法制審議会 民事執行法部会 第18回会議 議事録 第1 日 時  平成30年4月27日(金)自 午後1時30分                      至 午後5時43分 第2 場 所  東京高等検察庁第2会議室 第3 議 題  民事執行法制の見直しについて 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○山本(和)部会長 それでは,予定された時刻になりましたので,法制審議会民事執行法部会第18回会議を開会したいと思います。   本日も御多忙の中,御出席を頂きまして誠にありがとうございます。   (幹事の自己紹介につき省略) ○山本(和)部会長 よろしくお願いいたします。   本日は,全ての委員,幹事,御出席というふうに伺っております。   次に,本日の審議に入ります前に,配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○内野幹事 事前送付資料といたしまして,部会資料18-1及び18-2を送付させていただいております。また,席上配布資料といたしまして,4月4日付の阿多委員作成の資料等をお配りしております。 ○山本(和)部会長 それでは,審議に入りたいと思います。   まず,部会資料18-1「債務者財産の開示制度の実効性の向上に関する要綱案の取りまとめに向けた検討(2)」について,御審議を頂きたいと思います。事務当局から御説明をお願いいたします。 ○松波関係官 御説明いたします。   部会資料18-1では,債務者財産の開示制度の実効性の向上に関する論点のうち,債務者財産に関する情報を公的機関から取得する制度を新設するという課題について取り上げております。   この課題を検討する上でも,前回御議論いただきました金融機関等からの情報取得制度に関する論点と同じように,まずは,この制度の対象となる第三者と情報の範囲をどのように定めるのかが問題になろうかと思います。部会のこれまでの御議論を振り返りますと,この問題を検討するに当たりましては,例えば,情報の取得の必要性や公的機関の保有する個人情報保護の必要性等との関係,情報提供を命じられることとなる各公的機関の実務上の対応能力の有無や程度を考慮して検討していく必要があるのではないのかと思います。   今回の資料では,こういった様々な要素を考慮した上での差し当たりの御提案といたしまして,まず,本文(1)アの部分で,不動産に関する情報を登記所から取得する制度を新設することを提案しております。これまでの御議論や意見募集の結果によりますと,不動産については,その価値が一般に高く,これに対する強制執行をすることが債権回収のために重要である一方で,現状では債権者が自らの力で債務者の不動産に関する情報を取得するのは必ずしも容易ではないとの御指摘がありました。こういった情報取得の必要性を前提といたしまして,更に登記情報に含まれる個人情報保護等の関係についても整理するため,部会資料の4ページから5ページの辺りにかけて,若干の説明を試みております。公的機関の保有する個人情報の目的外利用が許容されるかどうかを検討するに当たりましては,例えば,情報取得により得られる利益と情報保護により得られる利益を比較衡量することが考えられるかと思いますが,このうちの個人情報の保護により得られる利益の評価につきましては,例えば公的機関からの情報取得に先立って財産開示手続が実施されており,債務者自身がその情報についての陳述義務を負うというような場面であれば,これに含まれる情報を債権者との関係で保護する必要性は相対的には小さいという評価があり得ようかと思います。その上で,不動産に関する権利には様々な種類のものがありますので,登記所からの情報取得制度を仮にに作るとした場合に,具体的にはどういった権利に関する情報を対象としていくのかということも検討の対象になろうかと思います。部会資料の5ページのウのところで簡単に触れておりますとおり,この制度により取得すべき情報としては,まずは土地・建物についての債務者の所有権に関する情報というのが考えられるかと思いますが,このほか,地上権のように不動産執行の対象となるような物権についてもこの情報取得の必要性があるかどうかという点に対しては,様々な御指摘があろうかと思います。また,この制度の対象となる情報の範囲を検討するに当たりましては,情報取得を命じられることとなる各登記所の実務上の対応能力がどの程度あるのかも考慮しなければならず,その関係で,この制度の対象とすることができる情報の範囲については,一定の限界はあるかもしれないとも考えております。   次に,部会資料の本文(1)イでは,中間試案でも取り上げましたように,債務者の給与債権に関する情報を取得する制度を新設することも提案しております。部会のこれまでの御議論や意見募集の結果によりますと,債務者が個人であるケースでは,その最も重要な財産が給与債権であることが少なくない一方で,債権者が債務者の勤務先を把握することは現状では必ずしも容易ではないという御指摘がございました。この情報取得の必要性につきましては,近時において,特に,養育費等の扶養義務に係る請求権を有する債権者や,犯罪被害者を含め生命身体の侵害による損害賠償請求権を有する債権者を保護する必要性があるということが,社会的に強く認識されるに至っていることが指摘できるように思います。これらの請求権をより確実に実現することができるようにするためには,債務者の給与債権に対する強制執行をより容易かつ確実に実施することができるような制度が求められているとの御指摘もありました。こういった情報取得の必要性を前提といたしまして,更にこの給与債権に関する情報について,また個人情報保護との関係も議論していただく必要があろうかというふうに考えております。   なお,債務者の勤務先に関する情報を保有していると思われる公的機関の種類には,様々なものがあり得ようかと思います。今回の部会資料の7ページのウのところで,差し当たり考えられる公的機関の種類を列挙した上で,その公的機関が保有していると思われる情報の内容について簡単な説明を加えております。これらの市町村や厚生年金保険の実施機関のうち,どの機関からの情報取得を目指すのが適切であるのかというのは,個別の事案によって異なり得ると思われます。そのため,公的機関からの情報取得制度を設けるにしても,個別具体的な事案におきましては,債権者の側において,その申立ての際に,情報提供を命じられる対象となる公的機関を具体的に特定していただきたくことが考えられようかと思います。   部会資料の本文の(2)と(3)の部分では,公的機関からの情報取得をするための要件について取り上げておりまして,(4)の部分では,この手続の概要を取り上げております。部会のこれまでの御議論を踏まえますと,公的機関からの情報取得の要件につきましても,基本的には財産開示手続に関する規律を参考に,仮に財産開示手続の申立てに必要とされる債務名義の種類等を見直すのであれば見直し後の要件と同様の規律を定め,また,前回御議論いただきました金融機関等からの情報取得の要件と同様のものとすることが,基本として考えられようかと思います。   ただ,資料にも簡単に書いておりますが,公的機関からの情報取得と,金融機関等からの情報取得の場面では,その対象としている情報がもちろん異なりますし,これに関連する情報保護の必要性や公的機関の負っている守秘義務の内容というのも異なるというふうに考えられます。そこで,この要件を検討するに当たっては,これらの違いに留意した検討が必要ではないのかと思います。その違いは幾つかあるわけですが,まず,本文(2)ウや(3)イでは,公的機関からの情報取得手続を実施するために,財産開示手続を前置することを要件とすることを提案しております。また,本文(3)アの部分では,債務者の給与債権に関する情報を取得する手続の申立てをすることができる人の範囲につきましては,扶養義務に係る請求権を有する者と,生命身体の侵害による損害賠償請求権を有する者に限定することを提案しております。さらに,公的機関からの情報取得の手続を設けるに当たりましては,この情報提供命令に対する不服申立てをどのように仕組むのかといったことも検討する必要があろうかと思いますが,この具体的な規律に関する差し当たりの選択肢といたしましては,資料13ページの辺りに記載をしておりますように,例えばということですけれども,公的機関に情報提供を命ずる旨の決定がされた場面では,債務者や公的機関からの執行抗告を認めるということにするとともに,また,執行停止の申立てをすることができるような仕組みを設けておくということがあり得ようかと思います。   資料の本文の(5)から(7)まででは,公的機関からの回答の送付先等のように,この手続に関するその他の規律を御提案しておりますが,これらの事項につきましては,基本的には,前回御議論いただきました金融機関からの情報取得に関する議論と同様の御議論があり得るのではないかというふうに考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま御説明がありました部会資料18-1について,適宜,項目を区切って御議論を頂きたいと思います。   まずは,一番基本の部分であります「(1) 制度の対象となる第三者と情報の範囲」について,御議論いただきたいと思います。今回の資料では,不動産に関する情報取得と給与債権に関する情報取得の制度を設けることにしてはどうかという基本的な考え方が述べられています。どなたからでも結構ですので,御自由に御発言いただければと思います。 ○阿多委員 質問の形になるのかもしれませんが,不動産に関する情報で,最初のところでは土地建物についての所有権,それで又のところで共有持分も含めての記載になっているんですが,いわゆる甲区欄の記載が主としてここで挙がっていて,乙区については地上権や小作権等,別のグループで問題になっているように思うんですけれども,例えば区分所有建物等についての敷地権で,その敷地権自体が定期借地権になっているような場合ですと,それ自体は元になる敷地権自体は乙区の借地権が前提になると思うんですけれども,そうなった場合は,専有部分については所有権の共有持分というような形になると思うんですけれども,何かそういう仕分けがまずできるのかというのと,もう1点は,そもそも論なんですけれども,これは新たに制度として,そういうふうな照会のシステムを構築されるという前提での御提案なのか。であるならば,逆に新たな制度を作るのであれば,余り情報を区別することなく,広く情報を取るということもあり得るのではないかなと,入口の素朴な疑問なんですけれども。 ○内野幹事 まず,どういう情報を取っていこうかということ自体が,まさにこの部会の議論の対象であると思いますので,阿多委員の御意見をお聞かせいただければと思います。例えば,ただ今の御意見では,甲区欄に登記される権利であるのか,乙区欄に登記されるものなのかといった着眼点を御指摘いただいたものと理解しました。このほか,どういった情報がその情報取得の必要性が大きいのかという観点や,個人情報保護や目的外利用の制限との関係とどのように調整するかというところについても,御議論いただきたいなと感じております。事務当局の差し当たりの認識としましては,こういった情報取得の必要性や個人情報保護との関係では,それが甲区欄の情報なのか乙区欄の情報なのかといったことは,それ自体に大きな意味があるというふうに今のところは考えておりません。そういった形式的な議論のみではなく,やはり,実質的に取得する必要性が大きい情報は何かというところから御議論いただきたいと思います。   その上で,登記情報を管理するシステムとの関係のところは,この制度を創設した後の具体的な運用の在り方にも関わる重要な御指摘だと思います。ただ,それでもやはり,今回のこの部会のマンデートとして与えられていた課題との関係では,まずは,どういった情報を取得する必要があるのかということを具体的に御議論いただくのが出発点であるように思います。もちろん,具体的な制度を仕組む上では,情報提供を命じられることとなる登記所の実務対応能力を含め,様々な考慮要素について検討する必要はあろうかと思いますが,システムの構築に関してはお金の絡む話でございますので,この場で議論できることには一定の限界があるかもしれません。仮に,この部会において,こういった制度構築が望ましいんだということが一定程度明らかになれば,この場では具体的なことを直ちには申し上げられませんけれども,一般論としては,そのような議論を踏まえ,行政として努力していくという方向性になるんではないかというふうには思っております。 ○阿多委員 質問の立て方がよくなかったのかもしれませんが,強制執行の対象となり得る財産は何なのかというような形で考えたときに,財産的価値があって登記等で識別できるような権利に関する情報であれば,それは差押えの対象になり得るというのであればということが,そこがまず前提になると思うんですね。ただ,実際にどの登記がされているようなものが対象になっているのかというと,これは実務家としては所有権等が対象になっているのはほぼ間違いないわけですけれども,ですから,理念というか元から考えてどう在るべきかと聞かれると,最初からこれだけでいいですねと,所有権だけでいいですね,共有持分だけでいいですねというような発想にはなかなかならないということで,ほかにも財産的価値がある権利については,情報取得の必要があるのだと考えております。その上で,これらの権利のうちどの範囲の情報をこの制度の対象とするかについては,それに伴うコストの関係でいろいろ出てくるのかなと思って質問させていただいたと,そういう次第です。 ○山本(克)委員 問題の設定の仕方として,不動産登記に関する情報取得と勤務先に対する情報取得を同じ個人情報として一くくりにするのが適当なのかどうかという問題があるように思います。情報公開の世界では,不動産登記事項というのは公に知られている情報なので,情報公開の対象に必ずなるというふうに普通考えていると思うんですね。それに対して,勤務先情報というのはそうではないというふうに考えられていて,場合によっては非公開になると。公務員はちょっと別なんですが,民間に勤めている限りはそういうふうに扱われていると思うんです。ですから,同じ個人情報だという扱いで,同じような議論の仕方をしていいのかどうか,それ自体,私は非常に疑問があるのではないのかと思います。もちろん,飽くまでも登記事項については個人情報でないというだけで,例えば申請書類でどういうことが書かれていたとかなると個人情報になる可能性はあるんですが,登記事項証明書に出てくるような事項は,これは個人情報ではないというふうに,情報公開の世界では考えているのではないのかなと私は思いますが,その点はいかがでしょうか。 ○松波関係官 まず,基本的な考え方としては,不動産登記に記載されている事項も個人情報であり,その情報の保護の必要性があるということが前提であると思います。不動産登記につきましては,何人もその閲覧をすることができるということになっているのは御指摘のとおりだと思いますけれども,閲覧することができるとされていることのみをもって,当然にすべて公開されているものとして制限なく提供してよいというふうに理解していいかどうかというのは,議論の余地があるように思っています。現状の不動産登記制度は,飽くまで物ごとに記録の閲覧をしていただくのが前提とされていて,ある人に着目して,その人の保有する不動産を網羅的に検索することまでは予定されていないというような御指摘があるのではないかというふうに考えております。 ○山本(和)部会長 よろしいですか。 ○山本(克)委員 趣旨は分かりました。 ○中原委員 預貯金については日々の増減があります。例えば財産開示で金融機関の回答した預貯金残高が,執行時に同じ残高で存在するかどうか分かりません。しかし,不動産については,頻繁に所有権が移転するということはさほどないでしょうし,財産的価値も高いと思いますので,是非不動産に関する情報開示制度の導入をお願いしたいと思います。   導入する場合には,債務者に注目して,網羅的に検索できるような制度を是非作っていただければと思います。 ○村上委員 給与債権について質問ですが,この制度の対象となる第三者を市町村又は厚生年金保険の実施機関ということで整理して頂いております。今回の資料を拝見して,こういう理解でよいのかという確認ですが,民間サラリーマンが加入する日本年金機構の方は,勤務先を把握しているので勤務先の情報を提供できるということですけれども,国家公務員共済組合と地方公務員共済組合については,どこに勤務しているかということまでは分からないので提供はできないということなのでしょうか。それで,日本私立学校振興・共済事業団は提供できるということですと,国家公務員と地方公務員については,市町村から取るということはできるけれども,それ以外のところからは現状では取得できないということなのでしょうか。教えていただければと思います。 ○松波関係官 まず,厚生年金保険の実施機関が保有している情報の内容について御質問いただきましたので御説明します。   日本年金機構や私立学校振興・共済事業団が,それぞれの加入者の勤務先を具体的に把握しているというのは御指摘のとおりでございます。御質問は,債務者が国家公務員や地方公務員のような場合にはどの共済組合から情報を取得することになるのかという御疑問であろうかと思います。この御質問の件につきましては,現時点ではまだ事務当局としても検討の途中ではありますが,少なくとも,各共済組合の単位のレベルでは,例えば法務省であれば法務省共済組合というレベルでば,その組合員の具体的な勤務先の情報を保有しているというところだと思います。そのため,新たな手続により法務省共済組合に対して情報取得を求めれば,債務者が法務省職員であれば,法務省共済組合から,債務者の勤務先に関する情報を取得することができることになろうかと思います。この点では,債務者が民間のサラリーマンである場面において日本年金機構から情報取得をしようとする場面と同様であると思います。村上委員から御指摘あったのは,おそらく,国家公務員共済組合連合会や地方公務員共済組合連合会の位置付けのことだと思いますが,このうちの国家公務員共済組合連合会は,ある人に着目して,その人がいずれかの国家公務員共済組合に入っているかどうかというのと,20ある共済組合のうちのどこに加入しているのかという情報を保有していると思われます。他方で,地方公務員共済組合連合会は,個別の組合員に関する情報は全く持っていないということになろうかと思います。 ○村上委員 ということは,この制度の対象となる厚生年金保険の実施機関については,いずれをこの制度の対象とするかについては具体的には明示していないということなので,いずれどこかで明示していくことになるかと思いますけれども,例えば債務者が地方公務員であるような場面で言えば,公立学校共済組合に所属しているはずだということが予想されれば,公立学校共済組合に照会していくと,そうすれば債務者が具体的にどこで勤務されているのかということまでは分かるということの理解でよろしいでしょうか。 ○松波関係官 御指摘のとおりです。 ○谷藤関係官 例えば,国家公務員であることは分かるけれども,どこの省庁に所属しているか分からないという場合には,まずは国家公務員共済組合連合会に照会した上で,債務者がどの共済組合に所属しているかについての回答を得て,その上で,改めてその共済組合に債務者の具体的な勤務先を照会をするという流れも想定されることになるんでしょうか。 ○内野幹事 今後の議論次第だと思いますが,そういう流れを構想するというのも一つのお考えであろうかなというふうには考えております。 ○山本(和)部会長 よろしいですか。   ほかにいかがでしょうか。 ○佐成委員 その前の不動産の論点で,中原委員は金融界として御発言されたと思いますが,産業界というか経済界としても,まず,執行対象として考えるのは,やはり財産価値の高い不動産でありますし,しかも,所有者がころころ変わるというようなことは余り多くないというところもあるので,是非その辺りについての情報をきちっと取れるようにしていただきたいと思います。現行では登記所へ行って調べればいいわけですけれども,それ以上に人単位で情報が取得できるという制度は,執行の場面を考えたときには非常に有用性が高いのではないかと感じております。 ○今井委員 金融界の代表の方と,それから経済界の代表の方から意見を頂いて,大変感謝しております。   ユーザーとしての弁護士が,ユーザー自体は当事者本人なんですが,代理人として我々は執行の問題に一番身近に関与していると思っているわけですが,そういう中で,今回,第三者情報が不動産と勤務先と入ったことについては大変感謝している気持ちです。といいますのは,我が国の執行制度が,個人的には諸外国とも比較して我が国の執行制度の弱さ,実効性が乏しいというふうなコンプレックスをずっと持っているところがございましたし,現実に原告としての依頼を受けたときに,判決になっても財産が分からないしなというのは,これは多くの弁護士の実感するところで,ただ,そういうことに慣れてしまっているものですから,どうしても裁判をやるときには判決を目指すというよりは,その中で和解を目指すというような本音があることが少なからずあるわけであります。   ただ,今回,佐成委員からお話がありましたとおり,勝ったとして執行ができるだろうかというときに,まず真っ先に浮かぶのは,まずは不動産,財産的価値の高い不動産,それから預金とか,勤務先や居住の近くの銀行にちょっと模索的にやってみようかとか,それからやはり勤務先が分かればと,まず浮かぶのはその辺なので,それが今まで分からなくて,よく依頼されたときに,弁護士というのはその情報を知っているものだと思っているユーザー,国民の方が結構いらっしゃるので,いや,それは我々は探偵ではないのでなんていう話をするわけで,そういう中で,今般,不動産情報と勤務先情報を正面から取り組んでいただいて,これは必ず実現していただきたいなと思うのと,本当に,私が感謝というのは変かもしれませんが,この審議会がここまでやってくれたことに,まだ終わったわけではないんですけれども,本当にほっとしているところがありまして,もうこのままでいけばコンプレックスはほとんどなくなる可能性はあるな,などというふうな感想を持っております。 ○佐成委員 今,今井委員がほっとされているようですけれども,そもそも現行の不動産登記の仕組み自体がそのような形,すなわち,今,我々が描こうとしているような名寄せができる制度になっていないというところが,まず大きな問題だと思っております。