法制審議会 民事執行法部会 第22回会議 議事録 第1 日 時  平成30年8月9日(木)自 午後1時30分                     至 午後3時56分 第2 場 所  法務省 大会議室 第3 議 題  民事執行法制の見直しについて 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○山本(和)部会長 それでは,予定した時刻になりましたので,法制審議会民事執行法部会第22回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中,また,夏休みの真っ最中であり,かつ台風が通過する中,御出席を賜りまして誠にありがとうございます。   まず,委員,幹事の交代でございますけれども,岡田幹事の御異動に伴いまして,本日の会議から,衣斐瑞穂幹事が新たに幹事に就任されましたが,本日は御欠席と承っております。また,本日は,道垣内委員も御欠席と承っております。   なお,本日も,法制審議会総会の委員である早川眞一郎委員に御出席を頂いております。   それでは,審議に入ります前に,配布資料の確認を事務当局からお願いいたします。 ○内野幹事 事前送付資料といたしまして,部会資料22-1及び22-2をお送りしております。また,席上配布資料といたしまして,議事次第等のほか,本年7月5日から8月3日までの期間で実施されたパブリックコメントの結果概要としまして,「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律の改正に関する試案(追加試案)に対して寄せられた意見の概要」を参考資料3としてお配りしております。   また,中間試案のときと同様に,個人情報の部分についてはマスキング処理をした上で,実際に寄せられた意見書そのものの写しをつづった紙ファイルを,お二人に1冊ずつといった形で席上に置かせていただいておりますので,適宜御覧いただければ思います。   また,参考資料4として,子の引渡しや返還の強制執行に関する外国法制の状況等の概要を整理した「我が国及び諸外国における子の引渡し等の強制執行制度の概要」をお配りしております。   資料の御説明としては以上でございます。なお,本日も,前回と同様に,基本的には,ゴシック体で記載された部会資料22-1を中心とした御審議を賜りたいと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,本日の審議に入りたいと思います。   初めに事務当局から御紹介がありましたけれども,国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律の改正に関する試案,いわゆる追加試案に対して寄せられた意見の概要につきまして,御説明を頂ければと思います。 ○内野幹事 それでは,適宜,参考資料3や,意見書の写しをつづったファイルを御覧いただきながら聞いていただければと思います。   まず,追加試案につきましては,意見募集の結果,弁護士会や裁判所などの団体としては6団体から,また,弁護士,学者等を含む個人としては10名の方から御意見が寄せられております。その内容は,参考資料3に記載したとおりでございます。   参考資料3におきましては,賛否の数だけで意見の状況を御認識いただくには不十分であろうとの認識の下,中間試案のときと同様に,各団体・個人の賛否を整理するとともに,それぞれの意見に付された考え方や留意点についての御指摘を記載しておりますので,本日の御審議では,その辺りも御覧いただきながら,御検討いただきたいと思っております。   主に団体の方からは,おおむね追加試案の内容に賛成するという意見が寄せられているという状況ではございますけれども,一方で,反対という意見も寄せられております。全てをここで申し上げることはいたしませんけれども,例えば,間接強制の前置に関する規律の見直しにつきましても,日本弁護士連合会や大阪弁護士会等から賛成の御意見が寄せられている一方で,個人の方から反対の御意見も寄せられているところでございます。   また,子の心身への配慮に関する規律につきましては,個人の方からも賛成の御意見が寄せられておりますが,留意点についての御指摘も頂いているところでございます。   非常に雑ぱくではございますが,追加試案に対して寄せられた意見の概要の御説明は,以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,今のようなパブリックコメントの結果も踏まえまして,本日の審議に入りたいと思います。   本日の審議の順序ですけれども,部会資料のナンバリングとは逆になりますけれども,まずは,「子の引渡しの強制執行に関する規律の明確化及び国際的な子の返還の強制執行に関する規律の見直しに関する検討」と題する部会資料22-2についての御審議を頂ければと思います。   この部会資料は,前回の部会において事務当局の検討課題として残されていた事項について,部会での御審議を踏まえて御検討いただいた結果をまとめたものということになります。   それでは,事務当局から資料の御説明をお願いいたします。 ○内野幹事 まず,部会資料22-2の第1の部分につきましては,前回の部会での参考人からのヒアリングの内容をまとめたものでございます。参考人の方々からは,実務上の運用に関しまして,特に子の心身への配慮という観点からの工夫例といったものが多かったかと思いますけれども,その実情に関する大変有益な情報を御紹介いただいたものと認識しております。   そこで,ヒアリングの内容につきまして,事件処理に当たっての時系列を若干意識しながら,事前準備段階,現場での執行段階といった形で整理を試みまして,特にいわゆる子と債務者の同時存在との関係や執行場所の選択に当たっての留意点,執行の現場における専門家の関与の在り方,専門家の確保の在り方といった点についての御発言の内容を,適宜整理して資料化しております。   続きまして,部会資料22-2の5ページ以下の「第2 国内の子の引渡しの強制執行及び国際的な子の返還の強制執行に関する規律についての検討」の部分が,本日の会議において御検討を賜りたい具体的な論点になります。   まず,「1 債務者の占有する場所以外の場所の占有者の同意に代わる許可の告知について」という部分ですが,前回までの部会の議論を踏まえますと,この点につきましては,規則事項であるとの整理を支持する御意見が多かったかと思いますけれども,そのような整理を前提に,その告知の在り方についての検討結果を記載しております。   占有者の同意に代わる許可につきましては,民事執行規則第2条との関係では,告知を要しないというとの考え方があり得る一方で,一時的に執行場所を占有する第三者が不在にしていたため,子のみが執行場所に存在した場面などを念頭に置きますと,そのまま執行が終了した場合には,その旨を債務者や占有者に通知する必要があるのではないかといった御指摘もございましたので,この点に関する規定を民事執行規則に設けていくことも考えられるのではないかということを記載しております。   続いて,「2 子の心身への配慮に関する規律の在り方について」の部分でございますが,この規律の在り方につきましては,部会のこれまでの議論や意見募集の結果におきましても,様々な御意見があったところでございます。これらをある程度整理した上で,事務当局における検討結果を記載しております。この配慮規定の具体的な在り方につきましては,部会のこれまでの議論におきましても,強制執行の実効性を確保するという観点を,文言上も明らかにした形で盛り込んだ方がよいのではないかというような御指摘も頂戴しているところでございます。   もっとも,この配慮規定につきましては,「できる限り」という文言が入っており,このようなところからいたしますと,この規定が,執行裁判所などに対し,一義的に執行手続において具体的な対応を採ることまでを義務付けているものではないと考えられますが,一定の配慮を求めるという点で,執行裁判所等に対して一定の行為規範を示すものであるということができるのではないかと認識しております。   このような認識を前提といたしますと,一定の行為規範というものを法律の中で規定する必要が特にあるといえるような場面に限って規律を設けることが相当ではないかと考えられますので,事務当局といたしましては,参考人からのヒアリングの結果なども踏まえまして,これまでも子の心身の負担に配慮する観点から行われてきた実務上の工夫などを促すという趣旨で,専ら子の心身の負担への配慮を念頭に置いた規律を引き続き御提案させていただいております。   このように,この原案の趣旨というのは,飽くまでも,こういった実務上の工夫を促す趣旨での配慮を内容とするものと理解し得るところでありまして,執行の現場において執行官に対して執行不能の判断を促すといった趣旨のものでないことはもちろん,執行官が安易に執行不能の判断をすることを正当化する方向での規定ではないということにつきましては,この部会における共通の理解であると考えられますので,このような理解を前提に,子の心身の負担への配慮を内容とする規定を提案しているところでございます。   また,部会のこれまでの議論の中では,追加試案に対して寄せられた御意見の中にもございましたけれども,子の福祉というものを配慮の対象とするという御提案も頂いております。   ただ,部会資料22-2にも記載いたしましたとおり,子の福祉という概念については,いわゆる本案の内容を含み得るものなのではないかというところがございますので,執行手続に関する規定の中にこうしたものを盛り込んでいくことについては,一定の疑義があるのではないかという考え方に基づき,子の福祉という概念を用いずに,原案を維持させていただいております。   以上を踏まえまして,結論といたしましては,前回の部会での御提案と同内容の規律を御提案しているところでございますが,この点につきまして,皆様の御検討を頂きたいと考えております。   「3 国際的な子の返還の代替執行における執行官の権限について」の部分につきましては,専ら技術的な論点ですので,これまで論点として明示してこなかったところではございますけれども,部会資料22-1の第6に記載しておりますとおり,現在御検討いただいている規律においては,債権者に代わって執行の場所に出頭することが相当であると執行裁判所から認められた代理人が執行の現場に出頭することも予定されていることなどから,これに伴いまして,債権者や当該代理人についても,現行のハーグ条約実施法における返還実施者と同様に,執行官の判断により,執行場所への立入りや債務者及び子との面会をすることができるようにするとともに,執行官による指示の対象とするといった御提案をしております。   なお,部会資料22-1の第6の4の(1)の下から2行目の部分では,追加試案との連続性も意識した結果,「同項各号に掲げる行為」という形で,現行のハーグ条約実施法第140条第1項各号を念頭に置いた表現ぶりとなってしまっておりますが,本日の御審議の結果,この部会として,債権者等についても,執行官の判断によって立入りや面会をすることができるようにすべきであるという方向になりますれば,その方向を前提にこの「同項各号に掲げる行為」という部分の内容を具体的に明らかにする形で必要な修正を施す予定でございます。   部会資料22-2についての御説明は,以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま御説明がありました部会資料22-2について御議論を頂きたいと思います。