法制審議会 少年法・刑事法 (少年年齢・犯罪者処遇関係)部会 第10回会議 議事録 第1 日 時  平成30年10月11日(木)   自 午後3時30分                          至 午後6時15分 第2 場 所  法務省1階東京保護観察所会議室 第3 議 題  1 少年法における「少年」の年齢を18歳未満とすること及び非行少年を含む犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事法の整備の在り方について         2 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○羽柴幹事 ただいまから法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会の第10回会議を開催いたします。 ○井上部会長 本日も御多用中のところお集まりいただき,ありがとうございます。   本日,武委員,くのぎ幹事,戸苅幹事は,所用のため欠席されておられます。   また,奥村委員は少し遅れて来られます。   それでは,初めに,事務当局から,本日の審議で用いる資料について説明をお願いします。 ○羽柴幹事 本日,参考資料として「部会第8回・第9回会議の意見要旨」を配布しております。   この資料は,本日の会議における意見交換の御参考としていただくため,事務当局の責任において各分科会から報告のあった制度・施策の概要ごとに,当部会第8回及び第9回会議での各委員・幹事の御意見の要旨をまとめたものです。   なお,当部会の第8回会議において配布いたしました配布資料19「分科会における検討結果(考えられる制度・施策の概要案)」及び参考資料「犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事の実体法及び手続法の整備-分科会における検討結果-」を机上に再度置いております。 ○山下幹事 今の参考資料のことで確認というか,今御説明いただいたとおりだと思うのですけれども,これは飽くまで今日の第2巡目の議論のために第1巡目の議論をまとめたものだと思うのですが,これだけをホームページ等に資料として発表していただくと,これまでずっと議論がなされ,取り分け分科会で詳細な議論がされているのですけれども,この資料だけを見ると,これだけの議論しかされていないように見えてしまうものですから,確かに表題には「部会第8回・第9回会議」と書いていますけれども,これは飽くまで1巡目の議論だけをまとめたもので,これまでの部会全部をまとめたようなものではないということが分かるように,その資料等を公表するときには御説明を付けていただければと思います。 ○井上部会長 タイトルが「部会第8回・第9回会議の意見要旨」となっており,これまでの部会や分科会における意見の全体をまとめたものではないことは,そのタイトルから明らかだと思いますが。 ○山下幹事 念のためということでございます。 ○井上部会長 それでは,審議に入ります。   前々回の第8回会議で,各分科会から検討結果の報告を受けた上,第1分科会の担当事項について意見交換を行い,次いで前回の第9回会議では,第2分科会及び第3分科会の担当事項について意見交換を行った後に,包括的な意見交換を行い,議論が一巡したところです。   本日は,前回会議で御了承を得たとおり,分科会の検討結果に対する1巡目の意見交換を踏まえて,2巡目の意見交換を行います。内容的には,各制度の具体的な内容や相互の関係などについて,更に議論を深めていただきたいと思います。   今回も第1,第2,第3分科会それぞれの担当事項について,順次御意見を伺うという形で進めさせていただきます。   最初に,第1分科会の担当事項について,論点ごとに,意見交換を行いたいと思います。   まず,「刑の全部の執行猶予制度の在り方」について,いずれの点からでも結構ですので,どの点について御発言なさるかを最初に明示していただいた上で,御発言をお願いします。 ○川原委員 前々回,私はこの執行猶予制度に関する「分科会における検討結果」のうち,「第4 猶予期間経過後の執行猶予の取消し」について意見を申し上げましたが,本日は執行猶予制度に関するその他の検討項目について意見を申し上げたいと思います。   まず,「分科会における検討結果」のうち,「第1」及び「第2」に掲げられました保護観察付き執行猶予中の者が,その期間内に再犯を犯した場合であっても,再度の執行猶予を言い渡すことができるものとする制度と,執行猶予期間内に再犯を犯した者に再度の執行猶予を言い渡すことができる刑期の上限を2年に引き上げる制度につきましては,いずれも採用すべきものであると考えます。   罪を犯した者が社会内で自立した生活を送ることを可能とするためには,社会内における処遇をより充実させることが重要でありまして,特に,仮に少年法における「少年」の上限年齢を18歳未満に引き下げるとすれば,18歳及び19歳の者について,保護観察付き執行猶予の活用を図ることにより,社会内処遇を一層充実させることが必要であると考えられます。   この部会におきまして,保護観察自体の実効性を高めるための制度・施策の検討も行われていることを併せ考えますと,「第1」や「第2」に掲げられています制度が導入されれば,検察官といたしましても,保護観察付き執行猶予の活用を図るという法改正の趣旨を踏まえて,保護観察に付する必要があると考えられる事案については,より積極的に保護観察に付する必要性に関する主張立証を行うことになると考えられ,その結果として,現行制度下よりも保護観察付き執行猶予の活用が図られることになるものと思われます。   他方,分科会における検討結果のうち,「第3」に掲げられました保護観察の遵守事項違反を理由とする執行猶予の取消要件を緩和することにつきましては,現行法の「その情状が重いとき」という要件が厳格すぎて適切な執行猶予の取消しができていないという問題意識があるといたしましても,仮に制度概要で示されたように,その要件を「情状が軽いときを除き」と改めたとしても,法律上,具体的にどのような事案が新たに取り消されることになるのかは必ずしも明確ではなく,実際に取り消される事案の範囲がどの程度変わるものかも判然としないように思われます。   第1分科会では,保護観察官や保護司による繰り返しの指導にもかかわらず遵守事項違反を繰り返す事案などにおいて,執行猶予の取消請求が棄却された例なども御紹介されていましたが,そもそも保護観察の遵守事項違反を理由とする執行猶予の取消しにつきましては,取消請求の件数自体が限られているように思われますので,取消し件数が少ないことの原因が,法律上の要件が厳格であることのみにあるのかという点も明らかとは言えないと思います。   そうしますと,法改正の要否を論ずる前提として,まずは実務において,例えば検察官と保護観察官との間でより緊密に連携し,執行猶予が取り消されるべき事案を的確に把握して,より積極的に取消請求を行うなど,一層の適切な運用に努めることによって対応し,改正については今後の推移を見て改めて検討するということも一案ではないかと思われます。   また,「第5」に掲げられました,執行猶予を言い渡された者について,原則として一律に資格制限規定の適用をしないものとする制度につきましても,慎重な検討が必要であろうと思います。個々の資格制限規定は,それぞれの行政目的を実現するために設けられたものでありまして,犯罪者の改善更生という刑事政策的目的が常に優先されるかのような規定を設けることは相当ではないと考えますし,仮に刑事裁判において個々の資格制限規定の適用の是非を判断するとしても,それぞれの行政目的や趣旨に照らして資格制限規定の適用を排除することが相当か否かという行政的判断を刑事裁判で行うことは困難でありまして,相当でもないと思われます。既に第1分科会でも御指摘がありましたように,資格制限規定の在り方については,再犯防止推進計画に基づき,各府省において見直しの要否を検討し,必要に応じた措置を実施することとされているとのことですから,まずはその検討に委ねるのが相当であろうと思います。 ○白川委員 今の川原委員の御発言を若干補足する意味で,警察庁の立場から申し上げさせていただきます。   例えば,当庁所管の法律,銃砲刀剣類所持等取締法についてですけれども,禁錮以上の刑に処せられた者で,その刑の執行を終わり,又は執行を受けることがなくなった日から起算して5年を経過していない者に対し,資格制限規定を設けて,銃砲刀剣類の所持の許可を禁止しているところです。これは,銃砲刀剣類が人畜を殺傷する機能を有しており,殺人,強盗等の凶悪犯罪の道具として容易に悪用され得る危険物であることを踏まえ,その所持等について不適格者を排除する必要があるためです。   また,同じく当庁所管の質屋営業法につきましては,同様に3年の制限規定を設け,質屋の営業を行うことを制限しています。これは,質屋の営業者につきまして,犯罪の防止あるいは盗品等の不正流通の防止等を十分に図り,かつ,その業務を行うにふさわしい公正な人物でなければならないことなどの要請を踏まえまして,不適格者を排除する規定となっているところです。   このように,資格制限の目的は個々の法律によってそれぞれ異なり,その要件・効果も様々でありますので,先ほど川原委員がおっしゃったように,再犯防止推進計画に基づきまして,まずは個々の法律ごとに各府省が検討すべきものと考えます。 ○太田委員 先ほどの川原委員が御指摘された「第3」の遵守事項違反を理由とする執行猶予の取消要件の緩和について,若干意見を申し上げたいと思います。   この点が検討されたそもそもの出発点は,現在の遵守事項違反を理由とする全部執行猶予の取消しの運用が妥当なものになっているのかという点でありまして,その点に関しましては,私自身も検討の余地があるのではないかと思っています。例えば,全部執行猶予の取消決定に対する即時抗告の決定例を見ておりますと,どうしてここまで取消しがなされていなかったのかというほど情状が重いものが少なくありません。第1分科会でも報告されていましたように,実務におきまして純粋な遵守事項違反による全部執行猶予の取消しという事例はほとんどなくて,再犯による取消しがほとんどであるというのも,裏を返せば遵守事項違反への対応が遅れてしまっているからであるとも考えられなくもありません。鶏が先か卵が先かということがありますように,そもそも非常に裁判所の判断が厳しいと,請求や申出さえも抑制される可能性もあるわけです。   もちろん形式的な遵守事項違反をもって取り消せばよいということでは全くありませんけれども,遵守事項違反を見逃しているうちに,結局再犯に陥ってしまえば,新たな被害者,新たな被害も生むことになりますし,本人にとっても,結局,取消し刑と再犯に対する刑ということで,かなりの長期間服役することにもなってしまいます。   私としましても,今,川原委員がおっしゃられたように,要するに,検察官と保護観察官が協議を一層するという運用で,まずはやってみるということに反対するわけではありませんけれども,そもそも現状としましては,今申し上げたような解決すべき実情というものもあるのではないかと思われるので,おっしゃられた検察官と保護観察官の緊密な連携ということにしましても,今後具体的な取組をもって行っていくことで解決していくべき運用上の課題としていただきたいと思います。その意味では,遵守事項違反による全部執行猶予の取消しにつきまして,検察官と保護観察官の連携を充実させることで適切な運用に努めるという点について,この法制審議会で,もし取りまとめの中に運用上の課題ということが盛り込まれるとすれば,その中の一つとして明記しておいていただければと思います。 ○青木委員 今の「第3」の「執行猶予を取り消すための要件の緩和」について,今,太田委員のお話もありましたけれども,結論としては,現行法のままでよいのではないかと思います。   先ほど川原委員が言われましたように,この議論の中では社会内における処遇を充実させるということが議論されていまして,その社会内処遇を活用する方向での議論がなされていると思います。実際に社会内で罪を犯さずに生活していくというのが必要でして,そのこととの関係で,やはり施設内処遇というのは社会と隔絶されることなどマイナス面もありますから,施設内処遇にすぐに移行するということでない形で,社会内処遇がその対象者にとって有効に機能する限りは継続するということが望ましいと思います。   第3分科会の議論の中でも,対象者について,かなり問題性が多くて指導によって改善できないというような場合に,その処遇方法の見直しをして,それで社会内処遇が継続できる場合には継続していこうという方向の議論もなされていると思います。   そのような中で,執行猶予の取消しについて,言わば原則と例外を逆転させて,原則として取消しというような書きぶりにするのは,社会内処遇を活用するという方向に逆行するのではないかと思います。そして現行法のままでも,もちろんその社会内処遇は,およそ機能しないような場合には取消しとなっているということには変わりはないと思いますので,先ほど川原委員が指摘された「第1」や「第2」のところで社会内処遇を広げていくという状況の下で,執行猶予が取り消されるかもしれないという心理的な強制の下で社会内処遇を図るという効果が弱まるというわけでもないと思いますので,ここはあえて変えずに現行法のままでよいと思います。   それからもう1点,「第5」の「資格制限の排除」のところです。御指摘がありましたように,それぞれの法律の趣旨に従ってというのは,それはそれで分かるのですけれども,前にも発言したかと思いますが,特に仮に少年法の適用年齢が下げられた場合の18歳,19歳については何らかの方法で資格制限を排除すべきだと思います。もし若年者に対する新たな処分,それ自体いろいろ問題があると思っているのですけれども,それが正当化できるという理屈が付くのであれば,そのような18歳,19歳に限っての資格制限の排除ということも正当化できるはずではないかと思います。 ○山﨑委員 私は「第1」と「第2」,そして「第5」に関して意見を述べたいと思います。   まず,「第1」と「第2」の制度に関して,仮に少年法の適用年齢を引き下げた場合の18歳,19歳について,どのような意味を持つかという観点で意見を述べたいと思います。   前提として,この刑の全部の執行猶予を受けるのは,検察官によって公訴を提起された者になりますので,現在検討されている制度では,公訴が提起されない者に対する,いわゆる若年者に対する新たな処分とは異なって,家庭裁判所調査官による調査は受けないということになります。そのような前提に立ったときに,これら18歳,19歳の者が刑事公判においてどの程度,保護観察付き執行猶予を実際に受けることになるのか,そして仮に保護観察に付された場合に,どの程度の効果が期待できるのかという点が問題になると考えています。   まず,そもそも現在検討されているように条文を改正したとしましても,実際,保護観察を付するという方向に裁判官の判断を拘束することはできないことになります。また,さきに述べたとおり,家庭裁判所調査官による調査も行われないことから,対象者の問題性の把握や,その問題性の解消のために有効な処遇に関する資料も十分には提供されないまま,裁判官が対象者を保護観察に付するかどうかを判断しなくてはならないことになります。この点,少年鑑別所や保護観察所の機能の活用も検討されてはいますけれども,職員の専門性や経験,様々な手続上の制約等を考えると,やはり家庭裁判所調査官の調査に代わり得るものではないのではないかと考えています。   以上からしますと,検討しているような制度を設けたとしましても,現在では全体の約1割前後にすぎないという裁量的な保護観察付き執行猶予について,裁判所における従来の量刑判断が大幅に変わって,自由刑の執行猶予となる18歳,19歳の多くに保護観察が付されるという事態になるとは考えにくいのではないかと思っております。   また,仮に保護観察が付された場合であっても,少年に対する,いわゆる1号観察とは異なりまして,少年調査票などの基礎資料がないままに保護観察を行わざるを得ず,また対象者の保護者に対する働き掛けもできないことになりますので,保護観察の実効性という点でも十分ではないのではないかと思います。   