法制審議会 会社法制 (企業統治等関係)部会 第15回会議 議事録 第1 日 時  平成30年 8月 1日(水)   自 午後 1時31分                          至 午後 4時20分 第2 場 所  東京保護観察所会議室 第3 議 題  会社法制(企業統治等関係)の見直しについて 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○神田部会長 それでは,予定した時刻が参りましたので,始めさせていただきます。   暑い中を,また,皆様方には大変お忙しい中をお集まりいただきまして,ありがとうございます。   法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会の第15回目の会議を開会いたします。   それでは,まず事務局から参考人等の御紹介をお願いいたします。 ○竹林幹事 本日は,「役員等賠償責任保険契約」の審議の関係で,田中様,土屋様のお二方に参考人として御参加いただいております。どうぞよろしくお願いいたします。   また,人事異動の関係で幹事に異動が生じておりますので,御紹介をさせていただきます。本日より,金融庁企画市場局企業開示課長の井上様に幹事として御参加いただくこととなりました。どうぞよろしくお願いいたします。 ○神田部会長 それでは,本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○竹林幹事 お手元には,議事次第,配布資料目録,部会資料24,参考資料48から50までを配布させていただいております。また,委員等名簿を席上配布させていただいておりますので,御確認ください。   なお,本日は神作委員,岡田幹事は御欠席でございます。 ○神田部会長 よろしゅうございますでしょうか。   それでは,本日の審議に入らせていただきます。   本日は,お手元の議事次第に記載のとおり,「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する要綱案の作成に向けた個別論点の更なる検討」について御審議をお願いいたします。   まずは,お手元の部会資料24,若干分けてそのうちの第1の部分について,事務当局から説明をしていただきます。よろしくお願いします。 ○坂本関係官 それでは,「第1 役員等賠償責任保険契約」について御説明いたします。   まず,「1 役員等賠償責任保険契約に関する規律の適用範囲についてですが,点線で囲った部分に参考としてお示ししておりますとおり,試案の第2部第1の3①のような定義に該当する保険契約については,規律の対象とすることを前提とさせていただいております。もっとも,役員等賠償責任保険契約に該当するものであっても,被保険者である役員等の職務の執行の適正性が損なわれるおそれの程度は,その内容によって差異があるものと考えられることから,試案第2部第1の3①アに該当する保険契約のうち,被保険者である役員等の職務の執行の適正性を著しく損なうおそれのないものについては,規律の一部を適用しないものとすることが考えられます。   本文1においては,これについてどのように考えるかを論点として掲げております。   被保険者である役員等の職務の執行の適正性を著しく損なうおそれのないものの具体的な内容につきましては,法務省令において定めることを想定しており,現時点では(注)の(ア)及び(イ)のような内容を一案として考えております。   例えば,(注)の(ア)に該当するものとしては,いわゆるPL保険,CGL保険等を想定しております。これらは,通常会社がその業務を行うに当たり,会社に生ずることのある損害を塡補することを主たる目的として締結されるものであり,役員等は会社と共に被告とされることが多いことから,付随的に保険者に追加されているという関係にあるため,役員等の職務の執行の適正性が損なわれるおそれというのは,役員等自身の責任に起因する損害を塡補することを主たる目的とする保険に比べて相対的に小さいものと考えております。   また,(注)の(イ)に該当するものとしましては,自動車賠償責任保険,任意の自動車保険,海外旅行保険等を想定しております。これらは,役員等自身に生じた損害を塡補することを目的とする保険ではあるものの,いわゆるD&O保険のように,例えば,取締役会による業務執行の決定のような役員等としての職務上の義務に違反し,又は職務を怠ったことによって第三者に損害を生じさせ,当該第三者に対して損害賠償責任を負うことによって役員等に損害が生ずるような場合を想定して加入する保険ではなく,通常は,自動車の運転ですとか旅行行程中に生じた偶然の事故などによって第三者に損害を生じさせ,当該第三者に対して損害賠償責任を負うことによって役員等に損害が生ずるという場面を想定して加入する保険と言え,これらの保険によって被保険者である役員等の職務の執行の適正性が損なわれるおそれというのは大きくないものと考えております。   次に,役員等賠償責任保険契約に関する規律のうち,具体的にどの部分を適用しないものとするかという点ですが,まず手続に関する規律につきましては,本文2に記載しておりますとおり,役員等賠償責任保険契約の定義に該当するもののうち,被保険者である役員等の職務の執行の適正性を著しく損なうおそれのないもの,すなわちPL保険,CGL保険,自動車賠償責任保険等につきましては,その内容の決定を常に株主総会や取締役会の決議によらなければならないものとする必要性は必ずしも大きくないと考えられる上,仮に,常にこれらの決議によらなければならないものとすると,その数や種類が膨大であるため,実務上甚大な影響が想定されるという御指摘も頂いているため,株主総会や取締役会の決議は不要とするということを考えております。   また,開示に関する規律につきましては,本文3に記載しておりますとおり,①で役員等賠償責任保険契約一般に関する規律を掲げた上で,②で役員等賠償責任保険契約の定義に該当するもののうち,被保険者である役員等の職務の執行の適正性を著しく損なうおそれのないもの,すなわちPL保険,CGL保険,自動車賠償責任保険等については重要な契約における被保険者及び内容の概要のみを事業報告の内容に含め,それ以外の事項については事業報告の内容としないことができるものとするということについて,どのように考えるかを論点として掲げさせていただいております。   ①は,役員等賠償責任保険契約一般に関する規律と申し上げましたけれども,現在の案の内容を前提とすれば,①の規律がそのまま適用されることになるのは,基本的にはいわゆるD&O保険に限定されるということになるのではないかというふうに考えておりますので,その点も踏まえてどのような事項を開示の対象とすべきかという観点から御議論いただければと考えております。   特に,①のウにつきましては,そもそも開示の対象とすべきか,するとしても一部の事項なのか,全部の事項なのかといった点について様々御議論があり得るところかと存じます。   なお,本日は損保協会の田中様及び土屋様に参考人としてお越しいただいておりますので,保険の内容の詳細を含めて適宜御質問いただければと存じます。   御説明は以上となります。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,今説明していただきましたこの部会資料24の第1につきまして,皆様方から御質問,御意見をお出しいただきたいと思います。どの点についてでも,また,どなたからでも結構でございます。いかがでしょうか。   古本委員,どうぞ。 ○古本委員 どうもありがとうございます。   役員等賠償責任保険につきましては,従来から申し上げておりますとおり,規定を設ける必要はないと考えます。形式的に利益相反の懸念があることや,そうした利益相反の懸念からこのように広く網をかける形で規定を整備した方が理論的にはすっきりするかもしれないという点は理解できるところではありますが,元々この議論の発端は,いわゆるD&O保険の対会社責任の特約について会社が全額費用を負担する場合の利益相反の問題をどう考えるかということであったと理解しております。   それが,いつの間にか,それ以外の保険も含めたところで形式的な利益相反の話にまで及んできているということに懸念を感じております。   また,利益相反の問題につきましても,一定の開示をすることで解決を図ろうということのように見えますが,開示すること自体にいろいろ実務上弊害もございますし,そもそも開示をすることが利益相反の問題に対する正しい答えになるものかということについても疑問があります。   D&O保険の対会社責任特約の保険料を会社が負担することにつきましては,現在,社外取締役全員の同意をもってすることで国税庁の通達でも損金算入が認められている状況にありまして,既に解釈指針に基づく実務が定着してきていますので,それで十分ではないかというのが経団連としての考え方です。   逆に,現行実務に何ら問題がないところに,このような形で規律を導入いたしますと,実務上様々な支障が生ずる懸念があります。場合によっては,D&O保険の活用にも影響が生じかねず,取締役による果断な経営判断や,外国人を含む優秀な人材の役員への登用にも悪影響が出かねないと思います。   したがいまして,経団連といたしましては,このような規律を設けること自体に反対です。反対であるということを申し上げた上で,今回の部会資料24で御提案されている内容について,若干の意見と質問をさせていただきたいと思います。   まず,1の「規律の適用範囲」についてですが,部会資料24では,「被保険者である役員等の職務の執行の適正性を著しく損なうおそれがないものとして法務省令で定めるものについては」,「規律の一部を適用しない」としており,そうした適用除外の文言の例として,(注)で(ア)と(イ)が提示されています。要は,実質的に,いわゆるD&O保険についてのみフルスペックでこの御提案の規律を課そうという趣旨であると理解しておりますが,この(ア)と(イ)で実際にD&O保険以外の,除外すべき保険が全てカバーできるのかということについて,やはり懸念が残ります。   また,D&O保険につきましても,対会社責任の特約部分に相当する保険料を役員が負担している場合には,利益相反がないと考えることもできると思いますので,これについても適用除外とすべきだと思います。   前回も申し上げましたが,損害保険の世界では,サイバー関連など今後新たな分野で新商品が続々と市場に投入されることが想定されます。取締役による果断な経営判断を後押しする上でも,そうした新商品を積極的に活用できる状況が維持されてしかるべきであると思いますが,適用除外に関する文言の如何によりましては,新商品の普及が阻害されることにもなりかねないと思います。   仮に,こうした形で規律を導入することとなった場合には,その文言につきましては,損保業界の意見も十分に踏まえて慎重に検討していただく必要があると思いますし,また,除外されることとなる保険の種類につきましては,今,部会資料24で明確に例示がされておりますように,何らかの形で具体的に例示がされるべきであると思います。   また,万一,実態に照らして文言上何らかの不備が生じた場合,不都合が生じた場合には,迅速に省令を改正していただく必要があると思います。   次に,3の「開示」についてですが,経団連といたしましては,そもそも規律の導入に反対ですので,開示についても①アからウの全てについて開示不要と考えてございます。   その上で,幾つか確認,質問をさせていただきたいのですが,まずアについてですが,開示を行う会社の取締役,監査役又は執行役,こうした役員についてのみ開示すればよくて,その他の被保険者については開示不要ということでよろしいかを確認させていただきたいと思います。そうだとすれば,通常,被保険者には全役員が含まれますので,例えば,「当社の取締役,監査役の全員」といった記載になるかと思いますが,それで十分であるのかについて,まず御確認をお願いしたいと思います。   それから,イの「内容の概要」についてですけれども,どの程度のことを事業報告に記載することを想定されているのか伺いたいと思います。いわゆるD&O保険について,どういう特約に入っているかといったようなことでよろしいでしょうか。   また,イとは別に,ウに「保険金額」とか「保険料」という言葉がありますので,イで記載すべきとされる「内容の概要」にはそういったことは含まれないと思っておりますが,この点についても念のため御確認をお願いします。   また,括弧内の「役員等の職務の適正性が損なわれないようにするための措置」については,どのようなものを想定して記載されているのかも伺えればと思います。特約部分の保険料の役員負担くらいしか思い付きませんが,これについては,先ほど申し上げましたとおり,保険料を役員が負担していれば,そもそも規律から適用除外されてしかるべきと思います。   それから,ウについての開示ですが,これは特に実務上の支障が大きいと考えております。「保険金額」,これは重要な企業秘密ですし,「保険給付の金額」につきましても,同様の訴訟を呼び込むリスクなどが懸念されますので,安易に開示すべきものではないと思います。   また,「保険金額」と「保険料」につきましては,各会社と保険会社との間での交渉の結果でもありますので,おいそれと開示すべきものではありませんし,保険金額に比べて保険料が高いと,この会社はリスクが高いのかなどといった要らぬ憶測を呼びますので,開示には反対です。   最後に,本文の②に,「重要な契約」についてはアとイの開示が必要である,いわゆるD&O保険以外も開示が必要であるとありますが,それぞれの保険契約の重要性の有無につきましてはそれぞれの会社で判断するものと理解してよろしいかどうか,これも御確認をお願いします。   なお,どのような場合に一定の開示を要する重要な契約に該当することになるとお考えなのかも,御教示いただければ有り難く存じます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   御質問が幾つかあったと思いますので,事務当局から御回答をお願いします。 ○竹林幹事 まず,役員について,例えば,全役員が役員等賠償責任保険に入っていますというような開示で足りるのかという御質問を頂いたかと思いますけれども,そのような開示の仕方でも結構ではないかと考えております。   どの程度の開示が必要かということにつきましては,特に,例えば,イの括弧内で書かせていただいているように,先ほど古本委員にも言及していただきましたが,役員等が保険料の負担をされているのかどうかとか,塡補される対象となる保険事故の概要等を考えております。また,特約等もあるのであれば,そういったことも保険の内容を特定する要素となり得るだろうと考えております。   ウは,イとは別に設けておりますので,保険金額とか保険料については現時点でイの内容の概要に入ってくるとは考えておりません。   また,先ほどおっしゃった,適正性が損なわれないようにするための措置というものでございますけれども,こちらで念頭に置いておりますのは,例えば,一定額の金額については塡補されないことになる免責金額ですとか,社外取締役等の同意を得るということを保険契約締結に当たっての職務の適正性を害さないための手続としてされているのであれば,そういうような措置も入ってくるのではないかと考えているところでございます。   また,重要なものについての判断は,御指摘いただいたとおり,会社ごとに,やはり規模や業種等によって違ってくるかと思いますので,基本的には会社に御判断いただくということを考えておりまして,どこの会社でも入っているような保険ですとか,そういったものについてまで一々開示していただくということは念頭に置いておりません。   