法制審議会 民事執行法部会 第17回会議 議事録 第1 日 時  平成30年3月30日(金)自 午後1時30分                      至 午後5時28分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民事執行法制の見直しについて 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○山本(和)部会長 それでは,予定した時刻になりましたので,法制審議会民事執行法部会第17回会議を開会いたします。   本日も御多忙の中,御出席を頂きまして誠にありがとうございます。   出席状況ですが,本日は全ての委員,幹事が御出席と承っております。   それでは,本日の審議に入ります前に,配布資料の確認を事務当局からお願いします。 ○内野幹事 事前送付資料といたしまして,部会資料17-1と17-2をお送りさせていただいているところでございます。席上配布資料といたしましては,議事次第や資料目録などもお配りさせていただいているところでございます。 ○山本(和)部会長 それでは早速,本日の審議に入りたいと思います。   本日は,部会資料のナンバリングとは逆になりますけれども,まず部会資料17-2「子の引渡しの強制執行に関する規律の明確化に関する要綱案の取りまとめに向けた検討(1)」と題する資料について御議論を頂きたいと思います。議論に先立ちまして,事務当局から説明をお願いいたします。 ○内野幹事 それでは,部会資料17-2の太字の本文部分を中心に,全体のところを御説明申し上げます。   まず,第1でございます。「直接的な強制執行に関する規律の明確化」の基本となる骨組みをどう理解するのかという点については,前回の部会資料15に基づく検討において,検討の仕方のしやすさという点をひとまず考慮し,執行機関を執行裁判所とするという部会での議論の大きな方向を前提に,この執行機関の部分をまず冒頭に持ってきて検討してみるという流れで本日に至っております。   もっとも,単に執行機関を執行裁判所とすることとしただけでは,今後の取りまとめに向けた議論を更に進めていく上では若干検討しにくいところがあると思われるため,現段階では必ずしも今回の規律の法的性質を代替執行と定めているわけではなく,他の議論も決して排除していないという状況ではございますが,現行のハーグ条約実施法の規定を参考にしながら,規律をできる限り明らかにしようということで,第1の記載をしております。したがいまして,これまでの議論を引き継ぐものとすれば,これもやはり,差し当たりというような規律の提示の仕方になってございます。   差し当たりと申し上げたのは,例えば,第1のうち,債務者審尋という手続をどのように考えるのか,また,管轄をどのように考えるのかという点は,専ら第2以下の具体的な規律をどのようにするのかというところから実質的に判断される面があるため,そのような前提で本日のところは具体的な議論をしていただければと思っております。   そういったところからしますと,第1の4の,いわゆる費用前払決定の部分につきましては,こういったものが実質的に必要なのかどうかという点につき,固有の議論があり得るかと思っております。   続きまして,第2でございます。こちらは,本日の議題の中では大きな議題の一つである間接強制前置に関するものでございます。部会のこれまでの議論などを踏まえますと,部会資料15において甲案としていた規律を基礎として考えていくのが一つの議論の進め方であろうということで,これを若干修正した形で規律を提示しております。一つ目の修正点は,本文の(2)の部分について,従前の資料では「見込みがないとき」としていたのですが,部会の議論を踏まえ,「見込みがあるとはいえないとき」という要件立てにしております。若干繰り返しになりますけれども,債務者審尋の要否や執行抗告の可否といった点について実質的にどのような規律を設けるかというところは,先ほどの第1の部分の規律の在り方に影響してくるところがあろうかなと感じております。   続きまして,第3でございます。これも本日の大きなテーマの一つである,いわゆる子と債務者の同時存在の論点でございます。第15回会議での議論を踏まえますと,この論点は,債権者等の執行場所への出頭の問題とかなり関連するのではないかという御指摘もございましたので,今回はこれらを併せて規律として提示して御審議を賜ろうと考えております。   部会資料では,いきなり乙案が出てまいりますが,これは前回の議論の延長という点からこうしておりまして,前回までの部会の議論としては,必ずしも甲案を大きく支持するような意見がなかったものですから,甲案を記載せずに乙案から記載しております。   また,前回の部会の議論では,子と債務者の同時存在よりも,むしろ債権者本人の出頭などによって直接的な強制執行が子の心身に与える影響を最小化することが可能なのではないかといった議論があったため,今回は,丙案として,子と債務者の同時存在というものを必ずしも前提としない規律も御検討いただきたいということで,提示させていただいております。   不服申立てに関する規律の在り方につきましても,それぞれ分けて部会資料の中で検討を試みておりますので,この点についても御意見を頂けたらと考えております。執行場所に関する規律につきましては,部会資料15からの変更は特にございません。   続いて,15ページ以下の第4の部分では,「執行場所における執行官の権限等」について記載しております。部会資料の冒頭に少し書いておりますが,執行場所が債務者以外の第三者の占有している場所である場面における当該第三者の同意の問題や,その前提としての執行力の問題については,今回の部会資料における議論の対象から外しておりますので,本日は,これらの問題を除いた部分について御検討頂きたいと考えております。   なお,15ページの「3」の部分で「前記1又は2」という記載が突然出てまいりますが,この「2」の部分が前回の部会資料でいうところの執行場所が第三者の占有する場所である場面に関するものであり,今回の部会資料では,特段の説明を付しておりませんでしたが,この「2」の部分を割愛して記載しております。ただ,第4の3の規律は,今申し上げたような執行場所が第三者の占有する場所である場面にも共通するものでありますので,議論としては,上記の場面にも共通する課題がこの「3」の部分に含まれているという理解を前提にしていただければと存じます。   そのほか,第4の1,3,5につきましては,部会資料15からの具体的な変更点はございません。   全体としては以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。それでは,ただいま御説明がありました部会資料17-2について御議論を頂きたいと思いますが,便宜,項目を区切って御議論を頂ければと思います。   まず,「第1 直接的な強制執行に関する規律の明確化」,資料1ページから3ページ辺りでありますけれども,まずこの点について御審議を頂きたいと思います。どなたからでも結構ですので,御自由に御発言を下さい。 ○阿多委員 区切られたものですから,第2,第3が多分メーンになると思いますが,ここでは,事務当局も御説明がありましたように,第2,第3との組合せによって大分議論が変わってきて,説明のところでも差し当たりというふうな形でそこは触れられて,ですから費用のことだけまず少し発言させていただきますが,確かに動産や不動産の引渡執行では同様の規定がないものの,実務的には,特に動産の引渡執行などでは執行官費用の予納をした上で執行していますので,こだわるわけではないんですが,費用についてここに規定を置くのは反対だということではなくて,別に置いても実務的にはそれほど差し支えがないと思いますので,代替執行等との関係で規定をそろえるのであれば,同じように費用に関する規定も決定の対象に入れていただいたらと思いますので,その点,発言しておきたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。特に,4の部分が必要かどうかという,少し事務当局としても感触を伺いたいところではあろうかと思いますが。裁判所は特に御意見のようなものはないですか。別に強制する趣旨ではありませんので,特段なければ結構ですが。ほかにいかがでしょうか。特段よろしいですか。   最初に御説明があったとおり,今,阿多委員からも御指摘があったとおり,後の方の規律内容によって債務者審尋や執行抗告に関する規律は変わってき得る部分がありますので,特段ないようでしたら,続きまして,3ページの「第2 直接的な強制執行と間接強制との関係」という部分に移りたいと思います。これは前回,甲案,乙案があったところ,それを一本化した上で(2)の部分の書きぶり等を若干修正したということになろうかと思いますが,ここの部分につきましても,どの点からでも結構ですので,御意見を頂ければと思います。 ○阿多委員 第2の直接的な強制執行と間接強制の関係という形で,これを形式的に拝見していますと,多分,第1の直接的な強制執行の要件として,債権者御本人が間接強制を申し立てる場合は余り考慮する必要がないと思うんですが,債権者の方が直接的な強制執行を申し立てたときの要件として入ってくると。そうすると,一番危惧しますのは,この(1),(2),(3)の要件の疎明ができないというような形で,裁判所の方が認めたけれども,債務者の方から執行抗告がされたと,そこで執行抗告をされて,それが斥けられてから,今度,代替執行についての決定に対してまた執行抗告がされるといった形で執行抗告が幾つも途中に入るというようなことが,制度の立て付けによっては起こり得るかと思うんです。   さらには,審尋にしても,それぞれのところで,審尋の対象が何なのかと,イメージとして代替執行の審尋というのは,私の知る限りにおいては書面審尋で非常に形式的な話になっているかと思いますけれども,第2のところでイメージするような,仮に審尋が,特に(2)の要件の判断で,頂きました資料の6ページのところを拝見しますと,5行目のところで,「債務名義の成立後において,債権者が債務者との間で任意による子の引渡しを求める交渉をし,債務者が債権者に対して子を引き渡す機会を有していたにもかかわらず,その引渡しを拒絶したような場合」というのが具体的な場面として挙げられています。そうすると,非常に極端な例かもしれませんが,審尋をして裁判所の方が任意に引き渡したらどうですかと言ったにもかかわらず,債務者が拒否すれば,そこは任意の場という形になりますので,そうすると,そういうふうに言ったこと自体で2の要件を満たすから,第2のところの論点はなくなってしまって第1に行くのかというのが,実は資料を拝見していて,よく分からないんです。   これは質問というか意見になるか,整理もできていないんですけれども,第2のところで並べられているものが,(1)については非常に手続的な形での間接強制についての2週間の要件が定められ,(2)のところはむしろ子の福祉との関係があって,(3)は急迫の危険となっているんですが,考えますのは(1)については,まず一つ目として,確定という要件を要求されると,それで執行抗告で時間が延びるということがありますので,確定はせずに,決定をした段階というような形で,そういう要件に変えられないのかと。(2)については,先ほど言いましたように,これは要件として定めたときに,先ほど言いましたような審尋との関係をどう整理するのかという形で,むしろ審尋の際にそういう話を聴けば,それで要件を満たすということになるのであれば,独自の要件なのかどうか少しあれなんですが,(2)については逆に,むしろ(3)を緩めるような形で要件定立ができないのか。さらに,(3)については,急迫の危険がある状況において債務者審尋をすることの要否ということがむしろ問題になるべきであって,(3)は,逆に審尋は不要というような例外的な場面に整理すべきではないかと。   いろいろ申しましたけれども,それぞれ要件としては非常にきれいに整理していただいているんですが,違うものが三つ並んでいるという印象を持っていますので,取りあえずそういう形で異議を述べたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。ほかにはいかがでしょうか。 ○松下委員 今の阿多委員の最後の点と関係するところなんですけれども,資料の7ページ以降で債務者の審尋の要否という記載があり,判断の適切性を確保するために意見陳述の機会を与えた方がいいのではないか,あるいは代替執行と整理するなら,それとの並びで審尋が必要ではないかという趣旨だと思います。ただ,先ほどの阿多委員の話と近い状況なのかどうなのかよく分かりませんが,審尋することで子供の所在を変えられてしまうというようなことも考えられるのではないか,特に従前の経緯からして子供の所在を頻繁に変えてきたような場合には,これから執行しますよということを伝えて,かえって執行が難しくなることもあるのではないかということが懸念されます。これで連想するのは,仮地位仮処分を出すときには,原則として債務者の審尋を必要としながら,例外的にできなくなるという,民事保全法第23条第4項のような規律で,あのような規律を設けることも考えられるのではないかと思います。(3)の場合に一律審尋が要らないとまでいうかどうかは分かりませんけれども,少なくとも,審尋をしなくていい場合を残しておいた方がいいような気がしました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。 ○垣内幹事 ただいまの審尋の要否のところに関してですけれども,私も今,松下委員から御指摘があったような,同様の印象を持っておりまして,今御指摘のあった仮処分の場合の取扱いとの均衡ということもありますけれども,仮処分の場合で考えますと,これはこれから仮処分命令をするというところで,そのための手続保障として債務者の審尋というのは非常に大きな意味を持っているにもかかわらず例外の余地が認められているということになっているかと思いますが,この間接強制を前置するのか,それともいきなり直接的な強制執行で行くのかという場面において,債務者に必要的に審尋をして守られるべき利益というものがどこにあるのかということを考えたときに,どうも私自身の理解では,ここで直接的な強制執行によるのか間接強制によるのかというのは,少なくとも主として子の利益が前面に出ていて,それについて何か債務者の方で非常に重厚な手続保障を与えなければいけないという要請があるのかというと,そこは仮処分の場合とも少し違うのではないかという感じもしておりますので,一律例外なく審尋が必要だという規律まですべきかどうかというと,そこはやや議論の余地があるのではないかという感じを持っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。 ○内野幹事 例えばなんですが,そういった場面で審尋を要求しない場面ということを仮に想定するといたしますと,そのための要件について,もしお考えがございましたら,御発言頂きたいと思うんですが,いかがでしょうか。 ○垣内幹事 たまたま直前に発言しましたのでお答えしますと,松下委員の御発言にもありましたけれども,その点については仮処分の規定というのは参照に値する部分があるのかなと思いますし,また,3ページの第2の(3)の要件,これは阿多委員の方から御発言があった点ですが,子の急迫の危険というのが非常に明白であるというような場合についても同様に考える余地はあるのではないかということを差し当たりは考えております。 ○阿多委員 私の後の方々から審尋の要否,その部分についての御意見で,無審尋の場合も認めるべきだという御意見が出たので,むしろ日弁連意見をここでもう一度申し上げておく必要があるかと思うんですが,日弁連としては従前から,そもそも直接的な強制執行であっても無審尋で実施していただきたいというのが元々の案でございまして,日和ったのは,単に代替執行という条文があるものですから,代替執行の手続で,特に代替執行の場合,どういう執行方法によるのかというところについてのもろもろの選択肢があることから審尋が入っているんだろうと,そうであるならば,子の引渡しに関しては,代替執行説に立ったとしても,それほど後の,執行官にどういう方法をするのかというのはまた別のお話で,間接強制を選択するのか代替執行かという部分での審尋というのは,それほど,意味がないというとあれですが,重要性は低いのではないかと思いますので,原則,無審尋というようなことをここでも一応,記録として残しておいていただきたいと思います。ただ,一方で,先ほど申し上げましたけれども,任意の引渡しという機会を設けるという場面にはなり得るのではないかとも思っていますので,その点も併せて申しておきたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。今の点でも,ほかの点でも結構ですが,いかがでしょうか。 ○山本(克)委員 債務者審尋が絶対に必要か,例外的に必要かは別として,審尋で債務者に何を聴くのでしょうか,それがもう一つ,私はよく分からないです。 ○山本(和)部会長 第2の部分においてということですね。 ○山本(克)委員 第2も第1でも,どちらでも,何を聴くのかというのが分からない。 ○山本(和)部会長 第2については一応,7ページのイのところで,事務当局としてはそれぞれの要件についてこういったような事情というようなことを考えているようだと思いますが。 ○山本(克)委員 従前のやり取りというのは意味があることなのかというのがよく分からないです。債務者の資力は何が関係するんでしょうか。 ○内野幹事 間接強制というものの意味合いという点において,これまでは,お金がない人にそういうことをやっても意味がないというような部会の議論ががございましたので,どういった執行方法を選択すべきかという判断においては,債務者の資力についても一定程度の資料を得る可能性があるのではないかということで,このような御提案をさせていただいたということでございます。 ○山本(克)委員 その部分ぐらいしか多分,意味がないのではないですか。やり取りを聴いて,何が意味があるんでしょうか。そういうやり取りでうまくいっていないから強制執行に来るのに,やり取りを聞くというのは,結局実体的な審理のやり直しをする機会を与えるだけの話ではないのかという感じがします。確かに資力の点は審尋の意味がないわけではないのでしょうけれども,債権者と債務者は全くの無関係の者同士というわけでもないので,債権者側においてもある程度疎明が可能といえる以上,私はこれはもう執行抗告に委ねるべきであって,債務者の審尋をしなければいけないということが私には少し理解しづらいです。できるだけ,確かに任意に渡すのが理想形だから間接強制を入れるんだけれども,ほかの場合の間接強制とは少し,やはりそういう意味で意味合いが違うのではないでしょうか。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。ほかに,いかがでしょうか。 ○青木幹事 私も,債務者の審尋が必要かどうかという点については,その点について債務者に適切な主張ができるような場面ではないように思っているので,その必要がないというよりも,余り意味がないと思っております。   前提のところに戻ってしまいますが,(2)と(3)の要件を立てることについては,前回,実務的あるいは理論的な観点から,今,山本克己委員もおっしゃいましたけれども,本案の審理のやり直しになってしまうのではないかとか,本案に関する事件記録の参照を要するのではないかとかという点について疑問が示されていたかとも思いますが,(2)についてはやはり資力の問題になると思いまして,その点については特に,代替執行に準ずるものということで,その管轄について,資料の8ページのところにも出てきますが,債務名義の成立過程を最もよく知り得る裁判所が管轄を持つことになり,だとすれば,本案に関する事件記録を参照するということも当然あるのではないかと思いますので,そういった方法で判断をすることができると考えております。