法制審議会 民事執行法部会 第23回会議 議事録 第1 日 時  平成30年8月31日(金)自 午後3時01分                      至 午後4時04分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民事執行法制の見直しについて 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○山本(和)部会長 それでは,定刻になりましたので,法制審議会民事執行法部会第23回会議を開会したいと思います。   本日も御多忙の中,御出席いただきまして誠にありがとうございます。   なお,本日は,久保野幹事が御欠席と承っております。   それでは,審議に入ります前に,配布資料の確認を事務当局からお願いいたします。 ○内野幹事 席上に部会資料23「民事執行法制の見直しに関する要綱案(案)」を配布させていただいております。本日は,こちらの資料を基に,要綱案の取りまとめに向けた御議論を頂ければと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,引き続き,事務当局から部会資料23の内容について御説明をお願いいたします。 ○内野幹事 まず,「第1 債務者財産の開示制度の実効性の向上」の部分についての前回の部会資料22-1からの変更点といたしましては,例えば「2 第三者から債務者財産に関する情報を取得する制度の新設」において「陳述」としていたところを「情報の提供」という文言に修正しております。   その他,部会資料23の2ページから6ページの辺りまでについて,若干の文言の修正をしておりますが,いずれも法制的な観点を踏まえた上での表現の修正をさせていただいたものでございます。   次に,「第2 不動産競売における暴力団員の買受け防止の方策」の部分につきましても,部会資料22-1から若干の字句の修正をさせていただいておりますが,いずれも法制的な観点からの文言の微修正をさせていただいたものでございます。   続きまして,「第3 子の引渡しの強制執行に関する規律の明確化」の部分につきましても,法制的な観点から,部会資料22-1の文言を若干修正させていただいております。   まず,第3の1(1)につきまして,規律の実質に変更はございませんが,従前,「決定をする方法」と結んでおりましたところを「決定により執行官に子の引渡しを実施させる方法」という表現に修正しております。   次に,8ページの第3の2(1)の「直接的な強制執行と間接強制との関係」の部分につきましても,規律の実質に変更はございませんが,従前,「見込みがあるとはいえない」としていたところを,法令上の用例に合わせまして,「見込みがあるとは認められない」という表現に修正しております。   続いて,部会資料23の13ページの第6の4(1)の部分につきましては,前回の部会における部会資料22-1に基づく御議論におきまして,債務者の占有する場所における執行官の権限等としての執行場所への立入りや子や債務者との面会の主体に関しては,現行のハーグ条約実施法に規定されている返還実施者のほかに,債権者などを加えた形での規律を設ける方向をお示しいただきましたので,その点を規律として明らかにするとともに,専ら部会資料23の第3の部分に合わせて,法制上の観点から文言を修正しております。   以上に加えまして,部会資料23の10ページの第3の4の部分及び14ページの第6の5の部分につきまして,前回の部会での御議論を踏まえまして,子の心身への配慮に関する規律の文言に修正を加えております。具体的には,部会資料22-1では「執行の手続においては」としていたところを,第3の4では「執行の手続において子の引渡しを実現するに当たっては」と,第6の5では「執行の手続において子の返還を実現するに当たっては」との文言にそれぞれ修正しております。   前回の部会では,この規律における「できる限り」との文言の意味が,若干不明確であり,でき得る限りといった形で,可能なことは全て行うという趣旨にも読めてしまうのではないかとの御指摘も頂きましたので,今回,「実現するに当たっては」との文言を入れることによりまして,子の心身への配慮というものが,子の引渡しや返還の実現を前提とするものであることを文言上も明らかにしております。   また,前回の部会におきましては,「しなければならない」という結びの文言を,「するものとする」というような文言に修正すべきであるとの御意見を頂きましたけれども,裁判手続おける配慮に関する規定についての現行法令上の用例におきましては,具体的には労働審判法などが挙げられますけれども,いずれも「配慮しなければならない」という文言を用いておりましたので,これらの用例などを参照いたしまして,原案の文言を維持しております。   そして,前回の部会におきましては,子の心身への配慮だけではなく,強制執行の実効性の確保,あるいは,子の引渡しや返還の早期実現といったものも明文で織り込むべきではないかといった御意見もございました。