逆に御質問をさせていただきますと,このような規律を設けることが実務上普及を阻害することになるとか,支障があるという御指摘を頂くのですけれども,設けようとしている規律は取締役会決議を経ることと開示でございまして,先ほど御説明いただいた内容では,確かに保険金額とか保険料とかについてまで開示したときにどうなるかという問題は明示的に御意見を頂いているわけですけれども,仮にそういう開示の範囲の問題であるとするならば,取締役会決議を経るというようなことが何かインセンティブを阻害するとか普及を阻害するとかいうことには必ずしもならないのではないか,要するに開示の範囲の調整の問題ではないかとも思うのですが,その辺りについてはいかがでしょうか。 ○古本委員 経団連の会員企業の間で話をした限りでは,手続面が非常に重いというよりも,やはりきちんと対象が絞られているかに懸念があるということです。冒頭申し上げましたが,対会社責任の特約部分についての会社負担,これが利益相反性が高いということから,今実務でも「解釈指針」に基づく手続をとっているわけですけれども,そういったこととの関係で,規律の対象が広がり過ぎるのではないかということです。   あとは,やはり開示の中身次第ということになります。今は特に求められていないものが求められるということですので,その辺りが懸念の中心であると思います。 ○竹林幹事 保険会社の方にも事前に部会資料等を御覧いただいておりまして,実質は古本委員から御指摘いただいたようにD&O保険を念頭に置いて規律を設けるということを考えているのですけれども,現状販売されている保険を念頭に置いたような場合に,(注)の(ア),(イ)で除いている範囲で,保険会社の方から御覧になって除き切れていないものがあるのではないか,それは,例えば,こういうものがあるのだということがもしあれば,御意見を頂ければと思うのですが,いかがでしょうか。 ○田中参考人 三井住友海上の田中でございます。本日は,参考人として招致していただきましてありがとうございます。   日本損害保険協会として,本件についていろいろ議論させていただきましたので,今回の法務省令案である(注)の(ア)と(イ)で,いわゆるD&O保険がきちんと対象になるかどうかというところについて,ちょっとコメント及び御質問をさせていただければと思っております。   まず,(ア)について,株式会社に生ずることのある損害を塡補することを主たる目的として締結される保険契約というふうにございますけれども,この主たる目的が何であるかということによって法律上の効果に差を設ける以上,中小企業も含めた全ての株式会社の決議の対象とか開示の要否の判断で悩まなくて済むように,主たる目的についての考え方又は捉え方について明確にする必要があるのではないかというところが我々の意見としてはございます。   続きまして,(イ)についてなんですけれども,第三者に生じた損害を賠償する責任を負うこと又は当該責任の追及に係る請求を受けることによって役員等に生ずることのある損害というふうに記載されているのですけれども,こちらの「又は」以降の「当該責任の追及に係る請求を受けることによって役員等に生ずることになる損害」というのは,具体的にどのような損害を想定されているのかということをまずちょっとお伺いできればなと思っております。 ○竹林幹事 御指摘いただいた後半部分につきましては,典型的には訴訟手続費用というような,手続費用的なものを念頭に置いておりまして,前半部分が損害賠償責任による損害そのものという区別をしております。 ○田中参考人 承知しました。一つ目は損害賠償金で二つ目は訴訟費用で,これは損害賠償責任を負わなかった場合にも払われる訴訟費用ということでよろしいでしょうか。一つ目の主たる目的の捉え方についても,もし御見解があれば頂ければと思うのですけれども。 ○竹林幹事 ここは事前に伺った際に,基本的にはPL保険ですとかCGL保険については会社に生ずる損害を塡補することを目的とされていて,一緒に役員が訴えられることもあるので,そういった場面における損害を塡補する仕組みだという御説明を損害保険会社の方々から頂いたことを踏まえて,主たる目的という言葉を使っているわけでございますけれども,そのような,要するに会社に損害が生ずる事故等が起きたときに会社にまず第一次的に損害が発生するということを念頭に置いております。 ○田中参考人 ありがとうございました。   今の御回答も頂きつつも,本件の(注)の(ア)と(イ)が網羅的にどの程度担保されているかというところについては,先ほど古本委員のお言葉にもありましたとおり,新しい保険が出てきたりとか,あとは実務的に今回(注)の(ア)と(イ)ということで法務省令で定めた後に,コンメンタール等で具体的にどのような保険が対象外になるかということを,今の本文の下の方にもCGL保険等が対象となるふうに明記いただいているのですけれども,保険の種類がやはり多いということもございまして,例えば(注)の(ア),(イ)がD&O保険以外の賠償責任保険を対象とするというような趣旨をお示しいただくとか,又は(ア),(イ)に該当する保険契約を多く例示するということで,実務への影響を避けるというようなことも御対応いただく必要があるのかなと思っております。 ○竹林幹事 そうしますと,主たる目的という言葉についてブラッシュアップといいますか,検討が必要なのかもしれませんけれども,保険会社の方から御覧になって明らかにこれは入っていない,除外が漏れているのではないかというものは,直ちにはないという理解でよろしいでしょうか。 ○田中参考人 こちらの文面だけを見て今すぐ何か出てくるかというと,ちょっと我々もいろいろな保険の種類を当てはめてみたものの,なかなか難しいのですが,ただ新しい経済環境又は社会環境の変化によって出てきた保険をどのように規律していくかというのはやはりかなりまだ課題があるのかなということで,こちらが十分かというと,こちらで問題がないというのはなかなか言い切れないというところでございます。 ○神田部会長 取りあえずよろしゅうございますか。   それでは,日髙委員,小林委員,前田委員の順でお願いします。 ○日髙委員 経済同友会から意見を申し上げます。   本年4月に中間試案に対する意見を提出しておりますので,この意見内容に基づいて簡単に意見を申し上げます。   会社法にD&O保険に関する規定を設けることや,保険契約における保険金額,保険料又は当該契約に基づいて行われた保険給付の金額を事業報告の内容に含めて情報を開示することについては反対しております。   D&O保険は,業務執行を担う取締役が過度にリスクを回避することなく高度に専門的な判断を迅速に行うために,また,取締役会において社外取締役にモニタリング機能を期待しているわけですが,そういう優秀な人材を確保するために欠かせないインフラでありまして,成熟した企業統治の実現を目指す会社としては当然に用意すべきものだと思っております。   しかしながら,D&O保険は各社の事情を考慮して整備されるものであり,そもそも会社法による画一的な規律にはなじまないと考えております。   また,D&O保険は各社では機密事項となっております経営戦略や事業リスク等を考慮して設計される保険契約でありますため,当該保険内容を開示することによって自社の機密事項が第三者に知られてしまうのではないかと考え,D&O保険の利用をちゅうちょする可能性もあるため,中間試案が提案したようなD&O保険に関する情報開示についての規律を設けることには反対いたします。   もっとも,企業経営者としましては,株主様,投資家様から質問があった場合には,可能な限りD&O保険の付保の考え方や概要等を説明するということでいこうと思っておりますし,それで十分ではないかと思っております。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   小林委員,どうぞ。 ○小林委員 ありがとうございます。   D&O保険は,長きにわたって実務上特段問題なく運用されてきたと考えております。従前より,日本商工会議所としてはそもそも規律を見直す必要はないと申し上げてきました。   新たな制度を作る上での立法事実として,例えば,具体的にこのような問題があったとの事例や,役員等賠償責任保険契約等を締結している集団が締結していない集団に比べて,株主に与える損害の発生割合が統計的に高いという調査結果が示されていないと考えています。   今回の御提案では,多くの保険契約が形式的に利益相反取引に該当することを前提に,規律が検討されています。しかしながら,ほとんどの保険契約については,これまで,利益相反により会社に損害を与えるといった問題があるとは一般的に考えられていませんでした。これまで何の問題も起きていないにもかかわらず,仮想的な問題を理由に,広範に網を突然掛けるという手法には大変に違和感があり,会員企業からは困惑する声が上がっております。このような形式の立法には賛成し難く,反対の立場を表明いたします。   また,第1の1の(ア)にある省令で定める場合の「主たる目的」が曖昧であることが問題であると考えます。既に指摘がありましたが,新たな保険商品が次々と生まれてくる状況に対応できるかは,大きな疑問があると考えています。   このテーマを議論するのであれば,本来の出発点である,いわゆるD&O保険の対会社責任である株主代表訴訟の敗訴部分の特約のうち,株式会社がその保険料を負担している場合を議論のスコープにすべきです。   役員自身が特約部分の保険料を負担した場合まで規律の対象としますと,過剰な規律となるため,議論の対象と規律の範囲について,再考を強く求めます。   その上で,3の開示に関する規律について,幾つか申し上げます。   多くの企業は,リスク対処方法の根幹をなす保険契約を,企業経営における最高レベルの秘密事項であると位置付けています。繰り返しとなりますが,保険契約の内容が不用意に外部に示されることは,経営上のノウハウを外部に流出させるに等しいという,会員企業の声もございます。改正により悪意を持った者が,どの会社がどの程度の保険に加入しているか分かるリストを入手できることとなります。そうなりますと,攻撃先の選別が容易になるということや,リスクに備えている会社ほど本来必要のない訴訟を提起されるリスクに見舞われることが懸念されます。したがって,そもそもの役員等賠償責任保険契約の趣旨から逸脱するのではないかと考えています。   今申し上げた観点から,保険に関する事項の開示には反対ですし,当然のことながら保険料,保険金額,保険給付額の開示等については論外であると考えています。   あと,今回の規律の表現について,日本商工会議所内の検討の際のコメントを紹介します。1の(注)(ア),(イ)に該当する保険のうち,重要なものの「被保険者」と「契約の内容の概要」を開示する制度について,書き方が分かりにくいという発言がありました。特に法務対応力に劣る中小企業にとって,重要でない保険は3①アからウまでの全ての規律が適用されない旨が,きちんと分かるように示していただきたいと思います。   そもそも(ア)と(イ)に該当するということは,利益相反の懸念がほとんど問題にならないはずです。したがって,これまで求めてこなかった開示が義務付けられる必然性は,ないと考えています。開示が実務上,心理上の負担になる制度になりますと,保険に入りたいという希望や,リスクに対処したいという現実のニーズがあっても,残念ながら加入できないことにつながりかねないと考えます。   繰り返しになりますが,会員企業からは,何も悪いことはしておらず,何ら問題が起きていないのに,なぜ今になって突然このような規制強化が行われるのかと困惑の声が上がっています。今回の御提案は,再考をお願いします。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   事務当局から発言があるようです。竹林幹事,どうぞ。 ○竹林幹事 小林委員から頂いた御意見について質問をさせていただきたいのですが,役員が保険料を負担しているという趣旨は,契約当事者となって保険料を形式的にも負担されているという御趣旨なのか,それとも,実際は会社が負担しているのだけれども,それを事実上,求償に応じてというか,会社に対して支払っているという御趣旨なのか,まずその区別をしていただきたいのと,機密事項だとおっしゃるときに,先ほど日髙委員からは,株主総会で質問等あれば一定程度回答されていきたいというような御発言も頂いているのですが,現在,株主総会で保険についての質問があるかというと疑問もあるかもしれませんけれども,仮に,そういう質問がされた場合には,機密事項なので一切答えられないということを考えていらっしゃるということなのでしょうか。 ○小林委員 最初の点は,対会社責任のいわゆる敗訴部分の特約をまとめて掛けた上で,会社が一旦払った費用を個人に負担させることを指します。また,その多くは会社名義での支払だと考えています。   もう一つの点は,全ての会社から意見があったわけではありませんが,株主代表訴訟という観点であっても,保険契約の内容の開示は会社のリスクがどの程度あるかを広く公開することとなるため,特に,金額は少なくとも機密であるという趣旨の意見です。保険給付金額の上限を説明することは,それ自体がノウハウを説明することであり,少なくともその開示は反対であるという意見が会員企業から寄せられました。 ○神田部会長 よろしいでしょうか。   それでは,前田委員,北村委員の順でお願いします。 ○前田委員 どうもありがとうございます。   職務執行の適正性が損なわれるおそれが定型的に小さい保険契約について,規律の一部を適用除外にするという基本的な考え方には賛成なのですけれども,片仮名の(ア)の方につきましては,既に委員,参考人から御指摘がありましたように,この基準で多種多様な契約をうまく区分できるのかということが気になるところです。   会社と役員とが並んで被保険者になっているときに,どちらの受ける損害の塡補を主目的にしているかというようなことは,典型的なPL保険のようなものなら判断しやすいのでしょうけれども,判断が容易でない場合が出てくるのではないかという懸念がございます。   あるいはまた,役員の受ける損害塡補がたとえ付随的な目的であるにすぎない場合でも,会社が保険料を払って役員らが自分の受ける損害を保険金で塡補してもらえるという構造が生ずることに変わりはありませんので,職務執行の適正性が損なわれる程度が本当に定型的に低くなると言えるのか,その関係が必ずしも明らかでないように思います。   片仮名の(イ)の方も,第三者への加害行為が役員等の職務上の義務の違反と言えるのか,判断が容易でない場合が出てきそうでありまして,やはり基準として明確性を欠くのではないかという懸念がございます。   そこで,前にこの部会でも既に御指摘があったところだと思うのですけれども,従来法的に最も不安定でかつ弊害のおそれが大きいと言われてきましたのは,役員の会社に対する賠償責任を塡補する保険であったと思います。ですので,今回の片仮名のアとイのような契約も含め,第三者に対する責任を塡補する保険については,もう取締役会の承認という手続規制は外して,開示規制の一部だけにするということも検討してよいのではないでしょうか。対第三者責任の方については,取締役,執行役が被保険者であれば利益相反取引規制もないし,それに代わる手続規制もないということになりますけれども,D&O保険は役員に対するインセンティブ付与ですとか人材確保という点で会社の利益になり得るものでありますから,利益相反取引規制の特例を認めることは,何とか説明がつくのではないかと思います。   つまり,会社に対する賠償責任を塡補する保険については,役員の会社に対する義務の履行に悪影響を及ぼすおそれがありますので適用除外を認めるべきでないと思いますけれども,第三者に対する賠償責任の塡補であれば,それより少し緩やかに考えてよいのではないかということです。   