それからまた,債務者の履行に向けた態度についても,そういった方法での判断は可能ではないかと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。 ○谷幹事 審尋の要否につきましては,正に裁判所が何を判断するかという,そういう意味で第2と第3の定め方をどうするかということと関わってくるんだろうと思いますけれども,第2の,これをこの要件で行くのかどうかという,もちろん議論は別途あるとしても,間接強制をまず先行させるべきかどうかというような判断というのは,やはり債務者側の対応如何によって変わってき得る事項ですので,この辺りの判断をする材料を裁判所が取得するという意味では,やはり審尋というのは意味があるのではないかと考えております。ほかの,いわゆる代替執行の規定との整合性との関係もありますので,一律に審尋なしというようなことでは整合性の点からも問題があるのかなと,その上で例外を設けるのかどうかという議論は,これは十分あり得ることだとは考えております。   それと,第2の要件のところについても意見を申し上げてよろしいでしょうか。私どもは間接強制前置というようなことが,原則でない形であったとしても,入るということになれば,強制執行による債務名義の実現が非常に遅れるというような弊害があるということで,反対はしてきたところでございます。それとの関連で,仮に第2の(1)の規定を考えた場合に,確定した日から2週間,これはハーグ条約実施法と平仄を合わせるというような形にはなっているんだと思うんですけれども,その必要があるのかどうか。間接強制決定に対しては執行抗告ができますけれども,私の理解では執行抗告には執行停止の効力がないと認識しておりまして,別途執行停止の決定をとらなければ執行停止の効力がないわけで,間接強制決定が,そういう意味では,既に法的には効力が生じているという状況であるにもかかわらず,確定した日から2週間を経過したときというような要件を定めることが妥当なのかどうなのかというと,実質的なハーグ条約実施法の状況を踏まえても,その合理的な根拠はないだろうとは考えております。つまり,間接強制で,後でひっくり返ればもちろん別ですけれども,そもそも執行できないということになれば別ですけれども,そういうことは極めて例外的でありまして,間接強制の効力が生じているにもかかわらず履行しないというような場合に,様々な理由で執行抗告をして,確定をするまで待って,更にその後2週間を待たないといけないということの合理的な理由というのはないだろうと考えております。   もう一点ですが,(2)の「監護を解く見込みがあるとはいえないとき」のイメージについて,どういう場合を想定しているのかというような辺りが,実際の運用では一つ重要になってくるのかなと思うんですが,今の間接強制決定があったにもかかわらず,これに従わずに,さらには執行抗告をするというような債務者の対応が仮にあったとしたら,それはやはり監護を解く見込みがあるとはいえないという要件に該当するというふうな判断も十分あり得るんだろうとは思うんです。だから,(2)の「見込みがあるとはいえないとき」というのをどんなふうに考えるのか,もう少し明確なイメージを持って議論した方がいいのかなとは思っているところでございます。   それから,(3)の急迫の危険を防止するための部分ですけれども,これも具体的に何をもって急迫の危険というのか極めて曖昧で,こちらの方がむしろ曖昧で,これでどれほどこれが使われるのかというのは非常に見通しを持ちにくい要件だと考えております。具体例としては6ページのウのところにあるんですけれども,第2段落であるような,生命又は身体の安全等に反するような態様を行う不適切な監護がされているような事案,これは当たり得るかなとは思うんですが,子との面会交流中に子を他方の親に返還せずにそのまま留置したといった場合や違法な態様により子を連れ去るなどした場合,これももちろん当たり得る場合もあるんでしょうけれども,子供の生命身体に特段の問題なく,子供にとって何か虐待があるとかいえないような場合にまで含めて急迫の危険というのが,言葉の語感にもそぐわないように思いますし,そういうふうなことでいうと,子の急迫の危険ということの要件というのは要件の定め方としては極めて曖昧かなと思っております。 ○内野幹事 そうなりますと,例えばどういうものが妥当だということでしょうか。 ○谷幹事 私の立場はむしろ間接強制前置は不要だということなので,こういう要件はなしでもよいのではないかと考えています。 ○内野幹事 部会資料の第2の部分は,間接強制前置を要求しているものではない規律になっております。部会のこれまでの議論を踏まえますと,直接的な強制執行を申し立てるには一定程度の必要性というのが要求されるだろうというところがおおむね共通するところだったものですから,直接的な強制執行をすることの必要性というものの一つの認識根拠として何を持ってくるかというところで,正に間接強制をやったけれども無駄であったというのが(1)の要件ということになります。他の議論を排除する趣旨ではございませんが,他の事情から直接的な強制執行を認めるべきであろうという御指摘が具体的にあったのが,例えば,(3)の子の生命や身体等に急迫の危険があるという場面であり,さらに,間接強制をやってももう意味がないといった場面を受け止めるものとして議論されてきたのが(2)の要件ということですので,これらの規律が間接強制の手続を前置することを積極的に要件化しているものではないというのが事務当局としての考えでございます。 ○山本(和)部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○石井幹事 今の例外要件の(3)に関するところで,一つ理解を確認させていただきたいのですが,従前の議論で(3)の要件の部分について説明として念頭に置かれていたのが,子の生命なり身体の安全に反するような不適切な監護が行われているような事案ということを中心に説明が行われてきて,そうしますと,現在の実務で保全処分が認められている場面とこの要件で念頭に置かれている場面が少し違うのではないかというようなことを私の方で懸念として申し上げてきたところであるのですが,今回整理していただいたところですと,今申し上げたような場面のほかに,子供を違法な態様で連れ去るなどした場合といったものも含めて理解がされていて,そうしますと,規律の文言とも相まって,審判前の保全処分により債務名義が発令されたような場合というのは基本的にはこの要件に合致するというような理解になるのかなと拝見しておったのですけれども,その点は事務局としてもそのような理解でお作りになっているという認識でよろしいでしょうか。 ○内野幹事 そうですね,それ自体がここでの実質の議論かとは思いますけれども,正に個別の事案の当てはめになってしまうかと思いますが,そういった事情を考慮して子に急迫の危険があるといえるのであれば,それはもちろん(3)の中に入ってき得るものとして提案はさせていただいているというところであります。 ○石井幹事 ありがとうございます。 ○山本(和)部会長 よろしいですか。ほかに,いかがでしょうか。 ○山本(克)委員 先ほど言ったことを別の言い方で言うだけなんですけれども,私は二,三回前の部会で,引渡しという言葉をやめたらどうかと,子を物であるかのように扱うのはやめた方がいいということを申し上げました。それは,物の直接強制の規定をそのまま適用してアナロジーを使うというのは望ましくないということを直接的には含意しておったわけですけれども,では代替執行になるなんていうことは私は全然考えていなかった。つまり,今までにない執行方法というのをきちんと考えてほしいという趣旨で申し上げたつもりでおりました。ですから,直接強制を使えないなら次は代替執行だと飛んでしまうということ自体が私にとっては少し不本意であるということでございまして,審尋についても本当に必要なのかどうかというのはやはり吟味すべきなのではないのかなということを,繰り返しで恐縮ですが,申し上げさせていただきます。 ○山本(和)部会長 恐らく事務当局の趣旨としても,代替執行としてこれを位置付けるかどうかということは現段階では必ずしも確定的ではなくて,個別の規律として,審尋とか執行抗告とか,あるいは費用の前払いが必要かどうかということを考えていくという点においては同じなのではないかと思います。 ○山本(克)委員 分かりました。それなら,審尋は必要な場合もなきにしもあらずだと思うんです。それは,ですから裁量で裁判所が審尋が必要と認める場合には審尋できる程度のことでよくて,必要的審尋にする必要はないのではないかと思います。 ○阿多委員 便乗するようで申し訳ないですが,我々も元々子の引渡しという新しい執行を認めるべきだと,私は少なくともずっとそう発言してきましたので,ただ,今日も申しましたように,代替執行が手続として挙がっているので,それに日和って審尋について申し上げましたけれども,基本的には,先ほども申しましたが,審尋は原則なしというような形で実施していただいて,ただ,谷幹事も申しましたように,場面としては,債務名義成立後の状況等の情報等で意味がある場合もあるかもしれないので,必要に応じて実施すると,債権者の申立ての内容等を踏まえて御検討頂けたらと思いますので,山本克己委員の意見に賛成したいと思っています。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。 ○村上委員 また前に戻ってしまうような話になるんですが,以前から申し上げていますように,今回の手続を考える上では,子の福祉というものを最大限尊重していくべきだろうと思っております。理想論かもしれませんが,可能な限り,債務者に自発的に子の監護を解かせることが望ましいと思っております。そういう観点からすると,債務者審尋という手続をかませておくことが必要ではないかと思っております。その上で,第2の直接的な強制執行と間接強制との関係については,やはり該当するときでなければ直接強制の申立てをしてはならないとしておくことも必要ではないかと思っております。   (3)の部分については,先ほど,石井幹事とのやり取りの中で,大分イメージは皆さん方の共通の理解ができたのではないかと思っておりまして,石井幹事が指摘された場合について強制執行することができないというのは,問題があると思っております。子に急迫の危険があるような事例のときには強制執行していくことも必要だということは私どもも理解をしますので,どういう表現をしていけばそれが分かるのかということはありますけれども,基本的な方向性については今のやり取りのような感じで考えていただければと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。 ○佐成委員 産業界からというわけではなくて,今までの委員,幹事の皆様方の意見や議論を聴いておりまして,審尋に関する部分を中心に感じたところを少し申し上げたいと思います。審尋に関しては,先ほど松下委員が弊害について御指摘されていたところがあったかと思いますが,やはりその辺りは相当気になるところであります。ですから,必要的にするのは少しどうかという感じはいたします。その意味では,山本委員からもお話がありました本案の蒸し返しだとか,そういった問題もやはり出てくるので,裁量的な方がよろしいのではないかと感じています。   特に,(2)の要件との関係で資力の面を確認したいという要請が万が一あるとすれば,その道を残しておくという必要もあるのではないかと感じます。全体的に見て今回の整理は,間接強制前置というものがハーグ条約実施法という実定法として既に存在する中で,ぎりぎり国内のみでの執行ということを考えて,かなりバランスがよくできているように感じておりますので,審尋の件については,代替執行並びとしてしまうとどうしても審尋が必要になってしまうので,裁量的な形で新しい規律として整理していただくのが方向としては望ましいのでないかという感想を持ちました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。 ○石井幹事 例外要件の(2)の方につきまして,先ほど谷幹事から具体的なイメージを持つことが重要ではないかと御指摘がありましたけれども,私も実際,要件を運用していく中では,(2)の要件が問題になることが多いのかなと理解しています。その上で申し上げると,今回整理をしていただいたような形でありますと比較的運用しやすくなっているのかなと理解をしておりますが,(2)が該当する場面の例として,御説明の中で,債務名義の成立後に任意の引渡しを求める交渉などをして,にもかかわらずそれを拒絶したような場合というのが具体的に挙げられているところであって,これに該当するかどうかというのについては,かなり具体的なイメージを持って考えられるのかなと思っています。   具体的にこれがどういう場面かというところですが,私としては,債務名義成立後に何らかの連絡を試みたにもかかわらず債務者の方が一切反応しないとか,あるいは明確に拒絶をすると,そういった場面を念頭に置いているのかなと思って読んでおりまして,必ずしも間接強制の手続をとったとか,とらなかったかにはかかわらず,任意で試みたけれども全く効果が得られなかったといった場合を念頭に置いているのかなと思って理解していまして,そうしますと,実際の審理では,例えば連絡を試みた電子メールですとか,場合によっては内容証明郵便とか,そういったものを資料としてお出しいただいて確認をして,確認ができれば発令をしていくといったようなイメージなのかなと思っていたところでありました。少し議論の具体化のために私のイメージを申し上げたのですけれども,大体そういうことだ,あるいは少し違うのではないかといったようなことがあれば,少し深めていただけると参考になるのかなと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。事務当局から何かコメントはございますか。 ○内野幹事 最終的には個別の事案における当てはめの問題になってしまうのだと思うのですが,そのような事案についても対応が可能となるように(2)の要件の整理を試みたところであります。ですので,この辺りは,石井幹事からおっしゃっていただいたように,更にこういった事案もあり得るのではないかというような具体例の御示唆があれば,ここで承りたいと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○勅使川原幹事 3ページの第2のところで,直接的な強制執行の必要性というものがここで三つの要件で認められるということになると,この後の検討対象の9ページの第3の直接的な強制執行の手続に移って,今度は同時存在の要否の問題に関わっていくと思うんですが,その意味でひも付けられているように感じるんですけれども,ただ,(1),(2),(3)の要件の場合というのは,実は任意に引き渡すとか執行に協力的に子供を渡すとかということには抵抗があるケースが想定をされていて,あるいは同時にいることの方がまず問題だというケースが想定されていて,結局のところ第2で必要性が認められると,同時存在はむしろ要らないのではないかということにそのままなりそうな感じもしていて,だから,乙案を仮に後の検討で採ったとしても,ほとんどの場合が1の(1)のイの方にそのままストレートに行きかねないような感じがしていて,そう考えますと,谷幹事御指摘のとおり,この段階で一回きちんと審尋しておいた方がいいのかなというふうなファクターとしても働くような気はするんですが,ただ,松下委員御指摘のような弊害の問題,あるいは実際にこの審尋で何を聴くのかというところとかも,確かにそのとおりだなという感じがしまして,そうしますと,資力の問題でありますとか急迫の危険とか,6ページで書いてあるような事実上の監護で悪影響を及ぼす監護状態が推認されるというところで,どうしてそれが推認されるかと,疎明で十分かというシーンがあったりするような気もしますので,結論的には,佐成委員がおっしゃったように,裁量的に裁判所が必要だと感じたときには審尋ができるというような規定ぶりの方がよろしいのではなかろうかと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○道垣内委員 議論があっちに行ったりこっちに来たりして恐縮なんですが,先ほどの石井幹事と内野幹事との間のお話で少し気になることがあったので,1点伺いたいと思います。任意に引渡しを求めても,メール等で拒絶をして引き渡さないというときに,それだけで仮に(2)の要件が満たされるということになると,間接強制との関係でおかしいのではないか,という気がします。つまり,債務者が任意に履行しないことは当たり前であり,だからこそ強制執行になっているわけですね。そして,そのとき,一定金額を支払わせるということにすると,履行を強制できる可能性があるというのが間接強制のシステムだと思うのです。しかるに,先ほどの御発言のように,任意に引き渡さなかったらば間接強制が意味がないということになるというのであれば,間接強制には最初から意味がないではないかという気がします。したがって,私は例として余り適切ではないと思います。そのメールや交渉の中で,拒絶の意思が余りに明確であって,間接強制をしても実効性がなかろうということがその中から明らかになるということならば,それは理解できます。その意味では,6ページのところで,子を任意に引き渡す機会を有していたにもかかわらず拒絶したような場合,というのは少し緩やかにすぎるのではないかという気がいたします。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○阿多委員 実は道垣内委員の御発言と逆の意味で同じことを考えていまして,どうしても見出しの方が,直接的な強制執行と間接強制との関係という形で,やはり間接強制前置をイメージして,(1)の要件がまず残って,私も谷幹事も,そもそも確定というのがというふうに言っているんですが,お話を聴いていると,これはもう間接強制前置という概念を放棄した上で,(2),(3)の,むしろ執行方法の相当性についての議論をしているのではないかというふうに整理できるのではないかと。むしろ(1)の要件があるがゆえに間接強制との関係というようなところが問題になっているのであって,間接強制前置自体に,そこまで行くべきだと思っているんですが,もう外すのであれば,むしろ(1)は事情の,たまたま間接強制を選んだ方がいて履行されないというような形で,それを事情とされるのは一つの要件になると思うんですが,純粋に,用語の整理は別にして,(2),(3)だけで(1)というのを要件として提示する必要があるのかという点は,もう撤廃すべきだとここでは述べておきたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。考え方の問題だと思いますけれども,おっしゃるように,(1)というのは(2)を例証する側面があり,その立証が非常に容易になるということは間違いのないところなので,(1)をなくすかどうかについては,そのような観点からも検討が必要な問題かもしれません。   いかがでしょうか,おおむねよろしいでしょうか。伺った限りにおいては,(1)から(3)という今回の整理については,個々の要件というか文言については,なお修正した方がいいのではないかという御意見があり,あるいは,その文言によってイメージしている具体的な当てはめというか事態がどのようなものかということについて,若干のイメージの違いというのはあるのかもしれませんけれども,基本的にはこのような方向で要件化して考えていくということについては大きな御異論はなかったように承りました。   それを踏まえて,特に審尋の点,第1のところに戻るということになるかもしれませんが,審尋の要否については,一方では審尋を要求しないというか裁量的なものにとどめるという見解と,他方では一応,審尋を義務化して,しかし一定の穴をあけるといいますか,一定の場合には例外的に審尋を要しないという,大きくは二つの考えがあり,どちらが多数かというのは数えていなかったので,分かりませんけれども,両様のお考えが示されたようには伺いました。