   しかし,監査役設置会社において,そのようなモニタリング・システムを導入してしまいますと,監査役はやはり監査に,頻繁に監査しなければいけませんので,定期的に集まったり,あるいは,場合によっては実査等を行うことに関与するということもあろうかと思いますけれども,社外取締役の役割が非常に低下してしまいまして,機能しない社外取締役というのが多数発生してしまうと。   そうなりますと,先ほどちょっと懸念材料として出てまいりましたけれども,社外取締役になりやすい環境というのが出てくるわけでありまして,ある意味ではいいかげんであっても,社外取締役は2か月に1回来ればいいんですよと,3か月に1回来ればいいんですよという形の社外取締役がこの世の中に発生してしまうということになり,本来,社外取締役に活躍していただいて,ガバナンスを強化しようという政策とは矛盾することとなるのではないかというふうに考える次第でございます。   それから,3番目の義務付けでありますけれども,義務付けについては,学問的な観点から見ますと,実証研究等々がいろいろあって,その中で,必ずしも効果があるかどうかについてはクエスチョンであるということは私も承知しているわけでございますが,逆に言いますと,ほかの条文について,全て実証研究が行われているわけではなく,それでもみんなは立法しているという現状が存在しているわけでありますから,ある意味では,多くの方々の常識に基づくコンセンサスによって立法が行われていくべきではないかなと,こんなふうに思う次第でございます。   そういう中で,もしこれを義務化しますと,何が起こるかというと,今設置している人たちが後戻りできない,つまり,うちは社外取締役はやめますということができないということと,今,先ほど御紹介のあった少数の会社に設置が義務付けられるというこの2点が,どれだけ社会的に弊害があって,そして,それを義務付けることにどれだけメリットがあるかという,伝統的な法解釈の手法の中で,立法の必要性というのは考えるべきではないかなというふうに考えている次第です。   私自身としては,これまで多くの社外取締役が普及している現状の中で,国の政策として一定程度,社外取締役というものを重視しているということをここで示すことには,アナウンスメント効果があるのではないかというふうに考えている次第でございます。   1点だけ申し上げますと,現行法の社外取締役に関する会社法の規律は,釈迦に説法でございますけれども,事業報告に関して,設けていない場合についての報告を求めると。コンプライ・オア・エクスプレインの話になっているのと,あるいは,取締役の選任議案の中に,社外取締役がいない場合について,それについての説明を求めるという形になっておりますが,それは株主総会での余計な説明を求めているという形にもなっているわけでありまして,なぜこのような規律になったかは,言うまでもなく,当時はまだコーポレートガバナンス・コードがありませんでしたので,ある意味では,立法技術として,ここにそういうものを導入したという,こういう背景があったかと思います。   そういう意味では,現行法の規律というのは,何となく,形が余りよろしくないような気がしているわけでありまして,もし改善するのだとすれば,この規律の在り方でいいのかどうかというのを考える必要があると思います。そうすると,結論は,行く道は戻れないという点からいけば,もしかすると,義務付けしか残っていないのではないかなと思っている次第でございます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。沖委員,どうぞ。 ○沖委員 ありがとうございます。   2,監査役設置会社の取締役会による重要な業務執行の決定の委任の論点につきまして意見を申し上げます。   監査役による監査を維持しながら,取締役会の専決事項を限定し,また,モニタリングモデルを採用することによって,取締役会の監督機能の強化と迅速な意思決定を可能にする選択肢を認めるため,A案に賛成であります。   監査役設置会社でも,社外取締役が過半数であるとか,あるいは,その直前の数の社外取締役がいるという会社は,意外に多いものと認識しております。外部から見た分かりやすさという点ですけれども,機関設計が委員会型であるか,それ以外に属するかということよりも,取締役会がどのような機能を果たしているか,社外取締役がどのような活動をしているかという点が注目されつつあると思います。   監査役設置会社でも,社外取締役を委員とする諮問指名・報酬委員会の役割は今後重要になると考えられ,委員会の決定を取締役会が覆すことが可能か否かという相違はありますが,監査役設置会社と委員会型は,ともに委員会の機能を拡大していく方向で接近していくというふうに考えられるのではないでしょうか。   