保険実務が対会社責任なのか,対第三者責任なのかということで異なる扱いをしてきたのは,十分理由のあることではないかというように思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   北村委員,どうぞ。 ○北村委員 ありがとうございます。   この部会で何度か申し上げてきたことではございますけれども,私は,役員等賠償責任保険契約に関する規律を新たに設けることの意味は,中間試案で言うところの第2部第1の3④のとおり,利益相反取引に関する責任規定が適用されないようにするところにあると考えております。   今回の部会資料24の第1の1で提示されているところは,役員等賠償責任保険契約であるけれども被保険者である役員等の職務の執行の適正性を著しく損なうおそれのないものとして法務省令で定めるものについては,手続規制と開示規制の一部を適用しないという御提案ですから,それ以外は中間試案のとおり,利益相反取引についての責任規定は適用されないことになります。つまり,会社法に新たに規定を設けることにより,安心してこの種の責任保険に入ることができますので,経済界の皆さんがそれほど懸念をされる必要はないのではないかと思っております。   ただ,問題は,前田委員もおっしゃいましたように,部会資料24の1ページの(注)の(ア)と(イ)が実際どのような保険契約なのかはっきりしない部分があるということです。例えば,同ページの下に参考とあるところの3の①のアに,「損害保険契約であって,被保険者がその職務の執行に関し…責任を負う」とあるのに,(注)の(イ)では「職務上の義務に違反し,又は職務を怠ったこと」によるものを除くとなっています。こういうことになると,具体的に何が入って何が入らないのかということの判断が難しいので,そこは解説書などできっちりと対応していただきたいところです。   もう1点,開示に関する部分ですけれども,恐らく経済界が最も懸念されることは,多くのことを開示すべきではないということであろうと思いますし,私もそれはそうだと考えております。そこで,部会資料24の4ページの3の②のところでございますが,法務省令で定めるものについては重要な契約において①ア,イは開示しなければいけないけれども,そうでないものは開示しなくていいとなっております。「重要な契約における」という限定がなぜここにだけ入るのかについてですが,事業報告の記載事項に関する法務省令には重要な兼職など「重要な」という限定が入っているものとそうでないものがあり,役員等賠償責任保険契約のうち法務省令に定めるものについては,重要なものだけに絞ろうという趣旨だと思います。しかし,いっそのことこの②は削除してしまって,そのような保険契約のうち重要なものについては,例えば,現在の会社法施行規則121条11号に「株式会社の会社役員に関する重要な事項」というのがありますから,それに当たると考えられるものを開示するようにして,責任保険契約についてのみ,ややこしい開示規制を設ける必要はないのではないと思っております。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   事務当局から発言があるようです。竹林幹事,どうぞ。 ○竹林幹事 北村委員から御指摘いただいた点に関して質問をさせていただきたいのですが,利益相反取引規制の考え方について,利益相反取引に当たるかどうかというのは形式的に考えていくべきではないかというような観点から,北村委員から御指摘いただいたように,利益相反取引規制を外すためにこういう規律を一律にかけて適用除外となるものを広く拾っていくという規律を設けているのですが,そこで先ほど前田委員からいただいたような御指摘,対会社と対第三者を区別することができるのではないか,対第三者責任に関する保険は会社の利益にもなるため,要するに利益相反取引ということについて程度の差があるのではないかという御指摘なのではないかと思うのですけれども,北村委員は,そのような考え方についてどのような御感触をお持ちになるかを伺えますでしょうか。 ○北村委員 例えば取締役等の第三者に対する責任について保険を掛けて,その保険料を会社が負担するという場合を想定しますと,やはり利益相反性はあって,いわゆる間接取引に該当する可能性があると思っております。ただ,間接取引については解釈の幅がありますので,必ず該当するというわけではないですが,該当する可能性はありますということになります。そこで,D&O保険のようなものについては利益相反取引に関する規定を適用しないという規律を設けるということに意味があると思っております。 ○神田部会長 ありがとうございます。よろしいでしょうか。   今の点についてもこの後是非御意見を頂きたいと思います。差し当たり名札を立てていただいた順番で,坂本幹事,沖委員の順でお願いします。坂本幹事,どうぞ。 ○坂本幹事 ありがとうございます。   経済産業省から参考資料50でD&O保険について意見を出させていただいております。ポイントを御紹介させていただきます。   まず1ポツのところで,いわゆるD&O保険の意義につきましては,繰り返しになりますが,諸外国で広く活用されている優秀な人材確保のためのインフラであり,具体的な制度設計に当たってもこういったグローバル市場での人材獲得において日本の企業が海外企業との競争条件のイコールフッティングという中でできるようにという観点からも,適切な活用を行いやすくするということが非常に重要だと思っております。そういった前提で2ポツ以降,具体的なところでございますが,規律のスコープにつきましてはこれまでもいろいろ御議論がありましたけれども,規律の対象とする範囲について(ア)と(イ)という形で今回特に職務の執行の適正性を著しく損なうおそれのないものを除外するという基本的な方向性は適切であろうと思っております。   更に具体的な範囲については,先ほどもありましたように対会社責任に限るべきという御意見なども踏まえて,是非慎重に検討が尽くされることを期待しております。   3ポツで,手続に関する規律につきましては,今回の法務省令で定められる,職務の適正性を著しく損なうおそれの大きくない範囲の保険契約については,手続に関する規律を適用しないものとすることは適切であると考えております。   4ポツ,開示に関するところについては,パブリックコメントでも幾つか弊害のおそれが指摘されている中で,特に懸念をしておりますのがウとして挙げられております保険金額,保険料の開示であります。これらにつきましては,濫訴や和解額等のつり上げを誘発する懸念,あるいは実務においてM&A,新規事業展開を検討する際に保険金額の増額をする場合もあるということですので,こういったことを考えると,こういった具体的な金額が開示されることによって企業が水面下で進めている経営戦略等が予測されやすくなるといったような実務上の懸念もあるということ,また,保険給付の金額の開示につきましては,紛争を和解によって柔軟に解決しようということがやりにくくなるのではないかなど,こういった実務の方からの懸念,指摘についてはしっかり受け止める必要があるのではないかと考えております。   一方で,冒頭申し上げたイコールフッティングという観点からしますと,開示の範囲についてもグローバルスタンダードとのバランスといったことにも留意をする必要があると思いますし,また3ページの上に書かせていただいておりますが,そもそもこのD&O保険については契約内容の決定において株主総会又は取締役会の決議を必要とするという手続に関する規律が提案されていること,また,保険者が存在することによって契約内容等の適正が一定程度確保されると考えられることを踏まえますと,利益相反性は大きくないと考えることもできると思いますので,特にこの開示事項としてウに掲げられた事項については,これを義務的な開示事項とする必要性は低いと考えております。   また,最後のところで,除外をする法務省令で定める一定の範囲の保険契約に関する開示につきまして,そもそもこれは職務の執行の適正性が損なわれるおそれが大きくないものとして定義をされている範囲でございますので,こういったものについては開示についても規律を適用しないということでよろしいのではないかと考えております。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   沖委員,どうぞ。 ○沖委員 ありがとうございます。   質問と意見をさせていただきたいと思います。   まず,田中さんと土屋さんに是非教えていただきたいのですけれども,D&O保険の普通保険約款で,対第三者責任ですけれども,これは身体や財産に損害が起きる場合の保険金としての補償というのは,これは基本的に免責事由になっていると理解しているのですけれども,その理解が正しいかどうかと,もう一つは,PL保険で株式会社だけでなくて役員の方が個人的に被保険者になっている割合といいますか,その程度はどの程度かという2点,教えていただけますでしょうか。 ○土屋参考人 まず,最初の質問なのですけれども,こちらの方は飽くまでその個社によって保険契約の内容というのは異なるのですけれども,一般的な今の状況を申し上げますと,D&O保険の契約でいわゆる対人事故,対物事故を免責としている契約の方が主流だと理解しております。通常のPL保険のような契約に付随的に役員等が被保険者となっている割合なのですけれども,これは,申し訳ないのですけれども,統計として正しく理解できているわけではないのですけれども,例えば,私どもの会社で言いますと,通常の標準的な契約では必ず入っておりますし,グローバルの面で見てもそういった慣行が主流だと理解しております。 ○沖委員 ありがとうございます。   今のお答えを前提に意見を申し上げたいのですけれども,部会資料24の(注)であります(ア)と(イ)に該当するような契約については規律の対象から外すということは,賛成であります。ただ,この(ア)と(イ)の決め方,関係なのですけれども,対第三者責任のうち(イ)では役員等の職務上の義務違反による損害を塡補するもの以外は除外されると。そして,(ア)では,職務上の義務違反による損害を塡補するものでも株式会社の損害の塡補を主目的とするもの,例えば,これがPL保険とかになってくると思うのですけれども,それを除外するというような形で規定されているように見えます。   ただ,この点は先ほど前田委員から御指摘があったのですけれども,この主たる目的という要件について,会社に生ずることのある損害の塡補が主たる目的なので,役員等は被保険者に付随的に追加されているのだと,だから,職務執行の適正性が損なわれるおそれが相対的に小さいということが言えるかどうかということですね。例えば,PL保険では,どちらかというとD&O保険では免責事由にされているものが多いことを踏まえて,PL保険では個人としての役員が被保険者に追加されているものが多いというようなことを考えますと,役員等にとってはPL保険で被保険者として付保されることの意味は重要ということになりますので,被保険者としての位置付けに主従の関係があるとか,職務執行の適正性に与える影響が小さいとまでは言い切れないのではないかと思われるわけです。   この点は,先ほど竹林幹事から御発言があったように,職務執行の適正性を損なうおそれというように広く捉えて規律対象とした趣旨は,利益相反取引規制の適用解除を広くとるということによると理解しましたので,そのことは正当だと思うのですけれども,元々,役員等賠償責任保険に対する規律の必要性は,役員等の会社に対する責任に違法抑止機能があって,会社法上重要とされているこの機能が役員等賠償責任保険によって損なわれるおそれがあるということに基礎付けられるのではないかと思います。   そうしますと,規律から除外する範囲もこの損害の原因となる役員等の責任の内容から限定するのがよいのではないでしょうか。具体的に言いますと,会社法第423条第1項,会社法第330条の任務懈怠責任や善管注意義務違反によって与える損害だけを対象にすれば基本的にはよいのではないかと。これに対しては民法上の不法行為責任にも不法行為の抑止機能というのはあるとは思うのですけれども,これは会社法上の役員の責任として期待されている効果ではないので,除外してよいのではないかと考えます。   同じように,会社法第429条の対第三者責任や金商法上の虚偽開示に対する責任も,これは不法行為の特則であるとか,不当利得的な特別の民事責任と位置付けられているようですので,これも一応基本的には除外してよいのではないかと。ただ,D&O保険の普通保険約款では,一般にそれらの会社法第429条の対第三者責任とか金商法上の虚偽開示の責任も普通保険約款で塡補対象とされるということが多いようですから,その限りでは一つの保険契約として規律の対象とするという扱いでよいと思われるのであります。   このように考えますと,部会資料24では職務上の義務違反又は職務怠慢という要件になっていますけれども,これは端的に会社法上の忠実義務違反,善管注意義務違反だけを対象とするような形で置き換えればよいのではないかと思います。   また,役員等の責任の違法抑止機能を損なわないようにするという規律の趣旨からは,株主がその点の判断が可能となるような情報を開示すれば十分ではないかと思います。具体的に言いますと,標準的な約款に定められている6種類の免責事由が設定されているか,縮小塡補割合の設定があるか,代表訴訟敗訴部分の保険料の負担が会社か役員かなどの事実が重要ですので,これらを含むア,イの部分だけでよいのではないかと思います。   これに対して,保険金額は会社が判断している役員等のリスクを知って,それと比較しませんと評価ができませんし,保険料の評価も同じように非常に難しいと思います。御指摘にありますようにこれらの開示には弊害もあることから,やはり開示の対象からは外すべきではないかと考えます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   事務当局から発言があるようです。坂本関係官,どうぞ。 ○坂本関係官 沖委員に一つ質問をさせていただきたいのですけれども,会社法第423条や第330条違反で与える損害のみを対象とすればよいのではないかという御指摘を頂きまして,そう考えますと,現状のD&O保険では一般的な普通約款の対象になっている会社法第429条ですとか金商法上の責任については,今回の規律の対象からは除外されてしまうけれども,契約として一つと考えて規律を適用すればいいというような御趣旨でしたでしょうか。 ○沖委員 はい,御指摘のとおりです。確か基本的に共通の保険金額の下で保障されていると思いますので,やはり一体の契約として現状は規律の対象になってくるということではないかと思います。 ○坂本関係官 規律の対象とするのは会社法第423条などの責任に関する損害を塡補する契約に限定するものの,その契約で会社法第429条による責任に関する損害などについても塡補されるので,事実上,それらの損害を塡補する部分についても規律が適用されることとなるという理解をするということですね。 ○沖委員 はい。それと一体となって付保される保険契約は全体が規律の対象になるという趣旨で申し上げました。 ○坂本関係官 ありがとうございました。 ○神田部会長 ありがとうございました。何だかだんだん難しくなってきているように思うのですけれども,なかなか難しい問題で,ほかに御意見とか御質問があれば是非お出しいただきたいと思うのですけれども,いかがでしょうか。   参考人の方々から何か追加で御発言等ございますでしょうか。特によろしゅうございますか。   それでは,今日のところはほかには御意見等ないようですので,第1についての審議はこの辺りとさせていただきます。   ちょっと通常よりは早いのですけれども,区切りとの関係で,ここで一旦15分間の休憩を取らせていただきます。15分後の2時45分に再開をさせていただきます。   なお,参考人の方々にはここで御退席いただくということになるかと思います。