事務当局といたしましては,そういった文言への修正の可能性も含めて検討いたしましたけれども,一方で,参考人からのヒアリング等において指摘されました執行実務における様々な工夫などをより促すという観点から,子の心身への配慮を内容とする規律にするのが相当であるとして原案を支持する見解も示されたところなども踏まえまして,原案の方向を維持することとしております。   もっとも,原案の方向を維持することといたしましても,今回の部会資料23におきましては,先ほど御紹介した御意見のような子の引渡しや返還を実現することが一つの目指すべき価値観であるとの問題意識も踏まえまして,子の引渡しや返還を「実現するに当たっては」といった規定ぶりに修正させていただいた次第でございます。   続きまして,少し前後いたしますが,部会資料23の10ページの「第4 債権執行事件の終了をめぐる規律の見直し」の部分につきましても,規律の実質的な内容に変更はございませんが,文言を修正させていただいております。   現在御検討いただいている債権執行事件の終了をめぐる規律といたしましては,一定の要件,すなわち,民事執行法第155条第1項の規定により金銭債権を取り立てることができることとなった日から2年を経過したときは,差押債権者に対し,民事執行法第155条第2項の支払を受けていない旨の届出をする義務を課し,それを前提として,差押命令を取り消す旨の決定をするといった手続が想定されてきたものと認識しております。   また,この届出義務の発生の前提となる2年の期間の起算点につきましては,期間内に届出をすることにより当該期間の更新を認めるといった規律の実質を想定した御議論がされてきたものと認識しております。このような実質を有する規律の表現ぶりにつきまして,法制的な観点からの検討を重ねた結果,本日お示ししたような記載ぶりでの規律を提示しております。   なお,部会資料23の11ページ以下の「第5 差押禁止債権をめぐる規律の見直し」につきましても,第5の2の「手続の教示」の部分につきまして,法制的な観点から,文言の微修正をさせていただいております。   部会資料23についての御説明は,以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま御説明がありました部会資料23につきまして,御審議を頂きたいと思います。   これまでと同様に,論点ごとに区切って御議論を頂きたいと思っております。   そこで,まず「第1 債務者財産の開示制度の実効性の向上」の部分につきまして,御意見があれば伺いたいと思います。 ○中原委員 債務者の有する預貯金債権の情報提供について,前回の部会において,山本克己委員から,銀行の海外支店にある預貯金債権の情報も提供の対象となるのかという御発言があり,事務当局から,現行の財産開示制度においても,債務者が海外に保有する財産の開示の要否は解釈問題であり,第三者からの情報取得手続についても,解釈に委ねられているという回答がございました。   この点について,金融機関の立場から,改めて一言意見を申し上げたいと思います。   要綱案では,債務者の当該銀行等に対する預貯金債権に対する強制執行又は担保権の実行の申立てをするに必要となる事項として,最高裁判所規則で定めるものと記載されています。日本の裁判所の債務名義をもって,海外支店の預金債権について,直接,強制執行をすることはできません。したがって,海外支店にある預金の取引情報が強制執行又は担保権の実行の申立てをするのに必要となる事項といえるかは疑問です。   また,今回の制度は,債権者が強制執行の準備のために,裁判所から金融機関の本店又はセンターに情報提供請求があれば,金融機関はシステム的に把握した債務者の預金債権等の口座内容を回答するものです。   現在,金融機関は,グローバルに預金口座情報を一元的に管理するシステムを構築していないので,もし海外支店の預金取引内容について調査することになれば,全ての海外支店に個別に問い合わせる必要があり,金融機関にとって大きな負担となります。しかも,1件や2件でなく,この制度が始まれば,大量の情報提供請求が来る可能性があります。   本制度のために金融機関が巨額な費用を掛けて新たなシステム構築を求められるということになれば,今回の法制度創設の趣旨に反すると考えます。さらに,外国においても,預金取引の有無,残高等は取引先情報として法的に保護されており,本人の同意なく国外に持ち出すことに厳しい制限を課している国も数多くあります。   そこで,海外支店は,日本の裁判所の命令に従うために,預金取引情報の国外への持ち出しが許されるのかどうかを現地弁護士と相談する必要があり,その弁護士費用は債権者に負担していただくことになりますが,高額になることが予想されますし,そもそも海外支店の預金情報まで提供することは,この部会では想定していなかったと思います。   また,一部の弁護士会と金融機関が締結している弁護士法23条の2に基づく預金取引情報照会の協定においても,弁護士会及び金融機関とも,国内の本支店の預金取引だけが対象であることを当然の前提として運用されていると認識しています。   