つまり,先ほど少し申し上げたとおり,登記所へ行って,その住所の不動産の所有者は誰かと調べないと,今は分からないわけです。ですけれども,今回の制度は,債務者が持っている土地がどこにあるのかという情報を取得しようというような方向性ですから,いわゆる名寄せになるわけです。   弊社の事例を出すとあれですけれども,ガス会社一般には,大体メーター単位で所有者とかの情報を取得しておりまして,ある人がどこのガスを使っているかとか,どういう契約をしているかとか,そういった情報は全く取れません。それを取ろうとすると相当ハンド作業が必要になって,相当コストが掛かってしまうというのが現状であります。ですから,登記も同じ仕組みだろうと,要するに,現状はある土地に対して情報がぶら下がっているという形で,それを逆にするということですから,そういったところのシステム開発というのは当然必要になるのではないかと思います。そういったところの見通しというのはどうなっているのか,御質問させていただきたいと思います。 ○山本(和)部会長 では,事務当局から御説明をお願いします。 ○松波関係官 不動産登記のシステムについての御質問ですが,御指摘のとおり物ごとに情報を管理しておりますので,登記が電子化されたとはいえ,現状のシステムではいわゆる名寄せができるようにはなっておりません。そのため,佐成委員に御紹介いただいた例と同じように,現状で名寄せをしようと思うと,相当に人の手の掛かる作業だと思いますし,またこういった名寄せに近いような業務というのは,これまで登記所で行われていたものとは異質の初めての業務ということになろうかというふうに認識しております。 ○山本(克)委員 登記なんですけれども,これは,登記所単位に情報提供を命じて,その登記所の管内の不動産のみについて回答が得られるということになるわけでしょうか。 ○松波関係官 まず,今回の資料で御提案しています登記所からの情報取得というのは,登記所の回答単位については様々な選択肢があり得るということを前提に記載させていただいています。山本克己委員御指摘のように,全国に約400ある各登記所を単位として,その管轄区域内に所在する土地・建物の情報のみを回答するということも考えられようかと思います。他方で,もう少し広い範囲を回答の単位として定めるという選択肢のもあろうかと思いまし,また,委員,幹事の先生方の御意見の中には,全国単位での情報検索をできるようなシステムを仕組むべきだという考え方を前提とするような御意見もあったかというふうに認識しております。この点については,情報取得の必要性等を含めた本日の御議論を踏まえた上で,今後の検討課題になると思っています。 ○山本(克)委員 全国単位で名寄せするなんて不可能なのではないですか。同姓同名者を排除するだけの識別する方法というのは,多分現在の不動産登記の情報には含まれていないと思いますので,同姓同名者が,私も時々自分の名前がニュースに出てきてびっくりしたりするんですけれども,やはりそういうことは山本姓なら十分あり得るわけですよね,部会長もそうだと思いますけれども。そういうことを解除できるようなシステムを採ろうと思ったら,結局,少なくとも日本国民については,法人については比較的やりやすいと思うんですが,国民についてはやはり個人番号,マイナンバーカードに書いてあるナンバーで識別するとか,そういうことをやっていかないと恐らく不可能で,恐らく登記所単位でもそれはかなり困難な作業で,ノイズがすごく多い情報しか渡せないと。そうすると,結局何が起こるかというと,第三者異議が大量に出てくると。この情報に基づいて差押えをしたけれども,第三者異議を起こされて,それで負けましたということが出てくるおそれというのは排除できないように私は直感的に思うんですけれども,いかがでしょうか。 ○内野幹事 一つの申立てでどの程度の範囲の情報を取得することができるかというところは一つの論点であるかと思います。その際の議論においては,山本克己委員の御指摘のようなところや,実務上の対応能力という部分についても考慮する必要があるのだと思います。今日の御議論の雰囲気を見ていて,事務当局としては更に考えていきたいというふうに考えているところでございます。 ○阿多委員 多分皆さんイメージしているのが,本当にビッグデータの処理から先ほどの登記所に掛けるまで相当イメージが幅があると思うんですけれども,多分望ましいのは,それは広いに越したことはないし,対象情報も多いに越したことはないわけで,あとはあれなんですが,ただ,山本克己委員の御指摘の同姓者に関して言うと,これはかなり限定したとしても,例えば婚姻して氏が変わって同じ名前になった,名字が変わったがために名前も一緒になってしまったという例もあれば,昔からの旧家で,名前自体をまた変えていって,大体同じ名前になると,そういう例は一定あり得るわけで,むしろそういうふうにして出てきた,この照会で出てきた譲歩を,あとはどうセレクトしていくのかということなので,そのおそれがあるから狭くていいんだという形にはしてほしくないというのが要望ですので。 ○山本(克)委員 よろしいですか。   それこそ債務名義上の債務者以外の情報を出すことが,私は余り不動産登記については保護を要する個人情報だとは言いたくない方なんですけれども,債務名義に表示されていない人の情報が出ていくことについてはどうお考えなんでしょうか。 ○阿多委員 ですから,私,先ほど申し上げました,それは現時点で,これは多分後の方の話になるのかもしれませんが,結局債務者の特定の情報が,例えば預貯金で求められている情報だとか,別途暴力団排除で求められている情報だとかという形でいくと,少なくとも現状登記でいくと,名前と登記申請のときの住所しか分からないわけですよね。それで検索を掛ける限りにおいて,いろいろなものが出てくる制度だということを割り切って制度設計せざるを得ない。たがら,公開情報だからそれはできるんであって,本当に勤務先で同姓同名で違う人の情報がいくというような形になると大変ですけれども,この登記の場合はそこはもう割り切らざるを得ないのではないかというふうに考えていますが。 ○山本(和)部会長 よろしいですか。 ○山本(克)委員 余り納得は……。 ○谷幹事 こういう部会の場ですから,広くいろいろな観点から議論をした方がいいだろうという意味で申し上げますと,今のような問題も含めて,解決できるとすれば,やはり市町村の持っている名寄せ情報というのは,個人の特定を含めて恐らく生年月日等で特定をするので,もちろん同姓同名で同じ生年月日で,かつ住所も一緒ということがないわけではないかも分かりませんけれども,登記情報よりも個人の特定という点では精度は高いということにはなるだろうと思いますし,かつその場合は市町村単位ということになって,市町村を超えた広い単位で情報取得できるわけではないんでしょうけれども,そういう限定はありつつも,個人の特定という問題,それから新たなシステム構築が全く必要ないという点では,私どもの観点からすれば,名寄せ情報を取得できれば非常に手っ取り早いし有り難いなというふうには思っております。   様々な問題点があって,なかなか難しいということなのかも分かりませんけれども,純粋な私どもの感覚からすれば,名寄せ情報というのも非常に検討の余地があるのではないかと思うところでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○道垣内委員 お話を伺っていていろいろ分からない点があります。まず,民事執行法上の具体的な手続,差押えの具体的な手続というのによく分からないところがあるのですが,例えば,「A」という債務者名に対する債務名義を取得したというときに,「A」という名前であれば,住所がどこにあろうが,登記簿上,書いてある住所が何であろうが差押えができるという,そういう制度なのでしょうか。 ○山本(和)部会長 その債務名義には少なくとも氏名と住所が記載されていますよね。それで,通常は,「A」という氏名の者で登記されている登記情報を探してきて,更に住所の記載を見て人の同一性を確認するということが想定されているのでないでしょうか。 ○道垣内委員 そうすると,第三者異議がめったには出てこないという話になりませんか。Aさんが前に住んでいた住所に「A」という同じ名前の別の人が住んでいるということにならないと,誤って差押えがされるということにはならないような気がするのですが,いかがでしょうか。 ○山本(克)委員 それはそうでもないのではないですか。   申請時の住所しか登記されないので,その後,転居した人について,今は住所を追跡するのもかなり難しくなっていますので,多分これではないかと,同一性の識別をどこまでできるかというのは,そこにもう住んでいない人については,やはり難しい問題があるのではないですか。 ○道垣内委員 現在の実務では,そういった当事者の特定についてはどういった手続になっているのでしょうか。つまり債務者名と登記者名が一致していれば差押えができるのか,そこに書いてある住所が債務名義とイコールではないといけないのか,それとも,違ってもいいけれども,元はここに住んでいたということが,元はその住所だったということを明らかにしないと差押えができないのか。どういうシステムになっているんですか。 ○山本(和)部会長 それは,裁判所の方からお答えを頂くのが良いと思いますが,いかがでしょうか。 ○相澤委員 基本的には債務名義上の債務者の財産しか差し押さえられませんので,もし登記記録上の住所と債務名義上の住所が違うのであれば,登記名義人と債務名義上の債務者が同じ人物であるということを証明していただかなければいけないと思います。それが証明できなければ差押えは難しいということになります。 ○道垣内委員 そうすると,山本克己委員がおっしゃった第三者異議が続発するというふうなシチュエーションが,やはり私にはよく分かりません。名前がイコールだったら差し押さえられるというふうなシステムにして初めてそういう問題が起こるのではないかなという気がしますが,私の認識で正しいのでしょうか。 ○内野幹事 相澤委員から御指摘があったように,名前と住所情報で特定して実際の差押えに至るので,その二つの情報でやるのであれば,実際には第三者異議が申し立てられる事案はさして多くないのではないかという御指摘をいただいたと認識しました。 ○道垣内委員 そうです。 ○山本(克)委員 ちょっと私の誇張が,言いすぎたところがあるというのは今認識しましたけれども,しかし,同一性の証明というのがどの程度厳格になされなければいけないのかという点はやはりあると思うんですよね。だから,従来よりは増える可能性はやはりあるのではないのかと。完全に,今,住所をフォローし切るということは,様々な個人情報保護制度のせいで,個人についての住所の変遷を知ることはかなり難しくなってきていますから,そこで一定のノイズというものに基づいて差押えをされる可能性を完全には排除できないと。 ○阿多委員 むしろ後の手続の組み方の話だとは思っているんですが,先ほども御指摘ありましたように,登記のときは登記申請時のときの住所が記載されているだけで,もちろんその後に補正されて現住所に合わせる方もいらっしゃるかもしれませんが,そのまま放置されていることが多いと。そうすると,逆に思いますのは,債務名義に表示されている住所と,実際登記に上がっている住所が違うので,こちらの方とするとより広く情報をもらおうと思えば,債務名義に表示されている住所以前の,極端な言い方をすれば戸籍の附票に挙がっている住所を全部並べて,これに該当して,この名前の人のものについて検索をしてくださいと,少なくともそういうふうな形になるのかなと思っています。そうすると,一旦は住民票がそこにあったというような形になりますけれども,更にそれを時期で特定するのかと,どこまでの本当に識別の情報を今後取り込んで,この手続で情報を取得するのかという組み方によってリスクはかなり限定できると思うんですが,私が先ほど挙げましたように,氏が変わったとか,相続したとか,たまたま同じ,よくある氏の方が同じ住所にいたとかいうことは,やはり制度として,リスクとしては残らざるを得ないのではないかと,そういうふうなイメージでこの制度を考えています。 ○内野幹事 御指摘のとおり,例えば,債務者の旧住所を併記した形での選択的な申立てができるような運用ないし仕組みを想定して作るのかどうかというところも,今日は初めて出した論点ですので,ここで御指摘いただいた点については,その先の具体的な制度設計上の論点だと思っております。阿多委員がおっしゃったような仕組みというのも,それがどこまで実務的に対応できるかというところは残ってしまいますけれども,今後の議論によっては,一つの考え方としてはあり得る選択肢なのではないかというふうには考えております。 ○道垣内委員 阿多委員が途中でおっしゃった,あるいは谷幹事もおっしゃったように思いますが,結構広く集めて,とおっしゃるときには,債務名義にある名前だけで情報を集められるという制度を想定されているわけではないわけですね。 ○阿多委員 私は,少なくとも過去の住所に一度引っ掛かったという前提で申し上げているつもりです。 ○道垣内委員 それなら私も安心できるのですが,名前だけで検索できて,あとはこっちに任せてくれというふうに弁護士さんがおっしゃったとしても,それは無茶だろうと思います。 ○山本(克)委員 そういうお考えであるということは了解したんですけれども,その分,システム開発が大変になるということは確実ですよね。特に平成の大合併で,過去の住所地名というのが全部変わっているんですが,登記簿上の登記名義人の住所というのは,それに合わせて変えていないはずですよね。昔の,例えばもう既に合併によって消滅した何々郡何々町というのが記載されているのではないんでしょうか。表題部はもちろん合併等に合わせて変更しているんだと思うんですけれども,その辺りはどうなっているんでしょうか。 ○内野幹事 市町村の合併に伴って字名が変更された場合についてまで対応することができるかについては,申し訳ございませんが現在手元に資料がございませんので,直ちにお答えが困難です。いずれにいたしましても,この制度を成り立たせるためには登記所において登記情報を適切に検索することができるようなシステムを整備することが重要であるとの御指摘をいただいたと受け止めましたので,引き続き実務対応能力を考えるに当たっては,御指摘の点も考慮していきたいと思います。 ○山本(和)部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○佐成委員 システム開発に関してですけれども,ガス会社一般について,そういった名寄せをするようなシステムを組んでおりませんし,かなりの費用が掛かってしまうということは分かるので現状では作れませんが,今回,現行の登記制度を前提としながらも,新たなこういった情報取得の制度を作るということで,システムの開発投資をしていくことにされるのであれば,余り中途半端なシステム開発はやめていただきたいとは思います。最終的に執行のためにどこまで情報を提供するかというのは,それはまた別の法規制の問題だと思いますけれども,システム開発自体はやはり日本全国レベルのシステムを組んでいただくというのが,やはり中長期的な観点を考えても,そんな大掛かりな投資をするわけですから,よろしいかと思います。私も企業としては,もしそのようなことをするのであれば,単に執行のためにちょっとやるとかいう話ではなくて,あるいは市町村単位とかではなくて,やはり将来ほかの用途で使う可能性も十分あり得るわけですから,やるのであればきちんと,しっかりと全国を視野に入れ,もうちょっと長期的な視点も入れると思います。執行の側だけではなくて,そういった観点も入れないと,余り中途半端なものを作ってしまって,ほかの部会か何かで議論が持ち上がってまたシステム改修をするみたいな,そのようなことは避けていただきたいと,納税者としては思います。 ○阿多委員 今回,見出しは給与債権という形になっているんですけれども,先ほど来,給与所得者をイメージしての御説明があると思うんですが,法的な性質で,委任だとか請負だとか,そういうふうな形で個人が受け取っていらっしゃって,それで納税はされている。いわゆる所得税の関係では納められているというような形の納税者ないしは国民年金等加入者についても,これは対象となるという理解でよろしいのでしょうか。 ○山本(和)部会長 いかがでしょうか。事務当局から御説明をお願いします。 ○松波関係官 今回の資料で「給与債権」と書いていますのは,市町村からの情報取得手続との関係では,市町村が地方税の賦課徴収をするに当たって給与所得として認識しているものを念頭に置いておりますし,また,厚生年金保険の実施機関からの情報取得手続との関係では,厚生年金保険の加入資格等との関係で給与等を得ているというものを念頭に置いております。いずれにしても,具体的な規定を検討する上では給与等の概念を明確にすべきであるとの御指摘であると理解しましたので,この点は引き続き検討していきたいと思います。なお,阿多委員の御質問は,ここでいう給与債権が,雇用契約に基づくものに限定されるかどうかというところに主眼があると思いますけれども,今回の資料の記載は,必ずしも契約の性質のみによってこの制度の対象となる情報の範囲が限定されるという趣旨のものではございません。 ○阿多委員 確認ですので結構です。 ○栁川委員 難しい議論が飛び交っていますが,納税者として,一般市民としての立場で言えば,本来支払うべきであるのに支払わないで逃げ得を狙う人たちを最終的に放置するような形の世の中というのは非常によろしくないと思います。支払うべきものは自分できちんと支払う,そのために必要であれば公的な機関も力を貸すという仕組み作りは必要だと思います。   それから,システム開発について非常にお金が掛かるというお話があり,難しい問題が山積だということが分かりましたが,必要なところには必要な人と資金を投入して環境を整えるということはとても大事だと思いますし,この制度を利用した1回の申立てで必要な情報を取得することができるようになればより利用しやすい制度ができあがると思うので,難しい問題が山積しているという話はありましたけれども,是非前向きに進めていただけると有り難いと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。力強い言葉を頂いたかと思います。   よろしければ,この(1)の部分については,この程度にさせていただきたいと思います。ここまでの議論の限りにおいては,不動産の情報取得の範囲というか単位について,御意見が若干分かれているところもあったかと思いますけれども,不動産に関する情報取得制度を設けることや,給与債権に関する情報取得制度を設けるという方向については,それ自体については大きな御異論はなかったように承りました。 ○山本(克)委員 1点だけよろしいですか。   勤務先情報は個人情報であることは間違いないんですが,不動産の場合,法人が登記名義人である場合には個人情報ではないということは,もう当然,前提としてよろしいということでよろしいんでしょうか。 ○内野幹事 「個人情報」という言葉の捉え方の問題なのかもしれませんが,御指摘のとおり,個人情報保護法の保護対象かどうかといえば,そうではないという理解になっているのかなというふうには考えております。 ○山本(克)委員 ありがとうございます。 ○山本(和)部会長 それでは,引き続きまして,部会資料18-1の3の(2)から(4)までについて御議論いただきたいと思います。不動産に関する情報取得の要件,勤務先情報の取得の要件,それから手続の概要についてですけれども,いかがでしょうか。 ○今井委員 財産開示前置につきましては,預金のときもくどいほど申し上げて恐縮だったんですけれども,不要な要件であるということを一貫して申し上げてきましたが,今般の不動産と勤務先についても同様の意見を持ってございます。それはやはり実効性という点が一番大きいわけでございますが,とはいえ,預金と不動産情報と,それから勤務先情報,つまりそれぞれが財産開示を先行するために足が速い,言い方は悪いけれども,財産隠しがすぐなされるという意味のことが一番大きいわけでございますが,不動産も,確かに不動産というぐらいで,それほどすぐには動かないんですけれども,ただ,登記自体を変えようということは,お身内の方に登記名義を移転する,若しくは知り合いに,一種の偽装ですけれども,移転するということは,実務上ままというか,よくあるわけですけれども,そういう意味では預金ほど早く移動はできないものの,それなりの,やろうと思えばできてしまうというところがございます。   勤務先につきましては,では,執行を避けるために会社は辞めるかということについては,構造的にはそれは普通はそういうふうには考えないだろうと思われますので,実効性という観点から言うと,やはり不動産情報についても財産開示ということの手続は,猫に鈴を付けるみたいなところがありますので,先ほど山本克己委員がおっしゃられた,不動産情報と,それから勤務先情報は,守秘義務という面では違うのではないかというところがもう一つのヒントになりました。   そういう意味で言うと,確かに勤務先情報というのは公的機関が負っている守秘義務の範囲でしょうが,不動産情報については,閲覧という意味では,そもそも開示されていると言えば開示されていますので,そういう意味では,この守秘義務解除のために財産開示手続が必要であるという説明は,少なくともこの不動産情報については必要がないというふうに説明ができるのではないかと,こんなふうに思います。 ○阿多委員 財産開示前置について,全面撤廃ももちろん実現できればとは思いますけれども,次善の策で出ていました,いわゆる登記情報と勤務先情報,特に先ほどの法人における登記情報について,法人に財産開示の申立てをしないと,この情報が取得できないのかというのは,やはり少し負担として大きいのではないかと思います。これは先回も,第三者からの情報取得について,一般の差押え要件以外に不奏功等要件が全部掛かるんですかと申し上げたのと同じですが,バランスの問題があるかと思ってはいます。   ただ,勤務先情報について,一つは財産開示前置という方法を採られているんですが,仮にそれを選択するのであれば,むしろ対象となる債権について,債権一般ではなくて扶養料,更には生命身体という限定を加えられているんですけれども,一旦財産開示をして,少なくとも本人は実施要件等が具備し,確定して開示しなければいけないという状況になっているわけですから,あえて対象債権を限定するという必要はないのではないかと。