パブリックコメントでは,社外取締役の過半数要件につきまして,事実上酷であるとか,利用が限定されるという指摘もありました。この点,定款の定めによって,取締役会の決議によって重要な業務執行の決定を取締役に委任することを認めるための制度的な基礎的条件があるかどうかということについて,やはり検討しておくべきであると思います。   この点は,社外取締役の数が取締役の3分の1以上であり,かつ,2名以上である場合には,定款の定めによって,取締役会が重要な業務執行の決定を取締役に委任できるものとし,この定めのある会社では,社外取締役全員の互選によって定めた社外取締役が株主総会において,取締役の選任若しくは解任,辞任並びに取締役の報酬等について意見を述べることができるという規律を置くことが考えられると思います。これによりまして,監査等委員会設置会社が定款の定めによって重要な業務執行の決定を委任することを認めている会社法399条第6項と同等の基礎的条件は整っているのではないでしょうか。   このような定款の定めを認めることを通して,取締役会が社外取締役を委員とする独立性の高い任意の指名・報酬諮問委員会の活動を会社法制の中に位置付け,社外取締役の選任の促進,社外取締役による監督機能の強化をすることにも役立つと考えます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,三瓶委員,坂本幹事,田中幹事,梅野幹事の順で。三瓶委員,どうぞ。 ○三瓶委員 ありがとうございます。   まず,業務執行の社外取締役への委任ですが,現状,国内のマネジメント・バイ・アウトは,経営陣と少数株主の間での利益相反が生じている極めて重大な未解決事案の一つです。海外においても,マネジメント・バイ・アウトについては,そういった重大な利益相反を生じる可能性が大きいということで注目されています。   例えば,弊社のグローバル統一の責任投資方針というのがありますが,そこには明確に,独立社外取締役に,こういったマネジメント・バイ・アウトの場合には関わっていただくということを期待する。期待するということは,エンゲージメント又は対話という場面では,そういったことを働き掛けるということです。   今現在,日本では,それを明確に働き掛けたところで,会社側から,それは明確ではないということで断られることがありますけれども,今回こうしたことをセーフ・ハーバーとして明確化していただくことは,非常に大きな効果があると思います。   二つ目ですが,これについては,実は弊社から出した意見書では,A案・B案選択保留というふうにしています。ただ,その根拠,考えたことについては,ちょっと御紹介させていただきたいと思います。   まず,2015年のコーポレート・ガバナンス導入以降,そこで実効性評価を求めるということが補充原則に書かれたわけですけれども,そのときに大きく,最初の1巡目で出てきたものは,取締役会での付議事項が多過ぎて,なかなか本来の取締役会に求めている実効性というものができていないということでした。そして,翌年の2016年には,それについての改善がなされたと。付議事項を減らしていくとか,もっと戦略的なことを話していくとか,そういったことに随分かじを切られたというのがあります。   そういう意味では,ここで懸念されているようなことについて,一定程度,今の現状の環境でも,執行に委任することができるものについて,やっていくだけでも改善があったというのが一つあります。   一方で,この資料にもありますけれども,例えば,委任をすることによって,先ほど野村委員もおっしゃっていましたけれども,取締役会の回数が減る可能性があるということが懸念に挙げられていますけれども,これは懸念すべきことかどうかはよく分からないと思います。例えば,2016年実績なんですけれども,海外企業の取締役会の開催回数というのは年間6回から8回です。ただ,海外の会社の取締役会の機能,機関設計というのは,指名委員会等設置会社に近い形がほとんどですね。   ただ,日本では同時期に,取締役会の開催回数というのは平均で年15回,監査役会の回数は平均で13回です。ですから,これが下がっていくということはあり得るでしょうけれども,下がることが悪いことかというと,取締役会については,必ずしもそうではないだろうというのがあります。   なので,ただ,それが本当に過半数の社外取締役を導入している監査役会設置会社に,こういう条件を付けて,他の機関設計と同様な方向に持って行くことが本当に重要なのかどうかについては,まだ正直はかりかねているということで,これについては保留にさせていただきました。   3点目,社外取締役を置くことの義務付けですが,ここでは,先ほど青委員からも御紹介ありましたが,ほとんどの会社が社外取締役の重要性・有用性については認めているということですね。