法制審議会 民事執行法部会 第21回会議 議事録 第1 日 時  平成30年7月20日(金)自 午後1時30分                      至 午後4時47分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  民事執行法制の見直しについて 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○山本(和)部会長 それでは,予定した時刻になりましたので,法制審議会民事執行法部会第21回会議を開会いたします。   本日も御多忙の中御出席を頂きまして,誠にありがとうございます。   最初に,新たな委員,幹事の御紹介でございますけれども,本日の会議から,前回参考人として御出席を頂きました大谷弁護士が新たに委員に就任され,同じく芝池弁護士が新たに幹事に就任されました。また,本日は,法制審議会総会の委員である早川眞一郎委員にも御出席を頂いております。    (委員の自己紹介につき省略) ○山本(和)部会長 それから,前回の会議と同様に,外務省領事局ハーグ条約室の圖師関係官にも引き続き御出席を頂いております。   なお,本日は,大谷委員及び山田幹事が御欠席と伺っております。   本日の審議に入ります前に,配布資料の確認を事務当局からお願いいたします。 ○内野幹事 事前送付資料といたしまして,部会資料の21-1及び21-2をお送りしております。   また,席上配布資料といたしまして,議事次第等と共に,本日ヒアリングを予定しております参考人の御所属先である公益社団法人家庭問題情報センター(FPIC)のリーフレットも配布させていただいております。   資料としては以上でございます。   続きまして,本日の御審議ですが,要綱案の取りまとめに向けた検討という観点から,前回同様に部会資料21-1のゴシック体で記載された部分を中心に,その規律の在り方についての御審議を賜りたいと考えております。   なお,本日は,おおむね午後2時45分頃をめどに休憩を挟んだ上で,児童心理の専門家の方を参考人としてお招きしてヒアリングを実施する予定でございます。   事務当局からは,以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,本日の審議に入りたいと思います。   今,事務当局からの御紹介にもありましたように,本日は,最終的な要綱案になるべき部分をゴシック体でまとめた部会資料21-1及びこれに補足的な説明が付加された部会資料21-2について,御審議を頂くということになります。   順次項目に従って御審議いただきたいと思いますが,まず,「第1 債務者財産の開示制度の実効性の向上」の部分について,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○内野幹事 まず,この第1の部分でございますけれども,前回の部会資料19-1から形式的・法制的な観点からの記載ぶりの修正をしておりますが,実質的な変更はございません。   細目的な事項に関する委任に関しましては,最高裁判所規則以外の下位規範への委任もあり得るのではないかという御指摘もございましたので,前回の部会での議論を踏まえまして,特に債務者の不動産に係る情報の取得の論点に関し,その下位規範の一部を法務省令としております。この点につきましては,部会資料21-2において御説明させていただいております。   また,前回の部会においては,債務者の特定の方法につきましても,銀行を始めとする金融機関等の対応能力との関係で,債務者の氏名に係る振り仮名についての情報が,この情報取得手続の中でどのようにして金融機関側に与えられていくのかという点についての御議論がございました。この点につきましては,専ら運用ないしは最高裁判所規則の中で対応されるべき事柄であるといった認識を前提といたしまして,部会資料21-2において御説明をさせていただいております。   各部会資料の「第1」について御説明は,以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,この第1の部分につきまして,どの点からでも結構ですので,御意見,御質問等があればお願いしたいと思います。 ○中原委員 もう一度振り仮名の点について,金融機関側のお願いを申し上げておきたいと思います。   照会をする債務者の特定というのは,飽くまでも債権者が行うべき事項であって,照会を受けた金融機関が漢字の表記をどのように読むのか判断するというのは,やはりおかしいだろうと思います。   各地の弁護士会と一部の金融機関等の間で,弁護士法23条の2に基づく照会に関する協定が締結されていますが,その中では,振り仮名を振っていただいておりますし,また,氏名の読み方については五つ程度までの振り仮名を振ることを可能とする取決めをしているケースもあると聞いております。金融機関側とすれば,五つぐらいまでの読み方が併記されるのであれば,その検索は行いますので,金融機関が自ら読み方を考えて検索せよということだけは,是非避けていただければと思います。   この点は,最高裁判所規則で定めていただく事項と思いますので,最高裁と御相談しながら,我々の要望についてお願いをしていきたいと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   中原委員御指摘のとおり,恐らくこの問題は最高裁判所規則の定め,あるいは運用レベルでの問題ということになろうかと思いますので,今後,最高裁判所規則あるいは運用の在り方を検討する上で,今の中原委員の御発言についても御勘案を頂くということになろうかと思います。 ○成田幹事 この点に関連して一言申し上げますと,中原委員御指摘のとおりで,債務者や執行の目的物の特定は,本来的には債権者が行うべきというのが原則かと思われます。また,判決や和解で債務名義を作っている立場の側から見ますと,債務名義をとっている債権者あるいは担保権者の場合,債務者の氏名の読み方が分からないというのは,なかなか想定しにくいのかなと思っているところであります。   加えて,今回の第三者からの情報取得制度につきましては,本店で一括で照会を受ける形になりますので,振り仮名がないとかなり厳しいのではないかというところは認識しているところであります。   こういったことを総合しますと,方向性としましては,やはり申立書には振り仮名の記載を必要的にしてもらう,それは複数書いてもらうのもありかとは思いますが,そうした上で,そういう振り仮名の記載がなければ,不適式な申立てとして却下をするという方向性と,あるいは,振り仮名の記載を必要的とまではしないにしても,できるだけ振り仮名を書いてもらい,もしその記載がない場合につきましては,金融機関の方で,一般的な読み方で検索をすれば足りるという方向性とが考えられます。後者の場合,もし振り仮名がなくて一般的な読み方でなかった場合,つまり空振る場合が当然出てくるわけですが,その場合において,金融機関に何らかの責任が生ずるという自体は多分想定しにくいのかなと思っています。そのいずれかの方向性になるのかなと思っております。   今後の運用の話なのかもしれないわけですが,どちらの方向性がいいのかというのは,委員,幹事の方々の御意見をお聞かせいただければと思います。 ○阿多委員 今,振り仮名についての御指摘を頂きまして,御指摘のように,担保権実行に基づく場合であれば,何らかの接触関係がありますし,契約に基づく責任追及等で債務名義を取得した場合には交渉がありますけれども,不法行為その他の事情で債務名義を取得した場合に,必ず債権者の方が債務者の振り仮名を正確に把握しているとは限らない場面もあると。そうなりますと,先ほど御提案いただきました必要的記載というような形になって,振り仮名のない場合は,その申立てが不適法で却下になるというのは,債権者の方としては,むしろ正確な振り仮名が分からないので,あえて留保している場合もあり得ますので,照会いただいて該当なしというのはまだ格別,最初から申立てが不適法になるというような形の方向は少し実情に合わない部分もあるのではないかなと。我々もできる限り,何らかのものを取りあえず書いておけば,適法に申立てが受理されて,結果的に該当者がないというような形の回答になるのは別ですけれども,あんまりそういうふうな,何でも書いておけばいいというような形の定め方というのもいかがかと思いますので,必要的要件とするかどうかについては慎重な方向で御検討いただけたらなと思います。 ○谷幹事 振り仮名につきましては,今,阿多委員がおっしゃったとおり,私も同じ意見でございまして,中原委員がおっしゃったように,金融機関においては,振り仮名で検索をするというふうなシステムで運用されていると。このこと自体は,私どもも配慮をしなければいけないだろうと思っております。   したがって,何らかの形で振り仮名を付するという形で円滑に運用するという方向性に反対するものではないわけなんですけれども,ただ,純粋に法理的な理屈として考えてみますと,氏名,本人の特定というのは基本的には氏名で行われるわけでございまして,その氏名の特定に当たっては,日本人の場合は漢字で特定がされていると。振り仮名が公的に何らかの形で個人の特定に利用されるという意味での,そういう公的な仕組みはないわけでございますので,振り仮名がなければ,それで不適法になるというふうな仕組みというのは,少し行き過ぎではないのかなと思っております。   その上で,円滑に運用のために振り仮名を付するとしても,その振り仮名だけが唯一,債権者が特定した振り仮名だけが唯一の読み方ではないという実態も,これまたございますわけでございまして,人によっては,ある場面では,例えば,1文字は濁るという振り仮名を振り,また別の場面では濁らないという振り仮名を振るということも,これは実際にあるわけでございますので,そういう実例も勘案しながら,可能な読み方はできるだけ挙げることができるような仕組みにした上で,なおかつ漢字での検索ということも,現時点でのシステム上,どこまでそれができるのかというのは分かりませんけれども,方向性としては,やはり基本的には漢字で検索をしていただくというふうなことを目指していただくということが必要なのかなと。それを前提に,法制度を作っていくということが必要なのかなと思っているところでございます。 ○道垣内委員 中原委員がおっしゃらないのに,私が言う必要はないんですが,この制度ができたからといって,銀行がシステムの変革を迫られるという必然性は全くないと思います。したがって,漢字で検索できるように銀行は頑張れというところには,納得は必ずしもできません。 ○谷幹事 基本的に,預金保険の関係で名寄せをするということで,これは漢字の氏名と生年月日で特定,さらには,場合によっては住所ということで特定をされると思いますので,単に今回の第三者からの情報取得手続のためだけではないということで,銀行としてもそういう努力はされているんだろうと思いますので,是非,それはそれでやっていただきつつ,それを踏まえた制度づくりをやるというのが,この部会の議論かなと思っているところです。 ○道垣内委員 2番目の御発言については,全く異論はございません。 ○山本(和)部会長 ほかにいかがでしょうか。   よろしいでしょうか。   いずれにしても,基本的にはこの部会で何かを決めるという問題ではなく,今後の最高裁判所規則あるいはそれに続く運用の中で,できるだけ円滑にこの制度の目的が達せられるような方向で御検討をいただくということかと思います。   部会資料21-1の第1のうち,ほかの点についても何かございますでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,部会資料21-1の第1の内容については,特段の御異論はないものとさせていただきます。   引き続きまして,「第2 不動産競売における暴力団員の買受け防止の方策」の部分についての御審議をお願いしたいと思います。   まず,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○内野幹事 この「第2 不動産競売における暴力団員の買受け防止の方策」につきましても,実質的な変更はございません。なお,前回の部会において御指摘を頂いた第2の3(2)の書きぶりにつきましては,部会のこれまでの議論では,買受けの申出と売却決定期日のいずれかの時点において,この部会で議論しているところの売却不許可事由があれば売却不許可決定をすることになるという規律を念頭に置いておりましたところ,法人でその役員のうちに暴力団員等に該当する者があるという場面について,その規律の実質が文言と整合していないのではないかとの疑義があるという御指摘がございました。その観点から,この第2の3(2)の部分についての文言を,規律の実質的な内容を書き下す形に修正しております。   各部会資料の「第2」についての御説明は,以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   この第2の部分について,御質問,あるいは御意見があればお伺いしたいと思います。 ○阿多委員 確認でございますけれども,今回,暴力団の排除のために,法人の場合,役員について,役員が該当するかどうかも含めての対象になって,さらに刑罰も検討することになっている。この役員について,民事執行法では直接定義している規定が置かれていないのですけれども,法人等の規定によっては,役員について定義がされていたり,広く拾ってきたわけではないですけれども,法人格を付与するようなものによっては,役員の定義がないのかもしれませんが,ここでの役員というのは,個別に定義をするということではなくて,民事執行法の観点から役員というものを整理して理解すると,そういうふうになるんでしょうか。 ○山本(和)部会長 いかがでしょうか。 ○内野幹事 基本的には,そのような理解になるものと思われます。   この「役員」の概念につきましては,もちろん法人法制における役員としてどのようなものが規定されているのかといったことが参照されるものと認識しておりますが,部会のこれまでの議論を踏まえますと,基本的には,今,阿多委員がおっしゃったような御理解を前提としているものと考えております。 ○阿多委員 結構です。 ○山本(和)部会長 ほかにいかがでしょうか。   おおむねよろしいでしょうか。   それでは,この第2の部分についても,基本的に御異論はないものと伺いました。   それでは,続きまして,「第3 子の引渡しの強制執行に関する規律の明確化」の部分について,御審議をお願いしたいと思います。   まず,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○内野幹事 第3の「1 子の引渡しの強制執行」の部分につきましては,部会資料20-1からの変更点はございません。   次に,「2 子の引渡しの直接的な強制執行」の部分でございますが,部会資料21-2の13ページから14ページにかけまして,子の引渡しの直接的な強制執行の要件である本文第3の2(1)のアないしウの規律の在り方につきまして,前回の部会での御指摘を踏まえた検討結果を記載しております。このうちイ及びウの要件につきましては,個別事案における事情をどのような形で当てはめ得るのかという点に関する一つの考え方を御説明しております。   部会資料21-2の14ページにおきましては,債務者審尋の要否やその要件への当てはめの在り方につきまして,試みまでに,前回の部会での御指摘を踏まえた検討の結果を記載しております。   そして,「3 執行官の権限等」の部分につきましては,部会資料21-2の15ページから17ページにかけて,執行の場所の占有者の同意に代わる許可の告知の要否に関し,前回の部会での御指摘を踏まえた検討をさせていただいております。   前回の部会での議論では,例えば,同意に代わる許可に基づいて強制執行がされる場面を念頭に,当該許可に係る許可証の提示についての規律,とは別に,何らかの形で債務者に対する通知をするという仕組みを設けたほうがよいのではないかという御指摘をいただいたものと認識しております。