非常に手続構造が,対象債権ごとに実は今回整理していただいている分だけいろいろ細かくなっているというか,債権一般で公的機関からの取得について財産開示前置だというのは分かるんですが,財産開示前置にするんであれば,対象債権は限定する必要がないと思っていますし,対象債権を前提にするんであれば,あえて財産開示をすることがどうなのかと,変な言い方,ちょっとそこは今撤回しますけれども,財産開示と要件とについて義務をしているんですから,個人情報保護の点はかなり考慮としてはそれほど重たくないのではないかというふうには考えています。 ○垣内幹事 まず,財産開示前置の点についてですけれども,私自身は預金に関しても,元来は前置という考え方もあり得るのではないかというように当初考えていたということもありまして,と申しますのは,やはり第三者に新たな義務なり負担なりを課すということは,債務者に対して,そうした義務を果たす機会が与えられたけれども,しかし,なおそれでは不十分であったという場合に,基本的には正当化されるものではないかというように考えられまして,そういう観点からしますと,出発点としてはまず債務者に開示をさせて,しかし,それでもなお足りないと,それが機能しないという場合に,第三者に対して義務を課す手続を行うというのが本当ではないかというようには考えております。   そうした観点から見たときに,預金の場合には,これもこの部会で御指摘が重ねてありましたように,預金について強制執行をもくろんでいるということが債務者に分かれば,それは預金は処分が非常に容易であるという特性があって,財産開示を前置してしまうと,もはや預金そのものが処分されてしまう危険性は非常に高いという事情があって,そういったところから例外的に財産開示を前置しなくても,いきなり第三者に義務を課すということがあり得るということになったのかなと考えておりまして,そのような事情が必ずしも当てはまるとは言えない不動産とか,あるいは勤務先の情報について,財産開示前置がなくてもいいということはなかなか難しいのではないかという印象を現状では持っております。   それから,財産開示が前置されているのであれば,第三者からの情報取得について広く認めていいのではないかという話があったかと思うんですけれども,財産開示手続は一般的な財産全体について開示が債務者に義務付けられるわけですが,そのような論法でいきますと,財産開示手続を一度やっておけば,いかなる第三者に対しても,どんな情報でも取得を求めることができるということになりかねないわけですけれども,しかし,そこは当該情報の持つ重要性とか第三者の負担等を勘案して,必要かつ相当な範囲で新たに制度を導入すると。その導入に当たっては,従来の,それは専ら債権者,債務者間の問題であるという建前から大きく一歩踏み出すということになることから,社会的な納得の得られやすいところで,かつ必要性,相当性についても十分な説明ができるところについて,制度を新たに設けようということかなと理解しておりますので,なかなか財産開示が前置されているのだから,いかなる債権でもいいのではないかというようにも言えないのではないかなという印象を現時点では持っております。 ○阿多委員 垣内幹事の御指摘は理解はしているんですが,従前,対象となる第三者の範囲をどう考えるのかという意味では,かなり第三者の負担,第三債務者も含めて第三者の負担ということを考慮して限定をしてきたと思うんですが,今回は少なくとも給与債権については,給与債権の照会を受けるという意味では第三者は同じ,もうそういう負担の対象になるという判断をされたときに,なぜ,請求債権の種類についてだけは二つに限定するのか,そこの問題だと思っています。   財産開示の際に,本来,勤務先については開示の対象情報で,債務者が回答すれば勤務先は一般債権に基づいて財産開示を求めたとしても,回答しなければいけない情報なわけです。しかしながら,そこで回答を得られない状況において,扶養料と生命身体債権だけは,変な言い方ですけれども,次の手続に移れると。一般債権はそこで終わりというような区別がなぜできるのか,そこの説明が必要ではないかと思うんですが。 ○山本(和)部会長 今回の資料でもその説明がされているとは思うんですが,阿多委員は,それに対しては納得できないという御意見だということですね。 ○阿多委員 ええ。それがやはり不十分ではないか。特に扶養料については手続的なところで差を設けているというのがあるんですが,今回,生命身体に基づく損害賠償請求について。確かに,民法の相殺禁止や破産等でも免責のところで,それらの用語を使ったものがありますけれども,少なくとも執行のところでは一般債権として同じ扱いになっているんだろうと。そうであるならば,これを言って削られるのは困るんですが,一般債権として広くやはり考える方向で御議論いただけたらなと思います。 ○村上委員 今,給与債権のお話がありましたけれども,勤務先情報について,(1)のところでは,あえて意見を申し上げなかったのは,(3)において養育費の部分と犯罪被害者の損害賠償に限定されているということがあったので,こういうことであれば,勤務先情報について公的機関から情報を取得するということについてはあるのではないかということで意見を申し上げなかったのですが,範囲を更に広げていくということであれば,(1)についても反対の意見でございます。 ○松下委員 不動産と勤務先込みで,財産開示前置についてどう考えるかという話です。まず不動産の話なのですが,確かに公示のための仕組みなので,みんなに開かれていると言えば開かれているのですが,しかし,債務者単位で情報を抜き出すというのは,やはり私は新しい情報なのではないかと思います。抽象的には誰でもアクセスできる情報であるといっても,新しい種類の情報なので,公開されているんだから債務者が開示義務を負わない場合でも,つまり財産前置ではなくてもいいのではないかという議論には,ちょっと違和感があります。やはり公的機関の持っている情報を,元々の目的の外側で使うということですから,債務者自身が開示義務を負うということを前提とせざるを得ないというのは,私はこの資料のとおりではないかと思います。   財産開示前置との関係で,資料について質問になるのですが,3年以内に財産開示が実施されている場合というのが要件になっていて,この3年の趣旨について,資料の11ページの上から5行目では,「財産開示手続の再実施が制限される3年間が経過していれば」という記載になっているのですが,以下のような場合にはどうなるのでしょうかというのが質問です。一旦,財産開示をして,その直後に不動産を取得した,あるいは勤務先を辞めて次の勤務先へ行ったというような場合には,新たな財産の取得,あるいは勤務先を辞めたということで,3年たたなくても財産開示の再実施ができることになろうかと思いますけれども,ここで「再実施が制限される3年間」という書き方からすると,今のような場合は,再実施は制限されないけれども,やはり第三者からの情報取得のところに,公的機関からの情報取得は財産開示との関係で補助的なものであって,今のような場合には,つまり不動産を取得したり勤務先を辞めた場合には,公的機関にはやはりいけず,財産開示でいくということになるのでしょうか。第三者からの情報取得が劣後的というか補助的に理解されているようにも読めるのですけれども,事務当局としてどういうふうにお考えなのか,是非お考えをお聞かせいただければと思います。 ○山本(和)部会長 では,事務当局から御説明をお願いします。 ○松波関係官 非常に難しい問題を御提示されたというふうに受け止めております。   財産開示手続の期日の直後に不動産を新たに取得し,若しくは新しい勤務先で勤め始めたという場合には,確かに,本来的には改めて財産開示手続を実施すべきであるとした方が,財産開示手続の前置の理由の一つであります一部免除の申立てをする機会を債務者に保障するという趣旨にも適うというふうには理解しております。そういった手続構造を仕組むというのも,一つの考え方としてはあり得ないではないというふうには思いながら資料を作っていたんですが,しかし,他方で,債権者の側から財産開示手続の再実施制限の例外事由がないことを調査するのは,かなり困難な作業ではないのかというのも考えたところでございます。そこで,差し当たり,今回の資料の本文では,再実施制限の例外事由の不存在を第三者からの情報取得手続の要件とすることは,差し控えたところでございます。 ○松下委員 勤務先の変更は,割に簡単に分かるのではないかと思いますけれども,御趣旨は分かりました。少なくとも,今お尋ねしたことについては,まだ決めを打っていないという理解でよろしいですか。 ○内野幹事 問題意識の点については,御説明させていただいたとおりでありますので,もし,この点について今日の時点で何か御意見がある先生方がいらっしゃいましたら,是非御発言いただければというふうに考えています。 ○阿多委員 順番で財産開示,まず扶養というところで,財産開示を前提にする意見は後で思ったんですが,実は松下委員が御指摘のところは非常に疑問を持っておりまして,債権者の方としては,分からない状況にあるものを,分からないから調べてほしいのに,3年間待てと言われるのはさすがにハードルが高い。従前も,一旦財産開示を経ることによって,結局,少なくとも債務者は回答しなかったという情報の形になりますので,3年要件は撤廃していただいて,仮に何らかの,債務者側で変更がない,ないしは不動産の取得がないというのであれば,そのような債務者の方の主張によって申立てを制限するような形の手続を考えていただきたい。3年待たないと債権者の方はできないという形になるのはおかしいのではないかと思っているんですが。 ○内野幹事 3年待たないとできないのではなくて,3年以内なら第三者からの情報取得手続の申立てをすることができるということになりますので,若干の誤解があるようにも思うのですけれどもいかがでしょうか。 ○阿多委員 すいません,おかしな言い方をしましたけれども,ちょっと整理が誤解したのかもしれない。財産開示を申立てして,3年以内であればできるんですね。申し訳ないです,誤解しました,すいません。 ○山本(和)部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○今井委員 先ほど阿多委員が申し上げた,債権をどうして限定するのか説明がつかないのではないかというところに,ちょっと同じ意見として付加させていただきたいと思うんですが,前回17回で,対象となる債権の範囲の議論はこれまで何度もさせていただいて,このときは債務名義というところで現行法に限らず,債務名義一般であって債務名義であればそこを区別,差別化する理由はないのではないかというのが主流の議論であったように感じられますので,今回も,確かに財産開示の後に第三者情報の不動産と勤務先という目的自体は財産情報の取得という意味では全く同じ,それが本人からの陳述なのか,第三者からということの違いはあるにせよ,どうも17回で議論した開示を求める債務名義に種類の区別はないのではないかという議論と,今日お示しのこの御提案の債権のかなり選別ですか,これについての平仄といいますか,これについてのちょっとアンバランスが感じられて,やはりこの合理的な区別の説明はなかなか難しいのではないか。つまり債務名義一般,それが17回のようなところまで広げちゃうかどうかはともかく,どうもこの辺の違和感を感じますので,阿多委員が申し上げたような債務名義一般に広げていただければなと,こんなふうに思います。 ○山本(和)部会長 先ほど垣内幹事が言われたように,本人による開示か第三者からの情報取得かの違いが決定的であるという御意見も一方にあり,第三者からの情報取得手続については申立をすることができる者の範囲を慎重に検討する必要があるというのは以前から村上委員などの多くの委員も御主張されていたところであって,今回の資料は,事務当局がこういった議論の流れを踏まえた提案をされたものだと思います。もちろん意見の違いがあるというのはよく分かりますけれども。 ○今井委員 審議の流れとしては理解しているつもりでありますが,そういう意味で,意見であり,お願い事項というふうに聞いていただければと思います。 ○松下委員 この給与債権に関する情報取得で,執行債権の種類で限定するという御提案ですが,2種類の執行債権が上がっていて,一つは扶養料等の請求権ですよね。これは現在の民事執行法でも151条の2で,扶養料等を執行債権として給与債権を差し押さえる場合に特則が設けられたりしていて,扶養料請求権の引き当て財産というのは主として,典型的には給与だということが立法として出ているので,こちらは説明しやすいと思うのですね。   問題は人の生命身体の侵害に係る損害賠償請求権ですが,確かに犯罪被害者の保護とか御説明はあるのですけれども,理論的に,第2のカテゴリとしてて説明するのは,それほど容易ではないような気がします。他方で給与,勤務先に関する情報取得というのは今回新しい制度なので,始めるときに,まず小さく始めておいて大きく育てるということもあり得ることではないかと思います。財産開示が,平成15年改正で入ったときも同じような説明をしたわけですが,ほかとどう区別するんだと言われると,私もきれいな理屈を持ち合わせているわけではないのですけれども,扶養料だけにせずに,もう一つカテゴリを入れてみて始めてみるというのも一つの考え方ではないかと思います。何の理屈にもなっていませんが,こういう御提案も十分あり得るということであると私は理解しました。 ○谷幹事 非常に蛇足の意見ということになるかも分かりませんけれども,生命身体の侵害による損害賠償債権については,改正民法で時効の特則という規定に結実をしたということもございまして,様々な事情からなかなか回収できないことも多いと。そういうこともあり,時効を延長したということと,それと併せまして,やはり回収できないということは執行対象財産を把握できないということもあるでしょうから,かつ救済の必要性も高いということで,ここに提案として入ってきているのかなと思うところでございますので,立法理由の説明としては何とかできるところかなというふうには考えているところでございます。 ○勅使川原幹事 私も垣内幹事,あるいは松下委員の意見に賛成でございます。   やはり公共機関からの情報の目的外利用がどうして正当化されるのかという部分では,やはり要保護性なり必要性なり相当性なりとの兼ね合いで考えざるを得ないところがあって,給与債権は,取り分け勤務先情報というのは別に,財産開示手続がやられたから勤務先を変えようという可能性はそう多くはないのではないかということだと思いますし,容易さで言えば,登記を変えていくというのもまた違うかもしれない。現状で登記の公示の目的というものが,将来にはまた変わるのかも分かりませんけれども,現状ではやはり人に紐付けられているわけではないということを前提にしますと,やはりそれを正当化する何らかの必要性が必要になってくるということだと思いますので,またこれは私的な感想になりますけれども,私なりに個人情報が公的機関から取られるということに,何となしの不安を感じがしますと,財産開示をやられたら,別の財産を差し出すのでそっちは勘弁してくださいというふうに,一部,免除に応じる可能性も預金のときよりは多いのかもしれないというふうに考えまして,やはりこれは当局の御提案どおりでよろしいのではなかろうかというふうに考えております。 ○道垣内委員 松下委員が,生命若しくは身体の侵害による損害賠償請求権というものについて,いいのではないのという説明をされたわけですが,ここは幾つか言うべき事柄はあると思います。結論として,私はこれでよいと思うのですが,例えば要保護性という観点から見ますと,いわゆる大黒柱が死んで,その子供や扶養を受けている配偶者などが相続によって損害賠償請求権を取得したという場合と,小さな子供が死んで,親が相続構成によって取得したという場合とでは,お金が来なければ困るということが全然違うんだと思うのですね。   また,身体の侵害になりますと,今度は本人保護なのですね。相続によって誰かが取得するわけではなくて,身体の侵害を受けた人が請求をしていくことになりますから,本人保護のために大変必要な権利だろうと思います。   他方,犯罪被害者の話が出ていますが,これには犯罪被害に遭って大変困っている人を救うという面もあるかもしれませんが,やはりどこかに債務者に対する制裁的な要素というのが含まれているのだろうと思います。   さらに,もう一つ言わなければいけないのは,例えば生命身体の侵害による損害賠償請求権と書けば,何かそのとおりのような気もしますが,実は損害項目というのは多々あって,生命身体の侵害そのものの損害というのと,それ以外の損害,つまり,交通事故ですと被害者の側が乗っている自動車が壊れるわけですが,そういったものも含めて損害項目として出てくるわけです。全部で1億円となったからといって,生命身体の侵害そのものを損害項目としているものと,そうではないものがあるわけですね。そして,前者の方は要保護性というのが強いのかもしれませんが,車が壊れたというのは,時計を壊されたというのと根本的には変わらないということになりますと,特に要保護性があるわけではないことになります。   そういうふうに,いろいろなことがあるのですが,それでは,それを実質的に判断しながら,ある場合には認める,ある場合には認めないという制度にするのは,要件設定も困難だし,裁判所にそれについて細かく判断せよというのも,かなり手続が重くなるという問題点があります。そうなりますと,最終的には松下委員と同じになりまして,苦しいところではあるのだが,いろいろな要素があって認めるということでいいのではないかと思います。ただ,ある一定の類型だけを念頭に置いた議論をして,それによって正当化をするというのは,避けた方がよいのではないかと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかに御意見ございますか。 ○垣内幹事 いろいろと難しい問題が含まれている論点なんだろうと思いますけれども,中長期的,あるいは将来的には,先ほど松下委員のお話もありましたけれども,もう少し広い範囲で第三者からの情報取得を認めていくということはあり得る方向の一つなんだろうというようには思います。   ただ,現時点での判断としてどうかということで,ここでは考えているということかと思いますが,1点,先ほど今井委員の方から財産開示一般については債務名義の限定を外していく方向であるにもかかわらず,こちらで執行債権の性質で限定していくというのは一貫しないのではないかという御指摘があり,その点について部会長の方からも,第三者に対する関係と債務者に対する関係とで違うという理解もあり得る,そういう意見があるのではないかという御指摘がありましたが,そのこともあると思いますし,これまでこの部会の議論で幾つかの場所で出てきた観点かと思いますけれども,財産開示一般ですと,これは債務者の基本的には全ての財産を開示するということで,そこから,そのうちどこか見付かったものがあれば強制執行を掛けていくということになりますが,今回のように特に必要性が高い部分について,個別に第三者からの情報取得を認めていく,例えば預金について認めていくというような立法を仮にした場合には,取り分け第三者から情報が取得できる財産に強制執行が掛かっていきやすいという帰結と申しますか,そういう機能を伴うことになるだろうというように思います。   ですので,預金は強制執行の対象として非常に有力な選択肢になるでしょうし,もし今日御提案のような議論,制度が仮に導入された場合には,不動産について,不動産は従前からそうだと思いますけれども,あるいは給与債権について,もし情報が取得できれば,そこにまず掛かっていくということになるだろうと。そのことが債務者や債権者をめぐる様々な債務者の生活等に与える影響,その他の影響に鑑みて,どこまで相当と現時点で言えるのかというような観点もあって,取り分け給与債権,勤務先の情報については慎重な御意見がかなりあるというのが現状なのかなと考えておりまして,そういう観点から,第三者からの情報取得に際しても,若干本人に対する財産開示,本人に掛かる財産開示とは異なる考慮が必要な面もあるのかなというふうに考えております。   それから,限定の仕方につきまして,私も先ほど来,御議論に出ておりますように,扶養に関する義務に係る場合と,生命身体が害された場合の損害賠償請求権とでは,やはり後者の方がやや説明が難しい点があるのかなという感じがしておりますけれども,結論としては道垣内委員の言われたような考慮は私も同感で,こういう線の引き方というのはあり得る引き方なんだろうというようには考えております。   ただ1点,少し気になっている点がございまして,それは現在の民事執行法で,扶養等に係る義務について給料,将来のですね,これから継続的に給付されていく給与について,一種の優先的な取扱いが認められていると。それは特に扶養料,扶養に係る義務というものがそういうものを引き当てとしているというような一種の牽連性のようなものが念頭に置かれているのかなという感じがするんですけれども,こうした形で給料等との関係で扶養に係る債権の特別扱いが認められている場面について,その適用対象を見ますと,現在の民事執行法の151条の2では,これは定期金債権になっている場合を対象としているということがあるかと思います。そう考えたときに,今回,今日御提案になっている制度の場合に,今日の御提案はそういった限定はなくて,一時金と申しますか,そういうものでも対象になるということかと思いますが,私自身は広く制度の利用を認めていくという方向に,出発点としては積極的な印象を持っておりますので,そういう意味では広く認めるというのはいいのかなと思う反面,その線をどこで引くのかということの説明として,この場面では定期金債権でなくてもよいということの説明というのは,どこかにする必要があるのかなという感じもしておりまして,そういう観点からしたときに,生命身体の侵害による損害賠償請求権につきましても,定期金賠償という可能性はあるわけで,取り分け定期金賠償の場合を考えますと,これは継続的に払われていく給与等からそれを回収していくということが発想として親和的なような面もありますので,一つの論理的な選択肢としては,そういった定期的に実現されるべき執行債権に限定してしまうというような選択肢ももしかしたらあり得るのかもしれないという気もしつつ,しかし,そこまで狭く解する必要もないということであれば,その点はこの制度の関係では,そこまで限定する必要はないんだという,何か議論がもう一段階必要なのかなという,それについて何か今の段階で妙案があるということではないんですが,ちょっとそういう点が気になっているということは申し添えたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   今の定期金のという御発言については,民事執行法第151条の2は定期金まだ履行期が到来していない債権を念頭に置かないと,そもそもこういう規定を設ける意味がないので,それが要件になっていると思うんですが,他方で,第152条3項の差押禁止の範囲の特則を設けるところは,これは必ずしも定期金でなくても広がっているわけだというふうに理解しています。