法制審議会 第182回会議 議事録 第1 日 時  平成30年10月4日(木)   自 午後2時00分                         至 午後2時49分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  民事執行法の改正に関する諮問第102号について 第4 報告事項 戸籍法部会における審議経過に関する報告について 第5 議 事  (次のとおり) 議        事 ○福原司法法制課長 ただいまから法制審議会第182回会議を開催いたします。   本日は,委員20名及び議事に関係のある臨時委員1名の合計21名のうち18名に御出席いただいておりますので,法制審議会令第7条に定められた定足数を満たしていることを御報告申し上げます。   初めに,法務大臣挨拶がございます。 ○山下法務大臣 この度法務大臣に就任いたしました山下貴司でございます。法制審議会第182回会議の開催に当たり,一言御挨拶を申し上げます。   委員及び幹事の皆様方におかれましては,御多用中のところ本会議に御出席いただき,誠にありがとうございます。また,この機会に法制審議会の運営に関する皆様方の日頃の御協力に対し,厚く御礼を申し上げます。   さて,本日は御審議をお願いする議題が一つ,部会からの報告事項が一つございます。まず,御審議をお願いする議題は,平成28年9月に諮問いたしました民事執行法の改正に関する諮問第102号についてでございます。この諮問につきましては,民事執行法部会において調査,審議が行われた結果,要綱案が取りまとめられ,本日山本和彦部会長から御報告がされるものと承知しております。   この諮問は,民事執行手続をめぐる諸事情に鑑み,債務者財産の開示制度の実効性を向上させ,不動産競売における暴力団員の買受けを防止し,子の引渡しの強制執行に関する規律を明確化するなどの必要があることから行ったものであり,民事執行法部会においてもこれらの議題について精力的に調査,審議をしていただいたものと伺っております。委員の皆様方には慎重に御審議の上,速やかに御答申くださいますようお願い申し上げます。   次に,部会からの報告事項は,戸籍法部会における部会審議の途中経過でございます。戸籍法部会におきましては,平成29年9月の諮問以降,精力的な調査,審議が行われ,中間試案の取りまとめ,パブリックコメントの手続を経て,現在は要綱案の取りまとめに向けて審議を進められていると伺っております。本日はこれまでの審議の経過について同部会の窪田充見部会長から報告がされるということでございますので,これに関しましても委員の皆様方からの御意見を伺いたいと存じます。   それでは,これらの議題等についての御審議,御議論をどうぞよろしくお願い申し上げます。 ○福原司法法制課長 法務大臣は公務のため,ここで退席させていただきます。           (法務大臣退室) ○福原司法法制課長 ここで,報道関係者が退室しますので,しばらくお待ちください。           (報道関係者退室) ○福原司法法制課長 では,井上会長,お願いいたします。 ○井上会長 井上でございます。本日もよろしくお願いいたします。   まず,前回以降,本日までの間に新たに就任された委員の方がおられますので,御紹介させていただきます。最高検察庁次長検事の堺徹さんが委員に御就任になりました。どうぞよろしくお願いします。 ○堺委員 次長検事の堺でございます。どうぞよろしくお願いします。 ○井上会長 それでは,早速ですが,審議に入ります。   ただいまの法務大臣の御挨拶にもございましたように,本日の議題である民事執行法の改正に関する諮問第102号について御審議をお願いしたいと存じます。   初めに,民事執行法部会における審議の経過及び結果につきまして,同部会の部会長を務めていただきました山本和彦臨時委員から御報告いただきます。   それでは,お願いします。 ○山本部会長 民事執行法部会の部会長を務めさせていただきました山本でございます。   本部会では,平成28年9月の諮問第102号について約1年9か月にわたって調査,審議を重ねてまいりましたが,本年8月31日に開催された第23回会議におきまして民事執行法制の見直しに関する要綱案を決定いたしましたので,本日はその概要等について御報告をさせていただきます。   