ただ,この点につきましては,細目的事項として最高裁判所規則等の中に規律を設けることも一つの選択肢なのではないかといった問題意識も出ておりましたので,そのような前提に立った上で,この点に関する補足的な説明を試みております。   続いて,「4 子の心身への配慮」の部分につきましては,部会資料21-2の17ページから20ページあたりに前回の部会での議論を踏まえた検討結果を記載しております。前回の部会においては,このいわゆる配慮規定において「子の福祉」という概念を用いるという御提案もございましたが,そのような概念を用いて規律を定立することについては,場合によると,様々な考慮要素が入り得てしまい,規律の適用範囲がかえって不明確なものになってしまうのではないかという懸念,具体的には,いわゆる本案の段階で考慮すべき事情が強制執行の場面における考慮要素として入ってきてしまうおそれがあるといった指摘もあり得ることから,そのような点につきましても,部会資料において説明を試みております。   各部会資料の「第3」についての御説明は,以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま御説明がありましたこの第3の部分について,御質問,御意見をお出しいただければと思います。   いかがでしょうか。 ○垣内幹事 幾つか,2点ほど申し上げたいと思います。   1点目は,部会資料21-1で申しますと,債務者の審尋のところで,8ページになるかと思いますが,8ページの(2)のところで,「子に急迫した危険があるときその他の審尋をすることにより強制執行の目的を達することができない事情があるとき」という文言につきまして,補足的な説明の方で御説明されているようなことであれば,ゴシック体の表現については,私はこれでよろしいかと思いますけれども,「強制執行の目的を達することができ」るかどうかという言葉については,いろいろな場面でいろいろな形で使われているということがあるかと思いますので,今後補足説明等で説明される際に,その点に十分留意いただければよいのではないかと考えております。   それから,第三者の占有する場所において執行をするという場合に,同意が必要だけれども,同意に代わる許可をするという場合の,その告知の問題につきまして,今回御検討いただいているかと思います。告知の要否については,基本的には不服申立ての要否と関連付けた形で検討されて,それについては不要ではないかということで,ただ,告知ということではなく通知ということについては,なお検討の余地があるという整理をされているのかなと理解いたしました。告知が必要ないという点については,確かに執行抗告もここでは考えないということですので,それでよいのかなと思いますが,通知に関しては,こういう新しい制度で,本来同意がなければそこで執行はできないという場合に,しかし,同意なくできるという規律を新たに設けるものですので,通知について必要とするという方向で考えるということは,なお検討の余地があるのかなと。これも,ゴシックの部分についての点ではありませんけれども,今後の検討については,そのような考え方もあるのかなと考えておりますので,付言させていただきます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   事務当局から何かございますか。 ○内野幹事 御指摘を踏まえて引き続き検討してまいりたいと思います。 ○山本(和)部会長 通知の点について何らかの規律を設けることとした場合,これまでの例からすれば,恐らく規則事項という整理になるものと思いますので,最高裁判所におかれましても,今の御指摘を踏まえた御検討をいただくということになろうかと思います。   ほかにいかがでしょうか。 ○久保野幹事 「4 子の心身への配慮」のところなんですけれども,部会資料21-2の19ページのところの一番最後のところに,「加えて」という段落がございまして,強制執行の実効性の確保と強制執行による子の心身の負担への配慮という二つの要素をともに書いていくべきではないかという意見についての御説明に関して,結論としては,私自身は両方を併記したほうがいいのではないかという意見を持っていますけれども,それとの関係で,その御説明の中に,「強制執行の実効性の確保…の要請については,子の引渡しの強制執行に関する諸規定によって具体化されているため,別段の規律を設ける必要はない一方,強制執行が子の心身に与える負担への配慮については特に設ける意義がある」という記載になっていますけれども,子の心身の負担への配慮の方は,子の引渡しの強制執行に関する諸規定によって具体化されていない,あるいは具体化の程度がちょっと少ないといいますか,そういうことを含意していますでしょうか。つまり,子の心身の負担への配慮もこれらの諸規定に結構入っているような気がしたものですから,この説明の仕方がぴんとこないところがありまして,御質問させていただく次第です。 ○内野幹事 現在,この部会で御検討いただいている規律が子の心身の負担への配慮という観点をも踏まえたものであることは正に御指摘のとおりですので,部会資料における記載に若干説明不足なところがあったかもしれませんが,部会資料21-2におきましては,飽くまでも,配慮規定という形で特に規律を設けるべき必要性の程度という観点からは,子の心身の負担への配慮と強制執行の実効性の確保とを比較した場合に一定の差があるとの評価も可能なのではないかということを表現しようとしたものでございますので,子の引渡しの強制執行に関する諸規定において一切子の心身の負担への配慮をしていないということを,積極的に意図しているわけではございません。 ○山本(和)部会長 よろしいでしょうか。   恐らく,迅速かつ実効的な強制執行の結果の実現というのは,この強制執行法制全体の命題,あるいは目指すべき目的であるといえるかと思います。そのことを,この部会資料21-2においては,「強制執行に関する諸規定によって具体化されている」と表現されているものと理解しておりまして,それに対して,やはり子の心身に与える負担への配慮というのは,子の引渡しの強制執行に特有の事柄であることから,特にその点についての配慮を求めるということを,規定として表しているということなのだと思います。久保野幹事が言われるように,制度全体としてその両者のバランスを図っていくということについては,この配慮規定の書きぶりから自然に出てくるというのが,部会資料21-1に記載されている原案の発想なのではないかと思います。 ○久保野幹事 今の御説明で,強制執行一般の考え方の中に盛り込まれているということも考慮するという御説明は,なるほどと思って伺いました。   一応,今回検討している子の引渡しの強制執行に関する諸規定を見たときに,子の心身への有害な影響というのは,割と具体的な規定として盛り込まれているので,そこだけを見たときには,むしろそちらの要請こそ非常に明確に書かれているような印象も持ち得る規定ぶりになっているものですから,それとのバランスでいうと,両方盛り込むほうが,この場面で考慮すべきことをより適正に表した条文となり得るのではないかという,前回の部会で出た御意見に賛成するということを,意見としては言わせていただきます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかに,今の点でもほかの点でも結構ですが,いかがでしょうか。 ○垣内幹事 今の点についてですけれども,私自身は,今の久保野幹事の御発言に賛同するところがありますが,重要な点としては,こういった規定を置くことによって,ここに,この部会資料21-2ですと19ページの一番下の段落に書かれている二つの側面があるわけですけれども,そのうち,前者の強制執行によって子の引渡しを迅速に実現することが,子の福祉に資するという側面が余り重要でないというような誤解と申しますか,そういうメッセージを発するようなことになると,これは余り適切ではないんだろうと考えておりますので,そういった理解を避けるための方法としては,両方併記するような文言を工夫するのがよいのか,あるいは別途,これも補足説明や一問一答等で,その辺りを詳しく説明するということなのか,それはいろいろの選択肢があるのかもしれませんけれども,その点についても十分御配慮いただくとよいのではないかと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○松下委員 今の点ですけれども,この種の規定についてもそうですし,それ以外の規定でも似たようなことがあるかと思いますが,ちょっと言葉を選ばずに言えば,余り反対解釈をしてはいけない規定というのもあるような気がします。つまり,立法の沿革等々から,特にそこを強調したのであって,ほかの書いていないことは,優先順位が低いとか,反対に解釈すべきだと読んではいけない,あるいは,読むのは不適切な規定もあると思いますので,その趣旨が明らかになるように,一問一答なり何なりでしていただければ,私は,この原案のゴシック体で記載されたような形で規定を設けるということで,その趣旨は十分通じるのではないかと思っております。 ○山本(克)委員 私,前回,久保野幹事と同じような意見を申し上げたと思います。   そこで問題にしていたのは,強制執行が請求権の速やかな強制的実現を図る制度であるということを申し上げたのではなく,速やかに実現することが,子の福祉を実現することだということを踏まえて,子の心身の負担への配慮をしてほしいとの規定を入れるんだったら,それとのバランスをやはりとってほしいということなので,強制執行一般がそうだからということで,この「4」の規定に書いてある子の心身の負担への配慮という概念のカウンターパートの方を書かなくていいということには,まだなお釈然としないところがございます。   先ほど垣内幹事がおっしゃったのも,そういう趣旨かなという気がしましたけれども,やはりもう一度御検討いただいたほうがいいと思いますし,それが法制的な面でちょっと難しいところがあるというのは分かっておりますので,仮に原案を維持される場合には,松下委員がおっしゃったように,公になる解説等で,この趣旨はこういうことだということを明確に述べていただかないと,子がちょっと傷付いたら,それで国家賠償だとかいう,執行異議だ,執行抗告だという話になっては元も子もありませんので,やはりそこは,両方の要素があるんだということが分かるように,何らかの形で説明していただくということをお願いしたいと思います。 ○松下委員 山本克己委員の御趣旨を正確に理解していないおそれはありますけれども,もしそういう御理解だとすると,子の心身に有害な影響を及ぼさないように,迅速な執行にも心がけろというように,このゴシック体で記載された本文を読むことになるのではないでしょうか。 ○山本(克)委員 いや,よろしいですか。   私はそういう趣旨で申し上げているんではなくて,債務名義で子の引渡しを命じているということ自体が,その監護の移転ということが子の福祉に沿うんだということで,迅速さというのは,その監護の移転を早くするということであって,手続自体が迅速であることが,子の福祉に資するという趣旨で申し上げているのではありません。 ○谷幹事 今の山本克己委員の御発言に私も触発されて,こういうふうに考えるのがいいのかなと思ったことがございます。   この規定は,執行場面においてどういうふうに子の福祉を実現するのかということを,ある意味では方向性を示すということなんだろうと思います。そうだとするならば,執行の方法によって,子の心身に悪影響を与えるというようなことのないようにというのは,一つの子の福祉の要素ではございますし,一方で,迅速に債務名義の実現をするということ自体も,子の福祉を実現する要素となると思いますので,それらの要素が様々に絡み合う中で,どういうふうに執行するということが必要なのかと。これが本来示されるべき記述の内容なのかなと思いますので,今申し上げた迅速性,迅速に実行するという,実現するという要素についても,何らかの形で盛り込むとするのが,子の福祉全般についての配慮規定としては適切ではないのかなと考えた次第でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   かなり議論の中身が明確になったかと思います。   この規律については,御承知のように中間試案にはなかった規律で,中間試案の際にはパブリックコメントには付されていないわけであります。   現在行われているハーグ条約実施法の改正に関する追加試案についてのパブリックコメントの手続においては,この規定を盛り込んだ形でパブリックコメントに付しております。この手続は,飽くまでもハーグ条約実施法に基づく子の返還の強制執行の問題についてのパブリックコメントではありますが,しかし,実質的には同じ内容の規律を提案して御意見を伺っているところでございますので,今の御指摘につきましては,事務当局に引き取っていただいて,そのパブリックコメントの結果や本日の委員・幹事の皆様の御意見を踏まえて,次回の部会において,もう一度ハーグ条約実施法に基づく子の返還の強制執行及び国内の子の引渡しの強制執行の各規律について,検討の結果同じ案になるかもしれませんけれども,もう一度御検討いただくということにしたいと思います。   よろしいでしょうか。   それでは,この「第3」の他の点について,御発言はございますか。 ○阿多委員 今回の法律の改正事項には盛り込まない形になったのは理解をして,ここで御質問するのがいいのかどうか分からないんですが,この部会で議論している際に,専門家の関与について議論をしてきたかと思うんですけれども,従前については,執行官が実際執行されるに際して,立会人や執行補助者というような形の者を使って,専門家の関与がされていた。今日は,後半でも専門家としての関与の御経験のある方のお話が聞けると思うんですが,今回,執行裁判所というような形で執行主体が変わる場合に,従前の立会人や執行補助者とは違う形での関与というのがあり得るのかと。例えばですけれども,専門委員みたいな形が出てくるのか,民事訴訟法を準用して専門委員関与みたいな形が出てくるのかなと思うんですが,現状,もう一度裁判所の方の今の専門家の関与の状況について御紹介いただきたいのと,規定ぶりが変わる場合に何か影響があるのかということについても,ちょっと御議論なり御紹介していただけたらと思うんですが。 ○山本(和)部会長 裁判所の方で,現状の御紹介をいただくことは可能でしょうか。 ○成田幹事    現状としては,児童心理の専門家を,立会人という形にするのか,執行補助者という形にするかというのは,各裁判所の執行官の運用に委ねられているところでありますが,そのような形で関与してもらっています。   今般の改正で,家庭裁判所が執行裁判所になることを踏まえて,どうなるのかということがお尋ねかと思いますが,執行裁判所が家庭裁判所になるとしても,それは飽くまで代替執行の決定というのか,それが出るところが家裁になるというだけであって,実際に現場においてどういう形でどう執行するのかというのは,引き続き執行官が準備,計画をしていくものだと理解しております。   そうしますと,専門家の関わり方というのは,これまでと基本的には変わらないのではないかと考えているところであります。 ○山本(和)部会長 いかがですか。 ○阿多委員 そうしますと,特に立会人等ですと,執行当日だけに関与するというような形になりかねないのかなと思うんですが,その前の執行についての打合せとか,そういうふうな場面でも,その専門家の関与というのは観念できるんでしょうか。例えば,立会人という枠でする場合に,執行補助者であれば事前の打合せに入ってというようなことあるのかもしれないんですが,イメージしていたのは,当日ではなくて,早い段階での専門家の関与というのが,今回一つの議論のテーマになっていたのかなと思うものですから。 ○成田幹事 その部分につきまして,恐らく,解放実施の関係で,いわゆるハーグ条約実施規則の87条の規定が参考になるかと思います。執行官としては,飽くまで債務者ですとかお子さんの状況を最もよく知っておられるのは債権者なり返還実施者ですから,そこから必要な情報提供を受けたことを前提にして,必要に応じて家裁から情報の提供の協力を受けたりとか,事前にミーティングを行ったりしているところと承知しております。   