したがって,金融機関としては,本制度においても,日本国内における本支店にある預貯金債権等の情報のみを回答すればよいと理解していることを申し上げさせていただきます。   金融機関としては,解釈問題であるという不安定な立場に置かれるのは不本意であり,最高裁判所規則に国内の本支店の預金債権の情報のみが対象となる旨を明記していただくのが最も望ましいと思いますが,それが難しいのであれば,何らかの方法で,この点を明確にしていただくことを強く要望します。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   前回も若干のやり取りがあったところだと思いますが,事務当局からの御発言はございますか。 ○内野幹事 事務当局から本日の段階で申し上げられるのは,従前のとおりということになります。 ○山本(和)部会長 要綱案の文言としては,御指摘のとおり,最高裁判所規則で定めるものということになっており,最高裁判所規則がどのような定め方をしていくかということとも関連するところかと思いますが,中原委員におかれましても,そのような整理でよろしいでしょうか。 ○中原委員 はい,結構です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにございますでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,この部会資料23の第1の部分につきましては,部会資料に記載されたとおりの形で要綱案を取りまとめさせていただきたいと思います。   それでは,続きまして,部会資料23の6ページから7ページの「第2 不動産競売における暴力団員の買受け防止の方策」の部分について,御審議を頂ければと思いますが,いかがでしょうか。   それでは,特段御意見がないようですので,この第2の部分につきましても,部会資料23に記載されたとおりの形で要綱案を取りまとめさせていただきたいと思います。   引き続きまして,部会資料7ページ以下の「第3 子の引渡しの強制執行に関する規律の明確化」及び12ページ以下の「第6 国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律に基づく国際的な子の返還の強制執行に関する規律の見直し」につきまして,これらは相互に関連いたしますので,併せて御審議を頂ければと思います。 ○阿多委員 10ページ,第3の4の子の心身への配慮,いわゆる配慮規定ですけれども,今般,事務当局の方が修正案として,「子の引渡しを実現するに当たっては」という字句を追加する形の御提案をされていることについて,まず結論として,賛成したいと思っています。   その上で質問をさせていただきたいんですが,従前から,この配慮規定の位置付けで,弁護士の方としては危惧するのは,これが現状,子を監護している債務者の方がこれを強調して,執行の妨害といっていいのか,執行を困難にするような形に使われるのではないかということを危惧しているといった意見を申し上げてきたわけですけれども,先ほどの事務当局の御説明を聞いていますと,新たに追加された「子の引渡しを実現するに当たっては」というのは,執行の実現ということの一つの価値判断を宣言されているものだというふうにおっしゃっていましたので,そういう前提で理解する限りにおいては,執行の実現が正に目的である以上,この規定は,執行を困難にする,執行を妨害するような形での根拠としてはなり得ない,そういう形では,少なくとも使われない規定だというふうに理解をしているわけですが,そのような理解でよろしゅうございますでしょうか。 ○山本(和)部会長 それでは,事務当局の方から御回答をお願いいたします。 ○内野幹事 部会のこれまでの議論におきましては,この規定が御指摘のような根拠として使われることを想定した議論はされてこなかったものと認識しております。この「実現するに当たっては」という文言から見ていただけるように,この規律によって,強制執行の実現が妨げられるような配慮というようなものが正当化されるようなことは想定されていないものと認識しております。 ○山本(和)部会長 よろしいでしょうか。   それでは,ほかにいかがでしょうか。 ○道垣内委員 私も,執行を妨げる形でこの規律を援用するというのはよくないといわれることはよく理解できるのですが,債務者において強制執行が子の心身に有害な影響を及ぼすと主張することは,他方の目から見ると,執行を妨げているということになるわけですので,「執行を妨げるような形でこの規律を使うことができない」ということの意味が私にはよく分からなかったんですが。 ○山本(和)部会長 事実の問題として,債務者側が執行を妨害するためにこの規律を援用するかということではなく,この規律は,執行妨害のための正当化根拠となるような規定ではないという観点からの御議論ではないかと思います。 ○道垣内委員 執行妨害というのをマイナスに捉えれば,どんなものだって正当化根拠になってしまってはいけないわけであって,それはならないのが当たり前の話です。