諮問第102号は,今,法務大臣からの御挨拶にもございましたが,民事執行手続をめぐる諸事情に鑑み,債務者財産の開示制度の実効性を向上させ,不動産競売における暴力団員の買受けを防止し,子の引渡しの強制執行に関する規律を明確化するなど,民事執行法制の見直しを行う必要があると思われるので,その要綱を示されたいというものでありました。これを受けて民事執行法部会が設置され,これまで審議を行ってまいりました。この部会における審議の途中経過につきましては,平成29年,昨年9月の第179回法制審議会総会におきまして中間報告をさせていただきましたが,本日は改めて要綱案の決定に至るまでの審議経過を簡単に御説明した上で,最終的に取りまとめました要綱案の概要について御報告をさせていただきます。   まず,審議経過の概要でありますが,民事執行法部会では第1回会議を開催しました平成28年11月から平成29年9月までの間,各論点について調査,審議を重ね,民事執行法の改正に関する中間試案を取りまとめ,平成29年9月から11月までの間,パブリックコメントの手続を行いました。その後,パブリックコメントに寄せられた意見等も踏まえて更に調査,審議を行い,平成30年6月には国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律の改正に関する試案,追加試案と呼んでおりますが,これを取りまとめて,この追加試案についてもパブリックコメントの手続を行いました。その後,追加試案についてのパブリックコメントに寄せられた意見も踏まえて更に調査,審議を行いましたが,このような審議経過を経て,本年8月31日の会議において全会一致で要綱案を決定するに至ったものであります。   それでは,次に,その要綱案の中身,概要について御説明を申し上げます。基本的には項目番号の第1から順に,重要な改正項目を中心に適宜ポイントを絞って御説明をいたします。   まず,要綱案の1ページの「第1 債務者財産の開示制度の実効性の向上」についてでございます。勝訴判決などを得た債権者のために債務者財産に関する情報開示を行う制度としては,平成15年の民事執行法改正で財産開示手続というものが創設されていますが,その利用実績を見ますと年間1,000件前後と低調なものであり,債務者財産の開示制度の実効性を向上させる必要があるという指摘がされております。   そこで要綱案では,これは第1の2の部分に当たりますが,現行の財産開示手続に加え,新たな制度として債務者財産に関する情報を債務者以外の第三者から取得する手続を新設することとしております。部会では制度の対象とする第三者と情報の範囲をどのように定めるかなどが議論されましたが,最終的には,銀行などの金融機関から債務者の預貯金債権等に関する情報を取得する制度のほか,一定の公的機関,具体的には登記所から債務者の所有する土地建物に関する情報を取得する手続,更に市区町村や日本年金機構等から債務者の勤務先に関する情報を取得する手続を新たに設けることとしております。   これに加えて,第1の1の部分ですが,現行の財産開示手続についても見直しを図り,これをより利用しやすく実効的な制度にするという観点から,申立てに必要とされる債務名義の種類を拡大して,申立権者の範囲を拡大するとともに,財産開示期日における債務者の不出頭などに対する罰則を強化することとしております。   続きまして,要綱案の6ページ以下の「第2 不動産競売における暴力団員の買受け防止の方策」についてでございます。近時,公共事業や企業活動などからの暴力団排除の取組が官民を挙げて行われておりますが,現行法上,民事執行法による不動産競売では,暴力団員であることのみを理由としてその買受けを制限する規律は設けられておりません。このため,平成29年の警察庁の調査によれば,全国約1,700か所に所在する暴力団事務所のうち約200か所については,その物件が不動産競売の経歴を有しているということが判明しており,対策を講ずる必要性が指摘されているところであります。   そこで,要綱案では,暴力団員及び暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者のほか,更に法人で,その役員のうちにこれらの者がいるものなどが不動産競売における買受人となることを制限することとしております。