国内の子の引渡しに関しても,現状はこういう枠組みでやっております。立会人が事前ミーティングに一緒に入ってというところまでは,必ずしも想定をしているわけではありませんが,事前の情報提供という枠組み自体はやっておるところでございますので,引き続きそういう運用になるのかなとは思っております。 ○阿多委員 今後の運用の仕方等の話ですので,規則事項になるのか,実際の執行官の運用のルールになるのか分かりませんが,またこちらの方とも積極的に意見交換できたらと思いますので,もうこれで結構でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○勅使川原幹事 ちょっと戻って恐縮ですけれども,同意に代わる許可のところの許可証の提示のところで,執行の現場がどういうことになるのかって,やはりちょっとまだつまびらかに想像ができていないところもあるんですが,例えば,祖父母宅に子供がいて,たまさか執行に行った時間帯に祖父母がちょっと買物で留守にしていて,子供が1人だよと。鍵開けて入って連れ帰るというときに,この許可証の提示ということでは,何か文書の写しを置いていくということになるのか,あるいは,今執行をやりましたということを何か通知で置いていくのか,それ,運用上でやるのか,帰ってきたら子供がいないってことになれば,多分大騒ぎになるような気もしますので,その辺は一体何をこのシーンではやるのかというのは,ちょっと確認のための御質問です。 ○吉賀関係官 ただ今御指摘いただいた点につきましては,現在検討している規律と同様に許可証の提示についての規定を設けている休日夜間執行に関する民事執行法第8条第2項についての一般的な解説書等を見ますと,結局,提示の相手方として特定の者を念頭に置いているというわけではないのですが,一般的には住居主等を提示の相手方として例示しているものが散見されるところでございます。そういたしますと,この同意に代わる許可に係る許可証の提示につきましても,執行の場所に住居主等がいれば,その方に示すということになるものと思われます。また,提示の相手方として適切な方がいない場合の取扱いにつきましては,休日夜間執行の実務においては,特段許可証の提示をしないで執行するとの運用もされていると聞いております。   このように,現行の民事執行法に基づく休日夜間執行の場面における許可証の提示についても,解釈論としてなかなか一義的にその相手方を申し上げることができないところがあり,まずは住居主等を相手方として提示するというのが原則になるかと思いますけれども,そのような者がいない場面については,個別の判断になってくるものと理解しております。 ○勅使川原幹事 そうすると,まるで黙って連れ帰っているケースというのもあり得るということでしょうか。 ○内野幹事 もし可能であれば,裁判所の方で現状についての御紹介をいただければと思います。 ○成田幹事 現状ですと,ハーグ条約実施法の規律との並びで国内の子の引渡しの強制執行を行っていますので,子と債務者の同時存在がかかっていますから,債務者がいない状態で連れていくというのはにわかに想定できませんので,そういった状況はないということにはなろうかとは思います。   従前,ハーグ条約実施法施行前の運用でも,やはり債務者に連絡等はしていたかと伺っていますので,恐らく何らかのことはするのかなとは思うのですが,現状は,債務者がいない状態での執行は想定されていないのでということになろうかと思います。 ○勅使川原幹事 そうすると,実際には,占有者が戻ってくるのを待って行うということになるのでしょうか。つまり,第三者が戻ってきてからやるって,第三者の同時存在が要求されるということになるのですかね。 ○内野幹事 事務当局としましては,現在検討されている規律については,必ずしもそういう前提で部会の議論が進行しているものではないと認識しております。 ○勅使川原幹事 私も同様に理解しているのですけれども。 ○阿多委員 すみません。   従前の実務というようなことのお話が出ましたんですけれども,少なくとも執行の着手を,戻ってこられるのを待って執行に着手するということではなくて,執行を完了した状態のときに,そのまま何も連絡せずに帰られるのかという御質問かと理解しました。結局,執行終了について,どういう形で債務者ないしは占有者に対して告知するかで,従前は何らかの形の電話を入れたり,占有者であれば占有者に対して執行完了の説明をしてという形で,何ら情報提供することなく執行官と子供,今回債権者が同席して,何にもなかったようにすると,そういう場面はちょっと想定できないんだと思います。   ただ,執行着手前に,その場で連絡を入れてと,それで来られてから着手するということにはならないと思っています。 ○勅使川原幹事 要するに,許可証の提示であるとか,執行終了の通知という形でなくて,運用上で,そこはやるという理解ですかね。 ○山本(和)部会長 今の点については,先ほど垣内幹事からも御質問がありましたように,場合によっては最高裁判所規則で何らかの定めをするかもしれないし,あるいは引き続き運用に委ねていくということになるかもしれないという意味で,将来的な課題ということかと思います。   ほかにいかがでしょうか。特段よろしいでしょうか。   それでは,この第3の部分につきましては,先ほど「4 子の心身への配慮」の規定ぶりについての御意見があり,引き続き事務当局において検討することになりましたし,他にハーグ条約実施法の改正に関する追加試案と並びになっている部分につきましては,今後,追加試案についてのパブリックコメントの結果に基づく議論を通じてその方向性が固まっていくことに応じて,その議論が場合によっては国内の子の引渡しの強制執行に関する規律にも影響を及ぼすところはあろうかと思いますけれども,基本的には,この第3の部分の原案の内容につきましては,現段階ではということですが,御了解を得たものと理解させていただきます。   それでは,よろしければ,部会資料21-1及び21-2の残りの部分である「第4 債権執行事件の終了をめぐる規律の見直し」と,「第5 差押禁止債権をめぐる規律の見直し」について,御審議を頂きたいと思います。   まず,事務当局から御説明をお願いします。 ○内野幹事 第4の部分につきましては,規律の実質につきまして,前回の部会資料20-1からの変更はございません。なお,部会資料21-2の21ページにおいて,届出の追完をすることができる期間の性質について,前回の部会での御議論を踏まえた説明をしております。   続いて,第5の部分につきましても,規律の実質についての変更はございません。前回の部会での御議論を踏まえ,第5の2の教示の内容等につきまして,何か御意見等がございましたら,御発言をいただければと存じます。各部会資料の第4及び第5についての御説明は,以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,この第4及び第5の部分,どちらからでも結構ですので,御質問,御意見があればお出しを頂ければと思います。 ○中原委員 第4について,専ら運用に関するお願いということではありますが,前回も触れさせていただきましたが,第三債務者の立場からすれば,差押命令の取消決定が,一旦第三債務者に通知され,その後に当該取消決定の効力が失われましたという通知がもう一回来るということになると,大変混乱しますので,第三債務者並びに債務者に対する差押命令の取消決定の通知は,当該取消決定が確定的に効力を生じてから,通知を頂くという運用をお願いしたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   これも,最高裁判所規則ないし運用に関わるところかと思いますが,裁判所の方から何かコメントはございますか。 ○谷藤関係官 御懸念の点はおっしゃるとおりかと思いますので,検討させていただきたいと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○松下委員 第4の不変期間と通常期間の件ですけれども,前回,私が十分なリサーチをしきれないまま発言をしたにもかかわらず,これだけ丁寧なお答えを頂きましてありがとうございます。   不服申立ての場面以外での不変期間というのもあるということですし,それから,取消決定への不服申立て,即時抗告期間との平仄というのも,そのとおりだと思いますので,結論としては,前回以来の原案のとおりということで結構かと思います。   御検討どうもありがとうございました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   おおむねよろしいでしょうか。   それでは,この第4及び第5の部分につきましては,基本的に原案について御異論はないものと理解させていただきたいと思います。   それでは,これで部会資料21-1及び21-2について一通りの御検討を終えていただきましたので,ここで休憩を挟みまして,参考人からのヒアリング及びこれに伴う意見交換に移りたいと思います。   2時45分に再開ということでお願いいたします。           (休     憩) ○山本(和)部会長 それでは,時間になりましたので,審議を再開したいと思います。   本日は,前回の会議でお知らせしましたとおり,国内の子の引渡しの強制執行に関する規律の明確化及びハーグ条約実施法に基づく国際的な子の返還の強制執行に関する規律につきまして,児童心理の専門家の方を参考人としてお招きしてヒアリングを実施することを予定しております。   その人選につきましては,部会長である私に御一任を頂きましたので,本日は,公益社団法人家庭問題情報センター(FPIC)で事務局次長を務めておられる下坂節男参考人と,特定非営利活動法人東京英語いのちの電話(TELL)で臨床心理士を務めておられる田口圭子参考人にお越しいただいております。   下坂参考人は,家庭裁判所調査官として長年にわたり家事事件を数多く取り扱われてこられ,現在も国内の子の引渡しの強制執行において,立会人等の推薦事務を行っている家庭問題情報センターで事務局次長を務めておられます。   また,田口参考人は,児童相談所で2年ほど児童心理司として勤務されたほか,平成26年1月から平成29年3月まで,外務省のハーグ条約室で専門員として複数の子の返還の代替執行に関与され,現在は臨床心理士として御活躍されております。    (参考人の自己紹介につき省略) ○山本(和)部会長 それでは,参考人からお話を伺う前に,現在実施されておりますハーグ条約実施法に対する意見募集の手続の現段階における中間報告をお願いできればと思います。 ○内野幹事 先般お取りまとめいただきましたハーグ条約実施法の改正に関する追加試案につきましては,7月5日から意見募集の手続を実施しており,8月3日がその終期となっております。   現時点での意見の提出状況でございますが,本日までに団体から2件,個人から3件の合計5件の意見が寄せられております。   この団体の一つに日本弁護士連合会も含まれており,本部会におきましても,弁護士の委員,幹事の方々から同趣旨の御発言を頂いているところでございますが,子の返還の代替執行の申立要件に関する規律の在り方等につきまして御意見を頂戴しております。   他の団体,個人の方々からは,強制執行の実効性の向上を求める意見のほか,これに関連いたしまして,離婚後の親権制度や面会交流の在り方といった点に関する御意見なども寄せられているという状況でございます。   以上が,現時点におけるパブリックコメントの実施状況についての御報告となります。最終的な結果につきましては適宜まとめさせていただきまして,この部会の御議論の参考資料として,この場で御披露させていただきたいと考えております。   簡単ではございますが,以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   恐らく次回の部会で,ある程度まとまった形でパブリックコメントの結果の概要を御報告いただけるものと思います。   それでは,初めに,参考人のお二方に,これまでの御経歴や,国内の子の引渡しの強制執行や国際的な子の返還の強制執行に関する事件を取り扱われた御経験などを簡単に御紹介いただけますでしょうか。 ○下坂参考人 では,お話をいたします。   先ほど,自己紹介のところで説明しようかと思ったのですが,家庭裁判所調査官をしていますときに,子の引渡しの事件を担当いたしました。そのときには強制執行の段階のことを意識しては調査報告書を作成していなかったと思います。   それが,執行現場に立ち会うことになって,執行官が説得の材料に使えるようなデータをもう少し報告書に記述しておけばよかったと反省しております。現職の時にやるべきことをしていなかったことの付けを,今払わされていると感じております。   さて,私の立場といいますのは,先ほど部会長から御紹介がありましたように,私自身が担当した経験は1,2件しかないのですが,法人として平成27年度から平成29年度までの3年間に大体100件ほど担当しております。その報告が私のところに上がってまいります。その報告を見て気が付いたこと,感じたことなどを話していきたいと思います。   子の引渡しの強制執行についての感想は2点あります。皆様も指摘されていることでありますが,債務者と子が一緒にいなければ執行できないという同時存在の問題が気になっております。私どもが関与している事件の中に,子供がおじいちゃん,おばあちゃんと一緒にいるのですが,債務者がいないために執行不能になったというのが,少なくとも5,6件はあります。子供がおじいちゃん,おばあちゃんと一緒にいるのに執行できないというのはどうなんだろう,そのことが子の福祉に合致するのだろうかと疑問に思っております。   二つ目は,執行官と執行補助者との連携が取れている事例は,執行完了という形で終局することが多いのではないかと思います。逆に,執行官と執行補助者との意思疎通がうまくいっていない事例は,不本意な結果に終わっているように感じます。   報告事例の中には,執行官が執行補助者に何を期待しているのか,執行補助者は自分の事例理解を執行官にきちんと伝えているのかどうか疑問に感じるものがあります。執行官と執行補助者とが,緊密な連携を取れるようになれば,執行率は上がってくるのではないかと思っております。緊密な連携が図れるようにするための工夫が必要ではないかと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,田口参考人からもお願いできますか。 ○田口参考人 よろしくお願いします。   私は,外務省のハーグ条約室に勤務する前までは,執行といった法的な手続に直接関わるという経験はほとんどありませんでした。児童相談所に勤めていたときに,やはり子の引渡しと同様またはそれ以上に高葛藤な場面というのはあるのですが,そういった場面はケースワーカーの方が主に行っていたので,私が立ち会うということはありませんでした。 子の引渡しに立ち会うようになったのは,ハーグ条約室に勤務するようになってからですので,2014年1月からになります。ハーグ条約実施法が発効してから強制執行,代替執行に至る案件が出てくるまでの期間がしばらくありましたので,その間,国内の子の引渡しの強制執行の現場に執行補助者という形で同行させていただいていました。最終的には,国内事案とハーグ事案の強制執行を合わせて十数件,これまで経験いたしました。   最初にお伝えしておきたいのですが,私は法律の専門家ではありません。飽くまでも児童心理の専門家として,これまで執行現場における子供の心理的な負担を減らすということが目的で同行させていただいておりましたので,その視点でお話をさせていただきたいと思っております。私の経験をお聞きいただいた上で,委員,幹事の皆様方に御検討していただければというのが私の個人的な思いであります。   