今日は大変お忙しいところをお越しいただきまして,どうもありがとうございました。   それでは,休憩とさせていただきます。           (休     憩) ○神田部会長 それでは再開させていただきたいと思います。   それでは,部会資料24の第2につきまして御審議を頂きたいと思います。   事務当局からの御説明をしていただき,その後,青委員から資料の説明と併せて御意見を頂くということにしたいと思います。   まず事務当局からの御説明をお願いいたします。 ○青野関係官 それでは,部会資料24の4ページ一番下から記載しております「第2 社外取締役を置くことの義務付け」について御説明いたします。   社外取締役を置くことの義務付けの論点については,部会において積極意見と消極意見とに意見が分かれておりますが,社外取締役の選任状況や社外取締役を置いていない上場会社による社外取締役を置くことが相当でない理由の説明の内容等について,本年6月の株主総会後の状況が明らかになってきておりますので,アップデートされたこれらの情報も踏まえて御議論いただきたく,改めて論点として掲げております。   アップデートされた最新の情報については,この後,東京証券取引所の青委員からプレゼンテーションをしていただくことを予定しております。   また,補足説明の2以下においては,これまでの部会や中間試案に係るパブリックコメントにおいて,義務付けについて積極及び消極の双方の立場からそれぞれ御指摘いただいた点等を整理させていただいております。   それぞれの内容の詳細については,口頭では割愛させていただきますが,義務付けについて消極の立場からは,例えば,社外取締役の導入が企業価値に与える影響や課題について,検証することができる環境があるにもかかわらず,それをしないまま義務付けをすべきでないという指摘があります。   他方で,義務付けについて積極の立場からは,例えば,経営が独善に陥ったり,経営陣が保身に走ったりするといった危険に対して何らかの予防や強制のメカニズムを備えているのかについて,株主が疑念を抱くことも理解することができると考えられるところ,我が国の資本市場が全体として信頼される環境を整備するという観点から,上場会社において,社外取締役を置かず,業務執行者から独立した客観的立場からの監督がされないことは,もはや容認されるべきでないという指摘があります。   このように,社外取締役を置くことの義務付けの論点については,意見が分かれているところですが,中間試案に係るパブリックコメントにおいては,経済団体及び一部の大学等から社外取締役を置くことを義務付けるべきでないという意見が寄せられた一方で,弁護士会,機関投資家,金融商品取引所その他ガバナンス関係の団体及び一部の大学等から社外取締役を置くことを義務付けるべきであるという意見が幅広く寄せられたことも踏まえると,大きな支障がなければ,これを義務付けることも十分に考えられると思われることから,本文に掲げた上場会社等は,社外取締役を置かなければならないものとすることについて,改めて問題提起をさせていただいております。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,続きまして青委員からプレゼンテーションといいますか,資料の御説明と御意見をお願いします。 ○青委員 本日は,事務当局からの御依頼に基づきまして,昨年この場でお話しさせていただきました東証上場会社におきます社外取締役の選任状況と,東証上場会社である大会社のうち社外取締役を置いていない会社が開示している社外取締役を置くことが相当でない理由にどのような傾向があるかという2点につきまして,最新の情報を御紹介させていただければと存じます。   なお,昨年と同様,前半の社外取締役の選任状況につきましては,上場会社から東証に御提出いただいたコーポレート・ガバナンスに関する報告書の記載を統計の基礎としております。それから,後半の社外取締役を置くことが相当でない理由の記載に関しましては,各社が株主総会に提出した事業報告の記載を東証で取りまとめたものでございます。   それでは,まず先に,社外取締役の選任状況の方からお話をさせていただきます。   参考資料48の3ページを御覧ください。   社外取締役と独立社外取締役の選任は,これまでも進んできておりますけれども,それぞれ1名以上選任している会社の比率を申し上げますと,今年の集計では,全上場会社ベースで社外取締役が97.7%,独立社外取締役が93.5%と直近の1年間におきましても引き続き伸びてきております。   それから,社外取締役を置くことが相当でない理由の説明義務の対象となる大会社に限って申し上げますと,グラフの一番右のとおり,社外取締役が98.6%,独立社外取締役が95.0%となっており,こちらも従来に増して高い水準にまで来ているという状況でございます。   次に4ページに参りますけれども,こちらは,市場第一部の上場会社におきます社外取締役,独立社外取締役を1名以上選任している会社の比率でございまして,市場第一部でも,昨年から更に増加し,社外取締役の選任比率は99.7%に達しております。   それから,次のページは御参考でございますけれども,社外取締役,独立社外取締役を2名以上選任している上場会社の比率の推移でございまして,こちらも御覧のとおり,微増ではございますが右肩上がりで増えてきているという状況でございます。   次に,6ページは,市場第一部の上場会社におきます社外取締役,独立社外取締役を2名以上選任している会社の比率でございますけれども,こちらも御覧のとおり若干の伸びを示しております。こちらも御参考という位置付けでございます。   それから,7ページを御覧いただければと存じますけれども,こちらの表は,東証で毎年公表している資料から抜粋したもので,市場区分ごとに,社外取締役,独立社外取締役の人数,比率を分析したものでございまして,人数,比率の区分ごとに該当する社数と各市場区分におきます構成比を示しているものでございます。   赤枠で囲ったところの一番下の辺りを御覧いただければと存じますけれども,社外取締役を選任していない大会社の数は,今年は43社で,昨年から12社減っており,比率で申し上げますと,東証上場の大会社のうち1.4%が社外取締役を選任していない状況でございます。   次に,社外取締役を置いていない会社が社外取締役を置くことが相当でない理由として説明する内容の傾向について御説明をさせていただきます。   9ページを御覧いただければと存じますけれども,まず,社外取締役を置くことが相当でない理由の説明義務の対象になっている大会社の数は,昨年の48社から11社減少いたしまして37社になっております。   残る37社のうち27社が選任に向けた検討を行っていく旨の記載をしておりまして,今後,更に選任する会社が多くなっていくのではないかと見受けられます。   7ページの表と若干数字が異なっておりますけれども,データソースが異なっているためですので御理解いただければと存じます。   事業報告に記載されております社外取締役を置くことが相当でない理由の説明は,今年も去年とおおむね同様の傾向でございまして,主に資料下に記載の(1),(2),(3)の三つに集約されます。   一つ目が,昨年と同様でございますけれども,独立性があることと,自社あるいは業界に関する専門知識があることの二つを要件とした上で,「適任者」が不在だと記載されているパターンです。   それから,二つ目としまして,適任者でない人が取締役になると,迅速かつ的確な経営が阻害されると記載されているパターン。   最後に,三つ目のパターンとしまして,社外取締役を置かなくとも,現状のガバナンス体制で十分であるという考え方を示しているものでございます。   多くの会社では,この三つのうちの幾つかあるいは全てを組み合わせた形で書かれており,例えば,一つ目の独立性及び業界に関する専門知識の両方が必要とした上で適任者がなかなか見付からないと。そうした中で,無理やり適切ではない人と選ぶと,迅速かつ的確な経営が阻害されるのだといったような説明をされる例が多いところでございます。   資料に基づいた御説明は以上でございます。   続きまして,私どもの意見を述べさせていただければと存じます。   これまでこの部会で議論がございましたように,社外取締役を置くことによります効果ですとか,意義に関しましては,様々な理解があり得ることは存じてございますけれども,その中で,私どもとしましては,以前に申し上げたことの繰り返しではありますけれども,社外取締役には,少数株主の代弁者として,業務執行者から独立した客観的な立場から,会社経営の監督ですとか,経営や支配株主と称する株主との間の利益相反の監督を行うという役割が期待されていると考えてございまして,我が国の資本市場が全体として信頼される環境を整備するためには,上場会社において,そのような客観的な立場からの監督が行われる状況を必須のものとすべきと。ガバナンスのレベルの引上げはコーポレートガバナンス・コードの役割としたとしても,ガバナンスの機能を発揮し得るその素地を整えることは会社法の役割であるという立場に立ちまして,上場会社が最低限満たすべき基本的な要件としまして,会社法において社外取締役を1名以上置くことを義務付けることが適当ではないかと考える次第でございます。   このような役割を担います社外取締役が全く存在しないという場合と,1名でも存在するという場合とでは,取締役会における議論ですとか決議の際の客観的な視点の有無や,社外取締役がいることで生ずる社内取締役の説明責任といったところで本質的な違いが出てくるのではないかと考えている次第であります。   それから,あえて社外取締役を置かない会社に選任を強制すると,デメリットがあるのではないかという御意見も伺うところでございますけれども,先ほど御説明させていただきましたとおり,社外取締役を置かない会社はごく僅かでございますし,それらの会社の相当数は,社外取締役の有用性を認めた上で,選任に向けた検討を進めている段階であるという説明をしていることも,考慮の必要があるのではないかと考える次第でございます。   そして,あえて置かないとする会社も僅かですけれども存在しておりますが,そうした会社の理由付けを拝見しましても,先ほど申し上げたような選任することのメリットを上回るようなデメリットは,なかなか想定し難いのではないかと考えるところでございます。   こうした会社におきましては,社内の業務執行取締役による迅速,機動的な意思決定を重視するという説明が見受けられますけれども,そうであったとしても,一般株主を多数抱える上場会社におきましては,客観的な立場からの監督機能が不要であっても良いということにはならないと考える次第であります。   業務執行の迅速性,機動性の確保という点につきましては,業務執行者で構成される役員会等の取締役会とまた別のものを活用するなどの対応が可能であり,取締役会は,社外取締役を交えた業務執行の監督に重点を置くというように性格分けをするといった実務上の工夫で対応することは十分できるのではないかと考えられますし,現に多くの会社でそうした工夫をされているのではないかと認識しております。   それから,以前申し上げたところですけれども,社外取締役を置くことが相当でない理由として,適任者が不在であるとする会社につきましては,多くは経営陣からの独立性と,自社や業界に対する専門的な知見があることの両方を求めております。これらの両方を厳格に求めると候補者が極めて限られることになりますけれども,業務執行者には,自社や業界に関する専門的な知見は当然求められるべきものであると考えますが,一般的に客観性,中立性が期待される社外取締役に過度な専門性は要求すべきではないのではないかと思われる次第でございます。   むしろ,社外取締役の方々に対してしっかり説明をして,その上で,身内だけの論理になっていないかどうかをチェックしていただくということが期待されるのではないかと考えております。   本来,社外取締役に求められる知見ですとか素養,それから期待される役割を念頭に置いていただければ,例えば,新規上場会社のほとんどが社外取締役を置いているという実態も踏まえますと,ある程度の期間を設けさえすれば,適任者を見付けることは十分可能ではないかと考える次第でございます。   以上申し上げたところと資本市場におきます当事者の方々からの声を踏まえますと,今回の会社法の改正におきまして,時宜を逸しない形で社外取締役選任の義務付けの結論を導いていくことが適切ではないかと考える次第でございます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,この部会資料24の第2につきまして,ほかの委員や幹事の皆様方から御質問,御意見をお出しいただきたいと思います。   古本委員,どうぞ。 ○古本委員 どうもありがとうございます。   この「社外取締役を置くことの義務付け」には反対です。これまで何度も申し上げておりますが,ガバナンスの在り方は,それぞれの会社がそれぞれの経営理念,企業戦略等の下で,株主との建設的な対話も行った上で創意工夫を重ねながら自分で構築していくものであり,それに関する評価は市場に委ねるべきものと考えております。   社外取締役の導入状況につきましては,部会資料24,それからただいま青委員から参考資料48に基づきまして御紹介いただいたとおりだと思いますけれども,この状況で更に法律で強制する必要があるのか,それが本当に望ましいのかということについては,大いに疑問があるところです。   導入していない会社が東証1部で7社しかもうないのだから,強制してもいいのではないかというようなことにはならないと思います。少数とはいえ,導入が適当ではないと考えている会社に無理強いをして得られるメリットがどれほどあるのかという気がいたします。   なお,義務付けによる実務への影響という意味で申しますと,これは決して7社だけの問題ではありません。義務化となりますと,社外取締役が亡くなったときとか,社外性を失ったときとか,そうした万が一の場合にも当然備えておかなければならなくなりますので,どうしても複数選任するか,もう1名補欠を選任するかしなければならなくなります。   つまり,今1人しか社外取締役を選任していない会社は,少なくとももう1人補欠を選任しておかなければならなくなるというわけで,先ほどの参考資料48に,7ページ目ですか,表がありますけれども,東証1部でもまだ100社以上,大企業である東証の上場会社全体でも500社近くが影響を受けるということになりますので,こうした影響も考慮に入れる必要があると思います。   それから,部会資料24を拝見いたしますと,これまでは「どう考えるか」という問いかけになっていたものが,今回は「義務化することでどうか」という形に変わっているわけですが,義務付けを支持するに足るような実証分析が得られたわけではないということについては,この部会資料24の7ページ目にも記載のあるとおりだと思います。   パブコメで賛成意見の方が数の上でやや多かったということが記載されておりますけれども,エビデンスがない中で,こちらの方がやや声が多く上がったからこうだというようなことではないと思います。やはり,義務化すべきか否かの検討に当たっては,義務化による影響とか,メリット,デメリット,ここを十分に比較検討した上で御議論いただきたいと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   川島委員,どうぞ。 ○川島委員 これまで申し上げてきた内容の繰り返しになりますが,社外取締役を置くことの義務付けの要否については,社外取締役を選任したことにより得られた効果,選任しないことによる問題点,選任する際の課題などを十分に検証,分析した上で,法律で義務付けることの必要性や妥当性について丁寧に議論を尽くすべきであり,現時点では現行法の規律を見直す必要はないと考えております。   