しかし,子の年齢及び発達の程度その他の事情に照らしたときに,このままでは子の心身に有害な影響を及ぼすのではないかということで,執行のやり方を変えましょうと,ないしは1日待ちましょうというふうなことは,それは起こり得るわけであり,それはそれによって執行が遅延したからといって,悪い執行妨害とはならないですね。そうすると,妨害とは何なのかという話になりますので,どの点についての確認がされたのかというのが私にはよく分からなかったのです。 ○内野幹事 事務当局といたしましては,この規律についての懸念を示す御意見が寄せられたことを受けまして,正に,今御指摘いただきましたように,この規律が執行妨害を正当化する根拠となるようなことがあってはならないということを改めて確認させていただいたものでございます。 ○道垣内委員 賛成します。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○谷幹事 今の点に関して,最後の機会でございますので,私の意見を申し上げておきたいと思います。   結論としましては,この部会の議論としては,大方の方がこれで賛成をされるということだと思いますので,私も反対するつもりはございません。   今のやり取りの中で,この規定を根拠に,このやり方が子の心身に有害な影響を及ぼすんだという主張が債務者から出てくることは,当然にあり得ることだと思いますし,その場合に,執行官なりがその主張も踏まえつつ正当に子の心身に配慮しなければならないということも,この規定が含意するところだと思いますので,およそ債務者から,子の心身に有害な影響を及ぼすという主張が出てきた場合に,いや,それはこの条文が想定していないんだというふうな議論というのはあり得ないだろうというふうに思います。   そういう意味では,やはり執行妨害に使われるおそれというのはあるということは,リアルに認識をした上で,この条文の趣旨というものを明確にする必要があるだろうというふうに思いますので,そういうふうな形で,今後様々な場面で,例えば解説を書くというふうなときには,そういう形で明確にしていただく必要があるだろうというふうに思います。   その観点からいいますと,この部会での議論の中では,やはり正当に指摘されたと思いますのは,国内では子の引渡しですけれども,ハーグ事案では子の返還が,これが速やかに実現をされるということは,これは他の債務名義とは異なる,子の引渡しないし返還の強制執行における,極めて重要な価値なのだということだと思いますので,そのことが前提となっているんだということは,やはり明確にする必要があると思います。その上で,現実的に執行の場面で,どのような配慮が必要かという趣旨で,これが規定されたんだということを明確にしていただく必要があると思います。   それと,この規定が今回,取りまとめをするということになったその背景に,誤解があってはいけないと思うのは,今の強制執行の実務において,子の心身に有害な影響を及ぼすようなやり方をやっていて,それをあたかも,執行官が余り配慮せずにやっているというふうな現実があるということでは決してないということは,明確にする必要があると思います。   むしろ,様々な工夫をされて,児童心理の専門家の立会いも含めて,いろいろな工夫をされているという実情があるわけで,そういう意味では,本当にこの規定が必要かというと,立法論的には,私は極めて疑問なんですけれども,ここまでの議論の成果がありましたので,これは落とすべきだというふうなことは申し上げませんけれども,今までのそうした積み重ねの中で様々な配慮がなされている,そういうことを今後も継続していくということがこの立法趣旨なんだということは,明確にしておく必要があるだろうというふうに思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかに,いかがでしょうか。 ○今井委員 今のところの配慮規定ですけれども,私は,これまでの御議論の一つの成果として,何が一番大事かというと,正に子の引渡しや返還の場面における,民事執行法とハーグ条約実施法の規定が全く共通だということが,この御審議の中で解明されたと。そして,それが,一番大事なことはこの点だということは,特に参考人のお話とか,栁川委員や村上委員のお話を聞くにつけ,そうなんだろうなと,全くそうだろうなと思いましたし,この規定こそが一番大事な規定だというふうに考えますので,今議論しておりますけれども,結局はこれがあるかないかで,法律だけが,規則もありますけれども,残ることを考えますと,非常に大事な規定であり,これがハーグ条約実施法と,それから民事執行法の子の引渡しの,言わばかけ橋だということが,私がこの審議の成果だと痛感しているところであります。大賛成でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかに,いかがでしょうか。 ○垣内幹事 この配慮規定の内容につきましては,私も若干の意見を申し上げてまいりましたけれども,本日御提示いただいた案につきましては,可能な限度で,そうした趣旨も一部酌み取っていただいたものというふうに理解をしており,賛成したいと思います。   