国際的な子の返還の代替執行と国内の子の引渡しの強制執行の現場に行かせていただきましたが,ハーグ事案においては,債務者による子の監護を解いた後に,子の常居所地国に帰すというところまでがハーグ条約室のお仕事になりますので,事前の準備や,解放実施後のプランについても比較的詳細に詰めておりました。   その経験は,もちろん国内の子の引渡しの強制執行のときにも役立っているとは思っており,その中でも具体的な役割分担は特にそう思っていました。例えば,どのタイミングでどちらが何を話すのかとか,それこそ子供にはどちらが対応するのか,執行官が債務者の説得をしているときに,子供の対応を心理職である私が行うであるとか,債務者の説得の中で,どうしても子供の心理的な部分の説明については,心理職の専門家から聞きたいという場合がありますので,そういった場合には心理職から説明をする,といったように,具体的で詳細な役割分担について,事前に話合いをしておりました。私が立ち会うこととなった国内の案件についても,ハーグ条約実施法の施行に合わせて執行官の方も努力されていましたので,執行前に執行官に会わせていただいた際は,必要な情報を教えていただいたり,把握しておくべき危険性を一緒に検討させていただいたりと事前に打合せをさせていただきました。   先ほど,それこそ下坂参考人がおっしゃっていたように,子の引渡しの強制執行に立ち会う上で,一番参考になったと感じたのが調査官報告書でした。子供の様子を中立的な立場から観察されているという点がとても参考となった理由だと思います。どうしても債権者の方からのみお話を聞いてしまうと,債権者側の意見がすごく強く出てしまい,債務者側がとても悪いようなイメージで説明されていたり,「子供は,(債務者より)私にとてもなついていたんです」というようなお話をされたりするんですが,調査官の報告書ではとても中立的な意見が書かれています。実際に執行現場に行ったときに,調査報告書に書かれていた子供や家族の様子とあまり相違がないという感覚を持っていました。そのため,可能である場合は,調査を行った調査官の方に直接会わせていただいてお話を伺うこともありました。報告書に書かれていない部分で,気になったことや,執行の場面で子供がどう反応すると思うかといった重要な情報や意見が,その場で引き出せることがあったので,私にとっては有意義な情報であったと思っております。   また,心理職としての役割なんですが,どうしても心理職ってどういうことができて,どんなことができないのかといった理解が曖昧なところがあるようで,特に執行官の方は,心理職のイメージがあまりないことが多かったように思われました。そのため,具体的に「ここまでだったらできます」,「ここの部分であれば多分得意なところです」といった役割について事前にお話しをしておりました。執行の現場で子を引き離すために親を説得というのは,心理職であってもなかなかトレーニングを受けているものではなく,どちらかというと,債権者側に対して,執行の場面で子供に会ったときの対応の方法を伝えることや,子供が返された後に,その家族が再度またよい関係を築くための援助をするといったところで活躍できるのではないかと思います。そのため,執行の場面のみでなく,執行後に,家族関係がうまく機能していくための支援というところで,心理職を積極的に使っていただければというのが私の意見です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   最初に御経歴,あるいは国内の子の引渡しの強制執行や国際的な子の返還の強制執行についての御経験,更にそれらを踏まえた問題意識につきまして御説明を頂いたかと思います。   この後は,委員,幹事から質疑応答の形でヒアリングを行っていきたいと思いますが,私の方からまず総論的なところで若干の御質問をさせていただきたいと思います。   今,下坂参考人からは,強制執行が現在の規律の下でなかなかうまくいっていないということで,子と債務者の同時存在の問題等の御指摘や,あるいは執行官と執行補助者の連携の問題等の御紹介を頂きました。その具体的なところで,例えば債権者である一方の親が執行現場に行くことに意味があるような場合というのがあるのかどうか,強制執行の際に子の心理的な負担を軽減する,あるいは子の心身に悪影響を及ぼさないようにするための工夫などについて,何かお話を頂けるところがあれば,最初にお話を頂ければ大変有り難いと思いますが,いかがでしょうか。 ○下坂参考人 具体的な紹介をさせていただきます。   この事例は債権者がお母さんで,債務者がお父さんです。子供は5歳と2歳で,FPICの関与形態は執行補助者であります。強制執行の申立てに至る経緯は,お父さんとお母さんの不仲が原因で,お母さんは子供さんを連れて実家に帰り,母方の祖父母と一緒に暮らしていました。お父さんは,子供さんの通う保育園で子供さんと面会交流を行っていました。月一回の面会交流だったのですが,お父さんから毎週子供と会わせろと面会交流の実施回数を増やすことを保育園に要求したものですから,保育園側との間でトラブルになりました。保育園と交渉を続けているうちに債務者であるお父さんは,父方の祖父母と一緒になって,保育園から子供を自宅に連れていってしまいました。   この事例は,執行の前日に打合せを行っております。調査官の報告書等を読むのは大切なんですけれども,私どもが関わっていくときには,子供さんの表情とか行動を直接観察するというのがより大切だと思います。調査官の報告書に書いてあるとおりであるならばそれでいいし,違うなら,なぜ違うんだろうかというようなことを考える必要があると思います。子供の様子を観察した上で債務者に働き掛けをするということを事前に打ち合わせておりました。   この事例でキーポイントになったのが,債権者が執行の現場に待機していることをいつ,どの段階で子供たちに話をするのかということでした。こういうことまできちんと打合せができている事例であれば,執行はうまくいくことが多いと思います。   執行の現場では債務者側がドアチェーンをしたまま家の中に入れてくれないので,技術者である鍵屋さんに来てもらってドアチェーンを解錠しました。長女は,おもちゃの刀を振り回して,執行官らに対し,「帰れ,帰れ」と叫んでいました。その後,債務者に対して,執行官の説得が始まったのですが,債務者は,「裁判ではいつも父親は不利だ」,「子は必ず母親に取られてしまう」というような不満を漏らしていました。その後,債務者が,「二女は愛着障害があるので病院に連れていかなければいけない」と述べたので,執行補助者は,「監護者であったお母さんから急に離されたのが,その原因の一つではないか」と話し,「二女はまだまだお母さんを必要としているので早く会わせてやったほうがいいのではないか」と諭しました。この間,長女は,ぬいぐるみを抱いたまま,「行きたくない,男の人は帰れ」というふうに叫びながら,おもちゃの刀を振り回していました。   執行補助者が,長女に対して,「これはお母さんが作ってくれたぬいぐるみなの」と話し掛けました。これが状況を変えることになりました。聞かれた長女は,「ううん,これは買ってもらったの」という返事をしました。そして,執行官が,「お母さんも来ているよ」と低い声でつぶやきました。そうしたら,それを聞いた長女は,「お母さんが来ているの。じゃあ,お母さんのところへ行く。お母さんはどこにいるの。」と言って,荷物をまとめ始めた。債権者であるお母さんが家の中に入ってくると,長女も二女も債権者に飛び付いた。債務者は,「こうなると思った」と諦め顔になっていました。   先ほど田口参考人が言われたように,ここで終わるわけではなくて,その後に執行官の指示で債権者と長女,二女と執行補助者が隣の部屋に移って話合いをしました。執行補助者は債権者に,今後調停などで面会交流についてルールをもう一回決め直し,そのルールに基づいて,お父さんである債務者と子を面会させるということを決めてはどうかというようなことを話しました。   この事例のように,一般的に執行官と執行補助者は,家庭裁判所調査官の調査報告書を読みこなしていると思います。長女とか二女の性格なども相当程度把握していると思います。そのことが,債権者が来ていることを子供たちに告げるタイミングの適切な判断につながったのではないかと思います。この例は,執行前の打合せがいかに重要かを物語っていると思います。また,子の引渡しの強制執行が完了したことで,それで終わりとせずに,面会交流のルール化によって,債務者と子供たちとの関係が切れることのないように働き掛けを行うことも大切です。   FPICの会員は家庭内の紛争についての実務経験が豊富ですのでこの事例の問題点をどのように理解するのか,母と子の関係はどのように評価するのか,子の心身の状態はどのように評価するのかというふうなことを述べて,執行官との間できちんとした意見交換を行い,共通認識を持つことが大切ではないかと思います。   この事例でいいますと,債権者がどこにいたのかというのは場所までははっきり分かりませんが,近場であり,かつ,債務者や子供たちからは見えないところにいたんだろうと思います。それをうまく利用したということだと思います。   FPICの会員が執行補助者として関与する場合には,債権者との争いにばかり目を向けがちな債務者に対して,子を引き渡すとか,引き渡さないということだけではなくて,面会交流等,ほかの方法を提案するなどして,家族の抱える問題をトータルに解決するように努めております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,田口参考人,先ほど国内の子の引渡しの強制執行も含めて十数件の御経験があるというふうにお伺いしましたが,強制執行がなかなかうまくいかないとすればどのような原因が考えられるのか,あるいはうまくいった事例としてはこういう点がよかったといった辺りにつきまして,御経験を通じての全般的な御感想を頂ければと思います。よろしくお願いします。 ○田口参考人 よろしくお願いします。   これまで携わった強制執行で成功した例がほとんどなく,国内の案件で数件ありましたが,非常にまれではありました。それこそ子と債務者の同時存在のこともそうですが,やはり高葛藤の事例,例えば,もう紛争が長い期間続いており,債権者と子供の関係もなかなかうまく構築できていない上に,親子が長期間離れているという場合であったり,お子さんがある一定の年齢,例えば12歳,13歳ぐらいになってきて自分の意見を持つようになってくるという状況であったり,それぞれ異なる家族背景や様々な要因から執行がうまくいく,いかないということが左右されるかと思います。子と債務者の同時存在についても,その有無によって大きく結果が変わっていくのではないかと思っています。また,債権者が執行の現場にいることによって,執行がうまくいくこともあると思いますし,そうではない場合もあるので,それはそれこそ事前の準備というお話をしましたが,どのタイミングで子に債権者を会わせるのが一番いいのかということも,事前の打合せで検討が必要だと思います。   私の経験のうちで,うまくいった案件と,もしかしたら債務者が執行場所にいなかったらうまくいったのかもしれないと思うような案件がありました。うまくいった案件では,お子さんがまだ小さく,保育園に通っている男の子の案件で,お父さんが子供を連れて,御自身のお母さん,子供にとっての祖母の自宅に連れていってしまったという案件がありました。お母さんの自宅にはお姉ちゃんがいたんですが,そのお姉ちゃんがかなり弟に対して固執をしている状態でした。債権者であるお母さんは,もちろん子供を返してほしいという気持ちは強かったんですが,場が混乱しないように,お姉ちゃんは連れてこないという決断をされて,当日はお母さんのみ来られました。   実際に執行官が執行を行った際,お子さんが祖母宅にはいらっしゃらなかったので,お子さんが通っている保育園の方に行きました。執行官が保育園の方に事情を説明したところ,保育園の中ではちょっとまずいということだったのですが,保育園の建物とは別に事務所があるので,そちらであればお話をしていただいて結構ですという許可をいただきました。その場に,お子さんと債務者であるお父さんに来ていただいて,執行官から説明するといった流れになりました。   お父さんも,執行官が来たら仕方がないというような,ある程度,腹決めがあったようなのですが,お父さんは,子供に対して,自ら「お母さんの方に行きなさい」ということは言えないとおっしゃいました。「もちろん子供を捨てるわけではないが,そういう印象を与えるのが嫌だ」ということで,なかなか御自身からは説明ができないということでしたので,私からお子さんに対して説明をするということになりました。小さいお子さんだったので子供が分かるような言葉で,少しずつお話をしながら,子供が嫌がらない程度の距離を保ちつつ時間を掛けて説明をしました。   最終的な決定打となったのは,我々からお母さんに,「少し離れたところから姿を見せてください」とお願いし,お子さんがお母さんの顔を見た瞬間に,お子さんの気持ちがちょっと和んで,「本当に来ているんだ」ということが理解できたからではないかと感じました。小さいお子さんであれば,いきなり来たおじさん,おばさんに「お母さんのところに行こうね」と何度言ったとしても,何か何だか分からず不安だと思うので,実際のお母さんの姿を見て,安心してお母さんのもとへ行くことができたというような案件でした。   債務者が執行の現場にいたことでうまくいかなかった案件もたくさんあるんですが,その中の一つの案件で,女の子2人のきょうだいの案件がありました。お姉さんと妹さんがいるのですが,執行当時,お姉さんはお母さんと一緒に住んでいましたが,妹さんだけお父さんが連れ去ってしまっている状況が続いていました。債務者宅に行って,お子さんとお父さんには会えたんですが,お父さんが,執行官と子供だけにはしたくないと非常にかたくなで,「子供は帰りたくないと言っているんだ」ということを繰り返し主張していた状況でした。   ちょっと話がずれるかもしれないですが,強制執行の場面において,債務者が子供に意見を言わせようとするということは非常に多いです。裁判手続の最終的な執行の場面で子供に意見を言わせるというのは,子供にどちらかの親を選ばせるのと同じぐらいの強いプレッシャーがあり,子供にとってとてもストレスだと思っています。たとえそれが本心で,その時の真実だとしても,その後,親子関係を再度構築していくということを考えると,ものすごい心理的な負担になると思っています。そのようなことを過去の執行で何回か経験していたので,執行の現場に行ったときには,最初にまず,債務者に対して,「ここではお子さんの意見は聞けません。親を選ばせるようなことはしたくないので,そういうことはやめてください。」といったようなことを伝えるのですが,債務者の中には「私は止めていません。でも,子供が勝手に話すんです。」というようなことをおっしゃる方もいらっしゃいます。お子さんは今一緒にいる親御さんの顔色をうかがうところもありますし,親を傷付けたくないという気持ちがありますので,どうしても一緒に住んでいる債務者の方の意向に沿うような形に発言をしてしまったり,発言はしなくても親の意向に沿わないような発言はしなかったりといった傾向があったのかもしれません。   先ほどの案件に戻りますが,執行の現場でも,やはりお父さんが,「いや,この子が行きたくないと言っているので,この子の話を聞いてくれ」というようなことを言ってきました。こちらからは,「この場では,お子さんの話は聞きません」と言いつつ,債権者が現場に来ていたので,「引き渡す,引き渡さないという以前に,子供がお母さんと会えていないので,ちょっとお子さんとお母さんが会う機会をいただけませんか」と説得したところ,お父さんは,執行官ではなく,専門家の私だけであればいいという形で了承してくれました。しかし,「でも,僕はこの場から立ち去らないから,そこにいます」というお話があり,お父さんが少し離れたところからこちらの様子を見ているところで,お子さんとお母さんが会うという形になりました。   お母さんを見たとき,本当にその子は喜んでいました。事前の打合せの時に,お子さんとお母さんの関係が良好であることを聞いておりましたし,お父さんの方も,お母さんの悪口をあえて子供に言っていたという様子もなかったため,執行の現場でも,比較的自然に母子が会えていました。