本日は,先ほど青委員から御報告いただいた社外取締役の選任状況や,コーポレート・ガバナンスをめぐる直近の調査結果などを踏まえ,社外取締役となる人材不足への懸念と社外取締役を選任する際の課題について指摘をし,義務付けについてなお慎重に検討すべきであることを申し上げたいと思います。   1点目の社外取締役となる人材不足への懸念についてです。   2015年5月の改正会社法の施行,2015年6月からのコーポレートガバナンス・コードの適用開始により,2015年以降,社外取締役を1名以上選任する上場会社の比率,あるいは2名以上選任する上場会社の比率はそれぞれ格段に高まっております。さらに,本年6月のコーポレートガバナンス・コードの改定により,今後各企業が独立社外取締役を3分の1まで増員することが想定されることから,専門家からは,社外取締役の候補者が1,000人単位で不足することが予想される,あるいは社外取締役人材の争奪戦が更に激化するとの指摘もあります。   二つ目は,社外取締役を選任する際の課題についてであります。   経済産業省のコーポレート・ガバナンス・システム研究会が2016年に実施した企業アンケート調査では,社外取締役候補を誰に紹介されているかを複数回答で尋ねたところ,社長,CEO,副社長が43%,会長,副会長が25%,社外取締役が19%と上位を占めるという結果が示されました。これを受け,昨年3月に取りまとめられたコーポレート・ガバナンス・システム研究会報告書は,社外取締役候補者を探す際に社長等の紹介,社外取締役等の紹介が一つの選択肢であるが,範囲が限定的になる懸念や,属人的な関係に左右される懸念がある,また,他社の社外取締役を務めている者から候補者を探す方法も考えられるが,特定の人材に集中する懸念があることを指摘しております。あわせて,社外取締役の紹介業は我が国ではまだ十分には広がっておらず,その背景には,社外取締役の候補者の質,量が十分に確保されていないこと,我が国として社外取締役の人材市場をどのように構築,拡充していくかが課題であることを指摘しております。   社外取締役を置くことの義務付けを考える際には,これらの課題への取組が今後どのように進んでいくのか,そして,これらの懸念事項が今後どのように解消されていくのかということに留意する必要があると考えております。   本日御報告いただいた東証上場会社における社外取締役を置くことが相当でない理由の説明義務の対象会社37社のうち,選任に向けて検討を行っていくとしている27社のほとんどは,社外取締役の選定を行っているが,要件を満たす適任者の選定には至っていないという趣旨の報告を行っております。その理由はともあれ,各社ともに適任者の選定に御苦労をされていることがうかがえます。   今後,社外取締役の人材確保が更に難しくなることも想定される中で,社外取締役を置くことの義務付けを無理に進めると,取りあえず形式的に社外取締役を置けばよい,あるいは置かざるを得ないというような制度の形骸化や,ニーズとのミスマッチによる企業価値への悪影響が懸念されます。   言うまでもなく,社外取締役の活用の目的は,ガバナンスの実効性強化であり,社外取締役を置くことの義務付けはその手段の一つにすぎないと考えます。社外取締役を置くことの義務付けが手段の目的化にならないよう,その必要性を論じることと併せて,今導入することの妥当性についてなお慎重に検討すべきであり,現時点では現行法の規律を見直す必要はないことを改めて申し上げます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   小林委員,どうぞ。 ○小林委員 ありがとうございます。   日本商工会議所としては,現行法の規律を見直さない案を,これまで支持しています。   前回の会社法改正や平成27年のコーポレートガバナンス・コード適用からまだ間もなく,平成28年,29年から社外取締役を導入したばかりの会社もあります。   現在,社外取締役の設置が急速な進展を見せるなど,コードの示す原則が浸透し,確実な成果を示してきていると考えています。他方で,社外取締役の選任を義務付けることについて,大規模でない会社をたくさん抱える団体としては,これから申し上げる弊害があると考えています。   まず,社外取締役の設置による経営への効果や課題については,いまだ検証を行うべき段階です。以前の部会にて,少なくとも小規模な上場会社にとって,社外取締役の導入は企業の業績にマイナスの影響があるとの結果を示したものもありました。政府は,原則としてエビデンスのない政策を推し進めるべきではありません。十分な検証を行わないまま,拙速に社外取締役の義務化を会社に押し付けることは,我が国の経済に対してマイナスの影響が出ることを,懸念すべきであると考えます。   これまでも指摘がありましたが,不意の事故等で社外取締役が欠員のまま行われた取締役会決議は,瑕疵が生じ得るということになると考えます。そして,この事態を回避するために取締役の選任等を待つとすると,刻一刻と移り変わる経営環境の中で,機動的かつ迅速な経営が行えない事態も想定されます。   改正の影響は,社外取締役を設置していないこの81社に限られず,社外取締役を1名選任している会社にも及ぶことに留意する必要があります。1名の選任さえ苦労している中での義務化となりますと,欠員状態を回避するために,複数名の選任あるいは補欠選任が必要となります。加えて,社外取締役の人員不足という環境下では,特に中堅・中小企業は適任者を得られないまま,無理をして選任している会社も多く,影響は決して小さくはないと考えます。   社外取締役の人材難について,会員企業からの報告例を紹介します。社外取締役に適任と思われる企業経営者や専門家は,社外性を満たさなかったり,複数企業において兼任していたりすることが多いです。そのため,会社はその方々への依頼や,承諾を得る際に,苦労するようです。加えて,弁護士などの法律専門家に依頼するケースもよくありますが,昨今,会社法に詳しい弁護士を多く抱える複数の大手事務所が,新規の社外取締役就任の依頼を引き受けないようにしているそうです。因果関係は分かりませんが,法律専門家に選任を依頼したにもかかわらず,社外取締役の就任を幾つかの事務所から断られたという事例がありました。   社外取締役人材の供給元には,大きな制約が発生している現状があると考えられます。このような状況で義務付けを求められると,多くの中堅・中小企業が困難な状況に立ち向かわざるを得ません。   義務化に賛成する立場からいろいろな要望があることは理解します。しかしながら,比較的規模の小さな企業においては,事業価値や株主価値と無関係に,ガバナンスの形式を整えることに翻弄されかねず,経営に支障が生ずる可能性があることを危惧しています。   したがって,商工会議所としては,コーポレートガバナンス・コードの機能を活用し,ソフトローによる無理のないガバナンス強化の方向に努めるべきという結論です。   また,賛否両論が伯仲する中でのこの結論は,事態の進捗の見守りと広く国民の意見を求めた平成26年改正会社法附則の検討結果として,不合理なものではないと考えています。今後もこの検討を続けるとしても,法の附則の目的に反することはなく,公正かつ正当な検討結果となると思います。   上場企業を含め,規模の比較的小さな企業の実情を無視した社外取締役選任の義務化について,日本商工会議所としては強く反対します。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,日髙委員,三瓶委員,柳澤委員,梅野幹事,野村委員の順でお願いします。 ○日髙委員 ありがとうございます。   経済同友会といたしましては,社外取締役を置くことの義務付けについては反対いたします。   コーポレート・ガバナンス改革の実現のために監督と執行の分離を徹底すること,機動的な業務執行を実現するとともに,取締役会におけるモニタリング機能を十分に発揮させ,特に社外取締役につきましては,独立性を確保した上で豊富な経験と専門的知見をいかしたモニタリングを行うという本質的役割を果たすことを求めていく必要があると思っております。   コーポレートガバナンス・コードにも,独立社外取締役は会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に寄与するように役割,責務を果たすべきであり,上場会社はそのような資質を十分に備えた独立社外取締役を少なくとも2名以上選任すべきであると定められておりまして,こうした観点からすれば,会社法改正が目指している方向性に同友会として異論はありません。   しかしながら,コーポレート・ガバナンス改革では,法的拘束力を持たないソフトロー,すなわち,コーポレートガバナンス・コードや各種ガイドラインによる後押しによって企業経営者自身の改革マインドをエンカレッジする手法が有効だと考えております。   実際,この数年間の改革の顕著な進展は,こうしたアプローチに負うところが大きくて,現状では,先ほど御説明ありましたように,既に上場会社の大多数が社外取締役を設置するまでになりまして,ソフトローによるアプローチが功を奏していると考えております。   また,近年,企業の持続性や社会性と調和する形で,コーポレート・ガバナンス改革が急速に進展してきた欧州諸国でも,ソフトローによる後押しが行われていると伺っております。   したがいまして,ハードローである会社法の改正によって社外取締役を置くことを義務付けることは反対しまして,現行法の規律を見直す必要はないと考えております。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   三瓶委員,どうぞ。 ○三瓶委員 ありがとうございます。   結論から申し上げますと,私は義務付けが必要だという今までの主張と変わりません。   まず,青委員から現状のデータを提供していただきまして,ありがとうございます。このデータに基づきまして,それと部会資料24の5ページの2の②ですか,古本委員も先ほどおっしゃっていましたが,「投資家による議決権行使や市場における評価に委ねればよく」ということの実態について共有させていただきたいと思います。   確かに,これは一般論としてはそういうことですが,先ほど青委員から提供していただいた参考資料48の9ページの37社について,投資家による議決権行使や市場における評価はどう表れているのかを見てみました。   37社を,「社外取締役選任に向けて検討を行っていく」と述べている27社とそれ以外の10社に分けています。まず見えてきた傾向は,どちらのグループも安定株主比率が高いということ。もう一つは,取締役の任期を2年としている会社が多いということです。ですから投資家による議決権行使を通じた評価が毎年されるわけではないということ。三つ目に,代表取締役社長選任議案の賛成率,ここにある程度の議決権行使を通じた市場による評価が出てくると思いますが,それが通常よりも低い会社が見られるということです。日本では,何らかの著しい問題がなければ,90%台後半の賛成比率というのが通常です。   もう少し具体的に申し上げます。選任に向けて検討しているという27社の安定株主比率は平均で47.6%,安定株主比率というのは,ある種主観的な測り方でもありますけれども,飽くまでも創業ファミリー又は創業家が所有している会社が保有している,そういったもので,地域の金融機関等の保有は含めていません。それで,27社については平均47.6%,一方で,10社の方については53.4%です。過半数を超えています。   そして,任期2年の会社が多いと申し上げましたが,27社の方では27社中15社が任期2年になっています。そして,それ以外の10社については7社が任期2年となっています。   そして,ある種のエビデンスとして,代表取締役社長の再任議案の賛成比率は,80%台というのが27社中3社,70%台が27社中3社。10社については80%台が1社,70%台はありませんでした。これは,先ほど申し上げた安定株主比率が非常に高いということからすると容易に想像できます。   また,任期が2年なので,今回7月25日現在で今年の株主総会の後の結果も含めてみましたけれども,それぞれのグループで,5社はちょうどその改選の任期が来ていない総会であったとか,まだ株主総会がないとかということで外れています。この27社,10社の各グループはどういう特徴を持っているかということを紹介させていただきました。   もう一つの観点で,部会資料24の5ページの③ですけれども,これは同時に青委員から提出していただいた参考資料48の9ページの「3つの類型」とも重なる部分ですけれども,経営判断の迅速性の観点とか個別事情を考慮せずにということとつながります。   ただ,監査役設置会社における社外取締役に期待する役割機能というのは何であるかと,先ほど青委員からも御説明いただきましたけれども,それからしたときに,この類型の(1)(2)というのが業務執行に関わる判断への助言を期待しているように受け取れるのですね。そういうことであったのだろうかと。   それと,本来,利益相反管理の観点や,よく言われるのは社内の常識は社外では非常識というようなことが往々にしてあることについて,どなたか違う観点で物を言ってくれる方がいないかということを求めているわけで,そういうことを踏まえても,(3)の社外取締役を置かなくても現状のガバナンス体制で十分というのは誰が判断することなのかということがあると思います。   先ほども,いかに社外取締役を見付けてくるのが難しいかというお話がありましたが,今年の株主総会シーズンで,ある会社が,社外取締役が少ないということで,株主総会でトップの再任議案に多くの機関投資家が反対して否決ぎりぎりになっていました。そうしたら,2年間探し続けたけれどもいませんでしたというのがこれまでの説明でしたけれども,急遽,直前になって見付かりましたという説明がありました。   いきさつはいろいろあるのでしょうけれども,難しいと言うのは簡単なのですけれども,本当に危機が迫るというか,トップの再任議案が否決されそうになると,見付かるわけですね。なので,この難しいというのがどこまでやっているのか,これこそ社内の常識と社外の非常識というところに陥っていないのかというのがあります。   最後のポイントになりますけれども,部会資料24の5ページの①に関連しますけれども,公開会社かつ大会社で社外取締役1名を選任している比率というのが98.6%というデータを先ほど青委員から御説明していただきました。この数字を見ると,社外取締役を置くことは可能であるという一つの証拠ではあると思います。ただ,懸念しておりますのは,それが維持される保証がないということです。   今の株式市場の環境を考えますと,最高益,株高という状況で,非常に前向きな取組がされやすい環境です。ただ,市場環境が一変したときに,より一層利益相反管理が難しくなってきます。そういったときに,社外取締役を置くことを維持するという保証がないということは,問題だと思っています。   この利益相反管理がより必要になるときというのはどういうときかというと,M&AだとかMBOだとか,又はトップの交代人事,こういったことが関わってくるときです。こういったことは,市場環境が順風満帆ではないときに起こってくることが多いわけです。ですから,今順調に増えてきていて,これはそのまま放っておけばいいのではないかということとは違うのではないかと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   柳澤委員,どうぞ。 ○柳澤委員 発言の機会を頂きまして,ありがとうございます。   社外取締役を置くことの義務付けに関してですが,日本投資顧問業協会の意見として,会社法で選任を義務付けることが望ましいと考えておりますので,この点を整理してコメントさせていただければと思います。   