ごくごく少数の会社が導入していないわけですけれども,適任者が見付からないという理由で,社外取締役の導入がそもそもおかしいとか違うんだということではないのが一つです。   あと,先ほどの1の業務執行の社外取締役への委託を可能にするためには,義務付けをしないと,それが期待できないという大事な問題があります。   また,実質と形式の議論がよく出てくるんですけれども,義務化することイコール形式とは限らないと思うんですね。例えば,実質というときにも,義務化しないと困ることがあります。これは前回も申し上げましたが,本格的に実質化,実効性を求めていくと,現在いらっしゃる社外取締役について,反対票を入れて再任しないと,否決という方向に行く可能性もあります。ただ,否決されたときに,代わりの方を選ぶということをしていかないと,この実効性は担保されないわけです。ところが,義務化されていないということであれば,せっかく会社としては,この方がいいというふうに推した方が否決された場合に,その次善策は考えないということにもなり得るわけで,そういう意味では,実効性のためにも,実は義務化が必要だという考えです。   それと,もう一つ,検証ができていないので時期尚早であるというような御意見もあります。ただ,では,例えば検証したときに,社外取締役の導入効果が判然としないという結果が出た場合,どうするのかと。   ただ,海外の企業統治の歴史を見ていくと,社外取締役がいない方がいいという判断はなくて,例えば,まだ導入が少ないから,その効果が判然としないという場合に,どちらかというと,1人では影響力が小さい,だから複数だと。又は,取締役会に多様性,様々な知見,能力,スキルを備えるには3分の1以上必要であるとか,又は,社内の論理暴走を食い止めるには過半数必要であるとか,効果が判然としない中でも,どちらかというと数を増やしていくと。又は,数だけではないです,もちろん。先ほど申し上げたように,知見,スキル,そういった多様性も備えていくという手立てを採りながら,効果を見ていこうとしています。そういう意味では,置かない選択肢を何年も掛けて検討するというのは,機会と時間の損失になる可能性があるというふうに懸念します。   最後になりますけれども,もう一つは,企業が社会の公器として,本気で企業価値向上を考えるのであれば,経済社会の大きな環境変化,例えば国内の財政,社会保障問題,国連のSDGsに代表されるような国際的な社会的課題解決への責任,AI活用浸透とかいうようなイノベーションなどに対して,社外取締役を活用した視野の拡大や多様性の確保というのが必至だと思います。現状維持でよいという結論には至らないと思います。   また,国際的な比較でいえば,日本国内での現状維持ということは,相対的には劣後していくということにもなります。ですから,検証というのは,実際何を期待しての検証なのか。先ほどの実効性又は実質対形式というところでも,何が実質又は実効性なのかということについては,よくよく考えていただきたいと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。坂本幹事,どうぞ。 ○坂本幹事 ありがとうございます。   意見書の9ページの真ん中からでございます。業務執行の社外取への委託については,御提案の内容,セーフ・ハーバーとしてということで賛成でございます。   1点,都度の委託という条件につきましては,緊急性のあるような場合ということも十分想定されますので,ある程度,事前の包括的な委託というのも認められる余地があると,より意義のあるものになるのではないかと思っております。   監査役設置会社における業務執行の決定の委任ということにつきましては,先ほど沖委員からもございましたとおり,監査役設置会社において,監査役という仕組みを使いつつ,モニタリング型の取締役会という形を採っていく,その選択肢を広げていくという意味で,こういった選択肢も可能にするA案というのは,制度設計として有意義ではないかと思っております。   ただ,取締役の過半数が社外取締役という要件につきましては,もう少し柔軟な形で,幅を広げていくということも是非検討いただければと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。田中幹事,どうぞ。 ○田中幹事 社外取締役義務化については,繰り返しになる部分も多いと思いますが,私の意見を述べさせていただきます。   今回のパブリックコメントで,義務化に賛成する意見が多く寄せられました。それも,ほかの規制については,割と弁護士会と大学に賛成が集中しているのに,この義務化に限っては,弁護士会,大学だけでなくて,機関投資家やガバナンス関係の団体など,非常に幅広く義務化賛成論がありまして,ほかの規制に比べても義務化の賛成が多かったということであります。   