そういう意味では,この情報取得の場面では,必ずしも請求債権が定期金であるかどうかということこだわる必然性はないかもしれないなと思いました。 ○山本(克)委員 部会長がおっしゃったことは私も同様に考えていたので発言しようと思ったんですが,それ以外にも,非免責債権としての扶養料請求権及びそれに類する請求権についても,やはり定期金である必要はどこにもないと思いますので,それはちょっと誤解に基づくのではないのかなというのが私の印象です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員 財産開示前置を前提とした議論で,10ページから11ページに手続構造の,いわゆる財産開示を実施されたの意義についてのことがあるんですけれども,ちょっと質問か意見なのかあれなんですが,財産開示前置にすると,通常の強制執行の要件プラス不奏功要件等で実施決定をして財産開示をすると。この場合,後の公的機関からの情報取得は,また同じような形で,一般要件はともかく,不奏功等要件が必要で公的機関からの情報取得という手続をイメージしているのか,それとももう財産開示の段階で,不奏功等要件は一旦判断をしているので,その後の手続については不奏功要件は要らない。要らないけれども,一部,開示された情報によって完全弁済があり得るので別途手続を考えるのかと,その辺はどういうイメージなんですか。   というのは,11ページの1行目から3行目にかけての御記載を見ますと,「財産開示期日において債務者がその財産に関する情報を陳述したものの,開示された財産に対する強制執行を実施しても債権者の債権の完全な弁済が得られない場合には,「財産開示手続が実施された」」というふうに整理するかどうかという問題を考えられているんですが,ここに書かれている内容は,通常,不奏功等要件で議論されている内容だと思うんですが,抗告手続についての不奏功等要件を入れられないのであれば,この前に無理やり,財産開示前置の方に整理されているのかと思いつつ,イメージされている抗告の手続の実施要件というかはどういうイメージなのか,ちょっと御説明いただけたらと思うんですが。 ○松波関係官 部会資料で御提案している規律では,公的機関からの情報所得についても,いわゆる先に実施した強制執行の不奏功等の要件が必要だということを前提としております。この要件は,財産開示手続を前置するのであれば,その財産開示手続の実施決定の要件と,実際の事案において適用した場面ではその判断の対象が重複することがあるのは御指摘のとおりですが,しかし,判断の時点が違いますし,若しくは,事案によっては請求債権の内容も違う可能性があるので,執行裁判所には,公的機関からの情報取得の申立ての段階でも,改めて,不奏功等要件を判断していただくということを基本的に想定しております。   その上で,部会資料10ページから11ページにかけての「財産開示手続が実施された」の意義についてですが,阿多委員の御指摘は,開示された財産に対する強制執行を実施しても完全弁済が得られない場合に,財産開示手続が実施されたと言えるとの説明だと,不奏功等要件の説明と一部重複するようなところがあるので,若干ミスリーディングではないのかというものかと思います。それは御指摘のとおりだと思いますし,「財産開示手続が実施された」というのは,飽くまで,先に行われた財産開示期日が終わったということだけを意味しています。部会資料の説明欄に完全な弁済を得られないというのをあえて書きましたのは,既に行われた財産開示手続で十分な財産情報が得られたのであれば,不奏功等の要件を満たさないため,第三者からの情報取得手続の申立てをすることはできないという説明を書いているという趣旨でございます。 ○阿多委員 そうしますと,イメージされている財産開示手続が実施されたというのは,10ページのむしろ下の方に書かれている実施決定があって,期日が指定されて,事実としては債務者が来なかった,ないしは財産目録等が提出されて出頭した。それで,逆にそうなってくると,それは抗告手続申立てに際して債権者がそういう事実を,主張を立証しなければいけないというか,それは同じ裁判所であれば,裁判所の顕著な事実でそういうことは別に何も言う必要がない,先行事件があったというだけでよくなるんですか。ここの不奏功要件で,財産開始は実施された要件にならないのであれば,もう不奏功要件で整理されてしまうとは思ったんですけれども。 ○内野幹事 御指摘のように先行事件の記録等を活用されるのかどうかというのはそれぞれの裁判所における要件判断の在り方に関する運用次第かなというふうには思っています。 ○山本(和)部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○佐成委員 財産開示手続の前置に関して,不動産情報の取得については原案でもいいかとは思っておりますが,それよりもやはり給与債権に関しては,これは是非,前置でお願いしたいと感じております。というのは,やはりこの給与債権に関する情報に関しては,公的機関の収集してきた過程も非常に徴税という面がかなり大きいと思います。そうなりますと,そういった徴税の機能というのは,先ほどちょっと納税者と申し上げましたけれども,やはりかなり重要な要素でありますので,簡単にそれを乗り越えられるような状態にはしてほしくないと感じております。   というのが一つと,それから15ページのウのところに「他方で,例えば」として書いてありますけれども,市町村が地方税の賦課徴収等のために保有している私人の秘密に関しては,これをみだりに目的外使用で公表されないといったところについての要請も,やはりかなり高いのではないかと思います。給与債権に関しては,やはりそういったところも踏まえると,利益衡量,バランスを考えたときに,やはり財産開示の前置というのはどうしても不可欠ではないかと感じました。   もう一つ,垣内幹事が先ほど御指摘された,中長期的な懸念のところもありますので,なおさら,これに関して一般債権まで拡張してしまうという考え方は,現段階では非常に見通しがはっきりしないので,支持し難いと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにはいかがでしょうか。 ○成田幹事 全く別の場所になりますが,今,財産開示前置の方が優勢かなと思っておりますが,それを前提としてはお話をしますと,財産開示手続が前置されるのであれば,改めて公的機関に情報提供を命ずる決定に対して,執行抗告を認める必要がどれぐらいあるのかというのは疑問ではないかと思っております。債務者につきましては,実態が違うという部分はありましょうけれども,財産開示期日の調書ですとか財産目録を念頭に置いて不奏功要件等が判断されることになるわけですから,恐らくそこまでやっているのであれば,債務者に更に執行抗告を認める必要があるのかやや疑問があるところであります。   また,先ほど佐成委員が指摘された部会資料の15ページには,第三者,公的機関の方の抗告理由として掲げられている部分があるのですが,これはかなり一般的な話でして,むしろこれは立法段階の利益衡量の話なのかなという気がして,これを個別事件の執行抗告の理由に使うというのは,やや疑問があるところですので,そういった観点からも,執行抗告を認める必要はないのではないかと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   (4)イの執行抗告の部分について,ほかの委員,幹事に御意見があれば承りたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○山本(克)委員 市町村等の執行抗告なんですが,特に市町村で考えたんですが,市町村が住民税の徴税事務以外の事務で,仮に勤務先ないしは給料支払者に関する情報を入手していた場合にも,これは回答義務はあるというお考えなんでしょうか。「等」と書いてありますよね。15ページの(ウ)の2段落目の4行目に「等」と書いてあるので,「給与支払者等」と書いてあるのが非常に私は気になっているんですが,市町村の場合でそういう情報を得る可能性というのは極めて少ないというふうには思いますが,やはりそれは目的外使用を考えるときに,その取得目的を多岐にわたって考慮しないといけないということになると,やはり執行抗告は必要であるということになりそうな気がするんですが,住民税の徴税事務との関係で取得した情報に限定するということにすれば,執行抗告の必要性は減じられるのではないかという気がするんですが,その点はどういうふうにお考えなんでしょうか。 ○内野幹事 少なくとも,今回の部会資料で御提示した規律で想定しているのは,市町村が徴税事務を原因として取得したと想定される情報に着目して,この情報を債権者のために提供していただく制度を構築したらどうかという試みの案です。山本克己委員の御指摘のあったところにつきましては,少なくとも現時点では,まだ今後の議論の余地はあるものとしても,事務当局として提案できているところではありません。 ○山本(克)委員 それと,もう1点,回答内容として勤務先をというのの概念が,必ずしも明確ではないですね。例えば,東京都立の何とか高校に勤務している方については,何を回答すればいいんですか。私は,給与支払者だけの特定で,勤務先というのはちょっとそこまで言う必要は必ずしもなくて,給与支払者だけ特定できればいいのではないのかなという気が。支払機関になるんですかね,行政の場合には。何かそういうふうに,もうちょっとしぼりを掛けて,勤務先というのはちょっと私はまずいのでは--というものが,どこまでが,射程が曖昧なので,もうちょっと特定した方がいいのではないかという気がします。 ○松波関係官 今回の資料の本文の中では(1)イで「給与債権(勤務先)」という形で括弧書きで書いております。給与債権に関する情報というと,給与の支払者やいわゆる勤務先に関する情報のほかに,給与の額などの様々な情報が含まれ得ると思われますけれども,これらの様々な情報のうちこの手続により取得すべき情報の範囲は,イの第2文のとおり,「債務者に給与の支払をする者の氏名又は名称及び住所」に絞るのが相当であると考えておりまして,今回の資料では,これを丸めた形で,「給与債権(勤務先)」という形で書いおります。 ○山本(克)委員 分かりました。今,そこの部分を読み飛ばしていたのであれなんですが,そういう方向で,できるだけ最低限の情報にとどめていただくようにお願いしたいと思います。 ○阿多委員 執行抗告について,山本克己委員に整理していただいたわけですけれども,逆にこちらの理解は,徴税関係で,地方公共団体が自ら情報を集めて回るというのは余りイメージがなくて,勤務先から源泉徴収に応じて徴収義務者としての通知を受けて,それで整理をしている。それに関する情報に関するものだという形で,どこまで独自の抗告の利益があるのかなと思っていまして,公的機関自体の執行抗告については必要がないのではないかと,こういう形で意見は述べておきたいと思います。   余り独自の情報,規定上は地方公共団体も情報収集権があってできることになっているんですが,逆にそれ以外の形で得た情報を外さなければいけないというような議論もあるのかもしれませんけれども,結局ほとんどは提供を受けた情報だというふうに理解をしていますので,執行抗告の申立権は不要と,こういう意見を述べたいと思います。 ○山本(和)部会長 裁判所は債務者も不要という御趣旨だったかと思いますが,その点はどのようにお考えですか。 ○阿多委員 そこは実は弁護士会的には,債務者に認めないのはちょっと,裁判所にくみしたいんですけれども,ちょっとやはり手続の関係でいいのかなと。ただ,先ほど御質問したことになるんですが,結局,公的機関への紹介に際しての手続要件をどのように組んでくるのかというので,不奏功等要件が同時に掛かってうんぬんなのかという,ちょっとその要件の整理で,また少し執行抗告の場面というのも変わってくるのかなと。実際,債務者に認めなければいけないのは,財産開示をして,それで十分弁済をできるような情報を提供しているのに,そういう申立てがされた,ないしは弁済をしたという場面で,その場合はやはり手続保障を何か入れないといけないとは思っていますので,全くなしというのは少し,ちょっと抵抗が強いと,そういう状況です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○道垣内委員 内野幹事も阿多委員も,徴税のための以外はほとんど余りないという認識の下に話をされ,その上で,単純に徴税等という要件付けをされるのですが,徴税以外の目的で集めた情報って絶対に開示しては駄目なのではないでしょうか。例えば,市立の保育園に入るために勤務先を書いて出したとしますと,確かに市町村は勤務先をそれによって把握しているわけだけれども,それは開示しては駄目ですよ。そう考えると,「徴税等」ではなくて「徴税」と書くべきではないでしょうか。 ○青木幹事 債務者の執行抗告の話になってしまいますが,よろしいですか。   私も,阿多委員がおっしゃったように,債務者からの執行抗告の機会は確保する必要があると思います。ただし,公的機関からの情報取得の申立てが財産開示の時期と近接していて,かつそこで財産が開示されず,同じ申立人が同一の債務名義について公的機関からの情報取得の申立てをするという場合は,例外的に要らないということもあり得ると思いますが,そうでなければ,そこで独自の要件が掛かっているわけですので,債務者に対しても,執行抗告の機会を与えた方がよいと思います。 ○谷幹事 債務者からの執行抗告については,今御意見のあったとおりだと思います。市町村の場合どうかということなんですけれども,これはなかなか悩ましい問題だとは思うんですが,やはり義務を課される以上は,それに対して争う機会というのを与えないということはどうかと。それで,現実的にどういう場合があるのかということなんでしょうけれども,様々な要件がございますので,その要件についての判断を争う機会,取り分け,例えば,3年以内に財産開示手続が実施されたという要件に関わって,実は間違って3年1か月たっているのに発令してしまったというふうなこともあり得ないことではないでしょうから,そういう場合に,市町村が全く争えないというようなことは,ちょっと制度としてはやはりどうかなというふうには思います。 ○山本(和)部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○谷藤関係官 管轄の関係で少し質問をさせていただきます。むしろ金融機関に対する照会の方で問題になるかもしれませんが,債務者には通知されないで回答まで手続が進むという仕組みが考えられていると思いますけれども,最後に債務者に対して,手続が行われましたということが通知された場合に,そこで初めて債務者が転居していたりして,管轄がその裁判所にないということが分かったというような場合も想定されるわけですけれども,こういう場合であっても,情報提供を命ずる決定の効力は失われないと理解することになるのかどうかというのを確認させていただきたいんですが。 ○内野幹事 そうですね。今回の部会資料の前提は,御質問の点は最終的には解釈に委ねられている問題であろうとは思いますが,やはり,管轄違いが事後的に判明したとしても,そのことのみをもって直ちに情報提供を命ずる決定が無効になるものではないだろうということは想定はしております。 ○山本(克)委員 谷幹事にお伺いしたいんですが,今,市町村,あるいは年金の事務を行っている組織の抗告の理由として何をお考えになっているんでしょうか。 ○谷幹事 先ほど申し上げたように,この情報提供できる要件について,例えば回答がなかったとか,いわゆる財産開示と同じ要件,それから,財産開示をした後,3年以内であるというようなこと,この辺りについて要件を満たさないというふうなことで,執行抗告の理由に挙げるということはあると思います。 ○山本(克)委員 それは債務者に言わせればいい話のような気も。その市町村の独自の利益を守るためにそういうことを,いわゆる選択肢も,そういうことが可能になるという選択肢もあるんですけれども,債務者がそこへ文句を言っていないのに,なぜ市町村が文句を言わなければいけないのかという問題は残るのではないでしょうか。 ○谷幹事 理論的な問題と実際上の問題はあると思いますけれども,理論的には,やはり義務を課される以上は,要件を満たさないということで争う機会というものを全く与えないという制度というのは,やはりどうかという問題と,先ほど私が例を挙げた,例えば,財産開示から3年1か月たって誤って発令されたような場合に,争う機会なく市町村等が情報を唯々諾々と開示をしないといけないのかというのも,ちょっと現実的にはそういう制度というのは余りよろしくないのではないのかなというふうには思います。 ○山本(克)委員 抗告権を与えると,市町村はすごいリスクを負うわけですよね。つまり,抗告理由があるのにしなかったということで,債務者から損害賠償請求される可能性があるわけですよね。むしろ市町村の利益を守るように見えて,市町村の事務が必ずしも裁判手続に精通しているとは限らないわけで,そこで抗告理由があるのにもかかわらず答えてしまったということで,国賠の問題が生じてくるというリスクを負わせるのが,私はいいとは思えない。それは債務者が自分で利益を守らなかったんだから,もう市町村としてはそれに従ったという形で,私はいいのではないかなという気がします。 ○谷幹事 やや水掛け論的なことになってきているのかも分かりませんが,そういう場合に,債務者が自ら執行抗告しないでおいて,市町村等が執行抗告しなかったからといって損害賠償が通るのかどうかという実際上の問題もあるだろうと思いますし,それが理由で執行抗告を認めないということには,なかなかならないのではないのかなというふうな気はします。 ○山本(和)部会長 分かりました。御意見の対立点は認識できたと思います。 ○垣内幹事 また前提の理解に誤解があるのかもしれないんですけれども,不服申立ての話につきまして,前回だったか,金融機関の局面におきましては抗告は認めないという方向で検討は進んでいて,その場合には,執行抗告はできないけれども,執行異議は可能であるという前提だったのではないかというふうに理解をしておりまして,したがって,金融機関としても,要件がないということであれば,執行異議の申立ては可能なのではないかというふうに考えております。   そうしますと,ここでの問題につきまして,先ほど青木幹事から御発言がありましたけれども,私も債務者については執行抗告を認めるという考え方の方がよいのかなと,今のところは考えているのですけれども,公的機関について執行抗告の道を採ってまで争わせる必要性があるのかということについては,やはり疑問があるのかなと考えているんですが,抗告は認められないとしても,執行異議の申立てはあり得るのかなというようにも考えております。その限度では,義務を課される者として何らか,簡易な形ですけれども,不服申立ての機会が全くないということではないという理解でいたんですが,そこはいかがでしょうか。 ○山本(和)部会長 事務当局としてはどうお考えですか。 ○内野幹事 垣内幹事の御指摘のとおりです。金融機関のときに議論していただいたように,ここでも執行異議の部分は制度的にはあり得るのではないかというようなことは,事務当局としても考えてはおりました。 ○山本(和)部会長 それでは,御意見を皆さんから伺ったところだと,財産開示前置につきましては反対する御意見もあり,あるいは,給与債権についての申立権者を限定するということについて反対する御意見もありましたが,しかし,議論の大勢は,私が伺ったところでは,理由についてはいろいろあったかと思いますけれども,基本的には部会資料の方向におおむね賛成の御意見が多かったように思いました。   また,不服申立てについては,かなり御意見が分かれたように思いましたが,多数派の御意見としては,債務者については執行抗告を認めるのが必要ではないか,他方で,市町村等の公的機関についてはその必要はないのではないかというものだったように伺いました。この点については引き続き事務当局の方で御検討をしていただければと思います。   それでは,ここで休憩にさせていただきます。           (休     憩) ○山本(和)部会長 それでは,審議を再開したいと思います。   部会資料18-1の3で残された部分として,(5)から(7)の辺りですね,回答の送付先等,費用の負担,情報の保護について,御意見があれば承りたいと思います。 ○阿多委員 基本的には,もう事務当局の御提案のものでと思っていまして,むしろ逆に回答の送付については,これは執行裁判所に対して送付になって,その執行裁判所から写しを頂けるという提案になっています。こうしていただきたいのであって,執行裁判所の方に財産開示と同様に閲覧謄写という手続にする形は避けてほしい,それの念押しだけでございます。 ○平田委員 ちょうど今おっしゃった点について申し上げたいと思うのですが,前回の金融機関等から情報を取得する制度についての議論の際に,裁判所側の幹事から申し上げたところでしたが,その趣旨が多少分かりにくかったこともあるかなと思いまして,その制度についても併せて,今回も同じような表現がされておりますので申し上げたいと思います。   前回も今回も,資料の案につきましては回答書の写しを裁判所が作成して,申立人及び債務者に送付するというふうにされておりますけれども,これはもう釈迦に説法かもしれませんが,そもそも法律上,当事者等から提出された書面について,裁判所が写しを作成して送付する等の手続はございません。通常の民事訴訟におきましても,文書送付嘱託によって送付された文書,それから正に今回の,今もおっしゃいましたけれども,財産開示手続において債務者から提出された財産目録については,その写しを交付するという手続にはなっておりません。