法制審議会 民事執行法部会 第19回会議 議事録 第1 日 時  平成30年5月25日(金)自 午後1時29分                      至 午後5時58分 第2 場 所  東京高等検察庁 第2会議室 第3 議 題  民事執行法制の見直しについて 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○山本(和)部会長 それでは,おそろいだと思いますので,法制審議会民事執行法部会第19回会議を開会いたします。   本日も御多忙の中御出席を頂きまして,誠にありがとうございます。   本日は,全ての委員,幹事が御出席と承っております。   それでは,審議に入ります前に,配布資料の確認を事務当局からお願いいたします。 ○内野幹事 事前送付資料といたしまして,部会資料19-1及び19-2を送付させていただいております。また,席上配布資料といたしまして,阿多委員作成の「子の住居所等の調査について」と題する資料をお配りしております。   また,差押禁止債権の範囲変更手続の教示に関する参考資料といたしまして,少額訴訟手続において実際に用いられている教示文書を裁判所から御提供いただいておりますので,これも席上に参考資料として置かせていただいております。   中間試案のときにも申し上げたことではありますが,本日の議論といたしましては,部会資料19-1にゴシック体で記載されている内容を中心に御議論いただきたいと思っております。もちろん,そのほかの点についての御発言を制限する趣旨で申し上げているわけではありませんが,進行との関係上,部会資料19-1の内容を中心に議論するという点を問題意識として持っていただきたいという趣旨でのお願いでございます。   また,要綱案の取りまとめに向けての議論であるという点を踏まえますと,ゴシック体の部分について御発言いただく際には,可能な限り具体的な修文の御提案を賜りたく存じます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   私からも,今,事務当局から説明のあった本日の会議の趣旨については,是非御理解を賜り御協力を頂ければと存じます。   それでは,本日の審議に入りたいと思います。   本日は,先ほどお話があったゴシック体で構成されている部会資料19-1,これが要綱案の取りまとめに向けた中心的な資料となるわけですが,それと共に補足的な説明が付された部会資料19-2がございますけれども,これらの部会資料には本部会での審議対象の全ての事項が記載されておりますので,順次御審議を頂きたいと思います。   まず,部会資料19-1の1ページから7ページの上辺りまでに記載されている「第1 債務者財産の開示制度の実効性の向上」の点についての御審議をお願いしたいと思います。   事務当局の方から説明をお願いいたします。 ○内野幹事 まず,「現行の財産開示手続の見直し」という部分につきましては,部会資料17-1と同内容の規律を提案しております。   続いて,第三者から情報を取得する手続のうち,「金融機関等から債務者財産に関する情報を取得する制度の新設」という部分につきましても,部会資料17-1と実質的に同内容の規律を提案しております。例えば,公的機関からの情報取得の手続との関係では財産開示手続を前置させていないといった部分につきましては,規律の内容に変更はございません。   もっとも,部会資料17-1では,金融機関等から執行裁判所に回答書が送付された際に,執行裁判所が申立人と債務者双方にこの回答書の写しを送付するというような考え方を記載しておりました。今回の資料では,第17回会議における議論を踏まえまして,執行裁判所が,申立人に対しては回答書の写しを送付し,債務者に対してはこの手続が実施された旨を通知するというふうな規律を提案しております。このような規律を前提としましても,金融機関等が申立人に対して直接回答書の写しを送付するという運用も想定されるところでありますが,前回の部会の議論を踏まえますと,そのような運用を前提とすれば,執行裁判所から改めて回答書の写しを申立人に送付することは不要とするという考え方も一つのあり得る規律ではないかと考えられるところでございます。この辺りが,本日のこのテーマに関する主な論点の一つであると認識しております。   次に,公的機関からの情報取得の手続という部分につきましては,部会資料18-1の内容をベースにいたしまして,部会のこれまでの議論を踏まえて若干の修正をしております。不動産に関する情報取得に関しましては,土地や建物の所有権に関する情報の取得を念頭に置いた仕組みが議論されてきたかと思いますけれども,他の財産に関する情報の取得を目指すべきか否かという点が,一つの論点になるものと思います。そこで,部会資料19-2におきましては,その情報の範囲について,正に登記所側の実務対応能力の進捗といったところにもよる面がございますので,試みまでに,情報取得手続の対象となる情報の範囲を政令に委任するというような御提案をさせていただいております。   冒頭の御説明は以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,今御説明があった第1の部分について,特段区切りませんので,どの点からでも,どなたからでも結構ですので,御自由に御発言を頂ければと思います。 ○阿多委員 最初に,部会資料19-1のゴシック体の部分を中心にと御指摘いただきながら,部会資料19-2の補足説明に触れるのはいかがかと思うんですが,部会資料19-2の2ページのいわゆる財産開示手続実施後の強制執行の実施との関係で,特に仮処分等に基づいて財産開示をする場合の以後の手続について,先般,できれば立法で解決してほしいと申しましたけれども,解釈論として両方あり得るという形で御指摘いただきました。   言わば財産開示手続を手段として位置付けた上で,一体として捉えるという解釈論も示していただいていますので,ここは,少なくとも立法ができないのであれば,このような解釈というのが非常に優位であると,実際的には一定期間空くというのも通常考えられることですので,こういう解釈というのを記録に残していただいて,実務でも使えるようにしていただいたと,その指摘だけです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○道垣内委員 中間試案のときにどうであったかは覚えていませんが,しかしながら,少なくとも近時の資料にはあったわけですから,気が付かないで,今になって言うのは大変恐縮なのですけれども,給与債権の差押えのための手続きについて質問します。   例えば,勤務先がどこであるのかということを知るために,いろいろな手続をとりうるというのは,それで結構なのですが,その当該情報の目的外利用ということの定義が気になるのです。つまり,給与債権について誰が債務者なのかということを調べて,その情報を差押えのために使うというのはもちろん分かります。しかるに,部会資料19-1の(7)ですと,「当該債務者に対する債権をその本旨に従って行使する目的以外の目的のため」と書いてあるのですけれども,この手続によって勤め先が明らかになったといったときに,勤め先に電話をかけたり,勤め先に訪ねていったりするというのは可能であるということなのでしょうか。それとも,これは,飽くまで差押えのためにやっているものなのだから,それは駄目だという話なのでしょうか。今の文言ですと,訪ねていったり電話をかけたりするために用いるということもできるという感じがするのですが,本当にそれでいいのだろうかという気が若干するものですから,確認までに質問させていただきます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   事務当局からの御説明をお願いします。 ○内野幹事 いわゆる民法の解釈なのかもしれませんけれども,仮に,そういった事実上の働き掛けが,債務の履行を求める際の対応として許されているという解釈を前提としますと,事案によるということになるかと思いますけれども,そういった対応も,債務者に対する債権をその本旨に従って行使するものとして許される場合もあり得るかと思われますが,その辺りについては,若干不明確な部分があるのではないかという御指摘でしょうか。 ○道垣内委員 違います。それは,権利行使として,勤め先に訪ねていくのはどうかとは思いますけれども,一般的に履行の催促をするということは権利行使として当然に妥当な行為だろうと思います。しかし,この手続を使って勤務先を知って,それで訪ねていくというのはできるのかということです。 ○内野幹事 現在の財産開示手続に関して,この点がどのように解釈されているかということを踏まえて少し考え方を整理しておきたいと思います。 ○山本(和)部会長 恐らく現行法においても既に存在する問題で,財産開示手続に基づいて債務者が勤務先等を開示した場合に,現行の民事執行法202条は,やはりその本旨に従って行使する目的以外の目的のために利用してはならないという規律を設定していますので,この規定について一般的にどのような解釈がされているかは必ずしも明らかではないところはありますけれども,事務当局の方で整理していただければと思います。 ○道垣内委員 自分で言ったときにはまあいいだろうと,現在は考えられているということですか。 ○山本(和)部会長 そこまでの議論を展開している学説があるかどうかも含め,事務当局において調べていただくということにしたいと思います。 ○山本(克)委員 やはり給与関係の勤務先情報に関してなんですけれども,勤務先情報を市町村等が入手した手段にかかわらずということなんですか。どういう手続で入手したかには関わらないという立場になっているとしか読めないんですが,そういうことでよろしいでしょうか。 ○内野幹事 御指摘の点は,前回の部会の議論におきまして,徴税事務との関係で取得した情報に限られるものであるということを,規律としてもはっきりさせるべきであるとの御指摘があったものと認識しております。   そのため,事務当局といたしましては,部会のこれまでの議論を踏まえますと,そういった情報を念頭に置いた規律を前提として,今回の部会資料19-1のゴシック体の部分を書かせていただいているところではございます。御指摘の部分につきましては,法制上の問題として一旦引き取らせていただきたいと考えております。 ○山本(克)委員 前回,確か道垣内委員がおっしゃったと思うんですけれども,保育所に入るために勤務先と大体の収入を,あるいは納税証明書をとってきて,普通出しているのではないかと思うんですけれども,それも,入るのはやはりけしからんというか,望ましくないということは一応念頭に置いているけれども,今はそれが,現況をお示しになった案ではそこがはっきりとは出ていないだけであって,将来的にはそっちに向けて文言を整理されていくということでよろしいでしょうか。 ○内野幹事 事務当局といたしましては,部会のこれまでの議論を踏まえますと,そのような実質を有する規律となるように書きぶりを修正していく方向で検討してまいりたいと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○今井委員 第17回会議で,財産開示についての不奏功要件の撤廃については強くお願いをしたわけでありますけれども,もしも仮に不奏功要件が存置されたとした場合に,部会資料19-1の4ページと5ページにありますとおり,不動産と給与債権に関する情報の取得が財産開示前置になっていまして,加えて不奏功要件が加わっているという,もし財産開示に不奏功要件が入るとすると,不奏功要件がダブルで要件になっていると思われるのですが,もしも財産開示手続に不奏功要件が存置された場合に,財産開示手続が終わった後のそれぞれの,改めて不動産と給与債権についての不奏功要件について,特に2号要件といいますか,部会資料でいうと(イ)の要件ですけれども,これを改めて疎明をする必要があるのか,それは既に財産開示手続で疎明しているので,改めての疎明が不要となるのか,これは解釈なのか運用なのか分かりませんが,その点はどのように理解したらいいんでしょうか。 ○内野幹事 御指摘の点については,部会のこれまでの議論では,財産開示手続と情報取得手続の間には時点的なずれがあり得るということを念頭に,いずれの手続においても要件としては要求するものの,実際上は,二つの手続が連続的に行われているような事案であったり,個別の事案において二つの手続の時点が近ければ,直前で財産開示手続が行われたということも,後の情報取得手続では十分考慮され得るというような議論が行われたものと認識しております。   したがいまして,今回の提案も,今井委員御指摘のように,直前に財産開示手続が行われたという事情がもしあるのであれば,それはもちろん一定の基礎事情として執行裁判所の認定判断において考慮され得ることを前提として,部会資料19-1のような規律を提案しております。 ○今井委員 分かりました。確認させていただいた次第です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○中原委員 第三者からの情報の取得について,これは確認になりますけれども,二つお願いがあります。   一つは,裁判所から情報提供を命ずる旨の決定が金融機関に送られてきて,金融機関はそれに基づいて取引の有無等々を調査することになりますが,その際,預金者の特定の方法については,住所,氏名・商号,生年月日に加えて氏名・商号については併せてカナの表示を是非お願いします。金融機関の取扱いでは,CIF(Customer Information File)によりお客様の情報を登録・管理していますが,ほとんどの金融機関が氏名・商号をカナで登録しています。したがって,漢字だけで読み方が書いていないと,どのように読んでよいのか分からない場合や複数の読み方が考えられる場合には,検索するときに混乱を生じますので,必ずカナを表示していただきたいと思います。また,外国人の場合であっても,アルファベットでの検索ができないという金融機関がほとんどですので,それについてもカナの表示をお願いします。   次に,本制度ができますと,多数の情報提供が来ることが予想されます。従って,金融機関としては,その情報開示を命ずる決定書に書いてあるとおりに検索し,それによって得られた取引の有無や取引内容を回答することでよいとしていただきたいと思います。例えば,住所変更届が出ていても,それを現在のCIF登録の中でヒストリカルデータとして蓄積している金融機関はほとんどありませんので,氏名・商号や生年月日が一致しても住所が異なる場合は,住所変更届の有無を別途探しに行く必要があります。しかし,これでは金融機関の負担が大きくなります。ついては,CIF検索により得られた取引情報を回答することでよいとしていただきたいと思います。 ○山本(和)部会長 事務当局からコメントはありますか。 ○内野幹事 御指摘の点につきましては,制度設計上,この部会において議論するかという問題はありますけれども,運用に関する重要な御指摘をいただいたものと受け止めております。 ○阿多委員 よろしいですか。   それに関連することですが,逆に,利用する側の方として,どこまでの情報が頂けるのかということに関して,債務名義に表示されている住所,名前以外のものについて,それまでの住所の履歴や改姓されているのであれば前の氏等も含めて,言わば開始決定の申立書に記載をして,それについては一つの申立てで御検討いただきたいと考えています。   これは,預貯金だけではなくて,先回も登記情報について,登記事項に記載されているのが必ずしも現住所とはむしろ結び付かない住所の方が多いものですから,そういうものについても対応できるようにしていただきたいのと,それと,一遍にいろいろな話が出てきましたのであれなんですが,いわゆる仮名の検索という話もありますけれども,登記に関しては,いわゆる使用されている文字のことで,タカハシのタカがはしごなのか,口なのかとかいうようなことも含めて,今戸籍法改正でもどのような文字にするのかということが議論されていますけれども,多様な文字を含めて検索していただけるような方向で御検討いただきたいと思います。 ○内野幹事 運用上の重要な問題を御指摘いただいたものとして受け止めさせていただきます。 ○谷幹事 それに関してですけれども,銀行に照会をする場合に,仮名ということなんですが,この銀行の実務として,仮名というのをどういうふうに認識をして登録をされているのかという実情をちょっとお聞かせいただければと思うんですが。   つまり,恐らく名前の読み方を公証するような書類というのはない,住民票に振り仮名を振っているのは,これは自治体によってはあるとは認識はしているんですけれども,現時点では,口座開設に当たっては本人の情報を特定という意味で,何らかの公的な書類に基づいていると思うんですけれども,過去は必ずしもそうでもないところもあって,そうすると,仮名といっても,結局本人の申告で登録をしている。実は,その本人はいろいろなところでいろいろな読み方を名乗っているというようなこともあるような場合には,なかなかヒットしないということもあり得るのかと思うんですが,そうならそうでそれはあるんで仕方ないというところもあるんですけれども,いずれにしても銀行としてどういうふうに仮名,言いかえれば,読み方を認識あるいは認定をして登録をされているのか,その辺りの実情を教えていただければなと思います。 ○山本(和)部会長 中原委員,可能な範囲でお願いします。 ○中原委員 預金口座開設申込み時には,開設申込書を提出していただきます。住所,氏名については,振り仮名を記載してもらいますので,金融機関は記載された振り仮名をそのまま登録しています。したがって,公的な書類でそのような読み方をしているかどうかまでは,確認していません。 ○谷幹事 それは,現時点で,例えば本人確認書類として運転免許証なり,あるいは住民票の写しの提示なり提出を受けた場合でも,それとの照合はしていないということですか。 ○中原委員 開設申込書に記載されている住所・氏名と記載内容や漢字の照合はしていますが,必ずしも全ての公的書類に振り仮名は記載されていないので,振り仮名の照合はしていませんし,できません。 ○山本(和)部会長 よろしいでしょうか。ほかにいかがでしょうか。 ○成田幹事 まず,中原委員からの御指摘等につきましては,運用の問題かと思いますが,これからまた裁判所の方で検討していきたいと思います。   それとは別の話としまして,回答の送付を受けた後の話ですが,ゴシックの部分ですと2の(4)イ,3の(5)のイについてコメント申し上げます。   この点については,裁判所から従前から申し上げておりますのは,一方当事者である債権者に対して,写しを作成してこれを送付するという便宜を図る制度が他に見当たりませんで,そのこととの均衡を考慮していただきたいということでございます。部会資料19-2の9ページの補足説明部分につきましては,この手続自体に,金融機関等に対する命令の発令を求めることに加えて,申立人へ回答を能動的に提供することが中心的な要請として含まれているということのようですが,そういった制度が他に見当たらないことからしますと,そのような考え等を採用するのには慎重で在るべきではないかと考えております。   決してこの部分,裁判所が写しを作って送付することの手間を惜しんでいるというわけではありませんで,恐らくこれをやらないでおきますと,閲覧謄写という話になるかと思うんですが,閲覧謄写自体,かえって手間でございますので,そういった点は是非御理解いただければと思います。   もっとも,本部会におきまして,裁判所が回答書を送るのがよいということであれば,裁判所から申立人に回答書の写しを送付する枠組みになること自体はやむを得ないものと思っております。ただ,部会資料もそういう前提にはなっていないと認識しておりますけれども,やはり手続の迅速性という観点からしますと,裁判所で写しを作って,それを送るというのを義務化するのは,余りうまくないのかなという気はしておりまして,その辺りは,第三者に運用面での御協力をお願いしたいと思っております。 ○中原委員 金融機関が回答書を作成し,それを返送する場合に,どこまで御協力できるかについて議論しました。結論としましては,裁判所と申立人の双方に対して回答書を送付するという御協力は可能ということになりました。現在の債権差押えの実務においても事実上差押債権者に陳述書を送付していますので,それと同じような運用であれば御協力可能と考えております。   ただし,多くの情報開示請求が来て混乱することが予想されますので,宛名を記載した返信用封筒を同封していただければと思います。それであれば,御協力は可能だろうと思います。 ○成田幹事 今,中原委員から御提案があった運用につきましては,現に債権差押えの場面でも大部分の庁でとられているところかと思いますので,そういう形で御協力することは,さして問題ないと認識しております。 ○山本(和)部会長 そのような運用上の工夫を前提として,この原案どおりということでよろしいでしょうか。 ○阿多委員   今の点に関しましては,我々の方も,必ず裁判所の方が写しを作成して送らなければいけないということを望んでいるわけではなくて,回答自体が閲覧謄写の方法ではない形で入手できるようにしていただきたいと。ですから,第三者の方で情報提供に際して,我々封筒等の準備は別段それほど負担になりませんので,そういう形で対応していただけたらと思います。   ただ,気にしていますのは,本日御出席の金融機関だけではなくて,今回第三者からの情報取得は,公的機関も含めた制度として考えられていますので,他の第三者も含めて,同様の方法なのかどうかは別にして,回答送付という方法で一貫していただけたらと思います。 ○山本(和)部会長 よろしいですかね。   それでは,部会資料19-1の第1に関するゴシック体の部分については,この原案が維持されるということを前提に,今御議論があった運用の問題については,引き続き関係各所で御検討を頂くということにしていただければと思います。   ほかにいかがでしょうか。 ○阿多委員 ほかの点でございますが,費用のことで少し確認をさせていただきたいんですが,今般の第三者からの情報取得に際しての,言わば民間からの費用取得については,部会資料19-1であれば,3ページの真ん中ほどにある(5)でア,イに分かれていますが,公的機関からの費用については,6ページの真ん中少し下の(6)というので見出しがなくなっていて,端的に言えば,3ページの(5)イに相当する規律がないという記載になっていますが,ここの記載の趣旨の確認になるんですが,公的機関からの情報取得の場合には,イに関する費用については想定していないと,こういう理解でよろしいんでしょうか。 ○内野幹事 御指摘の点につきましては,公的機関がどのような形でこの制度についての提案に対応されるのかというところに関わってくるかと思います。一つの考え方といたしましては,公的機関からの情報取得制度については費用が掛からないという考え方も,選択肢としては入っておりますが,この点は,今後も公的機関側との調整が必要であると考えております。 ○阿多委員 状況は理解しました。できるだけそういう方向で御調整いただけたらと思います。 ○松下委員 部会資料19-1のゴシック体で書かれている内容について異議があるということではなくて,記録に残しておきたいがために発言をさせていただきます。債務者自身,そして第三者からの情報の取得という制度全体を,通して見たときに,給与債権,勤務先についての情報を取得する場合に,その市町村の方から情報を得るというような場合にのみ,執行債権の限定が付いているわけですけれども,扶養料等については,既に給与を引き当てとする実質があるという,現行法でもある規律を模したものであるのに対し,人の生命,身体の侵害による損害賠償請求権については,これは今回,民法の時効のところで現れた問題意識を反映しているものだと思います。