加えて「第5」の点と関連しますが,少年法の対象外とされてしまった場合の18歳,19歳について,資格制限を排除する規定を設けないとしますと,執行猶予中に仕事に就いて立ち直りを図ろうとする際に,その資格制限の規定が大きな障害になるのではないかと思います。18歳,19歳の年齢層の対象者の立ち直りにとっては,仕事に就いてしっかり生活することが極めて重要であることは言うまでもないことだと思います。   さらには,そもそも前回にも触れました配布資料15に示された18歳,19歳と20歳,21歳の処分結果の対比を見ますと,仮に少年法の適用年齢の上限が引き下げられた場合には,現行法下だと少年院に送致されて,濃密な教育的働き掛けを受けている層についても,その相当数が自由刑の執行猶予となる事態が想定されます。このような対象者につきましては,仮に保護観察付き執行猶予に付されたとしましても,その者が抱える問題性への対応という点では,少年院での教育に比べると,やはり十分にはできないことも明らかだろうと思います。   以上に述べたようなことからしますと,この「第1」,「第2」の施策に反対するものではないのですが,現在検討されている制度では,仮に少年法の適用年齢を引き下げた場合の18歳,19歳に対する措置として見たときには,現行制度に比べて,対象者の立ち直りと,その結果としての再犯防止という観点からは,かなり不十分なものとならざるを得ないのではないかと考えております。               (奥村委員 入室) ○田鎖幹事 「第3」の取消要件の緩和について述べます。   先ほど青木委員からも,ほぼ同趣旨の御発言があったかと思うのですけれども,私も今回の「刑の全部の執行猶予制度の在り方」については,全体として社会内処遇の充実化という方向で議論がなされてきたと考えます。そもそも改善更生の過程が平坦なものではなくて,むしろ,時には失敗もあり得るのだということが当然に予想される中で失敗を繰り返しつつも徐々に効果が現れて,最終的に改善更生を果たしていく,そういったものであることを考えますと,やはり裁量的とはいえ,情状の軽い違反の場合を除いて取り消すことができるということは,社会内処遇をより充実させようという方向性とは合致しないのではないか,そういった点で,現行法どおりとするのが相当であると考えます。 ○井上部会長 更に付け加えて御意見がなければ,次に進ませていただいてよろしいでしょうか。   それでは,次に「自由刑の在り方」について,御意見を伺うことにしたいと思います。   挙手の上,どの点について御発言になるかを明示していただき,御発言をお願いします。 ○今井委員 質問も兼ねてのことでありますけれども,ここで検討されております新自由刑としては,作業と矯正に必要な処遇を行う形で検討がなされております。この構想については,第1分科会でも議論いたしましたけれども,従来の刑罰の目的に関する理解から十分導かれる案だと思っています。刑罰の目的についてはいろいろな理解がありますけれども,応報刑的な発想を前提とした上で,受刑者の改善更生と再犯防止を目的とすることについては,大方の同意があると思います。そして,特に近時はその後者の点,改善更生及び再犯防止という観点の重要性についても認識が高まってきていると思います。その観点からは,受刑者の特性に応じた個別的な処遇をより一層行っていくことが必要であろうと思っております。その意味で,この制度概要にあるような新自由刑を創設することに,総論として賛成でございます。   部会の以前の会議におきまして,ここで想定されております矯正に必要な処遇というものの具体的な内容について意見が出されたと思っております。具体的なその内容が,刑事施設の長によって決定される処遇と読めるわけですが,そうした場合に,受刑者からの不服申立てや,それへの対応等が実務的には当然想定されますけれども,そうしたことによって,刑事施設の職員の方の業務量や負担が増えてしまわないかという御懸念も提起されておりました。これは,とても大事な問題提起だと思いますので,事務当局においてそういった御意見を受けて検討されていることがあるようでしたら,確認させていただきたいと思います。 ○大橋幹事 矯正処遇の内容の決定の現状についてと,御指摘の懸念について発言をさせていただきます。   現行の刑事収容施設法では,矯正処遇は刑事施設の長が個々の受刑者ごとに策定する処遇要領に基づいて行うということになっております。また,処遇要領については,受刑者の資質及び環境に関する調査の結果に基づいて策定するとなっておりまして,矯正処遇としていかなる内容の処遇を行うかは,専門的な知見に基づき,継続的に受刑者の処遇に関与し,具体的な処遇状況等も踏まえて随時判断を行うことができる刑事施設の長が決定することになっております。   また,処遇要領の策定・変更につきましては,現行の刑事収容施設法では,必要に応じ,受刑者の希望を参酌するとなっておりまして,受刑者本人の希望を入れるかどうかは刑事施設の長の裁量となっております。   したがいまして,受刑者本人の希望と,指定された処遇の内容とが一致しないという場合もあり得るわけですけれども,受刑者自身に自分が受けることになる矯正処遇の意義を理解させて,自発的に受ける気持ちを涵養させるということが,矯正処遇上非常に重要ですので,当該受刑者に指定された処遇の意義等について職員が説明,指導する,あるいは必要に応じて,受刑者自身が自発的に矯正処遇に取り組むよう働き掛けを行っているのが現状でございます。   仮に,「矯正に必要な処遇」が刑の内容として規定され,作業と各種指導を柔軟に組み合わせて処遇を行うことが可能になった場合,必要に応じて受刑者本人の希望を参酌する際に受刑者本人の希望と決定された処遇の内容が一致しないということは生じ得るわけでございますけれども,このような場合におきましても,現状と同様に説明,指導によって,受刑者の意欲を引き出すよう努めるということは,現行と変わらず継続して行われることになると思われるところであり,受刑者による不服申立てに対する職員の業務量や負担が増加する懸念があるのではないかということについては,矯正の実務家としては,そこまで大きな懸念があるとまでは考えていないところでございます。 ○今井委員 今の説明を伺いまして,私としては,現状のように刑事施設の長において,できる限りだと思いますけれども,受刑者の個性,特徴に応じた処遇効果を有すると思われるプログラムを組むことができるのではないかと思いました。そういった効用面とともに,先ほども申しましたけれども,刑罰を科す目的,あるいは刑罰の正当化根拠として特別予防的な観点も大変重要であることを踏まえますと,「分科会における検討結果」の制度概要にある新自由刑で想定されております矯正に必要な処遇というものを対象者に義務付けることが正当化できるのではないかと思います。 ○山下幹事 新自由刑の内容に関して意見を述べます。   今回,新自由刑の内容として,これまでの現行刑法の規定にある「作業」だけではなくて,「その他の矯正に必要な処遇」というものを刑罰の内容にするということを提案されているわけですが,第1分科会でも若干議論はあったと思いますけれども,いわゆる作業報奨金の問題がございます。現在は刑務作業が唯一の懲役の義務ですけれども,今回の内容によりますと,人によって違うのでしょうけれども,その他の矯正に必要な処遇の比重が非常に高くなり得ます。そういたしますと,作業の時間が減るわけですから,当然作業報奨金も少なくなる可能性があるわけでして,このような形で規定することによって,結局,現在よりも得られる作業報奨金が非常に低くなってしまうおそれがございます。現在でも作業報奨金は非常に微々たるものだと思いますけれども,それが更に少なくなる。   そうなりますと,これは将来受刑者が社会復帰するときに,作業報奨金をためたものを持ち出したり被害者に弁済をしたり,そういうことに関してのものが,現在よりも非常に少なくなってしまうということでありますと,現在よりも,その面で見れば処遇が悪くなるとも言えるわけでして,このような形で規定することによって,作業報奨金の問題にも影響があると思います。作業報奨金である以上,作業にかからしめるしかないわけでありまして,そういう意味で,そのような形での現在の作業報奨金の在り方も併せて考えないと,むしろ現在よりも非常に悪くなってしまう。そういう意味では,現在入っている受刑者にとっては不利益な変更になってしまわないかという懸念もありますので,指摘しておきたいと思います。 ○青木委員 「2」の「新自由刑」の「(2)」の新自由刑の内容について意見を述べたいと思います。   現行法上,懲役刑は作業が刑罰の内容であって,禁錮刑では作業は刑罰の内容ではないとなっております。実態として,作業が処遇の一環という側面を有しているとしても,現行では懲役刑においては作業をさせることは刑罰の執行であって,少なくとも法律上は作業をさせるということの中に,制裁とか否定的な評価が込められているものだと思います。禁錮刑においては,そういう意味で,作業は刑罰の内容となっていなくて,刑収法上,禁錮刑受刑者には作業が義務付けられていないのも,刑罰の内容となっていないからだと思います。すなわち,現行法では,実態はともかくとしまして,作業は「2」の「(2)」でいうところの「矯正に必要な処遇」には位置付けられていないことになるのではないかと思います。   この新自由刑というのは,懲役刑も禁錮刑も廃止して,作業を「矯正に必要な処遇」と位置付けることだというのであれば,少なくとも現行の懲役刑の刑罰の内容としての作業とは意味合いが異なるということを何らかの形で法律上も明確にすることが必要なのではないかと思います。現在,その作業というのが懲役刑の刑罰の内容であることから,作業拒否は刑の不執行状態になるということで,改善指導を受けない場合とは実際には異なる扱いがされていると思います。現在の作業に加えて,その他の矯正に必要な処遇も,懲役刑の作業と同様の刑罰の内容として,不執行状態を放っておけないということで閉居罰などの懲罰を科さなければならないということになると,かえってその処遇の充実が図られなくなるのではないかということを懸念します。   作業拒否の理由というのは,いろいろなところでお話もありましたように,作業そのものが嫌だというより,ほかの受刑者との人間関係などの問題がある場合も多くて,矯正の方で作業に導くために様々な努力をされているということは多とするものでありますけれども,作業も「矯正に必要な処遇」の一環として,真に処遇の充実を図ろうとするのであれば,今行っている懲役刑の執行とは違う形で,受刑者が作業,あるいは「その他の矯正に必要な処遇」に,うまく誘導されていく形の工夫をできるようにしておく必要があるのではないかと思います。   その意味で,今,山下幹事が言われた作業報奨金に関して,懲罰として作業報奨金の削減というのがあるわけですけれども,その作業報奨金をうまく使うことによって,作業も刑罰としてではなく処遇の一環としてやるのであれば,どうやって効率的な作業をするかというところで工夫をして,その工夫がなされれば作業報奨金が上がっていくとか,何らかの工夫をして作業をすることが意義のある形になって,処遇に役立つというような方向を目指すべきではないかと思います。   そういう意味で,少なくとも現在の懲役刑における刑罰としての作業と,新自由刑における処遇の一環としての作業とは,実態としては当面そのままそれほど変わらないのだろうと思いますけれども,実質的な意味は違うということは明確にしておく必要があるのではないかと思います。 ○橋爪幹事 作業の位置付けにつきましては,青木委員とは第1分科会で何度も議論させていただいたところではございますが,この機会に改めて思うところを申し述べたいと存じます。   恐らく青木委員の御理解には,刑罰は害悪であって苦痛であることが前提にあると思いますが,そのように刑罰を狭く理解する必要はないと思います。刑罰は法的な非難であって,犯罪に対する否定的評価を本人及び社会に対して明示した上で,その範囲において犯罪者の改善更生,社会復帰を図ることに本質を有すると考えるべきです。   青木委員は,処遇には本人にメリットがあり,プラスになるから作業とは性質が異なり,刑罰の内容ではないとお考えなのかもしれませんが,「矯正に必要な処遇」も,刑罰としての否定的評価の範囲内において,かつ本人の意に反して義務付けを行った上で改善更生を図るわけですから,それは法的非難の一内容,すなわち刑罰の内容として,当然に正当化できると思います。   この点に関連して,もう1点申し上げますけれども,改善更生はもちろん本人の自発的な意思がなければ十分には実現できないわけでありますが,これは受刑者の権利として,改善更生するか否かを自由に決定する機会を保障するものではないと思います。改善更生・再犯予防といったものはもちろん受刑者本人のメリットになるわけですが,それのみを目的にするわけではなくて,究極的には再犯のリスクを減少させ,犯罪の発生を防止するという意味において,社会全体のメリットを実現するための処分であり,その利益が間接的には受刑者にも及ぶと整理することができると思います。このような意味からも,確かに本人の自発的な努力が必要であるとは思いますが,それを処遇の前提として考えるべきではなく,作業と同様に刑罰の内容として,義務付けの対象とすべきと考えます。 ○青木委員 いろいろ分科会で議論したこととは別に,今日最終的に申し上げたかったのは,少なくとも懲役刑と禁錮刑を廃止して新たな自由刑を創設するということであれば,懲役刑における作業と新自由刑における作業とは意味合いが違うのだということを何らかの形で明確にしてくださいということです。刑の内容であるかないかとかということは別として,少なくとも懲役というのは懲らしめの意味が入っているわけで,禁錮にはそれがないということは,刑罰として懲らしめという意味合いを作業に持たせていたことは法律上は間違いないと思うのです。   そういう意味合い,作業そのものを懲らしめという意味合いで使うわけではないということであれば,それははっきりさせるべきではないか。だから,そういう意味では,懲役刑を廃止しますと言えばそれは済むのかもしれませんけれども,そこら辺は作業の位置付けを,それは法定刑をどうするかという,今までの禁錮刑をどうするかとか,懲役刑をどうするかということとも絡むのだろうと思いますけれども,今までの禁錮刑受刑者だったような人たちに対して,懲役と同じような意味で作業をさせるわけではないということだろうと思いますので,その辺の整理をきちんとしておいた方がいいのではないかという趣旨です。 ○井上部会長 それは規定に書き込むべきだという御趣旨ですか。 ○青木委員 いや,規定に書き込むべきというか,その規定ぶりをもう少しはっきりさせた方がいいのではないかということです。要するに,「作業」という言葉は全く同じで,「懲役」という題名が減るだけですので。 ○井上部会長 御趣旨は分かったのですが,具体的にどうすればよいのかが,伺っていてよく分かりませんでしたので,質問をさせていただいた次第です。 ○佐伯委員 今の青木委員の御発言についてですけれども,私は今の提案にあるような形で規定することによって,青木委員がおっしゃっていることは十分示されていると思いますので,これ以上,何か付け加えて法文で説明する必要はないのではないかと思います。 ○山下幹事 先ほどの橋爪幹事の意見に関係して,意見を述べたいと思います。   「補足説明」の7ページから8ページにも書いてあるのですけれども,今回,新自由刑を設ける理由については,処遇の充実を図ると。それで,8ページの2行目から3行目には「改善更生及び再犯防止に資する」という表現がございます。先ほど橋爪幹事からは,受刑者のためではなく,どちらかというと,社会のためといいますか,再犯が防止されることによって犯罪が減少することによる社会の利益のために行うという説明があったと思います。   この改善更生及び再犯防止という言い方について,今回の諮問の中には,「再犯の防止」という文言が入っているわけですが,これまではどちらかというと,改善更生というのは受刑者本人の改善更生を図って社会復帰を図らせるというような,本人のためという面があったかと思うのですけれども,先ほどの橋爪幹事の話だと,むしろ本人のためではなく社会のため,再犯防止のためであるというような言い方をされたかと思います。   