大変細かい点の確認で,1点,恐縮なんですけれども,執行官の権限等に関する書きぶりの修正に関して,1点確認の御質問なんですが,第3の3(2)の債務者の占有する場所以外の場所における権限のところで,従前,「債務者に対し説得を行うほか」という文言が入っていて,これが削除されているのですけれども,これは特に,債務者の占有する場所以外で執行を行う場合に説得をしないという趣旨ではなくて,専ら表現ぶりの調整ということで理解してよろしいでしょうか。 ○内野幹事 正に御指摘のとおりでございます。これは第3の3の(1)と(2)がそれぞれ規律する内容の書き分けという観点からこのような調整をしたものでございますので,債務者の占有する場所以外の場所における強制執行の場面において,債務者に対する説得をすることができないという趣旨ではございません。 ○垣内幹事 ありがとうございます。 ○山本(和)部会長 ほかに,いかがでしょうか。 ○佐成委員 この配慮規定については,私は前回,原案でいいのではないかと申し上げたわけですけれども,この修正であっても,もちろん賛成であるということが,まず1点申し上げておきたいことです。   もう一つは,従前の子の引渡しに関する実務を否定するとか,そういう趣旨ではないということは,もちろん当然のことなのですけれども,ただ,従前の実務は,どちらかといいますと,動産の引渡しの強制執行と類似したような形で行われていたと思います。この配慮規定は,いろいろな評価があり得るわけですけれども,ある意味,子供が人間であるということを明確にしているという点でも,意味があるのではないかと感じております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○阿多委員 先ほど,垣内幹事の方から「説得」という言葉が出て,先ほど,執行官の権限のところでのお話がありましたけれども,この「説得」というところについては,部会資料22-1の書きぶりだと,「子の監護を解くために必要な行為として,債務者に対し説得を行う」というような形で,「子の監護を解くために必要な行為」というような形で出ているんですが,ここで,配慮のところについてのことでの御質問なんですが,ここの書きぶりですと,配慮するというような形で,要は執行裁判所ないし執行官,更には返還実施者の配慮なんですけれども,実際の,他の委員,幹事等がおっしゃったような,執行の正に場面のところにおいて,いろいろな状況があって,参考人からもいろいろお話があったんですが,債務者が子の不安や動揺をあおるような,正に行動に出ている,場合によっては債権者もあるのかもしれませんが,そのような状況において,子の配慮の具体的な作用として,執行官がそれを制止する,やめてくださいという形で求める,それが「説得」という言葉がいいのかどうか分からないですが,そういうふうなことも当然,執行官としては執行の場面で行い得る,それの,言わば一つの考えの表れだというか,根拠というといろいろ,何が根拠規定かとかいう問題がありますけれども,子の配慮というのは,そういう内容も含むものだというふうに理解をしているんですが,そういう理解でよろしゅうございますでしょうか。 ○内野幹事 それ自体も,一つの解釈であると考えておりますけれども,御指摘のような執行官による事実上の行為というものを「説得」の一内容と位置付けるかという点は,ひとまずおくといたしましても,この規定が結果として今御指摘いただいたような作用につながり得るものであるといった理解を前提に,この規定を捉えることも十分可能なのではないかと考えております。 ○山本(和)部会長 今の点につきましては,前回も御議論があったところかと思いますけれども,阿多委員の御意見は,この配慮規定についてのあり得る解釈の一つなのだろうということかと思います。 ○成田幹事 配慮規定をめぐる議論を伺っておりまして,執行官の実務をあずかる最高裁といたしましては,執行官に対する叱咤激励,ややもすると萎縮しがちな執行官に対して,もう少し頑張れというものだと受け止めております。   今回の部会資料23において,より使いやすい形で規律の提案がなされ,また,「引渡しを実現するに当たっては」という,一定の方向性を示す形で配慮規定が設けられておりますので,これまでの執行官の運用を一応御承認いただいた上で,より発展させていくべきだという形で,コンセンサスが得られているのかなというふうに認識しております。   私どもとしましては,こういった議論を,また執行官にもしっかり周知をしていって,そういった形で,執行が進められるようなことを進めてまいりたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○谷幹事 別の点でございますが,子の引渡しに関しては,私どもは,子の所在調査の必要性が高いんだということは,つとに主張させていただいてきたところでございますけれども,今回は,そこまで成熟した制度の提案がなされなかったということもあり,要綱案には含まれないということにはなった,その結論自体は,やむを得ないのかなと思っているところでございますが,現実には,いろいろな場面で,やはり子の所在が分からないということで,執行が実現できていないという例が一定程度存在するわけでございまして,これについても,やはり,まだ課題としては残っているということは,ここで明確にしておきたいというふうに考えているところでございます。   