大きく3点あったかと思いますが,特に区切りませんので,どの点からでも,どなたからでも結構ですので,御発言を頂ければと思います。 ○阿多委員 第2の1の,いわゆる同意に代わる許可の告知についてなんですけれども,これは質問も含めてなんですが,ここで書かれているのは,いわゆる執行に着手する段階で執行場所の占有者等が不在の場合のことが第2の1の第1段落及び第2段落に書かれていて,「もっとも」から始まる第3段落以下は,むしろ執行が終了した場面において執行が終了したことについて当時不在であった占有者等にどういう形で情報伝達をするのかというお話で,むしろ別の話なのかなと。見出しは同意に代わる許可の告知」というふうになっているんですが,第3段落以降のところでは,執行終了についての通知のお話が出ているものと理解しています。   それで,一つは,現状,特にハーグ条約実施法の施行以前に,債務者不在のところで執行していたときに,先回も,私が認識している状況は発言させていただいたんですが,もし裁判所の方が,従前どういうふうな扱いをしていたのかということについて御紹介いただけるのであれば,それを御紹介いただきたいというのがまずお願いと,この部会資料に書かれている執行終了についての通知の話で,逆に同意に代わる許可の告知というのが,執行終了についての通知に記載することで許可の告知もしたという整理になっているのか,それとも占有者が不在の場合についての同意に代わる許可の事前の告知というのは不要で,単純に事後の執行終了の通知についてのお話を書かれているのか,ちょっと整理の仕方について,事務当局から御説明いただけたらと思います。 ○内野幹事 まず,前回の部会での議論を踏まえますと,同意に代わる許可の告知と執行終了についての通知という二つの点についての問題意識が披露されましたので,これらの点をまず整理した結果,このような記載になっているところでございます。部会のこれまでの議論を踏まえますと,事前の告知を要求してしまうと,やはり執行逃れのおそれが生じてまいりますので,事前の告知については不要ではないかと考えております。   したがいまして,執行の現場において,債務者や占有者がいれば同意に代わる許可についての許可証の提示をすればよいということになりますが,提示ができなかった場合については,今申し上げましたように,事前の告知までは不要であるというのがこの部会における共通の理解でしたので,事前の告知をせずに執行が終了した場合については,少なくとも執行が終了した旨の通知が別途必要であろうという議論を前提に,この部会資料をまとめたところでございます。 ○山本(和)部会長 裁判所に対する御質問についてはいかがでしょうか。 ○成田幹事 まず,執行終了の場面につきましては,元々,動産の引渡しの類推・準用という形でやっておりましたので,今回の部会資料22-2にも出ておりますけれども,民事執行規則第155条第3項が準用する第154条に基づいて執行終了の通知をするという形を採っていたと認識しております。それとは別の話として,執行の相当性を確保するという観点から,事前に債務者等に連絡をしたりということもしていたという形になるかと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○垣内幹事 今の点について,1点御質問なんですけれども,執行が終了した際にその通知をするというのは,適切なのではないかと思っておりまして,御提案に賛成したいというふうに考えておりますが,第三者の占有する場所で執行に着手したけれども,完了には至らなかったという場合に,最終的には,そことはまた別の場所で執行に及んで,そちらは完了したというようなこともあり得るかと思うんですけれども,その場合については,最初に執行に着手した場所を占有している第三者に対して,何らかの通知というのがあることになるのかどうかという点については,どのように考えたらよろしいでしょうか。 ○内野幹事 御指摘の点につきましては,本日,皆様からの御意見があれば伺いたいと思いますが,部会のこれまでの議論を踏まえますと,自分の占有する場所において執行行為が行われたということをその場所の占有者が知らないということは適当ではないという問題意識があったかと思われますので,仮にこのような考え方を敷衍するとすれば,一旦執行に着手した場合にはその旨を通知していくという考え方になるのかもしれません。   逆に,債務者や執行場所の占有者との関係では,執行が完了したということ自体を通知することが重要だと考えるのであれば,執行に着手したものの実現しなかった場合については通知不要というような考え方もあろうかとは思います。   この点につきまして,事務当局としましては,今の垣内幹事の御指摘を踏まえて,他の委員・幹事の皆様からもお考えを伺えればと考えております。 ○阿多委員 先ほども少し質問させていただいたところで,結局,事前の告知ができないときに,執行終了の通知のような形で代替することができるのかという点については,執行に着手したということをイメージして御質問させていただいたわけですが,正に事務当局が整理されたように,全く切り離して,そもそも執行に着手したこと自体についての通知は要らないんだと,執行が終わったことだけ連絡すればいいんだということで,執行不能の場合は通知が要らないという考え方もあり得るわけですが,私個人としては,執行に着手した結果,家の状況が変わっていることもあり得るので,執行場所の占有者に対しては,何らかの形で執行の着手についても情報提供が必要なのではないかなと思っています。   それで,実は先回のお話もありましたけれども,私個人としては,執行継続というような形で事件自体が継続していく場合,同じ日に違う場所ですることもあれば,ほかの日に,占有者がいるようなところにもう一度訪問してというようなこともあるので,そうした状況に応じて,どういうふうな形で占有者への情報提供が必要なのかということは,御検討いただいた方がいいのかなと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかに,この点についていかがでしょうか。 ○垣内幹事 私自身の考えといたしましては,先ほど事務当局からも適切な御説明があったと思いますけれども,基本的に,第三者の占有する場所で同意なく執行に及んだという場合について,何らの通知もないということは問題があるように思われますので,最終的には規則事項ということですので,その規則の文言や解釈に委ねられることかとは思いますが,何らかの形で,事後的なものでよろしいともちろん思いますけれども,通知がされるのが適切ではないかという考えを現在のところ持っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにはよろしいでしょうか。   今,垣内幹事からも御指摘がありましたように,この問題は規則事項ということですので,さらに言えば,どこまでが運用の問題で,どこからが規則に書くべきかということ自体も問題かもしれませんけれども,恐らくまた別にこの点を検討するためのフォーラムがあるのではないかと思いますので,そのような場において引き続き御議論をいただくということかと思います。   それでは,よろしければ,部会資料22-2の第2の2及び3の論点について御意見があれば伺いたいと思います。 ○阿多委員 第2の2のところでございます。   まず,これは異を述べているわけではなく,まず参考資料3の意見募集の結果の整理について,いわゆる配慮規定に関する日弁連の意見について,賛成に分類していただくこと自体は結構なんですが,意見書の中では更にいろいろなことを申し上げているので,その点だけ少し補足をさせていただきたいと思います。   特に,いわゆる配慮規定についての御提案は,最終的にいわゆる原案に戻った形になっているわけですが,日弁連の中での議論を踏まえて幾つかの観点から意見を述べたいのですが,一つは,この配慮規定の文言の最後の結び方という非常に形式的なところなのですけれども,今回の御提案では,「配慮しなければならない」という形でくくられているんですが,そうすると,かなり義務としてのニュアンスが高くなるのではないかと。そういう意味では,「するものとする」というような形で,もう少し義務性が後退するような表現にしていただけないのかという点が1点目です。   2点目は,主体の問題なんですが,当然これ,民事執行手続の話なので,配慮の主体としては執行裁判所や執行官及び返還実施者という形になるんですが,元々,この配慮規定の議論をしていた際の私自身の認識は,債権者や債務者も含めた関係者全てが,子の福祉という言葉がいいのかは論点の一つかと思いますけれども,子供に対して配慮して手続を進めるべきではないかというニュアンスだったのかなと理解しています。   そうしますと,今回,手続法ということなので,執行手続の主宰者ということかと思うんですが,執行裁判所,執行官及び返還実施者が主体になっているんですけれども,債権者や債務者を含めた広い形で主体を整理するということは考えられないのかという点について,御議論いただければと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   2点あったかと思いますが,事務当局からは何かコメントがございますか。 ○内野幹事 まず,文末を「配慮しなければならない」とするのか,「配慮するものとする」するのかという部分につきましては,最終的には本日の部会においてどのような御議論があるのかというところによろうかと思いますが,この規定が飽くまでも子の心身に有害な影響を及ぼさないという点についての配慮を求めるものであること,また,この規律が求めているのは,一義的に何らかの具体的な執行方法を採るということではなくて,部会資料22-2の第1にも記載したような実務上の工夫を促すというものであることからいたしますと,文末の文言につきましては,限りなく法制的な観点から選ばれるものなのではないかという印象を受けております。   また,主体の部分につきましては,文末の文言の点はひとまずおくとしても,やはり執行手続において一定の配慮をする義務を課す規律ですので,その主体に債権者や債務者を加えることができるのかという点については議論があろうかと思います。   前回の部会で御紹介がありましたように,執行手続を主宰する側が,もちろん債権者の協力も得ながらというところはございましたけれども,子の心身への負担にも配慮した形で具体的な執行をするという実務上の工夫例を促すという観点を踏まえますと,やはり主体としては,執行裁判所,執行官及び返還実施者とするのが,一つの規律の在り方ではないかということでございます。   この点につきましても,今の阿多委員の御発言を踏まえまして,この場で御議論を賜りたいと考えております。 ○山本(和)部会長 それでは,この「2 子の心身への配慮に関する規律の在り方について」の部分に関してはいろいろと御議論があろうかと思いますので,ここに絞って御議論いただければと思います。   ほかに御意見があれば伺いたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○谷幹事 この点については,パブリックコメントの手続における日弁連の意見でも指摘をしておりますように,この規定ができることによって,現場で債務者等が,実際の執行の方法について,これが子の心身に有害な影響を与えるから,それはやめてほしいというふうな形で使われる懸念があると考えております。   