ただ,お父さんが近くに立っているので,子供が本心を言えるか言えないかはよく分からなかったのですが,会話の中で,お子さんがお母さんのところに戻りたいというようなことをぽろっとお母さんに言ったんですね。そのときにお子さんが泣き出してしまったので,それを見た債務者であるお父さんが「何で泣かせるようなことするんですか」と急に間に入り,執行中の母子の面会が中止となってしまったということが実際にありました。もしかしたら,その現場でお母さんと2人だけで会っていたら,そのまま帰ることができたのかもしれないと考え,反省点とは違うかもしれないですけれども,対応について考えさせられた案件です。   一方で,債権者がいることで逆に状況が悪化してしまったという案件もお話ししておくべきだと思うので,お話しさせていただきます。長い期間,お子さんに会えていないお母さんがお子さんを迎えに行った案件で,債権者であるお母さんを執行の現場に呼んだ際,お子さんはお母さんの顔を見た瞬間に「帰れ」とか,「絶対に行きたくない」というふうに感情的になってしまったという場面もありました。何が問題だったのかと考えたのですが,まず,強制執行自体が子供にとって,家族にとって,もちろん執行官にとってもそうなんですが,ものすごく心理的に負担の掛かる場面なんです。そのお子さんに一番ストレスが掛かっているときに債権者が来てしまうということで,債権者側が執行をさせているんだという認識が子供たちの中に起こらないかというような心配が実際にあります。そのため,いつ,どのタイミングでお子さんと債権者を会わせるべきかというのは,非常に重要な問題だと思っています。   それこそいろいろな経験をした児童心理の専門家が,的確なアドバイスや,ある程度心理的な負担を和らげるクッションになって債権者に会わせる形がとれば,理想的ではないかと感じています。すいません,長くなりましたが以上です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   実際の例を踏まえた大変興味深い御意見を頂戴できたかと思います。   それでは,ただいまの御説明に関連する事項でも結構ですし,ほかの点に関してでも結構ですので,参考人に対する御質問等がありましたら,どなたからでも結構ですので,御自由に御発言を頂ければと思います。 ○佐成委員 お二方の参考人から,非常に具体的なお話をお伺いして,イメージがよく分かりました。いろいろお聞きしたいところはあるのですけれども,1人で一杯お聞きしてもあれなので,田口参考人の方に一点お伺いしたいと思います。   子の心理的な負担をできるだけ軽減したいということを冒頭おっしゃっておられて,これは我々としても,恐らく執行の現場で一番大事なことだと思います。そのときに,下坂参考人もおっしゃっていましたけれども,専門家として,事前に家庭裁判所調査官の報告書をよく熟読をしておくということが一つと,それから,実際に執行の現場に行ったときに,お子さんの表情だとかいろいろな発言内容といった状況をよく観察することが重要であるということですが,事前に調査報告書を読むというのは,これはある程度,時間を掛けてできると思うのですけれども,現場でお子さんの表情とか,そういうところの心理状態を把握するというのはかなり大変なことだと思います。その辺りについてもう少し教えていただければと思います。   つまり,どれぐらい観察して,それはケース・バイ・ケースだと思うのですけれども,また,どういったところを捉えて,お子さんの心理状態を把握するのでしょうか。例えば,先ほどは,おもちゃを振り回すというお話が下坂参考人の方から出ていたと思うのですけれども,あるいはお子さんが「帰りたくない」とか言っている場合ですけれども,それは本心というか,本当の気持ちではないこともあると思うのです。だから,表情とかを見なければいけないと思うのですが,その辺りというのはどれぐらい観察すればよいのか,私は専門家ではないのでちょっと見ただけでは全く分からないのですけれども,その辺りでどういうところを御覧になるのかといった辺りを教えていただければと思います。 ○田口参考人 とても難しい質問だと思います。調査報告書のところに載っていないところで私が調査官の方に聞かせていただいているのは,平常時のお子さんの様子です。例えば,外から人が来たときに,どちらかというと怖がって逃げてしまうタイプなのか,それとも自分から話をしていこうとするタイプなのかとか,もちろん調査官に会うときも,お子さんにとっては知らない人になるので,少しストレスが掛かる場面だとは思うのですが,そういうときのお子さんの様子や,どういった表情をしていたというところまで伺うことがあります。   余りにも執行現場のときの様子が,調査官から伺った内容と違うのであれば,お子さんに強度のストレスが掛かっているというふうに考えられますが,この辺りは本当に千差万別なので判断はとても難しいです。分かりやすく表現する子もいるんですが,完全に黙ってしまうお子さんもいます。ただ,黙ってしまっているから子供の中で何も起こっていないのかというと,そうではなく,その後に恐怖心が出てくるということももちろんあるので,お子さんの行動であったり,表情であったり,視線であったりといったことをよく観察するようにしています。あと観察していることは債務者と子供の距離感ですかね。例えば,私が現場に行って,お子さんと会っている場合に,最初は債務者の後ろに隠れたり,すぐ横にいたりとかするんですが,お話ししていて慣れて安心してくると,少しずつ債務者から離れてくれて,私の方に向いてくれるということがあります。そのため,お子さんの債務者との距離感といった様子も常に確認するようにしています。このほかにも,お子さんが,余りにも泣きじゃくるとか,ストレスを感じているときに起こす比較的分かりやすい表現や状態といった部分ももちろん見ています。 ○佐成委員 非常によく分かりました。ありがとうございました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかに御質問はございますか。 ○谷幹事 先ほど田口参考人が,一つの事例として,お母さん,債権者の顔を見るなり,「帰れ」ということで反応を示して執行できなかったという事例の紹介を頂いたんですけれども,現時点で,その子供さんの反応がどうしてそういうふうになったのかというようなことを,例えばそれまでにお読みになっていた調査報告書なり,あるいはそれ以外の何らかの情報から判断をして,現時点でどういうふうにお考えになっているかというようなことで,教えていただけることがあれば教えていただきたいなということと,それと,その事案では,では,どうすればうまくいったのかなというふうなことについても,もし今の時点でお考えがあれば,もうなかなかそれは今の時点で判断は難しいよということであれば,そういうことでも結構ですし,これは別にその執行の準備が問題があったとか,そういう問題にするという趣旨ではなくて,今後の前向きな制度作りのために役立つのかなと思いますので,そういう観点からちょっとお尋ねをしたいなと思います。 ○田口参考人 子供が拒否をするということなんですが,私の印象として,また調査報告書に戻ってしまいますが,調査報告書の中で,少しでもやはり拒否感というのを出しているお子さんが,執行の現場でそれがなくなるということは,私の経験上はほとんどありませんでした。どちらかというと,執行の場面では,その拒否が強くなっているというような印象を持っています。しかも,時間が経てば経つほど,そういう対立的な感情というのが深まっていったのではないかというような印象を持っています。   どうしてそうなってしまうのかというのは,いろいろな要因があると思うので一概には言えないとは思いますが,子供が債務者からどのような説明を受けていたかということもあると思いますし,執行官は突然自宅に行きますので,そこで強く反応しているということもあるかもしれません。安全であると思われている家の中に執行官が来るわけですから,そこで拒絶という形で反応が出ていたのかもしれないです。   どうしたらうまくいったのかというのは,私も本当にずっと考えていて,なかなか答えは出ないのですが,執行に至る前に,お子さんに対しても,早い段階で,今後どういったことが起こるのかというような説明をしておくということは必要ではないかと感じております。例えば,年齢が低かったとしても,お父さんとお母さんがどのような話合いをしているのかといったことを説明しておかないと,お子さんは,自分がその後どうなっていくかというような見通しが全く立たない,立っていない中で,急に強制執行が行われるというような感覚があるのかもしれません。   もちろん債務者側にも,「こうなったら,次はこうなります」,「強制執行の場面になったら,子供にこれぐらい負荷が掛かりますよ」ということを事前に説明して理解してもらうことで,強制執行まで至らずに引き渡すという選択になるのが本当に一番だとは思います。債務者に対して,きちんと説明をしておくということが重要かと思います。また,お子さんの年齢がある程度高いのであれば,「今こういう手続でこういうことをしています。」とか,「執行によって債権者側に帰ったとしたら,こういうことが起こってきます。」とか,本来であれば引渡し後も親子の面会交流をしたほうがいいと思うので,「次にお父さんやお母さんに会えるのはいつぐらいです」というような形で先が見えてくるように説明をすると,お子さんの不安は減ってくるのかなという気はしています。強制執行というと,執行官が急に現場に行って子供を引き渡すということがやはり前提だとは思うんですが,もし児童心理の専門家等が関われるのであれば,その前の段階から,子供に立った視点で説明をしていくというプロセスがあったら,もう少し違ったのかなとは思っています。 ○谷幹事 ありがとうございます。 ○早川委員 大変興味深いお話をありがとうございました。   今最後の方で田口参考人がちょっとおっしゃったことと関係しますが,平和裡に,子供を傷付けず,また関係者も余りダメージを受けずに強制執行を成功させるためには,私は,実務上可能かどうかは分からないのですけれども,時間を掛けた強制執行という法制度を考えたらどうだろうかと思っております。今は1日あるいは2日間で強制執行を実施するのだと思いますが,これを例えば1週間とか,1か月とか,ともかくもっと時間を掛けて準備をして,最終的に子供を引き渡すという時間を掛けた執行がもしできれば,例えば田口参考人のような児童心理の専門家が先に出掛けていって,子供といろいろ話をして,あるいは親と話をして説得の下準備をするというようなことができれば,かなり成功することがあるのではないかと,夢のような話かもしれませんが,考えております。その辺り,どのような御感触をお持ちでしょうかということを,下坂参考人も含めて伺えればと思います。 ○田口参考人 そうですね,高葛藤の事例でなければ可能かなとは思います。しかし,それこそ長い間紛争が続いているという場合であれば,時間を掛けるということで逆に負担を継続的に掛けてしまうというような懸念もあるかなと思います。執行の場面,今現在,同時存在ということで債務者が執行現場にいなければならない状況の中,お子さんを物理的な力で連れていくということはできませんので,執行の場面では,やはり説得がメーンにはなっているとは思います。それでも執行の場面はとても高葛藤で,ものすごくストレスが掛かる状況ですので,それを長期間繰り返し行うことの負担も実際はあるのかなと思います。   逆に,急いで一瞬で終わらせてしまうということによる負担もあるとは思うんですが,どちらがよいのかと判断するのは,とても難しいと思います。本当にそれこそケース・バイ・ケースだと思います。この案件はじっくり話しをして,家族関係を修復しながら執行ができる案件だという判断ができるような場合であれば,時間を掛けて説得するということはあり得るかなとは思います。 ○下坂参考人 田口参考人がお話しされたのと同じことです。例えば,家事事件の調査で家庭訪問をして1時間か1時間半ぐらい話をしてきたとします。私どもが調査を終えて帰った後に,債務者が子供と接する時間はその何十倍もあるわけです。債務者にとっては,調査官からいろいろ言われるということがストレスになります。自我の弱い当事者の中には,そのストレスを子供に向けることがあります。当事者が子供にストレスを掛けなくても家族の中にストレスは残ります。執行に時間を掛けるということのデメリットは,当事者にストレスを掛け続けることにあると考えます。ですから,時間を掛ければという話にはならないと思います。   もし時間を掛けてやるのであれば,家族療法みたいな形で関わっていって,それを全部取り込んでやるというならいいのですが今の日本のシステムでこの種の紛争にシステムとして関与している例は多くはありませんし,また,本人たちにそのニーズがなければできないことですので,現実的な話にはならないだろうと考えます。   それから,子供たちの意向については注意が必要だと思います。FPICでは,面会交流の援助もやっております。それまで面会交流の場面でお父さんと嬉々として遊んでいた子供が,面会交流が終わって「お母さんが来ましたよ」となると,すっとお母さんのところへ行って,「お母さん」と抱き付くのです。このように子供って切り替えが早いのです。子供は生きていくためにはそうせざるを得ないのです。ですから,私は,子供たちの気持ちのどっちが正しいのだという議論にはくみしたくないのです。お父さんに対して示したことも真実であり,お母さんに対して示したことも,矛盾していても,両方とも真実なのだと聞いていくということが,私たち実務に携わる者にとっては大切だと思います。   それから,子供たちの心理を読み解くときに考えなければいけないのは,バーバル,言葉で表明されたことだけで理解しようとしたら,誤解することが多いだろうと思います。発達段階的なこともあって言語能力がそれほど発達していませんから,自分の感情とか気持ちを言葉で的確に表現することは難しいと思います。言葉に重きを置いて,子供はこう言ったではないか,ああ言ったではないかというふうなことを言う方がいるのですが,その時の態度,表情などいろいろなものを総合的に考慮しながら子供の真意というものを捉まえていく必要があると思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。 ○芝池幹事 主にハーグ事案を念頭に置いて田口参考人にお聞きしたいんですけれども,今,言葉の問題がありましたが,正にハーグ事案の場合というのは一方の親が外国人であることが多い,あるいは両親とも外国人のことがあると思うんですけれども,子供が日本語をそもそもしゃべれない場合,あるいはお父さんが英語もしゃべれないような場合といった場面で,例えば事前の準備においてどういった言葉の配慮,あるいは文化的なこととかを含めて,どういった準備をされているのか,あるいはその辺でどういった苦労をされたのかをお聞きしたいのが一つと,あと,面会交流ができるよという話も,一つの説得的な材料だという話がありましたけれども,ハーグ事案の場合には,基本的には常居所地国に戻ってしまうと,その後は何ら面会交流の取組もないという状況が多いと思うんですけれども,そういった場合に,実際問題として,当面会えなくなってしまう,あるいは一生会えなくなってしまうという状況で,何か説得の材料といいますか,面会交流ができるということに代わる,何か働き掛けというのを工夫されたりしているのか,お聞きしたいと思います。 ○田口参考人 言葉の問題ですが,私が関わった案件で,日本語も英語も全く分からないという方が幸運なことにいなかったです。英語しかできない方に対しては,私が一応,英語を少し話すことができますので,私が執行官と当事者の方の間に入って,通訳ではないですけれども,お話しすることはありました。特に,債権者側の方が英語圏の方だった場合は,私の方から説明をすることもありましたし,執行官と打合せをする際,債権者と一緒に打合せをする場合があるんですが,担当の弁護士の方が英語を話せる場合は,その方のお力を借りて,打合せの場面を乗り切ったという感じですね。   