具体的には,執行裁判所が原則として,最高価買受申出人につき,先ほど申し上げましたような暴力団員等に該当するか否かの調査を警察に嘱託し,その回答を踏まえ,最高価買受申出人が暴力団員等に該当すると認められれば売却不許可の決定をすることとしております。また,より確実に暴力団員からの買受けを防止するなどの観点から,全ての買受申出人に対し,暴力団員に該当しないことなどを陳述させるとともに,虚偽の陳述には刑事罰による制裁を加えることとしております。   続きまして,7ページ以下の「第3 子の引渡しの強制執行に関する規律の明確化」と,それから,これに関連しているものとして,12ページ以下の「第6 国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に基づく国際的な子の返還の強制執行に関する規律の見直し」について,この二つの部分が密接に関連をしておりますので,併せて御報告を申し上げます。   国内の子の引渡しの強制執行については,現行の民事執行法に明文の規定がなく,現在の実務では,平成25年に整備されたいわゆるハーグ条約実施法の規律も参考にしながら,動産の引渡しの強制執行に関する規定の類推適用による運用がされてきました。そのため,子の引渡しを命ずる裁判の実効性を確保するとともに,子の福祉に十分な配慮をするなどの観点から明確な規律を整備すべきであるとの指摘がされております。   そこで,要綱案では第3として,国内の子の引渡しの強制執行につき,執行裁判所が執行機関となり,執行官に子の引渡しを実施させる旨の決定をし,これに従って執行官が執行場所に赴き,債務者による子の監護を解いて債権者に引き渡すという規律を設けることとしております。このような子の引渡しの直接的な強制執行については,子の心身に与える負担が間接強制に比べて大きいと考えられることから,直接的な強制執行の申立てをすることができる場面を間接強制を実施しても債務者が子の監護を解く見込みがあるとは認められない場合など,一定の必要性がある場合に限ることとしております。また,現在の実務では,現行のハーグ条約実施法を参考にして,執行の現場に子と債務者が共にいること,いわゆる同時存在を執行の条件とする運用がされておりますが,要綱案ではこれを不要とする一方,子の利益に配慮する観点から債権者の出頭を原則として必要とすることとしております。   このような形で国内の子の引渡しの強制執行に関する規律をより実効的なものにすることに伴い,要綱案では第6として,国際的な子の返還の強制執行に関する規律につきましても,これと同様の規律を採用することとしております。具体的には,現行のハーグ条約実施法に規定されている間接強制の前置や子と債務者の同時存在の要件をいずれも不要とし,国内の子の引渡しの強制執行と同様の規律を設けることとしております。   引き続きまして,10ページ以下の「第4 債権執行事件の終了をめぐる規律の見直し」について御報告をいたします。現行の民事執行法では,債権執行事件は申立人からの取立ての届出や申立ての取下げがない限り終了しないため,申立人が届出等をせずに漫然と事件を放置し続けていることがあり,その結果,第三債務者や執行裁判所の負担の増加や,請求債権の消滅時効が進行しないといった不都合が生じていると指摘されております。そこで要綱案では,債権執行事件が長期間にわたって放置されている場面,具体的には,申立人がその取立てが可能となった日から2年以上にわたって取立ての届出等をせずに事件を放置している場合には,執行裁判所が,職権で差押命令を取り消すことができるということにしております。   最後に,11ページ以下の「第5 差押禁止債権をめぐる規律の見直し」でございます。現行の民事執行法は,差押えにより債務者の生活が困窮することを防止するため,給与等の債権については原則としてその4分の1に相当する限度でのみ差し押さえることができるものとしております。もっとも,このような規定による差押禁止債権の範囲は画一的に定められたものですので,具体的な事案によっては,給与等の4分の1が差し押さえられることによって債務者が最低限度の生活を維持することができなくなるという事態もあり得ます。