こうした規定を入れるということについて,部会全体の意見が入れるという方向性であるとすれば,そういう懸念をできるだけ少なくするようなものにしていただくのがいいのではないかと思っておりまして,そのためには,一つは,前回も出ましたけれども,まずそもそも,子の引渡しの強制執行において考慮すべきことというのは,心身への有害な影響を及ぼさないようにするということが一つありますけれども,やはり迅速に債務名義の内容を実現するということ自体が子の福祉に合致するんだという,その視点を入れるということが,バランスをとるという意味では,いいのでないかと思っておりますので,子の心身に有害な影響を及ぼさないようにという,例えばその前の部分に何らかの,債務名義の内容の実現が,迅速な実現が必要であるというか,有用であるというか,そういうふうな視点を入れた上で,両方の配慮が必要だというような規定が考えられるのではないかと思いますので,ちょっとそういう一つの方向での考え方というのがあるのかないのか,是非とも御意見をお伺いしたいと思いまして,発言をした次第でございます。 ○垣内幹事 この問題については,何というんでしょうか,あるべき実質的な規律内容について,特に認識の大きなそごがあるということではなく,それをいかなる形で,条文という形で表現するかという点について,若干の意見の相違があるということかなというふうに認識をしております。   事務当局でも,あり得る文言について,種々御検討されての御提案だと思っておりますけれども,前回の部会でも出た議論と,私自身も発言いたしましたけれども,そういったものを素直に表現する文言で考えられるものとして,私自身が今念頭に置いているものとしましては,例えば,今日の部会資料22-1ですと,第3の4のところになるわけですけれども,「執行裁判所及び執行官は,子の福祉に鑑み,子の引渡しの強制執行が迅速に行われるよう努めるとともに」といったようなものを加えて,以下が,「子の年齢及び発達の程度」等々という現在の配慮規定の内容を書くというようなことが考えられるのかなと,私自身は思っておりました。   ただ,今日のもう一つの部会資料22-2の御説明にありますように,一方で,迅速に行われるよう努めるというのは,これは当然といえば当然のことで,この点,ちょっと私,自信ないんですけれども,民事訴訟法第1条で,民事訴訟については公正かつ迅速に行われるよう努めるという規定があって,これが民事執行法第20条で準用されていると考えれば,当然にそういう努力義務が課されているということかと思います。   「子の福祉」の文言については,御指摘のような問題点が確かにあるので,これをここで使うのがいいのかどうかということが問題で,本案の問題と重複するのではないかということを御指摘で,そういうのは確かにあるのかもしれないなという気がする半面,絶対に使えないのかどうかという点については,いろいろ議論の余地もありそうな気もしております。私自身としては,その辺りを検討の上,どうしても難しいということであれば,本日御提案のものでもやむを得ないかと思っておりますが,その際には,前回申しましたように,この規定が誤解されないような配慮を随所で行っていただくということが重要かなと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○大谷委員 執行現場において,子の心身に有害な影響を及ぼすような場面というのは,債務者の行為によっても生ずることがあり得ます。   今の書きぶりですと,執行手続ということなので,名宛人が執行裁判所,執行官及び返還実施者になっているんですが,広い意味でそこに関わる人たち全員が,やはり「子の心身に有害な影響を及ぼさないように」ということを,私たちは恐らく求めているんだと思うんですが,そこにやはり,債務者というのを何らかの形で入れられないのかなというのは思うところです。それが法制的に難しいということなのか,概念上難しいということなのか,ちょっと整理ができていないんですけれども。   そこは,先ほどから出ています,これが執行妨害的に使われるのではないかということとも関連して,何か債務者が本来,やはり子の迅速な返還のために債務を負っており,それをまず果たさなくてはいけないというようなことを書き込むことが意味があるのか,それともやはり,配慮しなくてはいけないものの主体の中に債務者も入れるという整理で,少しその懸念を減らせるのか分からないんですが,御検討いただきたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○村上委員 今のところで,前回,児童心理の専門家の先生方にお話を伺いまして,大変有益だったと思っております。   以前,児童養護施設を訪問し,お話を伺ったことがあるのですが,「預けられている子供たちは,とても無邪気に遊んでいるわけですけれども,こういう姿だけではないんですよ」というふうに言われました。実はいろいろな,傷付いたトラウマなどといったものを抱えている子供たちで,子供たち同士で遊んでいるときは無邪気に遊んでいるけれども,内面はもっといろいろな複雑なものがあるというようなお話を聞いたことを思い出しました。   やはり表面上だけでは分からないところを,専門家の方々に立ち会っていただくということは大変重要だと思っておりまして,予算上もいろいろあるのかもしれませんけれども,そういうことに配慮していただきたいと思います。子の引渡しの問題というのは,子供自身に問題があるわけではなくて,大人の都合で行われることでありますので,できる限り,子供にとっての一番いい方法は何なのかということを考えていただけるような規定ぶりにしていただきたいと思っております。文言上どうなのかということについては,法律の専門家の方々でお考えいただくしかないのですけれども,内容についてはそのように考えたところです。   また,迅速性とのバランスということについては,現在検討している規律が,全体的には迅速性をはかる内容なので,もう既にバランスはとれているのではないかという印象を持っておりまして,そういった点も是非御配慮いただければと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○佐成委員 私はこの論点について今まで余り深くは考えてこなかったのですけれども,いろいろと皆様のお話を伺っておりまして,特に執行妨害的に利用されてしまう懸念というのは,確かにあるのではないかと思われますが,他方,やはりこの規定の中に「子の福祉」という言葉を入れるというのは,やはり本案の印象を非常に受けてしまいまして,ややちゅうちょされるところです。この辺りは,法制的な問題というところもあるのかもしれませんが,ややどうなのかなというところはあります。   その上で,この規定は,この部会資料22-2の中でも書かれているとおり,結果的にはやはり,執行法上の配慮ということで,名宛人には執行機関である執行裁判所,あるいは執行官,この中には当然,執行補助者も含まれると思いますけれども,特に工夫ですね,現場での工夫とか,こういったものを反映するという趣旨だということでした。前回非常に有益なヒアリングで,私も大変勉強になりましたけれども,その中で特に印象深かったのが,電子機器なんかを利用するというようなことがあるというところで,やはり今後,いろいろ利便性といいますか,ITといいますか,そういったような技術的な面も非常に進歩してくるだろうということがありますので,今後将来にわたって,やはりいろいろ,そういう技術的な工夫というのもどんどんなされてくるだろうと思います。ですので,そういう意味で,この規定の中の子の心身に与える負担に配慮するという中に,やはりそういった,新しいツールみたいなものをどんどん活用して,子の心身に与える影響を最小限にしていくと,そういったような配慮も求めているのだということを広く,一問一答などに書き込んでいただくというのは,やはり意味があるのではないかと思います。   私としては,原案でよろしいのではないかというのが結論でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○松下委員 私も,これはなかなか難しい問題だとは思うんですが,原案でよろしいのかなと思います。   一つは,先ほど垣内幹事からも御指摘ありましたけれども,執行の迅速性というのは,これは執行全体に必要な配慮であって,特にここで書くことではなく,子の引渡しあるいは監護の移転の強制執行に特徴的な事項というのは,やはり子の心身への影響ではないかと思うので,そこを切り出すというのは,この種の配慮規定を設ける際には適切な判断ではないかと思います。   それから,御提案の中には,「できる限り」という言葉が入っていますけれども,この中には,やはり迅速性への配慮もあるんだと思うんですね。迅速性を損なってしまったらいけないので,そこはできる範囲で,子の心身に有害な影響を及ぼさないように配慮するということなので,日本弁護士連合会の御懸念も私なりに理解しているつもりですけれども,この文言で十分読めるのではないかという気がいたします。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○山本(克)委員 しゃべるのはやめておこうかなと思ったんですけれども,私は,強制執行の迅速性ということ一般の問題ではないということを再三申し上げてきたつもりなので,もう一度申し上げます。   つまりこの場合,子の福祉,つまり迅速性を損なわれることによって,多くの場合,裁判所が子の福祉に最もかなうと考えられる監護状態というものが実現できなくなるということが問題なのであって,強制執行の迅速性そのものとは,もう一つレベルが違う話を本来していたはずなのに,なぜ強制執行の迅速性というところに矮小化されていくのかというのが私は理解できません。   つまり,一時的に子供がかわいそうだから,ちゅうちょすることによって,大局的な観点から見て,子の利益を損なうということがあってはならないという趣旨も含めてほしいというのが私が申し上げてきたことであって,それは普通の債権執行,金銭執行における,さっさと金が入ってくるというのとは,全然レベルが違う話なんですね。それを強制執行の迅速性という一言でまとめてしまうということに対しては,やはり抵抗を覚えざるを得ません。   結論的には,それができないんだったら,この規定はなくしていただきたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○阿多委員 広く意見を聞いていただくのが望ましいとは思うんですが,一つ,執行妨害に使われるということですけれども,もう少し,それを考えますと,この規定を理由に執行抗告や執行異議ができるかというと,条文だけの問題ではなくて,結局,執行抗告なり執行異議の理由の問題だと思うんですが。今の書きぶりですと,むしろ執行官,実際は,正に執行の現場において,執行官に対して,極論ですけれども,債務者がこの規定を根拠に,子に有害な影響を及ぼすではないか,そこまでするのかというような形で発言をして,執行官が執行を完了することをちゅうちょする,執行官を萎縮させる効果があるのではないかというのを気にしています。   以前,威力のところでも同じような趣旨で申し上げたんですが,こういう形で,名宛人で,実際に場面として出てくるのは,執行官が執行現場で執行する際に,その妨げになりかねないようなことになるのではないかと。