それで,私としても,またもう一度考え直す必要があると思いまして,考えてみたんですけれども,やはり私の考えでは,今回義務化というのは,ここで義務化というのはすべきではないのではないかと考えております。   理由は,何度も繰り返しているように,検証がないからなんですが,ここで検証がないからというのは,時に規制反対論者がするように,どのように検証すればいいかの選択肢を何も示さないまま,とにかく検証がないから反対するということではなくて,検証するすべはあり,少なくとも国際的な研究と同じような方法で検証するすべがあり,しかも検証の試みが,学会を中心に行われているのに,それを全く無視して義務化するのがどうなんだろうかということなんですね。   コーポレートガバナンス・コードは,私が思うに,非常に大きな影響を上場企業に与えたと思っていまして,コードの制定を正に契機にして,独立社外取締役を二人以上置いた会社が相当多くあります。一方で,そうしなかった会社もありますので,現在非常に上場会社間で多様性が生まれていまして,その多様性がガバナンス・コードというソフト・ローによってもたらされたという,現在非常に検証に好適な状況,適した状況が生まれています。そういう中で,検証する可能性がせっかく生まれているのに,それを何も考慮しないで,諸外国がそうなっているからとか,現在国の方針がそうだからとか,国の方針なんて,首相が替わればすぐ変わってしまうのではないですか。私は何か,非常に雰囲気に流された議論だと思います。   諸外国がそうであるというのは,確かにそのとおりです。しかし,諸外国でも,非常に真剣な議論の中では,諸外国の議論も雰囲気に流されて行われているというような批判が存在しています。また,この部会の中でも,経済学者の齋藤先生にゲスト出演いただきまして,準備段階ではありますけれども,検証結果を示していただきました。その結果は,少なくとも小規模上場会社については,義務化がマイナスに働く可能性を示唆するものになっていたと思います。   私,この問題については,オープンマインドに考えるべきだと思っています。諸外国でも,社外取締役が企業価値を増加させるというのは,証拠よりも信念に基づいているというようなことを言っています。そういうのがあります。また,そうしなければ投資家が納得しないではないかというのは,それは別に義務化をしなくても,社外取締役を入れなければ,株主総会で反対票が増えるので,いずれにせよ入れなければならないという上場会社は多いと思います。   しかし,全ての上場会社がそういう状況ではないと思っておりまして,投資家の圧力が必ずしもないにもかかわらず,更にここで国が義務化をする必要があるのかどうかということです。そういったことについては検証がなされていない。何度も言いますけれども,検証ができるのに,できる環境があるのに,検証しないでやるということが問題だと思っております。   ちょっと,恐らく実質的な議論はこれで,あと何回もやることはないと思いますので,最後の機会だと思って申し上げたんですけれども,以上が大体私の考えでございます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。梅野幹事,どうぞ。 ○梅野幹事 大変ありがとうございます。   まず,社外取締役の活用等の1番目で,業務執行の社外取締役への委託についてですが,私どもとしては,マネジメント・バイ・アウトだとか,親会社による子会社の子会社化といった,支配株主と少数株主の利益が相反する場合が,この規定でカバーできるのかといった疑問を提示しました。その点につきましては,今回の部会資料18頁で,それも含まれるという形の御説明を頂きました。   その点につきましては,果たして「株主の共同の利益を損なうおそれがある場合」という文言を,本当にそう読めるかどうかと若干疑問が残らないではないですけれども,こういった形で資料に残しておいていただければ,私どもの疑問点は解消されるように思います。   次に,2番目の監査役設置会社の取締役会による重要な業務執行の決定の委任ですが,以前の部会でも申し上げましたけれども,従前の取締役会による監督あるいは監査役による監査について,取締役会の開催数が少なくなることに伴って,質的な変化があり得るのではないかという懸念があります。どうすればいいのかなかなか解決策が思い浮かぶわけではないのですけれども,合理的な制度を構築するという方向で御検討を頂く必要があると考えている次第です。   次に,3番目の社外取締役を置くことの義務付けですが,これにつきましては,青委員や三瓶委員が御発言いただいたところと,ほぼ考えを同じくしておりますので,余り細かく申し上げませんけれども,企業不祥事がまだまだ絶えない現状において,あるいは,MBOといった支配株主と少数株主の利益が対立する状況において,独立した客観的な立場にある社外取締役の役割というのは,現在でも重要性を増しているであろうと考えます。   