現行の民事執行法は,具体的な事案に応じた不都合を回避するため差押禁止債権の範囲の変更という制度を設けておりますが,現状ではこの制度の存在が十分に認識されていない上,差押命令の送達から1週間を経過すると差押債権者による取立てが可能とされているため,債務者がこの変更の申立ての準備をしている間に差押債権者による取立てがされてしまうといった不都合が生じ,この制度が余り活用されていないという指摘がございます。   そこで要綱案では,裁判所書記官が,債務者に対し,差押禁止債権の範囲の変更の手続を教示するものとしております。また,給与等の差押えによる債務者に与えるダメージが大きいという点に着目して,債務者が差押禁止債権の範囲の変更の申立てをする機会をより実質的に保障するため,給与等の債権が差し押さえられた場面においては,差押命令の送達から差押債権者による取立てが可能となるまでの期間を現行の1週間から4週間に延長するなどとして,債務者の変更の申立ての機会を確保するという措置をとっております。   民事執行法制の見直しに関する要綱案の概要は以上のとおりでございます。よろしく御審議のほどをお願い申し上げます。 ○井上会長 ありがとうございました。   それでは,ただいまの御報告及び要綱案の全般につきまして御質問及び御意見を承ることにしたいと思いますが,一応,2段階に区切りまして,まず,ただいまの御説明及び要綱案について御質問がおありの方は,挙手の上,御発言をお願いしたいと思います。   特に御質問はございませんか。   それでは,御意見を承ることにしたいと思いますが,御意見のある方はどなたからでも御発言をお願いします。 ○神津委員 ありがとうございます。民事執行法につきましては,今御説明があったとおりですけれども,およそ2年近くにわたって議論され,取りまとめられたということであります。部会長を始めとした関係者の皆様に敬意を表しておきたいと思います。テーマは多岐にわたるわけですけれども,民事執行手続について指摘をされてきた課題に一定程度応えるものと理解をしております。是非早期に法案の提出をしていただきたいと思います。   その上でありますけれども,運用に当たり,特に子の引渡しの強制執行につきましては,国内であっても国境を越える場合であっても子供の福祉に対する配慮が適切に行われるようにしていくことが必要だと思います。裁判所の課題かもしれませんが,子供の問題については予算を十分に確保し,引渡しに当たって必要なケースにおいて児童心理の専門家が関与できるようにしていただきたいと思います。 ○井上会長 ありがとうございました。   ほかに御意見がおありの方は。 ○竹之内委員 全員一致で部会でお決めいただいたということで,私も敬意を表しております。調整にはいろいろ大変だったと思いますけれども,何とかここで全員一致というところまで行ったということでございますので,私も心から賛成をいたしたいと思います。 ○井上会長 ありがとうございました。 ○早川委員 私も,部会長を始め部会の皆様の御活動・御尽力に敬意を表したいと思います。ハーグ条約実施法に基づく子の返還の強制執行の問題もこの部会の課題として取り上げていただき,このような案を作っていただいたことに対して,私は大変有り難いと考えております。ハーグ条約の実施後,何年か経ちましたけれども,強制執行がなかなかうまくいかないことが条約運用上の一つの大きな問題であると認識されております。したがって,今回の部会において,国内の子の引渡しに関して強制執行制度を整備したのに併せてハーグ条約に関する強制執行についてもこのように整備がなされたことは,大変結構なことだと考えております。今,神津委員からもお話がありましたように,これは子の福祉に関連する問題ですので,執行の実施に当たって細心の注意が必要なことは確かでございますけれども,裁判所が出した裁判が確定したにもかかわらず,それが実行されないということは,やはり大きな問題だと考えておりますので,今回一歩前進したこの仕組みを使って,裁判所が出した命令が必ず実現されるという方向へ事態が進むということを期待しております。今回の改正によってハーグ条約上の子の返還命令の裁判が完全に実現できるようになるかどうかについては,いろいろ議論の余地があろうかと思いますが,今回のこの改正による効果を見た上で,もし必要であれば,刑事罰の導入など他の方策も考えるということで,更に進めていただきたいと考えております。どうもありがとうございました。 ○井上会長 ありがとうございます。 ○佐久間委員 ありがとうございます。まず,一口に民事執行法の改正と言っても非常に中身は多岐にわたっているということで,御検討いただいたことに感謝申し上げたいと思います。その上で,本当に中身はかなりいろいろなイシューにわたっていますので,今回はこういうことで是非お願いしたいと思いますけれども,今後ということについて言うと,例えばこの不動産競売,これに関わるものというのは,私の感覚で言えば余り議論がなくもっと早く法案化すべきものであったのではないかと。先ほど御説明があったように,既に問題というのは生じているということですから,民事執行法として一本で検討すると時間が掛かるというのは非常に分かるのですが,必要なものはもうそれ単独で法案化していくということも検討すべきではないかと思います。 ○井上会長 ありがとうございました。   ほかに御意見はございませんでしょうか。よろしいですか。   それでは,審議が尽きたと理解させていただき,採決に移りたいと思いますが,御異議ございませんでしょうか。           (「異議なし」の声あり) ○井上会長 御異議はないようですので,諮問第102号につきまして,民事執行法部会から報告されました要綱案のとおり答申することに賛成の方は挙手をお願いしたいと存じます。           (賛成者挙手) ○井上会長 ありがとうございます。それでは,ただいまの採決について事務当局から報告していただけますか。 ○福原司法法制課長 一応確認させていただきます。拝見させていただきましたけれども,議長,それから部会長を除くただいま出席の皆様,全員賛成ということでございましたので,全ての委員が賛成されたということでございます。 ○井上会長 ただいま福原課長から御報告があったとおり,採決の結果,本日御出席の皆様全員が賛成ということでございましたので,民事執行法部会から報告された要綱案は原案のとおり採択されたものと認めます。   採択されました要綱につきましては,会議終了後,私から法務大臣に対し答申させていただきます。山本部会長におかれましては,1年9か月にわたり,多岐にわたる論点につきまして調査,審議を尽くし,意見を取りまとめていただきまして,本当にありがとうございました。   本日の議題は以上ですけれども,引き続き,現在調査,審議中の部会から,その審議状況を報告していただきます。   本日は戸籍法部会の部会長である窪田充見臨時委員にお越しいただいておりますので,同部会における審議状況等を御報告していただき,その後,委員の皆様からの御質問,あるいは御意見をお伺いしたいと存じます。   それでは,御報告をお願いします。 ○窪田部会長 戸籍法部会の部会長を務めております窪田でございます。どうぞよろしくお願いいたします。   私からは,戸籍法部会におけるこれまでの審議状況につきまして御報告をさせていただきます。お手元の配布資料民2-1という戸籍法の改正に関する中間試案を御覧いただきながらお聞きいただければと思います。   マイナンバー制度は,複数の機関に存在する個人の情報が同一人の情報であるということの確認を行うための基盤であり,国民の利便性の向上や行政運営の効率化を図るため,行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律,いわゆるマイナンバー法に基づき,平成28年1月から運用が開始されております。マイナンバー法は平成27年10月から施行されておりますが,この法律の附則第6条において,施行後3年をめどとする見直しを行うこととされております。そして,各種閣議決定により戸籍事務をマイナンバーの利用範囲とすることについて検討が求められておりました。   これを受けて,昨年9月,法制審議会第179回会議において,法務大臣から戸籍法制の見直しに関する諮問が行われ,その調査,審議のため戸籍法部会が設置されました。この部会では平成29年10月から約1か月に1回のペースで,これまで合計9回の会議を開催いたしました。この間,本年4月20日の第6回部会会議におきまして戸籍法の改正に関する中間試案を取りまとめ,本年5月11日から6月11日までの間,事務当局においてパブリックコメントに付す手続を行いました。パブリックコメントの手続では50件の意見が寄せられております。