というところがありまして,特段の事情もなく裁判所が写しを送付するという例がないところを今回の手続で新たに作るわけですが,そこまでのサービスをする必要があるかというところは,お考えいただきたいと考えております。   この手続は,今回は特にですけれども,勤務先情報とかいろいろなものがある中で,裁判所がその写しを作成して送ってあげるというところまで手当てをしてあげる必要があるのかどうか。これは程度の差はあれ,金融機関等の関係でも同じなんですが,是非御検討いただきたいと思いますし,このように申し上げますと,裁判所が単に手間が増えるのを嫌っているのではないかという誤解を生じるかもしれませんが,写しを送付するという制度を入れないとしますと,原則に戻り,財産開示と同じように閲覧謄写という手続に移るということになるわけでして,それは必ずしも裁判所の負担が軽くなる手続を求めているわけではないということは御理解ください。制度設計のところで,ほかの法律にはない,申立人を手厚く保護するという制度を新たに設けるのはいかがなものかと考えているところでございます。   そういうふうに申し上げると,例えば2通出してもらって,そのうち1通を裁判所が送るのでもいいではないかとか,いろいろな案が出るとは思うんですが,ここで申し上げたいのは,いわゆる法律上の義務として,設けるというのがいいか,つまり第三者に対しても,2通出させることまで求めるのがいいかどうかという観点もございますので,是非御検討いただきたいと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   確認ですけれども,今の平田委員の裁判所の御提案は,この2ページの(5)のア,「公的機関の回答は,執行裁判所に対してする」と,これはいいということでしょうか。 ○平田委員 それは結構です。 ○山本(和)部会長 今回の部会資料の原案は,イのところで,申立人,債務者に回答書の写しを送付しなければならないとしつつ,,米印のところで,申立人には回答書の写しを送付し,債務者には回答があった旨を通知しなければならないという考え方が紹介されているところですが,今の御提案は,裁判所として,申立人に対しても債務者に対しても,回答があった旨は通知すること自体は構わないということでしょうか ○平田委員 それは結構です。 ○山本(和)部会長 その上で,申立人や債務者に裁判所まで来てもらって,記録の閲覧をしてもらうという手続の流れを想定した御提案というふうに理解してよろしいですか。 ○平田委員 はい,結構です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○山本(克)委員 今の点ですが,私は裁判所のお考え,かなり合理的ではないのかなという気がします。送付ですので,送付中の事故があった場合に個人情報が流出する危険というのがあると思いますので,それを避けるためには,今おっしゃったような形で回答があった旨だけの通知で十分なのではないのかなという気がいたします。 ○阿多委員 今のお話は,今回のこの公的機関からの情報取得だけの話なのか,先般の金融機関からの回答を含めてのお話なのか,そこを把握したい。特に金融機関の回答の場合は,なるべく早く執行するというようなことを考えると,通知を,前も問題になりましたのは,複数申立てをしているときに,では,どの段階で通知がもらえるのか,更にはどの段階で閲覧謄写の手続を取るのかという問題があって,その辺の時間的なタイムラグを回避するために裁判所に回答を送っていただいて,それを写しと呼ぶかどうかは別について,同内容のものを債権者に頂くというお話だったと思うんですけれども,そこで裁判所にプールをして,債権者の方で閲覧をしなければいけないという形になると,執行逃れのリスクのことも出てきますので,こちらの手続だけのお話で議論するのかというところはちょっと整理をしていただきたいんですが。 ○山本(和)部会長 裁判所の御意見はどうですか。 ○平田委員 裁判所の意見としましては,前回の金融機関等からの情報取得も併せて同じ趣旨です。 ○山本(和)部会長 両方ともそういう,回答があった旨の通知をするだけということですね。 ○平田委員 はい。 ○山本(和)部会長 そういうことのようですから,併せて御議論ください。 ○阿多委員 答えは逆に見えているわけですが,新たな制度を設けるのかということに関して言うならば,むしろその方向で御検討いただいて。閲覧の制度が近時のIT化の議論で,閲覧がより容易になるようなことであれば別ですけれども,現状,閲覧の申請をして,特に裁判所の許可が要るものは許可をもらった上で謄写サービスに移して,それからすると。それも出向いていく,ないしは往復の郵送を別途手間を掛けてという形で,謄写の方としては閲覧謄写,特に謄写というのはそれなりの負担な手続ですので,この手続の迅速実行,実現を考えると,写しという形のもので,今回は制度創設をしていただけたらと思います。 ○山本(和)部会長 ちなみに債務者についても,やはり写しを送付するという御意見ですか。 ○阿多委員 債務者は,先回,銀行等の関係でも通知という形で,なおかつ通知のタイミングをどうするのかというのが宿題で残ったと思っていますので,この御提案のところには,米印の方で,債務者の回答は通知で足りると思います。 ○山本(和)部会長 分かりました。 ○谷幹事 閲覧謄写でいいのではないかという御意見もあるようなんですけれども,現実的に閲覧謄写というのはどういうふうにするのかという,ちょっとイメージをむしろ持っていただいた方がいいのかなというふうには思っておりまして,これは閲覧謄写する場合は閲覧の申請書を当事者が書き,それを裁判所の中にある謄写を担当する業者に対して,場合によったら裁判所に直に持って行って,そこから業者に回る裁判所もあるのかもしれませんけれども,いずれにしても,書類の閲覧の申請書を送付なり持参をして持って行く。そうすると,その業者の方としては,担当の書記官,担当の係に,具体的な手続としては記録を借り出して謄写をして,それで記録を担当の係の人に戻して,それで申請のあった当事者に対して手渡すか,あるいは送付をするという,こういう手続になるんですけれども,こんなふうな手続を考えますと,当事者から見れば大変手間が掛かるという問題もありますし,時間的にもそれなりに時間が掛かるんですね。近くの裁判所であれば持参をすることで済むわけですけれども,その後,やはり現実に謄写の作業が終わるまでは数日掛かるというような問題。さらに,遠方の裁判所であれば郵送でやり取りをするという日数が更に加わると。そういう当事者にとっての時間的な,あるいは経済的な負担という,手間の負担ということとともに,裁判所にとってもそれほど,閲覧謄写だから手間が省けるかというと,そうでもなくて,謄写申請がある都度,書記官がその記録を検索して,それを業者に交付をすると。それで戻ってくれば,また所定の場所に戻すというふうなことの作業になりますので,裁判所にとってもそれほど,閲覧謄写の方が手間が掛からないということでもないのではないかというふうに,現実的には考えているところなんです。   そうだとして,裁判所が写しを作成するというような制度がほかにはないのではないかという御指摘もありますので,そうであれば,場合によったら回答をしていただく方に写しも作っていただいて,それでこれは費用も申立人の債権者の負担ということになりますので,その分も勘案した費用を設定するというようなことで。ですから,回答者に写しを作っていただいて,それとともに裁判所へ提出して,裁判所がそれを債権者なり,債務者への通知をどうするのかというのは幾つかの考え方あるかも分かりませんけれども,いずれにしても,回答者が作成したものを送付をするということでいいのではないのかなというふうに思います。 ○山本(和)部会長 ここは裁判所と弁護士の委員・幹事の御意見が対立しているようですので,できれば皆さんの御意見を承りたいと思います。 ○山本(克)委員 今の費用の点なんですけれども,裁判所に一旦納付されたものを市町村に移すというとは,そう簡単なことではないような気が直感的にはするんですけれども。つまり公的な機関同士の間のお金の移し替えというのは,財政法上,何らかの縛りがあって,簡単にはできないのではないかなというのが直感的にするんですけれども,その辺りはどうなんでしょうか。私は全然その辺りのとこを知らないので。 ○内野幹事 その部分について,今この時点では回答を持ち合わせておりません。 ○山本(和)部会長 他の委員,幹事の御意見,もしあればお伺いしたいですが。このままだと,何かやや意見が対立しているだけということになるので。なかなか難しいですか。 ○垣内幹事 難しいと申しますか,制度全体から見ると,比較的ささやかな論点のように見えて,かなり実際の運用上は大きな影響が出る部分でもあるのかなという感じを持っておりますけれども,従来,確かに申立書の写しの送付とかいったことはあっても,この種の回答書的なものについては例がないというのは確かにそう,御指摘のとおりなのかもしれないかなという気もしつつ,この制度が利用される強制執行の場面で,情報の早期の伝達,取得ということが非常に大きな意味を持っているということを考えますと,もし可能であれば,写しを送付するということも,過剰なサービスとまでは言えないのではないかという印象があります。しかし,どうしてもそこは他の制度等との均衡上,難しいのだというようなことあれば,やむを得ないのかなとは思いますけれども,方向としてはそういう感触を持っております。 ○阿多委員 弁護士会からですが,新しい制度のあれですが,まず,これは写しという形で,それの提供の方法が問題になっていて,裁判所の方で写しを作るということなんですけれども,弁護士にとって必要なのは,その記載されている情報だけが意味があるんであって,その提供方法について,今のときにそういう話を出すのもあれですが,ファクシミリなど,いろいろな代替方法というのはあり得るのかなと。今後IT化されて,データだけがもらえれば結構ですので,裁判所からの情報提供の仕方は工夫をしていただく,制度として裁判所に送付をすると,この位置についてはもうそこを固定するならば,あとは裁判所からの情報提供方法を何らかの工夫をしていただければと。別にそのものの写しを作って,そんなことはないですけれども,認証して送っていただく必要は全くないわけですので,そこの提供の仕方の工夫で御検討いただけたらとは思いますが。 ○山本(和)部会長 分かりました。   それでは,ほかには特段の御意見なさそうですので,ちょっと事務当局には宿題ということになりますけれども,今の御意見,御勘案を頂いて,次の段階の案をお考えいただければと思います。 ○道垣内委員 すいません,今,阿多委員がおっしゃったことなのですが,こういう条文を作って,写しは事実上の写しで,送り方もファクスでも何でもよいという運用は可能なのですか。裁判所が写しを作るということになっている以上は,認証は不要だとおっしゃいますが,裁判所が出している書面なので,それはできないのではないかという気がするのですが。 ○山本(和)部会長 条文の書き方も含めての検討が必要だろうということなんでしょうね。 ○谷幹事 今の写しは,必ずしも認証していないと認識していました。例えば家事事件手続法では,相手方に調停の申立書なり,別表第2の審判の申立書の写しは送付しますけれども,これは別に裁判所が認証しているわけではなくて,当事者が作ったものをそのまま送っていると,こういうふうに理解をしております。 ○阿多委員 当事者が写しを出しているのであって,裁判所が写しを出しているわけでは…… ○谷幹事 ではなくて,いや,それはそうなんですが,条文上は,写しを送付しなければならないということになっておりますので,そういう同じ立て付けの条文にすれば,同じような扱いでいいのではないかということです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。書きぶりも含めて,事務当局に御検討を頂ければと思います。(6)費用の負担や(7)情報の保護についてはいかがでしょうか。 ○山本(克)委員 情報の保護で,(7)の(ア)ですか,これで別の債務名義で,給与の場合です。給与債権を別の債務名義で差し押さえた場合に,それに対する執行抗告はできるということになるんでしょうか,こういう考え方をした場合に。 ○山本(和)部会長 事務当局としてはどのようにお考えですか。 ○松波関係官 御指摘のような事案が目的外利用となるかどうかという点ですけれども,今回の部会資料では,債務者に対する債権を,その本旨に従って行使する目的については利用することができるということでございます。このような規律を解釈する上では現行の財産開示手続に関する民事執行法の規律の解釈が参考になると思いますが,少なくとも現状の財産開示手続に関する条文の解釈を前提とする限りは,財産開示手続の申立てに使用した債務名義とは別の債務名義による強制執行のためにこの手続で得られた情報を利用することも許容され得るということが,一つの考え方だと思います。 ○山本(克)委員 そのものである必要はないんですが,表示されている債権の性質が扶養料に類する債権と,生命身体の侵害に基づく損害賠償請求権以外の債権が表示されている債務名義で差押えをした場合,給与債権を,何かそれは目的外使用だと。その人は,ですからそういう債務名義を持っていたら,ほかの債権者よりも,ほかの一般債権者ですよ,貸金であるとか売掛金代金とか何でもいいんですけれども,そういう債権者よりもすごく有利になってしまいますよね。ちょっとそれは何か不公正な感じがして,やはり要保護性が高いから債権を限定したんだと言っているのであれば,それに対する,そういう今言ったような別の種類の債権を表示する債務名義に基づく債権差押えに対しては執行抗告ができてしかるべきというか,本来してはならないということになってもおかしくないような気がするんですけれども,ほかのソースから分かったという可能性を排除できないので,どこまで意味があるのか分からないですが,ちょっと何か引っ掛かるものを感じます。 ○阿多委員 全く逆のことを考えていたんですが,債務名義に表示されている,つまり主文のところについて,今日はもう債務名義の記載の仕方は余り議論せずに済まそうと思ったんですけれども,先ほど損害項目の話も出ましたし,いろいろなものがあって主文が入っている。そうすると,損害項目自体は生命身体以外のものが含まれている状況において,例えば一部弁済がなされたらどれに充当されたかもよく分からない状況で,生命身体以外の損害賠償請求権があるにもかかわらず,逆にそれに基づいて執行してはならないという判断がなされること自体が,それは当該債務名義の利用を制限することになって,やはり逆の意味でおかしいのではないですか。 ○山本(克)委員 よろしいですか。そこは道垣内委員がおっしゃったとおりで,生命身体の侵害が何らかの形でその項目の一部に含まれていたら,それは一本の債権として見て,その一部弁済だとか一部免除だとか,そういうことがあっても,それはその性格を失わないという理解。   私が言っているのは,全く別の債務名義で,その債務名義に表示されている債権が,保護されるべきだとされた債権以外のものである場合にどうなのかということを聞いているので,そういうことは全く念頭に置いておりません。 ○阿多委員 誤解です。分かりました。 ○山本(和)部会長 ただ今の御指摘の問題については,事務当局でもまだ十分には検討していないかもしれませんが,何か補足的な説明はありますか。 ○内野幹事 給与債権に関する情報取得の要件ついては,どういう場面において情報の取得を認めるかということ自体を具体的な債権性質に着目するというアプローチがいいのかどうか自体,今日初めて議論したところでございますので,山本克己委員の御指摘は,それによって新たに出てきた論点かなというふうに考えております。もう少し事務当局でも考えまして,一つの御提案をしていければなというふうには思います。 ○阿多委員 今のでもうぶり返すつもりはないんですが,先ほど,生命身体について損害項目であれですが,扶養料に関しても,よく慰謝料とその後の扶養料とを一つにして公正証書を作成したり,債務名義を作ったりと,不法行為の損害の項目からだんだん離れていくような,更には債務名義によってはいろいろな財産分与のことも入っていたりというようなこともありますので,以外とそれ以外の債務名義に利用してはならないというと,区別というか,なかなか線引きが難しい状況はたくさんあると思いますので,その点も併せて発言しておきたいと思います。 ○山本(克)委員 それ自体は,そもそも市町村等に対して照会できるのかどうかという時点で,もうそもそも問題になる話ですよね。 ○阿多委員 いや,ですから,執行証書の作り方なのかもしれませんけれども……。 ○山本(克)委員 こういう規定ができれば,少なくとも既往には遡らないにしても,それぐらいのことは,少なくとも弁護士が関わった執行証書についてはきちんとやっていただきたいというメッセージが含まれているということです。 ○山本(和)部会長 弁護士が関わらなくても,それは公証人の方で,できればやっていただきたいということですかね。 ○道垣内委員 しかし,他の債権者は差し押さえできるのですよね。 ○山本(和)部会長 そういうことなんですよね。だから,別の債務名義では差し押さえられないとしてしまうのは不適切な感じもします。 ○道垣内委員 難しいかもしれないですね。 ○山本(和)部会長 御検討を事務当局の方でお願いいたします。 ○阿多委員 情報の保護について,共通のルールで整理をされてきているので,今日の前半でも不動産情報について,公的情報だというような形の整理,もちろん人によって,物ではなくて人で整理するというところに意味を見いだすように理解をしているんですが,ここでも「不動産又は給与債権に関する情報」という形で,不動産に関する情報をこの目的外利用制限,更には罰則対象にするのかということのバランスも含めて,やはりそこは別途考慮の対象になるのではないかなということも指摘しておきたいと思います。 ○山本(和)部会長 分かりました。   ほかにいかがでしょうか。よろしいですか。 ○山本(克)委員 ちょっと一般的な話なんですが,財産開示手続前置を採った場合で,本来そこで開示すべきことが,されていなかったことが,金融機関に照会する場合も,市町村に照会する場合も,登記所に照会する場合も生じてくるわけですよね。その場合に,罰則というか刑罰,罰則の適用に係る手続について,何らかの手当てというのは必要ないんでしょうか。つまり,裁判所は告発すべきだというような制度というものが作られれば,こっちまでにいかずに早く済んでしまう,開示手続の実効性が上がるということもあり得るように思うんですが,その辺りはどうでしょうか。余りちょっと,裁判所は多分嫌だとおっしゃる可能性が高いと思うんですが。 ○山本(和)部会長 それは,何か制度として条文で書くべきだということですか。 ○山本(克)委員 条文上,明らかになった場合は告発しなければならないと,あるいは告発するものとする程度でもいいと思いますが。 ○山本(和)部会長 確かに,犯罪を知ったということにはなるのかもしれませんけれども。   では,ちょっとその点もお考えいただければと思います。   おおむねよろしいでしょうか。   それでは,この部分は回答の送付について意見の対立がありましたが,その点については事務当局で引き続き御検討していただくことにしまして,一応これで部会資料18-1についての検討は終えさせていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。   それでは,続きまして部会資料18-2「子の引渡しの強制執行に関する規律の明確化に関する要綱案の取りまとめに向けた検討(2)」についての御審議に移りたいと思います。   まず,事務当局から説明をお願いいたします。 ○内野幹事 それでは,本部会資料におきましては,部会資料17-2で特に取り上げなかった論点でございます,その執行場所が債務名義上の債務者以外の第三者の占有する場所である場合における第三者の同意の問題を取り扱っております。そのため,本文の第4の2のみをゴシックとしておりますが,内容としましてはその前の規律を引用したりしておりますので,第4の1の内容も併せて記載しております。   2ページ以下では,意見募集の結果の概要や,これまでの議論を簡単に整理を試みているところでございます。   3ページの3の(1)検討に当たっての前提の部分におきましては,従前から議論されてまいりました債務名義の執行力の主観的範囲の論点について整理を試みておりますけれども,この点につきましては,これまで監護補助者という概念との関係,民事執行法第23条における承継人や目的物の所持者といった概念との関係で,様々な考え方がこの部会では提示されてきました。その状況を端的に受け止めますと,やはりその集約にはなかなか課題も多く残されているのかなというところがございまして,部会資料の中では,民事執行法第23条の解釈に委ねるという結論を採らざるを得ないのではないかというところで御提案をしているところでございます。   その上で,4ページ以下では,債務名義上の債務者や執行文の,今申し上げた民事執行法第23条の解釈に委ねた結果,執行文の付与等によりまして,執行債務者となった者の占有する場所については,債務者の占有する場所と同様に執行官による立入り等について同意を必要としないという結論になるのではないかという整理をしております。   これらの整理を前提といたしますと,占有者の同意というのが問題になるのは,部会の議論を反映いたしますと,いわゆる監護補助者というような者が占有する場所に執行官が立入り等をする場面ということが想定されてくるということになるのかなと考えられます。こういった場面において,いわゆる執行条件として第三者の同意を要するのかどうかというのが今回のテーマ,具体的な論点ということになろうかと考えております。   そして,第三者の同意を要する場合の根拠として,債務者についてはその同意を要しないということを参照しつつ,執行の必要性と,その第三者の財産権等を制約することの許容性の調和という観点をお示しした上で,6ページでございますけれども,第三者の同意を要しないものとする要件として執行場所が子の住居であることを提案しております。   また,この具体的な要件の在り方につきましては,単に執行場所が子の住居であることを要件とするのみではなくて,更に執行裁判所が相当と認めるときというような要件を付加すべきであるという考え方もあり得るかと思われますので,そのような考え方に基づく規律もブラケットを付して提示しております。