さらに,社外取締役については,指名・報酬プロセスへの関与とか,多様なステークホルダーの意見反映といった役割も期待されるようになっています。その上で,大多数の上場会社が既に社外取締役を採用されているということは,社外取締役の重要性・有用性が認識されている結果であると理解してよいと思っております。   確かに,実証的な検証がなされているのかどうかという点については,御疑問が呈されているとおりでございますけれども,大多数の上場会社が社外取締役を採用している状況において,社外取締役を義務化することのコストがどの程度あるのかと思わないではありません。むしろ,一律に,日本の上場会社においては,社外取締役が少なくとも1人いますという分かりやすい制度にすることが,これからの日本のガバナンスのシステムとしては,よいのではないかと私どもは考えました。   それだけでは駄目だということは十分承知しておりまして,その上で,いかに社外取締役の実効性を高めるかにむしろ注力していくべきなのではないかと考えます。現在,コーポレートガバナンス・コードについて,ジェンダーや国籍において多様性を持たせるといった改正の動きがございますけれども,金太郎あめのような組織ではなくて,多様性を持った組織が,コーポレートのボードとして存在することによって,会社がおかしな方向に行くようなことが防止されるといった場面もあると思います。まずは社外取締役を一律に導入した上で,更によりよいガバナンス体制を求めていく,実効性のある体制を作っていくことが大事なのではないかと考える次第です。 ○神田部会長 ありがとうございました。   それでは,齊藤幹事,加藤幹事,藤田委員,尾崎委員の順でお願いします。齊藤幹事,どうぞ。 ○齊藤幹事 ありがとうございます。   362条4項の位置付けに関する2についてだけ,少し申し上げさせていただきます。   A案ですけれども,従来から,私は362条4項の規定と監査機関の設計ということを連動させる必要はないという立場でしたので,このような形で一層規律を複雑にすることについて,積極的に賛成する立場ではないんですけれども,このA案で述べられている監査役設置会社に362条4項の例外を認めない理由はないのではないか。つまり,御提案は,過不足なくその範囲を規律はしているとはいえないかもしれないけれども,これを満たしている会社には362条4項の例外を認めても差し支えないのではないかという意味で,A案に賛成したいと思います。   平成14年改正において,現在の指名等委員会設置会社の原型が導入されたときに,同形態の規律がこれほどまでに厳格になった理由の一つは,362条4項の規律の例外をモニタリングボードへの移行と結び付けようとしても,取締役会の本体の過半数を社外取締役にすることを条件にすることが,当時の事情から難しかったためです。ですので,3委員会の設置を義務付け,少なくとも委員会の方は,社外過半数にし,委員会の決定は取締役会で覆せないようにされました。そのような形で,強いリーダーシップを会社の社長に認めるというようなコンセプトであったかと思いますけれども,A案は,つまりそのときの議論に照らせば,そのときに本来目指そうとしていた取締役会の本体社外過半数を実現した会社であれば,モニタリングモデルに名実ともに移行できるということを言っているのでありまして,これに積極的に反対する理由はないのではないかと思われます。ニーズはないという議論はあり得ると思うのですけれども。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。加藤幹事,どうぞ。 ○加藤幹事 ありがとうございます。   1点,社外取締役の設置義務化について意見を述べさせていただきます。社外取締役の設置を会社法で義務付けるべきかどうかという点については,現時点で,私は確固たる見解を持っていません。しかし,仮に会社法で義務付けるとした場合に,果たしてどういった影響が出るかということを,もう少し考えた方がいいように思います。   確かにほとんどの上場会社が社外取締役を選任しているわけですけれども,一部,信念に基づいて導入していない会社があります。このような会社が,仮に会社法の規定に基づき社外取締役の導入を義務付けられた場合にどういう対応するかを考えてみますと,監査役設置会社から監査等委員会設置会社に移行するように思います。   もちろん,これは私の推測にすぎません。しかし,平成26年改正によって監査等委員会設置会社が導入された後,これも私個人の評価ではありますが,予想以上に多くの会社が監査等委員会設置会社に移行したことに留意すべきだと思います。