中間試案後に投資顧問業協会が取りまとめた見解といたしましては,試案のA案又はB案のいずれでも実質的に差異はなく,社外取締役の設置といった形式を議論するよりも,取締役会を実効的に機能させる上でどのようなガバナンス体制を構築すべきかといった,各々の企業における実質的な運営の議論の方に重きを置くことが重要であるとの考え方を提示しております。   意見書の内容として,A案又はB案のいずれかを支持するものでもないことから,部会資料18「中間試案に対して寄せられた意見の概要」においては,その他の意見に分類されております。   一方で,こうした投資顧問業協会による意見書の見解は,基本的に機関投資家としての視点に根差したものですので,ガバナンスの実効性強化を促すためには,その前提として一定の形式要件を備えることが必要であるとの認識に立つとともに,社外取締役の義務付けについての議論が,形式にとどまることなく,実質の議論にもつながるといった見方に関しても,意見書の趣旨に沿った,本来的に含意されている考え方と言うことができます。   意見書の中では,社外取締役を置くことを義務付けるか否かに対して必ずしも明確な方向性を打ち出しているわけではありませんが,ガバナンスの実効性を向上させる前提として,上場会社が満たすべき基本的な要件,言わば,上場会社の最低限の品質保証的な形式要件として社外取締役を1人以上置くことが適当であるとの捉え方をしており,外部から企業をモニタリングする機関投資家の立場に照らして,望ましいことと考えております。   また,上場会社が独善的な経営や経営陣の方針に陥ってしまうリスクを予防,回避するためにも,そのメカニズムを社外取締役の義務付けによって担保しておくことは,ガバナンスの実効的な機能を支えるフロアのような役割として,最低限必要とされる措置であると考えられますので,機関投資家によるモニタリングの観点からも,第三者的な視点を常にビルトインさせておくという意味で,適切な手段と言えるのではないかと思います。   なお,社外取締役には独立した客観的立場から経営全般及び利益相反を監督する機能を果たすことが期待されておりますが,ここまでの株式市場における選任比率の増加や,置くことが相当でないとする理由から示唆されるように,その役割の重要性や有用性は一般的に認められているものと考えられます。   例えば,現状で社外取締役を置いていない上場会社の多くも,社外取締役の有用性自体を否定しているわけではなく,適任者がまだ見付かっていないことがその主な理由となっております。こうした認識が共有される中で,国内の資本市場が海外からも信頼されるガバナンス環境を最低限整えておくためにも,上場会社において社外取締役を置くことを義務付け,そのような客観的立場からの監督機能が備わっていない取締役会は,もはや容認されるべきでないというメッセージを明確に発信することも,マーケットに対する評価を維持,向上させる上で重要になってくると思います。   このような観点も踏まえた投資顧問業協会の見解をまとめておきますと,社外取締役の義務付けに関しては,上場会社が満たすべき基本的なガバナンス要件と位置付けており,更なるガバナンスの実効性向上を図っていく前提として最低限の品質保証的な要件を備えるためにも,社外取締役を1人以上選任しておくことが求められると考えております。   さらに,義務付けという措置によって,上場会社においては少なくとも1人の社外取締役選任が恒久的に担保されることとなりますので,社外取締役が不選任となるようなガバナンス体制の後退,選任状況から不選任への後戻り的な動きが許容されない不可逆性を持った規律付けが働くという点で,ガバナンス政策面での意義も大きいと認識しております。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   梅野幹事,どうぞ。 ○梅野幹事 発言の機会を頂戴しまして,ありがとうございます。   先ほど小林委員の方から,弁護士も候補者としてお考えいただいているという御発言を頂き,大変ありがたく思っております。   法律家,弁護士が,社外取締役として適任かどうかという点には議論がございますけれども,私ども日弁連としては,コンプライアンスを重視する,あるいは経営判断の適正性を担保する,それによってリスクテイクを可能にするといった役割を果たすことができるのではないかという観点から,弁護士も社外取締役の候補として十分御検討いただけるものと考えております。   また,先ほどなかなか会社法の専門家がいる複数の大きな事務所が引き受けないようにしているといったお話がございました。私も比較的規模の大きな事務所におりますが,そういう事務所があるかどうかはよく承知しておりませんが,あるいは,社外取締役の要件とは別に,独立取締役としての要件があるので,独立取締役となることも求められた場合にはなかなか同じ事務所の他の弁護士の仕事との関係で受けにくいといった事情があるのかもしれません。   ただし,会社法の専門家としては,そういう比較的大きな事務所ばかりではなく,宣伝めいて恐縮ですが,そうでない事務所にも多くの専門家がおります。また,弁護士会としても,弁護士を対象にセミナー等を開いて,社外取締役としての役割を果たせるように努力しているところでございますので,是非御理解いただければと思います。   以上は小林委員の御発言に触発されたところなのですけども,社外取締役の義務付けについては,日弁連として,参考資料21として御配布いただいた意見書を出しておりまして,その3ページに以下のような記載をしております。   すなわち,「業務執行者から一定の独立性を有し,また議決権を有することから場合によっては反対・棄権等の投票行動を取締役会議事録に残すことができる社外取締役が取締役会にいる会社といない会社とでは,取締役会の業務執行者に対する監督機能には質的な相違がある。社外取締役が1人でもいることにより,業務執行者は社外取締役へ十分な情報提供をし,その賛同を得る必要が生じることから,結果として取締役会の監督機能が強化されるとともに,取締役会の意思決定のプロセスの慎重さや透明性が高まることも期待できる。」というものです。   最近の自分の弁護士としての経験から,あるいはそういった観点からお話しするのは余り望ましいことではないのかもしれませんが,この点について御説明させていただきます。今読み上げた観点,先ほど青委員からも同様の御発言を頂きましたが,これは非常に重要なのではないかと考えております。   私ども弁護士は,いろいろな会社の取締役会の実際というのを見る機会も多くございますが,取締役会のメンバーの中にプロパーではない,つまり社長を頂点とするピラミッドに所属していない,独立した異質の社外取締役がいるということ,つまり取締役会が多様性を有することは,ガバナンスの観点から非常に有効ではないかと改めて考えております。   と申しますのは,社外取締役が導入されてから,取締役会の運営の実務自体が変わってきているという印象を持っているからです。私どもはM&Aであるとか危機管理案件とか,そういった案件について取締役会でどう説明するかといった相談を受ける場合が多くございますが,今の会社の方々は,社外取締役にどうやって説明をして,どうやって理解してもらうかというのを非常に気にされているというか,そのような問題意識を持って準備を進めていらっしゃいます。   このように,社外取締役の方々に対する説明,あるいはその理解を得るために,どういうプロセスが必要かというと,社内ではそのまま当然通用する説明,先ほど三瓶委員がおっしゃられた「社内の常識」ということだと思いますが,それだけでは必ずしも十分ではございません。そこで,社外の方にも十分に分かるような形での説明に尽力して,資料を作成するといった努力をされている会社が非常に多いように感じております。   その結果として,先ほど申し上げたように,会社における意思決定のプロセスの慎重さ,あるいは透明性が向上してきているのではないかと思いますし,そういった面は社外取締役導入のメリットとして確実に指摘できるのではないかと思っております。   それに加えて,経験とか専門分野が異なるメンバーで議論すること自体,異なる視点を経営に反映することを可能とし,偏った思考に組織が陥ることを防ぐことが期待できると思っております。   それならば,社外監査役の方が議論に参加すれば十分ではないかという立場もございますし,今回東証がお出しになった参考資料49において,社外取締役を置くことが相当でない理由として,社内取締役と社外監査役とで十分多角的な議論ができているといった記載があります。しかし,経験上,議決権を持っている社外取締役がいる,あるいはいざとなれば反対できる社外取締役がいるということは,社外監査役だけがいる場合とは質的に違う状況をもたらしているのではないかと思います。   全ての会社のことを存じ上げているわけではありませんが,今でも,日本の会社の多くは社内の経営会議等を経た上で取締役会に議案が上程され,全員一致で決まっていく場合が多いのではないかと思います。そういう会社の取締役会において,いざとなれば反対する取締役がいる,あるいは実際に反対票が投じられるというのは,非常に重たい事態です。   ですから,経営陣としてはそういった事態を避けるべく,社外取締役の賛成を得るために合理的な説明に努められていると思いますし,そういった意味で,社外取締役が果たすことができる監督機能というのは,たとえ社外取締役の人数が1人であっても,無視し得ない大きなものがあるのでないかと考えている次第でございます。   日弁連の意見書自体は古いデータに基づいたものでしたが,東証が御作成された資料を見ますと,市場第一部の社外取締役の選任率が99.7%だったということです。そういう現状を考えると,社外取締役を置くことを義務付けることのコストよりも,上場会社においては社外取締役が必ず1人以上置かれているという分かりやすい制度とするメリットが大きいという指摘が今回の部会資料24にも紹介されておりますが,その点はいよいよ妥当するのではないかと考える次第でございます。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   野村委員,どうぞ。 ○野村委員 ありがとうございます。   私は,今回これが議題になるということで,先回の法制審議会,平成26年の改正のときにどういう議論があったのだろうかということをちょっと振り返って勉強してまいりました。   そうしましたら,私が大変びっくりしましたのは,かなり早い段階で私は義務付けに反対の意見を言っていたことがありまして,むしろ柔軟に企業が選択すべきではないのかということを話していたわけなのですが,それに対して,ほとんど多くの学者,同僚の皆さんが,どちらかというと義務付けの議論をされておられて,その議論というのは,結局自分にとって規律付けを与える人というのを自分で選ぶというのはなかなか難しいことで,基本的にはやはりある程度の強制が働かなければ望ましい方向には行かないのだという議論が圧倒的多数を占めていたということが確認できたわけです。   それに対して,当時もやはり経済界の方々からはものすごい反対意見が並んでいる状況の中で,当時はまだコーポレートガバナンス・コードがありませんでしたので,我々の中にはソフトローというものがまだ存在しておらず,それでソフトローという形での会社法の規律付けに議論が変更されたという形で最終的な決着になったと考えています。当然皆さんも御承知のとおりだとは思います。   そういう中で,私は,今回議論するに当たって,一つはまず,ハードローというのは一体何なんだろうかということをもう一度きちんと確認した方がいいかなと思うのですが,今,我が国の現行法の中にあるあの規律というのは,やや私にとっては違和感があって,あれは本来ならばコーポレートガバナンス・コードというのがこの世の中に出たときに,より一層のベストプラクティスを求めるときに要求されるような形の規律付けの形に,スタイルにはなっているわけでありまして,最低限の言わば型を決めるというのでしょうか,先ほどもちょっと御発言がありましたが,ガバナンスの型を決めるというハードローの役割からいけば,ややいびつな形のものが内包されているような感じがしています。   そういう中で,今現在,私どもの会社法において最低限度何を必要とすべきなのかということを議論するに当たって,私が思いますのは,やはり国が一つの方向観として少なくとも1名の社外取締役が我が国日本の企業にはいるのだということを対外的にもアナウンスメントをするということが,ハードローの役割として必要なのではないかなというふうに考えている次第であります。   その後,我が国の学会の情勢は,御案内のとおり実証分析に非常に重要性を見いだし,そしてそういう議論になってまいりましたが,私自身は実証研究,非常に有益な分析手法だとは思いますけども,必ずしも万能だとは思っておりません。   これはなぜかといえば,それは一部のある一定程度の因果関係に有意的な効果があるかどうかを分析することはできますけれども,例えば,社外取締役がいることによってダウンサイドリスクがどれだけ防止できているのかということについて,恐らく測れないのだろうと思います。それは,不祥事が起こってダウンサイドリスクが発生すれば,それはそういう結果があったということに対して,社外取締役が機能したのかどうかという議論の仕方はできますけれども,いることによってダウンサイドリスクが抑えられている可能性ということについては,恐らく測れないのではないかなと思います。   そこで,また勉強し直してきたのですけれども,前回の平成26年改正の時には社外取締役の機能について一定のコンセンサスがとれていて,一つは利益相反に対するレフェリー役とは書いてありましたが,もう一つの機能としては,やはり伝統的な不祥事に対するしがらみのない形でのブレーキ役というものが置かれていたことは間違いがないわけでありまして,そういったような役割というものを少なくとも我が国の中で役割を担うべき者としての1名の社外取締役がいるという,そういう型をきちっとした形で定めることが必要なのではないかというのが1点です。   それからもう1点は,もう今,梅野幹事の方からお話があったこととほとんど変わりませんけれども,現行ではやはり社外取締役1名の人の機能を見ているというよりは,社外取締役を置いたことによって会社がやはり地殻変動を起こしているという現状が存在しているわけですね。なぜかといいますと,これは今1名導入することを反対している方は委員会型をとっていれば2名は必ずいるわけですから,これは監査役会設置会社ですね。中には監査役でも足りるという場合もあるかもしれませんが,監査役会だとすれば少なくとも数名の社外者はいるわけです。   ですから,社外者がいるということに対する違和感というよりは,社外者がむしろ取締役会で発言をするということに対して,ある程度の抵抗感が残っているということなのだと思いますが,私はそこがきっかけとなって,社外取締役に分かりやすい説明の仕方を工夫する動きであるとか,あるいは社外取締役が発言をすることによって,社内の中では通用していた,言わば思い込みみたいなものが氷解していくプロセスというのが存在しているということは現状多くの企業が申し述べているところだと思いますので,そういったある意味では機能というものに期待をして,1名の義務付けをすべきではないかということを思っております。   したがいまして,何年前でしょうか,平成26年改正のときの一番最初の発言は撤回させていただきたいと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   田中幹事,どうぞ。 ○田中幹事 どうもありがとうございます。   前回この問題が審議されたときに,私の発言機会は多分最後になると申し上げ,しかもそこからそれほど自分の意見が変わっているわけでもございません。