もしそういうことでよろしければ,今のような認識に基づいて次回までに,事務当局に更に部会資料の整備をお願いしたいと思います。 ○今井委員 審尋につきましては佐成委員,山本克己委員と同様で,任意でいいのではないかという意見ですが,内野幹事からお話があったことの確認なんですけれども,本文の(1),(2),(3)とありますけれども,これらは,言簡単に言うと,それぞれ独立の要件だという考え方でいいんですよね。ですから,簡単に言うと,(2)の要件で申し立てるという場合には(1)の要件がマストというわけではないということでいいんですよね。 ○内野幹事 これまでの部会の御議論を反映する趣旨からしますと,それぞれ別個の要件であり,今のような形で御理解いただければと思っております。 ○今井委員 選択肢として三つあるということでいいわけですね。 ○内野幹事 おっしゃるとおりです。 ○今井委員 分かりました。よろしくお願いします。 ○山本(和)部会長 それでは,引き続きまして,9ページの「第3 直接的な強制執行の手続の骨格」という部分で,子が債務者と共にいること,いわゆる同時存在の要否について,前回あった甲案が乙案に吸収されるといいますか,実質的にそれほど大きな違いはないだろうということで乙案の方に一本化される一方,前回の御議論の中で出てきた丙案,債権者が基本的には出てくれば子と債務者との同時存在というのは必要ないのではないか,そういうような御意見がかなり多くの委員,幹事から述べられたということを反映して,独立の案として今回,丙案というものが提示されているということでございますけれども,この点についても,どなたからでも結構ですので,御意見を頂ければと思います。 ○阿多委員 第3については,丙案,主語が執行裁判所か執行官かというところはありますけれども,執行官が同道していればそれで足りるという案に賛成したいと思います。理由は,執行抗告等の機会を提供して,それで時間を要するというよりも,その点,問題だということと,やはり執行の現場での判断,これが子の福祉に適するかということについての判断は,抽象的に執行裁判所でイメージするよりも,執行官が同道して個別対応で判断することが可能だということで,そう考えています。   その関連で,後でまた整理されるのかもしれませんが,第4の1の(2)(3)では,執行官の権限との関係で,債権者を面会させ,又は面会させること,(3)のところでは,債権者を立ち入らせることというのが執行官の権限で別途議論がされているんですが,むしろ,直接的な強制執行の手続の骨格のところで債権者が一緒に出頭しているということを入れるのであれば,執行官の権限で,あえて再度また債権者に何かするという規定が要るのかということについては,規定の整理だけの問題なのかもしれないですけれども,要件等ではないかと思いますので,その点も指摘しておきたいと思います。 ○内野幹事 今の御指摘につきましては少し誤解があるかもしれませんが,この第3では,正に執行の条件として,執行場所に誰を必要的に出頭させるかという点を書いているものですので,第4の場面ではそれとは規律の場面が若干異なるように思うのですが,いかがでしょうか。 ○阿多委員 第3のところで,むしろ債権者を同道させるというか,それをすることによって子の高葛藤の場面を回避できるんだと,債権者が同道していることが意味があるんだという,言わばもう要件にしてしまうのであれば,執行官の権限で面会させ,又は面会させることということを権限の中身として入れるのがどういう意味があるのかなと。本来もう執行の方法として債権者を同道するんだということになるのであれば,なぜ今度,同道した上で,更に執行官の権限で,後ろの代理人は全く別にしまして,債権者を面会させることとかいうのが別途の権限で入ってくるのかなというのがよく分からないものですから,本来,要件として債権者が同道しているというのが入るのであれば,執行官が権限で面会させるという話になるのかなと疑問を思うものですから,どう整理されるんだろうと,そういう質問です。 ○谷幹事 関連して発言したいのですが,よろしいですか。今の点は多分,ハーグ条約実施法並びでこういう規律を提案されているんだろうと思うんですけれども,ハーグ条約実施法の場合は債権者は必ずしも自分に引き渡してくださいという権利を持っているわけではないわけですね。さらに言えば,面会交流の権利も定められているとは限らないわけでして,そういう場合に円滑に執行するために債権者との面会を執行官の権限で認めるというのは,これは意味があることだとは思うんですけれども,国内の引渡しで想定されているのは,債権者が自らに引き渡してくださいという地位があるわけでありまして,そのような場合に,確かに面会交流させるということの必要性というのがどこにあるかというのは,両者の違いからすると少し確かに疑問が生じる問題だろうとは思いますので,その辺りの整理をしていただいたらいいのかなとは思います。 ○山本(克)委員 私は同道と住居に立ち入ることと面会というのは三つ,別々のことだと思っていますというか,多分,私が同道すべきだと言ったと思うんですけれども,同道するというのは,例えば債務者の住居で執行がされる場合ですと,ドアの外まで来るというのが同道であって,立ち入ったり,あるいは顔を出してきたとしたら会うというのは,それは別の話で,それが執行の円滑のために住居に入ったり,子と面会することが子の福祉に沿った執行ができると判断した場合にそれができるというだけで,同道するというのは中に当然入っていいということを意味しているのではないということが前提で,こういう提案がされているんだと思うんですが,阿多委員は同道する以上は中に入って会うのは当然だとお考えなんでしょうか。 ○阿多委員 御指摘の玄関のところにという話は,今の実務では少なくとも,債権者も同道した上で近所の公園で待機するとかいうような形でしている今の実務があるものですから,それをイメージしていまして,今回,債権者を同道すればというお話が出たものですから,むしろ面会して子供がその場で,債務者がいなくても面会して子供を引き受けるんだと,そこまでのことをイメージされての御提案かと思ったものですから,後ろのところは要らないのではないかと,そういうふうに申し上げたわけです。 ○山本(克)委員 そもそも同道を要求したのは,子が全く見知らない執行官と二人きりになるという状況というのをできるだけ短くすることが子の福祉に沿うということで同道を求めるべきだと申し上げたので,中へ入っていってすぐ引き取れというところまで私は含意しているとは思っておりません。今までの実務がそうだったからと,それは別に条文側の根拠があるのではなくて,そうでなければならないということに意味があるわけだと思いますけれども。 ○山本(和)部会長 その点は恐らく事務当局もまだ十分に検討していない点だと思いますので,今の御議論に基づいて,仮に丙案を採る場合にはこの規律がどうなるかということは事務当局で次に検討していただきたいと思いますが,本日の中心としては,乙案か丙案かというところが大きなポイントなんだと思います。 ○垣内幹事 今の前の論点についてもう一言,発言させていただいてもよろしいでしょうか。丙案を採った場合に,面会させるのは当然なのでという御趣旨のお話だったかと思うんですけれども,丙案を採用したとしましても,行った先,執行の現場で債務者がいることはあり得るわけですね。この場合に,今問題となってきましたのは,債務者と債権者が両方いて,そこで高葛藤ということもあるわけですので,債務者がいないところであれば債権者が速やかに会うということは自然だろうとは思われますけれども,そこに債務者がいた場合に,どういう順序を踏んで債権者を現場に居合わせしめるかということについては,執行官の現場における判断に委ねるのが適当だということは十分考えるのではないかと思いますので,これは別の事柄という山本克己委員の御発言に賛成です。 ○山本(和)部会長 それでは,第3固有の問題に戻っていただいて,この点についての御意見,阿多委員は基本的には丙案に賛成だということを前提にしての御意見だったかと思いますけれども,是非ほかの委員,幹事の御意見も承りたいと思います。 ○谷幹事 同じく丙案賛成の意見の補足ということなんですが,その意見の中身としては,乙案ではどういうふうに実務上,動いていくのかというのが明確ではないということを申し上げたいと思います。乙案の1の(1)では,アかイかいずれかの事項を定めなければならないという規律の提案なんですけれども,具体的に裁判所が判断する場合に何を基準にアかイかを判断すればいいのかということが実は余り想定できないんですね。アであれば,子が債務者と共にいるときに限定するような場合というのはどんな場合に必要なのか,逆にイでは,債権者が執行場所に出頭したときでもすることができると,これを認める場合というのはどんな場合を想定されるのか,この点については説明を見ても,こういう場面でとか,あるいはこういう基準でこういう事情を基に判断をすればいいというようなことも提案をされているわけではございませんし,そこは明確にアかイかを判断する事情というのは恐らく考えられないんだろうと思うんです。つまり,必ず子が債務者と共にいなければならない場面というのは余りというか,ほとんど想定できないということだろう,その反映の結果なんだろうと思うんですけれども,そうだとすれば,こういう乙案の1の(1)のような定め方というようなことというのは,そもそも余り意味がない,実質的な規律の合理性というのが考えられないのではないかと思いました。 ○山本(和)部会長 ほかに,いかがでしょうか。 ○今井委員 私も丙案に賛成です。それだけです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。是非,そのような意見でも結構ですので,御発言いただければと思います。 ○松下委員 そのような意見ではないんですが,同時存在を要求することの問題点もいろいろ指摘されており,同時存在を原則とするというのは適切ではないということは分かったのですが,乙案でも1の(1)のアを定めれば同時存在は要求できるわけですよね。その余地はやはり何か残しておいた方がいいような気がしまして,問題点があれこれ指摘されているということは承知していますけれども,しかし,子の福祉にかなう場面があるということも言えると思いますので,それほど強い意見ではないのですけれども,一気に丙案に行ってしまうことにはややためらいが残ることから,乙案ではどうかと考えている次第です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。ためらいがあるという御意見かと思いますけれども,ほかにいかがでしょうか。 ○栁川委員 乙案も丙案も債権者が執行場所に出頭ということが書いてありますが,私もどちらかというと乙案でスモールステップを踏んだ方がよいかと思ってはいるのですが,この債権者が例えば父親であったりするとかなり以前から同居をしていないため,子供が父親の顔をよく覚えていないというようなこともあります。債権者だからそこに出向けば子供を受け取れるというのは現実的ではない場合もあるので,その辺りはかなり柔軟に考えていかなければならないと考えます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。ほかに,いかがでしょうか。 ○村上委員 ずっと丙案賛成の御意見が続いていたので,どうしようかと思っていたのですが,松下先生が一気に丙案に行くことのためらいということをおっしゃっていただいたので,勇気付けられて発言しやすくなりました。私も,この部会で何度も議論されているように,同時存在が不適切な場合や弊害がある場合もあるということは重々承知していますし,高葛藤という問題もあるんだろうとは思います。ただ,一気に同時存在が全てなくなってしまうということについては,どうなのかと疑問を持っているところです。子の立場に立ったときに,今生の別れではないというような場面もあるかもしれませんが,ケースによっては,もう関係性もかなり悪化していて,面会交流が現実的でないというような場合も考えられるところから,やはりそういった機会というのは何か残しておく必要があるのではないかと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○山本(克)委員 谷幹事がおっしゃったこととも通ずるんですが,それではどういう場合に同時存在が望ましいのかということが果たして事前に裁判所に予見可能かどうかということがやはり問題なのではないかと思います。つまり,高葛藤のことだけをおっしゃっていますが,それ以外に同時存在には私が問題があって,むしろすんなり渡されることのショックというのもあり得るんだと思うんですね。例えば,母親なら母親に今,監護されている状態にあって,子は母親に依存していると,ところが母親からははいと言ってすんなり渡されたと,見捨てられたという心の傷が残るということもあり得る。それは同時存在を採らなくても,現に母親がいてそういうふうに行動をとればそういう事態は起こるんですけれども,同時存在というのがすばらしいことで,それが子の福祉に必ずかなうんだという前提自体,私は極めて疑わしくて,それは誰にも予見はできない,後からは同時存在でよかったなとか,同時存在でまずかったなということが分かるかもしれないけれども,予見が不可能であると私は考えています。したがって,それを裁判所に乙案の1(1)のアかイかどちらを採るべきかということの決断を迫るということは,これは非常に人知を超えたことを要求しているかのように私には見えます。 ○山本(和)部会長 先ほど栁川委員が言われた,子と債権者が長期間会っていないような場合についてはどのように考えますか。 ○山本(克)委員 もちろんそれはあるんですが,それならそもそも監護を債権者に委ねるという裁判自体の問題ではないですか。そこで一応,クリアはしているわけですよね。それをなぜもう一度言わなければいけないのかと,結局それは本案の蒸し返しであると思います。ただ,私は,これは余り言わない方がいいのかもしれないですけれども,債務名義成立後,一定の時間がたったら,もう債務名義が失効するというような形でそれを実現するなら,私は理解できます。やはり子の事情がどんどん変わるものなので,そうすると逃げ回れば逃げ得だということになりかねないので余り強くは申しませんが,むしろ栁川委員のようなお考えであれば,債務名義が成立してから,例えば3年たったら,もう強制執行はできないとか,そういう規律の方がなじむのではないかなと思います。 ○栁川委員 私もそのように考えます。子供はどんどん成長していきますし,周りの環境も変わっていくので,いつまでも執行できるという仕組みは少し無理があるのではないかと考えます。 ○山本(和)部会長 あるいは変更をもう少し容易に認めるとか,そういうことですかね。ありがとうございました。ほかに,いかがでしょうか。 ○阿多委員 最初に申し上げた,事務当局の差し当たりという説明との関連だとは思うんですが,第1と第3について,第3で村上委員も松下委員も,いきなり丙案に行くことにちゅうちょがあり,やはり執行裁判所の判断が一旦入った方がいいのではないかということを考慮されているんだと思うんですが,第1のところの執行裁判所の判断で,審尋の要否ももちろんありますけれども,どこまでの判断を第1の段階の執行裁判所が判断するのか。単に直接的な強制執行の可否だけを判断して,どういう条件を付すとかそういうことは全く判断しないで,方法だけを決めて,その後は,第3の話になるのか,第1の段階で,変な言い方ですが,このケースでは同時存在の場面に限るんですよという執行の条件的なことも判断することがあり得るのか,制度の作り方に関連してくるんだと思っているんです。単に直接的な強制執行でいいんですよということを第1のところで決めて,あとはもう今度,第3のところの細かな判断を別途の手続でするというイメージではなくて,オールインワンではないですが,もう第1のところで判断するのであれば,そこで個別に,このケースでは同時存在の場面に限定するんですよということであるのであれば,もうそれ以上,執行裁判所に関与させる必要はないと思いますので,正に制度の作り方だと思うんですけれども,全く執行裁判所が判断することなく子供が債権者不存在のところで執行されるということにはならないのではないかと思いますので,丙案へ行くちゅうちょというのはそれほど考慮する必要はないのではないか,むしろ何度も執行抗告の機会が入るということ自体の方が問題ではないかと思いますので,その点付加しておきたいと思います。 ○山本(和)部会長 今の阿多委員の御発言は,乙案であるかのようにも思えましたが。 ○阿多委員 いえ,乙案ではない。 ○山本(和)部会長 要するに,同時存在を執行裁判所が要求する場合というのはあり得るという前提ですか。 ○阿多委員 そこが実は,先ほど申し上げましたように,差し当たりの意味がどこまで意味をされているのかというのがよく分からないのでという形なんですが,逆に私は,そうとられるとあれなんですが,第1の段階で決めるのは本当に強制執行の方法だけの話と,そう読めばいいんですか。 ○山本(和)部会長 乙案は,どの段階,つまり第1の直接的な強制執行を実施させる決定と同時に行うのか,それとは別に後で行うのかというのは制度の仕組み方の問題で,もちろん同時に行うということもあり得るんだろうと思うんですが,阿多委員は乙案を採って,それを同時に行えという趣旨かのように思えたのですが。 ○阿多委員 そのようにとられたのであればですが,私自身は,少なくとも第1のところで執行裁判所が一旦判断をしているので。 ○山本(和)部会長 一旦判断するというのは,同時存在についても判断するという御趣旨ですか。 ○阿多委員 この組立てが,実は同時存在も判断するという可能性もあり得るんだなとは思って発言はしたんですけれども,ただ,それは乙案を採るということではなくて,従前から発言していたような総合判断に少し近いことを申し上げているんですけれども,ここではもう第3の場面について執行裁判所が判断した以上,それ以上の執行裁判所の判断は要らないということで申し上げているつもりです。 ○山本(和)部会長 確認ですが,丙案というのは,債権者さえ出てくれば同時存在というのは一切要求しないという案だと思いますが,この点との関係はいかがでしょうか。 ○阿多委員 すみません,では,今の発言は撤回します。もう我々は丙案一本という形ですので。 ○山本(和)部会長 分かりました。ほかに,いかがでしょうか。 ○今井委員 先ほどは結論だけだったので,若干補足させていただきます。基本的には山本克己委員と同じでございまして,まず理論面からいきますと,債権者に債務者の監護を解いて渡せという,仮にそういう現行の引き渡しという話になれば,それは執行官が債務者,仮にお母さんだとして,お母さんからお父さんの手に渡すということになりますが,それが大分後になりますと,その場面では仮に執行官だけということになりますと,それは子供の心理的な不安から考えたら,どこに行ってしまうんだろうねというふうな気持ちは当然だと思いますし,それが,日頃会っていなかったとしても,お父さんのところへ行くんだということで,もう債務名義になっていますので,それは速やかに実現された方が,むしろ子供の不安はその分,短縮されるのかなと。今,山本克己委員からもありましたとおり,同時存在マストだと,それがそもそも,一見すると何か和やかな感じがしてよさそうですけれども,逆に,債務名義になった以上は,少なくとも,なった直後までは,債権者,債務者ではかなりシリアスな対立関係にあって,その結果,任意での引渡しができなくなっているということを考えますと,もう一回執行の場面で同時存在をマストとする合理的な理由はなく,また,逆にトラブルや弊害,かなりシリアスな場面が想定されると思うんですね。