その理由として,コーポレートガバナンス・コードの要請を満たすために,2名の社外監査役に加えて1名の社外取締役を選任することの負担が重いということがあったように思います。しかし,監査等委員会設置会社に移行すれば,社外監査役を横滑りさせることによって,コーポレートガバナンス・コードの要請を満たすことができるわけです。   しかし,このような選択はガバナンスの選択の仕方として望ましくはないと思います。なぜかというと,ガバナンスの適切さは,決して社外取締役を入れるかどうかだけでは決まらないからです。しかし,これまでの我が国では,やはり社外取締役を入れるべきかどうかということに,ちょっと議論が集中し過ぎているように思います。   仮に,会社法の規定によって社外取締役を1名は選任しなければいけないということになったら,監査役会設置会社であることを維持する上場会社の数は減るでしょうし,新たに株式を上場しようとする会社が監査役会設置会社を選択することも減るように思います。仮に,このような選択が,会社を取り巻く個別具体的な状況を踏まえると監査役会設置会社というガバナンスの仕組みが最適であるが,社外監査役に加えて社外取締役を選任すること回避したいという理由で行われるのであれば,問題があるように思います。このような観点から,ただ単に社外取締役の設置を義務付けるということだけで本当によいのか,考える必要があると思いました。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。藤田委員,どうぞ。 ○藤田委員 どうもありがとうございます。   何点か申し上げたいと思います。まず,社外取締役への業務執行の委託の件ですが,セーフ・ハーバーとして,こういうルールを設けることは,積極的に支持していいと思います。   ただ細かいことで,しかも以前も申し上げたことなので,くどいようなんですけれども,表現として,今の書き方がいいのかというのかというのは気になるところです。株主共同の利益を害するようなおそれがある場合ということですが,ここで典型的に念頭に置いているのが,キャッシュ・アウトなどのときに株主の利益を,不当に安い値段で締め出されないようにしてやるために実質的な交渉ができるようにしてやるということであれば,それは株主共同の利益が害されるという話なのか疑問に思われるからです。言葉だけの問題ですが,典型的に念頭に置いているものとの関係で,適切な表現になっているかということを考えてほしいと思います。  取締役が悪いことをして,株主全体を害しているのであれば,こういう表現でいいのですけれども,相当の持株を持っている株主が少数株主を追い出そうとしている,キャッシュ・アウトでプラスは出るという場合にそのプラスを全部多数株主が取ってしまうのを防止しましょうという話をしているわけです。これは株主共同の利益とは違う気がします。少数株主共同の利益かもしれないんですけれども。典型的に想像しているものがうまく表現できていないとすると,言葉の問題とはいえ,重要です。規律の実質には賛成なのですけれども,最終的に典型的に念頭に置いているケースが,過不足なく,表現できればいいなと思っています。   最後に,取締役会の権限委任の話ですが,齊藤幹事の言われたように,理論的には,監査役設置会社にこういう選択肢を認めてはいけないという理由はないと思います。柔軟な設計を認めることにも意味があり得るとは思うのですが,パブコメや当部会での議論では,意外と経済団体が反対している。なぜだろうと思うのですが,もしこういうことを認めることが,かえって企業の機関設計の選択に混乱をもたらしたり,選択がゆがめられるというふうなことを恐れ,現在の制度の中で選んだ方が分かりやすくて使いやすいというのであれば,現段階で無理に導入すべきではなく,これを積極的に支持することもないと思います。   日本企業の取締役会構成は,ここ10年ほどで劇的に変わってきている状態です。長期的に見ますと,機関構成の在り方について,どこかでもう一度見直し,整理し直すことはしなければいけないと思います。そのときに,この問題も含めてやった方がいいのかもしれません。その方が,個別に自由度を増やしたりするより,一貫した改正できるのではないかというような気もします。ですから,今回の提案が間違っているから反対だと言うつもりもありませんが,経済団体が望んでもいないのに,理屈としては間違っていないからやるべきだと積極的に支持するつもりもありません。   社外取締役選任の義務付けは,私はやはり,すべきではないと思っています。基本的には,田中幹事や加藤幹事の言われたことと同じなのですけれども,企業価値を高めるという目的で問題を考えているのであれば,あえて社外取締役を入れるべきではないと判断し,その理由を説明する会社に選任を強制することがいい結果をもたらないような気がするからです。   