部会においては本年6月以降,パブリックコメントの結果を踏まえ,更に調査,審議を行っており,本日はこれまでの調査,審議の内容について,中間試案とパブリックコメントの結果を中心に御紹介をさせていただきたいと思います。   中間試案を御覧いただきますと,全体として(試案前注),それから「戸籍事務に関する制度の見直しについて」の2部からなっております。中間試案の1ページから2ページまでの(試案前注)におきましては,戸籍事務へのマイナンバー導入に関し導入の前提となる戸籍事務の運営方法,システム形態等を示しております。法務省において構築した戸籍副本データ管理システムの仕組みを利用して,新たに戸籍情報連携システム,これは現時点では仮称でございますが,こうした戸籍情報連携システムを構築し,また,総務省が所管する情報提供ネットワークシステムを通じて他の行政機関に対して戸籍情報の提供を行うこと,さらに,戸籍事務内において他の行政機関と情報連携を実施するための情報を利用して,戸籍の届出をする際の戸籍証明書の添付を不要とすることなどを掲げております。   この点についてパブリックコメントでは,国民の負担軽減や行政事務の簡素化等の観点から賛成する意見がある一方,情報漏えいのリスクがあるなどとしてマイナンバー制度導入に反対する意見もあったところです。こうした意見を踏まえまして,今後の部会の調査,審議においては,戸籍情報とマイナンバーとを直接ひもづけない方策の検討を進めるとともに,情報漏えい等を防止するためのセキュリティー対策を更に検討することとしております。   次に,中間試案3ページ以降の「戸籍事務に関する制度の見直しについて」におきましては,戸籍事務にマイナンバー制度を導入するに当たって戸籍法を改正すべき事項について,第1から第6までに示しております。また,マイナンバー制度導入とは直接には関連しないものの,その他戸籍法の改正が必要となると考えられる事項について,第7から第9までを示しております。   まず,戸籍事務にマイナンバー制度を導入するに当たって戸籍法の改正を要する事項として,第1に,現在,全国ほぼ全ての市区町村において戸籍事務をコンピューターで取り扱っているところですが,現行戸籍法は紙での処理を前提とした規定となっていることから,実情に合わせて電算化を原則とする規定ぶりに変更すること,それから,第2におきましては,法務大臣が他の行政機関に対して情報提供するための情報を管理する根拠規定等を新たに整備すること,それから,第3におきましては,法務省において新たに構築する戸籍情報連携システムにおいて使用する文字情報についてコードや字形を統一すること,そして,第4及び第5において,市区町村職員及び法務局職員が連携情報を参照することによって戸籍事務を効率化する方法について示しております。そして,第6において,市区町村に提出される届出書類について電子化,保存して,国が管理するサーバに送信して情報の共有化を図ることによって,現在,市区町村の間で郵送で行っている届書の送付手続を省略することなどを示しております。   これらについては,パブリックコメントでは賛成する意見がある一方で,マイナンバー制度に反対する立場からの反対意見も寄せられております。このような意見を踏まえ,第4及び第5の連携情報の参照については,参照する権限を有する職員や参照できる情報の範囲,不正な情報参照を防止する方策について引き続き検討することとしております。また,第6の戸籍届書類の電子化については,戸籍の記載を要する届書に限り電子化する案を掲げておりましたところ,パブリックコメントにおいては,戸籍の記載を要しない外国人のみを当事者とするような届書についても電子化すべきとの意見が寄せられております。これを踏まえて,このような届書の電子化等の要否についても検討することとしております。   次に,第7から第9までにおいては,マイナンバー制度導入とは直接関連しないものの,その他戸籍法の改正が必要と考えられる事項を掲げております。   まず,第7として,戸籍の届出人等に対して市区町村職員や法務局職員が質問すること,あるいは文書の提出を要求することができる旨の規定の新設を掲げております。これに対しては,調査方法や調査範囲等が不明確であるとする意見があることから,調査の方法や範囲等をより明確化する方向で検討することとしております。   