したがって,この今回の要綱案に従った改正がなされて,子の引渡しの強制執行の実務がこれに従って運用されていく,その中で,またいろいろな問題が出てくるだろうというふうに思いますので,今後も引き続き,子の所在等調査も含めて,改めて課題については検討していくべきであるという点だけ,少し付加させていただければと思います。 ○山本(和)部会長 分かりました。ありがとうございます。   ほかに,いかがでしょうか。 ○栁川委員 執行官のことにお話を戻させていただきたいのですが,実際に執行現場に出向く,執行官の力量が,子供を取り巻く環境に非常に大きな影響を及ぼすと思います。   私は配慮規定に賛成ですが,これを十分理解していただきながら,より一層,子供の発達段階や子供の置かれた状況を見て,丁寧な執行をしていただきたいと思います。それには,専門的な知識とか,トレーニングとかが非常に重要だと思います。子の引渡しの強制執行について経験を積んだ方がどれぐらいいらっしゃるか,非常に疑問に思っています。是非トレーニングの機会の拡充や,専門家とのタイアップがとれるように,執行官がより動きやすいように,子の心身への配慮規定をよく踏まえながら,動きやすいような環境を整えてほしいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。誠にごもっともな御要望だと思いますので最高裁判所におかれましても,執行官制度に関する運用において,御配慮を頂ければと思います。   ほかに,いかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,この第3及び第6の部分につきましても,部会資料23に記載されたとおりの形で要綱案を取りまとめさせていただきたいと思います。 ○大谷委員 すみません,どのタイミングで発言しようか迷っていたんですが。といいますのは,配慮規定そのものだけではないんですが,よろしいでしょうか。   配慮規定は,こういう配慮規定を入れていただいたことには賛成ですし,文言も一等明確にしていただけたと思います。   最後に栁川委員が,執行官への研修等の必要を述べられたので,それに関連して,若干要綱案を超える発言をちょっとお許しいただきたいんですが,ハーグ条約実施法の制定のための審議に関わった者としまして,当時から議論されていたことなんですが,もちろん,子の引渡しということだけを専門とするという形での執行官というお仕事を成り立たせるのは,ちょっとなかなか難しいと。   そのことと関連するのかもしれないんですが,執行官の中に女性がいらっしゃらない。当時の私の理解では全くいらっしゃらなかった。現在はどうなっているか分からないんですが,子の引渡しだから,イコール女性をというつもりはありませんが,ただ,諸外国のハーグ条約の実施に関わる専門職の方を見ていますと,執行に携わるような場面,それから警察,ソーシャルワーク,いろいろなところで,やはり女性の方が多く関与されています。   この執行の場面でも,やはり女性の執行官が,少なくとも何人かはいらっしゃって,執行に関われるような,是非そういう取組を,どこにどうお願いしたらいいか分からないんですが,やはり一つの課題だと思いますので,この場において発言させていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   私の認識では,恐らく現在も,女性の執行官は1名もいないものと思っておりまして,私もかねてから,その点は問題意識を持っているところでありますけれども,これ,正にどなたにどういう御配慮を求めればいいのかというのは,ちょっと分かりませんけれども,制度論としては,大谷委員の御指摘は誠にごもっともな点があるということはいえるかと思います。   それでは,よろしければ,「第4 債権執行事件の終了をめぐる規律の見直し」の部分に移りたいと思います。   この点については,法制的な観点からの文言の修正はあるものの,規律の実質については変更がないとのことですが,御質問,御意見があれば,お伺いしたいと思います。いかがでしょうか。   それでは,特段の御異論がないようですので,この第4の部分につきましても,部会資料23に記載されたとおりの形で要綱案を取りまとめさせていただきたいと思います。   続きまして,部会資料23の11ページ以下の「第5 差押禁止債権をめぐる規律の見直し」の部分について,御意見等があれば,承りたいと思います。 ○松下委員 部会資料22-1と比較しますと,第5の2の「手続の教示」の部分の規律において,「当該差押命令の全部又は一部の取消し」という文言のうち「の全部又は一部」という文言が消えています。