それから,これも先ほど御指摘のありましたとおり,もしも同時存在で,お母さんが,はい,どうぞと渡すことによる子供の精神的なショックみたいなものは,やはりあるのではないかと,推測ですけれども,そんなことを考えますと,やはり債権者がマストで,ただ,債務者についてはマストでなくて,いる場合もあるだろうし,いない場合もあるだろう,それを原則マストとしてしまうことの同時存在という理由は全くないのではないか,これが理由でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○道垣内委員 丙案を仮に採ったときに,やろうと思えば今の段階でできるけれど,執行官としては,これは債務者がいたときの方がスムーズであると考えたとしまして,執行官にその判断をいかす方法はあるのでしょうか。皆さんのいろいろな御心配というのは,様々な状況があり,もちろん債務者が同時に存在することによってかえって子供に精神的な負担を掛ける場合もあるだろうけれども,債務者がいることがプラスになる場合もあるだろう,ということですね。そこで,それをどのようにして実現するかというわけですが,執行裁判所があらかじめ決めるというのはなかなか難しいのではないかというのが山本克己委員がおっしゃったところで,それはそのとおりだろうと思います。それでは,執行官のその場における判断において,債務者がいた方がよいと判断したときに,執行官が採れる方法はこの仕組みの中であり得るのか,それとも,そのような方法を全体の中で位置付けるのは難しいのか。質問ですが。 ○成田幹事 ハーグ条約実施法施行前の実務として実際にあった例なのですが,執行官が子の引渡しの強制執行で現場に赴いたところ,債務者がいなかったのですが,どうもスムーズに行かないということで,債務者に電話連絡をして,帰って来てもらって,その上で執行したという実例がございます。その辺りとパラレルに考えるとすれば,丙案に立ったとしても,常に債務者がいない場合を狙っていくというわけではありませんで,事前の情報ですとか実際に現場へ行ったときの感触などを踏まえて,債務者がいた方が子の福祉の観点から都合がいいということであれば,恐らく連絡をとるなどして,債務者に来てもらって執行するということは十分あるのではないかと思っております。 ○山本(和)部会長 このように執行官に一定の裁量があるという前提については,丙案に賛成している方々の認識は一致しているという理解でよろしいでしょうか。 ○阿多委員 従来の実務どおり執行官には一定の裁量があるという理解をしています。 ○道垣内委員 仮に執行官の判断でそういう方法がとれるというのであれば,それは大変結構なことだと思いますが,そのような裁量権限があるということを条文上に示し得るかということが結構大きな問題だと思うのです。つまり,ハーグ条約実施法との関係で,そこにおける表面上のコンフリクトを避けるために,執行官が状況によってはそういう権限を有するということを表に出すのがいいのか,それとも,いや,それは今でもできているんだから別に当然であって,出さなくてもいいのだというのかというのは,重要な判断になるかなという気がいたします。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます,貴重な御指摘だと思います。ほかにいかがでしょうか。 ○青木幹事 以前申し上げたことの繰り返しにすぎないのですが,私はやはり執行官による説得によって債務者が任意に履行するというのが望ましいということ,それが理想であるということを前提に,手続のファーストステップとしては,乙案の1(1)のアによって執行が行われ,それではうまくいかない場合にはイによって行うというようなイメージで,乙案に賛成でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。 ○山本(克)委員 これは前回も申し上げましたけれども,私は複数回執行するというのは子に心の傷を残す蓋然性が高まるので,できれば1回でやると,1回でやり切るという形の制度設計の方が望ましいと考えています。債務者の納得の問題と子の福祉の問題は,私は別の問題だと考えます。 ○山田幹事 私も丙案に賛成したいと思います。先ほど勅使川原幹事が御指摘になったことですけれども,第2の各要件とのつながりを考えますと,債務者が執行官等による説得に応ずる蓋然性はかなり低まるのではないかという感じがいたします。スムーズに行けば同時存在というのが子の利益に最も資するということは,そうなんだろうと思いますけれども,その蓋然性が定型的に低いということであれば,むしろ丙案を採る方が子供の利益になるのではないかと考えます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。 ○石井幹事 私も前回申し上げたのと同じですけれども,乙案については,先ほど山本克己委員からも御指摘があったような観点で,裁判所の方で明確な指針なく判断するというのは難しいと考えておりますので,そういう意味では丙案の方が望ましいのではないかと思っております。   先ほどの御発言の中で,債務名義ができてしまっていつまでも執行ができてしまうのは問題ではないかというような御指摘があって,恐らく現行法では,長期間がたってしまってお子さんの監護の状況が変わってきたような場合には,改めて監護者の指定などの申出をして,改めて指定をし直すということが行われるのだと思うのですが,先ほどの問題意識のようなものにそれが直ちにこたえられるかといったところについては,もしかしたら検討が必要なのかもしれません。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○垣内幹事 この問題は大変悩ましいところで,私は他の先生方と違って,どちらがよいかという点について確たる意見を持ち得ないでいるんですけれども,考えるべき問題としましては,私自身は,乙案と丙案いずれを採ったとしても実際の適用がそう大きく変わるものではないのではないかと現段階では考えております。というのは,先ほど勅使川原幹事からの御発言でもありましたけれども,一旦直接的な強制執行が必要であるという要件が認定された上でここの問題が来るということになりますので,なかなか間接強制をしても効果がないだろうというような,あるいは急迫の危険があるので直ちにやるべきだというような状況において,どうしても債務者と共にいなければ強制執行をすべきでないと事前に執行裁判所が判断できる場合というのは極めて例外的ではないかと思われるところで,仮に乙案を採ったとしても,実際上,多くの事案は1(1)のイの判断がされることになるのではないかという理解を持っております。   そのように考えたときに,乙案を採るか丙案を採るのかという点で問題になるのは,これも既に御指摘されていることの繰り返しになりますけれども,同時存在,子が債務者と共にいるところで強制執行を行うということの価値をどう見るかということで,乙案は少なくともこの点について一度は明示的な判断の対象とした上で,その点を確認して,そうでない方法でやってもよいという判断ができたときに同時存在が外れるという思考のステップを強いるのであり,丙案は必ずしもそういう出発点に立たないというところまで更に進むという考え方かと思っております。では,同時存在についてどう捉えるべきなのかということで,ここが非常に難しいところで,私はなかなか判断が付かないところですけれども,少なくとも抽象的,理念的には,ハーグ条約実施法も恐らく一部ではそう考えているものと理解しておりますが,債務者が執行官の説得に応じて子を,強制執行という手続の中であるとはいえ,一定程度自発的な意思によって引き渡すということができるのであれば,その際,子に対しても必要な説明等を尽くしてするということが求められると思いますけれども,それが一つの理想であるという価値自体は私も理解ができるところであり,仮にそれを非常に重視すべきものだと考えるとすると,そういったステップを残しておく乙案というものが,少なくとも考え方の筋道としては適切であるという考え方があり得るんだろうと思います。   しかしながら,実際の適用上,なかなかそれがほとんどないのであって,かつ,そうした判断をこの決定において必ず含むということになりますと,これも御指摘がありますように,執行抗告においてこの点が争点として加わるというような実際上の弊害も懸念されないわけではありませんので,そういう点から見ると,やはり丙案というのは非常にすっきりとしていて魅力的であるというところがあります。ということで,私自身はなおこの点について,なかなか確たる意見を申し上げられないということでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。明確に問題点の整理を頂いたかと思いますけれども,ほかに,いかがですか。 ○平田委員 ただいまの御発言に少し関連しますが,同時存在をいわゆる原則としていくかどうかというのは多分に価値判断の問題ですので,立法の過程で,やはりどちらかの立場を原則として採るということは,宣明しなければいけないのではないかと思っております。同時存在の意義があるということを前提とすれば,やはり乙案とならざるを得ないと思うのですが,ここでの議論はそうではないという価値判断がやはり多数であったのではないかと思われます。ただ,ちゅうちょがあるという方が多くいらっしゃるのは間違いないことで,これまでハーグ条約実施法が広く国民の間に知られている中では,同時存在が大事であるというところがありましたので,それと国内の子の引渡しでは,適用場面が異なるというのも一つの違いですけれども,それとはどう違うのかというのは,やはり説明をしなければならないと思います。   乙案というのは個々の事案に応じて裁判官に具体的な事情を前提として判断させるという案ですので,立法としてそれが正しい態度なのかというところは少しお考えいただいた方がいいと思います。部会の中では,同時存在は原則ではないという立場を鮮明にした上で,丙案を採るべきではないかと考えています。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。いかがでしょうか。私の理解したところでは,ほぼ全ての委員,幹事から御意見を頂いたかと思いますが。 ○佐成委員 前回までは,やはり丙案という方向性については若干どうかなというところがありましたけれども,垣内幹事に今,明快に整理していただいたところを踏まえると,それから,裁判所の実務が本当に乙案でうまく回るのかという点も,今,平田委員がおっしゃったところですね,裁判所の方で個別に価値判断をしてくださいというのはかなり酷ではないかなという印象も受けますので,現段階で丙案を支持するとまではいいませんけれども,前回,乙案にある意味,固執した部分については,若干現時点では揺らいでいるということであります。 ○山本(和)部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○勅使川原幹事 これも,理論というよりは,その場の判断,それが非常に難しくて,どちらかというのもなかなか難しいなと思っているんですが,先回も山本克己委員に怒られましたけれども,どういう場合に同時存在がいいという場合があるのだと。本当のことを言えば,同時存在が全ての場面で向かないと言い切る自信がないというところで,先ほどの山本克己委員のお話の中で,するっと渡された方がショックではないかということの裏返しになるんですけれども,債務者としては,いろいろ偉い人から渡さなければいけないと言われて,そのうち渡さなければいけないんだけれども,できる限りあなたとずっと一緒にいたいから,いるというんだけれども,今度,怖いおじさんが来て無理やり連れていくんですよと,私が好きで渡すのではないんですよということを見せたいがために,この直接的な強制執行がされるところまで待っていると,その場面で審尋の機会とかがあれば,来てくだされば,その場で特段,争ったり修羅場を演じませんけれども,一目最後に,またねとか言わせてくださいという場面があったとしたら,机上の空論ですけれども,その場合に,場合によったら現場の判断で,債務者が一緒にいた方がいいよねということが可能なバッファが実務上あれば,それでもいいのかなという気がしまして,それで,先ほどのお話の中で,やはり丙案でもそういう機会がきちんと,現場の状況次第ですけれども,バッファがとれるのであれば,丙案でもよろしいのかなと。乙案の中で裁判所の判断が1(1)のアかイかを決めろと言われても,それは確かに難しいだろうなと,ある程度,必要性判断のところで,多くのものは子への影響がまずいだろうということでイに行きそうだという気はしますけれども,その上でも難しいことがあるということであれば,丙案の実務状況の中で,常に債務者がいてはいけないということを条文上,書いてあるわけではなくて,債務者がいる,いないにかかわらずということですので,債務者がいてもいい場面というものを適宜,裁量判断の中でやっていただけるというようなバッファ込みみたいな形であれば,丙案でもいいのかなという,迷い迷いですし,同時存在がいい場面というのが明確に提示できるわけでは全然ないんですけれども,一気に丙案に行くということのちゅうちょみたいなものがその中に少し表れているような感じがしています。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○久保野幹事 前回も丙案に賛成の方向の意見を申し上げましたけれども,念のため,丙案に賛成だという意見をさせていただきます。同時存在が望ましい場合がおよそないと言い切れるかというのが課題だったわけですけれども,それが,今回,執行官の判断であり得るということが確認されましたし,また,先ほど垣内幹事がおっしゃったことのうち,執行抗告の可能性が,これは論理必然ではないんだとは思いますけれども,同時存在が原則だということを保ちますと執行抗告の可能性がより大きくなる可能性が少しでもあって,円滑な実現に消極の方向に働き得るとしますと,そのことは,この段階に至っての手続で,先ほど来出ていますとおり,その人に監護させることが子の福祉に,あるいは子の利益に適切だと本案で判断された人への引渡しを実現するということの妨げになり得る可能性がやはり高まりますので,その点からも丙案がよろしいと考えます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○松下委員 先ほど,丙案を採るにはまだためらいが残るという話をしましたが,成田幹事から執行の現場での実情のお話を伺い,また,議論を徐々にですが,収斂させる必要があるだろうということで,丙案を採ることのためらいは少し減ったという気がします。ただ,少しまだためらいが残っているとすれば,固執する趣旨ではもちろんないのですが,裁判官にはなかなか認識し難い同時存在が望ましいという事情を,現場で執行官が適切に判断できるという前提が丙案の前提ではないかと思うんですが,そこが,大丈夫ですよ,うまくいきますということであれば,ためらいは大幅に減るだろうという気がしております。繰り返しますが,乙案にこだわるという趣旨ではございません。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○山本(克)委員 先ほど部会長から,執行官の裁量の話について,皆さん丙案の方はそうですかと言われて,違うと言おうと思ったんですが,少し議論の妨げになるとまずいから,黙っていたんですが,私は執行官にそんな判断はできないというふうに,当然,私の立場からはそうなります。何がよくて何が悪いかというのはやってみないと分からない,これはもうしようがないことだと,それで,できるだけ子の心理的不安を1回で済ますように法は努力すべきだというのが私の立場です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。いかがでしょうか,おおむね意見は出尽くしたと見てよろしいでしょうか。 ○阿多委員 最後のところで,今日は議論のところで出ていないんですけれども,いわゆる専門家とかの関与のお話も従前からずっと出ているかと思うんですけれども,もちろん執行官がする場合,今でも執行補助者ないし立会人が行って,現状ここで執行すべきでないとしたら,子供の対応等を踏まえていろいろアドバイスを受けながら判断するということがされていますので,もちろん執行官は執行するのが基本ですけれども,執行をためらう,ないしはそこで止まるということは実務ではあり得ることですし,執行することの適否も含めて専門家のアドバイスを受けながら対応するということになるんだと思っています。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。よろしいでしょうか。 ○山本(克)委員 嫌なことを言いますけれども,専門家は万能ではないので,最後はやはりもう決めの問題が残るということは覚悟しなければ,この立法はできないと思っています。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。事務当局の方からは,特によろしいですか。   私が伺った限りにおいては丙案を支持される委員,幹事が多かったとは認識しておりますが,なお丙案に対しては若干のちゅうちょを感じるという御意見もありましたし,依然として乙案が相当だという認識を示される委員,幹事もおられたかと思います。また,そのような委員,幹事から示された丙案に対する懸念については,この場の議論で解消された論点もあったかと思いますが,そうでない点もあったように思います。そのような意味では,本日ここで議論の集約を行うというのは,私としてはなお時期尚早という感がしましたので,この点について,引き続き,事務当局に御検討を頂いて,今日の議論を精査していただいて,そこでの問題点について解消でき得れば解消する形で,次回,一定の提案に基づく資料を作成していただければと思います。   そのようなことでよろしいでしょうか。 ○阿多委員 子と債務者の同時存在の話以外のことを一言だけなんですが,発言させてください。従前から子の所在調査についての規定を設けていただきたいというお話をさせていただきました。今回の御提案を見ていますと,少なくとも管轄に関する規律が示されることによって,どこの裁判所に申し立てればいいのかが分からないと,そういう場面については少なくとも回避できるのかなとは思いますので,取りあえず申立てはできるということにはなりますが,子の所在調査という言葉自体が余りよいイメージがないのかもしれませんけれども,子供に関する情報を執行官が入手するというような形の根拠の規定は設けるべきではないかと思っています。現状の,例えば審判前の保全処分で実際,執行の申立てをするときには,債権者の方で子供の1週間のスケジュール等を押さえて,それで説明をして準備をするというようなことはしているわけですけれども,債権者の方で必ずしも情報を全て把握できるわけではないということもあります。執行をどこでするのかにも関連しますけれども,例えば学校で執行する際に,執行官の方が事前に円滑,迅速に執行するために情報収集をするというようなことも,やはり根拠としてあった方がいいと思いますし,今は個人情報等,プライバシー等の関係で,なかなか根拠がないと回答も頂けないというようなことがありますので,例えばですけれども,例としていいかどうかですが,ライフライン調査のような形で執行裁判所が執行官に調査権限を付与するというような規定を設けるということも御検討頂けたらと思いますので,その点も付加したいと思います。 ○佐成委員 今,微妙に,ライフライン調査みたいな話が出てきましたけれども,調査に協力する側としては非常に負担になりますし,相当なシステム投資をしなければいけなくなる可能性も出てきますので,将来的な課題であればともかくとして,慎重にお考えいただきたいと思います。 ○阿多委員 少し言葉が足りなかったかもしれませんが,不動産の執行での債務者特定のための調査を念頭にライフラインと言ったんですが,多分ここで問題になるのは,対象は学校か,せいぜい教育委員会ないしは保育所が想定されるところで,ライフラインに関連する企業への負担には直接つながらないとは思いますので,その点だけ補足したいと思います。 ○佐成委員 個人情報保護の観点からもいろいろと問題があると思いますので,その辺りは慎重にお願いしたいと思います。 ○内野幹事 学校や教育委員会等を念頭に置くという阿多委員の御発言なんですけれども,子の所在調査といったものを設けることの正当性や調査への対応能力という部分についても様々な課題はあろうかとは思いますけれども,阿多委員におかれては,現時点でその正当化根拠について一定の説明がございましたら伺えればと思います。 ○阿多委員 正当化根拠は正に円滑迅速な執行のための執行官の準備というような形での情報収集だと思うんですが。債務者宅で執行するという前提であればそれほど問題ないんですが,ほかのところでの執行も考えるというのであれば,そのための情報収集は債権者だけに頼るというのではなくて,執行裁判所の方も情報を収集するような根拠規定が必要ではないかと,そういうふうに思っています。 ○内野幹事 事務当局としましては,部会のこれまでの議論では,そもそも債務者自身が子の所在を明らかにする義務を負っているのかという議論がされてきて,なかなかその説明は難しいのではないかというような議論がされてきたものと認識しております。 ○阿多委員 強制執行の申立て前についての調査等については今回は全く申し上げるつもりはないんですが,正に強制執行を申し立てた後,いかにスムーズに執行を実現することができるのかということで考えています。 ○谷幹事 補足ですが,今正に阿多委員がおっしゃったように,今の提案というのは,申立ての準備としての調査ではなくて,申し立てた後,どのように執行方法を定めるか,具体的な場所も含めてですけれども,これを明らかにするための資料収集の手段として,執行官にそういう調査権限を与えてもいいのではないかと,そういう趣旨です。   念頭に置いていたのは,不動産競売の場合の現況調査で執行官がライフライン調査とかができるというような規定が民事執行法第57条にございます。そういう意味では,中身的にはこれと同じようなものを定めるということで,非常に大きな意義があるのではないかと思っているんですが,ただ,正当化根拠がそれと同じかというと,そこはやはり違うということにはならざるを得ないとは思うんですが,子の引渡しの場合には,円滑な執行のための基礎資料の収集というのは,それはあり得る話ではないのかなとは思っています。では,具体的に何を調査するのかということですが,子がどこの学校に在学しているかどうかということとともに,やはりどこに債務者なりが住んでいるかどうかというのも重要な材料になり得ると思いますので,そういう意味でのライフライン調査が必要であると考えており,そのような調査だけであれば,要するにこの家の契約者が誰かという調査だけですので,それほど御負担を掛けることにはならないのかなとは思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。子の所在調査の制度を設けることについて十分な正当化根拠があるか否かという点も今後明らかにしていく必要があると思いますが,ひとまず事務当局に引き取って検討していただくということにしたいと思います。それでは,第3の部分の議論は以上で終了したいと思います。   ここで休憩を取りたいと思います。3時40分から再開したいと思います。           (休     憩) ○山本(和)部会長 それでは,議事を再開したいと思います。   続きまして,この資料では最後になりますが,15ページ以下の「第4 執行場所における執行官の権限等」という部分であります。先ほど,この第4の1の(2)ないし(3)の問題について,丙案との関係で若干の問題提起がされましたけれども,その点に関連してでも結構ですし,別の点でも結構ですので,御自由に御発言を頂ければと思います。 ○垣内幹事 子と債務者の同時存在に関する乙案と丙案の関係で,一言だけ補足をさせていただきたいんですが,9ページの第3の乙案でも,債権者又はその代理人の出頭が必要だということになっているんですけれども,代理人の許容される場合に関して,丙案の方が限定的と申しますか,きめ細かい規律になっていて,そこは若干ずれがあるということかと思います。これを乙案のような考え方を採ったときに維持すべきかどうかということが,細かい点かもしれませんけれども,若干検討の余地はあるのかなということかと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   第4の点はいかがでしょうか。基本的にはこれは従来提案されてきた規律がそのまま維持されており,従来も基本的には御異論は見られなかったところですけれども,本日も特段の御異論はないと伺ってよろしいでしょうか   ありがとうございました。それでは,部会資料17-2につきましては以上ということにさせていただきたいと思います。   続きまして,部会資料17-1「債務者財産の開示制度の実効性の向上に関する要綱案の取りまとめに向けた検討(1)」についての御審議をお願いしたいと思います。まず,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○内野幹事 まず「現行の財産開示手続の見直し」のところでは,これまでの部会の議論や意見募集の結果を踏まえまして,基本的には中間試案と実質的に同内容の規律を提示してございます。部会の議論におきましても,このような見直しの方向を支持する意見が比較的多かったような印象を受けてございます。第14回会議では,先に実施した強制執行の不奏功等の要件や,再実施制限の期間に関しても,一定程度の見直しを求める意見がございましたけれども,これらの意見につきましては,部会のこれまでの議論におきまして,必ずしも現在の実務を正確に反映しているものではないのではないかとの批判もあったところでございました。したがいまして,今回の資料でも,これらの論点につきましては,現行法の規律を維持することを基本的な方向としております。   次に,資料の7ページ辺りでございますが,「金融機関等から債務者財産に関する情報を取得する制度の新設」では,まず,制度の対象となる第三者と情報の範囲に関する論点を取り上げております。この点は一つの大きな論点というところだったかと思われますが,特に申し上げれば,預貯金債権以外の金融商品に関する情報取得を目指すという考え方を念頭に置いた際に,その具体的な対象を定める上でどこで線引きをするのが適当なのか相当なのかというところが,問題となってきております。この論点につきまして,今回の資料におきましては,振替社債等に着目した提案をさせていただいてはおります。これは,9ページ辺りの説明のところで書いているつもりではありますけれども,情報取得の必要性が高いと評価できることや,回答を求められている第三者側の負担というのが,それはもちろん御負担はあるんだとは思いますけれども,看過できないほどに大きいものとまでは言えないのではないかというようなこと,そういった部会の中で御指摘いただいたことを踏まえまして,こういった提案になってございます。また,部会の中の議論では,金融商品全般を一般的にこの情報取得制度の対象にすべきだというような御指摘や,生命保険契約の解約返戻金請求権についてもこの制度の対象にすべきだというような指摘もございました。しかし,資料では13ページ以下辺りから書かせていただいているところですが,情報取得の必要性でありましたり,第三者の負担という観点といったところから,部会のこれまでの議論において,様々な観点から,批判や反論,問題点の指摘がされてきたところだと認識しております。そのため,今回の資料でも,このような財産については,新たな情報取得制度の対象とする旨の提案はしておりません。   資料7ページの本文の(2)におきましては情報取得の要件を,これまでの部会の議論を踏まえまして,より具体的に提示しようと試みております。例えば,資料の8ページ辺りですが,本文の(2)のイの部分では,現行の財産開示手続の規律を参考にいたしまして,一般の先取特権を有する債権者からの申立てを念頭に置いた規律についても触れるような形にしてございます。   次に,本文(3)では手続の概要に関する規律を提示してございます。このうちアの管轄につきましては,これまで部会の資料の中の本文部分では明示的にしてこられておりませんでしたけれども,部会の議論では,債務者財産に関する情報を債務者の住所地を管轄する裁判所に集約することが適当なのではないかというような指摘もあったところですので,このような提示とさせていただいているというところであります。また,これまでの部会の議論を参照いたしますと,預貯金債権や振替社債等に関する情報取得の場面を念頭に置く限り,第三者からの回答に先立つ形で債務者に執行抗告の機会を与えるというのは適当ではないというような御意見が多数見られました。さらに,金融機関等からの不服申立ての可否やその方法についても検討しておく必要があると認識しておりますけれども,今回の資料の本文では,差し当たり,金融機関等からの執行抗告は認めないという考え方を書かせていただいております。   続いて,本文の(4)では,回答の送付先について取り上げてございます。回答の送付先を執行裁判所とすることにつきましては,この部会の中では大きな異論はなかったような印象を受けてございます。その上で,今回の資料では,その第三者から送付されました回答の内容を申立人や債務者が確認するための手続,これをどうするのかということを取り上げてございます。この点については,例えば,第三者の回答がされた後に申立人や債務者が事件記録の閲覧謄写の請求をすることを予定した手続の流れというのを仕組むというお考えもあり得ないではないかもしれませんが,他方で,この情報取得手続が利用される場合では,より簡易迅速に申立人が債務者財産に関する情報の内容を確認することができるようにすべきであるというような考え方もあり得るのかなと考えております。そこで,今回の資料では,御提案といたしましては,執行裁判所が第三者から送付された回答書の写しを申立人と債務者に送付するという規律を提案しています。   続いて,資料の本文の(5)の部分でございます。これは手続の費用について取り上げております。このうちのアの部分におきましては,強制執行の費用に関する民事執行法第42条の規律を準用するものとしており,この費用の最終的に負担するのが債務者となるようにすることを提案しております。イの部分は,この手続により情報提供を命じられた金融機関等が,執行裁判所を通じてその費用を請求することができるものとすることを提案しております。   本文(6)の内容は,実質的な中間試案でお取りまとめいただいた内容と同内容のものをここで提示しております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。それでは,ただいま御説明がありました部会資料17-1について,適宜,項目を区切って御議論を頂きたいと思います。   そこで,まず「1 現行の財産開示手続の見直し」の部分について御審議を頂ければと思います。どなたからでも結構ですので,御発言を頂ければと思います。 ○今井委員 財産開示の不奏功要件が,4ページ,5ページを拝見いたしますと,かなり現行法が生きるのかなというような論調を感じるわけですが,再三申し上げて大変恐縮なんですけれども,簡潔に申し上げたいと思いますのは,現在,この審議会で第1回目に配られた資料にありますとおり,期待された財産開示手続が思うように使われていない一番の原因は,やはり不奏功要件だと私は感じているわけでございまして,それから過料という罰則の弱さ,この2点がその大きな原因かなと感じているわけであります。そういう意味で,改めてこの不奏功要件の全面撤廃をお願いいたしたく,弁論するものであります。   まず第1点に,やはり強制執行の実効性,執行力の実効性の確保という観点でございまして,既に債務名義がある,だけれども財産がどこにあるか分からない,それでこの開示の制度があるんですが,開示の制度を使う前に,197条1項1号と2号がありまして,1号は実際に強制執行の不奏功,2号は,そこまでやらなくても疎明だというような立て付けになっているわけですが,少なくともそのような手続を踏まなければならないという意味での執行力,実効性という意味では,ユーザーとしての弁護士業務として,恐縮ですが,我々が執行でやるときの一番大事なことはスピードでございます。より迅速にという意味では,まず迅速性に欠けるという,このハードルを越えなければならない。実際に弁護士の中のアンケート等をとりますと,この全面撤廃が,全部ではないかもしれませんけれども,やはり撤廃という声が極めて多いというのは,これは紛れもない事実でございます。   それから,第2番目に,理屈の問題でございますが,債務名義があって,これから執行しようというところに,分からないから財産開示を申し立てるのに,知れたる財産で執行してもうまくいかないということを疎明してからやりなさいというのは,分かっていれば執行できるわけなので,分からないから開示を求めるというところがあるわけで,そういう意味では,理論的にも執行の前段階のための制度が,執行の言わば後段階にやりなさいとも見える,理屈的にも通らないのではないかというのが第2番目でございます。   それから,3番目が,この理由がですね,何でこの197条の不奏功要件が必要かというと,この4ページにありますとおり,また御議論にもありましたとおり,プライバシーや営業秘密,そもそも執行段階における債務者におけるプライバシーというのはどこまで保護すべきなのか,そもそもそういうことが論点になるのかどうか,これについて極めて疑問を持っているわけでございます。仮にそれが立法の理由だとするとして,では,そのことが特に197条1項2号要件で疎明することによってプライバシーや営業秘密等が守られるというステップになっているのだろうかということについても,多大なる疑問があるわけでございます。   もう繰り返しになっておりますので,以上,起死回生の弁論でございます。これは私事で恐縮なんですけれども,15年改正のときに,やはり財産開示ができたときにも幹事として関わらせていただきました。私自身はこの罰則の過料というのは反対でございました。個人的には当時の試案にありましたとおり罰金に賛成していたんですが,弁護士会という組織の代表として,過料ということを疑問に感じながらやっていて,自分の信じるところと組織全体としてのアグリーの話が不一致がありまして,でも,結果的にはその方が正しければ何の疑問もないんですが,これでいいのかなと思いつつ,ずっと15年間,引きずってきまして,十字架を背負っているような,やはりこういう使われ方なんだということが,直接は過料だけではなくて不奏功要件が大きいとは思っているんですけれども,やはり非常に後ろめたい気持ちの15年間というのが正直なところでございます。やはり実際に身近にユーザーとしてやっていた経験から申し上げると,それから,今までのこの執行に対する見方からすると,せっかくいい法律ができようとしているんですが,これが残るかどうかが,個人的には,15年改正のときをほうふつとさせるものですから,あえて今日は起死回生の逆転を願って,申し上げる次第でございます。   民事執行法第197条の要件は,1号と2号で,実際には2号の疎明は簡単ですよというのがこの存置の理由になっているようなんですが,そうだとすれば,せめて1号だけでも削っていただければなとも思いますし,弁護士会の意見,なかんずく日弁連の意見も,若干分かりにくいかもしれませんが,原則は全面撤廃で,仮に存置するのであれば2号要件だけにしてほしいというのが予備的な主張でありまして,原則は全面撤廃というのが意見であることも付け加えさせていただきたいと思います。 ○山本(和)部会長 いかがでしょうか。 ○勅使川原幹事 これも繰り返しになろうかと思いますけれども,やはり分からないから財産開示を申し立てる必要性があるんですということであれば,分からなかったということを疎明していただくということは極めて自然なことではなかろうかと思います。それが困難であるということであればこの要件を見直すこともあり得るということでありますけれども,しかし,これまでの議論では,裁判実務の御紹介として,そういった困難が生じていることはないということでしたので,やはり不奏功要件はそのまま維持されるべきではなかろうかと考えております。 ○今井委員 分かることの疎明ってやりやすいんですけれども,分かったことの疎明は可能なんですが,分からないことの疎明って結局,分かりませんというしかないわけで,こんなに財産があるけど分かりませんでしたというのは疎明にならないわけで,皆目見当が付かないということが言いたいわけですので,たまには,個人であれば自宅の住所から登記簿謄本を取って,抵当権がたくさんついている,それはあり得ることですけれども,しかし,かなり限られたケースですので,分からないことの疎明というのは,疎明を厳格にやれと言われると立ち往生してしまいます。分からないことの疎明は分かりませんということ,分からないということが疎明ではないかと思っております。 ○垣内幹事 まず,基本的な理屈と申しますか,債務者に債務名義上の義務の履行に加えて財産情報の開示という負担を課すという制度でありますので,それがおよそ必要でないという場合に,そうした義務を課すことが正当化できるかといえば,それは正当化できないんだろうというように思われます。その意味では,何らかそれが必要であるということは実体的な要件としては必要で,それを現行法は債権者による疎明という形で規定をしているということで,それ自体は理論的におよそおかしいということではないのではないかというように私自身は理解をしております。   ただ,問題は,疎明が余りに困難であると,したがって,申立てをしたけれども疎明が認められずに却下されるというようなことが多いのであるというようなことだとすれば,それはその緩和を考える必要性があるということかと思われるんですけれども,これまで部会で様々御紹介されてきたことに鑑みますと,必ずしもその疎明が困難であるというようには私自身は捉えることができなかったというところで,本日の資料ですと,4ページ辺りで,例えば債務者の住居所在地の不動産登記事項証明書の提出等によりうんぬんという実務ではないかという御紹介があるんですけれども,ただいまの今井委員の御発言というのは,これが重すぎる負担だという御趣旨であるのか,それとも,こういうものは認められないのだと,この記述は実態に即していないという御趣旨なのか,その辺りを確認させていただければ有り難いと思います。 ○今井委員 必要性という御指摘なんですけれども,我々が代理人として受任して執行の場面でやる場合には,これは執行できるなと思えば財産開示をする必要がないわけですので,それが分からないので,よく依頼者の方から言われるのは,調べてくださいとか探偵社を知っていますかとか言われるんですけれども,いや,我々は探偵ではありませんというような話として,また,探偵を頼むこと自体は御自分でされたらいかがですかというようなことも言うこともあるんですけれども,結局,財産開示を申し立てること自体が必要性を感じていて,できればそんなことはしたくないわけですので,というようなことであります。   ただ,確かに垣内幹事のおっしゃるとおり,個人の債務者で強制執行するときに御自宅を,若しくは知れたる不動産を取ったら担保がべたべただということは,それはままあります。そういう場面では,確かにその程度のことはそれほど難しいことではないとは思いますけれども,ただ,それも一つの場面ですので,よほど悪質な代理人というか債権者が,資産のあることを知っていてあえてこれを申し立てるようなことをする意味もないですし,そんな悪質なことをするメリットがありませんので,我々が財産開示をやるときはやむを得ずやっているわけですので,それをもって必要性と考えていただけたらなと,こんなふうに思います。 ○垣内幹事 今の御説明自体は理解できる部分も多々あるんですけれども,実際,強制執行ができないからこそ財産開示の申立てをしているのであると,確かに多くの場合,濫用的でない場合を通常考えれば,そうなのではないかと思われますので,その場合に何か,より厳しい負担を債権者に課して,もう少し具体的な資料をこれぐらい集めてこないと疎明がないんだというような運用をするとすれば,それは適当でないんだろうというように思います。