しかしこれは,未来永劫こうでなければならないということではなくて,今回勤務先情報という,職業の選択に関わるデリケートな情報なので,今回制度が滑り出すときにはこうやって限定したけれども,将来のこの制度の利用のされ方によってはもう一歩踏み出す,つまり執行債権の範囲を広くするということも,理論的にはあり得るということを,この部会としては確認をさせていただければと思います。 ○山本(和)部会長 理論的にはあり得るという点については,おそらく確認することができるかと思いますが,今後また更に検討されていく事柄であろうと思います。   ほかにいかがでしょうか。 ○阿多委員 将来を含めてということで,公的機関からの情報について,冒頭の説明でもございましたけれども,今般不動産に関する,特に所有権共有等の情報にするのは,制度の導入としては,新しいことを導入する方法としてあり得ると思うんですが,お話のありました自動車,これも登録制度がありますし,自動車でも普通自動車と軽自動車はちょっとまた登録の主体も違うわけですけれども,そのようなものについて,広がるような形で制度を組んでいただいて,今後そういうふうな需要等が出てくる可能性があれば,広げられる形の立法にしていただけたらと思いますので,そういう方向でお願いしたいと思います。 ○今井委員 繰り返しで恐縮ですけれども,松下委員の先ほどの御指摘は全く同様に認識しておりまして,解釈上もそうですけれども,やはり今回ある面で画期的な立法だと認識してございます。ただ,債権の範囲がここで限定しなければならないというところは,主に立法政策だというような認識でおりましたので,結果的には松下委員と同じ意見で,それは十分,阿多委員からもお話がありましたとおり,これは現時点における立法政策であるという認識でおります。 ○阿多委員 目的外利用について,先ほど勤務先情報が差押え等の手段以外の方法で使われる場合のお話も出まして,それは解釈の問題かと思うんですが,従前から対象債権が性質等で限定されているということから,一つの債務名義でそれ以外の債権が表示されている場合に,勤務先を知ることによって当該扶養料等,生命身体の侵害による債権以外の債権についてもそれが利用できるのかというところについて,一応ここでも議論があったと思うんですが,当初のきっかけとしては限定されても,実際の債権の申立てについては限定されないんだというような形が,解釈というか,ここの書きぶりである本旨に従って行使する目的以外のために利用,若しくは提供してはならないというところの意味としては,当該の目的に利用する場面以外の債権でも利用は差し支えないと,そういう解釈でいいのかを,御意見としてそれが多数を占めるということがあれば,御確認をしたいんですが。 ○山本(和)部会長 解釈の問題ですけれども,事務当局からお願いします。 ○内野幹事 飽くまで部会のこれまでの議論を踏まえた現時点での事務当局の捉え方ですが,既に取得された勤務先等の情報が債務名義上に表示されたその他の債権に基づく強制執行の場面で利用されたとしても,目的外利用とは言えないのではないかという議論があったものと認識しております。 ○阿多委員 結構です。 ○谷幹事 そこは,どういう規定ぶりをするかということにもよるのかなと思うんですけれども,今回の資料では,部会資料19-1の6ページの(7)のアの(ア)だと思うんですが,これは2行目から,「当該債務者に対する債権をその本旨に従って」ということで,債権については限定がないという表現になっておりまして,つまり,元々公的機関から勤務先情報を取得するために使った債務名義上のいわゆる扶養料ないし生命・身体の侵害による不法行為債権には限定されていないと,文言上はこうなると思いますので,こういう立法をするのかどうか,その上で,この債権というものが,どこまでの範囲を示すものなのかというのは,解釈に委ねるということも,一つの解決なのかなと思うんですが,そういう意味も,その可能性も含めて,その可能性というのは,いわゆる扶養料と生命・身体の侵害による不法行為債権以外の債権の行使にも使えるという可能性,解釈上の可能性も含めて,こういう立法をするということは十分あり得るのかなとは思っているところです。 ○道垣内委員 私が個人的にそういう見解を持っているというわけではないのですが,バランス上一言申し上げます。論理的には拡大する可能性があるというのは松下委員のおっしゃるとおりですが,論理的には縮小する可能性もあります。それが第1点です。   第2点が,これも現行法上の問題であるということは,そう言われればそれまでなのですが,申立人は,「当該債務者に対する債権をその本旨に従って行使する」というときに,これは,行使する債権者は申立人に限られると読むのでしょうか。つまり,「提供してはならない」というのがよく分からなくて,第三者が当該債務者に対する債権を持っているというときに,その人に教えてあげるというのは,「当該債務者に対する債権をその本旨に従って行使する目的」による「提供」のような気もするのですが,それは,現在入らないと解釈されているのでしょうか。 ○山本(和)部会長 その点については,明確に論じている文献等があるかどうか分かりませんが,次回までに,事務当局において,現在民事執行法第202条についてどのような解釈がされているかという点を調査していただければと思います。 ○道垣内委員 「提供する」というのは,これは,例えば,取立委任をするといった場合に,取立受任者に対して提供するというのを考えているというんで,提供するという言葉が出てきているんですかね。   いずれにせよ,これだけを読むと,債権者の限定がないような感じがして,それでいいのかなというのが若干気になるものですから。 ○山本(和)部会長 分かりました。この点について事務当局に調査をお願いします。 ○谷幹事 今の点,議論をお聞きするといろいろ気付くことがあるんですが,これ,部会資料19-1の(7)のアの(ア)は申立人限定されているんですけれども,閲覧謄写ができますので,同じように扶養料債権とか不法行為債権を持っている別の債権者が,閲覧謄写してこの情報を取得した場合にも,やはり目的外利用の制限というものをかける必要があるのではないか,同様の制限というものが本来在るべきではないかなとはなると思いますので,ちょっとそういう方向での修文が必要かなとは思います。 ○山本(和)部会長 今おっしゃったのは,この(イ)の話ではなくということですか。 ○谷幹事 ここにもう既に準備されているということなんですね。失礼いたしました,見落としていました。 ○山本(和)部会長 おおむねよろしいでしょうか。   それでは,基本的に,お伺いした限りでは,部会資料19-1のゴシック部分に限って言えば,基本的な方向性については御異論はなかったと思います。市町村等が勤務先情報を取得する手段については,先ほど議論がありましたように,徴税事務による場合に限るという趣旨を明示するような表現ぶりがあるかどうかという観点からの問題提起はございましたけれども,基本的にはその他の部分は,ここに書かれている限りにおいては,基本的な方向性についての御異論はなかったものと理解しました。   それでは,引き続きまして,部会資料19-1の「第2 不動産競売における暴力団員の買受け防止の方策」,19-1でいえば7ページから8ページにかけての部分でございますが,この部分について,まず事務当局から御説明をお願いいたします。 ○内野幹事 それでは,第2の部分でございます。   まず,1の「買受けの申出をしようとする者の陳述」に関してですが,前回は,ここの冒頭のこの部分の陳述につきまして,宣誓の上で陳述しなければならないというような規律を提示をさせていただいて,基本的には証拠調べと理解したらどうかという形で提案申し上げたところ,部会ではかなりの御批判があったと認識しております。   そこで,改めて中間試案についての部会のこれまでの議論などを踏まえまして,今回提示する規律といたしましては,その暴力団員による不動産の買受けを防止するという制度目的に端的に向き合いまして,また,民間における不動産取引の実情で行われているプラクティスを踏まえまして,買受けの申出の要件として,暴力団員に該当しないことを陳述してもらうというような規律を提案しております。前回の部会では,いわゆる買受けの申出の有効要件として位置付けてはどうかという具体的な御指摘もございましたので,これを踏まえたものでございます。   また,宣誓を求めることにつきましても,例えば,部会の議論におきましては,宣誓を拒んだとしても罰則がないという点からすれば,民事訴訟法上の宣誓と同列に捉えることについては疑問があるとの御指摘なども頂いたところです。また,虚偽陳述に対する制裁を設けようとしていることを踏まえまして,宣誓までは要求しなくてもよいのではないかといった御意見もあったかと思います。以上のような点を踏まえまして,今回の御提案は,部会資料19-1に記載したとおりの形となっております。   また,虚偽陳述に対する制裁につきましては,前回の部会資料と同様に,保証の不返還という仕組みを設けない方向での規律を提示しております。この保証の不返還の仕組みにつきましては,虚偽陳述に対する制裁を罰則として設けることを踏まえ,それでもなおこういった仕組みを設けるべきか否かという点については,議論があり得るところかという印象を受けております。この点に関しては,言わば過重な制裁を設けるものではないかとの御指摘もあったように記憶しております。そこで,現段階では,保証の不返還という仕組みの創設は時期尚早ではないかという認識もあり得ることから,今回の御提案に至っております。   次に,執行裁判所から警察への調査の嘱託に関する規律につきましては,実質的な変更はございません。   続いて,「3」の執行裁判所の判断による暴力団員の買受けの制限につきましては,いわゆる売却不許可事由というような形で,執行裁判所が判断をして,暴力団員等の買受けを排除していくという仕組みを引き続き御提案しており,前回の部会資料からの実質的な変更はございません。   あと,買受けの制限する者の該当性を判断する基準時につきましては,部会のこれまでの議論では,申出時に暴力団員等であった者のほかに,買受けの時点で暴力団員等に該当する者も排除し得るという規律が多く支持されていたものと認識しております。  部会資料の御説明としては以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま御説明がありました部分について御議論いただきたいと思いますが,その前提といたしまして,不動産競売を通じて入手された不動産が,暴力団事務所として利用されている実情につきまして,第3回会議において警察庁から御紹介を頂いたところでありますが,改めて最新の調査の結果を,警察庁の志田関係官から御紹介いただけますでしょうか。 ○志田関係官 それでは,説明をさせていただきます。   警察庁では,昨年,全国の都道府県警察を通じまして,暴力団事務所の実態調査を行いました。その結果,現在把握しております暴力団事務所約1700のうち,その10%以上の約200の事務所の土地又は建物,若しくはその両方に競売の履歴があるということが判明をしております。この競売の履歴があるという趣旨でございますが,これは,暴力団員等が直接競売によって取得したというもののほかに,過去いずれかの時点で競売にかけられて,その後,売買等を経て,現在暴力団事務所に使われているというものを含むという趣旨でございます。   また,競売の履歴がある事務所につきまして,その買受人の属性について調べた結果でございますが,現役の暴力団員として把握されている者,それから暴力団から離脱して5年を経ていない者,法人のうちその役員に暴力団員等がいる者,これらは,今回御検討いただいている規律によって,直接買受けが制限されるという属性を有するものでありますが,これらを合計いたしますと,約44%と半分近くを占めております。その残りでございますが,暴力団員の親族など,などというのは内縁関係等を含むという趣旨になりますが,親族などが約24%,そのほか,明確な属性が特定できない者が約32%となっております。   買受人の属性が暴力団員の親族等,あるいはその他となっている者が半数以上を占めておりますけれども,これにつきましては,今回の調査では,買受けの代金がどのように支出されているのかということは,現在警察ではそれを根拠付ける法律がございませんので調査ができておりませんが,現象を申し上げますと,これらの者が買い受けて,その後間もなく暴力団事務所としての使用が開始されている例,あるいは同様に買受けがされた後,間もなく暴力団員に転売をされている例があるという事実を把握しております。   したがいまして,こちらは,今後個別具体的な事案ということにはなりますが,買受人が親族や明確な属性が特定できない者の中には,暴力団員等の計算において買受けがされたと認め得る事案もあり得ると考えております。今回の改正が実現した後に同様の事案があれば,真実は暴力団員等の計算による買受けであったにもかかわらず,虚偽の陳述をした者として捜査対象になり得ると,このように考えているところでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,ただ今御紹介いただいた情報も踏まえて御審議をお願いしたいと思いますが,適宜項目を区切りたいと思います。   まず,この第2の部分のうちの「1 買受けの申出をしようとする者の陳述」の部分について御審議を頂ければと思います。   どなたからでも結構ですので,御発言を頂きたいと思います。 ○阿多委員 先般,陳述が証拠なのか申立ての要件なのかという形で議論されましたけれども,今回の御提案はある意味ですっきりしたものだと思っていまして,これで今回の提案に賛成したいと考えています。   なお,1点確認なんですが,法定代理人のところで,不動産競売において所有権を取得するという形になれば,法定代理人,法人の場合も同じなのかもしれませんが,民事執行規則で当然代理権を称した上で書面が必要なんですが,実際法定代理人が,この暴力団でないことの属性がどこまで把握できるのかというようなところについては,代理権を証する書面と同じような認識で作成される可能性もあるかと思いますので,これは後に関連するかもしれませんが,刑罰等の取扱いについては,何か考慮することもあり得るのかなとは思っていますので,その点だけ触れておきたいと思います。 ○内野幹事 刑罰の部分というのは,どういう御趣旨ですか。 ○阿多委員 虚偽陳述における制裁の部分ですが,本人が陳述する場合について,従前ですと,宣誓があって,それで偽証等の関係等のバランスで論じてきたかと思うんですが,今回のような形で整理すると,我々もいろいろと考えて,あり得るとすれば内容虚偽で,そうすると,今の刑法ですと,虚偽診断書作成罪等にいう一定の資格者身分犯が前提となるものが考えられるのかなと。そうなったときに,本人でない親権者,保護者がどこまで制裁の対象になるのかなということが少し気になったものですから,その点,同じなのかどうかという点だけ。結論的に同じになるというのはあると思うんですが,考慮が要るのかなと思います。   それで,先に行くのもあれですが,刑罰の点だけもう少し,ちょっと併せて発言させていただきますと,今回,宣誓がない形の書面ですが,虚偽陳述に対する制裁が入るんですが,後の言わば保証の不返還が,先回かなり希望しましたけれども実現が困難ということもあり,実現が困難であるならばということになりますが,そうしますと,詐欺罪とか入札妨害罪等での処罰は可能だと思いますけれども,暴力団排除の言わば公益に対する違反,一般予防的なことを考えると,そういう書類を出すこと自体でもそれなりに重たいんですよということを表明していただくことが,暴力団排除につながると思いますので,形式犯とはいえ,それなりの重たい罪で考えていただけたらと思います。そう言いつつ,先ほど法定代理人の場合というのは,いろいろ悩みつつということになるかと思いますけれども,そういう意味では,形式犯とはいえ,それなりの排除的効果があるようなもので刑罰をお考えいただきたいと,そういうことを申しておきたいと思います。 ○内野幹事 こういった場面での犯罪の構成要件を身分犯と評価するかどうかは一つの解釈論だと思いますけれども,現段階では,阿多委員がおっしゃっているような「暴力団員」であるとか,「買受けの申出をした者」というようなものが身分犯だという前提で,こういった提案をしているわけではないとは思います。 ○阿多委員 私の方も,特にこれが身分犯構成した上で,本件が暴力団がという積極身分,余りそういうことを意識して申し上げたということではなくて,お伝えしたかったのは,入口の段階でもそれなりの実効性を考えた刑罰の内容を考えていただきたいということで,理屈の上での身分犯うんぬんにこだわっているわけではありませんので。 ○山本(和)部会長 よろしいですか。   ほかにいかがでしょうか。今の(2)の制裁の部分も議論の対象にしておりますので,その点についての御意見でも結構ですし,(1)の陳述内容等についてでも結構ですが,いかがでしょうか。   特段の御意見はございませんか。   前回からの変更部分として,宣誓を不要としたということもございますが,その点についても,特段の御意見はないと理解してよろしいでしょうか。   それでは,この第2の1の部分については,その罰則をどの程度の重さにするかとかという問題はあるわけですが,基本的には部会資料19-1のゴシック体で記載された部分については,大きな御異論はないと理解させていただきます。   次に,部会資料19-1の7ページの「2 執行裁判所による警察への調査の嘱託」の部分ですが,この箇所は,前回の部会においても特に御意見はなかったと承知しております。したがって,今回の提案も,前回を基本的には踏襲したものとなっておりますが,特段の御異論はないと理解してよろしいですか。 ○今井委員 異論はございません。   ただ,志田関係官にお聞きしたい点は,改めて,全国の暴力団事務所1700のうち不動産競売の経歴を有するものが11.8%の200あると。見方を変えますと,国が主催する競売という不動産あっせん行為が,暴力団事務所の提供になっている割合がこれほど多いんだという事実は,早急に封じなければならない,そのための本改正案だと思いますけれども,そこで,もしお分かりになればなんですが,改めてこんなに多いんだなというところで,この暴力団事務所として使われているところが購入,つまり入札をされる場合の傾向というものが何かしらあるかどうか,もし警察において把握されているような傾向があれば,教えていただきたい。   例えば,一般には,人気物件であれば当然入札価格が高くなるんですけれども,一般の入札の人気というのは,例えば商売であったり住むところというようなところが,暴力団事務所がそういうところに競って入札するのかどうか,むしろ人気はないけれども価格が低いところを狙っているのか,また地域性,もしそういうようなことがある程度分かるんであれば,可能な範囲で教えていただきたいというのが1点でございます。   第2点は,約200の買受人の属性ですが,暴力団員等及び法人の役員に暴力団員等があるもの以外が買受人となった場合について,買受けがされた後,事務所になるということになると,ここの2の(2)の正に「自己の計算において」というところ,つまり,ダミーを使ってというところが相当程度このその他に入っていると,合理的に推認されるのではないかと感じるわけでありまして,全く関係ない人が買って,偶然に組事務所になるということは,あり得るとは思いますけれども,かなりレアなケースではないかというふうな想像をするのですが,この辺りについて,可能な範囲でお話しいただければと思います。 ○山本(和)部会長 非常にお答えしにくい質問のようにも思いますが,可能な範囲でもし何かございましたらお願いします。 ○志田関係官 それでは,ちょっと私の把握としてお答えできる範囲で申し上げますと,まず1点目のどういう物件を好むかという点なんですが,ちょっとすみません,そこまでは今回の調査の対象にはなっていないんでありますが,ただ,一般論として申し上げますと,少なくとも現時点において,新規開設をするとなりますと,全国の都道府県の暴排条例によりまして,かなりの範囲で制限が,例えば学校とか保育所の半径200メートル以内は開設禁止などというものがありますし,最近ですと,住居専用地域について全般的に規制をするという意見も出ているところでございます。このような開設禁止違反の地域については,当然避けるであろうとは思われますので,それ以外の場所という傾向は出るかと思うんですが,一般的にその傾向が出るかといいますと,ちょっとそこまでは把握をしていないというところでございます。   2点目なんですが,御指摘のとおり,「計算において」に当たり得るものがいるのではないかというのは,一般論としてはその可能性があるというのは否定できないところかと思っております。ただ,先ほどもちょっと申し上げましたが,現時点において,資金関係を調査,捜査するというのが,警察に今武器がない状態ということになりますので,これについては推論の域を出ないということで,これ以上のコメントは難しいかと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   よろしゅうございましょうか。   ほかにいかがでしょうか。よろしいですか。   それでは,引き続きまして最後の部分ですが,部会資料19-1の8ページの「3 執行裁判所の判断による暴力団員の買受けの制限」の部分について,御審議をお願いしたいと思います。   どなたからでも結構ですので,御意見を頂ければと思います。   いかがでしょうか。この部分は,特に買受けを制限する者の該当性を判断する基準時について,これまで随分御議論があって,ここでの整理は,暴力団員等に該当するかどうかの判断については,買受けの申出の時点と売却決定期日の時点,両者を基準とする考え方を採用する方向であるとの提案がされています。計算において買受けの申出をしたかどうかについては,買受けの申出の時点を基準時として採用するという,一応それを前提とした原案に,今なっているわけですが,そういう前提でよろしいかどうかといったような点も含め,ほかの点でも結構ですが,御発言を頂ければと思います。 ○阿多委員 結論的にもうこの整理で,基準時という言葉がそもそも適切なのかどうかということも含めて議論があったと思いますけれども,両時点で要件を満たしていると,立法趣旨から考えても,その方向で立法して,こういう形で要件整理していただくのが望ましいというのが結論です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○谷幹事 今の点は,要するに,条文上には表れないという理解でよろしいんですね。つまり,部会としては,それが大方の意見だという確認をするというだけであって,条文上,規律という形では表れないと,こういう理解でよろしいんでしょうか。 ○内野幹事 御指摘の点は,法制上の問題であると思いますが,今後も引き続き検討してまいりたいと考えております。 ○谷幹事 私は,前回だったか,その前だったか申し上げましたけれども,つまり,立法趣旨に照らすと,売却許可決定の時点で,もう既に暴力団員でなく,その後5年を経過した者についてまで売却不許可にするというのは,立法目的に照らすと,やはり過度の制限になるのではないか,合憲性との関係でも問題になるのではないかという問題提起をしたと思います。その問題提起自体は,今も維持をさせていただければとは思っております。 ○山本(和)部会長 今も維持させていただければという御趣旨は,この提案に対しては反対する御意見であるということになりますか。 ○谷幹事 提案といいますか,売却許可決定の時点でもう既に5年を経過しているにもかかわらず売却不許可にするという,立法するというのであれば,そこは反対をしたいと,こういう趣旨でございます。 ○内野幹事 恐らく,部会のこれまでの議論では,買受けの申出の時点で暴力団員等であれば排除される,又は,正に売却決定期日の時点で暴力団員等であれば排除されるという実質の規律を設けてはどうかというところが提案されておりますので,そういう前提で御意見を頂ければと思っております。 ○山本(和)部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○道垣内委員 読み方だけの問題なのであり,かつ,今さら伺って申し訳ないのですが,1の(1)のイにおいて,「当該者が法人である場合にあってはその役員」というのは,どこまでを言い換えているのでしょうか。つまり,「自己の計算において当該買受けの申出をさせた者」が言い換えられているのか,「当該買受けの申出をさせた者」が言い換えられているのか。 ○内野幹事 「自己の計算において当該買受けの申出をさせた者」という文言全体が言い換えられているものと理解しています。 ○道垣内委員 そうしたときには,3で「最高価買受申出人又は自己の計算において最高価買受申出人に買受けの申出をさせた者が,暴力団員等又は法人でその役員のうちに暴力団員等のあること」というのが,後半の法人でその役員のうちに暴力団員等にある者というのは,これも最高価買受申出人がその法人であるという場合,その場合だけを言い換えているわけね,そうすると,今度こっちの場合は。 ○山本(和)部会長 その計算で買受けの申出をさせた者が法人であれば,その役員のうちに暴力団員等があれば売却不許可事由になるということも含意しているのだと思いますが。 ○道垣内委員 そうすると,それは1の(1)のイと一緒。今,1の(1)のイにおいて,自己の計算において申出をさせた者が,ここに言い換えられるっておっしゃいましたよね。そうすると,申出をさせた者が法人であるというわけですね。分かりました。分かったような気もする。 ○山本(和)部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○道垣内委員 最後に一言だけ述べると,3の最終行で「のあること」で結ばれているのですが,「暴力団員等」については「であること」で結ばれるはずで,それに対して,「役員等のうちに暴力団員等」についてのみ「のあること」で結ぶのであり,少し日本語としておかしくありませんか。○山本(和)部会長 確かに,ちょっと何か続きがよくないですか。 ○内野幹事 ありがとうございます。文言を検討いたします。 ○山本(和)部会長 確かに,「であること」が正確でしょうか。ありがとうございました。   ほかに,特に先ほどの基準時の問題も含めて,御意見があればお伺いしておきたいと思いますが,いかがでしょうか。   それでは,この基準時,基準時という表現がよいかどうかはひとまずおくとして,どの時点において,この要件に該当することが売却不許可事由になるかという点については,谷幹事から御異論がございました。我々としては,従来から大勢はこの原案に賛成する御意見であったとは理解しておりますけれども,更に再度検討させていただいて,次回の部会でもう一度お諮りしたいと思います。   ほかに,この第2の暴力団員の買受け防止の方策に関するところで,何か御意見はございますか。 ○谷幹事 今の点だけ,繰り返し申し上げるつもりはないんですけれども,問題意識としましては,要するに,暴力団員排除という立法趣旨からすれば,要するに5年ということで区切っているわけでございまして,5年たった後に,なお排除しなければならないということの説明が,必ずしも十分にこの中では議論されたとは理解をしていないんですね。   一番恐らく問題になるのは,陳述書との関係で,買受けの申出時には5年たっていないから,そういう陳述をするのか,あるいは虚偽の陳述をするのか分かりませんけれども,それとの関係の整理をどうするかという実際上の必要性というようなことで,売却決定期日の時点ではもうなくなっていたとしても,陳述の時点では暴力団員ないし5年たっていないということであれば,実際上排除しないとうまく制度作りができないのではないかと,こういう議論はあったと思うんですけれども,立法目的との関係での十分な説得的な議論がなかったと理解しておりますので,もしそういう辺りも,こういうふうに説明できるんだというようなことが議論があれば,それは大いにしていただいたら結構かと思います。 ○内野幹事 一応,議論といたしましては,議論が全くなかったわけではないという認識はしておりまして,正に今回の規律の提案の中では,暴力団員の買受けの防止という政策目的を実現するための一つの効果的な手段として,買受けの申出時に暴力団員でないことを要求し,それを陳述させるという仕組みを構想しているものであります。   このような暴力団という組織との関係性,その近さを理由に不動産競売から排除するという規律を御提案しているわけですが,排除すべき対象者として捉える時点としては,買受けの申出の時点で既に一定の暴力団との強い結び付きを有しているという点に着目して,その時点で暴力団員等に該当することを売却不許可事由とするという規律が合理的であるとの考え方を根拠として,今回の規律を御提案しているところです。   したがいまして,その根拠が正当と見られるかどうかというところで,恐らく谷幹事の御指摘の点がどのように評価されるかというところになろうかとは思います。 ○谷幹事 今の点は,買受けの申出から排除するということの説明にはなっているとは思うんですけれども,売却許可決定の時点で5年経過しているのに,それを排除するということの端的な説明には,やはりなっていないんだろうと思うんですが,その点も含めて,ちょっと今後議論していただければと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○阿多委員 陳述書の位置付けを証拠方法とするのか,申立要件にするのかというところも関係しますが,先ほども申立要件に整理したんですねと申し上げたのは,申立時点で適格要件がないということで排除すると。それが今回の整理の趣旨と理解をしています。 ○内野幹事 恐らく,今のこの谷幹事御指摘の論点も,今回御提案している規律の下でどのように考えるかという観点から検討されるべき問題であると考えております。 ○山本(和)部会長 それでは,この点は,更に引き続き御議論を頂くことにいたしまして,ほかに第2についてはよろしいでしょうか。   それでは,ちょっと予定より早く進行しているところではございますが,続きまして,部会資料19-1の8ページから10ページにかけての「第3 子の引渡しの強制執行に関する規律の明確化」の部分につきまして,まず事務当局から資料の御説明をお願いいたします。 ○内野幹事 それでは,第3の部分を御説明いたします。   「1 直接的な強制執行に関する規律の明確化」でありますが,基本的に部会資料17-2と同様の内容となっております。   第17回会議での議論との関係で申し上げるべきところといたしましては,(3)の債務者審尋の要否につきまして,後に出てまいります様々な論点のうち,執行裁判所の判断に係る要件についての論点との関係で,適切な情報を取得する手段として,この審尋というものを実施する意味があるのではないかというような御意見も,これまでにはあったかと思います。ただ,そのような手続をとることによって,端的に申し上げれば執行妨害の端緒を与えることになるのではないかという御指摘もあり,そういったところを踏まえまして,審尋の手続を経ることにより強制執行の目的を達することができない事情があるときというような場面では,この債務者審尋の例外を設けるというような規律を提案させていただいております。   他方で,部会のこれまでの議論では,これと異なりまして,そもそも債務者の審尋を任意的なものとするという考え方も出てまいりましたので,この審尋の要否というところについては,本日の論点の一つであると考えております。   続いて,「2 直接的な強制執行と間接強制との関係」の部分でございますが,本文は,部会資料17-2と同内容となっておりす。   部会のこれまでの議論では,おおむねこの規律を支持する方向の意見が多かったものと認識しておりますが,議論の方向としましては,間接強制を必ず前置することとはしないものの,少なくとも直接的な強制執行を行うには,それなりの必要性や相当性が必要なのではないかというような議論がされてきましたので,これを整理して要件化したものでございます。   続いて,「3 直接的な強制執行の手続の骨格」の部分につきましては,いわゆる子と債務者の同時存在に関する規律の要否についての第17回会議での議論を踏まえまして,部会資料17-2の丙案と実質的に同内容の規律を提案しております。   第17回会議では,乙案と丙案それぞれにつきまして,これを支持する御意見がございましたけれども,子と債務者の同時存在については肯定的な評価はあるものの,今見てまいりました直接的な強制執行と間接強制との関係に関する要件が満たされるような場面を念頭に置いた場合には,子と債務者の同時存在を要求してしまうとかえって子が高葛藤の場面に直面するのではないかという御指摘などがございました。こういったところを踏まえまして,子と債務者の同時存在を不要とするものの,子の利益を最大限図るという考え方,「チルドレンファースト」と言うことができるかもしれませんけれども,そういった部分の思想は維持すべきだという御指摘もございましたので,具体的な規律といたしましては,債権者による出頭を要件とするというものを御提示申し上げているということでございます。   「4 執行の場所における執行官の権限等」でございますけれども,本文のいわゆる(3)以外は,部会資料17-2と実質的に同内容となっております。   本文の(3)につきましては,前回の部会の議論を踏まえますと,部会資料18-2と同様に,いわゆる執行の場所を占有する第三者の同意がなくても,執行裁判所の許可を受けて強制執行を実施することを可能とするという規律を提案しております。   許可の要件につきまして,前回の部会の議論を踏まえますと,「子が…居住している」という表現を,「子の住居が」というような表現ぶりに修正したほか,「相当と認めるときは」といった執行裁判所による判断を介在させるような要件を設けておくべきだという意見も複数ございましたところから,それを要件として入れておりますけれども,その相当性の判断をする場面での考慮事情として,試みまでに執行裁判所が一定程度判断しやすいものとするとともに,当事者に対してもどのような場面であれば相当性が認められ得るのかということを少しでも示唆するという観点から,(3)の規律を提示しております。   この手続に関しまして,許可を求める主体等についても,御議論を賜りたいと考えております。   第3についての冒頭の御説明は以上となります。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,この部分につきましても,適宜項目を区切って御議論を頂きたいと思いますが,まず「1 直接的な強制執行に関する規律の明確化」の部分について,御意見があれば承りたいと思います。   この部分は,先ほどもお話がありましたが,債務者の審尋の要否について,前回の部会での議論を踏まえて,審尋の手続を要しない例外を(3)のただし書で設けたということになります。 ○阿多委員 整理し切れないで発言をする気がするので,ちょっと変なことを申し上げるかもしれませんけれども,元々,代替執行的に位置付けるのかどうかというところで,要審尋の問題が先回もありました。ただ,現状,間接強制も含めて書面審尋の実情があってということなのですが,一方で,「2」との関係で,債務者から得られた情報の内容によっては,もう間接強制が不要で直接強制に至ると。そうなりますと,考えますのは,この(3)のところが,書面審尋ではなくて,例えば債務者を呼び出して,出頭させて,債務者に意向を聞くというような形になりますと,その回答内容によっては,この「2」のところに非常に影響する話になり得るのかなと思っていまして,債務者を出頭させても,「いや,絶対渡しません」という発言をすれば,その段階で間接強制以前にもう直接的な強制の話になるのかなと。   ですから,ここで考えられている審尋等で得られる情報の問題と,「2」の特に(2)に影響するのかもしれませんが,それとの関係について,事務当局は何かその整理というか,イメージを持って御提案はされているんでしょうか。まず,ちょっとその点を確認したいんですが。 ○内野幹事 まずは,この部会での議論を踏まえますと,この「2」のところの直接的な強制執行をしてよいのかどうかという要件の判断をするための資料を獲得する手段として,御指摘のとおり,(3)の審尋を活用するという議論はあり得るものと考えております。   また,必ず同時にされるとは限りませんけれども,想定される執行場所との関係で,後の手続などを考えながら,子の所在等についても,この審尋において必要があれば確認することができるといったところが,部会のこれまでの議論において想定されているところかと思います。 ○阿多委員 もちろん,一つずつ手続を踏んでいくという方法もありますけれども,従前解釈の問題かとは思いますけれどもという形で間接強制の申立てと直接的な強制執行の申立てを,停止条件付きというか同時に申立てをして,間接強制の,言わばこの審尋の際の判断で,逆にその回答内容によっては直接的な強制執行の要件を満たすというような形になるんであれば,急ぐ債権者としては,そういう申立てを考えるという形になるかと思うんですけれども,そういうふうな手続構造もあり得るという前提で御議論を進めていけばいいということになるんでしょうか。 ○内野幹事 御指摘のようなニーズがあるとすれば,それをこの審尋の要否に関する議論においてどのように評価するかということになりますが,この規律が,そうしたニーズにとってかえって障害となるのか否か,現時点では部会のこれまでの議論を踏まえてただし書として債務者の審尋を不要とすることができる場面を設けているのですが,これでも足りないという評価になるのかどうかという点について議論されることになるのではないかと思っております。 ○山本(和)部会長 阿多委員の問題提起について今一つよく分からない点があるのですが,債権者が直接的な強制執行の申立てと併せて間接強制も申し立てることができるか否かという点は取りあえずおくとして,その直接的な強制執行の申立てを認めるかどうかの場面で部会資料19-1の第3の1の(3)の規律に基づいて債務者を審尋し,その審尋において得られた情報に基づいて,執行裁判所が,第3の2の(2)などの要件を判断するということについては,どのようにお考えなのですか。 ○阿多委員 すみません。その情報が利用できるのが望ましいなとは考えているんですけれども。 ○山本(和)部会長 そういう前提だということですか。 ○阿多委員 できるという前提で伺っていいのかということですけれども。 ○内野幹事 部会の議論を踏まえますと,そのような前提でよろしいかと思います。 ○阿多委員 すみません。ちょっとその辺の整理を,どの情報を使ってどうするのかというのを確認したかったものですから。   すみません。審尋の点についての意見ですけれども,一方で任意の履行ができればと思っていますので,書面審尋でお金を決めるだけとか,そういうことではなくて,審尋等を開いていただいて,債務者に履行の意思の確認をしていただくことは有意義であると思いますので,今般のこの必要的審尋だけれども,事情によっては,案件によっては要らないという御提案に賛成したいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。   おおむね,この「1」の部分についてはよろしいでしょうか。 ○道垣内委員 単に私が,忘れたというだけの話なのですが,「1」の(4)ってどういう趣旨なのでしたっけ。 ○山本(和)部会長 必要かどうかということは,前回議論になったかと思いますけれども。 ○道垣内委員 議論があったと書いてあるところにつき,その議論を忘れてしまって発言するのは大変恐縮なのですが。 ○内野幹事 このような手続を設けますと,直接的な強制執行に必要な費用についての債務名義を債権者があらかじめ取得し得ることになり,言うなれば,そういった必要な費用を確保するというところにつながるということで,現行の代替執行に関する規律を参考にしながら,このような手続が必要かという点を前回議論させていただきました。この点についての事務当局の受け止めとしましては,子の引渡しの場面では様々な事案が考えられるところですので,むしろこのような規律が必要な場面も出てくるのではないかというような御意見もあったものと考えておりますことから,今回御提案している規律としては残しているというところでございます。 ○道垣内委員 申し訳ありませんでした。 ○山本(和)部会長 よろしいでしょうか。ありがとうございます。 ○山本(克)委員 この命ずる決定は,当然債務名義になるということでよろしいですね。 ○内野幹事 そういう前提で考えています。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   それでは,この「1」の部分については,基本的な方向性については御異論ないということを確認させていただければと思います。   それでは,3時15分まで休憩にしたいと思います。              (休     憩) ○山本(和)部会長 それでは,審議を再開したいと思います。   引き続きまして,部会資料19-1の8ページから9ページにかけてですが,第3の「2 直接的な強制執行と間接強制との関係」の部分について御審議を頂きたいと思います。   御自由に御発言を頂ければと思います。 ○山本(克)委員 この二つは,別事件として扱われるんでしょうか。 ○山本(和)部会長 直接的な強制執行と間接強制の事件ということですね。 ○山本(克)委員 はい。事件番号,別に振られるのかということです。 ○内野幹事 もし違えば,裁判所の方から御指摘いただきたいと思うのですが,恐らくここの場面では別事件になるのではないかと想定しております。 ○谷藤関係官 ハーグ条約実施法に関わる事件について,間接強制の事件と代替執行申立ての事件は別の事件として扱っていると思います。 ○山本(克)委員 先ほどの阿多委員のおっしゃっていたことは,それを併合しているから,情報を回せるということになるという話になるんでしょうか。 ○山本(和)部会長 阿多委員の先ほどの御質問の意図は,いかがでしょうか。 ○阿多委員 気にしましたのは,結局,これ,事件として幾つなのかということで,子の引渡しの申立事件という一つの事件だというんであれば,その中で,あとは間接強制という手法を選ぶのか,直接的な手法を選ぶのかという理解をするのか,それとも間接強制申立てで,それを停止条件にして別々の事件を申し立てるのかというのがよく分からなかったものですから,先ほどのような質問をさせていただいたというところなんですが。 ○山本(和)部会長 事務当局のお答えは,別々の事件であるというお答えだったかと思いますけれども。 ○阿多委員 そうすると,間接強制を選択されれば当然別の事件で,それで一旦完結すると思うんですが,「2」で書いているこういう要件を満たせば直接的な強制執行ができるというのは,これは直接的な強制執行の事件というので一つの事件ということになりますですよね。   そうなりますと,先ほど質問した内容のまた確認になるんですが,結局,この第3の1の(3)で考えていらっしゃるところは,子の引渡しの直接的な強制執行の決定をする場合が念頭に置かれているので,直接的な強制執行の事件に関しての審尋という意味ですよね。 ○内野幹事 おっしゃるとおりです。 ○阿多委員 それで結構です,こちらも。 ○山本(克)委員 大体それでいいんですが,結局それごとに申立手数料は払わざるを得ないということになりますか。 ○内野幹事 それが基本的な理解になろうかと思います。 ○山本(克)委員 了解です。あんまり,そこがもう一つ受けが悪いのかなという気もしなくはないと思うんですが。 ○山本(和)部会長 ハーグ条約実施法の事案でもそうやっておられるということですが。 ○山本(克)委員 そうですけれども。 ○山本(和)部会長 ほかに,この間接強制との関係の部分についていかがでしょうか。 ○谷幹事 この2の(2)の要件をどう理解をするかという点なんですけれども,部会資料19-2によりますと,例えば,メール等で返還を求めても返還をしないという態度を明らかにしたりとか,あるいは,この状況や面会交流,その他接触の求めにも応じないというような態度を示している場合には,これに当たり得るのではないかと,こういう御理解だというようなことで,ここは,(2)の要件を仮に定めるとすれば,そういうふうに広く解釈をすべきであろうなと思っているところです。   仮にそうだとするならば,翻って,(1)の要件というのは意味を持つんだろうかと疑問に思いまして,つまり,例えば,(1)は間接強制決定の確定から2週間を経過した日なんですけれども,ただ,それまでの段階で明確に,明確にというか引渡しの求めに応じないというふうな態度があったりとか,あるいは,間接強制の決定に対して,引渡しをせずに執行抗告で争うというふうな場合には,これは引渡しに応じないという端的な態度の表れなので,(2)に当たってくるということであれば,あえて確定から2週間待つと,この前提として,間接強制の決定があれば,執行抗告あっても執行停止の効力がないと理解をしておりますので,それにもかかわらず応じないというような場合には,これは(2)に当たるとするのであれば,(1)で確定から2週間経過しなければ直接強制の申立てができないという,この規定の意味というのがそもそもないのではないかと,私は疑問に思いまして,その辺りでどんなふうに理解をしたらいいのかがよく分からないなと思っているところです。 ○内野幹事 部会のこれまでの議論においても既に出ているところですが,まず,間接強制の申立てをするのか直接的な強制執行の申立てをするのかというところを債権者の判断に委ねておりますので,間接強制を選択した人は,(2)のような実質的な要件の該当性について考えなくても,(1)の形式的な要件を満たすことにより直接的な強制執行の方法を採ることができるため,そのような選択をした債権者との関係では,(1)の要件にも意味があり得るということができるかと思います。 ○谷幹事 そのことを前提に申し上げますと,そうすると,確定から2週間を待たないといけないということの意味というのが全く出てこないのではないか。つまり,債権者が間接強制を選択したと,その上で間接強制決定があって,債務者が執行抗告をしたというふうな場合に,(2)に該当し得るので,全く(1)の要件を定める意味というのはないのではないかと思うんですが,いかがでしょうか。 ○内野幹事 それは,(1)と(2)の条文の役割分担の問題かと思われますけれども,いかがでしょうか。 ○山本(和)部会長 谷幹事は,例外をむしろ狭めるべきだというようなお考えですか。 ○谷幹事 いえ。そうではなくて,むしろ(1)というのはなくてもいいのではないかと。 ○山本(和)部会長 (1)を削除すれば,要するに,例外は少なくなるわけですよね。 ○谷幹事 それはそうですね。 ○山本(和)部会長 そうすると,直接的な強制執行によることができる場面が狭まることになるわけですが,いかがでしょうか。 ○谷幹事 いや,そういうふうには理解できないのではないですか。よく分からない。   例えば,債権者が間接強制を選んだ。 ○山本(和)部会長 そうすると,債権者は間接強制決定の確定から2週間待てば,何も証明しなくても,基本的には直接的な強制執行の申立てをすることができ,(2)の要件を証明する必要はないということになりますよね。 ○谷幹事 いやいや。債務者が執行抗告をした場合に,それをもって(2)の要件に当たるんだということができるかと思うんですね。 ○山本(和)部会長 そこは解釈ですよね。 ○谷幹事 解釈ですけれども,そういうふうに解釈を,まず前提として,(2)は広く考えるべきだということを前提にするならば,そういう流れになって,そういう意味では,(1)のように2週間を,しかも確定から2週間待たなければならないということの意味というのはないのではないかなという,そういう趣旨でございます。 ○山本(和)部会長 待たなければならないというわけではなくて,もちろん(2)や(3)の要件が立証できれば,それはいきなり直接的な強制執行の申立てをすることができるわけですけれども,この(1)の要件は,(2)や(3)の要件を立証しなくても,この形式的な(1)の要件を満たせば,直接的な強制執行に移行できるという,むしろ直接的な強制執行の申立てをすることができる場合を広げている要件ですよね。 ○谷幹事 そういうふうに理解をするという考え方もあるんでしょうけれども,一旦こういうふうに立法してしまうと,むしろ(1)の方に流されて,(2)の要件の解釈が狭められるというような懸念もありますので,むしろそうであれば,単純に(1)をなくしてしまって(2)だけにするということでどうかと,こういう趣旨の意見でございます。 ○内野幹事 この部会の議論を踏まえると,そのような懸念があるか疑問があるように感じているのですが,少なくとも御懸念の趣旨のものではないという前提での御提案をしているものと認識しております。 ○山本(和)部会長 ほかの委員,幹事の御意見を伺えばと思いますがいかがでしょうか。 ○阿多委員 不奏功等要件のところの1号要件,2号要件みたいなものかなという理解はしていまして,結局解釈の問題で,(1)が(2)に全て含まれるというんであれば,形式要件として,ただ,(1)を広げるんであれば,谷幹事が発言されるように,決定だけでいいではないかと,確定まで要らないのではないかと,(1)をそういう要件にするという提案はあり得るかなと思っています。 ○山本(和)部会長 もちろん,その提案はあり得るとは思うのですけれども。 ○阿多委員 多数の方がこれでというんであれば,我々,(2)でいくのが多分メーンになるだろうとは思っていますので,(1)をあえて削る必要はないとは,私は思っています。 ○山本(和)部会長 ほかにいかがでしょうか。この点でも,あるいはほかの点でも結構です。 ○垣内幹事 私自身は,今日御提案の「2」の(1)から(3)の要件について,特に異論はないところです。   それで,先ほど谷幹事との間でされた議論に関して,1点ちょっと,部会資料19-2ですと34ページで,間接強制決定に対して執行抗告がされた場合について,(2)の要件を満たすことになるのではないかという意見があったという記載がありまして,私は,執行抗告がされているということが,他の事情と合わせて考慮した上で,(2)の要件を認定するための一つの材料になるということは十分あり得るんだろうと考えておりますが,執行抗告をしたということから,直ちに(2)の要件を満たされるということでは必ずしもなくて,それは執行抗告の理由やその他の事情も考慮して決めるべき事柄かなというように理解をしております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。そういうことですよね。   ほかにいかがでしょうか。   特段よろしいでしょうか。今までの議論も,この部会での議論も踏まえれば,基本的には,直接的な強制執行の申立ての要件として,この(1)から(3)までの要件を設けるということに大きな御異論はないと理解をさせていただいてよろしゅうございましょうか。   ありがとうございました。それでは,この「2 直接的な強制執行と間接強制との関係」についても,基本的な方向性について,大きな御異論はなかったということで,次に進みたいと思います。   続きまして,部会資料19-1の9ページの「3 直接的な強制執行の手続の骨格」の部分でございますけれども,この点について御審議を頂ければと思います。   これも,随分これまで御議論を頂いて,最終的には部会資料17-2の丙案,債権者ないしその代理人が執行場所に出頭するということを前提として,いわゆる同時存在,つまり子が債務者と共にいる場合でなくても直接的な強制執行を可能とするというような基本的な考え方に基づいて,今回の提案がされているということです。 ○佐成委員 本文については,全く異存ございません。   元々私は,乙案にシンパシーを感じて,前回もそれに近い発言をしたかと思いますが,最終的にこの案でよろしいのではないかと思った理由としては,最近,ハーグ条約実施法といいますか,新聞報道で日本がハーグ条約の不履行国認定をされたというような事象があって,そうしますと,今まで私のイメージとしては,ハーグ条約実施法という実定法が存在し,やはりそれとの整合性を重視すべきだろうというようなところも底流にはありまして,それで発言もしていたというところもあったのですけれども,もしかすると,そういったような世の中の状況からすると,日本におけるハーグ条約実施法自体の改正とか,そういったことも近い将来あり得る可能性があるとしますと,ここでハーグ条約実施法と同様の規律を入れてしまうと,将来の方向性,世界の潮流とかなりかけ離れるものになってしまうということもありますので,この提案に賛成したいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○道垣内委員 3の(2)のイなのですが,恐らく念頭に置いていらっしゃる場合ないしは解釈というのは,私が申し上げることと同じだろうと思います。つまり,債権者が執行の場所に出頭することができなくても,債権者の代理人が行けば,まあいいだろうという場合には,それでいいですよという話なのだろうと思います。   しかしながら,日本語の問題として,「債権者の代理人が執行の場所に出頭することが子の利益に照らして相当であると認めるとき」という文章で,そのことを表すというのは,本当はおかしいのではないか。というのは,「債権者が執行の場所に出頭することができない場合であっても,債権者の代理人が執行の場所に出頭することによって,子の利益が図られると認められるときには」というのが,恐らくは日本語としては正確なのではないかと思います。このままの文章ですと,ちょっと読みにくいかなという気がいたします。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○内野幹事 御指摘ありがとうございます。検討いたします。 ○阿多委員 実は,私の方も,代理人の言葉で,想定されている場面というのは,これまでもいろいろ議論されていましたし,債権者本人が出られない場合というのもよく分かるんですが,通常,「代理人」というような形の言葉になりますと,債権者本人と代理人で,今回のイの提案も「債権者の申立てにより」とあるんですけれども,これ,代理人が申し立てるということは想定していないとは思うんですけれども,いわゆる裁判手続の代理人ではないというイメージですのであれですが,「代理人」という言葉が入ると,当然,ですから,履行の際に子の引渡しを受ける者として必要な者という言葉の意味は分かるんですが,「代理人」という言葉が適切かどうかについては,立法の再考を検討いただきたいとは思っています。 ○内野幹事 御指摘ありがとうございます。 ○山本(和)部会長 それは,ちょっと法制上の問題を含めて御検討を頂ければと思います。 ○村上委員 同じところで確認ですが,この部会の中でも議論をしてきて,執行の場所に出頭することができない場合というのは,仕事で行けないとか,出張で行けないとかという,そういうことではなくて,病気であって入院中であるので行けないとか,障害があって外に行けないというような場合であるということの理解でよろしいでしょうか。 ○内野幹事 この部会の中では,そういう場面が想定されていたところではあるのですが,もしこの場で,この「出頭することができない」という理由が,やはり入院であるとか,本当にどうしても都合がつかないという場面を想定しているとの理解でいいのか,それとも,仕事で行けないという事情も認めるべきだというのか,実質に関わるところかとは思うのですけれども,御意見があるならばお願いいたします。 ○山本(和)部会長 村上委員の御意見としてはいかがでしょうか。 ○村上委員 意見としては,仕事で行けないというような理由では認めるべきではないと思っております。大事な場面であるので,こういった規律を設けるのであれば,債権者自らが行くことが原則で在るべきだと思っておりまして,それがどうしてもかなわないという理由を,厳しく見ていただけないかと思っております。 ○山本(和)部会長 いかがでしょうか。 ○阿多委員 知る限りですけれども,実務において,債権者が仕事で同行しないということは,あんまり聞いたことがありません。むしろ,今回債権者が同行して立会するという形で債務者の同時存在が解除されるという,この提案というのは,債権者代理人をする側にすれば,むしろ通常同行しているので,例外的要件を満たしやすく,実現しやすくなると考えられます。   仕事を理由に同行しないというのは,経験則としてそれほどは考えられないかと。ですから,規定ぶりをどうするのかというのはあれですけれども,あんまりケースとしてはないのではないかとは思います。 ○山本(和)部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○道垣内委員 だから,そうしますと,他の法制度との関係でいうと,やむを得ざる事由によりというのが必要であるという話になるのだろうと思うのですね。私はそう書いてもいいと思うのですが,少し御検討いただければと思います。 ○山本(和)部会長 その実質についてはいかがでしょうか。大体そういうことで一致していると見てよろしいのですかね。 ○松下委員 今,道垣内委員から,やむことを得ざる事由のような御提案がありましたけれども,実質は,「代理人が執行の場所に出頭することが子の利益に照らして相当」という部分に込められているんではないかと思います。例えば,仮に仕事で忙しいという理由ではめったにないという話ですが,仮にそういう理由があるとしても,例えば,債権者が父親だとしたら,父親の妹,つまり,子から見れば叔母さんが出てきて,小さい頃よく知っているから子供のストレスは小さいというような場合には,イの方でいけると思います。 ○山本(和)部会長 事柄の実質として,単に仕事が忙しいというようなことでは,この「出頭することができない」という要件は満たさないということでしょうか。 ○松下委員 はい。代理人の属性とか,そういうことを考えて,(2)のアではなくてイでいく場合もあっていいように,私は思います。今申し上げたことの実質が,道垣内委員のおっしゃるやむことを得ざる事由と,実質的には同じことではないかと,私は理解しています。 ○山本(和)部会長 分かりました。文言の問題であるとすれば,ちょっと事務当局に御検討を頂くということにしたいと思います。 ○内野幹事 そうですね。場合によると,「出頭することができない」という部分のニュアンスの問題になるのかもしれませんけれども,道垣内委員からの御指摘も含め,次回までに検討させていただきたいと思います。 ○垣内幹事 同じくイの内容についてのごく単純な確認の御質問なんですけれども,ここで許可をする場合には,特定の代理人について許可をするのであって,その当該代理人が出頭するときもできるということで,一般的に代理人でもいいですよということではなくて,先ほどその人の妹さんというような例がありましたけれども,そういう特定の代理人を想定しているという理解でよろしいでしょうか。 ○内野幹事 はい,おっしゃるとおりでございます。 ○山本(和)部会長 よろしいですか。   ほかにいかがでしょうか。 ○村上委員 「3 直接的な強制執行の手続の骨格」全体に関わるのですけれども,これまでいろいろ議論があり,債権者がいれば,子と債務者の同時存在がなくてもよいという御提案でありまして,この部会での議論の方向性ということでは,こういうことだろうと思います。ただ,なお,同時存在が本当に不要なのかという御意見は多分,この場ではなくて,いろいろな方々からは出てくるのではないかと思います。   確かに子の福祉にとっては,早く債権者のところに行くということがよいことだということはあるにしても,執行の迅速性というものと,本当の子の福祉とは何かというところを考えたときに,様々な場面が想定し得るのではないかと思います。幼児から小学校低学年ぐらいのお子さんが多分一番想定されるのではないかと思うんですが,表面上平静を装ってというか保っていても,もしかしたら何か別れたことに対する喪失感とか,そういうものも抱えたまま債権者のところに引き取られていくということもあるのではないかと思っておりまして,立法に当たって再度,児童心理学の専門家の方ですとか,そういった方の御意見も伺うことが必要ではないかと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。貴重な御意見をいただいたかと思います。   ほかにいかがでしょうか。 ○青木幹事 私も前回乙案を支持していて,なお未練があるというような発言になってしまうのかもしれませんが,結論としては,丙案の方向でいくことに特に異論を申し上げるというわけではございません。   補足説明のところで,直接的な強制執行と間接強制との関係で,この部会資料の2の(1)から(3)の規律を設けるのであれば,「直接的な強制実行が実施される場面では,既に間接強制手続を経ているか,あるいは同手続をしても債務者が監護を解く見込みがあるとはいえず,又は子の急迫の危険を防止する必要があるといった事情が存在することが前提となる」ということなのですが,私の方で議論を聞き落としているのかもしれませんが,間接強制手続をしても債務者が子の監護を解く見込みがあるとはいえないという場合には,恐らく債務者に資力がないので,間接強制をする意味がないという場合も含まれると思います。その場合には,必ずしも補足説明に記載されていることは妥当しないという気がします。   ただ,他方で,それとは異なる債務者と債権者が両方そろうことで,子供にとって高葛藤の場面に直面するという問題があり,こちらの方を重視するということであるということ,あるいは丙案によっても,必要に応じて執行官が債務者に対して同席を求めることができるといった運用が可能であるということから,丙案の方が妥当であることに対して,結論として異論を申し上げるというわけではございません。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○栁川委員 私もこの原案には賛成です。これまで子供の福祉を最優先するという考えに基づいて,個別具体的なものをなるべくまとめていけないかということで議論してきたのだと思います。個々のケースは,個別具体的なことですから,これという決め手はないとは思うのですがそこに流れるものは,子供にとってできるだけダメージが少ない方法で引渡しを行うということだと思います。債務名義が作られた時点では,大勢の方が知恵を絞って,それが子供にとって一番よいということになったわけですから,できるだけ早くその状態に置くことが大事だと思います。。   それから,葛藤状態にあって夫婦が長い間別居している場合もあります。今回債権者が出向くということが議論されていますが,債権者が子供にとって慣れ親しんだ安心できる人とは限らないという現実もあると思います。その辺りも考慮に入れて,子供にとってできるだけダメージの少ないやり方を考えるべきだと思います。   それから,一方で子供はとても強いものだとも思います。一時大変な思い,つらい思いをすると思いますが,福祉関係の方とか周りでサポートする方たちの知恵を絞って,できるだけ早く,元に近いような精神状態に戻してあげるという,配慮やケアがこの手続には付きまとうものだと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○今井委員 今,村上委員と栁川委員から貴重な御指摘をいただいたことで,今気付いたことを感想として申し上げたいと思いますのは,やはり債権者が出頭するということが,それができない場合が,今,村上委員から,仕事の都合でと,休めないからというのは,それは除いてほしいという趣旨はどういうことかなと考えていたんですが,考えてみたら,この場面というのは,債務名義はとって,しかも直接的な強制執行をやるという場面では,先ほどの第3の2の要件もクリアする,そして,今実際の場面でずっと御議論させていただいているのは,具体的な場面で,一般的に比較的小さいお子さんが不安なところで,そこで債権者のところに債務者の監護を解いて行くということになれば,当然申立人である債権者が,やはり自分,その意欲が,その場面で子の福祉というのかその円滑な執行というのか,私のところに来るんだと,その私が子の債権者である親だというところは,行くことは当然,流れからいったらマストだと思うんですね。それが確かに,今御指摘いただいたように,いや,仕事の関係で今日は休めないんだよって,そういう場面は普通考えにくいし,そんな意欲であれば,執行自体がうまくいかないのではないかという気もするんで,それはむしろ実効性というか,子の福祉を考えた,子のことをファーストに考えた場合の在り方にも,大きく影響する。   ただ,そういう意味では,休んだらいけないことがやむを得ない事情と規定までするかどうかという,この立法の問題というのはまたちょっと違うのかなという感じがしまして,それは強制されるようなものではなくて,やはり行けない場合には代理人が行くというふうな規定,そこに行けない場合はかなり限られているということを,規定まで入れるのかどうかというところは,ちょっと規定の問題なのか,実際に実効性の問題なのか,ちょっとそこは,今の段階では決めかねておりますけれども,要は,そこの円滑な執行の大きなポイントのところを,村上委員と栁川委員が御指摘いただいたような気がいたしました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。   手続的には,今問題になっている(2)のイの代理人の出頭の許可といいますか,その部分については,不服申立ては執行抗告という形ではなくて,執行異議ということでよいのではないかというようなこともございますが,それも含めて,この原案の考え方で基本的によろしいでしょうか。   それでは,(2)のイの表現ぶり,文言については,いろいろ御意見を頂戴いたしました。そしてまた,恐らくその運用については,児童心理学的な知見,子供の福祉を重視した運用ということの御指摘も頂戴したかと思いますけれども,全体的なこの提案の基本的な方向性につきましては,これで御理解を頂けたと理解したいと思います。   それでは,続きまして「4 執行の場所における執行官の権限等」の部分ですね。部会資料19-1の9ページから10ページにかけての部分であります。   この点については,取り分け(3)のところですね,この表現ぶり,あるいはその実質について,この間ずっと御議論を頂いてきたところではありますが,どの点でも結構ですので,御自由に御発言を頂ければと思います。 ○山本(克)委員 10ページの(5)の威力の概念なんですが,子に対して威力を用いることができないと書かれているんですが,この威力というのはどういう限度が威力なのかというのが,ちょっとよく分からない。例えば,6か月児ぐらいの赤ちゃんで,自分で動くことができないと,それをさっと抱きかかえるというのは威力なのか,その辺りどうなんでしょうか。 ○山本(和)部会長 それは,ハーグ条約実施法の関係で解釈の議論があるところだと思いますが。 ○内野幹事 そうですね。まず一般論として,この部会での議論の前提としていましたところの認識を申し上げますと,例えば,執行官が乳児といったような自律的な意思表明をすることができない子を抱き上げて債権者に引き渡す行為,これは威力の行使には当たらずに許されるものと考えられるということを念頭に,これまで議論しておったと認識しています。 ○山本(克)委員 ただ,限界事例がかなり苦しいところが,難しい問題が出てくるのかなという気が。では,1歳児でよちよち歩きの子を抱きかかえたらどうかとかですね。その辺りのところが,やはりある程度ガイドラインとしてはっきりしていないと,執行官は非常に行動がしづらいことになりかねないなというんで,そこは,条文に書き込むことは多分不可能なので,そういう,立案当局としてガイドラインみたいなものを作っていただくということでないと,多分,かなり現場では御苦労されるんではないかなという気がします。 ○内野幹事 また今の点に関連したところでは,おおむね3歳以上と,年齢自体に大きな意味はないのかもしれませんが,そういった自律的な意思表明をすることができる子に関しましては,子が同意をしているときという点は当然でありますけれども,例えば,子が口頭で拒絶の意思を示していても,身体的な抵抗までは示さないというような事情,こういった場面において,子の手を引いたり,肩を押したりするなどして,意思を抑圧しないで子を誘導するという程度での有形力の行使については,威力の行使には当たらずに許されると考えられるのでないかという議論を念頭に,部会では議論してきたものと認識しております。 ○山本(和)部会長 そうですね。その点は,今後,立案当局が解説書などで,ある程度明らかにするということもあるでしょうし,やはり裁判所の運用の中で,執行官に対して一定の方針を示すということが必要だということにはなるのかなとは思いますけれども。 ○谷藤関係官 解放実施に関する実務ですけれども,執務資料というのを執行官に対して配っておりまして,今事務当局から紹介のあったような例について示しております。 ○今井委員 山本克己委員の意見に便乗する形ですが,この点については,私も以前,大分こだわってお話をさせていただいた記憶がありますが,基本的には,執行官が行うのは直接的な強制執行である,当然のことながら,それは有形力の行使を前提としているわけでして,(4)と(5)を比較していただくだけでも,まずは,執行する上で抵抗は排除するために,同じ言葉の威力を使っているわけですね。その威力をできますよと。だけど,子供に対しては駄目ですよ。だけど,子供以外の者に対しては威力は使えるんだけれども,それが子の心身に有害な影響を及ぼすおそれがある場合では駄目ですよという,こういう非常に複雑なといいますか,すみ分けといいますか,規定ぶりが,これがただ執行官の立場でいえば,一瞬のことで,いちいち考えながらやるのではなくて,子供の引渡しの一瞬のときに,この(4)と(5)を,この威力は,まず山本克己委員がおっしゃるとおり,そもそも威力がどの程度なのかという場合に加えて,子供に対して威力を用いる場合はいけないけれども,それ以外にはいいんだ,いいんだけれども子供に影響をあれしては駄目なんだということを,一瞬で判断して考えながらやらなければいけない,間違えたら国賠の対象になり得るわけですから,それが同じ威力という言葉でやっている,この辺の,今後規定ぶりにもなりますけれども,ガイドライン以前に,規定自体で,この規範として,こういう場合にはここまでやれば許される威力で,この場合には駄目なんだということを,場合によっては威力という言葉以外の場面を使い分けていただく必要もあるのかなと,こんなふうに従前から思っていたし,申し上げてきたことを,改めて申し上げたいと思います。 ○山本(和)部会長 この御提案に対して,修正を求める御提案ですか。 ○今井委員 できれば,同じ威力を全部使うというのはいかがなものかなという感じはいたしますけれども。 ○山本(和)部会長 もし可能であれば,代わるべき文言の御提案はありますでしょうか。 ○今井委員 今すぐは思い付きません。 ○山本(和)部会長 ただ,これ,かなり今まで議論をしてきて,もちろんハーグ条約実施法から同じ文言がずっと使われてきている部分があって,代替する文言を事務当局に探せと言われても,直ちにはなかなか難しいのかなと思うのですけれども。 ○今井委員 執行官の立場からいうと,萎縮効果があって,結局,結果的には効果的な強制執行ができないのではないかということを申し上げてきたんですが。 ○山本(和)部会長 その点についてのお考えは一貫しているものと理解はしているのですが。 ○今井委員 ただ,申し上げてきた意見の後に出てくるいろいろな案が,全然不変でありますので,今からでも間に合うんでしょうかって。 ○山本(和)部会長 なかなかそれに代わる文言が見付けられないということかと思いますが,御指摘の趣旨は理解されていると思いますので,裁判所の運用指針に基づく執行官等に対する指導といったものの中で,御指摘のような問題意識が一定程度反映されていくということなのではないかと思うのですけれども。 ○今井委員 事前に,執行官なり執行官連盟の御意見というのは聞かれているのでしょうか,この辺の規定ぶりについての。 ○内野幹事 今井委員御指摘の団体名義での御意見は,中間試案に対する意見募集においては頂戴しておりません。 ○谷藤関係官 中間試案に対するパブリックコメントで,裁判所からも意見を申し上げましたけれども,その際に,各裁判所の方で執行官の意見も含めて出してもらっております。特にこの点については,特段異論はなかったと理解しております。 ○山本(和)部会長 それでは,ほかにいかがでしょうか。 ○松下委員 先ほど部会長から御指摘のあった4の(3)の部分ですけれども,まず確認として,(2)と(3)の関係ですが,(2)は,子の住所が債務者の住所等にあって,ただ,例えば,昼間幼稚園に行っているというときが執行場所になる場合であり,(3)は,そもそも子の住所が債務者の住所等と別の場合という整理でよろしいですね。 ○内野幹事 そうですね。規律の実質としましては,そういう理解を前提とするものであったかと思います。 ○松下委員 今までの部会に出てきた例でいうと,債務者と別に住居のある祖父母のところにしばらく住んでいるとか,それから,寄宿舎の寮に入っているような場合とか,多分そのような場合がこの(3)だと思うんですけれども,私の申し上げたいのは,現在括弧に入っている考慮すべき要素ですね,これは,括弧をとって,やはりこの実質を明示したほうがよろしいのではないかと。この部会ではいろいろ議論してきたので,大体相場観みたいなのが出てきたと思うのですけれども,それを文字化しないと,どういうことを考えて,この(3)の場合が許されるのかというのが分かりにくいような気がするので,括弧をとったほうがいいのではないかというのが,私の意見です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○阿多委員 固まっているのであれなんですが,住居という言葉を選ばれたのは,一つの価値判断を宣言されていて,当然,一時的にいるというのは住居という概念から外れるという意見だとは思うんですが,やはり可能性としては,先ほど寄宿舎等は別にしまして,昼間預かるとかいうようなところの執行の場所の可能性についても,何らかの道を開くような規定をお考えいただけたらなということを意見として,まず残しておきたいと思います。   それは少数というのは,先回もあれして理解しているんですが,逆にちょっと質問ですが,4の(2)と(3)の関係で,ですから,原則(2)でいけというのはよく分かるんですが,(2)の場合は,当該場所に占有する者の同意を得て執行官が行うと。(3)の場合は,いわゆる申立てという形になりますと,そうすると,同意というのはどのタイミングで得るということを想定されているのか。これは,申立てが債権者の申立てという形になりますと,債権者が事前に同意が得られるのかどうかということを調査してきた上で,同意が得られましたというんだったら(2)になって,ないんであれば,そこで申立てをするということになるのか,この同意を誰が取るのかということも含めて,どういう構造をお考えなのか教えていただきたいんですが。 ○内野幹事 執行官が強制執行に着手して,4の(1)アからウまでに掲げる行為をするタイミングで同意が得られれば,これらの行為をすることができるというのが(2)ということになります。ですので,結局(3)のところで想定されておりますのは,正にあらかじめ(3)に掲げられているような事情が感得される場合については,債権者の申立てということになるのかもしれませんが,申立てにより,同意に代わる許可を得るということが,場面として想定されているということになります。 ○阿多委員 もちろん理解しているつもりなんですが,(3)のところが同意に代わる許可という形で,なおかつこれは事前許可なわけですよね,申立てをしないといけないという形で。他方,(2)のところは,正に執行官が執行に臨んだ際に同意を得るというような形になって,その場面というのは,言わばもう執行中,執行に際しての話で,極論すると,同意が出るか出ないか分からない,一回執行不能になってからもう一度この同意を得るということを想定しているのか,それとも,もう(3)に該当するような場合は,同意を得るかどうかなんかもう,代わる許可ですから,もう最初から許可申立てをしておいてくださいと,そういうイメージなのか,その手続の申立ての仕方のことなんですが。 ○内野幹事 それは様々な運用があり得るかと思いますが,「同意に代わる許可」という呼称の当否はともかくとして,同意又は許可があれば債務者が占有する場所以外の場所においても執行することができるというものですので,今,正に阿多委員がおっしゃったような運用の在り方,あらかじめ許可を得ておいて,それで強制執行が実際にされるということもあろうかとは思います。結局,この辺りは,当該第三者に対する執行裁判所の許可についての運用の在り方と関連するところかと思いますが,御指摘のような運用も,許容し得るものとして規律が提示されているということかと思います。 ○阿多委員 正にこれからの運用になる部分だとは思うんですけれども,(2)などにしても,執行準備で執行官が事前に執行場所,先ほど学校の場合や保育所の場合は同意を得てというような形で,事前準備で訪問されて,執行の手順を相談されて,事前に同意を得てというような形で考えられている場面だと思うんですが,見ようによっては債権者の方で事前に同意を取ってきておけというような,それで同意に代替して,そのままできるというような読み方もできるかと思いますので,今後の,書きぶりだとは思いますけれども,いろいろ御検討いただけたらと思います。 ○内野幹事 今回御提案している規律は,正に今おっしゃったような運用も許容しているものだと認識しております。 ○今井委員 先ほどの点で修正動議みたいになりますけれども,ちょっとこの間に考えましたので。   やはり威力について,山本克己委員がおっしゃられた,赤ちゃんを執行官が抱くということは威力にならないのかという点,それから,私,前から気になっていたのは,本当に想像の世界なんですけれども,債務者であるお母さんが,別に赤ちゃんではなくても,小学生ぐらいの子を絶対渡さないといって自分がかばうというんですか,執行官の手に触らせないようにやるといった場合に,これを当てはめする場合に,それでお母さんと子供が一体になったときに,お母さんからその拘束を解いてという行為が,やはり間接的には子供に対する威力ということになりかねないのではないかと。そうすると,執行官の意見も聴いていた上での意見だという話はありますけれども,執行官はリスクを考えたら,多くの執行官が執行をやめるのではないかというふうに危惧するというか,想像するわけです。そこで今のような点について,これは要綱案ですので本案ではありませんが,2点。   ですから,やはり威力というのは,直接的な強制執行に伴う通常の有形力の行使,これと威力は違うんだと。それが程度なのか質なのかはともかく,そこの差別化はしてほしいなと。ですから,先ほどの山本克己委員がおっしゃられた,子を直接引き渡す際に,お子さんは別にすやすや眠っているのであれば,本人は何も分からないけれども,それは決して威力ではないという意味では,威力というのは通常の有形力の行使を超えたものであるということがどこかで明確にできればいいなというところと,それから先ほどかばっていた,間接的な意味で威力というふうに言われるという意味では,表現ぶりはともかく,子に対して直接の威力はいけませんよというふうな,そういうふうなそれは書きぶりなのか,ガイドラインなのか,一問一答なのか分かりませんけれども,ちょっと今の思い付きとしては,今の2点で,通常の強制執行に伴う有形力の行使は当然許される。ただ,威力というのはそれを超えて,かなり力を入れないとできない。それは第三者に対しては許される,子供に対しては許されない。ただし,今抱きかかえているような場合のようなことを想定すると,直接子供は駄目と,こんなすみ分けをしたら少しクリアになってくるのかなと,今思い付きですけれども。 ○山本(和)部会長 分かりました。それは,この文言を変えなければそれが表現できないのか,あるいは今おっしゃったように,ガイドラインその他で明確化すれば足りることなのかということも含めて事務当局で検討をお願いします。 ○内野幹事 承知いたしました。 ○山本(和)部会長 ほかにいかがでしょうか。   特に(3)の部分で,先ほど松下委員からは,このブラケットを外した形にすればよいのではないかという御提案がありましたが,その他の点も含めて御意見があれば頂きたいと思います。 ○松下委員 先ほどの(3)のブラケットを外して,考慮要素をはっきりさせたほうがいいのではないかということですが,その前提は,ここに書かれている例示の仕方も,このとおりでいいだろうということを含んでいます。最終的にはその他の事情ですので,多分一切のことをいろいろ考えるのでしょうが,典型的なものとしてはここに書かれているものだろうと思いますので,申し添えさせていただきます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○宇田川幹事 この4の(3)の関係で,今回,債権者申立てということで整理していただいているところですけれども,前回,執行官がいろいろな具体的な状況を把握して申し立てるという立て付けというのも,より情報収集できるからよいのではないかというような発言もさせていただきました。ただ,今回,事前に債権者の方が,それまでの強制執行の申立てに至る過程で事情を把握していて,その結果,主導的な役割を果たすことができるというふうに整理していただいて,そこは理解しているところですが,その場合に,やはり裁判官が的確に判断できるように,債権者において,第三者の占有する場所が子の住居に当たることを示す証拠ですとか,債務者と第三者の関係,当該場所の状況など,この相当性の判断もできるような証拠などを提出していただく必要があると考えておりますので,その点を指摘させていただきたいと考えております。   あともう一つ,これは質問なんですけれども,今回こういう形で債権者申立てにはなっているのですけれども,この同意に代わる許可の手続自体について,もし事務当局の方で,例えばこういう規律と同様に考えているというようなことが何かあれば,例えば夜間執行の許可の申立てというふうに,元々執行官ができるところを慎重に判断するために許可を与えるというような,そういう形にしているということなのか,やはり第三者の場所に入るために,改めて裁判所の授権が必要だというようなことでの考えなのか,何かここの点の規律について,もし整理されているようなところがあれば教えていただきたいと思います。 ○内野幹事 ただ今の御質問は第三者に対してどう告知するかというところにつながるという問題意識からのものでしょうか。 ○宇田川幹事 そこにつながってくる,第三者を手続に関与させるのかとか,第三者にどのように告知するのかということに関わってくる問題ではないかとは思っているんですけれども,そこについて,ちょっと前提として教えていただければと思います。 ○内野幹事 議論の叩き台といたしましては,この許可というものを,その第三者に対して実際に示していく場面では,もちろん一つは事前に通知をするというような規律もあり得るものと思っておりますけれども,もう一つは,執行官の夜間執行許可のような仕組み,例えば正に執行官がその現場で許可証を提示するというような規律も一つの選択肢としては排除されていないものと考えております。   この点については,第三者に対する告知の方法というような形で部会資料19-2の中でも若干取り上げておりますけれども,もしこの点に関する規律の実質について,部会の皆様方から具体的な御意見がございましたら,おっしゃっていただきたいと思っております。 ○山本(和)部会長 いかがでしょうか。 ○山本(克)委員 この民事執行法8条と今回の規律の関係はどうなるんですか。つまり,夜間ないしは休日・祝日に,子の引渡しの直接的な強制執行をしようとするときは,8条の許可を別途執行官が受ける必要があるという理解でよいのか,8条は総則規定ですから,この場面にも適用があるという理解でよいのか。 ○内野幹事 規律としては並列されているということになりますので,今回の規律の許可とは別に民事執行法第8条の許可が必要な場面もあり得るかと思います。 ○山本(克)委員 しかし,それは何か気持ち悪いような気もします。特に(3)で債権者申立てにしておきながら,そこだけは執行官が許可を執行裁判所に許可を受けるという仕組みが何か迂遠なような気がして,やはり執行計画を作る際に,もうここも含んだ形で執行裁判所が当然やるんだというような仕組みでも,私は特に問題はないのではないかと。取り分けここに8条をかぶせてこなければならない理由というのは,もう一つよく見えないです。 ○山本(和)部会長 いかがでしょうか。今の点も含めて,この全体の(3)の許可の手続について,許可を求める主体,あるいは不服申立ての方法,あるいは告知ないし提示の在り方の問題等々について,もし御意見があれば伺いたいと思います。 ○垣内幹事 今,山本克己委員から御指摘のありました8条との関係ということなんですけれども,確かに両方並立でされていて,個別にやらなければいけないということにどこまで合理性があるのかというのは,そのとおりかなというふうには思われまして,何か手続的に合理的な整理をするという工夫はあり得るのかもしれないという感じはいたします。   ただ,元々8条の規定,夜間執行の許可というのは,先ほどの方の発言にもありましたけれども,強制執行自体は執行官の職務権限の行使として一般的にはできるというところを,夜間で執行するということについては特に慎重を期して,許可にかからしめていて,ある意味では執行官の,国家機関としての執行官の職務権限の行使を少し自制的に,内部で限定しているというようなところがありますが,それを解除するものとしての許可というものがあるのかなというふうに考えておりまして,これは民事執行法制定前の旧民事訴訟法の規定ですと,必ずしも人の住居に立ち入る場合でなくても,およそ夜間の執行というのは一般的に好ましくないということから,許可にかからしめられたということもありますので,何か執行を受ける者の個別的な利益を特に保護するということが正面にあるというよりは,一般的な職務権限行使の在り方の規律の一環として元々はある規律なのかなと思っております。それに対して,第三者が占有する場所での同意に代わる許可という,そもそも第三者の同意が必要なのかというところまで遡って考えて,同意がなくても適切な場所ならどこでもできるんだという枠組みで考えるのであれば,8条と同じような形で,したがって許可があれば,それは二つの許可は必要ないんだという整理もしやすいのかなという感じがいたしますけれども,現在のこれまでの議論のまとめた形はこういうことになるんだと思いますが,基本的には同意が必要であると,これはハーグ条約実施法との関係もあって,こういうふうに考えるというのは一つの方向であり得るんだろうと思っておりますが,そうだとすると,執行場所を占有する第三者というのは,同意なしにそこで強制執行を実施されないという利益が同意要件という形で保護をされていて,それを例外的に外すために同意に代わる許可というものが必要だということですので,これは夜間執行の許可とは,少し理論的には位置付けの異なるものなのかなという感じがしております。結果として,規律の内容がほぼ同じになるということは全く十分あり得ることだと思いますが,性質としては少し違う要素が含まれているのかなということを感じておりますので,その辺りも踏まえて,最終的にはどういう合理的な規律があり得るのかということを整理できればいいのかなというように考えております。   実質的には,例えば事前の審尋が必ず必要かとか,事前の告知が必要かというような点については,私自身は,ある種の密行的な要請もこの局面ではあると思われますし,迅速に執行したほうがいいというような要請もあろうかと思いますので,必ずしもそれを必要とする,不可欠とするという規律が合理的ではないだろうというふうに考えておりますので,そういう意味では8条と似たような形の規律でも,実質的には余り問題ないのかなという印象は現時点では持っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○山本(克)委員 私は10ページの(3)との関係だけで申し上げたつもりはなく,むしろ8ページの第3の1(1)の決定の際に,夜間執行等の許可も,そこでもうやってしまったらいいのではないかというのが基本線です。ですから,執行場所がどこであろうが,夜間執行というものが可能であるかどうかというのをこの段階で既に判断してはどうなのかということを申し上げたかった。特に執行官が許可を取らなくても,もうここで夜間執行も可能だということを言えば済むだけなのではないか。常にこういう実施させる決定というものが存在していますので,しかも,これは定型的に夜間や休日にやることが想定されるような執行ですので,その段階で執行裁判所が相当と認めれば,もう夜間,あるいは休日執行も可能だということをこの段階でやっておけばいいし,また,それの変更もそれほど,できるわけですよね。平日の昼間に行ってみたけれども駄目でしたといえば,ここの決定を変更する形で,今申しましたようなことをやればいいと思いますので,執行官がわざわざ許可を取らなければいけないという必要は余り感じないということです。   動産執行ですと,執行官が独立の執行機関としてやりますので,この許可の制度というのは非常に合理性があると思いますけれども,そもそも8条の作りからすると,必ずしも私のこれから言うことは説得力がないんですけれども,最初から執行裁判所が執行官に命じて行わせるんだから,しかも,ある種の定型性,定型的に,特に夜間というのが意味がある場合ですので,もうここでやってしまってはいかがでしょうか。 ○山本(和)部会長 それでは,今の点は事務当局で御検討いただければと思います。 ○谷幹事 今の御議論をお聴きしまして,そうだとするならば,現行法でも同じようなことがあり得るのかなと。つまり代替執行の場合に,夜間にすると,それで,代替執行の授権決定の段階では,どうするのかという,実務上はそういう場合もあり得るのではないかと思うので,その場合には,授権決定をするのと同時に夜間の執行の許可もするというようなことがあり得るのかどうか,その辺りはむしろ実務の実情がどうなっているかということに関わると思いますので,その辺りを調べていただいたらどうかなとは思いました。 ○谷藤関係官 ハーグ条約実施法の解放実施の事案では,当然,同時存在の関係がありますので,夜間に執行が及ぶことが想定されるケースはあるわけですけれども,その場合には,事前に夜間執行の許可を取っているという運用の実情にあります。 ○山本(和)部会長 今御紹介いただいた運用は,執行裁判所の授権決定とは別に,民事執行法第8条の休日夜間執行の許可を取っているということですよね。それを何か合体させるかどうかということだと思いますが,その問題は事務当局に御検討いただくこととしたいと思います。 ○阿多委員 8条許可を別にするかどうか御検討いただいているんですが,その第三者,この占有する場所の関係での,先ほど審尋や決定の告知の方法について御意見もありましたけれども,少なくともやはり密行性,執行逃れが起こるリスクがありますので,審尋なく第三者に直接執行官が告知するという方法で伝えるということで,元々の補足説明にある方法で進めていただけたらと思っています。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○成田幹事 言葉の問題にすぎないのかもしれませんが,執行官が許可を告知するというと,執行官にそういう権限があるのかどうかがよく分からないところがありまして,そうであれば,民事執行法8条2項のような提示で足りるのかなと思っておるところでございます。 ○山本(和)部会長 規律の実質としては,密行性という観点から,許可に当たって審尋をすることは必ずしも必要ではないということになろうかと思います。それで,告知か提示かはともかくとして,その許可を実際に債務者に知らせるという行為は,執行官が執行の現場で行うことで足り,あらかじめ知らせる必要はないという実質においては,御意見は一致していると理解してよろしいでしょうか。   それでは,それを踏まえて具体的な規律の内容については,この民事執行法第8条第2項と同じような規定になるのかどうかも含めて,事務当局の方でお考えいただいて,御提案いただきたいと思います。   ほかに,この第3の4の点について御意見があれば伺いたいのですが,いかがでしょうか。   よろしいでしょうか。   それでは,第3の4(3)については基本的にはブラケットを外す形にするとともに,その手続等については事務当局に更に御検討を頂くということとし,さらに(5)の「威力」という文言については,これに代わるものがあるかどうかということを含めて,事務当局に御検討を頂くということにしたいと思います。   それでは,よろしければ,本日,阿多委員の作成に係る「子の住居所等の調査について」という文書が席上配布されていると思いますので,阿多委員からこの資料について簡単に御説明を頂きたいと思います。 ○阿多委員 お時間を頂いてありがとうございます。   先般,最後に口頭で少しお話をさせていただいたんですけれども,紙になった方がまだ御理解いただきやすいかと思いまして,御提案させていただいています。   席上配布ですので目を通す時間はなかったかもしれませんけれども,趣旨といたしましては,先般お話ししましたように,債務名義として,債権者が債務名義を取得しても,債務者の方が子供とともに行方をくらましてしまうという場面,さらには,執行しようとしても,債務者の住所地以外の場所で執行すると,今日のお話でも,第3の4の(3)の子の住居が違い場所にいる場合等について,円滑に執行するためには,事前にその所在等についての情報が必要であると。