これをとってしまうと,差押命令の全部の取消ししか対象としていないようにも読めような気もしたのですがも,これは規律の実質を特に変更するという趣旨ではないですよね。 ○内野幹事 御指摘のとおり,規律の実質を変更する趣旨ではございません。 ○松下委員 これは,何か法制的な問題ですか。つまり,一部取消しのことを変更と呼ぶ法律もあったりするので。 ○内野幹事 御指摘のように,法制的な観点から,民事執行法第153条第1項のほか,第4項の規定なども参照しながら,文言の調整をさせていただいたものでございます。   したがいまして,「全部又は一部」という文言を入れた形で提示していた部会資料22-1の規律から,その実質を変更する趣旨ではないものと認識しております。 ○松下委員 この場面では,差押命令の一部の取消しが結構多いような気もするので,一部という文言を外して大丈夫かなと思っただけのことです。今のやり取りを議事録に残せるのであれば,私としては,特にこれ以上言うつもりはありません。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかに,いかがでしょうか。 ○谷幹事 では,その点の,蛇足ではございますが,この論点につきましては,どちらかというと,私どもの方からいろいろと御提案をさせていただいて,それがこういう形で結実をしたのかなと思っておりますので,そういう意味では,大きな成果があっただろうと思います。   ただ,私どもとしましては,やはり現行の,給与差押えの場合を念頭に置きますと,幾ら給与の額が少なくても,4分の1は少なくとも差押えで取り立てられるというふうな状況については,やはり見直しが必要だろうというふうに思っておりますので,今回のこの改正がなされた折には,これをできるだけ活用するということに努めるということは当然のことですけれども,あわせて,そこでまた問題が生じるというようなことになれば,改めまして,それも課題として,また提起をさせていただきたいということで,当面は是非,この要綱案に従って立法していただいて,債務者が差押禁止債権の範囲の変更の制度を活用できるようにしていただければというふうに思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかに,いかがでしょうか。よろしいですか。   それでは,この第5の部分につきましても,部会資料23に記載されたとおりの形で要綱案を取りまとめさせていただければと思います。   以上で,部会資料23については,全体の御議論を頂けたということになろうかと思います。それぞれのところで確認を致しましたように,部会資料23においてゴシック体で記載されている規律の内容については,御異論は出されなかったというふうに認識しております。したがって,本部会としましては,基本的に,この部会資料23のとおり,民事執行法制の見直しに関する要綱案を取りまとめることにしたいと思いますが,よろしゅうございましょうか。   ありがとうございました。   それでは,御異論ないということで,この部会資料23の「(案)」の部分をとりまして,を当部会としまして,部会資料23に記載された内容をもちまして民事執行法制の見直しに関する要綱案とさせていただきたいと思います。   ただ,要綱案につきましては,これまでも字句あるいは表現の修正がいろいろされてまいりましたが,今後,法制審議会の総会における答申に至りますまでの間にも,法制的な観点から,形式的な表現ぶり等の修正があり得るかと存じます。規律の実質的な内容には,もちろん立ち入らないという前提ですが,そういった形式的な修正につきましては,部会長である私と事務当局に御一任を頂きたいと存じますが,よろしいでしょうか。   ありがとうございます。   それでは,要綱案の今後の取扱いにつきまして,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○内野幹事 要綱案をお取りまとめいただきまして,ありがとうございました。   今後,10月4日に法制審議会の総会が予定されております。したがいまして,その総会におきまして,本日お取りまとめいただいた要綱案の審議をしていただく予定でございます。   そこで要綱が取りまとめられて,法務大臣への答申がされるということが予定されておりますけれども,そのような形で答申がされましたら,事務当局といたしましては,早期に所要の法案を提出するための作業をしてまいりたいと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   以上で,本部会における調査審議は終えたということになりますが,全体を通じて,あるいは本部会における全体の審議を通じて,何か御発言があれば承りたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○大谷委員 執行全般に関してなんですが,この部会でも時々御発言が,ほかの方から出たかもしれませんが,私は特に国際関係,国際的な案件を扱っているものですから,外国の当事者や代理人,弁護士等から,日本では裁判所が判決をしても,それが守られないで,そのことがそのまままかり通っているということを非常によく指摘されることがあります。   