執行妨害と申し上げているのは,そういう趣旨で申し上げていまして,そうなりますと,先ほど垣内幹事の方から民事訴訟法2条の話がありましたけれども,民事訴訟法2条では,主体,最初の書き出しはもちろん「裁判所」ですが,途中では「当事者は」というような形になっていまして,私,先ほど来,主体を広く捉えられないかという御提案をしているわけですが,債権者,債務者も含めて,有害な影響を及ぼさないような形でするんだというような形にすれば,債務者がそういう発言をすること自体が有害な影響を及ぼしかねないようなことにもなりかねないという形で,執行官自身も,一方的に執行をちゅうちょするということは,少なくとも状況としては,少なくなるのではないかと思いまして,繰り返しになりますけれども,主体のところを広げて,当然債権者も入れていただいて結構ですけれども,広く関係者全員が子の心身に有害な影響を及ぼさないような形で配慮すべきだというような形にした方がいいかと思います。   それと,もう1点,確認したいのは,この規定はどこに入るのか。変な言い方ですが,いろいろな法律で,総則規定なり目的規定が入って,そういうところで,そこの全体の根拠として,そういうふうな前提で規定を読むんですよということになるのかと思うんですが,これの入る場所によって,結局,子の引渡しの強制執行との関係で,この規定がどう影響するのかというのも変わってくるかと思うんですけれども,その点も最後,どういう形でイメージしておけばいいのかも含めて,御説明いただければと思うんですが。 ○内野幹事 この規定が置かれる場所というのは,規律の実質次第になろうかというところですが,正にこの規定が子の引渡しの直接的な強制執行の場面における配慮規定であるということになれば,その強制執行に関する場所に規定が置かれていくということになりましょうし,結局,それは,この配慮規定の実質がどのようなものとして位置付けられるかによって,法制的な観点から判断される事柄なのではないかと考えております。 ○谷幹事 子の引渡しの強制執行の特質という点につきましては,正に山本克己委員のおっしゃったとおりだと思います。   その一方で,子供という人間を扱うという以上は,その心身に有害な影響を及ぼさないという必要性がある一方で,債務名義が成立した後,子の引渡しの実現が遅れるということによって,状況がどんどん変わっていって,それ自体が子の福祉に悪影響を及ぼすというような事態は,これは今までも,いろいろ紹介をされてきたとおりでありますし,この部会で取り上げられた事例でいいますと,ハーグ事案で,なかなか子の返還が実現せずに,最終的には人身保護の手続にまで至っているというふうな事例があるということもありますので,やはりその両方の視点というものを,子の引渡し,あるいはハーグ事案であれば,常居所地国への迅速な返還というものが必要だという視点と,子の心身への有害な影響の排除という視点と,この二つの視点をやはり入れないとバランスを欠くというのは,山本克己委員のおっしゃったとおりかなと思います。   ですから,是非そういう方向でと思うのと,それと,ちょっと別の論点なんですけれども,「できる限り」という文言をどういうふうに読むかという点で,これは,迅速な実現を妨げないようにという趣旨で,この文言を入れられたという御説明なんですが,その説明も理解はできるんですが,一方で,場合によったらこれ,できることは全てしないといけないというような意味に読むとすれば,非常に義務の内容,程度というのを高めてしまうような趣旨に受け取られないかと思っておりまして,例えば執行の現場で,こんなことができるではないか,あんなことができるではないかというようなことで,逆に執行官がやらないといけなくなるようなことが増えてしまう,あるいは,そういう意見を逆に根拠付けてしまうというふうな方向に読めないかなと思っておりまして,そこはどんなふうに理解をしたらいいのかということも含めて,もし,事務当局の説明を頂ければとは思いますけれども,少しそんなような疑問も感じたところでございます。 ○内野幹事 原案自体は,部会のこれまでの議論を踏まえますと,谷幹事がおっしゃった前者の考え方,すなわち「実現を妨げない限度で」といった理解を念頭に置いておりまして,強制執行が不能になることを正当化するような方向で配慮可能なことは全て行うことまでをも求める趣旨で,この「できる限り」という文言を理解するものではございません。   ですので,この部会として,こういった配慮規定の趣旨について,今申し上げたような理解に基づくコンセンサスが得られるのであれば,そのような理解を前提に,事務当局においてもその周知等を行っていくことになるものと認識しております。 ○谷幹事 そういう説明だというのは従前から聞いているんですけれども,そういう意味であれば,あえてこの「できる限り」という文言を置かなくてもいいのかなと思ったりもしたもので,ないと逆に,今御説明のあったように,迅速性との,迅速性を損なうような使われ方に対しては,それを排除できないかというと,必ずしも「できる限り」というものがなかったとしても,そうはならないのかなと思っておりましたので,若干個人的な意見ということで申し上げます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○久保野幹事 非常に難しいなと思っておりますけれども,結論としましては,意見としては,先ほど垣内幹事から御提案がありましたような文言を挿入するということを考えられないかと,それが望ましいのではないかと思います。   一方で,今回事務当局が整理し直して,御提示くださったように,前回の参考人の方からの実情を伺いますと,やはり高度の専門性に裏付けられた,きめ細かい配慮が必要だということは,強く印象に残ったところでありまして,しかも全国均一に,そのような運用を安定的に実現するには,なお工夫の余地があるということも分かりましたので,原案のように,一方の要素を強調するということもあり得るというふうにも,一方で思ったところではあります。けれども,他面で,先ほど来出ております,一般の強制執行における迅速性とは違うという観点とも関連しまして,子の引渡しについては,これまで長らく,強制執行手続上の子の心身への影響というものについて,慎重な意見といいますか,間接強制に限るべきだというふうな意見も,長らく強く存在していたというようなこともありまして,そのような考え方もあり得るという分野であるということを考えますと,子の引渡しの迅速な実現を図るということについての重要性ということについて,やはり文言を挿入できるとよろしいのではないかと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○大谷委員 私は,先ほどの発言のやや繰り返しになりますが,阿多委員が詳しく御説明くださったことに全面的に賛成でして,執行妨害という言葉を私が用いましたときも,現場において債務者が,この規定を根拠に,執行官に対して,執行官がひるむような発言をするというようなことを念頭に置いておりました。   したがいまして,私は,当事者という言い方になるかどうか分かりませんが,債権者は当然ながら,債務者も含む関係者全員が,これを守らなくてはいけないというような内容にしていただくことを希望し,このような規定を設けることについては賛成です。   それから,「できる限り」という文言についての議論がちょっと出ていますが,私も実は,「できる限り」という文言を読んだときに受けた印象としましては,むしろ義務を高めるような印象を受けました。そこは,一問一答等で御説明になるのか分かりませんが,一般に,この規定が与える印象というか,普通に読んだときの印象等を考えますと,迅速性との関係を配慮しての文言だとすれば,私はこれは不要ではないかと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○佐成委員 余り定見はないのですけれども,主体に関して申し上げます。今,大谷委員がおっしゃっていたことに異論があるとか必ずしもそういうわけではないですけれども,当事者という言葉を入れると,かなり理念的な要素が強まってきて,何といいますか,行為規範としての部分がかなり弱まる面もあると感じます。   それは,先ほど阿多委員が御指摘された,この規定の弊害面といいますか,マイナス効果というか,要するに萎縮効果というか,そういったところを多少は軽減する要素があるということで,プラス面もあるというところなので,なかなかどちらがいいという定見があるわけではないのですけれども,やはり当事者という言葉を入れると,理念の方に限りなく近付くような気がしております。やはり私としては,先ほど申し上げたとおり,執行官あるいは執行補助者なり,執行を実際に行うところでの工夫というのは,何らかの形で反映できるようにしていただきたいというのが,前回のヒアリングを聞いて感じた強い印象でございます。 ○大谷委員 すみません,今の御意見を伺いまして,逆にちょっと質問になるんですが,これはこれで,執行する側に対する規定だとしまして,そうはいいましても,やはり現場で,執行する側の方はこういう配慮をしながら行動しているときに,債務者が子の心身に有害な影響を及ぼすようなことに対して,当然,執行官が注意したりすると思うんですけれども,そこに根拠になる規定がないんですね。   そこが私は非常に気になりまして,これと別に何か置けるんでしたら,それでもいいかもしれないんですが,そこの手当てを全くなしに,執行という事態にまで至ってしまった原因といいますか,そこまで至ったということは,やはり債務者が任意に,債務名義で命じられたことを,返還していないというところで,ここまで至っているときに,更に執行する側がいろいろ工夫をしてやろうとしているときに,それは子の心身に有害な影響を及ぼすということで迫られるという状況が起きた場合にそれに対して,やはり債務者の方もそこは,行為規範といいますか,当然,子の心身に有害な影響を及ぼさないようにする必要があるんだということが,どこかでやはり明確になるべきではないかなと思っております。 ○青木幹事 大谷委員の御発言も踏まえてということになりますが,原案では,「当該強制執行が」となっておりますところ,「当該強制執行が適切に行われないことにより,子の心身に有害な影響を及ぼさないように配慮しなければならないものとする」というふうにすれば,どちらの意味にも,強制執行をする側でもマイナスにならないようにする必要もあるし,しない方向でも,マイナスの影響を及ぼさないようにする必要があるということの両方を含み得ると考えます。 ○早川委員 これまでの議論をきちんと踏まえているかどうか自信はありませんが,今青木さんがおっしゃったような読み方は,そういうふうに書かなくても可能なのではないかという気がちょっといたしました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○山田幹事 前回欠席させていただきましたので,きちんと踏まえているかどうか分からないのですが,今までの御議論を伺いまして,確かに,執行妨害のおそれが懸念されることはよく分かるところです。   ただ,この文言では,「子の心身に有害な影響を及ぼさないように」という言葉ですと,債務者の側からしますと,自分の発言こそが子にとって有益なのだという主観に基づいているとすれば,この文言があっても,必ずしも予防にはならないかもしれない。客観的に見て執行妨害に当たる場合はあり得ると思うのですけれども,予防的には強い影響を期待できないかもしれないという懸念を持っております。   