執行の場面ですが,外務省のハーグ条約室に英語以外の言語話せる方もいらっしゃったので,その方が対応可能な言語であれば,多分対応はできたのではないかと思います。ただ,私が在籍していたときにそのような要請がなかったので実例はありません。   面会交流ですが,ハーグ事案では,飽くまでも子供を常居所地国に戻すということですので,債権者側に子供を引き渡した後,その子供がずっと日本にとどめ置かれることにはならないという点が,国内事案とハーグ事案の大きな違いだとは思っています。その点についての説明は,やはり強制執行の場面でも具体的に当事者にお話をしています。常居所地国によって,戻ったときにどういったことが起こるのかというところが違うので,余りはっきりしたことは言えないのですが,ハーグ条約に則ったところだと,常居所地国に戻った後に,その国や地域で,どちらが監護権を有するべきかという点について判断をしていくといった話をするので,代替執行が手続の最後ではないということはもちろんお話しします。また,子供が常居所地国に戻った後に,債務者と子供の面会交流が途切れてしまったということになれば,それもまたハーグ条約の違反にはなるので,もしお子さんが常居所地国に戻った後に面会交流が行われないのであれば,そちらの支援もできますよといったこともお話していました。面会交流については,もちろん執行の場面でも説明していましたし,債権者にも,債務者にも,どちらに対しても行っていました。 ○山本(和)部会長 よろしいですか。   ほかにいかがでしょうか。 ○宇田川幹事 最高裁家庭局の宇田川と申します。   運用を預かる立場から,少し質問させていただきたいと考えております。   具体的な場面としては,今回,子と債務者の同時存在を廃止して,債権者が執行の場所に出頭することが必要的とされていて,その債権者が出頭できないときには,子との関係や知識,経験その他の事情に照らして,子の利益の保護のために相当と認められるときは,債権者の代理人が債権者に代わって執行の場所に出頭することを認めることができるということにされております。そして,これまでの国内の子の引渡しの強制執行に関する議論においては,債権者の代理人についても,やはり子に対する心理的な影響を最小限にとどめるという観点から,債権者本人と同視し得るだけの実質を有していることが必要ではないかというようなことで,前回の部会資料においてもそのような方向で取りまとめられているところです。今日のお話でも,下坂参考人からも,田口参考人からも,実際に執行の場面で債権者が出頭していることによって円滑にいったケースもあるということで,子との関係というところが非常に重要になってくるのかなと思っているところですが,ハーグ条約実施法に基づく解放実施の場面でも同様に,やはり債権者の代理人については,債権者本人と実質的に同視し得る者という形で,そこはかなり限定的になるのかなと思っているのですが,前回の部会では,ハーグ事案の場合には,債権者が出頭困難な事情というのもあり,場合によっては債権者の代理人弁護士が債権者に代わって出頭するということも考えられるのではないかという御発言もあったんですけれども,基本的に先ほどのような考え方からすると,なかなか直ちに代理人弁護士の方が,債権者に代わって出頭する代理人になるということは基本的には難しいのではないかというふうにも思われるところです。そこで,ここでいう債権者の代わりに現場に出頭する代理人というものの位置付けについて,どういう属性の方がよいのかというところについて,児童心理に関する専門的な知見や,これまでの執行の場面に立ち会った御経験から,何か御意見があればお聞きしたいというふうに考えております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   この規律の内容をこれからどうしていくかというのは,この部会で今後更に議論して判断をするところでありますけれども,恐らく今の御質問の趣旨としては,これまでの実務での御経験を踏まえて,どういった人が執行の現場にいれば執行がうまくいくのか,あるいはうまくいかないのかといった辺りについて,先ほども既に少し触れていただいたところかと思いますけれども,実務の御経験を踏まえてのお話を頂ければということかと思います。 ○下坂参考人 FPICが関わっている事例では,債権者が来ていないという事例はないと思います。債権者は,執行の場に来ております。   債権者が来られない場合に,誰を代理人とするのかという話になってくると難しい問題になると思います。まず,そのときに考えなければいけないのは,子供が何歳ぐらいであるとか,子供との関係性ということが判断材料になると思います。ある程度の判断ができる小学校高学年ぐらいであれば,理解力が備わっていますので知らない人が代理人として来ていても何とか耐えられると思います。乳幼児期の子供ですと,子供の扱いに慣れている代理人弁護士であっても,子供の側からすると厳しいと思います。子供との関係性,それまでの子供との情緒的なつながりが,代理人弁護士との間にどのぐらいできているかということが問題になると思います。そういうつながりができている代理人弁護士であれば,子供にとってのダメージは少なくなると思いますが,そうでなかったとすると,子供の側からすると抵抗が出るのではないかと思います。 ○田口参考人 私もほとんど同意見ではありますが,ある程度年齢が高ければ,事情を説明して理解できるとは思います。執行の場では,代理人弁護士の方がお子さんに会って説明をした上で,その場ですぐに電話であったり,今はフェイスタイムであったりと債権者の顔を見ながら話すこともできますので,債権者から説明をしてもらうということが,もしかしたらできるかもしれないですが,お子さんのことだけを考えたら,やはり親御さんであることがベストなのかなと感じています。   私の案件で,債権者本人が来られないという場合はありましたが,そういった場合でも祖父母や,やはり身内の方,子供との関係ができている方に来てもらう必要があると思います。もちろん来てほしいのは親御さんであり,保護者ではあるので,そこは当然お願いしつつ,それでも,何らかの諸事情で来られないということであれば,子供が安心できるような関係が構築できている方に来ていただくというのが最優先かなと思います。なかなか弁護士の方もお忙しいと思うので,急に子供との関係を築くことができる程度まで頻繁に会うということは,ほとんどのケースであり得ないのかなとは思うので,やはり身内の方というのが望ましいと思います。あるケースでは,お母さんが,お母さんのお友達で,子供同士も仲が良く,対象となったお子さんもよく知っている人を連れてきていたこともありました。 ○山本(和)部会長 よろしいですか。   ほかにいかがでしょうか。 ○阿多委員 二つの場面のことでお伺いしたいんですが,まず,執行の準備との関係と,執行の現場のことと分けてお伺いしたいんですが,先ほどの御説明ですと,家庭裁判所調査官の調査報告書という資料がまずあって,あと,債権者からのいろいろな事情の御説明というのが事前の情報としてあるというお話だったんですけれども,御経験として,何かほかに準備の際に必要とする情報というようなものがあるのか,また,その準備の期間というのは実際どれぐらいの期間あって,ないしは執行官とどれぐらいの頻度で,債権者も含めて打合せをされるものなのかという,その準備の実情を御紹介していただけたらと思います。   執行の現場についてですけれども,先ほど来,債権者が現場にいることの重要性というのはいろいろ御説明を頂いて,そのタイミングというのも重要なのですが,逆に,少し出ましたけれども高葛藤の場合等で,逆に債権者,債務者が同時にいる,同席したがために高葛藤になって執行ができなくなる場面もあるのかなとも思うんですが,事前に得た情報等によっては,これは債務者がいない状況で執行したほうがいいというような形の,これは,だから執行現場の話ではないのかもしれませんが,債権者と債務者が同時にいるがゆえに執行不能になるというような状況も御経験されていると思うんですけれども,その御経験等を御紹介をしていただけたらと思います。もしお願いできるのであれば,お二人の参考人に伺いたいと思います。 ○山本(和)部会長 二つの異なる問題についての御質問ですので,まず,執行準備の状況につきまして,下坂参考人からお願いできますか。 ○下坂参考人 子の引渡しの強制執行の6割ぐらいが仮処分に基づく強制執行です。そうしますと,2週間以内という法的な制限,縛りがあります。FPICへの依頼は,いろいろ検討した上で来ますから,残された手持ちの時間がそれほど多くないというのが実情です。   そのようなことから,受任してから執行までの期間は1週間取れるか取れないかということになりますそのような時間的制限から執行官との打合せは多くてできて2回ということになります。まず,執行官のところで記録の読み込みを行います。子の引渡しの強制執行の記録は膨大なことが多いので時間がかかります。記録を読み込んで事例を理解した上で,執行の手順,役割分担などについて話をすることになります。執行官との打合せは2回は最低はやりたいのですが,実際問題としては,2回はできていないのが実情です。   これはこの場で言うべき話かどうか分かりませんけれども,記録読みとか打合せ等に行くための手当というのは全く出ません。ですから,遠隔地の事例ですと,大変になります。例えば東京にいる会員に長野県内の執行官から執行補助者として来てほしいという依頼を受けたことがありますが,交通費の問題が障害になって関与するに至りませんでした。執行補助者としての,活用を考えるのであれば,交通費等の手当などの整備が必要と思います。   事前の準備についてもう少し具体的に説明します。まず1回目の記録読みではこの事例の問題点は何であるのか,債務者を説得するとすれば,ここら辺に重点を置いて説得してはどうかと思うということを考えます。2回目のときには,執行官と,執行官は債務者の説得をどのように行うつもりかを確認します。  一般的に執行官は論理的,理詰めで債務者を説得することが多いと思います。説得が先行して強めになってしまうと逆に債務者の防衛と反発を強化させる結果になり,執行官と債務者とが「子を引き渡せ」,「渡さない」という展開になってしまうことがあります。執行官の説得が功を奏さなかった場合には,執行補助者が介入して債務者に別の角度から静かに語り掛けるようにします。執行補助者は,債務者が債権者に対する感情的な反発から子の引渡しに応じようとしないことが多いので,債務者の心情を受容しつつ,父母の紛争に巻き込まれている子供がどのような心情でいるのかを考えさせるよう働き掛けます。執行補助者がどのように介入をしていくのかということについて打合せをしておくと執行する側は余裕を持って債務者に対応することができるのではないかと考えております。   ところが,その事前の打合せが十分できていない場合があります。現場協議みたいに,執行の場でやりましょうということだと,債務者に十分な対応をすることができなくなると思います。執行補助者の側からすると,事前の準備にもう少し力を入れるべきではないかと考えます。 ○田口参考人 下坂参考人がおっしゃっていたように,国内は多分1回,よくて2回という印象を持っています。資料の読み込みを最初にさせていただいて,2回目の打合せができなかった場合は,それこそ執行当日,執行自体が夕方だとしたら,その日の早目の時間帯に行ってもう一度打合せをして,どのように動くかということを検討したということがあります。あとは,待機の時間も結構長かったりするので,そのときにお話をすることもありますが,国内の場合は頻繁に事前打合せをすることは,なかなか難しかったと思っています。   私個人としては,時間的に全部話すことができなかったりする場合は,私としてはこんなことができますよといった自分の役割や,この部分は執行官の方にお願いしますといった役割分担表みたいなものを一応持って行って,文書としてお渡しするというような工夫はしてはいました。   ハーグ事案に限っては,かなり密に事前準備をしていたと思います。国内とは違ってお子さんを常居所地国に帰すまでの部分も含まれますので,それこそどの空港で,どの便に乗って,誰が一緒に乗るのかということだったり,返還実施者は裁判所の人間ではないので別途車を用意したり,また我々の移動のことも考えないといけなかったりと,かなり細かく決めておく必要がありました。どのような役割の人間が何人必要かといった話や,例えば国内の子の引渡しの場合は,執行官2名になっているかと思うんですが,何人態勢で執行現場に行くのかとか,例えば,債務者の方がちょっと暴力的な傾向があったといったリスクの高い場合であれば,執行官だけでは対応できないので警察官を呼んで待機をしてもらうべきなのかというところも,事前準備で話をしておきます。どこで待機をして,実際,執行に行ったらここに移動して,どこで集まってというようなことも,具体的に準備段階で打合せをしていたと記憶しております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   もう1点の御質問で,債権者と債務者が同時にいる場合について,その子供が高葛藤の状態に陥るといった場面での問題点というものについて,下坂参考人からお願いします。 ○下坂参考人 FPICが関与している事例では,債権者は,執行の現場付近には来ているんですけれども,債務者からは見えないようなところにいることが多いようです。執行ができそうになったときには,すぐ駆け付けられるようなところに債権者と債権者の代理人が待機していることが多くて,鉢合わせしたという報告は受けておりません。債務者と債権者とが同時にいるという経験はありませんので,ちょっと答えられません。 ○田口参考人 鉢合わせはあります。かなりの高葛藤です。どうしても--ハーグ事案に限らないかもしれないんですが,債権者側,LBP側は海外から海を越えて子供に会いに来ているわけですので,どんな形であれ,その執行がうまくいかなくても,少なくとも親子で会うことを望むところもあったので,債権者側が執行の場面に臨場するということもありました。それこそ執行の後半の方で,やはりもうどうしても子供の拒絶が激しい,このまま進めたとしても執行は難しいだろうという段階に来たときに,執行官から債権者に子供を会わせてもらうだけでもできないかといったような話をしたこともありました。   その際には,できるだけ債務者と債権者が口論にならないように,執行官の方や,それこそ一緒に来ていらっしゃる弁護士の方からも説明をしていただいていたので,債務者と債権者が口論になるといったような経験は,一部を除いて,私も余りありません。どちらかというと,お子さんと債権者が口論になるという場面は何度か経験をしています。これは,国内事案,ハーグ事案両方ですね。 ○山本(和)部会長 よろしいですか。   ほかにいかがでしょうか。 ○垣内幹事 大変興味深いお話,ありがとうございます。   私からお伺いしたいのは,現在,子と債務者の同時存在ということを前提に執行をやっているわけですけれども,それを外していったときに,債務者がいない場で執行するということが出てくると。そのときに,先ほどのお話では,債務者がいることによってうまくいかなかった例もあるということですから,執行は結果としてうまくいくということもあり得るんだと思いますが,その際に特に注意をすべき点,子供の心理の点から見て,何かこういうリスクに注意しなければいけないとかいった点がありましたら,御教示いただければと思います。 ○田口参考人 債務者の方がいらっしゃらないところでということだとすると,子供の視点から考えると,もう二度と会えないのかもしれないという思いは,多分頭によぎるのではないかなと思います。そのため,そういったことがないように,次に(債務者に)いつ会えるのかという約束であったり,当事者間の関係がよければ,あるいは債権者の方が直接連絡するのが嫌ということであればその代理人の方でもいいので,債務者側に連絡をして子供と話す機会を作るであったりといったことがいいのかなと思います。自宅に執行官が急に来るというのも怖いですが,債務者と一緒にいられないまま,この後どうなっていくのか分からないというのも,子供にとって怖いことだと思います。