ですので,通常それは必要があるから申立てをしているのであるということを前提として,疎明があったかどうかということを裁判所としても判断をすべきものと考えられ,そのような運用が実際上,期待できるということであれば,現在の要件であっても実際上,弊害を生ずることはないのではないかとも思われるところで,その辺り,今日の会議まで繰り返されてきた議論かと思いますので,これ以上は申しませんけれども,そのように理解しております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。裁判所の運用の話が出ていますが,相澤委員の方から補足的な説明はありますか。 ○相澤委員 従前も何度か申し上げていることかと思いますけれども,少なくとも平成28年以降,197条1項2号要件の疎明が足りないということで申立てを却下した例は,東京地裁においてはございません。また,今井委員のおっしゃる疎明はかなり高いレベルを想定しているようにも感じましたが,裁判所が求めているのは,債務者の住所地ないし本店所在地の不動産について,不動産登記記録上,債務者たる個人ないし法人が所有しているかどうかということになります。債務者が所有していないという場合が多うございます。そうであれば債務者が借りているということになると思いますので,強制執行が考えられるとしても,敷金返還請求権ですが,これはまだ発生していませんということになると思います。日本中のどこにも財産がないことまでの疎明を求めているものではございません。勤務先も不明である,預貯金債権なども調べる端緒はないということで,多くの場合,疎明がされたと考えるのではないかと思っております。 ○今井委員 国会答弁みたいですが,すみません。それはよく分かりました。そうだとすれば,今までの御議論がそうであるように,1項1号が必要だという議論は一切ありませんので,1項2号の疎明がそれほど手間も掛からないということが一貫しての説明だったように思われますので,そういう意味では,1項2号だけを残していただいて,1項1号というのは十分に考慮していただけるというのが今までの審議状況ではないかと思うんですけれども,いかがでしょうか。 ○山本(和)部会長 しかし,1号と2号は,どちらかが疎明されれば実施決定をすることができるということなので,1号があった方が申立人に有利なのでないでしょうか。 ○相澤委員 1号の要件の方が簡単なので・・・。 ○山本(和)部会長 だから,1号はむしろプラスアルファになっているのではないでしょうか。 ○道垣内委員 1項1号は,そこに定められている要件が具備されれば,2号の要件が不要であるという意味で特則ですよね。例えば1億円の債権を有している人が,これは1億円以上で売れるだろうと思って不動産を差し押さえたのだけれども,売れなかったので回収できなかったというとき,ほかの財産があっても,1号の要件を満たすのですよね。その場合は2号の要件を充足しなくてよいというわけですね。本当のことを言うと,私自身は,1号が本当にこれでよいのだろうか,他の財産の存在を知っていたときはどうなるのだろうか,という気が,今井委員とは逆の方向で思うのですけれども,その点を措きましても,1号は削除せよという御主張はよく分からないです。 ○今井委員 1号で,完全な弁済を得ることができなかった,できないことではなくて,できなかったことというのは,これは一回経験したことをという意味ではないんですか。この疎明という意味は。 ○相澤委員 これは配当等の手続において完全な弁済を得ることができなかった,ということですので,正にその手続をした配当表謄本等を提出していただければ,2号の要件は要らないわけですので,証明としてはシンプルなものと理解しております。例としてそう多くないことは確かですけれども。 ○阿多委員 完全撤廃の話も,ただ,従前も出たお話なので,念のため補足しておきますと,197条1項1号は配当等の手続になっていて,債権者の立場にすれば,配当まで行かずに執行不能で終わったり,例えば預金債権等を差し押さえたけれども,余りに少額で取り下げるとかいう形で,一旦何らかの形で着手しても1号要件は扱えないという意味で,簡便ではないかというお話について言うならば,配当まで行く手続でするのは必ずしも多くないと,多くの場合は不能で終わったり,1号要件を満たさなくて,そうすると2号要件で行けるではないかというお話なので,それほど簡単というか,余り使えない要件だという実情があることは御理解頂きたいと思います。   今井委員の完全撤廃論は,もちろん弁護士会の意見なんですが,次善の策といいますか,そういう意味では4ページの下,2行から書かれているのは,先般私が少し触れさせていただいた論点に関することなのかと思うんですが,ここは不奏功要件等の要件の撤廃を求める立場から,その理由としてという形で紹介していただいていますけれども,少なくとも私の意図は,仮に要件は残るとしても今の要件のままでいいのかという形の問題意識でございまして,先般,例に挙げましたのは,例えば債権50万円を持っている,そういうときに債務者住所に表示されている自宅の謄本を上げると自宅は所有でしたという状況になったときには,それは財産があるのが分かっているではないかと,そうすると財産開示を求めることができないという流れになるんですが,執行の実務のお話をさせていただきますと,もう一つの,費用は4000円と少額ですけれども,不動産競売ですと70万円ほどの予納金を納めなければいけないと,納めた上で,場合によっては,不動産の登記を見ても超過差押えかどうか分からなくて,執行官による現況調査や報告書を見て,さらには税金等の滞納の差押えがあって超過差押えになるとかいうような形で,相当費用を掛けて手間を掛けないと2号要件を満たせないという場合もあり得るわけです。債務者側にしても,家の情報だけが知られていて差押えをされてしまうと,家に差押え登記が入れば,それがそのまま最後まで行きますと自宅をなくしますし,さらには銀取約定等では,差押えがなされたときというのは期失の理由で債務者に対する影響も非常に大きいというような利益状況において,完全弁済をそのまま要求するのが本当に債権者,債務者のためになるのかということは少し御検討頂く必要があるのではないかと思っています。   ですから,ここで御指摘頂いているように,5ページのところで,批判等ももちろん理解をしていますけれども,債権者,債務者の不利益を考えたときに,例えばですが,全面開示ではないような一部開示というような形のものも新たなものとして考えられないのか,具体的には,後の預貯金のところで本来触れる話なのかもしれませんが,預貯金債権だけの開示を,そのような費用と債務者の負担等を考えると,一部開示というような制度が考えられないのかというのが先回の提案の趣旨という形で思っています。費用が余りに高額になるとか回収に相当時間を要するといって,完全弁済は可能かもしれないけれども,余りにそれが負担が大きいというような場合には,預貯金債権だけの開示を義務付けるというような制度をお考えいただけたらと思っていますので,その点を付加したいと思います。   本来,第2のところではないんですが,少しここで頭出しだけさせていただきたいのは,財産開示は全ての財産の開示を前提とするので,債務者の負担というのを考えて完全弁済というのが入っているんですが,第三者からの情報取得については,一番当初はかなり広い情報収集を意識して制度を設計していたので,不奏功等要件については財産開示も第三者からの情報取得も同じ要件だということで組んできたわけですけれども,かなり安全サイドで対象を限定して,預貯金債権と振替社債等の情報,第三者から,公的機関を除くと,そこまで限定をするのであれば,第三者からの情報取得に際しての不奏功等要件については再検討頂くことも可能ではないかと思っていますので,頭出しだけ少ししておきたいと思います。 ○山本(和)部会長 いかがでしょうか。 ○道垣内委員 全体として阿多委員がおっしゃったことはよく分かるんですが,1点だけ発言しますと,債務者の自宅の不動産が差し押さえられると銀行取引約定上うんぬんとおっしゃいますが,その点は預金が差し押さえられたらますますですよね。 ○阿多委員 預金が分からないという状況ですので。 ○道垣内委員 しかしながら,自宅がどこにあるかが分かって,自宅が差し押さえられたら銀行取引上困るというのは,債務者の利益を考えているかのような感じがしますが,預金が差し押さえられれば銀行取引上困るのはますますだろうという気がしますので,その理由付けはどうかなと思います。 ○阿多委員 ありがとうございます。自宅がなくなるという点だけ強調を。 ○今井委員 今の点は,自宅を調べたら担保がついていて,それが金融機関であれば,金融機関と取引があることが分かるのではないかという御趣旨も含まれているんですか。そういうわけではないですか。 ○道垣内委員 含まれていません。 ○今井委員 くどいですが,1号も,やはりこれは,強制執行と担保の実行の配当でというようなことは確かにレアではありますけれども,やはりこれが原則のようにも見えますし,2号の今のような疎明が簡単であるというのであれば,やはり制度の不奏功要件自体はもう少しハンディーで軽いんだという意味では,私は一貫して全面撤廃であるし,日弁連もそうなんですが,それがよりハンディーであるというのであれば,よりハンディーなような,1号をやはり撤廃して2号だけ残すとかというふうにしていただければと。 ○山本(和)部会長 御趣旨は分かりました。 ○垣内幹事 1号要件が狭すぎるのではないかという点に関してですけれども,確かに1号だけを見ていると,そういう考えというのも理解できないものではないと思いますけれども,ただ,例えば執行が不能で終わってしまったというような場合については,次に2号で行くときについては,それは有力な疎明の資料にもなるのではないかという感じもいたしますので,必ずしも1号だけでカバーしなければいけないということでもないのかなという気がいたしております。   それから,4ページから5ページに掛けての阿多委員の言われた点についてなんですけれども,道垣内委員の御指摘にもありましたけれども,まず,債務者の利益という点に関しては,この制度の枠内でその点を盛り込んで制度設計するということは,少なくとも現在では,そういう意味ではなっていないと。ここでも指摘がありますように,一部開示という制度は,一部開示をした上で陳述義務を一部免除できるという場合はあるということですし,また,どうしても自宅を失うことは困る,ほかの財産であれば払えるということであれば,基本的にはそれはそこから任意に履行をすべきということがまず第一には要請されるのであって,不動産に執行を受けないという利益を財産開示手続の効用として考えるというのは,なかなか現在の制度からすると距離が大きいのかなという感じがしております。   他方,債権者の側の利益の問題として,確かに50万円の債権しかないのに1億円の不動産というのはアンバランスではないかという感覚は非常によく分かるところはあるのですけれども,しかし,今それしか財産がないのであれば当然そうなるということではありますし,また,これは前にこの御発言があったときにも申し上げたことですけれども,基本的に,財産があるときに,それが執行にとって債権者から見て好都合なものを選ぶという利益まで保障するということに現行法はなってはいないので,そこまで一足飛びに方針転換ができるかというと,そこはまだ検討すべき点があるのかなというように,今のところ私自身は感じております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。いかがでしょうか。 ○青木幹事 阿多委員がおっしゃった一部開示の制度は,反対ではないのですが,やや手続が複雑になるといいますか,このような手続を設けると,今度はその一部開示を前置すべきだという話になって,本来すぐに財産全ての開示が認められるはずのところが,段階を追って手続を進めていくという話になりかねないという気がしております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。ほかに,いかがでしょうか。 ○阿多委員 仮処分がなされた場合と財産開示の関係について,2ページの上3分の1のアの実施との関係で,いわゆる2週間要件との関係で,もちろん解釈に委ねられると書かれているんですが,後ろの(注1)でも示されている現状の多数説というか実務は,裁判所の方が何らかの行為に着手をする,ないしは執行官が着手をするという解釈が一般ではないかと思っています。ここで,2ページのアの第2段落で示されている①,②という考え方のうち,①は申立てに着目する考え方,②は裁判所の方の発想に着目する考え方と示されているんですが,一般的な解釈であれば,やはり裁判所の着手という形になってくるかと思います。そうなってきますと,先ほどの不奏功要件等の判断も含めて,裁判所の方は一定の実施決定をされるまでの期間がどれぐらいになるのかというようなこともありますので,この点については解釈に委ねるのではなくて,明文で手当てをしていただけたらなと思っています。   さらには,その後の強制執行の実施との関係について申し上げますと,ここの中では別途,仮差押えの申立てをするとか,再度仮処分の申立てをするとかという御提案が出ていますが,例えば賃金仮払いの仮処分等の場合は,少なくとも無担保で発令をされるのが一般的だと思っていますが,別途の仮処分ですと,財産開示に従前の債務名義を使ったがゆえに,保証金を担保を積まなければいけないというような形になりかねません。また,再度の仮処分という形になりますと,仮払いの仮処分は,債務名義でも何でも少なくとも発令がなされているのに,再度の仮処分というのが本当に,保全の必要性も含めて,出るのかというようなところで,非常に疑問があります。   そういう意味では,その後の強制執行の実施等の関係でいうのであれば,財産開示の申立てをして,実施決定が,例えば財産開示期日から一定期間内に保全処分の申立てをした場合には2週間要件を満たすというような立法的な手当てというのは御検討頂けないのかなということを考えています。とにかく財産開示の場合,一旦申し立てて,裁判所の方が実施決定をして,送達をして,財産開示期日が実際に入るのが1か月半ぐらい先で,そこから債務名義の還付を受けて,申立てをしてという形になると,実務上はそれなりの期間が間があく形になりますので,新たな仮処分といっても,結局,資料型集めをした上で,それに基づいて,仮処分命令を本案にするわけですから,あれですけれども,そこはスムーズに流れる手続というのをお考えいただけたらと思いますので,そういう意見を述べたいと思います。 ○内野幹事 民事保全法の解釈の立法的手当てという御指摘なんですが,阿多委員の御認識では,解釈により対応するということでも大丈夫ではないのかという趣旨でしょうか。 ○阿多委員 保全処分自体が債務名義になって,財産開示が使えることで,あそこだけ非常にイレギュラーな形に,もちろん財産開示を使えるのは有り難いわけですけれども,債務名義になるので有り難いんですが,一般的な解釈というのは裁判所の着手が前提になっているんだと思うんです。そうなりますと,実施決定の発出日でいきますと,まず不奏功等要件を満たすために,もちろん保全の申立ての段階で情報集めをしていれば別ですけれども,不奏功等要件を満たすために,197条の1項2号要件を満たすための情報収集をして,申立てをして,裁判所が実施決定をするまでの間に2週間を超えてしまうということはあり得るのではないかと思います。それなりに時間が掛かる,不奏功等要件を要求しますので,そういうふうに思いますので,この場合は,私は申立てで2週間を満たすんだと書いていただくのが一番いいと思いますので,そういう意見を述べたいと思います。 ○山本(和)部会長 この点はこれまで余り議論されていなかったところではないかとは思いますが,いかがでしょうか。 ○垣内幹事 私も十分検討ができているということではないんですけれども,この保全処分との関係については,今回新たに生ずるかもしれない問題ということで,いろいろ検討すべき点があるのかなという感じは持っております。今,阿多委員の御指摘があったとおり,まず一つは,何をもって財産開示手続との関係での執行の着手と捉えるのかと,これは解釈問題ということですけれども,申立てがあっても,その後,一定期間を経ないと実施決定の発送がないということが十分現実的にあり得るということだとすると,これは申立ての時点,2週間以内に申立てをすればよいというような方向での規律は検討の余地があるのではないかと。ただ,申立てさえすれば何でもいいと,引き延ばせるということでは問題があろうかと思いますので,例えば,申立てがあって手続の実施決定があったときには,2週間以内に着手があったものとみなすであるとか,何かその種の,これは全くの今の時点での思い付きにすぎませんけれども,何か手当てをする必要がないだろうかと思います。   それとも関係しまして,2ページのイのところに書かれている点で申しますと,財産開示はできたとしても,その後の強制執行に実際に着手する時点では2週間たってしまっているということになれば,それは,ここで御説明があるような形に現行法ではならざるを得ないのかなと思われますが,財産開示の要件を満たしているという場合を前提に考えますと,やはり知れている財産がないということが前提で,これは債権者にそれを求めるのは不可能であったということですので,その場合に再度の仮処分等が必要になるということでは不都合ではないかという感じもいたします。したがって,この点も民事執行法の枠内で規定を設けることができる問題なのかどうか等については法制面の問題等もあるかと思いますので,少し分からないところがありますけれども,検討すべき点はあるのかなという印象を持っているところです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。ほかにはございますでしょうか。 ○村上委員 全く別の話なんですけれども,本文では財産開示手続の実施要件の見直しとして,いずれの種類の債務名義についても申立てできるようにするということでありまして,それに関する議論について3ページで御紹介されているところです。この中で特に,執行証書や支払督促のところについて14回で議論があったということは記憶しておりますし,私どもも,養育費の支払や公共料金の場合は申立てを認める必要があることについてはそのとおりだと思っております。一方,それに関して後段の方で,不当に情報が開示させられるおそれがあるという懸念がある事案については執行停止の裁判によって対応するのが適当だという御意見は確かにあったと思いますが,現実の場面を想定するときに,例えば多重債務者みたいな方々がこういった執行停止の裁判があると言われても,それが何なのか分からない方が現実問題として多数いらっしゃる中で,どうやってそのバランスをとっていくのかということも考えるべきなのではないかと思っております。説明の仕方の部分について,考えていくことが必要かと思います。   また,前回欠席をしてしまいましたけれども,差押え禁止債権の部分についても,技術的になかなか難しい部分があるということは承知をしているところですが,差押え禁止の範囲の部分については今回,難しいということで見送られたと伺っておりますが,それで大丈夫なのかといった,現実問題とのバランスを考えておく必要があるのではないかと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。ほかには,よろしゅうございましょうか。   それでは,1の部分については,先に実施した強制執行の不奏功等の要件の見直しを求める意見が出されましたが,いずれについても反対論が示されたということであったかと思います。現段階では,なかなか,この部会の中では,コンセンサスが得られるような改正提案は難しそうではないかとの印象を持ったということになろうかと思います。