この点については,これまでも,矯正とは何かということでいろいろ考えられてきたと思うところなのですけれども,そういう意味では矯正局に御説明をお聞きしたいとは思うのですが,今回,新自由刑を創設する目的,何のためにやるのかということに関して,従来の改善更生というよりも,今の再犯防止という社会の利益のためにこの制度を作るのかどうかということについて,もう少し明確化といいますか,特にこれまでの矯正の在り方と,今回の新自由刑の目的は何か違うのか,特に再犯防止ということに舵を切って,そちらにかなり重点が置かれたものなのかどうかについては,もう少し御説明を頂ければと思います。 ○井上部会長 お考えはよく分かりましたが,それは事務当局が答えるべき問題ではないように思いますね。 ○山下幹事 そうですか。 ○井上部会長 橋爪幹事の御発言は,そもそも刑とは何かというお話であり,今回,新自由刑を創設する目的はどこにあるかということとは一段階間があるのではないでしょうか。 ○山下幹事 それはそうですけれども。 ○井上部会長 橋爪幹事,何か付け加えて御発言されることがあればお願いします。 ○橋爪幹事 先ほどの発言に誤解を招くところがあったかも知れませんが,言わばノットオンリー,バットオールソーといったところでございまして,本人にとっても,社会にとってもメリットがある話だろう,と考えております。そのような趣旨が不明確で失礼いたしました。   ただ,私が社会の利益を図るという性質を強調したのは,仮に改善更生が専ら本人のためであるならば,本人がその機会を放棄できるという問題が生じてくることになりますが,それはちょっと違うのだろうと思うのです。処遇は,本人のためだけではないからこそ,本人の意に反してでも義務付けが可能であり,実際,現行の刑事収容施設法は,処遇について,作業と同様に受刑者に義務付けを行っています。これには十分な根拠があるということを申し上げる趣旨でした。 ○井上部会長 御意見の違いがあるということがはっきりしたと思います。   ほかに付け加えることがなければ次に進みたいと思いますが,よろしいでしょうか。   次に,「社会内処遇に必要な期間の確保」について,御意見がある方は挙手の上,御発言をお願いします。 ○川出委員 「社会内処遇に必要な期間の確保」については,部会でも繰り返し指摘がありましたように,施設内処遇に引き続いて社会内処遇を効果的に行うために一定の期間を確保することが,対象者の改善更生等を図るという観点から,重要な刑事政策的課題であることは異論のないところだと思います。そのための方策の一つとして,先般,刑の一部の執行猶予制度が導入されたわけですが,法律上,その対象となる者が限定されていますので,それに該当しない者を対象として,社会内処遇に必要な期間を確保するための制度的な枠組みを検討することは意義のあることだと思います。   こういった観点から,今回,第1分科会によって,この制度概要案が示されたわけですが,これについては,第1分科会の中でも,12ページの「4 その他」に書かれていますように,本制度の対象となった者につき,仮釈放が取り消され,再収容された上で満期釈放となった場合には,本制度は適用されないため,結局,社会内処遇の期間を確保すべき必要性が大きい者については,十分な効果を期待できないのではないかという意見ですとか,残刑期間が短い仮釈放者は,その期間を超えて保護観察に付されるのに対して,満期釈放者は,釈放後に保護観察に付されることはないため,受刑者が仮釈放を望まなくなるなど,改善更生に向けた意欲を阻害するのではないかという意見,さらには,本制度が対象者の負担増等の課題を上回る効果を発揮するためには,社会内での受け皿ですとか処遇の充実等が図られることが前提となるので,まずはそのような環境の整備を優先すべきではないのかといった意見ないし懸念が示されております。   今申し上げたうちの1点目と2点目は,本制度案が,残刑期間が短い者を対象とすることから生じてくる問題という面がありますので,制度の組み方によってはある程度対応できるものであると思いますが,3点目は,どのような制度であっても当てはまる問題です。そして,ここで検討されている制度は,仮釈放者を対象として,一定の期間,適切な環境の下で必要な働き掛けを行うなどして,その改善更生を図るとともに,再犯を防止しようとするものですので,その前提として,仮釈放者について,仮釈放の期間中の社会内での適切な受け皿が確保されることが不可欠であると思います。   そういう観点から見ますと,そうでなくとも,これから刑の一部の執行猶予を言い渡された受刑者が出所して,長期の保護観察に付される数が増えていくことが予想される中で,それに加えて本制度を導入した場合,設定された仮釈放の期間に対応できるだけの社会内の受入れ環境などを本当に十分に整えることができるのだろうかという疑問があります。そこが整わないと,あえて仮釈放をしないという運用にもなりかねません。その点を考えますと,現時点でこの制度を導入したとしても,効果が十分に得られるかどうか,疑問が残ります。   その一方で,受刑者が円滑な社会復帰を果たすための施策としては,ここで提案されているような制度的な対応以外にも,例えば,第3分科会において,施設内処遇と社会内処遇の連携などの検討がなされております。そういった点をあわせ考えますと,まずは社会内での受け皿の確保を始めとして,社会内処遇の充実等に更に努めていくということを優先し,社会内処遇に必要な期間の確保のための制度については,そういった環境整備の取組とか,その効果を踏まえた上で,今後別の機会に改めて検討するというのが現実的ではないかと思います。 ○太田委員 今,川出委員から,「社会内処遇に必要な期間の確保」について,時期尚早ではないかという趣旨の御発言がありましたけれども,以前から繰り返し申し上げていますように,仮釈放後の保護観察期間終了後の間もない時期に再犯をして,再び実刑となるという者が相当数いるという深刻な問題が現にあるわけです。この問題を一体いつまで放置し続けてよいのかということを,私は真剣に考えなければいけないだろうと思います。再犯リスクの高い期間の一部でも保護観察を行うことが,再犯の防止にとって有効であると考えられますし,受刑者の権利制約の問題を回避するための様々な手立ても考えられますことから,私個人的には,この機会に,この制度の導入を図るべきだとは考えております。   意見にございました,再収容された場合には,結局,満期釈放になるのではないかという問題ももちろんありますけれども,だからといって,最初に何もなくてよいというわけにはなりません。それから,いろいろな保護観察の状況が整備されなければいけないのではないかという意見も,全くそのとおりではありますけれども,とにかく期間がなければ話にもならない,期間が3週間とか1か月,2か月ということでは話にならないので,やはりその期間を確保するということは重要ではないかなと思います。   今回の法制審議会では,少年法の改正が前提となっていますので,仮に,その後,議論に関する時間の制約等から,今回はこの制度を検討の対象から外すということになったとしても,将来,再びこの制度の在り方について検討を行うべきであろうと思っておりますし,できればこの法制審議会における取りまとめの中に,将来の課題として明記しておくべきであろうと思います。   また,この前にも申し上げましたけれども,もし仮に仮釈放後に一定の保護観察期間を設けることとした場合に,更生の可能性が更に低いにも関わらず,釈放後に何らの社会内処遇もない満期釈放者との格差が更に拡大して,受刑者が長い保護観察期間を避けるために,わざと満期釈放になろうとするような事態を避けるためにも,今回の検討課題には入っておりませんけれども,将来,考試期間主義とか折衷主義の検討を行う際に,満期釈放者に対しても,社会内処遇の期間を確保するための制度について併せて検討を行うよう,これも法制審議会における取りまとめの中に,将来の課題として明記しておいていただきたいと思います。 ○青木委員 先ほど川出委員がおっしゃったこととかなり重なりますけれども,「その他」のところに書かれているような問題が,この制度にはあると思います。それに加えて,これは仮釈放となって残刑期間が短い者についてだけ,残刑期間を超えて仮釈放期間が設けられて,その間,保護観察に付することができる制度になっておりまして,そもそもそういう者だけ残刑期間を超えて保護観察に付することができるのかということも問題だと思いますし,実際に刑期が非常に短いために仮釈放期間も短くて,問題性の低い者も一律に残刑期間を超えて保護観察に付されることになってしまうという問題もあると思います。   満期釈放者に対しての手当てとか,そういうことについては,前に多分分科会の中で御指摘があったかと思いますけれども,被収容人員適正化方策に関する部会でもこの点は議論されまして,やはりそれは大変な問題があるということで,採用しないことになっていたかと思います。いろいろな意味で,この制度をここで導入するのは,必要性,相当性,両方の面で適当でないと思います。 ○井上部会長 ほかにこの点について特に御発言がなければ,次に移りたいと思いますが,よろしいでしょうか。   それでは,次に,「若年受刑者に対する処遇原則の明確化,若年受刑者を対象とする処遇内容の充実,少年院受刑の対象範囲及び若年受刑者に対する処遇調査の充実」について,御意見のある方は挙手をお願いします。 ○佐伯委員 まとめて意見を申し上げさせていただきます。   「若年受刑者に対する処遇内容の充実」につきましては,若年受刑者は一般的に言って可塑性に富む場合があり,仮に少年法の適用年齢が引き下げられることになりましたら,これまで保護処分の対象であった者も処遇の対象になり得ることから,その処遇を充実させることが重要であると思います。検討結果に記載されております施策は,刑事施設における若年受刑者処遇において,少年院の長所を一層取り入れようとするものであり,処遇の充実を図る観点から大変有効なものと考えられます。   また,「若年受刑者に対する処遇調査の充実」も,このような処遇の充実を図る観点から,若年受刑者の個々の問題性を把握することが重要であると考えられます。「受刑者に対する社会復帰支援」も,若年受刑者を含め,受刑者の改善更生や再犯防止を図る観点から重要と考えられます。   以上につきましては,いずれの点につきましても,第1分科会や部会において異論はなかったものと認識しておりますので,これらは導入すべきであると考えます。   一方,「若年受刑者に対する処遇原則の明確化」につきましては,部会の審議におきまして,受刑者一般の原則として,いわゆる個別処遇の原則が規定されており,当該一般原則の下でも,若年受刑者の特性に応じた処遇を行うことは可能であるといった御指摘がございました。確かに御指摘のとおりではありますけれども,若年受刑者に対する処遇原則を設ける趣旨は,今できない処遇を新たに可能とするためではなく,先ほど申し上げました若年受刑者に対する処遇内容の充実という観点から,若年受刑者の処遇上,特に留意すべき点を明らかにして,その取組が確実に推進されるようにすることにあるものと理解しております。また,仮に少年法の適用年齢が引き下げられた場合には,これまで保護処分の対象であった者への対応を法律上,明らかにするという観点も考えられます。   このように考えますと,案文の具体的内容については更に検討が必要であるものの,若年受刑者に対する処遇に特化して,その指針となるべき規定を設けることは相応の意義があると思っております。 ○山﨑委員 「第1」の処遇内容の充実について意見を述べます。   前回の部会でも,方向性については基本的に妥当だと思うけれども,やはり少年院教育との間には差が残るのではないかという点を申し上げました。   この点について若干補足ですが,部会でもヒアリングで現場のお話を伺ったかと思いますけれども,現在,18歳,19歳の者で犯罪に及んでいる人たちの中には,親からの虐待等の被害体験ですとか,知的な障害,発達の障害といった資質上のハンデ,さらには引きこもりなどの非社会性といったような様々な個別的な困難を抱えているという者がかなりの割合に上ることが明らかになっています。そして,現在の少年院では,こういった対象者に対して,少年法の「健全育成」という目的に基づいて,個別的にその問題性に応じた教育的な働き掛けを粘り強く行っておられると認識しています。   これが刑務所の処遇となった場合には,それが少年院の施設等を利用した手厚い処遇になるということは歓迎すべきことではありますけれども,それをいかに充実させたとしても,やはり刑罰の執行であることから来る限界があり,個別的な処遇には,やはりかなり限度が生じてくるのではないかと感じています。取り分け少年法の対象外とされることで,「健全育成」という目的が失われてしまうことによって,その施設における処遇のレベル,あるいは職員の意識といったものにやはり相当影響してしまって,処遇の効果が十分に発揮されないことが懸念されるのではないかと考えております。 ○井上部会長 この点についてはこのくらいでよろしいですか。   それでは,第1分科会の担当事項についての本日の意見交換はこの程度にさせていただきます。   続きまして,第2分科会の担当事項について,意見交換を行いたいと思います。   初めに「宣告猶予制度」についてです。   この点について,御意見がある方は,挙手の上,御発言を頂ければと思います。 ○池田幹事 「宣告猶予制度」につきましては,前回の部会において,18歳及び19歳の者が起訴された場合に,「宣告猶予制度的な制度」を用いて,例えば,手続を二分して,まず有罪宣告をして,その後,家庭裁判所調査官の調査に匹敵するような調査をした上で,更に具体的な処分を決めるというような制度を検討する必要があるのではないかという御意見がありました。   御提案の制度が,具体的にどのような内容のものかは分からないのですけれども,手続を二分するということに関して申し上げますと,一般的に,手続二分というのは,有罪認定のための手続と量刑のための手続とを二分して審理を行う制度とされます。このような制度は,そのデメリットとして,審理の遅延,あるいは被害者等の証人が,事実審理の段階と量刑審理の段階とで,二度にわたり出廷することを余儀なくされ,その負担が増大するといった課題があるとされております。仮に,このような手続二分の制度を設けるということになりますと,今述べた点が問題となります。   その上で,家庭裁判所調査官の調査,あるいはその調査に匹敵する調査を行ってから処分を決めるという目的のために,18歳及び19歳の者が起訴された場合には,手続を二分するという制度を設けることは一つの考え方ではあると思いますけれども,問題は,その調査がどのような判断に反映されるかということにあるものと思います。   現行の少年法上,家庭裁判所調査官の調査を踏まえて判断されるのは保護処分ですけれども,御提案の制度では,起訴をされて刑事手続の対象となっている者が対象ですので,調査結果は量刑に反映されることになります。ただ,量刑の大枠は,行為責任に応じて決まりますので,調査結果が結論に与える影響もさして大きいものとはなり難いのではないかと思います。もちろん事案によっては,執行猶予に保護観察を付すかどうかという判断に影響する可能性があるわけですけれども,そのような判断は,現在の刑事裁判の中でもなされているところでありまして,そのために,先ほど述べたような問題のある手続二分の制度をあえて導入する必要があるかは,慎重に考える必要があると思います。   また,御提案は,「宣告猶予制度的な制度」として,刑の宣告を猶予する制度を御提案されています。そこで,仮に,刑の宣告を猶予して,宣告猶予期間中の行状を考慮して量刑を行うという制度といたしますと,宣告猶予期間中の行状が,刑が重くなる方向に考慮され得ることになりますが,それが適当かどうかは問題となろうかと思いますし,量刑は行為責任の範囲内で判断されますので,猶予期間中の行状は量刑にさほど大きく影響しないにも関わらず,その事情を考慮するための手続的な負担が生じるという点にも検討すべき点があるように思います。また,仮に,宣告猶予することが相当であるという場合に宣告猶予するものとすると,執行猶予との関係で合理的に使い分けができるかという,既に指摘されている点も問題となりますし,仮に現在起訴猶予となっている事案の一部をその対象として想定するのだとすると,検察官において訴追を必要としないと判断されたにも関わらず,有罪判決を目的とせずに専ら処遇を行うために公訴を提起するということになり,刑罰権の実現を求めるという公訴提起の意義と整合するかについても検討の余地があるように思います。   