第8として,戸籍訂正手続を明確化すること,具体的には戸籍の記載や届書等の書類から訂正すべき事由が明らかであると認められる場合には,市区町村長の職権により戸籍の訂正ができることを明文化することなどが掲げられております。これに対してはおおむね賛成する意見が多いものの,職権訂正をどのように規定するかについては賛否が分かれるところですので,規定ぶりについても引き続き検討することとしております。   最後に,第9として,死亡の届出をする資格者として,現在,任意後見人は届出資格を有するものの任意後見受任者については届出資格を有していないことから,新たに任意後見受任者についても死亡届出の資格を付与することについて掲げられております。これについてはおおむね賛成の意見で一致しているところです。   なお,パブリックコメントに寄せられた意見の中には,中間試案に掲げられた論点以外にも幾つか意見が寄せられております。これらの意見のうち,相続への対応や,戸籍証明書を本籍地以外の市区町村でも発行する,いわゆる広域交付でございますが,これについては要望が多く寄せられたことから,今後の部会において論点として取り上げて検討することとしております。   先ほど申し上げましたとおり,幾つかの箇所についてはなお意見が分かれている状況ではございますが,パブリックコメントの結果も踏まえ,また,皆様の御意見を十分に伺いながら,引き続き調査,審議を継続してまいりたいと考えております。   私からの御説明は以上でございます。 ○井上会長 ありがとうございました。   それでは,ただいまの窪田部会長からの審議経過の御報告につき,御質問あるいは御意見がございましたら御発言をお願いしたいと思います。 ○山根委員 御説明ありがとうございました。マイナンバーは個人の特定のためのものと思いますが,戸籍は個人でなくて親族の関係とか形を登録するものということで,また国籍も証明するものという大変重たいものですし,是非この先も慎重に議論をしていただきたいと思います。やはり,特に流出とか不正利用の問題は大変気になるところですし,そもそも戸籍というものが今の時代にどう役割を持つか等々,いろいろ御意見が聞こえてくるところもございますので,ここの導入に当たりましてはメリット・デメリットをきちんと踏まえて丁寧に議論を進めていただければと思います。 ○井上会長 ありがとうございました。 ○白田委員 御説明ありがとうございます。非常に重要な案件だと思っておりまして,前から注視させていただいておりました。前のときにも少々質問させていただいたのですが,例えば,今,納税に関してはマイナンバーを登録してマイナンバーの番号で納税をするという国税との連携がとられているところだと思います。一方で戸籍の話につきましては,今,御説明がありましたように,そもそも納税と連携しておりますと,相続税の申請などについてはマイナンバーからある程度の関係がトラッキングはできるのではないかと考えられます。それで,法務省として一番重要な,よく話題になります不動産登記の問題について,現行では不動産登記については住民票を添付するというような形で登記を行っておりますので,所有者が死亡した場合には,その状況は登記をしない限りトラッキングができないという状況になっているわけでございます。それで,実際にその所有者不明の不動産の問題は,住民票上は死亡届を出す,税務上は相続の申請をする,相続税を払うということになっていながら,不動産としての登記の方はそこの関係が切れているために,現在問題になっている所有者不明の不動産が多発しているという,これから先もそれが考えられる状況になっていると思われます。ですので,是非,不動産登記との,先ほど言いましたが,不動産登記は住民票を提出して登記をするわけですが,法務省が管轄している情報でもございますし,是非ともこれから先のそういう不明不動産が更に増えていく可能性を考えますと,どこかでこのマイナンバーか戸籍情報か,どこかとの連携を図っていただくことが国としての財産管理においても重要なことではないかと思いますので,是非部会の方で御検討いただければと思います。 ○小野瀬幹事 今,白田委員の方から不動産登記との関係についての御意見を承ったところでございます。この問題につきましては,委員御指摘のとおり,所有者不明土地問題の中で不動産登記とその所有者情報をどう連携させていくかということが議論されております。