それを踏まえて,どこまで法制的に書けるかは分からないのですけれども,債権者,債務者を含めて,みんなの共通利益を書いて,それによって執行妨害的なものを排除するということでありますと,先ほど垣内幹事が提案なさったように,子の福祉に鑑みて迅速な執行が必要であるということを共通利益として掲げて,かつ,今ある文言を乗せるということで執行妨害を防ぐという方が,簡便というか,分かりやすいのではないかというふうに感じました。 ○勅使川原幹事 債務者が現場で,いろいろと妨害的な内容の発言をする,それに対して,執行官の方が,やはり子の心身に有害な影響を及ぼさないように配慮するという側面から,何らかの発言を制するとかということは,この文言でも読み込めて,可能なのではないかというふうに考えまして,私は原案どおりでよろしいのではないかというふうに考えております。 ○山本(克)委員 先ほど,やめてしまえというのは,ちょっと言い過ぎたので,別のことを申し上げますが,これ,どれぐらい法的義務として強固なものとして考えているのかという問題なんだろうと思うんですね。   つまり,直接的な強制執行の手続の根幹をなすような話なのか,それとも,きちんと配慮しましょうねという程度の話なのか,どちらなのかということで,最初に,「しなければならない」というのが本当にいいのかどうかという御発言を,阿多委員かどなたかがされたと思いますが,やはり私も,そこはちょっと,かなり疑問を持っておりまして,余り法的義務として強固なものだと,結局,国賠の問題とか,そういう問題につながりかねないわけですし,そういうことがあると,執行官の方に対する,何というんですかね,ディスカレッジする効果というのも結構,この規定には生じてくるというような気もしなくはありません。   私は,執行妨害を懸念するというよりも,一番問題のある,執行官をディスカレッジするということが一番問題なのではないかというふうに,この規定については思っています。だから,そういう意味で,配慮規定については,配慮しなさいよということを民事執行規則の方に定めて,法的義務ではないんだという形を,規則落ちさせることによって表すのであれば,この規定でも構わないのではないかと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   先ほど事務当局の説明の中で,行為規範というような説明もあったかと思いますけれども,その点についてはいかがですか。 ○山本(克)委員 行為規範の意味が何なのかと,分からないですね。行為規範って一体,どういう意味で行為規範というのを使っておられるのかがさっぱり分からない。つまり,行為規範だといって,それでサンクションがないものを行為規範と呼んだって,何の意味もないわけなので,何らかのサンクションを考えなければいけないと。それはそうすると,国賠しかないんですよね。そんな恐ろしい規定を作るのかということです。 ○山本(和)部会長 事務当局からは,この点について何かございますか。 ○内野幹事 事務当局といたしまして,今,直ちにお答えできることはございませんが,本日の時点で他に御発言いただけるところがあれば,お伺いしたいと考えております。 ○松下委員 強い意見ではありませんが,国賠うんぬんの問題というのは,こういう規定ができたら初めて生ずる問題なのかというと,そうでもなく,結局,執行の適切さという実質を見て決めることであって,この規定があるから国賠が問題となるということではないと思います。それから,執行官に対する萎縮的な効果というのは,私はよく分かりませんけれども,しかし,繰り返しますが,「できる限り」という文言は付いていて,きちんとバランスをとるということは,この御提案の文言に内在しているのではないかと思うので,やや心配のし過ぎではないかという感想を今持っております。 ○栁川委員 そんな深い意味で読んだわけではないですけれども,現在議論している規律全般で迅速な強制執行の実現を進めていくことを前提に,この配慮規定については,そこを貫く根本的な考え方はこうなんです,これをいつも配慮に置きながら実行していきましょうということを定めたものだと読んだものですから,余り違和感は感じないで,さらっと読めました。これが全般を貫く考え方であり,是非必要だというふうに私は考えます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかにはよろしいでしょうか。   それでは,多々御議論を頂きましたが,私の認識としては,最後に,山本克己委員からも若干ございましたが,このような子の心身への配慮に関する規律が要らないという御意見は,基本的にはなかったと思います。   それから,途中で垣内幹事に整理いただいたように,規律の実質的な内容として目指すものについて,この部会でそごがあるかというと,それも私はなかったのではないかと思っております。子の引渡しの強制執行の迅速な実現が,子の利益にとって非常に重要な価値を持っているということ,あるいは,あるべき規律の内容についての認識は,基本的な部分では一致していると思いました。   問題は書き表し方の問題で,本日頂いたような御意見については,事務当局においても基本的に考慮した上で今回の案に至ったという経緯がございます。ただ,本日の御意見の中で,従来必ずしも出ていなかった新たな点として,広い意味での執行機関以外に,債権者,債務者等についても,このような配慮の義務の主体とするようなことが考えられないかといったような御意見も出ました。   そういうことですので,残された議論の機会は,それほどあるわけではありませんけれども,もう一度事務当局に本日頂いた御意見を精査していただいて,あるべき規律の内用をより適切に表すような形で文言を工夫することができるかどうかについて,時間の制約もありますし,内容的にも,これまでかなり事務当局も検討してきたところですので,どこまでそれが可能かということはなかなか難しいところはあるかもしれませんけれども,引き続き御検討を頂くということにしたいと思います。 それでは,残っている論点として,「3 国際的な子の返還の代替執行における執行官の権限について」の部分について,御議論をいただければと思います。 ○垣内幹事 大変細かいところで恐縮なんですけれども,ハーグ事案の場面において,御提案のような規律にするということについては,私は特に異論はございません。この御提案とその説明を拝見したときに,改めてハーグ事案以外の一般の国内の子の引渡しの強制執行の場面での規律を考えましたときに,今回の御説明でもそういう趣旨が含まれていたかと思いますが,国内事案の場合には,債権者自身又はそれに代わるような代理人の出頭が要請されていて,その者については,債務者の同意がなくても,執行官の指示によって立ち入るということが認められると。それに加えて,必ずしも許可をされていないような,任意に,普通に弁護士さんを依頼すれば,そういう方はそれに含まれると思いますが,そういう代理人も,同意を要しない立入りができるということになっているということかと思います。   その規律が,ハーグ事案の場合との比較において,どこまで,何といいますか,整合しているのかということを考えたときに,確かにハーグ事案の場合には,返還実施者が元々対象になっているということで,返還実施者は返還を実施すべき者として,執行裁判所から指定をされた者ですので,正にそれが当該執行場所に立ち入るということは,必要性があれば,当然認められてしかるべきものと思われますけれども,そうでない国内事案の場合に,債権者又はそれに代わる者が出頭しているという前提の下で,その他の代理人が債務者の同意なく立ち入ることができるという必要性がどこまであるのかということについては,ややハーグ事案の場合とは,少し事情が異なる面もあるように感じます。   そう考えますと,例えばハーグ事案では,債権者が依頼した代理人弁護士は,債務者の同意なしには立ち入れないんだけれども,国内の場合だと立ち入れるというようなことになりそうですが,それが整合的なのかどうかというのは,少し気になるところがございます。ただ,最終的には,現場で執行官の指示に従うということですので,通常,債権者に代わるような者として許可されているわけではない代理人について,立ち入らせるということは,余り想定はされないのかもしれないんですけれども,規律としては少し,そこがそろっているのかどうかということが気になりましたので,もし何かこの点について,更に御教示いただける点があれば,お願いしたいなと思っております。 ○内野幹事 部会のこれまでの議論を踏まえてというところになろうかと思いますが,御指摘のとおり,国内の子の引渡しの強制執行の場面では,債権者に代わって執行の場所に出頭することが相当であると執行裁判所から認められた代理人という限定を加えていない形で,執行官の権限として,そのような限定のない代理人にも執行場所への立入り等をさせることができるという形で規律を提案しております。   部会のこれまでの議論を踏まえますと,強制執行を完結させるためには,債権者やその代理人が執行官から子の監護を引き受けて子が債権者の監護下に置かれた状態になることが必要となるわけですが,これまでの執行実務を踏まえますと,現行の民事執行法の規律では,特に強制執行の実現により手続が終了するという場面を捉えた場合には,債権者に代わって執行官から子の監護を引き受けるための代理人について特段の限定がございません。一方で,ハーグ条約実施法の枠組みの中では,いわゆる解放実施に続く返還実施という場面では,執行官による解放実施がされた後に,返還実施者が子を常居所地国に返還するという仕組みになっていて,ここでは執行官から子を受け取けて返還実施という形で代替執行の手続を完了させることのできる者が返還実施者に限定されております。このような点を踏まえまして,国内事案の方では特段の限定を付さずに債権者の代理人を広く含んだ形で,執行官の権限に関する規律を提案させていただいております。   事務当局といたしましては,部会のこれまでの議論をお踏まえますと,この点に関するこれまでの執行実務の現状を引き続き維持する必要があるものと認識していたものですから,このような規律になっているということでございます。 ○阿多委員 今の説明に異論があるということではなくて,むしろ,ハーグ事案との比較でという形で気にしますのは,従前の国内の執行について,それが問題があるような形の理解になることを危惧していまして,この部会資料22-2の(注)で書かれているように,元々子の引渡しについては,引き渡すという行為の関係で,債権者ないしはその代理人というのが前提で,それが同意に代わる許可というのが出て問題になったのは,債務者不在の場面があり得るから,そこで同意に代わる許可というのがあって,必ずしも債務者がそこにいる場合には,そもそも許可の問題は起こらないわけで,登場人物としては,債権者又はその代理人,もちろんその代理人というのが,弁護士等の代理人なのか,それとも祖父母等を想定したような代理人なのかという,また代理人の意味のところの問題はあるかとは思いますけれども,従前の実務において,そのような扱いをされてきたことが問題だという認識はないんですね。   ハーグ事案とのバランスですが,返還実施者という概念が入ることによる違いだという形で整理していただいて,従前の実務を肯定して,維持することを前提とした整理に基づく御提案であると,そういうふうに我々は理解したいと思っているんです。逆に,今までの実務が制限されて,代理人が先ほども申し上げましたように,債権者に代わって出頭することの許可をもらった代理人でないと駄目だとか,そういうふうな解釈の可能性があるのであれば,それは避けていただきたいと思います。 ○内野幹事 部会のこれまでの議論を踏まえますと,正に阿多委員が御発言されたような理解を前提に議論がされてきたものと認識しておりましたので,従前の実務を肯定する趣旨から,国内事案とハーグ事案の間に規律の違いがあるという提案内容になっているものと理解しております。 ○谷幹事 今の議論で全く異論はないわけですが,更に今説明として,説明としてといいますか,こういうことが根拠で,こういう区別があるということだろうと思うのは,国内の子の引渡しとハーグの常居所地国への返還との義務の内容の違いということを反映しているんだろうなと思います。   国内の子の引渡しは,御説明のあったように,債権者に引き渡すということが義務の内容ですので,債権者本人あるいは任意代理人でも,出頭した上で引き渡すということで執行が完了する。それに対して,ハーグ事案の場合には,債権者への引渡しというのは義務の内容ではございませんので,債権者なりその代理人が執行場所に立ち入るということの必要性,あるいは,これを正当化する根拠という点では問題があるというその違いから,こういう規律になっているだろうというふうに思いますので,そういうふうに理解をすればいいのではないかと思います。 ○青木幹事 同じ点で,私も垣内幹事と同じような疑問を持っております。その御説明でも,まだよく分からないんですが,二つ問題があって,一つは,債務者の同意なく誰が立入りができるのかという問題で,もう一つは,子の引渡しを誰が受けるのかという問題だと思います。前者の方は,資料の説明にも出てくるように,子の心情を落ち着かせる効果が誰にあるのかという観点からすれば,国内の子の引渡しとハーグ事案とでは,変わりがないのではないかなと思います。   それから,後者について,引渡しを誰が受けるのかという点について,違いがあるという御説明ですが,債権者がいなければできないことを原則として,債権者に代わって出頭することが相当であると認められた者でも構わない。だから,いずれかはいるという状況で,それ以外の代理人が子の引渡しを受けるという場面が,なお想定されるのかどうかというのがよく分からない。債権者がいるのであれば,債権者が引渡しを受ければよく,あり得るとすると,債権者に代わって出頭することが相当であると認められた者が,例えば親族ではなくて,児童心理の専門家が仮に認められたとして,それとは別に子の引渡しを受ける親族がいると。そういう場面であれば,債権者,債権者に代わって出頭することが相当であると認められた者,それ以外の代理人が引渡しを受けるということがあり得るかと思うんですが,そうであれば,その場面に限って立入りを認めればよいようにも思うので,子の引渡しを誰が受けるのかというところの違いが,債務者の同意なく誰が立入りができるのかという点で,必要以上に大きく規律の違いになっているような印象を受けました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかに,この点について御意見はありますでしょうか。   垣内幹事,青木幹事の御意見だと,具体的には,どのような内容の規律を御提案されていると理解したらよろしいのでしょうか。 ○垣内幹事 私の申し上げた点からしますと,まず,執行官の指示の対象者については,これは広く代理人全般が含まれるということにならざるを得ないと思うんですけれども,執行場所に立ち入らせることということについては,これは,債権者に代わって執行場所に出頭することが相当と認められた代理人に限られるというのがそろうことになるのかなという感覚を持っております。   したがって,この部会22-1ですと,8ページの執行官の権限等の(1)のウの代理人について,その対象を限定するということになるのだろうというように思うのですが,しかし,実際には,執行官が現場で適切な判断をするということであれば,そういう不整合が何か顕在化して,非常に大きな弊害が生ずるということも想定できないかなとは考えておりまして,そういう意味で,冒頭に細かい点というふうに申し上げたんですけれども,そういう修正がなされなければ,絶対原案に反対であるという趣旨ではないのですが,一応そういう理論的な問題点はあるのではないかということを指摘させていただいたということです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   青木幹事も同じお考えですか。 ○青木幹事 債権者の代理人の立入りの必要性というのが,実務上,よく分からないのですが,それは国内事案についても,ハーグ事案についても,同じでよい,認めるのであれば,どちらも認めるし,認めないのであれば,どちらも認めないということでよいのではないかと考えております。   すみません,どちらということは申し上げられないのですが。 ○内野幹事 ただ,債権者に代わって執行の場所に出頭することが相当であると執行裁判所から認められた代理人以外の代理人を執行の現場に立ち入らせるといったことの必要性につきましては,部会のこれまでの議論を踏まえますと,現行の民事執行法では,子の引渡しの強制執行を完了するために債権者の代理人が受け取るということが,実務的に必要であり,かつ,そのようなことも許容されるべきではないかということが前提になっているのではないかと思われます。ですので,規律の実質としても,そのようなことが全く必要ないのだという御議論があるのであれば,また別の話かとは思いますけれども,いわゆるハーグ事案では,解放実施の後に返還実施へと移行していくという面があり,その返還実施をする主体が返還実施者という形で限定されているので,ある意味,そこに一定程度の違いがあるというのが現在の御提案の前提となっているところでございます。 ○青木幹事 債権者が執行の場所に出頭している場合にも,子の引渡しを受けるのは別の者であることは,あってよいということですか。 ○内野幹事 どのような事案がそれに正しく妥当するのかというのは,個別の事案ごとかと思いますので,青木幹事がおっしゃったような事例というのも,一つの想定事例としてあり得るかと思いますが,先般の参考人からのヒアリングにもございましたとおり,執行の現場においては,個別の事案によって様々な人物が存在している可能性があり得ますので,子が執行の現場で恐怖や混乱に陥ることがないようにする観点から出頭している債権者やそれに代わる代理人が現場で一定程度の役割を果たしているという場面において,子を執行官から引き受けるという部分について,これらの者とは別の者が登場する必要性が全くないかというと,部会のこれまでの議論では,少なくともそこまでの御意見はなかったのではないかと認識しておりまして,現在,このような御提案をさせていただいているところでございます。 ○垣内幹事 私の申し上げたことの趣旨は,ハーグ事案の場合の返還実施者については,これは執行官の判断により立入り等をさせることが不可欠だろうと思うんですけれども,国内事案で,いわゆる執行裁判所の許可を受けていない代理人の場合には,必要な場合というのはあるのかもしれないけれども,不可欠とも言えないのではないかと,債権者あるいはそれに代わる代理人が現場にいるわけですので,引渡しは完了できるのではないかということで,しかし,不可欠とは言えないまでも,相当の必要性があるということで,こういうことになっているということであれば,結論としては,私はこれでも異論はございません。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   それでは,ほかにこの「3 国際的な子の返還の代替執行における執行官の権限について」の点につきましては,御意見は特にないと伺ってよろしいでしょうか。 ○松下委員 戻って「1」の点について,よろしいですか。   先ほど,執行完了の通知の点で,執行不奏功の場合に債務者に通知する必要があるのではないかという御提案がされたかと思いますが,現在の民事執行規則の規律を見る限り,民事執行規則の15条で,執行官がした民事執行の手続を取り消す場合には,申立人に通知をするという規定があるのですけれども,執行の着手一般,あるいは,不奏功を含めて終了一般に,関係人である債権者や債務者に通知するという規定は今のところないので,それとのバランスを考える必要があるのではないかということです。   それで,債務者以外の第三者が占有する場所で,子の引渡しの強制執行をする場合,特有の事情があって不奏功の場合でも,通知する必要があるかということを考えなければいけないということになるんだと思うんですが,今のところ,それは私は思い付かないということです。   一言だけ,時機に後れた発言で失礼しました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   今後,最高裁判所規則等を制定する際に,今の御意見にも配慮いただければと思います。   それでは,ここで休憩にしたいと思います。3時20分に再開ということでお願いいたします。           (休     憩) ○山本(和)部会長 それでは,時間になりましたので,審議を再開したいと思います。   続きまして,部会資料22-1「民事執行法制の見直しに関する要綱案(第一次案)」についての御審議を頂きたいと思います。   まず,事務当局から説明をお願いいたします。 ○内野幹事 部会資料22-1は,これまでと同様に,要綱案の原案となるものをまとめた形でお示ししているものでございます。   前回の部会資料から規律の実質を変更している点はございませんけれども,専ら法制的な観点を踏まえて記載ぶりを変更している点がございますので,御説明いたします。   まず,部会資料22-1の2ページの第1の2(2)イにつきまして,部会資料21-1では,「前記アの申立てを認容する決定は,その申立ての日前3年以内に」といった形で記載していたところですが,今回の部会資料では,「前記アの申立ては,財産開示期日における手続が実施された場合…において,当該財産開示期日から3年以内に限り,することができるものとする。」といった形で書きぶりを修正しております。   続いて,6ページの第2の1(2)について,部会資料21-1においては「虚偽の陳述をした場合には,罰則を設けるものとする。」と記載していたところを,「虚偽の陳述をした場合について,所要の罰則を設けるものとする。」といった形で書きぶりを修正しております。   また,8ページの第3の2(5)につきましても,その書きぶりについて形式的な修正をしております。   そして,13ページの第6の3(1)及び(2)並びに第6の4(1)につきましても,その書きぶりについて形式的な修正をしております。   いずれも規律の実質について変更を加えるものではございませんが,前回の部会資料から形式的な修正を施したものとして,部会資料22-1をお配りしております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   私及び事務当局の認識としましては,前回の部会で御議論を頂いた中で課題として残されていたものが,先ほど御審議いただいた部会資料22-2において論点として記載されていたものであり,その他の部分については,実質的な規律の修正の御提案はなかったものと認識しておりました。   そのため,その後,事務当局において法制的な観点からの精査等をした結果として,若干の文言の修正がされてはいますが,規律の実質的な内容については,前回の部会で御提示したものから特に変更されていないというのが,この部会資料22-1の性質かと思います。   そこで,ただいま御説明がありました部会資料22-1につきまして,御議論を頂きたいと思いますが,どの点からでも結構ですので,御指摘や御意見,あるいは御質問があれば,お出しいただきたいと思います。 ○松下委員 質問になるんですけれども,部会資料22-1の2ページの第1の2(2)イの部分ですが,前回までは,「前記アの申立てを認容する決定」がいつまでにできる,いついつ以内にできるという話だったところ,今回の部会資料では「前記アの申立て」が,いついつ以内にできるという書きぶりになっているので,規律の実質的な名宛人が執行裁判所から当事者に変更されていると見てよろしいですか。そういう意味では,中身が少し,時間的にも少しずれるような気がして,ただ,それは大きなずれではないと思うので,実現したい内容という意味での規律の実質に変更はないと思いますけれども,名宛人が変わっているという理解でよろしいんですよね。 ○山本(和)部会長 いかがでしょうか。 ○松波関係官 まず,前回の部会資料では,「前記アの申立てを認容する決定は,その申立ての日前3年以内に財産開示期日が実施された場合…に限り,することができる」というような形になっておりましたので,決定をすることができるための要件というような書きぶりになっておりました。   ただ,その規律の実質的な内容は何かと申し上げますと,第三者からの情報取得手続の申立てと,先に実施された財産開示手続の期日との間に,3年以内という時間的な制限があるというようなことですので,決定の要件として定めるよりも,申立ての要件として定めた方が,分かりやすいのではないかという観点から修正いたしました。   いずれにしましても,規律の実質的な内容は修正されていないものと考えております。 ○松下委員 私もこういう修正の方が望ましいと思っていて,というのは,いつ認容されるかというのは,当事者がコントロールできない事実ですので,当事者に対する予見可能性を高める意味から,申立てで時間的に切る方がよいのではないかと思い,この修正に賛成する次第です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○山本(克)委員 細かい点での御質問ですけれども,銀行等からの情報取得なんですが,ここで「銀行等」として,たくさんの金融機関,決済機能を持つ,預金取扱機能を持つ決済機関,金融機関ですかね,を挙げておられるんですが,これの中に,日本で免許を受けた外国銀行というのは含まれると考えていいのかという問題と,日本の銀行で外国に支店を持っているものの,そういう外国での支店の外貨建ての債権などについても,第1の2(4)アの回答の義務の内容に含むのかというの,その2点,そこのところを教えていただけますか。 ○山本(和)部会長 いかがでしょうか。 ○松波関係官 部会資料22-1の3ページになりますけれども,第1の2(4)ア(ア)の「銀行等」の概念についてお答え申し上げます。   まず,ここで書かれている「銀行」は,我が国に本店があるものに限らず,いわゆる外国銀行で,日本に支店があるものも含むというふうに考えております。   その場合に,日本の銀行でも,外国銀行でも同じなのですけれども,日本国内にある支店に預けられた預貯金のみを対象とするのか,それとも,外国の本店・支店に預けられた預貯金もこの対象に含めるのかというのは,一つの論点であると考えておりますが,現状,事務当局としましては,この点は,最終的には解釈に委ねざるを得ないのではないかと考えております。といいますのも,現行の財産開示手続におきましても,債務者が開示すべき財産の範囲に,外国に所在する財産,例えば,外国の金融機関に預けられた預貯金を開示しなければならないのか否かという点については,法律に明文の規定があるわけではなく,解釈に委ねられているものと理解しておりまして,御指摘の点も解釈に委ねざるを得ない問題ではないかと考えているところでございます。 ○山本(克)委員 そこのところは,決めを打っていないということですね。了解しました。 ○中原委員 今の点について,私も質問させていただきます。今回の制度は,銀行の本店または本部に照会が来れば,システム的に把握できるものは御回答するという制度です。本店ないし本部で検索可能な預貯金であれば回答できますが,例えば,ニューヨーク支店やロンドン支店といった海外支店に預金があるかどうかは,少なくとも国内の検索システムでは把握できないのが現状だろうと思います。それは大多数の金融機関が同じだろうと思います。   したがって,私の理解は,回答する預貯金債権の内容は,飽くまでも,国内において検索可能な預貯金債権と理解していますが,この点も解釈に委ねられるという理解でよろしいでしょうか。 ○松波関係官 ただいま中原委員から御紹介いただいたことも,この解釈をするに当たって,考慮しなければならない重要な事項だというふうに考えておりますし,御指摘ありましたように,日本国内にある本店で検索可能な財産のみがこの制度の対象となるというのも,一つのあり得る解釈だというふうに考えております。 ○山本(和)部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○宇田川幹事 最高裁家庭局の宇田川でございます。   今回,追加試案に寄せられた意見のところでも,債権者が執行場所に出頭できないときの代理人についての意見が提出されていて,幅広く解すべきというような意見もありますし,裁判所からの方も,少し限定的に解釈すべきではないかというような意見も申し上げているところなんですけれども,そもそもこの要綱案(第一次案)自体の読み方について,少し確認をさせていただきたいというふうに考えております。   国内法とハーグ条約実施法の関係,双方について,同一の文言ですので,部会資料22-1で申し上げますと,9ページの第3の3(4)イの部分,それから,13ページの第6の3(2)の部分ですけれども,こちらの方に代理人の要件として,「当該代理人と子との関係,当該代理人の知識及び経験その他の事情に照らして子の利益の保護のために相当と認めるとき」という記載がされていますが,この点について,まず一つ目は,「当該代理人と子との関係,当該代理人の知識及び経験その他の事情」という考慮要素について,どれか一つを考慮してということでも足りるというものなのか,やはりこれは総合的に考慮すべきというお話なのかというところが,一つ確認をさせていただきたい点であります。また,この「当該代理人の知識及び経験」というところですけれども,部会のこれまでの議論の整理でも,やはり債権者本人と同視し得るだけの実質を有する者が出頭することが必要ではないかということがその趣旨かと認識しておりまして,そうしますと,この「当該代理人の知識及び経験」というものをどのように捉えるかというところで,やはり基本的には,当該子との関係での知識や経験ということが想定されるのではないかというふうに思っているんですが,部会のこれまでの議論の中で,児童福祉の専門家というような御指摘もあるところで,ここの知識,経験というのをどのように理解したらよいのかということについて,事務当局の方でお考えがあれば,お聞かせいただきたいと思っています。   今後,裁判所の方で運用を担当するに当たって,明確化していただきたいと思う事項でございます。よろしくお願いします。 ○内野幹事 まず,この代理人が債権者に代わって執行の場所に出頭することが子の利益の保護のために相当と認められるか否かという要件についての判断に当たっての考慮事情として列挙されているものが,総合的に考慮されるべきものなのか否かという点ですが,部会のこれまでの議論を踏まえますと,ここで列挙されている事情等が,正に総合考慮された上で,要件の充足性についての判断がされることが想定されているものと考えております。   また,御指摘いただきました「当該代理人の知識及び経験」という考慮要素についての考え方ですけれども,これにつきましては,他に列挙されている事情として,「当該代理人と子との関係」というものが書かれておりますけれども,こういったものと同様に,その代理人が,債権者と同様に,執行の現場において子を安心させることができるような者なのかといった点を判断する上での考慮要素として掲げられているものですので,そのような観点から,この「当該代理人の知識及び経験」というものが考慮されることになるのではないかと思っております。   そうしますと,正に個別の事案によるところではございますけれども,これまでに引渡しや返還の対象となっている子と接触してきた経験ですとか,その子とコミュニケーションをとるに当たって必要となり得る知識や経験,例えば,先日の部会における参考人からのヒアリングでは,その子とコミュニケーションをとるに当たって好きな玩具を活用したというような事例も紹介されましたけれども,そういった子の好きなものや嫌いなものについての知識や経験というものが典型的なものとして想定されるところであると認識しております。   ただ,このような事情は,引渡しや返還の対象となっている子の年齢や理解能力といったものとも関係してまいりますので,最終的には個別の事案における総合考慮の上での認定,評価の問題となるものと思っておりますけれども,正に御指摘いただいたようなところが考慮事情の中心になっているものと考えております。 ○阿多委員 たまたま同じ場所で,御質問なんですけれども,部会資料22-1の9ページの第3の3(4)のア,イのところで,アの2行目ですと,「債権者が執行の場所に出頭した場合に限り」と,また,イの5行目以下でも,「当該代理人が執行の場所に出頭した場合においても」という形で,執行の場所に出頭するという形になっているんですけれども,先回,参考人の御説明等では,出頭の場所ということについて,むしろ現場に臨席しないで,近くに控えていて,連絡を受けてというような形のお話も出ていたかと思うんですが,それは債務者と対面しないようなことを想定しての場面だったのかもしれませんが,ここで考えている「執行の場所」という概念は,正に子の引渡しの強制執行が行われている場所ということなのか,もう少し広い意味でお考えなのか,ちょっと言葉の想定されている内容について,御説明いただけたらと思うんですが。 ○内野幹事 この「執行の場所」という文言が入っているこの規律全体は,正に,子が執行の現場で恐怖や混乱に陥ることがないよう,その心身への負担を最小限にするという観点から,「債権者が執行の場所に出頭した場合に限り」という内容の規律を御提案しているものでございます。   このような観点からしますと,この規律の趣旨としましては,強制執行が行われる場面において,債権者が,その場所に出頭することによって,そういった役割を果たし得ること求められるものと理解することができるかと思われます。   そうしますと,この「執行の場所」というのは,子の引渡しそのものが行われる場所というだけではなくて,今申し上げたような役割を債権者が果たし得るような,実際に子の引渡しそのものが行われる場所と近接した場所というものも実質的には含む概念として理解されることになろうかと思います。   それが「執行の場所」という文言の解釈なのか,「執行の場所に出頭した場合」という文言の解釈なのかという点については,いろいろな理解があろうかと思いますが,ここの「債権者が執行の場所に出頭した場合に限り」という要件は,そういったものとして理解されるものであろうと認識しております。 ○山田幹事 同じく部会資料22-1の9ページの第3の3(3)の「執行の場所の占有者の同意に代わる許可」のところですけれども,当然のこととして含まれているのかなと思うんですが,子の住居以外のところで執行を行う場合には,子への影響がより大きくなる可能性があるかと思われ,前回の参考人のお話でも,それは大分気を使っておられるということだったんですけれども,そういう子に与える影響というのは,この規律における「その他の事情」というところで読み込む,当然にそうだというような解釈になりましょうか。 ○内野幹事 事務当局の認識としましては,部会のこれまでの議論を踏まえますと,御指摘の点は,この「その他の事情」の一要素として考慮し得る事情であると理解することになるものと認識しております。 ○山田幹事 分かりました。   先ほど,子の心身への配慮というのをわざわざ一文設けたので,この許可の要件のところでも,場合によっては明示で出すということもあるのかなと思った次第です。特に強い意見ではございません。ありがとうございます。 ○山本(和)部会長 ほかにはよろしいでしょうか。   それでは,この部会資料22-1につきましては,基本的に特段の御異論はないものと伺いました。 ○阿多委員 部会資料22-1については異論はないんですけれども,部会資料22-1の12ページの第5の2の「手続の教示」の関係について一言申し上げます。法テラスの費用立替制度については,法テラスのホームページに,審査に必要な資料の説明と資力申告書のひな形が公表されています。   差押禁止債権の範囲変更手続の教示の在り方については,最高裁判所規則で定めることになるわけですけれども,従前から,栁川委員等からも,教示については分かりやすい内容にしてほしいというようなお話がありまして,第19回会議では,裁判所からも,実際に行われている生活保護受給者に対する説明の実情等の御紹介がありましたが,裁判所の場合,非常に慎重に,いろいろな場面を想定されて,例えば判子を押してくださいと,ないしは連絡先は,以後ここが連絡先になるまで書いてくださいとかいうふうな形で教示がされているようなんですけれども,逆に情報量が多くて,なかなか理解しにくいのではないかと。   そういう意味では,法テラスが公表している資力申告書の書式のように,できる限りチェック方式で,簡単に記入すればできるようなものを御検討いただけたらなと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがですか。 ○早川委員 一言よろしいでしょうか。   前回と今回,この部会に出席させていただきましたが,次回は出席できませんので,恐縮ですが一言だけ,ハーグ条約実施法関係のことについて申し上げさせていただきたいと思います。   この部会で,最後の段階で,ハーグ条約実施法の見直しについても御検討いただくことになったということにつきましては,私,個人的には大変感謝しております。昨年,外務省領事局長が主催してハーグ条約実施3年経過を機に研究会を開き,この部会の山本和彦部会長や大谷委員にも入っていただいて,ハーグ条約と実施法の実施状況を確認・検討いたしましたが,そこでは,運用は全体としてはうまくいっているが,やはり執行の部分が非常に問題なのではないかというのが,皆さんの大体一致した意見だったわけですね。   したがって,執行について,何とか改善するということが必要なのではないかと思っておりましたところ,今回こういう機会を捉えて,この部会でハーグ条約実施法の見直しにまで広げて審議していただくということになったのは,内野幹事を始め,御担当の皆さんの夏休みが飛んでしまったのではないかと思いますけれども,大変有り難いことだったと思います。   御議論を伺っていて,内容も大変いい方向に進んでいるというふうに個人的には思っておりまして,最終的にどうなるかはちょっと分かりませんけれども,お示しいただいた方向で進んでいけば,一歩も二歩も進んだことになるのではないかと考えております。   ということで,皆様の御努力に感謝したいというのが,一言申し上げたかったことでございますが,さらに,もう一言だけ付け加えさせていただきますと,実はハーグ条約実施法の法制審議会部会の審議のときに,返還命令の強制的な執行については,実際の実施はかなり難しいのではないかということが,当時から懸念されておりまして,私は、最終的には刑事罰の可能性も考えなければいけないのではないかということを,部会で申し上げたことがあります。   それで,そのときは山本克己委員が,ここだけ突出してやるのはいかがなものかと直ちにおっしゃって,私は気が弱いものですから,それですぐに引き下がってしまったのです。今回ももちろん,まだ刑事罰の話は出ていませんが,今回の見直しで,大分うまくいくのではないかとは期待いたしますけれども,それでもなかなかうまくいかないという可能性も,やはり残念ながら,あるのではないかと予測されます。   そこで,将来に向けての話ですけれども,最終的には諸外国のように,裁判所の命令に従わないことは重大な非違行為であるということをはっきりさせるという意味でも,刑事罰的なものを入れるという可能性も,将来的には考えていただけたらいいなということを一言申し上げたいということでございます。どうもありがとうございました。 ○大谷委員 休憩前の議論を蒸し返す意図はないのですが,ただ一応,議事録にとどめていただきたいという意味で発言させていただきます。   それは,先ほど議論のありました子の心身への配慮に関する規律の新設の関係でございまして,私も発言の中で執行妨害という言葉を使ったんですが,どうも私が申し上げたいことが,執行妨害とか迅速性ということよりは,もう少し超えているように思っております。   というのは,この規定が執行官を躊躇させるというような形で使われて,迅速性が損なわれる,あるいは執行妨害ということだけではなくて,申し上げたかったのは,債務者がその場で行う言動が子の心身に有害な影響を及ぼすことがある。そこに対して,何らの手当てもなくてもよいのかということが,実は一番申し上げたかったところです。   その意味では,先ほど休憩前の御発言の中で,早川委員の御発言だったと思いますが,これは,そのような場合,債務者がそのようなことをしないように,強制執行がそのようなものにならないように,執行官が債務者に対して,そういうことを止めるということも読み込めると,早川委員ほか何人かが,そういう趣旨の発言をされたのではないかと思います。それは,しかしながら,なかなか,この今の規定を読んで,普通の人がそう読めるかというと,私はやはり,非常に難しいと思っております。   それで,先ほど来,債権者,債務者を主体に入れられないかとか,いろいろ申し上げたんですが,その後で,全体をちょっと見ていましたら,執行官が,債務者がそのような子の心身に有害な影響を与えるようなことをすること自体に対して,やめなさいというようなことを,もしかすると,執行官の権限の中に書けるのではないかと思いました。   現在は,そこは,執行官の権限としては,子の監護を解くために必要な行為として,債務者に対し説得を行うというのがありますが,それとはやはり違って,要するに,強制執行ということ自体が子の心身に対して大変なストレスを掛ける,そこの中で,債務者が更に子に対して,子の心身に有害な影響を及ぼすような言動をすること自体を,やはり執行官がそこで止めるといいますか,注意するといいますか,そういうことが書かれているといいのではないかなと思いました。   ただ,今この場でこういうことを申し上げますと,事務当局の方に大変な,難しいお願いをしているというのはよく承知していますので,意見として申し上げさせていただき,議事録にとどめていただき,御検討の際に,一つの考え方として,参考にしていただければと存じます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○山本(克)委員 早川委員から,私の名前を出して,名指しで御批判を頂戴したので,弁解しておきたいと思います。ということで,今回の審議とは関係のないことになるのですが,ちょっと申し上げさせていただきます。   私は,早川委員から指摘されて,そういうことを言ったということも,まだ思い出せないでいるんですが,多分,私が意図したところは,ハーグ条約施法のコンテクストだけでそういうことをやるのではなくて,やはりそれは,日本の裁判所の裁判の実効性確保全般の問題として行うべきなのではないかと。   有名な例では,ある労働組合の大会を某ホテルで行うことができるという仮処分命令に反して,そのホテルが開催をさせなかったというのが新聞に載ったというのが顕著な例ですが,裁判所に命令されたことに反しても何ら構わないんだという風潮というのが出てきている,あり得ると,あるということ,それから,ハーグ条約実施法のコンテクストでは,日本って裁判所の命令に従わなくても大丈夫な国なのねというのを,海外から既に指摘されるに至っているというようなことを考えると,ハーグ条約実施法のコンテクストだけではなくて,むしろ子の引渡しなんかは典型的な,その場合,例なんですよね。   先ほど来,子の福祉をうんぬんの,あんな規定を作らなければいけないことの背景には,裁判所の命令には従わなくても構わないというふうな風潮というのも一方であると,を助長するというようなことがあり得ると思います。ですから,どういう,あらゆる裁判所の命令に,アメリカのように包括的にやるのか,それとも,もうちょっと分野を限ってやるのかどうかは別として,そういう刑事上の裁判所侮辱的な制度を取り入れること自体については,私は何ら反対ではありません。ただ,ハーグ条約実施法という限られたコンテクストでやるのが望ましくないと申し上げただけでございます。   これは民事司法の根本問題ですので,そういう広いパースペクティブの中で議論すべき問題だということが言いたかったんだろうと,今,過去を振り返ると,そういう気がしているということです。 ○早川委員 ちょっとよろしいでしょうか。   おっしゃるとおりで,山本克己委員のお考えは一貫されているのです。いま手元に当時の議事録があるのですが,それによると,私が刑事罰も一つの可能性としてあるのではないかと申し上げましたところ,山本克己委員は,日本法全体の問題として,そういう仕組みが採られるのであればともかく,なぜこの場合だけ突出してという点に疑問が大きいとおっしゃっています。当時から正に一貫して,そういうお立場だったということが分かります。 ○山本(克)委員 ありがとうございました。 ○早川委員 大変心強く思います。ありがとうございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   また次の世代の方々に考えていただく問題かと思います。   ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,本日予定していた議事については御議論を頂けたと思いますので,本日の審議はこの程度にさせていただきます。   事務当局においては,本日特に御議論のあった配慮規定を中心に,次回までに,本日の部会での議論や法制的な観点も踏まえ,部会としての要綱案の取りまとめに向けた準備をお願いしたいと思います。 ○内野幹事 承知いたしました。 ○山本(和)部会長 それでは,次回の議事日程等につきまして,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○内野幹事 次回の日程は,平成30年8月31日午後3時から午後5時30分まで,場所は法務省20階の第1会議室で行います。   次回は,今回の御審議を踏まえ,民事執行法制の見直しに関する要綱案の取りまとめを目指してまいりたいと考えております。 ○山本(和)部会長 それでは,これをもちまして,法制審議会民事執行法部会第22回会議を閉会させていただきます。本日も熱心な御議論をありがとうございました。 -了-