御提案の内容については,具体的な制度の在りようが必ずしも明らかではないので,前提が異なるところがあるかもしれませんが,今申し上げたような内容とする場合には,申し上げたそれぞれの問題が生じることになると思います。 ○伊藤委員 「考えられる制度概要」に記載されている宣告猶予制度について,意見を申し上げたいと思います。   実際に制度を運用する立場からいたしますと,制度の趣旨や対象となる事件,起訴猶予や執行猶予とどう使い分けるのか,その辺りの具体的なイメージを明確にしていただかないと,適切に運用できないということを重ねて申し上げたいと思います。7月の部会でも確認させていただきましたけれども,第2分科会における議論を重ねても,結局,具体的にいかなるものを想定してこの制度を作るのかということについて,認識を共有するに至らなかったということでありますし,その後の議論を経ましても,その点についてイメージの共有ができたとはとても思えない状況であります。概要案に記載されているような制度については,そのような制度を設ける必要性や相当性という根本的な部分で問題があるのではないかというのが私の意見でございます。 ○青木委員 前回,「宣告猶予制度的な制度」ということで,18歳及び19歳に限ってこのような制度を導入することがあり得るのではないかということを申し上げました。   そもそもの問題意識としましては,この宣告猶予かどうかは別として,若年者に対する新たな処分ということで,検察官が訴追を必要としない,仮に少年法適用年齢が引き下げられた場合の18歳及び19歳については,特別な手続を設けて,特別な処分ができるということになるにも関わらず,一旦検察官が起訴してしまうと,他の成人と全く一緒ということで,ある種の逆転現象というのでしょうか,そういうのが起きてしまうというのがそもそもの問題意識でした。   例えば,家庭裁判所の調査というのが非常に有効であると,試験観察なども含めて大変それ自体が有効だという議論がずっとなされています。それが,検察官が訴追を必要としない18歳及び19歳に対しては使えるけれども,一旦訴追されてしまうと,その調査は使えないということでよいのだろうかと。あるいは,先ほど申し上げました資格制限の点につきましても,引き下げられた場合の18歳及び19歳については,特別な手続ができるのであれば,起訴された後にも18歳及び19歳については特別な手続ということはあり得るのではないかという問題意識から出発したものでありますので,先ほど池田幹事が言われたようないろいろな問題があるということは,宣告猶予制度そのもの,あるいは手続二分の問題でいろいろ指摘されているということはありつつも,18歳及び19歳について,何とか今の少年法で18歳及び19歳に対して有効に機能しているものの一部でも使えないかということで考えたことです。   そういうことですので,大変ラフなものだと思いますし,先ほど手続二分のところでお話がありましたけれども,例えば,争いのあるような事件でそういうものができるかといったら,なかなか難しいのだろうとは思いますが,一応,もう少し考えてみたことを申し上げますと,いずれにしても,元々の問題意識が家庭裁判所調査官の調査をきちんと経るべきではないか,あるいは少年鑑別所での鑑別を経るべきではないかというところにありますので,とにかく家庭裁判所の調査をしてもらわなければいけない。ところが,成人だということを前提としますと,有罪か無罪か分からない人に対して,言ってみれば有罪を前提とするような調査ができるのかという問題があるので,仕方がないのでというと変ですけれども,手続を二分して,何らかの形で有罪認定をした上で調査をするということにせざるを得ないのではないかと考えたわけです。   そして,家庭裁判所調査官の調査結果がどう反映されるかということなのですが,これもいろいろな制度の見方があるのだろうと思いますけれども,例えば,家庭裁判所調査官が,宣告猶予にする事件なのか通常の裁判にするかというような意見を出し,宣告猶予にするような事件だとした場合には,裁判所がその時点で量刑を行って判決書を作成した上で,判決の宣告を猶予して一定期間保護観察に付して,保護観察期間が満了すれば免訴の言渡しが確定するというような形にするということが考えられると思います。宣告猶予にする必要はないとして,通常の裁判にするとなった事件については,その後,通常の量刑判断をして,通常どおりに判決するということが考えられます。   ただ,保護観察付き執行猶予になるというような場合にも,先ほど山﨑委員からも話がありましたけれども,やはり,家庭裁判所の調査結果を踏まえた上で,問題性などが明らかになった上で保護観察に付するということと,そういうものを全くなしに,単に保護観察にするかしないかだけが判断されて保護観察に付されるということでは,処遇効果が異なると思いますので,そういう意味でも家庭裁判所調査官が入るということは意味があるのではないかと考えた次第です。執行猶予判決の場合には,18歳及び19歳に限って資格制限の排除ができるようにするということもあり得るのではないかと考えます。   ただ,いずれにしましても,今言ったようなことは少年法の適用年齢を下げないのであれば必要ないことなので,いろいろ考えていくとそれが一番いいのだと思っていますが,どうしても下げるということであれば,訴追された者についても何らかの手当てをしなければならないのではないかということで,宣告猶予という制度かどうかは別としまして,18歳及び19歳についての起訴後の特別な手当てというのは考える必要があると思います。 ○山﨑委員 実際にどういう制度にするかということを考えると,様々な問題があるという御指摘もありましたけれども,私は青木委員のお考えを聞いて,なるほどと思っております。   先ほど申し上げましたように,仮に少年法の適用年齢を引き下げた場合に,18歳及び19歳に対してどう臨むかという点を考えると,その18歳及び19歳と20歳及び21歳の処分結果を対比する発想で考えますと,やはり少年院送致になっている,あるいは保護観察になっているという,かなり手当をしなければいけない層の人たちが,改正によって恐らく起訴をされるということが大多数になるということだと思います。その場合に,先ほどの刑の全部の執行猶予の在り方の見直しをした場合に,どこまで保護観察に付される例があるのか,付された場合に実効性があるのかという問題があると思いますし,これから議論されますけれども,罰金に相当するような事案であれば,罰金刑の保護観察付き執行猶予が果たしてどこまで活用されるのか,また効果があるのかという問題もあると思います。   そういった点を考えますと,やはりしっかり家庭裁判所調査官の調査を入れて,それを踏まえて処遇を決められる,あるいは保護観察を確実に付すことができる,資格制限を伴った処理がしやすいという意味では,宣告猶予的なといいますか,そういった制度も考えませんと,青木委員がおっしゃったように,起訴をされて手当がむしろ必要な層に対する制度として,やはり手薄になってしまう。これから議論される起訴猶予になった18歳及び19歳に対する制度との間でも,バランスに欠けるということになるのではないかという気がしております。 ○井上部会長 言葉の使い方なのですけれども,結局,判決前調査のようなものをそこに入れて,有罪認定と刑の宣告との間に期間を置くという話と,刑は決めているのだけれども,その宣告を猶予していると,これが本来の宣告猶予だと思うのですが,その二つが合わさったといいますか,混然としたまま議論されているような印象があり,そのために混乱が生じているのではないかという気がしますね。   ほかにこの点について何か御意見はございますか。   よろしいですか。   それでは,次に,「罰金の保護観察付き執行猶予の活用」について御意見を伺うことにします。   どなたからでも結構ですので,御意見のある方は,挙手の上,御発言をお願いします。 ○川原委員 前回の部会におきまして,この点の保護観察の実効性について御意見がありました。具体的には,本日配布されております「部会第8回・第9回会議の意見要旨」の6ページに,保護観察の実効性についてという項目がありますが,その3番目の「○」にある御意見ですけれども,家庭裁判所において18歳及び19歳の者が保護観察処分を受けている割合と,20歳及び21歳の者が公判請求又は略式命令請求されている割合との比較に基づいて,罰金の保護観察付き執行猶予の有効性を議論すべきであるという御意見がございました。こうした統計は,裁判所において個別の事案について具体的な判断がなされたものの集積でありまして,また,家庭裁判所が保護処分を決するに当たって考慮する要保護性に関する判断と,起訴・不起訴の判断や量刑判断とは異なるものでありますから,単純に比較ができるものでないことはもちろん留意する必要があると思います。   しかし,そうした点に留意しつつも,制度設計を行う前提として大づかみな傾向を知るという観点からは,御指摘のような統計に基づく比較も一つの参考にはなると思われますので,統計資料を参考しつつ,検察官としての経験,あるいは実務感覚も踏まえて意見を申し上げます。   部会資料8「統計資料1-9」として配布されております「平成27年一般保護事件の終局人員」の表のうち,18歳のものと19歳のものを拝見しますと,現在18歳又は19歳の者が保護観察とされている人員が多い罪名は,窃盗,傷害,恐喝,詐欺であることが分かります。このうち恐喝と詐欺につきましては,法定刑に罰金刑はございませんので,これらの罪に係る被疑者が刑事手続で取り扱われることとなった場合には,執行猶予を含む懲役刑とされるか,起訴猶予とされるかのどちらかということになりますので,それらの処分を経た上で,必要・適切な処遇が行われることになると思われます。   この恐喝,詐欺を除きますと,保護観察処分に付された人員が目立って多い罪名は,窃盗と傷害であります。このうち窃盗につきましては,万引き,空き巣,車上荒らし,ひったくり,スリ,さらには,いわゆる特殊詐欺の出し子など,様々な態様のものがありますが,保護観察処分となっている者の中にも,こうした多様な態様のものが広く含まれているものと思われます。   しかし,成人の刑事処分におきまして,実際に罰金刑を選択する対象になりますのは,基本的に万引き事犯でございます。窃盗罪の罰金刑が設けられた平成18年の刑法改正の際には,被害額の少ない万引き事犯が念頭に置かれておりましたし,私の実務経験からしましてもそのように言えるところでございます。そういたしますと,罰金刑の主な対象は18歳及び19歳の者の中でも万引きをした者ということになりまして,現在であれば保護観察になっている少年の一部にすぎないと言えます。その他の態様の窃盗により保護観察になっていた18歳及び19歳の者は,懲役刑や起訴猶予処分になるものと考えられまして,それらの処分を経た上で,適切な処遇が行われることになるものと考えられます。   他方で,万引きにより罰金刑となる者につきましても,現在の科刑の実情からいたしますと,少なくとも20万円,犯情によりましては50万円までの罰金を科されることとなると思われますので,これが社会内処遇における心理的強制として意味がないほど少額であるとは言えないと考えられます。この観点からは,窃盗において罰金の保護観察付き執行猶予を活用することも十分に考えられることと思われます。   次に,傷害につきましては,罰金刑となる割合が比較的高い罪種であると思われますが,現在の科刑の実情に照らしますと,その罰金額は20万円以上50万円までであることが通常でありまして,それには相応の威嚇力があるものと思われます。加えまして保護観察所においても,暴力犯罪を繰り返している傾向があり,粗暴癖が原因となっている暴力犯罪の対象者には,専門的処遇プログラムとして暴力防止プログラムも用意されております。このようにプログラムが用意されていることや,個別の事案における処遇の必要性を踏まえまして,保護観察が適する事案については罰金の保護観察付き執行猶予が適切に活用されることになるのではないかと思います。 ○橋爪幹事 私からも,本日の机上配布の意見要旨の6ページに関連して,幾つか思うところを申し述べたいと存じます。   具体的には,量刑に関する考え方の一つ目の「○」と実効性に関する一つ目の「○」について,申し上げたいと存じます。   まずは,量刑に関する基本的な理解でございます。   前回の部会では,罰金の保護観察付き執行猶予を活用するためには,罰金刑の量刑に関する基本的な理解を転換する必要があるという御指摘があったかと存じます。結論から申しますと,量刑に関する基本的な理解それ自体を特に変更する必要はないだろうというのが私の理解でございます。現行法は,飽くまでも自由刑と罰金刑とで執行猶予の適用基準に関する区別を設けておりませんので,自由刑であっても,罰金刑であっても,行為責任を基本的な基準とした上で,行為責任が重いものが実刑であり,軽いものが執行猶予となる場合がある,ということについては,基本的な変更はないかと存じます。   もっとも罰金刑という刑罰の特性といったものを,更にここでは意識する必要があるかと存じます。すなわち罰金刑が選択されるということは,原則として,自由刑を科す必要がないという判断が前提となっておりますし,取り分け執行猶予が可能とされる一定の金額以下の罰金刑につきましては,類型的に行為責任が低いということができます。そうしますと,そもそも軽微な行為責任の中で,更に実刑と執行猶予判決の線引きをするわけですから,初めから幅が狭い中での線引きであり,これは必ず実刑にしなければならない,という事件がそれほど多く生ずるわけではないように思います。そうしますと,量刑に関する一般理論をそのまま適用するとしても,罰金刑について執行猶予を選択すべき事件というのは,理論的には十分観念可能だと思われます。   もちろん,従来の実務では,罰金刑については,実刑が一般であり,執行猶予判決はほとんど活用されてこなかったと理解しておりますが,それは失礼ながら実務家の皆様方が,罰金は当然実刑であるという前提の下,保護観察付き執行猶予の可能性を念頭に置いた主張立証を尽くされてこなかったことに起因するようにも思われます。今後,罰金刑についても保護観察付き執行猶予という選択肢があり得るというイメージが共有され,更に再犯防止における有用性・相当性に関する理解が深まれば,今後の実務におきまして,保護観察付き執行猶予が活用されることも期待できるように思われます。   言わば,罰金の実刑が金銭的負担の痛みによって対象者にショックを与え,再犯防止を図るのに対して,罰金刑の保護観察付き執行猶予は,金銭的不利益を直ちに科す必要がないと思われる事案について,金銭的負担の心理的威嚇の下,社会内処遇において改善更生を図るものと言えますから,事案によって使い分けるということが可能であろうと考える次第です。   もう1点,実効性について申し上げたいと存じます。   前回の部会では,遵守事項違反があったとしても罰金を払うのみであり,保護観察の実効性に疑問があるという御指摘がありました。罰金刑それ自体に十分な心理的威嚇の効果があれば,当然にそれは遵守事項を担保する上でも実効性を有することになりますので,このような御指摘は,結局のところ,「罰金は払ってしまえばおしまい」であって,そもそも刑罰としての威嚇効果,再犯予防効果についても実効性に疑問があるという御指摘として理解いたしました。しかし,このような理解は,罰金刑の刑罰としての意義,存在価値を否定するものであり,妥当ではないように思います。罰金刑といっても,金銭的な痛みによって行為者を法的に非難し,将来の再犯防止効果を持つことは明らかであり,刑罰として一定の効果があることは否定できないと思います。私自身の学生時代を思い起こしましても,20万円,30万円という金額は大金でして,これは若年者にとっては,ものすごい痛みであり,心理的威嚇を有すると思います。したがいまして,罰金の負担という心理的威嚇の下,社会内処遇を効果的に実行することは十分に可能であると考えます。 ○太田委員 橋爪幹事に質問です。   確かに,自由刑の実刑と執行猶予の差に比べれば,罰金の場合の実刑と執行猶予というのは幅が狭いようには思うのですけれども,でも,差はやはりあると考えるべきだと思います。