この点についての皆様の御意見を伺えればと考えております。   このような具体的な要件をどのようにするのかという議論を前提といたしまして,7ページ以下では,その判断の主体を執行裁判所とするのか,若しくは執行官とするのか,そして執行裁判所の許可という枠組みを前提とした場合であっても,部会資料の本文に「申立てにより」と書いておりますが,その申立ての主体を執行官とするのか,債権者とするのかといったところにつきましても,不服申立てに関する規律の在り方も含め,御議論いただきたいと考えております。   最後に10ページ以下では,その他の論点として,子の所在調査に関する規律を設けるべきか否かという点についても記載してございますので,併せて皆様の御意見を伺えればと考えております。   部会資料の御説明は以上でございます。 ○山本(和)部会長 それでは,ただいま御説明がありました部会資料18-2について,特に項目は区切りませんので,どの点からでも,どなたからでも結構ですので,御自由に御発言を頂ければと思います。 ○宇田川幹事 これまで十分に議論されたところなのかもしれませんけれども,「検討に当たっての前提」とある部分について,まず申し上げなければと思いまして挙手させていただきました。   こちらの検討の前提ということで,3ページの3の(1)のところ,民事執行法第23条の関係なんですけれども,それから5ページの3(3)のアの(ア)に書いてあるところですけれども,ここの記載の趣旨というのは,債務者の監護補助者と言えない第三者が子を監護している場合に,その執行文付与が可能かどうかは民事執行法第23条の解釈に委ねられるという旨が記載されているところですけれども,このように記載されますと,ある程度,執行文付与の可能性がそれなりにあるのではないかというふうに受け取られかねないのではないかというふうに考えておりまして,ただ,この条文の文言からすると,どこまで執行文の付与をすることができる場合があるのかというのは疑問がありまして,余りないのではないかと考えているんですけれども,その点も踏まえて,今回の新しい規律についても検討していただく必要があるのではないかと思っております。   もう少し具体的に申し上げますと,民事執行法第23条第1項第3号の承継人というふうにありますけれども,子の監護は,子と,その世話をする者との関係で個別に成り立つものであるというふうに考えておりまして,占有のように承継という概念になじまないのではないかというふうに考えております。また,同条第3項につきましても,目的物を所持するという文言が用いられていますけれども,今回の改正によって,子を動産に準じて取り扱うことができなくなるため,この文言上も,この条文を適用することはできないのではないかというふうに考えておりまして,全体の問題として確認をさせていただければと思いました。よろしくお願いします。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   事務当局から何かありますか。 ○内野幹事 確認というのは,どういう御趣旨になりますでしょうか。 ○宇田川幹事 余りないのではないかというところについて,共通認識が得られているのかを確認したいという趣旨です。 ○山本(和)部会長 部会では,この点についてこれまで何度かにわたってかなり議論をしてきたところで,今の宇田川幹事のような御見解も確かにありました。しかし,もちろんこの承継とか所持というのがそのまま妥当するわけではないわけですが,その背後にある考え方などに基づいて,一定の類推適用が可能なのではないかという意見もあり,本部会ではその考え方を統一して規律を設ける,あるいは民事執行法第23条をそもそも改正するとか,あるいはその解釈を統一する形で議論をするということはなかなか困難ではないかというのが,今までの私の認識する部会の審議の状況であります。   それを前提にすれば,今,宇田川幹事が言われたのは,一つのお考えとしてあることは,恐らくこの部会でも十分認識はされているんだと思いますが,みんながその考えを前提にこれから議論しようということにはなかなかなりにくいのではないかというのが,部会長としての私の現段階での認識です。 ○宇田川幹事 分かりました。そのような考えを持っているということで,意見を申し上げさせていただきたいと思います。 ○山本(和)部会長 それは十分承りました。   それでは,いかがでしょうか。どこからでも結構ですので。 ○阿多委員 中身の確認をお願いしたいんですけれども,5ページの(3)ア(ア)のところで,ここで「債務者の住居等以外の場所が執行場所であり,かつ,当該場所を占有する第三者が子を「監護」しているという事案を念頭に,当該第三者が債務名義の取り直しにより新たな債務名義上の債務者となった場合」という形になっているんですが,ここで想定している取り直しというのは,家事事件ではなくて別途何か民事事件か何かで債務名義を取り直すというような場面を想定されているのか,対象としてどういうものをイメージしているのかというのを少し,まず教えていただけたらと。まずそこからで結構です。 ○内野幹事 ここのところは,特段この事案でしかないということを限定しているわけではなくて,子と事実上の関わりを持っている現状にある人を債務名義上の債務者とする新たな債務名義が成立している場面を書いているにとどまりますので,例えば後発的なものは必ず民事訴訟を念頭に置いているというわけではございません。飽くまでも,現在において,旧債務名義が成立したときとは違う者が,子に対する事実上の関わりを持っているという事情に鑑みまして,その者を被告ないしは相手方として新たな債務名義が取得されたといった場面を表現しようとしているところでございます。 ○阿多委員 続けてよろしいですか。そうしますと,同じページの5ページの(イ)のところで,執行場所を占有する者の同意の要否が問題になる場面の検討で想定されているのが,前記(ア)の整理によれば,債務名義上の債務者ではなく,――それは新たな債務名義の取り直しがされた場合も含めて――また執行文の付与により執行債務者となった者でもない,いわゆる監護補助者等という形で入っていて,それが占有する場所についてはという,その場面についての言わばルールの設定だという形になっていると思うんですが,結局,議論をぶり返すつもりは全くなくてあれですけれども,どういう場面を想定しているのかというのを一つの典型例で,同居していない債務者の祖父母,端的に言えば実家が別にあると。実家が別にある債務者の方で,債務者が子供を預けて面倒を見てもらっているという状況を,従前から監護補助者という,先ほどもお話に出ました補助という概念でいくのか,所持という概念でいくのか,そもそも適用されないのかというのは別にして,具体のイメージとしては,祖父母が実家で預かっていると,そういう場面で,我々の方は,従前そういう方法を使って執行逃れをするという場面があるけれども,それについて何らかの対応策を御検討いただきたいと,そういう申出をしてきたわけですが,今回の御提案ですと,表現として気になりますのは,1ページに戻りまして,第4の2の(2)の当てはめの話になるかと思いますけれども,「前記(1)の規定にかかわらず,執行裁判所は,子が前記(1)の規定する場所に居住している場合において」という形で,居住をしていると。   そうすると,執行逃れで我々がイメージしますのは,ずっとそちらに生活の拠点が移ってしているのではなくて,正に執行されそうになった状況において,子供を一時的に預けるとかいうようなことを想定して,執行逃れがあるので,そういう場面に対処できるようにして手当てを考えていただきたいということなんですが,居住という言葉の響きからすると,一時的な執行逃れのために預けるという場面に,この案だと対応できないのではないかと。御苦労していろいろ御検討いただいているのは分かるんですが,そういう危惧があるので,もう少しこの居住以外の表現ないしはほかの要件というような形で,許可で代替するということを御検討いただけたらなと思います。まず,そこだけ述べておきたい。 ○内野幹事 今回,住居ないし居住という部分を要件として提示しておりますのは,現行のハーグ条約実施法における,執行場所を占有する第三者の同意に関する規律の在り方,そして債務者についてはその同意を要求していないこととの関係で,一つの試みまでに規律の提示をしているというところではあります。   また,この部会の議論では,第三者の占有する場所に子がいる場面において,その第三者の同意が要るのか,要らないかということを議論するための題材として,保育所のような,一定程度限定された時間,子が滞在する場所の取扱いをどうするかという議論もございました。   このような場所を占有する第三者の同意がなくとも強制執行をすることができるという規律については,比較的慎重に検討すべきだという意見が幾つかあったと認識しており,こういったところを踏まえまして,少なくともこのような場所を占有する第三者の財産権等との調和の観点からすると,第三者の同意を不要とする規律としては,執行場所が子の住居である場合に限るという規律を提案しているところでございます。ですので,より広く,時間的には子が一時的に滞在するような場所であっても,その場所を占有する第三者の同意を不要とすべきであるという御提案があれば,正に,この部会の中で議論して,一つの要件化を試みていきたいというふうには考えております。 ○山本(和)部会長 いかがでしょうか。 ○阿多委員 端的に居住に代わる意見を出せとおっしゃっているのかなと思いますけれども。   それで,幾つかの形で御議論いただきたい点があるんですが,先ほど例に出ました保育所の件なんですけれども,これはまず,議論がいろいろあって,多数の意見がどこかが実はよく分からないところがありましたので,確認的な形で,ほかの委員の方にも御発言いただきたいんですけれども,債務者の自宅以外での場所として,従前から道路ないしは保育所や学校の門を出たところでの執行について,そういう実例があって,それが望ましいかどうかは別にして,やむを得ずそういう執行をしている事実があるわけですけれども,私自身は,そのような場所で執行するよりも,保育所等の施設の中で部屋を借りて引渡しを受ける,引渡しという言葉自体またあれですが,受けるのが,まだ子の福祉にかなうのではないかと,そういうふうに考えていて,そうしますと,このような限定された要件では,保育所等での執行すらできないことになるんですが,皆さん,本当にそれでいいと,道路での執行でも,もうやむを得ないんだという御判断なのかどうか,お話を伺ってから代替案について御議論できたらなと思うんですけれども。 ○山本(和)部会長 同意を得れば,保育所等の施設の中でも執行することはできるわけですよね。 ○阿多委員 もちろんそうです,ええ。 ○山本(和)部会長 同意がないときでも強制執行をすることができるようにすべきということですか。 ○阿多委員 その関連で言うならば,この資料の7ページの中段のところで,「もっとも」の段のところで10行目のところ,下から8行目ですか,「一方」という形の記載で,「当該第三者が,保育所や学校であるなど債務者とは独立した中立的な立場にある場合については,執行官による説得がされた場合に債務者と同様に執行官による立入りに抵抗し,同意をしないことが一般論として想定されるとまではいい難い」と,一つの価値判断をされていて,その場合は同意で対応できるんだというような御説明があるんですが,これはいろいろな立場ないしは経験の問題もあると思うんですけれども,学校,保育所の方は,従前,銀行などのお話もありましたけれども,むしろ直接面識があるのは債務者,債権者とは全然,ほとんど面識がない場合がほとんどの状況で,債権者,更には執行官が来たからといってすぐに同意を,説得を受けても同意をして子供を引き渡すというのが,本当にそれほど期待できるのか。むしろ,そのような場面では債務者に連絡を取って,こういう方が来ていますけれども,どのように対応したらいいですかという連絡を取って,債務者が来るまで待ってください,ないしは控えてくださいという形で,端的に言うと,言葉を換えて言うならば同意しないと,そういう場面の方がむしろ多いのではないかと。そういう状況で,債務者が臨席して,債権者もいる状況で高葛藤になってトラブルになるのは回避する必要があるのではないかという形で,同意に代わる許可というのを保育所という場面でも案として入れた方が,施設管理者等もトラブルなく,自己の責任で渡したのではなくて,裁判所のそういうふうな許可というか,命令があるから渡したんだという形で,スムーズに引渡しが実現できるのではないかと,私はそういうふうにイメージをしているんですが,そこが皆さん前提が違うのであれば,子の居住のところの言葉についてはまた考えたいと思います。 ○山本(和)部会長 分かりました。   いかがでしょうか。 ○佐成委員 別に定見というわけではないですけれども,ここはそういう類型化が非常に難しいのではないかとは思います。保育所を一律に同意不要で,裁判所の許可に係ると類型化できるようなものなのかというのは,私は非常に慎重な意見を持っております。それだけは申し上げておきます。ですから,そういう規律を入れること自体には,余り賛成し難いというのが現時点での感覚でございます。 ○宇田川幹事 保育所での執行について,これまでの部会での議論でも,やはりほかの児童に対する影響があるということで問題視されていた部分だと思います。   阿多委員のおっしゃるように,結局,別室で子を引き渡すというようなことであれば,それはもう,やはり保育所の同意が前提となるのではないかというふうに考えておりまして,そうすると,保育所の同意がない場合に,このように裁判所の許可で認めるというのは,余り相当ではないのではないかというふうに考えているところでございます。   あと,先ほど居住というところの要件の関係で,少し明確化させていただければと思っているんですけれども,子の居住というのは住所と居所,両方が含まれるということでよろしいのかという点について,お尋ねしたいと思います。居所の場合に,ある程度継続的に当該場所に住んでいるということになるかと思いますけれども,先ほどの祖父母が,よく執行逃れのために預かっているという場合にも,執行逃れということからすると,ある程度の期間が継続するということも十分考えられるのではないかというふうに考えておりまして,そのようなことで対応できるのではないかというふうにも思いまして,ちょっと発言させていただきました。よろしくお願いします。 ○内野幹事 事務当局としましては,正に本日の議論によるところかと思っておりますけれども,正に「住所」という文言を用いていないのは,一定程度の時間的接着性があれば,いわゆる財産権等との調和の観点からも,執行の必要性や許容性という部分について認められる余地があり得るのではないかというところがありまして,ただいま御指摘いただいた居所につきましても,本部会の議論の叩き台としましては,含み得るということで規律を提示しております。その相当性自体は,正に部会での議論によるところかと思います。 ○山本(和)部会長 いかがでしょうか。今の点でも別の点でも結構です。 ○阿多委員 そうしますと,別に脅しているわけでも何でもないわけですが,保育所を許可の対象に入れないという場合は,現状の道路での執行を,現状というか,過去行われていた道路での執行が,それは行われることはやむを得ないと,そういう御判断なんですか。 ○佐成委員 そういうことではなくて,同意を得られればよいわけです。ですから,状況によると思うので,別に一律に多分できないと,ここで決め打ちはできないのではないかと思います。確かにそういう例があるのだろうとは思います。執行逃れというか,なかなか難しい面はあるのかもしれませんけれども,ハーグ条約実施法で実際そういう規律になっている以上,それを前提に,今私は価値判断をしているということでございます。実定法上の価値判断ということです。 ○宇田川幹事 道路,公道での執行ということについて,少し申し上げたいと思います。   前提として,公道というのは今回の規律で言う,第4の2の(1)の債務者の住居その他の債務者の占有する場所以外の場所に当たるというところであると思いますけれども,この場合には,まず誰でもが入れる,いられる場所でございますので,第4の2の同意を必要とする規律は適用されないのではないかというふうに考えております。もしここが違うようであれば,御指摘いただきたいと思います。その上で,これまで議論されているところで,同時存在というのが必要的でなくなった場合には,論理的には執行官が債権者と共に,子供が学校から帰ってくるのを待って,公道上で直接的な強制執行をするということは可能になるということではあると思うんですけれども,これも結局は執行官がどこで執行するのが相当かということの一つの選択肢として考えられるということで,必ずしもそれがよいというわけではないんですけれども,諸般の事情を考慮して,執行官の方で検討して考えていく話かなというふうに考えております。   実際にハーグ条約実施法の施行以前には,そういった公道での強制執行ということも行われたというもののことを承知しております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○谷藤関係官 同意のところですが,執行官が突然学校に行っても,なかなか簡単には同意してくれないという話かと思いますけれども,ハーグ条約実施法の施行以前には,債権者代理人において地ならしをしておいていただいた上で,執行官が来た場合には同意してもらうというような形だったのではないかと思いますので,その点を御紹介しておきたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   いかがでしょうか。今回はかなり新しい提案ですので,是非部会の全体の雰囲気,執行場所に子が居住している場合において,しかも,相当と認めるときというのはブラケットに入っていたりするものですから,是非委員,幹事の幅広い御意見を賜れればと思います。 ○佐成委員 阿多委員のお話を受け,部会メンバーとして発言しただけでございまして,この新しい論点に関しては,私は,居住という概念については,住居なのか何なのかという判断があり得ることは分かりますけれども,おおむね非常にかちっとしているかと思いますので,この資料を拝見した限りでは特に異論はないです。この範囲で,裁判所の許可に係るという制度を設計することについて,要するに同意の例外を設けるということについては,それほど違和感はございません。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○宇田川幹事 時間も限られているところだとは思いますので,裁判所で考えていることをちょっと申し上げたいと思っているんですけれども,まず,相当性の要件の関係ですけれども,同意に代わる許可を認める場合に,相当性の要件を加えるかどうかについて,裁判所として特段の意見はないんですけれども,この相当でないという場合はどういう場合なのかというのを明確にしていただきたいなというふうに考えております。ここで資料に出ているのは,ホームステイの期間がある程度長期間にわたっているような場合で,第三者の財産権等を害する場合というようなところが,一つ,例として出ているところだと思いますけれども,同じようなところで考えると,例えば児童養護施設ですとか,学校の寮に居住している場合という,そういうものも第三者の利益など,ほかの子供への影響なども考慮して,相当でないというような,そういう考え方になるという理解でよろしいのかどうかというところについて,もし何かほかの委員,幹事の方で,事務局の方にもお考えがあれば教えていただきたいというふうに考えております。   あともう一つ,申立ての主体の関係についても申し上げたいと思っております。現在,議論されている規律内容からすれば,執行官が債権者やその代理人から資料の提出を受けて,実際の強制執行の計画を立てるということが想定されるかと思います。そうすると,まず執行官において,債務者の占有する場所で行うのがよいのか,第三者の占有する場所で執行を行うのがよいのか,それとも先ほどのような,公道のような,それ以外の場所で行うのがよいのかどうかということを検討した上で,執行官がその第三者の占有する場所で執行する必要であると判断した場合に,初めて同意に代わる許可が必要となると思われますので,やはり執行場所に関する執行官の意見を踏まえて,同意に代わる許可の判断をする方がより適正な判断が可能となるというふうに考えております。そういうことからすると,やはり執行官の申立てによるという規律を設ける必要があるのではないかというふうには考えております。   ただ,債権者による申立てによるという規律を設けるべきだというところは,御意見としては出るところだとは思いますけれども,このときにも,直接的な強制執行の申立てと同時に,同意に代わる許可の申立てがされ,常に授権決定とともに,同時期に許可の判断をしなければならないとすると,常にそういう申立てがされて,どこがよいのかという執行官の本来判断するような部分のところまで含めて審理した上で判断をしなければいけないとすると,なかなか円滑な手続にはならないのではないかというふうに考えておりまして,事案によっては,執行場所に関する執行官の意見も踏まえて,債権者による直接的な強制執行の申立てについても執行官の意見を踏まえて判断する枠組みとした方が,適正な判断が確保をされるのではないかというふうに考えているんですけれども,この点についても皆様の御意見があればお聞きしたいというふうに考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○山本(克)委員 執行手続において,執行官の申立てという概念があり得るのでしょうか。私は職権でやって,そのときに執行官の意見を聞くのであれば理解できるんですけれども,執行官の申立てというのはちょっと考えにくいような気が。おっしゃる趣旨は,執行官の意見を無視してやってはいかんということなのではないのかなと思うんですが,それは申立権の問題として扱うべき問題ではなくて,判断に至る過程の問題として処理すれば足りると。それで,執行官の申立てに代わるんであれば,職権でできるということにしておいて,その際に執行官の意見を聞かなければならないとか,その程度のことでいいのではないのかなという気がしますけれども,ちょっと執行官の申立てはかなり抵抗感があります。 ○山本(和)部会長 一応,部会資料によりますと,夜間執行や休日執行については執行官の申立てというのが,一応,現行法も認められているのに倣ってというようなことですけれども。 ○山本(克)委員 しかし,ちょっと性質が違うのではないでしょうか。 ○内野幹事 厳密な意味では,執行官の申立てについて,債権者の申立てと同じような表現をするのが相当かという点については,御指摘のとおりかもしれません。ただ,いずれにしてもそういった許可のきっかけを誰がつくるのかという部分について御議論を賜りたいと考えております。 ○山本(克)委員 申立権者として執行官が許可を申し立てたんだけれども,裁判所が不許可にした場合に,執行官に独自の抗告権なり執行異議の権利が生ずるんでしょうか。 ○山本(和)部会長 実際には,夜間執行の場合は執行官は不服申立てはできず,債権者が執行異議の申立てができるというのが,中野貞一郎先生などの御見解だったかと思いますが。 ○山本(克)委員 でも,やはり執行官の申立てというのは気持ち悪いですね。 ○山本(和)部会長 個人的な意見を申し上げれば,私も同様の感想を実は持っているんですが,他の委員,幹事の方の御意見はいかがでしょうか。申立ての主体や,あるいはそもそも子の居住に関する要件の在り方も含めて御意見があれば伺いたいと思います。 ○阿多委員 道路の執行のところでどういう雰囲気になるのかなと思って伺っていたものですから,道路の執行が残るということのようなのであれなんですが。   先ほども御指摘がありました,宇田川幹事の御発言で,実際上,今の執行の実務では債権者が提出する,特に審判前の保全処分などでは債権者の方で資料を準備して,行動表などを作ってしているものですから,結局,授権決定で何を決めるのかというのと,元々の申立て,そこの実は振り分けがよく分からなくて,このお話がよく分からないんですが,お話を聞いていると,執行官が実際にもう具体の計画を作って,これで執行場所として債務者の居住所ではないところで執行官が執行したいと思ったときに,誰が申し立てるかというのは別にして,誰かが申し立てて個別の授権決定をもらうというイメージで話をされていると思うんですが,元々債権者が申立てをして,授権決定のイメージの問題なんですけれども,執行裁判所を含めてある日に執行しようと思って,基本的には債務者の住所地でしようと思っているけれども,その日,執行に行ったらいなくて,たまたま祖父母のところにいるというのが分かったと。それであれば,不能にするのではなくて,もう前もって授権の段階で同意に代わる許可,それも子が居住しているということも証明した上で許可をもらうという,そういう手続のイメージなのか,どっちでイメージを組めばよろしいんですか。 ○内野幹事 恐らくそこも選択の問題だと思います。方向としては,このような同意に代わる許可の制度を作る趣旨としては,常に第三者の同意を要するとしたのでは強制執行ができない場合が多くなるのではないかという部会の問題意識に基づいての議論でありますので,強制執行が実現する可能性を高めるための適切な調整弁としてどのような規律がよいのかという点について,この部会において御議論いただければと思います。 ○山本(和)部会長 重ねてで恐縮ですけれども,この同意が不要の場合の要件というのは非常に重要な問題で,今回,事務当局から一応の原案が示されたわけですので,是非,委員,幹事の皆様から賛成なら賛成という一言でも結構ですし,もちろん反対でも結構ですので,御意見を頂ければ大変有り難いです。 ○垣内幹事 私自身は,今日御提案されている範囲で同意の例外と申しますか,同意に代わる許可を与えることができるという規律については,基本的に賛成できるのではないかというように思っております。   また,先ほど宇田川幹事の方から御発問のありました相当性の内容についてですが,そこでも例示がありましたように,例えば学校の寮に居住しているという場合で,この場合の学校が監護補助者というべきものなのかどうかという辺りについてはいろいろ議論もあり得るところかなという感じもいたしますけれども,仮に強制執行がそこで,基本的にはできるという前提を採ったとしても,そこで強制執行を同意なしに行うということが,その学校の他の生徒であるとか,様々な影響を鑑みて相当でないということであれば,不相当だという判断はあり得るのではないかという感じはしております。一般的には,当該第三者の性質であるとか,第三者と債務者との関係とか,あるいは子供と当該第三者の関係等々を踏まえて判断するということになるのかなという気がしております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○平田委員 以前,議論した際に,裁判所の許可という形で丸投げにするのはやめてほしいと強く主張した立場から申し上げたいと思うんですが,今回はなぜ,債務者の住居の場合は同意がなくてもいいとされているのかというのを検討されて,同意を要しない場合,それで裁判所の許可で代えられる場合ということで子の居住という要件を考えられていますので,この限度で一応合理的なのかなと思っております。   ただ,例で出されている,一般家庭にホームステイしている場合が相当でない例として適切かどうかというのはちょっと疑問がありまして,債務者と従前から面識を有していたか否かで判断が変わるのかなというのは疑問でして,やはり一定期間の居住ということがあれば,それは相当なのではないかと思いますので,例えば一問一答とかで例として挙げる場合には,この例はいかがかなとは思っております。ただ,この検討自体は特に異論はございません。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○村上委員 従前から執行場所について,保育所であるとか学校については,子のプライバシーの問題もありますし,ほかのお子さんへの影響などもあるので,基本的には慎むべきではないのではないかということで申し上げてまいりました。そして,また,以前例示されていた祖父母宅に長期に預けられているような場合については,実質的にそこで生活しているということであれば,そこで執行するということは考えられるのではないかと発言してまいりましたので,その観点から,今回の子の居住ということについては前向きに考えたいと思います。   ただ,先ほど例外というか,グレーのところでホームステイの問題とか寮の問題などありまして,そういったところについては,今御説明を伺いながら,やはり子の福祉や様々な要素を考えながら判断していただけるということが大体分かりましたので,そういったことでよろしいのではないかと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○山田幹事 私も結論としては,今回御提示いただいた枠組みに賛成したいと思います。   先ほど来,議論があるように,一種のグレーゾーンといいましょうか,その部分について,どのように区別するかは困難な問題ですけれども,この枠組みですと,――重要なのは監護補助者という,名前がいいかどうか分かりませんが,実際に監護をしている人の独立の利益をどの程度カウントするべきなのかということと思いますけれども――,居住をしているということで,ある程度の独立の利益があり得るんだけれども,しかし,相当と認めるときには同意の代替が可能であるという枠組みであり,理論的にも実際的にもよろしいのではないかと思います。   ただ,ここの例で書かれておりますように,同意をするものと一般に推定されるかどうかというか,想定されるかどうかは,さほどに強い考慮要素にはならないのではないか,むしろ独立の利益を持っているかどうか,その利益が例えば寮にいるほかの子供等々との関係でどう評価されるかということの方がより重要かなと思っております。 ○勅使川原幹事 これの同意の要件で,なぜ同意が必要かというところは,正に私もこの資料の7ページのちょうど真ん中ぐらいに,「執行官による立入り等によって制約を受ける財産権等の内容」で,特に括弧内ですね,他の児童等にも配慮した形で,平穏を乱さないような形で,敷地なりの何なりを管理するという利益の部分であろうかと思います。だから,それゆえに同意を必要とするんだけれども,この場合の同意は比較的容易に得られるであろうということですから,そう大きなハードルにはならないと思いますし,逆に言えば,そうだからこそきちんと同意を取りましょうという手続でよろしいのかなと思います。   ただ,これの考え方,居住という概念がどこまでを指すのかがありますが,例えば寮で住んでいるとかというケースでも,やはりここの利益を守るべき事柄というのは残ってくるような気がするので,そうすると,居住しているから直ちにということではなくて,相当要件というんですかね,それをクリアするという趣旨なのかどうかだけをちょっと確認をさせていただきたい。 ○内野幹事 子の居住という要件だけで,執行場所を占有する第三者の同意がなくても執行官が立入り等をすることができるということ自体については,正に今の御指摘のように,例えば学校の寮のような場面では,やはりその事案によっては,その場所で強制執行を実現する必要性はあるものの,同意なしで強制執行を認めることによる弊害も想定されるところであり,そういう意味では,子の居住という要件だけではなかなか事案の処理として適切な調整を図ることができないのではないかという点を考慮しまして,事務当局としましては,これに対応する要件として,この「相当と認めるときに限り」というような規律を提示しております。   したがいまして,今,勅使川原幹事がおっしゃったような考慮要素に対応するためにこれを,かぎ括弧ではありますけれども,提示して,今議論していただいていると,こういうところであります。 ○勅使川原幹事 では,そういう,このブラケットが入っているという形で,一応賛成をさせていただきたいと思います。 ○山本(克)委員 私は逆で,相当と認めるときに限定した場合に,どうやって執行するのかという問題をどう考えておられるかをお聞きしたいと思います。   たまたま外に出る機会を狙って,あるいは冬休みのときにお正月に債務者宅に行って強制執行するということ以外の選択肢を封ずるということですよね,場合によっては。そういうことは適当なんでしょうか。 ○山本(和)部会長 御意見としては,子の居住の要件さえ満たせば,もう直ちに同意に代わる許可をすることができるようにすべきであるということでしょうか。 ○山本(克)委員 問題は,執行方法の制約を加えることで対応できる部分がかなりあるのではないのかという意味で,私は元から,保育所でも学校でも,どこでも執行できるという立場ですけれども,そこは諦めるにしても,執行方法を,相当な執行方法によらなければならない旨を授権決定の中でするということで,相当程度は回避できるのではないのかと。何でもできるという趣旨で,入っていっていきなり部屋を特定して,そこに突入して無理やり連れてくるというようなことを想定されているんでしたら,それはむしろ同意なしに入れるとかうんぬんの問題よりも,執行方法として適切でないという形で処理できる話なので,こういうおそれがあるということを,果たしてその入口で完全に,おそれがあるから駄目だというのか,そういうことはしちゃいけないけれども,一応,入れますというふうにするのか,それは両方の立場があり得るところではないんでしょうか。そこについての検討が,私は十分できているとは思えないので,直ちにこのブラケットを外すということについては賛成しかねます。 ○山本(和)部会長 今の案は,第4の1に掲げられている(1)から(3)までがワンセットになっていて,その同意に代えて,2の(2)で執行裁判所が許可をするという枠組みになっていて,許可をすれば,(1)から(3)がワンセットでついてくるという,基本的にはそういう枠組みになっていると思うんですが。要するに,説得を行うほか,その場所に強制的に立ち入る,あるいは債権者等と子を面会させるとか,債権者も立ち入らせるということは全部ワンセットになっていますよね。 ○山本(克)委員 ええ,それはもちろんそうですが,ほかの生徒に悪影響があるという場面を,そこを排除すればいいのではないですかということを申し上げているんです。そこを排除するようなことで,これはむしろ当該子のためにやっている部分が結構多いわけですよね。第三者に対する悪影響ということを懸念されるのであれば,執行方法で対処できる部分が相当あるのではないかということを申し上げております。 ○山本(和)部会長 分かりました。 ○谷幹事 私は結論としては,このブラケットの「相当と認めるとき」というのは,これはやはり要件としては置いていただくのがいいのかなと思っております。前提として,この案の立て付けというのは,今,部会長がおっしゃったように,執行官の権限をどういう要件で認めるのかということだと思いますので,この許可があれば,第4の1の(1)から(3)までの権限が付与されるということですので,その前提でどういう要件を課すべきかということを検討すべきであって,権限を認めた上で,その後,執行の方法の相当性を確保すればいいから,要件を緩やかに認めていいのではないかということにはならないのだろうというふうに思っております。   この相当性の要素の中身としては,今おっしゃったような学校の寮なんかを想定した場合に,その寮の平穏な管理とか,あるいは他の生徒への影響というようなことと併せて,ほかに代わり得る執行方法というのがあるかどうかというようなことも,恐らく相当性の要素には入ってくるんだろうと思うんですね。ですから,原則として学校の寮なんかでは,これが執行力を及ぶという前提の場合ということにはなるんでしょうけれども,仮に執行できるとした場合に,原則としてはほかの生徒への影響等を考えると望ましくないとしても,ほかに方法がなかなか考えられない,あるいはあるとしても極めて長期間たった後にならないと執行できないというふうな場合には,場合によっては相当というふうに認めて,執行,許可を与えるということもあり得るのではないか。そういう広い概念として,相当性というものを要件に入れるということでいいのではないかと思っております。 ○山本(克)委員 今おっしゃったこと自体,何も反対していないので,では,ほかに執行方法がないから相当だと認めたときに,第4の1に掲げられている措置だけで,権限を付与するだけで十分なのかと。むしろいろいろな行為を制約するという形を採らないとまずいのではないかということを申し上げているわけです。それは,個別に限定列挙することはかなり状況依存的なので不可能なので,裁判所がこういう行為はしてはならないということを,併せて執行官に対して授権決定の中でそういうことを,具体的にこういうことはしてはいけないよということを,あるいはこういう執行方法でやりなさいというようなことをやるべきなのではないのかということを主として言っている。そうすることによって,相当でないとされる範囲は減じられるのではないかということを申し上げている。 ○垣内幹事 今のような御趣旨であるとすると,原案と山本克己委員のお考えというのは,必ずしも排他的なものではないのではないかなという感じもいたします。つまり,相当な形での執行方法が取り得るということが確認でき,それを場合によっては裁判所は指示するということになるのかもしれませんけれども,そういうものとして相当性が認められるのであれば,それは相当と認めることができるということですので,同意に代わる許可はできるのではないでしょうか。 ○山本(克)委員 ですから,そこをもっと明確にしてほしいということを申し上げているだけです。でも,私は許可することが相当でないと認められる場合が本当にあるのかどうかということについては,いまだ納得はしていない。 ○山本(和)部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○道垣内委員 白熱した議論が行われているときに,何かちょっと違うようなところを言うようで恐縮です。個人的には関係があると思っているのですが,9ページのところに,「2度の執行抗告を・・・・・・認めることになり」という話が書いてありますよね。そして,括弧内に「執行裁判所が執行官に債務者による子の監護を解くために必要な行為を実施させる決定」というものがあり,それについては,執行抗告というのがあり得るのだという話なのですが,これは具体的にはどういう内容の決定なのですか。一例でよいのですが。 ○内野幹事 前者の方という御趣旨でしょうか。 ○道垣内委員 そうです。 ○内野幹事 前者の趣旨は,以前の部会資料にも記載いたしましたけれども,イメージとしましては,子の引渡しの直接的な強制執行の申立てがされ,これに対して執行裁判所が執行官に言わば授権する,この最初の決定に対して執行抗告がされるという場面を想定しております。 ○道垣内委員 そうすると,ここのオのところに書いてある不服申立てというのは誰がやることが前提になっているのでしょうか。仮に私がここに言う第三者であるとするときには,私にはいろいろな理由があって同意していないのに,なぜ裁判所は相当だとか言って,私の同意は要らないと判断したのか,と文句を言いたいような気がするのです。「執行裁判所が執行官に債務者による子の監護を解くために必要な行為を実施させる決定」での不服内容と異なるわけであり,どうして2度の執行抗告という話になるのでしょうか。 ○内野幹事 ここでは,必ずしも同一人が2度の執行抗告をするという場面を想定しているわけではございません。 ○道垣内委員 そうすると,2度の執行抗告は全然おかしくないではないですか。第三者の利益をどうやって保護するのかという話だから。 ○内野幹事 おっしゃるとおりです。ですから,そこで,こういった執行抗告がされる場面をどのように評価するかということ自体が論点であるということを含意しております。 ○山本(和)部会長 どちらかといえば,債権者から見て,この手続が2度の執行抗告によって遅滞するという問題点を指摘していて,しかし,その債務者と第三者は別の人格で,それぞれ手続保障があってしかるべきであるという反論は,当然成り立ち得る。どちらを重視するかという,そういうことになるということです。 ○道垣内委員 そうすると,(注2)が僕にはよく分からなくて,(注2)の5行目かな,「当該決定がされた後に債務者の住居等以外の場所での執行が必要であることが判明する場合もあり得る以上」と書いてあるのですが,仮に当該決定がされるときに,債務者の住居等以外での執行が必要であるというふうな状況が既に存在していたときに,それは授権決定がされない場合があり得るという前提なのでしょうか。 ○山本(和)部会長 その場所における,同意に代わる許可はされないということですか。 ○道垣内委員 同意に代わる許可なんて問題にならないではないですか。執行をしていいよというふうな決定のときには……。 ○山本(和)部会長 それはされるのではないでしょうか。 ○道垣内委員 されるのですか。 ○山本(和)部会長 されるのではないですか。 ○道垣内委員 少し考えてみたいと思いますが,少し分かったような気もしますので,差し当たっては結構です。   それと,もう1点なのですが,「相当と認めるとき」には,同意に代わる許可を与えることができるという規律でよいのかという話なのですが,相当と認めるときにはよいに決まっているような気がします。つまり,相当の判断について,みんないろいろな意見を出されているわけですが,その判断で「相当と認めるとき」には相当であるというのはトートロジーであり,規律として成り立っているのだろうかというのが疑問な感じがします。 ○山本(和)部会長 ですから,もし望むらくは,「相当と認めるとき」というのは要件で抽象的だとすれば,より適切な要件を提示していただければ大変助かるのですが。 ○道垣内委員 これは本当に相当と認めるときの許可なのか,同意をしないことの不相当性の判断なのかというのがよく分からなくて,第三者が利益を持っている,居住させている人が利益を持っているとしても,それが執行が円滑に進むことの利益に比べて小さいものであって,したがって第三者はオーケーを出すべきだよねという判断が行われるとするならば,判断されるのは,どちらかといえば不同意の不相当性なのではないかなという気がします。しかるに,「相当と認めるとき」とするのに賛成ですか,反対ですかと言われますと,相当なのだからいいだろうとしか回答のしようがないよなという感じがするものですから。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。よく分かりました。 ○山本(克)委員 私が相当性にあんまり積極的になれないのも,白紙委任だから,余りにも白紙委任過ぎるので,不相当だと言えば済むというようなことになりかねないというのが,債権者が申し立てても,執行官がやりたくないと言っていたら不相当だと言っちゃうということだって考えられなくはないわけですよね。そういうような規律をするのが,今回,あえて引渡しと言わせていただきますけれども,子の引渡しの強制執行を新たに何らかの形で手当てしようというときに,本当に相当なのかという気がするということが,非常に背景にございます。   それ以外にちょっとお伺いしたいことなんですが,財産権を制約することから同意のうんぬんという,同意と財産権が結び付くことが,私にはちょっと諮りかねるところがあって,なぜ財産権が関係するんでしょう。 ○山本(和)部会長 山本克己委員は,以前からプライバシーという側面について御指摘をいただいていたかと思いますが…… ○山本(克)委員 住居の平穏化と,事業所であれば事業の遂行ですよね。事業の遂行する権利を財産権の一種だというふうに考えればそうかもしれないですけれども,財産権と言った場合には,別に占有者ですよね。占有と財産権がなぜ結び付くのかというのが,私にはちょっと理解しかねるなというところがございます。 ○山本(和)部会長 これは,ハーグ条約実施法制定のときにこういう説明がされたということもあったかと思います。 ○山本(克)委員 そうでしたかね。そのときに言うべきでしたね。 ○内野幹事 むしろ,正に「財産権等」の「等」というところに万感の意味があるのかもしれません。 ○山本(克)委員 財産権はどうかな。それはドアをぶっ壊すとか,そういうのであっても,しかし,占有者は別に,その財産の所有者でない可能性もあるわけですから,占有と財産権が結び付くということについては,ちょっと理屈の上で,説明の問題だけですけれども,納得し難いなと思います。 ○山本(和)部会長 いかがでしょうか。 ○阿多委員 多数の意見の方向が出ているところであれですが,1点,この「相当と認めるとき」というのは,限定概念として,これが機能するかどうかというお話も一方で出ていましたけれども,更にいろいろな方の発言を聞いていて,それで限定することになるのかというか,ちょっとよく分からなかったりすることもあったんですが,典型的には,債務者ないしは子供との属人的な関係ですけれども,属人的な関係があれば相当性があって,なければないのか,むしろそれが,属人的な関係がどういう意味を持つのかというのがよく分からなかったんですね。   それで,ここからは意見ですけれども,最初に申し上げました執行逃れとの関係では,類型的に多いのは,債務者との属人的な関係がある方が典型ですので,ここでは居住している場合においてという前提要件として居住だけが挙がっているんですが,むしろ私の方は,居住というのも一つの要件として意味があるとは理解していますので,それ以外の場面,端的に言うと,属人的な要件も挙げていただいて,債務者と,例えば三親等内の親族のところで居住ではなく,そこにいる場合には,何度も言うように相当の言葉が限定要件になっているかどうか分からないんですけれども,その場面についても同意に代わる許可の場面として入れていただけたらなと。そうすれば,最初申し上げた執行逃れのことについては,多くの場面で執行逃れを回避できるのではないかと,そういうふうに思います。 ○山本(和)部会長 分かりました。御意見は伺いました。 ○今井委員 私も結論から言いますと,この「相当と認めるとき」という要件はあった方がいいと思いますし,ないとなかなか難しいなと思います。   ただ,道垣内委員がおっしゃるとおり,相当と認めるときは,それはいいでしょうということになるので,執行裁判所が判断する上で,これは前回から出ているように,執行申立てしましたと,そうしますと,年齢も違う,状況も違う,第三者といってもいろいろなイメージで,今お聞きしているだけでもかなり,大きい子もいれば小さい子もいると,預けている場所もいろいろ違う。それを一律に,画一的な規律で決め打ちというのはなかなか難しいだろうなと思いますので,そういう意味からすると,最終的には裁判所が相当と認めるときという要件は必要であると思われます。   ただ,今言ったようにフリーハンドというところでは駄目ですよという意味では,やはり何らかの相当と認めるときの規定上の中のガイドライン的な,例えば何と何とかのような認めるときというようなのがいいのかなと。そういう意味で,今,阿多委員が一つの案を提案していただいたと思うわけでありますが,今の書きぶりですと,居住している場合においてというのは,これは一応,相当と認めるときの括弧を外した場合には,相当と認めるときの一つの場面として,こういうときは相当なんだという意味にとっていいのか,飽くまでもその場面であって,相当という判断はまた別なのかというようなところがちょっと,この括弧が挿入しているからなんですけれども,取ったときに,居住している場合などの,またそれ以外のガイドライン的な一つのテクニックがあると思うんですが,そういうふうに指定するのがいいんだろうなと。それがどれくらい,ガイドライン的な言い方としても,どれくらい羅列ができるのかなというところが実は難しいのかなと思うんですが,ただ,居住の場合というのは,私はこれはいいと思うんですけれども,居住というのが争われたときに,いや,これは居住でしょうとはっきり言えるような様相になっているかどうかというのはやや不安というところでございます。すいません,余り積極的な意見ではなくて。 ○山本(和)部会長 今の御発言は,子が居住している場合その他相当と認めるときみたいな要件立てにしてはどうかという御趣旨ですね。 ○今井委員 そうです。おっしゃるとおりです。 ○山本(和)部会長 そうしますと,この原案には反対という御趣旨でしょうか。 ○今井委員 いや,そういうわけではないんですけれども。 ○山本(和)部会長 しかし,原案は子が居住している場合において相当と認めるときなので,子が居住しているということはもう絶対的な要件になっているわけなので,その他相当と認めるときという要件立てとはその実質が全然異なるので,反対の御意見だということになるのではないでしょうか。 ○今井委員 相当理由の中に,居住している場合というのは典型例としていいでしょうと。ただ,これがもう絶対条件になってきちゃうと,居住を争われたときに,いや,この相当性の判断と居住は別ですと言われたときに立ち止まるのではないかという,そういうことです。 ○山本(和)部会長 御意見は分かりました。 ○久保野幹事 論理的な根拠付けがどういうふうに説明できるかは,私自身は必ずしも整理ができていないところがありますけれども,結論としては,この原案の「相当と認めるとき」を入れた形での案に賛成します。   それで,2点だけ加えさせていただきたいんですが,少し分かりにくいなと思っておりますところは,居住しているということ,その要素と,その居住している先の人が監護補助者であって,監護の一部を担っていると評価するということとの関係がちょっと分かりにくいと感じています。私の理解では,そこは,この括弧付きの「監護」に,独立の利益をもって居住している状態かどうかという問題が結び付けられているのだとすれば,この括弧付きの「監護」をもって直ちに独立の利益を持っているといえるのではないかという問題は結論が出ないので,民事執行法第23条の問題になるというふうに整理しております。他方で,現在の案はどちらかというと独立の利益というよりは,正に強制執行の実現性を高める方向での議論として,先ほど道垣内委員からあった同意をしないことの不相当性といいますか,居住していれば,執行官の立入りの必要性が高くなるのだという方向性で,むしろ同意をしないことが不相当な場合が多く,同意がなくてもできるのだと,第三者の利益がある種劣後するといいますか,というような評価がされる場合であって,ただ,第三者の利益を,第三者の利益という言葉がいいか分かりませんが,第三者に関わる何か特段の事情があって,やはりそのような評価はできないということであれば,例外の余地を残すという枠組みかなと理解しております。それで,賛成ですということです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○青木幹事 おおむね賛成という意見を述べるだけなのですが,第三者の占有する場所に強制的に立ち入って執行を実施するということですので,それなりの必要性が必要であり,また子との関係で一定程度以上継続的な関わりがある場合であることが必要であるという観点から,子が居住している場合というのは適切,適当な要件であり,また,明快な形で要件が立てられていてよいと考えております。   それから,阿多委員が指摘されている問題として,祖父母宅に一時的に預けて執行を逃れるというような問題は確かにあって,そういう問題も含めようとすると,居住に代えて,もう少し広く,継続的に預かっているという要件を立てることも考えられると思うのですが,なかなかうまく要件を立てるというのは難しいと考えております。   直前に久保野幹事がおっしゃった問題と重なるのかもしれませんが,子供が勝手に家出して第三者宅に住んでいるというような場合はどうなるのかと考えると,そういう場合は既に債務者の監護を離れているので執行できないという整理になると考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○宇田川幹事 時間が差し迫っているところ申し訳ないんですけれども,運用を担当する裁判所の立場からもう一回申し上げたいなと思っているのは,相当性の要件を設けるかどうかについて,特段の意見があるわけではないんですけれども,やはり設ける場合には,具体的にどういう場合なのかということを明らかにしていただきたいということで,それは条文なのか,それとも議論を通じての明確化ということのどちらかということになるかと考えております。   それから,少しこの同意に代わる許可の手続でお尋ねしたいのは,道垣内委員からも執行抗告の関係で第三者のことを考えなくていいのかというようなお話もあったんですけれども,第三者について,そもそもの同意に代わる許可をするときに,その手続への関与ということが,この案を読む限りでは余り想定されていないのかなというふうに考えていたんですけれども,その点についてどのように考えているのかというところをちょっとお伺いしたいと思います。もし第三者の関与が予定されていないというのであれば,その執行抗告については不許可の場合に債権者が申し立てる場合しか考えられず,したがって,債権者からの2度の執行抗告を許すということになってしまうので,それは不要なのではないかということにはなるんではないかと思うんですけれども,今の点についてちょっと教えていただければと思います。 ○内野幹事 今の御指摘は,同意に代わる許可をするに当たって,第三者を審尋するのかといった点とも関連するものと思われますが,今回の部会資料では,まず,同意に代わる許可という制度を設けるとしてどのような要件を立てるのかというところが主たる論点でしたので,御指摘の点については,議論が開かれているという前提で考えております。ですから,実際の執行をする場面では,これは正に運用上も,様々な形で御努力が重ねられており,先ほど第三者の占有する場所として学校等において強制執行を行うという場面では,債権者側が事前に占有者の同意を得られやすいように地ならしをしておくというような実務例も紹介していただいたところがありますので,例えば,手続的に,第三者を審尋しなければいけないというような規律を設けること自体が本当に果たしていいのかという点については,実際の執行実務における運用上の御努力を破壊しないのかというところは懸念しておりまして,そのような意味でも御指摘の点については議論を開いた形にしているというところです。 ○山本(克)委員 許可の裁判は,第三者に送達されるのでしょうか。 ○内野幹事 その点につきましても,併せて検討しなければならないものと考えております。 ○山本(克)委員 手続関与もなく送達もなければ,現場に来られたときに執行抗告をしろといっても無意味ですよね。執行抗告を認めるなら,どちらかは必然的に必要だということになると,やはり送達がないと,結論が分からなければ執行抗告もしようがないですからね。しかも,期間のあれがありますから,起算点の問題があるので。   私はもうどっちもなしで,いきなり行って執行抗告は認めないという選択肢も十分あり得るのではないかなと思っております。 ○山本(和)部会長 時間がやや押してきましたが,本日の段階では多くの委員,幹事の御意見を承ることができました。基本的にはこの原案,ブラケットを外した形での案に賛成の委員,幹事が多数であったというふうに理解しておりますけれども,子が居住している場合よりもう少し広い場合にも同意に代わる許可を認めるべきではないかという御意見があったと認識しております。また,この原案とは矛盾しないかと思いますけれども,執行官ができる行為について,執行裁判所がもう少し裁量的に,それを限定するというような可能性というのも認めてよいのではないかという御意見もあったように承りました。それから「相当と認めるとき」という要件については,もう少し具体化できないか,あるいは例示等ができないか,明確化できないかという御意見も多くの委員,幹事から出されたように思いました。   この辺りは事務当局に引き続き御検討いただきたいと思いますし,その手続に関しては,余り十分な時間が取れませんでしたが,今の執行抗告の問題があり,それから申立ての主体の問題についても,執行官なのか債権者なのかという両論あったかと思います。あるいは第三者に対する審尋を必要とするか否かといった手続的なところも引き続き,事務当局において詰めていただいて,最終的な案につなげていっていただければと思います。   最後に,その他の論点として子の所在調査の問題がありますけれども,部会資料では消極的な方向での指摘も見られるところですけれども,いかがでしょうか。 ○阿多委員 数分,補足なり修正も含めて。まずここでは,必要性等についての説明がないということですからあれなんですが,御理解いただきたいのは,いろいろな調査方法が現時点であるわけですけれども,例えば弁護士の場合,23条照会等を使えるわけですが,子供の所在等に関して,学校や教育委員会等に照会しても回答は得られません。公的な,つまり,そうしますと,未就学児が学校に行った,ないしは保育所で認可,無認可のところで市町村の方で,どこの保育所に行っていますかということについて,弁護士がついたとしても情報収集の方法がないわけです。そうしますと,ここでは「債権者が裁判所に申立て」というふうにあるわけですけれども,何らかの情報収集の方法が必要で,それについて,これは,でも,ライフラインという言葉については他の委員から反応が,違う意味で反応があって非常にびっくりしたんですが,執行官が例えばするにしても,執行官が当該公的機関のところの接触をして情報収集をする,ないしは場合によっては裁判所が書面で調査をするということについて,法的根拠が必要になるのではないかと。もちろん民事執行法は民事訴訟法を準用していますので,調査嘱託をすればいいではないかとかいうような形のお話があるかもしれませんけれども,そのような執行で調査嘱託を実際使って,その学校にいますかということを裁判所に照会してもらうというような形ではなくて,子の引渡しという場面で情報収集方法がありませんので,それについて法的根拠を与えてほしいということです。   それで,その合理性うんぬんについては,本案の段階で債権者に子の引渡しを実現すべきだと一旦判断が出て,ほかの金銭等の債務名義に比べて,本案の実現をする必要性はより高いんだろうと思います。子供が成長していく,ないしは変わっていくわけですから,なるべく早く,子供がどこにいて,もちろん債務者が引っ越したという場合もありますけれども,それ以外にどこの学校に行っているんだとか,どこにいるんだということを含めて,おじいさん,おばあさんはどこなんだとかいうことも含めて,こちらでできない情報収集について,やはり裁判所,執行官を使って情報収集するということの手段を認めていただきたいと,これが趣旨です。   その場合に,御提示いただいているのは,債務者が回答義務があるのかという形で,債務者が回答義務がないようなものを第三者の方が回答するのはいかがなものかということなんですけれども,まず,子供を隠されているわけですから,そういう方が実情としては回答することはあり得ないわけで,ただ,それを回答義務があるのかどうかという形について言い出すと,財産開示についても,本来,金銭債権の実現のときに,債務者がここに財産がありますという回答義務というのはないのを制度創設して設けたわけです。もちろん一般要件以外に,不奏功要件でプライバシーの問題を乗り越えたわけですけれども,子の引渡しというのが,財産権よりもはるかに実現の必要性が高い,情報収集の必要性が高いものですので,一旦,不奏功にならなくても,子の引渡しの執行を申し立てて駄目にならなくても,何らかの形で情報収集ができる,子の引渡しが実現できるような方法の手段を立法手当てをしていただきたいと,これが趣旨ですので,債権者が裁判所に申立てするだけではなくて,執行官にそういう法的根拠を付与するとか,そのようなものも含めて調査の方法の明文化を提案していると,そういう次第です。 ○山本(和)部会長 御趣旨は従来から理解されているところかと思いますが,この段階で御意見があれば伺いたいと思いますが,特段よろしいでしょうか。 ○阿多委員 明確な反対があればお伺いしたいんですが。 ○山本(和)部会長 あるいは,特にサポートする意見があれば伺いたいと思います。   現段階では特段の御意見が出ないようですので,恐縮ですが,時間の関係もありますので,本日最後に,正に阿多委員から御提出されている,差押禁止債権をめぐる問題についての御提案が出されて席上配布をされております。この差押禁止債権をめぐる問題については,次回の会議で時間を取って改めて御議論を頂きたいと思っていますけれども,せっかくの機会ですので,次回までに皆さんに考えていただく前提として,阿多委員からこの資料について,簡単に,補足的な御説明をいただければと思います。 ○阿多委員 本当に簡単に。今日は孤独な日々が続いていますのであれですが,頭のところは飛ばしまして,3ページのところで,考えている,「範囲変更についての原則的な考え方の明文化」のところを見ていただけたらと思います。   端的に言いますと,従前,差押禁止という形で御提案をしたわけですけれども,それは一般的な基準として提案をしたわけですが,複数給与,その他等の事情から,一般的な規範の定立としてはかなり異論が強かったというふうな感じを持っています。   そこで,元々執行力強化に伴う債務者の保護としては,教示等を含めた手続の方法と,先ほど申しました差押禁止範囲の新たな設定をという提案をしていたんですが,個々具体的な処理の場面,端的に言いますと,手続的な教示のところを含めて,そちらの方で債務者の方がより簡便な手続で差押禁止範囲の変更ができるような形で,個別具体の事例に応じた対応をするというような形での御提案でいかがかという形で提案させていただきました。   一つ目は,ですから1でありますように,当初の差押禁止範囲については,現行法どおり支払期に受ける給付額の4分の3のみと,これが現状の規定そのままです。ただ,債務者の方としては,手続的な形で複数給与がないとか,今の子供の数や扶養者の数等を説明することによって,差押禁止範囲の変更の申立てをできるようにすると。その際に,変更の仕方としては,総合考慮ではなくて,②のところを見ていただいたら分かりやすいと思うんですが,「債務者が差し押さえられた債権の他にも給与等債権を得ていないときは,債務者の申立により,「月額10万円+扶養親族等の数1人につき4万5000円」の差押が禁止がされるものとし,その限度で,事後的に差押命令の一部が取り消される。」という形であります。これは国税徴収法の給与所得者の範囲の変更と同じ形のものを,こういう形の範囲で変更されますよという形を示すことによって,債権者の予見可能性なり,そういうものを提案してはどうかということです。   趣旨は,現行法のままであれば総合判断ですので,債務者の方としても153条によって変更するというインセンティブが働きませんので,こういう形ですることによって個別の救済をより簡便に認めてはどうかと,そういう趣旨での御提案になります。   簡単ですが,以上です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   先ほど申し上げたとおり,この論点については次回会議で改めて御審議をお願いしたいと思いますが,差し当たり,本日の段階で,今の阿多委員の御説明に対して,もし御所質問等があれば伺いたいと思いますが,特段よろしいでしょうか。 ○山本(克)委員 ほかに財産を獲得する手段を持っていたり,こっそり遺産をもらって不労所得があるとかいうことは一切考慮しないということですよね。 ○阿多委員 まず,債務者の方の申立てでは形式的に出るんですが,4というところが実はありまして,「上記の原則とは異なる判断の可能性」という形で,裁判所が上記2,3とは異なる判断をする可能性があるという,端的に言うと,現行法の総合考慮によって判断するということはあり得ると。ですから,別の手続というか,二段階の手続というか,そのような形で手続構成してはどうかと。 ○山本(克)委員 必要的に変えなければいけない場合があるとおっしゃっているんですよね。 ○阿多委員 はい。 ○山本(克)委員 そのときに,ほかの財産やほかの収入の可能性というのは。 ○阿多委員 その時点で情報として出なければ必要的で,情報が出れば別途の判断の可能性という。 ○山本(克)委員 それは,なぜそれが正当化できるのかが分からないという。 ○山本(和)部会長 御意見は必ずやあるだろうと思いますが,それについては次回に是非一杯お出しいただければと思います。 ○佐成委員 時間もないところであれですけれども,そもそもこの必要性について,こういったような生活保護基準以下の事例というのは裁判所の方でそれほどあるのかというのが気になります。今お答えいただくという必要はないですけれども,そういった事例がもし本当に日本の中で行われているというのであれば,また次回,それを前提に議論をしたいと思います。 ○山本(克)委員 今の段階で裁判所は,またあれでしょうか。 ○相澤委員 東京地裁の平成29年の例で申し上げますと,この差押禁止範囲の変更の申立て自体は16件ございましたけれども,その中で,差押債権が152条1項各号に掲げる債権である場合というのが5件ございました。処理結果を見ますと,基本事件の取下げによる終了の1件を除きますと,残りは却下ですが,それは今おっしゃるような生活保護基準を下回ることを理由とする申立てではございません。却下した事案は,請求債権が扶養義務等に係る債権のものが2件あり,それ以外はいずれも差押え後の手取り額が20万円以上というものでございます。御想定になっているような事案で裁判所が厳しい判断をしているということはないように思います。 ○阿多委員 1点だけ,すいません。ですから,現行の153条の利用件数なりは,それはもう裁判所の方が統計をお持ちで。我々が申し上げているのは,そのような人たちが現状153条を使おうとしていないということを申し上げているわけで,もし裁判所の方が可能であれば,短期間でも結構ですけれども,給与差押えの陳述催告で,実際どれだけの給与をもらっている形のものが発令されているのかと。差押え段階では分かりませんので,回答を見ていただいて,どれぐらいの給与の方が多いのかというようなことをむしろ示していただけたら,この制度の必要性については御理解いただけると思います。 ○山本(和)部会長 可能な範囲でということかと思いますけれども,もし裁判所の方でも追加的にお調べいただけるのであればお願いします。   それでは,本日の審議はこの程度とさせていただきたいと思います。   次回議事日程等につきまして,事務当局の方から御説明をお願いします。 ○内野幹事 次回日時でございますが,5月25日の金曜日,午後1時半から午後5時半まで,場所は東京高等検察庁第2会議室で行います。次回は,今回に引き続きまして,先ほど部会長から御紹介いただいたような論点について,これから一つの成案を部会として得ていかなければなりませんので,そのいわゆる要綱案の取りまとめに向けた御審議というのをお願いしたいと考えております。できる限り,取りまとめに向けた議論に資するような部会資料を事務当局としても御提供することができるよう努力してまいりたいと考えております。 ○山本(和)部会長 それでは,これで本日の会議を閉会とさせていただきます。熱心な御審議を賜りまして,ありがとうございました。 -了-