債権者側から今後どうなるかという説明をしてもいいと思いますし,その周りの大人や代理人が説明するという形でもいいとは思います。お子さんが,どんなところが不安なのかということが言える年齢であれば聞いてあげる必要はあると思います。 ○下坂参考人 債務者が不在であって,子供に,子供なりのやり方で,「今までどうもありがとう」でも何でもいいのですけれども,そういう言葉を債務者に伝える機会がないまま連れていくということは,子供にとっては何となく債務者に対してやはり申し訳ないというような感情を抱くだろうと思うのです。これから債権者の下で暮らすことになるけれども,債務者と時々会いたいねとか,家に着いてからでもいいですから,そういうメッセージを何らかの形で子供から伝えられたら,子供は精神的に楽になるのではないかなと感じています。   私と田口参考人が思っていることは,どういう状態を作ることが子供たちが精神的に楽になるかということを第一に考えています。 ○今井委員 大変貴重なお話ありがとうございます。   債権者がいつ現われるかとか,そのケース・バイ・ケースで非常にお子さんの状況を把握しながら慎重に,傷付かないようにということは改めて感じました。   それは債権者,債務者が,お母さんが債権者のケースの話を今日,具体的にはお話しいただいたと思うんですが,それは受け止め方とすると,債権者がお母さんだろうがお父さんだろうが,今日お話しされたことは,基本的には同じだというふうに受け止めたんですが,もし可能であればですけれども,お父さんが債権者のケースで,執行ができて参考になるような具体的なケースがもしおありであれば伺いたいと思います。特にそこまでの参考になるようなことがなければそれで結構ですが,もしあればということでお願いしますが。n ○下坂参考人 そういう質問が来ると分かっていれば準備してきたのですけれども,用意してきておりません。FPICが担当した事例では父が債権者,母が債務者というのはあります。父が債権者,母が債務者というのは,集計の結果で1割程度はあったと記憶しております。 ○田口参考人 私の場合,債権者がお父さんであった場合がありました。執行はうまくいかず,お子さんの引渡しには成功しなかったのですが,強制執行の場で面会交流までたどり着いて,最終的にお子さんと債権者であるお父さんと一緒にどこか遊びに行くという約束までできたというケースはありました。   私は,本当にもうそれこそいろいろな執行官の方とお仕事をさせていただいておりますが,皆さんそれぞれ本当に苦労されているという印象があります。子の引渡しの事案を経験した他の執行官から話を聞いていたり,いろいろな苦労をされて,何とか子供を傷つけないように,うまくいくようにというような工夫をされていました。このケースを担当された執行官の方も,子供の心理的状態や,その家族がどう在るべきかといったところまでとても深く考えて,執行に携わっていた方でした。最終的には,債権者の元に子供が帰り,その後も債務者と子供の関係がつながっているというのが理想の状態というのが目標で,執行には挑みました。   執行の際は,最初から債務者の説得は執行官ということに決めておいて,現場にいる執行官も数名いたので,いろいろ説明する役割の人や,「いや,これはきちんと引き渡さなければいけない」と説得する人といったように上手く役割を変えながら,説得をしていました。その間に,できるだけ子供に負担が掛からないようにと,心理職は子供たちと一緒に債務者と執行官とは別の部屋にいさせてくださいということをお願いして,債務者側もオーケーを出してくれたので,お子さんの対応を別室で行うことができた案件でした。   その案件では,債務者であるお母さん側に一生懸命執行官が説明をしていて,このままでは家族関係もよくないしというところまで話して,話をうまく聞き出していました。その間に私は子供たちと可能な限り関係を築けるように努力をしていました。最終的に,子供は泣くこともなく,こちらと一緒に遊んでくれるぐらいまでには関係は築けたんですが,最終的に,どうしても引渡しは難しいということになり,お父さんに現場に来てもらうことになりました。ただ,債務者が債権者には会いたくないと言ったので,債務者が別の部屋にいるときにお父さんに入ってきてもらって子供に会わせたということがありました。お父さんも,もちろん事前に子供のことを傷付けたくはないということをおっしゃっていたので,無理やり子供を連れていこうとしたり,説得をしたりということはせず,子供のペースに合わせて待っていてくれたという感じでした。お父さんから急に距離を詰めようとせずに,子供が寄ってくるのを待って少しずつ話をしていました。   最終的に,執行官としては,お父さんと子供の親子関係も良好だし,お父さんに引き渡してもいいのではないかというような判断はしていたのですが,債権者であるお父さんの意見をその場でもう一回確認したところ,お子さんともう少し話をして,お子さんの気持ちを聞きたいとお父さんが言いました。執行は継続したまま,我々から子供の意見を聞くことはできないので,お父さんがお子さんに話をしたところ,子供はここにいてお母さんといたいんだと話をしていました。最終的に執行は不能になりましたが,次に父子で会うための面会交流について,お母さんも納得した形で約束をして終わったということがありました。 ○今井委員 ありがとうございました。 ○谷藤関係官 二つほどお聞きしたいと思います。   執行場所については,原則的に引き続き債務者宅ということかと思いますけれども,例えばそれ以外の場所,学校ですとか保育園で執行する場合は,どうお考えになるかといった点が一つ。   それから,なかなか現状として執行官による執行がうまくいっていないわけですけれども,児童心理の専門家から,執行官に対する何かアドバイスみたいなものがあれば,頂ければと思っているところでございます。 ○山本(和)部会長 2点ございますが,まず最初の,保育所,あるいは学校を執行場所とする強制執行の問題について,に田口参考人からは成功例があるという御紹介を既にしていただいていたかと思いますが,御意見を頂ければと思います。 ○田口参考人 すいません,これもはっきりしたことは言えないのですが,どちらがいいというものなく,学校であれば,それこそほかのお子さんの目があるので,ほかの子供たちがいる前でそういうことになってしまうと,次の日からまた同じ学校に行くことになったときに子供への心理的負担がとても大きいので,学校がいいとは言い切れないです。ただ,私が行かせていただいた保育所の場合は,別の部屋を用意してくれて,その場所も比較的中立的なところであったし,お子さんもそれほどその場所の印象がないようだったので,その案件については結果的によかったのかなと思っています。学校であったら,やはり学校でそういった経験をしたというのは印象に強く残ってしまいますし,その子のお友達や,その現場を目撃した子供たちにも強いインパクトを与えてしまうリスクが高いので,可能であれば少し中立的な場所であればよいのかなと思います。   私が紹介した案件の場合は,保育園の一部ではありましたが別の場所だったので,子供にとっても負担が少なかったと思いますし,親御さんである債務者側にとっても話は聞きやすかったのかもしれないなと感じています。   ただ,このように学校や保育園が協力してくれないということも大いにあり得ると思います。 ○下坂参考人 債務者の自宅で執行することになっていたんですが,債務者が家に入れないために,路上で債務者を説得した事例がありました。例えば,学校で執行したり,保育園で執行した場合でも,そういう不測の事態というのは起こり得るわけです。そのような事態への対処は,考えておく必要があると思います。   それから,子供にとって,保育所と学校が,どのような意味を持つのかを真剣に考える必要があると思います。幼児期,学童期になりますと,子供の内面に「私」というものができてきますし,友達集団がものすごく大切になってきます。家庭内が安定していないがゆえに,より一層,友達集団との関わりが大きな意味を持つことが多いと考えます。家の中がうまくいっていないから,子供は意識はしていないかもしれませんが,せめて学校だけは聖域にしておいてほしいという気持ちでいるのではないかと考えます。聖域で強制執行をされてしまって,家庭に関する争いの場にされてしまうことは,子供にとってはすごく嫌なことだろうし,家の中がごたごたしていることを友達に知られるというのは,とても嫌なことだろうと思うのです。   例えば絶対に他の子供たちの目に触れないなど用意周到な準備をするのであれば,自宅以外のところでの執行ということはあり得ると思うのですが子供を傷付けないような準備をすることは難しいのではないかと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   もう1点,執行官に対するアドバイスにつきましても,もしあればお願いします。 ○下坂参考人 執行官に対するアドバイスというと,天に向かって唾しているようで怖いんです。感想めいたことにとどめさせていただきます。執行補助者として関わっている立場からすると,執行官による強制執行がうまくいくかどうかというのは,執行官が執行補助者をどう使おうと思っているかによって,大きく違ってきているように思います。執行官が事例を読み込んだ上で,執行補助者の意見のうち酌み取るべきものは酌み取るし,駄目なら駄目と,重要な点についてはきちんと議論をした上で,執行官が方針を明示していただくと非常に動きやすいのではないかと思います。   執行補助者を使った執行というのは,全国の執行官が十分に経験しているとは思えません。経験がないこともあって,執行補助者を使ったやり方について,不慣れな面があるのではないかと思います。そこを補うための研修が必要ではないかなと思っております。   これからは私の提案になります。お前らはどうなのだと言われますと,残念ながら,うちの職員の中にも昔の執行のやり方しか理解していない方もおります。私どもとしましては,執行官に執行補助者としてはこういうふうなことをやりたいし,こういうことをやってもらいたいんだということを注文していきたいと思います。そのためには,執行官の方も,私どものように執行補助者の候補者を推薦する団体とか幾つかありますので,そういうところに来ていただいて,執行官として留意していること,考えていることなど話をしていただくという相互交流の機会を設けていただければと思っております。 ○田口参考人 下坂参考人に加えることが余りないのですが,執行官の皆さんは本当に苦労されていて,前日は眠れないんだというような方も本当にいらっしゃるので,それこそ強制執行で幸せな思いをする人はほとんどいないのではないかと思っています。執行補助者の使い方については,下坂参考人がおっしゃるとおりだなと思っています。日本各地に執行官がいますが,子の引渡しの強制執行の経験が10件を超える方は少ないと思うので,やはり経験が蓄積されていないというところがあるかと思います。どれほど事前に勉強をしたとしても,子供の心理や,こういう執行の方法がいいんだということを頭で理解していたとしても,やはり経験に裏打ちされたものというのは補い切れないところはあると思うので,そこを何らかの形で補塡するというか,補助していくという必要はあるのかなと思っています。   執行補助者の在り方というか,執行補助者にも得意なところと不得意なところがあると思うので,そこを理解してもらうというところは下坂参考人の意見に賛成です。執行補助者の中にも,この人はすごく積極的に説得に関わったけれども,この人はそうではなかったとかということもあり得ると思うので,執行官の方に規律や民事執行法があるように,執行補助者に対しても,やはりある程度一定の基準が必要かもしれません。執行補助者は,それこそ執行官がお願いして手伝ってもらうという形なので,ケース・バイ・ケースで本当に人によって差が生まれてしまっているのではないかなと思いますので,執行補助者を使うということであれば,その点についても検討しておく必要があるのではないかと思います。 ○谷藤関係官 執行場所の関係で追加の質問なんですけれども,下坂参考人の方から,「私」というものが出てくればということで,子の年齢によっても多少事情は違ってくるのかなと思ったのですが,その点はいかがでしょうか。すなわち,子供が大きくなって,友達関係が生まれてくれば,いろいろとそこは考慮しなければいけないというお話になると思うんですけれども,逆に子供が小さい場合などは,余りその辺りの考慮というのは必要ないということなのでしょうか。 ○下坂参考人 逆の言い方をすると,質問のようなことになるでしょうね。子供が幼い場合にはさほど考慮しなくてもいいというふうにはなるでしょう。 ○谷藤関係官 例えば幼稚園などの,まだ学齢期に達していない場合はいかがでしょうか。 ○下坂参考人 子供は4,5歳ぐらいからはある程度「私」というものが出てきますので,そこはやはり気を付けなければいけないと思います。昔,物の本で,3歳以下は物扱いするという民事執行法に関する論考を読んだことがあります。その論考がそういう意味で書いているのかどうか分かりませんけれども,その辺りの年齢が一つのポイントになるかと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。よろしいですか。   ほかにいかがでしょうか。 ○阿多委員 執行現場での執行不能の判断なんですけれども,執行補助者という形で関与される中で,先ほども子供さんが泣き出したので,債務者が止めて執行は諦めたというような話が田口参考人からされたように思うんですが,現場における,これはもう無理ですねという執行不能の判断は,最初は執行官がされるんでしょうけれども,執行補助者はその判断との関係でどういう形で関与するのか。執行補助者がもう無理です,やめてくださいという形で止めるのか,それとも,執行官の方で判断が付きかねて,執行補助者に何か意見を求めて議論して,もうやめましょうということになるのか,一体どういう状況で執行不能ということを判断されているのか。うまくいった場合はそういう問題は起こらないと思うんですが,執行できずに不能で終わったケースも御経験だと思いますので,その辺の状況を御紹介いただけたらと思うんですが。 ○田口参考人 飽くまでも執行不能の判断は執行官がされるというのが大前提ですので,執行補助者としては,子供の状態が今どんな感じであるというような御報告をさせていただく形になります。   例えば,子供の態度がずっとかたくなで,執行補助者から話し掛けても拒絶が強い。それで,執行官が話し掛けてももちろん駄目だし,では,債権者をみたいな話とかになっても,やはりどうしても子供の態度がかたくなで難しいというような場合もあります。執行補助者としては,執行はやはり成功してほしいとは思うので,いろいろ時間を掛けたり,説得を重ねたり,いろいろな方法を尽くすんですが,執行補助者から執行官に対して,「このまま数時間継続したとしても子供の態度が変わらない可能性があります」といったようなお話をさせていただくことはあります。それを一つの参考として,執行官が総体的に判断しているという理解です。もしかしたら執行官としては,債務者側を説得したらいけるのではないかというような判断や,もう少し時間を掛けたほうがいいのではないかというような判断をされることもありますので,飽くまでも子供の状態の説明だけをさせていただいて,「もう執行は無理です」といったような発言はしないように気を付けておりました。 ○下坂参考人 最終的な判断は執行官が出しています。執行官から続行すべきか否かの意見を求められて,それに対して,これはもう一回やれば執行できますというときもあれば,もう無理ですと述べる場合もあるようです。   FRICの本部に報告が上がってくる事例でいうと,執行を一番数多く行ったのは,4回やって,4回目に執行することができた事例があります。執行官がどの辺に着目して,いつかは執行できると思ったのかは分かりません。   そのほかに,考えておかなければならないのは,執行不能の場合の終わらせ方の問題があります。私たちの立場からすると,家族間の紛争が少しでも解決に向けて前に進むような終わらせ方をすることが望ましいと考えます。