私も運用上,その幅の中で罰金の執行猶予を活用することはできるだろうとは思うのですけれども,幅は狭いから同じなのだと,量刑の一般理論はもちろんそれでいいと思いますし,また従来,ただ単に考えてこなかったということもあるとしても,これまで罰金の実刑というものを中心に科してきたものと,それから罰金をこれから執行猶予にするというものは,やはりそこに何らかの運用の差というものは生じるという,そういうことを前提とするのかどうか,若しくはそうしないと活用といっても変わらないのではないかと思うので,その点についてどう考えているかということです。   ただ私も,罰金の実刑を執行猶予に替えた場合,多分これは保護観察を付けるということになると,その分は少し重くなりますので,そういう意味では下げて上げるというのでしょうか,そういう意味では重さが余り変わらなくなるので,そういう点でも,運用としてもできるかなという気はするのですけれども,幅は狭いとはいっても,同じではないということの理解でよろしいかどうか。 ○橋爪幹事 簡潔にお答え申し上げますけれども,罰金の場合にも実刑相当と執行猶予相当との間には,幅は極めて狭いが,一応差はあるという理解には私も異存ありません。ただ,そもそも幅が小さいわけですので,ほとんどの事例は実刑も執行猶予も選択できるということになるように思います。もちろん,個別の情状に応じた判断となりますが,自由刑の場合に比べれば,実刑以外考えにくいというケースはそれほどないだろうと考えております。ただ,飽くまでも実刑を回避して執行を猶予するわけでありますから,保護観察の負担があるとしても,それは実刑よりは軽い刑罰であり,行為責任が相対的に低い事例を対象とすることは,否定し難いように思います。 ○羽間委員 ただいまの橋爪幹事の御発言のうち,最後の方で述べられた点というのは,恐らく前回部会での私の発言を受けてのことだと思いますが,ひょっとしたら私の発言の趣旨が伝わっていないというおそれがあると感じましたので,改めて整理をして申し上げたいと思います。   前提として,私は,罰金刑について,刑罰としての応報や威嚇,あるいは制裁としての効果に疑問があるということを申し上げたつもりは全くございません。   私が申し上げたかったのは,再犯防止や改善更生といった観点においては,罰金刑が現行の保護処分と比べて劣るのではないかということであり,仮にその観点において全く劣らないということであれば,そもそも罰金の保護観察付き執行猶予の活用そのものが不要になります。   整理して申し上げますと,そもそも罰金の保護観察付き執行猶予の活用について議論になった趣旨は,罰金刑はお金を払っておしまいというものであり,現行の保護処分と比べ,再犯防止,改善更生という観点においては不十分ではないかということで,あえて執行猶予にして保護観察を付け,一定期間社会内での処遇を行うようにしていこうということであったと,私は承知しております。   ところが,その罰金の保護観察付き執行猶予においては,遵守事項違反のような再犯リスクが最も高まったときに執行猶予を取り消したとしても,その後に行われるものが処遇の転換ではなく罰金刑の執行であるということになります。そうなると,結局お金を支払って処遇もおしまいになるということになり,これではやはり処遇効果に疑問があると言わざるを得ないのではないかといったことが,前回申し上げたことの趣旨でございます。 ○井上部会長 よろしいでしょうか。   それでは,次に「若年者に対する新たな処分」について意見交換を行います。   この点に関しては,これまでの審議の中で,法定刑が短期3年以上の懲役又は禁錮に当たる罪の事案で起訴猶予となったものの概要は分科会で紹介されたけれども,更に行為責任の重いものについてはどうなのかを知りたいので,調査をしてほしい旨の御要望があったところですが,事務当局のお考えはいかがでしょうか。 ○羽柴幹事 御要望のありました調査の可否について,事務当局で検討をしましたが,これまで行った調査の範囲を超えて,検討に資する有意な調査を実施することは困難であると考えています。   すなわち,例えば,少年の犯すことの多い窃盗,恐喝,傷害等の罪名に限った調査をするとしましても,処分時の被疑者の年齢が20歳又は21歳で起訴猶予処分となった窃盗,恐喝,傷害の罪名の事件だけでも,その件数は相当多数になります。例えば1年分であっても,これを全て調査するということは困難であると思われます。   その上,そもそも「行為責任が重い」事案といっても,具体的な基準があるものではなく,評価が分かれ得るものでありますので,その選別は容易ではないと考えられるところです。また,仮に期間や検察庁を限定してサンプル調査をするとしましても,例えば,どの範囲で調査をすれば制度を検討する上で有意な結果が得られるのか等の問題があり,有意な調査をすることは困難であるとの結論に至ったものです。 ○井上部会長 御要望のあったとおりの調査は困難であるということですけれども,御要望の趣旨としては,恐らく,法定刑の重い罪の事案以外にも,行為責任が重いにも関わらず起訴猶予処分となっているものがあるのではないかという問題意識からそのような御要望があったのだろうと思われます。   そういった犯罪事実自体は重大である事案でありながら起訴猶予とされる例が実際にあるとすれば,そういった事例において,犯罪事実の重大性という要因以外に,考慮される要因としてはどのようなものがあるのか,これは客観的なデータを集めて分析するという形での調査は難しいとしても,どういうものがあるのかについてのイメージあるいは認識を得ておくことが有用ではないかと思われます。   そこで,この点について,川原委員に,実務の御経験などを踏まえて,何かお話しいただけることがあればお伺いしたいと思います。 ○川原委員 まず,起訴猶予となるか否かは,個別の事案ごとの具体的な事情の総合考慮によって決まるものでありまして,ある一つの要素があるから起訴,ないから不起訴というものではございません。事案の軽重もその考慮要素の一つにすぎませんし,何をもって重い事件といい,軽い事件というのかについても,一様に決めることは難しいところであります。また,その他の要素につきましても単独で考慮されるわけではなく,正に総合的な考慮がなされることを御理解いただきたいと思います。   その上で,あえて検察官としての実務経験から申し上げますと,犯罪事実自体は重大であるものの,起訴猶予とされる場合に考慮される要素として挙げ得るものは,一般的にはこれから申し上げます六つの類型のようなものがあると思われます。   第1は,責任能力に問題があること,特に心神耗弱と認定されたことです。   第2は,共犯事件で役割が従属的なことです。   第3は,被害者の落ち度が大きいことです。   第4は,被害回復,これは被害品の回復や金銭賠償ですが,こういった被害回復や,それに伴う示談がなされたこと,被害者が宥恕していることです。   第5は,被害者が公判への協力に難色を示していることです。   第6は,刑の減免事由,例えば自首などですが,これに該当することです。   部会におきましては,このような要素が考慮され起訴猶予とされた事案について,「若年者に対する新たな処分」の対象として,これらの者がいる場合に備えて,施設収容処分を設けるのかという点が検討されるものと思われますが,これまでの実務的な感覚から申し上げますと,ただいま申し上げました類型の中でも,特に性犯罪の被害者が,その精神的負担のゆえに,捜査,公判に協力するのが困難であることを理由の一つとして起訴猶予とする場合,起訴猶予としたことによって裁判への出廷や証言を求められる可能性があることや精神的負担を負うことなど,手続が継続することに伴う負担から被害者が解放されたはずであるのに,このような事案を本処分の手続の対象とすべきであるかは慎重に考えていただく必要があると思います。 ○井上部会長 それでは,今の川原委員の御説明も踏まえて,「若年者に対する新たな処分」について御意見をいただければと思います。 ○太田委員 前回の部会におきましては,この「若年者に対する新たな処分」につきましては,検察官は起訴猶予処分とした事件を全てこの手続に回すということではなくて,検察官の裁量若しくは判断に委ねることが望ましいと申し上げました。   今,川原委員の御発言は,要するに刑事責任はある程度重大ではありますけれども,起訴猶予となる例のうち,被害者が公判への協力に難色を示しているというような事例は,本処分の対象にすることには慎重であるべきだというようなお話であったと思いますけれども,確かに起訴猶予となった事案は原則全件送致としつつも,そうした一定の類型というものをこの処分の対象から外すという方法もないわけではないと思います。ただ,被害者の非協力事案といいますか,協力に難色を示しているという事案につきまして,被害者の視点から申し上げますと,恐らく多くの被害者の方は,たとえ示談をしているとか,あるいは公判への協力に難色を示しているという場合でも,加害者が再犯をしてしまってよいと思っているわけでは決してなく,当然のことながら加害者には二度と犯罪をしてほしくないと,自分と同じような被害者が二度と出ないようにしてほしいと考えているのではないかと思います。   私自身は,刑事手続における被害者をできるだけ保護していくべきだという観点は加害者の処分に直接リンクさせるべきではないと思っておりまして,性犯罪が非親告罪化されたというのも,正にその表れの一つではないかと思っています。   そういう観点から考えますと,今お話のありました被害者が公判への協力に難色を示しているという事案というものは,現行の少年法の場合には全件送致ということで家庭裁判所に送致されて,問題性,要保護性があるようであれば,少年院送致などもなされているかと思いますけれども,仮に少年の年齢が引き下がった場合の18歳及び19歳の成人の事案で,犯罪事実は重大であるものの被害者が協力したくないと言っている事案を処分から外してしまうということになりますと,では,その問題性の高い18歳及び19歳の者に対しては,何の対応もしなくていいのかという問題が生ずるように思います。こうした犯罪者に対しては,何らの対応もとらないとなると,そこに抜け穴というものを作ってしまうことにもなります。そういうことはまずいかと思いますので,選択肢としては,そういった被害者の非協力な事案であっても処分の対象にするか,若しくは,この新たな処分の対象にしないとすれば,例えば第3分科会で検討されているような起訴猶予に伴う再犯防止措置など,別の制度で対応するかということを考えなければいけないのではないかと思います。   それで,今でなくても結構なのですけれども,もし現時点で川原委員に何かこの点について処遇の必要性といいますか,そういう点についてお考えのところがあれば教えていただきたいということと,それから先ほども言いましたように,現行の少年法ですけれども,裁判所の方にお伺いしたいのは,もし被害者が手続の協力に難色を示している場合に,その事案をこの新たな処分の対象にしないとすると,被害者の保護に欠けるという前提に立つことになってしまうのかどうかということです。現在の少年法の手続においては全件送致主義が採られており,被害者が司法への協力に難色を示している場合でも保護手続がとられて,それで少年の非行事実と要保護性があれば保護処分というものが課せられているわけでありますけれども,だからといって,刑事手続と比べて被害者保護に欠けているというわけではないと思います。これをどのようにお考えでしょうか。   例えば,被害者が難色を示している場合に司法手続から外す手続がなく全件送致となっていることについて,そのことを原因としたような実務上の問題であるとか被害の当事者からの批判というものを,これまで承知したようなことがあったのかどうか,その承知されていることがもしあるとすれば教えていただきたいと思います。それを踏まえて,少年保護手続が刑事手続と比べて被害者保護に欠けているという認識なのかどうかということについて,裁判所においてお考えのところがあれば教えていただきたいと思います。 ○井上部会長 もし即座にお答えできることがあれば,お答えいただければと思います。 ○川原委員 頂いた質問の中で,被害者の協力を得られない場合に処遇ができなくなることについてどうかということですが,今後の制度設計をどうされるかというのは,正にこの場で議論していただくことだと思うのですけれども,現行の刑事手続におきましても,現に犯人であることは明白でありますから処罰の必要性が高いにも関わらず被害者の意向によって,今申し上げたように起訴猶予にすることはありますので,それはこれまでないような状況が起きるのではなくて,現に起きている状況が起きるという,そこは検察官としては泣く泣くではありますが,そこまで被害者に負担を掛けることは適切ではないということで,やむを得ず起訴猶予処分にしているという状況でございます。 ○澤村幹事 正確にお答えできるかどうか不安はございますが,太田委員からの御質問は,全件送致となっていることを原因とした問題や批判があるかというものだったと理解しております。これについて具体的に何か,最高裁判所として把握しているものがあるというわけではございません。   また,被害者の保護に欠けていることはないのかという御質問も続いていたかと思いますけれども,これについては,何とも申し上げにくいところでありますが,現在の少年法の手続におきましても,各裁判所が現行制度の下で個別の事案に応じて,被害者の方がどう考えているかということを正確に把握することは難しいにしても,被害者の方に配慮した調査や審判が行えるような最大限の努力はしているものと認識しております。 ○井上部会長 ありがとうございます。   ほかに御意見はございますでしょうか。 ○羽間委員 事務当局に1点質問させていただきたいのですが,御説明の中で,追加の調査について,有意な調査を実施することが困難であるということをおっしゃったかと思うのですが,この「有意」というのは,「統計的に有意」という意味でしょうか,それともまた別の意味で使っていらっしゃるのでしょうか。 ○羽柴幹事 制度を検討していただくに当たって,意味のある形で調査をすることができるのかということに問題があろうかと思うという趣旨で申し上げました。 ○羽間委員 先ほどの事務当局の御説明によりますと,追加の調査については,実際に調査に取り掛かってみて難しかったということではなくて,調査をやるかどうかを検討した時点で,今おっしゃったような意味での「有意な」調査ができないということから調査をしないという結論を出されたということでございました。   「追加で事例を調査すべき。」ということは,私のほかにも複数の委員から出ていた意見であったかと思いますけれども,その調査に意味があるかどうかについて,実際にやってみることをせずに,私ども部会の委員に諮るということもないまま,事務当局限りで結論を出されてしまったということについては,率直に申し上げて残念だと思っております。   他方で,川原委員において,実務の御経験に基づいて起訴猶予の類型について御説明を頂いたところでございますので,せっかくですので質問させていただきたいと存じます。この場でお答えできないことであればいずれということでも結構でございます。   今回の追加の調査の元々の趣旨というのは,先ほど事務当局から御説明があったとおり,窃盗,恐喝,傷害,わいせつ事犯などのうち,行ったことが比較的重い事案で起訴猶予になるのはどのような類型であるかとか,あるいは前回,川出委員から御指摘がございましたとおり,そのボリューム感はどうであるかということでありました。特に私が出席した第3分科会においては,「被害者の意向等」,具体的には事件後になされた示談や被害者宥恕,あるいは捜査や公判への被害者の協力の有無などを考慮して起訴猶予になっている事例について注目が集まりました。議事録を読む限り,第2分科会でも同様であったと思われるところでございまして,そういった理由で起訴猶予となっている事例のボリューム感を把握しておくことは,この後の議論に資するのではないかと考えています。   先ほどの川原委員の御説明のうち,今申し上げた「被害者の意向等」で起訴猶予になっている事例というのは,第4の類型の示談がなされたり宥恕があるもの,それから第5の類型の被害者が協力に難色を示しているものなどがこれらに当たるのではないかと思うのです。