仮処分命令については今回新たに出された問題で,これについては果たして現行の民事保全法の解釈でどのような対応ができるのだろうかという疑問が複数の委員,幹事から示されたということで,恐らくこれは事務当局の宿題ということになるだろうと思います。   それでは,引き続きまして,7ページの「2 金融機関等から債務者財産に関する情報を取得する制度の新設」の部分でありますが,この部分はかなり膨大な内容を含んでおりますので,まずは7ページの(1)の制度の対象となる第三者及び情報の範囲の部分について,御議論いただきたいと思います。また,改めての確認ですが,公的機関からの情報取得の問題は今回の資料には含まれていないということであります。そこで,金融機関等からの情報取得について,どなたからでも結構ですので,御発言を頂ければと思います。 ○阿多委員 まず,アは従前から中間試案の際もありましたし,イを追加するということについてはもちろん賛成したいと思います。あとは,可能であればですが,振替等の手続以外の金融商品も含むことも御検討頂ければという一言だけ足して,終えたいと思います。 ○今井委員 同じような意見で,大変な法務省当局の御努力によって,振替社債等に関する情報取得がこのように入られたことについては,大変喜んでおりますし,有り難く思います。更にもう少し,今,阿多委員が申し上げたようなところも,御負担を掛けますけれども,御努力頂ければと,そういう意味で,感謝の話でございます。 ○山本(和)部会長 いかがでしょうか,ほかの金融商品に関する情報についてもこの制度の対象に含めるということについて,御意見ございますか。 ○中原委員 預貯金債権については従前から,金融機関は時間を掛ければ把握が可能であるので,御協力させていただくということをお話してきました。今回,イの振替社債等については,金融機関の中でもいろいろ議論がありましたけれども,投資信託,国債等,振替社債等の管理は多くの金融機関ではシステム対応しており,明細の把握は可能であるので,基本的には御協力できるのではないかという意見が多数でした。ただし,金融機関が照会に実際に回答するに当たっては様々なハードルがあるということについては御理解を頂ければと思います。   例えば,預貯金については各金融機関ともシステム的にはほぼ同一と思われますから対応は可能と思いますが,振替社債等については各金融機関においてシステムの作り方が異なっているので,そう簡単に済むような話ではないということです。例えば,投資信託や国債等の振替管理システムは特定の部署でしか扱えないというような金融機関もありました。また,商品ごとに管理部署やシステムデータの仕様が異なっているために,振替社債等という一まとめの照会を頂いても,例えば投資信託とか国債等公共債,短期社債といった複数の商品毎に管理する部署を跨って保有状況を個別に確認する必要があるという金融機関もあります。   このような状況もあり,また取引店も特定されていない顧客について振替社債等の取引の有無や内容を正確に調査して回答するためには,金融機関は相応の時間とマンパワー,あるいは,場合によっては新たなシステム対応が必要だと考えております。本制度の導入により,探索的な照会が多数生じるだろうということが想像できますので,金融機関としても正確な回答をするように努力しますが,新たな負担が生じるということについて是非,御理解を頂きたいと思います。   それを前提にして言いますと,システム的に把握できない,要するに振替決済の対象となっている金融商品を本部ないしセンターで一括して把握できるかというと,そのようなシステムを組んでいる金融機関はまずないと思います。したがって,振替社債等以外に照会範囲を拡大することについては,物理的にも,体力的にも,相当難しいと思いますので,これ以上の御協力というのは極めて難しいというのが金融機関のスタンスです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。ほかに,いかがでしょうか。 ○松下委員 今回御提示いただいた原案には賛成なのですが,その説明ぶりだけ一言,思うところがあります。資料の15ページに生命保険契約の解約返戻金の話が出ていて,「もっとも」で始まる段落の4行目ですが,一般的な投資の対象や資産保有の手段であるとは言えないと,その更に3行下には,債務者の生活保持のために重要な役割を果たしていると,こういう御指摘があり,このこと自体は現状このとおりなので,必要性という観点から見ても,解約返戻金に関する情報取得を現状では特に設ける必要がないのではないかという点については全く反対するものではありません。ただ,かつては生命保険契約という名の下に,かなり投機性の高い金融商品としての性格の高いものがあったということも事実なので,この点は今回の審議では,生命保険という契約の性質そのものから対象から外したというのではなくて,現状,必要が余りないというところで今回は外しましたという説明ぶりの方が,あるいはいいのかなと思ったので,一言申し上げておきます。 ○阿多委員 理由についてですが,余り本体に影響はないと思うんですが,松下委員の御指摘は,多分,現状の認識の違いなのかもしれませんが,現状も金融商品としての生命保険は相当数あるという認識をしていますが,むしろそうではないものとの区別が困難であるがゆえに今回は難しいというのが事務当局の説明と私は理解しておりまして,今後,先ほどの御説明がありましたけれども,いろいろな形で管理やその他が可能であれば,将来的には広がる可能性のある対象だと思って,今回の提案について,先ほど述べたような意見を申し上げる次第です。 ○山本(和)部会長 この点は現状認識の問題ですので,結論的には生命保険は行かないと,金融商品に関して振替のもの以外についても拡大するという点については,阿多委員の方からそういう方向が示され,しかし中原委員の方からは,なかなかそれは銀行としては対応できないという話があったと思いますが,ほかに,その点について御意見は。ほかにいかがでしょうか。特段,積極的な意見も消極的な意見も出ないということでしょうか。 ○垣内幹事 私はこの点については基本的に原案に賛成したいというように考えております。預貯金に関してはもちろんですけれども,振替社債等に関しても対象とするということで,必要性と相当性が認められるということであれば,それはこの制度の機能がより充実するということで,大変よろしいのではないかと思っております。他方,今回は対象外とされているものにつきましても,これは本文で掲げられているものとの比較において,第三者の側の負担の程度であるとか,当該財産に対して強制執行を容易にすることの相当性といった観点から問題があるということは理解できるところですので,今回の改正の内容として,本日の資料で本文でまとめられているような内容というのは合理的なものではないかという印象を持っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。ほかには,よろしいでしょうか。   そういたしますと,今回の部会資料の(1)のア,イの範囲内においては,基本的には皆さん賛成であり,特に反対という御意見はなかったと承りました。もっとも,更にこの制度の対象となる情報の範囲を拡張すべきであるという御意見がある一方,今回の改正においてはそこまで行くのはなかなか難しいのではないかという御意見もあり,その部分については,やはりこれもなかなかこの段階で拡大の方向でコンセンサスを得るということは難しそうに見受けました。取りあえず,そのような認識というか整理をさせていただいて,次に進みたいと思いますが,よろしゅうございましょうか。   それでは,7ページの2の(2)以降の部分に移りまして,情報取得の要件あるいは手続等について,御自由に御発言を頂ければと思います。 ○今井委員 この振替社債等に対する情報取得につきまして,中原委員の御指摘の御負担は重々想像が付くんですが,ユーザーである側からいたしますと,このことが随分,財産開示,第三者に対する情報取得は活用されるのではないかなというふうな期待を受けるわけでございます。そうだとすれば,先ほどの議論と同じような議論になるんですが,不奏功要件がやはり入っておりまして,これを見ますと,やはりアが,実際に強制執行等によって弁済を受けることができなかったときという,実際の強制執行や担保の実行で配当がなされなかったこと,それからまた,やらなかったとしても,弁済が得られないことの疎明という,これが財産開示と同じような要件になっておりまして,繰り返しませんが,先ほどと同じような理由で,これについての撤廃を検討していただきたいと思っております。   それから,さらにこの関係で言いますと,預金もそうですし株式等もそうですので,割と足の速い資産ですので,足の速いというのは,これを払い下げようと思えばできる,流動性の高いという意味では,8ページを拝見しますと,最終的には金融機関から裁判所,裁判所から債権者と債務者にということであるので,この開示が情報がヒットした場合に,債務者がもしこれを取り下げたいと言われたとき,債務者に知れないうちに手続が進めばいいんですが,そうだとすると,これは私の理解なので少し間違っているかもしれませんが,債務者と債権者に行くスピードが同じように見えますので,その辺の,それは債権者が速やかにやればいいんだという話になるかもしれませんが,また執行抗告については却下の裁判のみだということも配慮していただいているとも認識してございますが,ヒットした債務者財産について,その後,当然この申立てが来るわけですから,ヒットしたものに限ってでも結構ですが,債務者がそれを払い下げに来たときに,それはペンディングできるような配慮ができるのかどうか。 ○阿多委員 処分禁止効ですか。 ○今井委員 処分禁止効,そうですね,そこで,要するに実効性確保ということですけれども。 ○山本(和)部会長 債務者に知らせる時期については,実際上の運用として,21ページの下から3段落目の最後辺りに,債務者による財産隠しの危険を避ける必要があることを踏まえれば,申立人への送付から相応の期間が経過した後に債務者への送付をするのが相当であると考えられるという認識を前提にしている記載があります。 ○今井委員 そのように拝見します。分かりました。 ○山本(和)部会長 よろしくお願いいたします。 ○谷幹事 今の点なんですけれども,相応の期間を設けるという,その相応の期間をどの程度と想定をするかという問題だと思うんです。ここはやはり実効性確保の点ではかなり重要な点だと思っておりまして,よく似た手続としては,債権差押えをした場合に,まず第三債務者に送達をして,その後に債務者に送達ということで,これは第三債務者に送達さえできれば,一応,処分禁止効がもう生ずるということになりますので,それは別に債務者への送達が翌日であってもいいんですけれども,今回の第三者からの情報取得の場合の情報を債権者に伝えた後,どれぐらい後に債務者に通知をするのかというのは,債権者がその情報を踏まえて執行手続をとって,その執行手続が効力を生じるというのにどれぐらい必要かということを考えないといけないのかなと思うんです。   一つだけの金融機関の情報を取得しただけの場合であれば,債権差押えをすればいいんですけれども,そうでない場合に,複数の金融機関からの情報を得ようという手続をとった場合には,複数から情報を得て,残高等,あるいは預金の種類等も見た上で,どの金融機関のどの預金を差し押さえるのかということを判断しないといけませんから,それが時期がずれて各金融機関から戻ってくるというようなことになった場合に,まず最初に戻ってきた金融機関,これを債権者に通知しました,それから例えば1週間後に債務者に通知しました,しかし,その後に別の金融機関から戻ってきました,みたいなことになるといろいろ問題が生じるというようなことがあるので,この辺りの相応の期間をどういうふうに念頭に置くのかというのは,そういう実務上の問題を踏まえた上で検討していただく必要があるのかなと思います。   その問題と,仮に一つの金融機関からの情報を得た場合にどれぐらいの期間を置けばいいかということなんですけれども,その情報を見た上で債権差押えの申立てをして,発令がなされた第三債務者に通知がなされるというふうなことを考えると,直ちにしたとしても,やはり1週間程度は恐らく間違いなく掛かりますので,今申し上げた複数の金融機関というようなことを考えた場合には,やはりかなりのそれなりの,1か月とか,場合によったら,期間を置かないと,余り意味がないということになるのではないのかなと思います。   そうだとして,これを単に運用に委ねるのか,あるいは法律上これを書き込むのかということが問題になるんですけれども,明確性という意味では,債務者への通知というのはある意味では債務者の手続保障の一環でもあると思いますので,そういう性質も考えますと,明確性という意味では,期間というものを条文に書き込むということの方が望ましいような気がしているという状況でございます。 ○山本(和)部会長 問題意識としてはもちろん事務当局も認識をしているところだと思いますが,ただ今の御指摘では,その期間は大体1か月ぐらいではないかという御意見だということでしょうか。 ○谷幹事 最低でもそのくらいは必要ではないかと思います。 ○山本(和)部会長 法律に明確な期間を書けるかというと,そこはなかなか難しいところがあるかもしれません。その期間について,こういう根拠があるということを示さないと,なかなか一律に期間を定めるのは難しいという事情を御理解頂く必要があるところだと思います。そこで,期間の定め方の根拠について,もし何らかの御意見があれば示していただければと思いますが,いかがでしょうか。 ○谷幹事 私が先ほど1か月と申し上げたのは,今日に向けていろいろ検討した結果,1か月ぐらいというのが最低必要なのではないかということで申し上げたんですが,この点につきましては,更に具体的な実情も踏まえて,私どもの方でも検討はさせていただきたいとは思います。 ○山本(和)部会長 それでは,よろしくお願いします。 ○阿多委員 日弁連の提言の時点では,債務者への事後告知というようなものも御提案させていただいて,手元にありませんが,確か8週間と書いていたような記憶なんですが,やはり相当,実際の執行までに選別して時間が掛かるということがあるので,その点,もう一度検討はしますけれども,一応の数字は出しているかと思いますので。 ○道垣内委員 1点だけ分からなかったところがあって,教えていただきたいのですが,複数の金融機関から徐々に返事が来るのであり,同時に来るとは限らない,そこで,そのことを考えながら期間を決めなければならないということなのですが,それはどうしてなのでしょうか。複数の金融機関からの返事を待つと,差押えしやすいものを選んで差押えできるようになるということはあると思いますが,そのような観点を仮に入れるとすると,途中で垣内幹事がおっしゃったように,そもそも差押えがしやすい財産が分かるようにするというシステム設計になっているのだろうか,という問題が出てくるような気がするのですが。お教えいただければと思います。 ○谷幹事 例を挙げて端的に申しますと,例えば500万円の債務名義を持っているというふうな場合に,最初に一つの金融機関から残高10万円ですよという情報が提供されました。では,それを差し押さえるかどうか,それしかないということが分かれば,それを差し押さえればいいんですけれども,別の金融機関から300万円ありますよ,1000万円ありますよという情報が返ってくる可能性がありますので,やはりそれを見てみないと,まず10万円を押さえたらいいという判断にはならない,そういう意味で,基本的には全ての情報を見てみないとどれを執行するかという判断ができないと,こういう状況だということです。 ○道垣内委員 今の例は非常に分かりやすくて,よく分かるのですが,それならば,最初に多額の預金債権の所在について返事が来たときには,期間が短くていいということになるわけですかね。 ○谷幹事 債務名義を超える残高があれば,それはそれで押さえればいいということだと思います。どの範囲の情報かというのはあるんですけれども,これは反対債権があるかどうかというのが分かるかどうかということも大きいと思うんですね。反対債権があれば,差し押さえても意味がないということにもなりますので。 ○山本(克)委員 どういう金額の多寡と回答の順序なんていうのは予測はできませんし,差押え債権が相殺されるかどうかというのも,これも制度的には執行裁判所に予測できる話ではありませんから,やるとすれば,一申立ての全回答が返ってきたから,申立て単位で考えると,債務者への通知はそれしかないのではないですか。いちいち全部場合分けしてそんなものを法律に書き込むなんていうのは不可能ですし,かえってそれによって不都合が生ずる可能性が高いですから,一申立てに係る全申立てが返ってから相当期間経過後に債務者に対する通知をすると,それしかないと思います。 ○阿多委員 逆に,今御発言頂いたんですが,我々が考えていましたのは,事件の数え方というか,この申立ての数え方がどうなるのかという実務の扱いになると思うんですが,金融機関1件ごとに一つ事件番号をとるのか,それとも一つの申立てで,例えば金融機関を5金融機関並べた場合に,それでも一つの申立てで5つの先に照会をしてもらえるのかと,その組み方によるかと思いまして,こちらも考えていたのは,一つの申立てで,債権者にはさみだれで頂くと一番有り難いんですが,債務者への通知というのは,裁判所の方は,申立ての回答が全て集まった時点で連絡という方法でお考えいただいた方が,裁判所の事務も簡便になっていいのではないかと思っています。そこだけ補足しておきたいと思います。 ○成田幹事 今の点につきましては明確に定めていただいた方が裁判所としては助かりますので,そこはお願いいたします。事務当局の方で決めていただければと思います。   それはそれとして,今回,回答の送付先等ということで,金融機関の回答が執行裁判所に来るというのは,前回申し上げたとおり,異存はないところですが,その流れが気になるところでして,今回ですと本文(4)のイで,執行裁判所が申立人及び債務者に回答を送付しなければならないとなっておりまして,少しここに違和感があるところでございます。まず,申立人につきましては,現行の民事手続法をいろいろ見てみたのですが,嘱託ですとか照会の結果を裁判所が受領した後の手続につきましては,ほぼ,その当事者において閲覧,謄写するという形になっており,嘱託結果や照会回答を裁判所において申立人に送付するところまではやっていないと思われますし,加えて,公平な第三者という立場の裁判所が債権者に肩入れするような形になるのがどうかというのが少し気になるところでございます。   そういった観点からすると,(4)イのところで,申立人に回答書の写しを裁判所から送るというのは少し疑問があります。他方で,これをやらないとなると債権者の方で回答が迅速に把握できないというところがありますし,閲覧謄写が大量に裁判所に来るのもなかなかつらいものがあるところではあるのですが,この辺りにつきましては,現行の債権執行における陳述書の送付の運用が応用できるのではないかなと思っております。東京地裁の執行センターですとか多くの裁判所においては債権執行の場面で,差押命令の正本を送るのと同時に,陳述催告書ですとか陳述書のひな形ですとか,さらに,債権者の方で用意した郵便切手だとか封筒なども送って,それに第三債務者が裁判所用と債権者用に送るというような運用をしておりまして,それで特段,問題がないと承知をしております。こういった運用がこの第三者照会の場面でもできるのであれば,裁判所から債権者に対して回答書の写しを送付する必要はないのではないかと思っております。この点につきましては,もちろん金融機関の御協力を賜らなければならないところではありますので,その辺り,御検討頂けますでしょうかというのが,一つお願いでございます。   