先ほど家庭裁判所の方からも,債権者の方でできるだけ情報を提供してというお話がありましたけれども,現状,債権者の情報収集としてはかなり限界がありますので,こういうふうな方法を入れていただければなということです。   そのような権限が認められる根拠としましては,債務名義を既に有しておりますが,その債務名義というのは,裁判所の方において債権者が監護するのが望ましいという裁判所の判断がある。その監護の内容として,先般の民事訴訟法学会でも話題になったんですけれども,監護の内容としては,子供を自分の支配下に置くと,当然それは子供がどこにいるのかということの情報も把握するというのが監護の内容という形になりますので,現状,手元にいなくて債務者の手元にいるのであれば,当然,債権者は債務者に子供の所在について質問して回答を求めるということができる。にもかかわらず,債務者の方で答えない,ないしは質問すら受けてもらえないような状況にあるのであれば,債権者は裁判所を介して公的機関等から情報を取得するというような方法が是非とも必要だということです。   現状は,弁護士の場合であれば,23条照会等を使う場面がありますが,この子供の所在というのは非常にセンシティブ情報ということがありまして,23条照会を使っても必ずしも答えていただけない。さらには,弁護士が公的機関に出向いていっても,民事に対しての不介入等でお答えいただけないという状況にあります。理論的には,民事執行法20条が準用する民事訴訟法186条の調査嘱託というのが考え得るのかもしれませんが,そもそも186条というのは証拠収集の方法として規定がされておりまして,その所在についての情報を集めて裁判所等に提供するのが証拠の収集なのかというようなことを考えますと,必ずしも準用の仕方として望ましい形ではないのではないかと。さらには,現行法は家事事件手続法で履行の調査という手続もありますけれども,もう既に執行事件というような形に移行していながら,本案における履行の調査という手続によるのもいかがなものかと。制度の振り分けとして,それはやはり民事執行の中で考えるべきだろうというようなことで,今般,子供の所在について民事執行の中に規定を設けていただきたいということです。   考えられる内容としては,2で挙げましたけれども,ここでは,言わば不動産の執行における現況調査に近い形で,執行機関である執行裁判所が執行官に命じて,執行官の方が必要な情報を収集すると,そのような形の御提案をさせていただいています。御議論いただければと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   この論点につきましては,既に何度かこの部会でも御議論は頂いたところかと思いますが,今回,阿多委員の方からやや具体的な形での御提案があったということかと思いますので,この際,ここで御議論を頂ければと思います。 ○佐成委員 質問ですけれども,この2の(2)の「執行官は」というところで,電話会社とか警察とかが入っているのですけれども,こういったところに,子の所在の情報があるということなのでしょうか。 ○阿多委員 子だけではなくて,債務者の方が子供と一緒にいる場合,子を直接対象にするというのが実は債務名義の関係であれなんですが,債務者の所在ということも含めて,当該場所にいるかどうかということも,情報収集としては公的機関も考えられるだろうということで,ここで挙げています。 ○佐成委員 債務者の所在を広く知るというようなところになってくると,やはりいろいろなところに波及しないのかなというのが気になります。その他,子の住所,居所を知る者といったように,子の所在なら何となく分かるのですけれども,債務者の所在という話になってくると,そこはどうなのかなと思います。 ○阿多委員 状況としまして,債務者と一緒に所在が不明瞭になる場合と,今日のありますように,子供が別の住所にいて,そこの住所の占有世帯とかの情報が得られないという場面と両方あり得ると思います。ですから,状況に応じて必要な情報が違うものですから,それでいろいろ列挙していますけれども,ただ,御心配されるような広く聞いて回るということよりも,執行に必要な情報を執行官が集める,その集める先としてどこが適切かというので,それが,執行官の質問箇所が限定列挙が望ましいかどうかというお話になるのかとは思いますけれども。 ○道垣内委員 広く聞いて回るのではなくとおっしゃっているわけですが,広く聞いて回らない方法で,これをどうやって実現するのですか。 ○阿多委員 どこかで,前から申し上げている,例えば学校とか教育委員会とか,そういうところを主としていますが,ここでは漏れ落ちをなるべくなくしたいという形で複数並べているだけであって,同じ情報を各所に何か所も聞いて回ると,そんなことは想定していないという。執行官が執行する上で必要な情報を得やすくするという形で併記したということですが。ですから,病院についても,病院に入院されている場合に病院に行くのであって,何もないのに病院に質問に行くとか,そういうことを想定しているわけでは,もちろんないわけで。 ○道垣内委員 でも,病院に入院していたら,場所は分かっているのではないですか。 ○阿多委員 いや,入院していたかで,今,どちらかというようなこと…… ○道垣内委員 そうしたら,全ての病院に聞いて回るわけですよね,こういう人いますかと。 ○阿多委員 いえ,全ての病院という,ですから,その時点で持っている情報と現在のところに結び付く可能性があるようなものについては質問ができるということを考えているんですが,だから,少し前に病院に入院して,現在は退院してどこどこに戻られていますというのがあれば,それは。ただ,そこまでいくのは広すぎるというのであれば,それは制限は考えますけれども,根本的にそもそも調査するという手法を導入することについて,御検討いただければと思っているんですが。 ○久保野幹事 すいません,この論点が以前に出たときも同じような議論があったようには思うんですけれども,執行手続の中での調査という問題の立て方がよいのかどうかということがあるように思います。まず前提として,実務上の必要性といったものは,御議論を聴いていて非常に理解できるような気がしたんですけれども,ただ,根本的なところでは,阿多委員も冒頭で少しおっしゃったとおり,これは債務者が子供の所在を債権者に対してきちんと説明したり,明らかにするという立場にあるんではないかという問題が前提になっていまして,その点は実体法的に見たときに,債務者が正にそのような義務を本来は負っている人ではないかという議論をしているんだと思うのです。   それで,その点について,離婚後の父母といったものを想定したような場合には,実体的にそのような義務があるという議論は立て得るとは思うのですけれども,ただ,それがそれほど,その実体的な義務の考え方に基づいて,例えばどういう調査が可能かといったような議論ができるほどに,明確化されてはいない,残念ながらされてはいないのではないかという気がしておりまして,その問題を抜きに執行の手続の中だけで調査といったことをするのには慎重であったほうがいいような気がしております。 ○山本(克)委員 この制度を導入する理由の一つとして,司法資源の有効活用ということをおっしゃっているんですが,逆に司法資源を無駄足を踏むことによって,逆の結果をもたらす諸刃の剣の御提案で,しかも,先ほど道垣内委員が御指摘されたように,何でも調べなければいけないかのような外観を示すような提案だと,ますます司法資源が無駄に費やされるという可能性があるので,もう少し何か整理しないと,ちょっと御提案の抽象的な趣旨と実際の間には,余りにも乖離があるような感じがいたします。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○谷幹事 この見栄えが,何か広く探索的に調査をすることを求めているかのように見えるのかもしれませんけれども,現実にはそうではなくて,具体的に何らかの手掛かりがあって,ここにいそう,こういう情報があれば居場所が分かりそうだというふうな場合に,端的にその情報を持っていると思われるような機関に対して,必要な報告を求めることができるという制度を提案しているということでございます。   具体的には,我々弁護士の中で調査した場合には,いろいろな実例があって,どこまで言えるかというのはあるんですけれども,例えば保育所のここに通っているのではないかというある程度の,かなりの蓋然性を持ってこの保育所にいるのではないかというようなことが,これはママ友のネットワークを使ってある程度分かったと。しかし,最終の確証までないというふうな場合がどうもあったように聞いていまして,それはそれで取りあえず,取りあえずといいますか,もうそこだろうと,そこしかないということでやってみたところ,うまくいったというふうな例があったというのが一つ,実例としては挙がっていたようですね。   それから,もう一つはATMからの引出し,払戻しを受けた,その場所がどこかという,債務者がですね。債務者がATMから払戻しを受けた,その場所がどこかということから居住地域が絞られたという実例も,実はあるのはあるんです。余りこんなことを言うと,では,銀行も巻き込むのかというようなことにもなりかねなくて,なかなかそれを実例として申し上げるのはちゅうちょしたんですけれども,しかし,必要性という意味では実例としてはそういうようなことをやりつつ,債権者の方はいろいろな苦労をしながら居場所を捜していると,こういう実情があるわけで,それはそれで,債権者としては努力をしつつ,最後の,ここにこの情報があれば確実だというところを是非何らかの形で調査する方法がないかと,こういう趣旨でございます。   これは,前回までも申し上げたんですけれども,不動産執行における現況調査では,執行官は,これは57条5項だったと思いますけれども,「電気,ガス又は水道水の供給その他これらに類する継続的給付を行う公益事業を営む法人に対し,必要な事項の報告を求めることができる。」とか,あるいは4項では,市町村に対して様々な調査ができるというような規定がございまして,これ自身は,不動産執行の場合ですから,差押債権者には何ら公益事業者に対して情報を求める権利,実体法上の権利はないわけでありまして,これは正に不動産執行という,その執行手続を円滑,あるいは適正に行うために,民事執行法自身がその必要性から認めているということだと思いますので,必ずしも債権者の方に何らかの実体法の権利がないといけないということでもないと思いますし,あるいは,更に言うならば,債権者の方にも実体法上の権利が認められる場合もあるだろうと思うんです。というのは,子供の所在がどこなのかということについては,債権者,一般的に子の引渡しが認められる場合というのは監護権が認められた場合だと思いますので,監護権の内容として居所指定権もあるでしょうし,その前提として子供の状況,生活状況,居場所を含めてそれを知ることができて,その状況について債務者なり,あるいはその他の者に対して状況報告を求めるというようなことは,これを権利があるかどうかは別として,そういう法的な地位にあることは恐らく間違いないのではないのかなと思いますので,そういうようなことからして,全く整理がされていない,根拠も明確でないようなものを提案しているということではなくて,ある意味では活用場面も非常に具体的に想定をした上で,ほかの制度との整合性も考えながら提案をしていると,こういう状況でございます。 ○佐成委員 今,谷幹事の方から,公益企業の話が出ましたので申し上げておくと,前回も申し上げたとおり,その所在場所の住所が特定していて,そこの名義人が誰かとか,そういった情報は当然出せるのですけれども,それ以上に名寄せ的な話を要求されている可能性もありますし,先ほどのATMの話だと,ATMは場所は特定できるからあれなのかもしれませんけれども,結構そういうような問題というのが出てきそうな気がしますので,余り網羅的に,探索的な規律を設けるということについては,やはりその必要性と,それに対応しなければならない側の業者の負担とか,そういったところを総合的に考えた上で,慎重な検討をお願いしたいと思います。この制度がいけないと言っているわけではないのですけれども,実質的な必要性と,その影響とのバランスはやはり確保していただかないと,軽率に入れてしまって,非常に負担が掛かるということでは困るので,そこだけは少し御注意いただきたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○中原委員 これだけ個人情報の保護が言われている中で,民間企業がどの程度の探索的な調査に協力すべきかについては,社会的な議論をして一定のコンセンサスを得る必要があると思われ,この場で議論して,応じられるような話ではないように思います。先ほど谷幹事が言われたように,どこのATMで預金を引き出したかは分かりますが,それも個人のプライバシーですから,プライバシー保護との整合性を十分に考えていただく必要があり,直ちにこのような制度を導入することの抵抗感は大きいと思います。 ○村上委員 詳しい制度のことはよく分からないまま,御意見を伺った印象だけ申し上げますと,子供をめぐる事件というのは大変多く発生していまして,登下校時を狙った子供への不審者からの声掛けの事案などもある中で,なりすましということは考えなくてはいけないのではないかと思っており,そういう懸念があるのではないかということを印象として持ちました。   また,市町村や教育委員会の他,多くの施設や会社に対して,必要な報告を求めることができるとなっていると,なぜこれらが報告しなくてはいけないのかということは,よく理解できない部分がございます。また,違う場面にはなりますが,労働債権でいいますと,社長が夜逃げしてしまったような場合,債務者の居場所本当に分からなくなってしまって債権者が賃金債権を取れないというような場合もある中で,そういうときに,裁判所がその社長を見付けてくれるわけでもありません。なぜ,子の居場所についてだけ裁判所に協力していただかなくてはいけないのか,そういう規律をここで明文化しなくてはいけないのかということが,自分の中では理解できない部分がございます。 ○山本(克)委員 やはり提案するならもっと,先ほどおっしゃったように,蓋然性が高い情報を債権者が調査して,それ以上の調査は自分ではできかねるということまで行われたような場合を要件として設定するなり何なりしないと,これは本当に個人情報のだだ漏れを奨励しているかのようで,この程度の必要性で個人情報保護法上の法律上の規定があれば例外になるなんていうことは,これはもう到底内閣法制局を通る話ではないと思いますし,私もそれは絶対許されないと思いますので,国民の権利を守ることを標榜しておられる弁護士会なんですから,もう少しそういうことにも配慮した提案を是非していただきたいと思います。 ○阿多委員 いろいろ,まだ御意見を聴いていただいた上での方がいいのかあれですが,まず誤解がないようにしていただきたいのは,債権者が情報を取得するというような形で御提案をしているのではなくて,執行官の方が調査をされて,どこで執行するのか,どのような形で調整をするのが適切なのかという情報収集を御提案しているのであって,全て情報を集めて債権者の方に提供してくださいという御提案をしているわけではありません。ですから,個人情報保護で,個人情報がだだ漏れになって債権者がそれを使って目的外使用をするとか,そういうことを想定して御提案しているわけではなくて,執行がより迅速に実現するためには,執行官が行ってもどこにいるのか,どこにいるというか,ある程度分かっていても,それが外れるというようなことがないような形の執行の実現を意図してのものです。   情報を探索的にいろいろな形で使うという,そこはある程度,先ほどの御説明でできたと思うんですが,次に,民事執行法に根拠を求めることについて久保野幹事から御疑問が出ましたのですが,実体法上の監護権の範囲として,所在についてどこまでなのかという,いわゆるその実体法の解釈の問題はもちろんあるわけですけれども,ここで前提にしているのは債務名義を取得していると,既に債権者の方で,子供を監護するのが適切だという裁判所の判断があって,それの早期実現を意図して,そのための調査を,そのための根拠ということで提案していますので,それが実体法に置くとかいう話ではなくて,債務名義の早期実現のためには,当然,民事執行法に置くのが望ましいだろうと。先ほど,民事訴訟法の準用のお話もさせていただきましたけれども,必ずしも適切な条文位置になっているのではないのではないかと,そういう意味では,理論的に整理する上でも,執行法が場所としては望ましいんだろうと思っています。   個人情報うんぬんにつきましては,整理し,更にはあれですが,少なくとも我々がイメージしているのは,債権者としてできる限りの情報を集めている,今でもそうなんですが,集めていても,お答えを頂けない場面があるので,それを裁判所の方がが執行官に調査を命じて,執行官が情報を集めると,そういう御提案をしていますので,少しイメージを捉えてもらえたら…… ○山本(和)部会長 恐らく今の御発言に対しては,反論の御意見なども多々あるであろうかと思いますが,できれば多くの委員,幹事の御意見を頂戴したいので,発言されていない方からの御発言をお願いします。勅使川原幹事,どうぞ。 ○勅使川原幹事 既存の法制度を何か使って,子の所在を何かというところで,阿多委員はふさわしくないというふうにおっしゃるんですが,子の引渡しを命じる家事審判の場合は,やはり家事事件手続法の289条の義務の履行状況の調査のところの調査嘱託は,なお使ってはならないという規律ではないのではないかと思われるので,これが一つ利用できるかなと。   もう一つは,民事執行法の20条で調査嘱託の186条は証拠調べだからふさわしくないのではないかということだったようなんですが,そもそもその準用に入るかどうかも,私も詰めて,まだ考えてはいないですけれども,ただ,裁判所が判断をするために必要な資料を職権で集めてくるということであるならば準用の余地はあって,しかも,執行を開始するときに間接強制でいくのか,あるいは直接的な強制執行でいくのかの判断の際に,引渡しの見込みがないとか,あるいは窮迫な状況があるとかと判断するときには,どこで監護されているかという情報は多分必要になってくるでしょうし,また,先ほどの同意に代わる許可のところでも,やはり子がどこで監護されているかという情報は,同じく調査嘱託の形で得られるという可能性があるように思いますので,まだ解釈論上,それは難しいよという可能性はあるとは私も思いますけれども,なお検討してみる価値はあるのではなかろうかというふうに考えております。 ○山本(和)部会長 ほかの委員,幹事からの御発言はございますか。 ○宇田川幹事 今,勅使川原幹事の方から,現行の制度を活用して子の所在調査ができるのではないか,まだそういう余地はあるのではないかというようなお話があったところですが,現在の実務上,余り債務者や子の所在が不明な場合に,履行勧告の申立てとか強制執行の申立てがされることは余りないのではないかという認識でございまして,実際に,御指摘のような調査嘱託が行われた例というのは余りないというように認識をしています。   やはり民事執行法上,執行の対象である子の所在を探索する第一義的な責任は債権者にあるため,実務でも代理人の方,債権者の方で調査をしていただいているところで,子の所在に関しては,債権者において必要な調査を尽くす必要があるということが前提であると理解しております。   その上で,今申し上げた点についてどのように考えるかというところで,一つ,家事事件手続法上の履行勧告の関係でも,これも個別事案による裁判官の判断になるので,実務上,最終的にそのような調査嘱託が認められるかどうかというのは一概に申し上げることはできないと考えていますけれども,履行勧告の場合に,履行状況の調査をするというふうになっておりまして,履行状況というときに,実際に子の所在などが想定されているがどうかというのはちょっと疑義もあるところで,債務者の方の履行状況がどうかということを債務者から事情を聞いていくというところが主になってくるのではないかと思われ,この場合には,調査嘱託を認めないことが多いのではないかというようにも考えられるところです。   もう一つ,民事執行法上での強制執行の申立ての場面について申し上げますと,この場合に具体的な場面として,先ほど勅使川原幹事からあった,今回新たに規律として設けられる部分の各要件のところもあるところですけれども,この要件のうち,どういう判断をするために,子の所在について,どのような機関にどのような調査嘱託をするのかというのはにわかに想定し難いところもあるというところはあり,子の所在を隠している債務者ですので,いろいろな機関に住所の変更とか,そういうことをしているともなかなか考え難いところで,どこまで実効的なところはあるかというところはあるとは思うんですけれども,仮に執行の場面で調査嘱託の申立てなり上申がされた場合に,個別の事案において,先ほど申し上げた債権者において必要な調査を行ったのかどうか,また嘱託先から有効な回答が得られる見込みがあるかどうかなどを含めて,その事件の個別具体的な事情を考慮して,そのような調査嘱託を行う必要性があるかということを裁判官が検討していくということになっていくと思われます。 ○垣内幹事 先ほど勅使川原幹事からの御発言がありましたけれども,私も抽象的には調査嘱託等の規定の準用は,理論上はあり得るところだろうと思います。ですので,何かそれが使える場面があるかもしれないということは,そうかなと思っております。   ただ,子の所在等が分からないときに,今,本日御提案のあったような形で様々なところに嘱託を掛けていくというようなことが,現在の規定の下で自由自在にできるのかというと,それは実質的には,先ほど来,御指摘のあったプライバシー等の問題もありますし,どこまでこれが必要なのかについて個別に判断が必要だということもあり,それについて調査嘱託の規定上は,これは特段基準等が示されているわけではなく,裁判所の裁量に委ねられているところですので,それに全て委ねてしまっていいのかという問題はやはり存在するところで,調査嘱託があるから新たな制度は必要がないということは直ちには言えないんだろうというように思います。子の所在等が分からなければ,引渡しの強制執行はできないという点では,この必要性は非常に高いニーズがあるんだろうと思っておりますけれども,ただ,これもこれまで様々な委員,幹事の方から御指摘がありましたように,いろいろとこれを具体的な制度として考えていくためには越えなければいけない,解決しなければならない課題というのは数多く残っていて,本日の御提案をそのまま今回取りまとめる要綱案等で具体化するということは,なかなか時間的にも難しいのかなということを,率直な印象として持っております。金銭債権の強制執行に関して,財産開示の制度が導入され,今般,第三者からの情報取得ということについても更に一歩進めようということになっているわけですけれども,そこでもまず債務者自身が,どのような場合に,どういう要件の下で,どのような手続で責任財産についての情報を示さなければいけないのかということが,まず立法として明らかにされた上で,そこからどういう形で第三者に対しても義務ないし負担を課していっていいのかということをこの部会でずっと議論してきたわけで,今回,債務者自身がどういう要件の下で,子の所在についてどういう形で情報を提供しなければならないのかということについても,実体法上,あるいはもちろんそういった手続は現在ないわけですので,手続法上も明らかになっていない中で,広範な第三者に,このような制度で調査の対象としていくということは,やはりなかなかハードルは高いのかなという印象を現時点では持っております。 ○山本(和)部会長 よろしいでしょうか。 ○道垣内委員 途中で谷幹事から,民事執行法57条5項という話が言及されたのですが,57条5項というのは,これは,私よく分かりませんけれども,買受人等の登場することを前提にして,だから4項の図面等の交付を請求できるということとのつながりで,電気,ガス,水道の状況が分かるわけですよね。これは,評価等のための必要な情報という意味ではないのですか。 ○山本(和)部会長 57条5項ですか。 ○道垣内委員 そうです。 ○山本(和)部会長 私が理解している限りにおいてはですが,これは平成10年の,特に執行妨害が非常に盛んだった頃に,その対策の一つとして導入された規定で,特に債務者の占有関係ですね,当該不動産の占有関係を明らかにするということを目的に導入された規定であるというのが,執行妨害対策の規定として導入されたものと理解しています。 ○道垣内委員 ただ単に質問でした。すいません。 ○山本(和)部会長 阿多委員からの御提案につきましては,これまでもかなり御議論をしていただきましたけれども,私自身の感想としては,なかなかこの部会としての成案を,これからの審議の中で得ていくというには,かなり未成熟な段階にとどまっているというふうに感じざるを得ないところがありました。   阿多委員におかれましては,このような御提案を頂いた御労苦に対しては大変感謝を申し上げ,そしてその問題提起をしていただいた意味は非常にあったのではないかと思うところでありますが,阿多委員御自身も認められたかと思いますが,そのままの形で要綱案ないし条文にしていくということは,やはりなかなか難しいだろうというところがございます。また,御提案のような制度を設けるに当たっては,垣内幹事あるいは久保野幹事から御指摘があったような理論的な問題,あるいは実務的な問題等も,多々あるため,それらについて,今後の審議回数がそれほど予定されていないこの部会の中で,結論を見いだしていくということはなかなか難しいように思われます。   他方で,これに代替する方法は全くないのかということについては,完全に代替するものはないのかもしれませんけれども,勅使川原幹事,あるいは垣内幹事から一定の御示唆があり,また宇田川幹事の方からも,裁判所の方でも,一定の必要がある場合について,かなりいろいろな条件が付いていたと思いますけれども,全く可能性がないわけではないということが御示唆されたのではないかと思いますので,現段階では,阿多委員の御提案を基に更に検討していくという段階にはないのかなというのが私自身の所感であります。 ○阿多委員 それを踏まえて,私の名前で,私の方としては,やはり現時点での法律の規定上,いろいろ厳しいところが,問題点もあるのではないかという形で立法提言させていただきましたけれども,既存の法律を使って考えられる運用等についても具体的に御意見いただきましたので,それを踏まえて,今後また進めていきたいと思います。   ただ幾つか,我々が知る実務,各法律に基づく実務のところでは,必ずしも子の引渡しのための所在不明のときの調査で,今まで使われてこなかったところで,そういう意味ではそれぞれの御提案も新しい運用になるかと思いますので,前向きに運用していただけたらと思います。その点も付加しておきたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○道垣内委員 前向きに運用することについては慎重な御検討を……。 ○阿多委員 ちょっと前向きの意味だけ補足しますと,現状,調査嘱託等は,書面が送られて回答をもらうというような形,それが実務の運用なわけですけれども,執行官という形の御提案をさせていただいたのは,執行官が実際訪問して,直接コミュニケーションを取ってお話をすると。それで,今の民事執行法の20条による準用等では,そういうのが少なくとも制度としては考えられ,書面だけが送られるというところですので,そういうところも含めて,いろいろ運用を柔軟に御検討いただけたらと,そういう趣旨です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,予想どおり時間的にはかなり余裕がない状況で恐縮ですが,次の論点に移らせていただきます。   続きまして,部会資料「第4 債権執行事件の終了をめぐる規律の見直し」の部分について,まず事務当局から御説明をお願いいたします。 ○内野幹事 第4の債権執行終了の規律の見直しの部分でございます。   第4の1は,差押債権者が取立権を行使しない場面等における規律を取り上げておりますけれども,中間試案における規律とは若干変更しているところがございます。   中間試案における御提案は,取立権が発生した日から一定の期間を経過したときには,差押債権者が取立ての有無に関する届出をしなければならないものとして,この届出を怠った場合には執行裁判所が差押命令を取り消すことができるというような規律を提案しておりました。しかし,この提案につきましては,差押債権者が届出義務の履行を失念してしまうこともあるため,何らかの対策が必要ではないかといった御指摘が幾つかされたところでございます。   そこで,第14回会議では,その対応策といたしまして,差押債権者が届出義務を履行すべき期間をより長期にするという方向での考え方や,裁判所側が一定の事務連絡をするというような考え方,あるいは執行裁判所が差押命令を取り消した際には,その届出を言わば追完するような形で,執行抗告をすることができるとすることによりその保護を図ったらいいのではないかといった考え方について御議論いただきました。   したがいまして,今回はこういった考え方に沿った修正をする方向での規律を御提案しているところでございます。   第4の2は,債務者への差押命令等の送達未了の場面における規律を取り上げております。   本文の提案は,中間試案の提案と実質的に同内容のものを示しております。債権執行の場面で,この本文にお示ししたような規律を設けることにつきましては,部会の皆さんもおおむね御異論がなかったような印象を受けておりますが,これと同一の規定を,例えば不動産執行の場面でも設けるかどうかという点については,いまだ意見が分かれているとの印象も受けておりますので,本日は,この点が御議論の対象となるのではないかという印象を受けております。   資料の御説明としては以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,第4の部分,今の1,2をあわせて,どちらでも結構ですので,御意見があれば頂戴したいと思います。 ○谷幹事 質問なのですけれども,第4の1の(4),11ページですけれども,前記(2)により差押命令を取り消す旨の決定に対しては,当該決定がなされた後に前記(1)の届出をしたことを理由として執行抗告をすることができると。これによって,執行命令を取り消す旨の決定が,執行抗告で取り消されるということが想定されていると思うんですけれども,この場合の執行抗告の理由の性質というものをどういうふうに理解をしたらいいのか,その点について教えていただきたいと思います。   一般に,原裁判を取り消す場合というのは,原裁判に違法がある場合,違法ないし不適法がある場合,場合によったら不相当であるというふうな場合というのがあると思うんですけれども,この場合は4週間以内に届出をしないということで,しなければならないのにしなかった,それによって取り消すことができるということなので,原裁判には何ら違法はないということになるんだろうと思うんです。それにもかかわらず,(4)で執行抗告を起こして取り消すことができるということ,この執行抗告の理由の法的性質というものをどういうふうに想定をしているのか教えていただければと思います。 ○内野幹事 結論的には,執行抗告を認めないほうがいいという結論なのでしょうか。 ○谷幹事 いや,認めるべきだという結論です。 ○内野幹事 その部分につきましては,部会のこれまでの議論を踏まえまして,今回,立法的な解決を図る観点から,執行抗告の手続を利用するという立て付けの規律を提案しているところでございます。 ○谷幹事 いや,そういうことではなくて,執行抗告の理由の法的性質をどういうふうに理解をしているのかと,ここの整理が必要ではないかと思うんです。そういう趣旨です。 ○内野幹事 その点についての御見解があれば是非お聞かせください。 ○谷幹事 むしろ,その辺りを御検討いただいて,提案を頂くべきものなのかなと思っていたんですけれども,もし,こういうふうな規律を入れるとすれば,4週間たって届出をしなかった。けれども,後に一定の期間までは追完できるというふうな規定があれば,それは遡って追完することができて,瑕疵が治癒されるというふうな考え方はできるのかなとは思うんですけれども,一つの思い付きというか,この資料を読んで,こんなことがあり得るのかなと思っただけなんですが。その辺りを明確にしていただく必要があるだろうと思います。 ○山本(和)部会長 恐らく,幾つかの理論的な説明の可能性はあり得るところですので,最終的に解説書などで説明がされるでしょうし,あるいは学説上も,この規定ができれば,理論的な説明についていろいろと議論が出てくるのではないかと思いますが,取りあえずは,この規律の実質についての当否を御議論いただければと思います。谷幹事の御意見は,特に反対ではないという趣旨で理解をさせていただきました。 ○山本(克)委員 同じ(4)の届出の時期ですよね。これを卒然と読むと,執行抗告をする前に届出をしなければいけないというふうにも読めるんですが,そうでなくても,執行抗告についての裁判をするまでに届出がされていれば,治癒はされているというふうな規律も十分考えられるので,私はどっちかというと,最後にそろっていたらそれでもいいのではないのという気がしなくはないんですが,その辺りはどちらをお考えになっておられたんでしょうか。 ○内野幹事 正に御指摘いただいたような,後の手続の中で届出をすれば治癒されるというような実質をも考慮した上で,このような規律を提案しております。 ○山本(和)部会長 そうすると,ちょっとこれでは読めないですね。 ○山本(克)委員 読めないですね。執行抗告審において,執行抗告についての裁判をするまでに届出がされた場合には,取消しの処分を取り消すことができるというのが正しいということでよろしいんでしょうか。 ○内野幹事 部会のこれまでの議論を踏まえますと,恐らくそのような方向での規律の必要性についての御示唆をいただいていたものと認識しております。ですので,表現ぶりに問題があるのかもしれませんが,規律の実質としましては,そのような方向での規律を御提案しようとしているところでございます。 ○山本(和)部会長 それでは,今の御指摘を踏まえた書きぶりについて,事務当局にもう少し精査をしてもらえればと思います。 ○成田幹事 (4)の部分は,山本克己委員がおっしゃったように,執行抗告の判断のときまでにあればいいのかなと漠然とは思っていたところですが,それを前提とすると,結局,届出を失念して差押命令が取り消された場合であっても,後で救済されるわけですから,あえて(3)の規律がなくてもいいのかなという気はするところであります。ただ,これまでの部会の議論に鑑みますと,やはり事前に,取り消す前に事前にお知らせはしておいたほうがいいのかなというところは感じているところであります。   そして,ここで問題になるのは,従前申し上げていたところの送達をしなければいけなくなるような負担というのがあったわけですが,今回,通知を発するという形で整理いただいておりますので,裁判所としては受入れ可能だというふうに認識をしております。ただ,そこまで軽くなってしまいますと,法律事項なのか規則事項なのかという気はしなくもないのですが,そこはまた御相談ということになろうかと思います。   あと,全く別の話で,2の方の話をさせていただければと思います。   今回,債権の規律ということで設けていただいているところであります。不動産執行の場面について,ちょっと気になったので申し上げておきますと,従前,債務者への送達が未了で事件が滞留している状況には特にないと申し上げたところではありますが,債権執行について規律が設けられて,不動産執行について規律がないという話になると,不動産執行についてはこういった対応ができないのではないかという懸念がどうしても出てくるところでありますし,元々この関係の提案をさせていただくきっかけとなっている事件は,確か不動産執行の取消しの事件の東京地裁の決定だったかと思いますので,不動産執行についても同様の規律があったほうが望ましいのではないかと考えているところであります。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○阿多委員 不動産執行について,明確に意見を持って述べるわけではないんですが,従前の議論は,少なくとも不動産執行については,申立人債権者の方が予納金等を納めていますので,なおかつ差押登記がなされると,裁判所の方はそれなりにもう動かれるというような形で,それほど支障がないというような認識にいたものですから,情報が欲しいというのと同じになるのかもしれませんが,なぜ不動産執行において必要なのかという部分について,少し,どういう事例があって,どういうところでお困りなのかを教えていただけたらと思うんですが。 ○山本(和)部会長 相澤委員,お願いします。 ○相澤委員 必要性という面では,確かに近々にそのような取り消さなければいけない事件が多数あるということを申し上げているわけではないのですけれども,ただ実際に,今おっしゃるように差押登記が入れば,現況調査命令も評価命令も出して手続を進めておりまして,売却実施処分までの間に開始決定の債務者への送達ができなければ,売却実施処分はできない状態で待っております。今回確認いたしましたところ,債務者への送達さえできれば売却実施処分ができるけれども,それができずに止まっている事件が一定数あるということでございます。どういう事情が分かりませんけれども,所在調査なり,送達のための,例えば公示送達なら公示送達の資料を集めていただくことに余り熱心でない債権者の方も中にはいらっしゃるということのようでございます。債権執行について,今回の規律ができて,不動産執行は外れるということになりますと,不動産執行については何も手立てがなくなってしまいかねませんので,万が一の事態を想定しますと,不動産執行についても規律を設けていただくのが明確で,裁判所としては有り難いと思っております。 ○阿多委員 状況は理解したんですが,ただ,1点御考慮いただきたいのは,不動産競売の場合,申立て費用以外に,貼付する印紙以外に,予納金等を含めて,それで先ほどのお話ですと,裁判所の方は現況調査命令等を出されて,もう一定,予納金の中で費用を費消されていると。これが債権差押えですと4,000円の申立ての印紙しか貼っていなくて,ほとんど影響がないわけですけれども,取り消された際に,多分もうそうなりますと,予納金も,全部とは言わなくてもほとんど返ってこない状況,そういう影響もありますので,どういう要件で取り消すのかと。今回のように4週間というような期間を与えて,それで取り消して抗告でいいのか,もう少しやはり債務者への影響というものを考えて,不動産の場合は違う期間を設けるとか,先ほど規則か法律事項かというお話もありましたけれども,通知の方法等も含め…… ○山本(和)部会長 今議論しているのは2の問題だと理解していますが。 ○阿多委員 すいません,今ちょっと変なところまで言ってしまいましたけれども。   ちょっと影響が大きいというところをお考えいただくこともあるのではないかと,そこだけ追加しておきたいと思います。 ○成田幹事 その部分につきましては,恐らく訴状の送達の局面の補正命令の話とも関連してくるのかなと思っておりまして,送達ができないからすぐに補正命令を出して取り消すということは裁判所は毛頭考えておりませんで,御承知のとおり,訴状を送達できない場合は,いろいろ相談にも乗りながら,調査をお願いするなどしていて,本当にどうしようもないときだけ補正命令という形になっていくかと思います。当然,執行の局面でも,債権,不動産を問わず,実務運用上はそういう形になっていくのかなとは思っておりますので,その辺りの運用にお任せいただければと思っております。 ○道垣内委員 解釈論の問題なのかもしれませんけれども,まず1点伺いたいのは,(4)の執行抗告については民事執行法10条が適用されるので,1週間だけということですね。それが第1点で,第2点は,その決定がされた後に,状況の変化があるというのは,恐らくはないのだろうと思うんです。つまり,ずっと支払を受けていないという届出をするということならば,もちろんそれは基準時と変わらない状況であるわけでして,さらには,弁済を一部でも受けている,取立てが一部でも成功しているということになったときには,差押命令が取り消された後に取立てを行ったら,それは本来根拠がない取立てだったということに,多分なるのではないかと思うのです。取り消されている状態の下における差押債権者による取立てですから。そうすると,4週間が経過するまでの間の状況について届出をするという,そういう後で届出をするという,こういうふうに考えてよろしいのでしょうか。 ○松波関係官 必ずしも道垣内委員の問題意識を正確に理解できているかどうか自信がないところでありますが,却下決定があった後に届出をすることを認めるというのであれば,その届出をする内容としては,2年を経過した時点における事情を基に届出をするのか,それともその後に取立てをしたり弁済を受けたりした場合には,支払を受けた旨の届出をするのかといった観点から,いつの時点での内容を基に届出の内容が決まるのかという点についての問題提起をいただいたものと感じたのですが,いかがでしょうか。 ○道垣内委員 大体そうなのですが,差押命令が取り消された後に,執行抗告によって,その差押命令の取消しが取り消される前というのは,差押債権者には取立権限はないのでしょうか。 ○松波関係官 取消決定は,確定しないと効力を生じないものと理解しております。 ○道垣内委員 なるほど,分かりました。 ○山本(和)部会長 よろしいですか。 ○垣内幹事 すいません,私もちょっと質問をさせていただきたいんですけれども,まず,第4の1の方の規律,2年たった場合の規律なんですが,(2)と(3)の関係についてなんですけれども,(3)の届出をすべき旨の通知を発するというのは,これは(2)の,2年たって,更に4週間がたったけれども,まだ届出がされていないということなので,届出をしなさいよという旨の通知をするということでよろしいのでしょうか。   仮にそうだとすると,既に(2)の期間内の届出というのはできない状況になっていますので,いつまでに届出をするのかということについて,これは2の方では,これは送達の関係では大体ほかでこうなっているということもあるかと思いますけれども,相当の期間を定めということなんですけれども,1の(3)の方でも,通知の内容としては相当の期間を定めて届出をしなさいという旨のことになるのかどうかということが1点です。   そのような規律だと仮にしたときに,1の規律と2の規律を比べてみたときに,1の方は,仮に相当期間を定めて届け出なさいよと言われても,届けなかったので取り消されましたと。さらに,その後で,では,やはり届けますというときに,それを執行抗告段階で救済できるという規律にしているわけなんですが,2の方では,取消決定後に送達場所の届出があったというような事例について,どういうことが想定されているのかなと思いまして,こちらの方も,そういう追完があり得るということなのか,それともこちらの方はないということなのか,1の方はあえてそこが記載されているので,あるということは明らかなんですが,2の方は書いていないということは何を意味するのかということについて,やや現在の資料の書き方等,不明瞭なところがあるのかなという印象を持っております。 ○松波関係官 まず,(3)の規律の読み方についてですけれども,今回この規律を御提示したのは,飽くまで差押債権者に対してお知らせをするというところが主眼でございます。ですので,そのお知らせをするタイミングというのは,(2)に記載した4週間が経過した後でなければならないというわけではなく,その経過前の適宜のタイミングにおいて執行裁判所からお知らせを発すれば足りるのではないかと考えております。 ○垣内幹事 例えば,差押えの申立てをして差押命令をするときに,2年たったら届出しなければいけませんよ,そうしないと取消ししますよというのでもよいことになるのでしょうか。 ○松波関係官 今の御質問は,差押命令と同封するといった最初のタイミングでお知らせをしてしまうということが許容されるのかということかと思われますが,それは恐らく届出の失念を防止するという観点からは,必ずしも相当ではないのではないかと思っております。 ○山本(和)部会長 この4週間以内という規律と,やや関係が不明確なところはあるような気はしますので,文言の整理になるかちょっとよく分かりませんけれども,ちょっとそれは考えていただいたほうがいいかもしれませんね。 ○内野幹事 運用において,最初の場面で通知してしまうということは,恐らく想定していなかったと思いますので,て,御指摘を踏まえて再度規律を検討したいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○山本(克)委員 2年を経過した後に,4週間が経過するまでにというような感じに,もうきっちり書いちゃうというのが一番紛れがないのではないでしょうか。 ○山本(和)部会長 その場合は,4週間ぎりぎりに通知して,届出が4週間からずれたらどうかといった問題もあり得るように思いますが。 ○山本(克)委員 4週間までにというのをもうちょっと早めて2週間までにとか,そういうふうにしたほうがより望ましいと思いますけれども。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   先ほど果たしてこれは法律事項なのかという問題提起もいただきましたが,その点も含めて事務当局で更に御検討いただければと思います。   ほかにいかがでしょうか。 ○垣内幹事 すいません,先ほどの2点目についてはどうでしょうか。 ○松波関係官 垣内幹事の御指摘は,2の方の規律で,取消決定がされた後,執行抗告期間中に執行場所を申し出た上で,執行抗告をすれば取消決定を覆すことができるというようなことがあり得てもよいのではないかという御指摘であると理解しておりまして,現時点で事務当局としてもそのような考え方もあり得るのではないかと思っております。しかし,その次の1の(4)で,執行抗告の理由についての特別な規律を置いてしまっているものですから,2の方は,言わばその反対解釈として,それができないというふうに読まれるおそれがあるのではないのかというような御懸念を御指摘いただいたものと思っております。   そういった御懸念を踏まえまして,2の方でも同じ規律を置く必要があるのかどうかという点が問題となりますが,この点は解釈によるところもあるのではないかかと思いますので,その辺りも考慮して,引き続き検討させていただきたいと思います。 ○山本(和)部会長 それでは,その点も含めて御検討いただければと思います。   ほかはよろしいでしょうか。   それでは,この規律については,更に検討すべき課題が幾つか残ったように思います。1については,(2),(3)に関する規定ぶりの問題があったかと思いますし,(4)についても,このままの文言でよいかどうかという問題提起がされたように思います。それから2については,債権の差押えだけではなくて,不動産の差押えにも拡張することを考えるべきではないかという御意見があり,また1の(4)に相当するような規律を2にも置くほうがよいのではないかという御意見も出されたかと思います。