この整理にもし間違いがございましたら御指摘いただきたいと思います。   川原委員におかれましては,これまで多数の事件を扱われていらしたと思いますので,その御経験に基づいて教えていただきたいと存じます。   具体的には,少年に多い犯罪である窃盗,恐喝,傷害,わいせつ事犯などのうち,行ったことは比較的重いけれども,起訴猶予になっているという事案の中で,起訴猶予にした主な理由が,今申し上げた二つの類型,つまり示談や宥恕,それから被害者の協力が得られないということのいずれかであった事案というのは,これまでの御経験の中で,例えば1年に一回あるかないかというような極めてまれなものであるのか,それとも第一線の検察官や決裁官として事件を処理されている中では,毎月それなりの件数を御経験されるような比較的ありふれたものなのか,その辺りのボリューム感について御経験に基づいて教えていただきたいと存じます。もし即答できることでなければ,またの機会で結構でございます。 ○川原委員 まず,ボリューム感ですが,それは時間を頂いても,私個人として記録をとっているわけでも何でもありませんので,お答えはいたしかねます。   次に,最初の御質問の性犯罪の被害者が捜査,公判への協力を拒んでいるものは,先ほど私が申し上げた類型,4番目の被害回復や示談,宥恕があることと,それから5番目の類型,公判への協力に難色を示していること,二つに当たるかという御質問ですが,先ほど御説明した際の私の整理としては,被害者が捜査,公判への協力を拒んでいるものは,飽くまで5番目の類型の被害者が公判への協力に難色を示しているものでありまして,4番目の類型は,裁判には協力しますけれども,ただ一方で,検察官が犯罪後の事情である被害回復等によって,これは起訴猶予相当だと考えるものを念頭に置いて申し上げております。 ○羽間委員 答えにくい質問だったかもしれませんけれども,結局ボリューム感についてが,まだ明らかになっていないなというところが分かりました。   ありがとうございました。 ○山下幹事 この対象者の問題と施設収容処分の可否の問題について意見を述べたいと思います。   今,この間ずっと対象者の関係で,不起訴処分になるものはどういう人なのかということが議論されております。前回の第9回の部会においても,廣瀬委員から,実際には執行猶予かもしれないけれども,実刑になり得る程度の行為責任で起訴猶予になるとか,起訴をしない処分にするというような事例というのも十分考えられるという御指摘がございました。   先ほど,川原委員からも具体的な類型ごとに,どういう場合に不起訴になるのかというお話がありました。ただ,実際には重いけれども,起訴されないというものが極めて曖昧でありまして,先ほどからデータが出ないのか,出るのかという議論もありましたし,そのボリューム感がどうなのかということについての議論もありましたけれども,この間の施設収容処分が必要であるという意見は,基本的にはやはりそういう重い事案があるから,施設収容処分が必要であるという議論をされていたかと思うのですけれども,その前提となる部分のデータというか,今のどういう場合か,それからボリューム感,そういうデータが示されなければ施設収容処分が必要であるということの根拠にはならないかと思うのですけれども,その点が,今一つはっきりしないまま議論がされていると思います。   それから,実際にはこれは検察官が起訴しないという事案についてのことであって,施設収容処分で果たして具体的にどのぐらいの期間の施設収容を考えておられるのか,現在の少年法における長期1年ぐらいは想定されているのか,短期処遇勧告付きの半年ぐらいをイメージされているのか,もっと長いものを考えておられるのか,いずれにしても,まず施設収容処分というものについてどのようなイメージで語られているのかも,実はよく分からないところがございます。また,施設収容というときの施設というのが何を指しているのか。刑事処分ではないとしたら刑務所ではないということでしょうけれども,そこも今一つはっきりしないまま,施設収容処分が必要であるという議論がこの間ずっとされてきたかと思うのですけれども,そういう意味では,まず前提として,どのような事件が家庭裁判所に送致されるのかということ,そしてどのような施設収容処分を想定して,この施設収容処分が必要であるということを議論されているのかということ,その点をもう少し明確にして議論しなければいけないのではないかと思うのですが,その点が非常に曖昧なまま議論が続けられているということが,非常に危惧するところでございます。 ○今井委員 ただいまの山下幹事の御発言に関連してですが,今の御意見は,データや施設の具体的なイメージに関するものであったと思います。その点については,本日配布されました「部会第8回・第9回会議の意見要旨」の若年者に対する新たな処分につきましての「1」のところで,もう少し入口というのでしょうか,性格把握についての大きな基本的な問題点が示されておりますので,これについて意見を申し述べたいと思います。   ここに書いてありますのは,新たな処分,施設収容処分を含むものだろうと思います。それは,刑事処分ではないかという御指摘があったのですけれども,私はやはり刑罰とは異なる性質の処分であり,そこから今言ったようなデータの必要性でありますとか,どのような施設を想定するのかということが導かれるべきではないかと思っております。これは先ほど,新自由刑で想定されている刑罰の内容との関係でも申し上げたところですが,刑罰の正当化根拠,あるいは刑罰の内容の理解としては,現在は,相対的応報刑論という考えが多くの支持を得ているものと認識しております。   この点につきましては,今日も何度か議論が出ておりますが,行為者の行為について,応報として非難を加えることをきっかけといたしますけれども,一般予防,すなわち,刑罰を科すことによって一般市民に対して罪を犯せばどういうことになるのかを伝える効果と,行為者自身の特別予防,ここが特に今議論されている改善更生,社会復帰に関するものですが,そういった予防的な効果と,それらの前提としての応報非難の伝達ということがあろうかと思います。これらの効果を持つべきものが刑罰だと思いますが,ここで若年者に対して構想されている新たな処分というものは,確かに非難可能な行為がなされたことをきっかけとして行われるものですが,応報の伝達を目的とするものではないと思われます。対象者の改善更生,すなわち特別予防を目的とするものと理解されますので,そういった性質把握を元に,改めて今出ましたデータの話でありますとか,施設の在り方について検討を深められるのがよいかと思った次第であります。 ○廣瀬委員 ただいまの今井委員の御意見に私も賛成であります。   新たな処分の性質についてはいろいろな考え方ができると思いますけれども,これを正当化することは十分に可能だろうと思っております。特にここでは新規の立法をし,新規に制度を構想して作ろうという話ですから,保護処分ではないなら刑罰だ,そうすると少年院送致はできないなどと結び付けて決め付けることはできないのではないか,そのような決め付けは相当ではないのではないかと思います。   現行の少年院送致は,必要性も有効性も認められており,また実績も上がっています。今回,新たな処分における処分の一つとして,それに準じたような施設収容処分を,形や名称は変わりますけれども設けようということについては,新たな処分についてできるだけ実効性が上がるような改善更生に資する教育的な処分を設けるべきという議論の中で出てきたことでありますから,十分に成立すると思いますし,また必要性もあると思っております。 ○小木曽委員 審判時と,それから保護観察中の収容鑑別についてです。   前回の部会で,新たな処分における収容鑑別の措置につきましては,その相当性や回数について慎重に検討するべきであるという御意見がありましたので,これについて意見を述べたいと思います。   まず,審判時の収容鑑別につきましては,「若年者に対する新たな処分」は,改善更生に必要な処遇を行うことを目的とするものですから,少年審判と同様に,対象者の犯罪の背景にどのような問題性があるのか,それを解消するためにどのような処遇が必要であるかを把握した上で処分が決せられるものと理解しております。そうしますと,そのような問題性等を把握するために必要なときは鑑別を行うことができるものとするべきで,その方法として,収容鑑別によることが特に必要であるという場合には,これを行うことができるとすることによって,対象者の状況に応じた適切な処遇や処分決定が可能になる途を用意する必要があると思います。また,制度概要案におきましては,対象者の負担が過大とならないように,収容期間が効果的な収容鑑別のために必要な最低限である10日間とされていることから,手続的負担は最小限のものとされていると思います。また,適正手続の観点からは,対象者に措置の決定前にあらかじめ意見を述べる機会を与えた上,家庭裁判所の決定に対する不服申立て手続も設けられております。   このように,収容鑑別の措置は本処分を決定するために必要であり,対象者の負担は相当と認められる限度で,適正な手続を経てとられる制度として提案されていると評価できると思います。   次に,新たな処分の保護観察中に行う収容鑑別ですが,第2分科会の第8回の議事録及び第9回の議事録を見ますと,収容鑑別の必要な場合が具体的に説明されております。新たな処分における保護観察において,犯行に及んだ背景や対象者の抱える問題点及びそれを解消するための処遇方法を把握しつつ処遇をするということは大変重要で,保護観察の内容が,その者の状況,問題性等に相応していないときには,適切に処遇を見直さなければならないと思います。そのために収容鑑別を行うことが求められる場合に備えて,収容鑑別の措置を設けておく必要性があると考えます。そして,審判時の収容鑑別の措置と同様に,必要最低限の期間,家庭裁判所の許可を得て行われるものであることから,これも許容される制度であると考えます。   最後に,保護観察中に行う収容鑑別については,実施できる回数を制限すべきではないかという意見があると思います。対象者の手続上の負担をできるだけ軽くするという関心からの意見であって,傾聴に値すると思いますが,まず,制限を設けるとしても,許される回数の限度を具体的に何回と決めることが,簡単ではなかろうと思います。また,収容鑑別の措置をとった後に,再度,遵守事項違反を繰り返すなどして,その問題性を把握するために再び収容鑑別の措置が必要であると認められる場合が全くないとは言えないだろうと思います。そのような場合に,収容鑑別の措置をとることができないこととしますと,保護観察の在り方を見直して,社会内処遇を継続させることが困難になるという弊害が生ずるおそれもあると思います。したがって,回数制限を設けないこととしておくのがよいのではないかと考えます。   ただ,無論,保護観察中に行う収容鑑別の措置が複数回行われますと対象者の負担が大きくなりますから,再度の収容鑑別の措置によらなければ対象者の問題性を把握することができないといった高度の必要性がある場合でなければならないわけですけれども,制度概要で検討されている収容鑑別の措置は,家庭裁判所の判断を経て実施されることになっておりますので,その高度の必要性と対象者の負担,それぞれの観点を踏まえて司法審査がなされることになっておりますから,回数制限を設けなければ対象者の負担が過度なものになるということはないのではないかと考えます。 ○川出委員 前回の部会で,施設収容処分に関して,起訴猶予とされる事案の中に,行為責任という観点から,処遇のために有効な期間を伴う施設収容処分が正当化できるような事案がどの程度あり得るのか,また,仮にそのような事案があるとして,起訴猶予とされた事情や理由に照らして,施設収容処分とするのが相当と言えるのかという,二つの観点から検討する必要があるのではないかということを申し上げました。   これに関しまして,川原委員から,犯罪事実自体は重大であるものの起訴猶予相当とされる場合の考慮要素について御紹介がありましたので,起訴猶予とされる事案の中に,行為責任から見て,処遇のために有効な期間を伴う施設収容処分が正当化できるような事案があるのかという観点から,それらの考慮要素が,行為責任とどのように関わるかということを整理させていただければと思います。   川原委員は,考慮要素として六つのものを挙げられました。そのうち,第1の責任能力に問題があること,第2の共犯者間での役割が従属的であることが考慮されて起訴猶予とされる事案は,いずれも,犯罪事実自体は重大であっても,被疑者自身の行為責任は比較的小さいと考えられる事案と言えると思います。次に,第3の被害者の落ち度が大きいことですが,これは恐らくは被害者の行為が犯行の誘引となっているような場合を指しておられるのだと思います。こういった場合は,例えば被害者による法益の一部放棄による違法性の減少ですとか,行為者側から見た期待可能性の減少による責任減少といった説明が可能な場合もあると思いますので,そういう場合であれば,これも被疑者の行為責任が比較的小さいと評価できることになります。   他方で,先ほど上がっていました第5の被害者が公判への協力に難色を示していることから起訴猶予となるケースにつきましては,この場合に施設収容処分を設けることの当否は別途問題となりますけれども,行為責任という観点から見ますと,この事情は行為責任とは関係しないと言っていいだろうと思います。   そうしますと,残るのは,第4の被害回復やそれに伴う示談がなされたこと,あるいは被害者に宥恕があること,それから,第6の刑の減免事由があることという要素です。   まず,第4の点ですけれども,被害回復やそれに伴う示談がなされたこととか,あるいは被害者の宥恕があるという事情は,起訴,不起訴の決定の場面だけではなく,起訴後の量刑の場面でも被告人に有利な情状として考慮されており,主にその場面で議論がなされていますので,それを参照しますと,これらの事情が刑を軽くする事由として働く理由については様々な考え方があり,実務上も一致した見解はないようです。まず,財産犯の被害回復に関しては,事後的に侵害された法益が回復して違法性が減少するという見解,行為者に対する人格的非難が減少するなどして責任が減少するという見解,さらには刑事政策的な情状と考える見解,特別予防の必要性が減少するとする見解などがあるとされています。これらのうち,先のような事情があることによって違法性や責任が減少すると考える見解であれば,それにより被疑者の行為責任が小さくなると評価することができるということになります。   他方で,殺人のような生命犯ですとか,性犯罪を含む身体犯などについては,これは仮に損害の賠償が行われて示談がなされたとしても,侵害された法益が回復するわけではありませんので,財産犯のように,侵害された法益が回復して違法性が減少するという説明は困難だと思います。それゆえ,それ以外の点が根拠となると考えられますが,こうした場合の量刑上の考慮というのは,基本的には被害者保護という政策的な情状と考える立場が多数なのではないかと思います。   それから,示談なしに被害者の宥恕があったという事案については,被害感情という要素を量刑上どのように位置付けるかによって,様々な考え方がありますが,被害者が宥恕したからといって侵害された法益が回復されるわけではないという点に着目すれば,生命・身体犯について示談がなされた場合と同じことが,妥当することになるだろうと思います。   それから,最後に第6の減免事由があることですが,ここでは川原委員が挙げられた自首について取り上げます。自首が減免事由とされている根拠は,一般にはそれによって犯罪の捜査が容易になるという刑事政策的な観点に求められていますが,第二次的に犯人の改悛による非難の減少を挙げる見解もあります。   そうしますと,川原委員が示された類型のうち,まず第5の被害者が公判への協力に難色を示しているということを理由に起訴猶予になる場合については,なお被疑者の行為責任が大きいと言い得る事例ということになります。それに対して,第4の被害回復やそれに伴う示談がなされた場合,それから被害者が宥恕している場合,それから第6の自首がなされた場合については,それでもなお行為責任が大きいと評価できるかどうかは,これらの事情を違法性や責任を減少させるものと見るかどうかによることになります。