ただ,今回,事務当局の方から賛否,賛成論,反対論を丁寧にまとめていただきまして,非常に有り難いと思います。ただ,私は,義務化消極論なわけですが,仮に義務化するという方向に話が進むのであれば,義務化のロジックについては,もう少し詰めて議論する方がいいと思います。事務当局が作成した部会資料24では,いろいろな意見を並列的に述べているわけですけれども,実際に義務化をするということになれば,もう少しロジカルな議論が必要だと思います。その点で言えば,やはり義務化をするという理由付けの最大のものは,個々の企業によるガバナンスの選択は必ずしも最適にはならないという,そこを議論の出発点に持ってくるべきだと思います。   その理由は,これは従来説かれているところですし,また今,野村委員からおっしゃっていただいたことでもあるのですが,特に経営者は自分を効果的に監督するガバナンス構造の採用には,やはり人のさがとして,自分を縛るようなものを積極的に入れるということは必ずしも期待し難いと,そういうことがあると思います。   これは経営陣サイドのインセンティブということですが,それに加えて,株主サイドのインセンティブとしては,上場会社では株式所有構造が分散していますので,株主はたとえ現在の取締役会構成よりも独立性の高い取締役会構成を望んだとしても,自ら独立取締役の候補者を連れてきて,それを提案するというほどのコストを掛けるには至らないということがある。したがって,現在の取締役会の独立性に不満がある投資家も,自分が株主提案をするのではなく,むしろ株式を売却してその会社から離れていく,そういう行動をとってしまうおそれがあるということかと思います。   それから,また三瓶委員が御指摘になったとおり,経営者あるいはその経営者に対して友好的な株主が株式の多数を占めていますと,外部株主が独立社外取締役の選任を望んでもそうならないという,そういう大株主の利益相反ということもあるかと思います。   ですので,そのような理由で一応企業ごとのガバナンス構造の選択が最適にならないことから,社外取締役の選任を義務化することが企業価値を向上させ得るということが議論の出発点になるかと思います。ただ,問題は,義務化をすることにより,一定の株式会社に対して一律に取締役会構成を義務付けることのメリットがデメリットを上回るのかということを考える必要があり,私自身の立場は,その点についての検証はいまだ十分にされていないのではないか,ということです。   それと,平成26年改正の頃は,私はかなり不可知論で,余りこの問題について発言しなかったのですが,今回はっきり消極論を述べるようになったのは,やはりソフトローの影響力の大きさというのを見たということがあります。コーポレートガバナンス・コードというソフトローによって,上場会社にガバナンス改革のインセンティブを与えつつ,他方で,どうしてもその企業統治構造を入れたくないという企業は,それを入れないという選択肢を与えるという,こういうルールが有効に機能し得るのではないかと考えるに至ったということです。   現在,義務化をすべきだという議論は,ソフトローによって十分インセンティブを与えられない企業に対して,これを強制することによってガバナンス構造を改革できるということかと思いますけれども,ソフトローによってインセンティブを与えられない企業は,実際に取締役会構成を変革することで企業価値を向上させることができるにもかかわらずそうしていないのか,それとも,そのような企業はむしろ義務化のコストがメリットを上回っているためにそれをしないにすぎないのかは十分検証されていない。というよりは,何回か前にこの部会に出席された齋藤先生の実証研究を見ると,特に小規模の上場企業に関しては実際に社外取締役の選任コストを上回るベネフィットが必ずしも得られないと解釈できるものになっていました。ですから,それに関しては更に検証が必要になると思います。   それから,先ほどの野村委員の御発言について一言コメントさせていただきます。実証研究は大いに限界があり,特に実証結果をどのように解釈するか,特に因果関係の解釈について非常に困難があることは事実であります。ただ,私,そこからどうしても首肯できないことは,義務化について十分な実証研究がなく,そこで限界があるということから,従って義務化すべきであるという,そのような超越的な判断がどのように導き出されているかということであります。   確かに実証研究には限界がありますけれども,私はアメリカの実証研究を中心に勉強しておりますが,アメリカですと,そういう限界がある中でも,特定のガバナンス上の問題については,それと企業価値との間に有意な関係を見いだしている研究もあります。例えば,過剰な買収防衛策は企業価値に悪影響を与えるということは,かなりいろいろな研究によって確かめられています。それから,一定以上(例えば,5%)以上の株式を有する大株主の存在が良い影響を与え得るということも,かなりいろいろな実証研究で検証されています。   アメリカにおいて取締役会の独立性と企業価値の間に有意な関係が見いだせないのは,そういう,いろいろなほかの実証研究からすれば,有意な関係が見いだされてもちっともおかしくないにもかかわらず,取締役会の独立性という特定のガバナンス構造に関しては有意な関係が見いだされないのです。そういうことであります。実証研究自体が,どんな場合でも不可知論になるというわけではないのです。   それから,独立社外取締役がいることによって,スキャンダラスな企業不祥事のような非常に悪いことが起きるリスクから企業を守ることができるという御意見もありましたけれども,これに関しても,取締役会あるいは監査委員会の独立性と企業不祥事の発生の頻度との関係との間には必ずしも有意な関係が見いだせません。これについては,取締役の独立性と入手できる情報量との間にはトレードオフの関係がありまして,取締役の独立性を強化すれば,不祥事をよりよく防ぐことができるとは必ずしも言えないということがあろうかと思います。   そのようなことで,私,義務化に消極的なのですけれども,最初に申し上げたとおり,今回の提案は,義務化の方に一歩踏み出しているように思いますので,仮に義務化をするのだとすれば,現在のようないろいろな積極論を並べるというのでなく――もちろん積極論を並べるのは良いのですけれども――そのときに何かロジックを,どういう論理で義務化をすべきなのかという点について,もう少し固める必要があるのではないかと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   尾崎委員,どうぞ。 ○尾崎委員 どうもありがとうございます。   この問題に関しては,私もずっと消極論を述べてきたわけですが,今回このような形で賛否の主張や論旨をまとめていただきまして,賛否,大体どういう主張があったのか,大変よく分かりました。ありがとうございます。   つらつら眺めますと,消極意見として私の言ったようなことが並んでいるといるのですが,私の消極意見は,現状,90何%も来ているならば,あえて法的強制は要らないのではないかと,こういう趣旨のことを述べていたわけです。正に今,田中幹事がおっしゃったようにソフトローの影響力の大きさということを実感していたわけで,このままでいいのではないかと思っていたわけです。   ただ,今日のお話を伺っていますと,いわゆる恒久的保障というのでしょうか,社外取締役を置くということを確定的に保障するには,やはり法律で決めた方がいいのではないかと思ったのです。つまり,1人の社外取締役が監査役会設置会社等においても必要であるという,メッセージというのでしょうか,アナウンスメントというのでしょうか,野村委員がおっしゃったような,そういうふうなことも確かにあるということを感じます。やはりソフトローとハードローは違うという部分があるのではないかと思ったわけです。   加えて,ソフトローに多くの会社の皆さんが従ってこられたということは,やはり社外取締役を置くということのメリットをどこかで認識されていると言えるかとも思うのです。そうであるならば,そのメリットは一体何であるかというふうなことをやはり少しもう1回考えてみないといけないのではないかと思ったわけです。   私,これまでと違った立場をとりたいと思います。むしろ規定を置く方がいいのではないかと考えます。事業報告に記載されている社外取締役を置くことが相当でない理由という形で青委員の方から挙げられたこの三つでございますが,これについては次のように考えます。  適任者という言葉が,どうも取締役会において社外がいることの意味を誤解されての理由というのでしょうか,十分意識していない感じがします。つまり,先ほども取締役会の構成の多様性という言葉が出てきたかと思うのですが,その構成の多様性が確保されることが重要で,これまで社内で常識と思っていたことが,実はそういう人が入ってきたことで,その人に説明を尽くさないといけない場になっている。取締役会というのはそういう場になっている,そう考えられるようになっているのではないでしょうか。   その説明を尽くさない限り社外取締役からの1票を頂けない。これは,社外監査役ではどうしても1票はありませんので,社外取締役でなければならない。反対票が出てくる可能性があると。そういった意味では,緊張感が取締役会に生まれるというのが社外取締役を置くことの意味だと思います。この緊張感は監査役会設置会社においても十分求められてよいと思います。   意思決定の迅速性,機動性というのも,それは精通という言葉で表現されているわけですが,社外取締役がその業界に精通している必要は,私は必ずしも必要ではないのではないかと思います。必要な場合があるかもしれませんが,なくてもいいと。つまり,その社外取締役のこれまでのバックグラウンドからいって,経営者がその人を説得できるだけのものを提示できているのか,説明できるのか。つまりこれだけ一生懸命考えてきたのだとか,こういうふうにプラスマイナスを考えてこういう経営判断をするのだというふうなことを取締役会で説明をし尽くす。そのような状況を作り出すためには社外の,しかも取締役が必要だと思います。多様性ということでは女性の取締役もそこにいた方がいいというのも同じことでしょう。   何で取締役会の中に女性が必要なのかについても,やはり多様性ということが取締役会の構成の在り方として,これから求められているのだと答えれば良いと思います。日本もそういうところへ向かっているのだということが,やはり市場との関係などでは求められているのではないかという気がするわけです。   それともう一つは,やはり人材がいないという理由についても,これは正に適任者ということと同じことでして,非常に適任者基準のハードルを相当高く考えているから人材がいないわけでして,多様な意見を頂くとか,この人を説得できるかどうかと言えるような人で良いと考えると,そういう方はいらっしゃるのではないかと考えます。少なくとも1人で良いわけで,そういう部外者はぜひ必要だろうということで,こういう法制度をハードローとして作ることには全く問題がないのではないかという感じがします。   それと,アンケート調査の結果とか,あるいは最近減ってきているからとか,こういうことは必ずしもロジックにはならないと思います。むしろ,やはり取締役会の在り方と,これからのコーポレート・ガバナンスにおける取締役会の在り方として,先ほど野村先生がおっしゃったように最低限の型というのでしょうか,これを日本の法律として監査役会設置会社においても取締役会というのはそういう緊張感のある意思決定をしている場であるというメッセージを発信するためにも,そういう制度を作っておけばよろしいのではないかと思った次第です。   したがいまして,従来はここまで来ているのだから法律で強制するまでもないのではないかという立場からずっと発言していたわけですが,逆に,先ほど青野関係官がおっしゃったように,支障がないならば,むしろ強調していいのではないかと思います。そして,人材がいないというときにも,実は取締役会にはこういう人がいてくださいというメッセージであるということをうまく説得すれば,その業界に精通していない,迅速性においてちょっと待てと,いや私を説得しろと,こういうことがあっていいのではないかと思った次第です。   ですので,従来の消極意見からむしろ積極意見の方に変わったということです。発言をためらっていたのですが,野村委員の方向性が変わったということでちょっと意を強くして申し上げた次第です。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,藤田委員,加藤幹事の順でお願いします。藤田委員,どうぞ。 ○藤田委員 これまで私は,この問題について,かなり強く消極論を申し上げてきておりまして,その意見は変わりません。変わらないので,今日は余り申し上げないでおこうかと思ったのですが,今日聞いた意見の中で抵抗を覚えるものを幾つか耳にしましたので,若干申し上げたいと思います。   まず第一に,影響を受ける会社が少ないから問題がないという議論の仕方は良くないと思います。私は,現在でも社外取締役の選任については過剰なコンプライアンスが生じているおそれというのは少なからずあると思っています。つまり,社外取締役を選任することが適切ではない理由を説明するコストが高過ぎるがゆえに,本来望ましいと思っていないにもかかわらず,社外取締役を形の上だけで入れて,コストの高い説明を避けるということが行われている可能性が少なくないのではないかという疑念は持っています。   この点については実証できているわけでありませんので,強くは言いませんけれども,そういう可能性があるとすれば,過剰なコンプライアンスが起きていないか,ひいては本来望ましくない会社についても社外取締役が選任されているということはないかをもう少し時間を掛けて検証すべきだったように思います。何ら検証しないまま進むことには,いまだに疑念があると思っています。   次に,現在非常にたくさんの会社がコンプライしているとしても,現在のルールを維持するなら,将来,社外取締役を入れることの影響,違ったタイプの取締役会を選択した場合にどうなるかということについて投資家の認識が変わったりしますと,各会社の選択が変わってくる可能性があります。そのことを防止するための恒久的保障が必要だという意見を耳にしたのですが,それは逆に言うと後戻りができないルールをここで選択するということです。先ほど申し上げたとおり,裏付けとなる十分なデータがない状態で本当にそういうことをするのが望ましいのか。過剰なコンプライアンスの可能性がない,そして社外取締役の選任が良い効果をもたらしていると確実に言えるのであれば,そうすればよろしいのですけれども,そこのところを検証しないまま,今,直ちに後戻りができないようなルールを導入することにはちゅうちょを覚えます。   以上申し上げましたとおり,今日出た意見の幾つか,つまりもうここまでたくさん社外取締役が入っているから影響を受けるのはごく僅かな会社ではないかという議論と,恒久的保障のためにハードローでルールを導入すべきであるという議論には違和感を禁じ得ず,非常にリスクのある選択をしようとしている可能性があるという疑念を持っています。   その上で,先ほど田中幹事がおっしゃいましたが,仮にこの強制するというルールを採るというのでれば,法制審議会会社法制部会がどういう認識でそれをしたかということをはっきりさせないままでは,やや無責任ではないかと思います。社外取締役の選任を強制する論理としては大きく分けると二つのものが考えられます。一つは企業価値への影響に着目しつつ,社外取締役の導入ということについてはシステマティックに過小な方向にゆがむおそれがある。過剰なコンプライアンスという話はもう大きい問題ではなくて,個社の判断は,社外取締役を入れないという方向にゆがむリスクがあって,そこを防ぐための恒久的保障として選任を強制するルールを法律で入れたのだという説明です。