コーポレート・ガバナンスに係る実証研究の参照の仕方は難しく,実証的によくなるという保証がないからやるなという議論の仕方は,私は適切ではないと思うのですが,ただ,比較的はっきり分かってきていることもあります。諸外国の実証研究の結果等から分かってきていることは,取締役会構成の最適さというのは企業によって違うということで,これはほぼコンセンサスだと思います。かつては,社外取締役を入れることが,あるいは,増やすことが企業価値を高めるかとかという研究をしていたのですが,今はそんな検討はしなくて,取締役会構成の最適さというのは企業によって違うことを前提に,どんなタイプの会社が取締役を,社外取締役を入れるといいかとか,あるいは,取締役会の構成を決定する要因はどういうところにあるかといった,そういう研究に移ってきています。そういうことを考えると,あえて多様性を害するような方向で一律強制するということは,実証研究で分かってきていることに反するといってもいいのではないかと思うので,慎重であるべきだと思います。   なお,今私が申し上げた議論は,企業価値最大化という観点で,これを推し進めるのであればということです。現在,社外取締役設置強制ということを推し進めようという方々は,個別の企業への影響というよりは,外国人投資家等にどう映るかとか,日本のマーケットへの投資を呼び込むために社外取締役を入れさせた方がよいかとか,そういう観点の議論をしようとしているのかもしれません。ただ,私は,そういう観点から,会社法上の社外取締役の義務付けを決めるということに,非常に強い違和感を持っています。これは実証研究とは無関係の,考え方の基本的なスタンスなので,これ以上議論しませんけれども,会社法で設置強制を入れるのであれば,企業価値への影響という観点で考えるべきで,そう考えるとすれば,先ほど申し上げたようなことになるかと思います。したがって,現在社外取締役の選任を強制することは必要なく,そういう提案には反対したいと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。尾崎委員,どうぞ。 ○尾崎委員 時間が超過して申し訳ありませんが,少しだけ発言させていただきます。   まず,1番の委託の問題ですが,問題は社外の機能を活用しやすくするということだったかと思います。セーフ・ハーバーということは,最低限の障害を取り除くということによって社外の機能を果たせることになるのだろうということで,この方式は賛成しております。   ただ,先ほど来から,藤田先生もおっしゃったように,表現がこれでいいのかどうか。要は,やはりセーフ・ハーバー,疑義があるときはこういう手続を踏んでおけば大丈夫だよということの安心を与えるということです。そのメッセージがうまく伝わるようにすれば,1の問題は解決するのではないかと思います。   2の問題については,これは,目的は付議事項を減らすということだったかと思います。つまり,従来,非常にコンサバティブに,重要であるという限りにおいて,取締役会の付議事項にしてしまい,結局,実質的な審議ができていないのではないかという,そういう疑義があるわけで,その付議事項を減らすにはどうすればいいかという問題だったと理解します。その工夫の一つが,こういうやり方だろうと思います。   しかし,この方向で進めば進むほど,だんだん別の企業のモデルに近づいていってしまう可能性があるわけで,何かその,先ほど沖先生がおっしゃったように,中間的なものが選択肢として出てくればいいと思っています。   私たち早稲田大学の意見書では,特別取締役の活用はどうか,という提案を挿入しています。これは中間的なものもあるのではないかというコメントなのです。では,そういう付議事項を減らすという工夫は,経済団体の方はどういうふうにして考えられているのかと,むしろそこをちょっと聴きたいわけです。要は付議事項が多過ぎるとか,そこが多いので,実質審議ができていないのだというのが問題の核心であるならば,実際上,企業の方は,取締役会の付議事項,これを一体どういうふうに見直して,どういうふうにされようとしているのか。これこそが重要であって,そういう工夫が,ああなるほどということができるのかどうかだろうと思います。   法的な制度としてどうするのかということについては,提案は一つの工夫だろうと思うのですが,先ほどの繰り返しになりますが,こうなってくると,監査役設置会社という形を採っている会社にとっては,どういうふうなやり方がいいのかと疑問が生じます。これらの条件を満たしてしまいますと,つまり(注)に付いている条件を満たしてしまいますと,相当厳格な条件になってしまうわけで,何かもう少し緩やかな,中間的な多様な機関構造というところで,付議事項を減らすやり方ができるというやり方もいいのではないかと思います。   