そして,第4の類型については,先ほど申し上げましたように,どういう犯罪を対象として考えるかによって,その点についての理解が変わってくる可能性が大きいですので,それを踏まえた検討が必要になるだろうと思います。   その上で,行為責任の観点から見て,施設収容処分の対象となり得るということであれば,起訴猶予となった事情に照らして,それを,施設収容処分を含む新たな処分の対象とするのが妥当かどうかという観点から検討するということになります。               (白川委員 退室) ○廣瀬委員 先ほど追加事例の調査は行わないという説明が事務当局からあり,川原委員からは実務的に非常に詳細な御意見,川出委員からも理論的に有益な分析,御説明がありました。調査の件は非常に残念と言わざるを得ないのですが,他方で,これまで,私は,これまでの資料からうかがえるところや,私の実務経験に照らして,起訴猶予事例の中には施設収容可能な事例は相当数あり得るという指摘をしたわけですが,結局,この指摘を否定することはできないということが確認できたのだと思います。また,起訴猶予となった事案の中から行為責任が重い事例に関して有意な追加調査を行うことが難しい,行為責任の基準がはっきりしないので調査が困難だという説明は,私がこれまで申し上げてきた,行為責任には幅があり,単純に決まるものではないということを裏付けているともいえると思います。   ただいま,川出委員からも,被害者非協力の場合や生命・身体犯での損害賠償等がなされた事案,損害の回復なしに被害者の宥恕があった場合などは,起訴猶予となっていても,行為責任が重いと言い得る事案と考え得るという御説明もあったわけです。このように,新たな処分が行為責任の枠内,限度でのみ処分を行うことができるということを前提としても,施設収容処分が可能な事例について,相当数含まれているとまでは言い切れないとしても,含まれていないということも言えないのだろうと思います。そうすると,行為責任の限度という枠の制約の下でも,施設収容処分を相当とする事案は少なからずある,少なくとも「ない」と言えない以上,適正な調査,審判,それから処分をして処遇の充実を上げるためにも,処分や処遇の選択の幅を広げて施設収容処分を設けることは是非とも必要であると考えます。   また,今行われている少年院の処遇の必要性や有効性自体については,ほとんど異論がないところでありますから,施設収容処分の導入の必要性というのは否定し難いのではないかと思います。また,仮に施設収容処分が可能な事例の数が少ないとしても,重要性が高くて必要性が高いのであれば,そういう処分や処遇の選択肢を設けていくということは是非とも必要と思います。過去の少年法改正を例として見ても,14歳未満の少年院送致については,少年院法の収容年齢の下限を引き下げることや少年法第24条の改正により,異論もありながら,非常に必要性が高いということで実現したわけです。その制度の適用は,年に数件ぐらいしかないですが,現に今でもあるわけで,これが悪い改正だったということにはならないと思うのです。   新たな処分が非常に重要なものだということは,前に佐伯委員も指摘されましたが,私もそう思います。その新たな処分において,調査,審判,処分,処遇というのは一貫し,相互に関連しているものです。そこで,その処分の選択肢に何があるかということは,調査や審判自体に,また,それを受ける側,手続を進める側の双方に対して重要な影響を及ぼしますから,処分や処遇の実効性を上げていくためには,施設収容処分は是非とも不可欠なものだと私は思います。そこが欠けてしまったのでは,これはやはり制度設計として非常にうまくいかないものになってしまうのではないか。それで新たな処分の制度そのものの実効性が乏しいということになってしまうと,そもそもそういう制度を設けることがいいのかどうかということについても疑問が出てきてしまうと,こう言わざるを得ないのではないかと思います。 ○佐伯委員 以前,第2分科会に対して,「若年者に対する新たな処分」の論点について特に力を入れて御審議いただきたいとお願いいたしまして,充実した御検討を頂きましたので,この段階で一言だけ申し上げたいと思います。   分科会から御報告いただきました制度概要を拝見いたしますと,まだ決まっていない部分もありまして,その最大のものは施設収容処分を含めるかどうかということで,この点については私も更に考えたいと思っておりますけれども,基本的な方向性としては,適切な制度設計がなされているのではないかと思います。   18歳及び19歳の年齢の者について,犯罪傾向が進んでおらず,軽微な犯罪を行った段階で働き掛けを行うということは,改善更生,再犯防止に効果的であり,刑事政策上,重要な意義を持っておりますので,18歳及び19歳の者に対する制度として,この「若年者に対する新たな処分」というのはふさわしい制度ではないかと思います。 ○田鎖幹事 私は,手続としての施設への収容,それから処分としての施設収容,両方に関わる点ですけれども,収容の点について述べさせていただきます。   今,構想されている制度の概要だけを見たときに,手続の過程において収容して鑑別をする必要性があると,そのようなニーズが生じる場面があるということは十分理解するのですけれども,こだわるようですが,そもそもどういった事案があるのかということ自体についていろいろ見解なり,見方が分かれているということは承知の上で,ただ,全体としては比較的軽微で訴追の必要がないと判断される事案が対象というのは間違いないわけであります。   そうすると,仮に少年法の対象年齢が引き下がった場合ですけれども,同じ若年成人でも,20歳であれば起訴猶予と判断されれば,改善更生のために必要であっても,その後の収容というものはおよそあり得ないのに対して,18歳及び19歳で鑑別のために特に必要であるということになると,収容が可能となるということで,なぜ,18歳及び19歳で事案が相対的に軽微なために刑事手続から外れた場合には,改善更生のための手続における収容が可能となるのか,その相当性のところが,私は今一つ分からないわけであります。もちろん収容期間を限定するとか,裁判所がきちんと判断をすると,そういった手続的な手当てというものは,ここで考えられているわけなのですけれども,そもそもの相当性というところで,どうも,結局,他の若年との関係で引っ掛かってしまうのです。   それで,処分としての施設収容に関しては,その違和感というのが更に大きくなるわけなのですけれども,全体として見ましたときに,そもそも事案として一定の重いものが入ってくるのではないかとか,あるいは背後の問題性が深刻なものとか,あるいは複雑な事案も含まれるのではないかといった懸念というのは,やはりそれへの対処,現状では保護処分の手続の過程でなされているものができなくなるのはいけないから,きちんと手当てをしなければいけないという認識,手厚い処理が必要なものにはしなければいけないという懸念があるということで,それはそのとおりだと思います。   そうだとすると,先ほど宣告猶予のところで青木委員からも指摘がありましたけれども,ますますもって起訴を必要とするとされたような事案においては,更にニーズが高まるわけですし,調査なり手当ての必要性というのは高まるわけですので,個別の罰金の保護観察付き執行猶予が,それ自体としては適切に機能するということは評価できるとしても,全体として見たときに,きちんと訴追を必要とする事案について個々の制度によって全体的にカバーができるのかという観点から見たときに疑問があるということになるのです。この「若年者に対する新たな処分」についても,前回も少し述べさせていただきましたけれども,刑事処分に相当するような重さの事案も含めて,全体として特別な制度を構想するということであれば,これは別のアプローチ,施設収容処分をどうするかということについても別のアプローチが可能となると思います。ただそれは,そういうアプローチをしなければいけないとなると,では,一体なぜ現在有効に機能しているということでコンセンサスが得られている少年法の適用対象年齢というものを,あえて引き下げなければならないのか,そういう問題意識に直接的に関わってくるであろうと考えます。 ○山﨑委員 まず,この制度の対象者及び施設収容処分を認めるかどうかという点についてですけれども,先ほど廣瀬委員などから,施設収容も必要かつ相当な事例が対象者に含まれるという点については確認できるのではないか,との御意見がありましたが,私としては,その点については強い疑問を持っております。   前回も触れましたけれども,やはり全体像を見ますと,今回の「若年者に対する新たな処分」の対象となるのは,現行であれば審判不開始・不処分とされている層がそれに対応するというのが基本になると思います。制度の必要性,相当性を考える上では,まず大体どの程度の対象者を想定しているかということが大事だと思いまして,例外的にあるかどうか,ないことは証明できないのではないかという議論をしているのは少し行きすぎではないか。いわゆる重い処分という表現をされていますけれども,要するに施設収容処分を正当化できるかどうかは,基本的には,実刑相当の事案が起訴猶予になっているのかという観点で見る必要があるのではないかと考えております。   その意味で,施設収容処分に関する必要性について,「意見要旨」としてまとめていただいた中には,基本的に必要であるという意見しか載っていないわけですけれども,私は先ほど言ったような,制度としての必要性という観点で考えたときには,基本的に想定される層からすると,例外的に実刑相当の者が入ってくるかどうか,分かりませんけれども,それがあり得るからといって,必要性があるとは言えないのではないかと考えています。   また,同じく「意見要旨」の「必要性」について,上から二つ目の理由が書かれておりますけれども,実際にこの制度を運用するときの実効性がどうなのかという観点で検討されるというのは,私もある意味,非常に共感するところではあるわけですけれども,とはいえ,極めて例外,あるいはないかもしれない施設収容処分を入れておくことによって,対象者にとっての感銘力のある審判を行うことができる等ということについては,少し言いすぎかもしれませんけれども,言わば,威嚇するものを持っておくことで制度をうまく機能させようということであれば,それはやはり必要性とは言えないのではないかと思っております。やはり行為責任の原則の下にさらされることになると思いますので,そうしますと,その限度で認められる施設収容処分というのは,あっても極めて短期にならざるを得ない。そうすると,やはり効果というものも期待できない。少年院のような教育はできませんので,そういう意味から言うと,必要性もなかなか認め難いのではないかと思っております。   関連して,処分の性質について,簡単に申し上げます。   先ほどから,保護処分ではないし刑事処分でもない,という御説明があったのですが,とすると何なのか,ということが明らかにされていないのではないかという気がしております。また関連して,新たな法律,あるいは新たな制度を作るときの目的について,少年法の「健全育成」という目的に代わる目的をどう設定するのか,ということも考えなければいけないのではないかと思っています。   先ほど田鎖幹事からも指摘がありましたが,20歳以上の者と同様に少年法の対象外とされて成人として扱われるにもかかわらず,20歳以上の成人とはかなり大きく違う手続や処分を認めるということでありますと,その成人の間での違いを,憲法上の諸原則との関係も含め,様々な観点からも正当化できるような合理的な目的,あるいは法的性質というのが設定できるのか,ということは真剣に考えなければいけないのではないか,その点についての検討がまだ十分ではないのではないかと考えています。 ○井上部会長 よろしいでしょうか。   それでは,「若年者に対する新たな処分」についての本日の意見交換はこの程度にさせていただきます。   第3分科会の担当事項に移り,まず「起訴猶予等に伴う再犯防止措置の在り方」について,御意見がある方は,挙手の上,御発言お願いします。 ○川出委員 「検察官が働き掛けを行う制度」について意見を申し上げます。   この制度は,被疑者の犯罪傾向がまだ進んでおらず,起訴猶予とし得る段階で,一定の働き掛けをすることによって,その改善更生及び再犯防止を図ることを目的としたものであり,刑事政策上,意味のある制度だと思いますし,また理論上も十分あり得るものだと考えます。   その上で,今回の諮問の趣旨に立ち返ってみますと,処遇を充実させるための刑事法の整備の在り方を検討するに当たっては,18歳及び19歳の者の処遇について,特に考える必要があると思います。そして,仮に少年法の適用年齢を引き下げるとした場合に,起訴猶予となる18歳及び19歳の者については,先ほど議論しました「若年者に対する新たな処分」の制度案が提示されています。   そうしますと,18歳及び19歳で起訴猶予になる者について,「若年者に対する新たな処分」と「検察官が働き掛けを行う制度」のどちらが,18歳及び19歳の者の問題性や特性を踏まえた処分を,より行い得るものとなるかということを考えてみる必要があります。まず,働き掛けを行う制度については,この制度概要案では,検察官が守るべき事項を設定するに当たって,少年鑑別所の調査機能を活用しつつ,当該事項の設定を行う仕組みとすることが考えられているようですが,仮にそのような仕組みにするとしても,この制度が導入された後,直ちに各検察官において一定の水準以上の適切な守るべき事項を設定することができるかといえば,それは難しいように思います。   これに対して,「若年者に対する新たな処分」は,現在の少年保護事件と同様,家庭裁判所において家庭裁判所調査官の調査が行われ,その上で処分が決定される制度とすることが考えられていますので,18歳及び19歳の者に対するノウハウが十分蓄積されている家庭裁判所における手続を経た上で,適切な処分が決定されるということになります。その意味で,起訴猶予となるような18歳及び19歳の者について,その問題性や特性を踏まえた処分を行うという観点からは,「若年者に対する新たな処分」によることの方が適当だと思います。そうしますと,今回の諮問への対応としては,最も手当てすべきところは手当てができるということになりますから,結論としては,「検察官が働き掛けを行う制度の導入」は,今回は見送るということがよいのではないかと思います。 ○小木曽委員 第3分科会において検討しました「起訴猶予等に伴う再犯防止措置」という項目につきましては,「第1」と「第2」の制度概要がありまして,このうち「第2」の「起訴猶予となる者等に対する就労支援・生活環境調整の規定等の整備」に関する制度概要につきましては,分科会における議論においても特段異論はありませんでしたし,前回の部会におきましても御意見はなかったと記憶しておりますので,基本的に制度概要に記載された内容を進める方向でよいものと認識しております。   他方,「第1」の「検察官が働き掛けを行う制度の導入」についてですが,分科会においても多くの時間を使って議論をしてまいりました。私も,理論上あり得る制度であるとは思うのですけれども,ただいま川出委員から,今回の諮問の趣旨からすると,少年年齢が引き下げられた場合の18歳及び19歳の者で起訴猶予となるような者についての改善更生及び再犯防止の措置としては,本制度よりも「若年者に対する新たな処分」の導入を検討すべきではないかという御意見があったところです。   第3分科会における議論の状況にも鑑みますと,本制度につきましては将来の検討課題として,「若年者に対する新たな処分」を第1の選択肢として検討するという方針を支持したいと思います。 ○太田委員 今,18歳及び19歳の者を念頭に置くと,今回は見送るべきではないかという御意見がございましたが,私自身は,犯罪行為自体は比較的軽く,行為責任から見れば起訴猶予相当か起訴相当の境界辺りにあるけれども,本人の問題性が一定程度高いという場合,もちろんこれを起訴していくという選択肢もとり得るわけでありますが,判決では恐らく単純全部執行猶予となってしまって,本人に対する働き掛けが何ら行われないまま司法手続が終わってしまうということもあり得ると思います。また,このことは単に起訴猶予とした場合でも同じような問題が残ります。そこで,起訴猶予とはするものの,犯罪者には再犯防止に向けた一定の働き掛けを行うことができるようにする仕組みがあってしかるべきであると考えております。   