この執行はできなかったけれども,家族の問題について,きちんと話し合ったり整理したりする場面というのは必要なのではないですかと提案をしたり執行補助者が執行官の了解を得た上で債務者や子供に執行そのものは今日で終わりになるけれども,今後も債権者や子供との関係が続くということをメッセージとして伝えておくということが必要と考えます。 ○阿多委員 ありがとうございました。 ○山本(和)部会長 よろしいですか。ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○久保野幹事 お話全体を通じまして,児童心理の専門家の方が執行補助者として関わっていただくことの重要性というのが実質的に非常によく分かりまして,ありがとうございました。   そこで質問なんですけれども,今後,子の引渡しが円滑に行われていくために,全国で余り困難なくそのような方々に関与していただける状況になるということがとても大事だと思うんですけれども,先ほど,長野と東京の距離というものがネックになるような場合もあるというようなお話もあったりしまして,そこでの交通費の問題を直接お尋ねしたいというわけではないんですけれども,ただ,全国で円滑に関与していただくための人数ですとか,専門性ですとか,様々な課題があるのではないかというふうに想像しまして,将来,全国でそのような状況を作っていくための課題ですとか方法につきまして,何かございましたら御意見を伺えたらと思います。お願いします。 ○下坂参考人 一番つらいところを突いてこられました。実は,私ども家庭問題情報センターがあるのは東京と横浜と千葉,名古屋,大阪,広島,松江,新潟,それから福岡になります。宇都宮にもありますけれども,宇都宮では子の引渡しの強制執行への関与はやっていません。東京より北につきましては,東北地方には幸いにして,宮城県に住んでいる方,岩手県内に住んでいる方などがおります。岩手県に住んでいる人たちが相談室を開設することになっていますので,東北地方は何とか埋まりそうです。北海道と九州の南の方は,今のところ開設の見込みはありません。そういう現状でありまして,FPICとしては,均一なサービスができるようにしたいなとは思っているのですが,それほどできていない実情にあります。   子の引渡しの強制執行に関与している団体としては,FPICの他に日本臨床心理士会,日本臨床発達心理士会の3団体があります。多分,他の団体の方が人数としては圧倒的に多いと思います。FPICで,子の引渡しの強制執行の関係で登録しているメンバーは全国で100人余りです。この程度の人数でやれる範囲というのはおのずから限界があります。   他の団体に対しては,どこかで教育をしていかないと,執行補助者又は立会人等に適した人材の確保というのは難しいのではないかと思います。 ○山本(和)部会長 田口参考人からは何かございますか。 ○田口参考人 私も,FPICと臨床心理士会ぐらいしか思い当たらなかったので,余り参考にならないかもしれないですが,公認心理師という国家資格が今年からできますので,臨床心理士とかぶる職種ではあると思いますが,そういった団体に声を掛けるというのはありなのかなとは思います。ただ,強制執行だけを専門的にやりたいという心理職の方がどれぐらいいるかというのは甚だ疑問ではあり,それこそFPICであれば,面会交流といった別のお仕事を主にしつつ,立会人や執行補助者のお仕事をされているかと思いますので,何か別の仕事をしつつ,こちらにも登録していくというような形が一番いいのかと思います。   また,子の引渡しの案件自体もそれほど多くないと思いますし,一人の人が全国に行くとしても,余り件数としては多くない--多くならないほうがいいんですが--と思いますので,一つの団体で情報が共有できるような形ができたら一番いいかなと思います。いろいろなところにいる心理職が,例えば別の業務を行いつつ,執行補助の登録をしておく。その上で,執行補助の登録をする方には必ずこの研修を受けてもらう。そういった研修において,執行の手続はこういうものですとか,法的な解釈や説明,執行官との連携の仕方といったことを学んでもらうという機会を確保しておくということはよいのではないでしょうか。人材の確保は結構難しいかもしれないなとは思っています。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○芝池幹事 情報提供と質問なんですけれども,今の関連なんですが,北海道の話があって,それこそ田口参考人に関わってもらってハーグ事案の子の返還の強制執行をしたことがあるんですね。そのときにはFPICはまだなかったんですけれども,北海道に家庭裁判所調査官のOBの方が作っている面会交流支援団体があって,そこの方に立ち会ってもらいました。   そこでの経験から思ったことなんですが,正に,田口参考人に来ていただけるとなると,何か心理職イコール全部してくれるという感じがするんですが,実際はそうではなくて,正に子供に関わるわけです。そうすると,特に債務者であるお母さんを説得する方がいなかったものですから,そこでそのOBの方にただひたすら説得をしていただいたということがありました。つまり,当然その執行の場面には執行官がいて,ハーグ事案の場合であれば外務省から心理職の方がいらっしゃると。それに加えてFPICの方にお越しいただくことはできないのか,つまり適正な数というか,誰がどこに関わるのがいいのか。つまり,児童心理の専門家の方は子供にべったりだとすると,親の説得は誰がするのかという辺りを,少し御経験を基に教えていただけたらなと思います。 ○山本(和)部会長 いかがでしょうか。 ○田口参考人 それこそ私の役割については,芝池幹事がお話しされたように子供の負担を減らすということで,基本的には子供の対応をメーンで行っていたので,債務者に対する説得については執行官の方にしていただいておりました。   ただ,ハーグ事案に関するもの,例えば,これから日本を出た場合はどういうことが起こるのかであったり,どんな手続があるのかといったような説明であったり,あとは子供の心理的な影響ってどんなものがあるのかといった説明については私の方からさせていただいていたのが現状でした。基本的に執行官の方から説得は行いますが,その事前の準備の段階で,こういうところを話したほうがいいかもしれませんといったような内容は,もちろん執行官と私だけでなく,債権者も含めて協議をして,どの辺りを説得の材料として使っていくかということは話しておりました。ただ,メーンでフロントに立って説得に当たっていたのは,やはり執行官の方というような状況です。 ○芝池幹事 そうすると,基本的にそれで十分というか,例えばハーグ事案の場合には外務省の方と執行官でもう十分で,それプラス,FPICの方とかにお願いしなくても,お願いしなくてもというのは言い方が悪いけれども,つまり執行官は執行官であって,正にFPICだからこそ面会交流の重要性,あるいは心理の観点からも説得をできるかなと思って,他方で,ギャラリーとか一杯いても困るなというのもあるものですから,その辺りを更に敷衍していただければと思います。 ○田口参考人 そうですね。おうちの事情によりますが,玄関に全員が入りきらなくて,交代交代で出たり入ったりしながら説得をするということもあったので,余り大人数なのもよくないかなと。圧迫感もありますし,できるだけ圧迫感を与えないように服装だとかも気を付けてはいましたが,人数が多ければよしというわけではないかとは思います。 ○下坂参考人 主に説得するのは執行官であるということになると思います。執行官の説得がうまくいくためのサポートは執行補助者がします。例えば,執行官が執行の現場で債務者に「これは,裁判官が決めたことなんだから,あなたはやらなければ駄目なんだ」というふうに言って説得します。執行補助者が引き受けて,債務者に対して,「あなたも随分子供さんの面倒をよく見ているし,いろいろ頑張っているのね。でも,このままお母さんと子供さんを会わせなくていいのですか」と穏やかな口調で語り掛けたりします。債務者の感情を受容した上での最後の説得の言葉は,やはり執行官に言ってもらわないといけないと思います。執行補助者が最後の決め言葉まで全部やってしまったら,これは執行補助者の役割を逸脱してしまうのではないかと思います。執行補助者は途中から執行官からの役割は引き受けますが,最後の大切な役割はまた執行官に戻すというのが,多分一番落ち着きのいい連携ではないかと思います。   それから,執行をやっていて困ることに,債権者及び債権者の代理人弁護士への対応があります。例えば,執行不能になった場合に,債権者に対して執行官が説明をするのですけれども,なかなか納得してくれないことがあります。そうすると,執行官は困りますので,執行補助者も来てくれと,一緒に説明してくれと言ってくることがあります。執行不能になったときの対応として債権者への説明は,どう説明しても分かってもらえないのが苦しいところです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○成田幹事 貴重なお話,ありがとうございました。   裁判所の人間として,執行官からよく話を聞くのですが,児童心理の専門家からの,こういった違う観点からのお話を聞かせていただいて大変感謝しております。   どちらかというと,下坂参考人への質問になるかと思いますけれども,児童心理の専門家が執行に関わる場面として,執行補助者という形と,あと立会人という形があろうかと思います。法律上の違いはあるわけなんですが,どちらの方がやりやすいとか,そういった点についてお聞かせいただければと思います。 ○下坂参考人 立会人と執行補助者は根拠の条文が違います。立会人で当事者に対応するということはおおよそ想定されていません。執行官のやっていることを監視するということが立会人の主な仕事になります。基本的には,調整的なことはできないことになります。ですから,私どものような元家庭裁判所調査官の者を活用するのであれば,執行補助者ということになります。8割ほどは執行補助者としての依頼を受けています。  残りの2割は立会人になります。ここでもまた費用の問題とかが出てきます。執行官が執行補助者にするか立会人にするかといったことを決めるときには,事案の概要もあるのですが,債権者に予納させる金額もありますので,その中から執行補助者に費用を払うことになり,その費用が,立会人の場合と執行補助者とでは金額がちょっと違いますので,本来,執行補助者の方が適切ではないかと思われる事例についても,諸般の事情で立会人としてこちらの方に依頼をしてくることがあります。立会人として依頼しながら執行補助者の役割を果たすことが期待されている例を見ますと,本当にこれでいいのだろうかと感じることがあります。 ○松下委員 先ほどお話あったとおり,子の引渡しというのでしょうか,監護の移転については件数が少ないので,個々の執行官,あるいは執行補助者レベルでは経験の蓄積というのはなかなか難しいというお話だったのですが,それに関連して,どうやったら事件の経験を共有できるかという問題意識から質問させていただきます。現実の事件を何らかの形で記録化して共有するというような取組というのは現在されているのでしょうか,あるいは今後何か考えられるのでしょうか。個々の事件,非常に個性が強いので,ある事件,例えば5件,10件,過去の例を知ったからといって,その次の事件にすぐに役に立つとは思えませんけれども,しかし,過去の例を知っているというのはそれなりの強みになると思いますので,現状,それから今後何が考えられるかについて,もし何か御意見がありましたらお聞かせいただければ幸いです。執行官レベルでの共有も考えられると思いますが,本日は,特に執行補助者の方の共有ということでお尋ねできればと思います。 ○下坂参考人 事例そのものをどうするという形はやっておりませんが,3年間の統計がありますので,概況としてFPICが子の引渡しの強制執行にどのような形で関与しているのかというデータは出しております。   それで,個々の事例について分析してといった話になってくると,相当の情報量を求めなければいけませんし,どういう角度で分析するかという問題もありますので,今のところそこまではできておりません。   ただ,今まで「強制執行の手引」というのはなかったんですが,手引書を作りまして,それでFPICに所属している全国の会員のうち子の引渡しの強制執行を担当する者に対して,この手引書を送付いたしました。基礎的な考え方,それから執行官との打合せのときの考え方とか,そういうところについてはある程度の知識は,得ているだろうと思います。ただ,子の引渡しの強制執行は体験してみないと,その書いてあることの意味が必ずしも十分には理解できないことがあります。FPICの担当者を集めて,年一回程度の研修を行い,最近の問題事例とか,うまくいった事例等についての話をする研修会が実施できればと考えています。 ○田口参考人 私の場合は,外務省のハーグ条約室にいたときは,私の後任の方で,児童心理の専門家が2名ほどいたので,その方に私の経験は共有させていただいています。そのため,外務省のハーグ条約室においては経験が蓄積されているというふうに認識はしております。   当時もいろいろな方法を模索していましたし,それまでの執行官とのやり取りにこの辺で苦慮したというところももちろん伝えていましたし,後任の方に執行の現場に一緒に同行してもらって,その場で対応の方法を学んでもらうという機会も,ハーグ条約室のときはありましたので,そこは国内事案の場合とは違うところかもしれません。 ○松下委員 ありがとうございました。 ○山本(和)部会長 よろしいですか。   ほかにいかがでしょうか。おおむねよろしいでしょうか。   下坂参考人,田口参考人におかれましては,文字どおり大変長時間にわたって御対応を賜り,本当にありがとうございました。   実際の実情というものを本当にビビットに,当部会において共有することができたのではないかと思いますので,今後の審議の参考にさせていただきたいと思います。   改めて御礼を申し上げます。ありがとうございました。 ○下坂参考人 私は非常につたない経験しかないのですが,皆さんにお話をする機会が与えられたことに感謝申し上げます。私のつたない話であっても,私の話が明日の子供たちのために役立つ立法につながるのであればというふうな思いを抱いております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○田口参考人 私もとても希有な経験をさせていただいたと思っております。実際の執行の場面の状況を皆さんに想像していただける一助になれたらと思っております。   お子さんもその家族もそれぞれ皆さん違っておりますし,個性もありますし,ケースが一件一件違う中で,画一的なものを作っていく作業をするに当たっては,とても御苦労をされるのだろうと考えております。私としても,今後もできるだけ子供とその家族の支援を引き続き行っていきたいとは思っておりますので,よろしくお願いいたします。   ありがとうございました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,本日の審議は以上となりますけれども,次回の議事日程等につきまして,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○内野幹事 次回は,8月9日木曜日の午後1時30分から4時30分までを予定しております。場所は,本日と同じく,法務省地下1階の大会議室でございます。次回は,今回に引き続きまして,民事執行法制の見直しに関する要綱案の取りまとめに向けた御審議,それとハーグ条約実施法に基づく国際的な子の返還の強制執行に関する規律の見直しについて,パブリックコメントの結果の御報告もさせていただきながら,御審議を賜りたいと考えております。 ○山本(和)部会長 そのようなことで,夏休みの真っただ中に部会を開くのは,私としても申し訳ない思いでありますけれども,是非とも御協力を賜れればと思います。   それでは,これで民事執行法部会第21回会議を閉会させていただきます。本日も熱心な御審議を賜りまして,ありがとうございました。 -了-