それで,今回このような,執行に関して,いろいろな改正の法整備がされたことを,私個人としても大変うれしく思っておりますし,それから,今日の部会でも御発言がいろいろありましたように,特に執行官への研修とかも,これからなされると思うんですが,あわせまして,弁護士,それから一般の方たちに,この民事執行法制の改正の細かいことの研修とか周知というよりは,こういう機会を通して,裁判所が審理をして,法に基づいて決定をしたということは守られなくてはいけないんだというようなことが,もう少し日本全体の法についての在り方として,共通の理解となり,また,そのような実行がなされることが必要ではないかと。そういう機会になればなとも思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。法教育等にも関わるお話をいただいたかと思います。   ほかに,いかがでしょうか。よろしいですか。   それでは,部会を閉じるに当たりまして,民事局長から御挨拶をお願いできればと思います。 ○小野瀬民事局長 それでは,御審議の終了に当たりまして,担当部局の責任者といたしまして,一言お礼の御挨拶を申し上げます。   この部会の審議でございますけれども,平成28年11月の第1回から23回に及びました。この間,委員,幹事の皆様方におかれましては,多岐にわたる論点につきまして,比較法的な観点や児童心理の専門家からのヒアリングをも踏まえまして,大変密度の濃い御審議をしていただきました。   本日,要綱案をお取りまとめいただけましたことは,山本和彦部会長を始めとする委員,幹事の皆様方の多大な御尽力があったからこそと深く感謝いたしております。   今回の民事執行法制の整備につきましては,債務者財産の開示制度の実効性の向上,不動産競売における暴力団員の買受け防止の方策,子の引渡しの強制執行に関する規律の明確化といった,様々な課題を対象とするものでございますが,民事執行制度をめぐる最近の情勢を踏まえますと,社会のニーズに的確にこたえるものとして,その意義は非常に大きいものと考えております。   先ほど事務当局の方から申し上げましたとおり,来月の法制審議会の総会で要綱が決定され,答申が頂けました後は,私どもといたしましては,所要の法案を速やかに国会に提出するとともに,早期に法律として成立するように全力を尽くしてまいりたいと考えております。   立法課題が山積する中,国会情勢には厳しいものがありますけれども,委員,幹事の皆様方には,今後とも様々な形で御支援,御協力を賜りますよう,引き続きよろしくお願い申し上げます。   これまでの御熱心な御審議と要綱案の取りまとめに向けました御尽力に対しまして,重ねて御礼を申し上げまして,私の挨拶とさせていただきます。本当にどうもありがとうございました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,私からも一言御挨拶をさせていただきます。   1年9か月に上る長期の審議で,最終的に要綱案を取りまとめいただいたこと,部会長である私からも感謝の言葉を申し上げたいと思います。   審議の最初だったと思いますが,私から,民事手続法関係の部会においては,特に自由闊達な御議論を頂きながら,最終的には建設的な,皆さんの意見が一致していく過程,プロセスというのが,法制審議会であるので,私としても,その伝統を守っていきたいということを申し上げたかと思います。   正に,審議の当初は,誠に自由闊達な御議論を頂き,本当にまとまるのだろうかと思った瞬間もございましたが,最終的に,本日このような形で成案をまとめていただいたということで,委員,幹事,それぞれの方には,それぞれ,やはり思いがあられるのではないかとは思いますけれども,全ての方がこれで完全に満足されているというふうには,やはり思いませんけれども,一つ大きな前進として,民事執行法制のあるべき方向に向かって,今回の要綱案が取りまとめられたということであろうかと思います。   私自身,慣れない司会で,様々な不手際があったと思います。取り分け,最後の最後の段階で,8月に2回も部会を入れてしまったことについては,夏休みを潰してしまったということで,大変申し訳なく思っております。   今,民事局長からもございましたけれども,今後この要綱案が,総会において要綱となり,それに基づき法案が策定され,国会で御審議を頂き,さらに,もしそれが成立すれば,今後運用されていくということになります。手続法というのは,最終的な運用がうまくなされて,初めて魂が吹き込まれるものだと思っておりますので,是非引き続き,委員,幹事におかれましては,それぞれのところで,この制度,今回作られた新たなものが,よりよい制度になるということに御尽力を頂ければというふうに思います。   長い間,本当にありがとうございました。   それでは,本部会の審議は,これで全て終了としたいと思います。   改めまして,本日まで御熱心な御審議を賜りまして,ありがとうございました。 -了-