部会では,そうした場合でも起訴をして,宣告猶予をすればよいという意見も見られますけれども,そのためにあえて起訴をすることは,本人に手続上の負担もかかりますし,単純全部執行猶予となって前科は付きますけれども,処遇は何ら行われないという結果になる可能性もございます。また,18歳及び19歳に限っては,「若年者に対する新たな処分」の導入も検討されているわけでありますけれども,先ほど述べたように,問題性が高いケースであるにもかかわらず手続から除外されるという可能性も残っているわけでございます。   ただ,その抜け穴がないようにするということもできることから,今回の18歳及び19歳を念頭に置いた制度改革においては,「検察官が働き掛けを行う制度」は導入しないという結論になることもあり得るだろうとは思いますけれども,そうであるとしても,他の年齢層においては,こういった「検察官が働き掛けを行う制度」ということがあることで制度の隙間といいますか,単純な起訴猶予処分以上で単純全部執行猶予未満といったものを埋めることができることから,この法制審議会における取りまとめの中には,将来の課題という形で明記しておいていただきたいと考えております。 ○田鎖幹事 今の点に関連して,将来の課題ということで申し上げますと,「部会第8回・第9回会議の意見要旨」の12ページの三つ目の「○」にもありますし,前回の部会でも発言させていただきましたけれども,本制度は訴追裁量権の範囲内で行うとすることから相当性があるのだということについて,私自身は理論上,少なくとも分科会においてもそうですし,部会においてもきちんと詰められた議論は展開されなかったと考えております。ですので,将来の課題というときには,なぜ訴追裁量権の範囲内でそれが可能となるのか,そのことが正面からきちんと明らかにされなければならないと考えます。分科会では,なぜ相当ではないのかという意見に対する批判なり,疑問なりで随分時間が費やされてしまって,逆の,なぜ相当なのかという議論が全く不十分でありましたので,その点は正に将来の課題になるということを指摘させていただきたいと思います。 ○井上部会長 将来,そのような根本から検討することが課題だという御趣旨ですね。 ○田鎖幹事 はい。 ○井上部会長 分かりました。   ほかに御意見はございますか。 ○伊藤委員 「検察官が働き掛けを行う制度」と「若年者に対する新たな処分」の関係について疑問に思っていることを申し上げます。「検察官が働き掛けを行う制度」が導入された場合,直ちに起訴すべきかどうか検察官が迷われるような被疑者については,保護観察官の指導・監督に付した上で,その結果をみて,起訴・不起訴の判断を行うということが想定されるように思います。仮に,この制度を導入しないこととした場合ですが,今申し上げた,直ちに起訴すべきかどうか検察官が迷われるような被疑者については,そのまま起訴することになるのか,あるいは,不起訴処分にした上で,「若年者に対する新たな処分」の方に流していくことになるのか,という点が問題となり得るように思います。この点について,お考えのところがあれば,お聞きしたいと思います。 ○保坂幹事 「若年者に対する新たな処分」と「検察官が働き掛けを行う制度の導入」について,どのような関係であると理解するかということは,この部会で御議論を頂くという話になっておりました。今回の部会で,「検察官が働き掛けを行う制度」については見送ることとし,将来の検討課題にするということが意見として出されたわけですが,仮にそうする場合に,「若年者に対する新たな処分」について,何がどのように変わるかということも,正にこれからの御議論していただくことであると事務当局としては理解をしております。 ○伊藤委員 仮に「検察官が働き掛けを行う制度の導入」を見送った結果,検察官が起訴・不起訴の判断を迷われるような事件も「若年者に対する新たな処分」の方に流れてくる可能性があるとすれば,「若年者に対する新たな処分」において,施設収容のメニューを用意する必要があるかどうかという先ほどの議論にも影響してくるように思いますので,その点だけ指摘しておきたいと思います。 ○井上部会長 「検察官が働き掛けを行う制度」を積極的に採用しようということになるなら,その制度と「若年者に対する新たな処分」との関係をもっと詰めなければならないと思うのですが,現段階では,少なくとも先ほど皆さんの御意見を伺った限り,「検察官が働き掛けを行う制度」は今回は採用を見送る,あるいは将来の検討課題にしようという御意見が多かったものですから,このような議論状況を踏まえて,更にお考えいただければと思います。   次に,「保護観察・社会復帰支援施策の充実,社会内処遇における新たな措置の導入及び施設内処遇と社会内処遇との連携の在り方」について御意見を頂きたいと思います。 ○太田委員 「第1」の「2(2)」,外出禁止の特別遵守事項の追加ですけれども,これに関連して事務当局にお伺いしたいと思います。   私自身は,例えば矯正施設から仮釈放とか仮退院をしたけれども,生活が非常に不安定になってきているとか,それから元の不良交友が再発して更生が危ぶまれる場合とか,そういうときにすぐに取消しをしないで,社会内での自立更生といったものに期待をかけるために生活を安定させたり,不良交友を断ち切るために更生保護施設等に宿泊を義務付けるとした場合に,それでもやはり夜間に正当な理由なく勝手に外出したり外泊したりして不良行為をしているような場合には,正当な理由なく夜間に外出することを制限する必要があるように思いますので,制度を設ける必要性はあるだろうと思います。   ただ,その一方で,特別遵守事項としての外出の許可,不許可の判断ができるような施設の管理者を常時配置するようなことができずに,このような類型を設けたとしても,実際には更生保護施設の体制上,運用が困難であるということでございました。ですが,他の方法で対応できないのかも含めまして,この更生保護施設からの外出禁止制度につきまして,更生保護施設の意向ですとか実務上の課題について,改めて事務当局からお伺いしたいと思います。 ○今福幹事 更生保護施設からの外出の禁止の制度について,外出の許可・不許可の判断は,対象者の求めに応じて適時・適切になされる必要がありますが,当該対象者の問題性や遵守事項の遵守状況のほか,許可を求めてきた際の言動等について十分に把握した上で行う必要があり,そのためには,許可・不許可を判断する職員が更生保護施設に駐在していることが前提となると考えられます。   他方で,更生保護施設側の意見として,許可・不許可の判断を行うべき立場の者について,外出禁止として指定された時間帯に常に施設に駐在し,かつ当該対象者からの外出許可の申出があるたびに,適時・適切に判断できる態勢でいなければならないとすることは,現状の更生保護施設の体制上は困難であるとの意見も出ているところです。   また,同じく更生保護施設側の意向として,更生保護施設の業務は補導援護の実施であるから,その充実を図っていくべきであって,権力的・監督的な指導等は保護観察官において行うべきであるとする意見も少なからずございます。そして,外出禁止の許可・不許可は,対象者の特定の行動の禁止の範囲を定めるという権力的・監督的な行為を更生保護施設の職員が自ら行うものでありますから,こういった制度を導入すれば,これまでの更生保護施設の役割や運営の在り方とそぐわないこととなるなど課題が多いとして,導入には慎重な意見もあると承知しております。 ○太田委員 結構でございます。 ○小木曽委員 「第5」の「保護観察における少年鑑別所の活用の在り方等」のうち,これも収容鑑別についてですけれども,この制度は,配布資料19の制度概要の「第5」の補足説明の「2」にも記載されているとおり,保護観察対象者の問題性が大きく,指導によってこれを改善できず,このままの処遇方法では保護観察の実施が難しい状況にある場合に,犯罪に至る背景や問題性を改めて把握し,保護観察の実施計画や特別遵守事項の内容といった処遇の見直しを行うために必要であるとされています。集中的な鑑別によって,保護観察だけでは把握が難しい,心理的あるいは資質的な問題を把握し,それを通じて必要な処遇を見直すことによって保護観察を効果的なものとし,改善更生につなげるという意味で,このような制度を設ける意義は大きいと思います。   この保護観察において収容を伴う鑑別を求めることができるとすることについては,前回の部会で,執行猶予の取消しを回避する場合にのみ用いることができるというのであれば理解できるという御意見がありました。その御意見の趣旨を酌んだ上,私なりの意見を述べますと,収容を伴う鑑別であるために,必要性の高い場合にこれを限定すべきであるということになると思います。   第3分科会の議論の過程では,現行法上,保護観察付執行猶予者について,執行猶予取消しの申出をするか否かの審理を開始する必要があると認められるときの少年鑑別所等への留置の制度があるところで,収容を伴う鑑別制度を設けるのであれば,現行の留置制度を利用することも考えられるという意見がありました。ところが,その運用状況を見ますと,留置件数自体が非常に少ない上,留置されるとほぼそのまま執行猶予の取消しに結び付いているという報告がありました。留置制度を執行猶予取消しの申出のために必要な場合の制度としたことで利用数が限定され,利用された場合には執行猶予取消しがほぼ想定されるという運用になったものと解されます。   これを踏まえ,新たに処遇の見直しのための収容を伴う鑑別制度を設ける場合には,現行の留置制度とは切り離したものにすべきであるという意見がありました。これと同じことで,仮に収容を伴う鑑別制度の要件を執行猶予の取消しの申出をするか否かの調査に必要な場合といったように限定をしてしまいますと,制度自体が余り利用されないことになって,結局,収容鑑別によって保護観察を見直し,社会内処遇,保護観察を継続させるという機会をつぶしてしまうおそれがあるのではないかと思います。 ○太田委員 これまで部会で検討されている内容の中には,保護観察付き執行猶予の期間内の再犯について,再度の執行猶予を言い渡すことができるようにして,保護観察付き執行猶予の活用を図るといったように,保護観察を活用することが多く盛り込まれております。しかし,犯罪者に対する処分を一層充実させるための方策としては,保護観察に付しやすくするようなことだけではなく,この保護観察における処遇そのものを充実させることも必要不可欠であると考えます。この点について「第1」の中に,対象者が抱える様々な問題について対応できるようにするために,保護観察におけるアセスメントツールや処遇手法を新たに開発整備するとともに,民間施設につなげるための特別遵守事項の類型を新たに追加等をするなど,指導監督の側面を強化する方策を検討したということは,その目的に資するものと思われます。   また,外部通勤作業や外出,外泊の活用を促進するなど,施設内から社会内への円滑な移行を図るための取組や,良好措置である仮解除の活用などを促進しまして,対象者の改善更生の意欲を図るための制度改正も盛り込んでいるほか,このような処遇の受け皿となる民間サイドの取組を強化するために,更生保護事業に専門的な援助が含まれることを明文化するなどの更生保護事業の体系の見直しを図ることは非常に重要であると考えます。   それから,「第2」の「犯罪被害者等の視点に立った処遇の充実等」ですけれども,前回にも武委員から御意見がありましたが,犯罪者の真の更生のためには,被害者等の被害の現実というものを正しく犯罪者に理解させて行動させるということが必要不可欠であると思われます。現在の心情等伝達制度では,重大事件で犯罪者が実刑や少年院送致となった場合に,仮釈放や仮退院になった場合にしか行うことができず,その後の保護観察も非常に短い場合が多いため,心情等伝達の経過を踏まえて対象者の処遇をすることも十分にできません。また,被害者の意見聴取も,仮釈放や仮退院審理,その後の保護観察の参考にはできても,矯正処遇には全く活用することができません。そこで,刑や処分の執行の初期段階において,被害者等から心情等を聴取することで,それ以後の矯正処遇や矯正教育,保護観察にいかすことができるほか,心情等のうちで,被害者等が犯罪者に伝達を希望する内容については,その刑や処分の執行の早期の段階で受刑者や少年に伝達するということで,その更生に資するものと思われます。   最後に,特別遵守事項の外出禁止については,先ほどの事務当局の説明によりますと,必要性はあるかもしれないけれども,更生保護施設側の体制上,運用は困難であるということでしたので,制度化は現時点では困難かもしれませんけれども,それ以外の制度や施策については,保護観察における処遇内容を充実させるために,いずれも必要かつ相当な内容であることから,今回,配布資料に記載されている制度を設けることや施策を実施することは,犯罪者の改善更生及び再犯防止を図る上で相応の意義があると考えます。 ○奥村委員 太田委員がおっしゃった「犯罪被害者等の視点に立った処遇の充実等」のところで,余り問題というほどのことはないですけれども,被害者支援の点から述べたいと思います。   太田委員がかなりおっしゃっていますので,ほとんど一緒なのですけれども,ただ,被害者等の心情等についてこれを重視して,地方更生保護委員会とか,保護観察官と連携を図るように努めなければならないところですね。それから,保護観察等の措置をとるに当たって被害者の意見を聴くというのは,どの程度聴くのかについてもう少し明確にしていただきたいことと,被害者の視点に立った指導ということにつきましては,損害賠償等に関して,ここに「具体的な賠償計画を立て,賠償に向けて就職活動を行うことや,就労により貯蓄した一定額を被害者に送金することについて,生活行動指針に設定し,これに即して生活し,又は行動するよう指導を行うための運用に関する規律を規則等で設け,当該指導の充実を図る。」と書かれていますけれども,これは今ほとんど実効性がない損害賠償命令というものを実効あらしめるために,受刑者,犯人側に対して,被害者に対して賠償義務があるということを自覚させ,その自覚に基づいて賠償義務を果たすことができるようなそれを実効あらしめるための処遇方法は,刑事施設内における処遇に限定されず,保護観察中の者も対象になることから,きちんと実効あらしめるための制度,システムにしていっていただきたいと思います。   そこで,具体的にどの程度の規定ぶりにするかということですけれども,この点につきましては,50ページの概要3のところに「新たな法整備を要しないものと考えられる。」と書かれていますけれども,運用に関する規定を規則等で設けて指導の充実を図ろうとするものであるという点ですが,もう少し具体的な賠償計画を立てて,生活行動指針を設定するという,犯人側に対して賠償命令の遵守を実効性あらしめるための施策を実現するような規定ぶりにしていただきたいと思います。 ○井上部会長 ありがとうございました。   ほかに特に御意見がなければ,これくらいにさせていただきたいと思うのですけれども,よろしいでしょうか。   それでは,本日の審議はこれで終了させていただきます。   本日の議論で,分科会から報告のあった検討結果について2巡目の意見交換が終わったことになります。今後の具体的な議事等については,私の方で検討させていただいた上,事務当局を通じて,なるべく早めに皆様にお知らせすることにしたいと考えておりますが,そういうことでよろしいでしょうか。               (一同異議なし)   ありがとうございます。   今後の予定につき,事務当局から説明をお願いします。 ○羽柴幹事 次回第11回会議は11月2日金曜日の午後1時30分からです。場所は法務省大会議室です。 ○井上部会長 引き続き,よろしくお願いします。   なお,本日の会議の議事については,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったと考えられますので,発言者名を明らかにした議事録を作成した上,公表することにさせていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。               (一同異議なし)   それでは,そのようにさせていただきます。   本日は,充実した内容の御議論を頂きましてありがとうございました。   今後もよろしくお願いします。 -了-