そちらの方は,所有者不明土地問題の一環として今後,検討していくということは,政府の中でもそういった方向が示されておりますので,この戸籍法部会は飽くまでも戸籍とマイナンバーとの連携導入ということで,更に次の不動産との連携につきましては,その所有者不明土地問題の一環として引き続き法務省としては検討してまいりたいと考えているところでございます。 ○白田委員 分かりました。ありがとうございます。一言付け加えますと,相続の問題と関係するのではないかと,つまり,戸籍上の関係が明確になることによって自動的に不明土地のことがトラッキングできるようになるのではないかと少し考えた次第です。今後の御検討をよろしくお願いいたします。 ○井上会長 では,その点は御意見として承っておくことにします。   ほかに御発言はございませんか。 ○内田委員 大変時宜を得たテーマを検討していただいて,結構だと思いますし,特に,戸籍とマイナンバーを直接ひもづけないための方策というのは,補足説明を拝見して,なるほどと思いました。大変苦心をしておられることには敬意を表したいと思います。私は,中身に関わらない全く些末な言葉使いだけの質問なのですが,「電算化」という言葉と「電子化」という言葉が混在していまして,違う意味で使っておられるのかどうか,あるいは,たまたまその言葉が使われた時期の問題,つまりタイミングとか経緯によって表現が違っているにすぎないのか,そこを教えていただければと思います。もし同じ意味であれば,わざわざ言葉を違える必要はないのではないかと思いました。ちなみに,法文にするときは関係ないということはよく承知しております。 ○窪田部会長 私の認識を申し上げさせていただきますと,違う言葉を使っていたということ自体十分に認識しておりませんでした。電子化,電算化というのは多分,そのときの時代,時代でも少し使い分けをというか,そのとき一般的に使っている言葉があり,それを踏まえたものかと思いますので,いずれが適切なのか,あるいは,そもそもどういう表現が適切なのかということも踏まえて,言葉使いについても改めてきちんと精査した上で,最終的な結論に向けて作業をしていきたいと思います。御注意を頂き,ありがとうございました。 ○井上会長 ほかに御意見はございませんでしょうか。   よろしいですか。それでは,御質問,御意見がございませんようですので,この件についてはこのくらいにしたいと思います。窪田部会長,どうもありがとうございました。引き続き部会において充実した審議をお願いしたいと思います。   予告した時刻より随分早いのですが,本日の会議はここまでとしたいと思います。ほかにこの機会に何か特に御発言がございましたら。   よろしいですか。それでは,ここまでとしたいと思います。   最後に,議事録について確認させていただきます。本日の会議における議事録の公開方法ですが,審議の内容等に鑑みて,私としましては,発言者名を全て明らかにする形で議事録を作成し,公開するということにさせていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。           (「異議なし」の声あり) ○井上会長 それでは,そのようにさせていただきます。   なお,本日の会議の内容につきましては,後日,御発言いただいた委員等の皆様に議事録案をメール等で送付し,内容を確認していただいた上で法務省のウエブサイトに公開するという,これまでどおりの取扱いとしたいと思います。   最後に,事務当局の方から何か事務連絡がありましたら。 ○小出関係官 それでは,次回の会議の開催予定について御案内申し上げます。   今回は事情によりまして10月の開催となりましたけれども,法制審議会は2月及び9月に開催するのが通例となっております。次回の開催につきましても,現在のところ来年2月に御審議をお願いする予定でございますが,具体的な日程につきましては後日改めて御相談させていただきたいと存じます。委員,幹事の皆様方におかれましては,御多忙とは存じますが,次回の御予定につきまして御配意いただきますようお願い申し上げます。 ○井上会長 これで本日の会議を終了させていただきます。   お忙しいところをお集まりいただき,熱心に御議論いただきまして,ありがとうございました。 -了-