これらの点については事務当局で御検討いただいて,次回にその検討を踏まえた規律を御提案いただければと思います。   その他の部分については,基本的には特段の御異論はなかったものと理解させていただきたいと思います。   それでは,既に,ほぼ予定の時刻が到来しておりますが,本日は,今後のことを考えて,恐縮ですが最後の論点まで御審議をいただきたいというふうに考えておりますので,「第5 差押禁止債権をめぐる規律の見直し」の部分に入らせていただきたいと思います。   まず,事務当局から御説明をお願いします。 ○内野幹事 次に,まず第5の1でございますが,これは給与等の債権が差し押さえられた場面におきまして,取立権の発生時期などを後ろ倒しにするということを提案しているものでございます。   これまでの部会資料におきましては,民事執行法第152条第1項の給与等の債権に対する差押えの場面のみを対象とした規律というのを提案しておりましたが,部会のこれまでの議論を踏まえまして,今回の部会資料では同条第2項の退職金等が差し押さえられた場面をも対象にすることを提案しております。これは退職金自体も,給与等の債権と同種のものと見ることができるのではないかというような問題意識,また,退職後の債務者の生活を維持するという観点からは退職金に重要な役割があるのではないかというような評価があろうかと思いますので,こういったところを考慮した結果,このような御提案をさせていただいております。   第5の2につきましては,債務者に対する教示に関する規律を提案するものでございます。   この規律は,債務者としては差押禁止債権の範囲変更の手続に関する知識がなければ,仮に第5の1の規律により申立ての機会を確保したとしても,実際には差押禁止債権の範囲変更の申立てをすることはできないのではないかという御指摘などがあったことを踏まえたものであります。また,現在の実務では,この制度は,給与等の債権差押えの場面のみではなくて,預貯金債権等が差し押さえられた場面においても活用されているのではないのかというような御指摘などを踏まえまして,今回このような手続教示についての規律を提案しております。   では,実際どのようなことを教示するのかという点につきましては,裁判所の運用に委ねざるを得ないというところがあるわけですけれども,利用者の立場からしますと,どのような教示をすれば,必ずしも法的知識が豊富とは言えないような債務者が差押禁止債権の範囲の変更の制度を利用しやすくなるのかということを検討する必要があろうかと思いまして,そういった利用者の目線という観点から参考になる実務の運用として,本日席上に資料をお配りさせていただきましたので,このようなものも踏まえ,どのような教示内容がふさわしいと思われるのかというところについて御意見がございましたら,今後の運用の検討の際にも参考になるかと思いますので,是非御発言をお願いしたいと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,これは特に区切りませんので,この「第5 差押禁止債権をめぐる規律の見直し」全体について,御意見があれば承りたいと思います。 ○中原委員 今回の御提案自体に対しては,異存ありません。ただし,給料を支払う第三債務者の立場から,二つほどお伺いしたいことがあります。   今回の御提案では,給与債権に対する差押えがあった場合の取立権の発生は,債務者に差押命令が送達されてから4週間後である。ただし,請求債権が扶養義務等に係る場合には従前どおり1週間後である,そういう規律になっています。差押命令に基づく取立権の発生時期が4週間後なのか1週間後なのかについては,第三債務者に対して通知していただけるというお話であったと思います。1点目は,その通知が一体どういう方法で来るのかという点をまずお伺いしたいと思います。   2点目は,このようなことはないとは思いますが,もし1週間か4週間という表示が漏れていた場合,この命令は有効なのか無効なのか。給料を支払う第三債務者は,大企業から中小企業,あるいは個人事業主まで非常に幅広いですから,表示が漏れていても差押命令の請求債権目録を見れば分かるだろうというのは,第三債務者に対して優しくない手続だと思います。従って,この場合は無効ということにした方が良いと思いますが,どう考えればいいでしょうか。 ○山本(和)部会長 では,事務当局からお願いします。 ○松波関係官 御指摘ありがとうございます。   第三債務者側からの御意見として,取立権が発生するのが1週間後なのか4週間後なのかが分かりにくくなると混乱するのではないかという御指摘であると認識しております。   こういった場合に,どのような形で第三債務者に取立権が具体的に発生する時期,すなわち支払をすることができる時期をお知らせするのが適切なのかというのは,本日の御議論も踏まえた上で,今後検討すべきことであろうと思っております。 ○内野幹事 ちなみに,現段階で,実務的な観点から具体的な規律についての御希望等があれば,御参考までにお聞かせいただけますでしょうか。 ○中原委員 そこは,差押命令に明示していただくというのが一番はっきりするのではないかと思います。そうすれば,多分漏れることもないだろうと思います。 ○山本(和)部会長 なおかつ,それが書かれていなかったら無効のものだという御提案ですね。   裁判所からは特によろしいでしょうか。 ○相澤委員 規定されれば,そのような発令になろうかと思いますけれども。 ○山本(和)部会長 それでは,事務当局に御検討を頂くということにしたいと思います。   ほかにいかがでしょうか。 ○相澤委員 ただいまの差押命令に教示の記載がないときの効力については,十分御検討いただければと思います。 ○山本(和)部会長 分かりました。   ほかにいかがでしょうか。 ○相澤委員 (3)の配当の関係なのですけれども,実務では実際に第三債務者が供託をした段階で,まだ債務者に対する差押命令の送達が未了だった場合には,事情届が提出されていても,配当等の手続には入りません。その送達が確認された段階で,債権者に対して債権計算書の提出を求めたり,配当期日の呼出しをするという手続に入りますので,実際の配当自体は大体1か月ぐらい先ということになります。あえて(3)の規律を設けないとしても,事実上,そのようになるだろうということは前提にしていただいてよろしいかと思います。それを踏まえて,今回の部会資料の51ページの下の方に,先行する差押えが扶養義務等に係る債権を請求債権とする場合で,その後に扶養義務等以外の債権を請求債権とする差押命令がされて競合した場合の配当の時期については問題があり,最終的には解釈の問題とされております。その解釈という点について感触を頂ければと思います。扶養義務等に係る債権についての差押えの後,供託がされるまでに,その他の債権の差押えが入り,その後に債務者に対する送達がされますと,結局,扶養義務等に係る債権についてはすぐ配当手続に入れるにもかかわらず,(3)の規律を前提に,4週間待たなければいけないと考えますと,扶養義務等に係る債権の債権者は,その月の配当金を取得できないことになってしまいますので,いささか酷ではないかと思います。扶養義務等に係る債権の申立ては大体養育費ですが,ごく一部の方は何か月分かをまとめて配当していいですとおっしゃいますけれども,ほとんどの方は毎月毎月の配当を希望されます。(4)の規律の方が優先するというふうに考えて,扶養義務等に係る債権と競合した場合には,その他の債権の差押命令の送達から4週間待たなくても配当してよろしいという解釈が可能なのかどうかという点について御感触をいただければと思います。部会資料も,若干そういうニュアンスが行間から読み取れるようにも思いますが,御感触をいただければと思います。 ○山本(克)委員 今の場合に,配当等を受けるべき債権者に,後項の普通の債権者というのが入るのかどうかですよね。 ○相澤委員 入る場合という前提かと思いますけれども。 ○山本(克)委員 入るという前提なんですか。 ○相澤委員 供託される前に,後の差押命令について,第三債務者に対する送達が完了しているという前提でこざいます。 ○山本(克)委員 もちろんそうなんですけれども,そのときに現実の配当をしていいのかどうかというのは,また別の問題ではないでしょうか。 ○相澤委員 そうだと思います,はい。 ○山本(克)委員 供託配当にするという可能性はないのかなという気がするんですけれども。 ○山本(和)部会長 養育費は払うけれども,その他の請求権を有する債権者にも払うということですか。 ○山本(克)委員 その他債権については供託配当でということは,そうすると,かなり特則を置かないとうまくいかない,供託配当ができる場合は限られていますから,その辺をちょっと整理しないと,ちょっとかなり難しい問題は出てきそうですね。 ○相澤委員 山本克己委員がおっしゃるように配当を実施するとすれば,4週間経過しないと取立権が発生しない方に対しては,何らか供託という形にはなると思います。そういう法律の手当てが必要とは思いますけれども。 ○山本(和)部会長 そうですね。手当てがないとなかなか難しいかもしれませんね。   いかがでしょうか。 ○山本(克)委員 そもそもの差押禁止債権の範囲の変更で,差押可能部分が通常債権の場合の2倍に,扶養料等の関係ではなるということは,必ずしも読めていないですよね,今の条文からは。 ○山本(和)部会長 そうですね。 ○山本(克)委員 そこが何かすごく,そういう競合の場合を考えると,大変な気がするんですけれども。 ○山本(和)部会長 それは,その部分の改正の立法当時からの問題としてありますよね。 ○山本(克)委員 もちろんそうです。そこのところまでは考えていなかったですね,多分。私,いたような気がするんですけれども,法制審に。 ○山本(和)部会長 解釈に委ねるとしても少し難しい問題があって,場合によっては何らかの形で手当てをする必要があるかもしれないという御示唆を頂いたように思いますので,事務当局の方で御検討いただければと思います。   それでは,ほかの部分について御意見を頂きたいと思います。特に前回,阿多委員から御説明を頂いて,御議論いただく時間は必ずしも十分なかったと思いますけれども,この差押禁止債権の範囲の変更の裁判の判断枠組みについて,見直すべきであるという点についても,もし御意見があれば頂戴したいと思いますが,いかがでしょうか。 ○青木幹事 収入や資産の乏しい債務者に対して,差押禁止範囲の拡張の手続を容易にするというのは重要な問題であると思います。その方法として,給与債権の一定額について,民事執行法153条を利用して差押禁止範囲の拡張を認めやすくするというのも有効な方法ではあると思うのですが,しかし,その債務者にほかの給与所得や給与所得以外の収入がある場合,それからほかに資産がある場合とかといったことを考えますと,阿多委員が御提案された方法でうまくいくのかやや疑問のあるところであり,それらについて,むしろ債務者にほかの収入がないということ,資産がないということを明らかにした上で,差押禁止範囲の拡張の申立てをさせるというのが,むしろ望ましいのではないかと考えております。   ただ,そうすると,現行法の規定でも対応できるということになると思うので,現行法の範囲内で,もう少しこの辺りを,収入や資産の乏しい債務者の保護という観点から,運用において,必要があれば見直していただくという方向がよいのではないかと考えております。部会資料の第5の1と2の提案が実現されれば,このような差押禁止範囲の拡張の申立てがされるという実例も増えてくるのではないかなと思いますので,それを通じて,よりよい基準というのが出てくればよいと考えております。 ○山本(克)委員 阿多委員の御提案に係るようなものと一番類似している制度は,恐らく給与所得者等再生における可処分所得要件の判断だと思いますが,ただ,やはり民事再生ですので,財産全部を手続が掌握していることだからこそ,可処分所得要件はワークするということで採用されたんだと思うんですね。   ところが,今,青木幹事がおっしゃったとおりで,今回は給与債権差押えだけで,それ以外の情報を裁判所はお持ちでないという中で,やはり可処分所得要件も,あれも生活保護要件をもうちょっと単純化したものですから,それと同じような判断を裁判所にしろというのは,やはりかなり難しいことで,しかもそれが義務的だということになると,違法の問題が出てきますよね。それはやはりちょっと避けないと,むしろそこの入口のところでものすごく膨大な,いつまでたっても配当できないというようなこともあり得ない話ではないので,やはり現状では今回の改正,事務局から提案されたような形の改正にとどめておくというのが,やはり私は望ましいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員 御意見ありがとうございます。   今回の提案というのは,言わば民事執行法153条が総合考慮になっている部分について,ある意味では債務者が申し立てた場合のメルクマール,債権者が申し立てた場合のメルクマールというような形で,少なくとも債務者が申し立てた場合について,特に複数給与なども意識して,ほかに収入がないということについて債務者の方で申立てした場合には,最低限度額というものを設定しますよと。それで,債権者が申し立てた場合には総合考慮という振り分けをして,より明確にしている提案です。   ここで重要なのは,現在,総合考慮のために最低限度額という発想自体がなくて,現状,少なくとも債務者の生活が維持できているかどうかというのが,そういう物差しの中から判断されていて,それが必ずしも実現できていないのではないかと。先般も,現状の153条の申立ての利用状況について御報告を頂いて,それほど利用されていないということも御報告いただきましたけれども,結局そこは,利用すれば,少なくとも最低限度額については差し押さえられることがないというような形のルールができれば,もう少し利用が増えるのではないかなと。裁判所の方に,むしろ事実上をまた御調査,追加をしていただいたのかもしれませんけれども,我々一番気にしますのは,やはりそういうふうな給与の所得がかなり低い,給与債権の差押例というのがやはりあるのではないかということを気にしていまして,もしお分かりであれば御紹介いただきたいと思うんですが。 ○山本(和)部会長 もし裁判所の方で低い給与額での差押えの実例等について何か情報があればお願いします。 ○相澤委員 前回の御要望を受けまして,東京地裁で5月7日から5月18日までの2週間の間に裁判所に届いた債権差押命令に対する第三債務者からの陳述書について調査いたしました。   それによりますと,給与債権の差押えに対する陳述書が全部で117通返ってまいりまして,そのうちヒットしたものが65件あり,そのうち,給与の額が10万円以下のものは7件ございました。内訳を申し上げますと,10万円が1件と,8万円余りというのが3件,5万円以下が3件となっております。 ○成田幹事 若干の補足になりますが,大阪地裁の執行センターの方にも同様の調査を依頼しまして,5月7日から18日までの2週間で返ってきた陳述書を見たところ,いわゆるヒットした件数は50件,10万円以下のものは4件ということになります。金額としては,上は9万六千幾らというところで,下は4万円ということになります。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員 ですから,先般の民事執行法153条の利用者の実態と,必ずしもやはり現状にリンクしていなくて,その方々に対して,こういう申立てをすれば,こういう形で少なくとも一時的には判断が得られるんですよという,そういう宣伝をしていただく,そうすることが意味があるのではないかという形の提案ですので,件数の集積等も重要だと思いますけれども,裁判所の方も総合考慮というよりも,生活実態を踏まえた御判断を頂けたらとは思います。 ○山本(克)委員 総合考慮と生活実態を踏まえた違いが分からないということが一つあるんですが,ただいま御紹介のあったものだって,例えば複数のアルバイト先を,いわゆるフリーターで,複数のアルバイト先を持っているという,非正規で複数収入の方だっておられるかもしれないので,それがそうでないということを判断できる材料をきちっとだれるかどうかですよね。所得証明は前年度のものなので,現状を必ずしも把握できないわけですよね。先ほど申しました民事再生手続では,過去の2年間の所得で,それでフィクションをある程度作ってやっているんですけれども,その辺り,どうやってないことの証明をするんでしょうか。やはりそこが一番鍵だと思うんですけれども。 ○阿多委員 そこが乗り越えられるかどうかは別にしまして,少なくとも提案では,債務者が申立ての際の疎明資料として,まず前年度の所得の証明と,その時点での債務者の陳述書,更には給与が振込みであれば通帳等を提出して,ほかに収入はありませんという形ですると。それでは足りないとおっしゃるのはよく分かっていて…… ○山本(克)委員 そんなものは通帳変えればいいだけの話なので,口座を複数持てば簡単に都市部の人なら回避できるではないですか。それはやはり甘いのではないですか。だから,やはり総合考慮でやらざるを得ないのではないのかなという気がしますけれども。 ○阿多委員 立証の問題だと思います,はい。 ○山本(和)部会長 よろしいでしょうか。   実態として,特に格差社会と言われるような状況の中で,非常に低額の収入で暮らしている方についても4分の1で差し押さえて,しかし,その方が何も言ってこなければ,そのまま押さえられる,4万円で1万円押さえられるというのが本当にいいのかというのは青木幹事も言われたように,そこは恐らく共通の認識があるのだろうと思いますが,なかなかそれを具体的に制度化していくところでの名案というのは,今の段階ではないというところかと思います。   そういう意味では,今回,先ほどもお話がありましたが,この1と2,特にこの手続の教示ということを明確に規定いたしましたので,そういう書面を交付された債務者から,弁護士の方々に対して御相談が行くということも,相当数あるのではないかと思いますので,是非,弁護士の方々におかれては,積極的にこの範囲変更の申立てをしていただいて,それでも駄目だということになれば,これは一定の立法事実ができてくるということなのかなと思いますので,今回については,この問題はなお,もちろん将来に残された長期的な課題ということにはなろうかと思います。そのため,本部会としてはこれ以上,なかなか成案を得ていくのは難しいかなというのが私の所感ではあります。   それでは,おおむね議論は頂けたと思いますが,もし全体を通して何か言い残したこと,御意見等があれば。 ○谷藤関係官 配布資料について御説明したいのですけれども,お手元にあります「少額訴訟手続についての説明書」,これは民事訴訟規則222条に基づいて交付しているものでありまして,東京簡裁の書式であります。   それから,もう一通の「差押範囲変更(減縮)の申立てをする方へ」ということで,これは東京地裁の執行センターで配っているものでありまして,債務者の方から問い合わせがあった場合に,これは特に生活保護を受けている場合の方を想定していますけれども,その場合に交付しているというものでございます。 ○山本(和)部会長 教示ということについての一定のイメージというか,あれを持っていただくという趣旨でお配りいただいたものというふうに理解しております。 ○栁川委員 教示についてですが,今,「少額訴訟手続についての説明書」を拝見しての感想ですが,文字情報は非常に伝わりにくいと思います。最近は文章を読んで意味を理解することが苦手な方が増えていますので,とてもとても大変だろうと思います。私たちが,高齢者を含めて大勢の方に文書を読んでいただきたいと思って物を作るときには,まず文字の量とか文字の大きさだとか,分かりやすい文言になっているかということを考えます。   それから,図柄を多く取り入れて視覚に訴えるような書き方をして,なるべく伝えたいことが相手に伝わるような努力をします。   それから,先ほど文字情報は伝わりにくいと申し上げましたが,作り手が努力をしても,なかなか伝わらないことが多いので,最終的にはどこに問い合わせればよいかが分かるように問い合わせ先を大きく書くようにしています。そこに問い合わせれば,例えば弁護士会の御紹介があるといった必要な情報が得られるので,文章の中身と問い合わせ先の二本立てで,適当なところにつながるように努力をして文書を作っています。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。大変重要な御指摘だと思います。 ○成田幹事 極めて厳しい御指摘を頂いたところだと思うのですが,特に,今回教示の内容についてもいろいろ部会資料で御提案いただいているところではあるんですが,ここはなかなか難しいところでありまして,一口に,額が10万円以下といっても,いろいろな場合が当然あり得るところでして,それこそ複数給与という場合もありましょうし,あと親のすねをかじっているという場合もあるかもしれません。そういった状況ですので,範囲変更の申立てが認められるかどうかは分からないという状況ですし,もろもろの事情があります。そういった事情全てを念頭に置いて,最初から手続の内容を教示するとなると,どうしてもここにあるような膨大な書面を送らざるを得なくなるわけですが,それは多分,差押命令の送達の費用が更にかさむという事態が起きるのではないかと思われますし,また,もう一つ悩ましいのは,膨大な書類を送って,分からないという場合もあるんですが,分かって,その場は申立てをしていただいたとしても,それがまた認められるかどうかという問題もありまして,なまじ分厚いものを送ってしまうと無用な期待を与えてしまうことにならないかというところがあります。   ですから,多分,第一次的な教示の内容としては,もう民事執行法153条1項の規定内容を説明するに尽きて,その上で詳細は裁判所にお尋ねくださいといって連絡先を教えるぐらいが限度ではないかなと思っております。 ○山本(和)部会長 御趣旨は大変よく分かりますけれども,ただ,それが全く伝わらないのでは送る意味はやはりないわけなので,そこは裁判所の,あるいは最も苦手とされるところかもしれませんが,できるだけ普通の人にも分かりやすくそれが伝わる,少なくとも問い合わせてみようかと思っていただけるような文章を,運用の中で工夫していただきたいということだと思います。これは今後法律ができた後の運用の問題であろうかと思います。 ○阿多委員 子の居住について,弁護士会の方からもお願いをしていたものですので,どういう内容が分かりやすいかというようなことについて,最終,裁判所の御判断ですけれども,消費者等を対応している弁護士等もおりますので,こちらにもお話しいただければ一緒に考えていきたいと思いますので,今後の運用に役立ちたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,おおむねよろしゅうございましょうか。   それでは,本日は大変,私の不手際で時間延長ということになってしまいましたが,一応,全体を審議できましたので,これで終了したいと思います。   次回の議事日程等につきまして,事務当局から説明をお願いいたします。 ○内野幹事 それでは,次回の議事日程でございますけれども,次回は平成30年6月29日の金曜日,午後1時半から午後5時半までを予定しております。場所は本日とは変わりまして,法務省20階の第1会議室になります。次回も,今回に引き続きまして要綱案の取りまとめに向けた御審議をお願いしたいと考えております。 ○山本(和)部会長 それでは,本日はこれで終了させていただきます。熱心な御審議,ありがとうございました。 -了-