もう一つ別の説明の仕方は,本日もそれに近い意見を聞いた気がしますが,個社の企業価値がどうこうということではなくて,日本の資本市場に対する信頼といったようなマクロな観点から,どなたかの表現によると型を作ってメッセージを発信するために法律による強制が必要だというものです。私は,いずれの説明にも違和感を持ちますけれども,ただ,もし導入するというのであれば,どういう発想で社外取締役の選任強制を正当化しようとしているのか,なぜ法律による強制を選択したかということについては,明らかにしないまま決定することは望ましくないと思うので,そこだけははっきりさせていただければと思います。そしてその際に,社外取締役の持ち得るメリットを掲げても,それだけでは決して説明になっていないことには留意すべきです。選任をハードローという形で全ての会社に強制することを今回する積極的な説明というのをきっちりしていただければと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   加藤幹事,どうぞ。 ○加藤幹事 ありがとうございます。   2点コメントをさせていただきます。   1点目は,社外取締役の選任の義務付けをするとした場合のその理由付けについてです。現在既に多くの会社が導入しているということだけではなくて,義務付けの対象にはこれから新しく上場する会社も含まれることを意識した説明が必要だと思います。   結局,監査役設置会社についても社外取締役1名の選任を義務付けるということは,社外者3名を用意しないと監査役会設置会社という形では上場できないということになります。そういう効果もあるということを意識した上で,それでもやはり義務付けが必要であるということを説明する必要があると思います。   2点目は,義務付けの方法についてです。ただ単に取締役の選任に関する規定に社外取締役を1名選任しなければならないという条文を加えるだけでよいのかということを,今後は考える必要があると思います。   先ほどの別の委員の方の御意見に関連しますが,例えば,社外取締役が欠けた場合にどのような法的効果が発生するのか,取締役会を開くことすらできなくなるのでしょうか。仮に,後任の社外取締役を選任するための取締役会すら一時社外取締役の職務を代行する者を選任しなければ開けないのであれば,そこまでする必要があるのか非常に疑問があります。   さらに,社外取締役を欠く場合には取締役会すら開催できないとすると,社外取締役が欠席すると取締役会を開催できなくなるはずであるから,その場でされた決定は取締役会の決議としては無効になるのかといった問題も出てきます。社外取締役の選任を義務付けるということは,単に1条その条文を加えるだけではなくて,いろいろと検討しなければいけない課題があると思います。個人的には,監査役設置会社に対して選任が義務付けられる社外取締役は,監査等委員会設置会社の社外取締役と指名委員会等設置会社の社外取締役とは位置付けが異なり,取締役会の単なる一人の構成員として扱うべきと現時点では考えております。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   大分たくさん御意見いただきましたけれども,ほかにいかがでしょうか。あとはよろしゅうございますでしょうか。   それでは,次へ進ませていただきたいと思います。   部会資料24の第3につきまして,事務当局から説明をお願いいたします。 ○藺牟田関係官 それでは,部会資料24の「第3 取締役等の欠格条項の削除に伴う規律の整備」について御説明いたします。   本文においては,これまでの当部会における議論等も踏まえ,取締役等の欠格条項の削除に伴う規律の整備として,部会資料22の1,2のような規定を設けることを御提案しております。   なお,欠格条項を削除する場合には,取締役等がその在任中に保佐開始の審判を受けたとしても,取締役等が保佐開始の審判を受けたことは取締役等の終任事由とならないことから,取締役等が後見開始の審判を受けた場合とは異なり,当該取締役等が当然にその地位を失うことはないことになります。   そのため,当部会においては,保佐開始の審判を受けたことを取締役等の終任事由とする旨の規定や,取締役等が保佐開始の審判を受けたときは,保佐人の同意を得なければ,その地位を失う旨の規定を設けることを検討すべきであるという御意見がありました。   しかし,民法において,後見開始の審判を受けたこととは異なり,保佐開始の審判を受けたことは委任の終了事由とはされておらず,委任契約の締結後に受任者が保佐開始の審判を受けたとしても。委任契約は終了せず,受任者は,保佐人の同意を得なくとも事務処理を継続することができることとされていることを考慮しますと,保佐開始の審判を受けたことを取締役等の終任事由とする旨の規定等を設けることの必要性や許容性については,慎重に検討する必要があると考えられます。   保佐開始の審判を受けたことを取締役等の終任事由とする旨の規定等を設けないものとするとしても,取締役等が在任中に保佐開始の審判を受けた場合には,取締役等への就任の効力は確定的に生じており,就任承諾を取り消すことはできないため,就任承諾が取り消されることによって当該取締役等が既に行った職務執行の効力が覆されることはありません。   また,部会資料22の2のような規定を設けるものとすれば,個々の職務執行の効力が行為能力の制限を理由に事後的に覆されることもありませんので,取引の安全に対する影響は大きいものとはならないと考えられます。   また,取締役等は,いつでも辞任することができ,心身の故障により客観的に職務遂行に支障を来すような状態になった場合には,損害賠償義務を負わないと考えられるため,現行法の規律によっても,被保佐人本人の保護に欠けるところはないと考えられます。   さらに,取締役は善管注意義務の一内容として,他の取締役の業務執行を監視する義務を負っていると解されますので,必要に応じて他の取締役の心身の状態を把握しなければならず,特定の取締役が心身の故障により職務の執行に支障を来すような状態になったことを知った場合には,その取締役の解任のため株主総会を招集したり,一時取締役の選任の申立てをするなどの措置を講ずることが求められると考えられます。   このような方法によって,取締役や株主は,保佐開始の審判を受けた取締役等がその地位にとどまることの当否を判断することが可能です。   以上のことから,保佐開始の審判を受けたことを取締役等の終任事由とする旨の規定等は設けないものとすることを御提案しております。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,御質問,御意見,いかがでしょうか。   松井幹事,どうぞ。 ○松井幹事 ありがとうございます。   今回頂いた案の中で,保佐開始の審判の効果につきましては,これは任意後見においてできることの並びというふうに考えますと,必ずしも当然に終任というふうにならないという制度が存在するということ自体は,それは一つの整理としてあるかなと思います。   ただ,この制度というのが,例えば,今のように終任事由にならないというふうにしますと,任意後見とか保佐の段階で止まってしまって,その先,成年後見などに進んでいかないというような使い方をする,そこで,そういったところで止まってしまうという人が出るというのは,やはり問題があるのかなと思っておりまして,業務執行に支障が出た場合のストッパーとしては,部会資料24の9ページの最後の「さらに」から後ろのところに取締役ないし株主がストップを掛けるのだと説明されているわけですけれども,必ずしも実情としては代表取締役を押しとどめることができる有力な取締役であるとか少数株主というものがいるかどうかということに問題があるかなというふうに思っておりまして,本当は,これ会社法がやるべき話ではないのかもしれないのですけれども,こういった任意後見とか保佐の網に引っ掛かってきた人がある程度の段階に進んだときに,その先,成年後見の方に入っていくであるとか,そういった移行がしやすいような制度というのを作っておくというのが必要かなと思います。   これは,実際にはかなり難しいのかもしれないのですけれども,ただ現行の制度で,もしそういったところを阻害するような要件立てみたいなものがあれば,それは少し解釈などを見直す余地があるかなと思っております。   保佐の場合には,新しく成年後見の開始の審判請求をするという手続で移っていくと思うのですけれども,任意後見の話の中で,任意後見の法律の中では10条というところに,法定後見に移る場合に,本人の利益のため特に必要があると認める場合にのみ,この移行を認めるというような条文があったりいたしまして,本人の利益といいますか,会社を経営することで社会に迷惑を掛けないといったような観点が加わってきた場合に,この10条をどう運用するかとか,ちょっと細かいところでいろいろ解釈に影響があるところはあるかと思いますので,こういった点の手当てなども併せてお願いをしたいと思います。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   齊藤幹事,どうぞ。 ○齊藤幹事 ありがとうございます。   今回は,被保佐人の話が取り上げられておりますので,本来は前回申し上げるべきことだったのかもしれないのですけれども,取締役が被後見人になった場合につきまして,一点だけ発言を追加させていただきたく存じます。取締役が被後見人になった場合は,委任の終任事由に当たり,引き続き取締役として活動したい場合には,改めて選任し直してもらう,その場合には,本人の同意を得て,後見人の承諾も要るという,そういう仕組みになっているということであったかと存じます。この間,すなわち終任になってから再任につき同意・承諾を得るまでの間はその者は取締役ではないことになりますが,その間のブランクは必ずしも外部の者には明らかではないので,外観と実態が乖離し,取引の安全もおびやかされます。そのため,そのブランクはなるべく少なくするとともに,実態と外観,具体的には実態と登記がなるべく一致することが望ましいと思われます。法律の条文で直接手当てできることではないかもしれませんけれども,後見人のお仕事の一つとして,その辺りを手当てできないかも含めて,制度設計を御検討いただけたらと思います。つまり,被後見人が取締役であった場合には,その後は取締役はやらないのか,それとも直ちに承諾を与えて引き続きまた再任されるべきかというところを,後見人がきちんと判断をした上で,実態が速やかに登記に反映されるような制度的手当てをしてもらえますと,登記を通じた取引の安全というのも図られやすいのではないか。その再任があったのか,就任承諾があったのかもよく分からない状態で長い間放っておかれるという状態が余り続かないような手当てをしていただければと思います。   もう一つ,これは純粋な質問で,これまでの議論に挙がっていたかもしれない点の確認でもあるのですが,就任のときには本人の同意を得て,後見人が承諾するという形になっているのですけれども,辞任については,後見人単独の判断で,例えば,認知症の状態が進んできたので,もうこれ以上はこの職はさせられないだろうということで,後見人の判断限りで代理人として被後見人を辞任させることは,できるということでよろしいのでしょうか。 ○竹林幹事 私どもとしましては,後見人に代理権があるので,辞任させることはできるのではないかと考えております。 ○齊藤幹事 ありがとうございます。 ○神田部会長 よろしゅうございますでしょうか。   ありがとうございました。   それでは,ほかにいかがでしょうか。   梅野幹事,どうぞ。 ○梅野幹事 部会資料24の8ページの枠内の2ですけれども,成年被後見人等が取締役等としてした行為は,行為能力の制限によっては取り消すことができないものとする規定を設けるものとすることでどうかという点について,念のための質問をさせてください。   この点については部会資料22も御説明がございまして,そこの2ページを拝見しますと,成年後見人による就任承諾をするプロセスを御提案された上で,その後,成年被後見人等は就任承諾や個々の職務行為を取り消すことができなくなり,通常の取締役等と同様の義務等を負うことになるといった記載がございました。   通常の取締役等と同様の義務を負うということに関し,疑問が出てきたので確認させていただきたいのですが,責任については前の部会資料22の最後のページに,責任能力について,民法第713条が会社法上の責任に適用があるかについては解釈に委ねられているという記載がございました。   ですから,以下の質問についても同様のことだろうと思いますが,善管注意義務違反の場合に加えて,会社法第429条の対第三者責任,あるいは第350条の前提としての不法行為責任,さらには,取締役として不法行為をした場合の責任といった問題があり得るわけですが,これらについても,今回の改正のスコープには入っているわけではなく,引き続き解釈に委ねられるということかと思いますが,その理解で良いかを確認させてください。   このような質問をさせていただくのは,いろいろな実務の中で,例えば取締役が1名で,その取締役についてかなり認知症が進んでしまったような事案において,その成年後見人が本人の同意を得た上で就任承諾をしたような場合,結局無答責の会社というのができてしまうのではないかといった懸念がありましたので,その辺をどう考えていくべきか,その前提としてお伺いさせていただく次第です。   もう1点は,今日配布された部会資料24の9ページのところですが,「さらに」から始まる段落で,業務執行を監視する義務の現れとして,株主総会を招集したり一時取締役の選任の申立てをしたりといった措置を講じることが求められるといった記載がございます。確かに,一時取締役の選任については裁判所も心身の故障のような場合に認めているようです。前にも発言したことがありますが,オーナー会社で大株主であるオーナーが認知症などになってしまった場合,オーナーが被保佐人であるときは,株主総会を開いても果たして解任ができるのかといった問題があるように思います。いろいろ突き詰めていくと,そういった場合の手当ても考える必要があるのかと思いましたので,発言させていただきました。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   御質問があったと思いますので,事務当局から御回答をお願いします。 ○竹林幹事 御質問いただいた1点目の方は,御指摘のとおり解釈に委ねられると考えております。   2点目の方は,私どももなかなか難しい問題かと思っているのですけれども,後見開始や保佐開始の審判があった場面に固有の問題ではないという認識をしておりまして,その観点からの手当てというのはなかなか難しいのかなという理解でございます。 ○梅野幹事 ありがとうございます。 ○神田部会長 ほかにいかがでしょうか。大体よろしいでしょうか。   それでは,ほかに御意見等はなさそうですので,本日はこの辺りということにさせていただければと思います。   それで,次回の日程等について,事務当局から説明をしていただきます。 ○竹林幹事 次回でございますけれども,8月29日水曜日午後1時30分から午後5時30分まで,法務省20階の第1会議室で予定をさせていただいております。   次回におきましては,会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する要綱案のたたき台をお示しした上で,そのたたき台について御審議をお願いしたいと考えております。 ○神田部会長 どうもありがとうございました。   それでは,法制審議会会社法制(企業統治関係)部会第15回目の会議をこれにて閉会させていただきます。   本日も大変熱心な御審議を頂きまして,どうもありがとうございました。   散会いたします。                            ―了―