最後の社外取締役の設置強制の問題ですが,今のこの状況から見ると,強制しようがしまいが,どちらだって大差ないというのが,恐らく答えだろうと思います。そのときに,法律というものの法的強制力を使って,僅か足りないところを,「エイヤ!」とやってしまえということを言うだけの合理性がどれほどあるのかと。   例えばこれ,放っておいても,市場が淘汰するという一つの答えがあるわけです。社外取締役を置いていないような会社には誰も投資しないよという答えが出てくれば,事実上そちらへ行くしかないでしょう。現状のままだっていいわけだという答えもあり得ると思います。それは正に,社外取締役を置かないということの選択の,言葉悪く言うと,自業自得であるということなのかもしれませんが,そこは会社に任せ,市場に任せてもいい,という感じがします。   今,なぜそれを強制すべきなのか。適任者がいないという答えが出てきたときに,では,それは社外に何を期待しているのかと。先ほどもちょっと議論が出てきたわけですが,社外として,こういう人を呼んでこないといけないという強迫観念があるのだと思います。一体どういう人こそが重要であるかというところは,これ,私たちの仕事かもしれませんが,独立というのは一体何なのだというふうなことが重要になってくるわけです。   実効性を求めるということが重要であるということが,最近言われているわけですが,これは正に中身として,こういう人こそがボードメンバーになってほしいということを言わなければいけないわけで,それを今,実証するのか,影響力をどうするのかと,いろいろな答えが出てきていいと思うのですが,最適解がまだよく分からないというのが本当の答えであろうかと思います。そうだとするならば,法的強制力を使う段階ではないと私は思っております。これは私の個人的な意見です。ただ,早稲田の中では全く逆の意見もあったわけでございまして,なかなか難しいというのもまた,私の意見でございます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。前田委員,どうぞ。 ○前田委員 時間が過ぎている中で申し訳ございません。ごく手短に意見を申し上げさせていただきます。   まず,監査役設置会社で業務執行の決定の委任を認めるかという問題について,一番問題になるのは,もしこれ認めると,監査役の存在意義を説明しにくくなるということではないかと思うのです。つまり,監査役は,取締役会に出てくる重要な意思決定の適法性を一つ一つチェックするのが,職務の基本の一つなのだと思います。   それができなくなれば,監査役は,内部統制システムの相当性をチェックするのが主たる職務になってしまうわけですけれども,そうすると,なぜそれが監査役でないといけないのか,むしろ取締役の方がいいではないかという話にもなりかねず,やはり監査役の存在を考えると,監査役設置会社で,大幅な決定の委任を認めることはいかがなものかと思います。特に実務のニーズもないのに,これを実現すべきだとは思われません。   それから,社外取締役の設置義務付けについては,既に委員,幹事の先生方から御指摘があったことに加え,前にも申しましたように,今回の会社法制の見直しのきっかけの一つは,改正附則の検討条項にあったのであり,検討条項では,平成26年改正の開示規制だけでは効き目がなくて,社外取締役の設置が進まなければ,義務付けを考えるということだったと思います。そして,現在,その改正附則の内容を見直すべきような大きな環境の変化はないと思います。現在の状況の下で義務付けをするのは,この検討条項の趣旨に照らしても疑問ではないかと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   予定の時間も10分程度過ぎてしまっているのですけれども,ほかにいかがでしょうか。よろしゅうございますでしょうか。   それでは,大変長時間にわたり,また熱心な御議論を頂きまして,ありがとうございました。今後,ちょっとどういうふうに部会を取りまとめに向かって進めていったらいいのかどうか,なかなか難しい点もありますけれども,本日はこの程度とさせていただきたいと思います。   次回の日程等について,事務当局から御説明をお願いします。 ○竹林幹事 次回会議ですが,平成30年6月20日水曜日午後1時30分から午後5時30分まで,当省20階の第1会議室におきまして開催する予定でございます。   次回でございますけれども,その他の見直しについての個別論点の検討について御審議いただきたいと考えておりますので,どうぞよろしくお願いいたします。 ○神田部会長 ありがとうございました。   それでは,本日はこれにて散会いたします。どうもありがとうございました。 ―了―