もう一つ,債務者に対しては,よく分からないのが,回答内容まで要るのかどうかというところでして,要件がないのにそういう照会をされたというところは分かるのですが,回答内容というのは,正に自分の懐事情ですので,自分で預金残高を照会するなどすれば,そこは把握できましょうし,それが間違っていたからといって何か不利益があるのかどうかというのは今一つよく分からないところかと思いますので,債務者に対しては事後的に手続が実施されたことを通知すれば足りるのかなと感じているところであります。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。(4)のイの原案は,申立人及び債務者に回答書の写しを送付しなければならないというものですが,ただ今の御意見は,まず,申立人に対しては,裁判所から送るのではなくて,陳述催告の運用に倣って金融機関等から送付してもらうということかと思います。今お話しの御意見は,運用の話ですか,それともそういった手続の流れを想定した規定を設けるべきであるということでしょうか。 ○成田幹事 運用ベースでよろしいかと思います。これを多分,書くことは,なかなか難しいかと思いますので,債権執行の並びで行けないかなと思います。 ○山本(和)部会長 次に,債務者との関係においては,回答書の写しを送付するということになっているけれども,写しを送付する必要はないのではないかという御意見をいただきました。第三者に対しては,情報取得手続が実施されたことを通知すれば,それで足りるのではないかという御意見だったかと思います。 ○阿多委員 債権者か債務者か,両方なり得る代理人の立場として,先ほどの裁判所の御発言で少し心配しましたのは,閲覧謄写の方法のお話が出たので,えっ,と思いながら聴いておりました。やはりここは,裁判所から頂くか第三者から頂くかは別にして,回答書を送付いただくという形の制度にしていただきたいと思います。財産開示は閲覧謄写,やむを得ないところがあるかとは思いますけれども,今回の手続については,回答を頂くのが良いと思います。 ○山本(和)部会長 債権者の立場からすればということですね。 ○阿多委員 債権者の立場です。それで,債務者との関係では,裁判所の御発言ありましたけれども,また,先ほど御提案しましたように,一括して処理をするというときに,第三債務者から債務者に回答が送付されるというのはそもそも考えていませんので,運用としても考えておりませんので,執行裁判所の方で,事件が回答がそろったというところで,それを事件終了とするのかどうか分かりませんが,その段階で,こういうところに照会をした,回答が来たということの通知だけを債務者にすれば足りるのであって,同じ写しをもって,第三債務者からそのものをもらうのか裁判所でコピーするのか分かりませんが,そこまで手間を掛ける必要はないだろうと,事件の通知だけで足りると思っています。 ○中原委員 回答の送付先について今回の手続は差押えの申立てとは異なり,その前の段階で財産があるかどうかというのを調べましょうという話です。とすれば,弁護士が代理人としてつくケースがほとんどかというと,多分そうではないケースもあるのではないかと思っています。まず,どんな債権者なのか銀行には分からないという不安感があります。もう一つは,金融機関として一番問題があると心配しているのは,回答が目的外に利用されて,例えばネットで公開された場合に,これは金融機関の回答を公開したとなれば,途端に金融機関に非難の矛先が回ってくるのではないかということを一番,懸念しております。確かに目的外利用に対する制裁措置というのは考えられていますけれども,それよりも金融機関の情報管理が甘いのではないかというような無用なトラブルが生じることに対しての抵抗感が極めて強いということです。大変言い方は悪いですが,全て裁判所経由で債権者に情報が渡るという制度となっていれば,金融機関としては,裁判所に回答したものであるとして,金融機関から直接債権者にはお渡ししていませんと反論ができるというメリットはあると思っています。   二つ目は,債権者に郵送した場合に,それが郵便戻りになった場合の処理はどうするのか,また,送った,受け取っていないといった事実上のトラブルがあった場合は,金融機関が相手方となり責められるという点に対する抵抗感も強いところです。それから,まずこれは杞憂かもしれませんけれども,裁判所に送ったものと債権者に送ったものの内容が本当に一致しているのかという問い合わせが生じるのではないかということも考えられます。このような点から,裁判所以外の債権者に対して回答書をお送りすることに対する金融機関側の抵抗は相当強いと思います。例えば,その対応策として,回答書を2通裁判所に返送するので,うち1通を裁判所から申立人の方に送っていただくというやり方もあるのではないかと思います。   また,債権差押えの場合の陳述書と同じ取扱いということについては,今は支店に差押え命令が届きますから,支店の負担とすれば陳述書を作成するのは月に数件あるかないかということだと思いますけれども,今回の場合には,銀行の本店ないしセンターという一定の場所に送れば,それを全店照会で回答を差し上げるということですから,大変多くの照会が一度に来ることが予想されるので,それを処理する部署の負担は相当大きいと考えられ,差押命令の陳述書の対応と同一に考えることは難しいと思います。   ただ,裁判所の方からも今日,改めて回答書についてお話がありましたので,もう一度,金融機関として御協力できるかどうかについて検討してみたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。ただ今の点はおおむねよろしいでしょうか。債務者に対しては必ずしも回答の送付までは要らないのではないかということで,裁判所と弁護士会の意見が一致しているように思いますが,ほかに特段の御指摘はありませんでしょうか。 ○垣内幹事 裁判所と弁護士会が一致しているのであれば,いいのかもしれないですけれども,債権者に対しては,閲覧しに来いということではなく送るということであるとして,債務者の方に送るということが原案になっているかと思いますけれども,送るということも,それが著しい裁判所の負担増大等につながるということでなければ,あってもいいのかなという感じもしておりますので,そこは検討の余地はあるのかなという気が私自身はしております。もちろん,負担が大きいのでそれは無理だということであれば,それは不可能を強いるということではないと思いますけれども,債務者としては自分に関する情報が第三者から開示されているということで,元々そういう性質の制度ですので,その結果について債務者に対しても送るということは,あり得る規律かなという感じがしているということを少し発言させていただきたいと思います。 ○山本(和)部会長 そこは更に引き続き検討を頂くということにしたいと思います。 ○阿多委員 先ほど頭出しした点で申し訳ないですが,今回の第三者からの情報取得について,先ほども申しましたけれども,当初の話は広く情報を取得するような形を想定しながらしていたんですが,相当コンパクトにまとまった内容になっているのかと。それを前提に,戻りますけれども,不奏功等要件を考えた場合に,端的に金融機関に照会をすると,先ほどの財産開示では一部開示という言葉を使いましたけれども,金融機関に照会するというときに,自宅があると照会できないのかと,そこをやはりお考えいただきたいと思います。全部開示,財産開示のように全ての財産を出せというのであれば,プライバシーの問題からいって相当負担が大きいですけれども,第三者に対する情報取得で,対象が預金,金融商品の,それも振替制度に乗っているものという状況において,財産開示と同じ不奏功要件そのままでないと駄目なのかと,少なくとも,これを出すのがいいかどうかはあれなんですが,現状の差押えに際して,別に探索的な差押えができて,不動産があろうがなかろうが差押えができるわけですけれども,その探索的な差押えの第三債務者への負担とかそういうのをより軽減できるような今回の制度であるにもかかわらず,利用できないと,債権者としては実はこの不奏功等要件があると利用できないのではないかと。こんな例を出すと,また,違う制度だと怒られますけれども,23条照会等をする場面において,債務者が持ち家が自宅だから照会できないと,そういうふうなことはもちろんしておりませんので,対象を限定した制度を考えるのであれば,ここの場面での要件については,今井委員ですと撤廃,私はそこまで行かなくても要件緩和したようなものを御検討頂けたらと思います。 ○山本(和)部会長 2(2)の要件の部分については,財産開示手続の要件における議論とも関連して検討する必要があるのかもしれません。先ほどの1の財産開示手続のところでは先に実施した強制執行の不奏功等の要件を維持する方向での御意見が多数でしたので,それをベースに考えることになろうかと思いますが,ただ今の阿多委員の御意見は,仮に財産開示手続についてはこの要件を維持するとしても,第三者からの情報取得の手続においてはこの要件を削除したらどうかという御提案かと思います。いかがでしょうか。 ○勅使川原幹事 今回のケースでは,対象は債務者だけではなくて第三者にむしろ拡大をしていて,拡大された第三者の中で,全第三者なのか一部の第三者なのかという意味では,そのとおりですが,第三者から情報を取得するに当たって,例えば第三者が持っている守秘義務がなぜ乗り越えられるのかというと,やはり債務者自身の開示義務が前提になっていて,だからこそ,守秘義務によって守られる利益がないんだという構成で多分,制度設計されているんだとすれば,やはりここは同じ要件でもって不奏功要件を要求しないわけには,多分,いかないだろうと考えております。 ○道垣内委員 私が個人的にどう考えるかという問題ではないのですが,守秘義務が乗り越えられるかどうかは別の解釈問題ですから,この制度自体が守秘義務が乗り越えられるということを完全に前提にしているとは言い切れないと思います。 ○山本(和)部会長 言い切れないというのはどういった意味でしょうか。 ○道垣内委員 こういうふうな制度における命令に従った場合には守秘義務は生じてこないのだという解釈が,当該契約の解釈として行われればそうなるというだけの話です。私は,個人的にはそのような解釈になるのではないかと思うんですが,ただ,それはこの制度が作られたから当然にそうなるというわけではないだろうと思います。 ○山本(克)委員 中原委員が再三再四おっしゃっているように,これは第三債務者としては金がもうかる話ではなく,むしろ持ち出しが多い制度ですよね。ですから,やはりそれはそれなりの理由がなければそういう負担は課せられないということで,結論的には,守秘義務は持ち出しませんが,勅使川原幹事の御意見に賛成です。 ○山田幹事 私も結論としては,先に実施した強制執行の不奏功等の要件は維持するべきだと思います。債務者が自分の非常に重要な情報を第三者に開示されるということをどう評価するかという問題でありまして,財産開示の場合にこの要件が要るのであれば,第三者からの開示の際には一層要るのではないかと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。先に実施した強制執行の不奏功等の要件については,第三者からの情報取得の手続との関係でも要求するのが相当であるとの意見が多数であるというのが,現在のところ意見の分布の状況であるということが確認できたかと思います。よろしいでしょうか。   それでは,別の点について,御意見ございますでしょうか。 ○中原委員 19ページの不服申立てに関する規律の点について,一言お話をさせていただきたいと思います。今回の金融機関に対する情報開示の対象が預貯金債権と振替制度に乗っている社債,株式等である限りにおいては,確かにここに記載されているように,これを公開しないことに対する金融機関独自の利益というのは多分ないだろうと思います。しかし,照会の対象が将来,拡大して,例えば与信取引により金融機関が入手した情報など金融機関が独自に入手している情報まで拡大するようなことがあれば,これは看過することはできないと思います。(注2)にも上げていただきましたけれども,田原裁判官の意見もありますように,もしそういう形で制度が拡大する場合においては,当然のことながら,不服申立てについて相応の手続を作っていただく必要があると思います。   それから,二つ目は,第三者に対する費用の支払という点です。債権者の立場に立つと,債務者の取引金融機関が分からなければ,多分,多くの金融機関に対して調査をすることを試みるだろうと思います。そうなれば,極めて探索的な預貯金債権や振替社債等の照会が申し立てられると思いますし,それに応じて膨大な事務量を生じることになるので,やはり合理的に制約をしていただく必要があるだろうと思います。その方法としては,手数料の設定によって,全く無意味な,取引関係がないと思われるところまで広げることを避けるというものがあるのではないかと思います。したがって,第三者に対する費用については,照会を合理的に制限することも含めた水準設定にお願いしたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。1点目の御指摘については,そのとおり,対象となる第三者や情報の範囲によって手続が違ってくるということは,当然だろうと思います。今のところは(1)に掲げてある情報を取得する手続を念頭に御議論いただいていますが,これと異なり,例えば,公的機関からの情報取得の手続が議論の対象になる場合には,その手続も改めて議論しなければならないだろうと思いますし,仮に御指摘のあった与信情報の開示が問題になれば,当然,その手続についてはその情報の性質等を考慮しながら改めて考えるということになろうかと思います。2点目の点も,ごもっともということだと思いますが,具体的な費用の額については,運用になるのか規則になるのか分かりませんが,改めて検討することになろうかと思います。成田幹事から何か補足的な説明はありますか。 ○成田幹事 多分そこのところは金融機関の方にいろいろまたお願いしなければいけないところだと思いますが,その点につきましては,執行費用の規律のところで上がっているかとも思いますが,恐らく申立人から裁判所に予納がされて,それを金融機関にお支払いするという形になるのかなとは思っておりますが,そういう規律で特段異論はないところではありますが,そうだとすると,予納してもらうためには金額をある程度決めなければいけないという部分は出てきますので,そこを統一できるかどうかというのは一つの悩みどころかなと思っていますので,その辺りは,金融機関の方にまた御相談させていただければと思っております。その際には,先ほど中原委員がおっしゃった観点を踏まえて,こちらも検討させていただければと思っております。   少しそれに関連してになりますが,執行費用の規律のところで,22ページ,23ページ辺りになるかと思いますが,預貯金債権がない場合の回答が寄せられたときはどういうふうにするかといったところがあるかと思いますが,仮に,ないという回答があったとしても,照会自体が不要な手続であったとまでは言えないのかなと思っておりまして,当該金融機関等に対する照会に掛かる費用は執行費用に当たると見ておけばいいのかなとは考えております。 ○阿多委員 費用の点,金融機関と裁判所からのお話がありまして,我々の方も考えていることをお伝えしたいと思います。まず,該当なし等の回答がなされたとしても手続としては完結しているかと思いますので,裁判所の御発言と同じで,やはりそれは費用として認めていただけたらという形で,執行費用化を考えていただきたいと思います。それから,中原委員からのお話がありました,事務が増えるというのは,まあそうなのかもしれませんが,むしろ我々としては,現在やっている探索的な差押えでかなりの空振りがあるわけで,裁判所の方は逆にそれに対して2週間内の回答をしなければいけない,回答しなければペナルティーになるというようなものが前さばきできる形になるのではないかと,あるものしか実際,押さえなくなりますので,そういう意味では,後の方の事務が前に回ってくる,なおかつ回答期限についても今回,定めませんし,制裁も入っていませんので,そこを強調して,抑止的な意図をもって費用設定するというのは,むしろ慎重に御検討頂けたらなと。この中では,掛かる費用というのは支払うのは当然だということをずっと発言してきましたし,そこを撤回するつもりはないんですけれども,費用でコントロールするのはいかがなものかと,定め額として裁判所と金融機関,逆に我々も実務も含めて,費用については相談できたらなと思っていますので,その点を付加しておきたいと思います。 ○道垣内委員 中原委員がおっしゃった方がいいのかもしれませんが,そもそも探索的な差押えによって銀行にいろいろ実際上の費用が掛かってしまうことに正当性はあるのかというと,それには正当性が本来はないのではないかと思います。そのような探索的な差押えが行われなくなるからよいではないかというのは,若干,問題のある言い方ではないかなという気がします。 ○中原委員 道垣内委員の非常に強力なサポートをいただきました。その点も含めて,債権者としては,気軽にできるのであれば取りあえずやってみたいというような興味本位の探索的な照会が増えるのではないかと思います。そうなれば,金融機関の負担だけではなくて,制度の運用としても余りよろしくないのではないかと思いますので,ある程度の費用設定というのは考える必要があるだろうと思っています。 ○山本(和)部会長 分かりました。この点は,先ほどありましたように,規則か運用かは分かりませんけれども,法制審議会における議論が終わった後に,更に御議論を頂くところになろうかと思いますが,こういう議論があったということは当然,記録には残されるということになります。 ○谷幹事 今の濫用にわたらないような費用設定が必要だという観点が必要だというのは,私も全く異論はないですけれども,様々な観点が必要ですので,今の規律だと42条が適用されるということになれば,最終的には1項で債務者の負担になるということになりますので,その点も踏まえたバランスのよい費用の定め方が必要かなと思いました。 ○山本(和)部会長 ほかの点はいかがでしょうか。 ○谷藤関係官 部会資料の21ページの下の「なお」以下の段落に,預貯金債権がない旨の回答がある場合には債務者に回答を送らなくてもいいのではないかという議論がされております。私どもの立場は,先ほど成田幹事から申し上げたとおり,債務者には通知で足りるという立場ですけれども,預貯金債権がないという回答であっても債務者にこれを送るというのが通常の考えではないかと思いますので,預貯金債権のありなしにかかわらず債務者に通知をすると考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。原案をサポートする御意見かと思います。ほかにいかがでしょうか。おおむねよろしゅうございましょうか。   それでは,2(2)以下の部分については,幾つかの御意見が出されました。原案の修正を求める意見としては,(4)イの回答の送付先の問題のところで,債務者に回答書の写しを送付しなければならないという原案に対して,必ずしも回答書の写しである必要はないのではないかという御意見が出され一方で,しかし,垣内幹事からは原案をサポートするような意見も出されたところだと思いますので,ここは少し事務当局で引き取っていただいて,更に御検討を頂ければと思います。このほかのところは,基本的には,運用上の問題を含めて様々な御意見は頂きましたけれども,おおむね原案の考え方が支持されたのではないかと理解をしております。   よろしければ,本日の審議はこの程度とさせていただければと思います。   それでは,次回の議事日程等について,事務当局の方から御説明をお願いします。 ○内野幹事 次回は平成30年4月27日金曜日,午後1時半から午後5時半まで,場所は東京高等検察庁第2会議室を予定しております。次回は,今回の部会資料では取り上げなかった論点を中心に,更に御審議をお願いしたいと考えております。よろしくお願いいたします。 ○山本(和)部会長 それでは,これにて法制審議会民事執行法部会第17回会議を閉会とさせていただきます。本日も熱心な御審議を頂きまして,誠にありがとうございました。 -了-